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テーマ性、表現力もさることながら、「原潜国家」というコンセプトがピカイチ。

『沈黙の艦隊』1989.jpg  「沈黙の艦隊」2023.jpg
沈黙の艦隊 (1) (モーニングKC (192))』  映画「沈黙の艦隊」(2023)大沢たかお/玉木宏/江口洋介
沈黙の艦隊 全32巻完結(モーニングKC ) [マーケットプレイス コミックセット]
『沈黙の艦隊』32a.jpg 千葉県犬吠埼沖で、海上自衛隊の潜水艦「やまなみ」がソ連の原子力潜水艦と衝突し沈没、「やまなみ」艦長の海江田四郎二等海佐以下全乗員76名の生存が絶望的という事故の報道は日本に衝撃を与える。しかし、海江田以下「やまなみ」乗員は生存していた。実は、彼らは日米共謀により極秘に建造された日本初の原子力潜水艦「シーバット」の乗員に選ばれており、事故は彼らを日本初の原潜に乗務させるための偽装工作だったのである。アメリカ海軍第7艦隊所属となった日本初の原潜「シーバット」は、海江田の指揮のもと高知県足摺岬沖での試験航海に臨む。しかしその途中、海江田は突如艦内で全乗員と共に反乱を起こし、音響魚雷で米海軍の監視から姿をくらまし逃亡。以降、海江田を国家元首とする独立戦闘国家「やまと」を名乗る。さらに出港時、「シーバット」改め「やまと」は核弾頭を積載した可能性が高い事が発覚する。アメリカ合衆国大統領ニコラス・J・ベネットは、海江田を危険な核テロリストとして抹殺を図る。一方、海江田は天才的な操艦術と原潜の優れた性能、核兵器(の脅威)を武器に、自らの思想を喧伝し実現すべく、「やまと」を駆使して日本やアメリカやロシア、国際連合に対峙してゆくこととなる―。

沈黙の艦隊 全16巻セット 講談社漫画文庫
『沈黙の艦隊』全14.jpg 1988(昭和63)年(44号)から1996(平成8)年まで「モーニング」(講談社)に連載され、1990年に第14回「講談社漫画賞(一般部門)」を受賞した作品。2023年1月時点で紙・電子を合わせ累計発行部数は3200万部というからスゴイことです(初版の巻数は全32巻)。この度映画化され、今年['23年]9月に公開予定だそうです。

 この漫画がヒットした理由として、あとがきで時尾輝彦氏が、 ①日米安保や核など軍事問題から、国『沈黙の艦隊』全8.jpg連、軍産複合体など政治経済までを取り込んだ《高いテーマ性》、 ②「ピンガー」「アップトリム」「急速潜航」「有線魚雷」など軍事的専門用語を随所にちりばめ、さらに、孫子などの古典的戦略家の格言を適度に織り交ぜたセリフの《巧みな表現力》、 ③「原潜国家」「やまと保険」などの荒唐無稽な世界の《縦横無尽な創造力と骨太な構成力》を挙げていますが、要を得ているのではないでしょうか。個人的には③の「原潜国家」というコンセプトがやはり白眉と言うか、ピカイチだと思います。

 先に映画化された福井晴敏『亡国のイージス』('99年/講談社)が、この作品に似ているとよく言われますが、確かに同じ海上自衛隊のパニック映画ですが、『亡国のイージス』のストーリーは映画「ダイ・ハード」('88年/米)がベースで、盛り上がり部分は「ザ・ロック」('96年/米)に近いと言われています。「ザ・ロック」も個人が国家に立ち向かう話ですが、『沈黙の艦隊』みたいな国家に立ち向かう「原潜国家」というコンセプトとなると、これまでも無かったし、今後もちょっと真似できないだろなあという感じでしょうか。

「沈黙の艦隊」ナイフ.jpg ただし、まさに荒唐無稽であり、突っ込みどころも満載。1発しか原爆を持たない原潜国家が何千発もの原爆を有する大国と果たして「対等」に渡り合えるかとか、そうした疑問を抱き始めると物語の枠組みそのものが成り立たないので、そこは、荒唐無稽は荒唐無稽でよしとすべきかも(ほかにも、潜水艦の傷は深海の水圧で艦体が潰れる危険を招くのに、艦長の海江田が艦殻に「やまと」とナイフで刻んでいる点などが変だとされている)。

