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「愚なる妻」、凄い映画だなあ。同じ年(1914年)デビューのシュトロハイムとチャップリン。

シュトロハイム「愚かなる妻・グリード」.jpg愚かなる妻 映画dvd.jpg    Cruel, Cruel Love (1914).jpg One A.M. (1916 film).jpg
愚なる妻《IVC BEST SELECTION》 [DVD]」「Cruel, Cruel Love」「One A.M.」
シュトロハイム狂気のツインパック [DVD]」(「愚なる妻」「グリード」)

愚かなる妻 映画 02.jpg 様々な種類の人間が集まる国際都市モナコに、ロシア貴族カラムジン伯爵と称する軍人風の男が、従妹2人と滞在していたが、実は彼らは詐欺師で、上流階級に取り入り金銭を騙し取ったり、贋Erich Von Stroheim foolish wives 0.jpg金を作ったりしていた。モナコへの米公使来訪の報を目にした彼らは、公使夫人をカラムジンの手管で篭絡し、金を巻き上げようと企む―。

 完璧主義者だったことで知られるエーリッヒ・フォン・シュトロハイム(Erich Von Stroheim、1885‐1957)監督の1922年に公開された長編サレント映画で(原題:Foolish Wives、日本公開は1923(大正12)年2月)、冒頭に少しだけ映画のメイキングシーンが流れますが、膨大な製作費でMonte Carlo @ Universal Studios. Built to scale.jpgカジノやホテル等、モンテカルロの街並みごと再現し(無声映画なのにホテルのどの部屋のベルもちゃんと鳴ったという)、豪華な食事を俳優たちに食べさせて、雰囲気から徹底的に作り込んだそうです。そのうえで、人間の性に対する露わな欲望を、カラムジンなる怪物的人物を通して描いたリアリズム作品であり(監督・主演のほかに脚本・衣装もシュトロハイムが担当)、シュトロハイムは、ハリウッドに初めてリアリズム演出を持ち込んだ天才監督と評されています。
Monte Carlo @ Universal Studios.

澤登翠氏.jpg マツダ映画社の「無声映画鑑賞会」(日暮里サニーホール・コンサートサロン)で澤登翠氏の活弁で鑑賞しましたが、108分の長尺の活弁はお疲れ様でしたという感じ。但し、オリジナルは上映時間が8時間あったのが長すぎるということで、それが最終的に1時間50分ほどに短縮させられたものが今日あるものであるとのことです(同監督の「グリード」('24年)も9時間超のオリジナルを100分に縮めたものしか残っていない)。

愚なる妻 2.jpg 「グリード」と比べると、シュトロハイム本人が主演しているという点でその多才ぶりがより強く印象づけられます(この前に「悪魔の合鍵」('19年)という監督・出演・原案・美術を担当した長編もあるがフィルムが現存していない)。いやあ、凄い話だなあ。シュトロハイム演じるカラムジンは貴婦人だけでなくメイドまで誑かすし(結局彼女は自殺に追い込まれる)、最後は高跳びする前に贋金作りのやや頭の弱い娘まで襲おうとErich Von Stroheim foolish wives 1.jpgしてその父親に惨殺され下水に捨てられるのですが(殺される場面はフィルムが紛失しているが活弁で補足説明されていた)、自分がその役をやる映画で普通こんな脚本を書くかねえ。しかも、この部分もフィルムが現存していませんが、オリジナルでは死体がネズミの餌になっている場面があったそうな(これぞリアリズム)。

愚かなる妻 映画 03.jpg 作品全体のテーマは、タイトルに表象されるように、上流階級の欺瞞や空疎、浅薄さを揶揄したものでしょうが、カラムジン伯爵の人物造型があまり強烈であり、プロセスにおいてはある種ピカレスクロマンになっています。カラムジンがニセモノの涙を流すところなどはやや演出過剰な感もありましたが、当時の基準からすれば、こうしたシーンもリアリズムの範囲内ということになるのか。 カラムジン中心にみれば人間の飽くなき「性欲」を描いているとも言え、人間の「金銭欲」を描いた「グリード」との対比で、そうした捉え方の方がすっきりするかもしれません。

