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細部に"?"はあるが、もっと注目されていい"隠れた傑作"。

コンドル 1975.jpgコンドル dvd.jpg コンドル 1974 bluray.jpg コンドル輸入盤 blu-ray.jpeg
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コンドル dvd2.jpgコンドル 01.jpg ニューヨークにあるアメリカ文学史協会は、CIAの外郭団体として世界各国の雑誌書籍の情報分析を行っている。協会職員は学者肌のCIA分析官で構成されていた。ある日の白昼、アメリカ文学史協会は短機関銃で武装した男3人により襲撃さコンドル 1975   .jpgれ、協会職員は次々と射殺される。たまたま裏口から外出していたために命拾いをしたコードネーム"コンドル"ことジョセフ・ターナー(ロバート・レッドフォード)は、CIA本部に緊急連絡し保護を求める。CIA次官コンドル 8.jpgのヒギンズ(クリフ・ロバートソン)からの指示で第17課長のウィクスという男に落ち合うことになったが、コンドル sido.jpgそのウィクスに銃撃を受ける。辛くも逃走したが、孤立状態となったコンドルは、偶然見かけた女性写真家キャサリン・ヘイル(フェイ・ダナウェイ)を拉致同然に巻き込み、独力で真相を暴こうとする。CIAの暗部に近づこうとするコンドルに謎の殺し屋ジュベール(マックス・フォン・シドー)が忍び寄る―。(「Wikipedia」より)

 1975年製作のシドニー・ポラック(1934-2008)監督作であり、同監督がロバート・レッドフォードを主役に据えて映画を撮ったのは「大いなる勇者」('72年)、「追憶」('73年)以来3度目で、この作品以降も、「出逢い」('79年)、「愛と哀しみの果て」('85年)と続くので、相性が良かったのでしょうか。レッドフォードの共演女優は「追憶」がバーブラ・ストライサンド、この「コンドル」がフェイ・ダナウェイ、「出逢い」がジェーン・フォンダ、「愛と哀しみの果て」がメリル・ストリープだから、錚々たる顔ぶれです。

Three Days of the Condor (1975).jpgコンドルの六日間.jpg この「コンドル」の原作はジェイムズ・グレイディの『コンドルの六日間(Six Days of the Condor)』('75年/新潮社)で、映画の原題は"Three Days of the Condor"(3日分圧縮した?)。原作は米国ではベストセラーとなったポリティカル・サスペンスノベルで、日本での映画公開とほぼ同時期に訳出されていますが、個人的には未読です。小説での各人物像と映画で描かれた人物像はかなり異なり、各人の結末も原作と映画で違うようですが、原作を読んでいないためか却ってすんなり楽しめました。
コンドルの六日間 (1975年)
Three Days of the Condor (1975)

コンドル 1975 s.jpg ニューヨークの地味なビルに入っている表向きは「アメリカ文学史協会」という地味な組織が実はCIAの下部組織で、職員は世界中の推理小説やコミックスを読み漁り、そこに隠された敵対勢力の謀略、暗号の意味を解読する仕事を日夜行っているというのが面白いです(今日であればそうした仕事はコンピュータやAIが肩代わりして、フィクションであっても成り立たないような職業のようにも思えるが、そのレトロ感がいい)。

コンドル 9.jpg ある日突然仕事仲間を全員を殺害された"コンドル"は、何が何だか分からないまま得体の知れない巨大な敵から逃れながら、孤独な闘いを強いられますが、その際に、CIA職員であるとは言え、凄腕の諜報部員でも何でもない単なる本の虫に過ぎない彼が、仕事で培った本から得た知識や戦略を駆使して自らを守り、逆襲に出るというわけです。

コンドル 03.jpgコンドルad.jpeg ネタバレにまりますが、結局CIAの中に中東に戦争を仕掛けたがっている派閥、いわば〈もう1つのCIA〉があって、その連中が黒幕です(湾岸戦争やイラク戦争のことを想うと、ある意味"先駆的"な設定とも言え、こうした映画を作るところがいい意味でアメリカ的でもある)。最後"コンドル"は絶体絶命の危機に陥りますが、そこには思わぬ展開が待っていました。

コンドル マックス・フォン・シドー.jpgコンドル シド―.jpg 更にネタバレになりますが、マックス・フォン・シドー演じる殺し屋は、結局、〈もう1つのCIA〉と〈本来のCIA〉の両方から雇われたわけなのだなあと。そんなことあり得るかとも思ったりしましたが、敵の目を眩ますために理屈上はあり得るのかも。マックス・フォン・シドーが映画を通してずっと不気味だったのに、最後は急にいい人っぽい感じになって、このギャップが可笑しかったですが、殺し屋が今までターゲットとして狙っていた人間にいきなりスカウトの声掛けをするかなあ(これも原作通りなのか、それともこの辺りは映画でのある種"お遊び"なのか)。

コンドル 1975s.jpg もっと注目されていい"隠れた傑作"だとは思いますが、やや気になったのは、いくらダウンタウンの犯罪多発地域だとは言え、敵方が協会職員を全員殺害したのは、ちょっと乱暴と言うか、リスクがありすぎるように思いました(彼らにだって家族や友人はいるわけで、事件を完全に揉み消すのは何れの立場の側にとっても難しいのでは。強盗のせいにするにしても、押し入った先が「アメリカ文学史協会」では...)。

コンドル 02.jpg フェイ・ダナウェイは珍しく受身的な役回りで、マックス・フォン・シドーの方が記憶に残っていましたが、久しぶりに観直してみると演技達者であることには変わりありませんでした。但し、あくまでも主演はレッドフォードで、フェイ・ダナウェイはやはり一歩引いたポジショニングでした。先に挙げたシドニー・ポラック監督によるロバート・レッドフォードと女優たちの共演作で、主演女優の方がレッドフォードより前面に出ているのは、「追憶」のバーブラ・ストライサンドと「愛と哀しみの果て」のメリル・ストリープでしょうか。いかにもという感じもしますが、ジェーン・フォンダについてはシドニー・ポラック監督は別に彼女を主役に据えた「ひとりぼっちの青春」('69年/米)を撮っていて、これは傑作です。 

Sydney Pollack's 'Three Days of the Condor'
Sydney Pollack's 'Three Days of the Condor'.jpg「コンドル」●原題:THREE DAYS OF THE CONDOR●制作年:1975年●制作国:アメリカ●監督:シドニー・ポラック●製作:スタンリー・シュナイダー●脚本:ロレンツォ・センプル・ジュニア/デヴィッド・レイフィール●撮影:オーウェン・ロイズマン●音楽:デイヴ・グルーシン●原作:ジェームズ・グラディ「コンドルの六日間」●時間:118分●出演:ロバート・レッドフォード/フェイ・ダナウェイ/クリフ・ロバートソン/マックス・フォン・シドー/マイケル・ケーン/アディソン・パウエル/ウォルター・マッギン/ジョン・ハウスマン/ティナ・チェン/ドン・マクヘンリー/ヘレン・ステンボーグ/ハンスフォード・ロウ/ジェス・オスナ/ハンク・ギャレット/カーリン・グリン●日本公開:1975/11●配給:東宝東和●最初に観た場所:池袋文芸坐(78-05-04)(評価★★★★)●併映「合衆国最後の日」(ロバート・アルドリッチ)

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主人公の葛藤や苦悩と言うよりむしろ「偽善」が描かれている印象だがそれでも重い。

冬の光 dvd2.jpg冬の光 dvd9.jpg 冬の光 1963 01.jpg
冬の光<HDリマスター版>【DVD】」「冬の光[DVD]」イングリッド・チューリン/グンナール・ビョルンストランド

冬の光 ベルイマン  08.jpg冬の光 1963 nvシド―.jpg 11月末のスウェーデンの小さな町の日曜の朝。無事ミサを終えた牧師トーマス(グンナール・ビョルンストランド)は、漁師の妻のカーリン(グンネリ・リンドブロム)から話を聞いて欲しいと言われる。彼女の冬の光  .jpg夫・ヨナス(マックス・フォン・シドー)が中国も原子爆弾を持つという冬の光 ベルイマン     .jpgニュースを新聞で読んで以来、核戦争の恐怖で塞ぎ込んでいるというのだ。しかしトーマスは最愛の妻に先立たれてから失意のどん底にあり、彼らの悩みを真剣に聞ける状態ではなかった。そんなトーマスのことをあれこれと気遣ってくれているのが、地元の小学校の女教師マルタ(イングリット・チューリン)だった。しかし彼女の愛は彼には押し付けがましく感じられ、息苦しい思冬の光   自殺体.jpgいさえしていた。再び訪ねて来たヨナスと向きあったが、トーマスはありきたりのこと以外は何も言えず、何らヨナスの力にならなかった。ヨナスはそれから間もなく、河辺でピストル自殺し命を絶った。一方マルタも、彼の煮えきらない態度に決断を迫り、ヒステリックな言葉を吐く。それから数時間後、ミサの時間となり礼拝堂に立つトーマス。しかしそこには町の人は誰も来ていない。それでも型通りの儀式を進めるトーマス。たった一人の聴聞者は、別れたばかりのマルタだった―。

