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メロドラマ in 阿蘇谷。高峰秀子と仲代達矢が競演。田村正和の本格デビュー作でもある。

永遠の人 1961.jpg 永遠の人 木下 01.jpg 永遠の人 木下 02.jpg
木下惠介生誕100年「永遠の人」 [DVD]」高峰秀子/仲代達矢/佐田啓二

「永遠の人」1.jpg◇第一章 昭和7年、上海事変の頃、阿蘇谷の大地主・小清水平左衛門(永田靖)の小作人・草二郎(加藤嘉)の娘・さだ子(高峰秀子)には川南隆(佐田啓二)という親兄弟も許した恋人がいた。隆と、平左衛門の息子・平兵衛(仲代達矢)は共に戦争に行っていたが、平兵衛は足に負傷、除隊となって帰郷する。平兵衛の歓迎会の数日後、平兵衛はさだ子を犯す。さだ子は川に身を投げるが、隆の兄・力造(野々村潔)に助けられる。やがて隆が凱旋、事情を知った彼は、さだ子と村を出奔しようと決心するが、当日になって幸せになってくれと置手紙を残し行方をくらます。

「永遠の人」13.jpg◇第二章 昭和19年。さだ子は平兵衛と結婚、栄一、守人、直子の三人の子をもうけていた。太平洋戦争も末期、隆も力造も応召していた。隆はすでに結婚、妻の友子(乙羽信子)は幼い息子・豊と力造の家にいたが、平兵衛の申し出で小清水家に手伝いにいくことになる。隆を忘れないさだ子に苦しめられる平兵衛と、さだ子の面影を追う隆に傷つけられた友子。ある日、平兵衛は友子に挑み、さだ子は"ケダモノ"と面罵する。騒ぎの中、長い間病床に伏していた平左衛門が死去、翌日、友子は暇をとり郷里へ帰る。

「永遠の人」tamura.jpg◇第三章 昭和24年。隆は胸を冒されて帰郷。一方、さだ子が平兵衛に犯された時に姙った栄一(田村正和)は高校生になっていたが、ある日、自分の出生の秘密を知り、阿蘇火口に投身自殺する。さだ子と平兵衛は一層憎み合うようになる。

◇第四章 昭和35年。二十歳になる直子(藤由紀子)と25歳になる隆の息子・豊(石浜朗)は愛し合っていたが家の事情で結婚できない。さだ子は二人を大阪へ逃がしてやった。これを知って怒る平兵衛。そこへ巡査(東野英治郎)がきて、東京の大学に入っている次男の守人(戸塚雅哉)が安保反対デモに参加、逮捕状が出ていると報せに来る。その後へ守人から電話。さだ子は草千里まできた守人に会い金を渡して彼の逃走を助ける。草千里へ行く途中、さだ子はまた友子と会い、息子と会いたいという友子に大阪の居場所を教える。

◇第五章 昭和36年。隆は死の床についていた。直子と豊も生れたばかりの子を連れて駆けつける。さだ子も来た。隆は死の間際に、平兵衛を苦しめていたのは自分であり、謝ってくれとさだ子に告げるた。さだ子は隆を安らかに送るため平兵衛を呼んでこようとするが―。

「永遠の人」tamura2.jpg 木下惠介(1912-1998/享年86)監督の1961(昭和36)年公開作で、同年「キネマ旬報 ベスト・テン」で第3位。1962年に米国の第34回アカデミー賞外国語映画賞にノミネートされた作品でもあります。前年「旗本愚連隊」にて顔見せ出演した田村正和は、この作品が本格的デビューとなりました。

仲代達矢/田村正和/高峰秀子

 「ザ・メロドラマ in 阿蘇谷」という感じ。さだ子(高峰秀子)、隆(佐田啓二)、平兵衛(仲代達矢)は三角関係で、さだ子にとっての「永遠の人」は隆であり、そのためさだ子と平兵衛は憎しみ合っていて、それを演じる高峰秀子と仲代達矢が演技合戦がスゴイです(高峰秀子は'61年・第12回「芸術選奨(演技)」受賞)。

「永遠の人」12.jpg ラスト、平兵衛はさだ子の頼みを最初はきかなかったけれども、やがて頑なだった彼の心も砕けます。ただ、これで30年間も憎み、苦しんできた二人にようやく平和が訪れたという、所謂メロドラマ的筋書きなのでしようが、高峰秀子と仲代達矢のそれまでの憎しみ合う演技がスゴ過ぎて、結末がやや安易に思えてしまうほどでした。

 なぜかBGMがフラメンコギターなのですが、これが各シーンに合っていて、フラメンコ調のギターはメロドラマと相性がいいのかも。フラメンコ調のギターを活かした映画と言えば今井正監督の「小林多喜二」('74年)がありましたが、あれもなぜフラメンコギターなのかと思いながらも、しばらくすると違和感がなくなりました。個人的には、この映画で再び同じような経験をしたことになります。

「永遠の人」あそ.jpg.png「永遠の人」●制作年:1961年●監督・脚本:木下惠介●製作:月森仙之助/木下惠介●撮影:楠田浩之●音楽:木下忠司●時間:107分●出演:高峰秀子/佐田啓二/仲代達矢/加藤嘉/野々村潔/永田靖/浜田寅彦/乙羽信子/田村正和/戸塚雅哉/藤由紀子/石濱朗/東野英治郎●公開:1961/09●配給:松竹●最初に観た場所:シネマブルースタジオ(19-08-20)(評価:★★★★)
「永遠の人」p.jpg.png.jpg

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脚本がよく出来ている。二つの"和解"がラストで重層的に織り込まれている。

カルメン故郷に帰る」 1951.jpg カルメン故郷に帰る 01.jpg カルメン故郷に帰る 02.jpg
木下惠介生誕100年 「カルメン故郷に帰る」 [DVD]」高峰秀子/小林トシ子(バックは浅間山)
「カルメン故郷に帰る」1.jpg 浅間山麓に牧場を営む青山正一(坂本武)の娘おきん(高峰秀子)は、東京からの便りで、友達を一人連れて近日帰郷すると言ってくる。しかも署名にはリリイ・カルメンとしてある。正一はそんな異人名前の娘は持った覚えが無いと怒鳴るので、おきんの姉のおゆき(望月美惠子)は村の小学校の先生をしている夫の一郎(磯野秋雄)に相談に行き、校長(笠智衆)に口を利いてもらって正一を宥めようと相談が纏まる。田口春雄(佐野周二)は出征して失明して以来愛用のオルガンで作曲に専心していて、妻の光子(井川邦子)が馬力を出して働いているが、運送屋の丸十(小沢栄)に借金のためにオルガンを取り上げられ、息子に手を引かれて小学校までオルガンを弾きに通っている。その丸十は、村に観光ホテルを建てる計画に夢中になり、そのため東京まで出かけて行き、おきんや朱実(小林トシ子)と一緒の汽車で帰って来た。東京でストリップ・ダンサーになっているおきんと朱実の派手な服装と突飛な行動とは村にセンセーションを巻き起こし、正一はそれを頭痛に病んで熱を出す。校長も、正一を説得したことを後悔している。村の運動会の日には、せっかくの春雄が作曲し「カルメン故郷に帰る」4.jpgた「故郷」を弾いている最中、朱実がスカートを落っこどして演奏を台無しにしてしまう。春雄は怒って演奏を中止するし、朱実は想いを寄せている小川先生(佐田啓二)が一向に手ごたえがないので、きんと二人で腐ってしまう。しかし丸十の後援でストリップの公演を思い立った二人はまたそれで張り切り村の若者たちは涌き立つ。正一は、公演の夜、校長宅で泊りきりで自棄酒を飲んでいたが、公演は満員の盛況で大成功だった。その翌日おきんと朱実は故郷を後にする―。

「カルメン故郷に帰る」2.jpg 木下惠介(1912-1998/享年86)監督の1951(昭和26)年公開作で、同年「キネマ旬報 ベスト・テン」で第4位。脚本が良く出来ていると思います。群像劇のような感じなので、どこが見どころかは人によって異なるかもしれませんが、個人的には、いいと思った箇所が2つありました。

「カルメン故郷に帰る」3.jpg 一つは、正一が娘おきんのことを親不孝者と嘆いていたのが、最後はやっぱり可愛くてたまらないということで、娘から公演の出演料を受け取る気になって、それをそっくり学校へ寄付するという流れ。もう一つは、丸十が公演の儲けに気を良くしてオルガンを春雄に只で返してやったことで、春雄が一度は腹を立てたおきんたちに済まないと思い、光子と一緒に汽車の沿道へ出ておきんと朱実に感謝の手を振るという流れです。

「カルメン故郷に帰る」5.jpg ラストの方で、この二つの"和解"を重層的に織り込んでいる点が上手いと思いました。やや話が出来過ぎの感もあるし、考えてみれば、"芸術"で村興しすると言っても、外から来た観光客が金を落としていったわけではなく、金の出所は村人たちであるわけですが、何となくほろりとさせられます。

「カルメン故郷に帰る」佐野.jpg 木下惠介と高峰秀子との出会いは、高峰秀子のマネージャーが勝手に 「破れ太鼓」に出るよう契約して、何も聞いていなかった高峰秀子が勝手に契約したのを怒って、脚本読んだら面白いけれど主役じゃないし、やっぱり辞退しようと木下惠介のところへ直に言いに行き、木下惠介から、ケチのついた仕事なら降りたほうがいいよと、 代わりに今度はあなたのために脚本書いてあげるということになって、出来た脚本が「カルメン故郷に帰る」のストリッパーの役だったとのことです。木下惠介は自分で脚本を書くから、こういう時に強いなあと思います。

「カルメン故郷に帰る」高峰2.jpg 戦後日本初の「国産カラー映画」としても知られていて(富士写真フイルム(現:富士フイルム)と協力して製作)、カラー映画として満足のゆく出来にはならなかった場合は、カラー撮影そのものが無かったことにしてフィルムを破棄し、従前のモノクロ映画として公開することを内約していたため、まずカラーで撮影を行い、それが終わってから改めてモノクロの撮影を行うという、二度手間をかけて撮り上げたそうです。結果として映画の発色技術面は必ずしも満足のゆくものではなく、基本的に赤と緑の発色に問題があることも分かって、かなりどぎつい色彩感覚になっていますが、「総天然色映画」と前面に打ち出して公開したら、興業的には大成功となりました。

 個人的にはこの映画の全部がいいと思ったわけではないですが、やはりポイントは押さえているという感じで、単に総天然色であるというだけでなく、脚本がよく出来ている(カルメンらが芸術舞踏家と勘違いされるところが、娼館の娼婦たちが皆でピクニックに行った田舎で貴婦人の一行と間違われるモーパッサンの「メゾン・テリエ」と似ていると思った)ということも、興業的な成功に結びつく要因としてあったのではないかと思います。

「カルメン故郷に帰る」高峰1.jpg「カルメン故郷に帰る」笠智衆.jpg「カルメン故郷に帰る」●制作年:1951年●監督・脚本:木下惠介●製作:月森仙之助●撮影:楠田浩之●音楽:木下忠司(主題歌:黛敏郎)●時間:86分●出演:高峰秀子/小林トシ子/佐野周二/井川邦子/笠智衆/坂本武/佐田啓二/望月優子/見明凡太郎●公開:1951/03●配給:松竹●最初に観た場所:シネマブルースタジオ(19-07-19)(評価:★★★☆)
 
《読書MEMO》
田中小実昌(作家・翻訳家,1925-2000)の推す喜劇映画ベスト10(『大アンケートによる日本映画ベスト150』('89年/文春文庫ビジュアル版))
○丹下左膳餘話 百萬兩の壺('35年、山中貞雄)
○赤西蠣太('36年、伊丹万作)
○エノケンのちゃっきり金太('37年、山本嘉次郎)
○暢気眼鏡('40年、島耕二)
カルメン故郷に帰る('51年、木下恵介)
○満員電車('57年、市川昆)
○幕末太陽傳('57年、川島雄三)
○転校生('82年、大林宣彦)
○お葬式('84年、伊丹十三)
○怪盗ルビイ('88年、和田誠)

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林芙美子って面食いだったのだなあ。プロローグは「風琴と魚の町」からとったものだった。

放浪記 dvd1.jpg 放浪記 図2.jpg 風琴と魚の町.jpg
放浪記 【東宝DVD名作セレクション】」高峰秀子『風琴と魚の町』['21年](「風琴と魚の家」「田舎がえり」「文学的自叙伝」収録)[下]高峰秀子・田中絹代
放浪記 10.jpg放浪記 04.jpg 昭和初期、第一次大戦後の日本。幼い頃から行商人の母親と全国を周り歩いて育ったふみ子(高峰秀子)は、東京で下宿暮らしを始める。職を転々としながら、貧しい生活の中で詩作に励むようになった彼女は、やがて同人雑誌にも参加する。創作活動を通して何人かの男と出会い、また別れるふみ子。やがて、その波乱の中で編んだ「放浪記」が世間で評価され、彼女は文壇へと踏み出していく―。

『新版 放浪記』.jpg 1962年公開の成瀬巳喜男監督作。林芙美子の自伝的小説『放浪記』を、「浮雲」('55年/東宝)など林文学の翻案では定評のある成瀬巳喜男が映画化した作品で、小説と菊田一夫の戯曲『放浪記』を原作としています。林芙美子の『放浪記』放浪記 02.jpgから幾つかのエピソードを拾って忠実に映像化する一方で、林芙美子の『放浪記』にはない文壇作家・詩人たちとの交流からライバ放浪記 映画.jpgルの女流作家との競い合い、さらにエピローグとして作家として名を成した後、自身の半生を振り返るような描写があります(菊田一夫脚本・森光子主演の舞台のにあるようなでんぐり返しもはない)。

 主演の高峰秀子は、自由奔放な女性という従来の林芙美子像を覆し、貧困と戦いながらのし上がる強い女の側面を強調しています。敢えてあまり美人に見えないメイクをし、いじけ顔いじけ声、ぐにゃっとしただらしない姿勢で貧乏が板についた芙美子を演じているのは一見に値します。

橋爪功(左端)/岸田森(左端)・草野大悟(右から2人目)・高峰秀子(右端)/
「放浪記」hasizume i.jpg放浪記 岸田/橋本.jpg しかし、林芙美子って面食いだったのだなあ。貧しい彼女に金を援助してくれ、優しく献身してくれる隣室の印刷工・安岡(加東大介)には素気無い態度で接する一方、若い学生(岸田森)に目が行ったり、詩人で劇作家の伊達(仲谷昇)を好きになったりして、ただし伊達の方は二股かけた末に女優で詩人の日夏京子(草笛光子)の方を選んだために振られてしまうと、今度は同じくイケメンの福池(宝田明)に乗りかえるもこれがひどいダメンズ。甘い二枚目役で売り出した宝田明(1934年生まれ)が演技開眼、ここではDV夫を好演しています。これらの男性にはモデルがいるようですが放浪記 中や2.jpg放浪記 宝田.jpg宝田明.jpgはっきり分かりません(福池は詩人の野村吉哉がモデルか)。実際に林芙美子は当時次から次へと同棲相手を変え、20歳過ぎで画家の手塚緑敏(映画では藤山(小林桂樹))と知り合ってやっと少し落ち着いたようです。
高峰秀子・仲谷昇/宝田明

草笛光子・高峰秀子
放浪記 kusabue.jpg 草笛光子が演じた芙美子のライバル・日夏京子も原作にない役どころです(菊田一夫原案か)。白坂(伊藤雄之助)が新たに発刊する雑誌「女性芸術」に、村野やす子(文野朋子)の提案で、芙美子と日夏京子とで掲載する詩を競い合うことになって、芙美子が京子の詩の原稿を預かったものの、自分の原稿だけ届け、京子の原稿は締め切りに間に合わなくなるまで手元に置いていたというのは実話なのでしょうか(これが芙美子の作家デビューであるとするならば、芙美子のこの時の原稿が「放浪記」だったということになる。「放浪記」は長谷川時雨編集の「女人芸術」誌に1928(昭和3)年10月から連載された)。

 後に川端康成が林芙美子の葬儀の際の弔辞で、「故人は自分の文学生命を保つため、他に対しては、時にはひどいこともしたのでありますが、しかし、あと2、3時間もたてば故人は灰となってしまいます。死は一切の罪悪を消滅させますから、どうか、この際、故人を許してもらいたいと思います」と述べたという話を思い出しました。

放浪記 草笛.jpg草笛光子.jpg 映画の中で、草笛光子(1933年生まれ)は本気で高峰秀子をぶったそうです。高峰秀子をぶった女優が現役でまだいて、来年['22年]のNHKの大河ドラマ「鎌倉殿の13人」に出演するは、「週刊文春」に連載を持っているは、というのもすごいものです。イケメン・ダメンズ役の宝田明(彼も健在だなあ)もDV夫なので高峰秀子をぶちますが、草笛光子のビンタの方が強烈でした。林芙美子は面食いでなければもっと早くに幸せになれたのかもしれず、その点は樋口一葉などと似ているのではないか思ったりしました。

「風琴と魚の町」aozorabunnko.jpg 林芙美子原作の『放浪記』には、第1部の冒頭に「放浪記以前」という文章があり。貧しかった子ども時代や、行商をしてた両親のことが書かれています。映画においてもプロローグで、主人公の幼年時代のエピソードが出てきますが、風琴(アコーディオン)を奏でながら客寄せして物を売る行商している父親が、まがい物を売ったとして警察に連行され、父親が警官にビンタされるのを見て娘(フミコ)が叫ぶというシーンです。

 これってどこかで読んだことはあるけれど「放浪記以前」には無いエピソードだなあと思っていたら、林芙美子が尾道での自身の少女時代をもとに描いた中編「風琴と魚の町」(1931(昭和6)年4月雑誌「改造」に発表)を構成している複数のエピソードの内の最後にあるエピソードがこれだったことを、 今年['21年]刊行されたた尾道本通り一番街(芙美子通り)商店街編集の『「風琴と魚の町』を手にして改めて気づきました。「風琴と魚の町」も『放浪記』と併せて読みたい作品です(「青空文庫」でも読める)。
風琴と魚の町 (青空文庫POD(大活字版))

放浪記 ポスター.jpg放浪記 01.jpg 個人的には、原作は『放浪記』(★★★★★)と『浮雲』(★★★★☆)で甲乙つけ難く、しいて言えば原石の輝きを感じるとともにピポジティブ感がある『放浪記』が上になりますが(物語性を評価して完成度が高い『浮雲』の方をより高く評価する人もいておかしくない)、映画は、同じ成瀬巳喜男監督の「浮雲」(★★★★☆)の方が原作を比較的忠実に再現していて好みで、それに比べると「放浪記」(★★★★)は、菊田一夫的要素はそれなりに面白いですが、やや放浪記・浮雲.jpg下でしょうか(それでも星4つだが)。高峰秀子は当時38歳。実際の年齢よりは若く見えますが、本当はもう少し若い時分に林芙美子を演じて欲しかった気もします(「浮雲」の時は30歳だった)。ただ、それでもここまで演じ切れていれば立派なものだと思います。 

「放浪記」●制作年:1962年●監督:成瀬巳喜男●製作:藤本真澄●脚本:井手俊郎/田中澄江●撮影:安本淳●音楽:古関裕而●原作:林芙美子/菊田一夫●時間:123分●出演: 高峰秀子/田中絹代/宝田明/小林桂樹/加東大介/草笛光子/仲谷昇/伊藤雄之助/加藤武/文野朋子/多々良純/菅井きん/名古屋章/中北千枝子/岸田森/草野大悟/橋爪功/織田政雄/北川町子/林美智子/霧島八千代/内田朝雄●公開:1962/09●配給:東宝=宝塚映画(評価:★★★★)
   
