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「懐かしい未来図」。実際にはまだ未来図のままだが、少しずつ実現出来ている部分も。

空中都市008青い鳥文庫.jpg空中都市008 アオゾラ市のものがたり 1.jpg空中都市008 アオゾラ市のものがたり 2.jpg  完全読本 さよなら小松左京.jpg 
『空中都市008―アオゾラ市のものがたり』(1969/02 講談社)[装丁・挿絵:和田 誠
空中都市008 アオゾラ市のものがたり (講談社青い鳥文庫)』『完全読本 さよなら小松左京
 空中都市008に引っ越してきた、ホシオくんとツキコちゃん。ここはいままで住んでいた街とはいろんなことがちがうみたい。アンドロイドのメイドさんがいたり、ふしぎなものがいっぱい......じつはこのお話、1968年に作者が想像した未来社会、21世紀の物語なのです。さあ、今と同じようで少しちがう、もうひとつの21世紀へ出かけてみましょう!(「青い鳥文庫」より)。

田中 耕一 記者会見2.jpg 1968(昭和43)年に「月刊PTA」(産経新聞発行)に「あおぞら市のものがたり」というタイトルで連載され、1969年に単行本刊行された際に「空中都市008」がタイトルとなった小松左京(1931-2011)のSF児童文学で、2003年版「青い鳥文庫」の作者まえがきで、2002年にノーベル化学賞を受賞した田中耕一氏が小学生の頃この作品の愛読者だったことを知って感激したとあります(オリジナルは入手困難だが、「青い鳥文庫」版も和田誠氏の挿画を完全収録している)。

 作品の中で主人公たちが月に行く場面がありますが、この作品が書かれた当時は米ソが宇宙進出競争をしていて、この作品の発表の翌年1969(昭和44)年にアメリカがアポロ11号で人類を月に送り込んでいます。この作品では月には既に都市があって、月で生まれ育った「月っ子」たちがいることになっています。

スケッチブック.jpg このように、この作品に出てくる様々な未来像は、21世紀になっている現在からみてもまだ先の「未来像」のままであるものが多くありますが、方向性として全然違っているというものは少ないように思われ、そこはさすが科学情報に精通していた作者ならではと思われます。子どもの頃に思い描いていたという意味で、「懐かしい未来図」という言葉を思い出してしまいますが、あの時の"未来図"が本当ならば今頃スゴイことになっている? (人々はエア・カーや動く歩道で移動しているとか...)。実際にはそれほど変っていないかなあ。但し、少しずつ実現出来ている部分も一部あるなあと思いました。

スケッチブック

「ぼくら」1969年7月号付録.jpg 例えば、ホシオたちの家族が移り住んだ空中都市は、「50かいだてアパートの36かい」ということになっていますが、今ならそういうところに住んでいる人はいるなあと(但し、ホシオたちの場合は「可動キャビン」方式で家ごと引っ越してきたのだが)。

 「ファクシミリ・ニュース」というのは今で言えばインターネットによるニュース配信であり、1000人乗れるという「ジャンボ・ジェット」もそれに近いところまでいっているし、「エアクッション・カー」という車輪を使わない鉄道は、今で言うリニアモーター・カーでしょうか。

「ぼくら」1969年7月号付録

 道路の「標識システム」は今で言うカーナビゲーションに近いかも。「電子脳」(今で言う「コンピュータ」)が故障して、都市の交通システムが麻痺してしまうという話は、例えばシステムの不具合で金融機関のATMが仕えなくなったといった近年の出来事を思い出させ、クルマが使えないので人々が皆、久しぶりに自転車に乗ってみたらこれが意外と良かったというのも、エコ・ブームや健康ブームを想起させます。

 この物語はNHKで連続人形劇としてテレビドラマ化され、1年間にわたり空中都市008 グラフNHK.jpg放映されました(「空中都市008」1969年4月-1970年4月、全230回)。ひ番組の絵葉書.jpgと続きの話は原則として1週間単位で終わったため、原作のエピソード以外に多数の書き下ろしがあります。「チロリン村とくるみの木」(1956年-1964年、全812回)「ひょっこりひょうたん島」(1964年-1969年、全1,224回)に続くNHKの平日夕方の人形劇シリーズ第3弾でしたが、技術的にはよく出来ていたように思います。ただ、人形やセットに費用がかかり過ぎたのと、指向としては「サンダーバード」(1965年-1966年)などを目指したため人形がリアルになり過ぎて「ひょっこりひょうたん島」のキャラのような可愛さが足りず、視聴率が伸び悩んだということもあって1年で放送終了となりました(次番組「ネコジャラ市の11人」(1970年-1973年、全668回)と比べても放送回数はかなり少なかったことになる)。 番組の絵葉書
小松左京 1990「CLUB紳助」
images.jpg 原作者の小松左京はその頃、日本万国博覧会のサブ・テーマ委員、テーマ館サブ・プロデューサー(チーフ・プロデューサーは岡本太郎)として1970年の日本万博開催の準備に追われており、放送終了を残念がる暇も無かったのではないかな。『地球になった男』('71年/新潮文庫)などの短編集の刊行もあり、'73年には『日本沈没』(カッパ・ノベルズ)で日本推理作家協会賞を受賞するなどした一方で、テレビなどにもよく出ていましたが、この人、この頃が一番太っていて、すごくパワフルな印象がありました。
中山千夏(1970)/初音ミク(2010)        iPad 版「空中都市008」音楽(唄:初音ミクvs中山千夏)
空中都市008 アプリ版 .jpg中山千夏(1970).jpg初音ミク.jpg この作品は2010年にiPad専用のオーディオビジュアルノベルとしてApp Storeで配信され、作中の登場人物の台詞が声優によって読み上げられるほか、物語の進行に合わせたBGMが再生され、かつてのNHKの放送で番組主題歌を歌った中山千夏が初音ミクとコラボして誕生したテーマソングや、小松氏のボイスコメントなども収録されているそうですが、「まさ小松左京マガジン 第46巻_.jpg小松左京マガジン47.pngか本がこんなことになっちまうとは、私自身がSF作家のくせに思いもよりませんでした」とのコメントを寄せた小松左京氏は、その翌年2011年の7月に肺炎のため80歳で亡くなっています(健康時にはタバコを1日3箱吸うヘビースモーカーだった)。

