Recently in 安野 光雅 Category

「●あ 安野 光雅」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【3041】 安野 光雅 『フランスの旅
「●日本の絵本」 インデックッスへ 「○現代日本の児童文学・日本の絵本 【発表・刊行順】」の インデックッスへ

どういったアイコンがあるか情報を集めてから探してみるのも一つの楽しみ方。

旅の絵本.jpg


01-0539_IN02.jpg
旅の絵本 (安野光雅の絵本)』['77年]

旅の絵本1 25.jpg 安野光雅(1926-2020/94歳没)による1977年刊行の「旅の絵本」シリーズ第1作、中部ヨーロッパ編であり、これに続くⅡ('78年)がイタリア編、Ⅲ('81年)がイギリス編、Ⅳ('83年)がアメリカ編、15年ほど間が空いて、Ⅴ('03年)がスペイン編、Ⅵ('04年)がデンマーク編、Ⅶ('09年)が中国編、Ⅷ('13年)が日本編、Ⅸ('18年)がスイス編となります。第1作刊行の時点で作者は50歳を過ぎていたものの、最後のスイス編は90歳を過ぎて描かれたと思えば、まさにライフワークであったと言っていいのではないでしょうか。

 シリーズの特徴として、絵だけで文字はないもののの、見開きの絵がページをめくるたびに何となくつながっていて、見ながら旅をするような感覚であり(だからこそ"画集"ではなく「旅の"絵本"」なのだろうなあ)、行った先々での人々の暮らしぶりや風景・名物などが描かれるほか、歴史・地誌や物語・芸術にまつわるトピックも取り上げられています(したがって時に時間と空間の壁や現実とフィクションの壁が超越される)。そして、それら物語・芸術にまつわるアイコンがどこに隠れているかを探すのが楽しいシリーズです(「ウォーリーをさがせ」の作者マーティン・ハンドフォードは、この安野光雅の「旅の絵本」シリーズのアイデアに触発されたそうだ)。

 このシリーズ第1作は、中部ヨーロッパを舞台に、船で岸にたどり着いた旅人は、馬を買い、丘を越えて村から町へと向かいます。農村や街を抜けて進んでい行く先々で、ぶどうの収穫、引越し、学校、競走、水浴び...etc.そこで暮らす人々の生活や行事と出会うという、まさにこのシリーズのスタイルが確立されたものであり、地域の街並みや自然が克明繊細な筆致で描かれ、中部ヨーロッパの暮らし浮き彫りにされてます。さらに、すみずみまで細かく描きこまれた中には、おとぎ話の主人公や、有名な絵画へのオマージュもあり、こうした数々の仕込みがあるという点でも、シリーズのスタイルが確立されていると言えます。

 登場するモチーフは、中部ヨーロッパ編であれば、「赤ずきん」、「ねむり姫」、「長靴をはいた猫」、「ブレーメンの音楽隊」などで(ペロー童話集やグリム童話が主か)、これがⅡのイタリア編であれば、イエス・キリスト、「ピノキオ」、「シンデレラ」、「家なき子」、絵画・芸術関係ではレオナルド・ダ・ヴィンチの「受胎告知」、ミケランジェロの「ピエタ」とルネッサンス芸術で畳みかけ、Ⅲのイギリス編であれば、「ピーター・パン」、「不思議の国のアリス」、ビートルズ、ネッシー、それにシェイクスピアの生家が出てきて、畳みかけるかのように「ハムレット」「リア王」「ヴェニスの商人」の各1シーンがあります。

 Ⅳのアメリカ編であれば、「大草原の小さな家」のローラ、トム・ソーヤー、「エルマーとりゅう」、「オズの魔法使い」、Ⅴのスペイン編であれば、「ドン・キホーテ」、「カルメン」、コロンブス、ダリ、ガウディ、Ⅵのデンマーク編でれば、「みにくいアヒルの子」、「裸の王様」、「雪の女王」、「人魚姫」(この国はやっぱりアンデルセンで畳みかけるか)と続きます。これらアイコンは簡単には見つからないようになっているので、予め調べるなりして、どういったアイコンがあるか情報を集めてから探してみるのも、一つの楽しみ方だと思います。

旅の絵本1 20.jpg旅の絵本1 10.jpg赤ずきんちゃんのワンシーン.jpgミレーの『落ち穂拾い』.jpg 因みに、このシリーズ第1作の中部ヨーロッパ編では、先に挙げたほかに、トルストイの童話「おおきなかぶ」などの絵もありました(これ、オリジナルもロシアの民話じゃないかな。まあ、ロシアも西側はヨーロッパロシアだが)。

