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「メメント・モリ」映画の"傑作"と言うか、むしろ"快作"と言った方が合っている?

Okuribito (2008).jpgおくりびと 2008 .jpgおくりびと1.jpg
おくりびと [DVD]」 山崎努・本木雅弘
Okuribito (2008)

おくりびと2.jpg チェロ奏者の小林大悟(本木雅弘)は、所属していた楽団の突然の解散を機にチェロで食べていく道を諦め、妻・美香(広末涼子)を伴い、故郷の山形へ帰ることに。さっそく職探しを始めた大悟は、"旅のお手伝い"という求人広告を見て面接へと向かう。しかし旅行代理店だと思ったその会社の仕事は、"旅立ち"をお手伝いする"納棺師"というものだった。社長の佐々木生栄(山崎努)に半ば強引に採用されてしまった大悟。世間の目も気になり、妻にも言い出せないまま、納棺師の見習いとして働き始める大悟だったが―。

おくりびと アカデミー賞.jpg 2008年公開の滝田洋二郎監督作で、脚本は映画脚本初挑戦だった放送作家の小山薫堂。第32回日本アカデミー賞の作品賞・監督賞・脚本賞・主演男優賞(本木雅弘)・助演男優賞(山崎努)・助演女優賞(余貴美子)・撮影賞・照明賞・録音賞・編集賞の10部門をを独占するなど多くの賞を受賞しましたが、その前に第32回モントリオール国際映画祭でグランプリを受賞しており、更に日本アカデミー賞発表後に第81回米アカデミー賞外国語映画賞の受賞が決まり、ロードショーが一旦終わっていたのが再ロードにかかったのを観に行きました(2009年(2008年度)「芸術選奨」受賞作。脚本の小山薫堂は第60回(2008年)「読売文学賞」(戯曲・シナリオ賞)、本木雅弘と映画製作スタッフは第57回(2009年)「菊池寛賞」を受賞している)。

滝田洋二郎監督、本木雅弘、余貴美子、広末涼子(第81回アカデミー賞授賞式/2009年2月23日(日本時間))

おくりびと3.jpg 主演の本木雅弘のこの映画にかけた執念はよく知られていますが、"原作者"に直接掛け合ったものの、原作者から自分の宗教観が反映されていないとして「やるなら、全く別の作品としてやってほしい」と言われたようです。もともとは、本木雅弘が20歳代後半に藤原新也の『メメント・モリ―死を想え』('83年/情報センター出版局)を読み、インドを旅して、いつか死をテーマにしたいと考えていたとのことで、まさに「メメント・モリ」映画と言うか、いい作品に仕上がったように思います(結局、原作者も一定の評価をしているという)。

おくりびと4.jpg 特に、前半部分で主人公が"納棺師"の仕事の求人広告を旅行代理店の求人と勘違いして面接に行くなどコメディタッチになっているのが、重いテーマでありながら却って良かったです(逆に後半はややベタか)。技術的な面や宗教性の部分で原作者に限らず他の同業者からも批判があったようですが、それら全部に応えていたら映画にならないのではないかと思います。こうした仕事に注目したことだけでも意義があるのではないかと思いますが(ジャンル的には"お仕事映画"とも言える)、米アカデミー賞の選考などでは、同時にそれが作品としてのニッチ効果にも繋がったのではないでしょうか(アカデミーの外国映画賞が、前3年ほど政治的なテーマや背景の映画の受賞が続いていたことなどラッキーな要素もあったかも)。

おくりびと5.jpg Wikipediaに「地上波での初放送は2009年9月21日で21.7%の高視聴率を記録したが、2012年1月4日の2回目の放送は3.4%の低視聴率」とありましたが、2回目の放送は日時が良くなかったのかなあ。こうした映画って、ブームの時は皆こぞって観に行くけれど、時間が経つとあまり観られなくなるというか、《無意識的に忌避される》ことがあるような気がしなくもありません。そうした傾向に反発するわけではないですが、個人的には、最初観た時は星4つ評価(○評価)であったものを、最近観直して星4つ半評価(◎評価)に修正しました(ブームの最中には◎つけにくいというのが何となくある?)。「メメント・モリ」映画の"傑作"と言うか、むしろ"快作"と言った方が合っているかもしれません。

 これもWikipediaに、「本作では、一連の死後の処置(エンゼルメイク)を納棺師が行っているが、現在では、臨終全体の8割が病院死であり、実際には、看護師が病院で行うことが多い」(小林光恵著『死化粧の時―エンゼルメイクを知っていますか』('09年/洋泉社))とありましたが、病院側がやるエンゼルメイクとは別に葬儀会社に「湯灌」などを頼めば、有料の付加サービスとしてやってくれるでしょう。納棺師と湯灌師の違いの厳密な規定はないそうですが、そうした人たちもある意味"おくりびと"であるし(最近若い女性の湯灌師が増えているという)、エンゼルメイクする看護師もその仕事をしている時は、広い意味での"おくりびと"であると言えるのではないでしょうか。

木村家の人びとド.jpg 滝田洋二郎監督は元々は新東宝で成人映画を撮っていた監督で、初めて一般映画の監督を務めた「コミック雑誌なんかいらない!」('86年/ニュー・センチュリー・プロデューサーズ)でメジャーになった人です。個人的には、鹿賀丈史、桃井かおり主演の夫婦で金儲けに精を出す家族を描いた「木村家の人びと」('88年/ヘラルド・エース=日本ヘラルド映画)を最初に観て、部分部分は面白いものの、全体として何が言いたいのかよく分からなかったという感じでした(ぶっ飛び度で言えば、石井聰互監督の「逆噴射家族」('84年/ATG)の方が上)。その後、東野自圭吾原作の「秘密」('99年/東宝)、浅田次郎原作の「壬生義士伝」('03年/松竹)を観て、比較的原作に沿って作る"職人肌"の監督だなあと思いました(結果として、映画に対する評価が、原作に対する好き嫌いにほぼ対応したものとなった。「木村家の人びと」の原作は未読)。「おくりびと」はいい作品だと思いますが、このタイプの監督が米アカデミー賞の表彰式の舞台に立つのは、やや違和感がなくもないです。菊池寛賞も、「本木雅弘と映画製作スタッフ」が受賞対象者となっていて、その辺りが妥当な線かもしれません(まあ、アカデミー外国映画賞も監督にではなく作品に与えられた賞なのだが)。因みに、「木村家の人びと」はビデオが絶版になった後DVD化されておらず[2017年現在]、ファンがDVD化を待望しているようですが、個人的にはどうしても観たいというほどでもありません。
   
