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後期作品の中では異彩を放つこの"暗さ"は、小津安二郎の悲観的な結婚観に符合する?

東京暮色 1957.jpg 東京暮色  1957.jpg 東京暮色 j.jpeg 東京暮色 有馬稲子 .jpg
あの頃映画 松竹DVDコレクション 「東京暮色」」「東京暮色 デジタル修復版 [DVD]」 山田五十鈴・原節子 有馬稲子
東京暮色_AL_.jpg東京暮色_640.jpg東京暮色157a.jpg 杉山周吉(笠智衆)は銀行に勤め、停年も過ぎ今は監査役の地位にある。男手一つで子供達を育て、次女の明子(有馬稲子)と静かな生活を送っている。そこへ、長女の孝子(原節子)が夫との折り合いが悪く幼い娘を連れて出戻ってくる。一方、短大を出たばかりの明子は、遊び人の川口(高橋貞二)らと付き合うようになり、その中の一人である木村憲二(田浦正巳)と肉体関係を持ち、彼の子を身籠ってしまう。憲二は明子を避けるようになり明子は彼を捜して街を彷徨う。中絶費用を用立てするため、明子は叔母の重子(杉村春子)に理由を言わずに金を借りようとするが断られ、重子からこれを聞いた周吉は訝しく思う。その頃、明子は雀荘の女主人・喜久子(山田五十鈴)が自分のことを尋ねていたと聞き、彼女こそ自分の実母ではないかと孝子に質すが、孝子は即座に否定する。喜久子はかつて周吉がソウルに赴任していたときに東京暮色8.jpg周吉の部下と深い仲になり、満洲に出奔した過去があったのだ。明子は中絶手術を受けた後で、喜久子がやはり自分の母であることを知って、自分は本当に父の子なのかと悩む。蹌踉として夜道へ彷徨い出た彼女は、母を訪ねて母を罵り、偶然めぐりあった憲二にも怒りに任せて平手打を食わせ、そのまま一気に自滅の道へ突き進んで行った。その夜遅く、電車事故による明子の危篤を知った周吉と孝子が現場近くの病院に駈けつけたが明子は既に殆ど意識を失っていた。その葬儀の帰途、孝子は母の許を訪れ、明子の死はお母さんのせいだと冷く言い放つ。喜久子はこの言葉に鋭く胸さされ東京を去る決心をする。また、孝子も自分の子のことを考え、夫の許へ帰り、家は周吉一人になった。今日もまた周吉は心侘しく出勤する―。

2018年・第68回ベルリン国際映画祭(ヴィム・ヴェンダース監督・坂本龍一氏(審査員))
Tokyo-Twilight_0 - コピー.jpgTokyo-Twilight_0.jpg第68回ベルリン国際映画祭ヴェンダース監督・坂本龍一.jpgTokyo-Twilight_4.jpg 1957年公開の小津安二郎監督で、今年['18年]開催の第68回ベルリン国際映画祭のクラシック部門で、ヴィム・ヴェンダース監督の「ベルリン・天使の詩」('87年)などと併せて選出され、プレミア上映されました。小津安二郎監督作品のデジタル修復版は、2013年のベルリン国際映画祭の「東京物語」から世界三大映画祭クラシック部門で7作目の選出となり、小津安二郎の世界的な評価の高さが窺えます(ヴィム・ヴェンダースに至っては、「小津安二郎は私の師匠」と以前から公言し、同映画祭においても審査員の坂本龍一氏を前に、"天国の大島渚"にごめんなさいと謝るジョークを交え、"小津愛"を繰り返し吐露している)。

East of Eden.jpg ジェームズ・ディーンの代表作「エデンの東」('55年)の小津的な翻案とされ、どちらも父親の妻(つまり母親)が出奔していて、「エデンの東」における兄弟が原節子と有馬稲子の姉妹に置き換えられている作りですが、内容が暗いばかりでなく、実際に暗い夜の場面も多く、有馬稲子が全編を通して全く笑うことが無くて、その最期も含め作品の暗さを補強している印象です。ちょうど、「風の中の牝雞」('48年)までの小津作品に見られた"暗さ"の部分を継承している感じでしょうか。そうした暗さもあってか、一般の人気は芳しくなく、キネマ旬報のベストテンでも19位と圏外となり、小津安二郎自らも自嘲気味に「何たって19位の監督だからね」と語っていたとのことです。

東京暮色7.jpg東京暮色 nakamura .jpg しかしながら、戦後期の大女優山田五十鈴(1917-2012)が出演した唯一の小津作品であり、姉妹の実母で雀荘の女主人・喜久子を演じたそのリアルな演技はさすが。夫役の中村伸郎も、後の出演作に多く見られる会社役員や大学教授の役ばかりでなく、こういった市井の人を演じても上手いということがよく分かります(まあ、「東京物語」('57年)でも下町で美容院を営む杉村春子の夫役だったが)。加えて、小津安二郎自身が小津作品における「四番バッター」と評した杉村春子も相変わらず世話焼きおばさんぶりが上手く、こうなるとむしろ原節子の比較的パターン化された演技や笠智衆の一本調子が物足りなくなってくるほどです。

 小津映画で原節子が主演した"紀子三部作"のうち、「晩春」('49年)、「麦秋」('51)が、娘が結婚に行くか行かないかという話でしたが、この「東京暮色」は、原節子が夫と夫婦不和で、半ば出戻り状態のようになっていて、何だかそれら前作の続きのような印象も受けます(情にほだされて結婚してしまったような「麦秋」とも繋がるが、父親を同じく笠智衆が演じている「晩春」とはよりよく繋がる感じも)。前後の小津作品も、多くが主要登場人物の結婚をテーマにしながら、「晩春」にも「麦秋」にも「秋刀魚の味」('62年)にもAkibiyori (1960) 2.jpgその結婚式の場面が無いのは(「秋日和」('60年)のみ例外で、司葉子と佐田啓二の新郎新婦がそろって結婚式の記念撮影をする場面がある)、それらが何れも結果として"不幸な結婚"となることを暗示していて、小津安二郎が結婚の"現実"に対して悲観論者であったためとも言われています(小津安二郎自身、実人生において、噂のあった原節子と結婚することもなく、生涯独身を通した)。もしそうだとしたら、この「東京暮色」は、そうした小津安二郎の悲観的な結婚観に符合するともとれます。

小津安二郎 志賀直哉.jpg その意味でも興味深い作品ですが、評価が当時は芳しくなかったことに懲りたのか、小津安二郎はもうこの手の作品は撮らず、志賀直哉に「里見弴君が仕事が無くて困っているから彼の作品を使ってくれ」と言われ、里見弴の原作作品を「彼岸花」('58年)、「秋日和」、「秋刀魚の味」と3作も撮り(ただし、小津安二郎自身も10代の時から里見弴の作品を愛読していた)、「晩春」「麦秋」以来の娘が結婚に行くか行かないかという話を、これらでまた3回も繰り返すことになりました。小津安二郎自身、「俺は豆腐屋だから豆腐しか作れない」と言っているわけですが、結果としてどれも似たような感じになり、それぞれに一定の完成度は保っていますが、続けて観るとやや飽きがこなくもありません。個人的には、こうした「東京暮色」のような暗くてドラマチックな展開の小津映画ももっと観たかった気がしますが、結局この類の作品はもう作られることはなく、この「東京暮色」は、小津安二郎の後期作品の中では異彩を放つものとなったように思われます(「東京暮色」のIMDbスコアを見ると、他の小津作品に比べむしろ若干高い評価にある)。
       
小津4K 巨匠が見つめた7つの家族.jpg「小津4K 巨匠が見つめた7つの家族」<生誕115年記念企画>2018年6/16(土)~6/22(金)新宿ピカデリー、6/23(土)~7/7(土)角川シネマ新宿 有馬稲子
【上映作品】 「晩春 4K修復版」「麥秋 4K修復版」「お茶漬の味 4K修復版」「東京物語 4K修復版」「早春 4K修復版」「東京暮色 4K修復版」「浮草 4K修復版」

山田五十鈴 in 成瀬巳喜男監督「流れる」('56年)/小津安二郎監督「東京暮色」('57年)/黒澤明監督「用心棒」('61年)
流れる 1シーン.jpg 山田五十鈴 東京暮色.jpg 用心棒01.jpg

笠智衆(杉山周吉)・山村聰(友人・関口積)/杉村春子(孝子・明子の叔母・竹内重子)/高橋貞二(遊び人の川口)
東京暮色 笠智衆 山村.jpg東京暮色 杉村春子.jpg東京暮色 高橋.jpg「東京暮色」●制作年:1954年●監督:小津安二郎●製作:山内静夫●脚本:野田高梧/小津安二郎●撮影:厚田雄春●音楽:斎藤高順●時間:140分●出演:原節子/有馬稲子/笠智衆/山田五十鈴/高橋貞二/田浦正巳/杉村春子/山村聰/信欣三/藤原釜足/中村伸郎/宮口精二/須賀不二夫/浦辺粂子/三好栄子/田中春男/山本和子/長岡輝子/櫻むつ子/増田順二/長谷部朋香/森教子/菅角川シネマ新宿  0.jpg角川シネマ新宿 .jpg角川シネマ新宿 2.jpg原通済(特別出演)/石山龍児●公開:1957/04●配給:松竹●最初に観た場所(再見):角川シネマ新宿(シネマ1・小津4K 巨匠が見つめた7つの家族)(18-06-28)((評価:★★★★)

角川シネマ新宿 シネマ1.jpg 角川シネマ新宿(新宿3丁目「新宿文化ビル」4・5階)シネマ1(300席/右写真)・シネマ2(56席)  2006(平成18)年12月9日〜旧文化シネマ1・4が「新宿ガーデンシネマ1・2」として、旧文化シネマ2・3が「シネマート新宿1・2」として再オープン、2008(平成20)年6月14日「新宿ガーデンシネマ1・2」が「角川シネマ新宿1・2」に改称)


《読書MEMO》
●小津安二郎の1949年以降の作品(原作者)とIMDbスコア及び個人的評価
・1948年「風の中の牝雞」[7.6]★★★☆
・1949年「晩春」(広津和郎)[8.3]★★★★☆
・1950年「宗方姉妹」(大佛次郎)[7.5]★★★☆
・1951年「麦秋」[8.2]★★★★☆
・1952年「お茶漬の味」[7.9]★★★☆
・1953年「東京物語」[8.2]★★★★☆
・1956年「早春」[8.0]★★★☆
・1957年「東京暮色」[8.3]★★★★
・1958年「彼岸花」(里見 弴)[8.0]★★★★
・1959年「お早よう」[7.9]★★★☆
・1959年「浮草」[8.0]★★★☆
・1960年「秋日和」(里見 弴)[8.2]★★★☆
・1961年「小早川家の秋」[8.0]★★★☆
・1962年「秋刀魚の味」(里見 弴)[8.2] ★★★☆