《読書MEMO》
2022年2月2日「徹子の部屋」(草笛光子88歳・岸恵子89歳)
草笛光子88歳・岸恵子89歳.jpg

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前半はやや悠長だが、後半一気に「感動」を畳みかけてくるのはさすが。

喜びも悲しみも幾歳月 1957.jpg喜びも悲しみも幾歳月01.jpg 喜びも悲しみも幾歳月02.jpg
有沢夫妻の初任地・観音埼灯台/新婚の雪野と進吾を乗せて進吾の任地のカイロに向う船のために、御前埼灯台で霧笛を鳴らし灯台の灯りをともす有沢夫妻
木下惠介生誕100年 喜びも悲しみも幾歳月 [DVD]」佐田啓二/高峰秀子

「喜びも悲しみも幾歳月」ps.png 1932年(昭和7年)、新婚早々の灯台守・有沢四郎(佐田啓二)と妻・有沢きよ子(高峰秀子)は、四郎の勤務先の観音埼灯台で暮らし始める。北海道の石狩灯台で雪野・光太郎の2人の子を授「喜びも悲しみも幾歳月」1.jpgかり、九州の五島列島の先の女島灯台では夫婦別居も経験する。その後、弾崎灯台で日米開戦を迎え、戦争で多くの同僚を失うなど苦しい時期もあったが、後輩の野津(田村高広)と野津の妻・真砂子(伊藤弘子)に励まされながら勤務を続ける。また、空襲を逃れて東京「喜びも悲しみも幾歳月」3.jpgから疎開してきた一家と親しくなるなど、新たな出会いもあった。戦後、男木島灯台勤務の時、息子の光太郎(中村賀津雄)が不良とのケンカで刺殺される。が、そうした悲しみを乗り越えた先には喜びも待っていた。御前埼灯台の台長として赴任する途中、戦時中に知り合った疎開一家の長男・進吾(仲谷昇)と娘の雪野(有沢正子)との結婚話がまとまったのだ。御前埼灯台から四郎ときよ子の2人は灯台の灯をともして、新婚の雪野と進吾がエジプトのカイロに向かうために乗り込んだ船を見守る。遠ざかる船を見ながら、四郎ときよ子は「娘を立派に育てあげて本当によかった。灯台職員を続けていて本当によかった」と、感慨深く涙ぐむのだった―。

「喜びも悲しみも幾歳月」huyu.jpg 木下惠介(1912-1998/享年86)監督の1957(昭和32)年公開作で、同年「キネマ旬報 ベスト・テン」で第3位。若山彰の歌唱による同名主題歌の「喜びも悲しみも幾歳月」も大ヒットし、後世でも過去の著名なヒット曲としてしばしば紹介されています(山藤章二の 『昭和よ、』('19年/ 岩波書店)を読んでいたら、森繁久彌が灯台守について語ったことの書き起こしがあったので思い出した)。

 物語は1932(昭和7)年から1957(昭和32)年25年間の夫婦の歩みを描いていて、前半はやや悠長ですが、後半一気に「感動」を畳みかけてくるのはさすがです。観音崎、御前崎、安乗崎、野寒布岬、三原山、五島列島、瀬戸内海の男木島、女木島など全国でロケーション撮影を敢行し、ロードムービーの一種としても楽しめる作品でもあります。因みに、こんも映画に出てくる灯台は次の通り。

 1. 観音埼灯台 ― 神奈川県・三浦半島/1932(昭和7)年/第一次上海事変勃発
 2. 石狩灯台 ― 北海道・石狩/1933(昭和8)年頃/雪野・光太郎の生誕
 3. 伊豆大島灯台 ― 東京都・伊豆大島/1937(昭和12)年/日中戦争勃発
 4. 水ノ子島(みずのこじま)灯台 ― 大分県・豊後水道水ノ子島
 5. 女島(めしま)灯台 ― 長崎県・五島列島
 6. 弾埼(はじきざき)灯台 ― 新潟県・佐渡島/1941(昭和16)年/太平洋戦争勃発
 7. 御前埼灯台 ― 静岡県・御前崎/1945(昭和20年)年/太平洋戦争敗戦で終結
 8. 安乗埼(あのりさき)灯台 ― 三重県・志摩/1950(昭和25)年   
 9. 男木島(おぎじま)灯台 ― 香川県・瀬戸内海/1954(昭和29)年
 10. 御前埼灯台(再赴任) ― 静岡県・御前崎/1955(昭和30)年/四郎、灯台長として着任
 11. 日和山(ひよりやま)灯台 ― 北海道・小樽市祝津/1957(昭和32)年

石狩灯台2.jpg 石狩灯台の映画記念碑
「喜びも悲しみも幾歳月」弾崎灯台.jpg 佐渡島・弾埼灯の映画記念像

観音崎灯台.jpg 日本最初の洋式灯台は1869(明治2年)年2月11日に点灯した神奈川県・三浦半島の観音埼灯台で、着工した1868(明治元)年11月1日が灯台記念日になっています(物語で夫婦が最初に赴任する灯台)。海の安全を守る重要な役割を果たす灯台ですが、戦争中は敵の攻撃目標となり、犠牲となった灯台守もいたことが、この映画の中でも語られています。

女島灯台.jpg たとえ平和時であっても、仕事は単調で、狭い空間で一家の生活は終始し、気晴らしの機会もない単調な毎日で、夏休みも休日もないというのは、今の刺激に慣れた現代人から見れば想像を絶することかも。因みに、長崎県・五島市の男女群島の女島にある女島灯台(物語で夫婦が5番目に赴任する灯台)が最後の有人灯台でしたが、2006(平成18)年12月5日に無人化され、国内の灯台守は消滅しています。

観音埼灯台.jpg 主人公らの半生を描いているため、四郎が静岡県・御前崎の御前埼灯台に再赴任した時には「灯台長」になっていて(要するに偉くなっていて)、早逝した佐田啓二のちょび髭を生やした中年の管理職の役が見られるのが珍しいかも。佐田啓二(1926-1964/37歳没)って、大滝秀治(1925-2012//享年87)が生まれた年の次の年に生まれているのですねえ。長生きしていたらどんな老人になっていただろうかと、想像を逞しくしました。因みに、小津安二郎の後期の監督作の常連であり、「彼岸花」('58年)で有馬稲子の恋人役、「お早よう」('59年)で久我美子の恋人役、「秋日和」('60年)で司葉子の結婚相手、 「秋刀魚の味」('62年)で岡田茉莉子の夫役を務めています。 
 

「喜びも悲しみも幾歳月」ps2.jpg「喜びも悲しみも幾歳月」佐田.jpg喜びも悲しみも幾歳月」takamine.jpg「喜びも悲しみも幾歳月」●制作年:1957年●監督・原作・脚本:木下惠介●撮影:楠田浩之●音楽:木下忠司●時間:160分●出演:佐田啓二/高峰秀子/有沢正子/中村賀津雄/田村高広/伊藤弘子/北竜二/仲谷昇/夏川静江/桂木洋子/小林十九二/坂本武/三井弘次/井川邦子/岡田和子/桜むつ子/明石潮/夏川大二郎/磯野秋雄●公開:1957/10●配給:松竹●最初に観た場所:北千住・シネマブルースタジオ(19-07-27)(評価:★★★★)
喜びも悲しみも幾歳月 vhs.jpg

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原作も傑作。主人公はなぜクズ男を追い続けるのか。水木洋子の答えは...。

映画 浮雲.jpg映画 浮雲  e.jpg浮雲dvd.jpg  浮雲 新潮文庫.jpg
浮雲 [DVD]」『浮雲 (新潮文庫)
高峰秀子/森雅之

映画 浮雲 仏印.jpg 戦時中の1943年、農林省のタイピストとして仏印(ベトナム)へ渡ったゆき子(高峰秀子)は、同地で農林省技師の富岡(森雅之)に会う。当初は富岡に否定的な感情を抱いていたゆき子だが、やがて富岡に妻が居ることを知りつつ2人は関係を結ぶ。終戦を迎え、妻・邦子(中北千枝子)との離婚を宣言して富岡は先に帰国する。後を追って東京の富岡の家を訪れるゆき子だが、富岡は妻とは別れていなかった。失意のゆき子は富岡と別れ、米兵ジョー(ロイ・ジェームス)の情婦になる。そんなゆき子と再会した富岡はゆき子を詰り、ゆき子も富岡を責映画 浮雲 加東.jpgめるが結局2人はよりを戻す。終戦後の混乱した経済状況で富岡は仕事が上手くいかず、米兵と別れたゆき子を連映画 浮雲 岡田 加東.jpgれて伊香保温泉へ旅行に行く。当地の「ボルネオ」という飲み屋の主人・清吉(加東大介)と富岡は意気投合し、2人は店に泊めてもらう。清吉には年下の女房おせい(岡田茉莉子)がおり、彼女に魅せられた富岡はおせいとも関係を結ぶ。ゆき子はその関係に気づき、2人は伊香保を去る。妊娠が判明したゆき子は再び富岡を映画 浮雲es.jpg訪ねるが、彼はおせいと同棲していた。ゆき子はかつて貞操を犯された義兄の伊庭杉夫(山形勲)に借金をして中絶する。術後の入院中、ゆき子は新聞報道で清吉がおせいを絞殺した事件を知る。ゆき子は新興宗教の教祖になって金回りが良くなった伊庭を訪れ、養われることになる。そんなゆき子の元へ落魄の富岡が現れ、邦子が病死したことを告げる。富岡は新任地の屋久島へ行くことになり、身体の不調を感じていたゆき子も同行するが―。

映画 浮雲 p.jpg浮雲4.jpg 成瀬巳喜男監督の1955年作品で、同年のキネマ旬報ベストテン第1位、監督賞、主演女優賞(高峰秀子)、主演男優賞受賞作品(森雅之)。「毎日映画コンクール」日本映画大賞、「ブルーリボン賞」作品賞も受賞。『大アンケートによる日本映画ベスト150』('89年/文春文庫)で第5位、キネ旬発表の1999年の「映画人が選ぶオールタイムベスト100・日本映画編(キネ旬創刊80周年記念)」で第2位、2009年版(キネ旬創刊90周年記念)」でも第3位に入っています。

 原作は、林芙美子(1903-1951/47歳没)の'51(昭和26)年刊行の『浮雲』(六興出版)で、49(昭和24)年秋から足かけ3年、月刊誌に書きついで完成したもの(「風雪」'49(昭和24)年11月~'50(昭和25)年8月、「文学界」'50(昭和25)年9月~'51(昭和26)年4月)。作者はこの年の6月に心臓麻痺で急逝しており、'49年から'51年にかけては9本の中長編を並行して新聞・雑誌に連載していたことから、過労が原因だったとも言われています。

 映画の方は、小津安二郎が、「俺にできないシャシンは溝口の『祇園の姉妹』と成瀬の『浮雲』だ」と言ったことが有名です。また、笠智衆の思い出話で、「浮雲」を小津安二郎に誘われて小田原で二人で観た時、映画館を出た後に口数が少なく黙りがちだった小津が、ポツリ、「今年のベストワン、これで決まりだな」と言ったというエピソードがあります(笠智衆『俳優になろうか―私の履歴書』)。

 成瀬巳喜男作品の中でも傑作だと思います。男の小ずるさを完璧に体現した森雅之の至芸、そんな男をずるずると追い続ける女の哀れを現し切った高峰秀子の秀逸な演技。戦時下の仏印、焼け跡のうらぶれたホテル、盛り場裏の汚い小屋住まい、長岡温泉、そしてラストの屋久島と、舞台を変えながら繰り返される二人の会話の哀しさや愚かさには、背景や二人が置かれている状況にマッチした絶妙の呼吸があり、リアリティに溢れていました。

 原作を読むと、セリフも含め原作にほぼ忠実に作られているのが分かり、そもそも原作が傑作なのだなあと改めて思わされます。それを見事に映像化した成瀬巳喜男監督もさることながら、原作に中から映像化すべきところを的確に抜き取った脚本の水木洋子(1910-2003/92歳没)もなかなかではないかと思います。

映画 浮雲 2.jpg しかし、なぜ主人公のゆき子は、富岡みたいな優柔不断なくせに女には手が早いクズ男をいつまでも追いかけまわすのか、これが映画を観ていても原作を読んでいても常について回る疑問でした。だだ、この点について訊かれた水木洋子は、彼女が別れられないのは「身体の相性が良かったからに決まっているじゃない」といった類の発言をしている水木洋子.jpgそうです。そう思って映画を観ると、あるいは原作を読むと、映画にも原作にもそうしたことは全く描かれていないのですが、にもかかわらず何となく腑に落ちて、これって所謂"女の性(さが)"っていうやつなのかなあと。

水木洋子(1910-2003)

高峰秀子
浮雲ード.jpg 当初主演を依頼された高峰秀子は「こんな大恋愛映画は自分には出来ない」と考え、自分の拙さを伝えるために台本を全て読み上げたテープを成瀬らに送ったが、それが気合いの表れと受け取られ、ますます強く依頼される羽目になったとのことです(潜在的には演じてみたい気持ちがあったのでは)。

 一方、'80年代に吉永小百合と松田優作のダブル主演でリメイクが計画されたものの、本作のファンであり、高峰秀子を尊敬していた吉永小百合が「私には演じられない」と断ったため実現しなかったという逸話もあります(吉永小百合には"女の性(さが)"を演じることは重すぎたということか)。

「映画ファン」昭和30年1月号 新作映画紹介「浮雲」
新作映画紹介『浮雲』2.jpg

新作映画紹介『浮雲』1.jpg 

森雅之/岡田茉莉子
映画 浮雲 岡田茉莉子1.jpg映画 浮雲 岡田茉莉子0.jpg「浮雲」●制作年:1955年●監督:成瀬巳喜男●製作:藤本真澄●脚本:水木洋子●撮影:玉井正夫●音楽:斎藤一郎●原作:林芙美子●時間:124分●出演:高峰秀子/森雅之(大映)/岡田茉莉子/山形勲/中北千枝神保町シアター(21-04-13).jpg子/加東大介/木匠マユリ/千石規子(東映)/村上冬樹/大川平八郎/金子信雄/ロイ・ジェームス/林幹/谷晃/恩田清二郎/森啓子/馬野都留子/音羽久米子/出雲八重子/瀬良明/堤康久/神保町シアター.jpg木村貞子/桜井巨郎/佐田豊●公開:1955/01●Floating Clouds yamagata.jpg配給:東宝●最初に観た場所(再見):神田・神保町シアター(21-04-13)(評価:★★★★☆)

山形勲(ゆき子がかつて貞操を犯された義兄・伊庭杉夫)



    

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谷崎文学の世界を分かりやすく且つ重厚に再現。原作と異なる結末。愉しめた。

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鬼の棲む館 [DVD]」 高峰秀子/勝新太郎/新珠三千代
「鬼の棲む館」c taka.jpg 南北朝時代、戦火を免れた山寺に、無明の太郎と異名をとる盗賊(勝新太郎)が、白拍子あがりの情人・愛染(新珠三千代)と爛れた生活を送っていた。自堕落な愛染、太郎が従者のように献身しているのは、彼女が素晴らしい肉体を、持っていたからだった。晩秋のある夕暮、京から太郎の妻・楓(高峰秀子)が尋ねて来た。太郎は、自分を探し求めて訪れた楓を邪慳に扱ったが、彼女はいつしか庫裡に住みつき、ただひたすら獣が獲物を待つ忍従さで太郎に仕えた。それから半年ほども過ぎたある晩、道に迷った高野の上人(佐<鬼の棲む館 009.jpg藤慶)が、一夜の宿を乞うて訪れた。楓は早速自分の苦衷を訴えたが、上人は、愛染を憎む己の心の中にこそ鬼が住んでいると説教し、上人が所持している黄金仏を盗ろうとした太郎には「鬼の棲む館」c ara.jpg呪文を唱えて立往生させた。だが、上人はそこに現われた愛染を見て動揺した。その昔、上人を恋仇きと争わせ、仏門に入る結縁をつくった女、それが愛染だった。上人に敵意を感じた愛染は、彼を本堂に誘う。そうした愛染に上人は仏の道を諭そうとしたが―。

無明と愛染 プラトン社.jpg無明と愛染3.jpg 三隅研次(1921-1975/54歳没)監督による1969年公開作で、原作は谷崎潤一郎の戯曲「無明と愛染」。1924(大正13)1月1日発行の「改造」新年号に第一幕が、3月1日発行の3月号に第二幕が発表され、その年の5月に『無明と愛染 谷崎潤一郎戯曲集』として「腕角力」「月の囁き」「蘇東坡」と併せてプラトン社から刊行されています。
無明と愛染』['24年/プラトン社]

 脚本は、新藤兼人。映画の最初の方にある楓が夫である無明の太郎を訪ね来る場面は原作にはなく、原作は、道に迷った高野の上人が宿を求めて山寺を訪ねたら、すでにそこで太郎が妻妾同居状態で暮らしていた―というところから始まります(映画の冒頭から半年が経「鬼の棲む館」7.jpgっていることになる)。従って、落ち武者たちが寺を襲い、それを太郎が妻妾見守る前で一人で片付けるというシーンも映画のオリジナルです。勝新太郎の座頭市シリーズを第1作の「座頭市物語」('62年/大映)をはじめ何本も撮っている監督なので、やはり剣戟を入れないと収まらなかったのでしょう(笑)。どこまでこんな調子で原作からの改変があるのかなあと思って観ていたら、佐藤慶の演じる上人が訪ねて来るところから原作戯曲の通りで、宮川一夫のカメラ、伊福部昭の音楽も相俟って、重厚感のある映像化作品に仕上がっていました。

鬼の棲む館es.jpg「鬼の棲む館」11.jpg 愛染と楓の激突はそのまま新珠三千代高峰秀子の演技合戦の様相を呈しているように思われ(新珠三千代は現代的なメイク、高峰秀子は能面のようなメイクで、これは肉体と精神の対決を意味しているのではないか)、序盤で派手な剣戟を見せた勝新太郎も、愛染と楓の凌ぎ合いの狭間でたじたじとなる太郎さながらに、やや後退していく感じ。それでも、ああ、この役者が黒澤明の「影武者」をやっていたらなあ、と思わせる骨太さを遺憾なく発揮していました。

「鬼の棲む館」katu.jpg 考えてみれば、原作は戯曲で、それをかなり忠実に再現しているので、役者は原作と同じセリフを話すことになり、新藤兼人の脚本は実質的には前の方に付け加えた部分だけかと思って、「結末は知っているよ」みたいな感じて観ていました。そしたら、最後の最後で意表を突かれました。

「鬼の棲む館」2.jpg 谷崎文学の世界を分かりやすく且つ重厚に再現していましたが、加えて、原作と異なる結末で、"意外性"も愉しめました。これ、映画を観てから原作を読んだ人も、原作の結末に「あれっ」と思うはずであって、全集で20ページくらいなので是非読んでみて欲しいと思います(原作の方が映画より"谷崎的"であるため、映画を観た人は原作がどうなっているか確認した方がいいように思うのだ)。

「鬼の棲む館」図2.jpg「鬼の棲む館」●制作年:1969年●監督・脚本:三隅研次●製作:永田雅一●脚本:新藤兼人●撮影:宮川一夫●音楽:伊福部昭●原作:谷崎潤一郎「無明と愛神保町シアター(「鬼の棲む館」).jpg染」(戯曲)●時間:76分●出演:勝新太郎/高峰秀子/新珠三千代/佐藤慶/五味龍太郎/木村元/伊達岳志/伴勇太郎/松田剛武/黒木現●公開:1969/05●配給:大映●最初に観た場所:神田・神保町シアター(21-03-10)(評価:★★★★)