 「小松左京マガジン」が没後もしばらく刊行され続けていたことなどからみても、小松左京やその作品には当時も今も根強いファンがいるものと思われます。
小松左京マガジン 第46巻」(2012.09)/「小松左京マガジン〈第47巻〉」(2012.12)

宇宙人ピピ.jpg 因みに、小松左京原作で「空中都市008」より以前にテレビ番組になったものに「宇宙人ピピ」(1965年4月-1966年3月、全52回)があります。宇宙人"ピピ"と彼を取り巻く地球人との騒動を描いたコメディドラマで、ピピ宇宙人ピピ シングル .jpgはアニメーション、円盤は写真で描かれていて、日本で最初の実写とアニメの画面合成によるテレビドラマシリーズです(小松左京が大阪から原稿を送り週1回の放送を1人でこなすのは困難だったことから、脚本は平井和正との合作となっている)。"ピピ"の声は中村メイコで、主題歌の作曲は「空中都市008」と同じく冨田勲(1932-2016でした。NHKのアーカイブで観たら、形式はコメディなのですが、中身は子どもの塾の問題とか扱っていて、結構シリアスだった?

宇宙人ピピ   .jpg宇宙人ピピ 00.jpg「宇宙人ピピ」●脚本:小松左京/平井和正●音楽:冨田勲(主題歌:中村メイコ)●原作:小松左京●出演(声):中村メイコ/安中滋/北条文栄/福山きよ子/梶哲也/安田洋子/小林淳一/大山尚雄/黒木憲三/酒井久美子/峰恵研/蔭山昌夫/加藤順一/乾進/中島浩二/若柳東穂/大山のぶ代/小泉博●放映:1965/04~1966/03(全52回)●放送局:NHK

空中都市008(中山千夏).jpg「空中都市008」●脚本:高垣葵●音楽:冨田勲(主題歌:中山千夏)●原作:小松左京●出演(声):里見京子/若空中都市008 [DVD].jpg山弦蔵/太田淑子/平井道子/山崎唯/藤村有弘/松島トモ子/熊倉一雄/古今亭志ん朝/松島みのり/大山のぶ代●放映:1969/04~1970/04(全230回)●放送局:NHK  
NHK人形劇クロニクルシリーズVol.3 竹田人形座の世界~空中都市008~ [DVD]

空中都市0083.jpg


【1969年単行本[講談社]/1981年文庫化[角川文庫]/2003年再文庫化[講談社・青い鳥文庫]】
  

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見るだけでも楽しいが、手塚治虫自身による裏話が多く盛り込まれており、読んでも面白かった。

手塚治虫劇場.jpgジャングル大帝917.JPG 
手塚治虫劇場―手塚治虫のアニメーションフィルモグラフィー』(1997/07 手塚プロダクション) (カバーイラスト:和田 誠)/「ジャングル大帝 レオのうた(劇場版1966)」作詞:辻真先/作曲:冨田勲/歌:弘田三枝子

 手塚アニメのフィルモグラフィーで、'97年刊行(初版は'91年)。'60(昭和35)年公開の「西遊記」から'97年公開の「ジャングル大帝」までの劇場公開されたアニメーション映画作品、並びに、'63年から'66年にかけて放映された「鉄腕アトム」から、'97年に放映された「聖書物語」までのTVアニメ作品(「バンパイヤ」などの実写との合成版を含む)の、画像や上映・放送記録データを収録しています。

 主要作品については、作者・手塚治虫自身がメディア各誌等で語ったその作品に関する長文の談話が付されていて、主にアニメーションの制作の苦労話や技術的なことについて触れているものが多く、そうした意味では、アニメに特化した編集の趣旨が明確に出ていていいです。

 冒頭の'88年の「朝日賞」受賞時の講演(作者が亡くなる1年前)からしてまさにそうであり、殆どアニメ制作の現場にいる玄人に向けて話すような内容を、一般の人にも分かり易いよう噛み砕いて語っていて、それがそのまま、日本のアニメ史や手塚アニメの特徴を語ることにもなっています。

 代表作「鉄腕アトム」に対する作者の後の自己評価はさほど高くなかったように思いましたが、それでも日本のTVアニメにおいて画期的な作品ではあったのだなあと。その自負は、作者自身の談話からも感じ取れます。
 
 取り上げられているている作品の中で個人的に思い出深いのは、「ジャングル大帝」のテレビアニメ版と旧い方の劇場版('66年/東宝)。

「ジャングル大帝 テレビアニメ 昭和40年.jpgジャングル大帝 テレビ 1965.jpgジャングル大帝 テレビ 1965 2.jpg 原作のオリジナルは、'50(昭和25)年から5年間「漫画少年」に連載されたもので、「鉄腕アトム」のオリジナルよりも以前になりますが、それを虫プロが手直しして、TV版に改変し放映を開始したのが'65(昭和40)年で、当時はまだカラーテレビの普及率が低かったものの(東京でカラー受像機は5千台程度)、番組スポンサーである電機メーカーのカラーテレビを普及させたいとの強い意向から、日本初のカラーアニメ番組が実現したとのことです。
ジャングル大帝 Complete BOX [DVD]

 このスポンサーというのは「三洋電機」のことであり、喜劇俳優の「エノケン」こと榎本健一(1904-1970)の「うち~のテレビにゃ色がない 隣のテレビにゃ色がある あらまきれいとよく見たら サンヨー・カラーテレビ」という軽妙ながらも視聴者の購買意欲をそそるコマーシャルが流れていました(因みににエノケンがCMに顔を出すのはこの作品だけで、初めてのCM出演がカラーで喜んだそうだ)。

