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カンヌ映画祭パルム・ドール受賞作。上手い作りだと思うが、後半がやや通俗に流れたか。

うなぎ dvd 完全版_.jpgうなぎ dvd.jpg   うなぎ 05.jpg
うなぎ 完全版 [DVD]」「うなぎ [DVD]」  役所広司/清水美砂
役所広司/常田富士男/佐藤允(1934-2012)
うなぎ 03.jpg 山下拓郎(役所広司)の元に拓郎が夜釣りに行っている間、妻恵美子(寺田千穂)が浮気しているという手紙が届く。ある夜釣りを早めに切り上げて家に帰って、妻の浮気現場を目撃する。拓郎は怒りを抑えきれず妻を刺殺し、そのまま自首、そして8年後に仮出所する、労役で外に出た時に捕まえたうなぎと共に外のうなぎ 04.jpg世界に出た拓郎は、服役中に資格をとった理髪店をひっそりと開き、身元引受人のである寺の住職(常田富士男)とその妻(倍賞美津子)に見守られ、隣家の船大工・高田重吉(佐藤允)をはじめ次第に町の人との交流も増えていく。ある日、うなぎの餌を探しに川へ行くと、川原の茂みで倒れている女を発見。女は殺した妻に瓜二つで、戸惑いながらも警察に通報し、女は睡眠薬を飲んでいたが、一命を取り留める。後日、その女・服部桂子(清水美砂)が礼に訪れ、拓郎の理髪店で働きたいと言い出す。拓郎は渋々女を受け入れ、町の住民はそれを歓迎する。しかし、桂子には何か秘密があるらしい―。
Unagi (1997)
Unagi (1997).jpg
うなぎ 第50回カンヌ映画祭 パルムドール賞.gif 1997年の今村昌平(1926-2006)監督作で、1997年・第50回カンヌ国際映画祭において作品賞(最高賞)に相当するパルム・ドールを受賞した作品であり、今村昌平監督にとっては「楢山節考」('83年/東映)に次いで2度目の受賞でした。「楢山節考」の受賞の時は、今村監督自身は、どうせ外国人には理解できないだろうと思ってカンヌへは行かず、この「うなぎ」の時は、カンヌに行ったけれども、受賞は無いと思って発表日の前に帰国しています。

第50回カンヌ映画祭「パルムドール賞」/役所広司とプロデューサの飯野久氏

 事前の日本での評価は、今村作品としては水準に達していないというもので、一般にも、カンヌでの受賞は意外であるという反応だったようです。個人的にも、そう悪い作品ではないけれど、吉村昭による原作短編「闇にひらめく」(『海馬(トド)』('89年/新潮社) 所収)と比べると、ちょっと違うなあという印象も受けました(オリジナルが短編の場合、映画化作品の方に色々な話が付け加わることはごく普通にありがちだが)。

うなぎ9.jpg 拓郎が出所する際に、身元引受人の寺の住職(常田富士夫)が「どうしてうなぎなんだ?」と訊く場面があり、「話を聞いてくれるんです」「それに余計なことをしゃべりませんから」と答え、その時の役所広司の演技が自然であり、また、主人公の外界との接触を避けようとする心理状況をよく表しているように思いました。但し、原作では、うなぎを飼う話などは無く、主人公(名前は原作では"昌平")の開業する店が床屋ではなくて鰻屋ということになっています(そのためにうなぎ採りの名手に師事するが、そのうなぎ採りの場面だけ、モチーフとして活かされている)。

うなぎ 清水.jpg 全体の構成としては、原作は、主人公が女(名前は原作でも"桂子")に自分の過去の前科を告白すると(原作では妻を刺したが、妻は死んではいない)、女が実は知っていたというところで終わりますが、映画では、そのあと、桂子を巡るいろいろなトラブル話があって、それに拓郎は巻き込まれ、最後は桂子のために積極的にトラブルに関与していきます。

うなぎ1.jpg 映画では、町の住民の中に、原作には無い、宇宙人との交流を夢見る"UFO青年"(小林健)がいて、その青年に対して拓郎が「ホントは、人と付き合うのが恐いんじゃないのか」と言っており、この時点で拓郎には、今のところうなぎを"話し相手"にしているという自分が抱えている問題が十分に把握できているように思われました。押しかけ気味に登場した桂子のお蔭で、いずれ拓郎はその問題を乗り越えることが出来るだろうということは観ていて想像に難くなく、ラストでうなぎを川に放すシーンに自然に繋がっていきます。

うなぎ65.jpg そうした意味では上手い作りだと思うし、原作のテーマを発展的に活かしているとも言えます(モチーフは、「うなぎを採る」ことから「うなぎを飼う」ことに変わっているが)。役所広司も清水美砂も好演、脇を固める俳優陣もまずまずですが、前半はともかく、後半がやや通俗に流れたかなあという印象もありました。ラストシーンなどもいいシーンですが、パターンと言えばパターン。短編を膨らませるって、意外と難しいことなのかも。

