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主役がダメ。その勝手な演技に悩まされたマキノ省三自身も、この作品を失敗作とみなしていた。

忠魂義烈 実録忠臣蔵 1928.jpg  「実録忠臣蔵」01.jpg
Talking Silents10「実録忠臣蔵」「雷電」 [DVD]」伊井蓉峰(大石内蔵助)
 マキノ省三(1878-1929/50歳没)監督の1928(昭和3)年3月14日公開作。1910(明治43)年)に「忠臣蔵」を監督して以来、幾度となくリメイクし続けた同監督が、50歳を迎えるのを記念して作られたその集大成とも言われた作品「実録忠臣蔵」02.jpg。しかし、撮影終了後の同年3月6日、京都市上京区の牧野本宅で編集中に出火して大量のネガフィルムと牧野本宅が全焼、残存部分が編集されての封切りでした(討入りの場面は、同じキャストによるマキノ雅弘監督の「間者」より挿入)。太平洋戦争の戦禍で多くの日本映画のフィルムが四散消滅する中、松田春翠(1925-1987/62歳没)が発掘し、数本のポジフィルムより編集・復元、1968(昭和43)年、マキノ省三を偲ぶ40年忌と無声映画鑑賞会の10周年記念公開用に再製作されたものです(弁士:松田春翠)。

 忠臣蔵の定番の吉良上野介(市川小文治)が浅野内匠頭(諸口十九)の賄賂が少ないことに怒って、服装のことなどで何かと内匠頭をいたぶる様がじっくり描かれていて、松の廊下の刃傷沙汰まではなかなかいいのではないかと思って観「実録忠臣蔵」03.pngていました。内匠頭に切腹の沙汰が下ったことを告げる早馬が赤穂城へ向かう―と、ここまでが前編なので、前の方が相当に重いとも言えます。

 ところが続く後編、場面が赤穂城に切り替わり、大石内蔵之助(伊井蓉峰)が登場してからがダメで、当初、主役の大石内蔵助には實川延若や松本幸四郎をあてていたのが松竹の妨害で頓挫し、止むなく新派劇の俳優・伊井蓉峰を大石役としたそうですが、演技が時代がかっていて口をへの字に曲げるばかりの下手くそぶり。それにどう見ても大石のカリスマ性とは程遠い"悪役顔"で、「祇園一力茶屋の場」での芸妓らとの遊興シーンで、内匠頭の命日さえ忘れてその日に鍋焼きを食らう様は、本物の"バカ殿"に見えてしまいます(演技が上手いという意味でなく)。

嵐長三郎(嵐寛寿郎)(脇坂淡路守)/片岡千恵蔵(服部市郎右衛門)
「忠魂義烈 実録忠臣蔵」04.jpg 本作に脇坂淡路守(内匠頭に切られた上野介にわざとぶつかって服の袖に血をつけ、「紋所を血で汚すは」と一括、扇で上野介の額を打つ)の役で出演した嵐長三郎(のちの嵐寛寿郎)は、伊井を「うぬぼれ、度がすぎてますわ。ロケで金屏風立てて小便しよるんダ、アホクサイやら腹が立つやら、指差して笑ろうたら付人に見つかって告げ口された」「ここで思い入れあって大石泣くという芝居ダ。ちっとも泣かしまへん。ああ肝芸で心で耐えているんやなと見ていると、キャメラ・パンして離れてからクククーッ、と拳を眼に持っていきよる。写ってへんがな」と酷評し、自身がマキノプロ退社を決意した理由に、伊井の尊大さとそれを許した省三らスタッフの対応にあったと語っています。因みに、この作品にお目附・服部市郎右衛門(四十七士が仇討を成就して泉岳寺行こうとした際に、両国橋で行く手を塞ぎ、行き方を示唆)役で出た片岡千恵蔵も一緒にマキノプロを退所しているので、相当ひどかったのでしょう。

「忠魂義烈 実録忠臣蔵」05.jpg 伊井の勝手な演技に悩まされたマキノ省三自身もこの作品を失敗作とみなしていたらしく、牧野邸火事の際、「『忠臣蔵』は焼けて良かったと」と語ったとされています。代わって省三の妻・知世子が陣頭指揮を執り、残ったフィルムを編集させて、同月14日には公開にこぎつけたとのことです。

マキノ雅弘(大石主税)

 個人的評価は映像だけだと「×」ですが、1920年代の貴重映像であることや、当時18歳のマキノ雅弘が大石主税役で出ていたりする珍しさと、松田春翠の活弁が聴けるのが救いで「△」としました。

[実録忠臣蔵]-s.jpg「忠魂義烈 実録忠臣蔵」図1.jpg「忠魂義烈 実録忠臣蔵」●制作年:1928年●製作総指揮・監督:マキノ(牧野)省三●脚本:山上伊太郎/西条照太郎●撮影:田中十三ほか●時間:80分 / 64分(再編集版)●出演:伊井蓉峰/諸口十九/市川小文治/勝見庸太郎/月形龍之介/中根龍太郎/嵐長三郎(嵐寛寿郎)/片岡千恵蔵/片岡市太郎/杉狂児/中根龍太郎 /マキノ正博/小島陽三/松本時之助/中村東之助/小岩井昇三郎/山本礼三郎/金子新/市川小莚次/松村光男/荒木忍/川田弘道/菊波正之助/秋吉薫 /中田国義/若松文男/静間静之助/梅田五郎/守本専一/大味正徳/斉藤俊平/児島武彦/大谷万六/都賀清司/松尾文人/都賀一司/津村博/尾上松緑/藤井六輔/大国一郎/マキノ正美/児島武彦/嵐冠/染井達郎/松村光男/嵐冠吉郎/原田耕造/大味正徳/柳妻麗三郎/中村東之助/松本熊夫/西郷昇/南部国男/木村猛/森清/大谷鬼若/橘正明/嵐長三郎/星月英之助/矢野武夫/市川小文治/豊島龍平/小岩井昇三郎/東郷久義/佐久間八郎/英まさる/坂本二郎/沢村錦之助/武井龍三/天野刃一/八雲燕之助/鈴木京平/市川谷五郎/川島清/藤岡正義/牧光郎/有村四郎/小金井勝/松坂進/市原義雄/マキノ登六/久賀龍三郎/潮龍二/マキノ梅太郎/大谷万六/徳川良之助/守本専/荒尾静一/高山久/嵐冠三郎/尾上延三郎/玉木悦子/花岡百合子/石川新水/マキノ智子/松浦築枝/渡辺綾子/住ノ江田鶴子/三保松子/河上君江/水谷蘭子/岡島艶子/鈴木澄子/大林梅子/五十川鈴子/都賀静子/広田昴/玉木潤一郎/大岡怪童/大国一郎●公開: 1928/03●配給:マキノキネマ(評価:★★★)

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名場面にフォーカスしてじっくり撮るやり方は、重厚感を損なわずに成功している。

忠臣蔵 天の巻・地の巻 vhs.jpg 忠臣蔵 天の巻 地の巻3 - コピー.jpg 忠臣蔵 天の巻・地の巻 1938.jpg 忠臣蔵 天の巻 地の巻  .jpg
「忠臣蔵 天の巻 地の巻」VHS/「忠臣蔵/天の巻,地の巻 [VHS]」「忠臣蔵「天の巻」「地の巻」(総集編) [DVD]

山本嘉一(吉良上野介)/嵐寛寿郎(脇坂淡路守)/片岡千恵蔵(浅野内匠頭)/阪東妻三郎(大石内蔵助)
忠臣蔵 天の巻・地の巻 01yamamoto .jpg忠臣蔵 天の巻 地の巻 arasi .jpg忠臣蔵 天の巻・地の巻 02kataoka.jpg忠臣蔵 天の巻・地の巻 bandou.jpg 元禄14年、勅使饗応役に任命された赤穂藩主・浅野内匠頭(片岡千恵蔵)は、指南役の吉良上野介(山本嘉一)の度重なる嫌がらせに堪忍袋の緒が切れ、江戸城中の松の廊下で吉良に斬りつけるという刃傷沙汰に及ぶ忠臣蔵・天の巻・地の巻52.jpg。内匠頭は切腹、浅野家は断絶を命じられ、大石内蔵助(阪東妻三郎)はじめ家臣たちは城を明け渡す。浪士となった彼らは、敵や世間の目を欺きながら、仇討ちの機会を窺う。遂に翌15年12月14日、吉良邸への討ち入りを決行す―。

忠臣蔵 天の巻 地の巻3.jpg 1938年公開作。日本映画の父と謳われたマキノ省三(1878-1929/享年50)が1928年に畢生の大作として制作した「忠魂義烈 実録忠臣蔵」('28年)がフィルム焼失により不完全形のままの上映となり、翌年この世を去ったその省三の10周忌で制作された阪東妻三郎・片岡千恵蔵・嵐寛寿郎ら時代劇スター出演による大作。監督が「天の巻」がマキノ正博、「地の巻」が池田富保となっているほか、脚本、音楽、撮影も「天の巻」と「地の巻」でダブルスタッフになっているのは、マキノ省三ゆかりの映画人のチームワークによる作品であることの表れであるかと思います。 

忠臣蔵1938 スチル.jpg ストーリーがオーソッドクスで、それゆえに「決定版」とか「ベストオブ忠臣蔵映画」などとも言われる作品です。特徴的なのは、ストーリーを追いながらも、名場面はあたかも歌舞伎のようにじっくり撮っている点で、配役も、主役の阪東妻三郎は大石内蔵助のみを演じていますが、同じく主役級の片岡千恵蔵が浅野内匠頭と立花左近、嵐寛寿郎が脇坂淡路守と清水一角、月形龍之介が原惣右衛門と小林平八郎というようにあとの主要な10人の俳優は一人二役であり、これも歌舞伎の手法を模しているのかもしれません。嵐寛寿郎は血で家紋を汚した吉良上野介を打ち据えた浅野家シンパの播磨龍野藩主・脇坂淡路守(嵐寛寿郎は「忠魂義烈 実録忠臣蔵」でもこの役を演じている)と二刀流の剣豪で討ち入りで亡くなった吉良家の用心棒の一人・清水一角の両方を演じ、月形龍之介に至っては討ち入った四十七士の一人(原惣右衛門)と討ち入られて奮戦しながらも亡くなった吉良家家臣の一人(小林平八郎)の両方を演じていることになります。

忠臣蔵1938sutiru .jpg 現在残っているプリントは、昭和31年12月12日再公開時のもので、初公開時19巻だったものが12巻となっているため、本作を「総集編」とも呼びますが、大河ドラマの年末「総集編」ほどの端折り様ではないですが、明らかにあってもよさそうな場面が無いのがやや残念。そんな中、印象に残るのは、後半「地の巻」の立花左近のエピソードでしょうか。

