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富裕層の闇と少年のトラウマ。ロス・マクらしいモチーフの傑作。家系図を作りながら読むべし。

一瞬の敵―リュウ・アーチャー・シリーズ.jpg一瞬の敵 ロス・マクドナルド 早川ポケット.jpg  一瞬の敵 世界ミステリ全集6.jpg   ロス・マクドナルド.jpg Ross Macdonald(1915 - 1983)
一瞬の敵―リュウ・アーチャー・シリーズ (ハヤカワ・ポケット・ミステリ 1244)』['85年]/『世界ミステリ全集〈6〉ロス・マクドナルド (1972年)』(人の死に行く道/ウィチャリー家の女/一瞬の敵)['72年]

 私立探偵リュウ・アーチャーは、銀行の部長キース・セバスチャンから、17歳の娘サンディが前科者の恋人デイヴィ・スパナーと散弾銃を持って家出したため探して欲しいとの依頼を受ける。デイヴィのアパートを見つけ管理人のローレル・スミス夫人訪ねると、そこにサンディとデイヴィもいたが、アーチャーはデイヴィに殴られ、2人は銃を持って姿を消す。サンディ達はどこかの屋敷の地図を残していたが、調べてみるとキース・セバスチャンの銀行の所有者であるスティーブン・ハケットの家らしいため、アーチャーはハケット家を訪ねて危険を知らせる。アパートの管理人スミス夫人を再度訪ねると、彼女は何者かに殴り倒されていて、救急車で病院に運ばれるが死亡、彼女の本名はローレル・プレヴィンズということが分かり、更にデイヴィの養父母に会って、そこにデイヴィとサンディが現れ、今夜ハケット邸に行くような話振りだったと聞き出すが、ハケット家に電話すると、スティ-ブン・ハケットがデイヴィとサンディに銃で脅されて連れ去られた後であり、ハケットの母親は、息子を無事に連れ戻したくれたら10万ドル払うとアーチャーに依頼する―。

Ross MacDonald:The Instant Enemy.bmp 1967年に発表されたハードボイルド作家ロス・マクドナルド(1915‐1983)の作品で(原題:The Instant Enemy)、同じく早川の「世界ミステリ全集」に所収の『ウィチャリー家の女』(' 61年発表)(2段組286ページ)よりはやや短い(2段組み236ページ)ものの、ストーリーが複雑で読みでがあり、上記はあらすじの一部に過ぎず、更にアーチャーは、デイヴィの家系を探ることになりますが(少なくともこの辺りからは、家系図を作りながら読んだ方がいい)、そこには親子4代にも及ぶ怨念の歴史が横たわっていることが徐々に浮かび上がってきます。
"The Instant Enemy (Vintage Crime/Black Lizard)"(2008年/ペーパーバック)

 庭に人工湖を持つというハケット家は、石油で儲けた大富豪で(ポール・ゲテイがモデルとの説も)、そのハケット家の血に塗られた過去が、現在に於いて更なる連続殺人を引き起こすという展開ですが、富裕階級の隠蔽された闇を描いてアメリカという国の社会病理を炙り出しているという点でも、幼児期の残酷な経験が少年の人格形成に及ぼした暗い影―というトラウマ説(フロイディズム)的モチーフにおいても、ロス・マクドナルドらしい作品だと思います。

 アーチャーは事件こそ見事に解決しますが、気分は鬱々として晴れないようで(このような事件を扱えばそうなるだろうなあ)、自分の心理を独白で語ることをあまりしない彼ですが、ラストシーンで見せる小切手を破り棄てるという行為に、そのことがよく表されているように思われました(美意識と言うより疲弊感が滲む)。

 読後感はかなり重いですが、最初はばらばらに思えた登場人物の関係が徐々に繋がっていく展開は見事で、ストーリー密度はかなり高く、傑作と言えます。

村上春樹 09.jpg 作家・村上春樹氏がロス・マクドナルドの作品の愛好者であるようですが、この作品の少年は、養父から「発作的に腹を立てて、突然他者の敵にならぬこと」(これがタイトルの由来か)といった、「十戒」的な"超自我"が植え付けられている一方で、実の父親のことをよく知らず「父親探し」の旅もしているわけで、村上作品のテーマやモチーフにも通じるものがあるなあと(但し、村上氏自身がハードボイルドタッチの小説を書いても、こんな複雑精緻なストーリーにはならないが)。