うなぎ vhs.jpg 製作発表の直前まで「闇にひらめく」というタイトルでいく予定だったのが、発表の場で、今村監督の意向で「うなぎ」というタイトルになったとのこと。原作以外に、同じく吉村昭の作品である『仮釈放』などからも多くのモチーフを引いてきているため(妻の不倫が何者かの手紙で発覚することや、主人公が出所後に生き物(「仮釈放」ではメダカ)を飼うこと、同じ刑務所の受刑者仲間だった男(柄本明)が主人公に接触することなどは、『仮釈放』からとられている)、「闇にひらめく」のままでいくよりは「うなぎ」というタイトルにして"正解"だったように思います(映画における"うなぎ"のポジショニングが、「闇にひらめく」のうなぎよりも「仮釈放」におけるメダカに近い)。

田口トモロヲ うなぎ.jpg「うなぎ」●制作年:1997年●監督:今村昌平●製作総指揮:奥山和由●プロデューサ:飯野久●脚本:今村昌平/天願大介/冨川元文●撮影:小松原茂●音楽:池辺晋一郎●原作:吉村昭「闇にひらめく」「仮釈放」●時間:117分(劇場公開版)/134分(完全版)●出演:役所広司/清水美砂/常田富士男/倍賞美津子/佐藤允/哀川翔/小林健/寺田千穂/柄本明/平泉成/中丸新将/上田耕一/光石研/深水三章/小西博之/小沢昭一/田口トモロヲ/市原悦子●公開:1997/05●配給:松竹(評価:★★★☆)

田口トモロヲ in「うなぎ」堂島英次(服部桂子の愛人)役(「毎日映画コンクール」男優助演賞)

役所広司 in 周防正行監督「Shall We ダンス?」('96年)/今村昌平監督「うなぎ」('97年)
Shall We ダンスes.jpg うなぎ  .jpg

清水美砂 in 周防正行監督「シコふんじゃった。」('92年)/今村昌平監督「うなぎ」('97年)
シコふんじゃった9.jpg うなぎ ド.jpg

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稀代の犯罪者の多面的キャラクターを描くとともに、崩壊する家族・親子関係を描いた作品。

復讐するは我にあり13.jpg
復讐するは我にあり dvd7.jpg
復讐するは我にあり dvd.jpg 復讐するは我にあり 文春文庫5.jpg 文春文庫
あの頃映画 the BEST 松竹ブルーレイ・コレクション 復讐するは我にあり [Blu-ray]」「あの頃映画 「復讐するは我にあり」 [DVD]」/『復讐するは我にあり (文春文庫)』['09年(改訂新版文庫化)]

復讐するは我にあり  04 .jpg 榎津巌(緒形拳)は、専売公社の集金係2名(殿山泰司ほか)を殺害し、詐欺を繰り返しながら逃走を続ける。実家は病身の母・かよ(ミヤコ蝶々)と敬虔なクリスチャンの父・鎮雄(三國連太郎)が経営する旅館で、榎津の妻・加津子(倍賞美津子)や子も一緒に暮らしているが、榎津は妻・加津子と父・鎮雄の関係を疑っている。警察が榎津を全国指名手配にする中、榎津は裁判復讐するは我にあり  C7.jpg所で被告人の母親(菅井きん)に近づき、弁護士を装って保釈金詐欺を働き、更に、仕事の依頼と称して老弁護士(加藤嘉)に近づいて殺害し、金品を奪って逃げ続ける。浜松の旅館「貸席あさの」に京都帝大教授を装っ復讐するは我にあり  05 小川.jpgて投宿し、宿の女将ハル(小川真由美)と懇ろになる。ある日、ハルは映画館のニュースで榎津の正体を知るが、榎津を匿い続ける。しかし、榎津はハルとハルの母親・ひさ乃(清川虹子)を殺害し、質屋(河原崎長一郎)を旅館に呼んで2人の所持品を売り払う。榎津を以前客に取ったことのあるステッキガール(根岸とし江)が、榎津が指名手配の犯人であることに気づき、警察に通報する。榎津は逮捕され、死刑を宣告される。面会に来た父親の鎮雄は、榎津が教会から破門されたこと、自らも責任を取って脱会したことを伝える。処刑後、榎津の遺骨を抱いた妻の加津子と鎮雄は、山頂から空に向かって散骨する―。