弘田三枝子.jpg冨田勲6.jpg また、番組のエンディングテーマ「レオのうた」の作曲者は、後にシンセサイザー音楽作家として名を馳せる冨田勲(1932-2016)で、弘田三枝子(1947年生まれ)のパンチの効いた歌唱力により、アニメのエンディングテーマとしては人々の記憶に最も残るものの1つとなりました。弘田三枝子は、伊東ゆかりらと同様、少女時代から米軍キャンプで唄っていた経歴の持ち主で、このテーマを唄っている頃の彼女はややふっくら体型でしたが、自分で作ったカロリーブックをもとに、1日の食事を2000キロカロリー以内に抑えて半年間で17キロのダイエットに成功、1969年に「人形の家」がブレイクして第11回日本レコード大賞の歌唱賞を受賞し、1970年には『ミコのカロリーBOOK』を出版し150万部を超えるベストセラーになりました。

「ジャングル大帝 1966.jpgジャングル大帝・サンダ対ガイラ.gif 「ジャングル大帝」は、本書の手塚治虫自身の談によれば視聴率40%を超えたとのことで、その翌年に映画化され、主人公のレオが大人になってからの物語「新ジャングル大帝 進めレオ!」も引き続きテレビ放映されました。

「ジャングル大帝」('66年/東宝)ポスター(併映「フランケンシュタインの怪獣 サンダ対ガイラ」('66年/東宝))

 映画版は劇場で見ましたが、オープニングの迸るような色彩の噴出に、ただただ圧倒された思い出があります(おそらくテレビではまだ白黒でしか見ておらず、それがいきなり大型スクリーンでカラーだったから衝撃をもって受け止められたのではないか)。

 本書の手塚治虫の談話を読むと、まずTVアニメの方は、音楽に経費を使い過ぎて、アニメの方は使い回しするなど苦心したとのこと、また、原画の色が当時のテレビ受像機ではそのままに出ないので、実際に映ったものを何度も見て絵具を塗り直したとのこと、それが今度は映画になると、その色がそのまま映像に出てしまうので、また修正と、かなり苦労したようです。

 因みに「ジャングル大帝」はその後、'97年(監督:竹内啓雄)、'07年(監督:谷口悟朗)に映画化されていますが(本書第2版は'97年版「ジャングル大帝」の公開に合わせて刊行されている)、それらはDVD化されているのに対し、この'66年版(監督:山本暎一)はDVDが無いようです(他作品とバンドルされて、期間限定でDVD化されたりしたことはあったかも)。(実際に、「鉄腕アトム」「ジャングル大帝」「新宝島」の3部作DVD-BOX として、2005年と2008年に発売されていることを、このブログを見た人から教えていただいた。期間限定生産だったが、マーケットプレイスで購入可能のようだ。)

w3.JPG 「ジャングル大帝」のテレビ放映時期は「鉄腕アトム」の終わりの方と重なっており、ほぼ同じ時期に虫プロのTVアニメ第2弾作品「W3(ワンダースリー)」の放映がありましたが('65年6月~'66年6月フジテレビで放映)、「W3」は「鉄腕アトム」と「ジャングル大帝」のどちらのアニメチームにも入れなかった虫プロのスッタフの「俺たちは落ちこぼれじゃないか」というひがみムードを払拭するために、そうしたスッタフの自発的なアイディアを尊重して作られた作品であるとのことです。

 もともと宇宙からきたリスのシリーズを考えていたところ、他のプロダクションでそっくりな企画が進行しているとの情報が入ってスパイ疑惑まで生じ、豊田有恒氏が虫プロを辞める事態にまで至ったわけですが(これが巷にいう「W3事件」)、その別のプロダクションの作品というのが「宇宙少年ソラン」です。

 「少年マガジン」で「W3」の連載が始まった後に「宇宙少年ソラン」の連載も同誌で始まり、しかもアニメ化された番組のスポンサーは菓子メーカー同士(ロッテ(W3)と森永(ソラン))の競合だったという―。結局、「W3」は「少年マガジン」の連載を中断し、「少年サンデー」で再開。但し、アニメの方は、途中から裏番組に「ウルトラQ」がきて、ガクンと視聴率が下がってしまったとのことですが、アメリカのローカル局に買われたとのことです(ローカル局のためか、吹き替え無しの字幕放送だった)。

 この本は、見ているだけでも楽しいですが、作者・手塚治虫自身による現場の裏話がふんだんに盛り込まれており(「W3事件」に関しても手塚自身が殆どの経緯を述べている)、読んでも面白かったです。

ジャングル大帝 1965.jpgジャングル大帝3.jpg「ジャングル大帝」●製作:山本暎一●チーフ・ディレクター:林重行●音楽:冨田勲●原作:手塚治虫●出演(声):太田淑子/小池朝雄/松尾佳子/明石一/田村錦人/勝田久/加藤精三/熊倉一雄/川久保潔/関根信昭/山本嘉子/千葉順二●放映:1965/10~1966/09(全52回)●放送局:フジテレビ

ジャングル大帝 劇場版 (1966)b.jpgジャングル大帝(劇場版)1966年2.jpg「ジャングル大帝」(劇場版)●制作年:1966年●監督:山本暎一●脚本:辻真先●音楽:冨田勲●原作:手塚治虫●時間:75分●声の出演:太田淑子/明石一/勝田久/松尾佳子/田村錦人/緑川稔●公開:1966/07●配給:東宝(評価:★★★★)

W3(ワンダースリー).jpgW3(ワンダースリー)2.jpg「W3(ワンダースリー)」●プロデューサー:黒川慶二郎●チーフ・ディレクター:杉山卓●音楽:宇野誠一郎●原作・総監督:手塚治虫●出演(声):白石冬美/近石真介/小島康男/沢田和子/金内吉男/池田一臣/桜井良子●放映:1965/06~1966/06(全52回)●放送局:フジテレビ

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共演の男優・女優を追悼。シェイクスピアを下敷きにした見所多い(?)作品「禁断の惑星」。

