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"母と娘"の物語としては新しいかもしれないが、作者の作品としては"定番"か。

『母性』wカバー.jpg母性.jpg
母性』['12年/新潮社]
母性 (新潮文庫)』(映画タイアップカバーとの二重カバー)戸田恵梨香/永野芽郁

 ある日、女子高生が自宅の中庭で倒れているところを母親が発見する。母親は言葉を詰まらせる。「愛能う限り、大切に育ててきた娘がこんなことになるなんて」。世間は騒ぐ。事故か自殺か、真相は不明。遡ること十一年前の台風の日、彼女たちを包んだ幸福は、突如奪い去られていた。母の手記と娘の回想が交錯し、浮かび上がる真相。これは事故か、それとも―。

 「イヤミスの女王」とも呼ばれている作者の作品ですが、この作品もそれなりに"イヤミス"感を漂わせていました。一人称告白形式で綴っていくのも『告白』などと同じ。だから、コアなファンがいるのだろうなあと。

 今回は、「能うる限りの愛情」を母親より授けられてきたと信じる娘がいて、その娘が母となり、自分の娘に同様の愛を与えようとするものの思うように伝わらず、一方で、娘は娘で母親から愛されていないと感じている、その両者の葛藤がモチーフとなっています。両者の食い違いを、一つひとつの出来事に対する母と娘の捉え方の違いという形で端的に浮き彫りにしています。

 この辺りは上手いなあと。ただ、この「信頼できない語り手」という枠組み手法も『告白』などこれまでの作者の作品の中で用いれてきたものであり、本書の惹句「圧倒的に新しい"母と娘"の物語(ミステリー)」というほどには目新しいとは思いませんでした。いや、"母と娘"の物語としてはニュータイプなのかもしれないけれど、この作者の作品としては"定番"ではないかなあ(この作者は、なかなか『告白』を超えられないでいる印象を受ける)。

 今月['22年11月]、廣木隆一監督による映画化作品が公開される予定で、母親を戸田恵梨香、娘を永野芽郁が演じているようですが、どちらかと言うとエキセントリックなのは母親の方でしょう。「愛着障害」と言ってもいいくらい。これを女優はどう演じるのかなあ。

「母性」.jpg
(●2002年11月、廣木隆一監督による映画化作品公開。

「母性」soukan.jpg 女子高生が転落死する事件が発生。その原因を探っていた教師の清佳(永野芽郁)は、自身の過去を振り返っていく。彼女は母親・ルミ子(戸田恵梨香)の愛を受けられず、人知れず悩みを抱えた少女時代を過ごしてきた。一方、別の場所ではルミ子が娘との関係について、神父(吹越満)に告白する。ルミ子は、自身の母(大地真央)から受けてきた無償の愛を、そのまま清佳に注いできたと証言。しかし、両者の回想は徐々に食い違いが生じていき、日常に潜んだ壮絶な過去が明らかになっていく―。

「母性」2.jpg 母親・ルミ子役に戸田恵梨香、娘・清佳役に永野芽郁と、共に子役時代から活躍する演技派の二人をもってきていたが、戸田恵梨香が1988年生まれ、永野芽郁が1999年生まれと実年齢で10歳程度しか違わないので、あまり親子に見えなかったし、また、敢えてそうしたプロモーションのやり方をしていた(因みに、NHKの「連続テレビ小説」では、永野芽郁が2018年度前期の「半分、青い」でヒロインの発明家を、戸田恵梨香が2019年度後期の「スカーレット」でヒロインの陶芸家を演じていて、ヒ「母性」takahata.jpgロイン役は永野芽郁が先。永野芽郁はオーディション初参加ながら応募者2,366人の中から選出)。母親・ルミ子はかなりエキセントリックなキャラクターで、これを演じるのは難しいと思ったが、戸田恵梨香はまずます。ただし、ルミ子を苛める義母役の高畑淳子の演技ぶりが凄すぎて、主役の二人を喰ってしまった印象(演技過剰?)。高畑淳子は内田伸輝監督の「女たち」('21年/シネメディア=チームオクヤマ)で娘に苛立ちをぶつける半身不随の母親を演じていて、そこまでではないが、その時の演技の流れできている感じ。評価は原作と同じく★★★。)

「母性」2022.gif「母性」[.jpg「母性」●制作年:2022年●監督:廣木隆一●製作:谷口達彦/古賀俊輔/湊谷恭史●脚本:堀泉杏●撮影:鍋島淳裕●音楽:コトリンゴ●原作:湊かなえ●時間:116分●出演:戸田恵梨香/永野芽郁/三浦誠己/中村ゆり/山下リオ/高畑淳子/大地真央●公開:2022/11●配給:ワーナー・ブラザース映画●最初に観た場所:有楽町・丸の内ピカデリー2(2階席)(22-12-20)(評価:★★★)

