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アカデミー賞を総嘗め。今までアジア系を無視してきたことの反動ともとれるが。

「エブエブ」2022.jpg「エブエブ」08.jpg 「エブエブ」09.jpg
「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス 」(2022)ミシェル・ヨー
「007 トゥモロー・ネバー・ダイ」7.jpg
「007 トゥモロー・ネバー・ダイ」(1997)舞台はホーチミン(サイゴン)、ロケ地はタイのバンコク

「エブエブ」03.jpg 中国系移民のエヴリン(ミシェル・ヨー)は、自身が経営するコインランドリーが破産寸前で、しかも国税局から監査が入り、税金の申告をやり直さなければならなくなったという問題や、頼りにならない夫ウェイモンド(キー・ホイ・クァン)、反抗的な娘ジョイ(ステファニー・スー)、老齢で車椅子が必要な上に最近ボケてきた父親ゴンゴン(ジェームズ・ホン)といった家族の問題など、数多くのトラブル「エブエブ」06.jpgを抱えていた。疲れ果てた彼女の前にある日、夫に乗り移った"別の宇宙(ユニバース)の夫"が現れ、「全宇宙にカオス「エブエブ」04.jpgをもたらそうとしている強大な悪ジョブ・トゥパキを倒せるには君だけだ」と彼から告げられて、世界の命運を託されてしまう。彼女は"無限の多元宇宙(マルチバース)"に飛び込み、カンフーの達人の"別の宇宙のエヴリン"の力を得て、マルチバースの脅威ジョブ・トゥパキと戦うこととなるが、ジョブ・トゥパキの正体は"別の宇宙の自分の娘"だった―。

「007 トゥモロー・ネバー・ダイ」1997.jpg007 ミシェル・ヨー.jpg 2022年制作のダニエルズ(ダニエル・クワン&ダニエル・シャイナート)監督よる「異次元間アクション映画(通称「エブエブ」)。主演は香港アクシTRUE LIES movie.jpgョン映画の華として活躍し、「007 トゥモロー・ネバー・ダイ」('97年/英・米)、「グリーン・デスティニー」('00年/中国・台湾・香港・米)でハリウッドに進出したミシェル・ヨー(59歳)で(脚本は当初ジャッキー・チェンが主演を務めることを想定して書かれていたものだった)、共演は「インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説」('84年/米)で少年役だったキー・ホイ・クァン、「トゥルーライズ」('94年/米)のジェイミー・リー・カーティス(63歳)などです。

「エブエブ」オスカー.jpg どうして今このメンバー?とも思える組み合わせですが、先月['23年3月]発表の第95回アカデミー賞において、作品賞、監督賞、主演女優賞、助演男優賞、助演女優賞、編集賞の計7部門を受賞し、この3人ともが演技賞を受賞したことになります(主演男優賞は「ザ・ホエール」のブレンダン・フレイザ)。

 アカデミー賞の7部門独占は、今世紀に入って'04年の「ロード・オブ・ザ・リング/王の帰還」('03年)の11部門、'09年の「スラムドッグ$ミリオネア」('08年)に次ぎますが、この2作は「エブエブ」のような演技賞の受賞はなく、演技部門における3冠達成は、1951年の「欲望という名の電車」と1976年の「ネットワーク」に次いで3度目、ほぼ半世紀ぶりのこととなります。さらに、編集賞を除く主要6部門制覇は、「或る夜の出来事」「地上(ここ)より永遠に」「カッコーの巣の上で」「クレイマー、クレイマー」「愛と追憶の日々」「羊たちの沈黙」などの持つ最多記録(主要5部門制覇)を抜いて史上初とのことです。

「エブエブ」12.jpg アカデミー賞受賞決定の直後に観ました。そんなスゴイ作品かなあというのはありましたが、話は強引ながらも勢いがあり、乗せられて観てしまいました(フツーに娯楽映画として観たということか)。ミシェル・ヨー演じるエヴリンの、現実生活の苦しさをぶっ飛ばすキレキレのアクションは「グリーン・デスティニー」での彼女を髣髴させ、キー・ホイ・クァンも、一時俳優業から武術指導のアシスタントに転じていただけに、なかなかのアクションでした。共にCGは使っていないそうです(ミシェル・ヨーの小指での腕立て伏せのシーンはCGだと思うが)。

ダニエルズ(.jpg 人生をカオスと捉え、マルチバースの世界にそれを反映させているといった感じでしょうか(監督のダニエルズは「湯浅政明や今敏、宮崎駿などといった、日本のアニメ監督からインスピレーションを受けて作った」とコメントしている)。例えばエヴリンには、カンフーマスターであったり女優として成功するなど別宇宙での彼女が沢山いるといった具合です(ミシェル・ヨーの過去に出演したカンフー映画や、国際的な映画祭での実際の映像などを使っている。映画自体は低予算映画で、2023年・第38回「インディペンデント・スピリット賞 作品賞」を受賞している)。SFのスタイルを借りつつ、女性とマイノリティを励ます映画にもなっています。

ダニエルズ(ダニエル・クワン/ダニエル・シャイナート)

[エブエブ」.jpg 一方で、観終わってみれば、徹底した「現実逃避」映画ともとれ、要は、「母と娘」の関係の解(ほつ)れとその修復という古典的・感情的テーマを、大袈裟なマルチバースという枠組みの中で展開しただけに過ぎなかったという見方もできなくはないと思います(この点が「そんなスゴイ作品かなあ」という印象に繋がる)。

 アカデミー賞で多くの賞を受賞したのは、これまでアジア系の映画がアカデミーであまり評価されておらず、アジア系の俳優にも型通りの役しか与えられなかったことへの反省もあるでしょう。アカデミー賞はその時々で、過去のアンバランスを修正すべく反動形成された受賞がしばしば見られるように思います(偏向しているとの批判をかわし、賞の権威を維持するための調整が優先されがち)。

ミシェル・ヨー0.jpg この作品でアジア人女優として初めてアカデミー主演女優賞を受賞した(エントリーされること自体がアジア人女優初だった)ミシェル・ヨー(楊紫瓊・1962年生まれ)は、その前にゴールデングローブ賞(今年['23年]1月)でも主演女優賞を受賞していて、その時のスピーチで「昨年私は60歳を迎えた」「女性は年齢の数字が大きくなればなるほど、機会に恵まれることは少なくなる」と女性の年齢による機会損失について訴えていましたが、アカデミー賞の授賞式のスピーチでもオスカー像を掲げ、「これは希望と可能性の印です。夢が叶う証です。そして女性のみなさん、『あなたはもう盛りを過ぎた』なんて誰にも言わせてはなりません」と語ったことが、世界的に大きな反響を呼びました。

ミシェル・ヨー.jpg その彼女に、来月['23年5月]のカンヌ国際映画祭のオフィシャルディナーの場にて、「ウーマン・イン・モーション」アワードが授与されることが今月['23年4月]決定しました。2015年に発足した「ウーマン・イン・モーション」アワードは、女性に対するコミットメントや取り組みを称えるもので、アジア人では2019年のコン・リー以来2人目の授賞になります。

カンヌ国際映画祭オフィシャルディナーのフォトコールにて(2023.5.25)。左からフランソワ=アンリ・ピノー、ミシェル・ヨー、パートナーのジャン・トッド Vittorio Zunino Celotto


 彼女はインタビューで、「『グリーン・デスティニー』の頃は、ハリウッド業界はアジア人俳優を認める準備がまだできミシェル・ヨー2.jpgていなかったと思います。作品賞や監督賞はあっても、俳優だけはノミネートされなかった。ジョアン・チェンやコン・リーなど、私より先に活躍していた美しい女優たちは、本来ならアカデミー賞にノミネートされているべきでした。人種のせいなのか? 私はそうだと思います。しつ「グリーン・デスティニー」23.jpgこく言いたくはないですが、ただ『前に進みましょう』と言いたい。いまこそ前進するときです。素晴らしい映画の魅力とは、文化を超え、時代を超え、言語を超えるところにあると思います」と述べています。

ミシェル・ヨー in「グリーン・デスティニー」('00年)

 しつこく言いたくはないとしながらも、これまで偏向(人種差別)があったとはっきり言っている! さらに、自分より先にジョアン・チェン(陳冲・1961年生まれ、「ラストエンペラー」('87年)、「ラスト、コーション」('07年)など)やコン・リー(鞏俐・1965年生まれ、「紅いコーリャン」('87年)、「さらば、わが愛/覇王別姫」('93年)など)らがアカデミー賞にノミネートされるべきだったと言っているところがエライです。

「007 トゥモロー・ネバー・ダイ」2.jpg ミシェル・ヨーは1985年、初主演作「レディ・ハード 香港大捜査線」('85年/香港)でアクション映画に初挑戦、バレエ仕込みの身体表現で激しいカンフーアクションや危険なスタントシーンを演じ、レディ・アクションスターの先駆けとなって、「皇家戦士」('86年/香港)では真田広之と共演、「ポリス・ストーリー3」('92年/香港)でジャッキー・チェンと共演し「走行中の貨物列車の屋根にオートバイで飛び乗る」というスタントを代役なしで演じています(ジャッキー・チェンをして「自分の見せ場を奪われるから競演NG」と言わしめたとか)。「ジ「007 トゥモロー・ネバー・ダイ」3.jpgェームズ・ボンド」シリーズ第18作「007トゥモロー・ネバー・ダイ」('97年/英米)(公開時タイトルは「トゥモロー・ネバー・ダイ」で35歳で「ミシェル・ヨー」(それまではミシェル・キングまたはミシェル・カーンだった)としてハリウッドへ進出したのは、"満を持して"といった感じだったでしょうか。中国国外安保隊「007 トゥモロー・ネバー・ダイ」よー.jpg員ウェイ・リンという役柄で、ジェームズ・ボンド役のピアース・ブロスナンと対等に渡り合う「戦うボンドガール」として注目を浴びました。ボンドと一緒に手錠をかけられた「007 トゥモロー・ネバー・ダイ」ば.jpg状態でビルからジャンプするシーンや、そのままバイクで市中を駆け抜けるシーンは派手で、格闘シーンもよく脚が上がっていてキレキレと言う感じでした。ストーリーは大したことなかったものの、優れたSF・ファンタジー・ホラー作品に送られる「サターン賞」で4つのノミネートを受け、ピアース・ブロスナンが「サターン主演男優賞」を受賞していますが、ミシェル・ヨーの貢献も大きかったのではないでしょうか。

「エブエブ」05.jpg  因みに、この「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」で、ミシェル・ヨーより数多くの賞を受賞したのがキー・ホイ・クァンで、ゴールデングローブ賞助演男優賞、アカデミー助演男優賞のほかに、第88回「ニューヨーク映画批評家協会賞 助演男優賞」、第57回「全米批評家協会賞 助演男優賞」、第48回「ロサンゼルス映画批評家協会賞 助演男優賞」など多くの賞を受賞しています。「現実世界の頼りない夫」としてのハリウッド映画における従来のアジア人のパターナルな演技と、「"別の宇宙(ユニバース)の夫"」としてのヒロイックな演技(まるでブルース・リー(!?))の使い分けが際立っていたことが評価されたのでしょう。

ジェームズ・ホン br.jpgジェームズ・ホン.jpg さらに、ボケているのに頑固な父親ゴンゴンを演じたジェームズ・ホンは1929年生まれの今年94歳。ジェニファー・ジョーンズ、ウィリアム・ホールデン主演の香港を舞台とした映画「慕情」('55年)の頃からノンクレジットですが映画に出ており、「砲艦サンパブロ」('66年)のヴィクター・スー役などもありましたが、「ブレードランナー」('82年)のレプリカントの眼球を作っている遺伝子工学者ハンニバル・チュウの役などは、多くの人にとって懐かしいのではないでしょうか(あれから40年かあ)。と言うこキー・ホイ・クァン hフォード.jpgとは、ハリソン・フォードは、この映画に出ているキー・ホイ・クァンと「インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説」('84年/米)で共演したほかに、ジェームズ・ホンとも「ブレードランナー」で共演したことがあるということか。

ジェームズ・ホン in「ブレードランナー」('82年)


「エブエブ」02.jpg「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」●原題:EVERYTHING EVERYWHERE ALL AT ONC●制作年: 2022年●制作国:アメリカ●監督・脚本:ダニエルズ(ダニエル・クワン/ダニエル・シャイナート)●撮影:ラーキン・サイプル●音楽:サン・ラックス●時間:140分●出演:ミシェル・ヨー/キー・ホイ・クァン/ステファニー・スー(許瑋倫)/ジェイミー・リー・カーティス/ジェームズ・ホン/タリー・メデル/ジェニー・スレイト/ハリー・シャム・Jr/ビフ・ウィフ/スニータ・マニ/アーロン・ラザール/オードリー・ヴァシレフスキ/ピーター・バニファズ●日本公開:2023/03●配給:ギャガ●最初に観た場所:TOHOシネマズ西新井(シアター1)(23-03-15)(評価:★★★☆)
ジェイミー・リー・カーティス「トゥルーライズ」から28年
ジェイミー・リー・カーティス.jpg
 
11「007 トゥモロー・ネバー・ダイ」.jpg「007 トゥモロー・ネバー・ダイ」●原題:TOMORROW NEVER DIES●制作年:1997年●制作国:イギリス・アメリカ●監督:ロジャー・スポティスウッド●製作:マイケル・G・ウィルソン/バーバラ・ブロッコリ●脚本:ブルース・フィアスティン●撮影:ロバート・エルスウィット●音楽:デヴィッド・アーノルド(主題歌:「トゥモロー・ネヴァー・「007 トゥモロー・ネバー・ダイ」び.jpgダイ」シェリル・クロウ)●原作:イアン・フレミング●時間:119分●出演:ピアース・ブロスナン/ジョナサン・プライス/ミシェル・ヨー/テリー・ハッチャー/ジョー・ドン・ベイカー/リッキー・ジェイ/ゲッツ・オットー/デスモンド・リュウェリン/ヴィンセント・スキャベリ/ジョフレー・パーマー/コリン・サーモン/サマンサ・ボンド/ジュディ・デンチ●日本公開:1998/03●配給:UIP(評価:★★★☆)

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「ER」の記念すべき第1話。単なる人物紹介でなく、エピソードとの絡め方が見事。

er season1.jpgER 緊急救命室2.jpg「ER緊急救命室」s1.jpg
ER 緊急救命室 I 〈ファースト・シーズン〉 セット1 [DVD]

アンソニー・エドワーズ(マーク・グリーン)
「ER緊急救命室」2.jpg マーク・グリーン(アンソニー・エドワーズ)は、シカゴ近郊クック郡のカウンティ総合病院のER(緊急救命室)チーフレジデントで腕利き内科医。病気やケガ、事故により昼夜問わず患者が搬送され、仮眠もろくに取れず、今日も看護師が目覚まし時計のように夜勤の彼を起こしに来る。その彼は今、私立病院から好条件で誘いを受け、ERを続けるかどうか迷っていた。そんな折帰宅したばかりの看護師長キャロル・ハザウェイ(ジュリアナ・マルグリース)が自殺未遂を起こしてERに担ぎこまれる―。

ノア・ワイリー(ジョン・カーター)
「ER緊急救命室」4.jpg「ER 緊急救命室 1」ka-ta- .jpg "カーター君"が初赴任する「ER」の記念すべき第1話はパイロット版として作られたもので(原題は"24 HOURS") 、本国放映が1994年9月19日、日本初放映が1996マイケル・クライトン.bmp年4月1日(NHK‐BS2)。決して広くはない診療室で撮影しなくてはならず、ステディカムが威力を発揮しています(第1話の撮影は廃院となった病院をスタジオ代わりに撮影しており、それ以降はスタジオにセットを再現して撮影した)。このパイロット版を含む最初の3話は、製作総指揮を務めたマイケル・クライトン(1942-2008/66歳没)自身が脚本を書いています。マイケル・クライトンはハーバード・メディカルスクール(ハーバード大学医学大学院)の出身です。

 朝から工事現場の事故の多くの負傷者が担ぎ込まれ、遺族への死亡宣告、研修に来た女子学生の対応、色仕掛けをしてくる患者、小指のさかむけだけを治療にくる老婦人、車の中で突然産気づいた女性...etc.グリーン先生をはじめ皆がそれらの対応で超多忙です(ステディカムでの撮影が効いていて、ERの日常の慌ただしさが伝わってくる)。

ジュリアナ・マルグリース(キャロル・ハザウェイ)
ER緊急救命室」キャロル.jpg そして、極めつけは、スタッフからの信頼が厚い看護師長(翻訳は婦長)のキャロル・ハザウェイの何の前触れもない自殺未遂。かつてERの小児科医のダグラス・ロス(ジョージ・クルーニー)と付き合っていたが破局し、今は整形外科医と婚約中だったはずだが...。心配そうにキャロルを見守るダグ。この二人の関係はシーズン1の幾つかある重要なストーリーの1つになっていきます。因みに、ダグ・ロスはハンサムなモテ男でプレイボーイ。この第1話ではロス先生は二日酔いでヨレヨレ状態での初登場となるのですが、児童虐待していると疑われる母親に対して心底怒りをぶつける熱血漢でもあります。

「ER緊急救命室」3.jpg 一方、医学部3年の研修生ジョン・カーター(ノア・ワイリー)は今日がER勤務の初日。外科レジデント2年目のピーター・ベントン(エリク・ラ・サル)のもとで、これからさまざまな指導を受けることになりますが、まず、点滴をやるのが初めてということにベントンも呆れ、さらに、ナイフで刺された患者の血を見て気分が悪くなる始末です。
エリク・ラ・サル(ピーター・ベントン)

「ER緊急救命室」5.jpg 自らの不甲斐なさすっかりしょげているところを(このシーンはOPで「ER」op.jpg使われることになる)、優しく励ますグリーン先生。ただ励ますだけなく、「医者には2種類ある。自分の感情を切り捨てるタイプと感情を切り捨てれないタイプだ」「何かあると後者は、治療する側の自分が病気になってしまいそうになる」と、医者の心得まで説いてます。しかしながら、そのグリーン先生もその後、離婚問題で悩まされることになります(司法試験の勉強中の妻との行き違いは、すでにこの第1話で示唆されている)。

 そのカーターを指導する立場のベントン先生は、動脈瘤の患者が危険な状態になり、担当医が誰も手が空かず、レer ベントン.jpgジデントの自分には資格がないのに手術を強行「ER」モーゲンスタン部長.jpg、患者の危機を救い、駆けつけたモーゲンスタン部長(ウィリアム・H・メイシー)から最初は「下手な獣医並み」と貶されるも、最後にはその臨機応変の判断を褒められガッツポーズ(このシーンもOPで使われることになる)。患者の命を救うことを第一信条とするとともに、自信家で上昇志向が強いその性格がすでに表されています。

シェリー・ストリングフィールド(スーザン・ルイス)/シリ・アップルビー(ダリア・ウェイド)
「ER」000.jpg 内科・外科レジデント二年目のスーザン・ルイス(シェリー・ストリングフィールド)は、仕事が忙しく最近、恋人と別れたが、グリーン先生とは相性が良く何でも話せる間柄。性格はサバサバしており、ハッキリものを言うタイプですが、今日「ER」ミゲル・フェラー.jpgはガンの疑いが濃厚な患者(ミゲル・フェラー)から逆に告知を求められるような状況に直面し、これはさすがにキツイ、患者も医者も(その後、米国でも日本でも、告知は医師の「裁量の範囲」から「義務」へという流れになっている)。ルイス先生はその後、問題ある姉に悩まされることになります。

 120分枠とは言え、CMを除くと100分くらいでしょうか。その中に多くのエピソードを並行的に盛り込み(気がつけばすべて24時間のうちに起きたことなのだが)、主要登場人物のキャラクター、置かれている状況、互いの関係を見事に描き出していると思います(単なる人物紹介でなく、ちゃんとエピソードと絡めているのがスゴイ)。

 シリーズ展開では、プロデューサーとして「ザ・ホワイトハウス」と同じジョン・ウェルズが参加していることもあり、アフリカのコンゴにおける貧困や紛争などを描いたり、米国における麻薬や銃問題などを提起していたりします。緊迫した場面の合間にコミカルなエピソードを挿むのも「ザ・ホワイトハウス「と共通しているし、シーズン1の第1話で主要な登場人物のアウトラインを描き切ってしまうのも同じです。因みに「ザ・ホワイトハウス」はシーズン1の第1話が最も面白かったですが、「ER」は、面白さがずっと続くところがすごかったと思います。

ジョージ・クルーニー(ダグラス・ロス)
「ER緊急救命室」ロス.jpg「ER緊急救命室」7.jpgER緊急救命室(第1話)/甘い誘い(120分枠)」●原題:ER:24 HOURS (a.k.a. THE LONGEST DAY (1))(Season 1、Episode 1)●制作年:1994年●制作国:アメリカ●本国上映:1994/09/19●監督:ロッド・ホルコム●脚本:マイケル・クライトン●出演:アンソニー・エドワーズ/ジョージ・クルーニー/シェリー・ストリングフィールド/ノア・ワイリー/ジュリアナ・マルグリース/エリク・ラ・サル/クリスティーン・ハーノス/ウィリアム・H・メイシー/(ゲスト出演)シリ・アップルビー/ミゲル・フェラー●日本放映:1996/04●放映局:NHK‐BS2(評価:★★★★☆)

「ER緊急救命室」6.jpg「ER」00.jpg「ER 緊急救命室」ER (NBC 1994~2009) ○日本での放映チャネル:NHK-BS2(1996~2011)/スーパー!ドラマTV

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概ね原作通り。旅情溢れる場面や大掛かりなロケシーンもあって愉しめた。

「名探偵ポワロ(第31話)ABC殺人事件」1992 dvd1.jpg 「名探偵ポワロ(第31話)ABC殺人事件」1992 dvd2.jpg 「名探偵ポワロ(第31話)ABC殺人事件」11.jpg ABC殺人事件 クリスティー文庫.jpg
名探偵ポワロ 17 [DVD]」「名探偵ポワロDVDコレクション 2号 (ABC殺人事件) [分冊百科] (DVD付)」『ABC殺人事件 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)
「名探偵ポワロ(第31話)ABC殺人事件」01.jpg ABCという差出人名でポアロ宛てに挑戦状が届く。何事もなく記してあった日付が過ぎて悪戯だと思われたが、予告通りアンドーヴァーでアリス・アッシャー(A.A)なる人物が亡き者にされていた。アリスが絶命したのは午後5時半~6時5分だと推定され、後頭部に受けた強い打撃が命を落とした原因だった。そして、カウンターの上にABCの鉄道案内が置かれていた。捜「名探偵ポワロ(第31話)ABC殺人事件」02.jpg査が難航しアンドーヴァーでの一件が忘れ去られた頃、ABCから第二の挑戦状が届き、事が再燃、明け方のベクスヒル=オン=ザ=シーで、エリザベス・バーナード(B.B)という若い女性が自分のベルトで首を絞められて命を落としたのだった。現場にあったABCの鉄道案内がアンドーヴァーとの関連を示唆していたが、アリスとの共通点は女性というだけしかない。エリザベスの家族や恋人に話を聞くも特に有力な手がかりは得られず、ただ時だけが過ぎていった。さらに、ABCからの3通目に挑戦状がポアロ宛てに届く。ABCによる住所の書き間違いにより手紙の配達が遅れるという不運も重なり、第三の犠牲者が出てしまう「名探偵ポワロ(第31話)ABC殺人事件」04.jpg。場所はチャーストンで、命を落としたのはカーマイクル・クラーク(C.C)という富豪だった。3件すべてが世間に公表され、警察も地道な捜査を続ける一方、ポアロは、関係者を集めて話をさせ、本人たちですら気づいていないこ「名探偵ポワロ(第31話)ABC殺人事件」06.jpgとに目を向けて真実に迫る手法をとる。ABCから4件目の殺人予告があり、厳戒態勢を敷いたにもかかわらず、4人目の犠牲者も出てしまう。警察は様々な証言により、ABCの正体はアレクサンダー・ボナパㇽト・カスト(A.B.C)(ドナルド・サンプター)というストッキングのセールスマンと特定し、逮捕する。しかし何一つ解決していないと思っていたポアロは、ヘイスティングズの言葉をヒントに、事件の黒幕を明らかにしてみせる―。

 「名探偵ポワロ」の第31話(第4シーズン第1話)で103分の長尺版(第4シーズン全3話はいずれも長尺版)。本国放映は1992年1月5日/本邦初放映は1992年10月2日(NHK-BS2)。原作はクリスティー文庫『ABC殺人事件』(堀内静子:訳)など。

「名探偵ポワロ(第31話)ABC殺人事件」08.jpg 真犯人の手口は、本当のターゲットに加えて関係ない人物を巻き込み操作を撹乱するもので、東野圭吾の小説など今でもよく使われる手法ですが、犠牲者に共通点があるという先入観を逆手にとったやり方です。映像化作品の場合、見せ方が難しくなる場合もあるところ、本作はうまく撮っていたように思われ、ただし、原作の良さに負うところはやはり大きいかと思います(4番目の殺人が微妙。映画館で殺害されるのは原作通りだが)。

「名探偵ポワロ(第31話)ABC殺人事件」09.jpg 原作のストーリーが複雑であるためか、原作の主要な登場人物のうち何人かを省いていて、原作では2か月半以上かけて行われる4つの殺人が1カ月に満たない期間に集約しているほか、すべての現場に同行していたクローム警部が出て来ず(ちらっと出てきた?)、代わりにジャップ警部がすべての現場に同行していたり、さらには、カーマイクル・クラークの弟フランクリンがカーマイクルの手紙をポアロに見せるシーンが割愛されていたりしますが(原作ではこれがポワロの事件解決のヒントの1つになる)、それでも概ね原作通りだったのではないでしょうか(アレクサンダー・ボナパㇽト・カストの人格については戦争PTSDのような解釈だったが)。

「名探偵ポワロ(第31話)ABC殺人事件」03.jpg 新シーズンスタートの第1作ということもあってか、、汽車による移動シーンや地方の保養地のシーンなど旅情溢れる場面が多く、競馬場のダービーシーンなど大掛かりなロケシーンがあって愉しめました。さらには、ヘイスティン「名探偵ポワロ(第31話)ABC殺人事件」05.jpgグズが中南米旅行の土産に持ち帰った、自らが射ったというカイマン(ワニ)の剥製〈セドリック〉を巡るポワロとヘイスティングズの愉快なやり取りもあったりして、いつもながら、小粒のユーモアも効いていました。シリーズの中でも佳作であると思います。

「名探偵ポワロ(第31話)ABC殺人事件」07.jpg 「名探偵ポワロ(第31話)/ABC殺人事件」●原題:AGATHA CHRISTIE'S POIROTⅣ:THE ABC MURDERS●制作国:イギリス●本国放映:1992/01/05●監督:アンドリュー・グリーブ●脚本:クライブ・エクストン●時間:103分●出演:デビッド・スーシェ(ポアロ)/ヒュー・フレイザー(ヘイスティングス大尉)/フィリップ・ジャクソン(ジャップ警部)/ドナルド・サンプター(アレクサンダー・ボナパㇽト・カスト)/ドナルド・ダグラス(フランクリン・クラーク)●日本放映:1992/10/02●放映局:NHK-BS2(評価:★★★★)


■AXNミステリー「あなたが選ぶ!名探偵ポワロ(長編全34話)ベストエピソード」(2016年)
1位  シーズン12 第3話 「オリエント急行の殺人」(第64話)
2位  シーズン4 第1話 「ABC殺人事件」(第31話)
3位  シーズン13 第5話 「カーテン~ポワロ最後の事件」(第70話)

4位  シーズン9 第4話 「ナイルに死す」(第52話)
5位  シーズン6 第1話 「ポワロのクリスマス」 (第42話)
6位  シーズン9 第2話 「五匹の子豚」(第50話)
7位  シーズン6 第4話 「もの言えぬ証人」(第45話)
8位  シーズン3 第1話 「スタイルズ荘の怪事件」(第20話)
9位  シーズン8 第1話 「白昼の悪魔」(第48話)
10位  シーズン7 第1話 「アクロイド殺人事件」(第46話)
10位  シーズン8 第2話 「メソポタミア殺人事件」(第49話)

12位  シーズン9 第2話 「杉の柩」(第51話)
13位  シーズン10 第3話 「葬儀を終えて」(第56話)
13位  シーズン2 第1話 「エンドハウスの怪事件」(第11話)
15位  シーズン6 第3話 「ゴルフ場殺人事件」(第44話)
16位  シーズン6 第2話 「ヒッコリー・ロードの殺人」(第43話)
17位  シーズン4 第2話 「雲をつかむ死」(第32話)
18位  シーズン11 第4話 「死との約束」 (第61話)
19位  シーズン12 第2話 「ハロウィーン・パーティー」(第63話)
20位  シーズン11 第2話 「鳩のなかの猫」(第59話)
20位  シーズン4 第3話 「愛国殺人」(第33話)

22位  シーズン13 第2話 「ビッグ・フォー」(第67話) 
23位  シーズン10 第2話 「ひらいたトランプ」 (第55話)
23位  シーズン7 第2話 「エッジウェア卿の死」(第47話)
25位  シーズン13 第4話 「ヘラクレスの難業」(第69話)
26位  シーズン10 第1話 「青列車の秘密」(第54話)
26位  シーズン11 第3話 「第三の女」(第60話)
28位  シーズン9 第4話 「ホロー荘の殺人」 (第53話)
29位  シーズン13 第1話 「象は忘れない」 (第66話)
30位  シーズン12 第1話 「三幕の殺人」 (第62話)

31位  シーズン11 第1話 「マギンティ夫人は死んだ」(第58話)
31位  シーズン12 第4話 「複数の時計」(第65話)
33位  シーズン10 第4話 「満潮に乗って」 (第57話)
34位  シーズン13 第3話 「死者のあやまち」(第68話)

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ロングカットにモザイク的に組み込まれた細かいエピソード。喧噪と混沌と狂気の連続。

フルスタリョフ、車を!.jpg フルスタリョフ、車を!1.jpg フルスタリョフ、車を!2.jpg
フルスタリョフ、車を! [DVD]
「フルスタリョフ」1.jpg 1953年、スターリン政権下ソビエトでは不穏な空気が立ちこめていた。モスクワの大病院の脳外科医にして赤軍の将軍でもあるクレンスキー(ユーリー・アレクセーヴィチ・ツリロ)は、病院と家庭と、愛人のところを行き来する毎日を送っ「フルスタリョフ」2.jpgている。そんな中、スターリンの指示の元「フルスタリョフ」3.jpg、KGBはユダヤ人医師の迫害計画である「医師団陰謀事件」を発動する。事態を察したクレンスキーは逃亡を試みるが、すぐに捕らえられ強制収容所に送られ拷問を受ける。しかしそこにはもう一つの陰謀が動いていた。クレンスキーは突然釈放され、山奥の別荘に連れて行かれる。そこにいたのは重い病にふせっているスターリンその人であった。すでに手遅れであることを悟ったクレンスキーは、スターリンに最後の放屁をさせる。家に戻ったクレンスキーは家族の前から姿を消す。10年後、マフィアとゲルマン監督.jpgなってたくましく生き抜くクレンスキーの姿があった―。

 1998年に製作されたロシア・フランス合作映画(日本公開は2000年)で、ロシアの監督アレクセイ・ゲルマンの長編4作目。スターリン体制下の厳しい環境を生き抜いた人物の数奇な運命の物語。ロングカットの中に細かいエピソードがモザイクのように組み込まれた、喧噪と混沌と狂気の連続から成る映画でした。

アレクセイ・ゲルマン監督(1938-2013)

「フルスタリョフ」dvd裏.jpgマーティン・スコセッシ2.jpg 1999年のカンヌ国際映画祭正式出品作で、審査委員を務めたマーティン・スコセッシ監督が、「わけがわからないがすごい」と言ったというのも頷けます(なのに無冠で終ったのは、スコセッシ監督曰く「困ったことになにがなんだかさっぱり理解できなかったのだ。だから他の審査員を説得できなくて」とのこと)。

 説明的に作られてはいないため、先にストーリーの概要を大まかに把握しておいてから観るというのも一つの方法かもしれません。でも、どういうシチュエーションなのかよくわからないまま一度観てみて、わけのわからないまま、そのパワーに圧倒されるだけ圧倒されたうえで、もう一度(今度は少し予習して)ゆっくり冷静に観てみるのもいいかもしれません(DVD化されている)。

 突然画面の奥に登場し、ぶつくさ世迷い言をつぶやく老婦人。映画「シャイニング」でもオマージュの見られた、ダイアン・アーバスの双子の写真のようなユダヤ人姉妹(映画の語り手の幼年時代の姿らしい少年のズボンを無理やりおろして猥褻な悪戯をする)。ベレー帽をかぶり、いつも傘を手にして、何かを嗅ぎまわっている北欧人記者(ユーリ・ヤルヴェット)。室内にひしめく登場人物たちは皆、自分勝手に動き回り、画面は絶えず混沌とした様相を呈しています。

「フルスタリョフ」冒頭.jpg 映画はこうした混沌のまま進んでいくため、時に一体今どこにいるのかさえ分からなくなります。部屋を横切ってゆく人物をカメラで背中から追いかけていく、或いはいつも移動する車の前にカメラを置くといった手法で撮影された画面が、こうした迷宮めいた空間を作り出すことに一役買っています。

 時間の感覚も曖昧で、映画は第一部と第二部とに分かれていますが、その間に実際には一日(あるいは数日?)しか経っていないはずなのに、大変な時間が流れたように感じられます。一方で、エピローグで、冒頭の場面で車を覗いただけで頭を殴られて逮捕されたボイラーマンが、長い投獄状態からやっと釈放されたときのセリフから、10年の年月が流れたことが何とか分かるといった具合です。

「フルスタリョフ」ラスト.jpg 彼は列車の中で再び頭を殴られ、「どうして俺ばっかりこんな目に遭うんだ」とつぶやくのですが、その列車には主人公の将軍&脳外科医クレンスキーが、偶然乗り合わせていて、つるつる頭にウォッカを満たしたコップを載せ、両手に大きなスプリングを持ってバランスを崩さないでいる賭けゲームをしています。列車がやがてカーブにさしかかろうとする瞬間、「くだらねえ」というユーリーの声が聞こえてきたところで、映画は終わっています。家族で田舎にでも疎開するのかなと思ったら、解説を読んだら、今やマフィアのボスとなっていたとのこと。彼は、家族を捨ててまったく別の人生を生きることにしたのかあと、解説を読んで分かった次第です(笑)。

 でも、普通の映画では味わえない、稀有な映像視覚体験でした。冒頭シーンから、クレンスキーがスターリンの最期の診察をするに至るまでの、もう少し詳しいあらすじは以下の通り。"予習"用です。

「フルスタリョフ」少年1.jpg 1953年2月の夜、あるボイラーマンが路上駐車していた車から現れた男たちによって、公園の焼却装置に閉じ込められる。男たちは黙っていないと舌を抜くぞと彼を脅すと、再び車の中に戻る。路上で人が撥ねられ、現場に居合わせた女医のマルメラードワは被害者の男を介抱する。クレンスキー少将の息子リョーシカ(ミハイル・デメンティエフ)の従姉はユダヤ人だが、父が軍に根回しをしていたおかげで、当局の追及を受け「フルスタリョフ」少年2.jpgることなく暮らすことができた。公園で遊ぶ子供たちの中に、赤旗の新聞記事のことをふれて回る少年がいた。少年のことを鬱陶しく思った者たちが少年に暴力を振るう。そこにクレンスキーが割って入り、騒動を納める。自分が院長を務める精神病院にクレンスキーが出勤すると、自分のもとに持ち込まれる様々な問題を次々に問題を片付け、クレンスキーは地下に向かう。そこには彼と同じ顔をして、自分こそが本物のクレンスキーだと訴える男がいた。クレンスキーの家ではリョーシカの成績の悪さが問題視されていた。母親(ニーナ・ルスラノヴァ)に叱られるリョーシカだが、クレンスキーは学業が駄目なら職業学校に進学すればいいと励ます。そこに、ストックホルムにいるクレンスキーの妹から言伝を預かってきたと言う男が来る。しかし、クレンスキーはストックホルムに妹などいないと男を追い出しす。男は秘密警察だった。マルメラードワと患者の男が夜道を歩いていると、車に乗ったマルメラードワの夫、ドミトリィ・カラマーゾフがやってきて、患者の男から旅券を没収するとマルメラードワを連れて行ってしまう。患者は旅券を取り戻そうとするが、返り討ちに遭う。クレンスキーの家に医者や軍人が招かれ、パーティーが催されるが、妻はまるで動物園だと悪態をつく。パーティーを抜け出したクレンスキーは真夜中の病院にやってくる。隠し通路から病院の裏口を出て、門の上で暫し物思いに耽った後、失踪したと思わせる痕跡を残して病院を後にする。そこにトラックに乗った大勢の男たちが病院に押し寄せる。クレンスキーは愛人ワルワーラの家を訪ねて泊めてくれと頼む。クレンスキーの家に秘密警察がやって来て、リョーシカは怯え、捜査員は父親が戻ってきたら電話をしろと言う。結局、クレンスキーは秘密警察に囚われ、ユダヤ人と共に強制収容所へ連行される。そこでクレンスキーは、彼のユダヤ人保護を快く思っていない同胞や、自分たちを虐げてきたロシア人のことを恨むユダヤ人から暴行を受けて苦痛に喘ぐが、秘密警察の捜査員は彼を嘲笑う。護送車両が休憩のために山中で停車していると、そこに軍の上層部の車が通りがかる。軍の上層部の男たちは秘密警察の捜査員を捕え、クレンスキーを解放する。彼は自分そっくりの男が自分に成り変わろうとしていたことを知る。軍の上層部の者たちは秘密警察が仕掛けていった彼の財産の封印を解き、彼を復職させる。復職したクレンスキーは病床に伏したある人物の診察を命じられる。クレンスキーにその人物スターリンのことを「あなたのお父上ですか」と聞かれた秘密警察長官ベリアは、最初「馬鹿な」と答えたあとで、思い直したように、「そうだ、父だ」と言い直す―。

「フルスタリョフ」スターリン.jpg

 因みにこの映画のタイトルのフルスタリョフというのはスターリンお付きのドライバーの名前で、クレンスキーから、危篤状態のスターリンはもう手の施しようがないと知らされたベリアによって家に戻される際に出るセリフです。

●アレクセイ・ゲルマン監督作 「道中の点検」(1971年・ソ連/97分・モノクロ)/「戦争のない20日間」1976年・ソ連/102分・モノクロ)
ゲルマン監督作.jpg
「わが友イワン・ラプシン」(1984年・ソ連/98分・モノクロ(パートカラー)/「神々のたそがれ」(2013年・ロシア/177分・/モノクロ)

「フルスタリョフ、車を!」●原題:Хрусталёв, машину!●制作年:1999年●制作国:ロシア・フランス●監督:アレクセイ・ゲルマン●脚本:アレクセイ・ゲルマン/スヴェトラーナ・カルマリータ●撮影:ウラジーミル・イリネ●音楽:イリーナ・ゴロホフスカヤ●時間:142分●出演:ユーリー・アレクセーヴィチ・ツリロ/ニーナ・ルスラノヴァ/ ミハイル・デメンティエフ/ ユーリ・ヤルヴェット●日本公開:2000/06●配給:パンドラ●最初に観た場所:北千住・シネマブルースタジオ(21-10-12)(評価:★★★★)

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あの監督がこんな風刺の効いた変わったコメディも撮っていたのかという感じ。

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【映画チラシ】ベレジーナ

「ベレジーナ」 1.jpg スイスの経済弁護士ヴァルト博士(ウルリヒ・ノエテン)とファッション・デザイナーのシャルロッテ・デー(ジェラルディン・チャップリン)は権力にすべての生きがいを感じる人種で、金融界でも政界でもまともに相手にされてはいなかった。しかし、シャルロッテが抱えるコールガール、ロシア人のイリーナ(エレナ・パノーヴァ)は、権力者たちの寵愛を集めていた。次第に、博士とシャルロッテはそんな彼女に期待と私財をかけ、高級マンションを買い与えるや、彼女に語りかける男たちの機密のやりとりを盗聴しようとする。だが、イリーナは決して機密のやりとりをしようとしない。苛立ったヴァルト博士とシャルロッテは、イリーナに、常連客たちのスパイをするかロシアへ帰るかという最後通牒をつきつけた―。

「ベレジーナ」 4.jpg 「ヘカテ」('83年/仏・スイス)を撮ったスイスの映画作家ダニエル・シュミット(1941-2006)の1999年公開作(日本公開は2001年)。ドイツ語劇で、原題は Beresina oder Die letzten Tage der Schweiz 、ビデオタイトルはこれに近い「ベレジーナ スイス最後の日」)。2016年にユーロスペース(シネマヴェーラ渋谷)の《開館10周年記念特集II シネマヴェーラ渋谷と愉快な仲間たち》の【柄本佑セレクション】でリバイバル上映されてましたが、個人的には今回シネマブルースタジオで観ました。

「ベレジーナ」 3.jpg コメディであり政治風刺劇ですが、あのダニエル・シュミットが、こんな風風刺の効いた変わったコメディも撮っていたのかという感じ。政治家、裁判官、警察―そのすべてのトップがみんな利権をむさぼっているという(しかも性的変態ばかり)、まとめて批判の対象になっているところが興味深いです。

 結末を知らないで観た方が面白いかと思いますが、一方で、人物相関がわかりづらく、また、ストーリー展開もカットバックがあったり、別次元のストーリがあったりすると思えば、いきなり急展開に話が進むので、後半は飽きさせなかったけれども、何が何だかという印象も少なからずありました。以下は、ネタバレです。

「ベレジーナ」 2.jpg  やがて国外退去の通知を受け、絶望したイリーナは、睡眠薬を飲み死を待った。その間に彼女は、自分の一番の客であった元陸軍少尉シュトゥルツェネガー(マルティン・ベンラート)の帽子の裏側に書いてあった秘密の電話番号をダイヤルしてしまう。それによって、かつて秘密軍隊コブラ団にいた老人たちがクーデターを起こし、古いコブラ団のヒットリストに載っていたすべての役人たちを殺害していった。そして偶然にもコブラ団の指揮を取ったことになったイリーナは、昏睡状態から目覚めたのち、アルプスの新しい国、ヘルベチア王国の女王の座につくのだった―。

 秘密部隊コブラ団の老人たちが、それぞれコード番号がふられていて、指令を受けてて町内会の連絡網みたいな感じで電話でそれを伝えていくのが面白く、せっかく要人の暗殺に来たのに、ドアの前で律儀に順番待ちしたりしていて可笑しいです。でも彼らは、物語の前半大部分を占める主要登場人物らをテンポよく撃ち殺していき、任務完了、まだ見ぬコード番号0番の指令の発信元を訪ねてみると...。

「べレジーナ」[.jpgエレナ・パノーヴァ演じるイリーナが、あまり状況が掴めておらず、ただスイスの市民権を得たいがために政財界の重鎮達の渡り歩き(顧客ではあるが、ほぼ"お友達"感覚で)、でも他人の秘密を漏らすことはしたくないという無垢な(無知ともいえるが)女性を演じていてハマっています。

「べレジーナ」ジェラルディン.jpg そのエレーナを大物たちにあてがったのが、ジェラルディン・チャップリン演じる(彼女はフランス語、スペイン語だけでなくドイツ語も話すのか)黒い扇子が胡散臭いシャルロッテで、ラストでは今度はロシア娘ならぬいいキューバ娘を見つけたと、依然、権力志向は衰えていないのが、これまたブラック・ユーモアです。

 配給元のユーロスペースによれば、「ベレジーナ」とは、ロシア(現ベラルーシ)の河の名で、1812年ロシア遠征から敗退するナポレオン軍(スイスの傭兵も多数参加)の「ベレジーナの戦い」の舞台となり、スイス・ドイツ語圏ではスイス的英雄主義の代名詞だそうで(この映画でも狂信的な秘密愛国組織「コブラ」の精神として、その歌の一節がクーデター指令の暗号に使われる)、一方で、スイス・フランス語圏で「これはベレジーナだ」と言えば最もひどい災厄を意味する慣用句だそうです。

「べレジーナ」 9.jpg「ベレジーナ」●原題:BERESINA ODER DIE LETZTEN TAGE DER SCHWEIZ●制作年:1999年●制作国:スイス・ドイツ・オーストリア●監督:ダニエル・シュミット●製作:マルセル・ホーン●脚本:マルタン・シュテール●撮影:レナート・ベルタ●音楽:フカール・ヘンギ●時間:108分●出演:エレナ・パノーヴァ/ジェラルディン・チャップリン/マルティン・ベンラート/ウルリヒ・ノエテン/イヴァン・ダルヴァス/マリナ・コンファロン/ステファン・カート/ハンス・ペーター・コーフ/ヨアキム・トマシュウィスキー日本公開:20001/04●配給:ユーロスペース●最初に観た場所:北千住・シネマブルースタジオ(22-08-27)(評価:★★★☆)

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いま一つ入り込めなかったが、4人並んだダンスシーンなどはセンスを感じた。

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焼け石に水 [DVD]」ベルナール・ジロドー/マリック・ジディ

「焼け石に水」1r.jpg 1970年代のドイツ。婚約者がいる20歳の青年フランツ(マリック・ジディ)は、中年男レオポルド(ベルナール・ジロドー)に街で声を掛けられ、婚約者とのデートをすっぽかして彼の「焼け石に水」9r.jpg家に行く。レオポルドの妖しい魅力にとりつかれたフランツはそこにそのまま棲みついてしまう。やがて二人の関係が険悪になり始めた頃、フランツの婚約者の彼女アナ(リュディヴ-ヌ・サニエ)がやって来て、さらには昔レオポルドと7年間同棲していたという元恋人の"彼女" ヴェラ (アンナ・トムソン)が、男性から女性に性転換したと言ってやって来る―。

「焼け石に水」0r.jpgオゾンかんとく.jpg フランソワ・オゾン監督(1967年生まれ)が32歳で発表した2000年公開作。彼が敬愛するライナー・ヴェルナー・ファスビンダー監督が19歳で書いた未発表の戯曲の映画化した、4幕構成の室内劇風の作品です。2001年に日本公開され、キネマ旬報ベストテンで、外国映画の5位。昨年['21年]Bunkamuraル・シネマで20年ぶりに35ミリフィルムでリバイバル上映されました(個人的には今回シネマブルースタジオで観た。同監督の「クリミナル・ラヴァーズ」('99年/仏・日)もやっていたのだが観に行けなかった)。

まぼろし dvd.jpg カトリーヌ・ドヌーヴをはじめとする出演した8人の女優達に対して2002年のベルリン国際映画祭銀熊賞が贈られた「8人の女たち」('02年/仏)に通ずるミュージカル的シーン、「スイミング・プール」('03年/英・仏)に通じるエロティシズム、「ぼくを葬る」('05年/仏)に通じるゲイのモチーフなど、フランソワ・オゾン監督の原点的な作品であるとのことです。個人的には、「まぼろし」('00年/仏)を観て、まったくゲイっぽさを感じなかったのですが、こちらはもろゲイだった(笑)。そのせいではないですが、コメディなんだけれど、ちょっと入り込みにくかった気もします。

「焼け石に水」3r.jpg フランツの婚約者役のリュディヴ-ヌ・サニエは、映画を通してずっと裸かそれに近い下着姿でいて、セクシーと言うよりは健康的という感じ。でも、こんな娘を放っぱらかしにして中年オジンに取り込まれてしまうということは、女性よりも男性によってその孤独を癒されたということであり、フランツ青年はもともともとその素養があったのではないか...。

「焼け石に水」6r.jpg と思ったら、終盤にきて、リュディヴ-ヌ・サニ「焼け石に水」2r.jpgエの演じるアナの方が、ベルナール・ジロドー演じる中年男フランツの性的魅力に目覚めて(調教されて)しまい、この中年男は両刀使いだったわけなのだなあ。アナ、ヴェラとトリプルセックス状態で、これにはフランツ青年は大ショックで(同時に両方の性対象に裏切られたようなものだから)、結局自死の道を選びます。ある意味、「美貌ゆえの悲劇」と言えるかもしれません。

 このように明るい話ではないですが、見た目さほど悲劇的でもなく、むしろ全体のトーンはコメディタッチで、よく分かりませんが、この辺りがこの監督の才気煥発たるところなのでしょう。4人が並んでダンスするシーンなどはいい雰囲気と言うかセンスだと思いました。

HECATE 1982.jpg ベルナール・ジロドーは、ダニエル・シュミット監督の「ヘカテ」('82年/仏・スイス)で、北アフリカにあるフランス植民地(モロッコ?)の外交官で、ローレン・ハットン演じる魔性の美女に耽溺していく主人公を演じていました。今回は職業不詳ですが、何かの顧客業務をやっているみたい(外交官ならむ保険外交員?)。当時、53歳くらいでしょうか。20年前と同様に、性愛の虜になっている男を演じているのがいいです(2010年に63歳で亡くなっているのが残念)。

「ヘカテ」('82年/仏・スイス)ベルナール・ジロドー
 
「焼け石に水」br.jpg「焼け石に水」●原題:GOUTTES D'EAU SUR PIERRES BRULANTES(WATER DROPS ON BURNING ROCKS)●制作年:2000年●制作国:フランス●監督・脚本:フランソワ・オゾン●製作:オリヴィエ・デルボスク/マルク・ミソニエ/アラン・サルド/クリスティーヌ・ゴズラン●撮影:ジャンヌ・ラポワリー●音楽(挿入曲):フランソワーズ・アルディ●原作:ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー●時間:90分●出演:ベルナール・ジロドー/マリック・ジディ/リュディヴィーヌ・サニエ/アンナ・レヴィン●日本公開:2001/07●配給:ユーロスペース●最初に観た場所:北千住・シネマブルースタジオ(22-08-09)(評価:★★★)

Hécate(1982) 1.jpg「ヘカテ」●原題:HECATE●制作年:1982年●制作国:フランス/スイス●監督:ダニエル・シュミット●製作:ベルント・アイヒンガー●脚本:ダニエル・シュミット/パスカル・ジャルダン●撮影:レナート・ベルタ●音楽:カルロス・ダレッシオ●原六本木駅付近.jpg俳優座劇場.jpg作:ポール・モラン「ヘカテとその犬たち」●時間:108分●出演:ベルナール・ジロドー/ローレン・ハットン/ジャン・ブイーズ/ジャン=ピエール・カルフォン/ジュリエット・ブラシュ●日本公開:1983/08●配給:ヘラルド・エース●最初に観た場所:六本木・俳優座シネマテン(83-10-17)●2回目:自由が丘・自由劇場(84-09-15)(評価:★★★★)●併映(2回目):「郵便配達は二度ベルを鳴らす」(ボブ・ラフェルソン)
六本木・俳優座シネマテン(六本木・俳優座劇場内) 1981年3月20日オープン。2003年2月1日休映(後半期は「俳優座トーキーナイト」として不定期上映)。

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坂東玉三郎に独自のアプローチで迫ったドキュメンタリー。彼の語る演劇論が興味深い。

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坂東玉三郎「書かれた顔」 [VHS]

「書かれた顔」p1.jpg 熊本・八千代座。坂東玉三郎が「鷺娘」を舞う。続いて「大蛇」を踊るため舞台に向かう玉三郎。その姿を背広姿の玉三郎がみつめている。舞台が終わり、化粧を落とす玉三郎。四国・内子座。まず御祓いが粛々と行われ、続いて玉三郎は楽屋で化粧をし、《女》へと変身してゆく。大阪のホテルで女形が女を演ずることについて語る玉三郎。そして八千代座で坂東彌十郎の大伴黒主を相手に「積恋雪関扉」の黒染を演じる。カメラは玉三郎の早変わりや、鉞(まさかり)の陰で関守から黒主に変身する彌十郎、それに二人の演技を後見する黒衣の動きを丹念に捉えていく。玉三郎は希有の天才女優として杉村春子や武原はんの名を挙げる。杉村「書かれた顔」p2.jpgと武原がそれぞれインタビューに答え、《女》を演ずること、舞うことの精神を語る。大野一雄が東京湾の水の上を軽やかに舞う。蔦清小松朝じが三味線を手に常磐津の一節を聞かせる。女と黄昏について語る玉三郎。劇「黄昏芸者情話」。夜の東京湾を走る屋形船で年増の芸者(玉三郎)と若い男二人(宍戸開、永澤俊矢)が花札に興じている。やがて眼鏡をかけた青年(宍戸)と芸者は甲板に出て、接吻を交わす。その様子を見たもう一人の男(永澤)が青年に掴みかかり、芸者が慌てて間に割って入る。黄昏どきの芸者の家に電話がかかり、男からの電話に芸者は艶っぽく身悶えする。夜、明治風のたたずまいの街を芸者が歩き、青年が彼女の姿を求めて走る。再び「鷺娘」。そして大阪の街を行くリムジンに乗った玉三郎の姿が挿入される。「鷺娘」はクライマックスを迎え、玉三郎が大きく後ろにのけぞる―。

「書かれた顔」p3.jpg 「ヘカテ」('82年/仏・スイス)などで知られるスイスの映画作家ダニエル・シュミット(1941-2006)が、人気女形・坂東玉三郎に独自のアプローチで迫っ「書かれた顔」p6.jpgた、1995年製作(日本公開は1996年3月)のドキュメンタリーで、玉三郎の舞台のほか、彼が年増の芸者に扮した「黄昏芸者情話」というフィクションパート(劇部分)が組み込まれていますが、ダニエル・シュミットはこの映画全体がドキュメンタリーではなくフィクシィンであると言っていたそうです(因みにノー・ナレーションである)。

 玉三郎が女形を演じるのを、「今宵かぎりは...」('72年)以来シュミットの全作品のカメラを手掛けるレナート・ベルタが美しく撮っています。玉三郎は当時46歳くらいかと思われますが、素の姿もすごく若く見えます。その玉三郎が語る演劇論も興味深く、玉三郎は女性の気持ちになって女形を演じるのではなく、男性から見た女性の美しさを集約して演じているのだというようなことを述べています。

「書かれた顔」p4s.jpg 自らの演劇論を語る際に尊敬する杉村春子(1906-1997/91歳没)の名を挙げていますが、その杉村春子のインタビューも挿入されていて、自分のハンディを踏まえて演じているという点で、玉三郎が語る内容と重なるのが興味深かったです(杉村春子のハンディは、当初舞台から映画界に行った女優は美人ばかりだったのに自分はそうではなかったこと、玉三郎のハンディは女形にしては身長がありすぎること)。

「書かれた顔」 9ト.gif.jpg 杉村春子と同じく玉三郎が尊敬する人物として2人目に登場するのは、88歳の舞踏家・大野一雄(1906-2010/103歳没)で、夜の晴海埠頭での舞踏を見せます(そう言えば晴海埠頭は今年['22年]2月に閉鎖になったばかりだなあ)。3人目は、芸者か「書かれた顔」 8ト.gif.jpgら日本舞踊の舞踏家に転じた武原はん(1903-1998/95歳没)で、92歳にして日舞を踊ってみせます。さらに4人目には、当時で現役最高齢102歳になる芸者・蔦清小松朝じ(1894-1996/102歳没)が三味線の芸を披露します。いずれも貴重な映像であるとともに、この映画の流れや雰囲気に沿った挿入だったように思います。

「書かれた顔」p5g.jpg むしろ、映画全体がフィクションであるならば劇中劇とも言える、玉三郎と宍戸開、永澤俊矢による「黄昏芸者情話」のパートの方が、全体を通して緊張感がある中で、ここだけ少し浮いていた印象もありました(宍戸開は、玉三郎の監督・主演作品「天守物語」('95年)で共演したばかりだった)。これは、宍戸開らの若さのせいもあるのでしょうか?(玉三郎はいつも年齢不詳だが)

 ただ、ドキュメンタリー部分がノー・ナレーションであるのと同様、劇部分もセリフなしで進行し(玉三郎が電話を受けるシーンだけ、「あっ」と一言発するぐらい)、ちょっと「今宵かぎりは...」を想起する部分もありました。でもこちらの方が分かりやすいです。「今宵かぎりは...」は最初観た時よく分からなかったので...(後で、主人と召使の"入れ替えパーティ"だと知った)。

坂東彌十郎 鎌倉殿の13人1.jpg坂東彌十郎 鎌倉殿の13人2.jpg その他に、「積恋雪関扉」で坂東彌十郎と共演している映像があり、坂東彌十郎と言えば今年['22年]のNHKの大河ドラマ「鎌倉殿の13人」で北条時政を演じているなあと。当時で40歳くらいでしょうか。背が高いので、女形にしては高身長の玉三郎と、見た目ですが、相性がいいように思います。

坂東彌十郎 in「鎌倉殿の13人」(2022)with 小栗旬(北条時政・義時)

坂東やじゅうろう.jpg 坂東彌十郎は玉三郎の「夕鶴」('97年)の演出も手掛け、その後、同世代の十八世中村勘三郎(1955-2012/57歳没)による「麒麟がくる」玉三郎.jpg「平成中村座」に参加。'03には中村座ニューヨーク公演、'14年には長男と自主公演「やごの会」を立ち上げ、'16年にはフランス、スイス、スペインの3カ国をめぐる欧州公演も行っています。大河ドラマでは、武骨で、自分の一族のことしか考えていない"田舎の侍"って感じの北条義政(これ、本人が最初に脚本を読んだ時に受けた印象だそうだ)を演じていますが、実は英語、フランス語を話すインテリです。海外公演に行ったのは、若くしてニューヨーク・メトロポリタン歌劇場に招聘された玉三郎の影響もあるのでは(そう言えば、玉三郎は坂東彌十郎の2年前、'20年のNHK大河ドラマ「麒麟がくる」に正親町天皇役で出演していた)。

坂東玉三郎 in「麒麟がくる」(2020)(正親町天皇)
  
「書かれた顔」 vhsト.gif.jpg「書かれた顔」●原題:THE WRITTEN FACE●制作年:1995年●制作国:日本・スイス●監督:ダニエル・シュミット●製作:堀越謙三/マルセル・ホーン●撮影:レナート・ベルタ●時間:89分●出演:坂東玉三郎(5代目)/杉村春子/大野一雄/武原はん/蔦清小松朝じ/坂東彌十郎/宍戸開/永澤俊矢●日本公開:1996/03●配給:ユーロスペース●最初に観た場所:北千住・シネマブルースタジオ(22-08-23)(評価:★★★★)

「●TV-M (コナン・ドイル原作)」の インデックッスへ Prev|NEXT⇒ 【1933】「シャーロック・ホームズ/バスカヴィル家の獣犬 
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TVシーリーズの中でベストエピソードとする人も多い作品。

「ソア橋のなぞ」d1.jpg「ソア橋のなぞ」d2.jpg 「ソア橋のなぞ」1.jpg
シャーロック・ホームズの冒険 完全版 Vol.16 [DVD]」「シャーロック・ホームズの冒険 レディー・フランシスの失踪/ソア橋のなぞ(英日対訳ブック 特典DVD付き)

「ソア橋のまぞ」8.jpg 金鉱王として有名な大富豪ギブソン(ダニエル・マッセイ)の妻マリア(セリア・グレゴリー)が射殺体となってソア橋の上で発見され、当家の家庭教師でグレース(キャサリン・ラッセル)という女性が逮捕される。夫人は頭を撃たれており、凶器と思われる銃がグレースの部屋から見つかったのだ。だがギブソンは彼女の無実を主張。証拠品やアリバイから、嫉妬を買ったダンバー嬢がマリアと揉み合っているうちの悲劇とも考えられたが、本人はそれをも否認。一方、ギブスンが潔白を主張する理由は、彼が好意を示した際に慈善に動くよう諭されたダンバー嬢の人柄だという。絞首刑の危機が迫るグレースを救うため、ホームズ(ジェレミー・ブレット)は捜査に乗り出す―。 

 英国グラナダTV(ITV)製作、ジェレミー・ブレット(Jeremy Brett、1933-1995)主演の「シャーロック・ホームズの冒険」(1984~1994、全41話)の第28話で、本国では1991年2月28日に放映、日本では第29話として1991年8月28日に放送されました。アーサー・コナン・ドイルの原作は、1922年に発表され、1927年発行の第5短編集『シャーロック・ホームズの事件簿』(The Case-Book of Sherlock Holmes) に収録されています(原題:he Problem of Thor Bridge)。

 ストーリーはおおよそ原作通りですが、ギブソンがベーカー街のアパートに戻ってしまい事件の事情を話さないことが大きな違いです(ギブスンは馬車ではなく運転手付きのT型フォードを移動手段として用いている)。結局、ギブソンがホームズに事情を話したのは自身の屋敷の敷地内「ソア橋のなぞ」あ.jpgで、なぜかアーチェリーをしながらでした。このアーチェリーの場面(ホームズも弓を引く)は原作にはありません。ただ、ギブスンがホームズに依頼しておきながら、捜査に非協力的なのは原作と同じです(家庭教師を愛してしまったことへの衒いがあるのか)。

 トリックは分かってみれば単純なのですが、マリアが自らの命を絶たってまでもダンバー嬢に報復しようしたのは、彼女もまた夫を愛していたからであり、これを行き過ぎた愛情と呼ぶべきか、それとも、夫の愛を失った女性の悲劇と見るべきか、何れにせよ彼女の激情的な気質が原因です(だからこそ夫の心が離れていったのだと思うが)。

 こうした哀しい人間ドラマがバックボーンにあり、トリックも単純とは言えまさか自殺とは考えつかないため、TVシーリーズの中でベストエピソードとする人も多い作品です(野外ロケが多く、イギリスの田舎の美しさを満喫できるのもいい)。一応、ギブスンは嫌疑の晴れたグレースと結ばれることになる結末ですが、手放しでハッピーエンドと喜んでもおられないのでは。

 因みに、ここからはネタばれになりますが、凶器のピストルに紐で重りを結びつけ、その重りでピストルを引っ張ることで現場から凶器を移動させ隠すことにより、自殺を他殺に見せかけるというこの短編のトリックには、モデルとなった実際の事件があり、それは、「ヨーロッパにおける犯罪学の創始者」といわれるハンス・グロスの著書に記されている事件だそうです。

 この実際の事件は、ある早朝にドイツ人の穀物商が、橋の上で頭をピストルで撃たれ死亡しているのが発見されたことに始まり、凶器のピストルは現場に見当たらず、当初は強盗による殺人事件と考えられ、付近にいた浮浪者が一人、容疑者として拘束されました。しかし、予審判事が死体の側の欄干に新しい不審な傷があるのを発見したことから、橋の下の水中を浚ってみることになり、その結果、水中から紐で結ばれたピストルと石が引き上げられました。鑑定の結果、穀物商の頭部に残されていた弾丸はこのピストルで撃ったものだと確認され、最終的には、困窮していた穀物商が高額の保険金を目当てに自殺したのだと結論づけられたとのことです。

 多分、コナン・ドイルはこの事件を参考したのだと思いますが、自殺では家族へ保険金が支払われないため、強盗に襲われたように偽装したと考えられる実際の事件を、愛憎の縺れに起因する事件に置き換えたところに巧さを感じます。

「ソア橋のなぞ」s.jpg「シャーロック・ホームズの冒険(第28話)/ソア橋のなぞ」●原題:THE ADVENTURE OF SHERLOCK HOLMES: THE PROBLEM OF THOR BRIDGE●制作年:1991年●制作国:イギリス●本国放映:1991/02/28●監督:マイケル・シンプスン●脚色:ジェレミー・ポール●原作:アーサー・コナン・ドイル●時間:48分●出演:ジェレミー・ブレット/エドワード・ハードウィック/ダニエル・マッセイ/キャサリン・ラッセル/セリア・グレゴリー●日本放映:1991/08/28 (NHK)(評価:★★★★)
 

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フランス的文化・恋愛価値観が垣間見られた「ラ・ブーム」。少女が大人になるのは早い。

「ラ・ブーム」 dvd.jpg デサント・オ・ザンファー3.jpg デサント・オ・ザンファー5.jpg 「007 ワールド・イズ・ノット・イナフ」1999.jpg THE WORLD IS NOT ENOUGH2.jpg
ソフィー・マルソー 「ラ・ブーム」 [DVD]」「ソフィー・マルソー 地獄に堕ちて ヘア無修正版【レンタル落ち】」「007 ワールド・イズ・ノット・イナフ アルティメット・エディション [DVD]

ラ・ブーム マルソー dvd.jpgラ・ブーム マルソー2.jpg 「ブーム」とはパーティーのこと。ブームに誘われることを夢見る13歳のヴィック(ソフィー・マルソー)が、自分の14歳の誕生日ブームを開くまでの物語。リセの新学期(夏のバカンス明け)に始まり、歯科医の父親(クロード・ブラッスール)とイラストレーターである母親(ブリジッド・フォッセー)の別居騒動、ハープ奏者の曾祖母プペット(ドゥニーズ・グレイ)の折々の助言を背景に、ブームで出会ったマチュー(アレクサンドル・スターリング)との恋模様、春休み明けに自身が開く誕生日ブームまでを描く。

「ラ・ブーム」1.jpg『禁じられた遊び』(1952)2.jpg 「ラ・ブーム」('80年/仏)はクロード・ピノトー(1925-2012/87歳没)監督によるフランス映画で、個人的にはこの映画で「禁じられた遊び」('52年/仏)に出ていたブリジッド・フォッセー(1946年生まれ)の大人になった姿と相まみえることができました。「禁じられた遊び」のラストが切ないだけに、何となく良かったというか、ほっとした感じでした。この作品は当時13歳のソフィー・マルソー「ラ・ブーム ブリジット・フォッセー」.jpg(1966年生まれ)のデビュー作であり(日本で言えば"中一"だが高校生くらいに見えたりもする)、ブリジッド・フォッセーはソフィー・マルソー演じる思春期の娘をも持つ母親役。個人的にはどうってことない映画でしたが、ヨーロッパ各国や日本を含むアジアでヒット作となりました。

LA BOUM 1980 ed.jpg 娘の恋愛だけでなく、親夫婦の倦怠期とそこからの脱脚を襟川クロ.jpgも描いているところがフランス映画らしく、改めて観ると、フランス的文化・恋愛価値観が垣間見られた作品だったように思います。映画パーソナリティの襟川クロ(1950年生まれ)氏が「おもちゃ箱的青春ムービー。(中略)ごく普通の少女達が、普通の恋をして、またひとつ大人になるのでありました、とりまく大人は大人でイロイロあり、ひとつ年をとりましたとさ。といった、よくあるパターンではありますが、しかし、その味つけがなかなかのもの」と評価したほか、映画評論ラ・ブーム 1982a20.jpg家の小藤田千栄子(1939-2018/79歳没)が、「何を着て行こうかと、あれこれ迷う若いヒロインの、カット重ねによるファッションの見せ方は、こちらも心がはずむ」「(ヒロインの曾祖母が)いかにもフランスらしい人生の練達者に見える。この人が、影に日向に、若いヒロインの先導者となるのである。この豊かさは、他の国の映画では、ちょっと見あたらない」「両親が、娘の初めてのブームの、送りむかえをするところなど、気の使い方がしのばれて、描写はユーモラスにも細かい。別居から、離婚寸前までいく(中略)親のいざこざに遭遇する、現代の子供という、世界共通のテーマを提示してくる」と褒めています。ソフィー・マルソー自身は後年、「とりたててどうということもないリセエンヌの淡い初恋物語だったり、友情物語だったり。社会現象をともなったあのヒットぶりは、一体何だったのか」と半自伝的小説『うそをつく女』(2000年/草思社)の中で振り返っていますが、個人的には、映画がヒットしたベースには、ブリジッド・フォッセーやその夫役を演じたクロード・ブラッスール(1936-2020/84歳没)の演技力があったように思います。

「スクリーン 」'83(昭和58)年10月号表紙/'84(昭和59)年7月号付録
sukur-n.jpg この映画は高田馬場パール座で観て、併映がフィービー・ケイツ(1963年生まれ)の19歳の時の「パラダイス」.jpgデビュー作である「パラダイス」('82年/米)(公開時のタイトルは「フィービー・ケイツのパラダイス」でしたが、こちらは当時のメモを見ると「フィービー・ケイツのアイドル映画。中身がない」(評価★☆)とだけありました(笑)。フィービー・ケイツとソフィー・マルソーは当時、米仏2大アイドルだったのかもしれません。米国にはあと1人、二人「プリティ・ベイビー」.jpgと同年代のブルック・シールズ(1963年生まれ)がいましたが、ルイ・マル監督の「プリティ・ベイビー」('78年/米)も観ました(これも高田馬場パール座で、併映はダイアン・レイン主演の「リトル・ロマンス」('79年/米))。ニューオリンズの娼館が舞台のこの作品に、ルイ・マル監督が渡米して自ら発掘した彼女を起用したもので、ブルック・シールズは11歳で娼婦(12歳)を演じてセンセーションを巻き起こしましたが、ルイ・マル作品としてはイマイチだったかも(評価★★★)。フィービー・ケイツについては「初体験/リッジモント・ハイ」('82年/米)(評価★★☆)や「グレムリン」('84年/米)(評価★★★)も観ました。

フィービー・ケイツ/ソフィー・マルソー/ブルック・シールズ
アイドル3人.jpg 結構、アイドル映画を観ていたのだなあと今になって思います。「プリティ・ベイビー」はブルック・シールズのアイドル映画ではありませんが(彼女の出たアイドル映画と言えば17歳の時の「青い珊瑚礁」('80年/米)あたりか)、彼女を一気にアイドルに押し上げた映画でしょう。フィービー・ケイツとソフィー・マルソーを比べると、米国型アイドルとフランス型アイドルとではやはり違うなあと思わされます(映画雑誌「スクリーン」だと、ソフィー・マルソーが表紙向きで、フィービー・ケイツがグラビア向きと言ったところか)。フランス人監督のルイ・マルが見出したブルック・シールズはどちらか。天皇徳仁(今上天皇)が皇太子時代、日本人では柏原芳恵、外国人ではブルック・シールズの熱烈なファンであったとされていましたが、プリンストン大学を首席で卒業するような才女でした。

『デサント・オ・ザンファー 地獄に堕ちて』★.jpgデサント・オ・ザンファー2.jpg 「ラ・ブーム」で父親と娘の役だったクロード・ブラッスールとソフィー・マルソーが、この作品の6年後、フランシス・ジロー監督の「デサント・オ・ザンファー 地獄に堕ちて」('86年/仏)では年齢の離れた夫と妻を演じましたが、これも夫婦の危機を打開しようとする話で、ただし、結構どろっとした話になっています。滞在先のリゾートホテルで殺人事件が起きる犯罪ミステリ仕様ですが、やや猟奇的側面も(原作は『狼は天使の匂い』『ピアニストを撃て』『華麗なる大泥棒』のデイビッド・グーディス)。さらには、「ラ・ブーム」の父親役と裸で激しいラブシーンを演じたりしていることもあり、そうした映画を企画する側も企画する側だが、「みんな父娘相姦みたいな目で私たちを見たがってるのよね」と自分でも承知していながら、こうした作品に簡単に出演してしまうソフィー・マルソーもソフィー・マルソーだとの批判と言うか苦言もあったようです。やはり、「ラ・ブーム」のソフィー・マルソーのイメージを壊されたくないファンがいるのだろうなあ(タイトルが何のことだかよく分からないのが難。ビデオタイトルは「地獄に墜ちて」)。

「007 ワールド・イズ・ノット・イナフ」.jpg さらにその13年後、ソフィー・マルソーはマイケル・アプテッド監督の007シリーズシリーズ第19作「007 ワールド・イズ・ノット・イナフ」('99年/英)(公開時タイトルは「ワールド・イズ・ノット・イナフ」)でボンドガールとなり、当時で32歳ぐらいでしょうか、役どころは、ピアース・ブロスナン演じるジェームズ・ボンドを翻弄する悪役エレクトラ・キングで、結構ボンドと微妙な関係になりながらも、やがて本性を現しサディスティックにボンドを苛め倒していましたが(やや変態性欲気味)、詰まるところ悪役なのでやはり最期は...。彼女は、1996年に、半自伝的小説『うそをつく女』を刊行し、作品は「女性のアイデンティティの探求」と評され、フランスでは大きくとりあげられたとのことですが、こうした有名人女優がボンドガールになるのは当時としては珍しかったのではないでしょうか。その後、2002年に、長編映画監督としてのデビュー作「聞かせてよ、愛の言葉を」('01年)でモントリオール世界映画祭の最優秀監督賞を受賞するなどの活躍を遂げています。

 「禁じられた遊び」の少女ブリジッド・フォッセーがソフィー・マルソーの母親役になり、そのソフィー・マルソーがボンドガールに。そして今や映画監督として活躍―。子役(少女)が大人になるのは早い。でも、それは他人事ではなく、自分もその間に歳をとったということなのだろうなあ。
 

禁じられた遊び  .jpg禁じられた遊び3.jpg「禁じられた遊び」●原題:JEUX INTERDITS●制作年:1952年●制作国:フランス●監督:ルネ・クレマン●脚本:ジャン・オーランシュ/ピエール・ポスト●撮影:ロバート・ジュリアート●音楽:ナルシソ・イエペス●原作:フランソワ・ボワイエ●時間:86分●出演:ブリジッド・フォッセー/ジョルジュ・プージュリー/スザンヌ・クールタル/リュシアン・ユベール/ロランヌ・バディー/ジャック・マラン●日本公開:1953/09●配給:東和●最初に観た場所:早稲田松竹 (79-03-06)●2回目:高田馬場・ACTミニシアター (83-09-15)(評価:★★★★☆)●併映(1回目):「鉄道員」(ピエトロ・ジェルミ)●併映(2回目):「居酒屋」(ルネ・クレマン)

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「ラ・ブーム」1980.jpg「ラ・ブーム」2.jpg「ラ・ブーム」3.jpg「ラ・ブーム」●原題:LA BOUM●制作年:1980年●制作国:フランス●監督:クロード・ピノトー●製作:アラン・ポワレ●脚本:ダニエル・トンプソン/クロード・ピノトー●撮影:エドモン・セシャン●音楽:ウラジミール・コスマ(主題歌:「愛のファンタジー」歌:リチャード・サンダーソン)●時間:110分●出演:クロード・ブラッスール/ブリジッド・フォッセー/ソフィー・マルソー/ドゥニーズ・グレイ/ アレクサンドル・スターリング/ ベルナール・ジラルドー/シェイラ・オコナー/アレクサンドラ・ゴナン/ジーン=フィリップ・レオナール/リシャール・ボーランジェ/ウラジミール・コスマ●日本公開:1982/03●配給:松竹=富士映画●最初に観た場所:高田馬場パール座(82-09-15)(評価:★★★☆)●併映:「フィービー・ケイツのパラダイス」(スチュワート・ジラード)

「パラダイス」1.gif「パラダイス」2.jpg「パラダイス」●原題:PARADISE●制作年:1982年●制作国:カナダ●監督・脚本:スチュアート・ギラード●製作:ロバート・ラントス/スティーブン・J・ロス●撮影:アダム・グリーンバーグ●音楽:ポール・ホファート●時間:95分●出演:フィービー・ケイ/ウィリー・エイムス/リチャード・カーノック/チュヴィア・タヴィ/ニール・ヴィポンド●日本公開:1982/06●配給:松竹富士(評価:★☆)●併映:「ラ・ブーム」(クロード・ピノトー)

「プリティ・ベビー」1.jpg「プリティ・ベビー」2.jpg「プリティ・ベビー」●原題:PRETTY BABY●制作年:1978年●制作国:アメリカ●監督・製作:ルイ・マル●脚本:ポリー・プラット●撮影:スヴェン・ニクヴィスト●音楽:ジェリー・ウェクスラー●時間:110分●出演:ブルック・シールズ/E.J.ベロッ/キース・キャラダイン/スーザン・サランドン/アントニオ・ファーガス/マシュー・アントン/ダイアナ・スカーウィッド/バーバラ・スティール/ドン・フッド●日本公開:1978/10●配給:パラマウント●最初に観た場所:高田馬場パール座(80-01-16)(評価:★★★)●併映:「リトル・ロマンス」(ジョージ・ロイ・ヒル)
        
DESCENTE AUX ENFERS3.jpgデサント・オ・ザンファー4.jpg「デサント・オ・ザンファー 地獄に墜ちて」●原題:DESCENTE AUX ENFERS●制作年:1986年●制作国:フランス●監督:フランシス・ジロー●製作:アリエル・ゼイトゥン●脚本:フランシス・ジロー/ジャン=ルー・ダバディ●撮影:シャルリー・ヴァン・ダム●音楽:ジョルジュ・ドルリュー●原作:デイビッド・グーディス●時間:88分●出演:ソフィー・マルソー/クロード・ブラッスール /ベッツィ・ブ池袋 文化会館.jpgサンシャイン劇場.jpgレア /ジェラール・リナルディ/シディキ・バカダ/マリー・デュボア/ユスタシュ/イポリット・ジラルド●日本公開:1986/11●配給:TAMT●最初に観た場所:池袋:サンシャイン劇場(88-07-17)(評価:★★☆)

池袋:サンシャイン劇場(1978年10月、池袋文化会館4Fに開館)
         
「007 ソフィー・マルソー2.jpg「007 ワールド・イズ・ノット・イナフ」●原題:THE WORLD IS NOT ENOUGH●制作年:1999年●制作国:イギリス・アメリカ●監督:マイケル・アプテッド●製作:マイケル・G・ウィルソン/バーバラ・ブロッコリ●脚本:ニール・パーヴィス/ロバート・ウェイド●撮影:エイドリアン・ビドル●音楽:デヴィッド・アーノルド(主題歌:「The World is Not Enough」ガービッジ)●原作:イアン・フレミング●時間:127分●出演:ピアース・ブロスナン/ソフィー・マルソー/ロバート・カーライル/デニス・リチャーズ/ロビー・コルトレーン/デスモンド・リュウェリン/マリア・グラツィア・クチノッタ/サマンサ・ボンド/マイケル・キッチン/コリン・サーモン/セレナ・スコット・トーマス/ウルリク・トムセン/ゴールディ/ジョン・セル/クロード=オリビエ・ルドルフ/ジュディ・デンチ●日本公開:2000/02●配給:UIP(評価:★★★☆)
ソフィー・マルソー
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すべてうまくいきますように●原題:TOUT S'EST BIEN PASSÉ (英:EVERYTHING WENT FINE)●制作年: 2021年●制作国:フランス/ベルギー●監督・脚本:フランソワ・オゾン●製「すべてうまくいきますように」1.jpg作:エリッ「すべてうまくいきますように」2021.jpgク・アルトメイヤー/ニコラス・アルトメイヤー●撮影:イシャーム・アラウィエ●音楽:ニコラス・コンタン●原作:エマニュエル・ベルンエイム●時間:113分●出演:ソフィー・マルソー「すべてうまくいきますように」2.jpg/アンドレ・デュソリエ/ジェラルディーヌ・ペラス/シャーロット・ランプリング/エリック・カラヴァカ/ハンナ・シグラ/グレゴリー・ガドゥボワ/ジャック・ノロ/ジュディット・マーレ/ダニエル・メズギッシュ/ナタリー・リシャール●日本公開:2023/02●配給:キノフィルムズ●最初に観た場所:ヒューマントラストシネマ有楽町(シアター2)(23-02-17)(評価:★★★★)

「●あ行外国映画の監督」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒「●か行の外国映画の監督」【3089】 アーヴィン・カーシュナー 「ネバーセイ・ネバーアゲイン
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文芸大作。原作と比べて物足りなさはあるが、美男美女映画として愉しめた。TV版も悪くない。

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赤と黒 [DVD]」ジェラール・フィリップ/ダニエル・ダリュー/アントネッラ・ルアルディ「赤と黒 [DVD]

LE ROUGE ET LE NOIR 8.jpg 大工の息子ではあったが大工仕事よりもラテン語の勉強に身を入れるジュリアン・ソレル(ジェラール・フィリップ)は、シェラン僧院長(アンドレ・ブリュノ)の推薦でヴェリエエルの町長レナール侯爵家の家庭教師となった。レナール夫人(ダニエル・ダリュー)はいつしかジュリアンに愛情を抱くようになったが、ジュリアンとの逢瀬が重なるにつれ次第に後悔し、子供が病気になったとき、夫人は自分の非行を天が罰したのではないかと考えるようになった。世間の口も次第にうるさくなって来たころ、ジュリアンは心を決めてかねての計画通り神学校に向けて出発した。ナポレオン戦争直後のフランスでは、僧侶になることが第一の出世道だったのだ。しかし、神学校でも、ジュリアンは、平民に生れた者の持つ反逆の感情に悩まねばならなかった。ピラール僧院長(アントワーヌ・バルペトレ)はジュリアンの才気を愛していakatokuro.jpgたが、同時に彼の並ばずれて強い野心を心配していた。僧院長がラ・モール侯爵(ジャン・メルキュール)に招かれてパリに行くときジュリアンも同行してラ・モール侯爵の秘書となったが、ここでも上流社会からの侮蔑の目が彼に注がれた。ジュリアンはその復讐に、侯爵令嬢マチルド(アントネラ・ルアルディ)と通じ、侯爵令嬢をわがものと「赤と黒」ジェラール・フィリップ.jpgした優越感に酔った。二人の結婚を認めねばならなくなった侯爵は、レナール夫人にジュリアンの前歴を照会した。夫人は聴問僧に懺悔したと同じく、ジュリアンを非難し、自分との関係を暴露した返事をよこした。これを読んでジュリアンは激怒し、夫人をピストルで傷つけた。法廷に立ったジュリアンはあらゆる弁護を拒絶した。彼はこの犯行が貴族への復讐心から出たものではなく、彼女への恋から発していることを悟った。獄舎に訪れて心から許しを乞う夫人との抱擁に満足しつつ、ジュリアンは絞首台の人となる―。

赤と黒 上下 新潮文庫.jpg 1954年公開のフランス・イタリア映画で、監督はクロード・オータン=ララ、出演はジェラール・フィリップとダニエル・ダリュー、アントネッラ・ルアルディなど(同年のフランス映画批評家協会賞受賞作)。原作は、言わずと知れたスタンダールの『赤と黒』です。1954年に日本で初めて公開されたのは144分の短縮版で、2009年に主演のジェラール・フィリップの没後50周年を記念して、オリジナル(185分)に未公開シーン7分を加えた完全版(192分)が制作されています(2010年DVD発売。劇場で観ると途中10分の休憩が入る)。
赤と黒(上) (新潮文庫)』『赤と黒(下)(新潮文庫)

赤と黒 08.jpg 映画は、分かりやすく作ってあると思いました。「赤と黒」の意味するところなどは極々説明的に撮られていましたが、原作には何ら説明は無かったのではないでしょうか(実際は当時のフランス軍の軍服は青色だったとのことだし)。ただ。やはり原作を読んでいないとストーリー的に理解に苦しむ場面も少なからずあるようにも思いました。それでも、原作をまずまずはなぞっています。原作の2度目の映画化作品で、フランス映画としては初でしたが、こうした堂々とした大作が作られてしまうと、リメイク作品はちょっと作りにくいのかもしれません(1997年にフランスでTVドラマとしてジャン=ダニエル・ヴェラーゲの監督で再び映像化され、NHK(BS)でも放送、後にDVDも発売された)。

LE ROUGE ET LE NOIR 1954 750.jpg ただし、原作を読んから観るとやはり物足りないと言うか、少しだけ軽い感じがします。当時31歳のジェラール・フィリップが主人公ジュリアン・ソレルの18歳から23歳までを演じていることもあって、大工の息子時代の彼は描かれておらず、映画が始まって30分でダニエル・ダリュー演じるレナール夫人との出会いがあるのは、かなり駆け足気味という印象です(映画全体の長さは3時間12分)。因みに、'97年のTVドラマ版では、大工見習時代のジュリアン・ソレルが描かれていて、非常におどおどした自信無さげな様子は、原作に忠実かと思われました(ドラマ版の長さは3時間20分)。

LE ROUGE ET LE NOIR 9.jpg 原作には、ジュリアン・ソレルが最初は自分の出世のためにレナール夫人を自らの手中に収めようとするものの、相手の自分への愛情を得たばかりでなく、次第に彼自身が本気で夫人を愛するようになっていく過程が、心理小説として丹念に描かれているのですが、映画では、そのあたりが駆け足気味だったでしょうか。侯爵令嬢マチルドに対しても同じで、ジュリアン・ソレルはマルチドを最初は自身の出世に利用するつもりだったのですが、次第に...。これが映画だと展開が早すぎて、ジュリアン・ソレルが単に惚れやすい男にも見えなくもないです。それでも、ジェラール・フィリップは美貌のみならず演技力を兼ね備えた俳優であり、彼なりのオーラのようなものは発していたと思います。

ダニエル・ダリュー(レナール夫人)/アントネラ・ルアルディ(マチルド)/アンナ・マリア・サンドリ(エルザ)
レナール夫人.jpg赤と黒 09.jpgAnna-Maria Sandri.jpg それと、この作品は美女映画としても楽しめました。レナール夫人を演じたダニエル・ダリュも美人であれば、侯爵令嬢マチルドを演じたイタリア女優のアントネラ・ルアルディも綺麗で(これだと、ジュリアンがそれぞれと恋に落ちるのも無理はないか)、レナール家の小間使でジュアンナ・マリア・サンドリ.jpgリアンに想いを寄せるエリザを演じたアンナ・マリア・サンドリ(彼女もイタリアの女優)までもが、今風の美女でした(この小間使エリザのジュリアンへの思慕は、原作以上に強調されていて、エリザの出番もかなり多い)。

Anna-Maria Sandri

【TVドラマ版キャスト】キャロル・ブーケ(ジュリアン・ソレル)/キム・ロッシ・スチュアート(レナール夫人)/ジュディット・ゴドレーシュ(マチルド)
キャロル・ブーケ.jpgLe Rouge et Le Noir Danièle Thompson.jpgLE ROUGE ET LE NOIR Judith Godrèche.jpg 因みに、TVドラマ版でジュリアン・ソレルを演じたキャロル・ブーケも美男子で、実年齢でジュリアン・ソレルよりずっと上だったジェラール・フィリップよりは原作に近いかも(ジェラール・フィリップのようなオーラはないが)。レナール夫人を演じたキム・ロッシ・スチュアートも、マチルドを演じたジュディット・ゴドレーシュもこれまた美人。特にキム・ロッシ・スチュLE ROUGE ET LE NOIR 1997.jpgアートはモデル出身の女優ですが、堂々とした印象すらあります(ジュリアン役のキャロル・ブーケより上にクレジットされている。キャラクター的にはダニエル・ダリュー演じる夫人の方が原作に近いか)。こちらもまた、展開が速く原作を読んでいないとよく理解できない部分もありますが、映画版よりは淡々と物語に沿って作られている印象もあり、DVDで一気に観るというより、2夜に分けて観るのがちょうどよいといった感じのものでした(NHKの放送が2夜に分かれていた)。フランスでのテレビ放送時は、視聴率が30%を超える大ヒットとなったとのことで、名作のTVドラマ版としては立派な出来だと思います。


LE ROUGE ET LE NOIR 1954large.jpg赤と黒 アンコール.jpg「赤と黒」●原題:LE ROUGE ET LE NOIR●制作年:1954年●制作国:フランス・イタリア●監督:クロード・オータン=ララ●製作:アンリ・デューチュメイステル/ジャ2ダニエル・ダリュー 赤と黒.jpgンニ・ヘクト・ルカーリ●脚本:ジャン・オーランシュ/ピエール・ボスト●撮影:ミシェル・ケルベ●音楽:ルネ・クロエレック●原作:スタンダール「赤と黒」●時間:192分(完全版)●出演:ジェラール・フィリップダニエル・ダリュー/アントネッラ・ルアルディ/アンドレ・ブリュノ/アントワーヌ・バルペトレ/ジャン・メルキュール/ジャン・マルティネリ/アンナ=マリア・サンドリ/ミルコ・エリス/ピエール・ジュルダン/ジャック・ヴァレーヌ●日本公開:1954/12●配Le-plaisir-1952-4 (1).jpgiメゾン テリエ.jpg給:東和●最初に観た場所:シネマブルースタジオ(21-06-08)(評価:★★★★)

ダニエル・ダリュー in マックス・オフュルス監督(原作:モーパッサン)「快楽」('52年/仏)第2話「メゾン テリエ」with ジャン・ギャバン 
     

Le Rouge et Le Noir 1997.jpg「赤と黒(TV-M)」●原題:LE ROUGE ET LE NOIR●制作年:1997年●制作国:フランス・イタリア・ドイツ●監督:ジャン=ダニエル・ヴェラーグ●原作:スタンダール「赤と黒」●時間:200分●出演:キム・ロッシ・スチュアート/キャロル・ブーケ/ベルナール・ヴェルレー/モーリス・ガレル/リュディガー・フォーグラー/ジュディット・ゴドレーシュ/フランチェスコ・アクアローリ/クロード・リッシュ●日本放送:2001/08・09●放送局:NHK-BS(評価:★★★★)

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権力者の末路の惨め。ヒトラーの次にレーニンを同じように描いているのがスゴイ。

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「モレク神」ド.jpg「モレク神」h.jpg 1942年春、舞台はベルヒテスガーデンのヒトラーの山荘・通称イーグルネスト。ドイツとオーストリアの国境付近にある雄大な景色を望めるこの山荘で、重臣や愛人エヴァ・ブラウンと休暇を過ごすフューラー(総統)ことアドルフ・ヒトラーの1日を、その権力者とは思えないようなダラダラした姿を、或いは重臣に突然当たり散らす様を、或いはまた、愛人のエヴァと二人きりになり、自分はガンで体が痛いとエヴァに向かって甘える様などを描く―。

