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観ていて〈しんどい〉感じがした。議論が〈空疎〉で〈内向き〉であることが浮き彫りに。

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あの頃映画 日本の夜と霧 [DVD]」芥川比呂志/渡辺文雄/桑野みゆき
日本の夜と霧」ポスター
「日本の夜と霧」6.jpg 60年安保闘争で6月の国会前行動中に知り合った新聞記者の野沢晴明(渡辺文雄)と、女子学生の原田玲子(桑野みゆき)の結婚式が行なわれていた。野沢はデモで負傷した玲子と北見(味岡享)を介抱する後輩の太田(津川雅彦)に出会い、2人は結「日本の夜と霧」津川.jpgばれたのであった。北見は18日夜、国会に向ったまま消息を絶つ。招待客は、それぞれの学生時代の友人らで、司会は同志だった中山(吉沢京夫)と妻の美佐子(小山明子)。その最中、玲子の元同志で逮捕「日本の夜と霧」小山1.jpg状が出ている太田が乱入し、国会前に向かっ「日本の夜と霧」佐藤戸浦.jpgたまま消息を絶った北見の事を語り始める。一方で、野沢の旧友だった宅見(速水一郎)も乱入してきて、自ら命を絶った高尾(左近允宏)の死の真相を語り始める。これらを契機に、約10年前の破防法反対闘争前後の学生運動を語り始め、玲子の友人らも同様に安保闘争を語り始める。野沢と中山は暴力革命に疑問を持つ東浦(戸浦六宏)と坂巻(佐藤慶)を「日和見」と決めつけていたが、武装闘争を全面的に見直した日本共産党との関係や「歌と踊り」による運動を展開した中山、「これが革命か」と問う東浦や「はねあがり」など批判し合う運動の総括にも話が及び、会場は討論の場となる―。

 1960年10月公開の大島渚監督作で、大島渚監督は同年に「青春残酷物語」(6月公開)、「太陽の墓場」(8月公開)という、後にこれも代表作と評価される2作を撮っているわけで、この時期は凄く精力的だったと思います。

 この映画は異例のスピードで制作された背景には、松竹が制作を中止することを大島渚監督が恐れていたためで、実際、公開からわずか4日後、松竹が大島に無断で上映を打ち切ったため、大島渚監督は猛抗議し、翌1961年に松竹を退社しています。

 実際に撮影中にも松竹社長から異議が出ていたといい、撮影を短くすませるために、カット割りのない長回しの手法を多用し、俳優が少々セリフを間違えても中断せずに撮影を続けていて、それによって独特の緊張感が生まれています。

 上映中止は、「過激な」政治をテーマにしたメジャー映画(商業映画)というものの成立の難しさを示しているように思いますが、今の若い人がこの映画を観たらどう思うのかなあ。「青春残酷物語」や「太陽の墓場」のように、安保闘争時の時代の雰囲気を、恋人同士やドヤ街の人々に落とし込んだものの方が、「安保闘争」のことは分からなくとも、雰囲気は伝わりやすい気がします。

 この作品は劇場で観るのは今回が初めてですが、ストレートに安保闘争を巡る議論になっていて、個人的にも〈しんどい〉感じがしました。それは、1つは、彼らの語る言葉が非常に〈空疎〉に聞こえることで、多分、大島渚はその〈空疎〉を計算して描いているのではないかと思いました。

 もう1つは、議論が〈内向き〉であること。「誰があの時どうだったか」という、仲間の過去の言動のあげつらい合戦になっていて、これが、「革命運動」とやらがこれを以って終焉を迎えたという「連合赤軍事件」における「総括」と称する内部粛清に引き継がれていったとのではないかと思うとぞっとします。

 これって、さらには「オウム真理教」で繰り返された「構成員リンチ殺人事件」にもつながるように思います。脱会しようとした信徒を教祖・麻原の指示で殺害したわけですが、そう言えば、「太陽の墓場」でも愚連隊「信栄会」を抜けようとしたヤス(川津祐介)が会長の信(津川雅彦)に殺されるわけで、大島渚という人は、これらの日本的組織に通底するものを見抜いていたのではないかと思いました。

 力が〈内向き〉に働くというのは、日本の会社組織における権力争いなどもそうで、外国企業であれば別会社に自分を売り込んでさっさと転職してしまうけれども、日本企業の場合、会社に留まってキャリアの長い期間と大きな労力を内部の権力争いに費やすことが多いように思います。

 何だか、登場人物の議論に入っていけない分、そういうことを考えてしまいました。議論が〈空疎〉で〈内向き〉であることが浮き彫りにされるのも大島渚監督の計算の内だとは思いますが、映画としては前2作の方が自分との相性は良かったように思います。

「日本の夜と霧」小山2.jpg「日本の夜と霧」●制作年:1960年●監督:大島渚●製作:池田富雄●脚本:大島渚/石堂淑朗●撮影:川又昂●音楽:真鍋理一郎●時間:107分●出演:渡辺文雄/桑野みゆき/津川雅彦/味岡享/左近允宏/速水一郎/戸浦六宏/佐藤慶/芥川比呂志/氏家慎子/吉沢京夫/小山明子/山川治/上西信子/二瓶鮫一/寺島幹夫/永井一郎●公開:1960/10●配給:松竹●最初に観た場所:シネマブルースタジオ(22-03-20)(評価:★★★)

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この頃の大島渚のパワーはスゴイ。 主演は川津祐介でも佐々木功でもなく、炎加世子だった。

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あの頃映画 太陽の墓場 [DVD]」津川雅彦/川津祐介/炎加世子/佐々木功

「太陽の墓場」p.jpg「太陽の墓場」10.jpg 大阪の小工場街の一角にバラックの立ち並ぶドヤ街の建物の中で、若い男ヤス(川津祐介)に見張らせて、元陸軍衛生兵の村田(浜村純)が大勢の日雇作業員から採血し、花子(炎加世子)がそれを手伝い、ポン太(吉野憲司)が三百円払う。動乱屋(小沢栄太郎)は国難説をぶって一同を煙にまき、花子の家に往みつくことに。ヤスとポン太は新興の愚連隊「信栄会」の会員で、この種の小遣い稼ぎは会長の信(津川雅彦)から禁じられている。二人の立場を見抜いた花子は、支払いを値切る。一帯を縄張りとする大浜組を恐れる信は、組の殴り込みを恐れてドヤを次々に替えた。二人は武(佐々木功)と辰夫(中原功二)という二少年を信栄会に入れる。仕事は女の客引き。ドヤ街の一角には、花子の父・寄せ松(伴淳三郎)、バタ助(藤原釜足)・ちか(北林谷栄)夫婦、ちかと関係のある朝鮮人・寄せ平(渡辺文雄)、ヤリ(永井一郎)とケイマ(糸久)ら「太陽の墓場」3n.jpgが住む。一同は旧日本陸軍の手榴弾を持った動乱屋を畏敬の目で迎える。武は信栄会を脱走して見つかるが、花子の力でリンチを免れる。信の命令で仕事に出た武、辰夫、花子は公園でアベックを襲う。花子が見張り、物を盗り、辰夫が女を犯した。花子は動乱屋と組んで血の売買を始めたが利益分配で揉め、信栄会と組む。信の乾分の手で村田は街から追い出される。動乱屋のもう一つの仕事は、色眼鏡の男(小池朝雄)に戸籍を売る男を世話することで、その戸籍は外国人に売られるのだった。その金で武器を買い、旧軍人の秘密組織を作るのだと豪語する。花子は医師の坂口(佐藤慶)を誘惑し、採血仲間に加える。やがて信栄会は分裂し、信と花子は喧嘩別れに。仲間のパンパンを連れて大浜組に身売りしようとしたヤスは信に殺される。アベックの男も自殺し、これらを見た武は嫌気がさすが、その武に花子は惹かれる。村田を拾い上げた花子は、動乱屋と組んで再び血の売買を始める。バタ助は動乱屋に戸籍を売ると、その金で大盤ふるまいをして首を吊る。人のいい大男(羅生門)の戸籍を買った動乱屋は、男を北海道に追いやる。花子は武の口からそれとなく信栄会のドヤを聞く。二人が「太陽の墓場」17.jpg公園まで来ると、恋人に死なれたアベックの女(富永ユキ)が武に飛びかかり、花子が突き放すと女は崖から転落する。安ホテルの一室で二人は激しく抱き合う。信栄会を辞める決心した武は辰夫に相談、反対する辰夫はナイフを抜くが、格闘の末倒れたのは辰夫だった。花子は大浜組に信栄会のドヤを教え、信栄会は殴り込みを受け、信以外は全員殺される。武と逃げる信は、ドヤの場所が武の口から花子に知れたことを悟り、武を銃で撃つ。撃たれた武は信にしがみつき、離れない二人の上を列車が通過する。呆然とする花子に動乱屋のヤジが聞こえた。ソ連が攻めて来て、世の中が変ったところで、このドヤ街に何の変化が来よう!花子もヤジる。騒然とした中で動乱屋の手榴弾が爆発し、バラックは吹っ飛ぶ。その中を、採血針を持った村田が花子の後を気ぜわしげに駈け廻っていた―。

「太陽の墓場」えp.jpg「太陽の墓場」さつえい.jpg 1960年に公開された、大島渚(1932-2013/80歳没)が、彼自身と助監督の石堂淑朗との共同オリジナル・シナリオを監督した作品で、大阪のドヤ街を舞台にしていますが、「青春残酷物語」('60年)を撮り終えた後、こちらの方は非常に短い期間で撮り切ったようです。この年にさらに「日本の夜と霧」('60年)も撮っているわけで、'60年代の大島渚監督作は16作に及び、例えば1967年にも「忍者武芸帳」「日本春歌考」「無理心中 日本の夏」の3作を撮っていたりします(精力的!)

「太陽の墓場」9.jpg ストーリーを長々書きましたが、群像劇なので、ストーリーの細部や順番はあまり重要ではないのかもしれません。大阪が舞台であるのに、出演者の大阪弁がヘタクソとの声もありますが、それさえもあまり重要ではないことかも。とにかく、登場人物たちの熱気を感じます。

 当時あまり売れていなかった役者を拾い上げたのも良かったのかもしれません。松竹への移籍後、ヒット作に恵まれていなかった津川雅彦も然り、出演2作目の新「太陽の墓場」2.jpg人で、本作の成功で松竹専属となった佐々木功(後のさ「太陽の墓場」19.jpgさきいさお)も然り、劇団員だったところを大島に起用されて映画に転じた戸浦六宏も然り、いずれもこの映画が転機となった俳優です。一方で、「青春残酷物語」から引き続いての起用の川津祐介、渡辺文雄、佐藤慶、浜村純などもいて、上手く組み合わせて化学反応を起こさせている感じです。

「太陽の墓場」炎.jpg「太陽の墓場」佐々木.jpg 主人公は最初に登場する川津祐介が演じるヤスかと思いましたが、これがあっさり殺されてしまい、そっか、佐々木功が演じる武が主人公だったのかと思ったら、彼も最後、信と一緒に轢死してしまい、最後に残ったのは炎加世子「太陽の墓場」炎2.jpg「太陽の墓場」炎3.jpgが演じる花子でした。思えば、最初にクレジットされているのは炎加世子だったし、この群像劇の中で最も強烈な印象を残したのも彼女でした。

 DVDの口上では、「60年安保闘争で揺れる世相の中、釜ヶ崎という小さな地域を日本全体の縮図とみたてて、縦社会である暴力団の非人間性を暴きたてた作品」とありますが、そこまで言い切「太陽の墓場」4 m.jpgらなくとも、ドヤ街に住む最底辺の人々が、飲めば、やれ革命だ、やれ戦争だと騒ぐのを見れば、60年代安保が頭に浮かびます。ただ、最近の若い人にどう伝わるかなというのはありました。

 でも、このパワーと言うか喧噪感は伝わるみたいです。今回この映画を観たのは芸術センターのシネマブルースタジオで、観客は自分以外は、東京芸大生と思われる男女3人だけでした。映画が終わった後、女子学生が拍手して、席の立ち際に「すごい映画を観てしまった」と言っていました。

田中邦衛
IMG_20220308_15561.png「太陽の墓場」田中.jpg「太陽の墓場」●制作年:1960年●監督:大島渚●製作:池田富雄●脚本:大島渚/石堂淑朗●撮影:川又昂●音楽:真鍋理一郎●時間:97分●出演:炎加世子/伴淳三郎/渡辺文雄/藤原釜足/北林谷栄/小沢栄太郎/小池朝雄/羅生門/浜村純/佐藤慶/戸浦六宏/松崎慎二郎/佐々木功/津川雅彦/中原功二/川津祐介/吉野憲司/清水元/永井一郎/糸久/宮島安芸男/田中謙三/曽呂利裕平/小松方正/茂木みふじ/山路義人/田中邦衛/富永ユキ/檜伸樹/左卜全/安田昌平●公開:1960/08●配給:松竹●最初に観た場所:シネマブルースタジオ(22-03-08)(評価:★★★★)
羅生門(綱五郎) in「太陽の墓場」(1960)/「用心棒」(1961)
「太陽の墓場」羅生門.jpg「用心棒」羅生門1.jpg

「用心棒」羅生門2.jpg
 
 
  
 
kawazu.jpg 川津祐介(1935-2022.2.26)

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安保闘争とその後の時代を反映する主人公の怒り。今の若い人が観たらどうか?