復讐するは我にありG.jpg 昨年['15年]10月に78歳で亡くなった佐木隆三(1937-2015)の直木賞受賞作を今村昌平(1926-2006)監督が映画化した1979年公開作で、復讐するは我にあり61.jpgその年のキネマ旬報ベスト・テン第1位作品。「第3回日本アカデミー賞」の最優秀作品賞を受賞し、演技面では、体当たり演技の小川真由美が日本アカデミー賞の最優秀助演女優賞を受賞。小川真由美は「第4回報知映画賞」やキネマ旬報の賞も受賞し、三國連太郎も報知映画賞や「第22回ブルーリボン賞」など3つの賞を受賞。同じく体当たり演技の倍賞美津子復讐するは我にありNU.jpgブルーリボン賞を受賞しているのに、主役の緒形拳(1937-2008)が何も受賞していないというのがやや不思議な気がします。主人公の多面的なキャラクターを巧みに演じ分けていたのは流石だと思ったのですが、緒形拳は前年の「鬼畜」('78年/松竹)で既に「第2回日本アカデミー賞」「第3回報知映画賞」「第21回ブルーリボン賞」の主演男優賞の"3冠"を達成していたというのも影響したのかもしれません。

 作品全体の印象としては、「神々の深き欲望」('68年/日活)以来約10年ぶりにメガホンを手にした今村昌平の「色」がかなり濃い感じでしょうか。原作者の佐木隆三は、モデルとなった「西口彰事件」について、「調べれば調べるほど内面が覗けなくなった」と秋山駿(1930-2013)との対談で述べていますが、この映復讐するは我にあり7K.jpg画では、敬虔なクリスチャンで通っている父親との確執を、榎津との幼少期のエピソードなども交えながら描き、更には、榎津の妻・加津子と父・鎮雄の関係を前面に押し出すことで、犯行の背後に父親との関係に起因する何かを示唆しているように思われました。それは、終盤の榎津と父親との拘置所復讐するは我にあり8 .jpgでの対面シーンにも表れており、ここでも両者は和解し切れず、結局、父親が息子と内面的に和解したのは、ラストの散骨のシーンであったように思います。榎津の父親への感情は、ファーザー・コンプレックスと言えなくもないですが、加津子の方がむしろ義父・鎮雄をファザコンに近い感情で崇めていて、一方の榎津の父親に対する反発は、父親のその偽善性に対するものではなかったかと思われます(幼児期のエピソードに父親に裏切られたと取れるものがある)。何れにせよ、父・鎮雄と妻・加津子の関係も含め、この辺りは全て"今村昌平オリジナル"です。

復讐するは我にあり_9.png 同じくこの作品で原作以上に大きなウェイトを占めるハルの家族の描き方も、ハルの情夫で旅館のオーナーでもある男(北村和夫)とのどろどろした関係が前面に出ていて、それを苦々しく思う母親と、そこに榎津も絡んできて、もうぐちゃぐちゃという感じ。この辺りも全て映画のオリジナルで、ハルの母親が殺人事件で15年服役し、出所してそう年月も経っておらず、今は競艇に明け暮れる日々を送っているという設定もオリジナルです。更に原作との大きな違いは、榎津とハル復讐するは我にあり  NB.jpgが映画を観に映画館へ入ったところ(映画は「ヨーロッパの解放」第三部「大包囲撃滅作戦」('71年/松竹配給)。その前に)映像ニュースで榎津の指名手配が流れてハルが榎津の正体を知ってしまうことで、榎津に惚れていたハルは榎津を匿い続けますが、原作では母娘は榎津の正体を知らないまま殺害されてしまい、従って、ハルの母親が榎津を競艇に誘って、当てた金を榎津に渡して自分たちの前から消えてくれるよう頼むといった場面も、榎津が畦道かどこかを歩きながらハルの背後からマフラーで絞殺しようして彼女に気づかれ、いったんは諌められてしまうのも映画のオリジナルです。

 原作も映画も稀代の犯罪者を描いたある種ピカレスク・ロマン的な作品ですが、今村昌平の手によって、映画の半分は、崩壊している2組の家族と親子関係を描いたものとなっているように思いました(ハルの家族の方がより悲惨か。パトロン男が母親の目の前で娘であるハルを凌辱するのを目の当たりにした榎津が包丁を取り出そうとするのを、ハルの母親が押しとどめるという場面さえある)。原作に付加されているものが多くて、こうした作品の作りは個人的にあまり好きになれないことが多いのですが、この映画については、付加された部分もドラマとしてよく出来ていて良かったように思います(今村昌平は、個人的には、原作を改変してそれでも作品の質を落とさない数少ない監督の一人)。

 実際の事件では浜松の旅館の小学校5年生(10歳)の女の子が弁護士を装った榎津が指名手配中の連続続殺人犯であることを見破りますが(原作もその通り)、映画では、榎津を以前客に取ったことのある〈ステッキガール〉(クレジットにそうある)が見破ります。因みに、ステッキガールとは大宅壮一による造語で、昭和初期の銀座で1時間2円の料金で食事などデートの相手をする"援助交際"の少女のことで、男の腕にぶらさがるステッキみたいだというのが言葉の由来です(龍田静枝、川崎弘子らが出演の「ステッキガール」('29年/松竹蒲田)という映画がある)。戦後そうした"流行"が復活した浜松では、当時70のステッキガール組織があり、それぞれ20人ほどの女性を置いていて、浜松は"ステッキガール発祥の地"と言われています(戦後のステッキガールは観光ガイドなどの看板で売春をしていた)。作品の舞台は昭和46年頃と、原作より8年ぐらい後ろ倒しにされていますが、そうした組織は、昭和60年代頃まではまだあったと言われています。