神保町シアター

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成瀬巳喜・高峰秀子初タッグ作品。やっとDVD化。原作に忠実。ユーモアの裏にペーソスも。

秀子の車掌さん vhs1.jpg 秀子の車掌さん vhs2.jpg 秀子の車掌さん dvd1.jpg 秀子の車掌さん dvd2.jpg おこまさん 井伏.jpg
日本映画傑作全集「秀子の車掌さん」 主演 高峰秀子 成瀬巳喜男監督作品 VHSビデオソフト (キネマ倶楽部) 」/「秀子の車掌さん 【東宝DVD名作セレクション】」高峰秀子/藤原鶏太(釜足)/『おこまさん』['41年]
秀子の車掌さん vhs3.jpg秀子の車掌さん dvd23.jpg バスの車掌・おこまさん(高峰秀子)が勤める甲府のバス会社は、古びたバスを1台所有するだけのボロ会社であり、バス10台を有する新興のバス会社に押され気味。社長(勝見庸太郎)も赤字続きの会社を売り払ってしまおうと考えている。おこまさんも、評判の悪いこんな会社などいつでも辞めてやると思いながら、一方ではせめて仕事に誇りを持ちたいと切に思い、バスの運転を生き甲斐とする園田運転手(藤原鶏太)と共に思案、ラジオで聞いた名所案内のバスガイドのアイデアを取り入れることを思いつく。そして、地元の旅館「東洋館」に東京から来て逗留中の作家・井川權二(夏川大二郎)に、沿線の案内記を書いてほしいと依頼する―。

1941年に公開の成瀬巳喜男(1905-1969/63歳没)監督作で、主演は高峰秀子で、これが後に「名コンビ」と謳われた両者の初タッグ作品です。原作は井伏鱒二が1940(昭和15)年1月1日発行号から6月1日発行号の「少女の友」に連鎖した「おこまさん」で(初出の表題脇には「長編少女小説」とあったが、実質"中編"である)、『おこまさん』('41年/輝文館)に収録されました。

秀子の車掌さん vhs4.jpg秀子の車掌さん dvd3.jpg 原作の主人公"おこまさん"は19歳で、映画出演時の高峰秀子は17歳ですが、原作は数え年なのでほぼ同じということになります。ただし、職業モノであるせいか、同じく「高峰秀子のアイドル映画」と言える前年の「秀子の応援団長」('40年/東宝動画)などよりもずっと大人びて見えます。いずれにせよ、今の日本で17歳でここまで演技できる子役はいないのではないかと思われます。

「秀子の車掌さん」に出てくるバス
IM秀子の車掌さん vhs2.jpg 高峰秀子と運転手(園田)の藤原鶏太(釜足)のユーモラスなやりとりが微笑ましいですが、セリフはほとんど原作通りであり、脚本家が要らないのではないかと思われるくらい(実際、成瀬巳喜男自身が脚色している)。監督がやったのは、舞台設定と演出だけか。でも、楽しい映画に仕上がっています。

1 有りがたうさん1936.jpg 1941年9月の公開ですが、この牧歌的雰囲気はとても戦局が差し迫っているような時期とは思えません(バスの運行に沿って話が進んでいく清水宏監督(原作:川端康成)の 「有りがたうさん」('36年/松竹大船)ものんびりした雰囲気ではあったが)。ただし、運転手役の藤原釜足の芸名が藤原鶏太になっているのは、当時(1940年)内務省から「藤原鎌足の同名異字とは歴史上の偉人を冒涜している」とクレームを受け、改名を余儀なくされていたことによるものであり、この辺りに時代が窺えるでしょうか(「鶏太(けいた)」は「変えた(けえた)」を転訛したもの)。

 長らくDVD化されず、ウキペディアにも「なお、本作はこれまでキネマ倶楽部においてビデオ化されたのみで、DVD化を含めて一般に市販されるソフト化は行われたことがない」とあり、個人的にも最初はVHSで観たのですが、昨年['20年]12月に遂にDVD化されました。

秀子の車掌さん 作家2.jpg秀子の車掌さん 作家.jpg 作家・井川權二のモデルは井伏鱒二自身であり、もともと高峰秀子主演と知りながら先に原作を読んだので、高峰秀子と井伏鱒二が話しているようなイメージが映画を観る前から先行してあったですが、改めて観ると、「井川權二」という作家を結構面白おかしくに描いていたなあ。原作者の遊び心を感じますが、一方でこの「井川權二」という作家には、おこまさんに沿線の案内記を書いてあげただけでなく、社長に無理難題を押し付けられた園田運転手の窮状を、知恵を働かせて救うというヒロイックな面もあり、それが映画ではちょっと分かりづらいので、原作も併せて読むといいと思います。

秀子の車掌さん 社長.jpg それにしても、作家・井川權秀子の車掌さん 足.jpg二を演じた夏川大二郎よりも、ラムネを氷にかけて飲んでばかりいる社長を演じた勝見庸太郎の方が井伏鱒二に似ていたかも(笑)。結局、この会社が「バス会社」であるというのは、裏でもろもろ危ういことをやるための「看板」に過ぎず、社長は今その看板のすげ替えを考えていて、おこまさんも園田も、会社の評判が良くないことはわかっていても、理想と希望に燃えているものだから、そこまで政略的なことには思い至らないという―ちょうど今で言えば、「ブラック企業」のもとで「やりがい詐欺」に遭っているのに、本人にはその自覚がない人と同じということになるかもしれません。革靴が会社から供給されず、下駄ばきのバスガイドというのもスゴイけれど、おこまさんの楽観的な健気さが映画での救いになっています(なにせアイドル映画だからなあ)。

 井伏鱒二のユーモアはペーソスとセットです。ラストでも、おこまさんがガイドし、園田運転手が悦に入って運転していますが、原作では、「しかしおこまさんも園田さんも、彼等の知らない間に彼等自身は雇主を失った雇人になっていた」とあります。「ただ彼らはそんなことなど知らないで、バスが進んで行くにつれ楽しい気持で息がつまりそうになっていたのである」と。要するに、この時点で、社長は会社を他に売り渡してしまっているわけで、映画ではそのト書き(解説)が無い分、注意して観る必要があるかもしれません。

 個人的評価は、「秀子の応援団長」は★★★☆でしたが、「車掌さん」の方は、原作のセリフを変えないで持ち味を活かしている技量を買って(さらにDVDD化記念?も考慮して)原作と同じく★★★★にしました。

『おこまさん』['41年]
おこまさん 井伏.jpg昭和1年7月 伊豆熱川にて(右より井伏鱒二、太宰治、小山祐士、伊馬春部)
井伏 太宰 s15.jpg

「秀子の車掌さん」●制作年:1941年●監督・脚本:成瀬巳喜男●製作:藤本真澄●撮影:東健●音楽:飯田信夫●原作:井伏鱒二「おこまさん」●時間:54分●出演:高峰秀子/藤原鶏太(釜足)/夏川大二郎/清川玉枝/勝見庸太郎/馬野都留子/榊田敬治/林喜美子/山川ひろし/松林久晴●公開:1941/09●配給:東宝(評価:★★★★)

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「雁」の位置づけが原作と違った。原作に現代的な解釈を織り込んだのではないか。

vhs 雁1.jpg雁 (1953) [DVD].jpg「雁」('53年/大映)高峰秀子.jpg
日本映画傑作全集 「雁」[VHS]」「雁 (1953) [DVD]

 下谷練塀町の裏長屋に住む善吉(田中栄三)、お玉(高峰秀子)の親娘は、子供相手の飴細工を売って、侘しく暮らしていた。お玉は妻子ある男とも知らず一緒になり、騙された過去があった。今度は呉服商だという末造(東野英治郎)の世話を受けるvhs 雁2.jpgことになったが、それは嘘で末造は大学の小使いから成り上った高利貸しでお常(浦辺粂子)という世話女房もいる男だった。お玉は大学裏の無縁坂の小さな妾宅に囲われた。末造に欺か雁 1953 東野.jpgれたことを知って口惜しく思ったが、ようやく平穏な日々にありついた父親の姿をみると、せっかくの決心も揺らいだ。その頃、毎日無緑坂を散歩する医科大学生達がいた。偶然その中の一人・岡田(芥川比呂志)を知ったお玉は、いつ豊田四郎 「雁」芥川.jpgか激しい思慕の情を募らせていった。末造が留守をした冬の或る日、お玉は今日こそ岡田に言葉をかけようと決心をしたが、岡田は試験にパスしてドイツへ留学する事になり、丁度その日送別会が催される事になっていた。お玉は岡田の友人・木村(宇野重吉)に知らされて駈けつけたが、岡田に会う事が出来なかった。それとなく感ずいた末造はお玉に厭味を浴びせた。お玉は黙って家を出た。不忍の池の畔でもの思いにたたずむお玉の傍を、馬車の音が近づいてきて、その中に岡田の顔が一瞬見えたかと思うと風のよう通り過ぎて行った―。

「雁」1953.jpg 森鷗外の「」を原作とする1953年の豊田四郎監督作で、高峰秀子、芥川比呂志主演。豊田四郎監督の永井荷風原作「濹東綺譚」('60年)も山本富士子の相手役は芥川比呂志でした。豊田四郎監督は、この2作品の間に、有島武郎原作の「或る女」('54年)、織田作之助原作の「夫婦善哉」('55年)、谷崎潤一郎原作の「猫と庄造と二人のをんな」('56年)、川端康成原作の「雪国」('57年)、井伏鱒二原作の「駅前旅館」('58年)、志賀直哉原作の「暗夜行路」('59年)など毎年精力的に文芸作品を撮っています。また、この「雁」は、池広一夫監督、若尾文子、山本學主演で1966年にも映画化されています。

雁 高峰秀子.jpg 原作は、「僕」が35年前の出来事を振り返る形になっていて、原作の「僕」は映画での岡田の友人・木村に該当しますが、原作には木村という名は出てきません(因みに若尾文子版でも木村になっている)。また、原作でのお玉の年齢は数えで19歳くらいのようですが、それを実年齢で当時29歳の高峰秀子が演じています(ただし、若尾文子が演じた時は32歳だった)。芥川比呂志もこの時33歳だったので、学生というにはやや年齢が行き過ぎている印象も受けます。

雁 1953 1.gif 物語は、原作が主に「(物語の語り手でもある)僕」の視点から展開されるのに対し、映画は高峰秀子が演じるお玉の視点からの展開が中心であり、特に前半は9割以上がそうであって、お玉が善吉にほとんど騙されるような形でその"囲い者"になり、周囲の差別と偏見の下、肩身の狭い思いで暮らす様が丁寧に描かれています。お玉が芥川比呂志演じる岡田と知り合う契機となる「蛇事件」は真ん中ぐらいでしょうか。そこからお玉が岡田への想いを募らせていくのは原作と同じです。

 原作との大きな間違いは、宇野重吉演じる原作の「僕」こと木村が、原作では岡田とお玉が相識であったことを当時知らなかったことになっているのに、映画ではそれを知っていて、岡田の恋愛アドバイザー的な立場にいることで(岡田が医学生であるのに対し、木村は文系の学生ということになっているが、演じる宇野重吉が当時39歳くらいなので、相当老けた学生に見える(笑))、ただし、木村の岡田への助言は、「二人は住む世界が違いすぎる」といった現実的なものとなっています。一方で、岡田の送別会の夜、夜道でお玉と出会った木村は、岡田がもうすぐ来るので一緒に岡田を待ちますか、とお玉を誘う優しさを見せます。

 しかし、お玉は一緒に岡田を見送りましようと言う木村には応じず、遠くからその出発を見届けるにとどまります。ラストシーンで、岡田が去った後一人佇むお玉の脇で、池から一羽の鴈が飛び立ちますが、これは去っていく岡田を象徴しているようにも思えますが、原作では雁は、岡田が逃がそうと思って投げた石に当たって死ぬことからお玉の悲運を象徴しているともとれるものとなっています。そうなると、映画における雁は、将来におけるお玉の転身を象徴しているようにも思えます。

豊田四郎 「雁」 takamine.jpg豊田四郎 「雁」es.jpg 個人的には、原作を読んだ時、正直あまりに古風な話だなあと思ったりもしましたが、豊田四郎監督は映画において、高峰秀子という女優の意志的なキャラクターをベースに、現代的な解釈を織り込んだのではないかという気がしています。原作に手を加えてダメにしてしまう監督は多いですが、本作は、原作の情緒風情、主人公の切ない思いなどを生かしたうえでの改変であり、これはこれで悪くなかったように思います。

vhs 雁 阿部一族.jpg豊田四郎「雁」1953.jpg「雁」●制作年:1953年●監督:豊田四郎●企画:平尾郁次/黒岩健而●脚本:成澤昌茂●撮影:三浦光雄●音楽:團伊玖磨●原作:森鷗外「雁」●時間:87分●出演:高峰秀子/田中栄三/小田切みき/浜路真千子/東野英治郎/浦辺粂子/芥川比呂志/宇野重吉/三宅邦子/飯田蝶子/山田禅二/直木彰/宮田悦子/若水葉子●公開:1953/09●配給:大映(評価:★★★☆)

高峰秀子/飯田蝶子

高峰秀子を演出する豊田四郎監督
「雁」1953年.jpg

成沢昌茂.jpg成澤昌茂(1925-2021/96歳没)作品
《監督作品》
1962年 「裸体」(永井荷風原作) にんじんくらぶ・松竹
1966年 「四畳半物語 娼婦しの」(永井荷風原作)三田佳子 露口茂 田村高広 東映
1967年 「花札渡世」(脚本)東映
1969年 「妾二十一人 ど助平一代」(小幡欣治原作)三木のり平 佐久間良子 森光子 中村玉緒 東映
1968年 「雪夫人絵図」(舟橋聖一原作)佐久間良子 山形勲 浜木綿子 丹波哲郎 東映

《脚本作品》
1949年 「恋狼火」(洲多競監督) 新演伎座
1950年 「東海道は兇状旅」(久松静児監督、秘田余四郎原作) 大映
1950年 「午前零時の出獄」(小石栄一監督、島田一男原作) 大映
1950年 「ごろつき船」(菊島隆三と共同)森一生監督、大仏次郎原作 大河内伝次郎  大映
1951年 「宮城広場」(久松静児監督、川口松太郎原作)森雅之 大映
1951年 「牝犬」 (木村恵吾監督)京マチ子 大映
1951年 「飛騨の小天狗」(小石栄一監督) 大映
1951年 「馬喰一代」(中山正男原作、木村恵吾監督)三船敏郎、京マチ子 大映
1952年 「浅草紅団」(川端康成原作、久松静児監督)京マチ子 乙羽信子 根上淳  大映
1952年 「丹下左膳」(林不忘原作、松田定次監督)阪東妻三郎 淡島千景 松竹
1952年 「港へ来た男」(梶野悳三原作、本多猪四郎監督)三船敏郎  東宝
1953年 「南十字星は偽らず」(山崎アイン原作、田中重雄監督)高峰三枝子  新東宝
1953年 「雁」(森鷗外原作、豊田四郎監督)高峰秀子、芥川比呂志  大映
1953年 「浅草物語」(川端康成原作、島耕二監督)山本富士子  大映
1954年 「第二の接吻」(菊池寛原作、清水宏・長谷部慶治監督) 滝村プロ
1954年 「鼠小僧色ざんげ」 月夜桜(山岡荘八原作、冬島泰三監督)坂東鶴之助(中村富十郎) 新東宝
1954年 「伝七捕物帳人肌千両(野村胡堂 城昌幸 佐々木杜太郎 陣出達朗 土師清二原作、松田定次監督)高田浩吉 松竹
1954年 「花のいのちを」(菊田一夫原作、田中重雄監督)菅原謙二 大映
1954年 「噂の女」(依田義賢と共同)溝口監督 田中絹代、大谷友右衛門(中村雀右衛門) 大映
1955年 「明治一代女」(川口松太郎原作、伊藤大輔監督)木暮実千代  新東宝
1955年 「花のゆくえ」(阿木翁助原作、森永健次郎監督)津島恵子 日活
1955年 「新・平家物語」(依田と共同、溝口監督)大映
1955年 「若き日の千葉周作」(山岡荘八原作、酒井辰雄監督)中村賀津雄  松竹
1956年 「新平家物語 義仲をめぐる三人の女」(衣笠貞之助監督)長谷川一夫、京マチ子  大映
1956年 「赤線地帯」 溝口監督 大映
1956年 「惚れるな弥ン八」(棟田博原作、村山三男監督)菅原謙二 大映
1956年 「あこがれの練習船」(野村浩将監督)川口浩 大映
1957年 「いとはん物語」(北条秀司原作、伊藤大輔監督)京マチ子 大映
1958年 「風と女と旅鴉」(加藤泰監督)中村錦之助  東映
1959年 「美男城」(柴田錬三郎原作、佐々木康監督)中村錦之助 東映
1959年 「手さぐりの青春」(壺井栄原作、川頭義郎監督)鰐淵晴子 松竹
1959年 「浪花の恋の物語」(近松門左衛門原作、内田吐夢監督)中村錦之助 有馬稲子 東映
1959年 「火の壁」(船山馨原作、岩間鶴夫監督)高千穂ひづる 松竹
1960年 「親鸞」(吉川英治原作、田坂具隆監督)中村錦之助 東映
1960年 「つばくろ道中」(河野寿一監督)中村賀津雄 東映
1960年 「狐剣は折れず 月影一刀流」(柴田錬三郎原作、佐々木康監督)鶴田浩二  東映
1961年 「宮本武蔵」(吉川英治原作、内田吐夢監督)中村錦之助 東映
1961年 「母と娘」(小糸のぶ原作、川頭義郎監督)鰐淵晴子 松竹
1961年 「江戸っ子繁昌記」(マキノ雅弘監督)中村錦之助 東映
1961年 「はだかっ子」(近藤健原作、田坂監督)有馬稲子 ニュー東映
1961年 「小さな花の物語」(壺井栄原作、川頭義郎監督) 松竹
1962年 「お吟さま」(今東光原作、田中絹代監督)有馬稲子、仲代達矢 にんじんくらぶ
1963年 「虹をつかむ踊子」(原作)田畠恒男監督 松竹
1963年 「関の弥太ッぺ」(長谷川伸原作、山下耕作監督) 東映
1964年 「おんなの渦と淵と流れ」(榛葉英治原作、中平康監督)仲谷昇 日活
1965年 「ひも」(関川秀雄監督)梅宮辰夫、緑魔子 東映
1965年 「いろ」(村山新治監督)梅宮、緑魔子 東映
1965年 「赤い谷間の決斗」(関川周原作、舛田利雄監督)石原裕次郎 日活
1966年 「雁」(森鴎外原作、池広一夫監督)若尾文子、山本學 大映
1967年 「シンガポールの夜は更けて」(原作、市川泰一監督)橋幸夫 松竹
1967年 「柳ヶ瀬ブルース」(村山新治監督)梅宮辰夫 東映東京
1968年 「怪談残酷物語」(柴田錬三郎原作、長谷和夫監督) 松竹
1968年 「黒蜥蜴」(江戸川乱歩原作、三島由紀夫劇化)丸山明宏、木村功 松竹
1968年 「夜の歌謡シリーズ 命かれても」 東映東京
1968年 「大奥絵巻」(山下耕作監督)佐久間良子、田村高廣 東映京都
1969年 「夜の歌謡シリーズ 港町ブルース」(鷹森立一監督) 東映東京
1969年 「夜の歌謡シリーズ 悪党ブルース」(鷹森立一監督)東映東京
1969年 「夜をひらく 女の市場」(江崎実生監督)小林旭 日活
1973年 「夜の歌謡シリーズ 女のみち」(山口和彦監督)東映東京
1973年 「夜の歌謡シリーズ なみだ恋」(斎藤武市監督)東映東京
1974年 「夜の演歌 しのび恋」(降旗康男監督) 東映東京

