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背景のスケールの割には事件が小粒。「2年連続3冠達成」は'ハロー効果'の為せる技ではないか。

王とサーカス.jpg王とサーカス』(2015/07 東京創元社)

 2015(平成27)年度「週刊文春ミステリー ベスト10」(国内部門)第1位。2016(平成28) 年「このミステリーがすごい」(国内編)第1位、2016年「ミステリが読みたい!」(早川書房主催)第1位(因みに、作者は前作『満願』に続いて2年連続の「週刊文春ミステリー ベスト10」「このミステリーがすごい」「ミステリが読みたい!」3冠を達成したことになる)。2016(平成28)年・第13回「本屋大賞」第6位。

 2001年、新聞社を辞めたばかりの太刀洗万智は、知人の雑誌編集者から海外旅行特集の仕事を受け、事前取材のためネパールに向かった。現地で知り合った少年にガイドを頼み、穏やかな時間を過ごそうとしていた矢先、王宮で国王をはじめとする王族殺害事件が勃発する。太刀洗はジャーナリストとして早速取材を開始したが、そんな彼女を嘲笑うかのように、彼女の前にはひとつの死体が転がり―。(「BOOK」データベースより)

 『満願』は警察官ものなどを含む短編集でしたが、こちらは2001年6月にネパールの首都カトマンズのナラヤンヒティ王宮で実際に発生したネパール王族殺害事件がモチーフとなっており、なかなか思い切った背景選択だなあと。但し、主人公の大刀洗万智は、ユーゴスラビア紛争(1991-2000)モチーフにした『さよなら妖精』('04年/東京創元社)で当時高校生として登場しています。

 ということで、本作は、新聞記者を経てフリージャーナリストとなった彼女を主人公とする<ベルーフ>シリーズの1作とのことですが、読み終えてみると、背景がネパール王族殺害事件という壮大で衝撃的なものだった割には、推理の元となる事件そのものは、犯人の動機なども含め小粒であったように思いました。

 前半は紀行文のような穏やかな感じで進むので、後半その流れをどんな結末に持っていくのか期待されましたが、確かに犯人の意外性はあったかもしれないものの、事件そのものが、コレ、ネパール王族殺害事件など別になくてもいのではないかという感じのしょぼいものでややがっかりしました。

 ネット上には、「面白かった!」「最後まで目が離せない極上のミステリ」といった評価が溢れていますが、ある種(この作家のものが面白くないはずがないという)"ハロー効果"的な作用も働いたのではないかという気が、個人的にはしないでもないです。

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粒揃いの短編集。「夜警」と「満願」がいい。"粒揃い"だが、飛び抜けたものは見出しにくい?

米澤 穂信 『満願』2.jpg満願1.jpg満願2.jpg
満願』(2014/03 新潮社)

 2014(平成26)年・第27回「山本周五郎賞」受賞作。2014年度「週刊文春ミステリー ベスト10」(国内部門)第1位。2015 (平成27) 年「このミステリーがすごい」(国内編)第1位、2015年「ミステリが読みたい!」(早川書房主催)第1位(因みに、「週刊文春ミステリー ベスト10」「このミステリーがすごい」「ミステリが読みたい!」の3冠は2008年に「ミステリが読みたい!」がスタートして初)。2015(平成27)年・第12回「本屋大賞」第7位。

 交番勤務の警察官が主人公。交番に訪れたありふれたDV被害者。包丁を持って暴れる彼女の夫と対峙し、発砲するも殉職した同僚の警察官。その事実の裏に潜む心の闇とは?(「夜警」)。美しい母、二人の美しい娘、女たらしの父親。離婚協議が進むなか、娘二人のとった驚きの行動。美しく残酷な性(さが)が導いた結末とは(「柘榴」)。 殺人の罪を認め服役を終えた下宿屋の内儀。人柄を知る元下宿人の弁護士は内儀の行動に疑問を抱く。下された判決に抗おうとせず刑期を勤め上げた女の本当の願いとは(「満願」)。他「死人宿」「万灯」「関守」の3編を収録。