「モレク神」01.jpg 「モレク神」は'98年公開のロシア映画で、アレクサンドル・ソクーロフ監督の「権力四部作」と呼ばれる連作の1作目であり、1999年・第52回カンヌ国際映画祭で脚本賞を受賞しています。ソクーロフ監督は連作の2作目「牡牛座 レーニンの肖像」('01年)ででレーニンを、3作目「太陽」('05年)で昭和天皇を描いています。「モレク神」とは子供を人身御供にさせた古代セム族の信仰に由来する神の名、旧約聖書では、悲惨な災いや戦火の象徴で、ユダヤ人にとっては避けるべき異教の神とみなされ、キリスト教世界では偽の神を意味するそうで、この映画の主人公はアドルフ・ヒトラーであり、まさに偽神と呼ぶにふさわしい人物ということになります(「モレク神」はヘブライ語で王をも意味する)。

「モレク神」-3.jpg 晩年のヒトラーを描いていますが、戦争映画風でも政治映画風でもなく、冒頭に述べたように、別荘(本作では現存するヒトラーのティーハウスでロケをしている)で愛人のエヴァ・ブラウンや側近らと過ごす彼の1日が描かれていて、従って、オリヴァー・ヒルシュビーゲル 監督の「ヒトラー~最期の12日間~」('04年/独・墺・伊)などとは全く異なる切り口のヒトラ―映画ということになりますが、これはこれでなかなか興味深かったです。「ヒトラー~最期の12日間~」では、ヒトラーは常に激昂している人物のように描かれ、映画のトーンもそれに沿ったものでしたが、この映画では、幽玄な山を背景に、常に靄のかかったような暗い別荘内で、ヒトラーとその取り巻きの奇妙な会話や滑稽なやり取りが、ただただ延々と続きます。

「モレク神」23a.png 1942年春の時点でドイツ軍の敗走はまだ始まっていませんが、この映画で描かれるヒトラーは我儘な子供のようで、もう既に常軌を逸しているという印象であり、エヴァ・ブラウンとの関係も、赤ん坊とそれをあやす母親のような感じです。ただし、この別荘滞在時にはすでに梅毒の症状が出ていたという話もあるので、全部が全部、大袈裟に描かれた創作とは言えないかもしれません。

 駄々をこね、笑えないジョークを飛ばし、愛人に甘え、無邪気に踊り、果ては被害妄想に取り憑かれて自分を蔑む―こうしたヒトラーを描くことで、彼も一人の弱い人間に過ぎなかったことを浮き彫りにしています。そうした人間が戦争を起こし、ユダヤ人の大量虐殺などをやってのけたことに、歴史の不思議と言うか、不合理を覚えざるを得ません(ただし、この映画ではヒトラーが重臣に「アウシュビッツ「モレク神」g.jpgとはなんだ?」と尋ねる場面があり、ヒトラーはユダヤ人の大量虐殺を知らなかった説が採用されている)。

 このヒトラーに心酔し、最も忠実な部下として常にヒトラーの傍にいるゲッベルスの異常さも、「ヒトラー~最期の12日間~」とはまた違った意味で不気味でした(小柄であることも含め本物と似ている)。妻と6人の子供を巻き添えに殉死するのは当然ながら「ヒトラー~最期の12日間~」と同じ。確かに暗い映画ですが、「ヒトラー~最期の12日間~」と同様、どこか滑稽な場面もあって、ヒトラーを描いた映画ってつい観てしまうなあ、何となく―と思った次第です。

 
「牡牛座 レーニンの肖像」ド.jpg牡牛座 レーニンの肖像06.jpg これに続く'01年公開の「権力四部作」の第2作にあたる「牡牛座 レーニンの肖像」では、暗殺未遂事件から4年後の1922年、52歳となり、最初の脳梗塞の発作のためモスクワ郊外のゴールキ村で療養していたウラジーミル・レーニンのある1日を描いてます(2001年カンヌ国際映画祭コンペティション部門正式出品、2001年ニカ賞最優秀監督賞・作品賞・主演男優賞・女優賞・撮影賞・脚本賞・美術賞受賞、ロシア映画評論家協会最優秀最優秀監督賞・最優秀作品賞・主演男優賞・主演女優賞・撮影賞・脚本賞・美術賞受賞)。

「牡牛座 レーニンの肖像」4.jpg この映画におけるレーニンも、自分ではほぼ何も出来ないような要介護老人のように描かれています。ヒトラーの次にレーニンを同じように描いているというのがスゴイです(これ、レーニン廟があるロシアの映画だものなあ)。

「牡牛座 レーニンの肖像」3.jpg ただ、終盤、お手伝いに用意して貰いながらも満ち足りた食事をする場面で、「人民は飢えているのに私たちは贅沢に耽る。恥ずかしい」とレーニンが言っているところに、まだ、自らの基本理念を保持し続ける彼の姿があり、その点が、壊れてしまっているヒトラーとの違いでしょうか。
    
1922年、スターリンと.jpgレーニン(1923年夏).jpg その前に、見舞いに来たスターリンとの面会シーンがあり(実際にはソビエト連邦をどう形成するかで意見を求めに来たのだが、レーニンとスターリンとの間には考えの隔たりがあった)、そこでスターリンと政治権力上の力関係が逆転してしまったことをまざまざと実感させられるレーニンの姿もあって(スターリンには自信に満ち、見舞いに来ているのに内心では喜色満面の様子)、権力者の末路の惨めさを描いている点では「モレク神」と同じです。

レーニンとスターリン(1922年)/レーニン(1923年夏)


 「権力四部作」の第3作で、イッセー尾形を起用して大日本帝国時代の昭和天皇を描いた「太陽」('05年)も観てみたいです。因みに第4作は、ドイツの文豪ゲーテの代表作を映画化した「ファウスト」('11年)です。シネマブルースタジオへ観に行くつもりだったのが、新型コロナ感染予防のための緊急事態宣言の3回目の発出で上映打ち切りになってしまいました。

アレクサンドル・ソクーロフ監督/「太陽」('05年)イッセー尾形(昭和天皇)/「ファウスト」('11年)
アレクサンドル・ソクーロフ.jpg 「太陽」ソクーロフ.jpg  アレクサンドル・ソクーロフ「ファウスト.jpg
   
   
「モレク神」ges.jpg「モレク神」●原題:Молох●制作年:1999年●制作国:ロシア・ドイツ●監督・脚本:アレクサンドル・ソクーロフ●製作:トマス・クフス/ヴィクトール・セルゲーエフ●脚本:ユーリー・アラボフ●撮影:アレクセイ・フョードロフ/アナトリー・ロジオーノフ●時間:108分●出演:レオニード・マズガヴォイ/エレーナ・ルファーノヴァ/レオニード・ソーコル/エレーナ・スピリドーノ/ヴァウラジミール・バグダーノフ●日本公開:2001/03●配給:ラピュタ阿佐ヶ谷●最初に観た場所:北千住・シネマブルースタジオ(21-04-06)(評価:★★★★)

「牡牛座 レーニンの肖像」9.jpg「牡牛座 レーニンの肖像」2.jpg「牡牛座 レーニンの肖像」●原題:Телец●制作年:2001年●制作国:ロシア●監督:アレクサンドル・ソクーロフ●製作:ヴィクトール・セルゲーエフ●脚本:ユーリー・アラボフ●撮影:アレクサンドル・ソクーロフ●音楽:アンドレイ・シグレ●時間:94分●出演:レオニード・モズゴヴォイ/マリヤ・クズネツォーワ/ナターリヤ・ニクレンコ/レフ・エリセーエフ/セルゲイ・ラジューク●日本公開:2008/02●配給:パンドラ●最初に観た場所:北千住・シネマブルースタジオ(21-04-15)(評価:★★★★)

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イゴールが〈約束〉を守ろうとするのは、そのことが「父親離れ」「父親超え」に重なったからではないか。
イゴールの約束 1997.jpg イゴールの約束01.jpg イゴールの約束02.jpg
イゴールの約束 [DVD]
イゴールの約束 f1.jpg ベルギー。自動車修理工場の見習工のイゴール(ジェレミー・レニエ)は、父ロジェ(オリヴィエ・グルメ)の命令ですぐに仕事を抜けてしまう。ロジェは不法移民の斡旋が仕事で、イゴールは大事な助手なのだ。彼はほどなくクビに。不法移民宿泊施設。ブルキナファソ出身で古株のアミドゥ(ラスマネ・ウエドラオゴ)とその妻アシタ(アシタ・ウエドラオゴ)が赤ん坊を連れてやってくる。ある日、アミドゥが建築現場で作業中、突然移民局の抜き打ち査察があった。アミドゥは重傷を負うが、ロジェは警察沙汰を恐れて医者も呼イゴールの約束 00.jpgばない。傷の手当てもされず、アミドゥはイゴールに妻子の世話を頼んで死ぬ。深夜、ロジェはイゴールに手伝わせて、アミドゥの遺体をコンクリートの土台に埋め込む。翌朝、アシタは夫のことでイゴールを問い詰める。彼女のところには、男たちがアミドゥがギャンブルで作った借金の取り立てに来ていた。イゴールは彼女を助けようと金を渡すが、ロジェに知られて殴られる。ロジェはアシタを追い出そうとしていた。ロジェはアシタにアミドゥの名前で偽の電報を打つ。アシタを騙して連れ出し、イゴールの約束 3.jpg娼婦として売ろうというロジェの企みを知ったイゴールは、母子を連れて家出する。イゴールが勤めていた修理工場に3人は泊まるが、夜中に赤ん坊が熱を出し、アシタは半狂乱に。病院に転がり込むと、親切な係官と、アシタと同じアフリカ系のロザリー(クリスチャン・ムシアナ)が世話を焼いてくれた。アシタは赤ん坊を連れてイタリアの叔父さんの元へ行こうと決心。身分証明書はロザリーが借してくれた。イゴールはロジェからもらった指輪を売って旅費を作る。翌朝、ロジェが工場に現れ、イゴールに家を戻ってアシタ母子を引き渡せと命令する。イゴールは父親の言いつけを初めて拒絶し、ロジェを鎖で繋いで、アシタと駅へ急ぐ。ホームへ向かう途中、イゴールはアシタにアミドゥは亡くなったと真実を明かすと―。

LA PROMESSE a.jpg ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ監督の1996年の作品で、長編第3作。カンヌ映画祭「ある視点」部門で注目され、パリで小規模公開ながらロングランを記録しています。

 この映画には幾つか感想や意見があるようで、一つは、仕事場で客の財布を盗むような素行の良くない不良で、父親の言いなりになってその不法移民の斡旋を手伝っていた、そんなイゴールが、死んだアミドゥが最期に「女房と息子を頼む」と彼に言い残した、その〈約束〉をなぜそんなにまでして守ろうとしたのかよくわからなかったというもの。世の中の格差と不正の犠牲になって喘ぐ人に感情移入し、正義感に目覚めたとするとあまりにキレイごと過ぎるのではないかというものです。

イゴールの約束 f2.jpg 個人的には、確かに彼の行動の動機として正義感みたいなものが無かったわけではないと思いますが、むしろ、今まで父親に言いなりになっていたのが、そこから逃れようとする"第二の自我"のようなものが生まれてきたということではないかと思います。つまり、アミドゥとの〈約束〉を守ることが、彼にとっては「父親離れ」乃至は「父親超え」に重なったからではないかと思います。

ジェレミー・レニエ/オリヴィエ・グルメ

 イゴールがあちこちへと奔走する中で、少しずつ彼の価値観が変化していく姿がよく、それでも事はスンナリはいかず、アミドゥの死をアシタに「正直に話そうよ」と父親に言いって争いになる一方、自身もアミドゥの妻にはなかなか事実を告げられないもどかしさを抱えて葛藤します。そしてラスト、アシタ母子を海外に逃がしてハッピーエンドかと思ったら、この兄弟監督はそう甘くなかったです。

 「えっ」と言うような終わり方。このラストでイゴールがアシタにアミドゥは亡くなったことを明かした行為についても様々な意見があるようです。果たしてそれが良かったのかということですが、良かったどうかは彼の判断能力の限界を超えていて、ただ彼の心の中ではアミドゥの妻に嘘をつき続けるのは後ろめたく、本当のことを言わずにはおれなかったということでしょう。

 彼女を海外に逃がすことを優先して、今はアミドゥが亡くなったことは言わないでおく―といったことは、子どもであるイゴールには出来かねたというのがまさにリアリズムであり、この"苦い"結末は、ドキュメンタリー出身の監督らしいとも言えます

LA PROMESSE 1996.jpgイゴールの約束 5.jpg「イゴールの約束」●原題:LA PROMESS●制作年:1996年●制作国:ベルギー・フランス・ルクセンブルク●監督:ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ●製作:ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ/ハッサン・ダルドゥル クロード・ワリンゴ ジャクリーヌ・ピエルー●脚本:ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ/レオン・ミショー/アルフォンソ・バドロ●撮影:アラン・マルクーン●時間:93分●出演:ジェレミー・レニエ/オリヴィエ・グルメ/アシタ・ウエドラオゴ/フレデリック・ボドソン/ラスマネ・ウエドラオゴ●日本公開:1997/05●配給:ビターズ・エンド●最初に観た場所:北千住・シネマブルースタジオ(19-09-20)(評価:★★★★)

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シズル感溢れる映像とミステリアスな展開。「物語になるに人間」と「物語を待つ人間」の違い。

ふたりの人魚 dvd.jpg ふたりの人魚01.jpg ふたりの人魚02.jpg
ふたりの人魚 [DVD]」['04年]賈宏声(ジア・ホンション)/周迅(ジョウ・シュン)[二役]
ふたりの人魚 [DVD]」['01年]
ふたりの人魚 2000.jpgふたりの人魚1.jpg 「俺」は、ビデオ出張撮を請け負うカメラマン。ある日、ナイトクラブに設けられた水槽の中を泳ぐ人魚を撮影する仕事が舞い込む。「俺」は人魚を演じる美美(メイメイ)(周迅(ジョウ・シュン))に一目惚れし、二人は付き合いはじめる。(話は過去に遡って―)馬達(マー・ダー)(賈宏声(ジア・ホンション))はバイクで何でも運ぶ運び屋。ある日、少女・牡丹(ムーダン)(周迅(ジョウ・シュン)二役)を運ぶ仕事が舞い込む。牡丹の父親は密輸酒で金を儲け、愛人がいる。牡丹の父親が愛人と密会する日、牡丹は馬達のバイクの後ろに跨り、叔母の家に届けられる。馬達に何度も送られて、牡丹は馬達を次第に好きになっていく。馬達のボス・老B(ラオB)(姚安濂(ヤオ・アンリェン))と馬達のかつての恋人の蕭紅(シャオホン)(耐安(ナイ・アン))は、馬達に、牡丹を誘拐して父親に身代金を払わせる計画に加担させようとする。当初は渋っていた馬達だが、遂には嫌々ながら牡丹を誘拐する。老Bと蕭紅が身代金を受け取った際に、老Bは蕭紅を殺害する。馬達は牡丹を家に送ろうとするが、牡丹はバイクを倒して駈け出し、馬達は後を追う。橋に辿り着いた牡丹は、蘇州河に飛び込み、馬達も河に飛び込むが牡丹は見つからない。馬達は逮捕され、刑務所送りになる。何年かして出所した馬達は、再び運び屋となり、牡丹を探す。ある日、馬達は美美に出会う。美美と牡丹はそっくりであり、馬達は美美が牡丹だと信じ込む―。

ふたりの人魚 vhs.jpg 2000年公開の婁燁(ロウ・イエ)監督の長編第3作(原題は「蘇州河))。婁燁監督は、賈樟柯(ジャ・ジャンクー)監督などと並ぶ第6世代監督の一人で、自身の出身地・上海を舞台にしたこの作品では、脚本も書いています(因みに、劇中で殺害される蕭紅(シャオホン)を演じた耐安(ナイ・アン)は製作者の一人)。この作品は、2000年・第29回「ロッテルダム国際映画祭」タイガー・アワード(最優秀作品賞)受賞作であり、2000年・第1回「東京フィルメック」の最優秀作品賞受賞作でもあります。

苏州河(ふたりの人魚).jpg 上海の裏町がシズル感溢れる映像で活写される中、ミステリアスな物語の展開で惹きつけ、独特の才気を感じました。物語はある種"入れ子"構造になっていて、「俺」が語る「馬達(マー・ダー)の物語」となっていますが、「俺」は"撮影者"として在り、自らの姿を見せず、それは、「俺」が馬達と出会ってからも(結局、最後まで)続きますが、この辺りも上手いと思いました。

 ラストシーンを観て、個人的には、「物語になる人間」(=馬達(マー・ダー)&牡丹(ムーダン))と「物語を待つ人間」、つまり自身が「物語になることはない人間」(=「俺」)との違いを描いた映画かなあと思いました。大方の人が「物語」になどなれないわけであって、だからこそ、馬達と牡丹が輝いて見えるのかもしれません。

ふたりの人魚2.jpgふたりの人魚 1.jpg 美美(メイメイ)・牡丹(ムーダン)の二役を演じた周迅(ジョウ・シュン)は、この作品で2000年・「パリ国際映画祭」最優秀主演女優賞を受賞し、その後も周迅(ジョウ・シュン).png戴思杰(ダイ・シージエ)監督の「小さな中国のお針子」('01年)などに出演、演技力が高く評価され、徐静中国の小さなお針子 dvd2.jpg小さな中国のお針子」 (02年/仏・中国).jpg周迅2.jpg蕾(シュー・ジンレイ)、趙薇(ヴィッキー・チャオ)、章子怡(チャン・ツィイー)と並ぶ四大名旦(中国四大女優)の一人として人気を博し、2014年に米国の中国系俳優アーチー・カオと結婚しています。
周迅(ジョウ・シュン)
                           賈宏声(ジア・ホンション)
Jia Hongsheng.jpg賈宏声(ジア・ホンシャン).jpg 一方の馬達(マー・ダー)を演じた賈宏声(ジア・ホンション)は、この作品に出演後、周迅と意気投合し、恋愛関係を持ったことも知られていますが(1年以上の交際を続けた後に二人は別れた)、2010年にビル14階から転落して43歳で死亡し、自殺とみられています(彼はこの作品に出る前も、90年代にアイドル俳優として活躍していたが、麻薬に手を染め芸能界を一時追放されたという過去がある)。

第20回「東京フィルメックス」ふたりの人魚.jpg 昨年['19年]11月の第20回「東京フィルメックス」で、歴代の最優秀作品賞受賞作の人気投票で上位に選ばれ、この作品が上映されることになったのに合わせ婁燁(ロウ・イエ)監督が来日し、公開インタビューに答えていますが、観客から「ロウ・イエ監督の作品は被写体にカメラが近く、主観性が強いと感じる」と意見が飛ぶと、ロウ・イエは「カメラは撮影のツールではなく"目"です。近い距離で撮ることによってエモーションが生み出せます」と述べ、「映画は人を騙せません。カメラマンの思い、俳優たちの思いを撮影によって表現することにより、真実の映画を撮ることができると思います」「ほかの撮影方法で撮ろうと思ったこともありますが、僕が好きなのはドキュメンタリータッチで撮るということなんです」と語っています。

 また、馬達(マー・ダー)を演じたジア・ホンションとの思い出を聞かれ、「彼はこの作品に出演する前、しばらく役者業から遠ざかっていました。精神状態が悪く病院にいたんです」と回想し、「しかし撮影に入ると以前の雰囲気が戻ってきました。僕が表現したいことを十分に表現してくれたんです。彼の目はとても素晴らしい」と絶賛、「すでに亡くなった彼をこのようにスクリーンで観られることは、ファンにとって慰めになると思います」と述べています。惜しい俳優を亡くしたものだと思います。

ふたりの人魚ges.jpgふたりの人魚ド.jpg「ふたりの人魚」●原題:蘇州河(英:Suzhou River)●制作年:2000年●制作国:中国・ドイツ・日本●監督・脚本:婁燁(ロウ・イエ)●製作:フィリップ・ボバー/耐安(ナイ・アン)●撮影:王昱(ワン・ユー)●時間:83分●出演:周迅(ジョウ・シュン)/賈宏声(ジア・ホンション)/姚安濂(ヤオ・アンリェン)/耐安(ナイ・アン)●日本公開:2001/04●配給:アップリンク●最初に観た場所:北千住・シネマブルースタジオ(20-02-14)(評価:★★★★)

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中国版「青春散歌 置けない日々」。監督の演出力はなかなかのものか。

青の稲妻 2002 poster.jpg 青の稲妻01.jpg 青の稲妻02.jpg
青の稲妻 [レンタル落ち]」趙濤(チャオ・タオ)/趙維威(チャオ・ウェイウェイ)
青の稲妻 dvd.jpg 2001年の山西省大同市。19歳の斌斌(ビンビン)(趙維威(チャオ・ウェイウェイ))は失業する。彼は恋人の圓圓(ユェンユェン)(周慶峰(チョウ・チンフォン))とデートを重ねていたが、圓圓が北京市の大学を受験することになる。斌斌は北京市へ行くために兵役検査を受けるが、肝炎を患っていることが判明して不合格となる。斌斌は小武(シャオウー)(王宏偉(ワン・ホンウェイ))から金を借りて、圓圓に携帯電話を買い与える。斌斌の親友である小済(シャオジイ)(呉〔王京〕(ウー・チョン))は、アルコール飲料「蒙古王酒」のキャンペーン・青の稲妻l04.jpgガールを務める巧巧(チャオチャオ)(趙濤(チャオ・タオ))と出会う。巧巧は喬三(チャオサン)(李竹斌(リー・チュウビン))というヤクザと交際しているが、小済は巧巧に惹かれていく。喬三と彼の部下から暴力を受けながらも、小済と巧巧は結ばれる。喬三は交通事故で命を落とすが、巧巧は小済のもとを去る。斌斌と小済は銀行強盗を計画する―。

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青の稲妻 [DVD].jpg 賈樟柯(ジャ・ジャンクー)監督・脚本による2002年の中国・日本・韓国・フランス合作映画で、WTO加盟やオリンピック開催決定など、それまでにないほど社会情勢が急変した2001年の中国の地方都市が舞台です。賈樟柯監督としては「一瞬の夢」('97年)、「プラットフォーム」('00年)に続く長編第3作で、第1作・第2作は賈樟柯監督の故郷の山西省汾陽(フェンヤン)が舞台でしたが、この作品では同じ山西省の雲崗石窟で知られる大同(ダートン)が舞台となっています。第2作「プラットフォーム」は、第57回ヴェネツィア国際映画祭で最優秀アジア映画賞を受賞していますが、この「青の稲妻」も第55回カンヌ国際映画祭のコンペティション部門出品作です。

青の稲妻es.jpg かつて橋浦方人監督の劇映画第一作で「青春散歌 置けない日々」('75年)という日本映画がありましたが、そうしたタイトルが当て嵌まりそうな中国映画だと思いました。2001年頃の中国地方都市の、中国共産党によって監視され、若者たちにとっては「出口なし」の状況を、党の目が行き届かないアンダーグラウンドな世界も含めよく描いているなあと思ったら、前作「プラットフォーム」同様、この作品も中国政府の検閲を通すことなく撮られた映画のようです。

青の稲妻-5.jpg 「プラットフォーム」の時より技術面で進歩している一方で、唐突な終わり方は、この監督の初期作品に共通の特徴のよう趙濤.jpgに思います。「蒙古王酒」のキャンペーン・ガール巧巧(チャオチャオ)を演じた趙濤(チャオ・タオ)は、「プラットフォーム」での晩生(おくて)の女子劇団員役からかなり任逍遥 賈樟柯.jpgの変貌ぶりで、やがて賈樟柯監督の妻となり、セレブ女優となっていくに際しての一歩を踏み出したという感じでしょうか(まだどこかアカ抜けないが)。金貸しの小武(シャオウー)を演じた王宏偉(ワン・ホンウェイ)は、前作では冴えない劇団員を主演で演じており、どんな役でもこなす俳優という感じ。一方、小済(シャオジイ)を演じた呉〔王京〕(ウー・チョン)は、監督にスカウトされた新人だそうですが、映画初出演とは思えないクールな存在感を醸しており、この監督の演出力はなかなかのものかもしれません。

 その監督自身が出演して、オペラ「椿姫」の「ラ・トラヴィアータ」を調子っぱずれで歌っています。一方、主人公がラストで歌うのは、元々は台湾の歌曲ながら、台湾よりも中国でヒットしたリッチー・レンの「任逍遙」で、この曲のタイトルが映画の原題となっています。

青の稲妻-p.jpg ストーリー的にちょっと弱いかなと思ったのは、主人公の斌斌(ビンビン)が銀行強盗をする動機で、巧巧に去られて自暴自棄になっているようにも見える小済の方はともかく、斌斌は新たな仕事に就いたばかりで、銀行強盗の罪が重罪とされる中で、そこまでやるかなあという気もしました。蓮實重彦氏がぴあが発行するカルチャー誌「Invitation」2003年3月号(創刊号)でこの作品を「ポストモダン中国のハードボイルド」として絶賛していましたが、個人的には、そこまでの完成度は感じられませんでした。ただ、90年代後半に登場した第六世代に属する監督の代表的存在として、陳凱歌(チェン・カイコー)や張藝謀(チャン・イーモウ)といった他の中国の監督の作品にはない独特の雰囲気が、この監督の初期作品にはあるように思います。

青の稲妻6.jpg「青の稲妻」●原題:任逍遥●制作年:2002年●制作国:中国・日本・韓国・フランス●監督・脚本:賈樟柯(ジャ・ジャンクー)●製作:市山尚三/リー・キットミン●撮影:余力為(ユー・リクウァイ)●時間:112分●出演:趙濤(チャオ・タオ)/趙維威(チャオ・ウェイウェイ)/呉〔王京〕(ウー・チョン)/李竹斌(リー・チュウビン)/周慶峰(チョウ・チンフォン)/王宏偉(ワン・ホンウェイ)●日本公開:2003/02●配給:ビターズ・エンド/オフィス北野●最初に観た場所:北千住・シネマブルースタジオ(18-11-14)(評価:★★★☆)

青の稲妻-2.jpg 青の稲妻-3.jpg 青の稲妻-9.jpg 青の稲妻-8.jpg 青の稲妻-10.jpg

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ものすごくマニアックというほどでもなく、気軽に愉しめる1冊。

カルト映画館 SF.jpgカルト映画館 ホラー.jpg  ローラーボール [DVD].jpg ローラーボール 映画0.jpg
カルト映画館 SF (現代教養文庫)』『カルト映画館 ホラー (現代教養文庫)』(共に表紙イラスト:永野寿彦(シネマ・イラストライター))「ローラーボール [DVD]」ジェームズ・カーン

 『カルト映画館 ホラー』('95年/教養文庫)の4名の執筆者に永野寿彦氏を新たに加えた執筆陣が、SF映画100作品を、「名作SF館」「シリーズSF館」「日本SF館」の3篇に分けて紹介したものです。「名作SF館」は、さらに、➀1900~1950年代、②1960年代、③1970年~1990年代に分かれ、「日本SF館」はさらに➀1950年代、②1960年から1996年に分かれています。

キング・コング 02.jpgキング・コング 1933 dvd.jpg 「名作SF館」の➀1900~1950年代では、やはり「キング・コング」('33年)は外せないところでしょう。本書によれば、コングは、上半身だけの巨大なメカニカル操作の物と、ウィリス・H・オブライエンの人形アニメによって創造されているとのこと。人形アニメのキャラが主役で登場した最初で最後の映画であるとのことで、そう言われてもちょっとぴんとこない面もありますが、要するにあのコマ撮りが「人形アニメ」ということになるのだろうなあと。

宇宙水爆戦1.jpg宇宙水爆戦 dvd.jpg 「宇宙水爆戦」('55年)は、ストーリーにあまり関係ないところで登場するミュータントがいなければ、さほど印象には残らなかったであろうとしていますが、確かに。これに対し、「禁断の惑星」('56年)は、「全編が見どころ。50年代に製作されたSF映画の最高傑作であり、今もって映画史に残る至宝として知られる」としています。「裸の銃を持つ男」シリーズで知られるレスリー・ニールセンが正当な二枚目俳優として出演していること、シェイクスピアの「テンペスト」をSFに翻案したものであることなどに触れているのが嬉しいです。

2001 space odyssey22.jpg2001年宇宙の旅2.jpg ②1960年代には、60年代がSF映画の黄金時代であったことを物語るかのように、「博士の異常な愛情」('64年)や「2001年宇宙の旅」('68年)などの名作があり、それが、③1970年~1990年代で、まず70年代の前半、世界の破滅を描いた映画が出回り、70年後半にはスペースオペラが復権、80年代のSFX映画時代の到来、90年代のSF映画不毛の時代を経て今('96年)に至っているとのことです。

惑星ソラリスSOLARIS 1972.jpg惑星ソラリス dvd.jpg そう言えば、ハリウッド映画に限らず、アンドレ・タルコフスキー監督の「惑星ソラリス」('73年)や「ストーカー」('80年)なども、どこかディストピア的な雰囲気があったかも。ただし、「惑星ソラリス」については、従来のSF作品では取り上げられなかった哲学の世界にまで昇華し、「2001年宇宙の旅」と並び称される傑作としています。

「ローラーボール」('76年)映画.jpg アメリカ映画では、B級映画と言えばB級映画ですが、ノーマン・ジュイソン監督作でジェームズ・カーン主演の「ローラーボール」('76年)を取り上げているのが懐かしいです。これもある意味ディストピア映画で、優れたSF・ファンタジー・ホラー映画に与えられる「サターン賞」の、創設間もない'75年度第3回のサターンSF映画賞、サターン主演男優賞を受賞しています。想定されている年代は2018年です。ジェームズ・カーンの役どころは、古代ローマの見世物としての闘技会のグラディエーターの未来版といったところでしょうか。デスマッチ式のローラーボール・ゲームを戦うのは、ニューヨーク・チームvs.東京チームで、そう言えば70年代に「ローラーゲーム」というスポーツがあり、「東京ボンバーズ」というチームがあったなあ(この作品は2002年、「ダイ・ハード」のジョン・マクティアナン監督によりリメイクされたが、リメイク版は製作費7,000万ドルに対し興行収入2,585万ドルと振るわず、2009年にハリウッド・レポーター誌が発表した過去10年間に全米公開され、大コケした失敗作の8位にランクインした)。
James Caan (1976)
James_Caan_(1976).jpg ジェームズ・カーンは「ゴッドファーザー」('72年)、「ゴッドファーザーPARTⅡ」('74年)でアル・パチーノ演じるマイケルの兄ソニー・コルレオーネ役に抜擢された後の出演作になり、同じ年にサム・ペキンパー監督のアクション映画「キラー・エリート」('75年)にも出てたりして、やっぱりこの人は肉体派でしょうか(シルヴェスター・スタローン脚本・主演の「ロッキー」('66年)の当初の主演候補でもあった)。ただし、スティーヴン・キング原作、ロブ・ライナー監督のサスペンスホラー映画「ミザリー」('90年)では、キャシー・ベイツ演じる狂気的女性ファンに監禁されるベストセラー作家を演じて、演技派の一面も見せています。90年代以降はコメディ映画の出演も多いですが、個人的には、「イレーザー」('96年)で、主演のアーノルド・シュワルツェネッガー演じるクルーガーの師でありながら実は黒幕でもあったというアクの強い役を演じていたのが印象に残っています(2022年7月6日、82歳で逝去)
ジェームズ・カーン in「ゴッドファーザー」('72年)/「ミザリー」('90年)with キャシー・ベイツ/「イレーザー」('96年)with アーノルド・シュワルツェネッガー
ジェームズ・カーン.jpg

カプリコン1.jpgCapricorn 1.jpg エリオット・グールド主演の「カプリコン・1」('77年)は、アメリカ政府が人類初の有人火星着陸の試みが失敗したのを隠蔽し、"成功"を偽装するという内容で、現実性はともかく、著者が言うように、権力に追い詰められる者の恐怖はよく描けていたかも。何事にも疑いの目を向けよという批判精神が評価された作品ではないかと思います。

Close Encounters of the Third Kind (1977).jpg未知との遭遇-特別編.jpg 本書によれば、「カプリコン・1」と同年公開の「未知との遭遇」('77年)にも、「実はアメリカ政府が人類支配をもくろむエイリアンと既に契約を取り交わしていて、その事実を隠蔽するために宇宙人は平和の使者であるというイメージを大衆に与えようと本作が作られた...」という説があったとのことです。主人公がいかにも"純粋無垢"そうな宇宙人たちに宇宙船内に招き入れられる〈特別編〉まで作られ公開されていることから、そのような説が出てきたりするのではないでしょうか。

ブレードランナー.jpg『ブレードランナー』4.jpgブレードランナー パンフ.jpg 「ブレードランナー」('82年)は一時代を画したといってもいい傑作。「ルトガー・ハウガーがレプリカントを圧倒的な存在感で演じ切っている」とする著者に同感ですが、著者によれば、ルトガー・ハウガーはその後どルトガー・ハウアー.jpgんな映画にも出過ぎて、映画ファンには"どうも仕事を選ばないおじさん"という印象があるそうな。いずれにせよ、この「ブレードランナー」という作品は、公開前及び公開直後はそれほど話題にもなっておらず、時を経て評価が高まった作品で、同年の第7回「サターンSF映画賞」も、候補にはなったものの「E.T.」('82年)に持っていかれています。(ルトガー・ハウガーは、この文章をアップした18日後の 2019年7月19日に出身地のオランダにて75歳で亡くなった。)

WarGames.jpgウォー・ゲーム.jpg 「ウォー・ゲーム」('83年)は、パソコン好きの高校生が遊び心から侵入したコンピュータで戦争ゲームをやっていたのが、実はそれは軍の核戦略プログラムで、現実に第三次世界大戦勃発の危機を招いてしまうというもの。"人間が作り出した機械によって起こりうる危機"を上手く描き出していました。こうしたモチーフは「ダイハード4.0(フォー)」('07年)などに継承されていることを考えると、結構先駆的な作品だったかも。

トータル・リコール 1.jpgトータル・リコール dvd.jpg 「トータル・リコール」('90年)も「ブレードランナー」と同じくフィリップ・K・ディック原作(短編SF小説「記憶売ります」)とのことで、まずまず面白かったのでは。原作にはない火星のシーンを映像化できたのも、その頃急速に進化していたCG技術のお陰でしょうか。
   
 以上が「名作SF館」で、「シリーズSF館」では、「物体X」シリーズから「ロボコップ」シリーズまで13のSFシリーズが取り上げられ、「日本SF館」では、「ゴジラ」('54年)から始まって18作品が紹介されています。その中では、永野寿彦氏が「モスラ」('61年)を高く評価しているのが印象に残りました。

 こちらも、『カルト映画館 ホラー』同様、ものすごくマニアックというほどでもなく、馴染みのある作品が多くて、気軽に愉しめる1冊でした。

ローラーボール (特別編) [DVD]
ローラーボール (特別編).jpgローラーボール 映画1.jpg「ローラーボール」●原題:ROLLERBALL●制作年:1975年●制作国:アメリカ●監督・製作:ノーマン・ジュイソン●脚本:ウィリアム・ハリソン●撮影:ダグラス・スローカム●音楽:アンドレ・プレヴィン●原作:ウィリアム・ハリソン●時間:125分●出演:ジェームズ・カーン/ジョン・ハウスマン/モード・アダムス/ジョン・ベック/モーゼス・ガン/パメラ・ヘンズリー/シェーン・リマー/バート・クウォーク/ロバート・イトー/ラルフ・リチャードソン●日本公開:1975/07●配給:ユナイテッド・アーテ池袋テアトルダイア s.jpg池袋テアトルダイア  .jpgテアトルダイア5.jpgィスツ●最初に観た場所:池袋・テアトルダイヤ(78-01-21)(評価:★★★)●併映:「新・猿の惑星」(ドン・テイラー)/「ジェット・ローラーコースター」(ジェームズ・ゴールドストーン)/「世界が燃えつきる日」(ジャック・スマイト)(オールナイト)
池袋テアトルダイア  1956(昭和31)年12月26日池袋東口60階通り「池袋ビル」地下にオープン(地上は「テアトル池袋」)、1981(昭和56)年2月29日閉館、1982(昭和57)年12月テアトル池袋跡地「池袋テアトルホテル」地下に再オープン、2009年8月~2スクリーン。2011(平成23)年5月29日閉館。

イレイザー [DVD]」アーノルド・シュワルツェネッガー/ヴァネッサ・ウィリアムズ
「イレイザー」1996.jpg「イレイザー」1.jpg「イレイザー」●原題:ERASER●制作年:1996年●制作国:アメリカ●監督:チャック・ラッセル●製作:アーノルド・コペルソン/アン・コペルソン●脚本:トニー・パーイヤー/ウォロン・グリーン●撮影:アダム・グリーンバーグ●音楽:アラン・シルヴェスト「イレイザー」syuwarutunegga-.jpgリ(主題歌:「Where Do We Go From Here(愛のゆくえ))」ヴァネッサ・ウィリアムズ)●原案:トニー・パーイヤー/ウォロン・グリーン/マイケル・S・チャヌーチン●時間:115分●出演:アーノルド・シュワルツェネッガー/ジェームズ・カーン/ヴァネッサ・ウィリアムズ/ジェームズ・コバーン/ロバート・パストレリ/ジェームズ・クロムウェル/ダニー・ヌッチ/ニック・チンランド/ジョー・ヴィテレリ/マーク・ロルストン/ジョン・スラッテリー/ローマ・「イレイザー」ジェームズ・カーン.jpg「イレイザー」ジェームズ・コバーン.jpgマフィア/オレク・クルパ/パトリック・キルパトリック●日本公開:1996/08●配給:ワーナー・ブラザース(評価:★★★)

    

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「女たちの肖像」特集からの2作は、女優の演技を堪能できる映画。

あの日、欲望の大地で dvd.jpg あの日、欲望の大地で セロン.jpg ギジェルモ・アリアガ.jpg まぼろし dvd.jpg フランソワ・オゾン.jpg
あの日、欲望の大地で [DVD]」シャーリーズ・セロン/ギジェルモ・アリアガ監督 「まぼろし<初回限定パッケージ仕様> [DVD]」シャーロット・ランプリング/フランソワ・オゾン監督
キム・ベイシンガー/ジェニファー・ローレンス(当時17歳)
あの日、欲望の大地でes.jpg シルヴィア(シャーリーズ・セロン)は、ポートランドの海辺に建つ高級レストランのマネージャーとして働いている。だが、ひとたび職場を離れると、行きずりの男と安易に関係を持ち、自傷行為に走る。そんな彼女の前に、カルロス(ホセ・マリア・ヤスピク)と名乗るメキシコ人男性が現れ、彼が連れてきた12歳の少女マリア(テッサ・イア)の姿にシルヴィアは動揺し、思わず逃げ出す。その胸に、砂漠の中で真っ赤に燃え上がるトレーラーハウスの幻影が浮かび上がる...。シルヴィアがマリアーナと呼ばれていた10代の頃、彼女の一家はニあの日、欲望の大地で mix.jpegューメキシコ州の国境の町で暮らしていた。病気を克服したばかりの母親ジーナ(キム・ベイシンガー)に代わって、父親ロバート(ブレット・カレン)と3人の幼い兄弟の面倒を見るのはマリアーナ(ジェニファー・ローレンス)の役目だった。そんな中、ジーナは隣町に住むメキシコあの日、欲望の大地で 574_01.jpg人のニック(ヨアキム・デ・アルメイダ)と情事を重ねていた。お互いに家庭を持つ二人は、中間地点のトレーラーハウスを忍び逢いの場所に選び、貪るように愛を交わすが、その情事は唐突に終わりを告げる。二人が密会中にトレーラーハウスが炎上、二人は帰らぬ人とあの日、欲望の大地で   セロン.jpgなった。母の事故死は、多感なマリアーナの心に大きな傷跡を残したが、それはニックの息子・サンティアゴ(J・D・パルド)にとっても同様だった。やがて、両親を真似るように密会を重ねるようになった二人は、本気で恋に落ちていく―。それから12年、シルヴィアは、マリアーナの名前と共に置き去りにした過去と向き合うべき時が来たことを悟る―。


Charlize Theron/Kim Basinger/Jennifer Lawrence
あの日、欲望の大地で 8.jpg 「あの日、欲望の大地で」('08年/米、原題:The Burning Plain)は、メキシコ出身の脚本家・作家で「21グラム」('03年)、「バベル」('06年)などの脚本映画があるギジェルモ・アリアガが、2人のオスカー女優、シャーリーズ・セロン(1975年生まれ)とキム・ベイシンガー(1953年生まれ)を主演に迎えて撮り上げた2008年の監督デビュー作。「時代と場所を越えて3世代にわたる女性たちが織りなす愛と葛藤と再生の物語を、時制を錯綜させた巧みな語り口で描き出していく」という謳い文句ですが、まさにその通りの佳作でした。

 まず冒頭に、草原の中にあるトレーラーハウスが爆発炎上するシーンがあって、その後、アメリカ北東部メイン州の海辺の街ポートランドで高級レストランの女マネージャーとして働きながら、複数の男性といきずりの関係を繰り返す、シャーリーズ・セロン演じるシルヴィアの話と、アメリカ南部ニューメキシコ州の国境沿いの町でメキシコ人男性とトレーラーハウスで不倫を重ねる、キム・ベイシンガー演じる主婦ジーナの話が交互に展開され、まさに「場所を越えた」話になっています。さらに、ニューメキシコでの話には、シルヴィアの娘マリアーナが重要な位置を占めるようになり、3人の女性の物語かと思ったら実は...。

あの日、欲望の大地で7.jpg "脚本家"監督のまさに脚本の上手さを感じさせますが、驚くべきは、重要な役どころであるシルヴィアの娘マリアーナを演じたジェニファー・ローレンス(1990年生まれ)の演技力で、当時17歳にして、2人のオスカー女優の体当たり演技(これはこれで流石と言うべき好演)に拮抗する演技となっています。ギジェルモ・アリアガ監督には「メリル・ストリープの再来かと思った」と言わしめ、2008年・第65回ヴェネツィアジェニファー・ローレンス マルチェロ・マストロヤンニ賞.jpg国際映画祭ではマルチェロ・マストロヤンニ賞(新人俳優賞)を受賞しました。その4年後、コメディ映画「世界にひとつのプレイブック」('12年/米)でアカデミー賞主演女優賞を受賞、彼女自身もオスカー女優となっていますが、この「あの日、欲望の大地で」での演技の方が「世界にひとつのプレイブック」より上のように思います(シリアスドラマとコメディを比較するのは難しいが)。

ジェニファー・ローレンス(18歳)2008年・第65回ヴェネツィア国際映画祭マルチェロ・マストロヤンニ賞(新人俳優賞)受賞(「あの日、欲望の大地で」)

 この作品は、シネマブルースタジオで「女たちの肖像」特集の1本として観ましたが、この特集でその前に上映されたのが、最近「2重螺旋の恋人」('17年/仏・ベルギー)が日本公開されたばかりの、フランソワ・オゾン監督の「まぼろし」('00年/仏)でした。この監督も、ほぼ全作自分で(共同脚本もあるが)脚本を書いています。

ブリュノ・クレメール(ジャン)/シャーロット・ランプリング(マリー)
まぼろし ブリュノ・クレメール(左、ジャン).jpg 大学で英文学を教えるマリー(シャーロット・ランプリング)は、夫ジャン(ブリュノ・クレメール)とは結婚して25年になる50代の夫婦。子どもはいないが幸せな生活を送っている。毎年夏になると、フランス南西部・ランド地方の別荘で過ごし、今夏も同様にヴァカンスを楽しみに来た。昼間、マリーが浜辺でうたた寝する間、ジャンは海に泳ぎに行く。目を覚ましたマリーは、ジャンがまだ海から戻っていないことに気づく。気を揉みながらも平静を装うマリーだが、不安は現実のものとなる。ヘリコプターまで出動した大がかりな捜索にもかかわらずジャンの行方は不明のまま。数日後、マリーはひとりパリへと戻るが―。

まぼろし シャーロット・ランプリング(マリー).jpg シャーロット・ランプリング(1946年生まれ)が演じる、夫の死を受け入れられないマリーが、"壊れている"感がある分、どこかいじらしさもありました。彼女がパリに戻って最初の方のシーンで夫が出てくるため、その部分はカットバックかと思ったら、どうやらそうではなかったみたい。すでに「まぼろし」は始まっていた?(原題: Sous le sableは「砂の下」の意)。そう言えば、すでに女友達のアマンダ(アレクサンドラ・スチュワルト)に精神科に診てもらうよう勧められていました。

ジャック・ノロ(ヴァンサン)/アレクサンドラ・スチュワルト(アマンダ)
まぼろし ジャック・ノロ(左、ヴァンサン).jpg0まぼろし アレクサンドラ・スチュワルト.jpg 彼女にとって夫は生きているわけで、女友達のアマンダはヴァンサン(ジャック・ノロ)を再婚相手として紹介したつもりなのだろうけれども(一見カットバック・シーンと思われた食事会は、二人をくっつけるためのものだったわけか)、彼女自身は不倫のスリルと快感を味わっているようなまぼろし シャーロット・ランプリング まぼろし.jpg感じでした(やや滑稽にも見える)。夫の薬棚からうつ病の薬を見つけて夫が自殺することを心配し、医者に行ってヴァカンス以降は薬を受け取りに来ていないことを知っても、あくまでも自殺を心配しています。仕舞には、ラスト近くで夫と思しき水死体が揚がって自ら検死に行くも、腕時計が違うという理由だけで(それが正確かどうかも怪しいが)夫とは認めようとしない―精神分析でいう"合理化"なのでしょうが、やっぱり"壊れている"!

 ストーリー的にはそれだけで、「あの日、欲望の大地で」に比べるとずっとシンプルでした。ラストに救いがあり、それが主人公の"ブレークスルー"にもなっている「あの日、欲望の大地で」とは異なり、主人公が夫の死を受け入れられないまま(壊れたまま)終わるところが個人的にはややあっけなく、これってヨーロッパ映画的なのかなと思いましたが、この作品は本国フランスのみならずアメリカでも好評を得たというのが興味深いです(日本でも、キネマ旬報ベストテンで外国映画の5位にランクインした)。

シャーロット・ランプリング まぼろし .jpg アメリカでも好評を得た理由の1つは、シャーロット・ランプリングがアメリカ映画にもよく出ていることもあるのでは。まさにシャーロット・ランプリングの演技を観る映画になっているような感じですが、彼女はその負託に応えている感じで、この作品の演技が、「さざなみ」('15年/英)などでの高い評価を得た近年の演技の下地として連なっているのではないかと思います。かつて「愛の嵐」('74年/伊)の頃は、こんなに息の長い女優になるとは思われていなかったように思います。また、彼女は実際に活動が一時低調であったわけで、フランソワ・オゾン監督にこの作品で起用されたことで、再び注目を集めることになったとも言えます。
シャーロット・ランプリング in「まぼろし」('00年)

愛の嵐 [DVD]
「愛の嵐」1974.jpg「愛の嵐」1.jpg 「愛の嵐」は、リリアーナ・カヴァーニ監督の1973年のイタリア映画。ウィーンのとあるホテルの夜番のフロント係兼ポーターとして働くマクシミリアン(ダーク・ボガード)は、実は元ナチス親衛隊の将校で収容所の所長だった人物。アメリカから有名なオペラ指揮者がホテルに泊り客としてやってきますが、その妻ルチア(シャーロット・ランプリング)は、13年前マックスが強制収容所でその権力を使って倒錯した愛の生活を送ったユダヤ人の少女で、二人は再び倒錯した愛欲「愛の嵐」2.jpgの世界にのめり込んでいくという話です。この映画において、主人公マックスはじめとして元ナチ党員たちが孤立せずに、横のつながりを持ちながら生きていることが描かれていて(この部分は実際の社会や政治を反映している)、そうした輩にとってルチアは危険な存在になっていくが―。

シャーロット・ランプリング/ダーク・ボガード

「愛の嵐 「.jpg 「美しい」とか「醜い」とか様々な評価のある映画ですが、シャーロット・ランプリングの美貌が光る作品であったには違いなく、上半身裸にサスペンダーでナチ帽をかぶって踊る場面は、映画史に残る有名なシーンの1つとなりました。原題は「ナイトポーター」。昔観たときは、ヨーロッパのホテルにはダーク・ボガードみたいな顔のポーターがよくいるけれど、みんなスゴイ過去を持っているのかも...とも思ったりしました。

Liliana Cavani Leone d'oro alla carriera.jpg(●2023年・第80回「ヴェネチア国際映画祭」にて、リリアーナ・カヴァーニ監督は、俳優のトニー・レオンとともに栄誉金獅子賞を受賞した。)

Venezia 80: a Liliana Cavani e Tony Leung Chiu-wai vanno i Leoni d'Oro alla Carriera


 シネマブルースタジオの「女たちの肖像」特集からの2作は、ストーリー的には「あの日、欲望の大地で」が良かったですが、2作とも女優の演技を堪能することができる映画でした。


あの日、欲望の大地でs.jpg「あの日、欲望の大地で」●原題:THE BURNING PLAIN●制作年:2008年●制作国:アメリカ●監督・脚本:ギジェルモ・アリアガ●製作:ウォルター・パークス/キム・ベイシンガー欲望の大地.jpgローリー・マクドナルド●撮影:ロバート・エルスウィット●音楽:ハンス・ジマー/オマール・ロドリゲス=ロペス●時間:106分●出演:シャーリーズ・セロン/キム・ベイシンガー/ジェニファー・ローレンス/ホセ・マリア・ヤスピク/ジョン・コーベット/ダニー・ピノ/テッサ・イア/ジョアキム・デ・アルメイダ/J・D・パルド/ブレット・カレン●日本公開:2009/09●配給:東北新社●最初に観た場所:北千住・シネマブルースタジオ(18-09-07)(評価:★★★★)
キム・ベイシンガ in「ネバーセイ・ネバーアゲイン」('83年/米・英)/「ナインハーフ」('85年/米)/「バットマン」('89年/米)/「L.A.コンフィデンシャル」('97年/米)/「あの日、欲望の大地で」('08年/米)
キム・ベイシンガー001.jpg 
キム・ベイシンガー002.jpg
   
まぼろしSOUS LE SABLE.jpg「まぼろし」●原題:SOUS LE SABLE/(英)UNDER THE SAND●制作年:2000年●制作国:フランス●監督:フランソワ・オゾン●製作:オリヴィエ・デルボス/マルク・ミソニエ●脚本:フランソワ・オゾン/エマニュエル・ベルンエイム/マリナ・ドゥ・ヴァン/マルシア・ロマーノ●撮影:アントワーヌ・エベルレ/ジャンヌ・ラポワリー●音楽:フィリップ・ロンビ●時間:95分●出演:シャーロット・ランプリング/ブリュノ・クレメール/ジャック・ノロ/アレクサンドラ・スチュワルト/ピエール・ヴェルニエ/アンドレ・タンジー●日本公開:2002/09●配給:ユーロスペース●最初に観た場所:北千住・シネマブルースタジオ(18-09-03)(評価:★★★☆)


「愛の嵐」00.jpg「愛の嵐」3.jpg「愛の嵐」●原題:IL PORTIERE DI NOTTE/(英)THE NIGHT POTER●制作年:1974年●制作「愛の嵐 THE NIGHT PORTER.jpg国:イタリア●監督:リリアーナ・カヴァーニ●製作:ロバート・ゴードン・エドワーズ●脚本:リリアーナ・カヴァーニ/イタロ・モスカーティ●撮影:アルフィーオ・コンティーニ●音楽:ダニエレ・パリス●原作:リリアーナ・カヴァーニ/バルバラ・アルベルティ/アメディオ・パガーニ●時間:117分●出演:ダーク・ボガード/シャーロット・ランプリング/フィリップ・ルロワ/ガブリエル・フェルゼッティ/マリノ・マッセ/ウーゴ・カルデア/イザ・ミランダ/カイ・ジークフリート・シーフィルド●日本公開:1975/11/(ノーカット完全版)1997/03●配給:日本ヘラルド映画/(ノーカット完全版)彩プロ●最初に観た場所:八重洲スター座(79-02-01) (評価:★★★★)●併映:「ルシアンの青春」(ルイ・マル)

リリアーナー・カバーニ/イタロ・モスカティ共著『愛の嵐 THE NIGHT PORTER 』【ノベライズ小説】
   
シャーロット・ランプリング in「スパイ・ゲーム」('01年/米)/「わたしを離さないで」(10年/英)(原作:カズオ・イシグロ)/「デクスター 警察官は殺人鬼(シーズン8)」('13年/米)
Charlotte Rampling-spy-game-(2001) -.jpg シャーロット・ランプリング わたしを離さないで.jpg シャーロット・ランプリング デクスター.jpg

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ヒューマンドラマ感動作。カマキリの暗喩と"What's Eating Gilbert Grape"というタイトル。

ギルバート・グレイプ vhs_.jpgギルバート・グレイプ dvd.jpg ギルバート・グレイプ h.jpg
ギルバート・グレイプ(字幕スーパー版) [VHS]」「ギルバート・グレイプ [DVD]」ジョニー・デップ/レオナルド・ディカプリオ/ジュリエット・ルイス『ギルバート・グレイプ』二見書房

ギルバート・グレイプ  9.jpg アイオワ州の田舎町。24歳のギルバート・グレイプ(ジョニー・デップ)は、大型スーパーの進出ではやらなくなった食料品店に勤め、日々の生活は退屈だが、彼には町を離れられない理由がある。知的障害を持つ弟アーニー(レオナルド・ディカプリオ)は彼が身の回りの世話を焼き、常に監視していないと給水塔に登るなどの大騒ぎを起こす。母親ボニーギルバート・グレイプages.jpg(ダーレーン・ケイツ)は夫が17年前に突然首吊り自殺を遂げて以来、外出もせず一日中食べ続け、鯨のように太っている。ギルバートはそんな彼らの面倒を、姉のエイミー(ローラ・ハリントン)、妹のエレン(メリー・ケイト・シェルバート)と共に見なければなれなかった。彼は店のお客で、2人の子持ちの人妻のベティ(メアリー・スティーンバージェン)と不倫を重ねていたが、彼ギルバート・グレイプges.jpg女の夫(ケヴィン・タイ)が気づいているかどうかは不明。ある日、ギルバートは、旅の途中でトレーラーが故障したため母親と沿道にキャンプを張っている女性ベッキー(ジュリエット・ルイスギルバート・グレイプes.jpg)と知り合い、2人の仲は急速に深まるも、彼は家族を捨てて彼女と町を出ていくことは出来ない。そんな折、ベティの夫が急死し、人妻は町を出る。一方、アーニーの18歳の誕生パーティの前日、ギルバートは弟を風呂へ入れようとして、苛立ちが爆発し暴力を振るってしまう。居たたまれなくなり家を飛び出した彼の足は、自然にベッキーの元へと向かう。その夜、彼は美しい水辺でベッキーに優しく抱きしめられて眠る。翌日、トレーラーの故障が直ったベッキーは出発する―。

What's Eating Gilbert Grape paperback 0.jpgWhat's Eating Gilbert Grape paperback200_.jpg 「マイ・ライフ・アズ・ア・ドッグ」('85年/スウェーデン)のラッセ・ハルストレム監督の1993年公開作。原作は。劇作家ピーター・ヘッジス初の小説『ギルバート・グレイプ』で、脚本も担当しています。ヒューマンドラマとして感動作に仕上がっているのは、原作の良さに拠ギルバート・グレイプs.jpgる部分も大きいかと思いますが、この監督は家族物を撮るのが上手いと思います。加えて、役者たちも好演しており、公開当時はレオナルド・ディカプリオの演技が話題になりましたが(彼はこの演技で19歳にしてアカデミー助演男優賞にノミネートされた)、主人公ギルバート・グレイプ役のジョニー・デップも、彼と不倫する人妻役のメアギルバート・グレイプ  .jpgギルバート・グレイプ ges.jpgリー・スティーンバージェンも、ベッキー役のジュリエット・ルイスも母親役のダーレン・ケイツ(1947-2017)もみんな良く、更には、この映画が映画初出演だったり、それこそワン・アンド・オンリーの出演者もいるようで、それでいて不自然さを感じさせないのは、監督の演出力の賜物かもしれません。

ベティ(メアリー・スティーンバージェン)/ベッキー(ジュリエット・ルイス)

ギルバート・グレイプ kuruma.jpg ネタバレになりますが、母親ボニーはアーニーが再度給水塔に登り警察に身柄を拘束されたのに怒って、家を出てギルバートの運転するクルマで警察へ出向き息子を奪還するも、その太った姿を人々から奇異の目で見られ、再び引き籠り状態となり、アーニーの誕生パーティが終わった後、自ら歩いて階段を登り、2階のベッドで眠るように息を引き取ります。そして、母親の巨体と葬儀のことを思ったギルバートは(クレーンでも使わないと遺体を2階から運び出せない状況だが、そうすれば多くの野次馬が見に来ることが予想される)、母親を「笑い者にはさせない」と決心し、家に火を放ちます。一年後、姉や妹も自分の人生を歩き出していて、ギルバートはアーニーと、町を訪れたベッキーのトレーラーに乗り込み、アーニーが「僕らはどこへ?」と尋ねると、彼は「どこへでも、どこへでも」と答えます。

 ギルバートがそれまで田舎町から出られなかったのは、知的障害を持つ弟ばかりでなく、母親の面倒も見なければならなかったためであり、その意味では、母親の死はギルバートにとって哀しみでしたが、それによって彼は呪縛から解放されたと言えます。さらに、その前に、人妻ベティとの関係もありました。結局、ギルバートは「人のために」生きるのに精一杯で、自分が本当はどうしたいのか考えるところまで行っていなかったという感じでしょうか。

ギルバート・グレイプ 102.jpg 彼に「自分のこと」を考えるように促したのが、母親とトレーラーで旅する生活を送っているベッキーで、彼に何がしたいのか、どういう人になりたいのかを訊き、ギルバートは「いい人に」なりたいと答えますが、これはそれまでのギルバートの犠牲的な生き方を象徴しているとともに、彼が自分というものを見つめ直し、人妻との関係にピリオドを打つ契機にもなったように思います。

ギルバート・グレイプ ages.jpg 一方で、このベッキーという女性は面白くて、自分を訪ねて来たギルバートに、洗濯物なんか干しながらさらっと、「(カマキリが)どう交尾するか知ってる? オスがメスに忍び寄ると、メスはオスの頭を噛みちぎるの。オスの体は交尾を続けるんだけど、交尾が終わるとメスは残りの体も食べちゃうのよ」というようなことを言います。

 この映画の原題は"What's Eating Gilbert Grape"で、この場合の"eat"は「不安や苛立ちを引き起こす」という意味であり。一見すると障害のためトラブルばかり起こすアニーがギルバートを一番苛立たせているように見えますが、ベッキーのカマキリの話をギルバート・グレイプード.jpgギルバートが置かれている状況のメタファーだと解釈すると、"eat"はそのまま「食い尽くす」という意味にもなり、更に、メス=女性とすれば、ギルバートを喰いつす"メスカマキリ"は人妻のベティであると言えます。ベッキーはギルバートが"メスカマキリに喰われるオスカマキリ"のようだと示唆しているわけですが、ベッキーがギルバートから人妻ベティを引き剥すだけのためにこうした暗喩を用いたというのはやや狭い見方のように思われ、ベッキーはギルバートが自分自身の人生を生きるために、自分が置かれている状況を安易に受容したり、あるいは意識的に見ないようにするのではなく、まず危機感を持って自らを見つめ直すよう促したように思います。

ギルバート・グレイプ indou.jpg ただし、この考えで行くと、ギルバートが愛した彼の母親にもメスカマキリの話が当て嵌まるように思われ(自殺した夫は"オスカマキリ"か?)、その辺りがなかなかこの映画の微妙なところです。でも実際、知的障害を持つ弟アーニーは18歳になったからといって何か特別に改善が見られるわけではなく、大人になって今後ますます大変そうな感じがするにも関わらず、人妻が去った代わりにベッキーという恋人が出来、さらにギルバートにとって大きな負担となっていた母親は亡くなったことで、つまり"メス"の呪縛から解放されたことで、ギルバートは自分の人生に対してもアニーに対しても、これまでよりずっと前向きになれたのではないかと思われます(ベッキーはギルバートの母親のことを偉いと思っているが、彼女がギルバートに母親との面会を求めたことは、結果として彼女が母親にある種"最後通牒"を突きつけたのと同じことになったようにも思える)。

 この映画については他にも幾つかのメタフファーが取り沙汰されていて興味深いのですが(例えばアニーがいつも飼っていいる数匹のバッタの意味とか...)、先のベッキーのカマキリの話は一番分かりやすい暗喩ではないかと思います。母親の死についても自殺なのか事故死なのかと人によって見方が分かれ(この映画を観た専門家の話によれば、あの状態でベッドに寝れば気管が脂肪の重みで潰れ、無呼吸症で死に至ってもおかしくないそうだが、それが自分の意思だったかどうかということ)、ベティの夫は妻の不倫を知っていたのか知らなかったのか(その死は心臓発作によるものと思われるが、彼も言わば"オスカマキリ"か?)といった細かいことまで含め、感動した後で同じ映画を観た人と議論もできるという、なかなかスグレモノの映画です。

「ギルバート・グレイプ」●原題:WHAT'S EATING GILBERT GRAPE●制作年:1993年●制作国:アメリカ●監督:ラッセ・ハルストレム●製作:メイア・テペル/バーティル・オールソン/デヴィッド・マタロン●脚本:ピーター・ヘッジス●撮影:スヴェン・ニクヴィスト●音楽:アラン・パーカー/ビギルバート・グレイプ ダーレン・ケイツ.jpgョルン・イスファルト●原作:ピーター・ヘッジス●時間:118分●出演:シネマブルースタジオ ギルバート・グレイプ.jpgジョニー・デップ/レオナルド・ディカプリオ/ジュリエット・ルイス/ダーレン・ケイツ/ローラ・ハリントン/メアリー・ケイト・シェルハート/ジョン・C・ライリー/クリスピン・グローヴァー/メアリー・スティーンバージェン/ケヴィン・タイ/ ペネロープ・ブランニング●日本公開:1994/08●配給:シネセゾン●最初に観た場所:北千住・シネマブルースタジオ(18-07-23)(評価:★★★★☆)
ダーレン・ケイツ(1947-2017)/レオナルド・ディカプリオ

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精神的"終活映画"「ラッキー」。ハリー・ディーン・スタントンへのオマージュ。

ラッキー 映画 2017.jpgラッキー 映画s.jpg パリ、テキサス dvd.jpg エイリアン DVD.jpg
「ラッキー」ハリー・ディーン・スタントン(撮影時90歳)/「パリ、テキサス デジタルニューマスター版 [DVD]」「エイリアン [AmazonDVDコレクション]

ラッキー 映画.jpg 90歳の通称"ラッキー"(ハリー・ディーン・スタントン)は、今日も一人で住むアパートで目を覚まし、コーヒーを飲みタバコをふかす。ヨガをこなしたあと、テンガロンハットを被って行きつけのダイナーに行き、店主のジョー(バリー・シャバカ・ヘンリー)と無駄話をかわし、ウェイトレスのロレッタ(イヴォンヌ・ハフ・リー)が注いだミルクと砂糖多めのコーヒーを飲みながら新聞のクロスワード・パズルを解く。夜はバーでブラッディ・マリーを飲み、馴染み客たちと過ごす。そんな毎日の中で、ある朝突然気を失ったラッキーは、人生の終わりが近いことを思い知らされ、「死」について考え始める。子供の頃怖かった暗闇、逃げた100歳の亀、"生餌"として売られるコオロギ―小さな町の、風変わりな人々との会話の中で、ラッキーは「それ」を悟っていく―。

ジョン・キャロル・リンチ監督.jpgファウンダーe s.jpg 昨年[2017年]9月に91歳で亡くなったハリー・ディーン・スタントン主演のジョン・キャロル・リンチ監督作品で、ハリー・ディーン・スタントンの遺作となりました。ジョン・キャロル・リンチは本来は俳優で(最近では「ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ」('16年/米)で「マクドナルドラッキー 映画02.jpg」の創始者マクドナルド兄弟の兄モーリスを演じていた)、この「ラッキー」が初監督作品になります。一方、2017年のTV版「ツイン・ピークス」でハリー・ディーン・スタントンを使ったデヴィッド・リンチ監督が、主人公ラッキーの友人で、逃げてしまったペットの100歳の陸ガメ"ルーズベルト"に遺産相続させようとしとする変な男ハワード役で出演しています(役者として目いっぱい演技している)。

デヴィッド・リンチ(ペットの陸ガメ"ルーズベルト"の失踪を嘆く白い帽子の男)/ハリー・ディーン・スタントン(ブラッディ・マリーを手にする男)

 主人公のラッキーは、ハリー・ディーン・スタントン自身を擬えたと思われますが(存命中だったが、彼へのオマージュになっている? スタラッキー 映画01.jpgントンは太平洋戦争時に、映画の中でダイナーの客が語る沖縄戦に実際に従軍している)、映画では少々偏屈で気難しいところのあるキャラクターとして描かれています。自分の言いたいことを言い、そのため周囲の人々と小さな衝突をすることもありますが、でも、ラッキーは周囲の人々から気に掛けられ、愛されていて、彼を受け容れる友人・知人・コミニュティもあるといったラッキー 映画03.jpg具合で、むしろこれって"ラッキー"な老人の話なのかもと思いました。但し、彼自身はウェット感はなく、どうやら無神論者らしいですが、そう遠くないであろう自らの死に、自らの信念である"リアリズム"(ニヒリズムとも言える)を保ちつつ向き合おうしています。ある意味、精神的"終活映画"と言えるでしょうか。その姿が、ハリー・ディーン・スタントン自身と重なるのですが、孤独でドライな生き方や考え方と、それでも他者と関わりを持ち続ける態度の、その両者のバランスがなかなか微妙と言うか絶妙かと思いました。

ラッキー .jpg ハリー・ディーン・スタントンはこの映画撮影時は90歳で、「八月の鯨」('87年/米)で主演したリリアン・ギッシュ(1893-1993)が撮影当時93歳であったのには及びませんが、「サウンド・オブ・ミュージック」('65年/米)のクリストファー・プラマーが「手紙は憶えている」('15年/カナダ・ドイツ)で主演した際の年齢85歳を5歳上回っています(クリストファー・プラマーはその後「ゲティ家の身代金」('17年/米)で第90回アカデミー賞助演男優賞に88歳でノミネートされ、アカデミー賞の演技部門でのノミネート最高齢記録を更新した)。

ラッキー 映画p.jpg ハリー・ディーン・スタントンがこれまでの出演した作品と言えば、SF映画の傑作「エイリアン」や、準主役の「レポマン」、主役を演じた「パリ、テキサス」など多数ありますが、第37回カンヌ国際映画祭でパルム・ドールを受賞した、ヴィム・ヴェンダース監督の「パリ、テキサス」が特に印象深いでしょうか。この「ラッキー」のエンディング・ロールで流れる彼に捧げる歌の歌詞に「レポマン」「パリ、テキサス」と出てきます。また、米国中西部らしい舞台背景は「パリ、テキサス」を想起させます(ジョン・キャロル・リンチ監督はジョン・フォードの作品なども参考にしたと言っているが、確かにそう思えるシーンもある)。

パリ,テキサス コレクターズ・エディション_.jpgパリ、テキサス01.jpgパリ、テキサス03.jpgパリ、テキサス02.jpg 「パリ、テキサス」('84年/独・仏)は、失踪した妻を探し求めテキサス州の町パリをめざす男(スタントン)が、4年間置き去りにしていた幼い息子と再会して親子の情を取り戻し、やがて巡り会った妻(ナスターシャ・キンスキー)に愛するがゆえの苦悩を打ち明ける―というロード・ムービーであり、当時まだアイドルっぽいイメージの残っていたナスターシャ・キンスキーに、「のぞき部屋」で働いている生活疲れした人妻を演じさせ新境地を開拓させたヴィム・ヴェンダース監督もさることながら、ハリー・ディーン・スタントンの静かな存在感も作品を根底で支えていたように思いまワン・フロム・ザ・ハート nキンスキー.jpgす。ヴィム・ヴェンダース監督は、ロマン・ポランスキー監督が文豪トマス・ハーディの文芸大作を忠実に映画化した作品「テス」('79年/英)でナスターシャ・キンスキーの演技力を引き出したのに匹敵する演出力で、フランシス・フォード・コッポラがオール・セットで撮影した「ワン・フロム・ザ・ハート」('82年/米)で彼女を"お人形さん"のように撮って失敗した(少なくとも個人的には成功作に思えない)のと対照的でした(まあ、ナスターシャ・キンスキーが主役の映画ではなく、彼女は準主役なのだが。因みに、この「ワン・フロム・ザ・ハート」には、ハリー・ディーン・スタントンも準主役で出演している)。

エイリアン スタントン.jpg ハリー・ディーン・スタントンは、主役だった「パリ、テキサス」に比べると、リドリー・スコット監督の「エイリアン」('79年/米)では、"怪物"に「繭」にされてしまい、最後は味方に火炎放射器で焼かれてエイリアン ジョンハート.jpgしまう役だったからなあ(それもディレクターズ・カット版の話で、劇場公開版ではその部分さえカットされている)。ただ、あの映画は、英国の名優ジョン・ハートでさえも、エイリアンの幼生(チェスト・バスター)に胸を食い破られるというエグい役でした。最初に観た時はストレートに怖かったですが、最後に生き残るのはシガニー・ウィーバー演じるリプリーのみという、振り返ればある意味「女性映画」だったかも。シリーズ第1作では男性に置き換えられていますが、チェスト・バスターが躰を食い破って出て来るというのは、哲学者・内田樹氏の「街場の映画論」等での指摘もありましたが、女性の出産に対する不安(恐怖、拒絶感)を表象しているのでしょうか。

エイリアン2s.jpgエイリアン2ド.jpg この恐れは、シガニー・ウィーバー演じるリプリーが完全に主人公となったシリーズ第2作以降、リプリー自身の見る「悪夢」として継承されていきます。「エイリアン2」('86年/米)の監督は、「ターミネーター」のジェームズ・キャメロン。ラストでエイリアンと戦うリプリーが突如「機動戦士ガンダム」風に変身する場面に象徴されるように、SF映画というよりは戦争アクション映エイリアン3ド.jpg画風で、「1」に比べ大味になったように思います(海兵隊のバスケスという男まさりの女兵士は良かった)。デヴィッド・フィンチャー監督の「エイリアン3」('92年/米)になると、リドリー・スコット監督がシンプルな怖さを前面に押し出した第1作に比べてそう恐ろしくもないし(馴れた?)、ジェームズ・キャメロン監督がエイリアンを次々と繰り出した第2作に較べても出てくるエイリアンは1匹で物足りないし、ラストの宗教的結末も、このシリーズに似合わない感じがしました(「エイリアン」「エイリアン2」は共に優れたSF映画に与えられる「サターンSF映画賞」を受賞している)。

ジョン・ハート(31歳当時)/in 「エレファント・マン」('80年/英・仏)
ジョンハート.jpgエレファントマン ジョンハート.jpg チェスト・バスターの出現がシリーズを象徴する場面として印象に残るという意味では、「エイリアン」でのジョン・ハートの役は、エグいけれどもオイシイ役だったかも。この人、「エレファント・マン」('80年/英・仏)で"エレファント・マン"ことジョゼフ・メリック役もやってるしなあ。あれも、普通の二枚目出身俳優なら受けない役だったかも。

ジョン・ハート .jpgハリーディーンスタントン.jpg そのジョン・ハートも「ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男」('17年/英)のチェンバレン役を降板したと思ったら、昨年['17年]1月に膵臓ガンで77歳で亡くなっています。「ウィンストン・チャーチル」ではゲイリー・オールドマンがアカデミー賞の主演男優層を受賞していますが、そのゲイリー・オールドマンと、第22回「サテライト・アワード」(エンターテインメント記者が所属する国際プレス・アカデミが選ぶ映画賞)の主演男優賞を分け合ったのがハリー・ディーン・スタントンです。但し、スタントンは"死後受賞"でした。遅ればせながらこれを機に、ジョン・ハートとハリー・ディーン・スタントンに追悼の意を捧げます(「冥福を祈る」と言うと、"ラッキー"から「冥土なんて存在しない」と言われそう)。

20170918211045e91s.jpg そう言えば、ハリー・ディーン・スタントンは生前、"The Harry Dean Stanton Band"というバンドで歌とギターも担当していて、2016年に第1回「ハリー・ディーン・スタントン・アウォード」というイベントが開催され、ホストが今回の作品にも出ているデヴィッド・リンチで、ゲストが「沈黙の断崖」('97年)でハリー・ディーン・スタントンと共演したクリス・クリストファーソンや、「ラスベガスをやっつけろ」('98年)などで共演経験のあるジョニー・デップでしたが(ジョニー・デップの登場はハリー・ディーン・スタントンにとってはサプラズ演出だったようだ)、この「ハリー・ディーン・スタントン賞」って誰か"受賞者"いたのかなあ。
 
Harry Dean Stanton performs 'Everybody's Talkin' with Johnny Depp & Kris Kristofferson.('Everybody's Talkin'は映画「真夜中のカーボーイ」の主題歌」)

Lucky (2017)
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「ラッキー」●原題:LUCKY●制作年:2017年●制作国:アメリカ●監督:ジョン・キャロル・リンチ●製作:ダニエル・レンフルー・ベアレンズ/アイラ・スティーブン・ベール/リチャード・カーハン/ローガン・スパークス●脚本:ローガン・スパークス/ドラゴ・スモンジャ●撮影:ティム・サーステッド●音楽:エルビス・キーン●時間:88分●出演:ハリー・ディーン・スタントン/デヴィッド・リンチ/ロン・リヴィングストン/エド・ベグリー・Jr/トム・スケリット/ジェームズ・ダーレン/バリー・シャバカ・ヘンリー/ベス・グラント/イヴォンヌ・ハフ・リー/ヒューゴ・アームストロングス●日本ヒューマントラストシネマ有楽町.jpgヒューマントラストシネマ有楽町 sinema2.jpg公開:2018/03●配給:アップリンク●最初に観た場所:ヒューマントラストシネマ有楽町(シアター2)(18-04-13)(評価:★★★★)
ヒューマントラストシネマ有楽町(2007年10月13日「シネカノン有楽町2丁目」が有楽町マリオン裏・イトシアプラザ4Fにオープン。経営がシネカノンから東京テアトルに変わり、2009年12月4日現在の館名に改称)[シアター1(162席)・シアター2(63席)]

Pari, Tekisasu (1984)
Pari, Tekisasu (1984).jpg
「パリ、テキサス」●原題:PARIS,TEXAS●制作年:1984年●制作国:西ドイツ・フランス●監督:ヴィム・ヴェンダース●製作: クリス・ジーヴァニッヒ/ドン・ゲスト●脚本:L・M・キット・カーソン/サム・シェパード●撮影:ロビー・ミューラー●音楽:ライ・クーダー●時間:147分●出演:ハリー・ディーン・スタントン/サム・ベリー/ベルンハルト・ヴィッキ/ディーン・ストックウェル/オーロール・クレマン/クラッシー・モビリー /ハンター・カーソン/ヴィヴァ/ソコロ・ヴァンデス/エドワード・フェイトン/ジャスティン・ホッグ/ナスターシャ・キンスキー/トム・ファレル/ジョン・ルーリー/ジェニ・ヴィシ●日本公開:1985/09●配給:フランス映画社●最初に観た場所:テアトル新宿(86-03-30)(評価:★★★★)●併映:「田舎の日曜日」(ベルトラン・タヴェルニエ)

ワン・フロム・ザ・ハート 【2003年レストア・バージョン】 [DVD]
ワン・フロム・ザ・ハート dvd.jpgワン・フロム・ザ・ハート ちらし.jpg「ワン・フロム・ザ・ハート」●原題:ONE FROM THE Heart●制作年:1982年●制作国:アメリカ●監督:フランシス・フォード・コッポラ●製作:グレイ・フレデリクソン/フレッド・ルース●脚本:アーミアン・バーンスタイン/フランシス・フォード・コッポラ●撮影:ロナルド・V・ガーシア/ヴィットリオ・ストラーロ●音楽:トム・ウェイツ●時間:107分●出演:フレデリック・フォレスト/テリー・ガー/ラウル・ジュリア/ナスターシャ・キンスキー/レイニー・カザン/ハリー・ディーン・スタントン /アレン・ガーフィールド/カーマイン・コッポラ/イタリア・コッポラ/レベッカ・デモーネイ●日本公開:1982/08●配給:東宝東和●最初に観た場所:目黒シネマ(83-05-01)(評価:★★★)●併映:「ひまわり」(ビットリオ・デ・シーカ)

エイリアン 1979.jpgエイリアン スタントン.jpg「エイリアン」●原題:ALIEN●制作年:1979年●制作国:アメリカ●監督:リドリー・スコット●製作:ゴードン・キャロル/デヴィッド・ガイラー/ウォルター・ヒル●脚本:ダン・オバノン●撮影:デレク・ヴァンリント●音楽:ジェリー・ゴールドスミス●時間:117分●出演:トム・スケリット/シガニー・ウィーバー/ヴェロニカ・カートライト/ハリー・ディーン・スタントン/ジョン・ハート/イアン・ホルム/ヤフェット・コットー●日本公開:1979/07●配給:20世紀フォックス●最初に観た場所:三軒茶屋東映(84-07-22)(評価:★★★★)●併映:「遊星からの物体X」(ジョン・カーペンター)

エイリアン2.jpgエイリアン2 .jpgエイリアン2 DVD.jpg「エイリアン2」●原題:ALIENS●制作年:1986年●制作国:アメリカ●監督・脚本:ジェームズ・キャメロン●製作:ゲイル・アン・ハード●撮影:エイドリアン・ビドル●音楽:ジェームズ・ホーナー●時間: 137分(劇場公開版)/154分(完全版)●出演:シガニー・ウィーバー/マイケル・ビーン/ポール・ライザー/ランス・ヘンリクセン/シンシア・デイル・スコット/ビル・パクストン/ウィリアム・ホープ/リッコ・ロス/キャリー・ヘン/ジャネット・ゴールドスタイン●日本公開:1986/08●配給:20世紀フォックス●最初に観た場所:日本劇場(86-10-05)(評価:★★★)
エイリアン2 (完全版) [AmazonDVDコレクション]

エイリアン3.jpgエイリアン3 DVD.jpg「エイリアン3」●原題:ALIENS³●制作年:1992年●制作国:アメリカ●監督:デヴィッド・フィンチャー●製作:ゴードン・キャロル/デヴィッド・ガイラー/ウォルター・ヒル●脚本:デヴィッド・ガイラー/ウォルター・ヒル/ラリー・ファーガソン●撮影:アレックス・トムソン●音楽:エリオット・ゴールデンサール●時間:114分(劇場公開版)/145分(完全版)●出演:シガニー・ウィーバー/チャールズ・S・ダットン/チャールズ・ダンス/ポール・マッギャン/ブライアン・グローバー/ラルフ・ブラウン/ダニー・ウェブ/クリストファー・ジョン・フィールズ/ホルト・マッキャラニー/ランス・ヘンリクセン/ピート・ポスルスウェイト●日本公開:1992/08●配給:20世紀フォックス(評価:★★)
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エレファント・マン3.jpg「エレファント・マン」●原題:THE ELEPHANT MAN●制作年:1980年●制作国:イギリス●監督:デヴィッド・リンチ●製作:ジョナサン・サンガー●脚色:クリストファー・デヴォア/エリック・バーグレン/デヴィッド・リンチ●撮影:フレディ・フランシス●音楽:ジョン・モリス●時間:124分●出演:ジョン・ハート/アンソニー・ホプキンス/ジョン・ギールグッド/アン・バンクロフト●日本公開:1981/05●配給:東宝東和●最初に観た場所:不明 (82-10-04)(評価:★★★☆)

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"結婚狂騒曲"の背景に、ロマの人々の生活や文化、考え方がしっかり描かれていた。

黒猫・白猫 Black-cat-white-cat_000.jpg黒猫・白猫 dvd1.jpg 黒猫・白猫 dvd2.jpg
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黒猫・白猫01.jpg ユーゴスラヴィア・ドナウ川沿いのロマの住む田舎町。自称天才詐欺師のマトゥコ(バイラム・セヴェルジャン)は、ロシアの密輸船から石油を買うが、騙されて大金を失う。起死回生を狙って、ブルガリアからの石油運搬車両の強盗を計画、息子ザーレ(フロリアン・アイディーニ)を伴って "ゴッドファーザー"グルガ(サブリ・スレジマニ)のもとへ行き、計画への出資を依頼する。かつてグルガを助けた自分の父ザーリェ(ザビット・メフメトフスキー)が亡くなったことにして、グルガから香典としての資黒猫・白猫2.jpg金援助を得るが、計画は新興ヤクザのダダン(スルジャン・トドロヴィッチ)の奸計により失敗し、ダダンに全財産を奪われる。困り果てたマトゥコは、嫁に行きそびれていたダダンの妹アフロディタ(サリア・イブライモヴァ)と自分の17歳の息子ザーレを結婚させる話を呑んでしま黒猫・白猫03.jpgう。ザーレは、川沿いでレストランを営むスイカ(リュビシャ・アジョヴィッチ)の孫娘で、年上の恋人イダ(ブランカ・カティッチ)からその話を聞かされるが何も出来ない。ザーリエは、息子マトゥコは見限っているが、孫のザーレには幸せになって欲しい。結婚黒猫・白猫04.jpg式当日、元アコーディオン奏者だったザーリェは一計を案じ、アコーディオンにヘソクリを隠して、自ら心臓を止める。祖父が死んだと思ったマトゥコは、ダダンに式の中止を訴えるが黒猫・白猫05.jpg、マトゥコは式を強行、ザーレは、アフロディタに式から脱出するよう促す。花嫁が消えて式は大混乱となり、ダダンをはじめ参列者総出の捜索が始まる。逃げるアフロディタは道中でノッポの男に助けられ、運命黒猫・白猫 映画.jpgを感じた二人はその場で結婚を約束。ダダンたちが追いついたところへやって来たノッポ男の祖父が、"ゴッドファーザー"グルガで、彼らはザーリェの"墓参り"に向かうところだった。ダダンはかつて彼の見習だったので、何も口出しできない。"死んだ"はずのザーリェも生き返り、グルガとザーリェは旧交を温め、晴れて二組のカップルが誕生。ザーリェは孫のザーレにヘソクリを託して二人の門出を祝う―。

黒猫・白猫ド.jpg ユーゴスラビアのサラエヴォ(現在はボスニア・ヘルツェゴビナの首都)出身のエミール・クリトリッツァ監督の1998年作。愛人に漏らしたちょっとした国家批判が政府側の人物に漏れてしまったために父親が当局に捕まってしまう「パパは、出張中!」('85年/ユーゴスラビア)でカンヌ国際映画祭パルム・ドールを受賞し、更に、ユーゴスラビアの50年に渡る紛争の歴史を寓話的に描いた「アンダーグラウンド」('95年/仏・独・ハンガリー・ユーゴスラビア・ ブルガリア)で2度目となるカンヌ国際映画祭パルム・ドールを受賞しながらも、その後政治的なしがらみに巻き込まれ、一度は引退を決意した同監督は、メッセージ性を徹底的に排除した、それまでと全く趣の異なるスタイルのコメディ映画であるこの作品で、1998年第55回ヴェネチア国際映画祭「銀獅子賞」を受賞し、復活を果たしています(1993年「アリゾナ・ドリーム」でベルリン国際映画祭「銀熊賞」を受賞しているため、三大映画祭の全てで受賞したことになる)。

黒猫・白猫98.png 前半はややゆったりしていますが、これは複雑な登場人物の相関を分かりやすくするためだったのかも。ある程度、主要登場人物のバックグラウンドが明らかになると、それまでのラテン的な明るさに加えて話のテンポ自体も良くなり、終盤に向けては加速的にノンストップ・コメディの様相を呈してきます。エンディングで「ハッピーエンド」という字幕が出て来るのは、エミール・クストリッツァ監督初めてのハッピーエンド映画だったためではないでしょうか。

黒猫・白猫cc.jpg黒猫・白猫emirkoshkakot.jpg ハチャメチャなヤクザ・ダダンを演じたスルジャン・トドロヴィッチは喜劇役者かと思ってしまいますが、そうではなく、政治色の濃い前作「アンダーグラウンド」にも出演しているようだし(クロを演じたラザル・リストフスキーに似ている気がするのだが)、スルジャン・スパソイェヴィッチ監督の「セルビアン・フィルム」('10年/セルビア)のようなハードゴア・サスペンスに主演したりもしているようなので、相当に演技の幅が広いのではないでしょうか(でもこの作品では歌って踊って超ノリノリの演技をしていてハマリ役?)。このダダン役のスルジャン・トドロヴィッチとザーレの父マトゥコ役のバイラム・セヴェルジャン、恋人イダ役の女優ブランカ・カティチの3人以外は全てロマの人々だそうで、ザーレを演じたキアヌ・リーブス似のフロリアン・アイディーニもこの映画しか出ていないようです。

黒猫・白猫ki.jpg 予定調和型の"結婚狂騒曲"風ドタバタ喜劇ですが、ロマの人々の生活や文化、ものの考え方がしっかりバックグラウンドに描かれていて、これまで触れたことのないようなものに触れた気がし、同時に、どこの世界も同じなのだなと思わせるものもありました。飛ぶ鳥を落とす勢いのダダンにとって、妹がいまだに結婚できないのが頭痛の種で、"ゴッドファーザー"グルガにとっても息子がなかなか結婚しないのが悩みの種だというのは、ある種"体面"を重んじる閉鎖的な社会を映しているのかも。"ゴッドファーザー"をユーモラスに描いていますが、その実態は一帯の支配者であって、現実はこうはいかないだろうなあと(ダダンのようなヤクザはいそう)。最後に結婚したザーレが旅に出ると決心した時に「ここには太陽がない」と言い残すところに、監督の真意があるのかも。その上で、この作品は敢えてコメディとして完結させたというのが、エンディングの「ハッピーエンド」という字幕に込められた意味ではないか思ったりもしました。

黒猫・白猫【字幕ワイド版】 [VHS]
黒猫・白猫【字幕ワイド版】 [VHS].jpg黒猫・白猫00.jpg「黒猫・白猫」●原題:CHAT NOIR, CHAT BLANC/CRNA MACKA, BELI MACOR●制作年:1998年●制作国:フランス・ドイツ・ユーゴスラビア●監督:エミール・クストリッツァ●製作:マクサ・チャトヴィッチ/カール・バウムガルトナー●脚本:ゴルダン・ミヒッチ●撮影:ティエリー・アルボガスト●音楽:ネレ・カライリチ/ヴォイスラフ・アラリカ/デーシャン・スパラヴァロ●時間:130分●出演:バイラム・セヴェルジャン/フロリアン・アイディーニ/スルジャン・トドロヴィッチ/ブランカ・カティッチ/サリア・イブライモヴァ/ザビット・メフメトフスキー/サブリ・スレジマニ/リュビシャ・アジョヴィッチ/ジャセール・デスタニ/アドナン・ベキールストジャン・ソティロフ/ゼダ・ハルテカコヴァ/プレドラグ・ペピ・ラコビッチ/プレグラグ・ミキ・マノジョロビッチ●日本公開:1999/08●配給:フランス映画社(評価:★★★★)

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"神経症"&"分裂症"的な暗さと、ラストの急展開にややついていけなかった。

ポーラ 1999.jpgポーラX [DVD].jpg ポーラX  00.jpg
ポーラX [DVD]」カテリーナ・ゴルベワ(2011年没)/ギョーム・ドパルデュー(2008年没)
ポーラX 01.jpg 変名で新人小説家として作品を発表したばかりの青年ピエール(ギヨーム・ドパルデュー)は、外交官だった父の亡き後、美しい母マリー(カトリーヌ・ドヌーヴ)と城館で何不自由なく暮らしていた。そんな彼の前に突然、異母姉と名乗る難民女性イザベルポーラx45.jpg(カテリーナ・ベルゴワ)が現れる。彼女の出現で、前から渇望していた"この世を越える"きっかけを得たと感じたピエールは、母マリーも婚約者リュシー(ポーラX003.jpgデルフィーヌ・シェイヨー)も捨ててイザベルとパリヘ出る。パリで従兄のティボー(ローラン・リュカ)を訪ねるが、すげなく追い立てられ、やがて二人は音楽活動と武装訓練に余念がないアングラ集団が巣くう廃墟のロフトに棲み家を定める。二人はほどなくそこで結ばれ、創作活動に打ち込み始めたピエールだが、やがて母のバイク事故死とリュシーが病気であるとの報が入る。そのリュシーは、彼女を看病をしてくれたティボーの制止を振り切り、婚約者であることは秘されたまま、ピエールとイザベルの元に身を寄せるが―。