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'特別出演'の17歳の原節子はすでに目立っていた。結末はやや拍子抜けか。

将軍を狙う女 東海美女博より3.jpg将軍を狙う女 東海美女伝ps.jpg
将軍を狙う女 東海美女伝.jpg「將軍を狙う女」原節子(当時17歳)/黒川弥太郎
原節子(17歳)/花井蘭子(19歳)/黒川弥太郎
将軍を狙う女 東海美女伝37oct.jpg 小西行長の遺臣・磧田(せきた)与四郎(黒川弥太郎)は、徳川家康(鳥羽陽之助)の乗った駕籠を襲うが討ち損じ、逃げ延びた山小屋には、石田三成の客分だった老人・遠山白雲斎(横山運平)がお鶴(花井蘭子)という娘と暮らしていた。お鶴は家康の前妻・築山御前(つきやまごぜん)の娘で、父である家康とその腹心の野中三五郎(進藤英太郎)を母の仇として狙っていた。家康は駿府城に人質でいる小西行長の娘・お由利(原節子)を寵愛し、お由利は切支丹信者だった。築山御前の命日、お鶴は将軍を狙う女 東海美女伝3.jpg与四郎の手を借りて本懐を遂げんと野中の屋敷に乗り込むが、奮戦空しく与四郎は捕らわれてしまう。与四郎はお由利の手引きで脱獄するが、お由利は家康に見つかり島送りにされることに。一方、野中の追手から逃げたお鶴は、バテレンに助けられて隠れ切支丹たちの潜む洞窟に行き、そこで与四郎と再会する。ある日、与四郎とお鶴は伊豆の岬で、金山奉行の金春大蔵(こんぱる・おおくら)(永井柳太郎)と出会う。金春はかつて与四郎から爆破術を伝授され、その腕を家康に認められ、金山奉行として引き立てられていた。お由利が流島になることを知った与四郎たちは、お由利を救い出して金山将軍を狙う女 東海美女伝4.jpgに匿う。与四郎とお由利の間に愛情が芽生えるが、与四郎は大望を言い聞かせて自制を求める。野中を嫌う金春は洞窟に野中を誘い出して自爆死し、与四郎は野中を鉄砲で斃す。与四郎は、運命を共にすると言うお由利を説得し、お由利が差し出した駿府城の地図を手にお鶴と城内に忍び込む。家康を前にお鶴は刀を抜くが、築山御前への詫びを口にしてお鶴に刺せと言う家康に憐れみを感じ、親子の情を抑え難く手を下すのを止め、与四郎も今までの無礼を詫びる。家康は与四郎とお鶴を海外で安寧に暮らすように諭し、その計らいをする。船出の日、切支丹宗門に生きるお由利らに見送られて、与四郎とお鶴を乗せた船が出帆する―。

 1937(昭和12)年10月公開の石田民三(いしだ・たみぞう、1901-1972)監督作で、公開時のタイトルは「東海美女傳」で、後に「将軍を狙う女」と改題。この年2月公開の日独合作「新しき土」に主演した原節子が'特別出演'し、当時の広告の謳い文句は"原節子帰朝歓迎映画"でした。小西行長の娘・お由利を演じた原節子(1920-2015/享年95)は当時17歳。美少女であるとともに、堂々した女優ぶりです。徳川家康の前妻の娘・お鶴を演じる当時19歳の花井蘭子(1918-1961/享年42)と比べるとぱっちり目で、切支丹信者が似合うバタ臭い目鼻立ちとも言えます。

 家康の前妻・築山御前が家康の命令により殺害されたのは史実のようですが、その娘は架空の人物。関ヶ原の戦いで敗れ、切支丹であるがゆえに切腹が出来ず斬首された小西行長にも3人娘がいましたが(ジュリアと呼ばれた朝鮮人養女を含めると4人)、この映画のお由利のモデルと特定できる人物はおらず、まあ、時代劇に多い"伝奇もの"と言えるでしょうか。豊臣の残党、金山、切支丹、復讐物語と、背景がてんこ盛りで、黒川弥太郎演じる磧田与四郎が連発短銃をぶっ放す"活劇時代劇"でもあり、展開は比較的スピーディです。

 鳥羽陽之助演じる徳川家康が、そんな悪い奴ではなかったというか、徳川家康を演じた鳥羽陽之助は、この作品の直前まで日活で"あのねのおっさん"こと高勢実乗と"極楽コンビ"を組んで山中貞雄監督の「丹下左膳餘話 百萬兩の壺」('35年/日活))などでとぼけた笑いを提供していた俳優です。出て来るなり、"将軍"と言うよりどこかの"商人(あきんど)"にしか見えず、何となく憎めない感じ。お由利を幽閉中、別にお由利に手出ししたわけでもなさそうだし、嫉妬深い正室・阿茶の局(鈴村京子)の手前、与四郎の脱獄の手引きをしたお由利を島流しにせざるを得なくなるものの、最後に彼女が逃れて無事と訊いて安心したりしています。

 まあ、最大のドンデン返し(と言えるかどうか?)は、それまで進んできたお鶴の仇討ちの話が、最後、仇である家康との父娘の人情物語に転化されてしまうところで、これでは一緒に討ち入った与四郎の立場が無いと思いきや、与四郎もあっさり家康にこれまでの非礼を詫び、逆にお鶴のことをよろしく頼むと家康に言われて、二人が一緒になることが暗示されてはいるものの、いくら血は水よりも濃いとは言っても、この結末にはやや拍子抜けしました。

将軍を狙う女 東海美女伝2.jpg 与四郎・お鶴の話がメインストーリーですが、黒川弥太郎の演じる与四郎よりも鳥羽陽之助演じる徳川家康の方がキャラ立ちしているし、花井蘭子演じる切れ長の目の和風美人よりも、客演であるはずの原節子のつぶらな瞳(時代劇らしくない?)、くっきりし過ぎる顔の造作(それでいてその役どころは古風でバタ臭い容貌との間にギャップがある)の少女役の方が目立つ映画でした。

花井蘭子(お鶴)(当時19歳)

 そんな中、永井柳太郎が演じた金山奉行の金春大蔵(大久保長安がモデルか)のキャラが良かったです(ずっとユーモラスできて、最期は潔かったと言うか)。しかし、(お由利の手引きがあったにせよ)忍者でもない男女が押し入って家康の寝室まで行けてしまうという駿府城の警備は一体どうなっているのか―突っ込み所も多い作品です。

原節子1939dec.jpg花井 蘭子1935aug.jpg「将軍を狙う女(東海美女傳)」●制作年:1997年●監督:石田民三●製作:小山一夫●脚本:白浜四郎/加戸野恩児●撮影:上田勇●音楽:伊藤宣二●原作:村松梢風●時間:67分●出演:黒川弥太郎/鳥羽陽之助/永井柳太郎/深見泰三/山田好良/進藤英太郎/大家宏康/長島武夫/横山運平/大崎時一郎/花井蘭子/原節子/鈴村京子/五月潤子●公開:1937/10●配給:東宝映画(評価:★★★)

花井 蘭子(1935(昭和10)年)雑誌「日の出八月號附録:映画レビュー夏姿寫眞帖」(17歳)

原 節子(1939(昭和14)年12月)雑誌「サンデー毎日・新春の映画號」(大阪毎日新聞社)(19歳)

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大家族ホームドラマに見る滑稽と無常。東宝映画だが小津トーンが行きわたっている。。

Kohayagawa-ke no aki (1961).jpg小早川家の秋 poster.png小早川家の秋 dvd2.jpg 小早川家の秋 dvd1.jpg
小早川家の秋 [DVD]」「小早川家の秋 [DVD]」
「小早川家の秋」ポスター
Kohayagawa-ke no aki (1961)

小早川家の秋TF.jpg 京都の造り酒屋・小早川の長男は早く死に、その未亡人の秋子(原節子)に親戚の北川(加東大介)が再婚話を持ってくる。相手の磯村(森繁久彌)は鉄工所の社長でちょっとお調子者だ。また、次女の紀子(司葉子)も婚期を迎えて縁談が持ち込まれるが、彼女は大学時代の友人で、札幌に転勤することになっ小早川家の秋 R.jpgている寺本(宝田明)に思いを寄せていた。一方、小早川の当主・万兵衛(中村鴈治郎)は最近、行き先も告げずにこそこそと出かけることが目立つようになった。店員の丸山(藤木悠)が後を小早川家の秋4_R.jpg尾けるが、したたかな万兵衛に見つかってしまい失敗。小早川の経営を取り仕切る入り婿の久夫(小林桂小早川家の秋  last.jpg樹)と長女の文子(新珠三千代)夫婦が心配して行方を突き止めると、そこはかつての愛人・佐々木つね(浪花千栄子)の家だった。さんざん死んだ母を泣かせた万兵衛の女好きがまた始まったと怒る文子。万兵衛はつねとその娘・百合子(団令子)との触れあいに、特別な安らぎを感じているようだったが、そこで倒れて亡くなる―。

小早川家の秋 撮影現場.png 1961年公開作で、小津安二郎が東宝に招聘されて撮った作品。時期的には「秋日和」('60年/松竹)と「秋刀魚の味」('62年/松竹)の間の作品になりますが、野田高梧、小津安二郎のオリジナル脚本は、再婚話を持ちかけられた未亡人・秋子(原節子)と同じく縁談が持ちあがった娘・紀子(司葉子)の義理姉妹といったようにそれぞれに小津作品の定番的モチーフを踏襲しながらも、多くの登場人物によって大家族を巡るホームドラマとなっており、しかも、そうした話の流れの中心にいるのはあくまでも、物語の舞台である京都・伏見の造り酒屋の当主で、今は隠居している・万兵衛(中村鴈治郎)であるというのが後期小津作品の中では特徴的でしょうか(大阪・京都が舞台になっているというのも珍しい)。

