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細部は違うが大まかには原作通りか。俳優陣は好演しているがやや地味になった。

オデッサ・ファイル_1974.jpg The Odessa File (1974).jpg  オデッサ・ファイル (1974年) .jpg オデッサ・ファイル (角川文庫).jpg
映画チラシ/「オデッサ・ファイル [DVD]」『オデッサ・ファイル (1974年)』『オデッサ・ファイル (角川文庫)

オデッサ・ファイル図0.jpg 1963年11月22日、西独ハンブルグ。新聞記者あがりのルポライター、ペーター・ミラー(ジョン・ヴォイト)は母親(マリア・シェル)の家を訪ねた帰り道、カーラジオでケネディ大統領暗殺の臨時ニュースを聴く。その時一台の救急車が彼の車を追い越し、ミラーは反射的にその後を追う。事件は一老人のガス自殺だったが、翌日、知人の警部補から自殺した老人の日記を渡される。老人はドイツ系ユダヤ人で、日記はラトビアのリガにあったナチ収容所での地獄の生活を記録したものだった。老人は、リガ収容所長だったSS大尉ロシュマン(マクシミリアン・シェル)の非人道的な残虐さを呪い、復讐しようとしていたが果たさず、絶望のうちに自殺したのだ。ミラーは老人にオデッサ・ファイル図8.jpg代わってそのロシュマンを捜し出す決心をする。彼はまず、老人の仲間を捜し出し、"オデッサ"という、元ナチSS隊員で作った、ナチ狩りから逃れ身元を偽って社会にもぐり込んでいる元ナチSS隊員を法廷にかけさせないために様々な活動をしている秘密組織の存在を知る。数日後、ミラーが恋人のジギー(メアリー・タム)とXマスの買物のために地下鉄に乗ろうとしたとき、突然後から何者かに走ってくる電車に向かって突き落とされる。間一髪で命は助かるが、こうなるとミラーとしても意地があった。米資料センターでロシュマンの資料を発見したミラーは、帰りに3人組に捕まる。彼らは元SS隊員に復讐することを目的としたグループで、ミラーが"オデッサ"を追っているのを知り、彼に協力しようというオデッサ・ファイル図1.jpgのだ。ミラーを"オデッサ"に潜入させる工作が始まる。元ナチ隊員で病死した男コルブの出身証明書を盗み、彼に化けて元SS軍曹で警察に追われているという設定で"オデッサ"に接近、下級隊員の紹介で幹部に会うことになる。ミラーはファイルを盗み出し、ロシュマンの足跡を掴むことが出来た。ロシュマンを尾行し、彼の屋敷に潜入して彼と対峙する―。

 ロナルド・ニーム(1911-2010/享年99)監督が「ポセイドン・アドベンチャー」('72年/米)の次に監督した作品で、原作は英国の作家フレデリック・フォーサイスの1971年発表の彼の出世作『ジャッカルの日(The Day of the Jackal)』('73年・角川書店)に続く1972年オデッサ・ファイル図3.jpg発表の第2作『オデッサ・ファイル(The Odessa File)』('74年・角川書店)。1974年発表の『戦争の犬たち(The Dogs of War)』('75年・角川書店)と併せて初期3部作とされていて、『ジャッカルの日』はフレッド・ジンネマン監督によって映画化され('73年/米)、「戦争の犬たち』もジョン・アーヴィン監督によって映画化されていますが('80年/米)、共にアメリカ映画で、この「オデッサ・ファイル」だけ、製作国はイギリスと西ドイツです。

 映画「ジャッカルの日」は、原作の面白さに加え、"ジャッカル"を演じたエドワード・フォックスの好演もあって楽しめましたが(淀川長治がある本で、映画史上の悪役のベストに「ジャッカルの日」の"ジャッカル"を選んでいる)、一方、「戦争の犬たち」の方は、せっかくの原作をラストを勝手に変えてしまって、クリストファー・ウォオデッサ・ファイル図4.jpgーケンが演じた主人公がなぜ傭兵になったのか分からないまま終わってしまっていました。この「オデッサ・ファイル」でペーター・ミラーを演じたジョン・ボイドはどうかというと、原作の主人公(原作ではミューラー)のイメージと違っていたかもしれませんが、ジョン・ボイドが当時まだ若いながらも演技達者なのと、主人公が相手方に潜入してからオデッサ・ファイル08.jpgの危機の脱し方など部分的には原作を改変しているものの、大まかには原作に沿っていたため、個人的には楽しめました(原作の主人公の愛車がジャガーであるのに映画ではベンツになっていた一方、オデッサの殺し屋のクルマがジャガーだった。この辺りは意図的に変えている?)。評価として、「ジャッカルの日」「オデッサ・ファイル」「戦争の犬たち」の順で、やはり監督の知名度順になるのでしょうか)。

オデッサ・ファイル図5.jpg 「ジャッカルの日」の主人公はプロのスナイパーであり、「戦争の犬たち」の主人公はプロの傭兵、それに対してこの「オデッサ・ファイル」の主人公だけがある意味アマチュアであり、素人が元SS軍曹に化けて"オデッサ"に潜入することが出来るのかというリアリティの問題がありますが、"オデッサ"幹部将校が主人公の身許審査のためSSについて矢継ぎ早にした質問で、「収容所の真中に何が見えたか?」との問いに、答えに詰まって「空が見えました」と答えてしまい、将校の眼が鋭く光るといった場面など、逆に旨い具合に緊張感を生む効果にも繋がっていたかも。なぜジャーナリストとは言え、一市民に過ぎない主人公が元SS大尉ロシュマンにこだわるのか、作品の鍵となるその秘密の明かされ方は原作と同じで、但し、原作を読んでいると、映画の方はややあっけなくて、ちょっともの足りなかったでしょうか。

オデッサ・ファイル図7.jpg ラストで主人公に追い詰められて、身勝手な理論に基づく演説をぶつロシュマンを演じたマクシミリアン・シェル(1930-2014)も好演で、主人公の母親役のマリア・シェル(1926-2005)オデッサ・ファイル図6.jpgは彼の実姉になります(「居酒屋」('56年/仏)での彼女の演技は良かった)。主人公の恋人を演じたメアリー・タムは、この作品ぐらいしか代表作がありませんが美人で、演技もまあまあ。全体にちょっと地味な感じになったけれども、原作の良さと俳優陣の好演で、一応"及第点"の映画になっているように思いました。

オデッサ・ファイル09.jpg 因みに、マクシミリアン・シェルが演じたエドゥアルト・ロシュマンは実在の人物で、リガにあった強制収容所の歴代所長の一人で、"リガの屠殺人"と呼ばれ、1977年7月、アルゼンチン警察に逮捕されるも、4日後に国外退去を条件に釈放され、同年8月、パラグアイで心臓発作による死亡が確認されています(この作品の原作をフォーサイスが書いていた時はまだ逃亡・潜伏中だったということか)。

オデッサ・ファイル図9.jpg「オデッサ・ファイル」●原題:THE ODESSA FILE●制作年:1974年●制作国:イギリス・西ドイツ●監督:ロナルド・ニーム●製作:ジョン・ウルフ●脚本:ケネス・ロス/ジョージ・マークスタイン●撮影:オズワルド・モリス●音楽:アンドルー・ロイド・ウェバー●原作:フレデリック・フォーサイス●時間:130分●出演:ジョン・ヴォイト/マクシミリアン・シェル/マリア・シェル/メアリー・タム/デレク・ジャコビ/ハンネス・メッセマー/シュミュエル・ロデンスキ●日本公開:1975/03●配給:コロムビア映画●最初に観た場所:新宿ローヤル(82-12-08)(評価★★★☆)

《読書MEMO》
●個人的評価
【原作】
『ジャッカルの日』............★★★★
『オデッサ・ファイル』......★★★★
『戦争の犬たち』...............★★★★

【映画】
「ジャッカルの日」............★★★★
「オデッサ・ファイル」......★★★☆
「戦争の犬たち」...............★★★

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ニューヨークという大都会を舞台にしたダスティン・ホフマン主演'69年作品2作。

ジョンとメリー [VHS].jpgジョンとメリー [DVD].jpg 真夜中のカーボーイ dvd.jpg 卒業 [DVD] L.jpg
ジョンとメリー [DVD]」「真夜中のカーボーイ [DVD]」「卒業 [DVD]

ジョンとメリー 1.jpg マンハッタンに住む建築技師ジョン(ダスティン・ホフマン)のマンションで目覚めたメリー(ミア・ファロー)は、自分がどこにいるのか暫くの間分からなかった。昨晩、独身男女が集まるバーで2人は出会い、互いの名前も聞かないまま一夜を共にしたのだった。メリーは、整頓されたジョンの家を見て女の影を感じる。ジョンはかつてファッションモデルと同棲していた過去があり、メリーはある有力政治家と愛人関係にあった。朝食を食べ、昼食まで共にした2人は、とりとめのない会話をしながらも、次第に惹かれ合っていくが、ちょっとした出来事のためメリーは帰ってしまう―。

 ピーター・イエーツ(1929-2011/享年81)監督の「ジョンとメリー」('69年)は、行きずりの一夜を共にした男女の翌朝からの1日を描いたもので、男女の出会いを描いた何とはない話であり、しかも基本的に密室劇なのですが、2人のそれぞれの回想と現在の気持ちを表す独白を挟みながらストーリーが巧みに展開していき、2人の関係はどうなるのだろうかと引き込まれて観てしまう作品でした。ピーター・イエーツは英国人で、映画監督になる前にプロのレーシング・ドライバーだったこともあり、この作品が監督第3作ですが、第1作が犯罪サスペンス映画「大列車強盗団」('67年/英)で、この作品でのアクション・シーンの手腕が買われ、ハリウッドで第2作、スティーブ・マックイーン主演のアクション映画「ブリット」('67年/米)を撮っていますが、今度はがらっと変って男女の出会いを描いた作品に。

