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傑作だが、ラストははっきりした方がよかった「マリア・ブラウンの結婚」。

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マリア・ブラウンの結婚 [DVD]」ハンナ・シグラ
「マリア・ブラウンの結婚」p.jpg「マリア・ブラウンの結婚」11.jpg 1943年第二次世界大戦後期、混乱するベルリンでマリア(ハンナ・シグラ)とヘルマン(クラウス・レーヴィッチ))は爆撃下の戸籍登記所で略式の結婚式を上げた。しかし半日と一夜を共に過ごした後、ヘルマンは戦場へと向かってしまう。戦争が終わってもヘルマンは還ってこなかったがマリアは夫の生存を信じて尋ね人のプラカードを背負って駅に通う。闇市で物資を調達するだけでは足りず、マリアはアメリ「マリア・ブラウンの結婚」1.jpgカ占領軍のGIバーにホステスの職を得る。親友ベティ(エリザベト・トリッセナー)の夫ウィリー(ゴットフリート・ヨーン)は無事に戻ってくるが、ヘルマンは戦死したと告げられる。マリアは黒人兵ビル(ジョージ・バード)の愛を受け入れ妊娠する。ある日彼女のベッドに二人がいるところに、死んだと思われていたヘルマンが帰還してくる。ビルに立ち向かうヘルマンの姿を見て、マリアは放心状態のまま酒瓶でビルを殴り殺してしまう。米軍兵士殺害の罪でマリアの尋問が行われ、ヘルマンが彼女の罪を被っ「マリア・ブラウンの結婚」2.jpgてビル殺害を自白して投獄される。マリアは牢獄を訪れ、夫の出所を待ち、生活の基盤を準備するために働くことを誓う。子供は堕胎した。マリアは列車の中で繊維業者のオズワルト(イヴァン・デニ)と知り合い、英語を武器に秘書兼愛人として戦後復興の中を成り上がっていく。マリアはオズワルトとの関係も夫に報告する。しかしヘルマンのことを知らないオズワルトは、週末ごとに姿を消すマリアの行く先を突き止め、ヘルマンの存在を知る。そして彼らはマリアを巡ってある「マリア・ブラウンの結婚」4.jpg契約を交わす。突然ヘルマンの出所が決まり慌てるマリアだったが、夫は彼女の前には現れずに行方をくらませる。そして心臓に疾患を持っていたオズワルトもある日急死してしまう。一軒家を買い孤独に暮らすマリアの元へ夫が急に還ってくる。これでようやく二人の結婚生活が再開できると思われたその日、オズワルトの遺言が開封され、オズワルトとヘルマンは合意の上でマリアを共有していた事が明かされる。1954年ドイツは再軍備し、サッカーのワールドカップで世界チャンピオンになった日にマリアの結婚生活は、事故とも故意ともつかぬガス爆発で幕を閉じる―。

「マリア・ブラウンの結婚」3図1.jpg ライナー・ベルナー・ファスビンダー(1945-1982/37歳没)監督の1979年作で、1981年の「ローラ」、1982年の「ベロニカ・フォスのあこがれ」の3本でファスビンダーの「西ドイツ三部作」とも呼ばれ、その最初に当たる本作で、マリア・ブラウンを演じたハンナ・シグラが1979年・第29回「ベルリン国際映画祭」で「銀熊賞(女優賞)を受賞しています。

 最初に観た時は、ラストがマリアが事故死したような感じの終わり方で、かなり突然の展開に思え、衝撃とあっけ無さのようなものを覚えましたが、マリアはオズワルトとヘルマンが合意の上で自分を共有していたこと知り、愕然として自殺したとの解釈があるとのことで納得しました。

「マリア・ブラウンの結婚」3.jpg さらに言うと、マリアの元の夫が東ドイツ、新しい夫が当時のECやアメリカを象徴しているとの見方もあるのようで、そう言えば星条旗が背景に出てくる場面がありました。ハンナ・シグラの美しさばかりに目を奪われていたのかそこまで気がつかなかったですが、この映画がアメリカでも商業的に成功し、初めて100万ドル以上売り上げたドイツ映画となったという背景には、当時の彼女の美しさも貢献していたと思われます(当時35歳だった彼女も、フランソワ・オゾン監督の「すべてうまくいきますように」('21年/フランス・ベルギー)で見るとすっかり年季が入っていたが、77歳でまだ活躍していること自体が喜ばしい)。

「ライナー・ベルナー・ファスビンダー傑作選」.jpg「マリア・ブラウンの結婚」8「.jpg マリアは自殺だったのか不慮の事故死だったのか結末は気になるので、昨年['23年]実施された「ライナー・ベルナー・ファスビンダー傑作選」上映会で何十年ぶりかで観てみると、やっぱり偶然の事故死に見える(笑)。ファスビンダーの原案はマリアは「自殺」だったようですが(最初の脚本ではマリアは夫ヘルマンと一緒にドライヴに出て、ハンドルを恣意的に切って崖から落ちて自殺することになっていた)、マリアを演じたハンナ・シグラが、マリアはそんなことで自殺するような弱い女性ではないと反論したため、事故とも自殺ともとれる結末になったようです。

 そうした表現をとることによって作品に深みが出ることもありますが、この作品については、ファスビンダーの原案通り「自殺」と判るようにした方が良かったようにも思われ、しかしながら、どちらともとれるからこそ、長い間自分の中で印象に残ったというか、引っ掛かっていたのかもしれません(ファスビンダーの最高傑作の部類であるには違いない。個人的評価は初見も今回も★★★★。自殺と判るようにしていれば、初見の時の評価は星5つだったかも)。

「真夜中の向こう側」
「真夜中の向こう側」002.jpg「真夜中の向こう側」001.jpg 最初に池袋・文芸座で観た際の併映がチャールズ・ジャロット監督の「真夜中の向こう側」('77年/米)であり(原作は、シドニー・シェルダンが1973年に発表した『真夜中は別の顔』)、おそらく戦争にその運命を翻弄された女性を描いたという共通項での併映かと思われます。

 ただし、「真夜中の向こう側」(ビデオ化された際に原作と同じ「真夜中は別の顔」のタイトルになった)はストーリーが波乱万丈すぎて、ハーレクイン・ロマンスの"暗黒版"のような感じで、結末も過度の復讐心を戒めた勧善懲悪で判りやすいものでした(こちらは判りやすすぎ! つまりは"通俗")。当時、原作の版元の「アカデミー出版」というところが"超訳シリーズ"として大々的に新聞広告を出していてずっと気になっていたのですが、これなら映画だけで十分かという感じでした(当時の個人的評価は★★☆。配役はいいし、音楽はミッシェル・ルグランので、観直したら星半分くらい上乗せするかも。でも、その機会が無い)。

マリア・ブラウンの結婚 DVD
「マリア・ブラウンの結婚」1979.jpg「マリア・ブラウンの結婚」ハンナ・シグラ2.jpg「マリア・ブラウンの結婚」●原題:DIE EHE DER MARIA BRAUN (英:THE MARRIGE OF MARIA BRAUN)●制作年:1979年●制作国:西ドイツ●監督・原案:ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー●脚本:ペーター・メルテスハイマ―/ペア・フレーリッヒ●撮影:ミヒャエル・バルハウス●音楽:ペール・ラーベン●時間:120分●出演:ハンナ・シグラ/クラウス・レーヴィッチ/「マリア・ブラウンの結婚(字幕版)」.jpgイヴァン・デニ/エリザベト・トリッセナー/ ゴットフリート・ヨーン/ジョージ・バード/ギゼラ・ウーレン/クラウス・ホルム●日本公開:1980/02●配給:フランス映画社●最初に観た場所:池袋・文芸座(80-06-29)●2回目:Bunkamura ル・シネマ渋谷宮下(23-08-02)(評価:★★★★)●併映(1回目):「真夜中の向こう側」(チャールズ・ジャロット)●同日上映(2回目):「不安は魂を食いつくす」(ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー)

マリア・ブラウンの結婚(字幕版)」[Prime Video]
  

真夜中は別の顔 [DVD]
「真夜中は別の顔」.jpg「真夜中の向こう側」1977.jpg「真夜中の向こう側(真夜中は別の顔)」●原題:THE OTHERSIDE OF MIDNIGHT●制作年:1977年●制作国:アメリカ●監督:チャールズ・ジャロット●脚本:ハーマン・ローチャー/ダニエル・タラダッシュ●撮影:フレッド・コーネカンプ●音楽:ミシェル・ルグラン●原作:シドニー・シェルダン「真夜中は別の顔」●時間:165分●出演:マリー=フランス・ピジェ/ジョン・ベック/スーザン・サランドン/ラフ・バローネ/クルー「真夜中の向こう側」ぴじぇ・さらんどん.jpg・ギャラガー/クリスチャン・マルカン/マイケル・ラーナー/ソレル・ブーク/アンソニー・ポンジニ/ルイス・ゾリック/チャールズ・シオッフィ●日本公開:1978/03●配給:20世紀フォックス●最初に観た場所:池袋・文芸座(80-06-29)(評価:★★☆)●併映:「マリア・ブラウンの結婚」(ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー)
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51年ぶりの劇場公開。「実写版ルパン三世」? 1つ1つのシーンを丁寧に撮っている。

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華麗なる大泥棒 [DVD]」(113分版)ジャン=ポール・ベルモンド/オマー・シャリフ

「ベルモンド特集3」.jpg「華麗なる大泥棒」金庫.jpg アテネに集結したアザド(ジャン=ポール・ベルモンド)、ラルフ(ロベール・オッセン)、レンジー(レナート・サルヴァトーリ)、エレーヌ(ニコール・カルファン)の4人組は、富豪タスコのエメラルドを狙い、門番を縛り上げ、屋敷に侵入する。金庫破りのまっ最中に、門前にパトカーが停車、乗っていたザカリア警部(オマー・シャリフ)の追及をアザドがうまくかわし、大粒のエメラルド36個3億フラン(1「華麗なる大泥棒」カー.jpg00万ドル)相当を奪うことに成功する。翌日国外に脱出するために港に向かった一行だったが、船は修理が必要で5日間足止めされることに。穀物サイロに宝石を隠したアザドたちを不審な車が尾行する。一人で車に乗り込んだアザドは、後を付けていた車と街中で激しいチェイスを繰り広げる。崖の上でようやく停まった車から降りてきたのは、ザカリア警部だった。エメラルドがないことを知ったザカリア警部はアザドたちを泳がせ、宝石の隠し場所を突き止めようとする。そして二重三重の罠をかけ、アザドがいない間に隠れ家にやってきて、ラルフとレンジーに銃を突きつける―。

「華麗なる大泥棒」原作.jpg「華麗なる大泥棒」r.jpg 「地下室のメロディー」('63年/仏)のアンリ・ベルヌイユ監督の1971年公開のフランス・イタリア合作映画で(日本公開も1971年)、ジャン=ポール・ベルモンドが主演を務めたクライムアクション。アメリカの作家デビッド・グーディスの小説が原作で、音楽はエンニオ・モリコーネ。警視ザカリア役に「アラビアのロレンス」('62年/英)、「ドクトル・ジバゴ」('65年/米・伊)のオマー・シャリフ。'19年に初DVD化され、今月['22年9月]、ベルモンド主演作をリマスター版で上映する「ジャン=ポール・ベルモンド傑作選3」(東京・新宿武蔵野館ほか)で、日本初公開時に上映されたオリジナルフランス語版が51年ぶりに劇場公開されました。

「華麗なる大泥棒」9.jpg「華麗なる大泥棒」女.jpg 登場人物やストーリーの構成などから、「実写版ルパン三世」と呼ばれる作品。ベルモンド演じるアザドの雰囲気がそれっぽいと言えばそれっぽいけれど、男性3人の一人ラルフが途中でザカリア警部に射殺され、残ったレンジーが1人で次元大介、石川五ェ門の両方を役割をこなすわけでもなく、エレーヌも峰不二子のようには活躍しないし、ダイアン・キャノン演じる謎の女レアの方がまだ峰不二子に近いにしても、全体的には別物と言えば別物という印象も受け、ビミョーなところです(因みに、「ルパン三世」の連載スタートは1967年で、原作者モンキー・パンチ(1937-2019)が1971年製作のこの映画を参考にすることはあり得ないことになる。「リオの男」('64年/仏・伊)などはあり得るが)。

「華麗なる大泥棒」クルマ.jpg 良かった点は1つ1つのシーンをしっかり撮っている点で、例えば最初の方の金庫破りのシーンなどは、(当時としては最新の?)メカを駆使して金庫の鍵をその場で削って作り、番号を割り出していく様が丁寧に描かれているし、アザドとザカリア警部のコートダジュール市街でのカーチェイスシーンは、普通に人やクルマがいる中、モナコグランプリ並みのカーアクションを延々10分間近く見せます(スティーブ・マックイーンの「ブリット」('68年/米)を想起させる)。ザカリア警部がラルフとレンジーに銃を突きつける緊迫感溢れるシーンもじっくり撮っているし(ラルフが射殺されたのが残念だったが、これは原作通りなのか)、ザカリア警部が食堂でアザドを脅迫する場面では、出てくる料理をいちいち美味しそうに撮っています。

「華麗なる大泥棒」bp.jpg カーチェイスシーンはスタントドライバーがハンドルを握っているのでしょうが、街中でのバスの窓につかまっての逃走シーンや、採石場でダンプカーから落とされて急勾配を一気に転げ落ちてていくシー「華麗なる大泥棒」b4p.jpgン(「キートンのセブン・チャンス」('25年/米)を想起した)はジャン=ポール・ベルモンドが生身でやっているのが分かり、スゴイなと思いました。ベルモント映画でアクションだけでみると、フィリップ・ド・ブロカ監督の「リオの男」('64年/仏・伊)や、同じくアンリ・ヴェルヌイユが 監督した「恐怖に襲われた街」('75年/伊・仏)と並んででかなり上位に来るのではないでしょうか(因みに、IMDbのレーティングは、「リオの男」が7.0、「華麗なる大泥棒」が6.5、「恐怖に襲われた街」が6.9)。

「華麗なる大泥棒」倉庫.jpg ラストの方のザカリア警部との穀物倉庫での対決も、これまたじっくり撮っていて、最後ザカリア警部(銭形警部と異なり、本業と二股掛けてエメラルドを横取りしようとする悪徳刑事だった)は穀物の洪水の中に埋もれて......。これって映画でたまにあるシチュエーションですが、カール・テオドア・ドライヤーの「吸血鬼(ヴァンパイア)」 ('30年/仏・独)あたりが最も古いのではないでしょうか。

 フランス本国版が125分なのに対しアメリカ版は12分ほどカットされた113分版で、‎ 2017年に初めてDVD化された時も113分版でした。おそらく、長回しのシーンの一部がカットされているのでしょう。冗長な印象は無く、完全版が観られて良かったです。

「華麗なる大泥棒」dp.jpg ダイアン・キャノン
「華麗なる大泥棒」('71年/仏)
「華麗なる大泥棒」b2p.jpg

リオの男」('64年/仏・伊)/「恐怖に襲われた街」('75年/伊・仏)
リオの男01.jpg 

「華麗なる大泥棒」fp.jpg「華麗なる大泥棒」音楽.jpg「華麗なる大泥棒」●原題:LE CASSE●制作年:1971年●制作国:フランス●監督・製作:アンリ・ヴェルヌイユ●脚本:アンリ・ヴェルヌイユ/ヴァエ・カッチャ●撮影:クロード・ルノワール●音楽:エンニオ・モリコーネ●原作:デビッド・グーディス●時間:125分●出演:ジャン=ポール・ベルモンド/オマー・シャリフ/ダイアン・キャノン/ロベール・オッセン/レナート・サルヴァトーリ/ニコール・カルファン●日本公開:1971/12●配給:コロンビア●最初に観た場所(オリジナルフランス語版):新宿武蔵野館(22-09-14)(評価:★★★☆)
   
Renato Salvatori, Jean-Paul Belmondo,Henri Verneuil, Omar Sharif and Robert Hossein/Dyan Cannon and Omar Sharif
1971_film_le_casse_verneuil_cast.jpg 1971_film_le_casse_cannon_sharif.jpg

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本書を読んで、映画の鑑賞法の原点に立ち返るのもいいのではないか。

『映画を見ると得をする』.jpg映画を見ると得をする b.jpg 映画を見ると得をする d.jpg
映画を見ると得をする (新潮文庫)』「映画を見ると得をする もっと映画が面白くなる」[Kindle版]

映画を見ると得をする (ゴマブックス)』['80年]

 著者は言います。なぜ映画を見るのかといえば、人間は誰しも一つの人生しか経験できない。だから様々な人生を知りたくなる。しかも映画は、わずか2時間で隣の人を見るように人生を見られる。それ故、映画を見るとその人の世界が広がり、人間に幅ができてくる―と。

 まさに至言ではないでしょうか。本書は、シネマディクト(映画狂)を自称する著者が、映画の選び方から楽しみ方、効用を縦横に語り尽くしたものです。個人的に印象に残ったポイントをいくつか拾っていくと―

「料理長殿、ご用心」0.jpg 原題をそのまま題名にするのが流行っている。何かイメージがわく題名なら、中身もいい。... 日本語でいい題がつくときは、映画としてもいいものであるとして、「料理長(シェフ)殿、ご用心」 ('78年/米)がその例で、原作の小説より映画の方がよくできていたとしている。

「ナイル殺人事件」0.jpg 外国映画の「大作」は絶対に観るに値する。失敗作でさえも見るべきところがいっぱい。... 映画自体は失敗作でも、大作はセットも素晴らしいし、ロケにも金をかけていて、「ナイル殺人事件」('78年/英)などは本当にエジプトに行って撮っている」わけでしょと。個人的は、観光映画としても楽しめる要素があったなあ。

「元禄忠臣蔵」0.jpg「残菊物語」0.jpg 戦前の日本映画には凄い大作があった。例えば「残菊物語」「元禄忠臣蔵」。... 溝口健二の「残菊物語」('39年/松竹)は個人的にも完璧な恋愛・人情ドラマだと思った。「元禄忠臣蔵」('41-'42年/松竹)で、松の廊下を原寸通りに作っちゃったというのも凄いと(確かに)。歴史の中にしか存在しなかったものを、ぼくらの眼前に再現してくれているのが大作の価値だと。

「カサノバ 」フェリーニ0.jpg 「難解きわまる映画」というものがある。ときにはそういう映画で自分を鍛える。...  アラン・レネはどれも難しいと。フェリーニは「81/2」('63年/伊・仏)から後はみなわからなくなっちゃって、「アマルコルド」('73年/伊・仏)で昔のフェリーニに戻って、これはだれが観ても素晴らしかったが、ところが今度「カサノバ」('76年/伊)を撮ったら、やっぱりわからないと。主演のドナルド・サザーランドが、終わってから、「自分は一体どういう役をやったのかさっぱりわからない...」と、いったそうで、ぼくもパリで観たが退屈したと。

「赫い髪の女」0.jpg ポルノをつくっている会社の映画にも、時には観るべきものがある。例えば「赫い髪の女」。... 「赫い髪の女」('79年/にっかつ)は、中上健次の原作がいいし、男と女の愛欲を探究しているものだから、凄いけれど、いやな感じはないと。

 「巨匠」の作品必ずしも秀作にあらず。ただし、美術的感覚に見るべきものあり。... 「」('54年/伊)を作ったころのフェリーニは、大道芸人の可哀そうな女とか哀れな男に本当に共感を持っていたと思うが、フェリーニ自身が大巨匠になっておかしくなってしまったと。

「影武者」1.jpg 黒澤明然り。ただし、筆を持たせたら素晴らしく、「影武者」('80年/東宝)のスケッチなどは大したものであると(著者自身が絵を描くからそう感じるのだろう)。個人的には、かつての黒澤作品のダイナミズムは影を潜め、映画は映像美・様式美に終始してしまった印象。カンヌ国際映画祭でパルムドールを撮ったのは、その様式美がジャポニズムとして受けたのでは。勝新太郎が黒澤監督と喧嘩して主役を降りたけれど、もともと勝新太郎向きではなかった? 映画の完成披露試写会を勝新太郎が観に来たていて、「面白くなかった...俺が出ていたらもっと面白くなってたよ」と言ったそうだ。

椿三十郎 三船 仲代.jpg 「役者を汚して、血を噴出させる」のがリアリズムという日本映画の馬鹿の一つ覚え。... 最初にやったのが黒澤明の「椿三十郎」('62年/東宝)で、黒澤さんが悪いんじゃなく、黒澤監督としてはちょっと珍しいことをやってみたに過ぎない、それを猫も杓子も真似しちゃったから困ったものだと。

淀川長治2.jpg 映画評論を読めば、自分自身の「好み」や「個性」がわかってくる。それが値打ち。... 推薦できる評論家として、飯島正、南部圭之助、双葉十三郎を挙げ、淀川長治さんなかの映画評論を一般のファンは当てにしたらいいんじゃないかと思うと(そう言えば、本書のカバー裏の著者紹介は淀川長治が書いている)。

「荒野の用心棒」2.jpg荒野の用心棒 1964.jpg ハリウッドの西部劇とマカロニ・ウエスタン。その大きな違いの一つは「女の描き方」。... マカロニ・ウエスタンには女の匂いがぷんぷんするような女が出てきて男とからみ合うが、アメリカの方は「女なんか全然数のうちじゃない...」といった男がいっぱい出てくると。また、マカロニ・ウエスタンの特徴はサディスティックであることで、拷問シーンなどでもユーモアがないとのこと。「荒野の用心棒」イーストウッド.jpg確かに「荒野の用心棒」('64年/伊)がそうだった。クリント・イーストウッド演じる「名無しの男」はボロボロにやられていた。ただし、著者は、黒澤明の「用心棒」を無断でかっぱらった「荒野の用心棒」が面白くないはずがないと(「名無しの男」というのも「用心棒」の「桑畑三十郎」がその場で思いついた名前であることをなぞっている)。

夕陽のガンマン アルティメット・エディション [DVD]
「夕陽のガンマン」1965.jpg 因みに、「荒野の用心棒」(原題の意味は「一握りのドルのために」)の続編とされるのは「続・荒野の用心棒」('66年/伊、セルジオ・コルブッチ監督・フランコ・ネロ主演)で「夕陽のガンマン」1イースト.jpgはなく「夕陽のガンマン」('65年/伊・西独・スペイン、セルジオ・レオーネ監督・ クリント・イーストウッド主演、原題の意味は「もう数ドルのために」)であり、その続編(出来事としては前二作より以前の話だが)「続・夕陽のガンマン」('65年/伊・西独・スペイン・米、セルジオ・レオーネ監督・クリント・イーストウッド主演)と併せて「ドル箱三部作」または(主人公の名がでないため)「夕陽のガンマン」2.jpg「名無しの三部作」と言われています。「荒野の用心棒」は黒澤明の「用心棒」と同じで、互いに相争う2組の悪党どもの対立をイーストウッド演じる主人公が一層煽り、けしかけながら、双方を壊滅状態に追い込むという話「夕陽のガンマン」リーヴァンクリーフ.jpgなのに対し、「夕陽のガンマン」は、共に腕利きの同業者にして宿命のライバルたる2人の賞金稼ぎが、時に相争い、時には紳士協定を結んで互いに協力しながら、いずれも多額の懸賞金を狙うという話。ただし、クリント・イーストウッド演じる「名無しの男(あだ名はモンコ(Manco)、スペイン語で「片腕」)」が単なる金目当て賞金稼ぎなのに対し、リー・ヴァン・クリーフが演じるモーティマー大佐には別の目的があった―。続編の方が本編より上とされる作品の1つ(年代が古い、米国映画でない、邦題がまるきり違うなどの理由であまり取り沙汰されないが)で、この1作でリー・ヴァン・クリーフはマカロニ・ウェスタンのスターとなりました。

イノセント.jpg 最近ではヴィスコンティの遺作「イノセント」。歴史に残るセックスシーンの1つだろう。... 「イノセント」('76年/伊・仏)のそれは素晴らしかったと。夫婦が別荘に行って、ちょうど春で、ぽかぽか温かくなり、庭に花が咲き乱れ、男がだんだん興奮してくる...。全身を写すところもあったが、たいていは胸から上しか写さず、それでいて本当にエロチックなシーンだったと。

「最後の晩餐」0.jpg 洒落たフランス映画を観た後で「フランス料理を食べたい」という女の子なら悪くない。... フランス映画を観た後では鮨屋よりフランス料理を食べに行きたくなるが、逆の場合もあり、それが「最後の晩餐」('73年/伊・仏)であると(確かに)。四人の主人公が死ぬまで食べ続ける映画だった。マルコ・フェレーリは巨匠ではないが相当の監督だと。

「旅芸人の記録パンフ2.jpg 例えば「忠臣蔵」を一本観ただけで、その人の世界がグーンと広くなっちゃう。... 「旅芸人の記録」('75年/ギリシャ)という映画を観れば、自然にギリシャという国に興味を持って、ギリシャに歴史を読んでみよう、ギリシャの生活について何か探して読んでみようということになり、それをやれば、ぼくの持っている世界が広がっていくわけだと。まさに、本書のエッセンスがここに述べられているように思いました。

 この本が出たころは、映画と言えば(テレビで観ることもあったとは思うが)基本的にみんな映画館で観たのだろうなあ。それが、レンタルビデオの時代を経て、今やAmazon PrimeやNetflixの時代へと移りつつあり、昨今は、映画を倍速で視聴するユーザーが急増しているようです。今一度、本書を読んで映画鑑賞の在り方の原点に立ち返るののいいのではないかと思いました。

影武者[東宝DVD名作セレクション]」 山﨑努(信玄の弟・武田信廉)/仲代達矢(武田信玄、影武者)
「影武者」dvd1980.jpg「影武者」01.jpg「影武者」●制作年:1980年●制作国:日本・アメリカ●監督:黒澤明●製作:黒澤明/田中友幸●外国版プロデューサー:フランシス・コッポラ/ジョージ・ルーカス●脚本:黒澤明/井手雅人●撮影:斎藤孝雄/上田正治「影武者」志村僑0.jpg「影武者」大滝秀治.jpg●音楽:池辺晋一郎●時間:180分●出演:仲代達矢/山﨑努/萩原健一/根津甚八/油井昌由樹/隆大介/大滝秀治/桃井かおり/倍賞美津子/室田日出男/阿藤海/矢吹二朗/志村喬/藤原釜足/清水綋治/清水のぼる/山本亘/音羽久米子/江幡高志/島香裕/井口成人/松井範雄/大村千吉●公開:1980/04●配給:東宝●最初に観た場所:飯田橋・佳作座(81-02-14)(評価:★★★)
志村喬(信玄の父・田口刑部、信玄に追放され、信長の手先として送り込まれる)/大滝秀治(信玄家臣・山縣昌景)
倍賞美津子(側室・於ゆうの方)/桃井かおり(側室・お津弥の方)  黒沢明監督「影武者」、カンヌ映画祭の最高賞に(1980年5月23日)[日本経済新聞]/日劇(1981年閉館)
「影武者」倍賞・桃井.jpg 黒澤 カンヌ.jpg 日劇文化.jpg

「荒野の用心棒」イーストフッド1.jpg「荒野の用心棒」●原題:PER UN PUGNO DI DOLLARI(英:A FISTFUL OF DOLLARS)●制作年:1964年●制作国:イタリア・西ドイツ・スペイン●監督:セルジオ・レオーネ●脚本:ヴィクトル・アンドレス・カテナ/ハイメ・コマス・ギル/セルジオ・レオーネ●製作:アリゴ・コロンボ/ジョルジオ・パピ●音楽:エンニオ・モリコーネ●時間:96分(完全版100分)●出演:クリント・イーストウッド/ジャン・マリア・ヴォロンテ/マリアンネ・コッホ/ホセ・カルヴォ/ヨゼフ・エッガー/アントニオ・プリエート/ジークハルト・ルップ/ウォルフガング・ルスキー/マルガリータ・ロサノ/ブルーノ・カロテヌート/マリオ・ブレガ●公開:1965/12●配給:東宝(評価:★★★★)

「夕陽のガンマン」dvd.jpg「夕陽のガンマン」l.jpg「夕陽のガンマン」●原題:PER QUALCHE DOLLARO IN PIU(英:FOR A FEW DOLLARS MOREA)●制作年:1965年●制作国:イタリア・西ドイツ・スペイン●監督:セルジオ・レオーネ●脚本:セルジオ・レオーネ/ルチアーノ・ヴィンチェンツォーニ●製作:アルトゥーロ・ゴンザレス/アルベルト・グリマルディ●音楽:エンニオ・モリコーネ●時間:130分(米国版132分)●出演:クリント・イーストウッド/リー・ヴァン・クリーフ/ジャン・マリア・ヴォロンテ/マリオ・ブレガ/ルイジ・ピスティッリ/クラウス・キンスキー/パノス・パパドプロス/トーマス・ブランコ/フランク・ブラナ/ホセ・マルコ/ヨゼフ・エッガー●公開:1967/01●配給:ユナイテッド・アーティスツ(評価:★★★★)
夕陽のガンマン [DVD]

映画を見ると得をする.jpg

【1987年文庫化[新潮文庫]】

《読書MEMO》
●続編の評価が本編に匹敵するかそれ以上であるとされる作品([]内はIMDb評価)
「荒野の用心棒」('64年)[7.9]<「夕陽のガンマン」('65年)[8.2](「続・夕陽のガンマン('66年)[8.8])
・「ゴッドファーザー」('72年)[9.2]「ゴッドファーザー PART II」('74年)[9.0]
・「エイリアン」('79年)[8.5]「エイリアン2」('86年)[8.4]
・「マッドマックス」('79年)[6.8]<「マッドマックス2」('81年)[7.6]
・「ターミネーター」('84年)[8.1]<「ターミネーター2」('91年)[8.6]

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「●エンニオ・モリコーネ音楽作品」の インデックッスへ 「●ジャン=ポール・ベルモンド 出演作品」の インデックッスへ 「○外国映画 【制作年順】」の インデックッスへ

45年ぶりの劇場公開。CGを使わない分、昔のアクション映画の方がスリルがあったことの証左のような映画。

恐怖に襲われた街.jpg【ビデオ】 恐怖に襲われた街.jpg恐怖に襲われた街1.jpg
【ビデオ】 恐怖に襲われた街 (VHS)

 パリの高級マンションに住むノラ・エルメール(レア・マッサリ)が17階の自分の部屋の窓から飛び降りて死んだ。死の直前に、何者かに脅迫されていると警察に訴え出た直後だった。パリ警察きっての腕利き警部ルテリエ(ジャン=ポール・ベルモンド)が捜恐怖に襲われた街 kangosi.jpg査にあたることになったが、ミノスと名乗る謎の男から彼に電話がかかってくる。事件の犯人だと話すミノスは、連続殺人を予告してくるのだった。そして、次には、多くの男との情事を重ねていた女性が犠牲となる。パリの街が恐怖に包まれる中、ルテリエは次の標的である看護師のエレーヌ(カトリーヌ・モラン)の警護にあたるが、エレーヌもミノスの罠にはまり殺されてしまう。彼女の死によって意外な犯人の正体が明らかになるのだが、ルテリエは次の犠牲者がポルノ女優のパメラ・スイートであることを突きとめると、彼女の自宅であるマンションへと向かう。だが、すでに到着していたミノスは、パメラを人質に取った上に部屋に爆弾を仕掛けていた―。

IMG_20201203_164015.jpg 「地下室のメロディー」('63年)「シシリアン」('69年)のアンリ・ヴェルヌイユ監督の1975年公開作で、「ジャン=ポール・ベルモンドの恐怖に襲われた街」との邦題が使われることもあるポリス・アクション映画。アンリ・ヴェルヌイユとベルモンドのタッグで、音楽もエンニオ・モリコーネという作品ですが、ストーリーがやや凡庸なせいか、公開当時あまり話題にならなかったようです。一応、ビデオ化されましたが、その後ソフト化されることもなく('21年に初DVD化)、それが今回、新宿武蔵野館での特集「ジャン=ポール・ベルモンド傑作選」でHDリマスター版による45年ぶりの劇場公開となりました。

新宿武蔵野館(2020.12.3)
    
恐怖に襲われた街2.jpg 見所はストーリーではなくアクションでした。ジャン=ポール・ベルモンドはノー・スタントでスレート屋根を跳び、列車の屋根を走ってトンネルでは身を伏せ、最後はヘリにワイヤーでぶら下がってビルの25階の窓を破って突入します。この映画が、後のジャッキー・チェンやスティーブ・マックイーン、チャック・ノリスなど、多くのアクションスターに影響を与えたというのも頷けます。

 スティーヴ・マックイーンも「ハンター」('80年/米)でシカゴの地下鉄の屋根に上っています。デパートの中へ逃げ込んだ犯人を追うシーンは、ジャッキー・チェンの「ポリス・ストーリー/香港国際警察」('85年/香港)にもありました。高層ビルにロープ一本で突っ込むシーンは「ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル」('11年/米)にもあったので、それをスタントを使わずにやったトム・クルーズも、この映画でアクションに体を張るベルモンドの影響を受けているのかもしれません。

「恋愛日記」トリュフォー.jpg恐怖に襲われた街 aibo.jpg ルテリエの相棒のモアサック刑事に扮するシャルル・デネは、ルイ・マル監督の「死刑台のエレベーター」('57年)では、リノ・ヴァ死刑台のエレベーター9.jpgンチュラ演じる警部の相方の警部補で、リノ・ヴァンチュラと交互にモーリス・ロネを尋問していました。主演作「恋愛日記」('77年/仏)など、フランソワ・トリュフォー監督の作品にもよく出ていた性格俳優です。この作品では"筋肉"で事件を解決することをモットーとするルテリエに比べれば特に見せ場は無いものの、抑制の効いた味のある演技を見せています。

恐怖に襲われた街 lea.jpgL_avventura_(1959)_Antonioni.jpg また、冒頭でネグリジェ姿で登場し最初に死んでしまう女性ノラ・エルメール役のレア・マッサリは、ミケランジェロ・アントニオーニ監督の「情事」('60年/伊)で、物語の序盤で行け不明になる娘アンナ役を演じていました。この作品の15年前ですが、そう言えば、当時からちょっとキツイ感じだったかも。 

恐怖に襲われた街 ja.jpg恐怖に襲われた街  han.jpg こうした役者陣も含め、個々の見所はありますが、犯人が結構しょぼい割には、ルテリエが警護しててもカトリーヌ・モラン演じる看護師のエレーヌを守れなかったりするので、やはりストーリー面で弱いでしょうか(まあ、「007シリーズ」だって、ジェームズ・ボンドはいっぱい女性を死なせてしまっているが)。結局、この作品の一番の見所はジャン=ポール・Henri Verneuil explique à Jean-Paul Belmondo.jpgean-Paul Belmondo se tient prêt pour une cascade.jpgベルモンドのアクション―ということに行き着きます。「CGなどを使わない分、昔のアクション映画の方がスリルがあった」ということの証左のような映画でした。
     

Henri Verneuil explique à Jean-Paul Belmondo


「ベルモンド傑作選」.jpg0070恐怖に襲われた街.jpg「恐怖に襲われた街(ジャン=ポール・ベルモンドの恐怖に襲われた街)」●原題:PEUR SUR LA VILLE(英:FEAR OVER THE CITY)●制作年:1975年●制作国:フランス・イタリア●監督・脚本:アンリ・ヴェルヌイユ●製作:ジャン=ポール・ベルモンド/アンリ・ヴェルヌイユ●撮影:シャルル=アンリ・モンテル●音楽:フエンニオ・モリコーネ●時間:126分●出演:ジャン=ポール・ベルモンド/シャルル・デネ/レア・マッセリ/アダルベルト・マリア・メルリ/ジョヴァンニ・チャンフリーリア/ジャン・マルタン/カトリーヌ・モラン●日本公開:1975/07●配給:コロムビア●最初に観た場所:新宿武蔵野館(20-12-03)(評価:★★★☆)


ジャン=ポール・ベルモンド傑作選Blu-ray BOX Iハードアクション編.jpgジャン=ポール・ベルモンド傑作選Blu-ray BOX Iハードアクション編<初回限定版>」(2021)

「恐怖に襲われた街」(1975年/仏) 原題:PEUR SUR LA VILLE
「危険を買う男」(1976年/仏) 原題:L'ALPAGUEUR
「警部」(1978年/仏) 原題:FLIC OU VOYOU
「プロフェッショナル」(1981年/仏) 原題:LE PROFESSIONNEL

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「この映画で最も描きたかったのは情熱のメカニズムだ」(ジャック・ドゥミ)。

天使の入江 dvd.jpg 天使の入江  dvd.jpg  天使の入江02.jpg
天使の入江 [DVD]」(2011)「天使の入江 ジャック・ドゥミ監督 Blu-ray」(2016)

天使の入江749.jpg パリの銀行で働くジャン・フルニエ(クロード・マン)は、同僚のキャロン(ポー天使の入江849.jpgル・ゲール)に連れられて行った市中のカジノで、一時間で給料の半年分を稼ぐ大当たりする。それを契機にギャンブルに取り憑かれた彼だったが、謹厳な時計修理職人の父親から「賭博師はごめんだ。出て行け」と勘当されると、ニースの安ホテルに居を移し、「天使の入江」のカジノ通いを始める。そんなある日、以前カジノで見かけたブロンド美女のジャッキー・ドメストル(天使の入江91.jpgジャンヌ・モロー)に偶然出会う。ジャンは彼女に惹かれると共に、意気投合した彼女とパートナーを組み、ますますギャンブルにのめり込んでいく。彼女は夫の懇願にもかかわらずギャンブルに熱中して離婚し、息子とは週に一回会えるだけだと言う。ボロ負けした日は「二度としない」と誓天使の入江9457580.jpgうが口だけで、「軽率な自分に腹がたつ」と言いながらやめられない。ホテル代もなく駅のベンチで寝るというジャッキーを、ジャンは自分のホテルに泊まらせる。翌朝二人は別れるが、午後天使の入江9457581.jpg海岸にいたジャンを探しに来たジャッキーは、女友だちに借金した金で賭天使の入江L.jpgけてくると言い、別れるつもりだったジャンはカジノまでジャッキーを追っていく。そして、カジノで二人は勝ちまくり、「崖っぷちのドンデン返しね。モンテカルロに行きましょう」というジャッキーの誘いに車を買い、ドレスにタキシードを用意し、豪華ホテルに横付けし、海が見えるバルコニー付きのスイートルームにチェックインする。しかし、二人はカジノで今度は大敗し、結局有り金を全部使い果たしてしまう―。

イメージフォーラム .JPG 1963年3月1日フランス公開のジャック・ドゥミ監督作で、妻アニエス・ヴァルダのカンヌ映画祭招待に帯同したジャック・ドゥミが、その時たまたま立ち寄ったニースのカジノでそこで賭け事に興じる人々の姿を目にして着想を得たシナリオだとのことです。本邦でも2009年に「ジャック・ドゥミ初期作品集DVD-BOX」としてDVD化されており、アンスティチュ・フランセ東京で2013年、2014年と上映されたりもしていますが、劇場公開は今年['17年]7月から8月にかけてのシアター・イメージフォーラムでのジャック・ドゥミ、アニエス・ヴァルダ両監督の地下室のメロディー カジノ.jpg作品を特集した「ドゥミとヴァルダ、幸福についての5つの物語」での上映が「初公開」だそうです。同じくニースのカジノを舞台にしたアンリ・ヴェルヌイユ監督の「地下室のメロディー」が1963年3月19日にフランスで公開されて、日本では同年8月に公開されています。フランスでの公開は「天使の入江」の方が18日だけ早いですが、日本での公開は「地下室のメロディー」の公開より半世紀以上遅かったことになります。そして、7月22日にロードショーが始まったと思ったら、そのすぐ後にジャンヌ・モローの訃報に接することになりました(7月31日老衰のため逝去。89歳)。

 ジャック・ドゥミ監督が「シェルブールの雨傘」('64年)で見せたカラフルでポップな世界観とはうって変って(「天死の入江」は「シェルブールの雨傘」の1つ前の作品なのだが)、こちらはモノクロで、途中ロマンチックな場面は殆ど無く、天国(大勝ち)と地獄(大負け)の間を目まぐるしく行き来する二人をカメラは冷静に追っているという感じです。ラストのラストで、ああ、恋愛映画だったのだなあと思わされ、ロマンチストであるジャック・ドゥミの本質がこういう救いある結末にさせたのかなあと思いました。但し、ジャンヌ・モロー演じるジャッキーはこれまでも何度も「二度としない」と誓ってはこうなってしまっているわけで、本当に二人でこのまま行って大丈夫なのかなあという気もしました。

天使の入江9457582.jpg すでに、ルイ・マル監督の「死刑台のエレベーター」('57年)やフランソワ・トリュフォーの「突然炎のごとく」('62年)、ジョゼフ・ロージー監督の「エヴァの匂い」('62年)などでファム・ファタールを演じていたジャンヌ・モローですが、この映画での女ギャンブラー役(ジャック・ドゥミの叔母がモデルだそうだ)は、また違った印象がありました。現代の眼で見れば、ギャンブル依存症という病いにしか見えないのですが、主人公もその辺りは解っていて、そこがまた、主人公が彼女を突き離せない1つの理由になっているように思います。

天使の入江18.gif ただ、ジャッキーはギャンブルに対する弱さだけでなく、ギャンブルについての哲学も持っていて、「贅沢できなくても平気よ。お金のために賭けをやるのじゃない。十分あってもやるわ。賭けの魅力は贅沢と貧困の両方が味わえること。それに数字や偶然の神秘がある。もし数字が神様の思し召しなら、私は信者よ。カジノに初めて入ったとき、教会と同じ感動を覚えた。私にとって賭けは宗教よ。お金とは関係ない」「この情熱のおかげで私は生きていられるの。誰にも奪う権利はないわ」と言っています。ギャンブラーとしての凄みを感じさせながらも、強がっている部分も感じられ、その辺りがジャンヌ・モローならではの演技の機微であり、同じファム・ファタールを演じても、監督が違えば違ったタイプのそれを見せる演技の幅であると思いました。

 ジャンヌ・モローのプラチナ・ブロンドに染めた髪と白いドレス(衣装デザインはジャンヌ・モローの当時の恋人ピエール・カルダン)が、モノクロ映画であるからこそニースの浜に映えて輝いて見えます。主人公はジャッキーというファム・ファタールに巻き込まれてしまうのか、或いはまた、依存症である彼女を愛の力で救い出せるのか―という二人の行方がどうなるかということももさることながら、むしろ、「私にとって賭けは宗教よ」と言い、主人公の「君にとって僕は机か椅子に見えるのか。心はどうでもいいのか」との問いに「ただの賭け仲間よ。なぜあなたを犬のように連れ回したかわかる? 幸運をもたらすからよ」と言い放ちつつも最後は主人公に寄り添うジャッキーの、情熱と愛のエネルギー自体がテーマとなっているような映画であるように思えました。ジャック・ドゥミ監督自身、「この映画で最も描きたかったのは情熱のメカニズムだ」と言っており、ミシェル・ルグランのきらめく音楽もそうしたテーマに呼応したものとなっているように思われました。


     
天使の入江 (1963)
天使の入江 (1963).jpgドゥミとヴァルダ、幸せについての5つの物語.jpg「天使の入江」●原題:LA BAIE DES ANGES(英:BAY OF ANGELS)●制作年:1963年●制作国:フランス●監督・脚本: ジャック・ドゥミ●撮影:ジャン・ラビエ●音楽:ミシェル・ルグラン●時間:101分●出演:ジャンヌ・モシアター・イメージフォーラム2.jpgロー/クロード・マン/ポール・ゲール/アンナ・ナシエ●日本公開:2017/07●配給:ザジフィルムズ●最初に観た場所:渋谷・シアター・イメージフォーラム(特集「ドゥミとヴァルダ、幸せについての5つの物語」)(17-08-18)(評価★★★★)

シアター・イメージフォーラム 2000(平成12)年9月オープン(シアター1・64席/シアター2・100席)。表参道駅から徒歩7分。青山通り渋谷方向、青山学院を過ぎ、二本目の通り左入る。

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戦前の〈スクリューボール・コメディ〉のテイストが60年代でどう変わったか。

ハワード・ホークス 「男性の好きなスポーツ」.jpg男性の好きなスポーツ  00.jpg 男性の好きなスポーツwi.jpg ロック・ハドソン/ポーラ・プレンティス
「男性の好きなスポーツ」ポスター/「Man's Favorite Sport? [DVD] [1964] by Rock Hudson

男性の好きなスポーツ 00.jpg ロージャー・ウィルビー(ロック・ハドソン)は釣り具メーカーの敏腕セールスマンで、彼の著書『かんたん釣り教本(Fishing Made Simple)』はベストセラーになっている。ある日、ワカプーギー湖で催される競技会にゲストスターとして出場するよう主催者側のイージー(マリア・ペルシー)とアビー(ポーラ・プレンティス)に口説かれ、社長(ジョン・マクギバー、しょっちゅうカツラがずれる)の命令ということもあり渋男性の好きなスポーツ 01.jpg々承諾するが、実は彼には一度も釣りの実地経験が無く魚は嫌いなのだ。美人2人と湖に行くと聞男性の好きなスポーツ 02.jpgいた婚約者のテックス(シャーレン・ホルト)は嫉妬する。湖での3日間の競技会の始まる前夜、アビーが彼に言い寄ってくる。何男性の好きなスポーツ 03.jpgとか言い逃れてコテージに戻ると、彼女は彼のベッドで寝ている。翌朝、彼のコテージをテックスが不意に訪れ、状況を誤解男性の好きなスポーツ 23.jpgして怒る。競技会が始まり、初日の彼の成績はマグレで2位。その夜、彼はテックスに詫び、彼女の心も和らぐが、彼女が再び訪ねて来ると、皮肉にもロージャーのネクタイがイージーのドレスのジッパーに引っ掛かって背中がはだけている場面に遭遇する。2日目はマグレで1位となり、その3日目は熊の捕まえた魚を横取りして遂に優勝。だが、アビーに諭されてトロフィーは返上、自分は今まで釣りをしたことが無かったことを皆に告白する―。

男性の好きなスポーツ 24.jpeg ハワード・ホークス(1896-1977/享年81)監督の1964年公開のスラップスティック・コメディで、ハワード・ホークスはハンフリー・ボガート主演の「脱出」('44年)、「三つ数えろ」('46年)といったハードボイルドタッチの作品や、ジョン・ウェイン主演の「赤い河」('48年)、「リオ・ブラボー」('59年)といった西部劇など男臭い映画を撮る一方で、マリリン・モンローが出演している「モンキー・ビジネス」('52年)や「紳士は金髪がお好き」('53年)など男女のドタバタ・ロマンティック・コメディも撮っていて、この作品もその部類と言えます。1975年にアカデミー名誉賞を授与されていますが、現役時にはアカデミー賞の受賞どころかノミネートも一度しかなく、多くの傑作を残しながら、批評家からは通俗的な娯楽専門のB級映画監督としてしか見られなかったといいますが、器用過ぎて却って損をしたのかなという気もします。

男性の好きなスポーツes.jpg この作品は、戦前に〈スクリューボール・コメディ〉と言われたものへのオマージュが込められているらしいですが(〈スクリューボール・コメディ〉の第1号は「或る夜の出来事」('34年)であると言われているが、この作品のオマージュ対象はハワード・ホークス自身が監督した「赤ちゃん教育」('38年)らしい)、古き良き時代のおおらかな雰囲気のラブ・コメディという感じがします。主人公ロージャーが釣りの本を書いてベストセラーになっているのに自身は釣りをしたことがないという設定は面白いと思いましたが、そのために事実を知ったイージーら女性陣からは釣りの手ほどきを受けつつもペテン師扱いされているけれど、自分で情報を集めているわけだし、「自分はどこそこで大物を釣った」とか言わない限りはペテン師にはならないのではないかな。

男性の好きなスポーツ kuma.jpg ロージャーが美女に振りまわされる姿をギャグでつないでいくという流れで、ロージャーの乗ったバイクが熊とぶつかったと思ったら、熊がバイクを乗りこなしていたり、更にはロージャーが再び熊に遭遇して湖面を水しぶきを上げながら走って逃げるといった(「レモ/第1の挑戦」('85年)のラストみたい)、現実にはありえないようなシュールな場面もありますが、まあ概ねオーソドックスなドタバタ劇という感じでしょうか。

男性の好きなスポーツ 89.jpg 〈スクリューボール・コメディ〉のセオリーは、プロセスですっちゃかめっちゃかあってもラスト男女が結ばれること(但し露骨なセクシー表現は無し)。結局、ロージャーは女性たちから散々ひどい目に遭いながらもアビーと結ばれ、「男性の好きなスポーツ」(原題:Man's Favorite Sport?)の答は「女性」だったということになるでしょうか。後に、有名人で最初に同性愛をカミングアウトした人物となるロック・ハドソン(カミングアウトする頃には業界内では"公然の秘密"だったようだが)がこれを演じているのはやや皮肉な気もします。

男性の好きなスポーツ  97.jpg 「孔子曰く」と言って色々なものを売りつける先住民風の男(ノーマン・アルデン)が、最後、「じゃじゃ馬は押していけ」とロージャーを励ましますが、この言葉は孔子じゃなくて自分の言葉で、孔子は世間知らずだという。だったら、どうして今まで孔子の言葉を引いていたのか。この辺りが微妙に可笑しかったです。

男性の好きなスポーツV1_.jpg 全体としては、肩が凝らずに観られる作品だけれど、やや笑いのパンチ不足? 国内でソフト化されていない理由も分からなくもないといった感じでしょうか。ソフト化されていないことが付加価値になっている部分もあるし、〈スクリューボール・コメディ〉のテイストが戦前と60年代でどう変わったか知るにはいい作品かもしれません(ちょっとだけセクシーな表現がある点が変わった?)。

男性の好きなスポーツ 99.jpg「男性の好きなスポーツ」●原題:MAN'S FAVORITE SPORT?●制作年:1964年●制作国:アメリカ●監督・製作:ハワード・ホークス●脚本:スティーヴ・マックニール/ジョン・フェントン・マレイ●撮影:ラッセル・ハーラン●音楽:ヘンリー・マンシーニ●時間:120分●出演:ロック・ハドソン/ポーラ・プレンティス/マリア・ペルシー/ジョン・マクギバー/シャーレン・ホルト/ロスコー・カーンス/ノーマン・アルデン/フォレスト・ルイス●日本公開:1964/03●配給:ユニヴァーサル(評価★★★)

