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ラストでナオミが譲治に許しを乞うのは、劇場公開のための表面的なアレンジ?

痴人の愛 1949.jpg 痴人の愛 京マチ子 宇野重吉 .jpg 痴人の愛 京マチ子.jpg  痴人の愛2.jpg
日本映画傑作全集 「痴人の愛」」VHS 宇野重吉/京マチ子         『痴人の愛 (新潮文庫)

痴人の愛101.JPG痴人の愛103.JPG 河合譲治(宇野重吉)は、会社では「君子」と言われ、女などいると思われてない男だが、実はナオミ(京マチ子)いう女と同棲していた。「パパ、スクーター買ってよ」とナオミにせびられると「無理言うんじゃないよ、ナオミちゃん」と言いながら結局買ってやり、洗濯も料理もする譲治だった。以前に神戸へ出張した際に知り合ったカフェの女給ナオミのその肢体に夢中になり、彼女を東京へ連れ帰り、肉体も精神も理想の女にしたいと思って、英語もピアノも勉強させ、ナオミの我儘も我慢しているのだった。しかし、ナオミはそれをいいことに、熊谷(森雅之)、関(三井弘次)、浜田(島崎溌)などの不良と友痴人の愛211.JPG達になってキャバレーやホールを遊び歩き、英語の勉強には少しも身を入れずに譲治を手こずらせ、譲治を怒らしてしまう。だがナオミがふてくされて夜遊びに出痴人の愛252.JPGてしまうと、やはり譲治はナオミが恋しい。ナオミの誕生日、ナオミは不良友達を招待して夜更けまで歌い踊る。譲治は若い男たちとふざけるナオミをみて、やり切れない気持でになる。嫉妬した譲治は、ナオミに関たちと付き合うことを禁じる。ある日、ナオミの提案で鎌倉へ行くことになった譲治は、植木屋の一間を借りて数日をそこで過ごすことに。ナオミは毎日海で遊び、譲治はそこから会社へ通う。しかしナオミはそこでも関や熊谷や浜田たちと遊び、その痴人の愛289.JPG現場痴人の愛297.JPGを譲治に見つかる。譲治は本当に怒ってナオミに「出ていけ!」と言い放つ。夏は終わり、譲治を離れたナオミには金もなく、もう関や浜口たちも相手にしない。宿なしの彼女に真剣な愛情を抱く者はいない。逆に熊谷からまともな生活をするよう諭され、ナオミはうらぶれた気持になり、結局譲治のところへ戻る。今は冷たくナオミを見る譲治に、涙を流し「何でもする、馬にでもなるから許して」と、四つんばいになるナオミだった―。

 1949(昭和24)年公開の木村恵吾(1903-1986)監督、京マチ子(ナオミ)・宇野重吉(河合譲治)主演による「痴人の愛」('49年/大映)で、木村恵吾監督は1960(昭和35)年にも叶順子(ナオミ)・船越英二(河合譲治)主演で「痴人の愛」('60年/大映)を撮っています(この他に、1967(昭和42年)公開の増村保造監督、安田道代(ナオミ)・小沢昭一(河合譲治)主演の「痴人の愛」('67年/大映)もある)。

痴人の愛.jpg 原作は1925(大正14)年刊行の谷崎潤一郎(1886‐1965)の長編耽美小説で、主人公・河合譲治による、7年前(足かけ8年前)の数え年28歳でのナオミ(奈緒美、当時15歳)との出会いから32歳(ナオミ19歳)までの約5年間の回顧という形をとっていますが、映画では、譲治のナオミとの出会いの部分は飛ばして既に同棲生活をしているところから始まります。そこで、いきなり、スクーター買ってという原作に無い話が出てきて、大正末期の出来事ではなく、四半世紀後の映画製作時の"現代"に舞台が翻案されていることが分かります。 但し、原作のエピソードを現代に翻案しながらもほどよく織り込んでいて、原作の持ち味はある程度出ていたように思います。

痴人の愛 京マチ子 宇野重吉2.jpg また、宇野重吉、森雅之といった重鎮の中で、京マチ子が活き活きと演技しているのが印象に残ります(京マチ子は翌年、黒澤明監督の「羅生門」('50年/大映)に出演し、以降、海外の映画祭で自らの主演作が次々と賞を獲ることになる)。

 宇野重吉は当時35歳、京マチ子は当時25歳。主人公がナオミと初めて出会った時、ナオミは15歳だから、二人の出会いの部分をカットしたのは必然的措置と言えるかも。因みに原作でエピローグ的に語られる最終章では譲治は数えで36歳、ナオミは23歳となっていますが(これが原作における"現在")、最後、譲治は会社を辞め、田舎の財産を売った金で横浜にナオミの希望通りの家を買い、もうナオミのすることに何も反対せず、ナオミの肉体の奴隷として生きていくことにする―という終わり方になっています。

