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戦前の〈スクリューボール・コメディ〉のテイストが60年代でどう変わったか。

ハワード・ホークス 「男性の好きなスポーツ」.jpg男性の好きなスポーツ  00.jpg 男性の好きなスポーツwi.jpg ロック・ハドソン/ポーラ・プレンティス
「男性の好きなスポーツ」ポスター/「Man's Favorite Sport? [DVD] [1964] by Rock Hudson

男性の好きなスポーツ 00.jpg ロージャー・ウィルビー(ロック・ハドソン)は釣り具メーカーの敏腕セールスマンで、彼の著書『かんたん釣り教本(Fishing Made Simple)』はベストセラーになっている。ある日、ワカプーギー湖で催される競技会にゲストスターとして出場するよう主催者側のイージー(マリア・ペルシー)とアビー(ポーラ・プレンティス)に口説かれ、社長(ジョン・マクギバー、しょっちゅうカツラがずれる)の命令ということもあり渋男性の好きなスポーツ 01.jpg々承諾するが、実は彼には一度も釣りの実地経験が無く魚は嫌いなのだ。美人2人と湖に行くと聞男性の好きなスポーツ 02.jpgいた婚約者のテックス(シャーレン・ホルト)は嫉妬する。湖での3日間の競技会の始まる前夜、アビーが彼に言い寄ってくる。何男性の好きなスポーツ 03.jpgとか言い逃れてコテージに戻ると、彼女は彼のベッドで寝ている。翌朝、彼のコテージをテックスが不意に訪れ、状況を誤解男性の好きなスポーツ 23.jpgして怒る。競技会が始まり、初日の彼の成績はマグレで2位。その夜、彼はテックスに詫び、彼女の心も和らぐが、彼女が再び訪ねて来ると、皮肉にもロージャーのネクタイがイージーのドレスのジッパーに引っ掛かって背中がはだけている場面に遭遇する。2日目はマグレで1位となり、その3日目は熊の捕まえた魚を横取りして遂に優勝。だが、アビーに諭されてトロフィーは返上、自分は今まで釣りをしたことが無かったことを皆に告白する―。

男性の好きなスポーツ 24.jpeg ハワード・ホークス(1896-1977/享年81)監督の1964年公開のスラップスティック・コメディで、ハワード・ホークスはハンフリー・ボガート主演の「脱出」('44年)、「三つ数えろ」('46年)といったハードボイルドタッチの作品や、ジョン・ウェイン主演の「赤い河」('48年)、「リオ・ブラボー」('59年)といった西部劇など男臭い映画を撮る一方で、マリリン・モンローが出演している「モンキー・ビジネス」('52年)や「紳士は金髪がお好き」('53年)など男女のドタバタ・ロマンティック・コメディも撮っていて、この作品もその部類と言えます。1975年にアカデミー名誉賞を授与されていますが、現役時にはアカデミー賞の受賞どころかノミネートも一度しかなく、多くの傑作を残しながら、批評家からは通俗的な娯楽専門のB級映画監督としてしか見られなかったといいますが、器用過ぎて却って損をしたのかなという気もします。

男性の好きなスポーツes.jpg この作品は、戦前に〈スクリューボール・コメディ〉と言われたものへのオマージュが込められているらしいですが(〈スクリューボール・コメディ〉の第1号は「或る夜の出来事」('34年)であると言われているが、この作品のオマージュ対象はハワード・ホークス自身が監督した「赤ちゃん教育」('38年)らしい)、古き良き時代のおおらかな雰囲気のラブ・コメディという感じがします。主人公ロージャーが釣りの本を書いてベストセラーになっているのに自身は釣りをしたことがないという設定は面白いと思いましたが、そのために事実を知ったイージーら女性陣からは釣りの手ほどきを受けつつもペテン師扱いされているけれど、自分で情報を集めているわけだし、「自分はどこそこで大物を釣った」とか言わない限りはペテン師にはならないのではないかな。

男性の好きなスポーツ kuma.jpg ロージャーが美女に振りまわされる姿をギャグでつないでいくという流れで、ロージャーの乗ったバイクが熊とぶつかったと思ったら、熊がバイクを乗りこなしていたり、更にはロージャーが再び熊に遭遇して湖面を水しぶきを上げながら走って逃げるといった(「レモ/第1の挑戦」('85年)のラストみたい)、現実にはありえないようなシュールな場面もありますが、まあ概ねオーソドックスなドタバタ劇という感じでしょうか。

男性の好きなスポーツ 89.jpg 〈スクリューボール・コメディ〉のセオリーは、プロセスですっちゃかめっちゃかあってもラスト男女が結ばれること(但し露骨なセクシー表現は無し)。結局、ロージャーは女性たちから散々ひどい目に遭いながらもアビーと結ばれ、「男性の好きなスポーツ」(原題:Man's Favorite Sport?)の答は「女性」だったということになるでしょうか。後に、有名人で最初に同性愛をカミングアウトした人物となるロック・ハドソン(カミングアウトする頃には業界内では"公然の秘密"だったようだが)がこれを演じているのはやや皮肉な気もします。

男性の好きなスポーツ  97.jpg 「孔子曰く」と言って色々なものを売りつける先住民風の男(ノーマン・アルデン)が、最後、「じゃじゃ馬は押していけ」とロージャーを励ましますが、この言葉は孔子じゃなくて自分の言葉で、孔子は世間知らずだという。だったら、どうして今まで孔子の言葉を引いていたのか。この辺りが微妙に可笑しかったです。

男性の好きなスポーツV1_.jpg 全体としては、肩が凝らずに観られる作品だけれど、やや笑いのパンチ不足? 国内でソフト化されていない理由も分からなくもないといった感じでしょうか。ソフト化されていないことが付加価値になっている部分もあるし、〈スクリューボール・コメディ〉のテイストが戦前と60年代でどう変わったか知るにはいい作品かもしれません(ちょっとだけセクシーな表現がある点が変わった?)。