ジョンとメリー 4.jpg 脚本は「シャレード」('63年)の原作者ジョン・モーティマーですが、構成の巧みさもさることながら、演じているダスティン・ホフマンとミア・ファローがそもそも演技達者、とりわけダスティン・ホフマン演じるジョンの、そのままメリーに居ついて欲しいような欲しくないようなその辺りの微妙に揺れる心情が可笑しく(ジョンの方に感情移入して観たというのもあるが)ホントにこの人上手いなあと思いました(でも、ミア・ファローも良かった)。

ジョンとメリー 2.jpg 最後に互いの気持ちを理解し合えた2人が、そこで初めて「ぼくはジョンだ」「私はメリーよ」という名乗り合う終わり方もお洒落(その時に大方の日本人の観客は初めて、そっか、2人はまだ名前も教え合っていなかったのかと気づいたのでは。アメリカ人だったら普通は最初に名乗るけれど、アメリカ人が見たらどう感じるのだろうか)。観た当時は、これが日本映画だったら、もっとウェットな感じになってしまうのだろうなあと思って、ニューヨークでの一人暮らしに憧れたりもしましたが、逆に、ニューヨークのような大都会で恋人も無く一人で暮らすということになると、(日本以上に)とことん"孤独"に陥るのかも知れないなあとも思ったりして。

真夜中のカーボーイ1.jpg そうした大都会での孤独をより端的に描いた作品が、ダスティン・ホフマンがこの作品の前に出演した同年公開のジョン・シュレシンジャー(1926-2003/享年77)監督の「真夜中のカーボーイ」('69年)であり、ジョン・ヴォイトが、"いい男ぶり"で名を挙げようとテキサスからニューヨークに出てきて娼婦に金を巻き上げられてしまう青年ジョーを演じ、一方のダスティン・ホフマンは、スラム街に住む怪しいホームレスのリコ(一旦は、こちらもジョーから金を巻き上げる)役という、その前のダスティン・ホフマンの卒業 ダスティン・ホフマン .jpg主演作であり、彼自身の主演第1作だったマイク・ニコルズ監督の「卒業」('67年)の優等生役とはうって変った役柄を演じました(「卒業」で主人公が通うコロンビア大学もニューヨーク・マンハッタンにある)。

卒業 ダスティン・ホフマン/キャサリン・ロス.jpg 映画デビューした年に「卒業」でアカデミー主演男優賞ノミネートを受け(この作品、今観ると「サウンド・オブ・サイレンス」をはじめ「スカボロ・フェアー」「ミセス・ロビンソン」等々、サイモン&ガー卒業(1967).jpgファンクルのヒット曲のオン・パレードで、そちらの懐かしさの方が先に立つ)、主演第2作・第3作が「真夜中のカーボーイ」(これもアカデミー主演男優賞ノミネート)と「ジョンとメリー」であるというのもスゴイですが、ゴールデングローブ卒業 1967 2.jpg賞新人賞を受賞した「卒業」の、その演技スタイルとは全く異なる演技をその後次々にみせているところがまたスゴイです(「卒業」で英国アカデミー賞新人賞を受賞し、「真夜中のカーボーイ」と「ジョンとメリー」で同賞主演男優賞を受賞している)。

真夜中のカーボーイQ.jpg 3作品共にアメリカン・ニュー・シネマと呼ばれる作品ですが、その代表作として最も挙げられるのは「真夜中のカーボーイ」でしょう。ニューヨークを逃れ南国のフロリダへ旅立つ乗り合いバスの中でリコが息を引き取るという終わり方も、その系譜を強く打ち出しているように思われます。「真夜中のカーボーイ」も「ジョンとメ真夜中のカーボーイs.jpgリー」も傑作であり、ダスティン・ホフマンはこの主演第2作と第3作で演技派としての名声を確立してしまったわけですが、個人的には「ジョンとメリー」の方が、ラストの明るさもあってかしっくりきました。一方の「真夜中のカーボーイ」の方は、ジョーとリコの奇妙な友情関係にホモセクシュアルの臭いが感じられ、当時としてはやや引いた印象を個人的には抱きましたが、2人の関係を精神的なホモセクシュアルと見る見方は今や当たり前のものとなっており、その分だけ、今観ると逆に抵抗は感じられないかも(但し、原作者のジェームズ・レオ・ハーリヒー自身はゲイだったようだ)。

ミスター・グッドバーを探して [VHS].jpg 「ジョンとメリー」に出てくる"Singles Bar"(独身者専門バー)を舞台としたものでは、リチャード・ブルックス(1912-1992/享年72)監督・脚本、ダイアン・キートン主演の「ミスター・グッドバーを探して」('77年)があり、こちらはジュディス・ロスナーが1975年に発表したベストセラー小説の映画化作品です。
ミスター・グッドバーを探して [VHS]

ミスター・グッドバーを探して1.jpg ダイアン・キートン演じる主人公の教師はセックスでしか自己の存在を確認できない女性で、原作は1973年にニューヨーク聾唖学校の28歳の女性教師がバーで知り合った男に殺害された「ロズアン・クイン殺人事件」という、日本における「東電OL殺人事件」(1997年)と同じように、当時のアメリカ国内で、殺人事件そのものよりも被害者の二面的なライフスタイルが話題となった事件を基にしており、当然のことながら結末は「ジョンとメリー」とは裏腹に暗いものでした。主人公の女教師は最後バーで拾った男(トム・ベレンジャー)に殺害されますが、その前に女教師に絡むチンピラ役を、当時全く無名のリチャード・ギアが演じています(殺害犯役のトム・ベレンジャーも当時未だマイナーだった)。

恋におちて 1984.jpg 何れもニューヨークを舞台にそこに生きる人間の孤独を描いたものですが、ニューヨークを舞台に男女の出会いを描いた作品がその後は暗いものばかりなっているかと言えばそうでもなく、ロバート・デ・ニーロとメリル・ストリープの演技派2人が共演した「恋におちて」('84年)や、メグ・ライアンとトム・ハンクスによるマンハッタンのアッパーウエストを舞台にしたラブコメディ「ユー・ガット・メール」('98年)など、明るいラブストーリーの系譜は生きています(「ユー・ガット・メール」は1940年に製作されたエルンスト・ルビッチ監督の「街角/桃色(ピンク)の店」のリメイク)。
「恋におちて」('84年)

ユー・ガット・メール 01.jpg 「恋におちて」はグランド・セントラル駅の書店での出会いと通勤電車での再会、「ユー・ガット・メール」はインターネット上での出会いと、両作の間にも時の流れを感じますが、前者はクリスマス・プレゼントとして買った本を2人が取り違えてしまうという偶然に端を発し、後者は、メグ・ライアン演じる主人公は絵本書店主、トム・ハンクス演じる男は安売り書店チェーンの御曹司と、実は2人は商売敵だったという偶然のオマケ付き。そのことに起因するバッドエンドの原作を、ハッピーエンドに改変しています。
「ユー・ガット・メール」('98年)

めぐり逢えたら 映画 1.jpg トム・ハンクスとメグ・ライアンは「めぐり逢えたら」('93年)の時と同じ顔合わせで、こちらもレオ・マッケリー監督、ケーリー・グラント、デボラ・カー主演の「めぐり逢い」('57年)にヒントを得ている作品ですが(「めぐり逢い」そのものが同じくレオ・マッケリー監督、アイリーン・ダン、シャルル・ボワイエ主演の「邂逅」('39年)のリメイク作品)、エンパイア・ステート・ビルの展望台で再開を約するのは「めぐり逢い」と同じ。但し、「めぐり逢い」ではケーリー・グラント演じるテリーの事故のため2人の再会は果たせませんでしたが、「めぐり逢えたら」の2人は無事に再開出来るという、こちらもオリジナルをハッピーエンドに改変しています。
「めぐり逢えたら」('93年)

 最近のものになればなるほど、男女双方または何れかに家族や恋人がいたりして話がややこしくなったりもしていますが、それでもハッピーエンド系の方が主流かな。興業的に安定性が高いというのもあるのでしょう。「恋におちて」は、古典的ストーリーをデ・ニーロ、ストリープの演技力で引っぱっている感じですが、2人とも出演時点ですでに大物俳優であるだけに、逆にストーリーの凡庸さが目立ち、やや退屈?(もっと若い時に演じて欲しかった)。但し、「恋におちて」「めぐり逢えたら」「ユー・ガット・メール」の何れも役者の演技はしっかりしていて、ストーリーに多分に偶然の要素がありながらも、ディテールの演出や表現においてのリアリティはありました。しかしながら、物語の構成としては"定番の踏襲"と言うか、「ジョンとメリー」を観て感じた時のような新鮮味は感じられませんでした。

 こうして見ると、ニューヨークという街は、「真夜中のカーボーイ」や「ミスター・グッドバーを探して」に出てくる人間の孤独を浮き彫りにするような暗部は内包してはいるものの、映画における男女の出会いや再会の舞台として昔も今もサマになる街でもあるとも言えるのかもしれません(ダスティン・ホフマンは同じ年に全く異なるキャラクターで、ニューヨークを舞台に孤独な男性の「明・暗」両面を演じてみせたわけだ。これぞ名優の証!)。