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「青春残酷物語」ポスター「あの頃映画 青春残酷物語 [DVD]」桑野みゆき/川津祐介

「青春残酷物語」4d.jpg「青春残酷物語」00.jpg 真琴(桑野みゆき)と陽子(森島亜樹)が夜の街から帰る際に用いる手段は、クルマの窓を叩いて、運転者に家まで送らせるというもの。真琴は赤いシボレーの男(春日俊二)に声を掛けたりし、結局パッカードの男(山茶花究)にホテルに連れ込まれそうになり、清(川津祐介)という大学生に救われる。翌日、二人は隅田川の貯木場で遊び、丸太の上で清は真琴を抱く。その後1週間経っても清から連絡はなく、真琴は彼のアパートへ行き、バー「クロネコ」で伊藤(田中晋二)と陽子とで待つ。彼ら二人が去り、残った真琴に、チンピラの樋上(林洋介)や寺田(松崎慎二郎)が言い寄る。清が来て喧嘩になるが、兄貴分「青春残酷物語」03.jpgの松木(佐藤慶)が止めて金で話がつく。清は、アルバイト先の人妻・政枝(氏家慎子)と関係があったが、真琴の真情に惹かれ、アパートに泊める。真琴が朝帰りすると、姉の由紀(久我美子)がそれを叱り、彼女は家に閉じ込められるが、隙を見て逃げ、清と同棲を始める。由紀はその居所を突き止めるが、真琴は家には戻らない。金が必要だっベンツの男・堀尾(二本柳寛)を騙せなかった。彼女は妊娠していたが、清は堕胎しろと言い、そのためにも例の仕事は必「青春残酷物語」05.jpgた清は、真琴と出合った時のことを応用し、マーキュリーの男(森川信)を真琴が釣り、清が強請った。学校で同棲が噂になり、真琴は受持ちの下西(小林トシ子)に呼ばれるが、由紀が噂を否定する。妹の生き方を認めたくなっていたのだ。その夜、真琴は要だと。真琴は清のもとを去る。偶然に堀尾に会って、清を忘れるためにホテルへ泊る。清は政枝から金を借りるが、真琴が堀尾と寝たことを知ると、堀尾を強請る。一方の「青春残酷物語」渡辺文雄.jpg由紀は、昔愛して破れた医者の秋本(渡辺文雄)を訪ねる。工場街で診療所を開き、看護婦の茂子(俵田裕子)と関係があり、昔日の面影はない。真琴が寝ていた。ここで子を堕ろしたのだ。清が現われ、秋本や由紀を罵倒し、真琴をいたわる。海辺で、二人の結びつきは堅いようにみえた。アパートに帰った時、警官が待っていた。堀尾が訴えたのだ。真琴は家へ帰され、清は政枝の奔走で情状酌量された。別れようと清は言う。君を守る力がないと。追いすがる真琴を突き放すが、樋口たちが女を貸せと脅したため、殴り合いになる。彼らは清を殴り続け、彼は死ぬ。真琴はフォードの男(田村保)に誘われ、ふらっと乗り込むが、突然飛び降り、クルマに引き擦られて動かなくなる―。

「青春残酷物語」お.jpg 大島渚(1932-2013/80歳没)監督による1960(昭和35)年6月公開作。 "松竹ヌーヴェルヴァーグ"という言葉が生まれるきっかけとなった作品で、これを機に大島渚監督自身も篠田正浩や吉田喜重とともに"松竹ヌーヴェルヴァーグ"の旗手として知られるようになりました(しかし、自身はそのように呼ばれることを望まなかったという)。

 この映画では、川津祐介演じる主人公の清の怒りが、当時の多くの若者が抱いていた世の中への憤りと重なっている点が一つのポイントでしょう。そう見ないと、清は金を得るために美人局的なことぐらいしか思いつかない、単なる破滅型の愚かな敗北者ということになってしまいます。ただ、実際、真琴の自分への真情に自らも彼女に惹かれる一方で、彼女が妊娠すると堕ろせと命じているわけで、責任回避型のどうしょうもない男にも見えなくもありません。

「青春残酷物語」04.jpg 安保世代とその後の世代のギャップというものが時代背景としてあり、渡辺文雄が演じる町医者の秋本は、青春を投げ打ってまで社会と闘った過去を持ち、一方、清の友人の伊藤は、今まさに安保反対デモに参加しながらも、ガールフレンドともテキトーに付き合っています。それに対して清は、安保闘争のようなものには秋本のように没頭することも、伊藤のようにテキトーに関わることもできず、家庭教師先の熟女マダムと爛れた関係を持つばかりで、そこへ現れた真琴が眩しく見えたのではないでしょうか。

「青春残酷物語」しぼr.jpg やはり、時代背景抜きにしては川津祐介演じる主人公の清に共感しにくいように思われ、安保闘争とその挫折という時代の流れを知らない若い人が観たらどうかな?という思いはあります(清が乗るのが単車でしかも盗難車、それに対しクルマの男たちが乗るのが、シボレー、パッカード、マーキュリー、ベンツ、フォードとどれも高級外車というのが当時のくすぶった日本の現実を象徴しているともとれる。ただ、今の若者がこうした外車に憧れを抱くか?)。個人的にはむしろ、表現面で、表情の大写しなど今の映画ではあまり使われない手法が取られているのが印象的でした。

「青春残酷物語」j2.jpg この作品は、大島渚監督が亡くなった翌年['14年]4Kデジタル修復版が第67回「カンヌ国際映画祭」でワールドプレミア上映され、さらに同年の第15回「東京フィルメックス」でも上映され、審査委員長の賈樟柯(ジャ・ジャンクー)監督(カンヌ国際映画祭でもコンペティション部門の審査員だった)が舞台挨拶でこの作品に触れています。

「青春残酷物語」j1.jpg そこで述べたのが、「この作品の特徴は、青春のただ中にいる若者たちの個人的な事を扱いながら、非常に社会性があるという事です。大島監督はこの作品の中で、個人と社会を断ち切ることなく、個人が属する社会の問題をしっかり見据えていたわけです。この観点は、現在の映画の中で、啓発を受けるべき非常に重要な姿勢だと思いました」「我々個人はあくまでも社会に属しているわけで、決して関係を断ち切ることはできません。『青春残酷物語』の中には、様々な問題が盛り込まれています。青春という意識の問題、命の問題、社会、経済、学生運動といったものです。さらに、大島監督の凄いところは、社会をしっかり見つめながら、ただ社会の方向にだけ映画を持っていくのではなく、そこに人間性に対する洞察力をしっかり込めているということ。社会を題材に、社会的な見方でしか映画を撮らないとしたら、それは芸術ではなくなってしまいます。この点が社会学者とは違い、芸術にまで高めているところだと思います」ということで、ああ、やっぱりという印象です。

「青春残酷物語」j3.jpg「青春残酷物語」ま.jpg さらに、"忘れられない場面"として、序盤、街で出会った主人公の真琴(桑野みゆき)と清(川津祐介)が丸太の浮かぶ川で遊ぶ場面を挙げ、「男が女の子にキスしようとすると、彼女が嫌がります。すると、男は彼女を水の中に突き落とし、彼女は溺れそうになりながら必死にあ「青春残酷物語」02.jpgえぐわけです。その時の会話がまさに人生に関わることでした。セリフのやり取りを通じて、2人が傷つけ合いながら互いの存在感を確かめ合っているようで、大きな孤独感を感じました。そのような表現が、この場面に盛り込まれていたわけです」と述べていて、この辺りはさすが、中国映画界の「第六世代」の監督として知られる賈樟柯監督らしいなあと思います。大島監督の作品を初めて見たのは、北京電影学院で映画を学んでいた頃だったといいます。今年['22年]の北京冬季五輪・パラリンピックの開閉会式の総監督の張芸謀(チャン・イーモウ)監督が、かつて高倉健主演の「君よ憤怒の河を渉れ」('76年/松竹)を観て感動したという、「第五世代」の日本映画に対する出会いや感じ方とはまた違うなあと。

 賈樟柯監督は、この作品が「自分が映画を撮り始めた1990年代の中国を思わせ、不思議な感じがする」とも語っていて、やはり社会を反映している分、その時代(あるいは同じような時代背景の時代)を見知っているかどうかというのは、この映画を観る時かなり大きな要素になってくる気がしました。

 結局、〈60年安保闘争〉の後に〈70年安保闘争〉というのもあったわけで、後者についてこの作品に該当するのが、藤田敏八監督の 「八月の濡れた砂」('71年/ダイニチ映配)ではないかなと勝手に思っています。

佐藤慶(チンピラの兄貴分・松木)/渡辺文雄(町医者・秋本)
「青春残酷物語」佐藤0.jpg 「青春残酷物語」渡辺文雄01.jpg

「青春残酷物語」ぽ.jpg「青春残酷物語」●制作年:1960年●監督・脚本:大島渚●製作:池田富雄●撮影:川又昂●音楽:真鍋理一郎●時間:96分●出演:桑野みゆき/川津祐介/久我美子/ 浜村純/氏家慎子/森島亜樹/田中晋二/富永ユキ/渡辺文雄/俵田裕子/小林トシ子/佐藤慶/林洋介/ 松崎慎二郎/堀恵子/水島信哉/春日俊二/山茶花究/ 森川信/田村保/佐野浅夫/城所英夫●公開:1960/06●配給:松竹●最初に観た場所(再見):シネマブルースタジオ(22-02-22)(評価:★★★★)

桑野みゆき in「彼岸花」('58年/松竹) 久我美子/渡辺文雄 in「彼岸花」('58年/松竹) 
「彼岸花」桑野.jpg 彼岸花 映画5O.jpg 

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遺産相続を巡る女と男の赤裸々な欲望を描いたピカレスク・ロマン。面白かった。

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あの頃映画松竹DVDコレクション からみ合い」渡辺美佐子/山村聰
山村聰(社長)・千秋実(秘書課長)/岸惠子(秘書)/仲代達矢(吉田の部下)/宮口精二(顧問弁護士・吉田)
『からみ合い1.jpg『からみ合い』みや.jpg.png 東都精密工業社長・河原専造(山村聡)は癌で後3カ月しか生きられないことを知る。専造は、3億円に及ぶ財産を以前に関係あった女性らの子どもに分配することにした。妻・里枝(渡辺美佐子)、秘書課長・藤井(千秋実)、秘書『からみ合い12.jpg・宮川やす子(岸恵子)、顧問弁護士・吉田(宮口精二)とその部下・古川(仲代達矢)が呼び集められ、妻・里枝に3分の1、残りの3分の2が行方不明の子供3人に渡されることになった。捜索期限は1カ月、呆然とする人びとに役割が振り当てられ。藤井には川越にいる7つの子を、吉田は『からみ合い』よし.jpg温泉街に流れて行った二十歳になる娘を、やす子は役人と結婚した女の息子を探すことに。古川は、温泉街のヌード・スタジオで専造の落し子の神尾真弓と思しき娘・神尾マリ(芳村真理)を見出し、彼女に札びらを切って関係を持ち、ある契『からみ合い』かわ.jpg約を結ぶ。川越へ行った藤井は、産婆のさよ(千石規子)から目当ての子・ゆき子がすでに死んでいることを突き止め、代わりにある女の子を〈ゆき子〉として連れて来るが、実はそれは里枝との間にできた子だった。やす子が探し出した定夫(川津祐介)は、養父母にとっては手におえない二十歳の不良青年だった。やす子は暴風雨の晩、河『からみ合い』7.jpg原に挑まれて体の関係を持ち、以来、幾たびか体の関係があった。いよいよ河原の容態が悪化し、彼は定夫を除いた2人の子に遺言を伝えようとするが、その場に刑事(安部徹)がやって来て、殺人容疑で〈真弓〉を逮捕する。実は彼女の姉が河原の子で、彼女は父親違いの妹のマリエであり、姉を自殺に見せかけて殺害し入れ替わったのだ。古川も仲間として吉田弁護士に追放される。一方、河原に遺産で財団法人を設立させ、その幹部に収まることを目論んでいた吉田弁護士は、〈ゆき子〉が偽物であることを事前に掴み、それをやす子に伝え、自分は出張に行くから関係書類を河原に渡すよう言う。やす子は専造に妊娠したことを打明けると、死期迫る専造は狂喜し、3分の1は無条件に生れる子のため遺すと言う。実は、やす子には体だけの『からみ合い』46.png関係の男がいたが、男はやす子が妊娠したと知って身を退いたため、やす子はお腹の子を専造の子に仕立たのだ。遺言書は書き直され、財産は、妻の里枝に3分の1、ゆき子に3分の1、そしてやす子のお腹にいる子に3分の1ずつ分けられることになる。やがて河原が死亡し、倉山弁護士(滝沢修)の前に関係者が集まるが、その場で、吉田弁護士の調べで〈ゆき子〉が河原の子ではないことが判明したと倉山弁護士から発『からみ合い』es.jpg表され、ゆき子はもちろん、詐欺罪に該当する里枝も相続権を失う。吉田弁護士は、ゆき子が替え玉であること知りながら黙っていたやす子にも相続の資格は無いと主張するが、やす子は、自分はゆき子が替え玉であると知らされていないし、書類の中身も見ていないと嘘をつく。吉田弁護士は逆に倉山弁護士から、ゆき子が替え玉であること知りながら河原に知らせなかったことの責任を追及される。結局、やす子のお腹の子だけが相続人となる―。
  