男性の好きなスポーツ 99.jpg「男性の好きなスポーツ」●原題:MAN'S FAVORITE SPORT?●制作年:1964年●制作国:アメリカ●監督・製作:ハワード・ホークス●脚本:スティーヴ・マックニール/ジョン・フェントン・マレイ●撮影:ラッセル・ハーラン●音楽:ヘンリー・マンシーニ●時間:120分●出演:ロック・ハドソン/ポーラ・プレンティス/マリア・ペルシー/ジョン・マクギバー/シャーレン・ホルト/ロスコー・カーンス/ノーマン・アルデン/フォレスト・ルイス●日本公開:1964/03●配給:ユニヴァーサル(評価★★★)

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セリフの拾い方、連想ゲームのようにつないでいく手法の巧みさ&イラストも楽しめる優れもの。

お楽しみはこれからだ part3.jpg
  料理長殿、ご用心 p1.jpg 料理長シェフ殿、ご用心 02.jpg
料理長(シェフ)殿、ご用心 [DVD]」 Jacqueline Bisset
お楽しみはこれからだ〈part 3〉―映画の名セリフ (1980年)

  「PART2のあとがきに、PART3を作る予定はない、と書いたのだけれど、こうしてPART3が出来てしまった。「キネマ旬報」で連載を再開し、もう一冊分続けたというわけである。(中略)一つだけ新趣向を加えた。項目から次の項目への橋渡しを、シリトリのようにつないでゆく、というもので、いくらかこじつけもないではないが、どうやら最後の項目が最初に戻る形で輪のようにつながった。反省は、アメリカ映画に片寄り過ぎた点である。」 (あとがきより)

 和田誠(1936年生まれ)氏のシリーズ第3冊目で、あとがきに以上あるように、PART2で打ち止めの予定が「キネマ旬報」で連載を再開したために出来上がったもの(結局、その後も間歇的に連載し、シリーズは1995年単行本刊行の第7巻(PART7)までの累計ページ数は1,757ページに及ぶことになります。
 PART2で邦画も取り上げていましたが、PART3では洋画だけに戻しています。PART2で、洋画が多くなる理由として字幕で見たセリフの方が記憶に残っているからとありました。

 このシリーズ、あとがきは、読者からあった"誤り"の指摘に基づく訂正でほぼ費やされることが多いのですが、PART3のあとがきで、「七人の侍」で「勝ったのは百姓たちだ。俺たちではない」と書いたことに読者から「俺」ではなく「わし」と言ったはずだとの指摘があったという話に続いて、「ほとんど記憶だけで書いているので、一字一句正確にしなければならないとなると、ちょっとつらい。外国映画だとどっちみち翻訳になるから、意味さえ取り違えなければいいと思うが、日本映画はもともと日本語だから、意訳というわけにもいかず、つい敬遠することになる」とありました。ナルホドね。これも洋画が多くなる理由か。それにしても、連載しているのが「キネ旬」だから、読者も映画通が多かったりして、結構プレッシャーだろうなあ。実際には、どうしてあの映画のあのセリフをとりあげないのかといった手紙が多く、中には語気鋭いものもあったそうです。

 確かに今回はアメリカ映画に偏った分、マニアックになった感じもありますが、一方で「麗しのサブリナ」みたいな著者のお気に入りは、PART1に続いて再登場したりもしています。でも。こんな面白いセリフがあったのだなあという内容でした。

 年代的には、30年代終わりから始まって、40年代、50年代、60年代と割合均等で、70年代も、70年代終盤だけでも「さすらいの航海」('77年)、「アニー・ホール」('77年)、「ブリンクス」('78年)、「アルカトラズからの脱出」('79年)、「グッバイ・ガール」('77年)、「おかしな泥棒ディック&ジェーン」('77年)、「ジュリア」('77年)、「カリフォルニア・スイート」('78年)、「帰郷」('78年)、「遠すぎた橋」('77年)、「世界が燃えつきる日」('77年)、「リトル・モー」('77年)、「天国から来たチャンピオン」('78年)、「オー!ゴッド('77年)、「料理長(シェフ)殿、ご用心」('78年)、「リトル・ロマンス」('78年)、「ナイル殺人事件」('78年)、「チャイナ・シンドローム」('79年)、「愛と喝采の日々」('77年)、「マンハッタン」('79年)、「パワープレイ」('78年)など結構数多く取り上げています。このあたりは、連載時にほぼリアルタイムに近いかたちで公開されたものではないでしょうか(70年代は特に後半の方が多くなっている)。

Jacqueline Bisset Who Is Killing the Great Chefs.jpg1978 WHO IS KILLING THE GREAT CHEFS of EUROPE  PROMO MOVIE PHOT.jpg ジャクリーン・ビセットがジョージ・シーガルと共演した「料理長(シェフ)殿、ご用心」('78年)なんて、何てことはない映画だけれどよくできていたのでは(監督は4年後に「ランボー」('82年)を撮るテッド・コチェフ)。懐かしいなあ。著者が書いているように、ちょっと洒落たスリラーで、ヨーロッパの一流シェフが次々と、それぞれの得意の料理法に因んだ方法で殺されていくというもの。ジャクリーン・ビセットの役は所謂パティシエですが、まあ当時の自分自身の理解としてはデザート専門のコックという感じ(著者も本書で「コック」と書いている。パティシエなんて言葉は当時日本では聞かなかった)。サスペンスですがユーモアがあって、ちょっとエロチックでもあるというもの(勿論ビセットが)。個人的には、本書が刊行される少し前くらいに名画座で観ましたが、「クリスチーヌの性愛記」('72年、ジャクリーン・ビセットが19才のストリッパー役で主演した作品)と「セント・アイブス」('76年、チャールズ・ブロンソン主演)の3本立て「ジャクリーン・ビセット特集」でした(そう言えばこの頃「大空港」('70年)にも機長の不倫相手の客室乗務員役で出ていた。70年代のセクシーアイコンの1人と言えるか)。

