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51年ぶりの劇場公開。「実写版ルパン三世」? 1つ1つのシーンを丁寧に撮っている。

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華麗なる大泥棒 [DVD]」(113分版)ジャン=ポール・ベルモンド/オマー・シャリフ

「ベルモンド特集3」.jpg「華麗なる大泥棒」金庫.jpg アテネに集結したアザド(ジャン=ポール・ベルモンド)、ラルフ(ロベール・オッセン)、レンジー(レナート・サルヴァトーリ)、エレーヌ(ニコール・カルファン)の4人組は、富豪タスコのエメラルドを狙い、門番を縛り上げ、屋敷に侵入する。金庫破りのまっ最中に、門前にパトカーが停車、乗っていたザカリア警部(オマー・シャリフ)の追及をアザドがうまくかわし、大粒のエメラルド36個3億フラン(1「華麗なる大泥棒」カー.jpg00万ドル)相当を奪うことに成功する。翌日国外に脱出するために港に向かった一行だったが、船は修理が必要で5日間足止めされることに。穀物サイロに宝石を隠したアザドたちを不審な車が尾行する。一人で車に乗り込んだアザドは、後を付けていた車と街中で激しいチェイスを繰り広げる。崖の上でようやく停まった車から降りてきたのは、ザカリア警部だった。エメラルドがないことを知ったザカリア警部はアザドたちを泳がせ、宝石の隠し場所を突き止めようとする。そして二重三重の罠をかけ、アザドがいない間に隠れ家にやってきて、ラルフとレンジーに銃を突きつける―。

「華麗なる大泥棒」原作.jpg「華麗なる大泥棒」r.jpg 「地下室のメロディー」('63年/仏)のアンリ・ベルヌイユ監督の1971年公開のフランス・イタリア合作映画で(日本公開も1971年)、ジャン=ポール・ベルモンドが主演を務めたクライムアクション。アメリカの作家デビッド・グーディスの小説が原作で、音楽はエンニオ・モリコーネ。警視ザカリア役に「アラビアのロレンス」('62年/英)、「ドクトル・ジバゴ」('65年/米・伊)のオマー・シャリフ。'19年に初DVD化され、今月['22年9月]、ベルモンド主演作をリマスター版で上映する「ジャン=ポール・ベルモンド傑作選3」(東京・新宿武蔵野館ほか)で、日本初公開時に上映されたオリジナルフランス語版が51年ぶりに劇場公開されました。

「華麗なる大泥棒」9.jpg「華麗なる大泥棒」女.jpg 登場人物やストーリーの構成などから、「実写版ルパン三世」と呼ばれる作品。ベルモンド演じるアザドの雰囲気がそれっぽいと言えばそれっぽいけれど、男性3人の一人ラルフが途中でザカリア警部に射殺され、残ったレンジーが1人で次元大介、石川五ェ門の両方を役割をこなすわけでもなく、エレーヌも峰不二子のようには活躍しないし、ダイアン・キャノン演じる謎の女レアの方がまだ峰不二子に近いにしても、全体的には別物と言えば別物という印象も受け、ビミョーなところです(因みに、「ルパン三世」の連載スタートは1967年で、原作者モンキー・パンチ(1937-2019)が1971年製作のこの映画を参考にすることはあり得ないことになる。「リオの男」('64年/仏・伊)などはあり得るが)。

「華麗なる大泥棒」クルマ.jpg 良かった点は1つ1つのシーンをしっかり撮っている点で、例えば最初の方の金庫破りのシーンなどは、(当時としては最新の?)メカを駆使して金庫の鍵をその場で削って作り、番号を割り出していく様が丁寧に描かれているし、アザドとザカリア警部のコートダジュール市街でのカーチェイスシーンは、普通に人やクルマがいる中、モナコグランプリ並みのカーアクションを延々10分間近く見せます(スティーブ・マックイーンの「ブリット」('68年/米)を想起させる)。ザカリア警部がラルフとレンジーに銃を突きつける緊迫感溢れるシーンもじっくり撮っているし(ラルフが射殺されたのが残念だったが、これは原作通りなのか)、ザカリア警部が食堂でアザドを脅迫する場面では、出てくる料理をいちいち美味しそうに撮っています。