『からみ合い』3.jpg 1962(昭和37)年公開作。原作は、経済学者でもあった直木賞作家・南条範夫(1908-2004/95歳没)の『からみ合い』で、1959年12月創刊の〈カッパ・ノベルス)で、松本清張の『ゼロの焦点』とこの作品が第一回配本でした。監督は、この年「切腹」('62年/松竹)も撮ることになる小林正樹です。遺産相続を巡る女と男の赤裸々な欲望を描いたピカレスク・ロマンで、原作が面白いのでしょうが、良く出来たストーリーだと思いました。山村聰、岸惠子、渡辺美佐子、仲代達矢、宮口精二といった役者面々の演技も良かったように思います。

『からみ合い』4.jpg ピカレスク・ロマンの主役は秘書の宮川やす子(岸恵子)ですが、最初は他の関係者連中が、藤井(千秋実)が子どもの替え玉を用意したり、古川(仲代達矢)が里枝(渡辺美佐子)と二股かけようとしたりする中、彼女だけが唯一真面目に河原の息子(川津祐介)を探していて、それが終盤にになって彼女自身が急速な変貌を遂げてピカレスク・ロマンの主役となっていくところに引き込まれます。

『からみ合い』ksi keiko.jpg 吉田弁護士(宮口精二)が、河原に財団法人の設立資金を遺させ、その幹部に収まるの目論んで、〈ゆき子〉が偽物であることを自分から河原には言わず、(出張前に言うチャンスが無かったとして)やす子に言わせることでやす子を利用しようとしたのに対し、やす子は、〈ゆき子〉が偽物であると吉田からは聞かされておらず、(河原が亡くなる前に言うチャンスが無かったとして)書類の中身を見ないまま倉山弁護士(滝沢修)に渡したとして、吉田のやり方を逆手にとったところが面白いです。自分が財団の幹部になったら、「君の将来も十分に保証する」という吉田の言葉を、やす子はハナから信じていなかったということでしょう。

 相続人が胎児である場合、死産または流産したら、父親が相続人になり、父親が不在の場合は母親が相続人になるということも、やす子は、弁護士に六法全書を見せられるうちに、さりげなく学習していったのでしょう。

『からみ合い』きし.jpg『からみ合い』みや2.jpg 冒頭と結末が、すっかり貴婦人風となったやす子と、やや恨めしさを漂わす吉田弁護士との再会シーンになっていますが、やす子の子が生まれて間もなくして死んだと聞かされ、吉田はやす子の謀略を確信したのでしょう(その前に「河原とどっちに似た子か楽しみだったのに」と言っているから、最初から河原の子ではないと踏んでいたのかもしれない)。怪しい儲け話を持ち掛ける吉田に、やす子に弁護士は廃業しないのかと訊きますが、いつかあなたの弁護人を買って出るかも分からない、その時まで弁護士を辞めないと言っているから、その疑念は固い。ただし、それさえも、「ご心配なく。私は法律に逆らうようなことは決してしません」とのやす子の言葉にあっさり跳ね返されてしまうラストが見事でした。

『からみ合い 9.jpg いよいよ河原(山村聡)の容態が悪化し、やす子を抱けなくなって、裸で目の前を歩かせ(画面では首から上しか映ってないが)、それを病床から眺める様は、谷崎潤一郎原作の「」('59年/大映)か、はたまた、山村聡自身が演じた「瘋癲老人日記」('62年/大映)の世界といった感じでした。

佐藤慶(不良青年らをマークしている私服警官)/蜷川幸雄[右端](不良青年グループの一人)
『からみ合い』さとう.jpg 『からみ合い』にながわ.jpg
田中邦衛(定夫(川津祐介)と店で喧嘩する谷組チンピラ)/安部徹(マリエ(芳村真理)を連行しにきた刑事)/滝沢修(倉山弁護士)
『からみ合い』33.jpg

『からみ合い』撮影.jpg「からみ合い」●制作年:1962年●監督:小林正樹●製作:若槻繁/小林正樹●脚本:稲垣公一●撮影:川又昂●音楽:武満徹●原作:南条範夫●時間:115分●出演:岸惠子/山村聰/渡辺美佐子/千秋実/宮口精二/仲代達矢/滝沢修/信欣三/浜村純/槙芙佐子/川口敦子/芳村真理/鷹理恵子/利根司郎/大杉莞児/三井弘次/安部徹/永井玄哉/水木松竹の女優たち.jpg涼子/千石規子/菅井きん/本橋和子/北龍二/北原文枝/川津祐介/蜷川幸雄/瀬川克弘/田中邦衛/佐藤慶●公開:1962/02●配給:松竹●最初に観た場所:神田・神保町シアター(08-09-20)(評価:★★★★)

神保町シアター「本の街・神保町」文芸映画特集Vol.6「松竹の女優たち」

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南條範夫『からみ合い』1952年12月刊行(松本清張『ゼロの焦点』と共に〈カッパ・ノベルス〉第一回配本)

《読書MEMO》
2022年2月2日「徹子の部屋」(草笛光子88歳・岸恵子89歳)
草笛光子88歳・岸恵子89歳.jpg

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小川眞由美版ドラマと比べると...。山崎努の演技は愉しめたが、岡田茉莉子の設定年齢がきつい。

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黒の奔流 01 - コピー.jpg 「黒の奔流」0001.jpg
<あの頃映画> 黒の奔流 [DVD]」岡田茉莉子/山崎努

「黒の奔流」0008.jpg黒の奔流 ポスター1.jpg ある殺人事件の裁判が始まった。事件とは多摩川渓谷の旅館の女中、貝塚藤江(岡田茉莉子)が馴染みの客(穂積隆信)を崖から突き落した、というのである。しかし藤江はあくまでも無罪を主張した、が、状況的には彼女の有罪を裏付けるものばかりだった。この弁護を担当したのが矢野武(山崎努)である。矢野はこの勝ち目の薄い事件を無罪に出来たら一躍有名になり、前から狙っている弁護士会々長・若宮正道(松村達雄)の娘・朋子(松坂慶子)をものにできるかもしれない、という目算があったのである。弁護は難行し「黒の奔流」 001.jpgたが、矢野は見事、無罪判決を勝ら取る。「黒の奔流」 01.jpgそして矢野の思惑通り、マスコミに騒がれるとともに、若宮と朋子の祝福を受け、若宮は朋子の結婚相手に矢野を選ぶ。一方、藤江を自分の事務所で勤めさせていた矢野は、ある晩、藤江を抱く。藤江は今「黒の奔流」松坂慶子1 (1).jpgでは矢野への感謝の気持ちが思慕へと変っていたのだ。やがて藤江は矢野が朋子と結婚するということを知る。藤江が朋子のことを失野に問いただすと、矢野は冷たく「僕が君と結婚する「黒の奔流」 1972  okada.jpgと思っていたわけではないだろうね」と言い放ち、去ろうとする。そこで藤江は、あの事件の真犯人は彼女であること、もし矢野が別れるなら裁判所へ行って全てを白状すると逆に矢野を脅迫する。矢野は、藤江はやりかねない、それは自分の滅亡を意味すると憔悴し、やがて藤江に対して殺意を抱く。翌日、矢野は藤江に詫びを入れて旅行に誘うと、藤江は涙ながらに喜び、数日後、富士の見える西湖畔に二人は投宿する。藤江は幸せだった。翌朝、矢野は藤江を釣に誘う。人気のない霧の湖上を二人を乗せたボートが沖へ向う―。

種族同盟 松本清張.jpg 1972(昭和47)年公開の渡辺祐介(1927- 1985/58歳没)監督作で、原作は松本清張が1967(昭和42)年に発表した中編小説「種族同盟」(中短編集『火と汐』('68年/ポケット文春)収録)。原作は、新宿のバーのホステス・杉山千鶴子(23歳)が東京の西の外れの渓谷で殺害され、被害者のペンダントを所持していたことが決め手となり、死体発見現場から2キロほど離れた旅館「春秋荘」の番頭・阿仁連平が逮捕されるというものであり、これを映画では男女を逆転させ、旅館の女中が馴染みの客を殺害したという設定になっています。

松本清張ほか著/日本推理作家協会編『種族同盟―現代ミステリー傑作選1〈策謀・黒いユーモア編〉』(カッパ・ノベルス 1969.01)

 また、原作は中編であり、弁護士(一人称で語られるため、弁護士の名は出てこない)が自分が裁判で救った元被告に恐喝され、殺意を抱くところで終わりますが、映画はそこから、新たな愛憎劇を展開させてみせます。

 この映画化作品のほか、これまで3回テレビドラマ化されています。
 ・1979年「松本清張の種族同盟・湖上の偽装殺人事件」(テレビ朝日)小川眞由美・高橋幸治・金沢碧
 ・2002年「松本清張没後10年記念企画・黒の奔流」(テレビ朝日)渡瀬恒彦・さとう珠緒・純名里沙
 ・2009年「松本清張生誕100年特別企画・黒の奔流」(テレビ東京)船越英一郎・星野真里・黒谷友香・賀来千香子
 これら何れもが、殺人被害者を男性とし、女性を被告にしている点や、裁判終了後に弁護士と女性との間で愛憎劇を繰り広げる点において、原作のドラマ化と言うより、映画のリメイクと言った方が相応しいものとなっており、この映画脚本は(タイトルもそうだが)それだけ後に影響を与えたと言えるかと思います。

 個人的には小川眞由美(千鶴子役、つまり原作で殺害される女性と同じ名前になっている)版と船越英一郎版を観ましたが、映画も含め共通して言えるのは、最後、女性の男性に対する無理心中的な終わり方になっている点です。

黒の奔流l2.jpg この岡田茉莉子版の映画では、矢野がボートを止めると矢野の殺意には既に気づいていたと藤江が呟き、矢野は舟底のコックを抜いて脱出しようとした瞬間、藤江の体が矢野の上にのしかかり、「先生を誰にも渡さない!」と言って、それまで果物の皮を剥いていたナイフで矢野を刺すというもの。これに近いのが小川眞由美版で、見た目はほぼ同じです(船越英一郎版にはボートシーンがなく、星野真里演じる女がいきなり公衆の面前で弁護士を刺す)。

松本清張の種族同盟図9.jpg ただし、岡田茉莉子版の映画と小川眞由美版のドラマでは、ラストに至るプロセスが若干異なっており、映画では藤江はこれから弁護士としての輝かしい道を歩もうとする矢野の前に再三現れ、「私、あなたの女でいいと言ったことを撤回します!」と言って妊娠したことを逆手にとり結婚を迫るのに対し、ドラマでは、小川眞由美演じる女は最後まで「先生とのことは誰にも喋らない」「二度と先生の前には現れない」と言い、ボート上で弁護士を刺すのも、裏切られた恨みからと言うより、「先生、人殺しなんかしないで」という思いによるものとなっています。

「松本清張の種族同盟・湖上の偽装殺人事件」 (1979/05 テレビ朝日) ★★★★☆(小川真由美/高橋幸治)

【黒の奔流】松坂慶子岡田茉莉子.jpg どちらも女性の方に覚悟は出来ている印象ですが、どちらが切ないかと言えば、小川眞由美版の方が上でしょう。最近、この小川眞由美版のドラマを観て、なかなかよく出来ているなあと思って、それで岡田茉莉子版の映画を観直してみたのですが。映画版は、岡田茉莉子、山崎努の演技は愉しめましたが(特に、普段は渋くてクールだったのが、事態が思わぬ方向に行って、何度も鳩が豆鉄砲を食ったような顔になる演技は可笑しかった)、トータルではやはりドラマの方が上でした(ただし、映画をベースにドラマ化していることを考えると映画もさるもの。渡辺祐介監督の演出も悪くない)。

 映画版は、当時39歳の岡田茉莉子が25歳の藤江を演じているというのも、ちょっと見た目きつかったように思います。後半はその演技力で盛り返してきますが、やはり、受け身的な演技にならざるを得ない序盤の裁判シーンなどで、はっきり25歳と言われてしまうと、抵抗感がありました。実年齢では山崎努が当時36歳で、岡田茉莉子より3歳下だからなあ。当時20歳の松坂慶子が、山崎努演じる弁護士の婚約者役で出ているだけに、薹(とう)が立っているのが対比的に目立ちました。25歳という設定で、原作の23歳より2歳足しただけなのですが、もっと年嵩のいった年齢設定にしてもよかったのでは(まあ、小川眞由美も同じく39歳でこの役を演じていたのだが)。

撮影合間写真(松坂慶子/岡田茉莉子)

の奔流」山崎努0.jpg 黒の奔流」山崎努0図1.jpg の奔流」山崎努1.jpg

山崎努(弁護士・矢野武)/谷口香(矢野の助手・岡橋由基子)/佐藤慶(検事・倉石)/松坂慶子(若宮朋子)
「黒の奔流」 yamazaki .jpg 谷口香(岡橋由基子).jpg 「黒の奔流」 検察官 佐藤慶.jpg 「黒の奔流」松坂.jpg