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【2015年文庫化[新潮文庫]】

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「山本周五郎賞」の選評は微妙か。個人的にはプロットを活かし切れていないと思った。

ユートピア 湊かなえ.jpg湊 かなえ  『ユートピア』.jpgユートピア』(2015/12 集英社)

 2015(平成27)年・第28回「山本周五郎賞」受賞作。

 太平洋を望む美しい景観の小さな港町・鼻崎町。実は5年前に資産家の老人が殺害される事件があり、芝田という男で、指名手配されていた。町には日本有数の大手食品会社があり、そこに勤める住民と、昔から住んでいる地元住民、移住してきた芸術家たちなど、それぞれ異なるコミュニティの人々が暮らしている。鼻崎町で仏具店を営む堂場菜々子の娘・久美香は、幼稚園の集団登園中に交通事故に逢い、小学生になっても車椅子で生活している。東京から父親の転勤によって鼻崎町にやってきた小学4年生の彩也子は久美香と仲良くなり、子ども同士が仲良くなったことから、菜々子と彩也子の母・相場光稀は交流をもつことになる。最近引っ越してきた陶芸家の星川すみれは、久美香を広告塔に、車椅子利用者を支援するブランド「クララの翼」を立ち上げ、翼モチーフのストラップを販売することを思いつく。出だしは上々だったが、ある日ひょんなことから「実は久美香は歩けるのではないか?」という噂がネット上で流れ、徐々に歯車が狂い始める。そんなある日、子どもたちが行方不明に―。

 ボランティア団体「クララの翼」の活動における女性たちの、ふとしたことから好意の裏側に芽生えた嫉妬や意地悪い気持ちがドロドロとした心理に発展していく描写などは作者のお手の物だと思いましたが、一方で、ややパターン化しているかなとも。主要登場人物である3人のキャラクターがあまり描き切れていなく、どこまで読み進んでもどれも同じように見えるのが難でした(実際、読みにくかった)。

 プロット的にはかなり凝っていたと言えるかもしれません。ただ、謎解きは全てエピローグの中で行われていて、本編の中にそれらの伏線があったかといと、そうでもなかったような。それに、留守中の子どもの火遊びによる火事みたいな偶然の出来事も重なっていて、殆ど推理不可能のように思えました(犯人探しに関しては、この人物が少しおかしいなとか思う出来事はあるのだが)。

 同じ時期に「山本周五郎賞」の候補になった相場英雄氏の『ガラパゴス』('16年/小学館)の方がずっと面白いと思いましたが、「山本周五郎賞」の5人の選考委員の中で、警察小説の先輩格にあたる佐々木譲氏の『ガラパゴス』への評価が厳しく、一方で、佐々木氏は本作『ユートピア』を強く推し、「大事なのは、この作品は広義のミステリーではあるが、様式的なクライム・ノベルではない点だろう。謎があり、事件が起こり、その一応の解決はみるが、解決それ自体は作品の主題ではない」と評しています。

 確かに、探偵役が出てくるわけでもなく、エピローグで謎解きをしているわけだから、ミステリの枠からはやや外れていると見るのが普通かもしれません。同じく選考委員の白石一文氏は、「(『ガラパゴス』と共に)△とする方針で選考会に臨んだ」とし、「佐々木委員は湊氏に○をつけていた」とする一方で(他の委員を意識している?)、氏自身は「最後の謎解きの部分は相当にひとりよがりと言わざるを得ない」としています。

 同じく選考委員で、自身にもこの作品同様に女性同士のドロドロとした心理を描いた作品がある角田光代氏も、「(女性たちの)異様な感情に変化する直前の、一瞬の輝くような瞬間もさりげなく書く」と中身を褒めながらも、「終盤、私にはいくつかわからないことがあった。(中略)作者があえて書かなかったのか、そうでないのかの判断が私にはつかなかった。その一点においてこの小説を受賞作として全面的に推すことがためらわれた」としています。一方で、同じく選考委員の石田衣良氏が、「ミステリーとしての整合性は、この作品の読みどころじゃないんだ。そこまでの過程のおもしろさのほうが重要だよ」と述べていますが、そうは言っても個人的にはやっぱりプロットを活かし切れていない作品であることが気になりました。

