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戦中に作られた作品だが、まるで60年代の任侠やくざ映画を観ているよう。

三代の盃1.jpg三代の盃2.jpg日本侠客伝 1964 dvd.jpg
日本侠客伝 [DVD]
片岡千恵蔵主演「三代の盃」映画館チラシ(四谷武蔵野館)   片岡千恵蔵/琴糸路

三代の盃 花嫁一本刀9.jpg 江戸築地明石町の伊三郎(高山徳右衛門)一家は、真の任侠道に生きることを信条としていた。一方、任侠道の裏を行く新興の但馬屋の仁右衛門(荒木忍)は、悪徳商人の丸谷惣平(大国一広)と組んで明石町の長屋を立ち退かせ、そこに歓楽街を作って、伊三郎一家を蹴落そうとしていた。伊三郎一家の三ン下の政吉(片岡千恵蔵)は、長屋で母おかね(二葉かほる)と二人暮しで、隣家の浪人小磯文之進(長浜藤夫)の娘お雪(琴糸路)とは相思の仲だった。政吉の兄貴分の弥吉(原聖三郎)が但馬屋一家の企みを知り、密かに但馬屋一家へ掛け合いに行くが、やがて水死体となって大川に浮かぶ。憤怒した政吉は単身但馬屋に乗り込むが、子供扱いされ追い返される。悔しさを伊三郎に訴える政吉を、親分は「何も恥じるこたねえ。おめいにはまだ貫禄が足りねいのだ」と諭し、「修行して立派な男になって帰って来い」と励まし旅に出す。そして3年、世は明治となり、但馬屋一家は官権溜池の御前(大井正夫)を黒幕に勢力を広げていた。御前は芸妓雪松に懸想し、仁右衛門が口説き役に廻ったが雪松はうんと言わない。雪松こそ病に伏す父のため芸妓になったお雪だった。そんな折政吉が旅から帰って来て、強引に立ち退き工作を進める但馬屋一家の横暴を知った政吉は但馬屋一家に乗り込むが、そこに大親分鮫洲の卯之助(小川隆)の仲裁が入り、事は納ったかにみえた。しかし、但馬屋一家は卯之助を謀って仲裁を無効にし、大挙して伊三郎一家を襲撃、親分にもケガを負わせる。今まさにお雪と祝儀を挙げたばかりの政吉は、これを知って単身但馬屋一家へ乗り込み、遂に仁右衛門を叩き斬る。そんな政吉に旅に出ることを勧める親分に対し、政吉は新時代に生きる人間になりたいと言い自首しに行く―。

三代の盃18.jpg三代の盃 勝新版.jpg 太平洋戦争が始まってちょうど丸1年経った頃の1942(昭和17)年12月11日公開の八尋不二のオリジナル脚本、森一生監督作で、1962(昭和37)年に同じく八尋不二のオリジナル脚本、森一生監督により勝新太郎、小山明子主演でリメイクされています。

勝新太郎版「三代の盃」(1962)

 ラストでこれまで我慢を重ねてきた片岡千恵蔵の政吉が、女性と別れ、相手方に殴り込みをかけるいうこの構図は(殴り込みをかける際に、雨が降って来て番傘をさしていくシーンなども含め)、1960年代にスタートした高倉健主演の「日本侠客伝シリーズ(1964-1971、全9作)、「昭和残侠伝」シリーズ(1965-1972、全11作)をはじめとするやくざ映画と少しも違わないことに驚かされます(そのため既視感があるが、こちらの方が20年以上前、しかも戦時中なのだなあと)。

日本侠客伝02.jpg日本侠客伝01.jpg 例えば、上記シリーズの中で最も早く作られたマキノ雅弘監督の「日本侠客伝」('64年/東映)も、深川木場の材木を運び出す運送業者の木場政組と親興の沖山運送の対立が背景にあって、新興やくざの非道に対して、昔気質の一家がじっと忍耐した末に斬り込みに行くというストーリーはよく似ているし、旅に出ていた片岡千恵蔵・政吉が戻って来て一家の危機を救うという構図は、出征先から戻って来た高倉健・長吉が一家を救うのと同じです(この映画でも高倉健は最後着物をはだけて上半身裸になるが、長吉は軍人上がりで躰に入れ墨はない)。

 「三代の盃」で単身但馬屋一家へ乗り込もうとする片岡千恵蔵・政吉を、二葉かほる演じる母親が敢えて制止することなく送り出し(雨が降っているのに気づいて、息子に番傘を渡す)、更に、たった今祝言を挙げたばかりの新妻の琴糸路のお雪が父の命により、貧しい生活の中でも武士の命として質屋に出さず大事に手元に置いておいた刀を政吉に渡すべく雨の中政吉を追いかける(この映画は後に「花嫁一本刀」と改題されて再公開された)―これは武家的な気質と言え、武士道精神が明治初期のやくざに引き継がれ任侠道となったという説に符合するようにも思いました。

日本侠客伝 中村s.jpgマキノ雅弘、『日本侠客伝』(1964年)es.jpg 一方、「日本侠客伝」における狭い意味での"侠客"は、中村錦之助演じる一家の"客人"清治でしょう(当初は中村錦之助が主演予定だったが、中村錦之助のスケジュールがつかず、高倉健を主演にした脚本に変更された)。清治は、世話になった親分への義理のために覚悟して死地へ向かいますが、その女・三日本侠客伝 富司純子.jpg田佳子演じるお咲には彼が何を考えているか分かっていて、こちらもそれを制止することなく最後の杯を交わして男を送り出します。一方の高倉健・長吉は、清治の遺体を見て意を決し、まさかそんなことになるとは思ってもいない恋仲の富司純子・お文には黙って何も告げず、敵方へ斬り込みに向かいます。ここでの富司純子は、「緋牡丹博徒」(シリーズ1968-1972、全8作)が始まる前の"お穣さん"的な役柄ですから、「三代の盃」で琴糸路・お雪に対応する役は(お雪も武家の娘でお嬢さんではあるが)、その精神性においては富司純子のお文よりむしろ三田佳子のお咲であるとも言えます。

三代の盃 スチール.jpg 「三代の盃」の片岡千恵蔵は、三ン下の頃は江戸時代で髷であるのが、旅から戻って来た時は明治で散切りですが、三ン下の頃からすでに貫禄が隠し切れず、やや窮屈そうな演技でしょうか(「赤西蠣太」('36年/日活)で見せたように軽めの演技も出来る人ではあるのだが)。それが、旅から戻ってきたらもう待っていましたとばかりの"凄み全開"で、時代劇がかっている分、高倉健などとはまた異なる、或いはそれ以上の迫力でした。

 たった3年の旅でこんなにも貫禄がつくのかとも思ってしまいますが、この片岡千恵蔵版では旅の過程で何があったのかは描かれておらず、その点を補完する意味合いもあってか、勝新太郎のリメイク版では、旅先で土地の親分同士の争いに巻き込まれ、土地の百姓の困惑をみた政吉が命懸けで仲裁に立ってその大役を果たし、その侠名が江戸にも伝わるということになっています。

片岡千恵蔵 in「三代の盃」(スチール写真)

久保幸江.jpg 尚、片岡千恵蔵版で政吉が旅に出てからの年月の経過を表すために、旅芸人一座が街道を行くシーンとその一座の久保幸江(1924-2010/享年86)の歌が流れますが、久保幸江のデビューは1948年であり、これは戦後に久保幸江を特別出演させてフィルムを改修したものだそうです。やはり、そうしたシーンで入れて時間的経過を表す間を持たせないと、場面が切り替わって髷から散切りになっただけでいきなりすぐに迫力が増すというのは、当時としても観ていてやや唐突な印象があったのではないかという気がします。

久保幸江 
    
三代の盃(花嫁一本刀)v.jpg三代の盃_200.jpg「三代の盃(花嫁一本刀)」●制作年:1942年●監督:森一生●脚本:八尋不二●撮影:松村禎三●音楽:西梧郎●時間:67分●出演:片岡千恵蔵/琴糸路/高山徳右衛門/林寛/荒木忍/近松里子/長浜藤夫/原聖四郎/小川隆/大井正夫/香琴糸路_1942.png住佐代子/二葉かほる/梅村蓉子/ 仁札功太郎/岬弦太郎/川崎猛夫/石川秀道/大国一公/水野浩/横山文彦 /久保幸江●公開:1942/12●配給:大映(京都撮影所)(評価:★★★☆)
琴糸路(「維新の曲」('42年/大映)出演時、満30歳)

「日本侠客伝」田村高廣/長門裕之/松方弘樹/大木実/中村(萬屋)錦之介
日本侠客伝59.jpg日本侠客伝200x133.jpg「日本侠客伝」●制作年:1964年●監督:マキノ雅弘●脚本:笠原和夫/野上龍雄/村尾昭●撮影:三木滋人●音楽:斎藤一郎●時間:98分●出演:中村錦之助(萬屋錦之介)/高倉健/大木実/松方弘樹/田村高廣/日本侠客伝-002.jpg長門裕之/藤間紫/富司純子/南田洋子/三田佳子/伊井友三郎/ミヤコ蝶々/津川雅彦/島田景一郎/五十嵐義弘/南都雄二/徳大寺伸/加藤浩/佐々木松之丞/島田秀雄/堀広太郎/那須伸太朗/大城泰/安部徹/天津敏/品川隆二/国一太郎/佐藤晟也/大井潤/月形哲之介/大前均/楠本健二/有馬宏治/内田朝雄●公開:1964/08●配給:東映(評価:★★★☆)

「●く アガサ・クリスティ」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒  【1542】 アガサ・クリスティ 『杉の柩
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誤訳論争はあるが清水俊二訳の方が好みか。再読でも楽しめる("叙述トリック"探しで?)。