「黒の奔流」 1972 ps.jpg黒の奔流 9.jpg「黒の奔流」●制作年:1972年●監督・脚本:渡辺祐介●製作:猪股尭●脚本:国弘威雄/渡辺祐介●撮影:小杉正雄●音楽:渡辺宙明●時間:90分●出演:岡田茉莉子(貝塚藤江)/山崎努(矢野武)/谷口香(岡橋由基子)/松村達雄(若宮正道)/福田妙子(若宮早苗)/松坂慶子(若宮朋子)/中村伸郎(北川大造)/中村俊一(楠田誠次)/穂積隆信(阿部達彦)/玉川伊佐男(弁護士・三木)/佐藤慶(検事・倉石)/河村憲一郎(裁判長・松本)/加島潤(判事・細川)/小森英明(判事・竹内)/岡本茉利(太田美代子)/菅井きん(杉山とく)/金子亜子(とくの娘)/伊藤幸子(今村カツ子)/谷村昌彦(タクシー運転手)/生井健夫(弁護士)/石山雄大(弁護士)/久保晶(弁護士)/水木涼子(小坂清子)/光映子(森本澄子)/藤田純子(和江)/秩父晴子(管理人)/荒砂ユキ(アパートの隣人)/園田健二(記者)/岡本忠行(記者)/江藤孝(記者)/大船太郎(記者)/高畑喜三(廷吏)/松原直(廷吏)/土田桂司(刑事)/高杉和宏(刑事)/村上記代(仲居)●公開:1972/09●配給:松竹(評価:★★★☆)

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谷崎文学の世界を分かりやすく且つ重厚に再現。原作と異なる結末。愉しめた。

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鬼の棲む館 [DVD]」 高峰秀子/勝新太郎/新珠三千代
「鬼の棲む館」c taka.jpg 南北朝時代、戦火を免れた山寺に、無明の太郎と異名をとる盗賊(勝新太郎)が、白拍子あがりの情人・愛染(新珠三千代)と爛れた生活を送っていた。自堕落な愛染、太郎が従者のように献身しているのは、彼女が素晴らしい肉体を、持っていたからだった。晩秋のある夕暮、京から太郎の妻・楓(高峰秀子)が尋ねて来た。太郎は、自分を探し求めて訪れた楓を邪慳に扱ったが、彼女はいつしか庫裡に住みつき、ただひたすら獣が獲物を待つ忍従さで太郎に仕えた。それから半年ほども過ぎたある晩、道に迷った高野の上人(佐<鬼の棲む館 009.jpg藤慶)が、一夜の宿を乞うて訪れた。楓は早速自分の苦衷を訴えたが、上人は、愛染を憎む己の心の中にこそ鬼が住んでいると説教し、上人が所持している黄金仏を盗ろうとした太郎には「鬼の棲む館」c ara.jpg呪文を唱えて立往生させた。だが、上人はそこに現われた愛染を見て動揺した。その昔、上人を恋仇きと争わせ、仏門に入る結縁をつくった女、それが愛染だった。上人に敵意を感じた愛染は、彼を本堂に誘う。そうした愛染に上人は仏の道を諭そうとしたが―。

無明と愛染 プラトン社.jpg無明と愛染3.jpg 三隅研次(1921-1975/54歳没)監督による1969年公開作で、原作は谷崎潤一郎の戯曲「無明と愛染」。1924(大正13)1月1日発行の「改造」新年号に第一幕が、3月1日発行の3月号に第二幕が発表され、その年の5月に『無明と愛染 谷崎潤一郎戯曲集』として「腕角力」「月の囁き」「蘇東坡」と併せてプラトン社から刊行されています。
無明と愛染』['24年/プラトン社]

 脚本は、新藤兼人。映画の最初の方にある楓が夫である無明の太郎を訪ね来る場面は原作にはなく、原作は、道に迷った高野の上人が宿を求めて山寺を訪ねたら、すでにそこで太郎が妻妾同居状態で暮らしていた―というところから始まります(映画の冒頭から半年が経「鬼の棲む館」7.jpgっていることになる)。従って、落ち武者たちが寺を襲い、それを太郎が妻妾見守る前で一人で片付けるというシーンも映画のオリジナルです。勝新太郎の座頭市シリーズを第1作の「座頭市物語」('62年/大映)をはじめ何本も撮っている監督なので、やはり剣戟を入れないと収まらなかったのでしょう(笑)。どこまでこんな調子で原作からの改変があるのかなあと思って観ていたら、佐藤慶の演じる上人が訪ねて来るところから原作戯曲の通りで、宮川一夫のカメラ、伊福部昭の音楽も相俟って、重厚感のある映像化作品に仕上がっていました。

鬼の棲む館es.jpg「鬼の棲む館」11.jpg 愛染と楓の激突はそのまま新珠三千代高峰秀子の演技合戦の様相を呈しているように思われ(新珠三千代は現代的なメイク、高峰秀子は能面のようなメイクで、これは肉体と精神の対決を意味しているのではないか)、序盤で派手な剣戟を見せた勝新太郎も、愛染と楓の凌ぎ合いの狭間でたじたじとなる太郎さながらに、やや後退していく感じ。それでも、ああ、この役者が黒澤明の「影武者」をやっていたらなあ、と思わせる骨太さを遺憾なく発揮していました。

「鬼の棲む館」katu.jpg 考えてみれば、原作は戯曲で、それをかなり忠実に再現しているので、役者は原作と同じセリフを話すことになり、新藤兼人の脚本は実質的には前の方に付け加えた部分だけかと思って、「結末は知っているよ」みたいな感じて観ていました。そしたら、最後の最後で意表を突かれました。

「鬼の棲む館」2.jpg 谷崎文学の世界を分かりやすく且つ重厚に再現していましたが、加えて、原作と異なる結末で、"意外性"も愉しめました。これ、映画を観てから原作を読んだ人も、原作の結末に「あれっ」と思うはずであって、全集で20ページくらいなので是非読んでみて欲しいと思います(原作の方が映画より"谷崎的"であるため、映画を観た人は原作がどうなっているか確認した方がいいように思うのだ)。

「鬼の棲む館」図2.jpg「鬼の棲む館」●制作年:1969年●監督・脚本:三隅研次●製作:永田雅一●脚本:新藤兼人●撮影:宮川一夫●音楽:伊福部昭●原作:谷崎潤一郎「無明と愛神保町シアター(「鬼の棲む館」).jpg染」(戯曲)●時間:76分●出演:勝新太郎/高峰秀子/新珠三千代/佐藤慶/五味龍太郎/木村元/伊達岳志/伴勇太郎/松田剛武/黒木現●公開:1969/05●配給:大映●最初に観た場所:神田・神保町シアター(21-03-10)(評価:★★★★)

神保町シアター

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原作を新藤兼人がサスペンス時代劇風に。宮川一夫のカメラが映す肌が4Kで映えた。

刺青(1966).jpg刺青1966.jpg 刺青 4K デジタル修復版.jpg 刺青 若尾.jpg
「刺青」チラシ/「刺青 [DVD]」/「刺青 4K デジタル修復版 [Blu-ray]」若尾文子

刺青 satou.jpg 質屋の娘・お艶(若尾文子)は、ある雪の夜、手代の新助(長谷川明男)と駈け落ちした。この二人を引き取ったのは、店に出入りする遊び人の権次夫婦(須賀不二男・藤原礼子)だった。優しい言葉で二人を迎え入れた夫婦だったが、権次は実は悪党で、お艶の親元へ現われ何かと小金を巻きあげた挙句に、お艶を芸者として売り飛ばし、新助を殺そうとしていた。そんなこととは知らないお艶と新助は、互いに求め合うまま狂おしい愛欲の日々を送っていた。しかし、そんなお艶の艶めかしい姿を、権次の下に出入りする刺青師の清吉(山本學)は焼けつくような眼差しで見ていた。ある雨の夜、権次は計画を実行に移し、殺し屋・三太(木村玄)を新助にさし向けるが、必死で抵抗した新助は、逆に三太を短刀で殺してしまう。同じ頃、土蔵に閉じこめられていたお艶は、清吉に麻薬をかがさ刺青 1966es.jpgれて気を失い、その白い肌に巨大な女郎蜘蛛の刺青を施される。やがて眠りから醒めたお艶は、刺青によって眠っていた妖しい血を呼び起こされたように瞳が熱を帯びて濡れていた。それからというものお艶は辰巳芸者・染吉と名を改め、次々と男を酔わせてくが、お艶を忘れ切れない新助は嫉妬に身を焦がし、お艶と関係を持った男を次々と殺害、遂にある晩、短刀を持ってお艶に迫る。だが新助にはお艶を殺せず、逆にお艶が新助を刺す。一部始終を垣間見ていた清吉は、遂に耐え切れず自らが彫った女郎蜘蛛を短刀で刺し、自らも命を絶つ―。

刺青 籾山書店.jpg 原作「刺青(しせい)」は、1910(明治43)年11月、同人誌の第二次『新思潮』に発表された谷崎潤一郎の短編小説で、作者本人が処女作だとしていたという作品です(単行本は、翌1911(明治44)年12月に籾山書店より刊行)。皮膚や足に対するフェティシズムと、それに溺れる男の性的倒錯など、その後の谷崎作品に共通するモチーフが見られます。

『刺青』[1911年/復刻版](刺青/少年/麒麟/幇間/秘密/象/信西)

刺青・秘密 (新潮文庫).jpg刺青・秘密 (新潮文庫)』[1966年](刺青/少年/幇間/秘密/異端者の悲しみ/二人の稚児/母を恋うる記)

 原作は文庫で十数ページしかなく、主人公の清吉が少女に刺青を施すことで宿願を果たし、「男と云う男は、みんなお前の肥料(こやし)になるのだ」という清吉の予言通り、少女がこれから多くの男を酔わせるであろう妖艶な女に変身したところで終わっています(少女は清吉に「お前さんは真先に私の肥料になったんだねえ」とも言っている)。この少女が刺青を施されたことで劇的な変化を遂げたところですぱっと終わっている、この終わり方が作品の印象を非常に強いものにしているように思います。

増村保造(1924-1986)/新藤兼人(1912‐2012/享年100)
刺青 若尾 映画祭.jpg増村保造.jpg新藤兼人2.png 一方、増村保造監督の映画「刺青(いれずみ)」は、「刺青」の他に同じ谷崎の短編小説「お艶殺し」も基にしていて、映画の方で展開されるサスペンス時代劇風のストーリーは、「お艶殺し」に拠るか、または脚本家としての新藤兼人(1912-2012)のオリジナルということになります。強いて言えば、谷崎の原作における刺青を施され魔性を覚醒された少女がその後どうなったかを、イメージを膨らませて描いた後日譚ともとれます。ただし、映画で、若尾文子演じるお艶が山本學演じる清吉に刺青を掘られるのは物語の中盤なので、10ページほどしかない谷崎の原作に、プロローグとエピローグの両方を足したという感じでしょうか。

 とは言え、そのプロローグとエピローグで大方を占めるので(黒澤明の「羅生門」が、芥川の「羅生門」を基にしているのは冒頭部分くらいで、あとはほとんど芥川の「藪の中」を基にしていたのを想起させる)、原作の「刺青」とは別物という見方もできます。となると、あとは、「お艶殺し」に拠った新藤兼人の脚本が、どれだけ谷崎の耽美主義的な世界を表現することが出来ているかということになりますが、ちょっとストーリー性があり過ぎて、テレビの時代劇ドラマみたいになった印象もなくもないです。それでも最後まで見せるのは、増村保造の演出と宮川一夫のカメラのお陰でしょうか。

 このパターンでいく場合、大概のケースでは原作の雰囲気をぶち壊してしまうものですが、原作を超えたとは言わないまでも、何とか持ちこたえたような気がします。実際、谷崎作品の映画化ということを考えず、若尾文子の映画という風に見れば、まずまずであったように思います。

角川シネマ有楽町200306_0216.jpg刺青 映画&文庫 2.JPG 角川シネマ有楽町での「若尾文子映画祭2020」で観ましたが、全41作品を上映する中で、この「刺青」の4K修復版が世界初上映されることが映画祭の最大の目玉であったようです。率直な感想として、映像のきめ細やかさは予想していた以上でした。宮川一夫のカメラが映す若尾文子の肌が4Kで映え、彼女が動くと背中の蜘蛛も妖しく蠢くという、映画祭の目玉として打ち出すだけのことはあるものでした。

「若尾文子映画祭」@角川シネマ有楽町(同館公式Twitterより)
「若尾文子映画祭」@角川シネマ有楽町.jpg刺青 1966 4.jpg「刺青(いれずみ)」●制作年:1966年●監督:増村保造●脚本:新藤兼人●撮影:宮川一夫●音楽:鏑木創●原作:谷崎潤一郎「刺青(しせい)」「お艶殺し」●時間:86分●出演:若尾文子/長谷川明男/山本學/佐藤慶/須賀不二男/内田朝雄/刺青_143716.jpg藤原礼子/毛利菊枝/南部彰三/木村玄/岩田正/藤川準/薮内武司/山岡鋭二郎/森内一夫/松田剛武/橘公子●公開:1966/01●配給:大映●最初に観た場所:角川シネマ有楽町(20-03-24)(評価:★★★☆)


2刺青810.jpg 0「刺青(いれずみ)」.jpg 佐藤慶

【1950年文庫化[新潮文庫(『刺青』)]/1969年文庫化[新潮文庫(『刺青・秘密』)]/2012年再文庫化[集英社文庫(『谷崎潤一郎フェティシズム小説集』)]/2021年再文庫化[文春文庫(『刺青 痴人の愛 麒麟 春琴抄―現代日本文学館』)]】

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"死者が顕われて生者に語りかける"という趣向において力を発揮する作家?

