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映画的終わり方にしてしまい小説に比べインパクトが弱かったが、傑作には違いない。

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あの頃映画 「事件」 [DVD]」「あの頃映画 the Best 松竹ブルーレイ・コレクション 事件 [Blu-ray]

「事件」 キャスト.jpg 神奈川県の相模川沿いにある土田町の山林で、若い女性の刺殺死体が発見された。その女性はこの町の出身で、新宿でホステスをしていたが、一年程前から厚木の駅前でスナックを営んでいた坂井ハツ子(松坂慶子)だった。数日後、警察は19歳の造船所工員・上田宏(永島敏行)を犯人として逮捕する。宏はハツ子が殺害されたと推定される日の夕刻、現場付近の山道を自転車を押しながら下りてくるのを目撃されていた。警察の調べによると、宏はハツ子の妹・ヨシ子(大竹しのぶ)と恋仲であり、彼女はすでに妊娠3ヵ月であった。宏とヨシ子は家を出て横浜方面で暮らし、子供を産んで、二十歳になってから結婚しようと計画していた。しかし、ハツ子はこの秘密を知り、子供を中絶するようにと二人に迫った。ハツ子は宏を愛し、ヨシ子に嫉妬していた。その頃ハツ子には宮内(渡瀬恒彦)というやくざのヒモがいた。彼女は宮内と別れて、宏と結婚し、自分を立ち直らせたいと思っていたのだった。ハツ子が親に言いつけると宏に迫った時、彼はとっさに登山ナイフをかまえて彼女を威嚇した。宏が一瞬の悪夢から覚めて気がついた時、ハツ子は血まみれになって倒れていた。上田宏は逮捕され、検察側の殺人、死体遺棄の冒頭陳述から裁判が開始された―。

「事件」02.jpg 大岡昇平による原作を野村芳太郎監督、新藤兼人脚本で映画した1978年公開作。日本アカデミー賞「作品賞」、毎日映画コンクール「日本映画大賞」、「文化庁芸術選奨」(野村芳太郎、「鬼畜」とセット受賞)受賞。

 進行する裁判のシーンに回想が断片的に挿入され真実が明らかになると同時に、事件に潜む人間の虚実や姉妹の葛藤を浮き彫りにしていくという構図。ただし、奇を衒うような実験的表現は無く、いい意味で大衆目線の作り方になっています。

「事件」松坂・渡瀬.jpg「事件」渡瀬.jpg 清楚なイメージが定着していた松坂慶子が汚れ役に挑戦しているほ「事件」佐分利.jpgか、野村芳太郎監督をして天才と言わしめた大竹しのぶの演技も見もの(同年のドラマ版(1978/04 NHK)で同じ役を演じていた)。ヒモ男を演じた渡瀬恒彦や、そのほかの演技陣も充実しており、弁護人の丹波哲郎の、証言台に立つ北林谷栄や森繁久彌といった芸達者との掛け合いも愉しめます。その丹波哲郎演じる弁護士と芦田伸介演じる検事を前に、裁判長としての威厳と貫録を見せた佐分利信の演技はさすがでした。

 原作も映画も、つまりは「殺人」か「傷害致死」かを争うだけの話なので、裁判ものと言っても、E.S.ガードナーの「ペリー・メイスン」シリーズ及びそのドラマ化作品のようなミステリとはまったく趣を異にしますが、原作にはラストで思わぬ被告人の告白、言わば「大どんでん返し」があります(これは大岡昇平がラストを当初の構想から変えたことにより生まれたという)。

 映画は映像表現なので、「殺人」か「傷害致死」かということについてはどちらともとれる見せ方になっています。そして、ラスト。原作と同じく、永島敏行演じる元被告人はある告白をしますが、丹波哲郎演じる弁護士はそれを「罪悪感からくる思い込み」とあっさり片付けてしまっています。これは所謂「映画的」「検閲的」修正なのでしょうか。ここの所が原作の肝(キモ)ではなかったかと思うのですが。

 新藤兼人(1912年生まれ)は自分の脚本を勝手に直されると怒る脚本家として有名でしたが、野村芳太郎(1919年生まれ)だけには任せていたようです。よって、最後の丹波哲郎の軽いあしらい方はどちらの考えなのか分かりません。こうした終わり方となっているため、小説に比べインパクトが弱かったですが、映画としても傑作であるには違いないと思います。

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事件 映画 野村芳太郎.jpg事件(ポスター).jpg事件 映画 野村芳太郎v.jpg
「事件」●制作年:1978年●監督: 野村芳太郎●製作:野村芳太郎/織田明●脚本:新藤兼人●撮影:川又昂●音楽:芥川也寸志●原作:大岡昇平●時間:138分●出演:丹波哲郎/芦田伸介/大竹しのぶ/「事件」クレジット.jpg永島敏行/サスペンスな女たち.jpg松坂慶子/渡瀬恒彦/山本圭/夏純子/佐野浅夫/北林谷栄/乙羽信子/西村晃/佐分利信/森繁久彌/中野誠也/磯部勉/浜田寅彦/丹古母鬼馬二/早川雄二/穂積隆信/山本一郎●公開:1978/06●配給:松竹●最初に観た場所(再見):神田・神保町シアター(23-06-30)(評価:★★★★) 

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原作・映画ともいろいろケチをつけたくなるが、それなりに面白かった。

『真夏の方程式』文庫.jpg「真夏の方程式]2013.jpg 「真夏の方程式」0.jpg
真夏の方程式 (文春文庫)』「真夏の方程式 DVDスタンダード・エディション」福山雅治

 夏休みのある日から両親の都合で一人、親戚が経営する旅館で過ごすことになった小学4年生の恭平は、玻璃ヶ浦へ向かう電車の中で湯川に出会う。湯川は海底鉱物資源開発の説明会にアドバイザーとして出席するために玻璃ヶ浦へ行くことになっており、湯川は気まぐれから恭平の親戚の旅館に泊まることにする。そんな中、同じ旅館に泊まっていた客の塚原正次が夜中に姿を消し、翌朝海辺で変死体となって発見される。県警は現場検証を行い、堤防から誤って転落した事故死の線が濃厚と判断していた。同じ頃、草薙は多々良管理官から直々に特命の捜査を依頼される。玻璃ヶ浦の事件の被害者の塚原は元警視庁捜査一課所属の刑事で、その死に疑問を抱く多々良は、同じ旅館に湯川が泊まっていることを知り、草薙を連絡係にして独自の捜査を命じたのだ。草薙は内海とともに、湯川と連絡を取りながら捜査を行う。捜査を進めるうち、塚原は殺害された後に、海岸に遺棄された可能性が高くなってゆく。塚原は、何のために玻璃ヶ浦に来たのか。湯川は「ある人物の人生が捻じ曲げられる」ことを防ぐために、真相に挑んでいく。鍵を握るのは、16年前に塚原が担当した元ホステス殺人事件。そして、その裏には緑岩荘を営む川畑家が隠していたある重大な秘密があった―。
真夏の方程式
『真夏の方程式』単行本.jpg 2011年6月に文藝春秋より刊行されたガリレオシリーズ第6弾、シリーズ3作目の長編で、2013年6月29日に、「ガリレオ」シリーズの劇場版第2作として映画化・公開され、累計興収33.1億円で2013年度の邦画実写第1位となっています。シリーズでは『容疑者Xの献身』に次いで映画化された作品の原作であり、それなりに面白かったように思います。

 と言うか、世評の高い『容疑者Xの献身』の方を個人的にはあまり高く評価しておらず、なぜならば殺人の隠蔽のために別の殺人を犯すのはどうかと思ったからで、浮浪者だからと殺してしまっていいのかという点がどうしても引っ掛かるためです(これについては北村薫氏が、ミステリあるいは小説を道徳論で論ずるべきでないとの立場を示しているが)。

 この『真夏の方程式』も、まったく問題がないわけではなく、業務上過失致死を装って殺害された元刑事の塚原に何か非かあったのではないのに、彼の命が軽く扱われている気がするし、子どもに、本人が知らずにとは言え、殺人の手助けをさせていいのかというのもあります。ただ、複雑な人間関係の中、最後の最後まで読めない展開に引き込まれたので、一応○としました。

「真夏の方程式」4.jpg 映画化作品の方は、比較的原作に忠実に作られていたように思います。原作にある、川畑成実(杏)の高校時代の同級生で今は地元で警官をやっている西口や、フリーライターで環境保護活動家の沢村が割愛されていましたが、却ってスッキリしたかも(沢村が割愛されたおかげで、死体を運ぶのがたいへんそうだったが(笑))。

 ただ、宿に泊まった塚原(塩見三省)が元刑事であることを仄めかして川畑節子(風吹ジュン)に仙波の名前を出して話を聴きたいと言い、それによって節子が激しく動揺するという場面が早々にあるため、川畑家に何か重大な秘密があって、そのため塚原が殺されたことが早くから判ってしまい、「刑事コロンボ」ではないですが、半ば「倒叙式」みたいになってしまったのはいかがなものかと思いました。

「真夏の方程式]相関図jpg.jpg ラストで、湯川(福山雅治)が成実に、「きみは恭平君を守ってほしい」と言うのも、前後の脈絡からしてどうしてこうなるの?という疑問はありますが、これは原作では「きみの務めは人生を大切にすることだ」となっています。どちらにしても、事件はこれで終わりにしようということですが、この映画を観る限り、恭平君は「いつか」ではなく「明日にでも」自分が事件当日にやったことの意味に気づきそうな感じでした。

「真夏の方程式」3.jpg いろいろケチをつけましたが、原作「真夏の方程式]201前田3.jpgを読んでよくわからなかった、カメラ付きケータイ入りのペットボトル・ロケットを何度も海に向かって打ち上げる実験の全容が理解できたのと(かなりの尺をとっていた)、湯川と対峙した旅館の主人・川畑重治を演じた前田吟が、(これで事件を落着させたいという)重要な場面でベテランの演技力を見せていたので、映画も一応○としました。

「真夏の方程式」p2.jpg「真夏の方程式」●制作年:2013年●監督:西谷弘●製作:鈴木吉弘/稲葉直人●脚本:福田靖●撮影:柳島克己●音楽:菅野祐悟/福山雅治●原作:東野圭吾●時間:129分●出演:福山雅治/吉高由里子/北村一輝/杏/豊嶋花/青木珠菜/前田吟/風吹ジュン/白竜/塩見三省/山﨑光/西田尚美/田中哲司/永島敏行/根岸季衣/神保悟志/綾田俊樹/筒井真理子●公開:2013/06●配給:東宝(評価:★★★☆)

杏(川畑成実)

「真夏の方程式」永島敏行.jpg永島敏行(多々良管理官)/ 北村一輝(草薙俊平)

【2013年文庫化[文春文庫]】

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夏、海、鎌倉、心中ゲーム? と70年代の虚無的ムード漂う作品。

「十八歳、海へ」1.jpg「十八歳、海へ」2.jpg 「十八歳、海へ」3.jpg 「十八歳、海へ」4.jpg
日活100周年邦画クラシックス GREATシリーズ 十八歳、海へ HDリマスター版 [DVD]
[Prime Video]「十八歳 、海へ
十八歳、海へ (集英社文庫)
『十八歳、海へ』 文庫.jpg 実家から予備校の夏期講習を受けに東京の姉の自宅アパートに滞在中の高校生・有島佳(森下愛子)は、二浪中の予備校生・桑田敦夫(永島敏行)に誘われて鎌倉の夜の海に訪れる。そして砂浜で、佳たち「十八歳、海へ」01.jpgと同じ予備校の浪人生・森本英介(小林薫)が暴走族のリーダーと海に入っていく度胸試しをするのを偶然目撃する。数時間後、夜明けの海で2人きりになった佳と敦夫は、遊び半分で英介たちの真似をして海に入ると、彼女は海の息苦しさと気持ち良さを同時に体験し、不思議な感覚を覚える。しかし、たまたま通りかかった裕福な老人(小沢栄太郎)に心中と勘違いされて助けられた後、「もう心中しないように」と諭されて小切手を渡される。英介がホテルでバイトをしていると聞いた佳は心中未遂遊びを思いつき、彼のホテルに敦夫と泊まって少しずつ睡眠薬を飲み始める。その直前に佳と会っていた英介は、異変を感じて2人の部屋に入り、昏睡状態の2人と老人の連絡先のメモを見つけると、急いで救急車を呼ぶ。病室で目を覚ました佳は、連絡を受けて駆けつけた姉・悠(島村佳江)から「英介が警察沙汰にならないようメモを持ち帰った」と伝えられ、「十八歳、海へ」02.jpg余計なお節介だと不機嫌になる。退院した佳は敦夫と同棲を始め、そのまま姉に会おうとせず、心配した姉は英介に頼んで妹の様子を伺ってもらうが、妹から構わないよう言われてしまう。数日後、佳と敦夫は海水浴客で賑わう鎌倉の海に再び訪れ、敦夫はもう一度心中未遂遊びで老人から金を貰うことに誘うが、佳は「あの人はもう信じてくれない」と断る。数日後、夏期講習も終わりに近づき、会えるのも僅かとなった佳と敦夫は、英介に再びホテルに泊めて貰えるようにお願いする。その直後、数年前から家族に居場所を知らせていなかった英介のもとに、彼を偶然見かけた父(鈴木瑞穂)が現れる。しかし、父は英介の今の生活を否定して今すぐホテルを辞めるよう強要し、箱根のホテルに英介の名前で部屋を予約。後から来るよう言われる。ホテルを辞めさせられた英介は佳に会い、「心中未遂遊びをしたいが騙す相手がいない」との彼女の言葉に、父を騙すことを思いつく。英介は父が自身のために予約した部屋を佳と敦夫に貸してその場を後にし、2人はホテルの庭にある太い木で心中未遂遊びをするため首を吊ろうとする―。

 藤田敏八監督の「帰らざる日々」('78年/日活)の翌年1979年作で(同年9月に日活→にっかつに社名変更)、夏、海、鎌倉、心中ゲーム(狂言心中による小遣い稼ぎ?) と70年代の虚無的ムード漂う作品。そう言えば、同じ藤田敏八監督の「八月の濡れた砂」('71年/ダイニチ映配、この作品の後、日活は「ロマンポルノ」路線に転じた)も夏の湘南を舞台にしていたなあと。若者の激情が迸る印象のあった「八月の濡れた砂」に比べると、こちらはもう70年代の終わりの方で、やや疲れ切ったムードでしょうか(一方で、迫りくるバブルの気配も感じられる)。