そして誰もいなくなった ポケミス.jpg そして誰もいなくなった ポケット.jpg そして誰もいなくなった ポケット2.jpg そして誰もいなくなった クリスティー文庫 旧.png そして誰もいなくなった 青木訳.jpg
そして誰もいなくなった (1955年) (Hayakawa Pocket Mystery196)』['55年・'75年('01年復刻版)/清水俊二:訳]『そして誰もいなくなった (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)』['03年/清水俊二:訳]『そして誰もいなくなった (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)』['10年/青木久恵:訳(装幀:真鍋博[1976年4月刊行のハヤカワ・ミステリ文庫初版カバーを復刻)]
ハヤカワ・ミステリ文庫創刊ラインナップ.jpg
 英国デヴォン州のインディアン島に、年齢も職業も異なる10人の男女が招かれるが、招待状の差出人でこの島の主でもあるU・N・オーエンは姿を現さない。やがてその招待状は虚偽のものであることがわかったが、迎えの船が来そして誰もいなくなった (ハヤカワ・ミステリ文庫).jpgなくなったため10人は島から出ることが出来なくなり、10人は島で孤立状態となる―。

そして誰もいなくなった (ハヤカワ・ミステリ文庫 (HM 1-1))』[清水俊二:訳]
          
And Then There Were None.jpgAnd Then There Were None2.jpg 1939年にアガサ・クリスティ(1890‐1976)が発表した作品(原題:Ten Little Niggers (米 Ten Little Indians) (改題:And Then There Were None))で、1982年実施の日本クリスティ・ファンクラブ員の投票による「クリスティ・ベストテン」で第1位になっているほか、早川書房主催の作家・評論家・書店員などの識者へのアンケートによる「ミステリが読みたい!」の2010年オールタイムベスト100の第1位、2012年実施の推理作家や推理小説の愛好者ら約500名によるアンケート「週刊文春・東西ミステリーベスト100」でも1位となっており(1976年創刊の「ハヤカワ・ミステリ文庫」の創刊ラインアップでもトップにきている)、クリスティの自選ベストテン(順不同)にも入っていて、クリスティ自身、インタビューで、自分でも最も上手く書けた作品であると思うと言っていたこともあります。

Collins Crime Club(1939)

そして誰もいなくなったcontent.jpgAND THEN THERE WERE NONE .Fontana.jpg この作品がよく読まれる理由の一つとして、10人もの人間が亡くなる話なのに長さ的には他の作品と同じかやや短いくらいで、テンポよく読めるというのもあるのではないでしょうか(しかも、後半にいくほど殺人の間隔が短くなる)。その分、登場人物の性格の描写などは極力簡潔にとどめ、心理描写も他の作品に比べると抑制しているように思います。まあ、あまり"心理描写"してしまうと「叙述トリック」になってしまうからでしょう。

AND THEN THERE WERE NONE .Fontana.1990

 それでも、『アクロイド殺し』のようにストレートにではないですが、「叙述トリック」の部分があり、よく知られている箇所では、生存者が残り6名になった時、残り5名になった時、残り4名になった時にそれぞれの内面心理の描写の羅列があって、お互いが疑心悪鬼になっている様が描かれているのですが(どれが誰の心理描写かは記されていない)、4名になった時はともかく6名と5名の時は、この中に「叙述トリック」があると。但し、それが"ウソ"の心理描写になっていてアンフェアでないかという指摘があります(つまり、そのうちの1つは犯人のものであるから)。

清水俊二3.jpg ところが、これは実は一部に訳者の清水俊二(1906-1988)の誤訳があって、正しく訳せば、例えば残り5名になった時の5人の心理描写の内の問題の1つは、当事者それなりのあることを警戒する心理を描いたと解することができるものであり、クリスティが巧妙に(アンフェアにはならないように)仕掛けた「叙述トリック」に訳者の清水俊二自身が嵌ってしまったとする見方があります(但し、清水俊二訳は誤訳には当たらないという見方もある)。

清水俊二(右は戸田奈津子氏)

そして誰もいなくなった  2.JPG 具体的には、清水俊二訳の1955年・ハヤカワ・ポケット・ミステリ版及び1975年改訂版、並びに1976年ハヤカワ・ミステリ文庫版で、残り5人になったときの各人の心理描写の3人目の中に「怪しいのはあの娘だ...」と訳されている部分がありますが、該当する原文は"The girl..."のみです(後に"I'll watch the girl. Yes, I'll watch the girl..."と続くが)。"The girl..."を「怪しいのはあの娘だ...」と訳してしまうと、この部分の心理描写は実は犯人のものであると思われるので、叙述青木久恵:訳 『そして誰もいなくなったe.pngトリックを通り越して読者をミスリードするものになっているという指摘であり、後の清水俊二訳('03年・クリスティー文庫版)ではこの部分は「娘...」のみに修正されています(この時点で清水俊二は15年前に亡くなっているわけだが)。因みに、2010年に清水俊二訳と入れ替わりにクリスティー文庫に収められた青木久恵氏の訳(表紙はハヤカワ・ミステリ文庫の1976年4月初版の真鍋博のイラストを復刻)では、この部分は「あの娘だな...」となっています。何れにせよ、"娘"のことを「次は自分の命を奪うかもしれない犯人ではないか」と怪しんでいるのではなく、「自分の計画を失敗に終わらせる原因となるのではないか」と警戒を強めているといった解釈に変更されているのが最近の翻訳のようです。

そして誰もいなくなった ジュニア版.jpg 青木久恵氏による新訳はたいへん読み易いのですが(「インディアン島」が「兵隊島」になっているのはポリティカル・コレクト化か)、ちょっと軽い印象も受けます。青木久恵氏は、2007年に同じ早川書房の「クリスティー・ジュニア・ミステリ」の方でこの作品を翻訳していて、時間的な制約があったのかどうかは知りませんが、自身による前の翻訳が"底本"になっているような感じがしました。より現代にマッチした言葉使いを意識したということかもしれませんが、個人的には清水俊二訳の方が(誤訳論争の対象になってはいるものの)どちらかと言えば好みです。初読の際の"???"の状態のまま最後の方のページをめくる興奮というのもあったかと思いますが...。但し、この作品は、再読でも楽しめる("叙述トリック"探しで?)傑作であることには違いないと思います。
そして誰もいなくなった (クリスティー・ジュニア・ミステリ 1)

そして誰もいなくなった 1945 01 00.jpgそして誰もいなくなった 1945 01.jpg この作品は、ルネ・クレール監督の「そして誰もいなくなった」('45年/米)をはじめ、ジョージ・ポロック監督の「姿なき殺人者」('65年/英)、ピーター・コリンソン監督の「そして誰もいなくなった」('74年/伊・仏)、アラン・バーキンショー監督の「サファリ殺人事件」('89年/米)など10回以上映画化されていますが、何れも、小説の方ではなく、クリスティ自身が舞台用に書いた「戯曲」版をベースにしたり、それをまた翻案したりしているそうで、そうした意味では、小説の方はまだ映画化されていないとも言えます(但し、「10人の小さな黒人」('87年/ソ連)だけは、戯曲版をベースにしておらず、原作での設定や展開がほぼ改変無しで採用されているという)。
ルネ・クレール監督「そして誰もいなくなった」('45年/米) ★★★☆

〈主な映画化作品〉
・「そして誰もいなくなった」('45年/米)バリー・フィッツジェラルド、ウォルター・ヒューストン出演。
・「姿なき殺人者」('65年/英)雪山の頂上の館が舞台になり、ロープウェーが停止し孤立という設定に。
・「そして誰もいなくなった」('74年/伊・仏・スペイン・西独)ピーター・コリンソン監督。舞台が砂漠の中のホテルに。オリヴァー・リード、リチャード・アッテンボロー、シャルル・アズナヴール出演。
・「10人の小さな黒人」('87年/ソ連)クリミア半島オーロラ岬に実存する1911年築の洋館を舞台に撮影。
・「サファリ殺人事件」('89年/英)舞台がアフリカの大草原に。キャンプ場のロープウェーのロープが切断され孤立。
・「サボタージュ」('14年/米)アーノルド・シュワルツェネッガー主演。内容や設定などは全くの別物か。

そして誰もいなくなった bbc02.jpgそして誰もいなくなった bbc01.jpg(2015年製作の英BBC版テレビドラマは、時代が現代に置き換えられていて、10人のうち数人の属性(過去に犯した殺人の方法や動機など)が微妙に改変されているが、ラストは「戯曲」に沿ったこれまでの映画化作品と違って、原作「小説」の通り全員が"いなくなる"ものだった。)

 クリスティが自作を戯曲化したものでは、例えば戯曲「ナイルに死す」にはポワロが登場しないし、戯曲「検察側の証人」ではラストで小説にはないヒネリを加えるなど(ビリー・ワイルダー監督の「情婦」('57年/米)は戯曲に即して作られている)、小説からの改変が見られますが、この『そして誰もいなくなった』では、物語の中でも指摘されているように、"見立て殺人"のベースになっている童謡の歌詞の最後が「首を吊る」と「結婚する」の2通りあり、戯曲では「結婚する」の方を採用しています(改変するにしても歌詞に則っているのは立派)。

 従って、戯曲版は小説と結末が異なり、最後に男女が一組生き残るわけですが、おそらく戯曲が上演される頃には小説の方はよく知られ過ぎたものになっていて、そこで新たな"お楽しみ"を加えたのではないでしょうか(戯曲に比較的忠実に作られているルネ・クレール監督の映画作品についても同じことが言える)。まあ、最後タイトル通り誰もいなくなってしまうというのは、謎解きする人がいなくなって舞台や映画では表現しにくいというのもあるのでしょう。