鉄道員(ぽっぽや)単行本.jpg 鉄道員(ぽっぽや)文庫.jpg 鉄道員poster.jpg 鉄道員 dvd.jpg 駅station poster.jpg
鉄道員(ぽっぽや)』『鉄道員(ぽっぽや) (集英社文庫)』「鉄道員(ぽっぽや)」映画ポスター「鉄道員(ぽっぽや) [DVD]」「駅 STATION」チラシ

 1997(平成9)年上半期・第117回「直木賞」受賞作。

 道央の廃止寸前のローカル線「幌舞線」の終着駅「幌舞駅」の駅長・佐藤乙松(おとまつ)は。鉄道員一筋に生きてきたが近く定年を迎え、また同時に彼の勤める幌舞駅も路線と共に廃止の時を迎えようとしていた。彼は生まれたばかりの一人娘を病気で失い、妻にも先立たれ、孤独な生活を送っていた。ある雪の日、ホームの雪掻きをする彼のもとに、忘れ物をしたと一人の鉄道ファンの少女が現れる。乙松が近所にある寺の住職の孫だと思い込んだ彼女の来訪は、彼に訪れた優しい奇蹟の始まりだった―(「鉄道員」)。

 「鉄道員(ぽっぽや)」「ラブ・レター」「悪魔」「角筈にて」「伽羅」「うらぼんえ」「ろくでなしのサンタ」「オリヲン座からの招待状」の8編を収録し、何れも1995(平成7)年から1997(平成9)年にかけて発表された作品で、作者によれば「奇蹟」をモチーフにしたものを集めたとのことです。

井上ひさし2.jpg 直木賞の選評を見ると、8人の選考委員のうち田辺聖子、黒岩重吾、井上ひさし、五木寛之の各氏が◎で、他の委員も概ね推している印象ですが、故・井上ひさしが、「高い質を誇っていた」と評価しつつも、「8つの短編が収められているが、内4つは大傑作であり、残る4つは大愚作である」とし、「大傑作群に共通しているのは、"死者が顕われて生者に語りかける"という趣向」であると指摘しているのが興味深いです(「この趣向で書くときの作者の力量は空恐ろしいほどだ」とも述べている)。

 "死者が顕われて生者に語りかける"作品となると、冒頭の、鉄道員の男のもとへ亡き娘の甦りとも思える少女が現われる「鉄道員」と、ポルノショップの店長である主人公に、自分との偽装結婚の末に亡くなった戸籍上の妻で出稼ぎ外国人の白蘭という女性が、手紙を通してまだ見ぬ夫である自分への想いを語る「ラブ・レター」、海外配転が決まったサラリーマンの主人公が、40年前自分が幼い頃に自分を捨てた父親と歌舞伎町で再会する「角筈にて」、子どもの頃に肉親を亡くして身寄りが無くなり、薬剤師となって医師と結婚した主人公が、嫁いだ先で夫の親族に苛められているところへ亡くなった祖父が現われ、主人公の力になるという「うらぼんえ」の4つということになるのでしょうか。

 文庫解説の北上次郎氏が、この短編集を「すごくよかった」と言う人が「鉄道員」「ラブ・レター」「角筈にて」「うらぼんえ」の4派に分かれるとし、それを派ごとの主張争いに模して解説していますが、そもそもこの4作品が選ばれていることが、故・井上ひさしの"死者が顕われて生者に語りかける"作品という指摘と合致しているように思いました。

 それ以外の作品はどうかと言うと、ややベタが過ぎたり気味悪かったりして、やはり個人的もこの4つかなあと。更に自分の好みを言えば、「ラブ・レター」はやはりベタ過ぎる印象があるし(北上次郎氏は女性読者には好評な作品としている)、上手さから言えばやはり「鉄道員」になるのかなあ。これだって、斎藤美奈子氏に言わせれば、「怪談、死んだ娘だから父に優しい(生きていたらグレてる)」ということになるのであって、直木賞選考委員の中にも阿刀田高氏のように、「悪くはないけれど、あまりにも型通りで、涙腺をふくらませながらも、こんなことで泣けるかと、しらけるところなきにしもあらず」ということにもなるのかも(考えてみればすべて乙松の頭の中で起きたこととも取れるし)。

鉄道員  02.jpg 「鉄道員」は降旗康男監督、高倉健主演で映画化されましたが('99年/東映)、昔劇場で観た、同じ降旗康男監督、高倉健主演の「駅 STATION」('81年/東映)が、倉本聰が高倉健のために書き下ろした脚本だったためか、何だか高倉健のプロモーション映画みたいで、日本映画ワースト・テンに名を連ねることも多く、個人的にも、自殺した円谷選手の遺書のナレーションを映画の中で使うことなどに抵抗を感じ、いいと思えませんでした(小谷野敦氏が「日本語をローマ字読みしてくっつけた作品のタイトルはダサい」と言っていた(『頭の悪い日本語』('14年/新潮新書))。先にそのイメージと何となくあって、結局「鉄道員」の方は劇場で観ることはなく、テレビがビデオで観たように思います。

鉄道員 志村けん.jpg 原作が短編なので、志村けんが酒癖の悪い炭坑夫として出て来きて炭鉱事故で亡くなる話や、その息子が成長してイタリアへ料理修業に行く話など、原作に無いエピソードで膨らませている部分はありますが、原作の持ち味(ひとことで言えば気持よく泣けるということか)はまずまず保たれていたのではないでしょうか。志村けん志村けん.jpg自宅の留守番電話に主演の高倉健直々の出演依頼のメッセージが入っていて驚いたとのこと。志村けんが俳優として映画出演したのは、ドリフターズの付き人時代に志村康徳名義で端役出演した「ドリフターズですよ!冒険冒険また冒険」('68年/東宝)、「ドリフターズですよ!特訓特訓また特訓」('69年/東宝)の2作以外ではこの作品のみとなります(志村けんは山田洋次監督の「キネマの神様」に菅田将暉とダブル主演の予定だったが、'20年に新型コロナウイルスによる肺炎で急逝したため叶わなかった)

鉄道員 02.jpg これも一歩間違えばどうしようもない映画になりそうなところを、高倉健をはじめとする俳優陣の演技力で強引に持たせていたという感じがします。実際、日本アカデミー賞の主要7部門のうち、作品賞、監督賞、脚本賞、主演男優賞(高倉健)、主演女優賞(大竹しのぶ)、助演男優賞(小林稔侍)の6部門を受賞していて、高倉健主演映画で、主要7部門中"6冠"達成は山田洋次監督の「幸福鉄道員 大竹しのぶ.jpgの黄色いハンカチ」('77年/松竹)以来ですが、「幸福の黄色いハンカチ」の方は第1回日本アカデミー賞ということもあって、監督賞や脚本賞は「『男はつらいよ』シリーズ」との合わせ技でした(因みに、「駅 STATION」も作品賞、脚本賞、主演男優賞を獲っている)。「鉄道員」で獲らなかったのは助演女優賞だけで、これは広末涼子のパートになるかと思いますが、その広末涼鉄道員  s.jpg子さえも、けっして上手いとは言えませんが、そう悪くもなかったように思います(最優秀賞の候補にはなっている)。大竹しのぶは流石に上手ですが、やはりこの映画は高倉健なのでしょう(高倉健は'99年モントリオール世界映画祭で主演男優賞受賞)。「駅STATION」の頃より年齢を重ねて良くなっていて、これなら泣ける? 泣けるかどうかと評価はまた別だとは思いますが。降旗康男監督、高倉健のコンビは2年後に再タッグを組み「ホタル」('01年/東映)を撮りますが、こちらも日本アカデミー賞で13部門ノミネートされ、高倉も主演男優賞にノミネートされましたが、後輩の俳優に道を譲りたい」として辞退しています。

鉄道員 s.jpg鉄道員  1s.jpg「鉄道員(ぽっぽや)」●制作年:1999年●監督:降旗康男●脚本:岩間芳樹/降旗康男●撮影:木村大作●音楽:国吉良一(主題歌:坂本美雨「鉄道員」)●原作:浅田次郎●時間:112分●出演:高倉健/大竹しのぶ/広末涼子/吉岡秀隆/安藤政信/志村けん/奈良岡朋子/田中好子/小林稔侍/大沢さやか/安藤政信/山田さくや/谷口紗耶香/松崎駿司/田井雅輝/平田満/中本賢/中原理恵/坂東英二/きたろう/木下ほうか/田中要次/石橋蓮司/江藤潤/大沢さやか●公開:1999/06●配給:東映(評価★★★☆)

高倉健、小林稔侍、田中好子(1956-2011)  大竹しのぶ、高倉健、奈良岡朋子
鉄道員 高倉健、小林稔侍、田中好子.jpg 鉄道員 大竹しのぶ、高倉健、奈良岡朋子.jpg

吉岡 秀隆            撮影の合間に談笑する志村けんと高倉健
鉄道員 吉岡 秀隆.jpg撮影の合間に談笑する志村けんと高倉健.jpg


駅station dvd.jpg駅station 01.jpg「駅 STATION」●制作年:1981年●監督:降旗康男●製作:田中寿一●脚本:倉本聰●撮影:木村大作●音楽:宇崎竜童●時間:132分●出演:高倉健/倍賞千恵子/いしだあゆみ/岩淵建/名古屋章/大滝秀治/八木昌子/池部良/潮哲也/寺田農/渡会洋幸/高橋雅男/榎本勝起/烏丸せつこ/田中邦衛/竜雷太/小林念侍/根津甚八/宇崎竜童/北林谷栄/藤木悠/永島敏行/古手川祐子/今福将雄/名倉良/平田昭彦/阿藤海/室田日出男●公開:1981/11●配給:東宝●最初に観た場所:テアトル池袋(82-07-24)(評価★★☆)●併映:「泥の河」(小栗康平)
駅 STATION [DVD]
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駅 STATION 池部良.JPG 駅station 06.jpg 駅Station 大滝秀治2.jpg
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【2000年文庫化[集英社文庫]/2004年再文庫化[講談社文庫(『鉄道員/ラブ・レター』)]/2013年文庫化[集英社みらい文庫]】

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高倉健の作品の中ではちょっと変わった味がある? この映画のお蔭で黒澤映画に出られなかった。

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居酒屋兆治 [DVD]高倉健伊丹十三/細野晴臣
題字:山藤章二
居酒屋兆治 2.jpg 函館で居酒屋「兆治」を営む藤野英治(高倉健)は、輝くような青春を送り、挫折と再生を経て現在に至っている。かつての恋人で、今は資産家と一緒になった「さよ」(大原麗子)の転落を耳にするが、現在の妻・茂子(加藤登紀子)との生活の中で何もできない自分と、振り払えない思いに挟まれていく。周囲の人間はそんな彼に同情し苛立ち、さざなみのような波紋が周囲に広がる。「煮えきらねえ野郎だな。てめえんとこの煮込みと同じだ」と学校の先輩の河原(伊丹十三)に挑発されても頭を下げるだけの英治。そんな夫を見ながら茂子は、人が人を思うことは誰にも止められないと呟いていた―。

居酒屋兆治 3.jpg 今月['14年11月]10日に亡くなった高倉健(1931-2014/享年83)の52歳の時の出演作。文春文庫ビジュアル版の『大アンケートによる日本映画ベスト150』('89年)に監督・男優・女優の各ベスト10のコーナーがあって、男優ベスト10は、1位・坂東妻三郎、2位・高倉健、3位・笠智衆、4位・三船敏郎、5位・三國連太郎、6位・森雅之、7位・志村喬、8位・石原裕次郎、9位・市川雷蔵、10位・緒形拳となっており、この中で存命していたのは高倉健のみだっただけに、その死は尚更に寂しく思えます。'12年の菊池寛賞の受賞式を欠席したのはともかく、'13年の文化勲章受賞式に出席したのを見て逆にもしかしてちょっとヤバいのかなと思ったけれど...。

居酒屋兆治 4.jpg この作品は最初に観た時は、大原麗子(当時37歳)のあまりの暗さに引いてしまいましたが(「網走番外地 北海篇」('65年)などで見せた勝気で明るい女性キャラとは真逆)、改めて観直してみるとそう悪くも感じないのは自分の年齢のせいか。その大原麗子(1946-2009/享年62)も亡くなってしまったわけですが、河原役の伊丹十三(1933-97/享年64)、居酒屋の親爺で英治の師匠役の東野英治郎(1907-94/享年86)、「兆治」の常連客役の池部良(1918-2010/享年92)(高倉健とは「昭和残侠居酒屋兆治 大滝秀治.jpg伝」シリーズ('65-'72年)以来、正確には「君よ憤怒の河を渉れ」('76年)、「冬の華」('78年)、「駅STATION」('81年)に続く共演)、英治が元いた会社の専務役の佐藤慶(1928-2010/享年81)、小学校長役の大滝秀治(1925-2012/享年87)など、'84年にテアトル新宿で初めてこの作品を観てから亡くなった人が随分いるなあと。高倉健、伊丹十三、池部良のスリーショットなんて、観ていてしみじみしてしまいます。

居酒屋兆治 山藤.jpg居酒屋兆治 1.jpg 俳優だけでなく、原作者の山口瞳(1926-1995/享年68)や、この映画の題字を担当した山藤章二(共に右写真中央)、ミュージシャンの細野晴臣なども出演していて(水色のランニング姿。カメオ出演というより役者として出ている。'82年から'83年にかけてYMOの活動休止期があり、それを機に坂本龍一が「戦場のメリークリスマス」('83年)、高橋幸宏が「だいじょうぶマイ・フレンド」('83年)、「天国にいちばん近い島」('84年)などに出演したりした)、皆で楽しく作っている作品という印象もあり、女性陣も、ちあきなおみ加藤登紀子といった役者が本業ではない人が活き活きと演技しています。
ポスター・題字:山藤章二