音楽:ヘンリー・マンシーニ

「クリスチーヌの性愛記」.jpg「クリスチーヌの性愛記」00.jpg 因みに、「クリスチーヌの性愛記」('72年)は、そのタイトルやチラシなどからポルノ映画と思われているフシがありますが、下にあらすじを書いたように、自分の気の赴くままに生きる若い女性の運命とその悲劇をテーマとしています。ジャクリーン・ビセット演じる、田舎の退屈から抜け出し、刺激と幸せを掴めると期待しながらカナダからラスベガスにやってきた19歳の若い女性が、ホテルのショー「クリスチーヌの性愛記」01.jpg・ガールとしてせっせと働くも、結婚相手が殺害されて生活のためコール・ガールとなり、さらには男に貯めた金を持ち逃げ「クリスチーヌの性愛記」02.jpgされたりして、最後は夢破れては田舎に戻るという社会派女性映画です。ただ、そう多くの人がこうした映画を見たいとは思わないわけで、そこで原題("The Grasshopper"「バッタ」。次々に世の中を渡り歩く主人公を示していると思われる)を外れて「性愛記」みたいなタイトルにしたのでしょう(ところがポルノチックな場面はほとんど無いため、日本でもヒットしなかった)。(演出面などから)佳作とまでは言えないものの、今思えば多くの点で当時の米国の世相の一端を映し出していた作品でした。
  
ヒッチコック サイコ 予告編.jpg あと、個人的な収穫は、「サイコ」('60年)のところで、著者が予告編を観ていないことを非常に残念がっていて、ヒチコックがお喋りするだけのものでありながら、予告編史上に残る傑作と観た人は皆言っていたそうですが、そうした予告編があることを本書で初めて知ったのがまさに拾い物でした。これ、今はネット動画で観ることが可能であったりもします(アップされては消されたりもしているが)。

「サイコ」予告編

 1995年単行本刊行でこのシリーズが終わったというのは、DVDなどの普及などで便利になり過ぎて、セリフを追いやすくなったために、個人的な記憶の意義が相対的に軽くなったというのもあるのではないかなあ。誰もが検証可能だからといって、洋画のセリフまで一字一句正確を期さねばならなくなったら、そちらの方に時間をとられて、連載がしづらいというのもあるのでは?

 でも、セリフの拾い方にしても、こうした「新しい」映画や「古い」映画を織り交ぜて、しりとりか連想ゲームのようにつないでいく手法にしても、その技は著者ならではの巧みさがあり、しかも、イラストも楽しめるという、今読んでも優れものの映画エッセイであると思います。

料理長殿、ご用心 v1.jpg料理長殿、ご用心 』.jpg「料理長(シェフ)殿、ご用心」●原題:SOMEONE IS KILLING THE GREAT CHEFS OF EUROPE●制作年:1978年●制作国:アメリカ●監督:テッド・コチェフ●脚本:ピーター・ストーン●撮影:ジョン・オルコット料理長シェフ殿、ご用心 03.png●音楽:ヘンリー・マンシーニ●原作:アイヴァン・ライアンズ/ナン・ライアンズ●時間:112分●出演:ジャクリーン・ビセット/ジョージ・シーガル/ロバート・モーレイ/ジャン=ピエール・カッセル/フィリップ・ノワレ/ジャン・ロシュフォール/ルイージ・プロイェッティ/ステファノ・サッタ・フロレス●日本公開:1979/05●配給:日本「料理長(シェフ)殿、ご用心」1.jpg料理長(シェフ)殿、ご用心 ロバート・モーレイ.jpgヘラルド映画●最初に観た場所:五反田TOEIシネマ(80-02-18)(評価:★★★☆)●併映「セント・アイブス」(J・リー・トンプソン)/「クリスチーヌの性愛記」(アロイス・ブルマー)
ジョージ・シーガル/ロバート・モーレイ(全米映画批評家協会賞「助演男優賞」・ロサンゼルス映画批評家協会賞「助演男優賞」受賞)/ジャクリーン・ビセット  

「セント・アイブス」(1976)with チャールズ・ブロンソン    「ザ・ディープ」(1977)
「セント・アイブス」1.jpg 「セント・アイブス」2.jpg  ザ・ディープ1977★★.jpg

Jacqueline Bisset in "The Grasshopper"(クリスチーヌの性愛記)
「クリスチーヌの性愛記.jpgJacqueline Bisset THE GRASSHOPPER.jpg「クリスチーヌの性愛記」●原題:THE GRASSHOPPER●制作年:1969年●制作国:アメリカ●監督:ジェリー・パリス●製作:ジェリー・ベルソン●脚本:ジェリー・ベルソン/イリー・マーシャル●撮影:サム・リーヴィット●音楽:ビリー・ゴールデンバーグ●原作:マーク・マクシェイン「通り魔」●時間:96分●出演:ジャクリーン・ビセット/ジム・ブラウン/ジョセフ・コットン/コーベット・モニカ/クリストファー・ストーン●日本公開:1972/02●配給:フォックス●最初に観た場所:五反田TOEIシネマ(80-02-18) (評価★★★)●併映「セント・アイブス」(J・リー・トンプソン)/「料理長(シェフ)殿、ご用心」(テッド・コチェフ)
  
五反田TOEIシネマ 2.jpg五反田TOEIシネマ79.jpg五反田TOEIシネマ.jpg五反田TOEIシネマ 3.jpg五反田TOEIシネマ/五反田東映(写真:跡地=右岸)「五反田東映」をを分割して1977(昭和52)年12月3日オープン、1990(平成2)年9月30日「五反田TOEIシネマ」閉館(1995年3月21日「五反田東映」閉館)

サイコ dvd.jpgPSYCHO2.jpg「サイコ」●原題:PSYCHO●制作年:1960年●制作国:アメリカ●監督・製作:アルフレッド・ヒッチコック●音楽:バーナード・ハーマン●原作:ロバート・ブロック「気ちがい(サイコ)」●時間:108分●出演:アンソニー・パーキンス/ジャネット・リー/ベラ・マイルズ/マーチン・バルサン/ジャン・ギャヴィン●日本公開:1960/09●配給:パラマウント●最初に観た場所:六本木・俳優座シネマテン(97-09-19) (評価★★★★)