《テレビドラマ》
1962年「善魔」岸田國士原作 菅貫太郎、内藤武敏、瑳峨三智子
1964年「古都」NHK 川端康成原作 小林千登勢、中村鴈治郎(2代)、萬代峰子
1964年「若き日の信長」大仏次郎原作 市川猿之助(2代猿翁)、森雅之
1965年「香華」有吉佐和子原作 山田五十鈴
1967年「華岡青洲の妻」有吉佐和子原作 南田洋子、岡田英次、水谷八重子(初代)
1967年「残菊物語」村松梢風原作 市川門之助、柳永二郎、池内淳子
1968年「皇女和の宮」川口松太郎原作 佐久間良子、平幹二朗
1969年「一の糸」有吉佐和子原作 佐久間良子、佐藤慶
1970年「プレイガール」

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かなりマニアック? 観た映画があると嬉しいくらい、知らない映画が多かった。

日本映画隠れた名作-昭和30年代前後- 中公選書.jpg日本映画隠れた名作-昭和30年代前後- 中公選書 - コピー.jpg 秀子の応援団長 vhs.jpg
日本映画 隠れた名作 - 昭和30年代前後 (中公選書)』 「秀子の応援団長」高峰秀子/灰田勝彦

 サブタイトルに、「昭和30年前後」とあり、昭和19年生まれの川本三郎氏と、昭和23年生まれの筒井清忠氏の二人の対談形式で、しかも二人とも早くから映画を見始めているということもあって、自ずとそうなるのかもしれません。ただ、読んでみると、「昭和30年前後」の「前後」をかなり幅広い年代にわたって解釈している印象も受けました。かなりマニアック? と言うか、観たことがある映画があると嬉しいくらい、知らない映画が多かったです。

「魔像」(昭和27年)山田五十鈴/阪東妻三郎(二役)
魔像  1952jh.jpg 第1章(「ふたりの映画回想」)で、二人の個人的映画史を一気に振り返っています。川本氏が一番最初の頃に見た映画の一つに、坂東妻三郎の「魔像」(昭和27年)を挙げていて、怖かった覚えがあると述べていますが(坂東妻三郎が二役を演じた)、8歳頃でしょうか。自分も観たことがある映画が出てきて、一瞬ついて行けるかなと思いましたが、どんどんマニアックになっていきました。「二十四の瞳」(昭和29年)や「東京物語」(昭和28年)のような「隠れた名作」ならぬ超有名映画の話も出てきますが、これはあくまで「戦争」という話題に絡めてのことのようです。久松静児監督作は、川本氏が江戸川乱歩「心理試験」の映画化である「パレットナイフの殺人」(昭和21年)をビデオで観たそうで、筒井氏は同監督作では「三面鏡の恐怖愛よ星と共に 01.jpg(昭和23年)を挙げています。北海道つながりで、川本氏が小津安二郎監督の「東京暮色」(昭和32年)の中村伸郎と山田五十鈴が最後北海道に行くことを指摘、さらに、池部良、高峰秀子の「愛よ星と共に」(阿部豊監督、昭和22年)で、池部良が北海道にジャガイモの品種改良に行くと。当時「北海道に行けば何とかなる」という夢があったとのことですが、小津安二郎監督の「出来ごころ」(昭和9年)でも、坂本武が北海道に行く開拓民船(蟹工船?)に乗り込み金を工面しようとしたのではなかったでしょうか。

「愛よ星と共に」(昭和22年)高峰秀子

「黒い画集・寒流」(昭和36年)新玉三千代/池部良
黒い画集 寒流01.jpg 第2章以下は主に監督別に「隠れた名作」を振り返っていて、第2章(「戦後」の光景)では、家城巳代治、鈴木英夫、千葉泰樹、渋谷実、関川秀雄などが取り上げられています。この辺りの監督、あまり観ていないなあと思いつつも、川本氏が、池部良が出てくる清張ミステリーで、新玉三千代がファム・ファタルになる鈴木英夫監督の「黒い画集・寒流」(昭和36年)を忘れられないとし、筒井氏も、人間というのはこういうふうに裏切るんだということがわかる逸品としていて、確かにそう思います。千葉泰樹監督作では、川本氏が、高峰秀子、灰田勝彦共演の「秀子の応援団長」(昭和15年)で、実は二人が一緒の場面が無いことを指摘、川本氏が以前に高峰秀子にインタビューした時、彼女が「あの映画で私、灰本日休診_3.jpg田勝彦さんの顔を見ていないのよ」と言っていたそうで、ビデオジャケットでも共に並んで写っているだけにやや驚きました。筒井氏が戦前の映画とは思えず、戦後的であると言っているのにも納得です。渋谷実監督作は個人的には「本日休診」(昭和27年)しか観ていませんが、川本氏が、好きなのはこの作品くらいかなと言っています(笑)。

「本日休診」(昭和27年)岸恵子/柳永二郎

 第3章(「純真」をみつめて)では、清水宏、川頭義郎、村山新治、田坂具隆などの監督に触れています。ただ、個人的には、この中では清水宏などは〈巨匠〉と清水宏監督 『簪』 1941 .jpg呼ぶ人もいるのではないかなあと。しかしながら、世間一般の知名度で言うと、小津安二郎などよりはマイナーということになるのかもしれません。井伏鱒二「四つの湯槽」の映画化作品「」(昭和16年)を筒井氏が名作とし、川本氏もいいですよと言っています。温泉が舞台で、負傷兵の笠智衆が温泉で湯治いているところへ、田中絹代が身延山参りでやって来る話でしたが、井伏鱒二の定宿が下部温泉にあったそうですが、映画のロケはそこではやっていないそうです。斎藤達雄の大学教授は、あれはインテリ批判だったのかあ。川頭義郎監督は、俳優川津祐介の実兄ですが、早くに亡くなったなあ。

「簪」(昭和16年)田中絹代/笠智衆

「張り込み」(昭和33年)大木実/高峰秀子
『張込み』(1958)2.jpg張込み 1958汽車.png 第4章(「大衆」の獲得)では、滝沢英輔、野村芳太郎、堀川弘通、佐伯清、沢島忠、小杉勇などの監督を扱っています。この中で、川本氏も述べているように、松本清張作品と言えば野村芳太郎になるなあと。「張り込み」(昭和33年)では、アバンタイトル(タイトルが出る前のシーン)が12分もあったのかあ。当時としては珍しかったようです。でも、川本氏が証言2.bmp黒い画集 あるサラリーマンの証言.jpg言うように、宮口精二と大木実が夜行に乗り込んで、東海道本線、山陽本線を経由して、ようやっと佐賀についたところでタイトルが出るのですが、そこまで行くのに丸一日かかったというところに時代が感じられ、良かったです(あれを今の時代に再現するのは難しため、結局テレビでドラマ化されるとどれも今の時代に改変されてしまう)。筒井氏は「砂の器」(昭和49年)と共に大傑作としていますが、確かにそうだけれど、その分"隠れた名作"と言えるのかは疑問です。同じ清張原作でも、「黒い画集 あるサラリーマンの証言」(昭和35年)は堀川弘通監督作でした。

「黒い画集 あるサラリーマンの証言」(昭和35年)小林桂樹/原知佐子

エノケンの森の石松 yanagiya .jpg 第5章(「職人」の手さばき)では、中村登、大庭秀雄、丸山誠治、中川信夫、西河克己などに触れていますが、まさに職人というべき監督ばかりかも。中川信夫は「東海道四谷怪談」(昭和34年)が有名ですが、初期作品で「エノケンの森の石松」(昭和14年)というのがあり、あれも舞台は東海道でした(エノケンと柳家金語楼の「江戸っ子だってねぇ」「神田の生まれよ」の掛け合いが)。西河克己は、吉永小百合の「伊豆の踊子」(昭和38年)を撮っていますが、山口百恵の「伊豆の踊子」(昭和49年)も撮っていました。筒井氏は吉永小百合の方が叙情性があると評価していますが、撮られた時代もあるのだろうなあ。

「エノケンの森の石松」(昭和14年)柳家金語楼/榎本健一

 ここにはあまり書きませんでしたが、知っている映画より知らない映画の方がずっと多く、興味をそそられたものが少なからずありました。ただ、そうした映画を今観るのがなかなか難しかったりするのではないかと思います。川本氏は90年代に東京・三軒茶屋にあったスタジオams(西友の5階にあった)に395秀子の応援団長.JPG407秀子の応援団長.JPG通ったそうですが今はもうないし、京橋フィルム・センターやシネマヴェーラ渋谷、ユジク阿佐ヶ谷がマニアックなプログラムを組むことがありますが、邦画に限っていないのでなかなか本書にあるような作品に巡り合わないです(ユジク阿佐ヶ谷は来月['20年8月]で休館する)。結局、筒井氏がCSの「日本映画専門チャンネル」などで殆ど観たと述べているように、そうしたものに加入するしかないのかも。最近、図書館で「日本映画傑作選集」の「秀子の応援団長」を借りて観ましたが、こうしたものを置いている図書館も少なくなってきているのかもしれません(VHSビデオだしなあ。個人的にはテレビデオで観ているが)。

hideo秀子の応援団長.jpg 「秀子の応援団長」(昭和15年)は、当時少女スターとして活躍していた高峰秀子が、弱少プロ野球球団アトラス軍の応援歌を作って見事チームを優勝へと導くという青春映画でした。アトラス軍は、かつて大黒柱だった大川投手が出征しているため、新人の人丸投手(灰田勝彦)が登板しますが、スタルヒンや水原を擁する巨人軍との力量の差は明らかでチームは最下位に甘んじ、アトラス軍の高島監督(千田是也)の家族達は憂い顔。高島家の祖母(清川玉枝)や娘の雪子(若原春江)と一緒に憂い顔なのが雪子の従妹で社長令嬢の女学生・秀子(高峰秀子)で、父親(小杉義男)は野球嫌い、教育熱心な母親(沢村貞子)には謡のお稽古をさせられるも、雪子と一緒にこっそりアトラス軍の練習場へ出かけて二人が作った応援歌を披露したり、謡の先生も野球好きと知り先生を説得して親に内緒で一緒に後楽園に応援に出かけたりするうちに、彼女達が応援に来た試合はアトラス軍面白いように勝ちはじめる―。

秀子の応援団長 0.jpg 高峰秀子と灰田勝彦は、会話シーンもればそのプレイを応援するシーンもあり、祝勝パーティで灰田勝彦がウクレレ片手に歌って高峰秀子も同席しているシーンもあったりしますが、あれ全部"別撮り"だったのかあ。そう言えば、冒頭のスタルヒンや水原らスター選手がいる巨人軍との試合も、本当に試合するはずもなく全部"別撮り"だというのは考えてみればすぐ分かります。秀子らが各球団の戦力偵察に行く設定なので、当時の主要球団の有力選手並びに戦前の後楽園球場、上井草球場?、西宮球場、甲子園球場なども見られ、スポーツ・フィルム史的にみて貴重です。太平洋戦争が始ま394秀子の応援団長.JPGる2年弱前に作られた作品にしては何と明るいこ千田是也.jpgとか(お気楽と言っていいくらいだが、コメディのツボは押さえていて、しかもラストは少し捻っている)。灰田勝彦がプロ球団の投手役というのも見ものですが、戦後、俳優座のリーダー的存在として活躍した千田是也(1904-1994)が、プロ野球の監督役というのが珍しいです。千田是也はテレビドラマへの出演はほとんど皆無ですが、1940年代から1970年代頃まで約100本の映画に出演していて、この作品はそのうちの最も初期のものとなります。
千田是也/若原春江/高峰秀子
秀子の應援團長 【東宝DVD名作セレクション】」2020年12月リリース
秀子の應援團長.jpg

魔像 19562.JPG魔像 dvd 19521.jpg「魔像」●制作年:1952年●監督:大曾根辰夫●脚本:鈴木兵吾●撮影:石本秀雄●音楽:鈴木静一●原作:林不忘●時間:98分●出演:阪東妻三郎/津島恵子/山田五十鈴/柳永二郎/三島雅夫/香川良介/小林重四郎/小堀誠/永田光男/海江田譲二/田中謙三/戸上城太郎●公開:1952/05●配給:松竹(評価:★★★☆)

二十四の瞳312.jpg「二十四の瞳」●制作年:1954年●監督・脚本:木下惠介●製作:桑田良太郎●撮影:楠田浩之●音楽:木下忠司●原作:壺井栄●時間:156分●出演:高峰秀子/天本英世/夏川静江/笠智衆/浦辺粂子/明石潮/高橋豊子/小林十九二/草香田鶴子/清川虹子/高原駿雄/浪花千栄子/田村高廣/三浦礼/渡辺四郎/戸井田康国/大槻義一/清水龍雄/月丘夢路/篠原都代子/井川邦子/小林トシ子/永井美子●公開:1954/09●配給:松竹●最初に観た場所(再見):北千住・シネマブルースタジオ(18-05-08)(評価:★★★★☆)

笠智衆/原節子/東山千榮子
東京物語 紀子のアパート.jpg東京物語 10.jpg「東京物語」●制作年:1953年●監督:小津安二郎●脚本:野田高梧/小津安二郎●撮影:厚田雄春●音楽:斎藤高順●時間:136分●出演:笠智衆/東山千榮子/原節子/香川京子/三宅邦子/杉村春子/中村伸郎/山村聰/大坂志郎/十朱久雄/東野英治郎/長岡輝子/高橋豊子/桜むつ子/村瀬禪/安部徹/三谷幸子/毛利充宏/阿南純子/水木涼子/戸川美子/糸川和広●公開:1953/11●配給:松竹●最初に観た場所:三鷹オスカー(82-09-12)(評価:★★★★☆)●併映:「彼岸花」(小津安二郎)/「秋刀魚の味」(小津安二郎)

パレットナイフの殺人1.jpgパレットナイフの殺人22.jpgパレットナイフの殺人s.jpg「パレットナイフの殺人」●制作年:1946年●製作:大映(東京撮影所)●監督:久松静児●脚本:.高岩肇●撮影:高橋通夫●音楽:斎藤一郎●原作:江戸川乱歩●時間:71分(76分)●出演:宇佐美淳(宇佐美淳也)/植村謙二郎/小柴幹治(三条雅也)/小牧由紀子/松山金嶺/平井岐代子/西條秀子/若原初子/須藤恒子/上代勇吉/花布辰男/桂木輝夫●公開:1946/10●配給:大映(評価:★★★)

三面鏡の恐怖 vhs.jpg三面鏡の恐怖(1948)6.jpg三面鏡の恐怖06.jpg「三面鏡の恐怖」●制作年:1948年●監督:久松静児●●脚本:高岩肇/久松静児●撮影:高橋通夫●音楽:齋藤一郎●原作:木々高太郎「三面鏡の恐怖」●時間:82分●出演:木暮実千代/上原謙/新宮<信子/瀧花久子/水原洋一/宮崎準之助/船越英二/千明みゆき/上代勇吉●公開:1948/06●配給:大映(評価:★★★)

有馬稲子/山田五十鈴/原節子
東京暮色  1957.jpg 東京暮色 j.jpeg「東京暮色」●制作年:1954年●監督:小津安二郎●製作:山内静夫●脚本:野田高梧/小津安二郎●撮影:厚田雄春●音楽:斎藤高順●時間:140分●出演:原節子/有馬稲子/笠智衆/山田五十鈴/高橋貞二/田浦正巳/杉村春子/山村聰/信欣三/藤原釜足/中村伸郎/宮口精二/須賀不二夫/浦辺粂子/三好栄子/田中春男/山本和子/長岡輝子/櫻むつ子/増田順二/長谷部朋香/森教子/菅原通済(特別出演)/石山龍児●公開:1957/04●配給:松竹●最初に観た場所(再見):角川シネマ新宿(シネマ1・小津4K 巨匠が見つめた7つの家族)(18-06-28)((評価:★★★★)

愛よ星と共に vhs.jpg愛よ星と共に4.jpg「愛よ星と共に」●制作年:1947年●監督:阿部豊●製作:青柳信雄●製作会社:新東宝・映画芸術協会●脚本:八田尚之●撮影:小原譲治●音楽:早坂文雄●時間:95分●出演:高峰秀子/池部良/横山運平/浦辺粂子/川部守一/藤田進/逢初夢子/清川莊司/一の宮あつ子/田中春男/鳥羽陽之助/冬木京三/鬼頭善一郎/江川宇礼雄/山室耕/花岡菊子/條圭子/水島三千代●公開:1947/09●配給:東宝(評価:★★★)

「出来ごころ」vhs.jpg出来ごころ 1シーン.jpg「出来ごころ」●制作年:1933年●監督:小津安二郎●脚本:池田忠雄●撮影:杉本正二郎●原作:ジェームス槇(小津安二郎)●活弁:松田春翠●時間:100分●出演:坂本武/伏見信子/大日方傳/飯田蝶子/突貫小僧/谷麗光/西村青児/加藤清一/山田長正/石山隆嗣/笠智衆(ノンクレジット)●公開:1933/09●配給:松竹蒲田●最初に観た場所:ACTミニシアター(90-08-13)(評価:★★★)●併映:「浮草物語」(小津安二郎)

平田昭彦/新珠三千代/池部良
黒い画集 寒流03.jpg黒い画集 寒流 ド.jpg「黒い画集 第二話 寒流(黒い画集 寒流)」(映画)●制作年:1961年●監督:鈴木英夫●製作:三輪礼二●脚本:若尾徳平●撮影:逢沢譲●音楽:斎藤一郎●原作:松本清志「寒流」●時間:96分●出演:池部良/荒木道子/吉岡恵子/多田道男/新珠三千代/平田昭彦/小川虎之助/中村伸郎/小栗一也/松本染升/宮口精二/志村喬/北川町子/丹波哲郎/田島義文/中山豊/広瀬正一/梅野公子/池田正二/宇野晃司/西条康彦/堤康久/加代キミ子/飛鳥みさ子/上村幸之/浜村純/西條竜介/坂本晴哉/岡部正/草川直也/大前亘/由起卓也/山田圭介/吉頂寺晃/伊藤実/勝本圭一郎/松本光男/加藤茂雄/細川隆一/大川秀子/山本青位●公開:1961/11●配給:東宝(評価:★★★☆)

鶴田浩二/角梨枝子/淡島千景
『本日休診』スチル2.jpg本日休診 スチル.jpg「本日休診」●制作年:1939年●監督:渋谷実●脚本:斎藤良輔●撮影:長岡博之●音楽 吉沢博/奥村一●原作:井伏鱒二●時間:97分●出演:柳永二郎/淡島千景/鶴田浩二/角梨枝子/長岡輝子/三國連太郎/田村秋子/佐田啓二/岸恵子/市川紅梅(市川翠扇)/中村伸郎/十朱久雄/増田順司/望月優子/諸角啓二郎/紅沢葉子/山路義人/水上令子/稲川忠完/多々良純●公開:1952/02●配給:松竹(評価:★★★★)