 小説では、犯人が書き残し瓶に入れて海に流した手記が見つかったことによる後日譚風の謎解きになっているわけで、この犯人というのは、「神に代わって裁きを行う」"超越的"人物(ある種サイコ・シリアルキラー?)ともとれますが、裁きを行うという目的よりも、「誰にも解けない完全犯罪」を成し遂げるという手段そのものが目的化している印象も受け、そうした意味では、異常でありながらも、本格推理作家が創作上目指すところと重なる部分があるかもしれません。

【1955年新書化・1975年改訂(2001年復刻版)[ハヤカワ・ポケットミステリ(清水俊二:訳)]/1976年再文庫化[ハヤカワ・ミステリ文庫(清水俊二:訳)]/2003年再文庫化[ハヤカワ・クリスティー文庫(清水俊二:訳)]/2010年再文庫化[ハヤカワ・クリスティー文庫(青木久惠:訳)]】


そして誰もいなくなった bbcド.jpg そして誰もいなくなった NHK-BS.jpgそして誰もいなくなった bbc .jpg
& Then There Were None [Blu-ray]」英BBC版テレビドラマ

そして誰もいなくなった第1話1.jpg「アガサ・クリスティー そして誰もいなくなった」(全3回)●原そして誰もいなくなった 第2話.jpg題:& Then There Were None●制作年:2015年●制作国:イギリス●本国放送:2015/12/26~28●演出:そして誰もいなくなった 第3話.jpgクレイグ・ヴィヴェイロス●製作:ダミアン・ティマー/マシュー・リード/サラ・フェそして誰もいなくなった!_.jpgルプス●脚本:サラ・フェルプス●時間:210分●出演:メイヴ・ダーモディ/チャールズ・ダンス/エイダン・ターナー/サム・ニール/Mそして誰もいなくなったaeve-Dermody.jpgトビー・スティーヴンス/ダグラス・ブース/バーン・ゴーマン/ミランダ・リチャードソン/ノア・テイラー/アンナ・マックスウェル・マーティン●日本放送:2016/11/27●放送局:NHK-BSプレミアム(評価:★★★☆)
2016年11月27日、12月4日、12月11日NHK-BSプレミアムで放送

Maeve Dermody(メイヴ・ダーモディ)

And Then There Were None そして誰もいなくなった≪英語のみ≫[PAL-UK]

《読書MEMO》
●2017年ドラマ化 【感想】 原作の本邦初映像化作品であるとのこと。登場人物および舞台は現代の日本に置き換えられ、一部の人物の職業や過そして誰もいなくなった ドラマ  03.jpgそして誰もいなくなった sawamura .jpg去に犯した殺人の方法、動機も変更されているが、BBC版と同じく、最後は原作「小説」の通り全員が"いなくなる"。終盤でこの事件を沢村一樹演じる警視庁捜査一課警部・相国寺竜也がリードして捜査し(この部分はややコミカルに描かれている)、犯人が残した映像メッセージに辿りついて事そして誰もいなくなった ドラマ .jpg件の全容が明らかになるという流れ。

そして誰もいなくなった 文庫ドラマタイアップカバー.jpgそして誰もいなくなった 渡瀬_.jpg 2017年3月25日・26日の2夜連続ドラマの各冒頭で、3月14日に亡くなった渡瀬恒彦が出演した「最後の作品」であることを伝えるテロップが表示され、エンディングで「このドラマは2016年12月20日から2017年2月13日に掛けて撮影されました。渡瀬恒彦さんのご冥福を心よりお祈り申し上げます」と流れる。クランクアップの1ヵ月後に亡くなった渡瀬恒彦は、実際に自らが末期がんの身でありながらドラマの中で末期がん患者を演じており、その演技には鬼気迫るものがあった。警部役の沢村一樹の演技をコミカルなものにしたのは、全体として"重く"なり過ぎないようにしたのではないかと思ってしまったほど。

そして誰もいなくなった ドラマ53.jpg「アガサ・クリスティ そして誰もいなくなった」●監督:和泉聖治●脚本:長坂秀佳●プロデューサー:藤本一彦/下山潤/吉田憲一/三宅はるえ●音楽: 吉川清之●原作:アそして誰もいなくなった ドラマ 01.jpgガサ・クリスティ●出演:仲間由紀恵/沢村一樹/向井理/大地真央/柳葉敏郎/藤真利子/荒川良々/國村隼/余貴美子/橋爪功/津川雅彦/渡瀬恒彦/ナレーション‐石坂浩二●放映:2017/03/25・26(全2回)●放送局:テレビ朝日

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忍ぶ恋"が絡む「無法松の一生」と比べるとよりストレートな「父子」愛か。

狐の呉れた赤ん坊 dvd.jpg 狐の呉れた赤ん坊03.jpg
狐の呉れた赤ん坊 [DVD]」阪東妻三郎

狐の呉れた赤ん坊ne.jpg 東海道名代の大井川金谷の宿、酒と喧嘩では人に遅れを取ったことがないという川越人足の張子の寅八(阪東妻三郎)、彼の好敵手は馬方の頭分丑五郎(光岡龍三郎)で、場所は看板娘おとき(橘公子)のいる居酒屋と定まっていた。ある日、街道筋に悪狐が出没するという噂を確かめに行った川越人足仲間の辰(羅門光三郎)が腰を抜かせて戻り、そこで武勇自慢の寅八が勢い込んで出馬したが、ほどなくしてスヤスヤ寝ている赤ン坊を抱いて帰ってくる。寅八にとって思わぬ厄介者の赤ん坊だったが、捨てることも出来ず、意地から「育ててみせる」と言い切ってしい、それから寅八は、酒も喧嘩もすっかりやめた―。
阪東妻三郎/澤村アキヒコ (津川雅彦)
狐の呉れた赤ん坊1.jpg 丸根賛太郎(1914-1994/享年80)監督の戦後初監督作品で、板東妻三郎(1901-1953/享年51)の戦後第1回主演作でもあり、原作は後の衆議院議員・谷口善太郎で、脚本は監督の丸根善太郎が書いています。

 板東妻三郎には日中戦争から太平洋戦争の戦時にかけても、「血煙高田の馬場」('42年)の中山安兵衛役、「将軍と参謀と兵」('42年)の兵団司令官役、「富士に立つ影」('42年)の佐藤菊太郎役、「無法松の一生」('43年)の富島松五郎役、「剣風練兵館」('44年)の桂小五郎役などの主演映画がありますが、終戦直後は進駐軍への配慮から剣戟映画を作れなかったため、この作品は"殺陣の無い時代劇"と呼ばれる作品群の一つになります。

 板妻は当時44歳で、ギョロ目を剥いた表情や、時にオーバーアクション気味とも思えるエネルギッシュな演技は、善太と名付けられた血の繋がりのない息子に対する父性の目覚めとその後の耽溺ぶりがよく表現されていて(子供の顔を覗き込む表情が、後年の「泥の河」('81年)の田村高廣と似ている)、作品を活き活きとしたものにしていて、それと、この作品の中でも「無法松の一生」に劣らず板妻がよく走っています。

 成長した善太のもとへ西国の大名の家臣たちが訪ねて来て、善太は殿様のご落胤で、病で死んだ嫡子のかわりに、世継ぎとして引き取りたいという話になって驚く寅八、善太を拾った頃に寅八が知り合った相撲取り・賀太野山(阿部九州男)は何かを知っている様子...観客を引き付ける無駄のないストーリー展開の人情劇だと思います(この"どこことなく品のある" 7歳の善太を演じている澤村アキヒコは後の津川雅彦)。

狐の呉れた赤ん坊2.jpg 人足仲間の辰を演じる羅門光三郎(作家・中島らものペンネーム由来の役者)、寅八のライバルで寅八に一目置いている馬方の頭分・丑五郎役の光岡龍三郎、質屋大黒屋の主人で阿漕だが人情もある蜂左衛門役の見明凡太朗、巡業の度に善太に力士人形を届ける力士・賀太野山役の阿部九洲男など、脇役も活き活きしています。

 「無法松の一生」でも、血の繋がりの無い少年(幼少期の長門裕之が演じた)への父性愛がテーマになっていましたが、その背景には少年の母である戦争未亡人への主人公の思慕が色濃くあり、一方この作品も、居酒屋の美人娘おときと主人公の関係を通して、寅八・おとき・善太の三人での暮らしが物語的な理想形として示唆されていますが、おときも善太の実の母ではないこともあってか両者の関係はそれほど前面に出てこず、その分、こちらの方がよりストレートな「父子」物語になっています。

狐の呉れた赤ん坊3622.JPG それだけに、ラストの大井川を寅八が善太を肩車して渡るシーンは泣けましたが、「無法松の一生」の"忍ぶ恋"が絡んでいる「父子」愛と比べるとややストレート過ぎた印象も。どちらも秀作で、どちらが上かと言うと、もうあとは好みの問題か。

狐の呉れた赤ん坊3622 - コピー.JPG「狐の呉れた赤ん坊」●制作年:1945年●監督・脚本:丸根賛太郎●製作:清水龍之介●撮影:石本秀雄●音楽:西梧郎●原作:谷口善太郎●時間:85分●出演:阪東妻三郎/橘公子/羅門光三郎/寺島貢/谷譲二/光岡龍三郎/見明凡太郎/阿部九州男/藤川準/水野浩/原健作/荒木忍/阪東太郎/津島慶一郎/原聖四郎/澤村アキヒコ(津川雅彦)●劇場公開:1945/11●配給:大映京都●最初に観た場所:京橋フィルムセンター(98-05-21)(評価:★★★★)

