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2018年「本屋大賞」の第1位、第2位、第3位作品。個人的評価もその順位通り。

かがみの孤城.jpg かがみの孤城 本屋大賞.jpg  盤上の向日葵.jpg 屍人荘の殺人.jpg
辻村 深月 『かがみの孤城』 柚月 裕子 『盤上の向日葵』 今村 昌弘 『屍人荘の殺人

 2018年「本屋大賞」の第1位が『かがみの孤城』(651.0点)、第2位が『盤上の向日葵』(283.5点)、第3位が『屍人荘の殺人』(255.0点)です。因みに、「週刊文春ミステリーベスト10」(2007年)では、『屍人荘の殺人』が第1位、『盤上の向日葵』が第2位、『かがみの孤城』が第10位、別冊宝島の「このミステリーがすごい!」では『屍人荘の殺人』が第1位、『かがみの孤城』が第8位、『盤上の向日葵』が第9位となっています。『屍人荘の殺人』は、第27回「鮎川哲也賞」受賞作で、探偵小説研究会の推理小説のランキング(以前は東京創元社主催だった)「本格ミステリ・ベスト10」(2018年)でも第1位であり、東野圭吾『容疑者Xの献身』以来13年ぶりの"ミステリランキング3冠達成"、デビュー作では史上初とのことです(この他に、『容疑者Xの献身』も受賞した、本格ミステリ作家クラブが主催する第18回(2018年)「本格ミステリ大賞」も受賞している)。ただし、個人的な評価(好み)としては、最初の「本屋大賞」の順位がしっくりきました。

かがみの孤城6.JPG 学校での居場所をなくし、閉じこもっていたこころの目の前で、ある日突然部屋の鏡が光り始めた。輝く鏡をくぐり抜けた先にあったのは、城のような不思議な建物。そこにはちょうどこころと似た境遇の7人が集められていた。なぜこの7人が、なぜこの場所に―。(『かがみの孤城』)

 ファンタジー系はあまり得意ではないですが、これは良かったです。複数の不登校の中学生の心理描写が丁寧で、そっちの方でリアリティがあったので楽しめました(作者は教育学部出身)。複数の高校生の心理描写が優れた恩田陸氏の吉川英治文学新人賞受賞作で第2回「本屋大賞」受賞作でもある『夜のピクニック』('04年/新潮社)のレベルに匹敵するかそれに近く、複数の大学生たちの心理描に優れた朝井リョウ氏の直木賞受賞作『何者』('12年/新潮社)より上かも。ラストは、それまで伏線はあったのだろうけれども気づかず、そういうことだったのかと唸らされました。『夜のピクニック』も『何者』も映画化されていますが、この作品は仮に映像化するとどんな感じになるのだろうと考えてしまいました(作品のテイストを保ったまま映像化するのは難しいかも)。


盤上の向日葵ド.jpg 埼玉県天木山山中で発見された白骨死体。遺留品である初代菊水月作の名駒を頼りに、叩き上げの刑事・石破と、かつてプロ棋士を志していた新米刑事・佐野のコンビが捜査を開始した。それから四か月、二人は厳冬の山形県天童市に降り立つ。向かう先は、将棋界のみならず、日本中から注目を浴びる竜昇戦の会場だ―。(『盤上の向日葵』)

 『慈雨』('16年/集英社)のような刑事ものなど男っぽい世界を描いて定評のある作者の作品。"将棋で描く『砂の器』ミステリー"と言われ、作者自身も「私の中にあったテーマは将棋界を舞台にした『砂の器』なんです」と述べていますが、犯人の見当は大体ついていて、その容疑者たる天才棋士を二人組の刑事が地道な捜査で追い詰めていくところなどはまさに『砂の器』さながらです。ただし、天才棋士が若き日に師事した元アマ名人の東明重慶は、団鬼六の『真剣師小池重明』で広く知られるようになり「プロ殺し」の異名をもった真剣師・小池重明の面影が重なり、ややそちらの印象に引っ張られた感じも。面白く読めましたが、犯人が殺害した被害者の手に将棋の駒を握らせたことについては、発覚のリスクを超えるほどに強い動機というものが感じられず、星半分マイナスとしました。