七年目の浮気
お楽しみはこれからだ part3 七年目の浮気.jpg

【2022年愛蔵版】

《読書MEMO》
「クリスチーヌの性愛記」あらすじ
「クリスチーヌの性愛記」03.jpg大学生のクリスチーヌ・アダムス(ジャクリーン・ビセット)はカナダの田舎の生活に退屈し、恋人のエディを訪ねてロサンゼルスに向ったが、途中、有名なコメディアンのダニー(コーベット・モニカ)と知り合い華やかなラスベガスを案内してもらった。やっとのこ「クリスチーヌの性愛記」05.jpgとでエディに会い、しばらく生活したが、ここでも退屈はついてまわった。彼女は再びラスベガスを訪れ、ホテルのショー・ガールとして生活するようになつた。バンドマンのジョイや、支配人トミー(ジム・ブラウン)と知り合い、クリスチーヌはトミーと結婚した。二人はやがてロサンゼルスに移ったが、トミーは、以前クリスチーヌに手を出そうとして喧嘩したデッカーの部下に殺された。失意のどん底に落とされたクリスチーヌはコール・ガールとなり、モーガンという金持の老人の面倒を受けるようになったが、ジェイと再会し、彼との幸福な家庭を夢見てせっせと働いた。ところが、田舎で牧場を経営するためにためた金をジェイに持ち去られ、彼女の夢は一瞬にして消えた。短期間ではあったが、彼女は人生の表裏を見た。22歳の彼女は田舎に戻るより外はなかった。

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コロンボがどこで確証を得たかを考え始めると、結構何度も楽しめるシリーズ初期3作。

刑事コロンボ/二枚のドガの絵 vhs.jpg 構想の死角 vhs.jpg 刑事コロンボ/パイルD-3の壁 vhs.jpg 刑事コロンボ パイルD-3の壁.jpg
特選「刑事コロンボ」完全版~二枚のドガの絵~【日本語吹替版】 [VHS]」「刑事コロンボ~構想の死角~ [VHS]」「特選 刑事コロンボ 完全版「パイルD-3の壁」【日本語吹替版】 [VHS]」「刑事コロンボ 完全版 Vol.5 [DVD]」フォレスト・タッカー
刑事コロンボ/二枚のドガの絵 2.jpg二枚のドガの絵 タイトル.jpg二枚のドガの絵2.jpg 美術評論家デイル・キングストン(ロス・マーティン)は、叔父の絵画収集家ランディ・マシューズを射殺し、画家志望の恋人トレイシー(ロザンナ・ハフマン)に、銃声を発するとともに2枚のドガの絵を盗み出させて、絵画強盗刑事コロンボ  二枚のドガの絵.jpgの仕業に見せかけるよう工作、更にそのトレイシーをも殺害し、その罪を叔父の遺産を相続人である元妻エドナ(キム・ハンター)に二枚のドガの絵3.bmp被せることで、遺産を独占しようとする―。

 第6話(シリーズ化の前に作られた"パイロット版"を含んだカウント)「二枚のドガの絵」は、「刑事コロンボ」の中でも「サプライズオープニング&エンディング」と評される作品で、冒頭、何の前ぶれも無く殺人が起き、ラストは、「なるほど」と思った瞬間に終わってしまうというもので、とりわけラストが鮮やかです。

二枚のドガの絵.jpg コロンボが「この絵にはあたしの指紋がある」と言ったところで、犯人が第2の犯行から戻ってきた際の、待ち受けていたコロンボとの"あの時"のやりとりが思い浮かび、「そっか」という感じはあるのですが、直後の犯人の反駁に対してコロンボが無言でしてみせたことには、犯人ならずとも「参った」という感じ。

 「あっ」と思った瞬間に終わることで、つい今しがたコロンボが愛車のポンコツ・プジョーを降りてエドナ邸に入るまでのロングショットや、着いてからの所作を観る者に思い出させようとする、その辺りが上手いなあと思いました。

Kim Hunter colombo.jpg それにしてもコロンボは、"あの時"偶然絵に触ったことを、後で思い出したのか、それとも最初からわざと指紋をつけたのか。これは、わざとでしょうね。
 ということは、次がぶっつけ本番のラストの決着だとすると失敗は許されないわけで、それでは犯人の確証をどこで得たのか―。

猿の惑星1.jpg 犯人役のロス・マーティンはピーター・フォークの演技の師匠でもあり、"スペシャル・ゲストスター"として招かれ、被害者マシューズの元妻エドナを演じたキム・ハンター(1922-2002/享年79)は「欲望という名の電車」の舞台版でピューリッツァ賞、映画版(1951)でアカデミー助演女優賞を受賞した名女優(映画「猿の惑星」シリーズでの猿の女科学者ジーラ役でもお馴染み)、弁護士役のドン・アメチーもいい味を出しているなど、役者陣も充実しており、シリーズ屈指の傑作と言えるかと思います。

 「刑事コロンボ」は90年代の「新・刑事コロンボ」よりも、70年代の旧シリーズの方がより傑作が多いように思われ、この"初期コロンボ"は全部で45話ありますが、「シーズン1」では、リー・グラント主演の第2話「死者の身代金」(シリーズ化を前提にした"パイロット版")や無名時代のスティーヴン・スピルバーグが監督した第3話「構想の死角」などが傑作。

構想の死角2.jpg構想の死角1.bmp  第3話であり、シリーズ第1作でもある「構想の死角」は、ジム・フェリスとケン・フランクリン(ジャック・キャシディ)という2人のミステリ作家がコンビを組んでミステリー・シリーズを発表し、ベストセラー作家として名声を手に入れていたが、実は、彼らの作品のすべての原稿はジムが書いたものであり、ケンは交渉やPRをやっていたに過ぎず、ジムがこれからはシリアスな小説を書きたいとコンビの解消を言い出したため、ケンはマズいと考え、また互いに生命保険をかけていたことから金目当てもあって、ジムを殺害するというもの。