原節子/小津安二郎/加東大介/森繁久彌

小早川家の秋5.jpg 物語は導入部の森繁久彌加東大介の未亡人を巡る会話からコミカルなタッチで進み(まるで森繁の「社長シリーズ」('58年~'70年/小早川家の秋09.jpg東宝)みたい)、万兵衛(中村鴈治郎)が孫とかくれんぼしている間に抜け出して昔の愛人(浪花千栄子)に会いに行くところで滑稽さはピークに達しますが、そうやって軽妙に描かれた道楽旦那の〈老いらくの恋〉の後に突然のその死が訪れ、葬式の日に紀子(司葉子)が秋子(原節子)に札幌の寺本の下へ行く決心を告げる場面こそありますが、全体として無常感の漂う作品となっています(火葬場の近くで川漁りをする笠智衆と望月優子の夫婦の会話が効いている)。

小早川家の秋 ryuu.jpg小早川家の秋R6.jpg 当時57歳の小津安二郎の死生観が反映された作品であるのに違いなく、また万兵衛のコミカルさにも、自らを「道化」と称していた小津自身が反映されているとの見方もあるようです(万兵衛の死すらも愛人(浪花千栄子)によって、或いは万兵衛の妹・しげ(杉村春子)によってコミカルに語られる。死んでしまえば自分だってどう言われるかわからないという思いが小津にあったのか?)。

小早川家の秋S.jpg 歌舞伎役者でありながら「映画スターの中村鴈治郎」と言われた2代目・中村鴈治郎(1902-1983)(大映から借り受け)の洒脱でコミカルな演技から、名女優・杉村春子のやっぱり上手いと思わせるショートリリーフ的な演技まで(「東京物語」の時も葬儀で帰りの時間を気にしていたなあ)何かと楽しめますが、東宝が用意した新珠三千代、宝田明、小林桂樹、団令子、森繁久彌、白川由美、藤木悠ら錚々たる俳優陣を小津安二郎がどう演出したかというのも大きな見所かもしれません。

小早川家の秋 aratama.jpg 因みに、小津の好みに適ったのは小林桂樹、藤木悠、団令子、最も惚れ込んだのは新珠三千代で、新珠三千代には撮影の合間に松竹での次回作の出演を持ちかけていたとか(結局、次回作「秋刀魚の味」の主演は岩下志麻になったが)。一方、小津が演出しづらかったのはアドリブで演技する森繁久彌や山茶花究らで、特に森繁久彌(1913-2009)は小津のかっちりした演出が自分の肌に合わず、「小津に競輪なんか撮れっこない」と言ったというエピソードなども知られています(但し、映画の中で競輪を観に行くのは中村鴈治郎と浪花千栄子)。因みに、この作品は、オープニングタイトルバックの出演者の最初に原節子、司葉子、新珠三千代の名がきて、最後に中村鴈治郎、森繁久弥の名がきます)。

彼岸花・秋日和・小早川家の秋・秋刀魚の味.jpg それにしても、役者の演技は小津安二郎自身が演出するとして、小津が松竹からスタッフを一人も連れて行かずに撮った作品であるのに、照明やカメラなどに何の違和感も無く、調度品の色調まで"小津トーン"が再現小早川1.jpgされているというのはなかなかのものではないでしょうか。名匠・小津安二郎を招聘する立場で作品を作った東宝側のスタッフの緊張感が伝わってくるような印象です。個人的は、昭和30年代の造り酒屋の様子や競輪場の風景などが興味深かったです(競輪場の壁にあるのは何かの映画のポスターか)。因みに、小津安二郎は「お茶漬の味」('52年)で競輪シーンをかなりしつこく撮っており(競輪を観に行くのは佐分利信と鶴田浩二)、森繁久彌が何をもって「小津には競輪は撮れない」と言ったのか...。

 一般には「彼岸花」「秋日和」「秋刀魚の味」よりやや下に見られがちな作品ですが、以上3作が似たようなモチーフで連作っぽい雰囲気であるのに対し、作品としての独自性という点では印象に残る作品であるかと思います。

司 葉子                              新珠三千代/加東大介/中村鴈治郎
小早川家の秋_500.jpg小早川家の秋r.jpg「小早川(こはやかわ)家の秋」●制作年:1961年●監督:小津安二郎●製作:藤本真澄/金子正且●脚本:野田高梧/小津安二郎●撮影:中井朝一●音楽:黛敏郎●時間:103分●出演:中村鴈治郎/原節子/司葉子/新小早川家の秋8_R.jpg珠三千代/森繁久彌/小林桂樹/宝田明/加東大介/団令子/白川由美/山茶花究/藤木『小早川家の秋』8.jpg小早川家の秋30.jpg悠/杉村春子/望月優子/浪花千栄子/笠智衆/東郷晴子/環三千世/島津雅彦/遠藤辰雄/内田朝雄●公開:1961/10●配給:東宝(評価:★★★☆)
山茶花究/藤木悠

小早川家の秋 新珠三千代.jpg 新珠三千代 小早川家の秋 杉村春子.jpg 杉村春子

鍵 1959 s.jpg中村鴈治郎 in 「」('59年/大映)

浪花千栄子 小早川家の秋_2.jpg浪花千栄子 悪名.jpg浪花千栄子 in 「小早川家の秋」('61年/東宝)/ 「悪名」('61年/大映)
                                   
山茶花究 用心棒.jpg山茶花究 悪名.jpg山茶花究 in 「用心棒」('61年/東宝)/ 「悪名」('61年/大映)  

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「晩春」より幅のあるテーマ。深みがあり、号泣があり、ユーモアもあり。

麦秋 dvd90.jpg 麦秋 dvd V.jpg
麦秋 [DVD] COS-022」「麦秋 [DVD]

 北鎌倉に暮らす間宮家は三世帯家族で、初老の植物学者・周吉(菅井一郎)とその妻・志げ(東山千栄子)、長男で医師の康一(笠智衆)とその妻・史子(三宅邦子)と幼い息子たち2人、それに長女で会社員の紀子(原節子)が生活している。紀子は28歳独身で、その嫁ぎ先が家族の懸念材料になっている。周吉の兄・茂吉(高堂國典)が大和から上京し、なかなか嫁に行かない紀子を心配する一方、周吉にも引退して麦秋 00.jpg大和へ来るよう勧めて帰っていく。紀子の会社の上司である佐竹(佐野周二)も彼女に、商社の常務で旧家の次男、という男性を紹介するという。家族はそれを歓迎するが、年齢が数えで42歳だと分かると志げと史子は不満を口にし、康一はそれを「贅沢は言えない」と非難する。康一の勤務先の医師・矢部謙吉(二本柳寛)の母親・たみ(杉村春子)の耳にもこの話が入る。矢部は戦争で亡くなった間宮家の次男麦秋 sugimura.jpg・省二とは高校からの友人だが、妻が一昨年に幼い娘を残して亡くなっており、たみが再婚相手を探していた。やがて、矢部が秋田の病院へ転任することになり、出発前夜、矢部家に挨拶に訪れた紀子は、たみから「あなたのような人を息子の嫁に欲しかった」と言われ、それを聞いた紀子は「あたしでよ麦秋 笠智衆 .jpgかったら...」と、矢部の妻になることを承諾する。急な展開に間宮家では皆が驚き、緊急家族会議が開かれ、紀子は詰問されるが、彼女は自分の決意を示して譲らず、皆も最後には諒解する。紀子の結婚を機に、康一は診療所を開業し、周吉夫婦は大和に隠居することにし、間宮家はバラバラになることとなった。初夏、大和の家で、周吉と志げが豊かに実った麦畑を眺めながら、これまでの人生に想いを巡らせていた―。

笠智衆(中央)/原節子(背中)

麦秋 1951 hara.jpg 1951(昭和26)年10月公開の小津安二郎監督作で、原節子が「紀子」という名の役(同一人物ではない)を演じた所謂「紀子三部作」の第1作「晩春」('49年)に続く2作目(3作目は「東京物語」('53年))。「晩春」が広津和郎「父と娘」を原作としていたのに対し、この作品は原作が無く、野田高梧、小津安二郎の共同脚本。「東京物語」も同じパターンですが(特定の原作無しの共同脚本)、野田高梧は「『東京物語』は誰にでも書けるが、これはちょっと書けないと思う」と言っていたそうです。

麦秋 0.jpg 「晩春」同様、行き遅れの娘が嫁に行くまでを描いた話ですが、同時に、戦前型の大家族の終焉を描いており、そうした意味では、テーマが拡がっていて(テーマに幅が出て)、「東京物語」にも通じるものがあります。また、大家族の終焉は"幸福な時"の終わりとも重なり、それはそのまま、家長夫婦には後に残されたものは、人生を振り返ることしかない、つまり「死」しかないという無常感にも連なるものがあります。小津自身も、本作において「ストーリーそのものより、もっと深い《輪廻》というか《無常》というか、そういうものを描きたいと思った」と発言しています(幅と併せて、深みのあるテーマと言っていいか)。

麦秋  hara.jpg 原節子を美しく撮っています。この映画が公開された時、小津安二郎と原節子は結婚するのではないかという予測が週刊誌などに流れたそうですが、結局、小津安二郎は生涯独身を通しました。小津自身は後に、結婚しようと思った相手がいなくはなかったが、(シャイな性格で)この映画のようなきっかけを与えてくれる人がいなかったという発言もしていたように思います。ということは、(映画の中では)原節子の方に自分を重ねているのでしょうか。因みに、小津は自分の母親が死ぬまで母親と一緒に暮らし、母親が亡くなった翌年に自らも亡くなっていますが、そう考えると、「晩春」における原節子演じる"紀子"にも自分を重ねていたような気がしなくもないです。

麦秋 原節子.jpg麦秋における原節子の号泣.jpg この映画の原節子演じる紀子は、終始誰に対しても明るいです。それだけに、ラスト近くで一人号泣する場面は重かったです(このそれまでの感情の抑制が一気に剥がれたように急変する手法は「東京物語」でも使われた)。この場合、幸福な大家族の終焉というこの作品のテーマを一人で負ってしまった感じでしょうか。逆『麦秋』(1951年) .jpgに言えば、テーマを原節子の号泣に象徴的に集約させた小津の手腕は見事だと言うべきでしょう。

 小津作品のベストテンでは、「晩春」と上位を争う作品ですが、「晩春」は理屈を論じる上で興味深い作品であるものの("壺"は何を意味するのか、とか)、結局のところ自分自身もよく分からないという部分もあり、一方、この「麦秋」にも、なぜ紀子は突然結婚を決意したのかという大きな謎がありますが、すでに指摘されているように、戦争に行ったきりの次兄の不在とその次兄と親しかった寡夫、彼が語る次兄からの最後の手紙のエピソードとその手紙を譲ってもらえないかという紀子―といった具合に考えると、繋がっていくように思えます。その手紙に麦の穂が同封してあったというのが、タイトルにも絡んで象徴的であり、個人的には「晩春」よりもやや上、「東京物語」に匹敵する評価です。

