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後期作品の中では異彩を放つこの"暗さ"は、小津安二郎の悲観的な結婚観に符合する?

東京暮色 1957.jpg 東京暮色  1957.jpg 東京暮色 j.jpeg 東京暮色 有馬稲子 .jpg
あの頃映画 松竹DVDコレクション 「東京暮色」」「東京暮色 デジタル修復版 [DVD]」 山田五十鈴・原節子 有馬稲子
東京暮色_AL_.jpg東京暮色_640.jpg東京暮色157a.jpg 杉山周吉(笠智衆)は銀行に勤め、停年も過ぎ今は監査役の地位にある。男手一つで子供達を育て、次女の明子(有馬稲子)と静かな生活を送っている。そこへ、長女の孝子(原節子)が夫との折り合いが悪く幼い娘を連れて出戻ってくる。一方、短大を出たばかりの明子は、遊び人の川口(高橋貞二)らと付き合うようになり、その中の一人である木村憲二(田浦正巳)と肉体関係を持ち、彼の子を身籠ってしまう。憲二は明子を避けるようになり明子は彼を捜して街を彷徨う。中絶費用を用立てするため、明子は叔母の重子(杉村春子)に理由を言わずに金を借りようとするが断られ、重子からこれを聞いた周吉は訝しく思う。その頃、明子は雀荘の女主人・喜久子(山田五十鈴)が自分のことを尋ねていたと聞き、彼女こそ自分の実母ではないかと孝子に質すが、孝子は即座に否定する。喜久子はかつて周吉がソウルに赴任していたときに東京暮色8.jpg周吉の部下と深い仲になり、満洲に出奔した過去があったのだ。明子は中絶手術を受けた後で、喜久子がやはり自分の母であることを知って、自分は本当に父の子なのかと悩む。蹌踉として夜道へ彷徨い出た彼女は、母を訪ねて母を罵り、偶然めぐりあった憲二にも怒りに任せて平手打を食わせ、そのまま一気に自滅の道へ突き進んで行った。その夜遅く、電車事故による明子の危篤を知った周吉と孝子が現場近くの病院に駈けつけたが明子は既に殆ど意識を失っていた。その葬儀の帰途、孝子は母の許を訪れ、明子の死はお母さんのせいだと冷く言い放つ。喜久子はこの言葉に鋭く胸さされ東京を去る決心をする。また、孝子も自分の子のことを考え、夫の許へ帰り、家は周吉一人になった。今日もまた周吉は心侘しく出勤する―。

2018年・第68回ベルリン国際映画祭(ヴィム・ヴェンダース監督・坂本龍一氏(審査員))
Tokyo-Twilight_0 - コピー.jpgTokyo-Twilight_0.jpg第68回ベルリン国際映画祭ヴェンダース監督・坂本龍一.jpgTokyo-Twilight_4.jpg 1957年公開の小津安二郎監督で、今年['18年]開催の第68回ベルリン国際映画祭のクラシック部門で、ヴィム・ヴェンダース監督の「ベルリン・天使の詩」('87年)などと併せて選出され、プレミア上映されました。小津安二郎監督作品のデジタル修復版は、2013年のベルリン国際映画祭の「東京物語」から世界三大映画祭クラシック部門で7作目の選出となり、小津安二郎の世界的な評価の高さが窺えます(ヴィム・ヴェンダースに至っては、「小津安二郎は私の師匠」と以前から公言し、同映画祭においても審査員の坂本龍一氏を前に、"天国の大島渚"にごめんなさいと謝るジョークを交え、"小津愛"を繰り返し吐露している)。

East of Eden.jpg ジェームズ・ディーンの代表作「エデンの東」('55年)の小津的な翻案とされ、どちらも父親の妻(つまり母親)が出奔していて、「エデンの東」における兄弟が原節子と有馬稲子の姉妹に置き換えられている作りですが、内容が暗いばかりでなく、実際に暗い夜の場面も多く、有馬稲子が全編を通して全く笑うことが無くて、その最期も含め作品の暗さを補強している印象です。ちょうど、「風の中の牝雞」('48年)までの小津作品に見られた"暗さ"の部分を継承している感じでしょうか。そうした暗さもあってか、一般の人気は芳しくなく、キネマ旬報のベストテンでも19位と圏外となり、小津安二郎自らも自嘲気味に「何たって19位の監督だからね」と語っていたとのことです。

東京暮色7.jpg東京暮色 nakamura .jpg しかしながら、戦後期の大女優山田五十鈴(1917-2012)が出演した唯一の小津作品であり、姉妹の実母で雀荘の女主人・喜久子を演じたそのリアルな演技はさすが。夫役の中村伸郎も、後の出演作に多く見られる会社役員や大学教授の役ばかりでなく、こういった市井の人を演じても上手いということがよく分かります(まあ、「東京物語」('57年)でも下町で美容院を営む杉村春子の夫役だったが)。加えて、小津安二郎自身が小津作品における「四番バッター」と評した杉村春子も相変わらず世話焼きおばさんぶりが上手く、こうなるとむしろ原節子の比較的パターン化された演技や笠智衆の一本調子が物足りなくなってくるほどです。

 小津映画で原節子が主演した"紀子三部作"のうち、「晩春」('49年)、「麦秋」('51)が、娘が結婚に行くか行かないかという話でしたが、この「東京暮色」は、原節子が夫と夫婦不和で、半ば出戻り状態のようになっていて、何だかそれら前作の続きのような印象も受けます(情にほだされて結婚してしまったような「麦秋」とも繋がるが、父親を同じく笠智衆が演じている「晩春」とはよりよく繋がる感じも)。前後の小津作品も、多くが主要登場人物の結婚をテーマにしながら、「晩春」にも「麦秋」にも「秋刀魚の味」('62年)にもAkibiyori (1960) 2.jpgその結婚式の場面が無いのは(「秋日和」('60年)のみ例外で、司葉子と佐田啓二の新郎新婦がそろって結婚式の記念撮影をする場面がある)、それらが何れも結果として"不幸な結婚"となることを暗示していて、小津安二郎が結婚の"現実"に対して悲観論者であったためとも言われています(小津安二郎自身、実人生において、噂のあった原節子と結婚することもなく、生涯独身を通した)。もしそうだとしたら、この「東京暮色」は、そうした小津安二郎の悲観的な結婚観に符合するともとれます。

小津安二郎 志賀直哉.jpg その意味でも興味深い作品ですが、評価が当時は芳しくなかったことに懲りたのか、小津安二郎はもうこの手の作品は撮らず、志賀直哉に「里見弴君が仕事が無くて困っているから彼の作品を使ってくれ」と言われ、里見弴の原作作品を「彼岸花」('58年)、「秋日和」、「秋刀魚の味」と3作も撮り(ただし、小津安二郎自身も10代の時から里見弴の作品を愛読していた)、「晩春」「麦秋」以来の娘が結婚に行くか行かないかという話を、これらでまた3回も繰り返すことになりました。小津安二郎自身、「俺は豆腐屋だから豆腐しか作れない」と言っているわけですが、結果としてどれも似たような感じになり、それぞれに一定の完成度は保っていますが、続けて観るとやや飽きがこなくもありません。個人的には、こうした「東京暮色」のような暗くてドラマチックな展開の小津映画ももっと観たかった気がしますが、結局この類の作品はもう作られることはなく、この「東京暮色」は、小津安二郎の後期作品の中では異彩を放つものとなったように思われます(「東京暮色」のIMDbスコアを見ると、他の小津作品に比べむしろ若干高い評価にある)。
       
小津4K 巨匠が見つめた7つの家族.jpg「小津4K 巨匠が見つめた7つの家族」<生誕115年記念企画>2018年6/16(土)~6/22(金)新宿ピカデリー、6/23(土)~7/7(土)角川シネマ新宿 有馬稲子
【上映作品】 「晩春 4K修復版」「麥秋 4K修復版」「お茶漬の味 4K修復版」「東京物語 4K修復版」「早春 4K修復版」「東京暮色 4K修復版」「浮草 4K修復版」

山田五十鈴 in 成瀬巳喜男監督「流れる」('56年)/小津安二郎監督「東京暮色」('57年)/黒澤明監督「用心棒」('61年)
流れる 1シーン.jpg 山田五十鈴 東京暮色.jpg 用心棒01.jpg

笠智衆(杉山周吉)・山村聰(友人・関口積)/杉村春子(孝子・明子の叔母・竹内重子)/高橋貞二(遊び人の川口)
東京暮色 笠智衆 山村.jpg東京暮色 杉村春子.jpg東京暮色 高橋.jpg「東京暮色」●制作年:1954年●監督:小津安二郎●製作:山内静夫●脚本:野田高梧/小津安二郎●撮影:厚田雄春●音楽:斎藤高順●時間:140分●出演:原節子/有馬稲子/笠智衆/山田五十鈴/高橋貞二/田浦正巳/杉村春子/山村聰/信欣三/藤原釜足/中村伸郎/宮口精二/須賀不二夫/浦辺粂子/三好栄子/田中春男/山本和子/長岡輝子/櫻むつ子/増田順二/長谷部朋香/森教子/菅角川シネマ新宿  0.jpg角川シネマ新宿 .jpg角川シネマ新宿 2.jpg原通済(特別出演)/石山龍児●公開:1957/04●配給:松竹●最初に観た場所(再見):角川シネマ新宿(シネマ1・小津4K 巨匠が見つめた7つの家族)(18-06-28)((評価:★★★★)

角川シネマ新宿 シネマ1.jpg 角川シネマ新宿(新宿3丁目「新宿文化ビル」4・5階)シネマ1(300席/右写真)・シネマ2(56席)  2006(平成18)年12月9日〜旧文化シネマ1・4が「新宿ガーデンシネマ1・2」として、旧文化シネマ2・3が「シネマート新宿1・2」として再オープン、2008(平成20)年6月14日「新宿ガーデンシネマ1・2」が「角川シネマ新宿1・2」に改称)


《読書MEMO》
●小津安二郎の1949年以降の作品(原作者)とIMDbスコア及び個人的評価
・1948年「風の中の牝雞」[7.6]★★★☆
・1949年「晩春」(広津和郎)[8.3]★★★★☆
・1950年「宗方姉妹」(大佛次郎)[7.5]★★★☆
・1951年「麦秋」[8.2]★★★★☆
・1952年「お茶漬の味」[7.9]★★★☆
・1953年「東京物語」[8.2]★★★★☆
・1956年「早春」[8.0]★★★☆
・1957年「東京暮色」[8.3]★★★★
・1958年「彼岸花」(里見 弴)[8.0]★★★★
・1959年「お早よう」[7.9]★★★☆
・1959年「浮草」[8.0]★★★☆
・1960年「秋日和」(里見 弴)[8.2]★★★☆
・1961年「小早川家の秋」[8.0]★★★☆
・1962年「秋刀魚の味」(里見 弴)[8.2] ★★★☆

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茂吉(佐分利信)は最後、泣かなかったのではないか(妙子(木暮実千代)が話を作っている?)。

お茶漬の味poster.jpgお茶漬けの味 dvd.jpg お茶漬けの味.jpg お茶漬の味00.jpg
お茶漬の味 [DVD]」「お茶漬の味 [DVD] COS-023」 佐分利信/木暮実千代

お茶漬の味36.jpg 会社勤務の佐竹茂吉(佐分利信)は長野出身で質素な生活を好む。妻の妙子(木暮実千代)とはお見合い結婚だが、上流階級出身の妙子にとって夫の質素さが野暮にしか見えず、学生時代の友人たちである雨宮アヤ(淡島千景)、黒田高子(上原葉子)、姪っ子の山内節子(津島恵子)らと遊び歩いて憂さをはらしている。茂吉はそんな妻の気持ちを知りながらも、あえて触れないようにしていた。ところが、節子がお見合いの席から逃げ出したことをきっかけに、茂吉と妙子が衝突する。妙子は口をきかなくなり、あげくのはてに黙って神戸の友人のもとへ出かけてしまう。一方の茂吉はウルグアイでの海外勤務が決まって羽田から出発するが、それを聞いても妙子は帰ってこない。茂吉が発った後、家に帰ってきた妙子にさすがの友人たちも厳しい態度をとる。平然を装う妙子だったが、茂吉の不在という現実に内心は激しく動揺していた。そこへ突如茂吉が夜中になって帰ってくる、飛行機のエンジントラブルだという。喜ぶ妙子に茂吉はお茶漬けを食べたいという。二人で台所に立って準備をし、お茶漬けを食べる二人。お互いに心のうちを吐露し、二人は和解する。夫婦とはお茶漬なのだと妙子を諭す茂吉。妙子は初めて夫のありがたさ、結婚生活のすばらしさに気づく。一方、お見合いを断った節子は若い岡田登(鶴田浩二)にひかれていくのだった―(「Wikipedia」より)。

お茶漬の味 vhs0.jpg 1952(昭和27)年公開の小津安二郎監督作で、野田高梧、 小津安二郎のオリジナル脚本ですが、小津が1939年に中国戦線から復員したあとの復帰第一作として撮るつもりだったのが「有閑マダム連がいて、亭主をほったからしにして遊びまわっている」という内容が内務省の検閲に引っ掛かってお蔵入りになっていたのを、戦後に再度引っ張り出して改稿したものであり、その際に、主人公夫婦がよりを戻す契機となったのが夫の戦争への応召であったのを、ウルグアイのモンテビデオ赴任に変えるなどしています。
          
お茶漬の味 saburi.jpg 木暮実千代の演技の評価が高い作品ですが、茂吉を演じた佐分利信もいい感じではないでしょうか。奥さんの言いなりになっているようで、実は全て分かった上での行動や態度という感じで、最後の和解のシーンも良かったです。その後、木暮実千代演じる妙子が雨宮アヤ(淡島千景)ら女友達に夫婦和解の様子を伝え、妙子自身大泣きした一方で、茂吉の方も「わかっている」と言って目に涙を溜めて泣いたと夫婦2人で泣いたような話をしますが、この辺りは妙子が話を作っているのではないかなあ(彼女の性格上、自分だけが泣いたことにはしたくなかったのでは)。

お茶漬の味 鶴田・津島.jpg 個人的には、この打ち明け話のシーンが無く、そのまま節子(津島恵子)と岡田(鶴田浩二)が連れだって歩くシーンで終わっても良かったようにも思いましたが、この"のろけ話"ともとれる話を節子が実質2度も聞かされるところが軽くコメディなのだろなあ。妙子から"旦那さんの選び方"の講釈を受けた上で(そうなったのは偶々なのだが)、ラストの岡田と連れだって歩くシーンに繋がっていきます。