構想の死角4.jpg 連続殺人に発展し、コロンボは、作家が殺された最初のトリックは見事だが、第2の殺人のトリックはお粗末であると犯人の前で評価をしますが、最初の殺人のトリックは被害者によるメモがあり、これは被害者の筆跡。最後に自白を迫られた犯人のケンは、あれは自分のアイデアをジムがメモに書きとったものだと明かし、比較的弱い状況証拠しか無かったにも関わらず、犯人のコンプレックスから来る意地のようなものが自白を促したと取れるところが、皮肉が効いています(犯人の畢生の傑作トリックだったわけだが、コロンボ自身は犯人の自白を聞くまで、犯人自身のアイデアとは思ってなかった?)。

スティーブン・スピルバーグ5Q.jpg 何だか脚本家の内輪ネタにも似た話ですが、脚本そのものはスピルバーグではありません。スピルバーグはTV映画「激突!」('71年)の監督オーデションへの応募に際して、それまでの自分の仕事の中で自信作としてこの作品を挙げて監督の座を射止めています(つまり「激突!」も先に脚構想の死角3.jpg本はあったということか)。「構想の死角」では途中で変わった形をしたホットドッグ屋が出てきますが、こういうのを映し込むアイデアはスピルバーグの発案なのかもしれません。因みに、犯人役のジャック・キャシディは、このシリーズの第22話「第三の終章」、第36話「魔術師の幻想」でも犯人役として出ています(計3回)。

パイルd-3 1.jpg 傑作と言えば、ピーター・フォーク自身が監督した第9話「パイルD-3の壁」などもそうではないかと。

パイルD-3の壁.jpg 事業家ウィリアムソン(フォレスト・タッカー)が行方不明になり,彼の前妻ゴールディー(ジャニス・ペイジ)からの捜索依頼を受けたロス市警が捜査に乗り出すが、ウィリアムソンの現在の妻ジェニファー(パメラ・オースチン)や建築家のエリオット・マーカム(パトリック・オニール)は、彼は仕事でロスを離れたのだろうと言い、ウィリアムソンの車も空港で発見される。しかしコロンボは、その車を他人が運転していた形跡を見つけ、殺害の線で捜査を開始する―。
BLUEPRINT FOR MURDER.bmpBLUEPRINT FOR MURDER2.bmp 被害者の死体捜しが鍵となっているこの作品は、ストーリー的にはパイルd-3 2.jpg単純な方かと思われますが、そのことによって、「人間心理の逆を突いた犯人の更に逆を突くコロンボ」という構図がよりハッキリ浮かび上がる作りになっているように思いました(原題は「殺人の青写真(Blueprint for Murder )」。「青写真」と設計図の「青焼き」を懸けたものだが、今の時代においては邦題の方がいいかも)。

BLUEPRINT FOR MURDER1.jpgBlueprint For Murder 3.bmp コロンボは、被害者の遺体が埋められていると思われる場所を掘り返す許可を得るため役所に行き、さんざん盥回しにされてやっと許可が下りたかと思ったら(この"苦労"も推理の伏線になっているところが上手い)、死体が出なかった―その際のがっくりきたコロンボの様は、あれは犯人に対するフェイクではなく、ホントにがっくりきていたのかなあ(前妻役ジャニス・ペイジに慰めのキスをされていた)。いや、やはりあれは、犯人に死体の隠し方法を示唆することで死体を引っ張り出せるためのフェイクとみるのが筋(スジ)でしょう。被害者のクルマにあったクラシック音楽のカセットと犯人がクラシック音楽好きであることから、早期にホシであると目をつけていたことは、ラストでコロンボ自身が犯人に明かしていることでもあるし。

 コロンボが直感のレベルを超えて、容疑者が犯人であるとの確証をどの時点で得たかを考え始めると、結構何度も楽しめる作品が多いです。
 
「あなたが選ぶ!思い出のコロンボ ベスト20」(NHK-BSプレミアム)2018年
1位:別れのワイン(ANY OLD PORT IN A STORM)
2位:二枚のドガの絵(SUITABLE FOR FRAMING)
3位:忘れられたスター(FORGOTTEN LADY)
4位:溶ける糸(A STITCH IN CRIME)
5位:パイルD-3の壁(BLUEPRINT FOR MURDER)
6位:祝砲の挽(ばん)歌(BY DAWN'S EARLY LIGHT)
7位:ロンドンの傘(DAGGER OF THE MIND)
8位:構想の死角(MURDER BY THE BOOK)
9位:歌声の消えた海(TROUBLED WATERS)
10位:逆転の構図(NEGATIVE REACTION)
11位:殺しの序曲(THE BYE-BYE SKY HIGH I.Q. MURDER CASE)
12位:殺人処方箋(しょほうせん)(PRESCRIPTION:MURDER)
13位:秒読みの殺人(MAKE ME A PERFECT MURDER)
14位:権力の墓穴(A FRIEND IN DEED)
15位:策謀の結末(THE CONSPIRATORS)
16位:死者のメッセージ(TRY AND CATCH ME)
17位:意識の下の映像(DOUBLE EXPOSURE)
18位:魔術師の幻想(NOW YOU SEE HIM)
19位:美食の報酬(MURDER UNDER GLASS)
20位:死の方程式(SHORT FUSE)


刑事コロンボ/二枚のドガの絵 5.bmp刑事コロンボ/二枚のドガの絵 1.jpg「刑事コロンボ(第6話)/二枚のドガの絵」●原題:SUITABLE FOR FRAMING●制作年:1971年●制作国:アメリカ●監督:ハイ・アヴァバック●製作:リチャード・レヴィンソン/ウィリアム・リンク●脚本:ジャクソン・ギリス●音楽:ビリー・ゴールデンバーグ●時間:76分●出演:ピーター・フォーク/ロス・マーティン/ロザンナ・ハフマン/キム・ハンター/ドン・アメチ/ジョアン・ショーリー/バーニー・フィリップス/カート・コンウエイ●日本公開:1972/10 (NHK-UHF)(評価:★★★★)

刑事コロンボ(第3話)/構想の死角23v.jpg「構想の死角」.bmp「刑事コロンボ(第3話)/構想の死角」●原題:MURDER BY THE BOOK●制作年:1971年●制作国:アメリカ●監督:スティーヴン・スピルバーグ●製作:リチャード・レビンソン/ウィリアム・リンクズ●脚本:スティーブン・ボッコ●音楽:ビリー・ゴールデンバーグ●時間:76分●出演:ピーター・フォーク/ジャック・キャシディ/マーティン・ミルナー/ローズマリー・フォーサイス/バーバラ・コルビー/リネット・メッティー/アニトラ・フォード●日本公開:1972/11●放送:NHK-UHF(評価:★★★★)