『十八歳、海へ』t1.jpg『十八歳、海へ』t2.jpg 原作は、中上健次(1946‐1992/享年46)の23歳までの60年代作品を収めた初期短編集『十八歳、海へ』(1977年 集英社刊)の中の1編「隆男と美津子」で、この短篇集は「十八歳」「JAZZ」「隆男と美津子」「愛のような」「不満足」「眠りの日々」「海へ」の7編を収めますが、「十八歳」は青春小説としてなかなか良かったです(これ、作者が18歳の時に書き始めたらしい処女作。「俺十八歳」として1966年、作者20歳の時に「文藝首都」に掲載される)。「JAZZ」「海へ」などは散文詩的な作品で(文庫解説の津島佑子氏は「海へ」を絶賛しているが、「JAZZ」の方が好きという人がいてもおかしくない)、ユビというペッティング・ペットが出てくる「愛のような」は幻想小説、シュールレアリスム小説っぽく、川端康成の「片腕」や村上春樹「緑色の獣」を想起させました。それに対して「隆男と美津子」は、津島佑子氏によれば上手に書かれた「現代小説」とのこと。確かに、この中で映画化するとすればやはりこれなのかなという感じです(「現代」の若者の心中を描いた小説では、笹沢左保が1962年に発表した「六本木心中」など先行作品がある)。

「十八歳、海へ」04.jpg 原作では、主人公の「俺」は心中ゲームを繰り返す「隆男と美津子」に対して傍観者的な位置づけで、物語の語り手として一歩引いた状態であるのに対し、映画では、隆男に該当する永島敏行が演じる「敦夫」が一応の主人公ですが、「俺」に該当する小林薫が演じる「英介」がかなり前面に出てきて、敦夫や森下愛子が演じる「佳」に絡むだけでなく、佳の姉の、島村佳江が演じる「悠」にまで絡んできます(二人でいきなりロタ島へいくところがバブルの先駆けっぽい)。

森下愛子/永島敏行/小林薫/島村佳江

「十八歳、海へ」08.jpg 敦夫と佳のうち、心中ゲームに嵌っているのはどちらかというと佳の方で、やや病的な印象も。それに対し、敦夫の方は、半分は小遣い稼ぎが目的で、半分は佳に振り回されてただそれに従っているだけで影が薄く、英介も含めた同じ予備校に通う3人(英介は5浪くらいしているのか)の中では最も没個性的な存在になっています。その分、小林薫と島村佳江の演技力のせいもあってか、原作には全くない英介と佳の姉・悠のサイドストーリーの方がかなり前面に出ていて、二人が旅行に行ったのを自分に対する裏切りと捉えた佳が、ますます死に向かうという流れになっています。

 そうしてみると、病んではいるけれどキャラとしては一貫している佳が、この映画の主人公と言えるのではないと思います。英介と悠に対しては、姉である悠よりも、英介の方に対して裏切られたという気持ちを抱いたみたいで、結局のところ内心では、というか海で暴走族と度胸試しをするのを見た時から英介のことが実は好きだったということでしょう(ここが原作との最大の違い)。

 ただ、その英介が、最初はカッコ良かったけれども、実は金持ちの医師の息子で、父親を憎みながらも、悠の姉を強引に手に入れ、悠と敦夫の心中ゲームを父への復讐の手段にしようとするなど、実は結構エゴイストっぽい人格だとわかるにつれ、ややがっかり。ただし、小林薫はこの複雑なキャラを見事に演じ切っています。

 でも、観終わった後に虚無的なムードが残るのは、まさにこの作品の狙いなのかも。森下愛子が演じる危ういながらも一貫しているキャラが、ばらばらになりそうなこの作品を底支えしていて、やはり作品の一番の魅力だったかもしれません(彼女の演技はときどき"地"に見えるが、これも監督の演出力の賜物なのか。ヌードはオマケのようなもの)。

 それにしても1979年は、いずれも同じく中上健次の原作である、神代辰巳監督の「赫い髪の女」が2月に、柳町光男監督の「十九歳の地図」が12月に公開されていて、"中上健次イヤー"みたいな感じだったのだなあ。

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「十八歳、海へ」m1.jpg「十八歳、海へ」小沢jpg.jpg小沢栄太郎(鎌倉の海近くの大邸宅に暮らす裕福な老人。心中未遂ごっこ中の佳と敦天を助け、自宅の風呂を貸した後、二人に説教をする)

「十八歳、海へ」●制作年:1979年●監督:藤田敏八●製作:佐々木志郎/結城良煕●脚本:田村孟/渡辺千明●撮影:安藤庄平●音楽:チト河内●原作:中上健次「十八歳、海へ」より「隆男と美津子」●時間:88分●出演:永島敏行/森下愛子/小林薫/小沢栄太郎/島村佳江/下絛アトム/鈴木瑞穂/深水三章●公開:1979/08●配給:にっかつ●最初に観た場所:神保町シアター(22-09-07)(評価:★★★☆)

【1970年文庫化[集英社文庫]】

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時間の経過とともにだんだん佳作に思えてきた(年齢のせい?)。 脇役陣が結構しっかりしてた。

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帰らざる日々 [DVD]」永島敏行/浅野真弓/竹田かほり/江藤潤

「帰らざる日々」6.jpg「帰らざる日々」1978.jpg 早朝の新宿駅、飯田行き急行に乗りこむ野崎辰雄(永島敏行)。父・文雄の突然の訃報が作家を志していた辰雄に6年振りの帰郷を促したのである。―1972年、夏、辰雄の母、加代(朝丘雪路)は若い女のもとに走った夫・文雄(草薙幸二郎)と別居し母一人子一人の生活を送っていた。高校三年だった辰雄は溜り場の喫茶店の真紀子(浅野真弓)に思いを寄せていた。そんな辰雄の前に真紀子と親しげな同じ高校の隆三(江藤潤)が現われた。マラソン大会があった日、辰雄は隆三に挑んだが、デッドヒー「帰らざる日々」l.jpgトの末、かわされてしまう(実は隆三はズルしていたのだが)。数日後、辰雄の気持を知った隆三は、辰雄をからかうが、隆三と真紀子がいとこ同志とも知らず、むきになる辰雄に隆三は次第に好意を持つようになる。卒業後、東京に出ようと思う辰雄、学校をやめて競輪学校に入る夢を持つ隆三、そして真紀子の三人は徐々に友情を深めていく。夏休み、盆踊りのあった晩、辰雄と隆三は真紀子が中村(中尾彬)という妻のいる男と交際しており、既に子供を宿していると知らされ、裏切られた気持で夜の街を彷徨い歩く。翌日、二日酔でアルバイトをしていると、隆三が辰雄を助けようとして足に大怪我を負ってしまい、彼の競輪への夢も潰える。飯田に近づくと、辰雄は見送りに来ていた同棲中の螢子(根岸とし江)が列車に乗っているのを見つけた。それは彼の母に会いたい一心の行為であり、結局辰雄は螢子を連れていくことになる。飯田に着くと、父は隆三の運転する車で轢死したことを知らされる。隆三も重傷を負っており、昏睡状態の彼を前に、辰雄は6年前の苦い思い出を噛み締めるる。父の葬儀の夜、真紀子が北海道に渡ったことを知らされる。翌朝、かつて隆三と走った道を歯を食い締って走る辰雄と、その後を自転車で追う螢子の姿があった―。

 藤田敏八(1932‐1997/享年65)監督の1978(昭和53)年公開作で、中岡京平の原作「夏の栄光」は第3回「城戸賞」を受賞(1979年4月、第2回「日本アカデミー賞」で最優秀脚本賞に最年少の23歳でノミネート)、映画も1978年・第2回「山路ふみ子映画賞」を受賞し、1978年度 第52回キネマ旬報ベストテンで「読者選出日本映画ベスト・テン第1位」となっています。

脚本家 中岡京平トークショ-/シネマ・ウエーブ・イイダ創立10周年スペシャル・イベント(2012年9月29日|会場:センゲキシネマズ)

「帰らざる日々」ne.jpg キャバレーのボーイをしている青年を演じた永島敏行(1956年生まれ)は、同年「サード」('78年/ATG)で映画初主演したばかりで、江藤潤(1951年生まれ)の方が「祭りの準備」('75年/ATG)で先に主演したりしているせいか、一応、この作品の主演ということになっているようですが、どちらが主人公かと言えば、永島敏行が演じる野崎辰雄青年の方です。かつて江藤潤が演じた「祭りの準備」の主人公と同じく作家(脚本家)志望と言うことで、中岡京平の自伝的要素が織り込まれているのでしょう(中岡京平は3歳の頃に長野県飯田市に転居し、高校卒業後に上京、アルバイトの傍ら、独学でシナリオを習得したという)。

「帰らざる日々n.jpg 物語は1978年26歳の現在から、1972年18歳の高校3年の夏を振り返りつつ、舞台も現在の東京から高校時代の長野県飯田に向かいそこで終わるという構成で、これを'79年に名画座で観た時は、70年代の鬱屈した時代の雰囲気が肌に合わなかったせいか、それほどいいと思わなかったのですが、テレビの深夜枠で放送されたのを再見したりするうちに、時間の経過とともにだんだん佳作に思えてきて、今回、43年ぶりに映画館でちゃんと観てみると、そうした時代が懐かしく思えて、しかも、ラストはちょっと泣けました(年齢のせい?)。

「帰らざる日々」[.jpg 若い男の子が年上の女性に惹かれるって、よくあるパターンだなあ。永島敏行演じる主人公の辰雄が思いを寄せる喫茶店のウェートレス・真紀子を演じたのは浅野真弓(1957年生まれ)。彼女ほどの美人であればなおさらのことでしょう(NHKの少年ドラマシリーズ「タイム・トラベラー」('71年)(原作:筒井康隆)でヒロインを演じていた島田淳子という少女が後の浅野真弓だとかなり後になって知ったが、'84年にミュージシャンの柳ジョージと結婚し、芸能界から引退した)。

「帰らざる日々」tkpg.jpg 辰雄は、中学校の同級生の由美が自分のことを好いてくれているのに、その気持ちには応えてあげれない。そのくせ、二人きりになると手を出してしまうのだが、これは由美の方が誘ったのか。「帰らざる日々」t.jpg竹田かほり(1958年生まれ)は、この由美のような役をやるの(上手いと言うよりも)向いていたなあ(彼女は、同じ年['78年]からの「桃尻娘 ピンク・ヒップ・ガール」('78年)を1作目とするにっかつ「桃尻娘シリーズ」で人気を得、松田優作主演の日本テレビのドラマ「探偵物語」('79-'80年)では、ナンシー・チェニーと共にマスコット的な役割として出ていた探偵物語 松田優作2.jpgが、こちらも'82年にミュージシャンの甲斐よしひろと結婚し、芸能界から引退した)。
竹田かほり ピンク・ヒップ.jpg0『桃尻娘 ピンク・ヒップ・ガール』.jpg
「桃尻娘 ピンク・ヒップ・ガール」(竹田かほり・亜湖)

「探偵物語」(竹田かほり・倍賞美津子・ 松田優作・ナンシー・チェニー)

  
「帰らざる日々」スチール.jpg '80年に根岸季衣と改名する前の根岸とし江が出ていて(この人、女優としては現時点['22年]でも完全に現役で、一方で、反原発運動もやっている)、辰雄の母親役の朝丘雪路はスナックのママらしく、由美の母親役の吉行和子は小料理屋の女将しく、その愛人役の中村敦夫は男気あるヤクザらしく、真紀子を孕ませた中村役の中尾彬はプレイボーイらしく、小松方正は公金横領の末に地方に逃げて最後に首を吊る男らしく(笑)―と、脇役陣が結構しっかりした映画だったと改めて思いました。

「帰らざる日々」カラー.jpg竹田かほり
帰らざる日々takeda.jpg「帰らざる日々」●制作年:1978年●監督:藤田敏八●製作:岡田裕●脚本:藤田敏八/中岡京平●撮影:前田米造●音楽:アリス(主題歌「帰らざる日々」作詞:谷村新司/作曲:谷村新司)●原作:中岡京平●時間:99分●出演:江藤潤/永島敏行/朝丘雪路/根岸とし江(根岸季衣)/浅「帰らざる日々」アリス.jpg野真弓/竹田かほり/中村敦夫/中尾彬/吉行和子/小松方正/草薙幸二郎/丹波義隆/加山麗子/阿部敏郎/高品正広/深見博/日夏たより●公開:1978/08●配給:日活●最初に観た場所:飯田橋・ギンレイホール(79-05-23)●2回目:神田・神保町シアター(22-08-28)(評価:★★★★)●併映(1回目):「八月の濡れた砂」/「赤い鳥逃げた?」(藤田敏八)



  
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ギンレイホール.jpg飯田橋ギンレイホール内.jpgギンレイホール 1974年1月3日飯田橋にオープン  2022年11月27日閉館
 

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ヤクザの資金を強奪した男たちの壮絶な運命。前半はスタイリッシュだが...。"ホラー"シーンは秀逸。
10『GONIN』.jpg GONIN 1995 0.jpg GONIN 1995 1.jpg GONIN 1995 8.jpg
あの頃映画 「GONIN」 [DVD]」佐藤浩市・本木雅弘
GONIN 1995.jpg 借金まみれのディスコ・バーズのオーナー・万代(佐藤浩市)、男性相手のコールボーイ・三屋(本木雅弘)、元刑事・氷頭(根津甚八)、リストラされたサラリーマン・荻原(竹中直人)、パンチドランカーの元ボクサー・ジミー(椎名桔平)。社会から弾き出された5人は大胆にも暴力団・大越組の事務所から大金を強奪する計画を企て、辛くも成功する。しかし、ジミーを拷問し万代たち5人の仕業と突き止めた大越組は、二人組のヒットマン・京谷(ビートたけし)と柴田(木村一八)を雇って報復に出る―。

GONIN 1995 6.jpgGONIN 1995 本木・佐藤.jpg 1995年に公開された石井隆監督による「スタイリッシュバイオレンス・アクション映画」作品とのこと。ヤクザの資金強奪計画を企てた男たちの壮絶な運命を描いています。当初の公開は8月中旬を予定していたのが、内容的に重いので夏場の番組として相応しくないとのことで9月公開になったそうです。

GONIN 199594.jpg '95年度の「キネマ旬報ベストテン」でベスト10入りはしていませんが、「読者選出ベスト・テン」の方で4位にランクインしていて、この辺りも何となくわかる気がします。人気を受けてか、翌年には「GONIN2」('96年/松竹)が緒形拳、大竹しのぶ主演で撮られていますが、これはまったく別のストーリーです。

GONIN 1995 takesi.jpg 確かに前半はスタイリッシュで、金をかけずともここまで撮れるのかと、監督の技量を感じました。万代が暴力団事務所から金を奪うためにメンバーを集めるのは、「七人の侍」と言うより「オーシャンと十一人の仲間」の雰囲気でしょうか。ただし、この映画の場合、あくまでも5人ですが(もっと多くても面白いのではないかとも思うのだが)。