ジョンとメリー [VHS]
JOHN AND MARY 1969.jpgジョンとメリーdvd3.jpg「ジョンとメリー」●原題:JOHN AND MARY●制作年:1969年●制作国:アメリカ●監督:ピーター・イェーツ●製作:ベン・カディッシュ●脚本:ジョン・モーティマー●撮影:ゲイン・レシャー●音楽:クインシー・ジョーンズ●原作:マーヴィン・ジョーンズ「ジョンとメリー」●時間:92分●出演:ダスティン・ホフマン/ミア・ファロー/マイケル・トーラン/サニー・グリフィン/スタンリー・ベック/三鷹オスカー.jpgタイン・デイリー/アリックス・エリアス●日本ジョンとメリーe.jpg公開:1969/12●配給:20世紀フォックス●最初に観た場所:三鷹東映(78-01-17)(評価:★★★★☆)●併映:「ひとりぼっちの青春」(シドニー・ポラック)/「草原の輝き」(エリア・カザン)三鷹東映 1977年9月3日、それまであった東映系封切館「三鷹東映」が3本立名画座として再スタート。1978年5月に「三鷹オスカー」に改称。1990(平成2)年12月30日閉館。

Dustin Hoffman and Mia Farrow/Photo from John and Mary (1969)

「真夜中のカーボーイ」●原題:MIDNIGHT COWBOY●制作年:1969年●制作国:アメリカ●監督:ジョン・シュレシンジャー●製作:ジェローム・ヘルマン●脚本:ウォルド・ソルト●撮影:アダム・ホレンダー●音楽:ジョン・バリー●原作:ジェームズ・レオ・ハーリヒー「真夜中のカーボーイ」●時間:113真夜中のカーボーイ2.jpg真夜中のカーボーイ 映画dvd.jpg分●出演:ジョン・ヴォイト/ダスティン・ホフマン/シルヴィア・マイルズ/ジョン・マクギヴァー/ブレンダ・ヴァッカロ/バーナード・ヒューズ/ルース・ホワイト/ジェニファー・ソルト/ボブ・バラバン●日本公開:1969/10●配給:ユナイテッド・アーティスツ●最初に観た場所:早稲田松竹(78-05-20)(評価:★★★★)●併映:「俺たちに明日はない」(アーサー・ペン)
真夜中のカーボーイ [DVD]

「卒業」●原題:THE GRADUATE●制作年:1967年●制作国:アメリカ●監督:マイク・ニコルズ●製作:ローレンス・ター卒業 1967 pster.jpgマン●脚本:バック・ヘンリー/カルダー・ウィリンガム●撮影:ロバート・サーティース●音楽:ポール・サイモン卒業 1967 1.jpg/デイヴ・グルーシン●原作:チャールズ・ウェッブ「卒業」●時間:92分●出演:ダスティン・ホフマン/アン・バンクロフト/キャサリン・ロス/マーレイ・ハミルトン/ウィリアム・ダリチャr-ド・ドレイファス 卒業.jpgニエルズ/エリザベス・ウィルソン/バック・ヘンリー/エドラ・ゲイル/リチャード・ドレイファス●日本公開:1968/06●配給:ユナイテッド・アーティスツ●最初に観た場所:池袋・テアトルダイヤ(83-02-05)(評価:★★★★)●併映:「帰郷」(ハル・アシュビー)
卒業 [DVD]

映画パンフレット 「ミスターグッドバーを探して」.jpg「ミスター・グッドバーを探して」●原題:LOOKING FOR MR. GOODBAR●制作年:1977年●制作国:アメリカ●監督・脚本:リチャード・ブルックス●製作:フレディ・フィールズ●撮影:ウィリアム・A・フレイカー●音楽:アーティ・ケイン●原作:ジュディス・ロスナー「ミスター・グッドバーを探して」●時間:135分●出演:ダイアン・キートン/アラン・フェインスタイン/リチャード・カイリー/チューズデイ・ウェルド/トム・ベレンジャー/ウィリアム・アザートン/リチャード・ギア●日本公開:1978/03●配給:パラマウント=CIC●最初に観た場所:飯田橋・佳作座(79-02-04)(評価:★★☆)●併映:「流されて...」(リナ・ウェルトミューラー)
映画パンフレット 「ミスターグッドバーを探して」監督リチャード・ブルックス 出演ダイアン・キートン

FALLING IN LOVE 1984.jpg恋におちて 1984 dvd.jpg「恋におちて」●原題:FALLING IN LOVE●制作年:1984年●制作国:アメリカ●監督:ウール・グロスバード●製作:マーヴィン・ワース●脚本:マイケル・クリストファー●撮影:ピーター・サシツキー●音楽:デイヴ・グルーシン●時間:106分●出演:ロバート・デ・ニーロ/メリル・ストリープ/ハーヴェイ・カイテル/ジェーン・カツマレク/ジョージ・マーティン/デイヴィッド・クレノン/ダイアン・ウィースト/ヴィクター・アルゴ●日本公開:1985/03●配給:ユニヴァーサル映画配給●最初に観た場所:テアトル池袋(86-10-12)(評価:★★★)●併映:「愛と哀しみの果て」(シドニー・ポラック)
恋におちて [DVD]

YOU'VE GOT MAIL.jpgユー・ガット・メール dvd.jpg「ユー・ガット・メール」●原題:YOU'VE GOT MAIL●制作年:1998年●制作国:アメリカ●監督:ノーラ・エフロン●製作:ノーラ・エフロン/ローレン・シュラー・ドナー●脚本:ノーラ・エフロン/デリア・エフロン●撮影:ジョン・リンドリー●音楽:ジョージ・フェントン●原作:ミクロス・ラズロ●時間:119分●出演:トム・ハンクス/メグ・ライアン/グレッグ・キニア/パーカー・ポージー/ジーン・ステイプルトン/スティーヴ・ザーン/ヘザー・バーンズ/ダブニー・コールマン/ジョン・ランドルフ/ハリー・ハーシュ●日本公開:1999/02●配給:ワーナー・ブラザース映画配給(評価:★★★)ユー・ガット・メール [DVD]

SLEEPLESS IN SEATTLE.jpgめぐり逢えたら 映画 dvd.jpg「めぐり逢えたら」●原題:SLEEPLESS IN SEATTLE●制作年:1993年●制作国:アメリカ●監督:ノーラ・エフロン●製作:ゲイリー・フォスター●脚本:ノーラ・エフロン/デヴィッド・S・ウォード●撮影:スヴェン・ニクヴィスト●音楽:マーク・シャイマン●原案:ジェフ・アーチ●時間:105分●出演:トム・ハンクス/メグ・ライアン/ビル・プルマン/ロス・マリンジャー/ルクランシェ・デュラン/ルクランシェ・デュラン/ギャビー・ホフマン/ヴィクター・ガーバー/リタ・ウィルソン/ロブ・ライナー●日本公開:1993/12●配給:コロンビア映画(評価:★★☆)めぐり逢えたら コレクターズ・エディション [DVD]

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'96年は映画館入場者数最低年。「スパイ大作戦」とは別物の「ミッション:インポッシブル」。

『映画イヤーブック 1997』.JPGミッション:イン ポッシブル 1996 dvd.jpg ミッション:イン ポッシブル 1996 01.jpg  「スパイ大作戦」シーズン2 dvd.jpg
映画イヤーブック〈1997〉 (現代教養文庫)』「ミッション:インポッシブル [DVD]」「スパイ大作戦 シーズン2(日本語完全版) [DVD]

 1996年に公開された洋画379本、邦画175本、計554本の全作品データと解説を収録し、ビデオ・ムービー、未公開洋画、テレビ映画ビデオのデータなども網羅しています。

過去.png '96年の映画館の入場者数は1億1,957万人とのことで1億2千万人を割り込みましたが、本書の編者・江藤努氏は編集後記において、レンタルビデオによる映画鑑賞が定着し、〈映画人口〉というより〈映画館人口〉が減少したとみるべきだろうが、やはり憂慮すべき事態であるとしています。また、シネマ・コンプレックス建設ブームで映画館自体の数は52館増えたので、小劇場化の流れが定着したところで、この凋落傾向の底が見えるのではないかともしています。

 この予想は長期的に見て概ね当たり、短期的には、翌年'97年には「もののけ姫」('97年7月公開)、更に'98年には「タイタニック」('97年12月日本公開)という、それぞれ興行収入(配給収入)100億円を超えるメガヒット作品があったりもして、過去20年間の映画館入場者数を振り返ってみれば、洋・邦画トータルではこの'96年という年が最低の入場者数だったことになります。

 本書での最高評価になる「四つ星」作品は、「セブン」「ビフォア・ザ・レイン」「アンダーグランド」「イル・ポスティーノ」「デッドマン・ウォーキング」「ザ・ロック」「ファーゴ」「秘密と嘘」の8作品、一方邦画は、「Shall We ダンス?」(周防正行監督)、「ガメラ2」(金子修介監督)、「キッズ・リターン」(北野武監督)、「学校Ⅱ」(山田洋次監督)などの6作品。

ミッション:イン ポッシブル 1996 00.jpgMission Impossible  01.jpg 個人的には、トム・クルーズがプロデューサーとしてブライアン・デ・パルマを監督に指名した「ミッション:インポッシブル」('96年)に注目しましたが、それなりに楽しめたけれども、オリジナルの「スパイ大作戦」とは随分違った作りになったなあと。

 リーダーのフェルペス以外は全て映画用のオリジナル・キャラクターで、しかもチームワークで事件に当たるというよりは、完全にトム・クルーズ演じるイーサン中心です。トム・クルーズは「ザ・ファーム/法律事務所」('93年)にしても、後の「マイノリティ・リポート」('02年)にしてもそうですが、組織内にいて、その組織に裏切られたり組織から追われたりするという脚本が好きなのかなあ。第1作でフェルプスが裏切り者になってしまったため、「スパイ大作戦」でフェル「スパイ大作戦」.jpgプスを演じたピーター・グレイブスは衝撃を受け、他のドラマ出演者からの評判も良くなかったようです。