 「無声映画鑑賞会」での併映は、チャールズ・チャップリン(Charles Chaplin、1889 - 1977)主演の短編「チャップリンの恋のしごき」('14年)と「チャップリンの大酔(たいすい)」('16年)で、それぞれ澤登翠氏のお弟子さんである山内菜々子氏と山城秀之氏が活弁を担当。先にこの2作を観て、場内を「お煎にキャラメル」を売って歩く「中入り」の後に大作「愚なる妻」が始まるという、大体この映画鑑賞会では定着している上映パターンでした。

CRUEL CRUEL LOVE Chaplin 1.jpg 「チャップリンの恋のしごき」は1914年3月公開作。チャップリンがデビューした年の作品で(原題:Cruel, Cruel Love、「痛ましの恋」の邦題で公開されたこともある)、但しチャップリンはこの年だけで40本近くの短編に出ていて、この作品はデビュー作「成功争い」から数えて第8作です。因CRUEL CRUEL LOVE Chaplin 2.jpgみに、エーリッヒ・フォン・シュトロハイムの映画デビューも100年前のチャップリンのデビューと同じ年の1914年です(D・W・グリフィスの「國民の創生」('14年)で監督助手兼エキストラ出演)。
 恋の行き違いを描いたような話で、ドタバタの部分もありますが、ストーリー自体はさほどヒネリがないように思いました(まあ、最後は誤解が解けてハッピーエンドだろうなあと)。むしろ、チャップリンのちょび髭にタキシードという定番スタイルが未だ出来上がる前の作品である点で興味深いかもしれまん。髪型などもちょっと違っているなあ。

ONE A.M.  Chaplin 01.jpg 「チャップリンの大酔(たいすい)」は1916年8月公開作。酔っぱらったチャップリンがタクシーから降りて我が家に入り寝室に行き着こうとするまでを描いた(結局最後はバスタブに行き着いてしまうのだが)純粋なドタバタコメディで(原題:One A.M.、そのまま「午前一時」の邦題で公開されたこともある)、しかも冒頭のタクシー運転手を除いては実質チャップリンONE A.M.  Chaplin 02.jpgの完全な一人芝居です。ここにきて、ようやくと言うか、既にすっかりチャップリンのコメディスタイルが出来上がっているなあという感じで、それをずっと一人芝居でじっくり観ることが出来るという意味では貴重な作品とも言えるかもしれせん。

 ストーリー性のある「チャップリンの恋のしごき」よりも、ストーリー性のない「チャップリンの大酔」の方がむしろ完成度としては高くなっているわけですが、両作品を見比べることで、チャップリンのあのスタイルが出来上がった時期やプロセスが大まかに推し量れる―その辺りが主催者側が両作品を揃えた狙いではないでしょうか。
Foolish Wives(1922)
Foolish Wives(1922).jpg
foolish wives.jpg「愚なる妻」●原題:FOOLISH WIVES●制作年:1921年(公開1922年)●制作国:アメリカ●監督・原作・脚本:エーリ無声映画鑑賞会6.JPGッヒ・フォン・シュトロハイム●製作:カール・レムリ●撮影:ベン・レイノルズ/ウィリアム・ダニエルズ●時間:108分●出演:エリッヒ・フォン・シュトロハイム/ルドルフ・クリスチャンズ/ミス・デュポン/モード・ジョージ/メエ・ブッシュ/デイル・フラー/セザール・グラヴィーナ/マルヴィン・ポーロ●日本公開:1923/02/01●最初に観た場所:日暮里サニーホール・コンサートサロン (14-09-30) (評価★★★★)●併映:「チャップリンの恋のしごき」(ジョージ・ニコルズ)/「チャップリンの大酔」(チャールズ・チャップリン)
日暮里サニーホール.jpg日暮里サニーホール 2.jpg日暮里サニーホール 1989年3月、日暮里駅東口ホテルラングウッド開業と併せてオープン(ホテルラングウッド/コンサートサロン)