【1975年新書化[ハヤカワ・ポケット・ミステリ(小鷹信光:訳)]/1988年文庫化[ハヤカワ・ミステリ文庫( 小鷹信光:訳)]】

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病める米国社会を鋭く描いたハードボイルドの傑作。本格派推理小説としても楽しめる。

動く標的【字幕版】 [VHS].jpgThe Wycherly Woman.bmpウィチャリー家の女 ミステリ文庫旧版.jpg ウィチャリー家の女.jpg ウィチャーリー家の女2.jpg The Wycherly Woman.gif
『ウィチャリー家の女』(ハヤカワ・ミステリ文庫・旧版)['76年]/『ウィチャリー家の女 (ハヤカワ・ミステリ文庫)』/『ウィチャリー家の女 (1962年) (世界ミステリシリーズ)』 ['62年/ハヤカワ・ポケット・ミステリ]/ペーパーバック版 〔'98年〕「動く標的【字幕版】 [VHS]
"The Wycherly Woman (Lew Archer Novels)" 英語CD版

村上春樹 09.jpg 1961年に発表されたロス・マクドナルド(1915‐1983)の作品(原題:The Wycherly Woman)。ロス・マクドナルドは村上春樹も愛読したハードボイルド作家で、その主人公リュウ・アーチャーの名を借りて「村上龍」というペンネームにするつもりが"先約"があって諦めたとか(これってホントなの?ネタなの? 群像新人賞を受賞した際の授賞式のスピーチで述べていから、おそらくネタだろう。丸谷才一が、そのスピーチを評して「大物だと思った」と言っていたように思う)。

 私立探偵リュウ・アーチャーは、大富豪ホーマー・ウィチャリーから依頼を受け、行方不明となった娘のフィービの捜索調査を開始するが、多くの関係者に聞き込みをするつれ、ウィチャリー家の家族の相克とそれらを取り巻く社会の暗闇が浮かび上がってくる―。

 没落する上流家族の家庭内悲劇をリアルに描いて、作者独特の精神分析的なプロットも盛り込まれており(ロス・マクドナルドはフロイディズムに凝っていた)、病める米国社会を鋭く描いた傑作となっています。

 同時に、疑惑が疑惑を呼ぶストーリー展開は、本格派推理小説としても楽しめるものだと思います(原題は"The Wycherly Woman"で、この"Woman"というのが1つのミソ)。

推理小説を科学する.jpg 一方で、犯人のトリックが古典的な1つのタイプのものでありながらも、最後に全てが明らかになったとき、どうして"あそこ"でリュウ・アーチャーは気付かなかったのだろうとかも思ってしまいます(このことについては、電子工学、電波工学、大脳生理学が専門の大学教授でノンフィクション作家であった畔上道雄が『推理小説を科学する―ポーから松本清張まで』('83年/講談社ブルーバックス)においてリュウ・アーチャーが気付かなかったことに疑念を呈している)。          

 しかし考えてみれば、このアーチャー氏というのは、場面場面での読者への状況報告には欠くことがないけれど、それほど自分の思考を深くは語っていない気がします。そうすると、彼が事件の全貌を理解したのは、読者よりかなり早かったのでは...という気もします。

 アーチャー氏は、フィリップ・マーロウみたいに気障にカクテルの趣味を披瀝することもないし、結局どういう人間かよくわからないので、この辺りに、リュウ・アーチャー・シリーズがあまり映画化されていない理由があるのかもしれません(『ウィチャリー家の女』の場合、それに加えて、畔上道雄氏が指摘したような点が、映像化する際にはリアルにネックとなってくる)。

