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まさに「小説以外」。いい作家はいい読者でもあることが窺える。

小説以外200_.jpg 小説以外9.JPG  恩田陸 オンダ・リク.jpg 恩田 陸 氏
小説以外 (新潮文庫)
小説以外』(2005/04 新潮社)

 本好きが嵩じて作家となった著者は、これまでどのような作品を愛読してきたのか? ミステリー、ファンタジー、ホラー、SF、少女漫画、日本文学......あらゆるジャンルを越境する読書の秘密に迫る。さらに偏愛する料理、食べ物、映画、音楽にまつわる話、転校が多かった少女時代の思い出などデビューから14年間の全エッセイを収録。本に愛され、本を愛する作家の世界を一望する解体全書。(文庫口上より)

 著者が14年間にわたって様々な場所で発表してきた全エッセイを収録したものとのことで、この人も最初は兼業作家としてスタートしたのだなあと。一番直近のものは、『夜のピクニック』('04年/新潮社)での「本屋大賞『受賞のことば』」になっていますが、この度『蜜蜂と遠雷』('16年/幻冬舎)で直木賞と本屋大賞とを史上初のW受賞し、2回目の本屋大賞受賞(これも史上初)となっています。

 「全エッセイ」とありますが、文庫の解説や書評等もあり、まさに「小説以外」という感じです。もちろん、エッセイ風の小文も多くあり、料理や食べ物、日常生活に纏わる話や子供時代の思い出などの話もありますが、やはり本に纏わる話が多く、あとは映画、音楽に関する話が多いでしょうか。

 本に関する話などを読んでも、いい作家はいい読書家でもあることが窺えました。ただ、いずれも2ページから3ページ前後の小文ばかりなので、気軽に読めることは読めるけれども、意外と後で印象に残らないかも(もっと長いのは書いていないのかなあ。それが不思議)。

 そんな中、出版社などからのアンケートに応えて、「文庫のベスト5」「海外ミステリのマイベスト7」、更には「マイ・ベストPKD(フィリップ・K・ディック)」といったちょっとマニアアックなものまで挙げているのが目を引きました。個人的には、「クリスティー私のベスト5」というのが、ミステリにおける著者の指向性を窺わせていて興味深かったです(『終わりなき夜に生れつく』は、今年['17年]同名の作品を上梓している)。一番好きな映画が「去年マリエンバートで」('61年/仏)であるというのもこの人らしいのではないでしょうか。『夏の名残りの薔薇』('04年/文藝春秋)はこの映画をモチーフに書かれているようですが、『中庭の出来事』('06年/新潮社)もちょっとそんな雰囲気があったように思います。

【2008年文庫化[新潮文庫]】

《読書MEMO》
●「クリスティー私のベスト5」
①『葬儀を終えて』
②『終わりなき夜に生れつく』
③『メソポタミアの殺人』
④『ねじれた家』
⑤『鏡は横にひび割れて』

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"佳作"と言うより"傑作"の域にある作品だと思った。

夜のピクニック  2004.jpg夜のピクニック  文庫2.jpg夜のピクニック  文庫1.jpg 夜のピクニックs.jpg
夜のピクニック (新潮文庫)』映画「夜のピクニック」(2006)長澤雅彦監督、多部未華子主演
『夜のピクニック』(2004/07 新潮社)

夜のピクニックL.jpg 2004(平成16)年・第26回「吉川英治文学新人賞」及び2005(平成17)年・第2回「本屋大賞(大賞)」受賞作。2004年度「『本の雑誌』が選ぶノンジャンルベスト10」第1位。

 全校生徒が24時間かけて80kmを歩く高校の伝統行事「歩行祭」。3年生の甲田貴子は、最後の歩行祭、1年に1度の特別なこの日に、自分の中で賭けをした。それは、クラスメイトの西脇融に声を掛けるということ。貴子は、恋心とは違うある理由から西脇を意識していたが、一度も話をしたことがなかった。しかし、ふたりの不自然な様子をクラスメイトは誤解して―。

