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原作からの改変点を楽しみながら観られる。体当たり演技の名取裕子(当時23歳)がいい。

kemonomichi.jpg「けものみち」1982.01 .jpg「けものみち」19822.jpg
松本清張原作 けものみち DVD-BOX 全2枚セット」山崎努/名取裕子
kemonomichi 2.jpg 成沢民子(名取裕子)は、暴漢に襲われて負傷し動けなくなった夫・成沢寛次(石橋蓮司)を養うため、割烹旅館・芳仙閣で住み込みの仲居をしていた。しかし、寛次はそんな民子をいたわるどころか、日々、猜疑心を募らせるのだった。ある日、芳仙閣にニュー・ローヤル・ホテルの支配人・小滝章二郎(山崎努)が訪れ、小滝は民子に、今の生活から抜け出し、もっと安楽な生活に導く手助けをするようなことを仄めかす。民子は小滝の誘いに乗ることを決意し、失火に見せかけて夫を焼き殺す。そして、民子は弁護士・秦野重武(永井智雄)により、政財界の黒幕・鬼頭洪太(西村晃)の邸宅に連れて行かれる。小滝の誘いとは、鬼頭の愛人になることだったのだ。民子は鬼頭の相手を務める一方、小滝とも関係を持ち、鬼頭の後ろ盾を得て、奔放な生活を送るようになる。寛次の焼死事件は、小滝が民子のアリバイを証言したこともあり、警察と消防によって失火と断定されたが、焼死事件に不審を抱いて独自に捜査を進めた刑事・久恒(ひさつね)義夫(伊東四朗)は民子が犯人であると睨み、証拠を民子にちらつかせて肉体関係を迫る。しかし、逆に久恒は警察官を免職される。背後に鬼頭の影を見た久恒は、自分が調べ上げた鬼頭の闇の部分を書いて新聞社に持ち込むが、鬼頭の力を怖れる新聞社のデスク(塩見三省)はこれを受け付けない。やがて、鬼頭家の女中頭・山倉米子(加賀まりこ)が殺害される―。

けものみち (新潮文庫).jpgけものみち(上) (新潮文庫).jpgけものみち(下) (新潮文庫).jpg 「NHK土曜ドラマ 松本清張シリーズ」として'82年1月に毎週土曜日夜3話に分けて放送されたもの。原作は松本清張が「週刊新潮」の'62年1月8日号から'63年12月30日号にかけて連載したもので、'64年5月、新潮社から単行本として刊行されています。原作の時代設定は執筆当時、つまり東京オリンピック開催の2年前になっていて、ドラマもそれに倣っています。
 
和田勉.jpg「けものみち」道行.jpg 面白かったです。原作の面白さに拠るところ大であるとは思いますが、和田勉(1930-2011/81歳没)による演出も良かったのではないかと思います。原作は、最後に小滝が民子を焼死させ、小滝だけが生き残る、ある種、小滝を中心としたピカレスクロマンとなっています。それに対してNHK版の方は、名取裕子は演じる民子を中心に描かれていて、最後は山崎努演じる小滝との逃避行になっており、"道行(みちゆき)物"のような印象のあって、小滝を完全な悪者にしていないところがテレビ的なのかもしれませんが、これはこれで良かったです。

「けものみち」10.jpg 当時NHKのディレクターであった和田勉が、仕事上のトラブルに陥っていた名取裕子に、民子役として直接出演を依頼して制作された作品です。政財界の黒幕・鬼頭を演じた西村晃の怪演をはじめ、山崎努、加賀まりこらベテラン役者陣の中で、当時23歳で25歳のヒロイン(原作は31歳)を演じた名取裕子は体当たりの演技で頑張っていたと思います。実際、彼女は当時引退を考えていたところ、このドラマへの出演で女優の世界に引き戻されたと後に語っています。以後、清張作品だけで映画・テレビドラマ合わせて17本出演することになり、「清張女優」とまで呼ばれるようになりました(その後もドラマに出続け、今度は「片平なぎさに次ぐ2時間ドラマの女王」の異名を持つようになった)。

「けものみち」4.jpg 山崎努の安定した演技はもちろんのこと、当時お笑いで人気を博していた伊東四朗のシリアスな刑事役もなかなかのものだったし、女中頭・山倉米子役の加賀まりこのきついイメージも印象的。さらに、もう色欲しか残っていないような末期老人・鬼頭を演じる西村晃―、得体のしれない弁護士・秦野重武を演じる永井智雄といった、こうした面々を相手に23歳でヒロインを演じ切ったというのは、本人にとっても自信になっただろううし、この役に彼女を起用した和田勉の慧眼もさすがだと思います。個人的には、原作が変な風に改変されてガックリくるドラマが多い中、原作からの改変点を楽しみながら観ることができるドラマでした。

「けものみち」門0.jpg「けものみち」庭.jpg 鬼頭邸の門や庭のシーンは(ドラマ制作当時の)清張邸を使って撮影されていて、第1話の終わりに、その庭での原作者・松本清張と山崎努、名取裕子の会話が挿入されているのが貴重映像かと思います。

「けものみち」ばんせn.jpg「松本清張シリーズ・けものみち」●演出:和田勉●脚本:ジェームス三木●音楽:(オープニング)ムソルグスキー「交響詩 禿山の一夜」/(劇中音楽)ムソルグス「けものみち」暫し.jpgキー「組曲 展覧会の絵」(ラヴェル編曲)●原作:松本清張●出演:名取裕子/山崎努/西村晃/伊東四朗/永井智雄/加賀まりこ/石橋蓮司/中村伸郎/久米明/加藤和夫/勝部演之/林昭夫/塩見三省/松崎真/高森和子/原知佐子/矢吹二朗/林ゆたか/奥野匡/野村信次/西村淳二/松本マツエ/増田順司/大森義夫/山崎満/松村彦次郎/入江正徳/小坂明央/小林かおり/永六輔●放送日:1982/01/09~23●放送局:NHK(評価:★★★★)

【1968年文庫化[新潮文庫(全1冊)]/2005年再文庫化[新潮文庫(上・下)]】

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原作ミステリを塚本晋也風ホラー映画に改変。元木雅弘が兄弟二役を怪演。原作より上。

「双生児」d.jpg『双生児 (角川ホラー文庫』.jpg 『人間椅子 (江戸川乱歩文庫) 』.jpg 屋根裏の散歩者 文庫.jpg
双生児-GEMINI- 特別版 [DVD]」『双生児 (角川ホラー文庫)』『人間椅子 (江戸川乱歩文庫)』(「双生児」所収)『江戸川乱歩全集 第1巻 屋根裏の散歩者 (光文社文庫)』(「双生児」所収)
「双生児」011.jpg 明治末期、大徳寺雪雄(本木雅弘)は、大徳寺医院の跡取りとして医師の地位と名誉、そして美しい記憶喪失の妻りん(りょう)を手にした充実した日々を送っていた。ところが、大徳寺家で不審な出来事が続き、彼の父・茂文(筒井康隆)と母・(藤村志保)が謎の死を遂げる。そんなある日雪雄は庭を散歩していると、自分と瓜ふたつの男に襲われ、古井戸に投げ捨てられた。彼を井戸に落とした男・捨吉(本木雅弘、二役)は、何くわぬ顔をして雪雄に成りすまし、大徳寺「双生児」03.jpg家の当主に収まった。捨吉は井戸の中の雪雄に、二人は実は双生児であり、捨吉は両親に捨てられて貧民窟で育ったのだと惨めな生い立ちを語り、復讐のため両親の死に関わったのだと打ち明ける。さらに、貧民窟では、りんと恋仲であったことを話す。捨吉は、井戸の中の雪雄に最低限の飲食物を与え、奇妙な関係を続ける。一方、りんも今の雪雄は捨吉ではないかと気付くが、成りすました捨吉はシラを切り続ける。必死の思いで井戸を脱した雪雄と捨吉は争い、捨吉は死に至る。生還した雪雄は、りんと新たな絆を結び、かつては蔑み、忌避していた貧民窟への往診を行う医師となっていた―。

沈黙 サイレンスs.jpg鉄男 TET.jpg鉄男 dvd.bmp 1999年に公開された、あのカルトムービー「鉄男 TETSUO」('89年)の塚本晋也監督(「シン・ゴジラ」('16年)、「沈黙-サイレンス-」('17年)[右]など俳優としても活躍しているが)による作品です。原作は、江戸川乱歩が1924(大正13)年10月に「新青年」に発表した短編小説(正式タイトル「双生児~ある死刑囚が教誨師にうちあけた話~」)で、ある種「ドッペルゲンガー小説」と言えます。

世にも怪奇な物語 影を殺した男1.jpg 因みに、自分そっくりな存在(ドッペルゲンガー)との遭遇によってアイデンティティが揺らぐというモチーフの文学作品(ドッペルゲンガー小説)の嚆矢はエドガー・アラン・ポーの「ウィリアム・ウィルソン」(1839)で、こちらはオムニバス映画「世にも怪奇な物語」('67年)の第2話「影を殺した男」[左]として、ルイ・マル監督、アラン・ドロン、ブリジット・バルドー主演で映画化されています。

「双生児」04.jpg 江戸川乱歩の原作とはずいぶん違う話になってはいますが、江戸川乱歩作品の雰囲気は出ていたように思います。登場人物が全員眉を剃っていて、それだけで乱歩的な雰囲気が出てしまうのが不思議ですが、全体を通しても映像的に成功していて、塚本晋也監督ならではの作品になっているように思いました。

 ホラー映画であり、後を引くような怖い話になるのかなと思ったけれども、最後、雪雄がこれまで忌避していた貧民窟へ往診に向かうという"いい人"になっていて、後に引きません(笑)。しいて言えば、以前に彼を見ていたはずの乞食僧(石橋蓮司)がそれを見て慄くというのが、解釈の入る部分でしょう(彼は延命治療に疑問を感じた末に、安楽死推進派に転じたとする説もあるようだが、それだと逆に怖いラストだけれども、ちょっと無理がある?)。

 原作の乱歩の真意を読み取ろうにも、原作は、ある殺人犯死刑囚が教誨師に、まだ告白していなかった殺人の告白をするという、全然違う話なので...。この死刑囚は、親からのすべての財産を相続し、美しい妻もいる兄に対し、弟の自分は何も持たざる身であることを妬ましく思い、ある日遂に兄を殺害して井戸に死体を捨て、何食わぬ顔して兄に成り代わるというもので、兄側から見ればいわば「入れ替わり怪談」のようなモチーフです。このパターンは昔からあり、ここでは兄にとって井戸が冥界への入り口になっていますが、トイレや鏡が媒介になっているものが結構あるように思います。

「双生児」05.jpg ただし、原作はどちらかと言うとホラー怪談ではなくミステリ―であり、井戸に捨てられた兄(映画で言えば雪雄の立場になるが)は上から土を盛られてもう甦ることはなく、弟である自分(捨吉の立場?)は兄の指紋を採取しておいて、それを利用して強盗殺人を犯すのですが、犯行現場にゴム手袋に写し取った兄の指紋を遺しておいたので、自分の指紋と一致するはずがなく、自分は絶対に安全だったはずが―。

 原作は、オチはケアレスミスだったわけで、主人公はそのために捕まって死刑にはなるわけですが、プロット的には「双生児」06.jpg乱歩の初期作品に多く見られる比較的軽い感じのミステリ―といったところでしょうか。映画は、完全に塚本晋也風ホラーで(貧民窟時代の捨吉やりょうらのメイクは「鉄男」のイメージを一部踏襲している)、浅野忠信がパンク風な格好で出てくるほか、田口トモロヲ、麿赤兒、竹中直人、石橋蓮司といった癖のある役者が癖のある演技を見せます。しかしながら、それらを凌駕して余るのが、雪雄・捨吉兄弟の二役を演じた元木雅弘の怪演ではなかったかと思います。原作より映画の方が上です。

りょう/藤村志保/筒井康隆/田口トモロヲ/浅野忠信/麿赤兒/竹中直人/石橋蓮司
「双生児」02.jpg

「双生児」08.jpg「双生児」09.jpg「双生児-GEMINI-」●制作年:1999年●監督・脚本:塚本晋也●製作:中澤敏明/古里靖彦●撮影:森下彰生●音楽:久石譲●原作:石川忠●時間:84分●出演:本木雅弘/りょう/藤村志保/筒井康隆/もたいまさこ/石橋蓮司/麿赤兒/竹中直人/浅野忠信/田口トモロヲ/村上淳/内田春菊/今福将雄/大方斐紗子/広岡由里子/猪俣由貴/溝口遊/金守珍●公開:1999/09●配給:東宝(評価:★★★★)

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"混沌"が魅力の「ロケーション」、アナーキーでパワフルな「党宣言」、"ごった煮"の「ニワトリはハダシだ」。
ロケーション 森崎東 1984.jpg ロケーション 美保2.jpg ロケーション 美保.jpg
あの頃映画 松竹DVDコレクション ロケーション」美保純/西田敏行
生きてるうちが花なのよ死んだらそれまでよ党宣言 dvd.jpg 生きてるうちが花なのよ死んだらそれまでよ党宣言 (1).jpg 生きてるうちが花なのよ死んだらそれまでよ党宣言2.jpg
生きてるうちが花なのよ 死んだらそれまでよ党宣言【DVD】」平田満/倍賞美津子/原田芳雄
ニワトリはハダシだ 2004.jpg ニワトリはハダシだ 倍賞・原田.jpg ニワトリはハダシだ 肘井・加瀬.jpg
ニワトリはハダシだ [DVD]」倍賞美津子/原田芳雄   肘井美佳/加瀬亮

ロケーション1.jpg『ロケーション』1.jpg ピンク映画のキャメラマンであるべーやんこと小田辺子之助(西田敏行)は、妻で主演女優の奈津子(大楠道代)が自殺未遂し、撮影がストップし困り果てていた。たまたまロケ現場として借りた連れ込み宿の掃除婦・笑子(美保純)を強引に主演女優の代役に仕立てて、撮影を続行させる。しかし撮影中、監督(加藤武)は病気で倒れ、笑子は自分の田舎に墓参りに帰るので撮影は降りると言い出す。笑子の帰郷を逆手にとり、ロケ場所を笑子の故郷である福島の湯本に代え、その場その場で脚本を変えながら撮影していく―。(「ロケーション」)

「ロケーション」1.jpg 「ロケーション」('84年)は、ピンク映画のスチールマンだった津田一郎の『ザ・ロケーション』('80年/晩声社)を原作に、ピンク映画づくりの現場を描き出したもので、森崎東監督は、映画作りの参考にするため、滝田洋二郎監督による「真昼の切り裂き魔」('84年/新東宝)の撮影現場に足を運んだとのこと(滝田洋二郎ってあの、第81回アカデミー賞外国語映画賞受賞作「おくりびと」('08年)の監督だが)。それでも森崎東監督らしく、とにかくごちゃごちゃのストーリーです。
  
0映画 ロケーション.jpgロケーション vhs.jpg まず、西田敏行演じるキャメラマンと、大楠道代演じるその女房の女優と、柄本明演じる脚本家の三角関係があり、映画の撮影が始まるや、主役の彼女が降りてしまい、やっと見つけた代役も逃げ出し、監督は入院するという始末で、カメラマンと竹中直人演じる助監督が中心になり、美保純演じる連れ込み旅館の掃除婦をヒロインに仕立てて撮影を続けるも、彼女が福島へ墓参りに帰ると言い出し、それを追ってロケに行くと、彼女の過去が一家心中、父親殺し、母親殺しと錯綜し、ロケ隊一行は映画の内容を変更して、彼女と母親(大楠道代・二役)の愛僧劇をドキュメンタリーのように撮影することになるといった具合。映画内映画のもともとのストーリーは、3人の男に襲われ海で溺死した母親の娘が男たちに復讐する設定だったので、随分と話が違っていきますが、これもこの映画の脚本の内なのでしょうか。

