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映画「死海殺人事件」の原作。映画は?だが、原作は本格推理として楽しめる。

死との約束 1957.jpg死との約束HM.jpg 死との約束1978(1988) .jpg 死との約束 クリスティ文庫.jpg 死海殺人事件2.jpg
ハヤカワ・ミステリ(1957)/『死との約束 (ハヤカワ・ミステリ文庫 1-33)』/映画タイアップカバー/『死との約束 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)』/「MGM HollyWood Classics 死海殺人事件 [DVD]

 ポアロは中東エルサレムで休暇を過ごすが、同じく同地を訪れていたのが、世界的に有名な精神科医のテオドール・ジェラール博士、イギリスの国会議員ウエストホルム卿夫人、新米女医サラ・キング、米国人のボイントン一家らだった。ボイントン夫人は、長男のレノックスとその妻ネイディーン、次男のレイモンド、長女のキャロル、次女のジネブラの5人を従えていた。夫人はかつて刑務所で女看守として働き、偶然に大金持ちのボイントン氏と結婚し、夫が亡くなって未亡人となったが、我儘で個性が強く家族全員を拘束していた。子供達の意見や要求は殆ど無視され、いつまで経っても子供としか扱われない。ある日ジェラール博士、サラ、ウエストホルム卿夫人とその取り巻きのアマベル・ピアス、ネイディーン・ボイントンの友人のジェファーソン・コープらはペトラ遺跡の観光ツアーに参加するが、ペトラに着くとボイントン一家もそこにいた。翌日の昼食時、ボイントン夫人は子供たちに自由に散歩することを許すが、これは彼女にしては希有なことだった。ボイントンの子供たちとサラたちの一行は思い思いに遺跡に向かい、崖の上からの景色を堪能して各々帰路に着くが、ジェラール博士だけはマラリアを発病し先にキャンプに帰っていた。ボイントン夫人は暑さの中で、外に出した椅子に座って身動き一つしなかったが、やがて夕食時に夫人が現れないので召使が呼びに行くと、夫人は亡くなっていた。新米医師サラの見立てでは死亡時刻は発見の1時間以上前で、夫人の手首には注射針の跡があった。さらにジェラール博士の注射器がなくなっており、多量のジギタリスも消えていた―。

ナイルに死す2.jpg死との約束 英初版Collins 1938年 .jpg 1938年に刊行されたアガサ・クリスティのエルキュール・ポアロ・シリーズの第16作で(原題:Appointment with Death)、前年発表のポワロシリーズ『ナイルに死す』((原題:Death on the Nile))と同じく中東を舞台にした本格派推理小説です。前々年発表の『メソポタミヤの殺人』も中東・イラクが舞台でした。因みにクリスティは最初の夫アーチボルド・クリスティ大尉(彼は薬剤師の助手として勤務していたため、クリスティは彼から毒薬の知識を得たという)に裏切られて傷心旅行で訪れたメソポタミヤで14歳年下の考古学者マックス・マローワンと知り合って、彼と1930年に再婚、その後に続く"中東モノ"は、おそらく考古学者である夫の研究調査に随伴した経験が素地になっていると考えられます(但し、この作品には『メソポタミヤの殺人』のような考古学的モチーフは出てこない)。

英初版Collins 1938年

死海殺人事件_0.jpg 『ナイルに死す』はジョン・ギラーミン監督の映画「ナイル殺人事件」('78年/英)の原作として知られていますが、この作品が マイケル・ウィナー監督(「狼よさらば」「ロサンゼルス」)の映画「死海殺人事件」('88年/米)の原作であることはあまり知られていないかもしれません。そもそもエルサレムという異国の地を舞台にしながらも原作がやや地味ですが、ポワロが関係者一人一人に事情聴取していってロジックで犯人を突き止める過程は『オリエント急行の殺人』などにも通じるものがあり、本格推理としてはよく出来ていて、結構楽しめるように思います。

映画「死海殺人事件」チラシ

死海殺人事件w.jpg 映画「死海殺人事件」は、「ナイル殺人事件」やガイ・ハミルトン監督の「地中海殺人事件」('82年/英、原作はポアロ・シリーズ『白昼の悪魔』)に続いてピーター・ユスティノフがエルキュール・ポワロを死海殺人事件 9.jpg演じていますが(共演者に「オリエント急行殺人事件」('74年)のローレン・バコールがいるが、「オリエント急行殺人事件」でポワロを演じたのはアルバート・フィニーだった)、ピーター・ユスティノフにとっては最後のポワロ役でした。また彼は、「地中海殺人事件」と「死海殺人事件」の間にTVドラマのミニシリーズで「名探偵ポワロ/エッジウェア卿殺人事件」('85年/英)など3本でポワロを演じています(「エッジウェア卿殺人事件」では'89年からTⅤ版「名探偵ポアロ」でポワロを演じることになるデヴィッド・スーシェがジャップ警部を演じている)。