片岡千恵蔵(立花左近、二役)/阪東妻三郎(大石内蔵助)
忠臣蔵・天の巻・地の巻 kataoka たいばな  .jpg忠臣蔵・天の巻・地の巻 bandou .jpg 討ち入り決行を決意した内蔵助がいよいよ江戸へ下るとき、武器を輸送する際に関所で咎められないよう、立花左近の名を語って虎の尾を踏む思いで道中行くも、本物の立花左近がやはり品物を輸送中で、二組は東海道・鳴海宿で偶々同宿になってしまい、しかし立花左近は内蔵助たちを主君の仇討ちをせんとする赤穂浪士と察して、自分の方が偽物だと言って本物の身分証(道中手形)を偽物だからそちらで破棄してくれと言って渡すという、所謂「大石東下り」の段です。

忠臣蔵1938 suti-ru.jpg忠臣蔵 天の巻 地の巻9.jpg これを阪東妻三郎の大石内蔵助と片岡千恵蔵の立花左近が差しの演技で演じていて(内蔵助の家臣らは部屋の外に密かに待機し思わぬ展開に涙を流す)、互いに貫禄充分です(片岡千恵蔵は前半の浅野内匠頭よりも後半のこの立花左近の方が似合っている)。手形を見せろと言われて阪妻・内蔵助が差し出したものは実は白紙で、これを黙認する千恵蔵・立花左近という図は、歌舞伎の「勧進帳」における武蔵坊弁慶と富樫左衛門の図と同じで、この時BGMで流れるのも「勧進帳」です。 

 立花左近は「実録忠臣蔵」('21年)でマキノ省三監督がこしらえた架空キャラクターで、モデルは垣見五郎兵衛という人物であり、他の「忠臣蔵映画」では垣見五郎兵衛の名で出てくることも多いですが、但し、実在した垣見五郎兵衛は大石内蔵助とは鉢合わせするどころか、実際には会ってもいません。「勧進帳」の要素を「忠臣蔵」に取り込んだのでしょう。

忠臣蔵1938 .jpg もう1つの見せ場は、ほぼそれに続く、浅野長矩の妻・瑤泉院(星玲子)と阪妻・内蔵助の遣り取りで(所謂「南部坂雪の別れ」の段)、京都で放蕩生活をしてきた内蔵助を瑤泉院は吉良方を欺くための所為であろうと問うたのに対し、内蔵助はこれを頑なに否定し、討ち入りは諦めたと言ったため、瑤泉院が怒ってしまうというもの。内蔵助は戸田の局(沢村貞子)にある巻物を託して辞去しますが、吉良の間者である腰元(大倉千代子)がこれを盗み出し、それが見つかって取り押さえられて、取り返した巻物は戸田の局が瑤泉院に届けるが、内蔵助への怒りが収まらない瑤泉院はそれを投げつける―すると、巻物の紐がほどけて現れたのは内蔵助をはじめとする浪士たちの血判状だったというもの。叩きつけられた巻物がほどけて転がっていき、それが血判状であることが明らかになるという見せ方が旨いと思いました(このパターン、後の「忠臣蔵」映画やテレビドラマで何度も踏襲された)。

 ストーリーは大体周知の如くであるためテンポよく進め、名場面にフォーカスしてそこはじっくり撮るというやり方ですが、そうしたやり方は、この作品においては重厚感を損なうことなく成功しているように思います。後の忠臣蔵映画に見られる傾向のように、定番以外のエピソードを盛り込み過ぎていないのもいいです。ただ、最後の討ち入りに至るまでにもう少し定番エピソードがあったはずで、やはり「総集編」になってしまっていることが惜しまれます。

 因みに、1956年公開の東映創立5周年記念作品、松田定次監督の「赤穗浪士 天の巻・地の巻」(東映)は大佛次郎の原作小説『赤穗浪士』を新藤兼人が脚色したもので、市川右太衛門の大石内蔵助、片岡千恵蔵の立花左近のほか、大友柳太朗が赤穂浪士の動向を探る架空の堀田隼人という浪人を演じていて、これは大佛次郎の原作オリジナルキャラクター。同じく松田定次監督による1961年の東映創立10周年記念作品「赤穂浪士」(東映)も大佛次郎の原作をもとにしており、脚本は小国英雄、片岡千恵蔵が大石内蔵助、大河内傳次郎が立花左近、市川右太衛門が干坂兵部、そしてここでも大友柳太朗が堀田隼人を演じています。

大倉千代子.jpg また、この映画で吉良の間者の腰元を演じた大倉千代子は、同年の池田富保監督「赤垣源蔵(忠臣蔵赤垣源蔵討入り前夜)」(1938/11 日活京都)では、赤垣源蔵の兄の家の女中おすぎ役で登場し、赤垣源蔵役の坂東妻三郎とのあどけなくも絶妙の遣り取りを見せてています。

大倉千代子
 
 
 
「忠臣蔵 天の巻・地の巻」封切時の新京極「帝国館」前の盛況(NFC Digital Gallery)
新京極 帝国館(1938年).jpg「忠臣蔵 天の巻・地の巻(総集編)」●制作年:1938年●監督:マキノ正博(天の巻)/池田富保(地の巻)●製作:根岸寛一/藤田平二●脚本:山上伊太郎(天の巻)/滝川紅葉(地の巻)●撮影:石本秀雄(天の巻)/谷本精史(地の巻)●音楽:西梧郎(天の巻)/白木義信(地の巻)●時間:102分(現存)●出演:阪東妻三郎/片岡千恵蔵/嵐寛寿郎/小林平八郎/尾上菊太郎/澤村國太郎/沢田清/河部五郎/市川百々之助/原健作/香川良介/志村喬/市川小文治/団徳麿/磯川勝彦/市川正二郎/瀬川路三郎/田村邦男/葉山富之輔/尾上桃華/尾上華丈/楠栄三郎/島田照夫/仁礼功太郎/石川秀道/藤川三之祐/久米譲/林誠之助/阪東国太郎/大崎史郎/若松文男/志茂山剛/近松龍太郎/市川猿昇/小池柳星/沢村寿三郎/轟夕起子/原駒子/大倉千代子/中野かほる/衣笠淳子/比良多恵子/香住佐代子/小松みどり/滝沢静子/小杉勇/江川宇礼雄/山本嘉一/杉狂児/滝口新太郎/高木永二/北龍二/広瀬恒美/見明凡太朗/山本礼三郎/吉谷久雄/星ひかる/吉井莞象/花柳小菊/忠臣蔵 天の巻・地の巻 sawamura .jpg忠臣蔵 天の巻・地の巻 志村.jpg忠臣蔵・天の巻・地の巻 hoshi.jpg黒田記代/村田知栄子/星玲子/沢村貞子/近松里子/悦ちゃん/宗春太郎/市川小太夫●公開:1938/03/31●配給:日活京都(評価:★★★☆)
澤村國太郎(片岡源五右衛門 )/志村喬(安井彦右衛門)/星玲子(瑤泉院)

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嵐寛寿郎版「鞍馬天狗」として、個人的には原点的作品。

鞍馬天狗 角兵衛獅子2.png鞍馬天狗 角兵衛獅子 [VHS].jpg 鞍馬天狗 角兵衛獅子の巻.jpg 嵐 寛寿郎
鞍馬天狗 角兵衛獅子 [VHS]」1938(昭和13)年日活版「鞍馬天狗」 

鞍馬天狗 角兵衛獅子3.png 節分祭で賑わう壬生寺の境内の人波の中、子供角兵衛獅子の杉作(宗春太郎)と新吉(旗桃太郎)は財布を落としてしまう。角兵衛獅子の元締めで御用聞き(岡っ引き)隼の長七(瀬川路三郎)の所へ戻れば厳しい折檻を受けるのは明らかで、松月院の寺門の前で途方に暮れていると、通りがかった覆面の侍が二人に一両を恵んでくれた。子供達のその金を見た長七は子供達を問い詰め、その松月院の和尚(藤川三之祐)の所に居る倉田典膳を名乗る侍こそ、かねがね新撰組の近藤勇(河部五郎)、土方歳三(尾上華丈)らから居所を探るよう言われていた鞍馬天狗(嵐寛寿郎)だと確信する。長七はこれを近藤らに告げ、一味は松月院を襲撃する。敵をかわし、炎に包まれた松月院から脱出した天狗は、杉作と新吉を西郷吉之助(志村喬)の居る薩摩屋敷へ預ける。しかし子供達は長七らに捕らえられ、大坂城代屋敷の牢に入れられる。折しも大坂の浪士の手入れが迫っており、天狗は子供達を救うべく、また、浪士の人別帳を奪うべく、罠と知りながら大坂城代屋敷へ乗り込む―。

 松田定次監督の日活入社第1作で(マキノ正博と共同監督)、嵐寛寿郎の日活入社第1作でもあります。1938(昭和13)年に「鞍馬天狗」のタイトルで公開され、戦後「鞍馬天狗 角兵衛獅子の巻」と改題されています。

鞍馬天狗〈1〉角兵衛獅子L.jpg 大佛次郎(1897-1973)原作の「鞍馬天狗」の映画版は、1924(大正13)年の實川延笑主演の「女人地獄」(フィルム現存せず)に始まり、1965(昭和40)年の市川雷蔵主演の「新 鞍馬天狗 五条坂の決闘」まで延べ60本近く製作されています。その間、最も多く鞍馬天狗を演じたのが嵐寛寿郎(1902-1980)であり、嵐寛寿郎本人によると46本の鞍馬天狗映画に出演したとのこと。手元の資料で見るとその内分かっているのは40作で、この作品は嵐寛寿郎のシリーズを全40作とした場合の第18作になります(同じ俳優が主演のシリーズの本数としては、「男はつらいよ」(1969~95年/松竹)の全48作に抜かれるまで日本映画の最多記録だった)。

鞍馬天狗〈1〉角兵衛獅子 (小学館文庫―時代・歴史傑作シリーズ)

 大佛次郎の原作シリーズ中最も人気が高かったのが、少年向けの作品として「少年倶楽部」1927(昭和2)年3月号~ 1928(昭和3)年5月号に連載された「角兵衛獅子」であり、角兵衛獅子は越後獅子とも言い、小さな獅子頭(ししがしら)を被って曲芸を行なう大道芸の少年のことです。嵐寛寿郎の映画デビュー作も「角兵衛獅子」を原作とした山口哲平監督によるマキノ版「鞍馬天狗異聞 角兵衛獅子」('27年)であり(現存せず)、アラカン(この時の芸名は嵐長三郎)は撮る前からこの作品のヒットを確信していたと後に語っています。そのデビュー作からこの「鞍馬天狗 角兵衛獅子の巻('38年/日活)の前までに少なくとも17作の鞍馬天狗映画に出演していて、この後にも、1951年に松竹版「鞍馬天狗 角兵衛獅子」が大曾根辰夫監督、嵐寛寿郎主演で作られるなど、1956年までに22作の鞍馬天狗映画に出ています。