 これをこの通り映画化すると世間の批判を受けると思ったのか、映画ではラストでまるで「アリとキリギリス」のキリギリス状態になったナオミが譲治に許しを乞い、譲治は再びナオミを許すという終わり方になっています。そのため、女性の魔性に跪く男の惑乱と陶酔を描いたマゾヒズム文学としての原作の持ち味は、最後にかなり削がれたようにも思います。但し、それまでにとことんナオミのファム・ファタールぶりを描いているだけに、このラストを観て個人的には、また譲治はナオミに騙されたかなと思えなくもないです。だから、あくまで劇場公開のための表面的なアレンジであって、あまり結末の原作との違いのことは気にせずに観ればいいのかもしれません(そう思って評価は星半分オマケ)。

痴人の愛...京マチ子e.jpg痴人の愛 京マチ子 森雅之 .jpg「痴人の愛」●制作年:1949年●監督:木村恵吾●脚本:木村恵吾/八田尚之●撮影:竹村康和●音楽:飯田三郎●原作:谷崎潤一郎●時間:89分●出演:宇野重吉/京マチ子/森雅之/島崎溌/三井弘次/上田寛/菅井一郎/近衛敏明/清水将夫/北河内妙子/藤代鮎子/片川悦子/大美輝子/葛木香一/奈良岡朋子/原聖四郎/小柳圭子/牧竜介/小松みどり●公開:1949/10●配給:大映(評価:★★★☆) 京マチ子(ナオミ)/森雅之(金持の息子・熊谷政太郎))

京マチ子/宇野重吉(主人公・河合譲治)

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「幽玄美女」と「糟糠の妻」。ラストは主人公が真実を知ったところで終わった方が余韻が出た?

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「雨月物語」ポスター/「雨月物語 [DVD]

雨月物語 田中絹代.jpg 戦国時代(天正11年)の琵琶湖周辺の地。陶器が良い儲けになることを知った貧農の源十郎(森雅之)は、妻・宮木(田中絹代)と子、更に実妹(水戸光子)とその夫・藤兵衛(小沢栄)を連れて、焼き上がった陶器を長浜まで運ぼうとするが、海賊が出ることを知り、源十郎は自分の妻子だけ家に帰す。長浜に辿り着いた3人は、順調に陶器を売り捌いて大儲けするが、武士「雨月物語」 (1953 大映).jpgとなって立身出世する野心を捨て切れない藤兵衛は武具を買い求めに行き、藤兵衛の妻は夫を捜す間に狼藉者らに犯されてしまう。一方の源十郎は、臈たけた元御姫様(京マチ子)という女性と出会い、陶器を届けに行った姫の邸で彼女と契りを交わしてしまった揚句、その邸で焼き物を作っては売りに行くという生活を始めてしまう。何年か後、藤兵衛は戦の武勲が認められ、出世した自分の姿を見せに村へ子分を引き連れ戻ろうとする途中、子分達を慰労しようと女郎部屋に立ち寄り、そこで零落し遊女となった妻と出会う。恨み事を言う妻に藤兵衛はひたすら謝るのみ。源十郎の方は、行商の途中で僧侶に死霊に憑かれていると言われて、姫の正体が亡霊であることを知り、やっとの思いで故郷の村に戻る。そこには妻・宮木が優しく待ち受けていたのだが―。

京マチ子 雨月物語.jpg 溝口健二の「雨月物語」('53年/大映)は、1953年のヴェネツィア映画祭サン・マルコ銀獅子賞をはじめ数々の賞に輝いた作品で、この年のヴェネツィア国際映画祭は金獅子賞が"該当無し"だったので、実質的には出品作中トップ評価だったことになります。

京マチ子 雨月物語.jpg 原作は、1776年に発表された上田秋成の「雨月物語」の中の「浅芽が宿」「蛇性の淫」で、2つの話を糾える縄の如くに仕上げた脚本は巧みであり(「蛇性の淫」は本来、中国の古典的説話「白蛇伝」や、能の「道成寺」の由来である"安珍・清姫伝説"と重なる)、更にモーパッサンの短篇「勲章」もモチーフとして織り込まれていたりして、相当に原作を翻案しているようですが、森鷗外の原作を膨らませ過ぎている感のある「山椒大夫」('54年/大映)ほど気にはならなかったです。「原作」と言われているものを実際に読んでいると、それにこだわってしまうのかも。但し、時代設定が近世初期なので(「山椒大夫」は中世)、セリフの言い回しが多少現代風であっても許せてしまうというのもあるかもしれません。

雨月物語 田中絹代2.jpg雨月物語1.jpg 原作自体が優れているわけですが、原作を分かり易く翻案したエンタテインメントとして充実していて、一方で、ジャン=リュック・ゴダールをして「涙が出てくる」と言わしめたほどの霧立ち込める湖に舟を漕ぎだす場面の美しさや、映画史に残るとされる京マチ子の彼岸の妖艶ぶりなど、随所で幽玄美を醸して古典的雰囲気を保持しているのは、宮川一夫のカメラワークによるところが大きいのでしょう(溝口監督からの注文は「絵巻物を撮るように」とのことだったそうだが、それに応えている)。

森雅之 雨月物語.bmp 京マチ子の現実離れした「幽玄美の妖女」と田中絹代や水戸光子の土臭い「糟糠の妻」(結局、男達の野望は叶わないため、最終的にはこの表現は的確でないのだが)の異質の両者のコントラストが良く、それを繋ぐ森雅之(作家・有島武郎の長男)の演技も活き活きしていていいのですが、ラストは、妻・宮木(この時だけ顔のライティングが「姫」と同じ)の真実を源十郎が知ったところで終わった方が、余韻が出たような気もします。