「華麗なる大泥棒」bp.jpg カーチェイスシーンはスタントドライバーがハンドルを握っているのでしょうが、街中でのバスの窓につかまっての逃走シーンや、採石場でダンプカーから落とされて急勾配を一気に転げ落ちてていくシー「華麗なる大泥棒」b4p.jpgン(「キートンのセブン・チャンス」('25年/米)を想起した)はジャン=ポール・ベルモンドが生身でやっているのが分かり、スゴイなと思いました。ベルモント映画でアクションだけでみると、フィリップ・ド・ブロカ監督の「リオの男」('64年/仏・伊)や、同じくアンリ・ヴェルヌイユが 監督した「恐怖に襲われた街」('75年/伊・仏)と並んででかなり上位に来るのではないでしょうか(因みに、IMDbのレーティングは、「リオの男」が7.0、「華麗なる大泥棒」が6.5、「恐怖に襲われた街」が6.9)。

「華麗なる大泥棒」倉庫.jpg ラストの方のザカリア警部との穀物倉庫での対決も、これまたじっくり撮っていて、最後ザカリア警部(銭形警部と異なり、本業と二股掛けてエメラルドを横取りしようとする悪徳刑事だった)は穀物の洪水の中に埋もれて......。これって映画でたまにあるシチュエーションですが、カール・テオドア・ドライヤーの「吸血鬼(ヴァンパイア)」 ('30年/仏・独)あたりが最も古いのではないでしょうか。

 フランス本国版が125分なのに対しアメリカ版は12分ほどカットされた113分版で、‎ 2017年に初めてDVD化された時も113分版でした。おそらく、長回しのシーンの一部がカットされているのでしょう。冗長な印象は無く、完全版が観られて良かったです。

「華麗なる大泥棒」dp.jpg ダイアン・キャノン
「華麗なる大泥棒」('71年/仏)
「華麗なる大泥棒」b2p.jpg

リオの男」('64年/仏・伊)/「恐怖に襲われた街」('75年/伊・仏)
リオの男01.jpg 

「華麗なる大泥棒」fp.jpg「華麗なる大泥棒」音楽.jpg「華麗なる大泥棒」●原題:LE CASSE●制作年:1971年●制作国:フランス●監督・製作:アンリ・ヴェルヌイユ●脚本:アンリ・ヴェルヌイユ/ヴァエ・カッチャ●撮影:クロード・ルノワール●音楽:エンニオ・モリコーネ●原作:デビッド・グーディス●時間:125分●出演:ジャン=ポール・ベルモンド/オマー・シャリフ/ダイアン・キャノン/ロベール・オッセン/レナート・サルヴァトーリ/ニコール・カルファン●日本公開:1971/12●配給:コロンビア●最初に観た場所(オリジナルフランス語版):新宿武蔵野館(22-09-14)(評価:★★★☆)
   
Renato Salvatori, Jean-Paul Belmondo,Henri Verneuil, Omar Sharif and Robert Hossein/Dyan Cannon and Omar Sharif
1971_film_le_casse_verneuil_cast.jpg 1971_film_le_casse_cannon_sharif.jpg

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26年ぶりの劇場公開。べたべたしないラストの別れが良かった。

「冬の猿」ポスター.jpg「冬の猿」0.jpg
冬の猿 [DVD]」ジャン・ギャバン/ジャン=ポール・ベルモンド

「冬の花」001.jpg ナチス占領下、ノルマンディーの海辺の町ティーグルヴィル。町はずれの娼館のバーで、アルベール・カンタン(ジャン・ギャバン)が居酒屋の主人エノー(ポール・フランクール)を相手に、海軍時代の中国体験の話を肴に大酒をくらっていた。その夜、激しい空襲で防空壕に退避したアルベールは、妻シュザンヌ「冬の花」002.jpg(シュザンヌ・フロン)に「もし無事戦争を切り抜けられたら酒を止める」と誓う。終戦から10余年過ぎたある夜、カンタンとシュザンヌの経営するホテルに、ガブリエル・フーケ(ジャン=ポール・ベルモン「冬の花」003.jpgド)という青年が宿を求めてやって来た。主人の禁酒以来、このホテルでは酒は出さないということで、フーケはエノーの居酒屋へ繰り出し、泥酔して騒ぎを起こす。彼は町はずれの寄宿学校にいる娘マリーを引取りに来たのだが、酔っては先妻のいるスペインに思いを馳せるのだった。カンタンはそんなフーケにかつての自分を思い出し、親近感を覚える。シュザンヌは夫婦「冬の花」004.jpg揃っての付き合いでフーケに親しみを感じながらも、この青年の存在によって夫が再び酒に溺れはしないかと心配する―。