 1963年公開のイングマール・ベルイマン(1918-2007/享年89)監督の「神の沈黙」3部作と言われる作品の2作目の作品です(残り2作は「鏡の中にある如く」('61年)と「沈黙」('63年))。原題のスヴェリエ(スウェーデン)語の「ナットヴォーツ・イェステナ(Nattvardsgästerna)」は「聖体拝領者」という意味です。ベルイマン作品の中でも最も簡潔なテーマの提起がされている作品と言え、それは現代において信仰は可能かという問いであり、それに対し、(少なくともこの映画の登場人物に関しては)絶望的にネガティブな答えが示されていると言えます。

冬の光    .jpg この映画の主人公の牧師トーマスは、風邪による熱で体調は良くないのですが、職業柄、周囲に対しては厳格な態度や表情を崩しません。しかし、そのため、牧師の本来あるべき姿とは「矛盾」するかのように、その行為の全てに人間的な温かさを欠いてしまっていて、彼の愛情を欲する愛人のマルタに対しても厳格さを以って接し、マルタの自分への愛情に応えようとせず、逆に別れ話を持ち出します。

冬の光 ベルイマン3.jpg 一方で、中国の核開発に対する漁師ヨナスの不安を彼は鎮めることが出来ず、ヨナスの自殺によって、牧師としての彼が何ら役に立たなかったことが露呈されますが、それでも彼は、形式的に礼拝という儀式だけは続けていきます。牧師自身が神に対して懐疑的であるにも関わらず、与えられた仕事としての儀式を遂行することに、個人的には、牧師としての「葛藤」や「苦悩」と言うより、むしろ「偽善」の方がより強く浮き彫りにされているような印象を受けました。

 この「冬の光」についてベルイマンは、「自分の生活における宗教の存在が完全に消滅した時、人生は恐ろしく生き易いものとなった」として、「映画もそういたものをブチ壊すことによって始めたので全ては穏やかで良かった」としていますが、こうしたコメントも、主題が分かり易く提示されているということとの符合があるか思います。ベルイマンはまた、「これは絶対にいい映画であり、どんな批判にも100%応えられるものである」とも述べています。

冬の光        .jpg 唯一つ微妙な点を挙げれば、牧師トーマスが抱える「矛盾」や「苦悩」「偽善」をトーマス個人のものと見るか、教会全体に敷衍して捉えるかによってこの作品の見方は違ってくるかもしれませんが(後者であれば、教会や聖職者に対する批判ということにもなるのではないかと思うが、ラストにトーマスの神を讃える言葉があり、個人的にはそうは捉えなかった)、トーマス個人のものとして捉え、且つ「葛藤」や「苦悩」と言うよりむしろ「偽善」が描かれていると捉えたとしても、「重い」トーンの作品であることには違いありません。

 この重厚感を醸す要因として、「処女の泉」('60年)、「秋のソナタ」('78年)でも撮影を担当したスヴェン・ニクヴィストが、初冬の北欧の国の「荒涼」を力強いカメラワークで撮っており、それが登場人物たちの心理的な「荒涼」と見事に重なり合っていることが挙げられるように思われました(「秋のソナタ」のカラー映像も悪くなが、やはりモノクロのこの作品の方が映像的にはいい)。

Fuyu no Hikari (1963)

冬の光 1963 00.jpg「冬の光」●原題:NATTVARDS GASTERNA(英:WINTER LIGHT)●制作年:1963年●制作国:スウェーデン●監督・脚本:イングマール・ベルイマン●製作:アラン・エーケルンド●撮影:スヴェン・ニクヴィスト●音楽:ヨハン・セバスチャン・バッハ●時間:86分●出演:グンナール・ビョルンストランド/イングリッド・チューリン/マックス・フォン・シドー/グンネリ・リンドブロム/アラン・エドワール●日本公開:1975/09●配給:インターナショナル・プロモーション●最初に観た場所:早稲田松竹(15-10-09)(評価:★★★★)●併映:「秋のソナタ」(イングマール・ベルイマン)

《読書MEMO》
スアンドレイ・タルコフスキーが選ぶベスト映画10(from 10 Great Filmmakers' Top 10 Favorite Movies)
①『田舎司祭の日記』"Diary of a Country Priest"(1950/仏)監督:ロベール・ブレッソン
『冬の光』"Winter Light"(1962/瑞)監督:イングマール・ベルイマン
③『ナサリン』"Nazarin"(1958/墨)監督:ルイス・ブニュエル
④『少女ムシェット』"Mouchette"(1967/仏)監督:ロベール・ブレッソン
⑤『砂の女』"Woman in the Dunes"(1964/米)監督:勅使河原宏
『ペルソナ』"Persona"(1966/瑞)監督:イングマール・ベルイマン
⑦『七人の侍』"Seven Samurai"(1954/日)監督:黒澤明
⑧『雨月物語』"Ugetsu monogatari"(1953/日)監督:溝口健二
⑨『街の灯』"City Lights"(1931/米)監督:チャーリー・チャップリン
『野いちご』"Smultronstället"(1957/瑞)監督:イングマール・ベルイマン

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話的であると同時に戯画的。ベルイマンは作中の宗教画家になろうとしたのか?

「第七の封印」(1957年製作、1963年日本公開).jpg第七の封印 dvd  .jpg第七の封印 dvd_.jpg 第七の封印8.jpg
第七の封印 <HDリマスター版> 【DVD】」「第七の封印 [DVD]

第七の封印4.jpg 十字軍の遠征が終わって間もないスウェーデン。騎士のアントニウス(マックス・フォン・シドー)とその従者ヨンス(グンナール・ビョルンストランド)は、十年に及んだ無益な遠征から帰国する。そこで彼らが見たのは、黒死病に蹂躙される祖第七の封印.jpg国と、神に救いを求め惑乱する民衆の姿だった。故郷に辿りつくと同時にアントニウスは、彼の後を追ってきた死神(ベント・エケロート)の存在に気付く。アントニウスに死を宣告する死神に対して、彼は自らの命を賭け、また神の存在を確かめるためにチェスでの対決を申し入れる。死神との勝負は長引き、その間の猶予を生かしてアントニウスは妻の待イングマール・ベルイマン 第七の封印.jpg第七の封印_002.jpgつ居城へと歩みを進める。道中でアントニウスは様々な人物に遭遇する。純朴な旅芸人ヨフ(ニルス・ポッペ)とその妻(ビビ・アンデショーン)の一家、妻に駆け落ちされた鍛冶屋(オーケ・フリーデル)、家族を疫病で失った少女(グンネル・リンドブロム)、下劣な犯罪者に成り下がった嘗ての聖職者ラヴァル(ベティル・アンデルベルイ)、魔女として火焙りの刑に処される女(モード・ハンソン)、疫病の蔓延を神の天罰だと考え自らを鞭打つ狂信者たち、破滅の予感に恐れ慄く人々など。その内の旅芸人一家、鍛冶屋第七の封印ド.jpg夫妻と少女を一行に加え、アントニウスは城への旅を続けるが、それは同時に彼に残された猶予期間が終わりつつあることを意味していた。城を目前としたある夜、アントニウスは死神相手にチェスの敗北を認める。結局自身の魂の救済も神との対話も達成できなかったアントニウスだが、旅芸人の第七の封印7.jpg一家を死神から守ることには成功する。荒れ果てた城で妻と再会し、晩餐をとるアントニウスとその一行の目の前に突然死神が現れ、その場に居た者全員の命を奪う。翌朝、死神の魔の手から無事逃げ出した旅芸人のヨフが見たのは、死神に先導され数珠繋ぎになって死の舞踏を踊るアントニウスら犠牲者たちの姿だった―。