 賞を総嘗めしただけあって粒揃いという感じでしょうか。どれも面白く、個人的には最初の「夜警」と最後の「満願」が特に良かったかなあ。ただ、どちらにも言えることですが、トリックの面白さであって、犯行の動機という点からすると、こんな動機のために(しかも相当の不確実性が伴うという前提で)ここまでやるかという疑問は少しありました。「死人宿」と「関守」も旅館と喫茶店の違いはありますが、ちょっと雰囲気似ていたかなあ。「関守」は途中でオチが解ってしまいましたが、それでも面白く読めました。ということで、"粒揃い"ではあるが、飛び抜けたものは見出しにくいという感じも若干ありました。

 敢えて一番を絞れば、表題作の「満願」でしょうか。直木賞の選評で選考委員の宮部みゆき氏が、「ハイレベルな短編の連打に魅せられました」とし、「表題作の『満願』には、松本清張の傑作『一年半待て』を思い出しました」としているのにはほぼ納得(この作品自体、何となく昭和の雰囲気がある)。しかし、直木賞の選考で積極的にこの短編集を推したのは宮部氏のみで、「既に他の文学賞も受賞している作品ですが、意外に厳しい評が集まり、事実関係の記述のミスも指摘されて、私は大変驚きました」としています。

 "事実関係の記述のミス"とは幾つかあったようですが、東野圭吾氏が「最も致命的なのは『万灯』で、コレラについて完全に間違えている。(中略)この小説のケースでも感染はありえない」というもので、確かに"致命的"であったかも。更には、「『満願』の妻には借金の返済義務はない。(中略)殺人の動機も成立しない」としていて、これも痛いか(個人的にはいいと思ったのだが...)。

 結局、浅田次郎氏の「稀有の資質を具えた作家が、同一作品で文学賞を連覇することはさほど幸福な結果とは思えぬ」という流れに選考委員の多くが乗って、直木賞は逃したという感じでしょうか。まあ、いずれは直木賞を獲るであろうと思われるその力量を認めた上での配慮(?)。自分自身の評価も星5つではなく星4つとしましたが、作者の今後に期待したいと思います。

 かつて横山秀夫氏が『半落ち』('02年/講談社)で直木賞候補になったものの、直木賞選考員会で作中の「事実誤認」を指摘されて直木賞に「絶縁」宣言をし、伊坂幸太郎氏が「執筆活動に専念したい」という理由で、山本周五郎賞受賞の自作『ゴールデンスランバー』('07年/新潮社)が直木賞候補になることを辞退したことがありました(伊坂氏の場合は初めて直木賞候補になった『重力ピエロ』が選考員会で一部の委員に酷評されたという経緯があった)。まあ、この作者の場合は、そんな事態にはならないとは思いますが...。

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「不全家庭」の再生。環境に負けない少年の心意気が健気。ミステリと言うより"文学作品"的。

ラスト・チャイルド ポケミス.jpg ラスト・チャイルド ポケミス2.jpg  ラスト・チャイルド 上.jpg  ラスト・チャイルド 文庫上.jpg ラスト・チャイルド文庫下.jpg 
ラスト・チャイルド (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)』『ラスト・チャイルド(上) (ハヤカワ・ミステリ文庫)』『ラスト・チャイルド(下) (ハヤカワ・ミステリ文庫)

ジョン・ハ―ト.jpg 2010 (平成22) 年度「週刊文春ミステリーベスト10」(海外部門)第1位作品であり、早川書房の「ミステリが読みたい! 2011年版」(海外編)でも第1位。

 13歳の少年ジョニーの家庭は、1年前に起きた双子の妹アリッサの誘拐・行方不明事件のために一変し、共に優しかった両親は、父親はやがて謎の失踪を遂げ、母親は薬物に溺れるようになっていた。ジョニーは、妹の無事と家族の再生を願って、昼夜を問わない危険な調査にのめり込んでいくが―。

 ミステリ界の"新帝王"との呼び声も高いジョン・ハート(John Hart、1965-)が2009年に発表した作品(原題:The Last Child)であり、「アメリカ探偵作家クラブ賞」最優秀長篇賞と「英国推理作家協会賞」最優秀賞スリラー賞のW受賞作とのこと。また、「早川書房創立65周年&ハヤカワ文庫40周年記念作品」ということで(何だか"肩書"が長いが)、ハヤカワ・ミステリ文庫とほぼ同時期に、ポケット・ミステリからも刊行されるという早川書房の力の入れようです。