津島恵子/鶴田浩二

お茶漬の味 野球観戦.jpgお茶漬の味 パチンコ.jpg 女性3人でのプロ野球観戦(後楽園球場でのパ・リーグ試合でバッターボックスには毎日オリオンズの別当薫が。後楽園球場は当時、毎日オリオンズなど5球団の本拠地だった)や、競輪観戦(後楽園競輪場。1972年に美濃部亮吉都知事の公営ギャンブル廃止策により休止)、パお茶漬の味 笠智衆.jpgチンコなど、昭和20年代後半当時の風俗をふんだんに盛り込んでいるのもこの作品の特徴で、パチンコ屋で偶然再会した茂吉の戦友・平山定郎役の笠智衆が、パチンコ屋の親爺でありながらパチンコが流行るのを「こんなもんが流行っている間は世の中はようならんです。つまらんです。いかんです」と言っているのもおかしいです(しかし、笠智衆は軍歌しか歌わないなあ)。

 歌舞伎座でお見合いというのも、当時としては、こういうセッティングの仕方はよくあったのではないでしょうか。節子(津島恵子)はその見合いをすっぽかして茂吉と岡田の競輪観戦に勝手に合流し、仕舞にはパチンコにまで後楽園球場 競輪場.jpgついてきてしまうわけですが...(お茶漬の味 鶴田・佐分利・津島.jpg競輪レースの模様を"執拗に"撮っているのが興味深い。「小早川家の秋」('61年/東宝)に出演した森繁久彌が、競輪シーンが台本にあるの見て「小津には競輪は撮れない」と言ったそうだが、ここで既にしっかり撮っている。この作品では、隣り合っていた後楽園球場と後楽園競輪場の両方でロケをやったことになる)。
後楽園球場・後楽園競輪場(1976年)

お茶漬の味 津島・鶴田.png秋日和 司葉子 佐田啓二.jpg その後、パチンコに夢中で帰りの遅くなった岡田(鶴田浩二)と節子(津島恵子)がラーメン屋のカウンターで並んでお茶漬の味 カロリー軒.jpgラーメンを食べる場面は、夫婦でお茶漬けを食べるメインストーリーの方のラストの伏線と言えなくもありません。男女が並んでラーメンを食べる場面は後の「秋日和」('60年)におけるアヤ子(司葉子)と後藤(佐田啓二)も同様であり、この2人はやがて結婚することから、岡田と節子もそうしたことが暗示されているのでしょうか。因みにラーメン屋の名前は「三来元」で両作品に共通しています(とんかつ屋「カロリー軒」も小津映画の定番の店名)。

お茶漬の味2.jpgお茶漬の味 佐分利・鶴田.png 木暮実千代の他、淡島千景、上原葉子(上原謙の妻)、津島恵子らの演技も楽しめるし、ちょい役ながら当時19歳の北原三枝(後の石原裕次郎夫人)もバーの女給役で出ていて、鶴田浩二や笠智衆らの演技も同様に楽しめます。でも、やはり、真ん中にいる佐分利信が安心して見ていられるというのが大きいかも。何のことはないストーリーですが、観終わった後の印象はそう悪くはない作品でした。
津島恵子/淡島千景   佐分利信/鶴田浩二

お茶漬の味.jpg

Ochazuke no aji (1952)
Ochazuke no aji (1952) .jpg「お茶漬の味」●制作年:1952年●監督:小津安二郎●製作:山本武●脚本:野田高梧/小津安二郎●撮影:厚田雄春●音楽:斎藤一郎●時間:115分●出演:佐分利信/木暮実千代/鶴田浩二/笠智衆/淡島千景/津島恵子/三宅邦子/柳永二郎お茶漬けの味 dvd_.jpg/十朱久雄/望月優子/設お茶漬の味 北原.jpg楽幸嗣/志賀直津子/石川欣一/上原葉子/北原三枝●公開:1952/10●配給:松竹●最初に観た場所:高田馬場・ACTミニシアター(90-08-19)(評価:★★★☆)併映:「東京の合唱(コーラス)」(小津安二郎)お茶漬の味 [DVD]」 鶴田浩二/北原三枝(バーの女給役)
 

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大家族ホームドラマに見る滑稽と無常。東宝映画だが小津トーンが行きわたっている。。

Kohayagawa-ke no aki (1961).jpg小早川家の秋 poster.png小早川家の秋 dvd2.jpg 小早川家の秋 dvd1.jpg
小早川家の秋 [DVD]」「小早川家の秋 [DVD]」
「小早川家の秋」ポスター
Kohayagawa-ke no aki (1961)

小早川家の秋TF.jpg 京都の造り酒屋・小早川の長男は早く死に、その未亡人の秋子(原節子)に親戚の北川(加東大介)が再婚話を持ってくる。相手の磯村(森繁久彌)は鉄工所の社長でちょっとお調子者だ。また、次女の紀子(司葉子)も婚期を迎えて縁談が持ち込まれるが、彼女は大学時代の友人で、札幌に転勤することになっ小早川家の秋 R.jpgている寺本(宝田明)に思いを寄せていた。一方、小早川の当主・万兵衛(中村鴈治郎)は最近、行き先も告げずにこそこそと出かけることが目立つようになった。店員の丸山(藤木悠)が後を小早川家の秋4_R.jpg尾けるが、したたかな万兵衛に見つかってしまい失敗。小早川の経営を取り仕切る入り婿の久夫(小林桂小早川家の秋  last.jpg樹)と長女の文子(新珠三千代)夫婦が心配して行方を突き止めると、そこはかつての愛人・佐々木つね(浪花千栄子)の家だった。さんざん死んだ母を泣かせた万兵衛の女好きがまた始まったと怒る文子。万兵衛はつねとその娘・百合子(団令子)との触れあいに、特別な安らぎを感じているようだったが、そこで倒れて亡くなる―。

小早川家の秋 撮影現場.png 1961年公開作で、小津安二郎が東宝に招聘されて撮った作品。時期的には「秋日和」('60年/松竹)と「秋刀魚の味」('62年/松竹)の間の作品になりますが、野田高梧、小津安二郎のオリジナル脚本は、再婚話を持ちかけられた未亡人・秋子(原節子)と同じく縁談が持ちあがった娘・紀子(司葉子)の義理姉妹といったようにそれぞれに小津作品の定番的モチーフを踏襲しながらも、多くの登場人物によって大家族を巡るホームドラマとなっており、しかも、そうした話の流れの中心にいるのはあくまでも、物語の舞台である京都・伏見の造り酒屋の当主で、今は隠居している・万兵衛(中村鴈治郎)であるというのが後期小津作品の中では特徴的でしょうか(大阪・京都が舞台になっているというのも珍しい)。

原節子/小津安二郎/加東大介/森繁久彌

小早川家の秋5.jpg 物語は導入部の森繁久彌加東大介の未亡人を巡る会話からコミカルなタッチで進み(まるで森繁の「社長シリーズ」('58年~'70年/小早川家の秋09.jpg東宝)みたい)、万兵衛(中村鴈治郎)が孫とかくれんぼしている間に抜け出して昔の愛人(浪花千栄子)に会いに行くところで滑稽さはピークに達しますが、そうやって軽妙に描かれた道楽旦那の〈老いらくの恋〉の後に突然のその死が訪れ、葬式の日に紀子(司葉子)が秋子(原節子)に札幌の寺本の下へ行く決心を告げる場面こそありますが、全体として無常感の漂う作品となっています(火葬場の近くで川漁りをする笠智衆と望月優子の夫婦の会話が効いている)。

小早川家の秋 ryuu.jpg小早川家の秋R6.jpg 当時57歳の小津安二郎の死生観が反映された作品であるのに違いなく、また万兵衛のコミカルさにも、自らを「道化」と称していた小津自身が反映されているとの見方もあるようです(万兵衛の死すらも愛人(浪花千栄子)によって、或いは万兵衛の妹・しげ(杉村春子)によってコミカルに語られる。死んでしまえば自分だってどう言われるかわからないという思いが小津にあったのか?)。

小早川家の秋S.jpg 歌舞伎役者でありながら「映画スターの中村鴈治郎」と言われた2代目・中村鴈治郎(1902-1983)(大映から借り受け)の洒脱でコミカルな演技から、名女優・杉村春子のやっぱり上手いと思わせるショートリリーフ的な演技まで(「東京物語」の時も葬儀で帰りの時間を気にしていたなあ)何かと楽しめますが、東宝が用意した新珠三千代、宝田明、小林桂樹、団令子、森繁久彌、白川由美、藤木悠ら錚々たる俳優陣を小津安二郎がどう演出したかというのも大きな見所かもしれません。

小早川家の秋 aratama.jpg 因みに、小津の好みに適ったのは小林桂樹、藤木悠、団令子、最も惚れ込んだのは新珠三千代で、新珠三千代には撮影の合間に松竹での次回作の出演を持ちかけていたとか(結局、次回作「秋刀魚の味」の主演は岩下志麻になったが)。一方、小津が演出しづらかったのはアドリブで演技する森繁久彌や山茶花究らで、特に森繁久彌(1913-2009)は小津のかっちりした演出が自分の肌に合わず、「小津に競輪なんか撮れっこない」と言ったというエピソードなども知られています(但し、映画の中で競輪を観に行くのは中村鴈治郎と浪花千栄子)。因みに、この作品は、オープニングタイトルバックの出演者の最初に原節子、司葉子、新珠三千代の名がきて、最後に中村鴈治郎、森繁久弥の名がきます)。

彼岸花・秋日和・小早川家の秋・秋刀魚の味.jpg それにしても、役者の演技は小津安二郎自身が演出するとして、小津が松竹からスタッフを一人も連れて行かずに撮った作品であるのに、照明やカメラなどに何の違和感も無く、調度品の色調まで"小津トーン"が再現小早川1.jpgされているというのはなかなかのものではないでしょうか。名匠・小津安二郎を招聘する立場で作品を作った東宝側のスタッフの緊張感が伝わってくるような印象です。個人的は、昭和30年代の造り酒屋の様子や競輪場の風景などが興味深かったです(競輪場の壁にあるのは何かの映画のポスターか)。因みに、小津安二郎は「お茶漬の味」('52年)で競輪シーンをかなりしつこく撮っており(競輪を観に行くのは佐分利信と鶴田浩二)、森繁久彌が何をもって「小津には競輪は撮れない」と言ったのか...。

 一般には「彼岸花」「秋日和」「秋刀魚の味」よりやや下に見られがちな作品ですが、以上3作が似たようなモチーフで連作っぽい雰囲気であるのに対し、作品としての独自性という点では印象に残る作品であるかと思います。

司 葉子                              新珠三千代/加東大介/中村鴈治郎
小早川家の秋_500.jpg小早川家の秋r.jpg「小早川(こはやかわ)家の秋」●制作年:1961年●監督:小津安二郎●製作:藤本真澄/金子正且●脚本:野田高梧/小津安二郎●撮影:中井朝一●音楽:黛敏郎●時間:103分●出演:中村鴈治郎/原節子/司葉子/新小早川家の秋8_R.jpg珠三千代/森繁久彌/小林桂樹/宝田明/加東大介/団令子/白川由美/山茶花究/藤木『小早川家の秋』8.jpg小早川家の秋30.jpg悠/杉村春子/望月優子/浪花千栄子/笠智衆/東郷晴子/環三千世/島津雅彦/遠藤辰雄/内田朝雄●公開:1961/10●配給:東宝(評価:★★★☆)
山茶花究/藤木悠

小早川家の秋 新珠三千代.jpg 新珠三千代 小早川家の秋 杉村春子.jpg 杉村春子

鍵 1959 s.jpg中村鴈治郎 in 「」('59年/大映)

浪花千栄子 小早川家の秋_2.jpg浪花千栄子 悪名.jpg浪花千栄子 in 「小早川家の秋」('61年/東宝)/ 「悪名」('61年/大映)
                                   
山茶花究 用心棒.jpg山茶花究 悪名.jpg山茶花究 in 「用心棒」('61年/東宝)/ 「悪名」('61年/大映)  

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初カラー作品。佐分利信の"昭和的頑固親父"ぶり全開。後期作品の多くの原型的スタイルを含む。

彼岸花 映画pos.jpg彼岸花 映画 dvd.jpg
彼岸花 [DVD]」 山本富士子/有馬稲子/久我美子
[下]「「彼岸花」 小津安二郎生誕110年・ニューデジタルリマスター [Blu-ray]
彼岸花 タイトル.jpg彼岸花 小津00_.jpg 会社常務の平山渉(佐分利信)は、妻・清子(田中絹代)と共に出席した旧友・河合(中村伸郎)の娘の結婚式に、同期仲間の三上(笠智衆)が現れないことを不審に思っていた。実は三上は自分の娘・文子(久我美子)が家を出て男と暮らしていることに悩んでおり、いたたまれずに欠席したのだった。三上の頼みで平山は銀座のバーで働彼岸花 映画 02.jpgいているという文子の様子を見に行くことになる。一方の平山にも、適齢期を迎えた娘・節子(有馬稲子)がいた。彼は節子の意思を無視して条件のいい縁談を進める傍ら、平山の馴染みの京都の旅館の女将・佐々木初(浪花千栄子)の娘・幸子(山本富士子)が見合いの話を次々に持ってくる母親の苦情を言うと「無理に結婚することはない」と物分かりのいい返事をする。一方、平山が勝手に縁談を進めていた自分の娘・節子には、実は親に黙って付き合っている谷口(佐田啓二)という相手がいた。そのことを知らされ、それが娘の口から知らされなかったのが平山には面白くなく、彼は娘の恋愛に反対する―。

 小津安二郎監督の1958(昭和33)年作品で、小津監督初のカラー作品でもあり、原作は里見弴。因みに、この作品と同じく、なかなか結婚しない娘のことを気遣う親をモチーフとしたその後の作品「秋日和」('60年)、「秋刀魚の味」('62年)共に里見弴の原作であり(里見彼岸花 佐分利信A.jpg彼岸花 映画1_s.jpg弴ってこんな話ばかり書いていた?)、本作品では、他人の娘には自由恋愛を勧めるのに、自分の娘には自分のお眼鏡に適(かな)った相手でなければ結婚を許さないという、佐分利信の"昭和的頑固親父"ぶりが全開です(浪花千栄子の関西のおばはんぶりも全開だったが)。
佐分利信/田中絹代