レッド・オクトーバーを追え!2.jpg 個人的には、トム・クランシー原作の小説『レッド・オクトーバーを追え (上・下)』('85年/文春文庫)で、レッド・オクトーバーが破壊されたとソビエトに確信させるため偽装する場面があって(映画「レッド・オクトーバーを追え!」('90年/米)ではこの部分が描かれていない!)、作者はこれなども参考にしたのではないかなと思っています。

「レッド・スコーピオン」の艦長ロブコフ.jpg「レッド・スコーピオン」の艦長ロブコフ2.jpgロッキー4 01.jpg ソ連の原潜「レッド・スコーピオン」の艦長ロブコフが、「ロッキー4 炎の友情」('85年/米)でドルフ・ラングレンが演じたロッキーの敵役のソ連人ボクサー、ドラゴのキャラそのままなのが可笑しいです(そのドルフ・ラングレンの主演作が、ソ連の特殊部隊兵士の活躍を描いた「レッド・スコルピオン」('85年/米))。
 
 ただ、こうしたお遊びはまだしも、写真家・柴田三雄(故人。もともと「non-no」の専属カメラマンだったのが、なぜか軍事写真家に転じた)の撮った写真を約50点無断でトレースして使ったりして訴訟問題にもなっていて、この騒動が起こるまでトレースが公然の秘密で黙認されてきたことにありましたが、さすがに50点は多すぎ(作者側が全面謝罪・補償した)。

サブマリン707.jpg 他にも、小澤さとる氏の同じく潜水艦漫画の『サブマリン707』や『青の6号』からの盗用もあるようで、ちょっと残念な気がします(『サブマリン707』の潜水艦の戦闘シーンは鮮烈な記憶があり、何となく似ていたシーンもあった気がするが、どの部分が模倣なのかはっきりはしない)。

 映画化については、昨年['22年]2月にロシアがウクライナに侵攻して以来、問われ続けている問題が「ロシアは核兵器を使うのか」ということであり、ある意味タイムリーなのかもしれませんが、映画化作品自体はあまり期待しすぎない方がいいかもという気もしています(まあ、観に行ければ行くかも)。

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薀蓄やテクニックだけではなく、ドラマ的にも結構面白かったが...。

ドラゴン桜 13.jpg ドラゴン桜 14.jpg ドラゴン桜15.jpg ドラゴン桜16.jpg ドラゴン桜17.jpg ドラゴン桜18.jpg ドラゴン桜19.jpg ドラゴン桜20.jpg ドラゴン桜21.jpg ドラゴン桜 ドラマ1.jpg テレビドラマ「ドラゴン桜」
ドラゴン桜 |モーニングKC [コミックセット])』 (全21巻)

 '03(平成15)年から'07(平成19)年まで講談社の「モーニング」に連載された作品で、'05(平成17)年度・第29回「講談社漫画賞」並びに第9回「文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞」受賞作。'05(平成15)年にTVドラマ化もされましたが、自分にとって直接関わるテーマに思えなくて(画も上手だとは思えないし)第1巻だけ買ってずーっと読まずにいて、ドラマも1度も見ずにいたのが、連載終了を機に全巻まとめ買いして読んでみたら、当初のそれほど期待していなかった予想と違って結構面白かったです。

 主人公の男女2人の高校生は教師・桜木と出会ってひょんなことから受験生としては殆ど"無"の状態で1年後の東大受験を目指すことになり、最初から東大受験のノウハウ、薀蓄がだーっと出てきてやや圧倒されましたが、先月('09年3月)退官した東大の小宮山総長が以前から「知識の構造化」の重要性を説いており、実際、東大の入試問題は、詰め込みの知識ばかりを問うのではなく、それを構造化する"知恵"のようなものを求めているのだということがこのマンガでよくわかりました。