ロケーション2.jpg 美保純が演じる笑子が、、最初の内は幼児体験の影響でロケーション 6.jpg無口だったのが、ラストの方では大楠道代演じる母親と拮抗して互いの情念をぶつけあっており、美保純としては最高傑作ではないでしょうか。美保純と同様にそれまで主にピンク映画に出ていた竹中直人が、最初に一般映画に出演した作品でもあります。作品全体としても、「喜劇 女は男のふるさとヨ」('71年)などよりは上ではないでしょうか。
西田敏行/大楠道代/美保純
ロケーション1984  竹中直人.jpg 竹中直人/西田敏行/美保純


倍賞美津子 in「生きてるうちが花なのよ死んだらそれまでよ党宣言」
党宣言1.jpg党宣言 倍賞.jpg バーバラ(倍賞美津子)は15年前、19歳の時にコザ暴動で沖縄を離れたヌードダンサー。恋人の宮里(原田芳雄)は、原子力発電所の定期検査に携わる、所謂"原発ジプシー"だが、今は暴力団の手先に。バーバラは、元教師の野呂(平田満)と一緒に旅に出て、福井県で昔馴染み党宣言  o-00.pngのアイコ(上原由恵)と再会、彼女は頭の弱い娼婦で、足抜けを図ったためにヤクザに追われている。そんなアイコには、原発で働く安次党宣言o-00.png(泉谷しげる)という恋人がいたが、死んだという。ところが安次の墓に出向いたバーバラと野呂は、実は安次が生きていることを知る。安次は、原発事故で放射能を浴び、原発での事故のことを知っていることがばれるのを恐れ、死んだ060党宣言.jpgふりをしていたのだ。アイコと安次は、"じゃぱゆきさん"マリア(ジュビー・シバリオス)と一緒に逃亡するが、暴力団殿山 泰司 党宣言.jpgに見つかって殺されてしまう。アイコ殺しの罪を着せられそうになった宮里は、暴力団の戸張(小林稔侍)を猟銃で射殺、バーバラたちは、マリアをフィリピンに帰してやろうと密航を企て、それを阻止しようと、暴力団や悪徳刑事の鎧(梅宮辰夫)が港にやってくる。撃たれて息を引き取った宮里に代わって、バーバラは猟銃をぶっ放して追っ手を撃退。結局マリアの乗った船は、船長(殿山泰司)が油を積み忘れ止まってしまうが、最終的に彼女はフィリピンに送還されることに。移送される船上からバーバラの姿を見「生きているうちが」izumiya.jpg「生きているうちが」umemiya 2.jpg「生きているうちが」32.jpgつけたマリアは、アイコと安次のスローガンの言葉「溢れる情熱、みなぎる若さ、協同一致団結、ファイト!」と呼び掛ける―。(「党宣言」)
殿山泰司(真志城亀吉船長)
泉谷しげる(アイコの恋人・原発の作業員・姉川安次)/梅宮辰夫(鎧刑事)/小林稔侍(ヤクザ組織組員・戸張)

党宣言747.jpg 「ローケーション」の翌年に撮られたのが「生きてるうちが花なのよ死んだらそれまでよ党宣言」('85年)ですが、森崎東監督のインタビューによれば、この作品の最初の構想では、原発内部の実態を暴露しようと教師ら多数の人質とともに立て籠もる男(原発ジプシー)の物語で、彼の要求で現場からの生中継が実現しそうになった時、突然天皇崩御の情報が入り、現場からの生中継が吹っ飛んでしまうという展開で、物語のオープニングでは犯人である主人公がトイレに入りながら天皇陛下の遺体を運ぶパレードがテレビで放映されている場面を見るという場面が用意されていたそうです(この映画の公開は1985(昭和60)年)。そして、その物語の主人公で立て籠もり犯のモデルは金嬉老だったそうです。

 こちらは、監督自身によるオリジナル脚本による作品であるため、撮影中にもセリフはどんどん変わったようでが、それは、森崎作品の多くに共通することだったようで、この作品でもセリフでけでなく、現場でどんどん物語や配役が変えられていったようです。

党宣言 8.jpg この映画の配役も、当初は平田満が演じた教師の役を原田芳雄が演じる予定だったといいます。しかし、原田芳雄が「俺に先生役は無理です」と監督に直訴し宮里を演じることになり、そのキャラクターも彼に合わせて変わっていったそうです。もちろん、野呂の役も平田に合わせて変えられたのでしょう。こうした、行き当たりばったり的な映画作りの手法は、完成度の高い作品を生み出すのには向いていないかもしれませんが、完成された芸術作品にはない、見るものを元気にするエネルギーを持つことあるとも思いました。

 昨年['20年]7月16日の森崎東次監督の逝去を受け、同月31日付の朝日新聞夕刊でこの作品をフィーチャーしていましたが、この映画には「虐げられた者への人間賛歌」であり、「ごった煮に落とし込んだ『怒り』」が込められているとしています。非常によくまとまった記事でした(さすが朝日新聞の映画担当記者。的を射た表現をするものだ)。

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2020年7月31日朝日新聞夕刊

 一言で言えば、「ロケーション」は、ごちゃごちゃしていて、もう何だか「わけわかんない」、言わば先の読めない"混沌"がむしろ魅力的であり、この映画の神髄であるのかも。「党宣言」の方も、アナーキーでパワフルであり、こうして2作比べてみると、通じ合う部分もあるように思え、故・森崎東監督の作品の持ち味がみえてくるように思いました。また、これは、「党宣言」の19年後に、脚本・撮影・音楽などの主要スタッフはすべて「党宣言」と同じメンバーで撮られた「ニワトリはハダシだ」('04年)にも見られた特徴のように思います。

ニワトリはハダシだ6.jpgニワトリはハダシだps.jpg 舞鶴に住む養護学校中学部3年生のサムこと大浜勇(浜上竜也)は重度の知的障害をもちながらも意外な記憶力を持つ。在日朝鮮人のハハこと金子澄子(倍賞美津子)は潜水夫のチチこと大浜守(原田芳雄)とサムの教育方針をめぐって対立し、現在は小学生の妹・チャルこと金子千春(守山玲愛)を連れて別居中である。そんなある日、サムとチャルが暴力団に拉致されてしまう。養護学校でサムを担任する桜井直子(肘井美佳)がサムたちの行方を追う―。(「ニワトリはハダシだ」)

ニワトリはハダシだin.jpgニワトリはハダシだド.jpg 森崎東監督の'04(平成16年)年度「芸術選奨」受賞対象となったこの作品においても、現代日本が抱える社会問題を詰め込められるだけ詰め込んで、その混沌とした中での猥雑で骨太な笑いから庶民の逞しさを描く構図になっています。20年近く経てもまったく枯れていないと言えば枯れていないと言えますが、相変わらずのごった煮感にはやや胃もたれがしそう(笑)。ただ、倍賞美津子、原田芳雄など森崎映画ならではの常連キャストの演技は安定感があってさすがであり、また養護学校教師役の肘井美佳の初々しい快活さも印象的でした(「時代屋の女房」の夏目雅子へのオマージュと思われる演技シーンがあった)。


シネマブルースタジオorigin.jpgロケーション s.jpg「ロケーション」●制作年:1984年●監督:森崎東●製作:中川滋弘/赤司学文●脚本:近藤昭二/森崎東●撮影:水野征樹●音楽:佐藤允彦●原作:津田一郎●時間:99分●出演:西田敏『ロケーション』un.jpg行/大楠道代/美保純/柄本明/加藤武/竹中直人/アパッチけん/大木正司/草見潤平/イヴ/パルコ/河原さぶ/殿山泰司/初井言榮/愛川欽也/乙羽信子/根岸明美/花王おさむ/和由布子/矢崎滋●公開:1984/09●配給:松竹●最初に観た場所:北千住・シネマブルースタジオ(19-12-23)(評価:★★★★)
「ロケーション」ポスター.gif

「生きているうちが」1.jpg「生きているうちが」2.jpg党宣言9.jpg「生きてるうちが花なのよ死んだらそれまでよ党宣言」●制作年:1985年●監督:森崎東●製作:木下茂三郎●脚本:近藤昭二/森崎東/大原清秀●撮影:浜田毅●音楽:宇崎竜童●時間:105分●出演:倍賞美津子/原田芳雄/平田満/片石隆弘/竹本幸恵/久野真平/上原由恵/泉谷しげる/梅宮辰夫/河原さぶ/小林稔侍/唐沢民賢/左とん平/水上功治/小林トシエ/殿山泰司/ジュビー・シバリオス●公開:1985/05●配給:ATG●最初に観た場所:北千住・シネマブルースタジオ(20-01-12)(評価:★★★★)

「生きているうちが」vhs.jpg


「ニワトリはハダシだ」●制作年:2004年●監督:森崎東●製作:シマフィルム/ビーワイルド/衛星劇場●脚本:近藤昭二/森崎東●撮影:浜田毅●音楽:宇崎竜童●時間:114分●出演:倍賞美津子/原田芳雄/肘井美佳/石橋蓮司/余貴ニワトリはハダシだ00.jpg美子/浜上竜也/守山玲愛/加瀬亮/李麗仙/岸部一徳/塩見三省/笑福亭松之助/柄本明/河原さぶ/不破万作/三林京子/露の五郎/眞島秀和●公開:2004/11●配給:ザナドゥー●最初に観た場所:北千住・シネマブルースタジオ(20-01-27)(評価:★★★★)
「ニワトリはハダシだ」vhs.jpg

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衝撃のどんでん返し。相手は「ゲーム」が始まる前に仕掛けていたわけか。

DVD恐怖劇場アンバランス Vol.2.jpg3殺しのゲーム title.jpg 1殺しのゲーム 岡田1.png
DVD恐怖劇場アンバランス Vol.2」「殺しのゲーム」岡田英次(岡田)

(第3話)/殺しのゲーム .jpg ある病院で、何者かが夜中に侵入してカルテが荒らされる異変があった。翌日、岡田正男(岡田英次)はその病院に来ていた。胃が変で、急激に痩せ、医者は胃潰瘍だと言うが...。病院の看護婦・明子(春川ますみ)から話があると言われ、岡田は彼女に会う。明子は昨日、病院に侵入したのが岡田ではないかと聞き、岡田が否定すると、実は岡田はガンであると打ち明ける。本当のことを告げた方が良いと思ったと。岡田は帰途、自分はじき死ぬのだとヤケになり、階段にしゃがんで涙していると、若い女が「おじさん、あたしと遊ぼうよ」と声を掛け、岡田を連れ出す。女は連れの若い男(石橋蓮司)と一緒に踊るが、岡田はそんな気になれない。家への帰途、今度は見知らぬ男に声を掛けられ、男は名刺を差し、鈴木正助(田中春男)と名乗る。鈴木は岡田の全てを知っていると言う。名前、年齢、勤務先はもちろん、妻が2年前に事故で亡くなっていることも、子供が無いことも、岡田が胃ガンで余命1年の命であることも。彼はあなたの死の恐怖を和らげてあげるという。実は、鈴木も肺ガンで岡田より長くは生きられないらしい。鈴木は岡田に、先が短いがん患者同士互いを殺し合う「ゲーム」をしようと誘う。お互いがいつ自分を殺すのか、どうやって相手を殺そうかと考えている間は死の恐怖から逃れられると。殺人者になるのは死刑が怖いからで、お互い余命1年程度の身な第03話 「殺しのゲーム」図4.pngら死刑も怖くないと話す。岡田は、自分は仕事に打ち込むとして、この申し出を断ろうする。岡田が病院へ行くと医者が岡田の兄が心配して弟の病状を聞きに来たというが、岡田には兄はいない。明子は代休で何も知らなかったが、医者は岡田の兄と名乗る人物は岡田の妻が亡くなったことも知っていたと話す。ある日、岡田が常務(増田順司)から静養を言い渡される。岡田の兄を語った人物が、会社に岡田が胃ガンであることを知らせたのだ、岡田は、打ち込もうと思った仕事もなくなり落胆する。マンションの前まで来ると、明子が待っていて、岡田と一緒に住み、ここから病院へ通うと言う。二人の同居生活が始まるが、明子は岡田の面倒を看てくれて、暫くは平穏な日々が続き、岡田は、同居しているうちに、明子に恋心を抱き始める。そんな折、鈴木の脅しが始まり、岡田は、次々と命を狙われるような出来事に遭遇するようになる―。

第03話 「殺しのゲーム」図5.png 「恐怖劇場アンバランス」の第3話(制作№9)で、監督は、第9話「死体置場(モルグ)の殺人者」(制作№3)に続いて長谷部安春(放映順である「話数」と制作№がちょうど逆)。原作は西村京太郎の「殺しのゲーム」(『完全殺人』(角川文庫)所収)。西村京太郎と言うより、シリーズ第7話「夜が明けたら」の原作者・山田風太郎に作風が近いのではないかと思ったりしましたが、ラストはまさにミステリー作家ならではの衝撃のどんでん返しでした。

 事態が把握できるまでちょっと時間がかかったけれど、結局、鈴木が岡田について話したこと、また最後に自身について話したことは、岡田・鈴木それぞれの置かれている状況において、事実とはちょうど逆だったのだなあと。しかも、鈴木は、「ゲーム」が始まる前から、もう仕掛けをスタートしていたのだなあと。リアリティ面でどうかというのはありますが、プロットは秀逸だと思いました。結局、岡田を脅したのは鈴木だけれど、彼は最初と最後に登場するのと、あと、岡田の兄のふりをして病院に行ったり会社に行っただけで、不自然な出来事のほとんどの実行犯は......と、後でいろいろ考えていくと、結構怖いかも(最後に話したことの中に一部事実もあったわけだ)。

(第3話)/殺しのゲーム図4.png このシリーズの他のエピソードにもありますが、当時、本人へのガン告知が義務化されていなかったという前提条件のもとに成り立っている話ではあり、かつてはドラマなどで、ガンと知らされていない本人の前で無理して明るく振る舞うも、やがて泣き出して本人に知れるというのが"定番"としてあったりしました。ただ、今の時代には当てはまらない状況設定であることを割り引いても、これはこれで面白かったように思います。

 岡田英次は、増村保造監督の 「女体(じょたい)」('69年/大映)の時もそうでしたが、こうした鬱屈した役が合っているように見えました。鈴木を演じた田中春男も良石橋蓮司 第3話)/殺しのゲーム3.pngかったし、ぽっちゃり系の春川ますみもでいかにも包容感ありそうな感じでいいです。時代を反映していると思ったのは、石橋蓮司が演じる若い男が、岡田にチキンレースっぽい賭けを仕掛けて、結局、恋人と共にクルマごと海に落ちてしまう石橋 蓮司3.jpg場面で、いわば"時代の虚無感"を象徴しているでしょうか。作品的には"賭けの敗者"という位置づけで、ラストと対比させているのかもしれません。石橋蓮司は、「あらかじめ失われた恋人たちよ」('71年/ATG)の時よりかなり若く見え、髪の毛がふさふさであることにも、60年代末・70年代初期を感じました(笑)。

春川ますみ(明子)/田中春男(鈴木)
春川ますみ71.png 田中春男81.png

1(第3話)/殺しのゲーム図.png「恐怖劇場アンバランス(第3話)/殺しのゲーム」●制作年: 1970年(制作№9)●監督:長谷部安春●監修:円谷英二●制作:円谷プロダクション/フジテレビ●脚本:若槻文三●音楽:冨田勲●原作:西村京太郎「殺しのゲーム」●出演:岡田英次/石橋蓮司/米岡雅子/田中春男/増田順司/松本染升/小川幾太郎/和田啓/山岡勢津子/小沢美知子/永谷悟一/春川ますみ/青島幸男(解説)●放送:1973/01/22●放送局:フジテレビ(評価:★★★★)

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作りすぎというか、盛り込み過ぎという感じだが、奈良岡朋子の「知覧の母」は良かった。