「麦秋」笠智衆.jpg 但し、「紀子三部作」の中では個人的には後の方で観たため、最初は、笠智衆が紀子(原節子)の兄(職業は医師)を演じているというのが、原節子の父親を演じた「晩春」と比べるとやや意外な感じもして、更には東山千栄子と老夫婦を演じた「東京物語」に対して、ここでは笠智衆は東山千栄子の長男ということになっているため、笠智衆が出てくる度に、そのギャップ修正に慣れるのにコンマ何秒か要したかも。三宅邦子と夫婦で男の子が2人というのは、この作品で子供達が演じるコミカルな様子ごと「お早よう」('59年)に引き継がれています。

笠 智衆

麦秋 2.jpg 他にもコミカルな要素はあって、例えば、紀子とその結婚を知らされた友人・田村アヤ(淡島千景)との会話で、アヤが、紀子が秋田に行くことになったことに「よく思いきったわね。あんたなんて人、とても東京を離れられないんじゃないかと思ってた」といい、「だって、あんたって人、庭に白い草花かなんか植えちゃって、ショパンかなんかかけちゃって、タイルの台所に、電気冷蔵庫かなんか置いちゃって、こう開けるとコカ・コーラかなんか並んじゃって、そんな奥さんになるんじゃないかと思ってたのよ」と早口でまくしたてるのが可笑しいです。彼女が言ってるのが、昭和26年の女性の「憧れる結婚のイメージ」だったのでしょうか(因みに、日本でテレビ放送が始まる2年前)。それに比べると、謙吉との結婚は、医者との結婚とはいえ、子持ちの勤務医でしかも赴任先が秋田ということで、やはりアヤには意外だったのだろなあ。

麦秋 杉村春子.jpg この映画でもう1人号泣したのが、杉村春子演じる謙吉の母親で、紀子の結婚の承諾で信じられない僥倖とばかりに泣くわけですが、やはりこの人の演技はピカイチでした。こうした演技があるから、やや突飛とも思える展開にもリアリティが感じられるのかも。号泣して「ありがとう」のすぐ後に「ものは言ってみるもんね、もし言わなかったらこのままだったかもしれなかった」と思わず本人の前で言ってしまうところは、それを言わせている脚本の妙でもありますが、杉村春子が演じることを前提にこうした台詞を入れているのでしょう。杉村春子は出演しているどの作品でも上手いですが、この作品における彼女は「東京物語」の彼女以上にいいです。
杉村春子

麦秋 1.jpg「麦秋」●制作年:1953年●監督:小津安二郎●製作:山本武●脚本:野田高梧/小津安二郎●撮影:厚田麦秋 1951  .jpg雄春●音楽:伊藤宣二●時間:124分●出演:原節子/笠智衆/淡島千景/三宅邦子/菅井一郎/東山千栄子/杉村春子/二本柳寛/佐野周二/村瀬禪/城澤勇夫/高堂国典/高橋とよ/宮内精二/井川邦子/志賀真津子./伊藤和代./山本多美./谷よしの./寺田佳世子./長谷部朋香./山田英子./田代芳子./谷崎純●公開:1951/03●配給:松竹(評価:★★★★☆)
佐野 周二/原 節子/淡島 千景                 佐野 周二
麦秋 佐野 周二 原節子 淡島千景 .jpg麦秋 佐野 周二 .jpg

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「晩秋」と"裏返しの相似形"か。同じ手を使いながらも、ラストに女性の強さが感じられる。

映画 秋日和  dvd.jpg 映画 秋日和  ブルーレイ.png  映画 秋日和 女性3人.jpg
あの頃映画 秋刀魚の味 [DVD]」「「秋日和」 小津安二郎生誕110年・ニューデジタルリマスター [Blu-ray]

映画 秋日和  七回忌.jpg 亡き友・三輪の七回忌に集まった間宮(佐分利信)、田口(中村伸郎)、平山(北竜二)の3人は、未亡人の秋子(原節子)とその娘アヤ子(司葉子)と談笑するうち、年頃のアヤ子の結婚に話が至る。映画 秋日和  男3人.jpg3人は何とかアヤ子を結婚させようと動き始めるが、アヤ子は母親が一人になることが気がかりでなかなか結婚に踏み切れない。間宮の会社の後藤(佐田啓二)がアヤ子に似合いだと考えた3人は、アヤ子が嫁ぐ気になるためにはまず母親が再婚することが先決と考え、平山を再婚相手の候補として画策する。映画 秋日和  伊香保.jpgその動きを察したアヤ子は同僚の佐々木百合子(岡田茉莉子)に相談し、それを聞いて憤慨した百合子は間宮らを一堂に会させてやり込めるが、彼らの説明を聞いて百合子も納得し、母娘の結婚話が進むことになる。しかし秋子は娘と二人で出かけた伊香保温泉の宿で、自分は一人で生きていく決意だと伝え、娘の背中を押す―。

 小津安二郎監督の1960(昭和35)年製作作品で、「彼岸花」('58年)に続いての里見弴の原作であり、娘の結婚を巡る親子の感情のもつれと和解を淡々としたコメディタッチで描いています。

 なかなか結婚しない娘のことを気遣う親という、小津映画に繰り返し見られるモチーフを踏襲していますが、この作品では「親」が、「晩春」('49年)などで見られる「父親」ではなく「母親」になっていて、その母親を、「東京物語」('53年)で笠智衆の義理の娘を、「晩春」で笠智衆の実の娘を演じた原節子が演じているのが興味を引きます。

映画 秋日和 原2.jpg映画 秋日和 司.jpg 原節子は当時実年齢40歳にして45歳の未亡人秋子役で、娘役の司葉子は実年齢26歳で24歳のアヤ子を演じていますが、実年齢では14歳差ということになります。当時56歳の笠智衆が秋子の義兄(59歳)という設定であるため、「晩春」と比べると原節子が1世代上にスライドしたことになります。

 「晩春」においてもこの「秋日和」においても、親の再婚話を前にして娘が「不潔よ」「汚らしい」などという場面がありますが、「晩春」でそのセリフを言った原節子が、今度は娘・司葉子に言われる側に回っているわけです。その秋子が、再婚話に乗り気になったふりをして、アヤ子を嫁に行く気にさせるというのも、「晩春」で笠智衆が再婚話に乗ったふりをして原節子演じる娘・紀子を嫁に行かせるのと"同じ手"を使っている訳で、言わば"裏返しの相似形"になっている点が興味深いです。

映画 秋日和 原.jpg 但し、「晩春」のラストで笠智衆は、娘を嫁にやった後に家で独りになって林檎の皮を剥きながら深くうなだれますが、この作品の原節子演じる秋子は、娘の結婚式を終えてアパートに戻った後、独り静かに微笑を浮かべます。原節子が母親役を演じていることに注目が行きがちな作品ですが、「晩春」と比べるとこの点が大きく異なるように思います。

 秋子に再婚の意思が無いことは本人が最初から言っていることですが、この"笑み"によって、それは確信として最初からあり、途中で揺らぐことも無かったのだと、個人的には感じられました。平山(北竜二)が、妻に先立たれて不自由し、自分が秋子の再婚相手として話が進んでいると勘違いして有頂天になった挙句に、アヤ子の結婚式では一人しおれていたのとは対極的で、小津安二郎はこの作品で、男と女の強さの違いを描いたかのようにも思います。

秋日和 記念撮影.jpg秋日和 司葉子 佐田啓二.jpg また、「晩春」にも「秋刀魚の味」にも無い結婚式の場面がこの作品にあるのは(新郎新婦そろっての式当日の記念撮影シーンなど)、このアヤ子(司葉子)と後藤(佐田啓二)の結婚のみが、小津映画ではごく例外的に"幸せな結婚"として暗示されているためとの説もあるようです。個人的には、「お茶漬けの味」('52年)、「早春」('56年)などでもお馴染みのラーメン屋「三来元」で2人が並んでラーメンを食べる場面に、この先2人が上手くいくであろう予兆が示唆されているように思いました。

秋日和 司葉子.jpg映画 秋日和 岡田.jpg 名匠・小津の作品として気負って観たところで、話としては何てことない話のような気もしますが、司葉子を美しく撮っているほか、小津映画初出演の岡田茉莉子(当時27歳)の活き活きとした演技も印象的であり、特に百合子が秋子に会いに行く場面は、昭和前期型(原節子)と昭和後期型(岡田茉莉子)の異なる演出パターンが1つの場面に収まっているという点が興味深かったです。

秋日和 屋上から1.jpg秋日和 屋上から2.jpg 小津映画と言えば、鉄道の駅や走っている列車を映すところから始まるものが多いのですが(或いは作中に必ず駅や列秋日和9.jpg車が出てくる)、この作品は2年前に完成した東京タワーが冒頭に映し出されています。では列車は出てこないかというと、アヤ子や百合子が勤めるオフィスの屋上から東海道線が映し出されていました(その列車には、新婚旅行に向かう2人のかつての同僚が乗っている)。

 ローアングルは和室場面だけでなく、会社のオフィスでの場面もローアングルで撮っていたのだなあと改めて思わされましたが、そのオフィスの受付嬢役で出演していたのが、2年後に「秋刀魚の味」に主演することになる岩下志麻(当時19歳)でした。

映画 秋日和  チラシ.jpg IMDbの評価は「8.2」。海外でも高い評価を得ている作品と言えます。


「秋日和」●制作年:1960年●監督:小津安二郎●脚本:野田高梧/小津安二郎●撮影:厚田雄春●音楽:斎藤Akibiyori(1960).jpg高順●原作:里見弴●時間:128分●出演:原節子/司葉子/佐分利信/岡田茉莉子/佐田啓二/中村伸郎/北竜二/桑野みゆき/三宅邦子/沢村貞子/三上真一郎/渡辺文雄/高橋とよ/十朱久雄/南美江/須賀不二男/桜むつ子/笠智衆/田代百合子/設楽幸嗣/千之赫子/岩佐分利信 秋日和.jpg下志麻●公開:1960/11●配給:松竹(評価:★★★☆)

Akibiyori(1960)
A widow tries to marry off her daughter with the help of her late husband's three friends.