Ugetsu monogatari(1953).jpg雨月物語|.jpg ラストの宮木の母性的なナレーション(田中絹代)も心に滲みて悪くはないですが、その他にも藤兵衛夫婦の「テレビ時代劇のエピローグ」風のやり取りなどもあって、やや解説的と言うか、「幸せの青い鳥は...」的な人生訓風になった感じもします。でも、やはり傑作だと思います。

Ugetsu monogatari(1953)

 因みに、メキシコの作家カルロス・フエンテスが、この溝口の「雨月物語」に想を得て、「アウラ」という作品を書いていますが、これも傑作です。

京マチ子とソフィア・ローレンD.jpg 京マチ子とソフィア・ローレン.jpg 京マチ子とソフィア・ローレン(1955年・ヴェネチア)

雨月物語 田中絹代8.jpg「雨月物語」●制作年:1953年●製作:永田雅一●監督:溝口健二●脚本:川口松太郎/依田義賢●撮影:宮川雨月物語 dvd.gif一夫●音楽:早坂文雄●原作:上田秋生「雨月物語」●時間:96分●出演:森雅之/田中絹代京マチ子/水戸光子/小沢栄太郎/青山京マチ子.jpg杉作/羅門光三郎/香川良介/上田吉二郎/毛利菊枝/南部彰三/光岡龍三郎/天野一郎/尾上栄五郎/伊達三郎/小柳圭子/大美輝子/金剛麗子/横山文彦/玉置一恵/沢村市三郎●公開:1953/03●配給:大映(評価:★★★★☆)

京マチ子(1959年)[共同通信]

《読書MEMO》
●マーティン・スコセッシ監督の選んだオールタイムベスト10["Sight & Sound"誌・映画監督による選出トップ10 (Director's Top 10 Films)(2012年版)]
 ●2001年宇宙の旅(スタンリー・キューブリック)
 ●8 1/2(フェデリコ・フェリーニ)
 ●灰とダイヤモンド(アンジェイ・ワイダ)
 ●市民ケーン(オーソン・ウェルズ)
 ●山猫(ルキノ・ヴィスコンティ)
 ●戦火のかなた(ロベルト・ロッセリーニ)
 ●赤い靴(マイケル・パウエル & エメリック・プレスバーガー)
 ●河(ジャン・ルノワール)
 ●シシリーの黒い霧(フランチェスコ・ロージ)
 ●捜索者(ジョン・フォード)
 ●雨月物語(溝口健二)
 ●めまい(アルフレッド・ヒッチコック)

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戦争が生んだエノケンと大河内傳次郎の共演。エノケンを"脇役"のフリをして"主役"にした?

虎の尾を踏む男達 ポスター.jpg 虎の尾を踏む男たち2.bmp  虎の尾を踏む男達 dvd.jpg虎の尾を踏む男達<普及版> [DVD]
「虎の尾を踏む男達」ポスター 榎本健一/大河内傳次郎

虎の尾を踏む男達 2.jpg 北陸道を奥州へ向かって山路を登る山伏姿の一行は、実は鎌倉将軍源頼朝に追われた義経(仁科周芳)と、弁慶(大河内傳次郎)らその家来達であり、その先の安宅の関では、地頭の富樫左衛門(藤田進)が一行の通過を待ち構えていたが、既に、義経らが山伏姿でいて一行の人数が7人であることまでが広く知られていた。そして、彼ら一行には、麓の村で雇った強力(榎本健一)がついていた―。

 黒澤明(1910-1998)が1945(昭和20)年に監督した、歌舞伎の「勧進帳」のパロディ映画であり、大河内傳次郎、藤田進は、黒澤明がその下で助監督を務めた山本嘉次郎(1902-1974)監督が、「ハワイ・マレー沖海戦」('42年)「加藤隼戦闘隊」('44年)で起用してきた役者であり、その流れの中で黒澤明も初監督作品「姿三四郎」('43年)で2人を主役に起用しています。

 一方、榎本健一は、それ以前に山本嘉次郎がその主演映画を数多く手掛けてきた役者であり、共に「山本組」から引き継いだ役者でありながら、その異質の両者を使って1つのパロディ作品を撮ったというのが興味深いですが、その背景には、撮影当時、日本軍部はチャンバラに加えお笑いも禁止しており、そのためエノケンは大スターの身でありながら出られる作品が無くなって、こうした作品に出ることになったという事情もあるようです。

大河内傳次郎(弁慶)/榎本健一(強力)
虎の尾を踏む男達 大河内.jpg虎の尾を踏む男達 榎本.jpg 大河内傳次郎の弁慶は、歌舞伎俳優の舞台さながらの大時代的な演技、一方、エノケンは(なぜ北陸の村に江戸弁の強力がいるのかはともかく)例のちゃきちゃきの江戸っ子のままで、藤田進の富樫がその中間というか、舞台っぽくはなっていない普通の時代劇映画風の台詞の言い回しなのですが、全体には義経・弁慶主従ら登場人物の大多数が大時代的であるため、エノケンのコミカルな演技が際立つようになっています。