死海殺人事件lt.jpg死海殺人事件es.jpg 原作では、ボイントン夫人は虐待に近いような子供達の扱いぶりで、しかも太った醜い女性として描かれていますが、映画では専制的ではあるものの、原作までは酷くないといった感じでしょうか。それでも、殺害された彼女は皆から嫌われていたわけで、遺産相続も絡んでいて(それが目眩ましにもなっているのだが)、登場人物全員が容疑者候補であるのは原作と同様です(殺人事件があって禁足令が出ているけれど、旅行自体は皆続けるのだろうなあ)。『オリエント急行の殺人』と同様、ポワロの聴き取りに対して誰かが(場合によっては複数が)虚偽を述べているわけであって、ある種"叙述トリック的であるわけですが、これを映像化するのは難しかったかもしれません。

死海殺人事件48.jpg死海殺人事件_.jpg 実際、映画を観ると、容疑者達の陳述が真実であろうと虚偽であろうと、その陳述に沿った映像化がされているため、途中からある程度そのことを含み置いて観ていないと、無かったことを映像化するのは《掟破り》ではないか(フランソワ・トリュフォーなどはアルフレッド ヒッチコックへのインタビュー『映画術』でそう言っている)ということになります。まあ、原作でも映画でも、初めてで犯人が判ればなかなかのものだと思いますが、映画を観て改めて新米医師であるサラの死亡推定時刻の見立ては正しかったのだなあと再確認しました。ピーター・ユスティノフがポワロを演じてきた映画は、この作品で英国から米国のB級映画会社に製作が移った死海殺人事件(1988年5.jpgものの(この会社は後に倒産する)、ユスティノフの演技自体は悪くないし(「ナイル殺人事件」「地中海殺人事件」に続いてこの映画も"旅行もの"であるため違和感が無い)、ローレン・バコールのキツイ顔もいいけれど死との約束 powaro .jpg(初めて観た時はさすがに老けたなあと思ったが、彼女が亡くなったのは2014年でこの作品の26年後89歳で亡くなっている)、やはり、「起きなかったことを映像化している」点がちょっと引っ掛かりました(他に何かいい手があるわけではないが)。デヴィッド・スーシェ版「名探偵ポワロ(第61話)/死との約束」('09年/英)ではその辺りはどう描かれていたでしょうか。
「名探偵ポワロ(第61話)/死との約束」 (09年/英) (2010/09 NHK‐BS2) ★★★☆

Appointment with Death (1988)
Appointment with Death (1988).jpg死海殺人事件ド.jpg「死海殺人事件」●原題:APPOINTMENT WITH DEATH●制作年:1988年●制作国:アメリカ●監督・製作:マイケル・ウィナー●脚本:アンソニー・シェーファー/ピー死海殺人事件ges.jpgター・バックマン/マイケル・ウィナー●撮影:デヴィッド・ガーフィンケル●音楽:ピノ・ドナッジオ●原作:アガサ・クリスティ「死との約束」●時間:103分●出演:ピーター・ユスティノフ/ローレン・バコール/キャリー・フィッシャー/ジョン・ギールグッド/パイパー・ローリー/ヘイリー・ミルズ/ジェニー・シーグローヴ/デビッド・ソウル/アンバー・ベゼール/マ死海殺人事件12.jpg死海殺人事件16.jpgイケル・グレイブ/ニコラス・ゲスト/ジョン・ターレスキー/マイク・サーン●日本公開:1988/05●配給:日本ヘラルド映画(評価★★★)

David SOUL - Appointment with death (1988)

【1957年新書化[ハヤカワ・ポケットミステリ(高橋豊:訳)/1978年文庫化[ハヤカワ・ミステリ文庫(高橋豊:訳)]/2004年再文庫化[ハヤカワ・クリスティー文庫(高橋豊:訳)]】

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骨太感のある娯楽映画。ボガートの好演を凌ぐエドワード・G・ロビンソンの悪役ぶり。

キー・ラーゴ dvd.jpg キー・ラーゴ ポスター.jpg KEY LARGO.jpg key largo movie.jpg
キー・ラーゴ [DVD]」/輸入版ポスター  ローレン・バコール、ハンフリー・ボガート

