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「女性vs.女性」のドラマになっていた。ワインのぶっかけ合い」は「エール交換」?

疑惑 [DVD].jpg 疑惑  2.jpg 松本清張 疑惑 文庫.jpg
<あの頃映画> 疑惑 [DVD]」岩下志麻/桃井かおり/三木のり平『新装版 疑惑 (文春文庫)
疑惑 0.jpg 富山県新港湾埠頭で車が海中に転落、乗っていた地元の財閥・白河福太郎(仲谷昇)は死亡したが、後妻の球磨子(桃井かおり)はかすり傷ひとつ負わなかった。後に球磨子は過去に情夫の豊崎(鹿賀丈史)と共謀して数数の犯罪を起こしていたことが判明。しかも、彼女は夫に三億円の保険金をかけており、この事故も、泳げない福太郎を殺すための擬装ではないかと誰もが疑う。新聞記者の秋谷(柄本明)もその一人だった。物的証拠がないまま球磨子は身柄を拘束された。球磨子の弁護は、白河家の顧問弁の原山弁護士(松村達雄)が持病を理由に降り、その後輩で刑事専門の弁護士としては日本屈指とされる岡村弁護士(丹波哲郎)も断ってしまい弁護人の引き受け手がいない中、民事専門の佐原律子弁護士(岩下志麻)が国選弁護人として選ばれ、検事の宗方(小林稔侍)と法廷で対峙する。球磨子と律子は、互いに反感を抱きながらも、球磨子の無実を証明しようとする―。

松本清張 疑惑 単行本.jpg 野村芳太郎監督の1982年9月公開作で、松本清張の「オール讀物」同年2月号発表の中編小説「疑惑」の映画化ですが(発表して半年くらいで映画になってしまうところが、当時の松本清張の人気を物語っていてスゴイが)、原作者自身が脚色したとのことです(撮影台本は古田求と野村芳太郎)。白河福太郎を仲谷昇、球磨子を桃井かおり、その弁護人を岩下志麻が演じており、新聞記者の秋谷に柄本明、検事の宗方に小林稔侍、といった配役も楽しめます。映画の後半は法廷劇となりますが、証言者として、鑑定した大学教授に小沢栄太郎、事故の目撃者に森田健作、球磨子が元いた東京のクラブの経営者に山田五十鈴、球磨子の情夫・豊崎に鹿賀丈史、と配役も今見るとなかなか豪華です。

疑惑 柄本明.jpg 原作は、主に北陸日日新聞の社会部記者の秋谷の視点で描かれており、自社の新聞で、球磨子が犯人であるのは間違いなく、彼女は稀にみる毒婦であるといった論調を展開した秋谷が、国選弁護人の42歳の佐原卓吉弁護士が地道な検証を行った結果、球磨子の無実が立証される可能性が出てきたため、そうなると、球磨子が無罪放免になった際に彼女とその情夫の"お礼参り"に遭うのではないかと、次第に戦々恐々たる不安心理に陥っていき、遂に...という展開です(マスコミ報道の在り方に対する風刺がテーマになっているともとれる)。

疑惑 映画 iwashita.jpg 一方、映画の方は、桃井かおり演じる球磨子を弁護する国選弁護人が、原作の見た目はぱっとしない佐原卓吉弁護士から、岩下志麻演じる、やはり民事専門だが見るからに頭が切れそうな東大法学部卒の女性弁護士・佐原律子に改変されています。それによって、殺人容疑者の女と彼女を弁護することになった女性弁護士の間の確執を描く「女性vs.女性」の構図になっており、柄本明演じる新聞記者の秋谷は、原作よりかなり後退した印象を受けるし、小林稔侍演じる検事もあまりぱっとしません。仲谷昇演じる白河福太郎からして、原作以上に球磨子に振り回されっぱなしであり、男性陣は法廷の証言台に立ってもは皆おどおどしていて、頼りなさげな描かれ方になっているのは、監督の計算の内ではないでしょうか。

疑惑 7.jpg 脚本は途中で変更があったりしたようですが、桃井かおり、岩下志麻という配役が決まった時点で「女性vs.女性」のドラマとなるのは自明のことだったかもしれません。二人は被告人と弁護人という関係でありながら常に確執があり、事件解決後にはむしろ、それはより明白になるという展開でした。まったく境遇の異なる二人でありながら、共に、男性社会を生き抜く上でのしたたかさ、逞しさを持っているという点で両者は通底しているように思われました。映画終盤の「ワインのぶっかけ合い」をある種の「エール交換」との捉え方をする人もいますが、なかなか穿った見方だと思います。

疑惑 映画 momoi.jpg 桃井かおりの演技が高く評価されましたが、桃井かおりは、球磨子役のオファーを受けた際、「週刊誌的には私自身がわけもなく嫌われていて最悪な状態だったんで、『いまさらこの役をやる必要はないでしょ』と、うちの事務所は全員大反対(笑)。でも、(中略)等身大の桃井ネタは尽きたと思っていたので、いっそすごく嫌な人とかダメな人を少し作って演じてみたい、とにかく演じたいという気持ちが強かったんですね。球磨子のような人だと思われてこそ大成功くらいの気持ちで、思いっきりやってみようと思ったんです」と語っています。

疑惑6.jpg 桃井かおりは彼女なりのふっきれた演技だったと思いますが、ただ、個人的には、「影の車」('70年/野村芳太郎監督)、「内海の輪」('71年/斎藤耕一)、「鬼畜」('78年/野村芳太郎監督)と松本清張原作の作品に出演してきた岩下志麻がやはり印象が強かったでしょうか(ラストは佐原律子にとっても厳しいものだったが、この辺りも映画のオリジナルである)。この作品の翌年、「迷走地図」('84年/野村芳太郎監督)にも出演し、これら作品で相手方の男優の方は、加藤剛、中尾彬、緒形拳、勝新太郎と変わっていますが、この「疑惑」だけ、拮抗する相方が女優(桃井かおり)であり、その意味ではユニークな位置づけにあるかもしれません。

疑惑5.jpg もう一つ、原作からの改変点として、佐原弁護士が、水没した車の車内にあった「脱げた靴とスパナ」から真相に迫るのは原作も同じですが、映画の後半は裁判シーンが主となり、これだけでは公判が維持できないと考えたのか、映画の方には、白河福太郎の息子の決定的証言というのがあります。これは大きな改変かと思いますが、判決まで描くとすれば、やはり「靴とスパナ」だけでは弱く、理にかなった改変だったように思います(子どもに証言を迫る岩下志麻がちょっと怖くて、「鬼畜」の時の彼女を思い出した(笑))。