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ある面で原作を超え(カメラ)、ある面で原作とは別物に(ストーリー)。
Sanshô dayû (1954) .jpg 山椒大夫.jpg山椒大夫 dvd.jpg 山椒大夫 映画1.jpg
Sanshô dayû (1954) /「山椒大夫」ポスター/「山椒大夫 [DVD]」(左から浪花千栄子・津川雅彦・田中絹代)
山椒大夫 4K デジタル修復版 Blu-ray
山椒大夫_.jpg香川京子の安寿1.bmp ヴェネツィア国際映画祭で銀獅子賞を獲得した溝口健二監督の「山椒大夫」('54年/大映)は、宮川一夫のカメラワークが素晴らしく、海へゆっくりとパンしていくラストシーンは、後年ジャン・リュック・ゴダール監督が「気狂いピエロ」のラストで再現したことでも有名ですが、香川京子が演じる安寿の入水シーンでは、画面の手前にかかる笹に"墨汁"を塗ってコントラストを出したりもしたとか(宮川一夫は「七人の侍」でも"墨汁"の雨を降らせた。この人、「無法松の一生」の頃から色々な創意工夫をしている)。これらの場面についての鷗外の記述があまりに簡潔であるため、映像でそれを補って余りあるものとなっています。

山椒大夫 映画2.jpg 但し、一応は鷗外作を「原作」としているものの改変部分も多くあり、まず目立つのが、姉の安寿と弟の厨子王の"姉弟"が"兄妹"に逆転していて、厨子王(花柳喜章、少年時代は津川雅彦)が兄、安寿(香川京子)が妹、となっている点で、これは、花柳喜章、香川京子という配役が先に決まっていたためにこうなったとか。

香川京子の安寿2.bmp 奴隷として売られてかれこれ10年、美少年だった安寿は肉体労働に明け暮れ半ば自暴自棄の単なるダメ男になっていて、そうした兄・厨子王の様変わりに密かに心を痛める健気な妹・安寿-それがある日突然に兄が逃亡を思い立ったら、妹に兄さんだけ逃げて...と言われる―。安寿は自らを犠牲にして、後の厨子王を支える守り本尊となったわけで、こうした設定からも、妹より姉の方がやはり良かったのでは(第一、妹を置いて逃亡する兄...というのも如何なものか)。
香川京子 in「山椒大夫」(1954)

山椒大夫 鴎外原作.jpg 更に原作には、焼きゴテで拷問された安寿の顔のやけどが、仏像の加護でみるみる傷が癒えるという場面がありますが映画には無く、またラストは、厨子王が盲目となった母親と再会した際に、守り本尊を額に押し付けると目が開くというものですが、映画では母親の眼は明かなかったように見え、意図的に霊験譚的なものを排しているように思えます(あの「雨月物語」を撮った監督にして)。

少年時代の厨子王(津川雅彦)
山椒大夫 津川雅彦.jpg 一方で、安寿と厨子王の父親・平正氏が、朝廷の意に反して困窮する農民を救おうとして筑紫国へ左遷されたことや、両親の"教育方針"など、「原作」には無い部分はしっかり描かれていて、後半は厨子王の出世に至る経緯や「奴隷解放」的施策も描かれていますが("上からの改革"であることには違いない)、この辺りはうんと膨らませていて、完全に一本の"政治時代劇"になってしまっています(いかにも「元禄忠臣蔵」('41‐'42年/松竹)を撮った溝口らしい。ここまで改変していても、「原作:森鴎外」と謳っているところは律儀なのか図太いのか?)。結果として、全体としても社会風刺的色合いが強くなっていますが、悪く言えば"通俗時代劇"風で、花柳喜章を筆頭に演技も"現代劇"風で平安時代とは思えず、テーマ的にも、果たして1950年代の日本で、「山椒大夫」という説話をベースとした作品の映画化において、こうした観点からの社会風刺が必要だったのか、やや疑問にも思いました。

山椒大夫4.jpg ラストが母子再会で終わるのは原作通りで、ベースとしては母子モノでありながらも、リアリズム乃至"娯楽性"の追求が、結果として土着民話的な説話色の強い原作を、勧善懲悪的な話に変えてしまった感もしなくもなく、「原作」とは別物とみた方が妥当かも(宮川一夫のカメラで星半個から1個プラス)。

「山椒大夫」(花柳喜章、田中絹代)

香川京子.jpg 因みに、安寿役の香川香子にとっては、同年公開の溝口健二監督作品「近松物語」('54年/大映)の1つ前の出演作品となります。映画会社と専属契約を結んだ俳優は他社の作品には出られないという「五社協定」が1953年に締結されましたが、彼女はその前年にフリーとなっていたため、小津安二郎監督の「東京物語」('53年/松竹)、黒澤明監督の「悪い奴ほどよく眠る」('60年/東宝)、「天国と地獄」('63年/東宝)など、各映画会社それぞれの黄金期の巨匠らの作品に出演することになりました。黒澤作品において、三船敏郎との共演回数が最も多かった女優(9回)でもあります。

山椒大夫 vhs.jpg「山椒大夫」●制作年:1954年●製作:永田雅一●監督:溝口健二●脚本:八尋不二/依田義賢●撮影:宮川一夫●音楽:早坂文雄●原作:森鷗外「山椒大夫」●時間:124分●出演:田中絹代/花柳喜章/加藤雅彦(津川雅彦)/香川京子/榎並啓子/進藤英太郎/河野秋武/菅井一郎/見明凡太郎/浪花千栄子/毛利菊江/三津田健/清水将夫/香川良介/橘公子/相馬幸子/小園蓉子/小柴幹治/荒木忍/大美輝子/金剛麗子/南部彰三/伊達三郎●公開:1954/03●配給:大映(評価:★★★☆)
山椒太夫 [VHS]

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ミステリとして瑕疵は多いが、設定のユニークさと人間ドラマとしての旨さがある。

凍える牙 乃南アサ著. 新潮社.jpg  凍える牙 新装版.jpg 凍える牙 乃南アサ 文庫.jpg        凍える牙 ドラマ.jpg 
凍える牙 (新潮ミステリー倶楽部)』『凍える牙』『凍える牙 (新潮文庫)』 「女刑事・音道貴子~凍える牙」テレビ朝日系 2010年1月30日放映(出演:木村佳乃/橋爪功)

 1996(平成8)年上半期・第115回「直木賞」受賞作。

 立川市のファミレスで起きた、男性客の体が突然燃え上がって焼死し、男性には時限発火装置が仕掛けられていて、大型犬のような動物による噛み傷あったという事件の捜査に、"バツイチ"女性刑事・音道貴子はたたき上げの刑事・滝沢保と共に臨むが、滝沢は女性と組まされた不満から貴子に辛く当たる―。

 '10年1月にテレビ朝日系列で、音道貴子役・木村佳乃、滝沢保役・橋爪功で放映されましたが、直木賞作品でありながら、犬に演技させるのが難しいために長らく映像化されなかったのかなと思っていたら、すでに'01年にNHKで天海祐希主演でドラマ化されていた...。

 原作は、犯人の動機やそうした犯行トリックを選んだ理由の脆弱さなど、ミステリとしては瑕疵が多いとも思われますが、何よりも、都会の真ん中で人が次々と野犬のような動物に襲われて亡くなるという設定そのものが、ユニークでインパクトあります(強いて言えば、アーサー・コナン・ドイルの『バスカヴィル家の犬』の「日本版」乃至「都会版」といったところか)。しかも、女性刑事とベテラン男性刑事が、コンビで捜査に当たる間ずっと折り合いが悪かったのが、事件の経過と共にその関係が少しずつ変わって行く様が、個々が抱える背景も含めた人間ドラマとして旨く描けているように思います。

 終盤は、疾風(はやて)という名の"オオカミ犬"にスポットが当てられ、主人公の音道貴子が疾風に感情移入していくのと併せて、読者をもそれに巻き込んでいき、犯人は結局何のためにこうした犯行を犯したのかという、結果から逆算すると虚しさが残るはずのプロットであるにも関わらず、感動ストーリーに仕上がっています(実際、作者の巧みな筆捌きにノセられ、自分も感動した)。

 テレビ朝日版のドラマでは、木村佳乃、橋爪功ともに悪くない演技で、特に橋爪功はベテランの味を出していたような気がします(原作とはイメージが異なるが)。 それよりも驚いたのは、犬がちゃんと"演技"していたことで、でも考えてみれば犬が"演技"するはずはないわけであって、演技とは観客の感情移入で成立するものだということを思い知らされました。このドラマの"犬"が登場する場面で用いられているモンタージュ手法が巧妙なのか、それとも、もともと見る側に動物に感情移入し擬人化しがちな素因があるのか...?