禁断の惑星 dvd.jpg 禁断の惑星 英語ポスター.jpg 禁断の惑星 ポスター.jpg 昆虫型ミュータントがアダムス博士を襲う.jpg
禁断の惑星 [DVD]」「禁断の惑星」輸入版ポスター/日本版ポスター 「宇宙水爆戦 -HDリマスター版- [DVD]
 
禁断の惑星 ポスター(東宝).jpg 宇宙移民が行われている2200年代、アダムス機長が率いる宇宙船は、20年前に移住して消息を絶った移民団の捜索のために、惑星第4アルテアへ着陸するが、アルテア移民団の生き残りは、モービアス博士と、アルテアで誕生した彼の娘アルティラの2人と、博士が作った万能ロボット・ロビーだけだった。博士によれば、アルテアにはかつて高度に進化し、発達した科学を創り上げた先住民族が存在したが、原因不明の滅亡を遂げ、そして移民団も正体不明の怪物に襲われて自分達以外は死んでしまったという―。

「禁断の惑星」パンフレット

アン・フランシス_3.jpgForbidden Planet2.jpgForbidden Planet.jpg アダムス機長を演じたレスリー・ニールセンが昨年('10年)11月に亡くなった(享年84)のに続いて、アルティラを演じたアン・フランシスも今年('11年)1月に亡くなり(享年80)、寂しい限りです。TV番組「ハニーにおまかせ」('56年~)の私立探偵役のアン・フランシスも、「裸の銃(ガン)を持つ男」('86年)のレスリー・ニールセンも、この映画では2人とも20代でしょうか。この作品を観ると、永遠に2人とも若いままでいるような錯覚に陥ります。

禁断の惑星 名画座ミラノ2.jpg 「禁断の惑星」がシェイクスピアの「テンペスト」を下敷きにしていることはよく知られていて、最初に劇場(名画座ミラノ、すでに「名画座料金」ではなくなっていた)で観た時も、同時期の作品「宇宙水爆戦」('55年)などに比べてよく出来ているように思いました。

宇宙水爆戦1.jpg 「宇宙水爆戦」の方は結構キッチュ趣味と言えるかも。惑星間戦争で絶滅の危機にある星の異星人の科学者が、地球の科学者に協力を依頼するが、実はその星の指導者は地球を支配して移り住むことを企んでいた―というストーリーですが、最後、事件が一見落着したかと思ったら、宇宙船内に潜んでいた宇宙昆虫人間みたいなミュータントに襲われそうになるという―このとってつけたように出現するミュータントがポスターなどではメインになっていて、それだけストーリーは印象に残らないといことでしょうか。ストーリー的にも怪物キャラクター的にも、当時流行ったSFパルプマガジンの影響を強く受けているようです(そのこともキッチュ感に繋がる要因か。でもこのキッチュ感こそが、この作品の根強い人気の秘密かも)。

宇宙家族ロビンソン3.jpg 一方、「禁断の惑星」に出てくる有名キャラクターは万能ロボット「ロビー」で、これを参照したのが60年代に作られたテレビ番組「宇宙家族ロビンソン」に出てくるロボット(愛称:フライデー)だったりし、先駆的な要素も結構あったわけです(「宇宙家族ロビンソン」には外にも「宇宙水爆戦」も参考にしている箇所が幾つかある)。

刑事コロンボ 愛情の計算2.png刑事コロンボ 愛情の計算.jpg 因みに、このロボットは、「刑事コロンボ」の第23話「愛情の計算」('74年)にも"ゲスト出演"してロビーとフライデー.jpgおり(下半身の造りが二本脚から台座型に変わっている)、人工知能研所の所長である犯人のアリバイ作りに一役買っていますが、ロボットのキー・ボードを叩く手つきの大雑把さを見ると、ちょっと所長の代役をさせるには無理な感じも。

ロビー(「禁断の惑星」)とフライデー(「宇宙家族ロビンソン」)

 事件の鍵を握る天才少年の名は、スティーブン・スペルバーグで、これは勿論、コロンボ・シリーズ第3話「構想の死角」を撮ったスピルバーグ監督の名前をもじったもの。息子を庇う親心を利用して犯人を自白に追い込むというのは、後のフェイ・ダナウェイが犯人役を演じた第62話「恋におちたコロンボ」('93年)でもFaye Dunaway & Peter Falk.jpg恋におちたコロンボ2.jpg(こちらは娘を庇ってだが)使われましたが、真犯人ではないと分かっていながら拘束するのはいかがなものでしょうか(「恋におちたコロンボ」の脚本はピーター・フォーク自身が手掛けている)。但し、フェイ・ダナウェイの演技力はさすが。70年代のシリーズ作に比べ見劣りがする90年代のシリーズ作(特に後期作品)の中では、ひときわ映える名犯人役と言っていいのではないでしょうか。 Faye Dunaway & Peter Falk

アン・フランシス「死の方程式」「溶ける糸
死の方程式 アン・フランシス.jpg溶ける糸3 アン・フランシス.jpg 因みに「刑事コロンボ」シリーズに出たのはロボットだけではなく、アン・フランシスも「刑事コロンボ」の第8話「死の方程式」('72年)にロディ・マクドウォール(「猿の惑星」)演じる犯人の秘書兼愛人役で、第15話「溶ける糸」('73年)にレナード・ニモイ(「スタートレック」)演じる犯人に殺されてしまう看護婦役で出ているし、レスリー・ニールセンも、第7話の「もう一つの鍵」で、犯人である広告会社役員役のスーザン・クラークの恋人役で、第34話「仮面の男」('75年)で、元同僚のスパイに殺害される被害者役仮面の男2.jpg刑事コロンボ 仮面の男2.jpgで出ています。