疑惑 jikeknn.jpg別府三億円保険金殺人事件2.jpg 車の「転落事故」の実証検分のための実験などは、原作より丁寧に描いていましたが、原作が、1974年11月発生の「別府三億円保険金殺人事件」からヒントを得たものであり、この事件において実際に何度か転落実験が実施され、その様子がテレビで報じられているため、撮影前から大体のイメージは掴めていたのではないでしょうか。

疑惑 kagaya.jpg 舞台を別府から富山に移しているのは、原作がそうなっているためです。ロケで石川・和倉温泉の「加賀屋」を使っているのは、松本清張の好み?でしょうか。「ゼロの焦点」('61年) のロケでも使われ、原作執筆時の松本清張も宿泊していた旅館ですが、「ゼロの焦点」の時から建て替えられて綺麗になっているよゼロの焦点 1961年.jpgうに見えます。ロケ中は富山と石川の往復が激しかったそうですが、富山のロケ先で桃井かおりがと松本清張と食事をした際、富山湾名物のオコゼの唐揚げを注文した松本清張を見て、桃井かおりが「オコゼ食べちゃうんですか」と言ったところ、清張は「似ているからって、僕が食べちゃいけないの」と返し、それまでの緊張が一気にほぐれて和んだという、彼女自身の回顧談があります。

「ゼロの焦点」('61年)
           

疑惑 tanba.jpg「疑惑」●制作年:1982年●監督:野村芳太郎●製作:野村芳太郎/杉崎重美●脚色:松本清張●撮影台本:古田求/野村芳太郎●撮影:川又昂●音楽:芥川也寸志●原作:松本清張●時間:127分●出演:桃井かおり/岩下志麻/鹿賀丈史/柄本明/仲谷昇/内藤武敏/小林稔侍/小沢栄太郎/山田五十鈴/森田健作/松村達雄/丹波哲郎/三木のり平/北林谷栄/名古屋章/新田昌玄/河原崎次郎/山本清/飯島大介/梅野泰靖/小林昭二/水谷貞雄/真野響子●公開:1982/09●配給:松竹=富士映画(評価:★★★★)
松村達雄(白河家の顧問弁護士・原山正雄)/丹波哲郎(原山の大学の後輩の弁護士・岡村謙孝。原山は球磨子の弁護を降り、後任を要請された岡村も結局は辞退する)

中谷昇 in「砂の上の植物群」('64年)/「キイハンター」('68-73年)/「疑惑」('82年)/「カノッサの屈辱」('90-91年)
中谷昇 砂の上の植物群9.png 仲谷昇 キイハンター.jpg 中谷昇 疑惑.png 仲谷昇 カノッサの屈辱.jpg


《読書MEMO》
●「疑惑」のテレビドラマ化
・1992年「松本清張スペシャル・疑惑」(フジテレビ)いしだあゆみ(白河球磨子)・小林稔侍(佐原卓吉)
・2003年「松本清張没後10年特別企画・疑惑」(テレビ朝日)余貴美子(白河球磨子)・中村嘉葎雄(佐原卓吉)
・2009年「松本清張生誕100年特別企画・疑惑」(TBS)沢口靖子(白河球磨子)・田村正和(佐原卓吉)
・2012年「松本清張没後20年特別企画・疑惑」(フジテレビ)尾野真千子(白河球磨子)・常盤貴子(佐原千鶴)
・2019年「松本清張ドラマスペシャル・疑惑」(テレビ朝日)黒木華(白河球磨子)・米倉涼子(佐原卓子)

1992年「疑惑」(フジテレビ)いしだあゆみ(白河球磨子)・小林稔侍(佐原卓吉)/2009年「疑惑」(TBS)沢口靖子(白河球磨子)・田村正和(佐原卓吉)
松本清張スペシャル・疑惑1.jpg 松本清張生誕100年特別企画・疑惑.jpg

2012年「疑惑」(フジテレビ)常盤貴子(佐原千鶴)・尾野真千子(白河球磨子)/2019年「疑惑」(テレビ朝日)米倉涼子(佐原卓子)・黒木華(白河球磨子)
松本清張没後20年特別企画・疑惑.jpg 松本清張ドラマスペシャル・疑惑.jpg

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概ね原作に忠実に作られているように思われた。ラストは「砂の器」より上か。原作も越えた?
鬼畜398.jpg
鬼畜dvd 2015.jpg鬼畜dvd.jpg Kichiku  (1978)  .jpg
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鬼畜 岩下.jpg 川越市で印刷屋を営む竹下宗吉(緒形拳)は、妻・お梅(岩下志麻)に隠れ、鳥料理屋の女中・菊代(小川真由美)を妾として囲い、7年間に3人の隠し子を作鬼畜 小川.jpgった。やがて火事と大印刷店攻勢で宗吉の商売は凋落し、手当を貰えなくなった菊代が、利一(6歳)、良子(4歳)庄二(1歳半)を連れて宗吉の家に怒鳴り込む。菊代はお梅と口論した挙句、3人を宗吉に押しつけて蒸発し、お梅が子供達と宗吉に当り散らす地獄の日々が始まる。末の庄二が栄養失調で衰弱し、医者に行ったある日、寝鬼畜 緒形・岩下.jpgている庄二の顔の上にシートが故意か偶然か被さって庄二は死ぬ。宗吉はお梅の仕業と思いながらも口に出せず、逆に、「あんたも一つ気が楽になったね」と言われる。その夜、夫婦は久しぶりに燃え、共通の罪悪感に昂ぶる。お梅鬼畜k5.jpgは残りの子供も〈処分〉することを宗吉に迫り、宗吉は良子を東京タワーに連れて行って置き去り鬼畜k3 .jpgにし、一人エレベーターを降りる。更に長男・利一を毒殺しようとするものの果たせず、何日か後、新幹線こだま号に利一を乗せ、北陸海岸に連れて行く。能登半島に辿り着き、日本海を臨む岸壁で、宗吉は利一を海に落す。翌朝、沖の船が絶壁の途中に引掛っている利一を発見し、かすり傷程度で鬼畜 09.jpg助け出す。警察の調べに利一は父親と遊びに来て眠っているうちに落ちたと言い張り、名前、住所、親のことや身許の手掛かりになることは一切言わない。しかし警察は、事故ではなく利一は突き落とした誰かを庇っていると判断し、利一の持っていた石版印刷に使用する石材のかけら(利一はこれを石蹴り遊びに使っていた)から宗吉が殺人未遂容疑で警察に拘束される。そして、移送されてきた宗吉が警察で利一と対面する―。