 作者が、自らの母校である茨城県立水戸第一高等学校の名物行事「歩く会」にモチーフを得て描いた青春小説。水戸第一高等学校の歴史を見ると、1938(昭和13)年に「健歩会」というものが発足し、1949(昭和24)年に 最初の「歩く会」が勿来―水戸間(80㎞)で実施され、翌年の1950(昭和25)年に初めての女子生徒が入学したとなっており、男子校の伝統が共学になっても引き継がれていることになります。作中の「歩行祭」では80km歩くことになっていますが、現在の「歩く会」は70kmとのことです(作者の出身大学である早稲田大学にも100km歩く「100キロハイク」とうのがあるが、作者がワセダでも歩いたかはどうかは知らない)。

 高校生の男女が定められた道程をただただ歩いていくだけの状況設定でありながら、これだけ読む者を惹きつける作品というのも、ある意味スゴイなあと思います。キャラクターの描き分けがしっかり出来ていて、女子同士、男子同士、男子女子間の遣り取りが、いずれもリアリティを保って描かれており、それでいてドロっとした感じにはならずリリカルで、ノスタルジックでもあるという(初読の際は読んでいてちょっと気恥ずかしさも感じたが)、読み直してみて、文庫解説の池上冬樹氏が"名作"と呼ぶのも頷けました。

池上冬樹.jpg 作者のファンの間では、この作品で「直木賞」を獲るべきだったとの声もありますが(個人的にもその気持ちは理解できる)、実際には「吉川英治文学新人賞」を受賞したものの直木賞は候補にもなっていません。この点について文庫解説の池上冬樹氏は、ある程度人気を誇る作品に関して、選考委員が追認を避けたがる傾向があることを指摘しており、ナルホドなあと思いました。

 ただ、この池上冬樹氏の解説は2006(平成18)年に書かれたものですが、同氏はこの作品が2005(平成17)年の第2回「本屋大賞」の大賞を受賞したことに注目しており(第1回大賞受賞は小川洋子氏の『博士が愛した数式』だった)、この作品を"新作にしてすでに名作"であった作品としています。

本屋大賞1-9.jpg そして作者は、この作品の12年後、『蜜蜂と遠雷』('16年/幻冬舎)で2016(平成28)年下半期・第156回「直木賞」受賞しますが、この作品は、2017(平成29)年・第14回「本屋大賞」第1位(大賞)作品にもなりました。同著者が「本屋大賞」の「大賞」を2度受賞するのも初めてならば、「直木賞」受賞作が「本屋大賞」の「大賞」を受賞するのも初めてですが、その辺りの制約がないところが、「本屋大賞」の1つの特徴と言えるかもしれません。

 『夜のピクニック』の「本屋大賞」受賞でその作品の人気を裏付け、『蜜蜂と遠雷』の「本屋大賞」受賞で、今度は「本屋大賞」という賞そのものの性格をよりくっきりと浮き彫りにしてみせたという感じでしょうか。どちらも佳作ですが、個人的には、今回読み直してみて、『蜜蜂と遠雷』は"佳作"であり"力作"、『夜のピクニック』は"佳作"と言うより"傑作"の域にある作品のように思いました。

夜のピクニック .jpg夜のピクニック  eiga.jpg 因みに、この作品は2006年に長澤雅彦監督、多部未華子主演で映画化されています(「本屋大賞」の第1回受賞作『博士が愛した数式』から第10回受賞作『海賊とよばれた男』までの「大賞」受賞作で'17年現在映画化されていないのは第4回受賞作の『一瞬の風になれ』のみ。但し、この作品のもテレビドラマ化はされている)。映画を観る前は、ずっと歩いてばかりの話だから、小説のような夜のピクニック 09.jpg登場人物の細かい心理描写は映像では難しいのではないかと思いましたが、今思えば、当時まだ年齢が若かった割には比較的演技力のある俳優が多く出ていたせいかまずまずの出来だったと思います。それでも苦しかったのか、ユーモラスなエピソードをそれこそコメディ風に強調したり、更には、主人公の心理をアニメで表現したりしていましたが、そこまでする必要があったか疑問に思いました。工夫を凝らしたつもりなのかもしれませんが、却って"苦しまぎれ"を感じてしまいました(撮影そのものはたいへんだったように思える。一応、評価は○)。