CRUEL CRUEL LOVE Chaplin 2-2.jpg「チャップリンの恋のしごき(痛ましの恋)」●原題:CRUEL, CRUEL LOVE●制作年:1914年●制作国:アメリカ●監督:ジョージ・ニコルズ●製作:マック・セネット●脚本:クレイグ・ハッチンソン●撮影:フランク・D・ウィリアムズ●時間:現存9分(オリジナル18分)●出演:チャールズ・チャップリン/エドガー・ケネディ/ミンタ・ダーフィ/アリス・ダヴェンポート/グレン・カーヴェンダー●最初に観た場所:日暮里サニーホール・コンサートサロン (14-09-30) (評価★★★)●併映:「チャップリンの大酔」(チャールズ・チャップリン)/「愚なる妻」(エーリッヒ・フォン・シュトロハイム)」

チャップリン・アーリー・コレクション1.jpgONE A.M.  Chaplin 03.jpg「チャップリンの大酔(たいすい)(午前一時)」●原題:ONE A.M.●制作年:1916年●制作国:アメリカ●監督・製作・脚本:チャールズ・チャップリン●撮影:ローランド・トザロー●時間:12分(オリジナル32分)●出演:チャールズ・チャップリン/アルバート・オースチン●最初に観た場所:日暮里サニーホール・コンサートサロン (14-09-30) (評価★★★☆)●併映:「チャップリンの恋のしごき」(ジョージ・ニコルズ)/「愚なる妻」(エーリッヒ・フォン・シュトロハイム)」
「チャップリン・アーリー・コレクション」(第1巻/全10巻)「チャップリンの消防夫」「午前一時」「三つ巴事件」「チャップリンの移民」 「チャップリン アーリー・コレクション 【限定セット】(DVD10枚組み) [Box set]

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ある意味誤解されているテイラーだが、今読んでも啓発される要素は多い。

科学的管理法  .JPG科学的管理法1.jpg 科学的管理法2.jpg モダン・タイムス [字幕版].jpg
科学的管理法』(上野陽一:訳)['69年] 「モダン・タイムス [VHS]」(カバーイラスト:和田誠
|新訳|科学的管理法』['09年](有賀裕子:訳)

Frederick Winslow Taylor Scientific Management.jpg フレデリック・W・テイラー(Frederick Winslow Taylor, 1856-1915)が1911年に著した有名な本ですが(原題:The Principles of Scientific Management)、1921年の本邦初訳以来、何度か新訳が出されていたものの、1957年の上野陽一(1888-1957)訳(技報社刊)の新訳版が、彼が創始した産業能率大学(当初は短大)の出版部より1969年に刊行され、1983年と1995年に改版された後はずっと絶版となっていて、今回は14年ぶりの新版(40年ぶりの新訳)ということになります(因みに、上野陽一訳はテイラーの他の論文等も収めて579ページあり、それに対し今回の新訳版は175ページ)。

 「科学的管理法」を提唱したテイラーという人は、「人間を機械のごとく扱った」という誤解がつきまといがちな人物でもあります。しかし本書を読むと、彼は、雇用主に「限りない繁栄」をもたらし、併せて、働き手に「最大限の豊さ」を届けるにはどうすればよいかを真剣に考えた人であり、その考えのもとに「科学的管理法」というものを提唱し、実践したことが窺えます。ピーター・ドラッカーはその著書『マネジメント』において、テイラーこそ、仕事を体系的な観察と研究に値するものとしThe Principles of Scientific Management Elite Illustrated Edition.jpgた最初の人だったとし、20世紀初頭の先進国の一般人の生活を大幅に引き上げることになった豊かさの増大は、テイラーの「科学的管理法」のおかげであると高く評価しています。