江川宇禮雄/笠智衆/北竜二          中村伸郎
彼岸花 映画 dousoukai .jpg中村伸郎 higanbana .jpg 佐分利信、中村伸郎、北竜二が演じる旧友3人組は「秋日和」でも形を変えて登場し、「秋刀魚の味」では笠智衆、中村伸郎、北竜二の3人組になっていました。この「彼岸花」では、佐分利信、笠智衆、中村伸郎、北竜二の"4人組"となっています(その他に江川宇禮雄ら同窓生多数)。加えて佐分利信の娘に有馬稲子(当時26歳)、笠智衆の娘に久我美子(当時27歳)、佐分利信の知人の娘で、この作品においてコメディ・リリーフ的な役割を果たす女性に山本富士子(当時26歳)(大映から借り受け)という顔ぶれですから、考えてみれば結構豪華メンバーでした。
                                       久我美子/渡辺文雄
彼岸花 映画 00.jpg彼岸花 映画5O.jpg 佐分利信演じる平山は、三上の娘・文子(久我美子)には理解を示す一方で(その恋人役は渡辺文雄)、自分の娘・節子(有馬稲子)の結婚には反対し、平山の妻・清子(田中絹代)や次女・久子(桑野みゆき)も間に入って上手く取りなそうとしますが、平山はHiganbana (1958) .jpgますます頑なになります。そこへ節子の友人でもある幸子が現れ、平山に自分の縁談について相談する。が、それは節子の結婚のための芝居だったわけで、結局、彼は出ないと言っていた結婚式にも出ることになり、最後は娘と谷口の結婚を認めて彼女らのいる広島に向かう―という結末です。
Higanbana (1958)
 別に結末まで書こうと書くまいと、そんなビックリするような話ではない点は、その後の小津作品と同じではないかと...。佐田啓二は、「秋日和」では司葉子彼岸花 映画 浪花.jpgが演じたヒロインの結婚相手でしたが、この「彼岸花」と「秋日和」「秋刀魚の味」の3作の中で(主要人物の)結婚式の場面があるのは「秋日和」だけです。結婚式の場面が無いのはその結婚が必ずしも幸せなものとはならなかったことを暗示しているとの説もあるようですが、この「彼岸花」の場合どうなのでしょう(渡辺文雄、何となく頼りなさそう)。「秋刀魚の味」で佐田啓二は、岡田茉莉子演じる妻の尻の下に敷かれて、ゴルフクラブもなかなか買えないでいましたが...(因みに、「秋刀魚の味」では佐田啓二が会社の屋上でゴルフの練習をしているが、この「彼岸花」では佐分利信がゴルフ場で独りラウンドしている。しがないサラリーマンと重役の違いか)。

浪花千栄子/山本富士子

彼岸花 映画01.jpg モチーフばかりでなくセリフや撮影面においても、その後の小津カラー作品の原型的なスタイルを多く含んでおり、この作品に見られる料亭での同期の男たちの会話やそれに絡む女将(高橋とよ)との遣り取り、家の1階に夫婦が暮らし2階に娘たちが暮らすが、階段は映さないという"ルール"(映さないことで親子の断絶を表しているという説がある)、会社のオフィスやバーのカウンターでの会話やその際のカメラワークなど、そして例えばオフィスであればくすんだ赤と緑を基調とした色使いなど、その後も何度も繰り返されるこうした後期の小津作品における"セオリー"的なものを再確認するうえでは再見の価値ありでした。

 この作品で、佐分利信演じる平山の部下で、佐田啓二演じる谷口の後輩でもある近藤役を演じてコメディ的な味を出している高橋貞二は、この作品彼岸花 映画s.jpg高橋貞二.jpgに出た翌年1959年に33歳で自らの飲酒運転で事故死しています(この年に結婚したばかりだった妻も3年後に自殺、青山霊園に夫と共に埋葬されている)。

佐分利信/高橋貞二(1959年に33歳で自らの飲酒運転で事故死)

 そして佐田啓二も、1964年に37歳でクルマにより事故死していますが、共に4人でクルマに乗っていて事故に遭い、亡くなったのはそれぞれ高橋貞二と佐田啓二の一人ずつのみでした。

佐田啓二(1964年に37歳で自動車運転事故死)/久我美子/有馬稲子
彼岸花 映画16.jpg彼岸花 映画9_s.jpg彼岸花 有馬稲子.jpg「彼岸花」●制作年:1958年●監督:小津安二郎●脚本:野田高梧/小津安二郎●撮影:厚田雄春●音楽:斎藤高順●原作:里見弴●時間:118分●出演:佐分利信/有馬稲子/山本富士子/久我美子/田中絹代/佐田彼岸花 sata%20.png啓二/高橋貞二/笠智衆/桑野みゆき/浪花千栄子/渡辺文雄/中村伸郎/北竜二/高橋とよ/桜むつ子/長岡輝子/十朱久雄/須賀不二男/菅原通済/江川宇禮雄/竹田法一/小林十九二/清川晶子/末永功●公開:1958/09●配給:松竹●最初に観た場所:三鷹オスカー(82-09-12)(評価:★★★★)●併映:「東京物語」(小津安二郎)/「秋刀魚の味」(小津安二郎)

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「晩春」より幅のあるテーマ。深みがあり、号泣があり、ユーモアもあり。

麦秋 dvd90.jpg 麦秋 dvd V.jpg
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 北鎌倉に暮らす間宮家は三世帯家族で、初老の植物学者・周吉(菅井一郎)とその妻・志げ(東山千栄子)、長男で医師の康一(笠智衆)とその妻・史子(三宅邦子)と幼い息子たち2人、それに長女で会社員の紀子(原節子)が生活している。紀子は28歳独身で、その嫁ぎ先が家族の懸念材料になっている。周吉の兄・茂吉(高堂國典)が大和から上京し、なかなか嫁に行かない紀子を心配する一方、周吉にも引退して麦秋 00.jpg大和へ来るよう勧めて帰っていく。紀子の会社の上司である佐竹(佐野周二)も彼女に、商社の常務で旧家の次男、という男性を紹介するという。家族はそれを歓迎するが、年齢が数えで42歳だと分かると志げと史子は不満を口にし、康一はそれを「贅沢は言えない」と非難する。康一の勤務先の医師・矢部謙吉(二本柳寛)の母親・たみ(杉村春子)の耳にもこの話が入る。矢部は戦争で亡くなった間宮家の次男麦秋 sugimura.jpg・省二とは高校からの友人だが、妻が一昨年に幼い娘を残して亡くなっており、たみが再婚相手を探していた。やがて、矢部が秋田の病院へ転任することになり、出発前夜、矢部家に挨拶に訪れた紀子は、たみから「あなたのような人を息子の嫁に欲しかった」と言われ、それを聞いた紀子は「あたしでよ麦秋 笠智衆 .jpgかったら...」と、矢部の妻になることを承諾する。急な展開に間宮家では皆が驚き、緊急家族会議が開かれ、紀子は詰問されるが、彼女は自分の決意を示して譲らず、皆も最後には諒解する。紀子の結婚を機に、康一は診療所を開業し、周吉夫婦は大和に隠居することにし、間宮家はバラバラになることとなった。初夏、大和の家で、周吉と志げが豊かに実った麦畑を眺めながら、これまでの人生に想いを巡らせていた―。

笠智衆(中央)/原節子(背中)

麦秋 1951 hara.jpg 1951(昭和26)年10月公開の小津安二郎監督作で、原節子が「紀子」という名の役(同一人物ではない)を演じた所謂「紀子三部作」の第1作「晩春」('49年)に続く2作目(3作目は「東京物語」('53年))。「晩春」が広津和郎「父と娘」を原作としていたのに対し、この作品は原作が無く、野田高梧、小津安二郎の共同脚本。「東京物語」も同じパターンですが(特定の原作無しの共同脚本)、野田高梧は「『東京物語』は誰にでも書けるが、これはちょっと書けないと思う」と言っていたそうです。

麦秋 0.jpg 「晩春」同様、行き遅れの娘が嫁に行くまでを描いた話ですが、同時に、戦前型の大家族の終焉を描いており、そうした意味では、テーマが拡がっていて(テーマに幅が出て)、「東京物語」にも通じるものがあります。また、大家族の終焉は"幸福な時"の終わりとも重なり、それはそのまま、家長夫婦には後に残されたものは、人生を振り返ることしかない、つまり「死」しかないという無常感にも連なるものがあります。小津自身も、本作において「ストーリーそのものより、もっと深い《輪廻》というか《無常》というか、そういうものを描きたいと思った」と発言しています(幅と併せて、深みのあるテーマと言っていいか)。

麦秋  hara.jpg 原節子を美しく撮っています。この映画が公開された時、小津安二郎と原節子は結婚するのではないかという予測が週刊誌などに流れたそうですが、結局、小津安二郎は生涯独身を通しました。小津自身は後に、結婚しようと思った相手がいなくはなかったが、(シャイな性格で)この映画のようなきっかけを与えてくれる人がいなかったという発言もしていたように思います。ということは、(映画の中では)原節子の方に自分を重ねているのでしょうか。因みに、小津は自分の母親が死ぬまで母親と一緒に暮らし、母親が亡くなった翌年に自らも亡くなっていますが、そう考えると、「晩春」における原節子演じる"紀子"にも自分を重ねていたような気がしなくもないです。

麦秋 原節子.jpg麦秋における原節子の号泣.jpg この映画の原節子演じる紀子は、終始誰に対しても明るいです。それだけに、ラスト近くで一人号泣する場面は重かったです(このそれまでの感情の抑制が一気に剥がれたように急変する手法は「東京物語」でも使われた)。この場合、幸福な大家族の終焉というこの作品のテーマを一人で負ってしまった感じでしょうか。逆『麦秋』(1951年) .jpgに言えば、テーマを原節子の号泣に象徴的に集約させた小津の手腕は見事だと言うべきでしょう。

 小津作品のベストテンでは、「晩春」と上位を争う作品ですが、「晩春」は理屈を論じる上で興味深い作品であるものの("壺"は何を意味するのか、とか)、結局のところ自分自身もよく分からないという部分もあり、一方、この「麦秋」にも、なぜ紀子は突然結婚を決意したのかという大きな謎がありますが、すでに指摘されているように、戦争に行ったきりの次兄の不在とその次兄と親しかった寡夫、彼が語る次兄からの最後の手紙のエピソードとその手紙を譲ってもらえないかという紀子―といった具合に考えると、繋がっていくように思えます。その手紙に麦の穂が同封してあったというのが、タイトルにも絡んで象徴的であり、個人的には「晩春」よりもやや上、「東京物語」に匹敵する評価です。

「麦秋」笠智衆.jpg 但し、「紀子三部作」の中では個人的には後の方で観たため、最初は、笠智衆が紀子(原節子)の兄(職業は医師)を演じているというのが、原節子の父親を演じた「晩春」と比べるとやや意外な感じもして、更には東山千栄子と老夫婦を演じた「東京物語」に対して、ここでは笠智衆は東山千栄子の長男ということになっているため、笠智衆が出てくる度に、そのギャップ修正に慣れるのにコンマ何秒か要したかも。三宅邦子と夫婦で男の子が2人というのは、この作品で子供達が演じるコミカルな様子ごと「お早よう」('59年)に引き継がれています。

笠 智衆

麦秋 2.jpg 他にもコミカルな要素はあって、例えば、紀子とその結婚を知らされた友人・田村アヤ(淡島千景)との会話で、アヤが、紀子が秋田に行くことになったことに「よく思いきったわね。あんたなんて人、とても東京を離れられないんじゃないかと思ってた」といい、「だって、あんたって人、庭に白い草花かなんか植えちゃって、ショパンかなんかかけちゃって、タイルの台所に、電気冷蔵庫かなんか置いちゃって、こう開けるとコカ・コーラかなんか並んじゃって、そんな奥さんになるんじゃないかと思ってたのよ」と早口でまくしたてるのが可笑しいです。彼女が言ってるのが、昭和26年の女性の「憧れる結婚のイメージ」だったのでしょうか(因みに、日本でテレビ放送が始まる2年前)。それに比べると、謙吉との結婚は、医者との結婚とはいえ、子持ちの勤務医でしかも赴任先が秋田ということで、やはりアヤには意外だったのだろなあ。

麦秋 杉村春子.jpg この映画でもう1人号泣したのが、杉村春子演じる謙吉の母親で、紀子の結婚の承諾で信じられない僥倖とばかりに泣くわけですが、やはりこの人の演技はピカイチでした。こうした演技があるから、やや突飛とも思える展開にもリアリティが感じられるのかも。号泣して「ありがとう」のすぐ後に「ものは言ってみるもんね、もし言わなかったらこのままだったかもしれなかった」と思わず本人の前で言ってしまうところは、それを言わせている脚本の妙でもありますが、杉村春子が演じることを前提にこうした台詞を入れているのでしょう。杉村春子は出演しているどの作品でも上手いですが、この作品における彼女は「東京物語」の彼女以上にいいです。
杉村春子

麦秋 1.jpg「麦秋」●制作年:1953年●監督:小津安二郎●製作:山本武●脚本:野田高梧/小津安二郎●撮影:厚田麦秋 1951  .jpg雄春●音楽:伊藤宣二●時間:124分●出演:原節子/笠智衆/淡島千景/三宅邦子/菅井一郎/東山千栄子/杉村春子/二本柳寛/佐野周二/村瀬禪/城澤勇夫/高堂国典/高橋とよ/宮内精二/井川邦子/志賀真津子./伊藤和代./山本多美./谷よしの./寺田佳世子./長谷部朋香./山田英子./田代芳子./谷崎純●公開:1951/03●配給:松竹(評価:★★★★☆)
佐野 周二/原 節子/淡島 千景                 佐野 周二
麦秋 佐野 周二 原節子 淡島千景 .jpg麦秋 佐野 周二 .jpg

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笠智衆の小津作品初主演作。「孝行したい時に親はなし」。"ほろ苦い"後味を残す作品。

父ありき 小津D6.jpg父ありき vhs.jpg

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 金沢の中学教師である堀川周平(笠智衆)は、妻を失い、小学生の一人息子・良平(少父ありき 0.png年期:津田晴彦)をここまで男手ひとつで育ててきた。しかし勤め先の中学の修学旅行先、箱根・芦ノ湖でボート転覆事故があり、教え子が溺死したことに責任を感じた彼は学校を退職する。出身地の信父ありき 4.png州に帰り、豊かな自然の中で新生活を始めた周平だったが、良平が中学に上がる頃になると、「このままでは良平を上の学校に行かせる事が出来ない」と考え、上京して働く旨を良平に伝える。父と共に暮らしたい良平は涙を流すが、そんな良平に周平は「泣いちゃおかしいぞ、男の子が男の子は、泣かんもんだ」と諭す。周平は、中学生になった良平を寄宿舎に預け、東京の工場に勤める。それから月日は流れ、良平(佐野周二)は25歳父ありき 釣り1.png6.jpgになり、仙台の帝大を卒業し秋田の学校で教師となっている。周平と温泉宿で久々に再会し、教師を辞めて一緒に暮らしたいと告げる。しかし周平父ありき 7.pngは「今の仕事を投げ出してはいけない」と息子を諭す。周平は、金沢時代の同僚だった平田(坂本武)の娘ふみ(水戸光子)を貰ってはどうかと良平に聞く。良平は照れながらも任せると言うが、数日後、周平は脳溢血で倒れ、ふみに「良平を頼みます」と言い遺して息を引き取る。その何日か後、秋田へ向かう列車の中に、父の遺骨を抱いた良平とふみの姿があった―。