「冬の花」005.jpg 「地下室のメロディー」などのアンリ・ベルヌイユ監督による1966年公開作(日本初公開は1996年12月21日)で、ジャン=ポール・ベルモンドとジャン・ギャバンの唯一の共演作。今月['22年9月]、ベルモンド主演作をリマスター版で上映する「ジャン=ポール・ベルモンド傑作選3」(東京・新宿武蔵野館ほか)で26年ぶりに劇場公開されました。

「冬の花」006.jpg「冬の猿」09.jpg ジャン=ポール・ベルモンド演じる自らを酔いにまかせるフーケに、かつてに自分を見出し、寄り添うジャン・ギャバン演じるカンタン。ただし、口先だけで励ましたりするのではなく、自らに課した、そして妻と約した禁酒の掟を破って酒を飲んで酔っ払ったり、娘を寄宿学校から引き取りたいフーケに伴ってフーケの娘が通う寄宿学校へフーケと潜入を試みたりと、彼と同じ地平にまで降りていきます。

「冬の花」007.jpg 酔うことが男のロマンの象徴のようになっていて、二人が仕掛けた壮大な花火大会も背景として美しい。酔わなければ同じ気持ちになれないのかという批判もあるかもしれませんが、個人的にはコロナ禍の下でこの作品を観て、男同士が共に酔うのってやはりいいなあと思ってしまいました(昭和的?)。

「冬の花」008.jpg タイトルの「冬の猿」は、劇中でカンタン(彼はかつて第1次大戦で中国に遠征したようだ)が話す、「中国では冬になると、親のいない猿が町におりてくる。人々は猿にも魂があると信じているから、もてなしをして、森に帰ってもらう」という逸話からきていて、この話をラストのフーケとその娘を送り出す列車の中で娘に話します。列車がカンタンがフーケと別れる駅に着いて、カンタンが列車を降りると、娘は父親のフーケにあの人は「本当に猿を見たのかしら」と訊きます。それに対してフーケが「少なくとも1匹はね」と答えます(わあ、自分のことだあ)。

 当のカンタンは列車を降りた後、自分が乗り換える列車を待つため、ホ「冬の猿」last.jpgームのベンチに腰掛けますが、フーケが乗っている列車には背を向けて座っています。列車が動き出し、遠ざかるカンタン。それでも彼はフーケの方を見ない―こんなべたべたしないラストの別れのシーンもいいなあと思ました(ここが日本映画などと異なるところかも)。カンタンは独りアメを口に放り込みます。禁酒の掟を破ったのは、それより大事なことがあったためで、ただし、それは一時的なものであり、再びもとの禁酒生活に戻り、妻の心配(映画を観る側の心配でもある)は杞憂であったことを示唆していてうまいなあと思いました。

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「冬の猿」トークショーjpg.jpg この作品、個人的には、ジャン=ポール・ベルモンドの一周忌にあたる日に、この「傑作選」上映作品の新字幕を数多く(20作品中9本)担当した松浦美奈氏(英語・仏語をこなす「日本一の売れっ子の字幕翻訳家」と言われ、ハリウッド映画の新作「ブレット・トレイン」('22年/米・日・スペイン)などの字幕も手掛けている)と、当「傑作選」プロデューサーの江戸木純氏とのトークショー付きの回で観に行きました(新宿武蔵館には、ベルモンドディスプレイ前に献花台が設置され、来場したファンによる折り紙の花が飾られていた)。

「ベルモンド傑作選3」.jpg 「冬の猿」の話で、松浦氏が(松浦氏は「レ・ミゼラブル」('95年/仏)と並んでこの作品がベルモンド作品で一番のお気に入りのようだ)「皆さん、この映画の時、ジャン・ギャバンがいくつだったか知っていますか?58歳ですよ!」とその貫禄ある演技について語ると、江戸木氏が、「ベルモンド29才だった。あの酔っぱらい方に運動神経や体幹の良さが出ている」と。なるほど。ジャン・ギャバンは70歳くらに見えるけれど、老け役を演じたのか(それでも、ジャン=ポール・ベルモンドのちょうど倍ほどの年齢だったんだ)。傑作であると同時に貴重な品です。