ポーラX2.jpg レオス・カラックス監督の1999年の作品で、第52回カンヌ国際映画祭コンペティション部門正式出品作。「ボーイ・ミーツ・ガール」('83年)、「汚れた血」('86年)に続く連作の終止符として「ポンヌフの恋人」('91年)を撮ってから、レオス・カラックス監督の長編としては8年を経ての作品です。ハーマン・メルヴィルの『ピエール』(邦訳・『メルヴィル全集 第9巻』所収、国書刊行会)をベースに、舞台をフランスのノルマンディにしています。タイトルは原作の題名の仏語訳"Pierre ou les ambiguites"の頭文字に字"Pola"に解かれぬ謎を示すXを加えたものですが、映画に使われた10番目の草稿を示すローマ数字「Ⅹ」であるとも(従って、映画でポーラという人物が出てくるわけではない)。

ポーラX   .jpg 主要な登場人物である男女が皆"神経症"乃至"分裂症"気味で、観ていて疲れました。主人公のピエールは、一緒に城館で暮らす母マリー(カトリーヌ・ドヌーヴが貫禄十分の演技)と「姉、弟」と呼び合う関係であるところから既に親子共々"危ない"印象を受けるし、自分の前に突然現れた異母姉イザベルとあっさり性愛関係になってしまうし(性愛を超えた魂の伴侶ということなのだろうが、男女の関係になるのもメルヴィルの原作通りなのか?)、後半のピエール、イザベル、リュシーの3人での生活はどうみても上手くいくはずもなく(ピエールは母親の遺産相続を拒否した挙句に金に困っているわけで、彼の諸々の行動には脈絡がない)、ラストは自殺未遂あり殺人ありのカタストロフィ的状況に。でも、これも"劇的"と言うより"劇画的"とでも言うか、ちょっと安易な終わり方のような気がしました(この結末もメルヴィルの原作通りなの?)。

 レオス・カラックスの作品は、主人公にレオス・カラックス自身が反映されていると言われていますが(「ポンヌフの恋人」までの3作は、主人公の名前に因んで「アレックス三部作」と呼ばれてレオス・カラックス&ジュリエット・ビノシュ.jpgいて、"アレックス"と"カラックス"は語感が似ている)、この「ポーラX」はどうなのレオス・カラックス.jpgでしょうか。「汚れた血」と「ポンヌフの恋人」でヒロインを演じたジュリエット・ビノシュとは実生活でも恋人同士であったのが、困難が多発し多額の費用と膨大な時間を要した「ポンヌフの恋人」の撮影中に破局し、「ポーラX」まで8年間レオス・カラックスの沈黙が続いたのは、彼女との破局が大きく影響していると言われています。でも、この作品を観ると、まだ何か引き摺っているよような...。結局、次の長編「ホーリー・モーターズ」('12年)を撮るまで更にまた10数年、長編は撮っていません(ハーモニー・コリン監督の「ミスター・ロンリー」('07年)に俳優として出ていた)。
「汚れた血」撮影時のレオス・カラックス(25歳)とジュリエット・ビノシュ(21歳)

ポーラとx8.jpg 主人公のピエールを演じたギヨーム・ドパルデューは、名優ジェラール・ドパルデューの息子で、この「ポーラX」の日本公開の時にレオス・カラックス監督らとともに来日していますが、2008年に急性肺炎のため37歳で急死しています。また、イザベルを演じたカテリーナ・ベルゴワはロシアのサンクトペテルブルク出身の女優ですが(レオス・カラックスにとって彼女との出会いが8年ぶりに映画を撮るきっかけになったとも言われる)、彼女も2011年にパリにて44歳で亡くなっており、「死因不明」とされています(自殺説あり)。

ジュリエット・ビノシュ トスカーナ.jpgジュリエット・ビノシュ カンヌ.jpg 一方、レオス・カラックスと別れたジュリエット・ビノシュはその後、「トリコロール/青の愛」('93年)でヴェネツィア国際映画祭女優賞とセザール賞主演女優賞を受賞、「イングリッシュ・ペイシェント」('96年)でベルリン国際映画祭銀熊賞女優賞とアカデミー助演女優賞を受賞、「トスカーナの贋作」('10年)で第63回カンヌ国際映画祭女優賞を受賞と、世界三大映画祭の女優賞を受賞しており(三大映画祭の女優賞制覇は彼女が初で、ジュリアン・ムーアがこれに続いた)、やはりジュリエット・ビノシュを失ったのはレオス・カラックスにとっては大きかったのではないかと思わざるをえません。
 
ポーラⅩ3.jpgポーラXes.jpg 高く評価する人もいる作品ですが(その気持ちも分からなくもない)、個人的にはやはり、この"神経症"&"分裂症"的な暗さと、ラストの急展開にややついていけなかったでしょうか。カトリーヌ・ドヌーヴ演じるマリーの自殺とも思えるバイク事故死は、ピエール喪失感によるものなのか。ピエールを巡る"四角関係"の話だったのか。その辺りもよく分からなかったです。

Catherine Deneuve

ポーラX5.jpg「ポーラX」●原題:POLA X●制作年:1999年●制作国:フランス・ドイツ・日本・スイス●監督:レオス・カラックス●製作:ブリュノ・ペズリー●脚本:レオス・カラックス/ジャン・ポール・ファルゴー/ローラン・セドフスキー●撮影:エリック・ゴーティエ●音楽:スコット・ウォーカー●原作:ハーマン・メルヴィル「ピエール」●時間:134分●出演:ギョーム・ドパルデュー/カテリーナ・ゴルベワ/カトリーヌ・ドヌーヴ/デルフィーヌ・シェイヨー/ローラン・リュカ/パタシュー/ペトルータ・カターナ/ミハエラ・シラギ●日本公開:1999/10●配給:ユーロスペース●最初に観た場所:北千住・シネマブルースタジオ(18-03-30)(評価:★★★)

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1980年代中国地方都市に生きる4人の若者像。もう少し説明的であってもいいのでは。

プラットホーム 2000.jpgプラットホーム 2000 00.jpg プラットホーム 賈01.jpg
プラットホーム [DVD]」趙濤(チャオ・タオ)・王宏偉(ワン・ホンウェイ)/楊天乙(ヤン・ティェンイー)

プラットホーム13.jpgプラットホーム 賈   .jpg 1979年、中国山西省の地方都市・汾陽(フェンヤン)。明亮(ミン・リャン)(王宏偉(ワン・ホンウェイ))ら幼馴染みの4人は文化劇団で活動し、いつも一緒の時間を過ごしていた。張軍(チャン・ジュン)(梁景東(リャン・チントン))と鐘萍(チョンピン)(楊天乙(ヤン・ティェンイー))の二プラットホーム 2000 01.jpg人は親公認の仲だが、明亮と瑞娟(ルイジュエン)(趙濤(チャオ・タオ))は恋人とはいえない曖昧な仲。張軍は親戚のいる広州へ旅立ち、やがてサングラスをかけラジカセを持って町へ戻ってくる。明亮は瑞娟との仲をはっきりさせようとするが、ふられてしまう。一方、張軍の子供を身籠ってしまった鐘萍は中絶。80年代半ば、自由化の波が押し寄せ、劇団への補助金が打ち切られると4人の関係も不安定になり、瑞娟以外は旅回りに加わる。80年代後半、明亮と張軍らはロック・バンドを結成して活動。しかし89年の天安門事件の頃になると、彼らの音楽は流行から遅れはじめ、彼らはバンドを解散して田舎へ戻る―。

賈樟柯(ジャ・ジャンクー)監督.jpgプラットホーム 20001ef.jpg 賈樟柯(ジャ・ジャンクー)監督の2作目となる2000年の香港・日本・フランス合作映画で、1980年代の中国で生きる4人の若者の姿を描いていて、第1作「一瞬の夢」('97年/中国・香港)と同じく賈樟柯監督の出身地である山西省の地方都市・汾陽(フェンヤン)(煉瓦で出来た田舎町という印象)を舞台としています。北京電影学院の卒業制作だった「一瞬の夢」は、1998年・第48回ベルリン国際映画祭の新人監督賞であるヴォルフガング・シュタウテ賞と最優秀アジア映画賞(NETPAC AWARD)を受賞し、釜山国際映画祭、ナント三大陸映画祭でグランプリを受賞していますが、この第2作「プラットフォーム」も、第57回ヴェネツィア国際映画祭で最優秀アジア映画賞(NETPAC AWARD)を受賞し、ナント三大陸映画祭、ブエノスアイレス国際インディペンデント映画祭のグランプリも受賞しています。

プラットホーム 19.jpg 前半部分では、主人公らの属する劇団は毛沢東主席を賛美する劇を上演したりしていますが、そうした地方にも「改革開放」の波が押し寄せたことを、若者たちがラッパズボンやパーマといった都市部の流行りの文化に影響されていくことで表現しています。と言っても、その都市文化のマネをする若者たちもどこかまだ垢抜けずにいて、地方と都市の文化格差を表しているように思いました。さらにそれを強く感じさせるのが、そうした文化を嫌う大人たちと若者たちの世代間ギャップで、この辺りは、新たな文化の波が押し寄せたからと言って地方が一気に変わったのではないことが分かります。
  
旅芸人の記録(映画パンフ.jpg旅芸人の記録5.jpg 中盤以降は、劇団への補助金が打ち切られると、劇団員の一人が自ら劇団の運営を請け負い(マネジメント・バイアウトみたいなものか)、劇団員たちはあちこちへ公演の旅に出向くことになり、その状況の中で主人公らのドラマが展開され、まるでテオ・アンゲロプロス監督の「旅芸人の記録」('75年/ギリシャ)のようなロードムービーとなっていきます。

「旅芸人の記録」

プラットホーム 2000 05.jpg 彼らが行く先々の雄大な自然が美しく撮られていますが、彼らにとってはバスやトラックに揺られて無舗装の道や荒野を行き、鰻の寝床さながらの寝所で寝る結構キツそうな日々の連続。でも、元々が県の劇団であるためか、主人公の明亮などはちょくちょく母親の元へ里帰りしているし(父親は家を出て別の所で別の女性と商売を始めたようだ。明亮はそこへも行ったが、父には会わなかった)、若い彼らにとっては、旅のキツさよりもむしろ、恋愛や家族のことの方が気プラットフォーム_r.jpgになる問題といった感じでしょうか。但し、公民館みたいな施設で公演をさせてもらうために鐘萍と瑞娟が居合わせた人たちの前で言われるがままに試しに踊ってみせたら、踊るだけ踊らせておいて施設の関係者ではなかったりして、これにはさすがに2人もキレてストライキを起こしそうになるし、道路わきにトラックを停めて荷台の上で2人が踊っている前をクルマがぶんぶん通り過ぎていくのも侘しかったです。
   
プラットホーム 20007ff.jpg 時代がさらに80年代半ばになると、明亮と張軍らはロック・バンドを組んでいたりするわけで、演劇に人民思想を込めていた何年か前とはすっかり様変わりし、但し、エレキギターを奏でても明亮が相変わらずパッとしないのは前と同じで、かなりイモっぽいです。やがて彼らの演奏も飽きられ、最後どうなってしまうのかと思いましたが、これってハッピーエンドなのでしょうか。かつて尖がっていた明亮、フツーの長閑そうなオッサンになっていました。
  
プラットホームge.jpg カメラを定位置に据え、その前を役者が行ったり来たりするのを長回しで撮るなど、ちょうどテオ・アンゲロプロス監督の作品と同じように長回しが多く、一方で説明的な描写は省いているため、やや観るのに根気がいるかもしれません。瑞娟は劇団を離れて何やってたのでしょうか(郵便局員? 税務署員?)。当時の政治的文化的状況を直接的に描くのは(国家当局の検閲上)困難であるとして、劇団の若者たちを通して間接的に観る側に伝えようとするならば、もう少し説明的であっても良かったのではないかと思いました。
 
プラットフォーム .jpg王宏偉(ワン・ホンウェイ).jpg 明亮を演じた王宏偉(ワン・ホンウェイ)は、「一瞬の夢」('97年/中国・香港)に続いての主演で、賈樟柯監督の第63回ヴェネツィア国際映画祭金獅子賞受賞作「長江哀歌(エレジー)」('06年/中国)にも出ています(戴思杰(ダイ・シージエ)監督の「小さな中国のお針子」('02年/仏・中国)にも「メガネ」という綽名の男の役で出ていた)。それよりもブレイクしたのが、同じ劇団の女性同士でも、派手で発展家の鐘萍に比べ地味でやや晩生(おくて)の瑞娟の方を演じた趙濤(チャオ・タオ)で、賈樟柯監督の第55回カンヌ国際映画祭出品作「青の稲妻」('02年/中国・日・韓・仏)、第61回賈樟柯(ジャ・ジャンクー)監督 2.jpg賈樟柯(ジャ・ジャンクー)監督 3.jpgヴェネツィア国際映画祭出品作「世界」('04年/日・中国・仏)、そして第63回ヴェネツィア国際映画祭金獅子賞受賞作「長江哀歌」でそれぞれ主役を務め、更には同監督の「四川のうた」('08年/中国・日)、「罪の手ざわり」('13年/中国)でそれぞれ重要な役を演じ、最近では第68回カンヌ映画祭パルム・ドールノミネート作「山河ノスタルジア」('15年/中国・日・仏)でも主役を務めています(その前、2012年に賈樟柯監督と結婚していて、そっかーというのもあるが、映画監督と女優との間でよくありそうなことか)。

プラットホーム 2000  07.jpgプラットホーム 2000 0.jpg「プラットホーム」●原題:站台/PLATFOME●制作年:2000年●制作国:香港・日本・フランス●監督・脚本:賈樟柯(ジャ・ジャンクー)●撮影:余力為(ユー・リクウァイ)●音楽:半野喜弘●時間:154分●出演:王プラットホーム 2000ed.png宏偉(ワン・ホンウェイ)/梁景東(リャン・チントン)/楊天乙(ヤン・ティェンイー)/趙濤(チャオ・タオ)/韓三明(ハン・サンミン)●日本公開:2001/12●配給:ビターズ・エンド●最初に観た場所:北千住・シネマブルースタジオ(18-03-04)(評価:★★★☆)

「●ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ監督作品」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【3019】ダルデンヌ兄弟 「息子のまなざし
「●「カンヌ国際映画祭 パルム・ドール」受賞作」の インデックッスへ「●「カンヌ国際映画祭 女優賞」受賞作」の インデックッスへ(エミリー・デュケンヌ)「○外国映画 【制作年順】」の インデックッスへ

ブレッソンの「少女ムシェット」「ラルジャン」を想起させられた。エミリー・デュケンヌは好演。

ロゼッタ 1999.jpgロゼッタ dvd.jpg  ロゼッタ カンヌ.jpg
ロゼッタ [DVD]」ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ監督とエミリー・デュケンヌ in 第52回カンヌ国際映画祭(1999)
ロゼッタ es.jpg 16歳の少女ロゼッタ(エミリー・デュケンヌ)は、働いていた工場から突然解雇され、暴れながら警備員につまみ出される。彼女はバスに乗り、住まいであるトレーラーハウスがあるキャンプ場に、いつもの秘密の入り口から入る。トレーラーハウスにはアル中でセックス依存症の母親(アンヌ・イェルノー)がいて、ロゼッタに隠れて酒を飲んでは男を連れ込むため、ロゼッタとはいつも喧嘩に。ロゼッタも持病の腹痛に悩まされている。管理人に隠れてキャンプ場の中の池で釣りをするロゼッタ。町で母親が繕い直した古着を売るが大した金にはならず、役所に届け出た休ロゼッタ09.jpg職届も受け取ってもらえない。いつも立ち寄るワッフル・スタンドで、新顔の店員リケ(ファブリツィオ・ロンギオーヌ)と知り合う。リケのお蔭でワッフル製造の仕事を得たロゼッタだが、社長(オリヴィエ・グルメ)はすぐに自分の息子に仕事を渡してしまい、彼女はまたも失職。リケは彼女に自分が密ロゼッタ 映画ages.jpgかに作っているワッフルを売ることを勧めるが、仕事が欲しいロゼッタはそのことを社長に密告、クビになったリケの替わりに職を得る。問いつめるリケにロゼッタは仕事のためと素っ気なく答える。だが、家に戻り泥酔して眠り込む母親を見た彼女は、社長に電話し仕事を辞めることを伝える。そのことを知らないリケはキャンプ場にやってきて彼女を追い回す。何もかもうまくいかず、倒れ込み泣き出すロゼッタ。リケはロゼッタを黙って抱き起こす―。

ロゼッタ 5zj.jpeg 1999年公開のジャン=ピエール&ダルリュック・ダルデンヌの兄弟の監督によるベルギー・フランス映画で、第52回カンヌ国際映画祭パルム・ドールを受賞しており(審査委員長はデヴィッド・クローネンバーグ監督)、更に主演のエミリー・ドゥケンヌが女優賞を獲得しています。ダルデンヌ兄弟はその後「ある子供」('05年/ベルギー・仏)で2度目のパルム・ドールを受賞することになりますが、個人的には「ある子供」の方を先に観ました。「ある子供」が終始ドキュメンタリー・タッチであったこともあって、おそらくこの映画もいきなり終わったりするのだろうなあと思っていましたが、確かに「ある子供」以上に"いきなり"終わりました。ドキュメンタリーでも、最後は何かまとめ的な終わり方をするのが通常であり、ドキュメンタリー出身のダルデンヌの兄弟の場合、むしろ"いきなり"終わるところが映画的なのかもしれません。

 ロベール・ブレッソンの影響を強く感じました。ラストは、ロゼッタが窓の隙間に詰め物をしたり、プロパンガスのボンベのガスが無いので管理人の所へ行って新しいボンベを買ったりしているので何をしているのかなと思いましたが、これも、恵まれない境遇にある少女が最期に自殺を遂げるブレッソンの「少女ムシェット」('67年/仏)が想起され、ああ、これから自殺しようとしているのだと気づきました。

ロゼッタages.jpg その(自死に向けて)重たいプロパンボンベをトレーラーハウスまでよろけながら運ぶロゼッタのところへ、ロゼッタに裏切られて自らの職を奪われたリケがやってきて、すでにロゼッタがリケから奪った仕事も辞めていることを知らずに、彼女の周りをバイクでぐるぐり回ります。彼はロゼッタの現在の行動の意味がわからず、ただ彼女がなぜ自分を裏切ったのか知りたかっただけだと思いますが、ロゼッタがよろけた際に彼が手を差し伸べたところで映画は終わります。その際に、ロゼッタが初めて見せる誰かに救いを求めるような表情―これが、これまで自らの境遇とたった独り闘い続け、外に対して心を閉ざしきたロゼッタの"救い"の兆しなのかもしれません(「ある子供」では男性に対して女性の存在が救いとなっていて、男女の位相がちようど逆になっている感じか)。

ロゼッタ 映画es.jpg そこに至るまでにも、リケと知り合うもトレーラーに住んでいることをリケに知られたくなかったロゼッタが、仕事の空きを知らせに来たリケに殴りかかるといったこともありました。一方で、トレーラーハウスに帰るのが嫌なロゼッタを、ロゼッタに仕事をみつけてくれたリケが自分の家に泊めた際に、寝る前にロゼッタが彼女自身に「ロゼッタ、仕事も見つけた」「ロゼッタ、友達もできた」「まっとうに生きる」と話しかけるシーンもありました(これが唯一ロゼッタの心象を描いたシーン)。それでいてロゼッタの新たな仕事が社長の息子に奪われてしまうと、リケがこっそり自分用にワッフルを作っていることを社長に密告してその仕事を奪ってしまうわけであって、フツーに考えれば彼女は人としてやってはいけないことをやっていることになりますが、それくらのことをするまでのロゼッタの仕事への執念とも取れるし、それだけ彼女の心の闇が深いことを物語っているとも言えます。

ロゼッタ 映画ges.jpg ロゼッタがその後どうなるかは殆ど示唆されておらず、この映画を観る側に委ねられていうようにも思われ、個人的にはロベール・ブレッソン監督の「ラルジャン」('83年/年/仏・スイス)とダルデンヌの兄弟自身の「ある子供」の中間的な終わり方になっているようにも思いました。カンヌ映画祭ではパルム・ドール受賞に関して賛があったようですが("上から目線"的だという批判もあった?)、先にも述べた通り兄弟は「ある子供」で2度目のパルム・ドールを受賞することになり、また、映画初出演で女優賞を獲得したエミリー・デュケンヌ(当時17歳だが好演。むしろこちらの受賞の方がすんなり受け入れられたのではないか)も、2009年にはアンドレ・テシネ監督映画の「La fille du RER」でカトリーヌ・ドヌーヴと共に主演を務めるなど女優として活躍しています。

ロゼッタ 映画ド.jpg「ロゼッタ」●原題:ROSETTA●制作年:1999年●制作国:ベルギー・フランス●監督・脚本:ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ●製作:ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ/ローラン・ペタン/マイケル・パティン●撮影:アラン・マルクーン●時間:93分●出演:エミリー・ドゥケンヌ/ファブリッツィオ・ロンギーヌ/アンヌ・イェルノー/オリヴィエ・グルメイ●日本公開:2000/04●配給:ビターズ・エンド●最初に観た場所:北千住・シネマブルースタジオ(18-02-25)(評価:★★★★)

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地球の裏側が舞台だけに、一人でいることの孤独感がひしひしと伝わってくる。

ブエノスアイレス 1997 .jpgブエノスアイレス 00.jpgブエノスアイレス_d15.jpg
 ウィン(レスリー・チャン)とファイ(トニー・レオン)
ブエノスアイレス [DVD]

ブエノスアイレス_d5.jpg 香港から地球の裏側に当たるアルゼンチンをブエノスアイレス_d11.jpg旅するウィン(レスリー・チャン)とファイ(トニー・レオン)のゲイのカップルは、それが「やり直す」ための旅行にもかかわらず、イグアスの滝へ行く途中で道に迷って荒野のハイウェイで喧嘩別れしてしまう。一人になったファイは旅費不足を補うためブエノスアイレスのタンゴバーでドアマンとしてブエノスアイレス_d12.jpg働くが、そこへ白ブエノスアイレス 02.jpg人男性とともにウィンが客として現れる。以降ウィンは何度もファイに復縁を迫りその度ファイは突き放すが、嫉妬した男性愛人にケガを負わされたウィンがアパートに転がり込んで来たため、やむなく介護する。ウィンブエノスアイレス 09.jpgとの生活にファイは安らかな幸せを感じるが、ケガの癒えたウィンはファイの留守に出歩くようになり、ファイは独占欲からウィンのパスポートを隠す。一方、ファイは転職した中華料理店の同僚で台湾からの旅行者のチャン(チャン・チェン)と親しくなり、そんなファイのもとからウィンは去っていく。旅行資金が貯まったチャンは南米最南端の岬へ旅立ち、チャンの出発後、ファイは稼ぎのいい食肉工場に転職、旅費が貯まりイグアスの滝へと旅立つ。香港への帰途、ファイは台北のチャンの実家が営む屋台を訪れる―。

ウォン・カーウァイ「ブエノスアイレス」.jpgブエノスアイレス 11.jpg ウォン・カーウァイ(王家衛)監督の1997年の香港映画で、同年の第50回カンヌ国際映画祭監督賞受賞作品。主演のトニー・レオンは、1998年・第17回香港電影金像奨で最優秀主演男優賞を受賞しています。中華圏の監督による同性愛をモチーフとした映画は、陳凱歌(チェン・カイコー)監督の「さらば、わが愛/覇王別姫」('93年/香港)やアン・リー監督の「ウェディング・バンケット」(93年/台湾・米)が既にありましたが、「さらば、わが愛/覇王別姫」は1920年代の中国の京劇団が舞台で、「ウェディング・バンケット」はアメリカが舞台、一方、この「ブエノスアイレス」はタイトル通りアルゼンチンが舞台で、最後の方に台湾が出てきます(香港は出てこなかった)。

 ゲイ・ムービーですが、男同士の恋人感情の揺れやぶつかり合いが丁寧かつ生々しく描かれていて、恋愛映画としてもよく出来ているように思いました。監督の狙いも、異性間の恋愛感情と何ら変わることがない普遍性を示すことにあったのではないでしょうか。ただ、やはりゲイ・ムービーということもあって、公開時は男性には敬遠され、そのかわり女性客が押しかけたようです(「シネマライズ」で約10万人を動員し、これは同館の歴代上映作品の観客動員数の第5位にあたる)。

ブエノスアイレス_d17.jpg 撮影は難航したようで、トニー・レオン(梁朝偉)は「同性愛者役はできない」と一旦出演を辞退したものの、「亡父の恋人をアルゼンチンに探しに行く息子の物語」に書き改めた新企画を示されて了承、ところが現地に着いてみるとストーリーは大きく変更されていました(監督に騙された?)。男同士でのラブシーンにはかなり抵抗があり、撮影後に呆然としてしていたそうです。

ブエノスアイレス_de.jpg また、相方役のレスリー・チャン(張國榮)は、映画俳優と人気歌手の掛け持ちで、撮影当時コンサートツアーの予定があり、遅延を重ねた撮影の途中でやむを得ず香港へ帰国してしまい、収拾のつかなくなったストーリーを完結させるために、兵役直前で休業に入る予定だった台湾出身のチャン・チェン(張震)と、香港出身の歌手シャーリー・クワン(關淑怡)が招集されましたが、チャン・チェンが中華料理店でのファイの後輩にあたるチャンの役でかなり重要な役どころで出ているのに対し、シャーリー・クワンの出演シーンは本編ブエノスアイレス_d16.jpgでは1カットも使われていません。チャン・チェンはカンフー俳優でもあり、兵役からの復帰後、アン・リー監督の「グリーン・デスティニー」('00年/中国・香港・台湾レスリー・チャン3.gif・米)などに出演し、近年ではウォン・カーウァイ監督、トニー・レオン主演の武術映画「グランド・マスター」('13年/香港・中国)にも出演しています。レスリー・チャンは「さらば、わが愛/覇王別姫」で既に同性愛者を演じていましたが、2003年に香港の高級ホテル「マンダリン・オリエンタル」から投身自殺を図り、46年の生涯を終えています。

ブエノスアイレス sessi .jpg 元から撮影現場で脚本決めをしたりするところがあるウォン・カーウァイ監督なので、レスリー・チャンが現地に留まっていればストーリー的には違った展開になっていたと思われます。この作品のメイキング映画「ブエノスアイレス 摂氏零度」('99年/香港)によれば、シャーリー・クワンはファイの妻役で登場し、チャンとも絡みがある一方、ウィンとウィンのケガを診察した女医とファイとの間で三角関係になるようなシナリオが用意されていたようです。

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 結局、ファイはウィンと別れた後、チャンへとその想いを転じましたが、それはあくまでプラトニック・ラブということなのでしょうか(因みにプラトン自身は同性愛者で且つ実践派だった)。この終わり方に美学を感じる人もいれば、ウィンがフラれた形で可哀そうと思う人もいるかもしれません。でも、ファイは常に仕事をしていたのに、ウィンは仕事もしないで、ヒモみたいな暮らしぶりだったからなあ。ヒモだってウチを守るくらいのことはするだろうけれど、勝手に出歩いてファイの気を揉ませていたし、その癖、ファイへの猜疑心や嫉妬心は強かった...。

ブエノスアイレス_d24.jpg こうしたことも含め、全編を貫いているのは、人間は孤独であり、その辛さに耐えられるかという問いかけではないでしょうかか。舞台が地球の裏側だけに、そのことが一層ひしひしと感じられます。そうした中で、一人では生きることが出来ないのがウィンブエノスアイレス ges.jpgで、次第に破滅に向かって行くタイプかも(ラストの方では、男性の愛人を仮想ファイに見立てていた)。一方で意外と逞しいのが中華料理店の後輩のチャンで、先輩の代わりに南米最南端の岬へ行って悩みを捨ててきてあげるからとファイにテープレコーダーブエノスアイレスes.jpgを渡しますが、ファイはテープレコーダーを握りしめるも言葉はなく、涙を流すしかありませんでした。それまで何となく距離を置いてこの映画を観ていたつもりが、このシーンではこちらもブエノスアイレス_d27.jpg泣けました。ファイが仕事に打ち込んできたのは、ウィンとの別離の痛みを忘れるためというのもあったのではないでしょうか(でも忘れられないでいる)。というわけで、チャンは約束通りしっかり南米最南端のエクレルール灯台まで行き('97年1月)、そのファイが"自らの悩みを吹き込んだ"カセットを聴くも、そこにはファイの言葉は無く、泣き声のようなものしか聴こえませんでした。

ブエノスアイレス_d25.jpg 一方のファイも最後には、貯めた金で中古車を買って旅の目的地だったイグアスの滝へ行っており、そこでウィンの不在を再認識しながらも彼との過去を封印したような感じで、更に帰国時には台北に寄って('97年2月。テレビでは鄧小平死去のニュースが伝えられている。この辺りは物語が撮影とリアルタイムになっているようだ)、チャンの実家が営む屋台を訪れ、チャンの写真を一枚盗むことで、「もし会おうと思えば、どこでだって会うことができる」と確信します。こうした行為は何れも自らの過去を整理するための(同時に未来へ向けての再生のための)儀式のように思えました。

花様年華75.jpg そう言えば、「花様年華」('00年/香港)のラストも、トニー・レオン演じる主人公がわざわざアンコールワット(こちらもイグアス同様に観光名所)まで行って、ある人妻女性との過去を封印したように見えました。マギー・チャン演じる当の相手女性はいちいちそんなことをしません。ひとり親として頑張って息子を育てていくのみ。よく女性は失恋旅行をすると言われますが、「ブエノスアイレス」と「花様年華」の2作を観ると、この種の儀式的行為をするのはむしろ男ではないかと思ってしまいます。ファイが、香港で父親の会社の金を盗み勘当されたと思われる、その父親に手紙を書くシーンがありました。人は一人では生きられない、では現実の孤独とどう向き合うか、ということと併せ、自らの過去とどう向き合うかというのも、この作品のテーマかもしれません。
「花様年華」より
チャン・チェン(張震)
ブエノスアイレス チャン・チェン(張震).jpg「ブエノスアイレス」●原題:春光乍洩/HAPPY TOGETHER●制作年:1997年●制作国:香港●監督・製作・脚本:ウォン・カーウァイ(王家衛)●撮影:クリストファー・ドイル(杜可風)●音楽:ダニー・チョンほか●時間:96分●出演:レスリー・チャン(張國榮)/トニー・レオン(梁朝偉)/チャン・チェン(張震)/グレゴリー・デイトン/スー・ピンラン(蕭炳林)●日本公開:1997/09●配給:プレノンアッシュ●最初に観た場所:渋谷・Bunkamura ル・シネマ(18-02-17)(評価:★★★★☆)
「ブエノスアイレス」(1997年製作).jpg

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第1話もシズル感があったが、第2話のファンタジー乃至寓話的な作りにハマった。

恋する惑星dvd.jpg 恋する惑星02.jpg 恋する惑星00.jpg
恋する惑星 [DVD]」トニー・レオン(梁朝偉)/フェイ・ウォン(王菲)

恋する惑星04.jpg 重慶マンションの無国籍地帯の雑踏で、刑事223号・モウ(金城武)は金髪サングラスの女性(ブリジット・リン)とすれ違う。その金髪女性恋する惑星 01.jpgはドラッグ・ディーラーで、密入国インド人に麻薬を運ばせる仕事をしていた。空港へ向かった女はそこにインド人の姿が無く、裏切られたことを知る。命を狙われた女は、偶然入ったバーでモウと出会い、ホテルへ。恋人にふられていたモウは次に出会った女性に恋をすると決めていたのだが、女は疲れ果てホテルに着くや爆睡してしまう。翌朝はモウの誕生日で、ポケベルに既に姿を消した女からのバースディコールがあった。女は裏切ったインド人を射殺し、金髪とサングラスを脱ぎ捨て去っていく。モウはファーストフード店〈ミッドナイト・エクスプレス〉で新入りの娘フェイ(フェイ・ウォン)とす恋する惑星 es.jpgれ違う。その店の常連客の警官663号(店主は633と呼ぶが、認識番号は663)(トニー・レオン)はCA(スチュワーデス)の恋人(チャウ・カーリン)と別れたばかりだった。元彼女のCAは店の主人に663号への手紙を封筒で託すが、主人はこっそり開封して手紙を読んでしまう。フェイも手紙を読むと、封筒には部屋鍵が入っていた。店に来た663号が封筒を受け取らないため、フェイは、その鍵恋する惑星ages.jpgで663号の部屋に密かに入り込み、毎日少しずつ模様替えをしていく。663号はある日そのフェイと部屋の入口で鉢合わせする。次にファーストフード店で会った時にデートに誘う633号だったが、彼女は待ち合わせ場所に来なかった。店の主人が渡しに来たフェイからの手紙を663号は一旦屑籠に捨てるが、拾って読み返すと手書きの航空券で日付は1年後の今日だった。1年後、フェイはCAとなってかつての店の前に現れる。シャッターを押し上げると、中にいたのは、改装開店を控えたその店の新たな店主になっていた663号だった―。

恋する惑星  08.jpg ウォン・カーウァイ(王家衛)監督の1994年の香港映画で、第14回香港電影金像奨で最優秀作品賞・最優秀監督賞・最優秀主演男優賞(トニー・レオン)を受賞、日本でもミニシアターでの上映から始まってヒットした作品です。原題は「重慶森林」で、香港の九龍、尖沙咀にある「世界最大の雑居ビル」とも言われる重慶大厦(重慶マンション)を舞台に、すれ違う男女の物語をスタイリッシュ且つポップに描いた青春恋愛映画となっています。

 元々は3話のオムニバスを想定していたのが、第1話の金城武主演の刑事223号・モウの話と、第2話のトニー・レオン主演の警官663号の話の2話構成になっていて、第1話が約40分であるのに対し、第2話は約60分あり、当初想定していた第3話は、同監督の「天使の涙」('95年/香港)として独立した作品になったとのことです。

恋する惑星338.jpg 最初、金城武演じる刑事223号・モウが金髪サングラスの女性(ブリジット・リン)とすれ違った際に、「その時彼女との距離は0.5ミリ。57時間後、僕は彼女に恋をした」というセリフが流れ、次に、ファーストフード店の娘フェイ(フェイ・ウォン)とすれ違う場面を介して警官663号(トニー・レオン)の話に移る際に、今度は「その時彼女との距離は0.1ミリ。6時間後、彼女は別の男に恋をした」と流れます。なかなかお洒落だなあと。おそらく、想定されていた第3話も刑事または警官の話で、そこにに切り替わる時も、そうした手法が用意されていたのでしょう。

恋する惑星 kim.jpg 第1話と第2話でどちらが好きか人によって好みは分かれると思います。第1話で、広東語、北京語、英語、日本語を巧みに使い分けていた台湾出身の金城武(日本人の父と台湾人の母との間に生まれ、沖縄県出身の祖父を持つ)は、香港に仕事で訪れた際、ホテルのロビーで偶然居合わせたウォン・カーウァイ監督に見初められ、この映画への出演が決まったとのことですが、映画が日本でもヒットしたため、日本でも人気が出ました。外国映画に出て外国語を話しているわけですが(独白は北京語か。台湾の若者は福建語より北京語を好んで使うようだ)日本人っぽくて、その辺りの"等身大"的感覚がいいのかも。このエピソードは、許可無しのゲリラ的手法で尖沙咀の街中を撮っていて、香港の都会の裏側に潜入したようなシズル感があって良かったです(第1話のカメラ担当は自身が映画監督でもあるアンドリュー・ラウ(劉偉強))。第1話は、男女がすれ違ってもうおそらく会うことはないだろうという(会ったら会ったで殺し屋と刑事なのだからかなりまずいことになるのだが)けっして明るい話ではないですが、最後に、金髪女からバースディコールがあったのが、主人公の救いになっているように思いました。

恋する惑星 tony.jpg ただ、個人的には、トニー・レオン(梁朝偉)(こちらもまだ当時日本ではそれほど有名ではなく、この作品によって知名度と人気が出た)が主演の第2話の方が、40分の予定が60分に延びた分(?)ストーリー的には作恋する惑星 09.jpgり込まれていたように思います。中国出身の香港の歌手フェイ・ウォン(王菲)演じるファーストフード店の娘も良くて、やっていることは押しかけ女房風で、今の基準で言えばストーカー行為なのですが、むしろ一途さが健気で可愛らしく思われる不思議な魅力があります。彼女はこの作品の演技でストックホルム国際映画祭・最優秀主演女優賞を受賞しています。個人的にはフランス映画の「アメリ」('01年)が似た雰囲気だと思いました。第2話のカメラ担当は「ブエノスアイレス」('97年/香港)、「花様年華」('00年/香港)のクリストファー・ドイルです(オーストラリア人だが、杜可風という中国名を持つ)。

恋する惑星 ages.jpg トニー・レオン演じる663号が、自分の部屋が少しずつ様変わりしているのを、恋人と別れたショックによる幻覚のせいだと恋する惑星74.jpg勝手に思い込んで(?)変に納得してしまったりしているなど、男の鈍感さがユーモラスに描かれていました(元々石鹸や濡れタオルに感情移入して話しかける癖がある変わった男なのだが)。ラストで、フェイが663号の元恋人の職業であったCAになっていて、663号がかつてフェイが働いていた店の店主になっているといった作りなど、ある種ファンタジー乃至寓話的な作りになっているように思いましたが、個人的にはそこに嵌りました(「恋する惑星」という邦題も悪くない)。フェイの好みの曲ママス&パパスの「夢のカリフォルニア」など、音楽の使われ方が映画にしっくりマッチしたものになっていて、フェイ・ウォン自身が歌うエンディング曲「夢中人」も良かったです(フェイ・ウォンは、「広東語のアルバム累計売り上げ」世界一としてギネスブックで認定されている)。
 
王菲(フェイ・ウォン)「夢中人」/Mamas & Papas「California Dreaming」

Koi suru Wakusei (1994)  ブリジット・リン        チャウ・カーリン/トニー・レオン  
Koi suru Wakusei (1994).jpg恋する惑星ブリジット・リン.jpg恋する惑星チャウ・カーリン.jpg「恋する惑星」●原題:重慶森林/CHUNGKING EXPRESS●制作年:1994年●制作国:香港●監督・脚本:ウォン・カーウァイ(王家衛)●製作:ジェフ・ラウ(劉鎭偉)●撮影:(第1話)アンドリュー・ラウ(劉偉強)/(第2話)クリストファー・ドイル/●音楽:フランキー・チェン(陳動奇)/ロエル・A・ガルシア/マイケル・ガラッソ●時間:110分●出演:トニー・レオン(梁朝偉)/フェイ・ウォン(王菲)/金城武/ブリジット・リン(林青霞)/チャウ・カーリン(周嘉玲)/バレリー・チョウ●日本公開:1995/07●配給:アスミック・エース(評価:★★★★☆)
「恋する惑星」(1994年製作).jpg

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日の名残り 文庫.jpg映画は叶わなかった恋の物語。小説は映画とは「異なる芸術作品」。

日の名残り.jpg 日の名残り (映画) .jpg 日の名残り (中公文庫) _.jpg
日の名残り [DVD]」アンソニー・ホプキンス/エマ・トンプソン 『日の名残り (中公文庫)』『日の名残り (ハヤカワepi文庫)
日の名残り  tile.jpg 1958年。オックスフォードのダーリントン・ホールは、前の持ち主のダーリントン卿(ジェームズ・フォックス)が亡くなり、アメリカ人の富豪ルイス(クリストファー・リーヴ)の手に渡っていた。かつては政府要人や外交使節で賑わった屋敷は使用人も殆ど去り、老執事スティーヴンス(アンソニー・ホプキンス)の手に余った。そんな折、以前屋敷で働いていたベン夫人(エマ・トンプソン)から手紙をもらったスティーヴンスは彼女の元を訪ねることにする。離婚日の名残り 01.jpgをほのめかす手紙に、有能なスタッフを迎えることができるかもと期待し、それ以上にある思いを募らせる彼は、過去を回想する。1920年代、スティーヴンスは勝気なミス・ケントン(後のベン夫人)をホールの女中頭として、彼の父親でベテランのウィリ日の名残り 父.jpgアム(ピーター・ヴォーン)を執事として雇う。スティーヴンスは彼女に父には学ぶべき点が多いと言うが、老齢のウィリアムはミスを重ねる。ダーリントン卿は、第二次大戦後日の名残り tairitu .jpgのドイツ復興の援助に注力し、非公式の国際会議をホールで行う準備をする。会議で卿がドイツ支持のスピーチを続けている中、病に倒れたウィリアムは死ぬ。'36年、卿は反ユダヤ主義に傾き、ユダヤ人の女中2名を解雇する。当惑しながらも主人への忠誠心から従うスティーヴンスに対し、ケントンは卿に激しく抗議した。2年後、ユダヤ人を解雇したことを後悔した卿は、彼女たちを捜すようスティーヴンスに頼み、彼は喜び勇んでこのことをケントンに告げる。彼女は彼が心を傷めていたことを初めて日の名残り es.jpg知り、彼に親しみを感じる。ケントンはスティーヴンスへの思いを密かに募らせるが、彼は気づく素振りさえ見せず、あくまで執事として接していた。そんな折、屋敷で働くベン(ティム・ピゴット・スミス)からプロポーズされた彼女は心を乱す。最後の期待をかけ、スティーヴンスに結婚を決めたことを明かすが、彼は儀礼的に祝福を述べるだけだった。それから20年ぶりに再会した2人。孫が生まれるため仕事は手伝えないと言うベン夫人の手を固く握りしめたスティーヴンスは、彼女を見送ると、再びホールへ戻る―。

日の名残り 10.jpg 「眺めのいい部屋」('86年/英)、「モーリス」('87年/米)、「ハワーズ・エンド」('92年/英・日)のジェームズ・アイヴォリー監督による1993年のイギリス映画で、原作は1989年に刊行されブッカー賞を受賞したカズオ・イシグロの同名の小説『日の名残り(The Remains of the Day)』ですが、'91年に「羊たちの沈黙」('91年/米)でアカデミー賞 主演男優賞を受賞したアンソニー・ホプキンスと、'92年に「ハワーズ・エンド」でアカデミー賞主演女優賞を受賞したエマ・トンプソン(アン・リー監督の「いつか晴れた日に」('95年/米・英)での演技も良かった)という当時"旬な"俳優の組み合わせで、カズオ・イシグロの小説世界を映像化することで世に知らしめ、2017年の彼のノーベル文学賞受賞にも寄与したのではないかと思います(アカデミー賞では、主演男優賞、主演女優賞、美術賞、衣装デザイン賞、監督賞、作曲賞、作品賞、脚本賞の8部門にノミネートされた。アンソニー・ホプキンスは1993年・ロサンゼルス映画批評家協会賞主演男優賞受賞)。
ジェームズ・フォックス(ダーリントン卿)
日の名残り kaigi.jpgストーリー的にはほぼ原作通りに作られていますが(脚本には、ノンクレジットだが、2005年にノーベル文学賞を受賞した劇作家ハロルド・ピンター(「フランス軍中尉の女」('81年/英)など)が噛んでいる)、ダーリントンホールで秘密の国際会合が開かれたのが、原作の1923年ではなく1935年になっていて、第一次大戦後のドイツの経済的混乱を解決するのがダーリントン卿の狙いでしたが、1935年といえばもうドイツはナチス政権になっていて、この時点でも対独宥和論を唱えるジェームズ・フォックス演じるダーリントン卿にはやや違和感を覚えます(その結果としてか、1958年の"今"スティーヴンス日の名残り リーブ.jpgが旅する中で、旅先の田舎の人でもダーリントン卿=ナチのシンパという印象を抱いていたりする描き方になっているが、原作ではスティーヴンスの予想に反してダーリントン卿の名は田舎では殆ど知られてはいなかったということになっている)。そして、この会議で宥和論に傾く会議の流れに一人異議を唱える内容のスピーチをするアメリカの下院議員スミス氏(原作ではルイース氏)が、映画ではクリストファー・リーヴ(1952-2004)演じる、現在のダーリントン・ホールの所有者、つまりスティーヴンスの今の主人と同一人物あるということになっています(原作ではファラディ氏という、同じアメリカ人ではあるがルイース氏とは別人物)。

日の名残り 05.jpg 小説が全編、主人公の執事スティーヴンスの語り(旅行中の回想日記)で展開していくのに対し、映画では彼の内面の声はなく、アンソニー・ホプキンスがすべてそれを演技で表しています。そのためか、エマ・トンプソン演じるミス・ケントンと視線が絡み合ったりする場面が多く、スティーヴンスが延々と「品格」とは何かを語っている原作に比べると、映画は、二人の間での感情のぶつかり合いがより前面に出たものになっています。

日の名残り 09.jpg そして終盤、今はベン夫人となっているミス・ケントンが、(当初はその気があったかもしれないが)事情が変わって再びダーリントン・ホールに戻ってスティーヴンスと仕事をすることはできないとなったとき、スティーヴンスは呆然とし、彼女と共に新たな人生の夕暮れを迎えるという望みが絶たれたことによって、取り返しのつかない、過ぎ去りし人生の悔いを実感します。原作では、肝心のミス・ケントンと再会した日(旅行5日目)の日記は無く(ショックで日記が書けなかった?)、6日目、スティーヴンスは帰路ウェイマス(Weymouth)に寄り道して、波止場で出会った見知らぬ老人から「夕日が一日で一番いい時間だ」と聞かされ、スティーヴンスは涙日の名残りGoogle The Remains of the Day - Stevens' Journey.gifを流しますが、映画ではミス・ケントンがリトル・コンプトン(Little Compton)のバス停でスティーヴンスにこの言葉を言って、人々が夕方を楽しみに待つとして、あなたは何を楽しみに待つのかと聞き、スティーヴンスは「お屋敷に戻り、人手不足の解消策を感がることかな」と答えます。ラストで屋敷の中に迷い込んだ鳥をスティーヴンスが追い立て、鳥が窓から外に逃れた時、それを屋敷の窓の内側から見上げる(屋敷から出ることのない)スティーヴンス―という対比的構図も、鳥の闖入自体が映画のオリジナルです。

小説における主人公の旅程(オックスフォード ⇔ コーンウォール(Cornwall)州リトル・コンプトン(Little Compton))

ジェフ・ベゾス 果てなき野望.jpg日の名残り dvd.jpg 原作本は、あのAmazonのCEO ジェフ・ペゾス氏が推薦しています(『ジェフ・ベゾス 果てなき野望―アマゾンを創った無敵の奇才経営者(The Everything Store: Jeff Bezos and the Age of Amazon)』の付録にあるベゾス氏の12冊の愛読書の中の唯一の小説が本書)。ジェフ・ペゾス氏は、この本から「人生を後悔しないことを意識して毎日を生きていこう」ということを学んだようです。実業家らしい読み方だと思いますが、個人的には、それは本よりも映画を観た感想ではないかなという気もします。

日の名残り 文庫s.jpgカズオ・イシグロs.jpg 自分自身も、非常に抑えたトーンの(それだけに切なさが増す)叶わなかった恋の物語であると感じられたのと同時に、「時間は巻き戻せない」「後悔先に立たず」といった箴言を想起させられましたが、原作者のカズオ・イシグロ氏は、この映画を結構気に入っているとしながらも、原作と映画は「異なる芸術作品」だとしています。

 原作では、帰路ウェイマスに寄って桟橋で一時の感傷に浸ったスティーヴンスでしたが、最後は、むやみに冗談を言うことが好きなアメリカ人の雇い主ファラディ氏のために、冗談の練習をして「立派なジョークでびっくりさせて差し上げる」ことを思い立つところで終わっています。つまり、スティーヴンスは引き続き"執事道"を突き進むわけで、彼にはそれしか生きる道は無く、また彼自身はそれで満足しているわけです。イシグロ氏日の名残り (ハヤカワepi文庫).jpgの作品に特徴的な「信頼できない語り手(unreliable narrator)」の典型である主人公スティーヴンスは(もちろん本人は確信を持って古風な"執事道"を述べ尽くしている)、最後までその姿勢を崩さなかったとも言えます。そして、イシグロ氏に言わせれば、原作のテーマは「人は皆、執事のようなものである」ということのようであり、ある意味、これはすごく恐ろしい教唆でもあるように思います。論者の中にはこれを、16世紀のフランスの裁判官、人文主義者エティエンヌ・ド・ラ・ボエシの「自発的隷従論」(『自発的隷従論 (ちくま学芸文庫)』)に絡めて読み解く人もいるようです。

 この発想が出てくるのは、ラスト近くで主人公が窓から外に逃れた鳥を感傷的に見遣る映画の方ではなく、アメリカ人のご主人を喜ばすため立派なジョークが喋れるよう練習に励もうと決意して終わる原作の方でしょう。映画と原作と比べてみるのも面白いのではないかと思います。


日の名残りs.jpgTHE REMAINS OF THE DAY.jpg「日の名残り」●原題:THE REMAINS OF THE DAY●制作年:1993年●制作国:イギリス●監督:ジェームズ・アイヴォリー●製作:リンゼイ・ドーラン●脚本:ルース・プラワー・ジャブバーラ/ハロルド・ピンター(ノンクレジット)●撮影:トニー・ピアース=ロバーツ●音楽:リチャード・ロビンスカズオ・イシグロ『日の名残り』.jpg●原作:カズオ・イシグロ●時間:134分●出演:アンソニー・ホプキンス/エマ・トンプソン/ジェームズ・フォックス/クリストファー・リーヴ/ピーター・ヴォーン/ヒュー・グラント/パトリック・ゴッドフリー/マイケル・ロンズデール●日本公開:1994/03●配給:コロンビア・ピクチャーズ(評価:★★★★)

【1994年文庫化[中公文庫]/2001年再文庫化[ハヤカワepi文庫]】  ハヤカワepi文庫
 
   
   

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ハーレクイン・ロマンスみたいでも、演じる役者が上手ならば、王道を行く恋愛劇作品に。
いつか晴れた日に dvdL.jpg いつか晴れた日に dvdド.jpg いつか晴れた日に 00.jpg アン・リー.jpg
いつか晴れた日に[DVD]」「いつか晴れた日に[DVD]」ケイト・ウィンスレット/エマ・トンプソン アン・リー監督  

いつか晴れた日に_1.jpg 貴族のダッシュウッド氏(トム・ウィルキンソン)が亡くなった後、ダッシュウッド夫人と3人の娘、エリノア(エマ・トンプソン)、マリアンヌ(ケイト・ウィンスレット)、マーガレットは、年500ポンドの遺産しか残されなかったことに愕然とする。ダッシュウッド氏は妻と娘たちの身を案じ、死ぬ間際に彼女たちを頼むと先妻との間の息子ジョン(ジェームズ・フリート)に頼んでいたにもかかわらず、ジョンの妻ファニー(ハリエット・ウォルター)がそれを阻止してしまったのだった。ジョンとファニーは母娘が住んでいたノーランド・パーク邸に乗り込み、彼女たちを邪険に扱うようになる。エリノアは、屋敷を訪れたファニーの弟エドワード(ヒュー・グラント)と互いに好感を抱く。ダッシュウッド母娘はミドルトン卿(ロバート・ハーディ)の厚意でバートン・コテージへ移り住む。マリアンヌは年の離れたブランドン大佐(アラン・リックマン)から愛情を寄せられるが、彼女は青年貴族ウィロビー(グレッグ・ワイズ)と恋仲になってしまう。しかし、ウィロビーは理由も告げずにロンドンへ去り、マリアンヌは悲しみに沈む。一方、エリノアはエドワードの秘密の婚約者ルーシー(イモジェン・スタッブス)の存在に大きな衝撃を受ける。ジェニングス夫人(エリザベス・スプリッグス)の招待で、失意のエリノアとマリアンヌ姉妹、そしてルーシーはロンドンを訪れるが、そこでは思いがけない事態が待っていた―。

Alan Rickman with Ang Lee's Goldener Bär.jpg 1995年製作のアン・リー(李安)監督による米・英合作映画で、アン・リー監督にとっては、本格的にハリウッド進出を果たした第1作。ジェーン・オースティンの『分別と多感』が原作であり、原題は原作と同じです(Sense and Sensibility)。1996年・第46回ベルリン国際映画祭で、アン・リー監督としては「ウェディング・バンケット」('93年/台湾・米)に次ぐ2度目の「金熊賞」を獲得したほか(複数回の金熊賞受賞は2017年現在アン・リー監督のみ)、主演のエマ・トンプソンが脚本を担当しており、第68回アカデミー賞にて脚色賞を受賞しています。

Alan Rickman with Ang Lee's Goldener Bär (Berlinale, 1996)
 
いつか晴れた日に  03.jpg ジェーン・オースティン作品では『高慢と偏見』が2005年にジョー・ライト監督によるイギリス映画としてキーラ・ナイトレイ主演で映画化されていますが(「プライドと偏見」)、文学全集などによく収められているのは『高慢と偏見』の方だけれども(或いは『エマ』か)、この「いつか晴れた日に」の原作『分別と多感』もなかなか面白いのではないでしょうか(個人的には未読だが、2009年に英国ガーディアン紙が発表した「英ガーディアン紙が選ぶ必読小説1000冊」に『高慢と偏見』と共に入っている)。『高慢と偏見』の最初の映画化作品は、ローレンス・オリヴィエ主演の「高慢と偏見」('40年/米)で、当時ハリウッドで流行したスクリューボール・コメディの影響を受けた作りになっているそうですが、ジェーン・オースティンの小説に登場する姉妹(『高慢と偏見』の場合は5人姉妹)は、いい男が現われる度にどんどん恋にいつか晴れた日に1.jpg陥っていくので、何となく分かる気がします。

 この「いつか晴れた日に」も、原作はハーレクイン・ロマンスかと思ってしまうくらい、エリノア、マリアンヌ姉妹の前にエドワード、ブランドン大佐、ウィロビーいい男が次々と3人現れ、そこから紆余曲折の恋愛模様が展開されていきます。たとえハーレクイン・ロマンスみたいでも、演じる役者がしっかりしていて上手に演じていれば、王道を行く恋愛劇作品となり、さすがオースティン原作ということになる―ということではないでしょうか。
 
いつか晴れた日に エマ・トンプソン.jpg 長女エリノア役のエマ・トンプソンはイングランド出身で、ジェームズ・アイヴォリー監督の「ハワーズ・エンド」('92年/英・日)でアカデミー主演女優賞を受賞済み、同じくエマ・トンプソン グレッグ・ワイズ2.jpgジェームズ・アイヴォリー監督の「日の名残り」('93年/英)の演技でもアカデミー主演女優賞ノミネートされています(この「いつか晴れた日に」では英国アカデミー賞主演女優賞を受賞)。因みに、エマ・トンプソンは私生活では、1995年にケネス・ブラナーと離婚した後、同年この「いつか晴れた日に」で共演した、次女マリアンヌの想い人ウィロビー役のグレッグ・ワイズと交際を始め、2003年に再婚しています。

いつか晴れた日に    09.jpgいつか晴れた日に ケイト・ウィンスレット.jpg 次女マリアンヌ役のケイト・ウィンスレットもイングランド出身で、この作品の後、ジェームズ・キャメロン監督の「タイタニック」('97年/米)でレオナルド・ディカプリオと共演し、スティーブン・ダルドリー監督の「愛を読むひと」('08年/米・独)でアカデミー主演女優賞を受賞することになります。レオナルド・デカプリオより1歳年下ですが、若い頃から演技の天才などと呼ばれたレオナルド・デカプリオよりも、彼女の方が受賞は7年早かったことになります。(この「いつか晴れた日に」では英国アカデミー賞主演女優賞を受賞)。

いつか晴れた日に ヒュー・グラントSense-and-Sensibility-emma-thompson-.jpgいつか晴れた日に ヒュー・グラント.jpg エドワード役のヒュー・グラントは、こうした英国風映画には欠かせないイングランド出身の俳優で(個人的には ジェームズ・アイヴォリー監督の「モーリス」('87年/米)の演技が印象的だった)、英国アカデミー賞主演男優賞を受賞した「フォー・ウェディング」('94年/英)の時もそうでしたが、この映画でもちょっと優柔不断なところがある"いい人"が似合っています。
    
いつか晴れた日に アラン・リックマン.jpg ブランドン大佐役のアラン・リックマンは、この人もイングランド出身で、映画初出演だった「ダイ・ハード」('88アラン・リックマン .jpgダイハード 1988 アラン・リックマン2.jpg年/米)の冷酷無比なテロリスト集団のリーダー・ハンス役で一気に有名になりましたが、元々は英ロイヤル・シェイクスピア・カンパニー出身の舞台俳優であり、この映画を観ているとそのことが感じられます。「ハリー・ポッター」シリーズのセブルス・スネイプ役も印象的でしたが、2016年に膵臓癌により69歳で死去したのが惜しまれます。

ヒュー・グラント/エマ・トンプソン    ケイト・ウィンスレット/アラン・リックマン
いつか晴れた日に l1.jpgいつか晴れた日に l2.jpg 脇役もいいですが、やはりこの4人の演技力が映画の完成度に寄与している部分が大きいです。ハリウッド映画ですが、グレッグ・ワイズまで含めて主要な配役の5人ともイングランド出身で、彼らの演技力を引き出したのが、台湾出身のアン・リー監督であるというのが興味深いです。
Sense and Sensibility (1995)
いつか晴れた日に_0.jpgSense and Sensibility (1995).jpg
「いつか晴れた日に」●原題:SENSE AND SENSIBILITY●制作年:1995年●制作国:アメリカ・イギリス●監督:アン・リー(李安)●製作:リンゼイ・ドーラン●製作総指揮:シドニー・ポラック●脚本:エマ・トンプソン●撮影:マイケル・コールター●音楽:パトリック・ドイル●原作:ジェーン・オースティン「分別と多感」●時間:136分●出演:エマ・トンプソン/ケイト・ウィンスレット/ヒュー・グラント/アラン・リックマン/グレッグ・ワイズ/ジェマ・ジョーンズ/エミリー・フランソワ/ジェームズ・フリート/ハリエット・ウォルター/トム・ウィルキンソン/ロバート・ハーディ/エリザベス・スプリッグス/イモジェン・スタッブス/イメルダ・スタウントン/ヒュー・ローリー/リチャード・ラムズデン●日本公開:1996/06●配給:コロンビア・ピクチャーズ(評価:★★★★)

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全員演技の素人。それでヴェネツィア国際映画祭グランプリだから、スゴイ演出力。
あの子をさがして dvd1.jpg あの子をさがして dvd0.jpg   「あの子を探して」ができるまで.jpg
あの子を探して [DVD]」「あの子を探して [DVD]」メイキング「「あの子を探して」ができるまで [DVD]

あの子をさがして00.jpg 河北省赤城県のチェンニあの子をさがして0.jpgンパオ村にある水泉(シュイチアン)小学校で1年から4年まで28人の生徒たちを教えているカオ先生(高恩満(カオ・エンマン))が、母親の看病のため、1ヵ月間小学校を離れることになった。放っておけば、多くあの子をさがして01.jpgの生徒が家庭の事情で学校をやめてしまう。代理としてチャン村長(田正達(チャン・ジェンダ))に連れてこられたのは、13歳の少女、ウェイ・ミンジ(魏敏芝(ウェイ・ミンジ))。中学校も出ていないミンジに、面接したカオ先生は心許なさを感じるが、子供たちに黒板を書き写させるだけの簡単なことならできるだろうと代理を任せる。報酬は50元。子供を一人も脱落させなければさらに10元。ミンジは、生徒に自習させて教室の外で座っているだけの「授業」を始めるが、うまくいくはずもなく、次々と騒ぎが起こる。特に生徒のホエクー(張慧科(チャン・ホエクー))は、隙を見て抜け出そうとしたり、女の子の日あの子をさがして07.jpg記を盗んで騒いだりといつもミンジを困らせていた。そんなある日、そのホエクーが突然学校に来なくなった。病気になった親の代わりに、町に出稼ぎに行ったという。脱落者を出すと報酬が減ってしまうと考えたミンジは、何とか連れ戻そうと策を巡らせるが、町を出るバス代がない。皆で話し合い、レンガを運んで金を稼ぐことになり、生徒たちも一生懸命働いてようやくミンジを送り出す。大きな町へ着くとホエクーは行方知れずだと聞く。彼女はなけなしの金をはたいて紙と筆と墨汁を買い、尋ね人のチラシを貼り出すが、ある男から「そんなものは無駄だ」と指摘される―。

 1999年製作の張芸謀(チャン・イーモウ)監督作で、原作は施祥生(シー・シアンション)の「空に太陽がある」。後に日本で「幸せ三部作」と呼ばれるようになる3作の第1弾で(この後に第2弾「初恋のきた道」('99年)、第3弾「至福のとき」('00年)と続く)、1999年・第56回ヴェネツィア国際映画祭で金獅子賞(グランプリ)を受賞し、同監督作では鞏俐(コン・リー)主演の「秋菊の物語」('92年)に次いで2度目の受賞でした。

あの子をさがして04.jpg 最初のうちは、ミンジには真剣に授業に取り組む気持ちも無く、彼女が町にホエクーを探しにいくのも、子供を一人でも脱落させれば、報酬にプラスして貰えるはずのあの子をさがして05.jpg10元がフイになってしまうことが動機になっているわけですが、町に行くために幾らのカネが必要で、レンガを幾つ運べばどれだけのカネが集まるかを生徒に計算させているうちに、だんだん先生っぽくなっていき、レンガ運びで生徒たちとの間にも一体感が生まれてくるのが面白かったです。この辺りは、コメディ的手法が成功していると言っていいのではないでしょうか。

あの子を探して 11.jpgあの子を探して 12.jpg しかし、町に着いてからもミンジのホエクー探しは難航し、彼女はホエクーと最後に別れたという少女にカネを払ってまでして情報を得ようとしていて、観ていて、ああ、もう自分の報酬のためとかでなくなっているなあというのが伝わってきます。本人は別にそう思って意識が変わったわけではなく、いつの間にかそうした意識になっているわけであって、この辺りも上手いと思いました。そして、ラスト近くのテレビを通しての涙ながらの訴え―これは泣けます。

あの子をさがして06.jpg メイキング(張芸謀監修・出演「『あの子を探して』ができるまで」(2002年))によると、出演者は全員、演技の素人であるとのこと。ミンジを演じた13歳の少女ウェイ・ミンジは、全国で2千人以上もの候補者の中から選ばれた河北省の中学校の生徒。ホエクーを演じた10歳のチャン・ホエクーも河北省の小学生で、村長もカオ先生もテレビ番組のキャスターも、実際に同じ職業の人々だそうです。監督は出演者全員にその状況に彼らが置かれたらどうするかを問い、彼らが答えたようにカメラの前で演じさせたとのことです。

あの子をさがして08.jpg 監督のインタビュー等によると、ミンジが、スタジオでキャスターからいろいろ問いかけられて何も答えられないでいた場面も、監督が予めミンジに「色々質問されるけれど、必ず答えなければいけない」と言って緊張させておいて、答えられない状況を作り出したということで、監督自身「テレビ局のある一面を風刺している場面になったと思います」と述べています。そのミンジが泣くシーンも、「どうしてもあそこで『ホエクー』って言って泣いてもらわなければならない。で、何をしたかと言いますと、耳元でこっそり囁きました。お父さんやお母さん、お姉さん、妹のことですね。彼女の家は非常に貧しいのです。ですから、そういうお家の状況を思い出して泣いてもらったのです」とのこと。スゴイ演出だなあ。

あの子をさがして09.jpg ややストレート過ぎてベタな印象もありますが、ラストの美談も含め、都市と農村の貧富の差が大きく、それが教育格差にもなっているという社会批判になっているようにも思います。中国語タイトルは「一个都不能少」、英語タイトルは"Not One Less"。ミンジは、残っている生徒をうっちゃっておいてホエクーを探しに行っているわけで、カンヌの審査員たちは当然のことながら、聖書の「迷える子羊」の話を想起したのではないでしょうか(改めて、上手く作られていると思う)。

あの子を探して03s.jpg「あの子を探して」●原題:一个都不能少/NOT ONE LESS●制作年:1999年●制作国:中国●監督:張芸謀(チャン・イーモウ)●製作:趙愚(ツァオ・ユー)●脚本:施祥生(シー・シアンション)●撮影:侯咏(ホウ・ヨン)●音楽:三宝(サンパオ)●原作:施祥生(シー・シアンション)「空に太陽がある」●時間:106分●出演:魏敏芝(ウェイ・ミンジ)/高恩満(カオ・エンマン)/張慧科(チャン・ホエクー)/田正達(チャン・ジェンダ)●日本公開:2000/07●配給:ソニー・ピクチャーズ・エンタテインメント●最初に観た場所:渋谷・Bunkamura ル・シネマ(00-10-10)(評価:★★★★☆)

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久しぶりに観直してみて改めて原作のスゴイ技巧(幾つものリフレイン)に気づいた。

二十日鼠と人間(1992).jpg二十日鼠と人間.jpg 二十日鼠と人間(1992)es.jpg 
二十日鼠と人間 [DVD]」ジョン・マルコヴィッチ/ゲイリー・シニーズ

二十日鼠と人間(1992)011.jpg 1930年の大恐慌時代のカルフォルニア。小柄で頭の切れるジョージ(ゲイリー・シニーズ)と、巨漢だが知恵遅れのレニー(ジョン・マルコヴィッチ)の2人は、農場から農場へ渡り歩きながら労働に明け暮れる日々を送っていた。レニーは気持ちの優しい男だが、他愛のない失敗でよく面倒に巻き込まれるのが日常茶飯事だった。そんなレニーを聡明なジョージは何かと庇い、レニーは行動の全てをジョージに指示してもらい頼りきっていた。いつかは牧場主になるという夢を楽しそうに語る2人。そして彼らは、次の働き場所タイラー牧場へと向かうが―。

ハツカネズミと人間.jpg二十日鼠と人間(1992)02.jpg 1992年公開作で、原作は1937年に出版されたジョン・スタインベック(John Steinbeck、1902‐1968/享年66)の小説で、文庫本で150ページ弱です。このシンプルで中身の濃い作品を、当時気鋭のゲイリー・シニーズが監督し、製作・主演も兼ねています。ゲイリー・シニーズは元々演出家として評価され、この「二十日鼠と人間」も自らが舞台演出した後の映画化作品です。

二十日鼠と人間(1992)01.jpg  昔ビデオで観たのを、今回DVDで観直しました。ジョン・マルコヴィッチは映画に出たての「プレイス・イン・ザ・ハート」('84年/米)の頃から上手いと思っていましたが、やはり上手い。一方、ゲイリー・シニーズの方は、監督が主演も兼ねると気負い過ぎてダメになるケースもあるのでどうだったかなと思いましたが、観直してみたら、ジョン・マルコヴィッチと甲乙つけ難いほどの名演技でした。大男と小男の話なので、身長183センチのジョン・マルコヴィッチと身長175センチのゲイリー・シニーズでは、原作のイメージほどの"高低差"ではないなあと思いましたが、観ているうちにそんなことはどうでもよくなったほどでした。

 久しぶりに映画を観て、改めて原作の技巧に気づきました。キャンディ老人(レイ・ウォルストン)が、自分が飼っていた老犬の最期を他人であるカールソンに任せたことを、後で「自分がやるべきだった」と悔いたところが、ジョージとレニーとの最後のシーン(ジョージは、レニーの人間としての矜持を、自分にできる最善の方法で保たせてやりたかった二十日鼠と人間(1992)06.jpgということなのだろう)と重なる伏線となるわけで、これははっきり覚えていましたが、その他にも、レニーが〈二十日鼠〉の死体を持ち歩いていたこと(自分の手で圧死させてしまったのかもしれない)と、結果として短期間しか飼えなかった〈子犬〉の死、そして終盤の〈カーリーの妻〉(シェリリン・フェン)の死と、3度にわたって事故死が繰り返されていたのだなあと。更には、2人が今の農場に流れてくる原因になった、レニーが前の農場で女性の着ている服の〈光沢〉のある生地に魅せられた結果生じたトラブルと、レニーが今度はカーリーの妻の髪の毛の〈光沢〉に魅せられて、彼女からの誘惑もあって、結局それが悲劇に繋がるという、ここでもリフレインが効いています。つまり3通りものリフレインがあるわけですが、何れも後の方がより重大な結果を招いており、リフレインとリフレインが"相似形"的な関係になっています(何という技巧か!)。

二十日鼠と人間(1992)04.jpg ジョージはラストで、レニーと共にいることが自分の生きがいになっていたことに改めて(初めて?)気づいたのではないでしょうか。原作は、ラストの悲劇の後、全てを見通したスリムがジョージに気遣いする一方で、共に立ち去る2人を見てカーリーとカールソンは首を傾げるといった終わり方になっていて、スリム、ジョージの2人とカーリー、カールソンの2人が、全く別のタイプの人間として明確に線引されることを効果的に印象づけているように思いました。同時に、ジョージがもう農場をあちこち移動することなく、スリムと同じ道を辿り、更にはスリムの後継となることを暗示しているように思いました。

 一方、映画では、ジョージが逃走したレニーを探す際にカーボーイハットを藪の中へ捨てる(落とす(?))場面があり、カウボーイハットは農夫・牧童の象徴であることから、ジョージは農夫を続けることもしないとの見方もあるようです。この場合は、農夫を辞めて何かをするというよりは、農夫として働くのは将来の夢を実現させるためで、その夢はレニーと共にあった夢だったので、レニーを失った今、これから何をしていいのか真っ暗闇状態にあるということなのでしょう(実際、映画ではラスト、ジョージは暗闇の中で貨物列車に乗る)。

二十日鼠と人間(1992)05.jpg 概ね原作に忠実に作られていましたが、黒人であるがために厩に住まわされているクルックス(ジョー・モートン)をカーリーの妻がなじるシーンが無かったなあ。ゲイリー・シニーズは舞台から映画に入ったわけですが、この作品の原作そのものが小説でありながら演劇的でもあり、このクルックスも出番は短いながら重要な役割を担っていたように思います。但し、ジョー・モートンの演技そのものは良く、老犬を飼うキャンディ老人役のレイ・ウォルストンもそうですが、脇役まで演技達者で固めているという点でも、演劇的な映画でした。

二十日鼠と人間 the farm.jpg 二十日鼠と人間55f2.jpg 二十日鼠と人間f9c71de.jpg

二十日鼠と人間 000.jpg「二十日鼠と人間」●原題:OF MICE AND MEN●制作年:1992年●制作国:アメリカ●監督:ゲイリー・シニーズ●製作:ゲイリー・シニーズ /ラス・スミス●脚本:ホートン・フート●撮影:ケネス・マクミラン●音楽:マーク・アイシャム●原作:ジョン・スタインベック●時間:115分●出演:ゲイリー・シニーズ/ジョン・マルコヴィッチ/レイ・ウォルストン/シェリリン・フェン/ジョー・モートン/アレクシス・アークエット/ジョン・テリー/モイラ・ハリス●日本公開:1992/12●配給:MGM映画=UIP(評価:★★★★)

"Of Mice and Men" from Iron Age Theatre(舞台劇「二十日鼠と人間」)
Of Mice and Men 1.jpg Of Mice and Men 3.jpg

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主人公が "彼女の秘密"に気づく場面はミステリの謎が明かされるようで白眉。

愛を読むひとdvd 2008.jpg 愛を読むひと .jpg 朗読者 新潮文庫.jpg タイタニック bvd.jpg
愛を読むひと<完全無修正版> [DVD]」ケイト・ウィンスレット ベルンハルト・シュリンク『朗読者 (新潮文庫)』「タイタニック(2枚組) [AmazonDVDコレクション]
愛を読むひと 01.jpg 第二次世界大戦後のドイツ。15歳のマイケル(ダフィット・クロス)は、体調が優れず気分が悪かった自分を偶然助けてくれた21歳も年上の女性ハンナ(ケイト・ウィンスレット)と知り合う。猩紅熱にかかったマイケルは、回復後に毎日のように彼女のアパートに通い、いつしか彼女と男女の関係になる。ハンナはマイケ愛を読むひと 03 2.jpgルが本を沢山読む子だと知り、本の朗読を頼むようになる。彼はハンナのために『オデュッセイア』や『犬を連れた奥さん』などを朗読する。ある日、ハンナは働いていた市鉄での働きぶりを評価され、事務職への昇進を言い渡されると、マイケルの前から姿を消愛を読むひと80.jpgしてしまう。理由がわからずにハンナに捨てられて8年が経ったある日、ハイデルベルク大学法学部生となったマイケルは、ロール教授(ブルーノ・ガンツ)のゼミ研究のためにナチスの戦犯を裁くアウシュビッツ裁判を傍聴し、被告席の一つにハンナの姿を見つける。彼女は第二次世界大戦中に強制収容所で看守をしていたのである。裁判はハンナに不利に進み、彼女は無期懲役の判決を受ける―。
 
Der Vorleser(ドイツ語paperback)/Bernhard Schlink
Der Vorleser.jpgベルンハルト・シュリンク.jpg 2008年のアメリカ・ドイツ合作映画で、監督は英国人のスティーブン・ダルドリー、原作は1995年に出版されたベルンハルト・シュリンク(Bernhard Schlink)の長編小説『朗読者』('00年/新潮社、原題:Der Vorleser/The Reader)です。映画は(終盤に主人公がニューヨークへ行く場面を除き)ドイツで撮影されていますが、英語による製作であるため、主人公の名前も、原作のミヒャエルからマイケルになっています。但し、少年時代のマイケルを演じたダフィット・クロスはドイツの俳優、母親を演じたズザンネ・ロータもドイツ人女優、法学部のロール教授はスイス出身のブルーノ・ガンツが演じていてます。ハンナ役のケイト・ウィンスレットは英国人女優、成人してからのマイケルを演じたレイフ・ファインズも英国人俳優、アウシュヴィッツの生存者母子ローゼ・マーターとイラーナ・マーターの二役を演じたレナ・オリンはスウェーデン出身、若き日のイラーナを演じたアレクサンドラ・マリア・ララはルーマニア人、成人したマイケルの娘を演じたハンナー・ヘルツシュプルングは、これまたドイツ人女優です(アメリカ人、いないね)。

愛を読むひとes.jpg 先に原作を読みましたが、かつて齋藤美奈子氏が「包茎小説」と呼んでいたのを思い出しました。15歳のミヒャエルと21歳年上のハンナが出会い、男女の関係を持って別れるまでを描いた第1章だけならば、確かに"筆おろし"小説と言えなくもなく、元判事で法学部教授である作者がこういうの書くのが興味深いと思いました。しかし、第2章の裁判の場面はまさにキャリアに裏打ちされたもので、作品に深みを与えることにも繋がっているように思いました。小説はこれに、裁判以降の主人公とハンナの話を描いた第3章を加えた3つの章から成ります。

レイフ・ファインズ(現在のマイケル)/ダフィット・クロス(少年時代のマイケル)
愛を読むひとralph_fiennes_in_the_reader.jpg愛を読むひと kurosu.jpg 一方の映画の方は、1995年の主人公マイケルの「現在」を軸に、1958年の15歳の時にハンナと出会った少年期、1966年のハンナの裁判を偶然傍聴することになった法学部生愛をよむ人 s.jpg時代、1976年のマイケルが本を朗読しテープに録音して、それを獄中のハンナに送ることを思いついた時期、1980年のハンナから届いた短い文章の礼状にマイケルが感動した出来事、1988年の20年の刑に減刑されたハンナが釈放されることが決まった時などとの愛を読むひと ブルーノ・ガンツ.jpg間を行き来する形をとっていますが、概ね原作に忠実であるといっていいでしょう(マイケルが離婚して娘となかなか会えないでいるといった現況は映画のオリジナル。あとは、ブルーノ・ガンツ演じる教授のウェイトが原作より大きくなって、主人公に精神的に導き支えるという点で、原作における主人公の父親である哲学教授の役割を一部代替していたりする)。

ブルーノ・ガンツ(後ろ)

愛を読む人aioyomu.jpg 原作でも言えるのは、ハンナが幾つか謎を抱えている女性であるという点であり、①なぜマイケルと交わるようになったのか?(単なる気まぐれ?)、②なぜ裁判で不利になることを承知で自らの"秘密"を明かさなかったのか?(主人公がその"秘密"に気づく場面は、ミステリの謎が明かされるようで、原作でも映画でも白眉)、③そして最後に彼女がとった行動の理由は?―等々。映画を観て、①の理由は、マイケルが彼女にとっての癒しとなる"朗読者"であり、自らを成長させるパートナーであったことが窺えましたが心と響き合う読書案内2.jpg新潮文庫 20世紀の100冊.jpg、②については、映画を観てもまだ解らない部分が残りました。小川洋子氏は、「彼女は疲れ切っていたに違いない。彼女は裁判で闘っていただけではなかった。彼女は常に闘っていたのだ。何ができるかを見せるためではなく、何ができないかを隠すために」としています(『心に響き合う読書案内』('09年/PHP新書)。この原作は、関川夏央氏の『新潮文庫20世紀の100冊』('09年/新潮新書)にも取り上げられている)。

愛を読む人 ウィンスレット.jpg こうした"秘密"を持つ女性を演じるのは難しいだろうなあと思いますが、それだけ魅力的でもあり、ケイト・ウィンスレット(1975年生まれ)はそこに上手く嵌ったように思います(ニコール・キッドマンが妊娠で降板し、当初の候補だったケイト・ウィンスレットが結局演じることになった)。ケイト・ウィンスレットは、この作品で「タイタニック」('97年)以来4度目のアカデミー賞主演女優賞ノミネート(「助演賞」ノミネートを含むと6度目)にして、初の受賞を果たしています。「タイタニック」で共演したレオナルド・ディカプリオ(1974年生まれ)も、「レヴェナント:蘇えりし者」('15年)で4度目のアカデミー賞主演男優賞ノミネート(「助演賞」ノミネートを含むと5度目)にして初受賞していますが、若い頃から演技の天才などと呼ばれたレオナルド・デカプリオよりもケイト・ウィンスレットの方が受賞は7年早かったことになります。

タイタニック vhs.jpg 「タイタニック」の興行収入は、全米で6.6億ドル、日本で262.0億円(配給収入160.0億円)、全世界で21.9億ドルに達し、「ジュラシック・パーク」('93年)を抜いて当時の世界最高興行収入を記録し、この記録は同じジェームズ・キャメロン監督作品の「アバター」('09年)に抜かれるまで保持され、日本でも「もののけ姫」('97年)を抜いて日本歴代興行収入記録を更新し、「千と千尋の神隠し」('01年)に抜かれるまで記録を保持していました。逆に、これほどヒットすると劇場に観に行かなかったりして、結局ビデオで観てしまいましたが、「アビス」('89年)の監督によるCG映画だと思って軽く見ていてのが、結構ドラマ部分もしっかりしていて、事前の予想よりも良かったです。

 ケイト・ウィンスレット演じるローズは1等客室の客、レオナルド・ディカプリオ演じるジャックは3等客室の客。「船」って階層社会の縮図だなあ。階級差を超えた恋という定番の設定ですが、意外と感情移入できたのは、振り返ってみれば二人の演技がしっかりしていたのかも。個人的には、昔、八戸と苫小牧間のフェリーで1等の個室部屋がとれなくて2等の部屋に雑魚寝部屋にいったん入ったのを思い出しました。すぐに1等のキャンセル待ちに並んで、窓ありの個室部屋に移りましたが、やはり天と地の差があったなあ(笑)。学生時代は、雑魚寝部屋で伊豆大島に行ったりしていましたが、その頃は全然抵抗なかったけれど...。

ケイト・ウィンスレット in「いつか晴れた日に」('95年)/「タイタニック」('97年)
いつか晴れた日に ケイト・ウィンスレット2.jpg 「タイタニック」デカプリオ・ウィンスレット.jpg
ブルーノ・ガンツ in「ヒトラー~最期の12日間~」('04年)
「ヒトラー」ガンツ.gif

愛を読むひig.jpg「愛を読むひと」●原題:THE READER●制作年:2008年●制作国:アメリカ・ドイツ●監督:スティーブン・ダルドリー●製作:アンソニー・ミンゲラ/シドニー・ポラック/ドナ・ジグリオッティ/レッドモンド・モリス●脚本:デヴィッド・ヘアー●撮影:クリス・メンゲス●音楽:ニコ・マーリー●原作:ベルンハルト・シュリンク「朗読者」●時間:124分●出演:ケイト・ウィンスレット/レイフ・ファインズ/ダフィット・クロス/ブルーノ・ガンツ/レナ・オリン/アレクサンドラ・マリア・ララ/ハンナー・ヘルツシュプルング/ズザンネ・ロータ●日本公開:2009/06●配給:ショウゲート●最初に観た場所:北千住・シネマブルースタジオ(17-09-19)(評価★★★★)

タイタニック (1997年3.jpgタイタニック (1997年0.jpg「タイタニック」●原題:TITANIC●制作年:1997年●制作国:アメリカ●監督・脚本:ジェームズ・キャメロン●製作:ジェームズ・キャメロン/ジョン・ランドー●撮影:ラッセタイタニック (1997年2.jpgル・カーペンター●音楽:ジェームズ・ホーナー(主題歌:セリーヌ・ディオン「マイ・ハート・ウィル・ゴー・オン」●時間:194分●出演:レオナルド・ディカプリオ/ケイト・ウィンスレット/ビリー・ゼイン /デビッド・ワーナー/フランシス・フィッシャー/ダニー・ヌッチ/ジェイソン・ベリー/エイミー・ガイバ/ビル・パクストン/グロリア・スチュアート/スタイタニック (1997年1.jpgージー・エイミス/ルイス・アバナシー/キャシー・ベイツ/バーナード・ヒル /ジョナサン・ハイド/ヴィクター・ガーバー/マーク・リンゼイ・チャップマン/ヨアン・グリフィズ/エドワード・フレッチャー /エリック・ブレーデン/マイケル・エンサイン/バーナード・フォックス/●日本公開:1997/12●配給:20世紀フォックス(評価★★★★)

 

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テンポが良いサクセス・ストーリー。成功の裏側も描いていて楽しめた。

ファウンダー tirasi.jpg 
「ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ」チラシ

ファウンダー01.jpgファウンダー02.jpg 1954年、シェイクミキサーのセールスマン、レイ・クロック(マイケル・キートン)に8台もの注文が飛び込む。注文先はマック(ジョン・キャロル・リンチ)とディック(ニック・オファーマン)のマクドナルド兄弟が経営するカファウンダー04.jpgリフォルニア州南部にあるバーガー・ショップ「マクドナルド」だった。合ファウンダー05.jpg理的なサービス、コスト削減、高品質という、店のコンセプトに勝機を見出したクロックは兄弟を説得し、「マクドナルド」のフランチャイズ化を展開する。しかし、利益を追求するクロックと兄弟の関係は次第に悪化し、クロックと兄弟は全面対決へと発展してしまう―。

マクドナルド セミナー資料.jpg ジョン・リー・ハンコック監督の2016年製作映画(本国公開2016年12月7日、日本公開2017年7月29日)で、「マクドナルド」の"創業者"(founder)"レイ・クロックの成功とその裏側を描いた実話風ビジネスドラマです。レイ・クロックの「マクドナルド」に纏わる話は、本で読んだり(自伝『成功はゴミ箱の中に』成功はゴミ箱の中に 01.jpgは有名)、或いは、マクドナルドで教育研修を担当していた人の講演セミナーを聴いたりすることがあり知っていましたが(元社員の人は大体セミナーの冒頭にレイ・クロックの話をする)、映画はテンポが良くて、しかも内容がサクセス・ストーリーなので(成功の裏側も描いていて)楽しめました。『成功はゴミ箱の中に レイ・クロック自伝―世界一、億万長者を生んだ男 マクドナルド創業者 (PRESIDENT BOOKS)

マクドナルド兄弟の店.jpg    マクドナルド兄弟の店 ファウンダ―.jpg
マクドナルド兄弟の店(1940年カリフォルニア州サンバーナーディノにオープン)実物/映画

マクドナルド フランチャイズ1号店.jpg 壮大なフランチャイズ・ビジネスで利益を追求しようとするレイ・クロックと、小規模でも堅実な道を歩もうとするマクドナルド兄弟との確執に焦点を当てていて、フェイスブックの創業者間の対立を描いた「ソーシャル・ネットワーク」('10年)と似ている部分もありますが、本国の批評家の間では2010年ゴールデングローブ賞の作品賞を獲得した「ソーシャル・ネットワーク」ほどには(今のところ)評価されていないようです。ただ、個人的には「ソーシャル・ネットワーク」より面白かったです。
マクドナルド フランチャイズ1号店(1955年4月シカゴ郊外にオープン、現在はMcDonald's Corporation Museum)

ファウンダー 09.jpg この映画の日本版のキャッチ・コピーの1つに「英雄か。怪物か。」というのがありますが、本国版のキャッチ・コピーは"He took someone else's idea and America ate it up."で、「他人のアイデア」とあるように、30秒以内に注文客に商品を渡すといったマクドナルドのコンセプト自体は、レイ・クロックの独創ではないことをより明確に打ち出しています。この映画はマクドナルド社の協力無しに作られているわけですが、それでもレイ・クロックという人物を、アクの強さがあるにせよ、進取の気性に富み、スモール・ビジネスをビッグ・ビジネスに変えた傑物として描いている部分が大きいように思いました。

ファウンダー09.jpg 中盤でレイ・クロックが、人から"創業"はいつか聞かれて答えに窮する場面があったのが印象に残りました(創業したのはマクドナルド兄弟だから)。それが、ビジネスが拡張すると、彼自身が"ファウンダ―(創業者)"を名乗るようになり、終いにはマクドナルド兄弟から経営権を全面的に買い取って、兄弟には「マクドナルド」という名を使わせないようにします。マクドナルド兄弟に「マクドナルド」という名を使わせないというのもスゴイですが、兄弟が交換条件として求めた「永続的に利益の1%」を支払うという件については、契約書には記さず"紳士協定"ということにして、必ず守ると言いながら反故にし、兄弟の店はやがて閉店することになったことを映画は最後に伝えています。

ファウンダー 08.jpg こうした「目的のためには手段を選ばず」的な面はあるものの、52歳のうだつの上がらないシェイクミキサーのセールスマンだった男が、あれよあれよという間に外食産業の帝国を築いてしまうというのは、まさにアメリカン・ドリームを象徴するような話であるには違いありません。成功の条件は、ひたすら「根気強く」ということでしょうか。但し、映画で描かれる彼は、人の能力(やる気と言うべきか)を見抜く才能があり、そうして得た人材を適材を適所に配置することに長け、また、いいタイミングで自身の右腕となる参謀的な人物と出会えたという運もあったようです。

 マクドナルド兄弟が革新的な"スピード・サービス・システム"を編み出したプロセスが描かれているのが興味深かったです。まさに、テーラーの"科学的管理法"であり、映画の中でも言われているように、ヘンリー・フォードの"フォード・システム"です。但し、外食産業で一番最初にフォード・システムを取り入れたのは1930年創業のKFC(ケンタッキーフライドチキン)であり、1940年に最初のマクドナルドを開いたマクドナルド兄弟が考えたようなことを、当時は既に組織的に導入していたのではないかと思われます。

ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ 07.jpg KFCはフランチャイズ・ビジネスという点でもマクドナルドのずっと先輩格にあたるわけですが、マクドナルドもフランチャイズ・ビジネス抜きには考えられないわけで、そうした観点から見ればレイ・クロックも"ファウンダ―(創業者)"と言えなくはないと思います。彼は「マクドナルド」という商標にこだわったため、マクドナルド兄弟との対立が深まったという気もします。なぜ、「クロック」とせず「マクドナルド」にこだわったのかが、映画の中でも、また本物のレイ・クロックが登場する記録映像の中でも明かされていたのが興味深かったです(両親はチェコ系ユダヤ人であり、クロックという姓は当時の米国ではマイノリティ=被差別層を想起させる姓ということになる)。

バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡).jpgバードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)01.jpg 「バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」('14年)でアカデミー主演男優賞にノミネートされたマイケル・キートンがレイ・クロックを好演しています。マイケル・キートン主演のビジネス・ムービーとガンホーdvd.jpg言えば、ロン・ハワード監督の米国に進出した日本の自動車メーカーを舞台とした「ガン・ホー」('86年)がありましたが、あれから30年経っているのかあ(髪の毛が薄くなるのも無理はない)。「バードマン」で、かつてのスーパーヒーロー、バードマン役で人気があったが今は落ち目の中年俳優を演じて、一気に"演技派"の評価を得ましたが("中年以降の人生の逆転劇"という点ではこの「ファウンダー」も同様)、マイケル・キートン自身もかつてはティム・バートン監督の「バットマン」('89年)と「バットマン・リターンズ」('89年)にバットマンことブルース・ウェイン役で出演していました。

バットマン BATMAN 1989.jpgバットマン マイケル・キートン.jpg 「バットマン」で彼が演じたバットマンはとにかく暗く、映画自体が暗かったです。ロビンも出てこないし、昔テレビでやっていた実写版の「怪鳥人間バットマン」('66‐'67年)とは随分違う感じがしました。映画は米国ではヒットしたようですが、日本では宣伝の割りにはイマイチだったように思います。"ジョーカー"を演じたジャック・ニコルソンのギャラの高さが話題になった記憶があります。

バットマン・リターンズ 02.jpgバットマン・リターンズ .jpg シリーズ第2作の「バットマン・リターンズ」は、ペンギン男にダニー・デヴィート、新登場のキャット・ウーマンにミシェル・ファイファーを配しましたが、共に主役のマイケル・キートンを完全に喰ってしまう怪演を見せ、第1作よりちょっとだけ面白かったかも。何れにせよ、マイケル・キートンは、主演であるのに第1作でジャック・ニコルソンに喰われ、第2作でダニー・デヴィート、ミシェル・ファイファーに喰われるという損な役回りだったようにも思います。