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「老成」とは子供への心理的依存を断つことか。義理の関係の方が美しく描かれているのが興味深い。
東京物語 小津 チラシ2.jpg東京物語 小津 dvd.jpg 東京物語 紀子のアパート.jpg   
「東京物語」 小津安二郎生誕110年・ニューデジタルリマスター 【初回限定版】 [Blu-ray]」(2013)
「東京物語」チラシ

 尾道に暮らす平山周吉(笠智衆)とその妻のとみ(東山千栄子)は20年ぶりに東京に出掛け、成人した子供たちの家を訪ねるが、長男の幸一(山村聰)も長女の志げ(杉村春子)も仕事が忙しくて両親にかまってやれない。寂しい思いをする2人を慰めたのが、東京物語 小津 ラスト.jpg戦死した次男の妻の紀子(原節子)であり、彼女は仕事を休んで、2人を東京の観光名所に連れて行く。周吉ととみは、子供たちからはあまり温かく接してもらえなかったが、それでも満足した様子を見せて尾道へ帰る。しかし、その数日後に、とみが危篤状態であるとの電報が子供たちの元に届く。子供たちが尾道の実家に到着した翌日未明に、とみは死去する。とみの葬儀が終わった後、志げは次女の京子(香川香子)に形見の品をよこすよう催促する。その上、紀子以外の子供たちは、葬儀が終わるとそそくさと帰ってしまい、京子は憤慨するが、紀子は義兄姉を庇って若い京子を諭す。紀子が東京に帰る前に、周吉は上京した際の紀子の優しさに感謝を表す。がらんとした部屋で周吉は独り静かな尾道の海を眺めるのだった―。

東京物語11.JPG 小津安二郎監督の代表作とされ、日本映画を代表する傑作とされていますが、世界的な評価も高く、2012年には、英国映画協会発行の「サイト・アンド・サウンド」誌が発表した、世界の映画監督358人が投票で決める最も優れた映画に選ばれています(同誌は小津監督が同作品で「その技術を完璧の域に高め、家族と時間と喪失に関する非常に普遍的な映画をつくり上げた」と評価した)。最初に観た当時は、そんなにスゴイ作品なのかなという印象もありましたが、何回か観ていくうちに、自分の中でも評価が高くなってきた感じで、世評に影響されたというよりも、年齢のせいかなあ(若い人でもこの作品を絶賛する人は多いが)。

左から山村聡、三宅邦子、笠智衆、原節子、杉村春子、東山千栄子

 老年と壮年、地方と大都会、大家族と核家族、ゆったりと流れる時間と慌ただしく流れる時間―といった様々な対立項の位相の中で幾度となく論じられてきた作品ですが、小津自身は「親と子の成長を通して日本の家族制度がどう崩壊するかを描いてみた」と述懐しています。

甘えの周辺292.JPG土居健郎.png 個人的には、『甘えの構造』('71年/弘文堂)で知られた精神科医・土居健郎(1920-2009)が『「甘え」の周辺』('83年/弘文堂)でこの作品について書いていた論考がしっくりきました("論考"と言うより"感想"に近いもので、そう難しいことを言っているわけではないが)。
 土居健郎はその本の「老人と心の健康」という章で、「ある映画から」としてこの作品のストーリーを丁寧に紹介したうえで、「子どもは成長するときに、親と同一化する」(親を見習って成長する)が、「老人になると、どうも逆になるらしい」とし、今度は老人が子供に同一化することで、「この世におさらばする前に、子どもを通してもういっぺん人生をおさらいするのである」としています。その上で、この映画の場合、忙しそうにしている長男夫婦を見ると、それを見て両親たちは、自分たちが来て嬉しいことは嬉しいのだろうが、一方で邪魔になっていることも分かる―但し、自分たちも若い頃は同じだったではないかという思いがあるからこそ、両親たちはそれを責めないのではないかと。

東京物語 熱海.jpg 長女(杉村春子)の勧めで熱海に行って、旅館の部屋が麻雀部屋の真下で寝付かれなかったなど散々な目に遭って帰ってきたけれど、お金を出したのは子供達なので文句も言えず、逆に早く帰って来たことで文句を言われる始末だが、「宿無しになってしもうたなあ」とか言いながらも、それぞれ友達(十朱久雄・東野英治郎)の所と次男の未亡人(原節子)のアパートへと行く―。

 「人間欲を言えばきりがないからのう」と周吉(笠智衆)は言っていますが、両親が子供たちに失望させられたのは確かであるとしても、そこで子供たちは自分達とは異なる別の人格や生活を持った一個人であることを認識したことで、老夫婦も成長していると筆者(土居)は捉えているようです。

東京物語 小津 アパート.jpg この点について土居健郎は、映画評論家・佐藤忠男氏の「小津安二郎は、大人になることは、親に対して他人になっていくことである、と言おうとしているようだ」との指摘を非常に鋭いものとして評価しています(因みに、佐藤忠男の『完本・小津安二郎の芸術』(朝日文庫)は、小津映画に見られる「甘え」をしばしば指摘している。『小津安二郎の芸術』の単行本(朝日新聞社)の初版は1971年の刊行であり、これは『甘えの構造』の初版と同じ年である)。

 その上で筆者(土居)は、老人は老いて子供に依存的にならざるを得ない状況になる場合があるが、経済的に依存することがあっても心理的な依存からは離れていくべきであって、それが「老成・老熟」ということではないかとしています。

 一方で、この映画では、実の親子の関係と比べ、老夫婦と次男の未亡人(原節子)との関係は美しく描かれており、義理同士の関係の方が実の親子の関係より遥かに良い関係として描かれていることがこの作品の興味深い特徴かと思われます。

 この点について土居健郎は、義理の関係の方がお互いに遠慮があるために、我儘を言わずに良い関係が構築されることがあるとしています(土居は、グリム童話の「シンデレラ物語」の、姉妹の中で唯一心根の優しい娘シンデレラが"継子"であったことを指摘している)。

東京物語 小津 笠・原.jpg この映画で笠智衆は実年齢49歳にして70歳の平山周吉を演じたわけですが、その「老成」を演じ切っているのは見事。原節子演じる東京物語 小津 原号泣.jpg紀子がラスト近くで自分の複雑な思いを周吉に打ち明けて号泣する場面は名シーンとされていますが、紀子の全てを受け止める周吉の態度との相互作用からくる場面状況としての美しさと言えるのでは。
 「義理の関係の方がお互いに遠慮があるために、我儘を言わずに良い関係が構築されることがある」と土居健郎に言われてみれば、原節子はうっ伏して号泣するのではなく、こみ上げるものを抑えるような感じで泣いていて、この"節度"がこの作品の美しさを象徴していると言えるのかもしれません。

『東京物語』原節子、香川京子.gif 2013年が小津安二郎の生誕100周年だったため、貴田庄 著 『小津安二郎と「東京物語」』(ちくま文庫)梶村啓二 著 『「東京物語」と小津安二郎』(平凡社新書)など何冊か関連本が刊行されています。この辺りも機会があれば読んでみようかと思っています。


原節子/香川京子

東京物語21.jpg

Tôkyô monogatari(1953)
Tôkyô monogatari (1953).jpg An old couple visit their children and grandchildren in the city; but the children have little time for them.

        
Poster for Yasujiro Ozu Season at BFI Southbank.jpgPoster for Yasujiro Ozu Season at BFI Southbank (1 January - 28 February 2010)

東京物語 笠・東野.jpg東京物語 0.jpg「東京物語」●制作年:1953年●監督:小津安二郎●脚本:野田高梧/小津安二郎●撮影:厚田雄春●音楽:斎藤高順●時間:136分●出演:笠智衆/東山千榮子/原節子/香川京子/三宅邦子/杉村春子中村伸郎/山村聰/大坂志郎/十朱久雄/東野英治郎/長岡輝子/高橋豊子/桜むつ子/村瀬禪/安部徹/三谷幸子/毛利充宏/阿南純子/水木涼子/戸川美子/糸川三鷹オスカー.jpg三鷹オスカー  (2).jpg三鷹オスカー ー.jpg和広●公開:1953/11●配給:松竹●最初に観た場所:三鷹オスカー(82-09-12)(評価:★★★★☆)●併映:「彼岸花」(小津安二郎)/「秋刀魚の味」(小津安二郎)
三鷹オスカー 1977年9月3日、それまであった東映系封切館「三鷹東映」が3本立名画座として再スタート。1978年5月に「三鷹オスカー」に改称。1990(平成2)年12月30日閉館。