キー・ラーゴ2.jpg 第2次世界大戦の復員将校フランク(ハンフリー・ボガート)は、戦死した部下の遺族に会いにフロリダ半島南端の小島キー・ラーゴを訪ねるが、当地で部下の父親(ライオネル・バリモア)と未亡人ノーラ(ローレン・バコール)が経営するホテルは、ギャングの頭目ロッコ(エドワード・G・ロビンソン)とその一味らの隠れ家になっていた。大きな取引を控え、ハリケーンの接近に苛立つギャング達は横暴になっていき、ノーラや父親に暴力を奮い、遂には保安官助手を殺してしまうが、戦争のため虚脱感に陥っているフランクはそれを見て何の反応も示さず、ノーラはその腑甲斐なさを歯がゆく思う―。

「キー・ラーゴ」ローレン・バコール.jpg 1948年の作品。1939年にブロードウェイで上演されたマックスウェル・アンダーソンの戯曲「キー・ラーゴ」を、ジョン・ヒューストンとリチャード・ブルックスが映画用に脚色したもので、「脱出」('44年)「三つ数えろ」('46)、「潜行者」('47年)に続く、ボガートとバコールの4度目にして最後の夫婦共演作でもあります。

 オリジナルが戯曲であったことは後に知りましたが、それほど多くない登場人物、密室状態のホテル、フランクとロッコの心理的駆け引きやノーラのフランクに対する見方の変化など、確かに心理劇的要素が強い作品かも。

キー・ラーゴ 1.jpg それでいてスカッとしたカタルシスがあるのは、最初の内は"男気"をなかなか見せないフランクが、徐々にその本分を発揮し、最後に...というプロセスから結末までの描き方の上手さによるものでしょう。

 ロッコの情婦ゲイ(クレア・トレヴァー)が、アル中の元歌手か何かで、ロッコからそんなに酒が飲みたいなら歌えと言われて一生懸命歌いますがそんな下手なんじゃやれないと言われたりして、最後はフランクがロッコに逃亡用の船の操縦を命じられた際にそっとフランクにピストルを手渡すところなどは、定番と言えば定番なのですが、役者陣がしっかりしている分、シンプルなストーリーが活き、骨太感のある娯楽映画に仕上がっています(クレア・トレヴァーはこれら一連の演技でアカデミー助演女優賞受賞)。

「キー・ラーゴ」E・G・ロビンソン.jpg とりわけ、その演技が光るのはエドワード・G・ロビンソンで、その強面の悪役ぶりは、ボガートの好演をも喰ってしまっているほどです。エドワード・G・ロビンソン 十戒.jpg「十戒」('57年)でも、チャールトン・ヘストン演じるモーゼに逆らって民衆を堕落へと扇動する男を演じていましたが、こうした心理劇的要素の強い作品では、ますますその凄味が増してくる俳優だったように思います(スティーブ・マックイーンと共演した「シンシナティ・キッド」('65年)などもそう)。

キー・ラーゴ エドワード・G・ロビンソン.jpg エドワード・G・ロビンソン(1893-1973/享年79)という人は8カ国語を操るインテリだったそうで、そのリベラルな思想のため40年代後半はハリウッドでも冷遇され、この作品でも"後輩スター"であるハンフリー・ボガートの脇に回ることになりましたが、仕事と割り切って出演を承諾、ボガートの方もロビンソンに対し"先輩スター"として接し、他のスタッフもこれに倣うよう命じたという逸話があります。

 この作品は吉祥寺の「ジャヴ50」で観ましたが(当時は自主上映館としての色合いが強かった)、現在は「バウスタウン」内の「バウスシアター2」というミニシアター(席数50)になっています。当時の「ジャヴ50」の客席フロアは"個席"ではなく、長椅子(ビニール張りのソファー)が並べられているだけであり、「席数50」と言うより「収容観客数50」という意味でのネーミングだったのでしょう。

Key Largo (1948)
KEY LARGO3.jpgKey Largo (1948).jpg「キー・ラーゴ」ローレン・バコール2.jpg「キー・ラーゴ」●原題:KEY LARGO●制作年:1948年●制作国:アメリカ●監督:ジョン・ヒューストン●製作:ジェリー・ウォルド●脚本:リチャード・ブルックス/ジョン・ヒューストン●撮影:カール・フロイント●音楽:マックス・スタイナー●原作戯曲:マックスウェル・アンダーソン「キー・ラーゴ」●時間:138分●出演:ハンフリー・ボガート/エドワード・G・ロビンソン/ローレン・バコール/ライオネル・バリモア/クレア・トレヴァー/ジョン・リッジリー/モンテ・ブルー/トーマス・ゴメス●日本公開:1951/11●配給:セントラル●最初に観た場所:吉祥寺ジャヴ(JAⅤ)50(85-12-21)(評価:★★★★)