 高倉健はこの「居酒屋兆治」への出演準備をしていた矢先に黒澤明監督から「鉄修理(くろがねしゅり)」役で「乱」への出演を打診されていますが、「でも僕が『乱』に出ちゃうと、『居酒屋兆治』がいつ撮影できるかわからなくなる。僕がとても悪くて、計算高い奴になると追い込まれて、僕は黒澤さんのところへ謝りに行きました」と述懐しています。黒澤明は自ら高倉宅へ足繁く黒澤明2.jpg4回も通って、「困ったよ、高倉君。僕の中で鉄(くろがね)の役がこんなに膨らんでいるんですよ。僕が降旗康男君のところへ謝りに行きます」と口説いたけれども、高倉健は「いや、それをされたら降旗監督が困ると思いますから。二つを天秤にかけたら誰が考えたって、世界の黒澤作品を選ぶでしょうが僕には出来ない。本当に申し訳ない」と断ったため、黒澤明から「あなたは難しい」と言われたそうです(結局、鉄修理は井川比佐志が演じることになった。高倉健はその後、偶然「乱」のロケ地を通る機会があり、「畜生、やっていればな」と後悔の念があったとも語っている。但し、高倉健の後期の黒澤作品に対する評価はイマイチのようだ)。

居酒屋兆治 7.jpg 今観ると、高倉健の降旗監督に寄せる信頼が、この作品のアットホームな雰囲気を醸しているのかもしれないという気もします。高倉健と田中邦衛がやり合う場面で、田中那衛のオーバーアクションに高倉健が噴き出したように見えるシーンがあって、最初に観た時はそれがものすごく引っかかったのですが(普通はNGではないかと)、そうした雰囲気の中で撮られた作品だと思うとさほど気にはならず、高倉健の出演作の中ではちょっと変わった味があると思えるようにもなってきました。

   高倉健・ちあきなおみ  /  高倉健・東野英治郎  /  伊丹十三・細野晴臣
居酒屋兆冶 ちあき.jpg 居酒屋兆冶 東野.jpg 居酒屋兆冶 細野.jpg
  高倉健・田中邦衛    /    田中邦衛・大滝秀治
田中邦衛 「居酒屋兆治」2.jpg田中邦衛 「居酒屋兆治」.jpg

チャン・イーモウ監督と高倉健さん.jpg    高倉健 訃報.png
チャン・イーモウ監督と高倉健(2005年東京国際映画祭)[毎日新聞]/2013年文化勲章受章

池部 良 居酒屋兆治1.jpg池部 良 居酒屋兆治2.jpg「居酒屋兆治」●制作年:1983年●監督:降旗康男●製作:田中プロモーション●脚本:大野靖子●撮影:木村大作●音楽:井上堯之(主題歌「時代おくれの酒場」 歌:高倉健/作詞・作曲:加藤登紀子)●時間:125分●原作:山口瞳「居酒屋兆治」●出演:高倉健/大原麗子/加藤登紀子/伊丹十三/田中邦衛/小林稔侍/左とん平/池部良/ちあきなおみ/東野英治郎/佐藤慶/平田満/河原さぶ/小松政夫/美里英二/あき竹城/大滝秀治/石野真子/山谷初男/細野晴臣/三谷昇/石山雄大/武田鉄矢/好井ひとみ/伊佐山ひろ子/板東英二/山藤章二/山口瞳●公開:1983/11●配給:東宝●最初に観た場所:テアトル新宿(84-02-12)(評価:★★★☆)●併映:「魚影の群れ」(相米慎二)

大原麗子メモリー ずっと好きでいて」('10年/講談社)
大原麗子メモリー ずっと好きでいて200_.jpg 大原麗子メモリー ずっと好きでいてWL.jpg 大原麗子メモリー ずっと好きでいて1L.jpg
「居酒屋兆治」05.jpg

《読書MEMO》
●ロングインタビュー(時事ドットコム 2012年)より
 「降旗監督の「居酒屋兆治」の準備が進んでいたとき、黒澤さんの「乱」に(鉄修理=くろがね・しゅり=役で)出演できるという話があった。でも、僕が「乱」に出ちゃうと「居酒屋兆治」がいつ撮影できるか分からなくなる...。とても僕が悪くて、計算高いやつになるという風に追い込まれて、僕は黒澤さんのところへ謝りに行きました。
 あの時、黒澤さんは僕の家に4回いらして、「困ったよ、高倉君。僕の中で鉄(くろがね)の役がこんなに膨らんでいるんですよ。僕が降旗君のところへ謝りに行きます」とまで言ってくれた。でも、僕は「いや、それをされたら降旗さんが困ると思いますから。二つをてんびんに掛けたら、誰が考えたって世界の黒澤作品を選ぶのが当然でしょうが、僕にはできない。本当に申し訳ない」と謝った。黒澤さんには「あなたは難しい」って言われましたね。
 その後、「乱」のロケ地を偶然通ったことがあって、「畜生、やっていればな」と思いましたよ。
 ただ、黒澤監督の晩年の作品には、良いものがないと思うんですよね。僕は、監督が(作品の常連だった)三船敏郎さんと別れたのが大きい気がする。志村喬さんもそうだったけれど、三船さんは(黒澤作品の)エンジンの大きな出力だったのでしょう。二人が抜けたことで、その出力がどーんと落ちた。怖いですよね。映画は絶対に一人ではできないんですよ。」

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楽しく読めたが、もの足りなさも。「愚息(または新九郎)の定理」といった感じ。

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 永禄3(1560)年、京の街角で、食い詰めた兵法者・新九郎、辻博打を生業とする謎の坊主・愚息、そして浪人の身の十兵衛という3人の男が出会った。十兵衛とは、名家の出ながら落魄し、その再起を図ろうとする明智光秀その人であった。この小さな出逢いが、その後の歴史の大きな流れを形作ってゆく―。

 リストラをテーマにした『君たちに明日はない』など現代小説を手掛けてきた作者による初の歴史時代小説で、光秀が中心と言うよりは、剣の達人・新九郎の青春物語を軸に、それぞれの生き方、歩む道が異なる3人を描いているといった感じでしょうか。初めての歴史時代小説で、これだけきっちり書けるというのは、作家というのはすごいものだなあと感心させられました。

 従来の光秀像とは異なる、爽やかで高い理想を持った新たな光秀像を打ち出しており、確率論のパズルなどを織り込んでいるのもユニークで、その部分が面白く読めるばかりでなく、それを剣術や戦さの戦術にまで落とし込んでいるところは巧みだと思いました。

 その上で、もの足りなかった部分を敢えて挙げれば、タイトルに「光秀の定理」とあるものの、3人の物語にしたことによって光秀が相対的に後退し、「愚息(または新九郎)の定理」といった感じの話になっているように思われた点でしょうか。

 光秀はなぜ織田信長に破格の待遇で取り立てられ、瞬く間に軍団随一の武将となり得たのかは描いているし、「本能寺の変」の部分を敢えて描かず、終盤は新九郎と愚息の後日譚になっているのも別にいいのですが、なぜ光秀が信長に対して謀反を起こしたのかという部分がやや弱いかという印象でした(残された新九郎、愚息の、もし秀吉でなく光秀が天下の統治者になっていたら世の中どうなっていただろうという思いから、それは察せられなくもないが)。

 光秀を巡る最大の歴史ミステリは、光秀ほどの智将が何の後ろ盾もなく信長に対する個人的怨恨により謀反を単独で実行した(「光秀怨恨説」説)とは考えにくく、ではその"後ろ盾"があったとすればそれは何であったのだろうかというもので、これについては、「朝廷関与説」(信長の権勢に危機感を持った朝廷が参画したとする説)など主だったものだけで5つも6つもあるようで、研究者の間で一致した結論は出ていません。

 この作品では、従来の「怨恨説」に対して否定的な立場を取りながらも、"後ろ盾"については踏み込んでおらず、強いて言えば「野望説」(天下が欲しかった光秀の単独犯行)に近いか、それを"理想国家の実現"といった風に美化した感じでしょうか(この作品にもあるように、実際、フロイス『日本史』の記述などから、武将として合理的な性格の光秀と信長との相性も良かったはずだと主張する研究者グループがあり、「怨恨説」は後に作られたものだとする考えが現在は有力視されているようだ)。

 新九郎、愚息が事変の後に、光秀が目指していたものは何だったのだろうかと考えてしまっているところが、前半部分の「光秀が相対的に後退」していることと呼応しているように思いました(結局2人とも真相を知り得ないでいる)。そうした曖昧さが個人的にはもの足りなかったわけですが、過程においては楽しく読めたのと、作者初めての歴史時代小説であるということで星半分オマケしました。

光秀の定理2.jpg 光秀の定理3.jpg

明智光秀役春風亭小朝.jpg 因みに、今年['14年]のNHKの大河ドラマ「軍師官兵衛」で明智光秀を演じているのは春風亭小朝ですが、敢えて新奇性を狙ったのかもしれないけれど、個人的印象としては「ハズレ」という感じでしょうか。大河ドラマでは、今回より前に少なくとも10回以上は明智光秀が登場していて演者は次の通り。
  1965 太閤記    佐藤 慶
  1973 国盗り物語   近藤正臣
  1978 黄金の日日  内藤武敏
  1981 おんな太閤記 石濱 朗
  1983 徳川家康   寺田 農 
  1989 春日局     五木ひろし
  1992 信長     マイケル富岡
  1996 秀吉     村上弘明
  2002 利家とまつ  萩原健一
  2006 功名が辻   坂東三津五郎
  2009 天地人     鶴見辰吾
  2014 軍師官兵衛   春風亭小朝
  2016 真田丸    岩下尚史
  2017 おんな城主 直虎 光石 研
  2020 麒麟がくる   長谷川博己(主役)

太閤記 1965 明智.jpg佐藤慶光秀.jpg佐藤慶 光秀07.jpg この中で、圧倒的に強烈なイメージを残したのは「太閤記」の佐藤慶で、以後の配役はそれを超えていないのではないでしょうか。秀吉には緒形拳が抜擢されて人気を博し、高橋幸治演じる織田信長にも人気が集まった一方、佐藤慶はイコール光秀みたいな見られた方をしたのでは。自身、自分の演じた光秀役のイメージがあまりに強く自分にまとわり着き過ぎて、以降、緒形拳との共演を出来るだけ避けていたといったような話を本人がしているのを聞いたことがあります。

太閤記 1965L.jpg太閤記 2.jpg「太閤記」●演出:吉田直哉ほか●制作:広江均●脚本:茂木草介●音楽:入野義朗●出演:緒形拳/高橋幸治/石坂浩二/曾我廼家一二三/川津祐介/藤村志保/フランキー堺/浪花千栄子/山茶花究/稲野和子/岸恵子/佐藤慶/三田佳子/田村高廣/宮口精二/島田正吾/中村歌門/尾上菊蔵/有島一郎/渡辺文雄/土屋嘉男/乙羽信子●放映:1965/01~12(全52回)●放送局:NHK

緒形拳(さる→日吉→木下藤吉郎→羽柴秀吉→豊臣秀吉)/高橋幸治(織田信長)
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藤村志保(ねね)/岸惠子(お市の方)
「太閤記」藤村志保.jpg 「太閤記」岸2.jpg

【2016年文庫化[角川文庫]】

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橋本忍脚本が巧みな「切腹」。壮絶且つ凄絶な復讐(仇討)劇。決闘シーンも味がある。

切腹 1962 ポスター.jpg切腹 1962 dvd.jpg 切腹 1962 決闘シーン.jpg  『東京裁判』 dvd.jpg
「切腹」 [DVD]」/護持院原決闘シーン(丹波哲郎・仲代達矢) 「東京裁判 [DVD]
「切腹」ポスター
切腹 1962 前庭 仲代.jpg 寛永7(1630)年10月、井伊家上屋敷に津雲半四郎(仲代達矢)という浪人が訪れ、「仕官先もままならず、生活も苦しくなったので屋敷の庭先を借りて切腹したい」と申し出る。申し出を受けた家老・斎藤勘解由(かげゆ)(三國連太郎)は、春先、同様の話で来た千々岩求女(石濱朗)の話をする。食い詰めた浪人たちが切腹すると称し、なにがしかの金品を得て帰る最近の流行を苦々しく思っていた勘解由が切腹の場をしつらえると、求女は「一両日待ってくれ」と狼狽したばかりか、刀が竹光であったために死に切れず、舌を噛み切って無惨な最期を遂げたと。この話を聞いた半四郎は、自分はその様な"たかり"ではないと言って切腹の場に向かうが、最後の望みとして介錯人に沢潟(おもだか)彦九郎(丹波哲郎)、矢崎隼人(中谷一郎)、川辺右馬介(青木義朗)の3人を順次指名する。しかし、指名された3人とも出仕しておらず、何れかの者が出仕するまでの間、半四郎は自身の話を聞いて欲しい「切腹」 (1962 松竹).jpgと言う。求女は実は半四郎の娘・美保(岩下志麻)の婿で、主君に殉死した親友の忘れ形見でもあった。孫も生れささやかながら幸せな日が続いていた矢先、美保が胸を病み孫が高熱を出した。赤貧の浪人生活で薬を買う金も無く、思い余った求女が先の行動をとったのだ。そんな求女に一両日待たねばならぬ理由ぐらいせめて聞いてやる労りはなかったのか、武士の面目などとは表面だけを飾るもの、と勘解由に厳しく詰め寄る半四郎が懐から出したものは―。