 マイケル・キートンはシリーズ3作目で、ティム・バートンの監督降板と共にバットマン役(二代目)をヴァル・キルマー(「トゥームストーン」('93年))に譲っています。ただし、ヴァル・キルマーのバットマン役はシリーズ第3作「バットマン フォーエヴァー」('95年)だけで、バットマン役はその後、第4作「バットマン&ロビン Mr.フリーズの逆襲」('97年)ではジョージ・クルーニー、クリストファー・ノーラン監督の「ダークナイトトリロジー三部作」と言われる第5作「バットマン ビギンズ」('05年)、第6作「ダークナイト」('08年)、第7作「ダークナイト ライジング」('12年)ではクリスチャン・ベール(「ザ・ファイター」('11年))、第8作「バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生」('16年)、第9作「ジャスティス・リーグ」('17年)ではベン・アフレック(「アルゴ」('12年))と変遷していきます。ただし、第8作「バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生」、第9作「ジャスティス・リーグ」は、DCコミックスの実写化映画作品を、同一の世界のクロスオーバー作品群として扱った「DCエクステンデッド・ユニバース」シリーズのそれぞれ第2作と第5作という位置づけにあり、純正なバットマン映画とは言い難い気もします。最初に演じたマイケル・キートンが最も嵌り役だった思いますが、次に挙げるとすれば、最多の3作出演のクリスチャン・ベールだったでしょうか。ただし、彼も、「ダークナイト」ではジョーカーを演じたヒース・レジャー(1979-2008(28歳没))( 「ブロークバック・マウンテン」('05年/米))に喰われ気味でした。


ファウンダー00.jpg「ファウンダー ハンバーファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ  .jpgガー帝国のヒミツ」●原題:THE FOUNDER●制作年:2016年●制作国:アメリカ●監督:ジョン・リー・ハンコック●製作:ドン・ハンドフィールド/ジェレミー・レナー/アーロン・ライダー●脚本:ロバート・シーゲル●撮影:ジョン・シュワルツマン●音楽:カーター・バーウェル●時間:115分●出演:マイケル・ファウンダーes.jpgキートン/ニック・オローラ・ダーン ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ.jpgファーマン/ジョン・キャロル・リンチ/リンダ・カーデリニ/パトリック・ウィルソン/B・J・ノバク/ローラ・ダーン/ジャスティン・ランデル・ブルック/ケイト・ニーランド●日本公開:2017/07●配給:KADOKAWA●最初に観た場所:渋谷シネパレス(旧渋谷パレス座)(17-07-30)(評価★★★☆)

ジョン・キャロル・リンチ TV「ボディ・オブ・プルーフ 死体の証言」('11年~'13年)/「ラッキー」('17年/米)監督
1ボディ・オブ・プルーフ 死体の証言 (2).jpg  ラッキー 映画 2017.jpg ジョン・キャロル・リンチ監督.jpg

渋谷シネパレス3.jpg渋谷パレス座.jpg渋谷シネパレス.jpgシネパレス シネクイント.jpg渋谷パレス座 1948年渋谷パレス座オープン。1990年6月閉館。1992年3月14日「渋谷シネパレス」として改築オープン。2003年6月~2館体制(スクリーン1:182席/スクリーン2:115席)。上写真「ハイローリング」('77年/米)(1978/12 公開)/「恋人たちの予感」('89年/米)(1989/12 公開)2018年5月28日「渋谷シネパレス」閉館。2018年7月2日「シネクイント」(旧PARCO SPACE PART3)(2016年8月7日閉館)の後継館として再オープン(スクリーン1:162席、スクリーン2:115席)。

ガン・ホー1986 04.jpgガン・ホー1986 02.jpg「ガン・ホー」●原題:GUNG HO●制作年:1986年●制作国:アメリカ●監督:ロン・ハワード●製作:デボラ・ブラム/トニー・ガンツ●脚本:ローウェル・ガンツ/ババルー・マンデル●撮影:ドナルド・ピーターマン●音楽:トーマス・ニューマン●時間:11ガン・ホー01.jpg1分●出演:マイケル・キートン/ゲディ・ワタナベ/ミミ・ロジャース/山村聰/クリント・ハワード/サブ・シモノ/ロドニー・カゲヤマ/ジョン・タトゥーロ/バスター・ハーシャイザー/リック・オーヴァートン●日本公開:(劇場未公開)VHS日本発売:1987/11●発売元:パラマウント・ホーム・エンタテインメント・ジャパン(評価:★★★☆)

バットマン 1989.jpgバットマン 1989 dvd.jpg「バットマン」●原題:BATMAN●制作年:1989年●制作国:アメリカ●監督:ティム・バートン●製作:ジョン・ピータース/ピーター・グーバー●脚本:サム・ハム/ウォーレン・スカーレン●撮影:ロジャー・プラット●音楽:ダニー・エルフマン(主題歌:プリンス)●原作:サム・ハム●時間:127分●出演:マイケル・キートンジャック・ニコルソン/キム・ベイシンガー/ロバート・ウール/パット・ヒングル/ビリー・ディー・ウィリアムス/マイケル・ガウ/ジャック・パランス/リー・ウォーレス●日本公開:1989/12●配給:ワーナー・ブラザース(評価★★☆)
バットマン [DVD]

バットマン・リターンズ 1992 .jpgバットマン・リターンズ 1992 dvd.jpg「バットマン・リターンズ」●原題:BATMAN RETURNS●制作年:1992年●制作国:アメリカ●監督:ティム・バートン●製作:デニーズ・ディ・ノヴィ/ティム・バートン●脚本:ダニエル・ウォーターズ●撮影:ステファン・チャプスキー●音楽:ダニー・エルフマン(主題歌:スージー・アンド・ザ・バンシーズ)●原作:ボブ・ケイン●時間:126分●出演:マイケル・キートンダニー・デヴィートミシェル・ファイファー/クリストファー・ウォーケン/マイケル・ガウ/パット・ヒングル/マイケル・マーフィー/ヴィンセント・スキャベリ●日本公開:1992/07●配給:ワーナー・ブラザース(評価★★★)
バットマン リターンズ [DVD]

クリスチャン・ベール in「ダークナイト」('98年)
ダークナイト dvd.jpgダークナイト2.jpg「ダークナイト」●原題:THE DARK KNIGHT●制作年:2008年●制作国:アメリカ・イギリス●監督:クリストファー・ノーラン●製作:クリストファー・ノーラン/チャールズ・ローヴェン/エマ・トーマス●脚本:クリストファー・ノーラン/ジダークナイト ヒースレジャー.jpgョナサン・ノーラン●撮影:ウォーリー・フィスター●音楽:ハンス・ジマー/ジェームズ・ニュートン・ハワード●原作:ボブ・ケイン/ビル・フィンガー「バットマン」●時間:152分●出演:クリスチャン・ベールヒース・レジャー/アーロン・エッカート/マギー・ジレンホール/マイケル・ケイン/ゲイリー・オールドマン/モーガン・フリーマン/メリンダ・マックグロウ/ネイサン・ギャンブル/ネスター・カーボネル●日本公開:2008/08●配給:ワーナー・ブラザース(評価:★★★☆)
怪鳥人間バットマン.jpg怪鳥人間バットマン dvd.jpg怪鳥人間バットマン3_0.jpg「怪鳥人間バットマン」(Batman) (ABC 1966~1968) ○日本での放映チャネル:フジテレビ(1966~1967)/WOWOW


《読書MEMO》
●「エスクァイア」編集部による歴代バットマン映画俳優ランキング(「バットマン」オリジナル・ムービー('66年)を含む)
第1位: マイケル・キートン/「バットマン」(1989年)、「バットマン リターンズ」(1992年)
第2位: クリスチャン・ベール/「バットマン ビギンズ」(2005年)、「ダークナイト」(2008年)、「ダークナイト ライジング」(2012年)
第3位: アダム・ウェスト/「バットマン」(1966年)
第4位: ヴァル・キルマー/「バットマン・フォーエヴァー」(1995年)
第5位: ジョージ・クルーニー/「バットマン&ロビン Mr.フリーズの逆襲」(1997年)
第6位: ベン・アフレック/「バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生」(2016年)、「ジャスティス・リーグ」(2017年)
バットマン 歴代.jpg

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原作もいいが、いろいろな部分で原作より良くなっている点があったように思う。

名探偵ポワロ45もの言えぬ証人 Dumb Witness(1997)02.jpg もの言えぬ証人 dvd.jpg  名探偵ポワロ(第45話)/もの言えぬ証人00.jpg Dumb Witness AL_.jpg
名探偵ポワロ[完全版]Vol.27 [DVD]」「名探偵ポワロDVDコレクション 7号 (もの言えぬ証人) [分冊百科] (DVD付)Dumb Witness
名探偵ポワロ45もの言えぬ証人 s.jpg名探偵ポワロ(第45話)/もの言えぬ証人01.jpg ポワロはヘイスティングスの友人チャールズ・アランデルが、水上ボートの最速記録に挑戦するのを見学にウィンダミアにやって来る。そこには、取材陣や村人らの他に、チャールズの叔母でリトル・グリーンハウスの主のエミリー、付添婦のウィルミーナ、チャールズの妹テリーザ、エミリーの姪のベラ・タニオスとその夫でギリシャ人医師のジェイコブが集っていた。さらに、霊媒のトリップ姉妹も駆けつけ、ポワロ名探偵ポワロ(第45話)/もの言えぬ証人03.jpgに不吉な警告をする。チャールズのボートは火を噴くが、彼は無事に脱出、祝賀会の予定が単なる夕食会になったその席には、エミリー名探偵ポワロ(第45話)/もの言えぬ証人02.jpgの主治医グレンジャー医師も同席する。席上、トリップ姉妹のイザベルに霊が憑依し、MP(ポワロの先祖)からポワロに警告すると言う。その夜、エミリーが階段から転落する事故が起き、踊り場に飼い犬のフォックステリア、ボブのボールが見つかる。彼女はそれに躓いたと思われたが、ポワロはネジを発見し、ワイヤーが張られていたと推理する。エミリーから相談を受けたポワロは、遺産目当てに命を狙われるな名探偵ポワロ45もの言えぬ証人es.jpg ら、遺言状を書き換えて身内には遺産をやらないことにすればよいと提案し、エミリーはこれを受け入れ実行する。ジェイコブが調合薬をエミリーに渡し、エミリーがそれを飲んで外に出たとたん、口から緑色の気体を吐いて倒れ、彼女は亡くなる。トリップ姉妹もウィルミーナもエミリーの口から魂が外に出たのだと思い込む。地元警察のキーリ名探偵ポワロ(第45話)/もの言えぬ証人05.jpgィ巡査部長は肝臓障害による死亡と断定し、検死解剖を拒否する。ポワロは降霊会をやるというトリップ姉妹の提案を受け入れ、その降霊会でイザベルはエミリーの言葉で殺人者はロバート・アランデルだと告げるが、そんな名の者は、犬のボブがロバートであるのを除いていない。新しい遺言状で遺産全部がウィルミーナに贈られることが明かされ、ウィルミーナ自身も初めてそれを知る。彼女はボブが騒いだ夜、夢うつつで見た"誰か"のナイトガウンにTAと縫い取りされていたことを思い出したとポワロに告げる。TAはテリーザのイニシャルである。一方、グレンジャー医師は、エミリーが吐いた緑色の気体の正体に気づくが―。

もの言えぬ証人 (クリスティー文庫)_ -.jpg 「名探偵ポワロ」の第45話(第6シーズン第4話)で1997年製作のロング・バージョン。本国放映は1997年3月16日で同年に英国で放映されたシリーズ新作は本作1本のみです。本邦初放映は1997年12月30日(NHK)。ヘイスティングスの吹替を担当してきた富山敬(1938-1995/享年56)の「名探偵ポワロ」最後の出演作品となりました。原作はクリスティが1937年年発表したポアロシリーズの第14作で(原題:Dumb Witness)です。

名探偵ポワロ45もの言えぬ証人c34c.jpg 原作では、エミリー・アランデルはポワロに相談の手紙を書きますが、その手紙がポワロに届く前に彼女は"病死"しており、手紙を受けてポワロらがリトル・グリーンハウス(小緑荘)に来た時にはもう彼女はこの世にいないという設定になっており、チャールズが水上ボートの最速記録挑戦に入れ込んでいて、彼がヘイスティングスの友人であったためポワロも一緒にその挑戦を見学に来たというのはドラマ版オリジナルです(結果として、ポワロが来てから殺人が起きるというパターンになった)。

 また、原作では、テリーザの恋人で、グレンジャー医師の下にいるドナルドソンという新米医師がいて、彼も容疑者の1人になっていますが、ドラマ版では出てこず、代わりにグレンジャー医師がウィルミーナと互いに好意を抱き合う関係になっていて、彼の方が容疑者の1人になっています。そのグレンジャー医師が、エミリーが吐いた緑色の気体の正体が毒物の燐(リン)であることに気付くというのは、原作よりもむしろ自然な流れですが、そのことによって彼は原作には無い"第2の殺人"の犠牲者になります(殺害されることで容疑者から外れるというパターン)。

名探偵ポワロ45もの言えぬ証人s.jpg 細部の改変はありましたが(ボブがボートに映った自分の顔を見て吠えるとことからポワロが鏡の原理を思い出す点などもドラマのオリジナル。このホワイトテリア、名演技だったなあ)、但し、犯人が誰かは勿論のこと、プロットなども原作を踏襲しているように思われました。原作では、チャールズは遊び人、テリーザは浪費家、ベラはテリーザを真似るも彼女のように垢抜けることは出来ない女性ということになっていますが、それぞれのその"程度"は弱められていたように思います。

名探偵ポワロ(第45話)/もの言えぬ証人04.jpg 文庫解説で、事件解決後ポワロに贈られたボブがその後どうなったかについて(その後の作品にポワロが犬を飼っていた記述はなく、一方、本原作をもってヘイスティングスは長編小説から姿を消し、『カーテン』まで登場しない)、ヘイスティングスと一緒にアルゼンチンに渡ったのではないかとしていますが、このドラマ作品ではポアロが霊媒能力を身に着けた振りをして本職の霊媒師のトリップ姉妹にボブを託してしまうというエピローグが可笑しかったです。

 原作もいいですが、いろいろな部分で原作より良くなっている点があったようにも思いました。

名探偵ポワロ45もの言えぬ証人 Dumb Witness(1997)01.jpg名探偵ポワロ(第45話)/もの言えぬ証人06.jpg「名探偵ポワロ(第45話)/もの言えぬ証人」●原題:AGAHTA CHRISTIE'S POIROT SEASON6:DUMB WITNESS●制作年:1997年●制作国:イギリス●本国放映:1997/03/16●監督:エドワード・ベネット●脚本:ダグラス・ワトキンソン●時間:100分●出演:デビッド・スーシェ(ポワロ)/ヒュー・フレイザー(ヘイスティングス)/パトリック・ライカート(チャールス・アランデル)/ケイト・バファリー(テリーザ・アランデル)/ノーマ・ウェスト(ウィルミーナ)/ジュリア・セント・ジョン(ベラ・タニオス)/ポール・ハーツバーグ(ジェイコブ・タニオス)/アン・モリッシュ(エミリー・アランデル)/ ポーリン・ジェームソン(イザベル・トリップ)/ミュリエル・パブロー(ジュリア・トリップ)●日本放映:1997/12/30●放映局:NHK(評価:★★★★)

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他の監督の作品には見られない、この監督だけの独自の世界が味わえる。

散歩する惑星 2000.jpg 散歩する惑星o.jpg  さよなら、人類  2014.jpg さよなら、人類s.jpg
散歩する惑星 愛蔵版 [DVD]」ラース・ノルド 「さよなら、人類 [DVD]」ホルガー・アンダーソン/ニルス・ウェストブロム
散歩する惑a6.jpg ここはとある惑星のとある町。30年間会社を無欠勤だった男が、リストラで解雇を宣告され泣きわめき、社長にすがりついて廊下を引き摺られていく。社屋の一階では、道に迷った男が訳もなく若者たちに殴られて倒れている。社長のペレ(トルビョーン・ファルトロム)は会社のことより、折れてしまったゴルフクラブを気にしている。ディナーショーでマジシャン(ルチオ・ブチーナ)は人体切断マジックに失敗して、協力者の腹をのこぎりで切ってしまう。保険金欲しさに自分の店に火をつけた家具屋経営のカール(ラース・ノルド)が、煤だらけで満員の地下鉄に乗っていると、どこからともなく音楽が聞こえてきて、乗客らが歌い始める。焼けた家具店の表通りは渋滞していて、デモ隊が鞭打ちをしながら車の間を行く。タクシー運転手をしていたカールの長男は、人々の悩みを聞かされるうちに自分が精神を病んでしまい、誰とも話せなくなって精神病院に入院中である。今は次男シュテファン(シュテファン・ラーソン)がタクシーを運転手をしている。そのタクシーに軍人が一人乗り込んできて、今日が総司令官(ハッセ・ソーデルホルム)の100歳の誕生日で自分がその祝辞の草稿を作った言う。将軍の100歳の誕生日を祝う式典が病院内で行われ、将軍はナチ式の敬礼をする。カールが同業者を訪ねると、彼は不況下で大聖年という理由で、十字架を売って儲けしようとしていて、カールも十字架を一つ買う。駅に行くと、自殺したはずのスヴェンが自分の後ろをついてくる。不条理な出来事が次々起きて、やがて町全体が異様な雰囲気に包まれていく―。

 CF界出身でカンヌの国際広告祭で8度のグランプリに輝いているロイ・アンダーソンの2000年の作品で、同年のカンヌ国際映画祭「審査員賞」受賞作です(勿論CFではなく映画として)。構想に20年、撮影に4年を費やしたという不条理映画で、どこかの惑星で展開するブラックでシュールな出来事の数々(上記に書き並べた分で半分足らずか)を、CGを使わずアナログ感たっぷり描いています。たまにはこんな映画を観るのもいいかなあという感じです。

 ロイ・アンダーソン監督はこの作品が長編としては「スウェーディッシュ・ラブ・ストーリー」('69年)以来何と31年ぶりですが、この作品で、不条理な小劇で繋いでいきながら無理にストーリーを構築しようとはせず、ブラック且つシュールな雰囲気を醸す独特のスタイルを確立したという印象で、その後も、「愛おしき隣人」('07年)、「さよなら、人類」('14年)と寡作ながらも(7年に1作かあ)このスタイルを守っているようです。

ロイ・アンダーソン.jpgさよなら、人類 3.jpg 2014年・第71回ベネチア国際映画祭で最高賞の金獅子賞を受賞した最近作「さよなら、人類」は(これも構想に15年、撮影に4年を費やしたという)、吸血鬼のお面や笑い袋といった面白グッズを売り歩く冴えないセールスマン・コンビのとサム(ニルス・ウェストブロム)とヨナタン(ホルガー・アンダーソン)を軸に話が展開し(これもストーリーにさほどさよなら、人類8_A04.jpg脈絡はないのだが)、2人がグッズがまるで売れずに散々な日々を送る中、フラメンコの女教師(ロッテ・トルノス)はレッスンを受けに来るお気に入りの若い男さよなら、人類ド.jpgの子の身体を指導のフリをして触りまくり、フェリーの船長(オラ・ステンソン)は船酔いが耐えられずに理容師に転職し、バーになぜか18世紀のスウェーデン国王カール12世(ヴィクトル・ギュレンバリ)が騎馬隊を率いて現われ...と、こちらも不条理の小劇のオンパレード。全39シーンというから、だんだんシーン数が多くなってきているのではないでしょうか。

さよなら、人類 2.jpg それらのシーンを主に繋いでいるのが、サムとヨナタンのセールスマン・コンビですが、この2人が面白グッズを売り歩いているのに滅茶苦茶にクラいというのがブッラクで可笑しいです。16世紀の画家ブリューゲルの「雪中の狩人」など様々な絵画からインスピレーションを受けて作られているとのことですが、低彩色のトーンは「散さよなら、人類 5.jpg歩する惑星」の時と同じであるものの、「散歩する惑星」よりも死のイメージが濃くなっているような気がしました。黒人たちがが回転する大きなドラムのようなものの中に入れられ、そのドラムが火で炙られるシーンなど、政治的なメッセージともとれるメタファーも前作よりグロテスクで直截的になっていますが、個人的には「散歩する惑星」の方がやや好みだったしょうか。

 何れの作品も、ストーリーを追い過ぎて観てしまっては楽しめないと思います。1シーン1シーンを、美術館にある絵を1枚1枚観るつもりで観たらいいのではないでしょうか。クロード・ルルーシュ、リドリー・スコット、大林宣彦、山崎貴とCMディレクター出身の映画監督は多いですが、これだけ尖がった方向で自らのスタイルを強固に貫いている監督は珍しいと思います。他の監督の作品には見られない、この監督だけの独自の世界が味わえます。

Sånger från andra våningen (2000)
Sånger från andra våningen (2000).jpg
散歩する惑星j.jpeg「散歩する惑星」●原題:SANGER FRAN ANDRA VANINGEN/SONGS FROM THE SECOND FLOOR●制作年:2000年●制作国:スウェーデン・フランス●監督・脚本:ロイ・アンダーソン●製作:フィリップ・ボバー●撮影:イストヴァン・ボルバス恵比寿ガーデンテラス弐番館.jpg/イェスパー・クレーヴェンオース●音楽:ベニー・アンダーソン●時間:98分●出演:ラース・ノルド/シュテファン・ラーソン/ハッセ・ソーデルホルム/トルビョーン・ファルトロム/ルチオ・ブチーナ●日本公開:2003/05●配給:ビターズ・エンド●最初に観た場所:恵比寿ガーデンシネマ(初代)(03-05-16)●2回目:北千住・シネマブルースタジオ(17-03-07)(評価★★★★)

に恵比寿ガーデンシネマ50.jpg恵比寿ガーデンシネマ.jpg旧・恵比寿ガーデンシネマ 1994年(平成6年)10月8日、恵比寿ガーデンテラス弐番館内にオープン(2スクリーン)。2011年1月28日休館。2015年3月28日「YEBISU GARDEN CINEMA(正式名称「恵比寿ガーデンシネマ」)」として再オープン。


「さよなら、人類」●原題:EN DUVA SATT P A EN GREN OCH FUNDERADE PA TILLVARON/A PIGEON SAT ON A BRANCH REFLECTING ON EXISTENCE(「実存を省みる枝の上の鳩」)●制作年:2014年●制作国:スウェーデン・ノルウェー・フランス・ドイツ●監督・脚本:ロイ・アンダーソン●製作:ペニラ・サンドストロム●撮影:イストヴァン・ボルバス●音楽:Gorm Sundberg/Hani Jazzar●時間:100分●出演:ホルガー・アンダーソン/ニルス・ウェストブロム/カルロッタ・ラーソン/ヴィクトル・ギュレンバリ/ロッテ・トルノス/オラ・ステンソン●日本公開:2015/08●配給:ビターズ・エンド●最初に観た場所:北千住・シネマブルースタジオ(17-02-04)(評価★★★☆)

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分かりにくくてイマイチだった原作を、分かりやすく面白くした?

名探偵ポワロ 43ヒッコリー・ロードの殺人 dvd.jpg 名探偵ポワロ ヒッコリー・ロードの殺人2.jpg ヒッコリー・ロードの殺人 1956.jpg ヒッコリー・ロードの殺人1978.jpg ヒッコリー・ロードの殺人2004.jpg
名探偵ポワロ[完全版]Vol.25 [DVD]」「名探偵ポワロDVDコレクション 22号 (ヒッコリー・ロードの殺人) [分冊百科] (DVD付)」『ヒッコリー・ロードの殺人 (1956年) (ハヤカワ・ミステリ)』『ヒッコリー・ロードの殺人 (ハヤカワ・ミステリ文庫 (HM1-37))』『ヒッコリー・ロードの殺人 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)

名探偵ポワロ ヒッコリー・ロードの殺人 00.jpg名探偵ポワロ ヒッコリー・ロードの殺人title.jpg ポワロの秘書ミス・レモンの姉ハバード夫人が管理人を務めるヒッコリー・ロードにある学生寮で奇妙なものが盗まれる事件が頻発し、ミス・レモンはポワロに相談する。学生寮のオーナーのニコレティスは気難しい女性で、学生たちへの犯罪学の講演名目で寮ににやった来たポワロを歓迎していない様子。寮名探偵ポワロ ヒッコリー・ロードの殺人01.jpgにいる学生は、医学生のレオナルド、アメリカからフルブライト留学生で英文学専攻のサリー、考古学・中世史専攻のナイジェル、政治学専攻のパトリシア、心理学専攻のコリン、化学専攻のシーリア、服飾デザイン専攻のヴァレリーら7人。盗まれた品物の内訳は、聴診器、指名探偵ポワロ ヒッコリー・ロードの殺人3.jpg輪、ライター、ホウ酸、夜会靴の片方、リュックサック、電球などで、被害は大したものではないが、それを見たポワロは盗みの陰に潜む危険を察知する。程なくして盗名探偵ポワロ ヒッコリー・ロードの殺人 02.jpgみの犯人が盗癖持ちだったという女子学生シーリアと判明するが、彼女は一部の品については盗んでいないと言う。ポワロが事件の予感を覚えた直後にシーリアが毒殺される事件が起き、医学生のレオナルドへの容疑が強まるが、次いで学生寮のオーナー女性ニコレティスが何者かに刺殺される―。

AGAHTA CHRISTIE HICKORY DICKORY DOCK1.jpgAGAHTA CHRISTIE HICKORY DICKORY DOCK2.jpg 「名探偵ポワロ」の第43話(第6シーズン第2話)でロング・バージョン。本国放映は1995年2月12日、本邦初放映は1996年12月30日(NHK)で、第42話「ポワロのクリスマス」より1年早く放映されています。原作はクリスティが1955年に発表したポアロシリーズ第26作。映像化作品としては、戦後発表されたものの中では(戦前に発表した短編を戦後に中篇に拡張した「盗まれたロイヤル・ルビー」「スペイン櫃の秘密」を除いて)シリーズ初登場とのことですが、時代設定は他のシリーズ作品同様1930年代半ばにしています。

AGAHTA CHRISTIE HICKORY DICKORY DOCK k.jpg 原作は、学生寮にいて様々な出身国の学生が集い自由に議論したりする様は印象深かったですが、登場人物が多すぎて(文庫巻頭の登場人物一覧表に記載されている寮生だけでも11人、全部で16人か)、しかもその中で殺害された者を除いて全員容疑者とあって、もう最後は犯人が誰だっていいや的な気分になりそうでしたが、推理通に言わせれば、ロジックで辿っていくと犯人は判るようになっているとのことです(個人的には全然判らなかった)。
Hickory Dickory Dock (Poirot) (Hercule Poirot Series)

ヒッコリー・ロードの殺人 2.jpg この映像化作品では、さすがに100分の話の中に寮生十数人を全部詰め込むのは無理と考えたのか7人に絞っていて、原作では、ジャマイカからの黒人の留学生エリザベス、西アフリカ人の黒人の留学生アキンボ、その他インド人の学生など有色人種の学生も結構いましたが、全部白人になっています。これは別に人種差別ということでもなく(フランス人の留学生なども省かれている)、時代設定を戦前にしたことに関係しているのではないかと思います。

ヒッコリー・ロードの殺人  .jpg まあ、その前に、登場人物を減らしてスッキリさせるという狙いがあったかと思いますが、それが成功しているように思います。品物が盗まれる事件に複数の人物の動機が絡んでいて、それだけでも複雑であるため、これで容疑者が10人も15人もいたら何が何だか分からなくなるところでしたが(原作を読んだ時はその印象に近かった)、この映像化作品を観て腑に落ちたという感じでしょうか。

 しかも、ジャップ警部が夫人が旅行で不在のため、自宅で一人で家事をして失敗したりした末に(ジャップ警部の自宅が出て来るのは第33話「愛国殺人」以来だが、あの時から引っ越しした?)、ポワロの所へ招かれて泊り込み(客用の寝室があったのだ)、トイレのビデが何のためのものか分からずにミス・レモンに訊ねて彼女を困らせた挙句、夜中にそれで顔を洗ったり、ポワロの作った豚足料理(ベルギーの豚足料理は有名らしい)に辟易し、ミス・レモンの作ったムニエルに飽き足らず、自分でマッシュポテトに煮豆、レバー団子という英国風昼食を作って今度はポワロに癖癖させたりといった、文化的ギャップが生むユーモラスな場面を織り込んだりする余裕もあったようです。

 一方で、実はナイジェルの父親だったスタンリー卿の話を結構膨らませていて、この辺りは脚本のアンソニー・ホロヴィッツの好みでしょうか。個人的には、原作にある、シーリアが書いた謝罪の手紙を犯人が遺書として利用するといったプロットなどを省いてまでこの話を膨らませる必要はあったのかと思いましたが、映像化作品だけで観ればそれほど気になりませんでした。但し、クリスティの描く通常の犯人像からはやや逸脱したサイコ的な極悪人の犯人像になったようにも思います。

 因みに、2016年のAXNミステリーのスペシャル企画「アガサ・クリスティー生誕記念特集」で、「名探偵ポワロ」の視聴者投票と併せて著名人に「名探偵ポワロ」のベストを聞く企画で、英文学者、英国文化研究家の小林章夫・上智大学教授はこの作品をベストに挙げています。また、ミステリマガジン2014年11月号の作家・若竹七海氏による「ドラマ版ポワロからベスト3」で、「原作は今一つなのに、意外に楽しい作品になっていた。数多い学生寮の住人を整理し、マザー・グースに合わせてネズミを配し、ミステリ的にはツッコミどころのあるお話をテンポよく進めてみせた」傑作の一本との高評価を得ています。マザー・グースは原作ではタイトルに使われていただけでしょうか。原作との相対評価で言うと、自分も若竹七海氏に近いと言えます。

ヒッコリー・ロードの殺人s.jpg「名探偵ポワロ(第43話)/ヒッコリー・ロードの殺人」●原題:AGAHTA CHRISTIE'S POIROT SEASON6:HICKORY DICKORY DOCK●制作年:1995年●制作国:イギリス●本国放映:1995/02/12●監督:アンドリュー・グリーブ●脚本:アンソニー・ホロウィッツ●時間:103分●出演:デビッド・スーシェ(ポワロ)/フィリップ・ジャクソン(ジャップ)/ ポーリン・モラン(ミス・レモン)/パリス・ジェファーソン(サリー・フィンチ)/ナイジェル・チャップマン(ジョナサン・ファース)/ダミアン・ルイス(レナード・ベイトソン)/ギルバート・マーティン(コリン・マクナブ)/エリナー・モリストン(バレリー・ホブハウス)/ポリー・ケンプ(パトリシア・レーン)/ジェシカ・ロイド(シーリア・オースティン)/サラ・ベデル(ハバード夫人)/レーチェル・ベル(ニコレティス夫人)/グランヴィル・サクストン(キャスタマン氏)/デビッド・バーク(サー・アーサー・スタンリー)●日本放映:1996/12/30●放映局:NHK(評価:★★★☆)

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演技陣は皆悪くなかった。バルジャンとジャベールに焦点。他を'端折った'感は否めない。

レ・ミゼラブル [DVD].jpg レ・ミゼラブル 1998 03.jpg  レ・ミゼラブル 1998 84.jpg
レ・ミゼラブル [DVD]」ジェフリー・ラッシュ(ジャベール警部)/リーアム・ニーソン(ジャン・バルジャン)

レ・ミゼラブル 1998 バルジャン.jpgレ・ミゼラブル 1998 fannte-nu .jpg ビレ・アウグスト監督による1998年作品で、ジャン・バルジャンが「シンドラーのリスト」('93年/米)でオスカー・シンドラーを演じたリーアム・ニーソン、ジャベール警部が「シャイン」('96年/豪)でアカデミー主演レ・ミゼラブル 1998 じゃベール.jpg男優賞をを受賞したジェフリー・ラッシュ(オーストラリア人初の演技部門でのオスカー受賞者)、ファンテーヌが「パルプ・フィクション」('94年/米)でアカデミー助演女優賞にノミネートされたユマ・サーマン、コゼットが「アンジェラ 15歳の日々」でレ・ミゼラブル 1998  ゴゼット.jpgゴールデングローブ賞主演女優賞(テレビドラマシリーズ部門)を受賞したクレア・デインズと、配役は何れも手堅い演技派で固めたという感じで、また、実際レ・ミゼラブル 1998 5.jpg、この作品での演技はそれぞれが良かったです(中でもジェフリー・ラッシュのジャベール警部がピカイチか。でも、幼少期のコゼットを演じた子役ミミ・ニューマンも含め、皆悪くなかった)。

レ・ミゼラブル 1998 02.jpg 残念だったのは脚本でしょうか(序盤で銀器を盗むのを'司教に見られた'バルジャンが司教を'殴り倒して'逃走するところから、ええっと思ったのだが)。2時間を少しだけ超えるくらいに収めるためか、全体にかなり端折っています

 まず、エポニーヌ(バルジャンの運営する工場を解雇されたファンテーヌの娘コゼットが預けられていた宿屋テナルディエ一家の娘。大人になってコゼットの恋人マリウスに一方的に恋をし、一時2人の恋路を邪魔するが、最期はマリウスを守って自らは犠牲となる)が、子役は出てますが大人になってから出てきません(ミュージカルなどでは結構なウェイトを占めるエポニーヌの悲恋話がすっぽり抜けていることになる)。

レ・ミゼラブル 1998 mariusu .jpgレ・ミゼラブル 1998 abc.jpg それから、マリユスが反政府派である共和派の秘密結社ABC(アー・ベー・セー)の首領になっています(本来はマリユスも主要メンバーではあるが、首領はアンジョルラス)。だとしたら、司令官が決戦を前にしてそうちょくちょく恋人に会いにいくのは難しいのではないかと思ってしまうのですが、これがちょくちょく会いに行く―そうしたマリユスをしばしば牽制するアンジョルラスの役は、それはそれで黒人のレニー・ジェームズが演じている―といった具合です。

「レ・ミゼラブル」 (98年/米) .jpg ジャベールが、同じ自殺するにしても、バルジャンの見ている前で自らの命を絶つというのも原作やミュージカルとは異なり(罪人にするはずだった手錠を自身にして川へ身を投げたことに監督の解釈が示唆されているようだが)、また、原作ではジャベールの死後も話はまだまだ続くところを、ミュージカルではそこのところはかなり圧縮されていますが、それがこの作品では「圧縮」どころか、ジャベールの死を以って映画は終わってしまいます(「‎Wikipedia」によれば、「本作ではジャン・バルジャンとジャベールの関係に焦点が絞られている。そのため、ジャベール警部の身投げと共に映画は幕を閉じる」ということらしい。成人後のエポニーヌは全く登場しないのも同様の理由によるようだ)。何度も映画化されている作品なので、オリジナルの視点があってもいいとは思いますが、ジャベールの死を以って終わるのはともかく、最後にバルジャンが浮かべる笑みの意味がイマイチよく分かりませんでした。

レ・ミゼラブル 1998 684.jpg また、後の方をカットしているために、バルジャンの秘密をマリユスが知るのは、コゼットとの結婚式の後にバルジャンから知らされるのではなく、反政府派のバリケード内に潜入しようとして捕まってしまったジャベールの口から知らされるという展開になっていて、更には、反政府運動の最中に負傷した自分を担ぎ、官憲の目を逃れるため下水道を通って包囲網を突破し救ってくれたのは誰かという、マリユスにとっての謎解きは、バルジャンの死の間際になってマリユスは初めて全てを知るというのではなく、そもそもそうした謎は最初からカットされています(これだと、父娘が離れ離れに暮らす理由は無くなるのでは? まあ、この映画では後のことはどうなったか分からないわけだが)。

 長さ的には、自分が観たものでは、ジャン=ポール・ル・シャノワ監督、ジャン・ギャバン主演の「レ・ミゼラブル」 ('57年/仏・伊)が186分で、トム・フーパー監督、ヒュー・ジャックマン主演のミュージカルの映画化である「レ・ミゼラブル」 ('12年/英)は158分でした。ミュージカルが通常3時間強ですからこれでもやや圧縮していますが、この作品は、134分という長さの割にはかなりの「'端折った'感」があるのはどうしてでしょうか。ミュージカル版と比べるのではなく(例えば、ジャベールの死を本作品はロジックで説明しているが、ヒュー・ジャックマン主演のミュージカル版では感情で表しているため時間がかからない(?))、ジャン・ギャバン主演の「レ・ミゼラブル」のような通常版同士で比べるべきなのかもしれません(134分/186分=72%)。

レ・ミゼラブル.jpgレ・ミゼラブル 1998 04.jpg このように気になった点は多くありましたが、原作に忠実なところの方が当然に多い訳で、やはりあの「レ・ミゼラブル」だけあって見ているうちに引き込まれ、この作品だけ観る分には楽しめます。但し、先に原作を読んだり、ミュージカルを観ていたりすると、今度はどこが端折られるのか...といった方向につい気持ちが行ってしまう、そんな映像化作品でした。

リーアム・ニーソン(「沈黙 -サイレンス-」('16年/米)/ユマ・サーマン

レ・ミゼラブル 1998 title3.jpg「レ・ミゼラブル」●原題:LES MISERABLES●制作年:1998年●制作国:アメリカ●監督:ビレ・アウグスト●製作:サラ・ラドクリフ/ジェームズ・ゴーマン●脚本:ラファエル・イグレシアス●撮影:ヨルゲン・ペルソン●音楽:ベイジル・ポールドゥリス●原作:ヴィクトル・ユゴー●134分●出演:リーアム・ニーソン/ジェフリー・ラッシュ/ユマ・サーマン/クレア・デインズ/ミミ・ニューマ/ハンス・マシソン/ジョン・ケニー/ジリアン・ハンナ/シンルヴィ・コヴィルィズコヴァ/ユマ・サーマン パルプフィクション.jpgレ・ミゼラブル 1998 ファンテーヌ.jpgユマ・サーマン キルビル.jpgシェイン・ハーヴィ/レニー・ジェームズ/ジョン・マッグリン/リーネ・ブリュノルフソン/ピーター・ヴォーン●日本公開:1999/02●配給:ソニー・ピクチャーズ(評価:★★★☆)

ユマ・サーマン in 「パルプ・フィクション」('94年)/「レ・ミゼラブル」('98年)/「キル・ビル Vol.1」('03年)

レ・ミゼラブル3本.jpg
【2438】◎ ジャン=ポール・ル・シャノワ 「レ・ミゼラブル
」 (57年/仏・伊)  ★★★★☆
(ジャン・ギャバン主演)

 
 
  
   
【2440】○ ビレ・アウグスト 「レ・ミゼラブル
」 (98年/米)  ★★★☆
(リーアム・ニーソン主演)


 
  
  
【2439】 ◎ トム・フーパー 「レ・ミゼラブル
」 (12年/英)  ★★★★☆
(ヒュー・ジャックマン主演)

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ハリソン・フォードよりトミー・リー・ジョーンズが印象的か。
逃亡者 1993   01.jpg逃亡者 1993_dvd.jpg 逃亡者 1993 00.jpg 逃亡者 THE FUGITIVE_19.jpg
逃亡者 [DVD]」ハリソン・フォード/TVドラマシリーズ「逃亡者」デビッド・ジャンセン

逃亡者 (1993年の映画)03.jpg シカゴ記念病院の有能な血管外科医リチャード・キンブル(ハリソン・フォード)がある夜帰宅すると、妻のヘレン(セーラ・ウォード)が家の中で何者かに襲われて死に瀕していた。キンブルは犯人と思しき「片腕が義手の男」を撃退するも、妻は既に致命傷を負っており手遅れであった。キンブルは自分が取り逃がした義手の男について捜査するよう警察に懇願するが、警察は死の間際のヘレンの通報内容を誤解し、キンブル本人が妻殺しの濡れ衣を着せられ逮捕されてしまう。キンブルは裁判で無実を証明することができず、死刑判決を受けて刑務所へと移送されることになるが、その最中に他の囚人たちが逃亡を企てたことにより、護送車が列車と衝突し爆発炎上するという事故が発生する。事故を間一髪で生き延びた逃亡者 (1993年の映画)01.jpgキンブルは混乱に乗じ、妻を殺害した真犯人を自らの手で見つけて汚名をすすぐため、事故現場から逃亡してシカゴへと向かう。一方、いち早く脱走した囚人がいることを突き止めた連邦保安官補サミュエル・ジェラード(トミー・リー・ジョーンズ)とその部下達はキンブルを追跡する。時には持ち前のヒューマニズムが仇となって窮地に陥りつつも、執拗なジェラードの追跡を振り切りながら、キンブルはシカゴに帰り着いて証拠を辿り、同僚であり親友でもあるチャールズ・ニコルズ(ジェローン・クラッベ)からの援助も受けながら、自分が目撃した「片腕が義手の男」の名前を突き止める―。

逃亡者  the fugitive 1963.jpg逃亡者 the fugitive 1963 .jpg オリジナルは1963年から1966年にかけて、デビッド・ジャンセン主演で放映され、アメリカ国内で平均視聴率45%という驚異的な数字を叩き出したTVドラマです。日本でも、1964(昭和39)年から1967(昭和42)年までTBS系列(関西地区は朝日放送)で放送されて人気を博し、最終話の放送時刻には銭湯が空になったと言われています(TVドラマ版は当初モノクロだったが、最後の方はカラーになった)。映画では、妻殺しの濡れ衣を着せられ死刑を宣告された医師リチャード・キンブルが、連邦保安官補サミュエル・ジェラードの追跡を逃れながら逃げまくるという枠組みは、TV版をそのまま逃亡者 1993 06.jpg踏襲しています。

 但し、元々120話あった話を2時間ちょっとの映画にしてしまうということは、やはり質的な変化も大きいかと思われ、TV版のデビッド・ジャンセン演じるリチャード・キンブルが際限なく全米を逃げまくっている印象があっただけに、逃亡劇が2時間強で決着してしまうというのは、映画だから仕方がないとは言え、何となくあっさりし過ぎる感じがしました。映画では、逃げているエリアはシカゴ市内及び近郊に限定されているし、病院で善意から治療(指示)をするのも1度きりだし...(TV版では結構あちこちで治療していたのではなかったか)。

Frantic/The Fugitive/Presumed Innocent.jpg逃亡者 1993ges.jpg ハリソン・フォードは、「フランティック」('88年)で妻を誘拐されたが誰にも信じてもらえない外科医役を演じ、また、「推定無罪」('90年)で妻殺しの容疑を着せられた検察官を演じており、サスペンスドラマ、それも追い詰められてパニックになりながらも独り(或いは女性に助けられながら)奮闘する役がすっかり板についた感じですが、この「逃亡者」での役柄は、考えてみれば「フランティック」と「推定無罪」を掛け合わせたような役でもあり、「フランティック」の頃は、それまでのタフガイのイメージを覆す印象があって目新しかったのですが、流石にこれだけ続くとややマンネリ感も。その分、ジェラード連邦保安官補を演じたトミー・リー・ジョーンズの方が新鮮だったでしょうか(オリジナルとキャラクターは若干違ってるが)。

逃亡者 1993es.jpg ハリソン・フォードより4つ年下のトミー・リー・ジョーンズ(当時46歳)は、この作品で'93年のアカデミー助演男優賞を受賞し、以降は「メン・イン・ブラック」('97年)、「逃亡者」のスピンオフ作「追跡者」('98年)などのlove story Tommy Lee Jones.jpg出演作に恵まれるようになります。高校卒業後、家計を助けるために働きながら独学で勉強して、奨学金でハーバード大学英米文学部に進学した苦労人で、「ある愛の詩」('70年)で映画デビューしますが、その後は顔つきのキツさから出演依頼が来ず、下積みがすごく長かったようです(ハリソン・フォードも「カンバセーション...盗聴...」('74年)に出てた頃は滅茶苦茶暗かったが、「スター・ウォーズ」('77年)で人気の出たため、トミー・リー・ジョーンズよりはずっと若くしてブレイクしたことになる。と言うより、トミー・リー・ジョーンズが遅咲きなのだが)。

メン・イン・ブラック0.jpg 「メン・イン・ブラック」のバリー・ソネンフェルド監督はトミー・リー・ジョーンズのことを、「彼は大真面目に演じていてもどこかコミカルだ」と評していますが、確かにそうかも(「逃亡者」におけるトミー・リー・ジョーンズの中にも「メン・イン・ブラック」に通じるコミカル要素があるともとれる)。'06年から続くサントリー缶コーヒーBOSSのCM「宇宙人ジョーンズの地球調査シリーズ」も、誰か慧眼の宇宙人ジョーンズの地球調査シリーズ01.jpg宇宙人ジョーンズの地球調査シリーズ02.jpg持ち主が彼のそうした特性に着眼して起用したのでしょう(因みにトミー・リー・ジョーンズは親日家であり、大の歌舞伎ファンであるとともに浮世絵の収集家でもある。「メン・イン・ブラック3」('12年/米)のキャンペーンでも、プロモーションワールドツアーで唯一日本ツアーにだけ参加した)。

逃亡者 (1993年の映画) 02.jpg トミー・リー・ジョーンズの"活躍"もあって、映画としては悪くはないのですが(初めて観た時の評価は星4つ)、改めて観直してみると、アクションのヤマ場が中盤のキンブルのダム底へのダイビングであり、あとはやや流れが緩慢な印象も受けます。電車内での「片腕が義手の男」との対決もある種お決まりのパターンであれば、最後に真犯人を追い詰めて銃撃戦になる展開もこれまたパターンであるように思えたため、星半個減の3つ半としました。

逃亡者 1993s.jpg 映画に出始めた頃のジュリアン・ムーア(左)が(前年に「ゆりかごを揺らす手」('92年)に出演しているが、その作品ではレベッカ・デモーネイが怖すぎて、彼女の印象は薄かった)、キンブルが「片腕が義手の男」が装着していた義手の手がかりを求め、清掃員に扮して病院に忍び込んだ際、彼に「男の子の患者を運んで!」と頼み、その後男の子にちゃんと独自の処置がされているのを不審に思って警察に通報する女医役で出ていますが、キネ旬をはじめ多くの映画データべースで、「元同僚のアン・イーストマン医師(ジュリアン・ムーア)の協力で、病院の中にある義手を持つ人のリストを調べあげ...」などJulianne Moore.jpgjane lynch the fugitive.jpgとあり、ジェーン・リンチ(右)が演じたキャシー・ワーランド医師の役との混同が見られます(キンブルに協力するのはキャシー・ワーランド医師)。これも、ジュリアン・ムーアが後に有名になったためでしょうか(最近では、2014年公開の「アリスのままで」でゴールデングローブ賞の主演女優賞(ドラマ部門)とアカデミー賞の主演女優賞を受賞している)。
Julianne Moore

ER 緊急救命室12.jpg 因みに、「片腕の男」の義手の資料を集めるためにキンブルが潜り込んだ病院は、本作の1年後に放送が開始されたTVドラマ「ER 緊急救命室」の舞台にもなっているシカゴのクック郡病院であり、ジュリアン・ムーアが演じたイーストマン医師のセリフやシカゴの聖パトリック祭の様子は「ER」の第1話でも使われたとか(共に配給元はワーナー・ブラザーズ)。


THE FUGITIVE s.jpg「逃亡者」●原題:THE FUGITIVE●制作年:1993年●制作国:アメリカ●監督:アンドリュー・デイヴィス●製作:アーノルド・コペルソン●脚本:デヴィッド・トゥーヒー/ジェブ・スチュアート●撮影:マイ逃亡者 (1993年の映画) last.jpgケル・チャップマン●音楽:ジェームズ・ニュートン・ハワード●原作:ロイ・ハギンズ●130分●出演:ハリソン・フォード/トミー・リー・ジョーンズ/ジェローン・クラッベ/セーラ・ウォード/ジュリアン・ムーア/アンドレアス・カツーラス/ジョー・パントリアーノ/ダニエル・ローバック/L・スコット・カードウェル/トム・ウッド/ジェーン・リンチ●日本公開:1993/09●配給:ワーナー・ブラザーズ(評価:★★★☆)

「逃亡者」(The Fugitive).jpgthe fugitive 1963 dvd.jpgTHE FUGITIVE_0.jpg逃亡者1963   .jpg「逃亡者」(The Fugitive) (ABC 1963~1967) ○日本での放映チャネル:TBS(関西地区は朝日放送)(1964.5~1967.9)/AXNミステリー

《読書MEMO》
逃亡者 (2020年ドラマ)1.jpg逃亡者 (2020年ドラマ)2.jpg●2020年テレビドラマ化「テレビ朝日開局60周年記念 2夜連続ドラマスペシャル・逃亡者」(テレビ朝日・2020年12月5日5・6日放送)
監督:和泉聖治/出演: 渡辺謙/豊川悦司/夏川結衣/稲森いずみ/杉本哲太/村田雄浩/余貴美子/宇梶剛士

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強く惹かれ合いながらも一線を越えることが出来ない男女。魅せる"雰囲気"と幾つかの"謎"。

花様年華 [DVD].jpg花様年華dvd.jpg 花様年華 11.jpg
花様年華 [DVD]」「花様年華 [DVD]」 トニー・レオン/マギー・チャン

花様年華 01.jpg 1962年の香港。新聞社の編集者であるチャウ(トニー・レオン〈梁朝偉〉)が夫妻でアパートに引っ越してきた日、隣の部屋にもチャン夫人(マギー・チャン〈張曼玉〉)が夫と引っ越してくる。チャン夫人は商社で社長秘書として働いている。チャウの妻とチャン夫人の夫は仕事のせいであまり家におらず、二人はそれぞれの部屋に一人でいることが多かったが、大家のスーエン夫人(レベッカ・パン)の仲立ちもあり二人は親しくなる。ある日、一緒に昼食を取った際、それぞれの配偶者の日本土産の話などから、お互いの配偶者同士が浮気しているらしいと察する。隣同士の部屋に住む孤独な男と女―。チャウは夫人により接近するため、本の好きな彼女に自らの小説執筆の手伝いを依頼する。夫人がスリッパのままチャンの部屋にやって来たある日、偶然にアパートの住民ら花様年華 02.jpgが徹夜マージャンをすることになり、自分の部屋に戻るに戻れなくなった夫人は、一夜をチャンの部屋で過ごすも機会を窺い、自分のスリッパを置き足に合わないチャウ夫人のヒール靴を履いて、さも外出先から自宅に帰ってきたかのようにチャンの部屋を出て行く。更に二人は、チャウが小説を書くために借りたホテルの部屋で何度か逢引するが、チャウが夫人が夫を問い詰めることを想定した練習台になったりするものの、二人は自分たちの配偶者のように簡単に不倫関係を結ぶことは出来ないでいる。チャウは、シンガポールでの仕事に誘われて現地へ行くことにするが、その際に夫人を誘うも彼女は一緒には来ない。しかし、1963年のある日、彼女は突然シンガポールのチャウの部屋を訪ねる。チャウは無言の電話を受け、自分の部屋の灰皿に夫人のタバコの吸い殻を見つけるが、夫人とは会えなかった。時は流れ1966年、子どもを連れたチャン夫人が香港のかつてのアパートにスーエン夫人を訪ね、アメリカに移住するというスーエン夫人からかつて住んだ部屋を借り受ける。一方のチャンもその後アパートを訪れ、新しい管理人に、隣は「お母さんと息子」が住んでいると聞く。それが誰であるかを確認することなく、その後彼は取材でアンコールワットを訪問し、古跡の壁の穴に過去の秘密を封印する―。

花様年華00.jpg ウォン・カーウァイ(王家衛)監督の2000年作品で、同監督の「欲望の翼」('90年)の続編、「2046」('04年)の前編とも言われていますが、雰囲気のある映画と言うか、最初はその雰囲気だけで引っ込まれて観ました。60年代の香港の共同住宅、隘路のような廊下、屋台形式の共同炊事場兼食堂―そうした舞台を背景に、互いに強く惹かれ合いながらもどうしても一線を越えることが出来ないでいる男女をしっとりと描いていて、それはホテルで二人が密会するようになっても続いていきます。ナット・キング・コールの「キサス・キサス・キサス」などの曲がくぐもった感じで背後に流れるのもムーディでした(この作品はニューヨーク映画批評家協会賞(2001年)、全米映画批評家協会賞(2001年)の各外国語映画賞を受賞。また、2000年第53回カンヌ国際映画祭で、男優賞(トニー・レオン)を受賞したほか、撮影監督、美術監督など映画スタッフに対して贈られる技術賞である「フランス映画高等技術委員会賞」(現「バルカン賞」)を受賞している)。

花様年華 (00年/香港).jpg 一方で、観ていて大きな謎の部分もありましたが、それは後にネットなどでいろんな人の分析を読んで、ナルホドなあと思ったりもし、また、そうした中でも見方が分かれていたりして、どっちの解釈が正しいのか、それは"正解"があるのか、それとも元々が観客に解釈を委ねている作品なのか―などと考えてみる上で"面白い"作品であると思います。以下、個人的解釈―。

 チャン夫人は何故1963年になってシンガポールにチャウを訪ねたのか。これは、やはりチャウと一緒になろうと考えたのではないでしょうか(この時点でチャウの方は指輪をしておらず、シンガポール行きを契機に離婚をしている可能性が高い。勿論、離婚していなくても指輪はもうしなかったとは思うが)。夫人はそれでも、現地まで行ったにも関わらず、チャウに直接会って想いを伝えるまでには至らず、結果として訪ねた痕跡を残すに留まってしまった―ということではないか。

花様年華12.jpg 一説では、チャン夫人はスリッパを取りにシンガポールに行ったという見方もあるようですが、それは、後でチャウが部屋から無くなったものがあるとメイドに訴える、その"無くなったもの"とはスリッパであり、それは、例のマージャンの夜に夫人がチャウの部屋に置いてきたスリッパだったという。彼女がスリッパを"回収"するカットは実際にあり(スリッパが件(くだん)のものであったことそのものはまず間違いないだろう)、チャウにシンガポールでの仕事を紹介した人物がかつてのアパートの同居人でもあったことから、その人物がスリッパを見れば、どうして夫人のスリッパがここにあるのかと訝しがる、そのことを夫人は恐れたのか。仮にそうであるとしても、チャウが例のスリッパをシンガポールに持って行っていることを夫人は事前に知る由もなく、やはりここは、自分がチャウと付き合っていた「痕跡を消す」ためにスリッパを"回収"したのではなく(また、そのためにシンガポールまで行ったわけでもなく)、わざとタバコの吸い殻を残したのと同じように、チャウに想いを伝えに来たが踏み切れず、来たという「痕跡を残す」ためにスリッパを持ち帰ったと見るべきではないでしょうか。

 では、最後に出てくるチャン夫人が連れている子どもは誰との間にできた子なのか。チャン夫人が夫と縁りが戻り、男の子を儲けたと見る向きもありますが、そうすると先のスリッパ"回収"による「痕跡を消す」説と符合する面も出てくるものの、ややセコい感じも。但し、この説には一定の論拠が花様年華 06.jpgあり、チャウの妻(声のみで姿は画面には一度も出てこない)が電話で相手に対し(相手は不倫相手のチャン夫人の夫のようだが、こちらも声のみで姿は画面には一度も出てこない)、「話さないとダメよ」と言って泣いていることから(この部分も声のみ)、不倫相手に離婚を迫ったもののチャン夫人の夫が離婚を渋っているらしいことが窺え、更に、チャン夫人の夫が日本に出張中にチャン夫人の誕生日にラジオに歌のリクエストしていることで(その曲名が「花様的年華」)、これを聴いたチャン夫人が夫と和解し、結局は夫と別れなかったと解されるというもの。でも、そうだとしたら、どうしてわざわざチャウとの思い出が色濃く残るかつてのアパートに舞い戻ってくるのかが理解し難い気がします(この時、指輪はどうなっていた? 1962年時点では最後まで外さなかったようだが)。

トニー・レオン マギー・チャン1.png では、チャン夫人が連れている子どもはチャウの子なのか。だとしたら、二人はそれまでどうしても越えられなかった一線を最後に越えたことになりますが、それは何時だったのか。おそらく、夫人の夫への問い質し練習の延長としてやった、チャウとの別れの場面のロールプレイング(相手は夫を想定しているのかチャウを想定しているのか微妙)の後、夫人が泣き崩れ「今日は帰りたくない」というあの辺りでしょうか(2度目のタクシー内の場面)。その後、チャウがシンガポールに行っている間に妊娠・出産し、シンガポールにはそのことをチャウに伝えるためにも行ったとすれば、目的は果たさなかったものの行った動機としても説明がつくのではないでしょうか。

 個人的解釈としては、チャン夫人が最後、子ども連れて思い出の詰まったアパートに舞い戻ってきた割には結構さばさばして見えるのは、"思い出"に生きることで踏ん切りがついているためであって(その点でチャウとの間に生まれた子どもがい花様年華74.jpgるという意味は大きい)、一方、おそらくは隣の部屋にチャン夫人が戻って来ているのを知らないままにアンコールワットに行ったチャウは、そこまで割り切って"思い出"に生きられないからこそ(男女の生理的違いと言っていいのでは)、遺跡の壁の穴に口づけをするという行為を以って意識的に"思い出"を封印しようとしたのではないか―と考えます。

「花様年華」(2000年製作).jpg
Kayô nenka(2000)
Kayô nenka(2000).jpg
花様年華7_jp.jpg花様年華2).jpg「花様年華」●原題:花様年華/IN THE MOOD FOR LOVE●制作年:2000年●制作国:香港●監督・製作・脚本:ウォン・カーウァイ(王家衛)●撮影:クリストファー・ドイル/リー・ピンビン(李屏賓)●音楽:マイケル・ガラッソ/梅林茂●時間:98分●出演:トニー・レオン(梁朝偉)/マギー・チャン(張曼玉)/レベッカ・パン(藩迪華)/ライ・チン(雷震)/スー・ピンラン(蕭炳林)●日本公開:2001/03●配給:松竹●最初に観た場所:渋谷・Bunkamura ル・シネマ1(01-04-25)(評価:★★★★★
  
Maggie Cheung2.jpgマギー・チャン2.jpgトニー・レオン.jpgトニー・レオン マギー・チャン(hero 2002).jpg


マギー・チャン(張曼玉)/トニー・レオン〈梁朝偉〉[2000年第53回カンヌ国際映画祭男優賞(「花様年華」)]/マギー・チャン&トニー・レオン in 「HERO」(2002年/中国・香港/張芸謀(チャン・イーモウ)監督)
 

Bunkamura ル・シネマ1.jpgBunkamura ル・シネマ内.jpgBunkamura ル・シネマ2.jpgBunkamura ル・シネマ1・2 1989年9月、渋谷道玄坂・Bunkamura6階にオープン


 
 
 
 
《読書MEMO》
●ポール・シュレイダー監督の選んだオールタイムベスト10["Sight & Sound"誌・映画監督による選出トップ10 (Director's Top 10 Films)(2012年版)]
 ●市民ケーン(オーソン・ウェルズ)
 ●暗殺の森(ベルナルド・ベルトルッチ)
 ●花様年華(ウォン・カーウァイ)
 ●レディ・イヴ(プレストン・スタージェス)
 ●オルフェ(ジャン・コクトー)
 ●スリ(ロベール・ブレッソン)
 ●ゲームの規則(ジャン・ルノワール)
 ●東京物語(小津安二郎)
 ●めまい(アルフレッド・ヒッチコック)
 ●ワイルドバンチ(サム・ペキンパー)

●英BBC Culture「21世紀の偉大な映画ベスト100」(2016.08.24発表)上位20位
1.「マルホランド・ドライブ」(01/デビッド・リンチ)
2.「花様年華」(00/ウォン・カーウァイ)
3.「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」(07/ポール・トーマス・アンダーソン)
4.「千と千尋の神隠し」(01/宮崎駿)
5.「6才のボクが、大人になるまで。」(14/リチャード・リンクレイター)
6.「エターナル・サンシャイン」(04/ミシェル・ゴンドリー)
7.「ツリー・オブ・ライフ」(11/テレンス・マリック)
8.「ヤンヤン 夏の想い出」(00/エドワード・ヤン)
9.「別離」(11/アスガー・ファルハディ)
10.「ノーカントリー」(07/ジョエル&イーサン・コーエン)
11.「インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌」(13/ジョエル&イーサン・コーエン)
12.「ゾディアック」(07/デビッド・フィンチャー)
13.「トゥモロー・ワールド」(06/アルフォンソ・キュアロン)
14.「アクト・オブ・キリング」(12/ジョシュア・オッペンハイマー)
15.「4ヶ月、3週と2日」(07)クリスティアン・ムンジウ
16.「ホーリー・モーターズ」(12/レオス・カラックス)
17.「パンズ・ラビリンス」(06/ギレルモ・デル・トロ)
18.「白いリボン」(09/ミヒャエル・ハネケ)
19.「マッドマックス 怒りのデス・ロード」(15/ジョージ・ミラー)
20.「脳内ニューヨーク」(08/チャーリー・カウフマン)

「●アン・リー(李安)監督作品」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【2643】アン・リー「ラスト、コーション
「●「トロント国際映画祭 観客賞」受賞作」の インデックッスへ「●「ロンドン映画批評家協会賞 作品賞」受賞作」の インデックッスへ(「さらば、わが愛/覇王別姫」)「●「ナショナル・ボード・オブ・レビュー賞 外国語映画賞」受賞作」の インデックッスへ「●「アカデミー国際長編映画賞」受賞作」の インデックッスへ「●「ゴールデングローブ賞 外国語映画賞」受賞作」の インデックッスへ「●「インディペンデント・スピリット賞 作品賞」受賞作」の インデックッスへ「●「ロサンゼルス映画批評家協会賞 作品賞」受賞作」の インデックッスへ「●「香港電影金像奨 最優秀作品賞」受賞作」の インデックッスへ 「●ミシェル・ヨー(楊紫瓊) 出演作品」の インデックッスへ「○外国映画 【制作年順】」の インデックッスへ

全部CGにしなくとも、ワイヤーアクションでここまで撮れてしまうのかと感心。ラストはどう解釈する?
グリーン・デスティニー 2000.jpg  グリーン・デスティニー dvd.jpg   グリーン・デスティニー 01.jpg チャン・ツィイー
「グリーン・デスティニー」チラシ/「グリーン・デスティニー コレクターズ・エディション [DVD]
ミシェル・ヨー/チョウ・ユンファ
グリーン・デスティニー1.png 剣の名手として武林にその名を知られた李慕白(リー・ムーバイ)(チョウ・ユンファ〈周潤發〉)は、血で血を洗う江湖の争いに悩み、剣を捨てて引退することを決意、自身の名剣「青冥剣(グリーン・デスティニー)」を北京の鐵(ティエ)貝勒に寄贈するために、密かに恋心を抱いていた同門の弟子で、鏢局を営む兪秀蓮(ユイ・シューリン)(ミシェル・ヨー〈楊紫瓊〉)に託す。シューリンは剣を無事に北京のティエ宅に届けるものの、その夜、剣は何者グリーン・デスティニー3.jpgかに盗まれる。シューリンに続いて北京にやってきたムーバイは、剣を盗んだのは、リーの師匠を毒殺した仇の女性・碧眼狐(ジェイド・フォックス)(チェン・ペイペイ〈鄭佩佩〉)ではないかと考える。一方シューリンは、そこで結婚を間近に控えた貴族の娘の玉嬌龍(グリーン・デスティニー5.pngイェン・シャオロン)(チャン・ツィイー〈章子怡〉)と出会い義姉妹の契りを交わすが、賊と戦った時の印象から、剣を盗んだ賊とはそのシャオロンではないかと疑う。シューリンの読み通り、剣を盗んだのはシャオロンで、シャオロンに剣を教えたのはジェイド・フォックスだった。結婚を控えたシャオロンには恋をした過去があり、新疆でその地の賊・羅小虎(ロー・シャオフー)(チャン・チェン〈張震〉)と出会い、シャオロンとシャオフーは今も深く愛し合っていた―。

『グリーン・デスティニー』ー.jpg『グリーン・デスティニー』監督、アン・リー.jpg アン・リー〈李安〉監督による2000年の中国・香港・台湾・米国の合作作品で、原作は王度廬の武侠小説『臥虎蔵龍』ですが、五部作の第四部だけを映画化してもの。第73回アカデミー賞で英語以外の言語による作品でありながら作品賞ほか10部門にノミネートされ(監督、脚色、撮影、編集、美術、衣装デザイン、作曲、歌曲、外国語映画)、外国語映画賞など4部門を受賞しています。トロント国際映画祭の最高賞「観客賞」も受賞しており、トロント国際映画祭はアカデミーが公認している映画祭であるため、アカデミー作品賞ほかにノミネートされたものと思われます(ゴールデングローブ賞外国語映画賞、インディペンデント・スピリット賞及びロサンゼルス映画批評家協会賞の各「作品賞」も受賞)。

グリーン・デスティニー2.png アン・リー監督は「両岸三地の中国人が力を合わせた結果、中国文化をアメリカに持ち込むことができた」と言っていますが、因みに、アン・リー監督とチャン・チェンは台湾出身、チョウ・ユンファは香港出身、ミシェル・ヨーは中国系マレーシア人で彼女も主に香港で活躍、チャン・ツィイーは中国出身。中国武侠映画は中国人に深く浸透しているものの、中国圏以外ではそれまであまり知られておらず、中国圏では古いタイプの物語がアメリカや日本の観客の眼には新鮮に映り、関心を持って迎えられたという事情はあったかと思います。
ミシェル・ヨー
チョウ・ユンファ
 チョウ・ユンファ(「男たちの挽歌」('86年/香港グリーン・デスティニー 02.jpg)、「誰かがあなたを愛してる」('87年/香港))が演じたリー・ムーバイの役は、当初ジェット・リー〈李連杰〉(「少林寺」('82年/中国・香港))が演じる予定だったものが、妊娠した妻に付き添うために役を断ったためチョウ・ユンファに廻ってきたもので、チョウ・ユンファにはアクション映画のイメージはあっても武侠映画のイメージは無かっただけにやや意外だった感じも。実際、僅か3週間剣術の訓練をしただけで撮影に臨んだそうですが、持ち前の演技力もあってまあまあ絵になっているという感じでしょうか(中国圏におけるポピュラーな武侠映画と異なり、恋愛ドラマ部分のウェイトが大きくなっているというのもあるが)。
チャン・ツィイー vs.ミシェル・ヨー
グリーン・デスティニー 03.jpgチャン・ツィー・イー.jpg それ以上に意外だったキャスティングが、我儘お嬢様で実は武闘家のイェン・シャオロンを演じるチャン・ツィイー(「初恋のきた道)('99年/中国))で、この作品が映画主演第2作です(一応、チョウ・ユンファ/ミシェル・ヨーのペアが主演でチャン・チェン初恋の~1.JPG/チャン・ツィイーは"助演"ということになっているが、原題"臥虎藏龍"はチャン・チェン演じる羅小虎とチャン・ツィイー演じる玉嬌龍を指すと思われる)。それにしても、初主演作「初恋がきた道」との役どころの差が大きい!

グリーン・デスティニー 09.jpg007 ミシェル・ヨー.jpg 「007 トゥモロー・ネバー・ダイ」('99年/英)でボンド・ガールに抜擢されているミシェル・ヨー演じるユイ・シューリンとの2度の対戦で、最初の対戦ではアクション女優とし大先輩格のミシェル・ヨーの顔ばかり映っていてチャン・ツィイーの方はスタントぽかったのが(ミシェル・ヨーはチャン・ツィイーに対し相当な対抗意識を持って撮影に臨んだらしい)、2度目の対戦ではチャン・ツィイーも互角に顔を見せています(シューリン(ミシェル・ヨー)は青冥剣を使うシャオロン(チャン・ツィイー)にいかなる戦法を用いても勝てないという設定になっていて、シャオロンは本人の能力以上に剣の力で強くなっているわけだ)。更に、中盤にはシャオロンは"一人暴徒"化し、終盤には竹林でチョウ・ユンファ演じるリー・ムーバイと剣を合わせることになりますが、中盤・終盤ともそれぞれちゃんと顔が映っています。全部CGにしなくとも、ワイヤーアクショングリーン・デスティニー 08.jpgでここまで撮れてしまうのかと感心する一方で、竹林のアクションシーンでは俳優達をずっと4,50フィートの高さに吊っていたというから、それなりの大変さはあったのでしょう。カメラマンのピーター・パウ〈鮑徳熹〉は、「あのようなアクションはハリウッドでは永遠に撮れないだろう。なぜなら、ハリウッドには、俳優を10フィート以上吊ってはいけないという規定があるから」と述べています。悪役・碧眼狐を演じたベテラン女優チェン・ペイペイさえも「今の武侠映画はCGを使えるのでとても便利だ」と言っているぐらいですから、こうした生身のアクションシーンはだんだん見られなくなるのではないでしょうか。
Wo hu cang long(2000)
グリーン・デスティニー 04.jpg 武侠映画のスタイルを取りながら、ストーリーとしては恋愛&ファンタジーといった感じですが、ラストで"ヒロイン"のイェン・シャオロンがWo hu cang long(2000).jpg橋の上からいきなり跳び降りたのは、最初観た時やや唐突感がありました。やはり、リー・ムーバイを救えなかったことに罪悪感があったのか。こうなると、せっかく再会できたロー・シャオフーも涙し(たように見える)、リー・ムーバイとユイ・シューリンの悲恋に続く「ダブル悲恋物語」ということになりますが、最後は飛び降りたのではなく"飛び立った"のであり、それは、ロー・シャオフーに伴われて草原に戻る決意を意味しているとの解釈もあるようです。こうした結末をぼかすやり方も、作品に含みを持たせる巧みさと言えるかもしれません。


チョウ・ユンファ(周潤發)in ジョン・ウー監督「男たちの挽歌」('86年/香港)/メイベル・チャン監督「誰かがあなたを愛してる」('87年/香港)
英雄本色 周潤發.jpg 秋天的童話1.jpg

CROUCHING TIGER, HIDDEN DRAGON.jpg「グリーン・デスティニー」●原題:臥虎藏龍/CROUCHING TIGER, HIDDEN DRAGON●制作年:2000年●制作国:中国・香港・台湾・米国●監督:アン・リー(李安)●製作:アン・リー/ビル・コン●脚本:ジェームズ・シェイマス/ツァイ・クォジュン/ワン・ホエリン●撮影:ピーター・パウ(鮑徳熹)●音楽:タン・ドグリーン・デスティニー アン・リー.jpgゥン/ヨーヨー・マ●原作:王度廬(ワン・ドウルー)「臥虎蔵龍」●時間:120分●出演:チョウ・ユンファ(周潤發)/ミシェル・ヨー(楊紫瓊)チャン・ツィイー(章子怡)/チャン・チェン(張震)/チェン・ペイペイ(鮑徳熹)/ラン・シャン(郎雄)/リー・ファーツォン●日本公開:2000/11●配給:ソニー・ピクチャーズ・エンタテインメント●最初に観た場所:渋谷東急(00-12-03)(評価:★★★☆)

左より、チャン・ツィイー(中国)、アン・リー監督(台湾)、ミシェル・ヨー(香港(中国系マレーシア人))

HERO~英雄~05 チャン.jpgグランド・マスター56.jpgチャン・ツィイー
in「HERO」['02年/香港・中国]張藝謀(チャン・イーモウ)監督

in「グランド・マスター」['13年/香港・中国]ウォン・カーウァイ(王家衛)監督

  
《読書MEMO》
"巨匠"監督の「武侠映画」個人的評価と受賞した主要映画賞
グリーン・デスティニー(00年/中・香・台・米).jpgアン・リー(李安)グリーン・デスティニー」('00年/中国・香港・台湾・米)★★★☆
 トロント国際映画祭「観客賞」アカデミー賞「外国語映画賞」ゴールデングローブ賞「外国語映画賞」インディペンデント・スピリット賞「作品賞」ロサンゼルス映画批評家協会賞「作品賞」香港電影金像奨「最優秀作品賞」
HERO~英雄~2002.jpg張藝謀(チャン・イーモウ)HERO」('02年/香港・中国)★★★☆
 ベルリン国際映画祭「銀熊賞(アルフレード・バウアー賞)」
グランド・マスター 2013.jpgウォン・カーウァイグランド・マスター」('13年/香港・中国)★★★
 アジア・フィルム・アワード香港電影金像奨「最優秀作品賞」
黒衣の刺客 2015 .jpg侯孝賢(ホウ・シャオシェン)黒衣の刺客」 ('15年/台湾・中国・香港)★★★
 カンヌ国際映画祭「監督賞」アジア・フィルム・アワード

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「●「ベルリン国際映画祭 銀熊賞(審査員グランプリ)」受賞作」の インデックッスへ 「○外国映画 【制作年順】」の インデックッスへ「○存続中の映画館」の インデックッスへ(Bunkamura ル・シネマ)

チャン・ツィイーの可憐さと終盤の畳み掛けるような感動を呼ぶ"効果"。

初恋のきた道 中国版.jpg初恋のきた道 dvd.jpg  初恋のきた道 チャン01.jpg 
初恋のきた道 [DVD]」 チャン・ツィイー(章子怡)

「初恋のきた道」 (99年/中国).jpg 都会で働くルオ・ユーシェン(孫紅蕾(スン・ホンレイ))は、父の急死の知らせを受け故郷である中国華北部の小さな山村、三合屯(サンヘチュン)へ帰郷する。老いた母は悲嘆にくれるばかりで、遺体は町の病院に安置されたまま。母が遺体を担いで帰る昔ながらの葬式をすると言い張るが、村は老人と初恋のきた道 写真.jpg子供ばかりで遺体の担ぎ手がいない。母はまた、棺に掛ける布も自分が織ると言い張った。そんな母の姿を見つめる中、ユーシェンはふと一枚の写真に目がとまる。結婚直後の若き日の父と母が並んだ写真。母は赤い服を着ている。彼は村の語り草ともなった、若き日の父(鄭昊(チョン・ハオ))と母(章子怡(チャン・ツィイー))の恋愛物語を思い出す―。

 張藝謀(チャン・イーモウ)監督の1999年作品で、後に日本で「幸せ三部作」と呼ばれるようになる3作の第1弾「あの子を探して」('99年)に続く第2弾にあたる作品です(第3弾は「至福のとき」('00年))。前作はヴェネチア国際映画祭で「秋菊の物語」('92年)に次いで2度目の金獅子賞(グランプリ)を受賞し、この作品も第50回ベルリン国際映画祭で銀熊賞(審査員グランプリ)を受賞。主人公の母親の娘時代を演じたチャン・ツィイー(1979年生まれ)は19才で本作の主役に抜擢されてデビュー、張藝謀作品ではベルリン国際映画祭金熊賞の「紅いコーリャン」('87年)での鞏俐(コン・リー、1965年生まれ)以来の話題の新人となりましたが、コン・リーが当時21歳で力強いヒロインを演じたのに対し、こちらは2歳若い分、可憐で一途なヒロイン像となっている感じでしょうか(因みに、第50回ベルリン国際映画祭の審査員長はコン・リー)。

初恋のきた道 チャン03.jpg 「紅いコーリャン」の時と違うのは、「紅いコーリャン」の頃は張藝謀の監督作品は中国国内では上映禁止だったのに、この「初恋のきた道」の頃には中国政府にも受け入れられるようになっていたということで、張監督はその後2008年の北京オリンピックの開会式および閉会式のチーフディレクターを任されるまでになり、これを体制に取り込まれた《堕落》と見る向きもあるようです。確かにそうした見方もあるかと思いますが(一応、この作品の中にも文化大革命批判が見られるが、それまでの同監督の作品ほどには先鋭的ではない。それでも中国のある年代の人が観れば暗い時代を思い出さずにはいられないだろうが)、そうした政治的なことはともかく、「紅いコーリャン」でみせた骨太の演出とダイナミックな映像美はこの作品でも充分に堪能できるかと思います。

初恋のきた道 チャン02.jpg 主人公が出てくる現在の部分はモノクロで、若き日の父と母のラブストーリーの部分はカラー(主人公は語り手となる)。2人の恋愛物語において、村に教師としてやった来た父と母の関係は、正確には教師と生徒ではなく、教師とただの村の娘というそれ以上に開きがあるものでしたが、それでも憧れの先生に猛烈にアタックをかけるチャン・ツィイーがいい(田舎娘らしいドン臭い走り方が"効果"的?)。その恋愛は、政治的理由で何年も会えないという過酷なものでしたが、障壁があればあるほど想いが強まるという意味では、ある種、"王道的"乃至"定番的"に描かれている恋物語のようにも思いました(同監督の「菊豆<チュイトウ>」('90年)のような"毒"を含んだ作品ではない)。

初恋のきた道 02.jpg 終盤モノクロの現在に話が戻って、かつての教え子たちが遠方からも含め百人ほども集って棺を担ぎ、誰も報酬を受け取らないというというのがスゴイ。吹雪の雪道を黙々と歩むその姿は感動的ですが、彼らは主人公にとっては知らない人ばかりだったという―。地方に留まり40年教師を続けた父親の偉大さがここにきて主人公の視点から浮彫りになり、そう言えば、若き日の父の話で母との恋愛の部分は映像化されていたのに対し、父の教える様子は「声が良かった」という母の述懐を主人公が語るといった間接表現になっていて実際のその姿の映像が無かったのが、逆にこの葬送シーンでの感動を引き起こす"効果"に繋がっていたように思います(因みに現在の母親を演じたのは女優ではなく素人)。

初恋のきた道04.jpg これで終わらないのがこの監督のスゴイところ。父の棺は今は使われていない古井戸の傍に運ばれて埋められ、それは父が教えていた学校のすぐ傍。つまり、雪が積もっていて初めはよく分からなかったけれども、父の教え子たちが棺を担いだ葬送の道程はまさに母親にとって「初恋のきた道」であって、ここにきて母親が遺体を担いで"帰る"昔ながらの葬式を望んだ理由が浮き彫りになります。

Wo de fu qin mu qin(1999).jpg そして更に最後に、父の意向に反して教師の職を継がなかった主人公が、そのことを父は残念がっていて一度でもいいから教壇に立って欲しがっていたしそれは自分の願いでもあるという母の意向を汲み、都会に帰る日となった翌朝、取り壊し前の古い教室で子供達を集め1時間だけ授業を開き、そこで父が初めてこの教壇に立った時に読んだ文章と同じ文章を読むという―この親孝行がこれまた感動的。

 やがてモノクロの主人公とカラーの若き日の父が重なり(これは母親からの視点か)、と思ったら、今度はそれを見つめるモノクロの母親がカラーの娘時代へと。エンディングは、子供達と行く若き父とそれを追う若き母―。映像の使い方というものを知り尽くしている感じで、とりわけ終盤は畳み掛けるような"効果"の連続でした。但し、演出の力によって小手先感が無くなっており、仮にそういう"効果"が後から窺えたとしても、分析する前に感動させられてしまっているという感じでしょうか。まあ、いい映画ってそういうものですが。
Wo de fu qin mu qin(1999)

初恋のきた道 06.jpgチャン・ツィイー.jpg 可憐な演技を見せたチャン・ツィイーは、次回作「グリーン・デスティニー」('00年/中国・香港・台湾・米国)がアカデミー外国語映画賞を受賞し、一気にスターダムに駆け上がることとなります。

チャン・ツィイー(章子怡) 

初恋のきた道 タイトル.jpg「初恋のきた道」●原題:我的父親母親/THE ROAD HOME●制作年:1999年●制作国:中国●監督:張芸謀(チャン・イーモウ)●製作:趙愚(ツァオ・ユー)●脚本:鮑十(パオ・シー)●撮影:侯咏(ホウ・ヨン)●音楽:三宝(サンパオ)●原作:鮑十(パオ・シー)●時間:89分●出演:章子怡(チャン・ツィイー)/鄭昊(チョン・ハオ)/孫紅雷(スン・ホンレイ)/趙玉蓮(チャオ・ユエリン)●日本公開:2000/12●配給:ソニー・ピクチャーズ・エンタテインメント●最初に観た場所:渋谷・Bunkamura ル・シネマ2(01-05-13)(評価:★★★★)
Bunkamura ル・シネマ1.jpgBunkamura ル・シネマ内.jpgBunkamura ル・シネマ2.jpgBunkamuraル・シネマ1・2 1989年9月、渋谷道玄坂・Bunkamura6階にオープン

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五月革命に翻弄される田舎のブルジョワたちの人間模様。フランスの田舎を美しく撮っている。

五月のミル dvd.jpg 五月のミル MILOU EN MAI DVD.jpg 五月のミル ピクニック.jpg  美しき諍い女 _.jpg
「五月のミル」[DVD]「五月のミル【HDニューマスター版】 [DVD]」ミシェル・ピコリ主演「美しき諍い女 無修正版 [HDリマスター版] Blu-ray
五月のミル 母の死.jpg 1968年5月のパリ五月革命の最中、南五月のミル 0.jpg仏ジェール県の当主ヴューザック家夫人(ポーレット・デュボー)が突然の発作で死ぬ。長男のミル(ミシェル・ピコリ)は彼女の死を兄弟や娘たちに伝えようとするがストで電話が繋がらない。ようやく駆け付けたミルの娘カミーユ(ミュウミュウ)と五月のミル ザリガニ.jpgフランソワーズたち3人の子、姪のクレール(ドミニク・ブラン)とそのレズビアン友達マリー=ロール(ロゼン・ル・タレク)、弟のジョルジュ(ミシェル・デュショーソワ)と彼の後妻リリー(ハリエット・ウォルター)たちの話題は革命と遺産分配のことばかり。立派な邸宅を売ったらゴルフ場にもできるというカミーユとジョルジュにミルは怒りを爆発させ、小川へザリガニ捕りに行く。カミーユと幼馴染みの公証人ダニエル(フランソワ・ベルレアン)の読みあげる夫人の遺書の中に、小間使いのアデル(マルティーヌ・ゴーティエ)が相続人に含まれていると知って一同は驚くが、気のあるミルだけは喜ぶ。パリで学生運動に参加しているジョルジュの息子ピエール五月のミル milou-en-mai.jpg=アラン(ルノー・ダネール)が共産党嫌いのグリマルディ(ブルーノ・カレット)のトラックに乗せてもらって屋敷に現われる。翌日、革命の影響で葬儀屋までがストをする。ミルたちは遺体を庭に埋めることにし、葬式を一日延期し、ピクニックに興じる。その夜、屋敷に現われた村の工場主夫妻から、ド・ゴール大統領が姿を消していて、ブルジョワは殺されると知らされた一同は、森の洞窟へと逃げる。疲労と空腹で一夜を過ごした彼らのもとにアデルがやって来て、ストが終ったことを知らせる。いつしか彼らの心の中には、屋敷を売る考えはなくなっていた。無事に葬儀は終わり、人々も帰るべき場所へと帰って行き、屋敷には再びミルだけが残される―。

田舎の日曜日 1984 dvd.jpgお葬式 映画 dvd.jpg ルイ・マル監督の1989年作品(公開は1990年)。ミルが住む美しい田舎へ娘や孫たちがやって来てまた慌ただしく去っていくという設定は、ベルトラン・タヴェルニエ監督の「田舎の日曜日」('84年/仏)を想起させますが、ストのため埋葬できない遺体を差し置いて、遺産相続の話で親族同士が揉め、更に、久しぶりに、或いは新たに出会った男女が急速に接近するなどといった色恋も交えた展開は、伊丹十三監督の「お葬式」('84年/ATG)に近いかも。

田舎の日曜日[デジタルリマスター版] [DVD]」「伊丹十三DVDコレクション お葬式

五月のミル3.jpg ブルジョワ階級出身のルイ・マル監督が五月革命に翻弄されるブルジョワを風刺と皮肉を込めて描いた作品ととれますが、アイロニカルな部分がことさらに強調されているわけではなく、その点において自然であるとともにやや中途半端か。むしろ、政治的なことは抜きにして、単純に集団劇として見た場合に結構面白いのではないでしょうか(ルイ・マルの頭にはアントン・チェーホフの『桜の園』があったという。また、ジャン・ルノワールの「ゲームの規則」的な作りをも意識しているらしい)。

五月のミル pikori.jpg ミルは母親の死に一度慟哭しますが、その後は親族たちのドタバタに振り回され、そうした中で弟の後妻リリーと急速に接近(それまでも小間使いのアデルと恋人関係にあったようだが)、娘のカミーユは幼馴染みの公証人のダニエルとの関係が再燃したようで、レズビアンだったはずのマリー=ロールはピエール=アランと親密になり、それに対抗するようにクレールもトラック運転手のグリマルディと親しくなります(何だか、親戚と他人が入り混じった乱交状態みたいになってくるね)。

五月のミル ピクニック2.jpg こうした人同士の関係の化学変化が、ミルの突然思い立ったザリガニ捕りや(これも相続争い対する嫌気から逃れたい気持ちからの行動だと思うが)、関係者総出でのピクニックを通して描かれ、美しい自然の中で人々の気持ちが解放され、行動が大胆になっていく一方、屋敷を売ってどうのこうのといった考えは消えていき、また、それは同時に、屋敷を売りたくないミルの思惑に沿ったものになっているというのは、観ていてまずますスムーズな流れです。

五月のミル rasuto.jpg しかし、ミル自身は、屋敷は売らずに済んだものの、最後は小間使い兼恋人のアデルにも婚約者がいて彼女も去っていくという目に遭います(意外としたたかな女性だった)。リリーも去ってアデルも去り、残されたミルは、もう誰もいない屋敷で亡き母の幻影とダンスを踊る―ミルの老境の孤独を感じさせるエンディングで、初黒澤明が選んだ100本の映画 (文春新書).jpg黒澤明         .jpgめ「田舎の日曜日」→中ほど「お葬式」→ラスト再び「田舎の日曜日」といった感じの作品ですが、「田舎の日曜日」同様にフランスの田舎を美しく撮っている作品でもあります。黒澤明(1910-1998)監督の娘である黒澤和子氏によれば、黒澤明が生前評価していた作品でもあるようです(黒澤和子『黒澤明が選んだ100本の映画』('14年/文春新書))。

 この作品、オリジナルタイトルは Milou en mai(「5月のミル」) だけれども、英文タイトルだと May Fools(「5月の愚か者たち」) になっているなあ。

                               ミシェル・ピコリ/エマニュエル・ベアール
美しき諍い女 poster .jpgジャック・リヴェット.jpg美しい諍い女41.jpg ミシェル・ピコリ(1925-2020/享年94)は「最後の晩餐」('73年/伊・仏)や「自由の幻想」('74年/仏)にも出ていた俳優ですが、この映画の翌年、今年['16年]1月に亡くなったジャ美しい諍い女051.jpgック・リヴェット(1928-2016/享年87)監督(この人もヌーヴェルヴァーグの中心的人物である)の「美しき諍い女(いさかいめ)」('91年)に出演しています。高名であるが世捨て人の画>家(ミシェル・ピコリ)が、もともとモデルだった妻(ジェーン・バーキン)とプロヴァンスの片田舎にある古城で静かに暮らしているところへ、一人の若い画家が恋人(エマニュエル・ベアール)を連れて彼のもとを訪れると、画家は彼女をモデルにする事で、自分が長い間打ち捨てていた作品「美しき諍い女」の制作を再開する気になるというものです。ノーカット版は3時間57分ですが、当時['93年]VHS版(1時間31分)で観てしまいました(ジャック・リヴェット監督が別撮りのフィルムでテレビ用にシー美しい諍い女03.jpgンを変更した2時間5分の別バージョン「美しき諍い女ディヴェルティメント」が1993年に劇場公開されているが、現在は約4時間のオリジナル完全版がEmmanuelle Béart Mission:Impossible (1).jpgDVD・Blu-ray化されている)。エマニュエル・ベアールは作中を通じてほとんど全裸であり、「ワイセツか芸術か」の物議をかもした問題作ですが、カンヌ国際映画祭でグランプリを受賞しています(エマニュエル・ベアールはブライアン・デ・パルマ監督の「ミッション:インポッシブル」('96年/米)でトム・クルーズの相手役に抜擢された)。個人的には、画家のアトリエのある古城の別荘がヨーロッパ的でいい感じでした(ウラヤマシイ)。

『知られざる傑作 他五編』.jpg知られざる傑作.JPG 原作は1831年発表のオノレ・ド・バルザック(1799-1850/51歳没)の代表的短編(バルザック自身は1932年2月と記しているがこれはおそらく誤り)とされる「知られざる傑作」であり、岩波文庫『知られざる傑作 他五編』に収められています。カバー(旧版だと帯)に結末が書いてあることからも窺えるように、あくまでも文学作品ですが、リヴェット監督は文庫で50ページ足らずのこの作品を4時間の映画にしたことになります。映画の個人的の評価は★★★★、原作の個人的評価も★★★★。岩波文庫収録の短編の中ではこれが一番よく、個人的には「抽象画の誕生」というタイトルを付けたい内容でした。
知られざる傑作―他5篇 (1948年) (岩波文庫)

知られざる傑作 他五編 (岩波文庫)
1928年11月初版
1965年1月第33刷改版
2015年4月第88刷
水野 亮:訳



ミシェル・ピコリ in「最後の晩餐」('73年/伊・仏) with マルチェロ・マストロヤンニ
「最後の晩餐」4.jpg 「最後の晩餐」2.jpg

五月のミル  .jpg五月のミル シネヴィヴァン 1990.jpgMay Fools (1990).jpg「五月のミル」●原題:MILOU EN MAI●制作年:1989年(公開年:1990年)●制作国:フランス・イタリア●監督:ルイ・マル●製作:ルイ・マル/ヴィン・セントマル●脚五月のミル 06.jpg本:ジャン=クロード・カリエール●撮影:レナート・ベルタ●音楽:ステファン・グラッペリ●時間:107分●出演:ミュウミュウ/ミシェル・ピコリ/ミシェル・デュショーソワ/ブルーノ・カレット/ポーレット・デュボー/ハリエット•ウォルター/マルティーヌ・ゴーティエ/ドミニク・ブラン/ロゼン・ル・タレク/フランソワ・ベルレアン/ルノー・ダネール●日本公開:1990/08●配給:シネセゾン●最初に観た場所:シネヴィヴァン六本木(90-10-10)●2回目:北千住・シネマブルースタジオ(15-04-18)(評価:★★★☆)
「五月のミル」テーマ(ステファン・グラッペリ)


美しき諍い女 デジタル・リマスター版(2枚組).jpgミシェル・ピコリ/ジェーン・バーキン  「美しき諍い女(いさかいめ)」●原美しき諍い女  ジェーン・バーキン.jpg題:LA BELLE NOISEUSE(英:BEAUTIFUL TROUBLEMAKER)●制作年:1991年●制作国:フランス●監督:ジャック・リヴェット●製作:マルティーヌ・マリニャック●脚本:パスカル・ポニツェール/クリスティーヌ・ロラン/ジャック・リヴェット●撮影:ウィリアム・リュプチャンスキー●音楽:イゴール・ストラヴィンスキー●原作:「バルザック 知られざる傑作」●時間:91分(VHS版)・131分(2時間編集版)・237分(ノーカット版)●出演:ミシェル・ピコリ/ジェーン・バーキン/エマニュエル・ベアール/マリアンヌ・ドニクール/ダヴィッド・バースタイン/ジル・アルボナ/マリー・ベリュック/マリー=クロード・ロジェ●日本公開:1992/05●配給:コムストック(評価:★★★★) 
美しき諍い女 デジタル・リマスター版(2枚組) [DVD]」[237分]

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若干"禁じ手"のような気もするが、プロセスにおいて愉しめたからまあ良しとする。

名探偵ポワロ/ポワロのクリスマスL.jpg名探偵ポワロ(第42話)/ポワロのクリスマス dvd_book.jpg 名探偵ポワロ(第42話)/ポワロのクリスマス05.jpg  ポワロのクリスマス book - コピー.jpg
名探偵ポワロ[完全版]Vol.24 [DVD]」「名探偵ポワロDVDコレクション 9号 (ポワロのクリスマス) [分冊百科] (DVD付)」『ポアロのクリスマス (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)

名探偵ポワロ(第42話)/ポワロのクリスマス02.jpg クリスマスも間近に迫ったある日、ポワロはセントラル・ヒーティングが壊れて困っているところに、ゴーストン・ホールの当主である老富豪シメオン・リーから電話で泊まりの仕事の依頼があり、そちらにはセントラル・ヒーティングがあるとのことで邸へ赴く。彼には、ホールに同居するアルフレッド、国会議員のジョージ、道楽者のハリーの3人の息子と、スペイン人と結婚名探偵ポワロ(第42話)/ポワロのクリスマス01.jpgした娘ジェニファーがいた名探偵ポワロ(第42話)/ポワロのクリスマス03.jpgが、娘は子供を残して亡くなっており、シメオン・リーはこのクリスマスに、ジョージ、ハリーの夫婦に加え、長年離れて暮らしていた末息子ハリーと亡くなった娘の子供、つまり彼にとっての孫娘となるピラールも呼び寄せていた。一族たちが邸を訪れ、互いに再会したり初めて会ったりした一同ではあったが、兄弟の不仲や老人の嫌味な言動などにより、邸内には不穏な空気が流れる。そしてクリスマス・イヴに事件は起こる。老人の部屋から聞こえて来た凄まじい騒音と絶叫。鍵のかかっていたドアを破壊し中に踏み入った一同が目にしたものは、崩れた家具とその横に倒れる老人の血まみれの死体だった。そして、彼が銀行から届けさせていたダイヤが紛失していた―。

名探偵ポワロ(第42話)/ポワロのクリスマス  book.jpg名探偵ポワロ(第42話)/ポワロのクリスマス book.jpg名探偵ポワロ(第42話)/ポワロのクリスマス book2.png 「名探偵ポワロ」の第42話(第6シーズン第1話)でロング・バージョン。本国放映は1995年1月1日、本邦初放映は1997年12月29日(NHK)。原作はアガサ・クリスティが1938年に発表した長編作品であり、映像化作品の年代設定もほぼ同じ(このTVシリーズが"通し"で大体名探偵ポワロ(第42話)/ポワロのクリスマス04.jpgその頃の時代設定になっている)。但し、原作ではジャップ警部は登場しませんが、こちらは、妻の実家ウェールズに帰省していて、地元ウェールズ人のクリスマス期間中に朝から晩まで歌い通しの慣習にウンザリしている彼を、ポワロが"救出"して捜査に当たらせます(奥さんの実家は見せても、当の奥さんの姿は無い。「刑事コロンボ」ではないが、ジャップ警部の奥さんを見せないのがドラマの決まりごとになっているようだ)。

 プロローグで、40年前に南アフリカで大粒のダイヤモンドを発掘した2人の男の内、片方の男が欲に駆られて相方の男を殺害し、自らも灼熱の地に倒れるも、現地の一人住いの女性に助けられて介抱され、やがて2人は夫婦生活を送るようになる―という話が展開され、その男が今の老大富豪シメオン・リーであることが示唆されています。

名探偵ポワロ(第42話)/ポワロのクリスマス1.jpg ということで、シメオン・リーは過去に仲間を殺害して富を得る機会を独占した"殺されても仕方がないくらい"悪い奴なのですが(更に、現在においても、孫娘に躙り寄るどうしようもない好色爺なのだが)、あまりに多くの人物から恨みにを買っていそうで、一体誰が犯人なのか判らない―長男、次男にそれぞれの嫁まで絡んで、何となく秘密を抱えていそうなピラールも加え、当面の容疑者は6人に。

名探偵ポワロ(第42話)/ポワロのクリスマス-212.jpg 個人的には、シメオン・リーを殺害したのは、ダイヤ発掘の際に彼に殺害された相方の子孫だと思ったのですが、それが孫娘に化けて邸に潜入したのかと思ったけれど、ちょっと違っていました(ポワロが仄めかした「犯人は内部の者であり外部の者でもある」という言葉に該当するのはその時点で彼女しかいないように思えたのだが、ただ金持ちになりたかっただけか)。

名探偵ポワロ(第42話)/ポワロのクリスマスes.jpg 結局、「執事が犯人だった」という手に匹敵する"禁じ手"だったような気名探偵ポワロ(第42話)/ポワロのクリスマス-s.jpgがしなくもないですが、しっかり伏線もあったし(ビリアード室でのピラールの言葉など)、密室殺人から始まってお決まりの関係者全員を集めての謎解きまで、プロセスにおいて最後まで愉しめたから、まあ、良しとしようという感じでしょうか(評価はロング・バージョンHercule Poirot's Christmas.jpg間の相対評価で星3つ半くらいか)。ポワロとジャップ警部のクリスマス・プレゼントの交換が可笑しかったです(当然、ジャップが出てこない原作には無い話なのだが)。

「名探偵ポワロ(第42話)/ポワロのクリスマス」●原題:AGATHA CHRISTIE'S POIROTⅥ:HERCULE POIROT`S CHRISTMAS●制作国:イギリス●本国放映:1995/01/01●監督:エドワード・ベネット●脚本:クライブ・エクストン●時間:103分●出演:デビッド・スーシェ(ポワロ)/フィリップ・ジャクソン(ジャップ警部)/ヴァーノン・ドブチェフ(シメオン・リー)、サイモン・ロバーツ(アルフレッド・リー)●日本放映:1997/12/29●放映局:NHK(評価:★★★☆)
Hercule Poirot's Christmas

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AXNミステリー「あなたが選ぶ名探偵ポワロ(短編)ベスト10」第1位作品。ドラマ性が高い。

名探偵ポワロ(第39話)/チョコレートの箱dvd.jpg 名探偵ポワロ(第39話)/チョコレートの箱 dvdbook.jpg 名探偵ポワロ(第39話)/チョコレートの箱 00.jpg 名探偵ポワロ(第39話)/チョコレートの箱  07.jpg
名探偵ポワロ 完全版 22 [レンタル落ち]」(「イタリア貴族殺害事件」「チョコレートの箱」所収)「名探偵ポワロDVDコレクション 63号 (チョコレートの箱) [分冊百科] (DVD付)

名探偵ポワロ(第39話)/チョコレートの箱 01.jpg ポワロはベルギーで「黄金の枝」勲章を叙勲されるジャップ警部に伴い、ブリュッセルを訪れる。警視総監になった旧友のシャンタリエと再会したポワロは、20年前の事件を思い出す。ポワロが警官だった頃、リベラル派の大臣ポール・デルラールが家族や知人たちとの食事後、好物のチョコレートを食べて急死した事件だ。ポワロはシャンタリエと捜査を始めるが、ブシェール警視によって打ち切りを命じられる。それでもポワロは決然と捜査を進めたのだった―。

名探偵ポワロ(第39話)/チョコレートの箱 05.jpg 「名探偵ポワロ」の第39話(第5シーズン第6話)でショート・バージョン。本国放映は1993年2月21日、本邦初放映は1993年7月10日(NHK)。原作はクリスティー文庫『ポアロ登場』(「チョコレートの箱」)、創元推理文庫『ポワロの事件簿2』(「チョコレートの箱」)などに所収。

名探偵ポワロ(第39話)/チョコレートの箱09.jpg ポワロがベルギー警察時代に初めて〈私立探偵〉として手がけた事件を描いた作品(警官が捜査打ち切り命令に反して休暇を取って自主的に捜査すれば私立探偵ということになるわけか)。原作では ポワロがヘイステングス相手にロンドンの自室で40年前の事件の回顧談をする設定なのに対し、映像化作品では、ポール・デルラールの死が1913年頃で、20数年前の事件となっています。更に、回顧談の相手がジャップ警部に変更され、どうせ回顧シーンをブリュッセルでロケしなければならないのならば、現在のポワロとついでにジャップ警部もベルギーへ行かせようということになったの名探偵ポワロ(第39話)/チョコレートの箱 02.jpgか、ジャップ警部がベルギーで勲章を受けることになり、奥さんが長旅がダメで同伴できなくて(ジャップ警部の自宅や奥さんの親戚は出てくることがあっても、当の奥さんは姿を見せ名探偵ポワロ(第39話)/チョコレートの箱ド.jpgないのが、「刑事コロンボ」のコロンボのカミさん同様にドラマのお決まりになっている)、代わりにポワロがジャップ警部に同行するという設定になっています(旅費2人分は予め表彰する側が負担することになっているということか。ベルギー側が、ジャップ警部の功績はポワロによるところ大であることを知っていて、ポワロも招待したのかと思ってしまった。それではジャップ警部に対して嫌味になってしまう)。

 従って、現在のポワロと警察時代のポワロが交互に交錯してストーリーが進んでいきますが、ポワロ役のデビッド・スーシェは普段ポワロを演じている時は"詰め物"をしているわけで、警察時代を演じる時はそれを抜いているため、若干スリムかになっている感じでしょうか(但し、上司より顔がデカかったりして、これは如何ともしがたい)。階段を駆け下りたり、逃走者を走って追いかけたりと、若々しさを強調しています。

ブローチをしたポワロ.jpgポワロのブローチ.jpg名探偵ポワロ(第39話)/チョコレートの箱  03.jpg 原作との大きな改変点は、原作でポール・デルラールに想いを寄せる女性ビルジニー・メナール(ポールの亡き妻の従妹)が、何とポワロに想いを寄せているとでも言っていいくらいポワロを信頼しきっている感じになっており、ポワロがいつも身に付けている襟のブローチがその時の彼女からの贈り物であったことが明かされ、同時に、かつてビルジニーへ抱いたポワロ自身の思慕が今も生き続けていることが示唆されます。再会シーンは微妙(個人的には要らなかったかなとも)。夫は薬剤師なのに、息子2人は警官になっているという...(原作では、彼女は女好きのポールに幻滅して修道院に入ってしまうため、ポワロとの恋愛談は無い)。

 もう一つの見所は、未解決事件だとされていたポール・デルラールの死は、実はポワロは当時すでに事件を解決していたけれどもそれを封印し、今ここで充分に月日を経たことを理由にその封印を解いたという作りになっている点で、では何故彼は当時、事件を自分の手柄とすることなく敢えて封印したのか―それは観ていれば分かるのですが、謎解きのプロットもさることながら、このように、ショート・バージョンにしてはドラマ的要素が盛り沢山で、事件が回顧談の中で展開されポワロが警官服で出てくるという変則的なものでありながら、この作品が、AXNミステリー「あなたが選ぶ名探偵ポワロ(短編)ベスト10」の第1位に選ばれているのも分かる気がします。

The Chocolate Box
The Chocolate Box _.jpg名探偵ポワロ(第39話)/チョコレートの箱 04.jpg ポワロが犯人を見逃すというのは『オリエント急行の殺人』などでそのような例がないわけではないですが珍しい方でしょう(警察時代の事件であるということもあるのか。いや、警察官だったら本来は犯人逮捕は義務であるはずだが)。チョコレートの箱と蓋の組み合わせを間違えた犯人は、赤と緑を十分に区別できない所謂「赤緑色盲」だったのでしょうか?
               
