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浦粕(浦安)で暮らす人々の悲喜こもごも。原作を巧みに再構成した新藤兼人脚本。

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青べか物語 [DVD]」森繁久彌/左幸子/フランキー堺/池内淳子
「青べか物語」p.jpg 「青べか物語」000.jpg
 東京都と千葉県の境を流れる江戸川の河口に、貝と海苔と釣場で有名な浦粕集落がある。ある日、「先生」と呼ばれる三文文士(森繁久彌)がやって来て、当分の住いを、片足が不自由な妻(乙羽信子)と暮らす増さん(山茶花究)の家の二階に決める。着て早々、先生は見知らぬ老人・芳爺(東野英治郎)から、青べか舟を売りつけられる。先生が観察するに、この地では他人の女房と寝るぐらいのことは珍しくなく、動物的本能が公然と罷り通っている大変なところだった。町にはごったく屋という小料理屋が多い。その中の一軒「澄川」に威勢のいいおせい(左幸子)、おきん(紅美恵子)、おかつ(富永美沙子)の3人が働いている。「澄川」の真ん前に「みその」洋品雑貨店があり、息子・五郎(フランキー堺)の花嫁(中村メイコ)は里帰りしたまま戻ってこない。べか舟を先生に売りつけた芳爺、消防署長わに久(加藤武)、天ぷら屋の勘六(桂小金治)あさ子(原悦子)夫婦などが五郎は不能らしいと噂をふりまいた。だが、孤独な生活を楽しんでいる老人もいる。廃船になった蒸気船に寝泊りしている老船長(左卜全)がそれだ。彼はいまだに若い頃の恋人(桜井浩子)を想い浮かべることによってのみ生き甲斐を感じているかのようである。飲み屋の連中の騒ぎ、バクチ場で血相変えて喚く連中、様々な人間模様に興味を感じながらも、煩わしさを避けて先生は青べか舟で釣りに出掛ける。五郎には母親(千石規子)が新しい花嫁(池内淳子)を連れてきて、今度は不能だなどと陰口も叩かれず、幸福な生活に入れるらしい。そんな先生に思いがけない事件が起きる。ごったく屋のおせいが先生に惚れたのだ。言い寄られた先生は眼を白黒。失恋のおせいは、腹いせに偽装心中を図る。とんでもない騒ぎに巻き込まれた先生は、様々な思いを抱きながらも浦粕集落から逃げ出すことにした―。

 1962(昭和37)年公開の川島雄三監督作品。個人的には劇場(神保町シアター)で観ましたが、昨年['21年]やっとDVD化された作品であり、これまでなかなか観る機会が無かった作品です。

青べか物語1.jpg 原作は山本周五郎が1960(昭和35)年1月から12月にかけて「文藝春秋」に連載したもので、この年、作者は57歳。ただし、実際に作者が浦安(作中では原作・映画とも"浦粕"となっている)に住んだのは、1924(大正15)年からの3年間、23歳から26歳までの間のことで、町の人から「先生」と呼ばれているけれど、実はまだ20代の若さだったのです。

 映画では設定を、浦安付近の埋め立てがまさに始まらんとする直前(浦安市の海面埋め立てが始まったのは1964(昭和39)年)、つまり映画撮影時の"現在('62年)"に置き換えているようにも見えますが(冒頭にそう思わせる浦安の'62年当時の風景シーンがあり、そのままドラマ部分に入っていく。警察官も戦後のそれの恰好をしている)、一方で、描かれている物語の中身や背景はとても戦後とは思われず、昭和初期といった感じなのはそのためでしょう(母親に売り飛ばされた娘の話などがあったりする)。永らくDVD化(ビデオ化)されなかったのは、地元の人に浦安とその周辺の描き方に根強い反発や忌避感があったためだとのことですが、それは、このアナクロニズムによるものではないでしょうか。

「青べか物語」12.jpg 原作は33篇のエピソードからなる「浦粕」とそこに暮らす人々のいわば"点描"ですが、映画ではそこから幾つかのエピソードを拾い上げて膨らませ、特にフランキー堺が演じる五郎の結婚騒動が中心にきているため、哀しい話もあるけれども、全体的には喜劇色が強くなっているように思いました。それでも、原作を巧みに再構成し(脚本は新藤兼人)、「浦粕」で暮らす人々の悲喜交交(こもごも)をよく描いた作品だと思います。

「青べか物語」11.jpg 森繁久彌は主人公の語り手の立場で、珍しく受け身的な演技でしたが、これはこれでぴったりでした。最後、逃げ出すかのように「浦粕」を去るのも原作と同じです。左卜全演じる「船長」が、退職後、廃船に住んでいまだに若いころの恋人(桜井浩子)を思い出しているというのも切なかったです。

「青べか物語」13.jpg 名優揃いですが、その魅力を引き出す川島雄三の演出はさすが。先に述べたように、時代が戦後なのか昭和初期なのかよくわからないのが残念で(戦後だとすればかなりアナクロということになる)星半分マイナス。でも、もうこうした映画は撮れないだろうという思いで(加えて、久しく待望されたDVD化を祝して)星半分オマケして、最終的に星3つ半というところでしょうか。

 
「青べか物語」14.jpg「青べか物語」●制作年:1962年●監督:川島雄三●製作:佐藤一郎/椎野英之●脚本:新藤兼人●撮影:岡崎宏三●音楽:池野成●原作:山本周五郎●時間:101分●出演:森繁久彌/東野英治郎/南弘子/丹阿弥谷津子/左幸子/紅美恵子/富永美沙子/都家かつ江/フランキー堺/千石規子/中村メイコ/池内淳子/加藤武/中村是好/桂小金治/市原悦子/山茶花究/乙羽信子/園井啓介/左卜全/井川比佐志/東野英心/小池朝雄/名古屋章●公開:1962/06●配給:東宝●最初に観た場所:神保町シアター(22-11-10)(評価:★★★☆)