復讐するは我にあり_7.jpg 原作者の佐木隆三が、ハルの宿でクレームをつけて帰ってしまう泊り客としてカメオ出演しています。佐木隆三はこの映画公開の前年['78年]、銀座の路上で交差点に赤信号停止しているタクシーに乗ろうとしたところ、タクシー乗り場から乗るように言われたことに逆上し、タクシーのボンネットに乗り上げて暴れてフロントガラスを破壊して警察に逮捕されていますが、クレーマーっぽい役柄はその事件の自虐パロディだったのかも。

「貸席あさの」のセットでの撮影準備(左から、今村昌平監督、姫田真佐久カメラマン、小川真由美、佐木隆三)

Fukushû suru wa ware ni ari (1979)
Fukushû suru wa ware ni ari (1979) .jpg復讐するは我にありC.jpg「復讐するは我にあり」●制作年:1979年●監督:今村昌平●製作:井上和男●脚本:馬場当/池端俊策●撮影:姫田真佐久●音楽:池辺晋一郎●原作:佐木隆三●時間:140分●出演:緒形拳/三國連太郎/ミヤコ蝶々/倍賞美津子/小川真由美小川真由美 復讐するは我にあり2.jpg清川虹子/殿山泰司/垂水悟郎/絵沢萠子/白川和子/フランキー堺/北村和夫/火野正平/根岸とし江(根岸李江)/河原崎長一郎/菅井きん/石堂淑復讐するは我にあり 弁護士.jpg郎/加藤嘉/佐木隆三●公開:1979/04●配給:松竹●最初に観た場所(再見):新宿ピカデリー(緒形拳追悼特集)(08-11-23)●2回目:北千住・シネマブルースタジオ(10-01-17)(評価:★★★★☆)

緒形拳(榎津巌)/加藤嘉(河島弁護士)
 
小川真由美 in 山本薩夫監督「白い巨塔」('66年/大映)/野村芳太郎監督「鬼畜」('78年/松竹)/今村昌平監督「復讐するは我にあり」('79年/松竹) 
白い巨塔 小川真由美 2.jpg 小川真由美 鬼畜 - 2.jpg 小川真由美 復讐するは我にあり.jpg
   
《読書MEMO》
●ポン・ジュノ監督(韓国)の選んだオールタイムベスト10["Sight & Sound"誌・映画監督による選出トップ10 (Director's Top 10 Films)(2012年版)]
 ●悲情城市(ホウ・シャオシェン)
 ●CURE キュア(黒沢清)
 ●ファーゴ(ジョエル & イーサン・コーエン)
 ●下女(キム・ギヨン)
 ●サイコ(アルフレッド・ヒッチコック)
 ●レイジング・ブル(マーティン・スコセッシ)
 ●黒い罠(オーソン・ウェルズ)
 ●復讐するは我にあり(今村昌平)
 ●恐怖の報酬(アンリ=ジョルジュ・クルーゾー)
 ●ゾディアック(ディヴィッド・フィンチャー)

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「心配性で淋しがり、心やさしい泣き虫」だった黒澤。「家庭ではいいパパだった」的トーンか。

回想 黒澤明.jpg回想 黒澤明 (中公新書)』  黒澤 明 「夢」1.jpg夢 [DVD]

黒澤明2.jpg 黒澤明(1910-1998/享年88)の長女である著者が、『黒澤明の食卓』('01年/小学館文庫)、『パパ、黒澤明』('00年/文藝春秋、'04年/文春文庫)に続いて、父の没後6年目を経て刊行した3冊目の"黒澤本"で、「選択する」「反抗する」「感じる」「食べる」「着る」「倒れる」など24の動詞を枕として父・黒澤明に纏わる思い出がエッセイ風に綴られています。

 本書によれば、外では「黒澤天皇」として恐れられていた父であるけれども、実はそういう呼ばれ方をするのを本人は最も嫌っていて、気難しい面もあるけれど、「人間くさくて一直線、心配性で淋しがり、心やさしい泣き虫」だったとのこと。孫と接するとなると大甘のおじいちゃんで、相好を崩して幸せそうだったとか、実の娘によるものであるということもあって、「家庭ではいいパパだった」的なトーンで貫かれている印象も受けなくもありません。微笑ましくはありますが、まあ、男親ってそんなものかなとも(著者が意図しているかどうかはともかく、読む側としてはそれほど意外性を感じない)。

 でも、宮崎駿監督の「魔女の宅急便」('89年/東映)を夜中に観て、翌日、目を腫らして、「すごく泣いちゃったんだ。身につまされたよ」と、ポツリと言っていたとかいう話などは、娘ならではエピソードかもしれません。晩年、小津安二郎監督の作品をビデオで繰り返し見ていたとのことで、肉体的な労力を減らして、良い作品を撮ろうと勉強していたのではないかとのことです。