 ただ、どこまで自分の社会人としての勉強法に取り込めるかと思うとやや消化不良気味で、このままテクニック・オンリーで最後までいくのはキツイなあと思いながら、それでも教師・桜木の断定的な物言いと周囲との確執などに引き込まれて読んでいると、後半部分は2人の受験生の精神面の問題に重点が移行し、それがそのまま2人の成長物語になっているという―たまたま選ばれた2人に発奮する要因がそれなりに内包されていたというのがマンガの"お約束ごと"であるにせよ、何故ヒトは勉強するのかといった問題にまで踏み込んでいて、ドラマ的にも良く出来ていると思いました。

 巻が進むにつれて、このマンガの人気が出たせいか、教育関係者に限らず色々な分野の人のアドバイスが挿入されていますが、受験産業の業界人パブリシティみたいなものも少なからずあり、便乗商法ではないかとちょっと邪魔っ気に感じたりもしました。

  '04年に同じく講談社のマンガ雑誌で連載がスタートした『もやしもん』が'08年の「手塚治虫文化賞」(朝日新聞社主催)のマンガ大賞を受賞し、薀蓄マンガは(身内の賞である「講談社漫画賞」を除いては)賞に縁が無いのか思っていたらそうでもないのかと。
 でも『ドラゴン桜』はテーマもテーマだし...と思ったら、既に'04年に「文化庁メディア芸術祭マンガ部門」の優秀賞を受賞していました(文化庁も"便乗"した?)。

 諦めかけている受験生をやる気にさせるという意味ではいいマンガかも知れませんが(親がやる気になって変な期待を抱いてしまう?)、桜木のような教師に巡り逢えない生徒は多いと思うし、このマンガでやっているのは、学校の授業の時間帯を全て(更に通常の時間帯を超えて)塾講師の講義に置き換えているようなものです。
 そこに作者の学校教育に対する批判が込められているとも言えますが、(文化庁は文部科学省の外局であるけれども)文科省はこのマンガをどう捉えているのだろうか。

 '05(平成17)年にTBSでドラマ化されましたが、連載が完結しないうちのドラマ化であったためか、原作における2人の中心的な生徒の外に何人かの原作に無い生徒の人物造型があって、教師とそれら生徒たちとの人間関係や葛藤が更に前面に出ているため(「金八先生」を意識したのか?)、「受験蘊蓄」的な要素はかなり薄まっています。

ドラゴン桜2.jpgドラゴン桜 ドラマ.jpg「ドラゴン桜」●演出:塚本連平/唐木希浩●制作:遠田孝一/清水真由美●脚本:秦建日子●音楽:仲西匡●原作:三田紀房「ドラゴン桜」●出演:阿部寛/長谷川京子/山下智久/長澤まさみ/中尾明慶/小池徹平/新垣結衣/サエコ/野際陽子/品川徹/寺田農/金田明夫●放映:2005/07~09(全11回)●放送局:TBS 

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「21世紀」が「20世紀」の"解題"になってない。大風呂敷、拡げてたたまずの感。編集者が作品に口出しするのも良し悪し。

20世紀少年 全巻.jpg21世紀少年下.jpg21世紀少年 上.jpg20世紀少年22.jpg『20世紀少年 22』
映画「20世紀少年」.jpg『21世紀少年 (上・下)』

 '99(生成11)年から'07(平成19)年まで「ビッグコミックスピリッツ」で連載され、「小学館漫画賞」「日本漫画家協会賞」「講談社漫画賞」「文化庁メディア芸術祭優秀賞」などを受賞した作品。'08年には堤幸彦監督により映画化されました('08年公開は全3部作のうち第1部のみ)。

 ケンヂたちが少年時代に遊びで作った「世紀末預言書」の内容が、成長した彼らに現実となって襲いかかり、ケンジとその仲間たちは地球を救うため立ち上がる―。

 話は、ケンヂ達の少年時代('70年前後)と「血の大晦日」('00年)前後を行き来し、そして「ともだち暦」(2015年)にはいり、最終章では『21世紀少年』と改題されていますが、24巻で一つの作品と見てよいものです。