刑事コロンボ(第9話)/パイルD-3の壁.bmp刑事コロンボ/パイルD-3の壁.bmp「刑事コロンボ(第9話)/パイルD-3の壁」●原題:BLUEPRINT FOR MURDER●制作年:1972年●制作国:アメリカ●監督:ピーター・フォーク●製作:リチャード・レヴィンソン/ウィリアム・リンク●脚本:スティーヴン・ボチコ●音楽:ギル・メレ●時間:75分●出演:ピーター・フォーク/パトリック・オニール/フォレスト・タッカー/ジャニス・ペイジ/パメラ・オースティン/ジョン・フィードラー/ジョン・フィネガン/ロバート・ギボンズ/ベティ・アッカーマン/クリフ・カーネル●日本公開:1973/02(NHK-UHF)(評価:★★★★)

刑事コロンボ完全版 DVD-SET 1.jpg刑事コロンボ完全版 DVD-SET 1 【ユニバーサルTVシリーズ スペシャル・プライス】
刑事コロンボ 1シーン.jpgDisc1 (1) 殺人処方箋: 約99分 (2) 死者の身代金: 約95分
Disc2 (3) 構想の死角 :約76分 (4) 指輪の爪あと:約76分
Disc3 (5) ホリスター将軍のコレクション :約76分 (6) 二枚のドガの絵: 約76分
Disc4 (7) もう一つの鍵: 約75分 (8) 死の方程式 :約75分
Disc5 (9) パイルD-3の壁: 約75分 (10) 黒のエチュード: 約96分

「刑事コロンボ」Columbo (NBC 1971~1978/ABC 1989~2003) ○日本での放映チャネル:NHK-UHF・NHK(1972~1981)ほか

「刑事コロンボ」のテーマ(作曲:ヘンリー・マンシーニ

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原作は、マリリン・モンローと自分自身を念頭に置いて描いているように思える。

ティファニーで朝食を.jpg ティファニーで朝食を 文庫.jpg  ティファニーで朝食を パンフレット.jpg
ティファニーで朝食を』['08年]/『ティファニーで朝食を (新潮文庫)』['08年]/Breakfast at Tiffany's(1961) - Moon River
First edition cover (1958)
Breakfast at Tiffany's 1958.jpgティファニーで朝食を(カポーティ).jpg 1958年春に出版された米国の作家トルーマン・カポーティ(Truman Capote, 1924-1984/享年59)の34歳の時の作品(原題は"Breakfast at Tiffany's")ですが、村上春樹氏の翻訳は新潮文庫旧版('68年)の龍口直太郎訳と比べるとかなり読みやすいのではないかと思いました。

 カポーティが小説家として一番ピークにあった頃の作品であるというのがよくわかり、駆け出し作家である「僕」が、捉えどころの無い奔放さを持ったホリー・ゴライトリーという女性に引き摺られていく感じが絶妙のタッチで描かれていて、いよいよホリーが去っていくといったやや気の滅入る場面でも、「彼女の出発する土曜日には、街はスコール顔負けの激しい雨にみまわれた。鮫が空中を泳げそうなぐらいだったが、飛行機が同じことをするのは無理だろう」なんて面白い表現があったりして、都会的というか、才気煥発というか、この辺りも村上氏と波長が合う部分なのだろうなあという気がします。

「ティファニーで朝食を」1.jpg  '61年にブレイク・エドワーズ監督により、オードリー・ヘプバーン主演で映画化されたため、お洒落な都会劇というイメージが強いように思いますが(「麗しのサブリナ」ではまだ控えめだったジバンシーとの衣装提携が、この作品ではまさに"全開"という感じだったし)、そうしたファッション面でのお洒落というのと、この原作のセンスはちょっと違うような...。

Marilyn Monroe and Truman Capote
Marilyn Monroe and Truman Capote.jpg 映画化に際してトルーマン・カポーティは、主人公のホリーをマリリン・モンローが演じるのが理想と考え、またモンローを想定して脚本を書くように脚本家にも依頼したものの、モンローの起用は彼女の演技顧問だったポーラ・ストラスバーグに反対されて見送られ、結局、ヘプバーンがホリーを演じることになったというのはよく知られている話です。個人的印象としては、この小説を書き始めた段階からカポーティはモンローと自分自身を念頭に置いて書いているように思え、モンローの気質を想定して読むと、スッキリとホリーのキャラクターに嵌るような気がします。

「ティファニーで朝食を」 3.jpg「ティファニーで朝食を」2.jpg 実際、ヘップバーンがティファニーの前でパンを食べるという映画の冒頭シーンで(タイトルのままだなあ)、観ていたカポーティが思わず椅子からずり落ちてしまったという逸話があるぐらいですから、相当イメージ違ったのだろうなあ。トルーマン・カポーティは、ノーマン・メイラーと並んで、モンローに袖にされた"片思い組"で、彼は背が低くて、モンローの好みの対象外だったし、しかもバイ・セクシュアル、本質的にはゲイだったとも言われています。

 この作品でトルーマン・カポーティは、世間の常識に囚われない天真爛漫な女性(若干、双極性障害(躁うつ気質)気味?)を生き生きと描く一方、その相手をする作家である男(要するに自分自身)を、彼女に振り回されるばかりの情けない存在として、やや自嘲的、乃至は被虐的と思えるまでに描いていますが、この点も、村上春樹氏が指摘するように、映画でジョージ・ペパードが演じた作家が、しっかりとホリーを受け止めているのとは異なり、映画化において改変された点と言えます。

BREAKFAST AT TIFFANY'S.jpgティファニーで朝食を dvd.jpg 結局、小説のホリーは最後ブラジルかどこかへ行ってしまうのですが、この結末はむしろモンローに相応しく、映画では、名無しの飼い猫を一旦放してまた引き戻す点はほぼ同じですが、海外への高飛びは無く、それまで自我むき出しで尖がっていたホリーが、最後は人間の優しさを感じるちょっと普通の女性になったかなあという、オードリー・ヘプバーンに相応しい結末に改変されていたように思います。