第七の封印 5.jpg イングマール・ベルイマン(1918-2007/享年89)が、土着信仰とキリスト教信仰が混在する中世の北欧を舞台に、神の不在という実存主義的なテーマに挑んだ問題作。前年の「夏の夜は三たび微笑む」('55年)に続き、1957年度のカンヌ国際映画祭のパルム・ドールに2年連続でノミネートされ、受賞はならなかったものの、本作品は同映画祭の審査員特別賞を齎しました。

 「第七の封印」は、ベルイマンが子供の頃に、牧師であった父に連れられて行った教会の壁や天井に見た中世の宗教画にそのモチーフがあったとのことで、ベルイマンが記憶していたその図像の中に、森の中で死神が十字軍の騎士とチェスをしているものや、死神が黄泉の国へと向かう最後の踊りを踊る人々を導くものがあったといいます。また、別の天井には、よちよち歩きの御子の手を取って薔薇の園を行く聖母の絵があったといいます。

第七の封印 (1).jpg 当初、こうしたモチーフは、ベルイマンによって「木版の絵」という演劇学校の学生の練習用に書かれた一幕劇になり、それがラジオ劇として放送され、市立劇場でも公演されました。彼はこれを映画シナリオに書き換えて映画会社に送り、一旦はボツになったもののの、「夏の夜は三たび微笑む」のヒットを受けて映画化が決まりました。結果的に、ベルイマンの最大のヒット作の1つとなりまし第七の封印3.jpgたが、「木版の絵」から「第七の封印」になる時に、最後に生き残る旅芸人ヨフとその妻、そしてその幼子ミカエルの話が加わりました。先の宗教画に照らせば、ヨフはヨセフで、その妻はマリア、幼子ミカエルはイエスを表すことになります(但し、ヨフは夢想家として描かれ、その妻は生活に根ざした現実主義者として描かれていて、また、ヨフ自身が聖母マリアとイエスの姿をが幻視するという場面もある)。

 この作品を観ると、ベルイマンはキリスト教に対して反キリスト教的な立場をとっているわけではなく、キリスト教の問題性を主軸に据えているように思えます(この作品は、ベルイマンが初めてキリスト教を直接的に扱った作品でもあるが)。その問題性とはやはり、神の不在ということになるかと思います。

第七の封印_004.jpg 人それぞれにいろいろな見方が出来る映画であり、ペストが蔓延し世界が終末の不安に慄く中世ヨーロッパという背景は、当時の特殊な時代状況だとする見方がある一方、現代の不安に満ちた時代を反映していると見る向きもあります。また、ヨフの一家が生き延びることに宗教的な救いを探る人もいる一方、彼らが旅芸人の一家であることから、ベルイマンは芸術に救いを見出しているのではないかと見方もあります(何れにせよ、ヨフ一家が生き延びることが"映画的"な意味では救いになっていることには違いないと思う)。

第七の封印es.jpg ラストも含め、重い主題の映画でありながら、映画全体が寓話的な印象を受け、意外と軽妙感もあったりします。更に随所にコメディの要素も含まれていて、それまでのベルイマンの作品にも見られる艶笑喜劇的要素さえあります。死神の姿も過剰に戯画的であるし、死神がアントニウスの作戦に嵌りそうになって挽回の手を打つためズルをするという(教会の告解室でアントニウスは神への疑念と苦悩を語るが、聖職者のふりをした死神に騙されてチェスの作戦を教えてしまう)、人間と騙し騙されつつどっこいどっこいの勝負をしている死神というのも何だか可笑しいです。
Dai-nana no funin (1957)
Dai-nana no funin (1957).jpg
第七の封印 poster.jpg 映画の中に、教会の壁画(例の「死神の踊り」)を描いている男が出てきて、ヨンスが何故こんな無意味なものを描くのかと問うと、画家は、「人間は皆死ぬものだということを悟らせるためだ」と言い、また、「骸骨は裸の女よりも人々の関心を引く」とも言います。となると、この映画に出てくる死神も、そうした"目的"と"効果"のために描かれた絵の一つのパーツであるに過ぎないと言えるかもしれません。ベルイマンは作中の宗教画家になろうとしたのかも。そして、この映画が商業的な成功を収めたということは、そうしたベルイマンの意図が成功した言えなくもないかもしれません。ベルイマン自身が自作の中で最も気に入っている作品だそうです。

第七の封印images.jpg「第七の封印」●原題:DET SJUNDE INSEGLET(英:THE SEVENTH SEAL)●制作年:1957年●制作国:スウェーデン●監督・脚本:イングマール・ベルイマン●撮影:グンナール・フィッシェル●音楽:エリク・ノルドグ『第七の封印』を演出中のイングマール・ベルイマン.jpgレン●時間:96分●出演: マックス・フォン・シドー/グンナール・ビョルンストランド/ベント・エケロート/ニルス・ポッペ/ビビ・アンデショーン/グンネル・リンドブロム/ベティル・アンデルベルイ/オーケ・フリーデル/インガ・ジル/モード・ハンソン●日本公開:1963/11●配給:東和●最初に観た場所(再見):早稲田松竹(15-10-05)(評価:★★★★)●併映:「夏の遊び」(イングマール・ベルイマン)
「第七の封印」を演出中のイングマール・ベルイマン(1956)

《読書MEMO》
ウディ・アレンが選ぶベスト映画10(from 10 Great Filmmakers' Top 10 Favorite Movies)
『第七の封印』(イングマール・ベルイマン監督、1956年)
『市民ケーン』 (オーソン・ウェルズ監督、1941年)
『大人は判ってくれない』 (フランソワ・トリュフォー監督、1959年)
『8 1/2』 (フェデリコ・フェリーニ監督、1963年)
『フェリーニのアマルコルド』 (フェデリコ・フェリーニ監督、1974年)
『ブルジョワジーの秘かな愉しみ』 (ルイス・ブニュエル監督、1972年)
『大いなる幻影』 (ジャン・ルノワール監督、1937年)
『突撃』 (スタンリー・キューブリック監督、1957年)
『羅生門』 (黒澤明監督、1950年)
『自転車泥棒』 (ヴィットリオ・デ・シーカ監督、1948年)

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ベルイマンの作品の中では分かりやすい。重くのしかかってくるテーマだが最後に救いが。

野いちご [DVD]0_.jpg野いちご 1957 DVD.jpg 野いちご1.jpg [野いちご]撮影中のベルイマン.jpg
野いちご [DVD]」/「野いちご」の1シーン/「野いちご」撮影中のベルイマン
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野いちご サーラ.jpg イサク(ヴィクトル・シェーストレム)は76歳の医師で、他人との接触を好まず、専ら書斎に引き籠っている。6月1日、彼は50 年に及ぶ医学への献身により、ルンドで行われる名誉博士号を受ける式典に出席することになっていた。息子エヴァルドの妻マリアンヌ(イングリッド・チューリン)が同乗した車でルンドへ向う途中、青年時代を過した邸に立ち寄る。草叢の野いちごはありし日の情景を甦らせる―野いちごを摘む可憐なサーラ(ビビ・アンデショーン)はイサクの許婚だったが、大胆なイサクの弟が野いちご 3.jpgサーラを奪う―。傷ついたイサクの心は未だに癒えない。ここからサーラと名乗る女学生(ビビ・アンデショーン、2役)と2人の男友達の3人組ヒッチハイカーを乗せる。若い彼等の溢れんばかりの天衣無縫さに接して、イサクは今更のように無為に過ごした年月を悔む。曲り角ですれ違う車と衝突しかけ、相手の車は野いちご 2.jpg転覆、乗っていた夫婦を同乗させたが、彼らはあたり構わず口論し互に蔑み、仕舞いには叩き合う。マリアンヌは2人を降ろす。廻り道をして、イサクは96歳の老母を訪ねる。彼女は他人にも自分にも厳しく、親族は誰も寄りつかない。車中、またしてもイサクは微睡(まどろ)む―暗い森の中に連れて行かれたイサクは、妻カリンと愛人の密会を野いちご ベルイマン.jpg見る。それはイサクがかつて目撃した光景そのままだった―。目覚めたイサクは、妻の告白を聞いて以来、自分が死を生きていることに気づく。マリアンヌは、エヴァルトも死を望んでいると話す。車はルンドに着き、ファンファーレと鐘の音に包まれて式典は荘重に行われ、授与式は無事終わる。イサクはその夜、マリアンヌと家族のことについて誠実に話し合う。寝室の外では昼間に出会ったヒッチハイカーたちがイサクの栄誉を祝福し、イサクはいつになく温かい感情に浸る。ベッドに横たわると夢の世界に入っていた―野いちごの森からサーラが現れてイサクを入江に連れて行く。イサクの父は静かに釣糸をたれ、傍では母が本を開いていた。イサクの心境をそのままにすべては安らかだった―。