斎藤達雄  
簪 齋藤.jpg簪 kanzashi 1941.jpg「簪(かんざし)」●制作年:1941年●監督・脚本:清水宏●製作:新井康之●撮影:猪飼助太郎●音楽:浅井挙曄●原作:井伏鱒二「かんざし(四つの湯槽)」●時間:75分●出演:田中絹代/笠智衆/斎藤達雄/川崎弘子/日守新一/坂本武/三村秀子/河原侃二/爆弾小僧/大塚正義/油井宗信/大杉恒夫/松本行司/寺田佳世子●公開:1941/08●配給:松竹(評価:★★★★)
      
大木実/宮口精二
大木実/宮口精二 張込み.jpg張込み 映画2.jpg「張込み」●制作年:1958年●製作:小倉武志(企画)●監督:野村芳太郎●脚本:橋本忍●撮影:井上晴二●音楽:黛敏郎●原作:松本清張「張張込み 1958汽車2.png込み」●時間:116分●出演:大木実/宮口精二/高峰秀子/田村高廣/高千穂ひづる/内田良平/菅井きん/藤原釜足/清水将夫/浦辺粂子/多々良純/芦田伸介●公開:1958/01●配給:松竹●最初に観た場所:池袋文芸地下(84-02-22)(評価★★★☆)
Suna no utsuwa (1974)  丹波哲郎/森田健作        
Suna no utsuwa (1974).jpg砂の器sunanoutuwa 1.jpg「砂の器」●制作年:1974年●製作:橋本プロ・松竹●監督:野村芳太郎●脚本:橋本忍/山田洋次●音楽:芥川也寸志●原作:松本清張●時間:143分●出演:丹波哲郎/森田健作/加藤砂の器 丹波哲郎s.jpg剛/加藤嘉/緒形拳/山口果林/島田陽子/佐分利信/渥美清/笠智衆/夏純子/松山省二/内藤武敏/春川ますみ/花沢徳衛/浜村純/穂積隆信/山谷初男/菅井きん/殿山泰司/加藤健一/春田和秀/稲葉義男/信欣三/松本克平/ふじたあさや/野村昭子/今井和子/猪俣光世/高瀬ゆり/後藤陽吉/森三平太/今橋恒/櫻片達雄/瀬良明/久保晶/中本維年/松田明/西島悌四郎/土田桂司/丹古母鬼馬二●公開:1974/10●配給:松竹●最初に観た場所:池袋文芸地下(84-02-19) (評価★★★★)●併映:「球形の荒野」(貞永方久)

小林桂樹/原知佐子
黒い画集 あるサラリーマンの証言      .jpg黒い画集 あるサラリーマンの証言    .jpg「黒い画集 あるサラリーマンの証言」●制作年:1960年●監督:堀川弘通●製作:大塚和/高島幸夫●脚本:橋本忍●撮影:中井朝一●原作:松本清張「証言」●時間:95分●出演:小林桂樹/中北千枝子/平山瑛子/依田宣/原知佐子/江原達治/中丸忠雄/西村晃/平田昭彦/小池朝雄/織田政雄/菅井きん/小西瑠美/児玉清/中村伸郎/小栗一也/佐田豊/三津田健●公開:1960/03●配給:東宝●最初に観た場所:池袋文芸地下 (88-01-23)(評価★★★☆)

エノケンの森の石松 vhs1.jpg「エノケンの森の石松」●制作年:1939年●監督:中川信夫●脚本:小林正●撮影:唐沢弘光●音楽:栗原重一●口演:広沢虎造●原作:和田五雄●時間:72分(現存57分)●出演:榎本健一/鳥羽陽之助/浮田左武郎/松ノボル/木下国利/柳田貞一/北村武夫/小杉義男/斎藤勤/近藤登/梅村次郎/宏川光子/竹久千恵子/柳家金語楼●公開:1939/08●配給:東宝(評価:★★★)

伊豆の踊子 (吉永小百合主演).jpg「伊豆の踊子」●制作年:1963年●監督:西河克己●脚本:三木克己/西河克己●撮影:横山実●音楽:池田正義●原作:川端康成●時間:87分●出演:高橋英樹/吉永小百合/大川端康成 伊豆の踊子 吉永小百合58.jpg坂志郎/桂小金治/井上昭文/土方弘/郷鍈治/堀恭子/安田千永子/深見泰三/福田トヨ/峰三平/小峰千代子/浪花千栄子/茂手木かすみ/十朱幸代/南田洋子/澄川透/新井麗子/三船好重/大倉節美/高山千草/伊豆見雄/瀬山孝司/森重孝/松岡高史/渡辺節子/若葉めぐみ/青柳真美/高橋玲子/豊澄清子/飯島美知秀/奥園誠/大野茂樹/花柳一輔/峰三平/宇野重吉/浜田光夫●公開:1963/06●配給:日活●最初に観た場所:池袋・文芸地下(85-01-19)(評価:★★★☆)●併映:「潮騒」(森永健次郎)

秀子の応援団長 4.jpg秀子の応援団長ド.jpg「秀子の応援団長」●制作年:1940年●監督:千葉泰樹●脚本:山崎謙太●音楽:佐々木俊一●原作:高田保●時間:71分●出演:高峰秀子/灰田勝彦/千田是也/音羽久米子/若原春江/伊達里子/小杉義男/澤村貞子/清川玉枝●公開:1940/01●配給:東宝映画(評価★★★☆)
登場するプロ野球選手
【東京巨人軍】17 スタルヒン、19 水原茂、27 吉原正喜、3 中島治康【大阪タイガース】9松木謙次郎、18若林忠志、31堀尾文人、32森国五郎、36小林吉雄、6景浦将、27松広金一、29皆川定之、12田中義雄、38三輪八郎、17門前真佐人、35中田金一【セネタース】12佐藤武夫、19保手浜明、18野口ニ郎、5尾茂田叶、7浅岡三郎、14横沢七郎【阪急軍】6石井武夫、12日比野武、23土肥省三、14西村正夫、7下村豊、22重松道雄、24黒田健吾、5上田藤夫、16山下好一

主題歌「青春グラウンド」(唄:灰田勝彦(映画では高峰秀子)) 挿入歌「燦めく星座」(唄:灰田勝彦)
 

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この「時代色」「地方色」をリメイクは超えられない。子役の演出も。

二十四の瞳 ポスター.jpg二十四の瞳 dvd.jpg 二十四の瞳 01.jpg 二十四の瞳 岩波.jpg
二十四の瞳 デジタルリマスター 2007 [DVD]」『二十四の瞳 (岩波文庫)

二十四の瞳01a.jpg 1928(昭和3)年、大石久子(高峰秀子)は新任教師として、瀬戸内海小豆島の分校へ赴任する。1年生の磯吉、吉次、竹一、ミサ子、松江、早苗、小ツル、コトエなど12人が初めて教壇に立つ久子には愛らしく思え、田舎の古い慣習に苦労しながらも、良い先生になろうとする。ある日、久子は子供二十四の瞳 02.jpgのいたずらで落とし穴に落ちて負傷し、長期間学校を休んでしまうが、先生に会いたい一心の子供たちは2里の道程を歩いて見舞いに来てくれ、皆で海辺で記念写真を撮る。しかし、自転車に乗れない久子は、住まい近くの本校へ転任することに。1933(昭和8)年、5年生になって子供たちは本校へ通うようになり、久子は結婚していた。子供たちにも人生の荒波が押しよせ、大工の娘・松江は母親が急死し、奉公に出される。久子は修学旅行先の金比羅で偶然に松江を二十四の瞳 03.jpg見かけることになる。軍国主義の影が教室を覆い始めたことに嫌気さした久子は、子供たちの卒業とともに教壇を去る。8年後の1941(昭和16)年、戦争が本格化し、教え子の男子5人と久子の夫は戦争に出征、漁師の娘コトエは大阪へ奉公に出るが、肺病になり物置で寝たきりになる。1945(昭和20)年、久子の夫は戦死し、かつての教え子も、竹一ら3人が戦死、ミサ子は結婚し、早苗は教師に、小ツルは産婆に、二十四の瞳 er9.jpgそしてコトエは肺病でひっそりと死んだ。久子には既に子が3人あったが、2歳の末っ娘は空腹に耐えかねた末に木になる柿の実を採ろうとして転落死する。翌1946(昭和21)年、久子は再び岬の分教場に教師として就任する。児童の中には、松江やミサ子の子供もいた。一夜、ミサ子、早苗、松江、マスノ、磯吉、吉次が久子を囲んで歓迎会を開いてくれ、磯吉は両目の視力を失っていた。かつての教え子たちは久子に自転車をプレゼントする。数日後、岬の道には元気に自転車のペダルを踏む久子の姿があった―。

二十四の瞳s.jpg 木下惠介(1912-1998/享年86)監督の1954(昭和29)年公開作で、同年「キネマ旬報 ベスト・テン」で第1位(2位も同監督の「女の園」('54年/松竹))、「毎日映画コンクール」日本映画大賞、「ブルーリボン賞」作品賞、1954年度「ゴールデングローブ賞」外国語映画賞受賞作。文藝春秋刊『大アンケートによる日本映画ベスト150』('89年/文春文庫ビジュアル版)第7位。壺井栄(1899-1967/享年67)の原作『二十四の瞳』は第二次世界大戦の終結から7年後の1952(昭和27)年に発表されていて(原作は瀬戸内海に浮かぶ島を舞台としているが、その島の名前は一度も出てこない。但し、小豆島は作者の出身地である)、映画は原作発表の翌年春から撮影が始まり、翌々年に公開されたということになります。

 個人的には1962年のリバイバル時の木下監督自ら再編集等に携わった「ワイド(ビスタビジョン)版」(時間143分、画面の上下がトリミングされている)を親に連れられて劇場で観ているはずですが殆ど記憶がなく、その後学生時代に観て、さらに2007年にデジタルリマスター化されたものを最近劇場で観ました(時間156分)。

 あるこの映画紹介の中にはメロドラマとの表現もありましたが、泣ける映画であり、実際多くの中高年がこの作品を観て、映画を観て泣けた時代を思い出すというのを聞いたこともあります(この作品が今まで観た映画の中で一番泣けた映画であるという人も少なくない)。自分の場合は、学生時代に観た時は、原作よりも生徒たちを"純"な存在として描いていることに若干抵抗があったのですが、今はそうでもないかも。三島由紀夫.jpgあの三島由紀夫は、最も好きな日本の映画監督に木下惠介監督を挙げていますが、「二十四の瞳」に関しては、「間がどうも古いね。泣かせる間がちゃんとできている。(中略)絶対、泣かなくなっちゃう、腹が立ってきてね」と雑誌の読者座談会で発言しており(同じ理由でビットリオ・デ・シーカの「自転車泥棒」('48年/伊)なども嫌いだったらしい)、「泣かせる」演出に嫌悪感があったようです(川内由紀人『三島由紀夫、左手に映画』('12年/河出書房新社))。自分も40代くらいまではあまり好きでなかったし、テレビなどでやっているとチャンネルを変えたりしていたように思いますが、今は年齢と共に素直に(?)"泣ける"ようになったのかも(やっぱり劇場で観る方がいい)。

二十四の瞳10.jpg リメイクされたりもしていますが(映画では田中裕子版('87年)が、テレビドラマでは黒木瞳版('05年)、松下奈緒版('13年)などがある)、戦後10年以内に作られたこの作品が持つ独特の時代的、地方的な雰囲気があり(風光明媚な瀬戸内の風景や、素朴な人々の暮らしぶりといった背景)、それより後の映像化作品でこの作品を超えるのは難しいように思います(同じことが同監督の3年後のカラー作品「喜びも悲しみも幾歳月」('57年/松竹)についても言える。両作品とも季節の違いはあるが波止場で人々が出征兵士を見送るシーンがあり、それがまるで記録映像を観ているように見える)。勿論、「時代色」「地方色」だけでなく、木下惠介監督の演出のきめ細かさも光っているように思います。

二十四の瞳ges.jpg 先に書いたように、物語には1928(昭和3)年、1933(昭和8)年、1941(昭和16)年、そして1945(昭和20)年から1946(昭和21)年という、大まかに言って4つのシークエンスがあり(こうした構成も「喜びも悲しみも幾歳月」に似ている)、この間に子供たちはそれぞれ6歳(小学校1年生)、10歳(小学校5年生)、18歳、22歳と成長し、大石先生も20代から40代になるわけですが、20代から40代の大石先生を巧みに演じ分けている高峰秀子もさることながら、子役たちも子供から大人になるまでが自然に繋がっているという感じです。

二十四の瞳es.jpg 特に、6歳(小学校1年生)と10歳(小学校5年生)の配役は、全国からよく似た兄弟、姉妹を募集し、3600組7200人の子供たちの中から、12組24人が選ばれたとのことで(大人になってからの役者も、その子供たちとよく似た役者を選んだ)、観ていて「あの子が成長してこうなったのだな」などとと分かり、顔立ちや目元まで似ていたりすると結「二十四の瞳」井川.jpg構はっとさせられます。でも、兄弟、姉妹を顔が似てるかどうかを基準に選んだということは、それをどう演出するかは、木下惠介監督には相当な自信があったのではないでしょうか。実際、子役たちから巧まざる上手さを引き出しているように思いました。「泣ける」背景には、こうした戦略的かつ細やかな技巧の積み重ねがあり、それが、声高ではないのに反戦映画としての訴求力があることに繋がっているのだと改めて思われ、評価「◎」としました。

井川邦子(松江)

木下忠司.jpg次郎物語%E3%80%80t.jpg 音楽の木下忠司(きのした・ちゅうじ、1916-2018)は木下惠介監督の弟で、この「二十四の瞳」をはじめ、「女の園」('54年/松竹)、「野菊の如き君なりき」('55年/松竹)、「喜びも悲しみも幾歳月」('57年/松竹)など兄・木下恵介が監督した映画の音楽を数多く手掛けていますが、今年['18年]4月に102歳で亡くなっています。木下作品以外では、「白蛇伝」('58年/東映)、「安寿と厨子王丸」('61年/東映)といったアニメ映画や、「点と線」('58年/東映)、「黄色い風土」('61年/ニュー東映)、更水戸黄門 ああ人生に涙あり.jpgには、「大怪獣決闘 ガメラ対バルゴン」('66年/大映)や「トラック野郎シリーズ」(東映、全10作中、8作を担当)なども手掛けています。NHKのテレビドラマ「次郎物語」('66-'68年)のペギー葉山が歌っていたテーマ曲の作曲者でもありますが、テレビドラマのテーマ曲と言えば、この人が作曲した中では何と言っても「水戸黄門」の主題歌「あゝ人生に涙あり」が一番よく知られているでしょうか。

二十四の瞳312.jpg「二十四の瞳」●制作年:1954年●監督・脚本:木下惠介●製作:桑田良太郎●撮影:楠田浩之●音楽:木下忠司●原作:壺井栄●時間:156分●出演:高峰秀子(大石久子)/天本英世(大石久子の夫)/夏川静江(久子の母)/笠智衆(分教場の男先生)/浦辺粂子(男先生の妻)/明石潮(校長先生)/高橋豊子(小林先生)/小林十九二(松江の父)/草香田鶴子(松江の母)/清川虹子(よろずやのおかみ)/高原駿雄(加部小ツルの父)/浪花千栄子(飯屋のかみさん)/田村高廣(岡田磯吉)/三浦礼(竹下竹一)/渡辺四郎(竹下竹一(本校時代))/戸井田康国(徳田吉次)/大槻義一(森岡正)清水龍雄(相沢仁太)/月丘夢路(香川マスノ)/篠原都代子(西口ミサ子)/井川邦子(川本松江)/小林トシ子(山石早苗)/永井美子(片桐コトエ)●公開:1954/09●配給:松竹●最初に観た場所(再見):北千住・シネマブルースタジオ(18-05-08)(評価:★★★★☆)
二十四の瞳の銅像(小豆島町)          笠智衆(分教場の男先生)/浦辺粂子(男先生の妻)
二十四の瞳の銅像.jpg二十四の瞳 笠智衆 浦辺粂子.gif浦辺粂子.jpg
         
       


   
 
          
     
    
天本英世(大石久子の夫)                 田村高廣(岡田磯吉)
二十四の瞳 天本英夫.jpg天本英世.jpg二十四の瞳 田村高廣.jpg田村高廣 .jpg
 
 
 
 
 
 
 
 
                                                                                                                       
映画「二十四の瞳」田中裕子版('87年/松竹)
二十四の瞳  田中裕子 (1).jpg 二十四の瞳  田中裕子.jpg
テレビドラマ「二十四の瞳」黒木瞳版('05年/日本テレビ)/松下奈緒版('13年/テレビ朝日)
二十四の瞳 黒木瞳.jpg 二十四の瞳 松下奈緒.jpg

水戸黄門 東野英治郎版.jpg水戸黄門 op.jpg「水戸黄門(1-13)(東野英治郎版)」)●監督:内出好吉/田坂勝彦/船床定男/山内鉄也ほか●製作総指揮:松下幸之助●製作:松下正治/丹羽正治●脚本:宮川一郎/窪田篤人/三好伍郎/鈴木則文/飛鳥ひろし/吉田哲郎/梅谷卓司/浅井昭三郎/津田幸夫/中島貞夫/伊上勝/鈴木生朗/鎌田房夫/田坂勝彦/葉村彰子/加藤泰/稲垣俊ほか●音楽:木下忠司●出演:東野英治郎/杉良太郎/横内正/露口茂/弓恵子/岩井友見/中谷一郎/高橋元太郎/伊藤栄子/村井国夫/大原麗子/菅貫太郎/里見浩太朗/成田三樹夫/大和田伸也/三浦浩一/山口いづみ●放映:1969/08~1983/04(全381回)●放送局:TBS

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ハメット原作映画の翻案。探偵は遠山の金さん。コメディ的要素と謎解き的要素の両方を楽しめる。
昨日消えた男 vhs.jpg 昨日消えた男00.jpg 昨日消えた男―小國英雄シナリオ集_.jpg ハメット 影なき男.jpg
「昨日消えた男」VHS    長谷川一夫(文吉)・山田五十鈴(小富) 『昨日消えた男―小國英雄シナリオ集〈2〉』(カバーイラスト:和田 誠)/ダシール・ハメット『影なき男 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ (109))
昨日消えた男 vhs3.jpg昨日消えた男01.jpg 裏長屋の大家・勘兵衛(杉寛)が何者かに殺された。勘兵衛は鬼勘と言われるほど無情な男で間借人の間では嫌われ者だった。まず日頃から勘兵衛を殺してカンカン踊りを踊らせてやるといっていた文吉(長谷川一夫)と、勘兵衛に借金の返済を迫られていた浪人の篠崎源衛門(徳川夢声)が疑われる。更に長屋に昨日消えた男02.jpgは、文吉に惚れている芸者小富(山田五十鈴)、小富に想いを寄せる錠前屋の太三郎(清川荘司)、篠崎源衛門の娘お京(高峰秀子)、その恋人の横山求馬(坂東橘之助)、人形師の椿山(鳥羽陽之助)と女房おこん(清川虹子)、居合抜の松下源蔵(鬼頭善一郎)と女房おかね(藤間房子)などが住んでいた。目明しの八五郎(川田義雄)が探索するも犯人は不明、そこで与力の原六之進(江川宇礼雄)は一同を呼んで取り調べをすることにしたが、それでも埒が明かない。やがて第二の殺人事件が起き、南町奉行・遠山左衛門射(遠山金四郎)が事件解決に乗り出す―。