 ただ、先に否定的な意見を述べた白石一文氏も、「当選作を出すとなれば、やはり湊氏の作品しかないだろうというのは5人の委員全員の一致するところであった」としており、やはり作者19作目と言うことで、そろそろ賞をあげてもいいのではといった(功労賞的)雰囲気もあったのではないでしょうか。最後もう一人の選考委員である唯川恵氏が、「市井の人々の細やかな描き方は山本周五郎の作風に通じるものがあり、またこれまでの十分な実績から受賞にふさわしいと思えた」と言っていることからも、その辺りが窺えます。

【2018年文庫化[集英社文庫]】

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読者を驚かせたいという意図とそのための創意は分かるが、それがどこまで果たせたのか疑問。

リバース 湊かなえ.jpg      湊 かなえ リバース .jpg    湊 かなえ 『リバース』 .jpg
リバース』(2015/05 講談社) 2017年ドラマ化(「TBS金曜ドラマ」) 2018年文庫化リバース (講談社文庫)

 深瀬和久は大学4年の夏、ゼミ仲間4人と連れ立って旅行に出かけた。その旅路で、和久が唯一気を許していた友人が不慮の死を遂げた。それから3年、今の深瀬は、事務機会社に勤めるしがないサラリーマン。今までの人生でも、取り立てて目立つこともなく、趣味と呼べるようなものもそう多くはないが、敢えていうのであればコーヒーを飲むこと。そんな深瀬が、今、唯一落ち着ける場所が〈クローバー・コーヒー〉というコーヒー豆専門店だ。深瀬は毎日のようにここに来ている。ある日、深瀬がいつも座る席に、見知らぬ女性が座っていた。彼女は、近所のパン屋で働く越智美穂子という女性だった。その後もしばしばここで会い、やがて二人は付き合うことになる。そろそろ関係を深めようと思っていた矢先、二人の関係に大きな亀裂が入ってしまう。美穂子に『深瀬和久は人殺しだ』という告発文が入った手紙が送りつけられたのだ―。

 第37回「吉川英治文学新人賞」の候補作となった作品。導入部分はなかなか良かったけれども、主人公である深瀬和久に届けられたのと同様の手紙は、深瀬和久と同じゼミ生だった村井隆明、浅見康介、谷原康生にも届けられており、彼らは全員、亡くなった広沢由樹の死に関わっていた―って、ここまで読んで、これもまた1つのパターンではないかなあと。あまり新鮮さを感じないままに読んでいたら、最後に意外な事実が明らかになり、ああ、これが作者の狙いだったのかと。旧友を訪ねつつ、犯人(脅迫者)探しの形をとりながら、実は最後、自分の記憶の中に真相への糸口があったわけでした(記憶を辿るから「リバース」なのか)。

 でも、作者の読者を驚かせたいという意図とそのための創意は分かるももの、それがどこまで果たせたのか疑問に思いました。「吉川英治文学新人賞」の選考で、選考委員の大沢在昌氏が「素材の小ささが最後まで気になった」「主人公たちのもとに届く、人殺しだという告発文にも首を傾げざるをえない。的はずれと思う人間もいるのではないか」とコメントしたように、起きた事件と復讐のバランスがとれていないような気もしました。同じ同賞選考委員の伊集院静氏に至っては、「この作品を候補作にしたことに疑問を抱いた」とまで言っています。

 この作者には珍しく男性が主人公であり、だからと言って心理描写等がそう不自然であったりはしないのですが、亡くなった広沢を含めゼミ仲間4人のキャラクターが今一つ見えにくいというのも難点としてありました。久しぶりにこの人の作品を読んだけれど、イマイチといった印象。多くのファンがいて、いつか直木賞を獲る作家なんだろうけれど、もうちょっとかかるのか。

【2017年文庫化[講談社文庫]】

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状況設定自体にかなり無理がある。『告白』のインパクトを超えるのは難しい?

往復書簡 湊.png    北のカナリアたち.jpg 
往復書簡』(2010/09 幻冬舎)「二十年後の宿題」2012年映画化「北のカナリアたち」(主演:吉永小百合)

 高校卒業以来10年ぶりに放送部の同級生が集まった地元での結婚式で、女子4人のうち千秋は行方不明であり、そこには5年前の「事故」が影を落としていたが、それが本当に事故だったのか、真実を知りたい悦子は、式の後日、事故現場にいたというあずみと静香に手紙を送る―。(「十年後の卒業文集」)

 「十年後の卒業文集」「二十年後の宿題」「十五年後の補習」の3作の連作ミステリで(それぞれの内容の繋がりは無い)、いずれも高校時代からその後にかけて起きた事故や事件について、その真相を探るためにかつての同級生同士や生徒と担任の教師が連絡を取り合う書簡形式になっており、そうした意味では、計算された構成となっているように思えました。