丸の内ルーブル.jpg丸の内ピカデリー3.jpg「おくりびと」●制作年:2009年●監督:滝田洋二郎●製作:中沢敏明/渡井敏久●脚本:小山薫堂●撮影:浜田毅●音楽:久石譲●時間:130分●出演:本木雅弘/広末涼子/山崎努/杉本哲太/峰岸徹/余貴美子/吉行和子/笹野高史/山田辰夫/橘ユキコ/飯森範親/橘ゆかり/石田太郎/岸博之/大谷亮介/諏訪太郎/星野光代/小柳友貴美/飯塚百花/宮田早苗/白井小百合●公開:2008/09●配給:松竹●最初に観た場所:丸の内ブラゼール4.jpg丸の内ブラゼールes.jpg丸の内ピカデリー3(09-03-12)(評価:★★★★☆)
丸の内松竹(丸の内ピカデリー3) 1987年10月3日「有楽町マリオン」新館5階に7階「丸の内ルーブル」とともにオープン、1996年6月12日~「丸の内ブラゼール」、2008年12月1日~「丸の内ピカデリー3」) (「丸の内ルーブル」は2014年8月3日閉館)

「サロンパス ルーブル丸の内/丸の内ブラゼール」(2008)


木村家の人びと vhs.jpg木村家の人びとf5.jpg「木村家の人びと」●制作年:1988年●監督:滝田洋二郎●脚本:一色伸幸●撮影:志賀葉一●音楽:大野克夫●原作:谷俊彦●時間:113分●出演:鹿賀丈史/桃井かおり/岩崎ひろみ/伊崎充則/柄本明/木内みどり/風見章子/小西博之/清水ミチ木村家の人びと4.jpg木村家の人びと 加藤嘉_0.jpgコ/中野慎/加藤嘉/木田三千雄/奥村公延/多々良純/露原千草/辻伊万里/今井和子/酒井敏也/鳥越マリ/池島ゆたか/上田耕一/江森陽弘/津村鷹志/竹中直人/螢雪次朗/ルパン鈴木/山口晃史/三輝みきこ/小林憲二/野坂きいち/江崎和代/橘雪子/ベンガル●劇場公開:1988/05●配給:東宝 (評価★★★)

秘密DVD2.jpg映画 秘密2.jpg「秘密」●制作年:1999年●監督:滝田洋二郎●製作:児玉守弘/田上節郎/進藤淳一●脚本:斉藤ひろし●撮影:栢野直樹●音楽:宇崎竜童●原作:東野圭吾●時間:119分●出演:広末涼子/小林薫/岸本加世子/金子賢/石田ゆり子/伊藤英明/大杉漣/山谷初男/篠原ともえ/柴田理恵/斉藤暁/螢雪次朗/國村隼/徳井優/並樹史朗/浅見れいな/柴田秀一●劇場公開:1999/09●配給:東宝 (評価★★★☆)

壬生義士伝(DVD).jpg壬生義士伝m.jpg「壬生義士伝」●制作年:2003年●監督:滝田洋二郎●製作:松竹/テレビ東京/テレビ大阪/電通/衛星劇場●脚本:中島丈博●撮影:浜田毅●音楽:久石譲●時間:137分●出演:中井貴一/佐藤浩市/夏川結衣/中谷美紀/山田辰夫/三宅裕司/塩見三省/野村祐人/堺雅人/斎藤歩/比留間由哲/神田山陽/堀部圭亮/津田寛治/加瀬亮/木下ほうか/村田雄浩/伊藤淳史/藤間宇宙/大平奈津美●公開:2003/01●配給:東宝 (評価:★★☆)

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黒澤映画における最後の「白黒映画作品」「三船出演作品」「泥臭いヒューマニズム作品」。

赤ひげ ちらし.jpgAkahige(1965).jpg赤ひげ dvd.jpg  赤ひげ診療譚 (新潮文庫).jpg 
Akahige(1965)赤ひげ【期間限定プライス版】 [DVD]」 『赤ひげ診療譚 (新潮文庫)』(表紙イラスト:安野光雅)

赤ひげ0.jpg 長崎で和蘭陀医学を学んだ青年・保本登(加山雄三)は、医師見習いとして小石川養生所に住み込むことになる。養生所の貧乏臭さとひげを生やし無骨な所長・赤ひげこと新出去定(三船敏郎)に好感を持てない保本は養生所の禁を犯して破門されることさえ望んでいた。しかし、赤ひげの診断と医療技術の確かさを知り、また彼を頼る貧乏な人々の姿に次第に心を動かされていく―。

三船敏郎/加山雄三

 黒澤明監督の1965年公開作品で、山本周五郎による原作『赤ひげ診療譚』(1958(昭和33)年発表)が所謂「赤ひげ診療所」で青年医師・保本登が体験するエピソード集(全8話の診療譚)という連作構成になっているため、映画の方も、それぞれ関連を持ちながらも概ね5話からなるオムニバスとなっています。原作の冒頭3話「狂女の話」「駆込み訴え」「むじな長屋」に対応するのが映画での第1話から第3話に該当する「狂女おゆみ」「老人六助とその娘おくに」「佐八とおなか」の話で、但し、映画における続く第4話「おとよ」の話は、原作の第5話「徒労に賭ける」と設定は似てなくはないものの人物像や展開は原作と異なり、この部分はドストエフスキー『虐げられた人びと』のネリーをもとにした映画オリジナルの設定だそうです。また、映画における第5話に当たる「長次」は、第6の診療譚「鶯ばか」の中の一少年の話を膨らませて改変した映画のオリジナルになっています。

赤ひげ9.jpg それら5話を挟むようにして、冒頭に、登が「赤ひげ診療所」に来て、保本と入れ替わりで診療所を去っていく津川玄三(江原達怡)に案内されて、診療所の凄まじい実態を突きつけられ、赤ひげこと新出医師に対して沸き起こった反発心を同僚の杉半太夫(土屋嘉男)に吐露する様と、ラストに、登とかつての登の許嫁であったちぐさ(藤山陽子)の妹であるまさえ(内藤洋子)との結婚内祝い並びに、登が診療所に留まることを赤ひげに懇願する場面がきています。
土屋嘉男/加山雄三/三船敏郎

赤ひげ01.jpg 以前観た時は、オムニバス系形式であるうえに、登の冒頭とラストの大きな変化も物語的に見れば予定調和と言えば予定調和でもあるために、ストーリー的にインパクトが弱かったような気がして、おそらく黒澤作品の中で相対評価したのでしょうが、◎ではなく○の評価でした。しかし今回観直してみて、3時間を飽きさせずに見せる要因として、話がオムニバス形式になっているのが効いているのではないかと思いました。また、昔観た時に、ちょっと話が出来過ぎているなあと思った部分も、今観ると、カタルシス効果という面でヒューマン・ドラマの王道を行っているし(しかも完成されたモノクロ映像美の雄弁さ)、この作品は、黒澤映画における最後の「白黒映画作品」「三船敏郎出演作品」「泥臭いヒューマニズム作品」とされているそうですが、"泥臭い"というのは確かに当たっているなあと思う一方で、黒澤にとって赤ひげのような人物を演じ切れる三船敏郎という役者の存在は大きかったなあと思いました(三船敏郎はこの作品で「用心棒」('61年/松竹)に続いて2度目のヴェネツィア国際映画祭主演男優賞受賞。三船敏郎は同映画祭で歴代唯一の日本人男優賞受賞者)。