音道貴子(木村佳乃)警視庁刑事部第三機動捜査隊所属の刑事/綿貫厚人(小野武彦)警視庁捜査一課第二強行犯捜査第五係長/高木勝弘(内藤剛志)元神奈川県警の鑑識課職員/畑山専務(津川雅彦)警察犬本部の専務/滝沢保(橋爪功)警視庁立川中央署 刑事
f4c2c9d8-s.jpg 綿貫厚人/小野武彦.jpg f7ff81c3-s.jpg c3adca0b-s.jpg a67570c1-s.jpg

女刑事 凍える牙   .jpg凍える牙 ドラマ.jpg「女刑事・音道貴子~凍える牙」●演出:藤田明二●制作:河瀬光/横塚孝弘/藤本一彦●脚本:佐伯俊道●音楽:鈴木ヤスヨシ●原作:乃南アサ「凍える牙」●出演:木村佳乃/橋爪功/小野武彦/布施博/平山浩行/内藤剛志/津川雅彦/金田明夫/勝野洋/前田健/菅田俊/大高洋夫/小川奈那/菅原大吉/草村礼子/高林由紀子/田宮五郎/西沢仁太/増田修一朗/七菜香/猪狩賢二/山内明日/谷口高史●放映:2010/01(全1回)●放送局:テレビ朝日

 【1996年単行本・2007年新装版[新潮社]/2000年文庫化[新潮文庫]】

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予定調和だが、それなりに楽しめた。映画の方は「スーパーの女」などと比べるとやはり...。

県庁の星2.jpg  県庁の星 桂.jpg 県庁の星 dvd.jpg県庁の星 織田 柴崎.jpg  スーパーの女.jpg
県庁の星 (2) (ビッグコミックス)』 (全4巻) 桂 望実『県庁の星』「県庁の星 スタンダード・エディション [DVD]」柴咲コウ・織田裕二 「伊丹十三DVDコレクション スーパーの女

 Y県のエリート県庁職員である野村聡は、民間との人事交流プロジェクトに選ばれ、スーパー富士見堂で1年間の研修を受けることになるが、最初は役員根性・県庁マインド丸出しだった彼が、全く肌違いの民間の仕事を通して変質し、真の"スーパー改革"を実現するに至る―。

 公務員って、民間で言う「出向」のことを「研修」と言ってるみたいですね(「研修(出向)」と言っても、労務提供はしているわけだが、民間の「出向」と異なり、労災の請け元は官公庁のまま)。

 ということで、実質的なマンガの舞台は県庁内では無く、前半部分(1巻・2巻)はスーパーマーケット。後半部分(3巻・4巻)は、スーパーの経営を建て直した彼が、第3セクター赤字テーマパークを"潰す"ために送り込まれますが、前半からの流れで、結果はともかく、彼がどう立ち回るかは大体予想がついてしまいます。

 官庁の上層部や主人公の同期の役人の描き方はパターン化していて、事の展開もかなりご都合主義ですが、それでも、主人公とその教育係であるシングルマザーのパート女性とのやりとりも含め、結構楽しく読めました。"ギャグ的"に面白いというか、テーマパークに赴任した初日、「名刺を猿に配って終了」には思わず噴きました。

県庁の星 ポスター.jpg県庁の星1.jpg '05(平成17)年から'07(平成19)年にかけて「ビッグコミックススペリオール」に連載されたコミックで(桂望実の原作を杉浦真夕が脚色)、連載途中の'06年に織田裕二、柴咲コウ主演で映画化されていますが(実際に制作されたのは'05年。「白い巨塔」などのTVドラマを手掛けた西谷弘の映画初監督作品)、織田裕二って本気で演技してそれが丁度マンガ的になるようなそんな印象があり、こうした作品にはピッタリという感じでした。 柴咲コウ/織田裕二

スーパーの女.jpgスーパーの女2.jpg 但し、スーパーを舞台にした作品では、伊丹十三(1933-1997)監督、宮本信子主演の「スーパーの女」('96年/東宝)があるだけに、それと比べるとインパクトは劣るし、「スーパーの女」が食品偽装問題など今日的なテーマを10年以上も前から先駆的に扱っていたのに対し、「県庁の星」は映画もマンガもその部分での突っ込み度は浅く、特に映画は単なるラブ・コメになってしまったきらいも無きにしも非ずという感じ。

マルサの女.jpgマルサの女 1987.jpg 「お葬式」('84年/ATG)で映画界に旋風を巻き起こした伊丹十三監督でしたが、個人的には「マルサの女」('87年/東宝)がドラマチックで面白かったです(それぞれ第58回と第61回のキネマ旬報ベスト・テン第1位に選ばれている)。「マルサの女」は、山崎努がラブホテル経営者"権藤"を演じていますが、彼が新人として出演した「天国と地獄」('63年/黒澤プロ・東宝)で三船敏郎が演じていた会社社長の苗字も"権藤"でした。巧妙な手口で脱税を行う経営者らとそれを見破る捜査官たちとの虚々実々の駆け引きをテンポよく描いており、ラストに抜けてのスリリングな盛り上げ方はなかなかのものでした。

マルサの女2 三國.jpgマルサの女 .jpg それまであまり世に知られていなかった国税査察部の捜査の様子をリアルに描いたということで社会的反響も大きく、翌年には「マルサの女2」('88年/東宝)も作られましたが、山崎努に続いてこちらも、宗教法人を隠れ蓑とし巨額の脱税を企てようとする"鬼沢"に大物俳優・三國連太郎マルサの女2 dvd.jpgを配し、これもまた脇役陣を含め演技達者が揃っていた感じでした。

 伊丹十三監督は「前作はマルサの入門編」であり、本当に描きたかったのは今作であるという伊丹十三.jpg趣旨のことを後に述べていますが、確かに、鬼沢さえも黒幕に操られている駒の1つに過ぎなかったという展開は重いけれども、ラストは前作の方がスッキリしていて個人的には「1」の方がカタルシス効果が高かったかなあ。監督自身は、高い娯楽性と巨悪の存在を一般に知らしめることとの両方を目指したのでしょう。
伊丹十三(1933-1997/享年64(自死))

お葬式 映画 dvd.jpg 確かに「お葬式」で51歳で監督デビューし、高い評価を得たのは鮮烈でしたが、作品の質としてはお葬式 映画 00.jpg3作目・4作目に当たる「マルサの女」「マルサの女2」の方が密度が濃いように思いました。それが、この「マルサの女1・2」以降は何となく作品が小粒になっていたような気がしたのが、この「スーパーの女」を観て、改めて緻密かつパワフルな伊丹作品の魅力を堪能できた―と思ったら、この「スーパーの女」を撮った翌年に伊丹十三は自殺してしまった。残念。
中央:菅井きん(日本アカデミー賞 最優秀助演女優賞)(1926-2018.8.10/享年92
伊丹十三DVDコレクション お葬式

企業家サラリーマン.gif 「スーパーの女」の原作は、『小説スーパーマーケット』(『小説流通産業』('81年))で、作者の「安土敏」こと荒井伸也氏は元サミット社長であり、この人の『企業家サラリーマン』('86年/講談社、'89年/講談社文庫)は、海外飲食店グループを指揮する男性と、新しい時代の経営者を目指す女性たちの生き方を描いた作品で、作者が現役役員の時点でこお小説を書いているということもあってシズル感があり面白かったですが、こちらもテレビドラマ化されているらしい。どこかで再放送しないものかなあ。

企業家サラリーマン (講談社文庫)

県庁の星9.jpg「県庁の星」●制作年:2006年●監督:西谷弘●製作:島谷能成/亀山千広/永田芳男/安永義郎/細野義朗/亀井修朗●脚本:佐藤信介●撮影:山本英夫●音楽:松谷卓●原作:桂望実「県庁の星」●時間:131分●出演:織田裕二/柴咲コウ/佐々木蔵之介/和田聰宏/紺野まひる/奥貫薫/井川比佐志/益岡徹/矢島健一/山口紗弥加/ベンガル/酒井和歌子/石坂浩二●公開:2006/02●配給:東宝(評価:★★★)
柴咲コウ in「県庁の星」('06年/東宝)/「おんな城主 直虎」('17年/NHK)

県庁の星 柴咲コウ.jpg おんな城主 直虎 .jpg

中央:津川雅彦(1940-2018.8.4/享年78
スーパーの女ド.jpgスーパーの女 9.jpg「スーパーの女」●制作年:1996年●監督・脚本:伊丹十三●製作:伊丹プロダクション●撮影:前田米造/浜田毅/柳島克巳/高瀬比呂志●音楽:本多俊之●原作:安土敏「小説スーパーマーケット」●時間:127分●出演:宮本信子/津川雅彦/三宅裕司/小堺一機/伊東四朗/金田龍之介/矢野宣/六平直政/高橋長英/あき竹城/松本明子/山田純世/柳沢慎吾/金萬福/伊集院光●公開:1996/06●配給:東宝(評価:★★★★)

お葬式 映画01.jpgお葬式 映画 02.jpg「お葬式」●制作年:1984年●監督・脚本:伊丹十三●製作:岡田裕/玉置泰●撮お葬式 大滝435.jpg影:前田米造●音楽:湯浅譲二●時間:124分●出演:山笠智衆 お葬式.jpgお葬式 笠智衆.jpg崎努/宮本信子/菅井きん/財津一郎/大滝秀治/江戸家猫八/奥村公廷/藤原釜足/高瀬春菜/友里千賀子/尾藤イサオ/岸部一徳/笠智衆/津川雅彦/佐野浅/小林薫/長江英和/井上陽水●公開:1984/11●配給:ATG●最初に観た場所:池袋日勝文化 (85-11-04)(評価:★★★☆)●併映「逆噴射家族」(石井聰互)
笠智衆
菅井きん in「生きる」('52年)/「ゴジラ」('54年)/「幕末太陽傳」('57年)/「天国と地獄」('63年)/「お葬式」('84年)
菅井きん 生きる .jpg 菅井きん ゴジラ.jpg 菅井きん 幕末太陽傳 南田洋子  左幸子.jpg 菅井きん 天国と地獄.jpg お葬式8e-s.jpg 菅井きん.jpg
Marusa no onna (1987)
Marusa no onna (1987) .jpgマルサの女  .jpgマルサの女AL_.jpg「マルサの女」●制作年:1987年●監督・脚本:伊丹十三●製作:玉置泰/細越省吾●撮影:前田米造●音楽:本多俊之●時間:127分●出演:宮本信子/山崎努津川雅彦/大地康雄/桜金造/志水季マルサの女 岡田ド.jpgマルサの女 津川.jpg里子/松居一代/室田日出男/ギリヤーク尼ヶ崎/柳谷寛/杉山とく子/佐藤B作/絵沢萠子/山下大介/橋爪功/伊東四朗/小沢栄太郎/大滝秀治/芦田伸マルサの女347.jpgジョイシネマ3 .jpg新宿ジョイシネマ3.jpg介/小林桂樹/岡田茉莉子/渡辺まちこ/山下容里枝/小坂一也/打田親五/まる秀也/ベンガル/竹内正太郎/清久光彦/汐路章/上田耕一●公開:1987/02●配給:東宝●最初に観た場所:新宿シネパトス (88-03-12)(評価:★★★★)●併映「マルサの女2」(伊丹十三)