映画 ホタル .jpg 映画 ホタル vhs.jpg 映画 ホタル02.jpg
ホタル [DVD]」/VHS  高倉健・田中裕子
Hotaru2.jpg「ホタル」2001年図1.jpg 桜島を望む鹿児島県知覧町で、元特攻隊員の生き残りの山岡(高倉健)はこの日も漁船「とも丸」から養殖カンパチの生簀に餌を撒いていた。それを見守る妻の知子(田中裕子)と二人の間には子はなく、「とも丸」を我が子のように大事に乗りこなしてきた。知子が14年前に腎臓を患い人工透析が必要になったのを機に、沖合漁をやめカンパチの養殖を始めたのだった。昭和が終わり、平成が始まった頃、山岡は同じ特攻隊の生き残りだった藤枝(井川比佐志)が自殺したという知らせを聞き、青森に住む藤枝がホタル  2001 .jpg毎年のように山岡にリンゴを送っていただけに衝撃を受ける。数日後、藤枝の孫・真実(水橋貴己)が山岡の元を訪れる。真美(水橋貴己)が携えた藤枝の遺品のノートには、山岡から「生きろ」と励まされているように感じたこと、昭和が終わり自分の役目は終わったと感じることなど、その想いが綴られていた。数日後、山岡はかつて特攻隊員らから「知覧の母」と呼ばれて慕われていた富屋食堂の店主・山本富子(奈良岡朋子)から、特攻で命を落とした金山文隆少尉ことホタル  2001es.jpgキム・ソンジェ(小澤征悦)の遺品である面飾りのついた財布を韓国の実家に届けてほしいと託される。折しも医師(中井貴一)から知子の余命が僅か1年半と宣告されており、山岡は最後の思い出にと知子との韓国行きを決める。戦争時、知子(戦時中:笛木優子)は金山と婚約していて、当時は遺言さえ検閲される時代であり、山岡(戦時中:高杉瑞穂)は金山から口頭で、自分は大日本映画 ホタル2_m.jpg帝国のためではなく、知子や実家の家族、そして朝鮮民族の誇りのために死ぬのだという言葉を託されていた。山岡と知子は韓国の金山の実家を訪ねるが、遺族はなぜ金山が死に日本人の山岡が生き残ったのかと山岡を責める。しかし、山岡が金山の遺言を伝えると遺族は山岡を責めるのを止め、遺品を受け取る。山岡は知子に、今まで金山の遺言を伝えなかったことを謝罪すると、知子は「ありがとう」と泣きながら寄り添う。月日が流れ、21世紀のある日、老いた山岡は海辺で、役目を終えた「とも丸」が炎に包まれるのを見つめていた―。 

映画「ホタル」監督.jpg 2001年公開の降旗康男監督作で、その2年前に高倉健(1931-2014)が鹿児島県知覧町の「特攻平和祈念館」を訪ね、同行していた降旗康男監督に自ら映画化を持ちかけた作品で(高倉健が自ら製作を持ちかけたのは初めて)、降旗康男監督はこの作品で2001 年度・第52回「芸術選奨」を受賞しています。日本アカデミー賞で13部門ノミネートされ、70歳で203本目の出演映画となった高倉も主演男優賞にノミネートされましたが、後輩の俳優に道を譲りたい」として辞退、富屋食堂の店主・山本富子を演じた奈良岡朋子がブルーリボン賞助演女優賞を受賞しています。

高倉健/降旗康男

 山本富子のモデルは、「知覧の母」乃至は「特攻隊の母」と呼ばれた富屋食堂の主人・鳥濱トメ(1902-1992)で、小澤征悦が演じる金山文隆のモデルは、出撃の前日、鳥濱トメに自身が朝鮮人ということを明かした上で、アリランを歌ったという卓庚鉉(1920-1945)です。但し、鳥濱トメに別れを言いに行った際に「ホタルになって戻ってくるよ」と言ったエピソードの主は、宮川三郎(1925-1945)という人です。この2人の人物のエピソードが一緒にされるようになったのは、河内音頭の鉄砲光三郎(1929-2002)作詞作曲の「知覧の母~ホタル~」あたりからでしょうか。後年の、石原慎太郎脚本・製作総指揮、新城卓監督の「俺は、君のためにこそ死ににいく」('07年/東映)にもこのエピソードが出てきますが(個人的には未見)、そちらでは、宮川三郎がモデルの役と卓庚鉉がモデルの役を分けているようです。

 高倉健は、降旗康男監督の前作「鉄道員」('99年/東映)のように鉄道員を演ずれば鉄道員らしく、この映画のように漁師を演じれば漁師らしくて、その意味では"名優"ですが、「役」である以前に「高倉健」であるという意味では"名優"と言うより"スター"ということになるのかも。でも、やはり"名優"であることも否定できないといった感じでしょうか。以前、この「ホタル」の撮影の頃かと思いますが、NHKが高倉健を特集取材したことがあり、本番直前の現場スタッフの全員がピリピリした雰囲気の中で、これから演技に向かう主役たる高倉健が番組スタッフのインタビューに気さくに応じ、気を使う番組スタッフに「あまり準備しない方がいいんだ」というようなことを言っていたのが印象的でした。同時期の「クローズアップ現代」の高倉健特集の中では、降旗康男監督が高倉健のことを、「涙を流すようなことが出来る俳優ではなかったのが最近変わった」というようなことを述べています。また、高倉健本人へのインタビューで国谷裕子キャスターが、「俳優・高倉健は、ご自身・小田剛一(高倉健の本名)に近づいているのではありませんか」と問うたところ、「小田剛一よりも高倉健の方が遥かに長くなりましたから、どちらが本当の自分なのか分からなくなってきています」と答えたのことです。

映画ホタル-l.jpg 映画の方は、「卓庚鉉」と「宮川三郎」を「金山文隆」ということで一緒にしてしまったのはともかく、金山に許婚がいて、それが主人公である山岡の今の妻の知子であり、その知子は不治の病に冒されていて余命いくばくもなく、最期に金山の遺言を伝えるため遺族のいる韓国へ夫婦で向かう―という、やや作りすぎというか、前半部分には同じ特攻隊の生き残りだった藤枝映画 ホタル 05.jpgの自殺もあったりして、それでその娘(水橋貴己)が山岡を訪ねてくるわけですが、こうなると盛り込み過ぎという感じで、何映画 ホタル 奈良岡.jpgれの話も中途半端になってしまった印象を拭えません。個人的評価としては本来は△ですが、「知覧の母」を演じた奈良岡朋子の、まさに「ホタル」のエピソードを語る部分の演技が光っていて(舞台劇風でありながらも映画向けの演技をしている)、星半個加点して○にしました。舞台出身俳優の中でも上手いです、この人。「鉄道員」にも幌舞駅前「だるま食堂」の店主役で出ていましたが、個人的には、やや遡って、須川栄三監督の「螢川」('87年/松竹)で、この人の演技のところでぐっときました。

映画 ホタル.jpgホタル (映画).jpg 高倉健はこの映画においてもカッコいいにはカッコいいですが、ヤクザ映画ならともかく「鉄道員」やこうした映画になると「高倉健」だけでは成立せず、それを支えているのが、それぞれ妻役を演じた「鉄道員」の大竹しのぶであり、この「ホタル」の田中裕子のような女優と言えるかもしれません。大竹しのぶも上手いことは上手いですが、いかにも"演技派"風の大竹しのぶよりも田中裕子の方が脇役の本分を心得ている感じもします(この人も故・蜷川幸雄に「近松心中物語」の英国公演('89年)などで鍛えられた女優ではある)。但し、奈良岡朋子はその上を行く感じでしょうか。彼女鉄道員 大竹しのぶ2.jpgが「ホタル」のエピソードを語るシーンが前半部にあって、終盤それを超えるシーンが無いのも、"盛りだくさん"なのに"もの足りなさ"を感じる一因かもしれません。

大竹しのぶ in「鉄道員」(1999年)
   
Hotaru (2001)
Hotaru (2001).jpg「ホタル」●制作年:2001年●監督:降旗康男●脚本:竹山洋/降旗康男●撮影:木村大作●音楽:国吉良一●時間:114分●出演:高倉健/田中裕子/水橋貴己/奈良岡朋子/井川比佐志/小澤征悦/小林稔侍/夏八木勲/原田龍二/石橋蓮司/中井貴一/高杉瑞穂/今井淑未/笛木夕子/小林綾子/田中哲司/伊藤洋三郎/小林滋央/永倉大輔/好井ひとみ/町田政則/姿晴香●公開:2001/05●配給:東映(評価:★★★☆) 
「ホタル」パンフ.jpg

奈良岡朋子 in「地の群れ」(1987)/「蛍川」(1987)/「鉄道員」(1999年)
「地の群れ」s (1).jpg螢川2es.jpg「鉄道員 大竹しのぶ、高倉健、奈良岡朋子2.jpg

中江裕司監督(原案:水上勉)「土を喰ふ日々 わが精進十二ヶ月」(2022年11月11日)沢田研二/奈良岡朋子(1929年12月1日‐2023年3月23日(93歳没))
『土を喰らう十二ヵ月』.jpg

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"死者が顕われて生者に語りかける"という趣向において力を発揮する作家?

鉄道員(ぽっぽや)単行本.jpg 鉄道員(ぽっぽや)文庫.jpg 鉄道員poster.jpg 鉄道員 dvd.jpg 駅station poster.jpg
鉄道員(ぽっぽや)』『鉄道員(ぽっぽや) (集英社文庫)』「鉄道員(ぽっぽや)」映画ポスター「鉄道員(ぽっぽや) [DVD]」「駅 STATION」チラシ

 1997(平成9)年上半期・第117回「直木賞」受賞作。

 道央の廃止寸前のローカル線「幌舞線」の終着駅「幌舞駅」の駅長・佐藤乙松(おとまつ)は。鉄道員一筋に生きてきたが近く定年を迎え、また同時に彼の勤める幌舞駅も路線と共に廃止の時を迎えようとしていた。彼は生まれたばかりの一人娘を病気で失い、妻にも先立たれ、孤独な生活を送っていた。ある雪の日、ホームの雪掻きをする彼のもとに、忘れ物をしたと一人の鉄道ファンの少女が現れる。乙松が近所にある寺の住職の孫だと思い込んだ彼女の来訪は、彼に訪れた優しい奇蹟の始まりだった―(「鉄道員」)。

 「鉄道員(ぽっぽや)」「ラブ・レター」「悪魔」「角筈にて」「伽羅」「うらぼんえ」「ろくでなしのサンタ」「オリヲン座からの招待状」の8編を収録し、何れも1995(平成7)年から1997(平成9)年にかけて発表された作品で、作者によれば「奇蹟」をモチーフにしたものを集めたとのことです。

井上ひさし2.jpg 直木賞の選評を見ると、8人の選考委員のうち田辺聖子、黒岩重吾、井上ひさし、五木寛之の各氏が◎で、他の委員も概ね推している印象ですが、故・井上ひさしが、「高い質を誇っていた」と評価しつつも、「8つの短編が収められているが、内4つは大傑作であり、残る4つは大愚作である」とし、「大傑作群に共通しているのは、"死者が顕われて生者に語りかける"という趣向」であると指摘しているのが興味深いです(「この趣向で書くときの作者の力量は空恐ろしいほどだ」とも述べている)。

 "死者が顕われて生者に語りかける"作品となると、冒頭の、鉄道員の男のもとへ亡き娘の甦りとも思える少女が現われる「鉄道員」と、ポルノショップの店長である主人公に、自分との偽装結婚の末に亡くなった戸籍上の妻で出稼ぎ外国人の白蘭という女性が、手紙を通してまだ見ぬ夫である自分への想いを語る「ラブ・レター」、海外配転が決まったサラリーマンの主人公が、40年前自分が幼い頃に自分を捨てた父親と歌舞伎町で再会する「角筈にて」、子どもの頃に肉親を亡くして身寄りが無くなり、薬剤師となって医師と結婚した主人公が、嫁いだ先で夫の親族に苛められているところへ亡くなった祖父が現われ、主人公の力になるという「うらぼんえ」の4つということになるのでしょうか。

 文庫解説の北上次郎氏が、この短編集を「すごくよかった」と言う人が「鉄道員」「ラブ・レター」「角筈にて」「うらぼんえ」の4派に分かれるとし、それを派ごとの主張争いに模して解説していますが、そもそもこの4作品が選ばれていることが、故・井上ひさしの"死者が顕われて生者に語りかける"作品という指摘と合致しているように思いました。

 それ以外の作品はどうかと言うと、ややベタが過ぎたり気味悪かったりして、やはり個人的もこの4つかなあと。更に自分の好みを言えば、「ラブ・レター」はやはりベタ過ぎる印象があるし(北上次郎氏は女性読者には好評な作品としている)、上手さから言えばやはり「鉄道員」になるのかなあ。これだって、斎藤美奈子氏に言わせれば、「怪談、死んだ娘だから父に優しい(生きていたらグレてる)」ということになるのであって、直木賞選考委員の中にも阿刀田高氏のように、「悪くはないけれど、あまりにも型通りで、涙腺をふくらませながらも、こんなことで泣けるかと、しらけるところなきにしもあらず」ということにもなるのかも(考えてみればすべて乙松の頭の中で起きたこととも取れるし)。

鉄道員  02.jpg 「鉄道員」は降旗康男監督、高倉健主演で映画化されましたが('99年/東映)、昔劇場で観た、同じ降旗康男監督、高倉健主演の「駅 STATION」('81年/東映)が、倉本聰が高倉健のために書き下ろした脚本だったためか、何だか高倉健のプロモーション映画みたいで、日本映画ワースト・テンに名を連ねることも多く、個人的にも、自殺した円谷選手の遺書のナレーションを映画の中で使うことなどに抵抗を感じ、いいと思えませんでした(小谷野敦氏が「日本語をローマ字読みしてくっつけた作品のタイトルはダサい」と言っていた(『頭の悪い日本語』('14年/新潮新書))。先にそのイメージと何となくあって、結局「鉄道員」の方は劇場で観ることはなく、テレビがビデオで観たように思います。

鉄道員 志村けん.jpg 原作が短編なので、志村けんが酒癖の悪い炭坑夫として出て来きて炭鉱事故で亡くなる話や、その息子が成長してイタリアへ料理修業に行く話など、原作に無いエピソードで膨らませている部分はありますが、原作の持ち味(ひとことで言えば気持よく泣けるということか)はまずまず保たれていたのではないでしょうか。志村けん志村けん.jpg自宅の留守番電話に主演の高倉健直々の出演依頼のメッセージが入っていて驚いたとのこと。志村けんが俳優として映画出演したのは、ドリフターズの付き人時代に志村康徳名義で端役出演した「ドリフターズですよ!冒険冒険また冒険」('68年/東宝)、「ドリフターズですよ!特訓特訓また特訓」('69年/東宝)の2作以外ではこの作品のみとなります(志村けんは山田洋次監督の「キネマの神様」に菅田将暉とダブル主演の予定だったが、'20年に新型コロナウイルスによる肺炎で急逝したため叶わなかった)

鉄道員 02.jpg これも一歩間違えばどうしようもない映画になりそうなところを、高倉健をはじめとする俳優陣の演技力で強引に持たせていたという感じがします。実際、日本アカデミー賞の主要7部門のうち、作品賞、監督賞、脚本賞、主演男優賞(高倉健)、主演女優賞(大竹しのぶ)、助演男優賞(小林稔侍)の6部門を受賞していて、高倉健主演映画で、主要7部門中"6冠"達成は山田洋次監督の「幸福鉄道員 大竹しのぶ.jpgの黄色いハンカチ」('77年/松竹)以来ですが、「幸福の黄色いハンカチ」の方は第1回日本アカデミー賞ということもあって、監督賞や脚本賞は「『男はつらいよ』シリーズ」との合わせ技でした(因みに、「駅 STATION」も作品賞、脚本賞、主演男優賞を獲っている)。「鉄道員」で獲らなかったのは助演女優賞だけで、これは広末涼子のパートになるかと思いますが、その広末涼鉄道員  s.jpg子さえも、けっして上手いとは言えませんが、そう悪くもなかったように思います(最優秀賞の候補にはなっている)。大竹しのぶは流石に上手ですが、やはりこの映画は高倉健なのでしょう(高倉健は'99年モントリオール世界映画祭で主演男優賞受賞)。「駅STATION」の頃より年齢を重ねて良くなっていて、これなら泣ける? 泣けるかどうかと評価はまた別だとは思いますが。降旗康男監督、高倉健のコンビは2年後に再タッグを組み「ホタル」('01年/東映)を撮りますが、こちらも日本アカデミー賞で13部門ノミネートされ、高倉も主演男優賞にノミネートされましたが、後輩の俳優に道を譲りたい」として辞退しています。

