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シリーズを通して亡くなった人に対するレクイエムだったのだなあと。

『奇縁まんだら 終り』0.jpg奇縁まんだら 終り 2011.jpg奇縁まんだら 終り

 著者自身が縁あって交流したことのある文学者や芸術家との間のエピソードを綴ったエッセイに、彼女と親交の深かった横尾忠則氏が、エッセイに登場する人たちの肖像画を描いて(装幀も担当)コラボした本の、全部で4集の内の第4弾。日本経済新聞の連載で言うと、2010年9月から2011年11月にかけてになります。登場する人物は、第1集の21人、第2集の28人、第3集の41人からさらに増えて45人です。

 連載が始まったのが2007年1月で、著者の年齢で言うと84歳から89歳まで書き続けたことになりますが、3冊目が出た2010年に背骨圧迫骨折で作家になって初めて休筆した半年、「奇縁まんだら」としては6回分休んだだけというのがスゴイです。病も癒えぬうちに再開し、他の連載はすべて休ませてもらって「奇縁まんだら」だけ書き続けたというから相当の入れ込み様です。「最後の章は、個人となった「瀬戸内寂聴」で締めくくれればスマートだなと思っていた」と―。でも、連載を終了してから10年も生きて、2021年11月に99歳で亡くなっています。

 第4集は、吉村昭から始まって、やはり基本的には同業である作家が多いでしょうか。ただ、他分野の芸術家や俳優などもこれまでと同様に入ってきます。作家といっても、表紙にも横尾忠則氏の肖像画がきていますが、ボーボワールやパール・バックなどの"大物"も出てきて、実際に見たり会ったりしており、まさに"生き証人"という感じです。

 裏表紙にもある池部良の、「かの子繚乱」の舞台で岡本一平役を演じた時の話が面白かったです。池部良が以前に舞台で台詞が飛んでしまったのを知っていてダメだろうと言っていた岡本太郎が、本番を見て驚いたという―。岡田嘉子とはモスクワで会ったのかあ。後に日本で会って対談した際に馬鹿にされて、自分のことを書いていいと言われ、書いてやるものかと(笑)。やっぱり人間、合う合わない、好き嫌いはあるみたい。寺山修司とはミュンヘンで会ったのかあ。エノケンこと榎本健一と会ったときは、修行を積み上げた賢僧に向かい合っている気持ちだったと―。作家以外の職業の人の方が好き嫌いが出ている?

 永田洋子、永山則夫といった死刑囚なども出てくるのは、そうした人たちとの往復書簡があったり接見する機会があったりしたためのようです。そう言えば、第1集から第4集まで登場した135人全員が、連載執筆の時点ですでに故人となっており、このシリーズはそうした人たちへのレクイエムだったのだなあと改めて思いました。

 巻が進むと、そのうち連載時点で生きている人の話も出てくるのかなあと思って読んでいましたが、そういうコンセプトではなかったと途中で気がついた次第です。ホントは、第1集から人物のプロフィール紹介のところに墓の写真が多く出てくるので、その時点で気づくべきでした。

 因みに、最後に登場したのは永平寺第78世貫首の宮崎奕保禅師で、やはり著者は僧侶だなあと。禅師は108歳で亡くなっていますが、著者が数えで84歳の時の数え105歳の禅師との間の思い出を書いています。個人的には、NHKの立松和平がインタビュアーを務めたドキュメンタリー「永平寺 104歳の禅師」('04年)で見た記憶があり、著者の話もその頃でしょうか。お坊さんって時々すごく長生きする人がいるなあと思ったりしました。

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作家だけでなく、芸能人や政治家も登場。「私の履歴書」に出てくるような人ばかりになった印象も。
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奇縁まんだら 続の二

『奇縁まんだら 続の二』n.jpg 著者自身が縁あって交流したことのある文学者や芸術家との間のエピソードを綴ったエッセイに、彼女と親交の深かった横尾忠則氏が、エッセイに登場する人たちの肖像画を描いて(装幀も担当)コラボした本の、全部で4集の内の第3弾。日本経済新聞の連載で言うと、2009年10月から2010年8月になります。

 登場する人物は、第1集の21人、第2集の28人に対し、41人と増えていて、内容も、第1集が作家20人と芸術家1人、第2集も作家や芸術家が中心だったのが、この第3週では芸能人や政治家、実業家などの何人か入っています。

 最初が田中角栄、次が美空ひばりと大物が続きますが、著者は田中角栄と自身が出家する前の時代に対談しているし(田中角栄は自民党幹事長時代)、美空ひばりとは2度も対談していたのだなあ。出てくるのは、連載執筆当時すでに亡くなっている人ばかりで、各冒頭にプロフィールと併せてお墓の写真があり、ああ、これって、単なる回顧録ではなく、鎮魂歌的なトーンになっているなあと新ためて思いました。

 亡くなった時に著者自身が駆けつけた人も何人かいて、吉行淳之介などもそうだったのだなあ。「まりちゃん」と暮らしていた家に行って、安らかな死顔に対面したと。吉行淳之介と宮城まり子の間のエピソードなども興味深かったです。結婚していない異性との欧州旅行するのは、著者の方が先輩で、あちらのホテルが正式な夫婦でないと一つの部屋に泊めないことに対する対応を、吉行淳之介は著者に訊いてきたとにこと。