鬼畜―松本清張短編全集〈7〉 (カッパ・ノベルス)1.jpg 松本清張の短編小説「鬼畜」を野村芳太郎(1919-2005)監督が映画化した1978年公開作で、脚本は「赤ひげ」('65年/東宝)の井出雅人、音楽は「砂の器」('74年/松竹)の芥川也寸志(他に「ゼロの焦点」「黒い十人の女」(共に'61年)など)。主な出演者は、緒形拳(1937-2008)、岩下志麻、小川真由美。野村芳太郎による松本清張原作の映画化作品では「砂の器」の評価が高いようですが、この「鬼畜」も非常に良く出来ていると思います。「砂の器」は原作を超えていませんが、「鬼畜」は一面において原作を超えているようにも思います。
鬼畜―松本清張短編全集〈7〉 (カッパ・ノベルス)

鬼畜01.jpg まず、前半部分しか出てきませんが、小川真由美の3人の子供を連れての鬼畜k2.jpg押しかけぶりが良く、岩下志麻との競演は見所であり、更に中盤の見せ場は、岩下志麻演じるお梅の児童虐待ぶりの凄まじさでしょうか(子役たちは撮影の休憩時間中も岩下志麻に寄りつかなかったという)。

鬼畜k6.jpg それらに比べると、2人の女の間でおろおろしている宗吉を演じた緒形拳はやや影が薄いようにも見えましたが、これはこれで、あまりやりすぎると喜鬼畜k3.jpg劇になってしまうし、あまり抑え過ぎると面白くないし、意外と加減の難しい役どころだったのではないでしょうか(緒形拳はこの演技で、「第2回日本アカデミー賞」「第3回報知映画賞」「第21回ブルーリボン賞」の主演男優賞を"3冠"受賞した)。

鬼畜 蟹江.jpg その他にも、印刷所の工員(原作でもいることになっているが人物造型は描かれていない)を蟹江敬三(1944-2014)が好演していたし(お梅が赤ん坊の口に米を突っ込んで虐待するのを「よせよ」と遠巻きに言うだけで何もできない夫・宗吉に代わって毅然と赤ん坊を取り上げ、「しっかりしろよ!旦那の子だろ!」と言うという、いい人のキャラだった)、子役の演技も、賛否ありますが、個人的には悪くなかったと思います(子役の演技力というより監督の演出力の成果だろう)。

 原作が発表されたのは'57(昭和32)年ですが、それを映画が作られた'78(昭和53)年に置き換えていて(利一が歌う「科学忍者隊ガッチャマン」は、この映画が公開された'78年10月に続編のアニメ放送が始まっている)、宗吉の営む印刷所は、東京から急行列車で3時間を0鬼畜 男衾.jpg要する地方にあるS市という原作の設定から埼玉県の川越市に改変され、宗吉が菊代を囲った家は、原作ではS市から1時間ばかり汽車で行く町ということで、映画では同じ埼玉県の男衾(おぶすま)駅付近となっています。

「鬼畜」 9s.jpg鬼畜 6.jpg 宗吉が良子を置き去りにするのは原作では東京タワーではなく銀座のデパートの屋上のミニ動物園、利一を毒殺しようとして上野動物園で食鬼畜 緒形 .pngべさせるのはアンパンではなく最中(もなか)、利一を旅に連れて行ったのは北陸ではなく原作では西伊豆です。映画では西伊豆を北陸に変え(米原まで新幹線で行く)、能登金剛までやって来て、そこで利一を崖から放ってしまう―。能登金剛は「ゼロの焦点」('61年/松竹)のラストシーンの舞台でもあります(こちらは原作通り)。これら細かい改変点はありますが、概ね原作に忠実に作られているように思われ、こうした作り方は個人的には割合と好きな方です。

「鬼畜」 s.jpg 原作と一番異なる点はラストで、原作が、利一が頑なに黙秘を続けるも、持っていた石材で宗吉の犯行の足が付くことを示唆して終わるのに対し、映画では、宗吉が殺人未遂容疑で逮捕され、利一と面会を果たす場面が加えられていることです。そこでも利一は、「坊やのお父さんだね?」 との警官の問いに、「知らないおじさんだよ!」と否定し、宗吉はそんな利一にすがりつき、後悔と罪悪感で号泣する―。利一は何故黙秘を続けたのかという疑問を更に発展させて、利一は宗吉を庇ったのか見捨てたのかという究極の問いを観る者に投げかけている訳で、この持って行き方は悪くないように思いました。答えはそう難しくないと思いますが(脚本の井手雅人は「父親を拒否した」を意図したが、野村芳太郎監督が「父親を庇った」ととれる演出に変えたと言われている)、観る者にちょっとだけ考えさせるこの終わり方が余韻となっており、「砂の器」の加藤剛が延々とピアノ曲「宿命」を奏でる(やや大仰な)エンディングより上だったかもしれません。一面において原作を超えていると思うのも、この分かりやすい問題提起とでも言うか、まさにこの点にあります(因みに、原作にはモデルとなった実際の事件があって、犯人の男は在獄中に発狂死したという凄まじいエピソードがある)。