 あえて仕事のペースを緩めて十分な働きをしないで済ませるのが「怠業」ですが、機械工場の旋盤工からスタートして作業長になったテイラーは、機械工たちの怠業に悩まされ続けていました。そこで彼は、怠業は管理方法や制度の不備が原因であると考え、それを防止するために、①科学的に目標を設定し、②その目標を達成するための作業を要素単位に分析し、③分析結果に基づいて、作業を無駄がなく効率が仕上がるように再編成し、④そこに労働者を配置し、定められた作業を早く正確にやり遂げた場合には、差別的出来高払い性によって割増賃金を支払うことで報いる、というやり方を提唱しました。それが本書のタイトルでもある「科学的管理法」です。

The Principles of Scientific Management Elite Illustrated Edition (English Edition) [Kindle版]

科学的管理法4.JPG ともすると最後の差別的出来高払い制が注目されがちですが(テイラーが最初に提唱したのが差別的出来高払い制であり、この成果によって彼は職長に昇進した)、テイラー自身は出来高制がはらむ危険性にも早くから気づいていました。働き手が、「記録的な成果を上げて、それが出来高制の賃金基準になってはたまらない」という不安から、作業ペースを落とすことが考えられるからです。そのことを防ぐためには、マネジャーと最前線の働き手が密接に連携し、それぞれの役割を分担することが重要であると説いています。この場合のマネジャーの役割とは、作業プランを作成し、実行することです。そのためには、仕事の分析だけでなく、人間観察、人間理解が必要になってくるということが、本書から十分に理解できます。

 本書では、「自主性とインセンティブを柱としたマネジメント」を旧来のマネジメントとしています。テイラー以前のマネジメントは、一人一人の働き手が全力を尽くし、持てる知識や技能を総動員し、創意工夫や善意を十分に発揮するようお膳立てをするのがマネジャーの仕事であるとされていました。つまり、仕事の中身は現場の働き手に任せてマネジャーは介入しないというものです。それに対して「科学的管理法」では、 マネジャーが作業の中身まで深く踏み込み、これまで現場の働き手に任せきりにしてきた仕事の多くをマネジャーが引き取り、自分たちでこなさなくてはいけない―マネジャーは、それまでよりも大きな責任を果たす必要があるということになる―そうすることで、科学的管理法は従来型マネジメントより優れたものになるとしています。

 一方で、労働者の殆どがブルーワーカーであった20世紀初頭と現代では労働現場の状況が異なり、また、企業組織と働き手を媒介する要素が専ら「生計維持のため」という経済原理に拠っていたテイラーの時代と、その後に「科学的管理法」を批判するかたちで登場する「人間関係論」に見られるように、仕事への動機づけに様々な社会的要因や個人の価値観が大きく影響すると考えられる現代では、前提条件が異なります。科学的管理法の弱点と言うよりも、そうした、人間の功利的側面ばかりが強調される「経済人モデル」の人間観の限界と言えるでしょう。

 そうしたことを踏まえつつも、一方で、現在の仕事を体系的に捉え、それを改善しようとう気運が、職場マネジャーの中にどれだけいるだろうかということに思いをめぐらせた時、本書で紹介されているテイラーの様々な業務改善施策(彼は"実験"と呼んでいる)とそれに取り組む彼の姿勢は、今読んでも啓発される要素は多いかと思います。

 雇用者に、製品の品質向上と総コストの削減をもたらし、働き手に労働時間の短縮と賃金上昇及び生活の充実をもたらし、職場には労使間協調と働き手同士の間の協働をもたらす―これが、テイラーが「科学的管理法」を通して意図した職場のあり方ではなかったのかと思いました。

 因みにテイラーはもともと知識階層に属していた人で、ハーバード大学の法学部に入学しましたが眼の病気のため、郷里で機械工になった人。晩年は経営コンサルタントとして活躍し、機械学会の代表も務めましたが、本書執筆の4年後に59歳で亡くなっています。