吉祥寺バウスシアター2(旧ジャヴ50)           
吉祥寺バウスシアター2.JPGバウスシアター.jpg.png吉祥寺バウスシアター.jpg吉祥寺ジャヴ(JAⅤ)50 1951年~「ムサシノ映画劇場」、1984年3月~「吉祥寺バウスシアター」(現・シアター1/218席)と「ジャヴ50」(現・シアター2/50席)の2館体制でリニューアルオープン吉祥寺バウスシアター 映画から船出した映画館.jpg吉祥寺バウスシアター3.jpg。2000年4月29日~シアター3を新設し3館体制に。 2014(平成26)年5月31日閉館。

吉祥寺バウスシアター内(右)

吉祥寺バウスシアター映画から船出した映画館』(2014/05)

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佐々木倫子の部分が星3.5で、綾辻行人の部分が星2.5。『オリエント急行の殺人』へのオマージュか。
月館の殺人.jpg 佐々木 倫子 (原作:綾辻行人) 『月館の殺人』.jpg   オリエント急行殺人事件  1974 dvd.jpg オリエント急行殺人事件01.jpg
月館の殺人 上 IKKI COMICS』 『月館の殺人 (下) 』「オリエント急行殺人事件 スペシャル・コレクターズ・エディション [DVD]
月館の殺人3.jpg 沖縄育ちの雁ヶ谷空海は、鉄道嫌いの母の影響もあり、未だかつて電車に乗ったことがなかったが、母の死後、弁護士に「母方の祖父が生きていて、財産相続の件でぜひ北海道まで来てほしい」と伝えられ、祖父の待つ月館へ列車で向かうことになり、そのSL《幻夜号》には、祖父の招待客らしい6人の鉄道マニアも乗っていたが、そこで密室殺人事件が―。

 '04(平成16)年12月から翌年にかけて「月刊IKKI」('05年2月号〜'06年6月号)に連載された、『おたんこナース』の佐々木倫子の作画による本格ミステリの漫画化作品(原作・綾辻行人)で、上巻を読んでから下巻にいく間に随分間が空いてしまい(下巻は上巻刊行の約1年後の'06年7月刊行)、そうしたら、下巻に入って状況が随分違っているではないかとやや唖然とさせられました(雑誌連載は読んでないんで)。

 鉄道ミステリと言えば、本書にも出てくる『オリエント急行殺人事件』や『Xの悲劇』が有名ですが、「オリエント急行」とは車両だけ同じでストーリーは違うだろうことは予想に難くないのですが、『Xの悲劇』と似たようなことになるのかなと、一瞬思ったりもして...。

 結局それなりにオリジナリティはあったけれども、前提状況にかなり無理があり、相当「空海」という主人公がボケっとしていないと成り立たないような話にも思えました(雪の中で停止している列車というのは、クリスティの『オリエント急行の殺人』へのオマージュだろうが)。むしろ、鉄道マニアの類型が鉄道に関するマニアックな薀蓄に絡めて面白く描き分けられていて、その部分では最後まで楽しめた感じです。

 Amzon.comかどこかの評で、佐々木倫子の部分が星3.5で、綾辻行人の部分が星2.5という評価があったように思いますが、個人的には全く同感で、装丁などは立派ですが、内容的には、息抜き程度には悪くないといったところでしょうか(『おたんこナース』の単行本同様、大判で読み易いし)。

オリエント急行殺人事件 映画 アルバート・フィニー.jpg コミックであるせいか、読んでいる間ずっとクリスティの原作『オリエント急行の殺人』でなく、シドニー・ルメット監督の映画「オリエント急行殺人事件」('74年/オリエント急行殺人事件 snow.jpg英・米)の方が頭に浮かんでいました(原作を読んだ時はあまり雪のシーンをイメージしなかった?)。アルバート・フィニー(1936-2019)がポワロを演じたほか(彼のポアロ役はこの一作きりで、以後、アガサ・クリスティ原作の映画化は「ナイル殺人事件」('78年)、「地中海殺人事件」('82年)、「死海殺人事件」('88年)と全てピーター・ユスティノフがポアロを演じている)、被害者役のリチャード・ウィドマークをはじめ、アンソニー・パーキンス、ジョン・ギーオリエント急行殺人事件 バーグマン.jpgルグッド、ショーン・コネリー、ヴァネッサ・レッドグレーヴ、ウェンディ・ヒラー、ローレン・バコール、イングリッド・バーグマン、マイケル・ヨーク、ジャクリーン・ビセット、ジャン=ピエール・カッセル等々が出演したオールスターキャスト映画でしたが、神経質で少しエキセントリックなところがある中年のスウェーデン人宣教師を演じたイングリッド・バーグマンが印象的でした。イングリッド・バーグマンは事件の中心人物的な公爵夫人役を打診されたけれども、この地味な宣教師役を強く希望したそうで、その演技でアカデミー賞助演女優賞を獲得しています。