 
チョコレートの箱.jpg「名探偵ポワロ(第39話)/チョコレートの箱」●原題:AGATHA CHRISTIE'S POIROTⅤ: THE CHOCOLATE BOX ●制作国:イギリス●本国放映:1993/02/21●監督:ピーター・バーバー・フレミング●脚本:アンソニー・ホロヴィッツ●時間:52分●出演:デビッド・スーシェ(ポワロ)/フィリップ・ジャクソン(ジャップ警部)/ジェームズ・クームス(ポール・デルラール)/デヴィッド・デ・キーサー(ガストン・ボージュ)●日本放映:1993/07/10●放映局:NHK(評価:★★★★)
 
■AXNミステリー「あなたが選ぶ名探偵ポワロ(短編(ショート・バージョン))ベスト10」(2010年)(話数は放映順。()内数字はオリジナルの放送順)
1位 第34話 「チョコレートの箱」 (第39話)
2位 第31話 「黄色いアイリス」 (第36話)
3位 第4話 「24羽の黒つぐみ」 (第4話)
4位 第19話 「あなたの庭はどんな庭?」 (第21話)
5位 第1話 「コックを捜せ」 (第1話)
6位 第6話 「砂に書かれた三角形」 (第6話)
7位 第29話 「エジプト墳墓のなぞ」 (第34話)
8位 第22話 「スズメバチの巣」 (第24話)
9位 第26話 「盗まれたロイヤル・ルビー」 (第28話)
10位 第27話 「戦勝舞踏会事件」 (第29話)

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ポワロが犯人に対して仕掛けたトラップにこちらも騙されてしまう。

名探偵ポワロ 完全版 21  黄色いアイリス・なぞの遺言書L.jpg 名探偵ポワロDVDコレクション 60号.jpg THE YELLOW IRIS POIROT.jpg
名探偵ポワロ[完全版]Vol.21 [DVD]」(「黄色いアイリス」「なぞの遺言書」所収)「名探偵ポワロDVDコレクション 60号 (黄色いアイリス) [分冊百科] (DVD付)

名探偵ポワロ(第36話)/黄色いアイリス 01.jpg 2年前、アルゼンチンに滞在しているヘイスティングスに会いに行ったポアロは、ブエノスアイレスのホテルで偶然事件に遭遇する。それから月日は流れ、ある朝、ポアロはヘイスティングスから「ル・ジャルダン・デ・シーニュ」が付近にオープンすることを聞き、ミス・レモンからは「事務所のポストに挿されていた」と"黄色いアイリス"を手渡される。ポアロにとって思い出したくない2年前の黄色いアイリス.jpg事件―同じ名のレストランの黄色いアイリスが飾られたテーブルにいたアイリスという女性の殺害事件が再び脳裏に蘇る。ポワロが過去に遭遇し未解決に終わっていたその事件が、2年後の今、ロンドンで再び動き出す―。
 
 「名探偵ポワロ」の第36話(第5シーズン第3話)でショート・バージョン。本国放映は1993年1月31日、本邦初放映は1994年2月5日(NHK)。原作は短編で、クリスティー文庫『黄色いアイリス』(「黄色いアイリス」)、創元推理文庫『砂に書かれた三角形』(「黄色いアイリス」)などに所収。
黄色いアイリス (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)

名探偵ポワロ(第36話)/黄色いアイリス04.jpg 「ル・ジャルダン・デ・シーニュ」は、2年前の事件の現場名探偵ポワロ(第36話)/黄色いアイリス06.jpgとなった有名なフランス料理店で、この度ロンドンに進出しオープンしたわけですが、そのオープンの日は、図らずも2年前その事件が起きた―アイリスが突然うっ伏して亡くなった―その日であり、当時、ポアロはまさにその時その場所にいたにも関わらず、クーデターを起こした軍によりスパイ容疑で逮捕されて強制送還され、事件を解決するに至らず、事件はアイリスのポーチにあった青酸カリによる自殺として処理されたというもの。

名探偵ポワロ(第36話)/黄色いアイリス03.jpg 今回黄色いアイリス THE YELLOW IRIS POIROT.jpgは、当時アイリスが青酸カリによって殺害されたテーブルにいた当事者全員が招待されて店に集います。店のテーブルは、米国人実業家のバートン・ラッセルが予約したもので、ラッセルは4年前と同じ状況を作った上でアイリスは他殺であるとの考えを述べ、この中に犯人がいるとしますが、今度はその場でアイリスの妹ポーリンが突然うっ伏してしまう―。

忘れられぬ死(2003年)洋DVD.jpg忘られぬ死 ハヤカワ文庫09.jpg 原作の短編は長編『忘られぬ死』の原型とされる作品で、但し『忘られぬ死』ではポワロは登場せず、姉妹の名前は、姉がローズマリーで妹がアイリスでした。2003年にはグラナダTVによってTVドラマ版が作られています。

 『忘られぬ死』は文芸小説風ミステリでもありましたが(映像化作品は時代を現代に置き換え、原作と若干違って、トミーとタペンスの「おしどり探偵」シリーズの"初老版"みたいな作りになっている)、こちらの映像化作品の「黄色いアイリス」は短編がベースであるためか、純粋にトリックが楽しめます。ポワロが犯人に対して仕掛けたトラップにこちらも騙されてしまいますが、それにしてもポーリン、演技が上手すぎ? いや、それ以前に、犯人の手先が器用すぎ?

The Yellow Iris Hercule Poirot an Hastings.jpg 因みに、ヘイスティングスは今はアルゼンチンからロンドンに戻ってきているわけで、これは、ドラマでは鉄道への投資に失敗したため破産し、イギリスに帰国して再びポアロの助手を務めているという設定になっているためです。原作では、アルゼンチンで牧場を経営し成功を収めたため、イギリスに一時帰国することあっても、途中から彼の本拠地はあちらになっています(そのため、ポワロはミス・レモンを雇うことになった)。

 この作品は、AXNミステリー「あなたが選ぶ名探偵ポワロ(短編(ショート・バージョン))ベスト10」の第2位に選ばれています(第1位は「チョコレートの箱」)。

名探偵ポワロ(第36話)/黄色いアイリス02.jpg「名探偵ポワロ(第36話)/黄色いアイリス」●原題:AGATHA CHRISTIE'S POIROTⅤ: THE YELLOW IRIS●名探偵ポワロ(第36話)/黄色いアイリス07.jpg制作国:イギリス●本国放映:1993/01/31●監督:ピーター・バーバー・フレミング●脚本:アンソニー・ホロヴィッツ●時間:52分●出演:デビッド・スーシェ(ポワロ)/ヒュー・フレイザー(ヘイスティングス)/ポーリン・モラン(ミス・レモン)/ロビン・マキャフリー(アイリス・ラッセル)/ジェラルディン・サマーヴィル(ポーリーン・ウェザビー)●日本放映:1994/02/05●放映局:NHK(評価:★★★☆)

《読書MEMO》
●AXNミステリー「あなたが選ぶ名探偵ポワロ(短編(ショート・バージョン))ベスト10」(2010年)(話数は放映順。()内数字はオリジナルの放送順)
1位 第34話 「チョコレートの箱」 (39)
2位 第31話 「黄色いアイリス」 (36)
3位 第4話 「24羽の黒つぐみ」 (4)
4位 第19話 「あなたの庭はどんな庭?」 (21)
5位 第1話 「コックを捜せ」 (1)
6位 第6話 「砂に書かれた三角形」 (6)
7位 第29話 「エジプト墳墓のなぞ」 (34)
8位 第22話 「スズメバチの巣」 (24)
9位 第26話 「盗まれたロイヤル・ルビー」 (28)
10位 第27話 「戦勝舞踏会事件」 (29)

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プロットより舞台設定か。「エジプト墳墓のなぞ」(第34話)。

名探偵ポワロ(第34話)/エジプト墳墓のなぞdvd3.jpg 名探偵ポワロ(第34話)/エジプト墳墓のなぞdvd100_.jpg 名探偵ポワロ(第34話)/エジプト墳墓のなぞ  7.jpg
名探偵ポワロ[完全版]Vol.20 [DVD]」(「エジプト墳墓のなぞ」「負け犬」所収) 「名探偵ポワロDVDコレクション 58号 (エジプト墳墓のなぞ) [分冊百科] (DVD付)

名探偵ポワロ(第34話)/エジプト墳墓のなぞ7.jpg名探偵ポワロ(第34話)/エジプト墳墓のなぞ01.jpg エジプトで行われている大掛かりな発掘調査で、遂にメンハーラ王の墳墓が開封される時が訪れるが、封印の扉を開けた直後、発掘隊の考古学者ウィラード卿が倒れ、そのまま亡くなってしまう。死因は心臓発作で自然死と判断されたが、それから次々と調査に関わった人間が不審な死を遂げて行く。そんな折、卿夫人の依頼を受けたポワロは、ヘイスティングスとともにエジプトへ向かう。 人々は「王の墓を暴くものには制裁が下される」と王の呪いを噂するが―。

名探偵ポワロ(第34話)/エジプト墳墓のなぞs.jpg 「名探偵ポワロ」の第34話(第5シーズン第1話)でショート・バージョン。本国放映は1993年1月17日、本邦初放映は1993年7月3日(NHK)。原作はクリスティー文庫『ポアロ登場』(「エジプト墳墓の謎」)、創元推理文庫『クリスティ短編集1』(「エジプト墓地の冒険」)などに所収。

 ウィラード卿に次ぐ第二の死者は、発掘を財務的に支援していたアメリカ人資産家・ブライブナー氏で死因は急性敗血症、第三の死者はブライブナーの甥で自殺死、第四の死者は、ニューヨーク・メトロポリタン博物館勤務の考古学者シュナイダー博士で、ポワロらの到着とほぼ時を同じくして破傷風のために急死―と、ばたばたばたっと4人続けて病死や自殺を遂げますが、何となく犯人が判らなくもないような展開だったかも。

名探偵ポワロ(第34話)/エジプト墳墓のなぞ06.png 犯人はやっぱりという感じでした。あとは動機だけでしたが、動機は謎解きされてみないと分からないものでした。シーズンの第1話ということでロケをした割には("王家の谷"のロケ地はエジプトではなくスペインのようだが、大英博物館のラムセス二世の胸像なども出てきて雰囲気を盛り上げている)、プロットは大したことなかったかも。まあ、今回は、砂漠での王家の墓の発掘作業というエキゾチックかつミステリアスな舞台設定に、ポワロがいつも通りのスタイルで(砂漠にもかかわらず皮手袋にエナメル靴で)乗り込んでいくところが見所だったのかもしれません(ポワロは飛行機がダメだから海路で行ったのか)。テレビドラマにしては舞台背景はしっかり撮ってると思われ、その分評価として星半個プラスしました(プロットだけ見ると星3つ。因みに、メンハーラ王はクリスティによる架空の王らしい)。

 ヘイスティングスがミス・レモンのペースに引き込まれて二人で「こっくりさん」のような占いをやっているのがご愛嬌ですTHE UNDERDOG POIROT.jpg(ミス・レモンは原作より親しみやすい人柄として描かれている。原作で彼女が登場するのはヘイスティングスと入れ違いであるため、基本的に2人同時には登場しない)。ミス・レモンは、続く第35話「負け犬」(The Underdog)第35話 負け犬.jpgは、今度はポワロに、きっと仕事に役に立つからと催眠術をかけようとしますが、ポワロは意地っ張りなせいもあってか術にかかりません。しかし、ポワロに言われて殺人事件の関係者に催眠術をかけ、事件解決の大きなヒントを引き出します(本当に仕事に役に立った)。
第35話「負け犬」(The Underdog)

イタリア貴族殺害事件0.jpg また、この「エジプト墳墓のなぞ」の時、ミス・レモンは愛猫を亡くして寂しい気持ちになていますが、そうした彼女を気遣って、ポワロが事件解決の後、ミス・レモンにエジプト王の墓に描かれている猫に模した置物のお土産を渡すと、彼女はかなり癒された風でした。こんなミス・レモンに、第38話「イタリア貴族殺害事件」(The Adventure of the Italian Nobleman)ではボーイフレンドができますが、実はこれがとんでもない男で、そのことをTHE ADVENTURE OF THE ITALIAN NOBLEMAN.jpg突き止めたポワロは、彼女に真実を告げなければというヘイスティングスに対し、それは自分の役目だと言ってミス・レモンに対峙しますが、彼女はすでに男とは別れたとのことで拍子抜けしてしまいます。そして、別れた理由は男が飼い猫が邪魔になって処分しようとしたことに彼女が憤慨したためで、ポワロがふと気づくと、オフィスの中に当の猫が...(ポワロはやや渋い顔に)。
第38話「イタリア貴族殺害事件」(The Adventure of the Italian Nobleman)

The Adventure of the Egyptian Tomb_.jpg「名探偵ポワロ(第34話)/エジプト墳墓のなぞ(エジプト墳墓の謎)」●原題:AGATHA CHRISTIE'S POIROTⅤ:THE ADVENTURE OF THE EGYPTIAN TOMB●制作国:イギリス●本国放映:1993/01/17●監督:ピーター・バーバー・フレミング●脚本:クライブ・エクストン●時間:52分●出演:デビッド・スーシェ(ポワロ)/ヒュー・フレイザー(ヘイスティングス)/ポーリン・モラン(ミス・レモン)/ピーター・リーヴス(ウィラード卿)/アンナ・クロッパー(レディー・ウィラード)●日本放映:1993/07/03●放映局:NHK(評価:★★★☆)
The Adventure of the Egyptian Tomb

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凝ったプロットの原作を比較的分かりやすく再現。結末のスッキリ感も維持されていた。

愛国殺人 dvd.jpg 名探偵ポワロ(第33話)/愛国殺人_.jpg ポワロ 愛国殺人50.jpg 愛国殺人 hpm 2.jpg
名探偵ポワロ[完全版]Vol.17 [DVD]」「名探偵ポワロDVDコレクション 13号 (愛国殺人) [分冊百科] (DVD付)」『愛国殺人 (1955年) (Hayakawa Pocket Mystery 207)

ポワロ 愛国殺人 40.jpg 1925年インド。英国皇太子巡行の際に、女優のメイベル・セインズベリー・シールは同僚のガーダが銀行員アリステア・ブラントと結婚すると知り、その12年後、英国行きの船で一緒だったアンベリオティスに歯科医を紹介したついでにその昔話をする。英国に戻ったセインズベリー・シールは歯科医院の前で偶然ブラントと再会、彼は銀行頭取にまで出世していて、伝道師でもある彼女は寄付を頼む。ポワロは偶々その歯科医モーリィの所に通う。するとモーリィはこれから経済界を牛耳るブラントが来ると。待合室でブラントと擦れ違い歯医者を出るとセインズベリー・シールとぶつかる。待合室にいた彼女は待ち時間が長過ぎると怒って帰ってしまい、ボーイが診察室を覗くとモーリィ医師の拳銃自殺死体が。ジャップ警部からの要請でポワロは捜査に協力することになり、医師の予約簿にはポワロ、ブラント、セインズベリー・シール、アンベリオテ愛国殺人2.jpgィスの順に名が。最後に治療を受けたのがアンベリオティスだと本人からも確認したが、直後にアンベリティオスは麻酔の過剰投与の後作用で死亡する。死ぬ気配がなかったモーリィが自殺したのは投薬ミスに気づいたからだと警察は納得するが、ポワロは納得できず捜査を続行。メイドが証言では、モーリィは秘書ネビルが最近勤怠不良になっているのは失業中の恋人カーターのせいだとして2人の交際に反対していて、事件当時待合室にいた青年はそのカーターだと。話を聞こうと思ったセインズベリー・シールは失踪し、後日、チャップマン夫人の部屋に顔を潰された彼女と思しき遺体が。モーリィ医師が自殺した日に訪れた患者が二人も死んだことを訝しんだポワロは、ブラントにも話を聞くが、アーンホルト財閥の令嬢レベッカの入り婿となって一介の銀行員から経済界の実権を握った彼は、病死したレベッカの知り合いだと言われてもそんな女性に覚えはないと。そんな時、庭師として入り込んでいたカーターが発砲事件を起こし、ブラントの秘書モントレソーに現場を取り押さえられ、濡れ衣を主張するが逮捕される。歯の治療跡から顔の潰されたセインズベリー・シールだと思われた遺体はチャップマン夫人の遺体だったらしい。ではセインズベリー・シールは何処へ行ったのか。ポワロは留置場のカーターから、事件当時モーリィに文句を言いに行ったら死んでいたという証言を得、それによって当初の犯行推定時刻の1時間前、セインズベリー・シールが帰る前に殺人は行われていたと確信する。ポワロが銀行の会議室に関係者を集め、事件の種明かしが行われる―。

愛国殺人 クリスティー文庫.jpg 「名探偵ポワロ」の第33話(第4シーズン第3話(ロング・バージョン))で、本国放映は1992年1月19日、本邦初放映は1992年10月3日(NHK-BS2)。原作はクリスティー文庫『愛国殺人』(加島祥造:訳)など。

 原作のストーリーが複雑であるためか、TVシリーズの長尺版の方でありながら(103分)、それでも原作の主要な登場人物のうち、バーンズ(内務省退職官吏)、レイクス(ブラントの姪の恋人)、ライリー(モーリィの仕事上のパートナー)がカットされています。それによってかなりスッキリしたのは良いけれど、殺人の背景にある政治色が弱まったかも。バーンズを省いたことで、チャップマン夫婦の正体は何者かという、原作でポワロも引っ掛かった謎の種明かしが無くなってしまったのが少し残念です。

 ネタバレになりますが、顔の潰れた死体で発見された女性はやはりセインズベリー・シールでした。ポワロが歯医者から帰ろうとしたときにぶつかりバックル付きの靴が壊れたのを見ていて、その時履いていたストッキングは高級品だったのに、彼女の部屋には安いストッキングしかなかったし、死体の足のサイズも違っていたので、ブラント氏が会ったセインズベリー・シールとポワロが会ったセインズベリー・シールは別人だと言うことです。変装しセインズベリー・シールを演じた共犯者は犯人の秘書のモントレソーであり、彼女こそガーダでした。

ポワロ 愛国殺人640.jpg 原作では殆ど前面に出てこないこの共犯者が、この映像化作品では多分に映像化されており、但し、最初は"セインズベリー・シール"に変装して出ている訳で、では冒頭の本物のメイベル・セインズベリー・シールはまた別の女優が演じたのでしょうか(プロローグのインドでメイベル・セインズベリー・シールとガーダが一緒に出てくることからするとそうなるが、舞台メイクをしているのでよく分からない)。何れにせよ、映像面、演技面で観る側をも引っ掛かけているというのは興味深いです。

 普通ならば医療の知識も技量もないはずの人物に可能な殺人手段かとか、奥さんが死んだならばなぜ本命の女性と再婚しなかったのかとか、原作に起因する突っ込み所は幾つかありますが、事件を解くカギとなる歯科医院での複雑な人の出入りなどは比較的分かり易く再現されており、3人の主要人物をカットしたりはしているものの(その割には、ポワロが休日にジャップ警部の自宅を訪問するという"オマケ"がついていたりもするが)、原作にほぼ忠実に作られているように思いました。

 原作は幾つか突っ込み所がありながらも、プロット面でも(犯人が歯の治療記録を改竄したのは巧妙)、ラストの犯人とポワロの価値観対決という面でもまずまずの傑作。この映像化作品でも、経済界の大物がその独善による殺人を「愛国のため」と言い切る傲慢さを、ポワロが最後に事実を暴露するとともに、その誤った考え(政治観以前の人間価値観とでも言うべきもの)をも粉砕するという、そうしたスッキリ感は維持されていたのではないでしょうか。

ポワロ 愛国殺人64.jpg「名探偵ポワロ(第33話)/愛国殺人(愛国殺人事件)」●原題:AGATHA CHRISTIE'S POIROTⅣ:ONE, TWO, BUCKLE MY SHOE●制作国:イギリス●本国放映:1992/01/19●監督:ロス・デベニッシュ●脚本:クライブ・エクストン●時間:103分●出演:デビッド・スーシェ(ポアロ)、フィリップ・ジャクソン(ジャップ警部)、キャロリン・コルキュホーン(メーベル)、ジョアンナ・フィリップ=レーン(ガーダ)、ピーター・ブライス(ブラント)、ジョー・グレコ(アルフレッド・ビッグス)、クリストファー・エクルストン(フランク・カーター)、カレン・グレッドヒル(グラディス・ネビル)、ローレンス・ハリントン(ヘンリー・モーリィ)、セーラ・スチュワート(ジェーン・オリベラ)、ヘレン・ホートン(ジュリア・オリベラ)、ケボーク・マリキャン(アンベリオティス)、トリルビー・ジェームズ(アグネス・フレッチャー)●日本放映:1992/10/03●放映局:NHK-BS2(評価:★★★☆)

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凝ったプロットの2話。「戦勝舞踏会事件」(第29話)と「猟人荘の怪事件」(第30話)。

名探偵ポワロ 戦勝舞踏会事件 dvdbook.jpg 戦勝舞踏会事件001.jpg  名探偵ポワロ 猟人荘の怪事件 dvdbook.jpg 名探偵ポワロ 猟人荘の怪事件.jpg
名探偵ポワロDVDコレクション 55号 (戦勝舞踊会事件) [分冊百科] (DVD付)」「名探偵ポワロDVDコレクション 57号 (猟人荘の怪事件) [分冊百科] (DVD付)

名探偵ポワロ 戦勝舞踏会事件03.jpg ポワロは、ヘイスティングスに誘われて戦勝記念舞踏会に出かける。 晩餐の後、女優のココ・コートニーと骨董陶磁器の収集家クロンショー卿が争いながら食堂から出てくる。一方、アメリカ人のマラビー夫人は、ダンスの約束をしたクロンショーを捜していると、食堂でひとつの死体を発見する。それはクロンショーの死体だった。彼のポケットにはCの頭文字のついた小さなケースが入っており、死体発見の直前に彼がメモしていた手帳も見つかる―(第29話「戦勝舞踏会事件」)。

 「名探偵ポワロ」の第29話(第3シーズン第10話)で本国放映は1991年3月3日、本邦初放映は1992年7月29日(NHK)。原作はクリスティー文庫『教会で死んだ男』(「戦勝記念舞踏会事件」)、創元推理文庫『ポワロの事件簿2』などに所収。

名探偵ポワロ 戦勝舞踏会事件00.jpg 戦勝記念舞踏会って仮装舞踏会であるわけで、そこへ、自分は自身が有名人であるから仮装はしないと乗り込んでいくポワロの自信家ぶりはスゴイね。そのポワロの居合わせた舞踏会で殺人が起きてしまい、犯人を見逃したとマスコミに叩かれて、名誉回復のため事件解決に躍起になるというのがいかにも彼らしいです。

名探偵ポワロ 戦勝舞踏会事件01.jpg 事件の当事者は、骨董陶磁器のコメディア・デラルテ(仮面即興劇)の6体の人物にそれぞれ扮した、クロンショー卿、女優のミス・ココ・コートニー、男優のクリス・デビッドソンとその夫人、ペルテイン子爵、未亡人ミス・マラビーの6人で、その中でクロンショー卿が殺され、普通でいけばクロンショー卿の伯父であり、相続人であるペルテイン子爵が一番怪しいということになりますが、このシリーズの場合、一番怪しい人は真犯人で名探偵ポワロ 戦勝舞踏会事件06.jpgはないというのはほぼ定番となっています。

 仮装ということが1つ鍵となった「入れ替わり&時間トリック」で、そう考えると結構凝ったプロットだったのではないでしょうか。第2の殺人で女優も犠牲になりますが、最後は、その女優が出ていたラジオ番組で(テレビが無い時代だからテレビ女優というのはいないわけだ)、ポワロが関係者に呼びかけて出演させ、その番組内で謎解きをします。この勿体ぶった演出にもポワロの名誉回復への意地が感じられますが、ポワロの面目躍如かと思いきや、リスナーからは意外な反応が...。
 

名探偵ポワロ 猟人荘の怪事件000.jpg 冬、ヘイスティングスの友人ロジャー・ヘイバリングの伯父ハリントン・ペースに招待されたポワロとヘイスティングスは、ライ鳥猟に出かける。猟に興味はなく、ライチョウ料理が楽しみだったポワロは風邪をひき、ホテルで寝込んでしまう。その夜、ロッジでは訪ねてきたひげの男にハリントン・ペースが殺される―(第30話「猟人荘の怪事件」)。

名探偵ポワロ 猟人荘の怪事件X.jpg 「名探偵ポワロ」の第30話(第3シーズン第11話)で本国放映は1991年3月10日、本邦初放映は1992年7月30日(NHK)。原作はクリスティー文庫『ポアロ登場』(「狩人荘の怪事件」)、創元推理文庫『ポワロの事件簿1』(「ハンター荘の謎」)などに所収。

名探偵ポワロ 猟人荘の怪事件01.jpg ライチョウ猟をするための別荘というのは贅沢だなあ。しかし、ライチョウ料理ってそんなに美味なのでしょうか。それを楽しみにしていたポワロは風邪で寝込んでしまい、殆ど「安楽椅子探偵」ならぬ「ベッド・ディテクティブ」状態でした。

名探偵ポワロ 猟人荘の怪事件AL_.jpg 殺害されたハリントン・ペースは身内の皆から嫌われていて、ロジャーの従弟のアーチー・ヘイバリングは、ハリントンから教師としての安月給をバカにされている上に、狩場での失態を厳しく咎められ、ペースの腹違いの弟ジャック・スタッダードも、猟場の番人をさせられれている上に、恋仲のメイドとの結婚資金の融通もして貰えない、更に、ロジャー・ヘイヴァリング夫妻も...といった具合。

 事件の夜、別荘を訪ねた髭もじゃの男はどこへ消えたのか、そして、臨時雇いの家政婦までも消えてしまった...。これもなかなか凝ったプロットだったと思います。原作ではロジャー・ヘイヴァリングの奥さんは元女優ということですが、この映像化作品ではそうした説明は無かったなあ。原作では、容疑者を殺人犯として逮捕するには証拠が弱すぎて、ジャップ警部は立件を断念(ポワロも立件不能を認めた)、但し、数ヵ月後、叔父の遺産を相続した犯人らは飛行機事故で亡くなる―という因果応報的な後日譚があるようですが、この映像化作品だと、物的証拠は充分にあることになるのでしょう。

 
The Affair at the Victory Ball_.jpg戦勝舞踏会事件002.jpg「名探偵ポワロ(第29話)/戦勝舞踏会事件(戦勝記念舞踏会事件)」●原題:AGATHA CHRISTIE'S POIROTⅢ:THE AFFAIR AT THE VICTORY BALL●制作国:イギリス●本国放映:1991/03/03●監督:レニー・ライ●脚本:アンドリュー・マーシャル●時間:55分●出演:デビッド・スーシェ(ポワロ)/ヒュー・フレイザー(ヘイスティングス)/フィリップ・ジャクソン(ジャップ警部)/マーク・クラウディ(クロンショー卿)/ヘイドン・グウィン(ココ・コートニー)●日本放映:1992/07/29●放映局:NHK(評価:★★★★)
THE AFFAIR AT THE VICTORY BALL

名探偵ポワロ 猟人荘の怪事件Q.jpg「名探偵ポワロ(第30話)/猟人荘の怪事件」●原題:AGATHA CHRISTIE'S POIROTⅢ:THE MYSTERY OF HUNTER'S LODGE●制作国:イギリス●本国放映:1991/03/10●監督:レニー・ライ●脚本:T・R・ボウエン/クライブ名探偵ポワロ[完全版]Vol.16.jpg・エクストン●時間:55分●出演:デビッド・スーシェ(ポワロ)/ヒュー・フレイザー(ヘイスティングス)/フィリップ・ジャクソン(ジャップ警部)/ジム・ノートン(ロジャー・ヘイバリング)/デニーズ・アレクサンダー(ミドルトン夫人)●日本放映:1992/07/30●放映局:NHK(評価:★★★☆)
名探偵ポワロ[完全版]Vol.16 [DVD]」(「戦勝舞踏会の事件」「猟人荘の怪事件」所収)

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原作に先んじてポワロが恋に落ちた「二重の手がかり」(第26話)。原作よりエグい殺害方法の「スペイン櫃」(第27話)。

名探偵ポワロ[完全版]Vol.14 [DVD].jpg 第26話/二重の手がかり 05.jpg  スペイン櫃の秘密 dvdbook.jpg 第27話/スペイン櫃の秘密 dvd.jpg
名探偵ポワロ[完全版]Vol.14 [DVD]」(「マースドン荘の惨劇」「二重の手がかり」所収) 「名探偵ポワロDVDコレクション 53号 (スペイン櫃の秘密) [分冊百科] (DVD付)」「名探偵ポワロ[完全版]Vol.15 [DVD]」(「スペイン櫃(ひつ)の秘密」「盗まれたロイヤル・ルビー」所収)

第26話/二重の手がかり 01.jpg ジャップ警部が浮かない顔でポワロのもとを訪れ、イギリス各地の貴族の邸で発生した3件の宝石強盗事件の解決の糸口が掴めず、自らのクビさえ危ないと言う。待つしかないというポワロの言葉通り、第4の事件が発生。宝石コレクターとしても有名なマーカス・ハードマン氏の邸での野外コンサートに客たちが招かれた際に、邸内の金庫が壊され、カトリーヌ・ド・メディシスのエメラルドのネックレスが盗まれたのだった―(第26話「二重の手がかり」)。

 「名探偵ポワロ」の第26話(第3シーズン第7話)で本国放映は1991年2月10日、本邦初放映は1992年4月1日(NHK)。原作はクリスティー文庫『教会で死んだ男』、創元推理文庫『砂に書かれた三角形』などに所収。

第26話/二重の手がかり 03.jpg "二重の手がかり"とは、破られた金庫の中に白い手袋が、その近くに"B.P."のイニシャル入りのシガレットケーがあったことを指し、容疑者はネックレスが盗まれた晩に屋敷に出入りした4人の客ということになりますが、ポワロはその容疑者の一人、ロシア人亡命貴族を称するヴェラ・ロサコフ伯爵夫人に一目惚れしたようで、3日以内に事件を解決しないとクビになると総監から言い渡されているジャップ刑事を尻目にロサコフ夫人とデートばかりしていて、事件を投げ出した印象さえあります。そこで、ヘイスティングスとミス・レモンが、それぞれに怪しいところがある他の3人の調査に当たります。

第26話/二重の手がかり 02.jpg このポワロのシリーズにおけるロサコフ夫人は、シャーロック・ホームズの「ボヘミアの醜聞」における、ホームズが恋した唯一の女性アイリーン・アドラーに相当するわけです。ということで宝石盗難犯の見当はおおよそつくわけですが、ポワロは犯人を捕まえる気がないわけで(クライアントの了解済み)、となるとこの事件にどう決着をつ第26話/二重の手がかり 04.jpgけるのかが見所になるわけです。そうした意味では、なかなかユニークな展開でした。

 原作シリーズでは、ポワロはこのエピソードよりむしろ「ビッグ4」で本当に恋に落ち、そして別れ、その20年後、「ヘラクレスの冒険」(ケルベロスの捕獲)でまた再会するようですが、このTVシリーズでは今回で既に恋に落ちてしまって(このことは「ビック4」の改変を余儀なくするのでは)、しかも「ビッグ4」の次の回が「ヘラクレスの冒険」であるため、その辺り、どのような繋がり方になっているのか関心が持たれます。


The Mystery of the Spanish Chest  .jpg第27話/スペイン櫃の秘密 02.jpg オペラ劇場で旧知のレディ・チャタートンに、友人のクレイトン夫人が夫に命を狙われているらしいと言われたポワロは、様子を探りにクレイトン夫妻が出席するパーティに出掛ける。クレイトン夫人と親しくしているリッチ少佐、クレイトン夫人を巡って決闘して敗れたこともあり、今もまお夫人を執拗に追いかけるカーティス大佐らがパーティに出席していたが、クレイトン氏は急な仕事で欠席。翌日、パーティ会場にあったスペイン櫃の底から、大量の血が流れ出してるのをメイドが発見し、蓋を開けると中にクレイトン氏の刺殺体があった―(第27話「スペイン櫃(ひつ)の秘密」)。

The Mystery of the Spanish Chest2.jpg 「名探偵ポワロ」の第27話(第3シーズン第8話)で本国放映は1991年2月17日、本邦初放映は1992年4月2日(NHK)。原作はクリスティー文庫『クリスマス・プディングの冒険』、などに所収。

第27話/スペイン櫃の秘密 01.jpg 先ず逮捕されたのは、屋敷のオーナーであるリッチ少佐で、スペイン櫃(エリザベス朝の家具で大きくて蓋がある)の持ち主でもない限り、クレイトンの死体を持ち込むなど不可能と思われたわけですが、クレイトン夫人がポワロのマンションを訪ねて来て、リッチ少佐の無実を証明することを依頼したため、ポワロは動き出します。

第27話/スペイン櫃の秘密   .jpg リッチは逮捕されましたが、第一容疑者は真犯人ではないというのはもうお約束事のようになっており、そうなると、リッチとは別に最初から怪しい人物はいるなあと思われ、それがそのまま結末までいってしまい、 "犯人当て"という面ではヒネリはさほどなかったように思います。

 しかしながら、犯人がクレイトンの嫉妬心を煽って、妻の浮気を確認させるためにスペイン櫃に身を潜まさせるというのはなかなか巧妙(死体を持ち込んだのでなく、自分で櫃に入ってしまったわけだ)。原作では酒に薬を入れて眠らせるのに対し、この映像化作品では、櫃に穴を空けて覗かせたものだから、犯人によってクレイトンは"目刺し"にされてしまったわけだなあ(櫃が柩になってしまった)。

 殺害方法としては、眠って鼾をかかれるよりは確実だという見方と、短剣を刺した時に穴から覗いているかどうか不確実だという両方の見方が成り立つのでは。さすがに死体までは見せなかったけれど、何れにせよ、洒落たタイトルに反してエグい殺害方法になった気がします。

「名探偵ポワロ(第26話)/二重の手がかり」●原題:AGATHA CHRISTIE'S POIROTⅢ:THE DOUBLE CLUE●制作国:イギリス●本国放映:1991/02/10●監督:アンドリュー・ビディントン●脚本:アンソニー・ホロウィッツ●時間:55分●出演:デビッド・スーシェ(ポワロ)/ヒュー・フレイザー(ヘイスティングス)/フィリップ・ジャクソン(ジャップ警部)/ポーリン・モラン(ミス・レモン)/キカ・マーカム(ロサコフ伯爵夫人)/デヴィッド・ライアン(マーカス・ハードマン)●日本放映:1992/04/01●放映局:NHK(評価:★★★★)

The Mystery of the Spanish Chest .jpg「名探偵ポワロ(第27話)/スペイン櫃(ひつ)の秘密」●原題:AGATHA CHRISTIE'S POIROTⅢ:THE MYSTERY OF THE SPANISH CHEST●制作国:イギリス●本国放映:1991/02/17●監督:アンドリュー・グリーブ●脚本:アンソニー・ホロウィッツ●時間:55分●出演:デビッド・スーシェ(ポワロ)/ヒュー・フレイザー(ヘイスティングス)/フィリップ・ジャクソン(ジャップ警部)/アントニア・ペンバートン(レディー・チャタートン)、キャロライン・ラングリッシュ(マーゲリート・クレイトン))●日本放映:1992/04/02●放映局:NHK(評価:★★★☆)
The Mystery of the Spanish Chest

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"起きていない犯罪を解決する"ポワロ。終わり方もいい「スズメバチの巣」(第24話)。

名探偵ポワロ スズメバチの巣 dvd.jpg 名探偵ポワロ(第24話)/スズメバチの巣 dvdbook.jpg  名探偵ポワロ[完全版]Vol.14 [DVD].jpg 名探偵ポワロ 48号 (マースドン荘の惨劇).jpg
名探偵ポワロ[完全版]Vol.13 [DVD]」(「プリマス行きの急行列車」「スズメバチの巣」所収)/「名探偵ポワロDVDコレクション 47号 (スズメバチの巣) [分冊百科] (DVD付)」/「名探偵ポワロ[完全版]Vol.14 [DVD]」(「マースドン荘の惨劇」「二重の手がかり」所収)/「名探偵ポワロDVDコレクション 48号 (マースドン荘の惨劇) [分冊百科] (DVD付)

名探偵ポワロ(第24話)/スズメバチの巣250.gif 夏祭りの席上でポワロは旧友の息子ジョン・ハリスンに出会った。彼は自分の婚約者モリーをポワロに紹介、ポワロは戯れに紅茶占いをするが、彼女のカップには彼女自身の口紅と一緒に別の口紅がついていた。会場にはモリーの元婚約者で今は良き友人というクロードも参加していたが、三人の関係にポワロは暗雲を予測する―(第24話「スズメバチの巣」)。

 「名探偵ポワロ」の第24話(第3シーズン第5話)で本国放映は1991年1月27日、本邦初放映は1992年3月30日(NHK)。原作はクリスティー文庫『教会で死んだ男』(「スズメ蜂の巣」)、創元推理文庫『砂に書かれた三角形』(「スズメ蜂の巣」)などに所収。

名探偵ポワロ(第24話)/スズメバチの巣 01.jpg ポワロが、まだ起きていない犯罪を防ぐべく捜査を始めるというユニークな展開です。モリーのカップに彼女自身の口紅と一緒に付着していた紅は元婚約者クロードのものであり(彼は夏祭りでピエロに扮していた)、それでポワロは悪い予感に駆られたという訳です。クロードは未だにモリーへの気持ちを捨てられず、またモリーも故意にクルマ事故を起こしてクロードとの時間を過ごすなどしていました。

名探偵ポワロ(第24話)/スズメバチの巣 0.jpg 殺人未遂罪は成立していると思われますが、最後、ポワロが犯人に優しいのは、犯人の置かれた境遇に対する思い遣りからでしょうか。まあ、死ぬつもりの人間をわざわざ訴えても仕方がないし、どうせ公判の途中で死んでしまうのならば意味がないという理屈とも呼応している訳ですが(プラグマティックに考えればであるが)。

名探偵ポワロ スズメバチの巣.jpg ポワロ、いつから占い魔になった?とか、ハチの巣駆除のガソリンと単なる水との色や臭いの違いが分からないものかとかいった突っ込み所はありますが(洗濯ソーダと青酸カリの味の違いが分からないのは、今まで生きている間に青酸カリを飲んだことがないのだから仕方がないが)、ポワロの友への友情が感じられる終わり方は良かったです。

名探偵ポワロ(第24話)/スズメバチの巣 3.jpg 絶望している相手には"要らぬ同情"として拒絶される可能性もあったのではないかという見方もありますが、犯行を実行していれば、ポワロがいる限り、死後に殺人犯として糾弾されるのは自分であることは避けられなかったため(死後の復讐を考える者は、死後の名誉も考える)、やはり自ずとポワロに感謝することになるのでしょう。

 ヘイスティングスはカメラに夢中で、ミス・レモンはフィットネスジム通いで、ポワロにも運動するよう勧めたのが勧められたポワロにとっては余計なお世話で面白くなく、ジャップ警部は食中毒で動けない(と思ったら盲腸だった)と何となく皆ばらばらですが、それでいて各人がそれぞれ事件の解決に貢献しているという脚本は(殆どドラマのオリジナルで、原作はほぼポアロとジョンの会話だけで成り立っている)上出来と言っていいのではないでしょうか。

名探偵ポワロ 25 マースドン荘の惨劇 1.jpg 自分に高額保険をかけたばかりのマルトラバースが、庭の大木の下で死んでるのを発見される。死因は内出血だが、庭には死者が引きずられたような痕跡が残されていた。美しい未亡人スーザンは、大木にまつわる少女の霊を見た夫がショック死したのではないかと言う。彼女は医師から夫が、ショックで潰瘍が再発した場合に死ぬ可能性もあると聞いていたのだ。本当に幽霊がいるのか?ポワロは灰色の脳細胞を駆使し、事件解決に挑む―(第25話「マースドン荘の惨劇」)。

名探偵ポワロ 25 マースドン荘の惨劇 2.jpg 「名探偵ポワロ」の第25話(第3シーズン第6話)で本国放映は1991年2月3日、本邦初放映は1992年3月31日(NHK)。原作はクリスティー文庫『ポアロ登場』、創元推理文庫『ポワロの事件簿1』(マースドン荘園の悲」)などに所収。

名探偵ポワロ 25 マースドン荘の惨劇 輸入版.jpg 第24話では、事件が無いことに対してポワロが苛立ち、ヘイスティングスが気晴らしと連れて行った夏祭りで、祭り会場で死体でも出れば満足するのかとジャップ警部に陰口を叩かれ、第25話では、ある殺人事件を解決できるのはポワロだけだという手紙を受け、ロンドンから200キロ離れた町に来てみれば、事件は手紙を出した宿の主人の小説の中の話だったという―でも、ポワロの行く処に事件は必ずあります。

Poirot  The Tragedy a  Marsdon Manor.jpg 今回は、犯人は途中で大体判りました。犯行のヒントをどこから得たのか(瞬時に英字新聞を読みとらないと分からない)など細かいことまではともかく、誰が犯人かは何となく目星がついて、何か予想を覆すような展開があるかなと思ったけれど、意外とそれがありませんでした。

 ポワロは最後、一芝居打って犯人を自白に追い込みますが、その "ニセ幽霊"作戦の際に宿の主人の協力を得たのは、彼が推理小説作家になりたがっていることから自然な流れでしょうか(原作では、高額保険に入っていた資産家が急死したために、自殺の疑いはないか調べて欲しいという保険会社からの依頼だった)。

the tragedy at marsdon manor.jpg このラスト、犯人が、自分の手についた血を被害者のものだと思って自白してしまうくだりは、心霊現象を怖れていた態度がすべて芝居だったという事実と矛盾しているという批判もあるようです。でも、嘘だと知っていてやってたら本当に幽霊が出てきたら、やはり怖いだろうね。自分が殺しているだけに。

Sleeping Murder, 1987 001.jpg スーザン役のジェラルディン・アレグザンダーは、この作品より前に、ジョーン・ヒクソン主演の「ミス・マープル(第6話)/スリーピング・マーダー」('87年/英)」でも、幼少時の記憶の幻影に怯えるヒロインの役を演じています。

 事件そのものの展開はたいしたことなかったけれど、最初、遠路はるばる来てみれば小説の中の事件だったということでかんかんに怒っていたポワロが、結局は寝付かれずに宿の主人の小説を全部読んで、最後、本当の事件の方を解決の兆しが見えてきたらご機嫌で、小説の事件の方にも解決のアドバイスを与えるというというのが可笑しいです(これが、事件解決への宿の主の協力と交換条件になったわけだが、宿の主はポワロに協力出来るだけで嬉々としていた)。
Wasps' Nest
Wasps' Nest _.jpg名探偵ポワロ(第24話)/スズメバチの巣 title.jpg「名探偵ポワロ(第24話)/スズメバチの巣(スズメ蜂の巣)」●原題:AGATHA CHRISTIE'S POIROTⅢ:WASPS' NEST●制作国:イギリス●本国放映:1991/01/20●監督:ブライアン・ファーナム●脚本:デビッド・レンウィック●時間:55分●出演:デビッド・スーシェ(ポワロ)/ヒュー・フレイザー(ヘイスティングス)/フィリップ・ジャクソン(ジャップ警部)/ポーリン・モラン(ミス・レモン)/マーティン・ターナー(ジョン・ハリスン)/メラニー・ジェサップ(モリー・ディーン)●日本放映:1992/03/30●放映局:NHK(評価:★★★★)

The Tragedy at Marsdon Manor jpg.jpg名探偵ポワロ 25 マースドン荘の惨劇 5.jpg「名探偵ポワロ(第25話)/マースドン荘の惨劇」●原題:AGATHA CHRISTIE'S POIROTⅢ:THE TRAGEDY AT MARSDON MANOR●制作国:イギリス●本国放映:1991/02/03●監督:レニー・ライ●脚本:デビッド・レンウィック●時間:56分●出演:デビッド・スーシェ(ポワロ)/ヒュー・フレイザー(ヘイスティングス)/フィリップ・ジャクソン(ジャップ警部)/イアン・マカロック(ジョナサン・マルトラバース)/ジェラルディン・アレグザンダー(スーザン・マルトラバース)/ニール・ダンカン(ブラック大尉)●日本放映:1992/03/31●放映局:NHK(評価:★★★)
The Tragedy at Marsdon Manor

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わざわざヒントを与えている感じの犯人(第21話)。船旅気分が味わえ楽しい一篇(第22話)。

あなたの庭はどんな庭 dvd.jpg あなたの庭はどんな庭 dvdbook.jpg あなたの庭はどんな庭 dvdimport.jpg  100万ドル債券盗難事件 dvdbook.jpg THE MILLION DOLLAR BOND ROBBERY 1991.jpg
名探偵ポワロ[完全版]Vol.12 [DVD]」(「あなたの庭はどんな庭?」「100万ドル債権盗難事件」所収)/「名探偵ポワロDVDコレクション 44号 (あなたの庭はどんな庭?) [分冊百科] (DVD付)」/輸入盤DVD/「名探偵ポワロDVDコレクション 45号 (100万ドル債券盗難事件) [分冊百科] (DVD付)

あなたの庭はどんな庭 00.jpg 自分の名がついた新種のバラが発表される園芸展でポワロは、アメリアという車椅子の老婦人に声をかけられ、種袋を差し出される。しかし、何故か中身は空だった。帰宅後に老婦人から助けを求める手紙を受け取ったポワロは、ミス・レモンを連れて彼女の家を訪ねるが、すでに彼女は前夜に猛毒ストリキニーネで殺されていた。いつ、どうやって毒は盛られたのか?(第22話「あなたの庭はどんな庭?」)。

 「名探偵ポワロ」の第21話(第3シーズン第2話)で本国放映は1991年1月6日、本邦初放映は1991年9月14日(NHK)。原作はクリスティー文庫『黄色いアイリス』、創元推理文庫『砂に書かれた三角形』などに所収。原作では、ポワロの名前がついたバラどころか、園芸展も出てきません。

あなたの庭はどんな庭 01.jpg 老婦人のアメリアは姪のメアリー、その夫ヘンリーの夫婦と暮らし、カトリーナという付添いがいて、彼女はカトリーナを相続人にしていましたが、カトリーナの部屋にストリキニーネの小瓶があり、警察は先ず彼女の身柄を拘束します。彼女はロシア人で、スターリンのせいで財産をなくした貴族階級の出身(メアリー夫婦は彼女を共産主義者と決めつけていたが実際の出自はむしろ逆)。カトリーナがロシア大使館員と密かに会う場面などもあって、ちよっと怪しげではあるものの、このシリーズ、「第一容疑者は真犯人ではない」ということがほぼセオリー化しているため、そのつもりで観ていると、もう、そんなに犯人候補者は残っていないんじゃないかという感じ(カトリーナの出自やキャラクターは原作からかなり改変されているようだ)。

あなたの庭はどんな庭 03.jpg ラストはカトリーナは容疑が晴れて恋人とも結ばれ、これで無事に遺産も入るからメデタシ、メデタシ。一方の犯人は、ええいっ、これまでと毒を飲み干そうとしたら、アル中の夫が妻に内緒で毒をウィスキーに入れ替えていて...。このラストが一番印象に残るくらいだから、プロセスはさほどインパクト無かったかなあ。

 ストリキニーネは生牡蠣に注射されアメリアの口に入ったわけですが、ヨーロッパはヒラガキにレモンをかけ、西洋わさびを乗せてつるっと貝から直接口に流し込むという食べ方がポピュラーなようです。そうした意味では、毒殺方法としては秀逸。但し、牡蠣殻を庭の花壇に使ったのは、自らポワロにヒントを与えたようなものでした。


THE MILLION DOLLAR BOND ROBBERY book.jpg100万ドル債券盗難事件 00.jpg ロンドン・スコティッシュ銀行は100万ドル相当の自由公債をアメリカに移送する計画を立てた。ところが、移送前にショー部長が狙われるなど不穏な雰囲気があり、別の担当者リッジウェイが移送の任を負うことに。また、銀行側はポワロに相談を持ちかけ、ポワロもクイーン・メリー号に乗り込んで移送に同行することに―(第22話「100万ドル債券盗難事件」)。

 「名探偵ポワロ」の第22話(第3シーズン第3話)で本国放映は1991年1月13日、本邦初放映は1991年9月15日(NHK)。原作はクリスティー文庫『ポアロ登場』(「百万ドル債券盗難事件」)、創元推理文庫『ポワロの事件簿1』(「百万ドル公債の盗難」)、新潮文庫『クリスティ短編集2』(「百万ドル公債の盗難」)などに所収。

Agatha Christie The Million Dollar Bond Robbery.jpg100万ドル債券盗難事件 01.jpg 案の定、100万ドルの債権はポワロたちの船旅の途上で消え、案の定、ギャンブルで負債を抱えているリッジウェイに疑いがかかります。まあ、彼が真犯人でないことは大方予想がつきますが、後の展開は意外性があって面白かったです。最後、リッジウェイの容疑は晴れ、婚約者の部長秘書とポワロのところへ挨拶に。リッジウェイ、大丈夫かな(しっかり者の女性はダメ男にくっつきがちというパターンだなあ)。

 原作を改変して、クイーン・メリー号という実在の船名にし、当時のニュース映像などを交え(1936年3月27日就航)、そこにポワロの乗船の様子などを織り交ぜているのが楽しいです。でも、そうしたニュース映像と繋げて、ポワロ達がいる今の船内の様子をカラーで撮っているわけだから、TV映画でありながらしっかり手をかけているのがこのシリーズの良さでしょう(船旅気分が味わえる?)。

100万ドル債券盗難事件 船内.jpg 豪華客船での船旅を楽しみにしていたヘイスティングスの方が船酔いでダウンし、亡命時の船酔いがトラウマとしてあり、船旅を嫌っていたはずのポワロの方が乗船してからは絶好調で、好物の「牛の脳ミソのソテー」などこってりしたものを食しているのが可笑しいです。ヘイスティングスは船上で美女と知り合い、アタックしようにも体調が...。実はこれ、事件の鍵を握る女性だったのですが、もしヘイスティングスの体調が良ければ、どういう展開になっていたのだろう(まあ、振られてお終いで、結果、あんまり変わらないか)。

How does your garden grow ?.jpg「名探偵ポワロ(第21話)/あなたの庭はどんな庭?」●原題:AGATHA CHRISTIE'S POIROTⅢ:HOW DOES YOUR GARDEN GROW?●制作国:イギリス●本国放映:1991/01/06●監督:ブライアン・ファーナム●脚本:アンドリュー・マーシャル/クライブ・エクストン●時間:55分●出演:デビッド・スーシェ(ポワロ)/ヒュー・フレイザー(ヘイスティングス)/フィリップ・ジャクソン(ジャップ警部)/ポーリン・モラン(ミス・レモン)/マージェリー・メイソン(アミリア・バロビー)/アン・ストーリーブラス(メアリ・デラフォンテン)●日本放映:1991/09/14●放映局:NHK(評価:★★★)

The Million Dollar Bond Robbery_.jpg100万ドル債権盗難事件 3.jpg「名探偵ポワロ(第22話)/100万ドル債権盗難事件(百万ドル債券盗難事件)」●原題:AGATHA CHRISTIE'S POIROTⅢ:THE MILLION DOLLAR BOND ROBBERY●制作国:イギリス●本国放映:1991/01/13●監督:アンドリュー・グリーブ●脚本:アンソニー・ホロウィッツ●時間:55分●出演:デビッド・スーシェ(ポワロ)/ヒュー・フレイザー(ヘイスティングス)/ポーリン・モラン(ミス・レモン)/オリヴァー・パーカー(フィリップ・リッジウェイ)/ナタリー・オーグル(エズミー・ダルリーシュ)●日本放映:1991/09/15●放映局:NHK(評価:★★★☆)
The Million Dollar Bond Robbery

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このシリーズらしく、観終わった後の印象は重かったねえ。やや救いが無さすぎた感じもするが...。

モース16 メアリー・ラプスレイに起こったこと dvd.jpg モース16 メアリー・ラプスレイに起こったこと dvd.jpg モース警部 Vol.16「メアリー・ラプスレイに.jpg
"Inspector Morse: Second Time Around [DVD] [Import]"(メアリー・ラプスレイに起こったこと)

メアリー・ラプスレイに起こったこと2.png 元警視副総監ヒリアン(モーリス・ブッシュ)の叙勲パーティが開かれ、モースはかつての同僚でタカ派のドーソン警部(ケネス・コリー)と会話する。ドーソン夫妻は酔ったヒリアンを彼の屋敷に送り、ソファーに寝かしつけ帰宅するが、何者かが侵入して部屋を物色、気づいたヒリアンと揉み合いになり、投げられたヒリアンは床で頭を打って死亡する。彼は回顧録を執筆中で、犯人は原稿の一部を奪い去っていたが、それは18年前のメアリー・ラプスレイという少女の殺人事件に関係するもので、その時の容疑者だったレッドバス(オリヴァー・フォード・ディヴィス)が、車を目撃されたとしてまたもや逮捕される。回想録が出版されることで、未解決事件の犯人として再び自分に嫌疑がかかるのを恐れたための犯行との見方が有力だったが、ドーソンは彼は犯人ではないという確信を持っているようだった。彼の妻(アン・ベル)は夫の直情径行を心配している。捜査の指揮官はモースだが、ドーソン警部の助言も参考にしながら調べていくうちに、モースは少女の隣人ミッチェル家(母パット・ヘィウッド、息子クリストファー・エクルストン)に注目するとともに、殺害された少女の父親が誰なのかを探る―。

モース16 メアリー・ラプスレイに起こったこと vhs.jpg 「主任警部モース」シリーズの第16話で、1991年に本国で放映され、2001年に日本語字幕付きVHSが発売されています。「IMDb」のレーティングは8.4と高め。

 ルイスがレッドバスが犯人だと決めつけ気味であることから、逆に真犯人は誰かということが見えてこなくもなく、本来は非常に意外性の高い犯人であるところが、そうでもなかったような...。
モース16.jpg 一方で、動機はラスト近くまで判らなかったなあ。その背後事情となると尚更に複雑で、子供に対する親の愛情が、復讐と保護という形でダブルで拮抗していたわけかあ。ドーソン夫妻の夫婦間の溝というのも伏線としてあったことになるけれど、これだけではねえ。モースとドーソン夫人の間に恋愛感情は芽生えるのか―といった関心は引き起こしたけれど。

 でも、このシリーズらしく、観終わった後の印象は重かったねえ。ちょっと救いが無さすぎた感じもしますが、ずっとモースの捜査方法に異議を唱えて、仕舞にはややプッツンした感じだったルイスが、最後に素直にモースに謝るところは清々しかったです。勿論、モースは「いいんだ」とも「気にするな」とも言わないんだけど。

INSPECTOR MORSE:Second Time Around.jpg「主任警部モース(第16話)/メアリー・ラプスレイに起こったこと」●原題:INSPECTOR MORSE:SECOND TIME AROUND●制作年:1990年●制作国:イギリス●本国放映:1991/02/20●監督:エイドリアン・シェアゴールド●脚本:ダニエル・ボイル●原案:コリン・デクスター●時間:104分●出演:ジョン・ソウ/ケヴィン・ウェイトリー/モーリス・ブッシュ/ケネス・コリー/オリヴァー・フォード・ディヴィス/アン・ベル/パット・ヘィウッド/クリストファー・エクルストン●ⅤHS発売:2001/02●発売元:日本クラウン(評価:★★★☆)
Chief Inspector Morse (John Thaw) talks over the case with Chief Inspector Patrick Dawson (Kenneth Colley) in the gardens of a venue for the Oxford Arts Festival.

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シリーズの中で一番面白かった「魔宮の伝説」。この頃は"手作り"感があった。

インディージョーンズ 魔宮の伝説 dvd.jpg インディジョーンズ 魔宮の伝説 パンフレット.jpg インディジョーンズ魔球の伝説4298.JPG
インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説 [DVD]」「映画パンフレット 「インディ・ジョーンズ-魔宮の伝説-」

インディジョーンズ魔球の伝説4299.JPG 「インディ・ジョーンズ シリーズ」の最初の3作のうち、個人的には最初の「レイダース/失われたアーク《聖櫃》」('81年)は名画座に降りてくるのを待って観ましたが、この「インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説」('84年)はロード館で観ました。第3作「インディ・ジョーンズ/最後の聖戦」('89年)もロードで観ましたが、結局、一番面白かったのは「インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説」だったように思います。

「インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説」パンフレット

 日本でも、前作を上回るヒットを記録しましたが、年間興業収入では「ゴーストバスターズ」の69.7億円に次いで2位でした。因みに'82年本邦公開の「レイダース」は年間5位で、その年のトップは同じくスピルバーグ監督の「E.T.」の163.5億円(これは15年興行収入.jpg後に「タイタニック」('97年公開)に抜かれるまで1位の記録だった)、'89年公開の「最後の聖戦」も、同年公開の「バック・トゥ・ザ・フューチャー パート2」の94.0億円に及ばず2位と、このシリーズ作は何れも年間トップを取ってはいなかったんだなあと、やや意外な思いもします。「最後の聖戦」公開時に「シリーズ最終作」と銘打っていたように思いますが、その後「インディ・ジョーンズ/クリスタル・スカルの王国」('08年)が作られています(2008年の年間興業収入57.1億円で第3位。この年の第1位は「崖の上のポニョ」の155億円)。

 シリーズ全体の原案はジョージ・ルーカスとスティーブン・スピルバーグ、製作には何れもはジョージ・ルーカス(ルーカス・フィルム)が噛んでいて、第1作「レイダース/失われたアーク《聖櫃》」の原作は、後に「ライト・スタッフ」「存在の耐えられない軽さ」「ライジング・サン」などを監督することになるフィリップ・カウフマン、脚本は「白いドレスの女」を監督することになるローレンス・カスダンと、第1作から才人が集まっていたことになります。

インディジョーンズ魔球の伝説4300.JPG 「レイダース/失われたアーク《聖櫃》」の3年後に作られた第2弾「魔宮の伝説」の時代設定は前作の1年前(1935年)ということになっていて、トロッコやつり橋の使い方が上手く、アニメをそのままのスピード感で実写化したという感じでした。今だったらCGに委ねるところをセットやミニチュア模型でやっている、この"手作り"感がいいのかもしれません。

 50年代、60年代のミュージカル映画のようなオープニングから始まって、物語の舞台が、上海 → メイアプール → パンコットとテンポよく移り変わり(メイアプールは実在するインドの小村、パンコットは架空の宮殿)、ピンチを脱したと思ったらまたピンチの連続で、何も考えずにただただ楽しめます。

インディジョーンズ魔球の伝説4301.JPG 冒頭のシーンは「ザッツ・エンターテインメント」('74年)へのオマージュでもあるのでしょうか。007映画やディズニーインディジョーンズ魔球の伝説4302.JPG映画、スピールバーグが好きな「フラッシュ・ゴードン」('36年)など様々な映画へのオマージュが随所込められており、ラストの大洪水シーンは、前作「レイダース」のパロディになっているなど、トリビアな見所も多いです。

 この作品を撮った時、ジョージ・ルーカス39歳、スティーブン・スピルバーグ37歳と、共に30代で、しかも、それでいてシリーズ2作目。二人とも若かったのだなあと改めて思います(シリーズ第1作の時は更にそれぞれ3歳若かったわけだが)。

インディ・ジョーンズ/最後の聖戦 dvd.jpg 5年後に作られた「インディ・ジョーンズ/最後の聖戦」('89年)は、時代設定は1938年で第1作「レイダース/失われたアーク《聖櫃》」の2年後という設定。ジョーンズ博士の少年時代を演じたのはリバー・フェニックスで(当時19歳)、この作品の4年後に麻薬死しています。
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インディ・ジョーンズ/最後の聖戦 husi2.jpg 物語は聖杯伝説をベースにしており、手に入れれば願いはすべて叶うという聖杯を巡ってのナチス連中とインディたちの争奪戦。ナチスに誘拐された考古学者である父親(ショーン・コネリー)を救出に向かったインディも捉えられ...と、本来ならばもっとハラハラドキドキさせられるような展開になるところが、ハリソン・フォード演じるインディのおとぼけぶりに輪をかけるようなショーン・コネリー演じる父親のおとぼけぶりで、コメディ映画みたいになっていました。

インディ・ジョーンズ/最後の聖戦 husi.jpg インディは馬に乗って軍用列車を追いかけたり、ナチスの一味と殴り合い、撃ち合いしたりと相変わらずアクション面でも頑張っていますが、前作に比べると派手さがなく、テンポもイマイチ。最後は、聖杯の守り主みたいな騎士が出てきiインディ・ジョーンズ/最後の聖戦.jpgてなかなかシュールに盛り上げてくれましたが(それにしてはその手前の仕掛けがやたらメカニックだったりもする)、「レイダース/失われたアーク《聖櫃》」のラストと被ってしまい、結果的に「ショーン・コネリーがとぼけた父親役をやっている映画」という印象インディ・ジョーンズ/最後の聖戦s.jpgのみが強く残ってしまった気がします。但し、ショーン・コネリーはこの作品における「007シリーズ」のジェームズ・ボショーン・コネリー   .jpgンドのパロディ的要素を含む役どころを気に入っていたようで(敵か味方か途中までよく分からないボンドガール的な女性が出てくるのは007へのオマージュか)、2006年に俳優業を引退宣言していますが、もし映画界に戻ってくるとしたら「インディ・ジョーンズ」に出られるときだけとも語っています。
 
ザ・ロック s.jpgザ・ロック 1996.jpg 因みに、ショーン・コネリーがジェームズ・ボンドのパロディ的要素を含む人物設定の役柄として出演している作品の代表的なものとしては、アメリカ海兵隊員の英雄率いるテロリストと、制圧する特殊部隊との攻防を描いたマイケル・ベイ監督によるアクション映画「ザ・ロック」('96年/米)があります。かつて敵に包囲された末に救援も得られずに部下を見殺しにされ、それに対して何の補償もない国に憤りを抱くハメル准将(エド・ハリス)が、14人の部下と共に化学兵器を奪取して、ザ・ロックと呼ザ・ロック アルカトラズ.JPEGばれるかつての刑務所島アルカトラズ島に観光客・ガイド計81人を人質にとって立て籠り、サンフランシスコを化学兵器の標的にして莫大な補償金を要求、化学兵器のスペシャリストであるグッドスピード(ニコラス・ケイザ・ロック ケイジ コネリー 2.jpgジ)がアメリカ海軍特殊部隊SEALsに同行して島に潜入することになりますが、潜入にあたってアルカトラズ島からの唯一の脱獄成功者で、現在は刑務所に幽閉中の元イギリス情報局秘密情報部(SIS)部員・兼SAS大尉のメイソン(ショーン・コネリー)の協力を得るというもの。結局、SEALsは敵の前に全滅し、残されたのは元脱獄囚メイソンと化学兵器オタクのグッドスピードのみという、まあアクション映画のパターナルな展開ですが、ショーン・コネリー演じるメイソンが元SIS(SISの中にMI6がある)ということで、ジェームズ・ボンドが意ザ・ロックL.jpgアリエール ジェルボール.jpg識されていることは明白でした。この映画公開の前年にサンフランシスコに行き、ゴールデン・ゲート・ブリッジからアルカトラズ島を観てきたところだったので懐かしかったですが、映画自体はやや大味でした。エド・ハリスの叛乱はかなり理不尽であるし(最後、自分でも作戦変更した)、FBIでありながら戦闘経験のない化学兵器オタクであるはずのニコラス・ケイジ(アクション映画の主役は初)が、カーチェイスをはじめ結構アクションしていました。化学兵器である毒ガスの溶剤が洗濯用の洗剤に見えてしまったのが難でした。

ザ・ロック 01.jpg 因みに、ショーン・コネリー演じるメイソンが刑務所から移送された後に滞在をリクエストし、その豪華なスウィートルームをしばし満喫するホテルは、サンフランシフェアモント サンフランシスコ めまい.jpgスコの「ザ フェアモント サンフランシスコ」で、ここは映画「めまい」('58年)や「タワーリング・インフェルノ」('74年)などの撮影にも使われたホテルであり(TVドラマ「アーサー・ヘイリーのホテル」にも使われた)、2010年に米国の世界最大級のオンライン旅行コミュニティサイト「トリップfairmontsf-location1.jpgアドバイザー」が映画の舞台となったり重要なシーンに登場したホテルの中で、ユーザーからの評価が高いものをランキfairmontsf-hero-overview2.jpgング化した「映画の舞台になった米国のホテル トップ10」を発表していますが、その中で第1位に選ばれています。
フェアモント サンフランシスコ

「インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説」('84年) 
インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説es.jpg インディ・ジョーンズ シリーズ3作の個人的評価は、第1作「レイダース/失われたアーク《聖櫃》」が★★★☆、第2作「魔宮の伝説」が★★★★、第3作「最後の聖戦」が★★★といったところです(第3作が星3つと厳しいのは、絶対評価と言うより、ややシリーズの中での相対評価になっているためで、普通の娯楽映画としてみれば十分楽しめる作品であると言える)。因みに「レイダース/失われたアーク《聖櫃》」は、2000年代に入って、ソフト化作品のタイトルに"インディ・ジョーンズ"と付けるようになっており、これはこの作品がインディ・ジョーンズ シリーズの第1作であることを知らない年代層が増えてきたためでしょうか。   

レイダース/失われたアーク vhs.jpgレイダース/失われたアーク<聖櫃>(字幕 [VHS]」「インディ・ジョーンズ レイダース 失われたアーク《聖櫃》 [DVD]
レイダース/失われたアーク dvd.jpg「レイダース/失われたアーク《聖櫃》」●原題:RAIDERS OF THE LOST ARK●制作年:1981年●制作国:アメリカ●監督:スティーヴン・スピルバーグレイダース/失われたアーク《聖櫃》.jpg●製作:フランク・マーシャル●脚本:ローレンス・カスダン●撮影:ダグラス・スローカム●音楽:ジョン・ウィリアムズ●原案:ジョージ・ルーカス/フィリップ・カウフマン●時間:115分●出Reidâsu Ushinawareta âku (1981).jpg演:ハリソン・フォードカレン・アレン/ジョン・リス=デイヴィス/デ飯田橋佳作座.jpgンホルム・エリオット/ポール・フリーマン/ロナルド・レイシー/ヴォルフ・カーラー/ジョージ・ハリス/アルフレッド・モリーナ/ビック・タブリアン/アンソニー・ヒギンズ●日本公開:1981/12●配給:パラマウント映画/CIC●最初に観た場所:飯田橋佳作座(82-07-11)(評価:★★★☆)●併映:「スター・ウォーズ」(ジョージ・ルーカス)
飯田橋佳作座(神楽坂下外堀通り沿い)1957(昭和32)年10月1日オープン、1988(昭和63)年4月21日閉館
Reidâsu/Ushinawareta âku (1981)
Indi Jônzu - Makyû no densetsu (1984)
Indi Jônzu - Makyû no densetsu (1984).jpg
インディジョーンズ魔球の伝説4303.JPG「インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説」●原題:INDIAN JONES AND THE TEMPLE OF DOOM●制作年:1984年●制作国:アメリカ●監督:スティーヴン・スピルバーグ●製作:ロバート・ワッツ●脚本:ウィラード・ハイク/インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説2.jpgグロリア・カッツ●撮影:ダグラスインディ・ジョーンズ/魔宮の伝説ges.jpg・スローカム●音楽:ジョン・ウィリアムズ●原案:ジョージ・ルーカス●時間:118分●出演:ハリソン・フォード/ケイト・キャプショー/キー・ホイ・クァン/アムリッシュ・プリ/ロイ・チャオ/ロシャン・セス/リック・ヤン/デヴィッド・ヴィップ/チュア・カー・ジ「インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説」0.JPG「インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説」1.JPGョー/フィリップ・タン/ダン・エイクロイド/フィリップ・ストーン●日本公開:1984/07●配給:パラマウント・ピクチャーズ●最初に観た場所:歌舞伎町・新宿プラザ劇場(84-07-08)(評価:★★★★)
  
新宿プラザ8.jpg新宿プラザ 閉館上映チラシ.jpg新宿プラザ劇場200611.jpg 新宿プラザ劇場 1969年10月31日オープン、歌舞伎町・コマ劇場隣り(1,044席) 2008(平成20)年11月7日閉館
新宿プラザ劇場内.jpg
1981年「レイダース/失われたアーク《聖櫃》」/1984年「インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説」/1989年「インディ・ジョーンズ/最後の聖戦」

インディ・ジョーンズ/最後の聖戦ド.jpg「インディ・ジョーンズ/最後の聖戦」●原題:INDIAN INDIANA JONES AND THELAST CRUSADE●制作年:1989年●制作国:アメリカ●監督:スティーヴン・スピルバーグ●製作:ロバート・ワッツ●脚本:ジェフリー・ボーム●撮影:ダグラス・スローカム●音楽:ジョン・ウィリアムズ●製作総指揮:ジョージ・ルーカス●時間:127分●出演:ハリソン・インディ・ジョーンズ/最後の聖戦e.jpgフォード/ショーン・コネリー デン/ホルム・エリオット/アリソン・ドゥーディ/ジョン・リス=デイヴィス/ジュリアン・グローヴァー/インディ・ジョーンズ/最後の聖戦 リバー・フェニックス.jpgリヴァー・フェニックス/マイケル・バーン/ケヴォルク・マリキャン/リチャード・ヤング/ロバート・エディスン●日本公開:1989/07●配給:パラマウント・ピクチャーズ●最初に観た場所:歌舞伎町・新宿プラザ劇場(89-07-30)(評価:★★★)
リヴァー・フェニックス(1970-1993)in 「インディ・ジョーンズ/最後の聖戦」

The Rock (1996)
ザ・ロック ケイジ コネリー34.jpgThe Rock (1996).jpg
「ザ・ロック」●原題:THE ROCK●制作年:1996年●制作国:アメリカ●監督:マイケル・ベイ●製作:ドン・シンプソン/ジェリー・ブラッカイマー●脚本:デヴィッド・ウェイスバーグ、他●撮影:ジョン・シュワルツマン●音楽:ハンス・ジマー、他●時間:135分●出演:ショーン・コネリー/ニコラス・ケイジ/エド・ハリス/ジョン・スペンサー/ウィザ・ロック ケイジ コネリー33s.jpg リアム・フォーサイス/デヴィッド・モース/マイケル・ビーン/ザンダー・バークレー/ラルフ・ペデュート/デヴィッド・ボウ/ヴァネッサ・マーシル/ジェームズ・カヴィーゼル/ドワイト・ヒックス/ジョン・C・マッギンリー/ジョン・ラフリン/アンソニー・クラーク/デヴィッド・グラント/トニー・トッド/ボキーム・ウッドバイン/ダニー・ヌッチ/ショーン・スケルトン/スティーヴ・ハリス/インゴ・ノイハウス/グレゴリー・スポールダー/ブレンダン・ケリー/レイモンド・クルス/マーシャル・R・ティーグ/フィリップ・ベイカー・ホール/スタンリー・アンダーソン/スチュアート・ウィルソン/ハワード・プラット/ハリー・ハンフリーズ/レオナルド・マクマハン/クレア・フォーラニ/トッド・ルイーゾサム・ホイップル●日本公開:1996/09●配給:ブエナ・ビスタ・インターナショナル・ジャパン(評価:★★★)

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ニューヨークという大都会を舞台にしたダスティン・ホフマン主演'69年作品2作。

ジョンとメリー [VHS].jpgジョンとメリー [DVD].jpg 真夜中のカーボーイ dvd.jpg 卒業 [DVD] L.jpg
ジョンとメリー [DVD]」「真夜中のカーボーイ [DVD]」「卒業 [DVD]

ジョンとメリー 1.jpg マンハッタンに住む建築技師ジョン(ダスティン・ホフマン)のマンションで目覚めたメリー(ミア・ファロー)は、自分がどこにいるのか暫くの間分からなかった。昨晩、独身男女が集まるバーで2人は出会い、互いの名前も聞かないまま一夜を共にしたのだった。メリーは、整頓されたジョンの家を見て女の影を感じる。ジョンはかつてファッションモデルと同棲していた過去があり、メリーはある有力政治家と愛人関係にあった。朝食を食べ、昼食まで共にした2人は、とりとめのない会話をしながらも、次第に惹かれ合っていくが、ちょっとした出来事のためメリーは帰ってしまう―。

 ピーター・イエーツ(1929-2011/享年81)監督の「ジョンとメリー」('69年)は、行きずりの一夜を共にした男女の翌朝からの1日を描いたもので、男女の出会いを描いた何とはない話であり、しかも基本的に密室劇なのですが、2人のそれぞれの回想と現在の気持ちを表す独白を挟みながらストーリーが巧みに展開していき、2人の関係はどうなるのだろうかと引き込まれて観てしまう作品でした。ピーター・イエーツは英国人で、映画監督になる前にプロのレーシング・ドライバーだったこともあり、この作品が監督第3作ですが、第1作が犯罪サスペンス映画「大列車強盗団」('67年/英)で、この作品でのアクション・シーンの手腕が買われ、ハリウッドで第2作、スティーブ・マックイーン主演のアクション映画「ブリット」('67年/米)を撮っていますが、今度はがらっと変って男女の出会いを描いた作品に。

ジョンとメリー 4.jpg 脚本は「シャレード」('63年)の原作者ジョン・モーティマーですが、構成の巧みさもさることながら、演じているダスティン・ホフマンとミア・ファローがそもそも演技達者、とりわけダスティン・ホフマン演じるジョンの、そのままメリーに居ついて欲しいような欲しくないようなその辺りの微妙に揺れる心情が可笑しく(ジョンの方に感情移入して観たというのもあるが)ホントにこの人上手いなあと思いました(でも、ミア・ファローも良かった)。

ジョンとメリー 2.jpg 最後に互いの気持ちを理解し合えた2人が、そこで初めて「ぼくはジョンだ」「私はメリーよ」という名乗り合う終わり方もお洒落(その時に大方の日本人の観客は初めて、そっか、2人はまだ名前も教え合っていなかったのかと気づいたのでは。アメリカ人だったら普通は最初に名乗るけれど、アメリカ人が見たらどう感じるのだろうか)。観た当時は、これが日本映画だったら、もっとウェットな感じになってしまうのだろうなあと思って、ニューヨークでの一人暮らしに憧れたりもしましたが、逆に、ニューヨークのような大都会で恋人も無く一人で暮らすということになると、(日本以上に)とことん"孤独"に陥るのかも知れないなあとも思ったりして。

真夜中のカーボーイ1.jpg そうした大都会での孤独をより端的に描いた作品が、ダスティン・ホフマンがこの作品の前に出演した同年公開のジョン・シュレシンジャー(1926-2003/享年77)監督の「真夜中のカーボーイ」('69年)であり、ジョン・ヴォイトが、"いい男ぶり"で名を挙げようとテキサスからニューヨークに出てきて娼婦に金を巻き上げられてしまう青年ジョーを演じ、一方のダスティン・ホフマンは、スラム街に住む怪しいホームレスのリコ(一旦は、こちらもジョーから金を巻き上げる)役という、その前のダスティン・ホフマンの卒業 ダスティン・ホフマン .jpg主演作であり、彼自身の主演第1作だったマイク・ニコルズ監督の「卒業」('67年)の優等生役とはうって変った役柄を演じました(「卒業」で主人公が通うコロンビア大学もニューヨーク・マンハッタンにある)。

卒業 ダスティン・ホフマン/キャサリン・ロス.jpg 映画デビューした年に「卒業」でアカデミー主演男優賞ノミネートを受け(この作品、今観ると「サウンド・オブ・サイレンス」をはじめ「スカボロ・フェアー」「ミセス・ロビンソン」等々、サイモン&ガー卒業(1967).jpgファンクルのヒット曲のオン・パレードで、そちらの懐かしさの方が先に立つ)、主演第2作・第3作が「真夜中のカーボーイ」(これもアカデミー主演男優賞ノミネート)と「ジョンとメリー」であるというのもスゴイですが、ゴールデングローブ卒業 1967 2.jpg賞新人賞を受賞した「卒業」の、その演技スタイルとは全く異なる演技をその後次々にみせているところがまたスゴイです(「卒業」で英国アカデミー賞新人賞を受賞し、「真夜中のカーボーイ」と「ジョンとメリー」で同賞主演男優賞を受賞している)。