 ただ、ラストでそれぞれにひねりは効かせているものの、状況設定自体にかなり無理があるような気もしました。例えば、「十年後の卒業文集」ですが、手紙を受け取った側もハナから違和感を覚えているし、そもそも複数の視線が集まる同窓会で、そんなに上手く全員を欺き通せるものかと。「二十年後の宿題」なども、わざわざここまでして過去をほじくり返すかなという気もして、それにしてもこの連作の登場人物達は、皆"告白"好きだなあと。

 『告白』('08年/双葉社)を読んだ時もそうでしたが、登場人物があまり好きになれない―但し、『告白』の場合は、「読後感が良くない」こと自体が1つの"ウリ"であるような、登場人物に対する読者の感情移入も誘発しつつ、作者自身は登場人物達と一定距離を置いているような計算があったように思いますが、この連作は、(とりわけ「十五年後の補習」がそうだが)感動ストーリーにしようとしているのか、どうしようとしているのか、個人的にはよく分かりませんでした。

往復所管2.jpg北のカナリアたち poster.jpg 書簡体でありながらも、書簡体の中で過去の出来事を会話体で再現している箇所がいくつもあり、普通に手紙を書く人が、こんな小説家のような書き方をするかなあという違和感もありました。ミステリとしても読んでいて何となく先が読めてしまうという難点もあって、すべてにおいて物足りない印象。やはり、『告白』のインパクトを超えるのは難しいのか(いつかは超えて欲しいと思うが)。

【2012年文庫化[幻冬舎文庫]】 

「二十年後の宿題」 2012年映画化「北のカナリアたち」出演:吉永小百合/森山未來/満島ひかり/勝地涼/宮﨑あおい/小池栄子/松田龍平/柴田恭兵/仲村トオル/里見浩太朗  
   

十五年後の補習00.jpg十五年後の補習01.jpg「十五年後の補習」2016年TVドラマ化(主演:松下奈緒)

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登場人物と等距離を置きながらも突き放してはいない。新人離れした力量。
告白 湊かなえ.jpg 湊かなえ 告白3.jpg 映画「告白」.jpg 
告白』(2008/08 双葉社)/2010年映画化(東宝)出演:松たか子/岡田将生/木村佳乃

 2009(平成21)年・第6回「本屋大賞」の大賞(1位)受賞作で、単行本デビュー作での大賞受賞は同賞では初めて(他に、「週刊文春」2008年度ミステリーベスト10(国内部門)で第1位)。

 愛娘を校内のプールで亡くした公立中学の女性教師は、終業式の日のホーム・ルームでクラスの教え子の中に事件の犯人がいることを仄めかし、犯人である少年A及び少年Bに対して恐ろしい置き土産をしたことを告げ、教壇を去っていく―。

 「小説推理新人賞」(双葉社の短編推理小説を対象とした公募新人文学賞)を受賞した第1章の「聖職者」は女性教師の告白体をとっていますが、これだけでもかなり衝撃的な内容。その後も同じくモノローグ形式で、犯人の級友、犯人の家族、犯人の少年達と繋いで1つの事件を多角的に捉え物語に厚みを持たせる一方、話は第2、第3の事件へと展開していきます。

 「本屋大賞」において、貴志祐介、天童荒太、東野圭吾、伊坂幸太郎ら先輩推理作家の候補作を押しのけての堂々の受賞であるのも関わらず、Amazon.comなどで見る評価は(ベストセラーにありがちなことだが)結構割れているみたいでした。ネガティブ評価の理由の1つには、読後感が良くない、登場人物に共感できず"救い"が見えないといったものがあり、もう1つにはプロットに現実性が乏しいといったところでしょうか。

 「登場人物に共感できない」云々という感想については、「聖職者」「殉教者」「慈愛者」といった章タイトルがそれぞれに反語的意味合いを持っていることからすれば、当然のことかも。それぞれの章の「語り手」乃至「その対象となっている人物」(第3章の「慈愛者」などは「語り手」と「対象人物」の入籠構造となっている)に対し、作者は等距離を置いているように思いました。

 それらの何れをも否定しきってしまうのではなく、内面に寄り添って描いている部分がそれぞれにあって、そのために、最初に誰かに過剰に感情移入して読んでしまった読者との間には、齟齬が出来るのではないかと。
 
 個人的には、そうした登場人物の描き方は、登場人物への読者の過度の感情移入も制限する一方で、通り一遍に拒絶するわけにもいかない思いを抱かせ、物語に重層的効果を持たせることに繋がっていて、「読後感は最悪」という「本屋大賞」に絡めた帯キャッチも、賛辞として外れていないように思えました。