屍人荘の殺人_1.jpg 神紅大学ミステリ愛好会の葉村譲と会長の明智恭介は、曰くつきの映画研究部の夏合宿に加わるため、同じ大学の探偵少女、剣崎比留子と共にペンション紫湛荘を訪ねた。合宿一日目の夜、映研のメンバーたちは肝試しに出かけるが、想像しえなかった事態に遭遇し紫湛荘に立て籠もりを余儀なくされる。緊張と混乱の一夜が明け、部員の一人が密室で惨殺死体となって発見される。しかしそれは連続殺人の幕開けに過ぎなかった―。(『屍人荘の殺人』)

 先にも紹介した通り、「週刊文春ミステリー ベスト10」「このミステリーがすごい!」「本格ミステリ・ベスト10」の"ミステリランキング3冠"作ですが、殺人事件が起きた山荘がクローズド・サークルを形成する要因として、山荘の周辺がテロにより突如発生した大量のゾンビで覆われるというシュールな設定に、ちょっとついて行けなかった感じでしょうか。謎解きの部分だけ見ればまずまずで、本格ミステリで周辺状況がやや現実離れしたものであることは往々にしてあることであり、むしろ周辺の環境は"ラノベ"的な感覚で読まれ、ユニークだとして評価されているのかなあ。個人的には、ゾンビたちが、所謂ゾンビ映画に出てくるような典型的なゾンビの特質を有し、登場人物たちもそのことを最初から分かっていて、何らそのことに疑いを抱いていないという、そうした"お約束ごと"が最後まで引っ掛かりました。

 ということで、3つの作品の個人的な評価順位は、『かがみの孤城』、『盤上の向日葵』、『屍人荘の殺人』の順であり、「本屋大賞」の順番と同じになりました。ただし、自分の中では、それぞれにかなり明確な差があります。

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長かった割には物足りない結末。でも、過程において楽しめたからまあいいか。

有栖川 有栖 『女王国の城』.jpg女王国の城.jpg  太陽公園2.JPG 太陽公園(姫路)
女王国の城 (創元クライム・クラブ)』['07年]

 2007 (平成19) 年度「週刊文春ミステリー ベスト10」(国内部門)第1位。2008(平成20)年版「本格ミステリ・ベストテン」第1位。2008(平成20)年・第8回「本格ミステリ大賞」〈小説部門〉受賞作。

 推理小説研究会のメンバー・有栖川有栖(アリス)は、急成長した宗教団体「人類協会」の聖地・神倉へ行ったと思しき部長・江神二郎の様子を知るべく、同級生の有馬麻里亜(マリア)、就職活動中の先輩・望月、織田らと共に同地へ向かい、〈城〉と呼ばれる総本部で江神の安否を確認するものの、思いがけず殺人事件に遭遇、団体に外界との接触を阻まれ、囚われの身となってしまう―。

 『月光ゲーム』『孤島パズル』『双頭の悪魔』に続く15年ぶりの江神二郎シリーズですが、推理小説研究会のメンバーは皆1歳年齢を重ねただけで依然若々しく、単行本2段組500ページ超の大作でありながらも、メンバー達の会話のトーンも、時々挟まれる推理小説談義も変わってないなあと(今回はそれに加えてUFO談義があり、第1の殺人事件が起きるのは全体の3分の1を過ぎてからというのは、ちょっと道草のし過ぎ?)。

 宗教団体とは上手く考えたもので、かなり自由な発想で大掛かりな密室的空間を創り出していて、この宗教団体の幹部らが60年代のSF映画に出てくる異星人のようなパターン化された物言いや行動様式をとるのはご愛嬌として、本格推理としてはそれなりにワクワクさせてくれました。

 但し、立ちはだかる連続殺人事件の不可解な壁を江神二郎がどう崩すかという部分では、独創に満ちたトリックがあるわけでもなく、やや拍子抜けの感じもあり、ついでに過去の未解決の密室殺人事件の謎まで解いてみせるものの、こちらはあまりにも蓋然性を積み重ねた上での謎解きとなっていて、江上さん、あんたには透視能力があるの、と言いたくなってしまいます。

太陽公園.JPG 「本格ミステリ大賞」の受賞と併せて「週刊文春」の「2007ミステリーベスト10」の国内部門第1位にも輝いており、それにこの分厚さだから、それなりの結末を期待したんだけどなあ(後で考えれば御都合主義的なところも目立つ)。
 しかしながら、謎解きの前までは、アクションもあったりし、寄り道も含めて楽しめたし(ということは90%は楽しめたということ?)、個人的評価としては微妙なところですが、まあ、良しとしようか、といったところです。 

