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生き物の謎に対する多面的アプローチをわかりやすく示す良書。

生き物をめぐる4つの「なぜ」.gif生き物をめぐる4つの「なぜ」 (集英社新書)』〔'02年〕hasegawa.jpg 長谷川真理子氏(略歴下記)

 章題に「雄と雌」、「鳥のさえずり」、「鳥の渡り」、「光る動物」、「親による子の世話」などとあり、その謎を解き明かしていくのが本書の目的であるかと思って読み始めましたが、それらの答えが本書で完全に示されているわけではありません。
 「詳細はよくわかっていません」という記述が随所にあります。

 序章にありますが、表題の4つの「なぜ」というのは、ティンバーゲンという動物学者が、『本能の研究』('51年)の序論において,「動物はなぜそのように行動するのか?」という問いに対して、それが、
 1.どのような仕組みであり(至近要因)、
 2.どんな機能をもっていて(究極要因)、
 3.生物の成長に従いどのように獲得され(発達要因)、
 4.どんな進化を経てきたのか(系統進化要因)
 の4つの視点からアプローチすべきであると説いたのを受けています。

 しかし、学校教育における「生物」は、生物の不思議な特徴を、仕組み・目的・発達・進化の4つの要因から読み解くこうした多面的アプローチがなされていない(至近要因=仕組みしか教えていない)ために単なる暗記科目になり、多くの人は高校生の間に「生物」嫌いになってしまうというのが著者の指摘です。

 "多面的アプローチ"というと何か難しそうに聞こえますが、本書では実際にその考察手法により、生き物の様々な面白い面、不思議な面が見えてくることを、事例で示すことで、読者の関心を引きながら実証しています。
 全体を通して一般向けにわかりやすく書かれており、良書だと思います。
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長谷川 真理子 (早稲田大学政治経済学部 教授)
1976年 東京大学理学部生物学科卒業
1983年 東京大学大学院理学系研究科博士課程単位取得退学、理学博士
東京大学理学部助手、専修大学法学部助教授、教授、イェール大学人類学部客員準教授を経て現在、早稲田大学政治経済学部教授。
専門は行動生態学、進化生物学。日本動物学会会長、日本進化学会評議員。著書に、「科学の目 科学のこころ」(岩波新書)、「進化とはなんだろうか」(岩波ジュニア新書)、「生き物をめぐる4つのなぜ」(集英社新書)、「進化と人間行動」(長谷川寿一と共著、東京大学出版会)など

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「ドリトル先生」に夢中だった少女が進化生物学の第一人者になるまで。

進化生物学への道.jpg 『進化生物学への道―ドリトル先生から利己的遺伝子へ (グーテンベルクの森)』 〔'06年〕

 進化心理学や行動生態学の権威である著者が、自らの半生を綴ったエッセイで、研究の歩みを振り返るとともに、「人生の軌跡において重要な役割を果たした本」を紹介した「読書案内」にもなっています。

 子どもの頃は「図鑑」の愛読者で、小学4年生で『ドリトル先生航海日誌』に夢中になり、そのときの好奇心や探究心を保ったまま学究の徒となり、紆余曲折、様々なフィールドワークや世界的な学者との交流を経て、進化生物学のフロントランナーとしての今に至るまでが、飾り気の無い語り口で書かれています。

 前半では『ドリトル先生』の他に、ローレンツの『ソロモンの指環』、ジェイン・グドールの『森の隣人』などが紹介されていて、その後、ドーキンスの『利己的な遺伝子』に出会い、ダーウィンに回帰し、進化心理学、しいては総合人間科学を自らのテーマとする―そうした過程を振り返りながらも、生態学、進化学の現時点的視座から、先人たちの研究や著作を冷静に検証していています。
 
 2年半にわたるアフリカでの野生チンパンジーの観察の話や、「ハンディキャップ理論」(著者の本『クジャクの雄はなぜ美しい?』('92年出版・'05年改定版/紀伊國屋書店)に集約されている)、「ミーム論」に関する話などがわかりやすく盛り込まれていて、知的エッセンスに溢れる仕上がりになっています。

 「群淘汰の誤り」というパラダイム変換が世界の学会に起きていたのに、東大の研究グループの中ではそんなことは知らずにいた著者が、たまたま来日した学者に『利己的な遺伝子』を読むことを勧められ、目からウロコの思いをしたという話は印象的でした。
 しかし、この流行語にもなった「利己的遺伝子」の概念が、俗流の「トンデモ本」によって歪められ、多くの日本人は結局のところ、未だに「種の保存」論を信じていることを著者は指摘しています。

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生物の多様性を示す面白い事例が豊富に紹介されている。

進化とはなんだろうか.jpg 『進化とはなんだろうか』 岩波ジュニア新書 〔'99年〕 生き物をめぐる4つの「なぜ」.gif 『生き物をめぐる4つの「なぜ」 (集英社新書)

クジャクの雄はなぜ美しい?.jpg 進化についての中高生向けの入門書なので、自分のような素人にもわかりやすかったです。有名な「赤の女王仮説」もこの本で知りました。

 著者の長谷川真理子氏は動物学者で、『クジャクの雄はなぜ美しい?』('92年出版・'05年改定版/紀伊國屋書店)など性差学の著作も多く、旦那さんも動物学者で、『進化と人間行動』('00年/東京大学出版会)など進化動物学に関する共著もあります。

 本書は動物学者の著者らしく、生物の多様性とその仕組みを説明するための事例が豊富で、それらには驚くべきものが多かったです。

 例えば6pにいきなり出てくる、母親の体内で卵からかえり、兄弟姉妹同士で交尾し、雌だけが母親を食べて体外へ出てきて、精子を姉妹に渡した雄は死んでしまうというダニの話など、ショッキングとまではいかなくとも結構不思議な気がして、生命とは何か、種とは何を目的としているのかを考えさせられる事例です。
 面白くてどんどん読み進んでしまいます。

 この著者の『生き物をめぐる4つの「なぜ」』('02年/集英社新書)もオススメです。

《読書MEMO》
●ダニの一種で、母親の体内で卵からかえり、母親を食べて体外へ出てくる、しかも体内で兄弟姉妹同士で交尾し、雌だけが出てくるものがある(精子を姉妹に渡した雄はもう生きていく必要が無く、出る前に死ぬ)(6p)
●人の血液型は、ABO型どれであっても適応度に差がないため、ABOそれぞれを作る遺伝子が残った(64p)
●「赤の女王」(鏡の国のアリス」)仮説...有性生殖の目的は、遺伝子組み換えによる寄生者(ウィルスなど)への対抗戦略(171p)
●雄のクジャクの羽が美しいのは、厳しい環境の中でそれだけのものを維持しているとういう生存力の指標(183p)

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