 プロットに関しても、重いテーマを扱った作品は往々にして問題提起に重点が行き、エンタテイメントとしてはそう面白くなかったりすることがあるのに対し、この作品の作者はストーリーテラーとしての役割をよく果たしているように思えました。

 但し、プロット自体はともかく、モノローグ形式を貫いたがために、なぜ最後に登場する語り手が全てお見通しなのか、どうして病いの身にある、しかも有名人が、学校に忍び込んで易々と事を成し遂げることが出来るのか等々に対する状況説明部分が弱く(そこに至るまでも幾つか突っ込み所が無いわけではない)、自分としてはその点での物足りなさが残り、星1つマイナス。しかしながら新人にしては手慣れているというか、作品の持つ吸引力のようなものは新人離れしていると言っていいのでは。
Kokuhaku (2010)
Kokuhaku (2010).jpg
告白 映画.jpg(●2010年6月に中島哲也監督、松たか子主演で映画化され、キネマ旬報「2010年度日本映画ベストテン」第2位、第34回日本アカデミー賞では最優秀作品賞・最優秀監督賞・最優秀脚本賞・最優秀編集賞を受賞した一方、『映画芸術』誌選出の「2010年度日本映画ベストテン&ワーストテン」ではワースト1位に選出された。章ごとに語り手が、森口悠子(第1章「聖職者」)、北原美月(第2章「殉教者」)、下村優子(第3章「慈愛者」)、下村直樹(第4章「求道者」)、渡辺修哉(第5章「信奉者」)、最後再び森口悠子(第6章「伝道者」)と変わっていく原作のスタイルを緩やかに踏襲していている。全体としてイメージビデオ風の作りになっていて、時系列もやや原作と異なるが、もともと原作そのものが映画「羅生門」のようなカットバック方式なので、その点はあまり気にならなかった。原作は、主人公の独白である第1章「聖職者」はともかく、第2章以降、日記が小説風に書かれているなどの"お約束事"告白 映画 木村佳乃.jpgがあるが、映画ではそうした不自然さはむしろ解消されている。原作について、ラストの大学での爆破は実際にあったのかどうかという議論があるが、映画のラストシーンはロケ上の都合でCG撮影となったそうで、このことが、「実際には爆破はなく、修哉のイメージの世界での"出来事"に過ぎなかった」説を補強することになったようにも思う。主演の松たか子の演技より、助演の木村佳乃(ブルーリボン賞助演女優賞受賞)の演技の方が印象に残った。彼女が演じたモンスター・ペアレントは湊かなえ作品におけるある種の特徴的なキャラを体現していたように思う。
中島哲也監督/木村佳乃/松たか子/岡田将生
「告白」3.jpg告白 【DVD特別価格版】 [DVD]
告白 dvd.jpg告白 .jpg「告白」●制作年:2010年●監督・脚本:中島哲也●製作:島告白 能年玲奈 橋本愛.jpg谷能成/百武弘二 ほか●撮影:阿藤正一/尾澤篤史●音楽:金橋豊彦(主題歌:レディオヘッド「ラスト・フラワーズ」)●時間:106分●出演:松たか子/岡田将生/木村佳乃/芦田愛菜/山口馬木也/高橋努/新井浩文/黒田育世/山田キヌヲ/ 鈴木惣一朗/金井勇太/二宮弘子/ヘイデル龍生/山野井仁/(以下、B組の生徒(一部))《男子》大倉裕真/中島広稀/清水尚弥/前田輝/藤原薫/草川拓弥/樺澤力也/三村和敬/井之脇海/西井幸人/《女子》知花/伊藤優衣/橋本愛能年玲奈/栗城亜衣/三吉彩花/山谷花純/岩田宙/斉藤みのり/吉永アユリ/奏音/野本ほたる/刈谷友衣子●公開:2010/06●配給:東宝●最初に観た場所:渋谷・CINE QUINTO(シネクイント)(10-06-30)(評価:★★★☆) 
橋本愛 能年玲奈 in「あまちゃん」(2013年/NHK)
橋本愛 能年玲奈 あまちゃん.jpg あまちゃん.jpg
パルコスペース Part3.jpg渋谷シネクイント劇場内.jpgCINE QUINTO tizu.jpgCINE QUINTO(シネクイント) 1981(昭和56)年9月22日、演劇、映画、ライヴパフォーマンスなどの多目的スペースとして、「PARCO PART3」8階に「PARCO SPACE PART3」オープン。1999年7月~映画館「CINE QUINTO(シネクイント)」。 2016(平成28)年8月7日閉館。

 【2010年文庫化[双葉文庫]】

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