プロフェッショナル仕事の流儀 0701.jpg ストーリーテラーらしい複雑な物語構成と、世界制覇を企む「ともだち」とは何者かという〈大きな謎〉で、ぐいぐい読む者を引っぱっていく力量はさすがで、相変わらず飽きさせません。ところが、気宇壮大であることは結構なのですが、「21世紀少年」と改題までされた結末部分が、実際の"解題"とはなっておらず、「大風呂敷、拡げてたたまず」といった感じで終わってしまっていて、『MONSTER』の読後感のようなカタルシスは得られませんでした。

漫画家・浦沢直樹 氏 NHK「プロフェッショナル仕事の流儀」('07年1月18日放送)

 NHKの「プロフェッショナル 仕事の流儀」に、'07年1月に作者・浦沢氏が、11月には漫画原作者で浦沢作品の編集者でもある長崎尚志氏が出演していましたが(両方の放送を見ると、長崎氏の浦沢作品に対する関与の度合いの大きさがわかる)、長崎氏に言わせれば、浦沢作品は複雑なことをわかりやすく伝えているのが魅力であり、また、わからないものにこそ人は魅力を感じると―。

長崎尚志.jpg 今回は、「ともだち」とは誰かという謎を敢えて謎のまま残そうとした意図が見てとれますが、これは長崎氏の強い意向ではないだろうかと思いました。ところが、その答えが意外とミエミエなのは、浦沢氏のサービス精神(?)が出てしまったためで、それなのに無理矢理ミステリアスに仕立てようとする、そうした不整合が、ストーリーを収束し切れなかったり、矛盾を生じたりする原因になっているような気もしました。

漫画原作者・長崎尚志 氏 NHK「プロフェッショナル仕事の流儀」('07年11月6日放送)

20世紀少年 一場面.jpg 少年期の壮大な想いや仲間同士の結束・反目というのは、大人になっても無意識に抱えているものかも知れず、それが表面化し再現されるという設定も悪くないのですが、やはり結末が...。

 スティーブン・キングの作品(この人のも、途中から何でもありになってしまうものが多いと思うが)や映画「ターミネーター2」を想起させられる部分がありましたが、読後は、ストーリー(編集者の影響が及ばぶ部分)よりも、作者の自分史に重ねた昭和の時代(万博とか)への郷愁や、昭和漫画(ナショナルキッドとか)に捧げたオマージュの方が印象に残りました(編集者の影響が及ばない部分)。

 編集者が作品に口出しすることの良し悪しを考えさせられます(ましてや、長崎氏は自身が漫画原作者でもある)。良い方向に転ぶ場合が無いとは言えませんが...。

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歴史小説ファンで、少女漫画(家)を軽く見ている人に是非読んでもらいたい作品。

日出処の天子 (全8巻).jpg日出処の天子 第1巻.jpg 日出処の天子7.jpg 『日出処の天子 全7巻 (漫画文庫)
日出処の天子/全巻全話1-8完結:山岸涼子全集(あすかコミックスペシャル)角川書店〔マーケットプレイスコミックセット〕

 '80(昭和55)年から'84(昭和59)年まで雑誌「LaLa」連載、'86年に全集に収められ、'94年に文庫化された著者の最大のベストセラーで、'83(昭和58)年度・第7回「講談社漫画賞」受賞作。

 聖徳太子=厩戸王子(うまやどのおうじ)は超能力者で、しょっちゅう体外離脱し、離れたところにいる者の心を操ったり、旱魃の時に高気圧を動かして!雨を降らせたりした。また彼には強烈なマザーコンプレックスがあって女性を愛することができず、蘇我馬子(そがのうまこ)の息子・蘇我毛人(そがのえみし)を同性愛的に愛していたが、毛人が布都姫(ふつひめ)という女性を愛したためにその愛は報われず、厩戸王子は虚無感から狂女を妻に娶る―というスゴイ設定の話。

 漫画史に残ると言われる厩戸王子の漂白されたような透明感のある線描も含め、よくぞ聖徳太子をここまで妖麗な中性的存在(見た目むしろ女性に近い)に描いて"山岸流"に料理したなあという感じです。