GONIN 1995 nezu.jpg根津甚八.jpg 佐藤浩市、本木雅弘、竹中直人、そして殺し屋役のビートたけし等々の怪演が見られるのは貴重で、さらにその上に君臨するのが「さらば愛しき大地」('82年/プロダクション群狼)で「キネマ旬報ベストテン主演男優賞」を獲った根津甚八(1947-2016)。この頃はまだギラギラしていました。この人、どうして〈うつ病〉などに罹ったのかなあ。「GONIN サーガ」('15年/KADOKAWA)で11年ぶりに一度限りの銀幕復帰を果たしましたが、翌年、肺炎で69歳で亡くなっています。

GONIN 1995 last.png ストーリーが各々の破滅に向かっていくことは想像に難くなく、椎名桔平演じるジミーは恋人のナミィー(横山めぐみ(「真珠夫人」('02年/フジテレビ))を殺された大越組に乗り込むが射殺され、荻原は自宅に戻ったところをビートたけし演じる京谷に射殺される。根津甚八演じる氷頭は、元妻(永島暎子(「女教師」」('77年/日活))と娘との会食中を襲われ、元妻と娘が射殺されたものの逃げ延びる。佐藤浩市演じる万代と本木雅弘演じる三屋は逃走のため共に新宿バスターミナルに来たところを襲われ、万代は死に、三屋は逃げ延びる。合流した三屋と氷頭は大越組事務所を襲い、組長の大越(永島敏行(「サード」('78年/ATG))のほか、久松(鶴見辰吾)ら組員を殺すが、氷頭は京谷によって射殺される。逃げ延びた三屋は長距離バスで逃走するが―。

GONIN 1995 takenaka.jpg ただ、後半、竹中直人演じるリストラされたことを家族に言えないサラリーマンの荻原だけでなく、根津甚八演じる氷頭までが、離婚こそしてはいるが「家庭人」になっていて、愛する者が殺されるというシビアな状況に持ち込むための設定なのもしれませんが、切りたくても切れない家族の関係というか、スタイリッシュでなくなってきたような気がしました(ラストで本木雅弘演じる三屋の手に万代の遺骨があるが、誰に届けるつもりかと思ったら、シリーズ第3作で本作の正統派続編である「GONIN サーガ」では、万代にも妻子がいることが判明する)。

ganin 76020.jpgGONIN 1995 栗山.jpg栗山千明.jpg ビートたけしの殺し屋は、やっぱりビートたけしにしか見えない(笑)というのはありますが、一応は最後までバイオレンス・アクションではありました。そんな中、竹GONIN 1995ges.jpg中直人演じるサラリーマン荻原が、大金の強奪を終えて自宅に戻ってきたところだけはホラーだったなあ。「大仕事してきたんだよ~」とご機嫌で妻(夏川加奈子)と風呂に入るが...。この"ホラー"の場面が一番秀逸だったかも。ピアノをたしなむ荻原の娘を演じていたのは、当時10歳の栗山千明。彼女、初期はホラー専門だった?

荻原は息子に話しかけているが、息子の顔色は異様で、目の前をハエが飛ぶ。/風呂のタイルに血しぶきの跡が見える。 
GONIN 竹中.jpg GONIN hagiwara.jpg

goninmain2021.jpg「GONIN」●制作GONIN 1995_1280.jpg年:1995年●監督・脚本:石井隆●製作総指揮:奥山和由●撮影:佐々木原保志●音楽:安川午朗(挿入歌:ちあきなおみ「紅い花」)●時間:103分●出演:佐藤浩市(万代樹彦、ディスコ「Birds」のオーナー)/本木雅弘(三屋純一、金持ちの男相手のコールボーイを装い金を巻き上げている)/根津甚八(氷頭要、元刑事、現在は場末のキャバレー「ピンキー」にて用心棒)/椎名桔平(ジミー、元ボクサーで大越組のチンピラ、新GONIN 1995 ナミィー.jpg宿のバッティングセンターでも働いている)/竹中直人(荻原昌平、リストラされたサラリGONIN 1995s.jpgーマン)/ビートたけし(京谷一郎、式根に雇われた殺し屋、一馬とはサディスティックな恋仲)/木村一八(柴田一馬、京谷の相棒兼恋人)/鶴見辰吾(久松茂、大越組の若頭)/横山めぐみ(ナミィー、ジミーの恋人。タイ出身で大越組にパスポートを奪われ売春婦をやっている) /永島敏行(大越組の組長)/室田日出男(式根、数々の暴力団を束ねる五誠会の会長)/永島暎子(早GONIN 1995 ges2.jpg「GONIN」図3.jpg紀、氷頭の元妻。右足に障害がある)/川上麻衣子(ぼったくりキャバレー「ピンキー」の摺れたホステス)/滝沢涼子(「ピンキー」のホステス)/五十嵐瑞穂(氷頭の娘)/夏川加奈子(萩原の妻)/栗山千明(荻原の娘。ピアノをたしなむ)/山田哲也(荻原の息子)/不破万作(ピンキーのマスター)/松岡俊介(式根専属ドライバー)/伊藤洋三郎(式根ボディーガード)/飯島大介(野本)/岩松了(トイレの男)/小形雄二(高速バス運転手)/津田寛治(暴力団組員)/渡辺真起子(ディスコの客)●公開:1995/09●配給:松竹●最初に観た場所:シネマブルースタジオ(21-07-28)(評価:★★★☆)

         

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その緻密さや細かいところで施された時空を超えた"遊び"が堪能できる。

山口晃 大画面作品集00.jpg 「成田国際空港 飛行機百珍圖」.png
山口晃 大画面作品集』['15年] 成田空港第1ターミナル4F「成田国際空港 飛行機百珍圖」
NHK大河ドラマ「いだてん~東京オリムピック噺~」タイトルバック(2019)
いだてん〜東京オリムピック噺〜_10.jpg

山口晃 大画面作品集0.jpg 大和絵や浮世絵のようなタッチで、非常に緻密に人物や建築物などを描き込む画風で知られる山口晃(1969年生まれ)氏の大画面作品集です。'19年のNHK大河ドラマ「いだてん~東京オリムピック噺~」の(題字の「回転する三本の脚」は横尾忠則氏によるものだが)タイトルバックの東京の俯瞰図のような緻密な絵の作者がこの人でした。また、近年パブリックアートに力を入れている成田空港では、第1ターミナルで、この人の成田空港をモチーフにした絵「成田国際空港 飛行機百珍圖」が見られます。

山口晃 大画面作品集08.jpg 本書の巻頭にも、この「成田国際空港 飛行機百珍圖」図がきていて、部分拡大図と全体図があって、その緻密さや細かいところで施された"遊び"が堪能できるものとなっています。実物は、1枚が縦3.8m×横3.0mだそうですが、とにかく細部の描き込みがスゴイです。「いだてん」のタイトルバックはもう少しゆったりした感じで描いたのかなあと思ったら、あれは人物(中村勘九郎や阿部 サダヲ)を怪獣映画のゴジラか何かに見立てて、その想定サイズに合わせて絵の方も大映したそうで、それによってテレビでも絵の細部が楽しめるようになっていますが、原画のサイズは1.6m×横2.6mだそうで、小さくはないけれど、特別に巨大な絵でもないようです。

山口晃 大画面作品集16.jpg こうした細密画を専門とする画家は他にもいるし、鳥瞰図絵師としては、大胆なパノラマ地図を描き続けた吉田初三郎(1884-1955)から、最近では、港町神戸の"今"を描き続けている青山大介氏などもいますが、青山氏の絵なども素晴らしいと思います(自分の実家が神戸なので愛着がある)。青山氏の絵を観ていると、技法的には、かつてのイラストレーター真鍋博(1932-2000)の『真鍋博の鳥の眼』('68年/毎日新聞社)を想起させられますが、この山口晃氏の作風は、伝統的な日本の図像と現代的なモチーフを混合させ、大和絵のようなタッチで描いているユニークなものです。

山口晃 大画面作品集68.jpg "遊び"が堪能できると言いましたが、その最大の遊びが、同じ絵の中に時空を超えて、江戸や明治の時代の人物や事物と現代の人物や事物を混在させていることで、現在が主となってその中に昔のものが混ざっているものもあれば、昔の時代が主で、その中に現代が混ざっているものもあります。後者の例で言えば、1枚の絵の中で、武家の厩に馬が羈がれているのに混ざってバイクが駐車されていたり、烏帽子頭の男と話している相手が脇にパソコン開いていたりして、くすっと笑いたくなります。

 山口晃氏は、私立美術大学を中退後、1994年東京芸術大学美術学部絵画科油画専攻を卒業、1996年同大学院美術研究科絵画専攻(油画)修士課程を修了しているとのことです。個人的にはその作風から日本画を専攻したのかと勘違いしていましたが、本書内のエッセイで、「日本美術」という山口晃 大画面作品集42.jpeg言葉について再考するとともに、「日本画、洋画なんて事は海の向こうの人から見ればとるにたらない事でしょう」と述べています。

 また、「このまま設計図描きが続きかもしれませんが、絵描きなる時が来るかもしれません」とも述べています。確かに、画家と言うよりイラストレーターのような面もあるかも知れませんが、一方で極めて"絵画"的な作品もあり、また、絵画だけではなく、さまざまな美術活動に取り組んでいて、本書ではその一端をも垣間見ることができます。2013年に『ヘンな日本美術史』('12年/祥伝社)で第12回小林秀雄賞を受賞するなど多才な人であり、引き続き今後も注目されます。

「百貨店圖 日本橋 新三越本店」(注文主:三越)
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いだてん ドラマ.jpgいだてん ドラマ2.jpg「いだてん〜東京オリムピック噺〜」●脚本:宮藤官九郎●演出:井上剛/西村武五郎/一木正恵/大根仁/桑野智宏/林啓史/津田温子/松木健祐/渡辺直樹/北野隆志●時代考証:小和田哲男●音楽:ジョン・グラム●衣装デザイン:黒澤和子●題字:横尾忠則●出演:中村勘九郎/阿部サダヲ/(以下五十音順)浅野忠信/麻生久美子/綾瀬はるか/荒川良々/安藤サクラ/生田斗真/池波志乃/板尾創路/イッセー尾形/井上順/岩松了/柄本佑/柄本時生/大竹しのぶ/小澤征悦/勝地涼/加藤雅也/夏帆/神木隆之介/上白石萌歌/川栄李奈/桐谷健太/黒島結菜/小泉いだてん ドラマ1.jpg今日子/斎藤工/シャーロット・ケイト・フォックス/いだてん ドラマ3.jpg白石加代子/菅原小春/杉咲花/杉本哲太/大東駿介/田口トモロヲ/竹野内豊/寺島しのぶ/トータス松本/徳井義実/永島敏行/仲野太賀/中村獅童/永山絢斗/萩原健一/橋本愛/林遣都/古舘寛治/星野源/松尾スズキ/松坂桃李/松重豊/三浦貴大/満島真之介/皆川猿時/峯田和伸/三宅役所広司 いだてん.jpg「いだてん」ビートたけし.jpg『いだてん kawasia.jpg「いだてん」永島.jpg弘城/宮崎美子/森山未來/薬師丸ひろ子/役所広司/リリー・フランキー/ビートたけし(噺)/森山未來(語り)●放映:2019/01~2021/12(全47回)●放送局:NHK

中村勘九郎(第一部主人公:金栗四三)
阿部サダヲ(第二部主人公:田畑政治)

役所広司(嘉納治五郎)
ビートたけし(古今亭志ん生/噺(ナレーション))
浅野 忠信(オリンピック担当大臣として田畑(阿部サダヲ)と対立する政治家・川島正次郎)
永島敏行(「駅伝」の名付け親・武田千代三郎)
「いだてん 題字1.jpg「いだてん 題字2.jpg
題字:横尾忠則                                                                

                      
  
                                      

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"死者が顕われて生者に語りかける"という趣向において力を発揮する作家?

鉄道員(ぽっぽや)単行本.jpg 鉄道員(ぽっぽや)文庫.jpg 鉄道員poster.jpg 鉄道員 dvd.jpg 駅station poster.jpg
鉄道員(ぽっぽや)』『鉄道員(ぽっぽや) (集英社文庫)』「鉄道員(ぽっぽや)」映画ポスター「鉄道員(ぽっぽや) [DVD]」「駅 STATION」チラシ

 1997(平成9)年上半期・第117回「直木賞」受賞作。

 道央の廃止寸前のローカル線「幌舞線」の終着駅「幌舞駅」の駅長・佐藤乙松(おとまつ)は。鉄道員一筋に生きてきたが近く定年を迎え、また同時に彼の勤める幌舞駅も路線と共に廃止の時を迎えようとしていた。彼は生まれたばかりの一人娘を病気で失い、妻にも先立たれ、孤独な生活を送っていた。ある雪の日、ホームの雪掻きをする彼のもとに、忘れ物をしたと一人の鉄道ファンの少女が現れる。乙松が近所にある寺の住職の孫だと思い込んだ彼女の来訪は、彼に訪れた優しい奇蹟の始まりだった―(「鉄道員」)。

 「鉄道員(ぽっぽや)」「ラブ・レター」「悪魔」「角筈にて」「伽羅」「うらぼんえ」「ろくでなしのサンタ」「オリヲン座からの招待状」の8編を収録し、何れも1995(平成7)年から1997(平成9)年にかけて発表された作品で、作者によれば「奇蹟」をモチーフにしたものを集めたとのことです。

井上ひさし2.jpg 直木賞の選評を見ると、8人の選考委員のうち田辺聖子、黒岩重吾、井上ひさし、五木寛之の各氏が◎で、他の委員も概ね推している印象ですが、故・井上ひさしが、「高い質を誇っていた」と評価しつつも、「8つの短編が収められているが、内4つは大傑作であり、残る4つは大愚作である」とし、「大傑作群に共通しているのは、"死者が顕われて生者に語りかける"という趣向」であると指摘しているのが興味深いです(「この趣向で書くときの作者の力量は空恐ろしいほどだ」とも述べている)。

 "死者が顕われて生者に語りかける"作品となると、冒頭の、鉄道員の男のもとへ亡き娘の甦りとも思える少女が現われる「鉄道員」と、ポルノショップの店長である主人公に、自分との偽装結婚の末に亡くなった戸籍上の妻で出稼ぎ外国人の白蘭という女性が、手紙を通してまだ見ぬ夫である自分への想いを語る「ラブ・レター」、海外配転が決まったサラリーマンの主人公が、40年前自分が幼い頃に自分を捨てた父親と歌舞伎町で再会する「角筈にて」、子どもの頃に肉親を亡くして身寄りが無くなり、薬剤師となって医師と結婚した主人公が、嫁いだ先で夫の親族に苛められているところへ亡くなった祖父が現われ、主人公の力になるという「うらぼんえ」の4つということになるのでしょうか。