松本清張スペシャル・鬼畜5.jpg松本清張スペシャル 鬼畜 dvd.jpg 過去に1度だけテレビドラマ化されていて、'02年10月15日に日本テレビ系列で「火曜サスペンス劇場('81年~'95年)1000回突破記念作品」として「松本清張スペシャル・鬼畜」のタイトルで放送されています(監督は「江戸川乱歩猟奇館 屋根裏の散歩者」('76年)「女教師」('77年)の田中登)。時代を「今」に移し、保夫(宗吉から改変)をビートたけし、妻・春江(お梅から改変)を黒木瞳、妾の昌代(菊代から改変)を室井滋が演じ、竹中印刷所の所在地を川越市から同じ埼玉県の川口市に移していますが、あとは概ね映画と同じような展開でした。ビートたけしは、映画でおろおろしてばかりいた緒形拳に比べると抑制した演技。一方、春江を演じた黒木瞳は頑張っていたとは思いますが美しす松本清張スペシャル・鬼畜 9.jpgぎて、映画の岩下志麻ほどの凄味もやつれ感も無かったように思います。映画では岩下志麻演じるお梅が赤ん坊の口に米を突っ込んで虐待するところが、ドラマでは食事が美味しくないと言う子どもに腹を立てた黒木瞳演じる春江が玉子焼きを取り上げて捨てるぐらいで、後の方で保夫が長男を連れて行った上野動物園そばの不忍池で、長男に妻が毒を入れたおにぎりを無理やり食べさせようとするシーンなどがあり(前述の通り原作は最中、映画はアンパン)、黒木瞳がやるはずの汚れ役の一部をビートたけしが肩代わりしている印象もありました。全体として、夫婦を突き放すのではなく、寄り添うような感じだったでしょうか。

松本清張スペシャル・鬼畜3面.jpg

 子どもを捨てようと思った保夫が長女を連れて行く場所は、映画の東京タワーからお台場に改変されていて、長男を最後に連れて行く場所は、映画の能登金剛から原作と同じ西伊豆に戻されています。ラストは、映画と同じように保夫が子どもと対面するシーンがあって(原作にはない)、映画と同じように父親のことを知らないと子どもは言い張ります。映画では、子どもが父親を拒否したとも庇ったともとれるつくりになっていますが、ドラマの方はビートたけしがおいおい泣くので、ああ「庇った」のだなあとすぐ判ります。でもここが、それまで抑えた演技をしてきたビートたけしの、ラストでの演技の見せ所であったと思います。「火曜サスペンス劇場」のいつもの2時間ドラマよりかなり重かったし、ビートたけしがこれまで出演している清張原作ドラマの中でも一番いいくらいの出来ではなかったでしょうか(賛否はあるかと思うが、他のがあまりにひどい改変のものが多いから)。

鬼畜  岩下志麻.jpg 鬼畜 小川真由美.jpg 岩下志麻/小川真由美
鬼畜 蟹江敬三.jpg 鬼畜 大滝秀治.jpg 蟹江敬三大滝秀治
鬼畜 鈴木瑞穂、大竹しのぶ.jpg 鈴木瑞穂・大竹しのぶ

鬼畜 パンフ.jpg鬼畜 o.jpg「鬼畜」●制作年:1978年●監督:野村芳太郎●製作:野村芳太郎/野村芳樹●脚本:井手雅人●撮影:川又昂●音楽:芥川也寸志●原作:松本清張●時間:110分●出演:緒形拳/岩下志麻/小川真由美/加藤嘉/蟹江敬三/大滝秀治/大竹しのぶ/田中邦衛/浜村純/鈴木瑞穂/岩瀬浩規/吉沢美幸/穂積隆信/石井旬/山谷初男/三谷昇●公開:1978/10●配給:松竹●最初に観た場所(再見):新宿ピカデリー(緒形拳追悼特集)(08-11-16)●2回目:北千住・シネマブルースタジオ(10-01-31)(評価:★★★★☆)
映画パンフレット 「鬼畜」 監督 /野村芳太郎 出演 /岩下志麻、緒方拳

松本清張スペシャル 鬼畜 dvd.jpg松本清張スペシャル・鬼畜4.jpg「松本清張スペシャル・鬼畜」●監督:田中登●企画:酒井浩至●脚本:佐伯俊道●音楽:大谷和夫(エンディング:安全地帯「出逢い」)●原作:松本清張●時間:141分(放送分)●出演:ビートたけし/黒木瞳/室井滋/片岡涼/佐藤愛美/諸岡真尋/小野武彦/奥村公延/石倉三郎/日野陽仁/渡辺哲/波乃久里子/斉藤暁/大林丈史/津田三七子/井田國彦/斎藤歩/酒井敏也/水田啓太郎/斉藤実紀●放映:2002/10/15(全1回)●放送局:日本テレビ
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小川真由美 in「鬼畜」('78年)/「復讐するは我にあり」('79年)/「江戸川乱歩 美女シリーズ/悪魔のような美女」('79年)
小川真由美 鬼畜 - 2.jpg 小川真由美 復讐するは我にあり.jpg 8悪魔のような美女 06.jpg

《読書MEMO》
●2度目のテレビドラマ化「ドラマスペシャル 松本清張 鬼畜」(テレビ朝日・2017年12月24日放送)
監督:和泉聖治/出演:玉木宏(宗吉)・常盤貴子(梅子)・木村多江(菊代)
ドラマSP 松本清張「鬼畜].jpg 「ドラマスペシャル 松本清張 鬼畜」(テレビ朝日).jpg

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原作者に「原作を超えた」と言わせた作品。ドラマではだんだん原作の雰囲気を伝えにくくなってきている?

張込み dvd.jpg 張込み_.jpg 張込み 映画1.gif  張込み 水曜ミステリー1.jpg 張込み 松本清張 カッパノベルズ.jpg
張込み [DVD]」/「『あの頃映画 the BEST 松竹ブルーレイ・コレクション 張込み』 [Blu-ray]」/大木実・宮口精二/TX系「水曜ミステリー9」松本清張特別企画「張込み」2011年11月2日放映(若村麻由美)/『張込み―松本清張短編全集〈3〉 (カッパ・ノベルス)

張込み 映画 dvd.jpg張込み 3.jpg 警視庁捜査第一課の刑事・下岡(宮口精二)と柚木(大木実)は、質屋殺しの共犯者・石井(田村高廣)を追って佐賀へ発った。主犯の自供によると、石井は兇行に使った拳銃を持ってい、三年前上京の時別れた女・さだ子(高峰秀子)に張込み 高峰.jpg会いたがっていた。さだ子は今は佐賀の銀行員横川(清水将夫)の後妻になっていた。石井の立寄った形跡はまだなかった。両刑事はその家の前の木賃宿然とした旅館で張込みを開始した。さだ子はもの静かな女で、熱烈な恋愛の経験があるとは見えなかった。ただ、二十以上も年の違う夫を持ち、不幸そうだった。猛暑の中で昼夜の別なく張込みが続けられた。三日目。四日目。だが石井は現れなかった―。