picnic_04.jpg夜のピクニックes.jpg「夜のピクニック」●制作年:2006年●監督:長澤雅彦●製作:牛山拓二/武部由実子●脚本:三澤慶子/長澤雅彦●撮影:小林基己●音楽:伊東宏晃●原作:恩田陸●時間:117分●出演:多部未華子/石田卓也/郭智博/西原亜希/貫地谷しほり/松田まどか/柄本佑/高部あい/加藤ローサ/池松壮亮●劇場公開:2006/09●配給:ムービーアイ=松竹(評価★★★☆)
多部未華子in「ツバキ文具店~鎌倉代書屋物語~」/貫地谷しほりin「おんな城主 直虎」(共に2017・NHK)
ツバキ文具店 d .jpg 貫地谷しほり おんな城主 直虎.jpg

【2006年文庫化[新潮文庫]】

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一気に読めた。力作だと思うが、読んでいて少女マンガのイメージがついてまわった。

蜜蜂と遠雷 2.jpg蜜蜂と遠雷s.jpg   蜜蜂と遠雷 直木賞 本屋大賞 W.jpg
蜜蜂と遠雷 (幻冬舎単行本)』「本屋大賞に恩田陸さん『蜜蜂と遠雷』初の直木賞と2冠」(東京新聞)

 2016(平成28)年下半期・第156回「直木賞」受賞作。2017(平成29)年・第14回「本屋大賞」第1位作品。

 3年に1度の芳ヶ江国際ピアノコンクールは、優勝者の著名コンクールでの優勝が続き、今回特に注目を集めていたが、オーディションの5カ国のうちパリ会場で、3人の審査員は凡庸な演奏を聴き続け飽きていた。そこへ、今年逝去した伝説の音楽家ホフマンのこれまでにない推薦状で、「劇薬で、音楽人を試すギフトか災厄だ」として現れた16歳の少年・風間塵は、その演奏で衝撃と反発を与え、議論の末にオーディション合格、日本の芳ヶ江市での2週間のコンクールへ。塵は師匠の故ホフマンと「音を外へ連れ出す」と約束をしていたが、自分ではその意味がわからず、同じコンテスタントの20歳の栄伝亜夜に協力を頼む。もう一人のコンテスタントのフランス人の父親と日系ペルー人の母親を持つ19歳のマサルは、子供の頃ピアノに出会わせてくれた亜夜と再会する。3人の天才と年長の28歳の高島明石のピアニストたちが、音楽の孤独と競争、友愛などにさまざまに絡み悩みつつ、コンクールの1次、2次予選から3次予選、更に本選を通じて成長し、新たな音楽と人生の地平を開いていく―。

本屋大賞1-9.jpg 作者は、音楽コンクールを予選から本選まですべて小説として書くという着想を得たものの、実際にはかなり難しく、2009年に書き始めるまでに5年かかったとのことです。最終的には、構想から12年、取材に11年、執筆に7年もの歳月を費やしたとのことで、直木賞と本屋大賞とを史上初のW受賞し、苦労が報われて良かったと思います(この世界、苦労しても報われないことが多そうだから)。本屋大賞(1位)は、2005年の『夜のピクニック』に次いで2回目(これも史上初)、直木賞の選考では、林真理子氏が「今回の受賞作は文句なしに『蜜蜂と遠雷』だなと思いつつ審査に臨んだ」と絶賛、浅田次郎氏、宮城谷昌光氏、宮部みゆき氏も推薦し、東野圭吾氏は△から◎に変更。桐野夏生氏、伊集院静氏は△のまま。最も否定的だったのは高村薫氏でしたが、過去の例からみても選考委員の3分の2が◎乃至○であれば、まあ順当に「当選」といった感じでしょうか。