 文庫解説の北上次郎氏が、この短編集を「すごくよかった」と言う人が「鉄道員」「ラブ・レター」「角筈にて」「うらぼんえ」の4派に分かれるとし、それを派ごとの主張争いに模して解説していますが、そもそもこの4作品が選ばれていることが、故・井上ひさしの"死者が顕われて生者に語りかける"作品という指摘と合致しているように思いました。

 それ以外の作品はどうかと言うと、ややベタが過ぎたり気味悪かったりして、やはり個人的もこの4つかなあと。更に自分の好みを言えば、「ラブ・レター」はやはりベタ過ぎる印象があるし(北上次郎氏は女性読者には好評な作品としている)、上手さから言えばやはり「鉄道員」になるのかなあ。これだって、斎藤美奈子氏に言わせれば、「怪談、死んだ娘だから父に優しい(生きていたらグレてる)」ということになるのであって、直木賞選考委員の中にも阿刀田高氏のように、「悪くはないけれど、あまりにも型通りで、涙腺をふくらませながらも、こんなことで泣けるかと、しらけるところなきにしもあらず」ということにもなるのかも(考えてみればすべて乙松の頭の中で起きたこととも取れるし)。

鉄道員  02.jpg 「鉄道員」は降旗康男監督、高倉健主演で映画化されましたが('99年/東映)、昔劇場で観た、同じ降旗康男監督、高倉健主演の「駅 STATION」('81年/東映)が、倉本聰が高倉健のために書き下ろした脚本だったためか、何だか高倉健のプロモーション映画みたいで、日本映画ワースト・テンに名を連ねることも多く、個人的にも、自殺した円谷選手の遺書のナレーションを映画の中で使うことなどに抵抗を感じ、いいと思えませんでした(小谷野敦氏が「日本語をローマ字読みしてくっつけた作品のタイトルはダサい」と言っていた(『頭の悪い日本語』('14年/新潮新書))。先にそのイメージと何となくあって、結局「鉄道員」の方は劇場で観ることはなく、テレビがビデオで観たように思います。

鉄道員 志村けん.jpg 原作が短編なので、志村けんが酒癖の悪い炭坑夫として出て来きて炭鉱事故で亡くなる話や、その息子が成長してイタリアへ料理修業に行く話など、原作に無いエピソードで膨らませている部分はありますが、原作の持ち味(ひとことで言えば気持よく泣けるということか)はまずまず保たれていたのではないでしょうか。志村けん志村けん.jpg自宅の留守番電話に主演の高倉健直々の出演依頼のメッセージが入っていて驚いたとのこと。志村けんが俳優として映画出演したのは、ドリフターズの付き人時代に志村康徳名義で端役出演した「ドリフターズですよ!冒険冒険また冒険」('68年/東宝)、「ドリフターズですよ!特訓特訓また特訓」('69年/東宝)の2作以外ではこの作品のみとなります(志村けんは山田洋次監督の「キネマの神様」に菅田将暉とダブル主演の予定だったが、'20年に新型コロナウイルスによる肺炎で急逝したため叶わなかった)

鉄道員 02.jpg これも一歩間違えばどうしようもない映画になりそうなところを、高倉健をはじめとする俳優陣の演技力で強引に持たせていたという感じがします。実際、日本アカデミー賞の主要7部門のうち、作品賞、監督賞、脚本賞、主演男優賞(高倉健)、主演女優賞(大竹しのぶ)、助演男優賞(小林稔侍)の6部門を受賞していて、高倉健主演映画で、主要7部門中"6冠"達成は山田洋次監督の「幸福鉄道員 大竹しのぶ.jpgの黄色いハンカチ」('77年/松竹)以来ですが、「幸福の黄色いハンカチ」の方は第1回日本アカデミー賞ということもあって、監督賞や脚本賞は「『男はつらいよ』シリーズ」との合わせ技でした(因みに、「駅 STATION」も作品賞、脚本賞、主演男優賞を獲っている)。「鉄道員」で獲らなかったのは助演女優賞だけで、これは広末涼子のパートになるかと思いますが、その広末涼鉄道員  s.jpg子さえも、けっして上手いとは言えませんが、そう悪くもなかったように思います(最優秀賞の候補にはなっている)。大竹しのぶは流石に上手ですが、やはりこの映画は高倉健なのでしょう(高倉健は'99年モントリオール世界映画祭で主演男優賞受賞)。「駅STATION」の頃より年齢を重ねて良くなっていて、これなら泣ける? 泣けるかどうかと評価はまた別だとは思いますが。降旗康男監督、高倉健のコンビは2年後に再タッグを組み「ホタル」('01年/東映)を撮りますが、こちらも日本アカデミー賞で13部門ノミネートされ、高倉も主演男優賞にノミネートされましたが、後輩の俳優に道を譲りたい」として辞退しています。

「鉄道員(ぽっぽや)」●.jpg鉄道員 s.jpg「鉄道員(ぽっぽや)」●制作年:1999年●監督:降旗康男●脚本:岩間芳樹/降旗康男●撮影:木村大作●音楽:国吉良一(主題歌:坂本美雨「鉄道員」)●原作:浅田次郎●時間:112分●出演:高倉健/大竹しのぶ/広末涼子/吉岡秀隆/安藤政信/志村けん/奈良岡朋子/田中好子/小林稔侍/大沢さやか/安藤政信鉄道員  1s.jpg/山田さくや/谷口紗耶香/松崎駿司/田井雅輝/平田満/中本賢/中原理恵/坂東英二/きたろう/木下ほうか/田中要次/石橋蓮司/江藤潤/大沢さやか●公開:1999/06●配給:東映(評価★★★☆)
    
高倉健、小林稔侍、田中好子(1956-2011)  大竹しのぶ、高倉健、奈良岡朋子
鉄道員 高倉健、小林稔侍、田中好子.jpg 鉄道員 大竹しのぶ、高倉健、奈良岡朋子.jpg
吉岡 秀隆            撮影の合間に談笑する志村けんと高倉健
鉄道員 吉岡 秀隆1.jpg撮影の合間に談笑する志村けんと高倉健.jpg


「駅 STATION」●.jpg駅station dvd.jpg「駅 STATION」●制作年:1981年●監督:降旗康男●製作:田中寿一●脚本:倉本聰●撮影:木村大作●音楽:宇崎竜童(主題歌のみ坂本龍一)●時間:132分●出演:高倉健/倍賞千恵子/いしだあゆみ/岩淵建/名古屋章/大滝秀治/八木昌子/池部良/潮哲也/寺田農/渡会洋幸/高駅station 01.jpg橋雅男/榎本勝起/烏丸せつこ/田中邦衛/竜雷太/小林念侍/根津甚八/宇崎竜童/北林谷栄/藤木悠/永島敏行/古手川祐子/今福将雄/名倉良/平田昭彦/阿藤海/室田日出男●公開:1981/11●配給:東宝●最初に観た場所:テアトル池袋(82-07-24)(評価★★☆)●併映:「泥の河」(小栗康平)
駅 STATION [DVD]
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駅 STATION 池部良.JPG 駅station 06.jpg 駅Station 大滝秀治2.jpg
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【2000年文庫化[集英社文庫]/2004年再文庫化[講談社文庫(『鉄道員/ラブ・レター』)]/2013年文庫化[集英社みらい文庫]】

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ここまで三島の作品と人生を再現していれば立派なもの。

Mishima dvd.jpgMishima dvd  .jpg Mishimages.jpg 三島由紀夫と一九七〇年.jpg
MISHIMA : LIFE IN FOUR CHAPTERS」/緒形 拳/『三島由紀夫と一九七〇年
Mishima - A Life in Four Chapters

MISHIMA:A LIFE IN FOUR CHAPTERS .jpg  三島由紀夫の生涯を四つの章に分け、3つの章でその作品等を通して三島文学を描き、第4章で自決に至るまでを描くことで、三島の文学や生き方、そして死に方を探った作品で、監督と脚本は「ザ・ヤクザ」('74年/米)、「タクシードライバー」('76年/米)の脚本、「キャット・ピープル」('82年/米)の監督のポール・シュレイダー(「晩春」など小津安二郎監督作品の読み解きでも知られる)、製作総指揮はフランシス・フォード・コッポラとジョージ・ルーカス、公開に至らなかった日本版はロイ・シャイダーによる英語ナレーション付き、米国版は緒形拳による日本語ナレーション付きです(1985年度の第38回カンヌ国際映画祭最優秀芸術貢献賞受賞作)。

Mishima 01 Ken Ogata Yukio Mishima.gif 「今現在」を「1970年11月25日」に置いて、三島(緒形拳)が自決した当日の起床からの経過を現在進行形でカラー・ドキュメンタリー風に描き、その「今現在」の時の流れをベースに、三島の幼少期から「楯の会」結成までの半生をモノクロームで描いた「フラッシュバック(回想)」シーンを交える一方、第1章「美(beauty)」で『金閣寺』、第2章「芸術(art)」で『鏡子の家(Kyoko's House)』、第3章「行動(action)」で『奔馬(Runaway Horses)』(『豊饒の海』第2部)の各作品をダMISHIMA1-1.jpgイジェストで映像化しており、最後の第4章「文武両道(harmony of pen and sword)」で、三石岡瑛子 mishima.jpg島が市ヶ谷駐屯地に到着した場面から自決に至るまでを描いています。こうなるとかなり複雑な印象を与石岡瑛子.jpgえますが、回想部分はモノクロで、作品部分は「劇中劇」として極めて演劇的に作られているため(石岡瑛子(1938-2012/73歳没)が美術担当)、観ていてたいへん分かり易いものとなっています。

Mishima 02 Naoko Otani.gif 冒頭で、三島が母(大谷直子)や祖母(加藤治子)との特異な幼少期を経て、思春期から同性愛的指向を自覚したことなどを紹介、第1章では簡略化された『金閣寺』が劇中劇として描かれ、ドモリでコンプレックスのMishima01 金閣寺.jpg塊のような学生(ある意味、三島のペルソナである)で金閣寺の住職になることを目指して修行する溝口(五代目 坂東八十助=十代目 坂東三津五郎)が、障害者でありながらをそれを逆手にとって高い階級の女を籠絡している柏木(佐藤浩市)と出会い、そのMishima 11 Yasosuke Bando Mizoguchi.gifMishima 12 Koichi Sato.gifMishima01 金閣寺s.jpg手ほどきで女性に接するも臆して何もできなかった後(ここでフラッシュバックで青年期の三島(利重剛)が病弱だったために戦争の徴兵を逃れ得たことなどが描かれる)、今度は老師(笠智衆)から施されたMISHIMA  ryu.jpg金で遊郭で遊女(萬田久子)を抱き、女に「どでかいことをする」と言うが、それは金閣寺を燃やすことだった―といMishima 13 Hisako Manda Mariko.gifうもの(ここで三島が自邸を出て「盾の会」のメンバーと市ヶ谷駐屯地へ向かうため車に乗り込む"現在"のシーンに切り替わり、更に今度は、モノクロで『潮騒』などの作品で作家として高い評価を得た頃の三島を描く)。

Mishima 21 Kenji Sawada Osamu.gifMishima 22 Setsuko Karasuma.gif 第2章では『鏡子の家』を演劇化しており、原作では鏡子というある種"巫女"的な女性を軸に、恵まれた結婚をし将来が嘱望されるエリート会社員「清一郎」、拳闘家でボクシングで王座を獲る「俊MISHIMA:A LIFE IN FOUR CHAPTERS sachiko hidari.jpg吉」、美貌の無名俳優でボディビルで鋼の肉体を得る「収」、天分豊かな童貞の日本画家で画壇での名声を博す「夏雄」の4人が登場しますが(それぞれが三島のペルソナと言える)、ここでは俳優の「収」(沢田研二)にフォーカスして、母親(左幸子)や恋人(烏丸せつこ)との関係を描いています(ここでまたモノクロのフラッシュバックになり、男とダMISHIMA:4X1.jpgンスし―ダンス相手のモデルは美輪明宏か―同性愛者として美醜にこだわり、ボディビルMISHIMA:A LIFE IN FOUR CHAPTERS kurata.jpgMishima 23 Tadanori Yokoo Natsuo.gifによって肉体改造に励む三島の姿が描かれる)。次に、ラーメン屋台のような所に収、俊吉(倉田保昭)、夏雄(横尾忠則)がいて芸術談義をしていると思ったら、収は清美(李麗仙)という女社長に会って母親の負債を相殺するためのある種"奴隷契約"Mishima kyoko no ie2.jpgMishima kyoko no ie.jpgを結ばされ(その間、三島のセミヌード写真の撮影模様や出演した映画のポスターなどがフラッシュバックで入る)、母親にはいい役がついたと報告し、最後はピンク色の部屋でその清美に自分の肉体をマゾヒスティックに傷つけられている―(ここで市ヶ谷に向かう車中の三島と「盾の会」のメンバーのシーンに切り替わる)。

Mishima 31 Toshiyuki Nagashima Isao.gif 第3章は、『奔馬』の主人公・飯沼勲(永島敏行)を描いた劇中劇で、剣道3段の飯島青年が政界Mishima honmaU.jpgの黒幕を倒すべく陸軍中尉(勝野洋)や同志らとクーデターを謀るという二・二六事件をモチーフにした原作通りMISHIMA:A LIFE IN FOUR CHAPTERS17.jpgの展開で(フラッシュバックで日本刀を振るって剣術に精進する三島が描かれる)、彼が首謀者となって同じ学生仲間らと決行を誓い合いますが(そこでまたフラッシュバックで「盾の会」の結成やその閲兵式の模様が描かれ、更に、'69年の東大全共闘との討論会の様子が描かれる)、事を起こす前に飯島らは逮捕され、飯島は聴取にあたった尋問官(池部良)に拷問してくれとミシマ ア・ライフ・イン・フォー・チャプターズ21.jpgMishima 32 Ryô Ikebe.gif頼むが叶わない。その後、飯島は脱獄に成功し、政界の黒幕・蔵原(根上淳)を暗殺Mishima honma2.jpgすると、海を見渡す断崖へと直行し、暁の太陽を背に割腹自殺を図る―(ここでいきなり、映画「憂国」の切腹シーンを撮影中の三島のモノクロ・フラッシュバックになる。そして、映画「憂国」の完成記者会見の模様が入る)。