『張込み』(1958)2.jpg 原作は松本清張が「小説新潮」1955年12月号に発表した短編小説。橋本忍脚本、野村芳太郎監督によるこの映画化作品では、逃亡中の犯人(田村高廣)の昔の恋人(高峰秀子)を見張る刑事が原作の1人に対して2人(大木実・宮口精二)になっており、やはり1人にしてしまうと、見張る側に関してもセリフ無しで心理描写せねばならず、それはきつかったのか...。それでもモノローグ過剰とならざるを得ず、しかも、見張る側の私的な状況など原作には無い描写を多々盛り込んでおり、もともと短篇であるものを2時間にするとなると、こうならざるを得ないのでしょうか。しかしながら、この作品の世評は高く、野村芳太郎はこの作品で一気にメジャー監督への仲間入りを果たすことになります。

 橋本忍・野村芳太郎のコンビは以降も「ゼロの焦点」('61年)、「影の車」('70年)、「砂の器」('74年)と、この作品以降次々と松本清張作品の映画化を手掛けており、そうした一連の作品の中でもこの作品に対する原作者・松本清張の評価・満足度は高かったそうですが、個人的には、最初にこの映画「張込み」を観た際には、後年の作品ほどの演出のキレが感じられませんでした。ただ、田中小実昌などは「砂の器」よりもこっちの方がずっと傑作だと言っおり、エライ人が出てこないのがいいと。確かにそういう見方もあるかもしれないと思った次第です。

松本清張 .jpg 因みに、松本清張本人が評価していた自作の映画化作品は、この「張込み」と、「黒い画集 あるサラリーマンの証言」('60年/東宝)、「砂の器」('78年/松竹)だけであったといい(3作とも脚本は橋本忍)、特に「張込み」と「黒い画集 あるサラリーマンの証言」については、 「映画化で一番いいのは『張込み』『黒い画集 あるサラリーマンの証言』だ。両方とも短編小説の映画化で、映画化っていうのは、短編を提供して、作る側がそこから得た発想で自由にやってくれるといいのができる。この2本は原作を超えてる。あれが映画だよ」と述べたとのことです。(白井佳夫・川又昴対談「松本清張の小説映画化の秘密」(『松本清張研究』第1号(1996年/砂書房)、白井佳夫・堀川弘通・西村雄一郎対談「証言・映画『黒い画集・あるサラリーマンの証言』」(『松本清張研究』第3号(1997年/砂書房))。

 この「張込み」という作品は、時代劇に翻案されたものも含めると、これまでに少なくとも10回はテレビドラマ化されています。
 •1959年「張込み(KR(現TBS))」沢村国太郎・山岡久乃・安井昌二
 •1960年「黒い断層~張込み(KR(現TBS))」宇津井健・三井弘次
 •1962年「張込み(NHK)」沼田曜一・福田公子・小林昭二
 •1963年「張込み(NET(現テレビ朝日))」江原真二郎・織田政雄・高倉みゆき
 •1966年「張込み(KTV(関西テレビ))」中村玉緒・下条正巳・高津住男
張込み 吉永小百合.bmp •1970年「張込み(NTV)」加藤剛・八千草薫・浜田寅彦
 •1978年「松本清張おんなシリーズ1・張込み(TBS)」吉永小百合・荻島真一・佐野浅夫
 •1991年「松本清張作家活動40年記念・張込み(CX)」大竹しのぶ・田原俊彦・井川比佐志
 •1996年「文吾捕物絵図 張り込み(TX)」中村橋之助・萬屋錦之介・國生さゆり
 •2002年「松本清張没後10年記念・張込み(ANB)」ビートたけし・緒形直人・鶴田真由

張込み 田村高廣/高峰秀子.jpg 女主人公の方は、映画では高峰秀子が演じ、テレビドラマでは八千草薫や吉永小百合などが演じているとなると、女優にとっては演じてみたい役柄なのでしょう。でも、相応かつ相当の演技力が要求される役どころだと思います。

映画「張込み」 田村高廣/高峰秀子

 一方、張り込む側の男優の方は、テレビドラマ版は、見張りの刑事が2人になっているものが多く、その点では映画版を踏襲していますが、だんだんベテラン刑事と若手刑事の取り合わせという風になっていき(但し、吉永小百合版は若手の荻島真一が一人で張り込み)、ベテランがメインになったり若手がメインになったりと色々バリエーションがあるようです(大竹しのぶ版では若手エリート刑事と地元の田舎刑事との取り合わせ、ビートたけし版ではビートたけしと一緒に張り込む緒形直人の方が「年下の上司」ということになっている)。

若村麻由美.bmp そして2011年にまた、TX系の「水曜ミステリー9」で、「松本清張特別企画」として、若村麻由美・小泉孝太郎主演で放送されました(若村麻由美は「無名塾」種出身。90年代にも清張ドラマに何度か出演しており、女優業復帰でこの人も結構長いキャリアになる)。

張込み 水曜ミステリー2.jpg 張り込む刑事は小泉孝太郎1人で、先輩刑事のムダだという意見に抗して張り込むことを主張する熱血漢である一方で、色男でもあり、かつて関与したDV事件の女性被害者に対して、今はストーカーまがいのことをしているという変なヤツ。原作ではラストに1回あるだけの、主人公の女(若村麻由美)との接触場面が矢鱈と多く、逃亡中の犯人(元恋人)と女を引きあわせるお膳立てまでして、結果として女の目の前で犯人は取り押さえられることになり、これって却って残酷ではなかったか。

張込み 水曜ミステリー3 携帯.jpg 原作にはあまり記述の無い女の家庭での妻としての暮らしぶりが描かれることは、これまでのドラマ化作品でもあったかと思いますが、これはやや"描き過ぎ"。しかも、「幸せそうではない」夫婦生活のはずが、一見「幸せそうな」家庭になっていて、夫婦の結婚の経緯から始まって、女の夫が携帯の着信記録から妻の行動に不審を抱き妻を問い詰めると、ストーカーに狙われていると言うので警察に通報するとか、事件解決後に女は家から出奔してしまうとか―何だか余計なものを付け加え過ぎて、原作とはテーマからして別物になった感じ(ベクトル的には原作と真逆。特にラストは)。