《読書MEMO》
Sight & Sound誌オールタイム・ベスト2012年版.jpg"Sight & Sound"誌・映画監督による選出トップ10 (Director's Top 10 Films)(2012年版)の上位100作品
[姉妹版:同誌映画批評家によるオールタイム・ベスト50 (The Top 50 Greatest Films of All Time)(2012年版)
Sight & Sound誌オールタイム・ベスト2012.jpg 1位:『東京物語』"Tokyo Story"(1953/日) 監督:小津安二郎
 2位:『2001年宇宙の旅』"2001: A Space Odyssey"(1968/米・英) 監督:スタンリー・キューブリック
 2位:『市民ケーン』"Citizen Kane"(1941/米) 監督:オーソン・ウェルズ
 4位:『8 1/2』"8 1/2"(1963/伊) 監督:フェデリコ・フェリーニ
 5位:『タクシー・ドライバー』"Taxi Driver"(1976/米) 監督:マーティン・スコセッシ
 6位:『地獄の黙示録』"Apocalypse Now"(1979/米) 監督:フランシス・フォード・コッポラ
 7位:『ゴッドファーザー』"The Godfather"(1972/米) 監督:フランシス・フォード・コッポラ
 7位:『めまい』"Vertigo"(1958/米) 監督:アルフレッド・ヒッチコック
 9位:『鏡』"Mirror"(1974/ソ連) 監督:アンドレイ・タルコフスキー
 10位:『自転車泥棒』"Bicycle Thieves"(1948/伊) 監督:ヴィットリオ・デ・シーカ
 11位:『勝手にしやがれ』"Breathless"(1960/仏) 監督:ジャン=リュック・ゴダール
 12位:『レイジング・ブル』"Raging Bull"(1980/米) 監督:マーティン・スコセッシ
 13位:『仮面/ペルソナ』"Persona"(1966/スウェーデン) 監督:イングマール・ベルイマン
 13位:『大人は判ってくれない』"The 400 Blows"(1959/仏) 監督:フランソワ・トリュフォー
 13位:『アンドレイ・ルブリョフ』"Andrei Rublev"(1966/ソ連) 監督:アンドレイ・タルコフスキー
 16位:『ファニーとアレクサンデル』"Fanny and Alexander"(1984/スウェーデン)監督:イングマール・ベルイマン
 17位:『七人の侍』"Seven Samurai"(1954/日) 監督:黒澤明
 18位:『羅生門』"Rashomon"(1950/日) 監督:黒澤明
 19位:『バリー・リンドン』"Barry Lyndon"(1975/英・米) 監督:スタンリー・キューブリック
 19位:『奇跡』"Ordet"(1955/ベルギー・デンマーク) 監督:カール・ドライヤー
 21位:『バルタザールどこへ行く』"Au hasard Balthazar"(1966/仏・スウェーデン) 監督:ロベール・ブレッソン
 22位:『モダン・タイムス』"Modern Times"(1936/米) 監督:チャーリー・チャップリン
 22位:『アタラント号』"L'Atalante"(1934/仏) 監督:ジャン・ヴィゴ
 22位:『サンライズ』"Sunrise: A Song of Two Humans"(1927/米) 監督:F・W・ムルナウ
 22位:『ゲームの規則』"La Règle du jeu"(1939/仏) 監督:ジャン・ルノワール
 26位:『黒い罠』"Touch Of Evil"(1958/米) 監督:オーソン・ウェルズ
 26位:『狩人の夜』"The Night of the Hunter"(1955/米) 監督:チャールズ・ロートン
 26位:『アルジェの戦い』"The Battle of Algiers"(1966/伊・アルジェリア) 監督:ジッロ・ポンテコルヴォ
 26位:『道』"La Strada"(1954/伊) 監督:フェデリコ・フェリーニ
 30位:『ストーカー』"Stalker"(1979/ソ連) 監督:アンドレイ・タルコフスキー
 30位:『街の灯』"City Lights"(1931/米) 監督:チャーリー・チャップリン
 30位:『情事』"L'avventura"(1960/伊) 監督:ミケランジェロ・アントニオーニ
 30位:『フェリーニのアマルコルド』"Amarcord"(1973/伊・仏) 監督:フェデリコ・フェリーニ
 30位:『奇跡の丘』"The Gospel According to St Matthew"(1964/伊・仏) 監督:ピエロ・パオロ・パゾリーニ
 30位:『ゴッドファーザー PartⅡ』"The Godfather Part II"(1974/米) 監督:フランシス・フォード・コッポラ
 30位:『炎628』"Come And See"(1985/ソ連) 監督:エレム・クリモフ
 37位:『クローズ・アップ』"Close-Up"(1990/イラン) 監督:アッバス・キアロスタミ
 37位:『お熱いのがお好き』"Some Like It Hot"(1959/米) 監督:ビリー・ワイルダー
 37位:『甘い生活』"La dolce vita"(1960/伊) 監督:フェデリコ・フェリーニ
 37位:『裁かるゝジャンヌ』"The Passion of Joan of Arc"(1927/仏)  監督:カール・ドライヤー
 37位:『プレイタイム』"Play Time"(1967/仏) 監督:ジャック・タチ
 37位:『抵抗(レジスタンス)/死刑囚の手記より』"A Man Escaped"(1956/仏) 監督:ロベール・ブレッソン
 37位:『ビリディアナ』"Viridiana"(1961/西・メキシコ) 監督:ルイス・ブニュエル
 44位:『ウエスタン』"Once Upon a Time in the West"(1968/伊・米) 監督:セルジオ・レオーネ
 44位:『軽蔑』"Le Mépris"(1963/仏・伊・米) 監督:ジャン=リュック・ゴダール
 44位:『アパートの鍵貸します』"The Apartment"(1960/米) 監督:ビリー・ワイルダー
 44位:『狼の時刻』"Hour of the Wolf"(1968/スウェーデン) 監督:イングマール・ベルイマン
 48位:『カッコーの巣の上で』"One Flew Over the Cuckoo's Nest"(1975/米) 監督:ミロス・フォアマン
 48位:『捜索者』"The Searchers"(1956/米) 監督:ジョン・フォード
 48位:『サイコ』"Psycho"(1960/米) 監督:アルフレッド・ヒッチコック
 48位:『カメラを持った男』"Man with a Movie Camera"(1929/ソ連) 監督:ジガ・ヴェルトフ
 48位:『SHOAH』"Shoah"(1985/仏) 監督:クロード・ランズマン
 48位:『アラビアのロレンス』"Lawrence Of Arabia"(1962/英) 監督:デイヴィッド・リーン
 48位:『太陽はひとりぼっち』"L'eclisse"(1962/伊・仏) 監督:ミケランジェロ・アントニオーニ
 48位:『スリ』"Pickpocket"(1959/仏) 監督:ロベール・ブレッソン
 48位:『大地のうた』"Pather Panchali"(1955/印) 監督:サタジット・レイ
 48位:『裏窓』"Rear Window"(1954/米) 監督:アルフレッド・ヒッチコック
 48位:『グッドフェローズ』"Goodfellas"(1990/米) 監督:マーティン・スコセッシ
 59位:『欲望』"Blow Up"(1966/英) 監督:ミケランジェロ・アントニオーニ
 59位:『暗殺の森』"The Conformist"(1970/伊・仏・西独) 監督:ベルナルド・ベルトルッチ
 59位:『アギーレ 神の怒り』"Aguirre, Wrath of God"(1972/西独) 監督:ヴェルナー・ヘルツォーク
 59位:『ガートルード』"Gertrud"(1964/デンマーク) 監督:カール・ドライヤー
 59位:『こわれゆく女』"A Woman Under the Influence"(1974/米) 監督:ジャン・カサヴェテス
 59位:『続・夕陽のガンマン/地獄の決斗』"The Good, the Bad and the Ugly"(1966/伊・米) 監督:セルジオ・レオーネ
 59位:『ブルー・ベルベット』"Blue Velvet"(1986/米) 監督:デイヴィッド・リンチ
 59位:『大いなる幻影』"La Grande Illusion"(1937/仏) 監督:ジャン・ルノワール
 67位:『地獄の逃避行』"Badlands"(1973/米) 監督:テレンス・マリック
 67位:『ブレードランナー』"Blade Runner"(1982/米) 監督:リドリー・スコット
 67位:『サンセット大通り』"Sunset Blvd."(1950/米) 監督:ビリー・ワイルダー
 67位:『雨月物語』"Ugetsu monogatari"(1953/日) 監督:溝口健二
 67位:『雨に唄えば』"Singin'in the Rain"(1951/米) 監督:スタンリー・ドーネン & ジーン・ケリー
 67位:『花様年華』"In the Mood for Love"(2000/香港) 監督:ウォン・カーウァイ
 67位:『イタリア旅行』"Journey to Italy"(1954/伊) 監督:ロベルト・ロッセリーニ
 67位:『女と男のいる舗道』"Vivre sa vie"(1962/仏) 監督:ジャン=リュック・ゴダール
 75位:『第七の封印』"The Seventh Seal"(1957/スウェーデン) 監督:イングマール・ベルイマン
 75位:『隠された記憶』"Hidden"(2004/仏・オーストリア・伊・独) 監督:ミヒャエル・ハネケ
 75位:『戦艦ポチョムキン』"Battleship Potemkin"(1925/ソ連) 監督:セルゲイ・エイゼンシュテイン
 75位:『M』"M"(1931/独) 監督:フリッツ・ラング
 75位:『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』"There Will Be Blood"(2007/米) 監督:ポール・トーマス・アンダーソン
 75位:『シャイニング』"The Shining"(1980/英) 監督:スタンリー・キューブリック
 75位:『キートンの大列車追跡』"The General"(1926/米) 監督:バスター・キートン & クライド・ブラックマン
 75位:『マルホランド・ドライブ』"Mulholland Dr."(2001/米) 監督:デイヴィッド・リンチ
 75位:『時計じかけのオレンジ』"A Clockwork Orange"(1971/米) 監督:スタンリー・キューブリック
 75位:『不安と魂』"Fear Eats the Soul"(1974/西独) 監督:ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー
 75位:『ケス』"Kes"(1969/英) 監督:ケン・ローチ
 75位:『ハズバンズ』"Husbands"(1975/米) 監督:ジョン・カサヴェテス
 75位:『ワイルドバンチ』"The Wild Bunch"(1969/米) 監督:サム・ペキンパー
 75位:『ソドムの市』"Salo, or The 120 Days of Sodom"(1975/伊・仏) 監督:ピエル・パオロ・パゾリーニ
 75位:『JAWS/ジョーズ』"Jaws"(1975/米) 監督:スティーヴン・スピルバーグ
 75位:『忘れられた人々』"Los Olvidados"(1950/メキシコ) 監督:ルイス・ブニュエル
 91位:『気狂いピエロ』"Pierrot le fou"(1965/仏・伊) 監督:ジャン=リュック・ゴダール
 91位:『アンダルシアの犬』"Un chien andalou"(1928/仏) 監督:ルイス・ブニュエル
 91位:『チャイナタウン』"Chinatown"(1974/米) 監督:ロマン・ポランスキー
 91位:『ママと娼婦』"La Maman et la putain"(1973/仏) 監督:ジャン・ユスターシュ
 91位:『美しき仕事』"Beau Travail"(1998/仏) 監督:クレール・ドゥニ
 91位:『オープニング・ナイト』"Opening Night"(1977/米) 監督:ジョン・カサヴェテス
 91位:『黄金狂時代』"The Gold Rush"(1925/米) 監督:チャーリー・チャップリン
 91位:『新学期・操行ゼロ』"Zero de Conduite"(1933/仏) 監督:ジャン・ヴィゴ
 91位:『ディア・ハンター』"The Deer Hunter"(1977/米) 監督:マイケル・チミノ
 91位:『ラルジャン』"L' argent"(1983/仏・スイス) 監督:ロベール・ブレッソン

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原節子の小津映画初主演作品。笠智衆は最後泣かなくて良かった。監督の意図を超えて論じられる作品。

晩春 1949 dvd.jpg「晩春」S24.jpg 晩春 1949 笠智衆・原節子.jpg 
あの頃映画 松竹DVDコレクション 「晩春」」原節子/笠智衆
晩春 1949 笠智衆.jpg
 早くに妻を亡くし、それ以来娘の紀子(原節子)に面倒をかけてきた大学教授の曾宮周吉(笠智衆)は、紀子が婚期を逃しつつあることが気がかりでならない。周吉は、妹のマサ(杉村春子)が持ってきた茶道の師匠・三輪秋子(三宅邦子)との再婚話を受け入れると嘘をついて、紀子に結婚を決意三島雅夫 晩春.jpgさせようとするが、周吉と昔から親友である京大教授・小野寺(三島雅夫)が後妻を娶ることに不潔さを感じていた紀子は、父への嫌悪と別れの予感にショックを受けてしまう。マサの持ってきた縁談を承諾した紀子は、周吉と京都旅行に出かけ再度心が揺れるが、周吉に説得されて結婚を決意する―。