 その1951年松竹版「鞍馬天狗 角兵衛獅子」は、当時14歳の美空ひばり(1937-89)が杉作少年を演じて人気を博し、美空ひばりは続く大曾根辰夫監督、嵐寛寿郎主演の「鞍馬天狗 鞍馬の火祭り」('51年/松竹)、「鞍馬天狗 天狗廻状」('52年/松竹)にも杉作役で出演しています(角兵衛獅子は美空ひばりのお蔭で一気に知名度が増したという)。個人的には、美空ひばりも悪くないですが、やや男の子には見え難いというのはあります。その点、この1938年日活版は男の子の演技もまずまずで、全体的にも自然な印象を受けます。

原駒子.jpg また、鞍馬天狗のことを仇だと誤解して新撰組の手先になって天狗を付け狙うものの、天狗に命を救われたことで最後は天狗に惹かれていく女性(この作品では"暗闇のお兼")を原駒子(1910-68)が演じていて(当時28歳)、これも雰囲気があって悪くなかったです。鞍馬天狗異聞 角兵衛獅子 .jpg1951年松竹版ではこの女性に相当する役("礫のお喜代")を山田五十鈴(1917-2012)が演じていますが、14歳の美空ひばり演じる杉作が34歳の山田五十鈴に天狗との関係において嫉妬心を覚える場面があります(あくまでも少年としての嫉妬心として描かれているが、もともと美空ひばり自体が若干"おませさん"に見えるため、そうした原作にはないニュアンスを盛り込んだのではないか)。

1951年松竹版「鞍馬天狗 角兵衛獅子」(大曾根辰夫監督)
山田五十鈴/嵐寛寿郎/美空ひばり

1928年嵐寛寿郎プロダクション版「鞍馬天狗」(山口哲平監督)
『鞍馬天狗』   1928年作品.jpg 嵐寛寿郎の鞍馬天狗は、この1938年日活版の時に既にスタイルは完成されているように見えますが(刀を突きつけるだけで相手を後ずさりさせる迫力はピカイチ)、その後のシリーズの経過とともに、嵐寛寿郎の天狗も少しずつ変わってきているのも確かです。では、最初はどうだったのか。現在観ることの出来る最も古い「鞍馬天狗」は1928年の嵐寛寿郎プロダクションの第1作「鞍馬天狗」ですが(この頃はまだ無声映画)、天狗や杉作などはどのように描かれているのでしょうか。DVD化されていますが未見であり、個人的には今の時点ではこの1938年日活版が嵐寛寿郎版「鞍馬天狗」の原点的作品です。

 薩長など勤皇は善で、それに対する新撰組などの佐幕は悪という単純な割り切り方で、逸失部分が7分間ありちょっと話が飛んだかと思われる部分もあったりしますが混乱することはありません。志村喬演じる西郷吉之助(隆盛)などもトリビアな見所かもしれません(出てきた時は一瞬"悪役"かと思った)。

鞍馬天狗 角兵衛獅子の巻1938.jpg「鞍馬天狗 角兵衛獅子の巻」●制作年:1938年●監督:マキノ正博/松田定次●脚本:比佐芳武●撮影:宮川一夫/松井鴻●音楽:高橋半●原作:大仏次郎●時間:66分(現存53分)●出演:嵐寛寿郎/原健作/瀬川路三郎/香川良介/藤川三之祐/尾上華丈/志村喬/団徳麿/阪東国太郎/宗春太郎(香川良介の息子)/旗桃太郎/深水藤子/原駒子/沢村国太郎/河部五郎●公開:1938/03/15●配給:日活京都(評価:★★★☆) 嵐寛寿郎・原駒子 in「鞍馬天狗 角兵衛獅子の巻」('38年)
『韋駄天数右衛門』.jpg

原駒子 in「韋駄天数右衛門」('33年) with 羅門光三郎

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「戦意高揚」よりも「海戦スぺクタル」としてのインパクトが大きかったのではないか。

かくて神風は吹くvhs.jpg かくて神風は吹く dvd.jpg かくて神風は吹く1944.jpg 阪東 妻三郎
かくて神風は吹く [VHS]」「大映特撮DVDコレクション 38号 (かくて神風は吹く 1944年) [分冊百科] (DVD付)

かくて神風は吹く004.jpgかくて神風は吹く19.JPG 世界史上最大の帝国・元は支那・満州・朝鮮を攻略、元主・忽必烈(クビライ)はついに日本征服を企てた。文永11年秋、壱岐・對馬に上陸した元軍は九州博多に来襲するが、「神州男児」の勇戦によって撃退される。しかし、元の野望はなおも衰えず、再度大軍を送り込み、日本に降伏を迫ろうとしていた。これに対し、時の執権・北条時宗(片岡千恵蔵)は、元の使者を一人残らず斬首してしまう。弘安4年春、ついに元軍は再来した。瀬戸内海を治める武将・河野通有(阪東妻三郎)と忽那重義(嵐寛寿郎)はかねてより犬猿の仲であったが、この国難に際して共に力を合わせて元軍と闘うこととなる。元軍は壱岐・對馬を攻略するが、その勢いで攻め入った博多湾で奇跡の神風が吹き荒れ、艦隊ごと全滅する―。

かくて神風は吹く title.jpg 1944(昭和19)年11月公開の丸根賛太郎(1914-1994/享年80)監督作。情報局国民映画で、陸軍省、海軍省などが後援していることからも窺えるように、"元寇"を素材とした完全な戦意高揚映画です(原作は菊池寛)。但し、戦意高揚と言っても、1944年と言えば日本の敗戦がほぼ決定的になった年であり、当時の国民はこの映画でどれくらい"戦意高揚"させられたのでしょうか。この映画が封切られた11月23日の翌日には、アメリカ軍のB29による東京爆撃が始まっています(12月には東京爆撃本格化のため、映画館は日没後閉鎖されることになった)。

 こうした日本軍が劣勢な状況下であるため、せめて神風を銀幕上で吹かせて国民の士気を鼓舞しようという意図で企画されたものと思われますが、皮肉なことに、もう神風が吹く事くらいにしか望みを託せないところに、逆に日本にとっての絶望的な戦況が見てとれます。この作品は当初、抒情的な作風や日常的なリアリズムで知られる五所平之助(1902-1981/享年79)監督によって撮られることになっていましたが、こうした作品を五所平之助に撮らせること自体に無理があり、五所平之助がシナリオ段階で、対立する河野家と忽那家のそれぞれの若者(原健作)と娘(四元百々生)の"ロメオとジュリエット"風の悲恋物語に比重を置き過ぎたため、このままでは戦意高揚映画にならないということで、軍からのクレームで丸根賛太郎監督に代えられたようです(その丸根賛太郎だって、どちらかと言うとこの作品の翌年に撮った「狐の呉れた赤ん坊」('45年/大映京都)のような人情物でより力を発揮する監督であるようにも思うのだが)。

かくて神風は吹く18.JPG 阪東妻三郎(河野通有)、嵐寛寿郎(忽那重義)、片岡千恵蔵(北条時宗)、市川右太衛門(日蓮上人)の四大スターが顔を揃えていますが、山根貞夫氏によると、1942年に日活と新興キネマが戦時統合されて、日活から阪東妻三郎、嵐寛寿郎、片岡千恵蔵、新興キネマから市川右太衛門がそのまま大映に移って来たことが、四大スター共演の背景としてあるとのこと。但し、物語のメインとなるのは、河野通有役の阪東妻三郎と忽那重義役の嵐寛寿郎です。2人が向かい合って会話するシーンは、大時代的な口調ではありますが(大物スター同士ということもあって)なかなかのものでした。それに比べると、北条時宗役の片岡千恵蔵は、執権という役柄上より一層に大時代的になってしまい、日蓮上人役の市川右太衛門に至っては少ない出番が説教シーンばかりと、ややステレオタイプの演技を強いられてしまった印象もあります。

かくて神風が吹く65.jpgかくて神風が吹く80.jpg 特殊撮影は東宝特撮部(円谷英二)が担当しており(撮影は宮川一夫)、迫力ある仕上がりになっていて、ラストの大暴雨風シーンなどはなかなかの出来だと思います(「ゴジラ」('54年/東宝)ではないが、モノクロ映画であるために逆に迫力が増すということもあるかと思う)。その部分においては今観ても結構楽しめるし、当時としても興行的にはヒットしたようですが、「戦意高揚」よりも「海戦スぺクタル劇」としての方のインパクトが大きかったのではないでしょうか。

かくて神風は吹くe.jpgかくて神風は吹く0.jpg「かくて神風は吹く」●制作年:1944年●監督:丸根賛太郎●製作:大日本映画製作株式会社●企画:情報局●後援:陸軍省/海軍省●脚本:松田伊之助/館岡謙之助●撮影:宮川一夫/松井鴻●音楽:宮原偵次/深井史郎●特撮 東宝特撮部・円谷英二●原作:菊池寛●時間:94分●出演:嵐寛寿郎/阪東妻三郎/片岡千恵蔵/市川右太衛門/月形龍之介/羅門光三郎/光岡龍三郎/原健作/嵐徳三郎/四元百々生/荒木忍/常盤操子/香川良介/津島慶一郎/山口勇/多岐征二/葛木香一/井原史郎/原聖四/高山徳右衛門/嵐徳三郎/大井正夫●公開:1944/11●配給:大映京都(評価:★★★)

日蓮と蒙古大襲来.jpg日蓮と蒙古大襲来8.jpg「日蓮と蒙古大襲来」('58年/大映)監督:渡辺邦男、主演:長谷川一夫

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水中シーンもある、戦時中の異色の"水泳時代劇"であり、嵐寛寿郎の大映時代の代表作でもある。