 実際、日本でも、各ミステリ・ランキングで上位に入るなど評判も良かったようで、自分自身も読んでみて感動しました。

 家族が崩壊して「不全家庭」状態になっているにも関わらず、そうした環境に押しつぶされることなく、自らを律し、家族の再生という目的意識を持って、親友と共に妹の行方を探し続ける少年の心意気が健気に感じられました。

 全体としてハードボイルド・タッチな中にも、登場人物の心理描写などにおいて詩的な表現が入り交ざったりして、ミステリと文学作品の中間のようなトーンであり、作者自身が「(テーマとしての)家族崩壊は豊かな文学を生む土壌である」と述べているそうです。

 前半部でジョニーの目の前で殺人事件が起き、被害者が死に際に「あの子を見つけた」というダイイング・メッセージを残したため、妹の生存に希望を抱いた少年は、犯罪歴のある近隣の住人たち(これが分かるというところがアメリカ社会らしい)を日々監視して過ごしますが、ここから物語の展開は遅々として進まず、ミステリとしては、必ずしもテンポはいいものではないように思えました。

 一方、人物描写はよく出来ていて、とりわけ殺人事件の捜査にあたるハント刑事の、少年の妹の誘拐事件を解決出来ていないという悔恨の情を抱え、少年の母親への愛情にも似た思い入れがありながらも、少年の行動を手掛かりに、上司の妨害や嫌がらせにも屈せず事件の核心に迫ろうとする姿勢には、共感を覚えました(自分の事件への深入りを、かつての少年の妹の誘拐事件からくる偏りによるものではないかと自問するなど、ストイック且つ自省的なところもいい)。

 「家族崩壊」は少年の家庭だけのことではなく、ハント刑事も息子とうまくいっておらず、またジョニーと探索行動を共にするジャックも、親兄弟とうまくいっていません。
 途中で発覚した事件(こっちの方がより大事件?)は小児性愛者によるものであるし、ある意味、アメリカの社会や家庭が抱えている問題を扱った"社会派"系でもあるなと、途中から、半分ミステリとして読むことを自分の中で抑えてしまった感もありましたが、読み終えてみて、これらの親子関係は実は事件の伏線でもあったんだなあと。

 但し、"予想通り"通常のミステリにおけるカタルシスが期待出来るような作品ではなく、むしろ、ずっしり重い気分にさせられる話でした(純粋にミステリとして見た場合の評価は★3つかも知れない)。
 そうした中で、悲惨な事実を知ってもそこから立ち直り、"お墓参り"をしたり、親友に"仲直り"の手紙を書いたりするジョニー少年の、あくまでも前向きな姿勢が"救い"であるような、そんな作品でした(少年1人にこれだけのものを負わせちゃっていいのかなあ)。

 【2010年新書化[ハヤカワ・ポケット・ミステリ]/2010年文庫化[ハヤカワ・ミステリ文庫(上・下)]】 

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面白かった〜。特に後半は息もつかせぬという感じ。現時点での作者の集大成的作品。

ゴールデンスランバー1.jpgゴールデンスランバー.jpg  ゴールデンスランバー3.jpg 2010年映画化(東宝) 
ゴールデンスランバー』 (2007/11 新潮社)

 2008(平成20)年・第21回「山本周五郎賞」受賞作、並びに第5回「本屋大賞」の大賞(1位)受賞作。2009 (平成21) 年「このミステリーがすごい」(国内編)第1位。 2009(平成21)年・第2回「ミステリが読みたい!」(早川書房主催)国内編・第1位(他に、「週刊文春」2008年度ミステリーベスト10(国内部門)で第2位)。

 仙台で金田首相の凱旋パレードが行われている時、旧友の森田森吾に何年かぶりで呼び出された青柳雅春は、「おまえは、陥れられている。今も、その最中だ」「金田はパレード中に暗殺される」「逃げろ!オズワルドにされるぞ」といきなり言われ、その時遠くで爆音がして、折しも現れた警官は青柳に向かって拳銃を構えた―。

