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『カササギ殺人事件』に続いて「1作品で2度美味しい」という感じ。

ヨルガオ殺人事件 上.jpgヨルガオ殺人事件下.jpgヨルガオ殺人事件 上下.jpg
ヨルガオ殺人事件 上 (創元推理文庫)』『ヨルガオ殺人事件 下 (創元推理文庫)

Moonflower Murders.jpg アラン・コンウェイ作『カササギ殺人事件』にまつわる事件に巻き込まれてから2年。出版業界を離れたスーザン・ライランドはギリシャに移り住み、恋人のアンドレアスと共にホテルを営んでいた。しかし、経営はギリギリで心の余裕もなく、イギリスに戻ることを考えていた。ある日、イギリスで高級ホテルを経営しているトレハーン夫妻がスーザンのもとを訪れ、失踪した娘のセシリーの捜索を依頼される。なんと、ホテルで8年前に起きた殺人事件の真相がアティカス・ピュントシリーズ3作目の『愚行の代償』に隠されているのだという。スーザンは事件の関係者たちに話を聞いてまわり、アランの作品を読み返すことになる。果たして、8年前の真相とスーザンの失踪の関係は、そして作品に隠された真相とは一体何なのか―。

 「このミステリーがすごい!」(宝島社)2022年版海外篇・第1位、「週刊文春ミステリーベスト10」(週刊文春2021年12月9日号)海外部門・第1位、「2022本格ミステリ・ベスト10」(原書房)第1位を獲得し、『カササギ殺人事件』『メインテーマは殺人』『その裁きは死』による3年連続での年末ミステリランキング3冠を更新し、〈4年連続3冠〉となりました(ただし、「ミステリが読みたい!2022年版」(ハヤカワ・ミステリマガジン2022年1月号)だけ第2位だったため、〈4年連続4冠〉は成らなかった)。

 2020年原著刊行。『カササギ殺人事件』の続編(事件はまったく異なる事件)であり、主人公は同じスーザン・ライランド。編集者を辞め、ロンドンからパートナー・アンドレアスと共にクレタ島に移りホテルを経営しています。『カササギ殺人事件』と同じく「現実編」と「小説編」から成りますが、文庫上巻が「小説編」で下巻が「現実編」だった『カササギ殺人事件』に対して、こちらは、「現実編」の真ん中に、文庫の上下を繋ぐような形で「小説編」である『愚行の代償』が入っており、このまさに「入れ子」構造となっている『愚行の代償』だけで1つの推理小説として緊迫感を持って読めます。

 まあ、『カササギ殺人事件』に続いて「1作品で2度美味しい」という感じでしょうか。敢えて惜しかった点を指摘すれば、『愚行の代償』(「小説編」)の謎解きが本編(「現実編」)の謎解きと直接的にはリンクしていなかったことでしょうか。文庫下巻で本編の登場人物一覧と、小説編の登場人物一覧の両方に指を挟んで、見比べながら読んだ割には、正直やや拍子抜けさせられた印象もあります。

 でも、上下巻で一気に読ませる力量はさすが。分量はあっても無駄がないと言うか、これは作者ならではという感じ。ただ、「現実編」「小説編」共かなり登場人物が多いので、ややマニアックになっている印象はありました(「現実編」の登場人物がかなり『カササギ殺人事件』から引き継がれている分、緩和されている面もあるが)。

 最後の方では、主人公が結構いきなり誰が犯人か閃いたようで、思わずそこでいったん本を置いて、居住まいを正し(笑)一呼吸置いてから読み進みました。随所にアガサ・クリスティへのオマージュが見られるのも楽しかったですが、犯人に至る伏線が記号として織り込まれていたことは、謎解きがああってから分かりました(プロットではなく記号だった)。

 『カササギ殺人事件』とどちらが上かと言うと、「現実編」に対し「小説編」が「入れ子」構造となっている分、『カササギ殺人事件』より洗練されていた(加点要素)とも言えるし、でも、「小説編」の現実の事件の解決ポイントがプロット的なものではなかったことへの物足りなさ(減点要素)もあるし、まあ、いい勝負という感じでしょうか。何れにせよ、そこいらの並みの推理小説よりはずっと面白いので「◎」です。