「スパイ大作戦」ピーター・グレイブス(右端)

 鉄壁の組織内チームワークを誇った「スパイ大作戦」とはえらい違いですが、このパターンで「ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル」('11年)まで4作続けて、これはこれで「スパイ大作戦」とは別モノとしての一つの流れを完全に作ったなあと思いました。そうした意味では成功作なんだろうけれど、デ・パルマ監督が撮らなくとも、大体こんな映画になったのではないか。ジョン・ウー監督の「ミッション:インポッシブル2」('00年)の方が、監督の個性が出ていたかも(その分、さらにMIらしくない)。その後のシリーズ過程でチームワーク重視にトーン変更しており、J・J・エイブラムス監督の「ミッション:インポッシブル3」('06年)では、前2作よりMission Impossible III 02.jpg「スパイ大作戦」の映画化らしい出来にする、という前提条件があり、テレビシリーズの構図に近い出来となっていました。現場を引退して教Mission Impossible III 01.jpg官をしていたイーサンが、敵に拉致された教え子の女エージェントの救出プロジェクトに参加することになりますが、彼女は頭の中に仕掛けられていた小型爆弾により死亡し、逆にイーサン自身が彼女と同様の窮地に陥り、さらに婚約者も拉致されてしまう―イーサンを救い、さらにイーサンの婚約者を奪還するために仲間が協力するという"身内"色の強い内容でしたがそう悪くなく、この3作目をシリーズベストに挙げる人もいるようです。
     
「ミッション インポッシブル」dvd.jpgEmmanuelle Béart Mission:Impossible.jpg「ミッション:インポッシブル」●原題:MISSION:IMPOSSIBLE●制作年:1996年●制作国:アメリカ●監督:ブライアン・デ・パルマ●製作:トム・クルーズ/ポーラ・ワグナー●脚本:デヴィッド・コープ/ロバート・タウン/スティーヴン・ザイリアン●撮影:スティーヴン・H・ブラム●音楽:ダニー・エルフマン(テーマ音楽:ラロ・シフリン)●原作:ウィンストン・グルーム●時間:110分●出演:トム・クルーズ/ジョン・ヴォイトエマニュエル・ベアール/ジャン・レノ/ヘンリー・ツェーニー/ダニー・ エルフマン/クリスティン・スコット・トーマス/インゲボルガ・ダクネイト/ヴィジョン・ヴォイト ミッションインポッシブル.jpgミッション:インポッシブル2.jpgング・レイムス/ヴァネッサ・レッドグレイヴ/ヘンリー・ツェニー/アンドリアス・ウイスニウスキー/ロルフ・サクソン/マーセル・ユーレス/デイル・ダイ●日本公開:1996/07●配給:パラマウント=UIP(評価:★★★☆)
ジョン・ヴォイト(ジム・フェルプス)/エマニュエル・ベアール(クレア・フェルプス)

スパイ大作戦 サウンドトラック 1967.jpg「スパイ大作戦」 Mission: Impossible (CBS 1966~1973) ○日本での放映チャネル:フジテレビ(1967~)/スーパーチャンネル(現Super! drama TV)(2011~) テーマスパイ大作戦 ピーター・グレイブス.jpg
曲:ラロ・シフリン

ピーター・グレイブス(ジム・フェルプス)


「ミッション インポッシブル3」2006.jpg「ミッション インポッシブル3」  2006.jpg「ミッション:インポッシブル3(M:i:III)」●原題:MISSION:IMPOSSIBLE III●制作年:2006年●制作国:アメリカ●監督:J・J・エイブラムス●製作:トム・クルーズ/ポーラ・ワグナー●脚本:アレックス・カーツマン/ロベルト・オーチー/J・J・エイブラムス●撮影:ダニエル・ミンデル●音楽:マイケル・ジアッキーノ(テーマ音楽:ラロ・シフリン)●時間:126分●出演:トム・クルーズ/フィリップ・シーモア・ホフマン/ヴィング・レイムス/ビリー・クラダップ/ミシェル・モナハン/サイモン・ペッグ/ジョナサン・リース=マイヤーズ/ケリー・ラッセル/マギー・Q/ローレンス・フィッシュバーン●日本公開:2006/07●配給:パラマウント=UIP(評価:★★★☆)

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アクション映画としてはよく出来ているが、列車が危険物を積んでいるという実感が無い。

アンストッパブル チラシ.jpg アンストッパブル dvd.jpg UNSTOPPABLE2.jpg 暴走機関車 poster.jpg
「アンストッパブル」チラシ「アンストッパブル[DVD]」クリス・パイン/デンゼル・ワシントン「暴走機関車」poster

アンストッパブル 09.jpg ペンシルバニア州のある操車場に停車中の最新式貨物列車が、整備士の人為的ミスによって無人のまま走り出してしまうが、積荷は大量の化学薬品とディーゼル燃料であることが判明、操車場長のコニー・フーパー(ロザリオ・ドーソン)は極めて深刻な事態が発生アンストッパブル10.jpgしたことを認識し、州警察に緊急配備を依頼する。フランク・バーンズ(デンゼル・ワシントン)と職務経験4ヵ月のその頃、勤続28年のベテラン機関士車掌ウィル・コルソン(クリス・パイン)は、この日初めてコンビを組み、旧式機関車に乗り込み職務に就いていた―。
暴走機関車 [DVD]
暴走機関車 dvd2.jpg暴走機関車 .jpg暴走機関車03.jpg 列車の暴走を扱った映画ということで、アラスカの刑務所から脱獄した男たちが乗った機関車が運転手が心臓発作で亡くなったため暴走する、アンドレ・ミハルコフ=コンチャロフスキー監督、ジョン・ヴォイト主演の「暴走機関車」('85年/米)を想起しましたが(映画の原案は黒澤明だが黒澤は完成した映画を批判している)、こちらは2001年にオハイオ州で実際に発生した貨物列車暴走事故が下敷きになっています。但し、発生場所も含め変更が加えられており、そのため「事実に着想を得た」作品となっていますが、ハリウッド映画にありがちなテロリストやサイコパスの"悪意"による事故ではなく、純粋に人為的ミスの積み重ねで生じたトラブルをモチーフアンストッパブル 1.jpg『アンストッパブル』(2010)2.jpgにしているところに興味を惹かれました(「リスク管理」の教材?この作品の日本初試写会は鉄道高校として有名な東京・上野の岩倉高等学校の体育館で行われ、ゲストにAKB48のメンバーが登場した(2010年11月17日) )。
「アンストッパブル」
アンストッパブル 3.jpg デンゼル・ワシントンは、同じくトニー・スコット監督作品の「サブウェイ123 激突」('09年)でも鉄道員の役を演じていて、前回は運行司令官役でしたが、今回は運転士役。デンゼル・ワシントンが、妻と死別し2人の難しい年頃の娘がいる寡男で会社からは退職勧告を受けていて、クリス・パインの方は、妻の浮気疑惑で離婚争議中のため接近禁止命令が出ている男といった具合に、共に仕事や家庭生活に難点を抱える者同士の組み合わせですが、映画の主役は、劇薬を積んで市街地へ向かって暴走する800メートルの貨物列車でしょうか。

トニー・スコット 「アンストッパブル」.bmpアンストッパブル 2.jpg 鉄道会社の上層部の見通しの甘い事故対応が更に「アンストッパブル」●2.jpg事態を悪化させるといった社会批判も織り交ぜ、また、アクション映画としてもよく出来ているけれども、最初からデンゼル・ワシントン(観ていて安心感あり過ぎ)らが事態を収束するであろうことが見えていて、あまりドキドキしなかった感じも(むしろ、デンゼル・ワシントンは彼自身のアクション・シーンが危なっかしい感じだったけれど、勿論これは演技のうち?)。

恐怖の報酬3.jpg恐怖の報酬.jpg恐怖の報酬1.bmp 街中のカーブで貨物列車が脱線する恐れがあるいうのは確かにスリリングかも知れませんが、列車が危険物を積んでいるという実感が無く、その点は、イヴ・モンタンがニトログリセリンを積んだトラックを運転するアンリ・ジョルジュ・クルーゾーの「恐怖の報酬」('53年/仏)などは上手かったなあ(ラストは「徒然草」の「高名の木登り」を想起した)。
恐怖の報酬
 油田火災を消火するためにニトログリセリンをトラックで運ぶ仕事を請け負った男たちの話ですが、男たちの目の前で石油会社の人間が積み荷であるニトロの一滴を岩の上に垂らしてみせると岩が粉微塵になってしまうという、導入部の演出が効果満点! 一滴だけでもこれだけの威力があるものを、トラックに目一杯積んで、これから危険な山道を走るという...シズル感のあるスリルの演出―どうして、こうした先人たちのテクニックを活かさないのだろう。カメラワーク一つとっても半世紀以上前の作品の方が上であるというのは...。 

ロザリオドーソン.jpgUNSTOPPABLE.jpg 女性操車場長のロザリオ・ドーソンは、リー・ストラスバーグ演劇学校で学んだ演技派で、この作品でも好演(「メン・イン・ブラック2」('02年)の店員役の頃に比べると随分貫禄がついた?)。但し、事故の収束とともに2人の男がヒーローになるのは"予定調和"の内だけれど、それで両者の仕事や家庭問題まで一気に解決されてしまったとなると、"事故様様"みたいな感じもしてしまいました(1人犠牲者が出ている。「危機管理」の観点からももっと反省すべきケースではないか)。
ロザリオ・ドーソン