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比較的原作に忠実に作られていた。久我美子が一番"キャラ立ち"している。
女であること dvd.jpg 女であること t.jpg 女であること 1.jpg 女であること (新潮文庫).jpg
女であること <東宝DVD名作セレクション>」美輪明宏 久我美子/原節子/香川京子『女であること (新潮文庫)

「女であること」3ni.jpg「女であること」9.21.jpeg 佐山家の主人・佐山貞次(森雅之)は弁護士、夫人・市子(原節子)は教養深い優雅な女性。結婚十年で未だ子供が無いが、佐山が担当する死刑囚の娘・妙子(香川京子)を引取って面倒をみている。ある日、市子の女学校時代の親友・音子(音羽久米子)の娘さかえ(久我美子)が、大阪から市子を頼って家出して来た。さかえは自由奔放で行動的。妙子は内向的な影のある娘で、父に面会に行くほかは、アルバイト学生・有田(石浜朗)との密かな恋に歓びを感じている。二人とも佐山夫妻に憧れているが、さかえは積極的、妙子は消極的。市子には結婚前、清野(三橋達也)という恋人があったが、ある時、佐山の親友の息子・光一(太刀川寛)から何年ぶりかの清野に紹介された。その後、佐山が過労で倒「女であること」kagawa1.jpegれた時、さかえは彼のために尽くし、急激に佐山を慕うようになる。全快した佐山と共に、さかえは彼の事務所に勤めることになり、市子の心は微妙にさやぐのだった。その頃、音子が上京し、清野のことも話題になったが、その彼女らの前に、佐山とさかえが清野の招きをうけ、彼に送られて帰宅するという一幕があった。一方、妙子は有田と同棲するために佐山家を出たが、妙子の心づくしにも拘らず、有田は彼女から去っていく。妙子の父の公判が開かれる前日、わがままを言って佐山に打(ぶ)たれたさかえは、その晩帰宅しなかった。市子は、佐山との生活での彼女の苦悩をはじめて夫に打明けたが、市子が思ったほど佐山はさかえに心を奪われてはいなかった。公判の日、妙子の父は佐山の努力で減刑になり、また、さかえは音子のいる宿で泊まったことが判り、市子は安堵する。が、それも束の間、佐山が交通事故で負傷する。幸いにも傷は軽くてほどなく退院した。退院祝いの日、多勢の見舞客のなかに、素直になったさかえを喜ぶ音子や、少年医療院への就職がきまった妙子もいた。だが何よりも佐山家にとっての喜びは、市子が身籠ったことだった。そこへ、京都の父の許へ行くというさかえが、別れを言いに来た。隣室の音子を呼ぼうとする市子をあとに、さかえは雨の中を逃げるように歩み去る―。

「女であること」ps.jpg 川島雄三の1958(昭和33)年監督作で、原作は川端康成が、朝日新聞の朝刊紙上に、1956(昭和31)年3月から同年11月まで251回にわたり連載した長編小説で、前半104回分が「女であること(一)」として1956(昭和31)年12月に新潮社から刊行され、後半は「女であること(二)」として翌年同社より刊行されています。

I『女であること』.jpg 田中澄江、井手俊郎、川島雄三の3人の共同脚色で、原作も会話が多く、名作ながら川端作品の中ではすらすら読めるタイプに属するものですが、ただし、文庫で680ぺージ近い長編、それをテンポ良く100分の映画に纏めたという感じです。ストーリー的にも、比較的原作に忠実に作られていたように思います(妙子の女友達が出てこなかったぐらいか)。

 森雅之演じる弁護士の佐山を巡って、原節子、久我美子、香川京子が演じる3人の女性のそれぞれの思惑が行き来しますが、映画では、久我美子演じるさかえの、周囲に波風を立てるお騒がせなキャラクターと、香川京子演じる妙子の、殺人犯の娘という宿命のもと何かと思いを内に秘めるキャラクターの、その両者の対比がより印象的でした。

「女であること」511.jpg「女であること」kiss.jpg  二人とも原節子(当時38歳くらいか)演じる市子に憧れていますが、とりわけ久我美子演じるさかえは、市子に同性愛的な思慕を抱いている風で(市子に接吻するシーンは原作通り)、それでいて佐山にも急速に接近していく、やや小悪魔的な面もある女性です(市子と彼女の昔の恋人・清野の再会の場もしっかり盗み見したうえで、光一に接近しているし)。

 佐山がそんなさかえを打(ぶ)つシーンは、原作では帰りの坂道を二人で歩いていて、さかえの暴言に怒った佐山が平手打ちをして、すぐに謝って彼女を抱き上げる風になっていますが、映画では、帰りのクルマ内で(原作では佐山は運転をしないことになっているのだが)、佐山にかまってもらえないさかえが勝手にブレーキを踏んでクルマを止め、川原へ逃げていくのを、追いついた佐山が、さかえに暴言を吐かれて彼女を平手打ちに。その後、河原で彼女に覆い被さるようになって―河原だからこうなるのだろなあ。因みに、森雅之と久我美子は前年の五所平之助監督「挽歌」('57年/松竹)では不倫関係の男女を演じています(当然、キスシーン有り)。

 さかえは(わがまま娘にありがちだが)佐山に打(ぶ)たれたことで、彼への思いは逆に頂点に。でも、市子のことも好きなので、佐山に打たれた瞬間に、「小父さまも、小母さまも好き...二人とも好きな時の自分は嫌い...」というアンビバレントな心情を吐露するに至ったのでしょう(原作はここまで"解説的"ではないのだが)。