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3年連続でのミステリランキング4冠。二転三転するラストに引き込まれた。

その裁きは死 .jpgその裁きは死 全制覇.pngその裁きは死 11.jpg
その裁きは死 ホーソーン&ホロヴィッツ・シリーズ (創元推理文庫)

『その裁きは死』3.jpgその裁きは死 3年連続4冠2.png 実直さが評判の離婚弁護士リチャード・プライスが殺害された。未開封のワインボトルで殴打され、砕けたボトルで喉を刺されていたのだが、これは裁判の相手方が彼に対して口走った脅し文句に似た方法だっThe Sentence is Death.jpgた。プライスは一千万ポンドの財産をめぐる離婚訴訟を受け持っていて、その相手はアキラ・アンノという有名な小説家であり、彼女は多くの人がいるレストランで、プライスにワインのボトルでぶん殴ってやると脅しともとれる言葉を言い放っていたのだ。現場の壁には謎の数字"182"がペンキで乱暴に描かれていて、、被害者は殺される直前に奇妙な言葉を残していた。私ことアンソニー・ホロヴィッツは、元刑事の探偵ホーソーンによって、この奇妙な事件の捜査に引き摺り込まれていく―。

 2016年原著刊行の『カササギ殺人事件』、2017年原著刊行の『メインテーマは殺人』に続く2018年11月原著(The Sentence Is Death)刊行の創元推理文庫版第3弾で、この作品で、「このミステリーがすごい!」2021年版(宝島社) 第1位、「週刊文春年末ミステリランキング.jpgミステリーベスト10」(週刊文春2020年12月10日号)第1位、「2021本格ミステリ・ベスト10」(原書房)第1位、「ミステリが読みたい!」(ハヤカワ・ミステリマガジン2021年1月号)第1位を獲得し、3年連続ミステリランキング全制覇、つまり3年連続での4冠を達成しています。

 本書は、『メインテーマは殺人』に続く著者のアンソニー・ホロヴィッツが語り手となり、変わり者の元刑事のホーソーンとともに奇妙な事件の捜査に挑むシリーズの第2弾です。『メインテーマは殺人』を最初に読んだ時、解決できるかどうか分からない事件について、それをありのままミステリとして書こうとする作家がいるだろうかという疑問を自ずと抱いたものの、面白く読めたためにそのあたりは気にならなくなって、それが2作目も同じ設定となると、もうこのシリーズのお約束事として納得してしまうから不思議なものです。

 6人の容疑者の誰が犯人であってもおかしくないといった設定はアガサ・クリスティの系譜と思わされますが、一方で、ラストではしっかりコナン・ドイルへのオマージュが込められていました。このあたりはクリスティ、ドイルのファンは嵌るかと思いますが、それらを読んでなくとも十分愉しめます。

 それにしてもこのラストの二転三転する展開には魅了されました。「私ことアンソニー・ホロヴィッツ」が自らも元刑事の探偵ホーソーンに負けまいと必死に推理を張り巡らすも、結局はホーソーンはずっと先を行っていたわけで、ホームズとワトソン、ポワロとヘイスティングズの関係の相似形になっているのも楽しいです(作者は過去にTVドラマシリーズ「名探偵ポワロ」の脚本も11作担当している)。

アンソニー・ホロヴィッツがITVの「刑事フォイル」(2002-2015)の脚本家であり、妻のジル・グリーンが「刑事フォイル」のプロデューサーであるというのは事実で、ワトソン役を作者自身とするにあたって、こうした事実を織り交ぜて入れ子構造にしているのが、「作者自身もこの先どうなるか分からない」感があって上手いと思います。