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「●「カンヌ国際映画祭 審査員特別グランプリ」受賞作」の インデックッスへ 「●「ロンドン映画批評家協会賞 外国語映画賞」受賞作」の インデックッスへ 「●「アカデミー国際長編映画賞」受賞作」の インデックッスへ 「●「ゴールデングローブ賞 外国語映画賞」受賞作」の インデックッスへ 「●エンニオ・モリコーネ音楽作品」の インデックッスへ「○外国映画 【制作年順】」の インデックッスへ 「○存続中の映画館」の インデックッスへ(シネスイッチ銀座)

疑似的父親にみる父性原理。主人公は今必ずしも幸せでない? 通常版(劇場公開版)で十分か。

Nyû shinema paradaisu (1988).jpgニュー・シネマ・パラダイス SUPER.jpg ニュー・シネマ・パラダイス10.jpg ジュゼッペ・トルナトーレ.jpg
ニュー・シネマ・パラダイス SUPER HI-BIT EDITION [DVD]」ジュゼッペ・トルナトーレ監督 Nyû shinema paradaisu (1988)

ニュー・シネマ・パラダイス23.jpg ローマに住む映画監督のサルヴァトーレ(中年期:ジャック・ペラン)は、アルフレード(フィリップ・ノワレ)という老人が死んだという知らせを受ける。アルフレードは、かつてシチリア島の小さな村にある映画館・パラダイス座で働く映写技師だった。「トト」という愛称で呼ばれていた少年時代のサルヴァトーレ(少年期:サルヴァトーレ・カシオ)は大の映画好きで、母マリア(中ニュー・シネマ・パラダイス25.jpg年期:アントネラ・アッティーリ)の目を盗んではパラダイス座に通いつめていた。「トト」はやがて映写技師のアルフレードと心を通わせるようになり、ますます映画に魅せられていった。アルフレードから映写技師の仕事も教わるニュー・シネマ・パラダイス26.jpgようになった「トト」だったが、フィルムの出火から火事になり、アルフレードは重い火傷を負って失明してしまう。その後、焼失したパラダイス座は「新パラダイス座」として再建され、父の戦死が伝えられた「トト」は、家計を支えるためにそこで映写技師として働くようになる。やがて思春期を迎えた「トト」ことサルヴァトーレ(青年期:マルコ・レオナルディ)は駅で見かけた美少女ニュー・シネマ・パラダイス62.jpgエレナ(アニェーゼ・ナーノ)との初恋を経験、それから兵役を経て成長し、今は映画監督として活躍するようになっている。成功を収めた彼のもとに母マリア(壮年期:プペラ・マッジオ)からアルフレードの訃報が届き、映画に夢中だった少年時代を思い出しながら、サルヴァトーレは故郷のシチリアに30年ぶりに帰って来たのだった―。

ニュー・シネマ・パラダイス200.jpg ジュゼッペ・トルナトーレ監督(1956年生まれ)の1988年公開作で、1989年カンヌ国際映画祭審査員グランプリを受賞したほか、イタリア映画としては15年ぶりにアカデミー賞最優秀外国語映画賞を受賞した作品です(ゴールデングローブ賞外国語映画賞も受賞)。日本でも'89年12月に公開され、「シネスイッチ銀座」での単館ロードながら40週というロングランを記録し、観客動員数約27万人、売上げ3億6900万円という数字は、単一映画館における興行成績としては未だ破られておらず、単館ロードそのものが減っているため、この記録は今後も破られないと言われています。

 124分の「劇場公開版(国際版)」の他に175分の「完全版(ディレクターズカット版)」があり、そちらもビデオやDVD化されています。「完全版」も劇場で観たいと思っていたらシネマブルースタジオでやることになり、観に行くと、当初「完全版」での上映を予定していたのが「通常版」(劇場公開版(国際版))の上映に変更となったとのことでした。それでも、27年ぶりぐらいに観て懐かしかったです(映画そのものが"ノスタルジー映画"であり、気分的に何だかダブった)。
音楽:エンニオ・モリコーネ

ニュー・シネマ・パラダイス31.jpg この映画について、母性(女性)原理への回帰という意味で日本人の気質に通じるものがあって、日本人に受け入れられやすいのではないかという見方をどこかで読んだ覚えがありますが、確かにシシリア人気質というのは家族の絆を非常に重んじるところがあるようです。但し、映画において「トト」ことサルヴァトーレにとって疑似的な父親の役割を果たすアルフレードは、サルヴァトーレに「この村から出て行け。ローマに行って、もう戻ってくるな」と諭すわけであって、これは完全な父性(男性)原理と言えるのではないかと思いました(「ノスタルジーに惑わされるな」と言っているのも同じことだろう。極論すれば、家族を犠牲にしてもわが道を行けと言っているともとれる)。

ニュー・シネマ・パラダイス80.jpg それがいいのか悪いのかというと、結局トトことサルヴァトーレは、映画監督としては成功したものの、アルフレードの教えを守ったばかりに母親は30年間息子に会えず、そして、成功しているはずのサルヴァトーレ自身も、実を結ばなかった初恋の思い出を引き摺っているのか、結婚もせずに付き合う女性をとっかえひっかえし、何となく虚無感を漂わせている感じです。但し、これをもってアルフレードの教えが誤っていたとかそんなことは言えないだろうなあ。アルフレードの教えを守ったからこそ映画人としての今の自分があるのかもしれないし、何かを得れば何かを失う、人生って大方そのようなものではないかなあと思いました。

 175分の「完全版」では主人公の人生に焦点が置かれており、青年期のエレナとの恋愛や壮年期の帰郷後の物語が描かれるため、同じラストシーンも、「通常版」では少年時代の映画を愛する心を取り戻す意味合いに近いものになっているのに対し、「完全版」では長い年月エレナに囚われていた心を慰められるという意味合いに近くなって、ニュアンスが異なってくるとのこと。従って、「完全版」を観ないと、この映画の本当の意味(例えばラストの編集されたキスシーンのオンパレードの意味など)は理解できないという人もいるようです。

 一方で、映画サイトallcinemaでは、「通常版」に「星4つ」という満点の評価を与え、「かなり印象を異にする3時間完全版もあるが、はっきりいってこちらだけで十二分である」とコメント。「完全版」に対する評価は「星1つ半」という低評価で、「"映画をこよなく愛する人たち"にとって、これほどまでの感動を与えてくれた映画は過去にあっただろうかと思えるほど、映画ファンにはたまらなかった秀作に、51分・約60カットも加えてしまった蛇足の完全版。初公開版と異なるところは、青年期のサルヴァトーレと恋人とのすれ違いの理由や、彼の"ストレートな"感情表現の描写などが追加された所だが、徹底的に違うのは、シチリア島に戻った中年サルヴァトーレが出会う人物とのその後のエピソード。ディレクターズカット版が登場すると、初公開版とのギャップから賛否両論となるが、これもそのひとつで、観終わった後の主人公に対するイメージはおろか、作品に対する評価までもが全く変わってしまうほど。初公開時に"この映画を見て泣けない人は、鬼と呼ばれても仕方ない!"などと言われていたが、完全版に関しては、その想いを半減させざるをえないとんでもない1本」とallcinemaにしてはかなり辛口のコメントがあります。

 完全版では、中年になったサルヴァトーレはエレナとも再会し、そのエレナをブリジット・フォッセーが演じているとのことで、ちょっと観たい気持ちもあったのですが、allcinemaのコメントを読むと、まあ観なくてもいいかなとも(実際に「完全版」を観た人がこのallcinemaのコメントを読んでどう思うかはまちまちだと思われるが)。「ニュー・シネマ・パラダイス」というタイトルからして"映画愛"がテーマの作品とみるべきでしょう。また、あまりリアリステッィクに何もかも描いてしまうと凡百の恋愛映画になってしまうということはあるのかもしれません。実際、この映画が一番最初、1988年にイタリアで劇場公開された際の「オリジナル版」の上映時間は155分だったそうですが、興行成績が振るわなかったため、ラブシーンやエレナとの後日談をカットして124分に短縮し(監督本人が編集)、それが映画祭などで国際的に公開され成功を収めたとのことです。と言うことで、今回も「通常版(劇場公開版=短縮版)」だけを観て、評価は星4つ半としました。

 この映画、主人公のもとに母親の訃報が届いたのを機に主人公が自らの少年時代を回想するという形をとっているため、今の主人公は憂いを帯びた表情をしているのは当然なわけですが、それだけでなく、主人公が今現在の生活において必ずしも幸福そうに見えないところが一つミソなのかもしれません(対比的に少年時代や青春時代がより輝いて見える)。ただ、主人公がなぜ今はそう幸せそうに見えないのかを映画の中で説明し始めると(それが最初の完全版にはあったと思われるが)、観る側のイマジネーション効果を減殺し、ダメな映画になってしまうということなのでしょう。

ニュー・シネマ・パラダイス poster.jpgニュー・シネマ・パラダイス22.jpg「ニュー・シネマ・パラダイス」●原題:NUOVO CINEMA PARADISO●制作年:1988年●制作国:イタリア・フランス●監督・脚本:ジュゼッペ・トルナトーレ●製作:フランコ・クリスタルディ●撮影:ブラスコ・ジュラート●音楽:エンニオ・モリコーネ/アンドレア・モリコーネ●時間:155分(オリジナル版)/124分(国際版(劇場公開版))/175分(完全版(ディレクターズカット版))●出演:フィリップ・ノワレ/ジャック・ペラン/サルヴァトーレ・カシオ/マルコ・レオナルディ/アニェーゼ・ナーノ/アントネラ・アッティーリ/プペラ・マッジオ/レオポルド・トリエステ/エンツォ・カナヴェイル/レオ・グロッタ/イサ・ダニエ銀座文化・シネスイッチ銀座.jpgシネスイッチ銀座.jpgリ/タノ・チマローサ/ニコラ・ディ・ピント●日本公開:1989/12●配給:アスミック・エース●最初に観た場所:シネスイッチ銀座(90-02-11)●2回目:北千住・シネマブルースタジオ(17-05-27)(評価★★★★☆)
シネスイッチ銀座 1955年11月21日オープン「銀座文化劇場(地階466席)・銀座ニュー文化(3階411席)」、1978年11月2日~「銀座文化1(地階353席)・銀座文化2(3階210席)」、1987年12月19日〜「シネスイッチ銀座(前・銀座文化1)・銀座文化劇場(前・銀座文化2)」、1997年2月12日〜休館してリニューアル「シネスイッチ銀座1(前・シネスイッチ銀座)・シネスイッチ銀座2(前・銀座文化劇場)」

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ジャン・ギャバンとがっぷり四つに組めたのは、アラン・ドロンではなくリノ・ヴァンチュラか。

シシリアン 1969.gif シシリアン 1969 blueray.jpg  シシリアン ギャバン・ドロン2.jpg
シシリアン [Blu-ray]」(2015) ジャン・ギャバン、アラン・ドロン

シシリアン 1969 - コピー.gifシシリアン 196915b.jpg 殺し屋ロジェ・サルテ(アラン・ドロン)は、シシリアン・マフィアのボスのヴィットリオ・マナレーゼ(ジャン・ギャバン)の力を借りて刑務所から脱獄する。パリに潜伏したサルテは、マナレーゼの息子アルド(イブ・ルフェーブル)の妻ジャンヌ(イリナ・デミック)と恋仲になる。マナレーゼは、サルテが持ちかけた宝石強奪話に乗り、ニューヨーク・マフィアのボスのトニー・ニコシア(アメデオ・ナザーリ)を仲間に引き入れる。宝石展の展示物を米国への空輸中に飛行機ごと奪うという大胆な計画は、見事成功する。マナレーゼはこの仕事を最後に勇退し、シシリアン 1969 2.jpg故郷シシリー島に帰る予定だったが、サルテとジャンヌの不倫がファミリーの知るところとなる。マナレーゼはサルテをパリに呼んでシシリアン3s.jpg殺害する計画を立てるが、ジャンヌの機転でサルテは危機を逃れる。空港でサルテを待ち伏せたマナレーゼの息子たちは、情報を得たル・ゴフ警部(リノ・ヴァンチュラ)に逮捕される。一人残されたマナレーゼは、宝石強奪の分け前を渡すという口実でサルテを呼び出す―。
   
シシリアン1s.jpgシシリアン 196946.jpg 「ヘッドライト」('55年)、「地下室のメロディー」('63年)のアンリ・ヴェルヌイユ(1920-2002/享年81)監督の1969年作品で、原作は犯罪小説家オーギュスト・ル=ブルトン。アンリ・ヴェルヌイユ監督の「地下室のメロディー」と同じくジャン・ギャバンとアラン・ドロンの共演作で、ジョゼ・ジョヴァンニ監督の「暗黒街のふたり」('73年)でもこの2人は共演しています(フィルム・ノワールばかりだなあ)。

シシリアン91.jpg アラン・ドロンは一匹狼が似合いますが、ジョゼ・ジョヴァンニ監督の「ブーメランのように」('76年)のように純粋に一人主人公と時はいいけれども、ジャン・ギャバンと並ぶと貫禄の差が出てしまい、この二人の組み合わせは意外と難しい(?)。但し、この作品に関しては、元プロレスラーのリノ・ヴァンチュラ(1919-1987)が、出番はそう多くないもののジャン・ギャバンとがっぷり四つに組んでいて、作品全体のバランスが取れているように思いました。リノ・ヴァンチュラに関して言えば、50年代の「死刑台のエレベーター」('58年)シシリアン リノ.jpg、60年代のこの作品、70年代の「ローマに散る」('76年)が代表的な警部役でしょう。数的にはギャング役の方が多いにも関わらず、警部役のイメージが強い俳優です(アラン・ドロンと「冒険者たち」('67年、原作はジョゼ・ジョヴァンニの「生き残った者の掟」)で共演した時は、ドロンと共に宝探しをする中年男の役で、ジョアンナ・シムカスを頂点にアラン・ドロンと三角形の構図を成していて、これはこれで良かった)。

 プロット的にはそれほど凝ったものではなく、と言って悪くもないですが、当時としてはその大胆な手口から話題になったという航空機乗っ取り計画も、特撮シーンなどは今観るとどうしても安っぽい感じでを受けます。やはり、ジャン・ギャバン演じるシシリアン・マフィアのボスを軸に、時に偏狭とも思えるくらい身内のことにかまけるとでも言うか、ファミリーのプライドを重んずるシシリー気質というものを感じ取るとともに、安全や打算よりもプライドと復讐を重んじたために招いた結末の虚しさを、エンニオ・モリコーネの哀愁漂うテーマ曲と共に味わう映画でしょうか(音楽はいい。音楽だけの評価だと★★★★★)。

シシリアン 1969 1_.jpgシシリアン 1969s.jpg 個人的には、マフィアがピンボールゲーム機の製造か販売の事業をしているといのが興味深かったです(ラストでリノ・ヴァンチュラはピンボールをしながらジャン・ギャバンを待っている)。この作品はフランス語版のほかに主演俳優らによる英語吹き替え版もあって、近年わが国でリリースされていたのはDVDもBlu-rayもどういうわけか英語版ばかりでしたが、'14年2月にようやっとフランス語版のBlu-rayがリリースされています('15年12月にも再リリースされた)。やっぱり、フランス語版で観るにこしたことないでしょう。英語版で観るくらいなら、野沢那智と森山周一郎の吹き替えで観た方がまだいいかもしれません。

Le clan des Siciliens.jpg 因みに、映画の中でアラン・ドロンと不倫関係になるイリナ・デミック(1936-2004)は、両親はフランスに移住したロシア人で、当初はパリでクリスチャン・ディオールの店のモデルをしていたのがルポライターに転進、1962年に雑誌社の依頼でノルマンディーで撮影中の映画「史上最大の作戦」('69年/米)のロケ取材に行ったところを製作者に見出され、同作品にてレジスタンスの美人闘士役でデビューしましたが、この「シシリアン」を最後に映画界を引退しています(女優としてはわずか7年しか活動しなかった)。

イリナ・デミック in「史上最大の作戦」('62年/米)/「シシリアン」('69年/仏)
イリナ・デミック 史上最大の作戦.jpg イリナ・デミック シシリアン.jpg
Shishirian (1969)
Shishirian (1969).jpgシシリアン 1969 10s.jpg「シシリアン」●原題:LE CLAN DES SICILIENS/THE SICILLIAN CLAN●制作年:1969年●制作国:フランス●監督:アンリ・ヴェルヌイユ●製作:ジャック・ストラウス●脚本:アンリ・ヴェシシリアン (1970年) (ハヤカワ・ノヴェルズ).jpgルヌイユ/ジョゼ・ジョヴァンニ/ピエール・ペルグリ●撮影:アンリ・ドカエ●音楽:エンニオ・モリコーネ●原作:オーギュスト・ル=ブルトン●時間:124分●出演:ジャン・ギャバン/アラン・ドロン/リノ・ヴァンチュラ/イリナ・デミック/アメデオ・ナザーリ/イブ・ルフェーブル/シドニー・チャップリン●日本公開:1970/04●配給:20世紀フォックス(評価★★★☆)
オーギュスト・ル=ブルトン『シシリアン (1970年) (ハヤカワ・ノヴェルズ)


リノ・ヴァンチュラ in「死刑台のエレベータ」('57年/仏)/「冒険者たち」('67年/仏)
リノ・ヴァンチュラ 死刑台のエレベータ0.jpgリノ・ヴァンチュラ 冒険者たち.jpg

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ニューシネマの中ではラストに救いがある「ゲッタウェイ」。メディアミックスの先駆「ある愛の詩」。

ゲッタウェイ 1972 .jpgゲッタウェイ dvd.jpg ゲッタウェイ05.jpg  ある愛の詩 1970.jpg
ゲッタウェイ デジタル・リマスター版 [DVD]」スティーブ・マックィーン/アリ・マックグロー/ 「【映画パンフ】ある愛の詩 アーサー・ヒラー アリ・マッグロー リバイバル判 1976年」ライアン・オニール

ゲッタウェイs.jpg 刑務所を裏取引で出所したドク・マッコイ(スティーブ・マックイーン)は、引き換えに、取引相手のテキサスの政界実力者ベニヨン(ベン・ジョンソン)の要求で、妻キャロル(アリ・マッグロー)と銀行強ゲッタウェイ01.jpg盗に手を染める。ベニヨンからはルディ(アル・レッティエリ)とジャクソン(ボー・ホプキンズ)が助手兼ドクの監視役として送り込まれ、綿密な計画の末に強盗は何とか成功するが、ジャクソンが銀行の守衛を射殺してしまう。ルディは目撃者に面が割れたジャクソンを車内で射殺し、今度はドクに銃を向けるが、ドクの銃が先に火を吹く。ドクは、銀行から奪った金を約束通りベニヨンの元に運び込ぶが、キャロルの様子がおかしく、実はベニヨンとキャロルは男女の関係にあり、当初はドクゲッタウェイ02.jpgを裏切って消す考えだったのだ。しかし、キャロルはドクではなくベニヨンを射殺する。ドクは逃走中に車を止め、嫉妬と怒りからキャロルを殴り倒す。一方のルディは、防弾チョッキゲッタウェイ03.jpgのお蔭で死んでおらず、獣医の家に押し入り、ドクに撃たれた肩の治療をしていたが、ベニヨンの死を知り、ドクの追跡を開始する。ドクは町で自分が指名手配になっているのを知ってショットガンをゲッタウェイ04.jpg買い求め、警察に追われながらも逃げて、エルパソのホテルに辿り着く。だが、そこへはルディが先回りしていて、ベニヨンの手下も向かっていた。ルディがホテルに現れ、ドグが彼を殴り倒した時に今度はベニヨンの手下が現れて大銃撃戦が始まるが、ドクのショットガンで全員が倒され、ルディも射殺される。ドクはホテルからメキシコ人の老人のトラックに乗り込み、国境を越えたところで老人からトラックを買取り、夫婦はメキシコ側へ消えていく―。

 サム・ペキンパー監督の1972年作品で、原作は『鬼警部アイアンサイド』などで知られるジム・トンプスン、脚本は、後に「48時間」「ストリート・オブ・ファイアー」を監督するウォルター・ヒルが手掛けています。追手からの逃避行を続けるうちに、主人公2人の間に夫婦愛が甦ってきて、激しく血生臭い銃撃戦を乗り越えて2人は新たな世界へ逃げ延びる―というニューシネマの中では珍しく(?)ラストに救いがあるタイプです。アーサー・ペン監督の「俺たちに明日はない」('67年)にしても、銀行強盗の末路は警官から一斉射撃を浴びての"蜂の巣状態"でしたから。

ゲッタウェイ  .jpgゲッタウェイ 淀川.jpg しかしながら故・淀川長治は、必ずしも2人の未来は明るいと示唆されているわけではないと言っており、これは、原作にこの続きがあって、バッドエンディンが待ち受けていることを指していたのでしょうか。但し、原作における主人公のキャラクターは極悪人に近く、取引上やむなく銀行強盗をする映画の主人公とはかなり異なるようです。個人的には、この映画のラストには、やはり何となくほっとさせられます。

 一方、この映画の方には、もう1つのエンディングがあったこともよく知られており、最後は2人が警官に撃たれて「俺たちに明日はない」のボニーとクライドのように"蜂の巣状態"になるものだったそうです(実際に撮影された?)。これは、サム・ペキンパー監督が「俺たちに明日はない」に非常に感化されていたということもあったようですが、スティーブ・マックイーンが反対したようです。

 元々この映画は、ピーター・ボグダノビッチ監督、シビル・シェパード主演、原作者のジム・トンプスン脚本で進められていたのが、スティーブ・マックイーンが監督も主演女優も脚本家も変えてしまったみたいで、マックイーンがこうも口を挟む背景には、彼が実質的な製作者になっていったことがあるようです。音楽は、ペキンパー作品の常連ジェリー・フィールディングが担当することになったのが、これまたマックィーンの主張でクインシー・ジョーンズのジャズ音楽に差し替えられています。

 このように、様々な場面でサム・ペキンパー監督とも意見が対立し、マックイーンが押し切った部分もあれば譲歩した部分もあるようです。ペキンパーは破滅的な結末を望んだのかと思いましたが、実はこの映画を風刺のきいたコメディにしたかったらしいとも言われています。そうしたこともあってか、ペキンパー本人はこの作品に不満を持っていたとされていますが、結果として彼の作品の中では最大のヒット作となりました。

ゲッタウェイ  マックグロー.jpgある愛の詩05.jpg 妻役のアリ・マックグローは銃を扱ったことがなく、マックイーンが銃の撃ち方を教えて銃に慣れさせたりもしたそうですアリ・マックグロー 2.jpgが、「ある愛の詩」('70年)の白血病で死んでいく女子大生よりは、こちらの方が"演技開眼"している印象です。でも、この作品での共演をきっかけにマックイーンと結婚し、この後2本だけ映画に出て実質的に映画界を引退してしまいました。6年後に離婚してしまったことを考えると惜しい気もしますが、2006年に68歳で Festen(映画「セレブレーション」の舞台化)でブロードウェイ・デビューを果たしています。

ファラ・フォーセット オニール.jpgある愛の詩021.jpg 一方、「ある愛の詩」で共演したライアン・オニールは、その後「ペーパー・ムーン」('73年)、「バリー・リンドン」('73年)などに主演するなどして活躍しましたが、2001年に慢性白血病に冒されていることが判明し、また、パートナーであったファラ・フォーセットのガンによる死(2009年6月25日、マイケル・ジャクソンと同じ日に亡くなった)を看取るとともに、自身も前立腺がんであることが公表(2012年)されていて、こちらはかなりタイヘンそうだなあと。

love story eric.jpg 「ある愛の詩」は、エリック・シーガルによる同名の小説が原作ですが、未完の小説を原作として映画の製作が始まり、先に映画が完成し、映画の脚本を基に小説が執筆された部分もあるそうです。先に小説が刊行され、その数週間後に映画が公開されており、今で言う"メディアミックス"のはしりでした。ペーパーバックを読みましたが、初めて英語で読んだ小説の割には読み易かったのは、ある種ノベライゼーションに近かったせいもあるかもしれないし、ストーリーが古典的で結末が見えているせいもあったかもしれません。この映画のヒットの後、難病モノの映画が幾つか続いた記憶があります(アメリカ人は白血病モノが好きなのか?)。

大林宣彦2.jpg この映画がアメリカでヒットしたことについて、映画監督の大林宣彦氏はアメリカで封切り時にこの作品を現地で観ていて、ベトナム戦争で疲弊したアメリカが、本音ではこのような純愛ドラマを求めている時代感覚を肌で感じていたとのこと。但し、この映画の作られた1970年と言えばまだベトナム戦争の最中ですが、映画内にその影は一切見えません(最初観た時は"ノンポリ"恋愛映画だと思ったが、今思えば意図的にそうしていたのか)。日本でもヒットしたのは、古典的なストーリーに加えて、フランシス・レイの甘い音楽の効果もあったかと思います(日本ではフランシス・レイ来日記念盤として1971年3月に発売されたアンディ・ウイリアムス盤が、1月に発売されていたフランシス・レイ盤の先を越してトップ10にランクされた)。

love story Tommy Lee Jones.jpg 因みに、主人公のオリバー・バレット4世(ライアン・オニール)のルームメイト役で無名時代のトミー・リー・ジョーンズ(当時24歳)が出演していますが、その後3年間は映画の仕事がなく、彼の無名時代は長く続き、オリバー・ストーン監督の「JFK」('91年)出演でアカデミー助演男優賞にノミネートされてからようやっと注目されるようになり、ハリソン・フォード主演の「逃亡者」('93年)でアカデミー助演男優賞を獲得しています。オリバーやそのルームメイトが通うのは名門ハーバード大学ですが、トミー・リー・ジョーンズは実人生においてもハーバード大学の出身で、当時のルームメイトに後の副大統領となるアル・ゴアがいたとのことです。


raiann.jpg ライアン・オニール 2023年12月8日逝去。(82歳没)

「ペーパー・ムーン」1973.jpg「ペーパー・ムーン」11.jpg(●ライアン・オニールが亡くなった。「ある愛の愛の詩」('70年)の興行的成功や「ザ・ドライバー」('78年)といった渋い作品もあるが、代表作はと言うとやはり「ペーパー・ムーン」('73年)と「バリー・リンドン」('73年)になるのではないか。「ペーパー・ムーン」は泣けた。原作はジョー・デヴィッド・ブラウンの小説『アディ・プレイ』だが、日本では『ペーパームーン』の題名でハヤカワ文庫 から刊行された。ライアン・オニールとテータム・オニールの父娘共演で話題になり、本国では年間トップの興行収入を得、1973年の第46回アカデミー賞ではテータム・オニールが史上最年少で助演女優賞を受賞したが、その後、彼女が思ったほど伸びなかったことを思うと、ピーター・ボグダノヴィッチ監督の演出力がやはり大きかったか、または、父親ライアンの導き方が上手かったのか(個人的評価は、初見の時の感動に沿って★★★★☆)。「バリー・リンドン」1975.jpg「バリー・リンドン」11.jpg「バリー・リンドン」は、スタンリー・キューブリック監督が、18世紀のヨーロッパを舞台とし、ウィリアム・メイクピース・サッカレーによる小説"The Luck of Barry Lyndon"(1844年)を原作としたもので、アカデミー賞の撮影賞、歌曲賞、美術賞、衣裳デザイン賞を受賞した。世評は「ペーパー・ムーン」よりむしろ「バリー・リンドン」の方が上か。ただ、"ライアン・オニール"に目線を合わせると、主人公でを演じる彼が抑制を効かせた演技をすることで回りを浮き立たせているので、彼自身はやや背景に埋没している印象も受けなくもない。ラストの決闘シーンにおいてさえそう感じる。そこがキューブリック監督の演出のやり方なのだろうが(個人的評価は★★★★)。)


The Getaway (1972) .jpgゲッタウェイ 09.jpg「ゲッタウェイ」●原題:THE GETAWAY●制作年:1972年●制作国:アメリカ●監督:サム・ペキンパー●製作:デヴィッド・フォスター/ミッチェル・ブロウアー●脚本:ウォルター・ヒル●撮影:ルシアン・バラード●音楽:デイヴ・グルーシン●原作:ジム・トンプスン●時間:122分●出演:スティーブ・マックィーン/アリ・マックグロー/ベン・ジョンソン/アル・レッティエリン/スリム・ピケンズ/リチャード・ブライト/ジャック・ダドスン/ボー・ホプキンス/ダブ・テイラー●日本公開:1973/03●配給:ワーナー・ブラザース●最初に観た場所:高田馬場パール坐(77-12-10)●2回目:自由が丘・武蔵野推理(84-09-23)(評価★★★★)●併映(1回目):「パピヨン」(フランクリン・J・シャフナー)●併映(2回目):「48時間」(ウォルター・ヒル)

ある愛の詩 01.jpgある愛の詩01.jpg「ある愛の詩」●原題:LOVE STORY●制作年:1970年●制作国:アメリカ●監督:アーサー・ヒラー●製作:ハワード・ミンスキー●脚本:エリック・シーガル●撮影:リチャード・クラディナ●音楽:フランシス・レイ●原作:エリック・シーガル●時間:99分●出演:ライアン・オニール/アリ・マックグロー/ジョン・マーレー/レイ・ミランド/キャサリン・バルフォー/シドニー・ウォーカー/ロバート・モディカ/ラッセル・ナイプ/トミー・リー・ジョーンズ ●日本公開:1971/03●配給:ワーナー・ブラザース●最初に観た場所:三鷹オスカー(80-11-03)(評価★★★)●併映:「おもいでの夏」(ロバート・マリガン)/「フォロー・ミー」(キャロル・リード)
ある愛の詩 [ラリアン・オニール/アリ・マッグロー] [レンタル落ち]

ペーパー・ムーン スペシャル・コレクターズ・エディション [DVD]
「ペーパー・ムーン」dvd.jpg「ペーパー・ムーン」22.jpg「ペーパー・ムーン」●原題:PAPER MOON●制作年:1973年●制作国:アメリカ●監督・製作:ピーター・ボグダノヴィッチ●脚本:アルヴィン・サージェント●撮影:ラズロ・コヴァックス●原作:ジョー・デヴィッド・ブラウン●時間:103分●出演:ラ「ペーパー・ムーン」21.jpgイアン・オニール/テータム・オニール/マデリーン・カーン/ジョン・ヒラーマン/P・J・ジョンソン/ジェシー・リー・フルトン/ェームズ・N・ハレル/リラ・ウォーターズ/ノーブル・ウィリンガム/ジャック・ソーンダース/ジョディ・ウィルバー/リズ・ロス/エド・リード/ドロシー・プライス/ドロシー・フォースター/バートン・ギリアム/ランディ・クエイド●日本公開:1974/03●配給:パラマウント映画●最初に観た場所:名画座ミラノ(77-12-18)●2回目:名画座ミラノ(77-12-18)(評価★★★★☆)

バリー リンドン [DVD]
「バリー・リンドン」dvd.jpg「バリー・リンドン」22.jpg「バリー・リンドン」●原題:BARRY LYNDON●制作年:1975年●制作国:イギリス・アメリカ●監督・製作・脚本:スタンリー・キューブリック●撮影:ジョン・オルコット●音楽: レナード・ローゼンマン●原作:ウィリアム・メイクピース・サッカレー●時間:185分●出演:ライアン・オニール/マリサ・ベレンソン/ハーディ・クリューガー/ゲイ・ハミルトン/レオナルド・ロッシーター/アーサー・オサリヴァン/ゴッドフリー・クイグリー/パトリック・マギー/フランク・ミドルマス●日本公開:1976/07●配給:ワーナー・ブラザース●最初に観た場所:飯田橋・ギンレイホール(79-02-05)(評価★★★★)

「●ジャン=リュック・ゴダール監督作品」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【2453】 ジャン=リュック・ゴダール 「女と男のいる舗道
「●「ベルリン国際映画祭 銀熊賞(審査員グランプリ)」受賞作」の インデックッスへ「●「ベルリン国際映画祭 銀熊賞(女優賞)」受賞作」の インデックッスへ(アンナ・カリーナ) 「●ミシェル・ルグラン音楽作品」の インデックッスへ「●ジャン=ポール・ベルモンド 出演作品」の インデックッスへ 「●アンナ・カリーナ 出演作品」の インデックッスへ 「●ジャンヌ・モロー 出演作品」のインデックッスへ 「○外国映画 【制作年順】」の インデックッスへ

ゴダールのコメディ。ちょっとお洒落でちょっと前衛的。ゴダール作品の原点的要素が多く見られる。

女は女である poster.jpg女は女である .jpg女は女である 2006dvd.jpg女は女である b2013.jpg
女は女である ブルーレイ [Blu-ray]」(2013)
女は女である HDリマスター版 [DVD]」(2006)
女は女である【字幕版】 [VHS]」アンナ・カリーナ/ジャン=ポール・ベルモンド/ジャン=クロード・ブリアリ
アンナ・カリーナ「女は女である」ポスター
女は女である 00.jpg パリの小さな書店に勤める青年エミール(ジャン=クロード・ブリアリ)は、コペンハーゲンから来たばかりで、フランス語の「R」がうまく発女は女である カリーナブリアリ.jpg音できないストリップ・ダンサーのアンジェラ(アンナ・カリーナ)と一緒に暮らしていたが、ある日突然アンジェラが赤ちゃんが欲しいと言い出す。赤ちゃんは要らないし、正式な結婚などしない方が気女は女である 02.jpg楽だと考えるエミールとは折り合わず、2人は喧嘩になる。仕舞にアンジェラは、それなら他の男に頼むと啖呵を切り、エミールは動揺す女は女である 10.jpgるが、勝手にしろと答えてしまう。アンジェラもアンジェラで、自分たちの住むアパルトマンの下の階に住む、エミールの友人で以前よりアンジェラにちょっかいを出していた、駐車場のパーキングメーター係のアルフレード(ジャン=ポール・ベルモンド)に頼女は女である 06.jpgむと宣言する。ならばとエミールはアルフレードを呼び出して、アンジェラにけしかけたりした揚句、アンジェラに去られる。エミールはやけになって別の女と寝て、一方女は女である 07.jpgのアンジェラも、アルフレードと本当に寝てしまう。深夜、アンジェラがエミールと住むアパルトマンに戻り、2人はベッドで黙り込む。エミールは、試しに自分の子をつくってみようとアンジェラを抱く。フレッド・アステアのダンスミュージカルが幕を閉じて終わるように、アンジェラは寝室のカーテンを閉じてみせる―。

女は女である000.jpg女は女である ジャン・ポール・ベルモンド.jpg 1961年製作・公開のジャン=リュック・ゴダール監督の長篇劇映画第3作であり、ゴダールのカラー映画第1作であるとともにミュージカル・コメディ第1作。「小さな兵隊」('60年)に次いでアンナ・カリーナが出演したゴダール作品の第2作で、カリーナとの結婚後第1作になります。ゴダールは「勝手にしやがれ」('59年)で有名になりながらも、この作品を自らの原点的作品と位置付けています。

女は女である 05.jpg 音楽はミシェル・ルグランで、美術はベルナール・エヴァン。この2人は本作の2年後に製作されたジャック・ドゥミ監督の「シェルブールの雨傘」('63年)でもコンビを組むことになりますが、「シェルブールの雨傘」が全てのセリフにメロディがついていたのに対し、こちらは、米国ミュージカル映画へのオマージュはあるものの、登場人物はメロディに合わせて歌ったり踊ったりすることは女は女であるs2.jpgなく、そのメロディも、コラージュのようなスクリーンプレイに合わせて度々寸断され、ミュージカルというスタイルを完全に換骨奪胎していると言えます。一方の美術面では、カラフルな原色の色彩が多用されていて、これは「シェルブールの雨傘」にも見られるし、ゴダール自身の監督作「気狂いピエロ」('65年)にも連なる特徴かと思われます。

女は女であるes.jpg ジャン=クロード・ブリアリが室内で自転車を乗り回すシーンや、喧嘩して口をきかなくなったジャン=クロード・ブリアリとアンナ・カリーナが本のタイトルで会話をするなど、ちょっとお洒落なシーンが多くあり、また、アンナ・カリーナら登場人物が時折カメラに向けて語りかけるシーンなどがあったりするのがちょっと前衛的と言うか、ストーリー自体はたわいもない話ですが、その分肩肘張らずに楽しめるゴダール作品です。

女は女である  モロー.jpg ジャン=クロード・ブリアリに急に部屋に来るよう呼ばれたジャン=ポール・ベルモンドが、「早く帰ってテレビで『勝手にしやがれ』を見たいんだ」と言ったり、そのジャン=ポール・ベルモンドが、カメオ出演のジャンヌ・モローにバーで、フランソワ・トリュフォー監督によって撮影中の「突然炎のごとく」('62年)について「ジュールとジムはどうしてる?」と訊ねるシーンがあったりするなどの小ネタ的愉しみも(「撮影は順調?」と訊ねているとも解釈可能)。
ジャン=ポール・ベルモンド/ジャンヌ・モロー
女は女であるanna-karina-.jpg女は女である 04.jpg ゴダールは本作でベルリン国際映画祭「銀熊賞」(審査員特別賞)を受賞し、これは前年の同映画祭での「勝手にしやがれ」による「銀熊賞」(監督賞)に続いて2年連続の受賞。映画のアンジェラと同じくコペンハーゲン出身のアンナ・カリーナは、本作で「銀熊賞」最優秀女優賞女は女である 0009-.png受賞。彼女はジャン=ポール・ベルモンド、ジャン=クロード・ブリアリの両雄を(と言っても2人だって共に28歳とまだ若いのだが)振り回してまさに圧巻。アンナ・カリーナを観て楽しむ映画とも言えますが、個人的には、ゴダール自身が後に「本当の意味での自分の処女作」と述べているように、ゴダール作品の原点的要素が多く見られるという点で興味深い作品です。
音楽:ミシェル・ルグラン

女は女である 062.jpg「女は女である」●原題:UNE FEMME EST UNE FEMME/A WOMAN IS A WOMAN●制作年:1961年●制作国:フランス・イタリア●監督・脚本:ジャン=リュック・ゴ女は女である2.jpgダール●製作:カルロ・ポンティ/ジョルジュ・ド・ボールガール●撮影:ラウール・クタール●音楽:ミシェル・ルグラン●原案:ジュヌヴィエーヴ・クリュニー●時間:84分●出演:アンナ・カリーナ/ジャン=ポール・ベルモンド/ジャン=クロード・ブリアリ/マリー・デュボワ/ジャンヌ・モロー/カトリーヌ・ドモンジョ●日本公開:1961/12●配給:新外映●最初に観た場所(再見):北千住・シネマブルースタジオ(16-09-16)(評価★★★★)

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一人の娼婦の儚い人生の中にも「詩と真実」があった。ミシェル・ルグランの音楽もいい。

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女と男のいる舗道2.jpg 1960年代初頭のパリのとあるビストロで、ナナ・クランフランケンハイム(アンナ・カリーナ)は、別れた夫ポール(アンドレ・S・ラバルト)と近況の報告をし合い女と男のいる舗道1.jpg別れる。ナナは、女優を夢見て夫と別れ、パリに出てきたが、夢も希望もないままレコード店の店員を続けている。ある日、舗道で男(ジル・ケアン)に誘われるままに抱かれ、その代償を得た。ナナは昔からの友人のイヴェット(ギレーヌ・シュランベルジェ)と会う。イヴェットは売春の仲介をしてピンハネして生きている。ナナにはいつしか娼婦となり、ラウール(サディ・ルボット)というヒモがつく。ナナは無表情な女になっていた。バーでナナがダンスをしていると、視界に入っ女と男のいる舗道09.jpg女と男のいる舗道103.jpgてきた若い男(ペテ・カソヴィッツ)にナナの心は動き、彼を愛し始める。ナナの変化に気付いたラウールは、ナナを売春業者に売り渡そうとする。ナナが業者に引き渡される時、業者がラウールに渡した金が不足していた。ラウールはナナを連れて帰ろうとするが、相手は拳銃を放つ。銃弾はナナに直撃した。ラウールは逃走、撃ったギャングも逃走する。ナナは舗道に倒れ、「生きたい!」と叫んで絶命する―。
Vivre Sa Vie Dance Scene anna karina
女と男のいる舗道94.jpg 1962年製作・公開のジャン=リュック・ゴダール監督の社会風俗ドラマで、ゴダールの長篇劇映画第4作(ヴェネツィア国際映画祭「審査員特別賞」受賞作)。「女は女である」('61年)についでアンナ・カリーナが出演したゴダール作品の第3作で、アンナ・カリーナとの結婚後の第2作です。マルセル・サコット判事のドキュメント「売春婦のいる場所」からゴダール自身が脚色したもので、原題は「自分の人生を生きる、12のタブ女と男のいる舗道 12.jpgローに描かれた映画」の意(「タブロー」はフランス語で持ち運びの可能な絵画(=キャンパス画、板絵)のことで「章」とほぼ同じとみていいのでは)。時期的には「勝手にしやがれ」('59年)と「気狂いピエロ」('65年)の間に位置する作品で、ラストなどは「勝手にしやがれ」の女性版を思わせる部分もあり、また、主人公の名前から、エミール・ゾラの小説『ナナ』が娼婦から女優に成り上がった女性を描いた、その逆を描いているともとれます。原作(原案)がドキュメントであるためか、「勝手にしやがれ」や「気狂いピエロ」より分かりやすい展開で、個人的には好きなゴダール作品です。

女と男のいる舗道 哲学者.jpg 第1章でナナが近況を交換する別れた夫ポールを演じるのは、ゴダールの批評家時代からの盟友でドキュメンタリー映画監督のアンドレ・S・ラバルトであり、終盤、ナナと哲学を論じあう碩学として登場するのは、アルベール・カミュやアンドレ・ブルトンと親交のあった哲学者ブリス・パランで、ゴダールの哲学の恩師であるそうです。最初観た時は、その「衝撃的」ラストに、むしろあっけないという印象を抱きましたが、ゴダールが説明的表現を排したドキュメンタリー・タッチで撮っているということもあったかもしれません。ゴダールがアンナ・カリーナの了解を取らずに隠し撮りのように撮ったシーンもあり(そのことをアンナ・カリーナはすごく怒ったらしい)、ナナと哲学者との対話における哲学者の受け答えも即興だそうです。

裁かるるジャンヌ 女と男のいる舗道2.jpg アンナ・カリーナ演じるナナは、生活のために娼婦に転じるわけですが、別に不真面目に生きているわけではなく、むしろ「自分の人生を生きる」という哲学を持っています。彼女は、「裁かるるジャンヌ」を観て涙したり(このシーンのアンナ・カリーナの表情がいい)、偶然に出会った哲学者と真理について語ったりします(第12章のタイトルは「シャトレ広場- 見知らぬ男 - ナナは知識をもたずに女と男のいる舗道 哲学者2.jpg哲学する」)。哲学者との会話のシーンなどは、最初に観た時は、言葉が映画の背景になっているような感じがしたのが、今回改めて観直してみると、結構深いことを言っているなあと(「朝に道を聞かば夕べに死すとも可なり」なんて言葉を思い出した)。儚(はかな)くも散った一娼婦の人生においても、その中に確実に「詩と真実」はあったのだ―という見方は、あまりにロマンチックすぎるでしょうか。ミシェル・ルグランの音楽もいいです(この音楽がそんな気分にさせる)。

裁かるゝジャンヌ dvd.jpg 因みに、「女と男のいる舗道」でアンナ・カリーナ演じるナナが観て涙したカール・テオドア・ドライヤー監督映画「裁かるるジャンヌ」('28年/仏)は、火刑に処せられる直前のジャンヌ・ダルクの心情の揺らぎを描いたものですが、オリジナルネガフィルムが1928年にドイツ・ウーファ社の火災によって焼失したため、完全なフィルムは存在しないと言われてきました。更に、ドライヤーがオリジナルに使用しなかったフィルムで再編集した第2版のネガも焼失し、製作元も倒産。その後に観ることが出来た作品は、世の中に出回っていたポジフィルムをかき集めてかろうじて作品の体裁を成したもの、乃至はその海賊版のようですが、製作直後にデンマークでの公開のために送られていた完全オリジナルフィルムが1984年に偶然発見され、日本では1994年に初めて公開されました(2005年にDVD化。それ以前のハピネット版DVDは不完全版)。

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 自分が個人的にこの映画を観たのは、埋もれていたフィルムが再発見される3年前(「女と男のいる舗道」と併映だった)。小津安二郎の「大学は出たけれど」('29年)のように70分の内11分しか現存していなくても充分に堪能出来る作品もありますが、この不完全版「裁かるるジャンヌ」に関してはダメでした。ストーリー部分が後退して、画面もカットされているため、ルネ・ファルコネッティ演じるジャンヌの表情の大写しが前面に出すぎてモンタージュ効果が逆に生きていない印象を持ちました(完全版を観ていないので、きちんとした評価は不能か。但し、映画史的にも一般にも評価の高い作品[IMDbポイント8.3])。ナナが観たのは完全版なんだろうか?