「女であること」21.jpg 終盤に市子が身籠ったというのは、「雨降って地固まる」といったところでしょうか。ただし、原作もそうですが、映画もプロセスにおいてそうなることを示唆する描写がないので、何かしっくりこない気もします。とは言え、夫婦も危機を乗り越え(もともと、三橋達也よりは森雅之の方が渋いと思うけれどね。作者が川端であることを思うと、森雅之と久我美子の方が危なかった?)、香川京子演じる妙子も将来が見えて落ち着いたのかと思うと、後は、その団欒の輪に入れないのは、久我美子演じるさかえのみです。「違ったところで、違った自分を探し出したい」と言って駆け出していく彼女は、最後まで自分探しを続ける予感がします(ただし、最後のこのセリフも映画のオリジナル。原作は、ただ父に会いに行くと言っているだけで、映画はやや親切過ぎるくらい説明過剰か)。

「女であること」久我美子   1.jpg「女であること」kugao1.jpg キャラクターとしては、久我美子演じるさかえが一番"キャラ立ち"していたでしょうか。溝口健二監督の「噂の女」('54年/大映)で「日本のオードリー・ヘプバーン」と言われた彼女ですが(「ローマの休日」が1954年4月に日本で公開されるや、一躍ショートカット、所謂ヘプバーンカットが大流行した)、その4年後のこの「女であること」でも、ヘプバーンを意識して模しているように思いました。そのヘプバーンが大阪弁を喋るので、否が応でも久我美子は印象に残ります。

IMG_morimasauki.jpg「女であること」yokop.jpg「女であること」●制作年:1958年●監督:川島雄三●製作:滝村和男/永島一朗●脚本:田中澄江/井手俊郎/川島雄三●撮影:飯村正●音楽:黛敏郎●原作:川端康成●時間:100分●出演:原節子/森雅之/久我美子/香川京子/三橋達也/石浜朗/太刀川洋一/中北千枝子/芦田伸介/菅井きん/丹阿弥谷津子/荒木道子/音羽久米子/南美江/山本学/美輪明宏●公開:1958/01●配給:東宝●最初に観た神保町シアター(「生誕110年 森雅之」特集)(21-04-22)(評価:★★★☆)

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若尾文子が役に嵌っている。タイトルが「解題」になっているような面もあるか。

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チラシ/「女は二度生まれる [DVD]」「女は二度生まれる 4K デジタル修復版 Blu-ray

女は二度生まれる 山村.jpg 九段の花街の芸者・小えん、本名友子(若尾文子)は、売春防止法が施行されて、肩身の狭い思いをしながらも特に芸も無いため、建築家の筒井(山村聡)に抱かれるなどして、適当に法をすり抜けながら客を取る日々を送っている。芸者仲間の桃千代(八潮悠子)が早女は二度生まれる 藤巻.jpg々見切りをつけ、銀座でバー勤めをすることになり一緒に誘われるが、小えんは誘いを断り九段に留まる。置屋の近所に住む学生・牧(藤巻潤)に仄かな恋心を抱きながらも、馴染み客の矢島(山茶花究)とは適当に遊びに興じたりしていたが、宴席で知り合った寿司職人・野崎(フランキー堺)に女は二度生まれる 山茶花 究.jpg対しては、自らデートに誘ったりして他の男とは一線を画していた。しかし、密告者により売春行為がバレて職女は二度生まれる フランキーges.jpgを追われた彼女は、桃千代のいる銀座のバーで本名の友子の名で働くことになる。店で筒井と再会し、妾となりアパートまで世話して貰うようになるが、筒井は独占欲が強く、友子を縛りつける。ある日、友子は、映画館で知り合った少年工・孝平(高見国一)と、遊びのつもりで関係を持つが、それが女は二度生まれる4.jpg筒井にバレてしまう。筒井に散々脅された友子は、二度と他の男と付き合わないと決め、その後は、筒井の希望通りに唄を習い始めたりと、平穏の日々となるが、その筒井が突然病に倒れ入院することに。それを機に友子は小えんに戻り、九段の花街に復帰しながら、本妻の隙を窺って筒女は二度生まれる8.jpg井を見舞うが、筒井が急逝すると筒井の妻(山岡久乃)が置屋に現れ、執拗な言い掛かりをつけてくる。その後、学生だった牧が就職し、その仕事上の接待としてお座敷を訪れ再会を遂げるが、牧が外国人客の接待を頼んだのを知って絶望する。街に彷徨い出た彼女はいつかの少年工に出会い、少年が山に行きたいのを知って、故郷へ行って見ようと思う。その途中、妻子ともに幸福そうな野崎にばったり出会う。彼女から金をもらって元気に山にでかける少年を見送り、自らは駅に独り佇む―。

女は二度生まれる スチール.jpg 1961(昭和36)年公開の川島雄三(1918-1963/享年45)監督作で、川島雄三はこれが大映での初監督作でした。原作は富田常雄の『小えん日記』('99年/講談社)で(そう言えば、川島監督の「とんかつ大将」('52年/松竹)も富田常雄の原作だった)、川島雄三が井手俊郎と共に脚色しています。

 川島雄三監督は当時42歳くらいで、若尾文子は1933年生まれなので28歳くらいでしょうか。川島監督は大映の重役陣を前に「とにかく、若尾クンをオンナにしてお目にかけます」と宣言したとのことですが、若尾文子が本能の赴くまま気のむくまま行動する天衣無縫の性格の小えんという役に嵌っていました。

 そんな楽天的な小えんも、いろいろあって、女の幸せとは何 女は二度生まれる 山村聰.jpgかを考えるようになります。まず、ある意味自分を縛っていた建築家のパトロン筒井の死と、その本妻から上から目線での言いがかりをつけられた事件(こうなると妾は本妻に対して弱い)。さらに、かつて想いを寄せたこともあった牧に、宴席で牧の学生時代の初恋相手として紹介されたと思いきや、接待客の外国人に枕営業をして欲しいと頼まれるという屈辱。小えんはそれを頑なに断り、九段の花街を出ていくことになりますが、それまでふわふわと生きていた彼女が、プライドに目覚めた瞬間とも言えます。