レスリー・ニールセン 「仮面の男

 レスリー・ニールセンはこの頃もまだ二枚目俳優で(コメディ初出演は「フライング・ハイ」('80年))、「禁断の惑星」や「刑事コロンボ」の演技と「裸の銃(ガン)を持つ男」('88年)の演技を比べてみるのも一興でしょうか。コメディ俳優としてブレイクするきっかけとなった「裸の銃を持つ男」ではエリザベス女王裸の銃(ガン)を持つ男(1988).jpgをはじめフセイン大統領、ホメイニなど様々な人物をコケにし、「裸の銃を持つ男PART2 1/2」('88年)では当時のアメリカ大統領裸の銃(ガン)を持つ男2.jpgジョージ・ブッシュをコケにしています。「裸の銃を持つ男PART33 1/3 最後の侮辱」('94年)までプリシラ・プレスリー、ジョージ・ケネディ、O・J・シンプソンという共演トリオは変わらず和気藹々といった雰囲気でしたが、O・J・シO・J・シンプソンs.jpgンプソンは'94年に発生した元妻の殺害事件(「O・J・シンプソン事件」)の被疑者となってしまいました(刑事裁判で殺人を否定する無罪判決となったが、民事裁判では殺人を認定する判決が下った)。


Forbidden Planet3.jpg 「禁断の惑星」という作品は、ストーリーも凝っているように思われ、「テンペスト」をなぞるだけでなく、「イドの怪物」という精神分析的な味付けがされていて、ファーザー・コンプレックスがモチーフになっているように、フロイディズムの影響も濃く滲んでいます。
 また、ロボット・ロビーが博士に怪物の攻撃を止めるよう命じられても出来ないのは、アイザック・アシモフの「ロボット3原則」が下敷きになっているわけですが、この「ロボット3原則」は「ロボコップ」('87年/米)のラストなどにも援用されていたなあ。

 「禁断の惑星」も、時代ものSFパルプマガジンをそのまま映像化したような雰囲気はあるものの、それでいて結構おシャレな、レトロ・モダン感満載の"未来"像が楽しめるし、アン・フランシスがパルプマガジンの表紙そのままに超ミニで歩き回るし、この作品が実質的には映画デビュー作であるアダムス機長を演じたレスリー・ニールセンは、多分大多数の日本人がイメージしキャプテンウルトラ222.jpgている彼の演技とは全く異なる演技をしているし(昔の怪獣映画の宝田明や夏木陽介の感じ、乃至は、背景も含めると「キャプテンウルトラ」('67年)の中田博久の方がより近いか)、いろいろと見所が多い作品です(「なぜウチの中にビオトープがあるのか?」とか、突っ込み所も含めて)。

キャプテンウルトラ ハック2.jpg 尚「キャプテンウルトラ」にも、「宇宙警察パトロール隊」と共に「宇宙船シュピーゲル号」(なぜかドイツっぽい名前)に乗り込み、バンデル星人や怪獣たちと戦い続ける万能ロボット「ハック」が登場しますが、こちらは「ゴジラ」以来の日本の"伝統"か(この番組の制作城野ゆき.jpg会社は東映)、着ぐるみっぽいロボットでした。このシリーズは、脚本が番組放送に追いつかなくなった「ウルトラQ」と、その後継番組として構想されていた「ウルトラマン」との間の所謂「つなぎシリーズ」だったので、書割りのような背景からも察せられる通り、番組制作予算は限られていたようです。その後ウルトラ・シリーズでお決まりとなる"紅一点"の女性隊員は、ここでは「アカネ隊員」ですが、「ウルトラマン」で桜井浩子が演じた「フジ・アキコ隊員」、「ウルトラセブン」で菱見百合子が演じた「アンヌ隊員」と並んで、この「キャプテンウルトラ」で城野ゆきが演じた「アカネ隊員」キャプテンウルトラ」第9話42.jpgアカネ隊員s.jpgアカネ隊員3s.jpgアカネ隊員5s.jpgも、今もって人気があるようです(フジ・アキコ隊員、アンヌ隊員のいわば先輩格になるわけだが、1度だけコスプレっぽい服を着ていたことがある。「禁断の惑星」のアン・フランシスを意識したのか)。

「キャプテンウルトラ」第9話「怪生物バンデルエッグあらわる」
 

禁断の惑星 11 アンフランシス.jpg SFパルプマガジン風ファッション

禁断の惑星 21 アン・ニールセン.jpg 万能ロボット・ロビー登場

禁断の惑星 20 アン.jpg なぜウチの中にビオトープがあるのか?

禁断の惑星 04 アン・レスリー.jpg アン・フランシス/レスリー・ニールセン
Forbidden Planet(1956)
Forbidden Planet(1956).jpg
「禁断の惑星」●原題:FORBIDDEN EARTH●制作年:1956年●制作国:アメリカ●監督:フレッド・マクラウド・ウィルコックス●製作:ニコラス・ネイファック●脚本:シリル・ヒューム●撮影:ジョージ・J・フォルシー●音楽:ルイス・アンド・ベベ・バロン●原作:アーヴィング・ブロック/アレン・アドラー「運命の惑星」●時間:98しねまみらの.jpgシネマミラノ 劇場内.jpgシネマミラノ.jpg分●出演:ウォルター・ピジョン/アン・フランシスレスリー・ニールセン/ウォーレン・スティーヴンス/ジャック・ケリー/リチャード・アンダーソン/アール・ホリマン/ジョージ・ウォレス/ボブ・ディックス●日本公開:1956/09●配給:MGM●最初に観た場所:新宿・名画座ミラノ(87-04-29)(評価:★★★☆)
名画座ミラノ 1971年11月、歌舞伎町「東急ミラノビル」4Fにオープン、→「シネマミラノ」(写真)、2006年6月1日~「新宿ミラノ3」 2014(平成26)年12月31日閉館。

宇宙水爆戦 dvd.jpg「宇宙水爆戦」.bmp「宇宙水爆戦」●原題:THIS ISLAND EARTH●制作年:1955年●制作国:アメリカ●監督:ジョセフ・ニューマン●製作:ウィリアム・アランド●脚本:フランクリン・コーエン/エドワード・G・オキャラハン●撮影:クリフォード・スタイン/デビッド・S・ホスリー●音楽:ジョセフ・ガ―シェンソン●原作: レイモンド・F・ジョーンズ●時間:86分●出演:フェイス・ドマーグ/レックス・リーズン/ジェフ・モロー/ラッセル・ジョンソン/ランス・フラー●配給:ユニバーサル・ピクチャーズ●日本公開:1955/12)●最初に観た場所:新宿・名画座ミラノ(87-05-17)(評価:★★★☆)宇宙水爆戦 -HDリマスター版- [DVD]」 