アンナ・カリーナ in 「女と男のいる舗道」    音楽:ミシェル・ルグラン
アンナ・カリーナ 「女と男のいる舗道」.jpg「女と男のいる舗道」●原題:VIVRE SA VIE:FILM EN DOUZE TABLEAUX(英:MY LIFE TO LIVE(米)/IT'S MY LIFE(英))●制作年:1962年●制作国:フランス●監督・脚本:ジャン=リュック・ゴダール●製作:ピエール・ブロンベルジェ●撮影:ラウール・クタール●音楽:ミシェル・ルグラン●原作(原案):マルセル・サコット「売春婦のいる場所」(ドキュメ女と男のいる舗道27.jpgント)●時間:84分●出演:アンナ・カリーナ/サディ・ルボット /アンドレ・S・ラバル/ギレanna karina.jpgーヌ・シュランベルジェ/ジェラール・ホフマン/ペテ・カソヴィッツト/モニク・メシーヌ/ポール・パヴェル/ディミトリ・ディネフ/エリック・シュランベルジェ/ブリス・パラン/アンリ・アタル/ジル・ケアン●日本公開:1963/11●配給:日本ヘラルド映画●最初に観た場所:カトル・ド・シネマ上映会〔四谷公会堂〕 (81-09-12)●2回目:北千住・シネマブルースタジオ (16-09-06)(評価★★★★☆)●併映(1回目):「裁かるるジャンヌ」(カール・テオドア・ドライヤー)  anna karina

Sabakaruru Jannu (1928).jpg裁かるるジャンヌ 女と男のいる舗道1.jpg「裁かるるジャンヌ (裁かるゝジャンヌ)」●原題:LA PASSION DE JANNE D'ARC●制作年:1927年(1928年4月デンマーク公開、同年10月フランス公開)●制作国:フランス●監督・脚本:カール・テオドア・ドライヤー●撮影:ルドルフ・マテ●時間:96分(短縮版80分)●出演:ルネ・ファルコネッティ/ウジェーヌ・シルヴァン/モーリス・シュッツ/アントナン・アルトー●日本公開:1929年10月25日●配給:ヤマニ洋行●最初に観た場所:カトル・ド・シネマ上映会〔四谷公会堂〕 (81-09-12) (評価★★★?)●併映:「女と男のいる舗道」(ジャン=リュック・ゴダール)
Sabakaruru Jannu (1928)

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「○外国映画 【制作年順】」の インデックッスへ
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置き換えれたラスト。分かりやすく、分かりにくい〈ブレーク・スルー・ムービー〉。

8 1/2 dvd.jpg 8 1/2  1963 .jpg フェリーニ 8 1/2 pos.jpg  フェリーニ 8 1/last.jpg
8 1/2 普及版 [DVD]」/「8 1/2 [Blu-ray]」/チラシ(2008年リバイバル時)

フェリーニ 8 1/2O.jpgフェリーニ 8 1/21.jpg グイド(マルチェロ・マストロヤンニ)は43歳、一流の映画監督である。彼は医者の勧めに従い湯治場にやってきた。湯治場に来てもグイドは、愛人カルラ(サンドラ・ミーロ)、妻ルイザ(アヌーク・エーメ)そして職業フェリーニ 8 1/29.jpg上の知人たちとの関係の網の目から逃れることはできない。カルラは美しい女性だが、肉体的な愛情だけで結ばれている存在で、今のグフェリーニ 8 1/27.jpgイドにとっては煩わしくさえ感じられる。妻ルイザとの関係はいわば惰性で、別居を考えはするものの、離婚する勇気がないだけでなく、時には必要とさえ感じるのである。そんなグイドの心をよぎるのは若く美しい女フェリーニ 8 1/2 c.jpg性クラウディア(クラウディア・カルディナーレ)だ。クラウディアは、グイドの願望の象徴であるが、彼女との情事の夢もむなしく消えてしまう。彼の夢、彼の想像の中で、思索は亡き両親の上に移り、次々と古い思い出を辿る―葡萄酒風呂を恐れ逃げまわる少年時代、乞食女サラギーナ(エドラ・ガーレ)と踊ったことで神父から罰せられる神フェリーニ 8 1/2ini5.jpg学校の生徒時代。やがて保養を終えたグイドは、混乱と失意のまま元の生活に戻る。彼が全てのことを投げ出そうとした瞬間、彼の心の中で何かが動き出す。彼の渦去の全ての対人関係、逃れようのないフェリーニ 8 1/2ges.jpg絶対の人生経験をかたち作っている全ての人が、笑顔をもって彼と同じ目的地に向っていこうとしているのである。映画製作が始まった。オープン・セットでグイドは叫ぶ。「みんな輪になってくれ、手をつないで踊るんだ!」演出していた映画監督グイドは、自分も妻とともに輪の中に入る。踊り続ける人々はやがて闇の中に消え、ただ一人残り、無心に笛を吹き続けるのは、少年時代のグイドだ―。

中古映画ポスター(8 2/1)-s.jpg 1963年公開のフェデリコ・フェリーニ監督作品で、モスクワ国際映画祭最優秀作品賞やアカデミー賞外国語映画賞を受賞したほか、専門家や一般の映画愛好者向けの様々なアンケートで今も常に上位にランクインするよく知られた作品です。とは言え、自分がこの作品を初めて観た80年代から90年代にかけては、タイトルの頭に必ず「フェリーニの」と付いていました(付けないと、映画なのか何なのか分からない人もまだ多かった?)。最近では、DVD等のタイトルも、単に「8½」となっているようです。
8½ (1963)
8½ (1963).jpg
 フランソワ・トリュフォーの「アメリカの夜」('73年/仏)もこれから撮ろうとしている映画監督の話だったし、ジャン=リュック・ゴダールの「パッション」('82年/仏・スイス)、ヴィム・ヴェンダースの「ことの次第」(西独・ポルトガル・米)、ミケランジェロ・アントニオーニの「ある女の存在証明」('82年/伊)もそうでしたが、何れも、監督自身が作品の主人公である「監督」に自己投影されているのはほぼ間違いないのではないでしょうか。そして、こうした作品フレームの源流的な位置にあるのがこの作品ではないかと思います。これらの作品が、どちらかというと映画の撮影が上手くいっていないという状況が背景のものが多いのも、「8½」の影響があるのかもしれません。「映画の撮影が上手くいかない」ということが映画のモチーフになり得るという先例を示したことで、多くの監督がこれに飛びついたのは無理からぬことかもしれません(それだけ撮影に苦労している?)。

フェリーニ 8 1/2i.jpg その中でもこの「8½」の大きな特徴は、精神的に追い詰められ、仕舞いには自殺まで想い描いていたかに見えた主人公が(強迫神経症的な夢のシーンがある)、ラストで突然に、「人生はお祭りだ。共に生きよう」と叫んで復活、人々と共に輪になって踊り始めるという、ある種〈ブレーク・スルー・ムービー〉になっている点にあると思われ、また、そのブレーク・スルー・ムービーになっているという点が、多くの人々の共感を生む理由でもあるのではないでしょうか。

8 1/2ド.jpg グイドの復活に何かその理由が説明がされているわけではありません。実は当初ラストは、幽霊のような白い服を着た登場人物たち(グイドを除く)が、セリフもないまま満員状態で列車の食堂車に乗ってどこかへ向かうシーンが撮られていて、言わばグイドの葬送をイメージしたものになっていたのが、制作会社かフェリーニ 8 1/2812_sub1.jpgら作品の予告編の制作するよう依頼されたフェリーニが、オープンセットで登場人物たちが輪になって踊るというシーンを撮り、最終的にそれが当初予定されていたラストシーンに置き換わって使われたということのようです。そのため、そのラストとその一つ前の段階との繋がりという点で、やはり唐突さはあるように思います(製作中にフェリーニに心境の変化があったのか。それとも当初のままでは暗過ぎて観客受けしないと思ったのか)。

フェリーニ 8 1/2pos2.jpg甘い生活 1シーン2.jpg 退廃した上流階級を背景にした「甘い生活」('59年)とやや背景が似ているところもあり(主人公は片や著名な映画監督、片やしがないゴシップ記者だが)、どちらが作品として上か、或いはどちらが好みかということでよく議論になりますが、「甘い生活」の方が分かり易いという人と「8½」の方が分かり易いとい人に分かれるのが興味深いです(知人で、「8½」を何度観ても途中で寝てしまうという人がいる)。個人的には、「8½」の方がブレーク・スルー・ムービーとして分かり易いですが、主人公がなぜブレーク・スルー出来たのかということについては観る側に解釈が委ねられているような感じで、「甘い生活」におけるラストのブレーク・スルー出来ない主人公の置かれている状況の方がトータルでは分かり易いように思いました。実際、この「8½」は多くの映画監督から高い評価を得る一方で、ルイス・ブニュエルなどは、「甘い生活」を絶賛するものの、「8½」に関しては「分からん」とボヤいていたそうです(ブニュエルの気持ちも分かる。分かりやすくもあり、また、分かりにくくもある映画というべきか)。

ジャンニ・ディ・ヴェナンツォ.jpgフェリーニ 8 1/2 02.jpg 撮影は「太陽がいっぱい」('60年/仏・伊)、「太陽はひとりぼっち」('62年/伊・仏)、「エヴァの匂い」('62年/仏)のジャンニ・ディ・ヴェナンツォ(1920-1966/享年45)。湯治場などを撮った光と影のコントラストを際立たせたカメラがい良かったし、主人公の夢のシーンや少年時代の回想シーンも悪くなかったです。これ見ると、フェリーニが自分の経験に近いところで撮ったのかなあという気もしますが、「フェリーニのマルコルド」('73年/伊)(なぜDVD化されないのか?)についても言えますが、フェリーニの場合、"記憶"と思われるものの"創造"であったりするから何とも言えません(例えばフェリーニ作品のアイコンとも言うべきフェリーニ 8 1/26.jpgEddra Gale and Barbara Steele in 8 1/2.jpg「太った女」は「8½」(エドラ・ガーレ)にも「アマルコルド」それぞれに出てくるが、その設定は全く異なっている)。再見してみて、怪奇映画女優のバーバラ・スティール(イタリア・ゴシック・ホラーの"絶叫クィーン"と言われたB級映画専門女優)を使っていることに改めて気づきました。

Eddra Gale & Barbara Steele,81/2    
                   Anouk Aimée,81/2 
アヌーク・エーメ 8 12.jpg「フェリーニの8½ (8½)」●原題:OTTO E MEZZO ●制作年:1963年●制作国:イタリア・フランス●監督:フェデリコ・フェリーニ●製作:アンジェロ・リッツォーリ●脚本:フェデリコ・フェリーニ/トゥリオ・ピネッリ/エンニオ・フライアーノ/ブルネッロ・ロンデチラシ「8 1/2」.jpgィ●撮影:ジャンニ・ディ・ヴェナンツォ●音楽:ニーノ・ロータ●時間:140分●出演:- マルチェロ・マストロヤンニ/アヌーク・エーメ/クラウディア・カルディナーレ/サンドラ・ミーロ/バーバラ・スティール/マドレーヌ・ルボー/イアン・ダラス/エドラ・ガーレ●日本公開:1965/09●配給:東和=ATG●最初に観た場所:高田馬場東映パラス(87-05-09)●2回目:北千住・シネマブルースタジオ(15-12-22)(評価:★★★★☆) Barbara Steele in Federico Fellini,81/2
フェリーニ 8 1/22.jpgフェリーニの8 1/2 (8 1/2)Barbara Steele.jpg

 
 
 
   
    
     
クラウディア・カルディナーレ 若者のすべて.jpgクラウディア・カルディナーレ81/2.jpgクラウディア・カルディナーレbフィツカラルド.jpgクラウディア・カルディナーレ(Claudia Cardinale)in ルキノ・ヴィスコンティ監督「若者のすべて」('60年/伊・仏)/フェデリコ・フェリーニ監督「フェリーニの8 1/2」('63年/伊・仏)/ヴェルナー・ヘルツォーク監督「フィツカラルド」('82年/西独)
 

          
アヌーク・エーメ「甘い生活」01.jpgアヌーク・エーメ 8 1/2s.jpgアヌーク・エーメ 男と女.jpgアヌーク・エーメ(Anouk Aimée)in フェデリコ・フェリーニ監督「甘い生活」('59年/伊)/フェデリコ・フェリーニ監督「フェリーニの8 1/2」('63年/伊・仏)/クロード・ルルーシュ監督「男と女」('66年/仏)

Federico Fellini - 8 1/2 (New Trailer) - In UK cinemas 1 May 2015 | BFI Release

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高田馬場・稲門ビル.jpg高田馬場東映パラス 入り口.jpg
高田馬場東映パラス 高田馬場・稲門ビル4階(現・居酒屋「土風炉」)1975年10月4日オープン、1997(平成9)年9月23日閉館

①②高田馬場東映/高田馬場東映パラス/③高田馬場パール座/④早稲田松竹

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ジャンヌ・モローの〈ファム・ファタール〉ぶりが見所。本当に不幸なのは男か女か。

エヴァの匂い dvd2.jpgエヴァの匂いeva-dvd.jpg エヴァの匂いdvd.jpg エヴァの匂い 00.jpg
「エヴァの匂い」DVD/輸入盤DVD/「エヴァの匂い Blu-ray」ジャンヌ・モロー

エヴァの匂いw.jpg 霧雨のヴェニスで水上を滑るゴンドラから過ぎゆく景色を眺めている女エヴァ(ジャンヌ・モロー)。彼女のために幾人もの男が身を滅していったのだが、作家のティヴィアン・ジョーンズ(スタンリー・ベイカー)もその一人だった。処女作が売れて一挙に富も名声を獲得し、あと婚約者フランチェスカ(ヴィルナ・リージ)と結婚するばかりだったある雨の夜、ティヴィアンの別荘にずぶ濡れになったエヴァと彼女の客が迷いこんで来る。それがティヴィアンとエヴァとの最初の出会いだったが、以来、ティヴィアンの脳裡にはエヴァの面影が焼きついて離れず、彼はエヴァの肉体に溺れていった。それから2年の月日を経て、今は乞食同然のティヴィアンだったが、彼はいまだにエヴァの面影を求めている。今日もヴェニスは雨に煙り、ゴンドラが漂う―。

エヴァの匂い5.jpg 英国の推理小説作家ジェームズ・ハドリー・チェイスの原作『悪女エヴァ』('45年)を、「コンクリート・ジャングル」('60年)のジョゼフ・ロージーが監督した1962年公開のフランス映画。撮影は「さすらい」('57年/伊)、「太陽がいっぱい」('60年)、「太陽はひとりぼっち」('62年)、「8 1/2」('63年/伊・仏)のジャンニ・ディ・ヴェナンツォ、音楽は「女と男のいる舗道」('62年/仏)、「シェルブールの雨傘」('64年/仏)、「華麗なる賭け」('68年/米)のミシェル・ルグランで、ジャズミュージック、中でもジャンヌ・モローの好みに合わせビリー・ホリデイの曲が多く使われています。

エヴァの匂い_1.jpg ジャンヌ・モロー(当時34歳)が所謂〈ファム・ファタール〉(運命の女=悪女)を演じた映画として知られており、ジャンヌ・モローはジャン・コクトーに「いつかスターになったら、映画でこの役を演じなさい」と言われて『悪女エヴァ』の本を渡され、最初にジャン=リュック・ゴダールに監督を依頼するも製作サイドがゴダールの作風を嫌がったため、次にジョセフ・ロージーを推薦しています。そのジョセフ・ロージーは、ルイ・マル監督の「恋人たち」('58年)を観てフランス映画を崇拝するようになったといい、その「恋人たち」に主演したジャンヌ・モローで作品を自ら撮る機会が巡ってきたことになります。

エヴァの匂いevaLosey_b.jpgエヴァの匂いm.jpg ジャンヌ・モロー演ずるエヴァは、カジノで金のありそうな男を物色しては身ぐるみ巻き上げる高級娼婦であり、そこには愛だの恋だの感情的なものは一切関わりません。この作品でそのエヴァによって身を滅ぼされるのが、スタンリー・ベイカー演じる新進の売れっ子作家ティヴィアンですが、ティヴィアンに「世界中で一番好きなものはなんだい?」と訊かれて、エヴァは「ラルジャン(お金)」と即答しています。ヴィルナ・リージ演じるティヴィアンの恋人フランチェスカエヴァの匂い9.jpgは、ティヴィアンとの結婚後も続くティヴィアンとエヴァのことを知って自殺しますが、そのことに対してもエヴァはどこ吹く風。決定的なのはラストで、新しい男をとギリシャ旅行に出かけるため早朝のヴェネチアの広場で船を待つエヴァエヴァの匂い      .jpgのもとへ落魄したティヴィアンが現れ、ギリシャから戻ったらまた会ってくれとエヴァにすがると、エヴァはティヴィアンをじっと見つめ、「みじめな男」とのみ言い捨てて新しい男と旅立って行きます(ヴェニスをこれくらい暗く撮っている映画も珍しいが、その暗さと男の心境がマッチしているとも言える)。

エヴァの匂い4.jpg 男はどうしてこんな女に惹かれてしまうのかと、普通に考えれば醒めた目で捉えられがちなところを、ジャンヌ・モローの演技のお蔭で、ティヴィアンの悪女にずぶずぶ嵌っていく様が腑に落ちてしまうし(ビリー・ホリデイの曲に乗せたジャンヌ・モローの一人演技の蠱惑的な長回しショットがあるので注目)、男には元々そうした墜ちていくような願望があるのかもしれないとさえ思ってしまいます。

エヴァの匂い01.jpg 全てをエヴァに吸い取られてしまい、今は酒場に入り浸る日々のティヴィアンですが、彼は本当に不幸だったのか。実はティヴィアンは炭鉱夫あがりの作家ということで話題になったものの、その話題になった処女作は亡き兄が書いたもので、つまり「盗作」で作家の名を成してしまったわけで、それがこの度のエヴァとの間での手痛い経験が肥やしとなって、やがて「本物」の作家として大成するのではないか。そうした意味では、結果的にティヴィアンにとっては実りある体験であって、彼は将来において幸せであり、むしろ、永遠に愛の不毛を抱え続けるエヴァこそが不幸なのではないか―というこの作品の解釈もあるようで、やや穿ち過ぎた見方のようにも思えますが、なかなか興味深い解釈だと思います(暗いヴェニスの風景は、エヴァの心の虚無を表していたのかも)。

エヴァの匂い モロー.jpg 因みに、この映画におけるジャンヌ・モローのファッションは、彼女が当時交際していたピエール・カルダンで統一されています(それまではシャネル一色だったジャンヌ・モローは、以後はカルダン一色となる)。

エヴァの匂い_2.jpg また、自殺に至るフランチェスカを演じたヴィルナ・リーは、ハリウッドに渡ってジャック・レモン主演の「女房の殺し方教えます」('64年/米)などにも出たりしましたが、後にイタリアで熟女女優として活躍し、サルヴァトーレ・サンペリ監督の「スキャンドール」('80年/伊)などにも出ています。また、ちょっとだけ出ているリザ・ガストーニも同じく後に熟女女優として活躍し、「スキャンダル」('76年/伊)などに出ています。
ヴィルナ・リージ (Virna Lisi,1936-2014)
          
エヴァの匂いes.jpg「エヴァの匂い」●原題:EVA●制作年:1962年●制作国:フランス●監督:ジョセフ・ロージー●製作:ロベール・アキム/レイモン・アキム●脚本:ヒューゴー・バトラー(脚色)/ジャンヌ・モロー エヴァ.jpgエヴァ・ジョーンズ(脚色)●撮影:ジャンニ・ディ・ヴェナンツォ●音楽:ミシェル・ルグラン(挿入曲:ビリーエヴァの匂い 仏版dvd.jpg・ホリデイ)●原作:ジェームズ・ハドリー・チェイス「悪女エヴァ」●時間:166分●出演:ジャンヌ・モロー/スタンリー・ベイカー/ヴィルナ・リージ/ジェームズ・ヴィリアーズ/リッカルド・ガルローネ/ジョルジョ・アルベルタッツィ/リザ・ガストーニ/ケッコ・リッソーネ/エンツォ・フィエルモンテ/ノーナ・メディチ/ロベルト・パオレッティ●日本公開:1963/06●配給:日本ヘラルド映画●最初に観た場所(再見):北千住・シネマブルースタジオ(16-03-20)(評価:★★★★)

イタリア・ベネチアで、「エヴァの匂い」の撮影セットでポーズを取るジャンヌ・モロー(1961年11月1日撮影)。(c)AFP

《読書MEMO》
●ヴェニス(ヴェネツィア)を舞台にした映画
ジョゼフ・ロージー監督「エヴァの匂い」('62年/仏)/ルキノ・ヴィスコンティ監督「ベニスに死す」('71年/伊・仏)/ニーノ・マンフレディ監督「ヌードの女」('81年/伊・仏)/テレンス・ヤング監督「007 ロシアより愛をこめて」('63年/英)
イタリアエヴァの匂い .jpgイタリア・ベネチア ●ベニスに死すges.jpgイタリア。ヴェネチア●ヌードの女.jpg 007 ロシアより愛をこめて  ヴェネチア (2).jpg

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最初観た時はこんなのアリ?という気もしたが、観る度に良いと思えるように。意外と深いかも。

華麗なる賭け.jpg華麗なる賭けdvd.jpg 華麗なる賭け 00.jpg  
華麗なる賭け [DVD]

華麗なる賭け 01.jpg華麗なる賭け 03.jpg ハンサムで裕福な実業家でありながら、実は裏の顔を持つクラウン(スティーヴ・マックィーン)。彼は、満ち足りた生活では得られないスリルを求めて銀行強盗を計画、ボストンの自社ビル前の銀行を5人の男に襲わせて見事に成功、260万ドルの現金を手中にする。事件後、ボストン市警も手がかりを掴めずお手上げとなる中、マローン警部補(ポール・バーク)とともに捜査していた銀行の保険会社華麗なる賭け 07.jpgの調査員ビッキー・アンダーソン(フェイ・ダナウェイ)はクラウンに目をつけ、彼が黒幕であることを確信する。彼女は正体を暴こうとクラウンに近づくが、徐々に彼の大胆不敵な姿に心惹かれてしまう。こうして2人のスリリングで奇妙な関係が始まる―。

華麗なる賭け_V1_.jpgTHE THOMAS CROWN AFFAIR.jpg 監督のノーマン・ジュイソンは前作「夜の大捜査線」('67年)でアカデミー作品賞を受賞、主演のスティーヴ・マックイーンも前作「砲艦サンパブロ」('66年)でアカデミー主演男優賞候補にノミネート、フェイ・ダナウェイも前年「俺たちに明日はない」('67年)でやはりアカデミー主演女優賞にノミネートされているなど、当時脂が乗り切っていたメンバー構成。但し、クラウン役はショーン・コネリーにオファーされたのが、彼がそれを断ったためにスティーヴ・マックイーンに回ってきたものだったとか。

華麗なる賭け   マックィーン.jpg華麗なる賭け 04.jpg 世界的に有名な大実業家が、何の苦労もないのにただスリルだけのために銀行襲撃を指揮し、しかも捕まらないという贅沢極まりないお話で、最初観た時はこんなのアリ?という気もしましたが、スティーヴ・マックィーンが亡くなってからテレビで観て、これ、スティーヴ・マックィーンのファンには彼のカッコよさを堪能するには格好の作品だなあと(撮影前は「スーツを着たマックィーンなんて見たくない」との声もあったというが、公開後にはそうした声は殆ど聞かれなくなったという)。また、ラブストーリーとしても楽しめる作品ではないかと思うようになりました。
   
華麗なる賭け チェス.jpg華麗なる賭け 05.jpg 最近劇場で改めて観直して、導入部のマルチスクリーンもいいし、フェイ・ダナウェイもいいし(色香際立つチェス・シーン!)、「シェルブールの雨傘」('64年)の華麗なる賭け 06.jpgミシェル・ルグランによる音楽もいいなあと(テーマ曲「風のささやき」(唄: ノエル・ハリソン)はアカデミー主題歌賞受賞)。主人公は、グライダーで優雅に空を翔け、バギーで浜を走らせ、ゴルフをし、ボロをしとスポーティですが、フランスの街並み風のカットがあったりして、何となくヨーロッパ的な感じがしなくもなく、フェイ・ダナウェイのファッションも楽しめて、全体としてはたいへんお洒落な作りになっていると言っていいのではないでしょうか。

華麗なる賭け マっクィーン.jpg華麗なる賭け ダナウェイ.jpg こうしたストレートな娯楽映画が観る度に良いと思えるようになるのは、「目が肥えた」と言うよりも年齢がいったせいかもしれませんが、やはりスティーヴ・マックィーンとフェイ・ダナウェイという2人のスター俳優に支えられている部分は大きいのだろうと思います。ラスト、空を飛ぶスティーヴ・マックィーンと地を行くフェイ・ダナウェイという対比で捉えると、男と女の生き方の違いを描いた映画とも言えるかもしれません。意外と深いかも...。1999年には、この作品を愛するピアース・ブロスナンの製作・主演で同名(邦題は「トーマス・クラウン・アフェアー」)のリメイク版も制作されていて、フェイ・ダナウェイも客演していますが、ラストを少し変えていたように思います(終わり方としてはオリジナルの方がいい)。

 スティーヴ・マックィーンはこの年はピーター・イェーツ監督の「ブリット」('68年/米)にも出演していて、大スター・マックィーンがそのカッコよさを極めた年だったなあと思います。
The Thomas Crown Affair(1968)
The Windmills Of Your Mind(風のささやき)- Michel Legrand ミシェル・ルグラン
Karei naru kake (1968)
Karei naru kake (1968).jpg
華麗なる賭け 02.jpg華麗なる賭け ダナウェイ2.jpg華麗なる賭けAL_.jpg「華麗なる賭け」●原題:THE THOMAS CROWN AFFAIR●制作年:1968年●制作国:アメリカ●監督:ノーマン・ジュイソン●製作:ノーマン・ジュイソン●脚本:アラン・R・トラストマン●撮影:ハスケル・ウェクスラー●音楽:ミシェル・ルグラン●時間:102分●出演:スティーヴ・マックィーン/フェイ・ダナウェイポール・バーク/ジャック・ウェストン/ヤフェット・コットー/トッド・マーティン/サム・メルビル/アディソン・ポウエル●日本公開:1968/06●配給:ユナイテッド・アーチス●最初に観た場所:池袋・文芸坐(80-07-16)●2回目:北千住・シネマブルースタジオ(15-03-24)(評価:★★★★☆)●併映(1回目):「ブリット」(ピーター・イェイツ)

ノーマン・ジュイソン.jpgノーマン・ジュイソン
「夜の大捜査線」などで知られるカナダ出身の映画監督。2024年1月20日、カリフォルニア州ロサンゼルスの自宅で死去。97歳。テレビ業界を経て、62年に「40ポンドのトラブル」で映画監督デビュー。人種差別を扱った67年の「夜の大捜査線」は、米アカデミー賞作品賞や主演男優賞など5部門を制した。他に「シンシナティ・キッド」「屋根の上のバイオリン弾き」「月の輝く夜に」などを手がけた。

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当時としては新鮮だったハリソン・フォードの役作り。

フランティック ちらし.jpgフランティック dvd.jpgフランティック [DVD]「フランティック」1988年5.jpg
映画チラシ 「フランティック」監督 ロマン・ポランスキー 出演 ハリソン・フォード」エマニュエル・セニエ
フランティック05.jpg 米国人外科医リチャード・ウォーカー(ハリソン・フォード)は、学会で講演するために妻サンドラ(ベティ・バックリー)と共にパリを訪れていた。新婚旅行以来のパリに心を弾ませていた彼だったが、ホテルにチェックインした後、「フランティック」1988年 4.jpgスーツケースが空港で誰かのものと取り違えてしまったことに気づく。明日にでも取り替えてもらうよう妻に言ってシャワーを浴びるが、その間に妻はホテルの部屋から忽然と姿を消してしまう。幾つかの関係先に問い合わせるも本気で取り合ってもらえず、逆に妻の浮気を疑われるという不本意な状況の中、ある目撃情報から妻の装身具を路上で発見、彼は妻は誘拐されたと確信し単身で捜索に乗り出す―。

Frantic 1988.jpg ロマン・ポランスキー監督(左写真)の1988年作品で、タイトルの「フランティック」(frantic)とは、「気が狂ったような」という意味であり、妻の誘拐事件にパニックになる主人公の姿を指しています。ハリソン・フォードはプライベートで妊娠中の当時の妻メッリサ・マシスンとパリ旅行に行った際にポランスキー監督と出会い、その時にこの作品の企画を打ち明けられ、異郷のパリで主人公の心情に近い立場だったこともあって喜んで出演をOKしたという裏話があります(ポランスキー監督はこの映画にミシェル役で出演したエマニュエル・セニエと'89年に結婚した)。

「フランティック」1988年 ミシェル.jpg 主人公が誤って持ち帰ったスーツケースは、運び屋の女ミシェル(エマニュエル・セニエ)が米国から持ち込んだ核兵器の起爆装置が隠されたもので、彼女に行き着いた主人公は、その起爆装置の争奪に躍起になるアラブ人グループとそれを阻止せんとするイスラエル側の攻防の中、ミシェルを救ったりしながら自らも妻の捜索にあたる―。

フランティック07.jpg この映画は、公開時に結構評価が割れたような気がします。ロマン・ポランスキーにしてはクセが無いオーソドックスなサスペンスですが、ストレートにサスペンスとして見「フランティック」1988年 Hフォード.jpgるとやや盛り上がりに欠け、ヒッチコック作品ほどの完成度にも至っていないといのがマイナス評価の理由でしょうか。大掛かりな仕掛けが出てこないこともあって、TVのミステリードラマを見ているような印象もあります。しかしながら、パリの街の雰囲気を自らがエトランゼになった気分で味わえ、ハリソン・フォードの好演もあって、個人的評価としては「○」です。特にハリソン・フォードが、主人公の医師が不測の事態にキリキリ舞いさせられる様を見事に演じていたように思います。

Frantic 1988 06.jpg ハリソン・フォードは当時、「インディ・ジョーンズ」シリーズからのイメージ・チェンジを図っており、既に「刑事ジョン・ブック 目撃者」('85年)に出演しアカデミー主演男優賞にノミネートされたりもしていましたが(ハリソン・フォード自身は「刑事ジョン・ブック 目撃者」を自身の"演技開眼作"と捉えているようだ)、対外的にはやはり、この「フランティック」が1つエポックになったのではないかと思われます。後の主演作品で、愛人殺害容疑をかけられた地方検事補ラスティ・サビッチを演じたスコット・トゥロー原作の「推定無罪」('90年)や、妻殺害容疑をかけられた医師チャード・キンブルを演じた「推定無罪」「逃亡者」「目撃者」.jpg古典的TVシリーズのリメイク「逃亡者」('93年)といった作品におけるキャラクター造型は、この「フランティック」の時の役作りがベースになっているように思います。「推定無罪」や「逃亡者」におけるハリソン・フォードの演技を知った上でこの作品における彼の演技に接すると、そう目新しい感じではないかも知れないけれど、リアルタイムで初めてこの作品を観た時の彼の演技は新鮮に映ったものでした(役者が自身の新境地を開拓した作品というのはやはり注目に値する)。

「フランティック」1988年.jpg「フランティック」●原題:FRANTIC●制作年:1988年●制作国:アメリカ●監督:ロマン・ポランスキー●製作:ティム・ハンプトン/トム・マウント●脚本:ロマン・ポランスキー/ジェラール・ブラッシュ/ロバート・タウン/ジェフ・グロスン●撮影:ヴィトルド・ソボチンスキ●音楽:エンニオ・モリコーネ●時間:120分●出演:ハリソン・フォード/エマニュエル・セニエ/ベティ・バックリー/ジョン・マホーニー/ジミー・レイ・ウィークス/ジェラール・クライン/パトリス・メレネク/イヴ・レニエ/リシャール・デュー/ドミニク・ピノン/ジャック・シロン//パトリック・フラールシェン/新宿ミラノ座内2.jpg新宿ミラノ座 1959.jpgマルセル・ブリュワル/デヴィッド・ハドルストン/アレクサンドラ・スチュワート/トーマス・M・ポラード/アルトゥ・ドゥ・ペンゲルン●日本公開:1988/07●配給:ワーナー・ブラザーズ●最初に観た場ミラノ座 1983年.jpg新宿ミラノ.jpg新宿ミラノ座 内部.jpg所:新宿ミラノ座(88-07-10)(評価:★★★★) [上写真:「新宿ミラノ座」オープン当初 (1959年)]
新宿ミラノ座 1956年12月、歌舞伎町「東急文化会館(後に「東急ミラノビル」)」1Fにオープン(1,288席)、2006年6月1日~「新宿ミラノ1」(1,064席)2014(平成26)年12月31日閉館。 (閉館時、都内最大席数の劇場だったが、閉館により「TOHOシネマズ日劇・スクリーン1」(948席)が都内最大席数に)

新宿東急ミラノビル4館(シネマミラノ・ミラノ座・新宿東急・シネマスクエアとうきゅう)2005年8月
新宿ミラノ会館4館 20051.08.jpg

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セリフの拾い方、連想ゲームのようにつないでいく手法の巧みさ&イラストも楽しめる優れもの。

お楽しみはこれからだ part3.jpg
  料理長殿、ご用心 p1.jpg 料理長シェフ殿、ご用心 02.jpg
料理長(シェフ)殿、ご用心 [DVD]」 Jacqueline Bisset
お楽しみはこれからだ〈part 3〉―映画の名セリフ (1980年)

  「PART2のあとがきに、PART3を作る予定はない、と書いたのだけれど、こうしてPART3が出来てしまった。「キネマ旬報」で連載を再開し、もう一冊分続けたというわけである。(中略)一つだけ新趣向を加えた。項目から次の項目への橋渡しを、シリトリのようにつないでゆく、というもので、いくらかこじつけもないではないが、どうやら最後の項目が最初に戻る形で輪のようにつながった。反省は、アメリカ映画に片寄り過ぎた点である。」 (あとがきより)

 和田誠(1936年生まれ)氏のシリーズ第3冊目で、あとがきに以上あるように、PART2で打ち止めの予定が「キネマ旬報」で連載を再開したために出来上がったもの(結局、その後も間歇的に連載し、シリーズは1995年単行本刊行の第7巻(PART7)までの累計ページ数は1,757ページに及ぶことになります。
 PART2で邦画も取り上げていましたが、PART3では洋画だけに戻しています。PART2で、洋画が多くなる理由として字幕で見たセリフの方が記憶に残っているからとありました。

 このシリーズ、あとがきは、読者からあった"誤り"の指摘に基づく訂正でほぼ費やされることが多いのですが、PART3のあとがきで、「七人の侍」で「勝ったのは百姓たちだ。俺たちではない」と書いたことに読者から「俺」ではなく「わし」と言ったはずだとの指摘があったという話に続いて、「ほとんど記憶だけで書いているので、一字一句正確にしなければならないとなると、ちょっとつらい。外国映画だとどっちみち翻訳になるから、意味さえ取り違えなければいいと思うが、日本映画はもともと日本語だから、意訳というわけにもいかず、つい敬遠することになる」とありました。ナルホドね。これも洋画が多くなる理由か。それにしても、連載しているのが「キネ旬」だから、読者も映画通が多かったりして、結構プレッシャーだろうなあ。実際には、どうしてあの映画のあのセリフをとりあげないのかといった手紙が多く、中には語気鋭いものもあったそうです。

 確かに今回はアメリカ映画に偏った分、マニアックになった感じもありますが、一方で「麗しのサブリナ」みたいな著者のお気に入りは、PART1に続いて再登場したりもしています。でも。こんな面白いセリフがあったのだなあという内容でした。

 年代的には、30年代終わりから始まって、40年代、50年代、60年代と割合均等で、70年代も、70年代終盤だけでも「さすらいの航海」('77年)、「アニー・ホール」('77年)、「ブリンクス」('78年)、「アルカトラズからの脱出」('79年)、「グッバイ・ガール」('77年)、「おかしな泥棒ディック&ジェーン」('77年)、「ジュリア」('77年)、「カリフォルニア・スイート」('78年)、「帰郷」('78年)、「遠すぎた橋」('77年)、「世界が燃えつきる日」('77年)、「リトル・モー」('77年)、「天国から来たチャンピオン」('78年)、「オー!ゴッド('77年)、「料理長(シェフ)殿、ご用心」('78年)、「リトル・ロマンス」('78年)、「ナイル殺人事件」('78年)、「チャイナ・シンドローム」('79年)、「愛と喝采の日々」('77年)、「マンハッタン」('79年)、「パワープレイ」('78年)など結構数多く取り上げています。このあたりは、連載時にほぼリアルタイムに近いかたちで公開されたものではないでしょうか(70年代は特に後半の方が多くなっている)。

Jacqueline Bisset Who Is Killing the Great Chefs.jpg1978 WHO IS KILLING THE GREAT CHEFS of EUROPE  PROMO MOVIE PHOT.jpg ジャクリーン・ビセットがジョージ・シーガルと共演した「料理長(シェフ)殿、ご用心」('78年)なんて、何てことはない映画だけれどよくできていたのでは(監督は4年後に「ランボー」('82年)を撮るテッド・コチェフ)。懐かしいなあ。著者が書いているように、ちょっと洒落たスリラーで、ヨーロッパの一流シェフが次々と、それぞれの得意の料理法に因んだ方法で殺されていくというもの。ジャクリーン・ビセットの役は所謂パティシエですが、まあ当時の自分自身の理解としてはデザート専門のコックという感じ(著者も本書で「コック」と書いている。パティシエなんて言葉は当時日本では聞かなかった)。サスペンスですがユーモアがあって、ちょっとエロチックでもあるというもの(勿論ビセットが)。個人的には、本書が刊行される少し前くらいに名画座で観ましたが、「クリスチーヌの性愛記」('72年、ジャクリーン・ビセットが19才のストリッパー役で主演した作品)と「セント・アイブス」('76年、チャールズ・ブロンソン主演)の3本立て「ジャクリーン・ビセット特集」でした(そう言えばこの頃「大空港」('70年)にも機長の不倫相手の客室乗務員役で出ていた。70年代のセクシーアイコンの1人と言えるか)。

音楽:ヘンリー・マンシーニ

「クリスチーヌの性愛記」.jpg「クリスチーヌの性愛記」00.jpg 因みに、「クリスチーヌの性愛記」('72年)は、そのタイトルやチラシなどからポルノ映画と思われているフシがありますが、下にあらすじを書いたように、自分の気の赴くままに生きる若い女性の運命とその悲劇をテーマとしています。ジャクリーン・ビセット演じる、田舎の退屈から抜け出し、刺激と幸せを掴めると期待しながらカナダからラスベガスにやってきた19歳の若い女性が、ホテルのショー「クリスチーヌの性愛記」01.jpg・ガールとしてせっせと働くも、結婚相手が殺害されて生活のためコール・ガールとなり、さらには男に貯めた金を持ち逃げ「クリスチーヌの性愛記」02.jpgされたりして、最後は夢破れては田舎に戻るという社会派女性映画です。ただ、そう多くの人がこうした映画を見たいとは思わないわけで、そこで原題("The Grasshopper"「バッタ」。次々に世の中を渡り歩く主人公を示していると思われる)を外れて「性愛記」みたいなタイトルにしたのでしょう(ところがポルノチックな場面はほとんど無いため、日本でもヒットしなかった)。(演出面などから)佳作とまでは言えないものの、今思えば多くの点で当時の米国の世相の一端を映し出していた作品でした。
  
ヒッチコック サイコ 予告編.jpg あと、個人的な収穫は、「サイコ」('60年)のところで、著者が予告編を観ていないことを非常に残念がっていて、ヒチコックがお喋りするだけのものでありながら、予告編史上に残る傑作と観た人は皆言っていたそうですが、そうした予告編があることを本書で初めて知ったのがまさに拾い物でした。これ、今はネット動画で観ることが可能であったりもします(アップされては消されたりもしているが)。

「サイコ」予告編

 1995年単行本刊行でこのシリーズが終わったというのは、DVDなどの普及などで便利になり過ぎて、セリフを追いやすくなったために、個人的な記憶の意義が相対的に軽くなったというのもあるのではないかなあ。誰もが検証可能だからといって、洋画のセリフまで一字一句正確を期さねばならなくなったら、そちらの方に時間をとられて、連載がしづらいというのもあるのでは?

 でも、セリフの拾い方にしても、こうした「新しい」映画や「古い」映画を織り交ぜて、しりとりか連想ゲームのようにつないでいく手法にしても、その技は著者ならではの巧みさがあり、しかも、イラストも楽しめるという、今読んでも優れものの映画エッセイであると思います。

料理長殿、ご用心 v1.jpg料理長殿、ご用心 』.jpg「料理長(シェフ)殿、ご用心」●原題:SOMEONE IS KILLING THE GREAT CHEFS OF EUROPE●制作年:1978年●制作国:アメリカ●監督:テッド・コチェフ●脚本:ピーター・ストーン●撮影:ジョン・オルコット料理長シェフ殿、ご用心 03.png●音楽:ヘンリー・マンシーニ●原作:アイヴァン・ライアンズ/ナン・ライアンズ●時間:112分●出演:ジャクリーン・ビセット/ジョージ・シーガル/ロバート・モーレイ/ジャン=ピエール・カッセル/フィリップ・ノワレ/ジャン・ロシュフォール/ルイージ・プロイェッティ/ステファノ・サッタ・フロレス●日本公開:1979/05●配給:日本「料理長(シェフ)殿、ご用心」1.jpg料理長(シェフ)殿、ご用心 ロバート・モーレイ.jpgヘラルド映画●最初に観た場所:五反田TOEIシネマ(80-02-18)(評価:★★★☆)●併映「セント・アイブス」(J・リー・トンプソン)/「クリスチーヌの性愛記」(アロイス・ブルマー)
ジョージ・シーガル/ロバート・モーレイ(全米映画批評家協会賞「助演男優賞」・ロサンゼルス映画批評家協会賞「助演男優賞」受賞)/ジャクリーン・ビセット  

「セント・アイブス」(1976)with チャールズ・ブロンソン    「ザ・ディープ」(1977)
「セント・アイブス」1.jpg 「セント・アイブス」2.jpg  ザ・ディープ1977★★.jpg

Jacqueline Bisset in "The Grasshopper"(クリスチーヌの性愛記)
「クリスチーヌの性愛記.jpgJacqueline Bisset THE GRASSHOPPER.jpg「クリスチーヌの性愛記」●原題:THE GRASSHOPPER●制作年:1969年●制作国:アメリカ●監督:ジェリー・パリス●製作:ジェリー・ベルソン●脚本:ジェリー・ベルソン/イリー・マーシャル●撮影:サム・リーヴィット●音楽:ビリー・ゴールデンバーグ●原作:マーク・マクシェイン「通り魔」●時間:96分●出演:ジャクリーン・ビセット/ジム・ブラウン/ジョセフ・コットン/コーベット・モニカ/クリストファー・ストーン●日本公開:1972/02●配給:フォックス●最初に観た場所:五反田TOEIシネマ(80-02-18) (評価★★★)●併映「セント・アイブス」(J・リー・トンプソン)/「料理長(シェフ)殿、ご用心」(テッド・コチェフ)
  
五反田TOEIシネマ 2.jpg五反田TOEIシネマ79.jpg五反田TOEIシネマ.jpg五反田TOEIシネマ 3.jpg五反田TOEIシネマ/五反田東映(写真:跡地=右岸)「五反田東映」をを分割して1977(昭和52)年12月3日オープン、1990(平成2)年9月30日「五反田TOEIシネマ」閉館(1995年3月21日「五反田東映」閉館)

サイコ dvd.jpgPSYCHO2.jpg「サイコ」●原題:PSYCHO●制作年:1960年●制作国:アメリカ●監督・製作:アルフレッド・ヒッチコック●音楽:バーナード・ハーマン●原作:ロバート・ブロック「気ちがい(サイコ)」●時間:108分●出演:アンソニー・パーキンス/ジャネット・リー/ベラ・マイルズ/マーチン・バルサン/ジャン・ギャヴィン●日本公開:1960/09●配給:パラマウント●最初に観た場所:六本木・俳優座シネマテン(97-09-19) (評価★★★★)

七年目の浮気
お楽しみはこれからだ part3 七年目の浮気.jpg

【2022年愛蔵版】

《読書MEMO》
「クリスチーヌの性愛記」あらすじ
「クリスチーヌの性愛記」03.jpg大学生のクリスチーヌ・アダムス(ジャクリーン・ビセット)はカナダの田舎の生活に退屈し、恋人のエディを訪ねてロサンゼルスに向ったが、途中、有名なコメディアンのダニー(コーベット・モニカ)と知り合い華やかなラスベガスを案内してもらった。やっとのこ「クリスチーヌの性愛記」05.jpgとでエディに会い、しばらく生活したが、ここでも退屈はついてまわった。彼女は再びラスベガスを訪れ、ホテルのショー・ガールとして生活するようになつた。バンドマンのジョイや、支配人トミー(ジム・ブラウン)と知り合い、クリスチーヌはトミーと結婚した。二人はやがてロサンゼルスに移ったが、トミーは、以前クリスチーヌに手を出そうとして喧嘩したデッカーの部下に殺された。失意のどん底に落とされたクリスチーヌはコール・ガールとなり、モーガンという金持の老人の面倒を受けるようになったが、ジェイと再会し、彼との幸福な家庭を夢見てせっせと働いた。ところが、田舎で牧場を経営するためにためた金をジェイに持ち去られ、彼女の夢は一瞬にして消えた。短期間ではあったが、彼女は人生の表裏を見た。22歳の彼女は田舎に戻るより外はなかった。

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見ていると眠れなくなってしまいそうな本。美麗本であれば、ファンには垂涎の一冊。

怪奇SF映画大全2.jpg メトロポリス.JPG 1『怪奇SF映画大全』アマゾンの半魚人.jpg
怪奇SF映画大全』(30 x 23 x 2.4 cm) 「メトロポリス」('27年) 「アマゾンの半魚人」('54年)

図説ホラー・シネマ.jpgGraven Images 1992.jpgGraven Images 2.jpg 先に『図説 モンスター―映画の空想生物たち(ふくろうの本)』('07年/河出書房新社)を取り上げましたが、本書(原題"Graven Images" 1992)は怪奇映画だけでなくSFホラーまで領域を拡げた「映画ポスター+解説集」であり、「カリガリ博士」「キング・コング」から「吸血鬼ドラキュラ」「2001年宇宙の旅」まで怪奇・SF・ファンタジー映画の歴史をポスターの紹介と併せて解説したまさに永久保存版であり、1910~60年代まで450本の映画及びポスターが紹介されています。
"Graven Images: The Best of Horror, Fantasy, and Science-Fiction Film Art from the Collection of Ronald V. Borst"
 ポスターの紹介点数もさることながら、大型本の利点を生かしてそれらを大きくゆったりと配置しているためかなり見易く、また、迫力のあるものとなっています(表紙にきているのはボリス・カーロフ主演の(「フランケンシュタイン」('31年)ではなく)「ミイラ再生」('32年)のポスター。原著の表紙はロバート・フローリー監督、ベラ・ルゴシ主演の「モルグ街の殺人」('32年))。

 「ふくろうの本」の方が映画そのものの解説が詳しいのに比べ、こちらはポスターそのものを見せることが主で、その余白に映画の解説が入るといった作りになっていますが、それでも解説も丁寧。「10年代と20年代」から「60年代」まで年代ごとの"編年体"の並べ方になっているため、時間的経緯を軸に怪奇SF映画の歴史を辿るのにはいいです。

 更に各章の冒頭に、ロバート・ブロック(「サイコ」の原作者)、レイブラッド・ベリ、ハーラン・エリスン、クライブ・パーカーなどの作家陣が、年代ごとの作品の解説を寄せていますが(序文はスティーヴン・キング)、それぞれエッセイ風の文章でありながら、作品解説としてもかなり突っ込んだものになっています。

「キング・コング」('33年)
kingkong 1933 poster.jpgキング・コング 1933.jpg ポスターに関して言えば、60年代よりも前のものの方がいいものが多いような印象を受けました。個人的には、「キング・コング」('33年)のポスターが見開き4ページにわたり紹介されているのが嬉しく、「『美女と野獣』をフロイト的に改作」したものとの解説にもナルホドと思いました。映画の方は、最近のリメイクのようにすぐにコングが出てくるのではなく、結構ドラマ部分で引っ張っていて、コングが出てくるまでにかなり時間がかかったけれど、これはこれで良かったのでは。当のコングは、ストップ・アニメーションでの動きはぎこちないものであるにも関わらず、観ている不思議と慣れてきて、ティラノサウルスっぽい「暴君竜」との死闘はまるでプロレスを観ているよう(コマ撮りでよくここまでやるなあ)。比較的自然にコングに感情移入してしまいましたが、意外とこの時のコングは小さかったかも...現代的感覚から見るとそう迫力は感じられません。但し、当時は興業的に大成功を収め(ポスターも数多く作られたが、本書によれば、実際の映画の中でのコングの復讐_1.jpgコングの姿を忠実に描いたのは1点[左上]のみとのこと)、その年の内に「コングの復讐」('33年)が作られ(原題は「SON OF KONG(コングの息子)」)公開されました。 「コングの復讐」('33年)[上]

紀元前百万年 ポスター.jpg
紀元前百万年 スチール.jpg 因みに、アメリカやイギリスでは「怪獣映画」よりも「恐竜映画」の方が主に作られたようですが、日本のように着ぐるみではなく、模型を使って1コマ1コマ撮影していく方式で、ハル・ローチ監督、ヴィクター・マチュア、キャロル・ランディス主演の「紀元前百万年」('40年)ではトカゲやワニに作り物の角やヒレをつけて撮る所謂「トカゲ特撮」なんていう方法も用いられましたが、何れにしても動きの不自然さは目立ちます。そもそも恐竜と人類が同じ時代にいるという状況自体が進化の歴史からみてあり得ない話なのですが...。
     
one million years b.c. poster.jpg この作品のリメイク作品が「恐竜100万年」('66年)で、"全身整形美女"などと言われたラクエル・ウェルチが主演でしたが(100万年前なのにラクェル・ウェルチ   .jpgラクェル・ウェルチがバッチリ完璧にハリウッド風のメイキャップをしているのはある種"お約束ごと"か)、やはりここでも模型を使っています。結果的に、ラクエル・ウェルチの今風のメイキャップでありながらも、何となくノスタルジックな印象を受けて、すごく昔の映画のように見えてしまいます(CGの出始めの頃の映画とも言え、なかなか微妙な味わいのある作品?)。

King Kong 02.jpg「キングコング」(1976年)1.jpg「キングコング」(1976年).jpg それが、その10年後の、ジョン・ギラーミン監督のリメイク版「キングコング」('76年)(こちらは邦題タイトル表記に中黒が無い)では、キング・コングの全身像が出てくる殆どのシーンは、リック・ベイカーという特殊メイクアーティストが自らスーツアクターとなって体当たり演技したものであったとのことで、ここにきてアメリカも、「ゴジラ」('54年)以来の日本の怪獣映画の伝統である"着ぐるみ方式"を採り入れたことになります(別資料によれば、実物大のロボット・コング(20メートル)も作られたが、腕や顔の向きを変える程度しか動かせず、結局映画では、コングがイベント会場で檻を破るワンシーンしか使われなかったという)。

フランケンシュタインの花嫁 poster.jpg 「フランケンシュタイン」('31年)や「フランケンシュタインの花嫁」('35年)のポスターもそれぞれ見開きで各種紹介されていて、本書によれば、ボリス・カーロフは自分の演じる怪物にセリフがあることを不満に思っていたそうな(普通、逆だけどね)。その後も続々とフランシュタイン物のポスターが...。やはり、フランケンシュタインはSFまで含めても怪奇物の王者だなあと。

 40年代では「キャット・ピープル」('42年)や「ミイラ男」シリーズ、50年cat people 1942 poster.jpgthe thing 1951 poster.jpgforbbidden planet 1956 poster.jpg代では「遊星よりの物体X」('51年)「大アマゾンの半魚人」('54年)などのポスターがあるのが楽しく、50年代では日本の「ゴジラ」('54年)のポスターもあれば、「禁断の惑星」('56年)、「宇宙水爆線」('55年)のポスターもそれぞれ見開きで各種紹介されています(50年代の最後にきているのはヒッチコックの「サイコ」('60年)のポスター)。

「キャット・ピープル」('42年)/「遊星よりの物体X」('51年)/「禁断の惑星」('56年)各ポスター

「遊星よりの物体X」('51年)/「遊星からの物体X」('82年)
the thing 1951.jpgthe thing 1982.jpg 「キャット・ピープル」はポール・シュレイダー監督、ナスターシャ・キンスキー主演で同タイトル「キャット・ピープル」('81年)としてリメイクされ(オリジナルは日本では長らく劇場未公開だったが1988年にようやく劇場公開が実現したため、多くの人がリメイク版を先に観たことと思う)、「遊星よりの物体X」は、ジョン・カーペンター監督によりカート・ラッセル主演で「遊星からの物体X」('82年)としてリメイクされています。

「キャット・ピープル」('42年)/「キャット・ピープル」('81年)
cat people 1942 01.jpgcat people 1982.jpg 前者「キャット・ピープル」は、オリジナルでは、猫顔のシモーヌ・シモンが男性とキスするだけで黒豹に変身してしまう主人公を演じていますが、ストッキングを脱ぐシーンとか入浴シーン、プールでの水着シーンなどは当時としてはかなりエロチックな方だったのだろうなあと。実際に黒豹になるナスターシャ「キャット・ピープル」.jpg場面は夢の中で暗示されているのみで、それが主人公の妄想であることを示唆しているのに対し、リメイク版では、ナスターシャ・キンスキーが男性と交わると実際に黒豹に変身します。ナスターシャ・キンスキーの猫女(豹女?)はハマリ役で、後日テス 0.jpg「あの映画では肌を露出する場面が多すぎた」と述懐している通りの内容でもありますが、むしろ構成がイマイチのため、ストーリーがだらだらしている上に分かりにくいのが難点でしょうか。ナスターシャ・キンスキー自身は、「テス」('79年)で"演技開眼"した後の作品であるため、「肌を出し過ぎた」発言に至っているのではないでしょうか。「テス」は、19世紀のイギリスの片田舎を舞台に2人の男の間で揺れ動きながらも愛を貫く女性を描いた、文豪トマス・ハーディの文芸大作をロマン・ポランスキーが忠実に映画化した作品で、ナスターシャ・キンスキーの演技が冴え短く感じた3時間でした(ナスターシャ・キンスキーはこの作品でゴールデングローブ賞新人女優賞を受賞)。一方、「テス」に出る前年にナスターシャ・キンスキーは、スイスの全寮制寄宿学校を舞台に、そこにやって来たアメリカ人少女というレッスンC  poster.jpg「レッスンc」.jpg設定の青春ラブ・コメディ「レッスンC」('78年)に出演していて、そこでは結構「しっかり肌を出して」いたように思います。「レッスンC」は音楽はフランシス・レイでありながらもB級というよりC級映画に近いですが(まあ、フランシス・レイは「続エマニュエル夫人」('75年)といった作品の音楽も手掛けているわけだが)、16歳のナスターシャ・キンスキーのキュートでお茶目なぶりがいやらしさを感じさせず、ある種ガーリームービーとして後にカルト的人気となった作品です。それにつられた訳ではないが、個人的評価も当初×(★★)だったのを△(★★☆)にしました(音楽も今聴くと懐かしい)。