女は二度生まれる 松本電鉄島々駅.jpg いつかの少年工を誘い、かねてから行きたがっていた長野の上高地へ向かうと、その電車内で、偶然、信州のわさび屋の出戻り子持ち女性と一緒になったと聞いていた、あの寿司職人だった野崎を見かけてしまう...。結局、途中のバス乗り場で少年に金や腕時計等を渡して、実家に帰ると言って少年とも別れ一人になる友子でした(もう小えんではない)。

島々駅(松本電鉄上高地線終点駅。台風による土砂災害で1984年に廃止)

女は二度生まれる ド.jpg ラストはやや唐突に終わりますが、駅の待合所に一人座り電車を待つ彼女が、新しい人生を生きていこうという決意に目覚めたことが示唆されるような終わり方ともとれます。タイトルがまさにそのものですが、ただ、このタイトルがないと彼女の内心は慮りにくい面もあり、「女は二度生まれる」というタイトルが「解題」になっているような面もあるように思いました(「はじめは女として、二度目は、人間として」というキャッチまで付けられている)。

 小説でもこういうのありますが、これはこれでいいのではないでしょうか。ラストでぶった切るような終わり方で、すっきりしないという人もいるかと思うし、もしかしたら中には彼女の将来を悲観する人もいるかもしれません。でも、観た人それぞれが女は二度生まれる フランキー.jpg違った受け止め方をする映画っていうのも、それはそれで味があると言えるのではないでしょうか。若尾文子はリアルで存在感ある演技をしていたし、脇役ではフランキー堺が良かったです(寿司職人の野崎はわさび屋になっちゃったのかあ(笑))。前の年にデビューしたばかりの江波杏子も出ていました。

渋谷パンテオン(1961)
「女は二度生まれる」渋谷パンテオン.jpg

江波杏子
若尾文子映画祭 角川シネマ2.jpg女は二度生まれる 江波.jpg「女は二度生まれる」●制作年:1961年●監督:川島雄三●脚本:井手俊郎/川島雄三●撮影:村井博●音楽:池野成●原作:富田常雄「小えん日記」●時間:99分●出演:若尾文子/藤巻潤/山村聡/菅原通済(特別出演)/山茶花究/江波杏子/高野通子/潮万太郎/倉田マユミ/上田吉二郎/村田知栄子/八潮悠子/山内敬0女は二度生まれる.jpg子/仁木多鶴子/花井弘子/紺野ユカ/目黒幸子/村田扶実子/山岡久乃/穂高のり子/平井岐代子/耕田久鯉子/三保まりこ/中条静夫/村井千恵子/中田勉/竹里光子/山中和子/大山健二/酒井三郎/高見國一/フランキー堺(東宝)●公開:1961/07●配給:大映●最初に観た場所:角川シネマ有楽町(20-03-20)(評価:★★★★)
女は二度生まれる [DVD]
江波杏子 「女の賭場」('66年/大映)/「江戸川乱歩 美女シリーズ(第5話)/黒水仙の美女」('78年/テレ朝)
女の賭場2.jpg   5話)/黒水仙の美女 江波1.jpg 5話)/黒水仙の美女 江波2.jpg
江波杏子(1942-2018/76歳没)
江波杏子.jpg 江波杏子_5.jpg

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鉄板の人情話、王道のストーリー。30代前半でこうした作品を撮る川島雄三という人はスゴイ。

とんかつ大将 1952年dvd .jpg とんかつ大将 1952年13.jpg とんかつ大将 1952年12.jpg
とんかつ大将 SYK119S [DVD]」津島恵子/佐野周二/角梨枝子

とんかつ大将 1952年1.jpg 長屋に住む青年医師・荒木勇作(佐野周二)は「とんかつ大将」と呼ばれみんなに親しまれていた。艶歌師・吟月(三井弘次)と兄弟のようにして同居していたが、吟月は、浅草裏の飲み屋「一直」の女主人・菊江(角梨枝子)に惚れて、一夜勇作を誘って飲みに行った。折も折、菊江の弟・周二(高橋貞二)が喧嘩でゲガして帰って来たので、勇作はその手当をし、近くの病院へかつぎ込む。ところがその病院の女医が、昼間、勇作が自動車にぶつけられた老人・太平(坂本武)に代わって、さんざん油を絞ってやった自動車の主・真弓(津島恵子)だった。てきばきと手術をする勇作の姿に、菊江も真弓も惹きつけられる。やがて傷の直った周二も勇作に諭され、不良から足を洗うべく自主する。勇作には学徒出陣の時未来を約束した多美(幾野道子)という恋人があったが、終戦で復員して帰ると、その多美は彼の親友・丹羽(徳大寺伸)と結婚して利春(設楽幸嗣)という息子もいた。しかも生活の苦しさから、つい多美が百貨店で万引きをして捕らえられたのを勇作が救ってやったことを、丹羽は逆に怨みの眼で見る。一方真弓の病院では、悪徳弁護士・大岩(北竜二)の勧めで、勇作たちの住む長屋を取り壊す計画を進めていたが、勇作は長屋の人々を想って反対運動を起こす。大岩方でも、丹羽たちを使って勇作が元大臣の父の選挙運動のために長屋の連中を利用しているのだと中傷したため、長屋の人々の心は勇作から離れて行く。がある日、急病の利春を勇作が長屋の火事をよそに、手術の手を尽くし救ってやったことから、丹羽の心が解け、やがて長屋の跡にキャバレーを建てようとする大岩の悪計も真弓父娘に知られた。長屋には再び長閑な春が訪れたが、父の急病の報に、勇作は馴染み深い長屋を去って行かなければならなかった―。