河童大将 v.jpg  河童大将(1944年)2.jpg 羅門光三郎/嵐寛寿郎
「河童大将」スチール集
河童大将 スチル.jpg 海と川に囲まれた尼子氏の小城は、毛利軍に囲まれいつ攻め込まれ落城してもおかしくない状態にある。尼子氏の荒浪碇(いかり)之助(嵐寛寿郎)と早川鮎之助(羅門光三郎)は良きライバル関係にあり、敵の様子を探るため敵城への潜入を命じられるが、2人共敵に正体を見破られ、鮎之助は逃れるも、碇之助は捕らわれる。拷問のうえ緊縛されたまま水に投げ込まれた碇之助は、得意の泳法で何とか生還し、敵方の陣形を城主に伝える手柄を立て、足軽頭に出世する。新たに与えられた50人の配下と共に日夜泳法の訓練をする彼に、周囲は嘲笑するが、直属の家老だけは、周囲を水に囲まれているのだから、泳法に長けているのは重要と理解を示す。碇之助と鮎之助の幼馴染で家老の娘・小百合(橘公子)は、婚期を控え2人のライバルの狭間で気持ちが揺らいでいる。鮎之助は、敵城潜入の際に碇之助を置いて逃げたことでの周囲への負い目から、水練大会の競泳で扇り足(平泳ぎ)の日本式泳法の碇之助に対し、早抜き手(クロール)で碇之助に勝利して名誉挽回するも、鮎之助は、本当に必要な泳ぎはいかに体力を温存して水中の中にい続けることができるかだとして気に留めていない。しかし、そんな碇之助に煮え切らない思いの小百合の父は、娘の気持ちを無視して小百合の鮎之助への嫁入りを決めてしまう。やがて、敵陣からの攻勢がかかり、これに対処するには奇襲戦法しかないと、日頃鍛えた河童隊を二隊に分け、湖水を泳いで毛利軍を奇襲することに。碇之助の隊は平泳ぎ、鮎之助の隊はクロール似の早抜き手で進む。鮎之助の隊は、泳ぎは早いが水飛沫(しぶき)で敵に発見され攻撃を被る。一方、碇之助の隊は、泳ぎは遅いが静かに進むため発見されず、奇襲攻撃は成功して味方を勝利に導くとともに、手負いの鮎之助を救出する―。

 戦国時代を舞台に、水泳により水を渡り敵に奇襲をかける足軽頭の活躍を描く、水中シーンなども見られる戦時中の異色の"水泳時代劇"。1944年8月公開ということもあって、クロール隊が役に立たず、平泳ぎ(日本式泳法)隊が勝利に貢献するという設定は、日本が米英より優れていることを強調している映画とも考えられます。それにしても、毛利に攻め込まれ孤立状態となった尼子氏の城が舞台になっていることや、碇之助の、「勝とうと思えばいつでも勝てる」「負けて勝っているのだ」というセリフが、逆に当時日本軍の戦況の厳しさを物語っているようでもあり、"国策映画"としてはどうかなとも。

 山中貞夫氏によれば、"国民皆泳運動"というのが当時あって、その宣伝にも一役買っていたのではないかとのことですが(そうか、それが"水泳時代劇"が生まれるきっかけだったのか)、山中氏も、負けつつある国が奇襲戦法で勝つというストーリーは、日本人の願望を映し出しているようでもあるとしています。

 主人公・荒浪碇之助を演じた嵐寛寿郎(1902-1980)は、当時41歳。裸になるとがりがりで、まずまずのガタイの羅門光三郎(1901-没年不詳)に比べ見劣りしますが、水の中に入るとすいすいと素晴らしい泳ぎをみせます。また、剣戟においてもすごい眼光と俊敏な身のこなしでその往年のスターぶりを見せ、この作品は「海峡の風雲児」('43年/大映)と並んで彼の大映時代の代表作です。準主役の早川鮎之助を演じた羅門光三郎は戦後すぐに脇役に回りますが、嵐寛寿郎も大映から移籍した新東宝の倒産(1961年)後はどこにも所属しなかったため、晩年は殆ど脇役でした(その中でも、「網走番外地」('65年/東映)や「神々の深き欲望」('68年/日活)などでの演技が印象深い)。

山中鹿之介f.jpg 原健作演じる山中鹿之助(山中幸盛、1545?-1578)や荒木忍演じる横道兵庫助(横道秀綱、生年不詳-1570)をはじめ、吉川将監、尼子勝久あたりまでは歴史上実在した人物であり、山中鹿之助は「尼子十勇士」の筆頭であり、尼子家再興のために「願わくば我に七難八苦(艱難辛苦)を与えたまえ」と三日月に祈った逸話で知られ、横道兵庫助も「尼子十勇士」の1人とされていますが、この「尼子十勇士」の中に「荒浪碇介」「早川鮎介」などがいます。但し、このあたりになると「真田十勇士」のようなもので、架空の人物の公算が高いようです。「落ちそうで落ちない城」を舞台にしたものでは、忍城(おしじょう)を舞台にした和田竜原作「のぼう城」('12年/東宝)があり、モチーフ的には通じるものがあるように思いました。

 見た目、それほど"国策映画"っぽくないのは、娯楽映画であることに加え、主人公・荒浪碇之助の「友情」と「恋愛」の板挟みが描かれているせいでもあるかと思います。「友情」はともかく、「恋愛」の方は戦時下で基本的には"御法度"だったと思われますが、「時代劇」という背景と「水練」という国策運動に繋がるネタのもと、上手くお話の中に織り込んでしまったところに、制作陣のしたたかさが感じられました。

「河童大将」●制作年:1944年●監督:松田定次●製作:山口哲平●脚本:八尋不二●撮影:川崎新太郎●音楽:佐野顕雄●時間:64分●出演:嵐寛寿郎/羅門光三郎/橘公子/藤原鶏太/原健作/山口勇/荒木忍/嵐徳三郎/環歌子●公開:1944/08●配給:大映(京都)(評価:★★★☆)

嵐 寛寿郎 in「網走番外地」('65年/東映)/「神々の深き欲望」('68年/日活)網走番外地 嵐寛寿郎.jpg 神々の深き欲望.jpg

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予算カットで白黒映画になったことで、却ってシリーズの中で際立っている。

網走番外地dvd.jpg 網走番外地 南原宏治 高倉健4.jpg 網走番外地 南原宏治 高倉健6.jpg
網走番外地 [DVD]」 南原宏治/高倉健

網走番外地g_1.jpg網走番外地 title.jpg 冬の網走駅で汽車を降ろされた男たちが、トラックに乗せられ網走刑務所へ護送される。受刑者の橘真一(高倉健)もその一人だった。入所後、雑居房に入網走番外地s.jpgれられた橘は、殺人鬼"鬼寅"の義兄弟と称して幅を利かせていた牢名主の依田(安部徹)や同じ新入りの権田(南原宏治)と衝突、喧嘩の責任をとって懲罰房に送られる。一人になった橘は、幼かった自分と妹を飢えさせないために母(風見章子)が不幸な再婚をしたこと、養父の横暴に耐え切れず母と妹(宗方奈美)を残して家を出たことを回想する。都会へ網走番外地acb.jpg出てやくざとなった彼は、渡世の義理で人を斬り3年の刑期を宣告され網走刑務所に送られたのだった。入所から半年が過ぎ、真面目に労役に汗を流す橘を囚人たちは点数稼網走番外地 丹波哲郎.pngぎとして冷ややかに見る。仲間への意地から騒動を起こし再び懲罰房へ行かされる橘に対し、保護司の妻木(丹波哲郎)だけは親身になって相談に乗る。故郷の妹からの手紙によると、母が死の床にあり早く戻ってほしいという内容網走番外地Q.jpgであり、同情した妻木は仮釈放の手続きを約束してくれる。一方、雑居房では依田、権田らが脱走計画を練っており、密告すれば渡世の仁義を踏みにじるイヌとされ、巻き込まれると仮釈放が消える橘は苦悩する。この脱走を直前になって失敗させたのは同じ雑居房にいた阿久田老人(嵐寛網走番外地  .jpg寿郎)であり、彼の正体こそ"鬼寅"であり、鬼寅は橘の苦境を見抜いて彼を救ったのだった。翌日、森林伐採の労役でトラックに乗せられた依田らは無蓋の荷台から飛び降りる。権田と手錠でつながれた橘も彼と一緒に飛び出して脱獄囚とされてしまう。報告を聞いた妻木は、やっともらった橘の仮釈放認可の書類を破り捨て二人を追う―。

石井輝男.jpg網走番外地_04.jpg 石井輝男(1924-2005/享年81)監督による作品で、'65年公開当初は小沢茂弘監督の任侠映画「関東流れ者」(鶴田浩二主演)の添え物映画という位置づけであり、映画業界でカラーフィルムによる「総天然色」が主流になりつつあった時代に、「主役が脱獄囚であり、ヒロインにあたる女優が登場せず、ラブロマンスもないため興収を見込めない(だから当たりそうもない)」という理由で、石井輝男監督らが北海道のロケハンより戻ってきた際に「予算はカット、添え物の白黒映画にする」と会社(東映)から言われたそうです。何とかカラーで撮らせてくれと執拗に迫った高倉健に対し、大川博社長(東映の事実上の創業者)は「文句があるなら主役を梅宮辰夫に変えるぞ」と言ったそうです。しかしながら映画はヒットし、高倉健は一躍スターダムへ。石井輝男=高倉健のコンビで、以下、シリーズ第10作まで作られました。

 主人公が長崎出身であるということもあり、シリーズの中で舞台を南国に移したりしていますが、さすがにシリーズ最後の方は勢いが落ちてきたでしょうか(石井輝男監督自身、シリーズの性格上観客のニーズにワンパターンで応えるような映画作りに飽きがきていたと言われる)。第4作「北海篇」や第7作「大雪原の対決」のように時に舞台を北海道に戻して原点回帰を図っていますが、質的にはやはり第1作を超えるまでには至らなかったのではないでしょうか。それでも、東映映画上映館の館主会からの強い要望により、監督を変えて「新網走番外地」シリーズ('68~'72年)8本が、同じく高倉健主演で作られています。

網走番外地 南原宏治 高倉健2s.jpg この第1作は、(高倉健はカラー映画を望んだわけだが望みが聞き入れられず)白黒映画になったことで、雪中シーンが多いことやシンプルなアクションシーンなどとの相乗効果で、却ってシリーズの中で際立つことになったように思網走番外地 南原宏治.pngいます(シリーズ第2作以降は全作品カラー)。また、第2作以降に出てくる(「男はつらいよ」シリーズのような)マドンナ的な女性がこの第1作では登場せず、「母子物」的要素と「義侠心」に近い男の'友情'が前面に押し出されています(「母子物」的要素は第5作「網走番外地 南国の対決」にもあるが、それは子供が当事者であって、一方、第1作は大人としての主人公が当事者である)。

網走番外地  高倉健.jpg網走番外地 高倉健.png ロケは大変だったろうなあと思わせる作品でした(特に高倉健と南原宏治)。大雪原の脱走、トロッコによる追跡劇、列車による手錠切断から大団円までを演じた高倉健網走番外地 安部徹.jpgは、まだこの頃みずみずしさがあって良く、若くして存在感がある一方で(このシリーズでの特徴だが)ちょっと剽軽一面も見せます(高倉健の実際の性格にも近いとも言われる)。南原宏治やいかつい顔の安部徹(若手時代は二枚目俳優だった)も悪くないですが、嵐寛寿郎演じる"八人殺しの鬼寅"の役回りも極めて良く、嵐寛寿郎は南原宏治、安部徹らを凌駕するどころか、準主役の丹波哲郎や主役の高倉健より良かったという人もいます。どういうわけか獄中59年、残り刑期が21年あったはずの"鬼寅"網走番外地 嵐寛寿郎.jpg網走番外地  嵐寛寿郎.pngが、以降のシリーズ作でも設定を変え、キャラクターのみ"鬼寅"のそれを継承して毎回出てきますが、やっぱりこの第1作の"鬼寅"が一番印象に残ります。
   