 後者「遊星からの...」はカート・ラッセル主演で、オリジナル「遊星よりの...」の"植物人間"のモチーフを更に"擬態"にまで拡げてアレンジ、犬の顔がバナナの皮が剥けるように割けるシーンや、首を切られて落ちた頭に足が生えてカニのように逃げていくシーンのSFXはスゴかった...。これを観てしまうと、オリジナルはやや大人し過ぎるでしょうか。リメイクの方がむしろジョン・W・キャンベルの原作『影が行く』に忠実な面もあり、オリジナルを超えていたかもしれません。SFXを駆使して逆にオリジナルの良さを損なう作品が多い中、誰が「偽人間」なのかと疑心暗鬼に陥った登場人物らの心理をドラマとして丁寧に描くことで成功しています。エンニオ・モリコーネの音楽も効いていました。

インベーダー1st Season DVD-BOX
インベーダー1st Season DVD-BOX.jpg リメイク版「遊星からの物体X」がオリジナルの「遊星よりの物体X」と大きく異なるのは、あらゆる生物を同化する「物体」の姿を、ありふれたモンスター的なデザインとはせず、動物や人間の姿に置き換えるようにしていることで、「誰が人間ではないのか、自分が獲り込まれたのかすらも分からない緊迫した状況」を生み出している点です。そう言えば、エイリアンが人間に獲りついたり人間の姿を借りているため、一見して普通の人間と見分けがつかないというのは、米国のテレビドラマ「インベーダー」('67年~'68年)年の頃からありました。建築家デビッド・ビンセントは深夜に空飛ぶ円盤が着陸するのを目撃し、宇宙からの侵略者(=インベーダー)の存在を知るが、その事実を誰にも信じてもらえず、ビンセントはインベーダーの陰謀を追って全米各地を飛び回るというもので、テレビドラマ「逃亡者」('68年~'67年)と同じクイン・マーチン・プロダクションの制作。そのためか、妻殺しの濡れ衣を着せられ死刑を宣告された医師リチャード・キンブルが、警察の追跡を逃れながら、真犯人を探し求めて全米を旅するという「逃亡者」とちょっと似ています。ロズウェル dvd.jpg「インベーダー」は日本でも一時ブームになりましたが、米国でのUFOブームに便乗した企画だったのが、ブームが下火になったため2シーズンで終了しています(インベーダーの本当の姿が分からないまま終わった)。インベーダーは外見は地球人と同じだが、手の小指が動かないという設定でした(これじゃ見分けつかないね)。その後、人間の姿をした宇宙人が出てくるドラマは、「ロズウェル/星の恋人たち」('99年~'02年)など幾つか作られました。「ロズウェル」は、普通の高校生たちが、自分たちの特殊な能力に気づき、実は自分たちは宇宙人だったということを知るというもので、恋あり友情ありの青春ドラマにSFの味付けをしたという感じ。NHKで放映されましたが、本国の方で視聴率が伸び悩み、こちらも3シーズンで終了しました(ラストでちらっと彼らの本当の姿が見られる)。

ロズウェル/星の恋人たち シーズン1 (SEASONSコンパクト・ボックス) [DVD]

「インベーダー」(The Invaders) (ABC 1967.01~1968.01) ○日本での放映チャネル:NETテレビ(現テレビ朝日)(1967.10~1970.07)
「ロズウェル/星の恋人たち」(ROSWELL) (The CW 1999.10~2002.05) ○日本での放映チャネル:NHK(2001.05~2002.10)NHK教育テレビ(2003.04~2004.04)


フェイ・レイ.jpg2フェイ・レイ.jpgキング・コング 1976 ジェシカ・ラング.jpg 「キング・コング」('33年)のリメイク、ジョン・ギラーミン監督の「キングコング」('76年)は、オリジナルは、ヒロイン(フェイ・レイ)に一方的に恋したコングが、ヒロインをさらってエンパイアステートビルによじ登り、コングの手の中フェイ・レイは恐怖のあまりただただ絶叫するばかりでしたが(このため、フェイ・レイ"絶叫女優"などと呼ばれた)、King Kong 1976 03.jpgリメイク版のヒロイン(ジェシカ・ラング)は最初こそコングを恐れるものの、途中からコングを慈しむかのように心情が変化し、世界貿易センタービルの屋上でヘリからの銃撃を受けるコングに対して「私といれば狙われないから」と言うまでになるなど、コングといわば"男女間的コミュにケーション"をするようになっています(そうしたセリフ自体は観客に向けての解説か?)。但し、「美女と野獣」のモチーフが、それ自体は「キング・コング」の"正統的"なモチーフであるにしてもここまで前面に出てしまうと、もう怪獣映画ではなくなってしまっている印象も。個人的には懐かしい映画であり、郵便配達は二度ベルを鳴らす 1981.jpg興業的にもアメリカでも日本でも大ヒットしましたが、後に観直してみると、そうしたこともあってイマイチの作品のように思われました。ジェシカ・ラング「郵便配達は二度ベルを鳴らす」('81年)で一皮むける前の演技であるし...2005年にナオミ・ワッツ主演の再リメイク作品が作られましたが、ナオミ・ワッツもジェシカ・ラング同様、以降の作品において"演技派女優"への転身を遂げています。

 因みに、ボブ・ラフェルソン(1933-2022/89歳没)監督、ジャック・ニコルソン、ジェシカ・ラング主演の「郵便配達は二度ベルを鳴らす」はジェームズ・M・ケインの原作の4度目の映画化作品でしたが(それまでに米・仏・伊で映画化されている)、その中で批評家の評価は最も高く、個人的もルキノ・ヴィスコンティ監督版('42年/伊、出演はマッシモ・ジロッティとクララ・カラマイ)を超えていたように思います。
ジェシカ・ラング in「郵便配達は二度ベルを鳴らす」('81年)

 「蠅男の恐怖」('58年)のリメイク、デヴィッド・クローネンバーグ監督の「ザ・フライ」('86年)などは、原作の"ハエ男"化していく主人公の哀しみをよく描いていたように思われ、こちらはもオリジナル以上と言えるのではないかと思います。ラストは、視覚的には"蠅男"が"蟹男"に見えるのが難点ですが、ドラマ的にはしんみりさせられるものでした。

 見ていると眠れなくなってしまいそうな本であり、ファンには垂涎の一冊と言えますが、絶版中。発売時本体価格6,800円で、古本市場でも美麗本だとそう安くなっていないのではないかな。そこだけが難点でしょうか。

キングコング 髑髏島の巨神 日本ポスター.jpgキングコング 髑髏島の巨神 日本ポスター2.jpg(●2017年に32歳のジョーダン・ヴォート=ロバーツ監督による「キングコング:髑髏島の巨神」('17年/米)が作られた。シリーズのスピンオフにあたる作品とのことだが、主役はあくまでキングコング。1973年の未知の島髑髏島がキングコング 髑髏島の巨神 01.jpg舞台で、一応、コングが島の守り神であったり、主人公の女性を救ったりと、オリジナルのコングに回帰している(一方で、随所にフランシス・フォード・コッポラ監督の「地獄の黙示録」('79年/米)へのオマージュが見られる)。コングのほかにいろいろな古代生物が出てくるが、コングも含め全部CG。コングはまずまずだが、天敵の大蜥蜴などはアニメっぽかったように思えた(日本のアニメへのオマージュもキングコング 髑髏島の巨神 02.jpg込められているようだ)。ヴォート=ロバーツ監督自らが来日して行われた本作のプレゼンテーションに参加したジョーダン・ヴォート=ロバーツ、樋口真嗣。.jpgシン・ゴジラ」('16年/東宝)の樋口真嗣監督は、本作のコングについて、'33年のオリジナル版キングコングのような人形劇の動きに近く、2005年版で描かれたような巨大なゴリラではなく、どちらかといえばリック・ベイカー(1976年版コングのスーツアクター)っぽいと述べたが、モーション・キャプチャを使っているせいではないか。同じCG主体でも、「ジュラシック・パーク」('93年/米)が登場した時のようなインパクトもなく(もうCG慣れしてしまった?)、その上、サミュエル・L・ジャクソンやオスカー女優のブリー・ラーソンが出ている割にはドラマ部分も弱くて、人間側の主人公が誰なのかはっきりしないのが痛い。)
「キングコング」('76年)/「キングコング:髑髏島の巨神」('17年)
キングコング 新旧.jpg


キング・コング [DVD]
キング・コング 1933 dvd.jpgキング・コング 02.jpg「キング・コング」●原題:KING KONG●制作年:1933年●制作国:アメリカ●監督:メリアン・C・クーパー/アーネスト・B・シェードサキング・コング(オリジナル).jpgック●製作:マーセル・デルガド●脚本:ジェームス・クリールマン/ルース・ローズ●撮影:エドワード・リンドン/バーノン・L・ウォーカー●音楽:マックス・スタイナー●時間:100分●出演:フェイ・レイ/ロバート・アームストロング/ブルース・キャボット/フランク・ライチャー/サム・ハーディー/ノーブル・ジョンソン●日本公開:1933/09●配給:ユニヴァーサル映画●最初に観た場所:池袋・文芸座ル・ピリエ(84-06-30)(評価:★★★☆)●併映:「紀元前百万年」(ハル・ローチ&ジュニア)

紀元前百万年 dvd.jpg紀元前百万年 dvd.jpg「紀元前百万年」●原題:ONE MILLION B.C.●制作年:1940年●制作国:アメリカ●監督:ハル・ローチ&ジュニア●製作:マーセル・デルガド●脚本:マイケル・ノヴァク/ジョージ・ベイカー/ジョセフ・フリーカート●撮影:ノーバート・ブロダイン●音楽:ウェルナー・リヒャルト・ハイマン●時間:80分●出演:ヴィクター・マチュア/キャロル・ランディス/ロン・チェイニー・Jr/ジョン・ハバード/メイモ・クラーク/ジーン・ポーター●日本公開:1951/04●配給:ユナイテッド・アーティスツ●最初に観た場所:池袋・文芸座ル・ピリエ(84-06-30)(評価:★★★)●併映:「キング・コング」(ジュニアメリアン・C・クーパー/アーネスト・B・シェードサック) 「紀元前百万年 ONE MILLION B.C. [DVD]

恐竜100万年 [DVD]
恐竜100万年 dvd.jpg恐竜100万年 ラクエル・ウェルチ.jpg「恐竜100万年」●原ラクエルウェルチ71歳.jpg題:ONE MILLION YEARS B.C.●制作年:1966年●制作国:イギリス・アメリカ●監督:ドン・チャフィ●製作:マイケル・カレラス●脚本:ミッケル・ノバック/ジョージ・ベイカー/ジョセフ・フリッカート●撮影:ウィルキー・クーパー●音楽:マリオ・ナシンベーネ●時間:105分●出演:ラクエル・ウェルチ/ジョン・リチャードソン/パーシー・ハーバート/ロバート・ブラウン/マルティーヌ=ベズウィック/ジェーン・ウラドン●日本公開:1967/02●配給:20世紀フォックス●最初に観た場所:杉本保男氏邸 (81-02-06) (評価:★★★)  Raquel Welch age71

フランケンシュタインの花嫁 dvd.jpg「フランケンシュタインの花嫁」●原題:BRIDE OF FRANKENSTEIN●制作年:1935年●制作国:アメリカ●監督:ジェイムズ・ホエール●製作:カール・レームル・Jr●脚本:ギャレット・フォート/ロバート・フローリー/フランシス・エドワード・ファラゴー●撮影:ジョン・J・メスコール●音楽:フランツ・ワックスマン●時間:75分●出演:ボリス・カーロフ/エルザ・ランチェスター/コリン・クライヴ/アーネスト・セシガー●日本公開:1935/07●配給:ユニヴァーサル映画●最初に観た場所:渋谷ユーロ・スペース (84-07-21)(評価:★★★★)●併映:「フランケンシュタイン」(ジェイムズ・ホエール)
フランケンシュタインの花嫁[DVD]

禁断の惑星 dvd.jpg禁断の惑星 ポスター(東宝).jpg「禁断の惑星」●原題:FORBIDDEN EARTH●制作年:1956年●制作国:アメリカ●監督:フレッド・マクラウド・ウィルコックス●製作:ニコラス・ネイファック●脚本:シリル・ヒューム●撮影:ジョージ・J・フォルシー●音楽:ルイス・アンド・ベベ・バロン●原作:アーヴィング・ブロック/アレン・アドラー「運命の惑星」●時間:98分●出演:ウォルター・ピジョン/アン・フランシス/レスリー・ニールセン/ウォーレン・スティーヴンス/ジャック・ケリー/リチャード・アンダーソン/アール・ホリマン/ジョージ・ウォレス●日本公開:1956/09●配給:MGM●最初に観た場所:新宿・名画座ミラノ(87-04-29)(評価:★★★☆)
禁断の惑星 [DVD]」/パンフレット

宇宙水爆戦 dvd.jpg「宇宙水爆戦」.bmp「宇宙水爆戦」●原題:THIS ISLAND EARTH●制作年:1955年●制作国:アメリカ●監督:ジョセフ・ニューマン●製作:ウィリアム・アランド●脚本:フランクリン・コーエン/エドワード・G・オキャラハン●撮影:クリフォード・スタイン/デビッド・S・ホスリー●音楽:ジョセフ・ガ―シェンソン●原作:レイモンド・F・ジョーンズ●時間:86分●出演:フェイス・ドマーグ/レックス・リーズン/ジェフ・モロー/ラッセル・ジョンソン/ランス・フラー●配給:ユニバーサル・ピクチャーズ●日本公開:1955/12)●最初に観た場所:新宿・名画座ミラノ(87-05-17)(評価:★★★☆)
宇宙水爆戦 -HDリマスター版- [DVD]

CAT PEOPLE 1942 .jpgキャット・ピープル 1942 DVD.jpg 「キャット・ピープル」●原題:CAT PEOPLE●制作年:1942年●制作国:アメリカ●監督:ジャック・ターナー●製作:ヴァル・リュウトン●脚本:ドゥィット・ボディーン●撮影:ニコラス・ミュスラカ●音楽:ロイ・ウェッブ●時間:73分●出演:シモーヌ・シモン/ケント・スミス/ジェーン・ランドルフ/トム・コンウェイ/ジャック・ホルト●日本公開:1988/05●配給:IP●最初に観た場所:千石・三百人劇場(88-05-04)(評価:★★★)●併映:「遊星よりの物体X」(クリスチャン・ナイビー) 「キャット・ピープル [DVD]

シモーヌ・シモン(1910-2005)

シモーヌ・シモン in 「快楽」('52年/仏)監督:マックス・オフュルス 原作:ギ・ド・モーパッサン「モデル」
LE PLAISIR 1952.jpg
        
「キャット・ピープル」●原題:CAT PEOPLE●制作年:1982年●制作国:アメリカ●監督:ポール・シュレイダー●製作:チャールズ・フライズ●脚本:アラン・オームキャット・ピープル 1982.jpgズビー●撮影:ジョン・ベイリー●音楽:ジョルジキャット・ピープル dvd.jpgキャット・ピープル ポスター.jpgオ・モロダー(主題歌:デヴィッド・ボウイ(作詞・歌)●原作(オリジナル脚本):ドゥイット・ボディーン●時間:118分●出演:ナスターシャ・キンスキー/マルコムジョン・ハード/ アネット・オトウール/ルビー・ディー●日本公開:1982/07●配給:IP●最初に観た場所:新宿(文化?)シネマ2(82-07-18)(評価:★★☆)
キャット・ピープル [DVD]」/チラシ

テス Blu-ray スペシャルエディション
テス  0.jpgテス   00.jpg「テス」●原題:TESS●制作年:1979年●制作国:フランス・イギリス●監督:ロマン・ポランスキー●製作:クロード・ベリ●脚本:ロマン・ポランスキー/ジェラール・ブラッシュ/ジョン・ブラウンジョン●撮影:ギスラン・クロケ/ジェフリー・アンスワース●音楽:フィリップ・サルド●原作:トーマス・ハーディ「ダーバヴィル家のテス」●時間:171分●出演:ナスターシャ・キンスキー/ピーター・ファース/リー・ローソン/ジョン・コリン/デイヴィッド・マーカム/ローズマリー・マーティン/リチャード・ピアソン/キャロリン・ピックルズ/パスカル・ド・ボワッソン●日本公開:1980/10●配給:日本ヘラルド映画●最初に観た場所:テアトル吉祥寺(81-03-18)(評価:★★★★)

レッスンC [DVD]」 音楽:フランシス・レイ
レッスンC dvd.jpg「レッスンC」●原題:LEIDENSCHAFTLICHE BLUMCHEN/PASSION FLOWER HOTEL●制作年:1977年●制作国:西ドイツ・フランス・アメリカ●監督:アンドレ・ファルワジ●製作:アルツール・ブラウナー●脚本:ポール・ニコラス●撮影:リチャード・スズキ●音楽:フランシス・レイ●原作:ロザリンド・アースキン●時間:171分●出演:ナスターシャ・キンスキー/ゲリー・サンドクイスト/キャロリン・オーナー/マリオン・クラット/ヴェロニク・デルバーグ●日本公開:1982/05●配給:ジョイパックフィルム●最初に観た場所:中野武蔵野館(82-10-03)(評価:★★☆)●併映:「グローイング・アップ3 恋のチューインガム」(ボアズ・デビッドソン)

遊星よりの物体X3.jpg遊星よりの物体X dvd.jpg「遊星よりの物体X」●原題:THE THING●制作年:1951年●制作国:アメリカ●監督:クリスチャン・ナイビー●製作:ハワード・ホークス●脚本:チャールズ・レデラー●撮影:ラッセル・ハーラン●音楽:ディミトリ・ティオムキン●原作:ジョン・W・キャンベル「影が行く」●時間:87分●出演:マーガレット・シェリダン/ケネス・トビー/ロバート・コーンスウェイト/ダグラス・スペンサー/ジェームス・R・ヤング/デウェイ・マーチン/ロバート・ニコルズ/ウィリアム・セルフ/エドゥアルド・フランツ●日本公開:1952/05●配給:RKO●最初に観た場所:千石・三百人劇場(88-05-04)(評価:★★★)●併映:「キャット・ピープル」(ジャック・ターナー)
遊星よりの物体X [DVD]

遊星からの物体X.jpg遊星からの物体Xd.jpg遊星からの物体X dvd.jpg「遊星からの物体X」●原題:THE THING●制作年:1982年●制作国:アメリカ●監督:ジョン・カーペンター●製作:デイヴィッド・フォスター/ローレンス・ターマン/スチュアート・コーエン●脚本:ビル・ランカスター●撮影:ディーン・カンディ●音楽:エンニオ・モリコーネ●原作:ジョン・W・キャンベル「影が行く」●時間:87分●出演:カート・ラッセル/A・ウィルフォード・ブリムリー/リチャード・ダイサート/ドナルド・モファット/T・K・カーター/デイヴィッド・クレノン/キース・デイヴィッド●日本公開:1982/11●配給:ユニヴァーサル=CIC●最初に観た場所:三軒茶屋東映(84-07-22)●2回目:三軒茶屋東映(84-12-22)(評価:★★★★)●併映(1回目):「エイリアン」(リドリー・スコット)●併映(2回目):「ブレードランナー」(リドリー・スコット) 
遊星からの物体X [DVD]
遊星からの物体X(復刻版)(初回限定生産) [DVD]

音楽:エンニオ・モリコーネ
    
King Kong 01.jpgking kong 1976.jpg「キングコング」●原題:KING KONG●制作年:1976年●制作国:アメリカ●監督:ジョン・ギラーミン●製作:ディノ・デ・ラウレンティス●脚本:ロレンツォ・センプル・ジュニア●撮影:リチャード・H・クライン●音楽:ジョン・バリー●時間:134分●出演:ジェフ・ブリッジス/ジェシカ・ラング/チャールズ・グローディン/ジャック・オハローラン /ジョン・ランドルフ/ルネ・オーベルジョノワ/ジュリアス・ハリス/ジョン・ローン/ジョン・エイガー/コービン・バーンセン/エド・ローター ●日本公開:1976/12●配給:東宝東和●最初に観た場所:新宿プラザ劇場(77-01-04)(評価:★★★)

郵便配達は二度ベルを鳴らす [DVD].jpg郵便配達は二度ベルを鳴らす br.jpg「郵便配達は二度ベルを鳴らす」●原題:THE POSTNAN ALWAYS RINGS TWICE●制作年:1981年●制作国:アメリカ●監督:ボブ・ラフェルソン●製作:チャールズ・マルヴェヒル/ ボブ・ラフェルソン●脚本:デヴィッド・マメット●撮影:スヴェン・ニクヴィスト●音楽:マイケル・スモール●原作:ジェイムズ・M・ケイン「郵便配達は二度ベルを鳴らす」●時間:123分●出演:ジャック・ニコルソン/ジェシカ・ラング/ジョン・コリコス/マイケル・ラーナー/ジョン・P・ライアン/ アンジェリカ・ヒューストン/ウィリアム・トレイラー●日本公開:1981/12●配給:日本ヘラルド●最初に観た場所:三鷹オスカー (82-08-07)●2回目:自由ヶ丘・自由劇場 (84-09-15)(評価★★★★)●併映:(1回目)「白いドレスの女」(ローレンス・カスダン(原作:ジェイムズ・M・ケイン))●併映:(2回目)「ヘカテ」(ダニエル・シュミット)
郵便配達は二度ベルを鳴らす [DVD]」「郵便配達は二度ベルを鳴らす [Blu-ray]

ザ・フライ dvd.jpg「ザ・フライ」●原題:THE FLY●制作年:1986年●制作国:アメリカ●監督・脚本:デヴィッド・クローネンバーグ●製作:スチュアート・コーンフェルド●撮影:マーク・アーウィン●音楽:ハワード・ショア●原作:ジョルジュ・ランジュラン「蠅」●時間:87分●出演:ジェフ・ゴールドブラム/ジーナ・デイヴィス/ジョン・ゲッツ/ジョイ・ブーシェル●日本公開:1987/01●配給:20世紀フォックス●最初に観た場所:大井武蔵野舘 (87-07-19)(評価★★★★)●併映:「未来世紀ブラジル」(テリー・ギリアム)
ザ・フライ <特別編> [DVD]

キングコング 髑髏島の巨神24.jpgキングコング 髑髏島の巨神es.jpgキングコング 髑髏島の巨神 海外.jpg「キングコング:髑髏島の巨神」●原題:KONG:SKULL ISLAND●制作年:2017年●制作国:アメリカ●監督:ジョーダン・ヴォート=ロバーツ●脚本:ダン・ギルロイ/マックス・ボレンスタイン/デレク・コノリー●原案:ジョン・ゲイティンズ/ダン・ギルロイ●製作:トーマス・タル/ジョン・ジャシュー/アレックス・ガルシア/メアリー・ペアレント●撮影:ラリー・フォン●音楽:ヘンリー・ジャックマン●時間:118分●出演:トム・ヒドルストン/キングコング髑髏島の巨神ド.jpgブリー・ラーソン キング・コング.jpgサミュエル・L・ジャクソン/ジョン・グッドマン/ブリー・ラーソン/ジン・ティエン/トビー・ケベル/ジョン・オーティス/コーリー・ホーキンズ/ジェイソン・ミッチェル/シェー・ウィガム/トーマス・マン/テリー・ノタリー/ジョン・C・ライリー●日本公開:2017/03●配給:ワーナー・ブラザース●最初に観た場所:OSシネマズ ミント神戸 (17-03-29)(評価★★☆)
旧神戸新聞会館9.jpgミント神戸6.jpgミント神戸.jpgOSシネマズ ミント神戸 神戸三宮・ミント神戸(正式名称「神戸新聞会館」。阪神・淡路大震災で全壊した旧・神戸新聞会館跡地に2006年10月完成)9F~12F。全8スクリーン総座席数1,631席。

阪神・淡路大震災で廃墟と化した旧・神戸新聞会館(1995.2.3大木本美通氏撮影)

Raquel Welch
Raquel Welch RPT 0005.jpgRaquel Welch RPT.jpgRaquel Welch RPT 0006.jpg




 
 
 
  
《読書MEMO》
●主な収録作品
【10~20年代】エッセイ=ロバート・ブロック
カリガリ博士/吸血鬼ノスフェラトゥ/巨人ゴーレム/ロスト・ワールド/猫とカナリヤ/メトロポリス/狂へる悪魔/ダンテ地獄篇/バット/オペラの怪人/真夜中すぎのロンドン/プラーグの大学生/他
【30年代】エッセイ=レイ・ブラッドベリ
魔人ドラキュラ/フランケンシュタイン/フランケンシュタインの花嫁/透明人間/モルグ街の殺人/悪魔スヴェンガリ/M/怪人マブゼ博士/倫敦の人狼/猟奇島/恐怖城/怪物団/肉の蝋人形/キング・コング/オズの魔法使/ミイラ再生/獣人島/バスカヴィル家の犬/他
【40年代】エッセイ=ハーラン・エリスン
狼男の殺人/バグダッドの盗賊/猿人ジョー・ヤング/キャット・ピープル/ミイラの復活/謎の下宿人/スーパーマン/夢の中の恐怖/凸凹フランケンシュタインの巻/美女と野獣/バッタ君町に行く/死体を売る男/猿の怪人/他
【50年代】エッセイ=ピーター・ストラウブ
遊星よりの物体X/地球最後の日/宇宙戦争/大アマゾンの半魚人/原子怪獣現わる/ゴジラ/放射能X/タランチュラの襲撃/禁断の惑星/宇宙水爆戦/海底二万哩/蠅男の恐怖/吸血鬼ドラキュラ/ミイラの幽霊/狩人の夜/空の大怪獣ラドン/ボディ・スナッチャー 恐怖の街/シンドバッド7回目の航海/戦慄!プルトニウム人間/他
【60年代】エッセイ=クライヴ・パーカー
サイコ/血だらけの惨劇/ローズマリーの赤ちゃん/忍者と悪女/血塗られた墓標/吸血狼男/テラー博士の恐怖/ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド/タイム・マシン/恐竜100万年/猿の惑星/2001年宇宙の旅/怪談/鳥/何がジェーンに起ったか?/華氏451/バーバレラ/博士の異常な愛情/ミクロの決死圏/血の祝祭日/他

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映画と日付との関連はやや強引。それにこだわらず、単に作品解説としてならば楽しめる。

1ビデオが大好き.pngブラザー・サン シスター・ムーン チラシ.jpg ブラザー・サン シスター・ムーン パンフレット.jpg ロミオとジュリエットp.jpg
ビデオが大好き!365夜―映画カレンダー (文春文庫―ビジュアル版)』「映画チラシ「ブラザー・サン シスター・ムーン」」「映画パンフレット「ブラザー・サン シスター・ムーン」」/「ロミオとジュリエット」

 洋画の名作・傑作を1年間の日付や季節と関連付けてカレンダーに沿って1月から12月まで紹介し、ビデオ観賞に利用してもらおうという試みで、発想はなかなか面白いと言うか"風流"と言うか...。ただ、編集する側も、企画を思いついてこれはいいと思ったものの、それなりの名作を取り上げることを前提にそれをやってみたら結構たいへんだったというのが本音ではないでしょうか。すべてを1年間365日に1日ずつ関連づけようとすると、映画そのものより付随するエピソードの方を日付と結びつけたりすることにもなりがちで、やや強引な面もあるように思いました(「モダン・タイムス」('36年/米)が2月5日にきているのは米国での公開が1936年2月5日だったからとか、「ゴジラ(海外版)」('56年/東宝)が11月3日にきているのはの日本での公開が1956年11月3日だったからとか)。

バングラデシュ・コンサート ボブ・ディラン  2.jpg 「バングラデシュ・コンサート」 ('71年/米)が8月1日にきてい狼たちの午後2.jpgるのは実際コンサートがあったのが1971年8月1日であったからとか、「狼たちの午後」('75年/米)が8月22日にきているのは1972年8月22日にニューヨークのブルックリン区で発生した銀行強盗事件を題材にしているから、「荒野の決闘」('47年/米)が10月26日にきているのはOK牧場の決闘が1881年10月26日にあったから、などというのはいいとして、例えば「スタア誕生」('55年/米)が3月26日にきているのは3月下旬がアカデミー賞授賞式シーズンであるからとか、「エデンの東」('55年/米)が4月6日にきているのは、死んだと思ったEast of Eden.jpg母親の実像を弟キャル(ジェームズ・ディーン)により無理矢理知ることになったアーロンが捨て鉢になって徴太陽はひとりぼっちs2.jpg兵に応じた第一次世界大戦にアメリカが参戦した日であるからとか、アニメ「不思議な国のアリス」('53年/米)が4月15日になっているのは東京ディズニーランドの開園日が1983年4月15日だからとか、「太陽はひとりぼっち」('62年/伊・仏)(原題「日蝕」)が8月3日にきているのは、次の日蝕が見られるのは2017年8月であるからとか―。

ベニスに死す 3.jpg 当てモノをするような楽しみも無きにしも非ずですが、むしろ、解説の一つ一つがカレンダーの「日付」に厳密に関連づけるというよりも、そのポセイドン・アドベンチャーsb.jpg「季節」や(「ベニスに死す」('71年/伊・仏)が8月12日にきているのは1911年の夏のヴェネツィアが舞台であるからとか。原作でも日付は特定されていない)、乃至は「時期」「時間」に関係づけているものも多くあるように思いました。結果として、その映画の名場面が想起されたりし、その点が本書のいいところなのかもしれません。1月2日ある愛の詩022.jpgのところにある「ポセイドン・アドベンチャー」('72年/米)はニューイヤーを迎えた日から1月5日までの出来事だったのだなあとか(思っていたより長丁場だった)、「ある愛の詩」('72年/米)でオリバー(ライアン・オニール)とジアパートの鍵貸します1.bmpェニー(アリ・マックグロー)の二人がセントラル・パークに行ったのは1月4日だったのかあとか(その2週間後にジェニーは白血病で亡くなる)。1月13日のところにある「アパートの鍵貸します」('60年/米)は、1959年11月1日に話が始まり、翌年の1月中旬にバクスター(ジャック・レモン)とフラン(シャーリー・マクレーン)が結ばれるという約3カ月の恋の物語だったのだなあとか、その「特定の日」と言うよりも、映画内の時間感覚を改めて感じることができたりしました。

 よく知られている作品、映画ファンなら外せない名作を多く選んでいるのもそうした狙いがあるのではないかと思います。タイトルからも窺えるように、当時ビデオで鑑賞可能であることが取り上げる前提となっていますが、名作・傑作揃いであるため、今はほとんどDVD化されているように思われます(中には例外もあるかもしれないが)。

BROTHER SUN SISTER MOON poster.jpg 四季ごとに4人の映画評論家が、それぞれの季節に関連する映画への自らの思いを寄せていて、「春」のところで北川れい子氏が「エデンの東」などの幾つかの作品を取り上げる中で(要するに「青春」の「春」というわけだ)、"春、青春、男の子"の極めつけけとしてフランコ・ゼフィレリレッリ監督が、13世紀イタリアの、最もキリストに近い聖人だったと言われる聖フランチェスコの青春時代を描いた「ブラザー・サン シスター・ムーン」('72年/英・伊)を取り上げていましたが(作品中のも厳しい冬のシーズンから雪解けの春に移る季節の転換場面がある)、映像も音楽も美しい映画だったと思います。

ブラザー・サン シスター・ムーン o1.jpg この作品で一番目を引くのは、主演のグレアム・フォークナーのフランチェスコへの「なり切り感」であり、フランコ・ゼフィレリレッリ監督は、「ロミオとジュリエット」('68年/英・伊)でもまだ16歳だったオリビア・ハッセーを上手く使っているし(この作品公開後のオリビア・ハッセーの日本での人気の高騰ぶりはスゴかっTHE CHAMP22.jpgた)、「チャンプ」('79年/米)では子役リッキー・シュローダーに世間をして「天才」と言わしめるほどの演技をさせていますが、結局、これら全て監督の演出力だったのだろうなあ。改めてその力量を感じます。因みに、本書で「チャンプ」が6月22日にきているわけは、大体この頃が「父の日」(6月の第3日曜)に当たるからとのことです。
    
ブラザー・サン シスター・ムーン dvd.jpgBROTHER SUN SISTER MOON1.jpg「ブラザー・サン シスター・ムーン」●原題:BROTHER SUN SISTER MOON●制作年:1972年●制作国:イギリス・イタリア●監督:フランコ・ゼフィレッリ●脚本:フランコ・ゼフィレッリ/スーゾ・チェッキ・ダミーコ/ケネス・ロス/リナ・ウェルトミューラー●撮影:エンニオ・グァルニエリ●音楽:ドノヴァン●時間:135分●出演:グレアム・フォークナー/ジュディ・バウカー/リー・ローソン/アレック・ギネス/ヴァレンティナ・コルテーゼ/アドルフォ・チェリ●日本公開:1973/06●配給:パラマウント=CIC●最初に観た場所:中野武蔵野館 (77-10-29)●2回目:中野武蔵野館 (77-10-29)(評価:★★★★)●併映:「ジーザス・クライスト・スーパースター」(ジノーマン・ジュイスン)
ブラザー・サン シスター・ムーン [DVD]

「ロミオとジュリエット」.jpg「ロミオとジュリエット」●原題:ROMEO AND JULIET●制作年:1968年●制作国:イギリス・イタリア●監督:フランコ・ゼフィレッリ●製作:ジョン・ブレイボーン/アンソニー・ヘイヴロック=アラン●脚本:フランコ・ゼフィレッリ/フランコ・ブルサーティ/マソリーノ・ダミコオリビア・ハッセー.jpg●撮影:パスクァリーノ・デ・サンティス●音楽:ニーノ・ロータ(歌:グレン・ウェストン)●時間:138分●出演:レナード・ホワイティング/オリヴィア・ハッセー/マイケル・ヨーク/Olivia Hussey RPT.jpg場所:三鷹オスカー (81-03-15)(評価:★★★☆)●併映:「ハムレット」(ローレンス・オリヴィエジョン・マケナリー/ミロ・オーシャ/パット・ヘイウッド/ロバート・スティーヴンス/ブルース・ロビンソン/ポール・ハードウィック/ナターシャ・パリー/アントニオ・ピエルフェデリチ/エスメラルダ・ルスポーリ/ロベルト・ビサッコ/(ナレーション)ローレンス・オリヴィエ●原作:ウィリアム・シェイクスピア●日本公開:1968/11●配給:パラマウント映画●最初に観た)/「マクベス」(ロマン・ポランスキー)  Olivia Hussey(オリヴィア・ハッセー)

「Romeo and Juliet(ロミオとジュリエット)」(1968年)
theme music:「What Is A Youth」
作曲:Nino Rota(ニーノ・ロータ


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育てようとした対象を自ら押し潰してしまう―感性で捉える不条理劇「授業」。

イヨネスコ 授業・犀.jpg ウジェーヌ・イヨネスコ.jpg   授業1.jpg 「授業」中村まり子.jpg   死の教室 中古vhs.jpg
授業・犀 (ベスト・オブ・イヨネスコ)』['93年/白水社]ウジェーヌ・イヨネスコ/中村伸郎「授業」/アンジェイ・ワイダ「死の教室」VHS(絶版)
授業・犀 (ベスト・オブ・イヨネスコ).jpg ある教授の自宅に、女生徒が個別講義を受けに来るが、教授は女中に止められるのもかまわず講義を始める。数学そして比較言語学と講義を進めていくにつれ、最初は穏やかだった教授は夢中になり、しだいに凶暴になっていく。凶暴化した教授は我を忘れて、講義に集中できなくなった女生徒をナイフで刺殺する―。

 ルーマニア生まれのフランスの劇作家ウジェーヌ・イヨネスコ(1909-94/享年84)が1951年に発表した戯曲で、サミュエル・ベケット(1906-89)などと共に20世紀のヌーヴォー・テアトルの代表格にあたる人ですが、文学界にデビューしたのは40歳を過ぎてからであり、結構遅咲きだった人です(デビュー時に、新世代の劇作家の台頭を歓迎する出版社の意向で、年齢を3歳若くサバ読み公表させられた)。

 イヨネスコの作風は「平凡な日常を滑稽に描きつつ、人間の孤独性や存在の無意味さを鮮やかに描き出した」(ウィキペディア)ものということになるらしいですが、昔から言われている言葉で一言で言えば、「不条理劇」であり、実際、カミュやサルトルの不条理の文学に通じるとされています(但し、個人的には、戯曲という表現を通して理論よりも観客の感性に働きかけている分、哲学っぽくないという点で、カフカなどに近いように感じる)。

山手教会地下「ジァン・ジァン」.jpg渋谷ジァン・ジァン 高橋竹山.bmp渋谷ジァン・ジァン 中村伸郎.bmp 演劇としての「授業」は、俳優の中村伸郎(1908-1991/享年82)が、'72年より11年間にわたって、毎週金曜日に渋谷・公園通りの山手教会地下「ジァン・ジ渋谷ジャンジャンr-1s.jpgァン」で演じていたことで知られていますが(「ジャンジャン」は1969年7月オープン。ここへは「高橋竹山の津軽三味線」や「おすぎのシネマトーク」も聞きに行った。「イッセー尾形の一人芝居」もこのジァン・ジァンで始められた。「美輪明宏の世界」とか「松岡計井子渋谷ジャンジャン75年8月.jpgビートルズをうたう」などといったものもあり、荒井由実(後の松任谷由実)、中島みゆき、吉田拓郎、井上陽水など、ここでライブをやった著名アーティストは数知れない。'00年4月25日閉館)、自分自身のメモを見ると、'79年の5月4日の金曜日に「ジァン・ジァン」に「授業」を観に行っていました(ゴールデンウィーク中渋谷ジャンジャン 授業.jpg中村伸郎 授業.pngもやっていた)。小劇場であるため、役者と観客の距離が近くて緊迫感があり、結構インパクトを受けました(その時の女性徒役は、演出も兼ねていた大間知靖子。歴代の女性徒役の中でも名演とされている)。
   
「授業」中村まり子.jpg 女性徒の覚えの悪さ(「ナイフ」という言葉を何度やっても正確に発音できない)に教授はキレてしまい、発作的にナイフによる凶行に及んだともとれるのですが、実はこの教授は今までも同じ殺人を何度も繰り返していることが暗示されています(中村伸郎の娘で女優の中村まり子がこの"出来の悪い"女生徒役で出ていた時期もあった(当時19歳))。

 育てようとした対象を自ら押し潰してしまう―家庭教師をやっていたりした時のことを思い出しそうな設定ですが、もし今観れば、会社における部下指導の在り方などを考えてしまうかも(余りにストレートに教訓的な解釈?)。

渋谷ジァンジァン閉館 2000/04/25(インタビュー:中村伸郎・中村まり子・別役実・宇崎竜童・イッセー尾形・美輪明宏)

 中村伸郎の後を受けて、中山仁、勝部演之、仲谷昇といった俳優がこの教授役を演じ、また最近では「劇団東京乾電池」の綾田俊樹やベンガルが演じていますが、今年('11年)7月には、柄本明が「東京乾電池」の公演として自身の演出のもとで演じています。それらを実際に観てはいないけれども、中村伸郎.jpgいかにもひと癖ありそうな柄本明よりも、教授然とした中村伸郎の方が、この作品の中村伸郎2.jpg場合"意外性"の効果はあるのではないかなあ。中村伸郎は「宇宙大怪獣ドゴラ」('64年/東宝)や「サンダ対ガイラ」('66年/東宝)、或いはTV版「白い巨塔[左]('67年)でも博士や教授の役でした。この人、「天国と地獄」('63年/東宝)など黒澤明監督作品にも出ているほか、映画会社ではなく劇団(文学座)所属だったので、「彼岸花」('58年/松竹)、「秋日和」('60年/松竹)、「秋刀魚の味[右](62年/松竹)など小津安二郎監督の後期作品にも常連のように出ています。

 "感性に訴える"作品ではありますが、政治的意図(反ナチズム)もあるようで(家庭教師や会社の上司に置き換えるだけでは"読み"が浅い?)、更に、教室という1場面のみで話が進行するため、アンジェイ・ワイダが監督した「劇団クリコット2」による「死の教室」('76年/ポーランド)を観た際に、この芝居を想起したりもしました。

死の教室の一場面.jpg 「死の教室」は、廃墟(倉庫?)のような教室に、自らの子供の頃の分身である人形を持ってやって来た老人(死者)たちが、脈絡のない不可思議な行動をとりながら、ユダヤの歴史に由来する言葉や、意味不明な単語を発演するという、これもまた「不条理劇」で、舞台劇(演出はタデウシュ・カントール)をそのまま撮った記録映画です。オーケストラ・リハーサル dvd2.jpg"統制の喪失"という意味では、個人的にはフェデリコ・フェリーニの「オーケストラ・リハーサル」(′79年/伊)と少し似ているように思えたました。「オーケストラ・リハーサル」は、「フェリーニの道化師」などと同じくTV用映画として撮られたもので、あるオーケストラのリハーサル風景をTV局が取材するという形で物語が進み、「道化師」と同じくドキュメンタリーかと思って観ていると、実はフィクションだった...。「オーケストラ・リハーサル [DVD]

死の教室 [THE DEAD CLASS] ポスター.jpg アンジェ蜷川幸雄.jpgイ・ワイダはこの「死の教室」という作品を、やはりTV用作品として撮影しましたが、ポーランド国内ではTV放映も劇場公開もされていないとのこと、かつて「劇団クリコット2」が再来日して('82年に一度来日して公演、蜷川幸雄(1936-2016)氏ら日本の演劇人に衝撃を与えたとのこと)、この芝居を舞台公演するという話がありましたが、「クリコット2」のメンバーが全員高齢であるため、長旅に耐えられないという理由で中止になったという顛末がありました。出演者らは"老け役"ではなく、ホントに老人だったのだ...。

「死の教室」●原題:THE DEAD CLASS●制作年:1976年●制作国:ポーランド●監督:アンジェイ・ワイダ●製作:バルバラ・ペツ・シレシツカ●脚本・演出・作曲:タデウシュ・カントール●時間:90分●出演:劇団クリコット2(マリア・グレツカ/パルコ劇場.jpgparco劇場 .jpgボフダン・グリボヴィッチ/ミーラ・リフリツカ/ズビグニエフ・ベトナルチック/ロマン・シヴラック)●日本公開:1988/01●配給:パルコ●最初に観た場所:渋谷・PARCO劇場(88-01-16)(評価:★★★☆)
PARCO劇場 1973年5月23日「西武劇場」として渋谷PARCO PART1の9Fにオープン、主に演劇公演に利用される。1985年~「PARCO劇場」。2016(平成28)年8月7日閉館。2019年に再オープン予定。

「オーケストラ・リハーサル」チラシ/「オーケストラ・リハーサル [DVD]
オーケストラ・リハーサル  チラシ.jpgオーケストラ・リハーサル dvd.jpgオーケストラ・リハーサル 3.jpg「オーケストラ・リハーサル」●原題:PROVA D'ORCHESTRA(ORCHESTRA REHEARSAL)●制作年:1979年●制作国:イタリア・西ドイツ●監督:フェデリコ・フェリーニ●製作:ファビオ・ストレッリ●脚本:フェデリコ・フェリーニ/ブルネッロ・ロンディ●撮影:ジュゼッペ・ロトゥンノ●音楽:ニーノ・ロータ●時間:72分●出演:ボールドウィン・バース/クララ・ユロシーモ/チェーザレ・マルティニョニ/ハインツ・クロイガー/クラウディオ・チョッカ/エリザベス・ラビ ●日本公開:1980/08●配給:フランス映画社●最初に観た場所:三鷹オスカー(81-10-10)(評価:★★★☆)●併映:「フェリーニのアマルコルド」「フェリーニのローマ」

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コロンボがどこで確証を得たかを考え始めると、結構何度も楽しめるシリーズ初期3作。

刑事コロンボ/二枚のドガの絵 vhs.jpg 構想の死角 vhs.jpg 刑事コロンボ/パイルD-3の壁 vhs.jpg 刑事コロンボ パイルD-3の壁.jpg
特選「刑事コロンボ」完全版~二枚のドガの絵~【日本語吹替版】 [VHS]」「刑事コロンボ~構想の死角~ [VHS]」「特選 刑事コロンボ 完全版「パイルD-3の壁」【日本語吹替版】 [VHS]」「刑事コロンボ 完全版 Vol.5 [DVD]」フォレスト・タッカー
刑事コロンボ/二枚のドガの絵 2.jpg二枚のドガの絵 タイトル.jpg二枚のドガの絵2.jpg 美術評論家デイル・キングストン(ロス・マーティン)は、叔父の絵画収集家ランディ・マシューズを射殺し、画家志望の恋人トレイシー(ロザンナ・ハフマン)に、銃声を発するとともに2枚のドガの絵を盗み出させて、絵画強盗刑事コロンボ  二枚のドガの絵.jpgの仕業に見せかけるよう工作、更にそのトレイシーをも殺害し、その罪を叔父の遺産を相続人である元妻エドナ(キム・ハンター)に二枚のドガの絵3.bmp被せることで、遺産を独占しようとする―。

 第6話(シリーズ化の前に作られた"パイロット版"を含んだカウント)「二枚のドガの絵」は、「刑事コロンボ」の中でも「サプライズオープニング&エンディング」と評される作品で、冒頭、何の前ぶれも無く殺人が起き、ラストは、「なるほど」と思った瞬間に終わってしまうというもので、とりわけラストが鮮やかです。

二枚のドガの絵.jpg コロンボが「この絵にはあたしの指紋がある」と言ったところで、犯人が第2の犯行から戻ってきた際の、待ち受けていたコロンボとの"あの時"のやりとりが思い浮かび、「そっか」という感じはあるのですが、直後の犯人の反駁に対してコロンボが無言でしてみせたことには、犯人ならずとも「参った」という感じ。

 「あっ」と思った瞬間に終わることで、つい今しがたコロンボが愛車のポンコツ・プジョーを降りてエドナ邸に入るまでのロングショットや、着いてからの所作を観る者に思い出させようとする、その辺りが上手いなあと思いました。

Kim Hunter colombo.jpg それにしてもコロンボは、"あの時"偶然絵に触ったことを、後で思い出したのか、それとも最初からわざと指紋をつけたのか。これは、わざとでしょうね。
 ということは、次がぶっつけ本番のラストの決着だとすると失敗は許されないわけで、それでは犯人の確証をどこで得たのか―。

猿の惑星1.jpg 犯人役のロス・マーティンはピーター・フォークの演技の師匠でもあり、"スペシャル・ゲストスター"として招かれ、被害者マシューズの元妻エドナを演じたキム・ハンター(1922-2002/享年79)は「欲望という名の電車」の舞台版でピューリッツァ賞、映画版(1951)でアカデミー助演女優賞を受賞した名女優(映画「猿の惑星」シリーズでの猿の女科学者ジーラ役でもお馴染み)、弁護士役のドン・アメチーもいい味を出しているなど、役者陣も充実しており、シリーズ屈指の傑作と言えるかと思います。

 「刑事コロンボ」は90年代の「新・刑事コロンボ」よりも、70年代の旧シリーズの方がより傑作が多いように思われ、この"初期コロンボ"は全部で45話ありますが、「シーズン1」では、リー・グラント主演の第2話「死者の身代金」(シリーズ化を前提にした"パイロット版")や無名時代のスティーヴン・スピルバーグが監督した第3話「構想の死角」などが傑作。

構想の死角2.jpg構想の死角1.bmp  第3話であり、シリーズ第1作でもある「構想の死角」は、ジム・フェリスとケン・フランクリン(ジャック・キャシディ)という2人のミステリ作家がコンビを組んでミステリー・シリーズを発表し、ベストセラー作家として名声を手に入れていたが、実は、彼らの作品のすべての原稿はジムが書いたものであり、ケンは交渉やPRをやっていたに過ぎず、ジムがこれからはシリアスな小説を書きたいとコンビの解消を言い出したため、ケンはマズいと考え、また互いに生命保険をかけていたことから金目当てもあって、ジムを殺害するというもの。

構想の死角4.jpg 連続殺人に発展し、コロンボは、作家が殺された最初のトリックは見事だが、第2の殺人のトリックはお粗末であると犯人の前で評価をしますが、最初の殺人のトリックは被害者によるメモがあり、これは被害者の筆跡。最後に自白を迫られた犯人のケンは、あれは自分のアイデアをジムがメモに書きとったものだと明かし、比較的弱い状況証拠しか無かったにも関わらず、犯人のコンプレックスから来る意地のようなものが自白を促したと取れるところが、皮肉が効いています(犯人の畢生の傑作トリックだったわけだが、コロンボ自身は犯人の自白を聞くまで、犯人自身のアイデアとは思ってなかった?)。

スティーブン・スピルバーグ5Q.jpg 何だか脚本家の内輪ネタにも似た話ですが、脚本そのものはスピルバーグではありません。スピルバーグはTV映画「激突!」('71年)の監督オーデションへの応募に際して、それまでの自分の仕事の中で自信作としてこの作品を挙げて監督の座を射止めています(つまり「激突!」も先に脚構想の死角3.jpg本はあったということか)。「構想の死角」では途中で変わった形をしたホットドッグ屋が出てきますが、こういうのを映し込むアイデアはスピルバーグの発案なのかもしれません。因みに、犯人役のジャック・キャシディは、このシリーズの第22話「第三の終章」、第36話「魔術師の幻想」でも犯人役として出ています(計3回)。

パイルd-3 1.jpg 傑作と言えば、ピーター・フォーク自身が監督した第9話「パイルD-3の壁」などもそうではないかと。

パイルD-3の壁.jpg 事業家ウィリアムソン(フォレスト・タッカー)が行方不明になり,彼の前妻ゴールディー(ジャニス・ペイジ)からの捜索依頼を受けたロス市警が捜査に乗り出すが、ウィリアムソンの現在の妻ジェニファー(パメラ・オースチン)や建築家のエリオット・マーカム(パトリック・オニール)は、彼は仕事でロスを離れたのだろうと言い、ウィリアムソンの車も空港で発見される。しかしコロンボは、その車を他人が運転していた形跡を見つけ、殺害の線で捜査を開始する―。
BLUEPRINT FOR MURDER.bmpBLUEPRINT FOR MURDER2.bmp 被害者の死体捜しが鍵となっているこの作品は、ストーリー的にはパイルd-3 2.jpg単純な方かと思われますが、そのことによって、「人間心理の逆を突いた犯人の更に逆を突くコロンボ」という構図がよりハッキリ浮かび上がる作りになっているように思いました(原題は「殺人の青写真(Blueprint for Murder )」。「青写真」と設計図の「青焼き」を懸けたものだが、今の時代においては邦題の方がいいかも)。