 テーラーの「科学的管理法」を採り入れて、作業の合理化と生産性の向上を成した例として最も有名な企業は「フォード・モーター」です。
    1900年頃のフォード自動車工場           1910年代のフォード自動車工場
フォード1.jpgフォード2.jpg ヘンリー・フォードは、それまでの、シャーシーを固定して同じグループの工員達がそれにエンジンやタイヤなどの部品を順次取り付けるという自動車製造法を一変させ、シャーシーをベルトコンベアに乗せて作業することを発想し、1913年までに完全ベルトコンベア化し(これが現在の自動車工場の所謂"製造ライン"の始まり)、1920年までにはT型フォード(A型から始まって20番目の試作完成品であるためこう呼ばれた)の生産台数を年間100万台超に引き上げ、大量生産による単価の低減により、それまで金持ちの贅沢嗜好品であった自動車を、一般の人々の身近な生活の道具にしたわけです(当時、アメリカのクルマの2台に1台はT型フォードだったとのこと)。ある意味、「働き手に豊さを届ける」というテイラーの理念が現実のものとなった事例でもあります。

フォード3.jpg まだ日本にはトヨタも日産も会社そのものが存在していなかった頃の話ですが、1910年代には東洋紡績がこの「科学的管理法」を採り入れ、倉敷紡績も研究所を設けるなど、当時の日本の主力産業にも大きな影響を与えました。

フォード自動車工場での作業風景

 一方で、フォードの自動車工場ではどのようなことが起きたかと言うと、例えば、クルマの左前輪のネジを締める作業を担当する工員は朝から晩までそのことだけをすることになり、そうした単調さが労働の過酷さとなって退職者が続出したとのことです(こうした事態はテイラーも予測し得なかった?)。会社は儲かっているので、工賃を引き上げることで新たな労働力の供給を賄ってはいましたが、それでも辞める者が続出したため、(ヘンリー・フォードは必ずしも労働者思いの経営者ではなかったようだが)1914年には8時間労働制に踏み切っています(因みに、日本で一番最初に8時間労働制を入れたのは川崎重工の前進の川崎造船所の兵庫工場で1919年のこと)。
 フォード・モーターは、このT型フォードの成功体験があまりに大き過ぎて、成熟した消費者の様々なニーズや好みへの対応について手を打たなかったため、1920年代が終わるころまでには、後発のGM、クライスラーに生産高で抜かれることになってしまいました。「科学的管理法」の"光と影"が反映された事例のようにも思えます。

ホーソン工場の実験.jpg あの有名なウエスタン・エレクトリック社の「ホーソン工場の実験」も、機械組立て作業のための最適な照明の明るさを検証するために行われたことを考えれば、前提として「科学的管理法」の考え方があったと思われますが、作業効率と照明の明るさの相関が得られず、殆ど真っ暗な状態でも作業効率が落ちないチームがあったりした-そのことに関心を持ったハーバード大学のエルトン・メイヨーらが途中から実験に加わり、作業チームのメンバー間のインフォーマルな人間関係の強さが作業結果に影響を及ぼしていることを突き止め、これが「人間関係論」の始まりで、更に「新人間関係論」(テイラー的人間観を"経済人モデル"と規定してその限界を説き、新たな人間観として"社会人モデル"を提唱する)、マクレガーやハーズバーグの近代モチベーション理論へと発展していくわけです。
ウエスタン・エレクトリック社の「ホーソン工場の実験」
  
モダン・タイムス.jpg チャールズ・チャップリンの「モダン・タイムス」('36年/米、チャップリン初のトーキー作品。監督・製作・原作・脚本・音楽の何れもチャップリン)などにも、「科学的管理法」批判ととれなくもない場面がありますが(個人的にはスラップスティック感覚に溢れる「チャップリンの黄金狂時代」('25年/米)の方が若干好みだが、これも傑作)、この映画はこうしたテイラーイズムやフォーディズム批判の風潮の中で作られた作品でもあるのだなあと改めて思います。
    