野いちごs.jpg イングマール・ベルイマン(1918-2007/享年89)が自らの脚本を演出した、老医師の夢と現実を一種の回想形式で描く作品。「夏の夜は三たび微笑む」('55年)、「第七の封印」('57年)の成功で国際的名声を得たベルイマンが、その評価を不動のものとした作品であり、'58年ベルリン映画祭グランプリ及び国際映画批評家連盟賞、'59年アルゼンチンのマル・デル・プラタ映画祭グランプリ、ヴェネツィア国際映画祭でのイタリア批評家賞(コンペティション外)、イギリス映画批評家大賞、米・ナショナル・ボード・オブ・レビュウ最優秀外国映画賞、ゴールデングローブ賞外国語映画賞などを受賞、また、アンドレイ・タルコフスキーやスタンリー・キューブリックがオールタイム・ベストの一本として挙げた作品でもあります。

 初めて観た時もいい映画だとは思いましたが(ベルイマンの作品の中では分かり易い方だと思う)、その時はまだ20代で、「よくできた映画」という印象であり、この映画の良さというのが実感としては十分には分かっていなかったかも。その後DVDなどで観直して、改めて技巧面などで気づいたこともあったり、或いはまた、「老い」や「死」を多少とも身近に感じるようになったりしていくうちに、奥深さを持った映画だと思うようになりました。

野いちご8a.jpg野いちご イサクの夢.jpg 舞台は「第七の封印」の中世から一転して現代に移っていますが、ロードームービーっぽいところが似ているかもしれません。道中の風景、初夏の光と影を美しく撮っていますが、リアリスティックであると同時にシュールでもあり、イサクが見る自らの「死」を象徴するかのような夢はまさにシュールレアリスムの影響を受けているのが窺えるとともに(シュールレアリスム映画「アンダルシアの犬」('28年)の影響が見られる)、イサクの過去の回想シーンの中に現在の自分がいるというのが、最近観直してみて改めて斬新に感じられました。フラッシュバックで描かれるイサクの過去の時間は、同時に、現在のイサクの意識の流れを表していることになります(それにしても、76歳になっても医学生の時の試験の夢を見るのだなあ。医学の権威で今まさに名誉博士号を受けようしている自分が、夢の中であるとは言え、医学の基本的な問題にさえ答えられないというのはキツイだろうなあ)。

野いちごビビ・アンデショーン03.jpg野いちごsmultronstallet.jpg ビビ・アンデショーンが、回想シーンにおけるイサクのかつての許婚サーラと、現在のシーンにおける3人組ヒッチハイカーの1人サーラの1人2役を演じていますが、片や婚約者の弟に唇を奪われ婚約者との結婚を諦める古風な女性であり、片や2人のボーイフレンドを引き連れヒッチハイクをするモダンな女性であるという、互いに対照的な役どころなのが興味深いです。

野いちご イングリッド・チューリン マリアンヌ.jpg野いちご イサクとマリアンヌ.jpg 一方、イサクの息子の妻マリアンヌを演じたイングリッド・チューリンは、ベルイマン映画の常連でありながらこの作品では一見脇役のようですが、イサクの心境を映し出す鏡のような役割も果たしていて、やはりそれなりに重いウェイトを占めていたようにも思います(「第七の封印」で主役だったマックス・フォン・シドーは、この作品では殆ど目立たない役)。
  
野いちご主役のヴィクトル・シェストレムとベルイマン-Bergman_Sjostrom_1957.jpg イサクを演じたヴィクトル・シェーストレムは、当時78歳と高齢で健康に優れず、撮影中にセリフを忘れることもしばしばで、屋外での撮影が予定されていた幾つかのシーンが、健康を考慮して屋内での撮影に変更されたといい、この作品が彼の遺作となったわけですが、ベルイマンはインタビューで、この映画の撮影そのものが「時」に対する闘い(つまりシェーストレムの老化と映画を完成させることとの時間的な競い合い)であったことを明かしています(小藤田千栄子(編)『世界の映画作家9 イングマル・ベルイマン』('71年/キネマ旬報社))。また、撮影中のシェストレムは非常に気難しく、監督であるベルイマンの演出に不平をこぼすことも少なくなかったそうで、まさに作中の気難し屋のイサクと重なります(ベルイマンは後に、「野いちご」は自分自身の映画ではなく、シェーストレムのものだと語るほど、彼の演技を高く評価している)。

ベルイマンとヴィクトル・シェーストレム

 ベルイマンの作品には難解なものもあるものの、何れも日本での評価も高く、この作品も'62年度のキネマ旬報外国語映画ベスト・テン第1位に選出されていますが、ベスト・テンで1位になったのは、先にも述べたように、この作品がベルイマンの作品の中では分かり易い方であるということもあるのではないでしょうか。もう1つの代表作「第七の封印」('57年)と同年の公開作であることを考えると、この頃に1つのベルイマンのピークがあったとみていいのではないかと思います(「野いちご」の前に作られ、日本では公開が1年後だった「第七の封印」は、'63年度のキネマ旬報外国語映画ベスト・テン第6位)。

野いちご サラと老イサクc.jpg 「第七の封印」は極めて直截的に「死」がモチーフでありテーマでもありましたが、この「野いちご」も「老い」がテーマであり、詰まるところ「死」がテーマと言えるかと思います。そうした重くのしかかってくるテーマを扱いながらも、「第七の封印」で最後に生き延びる家族があったように、この作品にもラストに救いがあるのがいいです。ただ、その「救い」の見せ方が、「第七の封印」と「野いちご」では異なり、ベルイマンという監督の幅の広さを感じさせます。

サーラ(ビビ・アンデショーン)とイサク(ヴィクトル・シェーストレム)
 
Smultronstället (1957).jpg どちらが好みか意見が分かれるかも知れませんが、個人的には、「頭で作った」とベルイマン自身が評した(それ故に理屈っぽい解釈が先立ちがちな)「第七の封印」よりも、「野いちご」の方がだんだん良く思えてくるのは、自分の年齢のせいかもしれません(昔は「第七の封印」の方が好きだったのだが、今は自分の中では同程度に優れた作品という位置づけになっている)。人は自らの過去に何らかの悔恨を抱いていて、人生がその終わりに近づいた時、何らかの形でその悔恨の情に折り合いをつけようとするものなのかもしれません。昔に観た時は、それが精神分析で言う"合理化"に見えた点がやや引っ掛かったのかもしれませんが、死ぬときに自分の人生良かったと思えればそれに越したことはないものの、実際にはそんな単純なものではなく、"合理化"とまでは言わないまでも、場合によってはそれに近いような心理的働きを促す作用が働くのではないでしょうか。そんなことを考えさせられる映画でもありました。
Smultronstället (1957)
野いちご スタンドの若い店主と.jpg「野いちご」●原題:SMULTRONSTALLET(英:WILD STRAWBERRIES)●制作年:1957年●制作国:スウェーデン●監督・脚本:イングマール・ベルイマン●撮影:グンナール・フィッシェル●音楽:エリク・ノルドグレン●時間:91分●出演:ヴィクトル・シェストレム/ビビ・アンデショーン/イングリッド・チューリン/グンナール・ビョルンストランド/マックス・フォン・シドー/グンネル・リンドブロム●日本公開:1962/12●配給:東宝東和●最初に観た場所:京橋フィルムセンター(80-07-11)●2回目:早稲田松竹(15-04-10)(評価:★★★★☆)●併映(2回目):「処女の泉」(イングマール・ベルイマン)

左:ヴィクトル・シェーストレム/右:マックス・フォン・シドー(ガソリンスタンドの店主)

《読書MEMO》
スアンドレイ・タルコフスキーが選ぶベスト映画10(from 10 Great Filmmakers' Top 10 Favorite Movies)
①『田舎司祭の日記』"Diary of a Country Priest"(1950/仏)監督:ロベール・ブレッソン
『冬の光』"Winter Light"(1962/瑞)監督:イングマール・ベルイマン
③『ナサリン』"Nazarin"(1958/墨)監督:ルイス・ブニュエル
④『少女ムシェット』"Mouchette"(1967/仏)監督:ロベール・ブレッソン
⑤『砂の女』"Woman in the Dunes"(1964/米)監督:勅使河原宏
『ペルソナ』"Persona"(1966/瑞)監督:イングマール・ベルイマン
⑦『七人の侍』"Seven Samurai"(1954/日)監督:黒澤明
⑧『雨月物語』"Ugetsu monogatari"(1953/日)監督:溝口健二
⑨『街の灯』"City Lights"(1931/米)監督:チャーリー・チャップリン
『野いちご』"Smultronstället"(1957/瑞)監督:イングマール・ベルイマン