「冬の猿」●原題:UN SINGE EN HIVER●制作年:1962年●制作国:フランス●監督:アンリ・ベルヌイユ●脚本:フランソワ・ボワイエ●撮影:ルイ・パージュ●音楽:ミシェル・マーニュ●原作:アントワーヌ・ブロンダン「冬の猿」●時間:104分●出演:ジャン・ギャバン/ジャン=ポール・ベルモンド/シュザンヌ・フロン/ノエル・ロクベール/ポール・フランクール●日本公開:1996/12●配給:エデン●最初に観た場所:新宿武蔵野館(22-09-06)(評価:★★★★☆)

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ジャン・ギャバンとアラン・ドロンの初共演作。やはりラストがこの映画の白眉か。

地下室のメロディー dvd.jpg地下室のメロディー Blu-ray.jpg地下室のメロディー 0.jpg
ジャン・ギャバン/アラン・ドロン
<初回限定生産>地下室のメロディー Blu-ray
地下室のメロディ [DVD]

地下室のメロディー 1.jpg 強盗罪で5年間服役していた老ギャングのシャルル(ジャン・ギャバン)は、刑期を終えて出所した。妻のジャネット(ヴィヴィアーヌ・ロマンス)は夫にはギャング稼業から足を洗って欲しいと願うが、シャルルは、昔の仲間マリオ(アンリ・ヴァルロジュー)の元を訪ね、人生最後の大仕事としてカンヌのパルム・ビーチにあるカジノの地下金庫から10億フランという大金をごっそり奪い取る作戦を立てる。人手の欲しいシャルルは、かつて刑務所で目をつけていた若いチンピラのフランシス・ヴ地下室のメロディー 2.jpgェルロット(アラン・ドロン)とその義兄ロイス・ノーダン(モーリス・ビロー)を仲間に引き入れる。彼らはまず下調べのためカジノに行き、極秘裏に地下金庫へ運び込まれる大金の搬入ルートを確認する。シャルルの助言でフランシスは金持ちの御曹司に成りすまし、運転手役のロイスと共にカジノのあるホテルに向かい、カジノのダンサーのブリジット(カルラ・マルリエ)を口説いて親しくなり、一般客が立ち入れないカジノの舞台裏へ出入りする口実を掴む。作戦決行日はカジノのオーナーが売上金を運び出す頃合いを見計らって決定した。地下室のメロディー 3.jpg当日、フランシスはブリジットのステージを観た後カジノの舞台裏に侵入、換気ダクトを伝ってエレベーターの屋根に身を潜め、オーナーと会計係が売上金の勘定をしている様子を見る。覆面にマシンガンのフランシスがオーナーらの前に現れ、会計係に鍵を開けさせてシャルルを引き入れると、まんまと大金10億フランを奪ってバッグに詰め込み、ロイスの運転するロールスロイスで逃走する。金は事前に押さえていた更衣室に隠し、シャルルとフランシスはそれぞれ別のホテルに泊まって警察の目をやり過ごす。作戦は大成功と思われたが、翌朝、シャルルが朝食を取りながら新聞を見ると、一面にカジノにいたフランシスの写真が大きく写し出されていた。慌てたシャルルはロイスを逃がし、何とか警察の手を逃れようとフランシスと共に観光客を装って脱出の隙を窺う。しかし、犯行に使ったバッグの外観をカジノのオーナーらは覚えており、フランシスは慌ててバッグをホテルのプールに沈める―。

 1963年製作のアンリ・ヴェルヌイユ監督作で、原作はジョン・トリニアンの『地下室のメロディー』('63年/ハヤカワ・ミステリ)。ジャン・ギャバンとアラン・ドロンが初共演したこの作品は、1963年ゴールデングローブ賞外国映画賞を受賞するなどし、クライムサスペンスの名作とされています(二人はその後「シシリアン」('69年)、「暗黒街のふたり」('73年)で共演)。また、メインテーマは、ホンダの3代目プレリュード('87年)やサントリーのコーヒーBOSS無糖ブラック('07年)のCMで使われたりもしたので、日本でも多くの人に馴染みがあるのではないかと思います。

 まず、ジャン・ギャバン演じるシャルルが出てくる冒頭で、道路の名前が変わったことを彼が初めて知るところから、彼が刑務所を出たばかりであることを窺わせるところなどは上手いと思われ、その後家に帰ってきてからの妻とのやり取りにも無駄がありません。そして、すぐさま、「人生で一番でかいこと」に取り組まんとする彼に惹きけられていきます(それにしても、出所したてでまた強盗計画とは、諦めるということはないのだ、この主人公は)。