 (この小説の「城」に関しては、個人的には、兵庫県姫路市の山中にある「太陽公園」の城を連想した。ここは、社会福祉法人が運営する公園で、園内には、主に美術館的に使われている城のほか、兵馬俑やパリ凱旋門の実物大の模倣建築などがある。観光施設でありながらも、介護福祉施設なども園内にあったりして、ある種コミュニティ的な雰囲気を醸しており、詰まるところ全体の雰囲気は「宗教施設」に極めて近いように思えた。)

「太陽公園」の"城"(上写真下部は城に至るモノレールの軌道の一部)

 【2011年文庫化[創元推理文庫(上・下)]】

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「純愛」というより「偏愛」。直木賞作品としては軽すぎる。

容疑者χの献身.jpg容疑者Xの献身.jpg     容疑者Xの献身 dvd.jpg 容疑者Xの献身 映画.jpg
容疑者Xの献身』['05年/文藝春秋] 「容疑者Xの献身 スタンダード・エディション [DVD]」福山雅治/柴咲コウ

 2005(平成17)年下半期・第134回「直木賞」受賞作。2005 (平成17) 年度「週刊文春ミステリー ベスト10」(国内部門)第1位。2006 (平成18) 年「このミステリーがすごい!」(国内編)第1位。2006(平成18)年版「本格ミステリ・ベストテン」第1位。2006(平成18)年・第6回「本格ミステリ大賞」(小説部門)も受賞。

 以前に水商売をしていて今は弁当屋に勤める子持ち女性・靖子は、自分につきまとう前夫・富樫が自分のアパートに押しかけてきたために思わず絞殺してしまうが、現場に駆けつけたアパートの隣に住む「石神」という高校の数学教師は、「私の論理的思考に任せてください」と言って事件の事後処理を請け負う―。

NUMBERS 天才数学者の事件ファイル.jpg 作者の「物理学者湯川シリーズ」の第3弾で、TVドラマ化されている「ガリレオ」('07年放映開始)を見て海外ドラマ「NUMBERS 天才数学者の事件ファイル」('05年米国放映開始)を想起しましたが、実は、オリジナルである「物理学者湯川シリーズ」の第1弾『探偵ガリレオ』('98年/文藝春秋)の刊行は「NUMBERS」の放映より7年も早い。
 「NUMBERS 天才数学者の事件ファイル」(FOX)

 今回の第3弾では、この「石神」という数学教師が湯川学の大学時代の同窓で、実は天才的な数学者であり、物理学者・湯川学と"論理対決"をすることになるという構図で、敢えて天才数学者を敵役にしたのは、数学者が探偵役である「NUMBERS」を意識したということでもないでしょうけれど。

 さらっと読めて、トリックも奇想天外で、シリーズものの1編としてはまあまあの出来の小品だと思いましたが、これが直木賞作品だと思うと、同じ作者の『秘密』('98年)や『白夜行』('99年)に比べてどう見てもインパクト不足で、ついついケチをつけたくなってしまう...。

 天才と呼ばれる数学者の考えたトリックというのが、こんな危なっかしくて非効率なものなのかとか、警視庁の科学捜査というのはずいぶん手抜きだなあとか、プロットに対する不満もいろいろありますが、個人的には「石神」という人物にあまり共感できないし、それ以前に、その人物像にリアリティが感じられないのが一番の不満な点でした。

 帯に「純愛」とありますが、むしろ「偏愛」と言った方がよく、その心理構造がよく見えない分、作品として軽いものになってしまっている気がしました。

 これが直木賞か...。シリーズものの1品としては、可もなく不可もないといったところですが。
 
容疑者x スチール.jpg 「県庁の星」('06年/東宝)の西谷弘監督によって映画化されましたが、探偵役の物理学者・湯川(福山雅治)の主たる相方が、同窓の草薙刑事ではなく、柴咲コウ演じる部下の女性刑事になっていて、「県庁の星」で西谷監督と相性が良かったのかなと思ったら、テレビドラマ「ガリレオ」からこのパターンになっていたようです(テレビ版を見ていないので知らなかった)。

容疑者Xの献身ド.jpg 原作にない雪山登山シーンとかあって面喰いましたが、数学教師「石上」役の堤真一(本来は二枚目であってはならないのだが)と「靖子」役の松雪泰子は、どちらもベテランらしい手堅い演技で(松雪泰子は好演と言っていいかも)、その分、映画化作品にありがちなことですが、ミステリよりも人情ものの要素が強くなっているように思いました。