 黒澤明監督はこの作品に対し「日本映画の危機が叫ばれているが、それを救うものは映画を創る人々の情熱と誠実以外にはない。私は、赤ひげ 香川.jpgこの『赤ひげ』という作品の中にスタッフ全員の力をギリギリまで絞り出してもらう。そして映画の可能性をギリギリまで追ってみる」という熱意で臨み、そのため結局完成までに2年もかかってしまったということですが、それだけに、三船敏郎ばかりでなく、各エピソードの役者の熱演には光るものがあります。

赤ひげ03.jpg まず、「狂女おゆみ」の話の座敷牢に隔離された美しく若い狂女を演じた香川京子。告白話をしながら登に迫るインフォマニア(色情狂)ぶりは、"蟷螂女"の怖さを滲ませて秀逸でしたが、小津安二郎の「東京物語」('53年/松竹)で尾道の実家を守る次女を、溝口健二の「山椒大夫」('54年/大映)で弟思いの安寿を演じ、黒澤作品「天国と地獄」('63年/東宝)では三船演じる権藤専務の妻を演じたばかりだった彼女にしては珍しい役柄だったのではないでしょうか。

 続く「老人六助とその娘おくに」の話の診療所で死んだ六助(藤原釜足)の娘・おくにを演じた根岸明美の、父親の不幸を語る10分近い長ゼリフも凄赤ひげ 根岸明美 .jpgかったと思います(原作ではおくには既に北町奉行所に囚われていて、赤ひげは藤沢周平の「獄医・立花登」的な立場で会いに行くのだが、映画では診療所内で彼女の告白がある)。おくにを演じた根岸明美は、このシーンは本番で一発で黒澤明監督のOKを引き出したというからますますスゴイことです(ラッシュを観て、その時の苦心を思い出して居たたまれなくなり席を外したという)。

赤ひげ05.jpg 「佐八とおなか」の話は、山崎努演じる「むじな長屋」の佐八(長屋で"いい人"として慕われている)が臨終に際して自分がなぜ皆のために尽くしてきたか、それが実はかつて大火で生き別れた赤ひげ 山﨑2.jpg女房・おなか(桑野みゆき)に対する罪滅ぼしであったことを臨終の床で語るもので、この部分だけ回想シーン使われていますが、考えてみればこれもまた告白譚でした。山崎努は、「天国と地獄」の次に出た黒澤作品がこの「赤ひげ」の"臨終男"だったことになりますが、「天国と地獄」の誘拐犯役で日本中の嫌われ者になってしまったと黒澤監督にぼやいたら、「それは気の毒をした」と黒澤監督が山崎努を"超"善人役に配したという裏話があるそうです。

赤ひげ 二木.jpg 第4話「おとよ」の話は、赤ひげが、娼家の女主人(杉村春子)の元から、二木てるみ演じる少女おとよを治療かたがた"足抜け"させるもので、ここで赤ひげは娼家の用心棒をしている地廻りのヤクザらと大立ち回りを演じますが(ここだけアクション映画になっている!)、この二木てるみのデビユーは黒澤明監督の「七人の侍」('54年/東宝)で当時3歳。個人的にはこの名を知った頃には既に名子役として知られていましたが、名子役と言われた由縁は、この第4話「おとよ」と次の「長次」を観ればよく判ります。


赤ひげ 頭師.jpg赤ひげ07.jpg その映画内での第5話にあたる「長次」では、貧しい家に生まれ育ち、一家無理心中に巻き込まれる男の子・長次を頭師佳孝が演じていますが、二木てるみと頭師佳孝とが出逢う子役2人だけの会話で綴られる6分間のカットは、撮影現場で見ている人が涙ぐむほどの名演で、黒澤明監督も百点満点だと絶賛したそうです。個人的には、おとよが井戸に向かって長次の名を呼び、死の淵をさまよう彼を呼び戻そうとする場面は、黒澤作品全体の中でも最も"泣ける"場面であるように思います(原作では長次は死んでしまうが...)。

赤ひげ その3.jpg この作品、原作者の山本周五郎さえも「原作以上」と絶賛したそうで、原作も傑作ながら(原作では「おくめ殺し」というのが結構ミステリっぽくて面白かった)、「おとよ」は原作を大きく変えているし、「長次」に至っては全くのオリジナルですが、原作から改変しているのに原作者が「原作以上」と褒めているというのが黒澤明のスゴイところではないかと(その前に3話、ほぼ忠実に原作を再現しているというのはあるが)。
内藤洋子(まさえ)/加山雄三(保本登)/田中絹代(登の母)

赤ひげ 笠智衆.jpg ラストの登とまさとの結婚内祝いの場面で、登の母親役の田中絹代に加えて父親役で笠智衆が出てきますが、これは黒澤が先輩監督である小津安二郎と溝口健二に敬意を表して、それぞれの監督作の看板役者をキャスティングしたとのことで(田中絹代は溝口映画だけではなく小津映画にも多く出ているが)、このことからも、黒澤がこの作品にどれだけ入れ込んだかが窺い知れるように思いました。
笠智衆(登の父)/三船敏郎(媒酌人の「赤ひげ」こと新出去定)/内藤洋子(まさえ)/風見章子(まさえの母)

加山雄三(保本登)/杉村春子(娼家「櫻屋」の女主人・きん)
赤ひげ 杉村春子.jpg「赤ひげ」●制作年:1965年●監督:黒澤明●製作:田中友幸/菊島隆三●脚本:井手雅人/小国英雄/菊島隆三/黒澤明●撮影:中井朝一/斎藤孝雄●音楽:佐藤勝●原作:山本周五郎「赤ひげ診療譚」●時間:185分●出演:三船敏郎/加山雄三/山崎努/団令子/桑野みゆき/香川京子/江原達怡/二木てるみ/根岸明美/頭師佳孝/土屋嘉男/東野英治郎/志村喬/笠智衆/杉村春子/田中絹代/柳永二郎/三井弘次/西村晃/千葉信男/藤原釜足/三津田健/藤山陽子/内藤洋子/七尾伶子/辻伊万里/野村昭子/三戸部スエ/菅井長次(頭師佳孝)2.jpg長次(頭師佳孝).jpgきん/荒木道子/左卜全/渡辺篤/小川安三/佐田豊/沢村いき雄/本間文子/出雲八重子/中村美代子/風見章子/常田富士男●公開:1965/04●配給:東宝●最初に観た場所(再見):北千住・シネマブルースタジオ(10-09-04)(評価:★★★★☆)
二木てるみ(おとよ)/頭師佳孝(長次)