地下室のメロディー doron.jpg シャルルはアラン・ドロン演じるフランシスを相棒にし、その義兄まで仲間に引き入れますが(その際に義兄が信用のおける人物か、刑事を装ってテストしている)、フランシスに対し、カジノで上客としてふるまう方法を伝授すると、最初はチンピラにしか見えなかった彼が、どこかの貴公子に見えてくるから面白い。話が出来すぎているようにも思えますが、アラン・ドロンの美貌であれば、カジノのダンサーを手懐けるのも朝飯前かなとも思ってしまいます。

 でも、調子に乗ったフランシスが時間にルーズなのに対し、「やる気が失せた、幽霊とは組めない。1分が命取りなんだぞ」と雷を落とすところなどは、ベテラン・ギャバンの貫禄。決行の1週間前の同じ曜日・時間にリハーサルをさせるなど、シャルルの方がフランシスよりずっと慎重です。でも、ここまで入念に準備しても、本番では何が起こるかわからない―。

 実際、当日、カジノの舞台裏に侵入したフランシスでしたが、舞台裏がダンサーたちの打ち上げ会場みたいになってしまったため、なかなか次の行動に移れません(たまたまショーの千秋楽みたいな日だったのか)。ようやっとダクトに入り込んで、エレベーターまで辿り着きますが、かなりのタイムロスで、観ている方もハラハラさせられます(ダクトを使っての移動というのは、その後、多くの映画で使われたが、これが元祖?)。

last地下室のメロディー.jpg それでも、フランシスはシャルルと何とか地下金庫前で落ち合い(金庫までの道のりに苦労したフランシスに対し、シャルルがあっさり金庫に辿り着いているのが可笑しいが)、地下金庫からの大金の奪取に成功。二人にとってメデタシ、メデタシと思いきや―ということで、あの有名なラストシーンに向かいますが、この映画、プロセスの描写もいいですが、やはり決め手はあのラストシーンでしょう。

 ラストシーンがこの映画のクライマックスであり(アンチクライマックスとも言える)、そのクライマックスシーンにおいて主役の二人がじっと動かないでいる―いや、動こうにもまったく動けないでいる、それでいて、今起きていることをまざまざと見せつけられる、そのほろ苦さ(本人たちからすれば"残酷さ"と言った方がいいか)がこの映画の白眉というか、最大の持ち味でしょう。

地下室のメロディー カラー版.jpg 2016年にHDリマスター版とカラーライズ版の2枚組のDVDがリリースされましたが、やっぱりカラーより白黒の方がいいです。HDリマスター版を観ると、プールサイドのシーンなど、意図的に光量を上げて、光と闇のコントラストを浮き立たせているようにも思えました。

 この映画の結末は、スタンリー・キューブリック監督の「現金(ゲンナマ)に体を張れ」('56年)を彷彿とさせるものでもあります。また、この映画の18日前にフランスで公開されたジャック・ドゥミ監督、ジャンヌ・モロー主演の「天使の入江」('63年)にも、ニースのカジノが出てきます(ロケ隊同士が対面しなかっただろうか)。共に観比べてみるのもいいかもしれません。

地下室のメロディー ps.jpg「地下室のメロディー」●原題:MELODIE EN SOUS-SOL(米:ANY NUMBER CAN WIN/英:THE BIG SNATCH)●制作年:1963年●制作国:フランス●監督:アンリ・ヴェルヌイユ●脚本:ミッシェル・オーディアール/アルベール・シモナン/アンリ・ヴェルヌイユ●撮影:ルイ・パージュ●音楽:ミシェル・マーニュ●時間:118分●出演:ジャン・ギャバン/アラン・ドロン/ヴィヴィアーヌ・ロマンス/モーリス・ビロー/ジャン・カルメ/カルラ・マルリエ/クロード・セバール●日本公開:1963/08●配給:ヘラルド●最初に観た場所:三鷹オスカー(79-04-15)(評価:★★★★☆)●併映:「ル・ジタン」(ジョゼ・ジョヴァンニ)/「ブーメランのように」(ジョゼ・ジョヴァンニ)

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45年ぶりの劇場公開。CGを使わない分、昔のアクション映画の方がスリルがあったことの証左のような映画。

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【ビデオ】 恐怖に襲われた街 (VHS)