 2段組500ページ強を一気に読ませる筆力はたいしたものだと思いました。一応は力作だと思います。但し、読んでいて、自分のイマジネーションの限度のせいか、登場人物を生身の人間として感じにくかった気もします。何か、少女マンガを読んでいるような...。視覚化するなら、映画やドラマよりも少女マンガではないかと(読んでいて、そのイメージがついてまわった)。Amazon.comのレビューなどを見ると、5つ星が圧倒邸に多い高い評価でしたが、たまに低い評価のレビュワーもいて、その中で『ピアノの森』や『のだめカンタービレ』の方が上だと評しているものもありました。この分野はマンガの方が先行しているのでしょうか。

 読んでいて、本選の結果発表の直前でエンディングになるのかなあと予測しましたが、結果を発表しちゃったなあ。まあ、順位はこの際問題ではないということなのだろうけれど。先の直木賞選考委員評の中で、桐野夏生氏が「なぜに、最終審査があの順位になるのか、選ぶ側の思惑をもっと知りたかった。でなければ、天才とは何か、またコンクールとは何のためにやるのか、はたまた人間にとって音楽とは何か、という大きな謎に迫れない」とコメントしていて、一理あるように思いました。その桐野夏生氏も、「しかし十分に読みごたえもあるし、受賞にかなうものだった」としていますが、個人的も、一応○は○といったところでしょうか(「遠雷」ってどこにも出てこなかったなあ)。

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構成が複雑すぎて十分に入り込めなかったというのが正直な感想。

中庭の出来事5.JPG    中庭の出来事.jpg中庭の出来事』[単行本/'06年] 
中庭の出来事 (新潮文庫)』['09年]

 2007(平成19)年度・第20回「山本周五郎賞」受賞作。

 瀟洒なホテルの中庭で、気鋭の脚本家が謎の死を遂げ、容疑は、パーティ会場で発表予定だった「告白」の主演女優候補3人に掛かる。警察は女優3人に脚本家の変死をめぐる一人芝居『告白』を演じさせようとする―という設定の戯曲『中庭の出来事』を執筆中の劇作家がいて―。

 小説内の現実(中庭にて)、『中庭の出来事』という劇中劇、『告白』という劇中劇中劇という3層の"入れ籠構造"の作品で、それに、オーディションの最中に起きた主演候補女優の毒殺事件と、ビルの谷間の公園で起きた就職活動中と思われる女性の突然死事件、これら3つの事件の関係を推理する推理小説好きの脚本家とその友人の会話(旅人たち)が絡むという、凝りに凝った構成です。"犯人探し"&"入れ籠構造"の両方の謎解きが楽しめる作品と言いたいところですが、あまりに複雑過ぎて十分に入り込めなかったというのが正直なところです。

 終盤、一旦は両方の謎の解明に向かうかのように見えましたが、小説内の現実と思われた部分は実は芝居の一環であったようであり、結局、謎の一部は謎のまま残されたという感じもして、虚実皮膜の味わいと言えばそうなのかも知れませんが、全部がお芝居(脚本の内)でしたみたいな結末には、やはり不全感が残りました。

 山本周五郎賞受賞作ですが、結構難しい作品が選ばれたものだという気がします。リフレイン構成自体はともかく、繰り返される1つ1つの話がやや冗長であり、しかも最後は"入れ籠構造"自体も韜晦させてしまったところからすると、演技と素の間を揺れ動く女優の心理が主テーマだったのかなあと。

 【2009年文庫化[新潮文庫]】

《読書MEMO》
いるかHotel第18回公演「中庭の出来事」(2015・神戸)

中庭の出来事  01.jpg中庭の出来事  02.jpg

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