宇宙家族ロビンソン dvd.jpg宇宙家族ロビンソン l.jpg「宇宙家族ロビンソン」Lost in Space (CBS 1965~68) ○日本での放映チャネル:TBS(1966~68)
(全3シーズン。第1シーズンはモノクロ、第2シーズンからカラー)

宇宙家族ロビンソン ファースト・シーズン DVDコレクターズ・ボックス 通常版」 

  

刑事コロンボ 愛情の計算 vhs.bmp「刑事コロンボ/愛情の計算」●原題:MIND OVER MAYHEM●制作年:1974年●制作国:アメリカ●監督:アルフ・ケリン●脚本:スティーブン・ボッコ/ディーン・ハーグローブ/ローランド・キビー刑事コロンボ 愛情の計算3.bmp●原案:ロバート・スペクト●音楽:ディック・デ・ベネディクティス●時間:74分●出演:ピーター・フォーク/ホセ・ファーラー/ロバート・ウォーカー/ジェシカ・ウォルター/リュー・エヤーズ/リー・H・モンゴメリー/アーサー・バタニデス/ジョン・ザレンバ/ウィリアム・ブライアント/ルー・ワグナー/バート・ホランド●日本公開:1974/08●放送:NHK総合(評価:★★★)特選 刑事コロンボ 完全版「愛情の計算」【日本語吹替版】 [VHS]

恋におちたコロンボ1.jpg「新・刑事コロンボ/恋におちたコ恋におちたコロンボ dvdブック.jpgロンボ」●原題:IT'S ALL IN THE GAME●制作年:1993年●制作国:アメリカ●監督:ビンセント・マクビーティ●製作:クリストファー・セイター●脚本:ピーター・フォーク●音楽:ディック・デ・ベネディクティス●時間:74分●出演:ピーター・フォーク/フェイ・ダナウェイ/アルマンド・プッチ/クローディア・クリスチャン/ジョン・フィネガン/ビル・メイシー/シェリー・モリソン/ブルース・E・モロー/ジョニー・ガーデラ/ダグ・シーマン/ダニエル・T・トレント/トム・ヘンシェル日本公開:1999/05●放送:NTV(評価:★★★☆)
新刑事コロンボDVDコレクション 17号 (恋におちたコロンボ) [分冊百科] (DVD付)

裸の銃(ガン)を持つ男 dvd.jpg裸の銃(ガン)を持つ男 1.jpg「裸の銃(ガン)を持つ男」●原題:THE NAKED GUN:FROM THE FILES OF POLICE SQUAD!●制作年:1988年●制作国:アメリカ●監督:デヴィッド・ザッカー●製作:ロバート・K・ウェイス●脚本:ジェリー・ザッカー/ジム・エイブラハムズ/デヴィッド・ザッカー/パット・プロフト●撮影:ロバート・スティーヴンス●音楽:アイラ・ニューボーン●時間:85分●出演:レスリー・ニールセン/プリシラ・プレスリー/ジョージ・ケネディ/O・J・シンプソン/リカルド・モンタルバン/ナンシー・マルシャン●配給:UIP映画配給●日本公開:1989/04(評価:★★★☆)
裸の銃(ガン)を持つ男 [DVD]

「キャプテンウルトラ」中田.jpgキャプテンウルトラ.jpg「キャプテンウルトラ」●演出:佐藤肇、田口勝彦/加島昭/竹本弘一/山田稔/富田義治●制作:平山亨/植田泰治●脚本:大津皓一/高久進/長田紀生/井口達/伊上勝●音楽:冨田勲●出演:中田博久/城野ゆき小林稔侍/伊沢一郎/安中滋/相馬剛三/都健二/田川恒夫●放映:1967/04~09(全24回)●放送局:TBキャプテンウルトラ」9.jpgキャプテンウルトラ」第9話61PQCFU.jpg 「キャプテンウルトラ Vol.2 [DVD]
中田博久(キャプテンウルトラ=本郷武彦)/城野ゆき(アカネ隊員)
 

「キャプテンウルトラ」第9話「怪生物バンデルエッグあらわる」 
城野ゆき(アカネ隊員)1_500.jpgアカネ隊員cp.jpg城野ゆき(アカネ隊員)










小林稔侍(キケロ星人ジョー)[当時26歳]/「シュピーゲル号」プラモデル
キャプテンウルトラ 小林稔侍.jpgシュピーゲル号.jpg

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洞爺丸事故を7年繰り上げた大胆さ。心筋梗塞後の作者がワープロ練習用に選んだ作品。

飢餓海峡 上.jpg 飢餓海峡下.jpg    飢餓海峡dvd.jpg  飢餓海峡1シーン.jpg
飢餓海峡(改訂決定版) 上』『飢餓海峡(改訂決定版) 下』〔'05年〕 『飢餓海峡 [DVD]』(三國連太郎(中)/伴淳三郎(左)/高倉健(右))

飢餓海峡(ポスター).jpg 昭和22年秋、台風のため青函連絡船・層雲丸の転覆事故が起き、必死の救助活動が行われる中、3人の復員服姿の男が台風で不通になった列車から飛び降り、転覆事故の混乱に紛れ、本土へ向けて夜の海峡を船を漕いでいた。台風が去った後、転覆した層雲丸の乗客の遺体が次々と収容されるが、引取り人のいない遺体があり、収容遺体は実際の乗客数より2体多かった。一方、同じ台風の中、函館市内て質屋が全焼する火事があり、焼け跡から質屋一家の他殺体が発見され、質屋一家強盗殺人事件と、転覆事故の乗船者数より多い2体の遺体が結びついた―。