スタンリー・キューブリックが選ぶベスト映画10(from 10 Great Filmmakers' Top 10 Favorite Movies)
1 『青春群像』(1953年/監督:フェデリコ・フェリーニ)
『野いちご』(1957年/監督:イングマール・ベルイマン)
3 『市民ケーン』(1941年/監督・主演:オーソン・ウェルズ)
4 『黄金』(1948年/監督:ジョン・ヒューストン /主演:ハンフリー・ボガート)
5 『街の灯』(1931年/監督・主演:チャールズ・チャップリン)
6 『ヘンリー五世』(1945年/監督・主演:ローレンス・オリヴィエ)
7 『夜』(1961年/監督:ミケランジェロ・アントニオーニ)
8 『バンク・ディック』(1940年/監督:エドワード・クライン)
9 『ロキシー・ハート』(1942年/監督:ウィリアム・ウェルマン)
10『地獄の天使』(1931年/監督:ハワード・ヒューズ)

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自分が大人になる頃にはこうなっていると信じていた時期があった"懐かしい未来"。

昭和少年SF大図鑑 カバー.jpg 昭和少年SF大図鑑.jpg   「エア・カー時代」 小松崎 茂(雑誌「少年」昭和36年1月号.jpg
昭和少年SF大図鑑 (らんぷの本)』 ['09年] 「エア・カー時代」 小松崎 茂(雑誌「少年」昭和36年1月号口絵)

 昭和20年代から40年代の少年向け雑誌やプラモデルの箱を飾った空想未来絵図を集めたもので、本郷の弥生美術館で展覧会も行われましたが、その弥生美術館で学芸員をしている女性による編集及び本文解説。

 この方面での画家と言えば、個人的には小松崎茂(1915-2001/享年86)の印象がかなり強いのですが、本書を見ると、小松崎茂が第一人者であったことは間違いないようですが、中島章作、伊藤展安、梶田達二、高荷義之、中西立太、南村喬之と、多彩な人たちがいたのだなあと。

 今見ると、これらの概ね楽天的な、時には物理の法則を逸脱したようなイラストには微笑ましい印象も受けますが、子供時代の一時期においては、自分たちが大人になる頃にはほぼ間違いなくこういう時代が来るのだと、「予測図」より「予定図」みたいな感じで半ば信じていて、素敵な夢を見させて貰いました。

 本書は、そうした夢を描いていた頃の自分を思い出させる、"懐かしい"未来図とでも言えるでしょうか。

「ブレードランナー」('82年/米)/「フィフス・エレメント」('97年/仏)
Blade Runner (1982) ages.jpgFifth Element Cars.jpg 自動車に代わってエアカーが飛び交う様などは、リドリー・スコット監督の「ブレードランナー」('82年/米)やリュック・ベッソン監督の「フィフス・エレメント」('97年/仏)などの映画の中ではお目にかかれていますが、実現するのはいつのことになるのでしょう。

ポリススピナー.jpg 「ブレードランナー」のハリソン・フォード演じるデッカートが操るポリススピナー(左)に比べて、15年後に作られた「フィフス・エレメント」のパトカーやブルース・ウィリス演じるコーベンが運転するタクシー(上)の方がややキッチュに描かれているのが興味深いです(映画自体も、変てこな悪役ジャン=バティスト・エマニュエル・ゾーグを演じゲイリー・オールドマン.jpgゲイリー・オールドマンやラジオDJ役のクリス・タッカーの怪演が楽しめた、肩の凝らない娯楽作品。この作品でも「ディーバ」(歌姫)がモチーフになっているなあ、リュック・ベンソンは)。

 ただ、この本にある、当時描かれた未来図の全てが荒唐無稽だったとは言えず、臨海副都心構想に近いアイデアやリニアモーターカーの原型など、かなり"いい線"いっているものあります。

 "明るい未来図"ばかりでなく、昭和40年代に入ると、公害問題などの世相を反映して"恐ろしい未来図"も結構出てきて、小松崎茂などは、地球温暖化で極地の氷が溶けて関東地方の大部分が水没する想像図なんてのも描いていて先見性を感じますが、だからと言って人間がエラ呼吸器を手術で植え付け、水中生活に適した身体に変えていくというのは、ちょっと行き過ぎ?

Minority Report.jpgTom Cruise  in Minority Report.jpg 同じくネガティブな未来図として描かれている類で、コンピュータに人間の生が支配されたり、コンピュータによって人間の思考や行動が監視される社会などというのは、ウォシャウスキー兄弟の映画「マトリックス」('99年/米)やスティーヴン・スピルバーグ監督の「マイノリティ・リポート」('02年/米)など、近年のSF映画にも類似したモチーフを看て取れます。
Minority Report (2002)

 但し、「マイノリティ・リポート」(原作は「ブレードランナー」と同じくフィリップ・K・ディック )は、プリコグと呼ばれるヒト個人に予知能力が備わっていることが前提となっていますが、この発想は昔からあったかもしれません(この映画、今思うとあのタッチ・センサーのヴィジュアルには、Windows8の予告編的要素もあった?)。

 今、若者たちが映画で受身的に観ている様な仮想未来社会を、かつての子供たちは、少年雑誌のイラストで見て、自ら想像力を働かせイメージを膨らませていたのだろうなあ(彼らにとって、これらのイラストの乗り物などは、頭の中では映画のように動いていたに違いない)と思わされます。そして、その中には、今、科学技術の最前線で研究開発に勤しんでいる科学者や技術者もいるのだろうなあと思いました。

ブレードランナー チラシ  22.jpg「ブレードランナー」1982 ンロード.jpg「ブレードランナー」1982 .jpg「ブレードランナー」●原題:BLADE RUNNER●制作年:1982年●制作国:アメリカ●監督:リドリー・スコット●製作:マイケル・ディーリー ●脚本:ハンプトン・フィンチャー/デイヴィッド・ピープルズ●撮影:ジョーダン・クローネンウェス●音楽:ヴァンゲリス●時間:117分●出演:ハリソン・フォード/ルトガー・ハウアー/ショーン・ヤング ●日本公開:1982/07●配給:ワーナー・ブラザース●最初に観た場所:二子東急(83-06-05)(評価:★★★★☆)

フィフス・エレメント.jpgクリス・タッカー.jpg「フィフス・エレメント」●原題:THE FIFTH ELEMENT(Le Cinquie`me e'le'ment)●制作年:1997年●制作国:フランス●監督・脚本:リュック・ベッソン●撮影:ティエリー・アルボガスト●音楽:エリック・セラ●時間:渋谷パンテオン.jpg126分●出演:渋谷パンテオン 2.jpgブルース・ウィリス/ミラ・ジョヴォヴィッチ/ゲイリー・オールドマン/イアン・ホルム/クリス・タッカー/ルーク・ペリー●日本公開:1997/09●配給:日本ヘラルド映画●最初に観た場所:渋谷パンテオン(97-10-24) (評価:★★★★)フィフス・エレメント [DVD]
渋谷パンテオン 東急文化会館1F、1956年オープン。2003(平成15)年6月30日閉館。

マイノリティ・リポート06.jpg「マイノリティ・リポート」●原題:MINORITY REPORT●制作年:2002年●制作国:アメリカ●監督:スティーヴン・スピルバーグ●製作:ボニー・カーティス/ジェラルド・R・モーレン/ヤン・デ・ボン/ウォルター・F・パークス●脚本:ジョン・コーエン/スコット・フランク ●撮影:ヤヌス・カミンスキマイノリティ・リポート マックス・フォン・シドー.jpgー●音楽:ジョン・ウィリアムズ●原作:フィリップ・K・ディック ●時間:145分●出演:トム・クルーズ/コリン・ファレル/ササマンサ・モートン マイノリティ・リポート.jpgマンサ・モートン/マックス・フォン・シドー/ロイス・スミス/スティーヴン・スピルバーグ●日本公開:2002/12●配給:20世紀フォックス (評価:★★★)

トム・クルーズ/サマンサ・モートン(「ミスター・ロンリー」('07年/英・仏・米))


【2014年・2019年新装版】

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複雑な問題をわかり易く説明することのプロが、時間をかけて書いた本だけのことはあった。