モダン・タイムス dvd.pngモダン・タイムス2.bmp「モダン・タイムス」●原題:MODERN TIMES●制作年:1936年●制作国:アメリカ●監督・製作・原作・脚本:チャールズ・チャップリン●脚本:ロバート・J・アヴレッチ/ブライアン・デ・パルマ●撮影:ローランド・トセロー/アイラ・モーガン●音楽:チャールズ・チャップリン/アルフレッド・ニューマン●時間:87分●出演:チャールズ・チャップリン/ポーレット・ゴダード/ヘンリー・バーグマン/チェスター・コンクリン●日本公開:1938/02●配給:ユナイテッド・アーティスツ●最初に観た場所:高田馬場パール座 (79-03-06)(評価:★★★★☆)●併映:「チャップリンの黄金狂時代」(チャールズ・チャップリン)
モダン・タイムス [DVD]

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通し読みすると著者の映画観や評価スタンスがわかり、巻末の「ぼくの映画史」も味わい深い。

外国映画ぼくの500本.jpg ぼくの採点表 2 1960年代.jpg 黄金狂時代 1925.jpg黄金狂時代 コレクターズ・エディション [DVD]
外国映画ぼくの500本』 文春新書〔'03年〕 『ぼくの採点表 2 1960年代―西洋シネマ大系 (2)』 (全5巻)
映画雑誌『スクリーン』1957年1月号
映画雑誌『スクリーン』1957年1月号.jpg双葉十三郎.jpg 映画雑誌「スクリーン」に長年にわたって映画評論を書き続けてきた著者による、20世紀に公開された外国映画500選の評論です。何しろ1910年生まれの著者は、見た洋画が1万数千本、邦画も含めると約2万本、1920年代中盤以降公開の作品はほとんどリアルタイムで見ているというからスゴイ!

 本書のベースとなっているのは「スクリーン」の連載をまとめた『西洋シネマ体系 ぼくの採点表』という全5巻シリーズで、この中にある約8,900本の洋画の中からさらに500本を厳選し、1本当たりの文字数を揃えて五十音順に並べたのが本書であるとのことです(著者は『西洋シネマ体系 ぼくの採点表』全5巻完結の年に第49回「菊池寛賞」を受賞している)。

 名作と呼ばれる映画の多くを網羅していて、強いて言えば心温まる映画が比較的好みであるようですが、古い映画の中にはDVDなどが廃盤になっているものも多いのが残念です。

 映画評論の大家でありながら、B級映画、娯楽映画にも暖かい視線を注いでいて、一般観客の目線に近いところで見ているという感じがし、自分たちが青春時代に見た映画も著者自身は老境に入って見ているはずなのに、感想には若者のようなみずみずしさがあって、ああこの人は万年青年なのだなあと。

 1本ごとの見どころを短文の中にうまく盛り込んでいて、リファレンスとしても使え"外れ"も少ないと思いますが、一通り読んでみることをお薦めしたいです。著者の映画観や映画を評価するということについてのスタンスがわかります。すべての作品に白い星20点、黒い星5点での採点がされていますが、「映画とは点数が高ければいいというものではない」という著者の言葉には含蓄があります。

 因みに、90点以上は「黄金狂時代(チャールズ・チャップリン)」「西部戦線異状なし(リュウイス・マイルストン)」「大いなる幻影(ジャン・ルノワール)」「駅馬車(ジョン・フォード)」「疑惑の影(アルフレッド・ヒッチコック)」「天井桟敷の人々(マルセル・カルネ)」「サンセット大通り(ビリー・ワイルダー)」「河(ジャン・ルノワール)」「恐怖の報酬(アンリ・ジョルジュ・クルーゾー)」「禁じられた遊び(ルネ・クレマン)」「水鳥の生態(ドキュメンタリー)」「野いちご(イングマール・ベルイマン)」「突然炎のごとく(フランソワ・トリュフォー)」「スティング(ジョージ・ロイ・ヒル)」「ザッツ・エンタテイメント(ジャック・ヘイリー・ジュニア)」の15本となっています。