とんかつ大将-10.jpg 川島雄三(1918-1963/享年45)が富田常雄の原作を脚色・監督した1952年2月公開作。"鉄板の人情話"或いは"王道のストーリー"と言っていい作品ですが、30代前半でこうした作品を撮ってしまう川島雄という人の才覚は、何か不思議なものさえ感じます。因みに、「とんかつ大将」というのは、主人公の好物がとんかつであることに由来する主人公の愛称です(主人公は「とんかつ屋」ではなく医師である)。
   
 青年医師・勇作を演じる佐野周二は、長屋の住人から好かれる庶民派の正義漢で、また、3人の女性から想いを寄せられる二枚目でもあるこの役が嵌っていました。いつも前向きな主人公ですが、それでも悪徳弁護士らの陰謀で長屋の人たちの心が自分から離れかけた時にはさずがに気持ちが参ってしまい、吟月とウサ晴らしに飲みに行ったけれど、その後、酒を飲もうと火事の中だろうと手術をこなしてしまう様はやっぱりスーパー・ヒーローでした。最後、盲目の少女(小園蓉子)の眼まで見とんかつ大将 00s.jpgえるように治してしまい、ちょっと出来過ぎの印象もなくもなく、実は大物政治家の息子だったということで、では何のために長屋に住んでいたのか、そもそも勤務医なのか開業医なのかもよく分からんと、突っ込みどころは少なからずありますが、そうしたことは後から考えれば思うことであって、観ている間はそう不自然に感じないのは、やはり佐野周二という俳優が本質的に二枚目であるということなのでしょうか(まあ、元々"映画を観て泣きたい人を泣かせる映画"であって、"粗探し"的に観ていては楽しめないタイプの映画ではあるのだが)。

角梨枝子
とんかつ大将 1952年14.jpg角梨枝子 とんかつ大将.jpgとんかつ大将 角梨枝子.2.jpeg 勇作を取り巻く菊江(角梨枝子)、真弓(津島恵子)、多美(幾野道子)の3人の女性がそれぞれ、行きつけの飲み屋の女主人であると同時に親友・吟月の想い人幾野道子 とんかつ大将.jpgでもある女性(菊江)、最近ある事件で見知ることになったプライドの高い同業の医師である女性(真弓)、かつての許婚で今は旧友の妻となっているが貧困と夫の家庭内暴力に苦しんでいる女性(多美)、と三者三様であり、勇作は最後、彼女たちとどうするのかと気を持たせるところが、脚本の妙と言うべきでしょうか。津島恵子が主役級と言えますが、演技面では角梨枝子、リアルな状況設定という面では幾野道子の方が印象に残ったかもしれません。

三井弘次
とんかつ大将o.jpg 男優では、清水宏監督の「大学の若旦那」('33年)や「東京の英雄」('35年)、小津安二郎監督の「非常線の女」('33年)に出ていた三井弘次が、この頃は不良になる不肖の弟といったこの映画で高橋貞二が演じている菊江の弟・周二のような役ばかりだったのが、人のいい艶歌師・吟月を演じていい味を出しており、同じく清水宏監督の「按摩と女」('38年)でお客に淡い恋をする按摩の徳市を演じた徳大寺伸が、主人公のかつての許婚を妻にしている飲んだくれのDV夫を、後に「彼岸花」('58年)、「秋日和」('60年)など小津安二郎映画で笠智衆や佐分利信の同級生仲間を演じることが多くなる北竜二が、長屋を取り壊して病院ならぬキャバレーにしようと画策する悪徳弁護士を演じているなど、各々それまでやその後の定番的な役柄と真逆の役柄を演じているのが興味深く、その外、「出来ごころ」('34年)、「浮草物語」('34年)、「東京の宿」('35年)など小津映画の数々の初期作品に主演した坂本武や、「彼岸花」('58年)で佐田啓二の後輩を演じた高橋貞二(1959年に33歳で自らの飲酒運転で事故死)、子役ですが同じく小津映画「お早よう」('59年)にも出ることになる設楽幸嗣(後に、音大を卒業して俳優業から音楽の道に転身)なども目にとまりました。

とんかつ大将 vhs.jpgとんかつ大将  003.jpg 長屋の人々が活き活きとして感じで描けていました。その点は、山中貞雄監督の「人情紙風船」('37年)と双璧ではないでしょうか。

「とんかつ大将」●制作年:1952年●監督・脚本:川島雄三●製作:山口松三郎●撮影:西川亨●音楽:木下忠司●原作:富田常雄●時間:95分●出演:佐野周二/美山悦子/長尾敏之助/津島恵子/角梨枝子/高橋貞二/三井弘次/徳大寺伸/幾野道子/設楽幸嗣/坂本武/小園蓉/北龍二(北竜二)●公開:1952/02●配給:松竹(評価:★★★★)

津島恵子 in「魔像」(1952.05/松竹)/「お茶漬の味」(1952.10/松竹)
魔像  1952.jpg  お茶漬の味 パチンコ.jpg

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'痛快コメディ'だが、深い余韻も。奇跡のような出来映え。天才・川島雄三の最高傑作。

幕末太陽傳 ps.jpg幕末太陽傳 dvd.jpg幕末太陽傳 00.jpg幕末太陽傳 デジタル修復版 DVD プレミアム・エディション」南田洋子/フランキー堺/左幸子