 著者自身、「夢」('90年/黒澤プロ)以降、衣装(デザイナー)として黒澤作品や小泉堯史、山田洋次、北野武、是枝和裕などそれ以外の監督の作品の仕事をしていて、黒澤の晩年の作品に限られますが、家庭内だけでなく、撮影の現場や仕事仲間の間での娘の目から見た黒澤監督のことも描かれており、役者やスタッフを怒鳴り散らしてばかりいるようなイメージがあるけれども、実は結構気を使っていたのだなあと(役者の躰に触れてまでの演技指導をすることはなかったという。役者のプライドを尊重していた)。ただ、これも、著者の父に対する世間の「天皇」的イメージを払拭したいとの思いも半ば込められているのかも。

黒澤 明 「夢」2.jpg黒澤 明 「夢」3.jpg 著者が最初にアシスタントとして衣装に関わった「夢」は(衣装の主担当はワダエミ)、黒澤明80歳の時の作品で、「影武者」('80年)、「乱」('85年)とタイプ的にはがらっと変わった作品で比較するのは難しいですが、初めて観た時はそうでもなかったけれど、今観るとそれらよりは面白いように思います。80歳の黒澤明が少年時代からそれまでに自分の見た夢を、見た順に、「日照り雨」「桃畑」「雪あらし」「トンネル」「鴉」「赤冨黒澤 夢 01.jpg士」「鬼哭」「水車のある村」の8つのエピソードとして描いたオムニバス形式で、オムニバス映画というのは個々のエピソードが時間と共に弱い印象となる弱点も孕んでいる一方で(「赤ひげ」('65年)などもオムニバスの類だが)、観直して観るとまた最初に観た時と違った印黒澤 明 「夢」水車2.jpg象が残るエピソードがあったりするのが面白いです(小説で言うアンソロジーのようなものか)。個人的には、前半の少年期の夢が良かったように思われ、後になるほどメッセージ性が見え隠れし、やや後半に教訓めいた話が多かったように思われました。全体として絵画的であるとともに、幾つかのエピソードに非常に土俗的なものを感じましたが、最初の"狐の嫁入り"をモチーフとした「日照り雨」は、これを見た時に丁度『聊齋志異』を読んだところで、「狐に騙される」というのは日本だけの話ではないんだよなあみたいな印象が、観ながらどこかにあったのを記憶しています。

 黒澤明はその後、「八月の狂詩曲」('91年)「まあだだよ」('93年)を撮りますが、85歳の時に転倒してから3年半は寝たきりで、結局そのまま逝ってしまったとのこと(老人に転倒は禁物だなあ)。黒澤作品って、「どですかでん」('70年)以降あまり面白くなくなったと言われますが(そうした評価に対する、自分は自分の年齢に相応しいものを撮っていうのだという黒澤自身の考えも本書に出てくる)、晩年に作風の変化が見られただけに、もう何本か撮って欲しかった気もします。

黒澤 夢 011Z.jpg「夢」●制作年:1990年●監督・脚本:黒澤明●製作総指揮:スティーヴン・スピルバーグ●製作:黒澤久雄/井上芳男●製作会社:黒澤プロ●撮影:斎藤孝雄/上田正治●音楽:池辺晋一郎●時間:119分●出演:寺尾聰/中野聡彦マーティン・スコセッシ 「夢」.jpg/倍賞美津子/伊崎充則/建みさと/鈴木美恵/原田美枝子/油井昌由樹/頭師黒澤 明 「夢」水車.jpg佳孝/山下哲生/マーティン・スコセッシ/井川比黒澤明 夢 0.jpg佐志/根岸季衣/いかりや長介/笠智衆/常黒澤明 夢 dvd.jpg田富士男/木田三千雄/本間文子/東郷晴子/七尾伶子/外野村晋/東静子/夏木順平/加藤茂雄/門脇三郎/川口節子/音羽久米子/牧よし子/堺左千夫●公開:1990/05●配給:ワーナー・ブラザーズ(評価:★★★☆)

夢 [DVD]

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「ドキュメンタリーもまたフィクションなり」ということを鮮やかに示した作品「人間蒸発」。

人間蒸発.jpg 人間蒸発2.jpg 今村昌平.jpg
人間蒸発 [DVD]」    早川佳江/今村昌平(1926-2006)

Ningen jôhatsu(1967.jpg 結婚の直前に突然失踪した婚約者を探す早川佳江という女性。露口茂がレポーターとなり、カメラと共に捜索を続ける彼女を追うが、やがて婚約者の二重生活が明らかになる。社会における人と人の繋がりの脆さに自分自身をも見失って呆然とする女性―。

人間蒸発2.jpg 松本清張の『ゼロの焦点』('58年発表)の"ドキメンタリー版"みたいな装いですが、この作品の狙いは"人と人の繋がりの脆さ"を描くと言うよりもむしろ、ドキメンタリーと言われるもの自体の脆さ、ドキメンタリー成立の不可能性を示すことにあったと思います。
Ningen jôhatsu(1967)