張込み 1958.jpg張込み 映画1.jpg ドラマ化されるごとに原作から離れていく感じがしますが、最近のドラマ化作品が原作と別物に見えるのは、野村芳太郎のモノクロ映画の冒頭で10数分間続く夜行列車のシーンに見られるような(その外にも移動シーンで蒸気機関車がふんだんに見られ、S張込み 1958汽車.pngLファン必見作?)、高度成長期初期の熱に浮かされたような活気や雑然とした時代の雰囲気みたいなものが、最近のテレビドラマでは再現されにくいということもあるのかもしれません。まあ、半世紀以上経っているのだから仕方が無いか。 [上写真]「張込み」撮影風景(高峰秀子)

 大方が時代設定を現在に置き換えており、最初から原作を再現するつもりも無いわけですが、1回"原点回帰"したものも観てみたい気がするし、演出が近年の刑事ドラマのパターンをステレオタイプで踏襲しているのにはややウンザリもします(このTX系「水曜ミステリー9」版も、若村麻由美はまあまあなのだが、男優陣の演技は"全滅"に近かったように思う)。

張込み タイトル.jpg 野村芳太郎監督の映画化作品を最初に観た時の個人的評価は星3つでしたが(多分、原作との違いが気にかかったというのもあったと思う)、今観直すと、時代の雰囲気をよく伝えているような印象も。後にこれを超えるものが出てこないため、相対的にこちらの評価が高くなって星半分プラスしたという感じでしょうか。

大木実/宮口精二
大木実/宮口精二 張込み.jpg張込み 映画2.jpg「張込み」●制作年:1958年●製作:小倉武志(企画)●監督:野村芳太郎●脚本:橋本忍●撮影:井上晴二●音楽:黛敏郎●原作:松本清張「張込み」●時間:116分●出演:大木実/宮口精二/高峰秀子/田村張込み 1958汽車2.png高廣/高千穂ひづ張込み vhs.jpgる/内田良平/菅井きん/藤原釜足/清水将夫/浦辺粂子/多々良純/芦田伸介●公開:1958/01●配給:松竹●最初に観た場所:池袋文芸地下(84-02-22)(評価★★★☆)

張込み 水曜ミステリー1.jpg「張込み」●監督:星田良子●製作:TX・BSジャパン●脚本:西岡琢也●原作:松本清張●出演:若村麻由美/小泉孝太郎/忍成修吾/渡辺いっけい/塩見三省/六平直政/田山涼成/上原美佐●放映:2011/11(全1回)●放送局:テレビ東京 

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映画を見てドラマを見て再読して、"本格派" 推理小説だったと...。

砂の器 カッパ.jpg 砂の器 (カッパ・ノベルス 11-9).jpg 砂の器.jpg 砂の器 下.jpg  砂の器 dvd.jpg 砂の器 unnmei.jpg
砂の器 (カッパ・ノベルス 11-9)』『砂の器〈上〉 (新潮文庫)』 『砂の器〈下〉 (新潮文庫)』〔'06年改版版〕「砂の器 デジタルリマスター版 [DVD]

sunanoutuwa12.jpg この作品は、'60(昭和35)年5月から翌年4月にかけて「読売新聞」夕刊に掲載され、カッパ・ノベルスで'61(昭和36)年7月刊行、'74年に映画化されたほか、'04年には中居正広主演でTVドラマ化されているので、ストーリーを知る人は多いと思います。

 映画館で映画を観て、「宿命」という言葉(または"曲の演奏")が頭にこびりついてしまい、パセティックな作品とのイメージを持っていましたが、もう一度原作にあたってみると、刑事たちに視点を置いて犯人を地道に追う"本格派" 推理小説の色合いが強いという印象を受けました(中居正広主演のテレビ版は最初から犯人を明かす倒叙型だったので、ミステリとしての面白さは半減。脇役陣は手堅いが、主演の中居正広の演技下手が目立つのも痛い)。

 好みは人それぞれだと思いますが、小説における、推理を通して徐々に、間接的に"犯人像"を浮き彫りにして行く描き方の方が、主人公の"業"のようなものがじわ〜っと感じられる気もします(元々テレビ版の配役で「人間の業」のようなものの描出を期待する方が無理がある?)。

映画「砂の器」.jpg 野村芳太郎(1919‐2005)監督、橋本忍・山田洋次脚本による映画化作品('74年/松竹)は、他の野村監督作品と比較しても、また同じ時期に映画化された他の松本清張原作のものと比べても比較的良い出来だったと思います(個人的には同監督の「鬼畜」('78年/松竹)の方が若干上かなという気がするが、松本清張自身はこの映画化作品を気に入っていたらしい。世間的な評価も「砂の器」の方が上か)。

「砂の器」3.jpg 加藤剛が演じた〈和賀英良〉は、「飢餓海峡」('64年/東映)で三國連太郎が演じた〈犬飼多吉(樽見京一郎)〉や「白い巨塔」('66年/大映)で田宮二郎が演じた〈財前五郎〉と並んで、恵まれない境遇から「成り上がる男」を体現していたと思われ、また、刑事役の丹波哲郎の演技も光るものがありました(その部下役を森田健作が演じている)。

『砂の器』(1974).jpg ただし、幼児期の暗い記憶や、自分をいじめた社会に対しての見返してやるという登場人物のリベンジ・ファクターが清張作品ならではのものだと思うのですが、どこまで映像で表現されていただろうかという気もします。テレビ版では「ハンセン病」というファクターを抜いてしまっているので、なおさらに原作とのギャップを感じざるを得ませんでした。

砂の器 チラシ.bmp『砂の器』(1974)21.jpg  個人的には、この小説が今まで読んだ清張作品の中で一番だとは思わないし、「ハンセン病」に対する偏見を助長したという批判までありますが、作者の代表的な傑作作品であることに異存はなく、結末を知ったうえでも原作を読む価値はあると思います。