飢餓海峡2.jpg [映画]函館署のベテラン刑事の弓坂(伴淳三郎)は、亡くなった男2人と行動を共にしていた犬飼太吉なる大男の行方を粘りつよく捜索を続け、その男・犬飼太吉(三國連太郎)と思われる男と一夜を共にした女郎・杉戸八重(左幸子)の存在を突き止める―。

 水上勉(1919‐2004)(ミナカミベンと呼ぶ人もいるが本来は「みずかみ・つとむ」と読む)の代表作で、内田吐夢(1898‐1970(うちだ・とむ)監督による映画化作品も、様々なアンケートでいつも歴代邦画のベストテンに入っている、そうした評価に相応しい力作でした(水上勉は'71年に『宇野浩二伝』などの功績で「菊池寛賞」を受賞)。

「飢餓海峡」1.jpg「飢餓海峡」2.jpg

飢餓海峡.jpg 主人公・犬飼役の三國連太郎の生涯最高の演技に加えて、刑事役の高倉健の演技もいいですが、高倉健と共に捜査にあたる元「飢餓海峡」.jpg刑事役の伴淳三郎と、堅気になろうとしてなれない薄幸の女性・八重(ひたすら犬飼を思いながら生き続ける哀しさ)を演じた左幸子の演技が、この二人もまた生涯最高の演技と言っていいくらいに、とてもいいです。

飢餓海峡」3.jpg とりわけ伴淳三郎については、内田吐夢監督がロケで、大勢の見物人の前で彼を罵倒して何十回もNGを出し、喜劇王伴淳のプライドをズタズタに傷つけ、すっかり意気消沈させたとのことで、実はそれこそが内田吐夢の狙いであり、伴淳がいつもの喜劇と場が違って巨匠の撮る大作にシリアスな大役ということで、いいところを見せようと肩に力が入り過ぎるのを、監督が伴淳を怒鳴りつける事で意図的に元気をなくさせ、それが作品が求めるところの人生に疲弊している老刑事像に繋がったというから、恐ろしいまでの演出です。

 原作を以前に読んだときは、貧困から這い上がる男のパワーとその結末の哀しさが強く印象に残りましたが、「改訂決定版」('05年/河出書房新社(上・下))で再読し、終盤の主人公の更正施設への"寄付"の組み入れ方なども改めて良くできているなあと思いました(結果的にはこの寄付によって、主人公の犬飼は...)。本作発表当時にはもう人気作家だった作者ですが、"贖罪"というテーマが、晩年の宗教的回帰の「予兆」としてこの作品の中に既にあったともとれます。

虚無への供物.jpg 岩内大火というのは本当に洞爺丸の転覆事故と同じ日に起きたのだと知りませんでした。共に、昭和29年9月の台風15号の影響を受けての惨事ですが、2つの事件からよくここまで構想したものだと驚きます。洞爺丸の転覆事故をモチーフにしたものでは、中井英夫『虚無への供物』がありますが、『虚無への供物』が歴史どおり昭和29年の出来事としてこの事件を扱っているのに対し、『飢餓海峡』では岩内大火と併せて7年繰り上げて昭和22年の出来事としているわけであって、その大胆な"柔軟性"にも改めて感心させられました。 
虚無への供物』 講談社文庫

事件.jpg 純文学作家による推理小説の最高峰として、テーマは異なりますが大岡昇平事件とこの作品を挙げたいと思います。ただし、『事件』は〈裁判小説〉、『飢餓海峡』は〈社会派サスペンス小説〉と言った方がよいかもしれませんが...(『虚無への供物』が正統派ミステリーと言えるかどうかは別として、少なくとも『事件』も『飢餓海峡』も、一般的な推理小説とはかなり異なるタイプの作品と言えるだろう)。

 河出書房新社の「改訂決定版」は、仮名使いだけでなく、文章そのものにかなり手を加えていますが、筋立ての変更はありません。作者は'89(平成元)年、70歳の時に心筋梗塞で倒れ、リハビリとしてワープロに挑戦し、"入力練習用"に選んだのがこの「飢餓海峡」だったということです(自身の代表作の「改稿」とリハビリのための「入力練習」を同時にやったことになる。作者が亡くなったのは「改訂決定版」出版の前年('04(平成16)年)で85歳だった)。
Kiga kaikyô (1965)
Kiga kaikyô (1965) .jpg飢餓海峡film.jpg高倉健 若い頃.png「飢餓海峡」●制作年:1965年●制作:東映●監督:内田吐夢●脚本:鈴木尚之●撮影:仲沢半次郎●音楽:冨田勲●時間:183分●出演:三國連太郎(樽見京一郎/犬飼多吉)、左幸子(杉戸八重/千鶴)/伴淳三郎(弓坂吉太郎刑事、函館)/高倉健(味映画「飢餓海峡」2.jpg村時雄刑事、東舞鶴)/加藤嘉(杉戸長左衛門、八重の父)/三井弘次(本島進市、亀戸の女郎屋「梨花」の主人)/沢村貞子(本島妙子)/藤田進(東舞鶴警察署長、味村の上司)/風見章子(樽見敏子、樽見の妻)/山本麟一(和尚、弓坂34587552f0e389e1d42e569c1a635e71--japanese-film.jpgの読経を褒める)/最上逸馬(沼田八郎、岩内の強盗犯)/安藤三男(木島忠吉、岩内の強盗犯)/沢彰謙(来間末吉)/関山耕司(堀口刑事、東舞鶴)/亀石征一郎(小川、チンピラ)/八名信夫(町田、チンピラ)/菅沼正(佐藤刑事、函館)/曽根秀介(八重が大湊で働いていた娼館、"花や"の主人)/牧野内とみ子(朝日館女中)/志摩栄(岩内署長)/岡野耕作(戸波刑事、函館)/鈴木昭生(唐木刑事、東舞鶴)/八木貞男(岩田刑事、東舞鶴)/外山高士(田島清之助、岩内署巡査部長)/安城百合子(葛城時子、八重が東京で訪ねる)/河村久子(煙草屋のおかみ)/高須準之助(竹中誠一、樽見家の書生)/河合絃司(巣本虎次郎、網走刑務所所長)/加藤忠(刈田治助)/須賀良(鉄、チンピラ)/大久保正信(漁師の辰次)/西村淳二(下北の巡査)/田村錦人(大湊の並木座.jpg巡査)/遠藤慎子(巫子)/荒木玉枝(一杯呑み屋のおかみ)/進藤幸(弓坂織江、弓坂の妻)/松平峯夫(弓坂の長男)/松川清(弓坂の次男)/山之内修(記者)/室田日出男(記者)●劇場公開:1965/01●最初に観た場所:銀座並木座 (87-10-18) (評価★★★★☆) 
銀座並木座  1953年オープン。1998(平成10)年9月22日閉館。