まんが パレスチナ問題.jpg sadat.jpg アラファト.jpg 屋根の上のバイオリン弾き dvd.jpg さすらいの航海 dvd.jpg
まんが パレスチナ問題 (講談社現代新書)』['05年]「屋根の上のバイオリン弾き [DVD]」「さすらいの航海 [DVD]

 旧約聖書の時代から現代まで続くユダヤ民族の苦難とパレスチナ難民が今抱える問題、両者の対立を軸とした中東問題全般について、その宗教の違いや民族を定義しているものは何かということについての確認したうえで、複雑な紛争問題の歴史的変遷を追ったもので、周辺諸国や列強がどのようなかたちでパレスチナ問題に関与したか、それに対しイスラエルやパレスチナはどうしたかなどがよくわかります。

 最初のうちは、マンガ(と言うより、イラスト)がイマイチであるとか、解説が要約され過ぎているとか、地図の一部があまり見やすくないとか、心の中でブツブツ言いながら読んでいましたが、結局、読み出すと一気に読めてしまい、振り返ってみれば、確かに史実説明が短い文章で切られているため因果関係が見えにくくなってしまい、歴史のダイナミズムに欠ける部分はあるものの、全体としては、わかり易く書かれた本であったという印象です。

 ユダヤの少年ニッシムとパレスチナの少年アリによるガイドという形式をとっていて、(会話体の割には教科書的な調子の記述傾向も一部見らるものの)双方のパレスチナ問題に関する歴史的事件に対する見解の違いを浮き彫りにする一方で、ちょっと工夫されたエンディングも用意されています。

 著者は、広告代理店の出身で、教育ビデオの制作などにも携わった経験の持ち主ですが、複雑な問題をわかり易く説明することにかけてのプロなわけで、そのプロが、2年半もの時間をかけて書いた本、というだけのことはありました。

 読み終えて、ロンドンのロスチャイルドのユダヤ人国家建国の際の政治的影響力の大きさや、'48年、'56年、'67年、'73年の4度の中東戦争の経緯などについて新たに知る部分が多かったのと、サダト・元エジプト大統領に対する評価がよりプラスに転じる一方で、アラファト・元PLO議長に対する評価のマイナス度が大きくなりました。


 要所ごとに、「十戒」「クレオパトラ」「チャップリンの独裁者」「アラビアのロレンス」「夜と霧」「屋根の上のバイオリン弾き」「栄光への脱出」といった関連する映画がイラストで紹介されているのも馴染み易かったです。

屋根の上のバイオリン弾き.jpg屋根の上のバイオリン弾き2.jpg ノーマン・ジュイスン監督の「屋根の上のバイオリン弾き」('71年)は、もともと60年代にブロードウェイ・ミュージカルとして成功を収めたもので、ウクライナ地方の小さな村で牛乳屋を営むユダヤ人テヴィエの夫婦とその5人の娘の家族の物語ですが、時代背景としてロシア革命前夜の徐々に強まるユダヤ人迫害の動きがあり、終盤でこの家族たちにも国外追放が命じられる―。

Topol in Fiddler On the Roof
『屋根の上のバイオリン弾き』(1971).jpg 映画もミュージカル映画として作られていて、テーマ曲のバイオリン独奏はアイザック・スターン。ラストの「サンライズ・サンセット」もいい。

 主演のトポルはイスラエルの俳優で、舞台で既にテヴィエ役をやっていたので板についていますが、森繁の舞台を先に見た感じでは、やはりこの作品は映画より舞台向きではないかという気がしました("幕間"というものが無い映画で3時間は結構長い)。

Katharine Ross in Voyage Of The Damned
さすらいの航海0_n.jpgKatharine Ross Voyage Of The Damned.jpgさすらいの航海(VOYAGE OF THE DAMNED).jpg 事件的にはややマイナーなためか紹介されていませんが、第2次大戦前夜、ドイツから亡命を希望するユダヤ人937名を乗せた客船が第二の故郷を求めて旅する実話のスチュアート・ローゼンバーグ監督による映画化作品「さすらいの航海」('76年/英)なども、ユダヤ人の流浪を象徴する映画だったと思います。

 船に乗っているのは比較的裕福なユダヤ人たちですが、ナチスVoyage of the Damned1.jpgの策略で国を追い出されアメリカ大陸に向かったものの、キューバ、米国で入港拒否をされ(ナチス側もそれを予測し、ユダヤ人差別はナチスだけではないことを世界にアピールするためわざと出航させた)、結局また大西洋を逆行するという先の見えない悲劇に見舞われます。

Voyage of the Damned2.jpg この映画はユダヤ人資本で作られたもので、マックス・フォン・シドーの船長役以下、オスカー・ヴェルナーとフェイ・ダナウェイの夫婦役、ネヘミア・ペルソフ、マリア・シェルの夫婦役、オーソン・ウェルズやジェームズ・メイソンなど、キャストは豪華絢爛。今思うと、フェイ・ダVOYAGE OF THE DAMNED Faye Dunaway.jpgナウェイのスクリーン 1976年 10月号 表紙=キャサリン・ロス.jpgさすらいの航海 キャサリン ロス.jpgような大物女優からリン・フレデリック、キャサリン・ロスのようなアイドル女優まで(キャサリン・ロスは今回は両親を養うために娼婦をしている娘の役でゴールデングローブ賞助演女優賞を受賞。アイドル女優と言っては失礼か)、よく揃えたなあと。さすがユダヤ人資本で作られた作品。但し、グランドホテル形式での人物描写であるため、どうしても1人1人の印象が弱くならざるを得なかったという、このタイプの映画にありがちな弱点も見られたように思います。
 
「スクリーン」1976年 10月号 表紙=キャサリン・ロス
 
  
FIDDLER ON THE ROOF 1971.png『屋根の上のバイオリン弾き』(1971)2.jpg「屋根の上のバイオリン弾き」●原題:FIDDLER ON THE ROOF●制作年:1971年●制作国:アメリカ●監督・製作:ノーマン・ジュイスン●脚本:ジョセフ・スタイン●撮影:オズワルド・モリス●音楽:ジョン・ウィリアムス●原作:ショーレム・アレイヘム「牛乳屋テヴィエ」●時間:179分●出演:トポル/ノーマ・クレイン/ロザリンド・ハリス/ミシェル・マーシュ/モリー・スカラ座.jpg新宿スカラ座22.jpgピコン/レナード・フレイ/マイケル・グレイザー/ニーバ・スモール/レイモンド・ラヴロック/ハワード・ゴーニー/新宿スカラ123  .jpg新宿スカラ座.jpgヴァーノン・ドブチェフ●日本公開:1971/12●配給:ユナイト●最初に観た場所:新宿ビレッジ2(88-11-23)(評価:★★★☆)

新宿スカラ座 閉館.jpg新宿ビレッジ1・2 新宿3丁目「新宿レインボービル」B1(新宿スカラ座・新宿ビレッジ1・2→新宿スカラ1(620席)・2(286席)・3(250席)) 2007(平成19)年2月8日閉館

新宿ビレッジ1・2 → 新宿スカラ2・3
 

 

「さすらいの航海」サウンドトラック
さすらいの航海 w d.jpgサウンドトラック - さすらいの航海.jpg「さすらいの航海」●原題:VOYAGE OF THE DAMNED●制作年:1976年●制作国:イギリス●監督:スチュアート・ローゼンバーグ●製作:ロバート・フライヤー●脚本:スティーヴ・シェイガン/デヴィッド・バトラー●撮影:オズワルド・モリス●音楽:ラロ・シフリン●原作:ゴードン・トマス/マックス・モーガン・ウィッツ「絶望の航海」●時間:179分●出演:フェイ・ダナウェイオスカー・ヴェルナーオーソン・ウェルズリン・フレデリックマックス・フォン・シドー/マルコム・マクダウェル/さすらいの航海 マックス・フォン・シドー.jpgさすらいの航海 リン・フレデリック4.jpgさすらいの航海 ウェルズ2.jpgリー・グラント/キャサリン・ロス/ジェームズ・メイソン/マリア・シェル/ネヘミア・ペルソフ/ホセ・フェラー/フェルナンド・レイ●日本公開:1977/08●配給:日本ヘラルド映画●最初に観た場所:吉祥寺スカラ座 (77-12-24)(評価:★★★)●併映:「シビルの部屋」(ネリー・カフラン)