真夜中のカーボーイQ.jpg 3作品共にアメリカン・ニュー・シネマと呼ばれる作品ですが、その代表作として最も挙げられるのは「真夜中のカーボーイ」でしょう。ニューヨークを逃れ南国のフロリダへ旅立つ乗り合いバスの中でリコが息を引き取るという終わり方も、その系譜を強く打ち出しているように思われます。「真夜中のカーボーイ」も「ジョンとメ真夜中のカーボーイs.jpgリー」も傑作であり、ダスティン・ホフマンはこの主演第2作と第3作で演技派としての名声を確立してしまったわけですが、個人的には「ジョンとメリー」の方が、ラストの明るさもあってかしっくりきました。一方の「真夜中のカーボーイ」の方は、ジョーとリコの奇妙な友情関係にホモセクシュアルの臭いが感じられ、当時としてはやや引いた印象を個人的には抱きましたが、2人の関係を精神的なホモセクシュアルと見る見方は今や当たり前のものとなっており、その分だけ、今観ると逆に抵抗は感じられないかも(但し、原作者のジェームズ・レオ・ハーリヒー自身はゲイだったようだ)。

ミスター・グッドバーを探して [VHS].jpg 「ジョンとメリー」に出てくる"Singles Bar"(独身者専門バー)を舞台としたものでは、リチャード・ブルックス(1912-1992/享年72)監督・脚本、ダイアン・キートン主演の「ミスター・グッドバーを探して」('77年)があり、こちらはジュディス・ロスナーが1975年に発表したベストセラー小説の映画化作品です。
ミスター・グッドバーを探して [VHS]

ミスター・グッドバーを探して1.jpg ダイアン・キートン演じる主人公の教師はセックスでしか自己の存在を確認できない女性で、原作は1973年にニューヨーク聾唖学校の28歳の女性教師がバーで知り合った男に殺害された「ロズアン・クイン殺人事件」という、日本における「東電OL殺人事件」(1997年)と同じように、当時のアメリカ国内で、殺人事件そのものよりも被害者の二面的なライフスタイルが話題となった事件を基にしており、当然のことながら結末は「ジョンとメリー」とは裏腹に暗いものでした。主人公の女教師は最後バーで拾った男(トム・ベレンジャー)に殺害されますが、その前に女教師に絡むチンピラ役を、当時全く無名のリチャード・ギアが演じています(殺害犯役のトム・ベレンジャーも当時未だマイナーだった)。

恋におちて 1984.jpg 何れもニューヨークを舞台にそこに生きる人間の孤独を描いたものですが、ニューヨークを舞台に男女の出会いを描いた作品がその後は暗いものばかりなっているかと言えばそうでもなく、ロバート・デ・ニーロとメリル・ストリープの演技派2人が共演した「恋におちて」('84年)や、メグ・ライアンとトム・ハンクスによるマンハッタンのアッパーウエストを舞台にしたラブコメディ「ユー・ガット・メール」('98年)など、明るいラブストーリーの系譜は生きています(「ユー・ガット・メール」は1940年に製作されたエルンスト・ルビッチ監督の「街角/桃色(ピンク)の店」のリメイク)。
「恋におちて」('84年)

ユー・ガット・メール 01.jpg 「恋におちて」はグランド・セントラル駅の書店での出会いと通勤電車での再会、「ユー・ガット・メール」はインターネット上での出会いと、両作の間にも時の流れを感じますが、前者はクリスマス・プレゼントとして買った本を2人が取り違えてしまうという偶然に端を発し、後者は、メグ・ライアン演じる主人公は絵本書店主、トム・ハンクス演じる男は安売り書店チェーンの御曹司と、実は2人は商売敵だったという偶然のオマケ付き。そのことに起因するバッドエンドの原作を、ハッピーエンドに改変しています。
「ユー・ガット・メール」('98年)

めぐり逢えたら 映画 1.jpg トム・ハンクスとメグ・ライアンは「めぐり逢えたら」('93年)の時と同じ顔合わせで、こちらもレオ・マッケリー監督、ケーリー・グラント、デボラ・カー主演の「めぐり逢い」('57年)にヒントを得ている作品ですが(「めぐり逢い」そのものが同じくレオ・マッケリー監督、アイリーン・ダン、シャルル・ボワイエ主演の「邂逅」('39年)のリメイク作品)、エンパイア・ステート・ビルの展望台で再開を約するのは「めぐり逢い」と同じ。但し、「めぐり逢い」ではケーリー・グラント演じるテリーの事故のため2人の再会は果たせませんでしたが、「めぐり逢えたら」の2人は無事に再開出来るという、こちらもオリジナルをハッピーエンドに改変しています。
「めぐり逢えたら」('93年)

 最近のものになればなるほど、男女双方または何れかに家族や恋人がいたりして話がややこしくなったりもしていますが、それでもハッピーエンド系の方が主流かな。興業的に安定性が高いというのもあるのでしょう。「恋におちて」は、古典的ストーリーをデ・ニーロ、ストリープの演技力で引っぱっている感じですが、2人とも出演時点ですでに大物俳優であるだけに、逆にストーリーの凡庸さが目立ち、やや退屈?(もっと若い時に演じて欲しかった)。但し、「恋におちて」「めぐり逢えたら」「ユー・ガット・メール」の何れも役者の演技はしっかりしていて、ストーリーに多分に偶然の要素がありながらも、ディテールの演出や表現においてのリアリティはありました。しかしながら、物語の構成としては"定番の踏襲"と言うか、「ジョンとメリー」を観て感じた時のような新鮮味は感じられませんでした。

 こうして見ると、ニューヨークという街は、「真夜中のカーボーイ」や「ミスター・グッドバーを探して」に出てくる人間の孤独を浮き彫りにするような暗部は内包してはいるものの、映画における男女の出会いや再会の舞台として昔も今もサマになる街でもあるとも言えるのかもしれません(ダスティン・ホフマンは同じ年に全く異なるキャラクターで、ニューヨークを舞台に孤独な男性の「明・暗」両面を演じてみせたわけだ。これぞ名優の証!)。

ジョンとメリー [VHS]
JOHN AND MARY 1969.jpgジョンとメリーdvd3.jpg「ジョンとメリー」●原題:JOHN AND MARY●制作年:1969年●制作国:アメリカ●監督:ピーター・イェーツ●製作:ベン・カディッシュ●脚本:ジョン・モーティマー●撮影:ゲイン・レシャー●音楽:クインシー・ジョーンズ●原作:マーヴィン・ジョーンズ「ジョンとメリー」●時間:92分●出演:ダスティン・ホフマン/ミア・ファロー/マイケル・トーラン/サニー・グリフィン/スタンリー・ベック/三鷹オスカー.jpgタイン・デイリー/アリックス・エリアス●日本ジョンとメリーe.jpg公開:1969/12●配給:20世紀フォックス●最初に観た場所:三鷹東映(78-01-17)(評価:★★★★☆)●併映:「ひとりぼっちの青春」(シドニー・ポラック)/「草原の輝き」(エリア・カザン)三鷹東映 1977年9月3日、それまであった東映系封切館「三鷹東映」が3本立名画座として再スタート。1978年5月に「三鷹オスカー」に改称。1990(平成2)年12月30日閉館。

Dustin Hoffman and Mia Farrow/Photo from John and Mary (1969)

「真夜中のカーボーイ」●原題:MIDNIGHT COWBOY●制作年:1969年●制作国:アメリカ●監督:ジョン・シュレシンジャー●製作:ジェローム・ヘルマン●脚本:ウォルド・ソルト●撮影:アダム・ホレンダー●音楽:ジョン・バリー●原作:ジェームズ・レオ・ハーリヒー「真夜中のカーボーイ」●時間:113真夜中のカーボーイ2.jpg真夜中のカーボーイ 映画dvd.jpg分●出演:ジョン・ヴォイト/ダスティン・ホフマン/シルヴィア・マイルズ/ジョン・マクギヴァー/ブレンダ・ヴァッカロ/バーナード・ヒューズ/ルース・ホワイト/ジェニファー・ソルト/ボブ・バラバン●日本公開:1969/10●配給:ユナイテッド・アーティスツ●最初に観た場所:早稲田松竹(78-05-20)(評価:★★★★)●併映:「俺たちに明日はない」(アーサー・ペン)
真夜中のカーボーイ [DVD]

「卒業」●原題:THE GRADUATE●制作年:1967年●制作国:アメリカ●監督:マイク・ニコルズ●製作:ローレンス・ター卒業 1967 pster.jpgマン●脚本:バック・ヘンリー/カルダー・ウィリンガム●撮影:ロバート・サーティース●音楽:ポール・サイモン卒業 1967 1.jpg/デイヴ・グルーシン●原作:チャールズ・ウェッブ「卒業」●時間:92分●出演:ダスティン・ホフマン/アン・バンクロフト/キャサリン・ロス/マーレイ・ハミルトン/ウィリアム・ダリチャr-ド・ドレイファス 卒業.jpgニエルズ/エリザベス・ウィルソン/バック・ヘンリー/エドラ・ゲイル/リチャード・ドレイファス●日本公開:1968/06●配給:ユナイテッド・アーティスツ●最初に観た場所:池袋・テアトルダイヤ(83-02-05)(評価:★★★★)●併映:「帰郷」(ハル・アシュビー)
卒業 [DVD]

映画パンフレット 「ミスターグッドバーを探して」.jpg「ミスター・グッドバーを探して」●原題:LOOKING FOR MR. GOODBAR●制作年:1977年●制作国:アメリカ●監督・脚本:リチャード・ブルックス●製作:フレディ・フィールズ●撮影:ウィリアム・A・フレイカー●音楽:アーティ・ケイン●原作:ジュディス・ロスナー「ミスター・グッドバーを探して」●時間:135分●出演:ダイアン・キートン/アラン・フェインスタイン/リチャード・カイリー/チューズデイ・ウェルド/トム・ベレンジャー/ウィリアム・アザートン/リチャード・ギア●日本公開:1978/03●配給:パラマウント=CIC●最初に観た場所:飯田橋・佳作座(79-02-04)(評価:★★☆)●併映:「流されて...」(リナ・ウェルトミューラー)
映画パンフレット 「ミスターグッドバーを探して」監督リチャード・ブルックス 出演ダイアン・キートン

FALLING IN LOVE 1984.jpg恋におちて 1984 dvd.jpg「恋におちて」●原題:FALLING IN LOVE●制作年:1984年●制作国:アメリカ●監督:ウール・グロスバード●製作:マーヴィン・ワース●脚本:マイケル・クリストファー●撮影:ピーター・サシツキー●音楽:デイヴ・グルーシン●時間:106分●出演:ロバート・デ・ニーロ/メリル・ストリープ/ハーヴェイ・カイテル/ジェーン・カツマレク/ジョージ・マーティン/デイヴィッド・クレノン/ダイアン・ウィースト/ヴィクター・アルゴ●日本公開:1985/03●配給:ユニヴァーサル映画配給●最初に観た場所:テアトル池袋(86-10-12)(評価:★★★)●併映:「愛と哀しみの果て」(シドニー・ポラック)
恋におちて [DVD]

YOU'VE GOT MAIL.jpgユー・ガット・メール dvd.jpg「ユー・ガット・メール」●原題:YOU'VE GOT MAIL●制作年:1998年●制作国:アメリカ●監督:ノーラ・エフロン●製作:ノーラ・エフロン/ローレン・シュラー・ドナー●脚本:ノーラ・エフロン/デリア・エフロン●撮影:ジョン・リンドリー●音楽:ジョージ・フェントン●原作:ミクロス・ラズロ●時間:119分●出演:トム・ハンクス/メグ・ライアン/グレッグ・キニア/パーカー・ポージー/ジーン・ステイプルトン/スティーヴ・ザーン/ヘザー・バーンズ/ダブニー・コールマン/ジョン・ランドルフ/ハリー・ハーシュ●日本公開:1999/02●配給:ワーナー・ブラザース映画配給(評価:★★★)ユー・ガット・メール [DVD]

SLEEPLESS IN SEATTLE.jpgめぐり逢えたら 映画 dvd.jpg「めぐり逢えたら」●原題:SLEEPLESS IN SEATTLE●制作年:1993年●制作国:アメリカ●監督:ノーラ・エフロン●製作:ゲイリー・フォスター●脚本:ノーラ・エフロン/デヴィッド・S・ウォード●撮影:スヴェン・ニクヴィスト●音楽:マーク・シャイマン●原案:ジェフ・アーチ●時間:105分●出演:トム・ハンクス/メグ・ライアン/ビル・プルマン/ロス・マリンジャー/ルクランシェ・デュラン/ルクランシェ・デュラン/ギャビー・ホフマン/ヴィクター・ガーバー/リタ・ウィルソン/ロブ・ライナー●日本公開:1993/12●配給:コロンビア映画(評価:★★☆)めぐり逢えたら コレクターズ・エディション [DVD]

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庭園がきれい。相続目当てというより愛憎劇? よくあるパターンだが、そこそこ楽しめた。

庭園の悲劇  dvd.jpg GARDEN OF DEATH dvd.jpg 庭園の悲劇3.jpg
バーナビー警部 ~庭園の悲劇~ [DVD]」/輸入盤DVD"Midsomer Murders" Garden of Death(庭園の悲劇)

庭園の悲劇 0.jpg ミッドサマー・デヴェレルの村では、インクペン家所有の記念庭園を巡り、庭園を閉鎖してティールームを作ろうとしている所有者のエルスペス・インクペン(べリンダ・ラング)と、庭園は地域親睦の場であるとして反対する多くの村人との間で対立が起きていた。村人の中でも、ジェーン・ベネット(ケイト・デュシェーヌ)は、その庭園が前所有者である彼女の父ジェラルド(フレデリック・トレーブ)が長年かけて作り上げたものだったため、庭を守ろうとして、再開発に強く反対していた。ジェラルドは、インクペン家から庭園を買って5年前まで管理していたが、体調を崩し庭園をインクペン家に売り戻していた。彼の妻は、5年前に忽然と失踪していた。ある日の夕方、再開発について村民集会が開かれたが、話し合いは平行線のまま物別れに終わった。その直後、問題の庭園でエルスペスの娘フィリス(サラ・アレクサンダー)が撲殺されて発見される―。

 トム・バーナビー警部のシリーズの第14話「庭園の悲劇」(原題:Garden of Death)の本国放映は2000年9月10日、シーズン4の第1話で、このシーズン4は日本では2005年4月からミステリチャネルにて放映されましたが、2004年にすでにVHS・DVD化されていて、この辺りはTV放映よりDVDの方が先行しています。
フィリス(サラ・アレクサンダー)ヒラリー(ビクトリア・ハミルトン)
フィリス(サラ・アレクサンダー)2.jpgヒラリー(ビクトリア・ハミルトン).jpg エルスペスの娘フィリスは、同じインクペン家のフェリシティとは父親違いの娘ヒラリー(ビクトリア・ハミルトン)をいびまくるなど性格悪すぎで、犯人ではなく被害者の方になるだろうと思ったらやっぱり。真犯人はおそらく最も犯人らしくない人かと思ったけれど、誰かという予想は外れました。複数の事件で異なる犯人がいるというのは前作も含めこれまでにもあり、これだけ回を重ねれば、だんだん似たパターンが出てくるのはやむを得ないでしょうか。但し、犯行の時期を違えているので、それなりにリアリティはありました。
ナオミ・インクペン(マーガレット・タイザック)ジェラルド(フレデリック・トレーブ)
ナオミ・インクペン(マーガレット・タイザック).jpgジェラルド(フレデリック・トレーブ).jpg 結局、相続目当てと言うよりも(それも一部あったかもしれないが)、親子間の愛憎劇だったなあ。その内の1件は、父親を愛して母親を憎むという典型的なエレクトラ・コンプレックスでした。この母親というのが、「3P浮気」をやったりして、かなり問題ありだったのですが、インクペン家の母親も尻軽で、祖母で当主であるナオミ・インクペン(マーガレット・タイザック)が嘆くのも無理ないことでしょうか。

エルスペス・インクペン(べリンダ・ラング).jpg 昔埋めた死体を掘り返されたらマズイから...という設定は、「刑事コロンボ(第14話)/偶像のレクイエム」('73年/米)でアン・バクスターが演じた往年の銀幕スターがそうでした(三谷幸喜が「古畑任三郎」シリーズの中でこのモチーフを使っているほか、松本清張、横山秀夫などの短編にも同じモチーフが使われている。特に横山秀夫の「18番ホール」という短編は、土地再開発が絡んでいる点で、本作と似ている)。

 英国では、個人の所有する広大な庭園を一般に開放させることで、固定資産税を軽減させるという税制優遇措置をとっているため、何かの「記念庭園」であるにしても、こんなトラブルも実際に起きることがあるのでしょう。

スリーピング・マーダー 1987 13.jpg 記念庭園制作者のジェラルド・ベネットを演じたフレデリック・トレーブ は、BBCの「ミス・マープル/スリーピング・マーダー」('87年)では犯人のジェイムズ・ケネディ医師役でした。あの時は出て来るなり怪しかったので、今回もまた犯人かと思ったりもしたのですが...。

フレデリック・トレーブ in 「スリーピング・マーダー」

 庭園がモチーフになっているだけに、映像的に美しく、使い古されたパターンではありますが、複数殺人、複数犯ということで、そこそこ楽しめました。

サラ・アレクサンダー.jpg庭園の悲劇 輸入盤 dvd 2.jpg「バーナビー警部(第14話)/庭園の悲劇」●原題:MIDSOMER MURDERS:GARDEN OF DEATH●制作年:2000年●制作国:イギリス●本国上映:2000/09/10●監督:ピーター・スミス●製作:ブライアン・トゥルー=メイ●脚本:クリストファー・ラッセル●撮影:グラハム・フレーク●時間:102分●出演:ジョン・ネトルズ/ダニエル・ケーシー/ジェーン・ワイマーク/ローラ・ハワード/バリー・ジャクソン/べリンダ・ラング/ケイト・デュシェーヌ/マーガレット・タイザック/フレデリック・トレーブ/デヴィッド・ロス/サラ・アレクサンダー/ビクトリア・ハミルトン●DVD発売:2004/08●発売元:キングレコード(評価:★★★☆)

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幽霊譚風の味付け。雰囲気が出ていたが、話の複雑さが面白さに繋がっていないような気もした。

裂かれた肖像画 dvd.png 裂かれた肖像画 輸入盤1.jpg 裂かれた肖像画 霊媒師.jpg Eleanor and Troy
バーナビー警部 ~裂かれた肖像画~ [DVD]」"Midsomer Murders" Beyond the Grave(裂かれた肖像画)

裂かれた肖像画 1.jpg アスペンホール博物館の館長のアラン(マルコム・シンクレア)が、旅行者を連れて、土地の伝説的人物、ジョナサン・ローリーの生涯を案内していたところ、ローリーの肖像画が無残にも切り裂かれているのを見つけた。器物破損事件として、バーナビー警部(ジョン・ネトルズ)とトロイ巡査部長(ダニエル・ケーシー)がやってくる。アランは旧知の修復画家サンドラ(シェリル・キャンベル)に修理を依頼するが、夫を亡くして精神的に不安定な彼女を、不可解な心霊現象が襲い、遂に、ローリーの子孫を名乗るマーカス(チャールズ・サイモン)が真夜中の博物館で撲殺される事件が起きる―。

 トム・バーナビー警部のシリーズの第13話「裂かれた肖像画」(原題:Beyond the Grave)の本国放映は2000年2月5日、日本では2002年7月にNHK‐BS2にて前後編に分けて初放映され、その時のタイトルは「古城の鐘が亡霊を呼ぶ」でした。

 コナン・ドイルやクリスティを持ち出すまでもなく、英国人ってミステリにゴースト・ホラー(幽霊譚)風の味付けをしたものが好きそうだなあと。博物館に調査に赴いたバーナビーは付近の墓地でサバの燻製が落ちているのを見つけ、不審に思う―。う~ん、わけありの人物は、サバの燻製ばかり食べていたのか?

裂かれた肖像画  vs1.jpg裂かれた肖像画 vs2.jpg ロケに使われた古城に雰囲気があり、田舎町の風景も美しく、いつもながらに楽しめましたが、話が複雑な割には、その複雑さが面白さに繋がっていないような気もしました。真犯人はいかにも最初から怪しげだし、連続殺人に至る動機がやや弱い感じも。
Barnaby talks to Sandra by the lake in 'Beyond the Grave'

裂かれた肖像画 湖.jpg 個人的にはよく分からない部分もありました。いかにも田舎町にいそうな胡散臭い霊媒師エレノア(プルネラ・スケイルズ)のキャラが面白かったけれど、彼女がこれから新たに埋葬をしようとしている墓穴の底に、行方不明になっている人物の死体が埋まっていることを言い当てることが出来たのは何故?(バーナビーは、意外と彼女の言っていることは正しいと前から言っていたが、2人で仕組んだ? この霊媒師、サンドラが何かを盛られていることにも気づいていたみたいだが)
The views seen during 'Beyond the Grave'

 怪奇現象も、胸像が倒れるトリックはあっさりバーナビーに見抜かれてしまうし、「3つのDから始まるフレーズ」を映し出したところで、主犯格の顔は見えなくとも共犯者はほぼ判ってしまう。ミステリとしてはちょっと弱かったのではないかなあ。

裂かれた肖像画 3.jpg ユーモアという面では、バーナビーの娘カリー(ローラ・ハワード)のボーイフレンド(エド・ウォーターズ)が役者志望で、今度「警部」役をやるからといって、バーナビーに実地で刑事の仕事を見せてもらうという設定が、こんなのありかなと思わせなくもないですが、バーナビーが「刑事の心得」を言って聞かせるところなどは、わざとトロイに聞こえるように言っていたりして面白かったです。彼は社会人なんだなあ、見るからに青二才だけど、トロイがあれで自分より年収が高いとぼやいていたのが可笑しかったです(基本的にトロイの使い走りに終始したが、変に博識だったり鋭いところがあったりもした)。

 このシリーズは、この第13話までが第1~第3シーズンで(パイロット版1話を含む)、2002年4月から10月にかけてNHK-BS2でそれぞれ前後編に分けて26回一挙放映されたわけですが(本国と放送順が若干異なる)、その際にNHKが付けた(?)各エピソードのタイトルが、下の一覧のカッコ内です。全体的にやや長たらしいけれど、内容を想起させる上では分かり易いように思います。

【放映年月日(英/NHK‐BS】
第1話/謎のアナベラ(森の蘭は死の香り)1 Pilot ・The Killings at Badger's Drift (英)1997/03/23/(NHK‐BS2)2002/04/02、04/09
第2話/血ぬられた秀作(小説は血のささやき)2 1-1 ・Written in Blood(英)1998/03/22/(NHK‐BS2)2002/04/16、04/23
第3話/劇的なる死(開演ベルは死の予告)3 1-2 ・Death of a Hollow Man (英)1998/03/29/(NHK‐BS2)2002/05/14、05/21
第4話/誠実すぎた殺人(愛する人のためならば)4 1-3 ・Faithful Unto Death (英)1998/04/22/(NHK‐BS2)2002/05/28、06/04
第5話/沈黙の少年(祈りの館に死が宿る)5 1-4 ・Death in Disguise (英)1998/05/06 2/(NHK‐BS2)2002/04/30、05/07
第6話/秘めたる誓い(少年時代は秘密のベール)6 2-1 ・Death's Shadow (英)1999/01/20/(NHK‐BS2)2002/06/25、07/02
第7話/首締めの森(カラスの森が死を招く)7 2-2 ・Stranger's Wood(英)1999/02/03/(NHK‐BS2)2002/06/11、06/18
第8話/不実の王(採石場にのろいの叫び)8 2-3 ・Dead Man's Eleven (英)1999/09/12/(NHK‐BS2)2002/08/06、08/20
第9話/報いの一撃(流浪の馬車がやって来る)9 2-4 ・Blood Will Out (英)1999/09/19/(NHK‐BS2)2002/07/23、07/30
第10話/絶望の最果て(狩りの角笛が死を誘う)10 3-1 ・Death of a Stranger (英)1999/12/31/(NHK‐BS2)2002/10/01、10/08
第11話/美しすぎる動機(ラストダンスは天国で)11 3-2 ・Blue Herrings (英)2000/01/22 /(NHK‐BS2)2002/08/27、09/03
第12話/審判の日(人形の手に血のナイフ)12 3-3 ・Judgement Day (英)2000/01/29 /(NHK‐BS2)2002/09/17、09/24
第13話/裂かれた肖像画(古城の鐘が亡霊を呼ぶ)13 3-4 ・Beyond the Grave (英)2000/02/05 /(NHK‐BS2)2002/07/09、07/16

裂かれた肖像画 全体.jpg裂かれた肖像画 輸入盤2.jpg「バーナビー警部(第13話)/裂かれた肖像画(古城の鐘が亡霊を呼ぶ))」●原題:MIDSOMER MURDERS:BEYOND THE GRAVE●制作年:2000年●制作国:イギリス●本国上映:2000/02/05●監督:モイラ・アームストロング●脚本:ダグラス・ワトキンソン●時間:102分●出演:ジョン・ネトルズ/ダニエル・ケーシー/ジェーン・ワイマーク/ローラ・ハワード/バリー・ジャクソン/シェリル・キャンベル/デビッド・ロブ/シルヴェストラ・トウゼル/パトリシア・ブレイク/ジェームズ・ローレンソン/プルネラ・スケイルズ/チャールズ・サイモン/マルコム・シンクレア/エド・ウォーターズ/オルウェン・テイラー/クリス・スタントン●日本放映:2002/07●放映局:NHK‐BS2(評価:★★★)

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推理ドラマとして純粋に楽しめ、ロケーションも美しい。シリーズの中でも上位にくる佳作。

バーナビー警部(第12話)/審判の日 DVD 輸入盤.jpgバーナビー警部(第12話)/審判の日 dvd.jpg JUDGEMENT DAY3.jpg オーランド・ブルーム2.jpg
バーナビー警部~審判の日~ [DVD]」 Barnaby and Troy/Peter (Orlando Bloom) 

Judgement Day 6.jpg 「理想の村コンテスト」の最終候補になったミッドサマーマロウの村の周辺では、しばしば窃盗事件が起こっていた。犯人は村の不良青年ピーター(オーランド・ブルーム)と肉屋の息子ジャック(トビアス・メンジス)だった。バーナビー(ジョン・ネトルズ)の捜査の手がもう少しで届くところで、ピーターは干し草鋤で串刺しにされ殺される。ピーターはデビア夫妻(ティモシー・ウェスト、ハンナ・ゴードン)の娘キャロライン(クロエ・タッカー)と付き合いながら、獣医ゴードン(リチャード・ホープ)の妻ローラ(マーシャ・フィッツェラン)とも不倫していた。更に、息子を悪の道に引き込まれた肉屋のレイ(ビル・トーマス)や、ピーターの素行の悪さに頭を悩ませていた叔母のバーバラ(バーバラ・ジェフォード)、、ピーターに空き巣に入られ、大切な肖像画を傷つけられた元俳優エドワード・アラダイス(マーレイ・ワトソン)にも殺人の動機があった。 そんな中、今度は「理想の村コンテスト」開催中に、ロンドンからきた審査員がワインに入れられた青酸カリによって毒殺される―。

審判の日 01.jpg トム・バーナビー警部のシリーズの第12話「審判の日」(原題:Judgement Day)の本国放映は2000年1月29日、日本では2002年9月にNHK‐BS2にて前後編に分けて初放映され、その時のタイトルは「人形の手に血のナイフ」でした。

 第1話「謎のアナベラ」と並んでシリーズのベストに推す人もいるエピソードで、実際面白かったです。真犯人は誰なのか、何となくヒントを与えながらも、その殆どがブラフでした。但し、最後まで何も明かさないというわけではなく、ちゃんと真犯人を示唆するような伏線はあった...(これだけじゃ判らないけれどね)。プロローグにある「過去」の事件がカギなのでしょうが、これも第2話「血ぬられた秀作」と同じく、一筋縄では「現在」とは繋がりません。

JUDGEMENT DAY Midsomer Murders 2.jpg審判の日 O・ブルーム.jpg 推理ドラマとして純粋に楽しめるし、「理想の村コンテスト」の3人の審査員の変なキャラクターの描き分けなどもしっかりしているし(4人目の審査員であるバーナビーの妻ジョイス(ジェーン・ワイマール)が戸惑うのも無理ない)、謎解きからラストにかけては人間ドラマとしてもOrlando Bloom peter drinkwater.jpg重厚。「理想の村コンテスト」が背景になっているだけに、ロケーションもまた一段と美しく、また、「ロード・オブ・ザ・リング」('01年~'03年)シリーズのオーランド・ブルーム(Orlando Bloom)が人妻と不倫している不良青年役で出ているという見所もあります(バーナビーとトロイ(ダニエル・ケーシー)が「指輪物語」の話をする場面があるのは、撮影の時点でオーランド・ブルームの「ロード・オブ・ザ・リング」への出演が内定していたため? それとも偶然の一致?)。

審判の日 俳優の家.jpgChenies Manor, Used as the actor Edward Aladice's house

 療養所名か療養所があった場所の地名と「帽子」という言葉との聞き間違えというのは、ちょっと判らなかったなあ(従って、バーナビーが何か閃いた表情をした時も、何に閃いたのかよく判らなかった)。元俳優エドワードが、訪ねて来たバーナビーの娘カリー(ローラ・ハワード)を送っていく際に帽子を持っていたため、この部分は視聴者に対するブラフになっていて、凝っていたなあと思いました。
 「理想の村コンテスト」で演奏するために村の子供達が練習していた曲というのが、本番になって"バーナビーのテーマ"であることが分かり、これがあまり上手な演奏でないのが可笑しかったです。

MIDSOMER MURDERS:JUDGEMENT DAY.jpgブルーム.jpg「バーナビー警部(第12話)/審判の日(人形の手に血のナイフ)」●原題:MIDSOMER MURDERS:JUDGEMENT DAY●制作年:2000年●制作国:イギリス●本国上映:2000/01/29●監督:ジェレミー・シルバーストン●脚本:アンソニー・ホロヴィッツ●時間:102分●出演:ジョン・ネトルズ/ダニエル・ケーシー/ジェーン・ワイマーク/ローラ・ハワード/オーランド・ブルーム/バーバラ・ジェフォード/ティモシー・ウェスト/ハンナ・ゴードン/クロエ・タッカー/リチャード・ホープ/マーシャ・フィッツェラン/ビル・トーマス/トビアス・メンジス/マーレイ・ワトソン/シェラ・フラスター/マギー・スティード/ニコラス・グレース/ジョゼフィーン・トゥーソン●日本放映:2002/09●放映局:NHK‐BS2(評価:★★★★)

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錯綜した人物関係はこのシリーズならでは。複雑だったが、それぞれに動機はあったか。

バーナビー警部 絶望の最果てDVD.jpg  バーナビー警部 絶望の最果て 01.jpg バーナビー警部 絶望の最果て 02.jpg
バーナビー警部~絶望の最果て~ [DVD]」/On the set of Death of a Stranger /プリングル警部(James Balam)

バーナビー警部 絶望の最果て p.jpg マーシュウッドの上流階級の面々が、キツネ狩りをしている最中に、一人の浮浪者が撲殺された。休暇中のバーナビー警部(ジョン・ネトルズ)に代わって捜査の指揮をとったのはロン・プリングル警部(ジェームズ・ボーラム)。上流階級に憧れるプリングルは、すぐに地元の不良、ビリー・ガーディ(トム・スミス)を逮捕する。その後、帰ってきたバーナビー警部は、プリングルの狭量な捜査が間違いでなければと危惧するが、またしても事件が起こる。息子の無実を信じ、森を調べていた父親のベン・ガーディー(フレッド・リッジウェイ)が、射殺体で発見されたのだった。そして、上流階級のトランター家やフィッツロイ家の主人にとりいり、キツネ狩りに参加したプリングルにも、パーティの夜に庭の東屋であるものを見てしまったがために―。

 トム・バーナビー警部のシリーズの第10話「絶望の最果て」(原題:Death of a Stranger)の本国放映は1999年12月31日、日本では2002年10月にNHK‐BS2にて前後編に分けて初放映され、その時のタイトルは「狩りの角笛が死を誘う」でした(昔のタイトルの方が内容を想起し易いね)。

バーナビー警部 絶望の最果て 04.jpg 森で殺害された浮浪者と上流階級の一族との間にどのような繋がりがあるのか―というのがミソですが、いやあ、大ありでした。フィッツロイ家当主ジェームズ・フィッツロイ(リチャード・ジョンソン)、その妻サラ・フィッツロイ(ジェニファー・ヒラリー)、トランター家の若き当主グレアム・トランター(ドミニク・マッファン)、その母マーシア・トランター(ダイアン・フレッチャー)、グレアムの妻ケイト・トランター(サラ・ウィンマン)らの関係が錯綜していて、それに森に住む女リンダ・ワグスタッフ(ジャンヌ・ヘップル)や剥製屋のヘンリー・カーステアズ(サイモン・マクバーニー)のような全く上流階級に関係ないような人たちもが実は何らかの関係があって事件に関与しているらしく、更に最後に、浮浪者と上流階級一族や森に住む女との関係が明らかになる―。

 やがて、トランター家の先代が30年前に失踪した事件が浮上してきますが、人物関係が錯綜しています。犯人が判った後でも頭の中ですぐには整理し切れない状況でしたが、要するに相続権が絡んでいたわけだなあと(徒らに複雑にしているのではなく、全て事件の本筋に絡んでいる構成は立派)。失踪宣告は、「亡くなったとみなす」(=死亡、反証は不可)ものではなく、「亡くなったと推定する」(≠死亡、反証は可能)ものであって、その人物が実は生きていたという事実(反証)が明らかになると覆ってしまうということです。

絶望の最果て 東屋.jpg 複雑な人物関係はこのシリーズの特色であり、このエピソードもバーナビー警部ならでは謎解きですが、視聴者目線では推理不可能な要素も。暗い結末の中(この暗さもこのシリーズの持ち味だが)、バーナビーが休暇先で奮発してフレンチのコース料理を食べて腹具合が悪くなったり、トロイ巡査部長(ダニエル・ケイシー)がグレアムの母ケイト・トランターを指して、「100万ポンドもらってもお断りな女」と言ったりと、ユーモラスな場面やセリフもちゃんと用意されていました。

The Summer house used for an illicit affair in 'Death of a Stranger'

MIDSOMER MURDERS:DEATH OF A STRANGER2.jpg しかし、今でも貴族って、毎週キツネ狩りばかりやっているのだろうか。英国の田舎町を舞台にしたこのシリーズの視聴者への訴求要素の1つとして「郷愁」のようなものがあって、キツネ狩りというのも、イギリス人にとっては、自分がやったことがある・無しに関わらず、ある種の懐かしさを呼び起こす慣行なのかもしれません。

DEATH OF A STRANGER.jpg「バーナビー警部(第10話)/絶望の最果て(狩りの角笛が死を誘う)」●原題:MIDSOMER MURDERS:DEATH OF A STRANGER●制作年:1999年●制作国:イギリス●本国上映:1999/12/31●監督:ピーター・クレギーン●脚本:ダグラス・リビングストン●撮影: ナイジェル・ウォルターズ●原作:キャロライン・グレアム●時間:102分●出演:ジョン・ネトルズ/ダニエル・ケイシー/ジェーン・ワイマーク/ローラ・ハワード/リチャード・ジョンソン/ジェニファー・ヒラリー/ドミニク・マッファン/ダイアン・フレッチャー/サラ・ウィンマン/ジェームズ・ボーラム/ジャネット・デイル/ジャンヌ・ヘップル/ピーター・ベイリス/トビー・ジョーンズ/サイモン・マクバーニー/フレッド・リッジウェイ/ジェーン・ウッド/トム・スミス/ジョニー・ブルーム●日本放映:2002/10●放映局:NHK‐BS2(評価:★★★☆)

絶望の最果て フレンチレストラン.jpgThe French restaurant where the Barnaby family eat a meal whilst on holiday in France

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次から次へと意外な事実が明らかになり、ラストも意外だった。

報いの一撃 輸入盤.jpg報いの一撃 dvd.jpg 「報いの一撃」00.jpg
バーナビー警部~報いの一撃~ [DVD]」"Midsomer Murders" Blood Will Out(報いの一撃)

「報いの一撃」0.jpg 意地の悪い判事へクター(ポール・ジェッソン)は、 村にやって来たオーヴィル(ケビン・マクナリー)をリーダーとするロマ達(ジプシー)を追い出そうと、知り合いの軍人まで呼んでしまうような陰険な男だった。一旦はバーナビー警部が仲裁に入り収まるが、その後、ロマ達が開催した祭りの最中に、へクターが猟銃で撃たれて死亡する―。

「報いの一撃」02.jpg トム・バーナビー警部のシリーズの第9話「報いの一撃」(原題:Blood Will Out)の本国放映は1999年9月、日本では2002年7月にNHK‐BS2にて前後編(第17話・第18話)に分けて初放映され、その時のタイトルは「流浪の馬車がやって来る」でした。

「報いの一撃」01.jpg 馬車とトレーラーで移動する現代版ジプシーの描写が興味深かった作品ですが、ダグラス・ワトキンソンの脚本はかなり複雑なストーリーとなっています。元将校で今は判事のへクターと、元軍人で今はジプシーを率いるオーヴィルがかつて因縁事があった戦争というのは、フォークランド紛争(1982年)だったのだなあと。オーヴィルを見ただけで、彼に"想いの人"がいると分かってしまうバーナビーは、ややスゴ過ぎ。

 へクターが村の誰からも嫌われているので、容疑者には事欠きませんが、それに、へクターらと夫婦取り替え婚をした男が絡み、更に、祖父・兄と生活を共にしているジプシーの娘が、村の青年に恋していて、一方で兄のことも思っているという、「ロミオとジュリエット」的な話も絡みます。

「報いの一撃」3.jpg 次から次へと意外な事実が明らかになり、ラストも意外でした(もう、これは推理不能)。そんな中、ジプシー兄妹の兄が最後に妹にみせる思いやりが泣け、家族からフルーツ・ダイエットを強いられ、家族の依頼を受けた部下のトロ報いの一撃 ロッジ.jpgイに間食しないか監視されているバーナビーがユーモラスです。
 このように感動あり、笑いありなんだけれど、難を言えば、第2の殺人がとってつけたようで、犯人の動機がやや弱い点でしょうか。

 それにしても、バーナビーの家族って、いつもこんな凄惨な事件の話ばかりしているのだなあ。まあ、事件の進展状況は地元の新聞にも出ているわけだし、変に黙っていると逆に互いに気詰まりしてしまうのだろなあ。

Lodge seen in 'Blood Will Out'

 因みに、近年の日本においては、「ジプシー」は差別用語、放送禁止用語と見做され、「ロマ」と言い換えられる傾向にあるようですが、「ジプシー」には「ロマ」以外の民族も含まれているので、全ての場合においてそのように言い換えてしまうと、場合によっては正確性を欠くか、他のジプシー民族を無視することになってしまうそうです。

「バーナビー警部(第9話)/報いの一撃(流浪の馬車がやって来る)」●原題:MIDSOMER MURDERS:BLOOD WILL OUT●制作年:1999年●制作国:イギリス●本国上映:1999/09/12●監督:モイラ・アームストロング●脚本:ダグラス・ワトキンソン●撮影:グラハム・フレイク●時間:102分●出演:ジョン・ネトルズ/ダニエル・ケーシー/ジェーン・ワイマーク/ローラ・ハワード/バリー・ジャクソン/ポール・ジェッソン/リシア・ジョージ/ハニーサクル・ウィークス/ジョン・ダッティン/エリザベス・ガービー/ケビン・マクナリー/イアン・トンプソン/フィリダ・ロウ●日本放映:2002/07●放映局:NHK‐BS2(評価:★★★☆)

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不実の王 輸入盤dvd.jpg「○外国映画 【制作年順】」の インデックッスへ

背後関係が判ってみて、犯行動機には納得させられた。凄絶な復讐劇。

不実の王  dvd.jpg 不実の王 1.jpgバーナビー警部~不実の王~ [DVD]」"Midsomer Murders" Dead Man's Eleven(不実の王)

不実の王 2.jpg 田舎地主カベンディッシュ家の若き後妻タラ(フェリシティ・ディーン)が、何者かによってクリケットのバットで撲殺される。凶器は仲の悪い義理の息子のものであり、しかも事件現場の当家所有の採石場は、かつてカベンディッシュ家の家政婦が崖から転落死した場所でもあった。偶然にもクリケットチームの一員となったトロイ巡査部長を使い捜査を進めていたバーナビー警部は、暴君であるタラの夫ロバート・カベンディッシュ(ロバート・ハーディ)が、息子のスティーブン(アンソニー・カーフ)をはじめ様々な人といがみ合っていたことを突き止める―。

不実の王 3.jpg トム・バーナビー警部のシリーズの第8話「不実の王」(原題:Dead Man's Eleven)の本国放映は1999年9月、日本では2002年8月に不実の王 4.jpgNHK‐BS2にて前後編(第19話・第20話)に分けて初放映され、その時のタイトルは「採石場にのろいの叫び」でした。

 過去の家政婦の事件も含め殺人は3件起きます。ロバート・カベンディッシュは、経営していた採石場を突然閉鎖して多くの失業者を出したり、私有地を通るフットパスを通行禁止にしたりと、まさに暴君で、周囲の殆どの人々から反感を買っていたわけですが、その中で、何となくこの人物が犯人ではないかなというのは浮かび上がってくるようになっていたように思います(但し、その時点でも動機は不明だったが)。
不実の王 クリケットクラブ.jpg
 最後に真犯人(もう一人は意外だった)及びその背後関係が判ってみて、犯行動機には納得させられました。振り返れば、凄絶な復讐劇であり(冒頭の娘に「不実の王」の童話の読み聞かせをする母親―という微笑ましいシーンが実際に意味していたものが後で解ると怖い)、このシリーズの人気ベスト10などにもランクインしていることがある作品ですが、最初の家政婦殺しはやや「目的のためには手段を選ばず」になっていて、犯人へのシンパシーを削ぐものとなっているようにも思いました。
The Cricket Club in Dead Man's 11

「バーナビー警部(第8話)/不実の王(採石場にのろいの叫び)」●原題:MIDSOMER MURDERS:DEAD MAN`S ELEVEN●制作年:1999年●制作国:イギリス●本国上映:1999/09/12●監督:ジェレミー・シルバーストン●脚本:アンソニー・ホロヴィッツ●撮影:グラハム・フレイク●時間:102分●出演:ジョン・ネトルズ/ダニエル・ケーシー/ジェーン・ワイマーク/ローラ・ハワード/ピーター・アイアー/キャスリーン・バイロン/フランク・ウィンザー/アン・ストーリーブラス/トルーディ・スタイラー/ジェレミー・クライド/フィリス・ローガン/ニコラス・ファレル●日本放映:2002/08●放映局:NHK‐BS2(評価:★★★☆)

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結構、凝った展開か。真犯人はラストでじわ~っと明かされる感じ。

バーナビー警部 首絞めの森  dvd.jpgバーナビー警部(第7話)/首締めの森 1.jpg  バーナビー警部 首絞めの森 02.png
バーナビー警部~首締めの森~ [DVD]」 "Midsomer Murders" Strangler's Wood(首締めの森)

バーナビー警部 首絞めの森 カーラ.jpgバーナビー警部 首絞めの森 マーケ部長.jpg ミッドサマーワーシー近付近レイヴンズウッド(カラスの森)で女性の全裸死体が子供により発見された。死因はネクタイによる絞殺、身元は大手タバコ会社モナクのヒット商品「カーラ」のテレビCMに出ているブラジル人女優カーラ(左上)だった。現場は9年前に3人の女性が同様にネクタイで絞殺され未だ解決を見ず、マスコミに「首締めの森」と名付けられた場所だった。バーナビーの捜査で、現場で見つかった高級時計は、カーラのCM起用を決めたタバコ会社のマーケティング部長ジョン・メリル(右上)のものと分かる。
バーナビー警部 首絞めの森 タバコ会社社長.jpgバーナビー警部 首絞めの森 妻.jpg 地元紙の身の上相談蘭を担当し、タバコ会社の社長(左下)と不倫関係にあるジョン・メリルの妻(右下)も、夫が犯人でないかと疑い始める。バーナビーは、9年前に一連の事件を担当していた元警察官ジョージ・ミーカムから、満月の夜に次の犠牲者が出るとの警告を受けていたが、果たしてその予告通り、第2、第3の事件が起きる―。

バーナビー警部 首絞めの森 01.png トム・バーナビー警部のシリーズの第7話となる本作「首絞めの森」(原題:Strangler's Wood)の本国放映は1999年2月、日本では2002年6月から7月にかけてNHK‐BS2にて前後編(第11話・第12話)に分けて初放映され、その時のタイトルは「カラスの森が死を招く」でした。原作はキャロライン・グレアムということになっていますが、脚本家アンソニー・ホロヴィッツのオリジナル色が強いように思われます。

バーナビー警部 首絞めの森 旅館主.jpg ジョン・メリルが犯人であることを示す状況証拠が続出し、これが却って不自然なわけで、誰かが彼に罪をなすりつけようとしていることはバーナビーならずとも分かることであり、高齢の母親と一緒に暮らし、のらりくらりとバーナビーの質問をかわす旅館経営の男がどう見ても雰囲気的に怪しい...。これは殆ど「刑事コロンボ」風の倒叙法に近いのではないかと思わされましたが、その男が何者かに風呂場で「サイコ」風に刺殺されてから、全く犯人の見当がつかなくなりました。

 カーラ殺害の真犯人はラストでじわ~っと明かされる感じで、この辺りは上手い作りだなあと(確かに動機となり得るものがあった訳だ。但し、これを事前に推理・予見することはほぼ無理)。その人物も含め、過去・現在を通して殺人を犯した人間が複数いたことが事件を複雑にしていたわけかあ。結構、凝った展開と言えるのでは。80作以上あるトム・バーナビー警部のシリーズ中、本作を最高傑作に挙げる人もいるようです。

 バーナビー警部の娘カリーとの約束は、いつも新たな事件の発生で中断。娘のためにハロルド・ピンターの芝居のチケットを職権を濫用して入手する場面が可笑しいです(切符売場のおばさんが、舞台上で役者が謀殺された「劇的なる死」(第3話)の事件を解決した刑事だと知って「また殺人があるのですか」と目を輝かせる)。結局、この芝居も開幕直前に事件が発生してバーナビーは行けず、部下のトロイ巡査部長(ダニエル・ケイシー)を代役に。トロイは難解なピンターの芝居には関心がないが、カリーには大いに関心がある...。

トロイ.jpg トロイって、ポルトガル語(正しくはスペイン語か)がかなり上手に話せるくせに、サンパウロがどこにあるのかとかは知らなかったね。イタリアですかね、なんてね。バーナビーをあきれさせたり、はたまた驚かせる能力を発揮したりと、なかなか面白い。

バーナビー警部 首締めの森.jpg いつもながら、複雑な事件の展開と併せて、家族サービスしようと思ってなかなか出来ないでいるバーナビーやそのバーナービーと部下トロイとの遣り取りなどのコミカルなシーンが楽しめ、加えて、イギリスの片田舎の田園風景が美しい作品です。

バーナビー警部 首締めの森  dvd.jpg 「バーナビー警部(第7話)/首締めの森(カラスの森が死を招く)」●原題:MIDSOMER MURDERS:STRANGLER'S WOOD●制作年:1999年●制作国:イギリス●本国上映:1999/01/3●監督:ジェレミー・シルバーストン●脚本:アンソニー・ホロヴィッツ●撮影: ナイジェル・ウォルターズ●原作:キャロライン・グレアム「蘭の告発」(バジャーズドリフトの殺人)●時間:102分●出演:ジョン・ネトルズ/ダニエル・ケイシー/ジェーン・ワイマーク/ローラ・ハワード/ピーター・アイアー/キャスリーン・バイロン/フランク・ウィンザー/アン・ストーリーブラス/トルーディ・スタイラー/ジェレミー・クライド/フィリス・ローガン/ニコラス・ファレル●日本放映:2002/06●放映局:NHK‐BS2(評価:★★★☆)  「Midsomer Murders: Strangler's Wood [DVD] [Import]」 

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面白かった。真犯人の意外性はインパクトがあった。

バーナビー警部 ~秘めたる誓い dvd.jpg   秘めたる誓い 輸入盤dvd.jpg 秘めたる誓い 輸入盤dvd2.jpg
バーナビー警部~秘めたる誓い~ [DVD]」/輸入盤DVD"Midsomer Murders Death's Shadow"(秘めたる誓い)

秘めたる誓い 04.jpg 結婚25周年目のバーナビー夫妻は、妻のたっての望みで12世紀建造の教会で結婚式をやり直すことに。その教会は牧師のスティーブン・ウェントワース(ジュディ・パーフィット)が中心となって補修基金を集めているのだが、修繕委員の一人で脳腫瘍のため余命幾許も無いと診断された不動産開発業者リチャード・ベイリー(ドミニク・ジェフコット)が、深夜に何者かにインド刀で惨殺される。リチャードはタイ・ハウス地域の開発を進めていたが、立ち退きを拒み続けていたタイ・ハウスの不動産管理人デビッド・ホワイトリー(クリストファー・ビラーズ)も深夜に自分のトレーラーハウスに閉じ込められて焼き殺され、村で子供時代を過ごし、たまたま村に帰ってきていた演劇監督のサイモン・フレッチャー(ジュリアン・ワダム)も教会修繕基金を集うバザーの最中に弓矢で殺される。当初、事件はタイ・ハウスの開発を巡るトラブルに起因しているとバーナビー(ジョン・ネトルズ)は考えていたが、村の元小学校教師で村の開発反対派アグネス・サンプソン(ヴィヴィアン・ピクルス)から聞いた10歳の子供の話を思い出し、次に狙われるのは、殺された3人と小学校の同級生だった村の不動産屋イアン・イーストマン(ニック・ダニング)だと推測、また事件が教会を中心に起こっていることに気づく―。

Midsomer Murders Death's Shadow.jpg トム・バーナビー警部のシリーズの第6話「秘めたる誓い」(原題:Death's Shadow)の本国放映は1999年1月、日本では2002年6月から7月にかけてNHK‐BS2にて前後編(第13話・第14話)に分けて初放映され、その時のタイトルは「少年時代は秘密のベール」でした。一応、シリーズの原作はキャロライン・グレアム(Caroline Graham)ということになっていますが、この辺りから原作の洋書版が見当たらず、原作者名のクレジットもされていないため、脚本家アンソニー・ホロヴィッツ(Anthony Horowitz)のオリジナルであるように思われます。但し、この作品に関しては、それまでのキャロライン・グレアムの原作に沿ったエピソードより面白かった面もありました。

 怪しいと思われた人物が殺され犯人は別にいるのだと観る側に推理のやり直しをさせるとのはよくある手ですが、それが次々続いて、ああ、被害者同士でミッシングリングを成していたのだなあと。そのこと自体は、プロローグのいじめに遭っている少年のシーンから何となく窺い知ることが可能ですが、微妙なのは誰が過去の事件において被害者であったのかということで、小学校の同級生たちが今は地域の開発を巡って対立するなど現在の問題も絡んでいたりするため、誰が誰を殺してもそうおかしくない状況―プロローグで過去の出来事を結末まで全ては明かさないで、途中から徐々に事の真相を見せていく作りが上手いと思いました。

秘めたる誓い 01.jpg 結局、個人的には、完全にプロットの罠にハマったのですが、バーナビーも途中まで現在起きている問題に引っ張られてミスリード されていたわけだなあ―それが、事件が教会を中心に起こっていることに気づいて...。前作「沈黙の少年」同様、"隠された係累"ということで、最後は後出しジャンケンみたいな印象もありましたが、真犯人の意外性はインパクトがありました。

 斬殺、焼殺、刺殺...という順番は聖書からきているのかな(ややマニアックだけど、これも犯人に至る推理上の伏線だったのか)。村の不動産屋だけが助かるわけですが、居所を不明にして少年愛に耽っていたのが幸いした? こうした変態的素材も含め、アンソニー・ホロヴィッツの脚本はこれまでのトーンをきちんと踏襲しているように思いました。

秘めたる誓い 風景.jpg 凄惨で猟奇性を帯びた連続殺人事件と、その捜査に当たるバーナビーとトロイのユーモラスな遣り取り、或いはバーナビーを支える暖かい家庭―このギャップのある2つの要素の取り合わせに加えて、ストーリーの出来不出来に関わらず、ロケ地にこだわった美しい田舎町の風景が楽しめるシリーズです。

'Badgers Drift' in 'The Killings at Badgers Drift', 'Deaths Shadow', and also seen 'Death of a Stranger' and 'Painted in Blood'

「バーナビー警部(第6話)/秘めたる誓い(少年時代は秘密のベール)」」●原題:MIDSOMER MURDERS:DEATH`S SHADOW●制作年:1998年●制作国:イギリス●本国上映:1999/01/20●監督:ジェレミー・シルバーストン●脚本:アンソニー・ホロウィッツ●撮影:ナイジェル・ウォルターズ●原作:キャロライン・グレアム●時間:102分●出演:ジョン・ネトルズ/ダニエル・ケーシー/ジェーン・ワイマーク/ローラ・ハワード/バリー・ジャクソン/リチャード・ブライヤー/ジュディ・パーフィット/ジュリアン・ワダム/ドミニク・ジェフコット/クリストファー・ビラーズ/ニック・ダニング/ジェシカ・ターナー/ヴィヴィアン・ピクルス/アナ・クロッパー/ゴードン・ゴステロワ/モシー・スミス/テレンス・コリガン/ニック・ロビンソン/エイリーン・デイビス●日本放映:2002/06●放映局:NHK‐BS2(評価:★★★★

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レズビアンとか新興宗教とかミッドサマーでは色々あるね。2作ともプロットがやや弱いか。

誠実すぎた殺人dvd.jpg FAITHFUL UNTO DEATH dvd.jpg   沈黙の少年dvd.jpg DEATH IN DISGUISE dvd.jpg
バーナビー警部~誠実すぎた殺人~ [DVD]」"Faithful unto Death"(誠実すぎた殺人)/「バーナビー警部~沈黙の少年~ [DVD]」"Death in Disguise"(沈黙の少年)
02誠実すぎた殺人.gif 村人が資金を出しあった工場の経営が行き詰まり、責任者のアラン・ホリングスワース(ロジャー・アラム)を糾弾する声が高まっていた。批判者の急先鋒グレイ(マーク・ベズレイ)はチャリティーバザーで「殺す」とアランに脅しをかける。最悪の事態を回避するため捜査を始めたバーナビー(ジョン・ネトルズ)は、アランの妻シモーヌ(レズリー・バイカレッジ)が実家に帰ったのではなく何者かに誘拐され、出資金は身代金に使われたものと推定する。トロイがホリングスワース家誠実すぎた殺人02.gifを見張っていたが、ブレンダ(ミシェル・ドゥートリス)の手引きでアランはトロイをまいて何処かへ行ってしまい、アランを追っていたブレンダが何者かに殺されてしまう。更にブレンダに続きアランが睡眠薬で何者に殺され、前夜訪れていたパブの主人ナイジェル(ポール・ブルック)の指紋がそこら中から検出される。だがナイジェルは犯人ではなかった。バーナビーは捜査の末、シモーヌの元恋人ビンス・ペリー(アンドリュー・ポール)を逮捕する。バーナビーは犯人一味を逮捕し追及するが、主犯を有罪にもちこむ決定的証拠に欠けていた―。

Faithful Unto Death.jpgFAITHFUL UNTO DEATH title.gif トム・バーナビー警部のシリーズの第4話「誠実すぎた殺人」(原題:Faithful unto Death)の本国放映は1998年4月、日本では2002年5月から6月にかけてNHK‐BS2にて前後編(第9話・第10話)に分けて初放映され、その時のタイトルは「愛する人のためならば」でした。原作はキャロライン・グレアムのシリーズ第5作"Faithful unto Death"(1996年発表)ですが、2013年現在邦訳はされていません。

 第1話「謎のアナベラ」でバジャーズドリフトを舞台に近親相姦を、第2話「血ぬられた秀作」でミッドサマー・ワーシィを舞台にホモセクシュアル、女装癖をモチーフとして扱い、第3話「劇的なる死」でもフェーンバゼットを舞台に軽いタッチではあるもののゲイの世界を扱って、そしてこの第4話ではレズビアンと、まあこのロンドン郊外の架空の州ミッドサマーでは何でもありなのかという印象も。

 ラスト、主犯格が逃げおせてしまいますが、トロイ巡査部長(ダニエル・ケイシー)から相方の現在を知らされ、自らの愛が破れたことを悟った共犯者が自供に靡くことを示唆して終わっています。でも、やはり、ちょっとカタルシス不足かな(トロイは結構重要な役回りをバーナビーから任されたことになる。ちゃんと権限委譲による部下育成してるね)。

Death in Disguise.jpg 続くシリーズ第5話「沈黙の少年」(原題:Death in Disguise)は、本国放映は1998年5月、日本では2002年4月から5月にかけて前後編(第5話・第6話)に分けて初放映され、その際のタイトルは「祈りの館に死が宿る」。原作はキャロライン・グレアムのシリーズ第3作"Death in Disguise"(1992年発表)ですが、これも2013年現在邦訳はされていません。

02沈黙の少年.gif 新興宗教団体ゴールデンウィンドホースロッジのメイ・カトル(ジュディ・コーンウェル)から、教団設立時の出資者の一人ウィリアム・カーター(ロバート・ピッカバンス)が階段から落ちて死んだとの知らせがバーナビーに入る。事故ということで片付いたものの、嵐の夜、屋根飾りの砲弾が落ちて危うく信者に当たりそうになる不審事が起きる。新参の若い沈黙の少年3.gif沈黙の少年01.gif信者クリストファー・ウェンライト(ステファン・モイヤー)は、信者の一人スハミことシルビー・ガムラン(アンナ・ボルト)と仲良くなる。スミハの父で俗物の金持ちガイ・ガムラン(マイルズ・アンダーソン)は、娘スハミの誕生日祝いに団体を訪ねて娘に贈った大金を、彼女が全て教祖イアン・クレイギー(マイケル・フィースト)に寄付したため激怒する。そのスハミの誕生日の祝いの席で、教祖は何者かに刺殺される。事件の鍵を握るのは自閉症の物言えぬ少年だった―。

 う~ん。ミッドサマーには新興宗教団体まであるんだなあ。美しい自然に恵まれた環境ながら、そこには怪しげな人物がいっぱい。メイは、古代ローマの将軍に憑依されて託宣をのたまうし、施設内で養蜂をしている老夫婦も昔は売春宿を違法経営していたらしい...。

沈黙の少年 06.jpg 教祖の殺害が、部屋の灯りが消えた一瞬の隙に行われるのは、クリスティの『予告殺人』を想起させるし、言葉を発することがなかった少年が、何者が教祖を刺したのかというバーナビーの問いに初めて発した言葉が「マジック」であるというのもクリスティの『魔術の殺人』を意識してか。憑依による儀式が行われるところは『蒼ざめた馬』もそうであるし、クリスティへのオマージュが感じられるととるのは、穿ち過ぎた見方でしょうか。

 第4話「誠実すぎた殺人」に比べてプロットはそう複雑ではないけれど、犯人が最後まで分からなかったのは、動機となる係累が最後まで伏されていたことによるかと思います。

 2作とも原作は全てがこの通りではないようですが、今まで邦訳されていないのは、ややプロット的にカタルシス効果が弱かったり地味であるというのもあるのではないかな。これらの映像化作品によって、田園風景や人々の暮らしぶりなどは楽しめましたが。

FAITHFUL UNTO DEATH06.jpg「バーナビー警部(第4話)/誠実すぎた殺人(愛する人のためならば)」●原題:MIDSOMER MURDERS:FAITHFUL UNTO DEATH●制作年:1998年●制作国:イギリス●本国上映:1998/04/22●監督:ジェレミー・シルバーストン●脚本:アンソニー・ホロウィッツ●撮影: ナイジェル・ウォルターズ●原作:キャロライン・グレアム●時間:102分●出演:ジョン・ネトルズ/ダニエル・ケーシー/ジェーン・ワイマーク/ローラ・ハワード/バリー・ジャクソン/ロジャー・アラム/レズリー・バイカレッジ/ポール・ブルック/ロザリンド・アイレス/エレオノーラ・サマーフィールド/ピーター・ジョーンズ/ポール・チャプマン/ミシェル・ドゥートリス/ソフィー・スタントン/マーク・ベイズレィ/テッサ・ピーク-ジョーンズ●日本放映:2002/05●放映局:NHK‐BS2(評価:★★★)

沈黙の少年 07.jpg「バーナビー警部(第5話)/沈黙の少年(祈りの館に死が宿る)」」●原題:MIDSOMER MURDERS:DEATH IN DISGUISE●制作年:1998年●制作国:イギリス●本国上映:1998/05/06●監督:バズ・テイラー●脚本:ダグラス・ワトキンソン●撮影: ナイジェル・ウォルターズ●音楽 : ジム・パーカー●原作:キャロライン・グレアム●時間:102分●出演:ジョン・ネトルズ/ダニエル・ケーシー/ジェーン・ワイマーク/ローラ・ハワード/バリー・ジャクソン/ロバート・ピッカバンス/マイケル・フィースト/ダニエル・ハート/アンナ・ボルト/マイルズ・アンダーソン/スーザン・トレーシー/コリン・ファレル/ダイアン・ビル/ジュディ・コーンウェル/チャールズ・ケイ/ステファン・モイヤー●日本放映:2002/04●放映局:NHK‐BS2(評価:★★★)

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プロット的には物足りない。関係者ほぼ全員が劇団員であるのが最大のミソか。

バーナビー警部/劇的なる死 dvd 輸入盤.jpgバーナビー警部/劇的なる死 dvd.jpg 劇的なる死00.jpg  アマデウス dvd.jpg
バーナビー警部~劇的なる死~ [DVD]」 Death of a Hollow Man' 「アマデウス [DVD]
ハロルド・ウィンスタンリー(Bernard Hepton)/エスリン(Nicholas Le Prevost)
ハロルド・ウィンスタンリー(バーナード・ヘプトン).gifエスリン(ニコラス・レプレボ).gif ミッドサマー地区で中年女性アグネス・グレイ(デニーズ・アレクサンダー)が何者かに殺された。アグネスは不治の病に冒されており、「とてつもない過ちを犯したのでそれを正したい」と漏らし、意外なほどの大金を動物保護団体に寄付していた。一方、ハロルド・ウィンスタンリー(バーナード・ヘプトン)が舞台監督を務めるコーストン・アマチュア劇団による舞台劇「アマデウス」の初日が近づいていたが、バーナビー(ジョン・ネトルズ)の妻ジョイス(ジェーン・ワイマーク)も端役で出演する、サリエリ役で主演する会計士のエスリン(ニコラス・ラ・ブレボスト)はアグネスのいとこで唯一の親族だった。
バーナビー警部/劇的なる死01.jpgキティ(Debra Stephenson)/ローザ(Sarah Badel)
キティ(デブラ・スティーブンソン).gifローザ(サラ・バデル).gif エスリンの妻キティ(デブラ・スティーブンソン)は(舞台ではモーツァルトの恋人役)は不倫をしており、そのことを同じ劇団員のエスリンの元妻のローザ(サラ・バデル)がエスリンに示唆したことで、エスリンはローザに離婚話を切り出す。人々の愛憎が錯綜する中で初日の幕は上がるが、クライマックスでエスリンは、何者かによってテープが剥がされた剃刀で喉を切ってしまい死亡。バーナビーの調べで劇団員兼大道具係デービッド(イアン・フィッツギボン)の父で大道具係のコリン(ジェフリー・ハッチングス)が「自分が殺した」と自供するが、それは息子を庇ってのことで息子も無実が明らかになり、となると、アグネスとエスリンを殺した真犯人は別にいることになる―。

うつろな男の死.jpg この1998年3月本国イギリスでの放映の第3話「劇的なる死」(Death of a Hollow Man)は、日本初放映は2002年5月で、前後編(第7話・第8話)に分けて放映され、当時のタイトルは「開演ベルは死の予告」。キャロライン・グレアムによる原作は、1989年に発表されたバーナビー警部シリーズ第2作『うつろな男の死』(Death of a Hollow Man)であり、1993年に創元推理文庫で翻訳が刊行されています。
うつろな男の死 (創元推理文庫)

バーナビー警部/劇的なる死 03.jpg アマチュア劇団を舞台にした演出家と俳優の確執をモチーフにした作品ですが、ちゃんと原作者の著作がある作品で、しかも、今回は珍しく原作者本人が脚本を担当しているにしては、第1話「謎のアナベラ」、第2話「血ぬられた秀作」と比べると、人間関係の入り組み具合もさほどではなく、プロットも単純で、分かりやすけれど物足りないと言うか、ミステリとしてはややランク落ちの印象を受けます。

 ミッドサマー地区は、アマチュア作家のサークルとかアマチュア劇団とか、アマチュアの文化活動が盛んだなあと。しかし、芝居の小道具で、テープを張るにしろ本物の剃刀を使うかなあ。

デアドレ・ティブス(ジャニーン・ダヴィツキー).gif プロットは物足りないけれども、今回も怪しい人物、奇妙な人々には事欠きません。エスリンの妻の不倫相手は、ゲイの書店主アベリーの本屋で働いていた"ゲイ友"の書店員ティムだったんだなあ(舞台では2人は舞台美術係と照明係)。ハロルドのお手伝い(舞台では進行係兼小道具係)デアドレ・ティブス(ジャニーン・ダヴィツキー)が、ハロルドが劇の評判を聞くよう彼女に頼んだのに、彼女は事件のことを記者たちに話したくて仕方がない様子がおかしいです(でも、これが"マトモな感覚"なんだろなあ)。

バーナビー警部/劇的なる死02.jpg トロイ巡査部長(ダニエル・ケイシー)が初めて警部の娘カリー(ローラ・ハワード)に出会って一目惚れするのはこの回だったんだなあと。彼女は、役者の卵ニコラス(エド・ウォーターズ)の方と仲良くなってしまいましたが、このプロの役者を目指している青年も書店員。バーナビーも、舞台美術の手伝いで書割の絵をかいているし、今回は、関係者ほぼ全員が劇団員であるか何らかの形で舞台に関係しているという中で事件が起きるというのが、最大のミソと言えるのでしょう。

劇的なる死 劇場.jpg しかし、「アマデウス」とはねえ。田舎のアマチュア劇団にしては随分難しそうな演目を選んだものだと思いますが、わざとそうした設定にしたのでしょう。原作は、サリエリが喉を搔き切る場面で"血糊"を見せるかどうかを演出家らが議論している場面から始まり、シェークスピア劇をはじめ演劇に関する薀蓄がてんこ盛りです。

The Summer house used for an illicit affair in 'Death of a Stranger'

 「アマデウス」(Amadeus)は、チェコスロヴァキア出身のミロス・フォアマン監督の映画「アマデウス」('84年/米)が知られていますが、元々は英国の劇作家ピーター・シェーファー原作の戯曲で、初演もロンドン(1979年)。それが翌年に米国に渡り、ブロードウェイで上演され、1981年には戯曲部門でトニー賞を受賞したもので、日本でも舞台化されましたが、個人的には映画化作品しか観ていません(旧「新宿ピカデリー」で観たが、ここ、いつの間にか、館名は変えないまま「二番舘」から「ロード館」になっていた)。

アマデウス 1.jpg 映画の方は、アカデミー賞の作品賞、監督賞、主演男優賞など8部門を獲得した作品で、双葉十三郎(1910-2009/享年99)の『ミュージカル洋画ぼくの500本』('07年/文春新書)をみると、年代別に見て85点(著者流に表せば☆☆☆☆★)以上の評点を付けている最後の作品が「アマデウス」で、それ以降はありません。

アマデウス モーツアルト.jpgアマデウス サリエリ.jpg 個人的にも大作であるとは思いましたが、モーツァルト像がややデフォルメされ過ぎている印象もありました。アカデミー賞の「主演男優賞」には、"ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト"を演じたトム・ハルスと、"サリエリ"を演じたF・マーリー・エイブラハムの両方がノミネートされましたが、F・マーリー・エイブラハムが受賞したのは順当と言えるかと思います(F・マーリー・エイブラハムはゴールデングローブ賞「主演男優賞」(ドラマ部門)、ロサンゼルス映画批評家協会賞「主演男優賞」も受賞)。モーツァルトのオペラは、少年少女合唱団レベルでもドイツ語で歌われているのに、映画の中では全て英語になっているのもやや気になりましたが、アメリカ映画ですからこれはまあ仕方がないか。

「バーナビー警部(第3話)/劇的なる死(開演ベルは死の予告)」●原題:MIDSOMER MURDERS:DEATH OF A HOLLOW MAN●制作年:1998年●制作国:イギリス●本国上映:1998/03/29●監督:ジェレミー・シルバーストン●脚本:キャロライン・グラハム●撮影: ナイジェル・ウォルターズ●音楽 : ジム・パーカー●原作:キャロライン・グレアム●時間:101分●出演:ジョン・ネトルズ/ダニエル・ケーシー/ジェーン・ワイマーク/ローラ・ハワード/バリー・ジャクソン/バーナード・ヘプトン/デニース・アレクサンダー/ニコラス・ラ・ブレボスト/ジャンニ・ドュヴィッキ/イアン・フィッツギボン/サラ・バデル/エド・ウォーターズ●日本放映:2002/05●放映局:NHK‐BS2(評価:★★★)

アマデウス 0.jpg「アマデウス」●原新宿ピカデリー.jpg題:AMADEUS●制作年:1984年●制作国:アメリカ●監督:ミロス・フォアマン●製作:ソウル・ゼインツ●脚本:ピーター・シェーファー●撮影:ミロスラフ・オンドリチェク●音楽:ジョン・ストラウス●原作:ピーター・シェーファー●時間:160分(ディレクターズカット180分)●原作:ピーター・シェーファー●出演:F・マーリー・エイブラハム/トム・ハルス/エリザベス・ベリッジ/サイモン・カロウ/ロイ・ドトリス/クリスティン・エバソール/ジェフリー・ジョーンズ/シンシア・ニクソン●日本公開:1985/02●配給:松竹富士●最初に観た場所:新宿ピカデリー(85-05-19)(評価:★★★☆)

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おどろおどろしさは尽きせず、一方でユーモアも。楽しめたけれど、疑問点も。

血ぬられた秀作 dvd.jpg WRITTEN IN BLOOD DVD.jpg      John Nettles.gif Daniel Casey.gif
バーナビー警部~血ぬられた秀作[DVD]」/輸入盤DVD"Midsomer Murders" Written in Blood" DCI.Barnaby(John Nettles)/Sgt.Troy(Daniel Casey ) 
Gerald Hadley(Robert Swann)/Max Jennings(John Shrapnel)
Robert Swann.pngJohn Shrapnel.gif アマチュア作家サークルを主宰するジェラルド・ハドリー(ロバート・スワン)の家で、主人の死体が発見される。サークルでは前夜、プロの作家マックス・ジェニングス(ジョン・シャープネル)を招いて講演会を開いていたが、ジェラルドとマックスの間には緊張感が漂っていた。
Amy Liddiard(Joanna David)/Honoria Lyddiard(Anna Massey)
Joanna.gifAnna Massey.gif マックスを招くことを提案したエイミー(ジョアンナ・デビッド)は、講演会の前にハドリーから「マックスと二人きりにしないでくれ」と懇願されていたが、義姉オノーリア(アンナ・マッセイ)の命令で、やむなく二人だけを残して先に帰っってしまったことを後悔していた。
Brian Clapper(David Troughton)/Edie Carter(Nancy Lodder)
David Troughton.gifNancy Lodder.gif バーナビー警部(ジョン・ネトルズ)は、トロイ巡査部長(ダニエル・ケイシー)と共にサークルの面々に聞き込みに廻るが、ハドリーの素性を訊いいても誰も知らない。サークルのメンバーで中学校で演劇を指導しているブライアン(ディビッド・トロートン)も、事件当時不審な行動をとった一人だが、教え子イーディー(ナンシー・ロデル)に性的行為をしている現場の写真を生徒に撮られてしまって、事件どころではない。
Selina Jennings (Una Stubbs)/Barbara Kneale(Annoushka Le Gallois)
Una Stubbs.gifAnnoushka Le Gallois.gif そうした中、ハドリーに続いて、マックス・ジェニングスも海辺のコテージで遺体となって発見される。マックスの妻のセリーナ(ウナ・スチュブス)や秘書バーバラ(アノーシュカ・ルガロア)の話によれば、彼は海外へ講演旅行に行っていたはずとのことだったが、バーナビーの調べで、彼は出張を装い、愛人であるバーバラとそこで落ち合うことになっていたことが判る。二人を殺した犯人は一体誰なのか―。

空白の一章.jpg この1998年3月本国イギリスでの放映のシリーズ第2話「血ぬられた秀作」(Written in Blood)は、第1話「謎のアナベラ」(1997)がパイロット版であるため、実質、第1シーズン第1話になります(日本初放映は2004年4月。前後編(第3話・第4話)に分けて放映され、当時のタイトルは「小説は血のささやき」)。キャロライン・グレアムによる原作は、2010年になって『空白の一章―バーナビー主任警部』(論創社)として訳出されました。

Midsomer Murders 1998 (British TV Series).jpg ジェラルド・ハドリーはプロ作家マックス・ジェニングスと会うのを嫌がり、それでもサークルのメンバーの総意で彼を呼ぶことになって渋々それに従い、一方、マックス・ジェニングスもジェラルド・ハドリーと会うことを恐れていた―そして、その両方が殺される、という展開にぐぐっと引き込まれます。

 ジェラルド・ハドリーとマックス・ジェニングスの秘められた過去の因縁がカギになるわけですが、より詳しく言ってしまうと、エイミーの義姉オノーリアの亡くなった弟(つまりエイミーの夫だった人物)とジェラルド・ハドリーの関係が過去にあって、それに元精神科医で今や人気作家マックス・ジェニングスが絡んでいたということだったんだなあ。原作ではマックス・ジェニングスは元精神科医ではなく広告代理店勤務。殺されるには至らず、最後、自らの口から、亡くなったエイミーの夫(オノーリアの弟)と殺されたジェラルド・ハドリーの関係を明かします(それをネタに小説を書いて、流行作家の地位を得た...)。

 しかし、ハドリーの過去、凄すぎるなあ。第1話「謎のアナベラ」の近親相姦に続いて、今度は父親殺し(冒頭シーンで暗示されている)にホモセクシュアルに女装癖。しかし話はこれだけにとどまらず、更に真相はエスカレートしていき、もうおどろおどろしさは尽きることを知らないといった感じで、ステーヴン・キングの「シャイニング」か、はたまたヒッチコックの「サイコ」か、といった場面もあります(但し、これは原作通り)。

Written in Blood (1998).jpg バーナビーが捜査の最中に首筋を掻いてばかりいるのは、後の方で、娘から預かったペルシアン・ブルーのお蔭で猫アレルギーを発症していたことが判明します。重厚でゴシック調の暗っぽさも感じられる事件周辺の雰囲気と、バーナビーのこうした家族との暖かいふれあいやユーモラスな様との取り合わせがこのシリーズの妙なのでしょう(娘の猫を預かる話は原作通りだが、猫アレルギーの話は原作には無い)。田園風景の美しさも楽しめました。

 しかし、こんな因縁を持った二人が、嫌々ながらでも会おうとするかなあ。ハドリーの立場からすれば、サークルのメンバーの意見を容れて呼んだのは、潜在的に復讐の意図があったのか(他に候補に挙がって却下されたのが、フレデリック・フォーサイスだったりジェフリー・アーチャーだったりするのが可笑しいが、この両作家名が招聘候補に挙がるのも原作通り)。でも、マックス・ジェニングスの立場からすれば、ノコノコ出向いていくのは意図不明の印象も受けました。

 それに犯人がたまたま過去の真相を知ったタイミングが合っちゃったわけで、事件が複雑になった...。しかも、二人は同じ村に住んでいて、同じサークルに属していた...。これ、ホントに偶然なのか、何か伏線があったのか、よく分からなかったなあ。

 結局、最初一番怪しくて、生徒に嵌められたりした中学校の演劇の先生は、視聴者の推理をミスリードさせるための目くらましだったということになるのでしょうか。それにしても問題アリの生徒たちだなあ。トロイ巡査部長がこの学校に7年間通っていたということは、彼が労働者階級の出身であることを示唆しているのでしょう。

「バーナビー警部(第2話)/血ぬられた秀作(小説は血のささやき)」」●原題:MIDSOMER MURDERS:WRITTEN IN BLOOD●制作年:1998年●制作国:イギリス●本国上映:1998/03/22●監督:ジェレミー・シルバーストン●脚本:アンソニー・ホロヴィッツ●撮影: ナイジェル・ウォルターズ●音楽 : ジム・パーカー●原作:キャロライMidsomer Murders - On the Set - Written in Blooda.jpgン・グレアム●時間:102分●出演:ジョン・ネトルズ/ダニエル・ケイシー/ジェーン・ワイマーク/ローラ・ハワード/バリー・ジャクソン/ロバート・スワン/ジェーン・ブッカー/ローラ・ハットン/ジョアンナ・デビッド/アンナ・マッセイ/ディビッド・トロートン/ジュディス・スコット/ジョン・シャープネル/アノーシュカ・ルガロア/マレーネ・サイダウェイ/ナンシー・ロダー/ティモシー・ベーテソン/ウナ・スチュブス●日本放映:2002/04●放映局:NHK‐BS2(評価:★★★☆)
Midsomer Murders - On the Set - Written in Blood

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おどろおどろしさとユーモア。周辺人物を紹介的に描きながら、二転三転のプロットでも魅せる。

謎のアナベラ.jpgThe Killings at Badger's Drift dvd.jpg 謎のアナベラ01.jpg  「蘭の告発」.jpg
バーナビー警部~謎のアナベラ~ [DVD]」 輸入盤DVD"The Killings at Badger's Drift" 『蘭の告発 (角川文庫)

謎のアナベラ6.jpg 高齢の元教師エミリー・シンプソン(ルネ・アッシャーソン)が自宅で不審死を遂げる。捜査を開始したトム・バーナビー警部(ジョン・ネトルズ)は、年の離れたキャサリン・レイシー(エミリー・モーティマー)との結婚を控えた富豪ヘンリー・トレース(ジュリアン・グローバー)の最初の妻ベラの「事故死」が今回の事件に関係しているのではないかと考える。エミリーの葬儀から幾日もしない内に、今度はレインバード親子(エリザベス・スプリッグス/リチャード・キャント)が何者かに殺され、二人が町のゴシップを収集して金を脅し取っていたことが判明する。
謎のアナベラ3.jpg 殺された時刻に二人の家を訪れていたキャサリンは、ショックを受け結婚式の延期を懇願する。謎のアナベラ4.jpgバーナビーは新たな証拠にもとづき、ヘンリーの義妹フィリスを1995年のベラ殺害容疑で逮捕、フィリスは自白し、拘留中に自殺を遂げる。更に新たな証言を得て、バーナビーはキャサリンの兄で画家のマイケル・レイシー(ジョナサン・ファース)をレインバード親子殺害容疑で逮捕、マイケル宅からは凶器の刃物も発見される。事件はこれで解決したかに思われたが、新たな証言でマイケルのアリバイが成立し、彼は釈放される。エミリー及びレインバード親子を殺した真犯人は誰なのか―。

謎のアナベラ1.jpgThe Killings at Badger's Drift.jpg 原作は、イギリスの女流推理作家キャロライン・グレアム(Caroline Graham)による、イングランド中部の田舎町のコーストン警察の犯罪捜査課に所属するバーナビー警部のシリーズで、原作シリーズの第1作『蘭の告発』(The Killings at Badger's Drift、1987)が、このジョン・ネトルズ(John Nettles)主演のTVシリーズの第1話(正確にはパイロット版)の「謎のアナベラ」として映像化され、バーナビー警部のシリーズのスタートとなりました(本国放送1997年3月、本邦初放映は2002年4月にBS‐2で前後編(第1話・第2話)に分けて放映され、その際のタイトルは「森の蘭は死の香り」)。

謎のアナベラ2.jpg 連続殺人事件とそれに纏わる村の奇妙な人々、そして謎めいた兄妹―と、おどろおどろしい雰囲気満載でありながらも、バーナビー警部と部下のトロイ巡査部長(ダニエル・ケイシー)とのユーモラスな会話や、警部と妻ジョイス(ジェーン・ワイマーク)や一人娘カリー(ローラ・ハワード)とのホームドラマ的な遣り取りなどのバランスが絶妙で、この一話でもってバーナビー警部が好きになった視聴者も多いのではないでしょうか。海外でも当シリーズ作品の人気投票で、この第1話「The Killings at Badgers Drift」が1位にくることが圧倒的に多いようです。

 原作者のキャロライン・グレアムは、この原作『蘭の告発』で、地味ながら日本でも一部で評判になりましたが、英国ITVが試験的に単発ドラマ化したこの作品が好評を博し、翌年からシリーズ化されて、それがNHKのBS2で2002年4月から12月にかけて、第3シリーズ第13話まで放映されたことで、日本でも一般によく知られるようになった―という流れかと思います。

The Killings at Badger's Drift 原作.jpg 原作は7作ぐらいしかないようですが(しかも、邦訳されているのは2013年現在3作のみ)、トム・バーナービーを主人公としたTVシリーズの方は2011年まで13シーズン81作作られ、実質的には早い段階で脚本家アンソニー・ホロヴィッツによるシリーズになったと言えます。
 但し、この第1話に関しては、マカヴィティ賞最優秀処女長編賞の原作に比較的忠実に作られているとのことで、二転三転する事件の展開が楽しめました。第1話として、ミッドサマーにおけるバーナビーの周辺人物を紹介的に描きながらも、同時にこれだけの凝ったプロットで魅せるのは上手いし、また、なかなかのテンポの良さとも言えます。

 この映像化作品で観ると、論理的に筋立てて説明することは出来ないけれど、途中から何となく犯人の見当はつくといった感じで、但し、どこでその確証が得られるかが見所といった感じでしょうか。いきなり思いがけない真犯人が登場するよりも、こうした展開の方が個人的には好みだったりします。それでも謎解きは刺激的なものでした(珍しい蘭の採取に行った元教師エミリーは見たものは...なるほどネ。ラストのマイケルの描いた妹の絵は絵画と言うよりピンナップみたいだった)。

Midsomer Murders Barnaby's Top 10.jpg このTVシリーズ、トム・バーナビー警部引退後は、従兄弟にあたるジョン・バーナビー警部に主役が交替して、2012年末までで新たに2シーズン(通算15シーズン92話まで)が作られています。
 タイトルバックで分かりますが、架空の田舎町コーストンを中心としたミッドサマーで起きた事件を扱っているため「MIDSOMER MURDERS」というのが元々のシリーズ名です。ミッドサマーでの殺人事件発生率、スゴイことになってるなあと。

 先にも述べたように、このシリーズ、本国では多くのファンがベストエピソードの選出を行っていますが、主演のジョン・ネトルズ自身が様々な見地から選んだベスト10というのがあって、それらがまとめてDVDになっています(Midsomer Murders: Barnaby's Top 10)。

"Midsomer Murders: Barnaby's Top 10 [DVD] [Import]"(輸入盤)

●THE TOP TEN(ジョン・ネトルズ自身が様々な見地から選んだ)
 ・How It All Began: The Killings at Badger's Drift 第1話・謎のアナベラ(森の蘭は死の香り)
 ・Favorite Story Line: Blue Herrings 第11話・美しすぎる動機(ラストダンスは天国で)
 ・Favorite Leading Lady: A Worm in the Bud 第21話・セトウェル森の魔
 ・Best Location: Dark Autumn 第18話・時代遅れの殺意
 ・Funniest Moments: Dead Man's Eleven 第8話・不実の王(採石場にのろいの叫び)
 ・Most Intriguing Crime: Death of a Hollow Man 第3話・劇的なる死(開演ベルは死の予告)
 ・Most Difficult to Film: The Electric Vendetta  第16話・UFOの殺人
 ・Most Dramatic Episode: Murder on St. Malley's Day  第23話・デヴィントン学院の闇
 ・Most Bizarre Episode: A Talent for Life 第24話・黄昏の終末
 ・Favorite Episode: Strangler's Wood 第7話・首締めの森(カラスの森が死を招く)

Midsomer Murders 1997 (British TV Series).jpg「バーナビー警部(第1話)/謎のアナベラ(森の蘭は死の香り)」●原題:MIDSOMER MURDERS:THE KILLINGS AT BADGER`S DRIFT●制作年:1997年●制作国:イギリス●本国上映:1997/03/23●監督:ジェレミー・シルバーストン●脚本:アンソニー・ホロヴィッツ●撮影: ナイジェル・ウォルターズ●原作:キャロライン・グレアム「蘭の告発」(バジャーズドリフトの殺人)●時間:120分●出演:ジョン・ネトルズ/The Killings at Badger's Drift start.jpgEmily Mortimer  .jpgEmily Mortimer.jpgジョナサン・ファース/エミリー・モーティマーダニエル・ケイシー/ジェーン・ワイマーク/ローラ・ハワード/バリー・ジャクソン/ルネ・アッシャーソン/ロザリー・カーチレイ//ジュリアン・グローバー/セリーナ・カデル/クリストファー・ヴィリエ/リチャード・キャント/エリザベス・スプリッグス/ビル・ウォリス/ダイアナ・ハードキャッスル/ジェシカ・スティーブンソン/バーバラ・ヤング/アブリル・エルガー●日本放映:2002/04●放映局:NHK‐BS2(評価:★★★★) Emily Mortimer

John Nettles & Daniel Casey 
バーナビー警部.jpg「バーナビー警部」 title.jpg「バーナビー警部」MIDSOMER MURDERS (ITV1 1997~2011) <○日本での放映チャネル:NHK‐BS2(2002~)/ミステリチャンネル/AXNミステリー
出演:ジョン・ネトルズ/ダニエル・ケイシー/ジェーン・ワイマーク/ローラ・ハワード/バリー・ジャクソン

●THE MIDSOMER MURDERS 'FAVOURITE EPISODES' POLL(RESULTS OF VOTING AS AT 13TH JAUARY 2009)
 ・1位 The Killings at Badgers Drift 第1話・謎のアナベラ(森の蘭は死の香り) - 288 votes
 ・2位 Judgement Day 第12話・審判の日(人形の手に血のナイフ) - 130 votes
 ・3位 Ring Out Your Dead 第22話・死を告げる鐘 - 113 votes
 ・4位 Death & Dreams 第25話・背徳の絆 - 99 votes
 ・5位 Death's Shadow 第6話・秘めたる誓い(少年時代は秘密のベール) - 98 votes
 ・6位 Ghosts of Christmas Past 第35話・錯覚の証明 - 85 votes
 ・7位 Written in Blood 第2話・血ぬられた秀作(小説は血のささやき) - 80 votes
 ・8位 Dark Autumn 第18話・時代遅れの殺意 - 76 votes
 ・9位 Dead Man's 11 第8話・不実の王(採石場にのろいの叫び) - 71 votes
 ・10位 The Straw Woman 第34話・炎の惨劇 - 66 votes

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細かい改変点は多々あるが、結局、意外と原作に忠実だったのかも。

蒼ざめた馬 dvd.jpg アガサ・クリスティー・コレクション 蒼ざめた馬.jpg 蒼ざめた馬 1997 axn.jpg
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マーク・イースターブルック(コリン・ブキャナン)
蒼ざめた馬マーク コリン・ブキャナン.jpg ゴーマン神父(ジョフリー・ビーヴァーズ)が、臨終間際のデーヴィス夫人(トリシア・ソーンズ)から紙片を渡されたすぐ後に路上で撲殺され、偶然現場に駆け付けた彫刻家のマーク・イースターブルック(コリン・ブキャナン)は、容疑者にされてしまう。レジューン警視(トレヴァー・バイフィールド)はマークが犯人と決め付けるが、コリガン警部補(アンディ・サーキス)は他の犯人を探っている。マークは自らの無実を証明するため、神父の持っていた紙片に書かれた人物の名前の謎を探るべく、女友達ハーミア(ハミオネ・ノリス)の友人、金持ちのティリー(アンナ・リヴィア・ライアン)を訪ねるが、訪問の翌日に彼女は死ぬ。医師オズボーン(ティム・ポッター)は病死としたが、彼女の親友だったケイト・マーサ(ジェイン・アッシュボーン)は、ティリーは何かにおびえていたと言う。村の「蒼ざめた馬」という屋敷に住むチルザ(ジーン・マーシュ)・シビル(ルース・マドック)・ベラ(マギー・シェヴリン)の三老女は、『マクベス』の魔女さながらに悪魔を呼び出す黒魔術を行っているという噂であり、歩けない名画蒐集家ヴェナブルス(マイケル・バイアン)の用心棒リッキー(ブレッティ・ファンシー)は神父殺害事件の夜、マークが見かけた男だった。
ケイト・マーサ(ジェイン・アッシュボーン)
蒼ざめた馬ケイト ジェーン・アッシュボーン.jpg 紙片の名前の主はみな自然死として死んでいることが判明し、しかも遺産は全て1人か2人に贈られていることから、マークは人を呪い殺す請負業があることを察する。弁護士ブラッドリー(レスリー・フィリップス)を通して、蒼ざめた馬の魔女たちが呪術を行うのだが、本当に人を呪い殺すことが可能なのか。マークはケイトと相談し、ケイトを囮にして犯人を導き出す計画を実行する。ティリーの遺産を受け継いだ叔母フロレンス(ルイ・ジェイムソン)も溺死し、娘ポピー(キャサリン・ホルマン)はおびえる。そしてケイトも、友人ドナルド(リチャード・オーキャラハン)の厳重な見張りにも関わらず、消費者動向調査員(ウェンディ・ノッティンガム)やガス会社の点検員の訪問以降、髪の毛が抜けて弱っていく―。