 網走刑務所から囚人が脱獄を企てる話を映画化することを最初に思いついたのはかつて東映の専属だった三國連太郎で、大島渚を監督に推したそうですが、東映上層部が大島渚の「天草四郎時貞」('62年/東映)の興業的失敗から忌避反応を示して頓挫、三國連太郎の原案も使えなくなったところへ、伊藤一の『網走番外地』という小説が見出され、これは傷害事件を起こし服役するやくざ者と医者の家の令嬢との道ならぬ純愛物語で、日活が既にそれをタイトルも中身も忠実に小高雄二、浅丘ルリ子主演で「網走番外地」('59年)として映画化していて、従って形としては本作はリメイク作品となりますが、石井輝男監督網走番外地 浅丘.jpg手錠のままの脱獄ド.jpgは、スタンリー・クレイマー監督、トニー・カーチス,シドニー・ポワチエ主演の「手錠のままの脱獄』('58年/米)を換骨奪胎した脚本を書き、女っ気の無い、男だけの脱獄映画、雪上アクション映画となったという経緯があります(こうなると伊藤一の小説は殆ど'原作'とは言えないのでは)。
「網走番外地」('59年/日活)   「手錠のままの脱獄」('58年/米)

網走番外地vhs.jpg 脱獄する気も無かったのに脱獄犯として追われるという不条理な状況に置かれた高倉健演じる主人公の橘が、最後の最後に嫌疑が晴れてスッキリというこのパターンは、映画会社が違っても高倉健が主演の「君よ憤怒の河を渉れ」('76年/松竹)などに引き継がれており、また、「幸福の黄色いハンカチ」('77年/松竹)なども、高倉健に「網走帰り」という役柄イメージが染み渡っているからこそ成り立っている部分が大きい作品であるという気が改めてします。

 それにしても、この頃の高倉健は年にいくつもの作品に出演していて、'65年には10本の作品に出ています。しかもその中に、「飢餓海峡」「網走番外地」「昭和残侠伝(シリーズ第1作)」が含まれているというのは、今思えばスゴイことです。

網走番外地 1965N.jpg「網走番外地」●制作年:1965年●監督・脚本:石井輝男●企画:大賀義文●撮影:山沢義一●音楽:八木正生●原作:伊藤一「網走番外地」●時間:92分●出演:高倉健/丹波哲郎/南原宏治/安部徹/嵐寛寿郎/田中邦網走番外地 丹波哲郎2.png衛/沢彰謙/風見章子/杉義一/潮健児/滝島孝二/三重街恒二/ジョージ吉村/佐藤晟也/関山耕司/菅沼正/北山達也/志摩栄/宗方奈美/河合絃司/小塚十紀雄/山之内修/日尾孝司/久保一/相馬剛三/久地明/沢田実/水城一狼/久保比佐志/山田甲一/沢田浩二/秋山敏/植田灯孝/最上逸馬/勝間典子/佐藤公明/石川えり子●公開:1965/04●配給:東映(評価:★★★★)

●「網走番外地」シリーズ(石井監督作品・全10作)一覧
1. 網走番外地 (1965年4月)
2. 続 網走番外地 (1965年7月)(1965年度興行収入ベスト10 : 6位)
3. 網走番外地 望郷篇 (1965年10月)(1965年度興行収入ベスト10 : 4位)
4. 網走番外地 北海篇 (1965年12月)(1965年度興行収入ベスト10 : 2位)
5. 網走番外地 荒野の対決 (1966年4月)(1966年度興行収入ベスト10 : 9位)
6. 網走番外地 南国の対決 (1966年8月)(1966年度興行収入ベスト10 : 3位)
7. 網走番外地 大雪原の対決 (1966年12月)(1966年度興行収入ベスト10 : 1位)
8. 網走番外地 決斗零下30度 (1967年4月)
9. 網走番外地 悪への挑戦 (1967年8月)
10.網走番外地 吹雪の斗争 (1967年12月)(高倉健と菅原文太が初共演)

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シリーズ中では充実した内容。回答者のコメントが楽しい。中上級編の注目は「十三人の刺客」。

大アンケートによる日本映画ベスト150 0_.jpg 七人の侍 志村喬.jpg  洋・邦名画ベスト1501.JPG
大アンケートによる日本映画ベスト150 (文春文庫―ビジュアル版)』/「七人の侍」/『洋・邦名画ベスト150〈中・上級篇〉』 (表紙イラスト:共に安西水丸

 『大アンケートによる日本映画ベスト150』は、同じ「文春文庫ビジュアル版」の『大アンケートによる洋画ベスト150』('88年)の続編で、この映画シリーズはこの後、

大アンケートによるわが青春のアイドル女優ベスト150  .jpg ◆『大アンケートによるわが青春のアイドル女優ベスト150』 〔'90年〕
 ◆『洋画・邦画ラブシーンベスト150』 〔'90年〕
 ◆『大アンケートによるミステリー・サスペンス洋画ベスト150』 〔'91年〕
 ◆『ビデオが大好き!365夜―映画カレンダー』 〔'91年〕
 ◆『洋・邦名画ベスト150 中・上級篇』 〔'92年〕
 ◆『大アンケートによる男優ベスト150』 〔'93年〕
 ◆『戦後生まれが選ぶ洋画ベスト100』 〔'95年〕

映画イヤーブック1994.jpgと続いています。これらの内の何冊かは、'90年代に毎年刊行されていた現代教養文庫(版元の社会思想社は倒産)の『映画イヤーブック』と共に愛読・活用させてもらいました。角川文庫にも『日本映画ベスト200』('90年)などのアンケート・シリーズがありますが、「ビジュアル版」と謳っている文春文庫のシリーズの方が、掲載されているスチール、ポートレート、ポスターの量と質で、角川文庫のものを上回っています。

Shichinin no samurai(1954).jpg七人の侍 パンフ.jpg7samurai.jpg 本書『邦画ベスト150』には、赤瀬川順・長部日出雄・藤子不二雄A氏らの座談会や、映画通が選んだジャンル別のマイベスト、井上ひさしの「たったひとりでベスト100選出に挑戦する!」といった興味深い企画もありますが、メインの「ベスト150」は、1位が「七人の侍」で、以井上ひさしs.jpg下「東京物語」「生きる」「羅生門」「浮雲」と続く"まともな"ラインアップとなっています。また、井上ひさしの「たったひとりでベスト100選出に挑戦する!」も、第1位が「七人の侍」で、あと「天国と地獄」「生きる」と黒澤作品が続きます(因みに「七人の侍」は、1954年度「キネマ旬報ベストテン」第3位だったが、本書の10年後発表の「キネマ旬報オールタイムベスト・ベスト100日本映画編(1999年版)」では第1位(下段参照))
Shichinin no samurai(1954)  「七人の侍」('63年/東宝)

七人の侍 1954.jpg「七人の侍」.jpg 「七人の侍」の「1位」には、個人的にもほぼ異論を挟む余地が無いという気がします。先にジョン・スタージェス監督の「荒野の七人」('60年/米)を観てオリジナルであるこの作品も早く観たいと思っていたですが、観るのなら絶対に劇場でと思い、リヴァイバル上映を待ちに待って、結局'90年代にニュープリント、リニューアル・サウンドの完全オリジナル版が15年ぶりに公開されたのを機にやっと観ました。渋谷のロードショーシアターへ、休日の昼間ではおそらく行列に並ぶことになるだろうと思い、冬の日の朝一番なら多少すいているかもしれないと思って観にいったら、観客多数のため上映館が急遽変更されていて、渋谷の街中(まちなか)を走った思い出があります。

『七人の侍』(1954) .jpg 「荒野の七人」もいい映画ではあるものの、やはりオリジナルは遥かにそれを凌ぐレベルの作品だったことを実感しました。アクション映画としても傑作ですが、脚本面でも思想性という面でも優れた作品だと思い七人の侍n.jpgます(2018年10月29日、英BBCが最も偉大な外国語映画100本を発表、世界43の国と地域の映画評論家209人が挙げたベストテンをポイント別に集計して順位が付けられているそうで、その第1位に「七人の侍」が選ばれた[当ページ再下段参照])
三船敏郎(菊千代)/土屋嘉男(利吉)

 因みに、本書における(同じくアンケートによる)「男優ベスト10」「女優ベスト10」は次の通りとなっています。
 男優ベスト10:1位・坂東妻三郎、2位・高倉健、3位・笠智衆、4位・三船敏郎、5位・三國連太郎、6位・森雅之、7位・志村喬、8位・石原裕次郎、9位・市川雷蔵、10位・緒形拳
 女優ベスト10:1位・原節子、2位・吉永小百合、3位・高峰秀子、4位・田中絹代、5位・岩下志麻、6位・京マチ子、7位・山田五十鈴、8位・若尾文子、9位・岸恵子、10位・藤純子

阪東妻三郎3.jpg(ウィキペデイアの「坂東妻三郎」の項に、「1989年(平成元年)に文春文庫ビジュアル版として『大アンケートによる日本映画ベスト150』という一書が刊行されたが、文中372人が選んだ「個人編男優ベストテン」の一位は阪妻だった。死後35年余りを経て、なおこの結果だった」とある。)

        
日本映画 洋・邦名画ベストベスト150.JPG 姉妹書である『洋画ベスト150』もそうですが、映画通と言われる特定の映画にこだわりを持った人々からアンケートをとったとしても、それらを全部を集計してしまうと、一般の映画ファンのアンケート結果とそう変わらないものになるという印象を受けます。そこで、「人目にふれにくい傑作」にテーマを絞った『洋・邦名画ベスト150 中・上級篇』が企画されたのは「むべなるかな」という感じがします。

Jûsan-nin no shikaku (1963)「十三人の刺客」
Jûsan-nin no shikaku (1963).jpg十三人の刺客.jpg 『洋・邦名画ベスト150 中・上級篇』の方では、「日本映画ベスト44」の1位が工藤栄一(1929‐2000)監督の「十三人の刺客」、「外国映画ベスト109」の1位は「マダムと泥棒」となっていて、「七人の侍」は前述の通り個人的にも大傑作だと思いますが、「七人の侍」がこれほど賞賛されるならば「十三人の刺客」ももっと注目されるべきであるし、ヒッチコック(個人的は好きな監督)の作品に人気が集まるならば、「マダムと泥棒」も見て!という印象は確か受けます。