昨日消えた男03.jpg昨日消えた男b.jpg 1941年1月公開作で、マキノ正博(1908- 1993/享年85)監督が日活を離れてフリーとなって撮っていた「家光と彦左」が古川緑波の病気で撮影中断したため、その代わりに急遽撮った作品であり、原案は、ダシール ハメット原作、ウィリアム・パウエルとマーナ・ロイ主演の「影なき男」('34年)で、脚本の小国英雄(1904-1996/享年91)はこれを江戸時代の長屋に設定、ウィリアム・パウエルが演じる探偵は遠山昨日消えた男 re.jpgの金さんに置き換え、それを長谷川一夫が演じました。この映画、僅か9日間で撮られたとかで、徳川夢声はマキノ正博監督の早撮りに驚いたと言います(マキノ正博はこのストーリーを、1956年にも中村扇雀=尾上さくらのコンビで「遠山の金さん捕物控・影に居た男」として、同じ脚本でリメイクしている。この他、森一生監督作で、小国英雄が再びオリジナル脚本を書き、市川雷蔵が同心(実は徳川吉宗の仮の姿)を演じた「昨日消えた男」('64年/大映)がある)。「昨日消えた男 [DVD]

 言われてみれば確かに洋物推理小説っぽい凝った展開だったかも。犯人以外の人物がある動機から死体を動かしたというのは、クリスティの『書斎の死体』('42年)のようでもあるし、実は登場人物の多くが何らかの形で事件に関わっていたというのは、ヒッチコックの「ハリーの災難」('55年)のようでもありますが、それらよりも早くハメット原作映画に目を付け、尚且つ、それを遠山の金さんに置き換えた小国英雄と、このややこしい話を9日間で撮り上げたマキノ正博の両者の才覚はともに驚くべきものなのかもしれません。但し、最後に謎解きされてみれば、伏線となるようなものは殆ど無かったような気もしなくもなかったです(観直してみればまた違った印象を受けるかもしれないが)。

山田五十鈴と長谷川一夫「昨日消えた男」.jpg「昨日消えた男」長谷川・高峰.jpg 高峰秀子(当時16歳)の可憐さも印象に残らないわけではないですが、それよりも、長谷川一夫(当時33歳)と山田五十鈴(当時24歳)の息の合った掛け合いの方が楽しかったでしょうか(山田五十鈴の"舌出し"は、後に小津 安二郎監督の「宗方姉妹」('59年/新東宝)で高峰秀子(当時25歳)が見せる"舌出し"よりも自然であるように思えた)。長谷川一夫の剣戟ならぬ棒術アクションもあります(体がよく動いている)。ベースはコメディ調ですが、渡辺篤、サトウロクローの「なるほどね」「いやまったく」のギャグの繰り返しはややくどかったような...。それでも、昭和16年に作られた映画であるにしては国策映画的な雰囲気は殆ど無く(大塩平八郎の一味が幕府転覆を目論む'悪役'になっていることぐらいか)、コメディ的要素と謎解き的要素の両方を楽しめます。

昨日消えた男3.jpg 謎解きの方は結局"千里眼"的と言っていい洞察力を持つ遠山金四郎の登場を待たなければ、途中ま「昨日消えた男」山田五十鈴.jpgでは何が何だか分かりませんでしたが、それでも皆がそれぞれ何となく怪しげな行動をとっていることが緊迫感を醸し出していて最後まで興味を引き、この辺りは演出の巧みさもあるように思いました。

長谷川一夫(遠山金四郎(文吉))/山田五十鈴(小富)(当時24歳)

「昨日消えた男」v.jpg「昨日消えた男」●制作年:1941年●監督:マキノ正博●製作:滝村和男●脚本:小国英雄●撮影:伊藤武夫●音楽:鈴木静一●原案:ダシール・ハメット●時間:89分●出演:長谷川一夫/山田五十鈴/徳川夢声/高峰秀子/鳥羽陽之助/清川虹子/鬼頭善一郎/藤間房子/坂東橘之助/杉寛/沢井三郎/江川宇礼雄/川田義雄/進藤英太郎/渡辺篤/サトウ・ロクロー/清川荘司●公開:1941/01●配給:東宝東京(評価:★★★☆)

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新東宝の時代劇第1作。ダブル主役の大河内傳次郎、長谷川一夫を観るためだけの映画?

img445大江戸の鬼.jpg「大江戸の鬼」 昭22VHS1.jpg 「大江戸の鬼」VHS
大河内傳次郎・宮川五十鈴・長谷川一夫・高峰秀子・黒川彌太郎

大江戸の鬼 1947.jpg 江戸の街で夜ごと起こる鬼の面を被った殺人鬼による連続殺人事件を早期に解決しようと、北町奉行・遠山金四郎(黒川彌太郎)は与力たちに捜査の徹底を命じ、与力たちも岡っ引きたちにそれを伝える。岡っ引きの稲田屋の傳七(大河内傳次郎)が事件の探査を続ける中、吉五郎(清川荘司)という男が島帰りの挨拶に訪ねて来て、かつて吉五郎と同じ芝居小屋で働き一緒に不良浪人を殺め島流しになった清吉(長谷川一夫)も島から戻ったことを知らされる。清吉は、久々に戻った芝居小屋で歓待されるも、用心棒なのか、黒船(鳥羽陽之助)、牛窓(伊藤雄之助)、雪持(田中春男)らヤクザ風の浪人たちが小屋に居着いていた。実は清吉は江戸では名高い能役者の一人息子であり、その家には先祖伝来の人手に渡ると魔性を現すと伝えられる般若の面があったが、清吉の父・堀池幻雪(汐見洋)は、保管していたその般若の面が最近紛失しているのに気づく。清吉は、自分の子分たちが般若の面をそんな大切なものと知らずに勝手に持ち出し、それを受け取った露天商(高勢実乗)もそれを誰かに売ってしまったと知る。清吉は、群集の中で、ヤクザ者の一人・雪持が町娘おなつ(高峰秀子)の簪をすり取ったのを見つけ、それを取り返してやったことを契機におなつと知り合い、おなつは清吉に想いを寄せる。おなつの父・赤鶴(しゃくづる)彦兵衛(上山草人)は、能面職人であり、彼が火急の仕事の依頼を受け彫っていた般若面の脇に手本として置かれていたのは、盗まれた魔性の面であった―。

「大江戸の鬼」 昭22長谷川一夫高峰秀子68.JPG 1947(昭和22)年5月公開の萩原遼監督作品で、東宝の労働争議の中、脱退組のメンバーらが作った"第二製作部"と呼ばれていた組織が'47年3月に新東宝映画製作所という組織になり、そこでの時代劇第1作がこの作品であるとのことです。大河内傳次郎と長谷川一夫のダブル主役というのが興味深く、新生・新東宝映画製作所の力の入れ具合が窺えなくもないですが、如何せん、ミステリーとしては平凡な展開でだったように思います。

 ミステリー部分が弱いということは自覚されているのか、後半は、ミステリーと並行して、清吉(長谷川一夫)とおなつ(高峰秀子)の恋愛が描かれますが、終盤の高峰秀子演じるおなつが牢内の清吉に語りかけるシーンでは、清吉がずっとと背中を向けていて顔が見えず(明らかにスタンドイン)、おなつの顔ばかりハレーションをかけて撮っていて、そのパターンで繰り広げられる愁嘆場にはやや辟易させられました。

 基本的に、大河内傳次郎、長谷川一夫を観るためだけの映画でしょうか。但し、大河内傳次郎が伝七親分で、長谷川一夫が出自はお坊ちゃんながらも罪人上がりという取り合わせならば、もう少し面白いものが作れたような気もしますが。高峰秀子に関しては、典型的な町娘役の域を出ることが無く、持ち前の演技力が生かされていないように思いました。

高勢実乗44.jpg上山草人   .jpg それ以外では、「丹下左膳余話 百萬両の壺」('35年/日活)などにも出ていた「ワシャ、カナワンヨ」の高勢実乗(たかせ みのる、1897-1947年/享年49)などもチョイ役(露天商)で出ていますが、やはりおなつの父の能面師を演じた上山草人(かみやま そうじん、1884-1954/享年70)が印象に残ります。1919(大正8)年に渡米してから映画界に入り、ダグラス・フェアバンクス主演の活劇映画「バグダッドの盗賊」(1924)にモンゴルの王子の役で出演するなどハリウッドで活躍した人で、帰国後の出演作には「赤西蠣太」('36年/日活、按摩役)、「七人の侍」('54年/東宝、琵琶法師役)などがあります。何を演っても"怪演" という雰囲気の俳優でした。

上山草人 .jpg上山草人「赤西蠣太」撮影風景.JPG上山草人 七人の侍.jpg上山草人 in「バグダッドの盗賊」(1924)/「赤西蠣太」(1936)撮影風景/「七人の侍」(1954)

「大江戸の鬼」長谷川一夫・高峰秀子.jpg「大江戸の鬼」●制作年:1947年●監督:萩原遼●製作:伊藤基彦●脚本:三村伸太郎●撮影:安本淳●音楽:鈴木静一●時間:100分●出演:大河内傳次郎/長谷川一夫/黒川彌太郎/宮川五十鈴/上山草人/汐見洋/岬洋二/鬼頭善一郎/原文雄/小森敏/小島洋々/田中春男/高峰秀子/清川荘司/鳥羽陽之助/伊藤雄之助/阪東橋之助/横山運平/澤井三郎/永井柳太郎/高勢実乗●公開:1947/05●配給:新東宝(評価:★★☆)

高峰秀子・長谷川一夫
 

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原作者に「原作を超えた」と言わせた作品。ドラマではだんだん原作の雰囲気を伝えにくくなってきている?

張込み dvd.jpg 張込み_.jpg 張込み 映画1.gif  張込み 水曜ミステリー1.jpg 張込み 松本清張 カッパノベルズ.jpg
張込み [DVD]」/「『あの頃映画 the BEST 松竹ブルーレイ・コレクション 張込み』 [Blu-ray]」/大木実・宮口精二/TX系「水曜ミステリー9」松本清張特別企画「張込み」2011年11月2日放映(若村麻由美)/『張込み―松本清張短編全集〈3〉 (カッパ・ノベルス)

張込み 映画 dvd.jpg張込み 3.jpg 警視庁捜査第一課の刑事・下岡(宮口精二)と柚木(大木実)は、質屋殺しの共犯者・石井(田村高廣)を追って佐賀へ発った。主犯の自供によると、石井は兇行に使った拳銃を持ってい、三年前上京の時別れた女・さだ子(高峰秀子)に張込み 高峰.jpg会いたがっていた。さだ子は今は佐賀の銀行員横川(清水将夫)の後妻になっていた。石井の立寄った形跡はまだなかった。両刑事はその家の前の木賃宿然とした旅館で張込みを開始した。さだ子はもの静かな女で、熱烈な恋愛の経験があるとは見えなかった。ただ、二十以上も年の違う夫を持ち、不幸そうだった。猛暑の中で昼夜の別なく張込みが続けられた。三日目。四日目。だが石井は現れなかった―。

『張込み』(1958)2.jpg 原作は松本清張が「小説新潮」1955年12月号に発表した短編小説。橋本忍脚本、野村芳太郎監督によるこの映画化作品では、逃亡中の犯人(田村高廣)の昔の恋人(高峰秀子)を見張る刑事が原作の1人に対して2人(大木実・宮口精二)になっており、やはり1人にしてしまうと、見張る側に関してもセリフ無しで心理描写せねばならず、それはきつかったのか...。それでもモノローグ過剰とならざるを得ず、しかも、見張る側の私的な状況など原作には無い描写を多々盛り込んでおり、もともと短篇であるものを2時間にするとなると、こうならざるを得ないのでしょうか。しかしながら、この作品の世評は高く、野村芳太郎はこの作品で一気にメジャー監督への仲間入りを果たすことになります。

 橋本忍・野村芳太郎のコンビは以降も「ゼロの焦点」('61年)、「影の車」('70年)、「砂の器」('74年)と、この作品以降次々と松本清張作品の映画化を手掛けており、そうした一連の作品の中でもこの作品に対する原作者・松本清張の評価・満足度は高かったそうですが、個人的には、最初にこの映画「張込み」を観た際には、後年の作品ほどの演出のキレが感じられませんでした。ただ、田中小実昌などは「砂の器」よりもこっちの方がずっと傑作だと言っおり、エライ人が出てこないのがいいと。確かにそういう見方もあるかもしれないと思った次第です。

松本清張 .jpg 因みに、松本清張本人が評価していた自作の映画化作品は、この「張込み」と、「黒い画集 あるサラリーマンの証言」('60年/東宝)、「砂の器」('78年/松竹)だけであったといい(3作とも脚本は橋本忍)、特に「張込み」と「黒い画集 あるサラリーマンの証言」については、 「映画化で一番いいのは『張込み』『黒い画集 あるサラリーマンの証言』だ。両方とも短編小説の映画化で、映画化っていうのは、短編を提供して、作る側がそこから得た発想で自由にやってくれるといいのができる。この2本は原作を超えてる。あれが映画だよ」と述べたとのことです。(白井佳夫・川又昴対談「松本清張の小説映画化の秘密」(『松本清張研究』第1号(1996年/砂書房)、白井佳夫・堀川弘通・西村雄一郎対談「証言・映画『黒い画集・あるサラリーマンの証言』」(『松本清張研究』第3号(1997年/砂書房))。

 この「張込み」という作品は、時代劇に翻案されたものも含めると、これまでに少なくとも10回はテレビドラマ化されています。
 •1959年「張込み(KR(現TBS))」沢村国太郎・山岡久乃・安井昌二
 •1960年「黒い断層~張込み(KR(現TBS))」宇津井健・三井弘次
 •1962年「張込み(NHK)」沼田曜一・福田公子・小林昭二
 •1963年「張込み(NET(現テレビ朝日))」江原真二郎・織田政雄・高倉みゆき
 •1966年「張込み(KTV(関西テレビ))」中村玉緒・下条正巳・高津住男
張込み 吉永小百合.bmp •1970年「張込み(NTV)」加藤剛・八千草薫・浜田寅彦
 •1978年「松本清張おんなシリーズ1・張込み(TBS)」吉永小百合・荻島真一・佐野浅夫
 •1991年「松本清張作家活動40年記念・張込み(CX)」大竹しのぶ・田原俊彦・井川比佐志
 •1996年「文吾捕物絵図 張り込み(TX)」中村橋之助・萬屋錦之介・國生さゆり
 •2002年「松本清張没後10年記念・張込み(ANB)」ビートたけし・緒形直人・鶴田真由

張込み 田村高廣/高峰秀子.jpg 女主人公の方は、映画では高峰秀子が演じ、テレビドラマでは八千草薫や吉永小百合などが演じているとなると、女優にとっては演じてみたい役柄なのでしょう。でも、相応かつ相当の演技力が要求される役どころだと思います。

映画「張込み」 田村高廣/高峰秀子

 一方、張り込む側の男優の方は、テレビドラマ版は、見張りの刑事が2人になっているものが多く、その点では映画版を踏襲していますが、だんだんベテラン刑事と若手刑事の取り合わせという風になっていき(但し、吉永小百合版は若手の荻島真一が一人で張り込み)、ベテランがメインになったり若手がメインになったりと色々バリエーションがあるようです(大竹しのぶ版では若手エリート刑事と地元の田舎刑事との取り合わせ、ビートたけし版ではビートたけしと一緒に張り込む緒形直人の方が「年下の上司」ということになっている)。

若村麻由美.bmp そして2011年にまた、TX系の「水曜ミステリー9」で、「松本清張特別企画」として、若村麻由美・小泉孝太郎主演で放送されました(若村麻由美は「無名塾」種出身。90年代にも清張ドラマに何度か出演しており、女優業復帰でこの人も結構長いキャリアになる)。

張込み 水曜ミステリー2.jpg 張り込む刑事は小泉孝太郎1人で、先輩刑事のムダだという意見に抗して張り込むことを主張する熱血漢である一方で、色男でもあり、かつて関与したDV事件の女性被害者に対して、今はストーカーまがいのことをしているという変なヤツ。原作ではラストに1回あるだけの、主人公の女(若村麻由美)との接触場面が矢鱈と多く、逃亡中の犯人(元恋人)と女を引きあわせるお膳立てまでして、結果として女の目の前で犯人は取り押さえられることになり、これって却って残酷ではなかったかと思ってしまいます。

張込み 水曜ミステリー3 携帯.jpg 原作にはあまり記述の無い女の家庭での妻としての暮らしぶりが描かれることは、これまでのドラマ化作品でもあったかと思いますが、これはやや"描き過ぎ"。しかも、「幸せそうではない」夫婦生活のはずが、一見「幸せそうな」家庭になっていて、夫婦の結婚の経緯から始まって、女の夫が携帯の着信記録から妻の行動に不審を抱き妻を問い詰めると、ストーカーに狙われていると言うので警察に通報するとか、事件解決後に女は家から出奔してしまうとか―何だか余計なものを付け加え過ぎて、原作とはテーマからして別物になった感じでした(ベクトル的には原作と真逆。特にラストは)。

張込み 1958.jpg張込み 映画1.jpg ドラマ化されるごとに原作から離れていく感じがしますが、最近のドラマ化作品が原作と別物に見えるのは、野村芳太郎のモノクロ映画の冒頭で10数分間続く夜行列車のシーンに見られるような(その外にも移動シーンで蒸気機関車がふんだんに見られ、S張込み 1958汽車.pngLファン必見作?)、高度成長期初期の熱に浮かされたような活気や雑然とした時代の雰囲気みたいなものが、最近のテレビドラマでは再現されにくいということもあるのかもしれません。まあ、半世紀以上経っているのだから仕方が無いか。 [上写真]「張込み」撮影風景(高峰秀子)

 大方が時代設定を現在に置き換えており、最初から原作を再現するつもりも無いわけですが、1回"原点回帰"したものも観てみたい気がするし、演出が近年の刑事ドラマのパターンをステレオタイプで踏襲しているのにはややウンザリもします(このTX系「水曜ミステリー9」版も、若村麻由美はまあまあなのだが、男優陣の演技は"全滅"に近かったように思う)。

張込み タイトル.jpg 野村芳太郎監督の映画化作品を最初に観た時の個人的評価は星3つでしたが(多分、原作との違いが気にかかったというのもあったと思う)、今観直すと、時代の雰囲気をよく伝えているような印象も。後にこれを超えるものが出てこないため、相対的にこちらの評価が高くなって星半分プラスしたという感じでしょうか。

大木実/宮口精二
大木実/宮口精二 張込み.jpg張込み 映画2.jpg「張込み」●制作年:1958年●製作:小倉武志(企画)●監督:野村芳太郎●脚本:橋本忍●撮影:井上晴二●音楽:黛敏郎●原作:松本清張「張込み」●時間:116分●出演:大張込み vhs.jpg木実/宮口精二/高峰秀子/田村張込み 1958汽車2.png高廣/高千穂ひづ/内田良平/菅井きん/藤原釜足/清水将夫/浦辺粂子/多々良純/芦「張込み」1958.jpg田伸介●公開:1958/01●配給:松竹●最初に観た場所:池袋文芸地下(84-02-22)(評価★★★☆)
田村高廣/高峰秀子
  
      
若村麻由美「張り込み」(松本清張).jpg張込み 水曜ミステリー1.jpg「松本清張特別企画・張込み」●監督:星田良子●製作:TX・BSジャパン●脚本:西岡琢也●原作:松本清張●出演:若村麻由美/小泉孝太郎/忍成修吾/渡辺いっけい/塩見三省/六平直政/田山涼成/上原美佐/田中邦衛●放映:2011/11(全1回)●放送局:テレビ東京 