「鉄道員(ぽっぽや)」●.jpg鉄道員 s.jpg「鉄道員(ぽっぽや)」●制作年:1999年●監督:降旗康男●脚本:岩間芳樹/降旗康男●撮影:木村大作●音楽:国吉良一(主題歌:坂本美雨「鉄道員」)●原作:浅田次郎●時間:112分●出演:高倉健/大竹しのぶ/広末涼子/吉岡秀隆/安藤政信/志村けん/奈良岡朋子/田中好子/小林稔侍/大沢さやか/安藤政信鉄道員  1s.jpg/山田さくや/谷口紗耶香/松崎駿司/田井雅輝/平田満/中本賢/中原理恵/坂東英二/きたろう/木下ほうか/田中要次/石橋蓮司/江藤潤/大沢さやか●公開:1999/06●配給:東映(評価★★★☆)
    
高倉健、小林稔侍、田中好子(1956-2011)  大竹しのぶ、高倉健、奈良岡朋子
鉄道員 高倉健、小林稔侍、田中好子.jpg 鉄道員 大竹しのぶ、高倉健、奈良岡朋子.jpg
吉岡 秀隆            撮影の合間に談笑する志村けんと高倉健
鉄道員 吉岡 秀隆1.jpg撮影の合間に談笑する志村けんと高倉健.jpg


「駅 STATION」●.jpg駅station dvd.jpg「駅 STATION」●制作年:1981年●監督:降旗康男●製作:田中寿一●脚本:倉本聰●撮影:木村大作●音楽:宇崎竜童(主題歌のみ坂本龍一)●時間:132分●出演:高倉健/倍賞千恵子/いしだあゆみ/岩淵建/名古屋章/大滝秀治/八木昌子/池部良/潮哲也/寺田農/渡会洋幸/高駅station 01.jpg橋雅男/榎本勝起/烏丸せつこ/田中邦衛/竜雷太/小林念侍/根津甚八/宇崎竜童/北林谷栄/藤木悠/永島敏行/古手川祐子/今福将雄/名倉良/平田昭彦/阿藤海/室田日出男●公開:1981/11●配給:東宝●最初に観た場所:テアトル池袋(82-07-24)(評価★★☆)●併映:「泥の河」(小栗康平)
駅 STATION [DVD]
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駅 STATION 池部良.JPG 駅station 06.jpg 駅Station 大滝秀治2.jpg
「駅 sutation」.jpg


【2000年文庫化[集英社文庫]/2004年再文庫化[講談社文庫(『鉄道員/ラブ・レター』)]/2013年文庫化[集英社みらい文庫]】

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東野圭吾原作。大掛かりは大掛かりだったけれど、やはりやや大味に。

天空の蜂ps.jpg 天空の蜂 .jpg 天空の蜂 dvd.jpg   天空の蜂  i.jpg
映画「天空の蜂」イメージポスター/映画「天空の蜂」ポスター/「天空の蜂 [DVD]」/東野 圭吾『天空の蜂』単行本

天空の蜂G.jpg 1995年8月8日、最新鋭の超巨大ヘリ《ビッグB》が、突然動き出し、子供を一人乗せたまま、福井県にある原子力発電所「新陽」の真上に静止した。遠隔操縦によるハイジャックという手口を使った犯人は〈天空の蜂〉と名乗り、"全国すべての原発の破棄"を要求、従わなければ、大量の爆発物を搭載したヘリを原子炉に墜落させると宣言する。機内の子供の父天空の 蜂W1.jpg親であり《ビッグB》を開発したヘリ設計士・湯原(江口洋介)と、原子力発電所の設計士・三島(本木雅弘)は、上空に取り残された子供の救出と、日本消滅の危機を止めるべく奔走するが、政府は原発破棄を回避しようとする。燃料が尽きてヘリが墜落するまで残された時間は8時間―。その頃愛天空の蜂C.jpg知県では、《ビッグB》と原発を開発した錦重工業本社に、家宅捜索が入っていた。総務課に勤める三島の恋人・赤嶺(仲間由紀恵)は、周囲に捜査員たちが押し寄せる中、密かに恋人の無事を祈る。一方、事件現場付近で捜査にあたる刑事たちは、《ビッグB》を奪ったと思われる謎の男・雑賀(綾野剛)の行方を追う―。

 原作は東野圭吾が20年前に発表した書き下ろし長編で('95年講談社刊)で、作者にとっては最も思い入れのある作品であるとのこと。これまで映画化されていなかったのは、映像化が困難であったためとのことですが、まあ、それだけスケールの大きな作品であることには違いないのかも。その分、大味なのではないかと勝手に決め込んで、こういうのは原作を読み返すより映画を観てしまった方がよいのではないかと思い、先に劇場に行きました。

 CGも使ってはいますが(こうした作品はもうCG無しでは作れないみたいになっているなあ)、大掛かりは大掛かりでした。その分逆に、東野圭吾らしい捻ったプロットは見られないのかなあと思ったら、一応、ストーリー上はありました。ただ、この"二重構造の犯人"はちょっと天空の蜂 ehara.jpg天空の蜂 motoki.jpg分かりにくかったように思われ、138分は少し長く感じられたでしょうか。全部アクションシーンで撮るわけにもいかないでしょうが、ドラマ部分がちょっとダルく感じられ、むしろ、三島と雑賀の繋がりなど、プロットに関わる部分をもっとしっかり描いて欲しかったように思います(結果として、やはり、やや大味だったというところか)。

天空の蜂 amino.jpg天空の蜂 D1.jpg 江口洋介、本木雅弘は初共演ということで、まずまずの"競演"ぶりでしたが、ややオーバーアクション気味のところもあって、逆にイマイチ胸に響かない面も。更には、綾野剛、仲間由紀恵などの演技も何となくワンパターンに感じられ、むしろ、刑事役の手塚とおる、落合モトキなどの"脇の脇"の演技が光ったかも。ラストで、湯原の子供が自衛官(向井理)になっていて2011年3月13日、東日本大震災の2日後に現地で支援活動任務に服しているという設定は、当然のことながら原作には天空の蜂E.jpg天空の蜂T70.jpg天空の蜂 向井.jpgありません。自衛隊のリクルートも兼ねたシーンかと思いきや、自衛隊はこの映画には協力していないようです。自衛隊どころか、川崎重工業 富士重工業といった国産ヘリコプター・メーカーも協力しておらず(協力はエアバス社)、やはり、国からの受注企業は原発は危険というイメージが伴う作品には協力出来ないのでしょう(原発で頑張っている人も描いているのだけど)。

天空の蜂 ビッグB.jpg ラスト近くで、仮に《ビッグB》が原子炉建屋に墜落して建屋が壊れても格納容器までは壊れないだろうという犯人の読みが明かされていたように思いましたが(その理屈に従って、緊急時の格納容器内への避難を提案している場面が既にあった)、むしろ、使用済み核燃料庫の上に墜落する方が危険であるならば、ヘリ落下の際にリモコンで位置をずらすのも、落下に要する時間が数秒しかないということからみて、それなりに危険なのではないでしょうか。

 また、超巨大ヘリの後部ハッチが、缶コーヒーの缶と懐中電灯を挟んだだけで閉まらなくなるというのもどうかとか、こういうのって細かい部分にケチをつけ始めると際限が無くなるのかもしれません。

天空の蜂 cast.jpg「天空の蜂」●制作年:2014年●監督:堤幸彦●製作:大角正/木下直哉/古川公平/坂本健/宮本直人●脚本:楠野一郎●撮影:唐沢悟●音楽:リチャード・プリン●原作:東野天空の蜂 文庫.jpg圭吾「天空の蜂」●時間:138分●出演:江口洋介/元木雅弘/仲間由紀恵/綾野剛/國村隼/柄本明/石橋蓮司/竹中直人/手塚とおる/松島花/石橋けい/落合モトキ/向井理/佐藤二朗/光石研/やべきょうすけ/永瀬匡●公開:2015/09●配給:松竹●最初に観た場所:シネマサンシャイン池袋(15-09-22)(評価:★★★)天空の蜂 新装版
  
           
シネマサンシャインes.jpgサンシャインシネマ池袋47.jpg池袋シネマサンシャイン 1985年7月6日池袋サンシャイン60通りに「池袋シネマサンシャイン」オープン、2009年5月1日「シネマサンシャイン池袋」に改称(6館体制)。2019(令和元)年7月12日閉館
サンシャインシネマ池袋 tizu.png1番館:234席
2番館:176席
3番館:135席
4番館:264席
5番館:409席
6番館:139席

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モチーフの選び方と構成は作者「自家薬籠中」のものか?

紙の月 角田光代.jpg   紙の月 映画 dvd.jpg 紙の月 映画TN1.jpg 
『紙の月』単行本['12年]/『紙の月 (ハルキ文庫)』「紙の月 DVD 」宮沢りえ
紙の月 単行本.jpg紙の月 単行本1.jpg 2012(平成24)年度・第25回「柴田錬三郎賞」受賞作。2012(平成24)年度「『本の雑誌』編集部が選ぶノンジャンル・ベスト10」第2位。

 ただ好きで、ただ会いたいだけだった―わかば銀行の支店から1億円が横領された。容疑者は、梅澤梨花41歳。25歳で結婚し専業主婦になったが、子どもには恵まれず、銀行でパート勤めを始めた。真面目な働きぶりで契約社員になった梨花。そんなある日、顧客の孫である大学生の光太に出会うのだった―。

 真面目な女性銀行員、その真面目さによる成績優秀ぶりによりパートから契約社員となったそんな彼女が、銀行から1億円を横領し、海外にまで逃亡するようになる過程を、非常に自然なタッチで描いていて、"通俗を描いて巧み"とでも言うか、まさに手練れの成せる技と言った感じの作品のように思いました。

 梅澤梨花がタイ・バンコクの街を彷徨(さまよ)う現在を冒頭に描いた後、彼女が犯罪行為に手を染めていく「過程」を過去形で描くとともに、海外に潜伏する容疑者として報じられた彼女のニュースに接した彼女のかつての同級生たちの「現在」が、糾える縄のように交互に描かれており、スリリングな綱渡りのような生活をしている梅澤梨花と、日常の生活にどっぷり埋没している彼女の同級生たちを対比的に描きながら、日常の生活にどっぷり浸っている側にも、第2の梅澤梨花に成り得る糸口はいくらでもあることを示唆しているのが巧みです。

 梅澤梨花は一線を越えてしまったわけですが、一線を越えたというよりは、突き抜けたというか、自分を解放したような印象を受け、その点において、日常生活の中で吹っ切れないままに煮立っているような彼女のかつての同級生らと比べると輝いて見えるのが小説として成功している点でしょうか。

 おあそらく、過去にあった女性行員による横領・詐欺事件などを参考にしているとは思いますが('73年の「滋賀銀行9億円横領事件」(奥村彰子(当時42歳))、'75年の「足利銀行詐欺横領事件」(大竹章子(当時23歳))、'81年の「三和銀行詐欺横領事件」(伊藤素子(当時32歳))など)、手口などは作者が独自に研究した部分もあるのではないでしょうか。実際にあった事件をモチーフにしているという点では、'99年に起きた「文京区幼女殺人事件」、俗に言う「音羽お受験殺人事件」が作品のモチーフになっている『森に眠る魚』('08年/双葉社)を想起させます。

 ここではたと思い当たるのが、『森に眠る魚』('08年/双葉社)も容疑者の母親と、彼女を取り巻く、同じく受験生子女を抱える母親たちを交互に描いていて、皆に事件を起こす動機があることを仄めかしていた点で似ており、作者はこの手法を「自家薬籠中の物」としてしまった印象も受けます((『森に眠る魚』では全員に犯人の可能性があるまま、更に、事件は起きなかったという解釈も成り立つ終わり方をしている)。

 『森に眠る魚』は、第一容疑者である主人公を筆頭に、登場人物が誰も好きになれませんでしたが、今回もAmazon.comなどのレビューを見ると、同じような理由からこの作品が好きになれないというようなものがありました。個人的にもそれに近い印象を持ちましたが、一線を越えた梅澤梨花だけは、突き抜けた分、一瞬輝いていたのではないでしょうか。精神科医の斎藤環氏が、本作のラストの爽快感を映画「テルマ&ルイーズ」('91年/米)に匹敵すると言っているのは当たっているのではないかと。

紙の月 原田.jpg 2014年にNHKで原田知世主演でテレビドラマ化され(全5回)、個紙の月 映画E0.jpg人的には未見ですが、原作者も絶賛するほどの出来栄えだったとか。更に同年に「桐島、部活やめるってよ」('12年)の吉田大八監督作として映画化され、こちらは宮沢りえが梅澤梨花を演じました。
宮沢りえ

紙の月 映画Z.jpg 宮沢りえは7年ぶりの映画主演ということですが、ブランクを感じさせない上手さでした(舞台で鍛えられている?)。その演技については、原作者である角田光代氏も、「度肝を抜かれた。どんどん悪い行動に走っていくのに反比例して透明な美しさが増していくのがすごい迫力で素晴らしかった」と絶賛のコメントを述べたとのこと。宮沢りえはこの作品で、映画の一般公開前に第27回東京国際映画祭で最優秀女優賞を受賞したほか(しかも審査員の満場一致で)、日本アカデミー賞主演女優賞受賞をはじめ多くの賞を受賞しています。

宮沢りえ&吉田大八監督

紙の月 映画   .jpg紙の月 映画E.jpg 映画の作りとしては、原作にある主人公の2人の同級生の現在は省いてしまい、代わりに、厳格なベテランとリアリストである若手の異なるタイプの銀行事務員2人(小林聡美・大島優子)を登場させていましたが、小林聡美はやはり安定した演技の上手さでした。主人公の文書偽造の様子なども再現されていて(映画を観た某銀行元行員によれば、映画の舞台になっている90 紙の月 映画 01.jpg年代であれば、こうした犯行の実現可能性はあったとのこと)、主人公とその疑惑を追及するベ紙の月 映画s.jpgテラン行員の宮沢vs.小林の演技対決もなかなかでした。但し、ラスト近くの2人が対峙する場面で、主人公がビルのガラス窓に椅子を投げつけるようなシーンは必要なかったように思います。

 ストーリーとしてはある意味通俗ですが、"通俗を演じる"のって結構難しいのではないかなあ。宮沢りえは、椅子なんか投げてガラスをぶち破らなくとも、突き抜けた分一瞬輝いた女性を演じて、原作の意図にに十分応えていたように思います。『八日目の蝉』('07年/中央公論新社)のテレビや映画での映像化の際もそうだったみたいですが、この作者の作品は、女優の役者魂を駆り立てる何かがあるのでしょうか。

紙の月 映画kuranke.jpg紙の月 映画 LM.jpg紙の月 映画GB.jpg「紙の月」●制作年:2014年●監督:吉田大八●製作総「紙の月」宮沢石橋.jpg指揮:大角正●脚本:早船歌江子●撮影:シグママコト●音楽プロデューサー:緑川徹●時間:126分●原作:角田光代「紙の月」●出演:宮沢りえ/池松壮亮/大島優子/田辺誠一/小林聡美/近藤芳正/石橋蓮司/佐々木勝彦/天光眞弓/中原ひとみ/伊勢志摩●公開:2014/11●配給:松竹(評価:★★★★)

「紙の月」クランクアップ(2014/11 タイ・バンコク)

【2014年文庫化[ハルキ文庫]】

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前半はカフカ的。単館ロードのインディペンデント系の中でも伝説的なカルトムービー「鉄男」。