 パリの高級マンションに住むノラ・エルメール(レア・マッサリ)が17階の自分の部屋の窓から飛び降りて死んだ。死の直前に、何者かに脅迫されていると警察に訴え出た直後だった。パリ警察きっての腕利き警部ルテリエ(ジャン=ポール・ベルモンド)が捜恐怖に襲われた街 kangosi.jpg査にあたることになったが、ミノスと名乗る謎の男から彼に電話がかかってくる。事件の犯人だと話すミノスは、連続殺人を予告してくるのだった。そして、次には、多くの男との情事を重ねていた女性が犠牲となる。パリの街が恐怖に包まれる中、ルテリエは次の標的である看護師のエレーヌ(カトリーヌ・モラン)の警護にあたるが、エレーヌもミノスの罠にはまり殺されてしまう。彼女の死によって意外な犯人の正体が明らかになるのだが、ルテリエは次の犠牲者がポルノ女優のパメラ・スイートであることを突きとめると、彼女の自宅であるマンションへと向かう。だが、すでに到着していたミノスは、パメラを人質に取った上に部屋に爆弾を仕掛けていた―。

IMG_20201203_164015.jpg 「地下室のメロディー」('63年)「シシリアン」('69年)のアンリ・ヴェルヌイユ監督の1975年公開作で、「ジャン=ポール・ベルモンドの恐怖に襲われた街」との邦題が使われることもあるポリス・アクション映画。アンリ・ヴェルヌイユとベルモンドのタッグで、音楽もエンニオ・モリコーネという作品ですが、ストーリーがやや凡庸なせいか、公開当時あまり話題にならなかったようです。一応、ビデオ化されましたが、その後ソフト化されることもなく('21年に初DVD化)、それが今回、新宿武蔵野館での特集「ジャン=ポール・ベルモンド傑作選」でHDリマスター版による45年ぶりの劇場公開となりました。

新宿武蔵野館(2020.12.3)
    
恐怖に襲われた街2.jpg 見所はストーリーではなくアクションでした。ジャン=ポール・ベルモンドはノー・スタントでスレート屋根を跳び、列車の屋根を走ってトンネルでは身を伏せ、最後はヘリにワイヤーでぶら下がってビルの25階の窓を破って突入します。この映画が、後のジャッキー・チェンやスティーブ・マックイーン、チャック・ノリスなど、多くのアクションスターに影響を与えたというのも頷けます。

 スティーヴ・マックイーンも「ハンター」('80年/米)でシカゴの地下鉄の屋根に上っています。デパートの中へ逃げ込んだ犯人を追うシーンは、ジャッキー・チェンの「ポリス・ストーリー/香港国際警察」('85年/香港)にもありました。高層ビルにロープ一本で突っ込むシーンは「ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル」('11年/米)にもあったので、それをスタントを使わずにやったトム・クルーズも、この映画でアクションに体を張るベルモンドの影響を受けているのかもしれません。

「恋愛日記」トリュフォー.jpg恐怖に襲われた街 aibo.jpg ルテリエの相棒のモアサック刑事に扮するシャルル・デネは、ルイ・マル監督の「死刑台のエレベーター」('57年)では、リノ・ヴァ死刑台のエレベーター9.jpgンチュラ演じる警部の相方の警部補で、リノ・ヴァンチュラと交互にモーリス・ロネを尋問していました。主演作「恋愛日記」('77年/仏)など、フランソワ・トリュフォー監督の作品にもよく出ていた性格俳優です。この作品では"筋肉"で事件を解決することをモットーとするルテリエに比べれば特に見せ場は無いものの、抑制の効いた味のある演技を見せています。

恐怖に襲われた街 lea.jpgL_avventura_(1959)_Antonioni.jpg また、冒頭でネグリジェ姿で登場し最初に死んでしまう女性ノラ・エルメール役のレア・マッサリは、ミケランジェロ・アントニオーニ監督の「情事」('60年/伊)で、物語の序盤で行け不明になる娘アンナ役を演じていました。この作品の15年前ですが、そう言えば、当時からちょっとキツイ感じだったかも。 

恐怖に襲われた街 ja.jpg恐怖に襲われた街  han.jpg こうした役者陣も含め、個々の見所はありますが、犯人が結構しょぼい割には、ルテリエが警護しててもカトリーヌ・モラン演じる看護師のエレーヌを守れなかったりするので、やはりストーリー面で弱いでしょうか(まあ、「007シリーズ」だって、ジェームズ・ボンドはいっぱい女性を死なせてしまっているが)。結局、この作品の一番の見所はジャン=ポール・Henri Verneuil explique à Jean-Paul Belmondo.jpgean-Paul Belmondo se tient prêt pour une cascade.jpgベルモンドのアクション―ということに行き着きます。「CGなどを使わない分、昔のアクション映画の方がスリルがあった」ということの証左のような映画でした。
     