『東京裁判』 映画.jpg小林正樹.jpg 「人間の條件」6部作('59-'61年)の小林正樹(1916-1996/享年80)が1962(昭和37)年に撮った同監督初の時代劇作品であり、1963年・第16回カンヌ国際映画祭「審査員特別賞」受賞作です(現在のグランプリに該当)。この監督にはベルリン国際映画祭で「国際映画批評家連盟賞」を受賞した「東京裁判」('83年)という長編ドキュメンタリーの傑作もあります。この「東京裁判」という映画を観ると、裁判の争点は端的に言えば、天皇を死刑にすべきかどうかという点であったともとれ(中心となる戦犯らは死刑が裁判前からすでに確定しているようなもので、魂『東京裁判』 映画2.jpgを抜かれたお飾りのように被告席にいるだけ)、そのことを(主役が法廷にいないことも含め)浮き彫りにした内容であるだけに4時間37分を飽きさせることなく、下手なドラマよりずっと緊迫感がありました(この編集の仕方こそがドキュメンタリーにおける監督の演出とも言える。ナレーターは佐藤慶)。争点が天皇にあったことは、この裁判が、昭和天皇の誕生日(現昭和の日)に11ヶ国の検察官から起訴されたことに象徴されており、天皇に処分は及ばなかったものの、皇太子(当時)の誕生日(現天皇誕生日)に被告人28名のうちの7名が絞首刑に処されたというのも偶然ではないように思われます。

「切腹」ポスター in 小津安二郎「秋刀魚の味」
7「切腹」.jpg切腹 小林正樹.jpg 「切腹」の原作は滝口康彦(1924-2004)の武家社会の虚飾と武士道の残酷性を描いた作品です。映画化作品にも、かつて日本人が尊んだサムライ精神へのアンチテーゼが込められているとされていますが、井伊家の千々岩求女への対応は、武士道の本筋を外れて集団サディズムになっているように感じました(同時に斎藤勘解由は、千々岩求女を自らの出世の材料にしようとしたわけだ)。ストーリーはシンプルですが骨太であり(脚本は橋本忍)、観る側に、何故半四郎が介錯人に指名した3人が何れもその日に出仕していないのかという疑問を抱かせたうえで、半四郎がまさに切腹せんとする庭先の場面に、半四郎の語る回想話をカットバックさせた橋本忍氏の脚本が巧みです。

切腹(196209 松竹).jpg 壮絶且つ凄絶な復讐(仇討)劇でしたが、改めて観ると、息子・千々岩求女の亡骸を半四郎が求女の妻・美保と一緒に引き取りに来た際に、求女に竹光で腹を切らせた首謀者である沢潟、矢崎、川辺の3人しか半四郎に会っておらず、それ以外の者には半四郎の面が割れていないとうのが一つの鍵としてあったんだなあと。

切腹 1962 岩下.jpg 半四郎役の仲代達矢(当時29歳)は、長台詞を緊迫感絶やすことなくこなしており、勘解由役の三國連太郎(当時39歳)、沢潟役の丹波哲郎(当時39歳)の "ヒール(悪役)"ぶりも効いています(19歳の美保を演じた岩下志麻は当時21歳だったが、やはり若い。11歳の少女時代(右)まで演じさせてしまっているのはやや強引だったが)。

切腹 1962 三國.jpg 撮影中に起きた仲代達矢と三國連太郎の演劇と映画の対比「論争」は海外のサイトなどにも紹介されていて(この作品は「カンヌ映画祭」で審査員特別賞を受賞している)、仲代達矢の台詞を喋る声が大きすぎて、三國連太郎が(仲代達矢が演劇出身で)映画と演劇の違いが解っていないとしたのに対し、仲代達矢は、集音マイクがあろうと、実際の人物間の距離に合わせた声量で台詞を言うべきだと反論したというものです(小林正樹監督が両者が納得し合うまで議論するよう仕向けたため撮影は3日間中断、後に仲代達矢はあの議論は有意義だったと述懐している)。

切腹 1962 丹波.jpg カットバック(回想)シーンの中にある仲代達矢と丹波哲郎の決闘場面はなかなかの圧巻で、仲代達矢はこの作品と同じ年の1月に公開された「椿三十郎」('62年/東宝)で先に三船敏郎と決闘シーンを演じているわけですが、丹波哲郎との決闘シーンは、それとはまた違った味わいがありました(「椿三十郎」と言わば真逆の役回りであることもあり、"仲代達矢目線"で観ればこちらの方がいい)。

 因みに、その仲代達矢の腰を低く落として脇に刀を構える構えは戦国時代のもので、丹波哲郎の直立姿勢での構えは江戸時代初期に始まりその後主流となったものであるとのことです。

護持院原の敵討―他二篇 森鴎外著.png 両者が決闘した護持院原(ごじいんがはら)は、森鷗外の中編「護持院原の敵討」でも知られていますが、現在の千代田区神田錦町辺りで、江戸時代は"敵討ちの名所"だったようです(江戸から「中追放」の罪となった者の放たれる境界線のすぐ外側。従って、放たれた途端に、私怨を晴らし切れない者などに決闘を申し込まれる)。沢潟の方から半四郎をわざわざ決闘の場として護持院原に誘ったことがずっと個人的には解せなかったのですが、この作品の時代設定は大阪の陣からまだ15年しか経っていないので(まだ"敵討ちの名所"になっていない?)、たまたま近場の原っぱが護持院原だったと考えれば、沢潟が半四郎を護持院原に誘ったこと自体は不自然ではないのかもしれないと改めて思いました。

Seppuku(1962)  第16回カンヌ国際映画祭「審査員特別賞」受賞作
Seppuku(1962).jpg

近江彦根藩井伊家屋敷跡(東京都千代田区)の石碑.jpg 因みに、滝口康彦(1924-2004)による原作「異聞浪人記」は、講談社文庫版『一命』に所収(三池崇史監督、市川海老蔵 主演の本作のリメイク作品('11年)のタイトルは「一命」となっている)。『滝口康彦傑作選』(立風書房)にある原作に関する「作品ノート」によれば、「『明良洪範』中にある二百二十字程度の記述にヒントを得た。彦根井伊家の江戸屋敷での話で、原典では井伊直澄の代だが、小説では、大名取潰しの一典型といえる福島正則の改易と結びつけるため、直澄の父直孝の代に変えている」とのことです。『明良洪範』の記述の史実か否かの評価については様々な異論があるようですが、ある程度歴史通の人たちの間では、この中にある、彦根藩(この藩は当時は弱小藩だったが後に安政の大獄で知られる大老・井伊直弼を輩出する)が士官に来た浪人を本当に切腹させてしまったことが、こうした「狂言切腹」の風習が廃れるきっかけとなったとされているようです。
近江彦根藩井伊家屋敷跡(東京都千代田区)の石碑

人間の条件2.jpg小林 正樹(こばやし まさき、1916年2月14日 - 1996年10月4日)は、北海道小樽市出身の映画監督である。1952年(昭和27年)、中編『息子の青春』を監督し、1953年(昭和28年)『まごころ』で正式に監督に昇進。1959年(昭和34年)から1961年(昭和36年)の3年間にかけて公開された『人間の條件』は、五味川純平原作の大長編反戦小説「人間の條件」の映画化で、長きに渡る撮影期間と莫大な製作費をつぎ込み、6部作、9時間31分の超大作となった。続く1962年(昭和37年)初の時代劇『切腹』でカンヌ国際映画祭審査員特別賞を受賞。続いて小泉八雲の原作をオムニバス方式で映画化した初のカラー作品『怪談』は3時間の大作で、この世のものとは思えぬ幻想的な世界を作り上げ、二度目のカンヌ国際映画祭審査員特別賞を受けた他、アカデミー賞外国語映画賞にノミネートされ、日本映画史上屈東京裁判 小林正樹.jpg指の傑作と絶賛された。1965年(昭和40年)松竹を退社して東京映画と契約し、1967年(昭和42年)三船プロ第一作となる『上意討ち 拝領妻始末』を監督して、ヴェネツィア国際映画祭批評家連盟賞を受賞、キネマ旬報ベスト・ワンとなった。1968年(昭和43年)の『日本の青春』のあとフリーとなり、1969年(昭和44年)には黒澤明、木下恵介、市川崑とともに「四騎の会」を結成。1971年(昭和46年)にはカンヌ国際映画祭で25周年記念として世界10大監督の一人として功労賞を受賞。1982年(昭和57年)には極東国際軍事裁判の長編記録映画『東京裁判』を完成させた。1985年(昭和60年)円地文子原作の連合赤軍事件を題材にした『食卓のない家』を監督。これが最後の映画監督作品になる。(「音楽映画関連没年データベース」より)

切腹 1962 チラシ.jpg切腹 1962 仲代 立ち回り.jpg「切腹」●制作年:1962年●監督:小林正樹●脚本:橋本忍●撮影:宮島義勇●音楽:武満徹●原作:滝口康彦「異聞浪人記」●時間:133分●出演:仲代達矢/三國連太郎/丹波哲郎/石浜朗/岩下志麻/三島雅夫//中谷一郎/佐藤慶/稲葉義男/井川比佐志/武内亨/青木義朗/松村達雄/小林昭二/林孝一/五味勝雄/s沢潟彦九郎:丹波哲郎.jpg-s津雲美保:岩下志麻.jpg安住譲/富田仲次郎/田中謙三●公開:1962/09●配給:松竹(評価:★★★★)

丹波哲郎(沢潟彦九郎)/岩下志麻(津雲美保)
      
『東京裁判』 映画1.jpg『東京裁判』 映画3.jpg「東京裁判」●制作年:1983年●監督:小林正樹●総プロデューサー:須藤博●脚本:小笠原清/小林正樹●原案:稲垣俊●音楽:武満徹●演奏:東京コンサーツ●ナレーター:佐藤慶●時間:277分●公開:1983/06●配給:東宝東和●最初に観た場所:池袋文芸坐(84-12-08)(評価:★★★★)

 

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恐るべき内容ながらも、抑制の効いた知的で簡潔・骨太の文体。男性的な印象を受けた。

海神丸 野上.jpg海神丸3.JPG海神丸 野上弥生子.jpg  「人間」1962.jpg
岩波文庫旧版/『海神丸―付・「海神丸」後日物語 (岩波文庫)』新藤兼人監督「人間 [DVD]」(原作『海神丸』)
野上弥生子(1885-1985/享年99)
野上彌生子集 河出書房 市民文庫 昭和28年初版 野上弥生子.jpg野上弥生子.jpg 1916(大正5)年12月25日早朝、「船長」ら男4人を乗せ、大分県の下の江港から宮崎県の日向寄りの海に散在している島々に向け出航した小帆船〈海神丸〉は、折からの強風に晒され遭難、漂流すること数十日に及ぶに至る。飢えた2人の船頭「八蔵」と「五郎助」は、船長の目を盗んで船長の17​歳の甥「三吉」を殺し、その肉を喰おうと企てる―。

野上彌生子集 河出書房 市民文庫 昭和28年初版(「海神丸」「名月」「狐」所収)

『海神丸』.JPG 1922(大正11)年に野上弥生子(1885-1985/享年99)が発表した自身初の長編小説で、作者の地元で実際にあった海難事故に取材しており、本当の船の名は「高吉丸」、但し、57日に及ぶ漂流の末、ミッドウエー付近で日本の貨物船に救助されたというのは事実であり、その他この小説に書かれていることの殆どは事実に即しているとのことです。

 救出された乗組員は3人で、あとの1人は漂流中に"病死"したため水葬に附したというのが乗組員の当時の証言ですが、何故作者が、そこに隠蔽された忌まわしい出来事について知ることが出来たかというと、物語における船長のモデルとなった船頭が、たまたま作者の生家に度々訪ねてくるような間柄で、実家の弟が彼の口から聞いた話を基に、この物語が出来上がったとのことです。

 岩波文庫の「海神丸」に「『海神丸』後日物語」という話が附されていて、作品発表から半世紀の後、海神丸を救助した貨物船の元船員と偶然にも巡り合った経緯が書かれている共に、救出の際の事実がより明確に特定され、更には、船長らの後日譚も書いていますが(作者と船長はこの時点では知己となっている)、この作品を書く前の事件の真相の情報経路は明かしていません(本編を読んでいる間中に疑問に思ったことがもう1つ。この小説が発表されたのは、救出劇から5年ぐらいしか経っていない時であり、殺人事件として世間や警察の間で問題にならなかったのだろうか)。

 大岡昇平の『野火』より四半世紀も前に"人肉食"をテーマとして扱い、恐るべき内容でありながらも(この物語が「少年少女日本文学館」(講談社)に収められているというのもスゴイが)、終始抑制の効いた、知的で、簡潔且つ骨太の文体。作者は造り酒屋の蔵元のお嬢さん育ちだったはずですが、まるで吉村昭の漂流小説を読んでいるような男性的な印象を受けました。

 「大切なのは、美しいのは、貴重なのは知性のみである」とは、作者が、この作品の発表の翌年から、亡くなる半月前まで60年以上に渡って書き続けた日記の中にある言葉であり、作者の冷徹な知性は、「『海神丸』後日物語」において、"人肉食"が実際に行われた可能性を必ずしも否定していません。
 