MISHIMA:A LIFE IN FOUR CHAPTERS.jpg 第4章は、これまで「今現在」として描かれてきた「1970年11月25日」の部分の続きで、三島らが市ヶ谷駐屯地に到着してから自決に至るまでが描かれており(間にフラッシュバックで「盾の会」の自衛隊体験入隊の模様が描かれる)、自決前のバルコニーでの演説をはじめ、「三Mishima42.jpg島事件」を克明に描いています(更に間に、ロッキードF104戦闘機に試乗した際の模様が描かれる)。最後に三島が切腹して雄叫びする場面に続いて、第1部から第3部の小説のラストMishimaR.jpgシーンがワンカットずつ描かれ、『奔馬』の最後の一行のナレーションと共に、冒頭のタイトルバックにあった太陽が正面に昇っている風景でエンドロールとなります。なお、「フラッシュバック」で描かれる半生の挿話やナレーションには、自伝的小説『仮面の告白』や随筆『太陽と鉄』などからの引用が使用されています。

 ポール・シュレイダーの実兄の故レナード・シュレーダー(同じく脚本家で、同志社大学と京都大学で英文学の講師をしていた)が生前の三島由紀夫と親交があり、10年間の構想を経て弟と共に脚本を書き始めたのが契機のようですが、よく出来ていると思いました(ハリウッドの知性派女ジョディ・フォスターs.jpg優として知られ、2013年のゴールデングローブ賞授賞式において、自身が同性愛者であることをほぼ公表したジョディ・フォスターが絶賛している)。主人公の三島の役は、最初は高倉健にオファー高倉健G.jpgされていたらしいのですが(高倉健はポール・シュレイダー脚本、シドニー・ポラック監督の「ザ・ヤクザ」('74年/米)に出演している)、右翼などの妨害や誹謗が危惧されて、一度は受けたものの降りてしまい、緒形拳になったったとか。撮影直前までの脚本では、第4章に『天人五衰』(『豊饒の海』第4部)が含まれていたのが、構成が複雑になりすぎるとの理由で割愛されたそうです。更に、ポール・シュレイダー監督は第2章で『禁色』を使うことを希望していたのが、三島の遺族側の承諾が得られず、『鏡子の家』になったとのこと。結局、全体4章の内、作品を再現したのは第1~第3章であり、また、『鏡子の家』で4人の登場人物の内1人のみにフォーカスするという形にはなったMishima irie.jpgものの、ここまで三島の作品と人生を再現していれば立派なものだと思います(それが理解できるかどうかはまた別の問題として)。細かい点で事実と異なるとの指摘もあるようですが(第2章のフラッシュバックに写真集『薔薇刑』の撮影模様があるが、三島はこの映画のように撮影の際に自らカメラのアングルを指示するようなことはなく、完全に「被写体」に徹していたという当のカメラマン細江英公氏の指摘など)、そうした細かい指摘がされるというのは、逆に言えばドキュメンタリーとしても一定の水準を満たしているからであるように思います(ジョディ・フォスターは「作品部分の凝った構成と、生涯の部分のドキュメンタリー・タッチの対比が絶妙」だと評価している)。

三島由紀夫と一九七〇年  .jpg 結局、上映自体が遺族側の了解が得られず、作品は日本では劇場公開されなかったわけで、惜しいことです(同性愛を示唆する場面は結構あったが、それ以外に政治的な理由があったともされている)。長年ビデオ・DVD化されない「幻の作品」であっため、自分自身も、中身がよく分からないのでやや"色物"的な作品ではないかとの先入観が以前はありましたが、近年しばしばネットで見かけ、更に"ゲリラ・リリース"された『三島由紀夫と一九七〇年』('10年/鹿砦社)付録の米国版DVDを観直して観ると、映像も綺麗だし、演技陣も錚々たるメンバーであり、また、よく演出したものだと思いました。作家とその作品の関係性を描くという意味でも非常に大胆な試みであり、それは100%成功しているわけではないですが、分かり易いというだけでも評価できるのではないでしょうか。

Chishu Ryu, Paul Schrader, and Yasosuke Bando on the set of Mishima: A Life in Four Chapters. MISHIMA_500.jpg
「MISHIMA:A LIFE IN FOUR CHAPTERS」●制作年:1985年●制作国:アメリカ・日本●監督:ポール・シュレイダー●製作:山本又一朗/トム・ラディ●脚本:ポール・シュレイダー/レナード・シュレイダー/チエコ・シュレイダー●撮影:ジョン・ベイリー/栗田豊通●音楽:フィリップ・グラス●美術:石岡瑛子●原作:三島由紀夫●120分●出演:●[フラッシュバック(回想)]緒形拳/利重剛/大谷直子/加藤治子/小林久三/北詰友樹/新井康弘/細川俊夫/水野洋介/福原秀雄 [1970年11月25日]緒形拳/塩野谷正幸/三上博史/立原繁人(徳井優)/織本順吉/江角英明/穂高Mishima A Life in Four Chapters (1985).jpg坂東三津五郎.jpg稔 [第1章・金閣寺]坂東八十助/佐藤浩市/萬田久子/沖直美/高倉美貴/辻伊万里/笠智衆(米国版のみ) [第2章・鏡子の家]沢田研二/左幸子/烏丸せつこ/倉田保昭/横尾忠則/李麗仙/平田満 [第3章・奔馬]永島敏行/池部良/誠直也/勝野洋/根上淳/井田弘樹●米国公開:1985/10●DVD発売:2010/11●発売元:鹿砦社(『三島由紀夫と一九七〇年』附録)(評価:★★★★)
十代目 坂東三津五郎(五代目 坂東八十助)(1956-2015.2.21/享年59)

Mishima: A Life in Four Chapters (1985)

Kyoko's House.jpg
「第2章・鏡子の家」沢田研二/李麗仙(1942-2021.6.22/享年79

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寺山色が薄まった「サード」、寺山と羽仁進とのコラボがうまくいっていない「初恋・地獄変」。

サード ちらし.jpgサード.jpg 帰らざる日々.jpg 桃尻娘 竹田かほり.jpg 初恋・地獄篇.jpg
サード [DVD]」/ 「帰らざる日々 [DVD]」/ 「ピンクヒップガール 桃尻娘 [DVD]」 /「初恋・地獄篇 [DVD]」ポスターデザイン:宇野亜喜良
「サード」チラシ

サード4.jpgサード 78.jpg 「サード」('78年3月/ATG)は、少年院にいる"サード"という少年の、大人達から浮ついた励ましの言葉をかけられたところで決して満たされることのない鬱々とした日々を描いた作品。彼は元々、「大きな町へ行く」ことを夢見る高校生男女の4人組の1人で、資金稼ぎに始めた売春がもとで事件を起こし少年院へ送られてきたのだった―。

サード3.jpgサード  .jpg 寺山修司(1935‐1983)の脚本で(原作は軒上泊の「九月の町」)ATG映画の中でも評価の高い作品ですが(第52回キネマ旬報ベスト・テン第1位)、その脚本をまた撮影段階で大幅に変更したとのことで、寺山修司自身が監督した作品と比べれば当然ですが、この作品単体で見ても寺山の色をあまり感じませんでした。

サード1.jpg ただ、"オシ"という無口な少年をはじめ、"トベチン"、"アキラ"、"漢字"、脱走を試みる"ⅡB"といった少年達は皆、自閉的ながらもユニークで、こういうキャラは寺山の半自伝的作品にもあったかも(そう言えば"短歌"と呼ばれている少年もいた)。

 野球少年だったサードはひたすらホームベースの見えないグランドをぐるぐる走り続ける―ちょっとアラン・シリトーの『長距離走者の孤独』を想い出しますが、少年院の大人達に対するサード達の抵抗は、教育会で講師が語っているときにオナラをしたり、褒め言葉に対して暴言で返したりする程度で、ボランティアで慰問に訪れた女の子を暴行するのは、彼らの夢想の世界でのことでしかなく、今観れば、ああ、ここにも70年代の"閉塞感"があるなあと...。

永島敏行ド.jpgサード2.jpg 永島敏行(1956年生まれ。現在、俳優兼「農業コンサルタント」?)は、この作品が映画初出演でしたが、演技はそれほど悪くないけれども良くもないと言うか、あまり陰が感じられず、同年に主演した藤田敏八(1932‐1997/享年65)監督の帰らざる日々」('78年/日活)でのキャバレーのボーイをしながら作家を志している青年役の方が、まだ演技らしい演技だったかも。  

森下愛子(「サード」)
森下愛子.jpgサード1978年森下.jpg 「サード」は、主人公を演じた永島敏行よりも、主人公の女友達役の森下愛子(1958年生まれ、この作品が映画初出演。吉田拓郎と結婚し、いったん芸能活動を休止したが、その後また復帰し、宮藤官九郎脚本の作品の常連に)の陰のある演技が良く、「帰らざる日々」で主人公の青年が高校時代に思いを寄せた喫茶店のウェイトレス役の浅野真弓(1957年生まれ)や、中学時代の同級生役の竹田かほり(1958年生まれ、同年の「桃尻娘 ピンク・ヒップ・ガール」('78年4月/日活)が映画初主演)などの演技も良かったように思います(橋本治原作の「桃尻娘 ピンク・ヒップ・ガール」は思春期の女の子をヴィヴィッドに描いていて単純に面白かった)。

森下愛子2.jpg サード 森下愛子.jpg  「帰らざる日々」浅野真弓.jpg 浅野真弓.jpg
森下愛子(「サード」)                    浅野真弓(「帰らざる日々」)
帰らざる日々2.jpg 帰らざる日々 竹田.jpg  竹田かほり ピンク・ヒップ.jpg
竹田かほり(「帰らざる日々」)      竹田かほり(「桃尻娘 ピンク・ヒップ・ガール」)

「初恋・地獄篇」 ('68年/ATG)
初恋・地獄変2.png初恋・地獄変.gif 寺山修司は「サード」以前にも、羽仁進監督の「初恋・地獄変」('68年/ATG)の脚本を羽仁進と共同で書いていて、これは、救護院にいた少年が彫金師に引き取られて成長する様を、少年の過去と現在を交互に織り交ぜ、そこにインタビューや隠し撮りなどのドキュメンタリーの手法も入れて描いたものですが、こちらは「サード」と違って、寺山の色が薄いと言うより、どの部分が寺山修司でどの部分が(多分ゴダールの影響を受けたらしい)羽仁進の部分かということが、観ていて何となく分かってしまう―その点では、必ずしも成功したコラボだったようには思えませんでした。

 一方、「サード」の監督・東陽一の手掛けた初の劇映画は「やさしいにっぽん人」('71年/東プロ)でした(この作品は新宿紀伊國屋ホールで観て、監督・出演者らの舞台挨拶があった。紀伊國屋ホールは緑魔子が70年代にリサイタルをやった会場でもあった)。沖縄で起きた集団自決から生き延びた赤ん坊が、そのことを何も覚えていないまま成長し、恋人や友人たちと一緒に真の「ことば」を求めて遍歴する姿を描く―という、今観るといかにも「70年代」といった感じの作品ですが、主人公・謝花(シャカ)の解放の道筋の合間に、育児ノイローゼの母親、ベトナム反戦デモなど当時の日本の世相が織り込まれ、出演陣も、河原崎長一郎、緑魔子、伊丹十三、伊藤惣一、石橋蓮司、蟹江敬三、渡辺美佐子と今観ると多彩で、「東京物語」('53年)のお婆さん・東山千栄子や、「ウルトラマン」('66-'67年)のフジ・アキコ隊員・桜井浩子も出演しています。
                
「やさしいにっぽん人」主題歌(詞:東陽一/曲:海老沼裕・田山雅光)
やさしいにっぽん人 dvd.jpg伊丹十三 .jpg 出演俳優の1人だった伊丹十三は、「このスタッフの無謀さに賭ける」という言葉を残していますが、当時の「時代の雰囲気」が出過ぎていて、遅れてきた世代には逆に中に入り込みにくいかも。そうしたの中で、別に説明的であるわけではなく、ただ存在として最も「時代の雰囲気」を分かり易く感じさせるのは、当時、石橋蓮司の内縁の妻だった緑魔子でしょうか(後に結婚)。東陽一監督は、「日本妖怪伝サトリ」('73年/青林舎)でも緑魔子を使っていました。 「やさしいにっぽん人 [DVD]」 2013年発売(販売元: 紀伊國屋書店)

やさしいにっぽん人7.jpgやさしいにっぽん人_o2.gif 日本妖怪伝 サトリ (1973).jpg日本妖怪伝サトリ [DVD]
「やさしいにっぽん人」映画チラシ/パンフレット表4

サード atg.jpgサード ≪HDニューマスター版≫ [DVD]」['17年]
サード ≪HDニューマスター版≫ [DVD].jpg「サード」●制作年:1978年●監督:東(ひがし)陽一●製「サード」永島1.jpg作:前田勝弘●脚本:寺山修司●撮影:川上皓市/小林達比古●音楽:田中未知●原作:軒上泊「九月の町」●時「サード」森下.jpg間:103分●出演:永島敏行/吉田次昭/森下愛子/志方亜紀子/片桐夕子/峰岸徹/内藤武敏/島倉千代子/西塚肇/根本豊/池田史比古/佐藤俊介/鋤柄泰樹/若松武 /飯塚真人/宇土幸一/渋谷茂/尾上一久/藤本新吾/岡本飯田橋ギンレイホールes.jpgギンレイホール.jpg弘樹/穂高稔/市原清彦/今村昭信/杉浦賢次/清川正廣/津川泉/小林悦子/大室温子/秋川ゆか/関口文子/角間進/北原美智子/品川博●公開:1978/03●配給:ATG●最初に観た場所:飯田橋・ギンレイホール(78-07-25)(評価:★★★)●併映:「祭りの準備」(黒木和雄)
ギンレイホール 1974年1月3日飯田橋にオープン 2022年11月27日閉館

江藤潤・永島敏行
「帰らざる日々」1978.jpg帰らざる日々00.jpg「帰らざる日々」●制作年:1978年●監督:藤田敏八●製作:岡田裕●脚本:藤田敏八/中岡京平●撮影:前田米造●音楽:アリス●原作:中岡京平●時間:99分●出演:江藤潤/永島敏行/朝丘雪路/根岸とし江(根岸季衣)/浅野真弓/竹田かほり/中村敦夫/中尾彬/吉行和子/小松方正/草薙幸二郎/丹波義隆/加山麗子/阿部敏郎/高品正広/深見博/日帰らざる日々takeda.jpg夏たより●公開:1978/08●配給:日活●最初に観た場所:飯田橋ギンレイホール(79-05-23)●2回目:神田・神保町シアター(22-08-28)(評価:★★★★)●併映(1回目):「八月の濡れた砂」/「赤い鳥逃げた?」(藤田敏八)
竹田かほり in「帰らざる日々」