『動く標的』1958.jpg『動く標的』19581.jpg ロス・マクドナルドの小説に私立探偵リュウ・アーチャーが初めて登場したのは1949年発表の『動く標的』で、続編の『魔のプール』(1950年)と併せて 1958(昭和33)年に東京創元社の世界推理小説全集に第52巻、第53巻として納められています。これ以降、ロス・マクドナルドは19作品もの長編作品(リュー・アーチャー・シリーズ)を継続的に発表しました。『動く標的』は―
 カリフォルニア州サンタテレサの富豪夫人エレイン・サンプソンから夫を探してほしいと依頼を受ける。石油王の夫ラルフ・サンプソンがロサンゼルス空港で自家用機を降りた後、連絡がないというのだ。失踪か? 誘拐か? 夫人とは犬猿の仲である義理の娘、彼女が愛する一家専属のバイロット、娘との結婚を望む弁護士といった面々が複雑に絡み合う中、次々に殺人事件が―
 というもので、この頃の彼の作品は『ウィチャリー家の女』のような深いテーマ性を持った重厚なドラマではなく、アクションシーンなどもあって、娯楽小説として愉めます。

動く標的 (1966年) (創元推理文庫)』『動く標的 (創元推理文庫 132-4)
動く標的 s.jpg動く標的.jpg動く標的 パンフレット.jpgHarper (The Moving Target 1966).jpg そうしたこともあってか、ロス・マクドナルド原作の映画化作品でポピュラーなのはこの頃の作品を映画化したものあり、ジャック・スマイト監督の「動く標的」('66年/米)(原題:Harper)とスチュアート・ローゼンバーグ監督の「新・動く標的」('75年/米)(原題:The Drowning Pool、「動く標的」の続篇『魔のプール』が原作となっている)ぐらいだと思いますが、両作品でポール・ニューマンが演じた探偵は、リュウ・アーチ動く標的図1.pngャーではなく、"リュウ・ハーパー"と改名されています(ポール・ニューマンが「ハスラー」「ハッド」のヒット以来、Hで始まるタイトルにこだわったためだという)。「動く標的」の映画の方は、ロス・マクドナルドの原作にほぼ忠実に作られていますが、雰囲気的にやや軽い感じでしょうか。映画的はこれはこれで面白いとは思うし、「三つ数えろ」('46年)のローレン・バコール(彼女は役柄上フィリップ・マーロウとリュウ・ハーパーの両方を相手にしたことになり、さらに「オリエント急行殺人事件」('74年)でエルキュール・ポアロを相手にすることになる)、「エデンの東」('55年)のジュリー・ハリス、「サイコ」('60年)のジャネット・リーといった有名女優が出ていて、それがポール・ニューマンにどう絡むかも見所と言えるかもしれません(結局、パメラ・ティフィンのボディが印象に残ってしまったりもするのだ「動く標的」('66年/米).jpgパメラ・ティフィン.jpgが)。「動く標的」「新・動く標的」とも、かつてビデオが出ていましたが、絶版となり、その後現時点[2007年]でDVD化されていません(ポール・ニューマン主演ながらB級映画の扱いにされている?)。(その後2011年に「動く標的」がDVD化された。)(更にその後2016年に「新・動く標的」がDVD化された。)
「動く標的」('66年/米)/Pamela Tiffin

動く標的 [DVD]」(2011)
動く標的 [DVD].jpg「動く標的」●原題:HARPER●制作年:1966年●制作国:アメリカ●監督:ジャック・スマイト●製作:ジェリー・ガーシュウィン/エリオット・カストナー●脚本:ウィリアム・ゴールドマン●撮影:コンラッド・L・ホール●音楽:ジョニー・マンデル●原作:ロス・マクドナルド「動く標的」●時間:121分●出演:ポールLauren Bacall HARPER 1966.jpg・ニューマン/ローレン・バコール/ジュリー・ハリス/ジャネット・リー/パメラ・ティフィン/ロバート・ワグナー/シェリー・ウィンタース/ロバート・ウェバー●日本公開:1966/07●配給:ワーナー・ブラザーズ(評価:★★★☆)

●『ウィチャリー家の女』...【1976年文庫化[ハヤカワ・ミステリ文庫]】
●『動く標的』...【1966年文庫化・1981年改版(井上一夫:訳)・2018年新訳(田口俊樹:訳)[創元推理文庫]】
●『魔のプール』...【1967年文庫化(井上一夫:訳)[創元推理文庫]】
 
1976年4月創刊 30点 マクドナルド.png

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