幕末太陽傳 _4.jpg 文久2年(1862年)の江戸に隣接する品川宿。お大尽を装って遊郭旅籠の相模屋で豪遊した佐平次(フランキー堺)は、金が無いのを若衆の喜助(岡田真澄)に打ち明けると居残りと称して相模屋に長居を決め込み、宿の主人(金子信雄)と女将(山岡久乃)は働いて宿代を返すとの佐平次の申し出を渋々承諾する。遊幕末太陽傳 05 喧嘩.jpg郭の売れっ子、こはる(南田洋子)、おその(左幸子)は互いに相手を罵り合っていたが、ある日遂に大喧嘩になって廓中を暴れまくり、中庭まで転げ落ちて凄まじいSun in the Last Days of the Shogunate (幕末太陽傳) 1957.jpg女の戦いを繰り広げる。そ幕末太陽傳 b5.jpgうした中、佐平次は下働きから女郎衆や遊郭に出入りする人々のトラブル解決に至るまで八面六臂の活躍をし、果てはこの旅籠に逗留する高杉晋作(石原裕次郎)ら攘夷派の志士たちとも渡り合う。様々な出来事の末に佐平次は体調を悪くするが、それでもなお「首が飛んでも動いてみせまさぁ」と豪語する―。
"Sun in the Last Days of the Shogunate″ (幕末太陽傳) 1957
南田洋子(24歳)・菅井きん(31歳)・左幸子(27歳)
幕末太陽傳 南田洋子 菅井きん 左幸子.jpg 1957(昭和32)年公開の川島雄三(1918-1963/享年45)監督作で(川島雄三はこれが最後の日活映画となった)、脚本はチーフ助監督も務めた今村昌平と田中啓一が川島雄三と共同で執筆したもの。ストーリーはオリジナルですが、材として、古典落語「居残り佐平次」から主人公を拝借し、「品川心中」「三枚起請」「お見立て」「「明烏」などの数多くの落語の要素を物語の随所に織り込んでいます。

幕末太陽傳23.jpg 品川宿にある遊郭で佐平次が居残りを決め込むというメインストーリーは「居残り佐平次」をそのまま踏襲していますが、佐平次以前に石原裕次郎演じる高杉晋作や、まだ売出し中の小林旭や二谷英明が演じる攘夷派の侍が相模屋に'居残り'でいるという設定になっているため、話がやや複雑になっています(当時、石原裕次郎→太陽族→反社会的というイメージがあった中で、石原裕次郎に攘夷派を演じさせることに日活の上層部はいい顔しなかったようだが)。

幕末太陽傳 tu_2.jpg 貸本屋の金造(小沢昭一)が「品川心中」の後半のサゲの部分(心中に誘いながら自分を置いて逃げた女郎へのニセ幽霊による仕返し話)まで演じています。遊郭の遊女が、雇用期間が満了すれば客と結婚することを約束する起請文(きしょうもん)を乱発幕末太陽傳 フランキー&裕次郎.jpgする話は、吉原遊郭を舞台にした「三枚起請」から取っており、この落語のサゲは、高杉晋作が品川遊郭の「土蔵相模」で作ったとされる都々逸「三千世界の鴉(からす)を殺しぬしと朝寝がしてみたい」をもじったものになっていますが、それも作品の中で生かされています。他にもまだまだ落語からネタを取っていると言うか、モチーフを得ている要素が多くあるようですが、全部まではちょっと分からないです。

幕末太陽傳 a04.jpg 落語のモチーフを映画に取り込んだ作品としては「唯一成功している」とも言われる作品ですが、唯一かどうかは分からないにしても、大いに成功しているには違いないと思います。これだけ多くの落語から引用して、滑らかに流れるようなストーリー体系を成しているというのは奇跡に近いというか、今村昌平と田中啓一の協力を得た脚本であるにしても、川島雄三という人の才気が尋常ならざるものだというのが、この映画について言えることかと思います。

幕末太陽傳9-s.jpg フランキー堺の活き活きした演技もいいです。川島雄三は役者にあまり細かい指示は出さない監督だったそうですが、この映画におけるフランキー堺の演技には何度もダメ出しをしたそうです。一方、当時人気絶頂の石原裕次郎が高杉晋作役ですが、完全にフランキー堺の脇に回っていて、これも日活の上層部は不満だったようです。そうしたこともあって川島雄三はフランキー堺の演技に発破をかけたのかもしれませんが、結果この作品はフランキー堺の最高傑作となり、一方では石原裕次郎の大根役者ぶりが浮き彫りになったような印象です(見方によっては、カッコいい'大根'なのだが)。これは、たまたま結果的にそうなったのではなく、そこまで川島雄三は織り込み済みだったとの説もあるようで、そうだとしたら、もうスゴイとしか言いようがないです。

 そのフランキー堺演じる主人公の佐平次は、時折結核を思わせる咳をしており(歴史上で結核で亡くなるのは高杉晋作の方なのだが、こちらは至って健康そう?)、そのことを人に指摘された時だけ、いつも明るい佐平次がちょっと暗い表情になります。こうした設定は明らかに、筋萎縮症を患っていた川島雄三自身の自己投影であると思われます。

幕末太陽傳 ラスト.jpg ラスト、すっかり相模屋の中で必要欠くべからざる人材となった佐平次ですが、夜明け前にこっそり荷物を纏めて旅に立ちます。彼の将来の夢が自然と口から洩れますが、それは自らの病を自覚している佐平次には残された時間が少ないということともに、米国渡航に賭けてまでも生きることへの希望を捨てないという決意が感じられるものでもありました。

幕末太陽傳 ed.jpg 川島雄三自身は、映画の冒頭シーンにあった'現代'の品川(と言っても、この映画が撮られた頃の「さがみホテル」付近はまだ赤線街だった)を佐平次が駆け抜けるラストを構想していたようですが、現場のスタッフ、キャストからも幕末太陽傳 1.jpgあまりに斬新すぎると反対の声が出て、結局現場の声に従わざるを得なかったとのことです。川島雄三が折れて撮った墓場シーンのラストは陰鬱な風景であり、佐平次がそこから逃避するという点では、川島雄三の「サヨナラだけが人生だ」という言葉に見られる人生観を反映したものになっているとも言われています(このラストシーンの解釈は諸説ある)。