容疑者Xの献身 2008フジテレビジョン.jpgYôgisha X no kenshin (2008).jpg 前日ベンチに座っていたはずの浮浪者が翌日消えているのが、同じカメラワークを反復させることで分かり易くなっていますが、浮浪者に対する「石上」の排他的・優越的な考え方(愛する人のためなら浮浪者1人の命なんぞ...という)などは映画では必ずしも充分に説明されてはおらず、そのあたり、一体、親切なのか不親切なのかよく分からない作りでした。

Yôgisha X no kenshin (2008)

「容疑者Xの献身」●制作年:2008年●監督:西谷弘●製作:亀山千広●脚本:福田靖●撮影:山本英夫●音楽:福山雅治/菅野祐悟●原作:東野圭吾「容疑者Xの献身」●時間:1289分●出演:福山雅治/柴咲コウ/堤真一/松雪泰子/北村一輝/ダンカン/長塚圭史/金澤美穂/益岡徹/林泰文/渡辺いっけい/品川祐/真矢みき/リリー・フランキー(友情出演)/八木亜希子/石坂浩二(特別出演)/林剛史/葵/福井博章/高山都/伊藤隆大●公開:2008/10●配給:東宝●最初に観た場所:台シネマメディアージュ.jpgシネマメディアージュ2.jpgシネマメディア-ジュ「容疑者Xの献身」zj.jpeg場・シネマメディアージュ(08-11-01)(評価:★★★) シネマメディアージュ 2000年4月22日アクアシティお台場のメディアージュ1階にオープン。13スクリーン3034席を有するシネマコンプレックス。2017年2月23日閉館

天才数学者の事件ファイル2.jpgNUMBERS 天才数学者の事件ファイル 5 dvd.jpg「NUMBERS~天才数学者の事件ファイル」Numbers (CBS 2005/01~ ) ○日本での放映チャネル:FOX CRIME (2006~)

 【2008年文庫化[文春文庫]】

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作者からの"耳打ち"され度の開きが、名探偵と読者との間で大き過ぎると面白くなくなる。

有栖川 有栖 『乱鴉の島』.jpg乱鴉の島.jpg  『乱鴉の島』['06年/新潮社] 乱鴉の島 (ノベルズ).jpg 『乱鴉の島 (講談社ノベルス)

 2007(平成19)年版「本格ミステリ・ベスト10」第1位作品。

 推理作家・有栖川有栖と犯罪学者・火村英生が休養で訪れたある島は、手違いから目的地と異なる別の島だったことがわかるが、通称・烏島と呼ばれるその孤島には、隠遁している老詩人のもと彼をとりまく様々な人が集まっており、遂には謎のIT長者までヘリコプターで飛来する、そうした中、奇怪な殺人事件が起こり、さらには第2の殺人事件が―。

 『マレー鉄道の謎』('02年/講談社ノベルズ)以来4年ぶりの"火村シリーズ"で、更にはハードカバー版ということで、内容に期待しましたが、所謂クローズド・サークルになっている「孤島ミステリー」で、『マレー鉄道の謎』と舞台背景は異なるものの、第1の殺人事件での疑わしき人物が第2の殺人事件の犠牲者として発見され、どちらの事件が先に起きたのかもよくわからないという進行が『マレー鉄道の謎』と同じではないかと...。同じでも落とし処の違いで大いに楽しめるはずですが、結構スケールダウンと言うか、こじんまりしてしまった感じでした。

 作中に何だか推理小説論みたいなやりとりが多くて(これが帯にあるペダンティックということの1つなのか)、その中で「名探偵は作者にちょっとだけ読者より多く耳打ちされているだけだ」といった内容のクダリがありますが、本作においては読者との"耳打ち"され度の開きが大き過ぎるのではないでしょうか。

 その名探偵こと火村助教授も、犯人の「動機」については作者から"耳打ち"されることなく、「状況証拠」のみで事件を解いていく...というのは、著者が「本格ミステリー」にこだわったためでしょうか。

 老詩人のもとに人々が集まる理由にリアリティが乏しい気がしましたが(アガサ・クリスティの「そして誰もいなくなった」を模しているということについて読者との間に了解が成り立っているという前提か)、一方で、ふてぶてしく登場するIT長者"ヤッシー"というのが、何だかやけに(モデルが特定されそうなぐらい)リアリティがあって、これはこれで却って安直な感じがしてしまいました。

 【2008年ノベルズ版[講談社]/2010年文庫化[新潮文庫]】

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