人間蒸発1.jpg 途中から佳江さんの実の姉が婚約者と密会していたなどという証言も出てきて、幼い頃から姉を憎んでいた佳江さんはカッとなり、婚約者の捜索をめぐる家族会議に証言者を交えこぞって姉を糾弾し始める―(弩号は飛び交うは、佳江さんは泣き出すは、まさに修羅場の様相)。人間蒸発3.jpgそのようにして家族会議の場で大いに激昂し口角泡飛ばしていた関係者たちですが、監督の「セット飛ばせ」の一言で、何処からともなく現れたスタッフらが"セット"の障子や襖を片付け始める―(観客はここで初めて、家族会議が人間蒸発4.jpg行われていたのは茶の間ではなく映画の撮影スタジオであったことに気づく)。スタッフが大道具、小道具を片付ける間、彼らは一瞬我に返ったかのように見えましたが、カメラが回り始めると、再び口角泡飛ばし猛然人間蒸発 早川佳枝_4.jpgと話し出します。この時彼らは、事件当事者と言うよりも"出演者"になっているということが、面白いほどよく分かる、(ドキュメンタリー)映画史に残る名場面です。

今村監督がネズミと呼んだ早川佳枝さん  

ネズミの後見人兼レポーターを務める露口茂氏/日本海に立つネズミと露口氏 
人間蒸発 露口茂氏_4.png人間蒸発_4.jpg 佳江さんはやがて婚約者を探す気力を失い、彼女の後見人としてこの作品のレポーターを務める俳優の露口茂氏が好きになったことをカメラに向かって告白しますが、その時の彼女はまるで物語の"主役"を演じている(しかも自分で脚本を書いている)"女優"のように見えます。思わぬ告白に戸惑う露口茂の方が、よほど"ドキメンタリー"的。今村監督は「ドキュメンタリーもまたフィクションなのだ」ということを、この"作品"で鮮やかに示しているように思います。

楢山節考 ps.jpg楢山節考 洋.jpg楢山節考 グランプリ受賞.jpg その今村監督が世界的に注目されるきっかけとなったのが、「楢山節考」('83年/東映)で、深沢七郎の原作は、1958(昭和33)年にも木下恵介監督が映画化しています。'83年のカンヌ国際映画祭では「戦場のメリークリスマス」との熾烈な争いを経てグランプリに該当するパルム・ドールを獲得、今村監督自身は、姥捨伝説の話など外国人に分かるわけがなくどうせ受賞しないのだからと映画祭を欠席していました。

グランプリ受賞を今村監督に報告する坂本スミ子(「今村昌平ワールド」より)

Narayama Bushiko, 1958.jpg楢山節考3.jpg 寒村の中で因習に捉われながらも力強く生き抜いていく村人たちの姿を描いた作品で、「姥捨て」をはじめ農村の風習の不気味さと恐ろしさが存分に表現されている一方で、「人間蒸発」に衝撃を受けた自分としては、この作品はやや作り過ぎている印象も受けました(ラストで母と子の愛情が強調されている)。今村監督の作品の中ではベストワンに挙げる人も多い作品ですが、個人的には、「神々の深き欲望」('68年/日活)の方がパワーが感じられ、この作品はそこまで行かなかったかな。観る側との相性を選ぶ作品だとも思うのですが、パルム・ドール受賞で当時誰もが絶賛していたことに対する反発も若干あったかもしれません。
              
人間蒸発_05.jpg人間蒸発ド.jpg「人間蒸発」●制作年:1967年●製作:今村プロ=ATG●監督・企画:今村昌平●音楽:黛敏郎●時間:130分●出演:露口茂/早川佳江/早川サヨ/今村昌平●劇場公開:1967/06●配給:ATG=日活●最初に観た場所:有楽町・日劇文化劇場(80-07-05) ●2回目:池袋文芸地下(83-07-30)(評価★★★★★)●併日劇文化.jpg映(1人間蒸発es.jpg回目):「肉弾」(岡本喜八)●併映(2回目):「神々の深き欲望」(今村昌平)
日劇文化入口.jpg日劇文化劇場 1935年12月30日日劇ビル地下にオープン、1955年8月12日改装/ATG映画専門上映館)。日劇ビルの再開発による解体工事のため、1981(昭和56)年2月22日閉館。/「日本劇場」(左写真:「銀座百点」624号より(1980年当時))[右下「日劇文化劇場」地下入口]/「日劇文化劇場」地下入口(「音楽・映画・生活雑筆」より)
楢山節考 dvd.jpg
Narayama bushikô(1983).jpgNarayama bushikô(1983)
「楢山節考」●制作年:1983年●製作:友田二郎●監督・脚本:今村昌平●撮影:栃沢正夫●音楽:池辺晋一郎 ●時間:131分●出演:緒形拳/坂本スミ子/あき竹城/倉崎青児/左とん平/辰巳柳太郎/深水三章/清川虹子 江藤漢/常田富士男/小林稔侍/三木のり平/ケーシー高峰/倍賞美津子/殿山泰司/樋浦勉 /小沢昭一/志村幸江/岡本正己/岩崎聡子/長谷川秀夫/村瀬賢二●劇場公開:1983/04●配給:東映=今村プロ●最初に観た場所:渋谷東映(83-04-29) (評価★★★☆)  「楢山節考 [DVD]