父ありき v 2.jpg父ありきki.jpg 1942(昭17)年4月公開の小津安二郎監督作で、先に取り上げた「一人息子」('36年)が夫を失った母親と一人息子の繋がりを描いているのに対し、こちらは妻を失った父親と一人息子の繋がりを描いています。「一人息子」での母親(飯田蝶子)と息子(日守新一)の関係が、息子の出世を期待していたのに結局しがない夜学の教師になっているのを見てがっかりする母親と、そのがっかりする母親を見て自らも後ろめたく思う息子という、ほろ苦いと言うかやるせないものであったのに対し、こちらは、両者の関係が、父親の息子に対する教育的信念と、息子の父親への尊敬の念によって安定的に保たれているという印象を受けました。但し、その父親の'信念'のせいもあって、中学以来離れて暮らしてきた父親といつか一緒に暮らしたいという息子の想いが叶えられることないうちに父親が亡くなってしまうという展開はまさに「孝行したい時に親はなし」であり、こちらもある意味"ほろ苦い"後味を残す作品になっているように思いました。

 笠智衆の小津映画での初主演作であり、自伝『大船日記』の中で生涯で一番思い出深い作品にこの「父ありき」を挙げていましたが、長い大部屋俳優時代を経て、小津作品に出演しながらノンクレジット扱いだった時期もあっただけに、感慨ひとしおだったのではないかと思います(因みに、笠智衆自身の初主演作は斎藤寅次郎監督花形選手(1937)20dvd.jpgの「仰げば尊し」('37年))。この「父ありき」の時の笠智衆(1904年生まれ)は37歳で、当時29歳の佐野周二(1912年生まれ)の父親を演じたわけですが、 清水宏監督の「花形選手」('37年)では何と、大学陸上部の花形選手の一人を佐野周二が演じ、もう一人を笠智衆が演じていました。但し、笠智衆は一人息子  笠智衆 - コピー.jpg既に先の「一人息子」('36年)で当時32歳ながら老け役(元教師のトンカツ屋)を演じており、更にこの作品での堀川周平の老け役で好評を得、以降、小津映画の定番俳優となります。戦後の小津作品には全作出演、「東京物語」('53年)では、実年齢の差が1歳しかない杉村春子の父親を演じています。
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父ありき 坂本.jpg父ありき 佐分利 日守.jpg 笠智衆演じる教師・周平の同僚教師・平田をかつての小津映画の定番俳優・坂本武(1899年生まれ)が演じ、後半、かつての2人の教え子たちが2人を招いて同窓謝恩会のような宴を催しますが(こうしたモチーフも後の「秋刀魚の味」('62年)などに見られるが)、その中心となる黒川と内田をそれぞれ佐分利信(1909年生まれ)と日守新一(1907年生まれ)が演じています。1904年生まれの笠智衆はこの2人とも、実年齢であまり違わないことになります。

父ありき 釣り1.png父ありき 釣り2.jpg 周平・良平親子が渓流釣りをする場面が、子供時代と温泉宿での再会の後とにあり、構図を重ねているのが巧み。親子が渓流釣りをする場面は、「浮草物語」('34年)にもあったのを思い出させます。

幾何 一人息子.jpg幾何 父ありき.jpg 周平が中学で幾何の問題を教えていますが、演じる笠智衆の解説ぶりはなかなか流暢。この時取り上げている問題は、「一人息子」(左)で日守新一演じる夜学の教師が教えていた問題と少し似ているような...。一方、佐野周二演じる息子の良平が秋田の学校で教えているのは化学で、舞台となっているのは秋田大学鉱山学部の前身・秋田鉱山専門学校(1910年設立)ではないかと思われます(秋田大学鉱山学部は1998年に工学資源学部に改組、2014年に理工学部に改称された)。
Chichi ariki (1942)
Chichi ariki (1942).jpg
父ありき 小津 dvd_1.jpg「父ありき」●制作年:1942年●監督:小津安二郎●脚本:池田忠雄/柳井隆雄/小津安二郎●撮影:厚田雄治●音楽:彩木暁一●時間:94分(現存83分)●出演:笠智衆(堀川周平) /佐野周二(堀川良平) /津田晴彦(良平の少年時代) /佐分利信(黒川保太郎) /坂本武(平田真琴) /水戸光子(平田ふみ) /大塚正義(平田清一) /日守新一(内田実) /西村青児(和尚さん) /谷麗光(漢文の先生) /河原侃二(中学の先生) /倉田勇助(中学の先生) /宮島健一(会社員)/文谷千代子(堀川の女中) /奈良真養(医師) /大山健二(卒業生) /三井秀男(卒業生) /如月輝夫(卒業生)/久保田勝巳(卒業生) /毛塚守彦(写真師) /大杉恒雄(北陸の中学生) /葉山正雄(北陸の中学生) /永井達郎(北陸の中学生) /藤井正太郎(北陸の中学生) /小藤田正一(東北の工業生) /緒方喬(東北の工業生) /横山準(東北の工業生) /沖田儀一(東北の工業生) ●公開:1942/01●配給:映画配給社(松竹大船)(評価:★★★☆)

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分析・評価はスゴイことになっているが...。脇役2人(笠智衆・文谷千代子)の役柄が良かった。

風の中の牝鶏 [DVD].jpg風の中の牝雞 dvd.png  「風の中の牝雞」笠智衆 01.jpg 「風の中の牝雞」文谷千代子 01.jpg
風の中の牝鶏 [DVD]」「あの頃映画 松竹DVDコレクション 風の中の牝雞」笠智衆/文谷千代子

「風の中の牝雞」田中絹代.jpg 雨宮時子(田中絹代)は、夫・修一(佐野周二)が戦争に出征して外地へ赴いているため、健気にミシンを踏んで生計を立てていた。苦しい家計の毎日ではあるが、息子・浩の成長ぶりを夫に見てもらう日を心の支えにした生活であった。ある時、浩が病に倒れ入院して、まとまった金が必要になり、途方に暮れた時子は、いかがわしい安宿で見知らぬ男に身体を売ってしまう...。そして、やっと外地から戻った夫は、留守中の妻の真実を知ることになる―。

 小津安二郎監督による1948年の作品で、小津作品のベストテン・ランキングなどで意外と上位に来ることの多い作品です(特に、コアな小津映画ファンの間で評価が高い?)。

風の中の牝雞 02.jpg 当時は、戦争により外地で捕虜になっていた兵士が徐々に復員していたものの、シベリアなどに抑留されたままの人々も多く、また、国民皆保険制度が未整備だったため、こうした映画のような状況はあったかもしれません。ただ、時子が夫に事実を話したのが良かったのか。黙っていた方がいいよ、旦那が苦しむだけだからと言ってくれた友人(村田知英子)の意見の方が妥当のような気がしますが、まあ、隠し立て出来ない性分というのはあるのだろうなあと。

 むしろ、"過ち"を犯した時子をなかなか許せない修一に、時代を感じる部分もあります(果たして"過ち"と断じて良いものかというのもあるし、"不貞"という言葉さえも微妙)。修一は、日々、時子を非難罵倒し、彼女のとった行動を確認するため自宅から月島の曖昧宿に行き、そこで女将から時子のことを聞き出します。更に、部屋に呼んだ女・房子(文谷千代子)と話すうち、彼女が家族を養うために今の商売をしていると聞いて、女に金だけ渡して外へ出ます。そして、川原の空き地で再び出会った房子に、仕事を探してやるから堅気になれと言い聞かせます。

風の中の牝雞 01.jpg そんなこと、簡単に請け負っていいのかなと思ったら、会社の先輩同僚の佐竹(笠智衆)に相談したわけでした。自分の苛立つ気持ちを打ち明け、更に、見ず知らずの他人の採用のお願いまでして、頼りがいのある先輩なのだなあ、佐竹は。その佐竹が、「その女のことは許せて、奥さんのことは許せないのはおかしい」と修一を諭すのは至極真っ当に思えました。

 結局、頭では時子を許していると自らも分かっていても、感情がそれを許さないというのが修一の心境であり、帰宅すると、許しを請うてすがる時子を突き飛ばしてしまい、彼女は階段から転落する―。最後は、"雨降って地固まる"的な結末にばたばたと持って行った感じでしたが、個人的には、このスタントを使ってまでの「階段落とし」の場面は必要だったのか、やや疑問に思いました(少なくとも小津映画らしくないなあと)。

小津安二郎の芸術 朝日文庫.jpg この作品は、小津安二郎自身も失敗作だったと述懐していて、脚本家として初めて小津と組んだ野田高梧も演出に不満があったらしく、また、世間の評価もあまり高くなかったようです。ところが、映画評論家の佐藤忠男氏が『小津安二郎の芸術』('71年/朝日新聞社)で、これを「敗戦によって日本人が失ったもの」を描き出している作品とし、時子の失われた貞操を、日本人の精神的な純潔性の喪失の象徴と捉え、更には娼婦である房子を「敗戦で娼婦のごときものとなった日本人」の象徴とした上で、「しかしそれでも、空き地で弁当を食べる素朴さは保持しようではないか」(房子が川縁で弁当を食べるシーンがある)というのがこの作品のメッセージだとしたところから、この作品の再評価の機運は高まりました。
完本 小津安二郎の芸術 (朝日文庫)

風の中の牝雞.jpg 米国の批評家ジョーン・メレンは、時子は日本人の生活の優れた点を守るために身を売ったのだとして、この作品は日本人に、その優れた点、つまり占領によって汚されることのない日本人の生活の貴重なものを守るために、新しい社会を受け入れるべきだと語っているとし、その他にも、フランスの映画評論家ユベール・ニオグレの「戦後日本の道徳的雰囲気についての最も素晴しい要約の1つであり、小津作品の中で戦争の時代を締め括った後期作品に先立つ転回点としての作品でもある」との評価もあります。

 時子が曖昧宿に行ったことが、戦前と戦後の価値基準の転換点になっているなんて、何だか「スゴイ分析・評価」になっているなあという感じですが、脚本・演出・カメラなど作品の全体的な完成度からすると、この作品の翌年に作られた「晩春」の方が(小津・野田コンビが反省を踏まえたのか)上位にくるかと思います。

 田中絹代の演技が上手いのは確かですが、この映画で「役」としていいのは、笠智衆演じる主人公の同僚「佐竹」と(笠智衆はこの作品で、棒読みのようなセリフの言い回しを自分の「型」にしてしまったのではないか。生涯"大根"だったと評する人もいるが)、文谷千代子演じる娼婦「房子」で、この2人が修一に宥和する契風の中の牝鶏 笠・佐野.gif「風の中の牝雞」文谷千代子2.jpg機を与えたのは間違いないように思います。自分にとっては「脇役2人の役柄が良かった映画」というのが第一印象になるでしょうか。

[上左]妻の不貞を知って悩む修一(佐野周二・左)の相談に乗り、彼女を許すよう諭す同僚・佐竹(笠智衆・中央)/[上右]「曖昧宿」の窓辺に立って隣の小学校から流れる「夏は来ぬ」の歌声を聞く房子(文谷千代)

Kaze no naka no mendori (1948)
Kaze no naka no mendori  (1948).jpg「風の中の牝雞」●制作年:1947年●監督:村田知英子.jpg小津安二郎●脚本:野田高梧/小津安二郎●撮影:厚田雄春●音楽:斎藤高順●時間:83分●出演:田中絹代/佐野周二/村田知英子/笠智衆/坂本武/高松栄子/三井弘次/岡村文子/文谷千代子/水上令子/清水一郎●公開:1948/09●配給:松竹●最初に観た場所:ACTミニシアター(90-08-11)(評価:★★★☆)●併映:「東京の宿」(小津安二郎)
佐野周二/田中絹代

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「晩秋」に似た終わり方。テーマも同じく「娘を嫁にやった男親の悲哀と孤独」。

秋刀魚の味 チラシ.jpg秋刀魚の味 dvd.jpg 秋刀魚の味 ブルーレイ.jpgあの頃映画 秋刀魚の味 [DVD]」「「秋刀魚の味」 小津安二郎生誕110年・ニューデジタルリマスター [Blu-ray]」 

秋刀魚の味 宴席.jpg 初老のサラリーマン平山周平(笠智衆)は、秋刀魚の味 岩下.jpg妻を亡くして以来、24歳になる長女・路子(岩下志麻)と次男・和夫(三上真一郎)の三人暮らしで、路子に家事を任せきって生活している。そのことに後ろめたさを感じつつ、まだ嫁にやるには早い思いたい周平に、同僚の河合(中村伸郎)が路子の縁談を持ちかける。最初は乗り気でない周平だったが、河合のしつこい説得と、一人娘の婚期を遅れさせ後悔する恩師の姿を見るにつれ、ついに路子へ縁談話をするが、急な話に路子は当惑する―。

Sanma no aji (1962) 1.jpg秋刀魚の味1カット.jpg 小津安二郎監督の1962(昭和37)年作品で、同監督の遺作となった作品。原作は「秋日和」('60年)と同じ里見弴。タイトルの「秋刀魚の味」は佐藤春夫の詩「秋刀魚の歌」から引いており、映画の中には"秋刀魚"は出てきません(海外では"Autumn Afternoon"のタイトルで公開)。「秋日和」に受付嬢役で出てた岩下志麻が小津映画初主演(作中に小林正樹監督・仲代達矢主演の松竹映画「切腹」('62年9月公開)のポスターが見られるカットがあるが、岩下志麻はこの作品にも出演している)。

秋刀魚の味s.jpg 前半部分は、周平、河合、堀江(北竜二)らかつての中学の同級生たちが恩師の漢文教師で、通称"瓢箪"先生(東野英治郎)を招いて同窓会をした話が主軸になっています。その席で"瓢箪"はかつての教師の威厳も無く酔っぱらってしまいます(この元教師、鱧(はも)を食べたのは初めてか?この映画で出てくる料理魚は鱧だけで、先に述べた通りサンマは出てこない)。