桃尻娘 ピンク・ヒップ・ガールpf.jpg桃尻娘 ピンク・ヒップ・ガールvhs.jpg竹田かほり4.jpg「桃尻娘 ピンク・ヒップ・ガール」●制作年:1978年●監督:小原宏裕(おはらこうゆう)●製作:岡田裕●脚本:金子成人●撮影:森勝●音楽:長戸大幸●原作:橋本治「桃尻娘」●時間:87分●出演:竹田かほり/亜湖/高橋淳/野上祐二/桑崎晃男/森川麻美/清水国雄/佐々木梨里/片桐夕子/0『桃尻娘 ピンク・ヒップ・ガール』.jpg内田裕也/遠山牛/大竹智子/一谷伸江/関悦子/岸部シロー●公開:1978/04●配給:日活●最初に観た場所:池袋文芸地下(79-06-03)(評価:★★★☆)●併映:「ふりむけば愛」(大林宣彦)
    
初恋・地獄篇 ≪HDニューマスター版≫ [Blu-ray]」['17年]
初恋・地獄篇 ≪HDニューマスター版≫.jpg『初恋・地獄篇』(羽仁進監督)1.bmp『初恋・地獄篇』(羽仁進監督)2.bmp「初恋・地獄篇」●制作年:1968年●監督:羽仁進●脚本:脚本:寺山修司/羽仁進●撮影:奥村祐治●音楽:武満徹/矢代秋雄●時間:107分●出演:高橋章夫/石井くに子/満井幸治/福田知子/宮戸美佐子/湯浅実/額村喜美子/木村一郎/支那虎/湯浅春男●公開:1968/05●配給:ATG●最初に観た場所:有楽町・日劇文化(80-07-17)(評価:★★☆)●併映:「書を捨てよ町へ出よう」(寺山修司)

やさしいにっぽん人.jpgやさしいにっぽん人 vhd.jpg「やさしいにっぽん人」●制作年:1971年●監督:東陽一●製作:高木隆太郎●脚本:東陽一/前田勝弘●撮影:池田伝一●音楽:東陽一/田山雅光●時間:112分●出演:河原崎長一郎/緑魔子/伊丹十三/伊藤惣一/石橋蓮司/蟹江敬三/渡辺美佐子/寺田柾/横山リエ/大辻伺郎/平田守/東山千栄子/桜井浩子/秋浜悟史/陶隆司●公開:1971/03●配給:東プロ●最初に観た場所:●最初に観た場所:●最初に観た場所:新宿・紀伊國屋ホール(82-03-27)(評価:★★★☆)●併映:「日本妖怪伝サトリ」(東陽一)
東陽一監督「やさしいにっぽん人」('71年)/「日本妖怪伝サトリ」('73年)
「やさしいにっぽん人」「日本妖怪伝サトリ」.jpg
「やさしいにっぽん人」パンフレット
やさしいにっぽん人754.jpg
やさしいにっぽん人 813.jpg

竹田かほり in 探偵物語.jpg盲獣 midori .jpg 緑魔子 in「盲獣」('69年/東映)
竹田かほり in「探偵物語(TVドラマ)」(1979/09~1980/04(全27回)/TBS)

紀伊國屋書店.jpg紀伊国屋ホール.jpg紀伊國屋ホール 1964年、紀伊國屋書店本店4階にオープン。2003年、第51回菊池寛賞受賞。


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写真が豊富(数千点)かつ鮮明。生活費を切り詰め集めた"執念のコレクション"。

東宝特撮怪獣映画大鑑(増補版).jpg 東宝特撮怪獣映画大鑑 増補版.jpg ゴジラ.jpg モスラ対ゴジラ1964.jpg
東宝特撮怪獣映画大鑑』(1999/03 朝日ソノラマ) 「ゴジラ」(1954)/「モスラ対ゴジラ」(1964)

 朝日ソノラマの旧版('89年刊行)の「増補版」。553ページにも及ぶ大型本の中で、'54年の「ゴジラ」から'98年の「モスラ3」までのスチールや撮影風景の写真などを紹介していますが、とにかく写真が充実(数千点)しているのと、その状態が極めてクリアなのに驚かされます。

浅野ゆう子.jpg 怪獣映画ファンサークル代表竹内博氏が、仕事関係で怪獣映画の写真が手元に来る度に自費でデュープして保存しておいたもので(元の写真は出版社や配給会社に返却)、当時の出版・映画会社の資料保管体制はいい加減だから(そのことを氏はよく知っていた)、結局今や出版社にも東宝にもない貴重な写真を竹内氏だけが所持していて、こうした集大成が完成した、まさに生活費を切り詰め集めた"執念のコレクション"です(星半個マイナスは価格面だけ)。

水野久美2.jpg若林映子2.jpg やはり、冒頭に来るのは「ゴジラ」シリーズですが、スチールの点数も多く、ゴジラの変遷がわかるとともに、俳優陣の写真も豊富で、平田昭彦、小泉博、田崎潤、佐原健二、藤木悠、宝田明、高島忠夫、女優だと水野久美若林映子(後のボンドガール)、根岸明美、さらに前田美波里や、ゴジラものではないですが浅野ゆう子('77年「惑星大戦争」)なども出ていたのだなあと。

モスラ対ゴジラ.jpgモスラ.jpgゴジラ ポスター.jpg 「ゴジラ」('54年)は、東宝の田中友幸プロデューサーによる映画「ゴジラ」の企画が先にあって、幻想小説家の香山滋が依頼を受けて書いた原作は原稿用紙40枚ほどのものであり、現在文庫で読める『小説ゴジラ』は、映画が公開された後のノヴェライゼーションです。

ゴジラ 1954.jpgゴジラs29.jpg  自分が生まれる前の作品であり(モノクロ)、かなり後になって劇場で観ましたが、バックに反核実験のメッセージが窺えたものの、怪獣映画ファンの多くが過去最高の怪獣映画と称賛するわりには、自分自身の中では"最高傑作"とするまでには、今ひとつノリ切れなかったような面もあります。やはりこういうのは、子供の時にリアルタイムで観ないとダメなのかなあ。ゴジラ 1954.jpg初めて「怪獣映画」というものを観た人たちにとっては、強烈なインパクトはあったと思うけれど。昭和20年代終わり頃に作られ、自分がリアルタイムで観ていない作品を、ついつい現代の技術水準や演出などとの比較で観てしまっている傾向があるかもしれません。但し、制作年('54年)の3月にビキニ環礁で米国による水爆実験があり、その年の9月に「第五福ゴジラ_.jpg竜丸」の乗組員が亡くなったことを考えると、その年の12月に公開されたということは、やはり、すごく時代に敏感に呼応した作品ではあったかと思います。

宝田明(南海サルベージKK所長・尾形秀人)/河内桃子(山根恭平博士の娘・山根恵美子)/平田昭彦(科学者・芹沢大助)
Gojira (1954) 菅井きん(1926-2018/享年92)(小沢代議士)/志村喬(古生物学者・山根恭平博士)
Gojira (1954) .jpg菅井きん ゴジラ.jpgo志村喬ゴジラ.jpg「ゴジラ」●制作年:1954年●監督:本多猪四郎●製作:田中友幸●脚本:村田武雄/本多猪四郎●撮平田昭彦 ゴジラ.jpg影:玉井正夫●音楽:伊福部昭●特殊技術:円谷英二ほか●原作:香山滋●時間:97分●出演:宝田明/河内桃子/平田昭彦/志村喬/堺左千夫/村上冬樹/山本廉/榊田敬二/鈴木豊明 /馬野都留子/菅井きん/笈川武夫/林幹/恩田清二郎/高堂国典/小川虎之助/手塚克巳/橘正晃/帯一郎/中島春雄/川合玉江/東静子/岡部正/鴨田清/今泉康/橘正晃/帯一郎●公開:1954/11●配給:東宝●最初に観た場所(再見):新宿名画座ミラノ (83-08-06)(評価:★★★☆)●併映:「怪獣大戦争」(本多猪四郎)


モスラ_0.jpg 作品区分としてはゴジラ・シリーズではないですが、中村真一郎、福永武彦、堀田善衛の3人の純文学者を原作者とする「モスラ」('61年)の方が、今観ると笑えるところも多いのですが、全体としてはむしろ大人の鑑賞にも堪えうるのではないかと...。まあ、「ゴジラ」と「モスラ」の間には7年もの間隔があるわけで、その間に進歩があって当然なわけだけれど。

「モスラ」('61年)予告

モスラ51.jpg ザ・ピーナッツ(伊藤エミ(1941-2012)、伊藤ユミ(1941-2016))のインドネシア風の歌も悪くないし、東京タワー('58年完成、「ゴジラ」の時「モスラ」(61年).jpgはまだこの世に無かった)に繭を作るなど絵的にもいいです。原作「発光妖精とモスラ」では繭を作るのは東京タワーではなく国会議事堂でしたが、60もののけ姫のオーム.jpg年安保の時節柄、政治性が強いという理由で変更されたとのこと、これにより、モスラは東京タワーを最初に破壊した怪獣となり、東京タワーは完成後僅か3年で破壊の憂き目(?)に。繭から出てきたのは例の幼虫で、これが意外と頑張った? 宮崎駿監督の「もののけ姫」('97年)の"オーム"を観た時、モスラの幼虫を想起した人も多いのではないでしょうか。

モスラ4S.jpg「モスラ」●制作年:1961年●監督:本多猪四郎●製作:田中友幸●脚色:関沢新一●撮影:小泉一●音楽:古関裕而●特殊技術:円谷英二●イメージボード:小松崎茂●原作:中村真一郎/福永武彦/堀田モスラ_1.jpg善衛「発光妖精とモスラ」●時間:101分●出演:モスラ111 .jpgフランキー堺小泉博香川京子/ジェリー伊藤/ザ・ピーナッツ(伊藤エミ、伊藤ユミ)/上原謙志村喬平田昭彦/佐原健二/河津清三郎/小杉義男/高木弘/田島義文/山本廉/加藤春哉/三島耕/中村哲/広「モスラ」上原・香川.jpg志村 モスラ.jpg瀬正一/桜井巨郎平田昭彦 モスラ.jpg/堤康久●公開:1961/07●配給:東宝●最初に観た場所(再見):新宿シアターアプル (83-09-04)(評価:★★★☆)●併映:「三大怪獣 地球最大の決戦」(本多猪四郎)   
   
   
モスラ対ゴジラ ポスター2.jpgモスラ対ゴジラ ポスター.jpg 「ゴジラシリーズ」の第1作「ゴジラ」を観ると、ゴジラが最初は純粋に"凶悪怪獣"であったというのがよくわかりますが、「ゴジラシリーズ」の第4作「モスラ対ゴジラ」('64年)(下写真)の時もまだモスラの敵役モスラ対ゴジラ 02.jpgでした。この作品はゴジラにとって怪獣同士の闘いにおける初黒星で、昭和のシリーズでは唯一の敗戦を喫した作品でもあります。因みに、「ゴジラシリーズ」の第3作「キングコング対ゴジラ」('62年)は両者引き分け(相撃ち)とされているようです。それが、'64年12月に公開された('64年12月公開予定だった黒澤明監督「赤ひげ」の撮影が長引いたため、正月興行用に急遽制作された)「ゴジラシリーズ」の第5作「三大怪獣 地球最大の決戦」('64年)(下写真)「三大怪獣 地球最大の決戦」('64年)3.jpgになると、宇宙怪獣キングギド三大怪獣 地球最大の決戦.jpgラを倒すべく力を合わせようというモスラ(幼虫)の"呼びかけ"にラドンと共に"説得"されてしまいます。この怪獣たちが極端に擬人化された場面のバカバカしさは見モノでもあり、ある意味、珍品映画として貴重かもしれません。ともかく、ゴジラはこの作品以降、昭和シリーズではすっかり"善玉怪獣"になっています(この映画で、東京上空を飛行したキングギドラは衝撃波で東京タワーを破壊し、「モスラ」に続いて東京タワーを破壊した2番目の怪獣となる)。また、この「三大怪獣 地球最大の決戦」には、後にボンドガールとなる若林映子が、キングギドラに滅ぼされた金星人の末裔であるサルノ王女(の意識が憑依した女性)役で出ていましたが、王女の本名はマアス・ドオリナ・サルノ(まあ素通りなさるの!)でした(笑)。この作品、「四大怪獣」ではないかとも言われましたが、モスラ、ゴジラ、ラドンの地球の3匹が若林映子 サルノ王女.jpg三大怪獣 地球最大の決戦 (1964年)-s2.jpg平田昭彦 三大怪獣jpg.jpgを力を合わせて宇宙怪獣キングギドラ戦に挑むことから、「地球の三大怪獣」にとっての最大の決戦という意味らしいです。
若林映子(サルノ王女)/夏木陽介・星由里子・志村喬 in「三大怪獣 地球最大の決戦」/平田昭彦

Mosura tai Gojira(1964)
Mosura tai Gojira(1964).jpgモスラ対ゴジラ hujita .jpgモスラ対ゴジラ2.jpg「モスラ対ゴジラ」●制作年:1964年●監督:本多猪四郎●製作:田中友幸●脚色:関沢新一●撮影:小泉一●音楽:伊福部昭●特殊技術:円谷英二●時間:89分●出演:宝田明星由里子小泉博/ザ・ピーナッツ(伊藤エミ、伊藤ユミ)/藤木悠/田島義文/佐原健二/谷晃/木村千吉/中モスラ 小美人用に作られた巨大セット.jpgモスラ .jpg山豊/田武謙三/藤田進/八代美紀/小杉義男/田崎潤/沢村いき雄/佐田豊/山本廉/佐田豊/野村浩三/堤康久/津田光男/大友伸/大村千吉/岩本弘司/丘照美/大前亘●公開:1964/04●配給:東宝(評価:★★★☆)
小泉博・宝田明・星由里子・ザ・ピーナッツ/小美人用に作られた巨大セット(本多監督とザ・ピーナッツ)
「モスラ対ゴジラ」('64年)予告

「三大怪獣 地球最大の決戦」('64年)予告

San daikaijû Chikyû saidai no kessen(1964)                 
三大怪獣・地球最大の決戦 パンフレット.jpgSan daikaijû Chikyû saidai no kessen(1964).jpg三大怪獣 地球最大の決戦2.jpg「三大怪獣 地球最大の決戦」●制作年:1964年●監督:本多猪四郎●製作:田中友幸●脚本:関沢新一●撮影:小泉一●音楽:伊福部昭●特殊技術:円谷英二●時間:97分●出演:夏木陽介/小泉博/星由里子若林映子「三大怪獣 地球最大の決戦」.png三大怪獣 地球最大の決戦 星百合子e.jpgザ・ピーナッツ/志村喬/伊藤久哉/平田昭彦/佐原健二/沢村いき雄/伊吹徹/野村浩三/田島義文/天本英世/小杉義男/高田稔/英百合子/「三大怪獣 地球最大の決戦」6.jpg加藤春哉●時間:93分●公開:1964/12●配給:東宝●最初に観た場所(再見):新宿シアターアプル (83-09-04)(評価:★★☆)●併映:「モスラ」(本多猪四郎)
夏木陽介・若林映子(サルノ王女) in「三大怪獣 地球最大の決戦」
  