映画「砂の器」チラシ
Suna no utsuwa (1974)         
Suna no utsuwa (1974).jpg砂の器  1.jpg「砂の器」●制作年:1974年●製作:橋本プロ・松竹●監督:野村芳太郎●脚本:橋本忍/山田洋次●音楽:芥川也寸志●原作:松本清張●時間:143分●出演:丹波哲郎/森田健作/加藤剛/加藤嘉/緒形拳/山口果林/島田陽子/佐分利信渥美清笠智衆/夏純子/松山省二/内藤武敏/春川ますみ/花沢徳衛/浜村純/穂積隆信/山谷初男/菅井砂の器sunanoutuwa 1.jpg砂の器 丹波哲郎s.jpgきん/殿山泰司/加藤健一/春田和秀/稲葉義男/信欣三/松本克平/ふじたあさや/野村昭子/今井和子/猪俣光世/高瀬ゆり/後藤陽吉/森三平太/今橋恒/櫻片達雄/瀬良明/久保砂の器 (映画) 丹波 .jpg砂の器 丹波.jpg晶/中本維年/松田明/西島悌四郎/土田桂司/丹古母鬼馬二●劇場公開:1974/10●配給:松竹●最丹波哲郎 .jpg初に観た場所:池袋文芸地下(84-02-19) (評価★★★★)●併映:「球形の荒野」(貞永方久)
丹波哲郎 2006年9月24日没

加藤嘉(本浦千代吉(和賀英良(本名・本浦秀夫)の父))
砂の器 (映画) 加藤嘉 .jpg 砂の器 加藤嘉.jpg
緒形拳(亀嵩駐在所巡査・三木謙一)/佐分利信(前大蔵大臣・田所重喜)
緒方拳 砂の器.jpg 佐分利信 砂の器.jpg

渥美清(伊勢の映画館「ひかり座」支配人)/笠智衆(亀嵩算盤・桐原小十郎)
渥美清 砂の器.jpg 笠智衆 砂の器.jpg

殿山泰司(通天閣前の商店街の飲食店組合長)/丹波哲郎(警視庁捜査一課警部補・今西栄太郎)
砂の器 殿山泰司.jpg

池袋文芸地下 地図.jpg文芸坐.jpg


 
 
 
池袋・文芸地下 1955(昭和30)年12月27日オープン、1997(平成9)年3月6日閉館。


「砂の器」 2004.jpeg砂の器 中居版.jpg「砂の器」(TVドラマ版)●演出:福澤克雄/金子文紀●脚本:龍居由佳里●音楽:千住明●出演:中居正広/松雪泰子/渡辺謙/武田真治/京野ことみ/永井大/夏八木勲/赤井英和/原田芳雄/市村正親/かとうかずこ/佐藤仁美/佐藤二朗/森口瑤子/松岡俊介●放映:2004/01~03(全11回)●放送局:TBS

 
  【1961年ノベルズ版[光文社]/1973年文庫化・2006年改版版[新潮文庫]】

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社会ドラマとしての人間がしっかり描かれている初期代表作。

松本清張「ゼロの焦点」.jpg ゼロの焦点.jpg ゼロの焦点2.jpg 『ゼロの焦点』(1961)3.jpg 『ゼロの焦点』(1961).jpg 「ゼロの焦点」真野あずさ・林隆三 vhs - コピー.jpg
ゼロの焦点―長編推理小説 (カッパ・ノベルス)』['59年]/『ゼロの焦点 (新潮文庫)』/野村芳太郎 監督「ゼロの焦点 [DVD]」(1961年)/新藤兼人脚本「ゼロの焦点 [VHS]」(1991年)
『ゼロの焦点』昭和34年初版.jpgカッパ・ノベルス『ゼロの焦点』昭和34年初版
『ゼロの焦点』昭和34年初版2.jpg 板根禎子は、広告代理店に勤める鵜原憲一と見合い結婚、信州から木曾を巡る新婚旅行を終えた。その7日後、東京へ転勤になったばかりだった憲一は、仕事の引継ぎをしてくると言い前勤務地の金沢へ出張へ旅立つが、予定を過ぎても帰京しない―。やがて禎子のもとに、憲一が北陸で行方不明になったという勤務先からの知らせがある。禎子は単身捜査に乗り出すが、その過程で夫の知られざる過去が浮かび上がる―。

点と線.png 『ゼロの焦点』('58年発表)は、松本清張(1909‐1992)が点と線の翌年に発表したものですが(『ゼロの焦点』は1959年刊行のカッパ・ノベルスの創刊ラインアップの1冊となり、『点と線』はその翌年にカッパ・ノベルスに加わった)、最初読んだ時は、時刻表トリックにハマって『点と線』の方が面白く感じたものの、時間が経つにつれ、『ゼロの焦点』も好きな作品になってきました(『点と線』のトリックは時代を経ても色褪せたという印象は無く、むしろ、見合いだけで相手のことをよく知らないで結婚する―という設定においては、『ゼロの焦点』の方がよりクラシカルな雰囲気の背景設定とも言えるかも)。
点と線―長編推理小説 (カッパ・ノベルス (11-4))』['60年]

松本清張1.jpg この『ゼロの焦点』が書かれた時点で"社会派"推理小説というジャンル分けは確立していなかったと思いますが、この辺りがその始まりではないでしょうか。ミステリーとしては瑕疵が多いとの指摘もありますが、社会ドラマとしての人間がしっかり描かれて、これがこの作家の大きな魅力でしょう。また、清張の推理小説作品の中でも、風景の描写などに文学的な細やかさがあり、『点と線』と並んで"旅情ミステリー"のハシリとも言えるのではないでしょうか。冒頭部分だったかが国語の試験問題に出されたのを覚えています。

『ゼロの焦点』1.jpgzero1b.jpg 映画化された「点と線」('58年・カラー)「ゼロの焦点」('61年・モノクロ)をそれぞれ観ましたが、「ゼロの焦点」の方が、白黒の画面が"裏日本"北陸の寒々とした気候風土に合っゼロの焦点0.jpgた感じがして良かったです(2009年に犬童一心監督、広末涼子・中谷美紀・木村多江主演で再映画化され、時代設定を安易に現代にせず、原作通り1957年から1958年頃の設定をにして頑張っていたが、どうしても雰囲気的にイマイチだった。1960年から1961年に撮影しているこの野村芳太郎版の時代的シズル感を今に再現するのはやはり難しいのか)

映画「ゼロの焦点 [DVD]」(1961年/松竹)      
「ゼロの焦点」●vhs.jpgゼロの焦点 1961.jpg 多くのサスペンスドラマの典型モデルとなった、日本海の荒波を背に崖っぷちで犯人が告白するというラストシーンなど、橋本忍の脚本の運びを原作と比べてみるもの面白いかと思います。橋本忍脚本の犯人の長台詞は、込み入った原作の背景を1時ゼロの焦点9.jpg間半の映画に収めようとした結果の「苦肉の策」とだったともとれるのですが...(因みに、山田洋次監督も共同脚本として名を連ねている)。