 秋刀魚の味 東野.jpg 東野英治郎って「東京物語」以来、小津映画で酔っ払いの役が多いなあ(実際にはあまり飲めなかったようだが。一方、中村伸郎は酒好きで、笠智衆は完全な下戸だった)。笠智衆が実年齢58歳で57歳の周平を演じているのに対し、東野英治郎は実年齢55歳で17歳上の72歳の老け役です。"瓢箪"を家まで送ると独身の娘(杉村春子)が悲憤の表情でそれを迎える(杉村春子(1906年生まれ)は実年齢56歳で東野英治郎(1907年生まれ)演じる元教師の48歳の娘を演じている)―"瓢箪"は、今は独身の娘が経営するラーメン屋の親父になっていたわけ秋刀魚の味 杉村.jpg秋刀魚の味 燕来軒.jpgで、後日周平がその店を訪ねた際にもその侘しさが何とも言えず、"瓢箪"が周平の会社へ礼に来た際に河合と共に料理屋へ誘うと「あんたは幸せだ、私は寂しい、娘を便利に使って結局嫁に行きそびれた」とこぼす始末。それを聞き河合は「お前も"瓢箪"になるぞ。路子さんを早く嫁にやれ」と周平に忠告する―といった出来事が、後半の伏線となっています。

秋刀魚の味 佐田・岡田.jpg 周平の長男・幸一(佐田啓二)は妻・秋子(岡田茉莉子)が団地住まいをしていますが、夫は大企業に勤めているものの、共稼ぎの妻の方が帰りが遅い時は夫が自分で夕飯を作るところが、当時としては目新しかったといいます。幸一が以前から欲しかったゴルフクラブを会社の同僚(吉田輝雄)から買うために周平から金を借りると、それを秋子にさらわれてしまったため不満が募るといった具合に、共稼ぎのせいか妻の発言権が強く、最終的には秋子は月賦で買うことを認めますが、その代わり自分もハンドバッグを買うと言います。雰囲気的に、この作品で小津監督は、夫婦生活、結婚生活というものをあまり明るいものとしては描いていない印象を受けます(因みに佐田啓二はこの映画に出演した2年足らずの後に自動車事故で亡くなっている(享年37))。

秋刀魚の味 岩下志麻 花嫁姿.jpg 路子の縁談の話は周囲が色々動き過ぎてあっちへ行ったりこっちへ行ったりしますが、最後に路子は結婚を決意し、河合が紹秋刀魚の味 笠 ラスト.jpg介した医師の元へ嫁ぐことに―。路子の花嫁姿に接し、平山は「うーん、綺麗だ。しっかりおやり、幸せにな」と言葉をかけ、式の後は亡き妻に似たマダム(岸田今日子)がいるバーへ行き独りで飲みながら軍艦マーチを聴く。ラスト、周平は自宅で「うーん、一人ぽっちか」と呟き、台所へ行くと急須から茶を注いで飲む―。

秋刀魚の味 笠1.jpg がっくりしてはいるが泣いてはいないという(笠智衆は映画において泣く演技を拒否した)、「晩秋」に似た終わり方でした(テーマも同じく「娘を嫁にやった男親の悲哀と孤独」であるし)。会社のオフィスの撮り方や宴席、料理屋の撮り方なども、同じセットを使ったのではないかと思われるくらい似ていて、しかも俳優陣も重なるため、やや印象が弱かった感じも(ヒロイン・路子役の岩下志麻は、「秋日和」で会社の受付嬢というチョイ役だった)。路子の花嫁姿はあっても結婚式の場面が無いのも「晩秋」と同じで、これは路子の結婚生活が必ずしも幸せなものとはならないことを暗示しているとの説もありますが、個人的には何とも言えません。

Sanma no aji (1962).jpg 小津安二郎監督のカラー作品は、「彼岸花」('58年)、「お早よう」('59年)、「浮草」('59年)、「秋日和」('60年)、「小早川家の秋」('61年)とこの「秋刀魚の味」の6作品があり、戦後のということで多くの人に観られているということもあってか、何れの作品も小津作品のファン投票サイトや個人のサイトなどでベストテンにランクインすることが多いのです。

 実際、2003年にNHK-BS2で「生誕100年小津安二郎特集」を放映した際の視聴者投票による「小津映画ベスト10」では、①「東京物語」②「晩春」③「麦秋」④「生れてはみたけれど」⑤「浮草」⑥「彼岸花」⑦「秋刀魚の味」⑧「秋日和」⑨「早春」⑩「淑女は何を忘れたか」の順でした。これ、自分の中でのランキングと近い部分もあれば違っている部分もあるのですが、この並び順が別の一般または個人のサイトなどを見ると「お早よう」がランクインしていたりして、微妙に違っていたりするのが面白いです。

 因みにIMDbの評価は「8.3」。海外でも高い評価を得ている作品と言えます。
Sanma no aji(1962)

秋刀魚の味 杉村春子.jpg 杉村春子 秋刀魚の味 東野英治郎.jpg 東野英治郎

中村伸郎2.jpg秋刀魚の味 加東.jpg「秋刀魚の味」●制作年:1962年●監督:小津安二郎●脚本:野田高梧/小津安二郎●撮影:厚田雄春●音楽:斎藤高順●原作:里見弴●時間:113分●出演:笠智衆/岩下志麻/佐田啓二/岡田茉莉子/中村伸郎/東野英治郎/北竜二/杉村春子/加東大介/吉田輝雄/三宅邦子/高橋とよ/牧紀子/環Sanma no aji (1962) 岸田今日子.jpg秋刀魚の味 吉田輝雄.jpg三千世/岸田今日子/浅茅しのぶ/須賀不二男/菅原通済●公開:1962/11●配給:松竹●最初に観た場所:三鷹オスカー(82-09-12)(評価:★★★☆)●併映:「東京物語」(小津安二郎)/「彼岸花」(小津安二郎)

吉田輝雄


"The Tofu Maker | The Films of Yasujiro Ozu/The six final films of Yasujiro Ozu"
1958年 彼岸花
1959年 お早よう
1959年 浮草
1960年 秋日和
1961年 小早川家の秋
1962年 秋刀魚の味

Music from the 2008 film Departures, 'Okuribito - Ending' written by Joe Hisaishi.

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「晩秋」と"裏返しの相似形"か。同じ手を使いながらも、ラストに女性の強さが感じられる。

映画 秋日和  dvd.jpg 映画 秋日和  ブルーレイ.png  映画 秋日和 女性3人.jpg
あの頃映画 秋刀魚の味 [DVD]」「「秋日和」 小津安二郎生誕110年・ニューデジタルリマスター [Blu-ray]

映画 秋日和  七回忌.jpg 亡き友・三輪の七回忌に集まった間宮(佐分利信)、田口(中村伸郎)、平山(北竜二)の3人は、未亡人の秋子(原節子)とその娘アヤ子(司葉子)と談笑するうち、年頃のアヤ子の結婚に話が至る。映画 秋日和  男3人.jpg3人は何とかアヤ子を結婚させようと動き始めるが、アヤ子は母親が一人になることが気がかりでなかなか結婚に踏み切れない。間宮の会社の後藤(佐田啓二)がアヤ子に似合いだと考えた3人は、アヤ子が嫁ぐ気になるためにはまず母親が再婚することが先決と考え、平山を再婚相手の候補として画策する。映画 秋日和  伊香保.jpgその動きを察したアヤ子は同僚の佐々木百合子(岡田茉莉子)に相談し、それを聞いて憤慨した百合子は間宮らを一堂に会させてやり込めるが、彼らの説明を聞いて百合子も納得し、母娘の結婚話が進むことになる。しかし秋子は娘と二人で出かけた伊香保温泉の宿で、自分は一人で生きていく決意だと伝え、娘の背中を押す―。

 小津安二郎監督の1960(昭和35)年製作作品で、「彼岸花」('58年)に続いての里見弴の原作であり、娘の結婚を巡る親子の感情のもつれと和解を淡々としたコメディタッチで描いています。

 なかなか結婚しない娘のことを気遣う親という、小津映画に繰り返し見られるモチーフを踏襲していますが、この作品では「親」が、「晩春」('49年)などで見られる「父親」ではなく「母親」になっていて、その母親を、「東京物語」('53年)で笠智衆の義理の娘を、「晩春」で笠智衆の実の娘を演じた原節子が演じているのが興味を引きます。

映画 秋日和 原2.jpg映画 秋日和 司.jpg 原節子は当時実年齢40歳にして45歳の未亡人秋子役で、娘役の司葉子は実年齢26歳で24歳のアヤ子を演じていますが、実年齢では14歳差ということになります。当時56歳の笠智衆が秋子の義兄(59歳)という設定であるため、「晩春」と比べると原節子が1世代上にスライドしたことになります。

 「晩春」においてもこの「秋日和」においても、親の再婚話を前にして娘が「不潔よ」「汚らしい」などという場面がありますが、「晩春」でそのセリフを言った原節子が、今度は娘・司葉子に言われる側に回っているわけです。その秋子が、再婚話に乗り気になったふりをして、アヤ子を嫁に行く気にさせるというのも、「晩春」で笠智衆が再婚話に乗ったふりをして原節子演じる娘・紀子を嫁に行かせるのと"同じ手"を使っている訳で、言わば"裏返しの相似形"になっている点が興味深いです。

映画 秋日和 原.jpg 但し、「晩春」のラストで笠智衆は、娘を嫁にやった後に家で独りになって林檎の皮を剥きながら深くうなだれますが、この作品の原節子演じる秋子は、娘の結婚式を終えてアパートに戻った後、独り静かに微笑を浮かべます。原節子が母親役を演じていることに注目が行きがちな作品ですが、「晩春」と比べるとこの点が大きく異なるように思います。

 秋子に再婚の意思が無いことは本人が最初から言っていることですが、この"笑み"によって、それは確信として最初からあり、途中で揺らぐことも無かったのだと、個人的には感じられました。平山(北竜二)が、妻に先立たれて不自由し、自分が秋子の再婚相手として話が進んでいると勘違いして有頂天になった挙句に、アヤ子の結婚式では一人しおれていたのとは対極的で、小津安二郎はこの作品で、男と女の強さの違いを描いたかのようにも思います。

秋日和 記念撮影.jpg秋日和 司葉子 佐田啓二.jpg また、「晩春」にも「秋刀魚の味」にも無い結婚式の場面がこの作品にあるのは(新郎新婦そろっての式当日の記念撮影シーンなど)、このアヤ子(司葉子)と後藤(佐田啓二)の結婚のみが、小津映画ではごく例外的に"幸せな結婚"として暗示されているためとの説もあるようです。個人的には、「お茶漬けの味」('52年)、「早春」('56年)などでもお馴染みのラーメン屋「三来元」で2人が並んでラーメンを食べる場面に、この先2人が上手くいくであろう予兆が示唆されているように思いました。

秋日和 司葉子.jpg映画 秋日和 岡田.jpg 名匠・小津の作品として気負って観たところで、話としては何てことない話のような気もしますが、司葉子を美しく撮っているほか、小津映画初出演の岡田茉莉子(当時27歳)の活き活きとした演技も印象的であり、特に百合子が秋子に会いに行く場面は、昭和前期型(原節子)と昭和後期型(岡田茉莉子)の異なる演出パターンが1つの場面に収まっているという点が興味深かったです。

秋日和 屋上から1.jpg秋日和 屋上から2.jpg 小津映画と言えば、鉄道の駅や走っている列車を映すところから始まるものが多いのですが(或いは作中に必ず駅や列秋日和9.jpg車が出てくる)、この作品は2年前に完成した東京タワーが冒頭に映し出されています。では列車は出てこないかというと、アヤ子や百合子が勤めるオフィスの屋上から東海道線が映し出されていました(その列車には、新婚旅行に向かう2人のかつての同僚が乗っている)。

 ローアングルは和室場面だけでなく、会社のオフィスでの場面もローアングルで撮っていたのだなあと改めて思わされましたが、そのオフィスの受付嬢役で出演していたのが、2年後に「秋刀魚の味」に主演することになる岩下志麻(当時19歳)でした。

映画 秋日和  チラシ.jpg IMDbの評価は「8.2」。海外でも高い評価を得ている作品と言えます。


「秋日和」●制作年:1960年●監督:小津安二郎●脚本:野田高梧/小津安二郎●撮影:厚田雄春●音楽:斎藤Akibiyori(1960).jpg高順●原作:里見弴●時間:128分●出演:原節子/司葉子/佐分利信/岡田茉莉子/佐田啓二/中村伸郎/北竜二/桑野みゆき/三宅邦子/沢村貞子/三上真一郎/渡辺文雄/高橋とよ/十朱久雄/南美江/須賀不二男/桜むつ子/笠智衆/田代百合子/設楽幸嗣/千之赫子/岩佐分利信 秋日和.jpg下志麻●公開:1960/11●配給:松竹(評価:★★★☆)

Akibiyori(1960)
A widow tries to marry off her daughter with the help of her late husband's three friends.

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ラストの会話がくすりと笑える。昭和のノスタルジーを感じさせる作品。

小津 安二郎 「お早う」tirasi.jpg 小津 安二郎 「お早う」dvd2.jpg 小津 安二郎 「お早う」dvd.jpgあの頃映画 松竹DVDコレクション 「お早よう」」(2013) 「「お早よう」 小津安二郎生誕110年・ニューデジタルリマスター [Blu-ray]」(2014)

 郊外の住宅地に長屋のように複数の家族が隣り合って暮らしている。林家の息子実(設楽幸嗣)と勇(島津雅彦)はテレビが欲しいと父・啓太郎(笠智衆)、母・民子(三宅邦子)の両親にねだるが、聞き入れてもらえない。男のくせに余計な口数が多いと啓太郎に叱られた子供たちは、要求を聞き入れてもらえるまで口を利かないというストライキを始める―。

 小津安二郎監督の第50作目にあたる作品(カラー第2作)で、初期作品「大人の見る繪本 生れてはみたけれど」('32年)でも子供たちのストライキがあったことを思い出させます。「生れてはみたけれど」は子供の視点で始まって大人の視点に行き、最後は両者を統合するような感じで、その間に、大人の悲哀感と、それをうっすら感じる子供の成長のようなものがありましたが、こちらは専ら子供の視線であり、さほど悲哀感は無く、からっとしたコメディとなっています。

小津 安二郎 「お早う」父怒る.jpg 林家の子供たちは、先にテレビを自宅に入れている隣の丸山家にテレビを見に行きますが、1959(昭和34)年頃はそういうことがあちこちであったのだろなあと(因みに、テレビ画面の大相撲中継に出てくる栃錦は既に全盛期を過ぎていたが、昭和34年年3月場所で千秋楽に若乃花を破り「奇跡」と言われた復活優勝を遂げている)。

小津 安二郎 「お早う」テレビが来た.jpg 当時55歳の笠智衆が46歳の父親の役を演じていて、実年齢よりかなり若い役作りになっていますが、49歳の時に70歳の役を演じた「東京物語」('53年)で、息子の嫁を演じた三宅邦子と今度は夫婦役というのがやや強引な感じも。当時52歳の東野英治郎演じる啓太郎の「先輩」富沢が55歳で定年退職した後、何とか再就職が決まったのが家電セールスマンの仕事で、啓太郎は先輩へのご祝儀にテレビを買う―それが子供の要求を叶えることになるというほのぼのとした結末。つい先日まで、飲み屋で啓太郎と富沢がテレビを巡って大宅壮一の「一億総白痴化」論に便乗していたことからすると皮肉な結末とも言える?