怪獣大戦争.jpg怪獣大戦争01.jpg 更に、ゴジラシリーズ第6作「怪獣大戦争」('65年)は、地球侵略をたくらむX星人がキングギ怪獣大戦争 土者.jpgドラ、ゴジラ、ラドンの3大怪獣を操り総攻撃をかけてくるというもので、X星人の統制官(土屋嘉男)がキングギドラを撃退するためゴジラとラドンを貸して欲しいと地球人に依頼してきて(土屋嘉男は「地球防衛軍」('57年)のミステリアン統領以来の宇宙人役か)、その礼としてガン特効薬を提供すると申し出るが実はそれは偽りで...という、まるで人間界のようなパターンの詐欺行為。「シェー」をするゴジラなど、怪獣のショーアップ化が目立ち、"破壊王"ゴジラはここに至って、遂に自らのイメージをも完全粉砕してしまった...。

怪獣大戦争011.jpg 本書にはない裏話になりますが、この作品に準主役で出演した米俳優のニック・アダムスは、ラス・タンブリンなど同列のSF映画で日本に招かれたハリウッド俳優達が日本人スタッフと交わろうとせずに反発を受けたのに対し、積極的に打ち解け馴染もうとし、共演者らにも人気があったそうで、土屋嘉男とは特に息が合い、土屋にからかわれて女性への挨拶に「もうかりまっか?」と言っていたそうで、仕舞には、自らが妻帯者であるのに、水野久美に映画の役柄そのままに「妻とは離婚するから結婚しよう」と迫っていたそうです(ニック・アダムスは当時、私生活では離婚協議中だったため、冗談ではなく本気だった可能性がある。但し、彼自身は、'68年に錠剤の過量摂取によって死亡している(36歳))。

怪獣大戦争ges.jpgニック・アダムス2.jpg「怪獣大戦争」●制作年:1965年●監督:本多猪四郎●製作:田中友幸●脚本: 関沢新一●撮影:小泉一●音楽:伊福部昭●特殊技術:円谷英二●時間:94分●出演:宝田明/ニック・アダムス/久保明/水野久美/沢井桂子/土屋嘉男/田崎潤/田島義文/田武謙三/、村上冬樹/清水元/千石規子/佐々怪獣大戦争 土屋嘉男.jpg怪獣大戦争2.jpg木孝丸●公開:1965/12●配給:東宝●最初に観た場所(再見):新宿名画座ミラノ (83-08-06)(評価:★★☆)●併映:「ゴジラ」(本多猪四郎)
中央:X星人統制官(土屋嘉男
    
水野久美.jpg 怪獣の複数登場が常となったのか、「ゴジラ・エビラ・モスラ 南海の大決闘」('66年)などというのもあって(「ゴジラ」シリーズとしては第7作)、監督は本多猪四郎ではなく福田純で、音楽は伊福部昭ではなく佐藤勝ですが、これはなかなかの迫力だった印象があります(後に観直してみると、人間ドラマの方はかなりいい加減と言うか、ヒドいのだが)。
水野久美 in「ゴジラ・エビラ・モスラ 南海の大決闘」('66年)宝田明
ゴジラ・エビラ・モスラ 南海の大決闘 水の2.jpg
 
ゴジラ・エビラ・モスラ 南海の大決闘ps.jpgゴジラ・エビラ・モスラ 南海の大決闘2.jpg シリーズ第6作「怪獣大戦争」に"X星人"役で出ていた水野久美が今度は"原住民"の娘役で出ていて、キャスティングの変更による急遽の出演で、当時29歳にして19歳の役をやることになったのですが、今スチール等で見ても、妖艶過ぎる"19歳"、映画「南太平洋」('58年/米)みたいなエキゾチックな雰囲気もありましたが、何せ観たのは子供の時ですから、南の島の島民たちが大壷で練っている黄色いスープのような液体の印象がなぜか強く残っています(何のための液体だったのか思い出せなかったのだが、後に観直して"エビラ除け"のためのものだったと判り、スッキリした)。

「ゴジラ・エビラ・モスラ 南海の大決闘」●制作年:1966年●監「ゴジラ・エビラ・モスラ 南海の大決闘」.jpg督:福田純●製作:田中友幸●脚本:関沢新一●撮影:山田一「ゴジラ・エビラ・モスラ」水野.jpg夫●音楽:佐藤勝●特殊技術:円谷英二●出演:宝田明/渡辺徹/伊吹徹/当銀長太郎/砂塚秀夫/水野久美/田崎潤/平田昭彦/天本英世/佐田豊/沢村いき雄/伊藤久哉/石田茂樹/広瀬正一/鈴「ゴジラ・エビラ・モスラ」hirata 野.jpg「ゴジラ・エビラ・モスラ」takarada .jpg木和夫/本間文子/中北千枝子/池田生二/岡部正/大前亘/丸山謙一郎/緒方燐作/勝部義夫/渋谷英男●時間:87分●公開:1966/12●配給:東宝(評価:★★★☆)●併映:「これが青春だ!」(松森 健)
   
    
      
大怪獣ガメラgamera_1.jpg この辺りまで怪獣映画は東映の独壇場ともいえる状況でしたが、'65年に大映が「大怪獣ガメラ」、'67年に日活が「大巨獣ガッパ」でこの市場に参入します(本書には出てこないが)。このうち、「大怪獣ガメラ」('65年/大映)は、社長の永田雅一の声がかりで製作されることとなり(永田雅一の「カメ」で行けという"鶴の一声"で決まったようで、湯浅憲明(1933-2004)監督はじめスタッフは苦労したのではないか)、これがヒットして、ガメラ・シリーズは'71年に大映が倒産するまでに7作撮影されましたが、本作はシリーズ唯一のモノクロ作品です(「ゴジラ」の第1作を意識したのかと思ったが、予算と技術面の都合だったらしい)。大怪獣ガメラ 船越英二.jpgあらすじは、砕氷調査船・ちどり丸で北極にやってきた東京大学動物学教室・日高教授(船越英二)らの研究チームが、国大解呪ガメラ 1965es.jpg籍不明機を目撃、その国籍不明機には核爆弾が搭載されており、その機体爆発の影響で、アトランティスの伝説の怪獣ガメラが甦るというもの。「ガメラ」の命名者でもある永田雅一の「子供たちが観て『怪獣がかわいそうだ』とか哀愁を感じないといけない。子供たちの共感を得ないとヒットしない」との考えの大怪獣ガメラ _.jpg大怪獣ガメラ 1965_.jpgもと、ガメラは子供には優しく、特にカメを大事に飼っている主人公の少年には優しいのですが、いくら何でも擬人化し過ぎたでしょうか(永田雅一は「ガメラを泣かせろ」と指示したそうな)。特撮自体は悪くなく、逃げ惑う人々のシーンの人海戦術も効いているだけに、お子様仕様になってしまったのが惜しまれます(出来上がった作品を観て永田雅一は「面白い」と言ったそうだが、映画はヒットしたわけだから、商売人としての感性はあった?)。
大怪獣ガメラ [Blu-ray]」「大怪獣ガメラ デジタル・リマスター版 [DVD]
「大怪獣ガメラ」●制作年:1965年●監督:湯浅憲明●製作:永田秀雅(製作総指揮:永田雅一)●脚本:高橋二三●撮影:宗川信夫●音楽:山内正●時間:78分●出演:船越英二/山下洵一郎/姿美千子/霧立はるみ/北原義郎/左卜全/浜村純/北城寿太郎/吉田義夫/大山健二/小山内淳/藤山浩二/大橋一元/高田宗彦/谷謙一/中田勉/森矢雄二/丸山修/内田喜郎/槙俊夫/隅田一男/杉森麟/村田扶美子/竹内哲郎/志保京助/中原大怪獣ガメラ 船越英二  2.jpg健/森一夫/佐山真次/喜多大八/大庭健二/荒木康夫/井上大吾/三夏伸/清水昭/松山新一/岡郁二/藤井竜史/山根圭一郎/村松若代/沖良子/加川東一郎/伊勢一郎/佐原新治/宗近一/青木英行/萩原茂雄/古谷徹/中条静夫(ナレーション)●時間:87分●公開:1965/11●配給:大映(評価:★★★)

船越英二・霧立はるみ
 
「大魔神」(1966)青山良彦/高田美和/月宮於登女/藤巻潤
大魔神 1966.jpg大魔神77.jpg 「ガメラ」のヒットを受け、翌年「ガメラシリーズ」の第2作として総天然色による「大怪獣決闘 ガメラ対バルゴン」('66年/大映)が作られましたが、併映の「大魔神」('66年/大映)大魔神1.jpg方が"初物"としてインパクトがあったかも。ジュリアン・デュヴィヴィエ監督の「巨人ゴーレム」('36大魔神2.jpg年/チェコスロバキア)で描かれたゴーレム伝説に材を得たそうですが、戦国時代に悪人が陰謀を巡らせて民衆が虐げられると、穏やかな表情の石像だった大魔神が復活して動き出し、破壊的な力を発揮して悪人を倒すというストーリーは分かりやすいカタルシスがありました。大映映画ですが、音楽は東宝ゴジラ映画の伊福部昭(1914-2006/享年91)が担当しています(同じく大映映画で伊福部昭が音楽を担当した作品に、黒澤明監督が大映で撮った「静かなる決闘」('49年)がある)。「大魔神」は、ほぼ同じパターン内容で同年にシリーズ第2作「大魔神怒る」、第3作「大魔神逆襲」が公開されています。

「大魔神怒る」66年.jpg「大魔神怒る」t.jpg「大魔神怒る」1.jpg 「大魔神怒る」('66年/大映)は、1作目が大ヒットしたため、お盆興行作品として製作されたもので、監督は三隅研次(1921-1975)で、これも伊福部昭が音楽を担当。千草家とその分家・名越家が領主の平和な国が隣国か「大魔神怒る」f.jpgら侵略され、領主は滅ぶもお家再興と平和を望んで千草家の本郷功次郎の許嫁である名越家の藤村志保が魔人に願掛けするというもの。今回は魔人は「水の神」という設定になっていて、藤村志保「大魔神怒る」3.jpgが悪人たちより「大魔神怒る」4.jpg焚刑に処せられることになって、今まさに火に焼かれようとする時、この身を神に捧げますと涙を流すと大魔神が現れ(出現シーンはハリウッド映画「十戒」('57年)に想を得ている)、悪者たちが大魔人に倒され藤村志保が魔人に感謝し、その涙が湖に落ちると、魔人は水と化して消えていくという、第1作より洗練された感じでした。製作費は1億円、興行収入もほぼ同額だったそうです。
「大魔神怒る」藤村2.jpg 「大魔神怒る」藤村志保(当時27歳)

「大魔神逆襲」66年.jpg「大魔神逆襲」1.jpg 「大魔神逆襲」('66年/大映)の監督は森一生監督(1911-1989)で、これもまた音楽は伊福部昭が担当。森一生監督は「女と男はつまらない。子供好きだから「大魔神逆襲」2.jpg子供でやりたい」と子「大魔神逆襲」3.jpg.png供たちが主役に据え、少年の純真な信仰心が大魔神を動かすという設定で、今回は大魔神「雪の魔神」として雪の中から現れ、最後には粉雪となって消えていきます。子供たちを主役に据えるのも悪いとは言いませんが、やは「大魔神逆襲」4.jpg.png.jpgり当時19歳の高田美和、27歳の藤村志保と続いた後だと、完全にお子様向けに路線変更してしまったなあという印象は拭えません。製作費は1億円弱、興行では併映なしの2番館上映となり、配給収入(興行収入から映画館の取り分を差し引いた配給会社の収入)も赤字で、4作目の企画もあったものの、これで打ち止めになっています。結局、わずか1年の間の3作で終わってしまったわけですが、その分、大魔神の重厚感は印象に残るものでした。ゴジラが「怪獣大戦争」('65年)で「シェー」をするなど、シリーズが永らえたゆえに"堕落"してしまったのとは対照的と言えるでしょうか。

「大魔神」(1966)  高田美和(当時19歳)
大魔神 blu-ray.jpg大魔神 高田美和.jpg「大魔神」●制作年:1966年●監督:安田公義●製作総指揮:永田雅一●脚本:吉田哲郎●撮影:森田富士郎●音楽:伊福部昭●時間:84分●出演:高田美和/青山良彦/二宮秀樹/藤巻潤/五味龍太郎/島田竜三/遠藤辰雄/杉山昌三九/伊達三郎/月宮於登女/出口静宏/尾上栄五郎/伴勇太郎/黒木英男/香山恵子/木村玄/橋本力(大魔神)●公開:1966/04●配給:大映(評価:★★★☆)
大魔神 Blu-ray BOX」(2009)

「大魔神怒る」(1966) 藤村志保(当27歳)in「大魔神怒る」('66年)/「なみだ川」('67年・三隅研次監督)
「大魔神怒る」b.jpg「大魔神怒る」藤村.jpgなみだ川 1967 2.jpg「大魔神怒る」●制作年:1966年●監督:三隅研次●製作:永田雅一●脚本:吉田哲郎●撮影:今井ひろし/森田富士郎●音楽:伊福部昭●時間:79分●出演:本郷功次郎/藤村志保/丸井太郎/内田朝雄/北城寿太郎/藤山浩二/上野山功一/神田隆/橋本力/平泉征/水原浩一/寺島雄作/高杉玄/黒木英男/三木本賀代/橘公子/加賀爪清和/小柳圭子/橋本力(大魔神)●公開:1966/08●配給:大映(評価:★★★☆)
大魔神怒る [Blu-ray]」(2009)

「大魔神逆襲」(1966)  
「大魔神逆襲」b.jpg「大魔神逆襲」5.jpg「大魔神逆襲」え.jpg「大魔神逆襲」●制作年:1966年●監督:森一生●製作総指揮:永田雅一●脚本:吉田哲郎●撮影:森田富士郎●音楽:伊福部昭●時間:87分●出演:二宮秀樹/堀井晋次/飯塚真英/長友宗之/山下洵一郎/仲村隆/安部徹/名和宏/北林谷栄/守田学/早川雄三/堀北幸夫/石原須磨男/南部彰三/橋本力(大魔神)●公開:1966/12●配給:大映(評価:★★★☆)
大魔神逆襲 [Blu-ray]」(2009)
    