十三人の刺客 1963ド.jpg十三人の刺客 1963 片岡 内田.jpg 「十三人の刺客」は、将軍の弟である明石藩主というのが実は異常性格気味の暴君で、事情を知らない将軍が彼を老中に抜擢する話が持ち上がったために、筆頭老中が暴君排除を決意し、暗殺の密命を旗本島田新左衛門に下すというもの。
片岡千恵蔵(島田新左衛門)/内田良平(鬼頭半兵衛)

「十三人の刺客」 ('63年/東映)
十三人の刺客s.jpg十三人の刺客dvd.jpg 片岡千恵蔵演ずる島田新左衛門が集めた刺客は12人で、参勤交代の道中の藩主を襲うが、対する明石藩士は53名。この、2勢力の武士が、何か2匹の生き物のように画面狭しと動き回って、時代劇というよりまさにアクション映画。そうした点では「七人の侍」と見比べると、また違った味があります(脚本の「池上金男」は今年['07年]5月に亡くなった、後に『四十七人の刺客』で新田次郎文学賞を受賞する池宮彰一郎(1923-2007/享年83)。音楽は「ゴジラ」の伊福部昭!)。
十三人の刺客 [DVD]

十三人の刺客 工藤栄一.jpg 本書にもあるように、アクション映画は、シチュエーションを単純にしてディテールに凝ったほうが面白いと言うその典型で、ラストの30分にわたるリアルな決戦シーンとそこに至るまでの作戦の積み重ねは、「早すぎた傑作」と呼ばれるにふさわしく、公開当時はあまり評価されなかったとのこと。大体、時代物に疎く、かなり後になってビデオで観たのですが、劇場で観たかったです(オールド・プリントで、ちょっと画面が暗い。DVDの方はどうなのだろうか(2019年にNHK-BSプレミアムで放映されたものを観たが、クリアな画像だった)

木村 功(岡本勝四郎)・土屋嘉男(利吉)・志村 喬(島田勘兵衛) /宮口精二(久蔵)/加東大介(七郎次)
「七人の侍」 志村喬 土屋嘉男 木村功.jpg宮口精二 七人の侍2.jpg七人の侍 加東大介.jpg「七人の侍」●制作年:1963年●監督:黒澤明●製作:本木莊二郎●脚本:黒澤明/橋本忍/小国英雄●撮影:中井朝一●音楽:早坂文雄●時間:207分●出演: 志村喬/三船敏郎/木村功/稲葉義男七人の侍 仲代達矢ekisutora .jpg加東大介/千秋実/宮口精二/藤原釜足/津島恵子/土屋嘉男/小杉義男/左卜全/高堂国典/東野英治郎/島崎雪子/山形勲/渡辺篤/千石規子/堺左千夫/千葉一郎/本間文子/安芸津広/多々良七人の侍f23.jpg純/小川虎之/熊谷二良/上田吉二郎/谷晃/中島春雄/(以下、エキストラ出演)仲代達矢(右写真)/宇津井健/加藤武●公開:1954/04●配給:東宝 ●最初に観た場所:渋谷東宝(渋東シネタワー4)(91-12-01)(評価:★★★★★
東野英治郎(百姓の子供を人質にとって小屋に立て籠った盗人)
千秋 実(林田平八)/稲葉義男(片山五郎兵衛)/山形 勲(鉄扇の浪人―腕は立つが七人には加わらない)
林田平八(千秋 実).jpg 片山五郎兵衛(稲葉義男).jpg 鉄扇の浪人(山形 勲).jpg

Shibutoh_Cine_Tower.JPG渋東シネタワービル(シネタワー1・2・3・4)

渋東シネタワー 1991(平成3)年7月6日、「渋谷東宝会館」を「渋東シネタワー」と改称し、4スTOHOCINEMAS_Shibuya.JPGクリーンに増設して再オープン。シネタワー1(606席)、シネタワー2(790席)、シネタワー3(342席)、シネタワー4(248席)。2011(平成23)年、上層TOHOシネマズ渋谷 .jpg階にあったシネタワー1と2を閉鎖・改装し、同年7月15日、TOHOシネマズ渋谷スクリーン1・2・3・4がオープン。次いで下層階のシネタワー3・4を改装し、同年11月30日にTOHOシネマズ渋谷スクリーン5・6がオープン。


片岡千恵蔵 in「十三人の刺客」
十三人の刺客 片岡.jpg十三人の刺客 嵐.jpg十三人の刺客 西村.jpg「十三人の刺客」●制作年:1963年●監督:工藤栄一●製作:東映京都撮影所●脚本:池上金男●撮影:鈴木重平●音楽:伊福部昭●時間:125分●出演:片岡千恵蔵/里見浩太朗/嵐寛寿郎/阿部九州男/加賀邦男/汐路章/春日俊二/片岡栄二郎/和崎俊哉/西村晃/内田良平/山城十三人の刺客 里見.jpg新伍/丹波哲郎/月形龍之介/菅貫太郎/水島道太郎/沢村精四郎/丘さとみ/藤純子/河原崎長一郎/三島ゆり子/十三人の刺客 丹波.jpg月形龍之介.jpg「十三人の刺客」藤.jpg高松錦之助/神木真寿雄●公開:1963/12●配給:東映(評価:★★★★☆)
丹波哲郎/月形龍之介/藤純子(当時17歳)


●キネマ旬報オールタイムベスト・ベスト100日本映画編(1999年版)
1七人の侍 黒澤明

2浮雲 成瀬巳喜男
3飢餓海峡 内田吐夢
3東京物語 小津安二郎
5幕末太陽伝 川島雄三
5羅生門 黒澤明
7赤い殺意 今村昌平
8仁義なき戦い 深作欣二
8二十四の瞳 木下恵介
10雨月物語 溝口健二
11生きる 黒澤明
11西鶴一代女 溝口健二
13真空地帯 山本薩夫
13切腹 小林正樹
13太陽を盗んだ男 長谷川和彦
13となりのトトロ 宮崎駿
13泥の河 小栗康平
18人情紙風船 山中貞雄
18無法松の一生 稲垣浩
18用心棒 黒澤明
21蒲田行進曲 深作欣二
21少年 大島渚
21月はどっちに出ている 崔洋一
21麦秋 小津安二郎
21復讐するは我にあり 今村昌平
26家族ゲーム 森田芳光
26砂の器 野村芳太郎
26青春残酷物語 大島渚
26人間の条件 小林正樹
26また逢う日まで 今井正
31一条さゆり 濡れた欲情 神代辰巳
31キューポラのある街 浦山桐郎
31けんかえれじい 鈴木清順
31幸せの黄色いハンカチ 山田洋次
31Shall we ダンス? 周防正行
31にっぽん昆虫記 今村昌平
31夫婦善哉 豊田四郎
38愛を乞うひと 平山秀幸
38赫い髪の女 神代辰巳
38遠雷 根岸吉太郎
38仁義の墓場 深作欣二
38ソナチネ 北野武
38天国と地獄 黒澤明
38日本のいちばん長い日 岡本喜八
38日本の夜と霧 大島渚
38野良犬 黒澤明
38ゆきゆきて、神軍 原一男
38竜二 川島透
49安城家の舞踏会 吉村公三郎
49おとうと 市川崑
49隠し砦の三悪人 黒澤明
49十三人の刺客 工藤栄一
49近松物語 溝口健二
49もののけ姫 宮崎駿
55青い山脈 今井正
55神々の深き欲望 今村昌平
55キッズ・リターン 北野武
55櫻の園 中原俊
55青春の殺人者 長谷川和彦
55台風クラブ 相米慎二
55丹下左膳余話・百万両の壷 山中貞雄
55天使のはらわた 赤い教室 曾根中生
55楢山節考 木下恵介
55野菊のごとき君なりき 木下恵介
55宮本武蔵 五部作 内田吐夢
55竜馬暗殺 黒木和雄
67赤線地帯 溝口健二
67赤ひげ 黒澤明
67駅・STATION 降旗康男
67恋人たちは濡れた 神代辰巳
67サード 東陽一
67細雪 市川崑
67三里塚 辺田部落 小川紳介
67青春の蹉跌 神代辰巳
67日本の悲劇 木下恵介
67の・ようなもの 森田芳光
67裸の島 新藤兼人
67張り込み 野村芳太郎
67乱れ雲 成瀬巳喜男
67約束 斎藤耕一
67野獣の死すべし 村川透
82愛のコリーダ 大島渚
82赤ちょうちん 藤田敏八
82赤西蠣太 伊丹万作
82悪魔の手鞠唄 市川崑
82稲妻 成瀬巳喜男
82鴛鴦歌合戦 マキノ正博
82お葬式 伊丹十三
82影武者 黒澤明
82火宅の人 深作欣二
82カルメン故郷に帰る 木下恵介
82きけわだつみの声 関川秀雄
82CURE 黒沢清
82沓掛時次郎 遊侠一匹 加藤泰
82蜘蛛巣城 黒澤明
82狂った果実 中平康
82午後の遺言状 新藤兼人
82秋刀魚の味 小津安二郎
82次郎長三国志 マキノ雅弘
82新宿泥棒日記 大島渚
82砂の女 勅使河原宏
82素晴らしき日曜日 黒澤明
82戦場のメリークリスマス 大島渚
82Wの悲劇 澤井信一郎
82忠次旅日記・全三部 伊藤大輔
82ツィゴイネルワイゼン 鈴木清順
82椿三十郎 黒澤明
82東海道四谷怪談 中川信夫
82どついたるねん 阪本順治
82肉弾 岡本喜八
82日本春歌考 大島渚
82人間蒸発 今村昌平
82八月の濡れた砂 藤田敏八
82笛吹川 木下恵介
82豚と軍艦 今村昌平
82真昼の暗黒 今井正
82めし 成瀬巳喜男
82酔いどれ天使 黒澤明
82私が棄てた女 浦山桐郎


●英BBC・最も偉大な外国語映画100本(2018年)
日本映画の順位と全体の順位

1. 七人の侍       (黒澤明 1954)
3. 東京物語       (小津安二郎 1953)
4. 羅生門        (黒澤明 1950)
37. 千と千尋の神隠し (宮崎駿 2001)
53. 晩春       (小津安二郎 1949)
61. 山椒大夫     (溝口健二 1954)
68. 雨月物語     (溝口健二 1953)
72. 生きる      (黒澤明 1952)
79. 乱        (黒澤明 1985)
88. 残菊物語     (溝口健二 1939)
95. 浮雲       (成瀬巳喜男 1955)
 