昭和30年代の「さがみホテル」付近

 何れにせよ、黒澤明の「七人の侍」('54年/東宝)に見られるような武士のヒーロー像とは真逆の、町人乃至専門職としてのヒーロー像がフランキー堺演じる佐平次によって体現され、その生きざまに、病気のため45歳で没することになる、常に死を意識していた川島雄三自身が投影され、また色々なものが託されているには違いなく、そのことが、'痛快コメディ'であるこの作品に、 単にそれだけで終わらない深い余韻を与えているように思います。奇跡のような出来映え。天才・川島雄三のたった1本の傑作と言っていいかと思います。

上段:小沢昭一(貸本屋金造)/フランキー堺(佐平次)/南田洋子(女郎こはる)/山岡久乃(伝兵衛女房お辰)/岡田眞澄(若衆喜助)/石原裕次郎(高杉晋作)
幕末太陽傳4.jpg幕末太陽傳a.jpg幕末太陽傳51.jpg
下段:殿山泰司(仏壇屋倉造)/菅井きん(やり手婆おくま)/左幸子(女郎おそめ)/芦川いずみ(女中おひさ)/小林旭(久坂玄瑞)/二谷英明(志道聞多)

幕末太陽傳/1957年封切2.jpg幕末太陽傳 e.jpg「幕末太陽傳」●制作年:1957年●監督:川島雄三●製作:山本武●脚本:今村昌平/田中啓一(山内久の変名)/川島雄三●撮影:高村倉太郎●音楽:黛敏郎●時間:110分●出演:フランキー堺/左幸子/南田洋子/石原裕次郎/芦川いづみ/市村俊幸/金子信雄/山岡久乃/梅野泰靖/織田政雄/岡田真澄/高原駿雄/青木富夫/峰三平/菅幕末太陽傳 左幸子.jpg井きん/小沢昭一/植村謙二郎/河野秋武/西村晃/熊倉一雄/三島謙/殿山泰司/加藤博司/二谷英明/小林旭/関弘美/武藤章生/徳高渓介/秋津礼二/宮部昭夫/河上信夫/山田禅二/井上昭文/榎木兵衛/井東柳晴幕末太陽傳 岡田真澄.jpg幕末太陽傳 小林旭.jpeg/小泉郁之助/福田トヨ/新井麗子/竹内洋子/芝あをみ/清水千代子/高山千草/ナレーター:加藤武(クレジットなし)●公開:1957/07●配給:日活●最初に観た場所(再見):北千住・シネマブルースタジオ(16-05-17)(評価:★★★★★
南田洋子/左幸子/岡田真澄/小林旭
                  西村晃(気病みの新公)
o幕末太陽傳.jpgD幕末太陽傳.jpg《読書MEMO》
田中小実昌 .jpg田中小実昌(作家・翻訳家,1925-2000)の推す喜劇映画ベスト10(『大アンケートによる日本映画ベスト150』('89年/文春文庫ビジュアル版))
○丹下左膳餘話 百萬兩の壺('35年、山中貞雄)
○赤西蠣太('36年、伊丹万作)
○エノケンのちゃっきり金太('37年、山本嘉次郎)
○暢気眼鏡('40年、島耕二)
○カルメン故郷に帰る('51年、木下恵介)
○満員電車('57年、市川昆)
幕末太陽傳('57年、川島雄三)
○転校生('82年、大林宣彦)
○お葬式('84年、伊丹十三)
○怪盗ルビイ('88年、和田誠)

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女性映画。新珠三千代のエロチシズムも見どころだし、街の風景や風俗も見どころ。

「洲崎パラダイス 赤信号」 00.jpg
日活100周年邦画クラシック GREAT20 洲崎パラダイス 赤信号 HDリマスター版 [DVD]」芦川いづみ・新珠三千代/三橋達也
「洲崎パラダイス 赤信号」01.jpg 売春防止法施行直前の東京。義治(三橋達也)と蔦枝(新珠三千代)は、故郷を駆け落ち同然に飛び出してから生活が安定せず、東京中を彷徨っていた。財布の金も尽きかけたある日、蔦枝は、勝鬨橋で、追いかけてバスに飛び乗り、義治に何も言わず、「洲崎弁天町」のバス停で降りる。洲崎川の橋を渡ったすぐ先は赤線地帯「洲崎パラダイス」だった。蔦枝はかつて洲崎で娼婦をしていた過去があり、義治は「橋を渡ったら、昔「洲崎パラダイス 赤信号」0a.jpgのお前に逆戻りじゃないか」と言う。二人は、赤線の「外側」の橋の袂の居酒屋兼貸しボート屋「千草」に入る。「千草」の女主人お徳(轟夕起子)は、女手一つで幼い息子ふたりを育てているため住み込み店員を求めており、蔦枝はその晩から仕事を始める。翌日、義治はその近所のそば屋「だまされ屋」で住み込みの仕事を得る。蔦枝は人あしらいのうまさで、赤線を行き帰りする寄り道客の人気を得、やがて神田(秋葉原)のラジオ商の落合(河津清三郎)に気に入られて和服やアパ「洲崎パラダイス 赤信号」06.jpgートを与えられるようになり、いつの間にか「千草」から去った。義治は怒りのあまり歩いて神田へ出向くも、不慣れな地理や暑さと空腹のために倒れ、落合と会えず仕舞いに。そんな中、洲崎の女と共に行方を眩ませていたお徳の夫・伝七(植村謙二郎)が姿を現し、お徳は何も言わず伝七を家に招き入れる。数日後、蔦枝は落合のアパートを引き払い、洲崎に戻ってきた。「千草」を訊ねた蔦枝に、お徳は、「義治をいずれ『だまされ屋』の同僚店員・玉子(芦川いづみ)と一緒にさせたい」と言う。蔦枝は「千草」を飛び出し、「だまされ屋」に向かう。お徳は義治と蔦枝を会わせないよう、出前帰りの義治を日暮れまで「千草」に釘付けにする。伝七は店に帰る義治に付き合って外出し、「遅まきながら、なんとかいい親父になろうと思っている」と心境の変化を吐露し、途中で別れる。いつまでも「だまされ屋」に戻らない義治を探して洲崎を歩き回る蔦枝は、「千草」の常連客で顔馴染みの信夫(牧真介)と橋で出会う。信夫は、ある女を足抜けさせるために毎晩赤線に通っていたが、その女が消えたことを話す。蔦枝は慰めるつもりで「吉原か鳩の街で、今頃誰かといいことしてるわよ。それより私と......」と言うが、「売春防止法なんかできたって、どうにもなりはしないんだ」と叫ぶ信夫に平手打ちを食わされる。義治が「だまされ屋」に戻ると、玉子から蔦枝がさっきまで待っていたことを告げられ、義治は仕事を放り出し、雨の中を傘も持たずに飛び出す―。