蒼ざめた馬 アガサ・クリスティ ハヤカワ文庫 2ー.jpg 原作は、1961年にアガサ・クリスティ(1890‐1976)が発表した作品で(原題:The Pale Horse)、ポアロもマープルも登場しないノン・シリーズもの。この映像化作品は、1997年制作のグラナダTV版です(VHS販売時のタイトルは「魔女の館殺人事件」)。

The Pale Horse 1997 e2.gif 原作でのマーク・イースターブルックはムガール建築の本を執筆中の歴史学者ですが、本作では建築家になっていて、神父の死体の第一発見者ということで、第一容疑者にされてしまいます。その彼の保釈金を払ってくれたのが、原作の女友達ハーミアで、この映像化作品では、ハーミアは大金持ちで、マークはその"ヒモ"的存在になっているなあ。

 原作で、マークと共に事件を探ることになる女友達のジンジャーは、病死したティリーの友達ケイト・マーサに置き代わっていますが、犯人の囮となるのは原作と同じで、マークと新たに知り合った女性との親密度が増すにつれてマークとハーミアの関係が解消されていく点なども原作と同じ。

AGATHA CHRISTIE'S THE PALE HORSE dvd.jpg 原作のマークの旧友で「警察医」のコリガンは「警部補」に置き代わっていて、マークを疑い続けるレジューン警視の下、このまでは自分の出世もおぼつかないと、独自にマークらと接触を図ります(マークとは初対面)。

 原作で、神父殺害現場でヴェナブルスを目撃したと絶対的自信をもって主張する「薬剤師」のオズボーンは、ティリーの死を病死としたオズボーン「医師」に。

 名画蒐集家のヴェナブルスが、車椅子生活を装いながら「実際は歩けた」という話は原作にはありませんが(その分、思いっきり怪しい存在になっているけれど)、結局彼は原作同様、銀行強盗には絡んでいたものの、連続殺人事件には絡んでいなかったということなのでしょう(コリガン警部補は彼を殺人容疑で逮捕してしまうのだが)。

 細かい改変点は多々ありますが、結局、プロット的には意外と原作に忠実だったのかもしれません。最後のマークとジンジャーのために仲間たちが設定したゴーゴー・パーティシーンは楽しいけれども(太縁メガネのコリガン警部補も一緒に踊っている。被疑者と刑事の垣根を越えた同世代共闘がモチーフだったわけか)、振り返ってみて、マークがどこで真犯人に気付いたのかがよく分からなかったなあ。
    
ダルジール警視.jpg蒼ざめた馬 1997 洋dvd.jpg マークを演じたコリン・ブキャナンは、この作品の前年から、BBCのレジナルド・ヒル原作の「ダルジール警視」シリーズに、ウォーレン・クラーク演じるダルジール警視の配下のパスコー刑事役で出ています。

輸入盤DVD

The Pale Horse (1997)
蒼ざめた馬 1997 op.jpg
「アガサ・クリスティ/青ざめた馬(魔女の館殺人事件)」」●原題:AGATHA CHRISTIE`S THE PALE HORSE●制作年:1997年●制作国:イギリス/アメリカ●本国放映:1997/12/23●監督:チャールズ・ビーソン●脚本:アルマ・カレン●撮影:ビトルド・ストック●音楽:コリン・タウンズ●時間:日本放映版102分●出演:コリン・ブキャナン/ジェーン・アッシボーン/レスリー・フィリップス/ハーモインヌ・ノリス/マイケル・バーン/ジーン・マーシュ/アンディ・サーキス/ティム・ポッター●VHS発売:1997/04●発売元:ビデオメーカー(評価:★★★☆)

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概ね原作に忠実だが、元が暗い話だからなあ。

ミス・マープル 魔術の殺人 dvd.jpg ミス・マープル/魔術の殺人 1991 dvd.jpg 魔術の殺人 01.jpg 魔術の殺人 ハヤカワ文庫.bmp
ミス・マープル 第9巻 魔術の殺人 [DVD]」「ミス・マープル[完全版]VOL.10 [DVD]

魔術の殺人 00.jpg ミス・マープル(ジョーン・ヒクソン)は女学校時代の友人ルース・ヴァン・ライドック夫人(フェイス・ブルーク)から、ルイス・セラコールド(ジョス・エイクランド)に嫁いだ妹キャロライン(キャリー)・ルイーズ(ジーン・シモンズ)のことが心配なので様子を見に行ってくれるよう頼まれる。ルイスは自邸の敷地内で私営の少年更正施設を運営している。ルイスの秘書のエドガー(ニート・スウェッテンハム)が駅にマープルを迎えに来るが、キャリーの養女ジーナ・ハッド(ホリー・エアド)がマープルを車に乗せて屋敷へ。ジーナは、アメリカ人のウォルター(トッド・ボイス)と結婚しており、キャリーの二番目の夫の次男スティーヴン・レスタリック(ジェイ・ヴィリアーズ)が、施設内で少年同士の喧嘩が起きた際に及び腰で止めようとしなかったのを、ウォルターが止めさせる。エドガーは孤THEY DO IT WITH MIRRORS 01.jpg児で、自分は正当に評価されていないと思い込んでおり、自分の本当の父親はチャーチルだとマープルに真面目に言う。キャリーの最初の夫(故人)の連れ子で、ガルブランドセン財団の管理者であるクリスチャン・ガルブランドセン(ジョン・ボット)が急に屋敷を訪れ、ルイスと何やら話し合っている。ある晩、ルースが持参した女学校時代の16mmフィルムの映写会にエドガーが銃を持って乱入、ルイスとエドガーが書斎に籠ってルイスが書斎で宥めている間に銃声がし、映写会に顔を見せず別の部屋でタイプを打っていたクリスチャンが射殺体で発見される。ロンドン警察からスラック警部(ディヴィッド・ホロヴィッツ)やレイク警部補(イアン・ブリンブル)が乗り込んでくる。映写会の日に帰省したスティーヴンの兄アレックス・レスタリック(クリストファー・ヴィリアーズ)は、弟スティーヴンと共にジーナに気があり、二人ともウォルターの前で平気でジーナに言い寄る。施設の少年が事件当夜何かを目撃したと言う話をスティーヴンから聞いたアレックスは、刑事のふりをして少年から話を聞こうとするが―。

魔術の殺人 hpm2.jpg魔術の殺人 クリスティー文庫.jpg BBC版ジョーン・ヒクソン(Joan Hickson、1906‐1998)主演のミス・マープルシリーズ全12話の内の第11話(本国放映は1991年)で、原作はアガサ・クリスティ(1890‐1976)の、1952年に発表されたミス・マープルシリーズの長編第5作They Do It with Mirrors (米 Murder with Mirrors)。

 このジョーン・ヒクソン主演のテレビシリーズ、概ね原作に忠実ですが、第11話ともなると若干遊びの要素も入れた方がいいと思ったのか、スラック警部が密かに素人手品に凝っていたりし(タイトルの「魔術」に懸けたのか)、一方で、原作にあるルイスの祖母の話(夫殺しの罪で絞首刑になった)などといった暗すぎる話はほぼ割愛されています。ジュリア・マッケンジー主演のグラナダ版('09年)はその逆を突いたのかどうかわかりませんが、この部分を前面に出しています(結果的にどろっとした感じに)。
 
Joan Hickson THEY DO IT WITH MIRRORS 1991.jpg 犯行が行われた際のフィルム上映会も原作には無く、但し、グラナダ版ではルイスが施設内でやる予定の演劇の練習発表会になっていて、ルイスが何とインディアンの酋長の恰好で出てくるので、まだこちらのジョーン・ヒクソン版の改変は穏やかな方だったか。

 犯人の末路は原作と同じですが、原作ではジーナからマープルへの手紙の中で後日譚として語られるのに対し、この映像化作品では、マープルが犯人を突き止めた直後の出来事として描かれており、まあこの辺りは、映像化するならば流れでこうなるのかなあと。

 ヒロインであるジーナの演じられ方が原作のイメージと違ったのと(快活と言うよりあばずれ。好きになれない)、ジーナとウォルターの後日譚が欠落していることもあって(この部分がこの作品の救いとなるはずなのだが)、個人的評価は星3つ(元が暗い話だからなあ)。

スラック警部2.jpg スラック警部がミス・マープルに一言だけあなたに言いたいことがあると言って、何を言うのかと思ったら、ぎこちなく「ありがとう」と。そうか、スラック警部の「手柄」になっているのかと思いつつも、このシーンは悪くなかったです(続く、シリーズ最終話となった第12話「鏡は横にひび割れて」でスラック警部は「警視」に昇進している)。

Miss Marple   They Do It With Mirrors.jpg「ミス・マープル(第11話)/魔術の殺人」●原題:THEY DO IT WITH MIRRORS●制作年:1991年●制作国:イギリス●本国放映:1991/12/29●演出:ノーマン・ストーン●脚本:T・R・ボーウェン●時間:日本放映版93分(完全版204分)●出演:ジョーン・ヒクソン/ジーン・シモンズ/フェイス・ブルーク/ホリー・エアド/ジェイ・ヴィリアーズ/ニート・スウェッテンハム/ジェイ・ヴィリアーズ/ジョン・ボット/クリストファー・ヴィリアーズ/デビッド・ホロビッチ/イアン・ブリンブル/ギリアン・バージ●日本放映:1997/03/14●放映局:テレビ東京(評価:★★★)

Miss Marple :They Do It With Mirrors
  

「●よ 吉田 修一」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【2076】 吉田 修一 『愛に乱暴
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ストーリーが巧みでテンポも良いい。敢えて通俗、通俗だから面白いのでは。

太陽は動かない 吉田修一.jpg吉田修一氏.jpg エントラップメント01.jpg ラストエンペラー02.jpg
 吉田 修一 氏  「エントラップメント [DVD]」ショーン・コネリー/キャサリン・ゼタ=ジョーンズ 「ラストエンペラー ディレクターズ・カット (初回生産限定版) [DVD]」ジョン・ローン/ジョアン・チェン

太陽は動かない』(2012/04 幻冬舎)

『太陽は動かない』5.JPG 表向きはアジア各地のファッションやリゾート情報などを扱う小さなニュース通信社だが、裏では「産業スパイ」としての顔を持つAN(アジアネット)通信情報部の鷹野一彦は、油田開発利権にまつわる機密情報を入手し高値で売り飛ばすというミッションのもと、部下の田岡と共にアジア各国企業の新油田開発利権争いの渦中で起きた射殺事件の背後関係を探っていた。鷹野は、企業間の提携交渉の妨害を意図したウイグル反政府組織による天津スタジアム爆破計画天津スタジアム.jpg情報を入手、その詳細を突き止めるため、闇社会に通じている雑技団団長・張豪(ジャンハオ)の紹介で、首謀者シャマルに会うが交渉は決裂、更に、商売敵デイビッド・キムや謎の女AYAKOが暗躍し、中国国営エネルギー巨大企業CNOX(中国海洋石油)が不穏な動きを見せる中、田岡が何者かに誘拐されたため、張豪の部下である張雨(ジャンユウ)と共に、彼が拉致されていると思われる天津へと飛ぶ―。

天津スタジアム

 スパイ小説ですが、その舞台が「ポスト原発」と呼べる状況にある国際的なエネルギー市場であるところが現代風で、油田開発の利権争いの一方で、日本の無名の技術者が、従来のものとは比較にならない高性能の太陽光発電のパネルを開発した―というのが、何となく夢があっていいなあと。

 お膳立てが揃ってしまえば、後は、政治家、日本企業、中国多国籍企業、CIAなどの様々な組織の利害関係が複雑に絡み合ってのノンストップ・アクション風―ということで、ストーリー・テイリングも巧みだし、実際にテンポも良くて428ページ一気に読めました。

 作者は文芸作家としてデビューし、芥川賞も受賞していますが、『パレード』にはミステリの要素もあったし、『悪人』もエンタテイメント要素はあったように思います。

 この作品に対しては、『悪人』など比べると人物の描き方に深みが無いとの批評も多くありますが、"純粋エンタテイメント"として読めば、それでいいのではないかと思いました。『悪人』とは根本的にテーマもモチーフも異なる作品。敢えて通俗、通俗だから面白いのではないかと。

 日本が"スパイ天国"であるとは、随分と以前から言われていることですが、「スパイ小説」となると、劇画に出てくるような怪しげな外国人が大勢登場して何となく胡散臭いものになりがちという気もし、この作品についてもそのことが言えなくもないけれど、筆の運びの上手さで(さすが芥川賞作家?)、あまりそうしたことに疑念を挟まずにどんどん読めてしまいました。

 最後まで日本人中心であるというのもよく、産業スパイという設定は、日本人を主人公とするのに適しているのかも―と思ったりもしました。

2020年映画化「太陽は動かない」(公開は2021年)
羽住 英一郎(原作:吉田修一)「太陽は動かない」 (2020/05 → 2021/03 ワーナー・ブラザース映画) ★★★☆
太陽は動かない  2021.jpg 太陽は動かない 2.jpg 


「エントラップメント」1.gifエントラップメント03.jpg アクション風ということで、「ミッション:インポッシブル」 ('96年/米)など想起させられる映画が幾つかありましたが、金だけのために敵になったり味方になったりし、それが鷹野とAYAKOという男女間で展開するところは、個人的にはジョン・アミエル監督の「エントラップメント」('99年/米)を想起しました(この系統は「泥棒成金」('55年/米)や「華麗なる賭け」('68年/米)以来、連綿とあるが)。

「エントラップメント」3.gif AYAKOのイメージは、「エントラップメント」で主人公の美術泥棒役のショーン・コネリーと共演し、主人公と様々な駆け引きを繰り広げる保険会社調査員役のキャサリン・ゼタ=ジョーンズかな。ゼタ=ジョーンズの方がよりアクション系で、主人公の相方(弟子?)的立場になったりし、その間、ショーン・コネリーに若干惹かれ気味になったりするんだけど、ラストは...。

峰不二子.jpg キャサリン・ゼタ=ジョーンズはこの作品でゴールデン・ラズベリー賞の最低主演女優賞にノミネートされていますが(すごくいいと言うほどでもないが、そんなに悪くもなかったと思う)、この『太陽は動かない』も、仮に映画化されるとすると、鷹野やAYAKOを演じきれる役者はあまりいないように思います(巷ではAYAKOは「ルパン三世」の峰不二子が相応しいとの声を聞くが、いきなりアニメに行っちゃうのか)。

 「金だけのために」とか言いつつ、主要な登場人物たちがそれぞれに"貸し借り"に律義で(反政府組織の女性指導者までもが)、ラストのデイビッド・キムの登場などには友情めいたものさえ感じられるという、何だか綺麗に出来過ぎた話ですが、カタルシス効果はあったように思います("カタルシス効果"と言うより"読後感の爽やかさ"か)。

 それにしても、作者に関しては、芸域、広いなあという感じ。普段からエスピオナージをよく読み、その分野を読みつけている人から見れば突っ込みどころの多い作品かも知れないし、従来の作者の作品の世界に馴染んだ人から見れば、人物の描き方がステレオタイプだとかいった評価になるのかも知れないけれど、個人的には、とにかく面白く読めたため、そのことを素直に認めてのほぼ5つ星評価―ミステリ界でどういった評価になるのか気になります(「文芸作家は自分たちの領域に立ち入らんでくれ」と言うほど閉鎖的ではないとは思うが)。

静園.jpg 因みに、作者は映画「ラストエンペラー」('87年/イタリア・中国・イギリス)の大ファンということで、版元のサイトによれば本書執筆のため2011年5月に3泊4日という強行スケジュールで、北京→天津→内モンゴル自治区を行く取材旅行し(編集者同行)、北京では紫禁城を、この作品の前半の主要な舞台となる天津では溥儀が暮らしていた邸宅「静園」なども訪問したそうですが、そうしたモチーフはこの作品には織り込まれていなかったなあ(純粋に溥儀の家を見たかったということか)。

「静園」(天津市)

ラストエンペラー01.jpg ベルナルド・ベルトリッチ(最近はベルトルッチと表記するみたい)監督の「ラストエンペラー」は、アカデミー賞の作品・監督・脚本・撮影・美術・作曲など9部門を獲得した作品で(ゴールデングローブ賞作品賞も)、紫禁城で世界初の完全ロケ撮影を行うなど前半のスペクタクルに比べ、ジョン・ローンが演じる庭師になった元・皇帝が、かつて自分が住んでいた城に入場料を払って入るラストが侘しかったです。
 
『ラストエンペラー』(1987).jpg 2時間43分という長尺でしたが、実はこれでも3時間39分の完全版を劇場公開用に短縮したものであり、そのため繋がりの良くないところもあって、個人的には星3つ半の評価でした(これ、有楽町マリオン別館内の「丸の内ルーブル」で観たけれど、たまたま天井の可動式シャンデリアの真下に座ったので、最初それが気になったのを憶えている)。その後、今世紀に入って完全版のDVDが発売されていますが未見。完全版を観れば評価が変わるかもしれません。

 同監督作品では、「1900年」('76年)の方が質的に上のように感じましたが、こちらは、5時間16分の完全版を観ることが出来たというのも影響しているかもしれません(普段は3本立の「三鷹オスカー」で1本のみ上映)。

エントラップメント dvd.jpg「エントラップメント」2.gif「エントラップメント」●原題:ENTRAPMENT●制作年:1999年●制作国:アメリカ●監督:ジョン・アミエル●製作:ショーン・コネリー/マイケル・ハーツバーグ/ロンダ・トーレフソン●脚本:ロン・バス/ウィリアム・ブロイルズ●撮影:フィル・メイヒュー●音楽:クリストファー・ヤング●原案:ロン・バス/マイケル・ハーツバーグ●時間:113分●出演:ショーン・コネリーキャサリン・ゼタ=ジョーンズ/ヴィング・レイムス/ウィル・ パットン/モーリー・チェイキン/ケヴィン・マクナリー/テリー・オニール/マッドハヴ・ シャーマ/デヴィッド・イップ/ティム・ポッター/エリック・メイヤーズ/アーロン・スウォーツ●日本公開:1999/08●配給:20世紀フォックス(評価★★★)

The Last Emperor(1987)
The Last Emperor(1987).jpg「ラストエンペラー 劇場公開版.jpg「ラストエンペラー」●原題:THE LAST EMPEROR●制作年:1987年●制作国:イタリア・中国・イギリス●監督:ベルナルド・ベルトリッチ●製作:ジェレミー・トーマス●脚本:ベルナルド・ベルトルッチ/マーク・ペプロー●撮影:ヴィットリオラストエンペラーdvd.png・ストラーロ●音楽:坂本龍一●時間:163分(劇場公開版)/219分(オリジナル全長版)●出演:ジョン・ローン/ジョアン・チェン/ピーター・オトゥール/坂本龍一/ケイリー=ヒロユキ・タガワ/デイヴィッド・バーン/コン・スー/ヴィヴィアン・ウー/ヴィクター・ウォン/デニス・ダン/イェード・ゴー/マギー・ハン/リック・ヤング/ウー・ジュンメイ/英若誠/リサ・ルー/ファン・グァン/立花ハジメ/坂本龍一/高松英郎/池田史比古/陳凱歌(カメオ出演)●日本公開:1988/01●配給:松竹富士●最初に観た場所:丸の内ルーブル (88-04-23)(評価:★★★☆)
丸の内ルーブル.jpg丸の内ルーブル シャンデリア.jpg丸の内ピカデリー3の看板.jpg 丸の内ルーブル 1987年10月3日「有楽町サロンパスルーブル.jpgマリオン」新館7階に5階「丸の内松竹」とともにオープン(2005年12月~2008年11月「サロンパス ルーブル丸の内」) 2014年8月3日閉館(「丸の内松竹」は1996年6月12日~「丸の内ブラゼール」、2008年12月1日~「丸の内ピカデリー3」) 

丸の内ピカデリー3.jpg「丸の内ルーブル」シャンデリア.jpg丸の内ルーブルの巨大シャンデリア

【2014年文庫化[幻冬舎文庫]】

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ディズニーにおける「夢と愛の物語」「アメリカの新たな民話」の作り方が窺えた。

ディズニーの魔法.jpg     白雪姫 dvd.jpg  スノーホワイト マイケル・コーン.jpg   美女と野獣 DVD.jpg 
ディズニーの魔法 (新潮新書)』「白雪姫 [DVD]」「スノーホワイト [DVD]」「美女と野獣 スペシャル・エディション (期間限定) [DVD]

 メディア論が専門の著者が、ディズニーの名作アニメについて原作の物語とアニメとの違いを分析することで、ディズニー・アニメというものが、「本当は怖い」話をいかにして「夢と愛の物語」に変え、「アメリカの新たな民話」を作り上げていったかを探るとともに、その背後にあるディズニーの思想とでもいうべきものを探った本であり、面白い試みだと思いました。

 取り上げられているのは以下の長編アニメーション6作。
・「白雪姫(白雪姫と七人の小人」('37年)/原作:『グリム童話』収録「白雪姫」(1812)
・「ピノキオ」('40年)/原作:コッローディ作の童話『ピノッキオの冒険』(1883)
・「シンデレラ」('50年)/原作:シャルル・ペロー『過ぎし昔の物語ならびに教訓』収録「サンドリヨン」(1697)、『グリム童話』収録「灰かぶり姫」
・「眠れる森の美女」('59年)/原作:シャルル・ペロー『過ぎし昔の物語ならびに教訓』収録「眠れる森の美女」(1697)、『グリム童話』収録「いばら姫」
・「リトル・マーメイド」('89年)/原作:アンデルセン『お話と物語』収録「人魚姫」(1837年)
・「美女と野獣」('91年)/原作:ボーモン夫人『美女と野獣』(1758年)

 これらについて、まず原作のあらすじを紹介し、続いてディズニーはどのようにオリジナルを作り変えたかを解説する形式で統一されているため読み易く、改変点に関する、これまで知らなかった知識が得られること自体が楽しいです。

 原作となった古典童話は、桐生操氏の『本当は恐ろしいグリム童話』('98年/ベストセラーズ)シリーズで広く知られるようになったオリジナルのグリム童話をはじめ、残酷で暴力的で、しばしば猟奇的、倒錯的でもあり、例えば「白雪姫」は最後に継母に残酷な仕返しをするし、『ピノッキオの冒険』では「喋るコオロギ」はピノッキオに木槌で叩き殺され、グリムの「灰かぶり姫」では、意地悪な連れ子姉妹が「金の靴」を無理に足に押し込むため、それぞれ足先と踵を切り落として歩けなくなる―。

 ペローの「眠れる森の美女」では、美女は100年以上も眠っていたため年齢も100歳以上になっているはずであり(王子は生きた白雪姫ではなくその死体と恋に落ちている)、アンデルセンの「人魚姫」は人間との恋を実らせることが出来ずに海の泡になってしまい、ボーモン夫人の『美女と野獣』に登場する「野獣」は、こちらはむしろディズニー版のそれより思慮深く優しいとのこと。

 まあ、原作のままのストーリーではファミリー向けにならないものが殆どであり、改変はしかるべくして行われたようにも思いますが、さらに突っ込んで、その背景にある当時のアメリカ社会の状況やディズニー文化の指向性などを社会学・文化学的に考察しており、但し、あまり堅くなり過ぎず、制作や改変の経緯にまつわるエピソードなども織り交ぜ(その部分はビジネス・ストーリー風とも言える)、改変点に関するトリビアな知識と併せて、コンパクトな新書の中に裏話が満載といった感じの本でもあります。

 ディズニーは、原作を改変することでそこに愛と感動、夢と希望を込め、当時の観客に合ったものに作り変えていったわけで、それを、ドロドロした原作のキレイな上澄み液だけを掬って換骨脱胎したと批判しても仕方がない気がしますが、ディズニー作品を契機にそれらの原作に触れることで、原作の持つグロテスクな雰囲気を味わってみるのもいいのでは(実態としては原作もディズニー作品の内容そのものであると思われているフシがあるが)。

白雪姫 1937.jpg 個人的には、映画「白雪姫」を観て、これがディズニーの最初の「長編カラー」アニメーションですが、1937年の作品だと思うとやはりスゴイなあと。白雪姫や継母である后の登場する場面は実際に俳優を使って撮影し、その動作を分解して絵を描くという手法はこの頃からやっていたわけです。因みに、7人の小人は、原作ではゴブリン(ドラクエのキャラにもある小鬼風悪魔)であるのに対し、ディズニーによって、サンタクロースのイメージに変えられたとのことです。

白雪姫 1937 2.jpg 原作では、王子が初めて白雪姫に合った時、姫は死んでいたため、本書では、王子はネクロフィリア(死体に性的興奮を感じる異常性欲)であるとしています(半分冗談を込めてか?)。ディズニー版では王子を最初から登場させることで純愛物語に変えていますが、原作の基調にあるのは、白雪姫の后に対する復讐物語であり(結婚式で、継母=魔女は真っ赤に焼けた鋼鉄の靴を履かされて、死ぬまで踊り続けさせられた)、ヒロインが自分の婚礼の席で、自分を苛め続けてきた義姉妹の両眼を潰して復讐する「シンデレラ」の原作「灰かぶり姫」にも通じるものがあります。

 「この映画をディズニーが実写でリメイクするという話がある」と本書にあるのが、ルパート・サンダーズ監督によるシャーリーズ・セロンが継母の后を演じた「スノーホワイト」('12年)ですが、ダーク・ファンタジーを指向しながらも、やはりディズニー・アニメの枠内に収まっているのではないかな(評判がイマイチで観ていないけれど、白雪姫より継母の方が美女であるというのは、シャーリーズ・セロンの注文か?)。

snowwhite 1997 3.jpgsnowwhite 1997  1.jpg むしろ、本書にも紹介されている、シガーニー・ウィーヴァーが継母の后を演じたTV実写版「スノーホワイト」('97年)が比較的オリジナルに忠実に作られている分だけ、よりホラー仕立てであり、'99年の年末の深夜にテレビで何気なく見て、そのダークさについつい引き込まれて最後まで観てしまいました。これ、継母が完全に主人公っぽい。ホラー風だがそんなに怖くなく、但し、雰囲気的には完全に大人向きか(昨年('12年)テレビ東京「午後のロードショー」で再放映された)。

 著者は、「ビートルジュース」「バットマン」「ナイトメアー・ビフォア・クリスマス」のティム・バートン監督がディズニーで働いていたことがあるので、彼に頼めばいいものができるだろうと―(ティム・バートンは、本書刊行後に、ジョニー・デップ主演でロアルド・ダール原作の「チャーリーとチョコレート工場」('05年)を撮った。やや不気味な場面がありながらもコミカル調で、原作(続編を含めた)通りハッピーエンド)。「ナイトメアー・ビフォア・クリスマス」の脚本家キャロライン・トンプソンが監督したTV版「スノーホワイト/白雪姫」もあり('01年/米)、こちらもちょっと観てみたい気も。

ガストン.jpg美女と野獣 01.jpg 本書の最後に取り上げられている「美女と野獣」は、個人的には90年代のディズニー・アニメの頂点を成している作品だと思うのですが、原作では、ヒロインであるベルは妬み深い二人の姉に苛められていて、グリムの「灰かぶり姫」のような状況だったみたいです。ディズニー・アニメでは、この姉たちは出てこず、代わりに、強引にベルに言い寄るガストンなる自信過剰のマッチョ男が出てきますが、これは、グリムのオリジナルには全く無いディズニー独自のキャラクター。

美女と野獣 02.jpg 本書によれば、オリジナルは、ベルの成長物語であるのに対し、ディズニー版ではベースト(野獣)の成長物語になっているとのことで、「美女と野獣」ではなく「野獣と美女」であると。そう考えれば、「悔い改めたセクシスト」であるビスーストと対比させるための「悔い改めざるセクシスト」ガストンという配置は、確かにぴったり嵌る気もしました。

 ストーリー構成もさることながら、絵がキレイ。大広間でのダンスのシークエンスでは、台頭しつつあったピクサーが作ったCGを背景に使っています(ピクサーはディズニーとの関係を構築しようとしていた(『世界アニメーション歴史事典』('12年/ゆまに書房)より))。

 本書では触れられていませんが、ディズニーはこの作品以降、グローバル戦略乃至ダイバーシティ戦略と言うか、「アラジン」('92年)、「ポカホンタス」('95年)、「ムーラン」('98年)など非白人系主人公の作品も作ったりしていますが、90年代半ば以降はスティーブ・ジョブズのピクサー社のCGアニメに押され気味で、「ポカホンタス」は「トイ・ストーリー」('95年)に、「ムーラン」は「バグズ・ライフ」('98年)に興業面で完敗し、今世紀に入っても「アトランティス 失われた帝国」('01年)は「モンスターズ・インク」('01年)に、「ホーム・オン・ザ・レンジ」('04年)は「Mr.インクレディブル」('04年)に完敗、それぞれピクサー提供作品の3分の1程度の興業収入に止まりました(ピクサー制作の「トイ・ストーリー」から「Mr.インクレディブル」まで、劇場公開は何れもディズニーによる配給ではあるが)。

スティーブ・ジョブズ 2.jpg '05年にディズニーのアイズナー会長は経営責任をとって退任し、'06年にはディズニーとの交渉不調からディズニーへのピクサー作品提供を打ち切るかに思われていたスティーブ・ジョブズが一転してピクサーをディズニーに売却し、同社はディズニーの完全子会社となり、ジョブズはディズニーの筆頭株主に。「トイ・ストーリー」などを監督したピクサーのジョン・ラセターは、ディズニーに請われ、ピクサーとディズニー・アニメーション・スタジオの両方のチーフ・クリエイティブ・オフィサーを兼任することに。'06年にピクサー制作の「カーズ」('06年)を監督するなどしながらも、「ルイスと未来泥棒」('07年)などの以降のディズニー・アニメの制作総指揮にあたっています(ディズニー作品も3D化が進むと、ディズニー・アニメのピクサー・アニメ化が進むのではないかなあ)。

Snow white 1937.jpg白雪姫 dvd.jpg「白雪姫」●原題:SNOW WHITE AND THE SEVEN DWARFS●制作年:1937年●制作国:アメリカ●監督:デイヴィッド・ハンド●製作:ウォルト・ディズニー●脚本:テッド・シアーズ/オットー・イングランダー/ アール・ハード/ドロシー・アン・ブランク/ リチャード・クリードン/メリル・デ・マリス/ディック・リカード/ウェッブ・スミス●撮影:ボブ・ブロートン●音楽:フランク・チャーチル/レイ・ハーライン/ポール・J・スミス●原作:グリム兄弟●時間:83分●声の出演:アドリアナ・カセロッティハリー・ストックウェル/ルシール・ラ・バーン/ロイ・アトウェル/ピント・コルヴィグ/ビリー・ギルバート/スコッティ・マットロー/オーティス・ハーラン/エディ・コリンズ●日本公開:1950/09●配給:RKO(評価:★★★★)

スノーホワイト 1997 vhs.jpg「スノーホワイト(グリム・ブラザーズ スノーホワイト)」snowwhite 1997.jpg●原題:SNOW WHITE: A TALE OF TERROR(THE GRIMM BROTHERS' SNOW WHITE)●制作年:1997年●制作国:アメリカ●監督:マイケル・コーン●製作:トム・エンゲルマン●脚本:トム・スゾロッシ/デボラ・セラズ●撮影:マイク・サウソン●音楽:ジョン・オットマン●原作:グリム兄弟●時間:100分●出演:シガーニー・ウィーヴァー/サム・ニール/モニカ・キーナ/ギル・ベローズ/デヴィッド・コンラッド/ジョアンナ・ロス/タリン・デイヴィス/ブライアン・プリングル●日本公開:1997/10●配給:ギャガ=ヒューマックス(評価:★★★)

「美女と野獣」03.jpg美女と野獣 dvd.jpg「美女と野獣」●原題:BEAUTY AND THE BEAST●制作年:1991年●制作国:アメリカ●監督:ゲーリー・トゥルースデイル/カーク・ワイズ●製作:ドン・ハーン●脚本:リンダ・ウールヴァートン●撮影:ディーン・カンディ●音楽:アラン・メンケン●原作:ジャンヌ・マリー・ルプランス・ド・ボーモン●時間:84分●声の出演:ペイジ・オハラ/ロビー・ベンソン/リチャード・ホワイト/レックス・エヴァーハート/ジェリー・オーバック/アンジェラ・ランズベリー/デイヴィッド・オグデン・スティアーズ●日本公開:1992/09●配給:ブエナ・ビスタ(評価:★★★★)

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見てるだけで楽しい。圧倒的に多いフランケンシュタイン物。パロディ映画にも楽しいものが。

図説ホラー・シネマ.jpg  図説 ホラー・シネマ2.jpg      怪奇SF映画大全.jpg
図説 ホラー・シネマ―銀幕の怪奇と幻想 (ふくろうの本)』('01年/河出書房新社、123ページ(21.4x16.4x1.2cm)) 『怪奇SF映画大全』('97年/国書刊行会、239ぺージ(30x23x2.4cm))
フランケンシュタイン dvd.jpg フランケンシュタインの花嫁 dvd.jpg ヤング・フランケンシュタイン.gif ノスフェラトゥ dvd.jpg ドラキュラ都へ行く dvd.jpg 5時30分の目撃者 vhs 5.jpg
フランケンシュタイン[DVD]」「フランケンシュタインの花嫁[DVD]」「ヤング・フランケンシュタイン〈特別編〉 [DVD]」「ノスフェラトゥ [DVD]」「ドラキュラ都へ行く[VHS]」「特選 刑事コロンボ 完全版「5時30分の目撃者」
下右ページはトッド・ブラウニング 監督、ベラ・ルゴシ主演「魔人ドラキュラ」('31年/米)のポスター
IMG_20220204_052826.jpg 同著者による『図説 モンスター―映画の空想生物たち』('01年/河出書房新社)に続くシリーズ第2段で、草創期(サイレント時代~1930年代)、繁栄と低迷(1940~1950年代)、復興と世代交代(1960年代以降)という流れで、各時代の名作を紹介、製作にまつわる裏話やエピソードなども交え解説しています。

 何よりもポスターやスチール写真が豊富で、よくこれだけ揃えたなあと。見ているだけで楽しく、表紙には「狼男」がきていますが、圧倒的に多いのはフランケンシュタインもので、次にドラキュラものがきて、狼男は3番目といったところでしょうか。映画会社IMG_20220204_134630.jpgでみると、戦前はボリス・カーロフ、ベラ・ルゴシ(上右)をホラー・スターに育てたユニヴァーサル、戦後はピーター・カッシングとクリストファー・リー(右上)をホラー・キングに育てたハマー・プロが中心なっています。

 それにしても、こんなにも多くのフランケンシュタイン映画、ドラキュラ映画が作られてきたのかと改めて驚かされ、そうした数多くの作品群の中でも、フランケンシュタイン映画に占めるボリス・カーロフと、ドラキュラ映画に占めるクリストファー・リーの重みは、それぞれの活躍した時代は異なるものの、圧倒的であるように思いました。

フランケンシュタイン (光文社古典新訳文庫)2010.jpg イギリスの詩人シェリーの夫人メアリー・シェリー(1797-1851)原作の『フランケンシュタイン』は、文学史上でも最もよく知られた作品でありながら、原作は殆ど読まれていないということでも有名な作品ですが、「フランケンシュタイン」は怪物(クリーチャー)の名前ではなく、怪物を生み出したマッド・サイエンティストの名前です。

フランケンシュタイン 1931 ポスター.pngフランケンシュタイン 1931 01.jpg 現代のホラー映画をすっかり観慣れてしまうと、ジェームズ・ホエール(1889-1957)監督、ボリス・カーロフ主演の「フランケンシュタイン(FRANKENSTEIN)」('31年/米)に出てくる怪物も、漫画「怪物くん」のフランケンのようにどこか可愛いかったりもし、湖のほとりで少女と触れ合うシーンは、ビクトル・セリエ監督の「ミツバチのささやき」('73年/スペイン)でも、主人公の少年が観る映画の1シーンで使われました。

「フランケンシュタインの花嫁」.jpg   FRANKENSTEIN and old man.jpg フランケンシュタインの花嫁 1935 01.jpg
 本編で風車小屋に追い詰められて焼き殺された怪物を復活させて作った続編の「フランケンシュタインの花嫁」('35年)は、本編以上に面白くてBride of Frankenstein _.jpg笑えますが、但し、ラストは異性(と言っても、かなりキツイ感じの女フランケンシュタインなのだが)に愛されない男の悲哀を表していて、しんみりさせられます(これ、傑作)。因みに、監督のジェームズ・ホエールは、自らが同性愛者であることを早くから公表していました(女性嫌いだった?)。Bride of Frankenstein (1935)

 フランケンシュタイン映画では、フランシス・フォード・コッポラが「ドラキュラ」('92年/米、ドラキュラ伯爵役はゲイリー・オールドマン。石岡瑛子がこの作品でアカデミー賞衣裳デザイン賞を受賞)に続きフランケンシュタイン (1994年).jpg製作した、ケネス・ブラナー監督の「フランケンシュタイン」('94年/英・日・米)などもありましたが、フランケンシュタイン (1994年) dvd.jpgロバート・デ・ニーロが演じたクリーチャー(被造物)は、見かけは醜怪だけれど心性的には子どものようであるという設定でした(フランシス・フォード・コッポラは妖怪好きなのか? 一方のケネス・ブラナーの方は、この作品ではヴィクター・フランケンシュタイン博士役での主演も兼ねている)。クリーチャーが元々はセンシティブで知的な存在として描かれているなど、原作に忠実に作られているようですが、原作って結構混み入ったスト-リーだったのだなあと。2時間で収まりきらず、個人的には消化不良感あり。更にデ・ニーロのメイクに懲りすぎて、単なるホラー映画になってしまった印象も。「フランケンシュタイン Hi-Bit Edition [DVD]

YOUNG%20FRANKENSTEN2.jpgメル・ブルックス『ヤング・フランケンシュタイン』(1974).jpg フランケンシュタインのパロディ映画では、メル・ブルックス(1926- )監督のヤング・フランケンシュタイン」('74年/米)が通好みのコメディであり、ギョロ目の怪優マーティー・フェルドYOUNG FRANKENSTEIN.jpgマン(せむし男)やピーター・ボイル(怪物)など、脇役がいいです。オリジナルの「フランケンシュタインの花嫁」にも出てくる山小屋に住む盲目の老人役はジーン・ハックマン、ラストに小さくクレジットされていました。

「ヤング・フランケンシュタイン」マーティ・フェルドマン/ジーン・ワイルダー/テリー・ガー
  
ヘルツォーク「ノスフェラトゥ」1.jpgヘルツォーク「ノスフェラトゥ」2.jpg ドラキュラ映画の古典的作品で劇場で観たものは記憶にありませんが、70年代の作品でヴェルナー・ヘルツォーク監督の「ノスフェラトゥ」('79年/西独)は、フリードリッヒ・ヴィルヘルム・ムルナウ監督の吸血鬼映画の古典的作品「吸血鬼ノスフェラトゥ(不死人)」('22年/独、無声映画)のリメイク作品であり、「アギーレ/神の怒り」('72年/西独)などヘルツォーク作品でお馴染みの怪優クラウス・キンスキーが主人公のドラキュラ伯爵を演じていました。
ノスフェラトゥ [DVD]

吸血鬼ドラキュラ (角川文庫).jpg ムルナウは、ブラム・ストーカーの小説『吸血鬼ドラキュラ』を原作に映画化するつもりが映画化権を得られず、それで「ドラキュラ伯爵」を「オルロック伯爵」に変えて19世紀初頭のドイツの小都市に吸血鬼が出現するという設定にし、その容貌も禿頭の特異なものとしたわけですが、イザベル・アジャーニ.jpgヘルツォーク/キンスキー版は、「ドラキュラ伯爵」に戻しながらも設定はムルナウ版を踏襲。全体として透明感のある映像で、ペストで住民が死滅した村の描写などは絶妙でしたが、それら以上に、クラウス・キンスキーの怪演ぶり、「キモさ」が際立っていた印象です(彼に噛まれる女性役は美貌のイザベル・アジャーニ。トリュフォーの「アデルの恋の物語」('75年/仏)で知られるフランスの人気女優だが、この作品でドイツ語で話しているのは、父親がアルジェリア人であるのに対し、母親はドイツ人であるため。「ノスフェラトゥ」の前年作のウォルター・ヒル監督のアクション映画「ザ・ドライバー」('78年/米)でみせたように英語も堪能)。

ドラキュラ都へ行く  映画宝庫.jpgドラキュラ都へ行く02.jpg ドラキュラのパロディでは(クリストファー・リーが「エアポート'77/バミューダからの脱出」('77年/米)で土左衛門姿で出てきた際に見せていた苦悶の表情も、ドラキュラのパロディと言えばパロディだったけれど)、たまたま「ノスフェラトゥ」と同じ年に作られたもので、本書にも紹介されている「ドラキュラ都へ行く」('79年/米、原題:Love at First Bite)という5時30分の目撃者.jpgジョージ・ハミルトンが主演し製作総指揮もした作品もありました(ジョージ・ハミルトンは「刑事コロンボ」の第31話「5時30分の目撃者」('75年)で犯人の精神分析医役を演じていた二枚目俳優で、ハリウッド社交界でもプレイボーイで鳴らした彼らしく、愛人が絡むエピソードだが、計画殺人ではなく衝動殺人になっているのがややプロット的には弱点か。ハミルトンは、「刑事コロンボ」の新シリーズ(通算第57話)「犯罪警報」('91年)でも人気テレビ番組のホストである犯人役を演じた)。
 「ドラキュラ都へ行く」という邦題タイトルは、フランク・キャップラの「スミス都へ行く」をもじったものですが、内容は無関係。楽屋ネタのギャグ満載の身内で楽しみながら作った感じの映画で、一緒に観に行った外国人女性にはすごく受けていましたが、字幕頼りの自分にとっては残念ながらさほどでも(映画字幕はセリフが相当端折られていたように思うが、DVD化はされていないようだ)。

 SFホラーまで領域を拡げた「映画ポスター+解説集」では、ロナルド・V・ボーストの怪奇SF映画大全('97年/国書刊行会)という大型本があり、こちらは本書よりも更にポスター中心であるため、これも見て楽しめます。


FRANKENSTEIN 1931 poster.jpg「フランケンシュタイン」●原題:FRANKENSTEIN●制作年:1931年●制作国:アメリカ●監督:ジェイムズ・ホエール●製作:カール・レームル・Jr●脚本:ギャレット・フォート/ロバート・フローリー/フランシス・エドワード・ファラゴー●撮影:アーサー・エジソン●音楽:バーンハルド・カウン●原作:メアリー・シェリーFRANKENSTEIN 1931.jpg●時間:71分●出演:コリン・クライヴ/ボリス・カーロフ/メイ・クラークメイ・クラーク.jpgエドワード・ヴァン・スローン/ドワイト・フライ/ジョン・ポールズ/フレデリック・カー/ライオネル・ベルモア●日本公開:1932/04●配給:ユニヴァーサル映画●最初に観た場所:渋谷ユーロ・スペース (84-07-21)(評価:★★★☆)●併映:「フランケンシュタインの花嫁」(ジェイムズ・ホエール)
メイ・クラーク

BRIDE OF FRANKENSTEIN2.jpg「フランケンシュタインの花嫁」●原題:BRIDE OF FRANKENSTEIN●制作年:1935年●制フランケンシュタインの花嫁 1935 poster.jpg作国:アメリカ●監督:ジェイムズ・ホエール●製作:カール・レームル・Jr●脚本:ギャレット・フォート/ロバート・フローリー/フランシス・エドワード・ファラゴー●撮影:ジョン・J・メスコール●音楽:フランツ・ワックスマン●時間:75分●出演:ボリス・カーロフ/エルザ・ランチェスター/コリン・クライヴ/アーネスト・セシガー●日本公開:1935/07●配給:ユニヴァーサル映画●最初に観た場所:渋谷ユーロ・スペース (84-07-21)(評価:★★★★)●併映:「フランケンシュタイン」(ジェイムズ・ホエール)
「フランケンシュタインの花嫁」公開時ポスター。「カーロフ」の苗字が冠のように載っている。(本書より)

FRANKENSTEIN 1994 2.jpgFRANKENSTEIN 1994.jpg「フランケンシュタイン」●原題:FRANKENSTEIN●制作年:1994年●制作国:イギリス・日本・アメリカ●監督:ケネス・ブラナー●製作:フランシス・フォード・コッポラ/ジェームズ・V・ハート/ジョン・ヴィーチ/ケネス・ブラナー/デビッド・パーフィット●脚本:ステフ・レイディ/フランク・ダラボン●撮影:ロジャー・プラット●音楽パトリック・ドイル●原作:メアリー・シェリー●時間:123分●出演:ロバート・デ・ニーロ/ケネス・ブラナー/トム・ハルス/ヘレナ・ボナム=カーター/エイダン・クイン/イアン・ホルム/ジョン・クリーズ/シェリー・ルンギ/リチャード・ブライアーズ/アレックス・ロー●日本公開:1995/01●配給:トライスター・ピクチャーズ(評価:★★★)

ジーン・ワイルダー/マデリン・カーン
「ヤング・フランケンシュタイン」マデリンカーン.jpg「ヤング・フランケンシュタイン」2.jpgヤング・フランケンシュタイン.gif「ヤング・フランケンシュタイン」●原題:YOUNG FRANKENSTEN●制作年:1975年●制作国:アメリカ●監督:メル・ブルックス●製作:マイケル・グラスコフ●脚本:ジーン・ワイルダー/メル・ブルックス●撮影:ジェラルド・ハーシュフェルド●音楽:ジョン・モリス●原作:メアリー・シェリイ●時間:108分●出演:ジーン・ワイルダー/ピーター・ボイル/マーティ・フェルドマン/テリー・ガー/マデリーン・カーン/ジーン・ハックマン●日本公開:1975/10●配給:20世紀フォックス●最初に観た場所:飯田橋ギンレイホール (78-12-14) (評価:★★★★)●併映:「サイレントムービー」(メル・ブルックス)

「ノスフェラトゥ」2.jpg「ノスフェラトゥ」01.jpg「ノスフェラトゥ」●原題:NOSTERTU. PHANTOM DER NACHT●制作年:1979年●制作国:西ドイツ●監督・脚本・製作:ヴェルナー・ヘルツォーク●撮影:イェルク・シュミット=ライトヴァノスフェラトゥ(1978)[A4判].jpgイン●音楽:ポポル・ヴー●時間:107分●出演:クラウス・キンスキー/イザベル・アジャーニ/ブルーノ・ガンツ/ロラント・トーポー/ワルター・ラーデンガスト/ダン・ヴァン・ハッセン/ヤン・グロート/カールステン・ボディヌス●日本公開:1984/10●配給:ドイツ文化センター●最初に観た場ドイツ文化センター 青山.jpgドイツ文化センター 2.jpg所:青山・ドイツ文化センター(84-10-07)(評価:★★★☆)●併映:「ヴォイツェック」「カスパーハウザーの謎」(ヴェルナー・ヘルツォーク) 「映画パンフレット ノスフェラトゥ(1978作品) 発行:㈱パルコ(A4) 監督:ヴェルナー・ヘルツォーク 出演:イザベル・アジャーニ

ドイツ文化センター 1962年、青山通り付近にオープン

ドラキュラ都へ行く01.jpg「ドラキュラ都へ行く」●原LOVE AT FIRST BITE.jpg題:LOVE AT FIRST BITE●制作年:1979年●制作国:アメリカ●監督:スタン・ドラゴッティ●製作・脚本:ロバート・カウフマン●撮影:エドワード・ロッソン●音楽チャールズ・バーンスタイン●時間:96分●出演:ジョージ・ハミルトン/スーザン・セント・ジェームズ/ディック・ショーン/アート・ジョンソン/リチャード・ベンジャミン/シャーマン・ヘムズリー●日本公開:1979/12●配給:日本ヘラルド映画●最初に観た場所:日比谷・みゆき座(79-12-15)(評価:★★★)

5時30分の目撃者 vhs.jpg刑事コロンボ(第31話)/5時30分の目撃者.jpg「刑事コロンボ(第31話)/5時30分の目撃者」●原題:A DEADLY STATE OF MIND●制作年:1975年●制作国:アメリカ●監督:ハーベイ・ハート●製作:エヴァレット・チェンバース●脚本:ピーター・S・フィッシャー●ストーリー監修:ピーター・S・フィッシャー●音楽:バーナード・セイガル●時間:73分●出演:ピーター・フォーク/ジョージ・ハミルトン/レスリー・ウォーレン/スティーブン・エリオット/カレン・マックホン/ブルース・カービー/ライアン・マクドナルド/ジャック・マニング/フレッド・ドレイパー/ウィリアム・ウィンターソウル/ヴァンス・デイヴィス/レッドモンド・グリーソン/グローリー・カウフマン●日本公開:1976/12●放送:NHK(評価:★★★☆)特選 刑事コロンボ 完全版「5時30分の目撃者」【日本語吹替版】 [VHS]

《読書MEMO》
是枝裕和監督の選んだオールタイムベスト10["Sight & Sound"誌・映画監督による選出トップ10 (Director's Top 10 Films)(2012年版)]
 ●ラルジャン(ロベール・ブレッソン)
 ●恋恋風塵(ホウ・シャオシェン)
 ●浮雲(成瀬巳喜男)
 ●フランケンシュタイン(ジェームズ・ホエール)
 ●ケス(ケン・ローチ)
 ●旅芸人の記録(テオ・アンゲロプロス)
 ●カビリアの夜(フェデリコ・フェリーニ)
 ●シークレット・サンシャイン(イ・チャンドン)
 ●シェルブールの雨傘(ジャック・ドゥミ)
 ●こわれゆく女(ジョン・カサヴェテス)

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'96年は映画館入場者数最低年。「スパイ大作戦」とは別物の「ミッション:インポッシブル」。

『映画イヤーブック 1997』.JPGミッション:イン ポッシブル 1996 dvd.jpg ミッション:イン ポッシブル 1996 01.jpg  「スパイ大作戦」シーズン2 dvd.jpg
映画イヤーブック〈1997〉 (現代教養文庫)』「ミッション:インポッシブル [DVD]」「スパイ大作戦 シーズン2(日本語完全版) [DVD]

 1996年に公開された洋画379本、邦画175本、計554本の全作品データと解説を収録し、ビデオ・ムービー、未公開洋画、テレビ映画ビデオのデータなども網羅しています。

過去.png '96年の映画館の入場者数は1億1,957万人とのことで1億2千万人を割り込みましたが、本書の編者・江藤努氏は編集後記において、レンタルビデオによる映画鑑賞が定着し、〈映画人口〉というより〈映画館人口〉が減少したとみるべきだろうが、やはり憂慮すべき事態であるとしています。また、シネマ・コンプレックス建設ブームで映画館自体の数は52館増えたので、小劇場化の流れが定着したところで、この凋落傾向の底が見えるのではないかともしています。

 この予想は長期的に見て概ね当たり、短期的には、翌年'97年には「もののけ姫」('97年7月公開)、更に'98年には「タイタニック」('97年12月日本公開)という、それぞれ興行収入(配給収入)100億円を超えるメガヒット作品があったりもして、過去20年間の映画館入場者数を振り返ってみれば、洋・邦画トータルではこの'96年という年が最低の入場者数だったことになります。

 本書での最高評価になる「四つ星」作品は、「セブン」「ビフォア・ザ・レイン」「アンダーグランド」「イル・ポスティーノ」「デッドマン・ウォーキング」「ザ・ロック」「ファーゴ」「秘密と嘘」の8作品、一方邦画は、「Shall We ダンス?」(周防正行監督)、「ガメラ2」(金子修介監督)、「キッズ・リターン」(北野武監督)、「学校Ⅱ」(山田洋次監督)などの6作品。

ミッション:イン ポッシブル 1996 00.jpgMission Impossible  01.jpg 個人的には、トム・クルーズがプロデューサーとしてブライアン・デ・パルマを監督に指名した「ミッション:インポッシブル」('96年)に注目しましたが、それなりに楽しめたけれども、オリジナルの「スパイ大作戦」とは随分違った作りになったなあと。

 リーダーのフェルペス以外は全て映画用のオリジナル・キャラクターで、しかもチームワークで事件に当たるというよりは、完全にトム・クルーズ演じるイーサン中心です。トム・クルーズは「ザ・ファーム/法律事務所」('93年)にしても、後の「マイノリティ・リポート」('02年)にしてもそうですが、組織内にいて、その組織に裏切られたり組織から追われたりするという脚本が好きなのかなあ。第1作でフェルプスが裏切り者になってしまったため、「スパイ大作戦」でフェル「スパイ大作戦」.jpgプスを演じたピーター・グレイブスは衝撃を受け、他のドラマ出演者からの評判も良くなかったようです。

「スパイ大作戦」ピーター・グレイブス(右端)

 鉄壁の組織内チームワークを誇った「スパイ大作戦」とはえらい違いですが、このパターンで「ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル」('11年)まで4作続けて、これはこれで「スパイ大作戦」とは別モノとしての一つの流れを完全に作ったなあと思いました。そうした意味では成功作なんだろうけれど、デ・パルマ監督が撮らなくとも、大体こんな映画になったのではないか。ジョン・ウー監督の「ミッション:インポッシブル2」('00年)の方が、監督の個性が出ていたかも(その分、さらにMIらしくない)。その後のシリーズ過程でチームワーク重視にトーン変更しており、J・J・エイブラムス監督の「ミッション:インポッシブル3」('06年)では、前2作よりMission Impossible III 02.jpg「スパイ大作戦」の映画化らしい出来にする、という前提条件があり、テレビシリーズの構図に近い出来となっていました。現場を引退して教Mission Impossible III 01.jpg官をしていたイーサンが、敵に拉致された教え子の女エージェントの救出プロジェクトに参加することになりますが、彼女は頭の中に仕掛けられていた小型爆弾により死亡し、逆にイーサン自身が彼女と同様の窮地に陥り、さらに婚約者も拉致されてしまう―イーサンを救い、さらにイーサンの婚約者を奪還するために仲間が協力するという"身内"色の強い内容でしたがそう悪くなく、この3作目をシリーズベストに挙げる人もいるようです。
     
「ミッション インポッシブル」dvd.jpgEmmanuelle Béart Mission:Impossible.jpg「ミッション:インポッシブル」●原題:MISSION:IMPOSSIBLE●制作年:1996年●制作国:アメリカ●監督:ブライアン・デ・パルマ●製作:トム・クルーズ/ポーラ・ワグナー●脚本:デヴィッド・コープ/ロバート・タウン/スティーヴン・ザイリアン●撮影:スティーヴン・H・ブラム●音楽:ダニー・エルフマン(テーマ音楽:ラロ・シフリン)●原作:ウィンストン・グルーム●時間:110分●出演:トム・クルーズ/ジョン・ヴォイトエマニュエル・ベアール/ジャン・レノ/ヘンリー・ツェーニー/ダニー・ エルフマン/クリスティン・スコット・トーマス/インゲボルガ・ダクネイト/ヴィジョン・ヴォイト ミッションインポッシブル.jpgミッション:インポッシブル2.jpgング・レイムス/ヴァネッサ・レッドグレイヴ/ヘンリー・ツェニー/アンドリアス・ウイスニウスキー/ロルフ・サクソン/マーセル・ユーレス/デイル・ダイ●日本公開:1996/07●配給:パラマウント=UIP(評価:★★★☆)
ジョン・ヴォイト(ジム・フェルプス)/エマニュエル・ベアール(クレア・フェルプス)

スパイ大作戦 サウンドトラック 1967.jpg「スパイ大作戦」 Mission: Impossible (CBS 1966~1973) ○日本での放映チャネル:フジテレビ(1967~)/スーパーチャンネル(現Super! drama TV)(2011~) テーマスパイ大作戦 ピーター・グレイブス.jpg
曲:ラロ・シフリン

ピーター・グレイブス(ジム・フェルプス)


「ミッション インポッシブル3」2006.jpg「ミッション インポッシブル3」  2006.jpg「ミッション:インポッシブル3(M:i:III)」●原題:MISSION:IMPOSSIBLE III●制作年:2006年●制作国:アメリカ●監督:J・J・エイブラムス●製作:トム・クルーズ/ポーラ・ワグナー●脚本:アレックス・カーツマン/ロベルト・オーチー/J・J・エイブラムス●撮影:ダニエル・ミンデル●音楽:マイケル・ジアッキーノ(テーマ音楽:ラロ・シフリン)●時間:126分●出演:トム・クルーズ/フィリップ・シーモア・ホフマン/ヴィング・レイムス/ビリー・クラダップ/ミシェル・モナハン/サイモン・ペッグ/ジョナサン・リース=マイヤーズ/ケリー・ラッセル/マギー・Q/ローレンス・フィッシュバーン●日本公開:2006/07●配給:パラマウント=UIP(評価:★★★☆)

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'95年はトム・ハンクスが洋画界を牽引? 「フォレスト・ガンプ」の底にある「愛国心」。

『映画イヤーブック 1996』.JPGフォレスト・ガンプ 一期一会  ポスター.jpg フォレスト・ガンプ dvd.jpg  フォレスト・ガンプ 一期一会 スコア.jpg
映画イヤーブック〈1996〉 (現代教養文庫)』「フォレスト・ガンプ 一期一会」ポスター「フォレスト・ガンプ 一期一会 スペシャル・コレクターズ・エデション [DVD]」(2008)「フォレスト・ガンプ~一期一会 オリジナル・スコア集

 1995年に公開された洋画330本、邦画184本、計518本の全作品データと解説を収録し、ビデオ・ムービー、未公開洋画、テレビ映画ビデオのデータなども網羅しています。

 本書での最高評価になる「四つ星」作品は、「フォレスト・ガンプ/一期一会」「クイズ・ショウ」「レオン」「ショーシャンクの空に」「ブロードウェイと銃弾」「アポロ13」「恋する惑星」「エドワード・ヤンの恋愛時代」「エド・ウッド」「マディソン郡の橋」「スモーク」の11作品、一方邦画は、「東京兄妹」(市川準監督)、「ガメラ」(金子修介監督)、「Love Letter」(岩井俊二監督)、「KAMIKAZE TAXI」(原田眞人監督)、「午後の遺言状」(新藤兼人監督、)「幻の光」(是枝裕和監督)の6作品と、比較的邦画も頑張った年でしたが、編者の江藤努氏に言わせれば、邦画は洋画に比べて作品の質が興行成績に繋がらなかったとのことで、確かに、ややマイナー感はあるラインアップ。

Sally Field FORREST GUMP.jpg ロバート・ゼメキス監督の「フォレスト・ガンプ/一期一会」('94年)はアカデミー賞6部門(作品・監督・主演男優・脚色・視覚効果・編集)独フォレスト・ガンプ 一期一会01.jpg占で、トム・ハンクスは「フィラデルフィア」('93年)に続いてアカデミー賞主演男優賞2年連続受賞、さらにこの年公開の「アポロ13」('95年)にも出演していて、当時は洋画界を一人で牽引しているような勢いがありましたが、アカデミー俳優トム・ハンクス主演ということで、これらの作品を観に映画館に足を運んだ人も多かったのではないでしょうか。

フォレスト・ガンプ 一期一会02.jpg 「フォレスト・ガンプ」は50年代から80年代にかけてのアメリカ現代史を駆け抜けていったIQが人並みに至らない男ガンプの話ですが、彼は俊足を買われて大学で全米アメフト代表選手となってケネディ大統領に祝福され、ベトナム戦争では戦友の命を救ってジョンソン大統領から栄誉を授かる一方、全米卓球チームのメンバーになって「ピンポン外交」特使としてジョン・レノンとテレビ共演するほど有名になり、さらにエビの事業で成功して大金持ちになるといった具合に、アメリカン・ドリームを絵に描いたような道を歩みます。

フォレスト・ガンプ 一期一会03.jpg 但し、そうした"お目出度い"話ばかりでなく、彼の人生と交錯する人びとの挫折や苦悩も描いており、ガンプ自身も幼馴染みの恋人に何度か去られ、最後にやっと愛を成就できたかと思ったら、その彼女に死なれてしまうなどして人生の寂寥感を味わい、それでも彼女が遺した自分の息子に出会うことで未来への希望を抱くという、ラストシーンで空を舞う羽根のように、ふわ~っと心に滲み入る作品でした。

フォレスト・ガンプ 一期一会04.jpg 原作は、1985年にウィンストン・グルームが発表した小説 Forrest Gumpで、ガンプのモーレツぶりは、ジョン・アービング原作、ジョージ・ロイ・ヒル監督、ロビン・ウィリアムズ主演の「ガープの世界」('82年)の登場人物らに通じるものを感じましたが、「ガープの世界」がアービングの自伝的小説であるのに対し、グルームの原作では、主人公のガンプは宇宙飛行士やプロレスラー、チェスのチャンピオンになるといったエピソードもあるとのことで、映画においても、「ガンプ」はシンボライズされたキャラクターと見るのがスジでしょう。

 では、アメリカ現代史を駆け抜けたガンプは何の象徴なのかと言うと、やはりアメリカ国民そのものの象徴であり、見方によってはアメリカという国そのものの象徴ということにもなるのかもしれません。

Forrest Gump (1994).bmp 映画ではアメリカ現代史の様々な映像が合成SFXでガンプの物語に織り込まれており(ゼメキス監督は「バック・トゥ・ザ・フューチャー」でも見せたとおり、特撮が持ち味。ガンプがケネディ大統領と握手し、「おしっこしたい」と言うシーンは笑える)、それもこの作品の一つの見所ですが、個人的には、ウォーターゲート事件にしてもベトナム反戦運動にしても、ガンプの純粋さを媒介としてある種戯画化されて描かれているように思いました。

 この映画がアメリカで「ガンプ現象」と言われるほどのブームになったのは、アメリカ人のヒーローに対する愛着、純粋無垢なモーレツさへの憧憬だけでなく、いろんなことを乗り越えてもアメリカ人は前を向いて走り続けることができる国民なのだという「愛国心」(本書でこの作品の解説を担当している東敬一氏もこの言葉を用いているが)の裏返しのようなものが、作品の底にあるためであるように思いました(すごく自己肯定的だけど、所謂ナショナリズムとは少し違うんだよなあ)。

チャンス.jpg この作品を観て思い出すのは、ハル・アシュビー監督の「チャンス」('79年/米)で、知的障害がある庭師のチャンスが、余命いくばくも無い財界大物を夫に持つ美しい貴婦人が乗る高級車に轢かれ、屋敷に招かれることになったのをきっかけに、その言葉に実は深い意味があると周囲から勝手に解釈されて、世間の注目を集めテレビ出演までするようになり、国民的な人気を得ることになりますが、彼自身は全くそんなことには無頓着でいるというもの。この作品で、ピーター・セラーズ(1925-1980)が演じるチャンスは次期大統領候補にまでなる一方で、ラストはチャンスの死を暗示させて終わりますが、ピーター・セラーズ本人もこの映画の日本公開前に心臓発作で急逝、彼の遺作となった作品であるということでも知られています。

チャンス ラスト.jpg ジャージ・コジンスキーの脚本のベースになっているのはニーチェの『ツァラトゥストラはかく語りき』であり、原題の"Being There"は、ドイツの哲学者マルティン・ハイデッガーの未完の主著『存在と時間』からきているとのことで、「ただそこにある(もの)」という意味ですが、「チャンス」という主人公の名前を邦題にしてしまったため、「どんなハンディキャップがある人にもチャンスがある」という話と捉えられている向きがあるように思います。

 個人的には、そうした解釈でもいいと思うし、実際、「アメリカとはそういう(誰にでもチャンスのある)国だ」という意図のもとに作られた作品ととれなくもないですが、ちょっと違うような気がする。。。だからと言って、正しい解釈はこうだと言い切れるものが自分としてもイマイチ明確にないのですが。

Forrest Gump(1994).jpg 「フォレスト・ガンプ/一期一会」の「一期一会」は要らなかったように思いますが、内容的にはこちらの方がスンナリ受け止めることができました。「チャンス」は、コメディとしては秀逸であることは間違いないですが(シャーリー・マクレーン、メルヴィン・ダグラスなど一流の演技達者が"脇を固めている"というのがスゴイ)、原題通り「ビーイング・ゼア」としてくれた方がこの作品の象徴性について(自分も世間も)より深く考える契機になったような気がします。最近、かなり再評価されているようですが、当時としては、そんなタイトルでは観客受けしないと思われたのでしょうか。もともと、本国公開から日本公開までの間に1年以上もの間隔があった作品でした。

Forrest Gump(1994)[IMDbスコア 8.8]

サリー・フィールド(ミセス・ガンプ) 
フォレスト・ガンプes.jpgSally Field in FORREST GUMP.jpg「フォレスト・ガンプ/一期一会」●原題:FORREST GUMP●制作年:1994年●制作国:アメリカ●監督:ロバート・ゼメキス●製作:ウェンディ・フィネルマン/スティーヴ・ティッシュ/スティーヴ・スターキー●脚本:エリッゲイリー・シニーズ Forrest_Gump.jpgク・ロス●撮影:アーサー・シュミット●音楽:アラン・シルヴェストリ●原作:ウィンストン・グルーム●時間:142分●出演:トム・ハンクス/ロビン・ラフォレスト・ガンプ 一期一会 dvd.jpgイト/サリー・フィールドゲイリー・シニーズ/ミケルティ・ウィリアムソン/ハーレイ・ジョエル・オスメント/マイケル・コナー・ハンフリーズ/ハンナ・R・ホール●日本公開:1995/02●最初に観た場所:有楽町・日本劇場(95-03-12)●配給:UIP(評価:★★★★)フォレスト・ガンプ 一期一会 ― スペシャル・コレクターズ・エディション [DVD]」(2001)
日劇1.jpg有楽町マリオン 阪急.jpg日本劇場 1984年10月6日「有楽町マリオン」有楽町阪急側11階にオープン(1,008席)、2002年~「日劇1」(948席)、2006年10月~「TOHOシネマズ日劇・スクリーン1」(上写真:「日劇1」館内) 2018年2月4日閉館 (閉館時、都内最大席数の劇場だったが、閉館により「丸の内ピカデリー1」(802席)が都内最大席数に)
トム・ハンクス in「フォレスト・ガンプ 一期一会」('94年)/「アポロ13」('95年)
フォレスト・ガンプ  トム・ハンクス.jpg アポロ13 トム・ハンクスapollo13.jpg

BEING+THERE+1.jpgBillionaire Benjamin Rand (Melvyn Douglas) takes on Chance (Peter Sellers) as a trusted advisor.メルヴィン・ダグラス(億万長者ベンジャミン・ランド)アカデミー助演男優賞・ゴールデングローブ賞助演男優賞・ニューヨーク映画批評家協会賞助演男優賞・ロサンゼルス映画批評家協会賞助演男優賞受賞

「チャンス」●原題:BEING THERE●制作年:1979年●制作国:アメリカ●監督:ハル・アシュビー●製作:アンドチャンス_m.jpgリュー・ブラウンズバーグ●脚本:ジャチャンスes.jpgージ・コジンスキー●撮影:キャレブ・デシャネル●音楽:ジョニー・マンデル●原作:ジャージ・コジンスキー●時間:130分●出演:ピーター・セラーズ/シャーリー・マクレーン/メルヴィン・ダグラス/ジャック・ウォーデン/リチャード・ダイサート/リチャード・ベースハート/ルチャンス dvd.jpgス・アタウェイ/デイヴィッド・クレノン/フラン・ブリル●日本公開:1981/01●最初に観た旧丸の内ピカデリー  .jpg場所:有楽町・丸の内ピカデリー(81-02-09)●配給:松竹=富士映画配給(評価:★★★★)チャンス [DVD]」(2005)
丸の内松竹(初代).jpg旧・丸の内ピカデリー1・2 前身は1925年オープンの「邦楽座」(後の「丸の内松竹」)。1957年7月、旧朝日新聞社裏手にオープン(地下に「丸の内松竹」再オープン)。 1984年10月1日閉館。1984年10月6日後継館「丸の内ピカデリー1・2」が有楽町センタービル(有楽町マリオン)西武側9階にオープン。
旧丸の内ピカデリー1・2/丸の内松竹 1984(昭和59年9月) Photo:「ぼくの近代建築コレクション
旧丸の内ピカデリー。.jpg

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'94年公開の個人的ラスト・アクション・ヒーロー・ムービー「トゥルーライズ」「スピード」。

『映画イヤーブック 1995』.JPGスピードdvd1.jpg トゥルーライズ dvd2.jpg TRUE LIES movie.jpg
映画イヤーブック〈1995〉 (現代教養文庫)』「スピード [DVD]」「トゥルーライズ [DVD]

 1994年劇場公開の全作品(洋画304本、邦画161本、計465本)にデータと解説を付して収録、ビデオ・ムービー、未公開ビデオのデータなども網羅しているほか、『映画イヤーブック』としては5冊目になるということで、全5冊の総索引も付きました。

 本書での最高評価になる「四つ星」作品は、「トゥルー・ロマンス」「シンドラーのリスト」「さらば、わが愛 覇王別姫」「ピアノ・レッスン」「青い凧」「ギルバート・グレイブ」「パルプ・フィクション」「ショート・カッツ」「スピード」の9作品、一方邦画は、「トカレフ」(阪本順治監督)、「全身小説家」(原一男監督)、「棒の哀しみ」(神代辰巳監督)、「忠臣蔵外伝・四谷怪談」(深作欣二監督)の4作品。

 '94年の映画館入場者数は1億2299万人で、それまでの史上最低だったそうで、前年の「ジュラシック・パーク」のような大ヒット作が無かったということもあるようですが、この頃には平成不況による停滞感が定着して、多くの人が、わざわざ映画館まで行かなくともビデオで観ればいいいという感覚になっていたのではないかなあ。

スピードdvd.jpg ハリウッド映画のアクション系で、「ダイ・ハード」('88年)、「氷の微笑」('92年)のカメラマンだったヤン・デ・ボン(「トータル・リコール」「氷の微笑」のポール・バーホーベン監督と同じくオランダ人)の初監督作品「スピード」('94年)が気を吐きました。

「スピード」('94年).jpg 時速を80キロ以下に落とすと爆発する爆弾を仕掛けたバスの疾走が迫力満点のノンストップアクションで、バスが街中を車をはじき飛ばしながら爆走したり、キアヌ・リーブスが爆弾を解除するために高速で走るバスの下にもぐりこむシーン、或いは、地下鉄の車両が工事現場を破壊しながら地上に突き抜けるシーンなどは実写中心であるため見応えはありました。

スピード01.jpg 脚本を書いたグレアム・ヨストは、 アンドレイ・コンチャロフスキー監督の「暴走機関車」('86年/米)の原「スピード」ホッパー2.jpg案である黒澤明のオリジナル脚本を読んで着想を得たと述懐していますが、その脚本もまずまずではないでしょうか。但し、脚本を含めてよく出来ていた「ダイ・ハード」と比べるのと、トータルではやや落ちるか。キアヌ・リーブス、サンドラ・ブロック共に頑張っているけれど、爆弾魔のデニス・ホッパー(1936-2010)は、クイズ好きのオタクみたいで、それほど凄味がないような....。デニス・ホッパーということで、期待し過ぎてしまったのかもしれませんが(結局、大掛かりなアクションで見せる映画だった。元々の狙いも概ねそうだとは思うが)。

speed 2s.jpgスピード2  05.jpg ということで、個人的にはヤン・デ・ボン監督には次に期待、というところだったのですが、その続編「スピード2」('97年/米)であっさりコケてしまった感じでした(既に同年の「ツイスター」('97年/米)を観れば、この監督の力量の限度は窺い知れたのだが。因みに、竜巻パニックスピード2 dvd.jpg映画「ツィスター」はアメリカではそこそこヒットしたらしく、アメリカ人にとって竜巻は身近な恐怖なのでしょう(日本にもこうした映画のファンは多いらしく、Amazon.comのレビュー評価などもそう悪くないようだが、個人的には、竜巻をあまりに擬人化し過ぎているように思えた)。「スピード2」は舞台を大型客船に移したことで、看板の〈スピード〉感は無くなり、サンドラ・ブロック演じるヒロインは残りましたがキアヌ・リーブスは出演しておらず、代わりにジェイソン・パトリックが出演していましたが地味で、敵役のウィレム・デフォーの方がむしろ頑張ってはいましたが、それでもデニス・ホッパーに比べるとやはり格下感は否めなかったでしょうか。話の展開にも〈スピード〉感は感じられなかった...(いずれにせよ、キアヌ・リーブスとデニス・ホッパーがいないというのはロスト感が大きい)。
スピード2 [DVD]

トゥルーライズ dvd.jpg 「スピード」の「四つ星」評価に対し、本書で星3つの評価となっている「ターミネーター」シリーズのジェームズ・キャメロンが監督した「トゥルーライズ」('94年)の方が、ユーモアの要素があって個人的な評価はやや上になります。

トゥルーライズ1.jpg アガサ・クリスティの「おしどり探偵」シリーズの現代アクション版みたいで、アーノルド・シュワルツェネッガーはコメディも充分にこなすし、スタント無しのジェイミー・リー・カーティスも良かったです(アクションでもそれ以外でも身体を張った演技をしていたなあ)。

トゥルーライズ jlカーチス.jpg カーチェイスの場面で実際に橋を爆破したというのもスゴいですが、一方で、シュワちゃんがゴールデン・ゲート・ブリッジにしがみつくシーンやハリヤー・ジェット機上でのテロリストとの"生身"のバトルシーンなど、デジタル合成のSFXをふんだんに使っています。

 アクション・シーンをCGで撮るというのは「バットマン リターンズ」('92年)あたりがハシリだそうですが、米国の俳優協会ではその頃から、役者自身がアクションを演じる場面が無くなってしまうということで問題視され始めていたようです。「バットマン リターンズ」の中には、一旦CGで撮ったものを、俳優協会からの要請で俳優やスタントマンを使ったものに撮り直した場面があります(高い所から飛び降りたバットマンが地面に着地するシーンなど)。

トゥルーライズ2.jpg 「トゥルーライズ」ではそのほかに、ハリヤー・ジェット機の熱で空気が揺らぐシーンなどにもデジタル・ドメイン社が開発したCGが初めて使われていて、この技術は「アポロ13」('95年)のロケット発射シーンなどにも使われました(ジェームズ・キャメロンはデジタル・ドメイン社の初代共同経営者)。

 シュワルツェネッガーは、この作品の前年にジョン・マクティアナン監督の「ラスト・アクション・ヒーロー」('93年)を製作総指揮しており(主演もシュワルツェネッガー)、もう生身の肉体を使ってのアクションは終わりだなという意識はこの頃からあったのではないでしょうか。その前の作品が、それこそCGで描かれる敵と戦う「ターミネーター2」('91年)だったし(これもジェームズ・キャメロン監督)。

 個人的には、'94年の「トゥルーライズ」が(すでにCGがいっぱい使われてはいるけれども)自分の中での"ラスト・アクション・ヒーロー"ムービーという印象ですが、同じく'94年の「スピード」も、キアヌ・リーブスの次のヒット作「マトリックス」('99年)がアクションシーンをCG主体で構成していたことを考えると、キアヌ・リーブス的に言えばこれもまた"ラスト・アクション・ヒーロー"ムービーだったと言えるように思います。
 
SPEED-1994 -On set / Keanu Reeves|Sandra Bullock
SPEED 1994.jpgスピード02.jpg「スピード」●原題:SPEED●制作年:1994年●制作国:アメリカ●監督:「スピード」ホッパー.jpgヤン・デ・ボン●製作:マーク・ゴードン●脚本:ランダル・マコーミック/ジェフ・ナサンソン●撮影:アンジェイ・バートコウィアク●音楽:マーク・マンシーナ/ビリー・アイドル●時間:115分●出演:キアヌ・リーブス/デニス・ホッパサンドラ・ブロック/ジョー・モートン/ジェフ・ダニエルズ/アラン・ラック●日本公開:1994/12●配給:20世紀フォックス映画●最初に観た場所:有楽町・日本劇場(94-12-17)(評価:★★★☆)

speed 2es.jpgスピード2 01.jpg「スピード2」●原題:SPEED:CRUISE CONTROL●制作年:1997年●制作国:アメリカ●監督:ヤン・デ・ボン●製作:マーク・ゴードン●脚本:グレアム・ヨスト●撮影:ジャック・N・グリーン●音楽:マーク・マンシーナ●時間:121分●出演:サンドラ・ブロック/ジェイソン・パトリック/ウィレム・デフォー/テムエラ・モリソン/ブライアン・マッカーディー/グレン・プラマー/コリーン・キャンプ/ロイス・チャイルズ/マイケル・G・ハガーティー/ボー・スヴェンソン/フランシス・ギナン/ジェレミー・ホッツ●日本公開:1997/08●配給:20世紀フォックス映画(評価:★★☆)

ツイスター.jpgツイスタード.jpg「ツイスター」●原題:TWISTER●制作年:1996年●制作国:アメリカ●監督:ヤン・デ・ボン●製作:キャスリーン・ケネディ/イアン・ブライス/マイケル・クライトン●脚本:マイケル・クライトン/アン・マリー・マーティン●撮影:ジャック・N・グリーン●音楽:マーク・マンシーナ●時間:113分●出演:ヘレン・ハント/ビル・パクストン/ケイリー・エルウィス/ジェイミー・ガーツ/ロイス・スミス/アラン・ラック/フィリップ・シーモア・ホフマン/トッド・フィールド/ジョーイ・スロトニック/ジェレミー・デイビス/スコット・トマソン/ウェンデル・ジョセファー/ショーン・ウォーレン/ザック・グルニエ/ラスティ・シュウィマー●日本公開:1996/07●配給:UIP(評価:★★)
ツイスター [DVD]

「トゥルーライズ」.jpgトゥルーライズ01.jpg「トゥルーライズ」●原題:TRUE LIES●制作年:1994年●制作国:アメリカ●監督・脚本:ジェームズ・キャメロン●製作:ジェームズ・キャメロン/ステファニー・オースティン●オリジナル脚本:クロード・ジディ/シモン・ミシェル/ディディエ・カミンカ●撮影:ラッセル・カーペンター●音楽:ブラッド・フィーデル●時間:144分●出演:アーノルド・シュワルツェネッガー/ジェイミー・リー・カーティス/トム・アーノルド/ビル・パクストン/ティア・カレル/アート・マリックトゥルーライズ  ティア・カレル.jpgトゥルーライズ チャールトン・ヘストン.jpg/エリザ・ドゥシュク/グラント・ヘスロヴ/チャールトン・ヘストン●日本公開:1994/09●配給:日本ヘラルド映画●最初に観た場所:有楽町・日本劇場(94-09-25)(評価:★★★★)
アーノルド・シュワルツェネッガー/ティア・カレル
チャールトン・ヘストン

ラスト・アクション・ヒーローs.jpgラスト・アクション・ヒーロー  vhs.jpg「ラスト・アクション・ヒーロー」●原題:LAST ACTION HERO●制作年:1993年●制作国:アメリカ●監督:ジョン・マクティアナン●製作:スティーヴ・ロス/ジョン・マクティアナン●脚本:デヴィッド・アーノット/シェーン・ブラック●撮影ディーン・セムラー●音楽:マイケル・ケイメン●時間:131分●出演:アーノルド・シュワルツェネッガー/オースティン・オブライエン/チャールズ・ダンス/ロバート・プロスキー/トム・ヌーナン/フランク・マクレー/アンソニー・クイン/ブリジット・ウィルソン/F・マーリー・エイブラハム/マーセデス・ルール/アート・カーニー/イアン・マッケラン/プロフェッサー・トオル・タナカ/ジョーン・プロウライト/ノア・エメリッヒ●日本公開:1993/08●配給:コロンビア映画(評価:★★★)

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'93年は「ジュラシック・パーク」の年か。アイロニカルだった「ザ・プレイヤー」。

『映画イヤーブック 1994』.JPG映画イヤーブック1994.jpg    ザ・プレイヤー.jpg  ザ・プレイヤー  dvd.jpg
映画イヤーブック〈1994〉 (現代教養文庫)』/「ザ・プレイヤー」チラシ/「ザ・プレイヤー デラックス版 [DVD]

 1993年に公開された洋画328本、邦画151本、計479本の全作品データと解説を収録、更に映画祭、映画賞の記録、オリジナル・ビデオ・ムービー、未公開ビデオのデータなども網羅しています。

 本書での最高評価になる「四つ星」作品は、「ザ・プレイヤー」「愛の風景」「マルコムX」「許されざる者」「クライング・ゲーム」「秋菊の物語」「ジュラシック・パーク」「アラジン」「リバー・ランズ・スルー・イット」「ザ・シークレット・サービス」「タンゴ」「友だちのうちはどこ?」など10作品、一方邦画は、「お引越し」(相米慎二監督)、「病院で死ぬということ」(市川準監督)、「月はどっちに出ている」(崔洋一監督)、「ヌードの夜」(石井隆監督)の4作品と、依然やや寂しいか。

 映画館の年間入場者数は、それまでの史上最低を記録した'92年よりやや上向いて1億3千万人台に戻りましたが、これは偏に「ジュラシック・パーク」の大ヒットのお陰、邦画は、前年の「シコふんじゃった。」に続いて、今度は「月はどっちに出ている」が映画賞を総ナメするという、表面的にはやや偏った状況でした。

ザ・プレイヤー  vhs.jpg でも、前出の通り、ピレ・アウグスト監督の「愛の風景」(スウェーデン他9カ国)、チャン・イーモウ監督の「秋菊の物語」(中国)、パトリス・ルコント監督の「タンゴ」(仏)、アッバス・キアロスタミ監督の「友だちのうちはどこ?」(イラン)といったハリウッド映画以外の作品も一部で注目された年であり、また、ハリウッド映画の中にも、ロバート・アルトマン監督がハリウッドの映画製作の内幕を描いた「ザ・プレーヤー」('92年/米)などの変わった作品もありました(この作品は1992年カンヌ国際映画祭「監督賞」「男優賞」及びインディペンデント・スピリット賞、ザ・プレイヤー 1.jpgニューヨーク映画批評家協会賞などを受賞している)。

 原作・脚本はマイケル・トルキンで、ハリウッド映画界の権力者"プレイヤー"を目指す若手プロデューサーのグリフィン(ティム・ロビンス)が、脚本を没にされた脚本家から脅迫を受けるが、逆に脅迫者とおぼしき脚本家を殺害し、その恋人(グレタ・スカッキ)をも自分の女にしてしまう―「えーつ、これで終わり!?」という感じで、皮肉を込めたピカレスク・ロマンだったわけね。

THE PLAYER 1992 movie.jpg ラスト近く、グリフィンはウケだけを狙ったどうしょうもない通俗映画を作っていて、それに主演しているのが、ジュリア・ロバーツ、ブルース・ウィリスの二人で、更にバート・レイノルズ、アンジェリカ・ヒューストン、ジョン・キューザック、ジャック・レモン、アンディ・マクダウェル、シェール、ピーター・フォーク、スーザン・サランドンなどが映画内映画にカメオ出演している―この辺りはやはりロバート・アルトマンの名の下に―という感じでしょうか。

スーザン・サランドン/ピーター・フォーク

 ロバート・アルトマンは「M★A★S★H」(70年/米)、「ナッシュビル」(75年/米)以来、時々こうした"仲間内"感覚の作品を撮っていたなあ。この作品も、アイロニカルだけれど、みんなんで楽しみながら映画を作っている感じもあって、その分「毒」が中和されている印象も。

"THE PLAYER"(1992)輸入版DVD
THE PLAYER 1992.jpg「ザ・プレイヤー」●原題:THE PLAYER●制作年:1992年●制作国:アメリカ●監督:ロバート・アルトマン●製作:デヴィッド・ブラウン/マイケル・トルキン/ニック・ウェクスラー●脚本・原作:マイケル・トルキン●撮影:ジャン・ルピーヌ●音楽:トーマス・ニューマン●時間:124分●出演:ティム・ロビンス/グレタ・スカッキ/フレッド・ウォード/ウーピー・ゴールドバーグ/ピーター・ギャラガー/ブライオン・ジェームズ/ヴィンセント・ドノフリオ/ディーン・ストックウェル/リチャード・E・グラント/シドニー・ポラック/シンシア・スティーヴンソン/ダイナ・メリル/ジーナ・ガーション/ジェレミー・ピヴェン/リーア・エアーズ●カメオ出演ジュリア・ロバーツ/ブルース・ウィリス/バート・レイノルズ/アンジェリカ・ヒューストン/ジョン・キューザック/ジャック・レモン/アンディ・マクダウェル/The-Player.jpgシェール/ピーター・フォーク/スーザン・サランドン/ジル・セント・ジョン/リリー・トムリン/ジョン・アンダーソン/ミミ・ロジャース/ジョエル・グレイ/ハリー・ベラフォンテ/ゲイリー・ビューシイ/ジェームズ・コバーン/ルイーズ・フレッチャー/スコット・グレン/ジェフ・ゴールドブラム/エリオット・グールド/サリー・カークランド/マーリー・マトリン/マルコム・マクダウェル/ニック・ノルティ/ロッド・スタイガー/パトリック・スウェイジ●日本公開:1993/01●配給:大映(評価:★★★☆) Julia Roberts, Bruce Willis and may others for The Player

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'92年公開作品はバブル崩壊"効果"? ちょっと変わった感じの映画が目立った年。

『映画イヤーブック 1993』.JPGバートン・フィンク vhs1.jpg フライド・グリーン・トマト vhs.jpg
映画イヤーブック〈1993〉 (現代教養文庫)』/「バートン・フィンク」(VHS)/「フライド・グリーン・トマト」(VHS)  


プリティ・リーグ dvd.jpg 1992年に公開された洋画317本、邦画133本、計450本の全作品データと解説を収録していますが、この数字、本書の前年版によれば、前年の1991年に劇場公開された洋画は413本、邦画は151本、計564本となっていましたから、前年の2割減(洋画は2割5分減)ということになり、バブル崩壊の影響がこの辺りにも出たなあと。

 本書での最高評価になる「四つ星」作品は、「バートン・フィンク」「JFK」「美しき諍い女」「フライド・グリーン・トマト」「仕立て屋の恋」「プリティ・リーグ」など10作品、邦画は、「シコふんじゃった。」「いつかギラギラする日」「青春デンデケデケデケ」など4作品とやや寂しいか。
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バートン・フィンク0.jpg 結局、邦画界は1月に公開された周防正行監督の「シコふんじゃった。」がその年の映画賞を総ナメした形になりましたが、これ、意外と穴だったと言うか、実際に面白く(個人的にもこの年のナンバー1作品。但し、これだけ賞を獲ると、日本映画は他にいい作品がないのかという気も)、一方、洋画も例年の大作とは一味違ったものがじわじわ人気を呼んだりして、その典型が1991年・第44回カンヌ国際映画祭でパルムドールを受賞したジョエル・コーエン監督の「バートン・フィンク」('91年/米)ではなかったでしょうか。

Barton Fink -John Goodman & John Turturro

バートン・フィンク1.jpg 1941年、場末の安ホテルに籠って脚本を書いていた劇作家バートン・フィンク(ジョン・タトゥーロ)は、隣室のセールス男メドウズ(ジョン・グッドマン)と親しくなるが、フィンク自身は脚本が書けなくなるスランプに陥り、更には自分の部屋で殺人事件が起きて、メドウズが死体を片付けてくれたものの、彼は完全に神経症に陥る―。

 幾つもの解釈ができる面白い作品で、結局、フィンク自身が現実と空想の区別がつかなくなっているようです。ラストのホテルの部屋の壁に架かった絵画のアップが1つの謎解きと言えるかも(バートン・フィンクのモデルはフォークナーだそうだ)カンヌ映画祭で史上初の三冠(パルム・ドール(グランプリ)・監督賞・男優賞(ジョン・タトゥーロ))を成し遂げた作品とのことで、ストーリーの巧さもあるけれども、脚本執筆という創造の苦しみが描かれているのが、同業者の共感を呼んだ?