 しかし一方、政治ドラマとしてのストーリー展開の方は、政権に絡む複雑な家系の人々を緻密に網羅し、彼らが入り乱れての男社会の権力抗争、権謀術数を史実にほぼ忠実に描いいて、そんじょそこらの歴史時代小説を圧倒する重厚さです。この辺りが、厩戸王子のかなりキワドイ人物像の設定にもかかわらず、この漫画が男性も含め多くの愛読者を得ている所以でしょう。ホントこの作者は、歴史大河小説を書ける力量が充分にあるのではと思わせます。

日出処の天子 完全版 コミックセット_.jpg 厩戸王子のキャラ設定で好悪は分かれるかもしれませんし、池田理代子氏などはこの作品に対する反発から『聖徳太子』(全7巻)を手掛けたともされているようですが(まだそちらは読んでいない)、歴史小説ファンでありながら少女漫画というものを軽く見ている人などには読んでもらいたい作品です。

メディアファクトリー完全版 コミックセット(MFコミックス)

 【1994年文庫化[白泉社文庫(全7巻)]/2003年白泉社ムック版(全7巻)]/2011年メディアファクトリー完全版 コミックセット(MFコミックス)】

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大人でも解けない問題を子どもの前にシンプルな形で提示している。

2ブラック・ジャック.jpgブラック・ジャック (1) (少年チャンピオン・コミックス) .jpg          ブラック・ジャック.jpg
ブラック・ジャック (1) (少年チャンピオン・コミックス)』['74年] 『ブラック・ジャック 1 [新装版] (1)』秋田書店 〔'04年〕
『ブラック・ジャック (全25巻)』(1974 /秋田書店・少年チャンピオン・コミックス)

 '73(昭和48)年11月から'83(昭和58)年10月まで約10年にわたり「週刊少年チャンピオン」(秋田書店)に連載された医療漫画の元祖で、今だこれを超える医療漫画はないとされている手塚治虫の代表作。'75(昭和50)年度・第4回「日本漫画家協会賞」の特別優秀賞、'77(昭和52)年度・第1回「講談社漫画賞(少年部門)」を受賞しています。

 この作品を発表する前頃の作者は、少年誌の世界では既に古いタイプの漫画家とされ、'73年に自らが経営していた虫プロ商事が倒産、それに続いて虫プロダクション(既に経営者を退いていた)も倒産し、個人的にも巨額の借金を背負うことになったこともあって、「週刊少年チャンピオン」(秋田書店)の壁村耐三編集長の「手塚の最期を看取ってやろう」という厚意で始まった連載だったそうですが、この作品で作者は起死回生の大復活を果たすことになります。

ブラック・ジャック2.jpg このマンガがスゴイなあと思うのは、大人でも解けないような問題を、子どもでも読めるシンプルな形で提示しているところで、例えば、第17話の「二度死んだ少年」で、ブラック・ジャックが命を救った少年が結局は死刑になるという話。これを読んだ子どもはどう考えるのでしょうか。「子どもの死刑」など、小説では成り立ちにくい設定かもしれませんが、その点はマンガの利点を活かしていると思います。でも、こうしたテーマに対する答えを出すのは大人にも難しいでしょう。

 テレビアニメ化されましたが、1話当たりが長くなっているため、原作の本筋は変えないものの、"装飾品"が多くなってしまっている感じがします。それと、何だかやたら明るいのです。原作のタッチはもっと暗いし、ストーリーもゲッというようなものもあります(少年チャンピオン・コミックスでも最初のうちは「恐怖コミックス」と銘打っていた)。