三島雅夫/原節子

『晩春』原節子.gif 原作は広津和郎の短編小説「父と娘」。原節子が小津映画に初めて出演した作品であり、娘の縁談、親の孤独という戦後の小津作品で繰り返されるテーマがこの作品で確立されたとされており、ま「晩春」杉村春子.jpgた、「麦秋」('51年)、「東京物語」('53年)で原節子が演じたヒロインは皆「紀子」という名前であることから、「紀子3部作」の第1作ともされています(この作品は、NHK-BS2での「生誕100年小津安二郎特集」放映(2003-04)の際の視聴者の投票による「小津映画ベスト10」で「東京物語」に次いで2位にランクインした)。

杉村春子/原節子

 前年作の「風の中の牝雞」('48年)に比べ、技術的に格段の進歩を遂げているばかりでなく、戦後の小津作品のスタイルが確立されているとともに、笠智衆の演技スタイルも確立「風の中の牝雞」笠智衆 02.jpgされていることを改めて感じます。1942年公開の同じく小津監督の「父ありき」(小津作品の中では初主演)で7歳年下の佐野周二の父親を演じてから老け役が定着していたというのもありますが、この「晩春」でも、実年齢(45歳)より10歳余り年上になる56歳の初老の父親を演じています。所謂よく知られている「笠智衆」のイメージに近いですが、「風の中の牝雞」の時と比べると、僅か1年後の出演作品でありながらも、その"見た目年齢"の違いに驚かされます。
笠智衆 in「風の中の牝雞」(1948)

笠智衆/原節子/月丘夢路
晩春 原節子・月丘夢路91.jpg晩春 曾宮周吉2.jpg 笠智衆は演技について演出家と対立するようなことはなかったそうで、小津作品でも小津の言うとおりに演技をしたとのことですが、自らが泣くシーンを演じることはだけは拒否していて、この「晩春」のラストの独りリンゴの皮を剥くシーンで、その後に「慟哭する」というというシナリオだったのが、それを拒否して、うなだれるシーンに変更されたとのこと。彼が小津の演出に従わなかったのはこの時だけだったと言われています(「眠っているみたいだ」と評されて憤りを感じたとも(『大船日記―小津安二郎先生の思い出』('91年/扶桑社)))。
    
『晩春』(1949年).jpg よく原節子の美しさが絶賛される作品で、またその号泣シーンなどでも知られているわけですが(続く「麦秋」「東京物語」でも原節子は号泣する)、個人的には、自分の娘を嫁にやる初老の男の複雑な心境にウェイトを置いて観ました(あくまでも主人公は周吉かと)。但し、この作品を、父に対して性的コンプレックス(エレクトラコンプレックス)を抱いていた娘が、そこから解放される物語であるとの見方があることで知られており、言われてみればナルホドなあと。

晩春 1949 旅館のシーン.jpg そうなると、京都旅行で父と娘が同じ旅館部屋で枕を並べて寝るシーンなども、やや性的な意味合いを帯びてくるわけですが、その場面の終りの方で一瞬床の間の壺が映し出されるシーンがあり、それが、ヒロインがエレクトラコンプレックスから解放された瞬間だという説もあるそうです。蓮實重彦氏が『監督 小津安二郎』('83年/筑摩書房、'92年/ちくま学芸文庫)で、この場面における"性の露呈"を指摘し、高橋治氏が『絢爛たる影絵―小津安二郎』('82年/文藝春秋、'10年/岩波現代文庫)で「エレクトラ・コンプレックスが最も美しく結実したのは矢張り有名なあの京都の宿のシーンだろう」としています。

 現役最高齢の映画監督マノエル・ド・オリヴェイラ(2014年2月現在105歳(2015年4月、満106歳で死去))が、2003年の「小津安二郎生誕100周年記念国際シンポジウム」で、これらは「父子相姦」のメタファーなのかという問題を再提起して議論を呼びましたが、これで海外のこの映画をに対する「近親相姦」映画としてのそれまでの見方が更に強まったとされるものの、その時にそうした問題提起をしたオリヴェイラ監督自身は、「晩春」における娘と父の関係を性的なものではなく、深い情愛によって結ばれた神聖なものであるとしたとのこと、また、「タクシードライバー」('76年)の脚本家で「MISHIMA:A LIFE IN FOUR CHAPTERS」('85年)などの監督作もあるポール・シュレイダーになると、"壺"は「もののあわれ」を表しているとします。

Banshun (1949).jpg晩春 壺.png この"壺"を誰が見ているのかによっても解釈は異なってきますが、父・周吉は先に眠ってしまうことから、後は、ヒロインか「神の眼」かの何れかにならざるを得ない―ヒロインのそれまでの結婚に対する頑な態度が変わったのは、この時の旅館部屋での"枕を並べての"父子の会話以降であり、その会話からもヒロインの気持ちのターニングポイントは見て取れなくもないですが、その延長線上にある"壺"は、映画評論家ドナルド・リチーの指摘のように、それを見ているのはヒロインであると解釈するのが自然かもしれず、ドナルド・リチーは壺に、それを見つめるヒロインの結婚の決意が隠されていると分析しています(因みに蓮實重彦氏は、『監督 小津安二郎』の最後の章をこのシーンの捉え方に割いていて、ポール・シュレーダー、ドナルド・リチー両氏の解釈を批判し、それらとはまた違った見解を示しているが、ここではこれ以上は引用しないでおく)。
Banshun(1949)

 結局、このシーンを観てどう感じるかは人によって様々でしょう。小津作品の幾つかが、監督の意図をはるかに超えた場所まで独り歩きし、到達していこうとしていることを最も端的に示す論争の1つと言えるかと思います。自分自身は正直よく分かりませんでしたが(これも誰かが言っていたことだと思うが、壺を見ているのは「神の眼」ともとれなくはない)、こうした様々な見方を参照していくと、主人公・周吉のラストの悲哀も、"悲哀一色"ではなく、ややどろっとした"重たいもの"からの解放されたという側面もあり、その上で感じる乾いた"諦観"のような侘しさというものではなかったかという気がします(笠智衆は泣かなくて良かった)。

「晩春」1.jpg 「晩春」2.jpg

晩春 1949 ポスター.jpg晩春 1949 完成記念.jpg「晩春」●制作年:1949年●監督:小津安二郎●脚本:野田高梧/小津安二郎●撮影:厚田雄春●音楽:伊藤冝二●広津和郎「父と娘」●時間:108分●出演:笠智衆/原節子/月丘夢路/宇佐美淳/杉村春子/青木放屁/三宅邦子/三島雅夫/坪内美子/桂木洋子/清水一郎/谷崎純/高橋豊子/紅沢葉子●公開:1949/09●配給:松竹●最初に観た場所:大井武蔵野館 (84-02-07)(評価:★★★★☆)●併映:「早春」(小津安二郎)

晩春21.jpgNHK-BS2 視聴者の投票による「小津映画ベスト10」(「生誕100年小津安二郎特集」ホームページ(2003年))
第1位 「東京物語
第2位 「晩春
第3位 「麦秋
第4位 「生れてはみたけれど
第5位 「浮草」
第6位 「彼岸花
第7位 「秋刀魚の味
第8位 「秋日和
第9位 「早春」
第10位 「淑女は何を忘れたか

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鋤を振るう原節子。後半の農村シーンはいいが、全体としてはプロパガンダ映画の枠内。

わが青春に悔なし.jpgわが青春に悔なしdvd6.jpg わが青春に悔なしdvd2.jpg わが青春に悔なし 原節子.jpg
わが青春に悔なし<普及版> [DVD]」藤田進/原節子

「わが青春に悔なし」 原節子.jpg 日本が戦争へと向かい始めていた昭和8年、京大教授の八木原(大河内伝次郎)の娘として何不自由無く活発に育った幸枝(原節子)と、父の教え子である、糸川(河野秋武)、野毛(藤田進)ら7人の学生達がいた。常識と立場を重んじる秀才型の糸川、正しいと信じた事は立場に関係なく主張する熱血型の野毛の2人は幸枝に好意を持っていた。幸枝も対照的な2人それぞれに惹かれるが、八木原教授への弾圧により湧き上がった学生運動を契機に、大学に残った糸川と左翼運動に邁進する野毛は生き方が別れていく。
わが青春に悔なし3.jpg 幸枝は自らの満たされた生き方に疑問を感じ、時代が戦争へと流れていく中、自活の道を探って上京、そこで検事となった糸川、反戦運動をする野毛と再会し、野毛と同棲する道を選ぶが、間もなく野毛はスパイ容疑で検挙され、幸枝も特高警察から屈辱的な尋問を受ける。八木原は野毛の弁護のため上京するが、野毛事件の担任検事である糸川より野毛が獄死したことを知らされ、それを聞かされた幸枝は、スパイの汚名のもとに死んだ野毛の想いを胸に、田舎で百姓をしている野毛の両親の下に走った―。

わが青春に悔なし7.jpg 黒澤明(1910-1998)監督作品ですが、GHQの奨励したいわゆる民主主義映画の一つであり、脚本も黒澤のものではなく、娯楽性もゼロ。一番の注目は、黒澤明が原節子を撮るとこうなるのかいうのが如実に見られる点で、それでも前半の原節子がお嬢さん演技をしている部分はあまり黒澤らしくもなく、黒澤自身、あまり気合いが入っていない印象も。

わが青春に悔なし4.jpg それが、幸枝が野毛の獄死を知ってすぐに野毛の両親の元へ行き、鋤を振るうところから急にアクション映画っぽい演出になり、折角植え終わった苗を野毛家を「スパイの家」として差別する村人にむしり撤かれ、それでもまた田植えをするシーンなどは撮り方が殆どアクション映画、野毛の墓参りに来た糸川を追い返すシーンまでは、ああ、これでこそ黒澤映画だなあという印象でした。
 原節子の演技も、後の小津安二郎作品に出てくるような上品なお嬢さんイメージとは異なって、差別に遭い、泥にまみれながらも自己の信念を貫く芯の強い農民女性を演じています(最後、農村文化指導者として、またお嬢さんっぽくなってしまうのだけれど、この時点では既に一皮剥けて人間的にも成長しているという解釈か)。
 因みに、原節子は本作「わが青春に悔なし」に出るまでに50本以上、出た後に50本以上の映画に出演していますが、全キャリアの中での黒澤作品への出演は本作と「白痴」('51年)の2本のみで、小津安二郎作品への出演は、この「わが青春に悔なし」の後に更に10本以上の映画出演を経て、「晩春」('49年)が最初になります。