新宿シネパトス (1956年3月「新宿名画座」オープン→1987年5月「新宿シネパトス」→1995年7月「新宿ジョイシネマ5」→1997年11月「新宿ジョイシネマ3」) 2009(平成21)年5月31日閉館 


「マルサの女2」三國連太郎/上田耕一
マルサの女2 三國連太郎_1.jpgマルサの女2 .jpg佐渡原:丹波哲郎.jpg「マルサの女2」●制作年:1987年●監督・脚本:伊丹十三●製作:玉置泰/細越省吾●撮影:前田米造●音楽:本多俊之●時間:127分●出演:宮本信子/津川雅マルサの女2 笠.jpg彦/三國連太郎丹波哲郎/大地康雄/桜金造/加藤治子/益岡マルサの女2」.jpg徹他/マッハ文朱/加藤善博/浅利香津代/村井のりこ/岡本麗/矢野宣/笠智衆/上田耕一/中村竹弥/小松方正●公開:1988/01●配給:東宝●最初に観た場所:新宿シネパトス (88-03-12)(評価:★★★☆)●併映「マルサの女」(伊丹十三)

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振り切ってきた過去へのノスタルジーに満ちた「祭りの準備」。大谷直子が鮮烈な「肉弾」。

祭りの準備.jpg 祭りの準備  タイトル.jpg  肉弾.jpg 肉弾 大谷直子3.jpg
祭りの準備 [DVD]」(監督:黒木和雄)          「肉弾 [DVD]」 (監督:岡本喜八)

黒木和雄.jpg中島丈博.jpg 「祭りの準備」('75年/ATG)は、昭和30年代の高知を舞台に、1人の青年がしがらみの多い土地の人間関係に圧迫されながらも巣立っていく姿を描いた青春映画で、主人公(江藤潤)が信用金庫に勤めながらシナリオライターになることを夢見ていることからも窺えるように、原作は中島丈博の自伝的小説であり、監督は'06年に亡くなった黒木和雄です。
祭りの準備 DVDカバー.jpg
黒木和雄(1930‐2006/享年75)/中島丈博

映画チラシ 黒木和雄「祭りの準備」.jpg 「青春映画」とは言え青春の真只中でこの作品を観ると、あまりにどろどろしていて結構キツいのではないかという気もしましたが、このどろどろ感が中島丈博の脚本の特色とも言えます。

 父親(ハナ肇)は女狂い、祖父(浜村純)はボケ老人、母親(馬渕晴子)は主人公の青年を溺愛し、彼は二十歳にしてそこから逃れられないでいて、心の恋人(竹下景子)も片思いの対象でしかなく、結局、男達の性欲の捌け口となっている狂った女(桂木梨江)と寝てしてしまうが、その女が妊娠したらしいことがわかる―。 映画チラシ 黒木和雄「祭りの準備」

祭りの準備00.jpg祭りの準備2.jpg 青年がシナリオを書くとセックス描写が頻出し、左翼かぶれの"心の恋人"に「労働者階級をもっときちんと描くべきで、どうしてセックスのことばかり書くの」となじられる始末。そのくせ、彼女はオルグの男性にフラれると、宿直中の青年に夜這いして来て、そこで小火(ボヤ)事件が起きてしまうという、青年同様に彼女自身、青春の混沌の中でちょっと取りとめが無い状態になっています。

祭りの準備図0.jpg こんな状況から脱したいという青年の気持ちがよく分かり、その旅立ちを駅のホームで列車に伴走しながら万歳して見送る、青年の隣家の泥棒一家「中島家」の次男で殺人の容疑をかけられ逃亡の身の男「中島利広」を演じているのが原田芳雄(1940-2011)で、冬物語2.gif役柄にしっくり嵌っていい味を出しています(この俳優を渋いなあと最初に思ったのは映画ではなくテレビで観た「冬物語」('72年~'73年/日本テレビ)というメロドラマだった。恋人役は浅丘ルリ子、ふられ役は大原麗子)。

「冬物語」('72年~'73年)浅丘ルリ子・原田芳雄

 創作の要素はあるとは言え、この「祭りの準備」という映画には、原作者(中島丈博)が過去に振り切ってきた諸々に対するノスタルジーが詰まっている感じがします(東京への"脱出"行を果たした江藤潤と、それが出来ないでいる原田芳雄という対比構造になっている)。
竹下景子 in 「祭りの準備」(1975)[下写真]
祭りの準備3.jpg 祭りの準備 竹下景子.jpg 祭りの準備 図1.jpg
竹下景子 (たけしたけいこ) 1953年9月15日生まれ.jpg 竹下景子(1953年生まれ、当時22歳)の映画デビュー2作目、主演級は初で、桂木梨江(1955年生まれ、当時20歳)も映画デビュー2作目。この作品は竹下景子のヌードシーンで話題になることがありますが、主人公の青年に夜這いした際の下着姿と引き続く火事の炎の向こうにチラッと見える全裸(半裸?)姿程度で(この頃の彼女は結構コロコロ体型、よく言えばグラマラスだった)、この後清純派で売り出し、"お嫁さんにしたい桂木梨江 祭りの準備.jpg女性No.1"などと言われたために以降全くスクリーン上では脱がなくなり(「天の花と実」('77年/テレビ朝日)ではヌードを拒否した)、そんな経緯もあって「祭りの準備」のこのシーンの付加価値が出たのかも? むしろ、この作品で大胆なヌードを見せたのは「中島家」の末娘で男達の性欲の捌け口となっている狂女を演じた桂木梨江の方で、彼女はこの演技で第18回ブルーリボン賞新人賞、第49回キネマ旬報ベスト・テン助演女優賞にノミネートされています。
桂木梨江/原田芳雄 in 「祭りの準備」(1975)
映画「純」 横山博人 江藤潤 ポスター.jpg純 江藤潤DVD.jpg 主演の江藤潤(1951年生まれ)も、映画初主演の割には良い演技をしていたように思います。その後も、「帰らざる日々」('78年/日活)、「純」('80年/東映セントラルフィルム)などの作品に出演していますが、主演の「純」は東映出身の横山博人監督の第一回作品で、'78年4月に完成したものの国内公開の目途の立たぬまま翌年度のカンヌ映画祭に出品され、新人監督の登竜門「批評家週間」オープニング上映作品に選出され、以後、ロンドン映画祭、ロサンゼルス映画祭に招待されるなど高い評価を得ため、'80年に一般公開となったという作品。

 長崎の軍艦島から漫画家を志望して上京し、遊園地の修理工場で働いている主人公の二十歳の松岡純(江藤潤)は、恋人がいながらその手さえ握らず、通勤電車の中で痴漢行為に耽ける―漫画家を志望で軍艦島から東京に出てきたというところが、脚本家志望で高知・四万十から都会へ行こうとする「祭りの準備」の主人公と似ていますが、ラストまでのプロセスが観ていて気が滅入るくらい暗くて(痴漢行為に耽っているわけだから明るいはずはないが)、脇を固めている俳優陣は非常にリアリティのある演技をしていたものの、イマイチ自分の肌には合わなかったなあ(リアリティがあり過ぎて?)。江藤潤はやはり「祭りの準備」の彼が良かったように思います(「純」はどうして海外でウケたのだろう。外国人には痴漢が珍しいのかなあ。そんなことはないと思うが、クロード・ガニオン監督の「Keiko」('79年/ATG)でも冒頭に痴漢シーンがあった)。

大谷直子 in 「肉弾」(1968)[下写真]
『肉弾』(監督 岡本喜八)2.bmp 女優のデビュー時乃至デビュー間もない頃のスクリーン・ヌードという点では、「高校生ブルース」('70年/大映)の関根(高橋)惠子(1955年生まれ、当時15歳)、「旅の重さ」('72年/松竹)の高橋洋子(1953年生まれ、当時19歳)、「十六歳の戦争」('73年制作/'76年公開)の秋吉久美子(1954年生まれ、当時19歳)、「恋は緑の風の中」('74年/東宝)の原田美枝子(1958年生まれ、当時15歳)、「青春の門(筑豊篇)」('74年/東宝)の大竹しのぶ(1957年生まれ、当時16歳)、「はつ恋」('75年/東宝)の仁科明子(亜季子)(1953年生まれ、当時22歳)などがありますが(これらの中では、関根惠子と原田美枝子の15歳が一番若くて、仁科明子の22歳が竹下景子と並んで一番遅いということになる)、個人的には、'05年に亡くなった岡本喜八監督の「肉弾」('68年/ATG)の大谷直子(1950年生まれ、当時17歳)が鮮烈でした。

nikudann vhs.jpg肉弾3.jpg肉弾 寺田農.jpg この「肉弾」という作品は、特攻隊員(寺田農)を主人公に据え(「肉弾」とは「肉体によって銃弾の様に敵陣に飛び込む攻撃」のこと)、戦争の悲劇というテーマを扱っていながら、コミカルで悲壮感を(一応は)表に出していないという変わった映画で、映画肉弾 大谷直子4.jpg自体は、太平洋に漂流するドラム岳の中で魚雷を抱えている(ある意味、既に死んでいる)主人公の回想という形で進行し、主人公が1日だけの外出許可日に古本屋に行くつもりが思わず女郎屋に駆け込んでしまい、そこにいたセーラー服姿の肥溜めに咲いた一輪の白百合のような少女と防空壕の中で結ばれるという、その少女の役が映画初出演の大谷直子でした(その後、NHKの朝の連ドラ「信子とおばちゃん」('69年)でTVデビュー)。