映画『ティファニーで朝食を(POSTER)《PPC009》』ポスター/ヘップバーン主演(輸入版)/「ティファニーで朝食を [DVD]

 映画テーマ曲の「ムーン・リバー」はヘンリー・マンシーニの最大のヒット曲と言ってよく、映画としてもいい作品だと思いますが(ミッキー・ルーニー演じるユニオシなる奇妙な日本人大家はいただけないが)、もしかして、トルーマン・カポーティはモンローが、この映画のヘプバーンのように自分の懐へ飛び込んでくることを夢想していたのではないかとも思ったりしてしまいます。

ティファニーで朝食を52.JPG 村上氏も「映画は映画として面白かった」としながらも、新訳の刊行にあたって、表紙に映画のスチールだけは使わないで欲しいと要望したそうですが(新潮文庫旧版ではモロ、映画スチールを使っている)、映画と切り離して読んで欲しいというのはよくわかるし賛成ですが、だからといって"ティファニーブルー"のカバーにするというのもどうなのでしょうか(出版社側の意向だと思うが)。この、言わば"高級コールガール"を主人公にした小説及び映画が、"高級宝石店"ティファニーの知名度アップに大いに寄与したことは間違いないと思うのですが、それはもう過去の出来事でしょう。それとも、今回の場合も出版社側がタイアップ効果を狙っているということなのでしょうか(新潮文庫版ではうってかわって民野宏之氏のカバー挿画となり、"ティファニーブルー"は踏襲されなかった)。

ティファニーで朝食を 01.jpgティファニーで朝食を 00.jpg「ティファニーで朝食を」●原題:BREAKFAST AT TIFFANY'S●制作年:1961年●制作国:アメリカ●監督:ブレイク・エドワーズ●製作:マーティン・ジュロー/リチャード・シェパード●脚本:ジョージ・アクセルロッド●撮影:フランツ・プラナー●音楽:ヘンリー・マンシーニ●原作:トルーマン・カポーティ●時間:114分●出演:オードリー・ヘプバーン/ジョージ・ペパード/パトリシア・ニール/バディ・イブセン/マーティン・バルサム/ホゼ・ルイス・デ・ビラロニア/ミッキー・ルーニー●日本公開:1961/11●配給:パラマウント映画●最初に観た場所:高田馬場・ACTミニシアター(85-11-03) (評価:★★★☆)●併映:「めぐり逢い」(レオ・マッケリー)

fred.jpg cat.jpg

HIM: Holly (Jenovia), I'm in love with you.
ME: So what?
HIM: So WHAT? SO PLENTY! I love you. You belong to me.
ME: No. People don't belong to people.
HIM: Of course they do.
ME: Nobody is going to put me in a cage..
HIM: I want to love you.
ME: IT'S THE SAME THING.
HIM: No, it's not Holly! (Jenovia)
ME: I'm not Holly, I'm not Lulamae either. I don't know who I am.
I'm like cat here. A no name slob. We belong to nobody and nobody belongs to us. We don't even belong to each other.
Stop the cab.
What do you think?
This ought to be the right place.
For a tough guy like you--Garbage cans, rats galore.
(MEOW)
SCRAM!
I SAID TAKE OFF! BEAT IT!
Lets go.
(Thunder)
HIM: Driver, pull over here.
You know whats wrong with you, Miss Whoever-You-Are?
You're CHICKEN. YOU GOT NO GUTS. You're afraid to say "O.K. life's a fact."
People DO fall in love. PEOPLE DO BELONG TO EACH OTHER, BECAUSE THATS THE ONLY CHANCE ANYBODY'S GOT FOR REAL HAPPINESS.
You call yourself a free spirit, a wild thing.
You're terrified someone is going to stick you in a cage.
Well Baby, you're already in that cage.
You built it yourself.
And it's not bounded by Tulip, Texas or Somaliland.
It's wherever you go.
Because no matter where you run, you just end up running into yourself.
END SCENE.

【1968年文庫化[新潮文庫(龍口直太郎訳)]/2008年再文庫化[新潮文庫(村上春樹訳)]】

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戦争の犠牲者に対する国を超えたレクイエムが込められていた「ひまわり」。セリフの全てを歌で表現した「シェルブールの雨傘」。  
ひまわり ポスター.bmp ひまわり.jpg シェルブールの雨傘.jpg 「ひまわり」チラシ/「ひまわり [DVD]」/「シェルブールの雨傘 [DVD]」 音楽:ミッシェル・ルグラン
ひまわり パンフレット.jpg 「ひまわり」(I Girasoli 、'70年/伊・仏・ソ連)は、最初に観た時、ジョヴァンニ(ソフィア・ローレン)が戦地で消息を絶った夫アントニオ(マルチェロ・マストロヤンニ)を訪ねウクライナに行き、彼に再会し全てを知ったところで終わっても良かったかなと、その方がラストのひまわり畑のシーンにすんなり繋がるのではないかという気もしました。

「ひまわり」映画パンフレット/音楽:ヘンリー・マンシーニ
         
ひまわり02.jpg「ひまわり」3.jpg 後半、今度はマルチェロ・マストロヤンニがソフィア・ローレンを訪ね再会を果たすも、既に彼女は結婚もしていて子供もいることがわかり(自分にもロシア人妻リュドミラ・サヴェーリエワとの間に子供がいることも改めて想起し)、失意のうちにウクライナへ帰っていく部分は、かなり地味だし、「子は鎹(かすがい)」ということ(?)なんて思ったりしたのですが、しかしながら、最近になって観直してみると、後半も悪くないなあと思うようになりました。

「ひまわり」1.jpg「ひまわり」2.jpg 愛の"記憶"に生きると決めているジョヴァンニ。ガックリくるマストロヤンニに対し、共に痛みを感じながらも彼を包み込むような感じがラストのソフィア・ローレンにはあり、母は強しといった感じも。