虎の尾を踏む男達 エノケン.jpg 自らのお喋りを通して、山伏風の一行が義経・弁慶らであることに気付いて腰を抜かすなど、観客に対する「狂言回し」的な役回りを担い、全員が緊張を悟られまいと型どおりに得る舞う中で、1人だけ冷や冷やぶりを露わにしてその心理を観客に向けて代弁し、更に、後半の富樫の使者からの差し入れで一行が酒宴に至る場面では、ミュージカル風の踊りも披露して、完全に自分の映画にしてしまっている感じです(黒澤監督が山本嘉次郎のエノケンの使い方を、普段からよく観察していたために成せる業とも言えるが)。
 大河内傳次郎の弁慶は堂々とした重厚な演技で、藤田進の富樫との"例の遣り取り"には、ついついグッと引き込まれます(但し、富樫が義経の一行をそうと知って通したというのは「勧進帳」には当初無かった解釈らしいが)。

虎の尾を踏む男達   .jpg そうした大河内傳次郎らの演技とエノケンの演技の対比がこれまた楽しめますが、やはりこの作品のエノケンは「役得」しているように思います(「エノケンの近藤勇」('35年)などを観ると、ワンシーン丸々フツーに時代劇風に演じることも出来る役者なのだが、この作品ではそうした部分は抑え、喜劇役者に徹している)。

 日本軍部がお笑いを禁止していたお陰で大河内傳次郎とエノケンの共演が成ったのならば、まさに戦中でなければあり得なかった組み合わせであり、そうした中で、"脇"のフリをしてエノケンに実質的な"主役"をやらせるというのは、黒澤明としては計算づくのことだったのかも...(但し、この作品は、GHQの検閲で内容に封建的な部分があるということで、1952(昭和27)年まで一般公開されなかった)。

虎の尾を踏む男達_2.jpg「虎の尾を踏む男達」●制作年:1945年●監督:黒澤明●製作:伊藤基彦●脚本:黒澤明●撮影:伊藤武夫●音楽:服部正●時間:59分●出演:大河内傳次郎/藤田進/榎本健一/森雅之/志村喬/河野秋武/小杉義男/横尾泥海男/仁科周芳(岩井半四郎)/久松保夫/清川荘司●公開:1952/02(虎の尾を踏む男達 藤田進.jpg完成:1945/09)●配給:東宝●最初に観た場所(再見):北千住・シネマブルースタジオ(10-10-17)(評価:★★★☆)
藤田 進(安宅関守・富樫左衛門)
森 雅之(亀井六郎重清)           志村 喬(片岡八郎経春)
森雅之 虎の尾を踏む男たち 亀井.jpg 虎の尾を踏む男達 志村.jpg

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面白かった。第三者的な冷静な視点が常にどこかにある。映画作品の方は懐かしさはあるが凡作。

太平洋ひとりぼっち 舵.jpg  太平洋ひとりぼっち 文藝春秋新社.jpg 太平洋ひとりぼっち 角川文庫.jpg   太平洋ひとりぼっち dvd.jpg 太平洋ひとりぼっち dvd2.jpg
太平洋ひとりぼっち』/『太平洋ひとりぼっち (1962年) (ポケット文春)』/角川文庫版(カバーイラスト:佐々木侃司)/「DVN-159 太平洋ひとりぼっち(DVD)」/「太平洋ひとりぼっち [DVD]

堀江謙一 1962.bmp 『太平洋ひとりぼっち』の40年ぶりの復刻(2004年刊)ということですが、帯にある「『挑戦』を忘れた日本人へ...」云々はともかくとして、今読んでもとにかく面白い!

 堀江謙一氏が23歳で西宮市―サンフランシスコ間の太平洋単独横断を成し遂げたのは1962(昭和37)年8月12日で(右写真:UPI=共同)、米国から帰国して"時の人"となった中2ヵ月で航海記を書き上げ、その年の12月に「ポケット文春」の1冊として刊行されていますが、比較的短期間で書き上げることが出来たのは、航海の間につけていた航海日誌があったからでしょう。

 「ポケット文春」の後も何度か加筆して同タイトルで刊行されていて、今回の復刻版はその加筆版をベースにしていると思われますが、加筆されている部分の文章も簡潔で生き生きとした筆致であり、ある種ドキュメント文学のような感じで、ベースが航海日記なので、虚構が入り込む余地は少ないと思われます。

 「こうこう報道されたが、実はこうだだった」的な記述が、後から書き加えられたものであることを窺わせるのと、自らの生い立ちからヨットをやるようになったきっかけ、出航までの道のり、どのようなものを携帯したかなどが詳しく書かれているのが、「ポケット文春」との違いでしょうか(今「ポケット文春」が手元に無いので断言できないが)。