沢村貞子/久我美子
 
zero-focus-snowy-houses-kanazawa.jpg この映画作品が発表された後、作品の舞台周辺への観光客が増加し、一方、能登金剛・ヤセの断崖(映画の舞台)での投身自殺が急増したとのことです。自分も行ったことがありますが、「早まるな」と書いた立て札があったように思います。金沢ロケで雪がかなり積もっているのは、昭和35年末から36年初めの北陸地方の豪雪によるもの。「昭和38年1月豪雪」はよく知られていますが、この時も結構積もったようです。

有馬稲子3.jpg(●2020年にシネマブルースタジオの「戦争の傷跡」特集で再見した。原作の鵜原憲一が勤める「A広告社」は「博報社」になっていたのだなあ。ラストの謎解きは、主人公の推理と犯人の告白が交互に映像化されるスタイルになっていたことを改めて確認した。'91年にビデオで観たのが初めてで、その時点で映画が作られてから30年で、今またそこから30年経とうとしているのかと思うと何か感慨深い。1931年生まれの久我美子も1932年生まれの有馬稲子も2020年時点で健在である。)

 因みに、「ゼロの焦点」は、調べた限りでは60年代から90年代にかけて6回テレビドラマ化されていますが、「点と線」は1回もドラマ化されていないようです。(「点と線」はその後、2007年にビートたけし主演でドラマ化された。)
ゼロの焦点 1991.jpg •1961年「ゼロの焦点(CX)」野沢雅子・河内桃子
 •1971年「ゼロの焦点(NHK)」十朱幸代・露口茂
 •1976年「ゼロの焦点(NTV)」土田早苗・北村総一朗
 •1983年「松本清張のゼロの焦点(TBS)」星野知子・竹下景子
 •1991年「ゼロの焦点(NTV)」真野あずさ・林隆
 •1994年「ゼロの焦点(NHK BS-2)」斉藤由貴・萩尾みどり

 この中で印象に残っているのは'91年の鷹森立一監督による日本テレビ版で、眞野あずさ (板根禎子)、林「ゼロの焦点」真野あずさ・林隆三.jpg隆三(北村警部補新藤兼人.png)、芦川よしみ(田沼久子)、増田恵子(室田佐知子)といった布陣ですが、原作者・松本清張の指名を受けた新藤兼人(1912‐2012/享年100)が脚本を手掛けています。個人的には、主役の真野あずさ、林隆三(1943‐2014/享年70)とも良かったように思います。眞野あずさ 演じる板根禎子が、パンパン上がりのふりをして増田恵子(元ピンク・レディー!)演じる室田佐知子に探りを入れるというのが素人にそこまで演技が出来るかと思「ゼロの焦点」真野あずさ.jpgうとちょっとどうだったか。ラストの犯人が海上に小舟を漕ぎ出すシーンの撮影に関しては新藤兼人の発案ではなく、原作者である松本清張の希望により脚本に導入され、むしろ新藤兼人は難色を示したものの、その方向で撮影が行われたとのこと(原作も一応そうなっているのだが)。おそらく松本清張は、このTV版のロケの時期が初夏になったことで、部分的に趣向を変えてみてもいいかなと考えたのではないでしょうか。すでに5回目のTVドラマ化であったというのもあるかと思います。

Zero no shôten (1961)
Zero no shôten (1961) .jpg「ゼロの焦点」●制作年:1961年●監督:野村芳太郎●脚本:橋本忍山田洋次●撮影:川又昂●音楽:芥川 也寸志●原作:松本清張●時間:95分●出演:久我美子/高千穂ひづる/『ゼロの焦点』2.jpg有馬稲子/南原宏治/西村ゼロの焦点 加藤嘉.jpg晃/加藤嘉/穂積隆信/野々浩介/十朱久雄/高橋とよ/沢村貞子/磯野秋雄/織田政雄/永井達郎/桜むつゼロの焦点 1961(1).jpg子/北龍二(本編では佐々木孝丸がキャストされている)/稲川善一/山田修吾/山本幸栄/高木信夫/今井健太郎/遠山文雄●劇場公開:1961/03●配給:松竹●最初に観た場所(再見):北千住・シネマブルースタジオ(20-08-24)(評価★★★★)
   
ゼロの焦点 1961年 1.jpg ゼロの焦点 1961年 2.jpg
ゼロの焦点 1961年 4.jpg ゼロの焦点 1961年 5.jpg

ゼロの焦点 真野あずさ・林隆三1.jpgゼロの焦点 真野あずさ・林隆三2.jpg「ゼロの焦点―松本清張作家活動40年記念スペシャル(松本清張スペシャル・ゼロの焦点)」●監督:鷹森立一● プロデュー増田恵子.jpgサー:嶋村正敏(日本テレビ)/赤司学文(近代映画協会)/坂梨港●脚本:新藤兼人●音楽:大谷和夫●原作:松本清張●出演:眞野あずさ/林隆三/増田恵子(元ピンク・レディー)/芦川よしみ/藤堂新二/並木史朗/岸部一徳/神山繁/音無真喜子/乙羽信子/平野稔/金田明夫●放映:1991/07/09(全1回)●放送局:日本テレビ

ゼロの焦点 [VHS]」(眞野あずさ主演) 

 
 
 

ゼロの焦点 ブルーレイ.jpg映画「ゼロの焦点」(1961) vhs.jpg ゼロの焦点 新潮文庫.jpg『あの頃映画 the BEST 松竹ブルーレイ・コレクション ゼロの焦点』 [Blu-ray]ゼロの焦点 [VHS]/(2009年再映画化)新潮文庫・映画タイアップカバー 

   
ゼロの焦点0.jpgゼロの焦点 2009.jpgゼロの焦点 2009 03.jpg犬童 一心 「ゼロの焦点」 (2009/11 東宝) ★★★

【1959年ノベルズ版・2009年カッパ・ノベルス創刊50周年特別版[光文社]/1971年文庫改版[新潮文庫]】 

《読書MEMO》
●加賀屋
野村芳太郎監督「ゼロの焦点」('61年) のロケで使われた(原作執筆時の松本清張も宿泊)。
加賀屋 .jpg ゼロの焦点 1961年.jpg
  
 

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