オリエント急行殺人事件 スペシャル・コレクターズ・エディション[AmazonDVDコレクション]
オリエント急行殺人事件  1974 dvd.jpgオリエント急行殺人事件02.jpg「オリエント急行殺人事件」●原題:MURDER ON THE ORIENT EXPRESS●制作年:1974年●制作国:イギリス・アメリカ●監督:シドニー・ルメット●製作:ジョン・ブラボーン/リチャード・グッドウィン●脚本:ポール・デーン●撮影:ジェフリー・アンスワース●音楽:リチャード・ロドニー・ベネット●原作:アガサ・クオリエント急行殺人事件03.jpgリスティ「オリエント急行の殺人」●時間:128分●出演:アルバート・フィニー/リチャード・ウィドマーク/アンソニー・パーキンス/ジョン・ギールグッド/ショーン・コネリー/ヴァネッサ・レッドグレーヴ/ウェオリエント急行殺人事件 ショーン・コネリー.jpgオリエント急行殺人事件 バコール.jpgンディ・ヒラー/ローレン・バコール/イングリッド・バーグマン/マイケル・ヨーク/ジャクリーン・ビセット/ジャン=ピエール・カッセル●日本公開:1975/05●配給:パラマウント=CIC(評価:★★★☆)

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ボギーとバコールの会話が気持ちよく噛み合っている作品(脚本自体が良く出来ていた?)

脱出2.jpg 脱出.jpg 「脱出」 (1944).jpg 私一人.jpg
脱出 特別版 [DVD]」/ポスター/ハンフリー・ボガート、ローレン・バコール/『私一人』['87年/文藝春秋]

脱出3.jpg カリブ海にある仏領マルチニック群島のある島で観光用チャーター・ボートの船長をしているハリー(ハンフリー・ボガート)は、ホテル歌手のマリー(ローレン・バコール)に彼女がアメリカへ帰るための金を渡すため、レジスタンスのリーダーを逃がす仕事を請け負うが、ハリーが密航を幇助したと考えた島の警察が彼の仲間を拉致して拷問したことを知り、怒りを爆発させる―。

To Have and Have Not.jpg アーネスト・ヘミングウェイが1937年に発表した小説『持つことと持たざること(To Have & Have Not)』が原作で(脚本は、同じくノーベル賞作家のウィリアム・フォークナー)、ヘミングウェイは1926年発表の『日はまた昇る』以降、より正確には1927年刊行の『男だけの世界』から、その短編集のタイトル通りマチズムの傾向を強めていますが、この作品もその例に漏れるものではなく、一方で、この『持つことと持たざること』というタイトルは主に「貧富の差」のことを言っており、彼の作品に社会的傾向が最も見られた時期のものでもあります。

Hemingway, Ernest. To Have and Have Not (New York : Charles Scribner's Sons, 1937)

Tohaveandhavenot.jpg 原作の舞台はキーウエストやキューバになっており、それが仏領マルチニックに変えられたとしても、第2次世界大戦(ビシー政権下)の話なので仏領の島にドイツ傀儡政府の手先がいてもおかしくないのですが(この映画の制作年は1944年)、原作の社会的色合いは後退し、ハンフリー・ボガートの男気、乃至は、ローレン・バコールとのロマンスが前面に出ています。
 「持つと、持たざると」の目的語は「富・財産」から「勇気」に置き換えられている(?)感じで、これはフォークナーの意向というより、彼に脚本を依頼したハワード・ホークスの意向に違いないと、個人的には推測しています。