クリムゾン・タイド01.jpgクリムゾン・タイド02.jpg トニー・スコット監督、デンゼル・ワシントンの組み合わせでは、米軍原子力潜水艦を舞台にした「クリムゾン・タイド」('95年)が傑作でしょうか。
 ロシア起きた超国家主義による反乱に備え出港した弾道ミサイル原子力潜水艦内で、ICBMを発射するかしないかを巡ってエリート艦長の白人と、現場たたき上げの黒人副官が対立するというもので、この映画の出来は、クエンティン・タランティーノ(ノンクレジット)がリライトしたという脚本と艦長役のジーン・ハックマンの好演に負うところが大きいと思うのですが、あの頃のデンゼル・ワシントン、まだ若かったなあ。いつまで「善い者」役ばかりやってるんだろう(シドニー・ポワチエの現代版か)。

「アンストッパブル」●ps.jpgUNSTOPPABLE 2010.jpg「アンストッパブル」●原題:UNSTOPPABLE●制作年:2010年●制作国:アメリカ●監督:トニー・スコット●製作:ジュリー・ヨーン/トニー・スコット/ミミ・ロジャース/エリック・アンストッパブル 岩倉高校.jpgマクレオド/アレックス・ヤング●脚本:マーク・ボンバック●撮影:ベン・セレシン●音楽:ハリー・グレッグソン=ウィリアムズ●時間:98分●出演:デンゼル・ワシントン/クリス・パイン/ロザリオ・ドーソン/ケヴィン・ダン/イーサン・サプリー/T・J・ミラー/リュー・テンプル/ジェシー・シュラム/ケヴィン・チャップマン/ケヴィン・コリガン/デヴィッド・ウォーショフスキー●日本公開:2011/01●配給:20世紀フォックス(評価:★★★) 東京・上野の岩倉高等学校での公開記念イベント(AKB48高橋みなみ、渡辺麻友、宮澤佐江)
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暴走機関車 dvd1.jpg暴走機関車 02.jpg暴走機関車 01.jpg「暴走機関車」●原題:RUNAWAY TRAIN●制作年:1985年●制作国:アメリカ●監督:アンドレ・ミハルコフ=コンチャロフスキー●製暴走機関車 チラシ.jpg作:ヨーラン・グローバス/メナハム・ゴーラン●脚本:ジョルジェ・ミリチェヴィク/ポール・ジンデル/エドワード・バンカート●撮影:アラン・ヒューム●音楽:トレヴァー・ジョーンズ●原案:黒澤明/菊島隆三(ノンクレジット)/小國英雄(ノンクレジット)●時間:111分●出演:ジョン・ヴォイト/エリック・ロバーツ/レベッカ・デモーネイ/カイル・T・ヘフナー/ジョン・P・ライアン/ケネス・マクミラン/T・K・カーター/ステイシー・ビックレン/エドワード・バンカー/ダニー・トレホ●日本公開:1986/06●配給:松竹富士●最初に観た場所:有楽町・丸ノ内ピカデリー1(86-06-29)(評価:★★☆) 「暴走機関車」チラシ

LE SALAIRE DELA PEUR.jpg恐怖の報酬3.jpg「恐怖の報酬」●原題:LE SALAIRE DELA PEUR●制作年:1953年●制作国:フランス●監督・脚本:アンリ・ジョルジュ・クルーゾー●撮影:アルマン・ティラール●音楽:ジョルジュ・オーリック●原作:ジョルジュ・アルノー●時間:131分●出演:イヴ・モンタン/シャルル・ヴァネル/ヴェラ・クルーゾー/フォルコ・ルリ●日本公開:1954/07●配給:東和●最初に観た場所:新宿アートビレッジ (79-02-10)(評価:★★★★)●併映:「死刑台のエレベーター」(ルイ・マル)  

クリムゾン・タイド dvd.jpg「クリムゾン・タイド」●原題:CRIMSON TIDE●制作年:1995年●制作国:アメリカ●監督:トニー・スコット●製作:ドン・シンプソン/ジェリー・ブラッカイマー●脚本マイケル・シファー(原案・脚色)/リチャード・P・ヘンリック(原案)/クエンティン・タランティーノ (リライト、クレCRIMSON TIDE.jpgジットなし)●撮影:ダリウス・ウォルスキー●音楽:ハンス・ジマー●時間:116分●出演:デンゼル・ワシントン/ジーン・ハックマン/ジョージ・ズンザ/ヴィゴ・モーテンセン/ジェームズ・ガンドルフィーニ/リロ・ブランカート.Jr/ダニー・ヌッチ/スティーヴ・ザーン/リッキー・シュローダー/ロッキー・キャロル/ヴァネッサ・ベル・キャロウェイ●日本公開:1995/10●配給:ブエナ・ビスタ(評価:★★★★)
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「チャンプ」に比べリアリティがある分、カタルシス効果は弱い。佳作だが地味か。

TABLE FOR FIVE 1982 5人のテーブル.jpg5人のテーブル チラシ.png 5人のテーブル ビデオ.jpg    飯野ビル.jpg
「5人のテーブル」輸入版VHS・チラシ/「5人のテーブル [VHS]」/内幸町・旧飯野ビル(手前中央)

Table For Five movie poster2.jpg5人のテーブル 輸入版dvd.jpg もとプロゴルファーで現在は不動産屋のタネン(ジョン・ヴォイト)は、別れた妻(ミリー・パーキンス)のもとで育てられている3人の子供たちと年に一度過ごす期間に、夏の地中海を豪華客船で旅をするというプランを立てる。それは子供達の愛情を取り戻し、妻との復縁の為に無理をして実行した旅行だったが―。

 父親と息子の絆を描いた「チャンプ」('79年)で父親のプロボクサー役を演じたジョン・ヴォイトが、3年後のこの作品でもまた、自堕落により離婚し、今は何とか家族との絆を回復したいと考えている父親を演じています(この映画の製作も兼ねたジョン・ヴォイトの実生活における父親もプロゴルファーだった。娘は女優のアンジェリーナ・ジョリー)。

 主人公の父親が、酒などで身を持ち崩した離婚男であるのは「チャンプ」のボクサーと同じですが、いきなりエジプト旅行とかを思い立ったりして、性格的にもやや破綻気味なのが「チャンプ」とは異なる点で、"性格俳優"のジョン・ヴォイトが演じるにより相応しいキャラクターだったかも知れません。

 3人の子供(内1人はベトナム系養子)を連れての旅の最中にも、元妻以外の新たな相手女性を探し求めたりしていて、レストランでの食事で"5人席"を予約した腹の内を子供達に見透かされるなど、子供の方も「チャンプ」よりスレてきていていますが、そうしたことも含め、脚本にはリアリティがあったのでは。

5人のテーブル 1.jpg 別れた妻の再婚相手は弁護士であり、普通にエンタメ系ならば、こうした社会的地位のある強力なライバルとダメ男だった主人公が競い合って、最後は主人公が再び家族を取り戻すという風になりがちなのですが、この作品は必ずしもそうはなりません。

 「チャンプ」のような"大円団"的な終わり方にはならないので、「チャンプ」と同じくらい"泣ける映画"との触れ込みでロードにかかりましたが、カタルシス効果は弱いと思います。

TABLE FOR FIVE3.jpg 「父親とは何か」を考えさせる映画であり、但し、ここで求められている父親像は、ハリウッド映画の伝統的な「強い父親」像ともやや異なり、アメリカ映画というよりヨーロッパ映画を観ているみたいな感じでした("新たな相手女性?"役でマリー・クリスチーヌ・バローとか出てくるし)。

 70年代後半から80年代にかけては、日本の経済は安定成長期でしたが(その後、バブル経済に突入する)、片やアメリカは、景気が低迷して企業の生産性は落ち込み、リストラが横行して多くの労働者が失業に喘いでいました。

5人のテーブル2.jpg 「チャンプ」('79年)と「5人のテーブル」('82年)の2作品だけの比較で見るのは乱暴かもしれませんが、不況の時は「一発逆転」的なドリーミィな作品がウケるかも知れないけれども、あまりに不況が長引くと、そんな"夢物語"のような話は次第に受け容れられにくくなり、こうしたリアルな脚本になったのではないかとも。

 豪華客船での地中海クルーズという見た目の派手さとは逆に、作品そのものの印象が、"佳作"ではあるが地味ということになるのはそのせいでしょう。世の景気は映画の作風に影響するのかも(ビデオ化はされているが、DVDは見当たらない。"バブル直前の日本"向きの作品ではなかった?)。

 霞が関(内幸町)・飯野ビル内「イイノホール」での試写会で鑑賞しました(試写会で映画を観るというのは個人的には滅多にないことなのだが、たまたま勤め先の近くだったので)。霞が関のど真ん中、地下鉄「霞が関」駅の真上に、これだけの敷地を使って9階建とは勿体ないと常々思っていたら(隣の日比谷中日ビルも10階建とそう高くはないが)、この度、約半世紀ぶりに建て替えられることになりました(新ビルは27階建、ホールの席数は600超→500席に減る)。

「5人のテーブル」●原題:TABLE FOR FIVE●制作年:1982年●制作国:アメリカ●監督:ロバート・リーバーマン●製作: ロバート・シャッフェル/ジョン・ヴォイト●脚本:デイヴィッド・セルツァー●撮影:ヴィルモス・ ジグモンド●音楽:ジョン・モリス●時間:122分●出演:ジョン・ヴォイト/リチャード・クレンナ/ミリー・パーキンス/マリー・クリスチーヌ・バロー/ロクサーナ・ザル/ロビー・カイガー/ソン・ホアン・ブイ/ケヴィン・コスナー●日本公開:1983/03●配給:日本ヘラルド●最初に観た場所:霞が関・イイノホール(83-03-01)(評価:★★★☆)