「楢山節考」パンフレット/倍賞美津子(おえい)ほか   左とん平(利助)・小林稔侍(常)
楢山節考 01.jpg 楢山節考  左とん平 小林稔侍.jpg 

渋谷TOEI.jpg渋谷東映.jpg渋谷東映 旧.jpg旧・渋谷東映 1953年11月、宮益坂下交差点前に東映の直営モデル劇場としてオープン(モノクロ写真は「渋谷フォトミュージアム」より(1953年当時))。隣渋谷東映 -2.jpg接の「渋谷松竹」と共に、1990(平成2)年9月16日閉館。跡地に「渋谷東映プラザ」が建設され、1993年2月20日、渋谷東映(7階)と渋谷エルミタージュ(9階)渋谷東映s-touei.jpgがオープン(2004年10月9日~渋谷TOEI1・渋谷TOEI2)。
[左]菅野正写真展 「平成ラストショー hp」より(1999(平成2)年9月13日撮影)

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枠組みは重厚な企業小説だが、中身は随所に軽妙なタッチも。

深田 祐介 『炎熱商人』.jpg 炎熱商人 上.jpg 炎熱商人 下.jpg  炎熱商人図1.jpg炎熱商人図2.jpg
炎熱商人(上) (文春文庫)炎熱商人(下) (文春文庫)』〔'84年〕 NHKドラマ「炎熱商人」['84年]主演:緒形拳
炎熱商人(1982年)

 1982(昭和57)年上半期・第87回「直木賞」受賞作。

 フィリピンで木材の取引きに関わる商社マンたちの活躍を描いた長編小説で、中堅商社・鴻田貿易のマニラ事務所長・小寺和男(後に支店長)、荒川ベニヤという合板メーカーから鴻田貿易に出向し木材の現地検品などを担当する石山高広、鴻田貿易マニラ事務所の現地雇用社員で日比混血児であるフランク・佐藤・ベンジャミン(佐藤浩)といった人物を軸に、彼らが建築業者や現地の材輸出業者と織り成す壮絶な商戦の模様を、佐藤の幼少期にあたる戦時中のマニラの軍事的事情などを交錯させつつ展開していきます。

 枠組みは重厚な企業小説で、実際に現地で起きた邦人の受難事件(1971年11月21日、フィリピンのマカティ市で住友商事マニラ支店長が射殺され、店員一人も重傷となった事件)に着想を得ての結末は、まさに非業の死というべきものですが、物語の中身は、佐藤と現地業者のやりとりなど随所に軽妙なタッチも見られ、そう言えば作者は「スチュワーデス物語」の原作者でもあったなあと。

 個人的には、荒川ベニヤのある東京・荒川区の町屋という場所に馴染みがあり親しみを覚えましたが、石山の母・咲子と石山の漫才のような会話などはややサービス精神過剰な感じもしました。
 この作品で作者は6回目のノミネートで直木賞を受賞しましたが、選考委員の1人だった池波正太郎などは、「東京の下町と江戸ッ子を売り物にする、歯が浮くような老女があらわれ、事々にブチこわしてしまうのは残念だった」と言っています。

 登場人物が多すぎて出だしなかなか流れに乗れない面もありますが、後半の盛り上がりはエンタテインメントとしての魅力を充分発揮しており、トータルで見れば(パワーでねじ伏せている部分もあるものの)よく出来ている作品だと思いました。企業小説にとって「直木賞」というのはなかなかハードルが高いのでしょうか。

炎熱商人図1.jpg炎熱商人図2.jpg炎熱商人図3.jpg '84年にはNHKで、大野靖子の脚本でテレビドラマ化されていて(出演:緒形拳=小寺、松平健=石山、中条きよし=佐藤)、なかなか上手く作られているように思いました(かなり感情移入できた)。

 石山役の松平健は熱血商社マンを好演していましたが、その時は、ワイシャツやスーツが似合うのが意外な感じがしました(後にスーツのコマーシャルに出演するようになるよりも随分と前の話)。

炎熱承認 試写室.jpg「炎熱商人」●制作年:1984年●演出:樋口昌弘/平山武之●制作:土居原作郎●脚本「炎熱商人」2.jpg炎熱商人ドラマ.gif:大野靖子●音楽:池辺晋一郎●出演:緒形拳/松平健/中条きよし/トニー・マベッサ/シェリー・ヒル/チャット・シラヤン/ローズマリー・ヒル/ヴィック・ディアス/アナクレタ・エンカルナシオン/クリスティ・ギドエ/ルネ・ルクェスタス/テリー・ババサ/ルスティカ・カルピオ/市原悦子/高峰三枝子/勝野洋/梶芽衣子/古城都/にしきのあきら/藤岡琢也/佐藤慶●放映:1984/05(全2回)●放送局:NHK
 