 ヨットマンの多くが憧憬を抱きながらも実現は不可能と思われてきたことに対し、緻密な計画と5年がかりの準備をもって臨む―完璧を期すれば可能性は無くもないかのようにも思えますが、そもそもヨットでの海外渡航は当時認められておらず、犯罪者として強制送還になる覚悟で決行したわけです(実際、偉業達成時の日本での扱いは「密出国の大阪青年」。それが、サンフランシスコ市長が「コロンブスもパスポートは省略した」として名誉市民として受け入れるや、日本でも一転して"快挙"として報道された)。

 「緻密な計画」を立てたにしても、小さなヨットにとって太平洋はまさに不確実性の世界であり、渡航日数は2ヵ月から4ヵ月という大きな幅の中で見込まざるを得ず、こうなると、水や食料をどの程度もっていけばいいのかということが大きな問題になるわけですが、そうした蓋然性の中でも、冷静かつ大胆に思考を巡らせていることがよく分かりました(この他にも、ヨットを造る資金をどうするか、反対する周囲をどう抑えるかなど様々な問題があり、同様に、1つ1つ戦略的に問題解決していくことで、壁を乗り越えていく様が窺えた)。

 結局、航海は94日に及んだわけですが、日本では、90日を過ぎたところで送り出した側から捜索願が出ていたことを、後に知ったとのこと、捜索機(日本に限らず米国のものも含まれる)に見つかれば、そこで夢が断たれてしまう可能性があるというジレンマもあったわけです。

太平洋ひとりぼっち ポスター.jpg太平洋ひとりぼっち1.jpg  "原作"刊行の翌年には、石原裕次郎(1934-1987)主演で映画化され、これは石原プロの設立第1作作品でもありますが、 同じヨットマンの石原裕次郎がこの作品に執着したのは理解できる気がします(自分のヨットを手に入れるまでの苦労は、慶応出のお坊ちゃんと、高卒の一青年の間には雲泥の差があるが...)。

 個人的には大変懐かしい作品ではありますが、今観ると、海に出てからは1人芝居だし、独り言もナレーションも関西弁、裕次郎にとっては意外と難しい演技になってしまったのではないかと(彼は黙っている方がいい。なぜか、ヨットから海に立ち小便する場面が印象に残っていた)。

和田夏十.jpg 嵐の場面は市川崑(1915-2008)監督の演出と円谷プロの特撮で迫力あるものでしたが、全体としては必ずしも良い出来であるとは言い難く、市川昆監督自身が後に失敗作であることを認めています(「(和田夏十(本名:市川由美子、1920-1983)の)あんなにいいシナリオがあの程度にしかできなかったという意味で失敗。裕ちゃんはよくやってくれたけれど、ヨットが思うように動いてくれなかった。わからないようにモーターをつければ良かった。そうすればもっと自由に撮れた」と言っている)。それでも、快挙を成し遂げサンフランシスコ港で温かく現地の米国人に迎えられる場面は感動させられます。

 但し"原作"では、この最後の部分も、ゴールデン・ゲートブリッジが見えて感動する本人と、たまたまシスコの湾内で出会ったクルージング中のオッサンとのチグハグなやりとりなどがユーモラスに描かれていて、感動物語に仕立て上げようとはしておらず、却ってリアリティを感じました(この人の文章には、第三者的な冷静な視点が常にどこかにある)。

 作品ではなく「堀江謙一」という人物に対する賞として1963年・第10回「菊池寛賞」が贈られていますが、作品の方は、最初は"手記"的な扱いだったのではないかと思われます。オリジナルを特定しにくいということもありますが、実質「菊池寛賞」受賞"作"とみていいのでは。

Taiheiyô hitoribotchi (1963) .jpg太平洋ひとりぼっち2.bmp「太平洋ひとりぼっち」●制作年:1963年●監督:市川昆●脚本:和田夏十●撮影:山崎善弘●音楽:芥川也寸志/武満徹●特殊技術:川上景司(円谷特技プロ)●原作:堀江謙一「太平洋ひとりぼっち」●時間:96分●出演:石原裕次郎/森雅之/田中絹代/浅丘ルリ子/大坂志郎/ハナ肇/芦屋雁之助/神太平洋ひとりぼっち 田中絹代 母.jpg浅丘ルリ子 太平洋ひとりぼっち.jpg山勝/草薙幸二郎●公開:1963/10●配給:石原プロ=日活 (評価:★★★)
田中絹代(母)・森雅之(父)・浅丘ルリ子(妹)
Taiheiyô hitoribotchi (1963)

<font color=gray> 【1962年新書化[文春ポケット] /1973年文庫化[角川文庫]/1977年文庫化[ちくま少年文庫]/1994年文庫化[福武文庫]/2004年復刻版[舵社]】

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谷啓の「しばたき」と石原慎太郎の「しばたき」。

空想天国 dvd.jpg 空想天国2.jpg     スパルタ教育 石原慎太郎.jpg 
松森 健 監督・谷 啓 主演(酒井和歌子 共演)「空想天国 [DVD]」['68年]/石原慎太郎『スパルタ教育』['69年]