 「3年連続での年末ミステリランキング4冠」に納得。個人的には、シリーズ第1作の『メインテーマは殺人』を超えているように思いました。作者は、今年[2021年]、『カササギ殺人事件』の続編Moonflower Murdersを刊行予定とのことで、そちらでは探偵アティカス・ピュントと編集者スーザンが再登場するとのことです。こちらも楽しみです。

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2年連続での年末ミステリランキング4冠に相応しい、安定した力量を見せた。

メインテーマは殺人1.jpgメインテーマは殺人2.jpg  カササギ殺人事件.jpg
カササギ殺人事件 上 (創元推理文庫)』『カササギ殺人事件〈下〉 (創元推理文庫)
メインテーマは殺人 ホーソーン&ホロヴィッツ・シリーズ (創元推理文庫)

The Word Is Murder.jpg 売れっ子作家のアンソニー・ホロヴィッツは、知り合いで元刑事のダニエル・ホーソーンから今捜査している事件をもとにホーソーン自身の本を書いてほしいと依頼される。事件とは、自分の葬儀を手配したダイアナ・クーパーが、その6時間後に殺害され、死の直前に「損傷の子に会った、怖い」というメールを息子のダミアンに送っていたというものだ。ダイアナは、かつて、道に飛び出してきた幼い少年ティモシーを事故で死なせ、その兄弟ジェレミーに重い障害を負わせていた。ダミアンは、10年前の交通事故のことを聞かれて激怒。ダイアナがハンドルを握らなくなったこと、住み慣れた家を売り転居したことなどを挙げ、まるで自分が被害者だという顔をして話す。ホーソーンは仕事でスティーヴン・スピルバーグと打ち合わせ中のアンソニーを強引に連れ出し、無理やりダイアナの葬儀に出席させる。その葬儀で、埋葬の際に柩を下ろした瞬間、ティモシーお気に入りの童謡が流れ出し、取り乱したダミアンは顔色を変え一人帰ってしまうが、やがて自宅で惨殺死体で発見される。アンソニーとホーソーンは、葬儀屋のロバート・コーンウォリスを訪ね、ティモシーの父親アランから葬儀の日程の確認の電話があったという情報を得る。勝手に執筆を始めたことを著作権エージェントのヒルダに責められたアンソニーだったが、秘密裡にアランを訪ねるために出かけてく―。

メインテーマは殺人0.png 2017年8月刊行の原著タイトルは"The Word Is Murder"。作者の『カササギ殺人事件』が年末ミステリランキング4冠を達成したのに続いて、この作品もまた「週刊文春ミステリーベスト10」(2019)、「ミステリが読みたい!」(2020)、「本格ミステリ・ベスト10」(2020)、「このミステリーがすごい!」(2020)、のそれぞれの海外部門で1位を獲得して年末ミステリランキング4冠を達成しており、同じ作家の作品が2年連続で4冠となるのは史上初とのことです(結局、次回作『その裁きは死』で3年連続での年末ミステリランキング4冠を達成することになるのだが)。

 前作は、上巻の作中作の事件と、下巻の今起きている事件と絡み合っていて、上下巻で二度楽しめました。今回もちょっと変わっていて、アンソニー・ホロヴィッツ自身が、ホーソーンという探偵役の元刑事にくっついていき、事件が解決に至るまでを小説に書くという、前作とは少し違ったタイプの"入れ子"構造になっています。

 解決できるかどうか分からない事件についてミステリを書こうとする作家がいるだろうかという疑問は自ずと湧くかと思いますが(実際、アンソニーも時々疑心悪鬼になる)、ホーソーンがこの物語におけるホームズ役であり、最後に事件を解決するのはいわばお約束事であって、どうやって事件を解決するのかということに関心を持っていくため、あまりその辺りは気になりませんでした。後で考えればかなり強引な虚構ですが、そんなことを考えさせない話の展開の旨さ、スピード感があります。

 ホーソーンがホームズならば、アンソニーはワトソンといった役回りでしょうか。ただし、前作からもそれを感じましたが、やはり作者はアガサ・クリスティの影響をかなり受けているように思いました。終盤にきて、もう登場人物の誰も彼もが容疑者たり得るという状況になるのは、クリスティの得意なパターンでもあったように思います。