 この作品は、同時期に新人監督によって作られた作品と題材が被ったため、労働組合から「新人を潰すのか」との圧力があり、脚本を大幅に変更せざるを得なかったとのこと、後半の農村シーンの迫力、原節子の反骨的な描かれ方には、そうした圧力への反発があったからと、黒澤明自身が述懐しています。

原 節子(八木原幸枝)/志村喬(特高警察「毒いちご」)
『わが青春に悔なし』原節子.gifわが青春に悔なし 志村.jpg プロパガンダ映画でありながら、「キネマ旬報年間ベスト2位」は、やはり黒澤の演出力?―とは言え、プロパガンダ映画の宿命で、糸川などの人物造型があまりにパターン化しており、"卑怯者"の役を押し付けられた河野秋武が何だか気の毒になるぐらいですが、今井正監督が撮った、戦時中の工場での財閥民衆の敵.jpgの横暴を描いた「民衆の敵」('46年4月公開)の方では、河野秋武は藤田進と共に反財閥の闘士の役を演じていて(これもプロパガンダ映画)、この作品では河野秋武の演じる工場長が憲兵に拘引されます(因みに、 「わが青春に悔なし」で幸枝を取調室でねちねち苛める「毒いちご」と呼ばれる特高警察を演じた志村喬は、「民衆の敵」では中小企業の合併を強行する財閥の理事長役と、どちらもの作品においても"悪役"を演じている)。

大河内傳次郎(八木原教授)/原節子/藤田進(野毛隆吉)
わが青春に悔なし  .jpg「わが青春に悔なし」●制作年:1946年●監督:黒澤明●製作:松崎啓次三●脚本:久板栄二郎●撮影:中井朝一●音楽:服部正●時間:110分●出演:原節子藤田進/河野秋武/大河内傳次郎/三好栄子/高堂国典/杉村春子/清水将夫/田中春男/千葉一郎/米倉勇/高木昇/佐野宏/志村喬●劇場公開:1946/10●配給:東宝(評価:★★★)●最初に観た場所(再見):北千住・シネマブルースタジオ(10-10-01)
大河内傳次郎/三好栄子(八木原夫人)  杉村春子(野毛隆吉の母)
[わが青春に悔いなし」(1946年).jpg杉村春子 わが青春に悔なし(1946年).png

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主人公にとっては、嫁が不憫であるとともに、老境の光明にもなっているような。

川端 康成 『山の音』  .jpg2川端 康成 『山の音』新潮文庫.jpg川端 康成 『山の音』sinntyoubunnko .jpg  山の音 dvd.bmp    たまゆら2.jpg
山の音 (新潮文庫)』['57年]/「山の音 [DVD]」/連続テレビ小説「たまゆら」

川端康成肖像(昭和25-26年頃).jpg 1954(昭和29)年・第7回「野間文芸賞」受賞作。

 鎌倉に居を構える一家の家長・尾形信吾(62歳)は、夜中にふと感じた「山の音」に、自分の死期を予告されたような恐怖感を抱き、迫り来る老いや死を実感しながらも、息子・修一の嫁・菊子に、青春期にこの世を去った美しい憧れの女性の面影とを重ね、淡い恋心に似た気持ちを抱く―。

 1935(昭和10)年、東京の谷中から鎌倉に住まいを移した川端康成(1899- 1972)は、終生この地に住み、鎌倉を舞台とした作品を幾つか書きましたが、この『山の音』もその一つで、同じく鎌倉を舞台とした『千羽鶴』と同時期(昭和24年‐29年)に並行して連載発表され、1951(昭和26)年度日本芸術院賞を授与されています(受賞年は1952年。この賞は"作品"ではなく"人"が対象だが、この2作が実質的な受賞対象作か)。

川端康成(1950(昭和25)-1951(昭和26)年頃)

 『山の音』は、「改造文芸」の1949(昭和24)年9月号に「山の音」として掲載したのを皮切りに、「群像」「新潮」「世界川端康成 1949.jpg春秋」などに「雲の炎」「栗の実」「島の夢」「冬桜」「朝の水」「「夜の声」「春の鐘」などといった題名で書き継がれて、1954年に完結、同年4月に単行本『山の音』として筑摩書房から刊行されたもので、作家の50歳から55歳にかけての作品ということになりますが、山本健吉の解説によれば、「川端氏の傑作であるばかりでなく、戦後日本文学の最高峰に位するものである」と。

1949(昭和24)年頃。鎌倉・長谷の自宅にてロダンの彫刻に見入る。

 夫婦二世代で同じ家に住み、父親と息子が同じ会社に通っているなどというのは、当時は珍しいことではなかったのでしょう(小津安二郎など昔の日本映画にありそうだし、「サザエさん」もそうだなあ)。当時は55歳定年制が一般的であったことを考えれば、60歳過ぎても、会社に行けばお付きの女性秘書(事務員と兼務?)もいるというのは、信吾は所謂「高級サラリーマン」の類でしょうか。その事務員・英子と盛り場(ダンスホール)探訪などしたりもして。そうした信吾ですが、妻がいながらにして外に愛人を持つ息子・修一や、子連れで嫁先から出戻ってすっかり怠惰になった娘のために、老妻との穏やかな老後というわけにはいかず、その心境は、常に鬱々とした寂寥感が漂っています。

 そうした日常において、可憐な菊子の存在は信吾の心の窓となっていて、何だかこれも小津安二郎の映画にありそうな設定だなあと。但し、そこは川端康成の作品、舅と嫁の関係が表向きは不倫なものには至らないものの、昔の恋人に菊子を重ねる自分に、結婚する前の菊子を自分は愛したかったのではないかと信吾は自問しており、ついつい菊子の身体に向けられる仔細な観察眼には、かなり性的な要素もあります。

 しかし、現実に信吾が菊子にしてやれることは何も無く、修一と愛人を別れさせようという試みも空振りに終わり(この試みが信吾本人ではなく英子主導なのがミソなのだが)、ドラマチックなことは何も起こらずに、季節だけが虚しく過ぎて行く―信吾の住む鎌倉の四季の移いを背景に、そこに日本的な諦観が織り込まれたような感じで、その繊細なしっとり感が、この作品の持ち味なのでしょう。

 ただ、この菊子という女性はどうなのだろう。老人の「心境小説」の登場人物の1人の生き方を云々するのも何ですが、身籠った子を中絶したのが、「夫に愛人がいる間は夫の子を産まない」という彼女のある種の"潔癖"によるもの乃至は夫への"反抗"だとすれば(共に修一の解釈)、現代の女性たちから見てどれぐらい共感を得られるか。

山の音 スチール.jpg この作品は映画化されていて('54年/東宝)、個人的にはCS放送であまり集中できない環境でしか観ていないので十分な評価は出来ないのですが(一応星3つ半)、監督は小津安二郎ではなく成瀬巳喜男ということもあり、それなりにどろっとしていました(小津も実はどろっとしているのだという見方もあるが)。

山の音4_v.jpg 62歳の信吾を演じた山村聰(1910‐2000)は当時44歳ですから、「東京物語」の笠智衆(当時49歳)以上の老け役。息子・修一役の上原謙(1909‐1991)が当時45歳ですから、実年齢では息子役の上原謙の方が1つ上です。

山の音05_v.jpg そのためもあってか、原節子(1920‐2015)演じる菊子が舅と仲が良すぎるのを嫉妬して修一が浮気に奔り、また、菊子を苛めているともとれるような、それで、ますます信吾が菊子を不憫に思うようになる...という作りになっているように思いました(菊子が中絶しなければ、夫婦関係の流れは変わったように思うが、それでは全然違った物語になってしまうのだろう)。

並木道o.JPG 映画のラストの、信吾と菊子が新宿御苑の並木道を歩くシーンを観てもそうだし(キャロル・リード監督「第三の男」('49年/英)のラストシーンと構図が似ている)、原作についても、信吾と菊子が信吾の郷里に紅葉を観に行くという「書かれざる章」があったのではと山本健吉も想像しているように、信吾と菊子の関係はこのまま続くのだろうなあ。それが、また、信吾の潜在的願望であるということなのでしょう。

たまゆら 川端康成.jpg この作家は、こうした家族物はおたまゆら 朝ドラ.jpg手のものだったのではないかという気もします。「たまゆら」という1965年度のNHKの連続テレビ小説(朝の連ドラ)(平均視聴率は33.6%、最高視聴率は44.7%)の原作(『たまゆら』('55年/角川小説新書))も書き下ろしていたし...(ノーベル文学賞作家が以前にこういうの書いていたというのが、ちょっと面白いけれど)。

「たまゆら」番宣用カラー絵ハガキ

 「たまゆら」は、会社を引退した老人(笠智衆、テレビ初出演)が、第二の人生の門出に『古事記』を手に旅に出るという、朝ドラにしては珍しく男性が主人公の話ですが、この老人には嫁に行ったり嫁入り前だったりの3人の娘がいて、基本的には"家庭内"ドラマ(要するに"ホームドラマ")。NHKの連続テレビ小説の第5作として「うず潮」(林芙美子原作)と「おはなはん」の間の年('65(昭和40)年)に放送され、川端康成自身が通行人役でカメオ出演していました(職業は「サザエさん」のいささか先生みたいな作家ではなかったか)。


日本映画傑作全集 山の音.jpg山の音92.jpg「山の音」●制作年:1954年●監督:成瀬巳喜男●製作:小林一三●脚本:水木洋子●撮影:玉井正夫●音楽:斉藤一郎●原作:川端康成「山の音」●時間:94分●出演山の音39.jpg:原節子/上原謙/山村聡/長岡輝子/杉葉子/丹阿弥谷津子/中北千枝子/金子信雄/角梨枝子/十朱久雄/北川町子/斎藤史子/馬野都留子/木暮実千代●公開:1954/01●配給:東宝●評価:★★★☆   
 
 
たまゆら2.jpgたまゆら.jpgたまゆら2.jpg「たまゆら」●演出:畑中庸生●脚本:山田豊/尾崎甫●音楽:崎出伍一●原作:川端康成●出演:笠智衆/加藤道子/佐竹明夫/扇千景/直木晶子/亀井光代/勝呂誉/武内亨/川端康成/光本幸子/長浜藤夫/鳳八千代●放映:1965/04~1966/04(全?回)●放送局:NHK

 【1957年文庫化[新潮文庫]/1957年再文庫化[岩波文庫]/1957年再文庫化[角川文庫]/1967年再文庫化[旺文社文庫]】

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