鉄男 チラシ.jpg鉄男 dvd.bmp 中野武蔵野ホール 2.jpg中野武蔵野ホール 地図.jpg
「鉄男 TETSUO」チラシ/「鉄男 [DVD]」 中野武蔵野ホール(「出撃!!アド街ック天国」2003年8月16日放送より)

「鉄男 TETSUO」  .jpg 平凡なサラリーマンである"男"(田口トモロヲ)がある朝目覚めると、頬に金属のトゲのようなニキビが生じていた。やがて彼の身体は時間とともに鉄に蝕まれていくが、それは、それは数日前に男が車で轢いてしまい、山林に捨てた"やつ"(塚本晋也)の復讐によるものだった―(「鉄男 TETSUO」)。

「鉄男 TETSUO」1.jpg 前半から、何だかカフカの「変身」みたいで引き込まれ、全体的にも、モノクロながらも映像構成が素晴しいと思いました。製作・監督・脚本・美術・撮影・照明・編集・特撮を1人でこなした(出演までしている)塚本晋也というのはスゴイなあと。

「鉄男 TETSUO」2.jpg 拾い集めた廃物を利用したSFX、SFXと言っても殆どコマ撮りやモンタージュの集積なのですが、低予算にも関わらず(低予算ならではの?)いい味を出しています。

 本作の約20年後の'10年に第3弾「鉄男 THE BULLET MAN」が製作されていますが(第2弾は'92年に製作)、本作の良さであるインディペンデントな雰囲気は保たれているのでしょうか(予告編を見る限り、そうは思えなかった)。

 監督の塚本晋也は俳優としても活躍、但し、石井輝男監督の「盲獣vs一寸法師」('01年)とか清水崇監督の「稀人」('04年)といったカルト的な作品への出演が多いようで、やはり相通じるものがあるのでしょうか(その後、庵野秀明監督の「シン・ゴジラ」('16年)、マーティン・スコセッシ監督の「沈黙 -サイレンス-」('17年)と立て続けに商業メジャー作品やハリウッド映画に出演した)。主演の田口トモロヲも、俳田口トモロヲ うなぎ.jpg優のほか、ミュージシャン・映画監督・劇画家などとして多才ぶりを発揮していますが、'00年から'05年に放送されたNHKの「プロジェクトX」のナレーションで一気に有名になり、あの田口トモロヲが...という感慨がありました。それ以前に、今村昌平監督の「うなぎ」('97年)に出演し、「毎日映画コンクール」男優助演賞を受賞していますが、その時と比べても随分と落ち着いた感じになったなあと(「うなぎ」はカンヌ映画祭「パルムドール賞」受賞作品)。

田口トモロヲ in「うなぎ」('97年)

中野武蔵野ホール.jpg中野武蔵野ホール内.jpg 中野武蔵野ホールでの単館ロードでしたが(確か、レイト・ショーの初日に観たと思う)、前年公開の松井良彦監督の「追悼のざわめき」('88年/欲望プロダクション)と並んで(これも中野武蔵野ホールでの単館ロード)、当時のインディペンデント系作品の中でも伝説的なカルトムービーと言えるのではないでしょうか。

中野武蔵野ホール 1987年8月、中野駅北口方面「中野武蔵野館」跡地にオープン 2004(平成16)年5月7日閉館

追悼のざわめき01.jpg 大阪・釜ヶ崎で若い女性たちの惨殺事件が続発し、被害者たちは下腹部を切り裂かれ、その生殖器が持ち去られていた。犯人は廃墟ビルの屋上で暮らす孤独な青年、誠(佐野和宏)。彼は「菜穂子」と名づけられたマネキンを愛し「愛の結晶」が誕生することを夢想していた。次々に若い女性を殺し、奪った子宮を「菜穂子」に埋め込み、そして、愛した。やがて彼女に不思議な生命が宿りはじめ、様々な人間が廃墟ビル=「魔境」へと引き込まれていく。現実の街並みは時間感覚を失い、傷痍軍人や浮浪者など、グロテスクなキャラクターが彷徨しはじめる。純粋に二人だけの世界で生きていた一組の兄妹(隈井士門、村田友紀子)もまた、「菜穂子」がいる廃墟へと導かれてゆく。幼い妹は「菜穂子」に「母」の面影を見る。兄は、その姿に激しく「性」を感じる。そのとき、廃墟ビルに引き込まれた人々に残酷な運命が訪れる―(「追悼のざわめき」)。

追悼のざわめき02.jpg 「追悼のざわめき」は、1983年頃、松井良彦監督が脚本を完成させた段階で故・寺山修司が「この脚本が映画になれば、スキャンダルを起こすだろう」と語っていた作品。1986年に完成するまで、製作に3年の歳月を費やすことになりましたが、更に2年を経て1988年に中野武蔵野ホールにて公開されています。2004年の中野武蔵野ホール閉館まで、同館で毎年5月に上映されていて、同館の観客動員数の最高記録を打ち立てる一方で内容を巡って種々論争を引き起こし、2007年暮れにようやっとDVDが発売されています(映画館では途中で席を立った人もいた)。この作品は、実際に観て感じてもらうしかない類の作品かも。ソフト化されたのは良かったと思います。

Tetsuo(1989)
鉄男 TET.jpgTetsuo(1989).jpg鉄男 TETSUOs.jpg「鉄男 TETSUO」●制作年:1989年●監督・製作・脚本・美術・撮影・照明・編集・特撮:塚本晋也●音楽:石川忠●時間:67分●出演:田口トモロヲ/塚本晋也/藤原京/叶岡伸/六平直政/石橋蓮司●公開:1989/07●配給:海獣シアター●最初に観た場所:中野武蔵野ホール (89-07-01)(評価:★★★★) 

塚本晋也 in「シン・ゴジラ」('16年・庵野秀明監督)「沈黙-サイレンス-」('17年・マーティン・スコセッシ監督)
塚本晋也 シンゴジラ.jpg 塚本晋也 沈黙.jpg

追悼のざわめき デジタルリマスター版[レンタル落ち]
追悼のざわめき dvd.jpg追悼のざわめき .jpg「追悼のざわめき」●制作年:1988年●監督・脚本:松井良彦●製作:安岡追悼のざわめき_7885.jpg卓治●音楽:菅沼重雄●時間:150分●出演:佐野和宏/仲井まみ子/隈井士門/村田友紀子/大須賀勇(白虎社)/日野利彦(人力飛行機舎)/白藤茜/皆渡静男/高瀬泰司/(声)松本雄吉●公開:1988/05●配給:欲望プロダクション(バイオタイド、安岡フィルムズ、UPLINK)●最初に観た場所:中野武蔵野ホール (88-06-18)(評価:★★★★)

観ずに死ねるか!傑作絶望シネマ88』 (2015/06 鉄人社)

《読書MEMO》
Top 10 Strange Japanese Films You Need to Watch(海外個人サイト)
10.House (1977)
9.Marebito (2004)
8.Versus (2000)
7.Survive Style 5+ (2004)
6.Tokyo Gore Police (2008)
5.Paprika (2006)
4.Dead Leaves (2004)
3.Robo Geisha (2009)
2.Rampo Noir (2005)
1.Tetsuo the Iron Man (1989)

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純粋トリックから心理トリックへ。意外と乾いた感じの初期作品。

心理試験 春陽堂文庫.jpg心理試験 復刻版.gif屋根裏の散歩者 文庫.jpg 江戸川乱歩猟奇館/屋根裏の散歩者(1976).jpg VHS
心理試験 (創作探偵小説集)』['93年/復刻版]『江戸川乱歩全集 第1巻 屋根裏の散歩者 (光文社文庫)』 映画「江戸川乱歩猟奇館 屋根裏の散歩者」(1976/06 日活) 石橋蓮司・宮下順子主演
心理試験 (1952年) (春陽文庫)
心理試験 (江戸川乱歩文庫)』['15年]
心理試験 (江戸川乱歩文庫) 文庫.jpg 蕗屋清一郎は下宿屋を営む老婆の貯めた大金を狙って彼女を絞殺するが、犯人として挙げられたのは蕗屋の同級生・斎藤勇だった。しかし、事件に疑問を抱いた笠森判事は、蕗屋を召還て斉藤と共に「心理試験」を受けさせることにし、一方、蕗屋はその心理試験に備えて万全の応答を準備する―。

 江戸川乱歩(1895-1965)の「心理試験」(1925(大正14)年2月に雑誌「新青年」に発表)を最初に読んだのは、春陽文庫の「江戸川乱歩名作集7」('52年3月初版)で、他に「二銭銅貨」「二癈人」「一枚の切符」「百面相役者」「ざくろ」「芋虫」の6編を所収していますが('87年の改版版も同じラインアップ)、やはり「心理試験」のインパクトが一番で、「D坂の殺人事件」に続いての素人探偵・明智小五郎の"試験分析"が鮮やかです。

光文社文庫『江戸川乱歩全集』全30巻
江戸川乱歩全集 光文社文庫.jpg 『心理試験』の単行本は、1924(大正14)年7月の刊行で、「創作探偵小説集1」として'93年に春陽堂書店から復刻刊行されています(「二銭銅貨」「D坂殺人事件」「黒手組」「一枚の切符」「二廃人」「双生児」「日記帳」「算盤が恋を語る話」「恐ろしき錯誤」「赤い部屋」の10編を所収)。個人的には、高校生の時に読んだ春陽文庫に思い入れがありますが、今読むならば、光文社文庫の『屋根裏の散歩者―江戸川乱歩全集1』('04年7月刊)が読み易いかも。

 光文社文庫版は初期作品21編を収め、「二銭銅貨」「一枚の切符」「恐ろしき錯誤」「二癈人」「双生児」「D坂の殺人事件」「心理試験」...といった具合に発表順に並べられており、それぞれの作品に、作者自身が全集などに所収する際に書いた自作解説が添えられており(「心理試験」がドストエフスキーの「罪と罰」の中のラスコーリニコフの老婆殺しから示唆を得ていることを、この解説で始めて知った)、作者の自作に対する評価がなかなか興味深いです(「D坂」「心理試験」「屋根裏の散歩者」は、本人評価も良いみたい)。

 こうして見ると、初期作品(1923‐25年の間に発表されたもの)の中でも最初の数編は洋物推理的な純粋トリックが主体で、「D坂」あたりから、次第に人間心理的な要素が推理に織り込まれてくるようになったことが窺えますが、何れも乾いた感じのものが多いように思えます(春陽文庫版の「ざくろ」「芋虫」は、それぞれ'34年、'29年の発表作)。

屋根裏の散歩者 映画.jpg 光文社文庫版の表題作「屋根裏の散歩者」(1925(大正14)年8月に「新青年」に発表)は、'70年、'76年、'94年、'07年の4度映画化されており、田中登監督、石橋蓮司・宮下順子主演の映画化作品「江戸川乱歩猟奇館 屋根裏の散歩者」('76年/日活)を観ましたが、映画はエロチックな作りになっているように思いました。原作は、女の自慢話する男を嫌った主人公が、単に犯罪の愉しみのために、天井裏から毒薬を垂らして男の殺害を謀るもので、エロチックな要素はありません。この作品の事件も明智小五郎が解決しますが、その言動にもどこか剽軽で乾いたところがあります。因みに、この天井裏から毒薬を垂らす殺害方法は、映画「007は二度死ぬ」('67年/英)で採用されており、これによって若林映(あき)子が演じる公安エージェントのアキは殺害されてしまいます。
 
江戸川乱歩猟奇館/屋根裏の散歩者(1976).jpg屋根裏の散歩者 01.jpg 映画がどろっとした感じになっているのは、「人間椅子」(1925年発表)の要素を織り込んでいるためですが("人間椅子"になって喜ぶ下僕が出てくる)、「人間椅子」の原作には実は空想譚だったというオチがあり、乱歩の初期作品には、実現可能性を考慮して、結構こうした作りになっているものが多いのです。江戸川乱歩猟奇館 屋根裏の散歩者   .jpg映画には、「乱歩=猟奇的」といったイメージがアプリオリに介在しているように思えました。宮下順子演じる美那子と逢引するピエロの話も、関東大震災の話(まさに"驚天動地"の結末)も原作には無い話です。自分が最初に観た時も、宮下順子の「ピエロ~、ピエロ~」という喘ぎ声に館内から思わず笑いが起きたくらいで、今日においてはカルト的作品であると言えばそう言えるかもしれません。
江戸川乱歩猟奇館 屋根裏の散歩者1.jpg 江戸川乱歩猟奇館 屋根裏の散歩者2.jpg

江戸川乱歩猟奇館 屋根裏の散歩者 [DVD]」北米版DVD
江戸川乱歩猟奇館 屋根裏の散歩者 dvd .jpg江戸川乱歩猟奇館 屋根裏の散歩者 米.jpg屋根裏の散歩者図5.jpg「屋根裏の散歩者」宮下.jpg「江戸川乱歩猟奇館 屋根裏の散歩者」●制作年:1976年●監督:田中登●製作:結城良煕/伊地智●脚本:いどあきお●撮影:森勝●音楽:蓼科二郎●原作:江戸川乱歩「屋根裏の散歩者」●時間:76分●●出演:石橋蓮司/宮下順子/長弘/池袋文芸地下 地図.jpg織田俊彦/渡辺とく子/八代康二/田島はるか/中島葵/夢村四郎/秋津令子/水木京一●公開:1976/06●配給:日活●最初に観た場所:池袋文芸地下(82-11-14)(評価:★★★)●併映:「犯された白衣」(若松孝二) 
 
江戸川乱歩短篇集 (岩波文庫).jpg 「心理試験」...【1952年文庫化・1987年改版版[春陽文庫・江戸川乱歩文庫]/1960年再文庫化[新潮文庫(『江戸川乱歩傑作選』)]/1971年再文庫化[講談社文庫(『二銭銅貨・パノラマ島奇談』)]/1973年再文庫化[角川文庫(『黄金仮面』)]/1984年再文庫化[創元推理文庫(『日本探偵小説全集2』)]/1987年再文庫化[江戸川乱歩推理文庫(講談社)(『二銭銅貨』)]/2004年再文庫化[光文社文庫(『江戸川乱歩全集 第1巻 屋根裏の散歩者』)]/2008年再文庫化[岩波文庫(『江戸川乱歩短篇集』)]/2015年再文庫化[春陽堂・江戸川乱歩文庫]】

江戸川乱歩短篇集 (岩波文庫)』(収録作「D坂の殺人事件」「屋根裏の散歩者」「人間椅子」「鏡地獄」「二銭銅貨」「心理試験」「押絵と旅する男」「白昼夢」「火星の運河」「お勢登場」「木馬は廻る」「目羅博士の不思議な犯罪」の12編)

【読書MEMO】
二銭銅貨[『新青年』1923.04]/一枚の切符[『新青年』1923.07]/恐ろしき錯誤[『新青年』1923.11]/二癈人(二廃人)[『新青年』1924.06]/双生児[『新青年』1924.10]/D坂の殺人事件[『新青年』1925.01]/心理試験[『新青年』1925.02]/屋根裏の散歩者[『新青年』1925.08]/人間椅子[『苦楽』1925.10]
 

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寺山色が薄まった「サード」、寺山と羽仁進とのコラボがうまくいっていない「初恋・地獄変」。

サード ちらし.jpgサード.jpg 帰らざる日々.jpg 桃尻娘 竹田かほり.jpg 初恋・地獄篇.jpg
サード [DVD]」/ 「帰らざる日々 [DVD]」/ 「ピンクヒップガール 桃尻娘 [DVD]」 /「初恋・地獄篇 [DVD]」ポスターデザイン:宇野亜喜良
「サード」チラシ

サード4.jpgサード 78.jpg 「サード」('78年3月/ATG)は、少年院にいる"サード"という少年の、大人達から浮ついた励ましの言葉をかけられたところで決して満たされることのない鬱々とした日々を描いた作品。彼は元々、「大きな町へ行く」ことを夢見る高校生男女の4人組の1人で、資金稼ぎに始めた売春がもとで事件を起こし少年院へ送られてきたのだった―。