1. Seven Samurai (Akira Kurosawa, 1954) 七人の侍
2. Bicycle Thieves (Vittorio de Sica, 1948) 自転車泥棒
3. Tokyo Story (Yasujiro Ozu, 1953) 東京物語
4. Rashomon (Akira Kurosawa, 1950) 羅生門
5. The Rules of the Game (Jean Renoir, 1939) ゲームの規則
6. Persona (Ingmar Bergman, 1966) 仮面/ペルソナ
7. 8 1/2 (Federico Fellini, 1963) 8 1/2
8. The 400 Blows (Francois Truffaut, 1959) 大人は判ってくれない
9. In the Mood for Love (Wong Kar-wai, 2000) 花様年華
10. La Dolce Vita (Federico Fellini, 1960) 甘い生活
11. Breathless (Jean-Luc Godard, 1960) 勝手にしやがれ
12. Farewell My Concubine (Chen Kaige, 1993) さらば、わが愛/覇王別姫
13. M (Fritz Lang, 1931) M
14. Jeanne Dielman, 23 Commerce Quay, 1080 Brussels (Chantal Akerman, 1975) ブリュッセル1080、コメルス河畔通り23番地、ジャンヌ・ディエルマン
15. Pather Panchali (Satyajit Ray, 1955) 大地のうた
16. Metropolis (Fritz Lang, 1927) メトロポリス
17. Aguirre, the Wrath of God (Werner Herzog, 1972) アギーレ/神の怒り
18. A City of Sadness (Hou Hsiao-hsien, 1989) 悲情城市
19. The Battle of Algiers (Gillo Pontecorvo, 1966) アルジェの戦い
20. The Mirror (Andrei Tarkovsky, 1974) 鏡
21. A Separation (Asghar Farhadi, 2011) 別離
22. Pan's Labyrinth (Guillermo del Toro, 2006) パンズ・ラビリンス
23. The Passion of Joan of Arc (Carl Theodor Dreyer, 1928) 裁かるるジャンヌ
24. Battleship Potemkin (Sergei M Eisenstein, 1925) 戦艦ポチョムキン
25. Yi Yi (Edward Yang, 2000) ヤンヤン 夏の想い出
26. Cinema Paradiso (Giuseppe Tornatore, 1988) ニュー・シネマ・パラダイス
27. The Spirit of the Beehive (Victor Erice, 1973) ミツバチのささやき
28. Fanny and Alexander (Ingmar Bergman, 1982) ファニーとアレクサンデル
29. Oldboy (Park Chan-wook, 2003) オールド・ボーイ
30. The Seventh Seal (Ingmar Bergman, 1957) 第七の封印
31. The Lives of Others (Florian Henckel von Donnersmarck, 2006) 善き人のためのソナタ
32. All About My Mother (Pedro Almodovar, 1999) オール・アバウト・マイ・マザー
33. Playtime (Jacques Tati, 1967) プレイタイム
34. Wings of Desire (Wim Wenders, 1987) ベルリン・天使の詩
35. The Leopard (Luchino Visconti, 1963) 山猫
36. La Grande Illusion (Jean Renoir, 1937) 大いなる幻影
37. Spirited Away (Hayao Miyazaki, 2001) 千と千尋の神隠し
38. A Brighter Summer Day (Edward Yang, 1991) 牯嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件
39. Close-Up (Abbas Kiarostami, 1990) クローズ・アップ
40. Andrei Rublev (Andrei Tarkovsky, 1966) アンドレイ・ルブリョフ
41. To Live (Zhang Yimou, 1994) 活きる
42. City of God (Fernando Meirelles, Katia Lund, 2002) シティ・オブ・ゴッド
43. Beau Travail (Claire Denis, 1999) 美しき仕事
44. Cleo from 5 to 7 (Agnes Varda, 1962) 5時から7時までのクレオ
45. L'Avventura (Michelangelo Antonioni, 1960) 情事
46. Children of Paradise (Marcel Carne, 1945) 天井桟敷の人々
47. 4 Months, 3 Weeks and 2 Days (Cristian Mungiu, 2007) 4ヶ月、3週と2日
48. Viridiana (Luis Bunuel, 1961) ビリディアナ
49. Stalker (Andrei Tarkovsky, 1979) ストーカー
50. L'Atalante (Jean Vigo, 1934) アタラント号
51. The Umbrellas of Cherbourg (Jacques Demy, 1964) シェルブールの雨傘
52. Au Hasard Balthazar (Robert Bresson, 1966) バルタザールどこへ行く
53. Late Spring (Yasujiro Ozu, 1949) 晩春
54. Eat Drink Man Woman (Ang Lee, 1994) 恋人たちの食卓
55. Jules and Jim (Francois Truffaut, 1962) 突然炎のごとく
56. Chungking Express (Wong Kar-wai, 1994) 恋する惑星
57. Solaris (Andrei Tarkovsky, 1972) 惑星ソラリス
58. The Earrings of Madame de... (Max Ophuls, 1953) たそがれの女心
59. Come and See (Elem Klimov, 1985) 炎628
60. Contempt (Jean-Luc Godard, 1963) 軽蔑
61. Sansho the Bailiff (Kenji Mizoguchi, 1954) 山椒大夫
62. Touki Bouki (Djibril Diop Mambety, 1973) トゥキ・ブゥキ/ハイエナの旅
63. Spring in a Small Town (Fei Mu, 1948) 田舎町の春
64. Three Colours: Blue (Krzysztof Kieslowski, 1993) トリコロール/青の愛
65. Ordet (Carl Theodor Dreyer, 1955) 奇跡
66. Ali: Fear Eats the Soul (Rainer Werner Fassbinder, 1973) 不安は魂を食いつくす
67. The Exterminating Angel (Luis Bunuel, 1962) 皆殺しの天使
68. Ugetsu (Kenji Mizoguchi, 1953) 雨月物語
69. Amour (Michael Haneke, 2012) 愛、アムール
70. L'Eclisse (Michelangelo Antonioni, 1962) 太陽はひとりぼっち
71. Happy Together (Wong Kar-wai, 1997) ブエノスアイレス
72. Ikiru (Akira Kurosawa, 1952) 生きる
73. Man with a Movie Camera (Dziga Vertov, 1929) これがロシヤだ(別題:カメラを持った男)
74. Pierrot Le Fou (Jean-Luc Godard, 1965) 気狂いピエロ
75. Belle de Jour (Luis Bunuel, 1967) 昼顔
76. Y Tu Mama Tambien (Alfonso Cuaron, 2001) 天国の口、終りの楽園。
77. The Conformist (Bernardo Bertolucci, 1970) 暗殺の森
78. Crouching Tiger, Hidden Dragon (Ang Lee, 2000) グリーン・デスティニー
79. Ran (Akira Kurosawa, 1985) 乱
80. The Young and the Damned (Luis Bunuel, 1950) 忘れられた人々
81. Celine and Julie go Boating (Jacques Rivette, 1974) セリーヌとジュリーは舟でゆく
82. Amelie (Jean-Pierre Jeunet, 2001) アメリ
83. La Strada (Federico Fellini, 1954) 道
84. The Discreet Charm of the Bourgeoisie (Luis Bunuel, 1972) ブルジョワジーの秘かな愉しみ
85. Umberto D (Vittorio de Sica, 1952) ウンベルト・D
86. La Jetee (Chris Marker, 1962) ラ・ジュテ
87. The Nights of Cabiria (Federico Fellini, 1957) カビリアの夜
88. The Story of the Last Chrysanthemum (Kenji Mizoguchi, 1939) 残菊物語
89. Wild Strawberries (Ingmar Bergman, 1957) 野いちご
90. Hiroshima Mon Amour (Alain Resnais, 1959) 二十四時間の情事
91. Rififi (Jules Dassin, 1955) 男の争い
92. Scenes from a Marriage (Ingmar Bergman, 1973) ある結婚の風景
93. Raise the Red Lantern (Zhang Yimou, 1991) 紅夢
94. Where Is the Friend's Home? (Abbas Kiarostami, 1987) 友だちのうちはどこ?
95. Floating Clouds (Mikio Naruse, 1955) 浮雲
96. Shoah (Claude Lanzmann, 1985) ショア
97. Taste of Cherry (Abbas Kiarostami, 1997) 桜桃の味
98. In the Heat of the Sun (Jiang Wen, 1994) 太陽の少年
99. Ashes and Diamonds (Andrzej Wajda, 1958) 灰とダイヤモンド
100. Landscape in the Mist (Theo Angelopoulos, 1988) 霧の中の風景

(The 100 greatest foreign-language films)

《読書MEMO》
個人的に特に良かった日本映画49本['22年]
良かった映画49.jpg

「●な 中上 健次」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒「●な 中島 敦」 【648】 中島 敦 『李陵・山月記
「●「芥川賞」受賞作」の インデックッスへ 「●む 村上 龍」の インデックッスへ 「●今村 昌平 監督作品」の インデックッスへ 「●や‐わ行の日本映画の監督」の インデックッスへ「●「キネマ旬報ベスト・テン」(第1位)」の インデックッスへ(「神々の深き欲望」)「●「毎日映画コンクール 日本映画大賞」受賞作」の インデックッスへ(「神々の深き欲望」)「●「芸術選奨(監督)」受賞作」の インデックッスへ(今村昌平)「●黛 敏郎 音楽作品」の インデックッスへ(「神々の深き欲望」)「●蟹江敬三 出演作品」の インデックッスへ(「十九歳の地図」)「●嵐 寛寿郎 出演作品」の インデックッスへ(「神々の深き欲望」)「●三國 連太郎 出演作品」の インデックッスへ(「神々の深き欲望」)「●加藤 嘉 出演作品」の インデックッスへ(「神々の深き欲望」)「●殿山 泰司 出演作品」の インデックッスへ(「神々の深き欲望」)「○日本映画 【制作年順】」の インデックッスへ

骨太の芥川賞作品。主人公は「血」に負けたのか? むしろ、裏返された成長物語のように読めた。
岬 中上健次.png 岬.jpg 十九歳の地図 dvd.jpg 十九歳の地図 映画.jpg  神々の深き欲望L.jpg
』['76年] 『』文春文庫 「十九歳の地図(廉価版) [DVD]」「NIKKATSU COLLECTION 神々の深き欲望 [DVD]

中上 健次.jpg 表題作である「岬」のほか、「黄金比の朝」「浄徳寺ツアー」など3篇を収めていますが、作者の小説は郷里の紀州を舞台にしたものが多い中、表題作はまさに出身都市である新宮市を舞台に、家族と共に土方仕事をしながら、逃れられない血のしがらみに喘ぐ青年を描いたものです。作者は本作により、戦後生まれとしては初めての芥川賞作家となりましたが、近年の芥川賞作品に比べると、ずっと「骨太」感があると思いました。

中上健次(1946‐1992/享年46)

 「十九歳の地図」で芥川賞候補になり、作品としての幅を拡げるために三人称にしたのか? それも一面の真実かも知れませんが、多分「彼」にしないと作者に書けない要素というのが、この「岬」という作品にはあったのではないかと考えます。