Henri Verneuil explique à Jean-Paul Belmondo


「ベルモンド傑作選」.jpg0070恐怖に襲われた街.jpg「恐怖に襲われた街(ジャン=ポール・ベルモンドの恐怖に襲われた街)」●原題:PEUR SUR LA VILLE(英:FEAR OVER THE CITY)●制作年:1975年●制作国:フランス・イタリア●監督・脚本:アンリ・ヴェルヌイユ●製作:ジャン=ポール・ベルモンド/アンリ・ヴェルヌイユ●撮影:シャルル=アンリ・モンテル●音楽:フエンニオ・モリコーネ●時間:126分●出演:ジャン=ポール・ベルモンド/シャルル・デネ/レア・マッセリ/アダルベルト・マリア・メルリ/ジョヴァンニ・チャンフリーリア/ジャン・マルタン/カトリーヌ・モラン●日本公開:1975/07●配給:コロムビア●最初に観た場所:新宿武蔵野館(20-12-03)(評価:★★★☆)


ジャン=ポール・ベルモンド傑作選Blu-ray BOX Iハードアクション編.jpgジャン=ポール・ベルモンド傑作選Blu-ray BOX Iハードアクション編<初回限定版>」(2021)

「恐怖に襲われた街」(1975年/仏) 原題:PEUR SUR LA VILLE
「危険を買う男」(1976年/仏) 原題:L'ALPAGUEUR
「警部」(1978年/仏) 原題:FLIC OU VOYOU
「プロフェッショナル」(1981年/仏) 原題:LE PROFESSIONNEL

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ジャン・ギャバンとがっぷり四つに組めたのは、アラン・ドロンではなくリノ・ヴァンチュラか。

シシリアン 1969.gif シシリアン 1969 blueray.jpg  シシリアン ギャバン・ドロン2.jpg
シシリアン [Blu-ray]」(2015) ジャン・ギャバン、アラン・ドロン

シシリアン 1969 - コピー.gifシシリアン 196915b.jpg 殺し屋ロジェ・サルテ(アラン・ドロン)は、シシリアン・マフィアのボスのヴィットリオ・マナレーゼ(ジャン・ギャバン)の力を借りて刑務所から脱獄する。パリに潜伏したサルテは、マナレーゼの息子アルド(イブ・ルフェーブル)の妻ジャンヌ(イリナ・デミック)と恋仲になる。マナレーゼは、サルテが持ちかけた宝石強奪話に乗り、ニューヨーク・マフィアのボスのトニー・ニコシア(アメデオ・ナザーリ)を仲間に引き入れる。宝石展の展示物を米国への空輸中に飛行機ごと奪うという大胆な計画は、見事成功する。マナレーゼはこの仕事を最後に勇退し、シシリアン 1969 2.jpg故郷シシリー島に帰る予定だったが、サルテとジャンヌの不倫がファミリーの知るところとなる。マナレーゼはサルテをパリに呼んでシシリアン3s.jpg殺害する計画を立てるが、ジャンヌの機転でサルテは危機を逃れる。空港でサルテを待ち伏せたマナレーゼの息子たちは、情報を得たル・ゴフ警部(リノ・ヴァンチュラ)に逮捕される。一人残されたマナレーゼは、宝石強奪の分け前を渡すという口実でサルテを呼び出す―。
   
シシリアン1s.jpgシシリアン 196946.jpg 「ヘッドライト」('55年)、「地下室のメロディー」('63年)のアンリ・ヴェルヌイユ(1920-2002/享年81)監督の1969年作品で、原作は犯罪小説家オーギュスト・ル=ブルトン。アンリ・ヴェルヌイユ監督の「地下室のメロディー」と同じくジャン・ギャバンとアラン・ドロンの共演作で、ジョゼ・ジョヴァンニ監督の「暗黒街のふたり」('73年)でもこの2人は共演しています(フィルム・ノワールばかりだなあ)。