小津 安二郎 「お早う」佐田・久我.jpg 民子の妹・節子(久我美子)は、勤めていた会社が潰れて失業中で近所の子供たちに英語を教えている福井平一郎(佐田啓二)の元へせっせと翻訳の仕事を届ける―というこの2人の仄かな恋愛感情がサイドストーリーの1つとしてあり、平一郎は林家の子供が口数が多いことを叱られて「大人だってコンチワ、オハヨウ、イイオテンキデスネ、余計なこと言ってるじゃないか」と反論したという話を節子から聞いて興味を抱き、そうした一見無駄であるような言葉が世の中の潤滑油になっているんだろうけれど、子供にはまだ解らないのだろうなあと節子に解説してみせる―その様子を、節子が帰った後に、同居の姉で自動車のセールスをしている加代子(沢村貞子)に、あなただって節子さんに肝腎なことは言わないで余計な話ばかりしているとたしなめられます。

お早よう ラスト.jpg その平一郎がラストで駅のホームで節子と偶然出会って、またしても挨拶と天気の話を繰り返しているのがくすりと笑えます。但し、2人の間に言葉が途切れて間があったと思ったら、平一郎が「あの雲は面白い形をしていますね」とか言い始めたのは、おいおい大丈夫かという感じも。まあ、優しい節子が相手だからともかく、普通だったら「見切られ時」ではないかという気もしなくはありませんでした。

小津 安二郎 「お早う」 佐田啓二.jpg 佐田啓二は当時32歳、5年後に自動車事故で亡くなっており(享年37歳)、一瞬、息子・中井貴一に似ているかなと思わせる部分がありますが、息子の方はもう50歳を超えているのだなあ。
 長屋風住宅街のロケ地は現在の多摩川緑地付近でしょうか。テレビ有りの丸山家の主人を演じているのは大泉滉、近所に鉛筆やゴム紐などを売り歩く押売りに殿山泰司など、懐かしい面々も。

Ohayô(1959).jpg 結局、「ウチはまだまだ」とか何やかや言いながらも、この後かなり短い年数の間にテレビは日本中の家庭に普及したわけで(昭和34年時点の普及率25%以下だったのに対し、昭和37年には約80%に)、近所の家にテレビを見いくというというようなことがあったのは限られた期間の現象ではなかったのかと思われます。どうってことない作品ですが、映像の隅々に昭和のノスタルジーを感じさせる作品です。

Ohayô(1959)
Two boys begin a silence strike to press their parents into buying them a television set.


 
小津 安二郎 「お早う」昭和.jpg小津 安二郎 「お早う」昭和2.jpg

 お早よう 杉村春子2.jpg お早よう 杉村春子.jpg 杉村春子 お早よう 東野英治郎.jpg 東野英治郎  

小津 安二郎 「お早う」笠・三宅・久我.jpg小津 お早う 大泉.jpg「お早よう」●制作年:1959年●監督:小津安二郎●脚本:野田高梧/小津安二郎●撮影:厚田雄春●音楽:黛敏郎●時間:94分●出演:佐田小津 お早う 殿山.jpg啓二/久我美子笠智衆三宅邦子(左写真)/設楽幸嗣/島津雅彦/高橋とよ/杉村春子/沢村貞お早よう 小津 恋人たち.jpg子/東野英治郎/長岡輝子/三好栄子/田中春男/大泉滉(中)/泉京子/殿山泰司(右)/佐竹明夫/諸角啓二郎/桜むつ子/千村洋子/須賀不二男●公開:1959/05●配給:松竹●最初に観た場所:ACTミニシアター(90-08-05)(評価:★★★☆)併映:「淑女は何を忘れたか」(小津安二郎)
大泉滉・泉京子夫婦の家の室内にあるポスターはルイ・マル「恋人たち」('59年4月日本公開)のもの

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「老成」とは子供への心理的依存を断つことか。義理の関係の方が美しく描かれているのが興味深い。
東京物語 小津 チラシ2.jpg東京物語 小津 dvd.jpg 東京物語 紀子のアパート.jpg   
「東京物語」 小津安二郎生誕110年・ニューデジタルリマスター 【初回限定版】 [Blu-ray]」(2013)
「東京物語」チラシ

 尾道に暮らす平山周吉(笠智衆)とその妻のとみ(東山千栄子)は20年ぶりに東京に出掛け、成人した子供たちの家を訪ねるが、長男の幸一(山村聰)も長女の志げ(杉村春子)も仕事が忙しくて両親にかまってやれない。寂しい思いをする2人を慰めたのが、東京物語 小津 ラスト.jpg戦死した次男の妻の紀子(原節子)であり、彼女は仕事を休んで、2人を東京の観光名所に連れて行く。周吉ととみは、子供たちからはあまり温かく接してもらえなかったが、それでも満足した様子を見せて尾道へ帰る。しかし、その数日後に、とみが危篤状態であるとの電報が子供たちの元に届く。子供たちが尾道の実家に到着した翌日未明に、とみは死去する。とみの葬儀が終わった後、志げは次女の京子(香川香子)に形見の品をよこすよう催促する。その上、紀子以外の子供たちは、葬儀が終わるとそそくさと帰ってしまい、京子は憤慨するが、紀子は義兄姉を庇って若い京子を諭す。紀子が東京に帰る前に、周吉は上京した際の紀子の優しさに感謝を表す。がらんとした部屋で周吉は独り静かな尾道の海を眺めるのだった―。

Sight & Sound誌オールタイム・ベスト2012年版.jpg 小津安二郎監督の代表作とされ、日本映画を代表する傑作とされていますが、世界的な評価も高く、2012年には、英国映画協会発行の「サイト・アンド・サウンド」誌が発表した、世界の映画監督358人が投票で決める最も優れた映画に選ばれています(同誌は小津監督が同作品で「その技術を完璧の域に高め、家族と時間と喪失に関する非常に普遍的な映画をつくり上げた」と評価した)。最初に観た当時は、そんなにスゴイ作品なのかなという印象東京物語11.JPGもありましたが、何回か観ていくうちに、自分の中でも評価が高くなってきた感じで、世評に影響されたというよりも、年齢のせいかなあ(若い人でもこの作品を絶賛する人は多いが)。

左から山村聡、三宅邦子、笠智衆、原節子、杉村春子、東山千栄子

 老年と壮年、地方と大都会、大家族と核家族、ゆったりと流れる時間と慌ただしく流れる時間―といった様々な対立項の位相の中で幾度となく論じられてきた作品ですが、小津自身は「親と子の成長を通して日本の家族制度がどう崩壊するかを描いてみた」と述懐しています。

甘えの周辺292.JPG土居健郎.png 個人的には、『甘えの構造』('71年/弘文堂)で知られた精神科医・土居健郎(1920-2009)が『「甘え」の周辺』('83年/弘文堂)でこの作品について書いていた論考がしっくりきました("論考"と言うより"感想"に近いもので、そう難しいことを言っているわけではないが)。
 土居健郎はその本の「老人と心の健康」という章で、「ある映画から」としてこの作品のストーリーを丁寧に紹介したうえで、「子どもは成長するときに、親と同一化する」(親を見習って成長する)が、「老人になると、どうも逆になるらしい」とし、今度は老人が子供に同一化することで、「この世におさらばする前に、子どもを通してもういっぺん人生をおさらいするのである」としています。その上で、この映画の場合、忙しそうにしている長男夫婦を見ると、それを見て両親たちは、自分たちが来て嬉しいことは嬉しいのだろうが、一方で邪魔になっていることも分かる―但し、自分たちも若い頃は同じだったではないかという思いがあるからこそ、両親たちはそれを責めないのではないかと。

東京物語 熱海.jpg 長女(杉村春子)の勧めで熱海に行って、旅館の部屋が麻雀部屋の真下で寝付かれなかったなど散々な目に遭って帰ってきたけれど、お金を出したのは子供達なので文句も言えず、逆に早く帰って来たことで文句を言われる始末だが、「宿無しになってしもうたなあ」とか言いながらも、それぞれ友達(十朱久雄・東野英治郎)の所と次男の未亡人(原節子)のアパートへと行く―。

 「人間欲を言えばきりがないからのう」と周吉(笠智衆)は言っていますが、両親が子供たちに失望させられたのは確かであるとしても、そこで子供たちは自分達とは異なる別の人格や生活を持った一個人であることを認識したことで、老夫婦も成長していると筆者(土居)は捉えているようです。

東京物語 小津 アパート.jpg この点について土居健郎は、映画評論家・佐藤忠男氏の「小津安二郎は、大人になることは、親に対して他人になっていくことである、と言おうとしているようだ」との指摘を非常に鋭いものとして評価しています(因みに、佐藤忠男の『完本・小津安二郎の芸術』(朝日文庫)は、小津映画に見られる「甘え」をしばしば指摘している。『小津安二郎の芸術』の単行本(朝日新聞社)の初版は1971年の刊行であり、これは『甘えの構造』の初版と同じ年である)。

 その上で筆者(土居)は、老人は老いて子供に依存的にならざるを得ない状況になる場合があるが、経済的に依存することがあっても心理的な依存からは離れていくべきであって、それが「老成・老熟」ということではないかとしています。

 一方で、この映画では、実の親子の関係と比べ、老夫婦と次男の未亡人(原節子)との関係は美しく描かれており、義理同士の関係の方が実の親子の関係より遥かに良い関係として描かれていることがこの作品の興味深い特徴かと思われます。

 この点について土居健郎は、義理の関係の方がお互いに遠慮があるために、我儘を言わずに良い関係が構築されることがあるとしています(土居は、グリム童話の「シンデレラ物語」の、姉妹の中で唯一心根の優しい娘シンデレラが"継子"であったことを指摘している)。

東京物語 小津 笠・原.jpg この映画で笠智衆は実年齢49歳にして70歳の平山周吉を演じたわけですが、その「老成」を演じ切っているのは見事。原節子演じる東京物語 小津 原号泣.jpg紀子がラスト近くで自分の複雑な思いを周吉に打ち明けて号泣する場面は名シーンとされていますが、紀子の全てを受け止める周吉の態度との相互作用からくる場面状況としての美しさと言えるのでは。

 「義理の関係の方がお互いに遠慮があるために、我儘を言わずに良い関係が構築されることがある」と土居健郎に言われてみれば、原節子はうっ伏して号泣するのではなく、こみ上げるものを抑えるような感じで泣いていて、この"節度"がこの作品の美しさを象徴していると言えるのかもしれません。

「東京物語」と小津安二郎―なぜ世界はベスト1に選んだのか.jpg『東京物語』原節子、香川京子.gif 2013年が小津安二郎の生誕100周年だったため、梶村啓二 著 『「東京物語」と小津安二郎』('13年/平凡社新書)など何冊か関連本が刊行されていて、この機会に映画と併せて読んでみるのもいいのではないかと思います。


原節子/香川京子

東京物語21.jpg

Tôkyô monogatari(1953)
Tôkyô monogatari (1953).jpg An old couple visit their children and grandchildren in the city; but the children have little time for them.

        
Poster for Yasujiro Ozu Season at BFI Southbank.jpgPoster for Yasujiro Ozu Season at BFI Southbank (1 January - 28 February 2010)
(「BFIサウスバンク」は2007年まではナショナル・フィルム・シアター(National Film Theatre)の名称で知られていたイギリス映画教会(British Film Institute)が運営するロンドンの映画館)

東京物語 笠・東野.jpg東京物語 0.jpg「東京物語」●制作年:1953年●監督:小津安二郎●脚本:野田高梧/小津安二郎●撮影:厚田雄春●音楽:斎藤高順●時間:136分●出演:笠智衆/東山千榮子/原節子/香川京子/三宅邦子/杉村春子中村伸郎/山村聰/大坂志郎/十朱久雄/東野英治郎/長岡輝子/高橋豊子/桜むつ子/村瀬禪/安部徹/三谷幸子/毛利充宏/阿南純子/水木涼子/戸川美子/糸川三鷹オスカー.jpg三鷹オスカー  (2).jpg三鷹オスカー ー.jpg和広●公開:1953/11●配給:松竹●最初に観た場所:三鷹オスカー(82-09-12)(評価:★★★★☆)●併映:「彼岸花」(小津安二郎)/「秋刀魚の味」(小津安二郎)
三鷹オスカー 1977年9月3日、それまであった東映系封切館「三鷹東映」が3本立名画座として再スタート。1978年5月に「三鷹オスカー」に改称。1990(平成2)年12月30日閉館。