 また、絵画では、クールベの「石工」があり、別のページにはスーラの「グランド・ジャット島の日曜日の午後」があり、その近くで水浴びをしている図は、同じくスーラの「アニエールの水浴」か。

 また、最後の方の赤ずきんとおおかみが左上隅にいるページには、右ページの橋の上に肉を食わえた犬がいて、これがまさにイソップ寓話の「犬と肉」。その上にミレーの「落穂ひろい」の図があり、その奥には同じくミレーの「羊飼いの少女」が。そして最後のページには「晩鐘」がきています。ここはミレーで畳みかけるね(笑)。

 おそらく、まだまだいっぱい隠れているのだろなあ。「絵本ナビ」には「読んであげるなら5・6才から、自分で読むなら小学低学年から」とありますが、何だか大人の教養を試されているみたい(笑)。でも、絵だけぼーっと見ていても楽しめます(ぼーっと見ていると何か見つかることもある)。シリーズの中でも、この第1作をはじめ50代に描かれた前期のものの方が、タッチの精緻さという点では至高の極みであるように思われます。

「●あ 安野 光雅」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【3040】 安野 光雅 『かげぼうし
「●日本の絵本」 インデックッスへ 「○現代日本の児童文学・日本の絵本 【発表・刊行順】」の インデックッスへ

絵が美しく、随所に見られる仕掛けを探すのが楽しい。大人も愉しめる。

かぞえてみよう 1975.jpg
かぞえてみよう01.jpg
かぞえてみよう (講談社の創作絵本)

 1975年11月刊行の本書は、昨年['20年]亡くなった安野光雅(1926-2020/94歳没)の、その名を広く知らしめた作品です。「はじめて数に出会う子供のための絵本」で、言わば、数え唄の絵本版のような感じですが、美しい絵と、そこに込められたアイデアで、大人も愉しめます(第7回「講談社出版文化賞」受賞作)。

かぞえてみよう05.jpg 見開きの「0」ページに川が流れる白のみの何もない、誰もいない雪景色が描かれてて、それが「1」ページにいくと、同じ場所に家が1件建ち、川には橋が1つ架かって、雪だるまが1つあって、スキーをしている人が1人、それが「2」ページにいくと、同じ土地に(雪が少し溶けて枯草が見えている)教会が建っていて、これで建物が2件に。道路では2台のトラックが向き合っていて2人の男性が立ち、山には木が2本、駆けっこしている子供が2人、ウサギが2羽...となっていき、この辺りでこの絵本の仕掛けが何となくわかります。

かぞえてみよう07.jpg ページごとに、家が1軒づつ建ち、人が増え、木が植えられ、季節が変化していきます。建物は洋風ですが、季節変化は日本の四季に近く(ただし「5」ページから「7」ページにかけてからっとした感じの緑が続くので地中海性気候か)、春、夏、秋、そしてまた冬へと廻っていき、最後の「12」ページでは最初の「0」ページと同じ雪景色ですが、何も無かった最初と違い、建物も12件になって、村がしっかり作られています。

 「11」ぺージには、11人の大人と11人の子供が描かれていましたが、この「12」ページの教会の前のクリスマス₌=ツリーの周りにいる大人は11人(あれっ、12人に1人足りない!)。一方、橋を渡って教会に向かう一行は数えてみると13人(あれっ、今度は1人多い!)。でも、この中の1人は大人であとは子供なので、結局トータルでは大人12人、子供12人ということで合っていました。山に生えている木が「11」ぺージの時と同じく11本のままですが、あとがきの「注」に、「教会のクリスマス=ツリーも「かず」の中にはいります」とあります。なるほど。誰かが「間違っているのではないか」と問い合わせたのかな?
かぞえてみよう12.jpg

 「あれ、違っているんじゃないか」と思わせて、よく見ると合っているという、こうした随所に見られる仕掛けを探すのが楽しく、作者の絵本作品は、美しい絵を味わいながら、こうした仕掛けをも愉しむものがいくつもありますが、この作品はその最たるものと言えるでしょう。

 ニューヨーク・タイムズ紙の書評が、「これほどうまく数えるということの根本をうまくとらえ、しかも芸術性の高い本はない。幼児にとって、なにものにもかえがたい味わいのある本であり、親もいっしょに楽しめよう」と絶賛しているほか、多くの海外メディアが称賛し、作者が多くの海外の絵本賞を受賞する契機となった作品でもあります。

 もしかしたら、同じようなアイデアをひらめいた人がほかにもいたかもしれませんが、なかなか実際に作品にしてみるというところまではいかないのでしょうね。数にこだわりを持ち、数学者との対談などもあった作者だからこそ、やり通せたのかもしれないと思いました。数字の0~12以外に文字のない絵本ですが、だからこそ、海外の人でも楽しめるものになっているように思います。