bacall.jpg この映画での共演を機に2人は結婚し、その結婚生活はボギーの死まで続きますが、考えてみれば、雑誌のカバーガールからスカウトされたローレン・バコールは、この作品がメジャー作品初出演だった(公開示のポスターでは下隅に小さく名前があるだけ)―それにしては、スクリーン上の彼女は貫禄充分と言うか、25歳年上のボギーと堂々と渡り合っているように見えました。
『脱出』(1944).jpg しかし、1979年に刊行された自伝『ローレン・バコール/私一人』('84年/文芸春秋)の中では、撮影の時にはいつもがちがちに緊張しまくっていていたことを告白しています。
 2人の会話が気持ちよく噛み合っている作品でしたが、やはり、フォークナーの脚本自体が良く出来ていたということでもあるのではないでしょうか(因みにヘミングウェイとフォークナーはライバル関係でもあった)。
 「三つ数えろ」('46年)、「キー・ラーゴ」('48年)などと比べてどちらが上か迷う作品。「IMDb」の評価では、「脱出」8.0、「三つ数えろ」8.0、「キー・ラーゴ」7.9となっていました。

 『ローレン・バコール/私一人』によれば、ボギーが亡くなるその朝、出かける妻ローレン・バコールに声をかけた「バイバイ、キッド」が彼からの最後の"別れの言葉"になったそうですが、これは「脱出」でバコールが演じた歌手マリーの愛称だったとか。

「三つ数えろ」('46年)(ハワード・ホークス監督)/「キー・ラーゴ」('48年)(ジョン・ヒューストン監督)
『三つ数えろ』(1946) 11.jpg  key largo movie.jpgキー・ラーゴ2.jpg

脱出 輸入版ビデオジャケット.jpg脱出 輸入版ビデオジャケット2.jpgTo Have and Have Not.jpg「脱出」●原題:TO HAVE AND HAVE NOT●制作年:1944年●制作国:アメリカ●監督・製作:ハワード・ホークス●脚本:ウィリアム・フォークナー●撮影:シド・ヒコックス●音楽:フランツ・ワックスマン●原作:アーネスト・ヘミングウェイ●時間:101分●出演:ハンフリー・ボガート/ローレン・バコール/ウォルター・ブレナン/マルセル・ダリオ/ドロレス・モラン/ホーギー・カーマイケル/ダン・セイモア/シェルドン・レナード●日本公開:1947/11●配給:セントラル●最初に観た場所:三百人劇場 (89-03-14)●2回目:歌舞伎町ーア2 (89-04-08) (評価:★★★★)

三百人劇場2.jpg三百人劇場.jpg三百人劇場(文京区・千石駅付近) 2006(平成18)年12月31日閉館

新宿ト―ア.jpg歌舞伎町トーア2 歌舞伎町・第二東亜開館(歌舞伎町東映、1996年1月~新宿トーア)上の歌舞伎町日活を「歌舞伎町トーア1・2」に分割 1990年代半ばに閉館 (新宿トーアは2009(平成21)年4月17日閉館)

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病める米国社会を鋭く描いたハードボイルドの傑作。本格派推理小説としても楽しめる。

The Wycherly Woman.bmpウィチャリー家の女 ミステリ文庫旧版.jpg  ウィチャリー家の女.jpg   ウィチャーリー家の女2.jpg   The Wycherly Woman.gif
『ウィチャリー家の女』(ハヤカワ・ミステリ文庫・旧版)['76年]/『ウィチャリー家の女 (ハヤカワ・ミステリ文庫)』/『ウィチャリー家の女 (1962年) (世界ミステリシリーズ)』 ['62年/ハヤカワ・ミステリ]/ペーパーバック版 〔'98年〕

"The Wycherly Woman (Lew Archer Novels)" 英語CD版

村上春樹 09.jpg 1961年に発表されたロス・マクドナルド(1915‐1983)の作品。ロス・マクドナルドは村上春樹も愛読したハードボイルド作家で、その主人公リュウ・アーチャーの名を借りて「村上龍」というペンネームにするつもりが"先約"があって諦めたとか(これってホントなの?ネタなの? 群像新人賞を受賞した際の授賞式のスピーチで述べていから、おそらくネタだろう。丸谷才一が、そのスピーチを評して「大物だと思った」と言っていたように思う)。

 私立探偵リュウ・アーチャーは、大富豪ホーマー・ウィチャリーから依頼を受け、行方不明となった娘のフィービの捜索調査を開始するが、多くの関係者に聞き込みをするつれ、ウィチャリー家の家族の相克とそれらを取り巻く社会の暗闇が浮かび上がってくる―。

 没落する上流家族の家庭内悲劇をリアルに描いて、作者独特の精神分析的なプロットも盛り込まれており(ロス・マクドナルドはフロイディズムに凝っていた)、病める米国社会を鋭く描いた傑作となっています。