●"Sight & Sound"誌・映画監督による選出トップ10 (Director's Top 10 Films)(2012年版)の上位100作品
[姉妹版:同誌映画批評家によるオールタイム・ベスト50 (The Top 50 Greatest Films of All Time)(2012年版)
Sight & Sound誌オールタイム・ベスト2012.jpg 1位:『東京物語』"Tokyo Story"(1953/日) 監督:小津安二郎
 2位:『2001年宇宙の旅』"2001: A Space Odyssey"(1968/米・英) 監督:スタンリー・キューブリック
 2位:『市民ケーン』"Citizen Kane"(1941/米) 監督:オーソン・ウェルズ
 4位:『8 1/2』"8 1/2"(1963/伊) 監督:フェデリコ・フェリーニ
 5位:『タクシー・ドライバー』"Taxi Driver"(1976/米) 監督:マーティン・スコセッシ
 6位:『地獄の黙示録』"Apocalypse Now"(1979/米) 監督:フランシス・フォード・コッポラ
 7位:『ゴッドファーザー』"The Godfather"(1972/米) 監督:フランシス・フォード・コッポラ
 7位:『めまい』"Vertigo"(1958/米) 監督:アルフレッド・ヒッチコック
 9位:『鏡』"Mirror"(1974/ソ連) 監督:アンドレイ・タルコフスキー
 10位:『自転車泥棒』"Bicycle Thieves"(1948/伊) 監督:ヴィットリオ・デ・シーカ
 11位:『勝手にしやがれ』"Breathless"(1960/仏) 監督:ジャン=リュック・ゴダール
 12位:『レイジング・ブル』"Raging Bull"(1980/米) 監督:マーティン・スコセッシ
 13位:『仮面/ペルソナ』"Persona"(1966/スウェーデン) 監督:イングマール・ベルイマン
 13位:『大人は判ってくれない』"The 400 Blows"(1959/仏) 監督:フランソワ・トリュフォー
 13位:『アンドレイ・ルブリョフ』"Andrei Rublev"(1966/ソ連) 監督:アンドレイ・タルコフスキー
 16位:『ファニーとアレクサンデル』"Fanny and Alexander"(1984/スウェーデン)監督:イングマール・ベルイマン
 17位:『七人の侍』"Seven Samurai"(1954/日) 監督:黒澤明
 18位:『羅生門』"Rashomon"(1950/日) 監督:黒澤明
 19位:『バリー・リンドン』"Barry Lyndon"(1975/英・米) 監督:スタンリー・キューブリック
 19位:『奇跡』"Ordet"(1955/ベルギー・デンマーク) 監督:カール・ドライヤー
 21位:『バルタザールどこへ行く』"Au hasard Balthazar"(1966/仏・スウェーデン) 監督:ロベール・ブレッソン
 22位:『モダン・タイムス』"Modern Times"(1936/米) 監督:チャーリー・チャップリン
 22位:『アタラント号』"L'Atalante"(1934/仏) 監督:ジャン・ヴィゴ
 22位:『サンライズ』"Sunrise: A Song of Two Humans"(1927/米) 監督:F・W・ムルナウ
 22位:『ゲームの規則』"La Règle du jeu"(1939/仏) 監督:ジャン・ルノワール
 26位:『黒い罠』"Touch Of Evil"(1958/米) 監督:オーソン・ウェルズ
 26位:『狩人の夜』"The Night of the Hunter"(1955/米) 監督:チャールズ・ロートン
 26位:『アルジェの戦い』"The Battle of Algiers"(1966/伊・アルジェリア) 監督:ジッロ・ポンテコルヴォ
 26位:『道』"La Strada"(1954/伊) 監督:フェデリコ・フェリーニ
 30位:『ストーカー』"Stalker"(1979/ソ連) 監督:アンドレイ・タルコフスキー
 30位:『街の灯』"City Lights"(1931/米) 監督:チャーリー・チャップリン
 30位:『情事』"L'avventura"(1960/伊) 監督:ミケランジェロ・アントニオーニ
 30位:『フェリーニのアマルコルド』"Amarcord"(1973/伊・仏) 監督:フェデリコ・フェリーニ
 30位:『奇跡の丘』"The Gospel According to St Matthew"(1964/伊・仏) 監督:ピエロ・パオロ・パゾリーニ
 30位:『ゴッドファーザー PartⅡ』"The Godfather Part II"(1974/米) 監督:フランシス・フォード・コッポラ
 30位:『炎628』"Come And See"(1985/ソ連) 監督:エレム・クリモフ
 37位:『クローズ・アップ』"Close-Up"(1990/イラン) 監督:アッバス・キアロスタミ
 37位:『お熱いのがお好き』"Some Like It Hot"(1959/米) 監督:ビリー・ワイルダー
 37位:『甘い生活』"La dolce vita"(1960/伊) 監督:フェデリコ・フェリーニ
 37位:『裁かるゝジャンヌ』"The Passion of Joan of Arc"(1927/仏)  監督:カール・ドライヤー
 37位:『プレイタイム』"Play Time"(1967/仏) 監督:ジャック・タチ
 37位:『抵抗(レジスタンス)/死刑囚の手記より』"A Man Escaped"(1956/仏) 監督:ロベール・ブレッソン
 37位:『ビリディアナ』"Viridiana"(1961/西・メキシコ) 監督:ルイス・ブニュエル
 44位:『ウエスタン』"Once Upon a Time in the West"(1968/伊・米) 監督:セルジオ・レオーネ
 44位:『軽蔑』"Le Mépris"(1963/仏・伊・米) 監督:ジャン=リュック・ゴダール
 44位:『アパートの鍵貸します』"The Apartment"(1960/米) 監督:ビリー・ワイルダー
 44位:『狼の時刻』"Hour of the Wolf"(1968/スウェーデン) 監督:イングマール・ベルイマン
 48位:『カッコーの巣の上で』"One Flew Over the Cuckoo's Nest"(1975/米) 監督:ミロス・フォアマン
 48位:『捜索者』"The Searchers"(1956/米) 監督:ジョン・フォード
 48位:『サイコ』"Psycho"(1960/米) 監督:アルフレッド・ヒッチコック
 48位:『カメラを持った男』"Man with a Movie Camera"(1929/ソ連) 監督:ジガ・ヴェルトフ
 48位:『SHOAH』"Shoah"(1985/仏) 監督:クロード・ランズマン
 48位:『アラビアのロレンス』"Lawrence Of Arabia"(1962/英) 監督:デイヴィッド・リーン
 48位:『太陽はひとりぼっち』"L'eclisse"(1962/伊・仏) 監督:ミケランジェロ・アントニオーニ
 48位:『スリ』"Pickpocket"(1959/仏) 監督:ロベール・ブレッソン
 48位:『大地のうた』"Pather Panchali"(1955/印) 監督:サタジット・レイ
 48位:『裏窓』"Rear Window"(1954/米) 監督:アルフレッド・ヒッチコック
 48位:『グッドフェローズ』"Goodfellas"(1990/米) 監督:マーティン・スコセッシ
 59位:『欲望』"Blow Up"(1966/英) 監督:ミケランジェロ・アントニオーニ
 59位:『暗殺の森』"The Conformist"(1970/伊・仏・西独) 監督:ベルナルド・ベルトルッチ
 59位:『アギーレ 神の怒り』"Aguirre, Wrath of God"(1972/西独) 監督:ヴェルナー・ヘルツォーク
 59位:『ガートルード』"Gertrud"(1964/デンマーク) 監督:カール・ドライヤー
 59位:『こわれゆく女』"A Woman Under the Influence"(1974/米) 監督:ジャン・カサヴェテス
 59位:『続・夕陽のガンマン/地獄の決斗』"The Good, the Bad and the Ugly"(1966/伊・米) 監督:セルジオ・レオーネ
 59位:『ブルー・ベルベット』"Blue Velvet"(1986/米) 監督:デイヴィッド・リンチ
 59位:『大いなる幻影』"La Grande Illusion"(1937/仏) 監督:ジャン・ルノワール
 67位:『地獄の逃避行』"Badlands"(1973/米) 監督:テレンス・マリック
 67位:『ブレードランナー』"Blade Runner"(1982/米) 監督:リドリー・スコット
 67位:『サンセット大通り』"Sunset Blvd."(1950/米) 監督:ビリー・ワイルダー
 67位:『雨月物語』"Ugetsu monogatari"(1953/日) 監督:溝口健二
 67位:『雨に唄えば』"Singin'in the Rain"(1951/米) 監督:スタンリー・ドーネン & ジーン・ケリー
 67位:『花様年華』"In the Mood for Love"(2000/香港) 監督:ウォン・カーウァイ
 67位:『イタリア旅行』"Journey to Italy"(1954/伊) 監督:ロベルト・ロッセリーニ
 67位:『女と男のいる舗道』"Vivre sa vie"(1962/仏) 監督:ジャン=リュック・ゴダール
 75位:『第七の封印』"The Seventh Seal"(1957/スウェーデン) 監督:イングマール・ベルイマン
 75位:『隠された記憶』"Hidden"(2004/仏・オーストリア・伊・独) 監督:ミヒャエル・ハネケ
 75位:『戦艦ポチョムキン』"Battleship Potemkin"(1925/ソ連) 監督:セルゲイ・エイゼンシュテイン
 75位:『M』"M"(1931/独) 監督:フリッツ・ラング
 75位:『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』"There Will Be Blood"(2007/米) 監督:ポール・トーマス・アンダーソン
 75位:『シャイニング』"The Shining"(1980/英) 監督:スタンリー・キューブリック
 75位:『キートンの大列車追跡』"The General"(1926/米) 監督:バスター・キートン & クライド・ブラックマン
 75位:『マルホランド・ドライブ』"Mulholland Dr."(2001/米) 監督:デイヴィッド・リンチ
 75位:『時計じかけのオレンジ』"A Clockwork Orange"(1971/米) 監督:スタンリー・キューブリック
 75位:『不安と魂』"Fear Eats the Soul"(1974/西独) 監督:ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー
 75位:『ケス』"Kes"(1969/英) 監督:ケン・ローチ
 75位:『ハズバンズ』"Husbands"(1975/米) 監督:ジョン・カサヴェテス
 75位:『ワイルドバンチ』"The Wild Bunch"(1969/米) 監督:サム・ペキンパー
 75位:『ソドムの市』"Salo, or The 120 Days of Sodom"(1975/伊・仏) 監督:ピエル・パオロ・パゾリーニ
 75位:『JAWS/ジョーズ』"Jaws"(1975/米) 監督:スティーヴン・スピルバーグ
 75位:『忘れられた人々』"Los Olvidados"(1950/メキシコ) 監督:ルイス・ブニュエル
 91位:『気狂いピエロ』"Pierrot le fou"(1965/仏・伊) 監督:ジャン=リュック・ゴダール
 91位:『アンダルシアの犬』"Un chien andalou"(1928/仏) 監督:ルイス・ブニュエル
 91位:『チャイナタウン』"Chinatown"(1974/米) 監督:ロマン・ポランスキー
 91位:『ママと娼婦』"La Maman et la putain"(1973/仏) 監督:ジャン・ユスターシュ
 91位:『美しき仕事』"Beau Travail"(1998/仏) 監督:クレール・ドゥニ
 91位:『オープニング・ナイト』"Opening Night"(1977/米) 監督:ジョン・カサヴェテス
 91位:『黄金狂時代』"The Gold Rush"(1925/米) 監督:チャーリー・チャップリン
 91位:『新学期・操行ゼロ』"Zero de Conduite"(1933/仏) 監督:ジャン・ヴィゴ
 91位:『ディア・ハンター』"The Deer Hunter"(1977/米) 監督:マイケル・チミノ
 91位:『ラルジャン』"L' argent"(1983/仏・スイス) 監督:ロベール・ブレッソン

「●小津 安二郎 監督作品」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【2368】 小津 安二郎 「宗方姉妹
「●「キネマ旬報ベスト・テン」(第1位)」の インデックッスへ「●野田 高梧 脚本作品」の インデックッスへ「●厚田 雄春 撮影作品」の インデックッスへ  「●笠 智衆 出演作品」の インデックッスへ 「●杉村 春子 出演作品」の インデックッスへ 「●原 節子 出演作品」の インデックッスへ 「○日本映画 【制作年順】」の インデックッスへ 「●「菊池寛賞」受賞者作」の インデックッスへ(笠 智衆)

原節子の小津映画初主演作品。笠智衆は最後泣かなくて良かった。監督の意図を超えて論じられる作品。

晩春 1949 dvd.jpg「晩春」S24.jpg 晩春 1949 笠智衆・原節子.jpg 
あの頃映画 松竹DVDコレクション 「晩春」」原節子/笠智衆
晩春 1949 笠智衆.jpg
 早くに妻を亡くし、それ以来娘の紀子(原節子)に面倒をかけてきた大学教授の曾宮周吉(笠智衆)は、紀子が婚期を逃しつつあることが気がかりでならない。周吉は、妹のマサ(杉村春子)が持ってきた茶道の師匠・三輪秋子(三宅邦子)との再婚話を受け入れると嘘をついて、紀子に結婚を決意三島雅夫 晩春.jpgさせようとするが、周吉と昔から親友である京大教授・小野寺(三島雅夫)が後妻を娶ることに不潔さを感じていた紀子は、父への嫌悪と別れの予感にショックを受けてしまう。マサの持ってきた縁談を承諾した紀子は、周吉と京都旅行に出かけ再度心が揺れるが、周吉に説得されて結婚を決意する―。

三島雅夫/原節子

『晩春』原節子.gif 原作は広津和郎の短編小説「父と娘」。原節子が小津映画に初めて出演した作品であり、娘の縁談、親の孤独という戦後の小津作品で繰り返されるテーマがこの作品で確立されたとされており、ま「晩春」杉村春子.jpgた、「麦秋」('51年)、「東京物語」('53年)で原節子が演じたヒロインは皆「紀子」という名前であることから、「紀子3部作」の第1作ともされています(この作品は、NHK-BS2での「生誕100年小津安二郎特集」放映(2003-04)の際の視聴者の投票による「小津映画ベスト10」で「東京物語」に次いで2位にランクインした)。

杉村春子/原節子

 前年作の「風の中の牝雞」('48年)に比べ、技術的に格段の進歩を遂げているばかりでなく、戦後の小津作品のスタイルが確立されているとともに、笠智衆の演技スタイルも確立「風の中の牝雞」笠智衆 02.jpgされていることを改めて感じます。1942年公開の同じく小津監督の「父ありき」(小津作品の中では初主演)で7歳年下の佐野周二の父親を演じてから老け役が定着していたというのもありますが、この「晩春」でも、実年齢(45歳)より10歳余り年上になる56歳の初老の父親を演じています。所謂よく知られている「笠智衆」のイメージに近いですが、「風の中の牝雞」の時と比べると、僅か1年後の出演作品でありながらも、その"見た目年齢"の違いに驚かされます。
笠智衆 in「風の中の牝雞」(1948)

笠智衆/原節子/月丘夢路
晩春 原節子・月丘夢路91.jpg晩春 曾宮周吉2.jpg 笠智衆は演技について演出家と対立するようなことはなかったそうで、小津作品でも小津の言うとおりに演技をしたとのことですが、自らが泣くシーンを演じることはだけは拒否していて、この「晩春」のラストの独りリンゴの皮を剥くシーンで、その後に「慟哭する」というというシナリオだったのが、それを拒否して、うなだれるシーンに変更されたとのこと。彼が小津の演出に従わなかったのはこの時だけだったと言われています(「眠っているみたいだ」と評されて憤りを感じたとも(『大船日記―小津安二郎先生の思い出』('91年/扶桑社)))。
    
『晩春』(1949年).jpg よく原節子の美しさが絶賛される作品で、またその号泣シーンなどでも知られているわけですが(続く「麦秋」「東京物語」でも原節子は号泣する)、個人的には、自分の娘を嫁にやる初老の男の複雑な心境にウェイトを置いて観ました(あくまでも主人公は周吉かと)。但し、この作品を、父に対して性的コンプレックス(エレクトラコンプレックス)を抱いていた娘が、そこから解放される物語であるとの見方があることで知られており、言われてみればナルホドなあと。