『赤ひげ診療譚』...【1959年単行本[文藝春秋新社]/1962年ロマンブックス[講談社]/1964年文庫化[新潮文庫]/2008年再文庫化[時代小説文庫]】

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優れたカメラ効果を生んでいるシーンが多くあり、特にロケシーンは貴重な映像の連続。

天国と地獄 vhs.jpg 2天国と地獄 dvd .jpg 天国と地獄 dvd.jpg
天国と地獄 [VHS]」「天国と地獄 [監督:黒澤明][三船敏郎] [レンタル落ち]」「天国と地獄<普及版> [DVD]

天国と地獄 ポスター.jpg天国と地獄 チラシ.jpgTengoku to jigoku(1963).jpg 製靴会社の専務・権藤(三船敏郎)の息子(江木俊夫)と間違えられて、運転手・青木(佐田豊)の息子が誘拐された。要求された身代金は三千万円。苦悩の末、権藤は運転手のために全財産を投げ出して三千万円を犯人に受け渡すことを決意し、無事子供を救出する。非凡な知能犯の真の目的は―。
Tengoku to jigoku(1963)
天国と地獄  01.jpg
ポスター(左)/チラシ(上)
(下)中村伸郎/伊藤雄之助/田崎潤/三船敏郎
天国と地獄 中村伸郎 .jpg 今観てもつくづく凄い映画だと思います。前半部分の権藤邸での息詰まる舞台演劇のような緊張感と(製靴会社買収攻防の持株数の話はエド・マクべインの原作に基づいている)、後半の犯人と警察及び権藤との攻防のダイナミックな展開の対比がいいです。主演の三船敏郎もいいけれど、戸倉警部役の日本版FBIのような仲代達矢もいい。この映画の仲代達矢は、前半部分では観客の視線を代弁しているような面もあり、演出構成の巧さというのもあるかと思いますが、「用心棒」('61年)での役柄よりも個人的には好みです。そして、犯人・竹内銀次郎を演じる当時は新人であった山崎努もいいです。

天国と地獄12.jpg 更に脇役陣として、戸倉警部の上司に志村喬と藤田進、刑事に木村功や加藤武、名古屋章、土屋嘉男がいて、新聞記者には千秋実、三井浩次、北村和夫がいて、権藤の社内の敵に伊藤雄之助、田崎潤、中村伸郎、工場の靴職人に東野英次郎、ゴミ焼却炉の作業員に藤原釜足、麻薬街には菅井きんといった具合に、細かい処でベテランが出ていて、しかもその内のかなりを黒澤組の常連が固めていたことが窺えます。

天国と地獄  11.jpgこだま 151系電車.jpg 「特急こだま号」の車内での撮影は、実際と同じ12両編成の特急こだま号が借り切られ、他の列車の運行の妨げにならないよう特別ダイヤで運行させていますが、限られた時間内で(当時は東京―大阪間6時間ぐらい。新幹線だったらもっとキツかっただろなあ)、しかも車中だけでなく、酒匂川での身代金の受け渡しシーンなど殆ど撮り直しがきかない条件の中、よく撮ったものだなあと。役者や撮影スタッフの緊張感がそのまま画面に表れていて、それが、緊迫した臨場感を生んでいるように思います。

天国と地獄 煙突.jpg 煙突から赤い煙が上がるシーンなども衝撃的でした。モノクロ画面に合成着色するというこの手法は、「椿三十郎」('62年)で椿の花だけカラーで映すというアイデアが実行出来なかったのをこの作品で実現したものだそうで、「踊る大捜査線 THE MOVIE」('98年)でもオマージュとして引用されました。その他にも、カメラのアングルやカメラワークなどで優れた効果を生んでいるシーンが多くあり、この作品を改めて観ると、最近の邦画はもっと先人の知恵を活かして工夫した方がいいのではないかと思ったりもします。

天国と地獄  03.jpg 山崎努演じる犯人・竹内銀次郎が歩き回る横浜の街中や店の様子も、「生きる」(52年)で志村喬が伊藤雄之助に引っ張り回されて徘徊する歓楽街の様と同様にシズル感があり、雰囲気は出ていたように思います。一方で、昭和38年頃でまだこんなアヘン窟みたいな所があったの?と思わせなくもないですが、当時の週刊誌記事(下)によると、横浜に"ハマの麻薬地帯"と呼ばれる地域が実際にあったようです。

天国と地獄  01.jpg この映画、最初に観た時の個人的評価は5つ星が満点として星3つ半という、どういうわけかそう高くないものHigh and Low(Tengoku to Jigoku).jpgになっていて、おそらく、ラストの権藤と竹内の面会シーンが自分の中で解題出来なかったのが評価のマイナス要因だったのではないかと思いますが、今観ると、自分なりに分かる気がします。
 竹内は権藤の苦しんでいる様を確認したくて彼に面会を求めたけれど、権藤は持ち前の叩き上げ精神で既に新たな一歩を踏み出していたわけで、竹内もそこまでは権藤という人物を把握していなかったわけかと。権藤は、なぜ竹内が自分を憎むのかさえ理解できず、この面会は完全に竹内の空振りで終わっています(そのことが同時に竹内の精神的瓦解に繋がる)。
天国と地獄  04.jpg 黒澤明がこの作品を撮った動機の一つに、児童誘拐犯罪の刑罰の軽さに対する憤りもあったと言われていますが、黒澤監督はここでは竹内を(死刑に対する彼の怯えも含め)容赦なく無残極まりない「敗者」として描いており、ピカレスクロマンとは一線を画しているように思いました。

天国と地獄  13.jpg天国と地獄  14.jpg この映画は'63年3月1日の公開であり、今年('13年)オリンピックの東京での2度目の開催(2020年)が決まりましたが、前の東京オリンピック('64年)の前年の公開ということになります(新幹線は未だ開通していない)。そ~かあ、今年でこの作品が公開されてから丁度50年になるのかあと。今観ると、とりわけロケシーンは貴重な映像の連続のように思え、時間の経過と共に価値が増してくる作品かもしれません。半世紀と言う年月の経過に一つの節目というものを感じますが、公開50年目に当たるこの1年間、地上波ではどの局でも放映されなかったようです(現実に誘拐事件が発生していることとの関係(配慮)もあるのか)。

佐田豊.jpg 権藤邸の運転手・青木がここまで責任を感じて自ら犯人の犯行拠点を探ろうとするものかという印象も最初に観た時はありましたが、見直してみて、時代背景というよりは、権藤を裏切る会社幹部との対比での描かれ方だったように思いました。その運転手役の佐田豊は1911年生まれで、2010年時点で健在であることが確認されているとのことです。今(2013年12月)現在も存命中であれば102歳になっており、かつての東宝専属俳優の中でも最長老の人物ということになります。
     