新イイノホール.jpg飯野ビル3.jpgイイノホール地図.jpg旧イイノホール 1960年10月霞が関・飯野ビル内に、試写会、舞踊・演劇・落語公演、会議・セミナー用多目的ホールとしてオープン。2007(平成19)年10月30日閉館。2011(平成23)年11月再オープン予定。

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子役を使って泣かせるなんてアザトイと思いながらも、やはり泣けてしまう...。
チャンプ dvd.jpg THE CHAMP.jpg  新宿ピカデリー.jpg 新宿ピカデリー 新館.jpg
チャンプ [DVD]」 Ricky Schroder and Jon Voight  旧・新宿ピカデリー(2006年閉館)/新・新宿ピカデリー

「チャンプ」 (79年/米).jpgチャンプ 輸入版ポスター.jpg いつの日か栄光の座に返り咲くことを夢見る元世界チャンピオンのボクサー(ジョン・ヴォイト)と、彼を尊敬し今もチャンプと呼ぶ息子(リッキー・シュローダー)の親子の絆、それに別れた妻(フェイ・ダナウェイ)が絡んでの家族愛を描いた作品で、日本でも大いにヒットしました。

 「ロミオとジュリエット」 ('68年/英・伊) 、「ブラザー・サン シスター・ムーン」('72年/英・伊)のフランコ・ゼフィレッリ監督よるキング・ヴィダー監督の同名作品('31年)のリメイクですが、子役リッキー・シュローダーの演技が絶賛され、これはフランコ・ゼフィレッリの演出によるところが大きいのではないかと個人的には思いました(この監督は、アッシジのフランチェスコの半生を描いた「ブラザー・サン シスター・ムーン」('72年/伊)でも素人に近い役者を使っていたが、主演のグレアム・フォークナーは聖人になりきっていた)。

輸入版ポスター

 もともとイタリア映画(イタリア人監督の映画)には、ビットリオ・デ・シーカの「自転車泥棒」('48年)からエルマンノ・オルミの「木靴の樹」('78年)にまで連なるネオレアリズモの流れがあり、共通する要素は"素人"乃至"子役"を旨く使っていることではないかとも思ったりします。

チャンプ 1979 03.jpg 37歳でチャンピオン戦というのはかなり無理があるなあとか(実際、当時はボクシングを冒涜しているとの批判もあったが、ジョン・ヴォイドのボクシング・スタイルは、「ロッキー」のシルベスター・スタローンのそれなどよりはずっと本モノぽかった)、或いは、子役を使って泣かせるなんてアザトイなあとか、やや斜に構えて観ていても、やはり結局最後は泣けてしまいます。

チャンプ(1931).jpg 個人的には子役の演技にはやや鼻につく面もありましたが、強さと弱さの両面を併せ持つ父親を演じたジョン・ヴォイドの演技がそれをカバーしているように思いました。フェイ・ダナウェイも含め、"ベテランが脇を固める"というパターンか。因みに、この作品は、キング・ヴィダー監督の1931年作品のリメイクですが、旧作の方は未見。小津安二郎の「出来ごころ」('34年)のヒントとなった作品でもあるそうです。

「チャンプ」(1931)

 上映後に女性客がみんな泣いているのでちょっと気恥ずかしかった記憶がありますが(今ここで流されている涙を全部かき集めたらどれぐらいになるのだろうかなどと余計な事を考えてしまうのが自分の悪い癖)、とは言え、映画を観て涙を流すことが皆無になったら、映画館に行って映画を観る意味は無くなるのかも知れない...。

チャンプ 1979 01.jpg「チャンプ」●原題:THE CHAMP●制作年:1979年●制作国:アメリカ●監督:フランコ・ゼフィレッリ●製作:ダイソン・ロヴェル●脚本:本 ウォルター・ニューマン●撮影:フレッド・コーネカンプ●音楽:デイヴ・グThe Champ (1979).jpgルーシン●原作:フランシス・マリオン●時間:123分●出演:ジョン・ヴォイト/フェイ・ダナウェイ/リッキー・シュローダー/ジャック・ウォーデン/アーサー・ヒル/ジョーン・ブロンデル/ストロザー・マーティン●日本公開:1979/07●配給:MGM映画=CIC●最初に観た場所:新宿ピカデリー(80-11-14)(評価:★★★☆)●併映:「クレイマー、クレイマー」(ロバート・ベントン)
The Champ (1979)

 この作品を観たのは、新宿松竹会館の旧「新宿ピカデリー」に於いてで、当時は「新宿松竹」(地下劇場)との2館体制で、「新宿ピカデリー」は2本立ての二番館でした(「チャンプ」の併映は「クレイマー、クレイマー」だった)。それが後に「アマデウス」('84年/日本公開'85年)を観た頃にはロード館になっていて、その後、松竹会館全体としては3館体制、4館体制となっていきました(新宿ピカデリー1~4)。

新宿ピカデリーS.jpg新 新宿ピカデリー.jpg 「新宿ピカデリー(ピカデリー1)」は1,154席(2001年の改修前)の大劇場でしたが、2006年に全館閉館し、2008年に10スクリーンのシネコンとして再オープンしました。新生「新宿ピカデリー」の10スクリーン全部合わせた席数は、以前の4館の合計の約5割増しになるそうですが、最大席数の「スクリーン1」で約600席と、かつての「ピカデリー1」の約半分しかないことになります。
新「新宿ピカデリー」 2008年7月オープン

 「みんな泣いているのでちょっと気恥ずかしかった」と書きましたが、大スクリーンということだけでなく、多くの観客と感動を共有できるのも大劇場の魅力かも知れないと思ったりもします。そうした大劇場は消えゆくのみかという寂しい気もするし、同じ1フロアーに昔は一体どうやって今の2倍もの客席を詰め込んでいたのかと思うと、やや不思議な気もします(ゴンドラ席があったなあ)。

新宿ピカデリー 閉館.jpg新宿ピカデリー.jpg 旧・新宿ピカデリー 1958年、靖国通り沿い「新宿松竹会館」1階に「新宿松竹映画劇場」オープン。1962年~「新宿ピカデリー」(1154席)、1987年~「新宿ピカデリー1」。2001年3月改修(820席)。2006年5月14日閉館。

【松竹会館全体】1958年10月28日「新宿松竹映画劇場」「新宿名画座」「新宿スター座」「新宿松竹文化演芸場」の4館オープン、1962年9月28日~「新宿ピカデリー」「新宿松竹」に、1987年7月4日~雀荘を改修し「新宿ピカデリー2」(44席)オープン(3館体制)、1992年8月12日「新宿ピカデリー2」オープン(4館体制、前「ピカデリー2」→「ピカデリー3」)、1999年6月12日「新宿松竹」→「ピカデリー2」、「ピカデリー2」→「ピカデリー3」、「ピカデリー3」→「ピカデリー4」に改称。2001年3月全館改修。2006年5月14日閉館。2008年7月19日、新生「新宿ピカデリー」オープン(10スクリーン)。

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"リンカーン・ライム"シリーズ第1作。長所においても欠点においても、原点的作品。

ボーン・コレクター 単行本.jpg   ボーン・コレクター 上.jpg ボーン・コレクター下.jpg  THE BONE COLLECTOR.jpg
 『ボーン・コレクター』['99年]『ボーン・コレクター〈上〉(文春文庫)』『ボーン・コレクター〈下〉(文春文庫)』「ボーン・コレクター [DVD]
ディーヴァー 『ボーン・コレクター』.jpgボーン・コレクター 洋書.jpg 1999(平成11)年度「週刊文春ミステリー ベスト10」(海外部門)第1位、(2000 (平成12) 年「このミステリーがすごい」(海外編)第2位)。

 "世界最高の犯罪学者"リンカーン・ライムは、ある事故によって四肢麻痺になり、安楽死を願っていたが、そんな彼に、不可解な誘拐殺人事件の知らせが届く。犯行現場に次の殺人の手がかりを残してゆくボーン・コレクターの挑戦に、ライムの犯罪捜査への情熱が再び目覚め、殺人現場の鑑識を嫌々引き受けていたアメリア・サックス巡査も、やがて事件解明に引き込まれてゆく―。

 1997年に発表されたジェフリー・ディーヴァーの"リンカーン・ライム"シリーズ第1作で、この人の小説は「ジェットコースター・サスペンス」と言われるだけに、長さを感じさせないスピード感がありますが、そもそも、全体で僅か3日の間の出来事なので(その間5人の犠牲者が"詰まって"いる)、出来るだけ一気に読んだ方がいいように思います。

 ジェフリー・ディーヴァーは1950年生まれ、弁護士資格を持ち(専門は会社法)、1990年までウォール街に勤務していたそうですが、科学的犯罪捜査に関するこの知識量は凄いなあ。
 但し、そうした蘊蓄だけでなく、女性巡査サックスが、突然上司となったライムに最初は反発しながらも、仕事を通して彼との距離を縮めていく(同時に、鑑識捜査官らしくなっていく)変化なども、丁寧に描かれています。

 犯人が意外と言うか、やや唐突であったりする欠点や、捜査陣の身内に犯人からの直接的な危害が及ぶという、やや無理がある、しかし、このシリーズでは定番化しているパターンなども含めて、シリーズの原点と言える作品。

ボーン・コレクター 映画.jpg '99年にフィリップ・ノイス監督により映画化されましたが、リンカーン・ライム役がデンゼル・ワシントンということで、白人から黒人になったということはともかく、原作のライムの苦悩や気難しさなどが、優等生的なデンゼル・ワシントンが演じることで薄まっている感じがし、アメリア・ドナヒュー(原作ではアメリア・サックス)役の アンジェリーナ・ジョリーも、この映画に関しては演技の評価は高かったようですが、個人的には、ちょっと原作のイメージと違うなあという感じ。