瞳の中の訪問者 映画チラシ.jpg瞳の中の訪問者.jpg瞳の中の訪問者 宍戸錠.jpg 後半にいくにつれヒューマンな色合いが強くなりますが、カルト的な楽しみも見出すことも出来ます。例えば第167話の「春一番」は、'77年に脚本・ジェームス三木、監督・大林宣彦で「瞳の中の訪問者」というタイトルで実写版映画化されていて片平なぎさ 新人_.jpg 、'77年に歌手デビューしたばかりのホリプロの"新人"片平なぎさを売り出すためのプロモーション映画ともとれるものでした(「ブラック・ジャック」の実写版は加山雄三と本木雅弘がそれぞれブラック・ジャックを演じたものが知られているが、この作品でブラック・ジャックを演じたのは宍戸錠)。     
瞳の中の訪問者zj.jpg映画チラシ/DVD「瞳の中の訪問者」/サントラLP(廃盤)
瞳の中の訪問者8.gif 劇場公開は1977年11月26日で、同時上映は「昌子・淳子・百恵 涙の卒業式〜出発(たびだち)〜」でしたが、僅か2週間で上映打ち切りになったとのこと。珍品というか、今では一種のカルトムービーのような評価になっているようです。原作と[瞳の中の訪問者.jpgの対比で見ると面白く、結構笑えます(原作の方がずっとマトモ)。3年後に鈴木清純監督の「ツィゴイネルワイゼン」('80年)に出演することになる藤田敏八監督が守衛役で出ていたりして(俳優としては映画初出演)、そうしたカルト的価値を加味すべきか否か、結局自分でも判断がつかず評価不能ということにします(志穂美悦子が意外と可愛い)。

片平なぎさ/藤田敏八/志穂美悦子

「瞳の中の訪問者」図1.jpg「瞳の中の訪問者」●制作年:1977年●監督:大林宣彦●製作:堀威夫/笹井英男●脚本:ジェームス三木●撮影:阪本善尚●音楽:宮崎尚志●原作:手塚治虫 「春一番(「ブラック・ジャック」)」●時間:100分●出演:片平「瞳の中の訪問者」千葉.jpgなぎさ/宍戸錠/山本伸吾/志穂美悦子/峰岸徹/和田浩治/月丘夢路(特別出演)/長門裕之(特別出演)/大林宣彦/(以下、友情出演)千葉真一/壇ふみ/藤田敏八●公開:1977/11●配給:ホリプロ=東宝(評価:★★★?)
0「瞳の中の訪問者」大林1.jpg 大林宣彦(テニス審判)

瞳の中の訪問者81.png   
ピノコ誕生.jpg この新書版(コミックス版全25巻)のほかに、講談社の全集 (全22巻)や秋田文庫(全17巻)などにもありますが、読者クレームなどのため途中で抜いた話もあるようです。ただ、第2巻から登場のピノコも、双子の片割れの「畸形膿腫(きけいのうしゅ)」だったわけで、この話はテレビアニメでも放送開始後1年経ってようやく「ピノコ誕生」というタイトルで放映されましたが...(BJによる"回想"というかたちで)。 

ブラック・ジャックdx.jpg 新書の新装版も刊行中ですが、さらに収録されない作品が出てくるかも。   
講談社 DX版 〔'04年〕

 ピノコについては、この物語を、BJとピノコの恋愛物語(ロリータ愛ということになる)と見る見方もあるようで、ナルホド、ピノコは本当は18歳(18年間、母体内にいた)、だけれども女性というよりは少女、むしろ幼児近い(「人工」の身体という意味では人形にも近い)、こうした女性に成りきらない「女の子」というのは、他の手塚作品でも結構いたことに思い当たります。

ブラック・ジャック 2004 2.jpgブラック・ジャック 2004_.jpg「ブラック・ジャック」●演出:手塚眞●制作:諏訪道彦●音楽:松本晃彦●原作:手塚治虫●出演(声):大塚明夫/水谷優子/富田耕生/川瀬晶子/阪口大助/江川央生/渋谷茂/山田義晴/滝沢ロコ/渡辺美佐/小形満/後藤史彦/佐藤ゆうこ●放映:2004/10~2006/03(全63回)●放送局:読売テレビ

 【1974年コミックス版(全24巻+1巻)・1987年四六判(全17巻)・2001年B6判(全24巻)・2004年新装コミックス版判(全17巻)[秋田書店]/1977年全集・2004年B6判(DX版)[講談社(全22巻)]/1993年文庫化[秋田文庫(全17巻)]/2010年再文庫化[講談社(手塚治虫文庫全集BT)]】

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