 出来としては星5つとしてもいいのですが、どうしても"二度おいしかった"前作と比べてしまい、星4つとしました。最初に怪しいと思われた人間は、だいたいにおいて犯人ではないというのは、作者が脚本を手掛ける刑事ドラマの「バーナビー警部」などでよくあったパターンのように思います。でも、2年連続での年末ミステリランキング4冠に相応しい、安定した力量を見せてくれたと思います。

 ホーソーンという元刑事の、個人的な話や世間並みの挨拶は一切抜きで、一度口を閉じたら黙り続け、いつも単独で勝手な捜査をするため昔から相棒がおらず、裡に暴力性や同性愛者や小児性愛者に見せる憎悪を秘める一方で、子どもにシンパシーを寄せる―といったキャラクターが興味深く、作者はこのキャラクターでのシリーズ化を表明しています(その結果、「ホーソーン&ホロヴィッツ・シリーズ」としてシリーズ第2作『その裁きは死』が誕生することとなった)。

 ホーソーンが、アンソニーがこれから書こうとする小説は、『ホーソーン登場』という題名が相応しいと主張するのが可笑しいです(まだ事件に着手して間もない時からそう言っている(笑)のだが、実質、「ホーソーン&ホロヴィッツ・シリーズ」の第1作なので、サブタイトルでそう入ってもおかしくないわけだ)。そう言えば、前作では、作中作であるアラン・コンウェイ作『カササギ殺人事件』について、版元の社長が『カササギ殺人事件(マグパイ・マーダーズ)』というタイトルは『バーナービー警部(ミッドサマー・マーダーズ)に似すぎているので変えた方がいいと意見する場面がありました(結局、"Magpie Murders"のままでいったわけだが)。こうした「遊び」は楽しめます。

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クリスティ風の上巻と現実事件の下巻の呼応関係が絶妙。"二度おいしい"傑作。

カササギ殺人事件 上.jpgカササギ殺人事件下.jpgカササギ殺人事件.jpg
カササギ殺人事件 上 (創元推理文庫)』『カササギ殺人事件〈下〉 (創元推理文庫)

Magpie Murders.jpg 1955年7月、サマセット州にあるパイ屋敷の家政婦の葬儀が、しめやかに執りおこなわれた。鍵のかかった屋敷の階段の下で倒れていた彼女は、掃除機のコードに足を引っかけて転落したのか、或いは?  彼女の死は、小さな村の人間関係に少しずつひびを入れていく。燃やされた肖像画、屋敷への空巣、謎の訪問者、そして第二の無惨な死が。病を得て、余命幾許もない名探偵アティカス・ピュントの推理は―(上巻・アラン・コンウェイ作『カササギ殺人事件』)。

 名探偵アティカス・ピュントのシリーズ最新作『カササギ殺人事件』の原稿を結末部分まで読んだシリーズ担当編集者であるわたしことスーザン・ライランドは、あまりのことに激怒する。肝心の結末の謎解きが書かれていないのである。原因を突きとめられず、さらに憤りを募らせるわたしを待っていたのは、アラン・コンウェイ自殺のニュースだった─(下巻)。

カササギ_0038.JPG 2016年8月刊行の原著タイトルは"Magpie Murders"。「週刊文春ミステリーベスト10(2018年)」、「このミステリーがすごい!(2019年版)」、「本格ミステリ・ベスト10(2019年)」、「ミステリが読みたい!(2019年)」の海外部門で1位を獲得し、年末ミステリランキングを「4冠」全制覇した作品ですカササギ殺人事件 7冠.jpg(翌'19年に発表された「本屋大賞」の翻訳小説部門でも第1位。'19年4月発表の第10回「翻訳ミステリー大賞」も同読者賞と併せて受賞。これらを含めると「7冠」になるとのこと)。年末ミステリランキングはこれまで('20年まで)に『二流小説家』(デイヴィッド・ゴードン)と『その女アレックス』(ピエール・ルメートル)の2作品が「3冠」を獲得していますが、「4冠」は史上初とのことです。国内部門のミステリ作品では『容疑者Xの献身』(東野圭吾)、『満願』『王とサーカス』(米澤穂信)、『屍人荘の殺人』(今村昌弘)の4作品が「3冠」を獲得していますが、年末ミステリランキングを4冠全制覇した作品はありません(『容疑者Xの献身』『屍人荘の殺人』は、それらとは別に本格ミステリ作家クラブが主催する「本格ミステリ大賞」も受賞しているが、こちらは海外部門が無い)(その後、米澤穂信『黒牢城』が4冠達成した)