 同時に、疑惑が疑惑を呼ぶストーリー展開は、本格派推理小説としても楽しめるものだと思います(原題は"The Wycherly Woman"で、この"Woman"というのが1つのミソ)。

推理小説を科学する.jpg 一方で、犯人のトリックが古典的な1つのタイプのものでありながらも、最後に全てが明らかになったとき、どうして"あそこ"でリュウ・アーチャーは気付かなかったのだろうとかも思ってしまいます(このことについては、電子工学、電波工学、大脳生理学が専門の大学教授でノンフィクション作家であった畔上道雄が『推理小説を科学する―ポーから松本清張まで』('83年/講談社ブルーバックス)においてリュウ・アーチャーが気付かなかったことに疑念を呈している)。          

 しかし考えてみれば、このアーチャー氏というのは、場面場面での読者への状況報告には欠くことがないけれど、それほど自分の思考を深くは語っていない気がします。そうすると、彼が事件の全貌を理解したのは、読者よりかなり早かったのでは...という気もします。

 アーチャー氏は、フィリップ・マーロウみたいに気障にカクテルの趣味を披瀝することもないし、結局どういう人間かよくわからないので、この辺りに、リュウ・アーチャー・シリーズがあまり映画化されていない理由があるのかもしれません(『ウィチャリー家の女』の場合、それに加えて、畔上道雄氏が指摘したような点が、映像化する際にはリアルにネックとなってくる)。

動く標的 (1966年) (創元推理文庫)』『動く標的 (創元推理文庫 132-4)
動く標的 s.jpg動く標的.jpg動く標的 パンフレット.jpgHarper (The Moving Target 1966).jpg ロス・マクドナルド原作の映画化作品でポピュラーなのは、ジャック・スマイト監督の「動く標的」('66年/米)(原題:Harper)とスチュアート・ローゼンバーグ監督の「新・動く標的」('75年/米)(原題:The Drowning Pool、「動く標的」の続篇で「魔のプール」が原作となっている)ぐらいだと思いますが、ポール・ニューマンが演じた探偵は、リュウ・アーチ動く標的図1.pngャーではなく、"リュウ・ハーパー"と改名されています(ポール・ニューマンが「ハスラー」「ハッド」のヒット以来、Hで始まるタイトルにこだわったためだという)。「動く標的」の映画の方は、ロス・マクドナルドの原作にほぼ忠実に作られていますが、雰囲気的にやや軽い感じでしょうか。映画的はこれはこれで面白いとは思うし、「三つ数えろ」('46年)のローレン・バコール(彼女は役柄上フィリップ・マーロウとリュウ・ハーパーの両方を相手にしたことになり、さらに「オリエント急行殺人事件」('74年)でエルキュール・ポアロを相手にすることになる)、「エデンの東」('55年)のジュリー・ハリス、「サイコ」('60年)のジャネット・リーといった有名女優が出ていて、それがポール・ニューマンにどう絡むかも見所と言えるかもしれません(結局、パメラ・ティフィンのボディが印象に残ってしまったりもするのだ「動く標的」('66年/米).jpgパメラ・ティフィン.jpgが)。「動く標的」「新・動く標的」とも、かつてビデオが出ていましたが、絶版となり、その後DVD化されていません(ポール・ニューマン主演ながらB級扱いにされている?)。(その後2011年に「動く標的」がDVD化された。)(更にその後2016年に「新・動く標的」がDVD化された。)
「動く標的」('66年/米)/Pamela Tiffin

「動く標的」●原題:HARPER●制作年:1966年●制作国:アメリカ●監督:ジャック・スマイト●製作:ジェリー・ガーシュウィン/エリオット・カストナー●脚本:ウィリアム・ゴールドマン●撮影:コンラッド・L・ホール●音楽:ジョニー・マンデル●原作:ロス・マクドナルド「動く標的」●時間:121分●出演:ポール・ニューマン/ローレン・バコール/ジュリー・ハリス/ジャネット・リー/パメラ・ティフィン/ロバート・ワグナー/シェリー・ウィンタース/ロバート・ウェバー●日本公開:1966/07●配給:ワーナー・ブラザーズ(評価:★★★☆)

【1976年文庫化[ハヤカワ・ミステリ文庫]】 

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家族問題や醜聞に揺れる上流階級とモラルや薬物の問題を抱える社会の影を浮き彫りに。

