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2年連続での年末ミステリランキング4冠に相応しい、安定した力量を見せた。

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カササギ殺人事件 上 (創元推理文庫)』『カササギ殺人事件〈下〉 (創元推理文庫)
メインテーマは殺人 ホーソーン&ホロヴィッツ・シリーズ (創元推理文庫)

 売れっ子作家のアンソニー・ホロヴィッツは、知り合いで元刑事のダニエル・ホーソーンから今捜査している事件をもとにホーソーン自身の本を書いてほしいと依頼される。事件とは、自分の葬儀を手配したダイアナ・クーパーが、その6時間後に殺害され、死の直前に「損傷の子に会った、怖い」というメールを息子のダミアンに送っていたというものだ。ダイアナは、かつて、道に飛び出してきた幼い少年ティモシーを事故で死なせ、その兄弟ジェレミーに重い障害を負わせていた。ダミアンは、10年前の交通事故のことを聞かれて激怒。ダイアナがハンドルを握らなくなったこと、住み慣れた家を売り転居したことなどを挙げ、まるで自分が被害者だという顔をして話す。ホーソーンは仕事でスティーヴン・スピルバーグと打ち合わせ中のアンソニーを強引に連れ出し、無理やりダイアナの葬儀に出席させる。その葬儀で、埋葬の際に柩を下ろした瞬間、ティモシーお気に入りの童謡が流れ出し、取り乱したダミアンは顔色を変え一人帰ってしまうが、やがて自宅で惨殺死体で発見される。アンソニーとホーソーンは、葬儀屋のロバート・コーンウォリスを訪ね、ティモシーの父親アランから葬儀の日程の確認の電話があったという情報を得る。勝手に執筆を始めたことを著作権エージェントのヒルダに責められたアンソニーだったが、秘密裡にアランを訪ねるために出かけてく―。

メインテーマは殺人0.png 2017年8月刊行の原著タイトルは"The Word Is Murder"。作者の『カササギ殺人事件』が年末ミステリランキング4冠を達成したのに続いて、この作品もまた「週刊文春ミステリーベスト10」(2019)、「ミステリが読みたい!」(2020)、「本格ミステリ・ベスト10」(2020)、「このミステリーがすごい!」(2020)、のそれぞれの海外部門で1位を獲得して年末ミステリランキング4冠を達成しており、同じ作家の作品が2年連続で4冠となるのは史上初とのことです(結局、次回作『その裁きは死』で3年連続での年末ミステリランキング4冠を達成することになるのだが)。。

 前作は、上巻の作中作の事件と、下巻の今起きている事件と絡み合っていて、上下巻で二度楽しめました。今回もちょっと変わっていて、アンソニー・ホロヴィッツ自身が、ホーソーンという探偵役の元刑事にくっついていき、事件が解決に至るまでを小説に書くという、前作とは少し違ったタイプの"入れ子"構造になっています。

 解決できるかどうか分からない事件についてミステリを書こうとする作家がいるだろうかという疑問は自ずと湧くかと思いますが(実際、アンソニーも時々疑心悪鬼になる)、ホーソーンがこの物語におけるホームズ役であり、最後に事件を解決するのはいわばお約束事であって、どうやって事件を解決するのかということに関心を持っていくため、あまりその辺りは気になりませんでした。後で考えればかなり強引な虚構ですが、そんなことを考えさせない話の展開の旨さ、スピード感があります。

 ホーソーンがホームズならば、アンソニーはワトソンといった役回りでしょうか。ただし、前作からもそれを感じましたが、やはり作者はアガサ・クリスティの影響をかなり受けているように思いました。終盤にきて、もう登場人物の誰も彼もが容疑者たり得るという状況になるのは、クリスティの得意なパターンでもあったように思います。

 出来としては星5つとしてもいいのですが、どうしても"二度おいしかった"前作と比べてしまい、星4つとしました。最初に怪しいと思われた人間は、だいたいにおいて犯人ではないというのは、作者が脚本を手掛ける刑事ドラマの「バーナビー警部」などでよくあったパターンのように思います。でも、2年連続での年末ミステリランキング4冠に相応しい、安定した力量を見せてくれたと思います。

 ホーソーンという元刑事の、個人的な話や世間並みの挨拶は一切抜きで、一度口を閉じたら黙り続け、いつも単独で勝手な捜査をするため昔から相棒がおらず、裡に暴力性や同性愛者や小児性愛者に見せる憎悪を秘める一方で、子どもにシンパシーを寄せる―といったキャラクターが興味深く、作者はこのキャラクターでのシリーズ化を表明しています(その結果、「ホーソーン&ホロヴィッツ・シリーズ」としてシリーズ第2作『その裁きは死』が誕生することとなった)。

 ホーソーンが、アンソニーがこれから書こうとする小説は、『ホーソーン登場』という題名が相応しいと主張するのが可笑しいです(まだ事件に着手して間もない時からそう言っている(笑)のだが、実質、「ホーソーン&ホロヴィッツ・シリーズ」の第1作なので、サブタイトルでそう入ってもおかしくないわけだ)。そう言えば、前作では、作中作であるアラン・コンウェイ作『カササギ殺人事件』について、版元の社長が『カササギ殺人事件(マグパイ・マーダーズ)』というタイトルは『バーナービー警部(ミッドサマー・マーダーズ)に似すぎているので変えた方がいいと意見する場面がありました(結局、"Magpie Murders"のままでいったわけだが)。こうした「遊び」は楽しめます。

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クリスティ風の上巻と現実事件の下巻の呼応関係が絶妙。"二度おいしい"傑作。

カササギ殺人事件 上.jpgカササギ殺人事件下.jpgカササギ殺人事件.jpg
カササギ殺人事件 上 (創元推理文庫)』『カササギ殺人事件〈下〉 (創元推理文庫)