BLUEPRINT FOR MURDER1.jpgBlueprint For Murder 3.bmp コロンボは、被害者の遺体が埋められていると思われる場所を掘り返す許可を得るため役所に行き、さんざん盥回しにされてやっと許可が下りたかと思ったら(この"苦労"も推理の伏線になっているところが上手い)、死体が出なかった―その際のがっくりきたコロンボの様は、あれは犯人に対するフェイクではなく、ホントにがっくりきていたのかなあ(前妻役ジャニス・ペイジに慰めのキスをされていた)。いや、やはりあれは、犯人に死体の隠し方法を示唆することで死体を引っ張り出せるためのフェイクとみるのが筋(スジ)でしょう。被害者のクルマにあったクラシック音楽のカセットと犯人がクラシック音楽好きであることから、早期にホシであると目をつけていたことは、ラストでコロンボ自身が犯人に明かしていることでもあるし。

 コロンボが直感のレベルを超えて、容疑者が犯人であるとの確証をどの時点で得たかを考え始めると、結構何度も楽しめる作品が多いです。
 
「あなたが選ぶ!思い出のコロンボ ベスト20」(NHK-BSプレミアム)2018年
1位:別れのワイン(ANY OLD PORT IN A STORM)
2位:二枚のドガの絵(SUITABLE FOR FRAMING)
3位:忘れられたスター(FORGOTTEN LADY)
4位:溶ける糸(A STITCH IN CRIME)
5位:パイルD-3の壁(BLUEPRINT FOR MURDER)
6位:祝砲の挽(ばん)歌(BY DAWN'S EARLY LIGHT)
7位:ロンドンの傘(DAGGER OF THE MIND)
8位:構想の死角(MURDER BY THE BOOK)
9位:歌声の消えた海(TROUBLED WATERS)
10位:逆転の構図(NEGATIVE REACTION)
11位:殺しの序曲(THE BYE-BYE SKY HIGH I.Q. MURDER CASE)
12位:殺人処方箋(しょほうせん)(PRESCRIPTION:MURDER)
13位:秒読みの殺人(MAKE ME A PERFECT MURDER)
14位:権力の墓穴(A FRIEND IN DEED)
15位:策謀の結末(THE CONSPIRATORS)
16位:死者のメッセージ(TRY AND CATCH ME)
17位:意識の下の映像(DOUBLE EXPOSURE)
18位:魔術師の幻想(NOW YOU SEE HIM)
19位:美食の報酬(MURDER UNDER GLASS)
20位:死の方程式(SHORT FUSE)


刑事コロンボ/二枚のドガの絵 5.bmp刑事コロンボ/二枚のドガの絵 1.jpg「刑事コロンボ(第6話)/二枚のドガの絵」●原題:SUITABLE FOR FRAMING●制作年:1971年●制作国:アメリカ●監督:ハイ・アヴァバック●製作:リチャード・レヴィンソン/ウィリアム・リンク●脚本:ジャクソン・ギリス●音楽:ビリー・ゴールデンバーグ●時間:76分●出演:ピーター・フォーク/ロス・マーティン/ロザンナ・ハフマン/キム・ハンター/ドン・アメチ/ジョアン・ショーリー/バーニー・フィリップス/カート・コンウエイ●日本公開:1972/10 (NHK-UHF)(評価:★★★★)

刑事コロンボ(第3話)/構想の死角23v.jpg「構想の死角」.bmp「刑事コロンボ(第3話)/構想の死角」●原題:MURDER BY THE BOOK●制作年:1971年●制作国:アメリカ●監督:スティーヴン・スピルバーグ●製作:リチャード・レビンソン/ウィリアム・リンクズ●脚本:スティーブン・ボッコ●音楽:ビリー・ゴールデンバーグ●時間:76分●出演:ピーター・フォーク/ジャック・キャシディ/マーティン・ミルナー/ローズマリー・フォーサイス/バーバラ・コルビー/リネット・メッティー/アニトラ・フォード●日本公開:1972/11●放送:NHK-UHF(評価:★★★★)

刑事コロンボ(第9話)/パイルD-3の壁.bmp刑事コロンボ/パイルD-3の壁.bmp「刑事コロンボ(第9話)/パイルD-3の壁」●原題:BLUEPRINT FOR MURDER●制作年:1972年●制作国:アメリカ●監督:ピーター・フォーク●製作:リチャード・レヴィンソン/ウィリアム・リンク●脚本:スティーヴン・ボチコ●音楽:ギル・メレ●時間:75分●出演:ピーター・フォーク/パトリック・オニール/フォレスト・タッカー/ジャニス・ペイジ/パメラ・オースティン/ジョン・フィードラー/ジョン・フィネガン/ロバート・ギボンズ/ベティ・アッカーマン/クリフ・カーネル●日本公開:1973/02(NHK-UHF)(評価:★★★★)

刑事コロンボ完全版 DVD-SET 1.jpg刑事コロンボ完全版 DVD-SET 1 【ユニバーサルTVシリーズ スペシャル・プライス】
刑事コロンボ 1シーン.jpgDisc1 (1) 殺人処方箋: 約99分 (2) 死者の身代金: 約95分
Disc2 (3) 構想の死角 :約76分 (4) 指輪の爪あと:約76分
Disc3 (5) ホリスター将軍のコレクション :約76分 (6) 二枚のドガの絵: 約76分
Disc4 (7) もう一つの鍵: 約75分 (8) 死の方程式 :約75分
Disc5 (9) パイルD-3の壁: 約75分 (10) 黒のエチュード: 約96分

「刑事コロンボ」Columbo (NBC 1971~1978/ABC 1989~2003) ○日本での放映チャネル:NHK-UHF・NHK(1972~1981)ほか

「刑事コロンボ」のテーマ(作曲:ヘンリー・マンシーニ

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3監督のオムニバス。コアなファンがいてもおかしくない雰囲気はある。

世にも怪奇な物語 dvd.jpg  世にも怪奇な物語 ポスター.jpg  世にも怪奇な物語 輸入版dvd.jpg
世にも怪奇な物語 HDニューマスター版 [DVD]」/ポスター/輸入版DVD 
世にも怪奇な物語 1-1.jpg世にも怪奇な物語 ジェーン・フォンダ.jpg エドガー・アラン・ポーの怪奇小説3作を基に、ロジェ・ヴァディム、ルイ・マル、フェデリコ・フェリーニの3監督が共作したオムニバス映画。一応、全体のトーンはゴチック・ホラーですが...。

 第1話「黒馬の哭く館」(ロジェ・ヴァディム監督) 若くして莫大な財産を相続し、我儘放題に暮らす伯爵家の娘フレデリック(ジェーン・フォンダ)は、ある日、親族で唯一彼女を批判して憚らない男爵ウィルヘルム(ピーター・フォンダ)に偶然助けられたことで彼に一目惚れし、彼を誘惑しようとするが、男爵は彼女の誘い世にも怪奇な物語」 (67年/仏・伊)2.jpgには乗らず、プライドを傷つけられた彼女は家臣に命じて男爵の厩に火をつけさせる。愛馬を助けようとした男爵は焼死し、ショックを受けた彼女は、火事の後にどこからともなく現れた黒馬に癒しを求める―。

ロジェ・ヴァディム.gif ロジェ・ヴァディム監督による第1話は、ゴチックホラー調と次回作「バーバレラ」にも通じるセクシー&サイケデリック調の入り混じった感じで、詰まる所、ヴァディムが妻の美貌と伸びやかな肢体を獲りたかっただけのことかとも勘繰りたくなるくらいジェーン・フォンダがセックス・アピールしており、これ、純粋な意味での"ゴチック調"とはちょっと違うかも...。

第2話「影を殺した男」.jpg世にも怪奇な物語 影を殺した男1.jpg 第2話「影を殺した男」(ルイ・マル監督) 暴力で他の生徒らを支配する残忍な少年ウィリアム・ウィルソンが、ある時他の少年を苛めていると1人の転校生が近付いてきて、その少年もウィリアム・ウィルソンと名乗るが、彼は全てにおいてウィルソンより優れていた。ある夜、寝ていたその転校生をウィルソンは絞め殺そうとするが、途中で気付かれ放校処分に。数年後、医大に進んだウィルソン(アラン・ドロン)は若い女性を誘拐し、解剖を始めようとしていた―。

「影を殺した男」02.jpg世にも怪奇な物語 2.jpg アラン・ドロンがベッドに縛りつけた全裸女性を解剖しようとするシーンをルイ・マル監督が撮っているというのも驚きですが、むしろ、この第2話「影を殺した男」の方が、ポーの作品の雰囲気は出ていたかも知れず、青年になったウィルソンの、優(やさ)男の裏側に残忍さを秘めた二重人格者ぶりは、TV番組「デクスター」のよう。この場合、"二重人格"と言うより完全に"分身"(ドッペルゲンガー?)だけど。 ウィルソン(アラン・ドロン)は、イカサマ賭博で手に入れた女(ブリジット・バルドー)を鞭打ち残酷な快楽に浸るというスゴい設定ながも、ドロンは好演しており、ドロン相手にトランプの賭けをする女賭博師ブリジット・バルドー(ロジェ・ヴァディムの元妻!)の演技も良くて、ジェーン・フォンダよりは演技しているという感じでした。

世にも怪奇な物語 悪魔の首飾り1.jpg 第3話「悪魔の首飾り」(フェデリコ・フェリーニ監督) 落ちぶれたイギリス人俳優トビー(テレンス・スタンプ)は撮影のためイタリアへ飛ぶが、酒と麻薬で意識は混濁。そのトビーの前に度々現れるのは、少女の姿をした死神だった―。

世にも怪奇な物語 3.gif 第3話は、ストーリーよりも、フェリーニ監督の映像美が(美的と言うより意匠的なのだが)堪能できる作品。主人公の妄想に出てくる少女(死神)が、なぜ白い服を着て白いボールを持っているのかよく解りませんが、まあ、理屈よりも映像美...。テレンス・スタンプの出ようとしている映画が、キリストが西部の草原に降臨するという「カトリック西部劇」なるわけのわからない映画であることや、マスコミの取材攻勢を描いたところなどは「甘い生活」('59年)の雰囲気に繋がりますが、3作品の共通テーマが「死」であることからすると、締め括りに最も相応しい作品かも知れません。世にも怪奇な物語 輸入版ポスター.jpg一方で、これだけが時代背景が「現代」であることもあって、前2作とはトーンが異なる感じも(イタリア人監督ということもあるか)。ただ、神経質そうな主人公を演じるテレンス・スタンプの演技は悪くない、と言うか、かなり良かったように思います(アラン・ドロンより上か)。

お楽しみはこれからだ―映画の名セリフ.jpg和田 誠 氏2.jpg 何れも「怪奇」な話であるけれども怖くはないという感じ。和田誠氏は『お楽しみはこれからだ―映画の名セリフ』('75年/文藝春秋)の中で、ロジェ・ヴァディムのパートは「耽美主義的映像が逆に小細工のようでいけなかった」とし、「通俗的にはルイ・マルが面白く、怖さや不思議さではフェリーニが圧巻」としています。

お楽しみはこれからだ―映画の名セリフ

高田馬場東映パラス 入り口.jpg「世にも怪奇な物語」.jpg 高田馬場東映パラス(時々変わった作品を上映していた)で観て以来、10年以上もビデオにもならなかったので、もう見(まみ)えることはないと思っていたら、'99年にTV放映されビデオも発売、最近はCS放送で放映されたり、DVDにもなったりしていて、昨年('10年)は遂にデジタル・リマスター版が新宿武蔵野館で公開されました。

 3作とも、コアなファンがいてもおかしくない、カルトというか独特な雰囲気は確かにありました。考えてみれば、作風はマイナーでありながらも一応エドガー・アラン・ポーの原作に忠実に作られているわけだし、何よりも贅沢過ぎると言っていいくらい豪華な配役でもあることだし、実際そうなったから言うわけではないですが、リバイバル上映されてもおかしくない作品でした。

世にも怪奇な物語」 pos.jpg
世にも怪奇な物語」 (67年/仏・伊)1.jpg「世にも怪奇な物語」●原題:仏:HISTOIRES EXTRAORDINAIRES(珍しい物語)/伊:TRE PASSI NEL DELIRIO(譫妄への三段階)/英:SPIRITS OF THE DEAD(死者の霊)●制作年:1967年●制作国:フランス/イタリア●監督:ロジェ・ヴァディム(1話「黒馬の哭く館」)/ルイ・マル(2話「影を殺した男」)/フェデリコ・フェリーニ(3話「悪魔の首飾り」)●脚本:ロジェ・ヴァディム(1話「黒馬の哭く館」)/パスカル・カズン(1話)/ルイ・マル(2話「影を殺した男」)/クレマン・ビドル・ウッド(2話)/ダニエル・ブーランジェ(1話、2話)/フェデリコ・フェリーニ(3話「悪魔の首飾り」)/ベルナルディーノ・ザッポーニ(3話)●撮影:クロード・ルノワール(1話「黒馬の哭く館」)/トニー世にも怪奇な物語 1-2.jpgノ・デリ・コリ(2話「影を殺した男」)/ジュゼッペ・ロトゥンノ(3話「悪魔の首飾り」)●音楽:ジャン・プロドロミデス(1話「黒馬の哭く館」)/ディエゴ・マ悪魔のような恋人2.jpgッソン(2話「影を殺した男」)/ニーノ・ロータ(3話「悪魔の首飾り」)●原作:エドガー・アラン・ポー「メッツェンゲルシュタ世にも怪奇な物語」 (67年/仏・伊)00.jpgイン」(1話「黒馬の哭く館」)/「ウィリアム・ウィルソン」(2話「影を殺した男」)/「悪魔に首を賭ける勿れ」(3話「悪魔の首飾り」)●時間:121分●出<演:ジェーン・フォンダ(1話「黒馬の哭く館」)/ピーター・フォンダ(1話)/アラン・ドロン(2話「影を殺した男」)/ブリジット・バルドー(2話)/テレンス・スタンプ(3話「悪魔の首飾り」)/サルヴォ・ランドーネ(3話)●日本公開:1969/07●配給:MGM●最初に観た場所:高田馬場東映パラス(86-11-30)(評価:★★★☆)●併映:「白夜」(ルキノ・ヴィスコンティ)
 
  
 
 
 
 
高田馬場a.jpg高田馬場・稲門ビル.jpg高田馬場東映パラス 入り口.jpg高田馬場東映パラス 高田馬場駅早稲田口・稲門ビル4階(現・居酒屋「土風炉」)1975年10月4日オープン、1997(平成9)年9月23日閉館

①②高田馬場東映/高田馬場東映パラス/③高田馬場パール座/④早稲田松竹 

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「●ニーノ・ロータ音楽作品」の インデックッスへ 「●ロバート・デ・ニーロ 出演作品」の インデックッスへ 「●ロバート・デュヴァル 出演作品」の インデックッスへ 「○外国映画 【制作年順】」の インデックッスへ 「●海外のTVドラマシリーズ」の インデックッスへ(「ザ・ソプラノズ 哀愁のマフィア」)

マフィアの一族においても強力な「父性原理」が過去のものとなりつつあったことの予兆。

ゴッドファーザーⅡ チラシ.jpg  ゴッドファーザーⅡ パンフレット.jpg    ゴッドファーザーPARTIIDVD.jpg
「">ゴッドファーザー PART II 」チラシ/パンフレット(1975.04)/「ゴッドファーザー PART II [DVD]

ゴッドFⅡ 012.JPG 1958年、湖畔の教会ではドン・マイケル・コルレオーネ(アル・パチーノ)の息子の聖餐式が行われており、湖に臨む大邸宅の庭でのパーティには、妻ケイ(ダイアン・キートン)と息子、妹らが、来賓には、ママ・コルレオーネ(マリア・カータ)、次兄フレドー(ジョン・カザール)夫婦、妹コニー(タリア・シャイア)とその恋人(トロイ・ドナヒュー)、相談役トム・ヘーゲン(ロバート・デュヴァル)らが招かれていた。パーティが済みマイケルがベッドへ入ろうとした時、機関銃の弾が寝室にぶち込まれ、床に伏したマイケルは、ベッドから転がり落ちた妻ケイを抱きかかえていた―。

ゴッドFⅡ 021.JPG 言わずと知れたフランシス・フォード・コッポラ監督による前作「ゴッドファーザー」(′69年/米)の続編で、正編・続編共にアカデミー作品賞を受賞した唯一のシリーズ。

 サンチャゴ版「ゴッドファーザー」的なドン・ウィンズロウの『フランキー・マシーンの冬』('10年/角川文庫)に、映画「ゴッドファーザー」のトリビアなネタが幾つか出てくるので思い出したのですが、「PARTⅡ」では、コルレオーネ家は本拠をニューヨークからネバダ州に移していて、それは近くに収入源であるラスベガスがあるからだったのだなあと。

ゴッドFⅡ 031.JPG 本編でマーロン・ブランドが演じたヴィトー・コルレオーネの後継者としてゴッドファーザーになった三男のマイケルが、今度は父の遺産を守るために苦悩する姿が描かれる一方で、マリオ・プーゾの原作にはあるものの本編では描かれなかった、若き日のヴィトー(ロバート・デ・ニーロ)がシチリアからアメリカに移民としてやって来て、一代で裏社会の巨大ファミリーを築くまでのエピソードが、共に本編を挟むような形で対を成しています。

ゴッドFⅡ 041.JPG 時間的にはヴィトーの出ている時間の方が少ないのですが、「ミーン・ストリート」('73年/米)の演技が認められてコッポラ監督に抜擢されたロバート・デ・ニーロの演技が良く、彼がリトル・イタリーで次第に人望を集めていく様が、最初の内は、パン屋とか八百屋とか様々なごく普通の市井の民としての仕事をしながら、まるで地区の"相談係"乃至はもめ事の"解決係"みたいなことを任されていくという風に描かれているのが興味深いです(「タクシードライバー」('76年/米)の主人公トラヴィスの持つ繊細な一面を彷彿させるが、この作品のロバート・デ・ニーロは「タクシードライバー」に出演する2年前。若いなあ)。

ゴッドFⅡ 051.JPG 一方、家族の確執に悩まされるマイケルの方は、崩壊していく家族の絆を目の当たりにし、自らも裏切った親族に手を下しつつ、改めてヴィトーの偉大さに想いを馳せるという、アル・パチーノとしてはやや損な役回りだったかも(本編のマーロン・ブランドの下でひ弱な印象をこの作品でも引き摺っている?)。

同じ役柄を演じたふたりの俳優.jpg 本編あっての続編ではあるものの、続編でヴィトーの若き日の台頭と、現在のマイケルの孤絶を描くことで、単なるマフィアものを超えて、イタリア移民の一族の年代記としての厚みが増したように思います(ヴィトー・コルレオーネを演じたロバート・デ・ニーロはアカデミー「助演男優賞」受賞。本編でマーロン・ブランドが主演男優賞を受賞しており、同じ役柄を演じた二人の俳優がアカデミー賞の演技賞を獲得したことになる)。

 本編では"家族の絆"の強さというものが描かれていて、日本でも大いに受けたわけですが、心理療法家の河合隼雄が、プロスペル・メリメがシチリアの伝承に材を得た小編「マテオ・ファルコーネ」(岩波文庫『エトルリヤの壷』に所収)(官憲に追われている男を腕時計と引き換えに官憲に密告した息子をその場で射殺した父親の話)を挙げて、こうした強力な「父性原理」は、日本のような「母性原理」の社会では見られないと指摘したように、"家族の絆"の根底にあるものが根本的に日本と異質のような感じもします(だから、肉親であっても裏切者は殺られてしまう)。

ザ・ソプラノズ.jpg ただ、米国のイタリア(シチリア)系社会でもこうした強力な「父性原理」はすでに過去のものとなっているのかも知れず、それがこの続編で予兆として現れていて、近年の海外ドラマ「ザ・ソプラノズ 哀愁のマフィア」('99-07年)などを観ていると、そのギャップがある種パロディカルに描かれるに至っているように思いました。

 「ザ・ソプラノズ 哀愁のマフィア」のジェームズ・ギャンドルフィーニ演じる主人公のマフィアのボスであるトニー・ソプラノは、ストレスと悩みが原因のパニック障害を有し、精神科のカウンセリングを受けていますが(ギャンドルフィーニはこの役でエミー賞を3回受賞)、ロバート・デ・ニ―ロもハロルド・ライミス監督のコメディ「アナライズ・ミー」('99年/米)で、パニック障害で精神分析医に掛かるマフィアのボスを演じています。

The Godfather Part II(1974).jpgThe Godfather: Part II(1974)
「ゴッドファーザーPARTⅡ」●原題:THE GODFATHER PART II●制作年:1974年●制作国:アメリカ●監督:フランシス・フォード・コッポラ●製作:フランシス・フォード・コッポラ/グレイ・フレデリクソン/フレッド・ルース●脚本:マリオ・プーゾ/フランシス・フォード・コッポラ●撮影:ピーター・ツィンナー/バリー・マルキン/リチャード・マークス●音楽:ニーノ・ロータ/カーマイン・コッポラ●原作:マリオ・プーゾ「ゴッドファーザー」●時間:200分●出演:アル・パチーノゴッドファーザーPARTⅡ ロバート・デュヴァル0.jpgロバート・デ・ニーロ/マリア・カータ/ダイアン・キートン/ロバート・デュヴァル/ジェームズ・カーン/ジョン・カザール/タリア・シャイア/リー・ストラスバーグ/マイケル・ヴィンセント・ガッツォ/リチャード・ブライト/ガストン・モスチン/トム・ロスキー/ブルーノ・カ-ビー/フランク・シベロ/フランチェスカ・デ・サピオ/モーガナ・キング/マリアナ・ヒル/レオパルド・トリエステ/ドミニク・キアネーゼ/アメリゴ・トット/トロイ・ドナヒュー●日本公開:1975/04●配給:パラマウント映画=CIC●最初に観た場所:池袋文芸坐(78-01-12)(評価:★★★★)●併映:「コーザ・ノストラ」(フランチェスコ・ロージ)     
 
The Sopranos (1999).jpgザ・ソプラノズ 哀愁のマフィア.jpgThe Sopranos 2.jpg「ザ・ソプラノズ 哀愁のマフィア」The Sopranos (HBO 1999/01~2007)○日本での放映チャネル:WOWOW/スーパー!ドラマTV

The Sopranos (1999)

「●ふ ケン・フォレットス」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【1434】フォレット『レベッカへの鍵
「●「アメリカ探偵作家クラブ賞(エドガー賞)」受賞作」の インデックッスへ(『針の眼』)「○海外サスペンス・読み物 【発表・刊行順】」の インデックッスへ「●ハヤカワ・ノヴェルズ」の インデックッスへ(『針の目』『鷲は舞いおりた』『鷲は舞いおりた 完全版』) 「●フェデリコ・フェリーニ監督作品」の インデックッスへ「●さ行の外国映画の監督②」の インデックッスへ 「●ま行の外国映画の監督」の インデックッスへ 「●ニーノ・ロータ音楽作品」の インデックッスへ(「カサノバ」) 「●ドナルド・サザーランド 出演作品」の インデックッスへ(「針の眼鷲」「カサノバ」「は舞いおりた」「ダーティ・セクシー・マネー」)「●マイケル・ケイン 出演作品」の インデックッスへ (「鷲は舞いおりた」)「●ロバート・デュヴァル 出演作品」の インデックッスへ(「鷲は舞いおりた」)「○外国映画 【制作年順】」の インデックッスへ 「●海外サスペンス・読み物」の インデックッスへ 「●海外のTVドラマシリーズ」の インデックッスへ(「24-TWENTY FOUR-」「ダーティ・セクシー・マネー」) 「●デニス・ホッパー 出演作品」の インデックッスへ(「24-TWENTY FOUR-」)

非情さと人間臭さを併せ持ったスパイ像。ひと癖ありそうなドナルド・サザーランド向きだった?

針の眼.jpg 針の眼 創元推理文庫.jpg 針の眼 dvd.jpg 針の眼 映画チラシ.jpg  鷲は舞いおりた_.jpg
針の眼 (ハヤカワ・ノヴェルズ)』['80年]『針の眼 (創元推理文庫)』['09年]「針の眼 [DVD]」/映画チラシ 「鷲は舞いおりた [DVD]

針の眼 新潮文庫.jpg 第2次世界大戦の最中、英国内で活動していたドイツの情報将校ヘンリー・フェイバー(コードネーム"針")は、連合軍のヨーロッパ進攻に関する重大機密を入手、直接アドルフ・ヒトラーに報告するため、英国陸軍情報部の追跡を振り切り、Uボートの待つ嵐の海へ船を出したが、暴風雨の影響で離れ小島に漂着してしまう―。

針の眼 (新潮文庫)』['96年]

針の眼 .jpg 1978年にイギリスの作家ケン・フォレット(Ken Follett)が発表したスパイ小説で(原題:The Eye of the Needle)、1979年「アメリカ探偵作家クラブ賞(エドガー賞)」を受賞した作品。この人は『大聖堂』以来、歴史小説家の趣きがありますが、この作品でエドガー賞などを受賞し、『トリプル』(Triple)、『レベッカへの鍵』 (The Key to Rebecca)と相次いで発表していた頃は、米国のロバート・ラドラム(1927-2001)に続くエスピオナージュの旗手という印象でした。

 この作品には相変わらず根強いファンがいるようで、集英社文庫、新潮文庫にそれぞれ収められ、'09年には創元推理文庫からも新訳が出たり、 映画化作品がWOWOWでハイビジョン放送されるなどしていますが、もともと原文が読み易いのではないでしょうか。畳み掛けるようなテンポの良さがあります。

ジャッカルの日 73米.jpg スパイの行動を追っていくという点では、同じ英国の作家フレデリック・フォーサイスの『ジャッカルの日』と似て無くもないし、『ジャッカルの日』を読む前からドゴールが暗殺されなかったのを知っているのと同じく、連合軍の欧州侵攻の上陸地点がカレーであるかのように見せかけて実はノルマンディだという"針"ことヘンリーが掴んだ"機密情報"が、結局ヒトラーにもたらされることは無かったという既知の事実から、彼が目的を果たすことは無かったということは事前に察せられます。

針の眼 映画eye-of-the-needle.jpg 但し、そのプロセスがやや異なり、マシーンのように非情に行動する"ジャッカル"に対し、ヘンリーは、同じく非情な人物ではあるものの、流れついた島の灯台守の夫婦に世話になるうちに、その妻と"本気"の恋に落ちてしまうという人間臭い設定になっています(夫針の眼 洋モノチラシ.jpgが下半身不随で、妻は欲求不満気味だった?)。そして、そのことが結局は、彼が任務を遂行し得なかった原因に―。

ドナルド・サザーランド in「針の眼」(1981)

 '81年にリチャード・マーカンド監督によって映画化され、ヘンリー役がドナルド・サザーランド(Donald Sutherland、1935‐)というのには当初は違和感がありましたが、実際に映画を観てみたら、結局は向いていたかもしれないと思いました。

 このひと癖もふた癖もありそうな人物を演じるのが上手いカナダ出身の俳優は、ロバート・アルトマン監督の「M★A★S★H」('70/米)からフェデリコ・フェリーニ監督の「カサノバ」('76年/伊)まで幅広い役柄をこなし、英国のジャク・ヒギンズ(1929-2022/92歳没)が1975年に発表したベストセラー小説『鷲は舞い降りた』('81年/ハヤカワ文庫NV)の映画化作品でジョン・スタージェス監督の遺作となった「鷲は舞いおりた」('76年/英)にも戦争スパイ役で出ていました(同じ年に「カサノバ」と「鷲は舞いおりた」というこのまったく毛色の異なる2本の作品に出ているというのもスゴイが)。

『鷲は舞い降りた (Hayakawa Novels)』.jpg『鷲は舞い降りた 完全版 (Hayakawa Novels)』.jpg鷲は舞い降りた (ハヤカワ文庫NV)_.jpg鷲は舞い降りた (Hayakawa Novels)』 ('76年)
鷲は舞い降りた 完全版 (Hayakawa Novels)』 ('92年)
鷲は舞い降りた (ハヤカワ文庫NV)』('97年改版版)

 「鷲は舞いおりた」は、原作『鷲は舞い降りた』は、第二次世界大戦中の英国領内にある寒村を舞台に、保養地滞在中の英国首相相ウィンストン・チャーチルを拉致しようとするナチス親衛隊長ヒムラーによる「イーグル計画」(架空?)という特殊任務を受けたナチス・ドイツ落下傘部隊の冒険を描いたもので、英米において発売直後から約6か月もの間ベストセラーに留まり続け、当時の連続1位記録を塗り替えたという作品であり、発表の翌年に映画化されたことになります。鷲は舞いおりた 00.jpg鷲は舞いおりた_.jpg鷲は舞いおりた サザーランド.jpgドイツのパラシュート部隊の精鋭を率いるシュタイナーを演じたマイケル・ケインが主役で、ドナルド・サザーランドの役どころは、部隊に先んじて英国に潜入する元IRAのテロリストで現大学教授のリーアム・デヴリン。スパイである男性(デヴリン)が潜入先で地元の女性と恋に陥るところが「針の眼」と似ていますが、シュタイナーの部隊の人間がどんどん死んでいく(計画を指揮したラードル大佐(ロバート・デュヴァル)も失敗の責を取らされ銃殺される。但し、ヒトラーの命令によ鷲は舞いおりた 11.jpg鷲は舞いおりた .jpgる形をとっているが、元々からヒムラー(ドナルド・プレザンス、本物そっくり!)の独断的計画であったことが示唆されていて、ヒムラー自身は何ら責任を取らない)という状況の中で、愛に目覚めたデヴリンは最後に生き残ります(ドナルド・サザーランドについて言えば、「針の眼」とちょうど逆の結末と言えるかもしれない。ケン・フォレットとジャック・ヒギンズの作風の違いか?)。

「鷲は舞いおりた」(1976)出演:マイケル・ケイン/ドナルド・サザーランド/ロバート・デュヴァル

カサノバ 1シーン.jpgカサノバ サザーランドs.jpg 「カサノバ」は全編スタジオ撮影で、巨大なセットがカサノバの人生の虚しさとだぶっていると言われているそうです(フェリーニ監督は彼の人生を演技的と捉えたのか)。カサノバ(ドナルド・サザーランド)が自らの強壮ぶりを誇示する"連続腕立て伏せ"シーンなどは凄かったというか、むしろ悲壮感、悲哀感があった...(ある精神分析家によれば、好色家には、"女性なら誰とでも"という「カサノバ型」と"高貴な女性を落とす"ことに喜びを感じる「ドンファン型」があるそうだが、何れもマザー・コンプレックスに起因するそうな)。

「カサノバ」.jpgカサノバ フェリーニ.jpg この映画のカサノバ役は、ロバート・レッドフォードをはじめ多くの自薦他薦の俳優が候補にあがったようですが、「最もそれらしくない風貌」をフェリーニ監督に買われてドナルド・サザーランドに決定したそうです。ただ、当のドナルド・サザーランドは、なぜ自分が起用されたのか分からず、自分がどういう映画に出ているのかさえも最後まで掴めなかったそうです。
ドナルド・サザーランド in「カサノバ」(1976)

Donald Sutherland and Kate Nelligan.jpg 「針の眼」の映画の方は、「カサノバ」及び「鷲は舞いおりた」の5年後に撮られた作品ですが、ここでのサザーランドは、冷徹非情ながらもやや"もっそり"した感じもあって、それでいて目付きは鋭く(こういう病的に鋭い目線は、後のロン・ハワード監督の「バックドラフト」('91年/米)の放火魔役に通じるものがある)、半身不随の灯台守の夫を自身の正体を知られたために殺害する場面などは、(相手を殺らなければ自分が殺られるという状況ではあるが)"卑怯者ぶり"丸出しで、普通のスパイ映画にある"スマートさ"の微塵も無く、それが却ってリアリティありました。

針の眼 シーン2.jpg ケイト・ネリガン(この人もカナダ出身で演技を学ぶためにイギリスに渡った点でドナルド・サザーランドと重なる)が演じる灯台守の妻がヘンリーの正体を知り、突然愛国心に目覚めたため?と言うよりは、ヘンリーの行為を愛情に対する裏切りととったのでしょう、「何もかも戦争のせいだ。解ってくれ」と弁解する彼に銃を向けるという、直前まで愛し合っていた男女が殺し合いの争いをする展開は、映像としてはキツイものがありましたが、それだけに反戦映画としての色合いを強く感じました。

ケイト・ネリガン in「針の眼」
       
ダーティ・セクシー・マネー.jpg 因みに、ドナルド・サザーランドの息子のキーファー・サザーランド(英ロンドン出身)も俳優で、今は映画よりもTVドラ24 -TWENTY FOUR-ド.jpgマ「24-TWENTY FOUR-」のジャック・バウアー役で活躍していますが(どの場面を観ても、いつも銃と携帯電話を持って、無能な大統領補佐官らに代わって大統領から直接指令を受け、毎日"全米を救うべく"駆け回っていた)、父親ドナルド・サザーランドの方も、「ダーティ・セクシー・マネー」の大富豪役などTVドラマで最近のその姿(相変わらず、どことなく不気味さを漂わせる容貌だが)を観ることができるのが嬉しいです(でも本国では2シーズンで打ち切りになってしまったようだ)。キーファーが自身の演じるジャック・バウアーの父親役とドナルド・サザーランド バンクーバー五輪.jpgして「24」への出演を依頼した際、ドナルドは「インディ・ジョーンズ/最後の聖戦」('89年/米)におけるショーン・コネリーとハリソン・フォードのような親子関係ならOKだと答えましたが、息子を殺そうとする役だと聞いて断ったということです。

 因みに、ドナルド・サザーランドがカナダ人であることを思い出させるシーンとして、昨年['10年]のバンクーバーオリンピック(第21回オリンピック冬季競技大会)開会式で、オリンピック旗を運ぶ8人の旗手のひとりに彼がいました。

バンクーバーオリンピック開会式(2010年2月12日)五輪旗を掲揚台へと運ぶカナダ出身の著名人たち。右端がドナルド・サザーランド。
 
針の眼ード.jpg針の眼 ド.jpg「針の眼」●原題:EYE OF THE NEEDLE●制作年:1981年●制作国:イギリス●監督:リチャード・マーカンド●製作:スティーヴン・フリードマン●脚本:スタンリー・マン●撮影: アラン・ヒューム●音楽:ミクロス・ローザ●時間:154分●出演:ドナルド・サザーランド/ケイト・ネリガン/イアン・バネン/クリストファー・カザノフ/フィリップ・マーティン・ブラウン/ビル・ナイン●日本公開:1981/10●配給:ユナイテッド・アーティスツ(評価:★★★☆)

カサノバ <HDニューマスター版> [Blu-ray]
カサノバ HDニューマスター版.jpg「カサノバ」●原題:IL CASANOVA DI FEDERICO FELLINI●制作年:1976年●制作国:イタリア●監督:フェデリコ・フェリーニ●製作:アルベルト・グリマルディ●脚本:フェデリコ・フェリーニ/ベルナルディーノ・ザッポーニ●撮影:ジュゼッペ・ロトゥンノ●音楽:ニーノ・ロータ●時間:154分●出演:ドナルド・サザーランド/ティナ・オーモン/マルガレート・クレマンティ/サンドラ・エレーン・アレン/カルメン・スカルピッタ/シセリー・ブラウン/クラレッタ・アルグランティ/ハロルド・イノチェント/ダニエラ・ガッティ/クラリッサ・ロール●日本公開:1980/12●配給:フランス映画社●最初に観た場所:有楽町スバル座(81-02-09)(評価:★★★☆)

鷲は舞いおりた [Blu-ray]
「鷲は舞いおりた」09.jpg鷲は舞いおりた b.jpg鷲は舞い降りた9_2.jpg「鷲は舞いおりた」●原題:THE EAGLE HAS LANDED●制作年:1976年●制作国:イギリス●監督:ジョン・スタージェス●製作:ジャック・ウィナー/デイヴィッド・ニーヴン・ジュニア●脚本:トム・マンキーウィッツ●撮影:アンソニー・B・リッチモンド●音楽:ラロ・シフリン●原作:ジャック・ヒギンズ「鷲は舞いおりた」●時間:123分(劇場公開版)/135分(完全版)●出演:マイケル・ケイン/ドナルド・サザーランド/ロバート・デュヴァル/ジェニー・アガター/ドナルド・プレザンス/アンソニ鷲は舞いおりた ケイン サザーランド.jpg鷲は舞い降りた ロバート・デュヴァル.jpg鷲は舞い降りた D・プレザンス.jpgー・クエイル/ジーン・マーシュ/ジュディ・ギーソン/トリート・ウィリアムズ/ラリー・ハグマン/スヴェン=ベッティル・トーベ/ジョン・スタンディング●日本公開:1977/08●配給:東宝東和●最初に観た場所:池袋テアトルダイア (77-12-24)(評価:★★★☆)●併映:「ジャッカルの日」(フレッド・ジンネマン)/「ダラスの熱い日」(デビッド・ミラー)/「合衆国最後の日」(ロバート・アルドリッチ)(オールナイト)

ロバート・デュヴァル(ラードル大佐)/ドナルド・プレザンス(ナチス親衛隊長ヒムラー)

24 (2001)
24 (2001).jpg24 TWENTY FOUR.jpg「24」ホッパー.jpg「24-TWENTY FOUR-」24 (FOX 2001/11~2009) ○日本での放映チャネル:フジテレビ(2004~2010)/FOX
24 -TWENTY FOUR- ファイナル・シーズン DVDコレクターズBOX

デニス・ホッパー(シーズン1(2001-2002)ヴィクター・ドレーゼン役)


Dirty Sexy Money.jpg「ダーティ・セクシー・マネー」Dirty Sexy Money (ABC 2007/09~2009) ○日本での放映チャネル:スーパー!ドラマTV(2008~)
Dirty Sexy Money: Season One [DVD] [Import]

 

 【1983年文庫化[ハヤカワ文庫(鷺村達也:訳)]/1996年再文庫化[新潮文庫(戸田裕之:訳)]/2009年再文庫化[創元推理文庫(戸田裕之:訳)]】

「●は M・バルガス=リョサ」の インデックッスへ Prev|NEXT⇒「●ひ アンブローズ・ビアス」【664】 ビアス「アウル・クリーク橋の一事件
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「穢れを知らない無垢な天使と肉感的な美の象徴であるヴィーナスが出会えばどうなるのか」

継母礼讃 (中公文庫).jpg継母礼讃 リョサ.jpg  Emmanuelle video.jpg 夜明けのマルジュ チラシ2.jpg 夜明けのマルジュ dvd.jpg
継母礼讃 (モダン・ノヴェラ)』「エマニエル夫人 [DVD]」「夜明けのマルジュ [DVD]
継母礼讃 (中公文庫)

Elogio de La Madrastra.jpg バルガス=リョサが1988年に発表した作品で(原題:Elogio de La Madrastra)、父親と息子、そして継母という3人家族が、息子であるアルフォンソ少年が継母のルクレシアに性愛の念を抱いたことで崩壊していく、ある種アブノーマル且つ"悲劇"的なストーリーの話。

candaules.jpg 当時からガルシア=マルケス、ホルヘ・ルイス・ボルヘス、フリオ・コルタサルと並んでラテンアメリカ文学の四天王とでもいうべき位置づけにあった作家が、こうしたタブーに満ちた一見ポルノチックともとれる作品を書いたことで、発表時は相当に物議を醸したそうですが、バルガス=リョサの描く官能の世界は、その高尚な文学的表現のため、どことなく宗教的な崇高ささえ漂っており、「神話の世界」の話のようでもあります。そのことは、現在の家族の物語と並行して、ヘロドトスの『史記』にある、自分の妻の裸を自慢したいがために家臣に覗き見をさせ、そのことが引き金となって家臣に殺され、妻を奪われた、リディア王カンダウレスの物語や、ギリシャ神話の「狩りの女神」の物語が挿入されていることでより強まっており、更に、物語の展開の最中に、関連する古典絵画を解説的に挿入していることによっても補強されているように思いました。

Candaules, rey de Lidia, muestra su mujer al primer ministro Giges, de Jacob Jordaens(「カンダウレス王室のギゲス」ヤコブ・ヨルダーエンス(1648)本書より)

Mario Vargas Llosa Julia Urquidi.jpg ただ、個人的には、バルガス=リョサの他の作品にもこうした熟女がしばしば登場し、また、彼自身、19歳の時に義理の叔母と結婚しているという経歴などから、この人の"熟女指向"が色濃く出た作品のようにも思いました。それがあまりにストレートだと辟易してしまうのでしょうが、「現代の物語」の方は、ルクレシアの視点を中心に、第三者の視点など幾つかに視点をばらして描いていて、少年自身の視点は無く、少年はあくまでも無垢の存在として描かれており、この手法が、「穢れを知らない無垢な天使と肉感的な美の象徴であるヴィーナスが出会えばどうなるのか」というモチーフを構成することに繋がっているように思いました。

Mario Vargas Llosa y Julia Urquid Illanes,París, 7 de junio de 1964

 しかし、帯には「無垢な天使か、好色な小悪魔か!?」ともあり、父親にとってこの息子は、好色な小悪魔であるに違いなく、また、継母が去った後、今度は召使を誘惑しようとするところなど、ますます悪魔的ではないかと...。「現代の物語」と、挿入されている「リディア王の話」(家臣に自分の眼の前で妻と交情するよう命じ、これを拒んだ家臣の首を刎ねた)とは、それぞれ異質の性愛を描いているように思えました。

 強いて言えば、「現代の物語」の方は、エディプス・コンプレックスの変型であり(バルガス=リョサ型コンプレックス?)、「リディア王の話」は、エマニュエル・アルサン(1932-2005)原作、ジュスト・ジャカン(1940-2022/82歳没)監督の「エマニエル夫人」('74年/仏)のアラン・キュニーが演じた老紳士マリオの"間接的性愛"のスタンスに近いと言えるでしょうか。性に対してある種の哲学(「セックスから文明社会の意味を取り除いた部分にしか、性の真理はない」という)を持つマリオにとって、エマニエルはそうした哲学を実践するにまたとない素材だった―。

エマニエル夫人 アラン・キュニ―2.jpg エマニエル夫人 チラシ.jpg 華麗な関係.jpg 夜明けのマルジュ チラシ.jpg
「エマニエル夫人」の一場面(A・キュニー)/「エマニエル夫人」/「華麗な関係」/「夜明けのマルジュ」各チラシ

エマニエル夫人の一場面.jpg 「エマニエル夫人」はいかにもファッション写真家から転身した監督(ジュスト・ジャカン)の作品という感じで、モデル出身のシルヴィア・クリステル(1952-2012/60歳没)が、演技は素人であるにしても、もう少し上手ければなあと思われる凡作でしたが、フランシス・ジャコベッティが監督した「続エマニュエル夫人」('75年)になっても彼女の演技力は上がらず、結局は上手くならないまま、シリーズ2作目、3作目(「さよならエマニュエル夫人」('77年))と駄作化していきました。内容的にも、第1作にみられた性に対する哲学的な考察姿勢は第2作、第3作となるにつれて影を潜めていきます。その間に舞台はタイ → 香港・ジャワ → セイシェルと変わり「観光映画」としては楽しめるかも知れないけれども...。でもあのシリーズがある年代の(男女問わず)日本人の性意識にかなりの影響を及ぼした作品であることも事実なのでしょう。

華麗な関係 1976ド.jpg華麗な関係lt.jpg 同じくシルヴィア・クリステル主演の、ロジェ・ヴァディムが監督した「華麗な関係」('76年/仏)も、かつてジェラール・フィリップ、ジャンヌ・モロー、ジャン=ルイ・トランティニャンを配したロジェ・ヴァディム自身の「危険な関係」('59年/仏)のリメイクでしたが、原作者のラクロが墓の下で嘆きそうな出来でした。

「華麗な関係」('76年/仏)

夜明けのマルジュの一場面.jpg 同じ年にシルヴィア・クリステルは、ヴァレリアン・ボロヴズィック監督の「夜明けのマルジュ」('76年/仏)にも出演していて(実はこれを最初に観たのだが)、アンドレイ・ピエール・マンディアルグ(1909 -1991)のゴンクール賞受賞作「余白の街」が原作で、1人のセールスマンが、出張先のパリで娼婦と一夜を共にした翌朝、妻と息子の急死の知らせを受け自殺するというストーリー。メランコリックな脚本やしっとりしたカメラワーク自体は悪くないのですが、「世界一美しい娼婦」という触れ込みのシルヴィア・クリステルが、残念ながら演技し切れていない...。

「エマニエル夫人」●1.jpg「エマニエル夫人」●2.jpg 何故この女優が日本で受けたのかよく解らない...と言いつつ、自分自身もシルヴィア・クリステルの出演作品を5本以上観ているわけですが、個人的には公開から3年以上経って観た「エマニエル夫人」に関して言えば、シルヴィア・クリステルという女優そのものが受けたと言うより、ピエール・バシュレの甘い音楽とか(「続エマニュエル夫人」ではフランシス・レイ、「さよならエマニュエル夫人」ではセルジュ・ゲンズブールが音楽を担当、セルジュ・ゲンズブールは主題歌歌唱も担当)、女性でも観ることが出来るポルノであるとか、商業映画として受ける付加価値的な要素が背景にあったように思います(合計320万人の観客のうち女性が8割を占めたという(『ビデオが大好き!365夜―映画カレンダー』('91年/文春文庫ビジュアル版)より))。
「続エマニュエル夫人」('75年/仏) 音楽:フランシス・レイ

A Man for Emmanuelle(1969)
A Man for Emmanuelle (1969) L.jpg バルガス=リョサの熟女指向から始まって、殆どシルヴィア・クリステル談義になってしまいましたが、シルヴィア・クリステルの「エマニュエル夫人」はエマニュエル・シリーズの初映像化ではなく、実際はこの作品の5年前にイタリアで作られたチェザーレ・カネバリ監督、エリカ・ブラン主演の「アマン・フォー・エマニュエル(A Man for Emmanuelle)」('69年/伊)が最初の映画化作品です(日本未公開)。

 因みに、「エマニュエル夫人」「続エマニュエル夫人」はエマニュエル・アルサンが原作者ですが、最後エマニュエルが男性依存から抜け出して自立することを示唆した終わり方になっている「さよならエマニュエル夫人」は、オリジナル脚本です。一方で、エマニュエル・アルサン原作の他の映画化作品では、女流監督ネリー・カプランの「シビルの部屋」('76年/仏)というのもありました。

シビルの部屋 旧.jpgシビルの部屋 pabnnhu.jpg 「シビルの部屋」のストーリーは、シビルという16歳の少女がポルノ小説を書こうと思い立って、憧れの中年男に性の手ほどきを受け、その体験を本にしたところベストセラーになってしまい、執筆に協力してくれた男を真剣に愛するようになった彼女は、今度は手を切ろうとする男に巧妙な罠をしかけて陥落させようとする...というもので、原作はエマニュエル・アルサンの半自伝的小説であり、アルサンは実際にこの作品に出てくる「ネア」という小説も書いている-と言うより、この映画の原作が「ネア」であるという、ちょっとした入れ子構造。映画化作品は、少女の情感がしっとりと描かれている反面、目的のために手段を選ばないやり方には共感しにくかったように思います。

「O嬢の物語」vjsヌ.jpg「O嬢の物語」 .jpg 「エマニエル夫人」のジュスト・ジャカン監督は、ポーリーヌ・レアージュのポルノグラフィー文学として名高い、SM文学小説『O嬢の物語』の映画化していて(「O嬢の物語」('75年/仏))、ヒロインO(コリンヌ・クレリー)が、恋人のルネ(ウド・キア)と、ロワッシー館に入り、そこで、Oは全裸になり皮手錠と首輪をはめられ、着衣の男の愛撫を受けて鞭を打たれ、ルネはただ見守るだけ。あるとき全裸のままのOが紅茶を飲んでいる最中に、ルネと一緒に見知らぬ男がやってきて3人で―と、裸のヒロインと着衣の男姓とが絡むCMNFシーンが目立った作品でした(焼きゴテが熱そうで、あまり文学の香りはしなかった(笑))。

「ホテル」 コリンヌ・クレリー.jpg「ホテル」 コリンヌ・クレリー2.jpg O嬢を演じたコリンヌ・クレリーが出た映画では、「ホテル」('77年/伊・西独)というものがあり、あらすじは以下の通り。

 裕福な人妻パスカル(コリンヌ・クレリー)は、郊外に別荘があるベルリンから、出張に出る夫を空港で見送り、自分はパリの自宅へ戻るはずだったが、飛行機に乗り遅れ、ひとりで市内に留まることになる。彼女は、かつて夫と初めて情を交わしたクラインホフ・ホテルを思い出し、久々に泊まろうと思い立つ。通された部屋で彼女は、隣室の光が隙間から漏れており、覗けることに気づく。そこにいた男は、やがて娼婦を呼び入れ情交するが、パスカルは一部始終を隣室から覗き見し、その男がカール(ブルース・ロビンソン:)という名で、地下組織のメンバーであり、裏切者を殺す手筈にある事を知る―。

 こうしてストーリーを紹介すると、エロチックではらはらドキドキもしそうな感じですが、全然そうじゃなかった(笑)。公開時、この映画はほとんど肯定的な批評を得られず、近年の評価でも、「カルロ・リッツァーニの最高傑作のひとつ」との再評価もありますが(日本では2018年に「O嬢の物語」のHDリマスター版DVDが発売されたのに合わせて、こちらもノーカット完全版DVDが発売された)、それは部分的なものでしかないようです(コリンヌ・クレリーの相手役を演じたブルース・ロビンソンは、後のインタビューで、本作につい「007ムーンレイカー」コリンヌ・クレリー.jpgて「僕は観てないよ。要は、高級なポルノグラフィさ」と述べている)。全体の暗い雰囲気はいかにもドイツという感じ。これを観た「新橋文化」は山手線のガード下にあり、列車が通る度にガタガタうるさい音がするのが記憶に残っています。コリンヌ・クレリーは、この作品の後「007 ムーンレイカー」('79年/英)にも出演し、ロイス・チャイルズに次ぐ"第2のボンド・ガール"となりますが、歴代で最もセクシーなボンド・ガールだったとの声も一部にあるようです。