「サンデー毎日」1962(昭和37)年
ハマの麻薬地帯.jpg

天国と地獄63.jpg天国と地獄107.jpg

天国と地獄  02.jpg天国と地獄  15.jpg「天国と地獄」●制作年:1963年●監督:黒澤明●制作:東宝/黒澤プロダクション●脚本:黒澤明/菊島隆三/久板栄二郎/小国英雄●撮影:斎藤孝雄/中井朝一●音楽:佐藤志村 喬 in 天国と地獄.jpg東野英治郎 in 天国と地獄.jpg勝●原作:エド・マクベイン「キングの身代金」●時間:143分●出演:三船敏郎/仲代達矢/山崎努/香川京子/佐田豊/三橋達也/木村功/志村喬/石山健二郎/伊藤雄之助/中村伸郎/田崎潤/名古屋章/藤田江木俊夫.jpg進/田口精一/千秋実/土屋嘉男/三井浩次/北村和夫/東野英次郎/藤原釜足/菅井きん/江木俊夫/島津池袋文芸地下 地図.jpg文芸坐.jpg雅彦/山茶花究/浜村純/西村晃/沢村いき雄/大滝秀治(ノンクレジット)●公開:1963/03●配大滝秀治 天国と地獄.jpg給:東宝●最初に観た場所:池袋・文芸地下(80-07-03)●2回目:北千住・シネマブルースタジオ(11-01-22)(評価:★★★★★)●併映(1回目):「三十六人の乗客」(杉江敏男) 池袋・文芸地下 1997(平成9)年3月6日閉館。

《読書MEMO》
小林久三(推理作家,1935-2006)の推す推理・サスペンス映画ベスト10『大アンケートによる日本映画ベスト150』('89年/文春文庫ビジュアル版)
①天国と地獄('63年、黒澤明)
②飢餓海峡('64年、内田吐夢)
③砂の器('74年、野村芳太郎)
④新幹線大爆破('75年、佐藤純彌)
⑤黒い画集・あるサラリーマンの証言('60年、堀川弘道)
⑥張込み('57年、野村芳太郎)
⑦犬神家の一族('76年、市川昆)
⑧天城超え('83年、三村晴彦)
⑨黒の試走車('62年、増村保造)
⑩赤いハンカチ('64年、舛田利雄)

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予定調和だが、それなりに楽しめた。映画の方は「スーパーの女」などと比べるとやはり...。

県庁の星2.jpg  県庁の星 桂.jpg 県庁の星 dvd.jpg県庁の星 織田 柴崎.jpg  スーパーの女.jpg
県庁の星 (2) (ビッグコミックス)』 (全4巻) 桂 望実『県庁の星』「県庁の星 スタンダード・エディション [DVD]」柴咲コウ・織田裕二 「伊丹十三DVDコレクション スーパーの女

 Y県のエリート県庁職員である野村聡は、民間との人事交流プロジェクトに選ばれ、スーパー富士見堂で1年間の研修を受けることになるが、最初は役員根性・県庁マインド丸出しだった彼が、全く肌違いの民間の仕事を通して変質し、真の"スーパー改革"を実現するに至る―。

 公務員って、民間で言う「出向」のことを「研修」と言ってるみたいですね(「研修(出向)」と言っても、労務提供はしているわけだが、民間の「出向」と異なり、労災の請け元は官公庁のまま)。

 ということで、実質的なマンガの舞台は県庁内では無く、前半部分(1巻・2巻)はスーパーマーケット。後半部分(3巻・4巻)は、スーパーの経営を建て直した彼が、第3セクター赤字テーマパークを"潰す"ために送り込まれますが、前半からの流れで、結果はともかく、彼がどう立ち回るかは大体予想がついてしまいます。

 官庁の上層部や主人公の同期の役人の描き方はパターン化していて、事の展開もかなりご都合主義ですが、それでも、主人公とその教育係であるシングルマザーのパート女性とのやりとりも含め、結構楽しく読めました。"ギャグ的"に面白いというか、テーマパークに赴任した初日、「名刺を猿に配って終了」には思わず噴きました。

県庁の星 ポスター.jpg県庁の星1.jpg '05(平成17)年から'07(平成19)年にかけて「ビッグコミックススペリオール」に連載されたコミックで(桂望実の原作を杉浦真夕が脚色)、連載途中の'06年に織田裕二、柴咲コウ主演で映画化されていますが(実際に制作されたのは'05年。「白い巨塔」などのTVドラマを手掛けた西谷弘の映画初監督作品)、織田裕二って本気で演技してそれが丁度マンガ的になるようなそんな印象があり、こうした作品にはピッタリという感じでした。 柴咲コウ/織田裕二

スーパーの女.jpgスーパーの女2.jpg 但し、スーパーを舞台にした作品では、伊丹十三(1933-1997)監督、宮本信子主演の「スーパーの女」('96年/東宝)があるだけに、それと比べるとインパクトは劣るし、「スーパーの女」が食品偽装問題など今日的なテーマを10年以上も前から先駆的に扱っていたのに対し、「県庁の星」は映画もマンガもその部分での突っ込み度は浅く、特に映画は単なるラブ・コメになってしまったきらいも無きにしも非ずという感じ。

マルサの女.jpgマルサの女 1987.jpg 「お葬式」('84年/ATG)で映画界に旋風を巻き起こした伊丹十三監督でしたが、個人的には「マルサの女」('87年/東宝)がドラマチックで面白かったです(それぞれ第58回と第61回のキネマ旬報ベスト・テン第1位に選ばれている)。「マルサの女」は、山崎努がラブホテル経営者"権藤"を演じていますが、彼が新人として出演した「天国と地獄」('63年/黒澤プロ・東宝)で三船敏郎が演じていた会社社長の苗字も"権藤"でした。巧妙な手口で脱税を行う経営者らとそれを見破る捜査官たちとの虚々実々の駆け引きをテンポよく描いており、ラストに抜けてのスリリングな盛り上げ方はなかなかのものでした。

マルサの女2 三國.jpgマルサの女 .jpg それまであまり世に知られていなかった国税査察部の捜査の様子をリアルに描いたということで社会的反響も大きく、翌年には「マルサの女2」('88年/東宝)も作られましたが、山崎努に続いてこちらも、宗教法人を隠れ蓑とし巨額の脱税を企てようとする"鬼沢"に大物俳優・三國連太郎マルサの女2 dvd.jpgを配し、これもまた脇役陣を含め演技達者が揃っていた感じでした。