「洲崎パラダイス 赤信号」p2.jpg 1956(昭和31)年7月公開の川島雄三監督作。原作は芝木好子(1914-1991/77歳没)が1953(昭和28)年に発表した「洲崎パラダイス」で、売春防止法の公布が1956年、施行が1957(昭和32)年4月ですから、原作も映画もほぼリアルタイムということになります。原作が書かれた翌年1954(昭和29)年に〈洲崎〉(現・木場駅付近)には、カフェ220軒が従業婦800人を擁し、合法的に営業をしていたとのことで、〈吉原〉を上回る規模でしょうか。三浦哲郎の「忍ぶ川」のヒロイン・志乃も「洲崎パラダイス」にある射的屋の娘でした(因みに、蔦枝のセリフに出てくる〈鳩の街〉は、吉行 淳之介 の「原色の街」の舞台である〈玉の井〉あたり(現・曳舟駅付近)。

「洲崎パラダイス 赤信号」02.jpg 新珠三千代(脱がないのにすごくエロチック)と三橋達也が演じる、別れた方がいいのに別れられない男女、義治と蔦枝。周囲にいくら止められようと、磁石のように引き合ってしまう腐れ縁といった感じで、樋口一葉の「にごりえ」や織田作之助の原作「夫婦善哉」の系譜のようにも思いました。そんな男女とそれを取り巻く人間模様が、〈橋〉に始まり〈橋〉に終わる物語として描き出されています。ただし、冒頭でバスに飛び乗ったのが蔦枝で、義治は慌ててそれについていくだけだったのに、ラストでは義治の方が自ら駆け出してバスに飛び乗るという―最初のうちはいじけてばかりいた義治の変化を、こうした対比で見せているのが上手いと思いました。

「洲崎パラダイス 赤信号」芦川.jpg「洲崎パラダイス 赤信号」小沢.jpg 一方、轟夕起子が演じるお徳は、夫・伝七が戻ってきてせっかくいい親父になろうと思っていたところに、その夫が別れた女に殺されることになり、実に気の毒でした(その事件現場で、義治と蔦枝が再会するというのも何か運命的)。こうした悲劇もありましたが、義治が働いた蕎麦屋「だまされ屋」の女店員・玉子を演じた芦川いづみの可憐さ 先輩店員・三吉を演じた小沢昭一のユーモラスな味わいなど、いろんな要素が盛り込まれた群像劇になっていました。

 現在は埋め立てられてしまっている洲崎川や船着き場など、もうこの映画でしか見られない風情ある風景も、時代の記録として貴重です。ボンネット型のバス車両には車掌がいて、「次は〜洲崎〜洲崎弁天町」とアナウンスをしています(都バスでは1965年からワンマンバスが運行されている)。

「洲崎パラダイス 赤信号」05.jpg バスの車窓からは、材木を保管している貯木場が見え、これは、荒川の河口に近い沖合の埋立地に1969年、新たな貯木場、新木場が建設される前のものです(大島渚監督「青春残酷物語」('60年)の冒頭にも使われていた)。義治がラジオ商の落合を訪ねて彷徨う神田・秋葉原の当時の風景も貴重映像ではないかと思います。

「洲崎パラダイス 赤信号」08.jpg 川島雄二監督の「とんかつ大将」('52年)から連なる市井の人々を描いた人情物であると同時に、赤線に墜ちるか堅気を通せるかという境界線にある女性を描いた、後の「女は二度生まれる」('61年)などに連なる川島雄三監督ならではの「女性映画」でもあったように思います。ごく自然な所作の中にちらりと肌を見せる新珠三千代のエロチシズムも見どころだし(エロチックだからこそ境界線上を彷徨っている危うさを感じさせる)、街の風景や風俗も見どころの映画でした。

新珠三千代/三橋達也/轟夕起子
「洲崎パラダイス 赤信号」p.jpg「洲崎パラダイス 赤信号」03.jpg「洲崎パラダイス 赤信s.jpg「洲崎パラダイス 赤信号」●制作年:1956年●監督:川島雄三●製作:坂上静翁●脚本:井手俊郎/寺田信義●撮影:高村倉太郎●音楽:眞鍋理一郎●原作:芝木好子●時間:81分●出演:新珠三千代/三橋達也/轟夕起子/植村謙二郎/平沼徹/松本薫/芦川いづみ/牧真介/津田朝子/河津清三郎●公開:1956/07●配給:日活●最初に観た場所:神保町シアター(24-02-01)(評価:★★★★)

神保町シアター(24-02-01)
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三橋達也 in「洲崎パラダイス赤信号」('56年)/「ガス人間第1号」('60年)/「天国と地獄」('63年)
「洲崎パラダイス赤信号」 三橋達也.jpg「ガス人間第1号」 三橋達也.jpg「天国と地獄号」 三橋達也.jpg

NHK「連想ゲーム」('69年4月-'91年3月)白組1枠レギュラー解答者・三橋達也('73年4月-'79年3月)「グラフNHK」'73年8月号
「連想ゲーム」.jpg

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