 事前知識なく読み始めて、アガサ・クリスティへのオマージュに満ちたミステリ小説だと思いましたが、上巻から下巻にいって、その『カササギ殺人事件』は、作中作のミステリ小説であることに改めて思い当たりました。そして、それを読む女性編集者スーザンが、ある事を契機に現実の世界で起きた出来事の謎を解き明かそうと推理を繰り広げることになるのですが、その現実と小説が呼応し合ったパラレル構造が巧みであり、しかも、ラストは現実の謎解きと小説の謎解きがダブルで楽しめるということで(解説の川出正樹氏は「一読唖然、二読感嘆。精緻かつ隙のないダブル・フーダニット」と表現している)、初の「年末ミステリランキング4冠」もむべなるかなという印象です。

 2017年原著刊行の本書の作者アンソニー・ホロヴィッツは、1955年英国ロンドン生まれ。ヤングアダルト作品『女王陛下の少年スパイ! アレックス』シリーズがベストセラーになったほか、脚本家としてテレビドラマ「名探偵ポワロ」(「第26話/二重の手がかり」('91年)、「第27話/スペイン櫃の秘密」('91年)、「第36話/黄色いアイリス」('93)、「第43話/ヒッコリー・ロードの殺人」('95年)、など多数)や「バーナビー警部」(「第1話/謎のアナベラ」('97年)、「第2話/血ぬられた秀作」('98年)、「第4話/誠実すぎた殺人」('98年)、「第6話/秘めたる誓い」('99年)など多数)などの脚本を手掛け、2014年にはイアン・フレミング財団に依頼されたジェームズ・ボンドシリーズの新作『007 逆襲のトリガー』を執筆しています。

 「バーナビー警部」もクリスティ型のミステリドラマであると言え、架空の田舎町で犯罪が起きるのは「ミス・マープル」シリーズなども同じですし、これが自身YA向け以外で書いた初のオリジナルミステリ小説でありながらも、著者の経歴からみて、こうしたクリスティ型のミステリの面白くなるための"必勝パターン"を知り尽くしているという感じでしょうか。作中、アラン・コンウェイに対して版元の社長が『カササギ殺人事件(マグパイ・マーダーズ)』というタイトルは『バーナービー警部(ミッドサマー・マーダーズ)に似すぎているので変えた方がいいと意見するような"遊び"も織り込まれていて、ただし、それをアラン・コンウェイが断るという行いまでもが、複雑な謎解きの数多くある伏線の一つになっているという精緻さには感服します。

 アラン・コンウェイは自ら生み出した名探偵アティカス・ピュントを嫌いだったのかあ。これも、クリスティが晩年ポワロをあまり好きでなかったことなどと呼応していて巧みですが、アラン・コンウェイの場合、最初から憎んでいたわけだなあ(それが伏線の前提条件にもなっている)。作者(アンソニー・ホロヴィッツ)がミステリを貶めたり、或いは、ミステリを貶めたともとれるアラン・コンウェイを"罰した"ということではなく、ある意味、ベストセラー作家になることで自己疎外を昂じさせる作家の悲劇を描いたように思いました。そうした奥行きも備えつつ、クリスティを思わせる作中作の上巻と、現実事件の下巻の呼応関係が絶妙であり、1つの作品で"二度おいしい"傑作だと思いました。

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