 【1984年文庫化[文春文庫(上・下)]】

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第1話は異色作。大川端でなく柳橋にあった「かわせみ」。後に3歳修正された"るい"の年齢。

御宿かわせみ 上.jpg 御宿かわせみ 下.jpg 単行本 御宿かわせみ.jpg 江戸の子守唄.jpg 水郷から来た女.jpg 山茶花は見た.jpg 文庫新装版 『御宿かわせみ〈新装版〉 (一) (文春文庫)』 『御宿かわせみ〈新装版〉 (二) (文春文庫)』 『水郷から来た女―御宿かわせみ 3 (文春文庫)』 『山茶花は見た―御宿かわせみ〈4〉 (文春文庫)』 (装丁:蓬田やすひろ)

 元同心の娘で、江戸大川端の宿屋「かわせみ」の女主人"るい"と、その幼馴染みで、八丁堀の与力を兄に持つ東吾の2人の恋を軸に、市井に起きる数々の事件を下町情緒を交えて描いた人気シリーズの第1話から第33話までを収録していて、シリーズ第1作から第4作(『御宿かわせみ』、『江戸の子守唄』、『水郷から来た女』、『山茶花は見た』)の合本です。

 雑誌連載のスタートは'73(昭和48)年だったということで、池波正太郎の「鬼平犯科帳」シリーズのスタートと5年ぐらいしか違わないのですが、今風で読みやすく、人情とサスペンスがほどよく相俟って読後感もいいです。
 ただし、第1話の「初春の客」などは、日蘭混血遊女と黒人奴隷の凄絶な恋の行方を描いた異色の"道行き"物語で、このシリーズの標準的なトーンとは随分違って暗い感じ。でも、これはこれで、心に残る話でした。

 第1話、第2話では「かわせみ」が大川端ではなく、少し川上の柳橋に在る設定になっていたことに気づきますが、それよりも"るい"の年齢が25歳になっていて、東吾は24歳(33話までには彼女は29歳ぐらいになっている)、'04年刊行の新装文庫版で、"るい"の年齢が22歳からスタートしているのとの違いがわかります。
 しっかりした性格の中にも可愛らしさを見せる"るい"の年齢は25歳である方が自然で、22歳だと東吾は21歳ということになり、2人とも大人びていすぎる感じがします。

 実際にそこは作者の計算で、江戸時代の感覚では女性は16ぐらいが花で20ぐらいだと嫁に行き遅れみたいな感じだったようですが、それでは現代の感覚と合わないので、最初は敢えて"るい"の年齢を25歳にしたとのこと。
 ところが連載が好評で、「時が流れる」スタイルをとっているため、このままでは"るい"がどんどん年齢を重ねてしまうので、35話で彼女の年齢を29歳から3歳戻して26歳にし、それに伴って第1話のときの年齢を25歳から22歳に修正したとのこと。
 結果的に、現代の年齢感覚から江戸時代の感覚に戻したということでしょうか。

 嘉助やお吉など、"るい"をとりまく人たちがいい人すぎるきらいもありますが、スリ"休業中"(廃業はしていない)という美男子の板前「お役者松」などのユニークなキャラクターがアクセントになっていたりして、飽きさせないものがあります。

御宿かわせみ 選集 第一巻 [VHS].jpg御宿かわせみ 真野響子版.bmp この「御宿かわせみ」は何度も単発乃至シリーズでテレビドラマ化されており、若尾文子、真野響子、古手川祐子、沢口靖子、高島礼子といった女優が"るい"役を演じています。
 最近では、NHKの高島礼子版が、明治期までを演じていたりしますが、同じNHKの真野響子版も懐かしい(東吾とるいは、正式な夫婦になっていないところが良かったんだよなあ)。

御宿かわせみ 選集 第一巻 [VHS]

「御宿かわせみ」●演出:佐藤幹夫/松橋隆/清水満●制作:村上慧●脚本:加藤泰/伊上勝/大西信行●音楽:池辺晋一郎●原作:平岩弓枝●出演:真野響子/小野寺昭/山口崇/田村高広/河内桃子/安奈淳/花沢徳衛/水原ゆう紀/織本順吉/結城美栄子/大村崑●放映:1980/10~1981/03/1982/10~1983/04(全48回)●放送局:NHK
 
 【1974‐77年単行本〔毎日新聞社(『御宿かわせみ』『江戸の子守唄』『水郷から来た女』『山茶花は見た』)]/1980年単行本〔文藝春秋(上・下)]/1979‐80年文庫化・2004年文庫新装版[文春文庫]】

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