 1955年7月、サマセット州にあるパイ屋敷の家政婦の葬儀が、しめやかに執りおこなわれた。鍵のかかった屋敷の階段の下で倒れていた彼女は、掃除機のコードに足を引っかけて転落したのか、或いは?  彼女の死は、小さな村の人間関係に少しずつひびを入れていく。燃やされた肖像画、屋敷への空巣、謎の訪問者、そして第二の無惨な死が。病を得て、余命幾許もない名探偵アティカス・ピュントの推理は―(上巻・アラン・コンウェイ作『カササギ殺人事件』)。

 名探偵アティカス・ピュントのシリーズ最新作『カササギ殺人事件』の原稿を結末部分まで読んだシリーズ担当編集者であるわたしことスーザン・ライランドは、あまりのことに激怒する。肝心の結末の謎解きが書かれていないのである。原因を突きとめられず、さらに憤りを募らせるわたしを待っていたのは、アラン・コンウェイ自殺のニュースだった─(下巻)。

カササギ_0038.JPG 2016年8月刊行の原著タイトルは"Magpie Murders"。「週刊文春ミステリーベスト10(2018年)」、「このミステリーがすごい!(2019年版)」、「本格ミステリ・ベスト10(2019年)」、「ミステリが読みたい!(2019年)」の海外部門で1位を獲得し、年末ミステリランキングを「4冠」全制覇した作品ですカササギ殺人事件 7冠.jpg(翌'19年に発表された「本屋大賞」の翻訳小説部門でも第1位。'19年4月発表の第10回「翻訳ミステリー大賞」も同読者賞と併せて受賞。これらを含めると「7冠」になるとのこと)。年末ミステリランキングはこれまでに『二流小説家』(デイヴィッド・ゴードン)と『その女アレックス』(ピエール・ルメートル)の2作品が「3冠」を獲得していますが、「4冠」は史上初とのことです。国内部門のミステリ作品では『容疑者Xの献身』(東野圭吾)、『満願』『王とサーカス』(米澤穂信)、『屍人荘の殺人』(今村昌弘)の4作品が「3冠」を獲得していますが、年末ミステリランキングを4冠全制覇した作品はありません(『容疑者Xの献身』『屍人荘の殺人』は、それらとは別に本格ミステリ作家クラブが主催する「本格ミステリ大賞」も受賞しているが、こちらは海外部門が無い)。

 事前知識なく読み始めて、アガサ・クリスティへのオマージュに満ちたミステリ小説だと思いましたが、上巻から下巻にいって、その『カササギ殺人事件』は、作中作のミステリ小説であることに改めて思い当たりました。そして、それを読む女性編集者スーザンが、ある事を契機に現実の世界で起きた出来事の謎を解き明かそうと推理を繰り広げることになるのですが、その現実と小説が呼応し合ったパラレル構造が巧みであり、しかも、ラストは現実の謎解きと小説の謎解きがダブルで楽しめるということで(解説の川出正樹氏は「一読唖然、二読感嘆。精緻かつ隙のないダブル・フーダニット」と表現している)、初の「年末ミステリランキング4冠」もむべなるかなという印象です。

 2017年原著刊行の本書の作者アンソニー・ホロヴィッツは、1955年英国ロンドン生まれ。ヤングアダルト作品『女王陛下の少年スパイ! アレックス』シリーズがベストセラーになったほか、脚本家としてテレビドラマ「名探偵ポワロ」(「第26話/二重の手がかり」('91年)、「第27話/スペイン櫃の秘密」('91年)、「第36話/黄色いアイリス」('93)、「第43話/ヒッコリー・ロードの殺人」('95年)、など多数)や「バーナビー警部」(「第1話/謎のアナベラ」('97年)、「第2話/血ぬられた秀作」('98年)、「第4話/誠実すぎた殺人」('98年)、「第6話/秘めたる誓い」('99年)など多数)などの脚本を手掛け、2014年にはイアン・フレミング財団に依頼されたジェームズ・ボンドシリーズの新作『007 逆襲のトリガー』を執筆しています。

 「バーナビー警部」もクリスティ型のミステリドラマであると言え、架空の田舎町で犯罪が起きるのは「ミス・マープル」シリーズなども同じですし、これが自身YA向け以外で書いた初のオリジナルミステリ小説でありながらも、著者の経歴からみて、こうしたクリスティ型のミステリの面白くなるための"必勝パターン"を知り尽くしているという感じでしょうか。作中、アラン・コンウェイに対して版元の社長が『カササギ殺人事件(マグパイ・マーダーズ)』というタイトルは『バーナービー警部(ミッドサマー・マーダーズ)に似すぎているので変えた方がいいと意見するような"遊び"も織り込まれていて、ただし、それをアラン・コンウェイが断るという行いまでもが、複雑な謎解きの数多くある伏線の一つになっているという精緻さには感服します。

 アラン・コンウェイは自ら生み出した名探偵アティカス・ピュントを嫌いだったのかあ。これも、クリスティが晩年ポワロをあまり好きでなかったことなどと呼応していて巧みですが、アラン・コンウェイの場合、最初から憎んでいたわけだなあ(それが伏線の前提条件にもなっている)。作者(アンソニー・ホロヴィッツ)がミステリを貶めたり、或いは、ミステリを貶めたともとれるアラン・コンウェイを"罰した"ということではなく、ある意味、ベストセラー作家になることで自己疎外を昂じさせる作家の悲劇を描いたように思いました。そうした奥行きも備えつつ、クリスティを思わせる作中作の上巻と、現実事件の下巻の呼応関係が絶妙であり、1つの作品で"二度おいしい"傑作だと思いました。

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