 伊丹十三監督は「前作はマルサの入門編」であり、本当に描きたかったのは今作であるという伊丹十三.jpg趣旨のことを後に述べていますが、確かに、鬼沢さえも黒幕に操られている駒の1つに過ぎなかったという展開は重いけれども、ラストは前作の方がスッキリしていて個人的には「1」の方がカタルシス効果が高かったかなあ。監督自身は、高い娯楽性と巨悪の存在を一般に知らしめることとの両方を目指したのでしょう。
伊丹十三(1933-1997/享年64(自死))

お葬式 映画 dvd.jpgお葬式 映画 00.jpg 確かに「お葬式」で51歳で監督デビューし、高い評価を得たのは鮮烈でしたが、作品の質としては3作目・4作目に当たる「マルサの女」「マルサの女2」の方が密度が濃いように思いました。それが、この「マルサの女1・2」以降は何となく作品が小粒になっていたような気がしたのが、この「スーパーの女」を観て、改めて緻密かつパワフルな伊丹作品の魅力を堪能できた―と思ったら、この「スーパーの女」を撮った翌年に伊丹十三は自殺してしまった。残念。
伊丹十三DVDコレクション お葬式

企業家サラリーマン.gif 「スーパーの女」の原作は、『小説スーパーマーケット』(『小説流通産業』('81年))で、作者の「安土敏」こと荒井伸也氏は元サミット社長であり、この人の『企業家サラリーマン』('86年/講談社、'89年/講談社文庫)は、海外飲食店グループを指揮する男性と、新しい時代の経営者を目指す女性たちの生き方を描いた作品で、作者が現役役員の時点でこお小説を書いているということもあってシズル感があり面白かったですが、こちらもテレビドラマ化されているらしい。どこかで再放送しないものかなあ。

企業家サラリーマン (講談社文庫)

県庁の星9.jpg「県庁の星」●制作年:2006年●監督:西谷弘●製作:島谷能成/亀山千広/永田芳男/安永義郎/細野義朗/亀井修朗●脚本:佐藤信介●撮影:山本英夫●音楽:松谷卓●原作:桂望実「県庁の星」●時間:131分●出演:織田裕二/柴咲コウ/佐々木蔵之介/和田聰宏/紺野まひる/奥貫薫/井川比佐志/益岡徹/矢島健一/山口紗弥加/ベンガル/酒井和歌子/石坂浩二●公開:2006/02●配給:東宝(評価:★★★)

スーパーの女 9.jpg「スーパーの女」●制作年:1996年●監督・脚本:伊丹十三●製作:伊丹プロダクション●撮影:前田米造/浜田毅/柳島克巳/高瀬比呂志●音楽:本多俊之●原作:安土敏「小説スーパーマーケット」●時間:127分●出演:宮本信子/津川雅彦/三宅裕司/小堺一機/伊東四朗/金田龍之介/矢野宣/六平直政/高橋長英/あき竹城/松本明子/山田純世/柳沢慎吾/金萬福/伊集院光●公開:1996/06●配給:東宝(評価:★★★★)

お葬式 映画01.jpgお葬式 映画 02.jpg「お葬式」●制作年:1984年●監督・脚本:伊丹十三●製作:岡田裕/玉置泰●撮お葬式 大滝435.jpg影:前田お葬式 笠智衆.jpg米造●音楽:湯浅譲二●時間:124分●出演:山崎努/宮本信子/菅井きん/財津一郎/大滝秀治/江戸家猫八/奥村公廷/藤原釜足/高瀬春菜/友里千賀子/尾藤イサオ/岸部一徳/笠智衆/津川雅彦/井上陽水●公開:1984/11●配給:ATG●最初に観た場所:池袋日勝文化 (85-11-04)(評価:★★★☆)●併映「逆噴射家族」(石井聰互)
Marusa no onna (1987)
Marusa no onna (1987) .jpgマルサの女  .jpg「マルサの女」●制作年:1987年●監督・脚本:伊丹十三●製作:玉置泰/細越省吾●撮影:前田米造●音楽:本多俊之●時間:127分●出演:宮本信子/山崎努/津川雅彦/大地康雄/桜金造/志水季里子/松居一代/室田日出男/ギリヤーマルサの女347.jpgク尼ヶ崎/柳谷寛/杉山とく子/佐藤B作/絵沢萠子/山下大介/橋爪功/伊東四朗/小沢栄太郎/大滝秀治/芦田伸介/小林桂樹/岡田茉莉子/渡辺まちこ/山下容里ジョイシネマ3 .jpg新宿ジョイシネマ3.jpg枝/小坂一也/打田親五/まる秀也●公開:1987/02●配給:東宝●最初に観た場所:新宿シネパトス (88-03-12)(評価:★★★★)●併映「マルサの女2」(伊丹十三)
新宿シネパトス (1956年3月「新宿名画座」オープン→1987年5月「新宿シネパトス」→1995年7月「新宿ジョイシネマ5」→1997年11月「新宿ジョイシネマ3」) 2009(平成21)年5月31日閉館 

マルサの女2 三國連太郎_1.jpg佐渡原:丹波哲郎.jpg「マルサの女2」●制作年:1987年●監督・脚本:伊丹十三●製作:玉置泰/細越省吾●撮影:前田米造●音楽:本多俊之●時間:127分●出演:宮本信子/津川雅彦/三國連太郎丹波哲郎/大地康雄/桜金造/加藤治子/益岡徹他/マッハ文朱/加藤善博/浅マルサの女2 笠.jpg利香津代/村井のりこ/岡本麗/矢野宣/笠智衆/上田耕一/中村竹弥/小松方正●公開:1988/01●配給:東宝●最初に観た場所:新宿シネパトス (88-03-12)(評価:★★★☆)●併映「マルサの女」(伊丹十三)

「●み 宮本 輝」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【2574】 宮本 輝 「螢川
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正統派の抒情文学。「泥の河」と、その映画化作品にはグッときた。
「泥の河」.jpg  映画 「泥の河」.jpg 螢川 (1978年) 200_.jpg  道頓堀川 dvd 1.jpg
蛍川 (角川文庫)』映画「泥の川」タイアップカバー版 小栗康平監督「泥の河」(1978)『螢川』(筑摩書房) 「あの頃映画 「道頓堀川」 [DVD]
蛍川・泥の河 (新潮文庫)
蛍川・泥の河 (新潮文庫) 0_.jpg泥の河-2.jpg 単行本『螢川』の刊行は'78年で、太宰治賞の「泥の河」と芥川賞の「螢川」の中篇2作を所収しています。「螢川」は思春期を、「泥の河」は少年期を扱っていますが、30歳で書いたというわりには、抒情性豊かな正統派文学に仕上がっているように思えました(さすが、後に芥川賞の選考委員になるだけのことはある?)。

 それぞれの舞台となる大阪と富山は、作者が5歳から9歳まで大阪に育ち、その後父親の仕事の関係で一時富山に移り住んだことに符号します。作者の家庭は、父親の事業の失敗などにより惨憺たるものであったらしいけれど、そうしたことが大学受験浪人の時に海外文学に耽溺する契機となり、作家・宮本輝を形成していったのではないでしょうか。