 先の「点数が高ければいいというものではない」という著者の言葉もあってこれを著者のベスト15ととっていいのかどうかは分かりませんが、故・淀川長治2.jpg淀川長治(1909-1998)が「キネマ旬報」1980年12月下旬号に寄せた自らのベスト5が「黄金狂時代(チャールズ・チャップリン)」「戦艦ポチョムキン(セルゲイ・エイゼンシュテイン)」「グリード(エリッヒ・フォン・シュトロハイム)」「大いなる幻影(ジャン・ルノワール)」「ベニスに死す(ルキノ・ヴィスコンティ)」となっており、「黄金狂時代」と「大いなる幻影」が重なっています。年齢が近かったこともありますが(双葉氏が1歳年下)、意外と重なるなあという印象でしょうか。巻末の「ぼくの映画史」も、著者の人生と映画の変遷が重なり、その中で著者が、映画の過去・現在・将来にどういった思いを抱いているかが窺える味わい深いものでした。

 「野いちご」('57年/スウェーデン)などベルイマンの作品を高く評価しているのが印象に残ったのと、チャップリン作品で淀川長治と同じく「黄金狂時代」('25年/米)をベ黄金狂時代 01.jpgストに挙げているのが興味を引きました(淀川長治は別のところでは、"生涯の一本"に「黄金狂時代」を挙げている)。「黄金狂時代」はチャップリン初の長編劇映画であり、ゴールドラッシュに沸くアラスカで一攫千金を夢見る男たちを描いたもので黄金狂時代 03.jpgすが、チャップリンの長編の中では最もスラップスティック感覚に溢れていて楽しめ(金鉱探しのチャーリーたちの寒さと飢えがピークに達して靴を食べるシーンも秀逸だが、その前の腹が減った仲間の目からはチャーリーがニワトリに見えてしまうシーンも可笑しかった)、個人的にもチャップリン作品のベストだと思います(後期の作品に見られるべとべとした感じが無い)。

黄金狂時代es.jpg黄金狂時代_15.jpg黄金狂時代14.jpg「チャップリンの黄金狂時代(黄金狂時代)」●原題:THE GOLD RUSH●制作年:1936年●制作国:アメリカ●監督・製作・脚本:チャールズ・チャップリン●撮影:ローランド・トザロー●時間:82~96分(サウンド版73分)●出演:チャールズ・チャップリン/ビッグ・ジム・マッケイ/マック・スウェイン/トム・マレイ/ヘンリー・バーグマン/マルコム・ウエイト/スタンリー・J・サンフォード/アルバート・オースチン/アラン・ガルシア/トム・ウッド/チャールズ・コンクリン/ジョン・ランドなど●日本公開:1925/12●配給:ユナイテッド・アーティスツ●最初に観た場所:高田馬場パール座 (79-03-06)(評価:★★★★☆)●併映:「モダン・タイムス」(チャールズ・チャップリン)

《読書MEMO》
●「双葉十三郎 ぼくの採点表」
☆☆☆☆★★(90点)
1925 黄金狂時代/チャールズ・チャップリン
1930 西部戦線異状なし/リュウイス・マイルストン
1937 大いなる幻影/ジャン・ルノワール
1939 駅馬車/ジョン・フォード
1942 疑惑の影/アルフレッド・ヒッチコック
1945 天井桟敷の人々/マルセル・カルネ
1950 サンセット大通り/ビリー・ワイルダー
1951 河/ジャン・ルノワール
1952 恐怖の報酬/アンリ・ジョルジュ・クルーゾー
1952 禁じられた遊び/ルネ・クレマン
1953 水鳥の生態/ドキュメンタリー
1957 野いちご/イングマール・ベルイマン
1961 突然炎のごとく/フランソワ・トリュフォー
1973 スティング/ジョージ・ロイ・ヒル
1974 ザッツ・エンタテイメント/ジャック・ヘイリー・ジュニア