空想天国1968 TITLE.jpg 山水建設設計部勤務の田丸(谷啓)は母・久子(京塚昌子)との母ひとり子ひとりの暮らし。溺愛する「ガマラ」人形を見ていると、いつの間にかガマラが巨大化して動き出し、その背中に乗って空を飛ぶ白日夢を見るほどの空想家だった。空想の中ではいつも大活躍するが、現実の仕事は失敗ばかりで、同じ設計部の二枚目・前野(宝田空想天国3-1.jpg空想天国-1.jpg明)にいつも先を越され、いいところがない。その挙句、守衛に格下げされ、更には機密書類を盗まれために産業スパイの疑いを掛けられてしまう―。
 
空想天国1.jpg空想天国1968 .jpg 昨年('10年)9月に亡くなった谷啓(1932-2010/享年78、自宅階段から転落し、脳挫傷により急逝。認知症を患っていた)の主演映画で、12月の「銀座シネパトス」での追悼上映ラインナップにもあった作品ですが、ほぼ同時期に日本映画専門チャンネルでも放映されました。クレージー・キャッツ(故人はハナ肇、植木等、安田伸、石橋エータロー、そして谷啓。存命は2011年4月現在、犬塚弘、桜井センリの2人)らが総出演するシリーズ映画は、60年代を中心に撮られたものだけで25,6本ありますが、一方で、こうした谷啓主演の番外編的な映画も何本かあったのだなあと。

空想天国 酒井和歌子.jpg 監督は「これが青春だ!」('66年/東宝)の松森健で、共演はその「これが青春だ!」にも出演していた酒井和歌子。ガマラという着ぐるみっぽい怪獣が出てきて主人公の空想の手助けをしますが、その空想の中で出てくる理想の女性役が酒井和歌子で、それが現実世界では、産業スパイの一味に誘拐された守衛長の娘であり、最後は、主人公が彼女を救出し、2人は結ばれるというノホホンとしたコメディです(「ウルトラセブン」の"幻のアンヌ隊員役"と言われる豊浦美子が社長令嬢役で出ている)。

 この映画、公開時は、三船敏郎主演の「連合艦隊司令長官 山本五十六」('68年/東宝)との併映で、こちらも最近観なおしましたがが、ちょっと結びつかない組み合わせだったなあ(酒井和歌子は両方の作品に出ている)。当時のサラリーマンは、「山本五十六」で男の生き方を学び、谷啓のコメディで息抜きしたのか。

空想天国/山本五十六.jpg 「空想天国」のはラストシーンは明治記念館でのロケシーンで、庭池の飛び石を谷啓と酒井和歌子の2人がぴょんぴょん飛び跳ねるところで終わるのに対し、「連合艦隊司令長官 山本五十六」のラストは、三船敏郎演じる山本五十六が視察移動中の戦闘機の機中で敵の機銃を受けてもじっと動かない(実はすでに1発の銃弾が命中し、墜落前に絶命していることになっている)―実に対象的なエンディングだなあと思いました。

1968(昭和43)年8月1日 公開(「空想天国」「連合艦隊司令長官 山本五十六」2本立て(千代田劇場))「キネマ写真館」より
  

 谷啓には、高速まばたき(所謂「しばたき」)の癖がありましたが、同じ癖の持ち主に石原慎太郎氏がいます。

石原慎太郎 裕次郎.jpg ある心理学の先生が、石原慎太郎・裕次郎の兄弟を比較して、兄貴の慎太郎の「しばたき」の癖は、芸術家的繊細さの1つの現れであり(このことは、名トロンボーン奏者でもあった谷啓にも通じるかも)、兄の慎太郎よりは弟の裕次郎の方が精神的には図太いとしていましたが、「しばたき」が繊細さの現れであるとすれば、谷啓は、そのことによって他人を緊張させないように、自らをほんわかした、或いはトボケた雰囲気で包むようにしていて、一方、慎太郎氏は、それを周囲に悟られないように、努めて自分を豪胆に見せようとしている感じも受けます。

 その慎太郎氏は、'69年に『スパルタ教育―強い子どもに育てる本』(カッパ・ホームズ)を著していて、その中には「ヌード画を隠すな」「いじめっ子に育てよ」「子どもに酒を禁じるな」「子どもの不良性の芽をつむな」とかいろいろ激しいフレーズがありますけれど、これで「強い子ども」が育つのかなあ。実際に育った3人の息子達は、そんな図太い感じはしないけど、この偽悪的とも思えるポーズは、弟の裕次郎を意識したのではないかと(実際、裕次郎主演で映画化されている―と言っても、元が小説ではないので、脚本は書き下ろしだが)。

 この本、当時はベストセラーになりましたが、「本を、読んで良いものと悪いものに分けるな」とか、今主張している漫画規制の強化などとは言っていることが真逆のようにも思えるフレーズもあり(マンガは本ではないということか)、今読むと突っ込みどころ満載と言えるかも(昔は結構この人の小説も読んだのだが、今何故かあまり読み返す気がしない)。
空想天国 1968.jpg空想天国d.jpg「空想天国」●制作年:1968年●監督:松森健●製作:渡辺晋●脚本:田波靖男●撮影:西垣六郎●音楽:萩原哲晶●時間:84分●出演:谷啓/京塚昌子/奈加英夫/酒井和歌子/宝田明/北あけみ/藤岡琢也/佐田豊/藤木悠/権藤幸彦/田中浩/木村博人/西岡慶子/中川さかゆ/矢野陽子/矢野間啓治/沢村いき雄/藤田まこと/頭師孝雄/中山豊/ハナ肇/桜井センリ/田崎潤/荒木保夫/ハンス・ホルネフ/小松政夫/豊浦美子/田辺和佳子●日本公開:1968/08●配給:東宝(評価:★★★)●併映:「連合艦隊司令長官 山本五十六」(丸山誠治) 