大いなる眠り レイモンド・チャンドラー.jpg大いなる眠り.jpg 大いなる眠り レイモンド・チャンドラー.jpg  『三つ数えろ』(1946) .jpg
大いなる眠り』創元推理文庫/〔'56年・東京創元社(世界推理小説全集)〕/「三つ数えろ 特別版 [DVD]」(1946)

大いなる眠り(創元推理文庫).jpg 1939年発表の『大いなる眠り』(The Big Sleep/'56年・東京創元社)は、レイモンド・チャンドラー(1888‐1959)のハードボイルド小説の中では『さらば愛しき女よ』(Farewell, My Lovely '40年発表/56年・早川書房)、『長いお別れ』(The Long Goodbye '54年発表/'58年・早川書房)と並んで最も人気が高いのではないでしょうか。

 私立探偵フィリップ・マーロウは、石油財閥のスターンウッド将軍から、その年頃の2人の娘のうち末娘のカーメンが賭博ネタで強請られている件で、内密に脅迫者の正体を探るよう依頼を受け、脅迫者ガイガーの家に赴くが、銃声を聞いてマーロウが部屋に飛び込むと、そこは秘密写真の撮影現場であり、ガイガーの死体と、何も身に着けてずドラッグで虚ろな状態のカーメンを目にする―。

『大いなる眠り』(創元推理文庫・旧版)〔'59年〕

 この作品は作者の"フィリップ・マーロウもの"長編の第1作になりますが、会話の洗練され具合とかだと後の2作の方が上かもしれません。ただし、このシリーズを読み進むと、フィリップ・マーロウというのはカッコいい反面、結構"自己愛"型人間ではないかという気も少ししてきて...。

 事件のバックグランドにある、物質的に恵まれながらも精神的に満ちたりず、家族問題や醜聞に揺れる上流階級と、モラルの紊乱や薬物の問題などを抱えるアメリカ社会の、それぞれの影の部分が、ストーリーの展開に合わせてあぶり出しのように見えてくる、その分、ミステリとしての構築度は後退しているように思え、結末は衝撃的でかなり重いものですが、謎解きとしては漠たる部分も残ります。

『三つ数えろ』(1946) 11.jpg三つ数えろ2.jpgThe Big Sleep.jpg 『大いなる眠り』(The Big Sleep)は「三つ数えろ」のタイトル(邦題)で、ハンフリー・ボガート主演で映画化('46年/米)されていますが、これも短いセリフがボギーにマッチしていてなかなか良かったです。ノーベル文学賞作家のウィリアム・フォークナーが脚本に参加しているというし、大富豪の娘役のローレン・バコールもいい(この映画の公開の前年に2人は結婚していて、結婚後初の"夫婦共演"作だが、むしろ"夫婦競演"と言った感じ)。
 "The Big Sleep" ('46年/米)
The Big Sleep3.bmpThe Big Sleep1.bmp 原作『大いなる眠り』の中で、大富豪の娘がフィリップ・マーロウに言う「貴方って随分背が高いのね」が、映画のローレン・バコールのセリフでは「貴方って随分背が低いのね」にアレンジされていて、ハンフリー・ボガートの答えは原作のフィリップ・マーロウと同じく「それがどうした」となっています。

 「三つ数えろ」は好きな映画の1つですが、原作のほうがドロドロしている感じで、映画は原作よりかなり"マイルド"になっているような気がします。

 他にロバート・ミッチャム主演の「大いなる眠り」('78年/英、劇場未公開)もありますが、33歳のフィリップ・マーロウを当時60代のロバート・ミッチャムが演じるのは、ハンフリー・ボガートが演じた以上に年齢ギャップがありました。
 
三つ数えろ パンフ.jpg三つ数えろ.jpgシアターアプル・コマ東宝.jpg「三つ数えろ」●原題:THE BIG SLEEP●制作年:1946年●制作国:アメリカ●監督:ハワード・ホークス●脚本:ウィリアム・フォークナー他●音楽:マックス・スタイナー●原作:レイモンド・チャンドラー「大いなる眠り」●時間:114分●出演:ハンフリー・ボガート/ローレン・バコール/マーサ・ヴィッカーズ/ドロシー・マローン/ジョン・リッジリー/レジス・トゥーミイ/ペギー・クヌードセン●日本公開:1955/04●配給:ワーナー・ブラザーズ●最初に観た場所:新宿シアターアプル(85-11-17) (評価★★★★)
歌舞伎町・新宿シアターアプル・コマ東宝  2008(平成20)年12月31日閉館
  
 【1956年単行本[東京創元社(『世界推理小説全集』第1回配本)〕/1959年文庫化[創元推理文庫〕】

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