サード3.jpgサード  .jpg 寺山修司(1935‐1983)の脚本で(原作は軒上泊の「九月の町」)ATG映画の中でも評価の高い作品ですが(第52回キネマ旬報ベスト・テン第1位)、その脚本をまた撮影段階で大幅に変更したとのことで、寺山修司自身が監督した作品と比べれば当然ですが、この作品単体で見ても寺山の色をあまり感じませんでした。

サード1.jpg ただ、"オシ"という無口な少年をはじめ、"トベチン"、"アキラ"、"漢字"、脱走を試みる"ⅡB"といった少年達は皆、自閉的ながらもユニークで、こういうキャラは寺山の半自伝的作品にもあったかも(そう言えば"短歌"と呼ばれている少年もいた)。

 野球少年だったサードはひたすらホームベースの見えないグランドをぐるぐる走り続ける―ちょっとアラン・シリトーの『長距離走者の孤独』を想い出しますが、少年院の大人達に対するサード達の抵抗は、教育会で講師が語っているときにオナラをしたり、褒め言葉に対して暴言で返したりする程度で、ボランティアで慰問に訪れた女の子を暴行するのは、彼らの夢想の世界でのことでしかなく、今観れば、ああ、ここにも70年代の"閉塞感"があるなあと...。

永島敏行ド.jpgサード2.jpg 永島敏行(1956年生まれ。現在、俳優兼「農業コンサルタント」?)は、この作品が映画初出演でしたが、演技はそれほど悪くないけれども良くもないと言うか、あまり陰が感じられず、同年に主演した藤田敏八(1932‐1997/享年65)監督の帰らざる日々」('78年/日活)でのキャバレーのボーイをしながら作家を志している青年役の方が、まだ演技らしい演技だったかも。  

森下愛子(「サード」)
森下愛子.jpgサード1978年森下.jpg 「サード」は、主人公を演じた永島敏行よりも、主人公の女友達役の森下愛子(1958年生まれ、この作品が映画初出演。吉田拓郎と結婚し、いったん芸能活動を休止したが、その後また復帰し、宮藤官九郎脚本の作品の常連に)の陰のある演技が良く、「帰らざる日々」で主人公の青年が高校時代に思いを寄せた喫茶店のウェイトレス役の浅野真弓(1957年生まれ)や、中学時代の同級生役の竹田かほり(1958年生まれ、同年の「桃尻娘 ピンク・ヒップ・ガール」('78年4月/日活)が映画初主演)などの演技も良かったように思います(橋本治原作の「桃尻娘 ピンク・ヒップ・ガール」は思春期の女の子をヴィヴィッドに描いていて単純に面白かった)。

森下愛子2.jpg サード 森下愛子.jpg  「帰らざる日々」浅野真弓.jpg 浅野真弓.jpg
森下愛子(「サード」)                    浅野真弓(「帰らざる日々」)
帰らざる日々2.jpg 帰らざる日々 竹田.jpg  竹田かほり ピンク・ヒップ.jpg
竹田かほり(「帰らざる日々」)      竹田かほり(「桃尻娘 ピンク・ヒップ・ガール」)

「初恋・地獄篇」 ('68年/ATG)
初恋・地獄変2.png初恋・地獄変.gif 寺山修司は「サード」以前にも、羽仁進監督の「初恋・地獄変」('68年/ATG)の脚本を羽仁進と共同で書いていて、これは、救護院にいた少年が彫金師に引き取られて成長する様を、少年の過去と現在を交互に織り交ぜ、そこにインタビューや隠し撮りなどのドキュメンタリーの手法も入れて描いたものですが、こちらは「サード」と違って、寺山の色が薄いと言うより、どの部分が寺山修司でどの部分が(多分ゴダールの影響を受けたらしい)羽仁進の部分かということが、観ていて何となく分かってしまう―その点では、必ずしも成功したコラボだったようには思えませんでした。

 一方、「サード」の監督・東陽一の手掛けた初の劇映画は「やさしいにっぽん人」('71年/東プロ)でした(この作品は新宿紀伊國屋ホールで観て、監督・出演者らの舞台挨拶があった。紀伊國屋ホールは緑魔子が70年代にリサイタルをやった会場でもあった)。沖縄で起きた集団自決から生き延びた赤ん坊が、そのことを何も覚えていないまま成長し、恋人や友人たちと一緒に真の「ことば」を求めて遍歴する姿を描く―という、今観るといかにも「70年代」といった感じの作品ですが、主人公・謝花(シャカ)の解放の道筋の合間に、育児ノイローゼの母親、ベトナム反戦デモなど当時の日本の世相が織り込まれ、出演陣も、河原崎長一郎、緑魔子、伊丹十三、伊藤惣一、石橋蓮司、蟹江敬三、渡辺美佐子と今観ると多彩で、「東京物語」('53年)のお婆さん・東山千栄子や、「ウルトラマン」('66-'67年)のフジ・アキコ隊員・桜井浩子も出演しています。
                
「やさしいにっぽん人」主題歌(詞:東陽一/曲:海老沼裕・田山雅光)
やさしいにっぽん人 dvd.jpg伊丹十三 .jpg 出演俳優の1人だった伊丹十三は、「このスタッフの無謀さに賭ける」という言葉を残していますが、当時の「時代の雰囲気」が出過ぎていて、遅れてきた世代には逆に中に入り込みにくいかも。そうしたの中で、別に説明的であるわけではなく、ただ存在として最も「時代の雰囲気」を分かり易く感じさせるのは、当時、石橋蓮司の内縁の妻だった緑魔子でしょうか(後に結婚)。東陽一監督は、「日本妖怪伝サトリ」('73年/青林舎)でも緑魔子を使っていました。 「やさしいにっぽん人 [DVD]」 2013年発売(販売元: 紀伊國屋書店)

やさしいにっぽん人7.jpgやさしいにっぽん人_o2.gif 日本妖怪伝 サトリ (1973).jpg日本妖怪伝サトリ [DVD]
「やさしいにっぽん人」映画チラシ/パンフレット表4

サード atg.jpgサード ≪HDニューマスター版≫ [DVD]」['17年]
サード ≪HDニューマスター版≫ [DVD].jpg「サード」●制作年:1978年●監督:東(ひがし)陽一●製「サード」永島1.jpg作:前田勝弘●脚本:寺山修司●撮影:川上皓市/小林達比古●音楽:田中未知●原作:軒上泊「九月の町」●時「サード」森下.jpg間:103分●出演:永島敏行/吉田次昭/森下愛子/志方亜紀子/片桐夕子/峰岸徹/内藤武敏/島倉千代子/西塚肇/根本豊/池田史比古/佐藤俊介/鋤柄泰樹/若松武 /飯塚真人/宇土幸一/渋谷茂/尾上一久/藤本新吾/岡本飯田橋ギンレイホールes.jpgギンレイホール.jpg弘樹/穂高稔/市原清彦/今村昭信/杉浦賢次/清川正廣/津川泉/小林悦子/大室温子/秋川ゆか/関口文子/角間進/北原美智子/品川博●公開:1978/03●配給:ATG●最初に観た場所:飯田橋・ギンレイホール(78-07-25)(評価:★★★)●併映:「祭りの準備」(黒木和雄)
ギンレイホール 1974年1月3日飯田橋にオープン 2022年11月27日閉館

江藤潤・永島敏行
「帰らざる日々」1978.jpg帰らざる日々00.jpg「帰らざる日々」●制作年:1978年●監督:藤田敏八●製作:岡田裕●脚本:藤田敏八/中岡京平●撮影:前田米造●音楽:アリス●原作:中岡京平●時間:99分●出演:江藤潤/永島敏行/朝丘雪路/根岸とし江(根岸季衣)/浅野真弓/竹田かほり/中村敦夫/中尾彬/吉行和子/小松方正/草薙幸二郎/丹波義隆/加山麗子/阿部敏郎/高品正広/深見博/日帰らざる日々takeda.jpg夏たより●公開:1978/08●配給:日活●最初に観た場所:飯田橋ギンレイホール(79-05-23)●2回目:神田・神保町シアター(22-08-28)(評価:★★★★)●併映(1回目):「八月の濡れた砂」/「赤い鳥逃げた?」(藤田敏八)
竹田かほり in「帰らざる日々」


桃尻娘 ピンク・ヒップ・ガールpf.jpg桃尻娘 ピンク・ヒップ・ガールvhs.jpg竹田かほり4.jpg「桃尻娘 ピンク・ヒップ・ガール」●制作年:1978年●監督:小原宏裕(おはらこうゆう)●製作:岡田裕●脚本:金子成人●撮影:森勝●音楽:長戸大幸●原作:橋本治「桃尻娘」●時間:87分●出演:竹田かほり/亜湖/高橋淳/野上祐二/桑崎晃男/森川麻美/清水国雄/佐々木梨里/片桐夕子/0『桃尻娘 ピンク・ヒップ・ガール』.jpg内田裕也/遠山牛/大竹智子/一谷伸江/関悦子/岸部シロー●公開:1978/04●配給:日活●最初に観た場所:池袋文芸地下(79-06-03)(評価:★★★☆)●併映:「ふりむけば愛」(大林宣彦)
    
初恋・地獄篇 ≪HDニューマスター版≫ [Blu-ray]」['17年]
初恋・地獄篇 ≪HDニューマスター版≫.jpg『初恋・地獄篇』(羽仁進監督)1.bmp『初恋・地獄篇』(羽仁進監督)2.bmp「初恋・地獄篇」●制作年:1968年●監督:羽仁進●脚本:脚本:寺山修司/羽仁進●撮影:奥村祐治●音楽:武満徹/矢代秋雄●時間:107分●出演:高橋章夫/石井くに子/満井幸治/福田知子/宮戸美佐子/湯浅実/額村喜美子/木村一郎/支那虎/湯浅春男●公開:1968/05●配給:ATG●最初に観た場所:有楽町・日劇文化(80-07-17)(評価:★★☆)●併映:「書を捨てよ町へ出よう」(寺山修司)

やさしいにっぽん人.jpgやさしいにっぽん人 vhd.jpg「やさしいにっぽん人」●制作年:1971年●監督:東陽一●製作:高木隆太郎●脚本:東陽一/前田勝弘●撮影:池田伝一●音楽:東陽一/田山雅光●時間:112分●出演:河原崎長一郎/緑魔子/伊丹十三/伊藤惣一/石橋蓮司/蟹江敬三/渡辺美佐子/寺田柾/横山リエ/大辻伺郎/平田守/東山千栄子/桜井浩子/秋浜悟史/陶隆司●公開:1971/03●配給:東プロ●最初に観た場所:●最初に観た場所:●最初に観た場所:新宿・紀伊國屋ホール(82-03-27)(評価:★★★☆)●併映:「日本妖怪伝サトリ」(東陽一)
東陽一監督「やさしいにっぽん人」('71年)/「日本妖怪伝サトリ」('73年)
「やさしいにっぽん人」「日本妖怪伝サトリ」.jpg
「やさしいにっぽん人」パンフレット
やさしいにっぽん人754.jpg
やさしいにっぽん人 813.jpg

竹田かほり in 探偵物語.jpg盲獣 midori .jpg 緑魔子 in「盲獣」('69年/東映)
竹田かほり in「探偵物語(TVドラマ)」(1979/09~1980/04(全27回)/TBS)

紀伊國屋書店.jpg紀伊国屋ホール.jpg紀伊國屋ホール 1964年、紀伊國屋書店本店4階にオープン。2003年、第51回菊池寛賞受賞。


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工藤夕貴の演技がいい「台風クラブ」。少女を撮るのが上手だった故・相米慎二監督。

Typhoon Club 1985.jpg 台風クラブ.jpg    逆噴射家族.jpg 逆噴射家族 1シーン.jpg 
「台風クラブ」ポスター「台風クラブ [DVD]」(相米慎二監督)「逆噴射家族 [DVD]」(石井聰互監督)ラストシーン

台風クラブ1.jpg 地方都市の女子中学生たちが、学校のプールに夜中に泳ぎにやってきて、先に来ていた男子生徒にイタズラをするが、度が過ぎて溺死寸前の状態に追い込んでしまう。翌朝、ニュースでは台風の接近を告げていた―。

台風クラブ2.bmp 「台風クラブ」('85年/東宝=ATG)は、'85(昭和60)年の第1回東京国際映画祭のグランプリ受賞作で、台風の接近に伴い、言いようのない感情の昂ぶりを見せ騒乱状態に陥る中学生たちを生々しく且つ瑞々しく描き出した作品。女子中学生役の工藤夕貴が、中学生の日常とそこに潜む思春期の生理的・精神的危うさを演じて台風クラブ22.jpg秀逸で、何か自分でそうしたものを観察でもしたかのような相米慎二監督の演出が際立っています。実際、女子中学生の私生活を「長回し」で写し撮っているような感じのシーンもあり、今ならば児童保護の名目で規制の対象になりそうな際どい場面もあって、更にストーリー的にも結構どろどろした出来事がありますが、そうしたことも含め、「観察対象」としての距離を置いて撮っているような感じもします。

 迫りくる台風に対する不安と非日常への漠たる期待、台風という非日常の中での狂騒、そして台風台風クラブ 図1.jpg一過、中学生たちは何事もなかったかのようにまた元気に学校に通い出す―でも実は、台風が来る前に比べぐっと大人に近づいているという、 "大人になるための出来事"を台風に絡めているところが旨く、また、女子中学生の方が男子よりも逞しく描かれているように思いました。人間の自律神経は気圧の変化には敏感で、酸素がたくさんある高気圧だと酸素ストレスで交感神経が緊張して体は興奮して元気になり、逆に雨や台風で低気圧が接近すると、副交感神経が優位に働いて、特に神経痛やリュウマチなどの持病がある人にとっては低気圧は不快感を増幅させるそうですが、思春期にある者の情緒不安定を引き起こすことについても何か科学的根拠があるんじゃないかなあ。

相米慎二.jpg 相米慎二(1948‐2001/享年53)監督は、薬師丸ひろ子(当時17歳)主演の「セーラー服と機関銃」('81年)の後に夏目雅子(当時25歳)主演の「魚影の群れ」('83年)や斉藤由貴(当時19歳)主演の「雪の断章‐情熱‐」('85年)などを撮り、そして工藤夕貴(当時14歳)主演のこの作品「台風クラブ」を撮っていますが、その内夏目雅子を除いて当時何れも二十歳未満で、斉藤由貴は映画初出演で主演、工藤夕貴もこの作品が初主演でした。何だか新人専門みたいですが、とりわけ未成年(少女)を撮るのが上手だった(?) 相米慎二監督はその後も、「東京上空いらっしゃいませ」('90年)で当時18歳の牧瀬里穂を、「お引越し」(93年)で当時11歳の新人・田畑智子を、それぞれ主役に据えた作品を撮っています。

台風クラブ 三浦友和 演.jpg 「台風クラブ」では三浦友和が不良っぽい教師役で出ていて、なかなか良かったです。三浦友和は、所謂「百恵・友和ゴールデンコンビ」と言われた作品群で1970年代に二枚目の俳優として10代に大変な人気がありましたが、その百恵・友和のゴールデン・コンビの第8作、大林宣彦監督、ジェームス三木脚本の「ふりむけば愛」('78年/東宝)を友達と観に行って、2人とも途中で眠くなりました。ただ、本作を契機に山口百恵と三浦友和は結婚に踏み切ることを決意したと言われています。2本立てで小原宏裕監督の「桃尻娘 ピンク・ヒップ・ガール」('78年/日活)の後でしたが、大林宣彦監督はいい作品(尾道3部作など)も撮る一方で駄作も多い気がし、これもその1つ。百恵・友和コンビ作では、市川昆監督、川端康成原作の「古都」('80年)が山口百恵引退記念作品となり、三浦友和は村川透監督、勝目梓原作の「獣たちの熱い眠り」('81年/東映)でイメージチェンジを図りますが(三浦友和は萩原健一や松田優作のような反体制タイプの役者に憧れていたらしい)、映画内で風吹ジュンらとの激しいベッドシーンなどがあったものの、「三浦友和のイメチェン作」と言われている割にはイメチェンに成功しておらず、彼の後の演技の糧にはなったかもしれませんが、「友和クンにハードボイルドは似合わない」というのが当時の印象でした(この作品は過去にビデオあれておらず、'09年現在DVD化もされていない)。その三浦友和が、この「台風クラブ」では、その無責任ゆえに生徒たちから反発を喰う教師役を演じていて、恋人(小林かおり)が台台風クラブ 三浦友和 演技.jpg所で料理をしている隣りの部屋でだらしなく寝転がってる三浦友和が、近よってきた恋人に足を絡ませ倒して抱きつく長回しなど、ダメさ加減がよく出ていました(ハードボイルド風よりよりこっちの方がいい)。個人的には、この作品こそが彼のイメージチェンジ作ではないかなと思います(イメチェンって、ただこれまでと違う役をやればいいというものでもなく、新たなキャラを確立させなければならないだけに難しい)。三浦友和はこの作品で、第10回報知映画賞助演男優賞を受賞しています。
「NHKあさイチ~あさイチ・プレミアムトーク~」(2011.11.25)