 【1963年単行本(全1巻)・1978年改訂版(全1巻)[朝日新聞社]/1964年単行本(全1巻)・2005年改訂決定版(上・下)[河出書房新社]/1969年文庫化(全1巻)・1990年文庫改訂(上・下)[新潮文庫]】

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隠れた剣客というだけではなく、自分なりの価値観を持つ男たち。

たそがれ清兵衛 映画タイアップカバー.jpgたそがれ清兵衛2.jpg たそがれ清兵衛 dvd.jpg m020937a.jpg
たそがれ清兵衛』 単行本新装改訂版 ['02年] 「たそがれ清兵衛 [DVD]」 (松竹/監督:山田 洋次/出演:真田広之, 宮沢りえ)
たそがれ清兵衛 (新潮文庫)』(カバー:村上 豊)  Tasogare Seibei (2002)
Tasogare Seibei (2002).JPG

 表題作「たそがれ清兵衛」のほか、「うらなり与右衛門」「ごますり甚内」「ど忘れ万六」「だんまり弥助」「かが泣き半平」「日和見与次郎」「祝い人助八」の全8編を収録。

 一見すると情けないほど貧相だったり頼りなさげだったりするため普段は侮られているのだけれど、いざという時には毅然とした行動をとる男たちの話。彼らは何れも、しがない宮仕えの下級武士なのですが、実は知られざる(知る人ぞ知る)凄腕の剣客なのである―こうした「スーパーヒーロー」と言うよりむしろ「アンチヒーロー」達による剣豪小説は、サラリーマンの心をくすぐるものがあるのかも知れません。

 表題作「たそがれ清兵衛」のように、意図せずに上意討ちの討ち手に選ばれてしまうといった話が多いのですが、命令には従い、そしてやり遂げる。しかし、そのことを足掛かりに出世しようなどという気は毛頭ない―。 "逆刺客"を倒した直後も番所へ届けず、とっとと家路を急ぐ主人公の姿に、夫婦愛というより、自分なりの価値観を持った人間が描かれていると思いました。

 「うらなり与右衛門」「日和見与次郎」などは義憤による敵討ちの話で、外見や日頃の立ち振る舞いでは窺えない主人公の心意気が伝わってきます。風呂敷包みに隠されていた"うらなり"与右衛門のしたたかさ、黒幕を絶対に許さない"日和見"与次郎の徹底ぶりが、"うらなり"や"日和見"といった外見とは対照的であり、強く印象に残りました。 

たそがれ清兵衛 0.jpg 「たそがれ清兵衛」は2002年に山田洋次監督によって映画化され、山田監督はこれが初の時代劇でしたが、第76回キネマ旬報ベスト・テンの第1位に選ばれました。元が短編であるだけに、他と短編と組み合わせて話を膨らませている部分があり、真田広之演じる清兵衛は、最近妻に死なれ、認知症の母と幼い娘2人を抱えており、残業しないのも無理はないという感じで(しようと思っても出来ない)、 宮沢りえ演じるヒロインの朋江は、夫の家庭内暴力で出戻りとなった親友の妹という設定になっています(何だか現代的)。

たそがれ清兵衛 殺陣.jpg 清兵衛と朋江の相互の切ない想いの描き方は感動的でしたが、原作はもっと軽い感じだったという印象。但し、意図せずに上意討ちの討ち手に選ばれてしまうというのは原作通りで、真田広之と田中泯の殺陣シーンはなかなかリアリティがありました。こうした、テレビ時代劇などにある従来のお決まりの殺陣シーンとは違った演出ばかりでなく、時代考証も細部に行き届いているようで、山田監督の初時代劇作品への意気込みが感じられ、真田広之、宮沢りえの演技も悪くなかったです(それぞれ日本アカデミー賞・最優秀主演男優賞・女優賞を受賞)。

 でも、恋愛を描いたことで、完全に原作とは別物の作品になった印象もありました。話の枠組みを岸恵子(成人となった清兵衛の娘)の語りにする必要もなかったし、その語りによるエピローグで清兵衛を戊辰戦争で死なせる必要も無かった―更に言えば、どうせここまで改変するならば、2人を結婚させず悲恋物語にしても良かったように思います。

たそがれ清兵衛 01.jpg「たそがれ清兵衛」●制作年:2002年●製作:大谷信義/萩原敏雄/岡素之/宮川たそがれ清兵衛 丹波哲郎.jpg智雄/菅徹夫/石川富康●監督:山田洋次●脚本:山田洋次/朝間義隆●撮影:長沼六男●音楽:冨田勲●原作:藤沢周平「たそがれ清兵衛」「竹光始末」「祝い人助八」●時間:129分●出演:真田広之/宮沢りえ/田中泯/小林稔侍/大杉漣/吹越満/深浦加奈子/神戸浩/伊藤未希/橋口恵莉奈/草村礼子/嵐圭史/岸惠子たそがれ清兵衛 岸恵子.jpg中村梅雀/赤塚真人/佐藤正宏/桜井センリ/北山雅康/尾美としたそがれ清兵衛   .jpgのり/中村信二郎/丹波哲郎/赤塚真人/佐藤正宏/北山雅康/水野貴以●劇場公開:2002/11●配給:松竹 (評価★★★☆)

 【1988年単行本・2002年新装版[新潮社]/1991年文庫化・2006年改版[新潮文庫]】

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