シシリアン91.jpg アラン・ドロンは一匹狼が似合いますが、ジョゼ・ジョヴァンニ監督の「ブーメランのように」('76年)のように純粋に一人主人公と時はいいけれども、ジャン・ギャバンと並ぶと貫禄の差が出てしまい、この二人の組み合わせは意外と難しい(?)。但し、この作品に関しては、元プロレスラーのリノ・ヴァンチュラ(1919-1987)が、出番はそう多くないもののジャン・ギャバンとがっぷり四つに組んでいて、作品全体のバランスが取れているように思いました。リノ・ヴァンチュラに関して言えば、50年代の「死刑台のエレベーター」('58年)シシリアン リノ.jpg、60年代のこの作品、70年代の「ローマに散る」('76年)が代表的な警部役でしょう。数的にはギャング役の方が多いにも関わらず、警部役のイメージが強い俳優です(アラン・ドロンと「冒険者たち」('67年、原作はジョゼ・ジョヴァンニの「生き残った者の掟」)で共演した時は、ドロンと共に宝探しをする中年男の役で、ジョアンナ・シムカスを頂点にアラン・ドロンと三角形の構図を成していて、これはこれで良かった)。

 プロット的にはそれほど凝ったものではなく、と言って悪くもないですが、当時としてはその大胆な手口から話題になったという航空機乗っ取り計画も、特撮シーンなどは今観るとどうしても安っぽい感じでを受けます。やはり、ジャン・ギャバン演じるシシリアン・マフィアのボスを軸に、時に偏狭とも思えるくらい身内のことにかまけるとでも言うか、ファミリーのプライドを重んずるシシリー気質というものを感じ取るとともに、安全や打算よりもプライドと復讐を重んじたために招いた結末の虚しさを、エンニオ・モリコーネの哀愁漂うテーマ曲と共に味わう映画でしょうか(音楽はいい。音楽だけの評価だと★★★★★)。

シシリアン 1969 1_.jpgシシリアン 1969s.jpg 個人的には、マフィアがピンボールゲーム機の製造か販売の事業をしているといのが興味深かったです(ラストでリノ・ヴァンチュラはピンボールをしながらジャン・ギャバンを待っている)。この作品はフランス語版のほかに主演俳優らによる英語吹き替え版もあって、近年わが国でリリースされていたのはDVDもBlu-rayもどういうわけか英語版ばかりでしたが、'14年2月にようやっとフランス語版のBlu-rayがリリースされています('15年12月にも再リリースされた)。やっぱり、フランス語版で観るにこしたことないでしょう。英語版で観るくらいなら、野沢那智と森山周一郎の吹き替えで観た方がまだいいかもしれません。

Le clan des Siciliens.jpg 因みに、映画の中でアラン・ドロンと不倫関係になるイリナ・デミック(1936-2004)は、両親はフランスに移住したロシア人で、当初はパリでクリスチャン・ディオールの店のモデルをしていたのがルポライターに転進、1962年に雑誌社の依頼でノルマンディーで撮影中の映画「史上最大の作戦」('69年/米)のロケ取材に行ったところを製作者に見出され、同作品にてレジスタンスの美人闘士役でデビューしましたが、この「シシリアン」を最後に映画界を引退しています(女優としてはわずか7年しか活動しなかった)。

イリナ・デミック in「史上最大の作戦」('62年/米)/「シシリアン」('69年/仏)
イリナ・デミック 史上最大の作戦.jpg イリナ・デミック シシリアン.jpg
Shishirian (1969)
Shishirian (1969).jpgシシリアン 1969 10s.jpg「シシリアン」●原題:LE CLAN DES SICILIENS/THE SICILLIAN CLAN●制作年:1969年●制作国:フランス●監督:アンリ・ヴェルヌイユ●製作:ジャック・ストラウス●脚本:アンリ・ヴェシシリアン (1970年) (ハヤカワ・ノヴェルズ).jpgルヌイユ/ジョゼ・ジョヴァンニ/ピエール・ペルグリ●撮影:アンリ・ドカエ●音楽:エンニオ・モリコーネ●原作:オーギュスト・ル=ブルトン●時間:124分●出演:ジャン・ギャバン/アラン・ドロン/リノ・ヴァンチュラ/イリナ・デミック/アメデオ・ナザーリ/イブ・ルフェーブル/シドニー・チャップリン●日本公開:1970/04●配給:20世紀フォックス(評価★★★☆)
オーギュスト・ル=ブルトン『シシリアン (1970年) (ハヤカワ・ノヴェルズ)


リノ・ヴァンチュラ in「死刑台のエレベータ」('57年/仏)/「冒険者たち」('67年/仏)
リノ・ヴァンチュラ 死刑台のエレベータ0.jpgリノ・ヴァンチュラ 冒険者たち.jpg

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