晩春 1949 旅館のシーン.jpg そうなると、京都旅行で父と娘が同じ旅館部屋で枕を並べて寝るシーンなども、やや性的な意味合いを帯びてくるわけですが、その場面の終りの方で一瞬床の間の壺が映し出されるシーンがあり、それが、ヒロインがエレクトラコンプレックスから解放された瞬間だという説もあるそうです。蓮實重彦氏が『監督 小津安二郎』('83年/筑摩書房、'92年/ちくま学芸文庫)で、この場面における"性の露呈"を指摘し、高橋治氏が『絢爛たる影絵―小津安二郎』('82年/文藝春秋、'10年/岩波現代文庫)で「エレクトラ・コンプレックスが最も美しく結実したのは矢張り有名なあの京都の宿のシーンだろう」としています。

 現役最高齢の映画監督マノエル・ド・オリヴェイラ(2014年2月現在105歳(2015年4月、満106歳で死去))が、2003年の「小津安二郎生誕100周年記念国際シンポジウム」で、これらは「父子相姦」のメタファーなのかという問題を再提起して議論を呼びましたが、これで海外のこの映画をに対する「近親相姦」映画としてのそれまでの見方が更に強まったとされるものの、その時にそうした問題提起をしたオリヴェイラ監督自身は、「晩春」における娘と父の関係を性的なものではなく、深い情愛によって結ばれた神聖なものであるとしたとのこと、また、「タクシードライバー」('76年)の脚本家で「MISHIMA:A LIFE IN FOUR CHAPTERS」('85年)などの監督作もあるポール・シュレイダーになると、"壺"は「もののあわれ」を表しているとします。

Banshun (1949).jpg晩春 壺.png この"壺"を誰が見ているのかによっても解釈は異なってきますが、父・周吉は先に眠ってしまうことから、後は、ヒロインか「神の眼」かの何れかにならざるを得ない―ヒロインのそれまでの結婚に対する頑な態度が変わったのは、この時の旅館部屋での"枕を並べての"父子の会話以降であり、その会話からもヒロインの気持ちのターニングポイントは見て取れなくもないですが、その延長線上にある"壺"は、映画評論家ドナルド・リチーの指摘のように、それを見ているのはヒロインであると解釈するのが自然かもしれず、ドナルド・リチーは壺に、それを見つめるヒロインの結婚の決意が隠されていると分析しています(因みに蓮實重彦氏は、『監督 小津安二郎』の最後の章をこのシーンの捉え方に割いていて、ポール・シュレーダー、ドナルド・リチー両氏の解釈を批判し、それらとはまた違った見解を示しているが、ここではこれ以上は引用しないでおく)。
Banshun(1949)

 結局、このシーンを観てどう感じるかは人によって様々でしょう。小津作品の幾つかが、監督の意図をはるかに超えた場所まで独り歩きし、到達していこうとしていることを最も端的に示す論争の1つと言えるかと思います。自分自身は正直よく分かりませんでしたが(これも誰かが言っていたことだと思うが、壺を見ているのは「神の眼」ともとれなくはない)、こうした様々な見方を参照していくと、主人公・周吉のラストの悲哀も、"悲哀一色"ではなく、ややどろっとした"重たいもの"からの解放されたという側面もあり、その上で感じる乾いた"諦観"のような侘しさというものではなかったかという気がします(笠智衆は泣かなくて良かった)。

「晩春」1.jpg 「晩春」2.jpg

晩春 1949 ポスター.jpg晩春 1949 完成記念.jpg「晩春」●制作年:1949年●監督:小津安二郎●脚本:野田高梧/小津安二郎●撮影:厚田雄春●音楽:伊藤冝二●広津和郎「父と娘」●時間:108分●出演:笠智衆/原節子/月丘夢路/宇佐美淳/杉村春子/青木放屁/三宅邦子/三島雅夫/坪内美子/桂木洋子/清水一郎/谷崎純/高橋豊子/紅沢葉子●公開:1949/09●配給:松竹●最初に観た場所:大井武蔵野館 (84-02-07)(評価:★★★★☆)●併映:「早春」(小津安二郎)

晩春21.jpgNHK-BS2 視聴者の投票による「小津映画ベスト10」(「生誕100年小津安二郎特集」ホームページ(2003年))
第1位 「東京物語
第2位 「晩春
第3位 「麦秋
第4位 「生れてはみたけれど
第5位 「浮草」
第6位 「彼岸花
第7位 「秋刀魚の味
第8位 「秋日和
第9位 「早春」
第10位 「淑女は何を忘れたか

「●小津 安二郎 監督作品」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【2367】小津 安二郎 「父ありき
「●厚田 雄春 撮影作品」の インデックッスへ 「●佐野 周二 出演作品」の インデックッスへ(「淑女は何を忘れたか」)「●た‐な行の日本映画の監督」の インデックッスへ「●斎藤 一郎 音楽作品」の インデックッスへ(「流れる」)「●杉村 春子 出演作品」の インデックッスへ(「流れる」) 「●山田 五十鈴 出演作品」の インデックッスへ(「流れる」)「●中村 伸郎 出演作品」の インデックッスへ(「流れる」)「●田中 絹代 出演作品」の インデックッスへ(「流れる」)「●加東 大介 出演作品」の インデックッスへ(「流れる」)「●高峰 秀子 出演作品」の インデックッスへ(「流れる」)「○日本映画 【制作年順】」の インデックッスへ

日本のホームドラマの基盤がこんなところで着々と築かれていたのだなあと。斎藤達雄、栗島すみ子がいい。

淑女は何を忘れたか vhs.jpg淑女は何を忘れたか1.bmp 流れる dvd .jpg
 「淑女は何を忘れたか [VHS]」(斎藤達雄/栗島すみ子/桑野通子)「流れる [DVD]

ozu  'What Did the Lady Forget?'.jpg節子(桑野通子)と岡田(佐野周二).jpg 大学の医学部教授の小宮(斎藤達雄)は日頃から、口うるさい妻の時子(栗島すみ子)に頭が上がらなかったが、それは、夫婦円満を保つ彼流の秘訣でもあった。そんなある日、大阪より時子の姪・節子(桑野通子)が上京、小宮家にやって来る。自分とは対照的に思ったままに行動する彼女に触発された小宮は、ある揉め事を契機に初めて時子に平手打ちをくらわせてしまう―。

 トーキー時代に入ってもしばらくサイレント映画にこだわり続けた小津安二郎監督の、「一人息子」('36年)に続くトーキー第2作で、サイレント映画時代の彼のコメディ的要素と戦後の家庭劇の要素が混ざった作品のように思えました。

 それまで下町の庶民を題材にすることが多かった小津ですが、この作品では一転して舞台を山の手へ移し(丁度この頃に小津自身も深川から高輪へ転居している)、アメリカ映画から得られた素養をふんだんに生かしたモダニズム溢れるソフィストケティッド・コメディに仕上がっています。

淑女は何を忘れたか3.jpg 31際の若さで夭逝した桑野通子が演じる(当時22歳)姪の節子は、いわば当時のモダンガールといったところでしょうか。未婚だがタバコも酒も嗜むし、車の運転にも興味がある活発な彼女は、妻の尻に敷かれる小宮を見て、夫権の復活を唱えて盛んに小宮をけしかける―そこへ時子がいきなり現れたりして、小宮が節子を叱るフリをする、時子が去ると節子が小宮を軽く小突くなどといった具合に、小宮と節子の遣り取りが、爆笑を誘うというものではないですが、クスッと笑えるものとなっています。

ozu  'What Did the Lady Forget?' 2.jpg この作品の斎藤達雄はいいです。サイレント時代の小津作品では、もてない大学生(「若い日」)やしがないサラリーマン(「生まれてはみたけれど」)を演じたりもしていましたが、この作品で「ドクトル」と世間から呼ばれるインテリを演じてもしっくりきています(独りきりになると結構このドクトルは剽軽だったりするが)。

ozu  'What Did the Lady Forget?' 3.jpg 有閑マダム3人組(栗島すみ子、吉川満子、飯田蝶子)の会話なども、それまでの小津作品には無かったシークエンスですが、関西弁で話しているためかどことなくほんわかした感じがあり、それでいて畳み掛けるところは畳み掛けるという、トーキー2作目にしてこの自在な会話のテンポの操り方には、トーキー参入に際しての小津の周到な事前準備が感じられました。

淑女は何を忘れたか4.jpg その他に、小宮家で家庭教師をすることになる大学の助手・岡田を佐野周二が演じていますが、息子・関口宏より相当濃いハンサム顔に似合わず、この作品では教え子の友達(突貫小僧)に先に算数の問題を解かれてしまって面目を失うというとぼけた役回り。

 小宮は、妻にはゴルフに行ったことにしながら、節子の東京探訪に付き合わされて、その晩は岡田の下宿に泊めてもらいますが、アリバイ工作のためにゴルフ仲間の会社役員(坂本武)に投函を託した葉書に書かれた当日の天候が全く違っていたことに気付いて慌てふためくも、まあ、大丈夫でしょうと、岡田はのんびり構えてしまっています(結局、そのことで小宮の工作は時子にばれてしまう)。

淑女は何を忘れたか2.jpg 岡田と節子の間で何かあるのかなと思いましたが、これは"夫婦"がテーマの映画なのでそうはならず、結局、「雨降れば地固まる」みたいな映画だったんだなあと。

 まあ、全体として他愛の無い話と言えばそうなのですが、こうした細部のユーモラスなシチュエーションの組み入れ方もそうですし、ストーリーの落とし所からも、ああ、日本のホームドラマの基盤がこんなところで着々と築かれていたのだなあと思わせるものがありました。

流れる 栗島すみ子.jpg流れる 栗島すみ子2.jpg また、この作品は、日本映画史上初のスター女優と言われた栗島すみ子(1902-1987)の映画界引退作品でもあり、さすがに堂々たる存在感を見せています。彼女はその後、成瀬巳喜男監督の「流れる」('56年/東宝)で一度だけスクリーンに復帰、田中絹代(1909-1977)、山田五十鈴(1917-2012)、杉村春子(1906-1997)、高峰秀子(1924-2010)らと共演しましたが、それら大女優の更に先輩格だったわけで、まさに貫禄充分!
栗島すみ子、高峰秀子、山田五十鈴、田中絹代
『お嬢さん』栗島すみ子、岡田時彦.jpg そもそも、成瀬巳喜男の監督デビュー(1930年)よりも栗島すみ子の映画デビューの方が先であり(1921年)、年齢も彼女の方が3歳上。成瀬監督を「ミキちゃん」と呼び、「流れる」撮影の際は、「あたしはミキちゃんを信用して来てるのだから」と、セリフを一切覚えず現場入りしたという話があり、小津安二郎の「お嬢さん」('30年/松竹蒲田)で岡田時彦と共演したりしていることから、自分の父親が自分が1歳の時に亡くなったためその記憶が無い岡田茉莉子(1933-)には、「あなたのお父さんは美男子の中でもずば抜けて美男子だった」と「流れる」の撮影現場で話してやっていたそうな。

栗島すみ子、岡田時彦 in「お嬢さん」('30年/モノクロ。フィルムは現存せず)

流れる 映画ポスター.jpg それにしても「流れる」の配役陣は、今になった見れば見るほどスゴいなあという感じ。大川端にある零落する置屋を住込みのお手伝いさん(田中絹代)の視点から描いた作品でしたが、先に挙げた田中絹代、山田五十鈴、高峰秀子、杉村春子ら大物女優に加えて、岡田茉莉子、中北千枝子、賀原夏子らが脇を固めるという布陣で、成瀬巳喜男作品は個人的には合う合わないがあって、世間で評価されるほど自分としての評価は高くないのですが(若い頃に観たというのもあるかもしれない)、この作品も、ストーリーよりも一人一人の演技が印象に残った感じでした。

流れる 杉村春子.jpg 杉村春子を除いて皆、着物の着こなしがいい、との評がどこかにありましたが、年増芸者を演じた杉村春子は、あれはあれで役に合わせた着こなしだっだのでしょう。個人的には、水野の女将を演じた栗島すみ子の演技は"別格"として、当時、田中絹代・山田五十鈴・高峰秀子の三大女優より一段格下だった杉村春子が一番上手いのではないかと思いました(高峰秀子は子役としてのデビューは早かったが、1940流れる 1シーン.jpg年、豊田四郎監督の「小島の春」に出演した杉村春子の演技にショックを受けて演技開眼したという。杉村春流れる 岡田茉莉子.jpg子を"格下"と言ったら失礼にあたるか)。岡田茉莉子などは実に若々しく、和服を着ると昭和タイプの美女という感じでしたが(着物を着た際にスレンダーで足長に見える)、演技そのものは当時はまだ大先輩たちの域には全然達していなかったのではないでしょうか。機会があれば、また観直してみたいと思います。

岡田茉莉子
 
神保町シアター.jpg桑野通子.jpg「淑女は何を忘れたか」●制作年:1937年●監督:小津安二郎●脚本:伏見晁/ジェームス槇(小津安二郎)●撮影:茂原英雄/厚田雄春●音楽:伊藤冝二●時間:71分●出演:斎藤達雄/栗島すみ子/桑野通子/佐野周二/飯田蝶子/坂本武/吉川満子/葉山正雄/突貫小僧/上原謙●公開:1937/03●配給:松竹大船●最初に観た場所:ACTミニシアター(90-08-05)●2回目:神保町シアター(10-12-11)(評価:★★★)●併映(1回目):「お早よう」(小津安二郎) 神保町シアター 2007(平成19)年7月14日オープン
桑野 通子 (1915-1946/享年31)

淑女は何を忘れたか vhs.jpg


流れる%20(1956年).jpg流れる [DVD]「流れる」●制作年:1956年●監流れる dvd .jpg映画「流れる」.jpg督: 成瀬巳喜男●製作:藤本真澄●脚本:田中澄江/井手俊郎●撮影:玉井正夫●音楽:斎藤一郎●原作:幸田文「流れる」●時間:117分●出演:田中絹代山田五十鈴高峰秀子杉村春子/岡流れる09.jpg 流れる杉村春子.jpg山田五十鈴 流れる.jpg田茉莉子/中北千枝子/賀原夏子/栗島すみ子(特別出演)/泉千代/加東大介/宮口精二/仲谷昇/中村伸郎●公開:1956/11●配給:東宝(評価:★★★☆)
左奥:栗島すみ子・右手前:田中絹代   杉村春子/山田五十鈴

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