泥の河.jpg 「川」は流転の象徴であり、作者の小説には運命に翻弄される人々が時に生々しく描かれています。「螢川」「泥の河」のどちらも傑作だと思いました。芥川賞作品の「螢川」は、ホタルを少女に見せようとする少年の思いを透明感をもって描こうとしていて「性の目覚め」がモチーフにあって甘酸っぱささがあり、一方、「泥の河」の方は、下町の少年と錨船に住む母子との交流と別れを描いたもので、こちらの方は主要人物の年齢が低いせいか、鼻の奥にツンとくるような、ストレートに切ない読後感でした。

小栗 康平 「泥の河」2.png 「泥の河」は1981年に小栗康平監督で映画化され、第55回キネマ旬報ベストテンで第1位に選ばれましたが、最初に映画の製作発表の記者会見を行った際は、取材に来たマスコミは2社だけで、当初は上映館もなかなか決まらず自主上映だったとのとです。

「泥の川」田村高廣/藤田弓子

 朝鮮動乱の新特需を足場に高度経済成長へと向かおうとしていた昭和31年の大阪安治川河口が舞台。ある朝、河っぷちの食堂に住む食堂の息子、信雄(朝原靖貴)は置き去りにされた荷車から鉄屑を盗もうとしていた少年、喜一(桜井稔)に出会う。喜一は、対岸に繋がれているみすぼらしい舟に住んでおり、信雄は銀子(柴田真生子)という優しい姉にも会った。信雄の父、晋平(田村高広)は、夜、あの舟に行ってはいけないという。しかし、父と母(藤田弓子)は姉弟を夕食に呼んで、温かくもて泥の河-2-3.jpgなした。楽しみにしていた天神祭りがきた。初めてお金を持って祭りに出た信雄は人込みでそれを落としてしまう。しょげた信雄を楽しませようと喜一は強引に船の家に誘った。泥の河に突きさした竹箒に、宝物の蟹の巣があった。喜一はランプの油に蟹をつけ、火をつけた。蟹は舟べりを逃げた。蟹を追った信雄は窓から喜一の母(加賀まりこ)の姿を見た。裸の男の背が暗がりに動いていた。次の日、喜一の舟は岸を離れた。信雄は「きっちゃーん!」と呼びながら追い続けた-。

「泥の河」    .jpg「泥の河」  .jpg 原作の"原色の街"のイメージに反して映画は白黒映画で、それがかえって良く、昭和31年の大阪下町のひと夏をノスタルジックに描いていました。蟹に油を塗って火をつけ遊ぶ2人の少年が、船べりを逃げる蟹を追って眼にしたものは―、ラストの「きっちゃーん」という少年の呼びかけに応えることなく出て行く"船"―等々。
映画 「泥の河」ポスター
泥の河 ポスター.jpg 信雄の父、晋平(田村高廣)には実は前妻がいて、母親(藤田弓子)が父親と結ばれた経緯が信雄を妊娠したことを契機とする略奪婚であり、その前妻が死に目に信雄に会いたがっているので京都の病院まで見舞いに行き、そこで後妻が前妻に謝る―というのは原作には無い設定ですが、その辺りは多分に「螢川」のストーリーを下敷きにしているようです。こうした原作からの改変こそありましたが、夏の強い日差しを表すコントラストの強い画面や、子ども目線でのカメラ位置などの効「泥の河」 加賀.jpg泥の河 加賀まりこ.jpg果的な技巧が窺え、出演者の演技もベテラン、子役ともになかなか良かったです。特にラストはグッときます。登場場面が数カットしかなかった加賀泥の川.bmpまりこ(当時の加賀まりこは多忙を極め、スケジュールの合間をぬって僅か6時間で彼女の出る全シーンを撮泥の河 映画es.jpg小栗 康平 「泥の河」3.jpgった)が「キネマ旬報助演女優賞」を受賞しましたが、確かに情感たっぷりの堂々たる演技ぶりでした。
泥の河〓81東映セントラル〓 [VHS]

スティーブン・スピルバーグ5Q.jpg 但し、個人的に思うに、一番上手かったのは子役達ではなかったかと(特に、姉弟の姉の方を演じた柴田真生子がいい)。この映画の子役の演技にはスティーブン・スピルバーグも感嘆し、演出の秘密を知ろうとして来日時に小栗康平に面会を求めたそうです。


映画 道頓堀川 0.jpg ちくま文庫版は「川三部作」として、「泥の河」「螢川」に加えて「道頓堀川」が収録してしますが、こちらは、両親を亡くした大学生の主人公・邦彦が、生活の糧を求めて道頓堀の喫茶店に住み込んだところ、邦彦に優しい目を向ける店主の武内は、実はかつてビリヤードに命をかけ、妻に去られた無頼の過去を持つ男であり、邦彦もビリヤードを巡る男の勝負の世界へ没入していくというもの。

「道頓堀川」松坂慶子/真田広之

 「螢川」の主人公が思春期の終わり頃にあるとすれば、こちらは青年期の始めになりますが、それ以上に前2作とは雰囲気が違ったようにも思います。そう感じるのは、深作欣二(1930-2003)監督による映画化作品「道頓堀川」('82年/松竹)を観たせいもあるかもしれません。真田広之主演ということもあって、後に観た和田誠監督の「麻雀放浪記」('84年/東映)とイメージがダブりました(妻や愛人をかたに賭け事をするエピソードなど共通項多し)。松坂慶子が出ていることもあって深作欣二のこの次の監督作「蒲田行進曲」('82年/松竹)ともダブったりしましたが、原作よりウェットな感じになっていて、作者独特のドロった背景の中にもある透明感のようなものが感じられなかった気がします。映画の方はあくまで、深作欣二監督の作品として観るべきものだったのかも(深作欣二監督は、「道頓堀川」と「蒲田行進曲」の"合わせ技"で、この年の毎日映画コンクール監督賞を受賞している)。

泥の河00.jpg泥の河images.jpg「泥の河」●制作年:1981年●監督:小栗康平●脚本:重森孝子●撮影:安藤庄平●音楽:毛利蔵人●原作:宮本輝●時間:105分●出演:田村高廣/藤田泥の河01.jpg弓子/朝原靖貴/桜井稔/柴田真生子/加賀まりこ/殿山泰司/芦屋雁之助/西山嘉孝/蟹江敬三/八木昌子/初音礼子●劇場公開:1981/01●配給:東映セントラル●最初に観た場所:日比谷・第一生命ホール(81-05-22)●2回目:池袋・テアトル池袋(82-07-24)(併映:「駅 STATIOキネカ大森2.jpg第一生命館.jpgN」(降旗康雄))●3回目:キネカ大森(85-02-02) (評価★★★★☆) 旧・第一生命ホール(左) 1952年9月15日、第一生命館6Fにオープン、1989年閉館。2001年11月、晴海アイランド・トリトンスクエアに2代目第一生命ホールオープン キネカ大森(右) 1984年3月30日、西友大森店内に都内初のシネコンとしてオープン(3スクリーン)

