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特撮よりむしろ"異形の愛"を描いた人間ドラマに比重が置かれている。
「ガス人間第1号 [DVD]」土屋嘉男/八千草薫/三橋達也
同一犯によると思われる連続強盗殺人事件が発生、完全密室での犯罪は多くの謎を残すが、事件の捜査にあたる岡本警部補(三橋達也)と婚約者の新聞記者・田野京子(佐多契子)は、春日流舞踊の家元・藤千代(八千草薫)に疑惑を抱き、家宅捜索により盗まれた紙幣を発見、直ちに彼女を拘留するが、その頃、警視庁記者クラブに突然現れた図書館員の水野(土屋嘉男)は、自分が連続強盗殺人事件の犯人であると名乗り、完全犯罪の種明かしをすると宣言、半信半疑で見守る人たちの前で次第に気体化してガス人間となる。藤千代の無実を証明するために現れた水野は、零落した春日流の藤千代を助ける為、佐野博士(村上冬樹)に騙されて人体実験の犠牲となりガス人間にされてしまった自らの能力を使って、愛する者のために強盗殺人を重ねていたのだった―。
'60(昭和35)年の東宝作品で、「透明人間」('54年)から「美女と液体人間」('58年)へと続いた東宝「変身人間シリーズ」の集大成とも言える作品であり、円谷英二が特撮監督を務めていますが、特撮部分は水野がガス人間化するところしかなく(ガス人間の鉄格子すり抜けは「ターミネーター2」('84年/米)でジェームズ・キャメロンがパクったという話もあるが)、特撮映画には違いないものの、「特撮」乃至は「スリラー」と言うよりもむしろ「異形の愛」を描いた人間ドラマに比重が置かれています。
八千草薫(1931-2019)が凛とした舞踏の家元を演じて美しく、水野との愛に殉ずる覚悟で踊り続ける"道行き"的なラストは、哀切感溢れるものとなっていますが、ガス人間を演じた土屋嘉男(1927-2017)の演技も、傲岸且つニヒルな中にも、自らが得体の知れないガス人間であるということからくる翳を秘めていて、しかも一女性に愛を捧げるという、なかなか味のあるものとなっています(どちらかと言うと、ガス人間を愛する藤千代の方が愛の「異形」度が高いかも)。
土屋嘉男は、黒澤明監督に目をかけられて「七人の侍」('54年)に出演して以来、黒澤作品に出続けた一方で、本多猪四郎監督の「ゴジラ」('54年)の撮影現場を個人的興味から見学に行って、やがて東宝特撮映画の常連にもなったという変わり種であり、同じ「東宝」ではありますが、「黒澤組」と「本多組」の両方に属していたような人です(志村喬、藤田進などもそうと言えるが)。
出演した東宝特撮映画の数はかなり多く、中でも「ガス人間第一号」の3年前の'57(昭和32)年の「地球防衛軍」で、わが国で初めて宇宙人役(ミステリアン総統)を演じた役者であることは有名です(「顔が見えなくてもいいから宇宙人役をやりたいという本人の希望だったらしい)。 [写真上右]藤千代の屋敷のセットで台本を確認する土屋嘉男(藤千代を愛するガス人間・水野役)と八千草薫、本多監督
因みにこの「ガス人間第一号」には今でも根強いファンがいて、土屋嘉男がガス人間に変身するところのフィギアなども商品化されています。
「ガス人間第一号」●制作年:1960年●製作:田中友幸●監督:本多猪四郎●特技監督:円谷英二●脚本:木村武●撮影:高橋通夫●音楽:宮内国郎●時間:91分●出演:三橋達也/佐多契子/八千草薫/左ト全/土屋嘉男/伊藤久哉/田島義文/小杉義男/三島耕/松村達雄/村上冬樹/佐々木孝丸/山田巳之助/松村達雄/宮田羊容/野村浩三/山本廉/松本染升/堤康久/山田彰/広瀬正一/中村哲/塩沢とき●公開:1960/12●配給:東宝(評価:★★★☆)