酒井和歌子2-1.jpg 酒井和歌子 司葉子【山本五十六】ロビーカード.jpg
酒井和歌子 in「空想天国」(1968/08 東宝)/酒井和歌子・司葉子「連合艦隊司令長官 山本五十六」(1968/08 東宝)ロビーカード

連合艦隊司令長官 山本五十六  1968 poster.jpg連合艦隊司令長官 山本五十六 80.jpg「連合艦隊司令長官 山本五十六」●制作年:1968年●監督:丸山誠治●特技監督:円谷英二●製作: 田中友幸●脚本:須崎勝彌/丸山誠治●撮影:山田一夫●音楽:佐藤勝●時間:128分●出演:山本五十六(連合艦隊司令長官):三船敏郎/辰巳柳太郎/荒木保夫/堤康久/佐田豊/若宮忠三郎/豊浦美子/中谷一郎/伊吹徹/黒部進/黒沢年男/八世松本幸四郎/平田昭彦/土屋嘉男/藤木悠/佐原健二/田島義文/坂本晴哉/今福正雄/柳連合艦隊司令長官 山本五十六  1968 dvd.jpg永二郎/北龍二/向井淳一郎/岡部正/稲葉義男/太田博之/佐藤允/安部徹/久保明/加山雄三/宮口精二/藤田進/伊藤久哉/桐野洋雄/草川直也/森雅之/小鹿敦/岡豊/堺左千夫/緒方燐作/西条康彦/阿知波信介/酒井和歌子/司葉子/清水元/田村亮/渋谷英男/村上冬樹/池田秀一/加東大介/石丸山誠治 「連合艦隊司令長官 山本五十六」.jpg山健二郎/佐々木孝丸/清水将夫/宇留木康二/江原達怡/船戸順/(ナレーター)仲代達矢●日本公開:1968/08●配給:東宝(評価:★★★)●併映:「空想天国」(松森健) 
連合艦隊司令長官 山本五十六 [東宝DVD名作セレクション]

森 雅之(内閣総理大臣・近衛文麿)
森雅之 連合艦隊司令長官 山本五十六 近衛文麿.jpg

リメイク版(2011年12月23日公開) 「聯合艦隊司令長官 山本五十六-太平洋戦争70年目の真実-」(東映)監督:成島出/主演:役所広司
2011 連合艦隊司令長官 山本五十六 0.jpg 2011 連合艦隊司令長官 山本五十六 1.jpg 2011年版 連合艦体司令長官 山本五十六.jpg

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大胆に翻案し、原作以上のもの(現代的なもの)を生み出す黒澤スタイルの典型作。

羅生門 チラシ.bmp「羅生門」デジタル復元・完全版(2008年).jpg羅生門ポスター.jpg 羅生門dvd.jpg 藪の中 講談社文庫.jpg
映画「羅生門」ポスター/「羅生門 [DVD]」/『藪の中 (講談社文庫)』 ['09年]
羅生門 デジタル完全版 [DVD]」['10年]
映画「羅生門」チラシ(左) 

羅生門1.bmp 平安末期、侍(森雅之)が妻(京マチ子)を伴っての旅の途中で、多襄丸という盗賊(三船敏郎)とすれ違うが、妻に惹かれた盗賊は、藪の中に財宝があると言って侍を誘い込み、不意に組みついて侍を木に縄で縛りつけ、その目の前で女を手込めにする。『羅生門』.jpg 翌朝、侍は死骸となって木樵り(志村喬) に発見されるが、女は行方不明に。後に、一体何が起こり何があったのかを3人の当事者達は語るが、それぞれの言い分に食い違いがあり、真実は杳として知れない―。

羅生門2.bmp 1951年ヴェネツィア国際映画祭「金獅子賞」受賞作で、日本映画初の受賞でした。原作は芥川龍之介の1915(大正4)年発表の同名小説「羅生門」というよりも、1922(大正11)年1月に雑誌「新潮」に発表の短編「藪の中」が実質的な原作であり、「羅生門」は、橋本忍と黒澤明が脚色したこの映画では、冒頭の背景など題材として一部が使われているだけです。

京マチ子 羅生門.jpg 原作は、事件関係者の証言のみで成り立っていて、木樵、旅法師、放免(警官)、媼(女の母)の順に証言しますが、この部分が事件の説明になっている一方で、彼らは状況証拠ばかりを述べて事件の核心には触れません。続いて当事者3人の証言が続き、多襄丸こと盗人が、侍を殺すつもりは無かったが、女に2人が決闘するように言われ、武士の縄を解いて斬り結んだ末に武士を刺し、その間に女は逃げたと証言、一方の女は、清水寺での懺悔において、無念の夫の自害を自分が幇助し、自分も死のうとしたが死に切れなかったと言います。 そして最後に、侍の霊が巫女の口を借りて、妻が盗人を唆して自分を殺させたと―。