I GIRASOLI(SUNFLOWER).jpg「ひまわり」4.jpg 2つの別れのシーン(出征の別れと再会後の最後の別れ)に「ミラノ中央駅」が効果的に使われていて、ひまわりが咲き誇る畑も良かったです。

Sophia Loren Marcello Mastroianni in I Girasoli

sunflower 1970s.jpg このひまわりの下に、ロシア兵もsunflower 1970  .jpgイタリア兵も戦場の屍となって埋まっているという、戦争の犠牲者に対する国を超えたレクイエムが込められていて、冷戦下でソ連側が国内でのロケを許可したのもわかります(ソフィア・ローレンはソ連のどこのロケ地へ行っても大歓迎を受けたとのこと)。

映画チラシ(1989)Catherine Deneuve in Les Parapluies De Cherbourg
シェルブールの雨傘1989チラシ.jpgシェルブールの雨傘2.jpg 同じく、戦争で運命を狂わされた男女を描いたものに、ジャック・ドゥミ(1931‐1990)監督の「シェルブールの雨傘」(Les Parapluies De Cherbourg、'64年/仏)がありますが、のっけから全ての台詞にメロディがついていて、やや面食らいました(それが最後まで続く)。音楽のミッシェル・ルグランによれば、全てのセリフを歌で表した最初の映画とのことで、オペラのアリアの技法を用いたとのことです(カンヌ国際映画祭「グランプリ」(現在の最高賞パルム・ドールに相当)及び「国際カトリック映画事務局賞」受賞作)。

シェルブールの雨傘1.jpg 石畳の舗道に雨が落ちてきて、やがて色とりシェルブールの雨傘 001.jpgどりの美しい傘の花が咲くという俯瞰のファースト・ショットはいかにもお洒落なフランス映画らしく('09年にシネセゾン渋谷で"デジタルリマスター版"が特別上映予定とのこと。自分が劇場で観た頃にはもう色が滲んでいた感じがした)、監督のジャック・ドゥミ(当時31歳)、音楽のミッシェル・ルグラン(当時30歳)も若かったですが、傘屋の娘を演じたカトリーヌ・ドヌーヴは当時20歳でした。

「シェルブールの雨傘」 仏語版ポスター/日本語パンフレット
シェルブールの雨傘 ポスター.jpgシェルブールの雨傘 パンフレット.jpg 恋人が出征する戦争は、第2次世界大戦ではなくアルジェリア戦争で(この映画からは残念ながらアルジェリア側の視点は感じられない。フランス版「ひまわり」とか言われるからつい比べてしまうのだが、戦争終結直後に作られたということもあるのだろう)、「ひまわり」みたいに一方がもう一方を訪ねて再会するのではなく、ラスト別々の家族を持つようになった2人は、母の葬儀のためシェルブールに里帰りしたカトリーヌ・ドヌーヴが、クルマの給油に寄った先が、彼が将来経営したいと言っていたガソリンスタンドだったという、偶然により再会します。

Les parapluies de Cherbourg(1964)

シェルブールの雨傘 003.jpg 2人は将来子供が出来たら付けようと恋人時代に話していた「フランソワ」「フランソワーズ」という名をそれぞれの男の子と女の子につけていたのですが、そう言えば「ひまわり」のソフィア・ローレンは、自分の子に「アントニオ」というマルチェロ・マストロヤンニが演じた前夫の名をつけていました。何れにせよこういうの、知らされた相手側の未練を増幅しそうな気がするなあ。

 個人的評価は「ひまわり」が星4つで、「シェルブールの雨傘」が星3つ半です。「シェルブールの雨傘」は、映画史的には、セリフの全てを歌で表現したというころが技法面で画期的だとして高く評価されている面もあるかと思いますが、それは考慮せずの評価です。
      
Himawari(1970)
Himawari(1970).jpg
ひまわり01.jpg「ひまわり」●原題:I GIRASOLI(SUNFLOWER)●制作年:1970年●制作国:「ひまわり」.jpgイタリア・フランス・ソ連●監督:ヴィットリオ・デ・シーカ●製作:カルロ・ポンティ/アーサー・コーン●脚本:チェザーレ・ザバッティーニ/アントニオ・グエラ/ゲオルギス・ムディバニ●撮影:ジュゼッペ・ロトゥンノ●音楽:ヘンリー・マンシーニ●時間:107分●出演:マルチェロ・マストロヤンニ/ソフィア・ローレン/リュドミラ・サベーリエsunflower 1970.jpgワ/アンナ・カレーナ/ジェルマーノ・ロンゴ/グラウコ・オノラート/カルロ・ポンティ・ジュニア●日本目黒シネマ.jpg目黒シネマ2.jpg公開:1970/09●配給:日本ヘラルド映画●最初に観た場所:目黒シネマ(83-05-01)(評価:★★★★)●併映:「ワン・フロム・ザ・ハート」(フランシス・フォード・コッポラ) 目黒シネマ (1955年「目黒ライオン座」オープン(地下に「目黒金龍座」)を経て1975年再オープン(地下「目黒大蔵」)

Cherbourg no Amagasa (1964)
Cherbourg no Amagasa (1964).jpg
『シェルブールの雨傘』(1963).jpg「シェルブールの雨傘」●原題:LES PARA PLUIES DE CHERBOURG(英:THE UMBRELLAS OF CHERBOURG)●制作年:1964年●制作国:フランス●監督・脚本:ジャック・ドゥミ●製作:マグ・ボダール●脚本:チェザーレ・ザバッティーニ/アントニオ・グエラ/ゲオルギス・ムディバニ●撮影: ジャン・ラビエ●音楽:ミシェル・ルグラン●時間:91分●出演:カトリーヌ・ドヌーヴ/ニーノ・カステルヌオーボ/マルク・ミシェル/アンヌ・ヴェルノン/エレン・ファルナー/ミレーユ・ペレー/アンドレ・ウォルフ●日本公開:1964/10●配給:東和●最初に観た場所:高田馬場パール座(78-05-27)(評価:★★★☆)●併映:「巴里のアメリカ人」(ヴィンセント・ミネリ)

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