    
「ゴジラ対ヘドラ」1971.jpg 一方、話を「大映」から「東宝」に戻して、シリーズ第15作「メカゴジラの逆襲」('75年)でゴジラvsキングギドラ.jpgゴジラvsビオランテ.gif「ゴジラ」1984.jpg一旦終了した「ゴジラ」シリーズ(その間に唯一ゴジラが空を飛ぶ第11作「ゴジラ対ヘドラ」('71年)などの異色作もあった)は、'84年に9年ぶりに再開されます。久々に作られた第16作「ゴジラ」('84年)では、ゴジラを原点の"凶悪怪獣"に戻したようですが、第17作あたりから、また少しおかしくなってくる...。

「ゴジラ vs ビオランテ」vhs.jpg 第17作「ゴジラ vs ビオランテ」('89年)は、バイオテクノロジーによってゴジラとバラの細胞を掛け合わせて造られた超獣ビオランテが登場し、一般公募ストーリー5千本から選ばれたものだそうですが(選ばれたのは「帰ってきたウルトラマン」第34話「許されざるいのち」の原案者である小林晋一郎の作品。一般公募と言ってもプロではないか)、確かに植物組織を持った怪獣は、「遊星よりの物体X」('51年/米)(「遊星からの物体X」('82年/米)のオリジナル)の頃からあるとは言え、随分と荒唐無稽なストーリーを選んだものだと...。

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ゴジラ vs キングギドラ 1991.jpg 第18作「ゴジラ vs キングギドラ」('91年)は、南洋の孤島に生息していた恐竜が核実験でゴジラに変身したという新解釈まで採り入れており(ここに来てゴジラの出自を変えるなんて)、ゴジラが涙ぐんでいるような場面もあって、また同じ道を辿っているなあと(この映画、敵役の未来人のUFOが日本だけを攻撃対象とするのも腑に落ちないし、タイム・パラドックスも破綻気味)。

ゴジラvsキングギドラ tutiya2.jpg 第17、第18作は大森一樹監督で、いくらか期待したのですが、かなり脱力させられました(第18作「ゴジラ vs キングギドラ」で怪獣映画の中での土屋嘉男を見たのがちょっと懐かしかったくらいか。山村聰も内閣総理大臣役で出ていたけれど)。この監督は商業映画色の強い作品を撮るようになって、はっきり言ってダメになった気がします。大森一樹監督の最高傑作は自主映画作品「暗くなるまで待てない!」('75年/大森プロ)ではないでし山村聰「ゴジラ vs キングギドラ」.jpgょうか。神戸を舞台に大学生の若者たちが「暗くなるのを待てないで昼間から出てくるドラキュラの話」の映画を撮る話で、モノクロで制作費の全くかかっていない作品ですが、むしろ新鮮味がありました(今年['08年]3月に、大森監督によってリメイクされた)。

 結局、ゴジラ・シリーズは'04年の第28作をもって終了しますが、「ゴジラ」シリーズ全体での観客動員数は9,925万人で、「男はつらいよ」シリーズ全48作の合計観客動員数7,957万人を上回り、歴代で最も観客動員数多い劇場映画シリーズとされています('16年7月29日に「ゴジラ」シリーズの第29作、国内では「ゴジラ FINAL WARS」('04年/東宝)以来約12年ぶりの日本製作のゴジラ映画として「シン・ゴジラ」が公開され、8月1日までに観客動員71万人となり、「ゴジラ」シリーズが累計観客動員数で1億人突破した)。

ゴジラ vs ビオランテ  .jpgゴジラ vs ビオランテs.jpg「ゴジラ vs ビオランテ」●制作年:1989年●監督・脚本:大森一樹●製作:田中友幸●音楽:すぎやまこういち(ゴジラテーマ曲:伊福部昭)●時間:97分●出演:三田村邦彦/田中好子/小高恵美/峰岸徹/高嶋政伸/高橋幸治/沢口靖子(特別出演)/永島敏行(友情出演)/久我美子(友情出演)●公開:1989/12●配給:東宝(評価:★☆)ゴジラvsビオランテ [DVD]
「ゴジラ vs ビオランテ」久我.jpg「ゴジラ vs ビオランテ」永島1.jpg「ゴジラ vs ビオランテ」沢口1.jpg久我美子(大和田圭子官房長官 ※友情出演)/永島敏行(山本精一技術部長 ※友情出演)/沢口靖子(白神源壱郎博士の一人娘・白神英理加 ※特別出演)

「ゴジラ vs キングギドラ」.jpg「ゴジラ vs キングギドラ」●制作年:1991年●監督・脚本:大森一樹●製作:田中友幸●音楽:伊福部昭●特技監督:川北紘一●原作:香山滋●時間:103分●出演:中川安奈/豊原功補/小高恵美/西岡徳馬/土屋嘉男/山村聰/佐原健二/時任三郎/原田貴和子/小林昭二/佐々木勝彦/チャック・ウィルソン/ケント・ギルバート/ダニエル・カール/ロバート・スコットフィールド●公開:1991/12●配給:東宝 (評価:★☆)
  
暗くなるまで待てない!47.jpg「暗くなるまで待てない」のサウンドトラックm.jpg「暗くなるまで待てない!」●制作年:1975年●監督:大森一樹●脚本:大森一樹/村上知彦●音楽:吉田健志/岡田勉/吉田峰子●時間:30分●出演:稲田夏子/栃岡章/南浮泰造/村上知彦/森岡富子/磯本治昭/塚脇小由美/大森一樹/鈴木清順●公開:1975/04●配給:大森プロ●最初に観た場所:高田馬場パール座 (80-12-25) (評価:★★★★)●併映:「星空のマリオネット」(橋浦方人)/「青春散歌 置けない日々」(橋浦方人)

「暗くなるまで待てない」サウンドトラック(吉田健志)

日本誕生.jpg ゴジラ・シリーズ以外で、役者だけで見れば何と言っても凄いのが「日本誕生」('59年)で、ヤマタノオロチが出てくるため確かに"怪獣映画"でもあるのですが、三船敏郎、乙羽信子、司葉子、鶴田浩二、東野英治郎、杉村春子、田中絹代、原節子など錚々たる面々、果ては、柳家金語楼から朝汐太郎(当時の現役横綱)まで出てくるけれど、「大作」転じて「カルト・ムービー」となるといった感じでしょうか(観ていないけれど、間違いなくズッコケそうで観るのが怖いといった感じ)。 

「日本誕生」 アメノウズメノミコ (乙羽信子)

マタンゴ.jpg 初期の「透明人間」('54年)やガス人間第1号」('60年)など"○○人間"モノや天本英夫の「マタンゴ」('63年)といった怪奇モノ、地球防衛軍」('57年)宇宙大戦争」('59年)などの宇宙モノから中国妖怪モノ、"フランケンシュタイン"モノまで、シリーズごとのほぼ全作品を追っていて、作品当りのスチール数も豊富な上に、一部については、デザイン画や絵コンテなども収められています。

 この頃東宝はゴジラ映画だけを作っていたわけではなく、クラゲの化け物のような怪獣が登場する宇宙大怪獣ドゴラ」('66年)といった作品もありました。個人的には、"フランケンシュタイン"モノでは、フランケンシュタインの怪獣 サンダ対ガイラ」('66年)などが印象に残っています。
 
水野久美 in 「フランケンシュタイン対地底怪獣」('65年)/根岸明美 in「キングコング対ゴジラ」('62年)
東宝特撮怪獣映画大鑑1.jpg 東宝特撮怪獣映画大鑑2.jpg
根岸明美(1934.3.26-2008.3.11/享年73) in 「アナタハン」('53年)、「キングコング対ゴジラ」('62年)
根岸明美 アナタハン.jpg 根岸明美 マタンゴ.jpg
赤ひげ 根岸明美 2.jpg赤ひげ」('65年)(阿部嘉典『「映画を愛した二人」黒沢明 三船敏郎』(1996/01 報知新聞社)より)

《読書MEMO》
● 桂 千穂 『カルトムービー本当に面白い日本映画 1945→1980』['13年/メディアックス]
IMG_4モスラ.JPG

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"無能"将軍・乃木希典をなかなか解任できない軍部に見る官僚主義。

坂の上の雲1.jpg 坂の上の雲2.jpg 坂の上の雲3.jpg 坂の上の雲4.jpg 坂の上の雲5.jpg 坂の上の雲6.jpg 二百三高地 dvd.jpg
新装改訂版(全6巻)['04年](カバー画:風間 完) 『坂の上の雲 <新装版> 1』『坂の上の雲 <新装版> 2』『坂の上の雲〈3〉』『坂の上の雲〈4〉』『坂の上の雲 <新装版> 五』『坂の上の雲 <新装版> 六』「二百三高地 [DVD]

映画「二百三高地」(1980東映).jpg 1968(昭和43)年から1972(昭和47)年にかけて「産経新聞」に連された長編大河小説で、経営者に最も読まれている小説といえば、かつては『徳川家康』(山岡荘八)、今はこの『坂の上の雲』ということですが、この『坂の上の雲』は、'69年の単行本刊行以来、文庫も含め1400万部ぐらい売れているとのこと、'04年には単行本の新装版が出ました(読みやすいが、6巻とも文庫本新版の第1巻の表紙絵を流用しているのはなぜ?)。 
 
 松山出身の歌人正岡子規と軍人の秋山好古・真之兄弟の三人を軸に描いた作品というよりも、正岡子規が病死して早いうちに小 説の舞台から去ってしまうことでもわかるように、維新から日露戦争に至るまでの明治日本の人物群像を描いたものと見るべきで、登場人物は1000人を超えるそうで、"情報将校"明石元二郎などはかなり詳しく取り上げられていて、関係する本を読んでみたくなりました。

いずれも映画「二百三高地」(1980/東映)より
「二百三高地」1.jpg 物語のクライマックスは、二〇三高地で有名な旅順大戦と、ロシアのバルチック艦隊に勝利した日本海海戦ですが、間に様々な人物挿話が入り(ロシア側の人物もよく描けている)、バルチック艦隊がアフリカ東岸マダガスカルあたりでいつまでもグダグダしている(スエズ運河を支配していた大英帝国が日英同盟の名の下にロシアにスエズ運河の通過許可を出さなかったためにアフリカ大陸を迂回するハメになった)、その間にも、著者のウンチクは繰り広げられます。
 
「二百三高地」2.jpg これを面白いと見るか、冗長と見るか。著者の初期作品のような快活なテンポはないけれど、先述のスパイ活動をやった明石元二郎の秘話など随所に面白い話がありました。

 全体を振り返ると、やはり旅順攻防の凄惨さが印象的で、旅順陥落での開城の際に、日露の兵が抱き合い、共に酒場に繰り出した兵士もいたというのが、それを物語っています。陥落直前にはすでに両軍の兵に士気は無く、皆自分が生き残れるかを考えるようになっていたわけです。 
 
203.jpg この作品での乃木希典将軍の無能ぶりの描き方は徹底していて、乃木は、日本戦史上、最も多くの部下をむざむざと死地へ追いやった大将ということになるのではないでしょうか。 

 その描き方の賛否はともかく、彼をなかなか解任できないでいる軍中枢部(その間にも多くの将兵がどんどん犬死していく)に、いったんエリートとして位置づけた人物に対し、他の者を犠牲にしてもその人物のキャリアを守ろうとする官僚主義の非合理を見た思いがします。

「二百三高地」3.jpg それにしても、バルチック艦隊の大航海とその疲弊による敗北は、近代戦において最も時間と費用を要するのがロジスティックであることを端的に象徴していると思いました(湾岸戦争もイラク戦争も「輸送」に一番カネがかかっている)。
 
 兵器の能力などを戦争における"戦術"部分だとすれば、ロジスティックは"戦略"部分に当たり、"ランチェスターの2次法則"ではないが、近代戦において強国は"戦略"にふんだんにカネを注ぐ―ただし、その"戦略"そのものが戦局の読み違いのうえに立脚していたのでは相手に勝てないということを、この小説は教えてくれます。

「二百三高地」5.jpg 二〇三高地の攻防戦をメインに描いた舛田利雄監督の映画「二百三高地」('80年/東映)は3時間の大作、時折旅順大戦の戦況図なども画面に出てきて、大戦の模様を正確に描こうとしている姿勢は買えますが、これだけ乃木希典(仲代達矢)が自軍の兵士たちに強いた犠牲の大きさを描きながらも、彼を悲劇の英雄視するような姿勢が窺えて解せませんでした。さだまさしの音楽もとってつけたような感じで、(自分が司馬遼太郎のこの小説に感化された部分もあるかも知れないが)乃木希典の戦術的無能を情緒的な問題にすりかえてしまっている印象を受けました。

7二百三高地 丹波哲郎 dvdジャケット1.jpg「二百三高地」●制作年:1980年●監督:舛田利雄●脚本:笠原和夫●撮影:飯村雅彦●音楽:山本直純●主題曲:さだまさし●時間:181分●出演:仲代達矢/あおい輝彦/新沼謙治/湯原昌幸/佐藤允/永島敏行/長谷川明男/稲葉義男/新克利/矢吹二朗/船戸順/浜田寅彦/近藤宏/伊沢一郎/玉川伊佐男/名和宏/横森久/武藤章生/浜田晃/三南道郎/二百三高地 丹波哲郎.jpg北村晃一/木村四郎/中田博久/南廣/河原崎次郎/市川好朗/山田光一/磯村健治/相馬剛三/高月忠/亀山達也/清水照夫/桐原信介/原田力/久地明/秋山敏/金子吉延/森繁久彌/天知茂/神山繁/平田昭彦/若林豪/野口元夫/土山登士幸/川合伸旺/久遠利三/須藤健/吉原正皓/愛川欽也/夏目雅子/野際陽子/桑山正一/赤木春恵/原田清人/北林早苗/土方弘/小畠絹子/河合絃司/須賀良/石橋雅史/村井国夫/早川純一/尾形伸之介/青木義朗/三船敏郎/松尾嘉代/内藤武敏/丹波哲郎●公開:1980/08●配給:東二百三高地 三船敏郎.jpg二百三高地 丹波哲郎.jpg映●最初に観た場所:飯田橋・佳作座 (81-01-24)(評価:★★)●併映:「将軍 SHOGUN」(ジェリー・ロンドン)
三船敏郎(明治天皇)/丹波哲郎(児玉源太郎)
「二百三高地」森繁.jpg「二百三高地」永島.jpg
森繁久彌(伊藤博文)
永島敏行(乃木希典次男・乃木保典)

 【1969年単行本・1972年改訂・2004年再改訂[文芸春秋(全6巻)]/1978年文庫化・1999年改訂[文春文庫(全8巻)]】

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