 面白かった〜。特に後半は息もつかせぬという感じ。エンタテイメントに徹することを試みた書き下ろし作品ということですが、ということは、これまでの作者の作品は"純文学"が入っていたということ?
 それはともかくとして、本作品が直木賞候補になった時点で作者はそれを辞退してしまいましたが、"幻の直木賞候補作" と言うより"幻の直木賞作"そのものと言えるかも。

 日本を舞台としながらも、架空の政治背景を設定し、年代も近未来と過去が混ざったような曖昧なものにしていることで、却ってフィクションの世界に入り込み易かったです。
一方で、細部の描写がキッチリしているし、監視社会の姿や警察・マスコミの対応にもリアリティがあることが、作品の面白さを支えているように思えます。

 逃亡する主人公を助ける面々が、それぞれ立場は異なるものの、ある種の義侠心のようなものに突き動かされて行動していて、古風と言えば古風なパターンですが、いいんじゃないかなあ、この"熱い"雰囲気。

「ゴールデンスランバー」映画.jpg 個人的評価は「星5つ」ですが、強いて難を言えば、後半で或る人物が主人公を導くために現れ、この男のやっていることの事件性の方も考えてみれば本題に劣らずかなり大きいものであることが気になったのと、主人公がマスコミを利用した2つの狙い(「無実の疎明」と「身の安全の確保」)のうち、結局1つしか利用目的を果たしておらず、カタルシス効果としては十全なものになっていないことかなと。

映画「ゴールデンスランバー」('10年/東宝)監督:中村義洋 
出演:堺雅人/竹内結子/吉岡秀隆/劇団ひとり/香川照之

 それでも、これまでの作者の作品の集大成的作品であるとの評判には自分としても全く異論は無く、「星5つ」の評価は変わりません。

 【2010年文庫化[新潮文庫]】

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サイコメトラーという際どいモチーフを上手く作品に織り込んでいるが、冗長さは否めない。

楽園 上.jpg 楽園〈下〉.jpg 『楽園 上』 『楽園 下』 ['07年] 宮部 楽園 文春文庫 上.jpg 宮部 楽園 文春文庫下.jpg 『楽園 上 (文春文庫)』 『楽園 下 (文春文庫)』 ['10年]

 2008(平成20)年・第1回「ミステリが読みたい!」(早川書房主催)第1位作品。

「模倣犯」の事件から9年が経ったフリーライター・前畑滋子のもとに、一人息子を交通事故で失った荻谷敏子という中年女性が現れ、12歳で死んだその息子には特殊能力があったのかもしれない、少年は16年前に殺された少女の遺体が最近になって自宅の床下から発見されたという事件の前に、それを絵に描いていたという―。

 『模倣犯』('01年)の続編という形をとっていますが、『理由』('98年)など、現代社会における家族の在り方をテーマにした作品の流れに近いように思いました。

 仏教で、親が子より先に亡くなることを「順縁」と呼び、子が親に先立って亡くなることを「逆縁」と呼びますが、「逆縁」にめぐり逢った人は、何かしら宗教的なもの、超常的なものに惹かれ、時にそれが生きる支えになりことがあるといいます。

 本作では、「サイコメトラー」という、現代推理モノとしては少し"際どい"とも思えるモチーフを、こうした人間の心理・心情に自然に呼応する形で上手く作品の中に織り込んでいるように思います。

 但し、クライマックスに至るまでがあまりに冗長で、第4コーナーを回ったところぐらいからやっと"息もつかせぬ"展開になり、それまで焦らされた分だけカタルシス効果が大きいとも言えるのですが、そのクライマックス部分を手紙形式にしたことが、果たして効果的であったどうかも疑問が残りました。

 文章自体は相変わらず読み易く、「冗長さ」を「きめ細かさ」ととればそれ自体は決して苦になるものではないけれども、新聞連載小説という枠組みの中で作品の「長さ」が予め既定され、それに合わせてやや引き伸ばし気味に書いているような感じがしたなあ、比較的単純なプロットの割には。

 【2010年文庫化[文春文庫(上・下)]】

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