 原作はかなり内容が詰まっているだけに(とりわけ科学捜査の蘊蓄が)、これを2時間の映画にしてしまうことで抜け落ちる部分が多すぎて、役者陣のこともあり、映画は原作とは雰囲気的には別のものになってしまったというところでしょうか。そうした意味では、映画を既に観た人でも、原作は原作として充分楽しめると思います。

ジョリー  ヴォイドs.jpgトゥームレイダー ジョリー.jpg このアンジェリーナ・ジョリーという女優は、演技派と言うより肉体派では?と、実父ジョン・ヴォイトと共演し、役柄の上でも父と娘の関係の役だった「トゥームレイダー」('01年)などでも思ったのですが、「トゥームレイダー」は、世界中で大ヒットしたTVアクション・ゲームの映画版で、タフで女性トレジャー・ハンターが、惑星直列によって強大な力を発揮するという秘宝を巡って、その秘宝を狙う秘密結社と争奪戦を繰り広げるもの(インディ・ジョーンズの女性版?)。ストーリートゥームレイダー19.jpgも役者の演技もしょぼく、アンジェリーナ・ジョリーのアクロバティックなアクションだけが印象に残った作品(アンジェリーナ・ジョリー自身が、脚本を最初に読んだ時、主人公を「超ミニのホット・パンツをはいたバカ女」と評して脚本家と口論となった)。この作品で彼女は、ゴールデンラズベリー賞の「最低主演女優賞」にノミネートされたりもしていますが、最近では、クリント・イーストウッド監督の「チェンジリング」('08年)でアカデミー主演女優賞にノミネートされたりもしています。
 

ボーン・コレクターs.jpgボーン・コレクター dvd.jpg「ボーン・コレクター」●原題:THE BONE COLLECTOR●制作年:1999年●制作国:アメリカ●監督:フィリップ・ノイス●製作:マーティン・ブレグマン/マイケル・ブレグマン/ルイス・A・ストローラー●脚本:ジェレミー・アイアコーン/ジェフリー・ディーヴァー●音楽:クレイグ・アームストロング●原作:ジェフリー・ディーヴァー●時間:118分●出演:デンゼル・ワシントン/アンジェリーナ・ジョリー/クィーン・ラティファ/エド・オニール/マイク・マッグローン/リーランド・オーサー/ルイス・ガスマン●日本公開:2000/04●配給:ソニー・ピクチャーズ(評価:★★☆)
トゥームレイダー [DVD]

トゥームレイダー.jpgトゥームレイダー  .jpg「トゥームレイダー」●原題:TOMB RAIDER●制作年:2001年●制作国:アメリカ●監督:サイモン・ウェスト●製作:ローレンス・ゴードン/ロイド・レヴィン/コリン・ウィルソン●脚本:パトリック・マセット/ジョン・ジンマン●撮影:ピーター・メンジース・Jr●音楽:BT●時間:100fhd001TRO_Angelina_Jolie_050.jpgア分●出演:アンジェリーナ・ジョリー/ジョン・ヴォイト/イン・グレン/ダニエル・クレイグ/レスリー・フィリップス/ノア・テイラー/レイチェル・アップルトン/クリス・バリー/ジュリアン・リンド=タット/リチャード・ジョンソン●日本公開:2001/06●配給/東宝東和(評価★★)
Lara Croft Tomb Raider : Jon Voight and his daughter Angelina Jolie
TOMB RAIDER Jonathan  Voight.jpg TOMB RAIDER Jonathan  Voight2.jpg

モデル時代のアンジェリーナ・ジョリー(15歳)  Angelina Jolie
アンジェリーナ・ジョリー モデル.jpgアンジェリーナ・ジョリー.jpg アンジェリーナ・ジョリー.bmp

 【2003年文庫化[文春文庫(上・下)]】 

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『大図鑑』と言うより「蛇柄」観賞用イラスト集。図書館で借りて"観る"本。『写真図鑑』の方がお奨め。

ヘビ大図鑑.bmp   千石先生の動物ウォッチング.jpg                爬虫類と両生類の写真図鑑.jpg
(28.2 x 22.6 x 1.8 cm)『ヘビ大図鑑―驚くべきヘビの世界』['00年/ 緑書房] 『千石先生の動物ウォッチング―ガラパゴスとマダガスカル カラー版 (岩波ジュニア新書)』 『爬虫類と両生類の写真図鑑 (地球自然ハンドブック)』['01年/日本ヴォーグ社]

『ヘビ大図鑑―驚くべきヘビの世界』.jpg 本書『ヘビ大図鑑-驚くべきヘビの世界』に見開きで描かれている蛇のイラストはいずれも大変に美しいのですが、一部、生態も含めたイラストがあるものの、半分ぐらいはとぐろを巻いている同じような"ポース"ばかりのもので、せっかくあの「千石先生」が翻訳しているのに、これではそれぞれの蛇の生態がシズル感を以って伝わってはきません(ある意味、"蛇柄"のカタログ)。

 それと、191ページで7000円という価格は、いくら何でも高過ぎ。「3000種を超える世界のヘビを収録」とありますが、イラストで紹介されているのは100種類にも満たないのではないでしょうか(1種を見開きで使っていたら当然そういことになるが)。図鑑と言うより贅沢なイラスト集、それも純粋に"蛇柄"の違いのみを楽しむマニアックなものという印象を受けました。

 蛇マニア("蛇柄"フェチ?)には魅力的な本かもしれませんが、一般の人にとっては、買う本ではなく、図書館で借りる本でしょう(「日本図書館協会選定図書」とのことでもあるし)。

『爬虫類と両生類の写真図鑑 完璧版』.jpg 図鑑という観点から本書よりもお奨めなのが、『爬虫類と両生類の写真図鑑 完璧版』('01年/日本ヴォーグ社/定価2,500円)。

 版は小ぶりですが、オールカラーで、世界の爬虫類と両生類を400種類紹介していて(写真は600枚)、1つ1つの解説も丁寧。よくこれだけ、写真を集めたなあという感じで、1ページに2種から3種収められていてコンパクトですが、分布、繁殖や類似種から、全長、食性、活動期間帯まで一目でわかるようになっています。

 オリジナルの英国版は両生類4,550種、爬虫類が6,660種が掲載されているそうで(すごい数!)、本書はそのほんの一部の抜粋版であるため、「完璧版」はちょっと言い過ぎのようにも思われますが、それでも蛇だけで160種を超える掲載点数であり、やはりこっちを買うことにしました。


映画「アナコンダ」2.jpg映画「アナコンダ」1.jpg そう言えば、ジェニファー・ロペス、ジョン・ヴォイトが主演した「アナコンダ」('97年/米)という映画がありました。伝説のインディオを探して南米アマゾンに来た映画作家らの撮影隊(ジェニファー・ロペスら)が、遭難していた密猟者(ジョン・ヴォイト)を助けるが、最初は温厚な態度をとっていた彼が、巨大蛇アナコンダが現れるや否や本性を曝け出し、アナコンダを捕獲するという自らの目的遂行のために撮影隊のメンバーを支配してしまう―というもの。

映画「アナコンダ」3.jpg映画「アナコンダ」4.jpg 大蛇アナコンダが出てくる場面はCGとアニマトロニクスで合成していますが、CGのアナコンダはあまり怖くなく、作品としてはどちらかと言うとスペクタクルと言うより人間劇で、アナコンダよりもアクの強い演技がすっかり板についているジョン・ヴォイトの方が怖かった(蛇すら吐き出してしまうジョン・ヴォイド?)。

アナコンダ2.jpgラスト・アナコンダ.jpg 後に「アナコンダ2」('04年/米)という続編も作られ(それにしても、南米にしか生息しないアナコンダをボルネオに登場させるとは)、更には「アナコンダ3」('08年/米・ルーマニア)、「アナコンダ4」('09年/米・ルーマニア)までも。「ラスト・アナコンダ」('06年/タイ)というタイ映画や「「アナコンダ・アイランド」('08年/米)という、蛇の大きさより数で勝負している作品もあるようです。
アナコンダ 2 [DVD]」('04年/米)「ラスト・アナコンダ [DVD]」('06年/タイ)
  
ボア [DVD].jpgボア vs.パイソン.jpgパイソン  dvd.jpg "アナコンダもの"が多いようですが、このほかに、「パイソン」('00年/米)、「パイソン2」(02年/米)、「ボア vs.パイソン」('04年/米(TVM))、「ボア」('06年/タイ)、「ザ・スネーク」('08年/米(TVM))など、蛇を題材にした多くの生物パニック・ホラー映画が作られており、コアな「蛇ファン」がいるのか(CGにし易いというのもあるのかも)。 
パイソン [DVD]」('00年/米)「ボアvs.パイソン [DVD]」('04年/米(TVM))「ボア [DVD]」('06年/タイ)
Boas (left) and pythons (right)
boa_and_python.png "コブラもの"の映画もあるみたいですが(追っかけていくとどんどんマニアックになっていく)、"ニシキヘビもの"は無いのか? 実は「パイソン」はニシキヘビ類全般を指す場合に用いられる呼称であって、「パイソン」の中にアミメニシキヘビなども含まれているわけです。更に、「ボア」も、アメリカ大陸(中南米)に生息するニシキヘビの一種で、ボア・パイソンとも呼ばれます。但し、分類学上は、ボア科が本科であり、ニシキヘビ科をボア科の亜科とする学説が有力なようです。ボア科とニシキヘビ科の違いは胎生か卵生かであり、「ボア」は胎生(卵胎生)で、ボア科の「アナコンダ」も胎生、これに対してニシキヘビは卵生です(但し進化学的には、本科のボアの方が亜科ニシキヘビより原始的)。映画「ボア vs.パイソン」は、「本科 vs.亜科」といったところなのでしょうか。
  