「●あ 安野 光雅」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 「●い 池井戸 潤」 【2026】 池井戸 潤 『オレたちバブル入行組
「●地誌・紀行」の インデックッスへ

画家にして名エッセイストでもあったことを思い起こさせるスケッチ紀行エッセイ。

Iフランスの道 安野光雅01.jpgフランスの道 安野光雅.png 安野 光雅es.jpg
フランスの道』['80年]安野光雅(1926-2020)

 昨年['20年]12月に亡くなった安野光雅(1926-2020/94歳没)の1980年刊行のスケッチイラスト付きの紀行エッセイで、絵と文は、1978年以来「アサヒグラフ」に連載していた「西洋のぞき眼鏡」という連載をまとめたものです。

フランスの道 安野光雅1.jpg 著者は、その代表作である『旅の絵本』のシリーズ第1弾を1977年に、第2弾を1978年に福音館書店より刊行しており、同じ頃には、『旅のイラストレーション』 ('77年/岩崎美術社)、『ヨーロッパ・野の花の旅』('78年/講談社)といった本の刊行もあって、当時"旅"をテーマに絵本やイラスト絵画において精力的に活動していたことが窺えます。

 本書では、実際、画材を持ってフランス全土をあちこち歩き回りながらスケッチをしたことが窺えます。パリの街中の絵もいいですが(パリに行けば街中に観光客相手の画家は溢れているし)、ちょっと都市から離れた郊外や田舎の村々の風景や建物の絵がなかなかいいように思いました(因みに『旅の絵本』シリーズ全9冊にはイタリア編やイギリス編、スペイン編やデンマーク編、スイス編はあるが、フランス編は単独ではない)。

 でも、絵もいいですが、本書について言えば、文章も、訪れた土地への想いが伝わってくるようで、また、楽しく読めて、時に哀愁も帯びていていいです。この頃からすでに、画家・絵本作家にして名エッセイストであったことが窺える1冊です。

「●あ 安野 光雅」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【3055】 安野 光雅 『旅の絵本
「●日本の絵本」 インデックッスへ 「○現代日本の児童文学・日本の絵本 【発表・刊行順】」の インデックッスへ 「●「菊池寛賞」受賞者作」の インデックッスへ(安野 光雅)

作者のロングセラー絵本に挙げられる1冊。二通りの画風が楽しめるところがいい。

かげぼうし 安野 光雅1.jpgかげぼうし 安野 光雅2.jpg 安野 光雅.jpg
かげぼうし』['76年/'02年新版]安野光雅(1926-2020)
かげぼうし 安野 光雅3.jpg
 まちに冬がきた。 野山にも冬がきた。 山のむこうのずーっと、ずーっとむこうにある秘密の国、「かげぼうしの国」にも冬がきた。 マッチ売りの少女と「かげぼうしの国」のみはり番がくりひろげる、ふしぎな、ふしぎなお話―。

 昨年['20年]12月に亡くなった安野光雅(1926-2020/94歳没)の絵本作品です。この人、何となくいつまでも生きているイメージがありましたが、もう94歳になっていたのかという感じ。

 本書は1976年7月の刊行ですが、既に60年代から数多くの絵本を世に出しており、この辺りにくると作風も完成されている印象を受けます。因みに、1975年に芸術選奨新人賞を受賞し、1976年に第7回「講談社出版文化賞」を『かぞえてみよう』('75年/講談社)で受賞しており、以降は、国際的な絵本賞の受賞が続きます。

IMG_20210627_かげぼうし 安野 光雅.jpg この絵本では、見開きの左面でマッチ売りの少女が出てくるヨーロッパのとある古い街の話が展開し、右面で見張り番がどこか行ってしまって混乱する「かげぼうしの国」の話(こちらは切り絵風でほぼモノクロ)が展開して、別々の話かと思ったら最後で1つの話になるという、面白い作りでした。

IMG_20210627_2かげぼうし 安野 光雅.jpg ただ、それ以上に、1冊で作者の二通りの画風が楽しめるところが、個人的には良かったでしょうか。表紙もいいです(どうして裏表紙は切り絵になってないのか?)

 『かぞえてみよう』に負けずとも劣らない傑作であり、2002年に同じ版元から新版が出されていることからも、作者の作品群の中でもロングセラー絵本に挙げられる1冊であると言えるかと思います。

 【2002年新版】

About this Archive

This page is an archive of recent entries in the 安野 光雅 category.

安西 水丸 is the previous category.

池井戸 潤 is the next category.

Find recent content on the main index or look in the archives to find all content.

Categories

Pages

Powered by Movable Type 6.1.1