若村麻由美(横川さわ子)/小泉孝太郎(警視庁刑事・柚木哲平)/渡辺いっけい(柚木の先輩刑事・下岡有作)/田中邦衛(警官・岸端正浩)
「張込み」若村麻由美.jpg 「張込み」 koizumi.jpg 「張込み」watanabe.jpg 「張込み」田中邦衛.jpg

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主人公(姉)はストイック過ぎて2人の男性を傷つけているようにも思った。

宗方姉妹s.jpg宗方姉妹0.jpg宗方姉妹 dvd1.jpg 宗方姉妹 dvd2.jpg 
宗方姉妹 [DVD]」「宗方姉妹」田中絹代/高峰秀子

宗方姉妹3.png宗方姉妹 田中絹代 .jpg 東京に住む宗方節子(田中絹代)は、京都の大学教授・内田(斉藤達雄)を訪ねた際、父・忠親(笠智衆)はガンであと1年か半年の余命だと知らされる。節子の妹・満里子(高峰秀子)も父を訪ね、父の旧知の田代上原謙  高峰秀子 宗方姉妹.jpg宏(上原謙)と出会う。後日、満里子は神戸で家具屋を営む宏を訪ね、姉の日記を盗み読みしたため、姉がかつて宏と交際していたのを知っていると言うが、宏は笑って聞き流す。節子の夫・三村亮助(山村聰)は失業中で仕事が見つからず、同居の義妹・満里子とソリが合わない。満里子は日記を読んだことを姉にも白状し、なぜ宏と結婚しなかったのか訊ねる。節子は「当時は、あの人のことが好きかどうか分らなかった。そのうちにあの人はフランスへ行ってしまったの」と淡々と答える。節tumblr_m9hl0zPO8b1r9uoamo1_500.gif子は生計のためバー「アカシア」を経営しているが、「アカシア」に訪ねてきた宏にバーの経営が苦しいことを打ち明けると、宏は「僕に任宗方姉妹 高峰.jpgせてください」と言う。ある日、節子が満里子へ帰りの遅いことを注意すると「この家は陰気臭い」と日頃の鬱憤を吐き出す。節子は「結婚とは良いことばかりではない」と諭すが、満里子は「姉さんは古い」と言って立ち去る。後日、満里子は神戸の宏宅に行き、何故姉と一緒にならなかったか問いただすと、宏は「節子さんを幸せにする自信がなかった」と答える。満里子は宏に「満里子と結婚してくれない」と切り出し立ち去る。節子の家では、亮助が節子にバーの資金の事を訊き、「宏から借りたのか。俺には知られたくなかったのか。宏とはちょくちょく会っているのか」と問い詰める。節子は誤解だと答えるが、亮助は二階に上がってしまい、節子が追いかけて店は辞めるというと「好きなようにしろ」と冷たく言う。満里子は東京に来た宏の旅館を訪ね、「結婚してくれ」というのは本気の部分もあるが冗談だったと言い訳し、節子がバーを辞めようとしているので会ってほしいと頼む。満里子が「アカシア」で客待ちしていると亮助が来て、「明日で店は終わりよ」と言うと亮助は「知らんよ」と答える。満里子が「勝手すぎる」と言うと「酒を飲んでふらふらしているのも捨てがたい」と言い壁にコップを投げつける。数日後、亮助は節子へ「俺達は別れたほうがい宗方姉妹 山村聰、高峰秀子.jpgいのか」と切り出し、「何故」と問う節子へ「お前が一番知ってることだ」と口調を荒げて節子を叩く。そのことで節子は亮助と別れる決心をし、宏の居る旅館を訪ねるが、亮助も後から旅館に来て、「仕事が見つかった。ダム建設の仕事だ。喜んでくれ」と話し、祝杯だと言って立ち去ってしまう。その夜雨でずぶぬれになった亮助は、帰宅後心臓麻痺で死んでしまう。宏と会った節子は「亮助は普通の死ではない。そんな暗い影を背負って貴方の所へ行けない」と言い残して宏と別れ、満里子に対しても「自分に嘘をつかないことが、一番いいと思っている」と言い京都御所から山を見上げながら二人で帰宅する―。 

山村聰(節子の夫・亮助)/高峰秀子(節子の妹・満里子)

宗方姉妹 ages.jpg 1950(昭25)年8月公開で、小津安二郎にとっては初めて松竹を離れて撮った作品。原作は大佛次郎の同名小説で、古風な姉(田中絹代)と進歩的な妹(高峰秀子)が対比的に描かれている点はよく知られていますが、背景として、死期を悟っている父(笠智衆)がいて、病弱であるのに酒浸りの姉の夫(山村聰)と洋行帰りの姉の元恋人(上原謙)がいて、更にはその恋人に思いを寄せる未亡人(高杉早苗)がいてと、結構複雑な人間関係でした。

 これぞ名作と言う人もいますが、名優と言われる人たちがそれぞれに演技して、それらが何となく噛みあっていない感じで、噛み合っていないことがそのままストーリー上の人間関係とは合致しているような奇妙な"フィット感"がありました。

宗方姉妹B.jpg 一番はじけていたのは妹・宗方満里子を演じた高峰秀子(当時26歳)でしょうか(これはちょっとはじけ過ぎ)。子役時代に「東京の合唱(コーラス)」('31年)で小津作品に出演していますが、大人になって初の小津作品への宗方姉妹 takamine.jpg出演で、やはりこの人は成瀬巳喜男監督の方が相性いいのかと思ったりもしました。但し、『わたしの渡世日記』(朝日新聞社)によれば、あのコミカル過剰な演技の背景では、「瞬きの数まで指導されたばかりか、事あるごとにペロっと舌を出す演技を要求され、その舌の出し方まで厳しく演技指導を受けた」とのことです(個人的には、後年の「秋日和」('60年)の岡田茉莉子のはじけ方の方が自然だったと思う)。

宗方姉妹 tanaka.jpg ただ、その『わたしの渡世日記』によると、この作品で小津安二郎監督から最も多くダメ出しされたのは田中絹代(当時40歳)だったそうで、この頃の彼女は、例の日米親善使節として渡米した際に、出発時は小袖姿だったのが、帰国時はドレスと毛皮のコートで報道陣に「ハロー」と言い、銀座のパレードで投げ宗方姉妹 last.jpgキッスを連発したことでメディアから「アメリカかぶれ」とのバッシングを受け、自殺まで考えていた時期だったとのこと(ロケバスで隣に座った高峰秀子に死にたいと漏らしたそうな)。その割にはしっかり演技している印象ですが、彼女が演じた姉・宗方節子というのが、個人的には最後まで理解しにくかったような...。ある意味、ストイック過ぎて、2人の男を傷つけているようにも感じました。ラストは究極の"忍ぶ恋"か(彼女がそういう時期だったから小津安二郎がわざわざ意図的に古風な女性の役をあてがったとも思えないが)。

 上原謙の優柔不断気味な田代宏役は可もなく不可もなくで、良かったのは山村聰演じる三村亮助役の退廃ぶり(DVまでやっちゃう)だったでしょうか。やはり舞台出身者は上手い(山村聰はこの作品で第1回「ブルーリボン賞」の主演男優賞を受賞)。上原謙は1909年生まれ、山村聰は1910年生まれですが、山村聰の義父を演じた笠智衆は1904年生まれで、実年齢では2人とあまり差が無く、笠智衆は40代半ばで、彼らの一世代上の世代、実年齢で5歳年下の田中絹代(当時40歳)の父親役を演じていることになります。因みに、実年齢から離れた役柄を役者に演じさせるのは小津安二郎に限ったことではなく、成瀬巳喜男監督の「山の音」('54年)では、上原謙と山村聰が親子を演じています(年下の山村聰が父親役で年上の上原謙が息子役。山村聰は当時44歳で62歳の役を演じた)。

高杉早苗1938.jpg宗方姉妹R.jpg 上原謙の田代宏に思いを寄せる未亡人・真下頼子を演じた高杉早苗(1918年生まれ)は「スーパー歌舞伎」の生みの親・二代目市川猿翁(旧名:三代目市川猿之助)の"生みの親"で(香川照之は息子の三代目猿之助と浜木綿子の間にできた孫にあたる)、梨園に入って一度引退した後の出演です。女優復帰は、戦後すぐ疎開先から東京への転居費用等で借金がかさんだことからで、但し、梨園の妻としての行動に支障が出ない範囲ならという条件付きだったとのことです。引退前では、清水宏監督の「金環蝕」('34年/松竹)や「東京の英雄」('35年/松竹)に出ていました。

高杉早苗(1938(昭和13)年:雑誌「映画之友」三月號)
(背景は前年オープンの赤倉観光ホテル)

宗方姉妹 senngoku s.jpg 脇役では、松竹映画ではなく新東宝映画であるということもあって、飲み屋の給仕役で黒澤映画の常連である千石規子(1922年生まれ)が七人の刑事1.jpg堀雄二e.jpg出ていているのが小津作品としては珍しく、節子が経営するバー「アカシア」の従業員で、元特高隊員で今はギャンブルにうつつを抜かしている前島五郎七を演じた堀雄二(1922年生まれ)の演技も良かったです(この作品の前年の稲垣浩監督の「忘れられた子等」('49年/新東宝)に新任教師役で主演し、校長役の笠智衆と共演している)。この人は後にテレビドラマ「七人の刑事」('61 -'69年/TBS)で赤木係長を演じ、芦田伸介演じる沢田部長刑事ら6人を仕切っていました(警視庁からの台東署への派遣であるため、"係長"でも偉い?)。

宗方姉妹264.jpg 一人一人の役者を見ていくと結構興味深い作品。小津作品独自のカメラワークも「晩春」('49年)の翌年、「麦秋」('51年)の前年、「東京物語」('53年)の3年前ということで、ほぼ完成されていると言っていいのではないでしょうか。ただ、ストーリー的には、今の時代の人が観れば、「ラスト、これでいいのか」と思う人も結構多いように思います。穿った見方をすれば、誰かが死ぬことでハッピーエンドになるというのは、"倫理観"的にと言うより、"美学"的に映画にそぐわないということなのかも。

宗方姉妹ges.jpg宗方姉妹72.jpg「宗方姉妹(むねかたきょうだい)」●制作年:1950年●監督:小津安二郎●製作:児井英生郎●脚本:野田高梧/小津安二郎●撮影:小原譲治●音楽:斎藤一郎●原作:大仏次郎「宗方姉妹」●時間:112分●出演:田中絹代/高峰秀子/上原謙/山村聡/高杉早苗/堀雄二/藤原釜足/河村黎吉/千石規子/一の宮あつ子/堀越節子/坪内美子/斎藤達雄/笠智衆●公開:1950/08●配給:新東宝(評価:★★★☆)

七人の刑事3.jpg七人の刑事2.jpg「七人の刑事」●プロデューサー:蟻川茂男●脚本:早坂暁/向田邦子/石堂淑朗/小山内美江子/長谷川公之/砂田量爾/佐々木守/内田栄一/大津皓一/ジェームス三木/山浦弘靖/本田英郎 他●演出:鴨下信一/今野勉/蟻川茂男/川俣公明/山田和也/田沢正稔/和田旭/山本脩/久世光彦/浅生憲章 他●音楽:樋口康雄(第43話まで)/佐藤允彦(第44話以降)(テーマ音楽:山下毅雄)●出演:堀雄二/芦田伸介/美川洋一郎(美川陽一郎)/佐藤英夫/城所英夫/菅原謙二/天田俊明/高松英郎●放映:1961/10~1964/05、1964/08~1969/04(全382回)●放送局:TBS

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やや大味とも言える波乱万丈型ストーリーのお蔭で、高峰秀子の演技の幅を実感できる?

愛よ星と共に ポスター.jpg 「愛よ星と共に」ポスター 愛よ星と共に vhs.jpg VHS(国際放映・日本映画傑作全集) 下スチール写真中央:高峰秀子
愛よ星と共に 01.jpg 十年ぶりに北海道の北島牧場を訪れた邦彦(池部良)は、牧夫頭の娘はるえ(高峰秀子)と再会した。とても美しくなったはるえをみた邦彦はとても驚いたが、綺麗になったと言われ自分の姿を小川の水に映しては何時までも自分を見つめる彼女は、まだ無垢な乙女そのものであった。邦彦とはるえは、牧場の小川で一夜を過ごした。はるえは邦彦の語る美しい星の話を興味深く熱心に聞いていた。しかしその話はあまりにも美しくあまりにも巧みな運命の夢だった。邦彦が東京へ帰ってから数月、はるえの腹には美しい星の子供が宿っていた。父からの反対に耐え切れず、はるえは家を飛び出し東京の邦彦を訪ねるが、時すでに遅く、彼がフランスへ旅立った後だった―。

愛よ星と共に4.jpg 阿部豊(1895-1977)監督の1947(昭和22)年「新東宝」作品で(黒澤明の「野良犬」('49年)などと同じく製作会社は「新東宝」で配給会社は「東宝」)、池部良(1918-2010)、高峰秀子(1924‐2010)主演ですが、この2人、同じ2010年、池部良は10月18日(享年92)、高峰秀子は12月28日に(享年86)それぞれ亡くなっていることに改めて思い当った次第です(共に名エッセイストでもあった)。

阿部 豊 「愛よ星と共に」2.jpg 牧場主、つまり上流階級に属する男性と恋し合って一夜を共にするも、娘より自らが仕える本家の方を気遣う牧夫頭の親によって勘当され、北海道の家を出て東京にその男性を追うも、恋人は海外へ渡航した後。身重の身で生活すらままならず、独り寂しく赤ん坊を産むが、その赤ん坊にも病で死なれて、女給の生活に身を窶(やつ)す。しかし、やがてその世界で「花形女給」として名を馳せるようになり、そんな中、男女のもつれからある男を誤って銃で死なせてしまう。世間からは次々と男を渡り歩く毒婦のようにみられ、裁判でも死刑判決を受けるが、自身がこの世界に身を置くようになった契機が、赤ん坊が亡くなったことにあるとは判明するも、その赤ん坊が誰との間の子であったかは公判で明かすことなく、判決を受け入れようとする。そこへ―。

阿部 豊 「愛よ星と共に」3.jpg 女性映画と言うかメロドラマと言うか、しかもハーレクインみたいな波乱万丈(或いはシドニィ・シェルダン風か)。テレビがある時代なら13話連続のテレビドラマだろうけれど、まだテレビが登場する何年か前なので、TVドラマが担っているような役割を、その分も含め映画が担っていたのだなあと思わせる作品でした。

 やや強引な話の展開はともかくとして、やはり注目は、高峰秀子の演技でしょうか。彼女は、天才子役からアイドル女優、そして本格女優へと各ステップにおいて確実に成長を遂げた稀有なケースであり、様々な作品への出演を通して、純真無垢な娘から恋する乙女、社会の底辺に生きる女から生活のために水商売に墜ちる女、そうした世界で妾になったり売れっ子になったりする女などを演じ分けきたわけですが、この作品では、やや大味とも言える波乱万丈型ストーリーのお蔭で、彼女の演技のそうした(全てとまでは言わないまでも)多くのパターンを一作品の中で堪能することができます(結果的にその点がこの作品の一番の見所となっているのでは?)。

 高峰秀子は既に人気アイドル女優だった16歳の時(山本嘉次郎監督の「エノケンの孫悟空」('40年)などに出ていた頃)、豊田四郎監督の「小島の春」('40年)に出演した杉村春子(1909-1997)の演技にショックを受けて演技開眼したそうですが(やがて成瀬巳喜男監督の「流れる」('56年)で2人は共演する)、その後、実に演技の幅が広い女優になっていったように思います。但し、この作品出演時は、彼女自身初めて子を持つ母親役を演じ、タバコを吸う役柄も初めてであって、そのためにタバコを吸う仕草の特訓などもしたそうです。そうした努力の甲斐もあってか、娘役だけでなく、淪落の水商売女の演技なども板についていますが、やはり、当時23歳という若さにして「花形女給」(カリスマ・ホステスといった感じか)を堂々と演じ切っているのは、もともと素養的に華があった女優だったからでしょう。一方で、後の野村芳太郎監督の「張込み」('58年/松竹)などでは、そうした華やかさを完全に封印して市井の女を演じていたりもしています。やはり、スゴイ女優だったなあと改めて思います。

愛よ星と共に.gif愛よ星と共に55.gif 因みに、この作品は北海道・幕別町の新田牧場でロケが行われていますが、なぜ新田牧場がロケ地に選ばれたかというと、この映画のプロデューサーだった青柳信雄が札幌の雪印乳業を訪問した時に新田牧場愛よ星と共に ロケ地.jpgを紹介されたとのこと。戦後間もない食糧難の折、当地では白米、牛乳、玉子、肉等などの供給が豊かで、40日のロケ期間中、ロケ隊には毎日が天国のようだったとも言われています。

北海道・幕別町ロケ・新田牧場での集合スナップ(「映画俳優:伊豆肇と池部良」より)

池部良 宇宙大戦争.jpg「愛よ星と共に」●制作年:1947年●監督:阿部豊●製作:青柳信雄●製作会社:新東宝・映画芸術協会●脚本:八田尚之●撮影:小原譲治●音楽:早坂文雄●時間:95分●出演:高峰秀子/池部良/横山運平/浦辺粂子/川部守一/藤田進/逢初夢子/清川莊司/一の宮あつ子/田中春男/鳥羽陽之助/冬木京三/鬼頭善一郎/江川宇礼雄/山室耕/花岡菊子/條圭子/水島三千代●公開:1947/09●配給:東宝(評価:★★★)

池部 良 in 本多猪四郎監督「宇宙大戦争」('59年/東宝)

高峰秀子 in 小津安二郎監督(原作:大佛次郎)「宗方姉妹」('50年)/木下惠介監督(原作:壺井栄)「二十四の瞳」('54年)/成瀬巳喜男監督(原作:幸田文)「流れる」('56年)/野村芳太郎監督(原作:松本清張)「張込み」('58年)
宗方姉妹 高峰.jpg二十四の瞳0 1a.jpg流れる 1シーン.jpg野村 芳太郎『張込み』(1958).jpg

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戦前最後にして最大規模のミュージカル・コメディ。先取性、先見性に富む。

エノケンの孫悟空6.jpgエノケンの孫悟空.jpg
「エノケンの孫悟空」VHS

 三蔵法師(柳田貞一)は経典を求めての天竺への旅の途中、岩山に閉じ込められていた孫悟空(榎本健一)を救い出して従者とし、併せて猪八戒(岸井明)、砂悟浄(金井俊夫)らもお供にして、妖怪魔物たちに邪魔をされながらも3人(3匹?)の活躍で危難を乗り越えて目的を果たす―。

エノケンの孫悟空ロード.jpg 1940(昭和15)年11月公開の山本嘉次郎(1902-1974)監督作。ベース・ストーリーはオリジナル通りですが、登場人物全員が歌いながら芝居をするオペレッタ形式であエノケンの孫悟空2.jpgり、戦時色の濃い中で制作された戦前最後にして最大規模のドタバタ・ミュージカル・コメディと言えるものです。'36年1月に日本劇場でデビューした「日劇ダンシングチーム」総動員のレビュー風の踊りがオープニングから見られ(まるで「インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説」('84年/米)のオープニングみたい)、ハリウッドの古典的ミュージカルを模した彼女らの中国風であったりアラビア風であったりする集団ダンスシーンが、大掛かりなセットも含め物珍しさもあって印象に残りました。