「007/ムーンレイカー」コリンヌ.jpg
「007/ムーンレイカー」コリンヌ・クレリー/ロジャー・ムーア

エマニエル夫人00.jpg「エマニエル夫人」●原題:EMMANUELLE●制作年:1974年●制作国:フランス●監督:ジュスト・ジャカン●製作:イヴ・ルッセ=ルアール●脚本:ジャン=ルイ・リシャール●撮影:リシャール・スズキ●音楽:ピエール・バシュレ●原作:エマニュエル・アルサン「エマニュエル」●時間:91分●出演:シルヴィア・クリステル/アラン・キューリー/ダニエル・サーキー/クリスティーヌ・ボワッソン/マリカ・グリーン●日本公開:1974/12●配給:日本ヘラルド映画●最初に観た場所:三鷹オスカー(78-07-17)(評価:★★)●併映:「続・エマニエル夫人」(フランシス・ジャコベッティ)/「さよならエマニエル夫人」(フランソワ・ルテリエ)

続エマニエル夫人 ド.jpg続エマニエル夫人 vhs.jpg「続エマニエル夫人」●原題:EMMANUELLE, L'ANTI VIERGE/EMMANUELLE: THE JOYS OF A WOMAN●制作年:1975年●制作国:フランス●監督:フランシス・ジャコベッティ●製作:イヴ・ルッセ=ルアール●脚本:フランシス・ジャコベッティ/ロベール・エリア/ジェラール・ブラッシュ●撮影:ロベール・フレース●音楽:フランシス・レイ●原作:エマニュエル・アルサン●時間:91分●出演:シルヴィア・クリステル/ウンベルト・オルシーニ/カトリーヌ・リヴェ/カロライン・ローレンス/フレデリック・ラガーシュ/ラウラ・ジェムサー●日本公開:1975/12●配給:日本ヘラルド映画●最初に観た場所:三鷹オスカー(78-07-17)(評価:★☆)●併映:「エマニエル夫人」(ジュスト・ジャカン)/「さよならエマニエル夫人」(フランソワ・ルテリエ)
続エマニエル夫人 [DVD]

さよならエマニエル夫人1977.jpg「さよならエマニエル夫人」●原題:GOOD-BYE, EMMANUELLE●制作年:1977年●制作国:フランス●監督:フランソワ・ルテリエ●製作:イヴ・ルッセ=ルアール●脚本:さよならエマニエル夫人 dvd .jpgフランソワ・ルテリエ/モニク・ランジェ●撮影:ジャン・バダル●音楽:セルジュ・ゲンズブール●時間:98分●出演:シルヴィア・クリステル/ウンベルト・オルシーニ/アレクサンドラ・スチュワルト/ジャン=ピエール・ブーヴィエ/ジャック・ドニオル=ヴァルクローズ/オルガ・ジョルジュ=ピコ/シャルロット・アレクサンドラ●日本公開:1977/12●配給:日本ヘラルド映画●最初に観た場所:三鷹オスカー(78-07-17)(評価:★☆)●併映:「エマニエル夫人」(ジュスト・ジャカン)/「続エマニエル夫人」(フランシス・ジャコベッティ)
さよならエマニエル夫人 [DVD]

UNE FEMME FIDELE 1976.jpgUNE FEMME FIDELE.jpg華麗な関係 チラシ2.jpg「華麗な関係」●原題:UNE FEMME FIDELE●制作年:1976年●制作国:フランス●監督:ロジェ・ヴァディム●製作:フランシス・コーヌ/レイモン・エジェ●脚本:ロジェ・ヴァディム/ダニエル・ブーランジェル●撮影:クロード・ルノワ●音楽:モルト・シューマン/ピエール・ポルト●原作:ピエール・コデルロス・ド・ラクロ「危険な関係」●時間:91分●出演:シルヴィア・クリステル/ジョン・フィンチ/ナタリー・ドロン/ジゼール・カサドジュ/ジャック・ベルティエ/アンヌ・マリー・デスコット/セルジュ・マルカン●日本公開:1977/05●配給:東宝東和●最初に観た場所:三鷹東映(78-01-16)(評価:★☆)●併映:「エーゲ海の旅情」(ミルトン・カトセラス)/「しのび逢い」(ケビン・ビリングトン)
「ぴあ」1978年1月号
ぴあ 三鷹東映 (2).jpg

夜明けのマルジュの一場面2.jpg「夜明けのマルジュ」●原題:LA MARGE●制作年:1976年●制作国:フランス●監督:ヴァレリアン・ボロヴズィック●製作:ロベール・アキム/レイモン・アキム●撮影:ベルナール・ダイレ夜明けのマルジュ 09.jpgンコー●音楽:ロベール・アキム●原作:アンドレイ・ピエール・ド・マンディアルグ「余白の町」●時間:93分●出演:シルヴィア・クリステル/ジョー・ダレッサンドロ/ミレーユ・オーディベル/アンドレ・ファルコン/ドニス・マニュエル/ノルマ・ピカデリー/ルィーズ・シュヴァリエ/ドミニク・マルカス/カミーユ・ラリヴィエール●日本公開:1976/10●配給:富士映画●最初に観た場所:中野武蔵野館(77-12-15)(評価:★★☆)●併映:「続 個人教授」(ジャン・バチスト・ロッシ)

NEA 1976_01.jpgシビルの部屋 新.jpg「シビルの部屋」●原題:NEA●制作年:1976年●制作国:フランス●監督:ネリー・カプラン ●製作:ギー・アッジ●脚本:ネリー・カプラン/ジャン・シャポー●撮影:アンドレアス・ヴァインディング●音楽:ミシェル・マーニュ●原作:エマニュエル・アルサン「少女ネア」●時間:106分●出演:アン・ザカリアス/サミー・フレイ/ミシュリーヌ・プレール/フランソワーズ・ブリオン/ハインツ・ベネント/マルタン・プロボスト●日本公開:1977/09●配給:日本ヘラルド映画●最初に観た場所:池袋・テアトルダイヤ(77-12-24)(評価:★★☆)●併映:「さすらいの航海」(スチュアート・ローゼンバーグ)シビルの部屋 [DVD]

O嬢の物語 劇場版 ヘア完全解禁 HDリマスター版 [DVD]
「O嬢の物語」1975.jpg「O嬢の物語」コリンヌ.jpg「O嬢の物語」●原題:HISTOIRE D'O●制作年:1975年●制作国:フランス●監督:ジュスト・ジャカン●製作:エリック・ローシャ●脚本:セバスチャン・ジャプリゾ●撮影:ロベール・フレース●音楽:ピエール・バシュレ●原作:ポーリーヌ・レアージュ●時間:105分●出演:コリンヌ・クレリー/ウド・キア/アンソニー・スティール/ジャン・ギャバン/クリスチアーヌ・ミナッツォリ/マルティーヌ・ケリー/リ・セルグリーン/アラン・ヌーリー●日本公開:1976/03●配給:東宝東和●最初に観た場所:三鷹東映(78-02-04)(評価:★★)●併映:「ラストタンゴ・イン・パリ」(ベルナルド・ベルトリッチ)/「スキャンダル」(サルバトーレ・サンペリ)

ホテル <ノーカット完全版> ブルーレイ [Blu-ray]
「ホテル」1975.jpgKLEINHOFF HOTEL.jpg「ホテル」●原題:KLEINHOFF HOTEL●制作年:1975年●制作国:イタリア・西ドイツ●監督:カルロ・リッツァーニ●製作:ジュゼッペ・ベッツァーニ●脚本:セバスチャン・ジャプリゾ●撮影:ガボール・ポガニー●音楽:ジョルジオ・ガスリーニ●原案:バレンティーノ・オルシーニ●時間:105分●出演:コリンヌ・クレリー/ブルース・ロビンソン/ケイチャ・ルペ/ウェルナー・ポチャス/ペーター・カーン/ミケーレ・プラチド - ペドロ ●日本公開:1981/05●配給:日本ヘラルド映画●最初に観た場所:新橋文0新橋文化劇場.jpgimagesCA9GCJE5.jpg化劇場(83-09-17)(評価:★☆)●併映:「ラストタンゴ・イン・パリ」(ベルナルド・ベルトリッチ)/「スキャンダル」(サルバトーレ・サンペリ)

新橋文化劇場(2014(平成26)年8月31日閉館)

【2012年文庫化[中公文庫]】

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デ・ニーロの演技もさることながら、ジェームズ・ウッズの剃刀の刃のような演技が鮮烈。

Once Upon a Time in America (1984)_.jpgワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ パンフレット.png ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ dvd.jpg ONCE UPON A TIME IN AMI.jpg
パンフレット/「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ [DVD]
Once Upon a Time in America (1984) ジェームズ・ウッズ/ロバート・デ・ニーロ

ワンス1.JPG 1920年代初頭、ニューヨークに住むユダヤ移民の子ヌードルスは、仲間を率いて貧困街で悪事を働く中、町に越して来たマックスと出会い、2人は禁酒法の隙間をぬって荒稼ぎ、大人になった頃にはギャング集団として伸し上がっていた。新たな仕事の計画を立てたマックス(ジェームズ・ウッズ)の無謀な考えに反発したヌードルス(デ・ニーロ)は、彼を裏切り警察に情報を流したため、マックスは殺されヌードルスは町を追われる。しかし30年後の今、年老いたヌードルスのもとへ―。 

 セルジオ・レオーネ(1924-1984)監督の遺作となった作品で、1984年10月に有楽町マリオンにオープンした「日本劇場」(現「日劇スクリーン1」)の杮(こけら)落としロードショー作品でした。

「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ」01.jpg セットも役者(脇役陣含む)も音楽(エンニオ・モリコーネ)も豪勢で、時代の雰囲気を感じさせる重厚かつ哀愁に満ちた作品だと思いましたが、3時間半近い長尺の割にはやや唐突な終わり方のような気もしていました。但し、後年テレビで観直してみると、劇場のようにスケールの大きさは味わえないのですが、ストーリーは冷静に追えるというメリットもあって(勿論、2回目ということあって)、ちゃんと伏線はあったのだなあと思いました。

 時代背景は、ヌードルスがと出会った少年時代(1923年)と、刑務所出所後にマックスと再会し、仲間らと連邦準備銀行を襲う計画に加わった青年時代(1931年-1933年)、更にマックスと再々会した現在(1968年)を行き来しますが、既にネタばれになっているように、実はマックスは生きていて、ヌードルスが強盗計画の無謀さから仲間を救うべく密告に及ぶことも、全て彼の手の内にあった計画だったと―。

「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ」02.jpg つまりヌードルスは自分が仲間を裏切ったと思っていたのが、実はマックスの方が最初から仲間を裏切っていたわけで、そのマックスが、今は実業界に君臨するも失脚の窮地にある―ラストシーンで、ヌードルスが道でマックスと思しき人影を認めるも、清掃車が通り過ぎた後にはその影は無かったことは、マックスの自殺を示唆しているのでしょう。

 マックスはヌードルスと再会した時点で、自分を殺してくれと頼んでいて、その報酬まで用意していた―にも関わらずそれを断ったヌードルスに対し、「これがお前の復讐なのか」と問い詰め、それに対し、「俺の話はもっと単純だ。昔、親友がいた。彼の命だけは助けたいと思い、仲間を裏切ったが、それでも彼を救うことができなかった」と答えるヌードルス。

「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ」03.jpg 友情が悔恨に、更に復讐の念に転じるべきものが、ノスタルジーを通じてアンビバレントとして様々な感情が複雑に併存しているのが、今の老いたヌードルスなのでしょう。そして過去を引き摺って生きてきたという点では、マックスもヌードルスと同じであり、彼なりに落し前をつけようとしたともとれます。

 非情さと繊細さの混ざり合ったキャラを演じたロバート・デ・ニーロの演技もさることながら、当時まだ映画界では新進のジェームズ・ウッズの鋭い剃刀の刃のような演技が鮮烈です。ジェームズ・ウッズはその後もずっとバイプレーヤーして活躍していますが(この俳優を個人的に最初に知ったのは、デヴィッド・クローネンバーグ監督ヴィデオドローム5.jpg「ヴィデオドローム」('82年/カナダ)だと思っていたが、日本での公開は「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ」の方が1年早い)、最近ではFOXチャンネルの「SHARK ~カリスマ敏腕検察官」(スパイク・リー製作)に主演しており、現在もその演技が観られるのが嬉しいです(本国では2シーズンで放送終了になってしまったようだが)。

David Cronenberg & James Woods

「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ」04.jpg「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ」●原題:ONCE UPON A TIME IN AMERICA●制作年:1984年●制作国:アメリカ●監督:セルジオ・レオーネ●製作:アーノン・ミルチャン●脚本:セルジオ・レオーネ/レオナルド・ベンヴェヌーティ/ピエロ・デ・ベルナルディ/エンリコ・メディオーリ●撮影:トニーノ・デリ・コリ●音楽:エンニオ・モリコーネ●時間:205分●出演:ロバート・デ・ニーロ/ジェームズ・ウッズ/エリザベス・マクガヴァン/ジェニファー・コネリー/ダーラン・フリューゲル/トリート・ウィリアムズ/チューズデイ・ウェルド/バート・ヤング/ジョー・ペシ/ジェームズ・ヘイデン/ウィリアム・フォーサイス/ダニー・アイエロ/ジェラード・マーフィ/ラリー・ラップ/ダッチ・ミラー/ロバート・ハーパー/リチャード・ブライト/ポール・ハーマン●日本公開:1984/10●配給:東宝東和●最初日劇1.jpgに観た場所:有楽町・日本劇場(84-10-27)(評価:★★★★☆)
音楽:エンニオ・モリコーネ
有楽町マリオン 阪急.jpgさよなら日劇ラストショウ1.jpg日本劇場  .jpg日本劇場 (前身は「日本劇場」(1933年12月24日-1981年2月15日閉館)) 1984年10月6日「有楽町マリオン」有楽町阪急側11階にオープン(1,008席)、2002年~「日劇1」(948席)、2006年10月~「TOHOシネマズ日劇・スクリーン1」(上写真:「日劇1」館内) 2018年2月4日閉館 TOKYO MX (2018.2.2) (閉館時、都内最大席数の劇場だったが、閉館により「丸の内ピカデリー1」(802席)が都内最大席数に)

SHARK~カリスマ敏腕検察官.jpgSHARK~カリスマ敏腕検察官1.bmp「SHARK~カリスマ敏腕検察官」Shark (CBS 2006/09~2008) ○日本での放映チャネル:FOXチャンネル(2008~ )

「●く アガサ・クリスティ」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【2522】 クリスティ 『死との約束
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原作はプロットも心理描写も見事。映画は"観光映画(?)"としては楽しめたが...。

ナイルに死す.jpg ナイルに死す2.jpg ナイルに死す3.bmp ナイル殺人事件 DVD.jpg DEATH ON THE NILE  .jpg
ナイルに死す (1957年) 』『ナイルに死す (ハヤカワ・ミステリ文庫 1-76)』(表紙:真鍋博) 『ナイルに死す (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)』 「ナイル殺人事件 デジタル・リマスター版 【プレミアム・ベスト・コレクション\1800】 [DVD]」 ピーター・ユスティノフ

ナイルに死す ハ―パーコリンズ版.jpg ハネムーンをエジプトに決めた大富豪の娘リンネットは、ナイル河で遊覧船の旅を楽しんでいたが、そこには夫のかつての婚約者ジャクリーンの不気味な影が...果たして、乗り合わせたポワロの目の前でリンネットは殺され、さらに続く殺人の連鎖反応が起きるが、ジャクリーンには文句無しのアリバイが―。

ナイル殺人事件 北大路.jpg"Death on the Nile" ハ―パーコリンズ版

 1937年に発表されたアガサ・クリスティ(1890‐1976)の作品で(原題:Death on the Nile)、プロットもさることながら、会話を主体とした多くの登場人物の心理描写が見事。ああ、この作家は小説でも戯曲でも"何でもござれ"だなあと改めて思わされた次第ですが、この作品はあくまでも小説です(クリスティはこの作品の戯曲版も残していて、日本でも北大路欣也などの主演で上演されているが、こちらはポワロが登場しない)。

ナイル殺人事件 スチール.jpg 「タワーリング・インフェルノ」('74年)、「キングコング」('76年)のジョン・ギラーミン監督によって「ナイル殺人事件」('78年/英)として映画化されており、ポアロ役はピーター・ユスティノフです(ピーター・ユスティノフ はその後「地中海殺人事件」('82年/英)、「死海殺人事件」 ('88年/米)でもポアロを演じている)。シドニー・ルメットが監督した「オリエント急行殺人事件」('74年/英)ほどの「往年の大スターの豪華競演」ではないにしても、こちらも名優がたくさん出演しています。
音楽:ニーノ・ロータ

ナイル殺人事件  Death on the Nile(1978英).jpg '78年の公開時に、今は無きマンモス映画館「日比谷映画劇場」で観て、90年代初めにビデオでも観ましたが、映画は、原作をやや端折ったような部分もあり、最後はちょっとドタバタのうちにポアロの謎解きが始まって、原作との間に多少距離を感じました。

 映画化されると、本格推理の部分よりも人間ドラマの方が強調されてしまうのは、この作品に限らず、この手の作品によくあるパターンで、しかも、この作品は登場人物が結構多いとあって、時間の制約上やむを得ない面もあるのかなあ(一応、2時間20分とやや長めではあるのだが)。それでも、原作の良さに救われている部分が多々あるように思いました。

『ナイル殺人事件』(1978) 2.jpg また、この映画に関して言えば、本場エジプトでのオールロケで撮影されているため(同じナイル川でも原作の場所とはやや違っているようだが)、ある種"観光映画"(?)としても楽しめたというのがメリットでしょうか。行ってみたいね、ナイル川クルーズ。雪中で止まってしまった「オリエント急行」と違って、ナイルの川面を船が「動いている」という実感もあるし、途中で下船していろいろ観光もするし...。

 映画「オリエント急行殺人事件」は、トリックの関係上(犯人同士しかいない場で演技させると"映像の嘘"になってしまうという制約があり)、ポワロの容疑者に対する個別尋問に終始しましたが、こちらはそのようなオチではないので、登場人物間の心理的葛藤は比較的自由かつ丁寧に描けていたと思います。

ナイル殺人事件ド.jpgDEATH ON THE NILE_original_poster.jpg ベティ・デイヴィスなんて往年の名女優も出ていたりして名優揃いの作品ですが、やはり何と言ってもオリジナルがいいんだろうなあ。この意外性のあるパターン、男女の関係なんて、傍目ではワカラナイ...。クリスティが最初の考案者かどうかは別として、この手の「人間関係トリック」は、その後も英国ミステリで何度か使われているみたいです。


DEATH ON THE NILE UK original film poster(右)/「ナイル殺人事件」映画パンフレット/単行本(早川書房(加島祥造:訳)映画タイアップカバー)
ナイル殺人事件 パンフレット.jpg「ナイルに死す」.jpg「ナイル殺人事件」●原題:DEATH ON THE NILE●制作ミア・ファロー_3.jpg年:1978年●制作国:イギリス●監督:ジョン・ギラーミン●製作:ジョン・ブラボーン/リチャード・グッドウィン●脚本:アンソニー・シェーファー●撮影:ジャック・カーディフ●音楽:ニーノ・ロータ●原作:アガナイル殺人事件 オリヴィア・ハッセー.jpgナイル殺人事件 べティ・デイヴィス.jpgサ・クリスティ「ナイルに死す」●時間:140分●出演:ピーター・ユスティノフ/ミア・ファローベティ・デイヴィス/アンジェラ・ランズベリー/ジョージ・ケネディ/オリヴィア・ハッセー/ジkinopoisk.ru-Death-on-the-Nile-1612353.jpgkinopoisk.ru-Death-on-the-Nile-1612358.jpgョン・フィンチ/マギー・スミス/デヴィッド・ニーヴン/ジャック・ウォーデン/ロイス・チャイルズサイモン・マッコーキンデールジェーン・バーキン/サム・ワナメイカー/ハリー・アンドリュース●日本公開:1978/12●配給:東宝東和●最初に観た場所:日比谷映画劇場(78-12-17)(評価:★★★☆)

日比谷映画劇場.jpg日比谷映画劇場(戦前).bmp日比谷映画5.jpg

     
日比谷映画劇場(日比谷映劇)
1934年2月1日オープン(現・日比谷シャンテ辺り)(1,680席)1984年10月31日閉館

戦前の日比谷映画劇場(彩色絵ハガキ)

名探偵ポワロ 52  ナイルに死す.jpg名探偵ポワロ  ナイルに死す 02.jpg「名探偵ポワロ(第52話)/ナイルに死す」 (04年/英) ★★★☆

『ナイルに死す』加島祥造訳.jpg  【1957年ポケット版[ハヤカワ・ミステリ(脇矢徹:訳)]/1965年文庫化[新潮文庫(西川清子:訳)]/1977年ノベルズ版[ハヤカワ・ノヴェルズ(加島祥造:訳)]/1984年再文庫化[ハヤカワ・ミステリ文庫(加島祥造:訳)]/2003年再文庫化[ハヤカワ・クリスティー文庫(加島祥造:訳)]】

1977年ハヤカワ・ノヴェルズ

「●あ ジェフリー・アーチャー」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【669】アーチャー 『ケインとアベル 
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1ペニーの過不足なく、本人に気づかれずにという、仕返しの美意識がいい。

百万ドルをとり返せ!.jpg NOT A PENNY MORE,NOT A PENNY LESS.jpg  100万ドルをとり返せ!2[VHS].jpg 100万ドルをとり返せ4.jpg NOT A PENNY MORE NOT A PENNY LESS2.bmp
百万ドルをとり返せ! (新潮文庫)』/"Not a Penny More, Not a Penny Less"/「NOT A PENNY MORE NOT A PENNY LESS」VHS

 1977(昭和42)年度の第1回の「週刊文春ミステリー ベスト10」(国内部門・海外部門共通)第3位作品。

 証券詐欺を行うためだけに設立された架空の石油会社の株投資話に騙され、合わせて100万ドルの損害を被ったスティーヴン、エイドリアン、ジャン=ピエール、ジェームズの4人は、オクスフォード大学の数学教授であるスティーヴンの発案で、この偽投資話の黒幕である大物詐欺師メトカーフに罠を仕掛けて、彼からきっちり100万ドルを取り戻す作戦を練る―。

 1976年に発表されたジェフリー・アーチャーの処女作で、国会議員だった自分自身が北海油田の幽霊会社に100万ドルを投資して全財産を失い、政界を退かざるを得なかった経験が執筆動機になっており、彼はこの作品のヒットにより借金を完済して'85年に政界に復帰しますが、翌年にはスキャンダルで辞任するなど、その後もこの人の人生はジェットコースターのように浮沈が激しく、ただ、どんな逆境からも、その逆境を糧にして(直裁に言えば「ネタ」にして)這い上がってくるというのはスゴく、転んでもタダでは起きないアーチャー氏といったところ。

 本作は所謂コン・ゲーム小説ですが、自身の経験がベースになっているためか彼の作品の中でもとりわけ面白く、また「1ペニーも多くなく、1ペニーも少なくなく」(原題は"Not a penny more, not a penny less")という合言葉を実践し、更にはメトカーフ自身が自分が騙されたことに気づかないようにするなど、仕返しするにも美意識があっていいです。

 画商のジャン=ピエールは、印象派の絵画に目が無いメトカーフにルノアールの贋作を買わせ(名画の贋作のモチーフは'05年発表の『ゴッホは欺く』でも使われている)、医師のエイドリアンは、偽薬を使ってメトカーフに多額の医療費を払わせ、スティーヴンは、オックスフォードの偽名誉学位を与えて多額の匿名寄付をせしめるが、貴族のジェームズだけは、特殊技能もアイデアも無く、そこで恋人のアンにも協力を仰ぐ―。

 それぞれに切れ者という感じですが、その中にジェームズという凡才が混じっていて、彼が皆の作戦をフイにしてしまうのではないかと読者の気を揉ませるところが旨く、アンのアイデアによる作戦の結末も鮮やか。自分がアーチャー作品を読み進むきかっけとなった作品ですが、ただ、ジェームズ-アン-メトカーフの関係は、今思えばやや御都合主義かなあと。

音楽:ミッシェル・ルグラン
100万ドルを取り返せ! TV映画.jpg '90年に英国BBCでドラマ版が制作され、'91年に日本でビデオ発売(邦題「100万ドルをとり返せ!」)、'92年にNHK教育テレビで放映され、最近でもCS放送などで放送されることがあります。自分はビデオで観ましたが、原作の各場面をあまり省かずに忠実に作られていて、その上ジェームズとアンのラブ・ストーリーを膨らませたりしているため、結果として3時間超の長尺となり、その分だけ原作のテンポの良さ、本Not a Penny More, Not a Penny Less (1990).jpg来の面白味がやや減じられたような気もしました。

Not a Penny More, Not a Penny Less (1990)

100万ドルをとり返せ1.jpg「100万ドルをとり返せ!」●原題:NOT A PENNY MORE,NOT A PENNY LESS●制作年:1990年●制作国:イギリス●監督:クライブ・ドナー●製作:ジャクリーン・デービス●脚本:シャーマン・イェレン●音楽:ミッシェル・ルグラン●時間:186分●原作:ジェフリー・アーチャー「百万ドルをとり返せ!」●出演:エド・ベグリー・ジュニア/エドワード・アスナー/ブライアン・プロザーロ/フランソワ・エリク・ジェンドロン/ニコラス・ジョーンズ/マリアン・ダボ/ジェニー・アガッター●日本公開:1991/09●配給:ビクターエンタテインメント(VHS)(評価:★★★☆)100万ドルをとり返せ5.jpg100万ドルをとり返せ6.jpg100万ドルをとり返せ3.jpg100万ドルをとり返せ2.jpg

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原作は、マリリン・モンローと自分自身を念頭に置いて描いているように思える。

ティファニーで朝食を.jpg ティファニーで朝食を 文庫.jpg  ティファニーで朝食を パンフレット.jpg
ティファニーで朝食を』['08年]/『ティファニーで朝食を (新潮文庫)』['08年]/Breakfast at Tiffany's(1961) - Moon River
First edition cover (1958)
Breakfast at Tiffany's 1958.jpgティファニーで朝食を(カポーティ).jpg 1958年春に出版された米国の作家トルーマン・カポーティ(Truman Capote, 1924-1984/享年59)の34歳の時の作品(原題は"Breakfast at Tiffany's")ですが、村上春樹氏の翻訳は新潮文庫旧版('68年)の龍口直太郎訳と比べるとかなり読みやすいのではないかと思いました。

 カポーティが小説家として一番ピークにあった頃の作品であるというのがよくわかり、駆け出し作家である「僕」が、捉えどころの無い奔放さを持ったホリー・ゴライトリーという女性に引き摺られていく感じが絶妙のタッチで描かれていて、いよいよホリーが去っていくといったやや気の滅入る場面でも、「彼女の出発する土曜日には、街はスコール顔負けの激しい雨にみまわれた。鮫が空中を泳げそうなぐらいだったが、飛行機が同じことをするのは無理だろう」なんて面白い表現があったりして、都会的というか、才気煥発というか、この辺りも村上氏と波長が合う部分なのだろうなあという気がします。

「ティファニーで朝食を」1.jpg  '61年にブレイク・エドワーズ監督により、オードリー・ヘプバーン主演で映画化されたため、お洒落な都会劇というイメージが強いように思いますが(「麗しのサブリナ」ではまだ控えめだったジバンシーとの衣装提携が、この作品ではまさに"全開"という感じだったし)、そうしたファッション面でのお洒落というのと、この原作のセンスはちょっと違うような...。

Marilyn Monroe and Truman Capote
Marilyn Monroe and Truman Capote.jpg 映画化に際してトルーマン・カポーティは、主人公のホリーをマリリン・モンローが演じるのが理想と考え、またモンローを想定して脚本を書くように脚本家にも依頼したものの、モンローの起用は彼女の演技顧問だったポーラ・ストラスバーグに反対されて見送られ、結局、ヘプバーンがホリーを演じることになったというのはよく知られている話です。個人的印象としては、この小説を書き始めた段階からカポーティはモンローと自分自身を念頭に置いて書いているように思え、モンローの気質を想定して読むと、スッキリとホリーのキャラクターに嵌るような気がします。

「ティファニーで朝食を」 3.jpg「ティファニーで朝食を」2.jpg 実際、ヘップバーンがティファニーの前でパンを食べるという映画の冒頭シーンで(タイトルのままだなあ)、観ていたカポーティが思わず椅子からずり落ちてしまったという逸話があるぐらいですから、相当イメージ違ったのだろうなあ。トルーマン・カポーティは、ノーマン・メイラーと並んで、モンローに袖にされた"片思い組"で、彼は背が低くて、モンローの好みの対象外だったし、しかもバイ・セクシュアル、本質的にはゲイだったとも言われています。

 この作品でトルーマン・カポーティは、世間の常識に囚われない天真爛漫な女性(若干、双極性障害(躁うつ気質)気味?)を生き生きと描く一方、その相手をする作家である男(要するに自分自身)を、彼女に振り回されるばかりの情けない存在として、やや自嘲的、乃至は被虐的と思えるまでに描いていますが、この点も、村上春樹氏が指摘するように、映画でジョージ・ペパードが演じた作家が、しっかりとホリーを受け止めているのとは異なり、映画化において改変された点と言えます。

BREAKFAST AT TIFFANY'S.jpgティファニーで朝食を dvd.jpg 結局、小説のホリーは最後ブラジルかどこかへ行ってしまうのですが、この結末はむしろモンローに相応しく、映画では、名無しの飼い猫を一旦放してまた引き戻す点はほぼ同じですが、海外への高飛びは無く、それまで自我むき出しで尖がっていたホリーが、最後は人間の優しさを感じるちょっと普通の女性になったかなあという、オードリー・ヘプバーンに相応しい結末に改変されていたように思います。

映画『ティファニーで朝食を(POSTER)《PPC009》』ポスター/ヘップバーン主演(輸入版)/「ティファニーで朝食を [DVD]

 映画テーマ曲の「ムーン・リバー」はヘンリー・マンシーニの最大のヒット曲と言ってよく、映画としてもいい作品だと思いますが(ミッキー・ルーニー演じるユニオシなる奇妙な日本人大家はいただけないが)、もしかして、トルーマン・カポーティはモンローが、この映画のヘプバーンのように自分の懐へ飛び込んでくることを夢想していたのではないかとも思ったりしてしまいます。

ティファニーで朝食を52.JPG 村上氏も「映画は映画として面白かった」としながらも、新訳の刊行にあたって、表紙に映画のスチールだけは使わないで欲しいと要望したそうですが(新潮文庫旧版ではモロ、映画スチールを使っている)、映画と切り離して読んで欲しいというのはよくわかるし賛成ですが、だからといって"ティファニーブルー"のカバーにするというのもどうなのでしょうか(出版社側の意向だと思うが)。この、言わば"高級コールガール"を主人公にした小説及び映画が、"高級宝石店"ティファニーの知名度アップに大いに寄与したことは間違いないと思うのですが、それはもう過去の出来事でしょう。それとも、今回の場合も出版社側がタイアップ効果を狙っているということなのでしょうか(新潮文庫版ではうってかわって民野宏之氏のカバー挿画となり、"ティファニーブルー"は踏襲されなかった)。

ティファニーで朝食を 01.jpgティファニーで朝食を 00.jpg「ティファニーで朝食を」●原題:BREAKFAST AT TIFFANY'S●制作年:1961年●制作国:アメリカ●監督:ブレイク・エドワーズ●製作:マーティン・ジュロー/リチャード・シェパード●脚本:ジョージ・アクセルロッド●撮影:フランツ・プラナー●音楽:ヘンリー・マンシーニ●原作:トルーマン・カポーティ●時間:114分●出演:オードリー・ヘプバーン/ジョージ・ペパード/パトリシア・ニール/バディ・イブセン/マーティン・バルサム/ホゼ・ルイス・デ・ビラロニア/ミッキー・ルーニー●日本公開:1961/11●配給:パラマウント映画●最初に観た場所:高田馬場・ACTミニシアター(85-11-03) (評価:★★★☆)●併映:「めぐり逢い」(レオ・マッケリー)

fred.jpg cat.jpg

HIM: Holly (Jenovia), I'm in love with you.
ME: So what?
HIM: So WHAT? SO PLENTY! I love you. You belong to me.
ME: No. People don't belong to people.
HIM: Of course they do.
ME: Nobody is going to put me in a cage..
HIM: I want to love you.
ME: IT'S THE SAME THING.
HIM: No, it's not Holly! (Jenovia)
ME: I'm not Holly, I'm not Lulamae either. I don't know who I am.
I'm like cat here. A no name slob. We belong to nobody and nobody belongs to us. We don't even belong to each other.
Stop the cab.
What do you think?
This ought to be the right place.
For a tough guy like you--Garbage cans, rats galore.
(MEOW)
SCRAM!
I SAID TAKE OFF! BEAT IT!
Lets go.
(Thunder)
HIM: Driver, pull over here.
You know whats wrong with you, Miss Whoever-You-Are?
You're CHICKEN. YOU GOT NO GUTS. You're afraid to say "O.K. life's a fact."
People DO fall in love. PEOPLE DO BELONG TO EACH OTHER, BECAUSE THATS THE ONLY CHANCE ANYBODY'S GOT FOR REAL HAPPINESS.
You call yourself a free spirit, a wild thing.
You're terrified someone is going to stick you in a cage.
Well Baby, you're already in that cage.
You built it yourself.
And it's not bounded by Tulip, Texas or Somaliland.
It's wherever you go.
Because no matter where you run, you just end up running into yourself.
END SCENE.

【1968年文庫化[新潮文庫(龍口直太郎訳)]/2008年再文庫化[新潮文庫(村上春樹訳)]】

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ラストの鮮烈なコントラストによる象徴表現には充分な説得力と余韻がある。
甘い生活09.jpg
甘い生活 1シーン.jpg甘い生活.jpg 甘い生活 ポスター.jpg
甘い生活 デジタルリマスター版 [DVD]」/ 「甘い生活」 チラシ/「甘い生活」 スチール

甘い生活11_m.jpg甘い生活_10_m.jpg 作家志望の夢を抱いてローマに出てきたマルチェロだったが、夢破れて今はしがないゴシップ記者となっている。エンマ(イヴォンヌ・フルノー)という娘と同棲しながらも、ナイト「甘い生活」02.jpgクラブで富豪娘(アヌーク・エーメ)と出会ってホテルで一夜を明かしたり、ハリウッドのグラマー女優(アニタ・エクバーグ)を取材がてらに彼女と野外で狂騒したりし、エンマは彼の言動を嘆く―。

 マルチェロ・マストロヤンニ(Marcello Mastroianni、1924-1996/享年72)の名声を一気に高めた作品で、主人公の"マルチェロ"をその名の通り演じているけれども、まさにハマリ役でした。「甘い生活」paparatti.jpg"マルチェロ"の仕事は、ゴシップ・カメラマン「パパラッチ」の"記者版"のようなもので(「パパラッチ」の通称はこの映画に登場するゴシフェデリコ・フェリーニ 「甘い生活」.jpgップ・カメラマン「パパラッツォ」の名前に由来する)、乱痴気と頽廃に支配された街ローマを象徴するような仕事であり、同時に、主人公である彼が、爛熟したローマの現況の「語り部」的役割も果たしているようです。

 冒頭にある、キリスト像をヘリコプターで吊るして低空飛行するというカトリック主催のイベント(このシーン、ローマカトリックの猛抗議に遭ったそうだ)の取材から始まり、場末の村で子供が「聖母を見た」という"現代の奇蹟"話があれば、多くのマスコミ取材陣と共に現場へ駆けつける、という何か騒がしいばかりで中身のない日々。
 
Anita Ekberg 2.jpg甘い生活 パンフレット.jpgAnita Ekberg.jpg 主人公のマルチェロは元々プレイボーイなのですが、虚しい仕事ばかりで心身は疲れきっている―。それでも、仕事絡みで深夜にアニタ・エクバーグみたいな女優とトレビの泉で戯れたりすることが出来るのであれば、結構"役得"ではないかとも、そのような僥倖に巡り合ったことの無い自分などは傍目に思ったりするのですが、マルチェロの場合はそれでもどこか満たされない思いがあるようで、実際、彼の周囲の人も幸せになる人は少なくなり、彼自身も"甘い生活"に浸れば浸るほど不幸になっていきます。
アニタ・エクバーグ/パンフレット(日映・1960)

アラン・キュニー.jpg マルチェロにもメンター的存在であった友人(アラン・キュニー)がいて、マルチェロもいつかは彼らのような安寧の生活を送りたいと思っていたのですが、その友人夫婦がある日突然に自分達の子供を道連れに一家心中したという事件があり、このことが彼にとってあまりにショックであったために、自らの人生を見直させる契機にはならず、むしろ虚無感を増幅させたと言えるかと思います。

少女.jpgei.jpg マルチェロが海辺の別荘で仲間らと遊び耽り、翌朝、享楽に疲れ果てた体のほてりを醒ますために出かけた浜辺に、醜悪な怪魚(エイ?)が打ち上げられていて悪臭を放っている。小さな浅干潟を隔てたその向こうに、顔見知りの可憐な少女がいて、マルチェロは声かけるが潮風にかき消されて彼女には届かない―。

「甘い生活」last.jpgMarcello Mastroianni in La dolce vita.jpg 腐りつつある「醜悪な怪魚」はマルチェロ自身の今の姿であり、少女がいる「静謐な世界」は、自分がそこに行くことを望んでももはや達し得なくなってしまった場所であるという、ラストシーンの、鮮烈なコントラストを以って示した象徴表現には充分な説得力と余韻があり、自分自身もマスコミ業界にいたことがありますが、そうした"ギョーカイ"の人がこのラストを観たら、なおのことグッと迫るものがあるのかも知れません。逆に言えば、干潟を渡って少女の所へは行かず、また仲間達の所へ戻ってしまうであろう(戻っていくしかない)マルチェロだからこそ、我々俗人の目から見て、その哀しみに共鳴できるのかもしれないとも思いました。


「甘い生活」パンフレット (2001年リバイバル公開時)/輸入版ポスター Amai seikatsu(1960)
甘い生活 .png甘い生活 輸入版ポスター.jpgAmai seikatsu(1960).jpg「甘い生活」●原題:LA DOLCE VITA●制作年:1959年●制作国:イタリア・フランス●監督:フェデリコ・フェリーニ●製作:ジュゼッペ・アマト/アンジェロ・リッツォーリ●脚本:フェデリコ・フェリーニ/エンニオ・フライアーノ/トゥリオ・ピネッリ/ブルネッロ・ロンディ●撮影:オテッロ・マルテッリ●音楽:ニーノ・ロータ●時間:174分●出演:マルチェロ・マストロヤンニ/アニタ・エクバーグアヌーク・エーメ/バーバラ・スティール/ナディア・グレイ/ラウラ・ベッティ/イヴォンヌ・フルノー/マガリ・ノエル/アラン・キュニー/ニコ●日本公開:1960/09●配給:イタリフィルム●最初に観た場所:カトル・ド・シネマ (81-06-06)●2回目:六本木・俳優座シネマテン(82-07-20)●3回目:飯田橋ギンレイホール(83-07-10)(評価:★★★★☆)●併映(3回目):「情事」(ミケランジェロ・アントニオーニ)

アヌーク・エーメ in「甘い生活」
「甘い生活」01.jpg甘い生活アヌーク・エーメ.jpg

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トランティニャン未亡人相手2作。ロッシ・ドラゴが"凄い"「激しい季節」とCFを観ているような「男と女」。
激しい季節 ポスター 2.jpg ヴァレリオ・ズルリーニ★激しい季節(1959).jpg Estate Violenta2.jpg 男と女 DVD.jpg 「男と女」2.jpg
「激しい季節」ポスター/ビデオ(絶版)/「ESTATE VIOLENTA(激しい季節)」 ビデオ(輸入版)/「男と女 [DVD]」/輸入版ポスター

「激しい季節」2.jpgEstate Violenta.jpg 「激しい季節」(Estate Violenta、'59年/伊)の舞台は1943年のアドリア海に面した高級避暑地。別荘に滞在する上流階級の娘(ジャクリーヌ・ササール)が、パーティーの場に現れたファシスト党高官の息子(ジャン・ルイ・トランティニャン)に恋をするが、彼の方は浜辺で知り合った海軍将校の未亡人(エレオノラ・ロッシ・ドラゴ)に惹かれ、2人は深い関係に―。

Jean-Louis Trintignant & Eleonora Rossi Drago

「激しい季節」1.jpg それを知った娘ジャクリーヌ・ササールは泣きながら去り、後半は、ムッソリーニ政権の崩壊、新政権の誕生、イタリアの降伏という動乱の戦局の下、刹那的な恋に激しく燃える高官の息子トランティニャンと未亡人ロッシ・ドラゴの愛と別離が描かれています。

 とにかく、未亡人役のエレオノラ・ロッシ・ドラゴの魅力(色香)がその眼差しからボディに至るまで凄く、それまであまり脱がない女優だったそうですが、この映画に関しては、検閲でカットされている部分もあるぐらいで、彼女は'07年12月に82歳で亡くなっており、考えてみれば相当旧い映画なのですが、何か"今風"のセクシーさを醸す女優でした(この映画に出演した時は33、4歳ぐらい)。

Valerio Zurlini Estate violenta 2.jpgValerio Zurlini Estate violenta.jpg 2人の「出会い」は海岸で、独軍機の威嚇飛行に人々が怯え逃げる際に、転んで泣いていた幼子をトランティニャンが助けたのが、ロッシ・ドラゴの娘だったというもの、「別れ」は、トランティニャンが兵役逃れを図りロッシ・ドラゴと逃避行を図る際に、列車が米軍機の爆撃を受け大勢の死者が出て、その中にその娘の亡骸を見つけて、彼女が現実に(乃至"罪の意識"に)目覚めるという、「出会い」も「別れ」も共に「爆撃機」と「娘」が絡んだものです。双葉十三郎氏は、「後半になって愛国モラルが顔を出すと、凡庸化していしまう」とsていますが、これは兵役を嫌がっていたトランティニャンが列車の被爆事故を機に女性と別れ、戦線に加わるというストーリーがいかにもという感じがするからでしょう。

激しい季節 dvd _.jpg 戦時下の恋の物語ですが、当時のイタリアの上流階級の一部は、そうした戦局の最中に合コンみたいなパーティーをやったり、海水浴に興じたりしていたというのは、実際の話なのだろうなあと。ある種、集団的な"刹那主義"的傾向?(その反動で、或いはバランスをとるために、トランティニャンを兵役に行かせた?)。

 この作品は日本ではビデオが絶版になってから長らくDVD化されていないないけれど、なぜだろう(2017年にDVD化された)

激しい季節 HDリマスター [DVD]

「男と女」(1966年) ポスター/パンフレット①/パンフレット②
男と女 ポスター.bmp男と女 パンフ.jpg男と女 パンフレット.png「男と女」(Un homme et une femme、'66年/仏)もジャン・ルイ・トランティニャンが未亡人(スタントマンの夫を目の前で失った女アヌーク・エーメ)に絡むもので、こちらはトランティニャン自身も妻に自殺された男寡のカーレーサーという設定で、2人が知り合ったのは互いの子供が通う寄宿学校の送り迎えの場という、「激しい季節」同様に子供絡みです(カンヌ国際映画祭「グランプリ」(現在の最高賞パルム・ドールに相当)及び「国際カトリック映画事務局賞」、米国「アカデミー外国映画賞」「ゴールデングローブ賞外国語映画賞」受賞作)。

「男と女」3.bmp「男と女」4.jpg 一作品の中でモノクロ、カラ―、セピア調などを使い分けるといった凝った映像のつくりです。但し、ストーリーそのものは個人的には結構俗っぽく感じられ、トランティニャンが鬱々として煮えたぎらずしょぼい恋愛モノという印象しか受けないのフランシス・レイ.jpgですが、フランシス・レイ(1932- )のボサノバ調のテーマ曲と共に間に挿入されるイメージフィルムのような映像が美しいです。クロード・ルルーシュ(1937-2018)はコマーシャルフィルムのカメラマンから映画監督に転身した人ですが、この作品自体がプロモーションフィルムまたはコマーシャルフィルムであるような印象も受けました。当時としては非常に斬新だったのだと思いますが、今観るとそれほどでないと思われるかも。しかし、そのことは、それだけ後の多くの映像作家がこの映画から様々な技法を吸収したということの証であるのかもしれません(でもやっぱり音楽は今でもいい。音楽だけの評価だと★★★★★)。

男と女24.jpg 最初から映像美と音楽を調和させることが最大の狙いで、ストーリーの方は意図的に通俗であることを図っていたのかも。ルイ・マル監督の「恋人たち」('58年/仏)などがその典型例ですが、「通俗」を繊細かつ美しく撮るのも映画監督の技量の1つでしょう。でも、この監督、この後に大した作品がないんだよなあ(一応、知られているところでは「愛と哀しみのボレロ」('81年)があるが)。仮に「男と女」だけ撮って夭折していたらフランス映画史上の天才と呼ばれていたに違いないとの声もある監督です。

 「激しい季節」「男と女」共にジャン・ルイ・トランティニャン主演の作品ですが、トランティニャン自身は、繊細な演技が出来る、日本人が感情移入しやすい俳優であるとは思うものの、この2作については、片や相方のエレオノラ・ロッシ・ドラゴの突き刺すような魅力が圧倒的で、片や映像美と音楽の魅力が圧倒的な作品であるような気がしました。

「激しい季節」ポスター(1960年劇場用初版)/VHSカバー
激しい季節 ポスター.jpgヴァレリオ・ズルリーニ★激しい季節(1959).jpg
                    
 
Estate violenta(1959) エレオノラ・ロッシ・ドラゴ/ジャン・ルイ・トランティニャン ジャクリーヌ・ササール
Estate violenta(1959).jpg激しい季節001.jpg激しい季節002.jpg「激しい季節」●原題:ESTATE VIOLENTA●制作年:1959年●制作国:イタリア●監督:ヴァレリオ・ズルリーニ●製作:シルヴィオ・クレメンテッリ●激しい季節 パンフ.jpg脚本:ヴァレリオ・ズルリーニ/スーゾ・チェッキ・ダミーコ/ジョルジョ・プロスペリ●撮影:ティノ・サントーニ●音楽:マリオ・ナシンベ六本木駅付近.jpg六本木・俳優座シネマテン2.jpg俳優座劇場.jpgーネ●時間:93分●出演:ジャン・ルイ・トランティニャン/エレオノラ・ロッシ・ドラゴ/ジャクリーヌ・ササール/ラフ・マッティオーリ/フェデリカ・ランキ/リラ・ブリナン●日本公開:1960/04●配給:イタリフィルム●最初に観た場所:六本木・俳優座シネマテン(84-11-17)(評価:★★★★)
俳優座シネマテン(六本木・俳優座劇場内) 1981年3月20日オープン。2003年2月1日休映(後半期は「俳優座トーキーナイト」として不定期上映)。  

フランシス・レイ 003.jpg「男と女」1.jpg男と女  66仏.jpg「男と女」●原題:UN HOMME ET UNE FEMME(英:A MAN AND A WOMAN)●制作年:1966年●制作国:フランス●監督・製作:クロード・ルルーシュ●脚本:クロード・ルルーシュ/ピエール・ユイッテルヘーヴェン●撮影:クロード・ルルーシュ●音楽:フランシス・レイ●時間:103分●出演:ジャン・ルイ・トランティニャン/アヌーク・エーメ/エヴリーヌ・ブイックス/マリー・ソフィー・ポシャ/リチャード・ベリー/ロベール・オッセン●日本公開:1966/10●配給: ユナイテッド・アーティスツ●最初に観た場所:高田馬場パール座(78-10-02)(評価:★★★☆)●併映:「さよならの微笑」(ジャン・シャルル・タッシェラ)

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リアルで気迫のこもった演出。モノクロ映画の特性を充分に生かしている。

ルキノ・ヴィスコンティ 「若者のすべて」俳優座.jpgROCCO E I SUOI FRATELLI1.jpg若者のすべて DVD.jpg 若者のすべて パンフレット2.jpg Rocco e i suoi fratelli2.jpg 
1982年リバイバル公開時チラシ/「若者のすべて [DVD]」/パンフレット/「Rocco and His Brothers [DVD] [Import]
 ルキノ・ヴィスコンティ(1906‐1976)監督というと"貴族"映画のイメージがすぐ浮かびますが、イタリア南部から北部ミラノへ移住した家族の崩壊を4人兄弟(一番下の幼い弟も含めると5人兄弟)の確執を通して描いたこの映画は、イタリアの南北の格差問題を背景とした社会派作品とも言え、グラムシに共感するという彼の思想を映し出すものでもあります(ヴェネツィア国際映画祭審査員特別賞受賞作)。

ルキノ・ヴィスコンティ 「若者のすべて」.jpg 原題は「ロッコとその兄弟たち」(原作はジョヴァンニ・テストーリの『ギゾルファ橋』)。近親相互間の人間臭い葛藤が凄まじく、三男のロッコ(アラン・ドロン)がボクサー志望の次男(レナート・サルヴァトーリ)の恋人ナディア(アニー・ジラルド)に横恋慕したとして、兄一味が彼女を強姦するのを目の当たりにさせられ絶叫するシーンなどは心底痛々しく感じられ、ジュゼッペ・ロトゥンノのカメラワークも含め、ヴィスコンティのリアルで気迫のこもった演出に改めて驚嘆させられます。

若者のすべて アランドロン.jpg 兄のために、自分に求婚するナディアを振り切って身を引き、家族を経済的苦境から救うために好きではないのにボクサーなるロッコは、どこまで純粋なキャラクターなのだろうか。リアリティが欠如しているとすれば、アラン・ドロンがボクサーとしてはあまりに美男過ぎる点はともかくとして、旧恋人を殺めてしまった兄さえも暖かく迎えるこのロッコの善人ぶりぐらいかなと。でも、そのロッコがいなければ全く救いの無いような映画であり、貧しいがゆえに兄は弟を妬み、同じ貧しさのゆえに弟は兄への兄弟愛に飢えるという―ということになるのでしょうか。