☆☆☆☆★(85点)
■1920年代以前
 月世界旅行/ジョルジュ・メリエス
 イントレランス/D・W・グリフィス
 カリガリ博士/ロベルト・ウィーネ
■1920年代
 キッド/チャールズ・チャップリン
 ドクトル・マブゼ/フリッツ・ラング
 幌馬車/ジョン・フォード
 アイアン・ホース/ジョン・フォード
 結婚哲学/エルンスト・ルビッチ
 ジークフリート/フリッツ・ラング
 戦艦ポチョムキン/エイゼンシュテイン
 ビッグ・パレード/キング・ビダー
 巴里の屋根の下/ルネ・クレール
■1930年代
 会議は踊る/エリック・シャレル
 自由を我等に/ルネ・クレール
 暗黒街の顔役/ハワード・ホークス
 街の灯/チャールズ・チャップリン
 仮面の米国/マーヴィン・ルロイ
 グランド・ホテル/エドマンド・グールディング
 巴里祭/ルネ・クレール
 四十二番街/ロイド・ベーコン
 或る夜の出来事/フランク・キャプラ
 商船テナシチー/ジュリアン・デュヴィヴィエ
 たそがれの維納/ヴィリ・フォルスト
 オペラ・ハット/フランク・キャプラ
 孔雀夫人/ウィリアム・ワイラー
 望郷/ジュリアン・デュヴィヴィエ
 我等の仲間/デュヴィヴィエ
 舞踏会の手帖/デュヴィヴィエ
 風と共に去りぬ/ヴィクター・フレミング
 スミス都へ行く/フランク・キャプラ
■1940年代
 わが谷は緑なりき/ジョン・フォード
 ヘンリイ五世/ローレンス・オリヴィエ
 逢びき/デヴィッド・リーン
 ダイー・ケイの天国と地獄/ブルース・ハンバーストン
 荒野の決闘/ジョン・フォード
 黄金/ジョン・ヒューストン
 悪魔の美しさ/ルネ・クレール
 踊る大紐育/スタンリー・ドーネン
 黄色いリボン/ジョン・フォード
 情婦マノン/アンリ・ジョルジュ・クルーゾー
 第三の男/キャロル・リード
■1950年代
 アニーよ銃をとれ/ジョージ・シドニー
 イヴの総て/ジョゼフ・マンキウイッツ
 戦慄の七日間/ジョン・ブールティング
 巴里のアメリカ人/スタンリー・ドーネン
 グレンミラー物語/アンソニー・マン
 シェーン/ジョージ・スティーヴンス
 バンド・ワゴン/ヴィンセント・ミネリ
 ローマの休日/ウィリアム・ワイラー
 悪魔のような女/アンリ・ジョルジュ・クルーゾー
 波止場/エリア・カザン
 エデンの東/エリア・カザン
 赤い風船/アルベール・ラモリス
 第七の封印/イングマール・ベルイマン
 情婦/ビリー・ワイルダー
 魔術師/イングマール・ベルイマン
■1960年代
 甘い生活/フェデリコ・フェリーニ
 処女の泉/イングマール・ベルイマン
 太陽がいっぱい/ルネ・クレマン
 ウエストサイド物語/ロバート・ワイズ
 アラビアのロレンス/デヴィッド・リーン
 8 1/2/フェデリコ・フェリーニ
 シェルブールの雨傘/ジャック・ドゥミ
 戦争は終った/アラン・レネ
 アルジェの戦い/ジッロ・ポンテコルヴォ
 バージニア・ウルフなんかこわくない/マイク・ニコルズ
 ロシュフォールの恋人たち/ジャック・ドゥミ
 冒険者たち/ロベール・アンリコ
 素晴らしき戦争/リチャード・アッテンボロー
■1970年代
 ジョニーは戦場へ行った/ドルトン・トランボ
 叫びとささやき/イングマール・ベルイマン
 フェリーニのアマルコルド/フェデリコ・フェリーニ
 タワーリング・インフェルノ/ジョン・ギラーミン
■1980年代
 ファニーとアレクサンデル/イングマール・ベルイマン
 アマデウス/ミロス・フォアマン
■1990年代以降
 霧の中の風景/テオ・アンゲロプロス
 恋におちたシェークスピア/ジョン・マッデン

映画雑誌『スクリーン』1957年1月号 目次
映画雑誌『スクリーン』1957年1月号 目次.jpg

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