吉祥寺東亜.jpg吉祥寺セントラル・吉祥寺スカラ座.jpg吉祥寺スカラ座・吉祥寺オデヲン座・吉祥寺セントラル・吉祥寺東宝

吉祥寺スカラ座 1954(昭和29)年、吉祥寺駅東口付近に「吉祥寺オデヲン座」オープン。1978(昭和53)年10月、吉祥寺オデヲン座跡に竣工の吉祥寺東亜会館3階にオープン(5階「吉祥寺セントラル」、2階「吉祥寺アカデミー」(後に「吉祥寺アカデミー東宝」→「吉祥寺東宝」)、B1「吉祥寺松竹オデヲン」(後に「吉祥寺松竹」→「吉祥寺オデヲン座」)。 2012(平成24)年1月21日、同会館内の全4つの映画館を「吉祥寺オデヲン」と改称、同年8月31日、地下の前・吉祥寺オデヲン座(旧・吉祥寺松竹)閉館。 

吉祥寺東亜会館
吉祥寺オデオン.jpg 吉祥寺オデヲン.jpg

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「スーパー歌舞伎」でお馴染みの原作のマンガ化。面白い。「古事記」が身近に。

ミラクルマスター7つの大冒険 パンフレット - コピー.jpg2コナン・ザ・グレート.jpgヤマトタケル1.jpgヤマトタケル2.jpg ヤマトタケル.jpg

ヤマトタケル』(1987/12 角川書店)/コミック版[あすかコミックス(上・下)]「コナン DVDスペシャルBOX」「映画パンフレット「ミラクルマスター-七つの大冒険-」

ス-パ-歌舞伎.jpg '86(昭和61)年末から翌年にかけて雑誌「ASUKA」に連載された、ヤマトタケルを主人公とした作者の古代史モノ作品の1つで、原作は、梅原猛が三代目市川猿之助の「スーパー歌舞伎」のために書き下ろしたものです。

スーパー歌舞伎 ―ものづくりノート (集英社新書)

 兄の大碓命(おおうすのみこと)を偶然殺してしまった小碓命(おうすのみこと)は、父天皇に疎まれ、熊襲(くまそ)討伐を命じられる。叔母から貰った「草薙の剣」を携え、熊襲を征した彼は、ヤマトタケルと呼ばれるようになる。さらに今度は蝦夷(えみし)討伐を命じられ、弟橘(おとたちばな)を妻としたタケルは、「草薙の剣」をもって蝦夷を征するが、途中で弟橘を失い、伊吹山で天皇の配下に追い詰められる―。

梅原 猛.jpg これぞまさに日本最古の悲劇的英雄を描く壮大な叙事詩といったところ。こうして見ると、ヤマトタケルの辿った運命はちょっと源義経と似たところがあるあなとか思いつつ、一気に最後まで読みました。ハードカバーに相応しい内容。面白いし、日本神話の勉強にもなります(梅原猛氏の歴史解釈は多分に恣意的であると思われるが)。

梅原 猛(1925-2019

ヤマトタケル (山岸凉子スペシャルセレクション 10) _.jpg この作者にしては珍しく、主人公のタケルがマッチョに描かれてる点が目を引きますが、アーノルド・シュワルツェネッガーとかシルヴェスター・スタローンの写真やビデオを参考にしたとのことです。アーノルド・シュワルツェネッガーの「コナン・ザ・グレート」('82/米)は絶対に参照しているなあ。

 ストーリーの方は、一応は梅原猛の原作を踏襲しながらも、タケルが女装して熊襲の頭領を欺く場面では、タケルの代わりに従者のタケヒコに女装させたりして(タケルをマッチョにしてしまった関係もあるのだろうが)、かなり柔軟に翻案されています。

ヤマトタケル (山岸凉子スペシャルセレクション 10)

 ヤマトタケルには戦争における軍神としてのイメージがあるし、弟橘を初めこの物語における女性の描き方が、男社会における男にとって都合のいい女性像ではないかとの指摘もあります。 弟橘は共同体のために犠牲になる個人、つまり人柱(ひとばしら)の象徴ともとれます。

 いろいろな見方はでき、個人的には梅原猛氏の歴史観そのものにも多々疑念を持っていますが(歴史家ではなく作家と見るべき)、こうして「古事記」を身近に感じることができるメリットというのはそれなりあると思いました。

アーノルド・シュワルツェネッガー コナン.jpgサンダール・バーグマン.png 「コナン・ザ・グレート」('82/米)は、アーノルド・シュワルツェネッガーの映画本格的デビュー作で(映画初出演作は「SF超人ヘラクレス」('69年)のヘラクレス役で、アーノルド・ストロングという名義でクレジットされている)、ジョン・ミリアスとオリバー・ストーンの共同脚本ですが、シュワちゃんは肉体は大いに披露するものの、まともなセリフは少ないです(似たような体格のスタントマンがいなかったため、スタントも自らこなすなどして頑張ったが、ラジー賞の"最低男優賞"になってしまった。一方、共演のサンダール・バーグマンは、ゴールデングローブ賞の年間最優秀新人賞に)。

アーノルド・シュワルツェネッガー(ジョン・ミリアス監督)「コナン・ザ・グレート」(1982)

 なぜ、あのアーノルド・シュワルツェネッガーの本格デビュー作がこのような作品になってしまったかというと、おそらく当時は演技力に関しては全く未知数であったということと(肉体美の方は確かだったが)、そもそも当時この手の古代冒険活劇譚とでも呼ぶべき映画が流行っていたということもあったのではないかと思われBeastmaster [Soundtrack].jpgBEASTMASTER.jpgます。「ジョーイ」('77年)のマーク・シンガー、「カリフォルニア・ドリーミング」('79年)のタニア・ロバーツ主演の「ミラクルマスター 七つの大冒険」('82年/米・伊)などもその類でした。コレ、「桃太郎の鬼退治」みたいな話だったなあ。最初のお供は雉ならぬ鷲と愛犬、途中からフェレットとか加わったりしたけれど。過去にビデオ化はされましたが、その後'06年現在DVD化されていないため、ある種カルト・ムービー化している作品かもしれません。

Beastmaster」[Soundtrack]

コナン DVDスペシャルBOX
コナン・ザ・グレート2.jpgコナン・ザ・グレート3.jpg「コナン・ザ・グレート」●原題:CONAN THE BARBARIAN●制作年:1982年●制作国:アメリカ●監督:ジョン・ミリアス●製作:バズ・フェイシャンズ/ラファエラ・デ・ラウレンティス●脚本:ジョン・ミリアス/オリバー・ストーン●撮影:キャロル・ティモシー・オミーラ●音楽:ベイジル・ポールドゥリス●原作:ロバート・E・ハワード「英雄コナン」●時間:128分●出CONAN THE BARBARIAN 1982.jpg演:アーノルド・シュワルツェネッガー/ジェームズ・アール・ジコナン・ザ・グレート マックス・フォン・シドー.jpgョーンズ/サンダール・バーグマン/マックス・フォン・シドー/ベン・デイヴィッドスン/カサンドラ・ギャヴァ/ジェリー・ロペス/マコ岩松●日本公開:1982/07●配給:20世紀フォックス●最初に観た場所:新宿ローヤル(83-04-30)(評価:★★☆)
マックス・フォン・シドー(オズリック王)

ミラクルマスター 七つの大冒険2.jpgミラクルマスター7つの大冒険 パンフレット.jpg「ミラクルマスター 七つの大冒険」●原題:BEASTMASTER●制作年:1982年●制作国:アメリカ・イタリア●監督・脚本:ドン・コスカレリ●製作:バズ・フェイシャンズ/ラファエラ・デ・ラウレンティス●脚本:ポール・ペパーマン/ シルヴィオ・タベット●撮影:ポール・ペパーマンth_068769983_vlcsnap_00171_123_577lo.jpg●音楽:リー・ホールドリッジ●原作:ロバート・E・ハワード「英雄コナン」●時間:118分●出演:マーク・シンガータニア・ロバーツ/リップ・トーン/ジョン・エイモス/ジョシュア・ミルラッド/ロッド・ルーミス/ベン・ハマー●日本公開:1983/10●配給:日本ヘラルド映画●最初に観た場所:新宿東急(83-10-16)(評価:★★☆)
映画パンフレット 「ミラクルマスター-七つの大冒険-」 出演 マーク・シンガー/タニア・ロバーツ

昭和31年完成の東急文化会館.jpg新宿東急 ミラノビル -2.jpg新宿東急.jpg新宿東急 1956年(昭和31年)12月、歌舞伎町「東急文化会館」(現・東急ミラノビル)地階にオープン(右写真:1960年ミラノ座新館開業時)→「新宿ミラノ2」2014(平成26)年12月31日閉館。