"ドゥオーモ"に登ったロッコ(A・ドロン)とナディア(A・ジラルド)
rocco e i suoi fratelli.jpg 最初に、ロッコとその一家が列車から降り立ったのは「ミラノ中央駅」で、これは、後にヴィットリオ・デ・シーカ監督の「ひまわり」('70年/伊)でも別れのシーンのロケ場所になっていますが、絵になる駅だなあと。

 他にも、ミラノのドゥオーモ(大聖堂)など、映像美溢れるシークエンスが少なからずあり、モノクロ映画の特性を充分に生かしている感じがしました(北イタリアの寒村風景やロッコの心象風景にはモノクロ―ムが合っている)。

ROCCO E I SUOI FRATELLI 2.jpg 作中では、アニー・ジラルドは元カレのレナート・サルヴァトーリに殺されてしまうのですが(レナート・サルヴァトーリは「スキャンドール」('80年/伊)でも母娘の両方と寝る男を演じていた)、実生活ではこの 「若者のすべて」での共演を機に2人は結クラウディア・カルディナーレ 若者のすべて.jpg婚し、アニー・ジラルドはレナート・サルヴァトーリが亡くなるまで添い遂げています。

 また、それほど出番は多くありませんが、長男ヴィンチェンツォの婚約者ジネッタ役でクラウディア・カルディナーレが出ていてます。このように、今思うと、アラン・ドロンを筆頭に結構豪華な役者陣だったわけですが、ヴィスコンティ作品の中では1948年に発表のネオ・レアリスモ作品「揺れる大地」の第二部のように位置づけられることが多いことからも窺えるように、それらの役者がリアルな生活感の中に自然と嵌っていて、違和感を感じさせないところがいいです(「いい」と言うより「スゴイ」と言うべきか)。一方で、ヴィスコンティ的壮麗美として、アラン・ドロンの美貌、ミラノの町並み、大聖堂のビジュアルなどもちゃんと鏤(ちりば)められているわけで、そうした意味ではしっかり"映画的"でもあるのですが。

クラウディア・カルディナーレ in 「若者のすべて」

Wakamono no subete(1960)
Wakamono no subete(1960).jpg
「若者のすべて」●原題:(伊)ROCCO E I SUOI FRATELLI/(仏)ROCCO ET SES FRERE/(英)ROCCO AND HIS BROTHERS●制作年:1960年●制作国:イタリア・フランス●監督:ルキノ・ヴィスコンティ●脚本:On set of Rocco and His Brothers .jpgルキノ・ヴィスコンティ/パスクァーレ・フェスタ・カンパニーレ/スーゾ・チェッキ・ダミーコ/マッシモ・フランチオーザ/エンリコ・メディオーリ●撮影:ジュゼッペ・ロトゥンノ●音楽:ニーノ・ロータ●原作:ジョヴァンニ・テストーリ「ギゾルファ橋」●時間:168分●出演:アラン・ドロン/アニー・ジラルド/レナート・サルヴァトーリ/クラウディア・カルディナーレ/カティーナ・パクシヌー/ロジェ・アンナ/パオロ・ストッパ/スピロス・フォーカス/マックス・カルティエール/ロッコ・ヴィドラッツィ/コラド・パーニ/アレッサンドラ・パナーロ/アドリアー ナ・アスティ/シュジー・ドレール/クラウディア・モーリ●日本公開:1960/12●配給:イタリフィルム●最初に観た場所:カトル・ド・シネマ上飯田橋佳作座.jpg映会(81-06-20)●2回目:飯田橋佳作座(83-04-17)(評価:★★★★☆)●併映(2回目):「山猫」(83-04-17)
On set of Rocco and His Brothers directed by Luchino Visconti, 1960

飯田橋佳作座(神楽坂下外堀通り沿い)1957(昭和32)年10月1日オープン、1988(昭和63)年4月21日閉館

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戦争の犠牲者に対する国を超えたレクイエムが込められていた「ひまわり」。セリフの全てを歌で表現した「シェルブールの雨傘」。  
ひまわり ポスター.bmp ひまわり.jpg シェルブールの雨傘.jpg 「ひまわり」チラシ/「ひまわり [DVD]」/「シェルブールの雨傘 [DVD]」 音楽:ミッシェル・ルグラン
ひまわり パンフレット.jpg 「ひまわり」(I Girasoli 、'70年/伊・仏・ソ連)は、最初に観た時、ジョヴァンニ(ソフィア・ローレン)が戦地で消息を絶った夫アントニオ(マルチェロ・マストロヤンニ)を訪ねウクライナに行き、彼に再会し全てを知ったところで終わっても良かったかなと、その方がラストのひまわり畑のシーンにすんなり繋がるのではないかという気もしました。

「ひまわり」映画パンフレット/音楽:ヘンリー・マンシーニ
         
ひまわり02.jpg「ひまわり」3.jpg 後半、今度はマルチェロ・マストロヤンニがソフィア・ローレンを訪ね再会を果たすも、既に彼女は結婚もしていて子供もいることがわかり(自分にもロシア人妻リュドミラ・サヴェーリエワとの間に子供がいることも改めて想起し)、失意のうちにウクライナへ帰っていく部分は、かなり地味だし、「子は鎹(かすがい)」ということ(?)なんて思ったりしたのですが、しかしながら、最近になって観直してみると、後半も悪くないなあと思うようになりました。

「ひまわり」1.jpg「ひまわり」2.jpg 愛の"記憶"に生きると決めているジョヴァンニ。ガックリくるマストロヤンニに対し、共に痛みを感じながらも彼を包み込むような感じがラストのソフィア・ローレンにはあり、母は強しといった感じも。

I GIRASOLI(SUNFLOWER).jpg「ひまわり」4.jpg 2つの別れのシーン(出征の別れと再会後の最後の別れ)に「ミラノ中央駅」が効果的に使われていて、ひまわりが咲き誇る畑も良かったです。

Sophia Loren Marcello Mastroianni in I Girasoli

sunflower 1970s.jpg このひまわりの下に、ロシア兵もsunflower 1970  .jpgイタリア兵も戦場の屍となって埋まっているという、戦争の犠牲者に対する国を超えたレクイエムが込められていて、冷戦下でソ連側が国内でのロケを許可したのもわかります(ソフィア・ローレンはソ連のどこのロケ地へ行っても大歓迎を受けたとのこと)。

映画チラシ(1989)Catherine Deneuve in Les Parapluies De Cherbourg
シェルブールの雨傘1989チラシ.jpgシェルブールの雨傘2.jpg 同じく、戦争で運命を狂わされた男女を描いたものに、ジャック・ドゥミ(1931‐1990)監督の「シェルブールの雨傘」(Les Parapluies De Cherbourg、'64年/仏)がありますが、のっけから全ての台詞にメロディがついていて、やや面食らいました(それが最後まで続く)。音楽のミッシェル・ルグランによれば、全てのセリフを歌で表した最初の映画とのことで、オペラのアリアの技法を用いたとのことです(カンヌ国際映画祭「グランプリ」(現在の最高賞パルム・ドールに相当)及び「国際カトリック映画事務局賞」受賞作)。

シェルブールの雨傘1.jpg 石畳の舗道に雨が落ちてきて、やがて色とりシェルブールの雨傘 001.jpgどりの美しい傘の花が咲くという俯瞰のファースト・ショットはいかにもお洒落なフランス映画らしく('09年にシネセゾン渋谷で"デジタルリマスター版"が特別上映予定とのこと。自分が劇場で観た頃にはもう色が滲んでいた感じがした)、監督のジャック・ドゥミ(当時31歳)、音楽のミッシェル・ルグラン(当時30歳)も若かったですが、傘屋の娘を演じたカトリーヌ・ドヌーヴは当時20歳でした。

「シェルブールの雨傘」 仏語版ポスター/日本語パンフレット
シェルブールの雨傘 ポスター.jpgシェルブールの雨傘 パンフレット.jpg 恋人が出征する戦争は、第2次世界大戦ではなくアルジェリア戦争で(この映画からは残念ながらアルジェリア側の視点は感じられない。フランス版「ひまわり」とか言われるからつい比べてしまうのだが、戦争終結直後に作られたということもあるのだろう)、「ひまわり」みたいに一方がもう一方を訪ねて再会するのではなく、ラスト別々の家族を持つようになった2人は、母の葬儀のためシェルブールに里帰りしたカトリーヌ・ドヌーヴが、クルマの給油に寄った先が、彼が将来経営したいと言っていたガソリンスタンドだったという、偶然により再会します。

Les parapluies de Cherbourg(1964)

シェルブールの雨傘 003.jpg 2人は将来子供が出来たら付けようと恋人時代に話していた「フランソワ」「フランソワーズ」という名をそれぞれの男の子と女の子につけていたのですが、そう言えば「ひまわり」のソフィア・ローレンは、自分の子に「アントニオ」というマルチェロ・マストロヤンニが演じた前夫の名をつけていました。何れにせよこういうの、知らされた相手側の未練を増幅しそうな気がするなあ。

 個人的評価は「ひまわり」が星4つで、「シェルブールの雨傘」が星3つ半です。「シェルブールの雨傘」は、映画史的には、セリフの全てを歌で表現したというころが技法面で画期的だとして高く評価されている面もあるかと思いますが、それは考慮せずの評価です。
      
Himawari(1970)
Himawari(1970).jpg
ひまわり01.jpg「ひまわり」●原題:I GIRASOLI(SUNFLOWER)●制作年:1970年●制作国:「ひまわり」.jpgイタリア・フランス・ソ連●監督:ヴィットリオ・デ・シーカ●製作:カルロ・ポンティ/アーサー・コーン●脚本:チェザーレ・ザバッティーニ/アントニオ・グエラ/ゲオルギス・ムディバニ●撮影:ジュゼッペ・ロトゥンノ●音楽:ヘンリー・マンシーニ●時間:107分●出演:マルチェロ・マストロヤンニ/ソフィア・ローレン/リュドミラ・サベーリエsunflower 1970.jpgワ/アンナ・カレーナ/ジェルマーノ・ロンゴ/グラウコ・オノラート/カルロ・ポンティ・ジュニア●日本目黒シネマ.jpg目黒シネマ2.jpg公開:1970/09●配給:日本ヘラルド映画●最初に観た場所:目黒シネマ(83-05-01)(評価:★★★★)●併映:「ワン・フロム・ザ・ハート」(フランシス・フォード・コッポラ) 目黒シネマ (1955年「目黒ライオン座」オープン(地下に「目黒金龍座」)を経て1975年再オープン(地下「目黒大蔵」)

Cherbourg no Amagasa (1964)
Cherbourg no Amagasa (1964).jpg
『シェルブールの雨傘』(1963).jpg「シェルブールの雨傘」●原題:LES PARA PLUIES DE CHERBOURG(英:THE UMBRELLAS OF CHERBOURG)●制作年:1964年●制作国:フランス●監督・脚本:ジャック・ドゥミ●製作:マグ・ボダール●脚本:チェザーレ・ザバッティーニ/アントニオ・グエラ/ゲオルギス・ムディバニ●撮影: ジャン・ラビエ●音楽:ミシェル・ルグラン●時間:91分●出演:カトリーヌ・ドヌーヴ/ニーノ・カステルヌオーボ/マルク・ミシェル/アンヌ・ヴェルノン/エレン・ファルナー/ミレーユ・ペレー/アンドレ・ウォルフ●日本公開:1964/10●配給:東和●最初に観た場所:高田馬場パール座(78-05-27)(評価:★★★☆)●併映:「巴里のアメリカ人」(ヴィンセント・ミネリ)

「●フェデリコ・フェリーニ監督作品」の インデックッスへ Prev|NEXT⇒ 【1089】フェリーニ「甘い生活
「●「ヴェネツィア国際映画祭 銀獅子賞」受賞作」の インデックッスへ「●「ニューヨーク映画批評家協会賞 外国語映画賞」受賞作」の インデックッスへ「●「アカデミー国際長編映画賞」受賞作」の インデックッスへ 「●ニーノ・ロータ音楽作品」の インデックッスへ 「○外国映画 【制作年順】」の インデックッスへ 「○都内の主な閉館映画館」の インデックッスへ(新宿アートビレッジ)

人間の原罪を抉った作品であるとともに、旅芸人たちに対する共感が込められている。

道.jpg 道1.jpg 道 ポスター.jpg
道 [DVD]」  「道 [DVD]」   「道」パンフレット(1965)  La Strada-The Road 1954-道- Gelsomina

フェリーニ「道」.bmp 旅芸人のザンパノ(アンソニー・クイン)は芸の手伝いをする女が死んでしまったため、その妹のジェルソミーナ(ジュリエッタ・マシーナ)を幾ばくかのお金で買い取った。粗野で暴力を振るうザンパノと、頭が弱いが心の素直なジェルソミーナは一緒に旅に出る旅に出る―。

 フェデリコ・フェリーニ(1920‐1993/享年73)監督のあまりも有名な作品ですが、本国と日本での公開の間に3年の歳月があり、旅芸人という地味なモチーフ、美男美女が出てくるわけでもなく、当初は日本では受けないと思われたのかな? 日本での公開時もさほど宣伝もされず、口コミで人気が拡がり、やがて映画ファンのみでなく、広く一般に知られる作品になったとのこと。

道_8_m.jpg アンソニー・クイン(1915‐2001)が亡くなった際にも、新聞ではこの作品のスチールと共に報じられていました。彼の出演作品の中でも代表作になるのでしょうが、監督の奥さんであるジェルソミーナ役のジュリエッタ・マシーナ(1921‐1994)の演技が、これまた素晴らしいと思いました。フェリーニの作品の中でも一番好きな映画で、初めて観た時は、次の日また観に行きました。

『道』(1954).jpg この映画には幾つかの謎があり、例えばジェルソミーナがいつも口ずさむ歌(音楽の教科書に「ジェルソミーナ」というタイトルで出ていた)は、物語の中では一体誰が作曲したことになっているのか、ザンパノと彼が殺した綱渡り芸人は以前にはどういう関係にあったのか、といったものから、ジェルソミーナが家族と別れる時、実は絶望よりも希望の方が勝っていたのか、何故ジェルソミーナは修道尼の誘いを断り修道院を後にしてザンパノについていったのか等々です。

道4.jpg この映画でのジェルソミーナの表情は、1つの場面においてもめまぐるしく変化し、彼女は物語の設定としては「頭が弱い」とされていますが、必ずしもそうとは言えないような気もしました。例えば、「頭が弱い」からザンパノに虐げられても彼についていってしまうのではなく、一見粗暴に見えるザンパノの弱さと優しさを見抜き、また、綱渡り芸人からも言われたように、自分しかザンパノを支える人間はいないということがわかっていたのでしょう。

道 10.jpg ザンパノ自身の方はそのことに気づかずに、彼が綱渡り芸人を殺したことを知って泣き続け心を閉ざしたままの彼女を置いていってしまい、何年か経た後に、彼女の死を聞いて号泣する自分を通して、自分が彼女を愛していたことをやっと知り、また、その彼女を見捨てた過ちに気づく―、そして今、自分は彼女に何もしてやれなかったという思いを抱いて残りの人生を送らなければならないという、これが彼にとっての"罰"になっていて、その罰を通して、かつて自分が犯した数々の罪をも知る―という構造になっているように思いました。

Michi(1954).jpg道3.jpg 綱渡り芸人が殺されてジェルソミーナが泣いたのは、優しかった彼が死んだということもありますが、むしろ、ザンパノの犯した罪に対する慄きからのものでしょう。人間の原罪を抉った作品であり、バックにキリスト教的な宗教観の影響も見てとれなくもないですが、但し、あまりそのことに引き寄せて解釈すると、ジェルソミーナが単なる"聖性"のシンボルになってしまうような気もしなくもありません。旅芸人たちの笑顔の底にある生身の人間としての悲哀-それに対する洞察と共感が込められていることは、「フェリーニの道化師」('70年)などの作品と併せて観るとよく解るかと思います。

Michi(1954)

新宿アートビレッジ3.png「道」●原題:LA STRADA●制作年:1954年●制作国:イタリア●監督:フェデリコ・フェリーニ●製作:カルロ・ポンティ/ディノ・デ・ラウレンティス●脚本:フェデリコ・フェリーニ/エンニオ・フライアーノ/トゥリオ・ピネッリ●撮影:オテッロ・マルテッリ●音楽:ニーノ・ロータ●時間:115分●出演:ジュリエッタ・マシーナ/アンソニー・クイン/リチャード・ベースハート/アルド・シルヴァーニ/マルセーラ・ロヴェーレ●日本公開:1957/05●配給:イタリフィルム=NCC●最初に観た場所:新宿アートビレッジ(79-05-01)●2回目:新宿アートビレッジ(79-05-02)(評価:★★★★★
新宿アートビレッジ (歌舞伎町ジャズ喫茶「タロー」3F、16ミリ専門の上映館・席数40) 1980(昭和55)年に活動停止

新宿アートビレッジ上映予告(青島幸男 企画・製作・原作・脚本・監督・主演「鐘」('66年)・萩本欽一 企画・製作・監督・主演「手」('69年))
アートビレッジ.jpg

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最後まで枯れることのなかったヴィスコンティ。L・アントネッリ、J・オニールを使いこなす。

イノセント ポスター.jpgイノセント.jpg Malizia1.jpg 思い出の夏summer42.JPG
イノセント 無修正版 デジタル・ニューマスター [DVD]」「青い体験〈無修正版〉 [DVD]」(Laura Antonelli) 「おもいでの夏」(Jennifer O'Neill)

ヴィスコンティ生誕百年祭特集.jpgイノセント パンフ.jpg 「イノセント」は1976年のイタリア・フランス合作映画で、ルキノ・ヴィスコンティ(1906‐1976)の最後の監督作品(公開されたのは没後)。

 2006年に新宿のテアトルタイムズスクエアで開催された「ヴィスコンティ生誕100年祭」で、「山猫」、「ルートヴィヒと共にその完全版が上映されましたが、「祭」と言いつつたった3作しか上映しないのか、以前は名画座などでもっと気軽に観られたのに―という思いもあるものの、3作に限るならばこのラインアップはかなりいい線いってるように思いました。

L'INNOCENTE 輸入盤dvd.jpgL'INNOCENTE 2.jpg 「イノセント」は、19世紀ローマの貴族男性(ジャンカルロ・ジャンニーニ)が主人公で、その彼が妻と愛人の間で揺れ動く様が描かれているのですが、〈妻〉が「青い体験」(Malizia、'73年/伊)、「続・青い体験」(Peccato veniale、'74年/伊)のラウラ・アントネッリで、〈愛おもい出の夏42.jpg「青い体験」00.jpg人〉が「おもいでの夏」(Summer of '42、'71年/米)のジェニファー・オニールなので、初めて見に行った時は、この2人を老ヴィスコンティがどう撮ったのかという興味もありました。貴族男性が愛人のもとへ行く際、妻に「君は昔から可愛い妹だった」などと言い訳して、それを妻ラウラ・アントネッリが許すというそれぞれのお気楽ぶりと従順ぶりにやや呆れるものの、最後になってみれば、実は女イノセントd.jpg性の心と肉体は男が思っているほど単純なものではなかったということか。

インノセント2.jpg  ラウラ・アントネッリ(あの「青い体験」の...)が妻でいながら、浮気などするなんて何というトンデモナイ奴かと思わせる部分も無きにしもあらずですが、浮気相手はジェニファー・オニール(あの「おもいでの夏」の...)だし...。

Laura Antonelli Giancarlo Giannini in L'Innocente

L'INNOCENTE5.jpg ジャンカルロ・ジャンニーニが演じる貴族は、自分の気持ちに純粋に従い過ぎるのかも。何となく憎めないキャラクターです(ジャンカルロ・ジャンニーニは、リナ・ウェルトミューラー監督の「流されて...」('75年/伊)の日本公開('78年)の時だったかに来日して舞台で挨拶していたが、意外と小柄だった印象がある)。結局、妻ラウラ・アントネッリの方も、義弟から紹介された作家に惚れられて自身も浮気に走り、そのことで夫は今さらのように自身の妻への愛着を再認識する―。

Jennifer O'Neill in L'Innocente          
ジェニファー・オニール2.jpg でもやはり気持ちはふらふらしていて、最後には作家の子を身籠った妻からの反撃を食い、愛人にも逃げられ、(自業自得とも言えるが)かなり惨めなことに...という、没落過程にある貴族層に個人のデカダン指向を重ね合わせたような、ヴィスコンティらしい結末へと繋がっていきます。

LINNOCENTE2.jpg 冒頭の「赤」を基調とした絢爛たる舞踏会シーンから映像美で魅せ、話の筋を追っていけば"貴族モノ"とは言え結構俗っぽい展開なのに、それでいて、ラウラ・アントネッリやジェニファー・オニールが、ヴィスコンティ映画の登場人物として"貴族然"として見えるのは、やはりヴィスコンティの演出のなせる業でしょうか(大河ドラマに出る女優が皆同じように見えるのとは似て非なるものか)。

イノセント1シーン.jpg 精神的かつ性的に抑圧されることで更にその魅力を強めていくラウラ・アントネヴィスコンティs.jpgッリが、(期待に反することなく?)充分エロチックに描かれていました(この〈妻〉の役は〈夫〉に勝るとも劣らず人物造形的にかなり複雑なキャラクターのように思える)。この映画の撮影の時ヴィスコンティは既に車椅子での演出でしたが、う〜ん、70歳、死期を悟りながらも、随分こってりした作品を作っていたんだなあと思わされます(そこがまたいい)。
Laura Antonelli  in L'Innocente  


              
悦楽の闇RE.jpg悦楽の闇4.jpg 因みに、ラウラ・アントネッリは貴族や上流階級の役での出演作がこの他にも幾つかあって、「イノセント」の一作前のジュゼッペ・パトローニ・グリッフィ監督の1920年代のローマの社交界を舞台にした「悦楽の闇」('75年/伊・仏)では、裕福な貴族バニャスコ(テレンス・スタンプ)の愛人マノエラ役で出ています。バニャスコには他にも愛悦楽の闇6.jpg人がいて、愛想をつかしたマノエラは彼の元を去りますが、バニャスコは、15歳の時にある男に処女を奪われて以来、男性不信になっていたというマノエラ悦楽の闇ード.jpgの話から、その男がいとこのミケーレ(マルチェロ・マストロヤンニ)であることを偶然り、ミケーレに嫉妬心を抱きます。彼は一計を案じ、ミケーレにマノエラを近づ悦楽の闇The Divine Nymph (1975)_.jpgけ苦しみを与えようとしたところ、ミケーレはいまだにマノエラを愛しており、マノエラの心も動いたため、バニャスコはますます苦しみ、最期は自殺に追い込まれるというもの。もとはと言えば男が悪いのですが、女はバニャスコ、ミケーレ以外にもミケーレ・プラチド(監督としても活躍)演じる男とも繋がりがあって、実悦楽の闇es.jpgは彼女のほうこそ男を滅ぼすファム・ファータルだったということになるかと悦楽の闇 スタンプ1.jpg思います。キャストは豪勢だし、ラウラ・アントネッリの衣裳も絢爛なのですが、ストーリーがごちゃごちゃしていて、単なる恋愛泥沼劇にになってる印象も受けました。ラウラ・アントネッリも頑張って演技してるし、テレンス・スタンプは意外と役が合っていましたが、やはり、役者を集めるだけではダメなのだろなあ。


Inosento(1976)
イノセント .jpgInosento(1976).jpgL'INNOCENTE.jpg「イノセント」●原題:L'INNOCENTE●制作年:1976年●制作国:イタリア・フランス●監督:ルキノ・ヴィスコンティ●製作:ジョヴァンニ・ベルトルッチ●脚本:スーゾ・チェッキ・ダミーコ/エンリコ・メディオーリ/ルキノ・ヴィスコンティ●撮影:パスクァリーノ・デ・サンティス●音楽:フランコ・マンニーノ●原作:ガブリエレ・ダヌンツィオ「罪なき者」●時間:129分●出演:ジャンカルロ・ジャンニーニ/ラウラ・アントネッリ/ジェニファー・オニール/マッシモ・ジロッティ/ディディエ・オードパン/マルク・ポレル/リーナ・モレッリ/マリー・デュボア/ディディエ・オードバン●日本公開:1979/03●最初に観た場所:池袋文テアトルタイムズスクエア閉館.jpgタカシマヤタイムズスクエア.jpg芸坐 (79-07-13)●2回目:新宿・テアトルタイムズスクエア (06-10-13) (評価★★★★☆)●併映(1回目):「仮面」(ジャック・ルーフィオ)
テアトルタイムズスクエア0.jpgテアトルタイムズスクエア内.jpgテアトルタイムズスクエア 新宿駅南口の新宿タカシマヤタイムズスクエア12Fに2002年4月27日オープン。2009年8月30日閉館。      
 

      
「青い体験」パンフレット/「青い体験〈無修正版〉 [DVD]
青い体験 パンフレット.jpg青い体験(無修正版).jpg「青い体験」●原題:MALIZIA●制作年:1973年●制作国:イタリア●監督:サルヴァトーレ・サンペリラウラ・アントネッリ.jpg●製作:シルヴィオ・クレメンテッリ●脚本:オッタヴィオ・ジェンマ/アレッサンドロ・パレンゾ/サルヴァトーレ・サンペリ●撮影:ヴィットリオ・ストラーロ●音楽:フレッド・ボンガスト●時間:Malizia2.jpg98分●出演:ラウラ・アントネッリ(Laura Antonelli)/アレッサンドロ・モモ/テューリ・フェッロ/アンジェラ・ルース/ピノ・カルーソ/ティナ・オーモン/ジャン・ルイギ・チリッジ●日本公開:1974/10●配給:ワーナー・ブラザース●最初に観た場所:三鷹オスカー(80-04-05) (評価★★★★)●併映:「続・青い体験」(サルヴァトーレ・サンペリ)/「新・青い体験」(ベドロ・マソ)
ラウラ・アントネッリ            アレッサンドロ・モモ/ティナ・オーモン     Tina Aumont
Tina Aumont .jpg青い体験(2).jpgアレッサンドロ・モモ/ティナ・オーモン.jpg

 


青い体験 新dvd.jpg青い体験/続・青い体験 Blu-ray セット<無修正版>
青い体験 新dvd2.jpg 
  
 
   
 

 
  
  
「続・青い体験」.jpg続・青い体験01.jpg「続・青い体験」●原題:PECCATO VENIALE●制作年:1974年●制作国:イタリア●監督:サルヴァトーレ・サンペリ●製作:シルヴィオ・クレメンテッリ●脚本:オッタヴィオ・ジェンマ/アレッサンドロ・パレンゾ●撮影:トニーノ・デリ・コリ●音楽:フレ「続・青い体験」_01.jpgッド・ボンガスト●時間:98分●出演:ラウラ・アントネッリ/アレッサンドロ・モモ/オラツィオ・オルランド/リッラ・ブリグノン/モニカ・ゲリトーレ/リノ・バンフィ●日本公開:1975/08●配給:ワーナー・ブラザース●最初に観た場所:三鷹オスカー(80-04-05) (評価★★★☆)●併映:「青い体験」(サルヴァトーレ・サンペリ)/「新・青い体験」(ベドロ・マソ)

悦楽の闇 [DVD]」 テレンス・スタンプ/ラウラ・アントネッリ/マルチェロ・マストロヤンニ
悦楽の闇 dvd 1975.jpg悦楽の闇s.jpg「悦楽の闇」●原題:THE DIVINE NYMPH●制作年:1975年●制作国:イタリア・フランス●監督:ジュゼッペ・パトローニ・グリッフィ●製作:ルイジ・スカチーニ/マリオ・フェッラーリ●脚本:ジュゼッペ・パトローニ・グリッフィ/アルフィオ・ヴァルダルニーニ●撮影:ジュゼッペ・ロトゥンノ●音楽:C・A・ビクシオ●原作:ルチアーノ・ズッコリ●時間:130分●出演:ラウラ・アントネッリ/テレンス・スタンプ/マルチェロ・マストロヤンニ/ミケーレ・プラチド/エットレ・マンニ/デュリオ・デル・プレート/マリナ・ベルティ/ドリス・デュランティ/カルロ・タンベルラーニ/ティナ・オーモン●日本公開:1987/06●配給:ケイブルホーグ=大映●最初に観た場所:渋谷・パルコスペース3(87-06-06)(評価★★★)

パルコスペース Part3.jpg渋谷シネクイント劇場内.jpgCINE QUINTO tizu.jpgPARCO SPACE PART3 1981(昭和56)年9月22日、演劇、映画、ライヴパフォーマンスなどの多目的スペースとして、「パルコ・パート3」8階にオープン。1999年7月~映画館「CINE QUINTO(シネクイント)」。 2016(平成28)年8月7日閉館。


「おもいでの夏」●原題:THE SUMMER OF '42●制作年:1971年●制作国:アメリカ●監督:ロバート・マリガン●製作:リチャード・ロス●脚本:ジェニファー・オニール1.jpgおもいでの夏 dvd.bmpハーマン・ローチャー●撮影:ロバート・サーティーおもいでの夏.pngス●音ジェニファー・オニール.bmp楽:ミシェル・ルグラン●原作:ハーマン・ローチャー●時間:105分●出演:ジェニファー・オニール/ゲイリー・グライムス/ジェリー・ハウザー/オリヴァー・コナント/キャサリン・アレンタック/クリストファー・ノリス/ルー・フリッゼル●日本公開:1971/08●配給:ワーナー・ブラザース●最初に観た場所:三鷹オスカー(80-11-03)(評価:★★★☆)●併映:「フォロー・ミー」(キャロル・リード)/「ある愛の詩」(アーサー・ヒラー) ジェニファー・オニール

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ニュース映像を思わせるような画像。ドキュメンタリータッチで描くことで成功している。

アルジェの戦い1.jpgアルジェの戦い(トールケース仕様).jpgアルジェの戦い(パンフレット).jpg 「アルジェの戦い」.jpg 
アルジェの戦い(トールケース仕様) [DVD]」/パンフレット/ポスター(La battaglia di Algeri(1966)

新宿アートビレッジ上映予告(青島幸男 企画・製作・原作・脚本・監督・主演「鐘」('66年)・萩本欽一 企画・製作・監督・主演「手」('69年))
 「アルジェの戦い」とは、フランスの支配に対するアルジェリアの独立戦争(「アルジェリア戦争」)を指しており、1954年11月、首都アルジェのカスバでアルジェリア民族解放戦線が蜂起したことから始まったアルジェリア人民の抵抗運動の火は、アルジェリア全土からヨーロッパの街頭にまで及んで至る所で爆弾闘争へと発展していき、1962年にアルジェリアは独立を果たします。

アルジェの戦い5.jpg この作品は、アルジェリア政府の協力を得てイタリア左翼映画人が作り出した映画であり(監督はイタリア人のジッロ・ポンテコルヴォ(Gillo Pontecorvo,1919‐2006)、音楽はエンニオ・モリコーネ)、8万人のアルジェ市民の協力を得て5年の歳月をかけて完成させており、ニュース映像を思わせるような粗い画像が、ドキュメンタリータッチを盛り上げて成功しているように思います。

 爆弾闘争のシーンが多く、最初観たときは戦時中のニュース映像ではないかとも思われ、その外にも記録フィルムなのか演出なのか判別がつかない部分が多くありましたが、後で知ったところによれば、実はニュース映像は一切使用しておらず、純粋な"劇映画"であり、建物の爆破シーンなどは、撮影用に家を新築し、それを1件1件爆破していったとのことです。

アルジェの戦い2.jpg 爆弾闘争は、支配側の国から見れば「テロ」ということになるのでしょうが、被支配側から見れば、支配国(搾取する側)の圧倒的な武力に対抗するには、こうしたやり方しかなかったともとれます。1966年・第27回ヴェネチア国際映画祭では、反仏的内容に腹を立てたフランス代表団が、この作品がグランプリに選ばれると全員退場しましたが、フランソワ・トリュフォーだけが会場に残ったというエピソードも有名です。

アルジェの戦いtop.jpg 映画の中で指導者の1人を演じている人物は、現実にカスバで地下組織を指導した人で、この映画のプロデューサーでもあり、後に、「私は機関銃をカメラにとりかえたのです。当時を再現し、あの感動を再び呼びさますことによって、ある国家や国民を審判するのではなく戦争や暴力のおそろしさを伝える客観的な映画を作りたいと念願していたのです」と語っています。

 「テロとの戦い」を声高に叫ぶ国家指導者がいますが、その国にとって都合の良い解釈だったりもします。そうした意味では現在も別個の視座を提供してくれる作品であり、但し、爆弾闘争を英雄的に美化したりはせずに一定の客観性を保持しているのが、この作品の優れた点と言えるのでしょう。

「アルジェの戦い」公式サイト
2016年10/8(土)~11/4(金)新宿・K's cinema(ケイズシネマ)などでオリジナル言語版上映(配給:コピアポア・フィルム)。
2016年10/12国内初ブルーレイ化。


新宿アートビレッジ3.png「アルジェの戦い」●制作年:1983年●原題:LA BATTAGLIA DI ALGERI●制作年:1966年●制作国:イタリア・アリジェリア●監督:ジッロ・ポンテコルヴォ●撮影:マルチェロ・ガッティ●音楽:エンニオ・モリコーネ●時間:123分●出演:ブラヒム・ハギアグ/ジャン・マルタン/ヤセフ・サーディ/トマソ・ネリ/ファウジア・エル・カデル/マルチェロ・ガッティ●日本公開:1967/02●配給:松竹映配●最初に観た場所:新宿アート・ビレッジ(79-02-24) (評価:★★★★☆)●併映:「ジョニーは戦場へ行った」(ドルトン・トランボ)

新宿アートビレッジ (歌舞伎町ジャズ喫茶「タロー」3F、16ミリ専門の上映館・席数40) 1980(昭和55)年に活動停止

新宿アートビレッジ上映予告(青島幸男 企画・製作・原作・脚本・監督・主演「鐘」('66年)・萩本欽一 企画・製作・監督・主演「手」('69年))
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多才な人だったマイケル・クライトン。年下の女性上司からの強烈な「逆セクハラ」を描いた「ディスクロージャー」。
ディスクロージャー.jpg デミ・ムーア DISCLOSURE.bmp ディスクロージャー〈上〉 (ハヤカワ文庫NV).jpgディスクロージャー〈下〉 (ハヤカワ文庫NV).jpg  「大列車強盗」3.jpg
ディスクロージャー [DVD]」 マイケル・ダグラス、デミ・ムーア/マイケル・クライトン『ディスクロージャー〈上〉 (ハヤカワ文庫NV)』『ディスクロージャー〈下〉 (ハヤカワ文庫NV)』/マイケル・クライトン原作・脚本・監督「大列車強盗」('78年/米)ショーン・コネリー/レスリー=アン・ダウン
DISCLOSURE 2.jpg「ディスクロージャー」.jpg ハイテク企業に勤めるトム・サンダース(マイケル・ダグラス)は、自分に内定していた副社長ポストに、社の創設者ボブ・ガーヴィン(ドナルド・サザーランド)が目をかけてきた野心溢れる女性メレディス(デミ・ムーア)が就任したことを知らされ唖然とする。彼女はかつてのトムの恋人だったのだ。そしてトムは就任したばかりの彼女に部屋に呼び出されて誘惑され、その誘いに負けそうになるも、かろうじて踏み止まり部屋を出る。しかし今度は、彼女から部屋でレイプをされそうになったと訴えられる―。

DISCLOSURE 1994 1.jpgDisclosure 1994.bmp 「レインマン」('88年)のバリー・レヴィンソン監督作で、原作は今月('08年11月)亡くなったマイケル・クライトン.jpgイケル・クライトン(Michael Crichton、1942‐2008/享年66)です。この人の著作で最初に映画化され『ディスクロージャー』単行本.jpgたのが『アンドロメダ病原体』('69年)であり、『ジュラシック・パーク』('90年)などのバイオ・サスペンスや、ハーバード・メディカルスクールの出身でもあるだけに、TVドラマ「ER」のようなメディカル系に強かった印象があります(1994年にはテレビ(「ER」)、映画(「ジュラシック・パーク」)、書籍(『ディスクロージャー』)で同時に1位となる3冠を成し遂げた)。ただし、その著作には『大列車強盗』('75年)などのミステリもあれば、『ライジング・サン』('92年)のようなビジネスドラマ(ビジネス・サスペンス)もあり、何でもござれといった多才さというか、守備範囲の広さを感じさせ、まだバリバリの現役であっただけに、66歳でのガン死は、壮絶な戦死といった印象も受けます。

『ディスクロージャー』単行本
   
 この作品もビジネスドラマ(ビジネス・サスペンス)であり、年下の女性上司による「逆セクハラ」を扱っていますが、日本では「セクシャル・ハラスメント」が「新語・流行語大賞」の"新語"部門金賞に選ばれたのが'89年です(この段階ではまだ"新モノ"扱いか)。男女雇用機会均等法に「性的嫌がらせへの配慮」が盛り込まれたのが8年後の'97年改正に於いてであり、「男性への性的嫌がらせ」も配慮の対象となったのが更に10年後の'07年4月ですから、この作品の原作が1993年に発表され'94年に映画化されたことを思うと、向こうは随分と先を行っていたなあと。但し、米国では、原著発表時点で既に「テーマが古い」との批評もあったとのこと...。

音楽:エンニオ・モリコーネ

 セクハラ事件を契機に主人公は、野望渦巻く企業のパワーゲームに巻き込まれていきますが、映画におけるマイケル・ダグラスは、「ウォール街」('87年)で若僧チャ-リー・シーンを翻弄するやり手の投資銀行家ゲッコー氏のイメージよりも、「危険な情事」('87年)で不倫相手のグレン・クローズに翻弄される弁護士のイメージに近いかも。

ドナルド・サザーランド ディスクロージャー .jpg 映画としては凡作になってしまったと思いますが、マイケル・クライトンへの追悼と、「ライジング・サン」よりはまだ映画らしい映画になっているということで本作品を取り上げました。DISCLOSURE film.gif上司デミ・ムーアの誘いを断った主人公に対する上司の仕打ちの1つに、会社のサーバーへのアクセス権を奪ってしまうというのがあって、そのことで主人公は仕事が完全にストップしてしまいパニックに陥るというのが当時としてはすごく"現代風"の恐怖だなあと思われ、印象的に残りました。

大列車強盗 (1976年)1.jpg「大列車強盗」1.jpg「大列車強盗」図11.jpg マイケル・クライトン原作のその他の映画化作品では、マイケル・クライトン自身の脚本・監督で、ショーン・コネリーが主演した「大列車強盗」('78年/米).jpg「大列車強盗」('78年/米)が面白かったです。ヴィクトリア朝時代のイギリスで実際に起きた事件を基に、怪盗とその仲間たちが厳重管理で列車輸送している莫大な金塊の強奪に挑むさまを描いた犯罪サスペンスで、ストーリーはいいし(1975年に出版された原作『大列車強大列車強盗 (1976年).jpg大列車強盗 (ハヤカワ文庫.jpg盗』('76年/早川書房、'81年/早川書房)は、今回取り上げた『ディスクロージャー』よりはっきり言って面白い)、怪盗ピアースを演じるショーン・コネリーをはじめ役者もいいです。ショーン・コネリー(当時48歳)は、桁の低い陸橋が何本も接近してくる中、それをよけながら疾走する列車の屋根を這い進んで行くというアクションをスタントなしでこなしています。
大列車強盗 (ハヤカワ文庫 NV 256)
大列車強盗 (1976年) (Hayakawa novels)

「ライジング・サン1.jpg「ライジング・サン3.jpg 「大列車強盗」と同じショーン・コネリー主演でフィリップ・カウフマンが監督した「ライジング・サン」('93年/米)は、ロサンゼルスに進出した日本企業のビルで殺人事件が発生し、ショーン・コネリー演じる刑事ジョン・コナーが捜査を進めるうち、文化の違いという壁にぶち当たるという、コネリーが製作総指揮と主演を兼ねたサスペンス・アクション。ネタバレになりますが、偽造ディスクを解明した女性がコナー刑事の愛人だったというオチは、裏ストーリーを暗示させるものの、あまりに説明不足。日本人の社員が黒服にサングラスだったり、日本語の使い方がヘンテコリンで笑わせます(もっと以前よりは良くはなっているが、この時点でまだ日本文化の認識の違いが窺えるのは仕方のないことか)。因みに、武満徹が劇中音楽を担当し、そのキャリアの中で唯一の外国映画音楽作品となりました。

「コンゴ」1.jpg「コンゴ」3.jpg あともう1本、フランク・マーシャル監督の「コンゴ」('95年)というのもありました。映画的展開の狭い「ライジング・サン」や「ディスクロージャー」の失敗を反省材料にしたのか、今度は旧作('80年発表)ながら派手な見せ場のある『失われた黄金都市』を映画化したもので、アフリカ奥地で、レーザー通信の核となるダイヤモンドの鉱脈を調べていたトラヴィコム社の先発隊が全滅し、手掛かりは通信画面に映し出された"灰色の猿人"らしきものだけだった...というもの。この監督はあまり上手くない(本業は映画プロデューサー。妻のキャスリーン・ケネディと共に、多くのスピルバーグ作品を手がけている)。観終わって時間が無駄だったと思いましたが(一緒に観た人間と「もう今後(こんご)は観ない」と冗談を言い合った)、amazonのレビューでは高い評価を得ているみたいで、自分たちだけ違う映画を観たのかなあ(笑)。


ディスクロージャー マイケル・ダグラス.jpg「ディスクロージャー」●原題:DISCLOSURE●制作年:1994年●制作国:アメリカ●監督:バリー・レヴィンソン●製作:バリー・レヴィンソン/マイケル・クライトン●脚本:ポール・アタナシオ●音楽:エンニオ・モリコーネ●撮影:アンソニー・ピアース=ロバーツ●原作:マイケル・クライトン●時間:128分●出演:マイケル・ダグラス/デミ・ムードナルド・サザーランド/キャロライン・グッドオール/デニス・ミラー/ロマ・マフィア/ドナルド・サザーランド ディスクロージャー.jpgニコラス・サドラー/ローズマリー・フォーサイス/ディラン・ベイカー/ジャクリーン・キム/ドナル・ローグ/アラン・リッチ/ スージー・プラクソン●日本公開:1995/02●配給:ワーナー・ブラザース (評価★★★)

ドナルド・サザーランド
      
   
     
ドナルド・サザーランド/ショーン・コネリー
「大列車強盗」2.jpg「大列車強盗」4.jpg「大列車強盗」●原題:THE GREAT TRAIN ROBBERY/THE FIRST GREAT TRAIN ROBBER●制作年:1979年●制作国:アメリカ●監督・脚本:マイケル・クライトン●製作:ジョン・フォアマン●撮影:ジェフリー・アンスワース●音楽:ジェリー・ゴールドスミス●原作:マイケル・クライトン●時間:111分●出演:ショーン・コネリー/ドナルド・サザーランド/レスリー=アン・ダウン/アラン・ウェッブ/ロバート・ラング/マイケル・エルフィック/パメラ・セイラム/ガブリエル・ロイド/ジェームズ・コシンズ/ブライアン・グローヴァー/マルコム・テリス/ウェイン・スリープ●日本公開:1979/11●配給: ユナイト映画(評価★★★★)

「ライジング・サン」2.jpg「ライジング・サン」4.jpg「ライジング・サン」●原題:RISING SUN●制作年:1993年●制作国:アメリカ●監督:フィリップ・カウフマン●製作:ピーター・カウフマン●脚本:マイケル・クライトン/フィリップ・カウフマン/マイケル・バックス●撮影:マイケル・チャップマン●音楽:武満徹●原作:マイケル・クライトン●時間:125分●出演:ショーン・コネリー/ウェズリー・スナイプス/ハーヴェイ・カイテル/ケイリー=ヒロユキ・タガワ/ケヴィン・アンダーソン/マコ/レイ・ワイズ/スタン・イーギー/ティア・カレル/タジャナ・パティッツ/ヴィング・レイムス/スティーヴ・ブシェミ/サム・ロイド●日本公開:1993/11●配給:20世紀フォックス(評価★★★)

「コンゴ」2.jpg「コンゴ」●原題:CONGO●制作年:1995年●制作国:アメリカ●監督:フランク・マーシャル●製作:キャスリーン・ケネディ/サム・マーサー●脚本:ジョン・パト「コンゴ」4.jpgリック・シャンリー●撮影:アレン・ダヴィオー●音楽:ジェリー・ゴールドスミス●原作:マイケル・クライトン●時間:109分●出演:ショーン・コネリー/ウェズリー・スナイプス/ハーヴェイ・カイテル/ケイリー=ヒロユキ・タガワ/ケヴィン・アンダーソン/マコ/レイ・ワイズ/スタン・イーギー/ティア・カレル/タジャナ・パティッツ/ヴィング・レイムス/スティーヴ・ブシェミ/サム・ロイド●日本公開:1995/10●配給:UIP(評価★★)
  
 【1994年単行本〔早川書房〕/1995年文庫化[ハヤカワ文庫NV(上・下)]】

「●映画」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【1785】 文藝春秋 『ビデオが大好き!365夜
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シリーズ中、特に充実した内容。回答者のコメントを読むのが楽しい。

ミステリーサスペンス洋画ベスト150.jpg大アンケートによるミステリーサスペンス洋画ベスト15074.JPG  『現金(げんなま)に体を張れ』(1956).jpg
大アンケートによるミステリーサスペンス洋画ベスト150 (文春文庫―ビジュアル版)』['91年]表紙イラスト:安西水丸/「現金(げんなま)に体を張れ」(1956).