「アナコンダ」●原題:ANACONDA●制作年:1997年●制作ANACONDA 1997.jpg国:アメリカ●監督:ルイス・ロッサ●製作:ヴァーナ・ハラー/レナード・ラビノウィッツ/キャロル・リトル●脚本:ハンス・バウアー/ジム・キャッシュ/ジャック・エップスJr.●撮影ビル・バトラー●音楽:ランディ・エデルマン●時間:89分●出演:ジェニファー・ロペス映画「アナコンダ」dvd.jpg/アイス・キューブ/ジョン・ヴォイト/エリックジェニファー・ロペス in 「アナコンダ」.jpg・ストルツ/ジョナサン・ハイド/オーウェン・ウィルソン/カリ・ウーラー/ヴィンセント・カステラノス/ダニー新宿東急 アナコンダ.jpg・トレホ●日本公開:1997/09●配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント (評価:★★)
アナコンダ [DVD]」/ジェニファー・ロペス in「アナコンダ」


 ガラガラ蛇の生命力の強さを物語る動画があったので、酔狂半分でアップ。"キモい"のが苦手の人は見ないで。

蛇は頭だけになっても襲いかかってくる

 
Python eats Alligator, Time Lapse Speed x6

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読んでいる間は面白いけれど、読み終えると、何だったのみたいな感じ。

ダ・ヴィンチ・コード 上.jpg ダ・ヴィンチ・コード(下).jpg ダ・ヴィンチ・コード愛蔵版.jpg ダ・ヴィンチ・コード dvd.jpg ダ・ヴィンチ・コード   .jpg ナショナル・トレジャー dvd.jpg
ダ・ヴィンチ・コード〈上〉〈下〉』〔'04年〕『ダ・ヴィンチ・コード ヴィジュアル愛蔵版』〔'05年/角川書店〕「ダ・ヴィンチ・コード (1枚組) [SPE BEST] [DVD]」トム・ハンクス「ナショナル・トレジャー 特別版 [DVD]

ダ・ヴィンチ・コード4.jpg 2003年に発表されたダン・ブラウンのベストセラー小説で、2004 (平成16) 年度「週刊文春ミステリー ベスト10」(海外部門)第1位作品であり、映画化もされたのであらすじを知る人は多いと思いますが、著者自身の説明によると―、「高名なハーヴァード大学の象徴学者が警察によってルーヴル美術館へ呼び出され、ダ・ヴィンチの作品にまつわる暗号めいた象徴を調べるよう依頼されます。その学者は暗号を解読し、史上最大の謎のひとつを解き明かす手がかりを発見するのですが...追われる身となります」ということで、実はその前に、ルーヴル美術館の館長が異様な死体で発見されるという出来事があるのですが...。

 館長の孫娘が象徴学者と協力して祖父のダイイング・メッセージを説こうとするが、そこに立ちはだかる謎の宗教団体がいて、ハラハラドキドキの展開。一度は聞いたことがあるようなキリストにまつわる有名な謎を孕んだ宗教的背景、美術館の中を探索しているような芸術の香り高い味付け。謎解きだけでもグイグイ読者を引っぱっていく上にこれだから、読者の色んな欲求を満たしてくれます。海外ではillustrated edition という「愛蔵版」が出ていましたが、日本でもすぐに出版され、小説の中に登場する美術作品や建築物、場所、象徴などを数多く収録した豪華カラー版!美術本としては楽しめるが洋書より値が高い。1冊1万2千円の皮装版まで出て、ここまでくるとちょっとスノッブではないかと...。

 ただし、作品の最大の魅力であるはずの謎解き(暗号解読)も、鍵穴の向こうにまた鍵穴がありそれを開けるとそのまた向こうに鍵穴があるような展開がずっと続くと、少し食傷気味となります。こんな複雑なダイイング・メッセージ残して、残された者が解けなかったらどうするのだろうという素朴な疑問も覚えました(娘は一応優秀な「暗号解読官」であるという設定になってはいるが)。

 著者は、小説の構築においてロバート・ラドラムの影響を受けたそうですが、言われなくともよく似ているあという感じで、読んでいる間は面白いけれど、読み終えると、何だったのみたいな感じもします。エンタテインメントはそれでいいのだという考え方もありますが...。

 冒頭の、「この小説における芸術作品、建築物、文書、秘密儀式に関する記述はすべて事実に基づいている」という記述も、小説の一部であると見た方がいいと思います。

Tom Hanks in "The Da Vinci Code"(2006)
ダ・ヴィンチ・コード.png「ダ・ヴィンチ・コード」 2005 トム・ハンクス.jpg ロン・ハワード監督、トム・ハンクス主演の映画「ダ・ヴィンチ・コード」('06年/米)も同じような感じで、原作のストーリーを丁寧になぞったために展開がかなりタイトになった上に(上映時間は2時間半と長いのだが)、「トンデモ学説」をホイホイ素直に信じる登場人物たちを見ていて「こんなの、あり得ない」という気持ちにさせられ、ああ、これは「インディ・ジョーンズ」などと同じで、ハナから真面目に考えてはいけなかったのかと改めて思いました(どうせ映像化するなら、ルーヴル美術館の中をもっとしっかり撮って欲しかった)。 「ダ・ヴィンチ・コード (1枚組) [DVD]

ダイアン・クルーガー/ニコラス・ケイジ in「ナショナル・トレジャー」('04年/米)
ナショナル・トレジャー dvd.jpgナショナル・トレジャー1.jpg 同じような「お宝探し」系の作品では、ジョン・タートルトーブ監督の「ナショナル・トレジャー」('04年/米)があり、これは、歴史学者にして冒険家の主人公(ニコラス・ケイジ)が、合衆国独立宣言書に署名した最後の生存者が自分の先祖に残した秘宝の謎を女性公文書館員(ダイアン・クルーガー)らとともに追うもので、こちらもフリーメイソンとかテンプル騎士団とか出てきますが、そもそもアメリカの建国来の歴史が200年そこそこであるため、「ダ・ヴィンチ・コード」ほどの重々しさがなく、しかも、予算の都合なのか、「ダ・ヴィンチ・コード」以上に殆どの展開が都会の真ん中で繰り広げられています。 「ナショナル・トレジャー 特別版 [DVD]

 但し、作っている側も敢えて大仰に構えるのではなく、謎解きとアクションに徹している感じで、娯楽映画としてはフラストレーションの残る「ダ・ヴィンチ・コード」よりは、プロセスにおいてテンポ良く、結末においてカタルシスのあるこちらの方が楽しめたかも(まあ、「ダ・ヴィンチ・コード」の方は、原作を読んで結末が分かった上で観ているわけだからその分ハンディがあり、比較にならないかも知れないが)。
 
 「ダ・ヴィンチ・コード」より公開は早く、男女が組んでのお宝探しや都会の真ん中にそのお宝の秘密があったことなど、「ダ・ヴィンチ・コード」の原作のパクリではないかとも言われたそうですが、「ダ・ヴィンチ・コード」風に変に重々しく作ってしまうと、却ってアメリカ人の歴史コンプレックスの表れみたいな作品になっていたかも。純粋娯楽映画としてはまあまあの出来でしょうか。本国でもそれなりに人気があったらしく、続編「ナショナル・トレジャー/リンカーン暗殺者の日記」('07年)も作られています。

ダ・ヴィンチ・コードs.jpgダ・ヴィンチ・コード09.jpg「ダ・ヴィンチ・コード」●原題:THE DA VINCI CODE●制作年:2006年●制作国:アメリカ●監督:ロン・ハワード●製作:ブライアン・グレイザー/ジョン・コーリー●脚本:ダン・ブラウン/アキヴァ・ゴールズマン●撮影:サルヴァトーレ・トチノ●音楽:ハンス・ジマー●原作:ダン・ブラウン「ダ・ヴィンチ・コード」●時間:150分●出演:トム・ハンクス/オドレイ・トトゥ/ジャン・レノ/イアン・マッケラン/ポール・ベタニー/アルフレッド・モリーナ/ユルゲン・プロホノフ ●日本公開:2006/05●配給:ソニー・ピクチャーズ(評価:★★☆)

ナショナル・トレジャー』.jpg「ナショナル・トレジャー」●原題:NATIONAL TREASURE●制作年:2004年●制作国:アメリカ●監督:ジョン・タートルトーブ●製作:ジェリー・ブラッカイマー/ジョン・タートナショナル・トレジャー2.jpgルトーブ●脚本:コーマック・ウィバーリー/マリアンヌ・ウィナショナル・トレジャー ジョン・ヴォイト.jpgバーリー/ジム・カウフ●撮影:キャレブ・デシャネル●音楽:トレヴァー・ラビン●時間:131分●出演:ニコラス・ケイジ/ダイアン・クルーガー/ジャスティン・バーサ/ショーン・ビーン/ハーヴェイ・カイテル/ジョン・ヴォイト/クリストファー・プラマー●日本公開:2005/03●配給:ブエナ・ビスタ(評価:★★★☆)

ジョン・ヴォイト

ダイアン・クルーガー              「ナショナル・トレジャー」('05年/米)
ダイアン・クルーガー.jpeg ナショナル・トレジャー ダイアン・クルーガー.jpg
女は二度決断する」('17年/独)[カンヌ国際映画祭女優賞]女は二度決断する ド.jpg女は二度決断する 32 0.jpg

 【2006年文庫化[角川文庫(上・中・下)]】

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