中上健次VS村上龍―俺達の舟は、動かぬ霧の中を、纜を解いて、ー。 対談+短篇小説+エッセイ.jpg中上 vs 村上.jpg 芥川賞の選考委員であり、中上健次との対談集もある村上龍氏は(『中上健次VS村上龍―俺達の舟は、動かぬ霧の中を、纜を解いて。』('77年/角川書店)―これも面白かった。村上氏が名が中上健次を前にしてやや背伸びしている感もあるが、2人の文学遍歴の共通点や相違点などがよくわかる)、後に、この『岬』という作品を受賞作の水準に定めていたことを、ある年の芥川賞の選評で述べていたように思います。
中上健次VS村上龍―俺達の舟は、動かぬ霧の中を、纜を解いて。 対談+短篇小説+エッセイ (1977年)

 登場人物はそれほど多くないのですが、主人公の「彼」(秋幸)を取り巻く人物の血縁関係が複雑で、読みながら家系図を作った方がいいかも知れません。父・母がそれぞれ異なる兄弟姉妹が入り乱れ、その家計図メモがだんだんぐちゃぐちゃになってきた頃に出来事は大きく進展し、義父が叔父を刺したり、異父姉の錯乱があったりしますが、姉を連れて家族で岬にピクニック?にいくところは、それまでの殺伐感とは違ったソフトフォーカスな感じがあり、印象的でした。

 書いてみた家計図を見て、こうして〈親族の基本構造〉を破壊している元凶は、3度の結婚をしている主人公の母親だと思ったのですが、主人公は、登場人物のすべてと距離を置いている中、この母親に対しては、愛憎入り混じっている感じで、姉に対する意識にも微妙なものがあり、こんなぐちゃぐちゃな血縁関係の中でも、自らを定位しつつ、どこか"家族"を求めているところがあるのかなあと。

 主人公は最後に異母妹と思われる女性を見つけて交合しますが、これは、それまで比較的おとなしかった彼が、父や義父と同じ獣性に目覚めた、つまり「血」に負けて同じように鬼畜の道に嵌まったということなのでしょうか。それとも、潜在的渇望としてあった兄妹愛に目覚めたということ?

 自分にはこの辺りはむしろ、今まで子どもだった主人公が、エディプス・コンプレックスを克服した話のように読めました。血縁関係のない義父と同じようになるということは、「血」に負けたという理屈は成立せず、むしろ、男になる、つまり妹と交わることで自らが父権そのものになる、という裏返された成長物語のように思えたのですが...。

十九歳の地図 文庫.jpg十九歳の地図.jpg なぜ「彼」という三人称が使われているのかもこの作品の"謎"で、「十九歳の地図」と同じような鬱屈した予備校生を主人公にした「黄金比の朝」では「ぼく」だったのが、「岬」や「浄徳寺ツアー」では「彼」になっている、しかし共に、「彼」を使うよりも「ぼく」でいった方がずっと自然に読める箇所がいくつかあります。

 『十九歳の地図 (河出文庫 102B)

「十九歳の地図」で芥川賞候補になり、作品としての幅を拡げるために三人称にしたのか? それも一面の真実かも知れませんが、多分「彼」にしないと作者に書けない要素というのが、この「岬」という作品にはあったのではないかと考えます。

 中編「十九歳の地図」(短編集『十九歳の地図』('74年/河出書房新社、'81年/河出文庫)所収)は、和歌山から東京に出てきて、新聞配達をしながら予備校に通っている浪人生の青年の鬱々とした青春を描いたもので、新聞を配達しても感謝されるわけでもなく、集金に行けば煙たがられ、仕舞には飼犬に吠えられるという、ストレスだらけの生活の中、青年は、新聞の配達先で自分の気に入らない家について、地図上で☓印をつけていくという―このメインストーリーだけでも暗い話ですが、併せて、主人公の周辺の社会の下層で生きる人々の生き様が描かれていて、中上健次らしい暗さだなあと。

十九歳の地図00.jpg十九歳の地図0.jpgさらば愛しき大地 poster.jpg この「十九歳の地図」は映画化され('79年/群狼プロ)、監督は暴走族を追ったドキュメンタリー映画「ゴッド・スピード・ユー! BLACK EMPEROR」('76年/群狼プロ)の柳町光男(後に、根津甚八、秋吉久美子主演での「さらば愛十九歳の地図b.jpgしき大地」('82年/群狼プロ)などの佳作を撮るが、中上健次は「さらば愛しき大地」の脚本にも参加している)、主人公の青年役は「ゴッド・スピード・ユー!」にも出ていた本間優二(映画出演を機に暴走族から役者に転じたが1989年に引退)、主人公の下宿の同居人で、偽の入れ墨で客を脅して集金している元釘師の新聞配達人に蟹江敬三(1944-2014)(いい演技をしていて「さらば「十九歳の地図」蟹江.jpg愛しき大地」にも出演している。そして、「さらば愛しき大地」でもいい演技をしている)が扮していて、この蟹江十九歳の地図 沖山秀子.jpg敬三と、自殺未遂で片脚が不自由になった娼婦を演じた沖山秀子(1945-2011)(ジャズ・ヴォーカリストでもあり、中上健次は彼女の大ファンだった)の濡れ場シーンの何と暗いこと! とにかく暗い暗い作品でしたが、その暗さを通して、青年の意志のようなものがじわーっと伝わってくる(ある意味「前向き」な)不思議な仕上がりになっていました。

神々の深き欲望_07.jpg神々の深き欲望 dvd.jpg 沖山秀子は、すでに今村昌平監督の「神々の深き欲望」(' 68年/日活)で存在感のある演技をみせており、汚れ役に迫力のある女優でした。この作品は、南国の孤島の村を舞台に、兄娘相姦や父娘相姦など村の禁制を破ったことで疎外され追放されていく太一族の太根吉(三國連太郎)と、島の産業開発や観光開発のためコミュニティとしての絆が崩壊していく村社会を描いたものでした。

 地元開発を機に村社会に亀裂が生じるというのはよくある設定ですが、主人公・根吉の娘(松井康子神々の深き欲望.jpg)を島の区長(加藤嘉)が引き取って愛人にし、区長が亡くなった後、兄は妹を取り戻して逃避行を図るものの、息子(河原崎長一郎)を含む村人達に殴殺されてしまうというストーリーにみられるように、また、語り部によって語られる説話的な構成という点から神々の深き欲望 スチール.jpgも、個と家族、共同体の関係性に重きを置いた作品という印象を受けました。沖山秀子の演じたのは、息子の妹で、開発業者の社員(北村和夫)に政略的に与えられる白痴の娘の役でした。

沖山秀子(太トリ子(太亀太郎の妹))/嵐寛寿郎(太山盛(太根吉の父で神に仕える太家の長。自分の娘と近親相姦をして根吉を産ませている))

 彼女が北村和夫演じる開発会社の社員を好きになったことが悲恋の結末に繋がり、最後は「岩」になってしまったという、説話または神話と呼ぶにはあまりにドロドロした話で、キネマ旬報ベストテンの'68年の第1位作品ですが、観た当時はあまり好きになれなかった作品でした(沖山秀子は良かった。と言うより、スゴかったが)。しかしながら、後に観直すうちに、だんだん良く思えるようになってきた...(抵抗力がついた?)。

沖山秀子.jpg 因みに、沖山秀子は関西学院の女子大生時に今村昌平監督に見い出されてこの映画に出演し、これを機に今村昌平監督の愛人となり、その関係が破局した後は、カメラマン恐喝のかどで逮捕され(留置場では全裸になって男性受刑者を歓喜させ、「みんな何日も女の体を見てないからね。私はブタ箱をパラダイスにしてやったんだよ」と言ったという逸話がある)、出所後は精神病院に入院、退院後マンションの7階から投身自殺をするも未遂に終わり、「十九歳の地図」出演時の「自殺未遂で片脚が不自由になった娼婦」役をほぼそのまま地で演っているというスゴさでした。(2011年3月21日死去)

「十九歳の地図」●.jpg「十九歳の地図」●制作年:1979年●監督・脚本:柳町光十九歳の地図5.jpg男●製作:柳町光男/中村賢一●撮影:榊原勝己●音楽:板橋文夫●原作:中上健次「十九歳の地図」●時蟹江敬三.jpg間:109分●出演:本間優二/蟹江敬三/沖山秀子/山谷初男/原知佐子/西塚肇/うすみ竜/鈴木弘一/白川和子/豊川潤/友部正人/津山登志子/中島葵/川島めぐ /竹田かほり/中丸忠雄/清川虹子/柳家小三治/楠侑子●公開:1979/12●配給:プロダクション群狼●最初に観た場所:文芸坐ル・ピリエ(81-1-31)(評価:★★★★)●併映:「ゴッド・スピード・ユー! BLACK EMPEROR」(柳町光男) 

ゴッド・スピード・ユー! BLACK EMPEROR(1976) dvd_.jpgゴッド・スピード・ユー! BLACK EMPEROR .jpg「ゴッド・スピード・ユー! BLACK EMPEROR」●制作年:1976年●製作・監督:柳町光男●撮影:岩永勝敏/横山吉文/塚本公雄/杉浦誠●時間:91分●出演:ブラックエンペラー新宿支部の少年たち/本間優二●公開:1976/07●配給:プロダクション群狼●最初に観た場所:文芸坐ル・ピリエ(81-1-31)●2回目:自由が丘・自由劇場(85-06-08)(評価:★★★)●併映(1回目):「十九歳の地図」(柳町光男)●併映(1回目):「さらば愛しき大地」(柳町光男)
ゴッド・スピード・ユー!BLACK EMPEROR [DVD]

神々の深き欲望 .jpg「神々の深き欲望」.jpg「神々の深き欲望」●制作年:1968年●監督:今村昌平●製作:山野井正則●脚本:今村昌平/長谷部慶司●撮影:栃沢正夫●音楽:黛敏郎●時間:175分●出演:三國連太郎/河原崎長一郎/沖山秀子/嵐寛寿郎/松井康子/原泉/浜村純/中村たつ/水島晋/北村和夫/小松方正神々の深き欲望 竜立元 加藤嘉.jpg/殿山泰司/徳川清/石津康彦/細川ちか子/扇千景/加藤嘉/長谷川和彦●公開:1968/11●配給:日活●最初に観た場所:池袋・文芸地下(83-07-30)(評価:★★★★)

加藤嘉(クラゲ島の区長で製糖工場の工場長・竜立元)

中上 健次 ユリイカ.jpgユリイカ2008年10月号 特集=中上健次 21世紀の小説のために

 【1978年文庫化[文春文庫]/2000年再文庫化[小学館文庫(『岬・化粧 他』-中上健次選集12)]】

中上 健次.jpg  沖山秀子 2.jpg 沖山秀子 in「喜劇・女は度胸」('69年/松竹)with 渥美清

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