道頓堀川 ポスター.jpg映画 道頓堀川 1.jpg「道頓堀川」●制作年:1982年●監督:深作欣二●製作:織田明/ 斎藤守恒●脚本:野上龍雄/深作欣二●撮影:川又昂 ●音楽:若草恵(テーマ曲:上田正樹「哀しい色やねん」)●原作:宮本輝●時間:130分●出演:松坂道頓堀川 山崎努.jpg慶子/真田広之/佐藤浩市/古館ゆき/大滝秀治/渡瀬恒彦/山崎努/柄本明/カルーセル麻紀/加賀まりこ/名古屋章/片桐竜次/加島潤/成瀬正/岡本麗●劇場公開:1982/06●配給:松竹●最初に観た場所:吉祥寺松竹(82-07-04) (評価★★★)
渡瀬恒彦・佐藤浩市・真田広之/大滝秀治
道頓堀川  watase .jpg 大滝秀治 道頓堀川.jpg
加賀まりこ
加賀まりこ 道頓堀川.jpg 道頓堀川8.jpg 加賀まりこ
[下写真]吉祥寺スカラ座・吉祥寺オデヲン座(旧・吉祥寺松竹)・吉祥寺セントラル・吉祥寺東宝
吉祥寺オデヲンhoka.jpg吉祥寺オデヲン座 .jpg吉祥寺松竹/吉祥寺オデヲン座 1954(昭和29)年、吉祥寺駅東口付近に「吉祥寺オデヲン座」オープン。1978(昭和53)年10月、吉祥寺オデヲン座跡に竣工の吉祥寺東亜会館地下1階に「吉祥寺松竹オデヲン」オープン(5階「吉祥寺セントラル」、3階「吉祥寺スカラ座」、2階「吉祥寺アカデミー」(後に「吉祥寺アカデミー東宝」→「吉祥寺東宝」)、地下1階「吉祥寺松竹オデヲン」(後に「吉祥寺松竹」→「吉祥寺オデヲン座」)。 2012(平成24)年1月21日、同会館内の全4館を「吉祥寺オデヲン」と改称。 2012(平成24)年8月31日、地階の前 吉祥寺オデヲン座(旧 吉祥寺松竹)閉館。

吉祥寺東亜会館
吉祥寺オデオン.jpg吉祥寺オデヲン.jpg 

泥の河・螢川・道頓堀川 (ちくま文庫)00_.jpg【1978年単行本[筑摩書房(『螢川』)]/1980年文庫化[角川文庫(『螢川』)]/1986年再文庫化[ちくま文庫(『泥の河・螢川・道頓堀川』)]/1994年再文庫化・2005年改版[新潮文庫(『螢川・泥の河』)]】 

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クライマックスがやや弱い、それと、少し長すぎる気もするが、それでもそこそこの力作。

模倣犯 上.jpg 模倣犯 The copy cat 下.jpg  模倣犯 上下.jpg   模倣犯.jpg
模倣犯〈上〉模倣犯〈下〉 style=』(単行本カバー画:大橋 歩)/新潮文庫(全5巻) 〔'05年〕

「模倣犯」.jpg 2001(平成13)年・第55回「毎日出版文化賞」(特別賞)並びに2002(平成14)年・第52回「芸術選奨」受賞作。2001 (平成13) 年度「週刊文春ミステリー ベスト10」(国内部門)第1位。2002 (平成14) 年「このミステリーがすごい」(国内編)第1位。併せて、2002(平成14)年・第5回「司馬遼太郎賞」も受賞。

 ある日、公園のゴミ箱から女性の右腕が発見されるが、それは猟奇的な残虐さと比類なき知能を併せ持つ犯人からの宣戦布告であり、連続女性殺人事件のプロローグだった―。

模倣犯 ラスト.jpg模倣犯 movie.jpg SMAPの中居正広が初主演した映画で荒筋を知る人は多いと思いますが、映画でのあの「自爆シーン」の結末は何だったのでしょうか? 映画を観て原作の方は未読であるという人に、"正しい理解"のために原作を読むことをお勧めしたいようにも思います。とにかく大長編作品であるためにやや読むのに躊躇しますが、でも、やっぱり原作を読んで正しく評価していただきたいと思うぐらいに、映画の方は勝手に原作を改変して、しかもダメにしてしまっているように思えます(原作者が試写会の途中で席を立ってしまったというのもわかる)。

 小説そのものについては、『火車』('92年/双葉社)の素晴らしいラストや『理由』('98年/朝日新聞社)の冒頭の意外な展開に比べると、本書のクライマックスにおける犯人を激昂させるキー―この鍵で扉が簡単にバタンと開いてしまうところは、やはり今ひとつでしたが(今まで極めて冷静だった犯人が、あまりに脆く瓦解する)、でも読んでいる間はやはりハマりました。

 個人的には『火車』が星5つで、『理由』も星5つに近く、この作品もそれらに及ばずともそこそこの評価になってしまうのです。さすが宮部みゆき。それだけに、この作品ももっとまともに映像化されれば良かったのにと思ってしまいます(『火車』は'94年にテレビ朝日で"2時間ドラマ"化され、『理由』は'04年に大林宣彦監督により映画化されている)。

 全部読むのにかなり時間かかりました。それだけ長時間、宮部ワールドに浸れたということでもありますが、少し長すぎる気もします。けっこう残忍な場面とかがあったわりには、登場キャラの多いRPGゲームをやり終えたような読後感であるのは、この作家の作品の特徴と言うか、"作家体質"的なものではないかと思います(本人、RPGゲーム大好き人間らしいですが)。

模倣犯 2002.jpg「模倣犯」●制作年:2002年●製作:「模倣犯」製作委員会(東宝・小学館・博報堂DYメディアパートナーズ・毎日新聞社・日本テレビ放送網ほか)●監督:森田芳光●撮影:北信康●音楽:大島ミチル●原作:宮部 みゆき●時間:124分●出演:中居正広/山崎努/伊東美咲/木村佳乃/寺脇康文/藤井隆/津田寛治/田口淳之介/藤田陽子/小池栄子/平泉成/城戸真亜子/モロ模倣犯 文庫.jpg師岡/村井克行/角田ともみ/中村久美/小木茂光/由紀さおり/太田光/田中裕二/吉村由美/大貫亜美●劇場公開:2002/06●配給:東宝 (評価★☆)

 【2005年文庫化[新潮文庫(全5巻)]】

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