 彼女が全裸で土砂降りの雨の中を走るシーンは衝撃的で、モノクロ映画ゆえに却ってその美しさは印象に残りましたが、かの特攻隊員は、そこで初めて自らが守るべきものを見出し、空襲で彼女が犠牲になったことで復讐心から戦闘意欲に燃え、魚雷と共に太平洋に出るという―これ、岡本喜八ならではのアイロニーなのですが、笑えるようでやっぱり岡本喜八.jpg笑えないなあ。岡本監督はその後も自らと同年代の戦中派の心境を独特のシニカルな視点で描き続けますが、「独立愚連隊」('59年)とこの「肉弾」は、そのルーツ的な作品でしょう。「日本のいちばん長い日」('67年)のようなオールスター大作を撮った後に、私費を投じてこのような自主製作映画のような作品を撮っているというのも凄いことだと思います。 
岡本喜八(1924- 2005/享年81) 下:「肉弾」大谷直子  寺田農/笠智衆
肉弾 大谷直子1.jpg 肉弾 大谷直子2.jpg 肉弾 笠智衆5.jpg 
 

祭りの準備ド.jpg祭りの準備 4.bmp「祭りの準備」●制作年:1975年●監督:黒木和雄●製作:大塚和/三浦波夫●脚本:中島丈博●撮影:鈴木達夫●音楽:松村禎三●原作:中島丈博●時間:117分●出演:江藤潤/馬渕晴子/ハナ肇/浜村純/竹下景子/原田芳雄/杉本美樹/桂木梨江/石山雄大/三戸部スエ/絵沢萠子/原知佐子/真山知子/阿藤海/森本レオ/斉藤真/芹明香/犬塚弘/湯沢勉/瀬畑佳代子/夏海千佳子/石津康祭りの準備 桂木梨江.jpg祭りの準備 竹下景子.jpg彦/下馬二五七/福谷強/中原鐘子/柿谷吉美●公開:1975/11●配給:ATG●最初に観た場所:飯田橋ギンレイホール(78-07-25)(評価:★★★☆)●併ギンレイホール.jpg飯田橋ギンレイホール内.jpg映:「サード」(東陽一)
飯田橋ギンレイホール 1974年1月3日オープン

「純」●制作年:1978年●監督・脚本:横山博人●製作:横山博人プロダクション●撮影:高田昭●音楽:一柳慧●時間:88分●出演:江藤潤/朝加真由美/中島ゆたか/榎本ちえ子/赤座美代子/山内恵美子/田島令子/橘麻紀/花柳幻舟/原良子/江波杏子/小松方正/深江章喜/大滝秀治/安倍徹/小坂一也/小鹿番/今井健二/森あき子/田中小実昌●公開:1980/12●配新宿昭和館2.jpg新宿昭和館3.jpg給:東映セントラルフィルム●最初に観た場所:新宿昭和館(83-05-05)(評価:★★☆)●併映:「聖獣学園」(鈴木則文/主演:多岐川裕美)
新宿昭和館 1951(昭和26)年7月13日新宿3丁目にオープン(前身は1932年開館の洋画上映館「新宿昭和館」)。1956年、昭和館地下劇場オープン。2002(平成14)年4月30日 建物老朽化により閉館。


肉弾 アートシアター.jpg肉弾 vhs2.jpg『肉弾』(監督 岡本喜八)1.bmp「肉弾」●制作年:1968年●監督・脚本:岡本喜八●撮影:村井博●音日劇文化.jpg楽:佐藤勝●時間:116分●出演:寺田農/大谷直子/天本英世/笠智衆/北林谷栄/三橋規子/今福正雄/春川ますみ/園田裕久/小沢昭一/菅井きん/三戸部スエ/頭師佳孝/雷門ケン坊/田中邦衛/中谷一郎/高橋悦史/伊藤雄之助/(ナレーター)仲代達矢●公開:1968/10●配給:ATG●最初に観た場所:有楽町・日劇文化(80-07-05)(評価:★★★★)●併映:「人間蒸発」(今村昌平)


冬物語.gif「冬物語」.jpg冬物語 ドラマタイトル.jpg「冬物語」2.bmp「冬物語」●演出:石橋冠●制作:銭谷功/早川恒夫●脚本:清水邦夫/林秀彦●音楽:坂田晃一(主題歌「冬物語」、作詞:阿久悠/作曲・編曲:坂田晃一/唄:フォー・クローバース)●出演:浅丘ルリ子/原田芳雄/津川雅彦/扇千景/大原麗子/高松英郎/原田大二郎/宝生あや子/南美江/荒谷公之/鳥居恵子/渡辺篤史/下元勉/潮万太郎/上野山功一/柿沼真二/下川清子/野々あさみ/渥美マリ●放映:1972/11~1973/04(全20回)●放送局:日本テレビ

原田芳雄/浅丘ルリ子/原田大二郎/津川雅彦/大原麗子
冬物語0d87.jpg冬物語31645_21.jpg冬物語 大原.jpg

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犯人決めつけ的な導入を"お約束事"として諒解してしまえば、『点と線』同様に楽しめるかも。

時間の習俗 カッパノベルズ.jpg 時間の習俗 新潮文庫.jpg 時間の習俗2.jpg 点と線.png 松本清張スペシャル 時間の習俗2.jpg松本清張スペシャル 時間の習俗.jpg
時間の習俗 (1962年) (カッパ・ノベルス)』『時間の習俗 (新潮文庫)』 [旧版/新版])『点と線―長編推理小説 (カッパ・ノベルス (11-4))』 「時間の習俗」(1982年、TBS)内野聖陽/津川雅彦
関門海峡を望む和布刈神社/旧正月の和布刈神事 [共同通信社]
Mekari Shrine.jpg和布刈神事.jpg 神奈川県・相模湖畔で運送業の業界紙の社長が、女性とカップルで旅館を訪れた後に死体で発見されるが、同伴の女性の行方は杳として知れず、容疑者であるタクシー会社の専務には、丁度その時刻、北九州・門司の和布刈神社で毎年旧正月深夜に行われる「和布刈神事」を参観し、その様子をカメラに収めているという完璧なアリバイがあった―。

 『点と線』('57(昭和32)年発表)が掲載されたのと同じ「旅」誌の'61(昭和36)年5月号から翌年11号にかけて連載された作品で、『点と線』と同じように東京の三原警部補と博多の鳥飼刑事のコンビが、容疑者の完璧なアリバイに臨むもの。

 『点と線』は『ゼロの焦点』と並ぶ作者の代表作ですが、社会派的色彩の強い『ゼロの焦点』に比べ、『点と線』の方が謎解きのウェイトが高いように思え、それでも『点と線』もまた犯人の動機から「社会派推理小説」と呼ばれるわけですが、その続編とも言うべきこの作品は(事件自体は全く別物)、完全にアリバイ崩しに焦点を合わせた純粋ミステリになっています。

 三原警部補の頭の中が完全に「点と線」モードになっていて、一番完璧なアリバイを持っているように見える、考えられる容疑者の中で事件から最も遠そうな人物に最初からターゲットを絞り込んでおり(殆ど「刑事コロンボ」のような倒叙法に近いと言える)、この点が不自然と言えば不自然かも知れませんが、その分アリバイ崩しに"効率良く"没頭することが出来、結果として、"完璧過ぎる"アリバイや崩しても崩しても現れる新たなアリバイに、ここまで周到にやるからには犯人はこいつしかないと誰もが思うだろうと...途中から納得。

 終盤の畳み掛けるようなアリバイ崩しの展開がテンポ良く、作家の力量を窺わせますが、「犯人決めつけ」的な導入を"お約束事"として諒解してしまえば、トータルで見て『点と線』と同様に楽しめるのではないかとも思いました(写真トリック等には時代を感じるが、それも昭和ノスタルジーとして味わえばいいか)。

時間の習俗(TBS).jpg と言いつつ、何十年ぶりかの再読で相当に中身を忘れてしまっていて、幸か不幸か殆ど初読のような感じで読めましたが、こうした「推理」主体のものは、時々読み返したり映画化されたりしたものを観たりしないと、結構どんな話だったか忘れるなあと思った次第です(この作品は映画化はされていないが、下記の通り2度ばかりドラマ化はされている)。
 •1963年「時間の習俗(NHK)」大木実・冨田浩太郎・中村栄二
 •1982年「時間の習俗(TBS)」萩原健一・藤真利子・井川比佐志

「時間の習俗」(1982年、TBS)

 【1962年ノベルズ版[光文社]/1972年文庫化[新潮文庫]】

《読書MEMO》
●2014年再ドラマ化 【感想】 原作の精緻なトリックは端折って、サイドストーリーをBL小説風に拡大した感じか。三原警部補のキャラクターも原作のクールな印象からかなり粗野な感じに改変されていた。3度目のドラマ化なので何か新味を持たせようとしたのだろうが、32年ぶりのドラマ化でもあり、原作通りでいって欲しかった。