 【1991年コミック版[あすかコミックス(上・下)]/2011年潮出版社[山岸凉子スペシャルセレクション 10]】

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映画の分析などに、元アーティストとしての性が感じられる。
みんなの精神科.jpg みんなの精神科.JPG みんなの精神科2.jpg 危険な情事 (扶桑社ミステリー).jpg  レナードの朝 dvd.png
みんなの精神科-心とからだのカウンセリング38』 〔'97年〕『みんなの精神科―心とからだのカウンセリング38 (講談社プラスアルファ文庫)』〔'00年〕 H・B・ギルモア『危険な情事 (扶桑社ミステリー)』(ノベライゼーション) 「レナードの朝 [DVD]

 タイトルからも察せられる通り、趣旨としては、精神科医に対して抱く一般の心理的な垣根を低くし、〈橋渡し機能〉としてもっと活用してもらいたいというものです。

 "一億総精神科受診時代"が来ることで、むしろ自分は正常で他人のことをおかしいとする単純な〈排除〉の論理を排除できるのでは、という考えはわかりますが、全体のトーンとしては文化論、社会論を含むエッセイ風読み物で、本当に書きたかったことが何なのか、今ひとつ見えにくい部分もあります。

 一方、尾崎豊の破綻に至る心理分析や、映画「レインマン」('88年/米)の作り方に対する言及、「危険な情事」('87年/米)に見る隠されたメッセージの解釈には、精神科医としてだけでなく元アーティストとしての性も感じられ、すべてには賛同できないまでも、なかなか面白く読めました。

Fatal Attraction.bmp とりわけ個人的に興味深かったのは、映画「危険な情事」(Fatal Attraction)(邦題が凡庸ではないか? 原題は「死にいたる吸引力」)の主人公のマイケル・ダグラス演じる、軽い気持ちで一夜を共にした女性からのストーカー行為に苦しめられる男性を、彼自身がパラノイア、妄想性人格障害であると見ている点です(これ、知人宅でのビデオパーティで観た)。普通ならば、主人公を執拗にストーキングするグレン・クローズ演じる女性の方を、典型的な境界性人格障害であると見そうな気がしますけれども、精神科医だからこそ、ちょっと視点を変えた見方ができるのでしょうか。
     
危険な情事 dvd.jpgFATAL ATTRACTION.jpg 個人的には、グレン・クローズの鬼気迫る演技に感服しながらも、ペットのウサギを鍋で煮たのは映画とは言え後味が悪く、最後の湯舟からガバッと起き上がるところで、これはあり得ないと思い、この映画に対する評価はあまり高くなかったのですが、そっか、主人公の被害妄想だったのか、ナルホド。

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 穿った見方をすれば、こうした独特の作品分析などが、本当に書きたかったことではないかと...。 但し、「レナードの朝」(Awakenings、'90年/米)に関する記述などは、当時の精神医療の在り方がどのようなものであったかを、専門医の立場からきちんと解説しています。

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レナードの朝 dvd.jpgオリバー・サックス.jpg この作品のベースになっているのは、英国の医師で神経学者のオリバー・サックス(ダスティン・ホフマンが「レインマン」('88年/米)で自閉症者を演じることになった際にこの人にアドバイスを求めている)の著作である医療ノンフィクションで、英国で昨年['05年]ノーベル文学賞を受賞したハロルド・ピンターが戯曲化していますが、今度は米国でペニー・マーシャル監督が内容を再構成したフィクションという形で映画化したものです。

 ブロンクスの慢性神経病患者専門の病院に赴任してきたマルコム・セイヤー医師(ロビン・ウィリアムズ)が、30年間眠り続けた患者レナード(ロバート・デ・ニーロ)に対し、未認可のパーキンソン病の新薬を使うことで彼の意識を呼び戻し、レナードが女性に恋をするまでに回復させるが、やがて...。

レナードの朝 0.jpg 著者はここで、精神病の症状の多様性と、多くの医師が異なった精神病観を持っていることを強調したうえで、セイヤー医師の処方を評価しています。一方、ここからまたやや映画ネタになりますが、この作品でアカデミー賞にノミネートされたのがロバート・デ・ニーロだけだったのに対し、ロビン・ウィリアムズの方が演技が上だったという意見が多くあったことを指摘し、実は2人の関係が作品の中で対になっているとしています。これは、医師中心に描いた「逃亡者」や患者中心に描いた「レインマン」など映画が医師・患者のどちらか一方の視点から描いているのが通常でレナードの朝02.jpgあるのに対して珍しく、更に、医師と患者が相互に補完し合って共に治療法を見つけていくという意味で、医師に患者性があること(セイヤー医師はネズミ相手の実験ばかりして他者とのコミュニケーションが苦手な独身男として描かれている)の重要性を説いています(スゴイ見方!)。

レナードの朝 2.jpg 個人的には、女流監督らしいヒューマンなテーマの中で、やはり、障害者を演じるロバート・デ・ニーロの演技のエキセントリックぶりが突出しているという印象を受けました。この作品で、ロバート・デ・ニーロがセイヤー医師の役のオファーがあったのにも関わらずレナードの役を強く希望し、ロビン・ウィリアムズと役を交換したというのは本書にある通りで、著者はそのことも含め「どちらが患者でどちらが医師であってもおかしくない作品」としているのが興味深いです。おそらく著者はセイヤー医師に十二分に肩入れしてこの作品を観たのではないでしょうか(同業者の役柄に感情移入するのはごく普通のことだろう)。その上で、ロビン・ウィリアムズの演技は著者の期待に沿ったものだったのかもしれません(デ・ニーロもさることながら、ロビン・ウィリアムズも名優である)。
   
危険な情事 9.jpg 「危険な情事」●原題:FATAL ATTRACTION●制作年:1987年●制作国:アメリカ●監督:エイドリアン・ライン●製作:スタンリー・R・ジャッフェ/シェリー・ランシング●脚本:ジェームズ・ディアデン ほか●撮影:ハワード・アザートン●音楽:モーリス・ジャール ●原作:●時間:119分●出演:マイケル・ダグラス/グレン・クローズ/アン・アーチャー/スチュアート・パンキン/エレン・ハミルトン・ラッツェン/エレン・フォーリイ/フレッド・グウィン/メグ・マンディ●日本公開:1988/02●配給:パラマウント映画 ●最初に観た場所:有楽町・日劇日劇プラザ・日劇東宝.jpg日劇プラザ   .jpg有楽町マリオン 阪急.jpgプラザ (88-04-10)(評価:★★★)
日劇プラザ 1984年10月6日「有楽町マリオン」有楽町阪急側9階にオープン、2002年~「日劇3」、2006年10月~「TOHOシネマズ日劇3」、2009年3月~「TOHOシネマズ日劇・スクリーン3」2018年2月4日閉館


レナードの朝03.jpg「レナードの朝」●原題:AWAKENINGS●制作年:1990年●制作国:アメリカ●監督:ペニー・マーシャル●製作:ウォルター・F・パークス/ローレンス・ロビン・ウィリアムズ  1.jpgラスカー●脚本:スティーヴン・ザイリアン●撮影:ミロスラフ・オンドリチェク●音楽:ランディ・ニューマン●原作:オリヴァー・サックス●時間:121分●出演:ロバート・デ・ニーロ/ロビン・ウィリアムズ/ジュリー・カブナー/ルースレナードの朝 マックスフォンシドー .jpg・ネルソン/ジョン・ハード/ペネロープ・アン・ミラー/マックス・フォン・シドー/アリス・ドラモンド/ジュディス・マリナ●日本公開:1991/04●配給:コロムビア・トライスター映画(評価:★★★☆)
Robin Williams (1951-2014(63歳没「自殺」))as Dr. Malcolm Sayer/Max Von Sydow(1929-2020(90歳没))as Dr. Peter Ingham in Awakenings


 【2000年文庫化[講談社+α文庫]】

《読書MEMO》
●『レインマン』に出てくる面白いエピソードは20人の自閉症患者と20年付き合ってやっと得られるもの
●『レナードの朝』で当初デ・ニーロがセイヤー博士をやる予定だったが、彼はレナード役(嗜眠性脳炎の患者)を欲し、ロビン・ウィリアムスが博士役になった
●『危険な情事』=道成寺と同じ、パラノイア・妄想(実は男の方が狂っている)だという解釈

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