 映画通と言われる約400人からとったミステリー・サスペンス洋画のアンケート集計で、『洋画ベスト150』('88年)の姉妹版とも、専門ジャンル版とも言えるもの('91年の刊行)。

 1つ1つの解説と、あと、スチール写真が凄く豊富で、一応、"ベスト150"と謳っていますが、ランキング200位まで紹介しているほか、監督篇ランキングもあり、個人的に偏愛するがミステリーと言えるかどうかというものまで、「私が密かに愛した映画」として別枠で紹介しています。また、エッセイ篇として巻末にある、20人以上の映画通の人たちによる、テーマ別のランキングも、内容・写真とも充実していて、このエッセイ篇だけで150ページあり、全体では600ページを超えるボリュームで、この文春文庫の「大アンケート」シリーズの中でもとりわけ充実しているように思えます。                                                         
第三の男.gif『恐怖の報酬』(1953) 2.jpg太陽がいっぱい.jpg 栄えある1位は「第三の男」、以下、2位に「恐怖の報酬」、3位に「太陽がいっぱい」、4位「裏窓」、5位「死刑台のエレベーター」、6位「サイコ」、7位「情婦」、8位「十二人の怒れる男」...と続き、この辺りのランキングは順当過ぎるぐらい順当ですが、どんな人が票を投じ、どんなコメントを寄せているのかを読むのもこのシリーズの楽しみで、時として新たな気づきもあります。因みに、ベスト150の内、ヒッチコック作品は17で2位のシドニー・ルメット、ビリー・ワイルダーの6を大きく引き離し、監督部門でもヒッチコックは1位です。
第三の男
第三の男2.jpg第三の男 観覧車.jpg 「第三の男」1949年・第3回カンヌ国際映画祭「パルム・ドール」受賞作)はグレアム・グリーン原作で、大観覧車、下水道、ラストの並木道シーン等々、映画史上の名場面として語り尽くされた映画ですが、個人的にも、1位であることにとりあえず異論を挟む余地はほとんどないといった感じ。この映画のラストシーンは、映画史上に残る名シーンとされていますが、男女の考え方の違いを浮き彫りにしていて、ロマンチックとかムーディとか言うよりも、ある意味で強烈なシーンかもしれません。オーソン・ウェルズが、短い登場の間に強烈な印象を残し(とりわけ最初の暗闇に光が差してハリー・ライムの顔が浮かび上がる場面は鮮烈)、「天は二物を与えず」とは言うものの、この人には役者と映画監督の両方が備わっていたなあと。この若くして過剰なまでの才能が、映画界の先達に脅威を与え、その結果彼はハリウッドから締め出されたとも言われているぐらいだから、相当なものです。
恐怖の報酬
恐怖の報酬3.jpg『恐怖の報酬』(1953).jpg恐怖の報酬1.bmp 「恐怖の報酬」1953年・第6回カンヌ国際映画祭「パルム・ドール」、1953年・第3回ベルリン国際映画祭「金熊賞」受賞作)は、油田火災を消火するためにニトログリセリンをトラックで運ぶ仕事を請け負った男たちの話ですが、男たちの目の前で石油会社の人間がそのニトロの1滴を岩の上に垂らしてみせると岩が粉微塵になってしまうという、導入部の演出が効果満点。イヴ・モンタンってディナー・ショーで歌っているイメージがあったのですが、この映画では汚れ役であり、粗野ではあるが渋い男臭さを滲ませていて、ストーリーもなかなか旨いなあと(徒然草の中にある「高名の木登り」の話を思い出させるものだった)。この作品は、'77年にロイ・シャイダー主演でアメリカ映画としてリメイクされています。
太陽がいっぱい」(音楽:ニーノ・ロータ
太陽がいっぱい PLEIN SOLEIL.jpg 「太陽がいっぱい」は、原作はパトリシア・ハイスミス(1921- 1995)の「才能あるリプレイ氏」(『リプリー』(角川文庫))で、'99年にマット・デイモン主演で再映画化されています(前作のリバイバルという位置づけではない)。『太陽がいっぱい』(1960).jpgこの淀川長治2.jpg映画の解釈では、淀川長治のホモ・セクシュアル映画説が有名です(因みに、原作者のパトリシア・ハイスミスはレズビアンだった)。あの吉行淳之介も、淀川長治のディテールを引いての実証に驚愕した(吉行淳之介『恐怖対談』)と本書にありますが、ルネ・クレマンが来日した際に淀川長治自身が彼に確認したところ、そのような意図は無いとの答えだったとのことです(ルネ・クレマン自身がアラン・ドロンに"惚れて"いたとの説もあり、そんな簡単に本音を漏らすわけないか)。(●2016年にシネマブルースタジオで再見。トムがフィリップの服を着て彼の真似をしながら鏡に映った自分にキスするシーンは、ゲイ表現なのかナルシズム表現なのか。マルジュがフィリップに「私だけじゃ退屈?そうなら船をおりるわ」とすねるのは、フィリップの恋人である彼女が、男性であるトムをライバル視してのことか。再見していろいろ"気づき"があった。) 
            
 個人的に、もっと上位に来てもいいかなと思ったのは(あまり、メジャーになり過ぎてもちょっと...という気持ちも一方であるが)、"Body Heat"という原題に相応しいシズル感のある「白いドレスの女」(27位)、コミカルなタッチで味のある「マダムと泥棒」(36位)、意外な場面から始まる「サンセット大通り」(46位)、カットバックを効果的に用いた強盗劇「現金(げんなま)に体を張れ」(51位)、「大脱走」を遥かに超えていると思われる「第十七捕虜収容所」(55位)、これぞデ・パルマと言える「殺しのドレス」(70位)(個人的には「ボディ・ダブル」がランクインしていないのが残念)、チャンドラーの原作をボギーが演じた「三つ数えろ」(92位)、脚本もクリストファー・リーブの演技も良かった「デス・トラップ/死の罠」(94位)、ミステリーが脇に押しやられてしまっているため順位としてはこんなものかも知れないけれど「ディーバ」(101位)、といった感じでしょうか、勝手な見解ですが。

kathleen-turner-body-heat.jpg白いドレスの女1.jpg白いドレスの女2.jpg白いドレスの女.jpg 「白いドレスの女」は、ビリー・ワイルダーの「深夜の告白」('48年)をベースにしたサスペンスですが、共にジェイムズ・M・ケインの『殺人保険』(新潮文庫)が原作です(ジェイムズ・ケインは名画座でこの作品と併映されていた「郵便配達は二度ベルを鳴らす」の原作者でもある)。この映画では暑さにむせぶフロリダが舞台で、主人公の弁護士の男がある熱帯夜の晩に白いドレスの妖艶な美女に出会い、彼女の虜になった彼は次第に理性を奪われ、彼女の夫を殺害計画に加担するまでになる―という話で、ストーリーもよく出来ているし、キャスリーン・ターナーが悪女役にぴったり嵌っていました。 kathleen-turner-body-heat(1981)

マダムと泥棒1.jpgマダムと泥棒.jpg 「マダムと泥棒」は、老婦人が営む下宿に5人の楽団員の男たちが練習部屋を借りるが、実は彼らは現金輸送車を狙う強盗団だった―という話で、これもトム・ハンクス主演で'04年に"The Ladykillers"(邦題「レディ・キラーズ」)というタイトルのまま再映画化されています。イギリス人の監督と役者でないと作り得ないと思われるブラック・ユーモア満載のサスペンス・コメディですが、この作品でマダムこと老婦人を演じて、アレック・ギネスやピーター・セラーズといった名優と渡り合ったケイティ・ジョンソンは、後にも先にもこの映画にしか出演していない全くの素人というから驚き。この作品は、本書の姉妹版の『洋・邦名画ベスト150 〈中・上級篇〉』('92年/文春文庫ビジュアル版)では、洋画部門の全ジャンルを通じての1位に選ばれています。

現金に体を張れ.jpg 「現金に体を張れ」(原題:THE KILLING)は、刑務所を出た男が仲間を集めて競馬場の賭け金を奪うという、これもまた強盗チームの話ですが、綿密なはずの計画がちょっとした偶然から崩れていくその様を、同時に起きている出来事を時間を繰り返カットバック方式でそれぞれの立場から描いていて、この方式のものとしては一級品に仕上がっており、また、人間の弱さ、夢の儚さのようなものもしかっり描けています。 スタンリー・キューブリック (原作:ライオネル・ホワイト) 「現金(ゲンナマ)に体を張れ」 (56年/米) ★★★★☆

『パルプ・フィクション』(1994) 2.jpgPulp Fiction(1994) .jpg 本書刊行後の作品ですが、同じくカットバックのテクニックを用いたものとして、ボスの若い妻(ユマ・サーマン)と一晩だけデートを命じられたギャング(ジョン・トラヴォルタ)の悲喜劇を描いたクエンティン・タランティーノ監督の1994年・第47回カンヌ国際映画祭「パルム・ドール」受賞作「パルプ・フィクション」があり(インディペンデント・スピリット賞作品賞も受賞)、テンポのいい作品でしたが(アカデミー脚本賞受賞)、カットバック方式に限って言えば、「現金に体を張れ」の方が上だと思いました(競馬場強盗とコーヒー・ショップ強盗というスケールの違いもあるが)。

Pulp Fiction(1994)

deathtrap movie.jpgdeathtrap movie2.jpg 「デス・トラップ 死の罠」の原作は「死の接吻」「ローズマリーの赤ちゃん」のアイラ・レビンが書いたブロードウェイの大ヒット舞台劇。落ち目の劇作家(マイケル・ケイン)の許に、かつてのシナリオライター講座の生徒クリフ(クリストファー・リーヴ)が書いた台本「デストラップ」が届けられ、作家は、金持ちの妻マイラ(ダイアン・キャノン)に「この劇はクリストファー・リーブ superman.jpg傑作だ」と話し、盗作のアイデアと青年の殺害を仄めかし、青年が郊外の自宅を訪れる際に殺害の機会を狙う―(要するに自分の作品にしてしまおうと考えた)。ドンデン返しの連続は最後まで飽きさせないもので、「スーパーマン」のクリストファー・リーブが演じる劇作家志望のホモ青年も良かったです(この人、意外と演技派俳優だった)。
「デス・トラップ 死の罠」00.jpg クリストファー・リーブ/マイケル・ケイン

映画「ディーバ].jpgディーバ.jpg 「ディーバ」は、オペラを愛する18歳の郵便配達夫が、レコードを出さないオペラ歌手のコンサートを密かに録音したことから殺人事件に巻き込まれるというもので、1981年12月にユニフランス・フィルム主催の映画祭「新しいフランス映画を見るフェスティバル」での上映5作品中の1本目として初日にThe Space (Hanae Mori ビル5F)で上映されるも、その時はすぐには日本配給には結びきませんでした。しかし、'81年シカゴ国際映画祭シルヴァー・ヒューゴー賞を受賞し、'82年セザール賞で最優秀新人監督作品賞(ジャン=ジャック・ベネックス)のほかに、撮影賞(フィリップ・ルースロ)、Jean-Jacques Beineix's Diva.jpgディーバ_5455.JPG音楽賞(ウラディミール・コスマ)など4部門で受賞したことなどもあり、日本でも遅ればせながらフランス映画社配給で'83年11月にロードショーの運びとなりました('82年4月にアメリカでも公開)。個人的には'84年に名画座(大井武蔵野館)で観て、'94年に俳優座シネマテンでのリバイバル上映を観ました。デラコルタ(スイス人作家ダニエル・オディエのペンネーム)の原作は、ジグゾーパズル好きで、波を止めようと考えているゴロディッシュという不思議な男と、彼にくっついて回るアルバ(原作では13歳のフレンチガール)という少女を主人公にしたセリノアール6部作になっているそうで、「ディーバ」はその中の一篇です(この作品のみが翻訳あり)。新潮文庫に翻訳のある原作と映画を比べてみるのも面白いかと思います。


POWER PLAY OPERATION OVERTHROW.jpgパワー・プレイ.jpgPower Play by Peter O'Toole.jpg「パワー・プレイ (1978).jpg 「私が密かに愛した映画」で「パワー・プレイ」を推した橋本治氏が、「すっごく面白いんだけど、これを見たっていう人間に会ったことがない」とコメントしてますが、見ましたよ。

Power Play (1978).jpg ヨーロッパのある国でテログループによる大臣の誘拐殺人事件が起き、大統領がテロの一掃するために秘密警察を使ってテロリスト殲滅を実行に移すもののそのやり方が過酷で(名脇役ドナルド・プレザンスが秘密警察の署長役で不気味な存在感を放っている)、反発した軍部の一部が戦車部隊の隊長ゼラー(ピーター・オトゥール)を引き入れクーデターを起こします。クーデターは成功しますが、宮殿の大統領室にいたのは...。「漁夫の利」っていうやつか。最後、ピーター・オトゥールがこちらに向かってにやりと笑うのが印象的でした。

「パワー・プレイ」輸入版ポスター(上)/輸入盤DVD(右)
                            

第三の男 ポスター.jpg「第三の男」●原題:THE THIRD MAN●制作年:194日比谷映画・みゆき座.jpg日比谷映画.jpg9年●制作国:イギリス●監督:キャロル・リード●製作:キャロル・リード/デヴィッド・O・セルズニック●脚本:グレアム・グリーン●撮影:ロバート・クラスカー●音楽:アントン・カラス●原作:グレアム・グリーン●時間:104分●出演:ジョセフ・コットン/オーソン・ウェルズ/トレヴァー・ハワード/アリダ・ヴァリ/バーナード・リー/ジェフリー・キーン/エルンスト・ドイッチュ●日本公開:1952/09●配給:東和●最初に観た場所:千代田映画劇場(→日比谷映画) (84-10-15) (評価:★★★★☆)
千代田映画劇場 東京オリンピック - コピー.jpg
日比谷映画内.jpg
千代田映画劇場(日比谷映画) 1957年4月東宝会館内に「千代田映画劇場」(「日比谷映画」の前身)オープン、1984年10月、「日比谷映画劇場」(1957年オープン(1,680席))閉館に伴い「日比谷映画」に改称。2005(平成17)年4月8日閉館。

千代田劇場 「東京オリンピック」('65年/東宝)封切時
                                                     
「恐怖の報酬」.bmp恐怖の報酬.jpg恐怖の報酬3.jpg「恐怖の報酬」●原題:LE SALAIRE DELA PEUR●制作年:1953年●制作国:フランス●監督・脚本:アンリ・ジョルジュ・クルーゾー●撮影:アルマン・ティラール●音楽:ジョルジュ・オーリック●原作:ジョルジュ・アルノー●時間:131分●出演:イヴ・モンタン/シャルル・ヴァネル/ヴェラ・クルーゾー/フォルコ・ルリ/ウィリアム・タッブス/ダリオ・モレノ/ジョー・デスト●日本公開:1954/07●配給:東和●最初に観た場所:新宿アートビレッジ (79-02-10) (評価:★★★★)●併映:「死刑台のエレベーター」(ルイ・マル)

太陽がいっぱい 和田誠.jpg「ポスター[左](和田 誠
太陽がいっぱい15.jpg太陽がいっぱい ポスター2.jpg太陽がいっぱい ポスター.jpg「太陽がいっぱい」●原題:PLEIN SOLEIL●制作年:1960年●制作国:フランス●監督:ルネ・クレマン●製作:ロベール・アキム/レイモン・アキム●脚本:ポール・ジェゴフ/ルネ・クレマン●撮影:アンリ・ドカエ●音楽:ニーノ・ロータ●原作:パトリシア・ハイスミス 「才能あ文芸坐.jpg文芸坐ル・ピリエ.jpgるリプレイ氏」●時間:131分●出演:アラン・ドロン/マリー・ラフォレ/モーリス・ロネ/ エルヴィール・ポペスコ/エルノ・クリサ/ビル・カーンズ/フランク・ラティモア/アヴェ・ニンチ●日本公開:1960/06●配給:新外映●最初に観た場所:文芸坐ル・ピリエ (83-02-21)●2回目:北千住シネマブルー・スタジオ(16-02-23) (評価:★★★★)
文芸坐ル・ピリエ (11979(昭和54)年7月20日、池袋文芸坐内に演劇主体の小劇場としてオープン)1997(平成9)年3月6日閉館

「白いドレスの女」.jpg「白いドレスの女」●原題:BODY HEAT●制白いドレスの女8.jpg作年:1981年●制作国:アメリカ●監督・脚本:ローレンス・カスダン●製作:フレッド・T・ガロ●撮影:リチャード・H・クライン●音楽:ジョン・バリー●原作:ジェイムズ・M・ケイン 「殺人保険」●時間:113分●出演:ウィリアム・ハート/BODY HEAT.bmpキャスリーン・ターナー/リチャード・クレンナ/テッド・ダンソン/ミッキー・ローク/J・A・プレストン/ラナ・サウンダース/キム・ジマー●日本公開:1982/02●配給:ワーナー・ブラザース●最初に観た場所:三鷹オスカー (82-08-07) ●2回目:飯田橋ギンレイホール(86-12-13)(評価:★★★★☆)●併映(1回目):「郵便配達は二度ベルを鳴らす」(ボブ・ラフェルソン)

THE LADYKILLERS 1955.jpgマダムと泥棒2.jpg「マダムと泥棒」●原題:THE LADYKILLERS●制作年:1955年●制作国:イギリス●監督:アレクサンダー・マッケンドリック●製作:セス・ホルト●脚本:ウィリアム・ローズ●撮影:オットー・ヘラー●時間:97分●出演:アレック・ギネス/ピーター・セラーズ/ハーバート・ロム/ケイティ・ジョンソン/シル・パーカー/ダニー・グリーン/ジャック・ワーナー/フィリップ・スタントン/フランキー・ハワード●日本公開:1957/12●配給:東和 (評価:★★★★)

現金に体を張れ01.jpgthe killing.jpg現金に体を張れ1.jpg「現金に体を張れ」●原題:THE KILLING●制作年:1956年●制作国:アメリカ●監督:スタンリー・キューブリック●製作:ジェームス・B・ハリス●脚本:スタンリー・キューブリック/ジム・トンプスン●撮影:ルシエン・バラード●音楽:ジェラルド・フリード●原作:ライオネル・ホワイト 「見事な結末」●時間:83分●出演:スターリング・ヘイドン/ジェイ・C・フリッペン/メアリ・ウィンザー/コリーン・グレイ/エライシャ・クック/マリー・ウィンザー/ヴィンス・エドワーズ●日本公開:1957/10●配給:ユニオン=映配●最初に観た場所:新宿シアターアプル (86-03-22) (評価:★★★★☆)

パルプフィクション5E.jpegパルプ・フィクション4.jpg「パルプ・フィクション」●原題:PULP FICTION●制作年:1994年●制作国:アメリカ●監督・脚本:クエンティン・タランティーノ●製作:ローレンス・ベンダーパルプフィクション スチール.jpg●原案:クエンティン・タランティーノ/ロジャー・エイヴァリー●撮影:アンジェイ・セクラ●音楽:カリン・ラットマン●時間:155分●出演:ジョン・トラヴォパルプ・フィクション ジョン トラボルタ.jpgルタ/サミュエル・L・ジャクソン/ユマ・サーマン/ハーヴェイ・カイテル/アマンダ・プラマー/ティム・ロス/クリストファー・ウォーケン/ビング・ライムス/ブルース・ウィリス/エリック・ストルツ/ロザンナ・アークエット/マリア・デ・メディロス/ビング・ライムス●日本公開:1994/09●配給:松竹富士 (評価:★★★★)
ジョン トラボルタ(1994年・第20回ロサンゼルス映画批評家協会賞「主演男優賞」
   
「デス・トラップ 死の罠」8.jpegDEATHTRAP 1982 2.jpg「デス・トラップ 死の罠」●原題:DEATHTRAP●制作年:1982年●制作国:アメリカ●監督:シドニー・ルメット●製作:バート・ハリス●脚本:ジェイ・プレッソン・アレン●撮影:アンジェイ・バートコウィアク●音楽:ジョニー・マンデル●原作:アイラ・レヴィン●時間:117分●出演デス・トラップ 死の罠.jpg「デストラップ」ケイン.jpg:マイケル・ケイン/クリストファー・リーヴ/ダイアン・キャノン/アイリーン・ワース/ヘンリー・ジョーンズ/ジョー・シルヴァー●日本公開:1983/09●配給:ワーナー・ブラザース●最初に観た場所:テアトル吉祥寺 (86-02-15) (評価:★★★☆)●併映「殺しのドレス」(ブライアン・デ・パルマ)


ディーバ  チラシ.jpgディーバ 1981.jpg「ディーバ」●原題:DIVA●制作年:1981年●制作国:フランス●監督:ジャン=ディーバ dvd.jpgジャック・ベネックス●製作:イレーヌ・シルベルマン●脚本:ジャン=ジャック・ベネックス/セルジュ・シルベルマン●撮影:フィリップ・ルースロ●音楽:ウラディミール・コスマ●原作:デラコルタ●時間:117分●出演:フレデリック・アンドレイ/ウィルヘルメニア=ウィンギンス・フェルナンデス/リシャール・ボーランジェ/シャンタル・デリュアズ/ジャック・ファブリ/チュイ=アン・リュー●日本公開:1981/12●配給:フランス映画社●最初に観た場所:大井武蔵野館 (84-06-16)●2回目:六本木・俳優座シネマテン(97-10-03) (評価:★★★★)●併映(1回目):「パッション」(ジャン=リュック・ゴダール)
 
「パワー・プレイ 参謀たちの夜」  .jpgPOWER PLAY OPERATION OVERTHROW 1978 .jpg「パワー・プレイ 参謀たちの夜」●原題:POWER PLAY OPERATION OVERTHROW●制作年:1978年●制作国:イギリス/カナダ●監督:マーティン・バーク●製作:クリストファー・ダルトン●撮影:オウサマ・ラーウィ●音楽:ケン・ソーン●時間:110分●出演:ピーター・オトゥール/デヴィッド・ヘミングス/バリー・モース/ドナルド・プレザンス/ジョン・グラニック/チャック・シャマタ/アルバータ・ワトソン、/マーセラ・セイント・アマント/オーガスト・シェレンバーグ●日本公開:1979/11●配給:ワールド映画●最初に観大塚駅付近.jpg大塚名画座 予定表.jpg大塚名画座4.jpg大塚名画座.jpgた場所:大塚名画座 (80-02-21) (評価:★★★☆)●併映:「Z」(コスタ・ガブラス)

大塚名画座(鈴本キネマ)(大塚名画座のあった上階は現在は居酒屋「さくら水産」) 1987(昭和62)年6月14日閉館

《読書MEMO》
- 構成 -
○座談会 それぞれのヒッチコック
○作品編 ここに史上最高最強の151の「面白い映画」がある
○監督編 人をハラハラさせた人たち
○エッセイ集-映画を見ることも、映画について読むことも楽しい(一部)
 ・原作と映画の間に (山口雅也)
 ・どんでん返しの愉楽 (筈見有弘)
 ・ぼくの採点表 (双葉十三郎)
 ・映画は見るもの、ビデオは読むもの (竹市好古)
 ・わたしの「推理映画史」 (加納一朗)
 ・法廷映画この15本- 13人目の陪審員 (南俊子)
 ・襲撃映画この15本-なにがなんでも盗み出す (小鷹信光)
 ・ユーモア・パロディ映画この20本-笑うサスペンス (結城信孝)
 ・10人のホームズ、10人のワトソン、10人のモリアティ、そして8人のハドソン夫人 (児玉数夫)
 ・世界の平和を守った10人の刑事 (浅利佳一郎)
 ・世界を震えあがらせた10人の悪党 (逢坂剛)
 ・サスペンス映画が似合う女優10人 (渡辺祥子)
 ・フランス人はなぜハドリー・チェイスが好きなのか (藤田宜永)
 ・主題曲は歌い、叫ぶ (岩波洋三)
 ・『薔薇の名前』と私を結んだ赤い糸 (北川れい子)
 ・マイケル・ケインはミステリー好き (松坂健)
 ・TV界のエラリー・クイーン (小山正)
 ・394のアンケートを読んで (赤瀬川準)

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映画公開の5年後に出た翻訳。思弁的・実験的だが読みやすく、醸す雰囲気は好み。

存在の耐えられない軽さ(ポスター).jpg存在の耐えられない軽さ.jpg 存在の耐えられない軽さ2.jpg 存在の耐えられない軽さ 全集.jpg 存在の耐えられない軽さv.jpg 
映画 「存在の耐えられない軽さ」 ポスター(渋谷パンテオン)『存在の耐えられない軽さ』(単行本)『存在の耐えられない軽さ (集英社文庫)』『存在の耐えられない軽さ (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 1-3)』「存在の耐えられない軽さ [DVD]
Milan Kundera
Milan Kundera.jpg 1984年にフランスで出版された、まだノーベル文学賞を貰っていない最後の大物作家と言われているチェコ出身のミラン ・クンデラ(Milan Kundera)の作品で、発表時の政治的事情(フランスへの亡命状態だった)で、自身の母国語であるチェコ語ではなくフランス語で書かれました。

The Unbearable Lightness of Being1.jpg 冷戦下のチェコスロバキア、1968年のソ連軍侵攻・「プラハの春」前後の話で、運命に弄ばれ苦悩する男女を描いた小説ですが、政治的な問題(チェコスロバキアという国名が使われていないことからみてもその複雑さが窺える)のほかに哲学的問題(ニーチェの永劫回帰論を引いてのタイトルの「存在の耐えられない軽さ」ということの解題からこの小説は始まる)、母と娘の関係といった精神分析的問題、言葉とコミュニケーションの問題、心と身体(性)の疎外問題などの様々なテーマを作中で扱っています。
The Unbearable Lightness of Being (1988)
The Unbearable Lightness of Being (1988).jpgThe Unbearable Lightness of Being2.jpg 先にフィリップ・カウフマン監督の映画('87年/米)の方を観てそれほど悪くないと思ったのですが(原作の翻訳が出たのは映画公開より5年後)、映画ではイギリス人俳優のダニエル・デイ=ルイスが、天才脳外科医でありながらプラハ抵抗運動のシンパでもあり、女たらしのプレイボーイだけれども妻をもきっちり愛しているという、なかなか魅力的な主「存在の耐えられない軽さ」.jpg人公トマーシュをうまく演じていてました(ダニエル・デイ=ルイスは翌年、「マイ・レフトフット」('89年)でアカデミー賞主演男優賞を受賞する)。やりたいことはすべてやりながら、最後にあっさり事故死してしまったトマーシュ存在の耐えられない軽さ1_2.jpgという男を通して、人間に備わった人格の複雑さと多面性、運命の前での人間の生の脆さなどを感じさせる佳作でした。

ジュリエット・ビノシュ/ダニエル・デイ=ルイス

(主人公の妻を演じたフランス人女優ジュリエット・ビノシュはその後、「トリジュリエット・ビノシュ   .jpgダニエル・デイ=ルイス .jpgコロール/青の愛」('93年)でヴェネツィア国際映画祭女優賞、「イングリッシュ・ペイシェント」('96年)でベルリン国際映画祭銀熊賞女優賞とアカデミー助演女優賞、「トスカーナの贋作」('10年)でカンヌ国際映画祭女優賞を受賞し、世界三大映画祭の女優賞をすべて受賞した最初の女優となっている。)(更に、主人公トマーシュを演じたダニエル・デイ=ルイスもその後、「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」('07年)、「リンカーン」('12年)でもアカデミー賞主演男優賞を受賞し、アカデミー主演男優賞を3回受賞した唯一の俳優となった。)
「イングリッシュ・ペイシェント」('96年)でアカデミー賞助演女優賞を獲得したジュリエット・ビノシュ/「マイ・レフトフット」('89年)でアカデミー賞主演男優賞を受賞したダニエル・デイ=ルイス
   
わが青春のフロレンス チラシ.jpg122_metelloわが青春のフロレン.jpg この映画を観たときにマウロ・ボロニーニ監督の「わが青春のフロレンス」('70年/伊)という古い映画を思い出しました。

METELLO 1970 2.jpgMETELLO 1970 1.jpg 無政府主義者の父親に育てられた主人公メテッロ(マッシモ・ラニエリ)は、水難事故で父を失ってから孤児として苦労する。ベルギーへの移住を拒否し、両親の故郷フィレンツェでレンガ職人として働き始めるが、次第に労働者の権利に目覚め、ストライキの中心人物となっていく。その間、メテッロとMetello 1970.jpg 未亡人ヴィオラ(ルチア・ボゼー)との恋、事故死した仲間の娘エルシリア(オッタヴィア・ピッコロ)との恋と結婚、隣家の婦人イディーナ(ティナ・オーモン)との浮気なども―。

マッシモ・ラニエリ/オッタビア・ピッコロ

わが青春のフロレンス 01.jpg 原作はヴァスコ・プラトリーニ。ルキノ・ヴァレリオ・ズルリーニ監督の「家族日誌」の脚本家、ヴィスコンティ監督の「若者のすべての」の共同原案者でもあり、20世紀初めのフィレンツェを舞台に、階級意識に目覚め労働運動のリーダーとなっていく男を描いたものですが、この主人公は、闘争のかたわら人妻と過ちを犯してしまうというもので、同じように人間の多面性をよく描いている映画でした。この作品でエルシリアを演じたオッタヴィア・ピッコロが、1970年のカンヌ国際映画祭女優賞を受賞しています。
  
 ミラン・クンデラの原作『存在の耐えられない軽さ』の方は、当時の政治状況やプラハ抵抗運動で起きた出来事が色濃く影を落とす一方で、トマーシュと彼のドン・ファンぶりに悩みながらも愛を貫こうとするテレザの複雑な愛の物語になっていて、トマーシュは画家のサビナを愛人とするなど一夫多妻生活を送っていて、サビナも大学教授フランツとも付き合い、さらにテレザも他の男と交わったり、サビナとも女同士の妖しい関係になるなど、登場人物は少ないが(みな知識人)、彼らはそれぞれに、心と身体の疎外やある種のコミュニケーション不全に悩んでいます(サビナとフランツの言葉の行き違いなどはディスコミュニケーションの問題を、テレザが男と寝る場面では身体の心に対する裏切りを、それぞれ深く抉っている)。
 
旅芸人の記録パンフ.gif そうした登場人物の会話や思惟が、時に作者の哲学的考察も交えて思弁的に展開されていて、更にそれを作者はカットバックを用いた実験的な方法で描いており、例えば、映画のラストで主人公が見舞われるアクシデントも、原作では中ほどで、しかも伝聞スタイルで出てきます(ミラン・クンデラに原作の感想を聞かれたダニエル・デイ=ルイスが「映画化は無理だと思った」と答えたところ、映画学校で教えたこともあるクンデラは「私もだよ」と笑いながら言ったという)。
 
 人物の置かれた状況や意識をコラージュのように貼り合わせ、歴史とそれに巻き込まれる男女の関係を描くという意味で、平面的なカウフマン監督の映画よりも、むしろ構成的にはテオ・アンゲロプロス監督の旅芸人の記録」('75年)を連想しました(クンデラの映画学校講師時代の生徒にはミロシュ・フォルマン(「カッコーの巣の上で」('75年)の監督)がいる)。 

 何れにせよかなりの力量が感じられ、部分的には修辞的に凝った記述もあり、またチェコの歴史についてもある程度の知識が求められるのかも。但し、全体的には決して読むこと自体に難儀する小説ではなく、むしろスラスラ読めてしまい、しかもこの小説が醸す雰囲気は何となく自分の好みなのですが、どこまで作者の意図を理解できたかは心もとないといったところです。
 
 政治的理由で人々が職場や祖国を追われるといったことが身近な体験としてないと、なかなかわからない面もあるのかも知れませんが、人生の偶然の出来事も個人の意思による選択も、すべて大きな歴史の流れの中でのそれに重なる個人史として位置づけてみるところに(この物語が作者の述懐の如く書かれているのが1つのミソではないか)、日本人の人生と歴史の関わりについての考え方との大きな違いを感じました。

「存在の耐えられない軽さ」渋谷パンテオン.jpg原題:THE UNBEARABLE LIGHTNESS OF BEING●制作年:1988年●制作国:アメリカ●監督:フィリップ・カウフマン●音楽:アラン・スプレット●原作:渋谷パンテオン 2.jpgミラン ・クンデラ●時間:171分●出演:ダニエル・デイ・ルイスジュリエット・ビノシュ/レナ・オリン/ダニエル・オルブリフスキー/デレク・デ・リント/エルランド・ヨゼフソン●日本公開:1988/10●配給:松竹富士●最初に観た場所:渋谷パンテオン (88-11-13) (評価★★★★)
渋谷パンテオン 東急文化会館1F、1956年12月1日オープン。2003(平成15)年6月30日閉館。

「わが青春のフロレンス」●原題:METELLO●制作年:1970年●制作国:イタリア●監督:マウロ・ポロニーニ●音楽:エンニオ・モリコーネ●原作:ヴァスコ・プラトリーニ 「メテッロ」●時間:111分●出演:マッシモ・ラニエリ/オッタビア・ピッコロ/ティナ・オーモン/ルチア・ボゼー/フランク・ウォルフ/アドルフォ・チェリ●日本公開:1971年●配給:日本ヘラルド映画●最初に観た場所:高田馬場パール座 (77-12-16) (評価★★★☆)●併映「リップスティック」(ラモンド・ジョンソン)

妻エルシリア(オッタビア・ピッコロ)/隣家の女イディーナ(ティナ・オーモン)/未亡人ヴィオラ(ルチア・ボゼー)
わが青春のフロレンス7.jpg わが青春のフロレンス8.png わが青春のフロレンス6.jpg

Tina Aumont.jpgティナ・オーモン(Tina Aumont) in「青い体験」('73年/伊)

【1998年文庫化[集英社文庫]】


ミラン・クンデラ.jpgミラン・クンデラ チェコ出身の作家
2023年7月11日死去。94歳。「存在の耐えられない軽さ(The Unbearable Lightness of Being)」などの作品で知られる。

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ロマンチックで滑稽で切ない「白夜」。ヴィスコンティよりもブレッソンの映画が良かった。

白夜.jpg 白夜 [DVD]PL.jpg 白夜2.jpg 白夜 映画.jpg 白夜 ブレッソン ブルーレイ.jpg
白夜 (角川文庫クラシックス)』/ルキノ・ヴィスコンティ監督「白夜 [DVD]」/ロベール・ブレッソン監督「白夜」チラシ・パンフレット/「ロベール・ブレッソン監督『白夜』Blu-ray」(2016)

「白夜」挿画 (1922年).jpg 1848年、ドストエフスキーが20代後半に発表した初期短篇集で、後の作品群のような重々しいムードは無く、むしろ処女作『貧しき人びと』の系譜を引くヒューマンタッチの作品が主で、内容的にも読みやすいものばかりです。

 表題作の「白夜」も恋愛がテーマで、主人公は美しい恋愛を夢想するインテリ青年で、理想の女性を求め白夜の街を徘徊していたある日、橋の上で泣いている美しい女性に出会い、恋人に捨てられたらしい彼女の話を聞くうちに自分が恋に陥る―というものですが、ロマンチックだけれどもどこかコミカルでもあり、切ないと言うか、但し、ちょっと残酷でもあるお話です。

「白夜」挿画 (1922年)

 人生で絶対的なものなど希求した覚えがないという人でも、若かりし頃は"絶対の恋人"というものを夢見たことがあるのではないか、夢と現実の違いを知ることが大人になるということなのか、などと多少しみじみした気分に...。

 また、この主人公がとる、フィアンセがきっと帰ってくると彼女を勇気づける利他的とも思える行動は、『貧しき人びと』や、後の『永遠の夫』などにも通じるモチーフのように思えます。

 主人公は、愛する人の聞き役、相談役であることに充足していて、いつまでもその状態が続くことを欲しながらも、ライバルから彼女を奪い取ろうとはせず、結果的には彼女を失うための努力をしているような感じになっている...。

白夜4.jpg この作品は、ルキノ・ヴィスコンティ監督がマルチェロ・マストロヤンニ、マリア・シェル主演で映画化('57年/モノクロ)しているほか、「少女ムシェット」のロベール・ブレッソン監督がまったくの素人俳優を使って映画化('71年/カラー)していますが、個人的には後者の方が良かったです。  

白夜 ヴィスコンティ版1シーン.jpg ルキノ・ヴィスコンティ版「白夜」は、ペテルブルクからイタリアの港町に話の舞台を移し、但し、オールセットでこの作品を撮っていて(モノクロ)、主人公の孤独な青年にマルチェロ・マストロヤンニ、恋人に去られた女性に「居酒屋」のマリア・シェル、その恋人にジャン・マレーという錚々たる役者布陣であり、キャスト、スタッフ共に国際的です。

白夜 ルチェロ・マストロヤンニ/マリア・シェル.jpg 「ヴェネツィア高裁映画祭・銀獅子賞」を受賞するなど、国際的にも高い評価を得た作品で、タイトルに象徴される幻想的な雰囲気を伝えてはいるものの、細部において小説から抱いたイメージと食い違い、個人的にはやや入り込めなかったという感じです。

 撮影に膨大な時間をかける傾向にあるヴィスコンティは、短時間、低予算でも映画を作ることができることを証明しようとしてこの作品を撮ったらしいですが、他のヴィスコンティ作品に比べると粗さが目立つ気もしました(ヴィスコンティはヴィスコンティらしく、金と時間をふんだんに使って映画を撮るべきということか。但し、これは個人的な見解であって、この作品に対する一般の評価は高い)。
      
ブレッソン 白夜 2.jpg白夜3.jpg 一方のロベール・ブレッソン版「白夜」は、舞台をパリに移し、青年はポン・ヌフの橋からセーヌ河に身投げしようとしている女性と出会うという地理的設定にしています。(1978年2月に「岩波ホール」で公開されて以来、34年ぶりとなる2012年10月に「渋谷ユーロスペース」にてリバイバル上映され、2016年5月に本邦初ソフト(Blu-ray)が販売された。この映画に惚れ込んだ人物が個人で会社を設立して、配給・ソフト発売にこぎつけたとのこと)。

映画:白夜.jpg 神経質そうでややストーカーっぽいとも思える青年(ギョーム・デ・フォレ)の、それでいて少白夜1シーン.bmpし滑稽で哀しい感じが原作を身近なものにしていて、恋人の名前をテープに吹き込んだりしている点などはオタク的であり、こんな青年は実際いるかもしれないなあと白夜1.jpg―。そうしたギョーム・デ・フォレの鬱屈した中にも飄々としたユーモアを漂わせた青年に加えて、イザベル・ヴェンガルテンの内に秘めた翳のある女性も良かったように思います(ギヨーム・デ・フォレ、イザベル・ヴェンガルテン共にこの作品に出演するまで演技経験が無かったというから、ブレッソンの演出力には舌を巻く)。

白夜 フランス版ポスター.jpgQUATRE NUITS D'UN REVEUR1.bmp 夜のセーヌ河をイルミネーションに飾られた水上観光バス(バトー・ムーシュ)がボサノヴァ調の曲を奏でながらクルージングする様を、橋上から情感たっぷりに撮った映像はため息がでるほど美しく、原作のロマンチシズムを極致の映像美にしたものでした。

 「白夜」という原作タイトルは邦訳の際のもので、ドストエフスキーがこの短編につけたタイトルは「「夢想者の4夜」です(右はブレッソン版ポスター)。

 どちらかと言えば、ヴィスコンティの作品の方を評価する人が多いのかも知れませんが、孤独な青年の繊細さ、情熱、詩情を中心に据えた物語だとすると、ジャン・マレー(元の恋人役)の存在はちょっと重すぎる感じもしました。最後に「元カレ」が現れる場面は共に原作通りですが、そもそも原作には、ヴィスコンティの作品のような離れ離れになる前の男女の遣り取りはなく、もっとシンプルです。いろいろな点で、個人的にはブレッソンの作品の方が勝っていると考えます。

ヴィスコンティ 白夜 .jpg「白夜」(ヴィスコンティ版).jpg「白夜」(ヴィスコンティ版)●原題:QUATER NUITS D'UN REVEUR●制作年:1957年●制作国:イタリア・フランス●監督・脚本:ルキノ・ヴィスコンティ●撮影:ジュゼッペ・ロトゥンノ●音楽:ニーノ・ロータ●原作:ドストエフスキー●時間:107分●出演:マルチェロ・マストロヤンニ/マリア・シェル/ジャン・マレー/クララ・カラマイ/マリア・ザノーリ/エレナ・ファンチェーラ●日本公開:1958/04●配給:イタリフィルム●最初に観た場所:高田馬場東映パラス(86-11-30)(評価★★★)●併映:「世にも怪奇な物語」(ロジェ・バディム/ルイ・マル/フェデリコ・フェリーニ)

QUATRE NUITS D'UN REVEUR 1971.bmp「白夜」(ブレッソン版)●原題:QUATRE NUITS D'UN REVEUR(英:FOUR NIGHTS OF A DREAMER)●制作年:1971年●制作国:フランス●監督・脚本:ロベール・ブレッソン●撮影:ピエール・ロム●音楽:ミシェル・マーニュ●原作:ドストエフスキー●時間:83分●出演:イザベル・ヴェンガルテン/ギョーム・デ・フォレ●日ルイ・マル ブレッソン『白夜 鬼火』半券.jpg本公開:1978/02●配給:フランス映画社●最初に観た場所:池袋文芸坐(78-06-22)●2回目:池袋文芸坐(78-06-23)●3回目:有楽シネマ(80-05-25) (評価★★★★★)●併映(1回目・2回目):「少女ムシェット」(ロベール・ブレッソン)●併映(3回目):「鬼火」(ルイ・マル)

 【1958年文庫化・1979年改訂[角川文庫(小沼文彦:訳)]】

「●映画」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【1784】 江藤 努/中村 勝則 『映画イヤーブック 1998
「●あ行の外国映画の監督」の インデックッスへ 「●「ニューヨーク映画批評家協会賞 作品賞」受賞作」の インデックッスへ(「アニー・ホール」)「●「全米映画批評家協会賞 作品賞」受賞作」の インデックッスへ(「アニー・ホール」)「●フェデリコ・フェリーニ監督作品」の インデックッスへ 「●「フランス映画批評家協会賞(外国語映画賞)」受賞作」の インデックッスへ(「フェリーニのアマルコルド」)「●「ナショナル・ボード・オブ・レビュー賞 外国語映画賞」受賞作」の インデックッスへ(「フェリーニのアマルコルド」) 「●「ニューヨーク映画批評家協会賞 作品賞」受賞作」の インデックッスへ(「フェリーニのアマルコルド」)「●「アカデミー国際長編映画賞」受賞作」の インデックッスへ(「フェリーニのアマルコルド」)「●ニーノ・ロータ音楽作品」の インデックッスへ(「フェリーニのアマルコルド」)「○外国映画 【制作年順】」の インデックッスへ「○都内の主な閉館映画館」の インデックッスへ(ニュー東宝シネマ2)

成育史、女性たちとの関わりなどから探るアレン作品。「ラジオ・デイズ」はフェリーニの「アマルコルド」にあたる作品。
ウディ・アレンのすべて.jpg アニー・ホール.jpgアニー・ホール poster.jpg ラジオデイズ vhs.jpg フェリーニのアマルコルド dvd.jpg
ウディ・アレンのすべて』['97年/河出書房新社]/「アニー・ホール」('77年)/「ラジオ・デイズ [DVD]/「フェリーニのアマルコルド 4K修復版 [Blu-ray]」['17年]

ベストワン事典.jpg 『ベスト・ワン事典』('82年/現代教養文庫)という'80年に英国で原著が出版された本の中で、「コメディアンのベスト」としてウディ・アレンが挙げられていましたが、一方'05年には、彼が自分のジャズバンドのツアーを再開するという報道があり、70歳にして元気だなあという感じ。

 本書を読めば、彼がクラリネット奏者として舞台に立ったのは、映画界にデビューするよりずっと早かったことがわかります。映画の方は、3歳から映画自体には接していたけれど、高校時代から暫くはギャグライター、それに引き続くテレビ構成作家として下積みがあり、スタンダップコメディアン(漫談師)として舞台にも立ち、劇脚本家、「ニューヨーカー」の常連作家などを経て、やがて映画脚本を書くようになり、その後にやっと映画監督になったということです。

 著者の井上一馬氏は、作家であり、ボブ・グリーンの翻訳で知られる翻訳家でもありますが(自分が個人的に親しんだのはマイク・ロイコのコラムの著者による翻訳本でした)、アレンへの単なる偏愛の吐露に終わらず、ウディ・アレンの成育史、影響を与えたもの、女性たちとの関わり、さらには映画表現における技術的手法から映画製作に絡んだ様々な映画人までとりあげ、アレン作品を重層的に探る評伝&フィルモグラフィとなっていています。

「フェリーニのアマルコルド」('73年/伊・仏)
ラジオ・デイズ 000.jpgアマルコルド.jpg ウディ・アレンがベルイマンの影響を受けているのは知っていましたが、フェリーニの影響を受けていたことは本書で知りました。「ラジオ・デイズ」('87年)は、第二次世界大戦開戦直後のニューヨーク・クイーンズ区ユダヤ系移民の大家族とその一員である少年を中心に、ラジオから流れる名曲の数々など当時の文化や市民生活を通じて、彼らの夢見がちな生き方や無邪気な時代の空気を表した作品でしたが、アレンの自伝的作品であることは確かで、著者はこの「ラジオ・デイズ」を、アカデミー外国語映画賞をANNIE HALL.jpg受賞したフェリーニの「アマルコルド」('73年/伊・仏)にあたる作品であるとしています(これにはナルホドと思った)。どちらかと言うとベルイマン系と言える「ハンナとその姉妹」('86年)が傑作の誉れ高いですが、個人的には、最初に見た「アニー・ホール」('77年)の彼自身の神経症的な印象が強烈でした。

「アニー・ホール」.jpg ウディ・アレン演じるノイローゼ気味のコメディアン、アルビーと明るい性格のアニー・ホール(ダイアン・キートン)の2人の出会いと別れを描いた、コメディタッチでありながらもほろ苦い作品でした。因みに、"アニー・ホール"はダイアン・キートンの本名であり、これは、ダイアン・キートンに捧げた映画であるとも言えます。また、作中にべルイマンのこの映画製作時における最新作でイングリッド・バーグマン、リヴ・ウルマン主演の「鏡の中の女」('76年、米国での公開タイトルは"FACE TO FACE")のポスターが窺えますが、ダイアン・キートンはこの「アニー・ホール」で1977年アカデミー賞、1978年ゴールデングローブ賞の主演女優賞を受賞し、イングリッド・バーグマンが「白い恐怖」や「追想」で、リヴ・ウルマンがベルイマンの「叫びとささやき」で受賞しているニューヨーク映画批評家協会賞の主演女優賞も受賞しています(バーグマンはこの翌年ベルイマンの「秋のソナタ」('78年/スウェーデン)で3度目のニューヨーク映画批評家協会賞主演女優賞受賞をする)。

Diane Keaton 1977 Oscar.jpg 有楽町の「ニュー東宝シネマ2」というややマイナーなロードショー館に観に行った際には外国人の観客が結構多く来ていて、笑いの起こるタイミングが字幕を読んでいる日本人はやや遅れがちで、しまいには外国人しか笑わないところもあったりして、会話が早すぎて、訳を端折っている感じもしました。当時は"入れ替え制"というものが無かったので、同じ劇場で2度観ましたが、アカデミー賞の最優秀作品賞、主演女優賞受賞、監督賞受賞、脚本賞の受賞が決まるやいなや「渋谷パンテオン」などの大劇場で再ロードされました。

ダイアン・キートン 1977年ニューヨーク映画批評家協会賞・1977年全米映画批評家協会賞・1977年アカデミー賞、1978年ゴールデングローブ賞の各主演女優賞受賞

Truman Capote Look-Alike.jpg この映画には、様々な役者がパーティ場面などでチラリと出ているほか、「トルーマン・カポーティのそっくりさん」役でトルーマン・カポーティ本人が出ていたり、映画館で文明批評家マクルーハンの著作を解説している男に対し、アレンが本物のマクルーハンを引っぱってきて、「君の解釈は間違っている」と本人に言わせるなど、遊びの要素もふんだんに取り入れられています。

Truman Capote as Truman Capote Look-Alike

0f3de44e64a663d507abeffd3c5b6fc3 (1).jpg この映画で、アルビーは幼い頃ローラーコースター(和製英語で言えばジェットコースター)の下にある家で育ったことになっていますが(それが主人公が神経質な性格の原因だという)、これは撮影中のウディ・アレンの思いつきだったらしく、「ラジオ・デイズ」('87年)(こちらは劇場ではなく、知人宅でビデオで観た(89-05-02))でもその設定が踏襲されていたように思います(本当にウディ・アレンが子ども時代に遊園地の傍に住んでいたのかと思った)。

anniehall.jpg 何でこのウディ・アレンという人はこんなに女性にもてるのかと、羨ましい気分も少し抱いてしまいますが、いろんな人がいろんな形で彼の映画に出演したり関わったりしていることがわかり、楽しい本でした。


フェリーニのアマルコルド59.jpgフェリーニのアマルコルドog.jpeg(●2018年にフェリーニの「アマルコルド」('73年/伊・仏)を久しぶりに劇場で観ることができた。少年チッタ(ブルーノ・ザニン)とその家族を中心に、春の火祭り、豪華客船レックス号の寄港、年上の女性グラディスカ(マガリ・ノエル)への恋などが情感たっぷりに描かれる。ネットで誰かが「フェリーニのアマルコルド50.jpgフェリーニのアマルコルド30.jpgおよそ高尚とは程遠い、庶民による祝祭」と言っていたが、確かにそうかも。1930年代に台頭してきたファシズム「黒シャツ党」にグラディスカら女性たちが嬌声を上げたり、チッタの父が拷問を受けるシーンが時代を感じさせるが、映画全体のトーフェリーニのアマルコルドyo.jpegンは明るい。映像的にも美しいシ-ンが多いが、この映画で最も印象に残るシーンは、豪華客船レックス号が小船で沖へ出ていた町の人々の目の前に夜霧の中から忽然とその姿を現すシーンと、ラスト近くで、雪の日に街の真ん中で雪合戦をして遊ぶ少年達の目の前に白いクジャクが降り立つシーンだろう。ラストでチッタの母親は亡くなるが、イタリアでは孔雀は不吉なものとの迷信があり、後者のシーンは母親の死の前兆という位置づけにあることに改めて思い当たった。)


ANNIE HALL .jpg「アニー・ホール」●原題:ANNIE HALL●制作年:1977年●制作国:アメリカ●監督:ウディ・アレン●製作:チャールズ・ジョフィ/ジャック・ローリンズ●脚本:ウディ・アレン/マーシャル・ブリックマン●撮影:ゴードン・ウィリス ●時間:94分●出演:ウディ・アレン/ダイアン・キートン/トニー・ロバーツ/シェリー・デュバル/ポール・サイモン/シガニー・ウィーバー/クリストファー・ウォーケン/ジェフ・ゴールドブラム/ジョン・グローヴァー/トルーマン・カポーティ(ノンクレジット)●日本公開:1978/01●配給:オライオン映画●最初に観た場所:有楽町・ニュー東宝シネマ2(78-01-18)●2回目:有楽町・ニュー東宝シネマ2 (78-01-18)(評価:★★★★)
ニュー東宝シネマ1.jpgニュートーキョービル2.jpgニュー東宝シネマ1・2 チケット入れ.jpgニュー東宝シネマ2 1972年5月、有楽町ニュートーキョービル(有楽町マリオン向かいニユートーキヨー数寄屋橋本店ビル)B1「スキヤバシ映画」をリニューアルしてオープン。1995年6月閉館(同ビル3Fの「ニュー東宝シネマ1」は「ニュー東宝シネマ」として存続)。「ニュー東宝シネマ」(旧「ニュー東宝シネマ1」)..2009年2月10日~「TOHOシネマズ有楽座」、 2015(平成27)年2月27日閉館。

「ラジオ・デイズ」●原題:RADIO DAYS●制作年:1987年●制作ラジオデイズ.jpg国:アメリカ●監督:ウディ・RADIO DAYS 1987.jpgアレン●製作:ロバート・グリーンハット●脚本:ウディ・アレン●撮影:カルロ・ディ・パルマ●音楽:ディッキー・ハイマン●時間:94分●出演:ミア・ファロー/ダイアン・ウィースト/セス・グリーン/ジュリー・カブナー/ジョシュ・モステル/マイケル・タッカー/ダイアン・キートン/ダニー・アイエロ/ジュディス・マリナ/ウィリアム・H・メイシー/リチャード・ポートナウ●日本公開:1987/10●配給:ワーナー・ブラザース (評価:★★★☆)
ラジオ・デイズ [DVD]

フェリーニのアマルコルド.jpegフェリーニのアマルコルド_2.jpg「フェリーニのアマルコルド」●原題:FEDERICO FELLINI AMARCORD●制作年:1973年●制作国:イタリア・フランス●監督:フェデリコ・フェリーニ●製作:フランコ・クリスタルディ●脚本:フェデリコ・フェリーニ/トニーノ・グエッラ●撮影:ジュゼッペ・ロトゥンノ●音楽:ニーノ・ロータ●時間:124分●出演:ブルーノ・ザニン/マガリ「フェリーニのアマルコルド」amarcord4.jpg「フェリーニのアマルコルド」amarcord3.jpg・ノエル/プペラ・マッジオ/アルマンド・ブランチャ/チッチョ・イングラシア●日本公開:1974/11●配給:ワーナー・ブラザース●最初に観た場所:池袋・文芸座(78-02-07)●2回目:早稲田松竹(18-12-14)●併早稲田松竹DSC_0019.JPG早稲田松竹DSC_0018.JPG映(1回目):「フェリーニの道化師」(フェデリコ・フェリーニ)●併映(2回目):「カザノバ」(フェデリコ・フェリーニ)(評価:★★★★)

早稲田松竹(2018.12.14)
                    
《読書MEMO》
ウディ・アレンが選ぶベスト映画10(from 10 Great Filmmakers' Top 10 Favorite Movies)
『第七の封印』(イングマール・ベルイマン監督、1956年)
『市民ケーン』 (オーソン・ウェルズ監督、1941年)
『大人は判ってくれない』 (フランソワ・トリュフォー監督、1959年)
『8 1/2』 (フェデリコ・フェリーニ監督、1963年)
『フェリーニのアマルコルド』 (フェデリコ・フェリーニ監督、1974年)
『ブルジョワジーの秘かな愉しみ』 (ルイス・ブニュエル監督、1972年)
『大いなる幻影』 (ジャン・ルノワール監督、1937年)
『突撃』 (スタンリー・キューブリック監督、1957年)
『羅生門』 (黒澤明監督、1950年)
『自転車泥棒』 (ヴィットリオ・デ・シーカ監督、1948年)

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