時間の習俗 フジテレビ0.jpg時間の習俗 フジテレビ2.jpg時間の習俗 フジテレビ3.jpg「松本清張スペシャル 時間の習俗~フジテレビ開局55周年特別番組」●演出:光野道夫●脚本:浅野妙子●原作:松本清張●出演:内野聖陽/津川雅彦/加藤雅也/木南晴夏/田村亮/片岡信和/橋本じゅん/酒井若菜/千葉雄大/梅沢昌代/小須田康人/伊藤正之/井上肇/やべけんじ/山地健仁●放映:2014/04/10(全1回)●放送局:フジテレビ

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緻密な取材とテンポ良く読ませる文体。ある意味"戦死者"への鎮魂歌『生命燃ゆ』。

生命燃ゆ.jpg  生命燃ゆ (新潮文庫).jpg いのちの風.jpg 燃ゆるとき 新潮文庫.jpg 燃ゆるとき.jpg 燃ゆるとき 2006 dvd.jpg
生命(いのち)燃ゆ(集英社文庫)』['90年]『生命燃ゆ (新潮文庫)』['93年]『いのちの風-小説・日本生命 (集英社文庫)』['87年] 『燃ゆるとき (新潮文庫)』['93年]『燃ゆるとき (角川文庫)』['05年] 映画「燃ゆるとき [DVD]

 著者の企業小説のうち、理想に燃えて高い指導力を発揮し業務を遂行するタイプの主人公を描いた作品には、『生命燃ゆ』('83年)、『いのちの風』('85年)、『燃ゆるとき』('90年)と何となく似たタイトルのものがあるのですが、順に石油化学、生保、水産加工の各業界が舞台で、それぞれ『生命燃ゆ』が昭和電工の課長、『いのちの風』が日本生命の部長(弘世源太郎、後に常務)、『燃ゆるとき』が東洋水産の社長(森和夫)がモデルとなっています。 

 ただし、『いのちの風』の主人公である日本生命の部長は社長の息子でもあり、純粋に名も無き一ビジネスマンを描いたのは、世界初のコンピュータ制御の石油コンビナート建造に体を張って奮迅し、最後は糖尿病に白血病を併発して亡くなった垣下怜(さとし)という人をモデルにしたこの作品『生命燃ゆ』です。

 著者が石油業界の業界紙の出身ということもあり、緻密な取材の跡が窺えますが、それでいて会話部分が多く、テンポ良く読ませる佳作です。1人の技術者であり中間管理職である男性の、自らの仕事に賭ける情熱にうたれますが、単なるモーレツというのではなく、会社に対して言うべきは言い、自分の手柄を誇ることもなく、自発的な勉強会などで部下を育成するなど、優れた人間性を感じます。高度成長期の話と思われがちですが、オイルショック直後の、必ずしも業界にとって順風が吹いていたとは言えない時期の話です。それでも、ここまで仕事に打ち込めたビジネスマンというのは、仕事と生きがいが一致した幸せなケースではないかとも思えます。

 例えば今日的視点で見れば、視力が衰えるまでに糖尿病が進行しても、「自分がいなければ」という本人の熱意に押されて仕事から外せない会社側の対応に問題はなかったか、という見方もあるし、そもそも価値観や生き方が多様化するなかで、主人公をあまり美化するのはどうかという意見もあるでしょう。そのように考えると、日本産業の発展の下支えとして、かつてはこうした人の活躍と死もあったのだという、"戦死者"に対する鎮魂歌のような意味合いをこの作品に覚えます。

 因みに『燃ゆるとき』は、東洋水産の"社長"が主人公の物語ではありますが、これも"創業社長"の話であるため面白く読め、昭和28年、築地市場の片隈の6坪のバラックで水産会社を興した森和夫氏が、机4つ、電話2台、従業員5名というスタートから、大手商社の横暴に耐え、米国進出、特許係争といった多くの難問と格闘しつつ、40年の間に自らの会社を、資本金175億円、従業員2000名の一部上場企業に育て上げるまでが描かれています。

 "特許係争"というのは、日清のカップヌードルとのそれです。ビジネス小説としてはオーソドックスなパターンですが、こうした身近な話題も織り込まれている実名小説であるためシズル感があって、加えて、森氏の大らかな人柄と溢れんばかりのバイタリティは魅力的であり、こちらもお奨めです。映画化もされていますが、続編の会社がアメリカに進出した際の奮闘を描いた『ザ エクセレント カンパニー』を主に原作としていて(会社名は『ザ エクセレント カンパニー』で「東洋水産」→「東邦水産」に改変され、さらに映画では「東輝水産」となっている)、企業小説の映画化作品としてはまずまずですが、脇役陣が手堅い割には主人公の若手営業マンを演じた中井貴一がイマイチで浮いていた感じだったでしょうか。

映画「燃ゆるとき」(2006年)
映画「燃ゆるとき」(2006年)2.jpg燃ゆるとき 映画.jpg「燃ゆるとき THE EXCELLENT COMPANY」制作年:2006年●監督:細野辰興●脚本: 鈴木智●撮影:鈴木達夫●音楽:川崎真弘●原作:高杉良『燃ゆるとき』『ザ エクセレント カンパニー/新・燃ゆるとき』●時間:114分●出演:中井貴一/大塚寧々/長谷川初範/中村育二/津川雅彦/伊武雅刀/鹿賀丈史/木下ほうか/奈良橋陽子/矢島健一●公開:2006/02●配給:東映(評価:★★★)

 『生命燃ゆ』...【1986年文庫化[角川文庫]/1990年再文庫化[集英社文庫]/1993年再文庫化・1998年改訂[新潮文庫]/2010年再文庫化[徳間文庫]】
 『燃ゆるとき』...【1993年文庫化[新潮文庫]/1999年再文庫化[講談社文庫]/2005年再文庫化[角川文庫]】

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電機メーカーの人事制度の取材はそれなりに深いが、提案面は肩透かし。

成果主義を超える.jpg    江波戸哲夫.gif    集団左遷2.jpg 集団左遷3.jpg 
成果主義を超える』 文春新書〔'02年〕江波戸哲夫 氏 (作家)「集団左遷」('94年/東映)柴田恭平/中村敦夫

 『集団左遷』('93年/世界文化社)、『部長漂流』('02年/角川書店)などの企業小説や『会社葬送-山一証券最後の株主総会』('01年/新潮社)、『神様の墜落-"そごうと興銀"の失われた10年』('03年/新潮社)などの企業ドキュメントで知られる作家の江波戸哲夫氏が、企業を取材し、各社の成果主義人事制度の現状を分析、考察したものです。

 一般に人事制度の取材・とりまとめは専門のジャーナリストやライターが行うことが多いのですが、著者の取材はそれらに劣らない深さがあり、企業側だけでなく労働者や労働組合のコメントも取っているところにもバランスの良さを感じます。

 ただし、ある時期(2001年前後)のある業界の一定規模以上の企業のみを対象にした分析なので、確かに電機業界はいろいろな面で日本の産業のリーダー的役割を果たしてきた面はありますが(例えば週休2日制を最初に導入した大手企業は「松下」です)、これが日本企業全体の動向かと言われると若干の疑問もあります。

 鳴り物入りで導入された新人事制度の中には、一応機能しているものもあれば尻すぼみになっているものもあることがわかり、この辺りの取材はかなり緻密で、個人的には、大企業の人事部の中には、トレンドに合わせて何か新しい制度を入れて、自社適合性のチェックは後回しになっていると言うか、軽んじられている風潮があるのではないかと考えさせられる節もあります。
 いや、"自社適合"にばかり重きを置いていたら、何も出来ないまま同業他社から遅れていく、という焦りもあるかも。

 著者は、企業がリストラをしつつも根本的には雇用延長を図っていることに着眼し、企業への帰属意識(愛社精神)の効果は確かに見過ごせないとしています。
 しかしながら結論的には、企業は、年功序列・終身雇用制を弱めて従業員の帰属意識の減退を図りながらも、仕事へのエネルギーを引き出さなければならないという難しい課題を抱えていると...。

 確かにその通りですが、こうしたやや"感想"的結論で終わっているため、タイトルから具体的な"提案"を期待した向きには肩透かしの内容となっていることは否めないと思います。
 現実は、小説や映画のようなスッキリした締めくくり方にはならないということか...。

集団左遷1.bmp 因みに江波戸氏の小説『集団左遷』('93年/世界文化社)は映画化もされていて、バブル崩壊後に大量の余剰人員を抱えた不動産会社が、新規事業部に余剰人員50人を送り込み、達成不可能な販売目標を課して人員の削減を図るというリストラ計画を実行し、そうした中での50人のリストラ社員たちが逆境に立ち向かっていく姿を描いたものでした。

 梶間俊一監督はヤクザ映画系の出身の人で、テンポはいいし、"成果主義を超えた"かどうかはどもかく、一応"スッキリした締めくくり方"にはなっていますが、そこに至るつくりはやや粗いような気もしました(原作は未読。読めば結構面白いのかも)。

「集団左遷」柴田強兵/高島礼子
i集団左遷 津川雅彦 13.jpg集団左遷2.bmp 柴田恭平がリストラされた社員のリーダーを熱演していて、この映画で「熱血ビジネスマン」のイメージが定着したとも言えるのではないでしょうか(脚本は'04年に自殺した野沢尚が書いている)。

「集団左遷」●制作年:1994年●製作:東映●監督:梶間俊一●脚本:野沢尚●撮影:鈴木達夫 ●音楽:小玉和之●原作:江波戸哲夫●時間:116分●出演:柴田恭平/中村敦夫/津川雅彦/高島礼子/小坂一也/河原崎建三/萬田久子/北村総一朗/江波杏子/伊東四朗●劇場公開:1994/12●配給:東映 (評価★★★)

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