 芸能人や俳優と言っても出てくるのは森繁久彌や藤山寛美、長谷川一夫など大物ばかりで、勝新太郎との話で、勝新が大麻を忍ばせて飛行機に乗り、空港で逮捕された事件を振り返って、著者に話した話がおかしいです。五百人乗りのジャンボ機に五百一人の乗客が乗っていて、その一人がお釈迦様で、そのお釈迦様から、「勝よ、お前にこれをやろう」と薬を授かったと。その後、著者が勝新を祇園に連れて行った時の話も、小説みたいで面白いです。

 小林秀雄や江藤淳もでてきますが、一つの講演会で、著者は江藤淳と小林秀雄の間に講演したりしていたのだなあ(昔から話上手だった)。あの司馬遼太郎さえ一緒にいると緊張したという「日本一偉大な評論家」小林秀雄の懐にすっと入っていく著者。その入っていき方が面白いです。江藤淳の自殺は、「美貌の愛妻の死に殉じた」としています。遺書では、脳梗塞で今の自分は形骸にすぎないとあり、最近では、妻の死の4年後に自殺した西部邁を想起させられました。

 いろいろな人が出てきて興味深くは読めるし、横尾忠則の装画も愉しめます。取り上げる人数が増えて、一人当たりのページ数が減っても、それほど浅くなったという印象がないのはさすが作家(でも、やっぱり少し浅くなっているか)。日経新聞連載ということのあってか、「私の履歴書」に出てくるような人ばかりになった印象も少しあります。最後の第4集はどうなるのでしょうか。

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横尾忠則氏の描く肖像画がいい。文庫化されていないが、内容的には『正』より面白い。

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奇縁まんだら 続』['09年]瀬戸内寂聴・権大僧正/横尾忠則氏

『奇縁まんだら 続』図2.jpg 昨年['21年]11月に99歳で亡くなった瀬戸内寂聴(1922-2021)(僧階は「権大僧正」で、これ最高位の「大僧正」に次ぐものだそうだ)が、'07年から日本経済新聞朝刊に毎週(当初土曜、後に日曜)連載していた、彼女自身が縁あって交流したことのある文学者や芸術家との間のエピソードを綴ったエッセイに、彼女と親交の深かった横尾忠則氏が、エッセイに登場する人たちの肖像画を描いて(装幀も担当)コラボした本で、全部で4集あります。

 '08年刊行の『正』とでも言うべき第1集では、作家20人と芸術家1人との出会いや交際の様子がそれぞれ短くスケッチされていましたが、登場する人物が、島崎藤村、正宗白鳥、川端康成、三島由紀夫、谷崎潤一郎、佐藤春夫、舟橋聖一、丹羽文雄、稲垣足穂、宇野千代、今東光、松本清張、河盛好蔵、里見弴、荒畑寒村、岡本太郎、檀一雄、平林たい子、平野謙。遠藤周作、水上勉と超大物揃いで、著者は連載スタート時で既に85歳くらいだったし、登場する人物の多くはその頃は既に亡くなっていてものの(丹羽文雄は2005年100歳まで生きたが、70代から認知症を患っていた)、どことなくそれぞれの描写に遠慮があるように思われました。

 それがこの第2集『続』では、まさに著者と同時代を生きた作家や芸術家が中心になっていて、芸能人まで含めて28人が取り上げられていますが、こちらの方が第1集よりも面白いのではないかという気がします(ただし、どういうわけか第1集だけが「日経文芸文庫」で文庫化されていて、残りは文庫化されていない)。

 この『続』は、'08年の1月から12月連載分を所収しており、取り上げている人物は、菊田一夫、開高健、城夏子、柴田錬三郎、草野心平、湯浅芳子、円地文子、久保田万太郎、木山捷平、江國滋、黒岩重吾、有吉佐和子、武田泰淳、高見順、藤原義江、福田恆存、中上健次、淡谷のり子、野間宏、フランソワーズ・サガン、森茉莉、萩原葉子、永井龍男、鈴木真砂女、大庭みな子、島尾敏雄、井上光晴、小田仁二郎。

 やはり連載時点で既に亡くなっていた人がほとんどで、エッセイの末尾は墓の写真などが添えられていて、レクイエムのようなトーンになっているものが多いですが(著者が僧侶であることも影響していると思うが)、第1集に比べ、著者と登場人物との間により深いコンタクトがあった分、興味深く読めました。

菊田一夫.jpg 一番面白かったのは、前エントリーで取り上げた映画「放浪記」の戯曲版の原作者でもある、冒頭の「菊田一夫」でしょうか。旅行に行くときいつも空手で出掛けて、帰りは大きなトランクを買い込み、「別れた女」たちへのお土産をいっぱい買って帰るという―。空港の税関でトランクを開けられたら、カラフルな女のパンティでいっぱいだったというのには笑いました。

 昔の人はちょっとスケールが違うというか。高度成長期以降の昭和の匂いも感じられました。そして何よりも横尾忠則氏の描く色鮮やかな独特のタッチの肖像画。画伯が敬愛する著者のために全力で創作に取り組んでいるのが伝わってきました。続きも読んで(見て)みたくなります。

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