機上の悟空・八戒・悟乗.jpg「エノケンの孫悟空」タイトルバック.jpg 中国ロケを敢行していて中国人俳優も出演していますが、ハリウッド映画のパロディなどもあり、バタ臭い印象が強いのはそのためでしょうか。それでいて、悟空を演じるエノケンの喋りがもろ江戸弁で、エノケン自身がこれまで演じてきた「鞍馬天狗」や「近藤勇」のパロディもあったりするため、もはや国籍不詳という感じ。しかも、最後はSF風になって「未来国」へ行くという、もう何でもありの世界です(そもそも、悟空の移動手段であるキン斗雲がプロペラ戦闘機に置き換わっており、特殊撮影はあの円谷英二が担当している)。

 猪八戒が歌う「狼なんかこわくない」はディズニ―・アニメ「三匹の子ぶた」('33年/米)の挿入歌、この「孫悟空」の前年にアメリカで公開された「オズの魔法使い」('39年/米)っぽいシーンやアニメ「白雪姫」('37年/米)のパロディと思われる場面もありますが、両作品とも日本での公開は戦後であり、「ピノキオ」('40年/米)のテーマ「星に願いを」なども使われていることを考えると、先取性のみならず、その「先見性」には測り知れないものがあります(国際著作権連盟に日本が未加入の時期の、"パクリ"やり放題の作品と言ってしまえばそういうことになるのだが)。

 "SF風"金角・銀角大王を演じた中村是好・如月寛多などエノケン一座も多数出演していますが、その他、服部富子、渡辺はま子、藤山一郎といった当時の人気歌手も出演し、更に役者陣も豪華。「奇怪国」の大王に「わしゃかなわんよ」のフレーズで当時人気のコメディアン・高勢実乗、アラビアの「煩悩国」の女王に三益愛子(当時29歳)、煩悩国で猪八戒が恋に落ちる歌姫に満映の超人気女優・李香蘭(山口淑子)(当時20歳)、後編の「お伽の国」のお姫様で、金角・銀角らによって「ネバーエンディング・ストーリー」('84年/西独・米)の竜ファルコンそっくりの顔した東洋の女  李 香蘭.jpgお伽の姫  高峰 秀子  .jpg袖珍  中村メイ子.jpg犬に姿を変えられてしまった少女に、当時人気絶頂の国民的アイドル・高峰秀子(当時16歳)、その国の案内役の少女・袖珍に天才子役として人気のあった中村メイコ(当時6歳)といった具合です。
李香蘭(当時20歳)/高峰秀子(当時16歳)/中村メイ子(当時6歳)

エノケンの孫悟空1.jpg 中村メイコの袖珍(いつも小脇に百科辞典を抱えている)は、金角・銀角らの頭脳交換機で記憶を奪われ虚脱状態になった孫悟空らに、ホウレン草の缶詰を与えて元気を回復させるという、これもまた日米開戦直前の作品であるにも関わらず「ポパイ」のパロディで(実際ポパイのテーマ曲が流れる)、「ポパイ」は、'59年から'65年までTBS「不二家の時間」でテレビ放映されたアニメですが(後番組は「オバケのQ太郎」)、ポパイというキャラクター自体は日本でも戦前からよく知られていたようです。

 この作品は、評論家には「中身のない映画」と酷評されたそうですが、確かに「大掛かりな学芸会」といった印象はあります。ただ、前年の'39 年に、戦時体制に合わせ映画法が施行、'40年には、学生・生徒が映画館に行くのは土日・祝祭日に限るという文部省通達が出され、実際に世の中は日中戦争からから日独伊三国同盟締結へと太平洋戦争へ向かいつつある中、日米開戦の前年にこのような作品が作られたのは(ディズニー・アニメのモチーフがふんだんに織り込まれていることだけをとっても)信じられないようなことでもあります。

 評論家の酷評とは裏腹に国民に大受けしたのは、そうした暗い時代であったからこそ、明るい娯楽を求める国民の気持ちに応えたということでしょう。芸術的価値よりも歴史的価値の方が高い作品か。

えのけんの孫悟空.jpg 日劇の李香蘭公演に集まった人たち、1941年.jpg
李香蘭(山口淑子)[エノケンの孫悟空](1940年・当時20歳)/日劇の李香蘭公演に集まった群衆(1941年)

東洋の女=李香蘭(山口淑子)(当時20歳)/袖珍=中村メイコ(当時6歳)
エノケンの孫悟空   3.jpgエノケンの孫悟空 中村メイ子.bmp「エノケンの孫悟空」●制作年:1940年●監督・脚本:山本嘉次郎●製作:東宝東京●制作:滝村和男●撮影:三村明●特殊技術撮影:円谷英二●音楽:鈴木静一●原作:山形雄策●時間:135分●出演:榎本健一/岸井明/金井俊夫/柳田貞一/北村武夫/高勢実乗/土方健二/中村是好/如月寛多/三益愛子/高峰秀子/中村メイ子/徳川夢声/服部富子/渡辺はま子/李香蘭(山口淑子)/伊達里子/千川照美/藤山一郎●公開:1940/11●配給:東宝映画(評価:★★★☆)

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日本のホームドラマの基盤がこんなところで着々と築かれていたのだなあと。斎藤達雄、栗島すみ子がいい。

淑女は何を忘れたか vhs.jpg淑女は何を忘れたか1.bmp 流れる dvd .jpg
 「淑女は何を忘れたか [VHS]」(斎藤達雄/栗島すみ子/桑野通子)「流れる [DVD]

ozu  'What Did the Lady Forget?'.jpg節子(桑野通子)と岡田(佐野周二).jpg 大学の医学部教授の小宮(斎藤達雄)は日頃から、口うるさい妻の時子(栗島すみ子)に頭が上がらなかったが、それは、夫婦円満を保つ彼流の秘訣でもあった。そんなある日、大阪より時子の姪・節子(桑野通子)が上京、小宮家にやって来る。自分とは対照的に思ったままに行動する彼女に触発された小宮は、ある揉め事を契機に初めて時子に平手打ちをくらわせてしまう―。

 トーキー時代に入ってもしばらくサイレント映画にこだわり続けた小津安二郎監督の、「一人息子」('36年)に続くトーキー第2作で、サイレント映画時代の彼のコメディ的要素と戦後の家庭劇の要素が混ざった作品のように思えました。

 それまで下町の庶民を題材にすることが多かった小津ですが、この作品では一転して舞台を山の手へ移し(丁度この頃に小津自身も深川から高輪へ転居している)、アメリカ映画から得られた素養をふんだんに生かしたモダニズム溢れるソフィストケティッド・コメディに仕上がっています。

淑女は何を忘れたか3.jpg 31際の若さで夭逝した桑野通子が演じる(当時22歳)姪の節子は、いわば当時のモダンガールといったところでしょうか。未婚だがタバコも酒も嗜むし、車の運転にも興味がある活発な彼女は、妻の尻に敷かれる小宮を見て、夫権の復活を唱えて盛んに小宮をけしかける―そこへ時子がいきなり現れたりして、小宮が節子を叱るフリをする、時子が去ると節子が小宮を軽く小突くなどといった具合に、小宮と節子の遣り取りが、爆笑を誘うというものではないですが、クスッと笑えるものとなっています。

ozu  'What Did the Lady Forget?' 2.jpg この作品の斎藤達雄はいいです。サイレント時代の小津作品では、もてない大学生(「若い日」)やしがないサラリーマン(「生まれてはみたけれど」)を演じたりもしていましたが、この作品で「ドクトル」と世間から呼ばれるインテリを演じてもしっくりきています(独りきりになると結構このドクトルは剽軽だったりするが)。

ozu  'What Did the Lady Forget?' 3.jpg 有閑マダム3人組(栗島すみ子、吉川満子、飯田蝶子)の会話なども、それまでの小津作品には無かったシークエンスですが、関西弁で話しているためかどことなくほんわかした感じがあり、それでいて畳み掛けるところは畳み掛けるという、トーキー2作目にしてこの自在な会話のテンポの操り方には、トーキー参入に際しての小津の周到な事前準備が感じられました。

淑女は何を忘れたか4.jpg その他に、小宮家で家庭教師をすることになる大学の助手・岡田を佐野周二が演じていますが、息子・関口宏より相当濃いハンサム顔に似合わず、この作品では教え子の友達(突貫小僧)に先に算数の問題を解かれてしまって面目を失うというとぼけた役回り。

 小宮は、妻にはゴルフに行ったことにしながら、節子の東京探訪に付き合わされて、その晩は岡田の下宿に泊めてもらいますが、アリバイ工作のためにゴルフ仲間の会社役員(坂本武)に投函を託した葉書に書かれた当日の天候が全く違っていたことに気付いて慌てふためくも、まあ、大丈夫でしょうと、岡田はのんびり構えてしまっています(結局、そのことで小宮の工作は時子にばれてしまう)。

淑女は何を忘れたか2.jpg 岡田と節子の間で何かあるのかなと思いましたが、これは"夫婦"がテーマの映画なのでそうはならず、結局、「雨降れば地固まる」みたいな映画だったんだなあと。

 まあ、全体として他愛の無い話と言えばそうなのですが、こうした細部のユーモラスなシチュエーションの組み入れ方もそうですし、ストーリーの落とし所からも、ああ、日本のホームドラマの基盤がこんなところで着々と築かれていたのだなあと思わせるものがありました。

流れる 栗島すみ子.jpg流れる 栗島すみ子2.jpg また、この作品は、日本映画史上初のスター女優と言われた栗島すみ子(1902-1987)の映画界引退作品でもあり、さすがに堂々たる存在感を見せています。彼女はその後、成瀬巳喜男監督の「流れる」('56年/東宝)で一度だけスクリーンに復帰、田中絹代(1909-1977)、山田五十鈴(1917-2012)、杉村春子(1906-1997)、高峰秀子(1924-2010)らと共演しましたが、それら大女優の更に先輩格だったわけで、まさに貫禄充分!
栗島すみ子、高峰秀子、山田五十鈴、田中絹代
『お嬢さん』栗島すみ子、岡田時彦.jpg そもそも、成瀬巳喜男の監督デビュー(1930年)よりも栗島すみ子の映画デビューの方が先であり(1921年)、年齢も彼女の方が3歳上。成瀬監督を「ミキちゃん」と呼び、「流れる」撮影の際は、「あたしはミキちゃんを信用して来てるのだから」と、セリフを一切覚えず現場入りしたという話があり、小津安二郎の「お嬢さん」('30年/松竹蒲田)で岡田時彦と共演したりしていることから、自分の父親が自分が1歳の時に亡くなったためその記憶が無い岡田茉莉子(1933-)には、「あなたのお父さんは美男子の中でもずば抜けて美男子だった」と「流れる」の撮影現場で話してやっていたそうな。

栗島すみ子、岡田時彦 in「お嬢さん」('30年/モノクロ。フィルムは現存せず)

流れる 映画ポスター.jpg それにしても「流れる」の配役陣は、今になった見れば見るほどスゴいなあという感じ。大川端にある零落する置屋を住込みのお手伝いさん(田中絹代)の視点から描いた作品でしたが、先に挙げた田中絹代、山田五十鈴、高峰秀子、杉村春子ら大物女優に加えて、岡田茉莉子、中北千枝子、賀原夏子らが脇を固めるという布陣で、成瀬巳喜男作品は個人的には合う合わないがあって、世間で評価されるほど自分としての評価は高くないのですが(若い頃に観たというのもあるかもしれない)、この作品も、ストーリーよりも一人一人の演技が印象に残った感じでした。

流れる 杉村春子.jpg 杉村春子を除いて皆、着物の着こなしがいい、との評がどこかにありましたが、年増芸者を演じた杉村春子は、あれはあれで役に合わせた着こなしだっだのでしょう。個人的には、水野の女将を演じた栗島すみ子の演技は"別格"として、当時、田中絹代・山田五十鈴・高峰秀子の三大女優より一段格下だった杉村春子が一番上手いのではないかと思いました(高峰秀子は子役としてのデビューは早かったが、1940流れる 1シーン.jpg年、豊田四郎監督の「小島の春」に出演した杉村春子の演技にショックを受けて演技開眼したという。杉村春流れる 岡田茉莉子.jpg子を"格下"と言ったら失礼にあたるか)。岡田茉莉子などは実に若々しく、和服を着ると昭和タイプの美女という感じでしたが(着物を着た際にスレンダーで足長に見える)、演技そのものは当時はまだ大先輩たちの域には全然達していなかったのではないでしょうか。機会があれば、また観直してみたいと思います。

岡田茉莉子
 
神保町シアター.jpg桑野通子.jpg「淑女は何を忘れたか」●制作年:1937年●監督:小津安二郎●脚本:伏見晁/ジェームス槇(小津安二郎)●撮影:茂原英雄/厚田雄春●音楽:伊藤冝二●時間:71分●出演:斎藤達雄/栗島すみ子/桑野通子/佐野周二/飯田蝶子/坂本武/吉川満子/葉山正雄/突貫小僧/上原謙●公開:1937/03●配給:松竹大船●最初に観た場所:ACTミニシアター(90-08-05)●2回目:神保町シアター(10-12-11)(評価:★★★)●併映(1回目):「お早よう」(小津安二郎) 神保町シアター 2007(平成19)年7月14日オープン
桑野 通子 (1915-1946/享年31)

淑女は何を忘れたか vhs.jpg


流れる%20(1956年).jpg流れる [DVD]「流れる」●制作年:1956年●監流れる dvd .jpg映画「流れる」.jpg督: 成瀬巳喜男●製作:藤本真澄●脚本:田中澄江/井手俊郎●撮影:玉井正夫●音楽:斎藤一郎●原作:幸田文「流れる」●時間:117分●出演:田中絹代山田五十鈴高峰秀子杉村春子流れる09.jpg田茉莉子/中北千枝子/賀原夏子/栗島すみ子(特別出演)/泉千代/加東大介宮口精二/仲 流れる杉村春子.jpg山田五十鈴 流れる.jpg谷昇/中村伸郎●公開:1956/11●配給:東宝(評価:★★★☆)
左奥:栗島すみ子(お浜)・右手前:田中絹代(梨花(お春))   杉村春子(染香)/山田五十鈴(つた奴)
宮口精二(なみ江の鋸山の叔父)  中村伸郎(医者)
宮口精二 流れる なみ江の伯父.jpg映画 流れる.jpg

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世界恐慌さなかの失業サラリーマンを小市民的に描く。当時の会社の社内風景が珍しかった。

東京の合唱(吹替・活弁版) [VHS].jpg 小津 安二郎 東京の合唱.jpg 東京の合唱(コーラス .jpg
東京の合唱(吹替・活弁版) [VHS]」1931(昭和6)年  岡田時彦/菅原秀雄(子役)/高峰秀子(子役)

東京の合唱DP.jpg東京の合唱(コーラス) 2.bmp 冒頭は大学の体育の授業のシーンで、体育教師(斎藤達雄)が学生を厳しく指導する様がユーモラスに描かれる。時は流れ、その学生の1人だった岡島(岡田時彦)は、今は保険会社に勤める身であり、3人の子を持つ親でもある。今日は賞与支給日。子供に自転車を買ってやる約束をしていた彼東京の合唱(コーラス)72.jpgは、クビになったベテランの先輩に同情して会社東京の合唱(コーラス)図1.jpgに抗議した末に自分もクビになってしまう。再就職事情の厳しい折、職安の前で母校恩師の元体育教師に偶然出会い、勤め口を探してもらう間、恩師が退職後に始めた洋食屋を手伝うことになるのだが―。

 原作(原案)は北村小松。1931(昭和6)年の作品ということで、世界恐慌による不景気がリアルタイムで物語のバックグラウンドにあり、「フーヴァー案」という言葉が出てきたり(「フーバー・モラトリアム」(1931)のことだろう)、不況だからボーナスは1ヵ月分(120円)くらいかなあという台東京の合唱(コーラス)1.jpg詞があったりもします。 先輩社員の不当谷麗光『東京の合唱』(1931年).png解雇(勧誘したお客が保険に入った翌日に事故死し、会社が損失を被ったというのが解雇理由)に敢然と立ちあがる主人公はなかなかの正義漢。社長(谷麗光)との遣り取りはユーモラスに描かれていますが、クビになった後がたいへん。子供に約束の自転車を買ってやれず詰(なじ)られ、かっときて子供を叱ってしまうし、娘が疫痢に罹って医者代も発生し、妻の着物を売り払ったことにより妻ともぎくしゃくする―。

東京の合唱 1.jpg 同日に解雇された同僚がビラ配りの仕事をしているのを見て、自分は下手に大学を出ているからそんなことは出来ないと言っているのは「大学は出たけれど」の主人公の前半部分と同じスタンス。それが、恩師の洋食屋の仕事で先ずやらされたのが店の宣伝ビラ配りで、自分でも気乗りがしなかったのに、それを奥さん(八雲恵美子(1903-1979/享年75))に見られ、肩身の狭いことはしないでと言われてプライドはずたずたに。

Ozu - Tokyo Chorus(1931).jpg しかし、その奥さんも現実の厳しさを感じて店へ手伝いに。その食堂で、元教師を囲んで昔の教え子たちが集まり同窓会が行われることになり、久々に出会った同級生たちは盛り上がる。そこに元教師宛に手紙が来て、文部省から就職の斡旋があったが、仕事は栃木の女学校の英語教師であるとのこと、主人公は複雑な気持ちで同級生らと校歌を歌うが、歌っているうちに次第にその表情は晴れてくる―(これが、タイトル「合唱(コーラス)」の由縁)。

「東京の合唱(コーラス)」.bmp 東京を離れたことのない夫婦には必ずしも満足とは言えない結末ですが、そこが小津作品らしいところ。結構、自分の都合で教え子をいい加減にこき使っていたかのように見えた元教師も、ちゃんと就職の世話をしてくれていて、師弟関係が就職が絡むのも小津作品のパターン。

高峰秀子(子役)/八雲恵美子/菅原秀雄(子役)/岡田時彦

小津 安二郎 東京の合唱2.gif 総じて、小市民(サラリーマン)を小市民のまま描いた典型的作品と言えますが、主人公が東京に住むことにこだわるのには、やや違和感を覚えました(社命による転勤などは当時でもあったのでは)。東京への執着が、「東京の合唱」というタイトルにまで表れているとなると、これは小津自身のこだわりでもあるのか。

 個人的は、当時の会社の社内風景が一番珍しかったです(冒頭の体育の授業のシーンにも言えるが、冗長感はあるが、記録的な価値あり?)。賞与支給日に社員が出納窓口に列を成し、賞与袋を受け取るとトイレで中身の金額を確認して一喜一憂するという、今こんなことやっている会社は、零細企業でももう殆どないだろうなあ。
    
東京の合唱(吹替・活弁版) [VHS].jpg 主人公の失業サラリーマンを演じた岡田時彦(1903-1934/享年30)は岡田茉莉子7.jpg女優・岡田茉莉子の父。但し、茉莉子1歳の時、30歳の若さで亡くなっているため、娘は父を映画の中でしか知らないとのことです。

「東京の合唱(コーラス)」●制作年:1931年●監督:小津安二郎●脚本:野田高梧●撮影:茂原英朗●原作(原案):北村小松●活弁:松田春翠●時間:90分●出演:岡田時彦/八雲恵美子/菅原秀雄/高峰秀子/斉藤達雄/飯田蝶子/坂本武/谷麗光●公開:1931/08●配給:松竹鎌田●最初に観た場所:高田馬場・ACTミニシアター(90-08-19)(評価:★★★)併映:「お茶漬けの味」(小津安二郎)

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