海神丸 野上弥生子 新藤兼人「人間」.jpg 尚、この作品を原作として、新藤兼人監督が「人間」('62年/ATG)という作品を撮っています(新藤監督初のATG作品である)。

「海神丸」の映画化 「人間」.jpg
人間 [DVD]
乙羽信子/山本圭/殿山泰司/佐藤慶
  
「人間」山本圭(三吉)/殿山泰司(船長・亀五郎)/佐藤慶(八蔵)/乙羽信子(五郎助)
「人間」 殿山泰司山本圭.jpg「人間」 乙羽信子/佐藤慶.jpg 主要な登場人物は遭難した4人ですが、殿山泰司(船長・亀五郎)、乙羽信子(五郎助)、佐藤慶(八蔵)、山本圭(三吉)、という配役で、「三吉」を殺し、その肉を喰おうと企てる「五郎助」が女性に置き換えられ、それを乙羽信子が演じ人間 (映画) 2.jpgています(乙羽信子の役は海女という設定)。それ以外は基本的に原作に忠実ですが、最後に原作にはない結末があり、五郎助と八蔵が精神的に崩壊をきたしたような終わり方でした(罪と罰、因果応報という感じか)。名わき役・殿ninngen  1962.jpg山泰司の数少ない主演作であり、殿山泰司と乙羽信子の演技が光っているように思いました(殿山泰司は好演、乙羽信子は怪演!)。この時のロケ撮影の様子は、名エッセイストでもある殿山泰司が『三文役者あなあきい伝〈part 2〉』('80年/講談社文庫)で触れていてますが、これがなかなか興味深いです(その後、『殿山泰司ベスト・エッセイ』('18年/ちくま文庫)にも収められた(p146))
   
人間 (映画) 1962.jpg「人間」●制作年:1962年●監督・脚本・美術:新藤兼人●製作:絲屋寿雄/能登節雄/湊保/松浦栄策●撮影:黒田清巳●音楽:林光0人間 佐藤慶.png人間 (映画)1.jpg●原作:野上弥生子「海神丸」●時間:100分●出演:乙羽信子/殿山泰司佐藤慶/山本圭/渡辺美佐子/佐々木すみ江/観世栄夫/浜村純/加地健太郎/村山知義●公開:1962/11●配給:ATG(評価:★★★★)

【1929年文庫化・1970年改版[岩波文庫]/1962年再文庫化[角川文庫]】

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荒削りだが骨太感がある崔洋一監督のデビュー作「十階のモスキート」。

十階のモスキート パンフ.jpg 十階のモスキート.jpg    月はどっちに出ているL.jpg 月はどっちに出ている.jpg
パンフレット/「十階のモスキート [DVD]」/「月はどっちに出ている [VHS]」「月はどっちに出ている [DVD]

十階のモスキートt.jpg十階のモスキート チラシ.jpg 出世の見込みも無く、妻にも離婚された警察官の男は、原宿のロックンロール族に狂って家を出た娘がたまに金をせびりに男の住まう団地の十階を訪ねた時だけは甘い父親になるが、それ以外では酒とギャンブルとセックスに浸る虚無的で堕落し切った暮らしぶりで、元妻への慰謝料や毎月の養育費、バーのツケやギャンブルの借金に追われ、ついには昇進試験の勉強のためにサラ金から借金して購入したパソコンを団地の窓から放り投げ、そのまま郵便局へ駆け込み強盗を図る―。

「十階のモスキート」チラシ(内田裕也/中村れい子)

十階のモスキート_0.jpg十階のモスキート2.jpg 「十階のモスキート」('83年/ATG)は崔洋一監督のデビュー作で、映画としての作りは粗く、主人公の警察官の短絡行動にはただ呆れるばかりであるはずであるのに、何か観ていて身につまされるようなリアルな痛々しさを感じるのはなぜでしょうか。

十階のモスキート 小泉今日子.jpg 若松孝二監督の「水のないプール」('82年/東映セントラル)などで既に俳優としても注目されていた内田裕也が、経済的に追い詰められることで徐々に精神的にも追い詰められていく主人公を好演していて、最後はちょっとシュールな感じですが、こうした現実感覚を喪失しているようなヤケクソ気味の犯罪は、最近はたまにあったりするのではないでしょうか。(内田裕也小泉今日子(映画デビュー作))

内田裕也/佐藤慶(署長)
十階のモスキート 佐藤慶 - 署長.jpg十階のモスキート ビートたけし.jpg十階のモスキート 横山.jpg デビュー間もない小泉今日子が、内田裕也の娘の女子高校生役で登場するほか(この映画が上映される少し前に流行っていた"竹の子族"の少女役)、漫才師の横山やすし(1944-1996)が競艇場の観客役でカメオ出演し、更にはビートたけしがこれもチョイ役ながら競艇の予想屋の役で出てきますが、ビートたけしは存在感充分でした(この人、役者としては"脇"で出た方がいいような...)。
  
月はどっちに出ている (1993/日).jpg「月はどっちに出ている」.png 後に「月はどっちに出ている」('93年/シネカノン)で国内の映画賞を総なめにする月はどっちに出ている1.jpg崔監督ですが(「月はどっちに出ている」は第67回「キネマ旬報ベスト・テン」の第1位になったほか、「毎日映画コンクール 日本映画大賞」「ブルーリボン賞 作品賞」「報知映画賞 作品賞」「芸術選奨」などを受賞)、在日コリアンのタクシー運転手とフィリピーナの恋を軸に描いたこの作品は、在日外国人の日常をコミカルに描いていて細部の描写も冴えていたように思います(原作は梁月はどっちに出ている モレノ.jpg石日の自伝的小説『タクシー狂騒曲』)。また、岸谷五朗や絵沢萠子をはじめ役者陣も良く、有薗芳記の「ホソ」は特に秀逸、ルビー・モレノも多くの演技賞を受賞しましたが、これは監督の演出力のお陰だったのではないかと。(岸谷五朗ルビー・モレノ

 「月はどっちに出ている」の方が完成度では勝るように思いますが、ただ、こういう映画を撮るのだという骨太感ではこのデビュー作もそう劣っていないように思います(メジャーになると、だんだんそうしたものが失われることが往々にしてあるが)。 

小泉今日子(1966- )
十階のモスキート0.jpg小泉今日子.jpg十階のモスキート1.jpg「十階のモスキート」●制作年:1983年●監督:崔洋一●製作:結城良煕●脚本:内田裕也/崔洋一●撮影:森勝●音楽:大野克夫●時間:108分●出演:内田裕也/アン・ルイス/吉行和子/中村れい子/小泉今日子/ビートたけし/宮下順子/小林稔侍/風祭ゆき/阿藤海/安岡力也/横山やすし/清水宏/下元史朗/ 鶴田忍/梅津栄/佐藤慶/仲野茂/高橋大井ロマン.jpg大井武蔵野館.jpg明/草薙良一/庄司三郎/浅見小四郎/飯田浩幾/伊藤公子●公開:1983/07●配給:ATG●最初に観た場所:大井ロマン(83-11-20)(評価:★★★☆)●併映:「シャッフル」(石井聰互)

大井ロマン(大井武蔵野館) 1999(平成11)年1月31日閉館
 
大井武蔵野館・大井ロマン(1985年8月/佐藤 宗睦 氏)
大井武蔵野館・大井ロマン.jpg

絵沢萠子
「月はどっちに出ている」2.png月はどっちに出ている 絵沢萌子.jpg「月はどっちに出ている」●制作年:1993年●監督:崔洋一●製作:李鳳宇/青木勝彦●脚本:内田裕也/崔洋一●撮影:藤澤順一●音楽:佐久間正英●原作/梁石日「タクシー狂操曲」●時間:108分●出演:岸谷五朗/ルビー・モレノ/絵沢萠子/小木茂光/遠藤憲一/有薗芳記/麿赤児/國村隼/芹沢正和/金田明夫/内藤陳/古尾谷雅人/萩原聖人●公開:1993/11●配給:シネカノン(評価:★★★★)

《読書MEMO》
●「キネマ旬報」が創刊100周年企画「キネマ旬報が選ぶ1990年代の日本映画ベスト1」で「月はどっちに出ている」を選出(「キネマ旬報」2019年10月上旬特別号)
1990年代日本映画ベスト「月はどっちに出ている」.jpg

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新選組の"内実"? 一編ごとに引き込まれる。

新選組血風録 (1967年) (ロマン・ブックス).jpg1新選組血風録.png 新選組血風録2.jpg 新選組血風録3.jpg 御法度.jpg
新選組血風録 (1967年) (ロマン・ブックス)』『新選組血風録 (1964年)』(挿画:風間 完)『新選組血風録』角川文庫 〔旧版〕(カバー画:風間 完)『新選組血風録 (角川文庫)』〔新版〕(カバー画:蓬田やすひろ)「御法度 [DVD]」松田龍平

「前髪の惣三郎」.jpg 1962(昭和37)年に『燃えよ剣』を発表した司馬遼太郎が、同年5月から12月にかけて「小説中央公論」に発表した新選組を題材とした15編の短編で、これらの中に新選組の厳しい内部粛清を扱ったものが結構あり、間者(スパイ)同士で斬り合いをさせる話などは、戦争スパイ映画のような緊迫感があります。 

 また、映画と言えば、「前髪の惣三郎」のように、映画化されたものもあります(大島渚監督「御法度」。松田龍平が加納惣三郎を演じて、映画デビュー作にして「キネマ旬報 新人男優賞」を受賞)。

新選組血風録 角川文庫.jpg 「燃えよ剣」よりも創作の入る余地は大きいはずですが(加納惣三郎も架空の人物だが、沖田総司の幼名が惣次郎)、鉄の掟に背いた者に待ち受ける粛清、隊士の間に流行した男色といった生々しいテーマを扱っているせいか、新選組の"内実"に触れたようなリアリティがあります。

 もちろんその他のテーマ、例えば近藤勇の愛刀「虎徹」にまつわるユーモアのある話とかもありますが...(アイロニカルに描いているところに、作者の近藤勇に対するシニカルな評価が窺えて興味深い)。

 個人的にはやはり、陰惨と言っていいほどの「内部粛清」にまつわる話が最も印象的で、閉鎖的な思想集団を想起させる面もあり、この作品がが好きになれない人の中には、多分この部分にひっかかりを覚えるためという人がいるのではないかと思うのですが、全体としてハードボイルド風の筆致であるため、各短編とも緊張感のある物語世界を醸し出していて、個人的には大いに引き込まれました。

 司馬遼太郎作品は、史実・想像・創作を織り交ぜて、あたかも作者がその時代、その場に行って見てきたかのように描いているものほど面白い!


「御法度」1.jpg 映画「御法度」は、大島渚(1932-2013/80歳没)監督の13年ぶりの監督作品でしたが、結局この作品が遺作となりました。加納惣三郎を演じた松田龍平はこの作品が映画デビュー作であり、六番組組長井上源三郎が中心となる「三条蹟乱刃」もストーリーに組み込まれ、原作の国枝大二郎の役回りを加納惣三郎が代わりに務めています。近藤勇に映画監督の崔洋一、土方歳三にビートたけし(土方歳三は美男子ではなかったのか?近藤が二人いる感じ)、沖田総司に武田真治、加納惣三郎と出来てしまう田代彪蔵に浅野忠信。音楽は坂本龍一、美術は西岡善信(1922-2019/97歳没)、衣装はワダエミ(1937-2021/84歳没)。「御法度」2.jpg原作のラスト、惣三郎が田代を討ったのを見届け、土方と沖田が現場を離れる時に、沖田が「用を思い出した」と引き返したのはなぜか、明け透けでない程度にその謎解きにはなっていたように思われ、「○」としました(第42回「ブルーリボン賞 作品賞」、第9回「淀川長治賞」、第1回「文化庁優秀映画賞」受賞、キネマ旬報ベスト・テン第3位)。

「御法度」大.jpg「御法度」●制作年:1999年●監督・脚本:大島渚●撮影:栗田豊通●音楽:坂本龍一●原作:司馬遼太郎(「前髪の惣三郎」「三条磧乱刃」)●時間:100分●出演:ビートたけし/松田龍平/武田真治/浅野忠信/崔洋一/坂上二郎/トミーズ雅/的場浩司/伊武雅刀/田口トモロヲ/神田うの/桂ざこば/吉行和子/田中要次/藤原喜明/寺島進/(ナレーター)佐藤慶●公開:1999/12●配給:松竹(評価:★★★☆)


 【1969年文庫化・2003年改訂[角川文庫]/1975年再文庫化・1996年改訂[中公文庫]/1999年単行本改訂[中央公論新社]】

《読書MEMO》
●「油小路の決闘」伊藤甲子太郎についた篠原泰之進
●「芹沢鴨の暗殺」
●「長州の間者」間者同士で斬らせる新選組の恐怖
●「池田屋異聞」赤穂浪士脱落者子孫の山崎蒸(すすむ)
●「鴨川銭取橋」武田観柳斎の暗殺(斎藤一)
●「虎徹」近藤勇の愛刀(実は贋作)
●「前髪の忽三郎」加納忽三郎を巡る男色騒動(大島渚映画『御法度』の原作)
●「海仙寺党異聞」中倉主膳を介錯した長坂長十郎
●「弥兵衛奮迅」間者・富山弥兵衛の武士道
●「四斤山砲」大林兵庫というインチキ砲術師の新選組錯乱

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