「ふりむけば愛」('78年/東宝)、「獣たちの熱い眠り」('81年/東映)、「台風クラブ」('85年/東宝=ATG)
三浦友和1 ふりむけば愛.jpg 0三浦友和2 獣たちの熱き眠り2.jpg 三浦友和3 台風クラブ.jpg

逆噴射家族5.bmp 一方、工藤夕貴の映画初出演は、この作品の前年の石井聰互監督の「逆噴射家族」('84年/ATG)で(当時13歳)、真面目で小心者のサラリーマン(小林克也)が長期ローンでやっとマイホームを建て、家族4人でそれなりの幸せ気分でいたところに(この家族が変人揃いで皆それぞれ勝手気儘というかバラバラなのだが、その1人が工藤夕貴演じる娘)、郷里からまた変な祖父(植木等)が舞い込んで来て家の中がおかしくなりだし、更にある日、このサラリーマン氏が自宅でシロアリの群れを発見して、マイホームが朽ちるのではとの不安に駆られ、シロアリ駆除に向けて大暴走するというものです。

逆噴射家族6.bmp 小林よしのり氏(当時31歳)の原案だそうですが、映画としてはあくまでも石井聰互監督(当時27歳)の映画という感じで、DJ・小林克也の演技は役者並みだし、ちょっと狂い気味の妻役の倍賞美津子や、植木等の怪しい老人ぶりもいいです。

0有薗芳記 in 「逆噴射家族」.jpg 更には工藤夕貴の兄を演じた有薗芳記の電脳オタクぶりも、映画初出演ながら凄かった―ということで、工藤夕貴のぶっ飛び感も、これらに比べるとちょっと弱かったかも知れません("緊縛シーン"(?)に象徴されるように、彼らの被害者的立場という色合いが強い役柄のせいもあったが)。
有薗芳記 in 「逆噴射家族」

逆噴射家族ンロード.jpg逆噴射家族A.jpg 「逆噴射家族」は海外の映画祭でもグランプリなどを獲っている作品ですが、狂気を描くことが目的化してしまっている面も感じられ、むしろ異価値・異文化的な面で海外に受台風クラブ07.jpgけたのではないかなあ。個人的には「台風工藤夕貴 in 「台風クラブ」.jpgクラブ」の方がより好みでしょうか。

[上]小林克也 in 「逆噴射家族」

[下]工藤夕貴 in 「台風クラブ」
        
  

台風クラブes.jpg「台風クラブ」●制作年:1985年●監督:相米慎二●製作:宮坂進●脚本: 加藤裕司●撮影:伊藤昭裕●音楽:三枝成章●時間:85分●出演:工藤夕貴/三上祐一/大西結花台風クラブ  13.jpg三浦友和/佐藤充/寺田農/尾美としのり/鶴見辰吾/紅林茂/松永敏行/会沢朋子/小林かおり/きたむらあきこ/石井富/佐藤浩市(友情出演)●公開:1985/08●配給:東宝=ATG●最初に観た場所:有楽町スバル座(1985/8/31)●2回目:大井武蔵野館(1986/9/20)(評価:★★★★)●併映(2回目):「時代屋の女房」(森崎東) 
    
ふりむけば愛〈別冊近代映画〉.jpgふりむけば愛9.jpg「ふりむけば愛」●制作年:1978年●監督:大林宣彦●製作:堀威夫/笹井英男●脚本:ジェームス三木●撮影:萩原憲治●音楽:宮崎尚志(主題歌:三浦友和「ふりむけば愛 dvd.jpgふりむけば愛」(作詞・作曲:小椋佳 編曲:松任谷正隆))●時間:92分●出演:山口百恵/三浦友和/森次晃嗣/玉川伊佐男/奈良岡朋子/黒部幸英/神谷政浩/名倉良/高橋昌也/南田洋子/大内勇/藤木啓士/安西卓人/星野晶子/岡田英次●公開:1978/07●配給:東宝●最初に観た場所:池袋文芸坐(79-06-03)(評価:★★)●併映:「桃尻娘 ピンク・ヒップ・ガール」(小原宏裕)
ふりむけば愛 [DVD]

獣たちの熱い眠り .jpg獣たちの熱き眠り 00.jpg獣たちの熱い眠り 3.jpg「獣たちの熱い眠り」●制作年:1981年●監督:村川透●脚本:永原秀一●撮影:仙元誠三●三浦友和風吹ジュン宇佐美恵子「獣たちの熱い眠り」広告.jpg音楽:速水清司●原作:勝目梓●時間:111分●出演:三浦友和/風吹ジュン/なつきれい/宇佐美恵子/石橋蓮司/鹿内孝/峰岸徹/宮内洋/佐藤蛾次郎/阿藤海/安岡力也/草薙幸二郎/中丸忠雄/中尾彬/成田三樹夫/伊吹宇佐美恵子1.jpg宇佐美恵子2.jpg吾郎/(以下、特別出演)吉行和子/池波志乃/来栖アンナ●公開:1981/09●配給:東映●最初に観た場所:池袋文芸坐(82-03-21)(評価:★★)●併映:「吼えろ鉄10文芸坐.jpg拳」(鈴木則文)
[上]「映画チラシ 「獣たちの熱い眠り」監督 村川透 出演 三浦友和、なつきれい、宇佐美恵子」/[右]広告切抜き
宇佐美恵子
三浦友和/風吹ジュン
0「獣たちの熱い眠り」.jpg 0「獣たちの熱い眠り」2.jpg
     
逆噴射家族1.jpg逆噴射家族 2.png逆噴射家族 1.png「逆噴射家族」●制作年:1984年●監督:石井聰互●製作:長谷川和彦/山根豊次/佐々木史郎●脚本:石井聰逆噴射家族E-.jpg亙/小林よしのり/神波史男●撮影:田村正毅●時間:106分●出演:小林克也/倍賞美津子/植木等/工藤夕貴/有薗芳記/岸野一彦/小海とよ子/緒方明/林崎巌/郷守信廣/井上欣逆噴射家族   .jpg則/高橋佑奈/井手国弘/アレックス・アブラモフ●公開:1984/06●配給:ATG●最初に観た場所:池袋日勝文化劇場(85-11-04)(評価:★★★☆)●併映:「お葬式」(伊丹十三)

「逆噴射家族」スチール写真(左から有薗芳記/植木等/小林克也/倍賞美津子/工藤夕貴)
   
日勝文化2.jpg池袋.jpgビックカメラ池袋.jpg池袋日勝映画劇場・池袋日勝文化劇場・池袋スカラ座・池袋日勝地下劇場 (現・池袋東口ビックカメラ池袋本店付近) 1995(平成7)年6月25日閉館
池袋日勝 日勝文化3.jpg
日勝文化705.jpg③池袋東急 ④池袋スカラ座 ⑮池袋日勝地下劇場 ⑬池袋日勝映画劇場 ⑭池袋日勝文化劇場

・1937年 池袋日勝映画館オープン
・1946年10月 - 池袋日勝映画劇場として再オープン
・1951年12月 - 池袋日勝地下劇場オープン
・1960年前後 - 池袋日勝文化劇場、池袋松竹劇場オープン
・1963年 - 池袋松竹劇場を池袋スカラ座と改称
・1995年 - 4館ともすべて閉館
池袋スカラ座/池袋日勝文化 菅野 正 写真展 「平成ラストショー hp」より  
池袋日勝 日勝文化 6月25日.jpg 池袋日勝.jpg 
青木 圭一郎 『昭和の東京 映画は名画座』(2016/03 ワイズ出版)より
昭和の東京 映画は名画座  池袋.jpg

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石橋蓮司主演2作。時代の空疎感伝える「あらかじめ...」と中上文学を再現した佳作「赫い髪の女」。
あらかじめ失われた恋人たちよ(ポスター).jpg あらかじめ失われた恋人たちよ プレス.jpg  「赫い髪の女」.jpg 赫い髪の女.jpg
あらかじめ失われた恋人たちよ」 DVD/チラシ 「赫い髪の女 [DVD]」(監督:神代辰巳)

arakajime.jpgあらかじめ失われた恋人たちよド.jpg 棒高跳びでのオリンピック出場の夢を断たれて自棄になり、強盗を働きながら日本中を放浪していたあらかじめ失われた恋人たちよ.jpg青年(石橋蓮司)はある日、日本海のある街のスーパーの開店イベントで、全身に金粉を塗ってパフォーマンスをする聾唖者の男女(加納典明・桃井かおり)の姿に目を奪われ、彼らにつきまとい始める―。(加納典明桃井かおり石橋蓮司

「アートシアター 90 あらかじめ失われた恋人たちよ」より
あらかじめ失われた恋人たちよ0.JPG 「あらかじめ失われた恋人たちよ」('71年/ATG)は、劇作家の清水邦夫と当時「東京12チャンネル」のディレクターだった田原総一朗(この人、最初は岩波映画でカメラ助手をやっていた)の共同脚本・共同監督作品で、桃井かおりの実質的なデビュー作であり(桃井かおりは藤田敏八監督の「赤い鳥逃げた?」('73年/東宝)でも、シロクロ・ショーをしながら旅する女という役だった)、今は写真家になっている加納典明なども出ている映画ですが、今の田原総一郎、加納典明とこの映画とは、自分の中では長い間リンクしなかったような気がします。

 ストーリーはあるものの、多少前衛がかっていて(加納典明・桃井かおりが喋らないので石橋蓮司の独白で話は進む)、地下演劇的なムードもあるかも(田舎でやるシロクロ・ショーなどは何となく土俗的)。加えて、タイトルもしゃれているし何だか難しそうですが、少なくとも「あらかじめ失われた」ものが第一義的には「言葉」であることは、容易にわかるのではないでしょうか(だから、言葉を駆使している評論家・田原総一郎、カメラマン・加納典明とリンクしない?)。 
石橋蓮司

内灘夫人.jpg 後半の主要舞台は金沢郊外の内灘砂丘ですが、かつてここで米軍の試射場設置に対する反対闘争があったわけで、この作品にも試写場の廃墟が出てきます。五木寛之が60年安保の余韻を伝える作品『内灘夫人』を発表したのが'68年、しかしながらこの映画の公開は'71年で、もう既に70年安保という"政治の季節"が終わってしまったようなムードが、作品の中にもどことなくあります。

 というわけで、面白いと言うよりもどちらかと言えば一時代の記念碑的な作品ですが、石橋蓮司のパフォーマンス的な演技がその時代の空疎感、閉塞感をよく伝えていて、神代(くましろ)辰巳監督の「赫い髪の女」といいこの作品といい、70年代の石橋蓮司っていいなあと思います。

「赫い髪の女」英語版.jpg赫い髪の女 poster.jpg 「赫い髪の女」('79年/にっかつ)は中上赫い髪の女35.jpg健次の原作で、ダンプ運転手(石橋蓮司)といきずりの女(宮下順子)の愛欲の生活をリアルに描いた作品ですが、雨のジトジト降る日に狭いアパートの一室で、セックスの合間にインスタントラーメンを音をたてて啜る2人が、どういうわけか個人的にはすごく印象的でした。この作品も時代の閉塞を表していると言えるかも知れません。DVD化されているので、再見しようと赫い髪の女3.jpg赫い髪の女2.jpg思えばいつでも観ることができるのですが、出来れば劇場で観たい作品です(自分がこの作品を最初に観た「銀座並木座」は閉館してしまったが)。中上健次の原作のムードを損なわずに丁寧に撮られた佳作だったと思います。
石橋蓮司宮下順子山口美也子 

 
 
あらかじめ失われた恋人たちよv.jpg映画・あらかじめ失われた恋人たちよ.jpgあらかじめ失われた恋人たちよ4.png「あらかじめ失われた恋人たちよ」●制作年:1971年●監督・脚本:清水邦夫/田原総一郎●企画:葛井欣士郎●撮影:奥村祐治●音楽:成毛滋●時間:123分●出演:石橋蓮司桃井かおり/加納典明/岩淵達治/内田ゆき/正城睦子/緑魔子/カルメン・マキ/蟹江敬三/豊田紀雄/井上博一/吉田潔/竹之内弾/秋浜悟史/井田邦明/キムカンザ/佐藤重臣/大文芸坐休館.jpg池袋文芸地下 地図.jpg文芸坐.jpg森直人/蜷川幸雄/佐々倉英雄●公開:1971/11●配給:ATG●最初に観た場所:池袋文芸地下 (79-11-25)(評価:★★★★)●併映:「エロスは甘き香り」(藤田敏八)
池袋・文芸地下 1955(昭和30)年12月27日オープン、1997(平成9)年3月6日閉館。
 
『赫い髪の女』.bmp「赫い髪の女」●制作年:1979年●監督:神代辰巳●製作:三浦朗●脚本:荒井晴彦●撮影:前田米造●音楽:憂歌団●原作/中上健次「赫髪」●時間:75分●出演:宮下順子石橋蓮司/亜湖/阿藤海/三谷昇/山口美也子/絵沢萠子/山谷初男/石堂洋子/高橋明/庄司三郎/佐藤了一●公開:1979/02●配給並木座.jpg並木座閉館.jpg:にっかつ●最初に観た場所:銀座並木座 (79-06-03)(評価:★★★★)●併映:「女教師」(田中登)
銀座並木座  1953年10月7日オープン。1998(平成10)年9月22日閉館。

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多くの読者を得る"理由"の1つは、社会への問題提起にあるのでは。

理由 単行本.jpg 理由2.jpg 理由.jpg   映画 理由 大林ード.jpg 理由3.jpg
単行本『理由』['98年]『理由 (朝日文庫)』〔'02年〕『理由 (新潮文庫)』〔'04年〕映画「理由」(2004) 岸部一徳
宮部 みゆき 『理由』.JPG 1998(平成10)年下半期・第120回「直木賞」受賞作で、1998 (平成10) 年度「週刊文春ミステリー ベスト10」(国内部門)第1位。「日本冒険小説協会大賞」も併せて受賞。  

 東京・荒川区の超高層マンション「ヴァンダール千住北ニューシティー」で起きた殺人事件は、一家3人が殺され1人が飛び降り自殺するという奇怪なものだったが、被害者たちの身元を探っていくとそこには―。

 直木賞受賞作ですが、事件状況とその意外な展開という着想が素晴らしいと思いました。事件の解明を通して住宅ローン地獄や家族の崩壊という現代的テーマが浮き彫りになってきますが、そこにルポルタージュ的手法が効いています。

火車.jpg 『火車』('92年/双葉社)において、戸籍が本人であることを詐称することで簡単に書き換えられることをプロットに盛り込んだ著者は、この作品では「占有権」という一般の目には不可思議な面もある法的権利と、それを利用する「占有屋」という商売に注目していて、こうした着眼とその生かし方にも、著者の巧さを感じます。

カバチタレ!3.jpg (「占有屋」は、後に『カバチタレ!』(青木雄二(監修)・田島隆(原作)・東風孝広(漫画))というコミックでもとりあげられ、テレビドラマ化された中でも紹介された、法の網目を潜った奇妙な商売。)