「羅生門」.jpg羅生門3.bmp 芥川龍之介の原作は、タイトルの通り誰の言うことが真実なのかわからないまま終わってるわけですが、武士が語っていることが(霊となって語っているだけに)何となく侍の言い分が真実味があるように思いました(作者である芥川龍之介は犯人が誰かを示唆したのではなく、それが不可知であることを意図したというのが「通説」のようだが)。

羅生門4.bmp京マチ子.jpg 映画では、原作と同様、盗人、女、侍の証言が再現映像と共に続きますが、女の証言が原作とやや異なり、侍の証言はもっと異なり、しかも最後に、杣売(そまふ)、つまり木樵(志村喬)が、実は自分は始終を見ていたと言って証言しますが、この杣売の証言は原作にはありません。

 その杣売(木樵)の証言がまた、それまでの3人の証言と異なるという大胆な設定で、杣売(木樵)の語ったのが真実だとすれば、京マチ子が演じた女が最も強くなっている(怖い存在になっている?)という印象であり、黒澤明はこの作品に、現代的であるとともに相当キツイ「解」を与えたことになるかと思います(その重いムードを救うような、原作には無いラストが用意されてはいるが)。

京マチ子(1959年)[共同通信]

 個人的には、そのことによって原作を超えた映画作品となっていると思われ、黒澤明が名監督とされる1つの証しとなる作品ではないかと。因みに、同様に全く個人的な印象として、原作を超えていると思われる映画化作品を幾つか列挙すると―(黒澤明とヒッチコックはまだまだ他にもありそうだが、とりあえず1監督1作品として)。

・監督:溝口健二「雨月物語」('53年/大映)>原作:上田秋成『雨月物語』
・監督:ビリー・ワイルダー「情婦」('57年/米))>原作:アガサ・クリスティ『検察側の証人』
・監督:アルフレッド・ヒッチコック 「サイコ」('60年/米)>原作:ロバート・ブロック『気ちがい(サイコ)』
・監督:ロベール・ブレッソン「少女ムシェット」('67年/仏)>原作:ジョルジュ・ベルナノス『少女ムーシェット』
・監督:スティーヴン・スピルバーグ「ジョーズ」('75年/米)>原作:ピーター・ベンチリー『ジョーズ』

 この「羅生門」は、ストーリーの巧みさもさることながら、それはいつも観終わった後で思うことであって、観ている間は、森の樹々の葉を貫くように射す眩い陽光に代表されるような、白黒のコントラストの強い映像が陶酔的というか、眩暈を催させるような効果があり(宮川一夫のカメラがいい)、あまり思考力の方は働かないというのが実際のところですが、高田馬場のACTミニシアターでは、そうした自分のような人(感覚・情緒的映画観賞者?)のためを思ってか、上映後にスタッフが、ドナルド・リチーによる論理的な読み解きを解説してくれました(アットホームなミニシアターだったなあ、ここ。毎回、五円玉とミルキー飴をくれたし)。

Rashômon(1950) 「羅生門」(1950) 日本映画初のヴェネツィア国際映画祭金獅子賞とアカデミー賞名誉賞受賞。
Rashômon(1950).jpg
 
羅生門 森雅之.jpg 羅生門 京マチ子.jpg 
森 雅之(侍・金沢武弘)           京マチ子(金沢武弘の妻・真砂)

羅生門 志村喬.jpg羅生門 加東大介.jpg「羅生門」●制作年:1950年●監督:黒澤明●製作:箕浦甚吾●脚本:黒澤明/橋本忍●撮影:宮川一夫●音楽:早坂文雄●原作:芥川龍之介「藪の中」●時間:88分●出演:三船敏郎/森雅之/京マチ子/志村喬/千秋実/上田吉ニ郎/加東大介/本間文子●公開:1950/08●配給:大羅生門-00.jpg映●最初に観た場所:高田馬ACTミニ・シアター.jpgACTミニ・シアター2.jpg早稲田通りビル.jpg場ACTミニシアター(84-12-09)(評価:★★★★☆)●併映:「デルス・ウザーラ」(黒澤明)
高田馬場(西早稲田)ACTミニシアター 1970年代開館。2000(平成12)年頃 閉館(活動休止)

 芥川の「藪の中」と「羅生門」は、岩波文庫、新潮文庫、角川文庫、ちくま文庫などで、それぞれ別々の本(短編集)に収められていますが("やのまん"の『芥川龍之介 羅生門―デカい活字の千円文学!』 ('09年)という単行本に両方が収められていた)、'09年に講談社文庫で両方が1冊入ったもの(タイトルは『藪の中』)が出ました(講談社が製作に加わっている映画「TAJOMARU(多襄丸)」の公開に合わせてか。「藪の中」を原作とするこの映画(要するに「羅生門」のリメイク)の評価は散々なものだったらしいが)。

ACTミニシアターのチラシ.gifACTミニシアターのチラシ http://d.hatena.ne.jp/oyama_noboruko/20070519/p1 大山昇子氏「女おいどん日記」より

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