 作品の冒頭の特異な事件展開にはグンと引き込まれましたが、それに対し、事実がわかってしまえばそれほど驚くべき結末でもなかったのでは...みたいな感じもあります。

 しかし、ミステリーとしての面白さもさることながら、それ以上に、現代社会に対する鋭い問題提起が、この多才な作家の真骨頂の1つであり、幅広い世代にわたり多くの読者を獲得している"理由"は、そのあたりにあるのではないかと思いました(とりわけそれは、社会派推理の色合いが強い『火車』と『理由』の2作品に最も言えることではないか)。

宮部みゆき『理由』新潮文庫.jpg映画「理由」.jpg '04年に大林宣彦監督が映画化していますが、元々はWOWOWのドラマとして145分版がその年のゴールデンウィーク中の4月29日に放映されています。12月劇場公開版は160分となります。

 関係者の証言を積み重ねていくドキュメンタリー的なアプローチは原作と同じで、出演者107人全員を主役と見做し("主要"登場人物に絞っても約40名!)、全員ノーメークで出演と頑張っているのですが、「キネマ旬報」に載った大林宣彦監督のインタビュー記事で、こうした作り方の意図するところを知りました。

 個人的には、原作に忠実である言うより(登場人物のウェイトのかけ方は若干原作と異なる)、原作のスタイルを損なわずにそのまま映像化したら(つまり、この作品における膨大な関係者証言の部分を、一切削らずに、「証言」のままの形で映像化したら)どのようになるかとという推理小説の映像化に際しての1つの実験のようにも思えました。

新潮文庫 映画タイアップカバー版

アクロシティタワーズ.jpg 但し、実際映像化されてみるとやや散漫な印象も受けました。森田芳光監督の「模倣犯」('02年/東宝)みたいな"原作ぶち壊し"まではいかなくとも(あれはひどかった)、もっと違ったアプローチもあってよかったのではないかとも思いました。因みに、この小説の舞台となった荒川区の超高層マンション「ヴァンダール千住北ニューシティー」のモデルは「シティヌーブ北千住30」(足立区)だと思っていたけれど、どうやら南千住の「アクロシティタワーズ」(荒川区)みたいです(「千住北」という地名は存在せず、北千住は足立区になる)。[参照:大腸亭氏「宮部みゆき『理由』の舞台を歩く」/「宮部みゆき作品の舞台を散策する」(「私の宮部みゆき論」)]
   
理由 岸部2.jpg「理由」●制作年:2004年●製作:WOWOW●監督・脚本:大林宣彦●音楽:山下康介/學草太郎●原作:宮部 みゆき●時間:160分(TVドラマ版144分)●出演:岸部一徳/柄本明/古手川祐子/風吹ジュン/久本雅美/立川談志/永六輔/片岡鶴太郎/小林稔侍/高橋かおり/小林聡美/渡多部未華子 映画 理由 篠田いずみ23.jpg辺えり子/菅井きん/石橋蓮司/南田洋子/赤座美代子/麿赤兒/峰岸徹/宝生舞/松田洋治/根岸季衣/伊藤歩/宮崎あおい/宮崎将/裕木奈江/村田雄浩/山田辰夫/大和田伸也/松田美由紀/ベンガル/左時枝/入江若葉/山本晋也/渡辺裕之/嶋田久作/柳沢慎吾/島崎和歌子/中江有里/加瀬亮/勝野洋/多部未華子●劇場公開:2004/12(TVドラマ版放映 2004/04/29)●配給:アスミック・エース (評価★★★☆)
多部未華子(810号室住人 篠田いずみ)
多部未華子/宮崎あおい・宮崎将/裕木奈江
理由 多部未華子13.jpg 理由 宮崎あおい23.jpg 理由 裕木奈江33.jpg

「理由」dj.jpg

 【2002年文庫化[朝日文庫]/2004年再文庫化[新潮文庫]】

●大林宣彦監督インタビュー(「キネマ旬報」(2004.1.下)
 「今回の『理由』は、WOWOWの企画で出発してるんですけど、実はその枠にははまらない。というのは、WOWOWの番組としての予算も枠も決まったシリーズの中の一本なんですけど、宮部みゆきさんの原作は、その枠に合わせて作るのが不可能な小説なんですよ。これまでも多くの人が映画化やテレビドラマ化を試みたんだけど、宮部さんは一度も首を縦に振らなかった。その理由は、ひとつの殺人事件にいかに多くの人が絡み合っているかという、ぼく流に言えば人間や家族の絆が失われた時代に、殺人事件がむしろ哀しき絆となったような人間群像の物語なので、ぼくのシナリオの中でも主要な人物だけで107人もいるんですよ。強引にまとめていけば、10人くらいの物語にはできる。普通の映画やテレビの場合では、そうやって作るんです。しかし、それでは宮部さんが試みた集団劇としての現代の人間の絆のありようが描ききれないんですね。つまりこれをやる以上は、107人総てを画面に出さなければいけない。
 宮部さんは、ぼくに監督をお願いしたとWOWOWから知らされた時点で、すべてぼくにお任せしますとおっしゃったんです。任された以上、ぼくは原作者が意図したものを映画にするのが礼節だと思います。ぼくはいつも原作ものを映画にするときは、作者がはじめからこの物語を映画に作ったら、どういうものになるだろうと考えるんですね。だから紙背にこめられた作者の願いを文学的にではなく映画的に表現したらこうなるよというものを作ろうという意味で、決して原作どおりではないんだけど、原作者の狙いや願いを映画にしようと」

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「物語」そのものになろうとする三島の意志を感じた。

三島由紀夫 豊饒の海1 春の雪.jpg奔馬 豊饒の海2.jpg『豊饒の海』/三島由紀夫1.jpg春の雪.jpg 『豊饒の海』/三島由紀夫2.jpg奔馬.jpg
春の雪 (新潮文庫―豊饒の海)』『奔馬 (新潮文庫―豊饒の海)
「豊饒の海」(全4巻)第1部 『春の雪 (1969年)』 「豊饒の海」(全4巻)第2部 『奔馬 (1969年)
装幀:村上芳正
IMG0豊饒の海.jpgIMG1春の雪.jpg 維新の功臣を祖父にもつ侯爵家の若き嫡子松枝清顕と、伯爵家の美貌の令嬢綾倉聡子のついに結ばれることのない恋。矜り高い青年が、〈禁じられた恋〉に生命を賭して求めたものは何であったか?―大正初期の貴族社会を舞台に、破滅へと運命づけられた悲劇的な愛を優雅絢爛たる筆に描く―。(『春の雪』―「豊饒の海」第1部)

IMG2奔馬.jpg 今や控訴院判事となった本多繁邦の前に、松枝清顕の生まれ変わりである飯沼勲が現れる。昭和の神風連を志す彼は、腐敗した政治・疲弊した社会を改革せんと蹶起を計画する。しかしその企ては密告によってあえなく潰える... 。彼が目指し、青春の情熱を滾らせたものは幻に過ぎなかったのか?若者の純粋な〈行動〉を描く―。(『奔馬』―「豊饒の海」第2部)

 「豊饒の海」は'65(昭和40)年9月から『新潮』に連載された三島由紀夫の長編小説で、'69~'71年新潮社刊。「豊饒の海」4部作の中では、思弁的な後半2部「暁の寺」「天人五衰」より、より小説らしい「春の雪」「奔馬」の方が親しみやすかったです。三島自身が述べているように、「春の雪」は「たわやめぶり」を、「奔馬」は「ますらをぶり」を描いた作品と言えますが、「春の雪」の完成度が高く、これだけ読んでも充分堪能できます。ただし、ここで終ってしまうと、「今、夢を見てゐた。又、会うぜ。きつと会う。滝の下で」という松枝清顕の言葉が、単なる謎で終ってしまいます。

 「奔馬」に読み進むことで、初めて「転生」というテーマが見えてきますが、同時に、本多繁邦の「見る者」としての視点が「春の雪」に遡及して意識され、更に、両作を通しての作者の視座(感情移入・登場人物との自己同化)の推移が窺える気がしました。

春の雪・奔馬.jpg つまり、「春の雪」では作者は、理知的な本多繁邦(観察者)の視座にいて、「奔馬」では飯沼勲(行為者)に同化しようとしているように思われます。ただし「春の雪」での聡子と一体になる前までの清顕は三島自身でもあり、その後の清顕は、三島がなりたかったけれどもなれなかった「物語」の人物だと思います。

春の雪 新潮文庫  .jpg 傍目には強引とも思える飯沼勲と松枝清顕の繋がりは、三島自身が転生を信じていたわけではなく(三島が「三島由紀夫」以外の者になることを果たして望むだろうか)、むしろそこに、二重の意味で時間を超越し(つまり、過去の欠落を補償し、限られた生を超えて)「完璧な物語」そのものになろうとする三島の意志を感じました。別な言い方をすれば、結局、三島はこの作品で、自分(「作品化された自分」)のことしか書いていないとも言えるかと思います。

 「春の雪」は'05年に行定勲監督によって映画化されており、翌'06年には、「ベルサイユのばら」の池田理代子女史の脚本・構成で劇画化されています。

「春の雪」(2005年)監督:行定勲/主演:妻夫木聡/竹内結子
春の雪 映画.jpg春の雪 映画2.jpg 「春の雪」だけ映画化しても、「原作もさぞかし耽美主義の美しい作品なんだろうなあ」で終わってしまって、四部作を通しての思想的なものは伝わらないのではないかと思いましたが、それまでも何度か「春の雪」単独で舞台化されています。実際、映画を観てみるとまずまずの出来栄えだったように思「春の雪」(2005年).jpgいます(行定勲監督は、三島由紀夫と縁深かった美輪明宏による評価を恐れていたが、美輪明宏に完成した映画を見せたところ絶賛され、何よりもそれが一番嬉しかったと述べている)。勿論、美文調の三島の文体は映画では再現できませんが、李屏賓(リー・ピンビン)のカメラが情感溢れる映像美を演出しています。それと、妻夫木聡や竹内結子は華族を演じるには弱いけれども、若尾文子、岸田今日子、大楠道代といったベテラン女優が脇を固めていたのも効いていたように思います。ただし、150分の長尺でも話を全て収めるのはきつかったようで、松枝家の書生・飯沼を登場させていません(飯沼のキャラを本多に吸収させてしまっている)。

春の雪 (中公文庫)
春の雪 池田.jpg春の雪 20.JPG 劇画版('08年文庫化[中公文庫])の方は、池田理代子氏が「劇画では、清顕や親友の本多などの登場人物の心理描写に文字を使うことができるので、その点においては映画よりわかりやすいかもしれません」と述べていて、確かにそうした利点を生かした構成になっていました。第二部「奔馬」のことを考慮し、飯沼を「けっこう気合を入れて」描いたとのことで、映画公開の直後ということもあってか、映画に対する対抗意識が見られます。三島の美文を高く評価する人の中には映像化されたものに悉くダメ出しする人もいるようですが、個人的には、原作、映画、劇画を比べてみるのも面白いように思います。

 因みに「奔馬」は、「ザ・ヤクザ」('74年/米)、「タクシードライバー」('76年/米)の脚本家ポール・シュレイダーの監督作「MISHIMA:A LIFE IN FOUR CHAPTERS」('85年/米・日)の中の1話として映像化されていますが、この作品そのものが三島家側から日本での公開許諾が得られていないため、現時点['06年]ではなかなか観るのが難しい状況にあります。
Mishima honmaU.jpgMishima honma.jpgポール・シュレイダー (原作:三島由紀夫) 「奔馬」―「MISHIMA:A LIFE IN FOUR CHAPTERS<」 (85年/米・日) ★★★★(美術:石岡瑛子/「奔馬」主演:永島敏行)


春の雪 2005.jpg春の雪1.png「春の雪」●制作年:2005年●監督:行定勲●脚本:伊藤ちひろ/佐藤信介●撮影:李屏賓/福本淳●音楽:岩代太郎(主題歌:宇多田ヒカル「Be My Last」)●原作:三島由紀夫「豊饒の海 第一巻・春の雪」●時間:150分●出演:妻夫木聡/竹内結子/高岡蒼佑/及川光博/榎木孝明/真野響子/石丸謙二郎/宮崎美子/大楠道代/岸田今日子/田口トモロヲ/山本圭/高畑淳子/中原丈雄/石橋蓮司/若尾文子●公開:2005/10●配給:東宝(評価:★★★☆)
竹内結子(綾倉聡子)/若尾文子(月修寺門跡)/岸田今日子(松枝清顕の祖母)/大楠道代(綾倉家侍女・蓼科)
harunoyuki7.jpg 25日春の雪1.png 30日春の雪 .png 40春の雪 .png

Mishima: A Life in Four Chapters (1985)
Mishima A Life in Four Chapters (1985).jpg「MISHIMA:A LIFE IN FOUR CHAPTERS」●制作年:1985年●制作国:アメリカ・日本●監督:ポール・シュレイダー●製作:山本又一朗/トム・ラディ●脚本:ポール・シュレイダー/レナード・シュレイダー/チエコ・シュレイダー●撮影:ジョン・ベイリー/栗田豊通●音楽:フィリップ・グラス●美術:石岡瑛子●原作:三島由紀夫●120分●出演:●[フラッシュバック(回想)]緒形拳/利重剛/大谷直子/加藤治子/小林久三/北詰友樹/新井康弘/細川俊夫/水野洋介/福原秀雄 [1970年11月25日]緒形拳/塩野谷正幸/三上博史/立原繁人(徳井優)/織本順吉/江角英明/穂高稔 [第1章・金閣寺]坂東八十助/佐藤浩市/萬田久子/沖直美/高倉美貴/辻伊万里/笠智衆<(米国版のみ) [第2章・鏡子の家]沢田研二/左幸子/烏丸せつこ/倉田保昭/横尾忠則/李麗仙/平田満 [第3章・奔馬]永島敏行/池部良/誠直也/勝野洋/根上淳/井田弘樹●米国公開:1985/10●DVD発売:2010/11●発売元:鹿砦社(『三島由紀夫と一九七〇年』附録)(評価:★★★★)

 【1968年単行本・1990年単行本改訂[新潮社]/1973年全集・2001年全集決定版〔新潮社〕/1977年文庫化・2002年改版[新潮文庫]】

IMG3暁の寺.jpg IMG4天人五衰.jpg

《読書MEMO》
決定版 三島由紀夫全集〈13〉長編小説(13)』(「春の雪」「奔馬」所収)
豊饒の海.jpg〈全集巻末付録・執筆過程における新聞インタビューより〉
『豊饒の海』/三島由紀夫.jpg●「〈春の雪〉の第一巻は僕の依然の傾向と同じ作品だ。貴族のみやびやかな恋愛...そういうものが主題だが、第二巻では昭和七年の神風連ともいうべき青年が登場し、(中略)筋はつぶれてもこれだけは入れたいと思う。」(昭和41年8月)
●「一巻ごとに主人公が、違う人物に生まれ変わるんですよ。転生によって時間がジャンプできるから、年代記的な手法を使わなくて済みますしね」(昭和42年7月)
●「...〈春の雪〉は絵巻き物風の王朝文学の再現ですから、初期の〈花ざかりの森〉や〈盗賊〉の系列の延長線上にあるものです。そのあとの〈奔馬〉はいわゆる行動文学で〈英霊の声〉や〈剣〉の集大成。...」(昭和43年12月)
●「私は「豊饒の海」四巻を構成し、第一巻「春の雪」は王朝風の恋愛小説で、いはば「たわやめぶり」あるいは「和魂」の小説、第二巻「奔馬」は激越な行動小説で、「ますらをぶり」あるいは「荒魂」の小説、第三巻「暁の寺」はエキゾティックな色彩的な心理小説で、いはば「奇魂」、第四巻(題未定)は、それの書かれるべき時点の事象をふんだんに取り込んだ追跡小説で、「幸魂」へみちびかれゆきもの、という風に配列し...(昭和44年2月)  

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