フライド・グリーン・トマト1.jpg もう一つ、同じく'92年公開のジョン・アヴネット監督の「フライド・グリーン・トマト」('91年/米)は、「ドライビング・ミス・デージー」のジェシカ・タンディが演じる元カフェ経営者の昔話を、「ミザリー」のキャシー・ベイツ演じる夫に愛想をつかされた女性が聴くという展開でしたが(アカデミー主演賞女優同士!)、ジェシカ婆さんが淡々と語る話の内容が、ある種、女性たちの人間として生きる権利を求めての闘いの軌跡というか、感動ストーリーでありながらも、合間に入るエピソードがグリム童話みたいに残酷(猟奇的)だったりして、この取り合わせの妙が何とも言えない作品でした。
    
プリティ・リーグ 2.png 女流監督ペニー・マーシャルが「レナードの朝」('90年)の次に撮った「プリティ・リーグ」('91年/米)のあらすじは―、1943年、男たちが戦争に駆り出され、プロ野球閉鎖の危機が訪れる中、全米女子プロ野球リーグが結成され、最強チーム"ピーチズ"のメンバーは、田舎の主婦からホール・ダンサーまで、野球を愛する男顔負けのスーパー・レディースで構成さMadonna A League of Their Own.jpgれていたが、汗と埃にまみれて白球を追う彼女たちの力強く美しい姿には全米が拍手を贈った―という感動もので、一見すると漫画的題材ですが、実話がベースになっているというのはやはり強いなあと。監督役のトム・ハンクスの演技が冴え、痛快スポーツ・ドラマとなっていますが、最後の同窓会的にかつてのメンバーが集う場面は、賛否があるものの個人的には良かったです。スーパースターのマドンナがナインの一員として(エース役のジーナ・デイビスの助演として)しっかり演技しているという点で興味深い作品でもあります。マドンナはハマリ役でした。 

Madonna in A League of Their Own

 好き嫌いが分かれそうな作品もありますが、バブル崩壊"効果"ではないでしょうが、がんがん力で押していくタイプの大作より、こうしたちょっと変わった感じの映画が目立った年でした。

バートン・フィンク dvd.jpgバートン・フィンク [DVD]」 ジュディ・デイヴィス in「バートン・フィンク」(1991年ニューヨーク映画批評家協会賞助演女優賞受賞) BARTON FINK, Michael Lerner, マイケル・ラーナー(1991年ロサンゼルス映画批評家協会賞助演男優賞受賞)
ジュディ・デイヴィス バートン・フィンク.jpgBARTON FINK, Michael Lerner, 1991l.jpg「バートン・フィンク」●原題:BARTON FINK●制作年:1991年●制作国:アメリカ●監督:ジョエル・コーエン●製作:イーサン・コーエン●脚本:ジョエル&イーサン・コーエン●撮影:ロジャー・ディーキンス●音楽:カーター・パウエル●時間:116分●出演:ジョン・タトゥーロ/ジョン・グッドマン/ジュディ・デイヴィス/マイケル・ラーナー/ジョン・マホーニー/トニー・シャルーブ●日本公開:1992/03●配給:KUZUIエンタープライズ(評価:★★★★)

「フライド・グリーン・トマト」 (91年/米).jpg「フライド・グリーン・トマト」●原題:FRIED GREEN TOMATO●制作年:1991年●制作国:アメリカ●監督:ジョン・アヴネット●製作:ジョン・アヴネット/ジョーダン・カーナー●脚本:キャロル・ソビエスフライド・グリーン・トマト dvd.jpgキー/ファニー・フラッグ●撮影:ジェフリー・シンプソン●音楽:トーマス・ニューマン●原作:ファニー・フラッグ「フライド・グリーン・トマト・アット・ザ・ホイッスル・ストップ・カフェ」●時間:130分●出演:キャシー・ベイツ/ジェシカ・タンディ/メアリー・スチュアート・マスターソン/メアリー=ルイーズ・パーカー/スタン・ショウ/シシリー・タイソン/クリス・オドネル/ゲイラード・サーテイン/ティム・スコット/ロイス・スミス/グレイソン・フリック/アフトン・スミス/ゲイリー・バサラバ/レイノール・シェイン●日本公開:199206●配給:アスキー映画(評価:★★★★)
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トム・ハンクス/ジーナ・デイヴィス/ マドンナ
プリティ・リーグ [DVD].jpgプリティ・リーグ 1.png「プリティ・リーグ」●原題:A LEAGUE OF THEIR OWN●制作年:1991年●制作国:アメリカ●監督:ペニー・マーシャル●製作:ロバート・グリーンハット/エリオット・アボット●脚本:ババルー・マンデル/ローウェル・ガンツ●撮影:ミロスラフ・オンドリチェク●音楽:ハンス・ジマー●時間:116分●出演:トム・ハンクス/ジーナ・デイヴィス/マドンナ/ロリー・ペティ/ロージー・オドネル/ジョン・ロビッツ/デヴィッド・ストラザーン/ゲイリー・マーシャル/ビル・プルマン/ティア・レオーニ/アン・キューザック/エディ・ジョーンズ/アン・ラムゼイ/ポーリン・ブレイスフォード/ミーガン・カヴァナグ/トレイシー・ライナー/ビッティ・シュラム/ドン・S・デイヴィス/グレゴリー・スポーレダー●日本公開:1992/10●配給:コロンビア・トライスター映画社(評価:★★★★)

Madonna - 1992 Steven Meisel   ジーナ・デイビス in「テルマ&ルイーズ」('91年/米)
Madonna - 1992 Steven Meisel.jpg テルマ&ルイーズ ジーナ・デイビス.jpg

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'91年公開作品で個人的◎は「テルマ&ルイーズ」。この年は「ツイン・ピークス」の年だった。

映画イヤーブック 1992 1.JPG映画イヤーブック 1992.jpg  テルマ&ルイーズ dvd.jpg ターミネーター2 dvd.jpg ツイン・ピークス dvd.jpg映画イヤーブック〈1992〉 (現代教養文庫)』「テルマ&ルイーズ (スペシャル・エディション) [DVD]」「ターミネーター2 特別編 [DVD]」「ツイン・ピークス ファーストシーズン [DVD]

 現代教養文庫の『映画イヤーブック』の1992年版で、1991年に劇場公開された洋画413本、邦画151本。計564本のデータを収めるほか、映画祭、映画賞の記録、オリジナル・ビデオムービー、未公開ビデオデータなども網羅しています(付録の部分が充実して、前年版より約50ページ増の470ページに)。

 本書での最高評価になる「四つ星」作品は、「わが心のボルチモア」「ワイルド・アット・ハート」「ニキータ」「マッチ工場の少女」「ダンス・ウィズ・ウルブス」「羊たちの沈黙」「エンジェル・アット・マイ・テーブル」「ターミネーター2」「コルチャック先生」「テルマ&ルイーズ」「真実の瞬間(とき)」「ボイジャー」「髪結いの亭主」「トト・ザ・ヒーロー」など、一方、邦画で四つ星は、大林宣彦監督の「ふたり」、山田洋次監督の「息子」、北野武監督の「あの夏、いちばん静かな海」、竹中直人監督の「無能の人」の4本だけで、分母数が違うけれどこの頃は概ね「洋高邦低」が続いた時期だったのかもしれません。

テルマ&ルイーズ ジーナ・デイビス.jpgテルマ&ルイーズ1.bmp 個人的なイチオシは、リドリー・スコット監督の「テルマ&ルイーズ」('91年/米)で、専業主婦のテルマ(ジーナ・デイヴィス)とレストランでウエイトレスとして働く独身女性のルイーズ(スーザン・サランドン)の親友同士が週末旅行に出掛けた先で、自分たちをレイプしようとした男を射殺したことから、転じて逃走劇になるという話(ロンドン映画批評家協会賞「作品賞」「女優賞(スーザン・サランドン)」受賞作)。

テルマ&ルイーズ2.bmp リドリー・スコットが女性映画を撮ったという意外性もありましたが、ジーナ・デイヴィスとスーザン・サランドンが、どんどん破局に向かいつつも、その過程においてこれまでの束縛や因習から解放され自由になっていく女性を好演し、彼女ら追いつつも彼女らの心情を理解し、何とか連れ戻したいとテルマ&ルイーズ ハーヴェイ・カイテル.jpgテルマ&ルイーズ ブラッド・ピット.jpg思う警部役のハーベイ・カイテルの演技も良かったです(まださほど知られていない頃のブラッド・ピットが、彼女らの金を持ち逃げするヒッチハイカー役で出ていたりもした)。
ハーヴェイ・カイテル(全米映画批評家協会賞「助演男優賞」受賞)/ブラッド・ピット

 逃避行の背景となる西部の大自然を、映像に凝るリドリー・スコット監督らしく美しく撮っていて、最後は何台ものパトカーによりグランドキャニオンの絶壁に2人は追いつめられるのですが、こうなると結末は見えてしまうものの(「明日に向かって撃て!」の現代女性版だね)、からっとした爽快感があって、ある種、日常生活や夫の面倒にかまけ、生きることに飽いている女性の「夢」を描いた作品と言えるかも(アメリカの女性ってそんなに鬱々とした日常を生きているのか?―でも、ある層はそうかもしれないなあ)。


ターミネーター2 01.jpg 「ダンス・ウィズ・ウルブス」といったアカデミー賞受賞作品と並んで「羊たちの沈黙」や「ターミネーター2」が星4つの評価を得ているというのがこの年の特徴でしょうか。

ターミネーター2L.jpg ジェームズ・キャメロン監督の「ターミネーター2」('91年/米)は、形状記憶疑似合金でできたT1000型ターミネーターが登場したものでしたが、この作品の前に「アビス」('89年)を撮り、ずっと後に「アバター」('09年)を撮ることになるターミネーター2 t1000.jpgジェームズ・キャメロン監督らしい特撮CGが冴えていたように思われ、T1000型を演じるロバート・パトリックも、華奢なところがかえって凄味がありました。一方、アーノルド・シュワルツネッガーが演じる旧タイプのT800型ターミネーターを善玉にまわしてヒューマンにした分、前作「ターミネーター」に比べ甘さがあるように思いました(これ、本書において山口猛氏が書いている批評とほぼ同じなのだが、山口氏の評価は最高評価になる星4つ)。IMDb評価は、「ターミネーター」が[8.1]、「ターミネーター2」が[8.6]で、「2」が上になっています。後からまとめて観た人は「2」の方がいいのかもしれないけれど、それぞれリルタイムで観た自分の場合、「1」のインパクトが大きかったです。

 「ターミネーター」('84年/米・英)はアーノルド・シュワルツネッガーを一気にスターダムに押し上げた作品でしたが、ジェームズ・キャメロン監督にとっても監ターミネーター14.png督デビュー作「殺人魚ターミネーター00.jpgフライング・キラー」(81年)に続く監督2作目であり、彼の出世作と言えます。ジェームズ・キャメロン監督はシュワルツネッガーと1度会食をしただけで、キャリアが浅く当初脇役で出演の予定だった彼をT800型ターミネーター役に抜擢することを決めたそうですが、シュワルツネッガーの全裸での登場シーンから始まって、そのストロングタイプのヒールぶりは今振り返ってもターミネーター    .jpg強烈なインパクトがあったように思います。ただ、この作品の後、「ターミネーター2」との間の7年間の間隔があり(ヒットしたB級映画にありがちだが、すぐにでも続編を撮りたいところが版権が複数社に跨っており、撮ろうにもなかなか撮れなかった)、その間にターミネーター01.pngシュワルツネッガーは「レッドソニア」「コマンドー」「ゴリラ」「プレデター」「バトルランナー」「レッドブル」「ツインズ」「トータル・リコール」「キンダガートン・コップ」といった作品に主演しており、こうなるともう悪役には戻れない...。特に「ツインズ」や「キンダガートン・コップ」といったコメディもそつなくこなしているのが大きいと思われ、人気面だけでなく演技面でも、「コナン・ザ・グレート」('82/米)でラジー賞の"最低男優賞"になってしまった人とは思えない成長ぶりでした(このことが「ターミネーター2」の"ヒューマンなターミネーター"役につながっていくわけか)。 

ツイン・ピークス1.jpg 因みに、91年は、これも映像表現に特徴のあるデイヴィッド・リンチ監督のテレビ・シリーズ「ツイン・ピークス」のビデオが日本でリリースされた年で、日本中のレンタルビデオ店が「ツイン・ピークス」入荷&予約待ち状態になるという大ブームになりましたが、この作品もある意味「脱日常」的な作品だったなあと(まあ、「Xファイル」にしろ「LOST」にしろ、どれもみんな「脱日常」なのだが)。

ツイン・ピークス2.jpg ビデオ14巻、全29話(パイロット版を含めると30話)、24時間強のサスペンス・ミステリーですが、毎回毎回いつもいいところで終わるので、続きを観るまで禁断症状になるという(あの村上春樹も米国でリアルタイムでハマったという)―ラストは腑に落ちなかったけれども(「えーっ、これが結末?」という感じか)、そのことを割り引いてもテレビ・ムービーの金字塔とツイン・ピークス3.jpg言えるのでは(デイヴィッド・リンチによると、このラストはあくまでも第2シーズンの最終話に過ぎず、「ツイン・ピークス」という物語そのものの結末ではないとのことだが、続編は未だ作られていない)。

 この作品のパイロット版は、もともとTVシリーズの第1話として作られたものですが、ヨーロッパへの輸出用に作られた、それ自体で映画として完結するインターナショナル・ヴァージョンが当時リリースされており、本編の「謎とき」とまではいかないですが、背景の説明としてガイド的役割を果たしています。

ツイン・ピークス ローラ・パーマー最期の7日間.jpg また、'92年に「ツイン・ピークス ローラ・パーマー最期の7日間」という劇場版が作られ、本編との矛盾もあるものの、こちらも本編の解説的役割を果たしています(と言っても、到底一筋縄で解るといったものではないけれど)。

ツイン・ピークス ローラ・パーマー最期の7日間 [DVD]

 TV版の雰囲気をしっかり引き継いでいるし(むしろデイヴィッド・リンチ的な雰囲気はより前面に出ている)、"壊れゆくローラ"を演じたシェリル・リーの演技も悪くない。ある意味、TV版の結末よりも正統派的な展開なのかもしれないけれど、メタファーの大部分が理解不能だったなあ。《ツイン・ピークス・フリークス》と言われる人のサイトを見て、なるほどそういうことなのかと理解した次第(登場人物そのものがメタファーだったりしてるわけだ)。まあ、TVシリーズを最後まで観てから映画を観た方がいいに違いはありません(それでも、よく解らないところが多かったのだが)。

THELMA & LOUISE 2.jpgTHELMA & LOUISE.jpg「テルマ&ルイーズ」●原題:THELMA & LOUISE●制作年:1989年●制作国:アメリカ●監督:リドリー・スコット●製作:リドリー・スコット/ミミ・ポーク●脚本:カーリー・クーリ●撮影:エイドリアン・ビドル●音楽:ハンス・ジマー●時間:129分●出演:スーザン・サランドン/ジーナ・デイヴィス/ハーヴェイ・カイテル/マイケル・マドセン/ブラッド・ピット●日本公開:1991/10●配給:松竹富士(評価:★★★★☆)

ターミネーター2-15.jpg「ターミネーター2」●原題:TERMINATOR2:JUDGMENT DAY●制作年:1991ターミネーター2 02.jpg年●制作国:アメリカ●監督・製作:ジェームズ・キャメロン●脚本ジェームズ・キャメロン/ウィリアム・ウィッシャー●撮影:アダム・グリーンバーグ●音楽:ブラッド・フィーデル●時間:137分(公開版)/154分(完全版)●出演:アーノルド・シュワルツェネッガー/リンダ・ハミルトン/エドワード・ファーロング/ロバート・パトリック/アール・ボーエン/ジョー・モートン/ジャネット・ゴールドスタイン●日本公開:1991/08●配給:東宝東和(評価:★★★)

ターミネーター ps.jpgターミネーター25.jpg「ターミネーター」●原題:THE TERMINATOR●制作年:1984年●制作国:アメリカ/イギリス●監督:ジェームズ・キャメロン●製作:ゲイル・アン・ハード●脚本:ジェームズ・キャメロン/ゲイル・アン・ハードターミネーター03.png●撮影:アダム・グリーンバーグ●音楽:ブラッド・フィーデル●時間:108分●出演:新宿文化シネマ2.jpgアーノルド・シュワルツェネッガー/マイケル・ビーン/リンダ・ハミルトン/ポール・ウィンフィールド/ランス・ヘンリクセン/リック・ロッソヴィッチ/ベス・マータ/ディック・ミラー●日本公開:1985/05●配給:ワーナー・ブラザーズ●最初に観た場所:新宿・文化シネマ2 (85-05-26) (評価:★★★☆)
新宿文化シネマ2 2006(平成18)年9月15日閉館、2006(平成18)年12月9日〜文化シネマ1・4が「新宿ガーデンシネマ1・2」としてオープン(2008(平成20)年6月14日「角川シネマ館」に改称)、文化シネマ2・3が「シネマート新宿1・2」としてオープン

Twin Peaks (1990)
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Twin Peaks (ABC 1990).jpgツイン・ピークス.jpg「ツイン・ピークス」 Twin Peaks (ABC 1990/04~1991/06) ○日本での放映チャネル: WOWWOW(1991)
                                   
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カイル・マクラクラン
      
「ツイン・ピークス ローラ・パーマー最期の7日間」●原題:TWIN PEAKS THE LUST SEVEN DAYS OF LAURA PALMER(Twin Peaks:Fire Walk With Me)●制作年:1TWIN PEAKS THE LUST SEVEN DAYS OF LAURA PALMER2.jpgTWIN PEAKS THE LUST SEVEN DAYS OF LAURA PALMER.jpg992年●制作国:アメリカ●監督:デイヴィッド・リンチ●製作:グレッグ・ファインバーグ●脚本:デイヴィッド・リンチ/ロバート・エンゲルス●撮影:ロン・ガルシア●音楽:アンジェロ・バダラメンティ●時間:135分●出演:シェリル・リー/レイ・ワイズ/カイル・マクラクラン/デヴィッド・ボウイ/キーファー・サザーランド●日本公開:1992/05●配給:日本ヘラルド映画(評価:★★★?)

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'90年公開作品で個人的◎は「ドゥ・ザ・ライト・シング」「ドライビング Miss デイジー」。

映画イヤーブック 1991 3298.JPG映画イヤーブック1991 教養文庫.jpg  ドゥ・ザ・ライト・シング0.bmp DRIVING MISS DASIY.bmp
映画イヤーブック〈1991〉 (現代教養文庫)』「ドゥ・ザ・ライト・シング [DVD]」「ドライビングMissデイジー [DVD]
 
 90年代に毎年刊行された現代教養文庫(版元の社会思想社は倒産)の『映画イヤーブック』の1991年版で、1990年に劇場公開された洋画406本、邦画146本、計552本のデータを収めています。ストーリー紹介だけでなく、主だった作品は、映画評論家が分担して執筆し、それぞれ批評を織り込んでいて、後でDVDなどで観賞する際の参考になりました(本書評価は★★★★→必見、★★★→ぜひ見る価値アリ、★★→見て損はしない、★→ヒマつぶしにはなるかも)。本書における四つ星評価(「必見」)作品から幾つか拾うと―。

ドゥ・ザ・ライト・シング1.bmp '90年公開の洋画で先ず個人的に良かったのは、スパイク・リー監督の「ドゥ・ザ・ライト・シング」('89年/米)で、ブルックリンの黒人街でピザ屋を営むイタリア系父子と店員のムーキーやその周辺の黒人たちの暑い夏の1日を、毒々しい色彩感覚とラップのリズムにのせて描いたものですが、まだメジャーになる前のスパイク・リー監督自身がピザ屋の店員のムーキー役で主演しており、作品の根柢には人種差別問題があるのですが、予定調和に終わらない結末にスパイク・リーの鋭さが窺えました。ダニー・アイエロは「ゴッドファーザーPart II」や「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ」にもちょこっと出ていた俳優ですが、この作品で1989年・ロサンゼルス映画批評家協会賞「助演男優賞」を受賞しています。(本書評価★★★★/個人的評価★★★★☆)。

ドライビング miss デイジー.bmp 続いて良かったのがブルース・ベレスフォード監督の「ドライビング Miss デイジー」('89年/米)で、90年度アカデミー賞優秀作品賞・主演女優賞などの最多4部ジェシカ・タンディ アカデミー賞.jpg門に輝いた秀作(ジェシカ・タンディは歴代最高齢(80歳)でのアカデミー主演女優賞受賞)。1948年のアトランタを舞台に70歳過ぎのユダヤ人の元教師(ジェシカ・タンディ)と黒人運転手(モーガン・フリーマン)の交流を描いたもので、ラストの老人ホームでの二人の再会シーンは感動的。こうした"感動ストーリー"仕立てを好まない人もいますが、個人的には入れ込んでしまいました。dジェシカ・タンディの名演もさることながら、この頃のモーガン・フリーマンもいいです(本書評価★★★★/個人的評価★★★★☆)。

「ショーシャンクの空に」03.jpg モーガン・フリーマンが映画俳優として知られるようになったのは50歳の時、ジェリー・シャッツバーグ監督の「NYストリート・スマート」('87年/米)でアカデミー助演男優賞にノミネートされてからで、この「ドライビング Miss デイジー」でアカデミー主演演男「ショーシャンクの空に」02.jpg優賞にノミネートされたのは52歳の時。さらにフランク・ダラボン監督の「ショーシャンクの空に」('94年/米)でティム・ロビンスと共に主役レッドを演じて最高の評価を得、前作に続いてアカデミー主演演男優賞にノミネートされますが受賞はならず、その10年後に、クリント・イーストウッドが監督した「ミリオンダラー・ベイビー」('04年/米)でアカ「ショーシャンクの空に」1994.jpg「ショーシャンクの空に」モーガン.jpgデミー助演男優賞受賞を受賞し、4回目のノミネートでアカデミー俳優となります。(●2023年10月9日、「ショーシャンクの空に」を「TOHOシネマズ錦糸町オリナス」にて「午前十時の映画祭13」で4K版にて再鑑賞(劇評で観るのは初)。モーガン・フリーマンの堂々たる演技が、レッドを単なる"観察者"ではなくより強い存在していることを再認識した。一方で、アカデミー賞を獲れなかった理由も、主人公と異なりレッドが"行動者"ではなく"観察者"に留まっているという役柄設定のせいもあったのではないかと思った。原作は スティーヴン・キングの『刑務所のリタ・ヘイワース』。壁に貼られた女優のポスターリタ・ヘイワース、マリリン・モンロー、ラクエル・ウェルチと変わっていくのが時の流れを表していた。2023年時点で、IMDb Top 250 Moviesの第1位[スコア9.3])
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 自分としては「ショーシャンクの空に」よりも「ドライビング Miss デイジー」に感動してしまったクチなのですが、アメリカの黒人コミュニティーの間では「ドライビング Miss デイジー」は白人にとって都合のいい黒人が描かれている映画として、評判は良くないようです。確かにハリウッド映画の伝統的な黒人の描かれ方の枠を出ていないかも(でも、個人的には名作だと思う)。その対極にあるのが、「ドゥ・ザ・ライト・シング」でもあると言え、アカデミー賞授賞式のプレゼンターとして舞台に立ったキム・ベイシンガーは、「今年のノミネート作品ほど素晴らしい作品が揃った年はない。しかし一つだけ最高の傑作をアカデミーは忘れている」と発言して、「ドゥアカデミー賞 キム・ベイシンガー1.jpgアカデミー賞 キム・ベイシンガー.jpg・ザ・ライト・シング」を取り上げ、「この映画には真実がある」と訴えています(キム・ベイシンガーも「ドライビング Miss デイジー」が良くないとは言っていない。しかしながら、この頃からアカデミーのある種"偏向"を見抜いていたとも言える)。

Guddoferozu(1990).jpgグッドフェロー1.bmp マーティン・スコセッシ監督の「グッドフェローズ」('90年/米)は、実在の人物をモデルにギャングたちの生き様を描いた作品で、ヴェネツィア国際映画祭「銀獅子賞」受賞作。ロバート・デ・ニーロが口封じのために仲間を次々と殺していく様子や、ジョー・ペシがギャングの幹部に呼ばれて昇格かと思い出向いたところ、逆に殺されてしまうところなどオソロシイ。「グッドフェローズ」って、反語的意味合いを含んでいるわけね(本書評価★★★★/個人的評価★★★★)。
Guddoferozu(1990)

トータル・リコール 12.jpg 「トータル・リコール」('90年/米)は、フィリップ・K・ディック(1928-1982/享年53)の短編SF小説「記憶倍シャロン・ストーン12.jpgります」をポール・バーホーベンが監督したもので、シュワルツェネッガー演じる主人公の偽(ニセ)の妻役に、後に同じくポール・バーホーベン監督の「氷の微笑」('92年/米)に主演するシャロン・ストーンが出ていました。優れたSF映画に贈られる「サターンSF映画賞」の第17回受賞作。この作品、最近リメイクされています(本書評価★★★★/個人的評価★★★☆)。

フィリップ・K・ディック原作映画 「ブレードランナー」 ('82年/米)/「マイノリティ・リポート」('02年/米)
ブレードランナー チラシ.jpg ブレードランナー.jpg    マイノリティ・リポート01.jpg マイノリティ・リポート 02.jpg 


ロボコップ 警官.jpg 因みに、ポール・バーホーベン監督は「ロボコップ」('87年/米)で米映画界に進出して成功を収めたオランダ人です。「ロボコップ」は、殉職した警官の遺体を利用したサイボーグ警官が活躍するバイオレンスSFアクション映画で低予算で作られながらもヒットし、「ロボコップ2」「ロボコップ3」やテレビドラマシリーズも作られました(2014年にリメイクされた)。サイボーグ警官を演じたのはピーター・ウェラーでしたが、アーノルド・シュワルツェネッガーも候補だったとロボコップ 1987 pw.jpgか。犯罪多発都市としてデトロイト市を舞台としていますが、デトロイトは当時から既に自動車産業の衰退で荒廃していたため、ロケのほとんどはダラスで行われたそうです。暴力シーンも多いですが、一方で、ピーター・ウェラーの演じる哀愁を帯びた主人公と、そのロボット歩き(ピーター・ウェラーしかできなかったので彼がスタントも演じた)はなかなかのものでした。ラストで、悪人がオム二社(ロボコップを造った会社)の会長を人質にして逃走を図りますが、悪人はオムニ社の役人で、ロボコップに内蔵されていた「オムニ社役員には危害を加えない」というプログラムがあって手を出せないでいたところ、会長が悪人に「お前はクビだ!」と叫んだことでプログラムの規定が消滅し、ロボコップは悪人を射殺するという、そうしたコミカルな面もありました(これも「サターンSF映画賞」の受賞作)。

  
バタアシ金魚ド.jpgバタアシ金魚 dvd2.bmp 洋画ばかり挙げましたが、邦画では「バタアシ金魚」('90年/シネセゾン)なんてあったなあ。個人的には自主制作時代の作品も何本か観たことのある松岡錠司監督の劇場用映画デビュー作、主演の筒井道隆(坊主「バタアシ金魚」.bmp頭で出演)・高岡早紀にとっても共にデビュー作ということで、新鮮味はありました。コミックが原作ながらも、インディペンデント系の雰囲気を残してしてまあまあ面白かったけれど、ストーリーとしては中途半端だった印象も。過食症でブタのように太った主人公も高岡早紀が演じたのだろうか。顔があまり映っていなかったが...(本書評価★★★★/個人的評価★★★☆)。 


ドゥ・ザ・ライト・シング 03.jpg

ドゥ・ザ・ライト・シング dvd.jpg「ドゥ・ザ・ライト・シング」●原題:DO THE RIGHT THING●制作年:1989年●制作国:アメリカ●監督・製作・脚本:スパイク・リー●撮影:アーネスト・ディッカーソン●音楽:ビル・リー●時間:120分●出演:スパイク・リー/ダニー・アイエロ/ルビー・ディー/サミュエル・L・ジャクソン/オジー・デイヴィス/リチャード・エドソン/ジョン・タトゥーロ/ビル・ナン/ロージー・ペレス/ ジョイ・リー/ジャンカルロ・エスポジート/ジョン・サベージ/ロビン・ハリス●日本公開:1990/04●配給:ユニヴァーサル=UIP(評価:★★★★☆)ドゥ・ザ・ライト・シング [DVD]
ドライビング miss デイジー dvd.bmp
ドライビング miss デイジー ちらし.jpg「ドライビング Miss デイジー」●原題:DRIVING MISS DASIY●制作年:1989年●制作国:アメリカ●監督:ブルース・ベレスフォード●製作:リチャード・D・ザナック/リリ・フィニー・ザナック●原作・脚本:アルフレッド・ウーリー●撮影:ピーター・ジェームズ●音楽:ハンス・ジマー●時間:99分●出演:ジェシカ・タンディ/モーガン・フリーマン/ダン・エイクロイド/パティ・ルポーン/エスター・ローレ/ジョアン・ハヴリラ/ウィリアム・ホール・Jr.●日本公開:1990/05●配給:東宝東和(評価:★★★★☆)ドライビングMissデイジー [DVD]

「ショーシャンクの空に」d.jpg「ショーシャンクの空に」01.jpg「ショーシャンクの空に」●原題:THE SHAWSHANK REDEMPTION●制作年:1994年●制作国:アメリカ●監督・脚本:フランク・ダラボン●製作:ニキ・マーヴィン●撮影:ロジャー・ディーキンス●音楽:トーマス・ニューマン●原作:スティーヴン・キング「刑務所のリタ・ヘイワース」●時間:142分●出演:ティム・ロビンス/モーガン・フリーマン/ボブ・ガントン/ウィリアム・サドラー/クランシー・ブラウン/ギル・ベローズ/ジェームズ・ホイットモア●日本公開:1995/06●配給:松竹富士(評価:★★★★)ショーシャンクの空に [DVD]

「グッドフェローズ」.jpg「グッドフェローズ」●原題:GOODFELLAS●制作年:1990年●制作国:アメリカ●監督:マーティン・スコセッシ●製作:アーウィン・ウィンクラー●脚本:ニコラス・ピレッジ/マーティン・スコセッシ●撮影:ミヒャエル・バルハウス●時間:145分●出演:レイ・リオッタ/ロバート・デ・ニーロ/ジョー・ペシ/ロレイン・ブラッコ/ポール・ソルヴィノフランク・シベロ/グッドフェローズ dvd.jpgマイク・スター/フランク・ヴィンセント/チャック・ロー/フランク・ディレオ/サミュエル・L・ジャクソン/クリストファー・セロ/スザンヌ・シェパード/キャサリン・スコセッシ/チャールズ・スコセッシ●日本公開:1990/10●配給:ワーナー・ブラザーズ(評価:★★★★)グッドフェローズ スペシャル・エディション 〈2枚組〉 [DVD]

トータル・リコール [DVD]
トータル・リコール003.jpgトータル・リコール dvd.jpg「トータル・リコール」●原題:TOTAL RECALL●制作年:1990年●制作国:アメリカ●監督:ポール・バーホーベン●製作:バズ・フェイシャンズ/ロナルド・シュゼット●脚本:ロナルド・シュゼット/ダン・オバノン/ゲイリー・ゴールドマン●撮影:ヨスト・ヴァカーノ●音楽:ジェリー・ゴールドスミス●原作:フィリップ・K・ディック「記憶売ります」●時間:113分●出演:アーノルド・シュワルツェネッガー/レイチェル・ティコトータル・リコール シャロン・ストーン.jpgティン/シャロン・ストーン/ロニー・コックス/マイケル・アイアンサイド/マーシャル・ベル/メル・ジョンソン・Jr/ ロイ・ブロックスミス/レイ・ベイカー/マイケル・チャンピオン/デビッド・ネル●日本公開:1990/06●配給:東宝東和(評価:★★★☆)

ロボコップ 1987.jpgロボコップ pw.jpg「ロボコップ」●原題:RoboCop●制作年:1987年●制作国:アメリカ●監督:ポール・バーホーベン●製作:アーン・L・シュミット●脚本:エドワード・ニューマイヤー/マイケル・マイナー●撮影:ヨスト・ヴァカーノ/ソル・ネグリン●音楽:ベイジル・ポールドゥリス●時間:103分●出演:ピーター・ウェラー/ナンシー・アレン/ロニー・コックス/カートウッド・スミス/ダン・オハーリー/ミゲル・フェラー/ロバート・ドクィ/フェルトン・ペリー/レイ・ワイズ/ポール・マクレーン●日本公開:1988/02●配給:ワーナー・ブラザース映画(評価:★★★★)
ロボコップ/ディレクターズ・カット [DVD]

高岡早紀(17歳)(テレフォンカード)/「バタアシ金魚 [DVD]
バタアシ金魚 1990.jpg「バタアシ金魚」2.bmpバタアシ金魚 dvd.jpg「バタアシ金魚」●制作年:1990年●監督・脚本:松岡錠司●製作:日本ビクター●撮影:笠松則通●音楽:茂野雅道●原作:望月峯太郎●時間:95分●出演:高岡早紀/筒井道隆/白川和子/伊武雅刀/東幹久/土屋久美子/浅野忠信/大寶智子/橋本真由子/いしかわじゅん/桜金造/山村美智子/佐藤オリエ/安原麗子●公開:1990/06●配給:シネセゾン●最初に観た場所:シネパトス新宿 (90-06-16)(評価:★★★☆)

筒井道隆(19歳)・浅野忠信(16歳)共に映画デビュー作
「バタアシ金魚」筒井・浅野.jpg「バタアシ金魚」浅野.jpg  
 「バタアシ金魚」で、浅野忠信は丸刈りで牛川工業高校水泳部の主将ウシを演じた。 
 浅野忠信は、自身のSNSのプロフィールとコメントが書かれたページで、「バタアシ金魚」について「撮影の時はあまり楽しくなかったです。撮影以外の時も楽しくなかったです」とコメント。他の部員役は床屋でカットしたが、「僕だけ八王子まで行って、そこから車でちょっと行ったふつうの家に連れてかれ、牛のフンくさい太陽がギラギラ照っている外で、とても暑い思いをしてバリカンの試し刈りとしか思えない断髪式をやった事がとてもムカムカ」したとし、さらに「人の頭を刈るだけ刈って長さメチャクチャ」「あとはメイクさん、向こうで切ってと言って、端の方で頭刈られて、極めつけは、さっきまで僕が頭を刈られてた所でロケをやっているんですから、もうバクハツ寸前でした」と。しかし最後は「でも泳ぎがうまくなったし、世の中の厳しさが分かったし電車にも詳しくなったし、友達ができたのでよかったです。スタッフの人はいい人ばかりでした」としている(引用:「浅野忠信」インスタグラム(@tadanobu_asano))

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ジョブズの多面性をそのままに描く。こんな劇的な話があっていいのかと思うくらい面白かった。

スティーブ・ジョブズ 偶像復活.jpgスティーブ・ジョブズ 偶像復活2.bmp スティーブ・ジョブズ 1977.jpg Steve Jobs.jpg S. Jobs
スティーブ・ジョブズ-偶像復活』['05年/東洋経済新報社] AppleⅡを発表するスティーブ・ジョブズ(1977)本書より

ウォルター・アイザックソン スティーブ・ジョブズ.jpg アップル創業者スティーブ・ジョブズ(1955-2011/享年56)の半生記であり、ジョブズの伝記はこれまでも多く刊行されていますが、昨年['11年]10月にジョブズが亡くなったことで、ウォルター・アイザックソン『スティーブ・ジョブズ(上・下)』('11年10月/講談社)をはじめ、多くのジョブズ関連本がベストセラーにランクインすることとなりました。

 アイザックソン版は絶妙のタイミングでの邦訳刊行でしたが、取材嫌いのスティーブ・ジョブズが唯一全面協力した「本人公認の決定版評伝」とのことで、スティーブ・ジョブズという人の評伝を読むに際し、彼のキャラクターからみて果たしてそのことがいいのかどうか。上下巻に渡る長さということもあり、翻訳の方もかなり急ぎ足だったことが窺えるようで、同じ井口耕一氏の翻訳によるものですが、本書の方を読むことにしました。

 本書は、原著も'05年刊行であり、ジョブズの生い立ちから始まって、一度はアップルを去った彼が倒産寸前のアップルに復帰し、iPod等で成功を収めるまでが描かれていますが、翻訳はこなれていて読み易く、ジョブズの歩んできた道が成功―挫折―復活の繰り返しであったこともあって、とにかく内容そのものが波瀾万丈、こんな劇的な話があっていいのかというくらい面白かったです。

ジョブズ nhk.bmp 個人的には、ちょうどNHKスペシャルで「世界を変えた男 スティーブ・ジョブズ」('11年12月24日放送)を見たところでしたが、それと照らしても、偏りの少ない伝記と言えるのではないでしょうか。元々が毀誉褒貶の激しいジョブズですが、そのスゴイ面、人を強烈に引きつける面と、ヒドイ面、友人や上司にはしたくないなあと思わせる面の両方が書かれていて、それでいて、ジョブズに対する畏敬と愛着が感じられました。

 単巻ながらも約500ページの大著ですが、アップル創業時代を描いた第1部(21歳でアップルを創業し、僅か4年で「フォーチュン500」に名を連ねる企業にするも、経営予測を誤り'85年に同社を追われる)、追放時代を描いた第2部(NeXT社を設立する一方、ルーカス・フィルムの子会社を買収して設立したピクサーで成功を収め、表舞台に復帰する)、アップル復帰以降の第3部(13年ぶりにアップルに復帰するやiMac('98年)をヒットさせ、更にiPod('01年)、iTunesなどのヒットをも飛ばす)とバランスよく配分されています。

「マッキントッシュ」新発売コマーシャルと発表するジョブズ(1983)
steve jobs 1983.jpg アップルの共同創業者や自らが引き抜いた経営陣との確執のほかに、同年代のライバルであるビル・ゲイツとの出会いや彼との交渉、Windowsの牙城を切り崩そうするジョブズの攻勢なども描かれていますが、ピクサーでの仕事におけるディズニー・アイズナー会長との様々な権利を巡るビジネス面での交渉が特に詳しく描かれており、アメリカのコンピュータ業界の内幕を描いた本であると同時に、映画ビジネス界を内側から描いたドキュメントにもなっています。
   
Luxo Jr.(1986)
Luxo Jr.jpg NHKスペシャルの「世界を変えた男 スティーブ・ジョブズ」を見て、彼の人生には幾つかの印象的な場面が印象的な映像と共にあったように思われ、とりわけ、'84年のマッキントッシュ発売の際のジョージ・オーエルの『1984』をモチーフとしたコマーシャル(CM監督は「ブレードランナー」('82年)のリドリー・スコット)や、'86年のCGの可能性を如実に示した"電気ランプ"の親子が主人公の短篇映画「ルクソーJr.」(Luxo Jr.)、'95年の「世界初のフル3DCGによる長編アニメーション映画「トイ・ストーリー」などが個人的には脳裡に残りました。

「トイ・ストーリー」(1995)
トイ・ストーリー1.jpg 「トイ・ストーリー」以外は番組で初めて見ましたが、そうした映像のイメージもあって本書を比較的身近に感じながら読むことができ、「トイ・ストーリー」も、初めて観た時はCGが進化したなあと思っただけでしたが、ジョブズが買収も含め個人資産を10数年も注ぎこむも全く利益を生まなかったピクサーが、土壇場で放った"大逆転ホームラン"だったと思うと、また違った感慨も湧きます(この作品だけでも公開までの4年間の投資額は5千万ドルに及び、「こんなに金がかかるなら投資しなかった」とジョブズは語っているが、本作のヒットでピクサー株は高騰し、結果的にジョブスの資産は4億ドル増えた)。

 そもそも、ジョブズのアップル復帰そのものが、次世代マッキントッシュの開発に失敗したジョブズ無き後のアップルが、次世代OSを求め、その開発に当たっていたNeXT社を買収、それに伴いジョブズの非常勤顧問という形でのアップル復帰が決まったわけで、それを機にジョブズは経営の実権を握るべくポリティックな画策をするわけですが、この「トイ・ストーリー」のヒットが、ジョブズの立場を押し上げ強固なものとする追い風になったのは確かでしょう。

 「トイ・ストーリー」に続くピクサー作品も、興行記録を次々塗り変えるヒットで、その生み出す利益があまりに膨大であるため、本書にあるようなディズニー・アイズナー会長との確執ということに繋がっていったのでしょうが、その後アイズナーの方は会長職を追われ、ジョブズはピクサーをディズニーに売却すると共に、ディズニーの筆頭株主に収まるという決着となっています。

iMacを発表するジョブズ(1998)
iMac 1998.jpg 人々を惹き付ける素晴らしいプレゼンテーションをする一方で、傲慢な人柄で平気で人を傷つけ、また、類まれなイノベーターとして製品のデザインや性能への完璧主義的なこだわりを持つ一方で、相手の弱みに付け込む政治的画策も厭わない冷酷な経営者という一面も持つ―こうしたジョブズの多面性が、本書では充分に描かれているように思いました。

 彼の次の視野には、マイクロソフトからコンピュータ業界の覇権を奪回すべく、Windows及びOfficeに匹敵するようなOSやアプリの開発があることが本書では示唆されていますが、実際に彼が'07年1月のMacworld 初日の基調講演で発表した新製品は、次世代携帯端末のiPhoneだった―徹底した秘密主義というのもあるかと思いますが、ほんの1年か2年後にどんな(しかもメガヒットとなる)製品を出すのか、誰も予測がつかなかったということなのでしょうか。

トイ・ストーリー17.jpgトイ・ストーリー dvd.jpg「トイ・ストーリー」●原題:TOY STORY●制作年:1995年●制作国:アメリカ●監督:ジョン・ラセター●製作:ラルフ・グッジェンハイム/ボニー・アーノルドズ●脚本:ジョス・ウィードン/アンドリュー・スタントン/ジョエル・コーエン/アレック・ソコロウ●撮影:スティーヴン・H・ブラム●音楽:ランディ・ニューマン●時間:81分●出演:トム・ハンクス/ティム・アレン/ドン・リックルズ/ジョン・モリス/ウォーレス・ショーン/ジョン・ラッツェンバーガー/ジム・バーニー●日本公開:1996/03●配給/ブエナ ビスタ インターナショナル ジャパン(評価★★★☆)
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アクション映画としてはよく出来ているが、列車が危険物を積んでいるという実感が無い。

アンストッパブル チラシ.jpg アンストッパブル dvd.jpg UNSTOPPABLE2.jpg 暴走機関車 poster.jpg
「アンストッパブル」チラシ「アンストッパブル[DVD]」クリス・パイン/デンゼル・ワシントン「暴走機関車」poster

アンストッパブル 09.jpg ペンシルバニア州のある操車場に停車中の最新式貨物列車が、整備士の人為的ミスによって無人のまま走り出してしまうが、積荷は大量の化学薬品とディーゼル燃料であることが判明、操車場長のコニー・フーパー(ロザリオ・ドーソン)は極めて深刻な事態が発生アンストッパブル10.jpgしたことを認識し、州警察に緊急配備を依頼する。フランク・バーンズ(デンゼル・ワシントン)と職務経験4ヵ月のその頃、勤続28年のベテラン機関士車掌ウィル・コルソン(クリス・パイン)は、この日初めてコンビを組み、旧式機関車に乗り込み職務に就いていた―。
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暴走機関車 dvd2.jpg暴走機関車 .jpg暴走機関車03.jpg 列車の暴走を扱った映画ということで、アラスカの刑務所から脱獄した男たちが乗った機関車が運転手が心臓発作で亡くなったため暴走する、アンドレ・ミハルコフ=コンチャロフスキー監督、ジョン・ヴォイト主演の「暴走機関車」('85年/米)を想起しましたが(映画の原案は黒澤明だが黒澤は完成した映画を批判している)、こちらは2001年にオハイオ州で実際に発生した貨物列車暴走事故が下敷きになっています。但し、発生場所も含め変更が加えられており、そのため「事実に着想を得た」作品となっていますが、ハリウッド映画にありがちなテロリストやサイコパスの"悪意"による事故ではなく、純粋に人為的ミスの積み重ねで生じたトラブルをモチーフアンストッパブル 1.jpg『アンストッパブル』(2010)2.jpgにしているところに興味を惹かれました(「リスク管理」の教材?この作品の日本初試写会は鉄道高校として有名な東京・上野の岩倉高等学校の体育館で行われ、ゲストにAKB48のメンバーが登場した(2010年11月17日) )。
「アンストッパブル」
アンストッパブル 3.jpg デンゼル・ワシントンは、同じくトニー・スコット監督作品の「サブウェイ123 激突」('09年)でも鉄道員の役を演じていて、前回は運行司令官役でしたが、今回は運転士役。デンゼル・ワシントンが、妻と死別し2人の難しい年頃の娘がいる寡男で会社からは退職勧告を受けていて、クリス・パインの方は、妻の浮気疑惑で離婚争議中のため接近禁止命令が出ている男といった具合に、共に仕事や家庭生活に難点を抱える者同士の組み合わせですが、映画の主役は、劇薬を積んで市街地へ向かって暴走する800メートルの貨物列車でしょうか。

トニー・スコット 「アンストッパブル」.bmpアンストッパブル 2.jpg 鉄道会社の上層部の見通しの甘い事故対応が更に「アンストッパブル」●2.jpg事態を悪化させるといった社会批判も織り交ぜ、また、アクション映画としてもよく出来ているけれども、最初からデンゼル・ワシントン(観ていて安心感あり過ぎ)らが事態を収束するであろうことが見えていて、あまりドキドキしなかった感じも(むしろ、デンゼル・ワシントンは彼自身のアクション・シーンが危なっかしい感じだったけれど、勿論これは演技のうち?)。

恐怖の報酬3.jpg恐怖の報酬.jpg恐怖の報酬1.bmp 街中のカーブで貨物列車が脱線する恐れがあるいうのは確かにスリリングかも知れませんが、列車が危険物を積んでいるという実感が無く、その点は、イヴ・モンタンがニトログリセリンを積んだトラックを運転するアンリ・ジョルジュ・クルーゾーの「恐怖の報酬」('53年/仏)などは上手かったなあ(ラストは「徒然草」の「高名の木登り」を想起した)。
恐怖の報酬
 油田火災を消火するためにニトログリセリンをトラックで運ぶ仕事を請け負った男たちの話ですが、男たちの目の前で石油会社の人間が積み荷であるニトロの一滴を岩の上に垂らしてみせると岩が粉微塵になってしまうという、導入部の演出が効果満点! 一滴だけでもこれだけの威力があるものを、トラックに目一杯積んで、これから危険な山道を走るという...シズル感のあるスリルの演出―どうして、こうした先人たちのテクニックを活かさないのだろう。カメラワーク一つとっても半世紀以上前の作品の方が上であるというのは...。 

ロザリオドーソン.jpgUNSTOPPABLE.jpg 女性操車場長のロザリオ・ドーソンは、リー・ストラスバーグ演劇学校で学んだ演技派で、この作品でも好演(「メン・イン・ブラック2」('02年)の店員役の頃に比べると随分貫禄がついた?)。但し、事故の収束とともに2人の男がヒーローになるのは"予定調和"の内だけれど、それで両者の仕事や家庭問題まで一気に解決されてしまったとなると、"事故様様"みたいな感じもしてしまいました(1人犠牲者が出ている。「危機管理」の観点からももっと反省すべきケースではないか)。
ロザリオ・ドーソン

クリムゾン・タイド01.jpgクリムゾン・タイド02.jpg トニー・スコット監督、デンゼル・ワシントンの組み合わせでは、米軍原子力潜水艦を舞台にした「クリムゾン・タイド」('95年)が傑作でしょうか。
 ロシア起きた超国家主義による反乱に備え出港した弾道ミサイル原子力潜水艦内で、ICBMを発射するかしないかを巡ってエリート艦長の白人と、現場たたき上げの黒人副官が対立するというもので、この映画の出来は、クエンティン・タランティーノ(ノンクレジット)がリライトしたという脚本と艦長役のジーン・ハックマンの好演に負うところが大きいと思うのですが、あの頃のデンゼル・ワシントン、まだ若かったなあ。いつまで「善い者」役ばかりやってるんだろう(シドニー・ポワチエの現代版か)。

「アンストッパブル」●ps.jpgUNSTOPPABLE 2010.jpg「アンストッパブル」●原題:UNSTOPPABLE●制作年:2010年●制作国:アメリカ●監督:トニー・スコット●製作:ジュリー・ヨーン/トニー・スコット/ミミ・ロジャース/エリック・アンストッパブル 岩倉高校.jpgマクレオド/アレックス・ヤング●脚本:マーク・ボンバック●撮影:ベン・セレシン●音楽:ハリー・グレッグソン=ウィリアムズ●時間:98分●出演:デンゼル・ワシントン/クリス・パイン/ロザリオ・ドーソン/ケヴィン・ダン/イーサン・サプリー/T・J・ミラー/リュー・テンプル/ジェシー・シュラム/ケヴィン・チャップマン/ケヴィン・コリガン/デヴィッド・ウォーショフスキー●日本公開:2011/01●配給:20世紀フォックス(評価:★★★) 東京・上野の岩倉高等学校での公開記念イベント(AKB48高橋みなみ、渡辺麻友、宮澤佐江)
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暴走機関車 dvd1.jpg暴走機関車 02.jpg暴走機関車 01.jpg「暴走機関車」●原題:RUNAWAY TRAIN●制作年:1985年●制作国:アメリカ●監督:アンドレ・ミハルコフ=コンチャロフスキー●製暴走機関車 チラシ.jpg作:ヨーラン・グローバス/メナハム・ゴーラン●脚本:ジョルジェ・ミリチェヴィク/ポール・ジンデル/エドワード・バンカート●撮影:アラン・ヒューム●音楽:トレヴァー・ジョーンズ●原案:黒澤明/菊島隆三(ノンクレジット)/小國英雄(ノンクレジット)●時間:111分●出演:ジョン・ヴォイト/エリック・ロバーツ/レベッカ・デモーネイ/カイル・T・ヘフナー/ジョン・P・ライアン/ケネス・マクミラン/T・K・カーター/ステイシー・ビックレン/エドワード・バンカー/ダニー・トレホ●日本公開:1986/06●配給:松竹富士●最初に観た場所:有楽町・丸ノ内ピカデリー1(86-06-29)(評価:★★☆) 「暴走機関車」チラシ

LE SALAIRE DELA PEUR.jpg恐怖の報酬3.jpg「恐怖の報酬」●原題:LE SALAIRE DELA PEUR●制作年:1953年●制作国:フランス●監督・脚本:アンリ・ジョルジュ・クルーゾー●撮影:アルマン・ティラール●音楽:ジョルジュ・オーリック●原作:ジョルジュ・アルノー●時間:131分●出演:イヴ・モンタン/シャルル・ヴァネル/ヴェラ・クルーゾー/フォルコ・ルリ●日本公開:1954/07●配給:東和●最初に観た場所:新宿アートビレッジ (79-02-10)(評価:★★★★)●併映:「死刑台のエレベーター」(ルイ・マル)  

クリムゾン・タイド dvd.jpg「クリムゾン・タイド」●原題:CRIMSON TIDE●制作年:1995年●制作国:アメリカ●監督:トニー・スコット●製作:ドン・シンプソン/ジェリー・ブラッカイマー●脚本マイケル・シファー(原案・脚色)/リチャード・P・ヘンリック(原案)/クエンティン・タランティーノ (リライト、クレCRIMSON TIDE.jpgジットなし)●撮影:ダリウス・ウォルスキー●音楽:ハンス・ジマー●時間:116分●出演:デンゼル・ワシントン/ジーン・ハックマン/ジョージ・ズンザ/ヴィゴ・モーテンセン/ジェームズ・ガンドルフィーニ/リロ・ブランカート.Jr/ダニー・ヌッチ/スティーヴ・ザーン/リッキー・シュローダー/ロッキー・キャロル/ヴァネッサ・ベル・キャロウェイ●日本公開:1995/10●配給:ブエナ・ビスタ(評価:★★★★)
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カタルシスよりも余韻。アリが「走った」ことは、やがては妹にとって忘れられない思い出に。

『運動靴と赤い金魚』(1997).jpg     運動靴と赤い金魚 dvd2.jpg 運動靴と赤い金魚 dvd.jpg
「運動靴と赤い金魚」(1997)    「運動靴と赤い金魚 [DVD]」[' 00年]「運動靴と赤い金魚 [DVD]」['05年]

運動靴と赤い金魚0.jpg 小学3年生のアリ(ミル=ファロク・ハシェミアン)は、修理してもらったばかりの妹ザーラ(バハレ・セッデキ)の靴を失くしてしまうが、家が貧しいため新しい靴を買ってもらえそうになく、怒られるのが怖くて、親にもそのことを言えない。妹が学校に行く時に自分の運動靴を貸してやるという日々が続くが、そんなある日、学校の掲示板にマラソン大会の参加者が発表され、その大会は、学校代表として数名が参加出来るもので、既に予選会は終了していた。しかしアリは、大会の3等賞品が運動靴であることを知り、教師に参加を哀願して単独でランニング・テストを受け、大会参加の切符を得る―。

運動靴と赤い金魚2.jpg モントリオール世界映画祭でグランプリを含む4部門を受賞し、第71回アカデミー賞外国語映画賞にもノミネートされた作品。初めて観た時は、イラン映画のレベルの高さに驚いたものの、何だかハリウッド映画の泣かせのテクニックを踏襲しているようで、しかも、結構唐突な終わり方をするため、それほど感動しなかったのですが、最近観直していい映画に思えたのは、歳のせいかも。

 脚本がまず上手いというか、1等ではなく3等を獲らなければならないという設定もそうですが、ラストはある意味、アンチクライマックスになっているわけで、そのことによって、観る者を"お決まりの感動" ではなく、余韻のある世界に導いている感じがしました。

運動靴と赤い金魚1.jpg 子役が兄・妹とも素人だったということを後で知り、改めて演出の見事さに感服。映像も秀逸で、一場面一場面が印象に残っていましたが、音楽は殆ど使われていなかったのだなあ。それでいて、これだけ心に滲みる情感を醸すというのは、結構スゴイことかも。

 通学に際して同じ運動靴を兄と妹が共用することが出来るというのは、イランの学校には二部制があり、女子生徒の授業が朝ならば男子生徒の授業は昼といった分離教育になっているためだそうですが、そうしたことだけでなく、イランの庶民の家での暮らしぶりや、如実な経済格差などが、静かに流れる映像と、淡々としたエピソードの積み重ねからよく窺えます。

 そして、いよいよマラソン大会。途中まで、"感動作品"にありがちなパターンで"盛り上げ"ますが、これらはすべて計算されてのことだったわけか。最初観た時は、彼がヒーローになるのがちょっと「お話」っぽいという感じだったのですが、観直してみて、やはり、この方がアリの内面の苦々しさが浮き彫りにされるように思いました。

 妹の欲しかった「赤い運動靴」はどうなってしまったのかとも思ったけれども、これも"大丈夫"、ちゃんと、父親の自転車の荷台に...。この辺りは、父親の仕事探しに際して、アリがその賢明さを発揮して父を助けたエピソードとリンクしているわけで、上手く出来ているなあ。

運動靴と赤い金魚 ポスター.bmp運動靴と赤い金魚3.jpg モントリオール国際映画 グランプリ受賞など数々の映画祭で賞を受賞し、福岡国際映画祭など内外の映画祭で公開された時のタイトルは「天使のような子どもたち」(Children of the Heaven)でしたが、「運動靴と赤い金魚」の方がいいと思われ、その「赤い金魚」は最後に出てくるわけですが、う~ん、こういう映画の終わり方というのは、なかなか他の作品では無いでしょう。

 フンと鼻を鳴らすようにしてアリの前を去っていく妹。しかし、アリが妹のために「走った」ことは、やがては妹にとって忘れられない思い出になるのではないでしょうか。

Bacheha-Ye aseman(1997)
「運動靴と赤い金魚」.jpgBacheha-Ye aseman(1997).jpg「運動靴と赤い金魚」●原題:CHILDREN OF HEAVEN (Bacheha-Ye aseman)●制作年:1997年●制作国:イラン●監督・脚本:マジッド・マジディ●製作:アミール・エスファンディアリ/モハマド・エスファンディアリ●撮影:パービス・マレクサデー●音楽:ケイヴァン・ジャハーンシャヒー●時間:88分●出演:アミシネスイッチ銀座.jpgル・ナージ/ミル=ファロク・ハシェミアン/バハレ・セッデキ/フェレシュテ・サラバンディ/ハッサン・ハッサンドスト●日本公開:1999/07●配給:エースピクチャーズ●最初に観た場所:シネスイッチ銀座2 (99-07-31)(評価:★★★★☆)
シネスイッチ銀座2 1955年11月21日オープン「銀座文化劇場(地階466席)・銀座ニュー文化(3階411席)」、1978年11月2日~「銀座文化1(地階353席)・銀座文化2(3階210席)」、1987年12月19日〜「シネスイッチ銀座(前・銀座文化1)・銀座文化劇場(前・銀座文化2)」、1997年2月12日〜休館してリニューアル「シネスイッチ銀座1(前・シネスイッチ銀座)(地階273席)・シネスイッチ銀座2(前・銀座文化劇場)(3階182席)」

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主人公の10歳の少女時代を描いた部分が優れていた(ベトナム版「おしん」?)。

青いパパイヤの香り dvd0.jpg 青いパパイヤの香り dvd.jpg 青いパパイヤの香り .jpg
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青いパパイヤの香り1.jpg 1951年のサイゴン、10歳になる娘ムイは田舎からとある家へ奉公にやって来て、食事の世話や家事手伝い、その他細々とした事を任され、毎日を過ごしていた。その家には何もせずただ楽器を楽しむだけの父親、衣地屋を営み家系を支える母親、嫁に辛くあたる祖母、社会人の長男と幼い弟という家族がいた。やがてムイは、家に遊びに来た長男の友人クェンに密かに恋心を抱くようになる。10年後、ムイは暇を出され、今度はクェンの家へ奉公に出される―。

「青いパパイヤの香り」.jpg 前半から中盤にかけては、ベトナム版「おしん」という感じですが、少女ムイを演じる子役の演技が旨く、子供ながらもこうしたしっとりした情感を出せるのは、監督の演出の成せる業(わざ)だろうと思いました(この作品の殆どの俳優がフランス在住のベトナム人で映画初出演であり、トラン・アン・ユン監督は、この作品でカンヌ映画祭のカンヌ国際映画祭で新人監督賞に該当する「カメラ・ドール」を受賞している)。

 少女が奉公に入った家は、かなり家庭の事情が複雑で、過去から現在にまで重いものを引き摺っている感じ(う~ん、彼女は料理の作り方だけでなく、人間についての様々な事をここで学んだのだろうなあ)。極力セリフを用いず、登場人物の想いを映像で表現しているところは、小津安二郎作品などの日本映画に通じるものを感じました。

青いパパイヤの香り2.jpg 二十歳になってからの話は、ちょっとシンデレラ・ストーリーっぽくって、しかも、結果として"略奪愛"的な展開になっているのですが、ひたすら相手に尽くすムイの姿勢には、クェンならずとも惹かれるのかも。但し、前半の少女時代の話に比べると、ストーリー的にはやや平板な感じもしました。

青いパパイヤの香り75.jpg トラン・アン・ユン監督はベトナムで生まれ、パリ育ち、またパリで映像芸術について学んだ人で、デビュー作にあたるこの作品は、すべてフランスでセットを組んで撮られたそうですが、昆虫や魚、野菜や果物、料理などの映像を合間ごとに挟むことにより、アジア的雰囲気を巧みに醸しているように思えました(パパイヤはベトナム人にとっては"野菜"であることがよく分かる)。

 映像的にもカラフルで綺麗。但し、監督のベトナムへの想いが美化され過ぎているのか、"綺麗すぎる"感じも。日本で公開された時もヒットしましたが、特に女性に受けたとのことで、エスニック・ブームとの相乗効果もあったのではないでしょうか(シンデレラ・ストーリーであるということもあるし)。

青いパパイヤの香り トラン夫妻.jpg 二十歳のムイを演じた女優は、実生活において監督の妻となったということで、こういうパターンは日本でも海外でもよくありますが、監督が女優を恋愛対象として見ている時は、いい映画に撮れるのかも。主人公が、永く召使い的な立場にありながらも純粋さと女性らしさを失わず、「凛として生きる」ことを貫いてきたことが分かるように描いていたように思います。

「青いパパイヤの香り」2.jpg「青いパパイヤの香り」3.jpg 但し、映画全体としてはやはり、小さな出来事を積み重ねることである家族の全体を浮き彫りにするとともに、その中における、外部からやって来た10歳の少女の精神的成長を描いた前半部分の方が優れていたように思います。

青いパパイヤの香り_.jpg「青いパパイヤの香り」●原題:Mùi du du xanh/仏:L'ODEUR DE LA PAPAYE VERTE/英:THE SCENT OF GREEN PAPAYA●制作「青いパパイヤの香り」4.jpgMùi du du xanh(1993).jpg年:1993年●制作国:フランス/ベトナム●監督・脚本:トラン・アン・ユン●製作:アドリーヌ・ルカリエ/アラン・ロッカ●撮影:アラン・ネーグル●音楽:トン=ツァ・ティエ●時間:104分●出演:トラン・ヌー・イェン・ケー/リュ・マン・サン/トルゥオン・チー・ロック/グエン・アン・ホア/ヴォン・ホア・ホイ/トラン・ゴック・トゥルン/タリスマン・バンサ/ソウヴァンナヴォング・ケオ/ネス・ガーランド●日本公開:1994/08●配給:デラ・コーポレーション(評価:★★★☆)
Mùi du du xanh(1993)

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「黄粱一炊の夢」乃至「胡蝶の夢」。自殺した妻との邂逅は「惑星ソラリス」へのオマージュか。

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「インセプション」チラシ

 人の夢に入り込むことでアイデアを"盗み取る"産業スパイ・コブ(レオナルド・ディカプリオ)に、大企業のトップ・サイトー(渡辺謙)が、ライバル企業の社長の息子ロバート(キリアン・マーフィー)に父親の会インセプション2.jpg社を解体させるアイデアを"植えつける(インセプション)"仕事を依頼する。自殺した妻モル(マリオン・コティヤール)殺害の容疑をかけられ子供に会えずにいたコブは、犯罪歴抹消と引き換えに仕事を引き受けることにし、コブ及びサイトーに、コブの仕事仲間のアーサー(ジョゼフ・ゴードン=レヴィット)、夢の世界の「設計士」アリアドネ(エレン・ペイジ)、ターゲットの思考を誘導する「偽装師」イームス(トム・ハーディ)、夢の世界を安定させる鎮静剤を作る「調合師」ユスフ(ディリープ・ラオ)の4人を加えた計6人で、ロバートの夢の中に潜入する―。

Inception(2010).jpgInception.jpg 最初は6人がこれからやろうとしていることの説明(理屈)が多くてややダルかったけれども、実際に夢への潜行が始まると、「夢」から「夢の中の夢」に、更に「夢の中の夢の中の夢」に降りて行くという発想が面白く、思いつかないことでもないけれど、よくこれを「お話」にして「映像化」したものだと―。突っ込み所は多いのですが、つい先月['11年7月]発表された英国の映画誌「TOTAL FILM」の投票による"史上最高のSF映画べスト10"で、今世紀の作品として唯一8位にランクインしています。
Inception(2010)
                  
インセプション1.jpg 実際に夢の第1階層(雨のL.A.)、第2階層(ホテル)、第3階層(雪の要塞)のそれぞれで繰り広げられるのは、カーチェイスだったり銃撃戦だったりと定番のアクションなのだけれど(敵はロバートの潜在意識に既にインセプションされているライバル企業側の輩)、下の階層に行くにつれて相対的に上の層より時間の流れが遅くなり、その分だけ時間稼ぎ出来るといった着想などはなかなか秀逸ではないかと思われ(「黄粱一炊の夢」「邯鄲の夢」の"二乗"ということか)、ラストも、コブは本当に現実世界に戻ってきたのか、ちょっと気を持たせる終わり方でした(この辺りはむしろ「胡蝶の夢」か)。(2010年度・第37回「サターンSF賞」受賞作)
                      
マトリックス 映画.jpg 仮想現実世界での戦いと言えば、ウThe Matrix(1999).jpgォシャウスキー兄弟の「マトリックス」('99年/米)(1999年度・第26回「サターンSF賞」受賞作)を想起しますが、ストーリー的にはこの 「インセプション」 の方が凝っているのでは。但し、「マトリックス」は、シリーズを通してファッションの方に凝っていて、夢と現実世界を結ぶのが"公衆電話"や"黒電話"であるなどというキッチュな味付けもありましたが、それに比べると「キック」というのはやや原始的。物理的な衝撃によって眠り(夢)から覚めるというのは、オーソドオクスと言えばオーソドックスですが。

The Matrix(1999)

 全体としては、いろんなものを詰め込み過ぎた(オタク系でもあり恋愛系でもある)「マトリックス」よりも、ストレートなアクション系に近いこっちの方が好みですが、いっそのこと、"亡き妻への追慕"といったモチーフも織り込まないで、「夢の階層構造」のみを中心モチーフに据えたアクションに徹しても良かったように思います。

惑星ソラリス11.jpg 映像面でスタンリー・キューブリック惑星ソラリス12.jpgの「2001年宇宙の旅」('68年/米)や、アンドレイ・タルコフスキー作品へのオマージュが見られますが、モチーフとして特に似ているのはタルコフスキーの「惑星ソラリス」('72年/ソ連)ではないでしょうか。

惑星ソラリス1.jpg 「惑星ソラリス」の宇宙飛行士であり科学者でもある主人公(ドナタス・バニオニス)は、"意識を持つ"惑星ソラリスを調査する中で、ソラリスが主人公の記憶の中から再合成して送り出してきた「かつて自殺した妻」(ナタリア・ボンダルチュク)と邂逅し(「インセプション」も同じ)、その仮想現惑星ソラリスSOLARIS 1972.jpg実世界の虜囚となってしまうのですが、クリストファー・ノーランは、どうしてもあの作品のモチーフを使いたかったのでしょうか。

「惑星ソラリス」のナタリア・ボンダルチュク(「戦争と平和」の監督セルゲイ・ボンダルチュクの娘)とドナタス・バニオニス

Wakusei Solarisu (1972).jpg 「惑星ソラリス」はタルコフスキー監督の中でも最も有名な作品ですが(カンヌ国際映画祭で「審査員特別グランプリ」及び「FIPRESCI(国際映画批評家連盟)賞」を受賞)、観ているとどんどん哲学的で難解になっていくため、自分自身どこまで理解できたかやや心もとない? タルコフスキー監督の作品は晩年に向けてますます哲学的になっていき、同監督の作品の中では個人的にはどちらかと言えば抒情的な作風の「」('75年/ソ連)が好みです。「惑星ソラリス」のラストは必ずしも明確に"解"を示さない終わり方でしたが(ただし、2023年に再見してこの印象は変わった)、「インセプション」の終わり方もやや似ていて(思わせぶり?)、「インセプション」には、「惑星ソラリス」へのオマージュが相当に込められているように思われました。
Wakusei Solarisu (1972)

インセプション 富士川.jpg 「インセプション」には、700系新幹線「のぞみ」が富士川鉄橋を走る映像が出てきますが、「惑星ソラリス」では、未来都市のイメージとして、首都高速道路の赤坂惑星ソラリスSolaris-Highway-Scene-Tokyo-640x277.jpgトンネル付近を走行するクルマの車内から見た映像があり、こうした日本からの素材の抽出なども「惑星ソラリス」を意識しているのではないかと思いました。

Solaris-Highway-Scene-Tokyo
 
「インセプション」 クリストファー・ノーラン.jpgインセプション マリオン・コティヤール.jpg「イインセプション 映画.jpgンセプション」●原題:INCEPTION●制作年:2010年●制作国:アメリカ●監督・脚本:クリストファー・ノーラン●製作:エマ・トーマス/クリストファー・ノーラン●撮影:ウォーリー・フィスター●音楽:ハンス「インセプション」マイケルケイン.jpg・ジマー●時間:148分●出演:レオナルド・ディカプリオ/渡辺謙/キリアン・マーフィー/トム・ベレンジャー/マイケル・ケインマリオン・コティヤール/ジョセフ・ゴードン=レヴィッド/エレン・ペイジ/トム・ハーディー/ディリープ・ラオ/ルーカス・ハ―ス/ロバート・フィッシャー/キリアン・マーフィ●日本公開:2010/07●配給:ワーナー・ブラザース(評価:

THE MATRIX title.jpgマトリックス チラシ.jpg「マトリックス」●原題:THE MATRIX●制作年:1999年●制作国:アメリカ●監督・脚本:ウォシャウスキー兄弟(アンディ・ウォシャウスキー/ラリー・ウォシャウスキー)ウォシャウスキー姉弟(アンディ・ウォシャウスキー&ラナ・ウォシャウスキー(性転換前はラリー・ウォシャウスキー))→2016年弟アンディ・ウォシャウスキーも性転換手術をしてリリー・ウォシャウスキーとなり、ウォシャウスキー姉妹に)●製作:ジョエル・シルバー●撮影:マトリックス 1999.jpgビル・ポープ●時間:136分●出演:キアヌ・リーブス/ローレンス・フィッシュバーン/キャリー=アン・モス/ヒューゴ・ウィービング/グローリア・フォスター/上野東急2.jpgジョー・パントリアーノ/マーカス・チョン/ジュリアン・アラハンガ/マット・ドーラン/ベリンダ・マクローリー/レイ・パーカー/ポール・ゴダード/ロバート・テイラー/デビッド・アストン/マーク・グレイ/エイダ・ニコデモ/ビル・ヤング/デヴィッド・オコナー●日本公開:1999/09●配給:ワーナー・ブラザース●最初に観た場所:上野東急(99-10-11)(評価:★★☆)
上野東急 場所.jpg上野東急1.jpg上野東急閉館8.jpg上野東急 1957年1月19日「上野東急」オープン、1981年10月休館。1982年12月4日「上野とうきゅうビル」に建て替えられ、3階に「上野東急」、1階に「上野東映」(1998年3月「上野東急2」に改称)の2館体制で再オープン。2012年4月30日「上野とうきゅうビル」解体により閉館。

惑星ソラリス パンフレット.jpg惑星ソラリスs.jpg「惑星ソラリス」●原題:SOLARIS●制作年:1972年●制作国:ソ連●監督:アンドレイ・タルコフスキー●脚本:アンドレイ・タルコフスキー/フリードリッヒ惑星ソラリス チラシ.jpg・ガレンシュテイン●撮影:ワジーム・ユーソフ●音楽:エドゥアルド・アルテミエフ●原作:スタニスワフ・レム「ソラリス」(「ソラリスの陽のもとに」)●時間:165分●出演:ナタリア・ボンダルチュク/ドナタス・バニオニス/ウラジスラフ・ドヴォルジェツキー/アナトーリー・ソロニーツィン/ソス・サルキシャン/ユーリー・ヤルヴェト/ニコライ・グリニコ/タマーラ・オゴロドニコヴァ/オーリガ・キズィローヴァ●日本公開:1977/04●配給:日本海映画●最初に観た場所:大井武蔵野館(83-05-29)(評価:★★★☆)●2回目:北千住・シネマブルースタジオ(23-07-25)(評価:★★★★☆) 「惑星ソラリス」1977年岩波ホール公開時パンフレット
 
鏡 Blu-ray.jpg鏡 パンフレット.jpg「鏡」●原題:ZERKALO●制作年:1975年●制作国:ソ連●監督:アンドレイ・タルコフスキー●脚本:アレクサンドル・ミシャーリン/アンドレイ・タルコフスキー●撮影:ゲオルギー・レルベルグ●音楽:エドゥアルド・アルテミエフ●挿入詩:アルセニー・タルコフスキー●時間:108分●出演:マルガリータ・テレホワ/オレーグ・ヤンコフスキー/イグナト・ダニルツェフ/フィリップ・ヤンコフスキー/アナトーリー・ソロニーツィン●日本公開:1980/06●配給:日本海映画●最初に観た場所:岩波ホール (80-07-03) (評価:★★★★★  「鏡 Blu-ray」['13年]

「鏡」 1980年岩波ホール公開時パンフレット

《読書MEMO》
●英国の映画誌「TOTAL FILM」の投票による"史上最高のSF映画べスト10"(2011/07)
1位『ブレードランナー』('82)
2位『スター・ウォーズ エピソード5 帝国の逆襲』('80)
3位『2001年宇宙の旅』('68)
4位『エイリアン』('79)
5位『スター・ウォーズ エピソード4 新たなる希望』('77)
6位『E.T.』('82)
7位『エイリアン2』(86)
8位『インセプション』('10)
9位『マトリックス』('99)
10位『ターミネーター』('84)

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シリーズ中でもかなり手強い犯人像を演じたレナード・ニモイ。アン・フランシスも懐かしい。

溶ける糸 vhs.jpg 刑事コロンボ 溶ける糸.jpg 刑事コロンボ38 ルーサン警部の犯罪.jpg スタートレック 1979 dvd.jpg ギャラクシー・クエスト.jpg
特選「刑事コロンボ」完全版~溶ける糸~【日本語吹替版】 [VHS]」「刑事コロンボ 完全版 Vol.8 [DVD]」レナード・ニモイ「刑事コロンボDVDコレクション~第38話~ルーサン警部の犯罪」「スター・トレック ディレクターズ・エディション 特別完全版 (本編ディスクのみ) [DVD]」「ギャラクシー・クエスト」(ティム・アレン/シガニー・ウィーバー/アラン・リックマン)
溶ける糸 タイトル.jpg溶ける糸 2.jpg 胸部外科医のメイフィールド(レナード・ニモイ)は、上司のハイデマン博士(ウィル・ギア)との心臓移植の拒絶反応を抑える新技術の共同研究の成果を、他の研究グループが発表する前に先手を打って発表すべきだと考えていたが、ハイデマン博士はもっと治験が必要だとして発表を認めない。そんな折、博士が心臓の病に倒れ、博士の主治医でもあるメイフィールドが手術をすることになるが、手術を補佐した看護婦のシャロン(アン・フランシス)は、メイフィールドが縫合糸に何か細工をしたことに気づく。真面目な彼女は自分の疑問を確認しようとするが、その最中にメイフィールドに殺されてしまう―。

「刑事コロンボ溶ける糸」1.jpg溶ける糸2.jpg 「刑事コロンボ」第15話で、レナード・ニモイの冷静な犯人役が際立っている作品。むしろ、コロンボの方がメイフィールドのデスクを叩いて激昂するという珍しい場面(台詞上は「ハイデマン博士の面倒をよくみることだ。もし死んだら、当然われわれは検死解剖を要求する。そして、単なる心臓発作による死亡なのか、糸のためなのかを確認するからな」―言葉使いも荒い)があったりするので、ますますメイフィールドの冷静さが浮き彫りにされるわけですが、この「冷静さ」がコロンボによる事件解決の伏線になっていたわけだなあ(実はコロンボの「激昂」そのものも、メイフィールドを窮地に追い詰め、彼に次の行動を起こさせてボロを出させるための演技だったわけだが)。

ニモイ.bmpニモイ2.jpg 犯人だとは分かっているけれど、証拠が出ない―それが最後の最後で閃いた、土壇場の逆転劇であるとするならば、その直前にコロンボがメイフィールドに対し表向きは負けを認めて一旦引き下がったのは、まだ逆転の可能性はあるという思いを裡に秘めた演技半分、悔しいという本音半分だったのでしょうか。とにかく、それぐらい手強い相手だったということなのでしょう。それにしても、ミスター・スポックことレナード・ニモイ、昔からああいう独特のマスクだったんだなあ。

startrek-1.gif 但し、TV版「宇宙大作戦/スタートレック」は1966年から1969年に全米で放映されており、このコロンボ出演('73年)の前のこと(従って、彼が「コロンボ」に出演していた時には既に「レナード・ニモイ=スポック博士」のイメージが浸透していたことになる)、TV版が映画「スタートレック」になったのが'79年で、その後、「スタートレックⅥ」まで作られましたが(新シリーズを含めると2009年までに11作映画化されている)、「Ⅲ・Ⅳ」をレナード・ニモイ、「Ⅴ」をカーク船長ことウィリアム・シャトナーが監督しています。

刑事コロンボ ルーサン警部の犯罪1.bmp 因みに、宇宙艦エンタープライズ号のカーク船長役のウィリアム・シャトナーも、'76年に「刑事コロンボ」の第38話「ルーサン警部の犯罪」に犯人役で出演しています(第63話「4時02分の銃声」でも再び犯人役を演じている)。

刑事コロンボ ルーサン警部の犯罪2.jpg その「ルーサン警部の犯罪」は、本物の警部が犯罪を犯すわけではなく、テレビの人気ミステリ・シリーズで名警部役を演じている俳優が犯人であるという、あたかも「刑事コロンボ」を意識したかのような背景で、ウィリアム・シャトナー演じるところの犯人が「ルーサン警部」の立場からコロンボと一緒に事件の謎を解いていくという凝った設定ですが、事件そのものは余りに状況証拠が多すぎて、コロンボにとってはあまり難事件とは言えなかったかも。

ウィリアム・シャトナー2.jpg 最後に決め手となる物的証拠も、犯人の指紋の拭き忘れという凡ミスに拠るもので、強いて言えば、犯人が殺人を犯した自分自身とルーサン警部という架空のキャラクターとの区別がつかなくなっている(?)のが、スタートレック」0.jpg犯罪心理面での見所でしょうか。そうしたことも含め、レナード・ニモイの冷静な犯人像に比べると、ウィリアム・シャトナーのこのエピソードにおける犯人像はかなり弱々しく思えました(それにしても、ウィリアム・シャトナー、若いなあ)。

スタートレック」1.jpg 個人的には、「スタートレック」シリーズを劇場で観たのは「Ⅲ」くらいまでかなあ。「新スタートレック」 「スタートレック:ディープ・スペース・ナイン」といったTV版も一部ビデオで観たので、もう、どれがどれだか分らなくなってしまいましたが、作品の出来不出来はともかく、やはり最初に観たのが印象に残りました(「ヴィジャー」って何かと思ったら、そういうことだったのか)。

ギャラクシー・クエストド.jpg いずれにせよ、このTVシリーズと映画化作品が全米で絶大な人気を得たのは事実で、トレッキーまたはトレッカーと呼ばれる熱心なファンがアメリカのみならず世界中の宇宙関連事業関係者にも多いと言われています。そうした現象を逆手に取ってパロディ化したディーン・パリソット監督、ティム・アレン主演の「ギャラクシー・クエスト」('99年/米)というのもありました。20年前TVシリーズ「ギャラクシー・クエスト」で宇宙の英雄である「エンタープライズ号」ならぬ「プロテクター号」乗組員を演じてギャラクシークエストes.jpg人気を博すも、今は売れずにファンへのサイン会ギャラクシークエストード.jpgやイベントを糧にして生活を送っていた俳優たちが、他の星の宇宙人の侵略に苦しむ中「ギャラクシー・クエスト」の電波を自星で受信し、架空のドラマだとは思わずに歴史ドキュメンタリーと信じて助けを求めてきた宇宙人たちによって実際の宇宙戦争に巻き込まれるという二重構造に、「スタートレック」のパロディを絡ませた三重構造の形を取っていて、なんだかオリジナルより面白かったような...。今思えば、当時「エイリアン4」('97年)までの出ギャラクシー・クエスト ド.jpg演を終えたシガニー・ウィーバー(「エイリアン」('79年))、アラン・リックマン(「ダイ・ハード」('88年))、トニー・シャルーブ(「名探偵モンク」)となかなかの配役でしたが、コメディのツボを押さえた作品で、コメディだからといってセットやSFXなどで手抜きをしていないのも良かったです(シガニー・ウィーバーの役のキャラは、「エイリアン」でのリプリー役の"強い女性"から、一応「マディソン中尉」という劇中役ではあるが、伝統的なアメリカン・コミック風のセクシーキャラになっている。彼女自身、とても50歳には見えない肢体を披露したかったのではないか)。

Anne Francis
Anne Francis.jpg溶ける糸 アン・フランシス.jpg 因みに、「溶ける糸」でメイフィールドに殺されてしまう優しく真面目な看護婦役のアン・フランシス(1930-2011)は、ロープウェイでのラストシーンが印象的な「刑事コロンボ」シリーズ第8話「死の方程式」にも秘書役で出ていました。TV番組「ハニーにおまかせ」で人気を得た女優ですが、こちらも「禁断の惑星」('56年)という"宇宙モノ"SF映画に出演していました('11年1月に死去、享年80)。「禁断の惑星」での共演レスリー・ニールセン.bmpは、「裸の銃(ガン)を持つ男」シリーズでコメディ俳優になる前のレスリー・ニールセン('10年11月に死去、享年84)、レスリー・ニールセンは「刑事コロンボ」シリーズ第7話の「もう一つの鍵」で、犯人である広告会社役員役のスーザン・クラークの恋人役で、第34話「仮面の男」で、元同僚のスパイに殺害される被害者役ででも出ています。

 アン・フランシスはレナード・ニモイより半年早い生まれですが、"宇宙モノ"では10年先輩だったのか。

禁断の惑星 20 アン.jpg 禁断の惑星 04 アン・レスリー.jpg アン・フランシス&レスリー・ニールセン 「禁断の惑星」(1956)

「刑事コロンボ(第15話)/溶ける糸」 s.jpg刑事コロンボ(第15話)/溶ける糸.bmp「刑事コロンボ(第15話)/溶ける糸」●原題:A STITCH IN CRIME●制作年:1973年●制作国:アメリカ●監督:ハイ・アヴァバック●製作:ディーン・ハーグローヴ●脚本:シャール・ヘンドリックス●ストーリー監修:ジャクソン・ギリス●時間:73分●出演:ピーター・フォーク/レナード・ニモイ/ウィル・ギア/アン・フランシス/ニナ・タルボット/ジャレッド・マーティ/ヴィクター・ミラン/アニタ・コルシオ●日本公開:1973/10●放送:NHK-UHF(評価:★★★★)

刑事コロンボ ルーサン警部の犯罪 vhs.jpg「刑事コロンボ(第38話)/ルーサン警部の犯罪」●原題:FADE IN TO MURDER●制作年:1976年●制作国:アメリカ●監督:バーナード・コワルスキー●製作:エヴァレット・チェンバース●脚本:ルー・ショウ/ピーター・フィーブルマン●ストーリー監修:ウィリアム・ドリスキル●原案:ヘンリー・ガルソン●音楽:バーナード・セイガル●時間:73分●出演:ピーター・フォーク/ウィリアム・シャトナー/ローラ・オルブライト/バート・レムゼン/アラン・マンソン/ウォルター・ケーニッグ/ティモシー・ケリー/シェラ・デニス/フランク・エメット・バクスター/ダニー・デイトン/ヴィクター・イザイ/ジョン・フィネガン/フレッド・ドレイパー●日本公開:1977/12●放送:NHK総合(評価:★★★)  「特選 刑事コロンボ 完全版「ルーサン警部の犯罪」【日本語吹替版】 [VHS]


スタートレック8.jpgstartrek 1979.bmp「スタートレック」●原題:STAR TRECK●制作年:1979年●制作国:アメリカ●監督:ロバート・ワイズ●製作:ジーン・ロッデンベリー●脚本:ハロルド・リヴィングストン/レナード・ニモイ●撮影:リチャード・H・クライン渋谷パンテオン.jpg●音楽: ジェリー・ゴールドスミス●時間:132分●出演:ウィリアム・シャトナー/レナード・ニモイ/デフォレスト・ケリー/ジェームズ・ドゥーパーシス・カンバータ.jpgハン/ウォルター・ ケーニッグ/ジョージ・タケイ/パーシス・カンバータ/スティーブン・コリンズ/メイジェル・バレット/ニシェル・ニコラス●日本公開:1980/07●配給:パラマウント映画=CIC●最初に観た場所:渋谷パンテオン(80-07-14)●2回目:大井ロマン(85-02-09)(評価:★★★☆)●併映(2回目):「スター・トレック2 カーンの逆襲」(ニコラス・メイヤー)/「スター・トレック3 ミスター・スポックを探せ!」(レナード・ニモイ) 渋谷パンテオン 東急文化会館1F、1956年12月1日オープン。2003(平成15)年6月30日閉館。


宇宙大作戦/スタートレック.jpgStar Trek tv0.jpg「宇宙大作戦/スタートレック」Star Trek (NBC 1966~1969)○日本での放映チャネル:日本テレビ(1969~70)/フジテレビ(1972~74)/NHK-BS2(2007)/スーパー!ドラマTV(2008~)



スタートレック DAGGER OF THE MIND.jpg


   
    
(左端)Marinna Hill as Dr. Helen Noel from Dagger Of The Mind|Star Trek (マリアンナ・ヒル in「宇宙大作戦」第10話「悪魔島から来た狂人」(1966年11月3日本国放映送・1969年日本放映(日本テレビ))、2007年10月13日リマスター版放映(NHK-BS2))

  
          ティム・アレン/アラン・リックマン/シガニー・ウィーバー
ギャラクシークエスト dvd.jpgギャラクシークエスト 2.jpg「ギャラクシー・クエスト」●原題:GALAXY QUEST●制作年:1999年●制作国:アメリカ●監督:ディーン・パリソット●製作:マーク・ジョンソン/チャールズ・ニューワース●脚本:デビッド・ハワード/ロバート・ゴードン●撮影:イェジー・ジェリンスキー●音楽:デヴィッド・ニューマン●時間:102分●出演:ティム・アレン/シガニー・ウィーバー/アラン・リックマン/トニー・シャルーブ/サム・ロックウェル/ダリル・ミッチェル/エンリコ・コラントーニ/パトリック・ブリーン/ミッシー・パイル/ジャスティン・ロング/ロビン・サックス/ジェド・リース/ジェレミー・ハワード/ケイトリン・カラム/ジョナサン・フェイヤー●日本公開:2000/01●配給:ユナイテッド・インターナショナル・ピクチャーズ(評価:★★★★)
ギャラクシー★クエスト [DVD]
シガニー・ウィーバー in「ギャラクシー・クエスト」
ギャラクシークエスト シガニーウィーバー1.jpgギャラクシークエスト シガニーウィーバー2.jpgギャラクシークエスト シガニーウィーバー3.jpg

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思っていた以上に良かった「トゥームストーン」。ちょっと長過ぎる「ワイアット・アープ」。

トゥームストーン ポスター.jpg TOMBSTONE movie 1993.jpg トゥームストーン dvd.jpg   ワイアット・アープdvd.jpg

「トゥームストーン」ポスター/「トゥームストーン [DVD]」/「ワイアット・アープ 特別版 〈2枚組〉 [DVD]

トゥームストーン1.jpg トゥームストーンへ平穏な暮らしを求めやって来た元保安官のワイアット・アープ(カート・ラッセル)は、町がクラントン兄弟や凄腕のガンマン、ジョニー・リンゴ(マイケル・ビーン)らカウボーイズと名乗る無法者集団に牛耳られていることを知る。ワイアットは旧友ドク・ホリデトゥームストーンes.jpgイ(ヴァル・キルマー)と再会したが、彼は結核に冒されていて、恋人のケイト(ジョアンナ・パクラ)が彼の生き方を全うさせようと寄り添っている。一方ワイアットは、舞台女優のジョセフィーヌ(ダナ・デラニー)と知り合う。カウボーイズの無法ぶりを抑えようと、ワイアットの兄と弟は保安官となり、アープ兄弟は一味からOKコラルでの決闘を申し込まれるが、ドクの加勢を得て勝利する。しかし、敵の報復により兄が重体に、弟が殺されるに及んで、ワイアットは再び保安官のバッジを付け、ドクと共に立ち上がる―。

トゥームストーン_V1_.jpg 「トゥームストーン」('93年/米)の監督は「ランボー 怒りの脱出」のジョージTombstone(1993).jpg・P・コスマトスで、あまり期待していなかったけれども、観てみたら、カート・ラッセルのワイアット・アープもまずまずで、思っていた以上に良かった作品。史実に忠実に作られているとのことで、僅か約2分間のことだったというOKコラルでの決闘を、実際の時間通りに描いているほか、服装や小道具なども丁寧に再現しているようですが、何といっても初めて知ったのは、カウボーイズ一味との銃撃戦は1回ではなかったということでした。
Tombstone(1993)

トゥームストーン ヴァル・キルマー.jpg この作品でみると、敵役のリンゴなどはワイアット・アープの手に余る相手で、ワイアットを助太刀したのがドグ・ホリディという構図になっているのが興味深いです(一番の拳銃使いはドグ・ホリディということか)。

Val Kilmer (Doc Holliday) in Tombstone (1993)

 最初はワイアット・アープ(カート・ラッセル)もドグ・ホリディ(ヴァル・キルマー)もちょっと線が細いかなと思いましたが、2人の心の交流やものの考え方を丁寧に描いて成功しているように思われ、娯楽映画としてもテンポ良く、アープらに宿を提供する牧場主の役でチャールトン・ヘストンが出演していたりします(現時点['11年3月]でDVDが廃盤になっているのが惜しい)。


ワイアット・アープ コスナー.jpg 同じ頃に公開された「ワイアット・アープ」('94年/米)は、「シルバラード」のローレンス・カスダン監督ということで期待しましたが、こちらは完全にケヴィン・コスナーの映画という感じ。ケヴィン・コスナーはやりたかったんだろうなあ、この役を。

Kevin Costner in Wyatt Earp (1994)

ワイアット・アープ 001.jpg こちらも「史実に忠実」が謳い文句で、同じくOKコラルの決闘の後にもう一度、ワイアット・アープ(ケヴィン・コスナー)とドグ・ホリディ(デニス・クエイド)はカウボーイズ一味を相手にワイアットの弟の弔い合戦をやっています。

ワイアット・アープ デニス・クエイド.bmp デニス・クエイドのドグ・ホリディは、ヴァル・キルマーより更に線が細い、というより病的。事実、結核病みだったから、リアルと言えばリアルなのかも(自分の頭の中にある「荒野の決闘」('46年)のヴィクター・マチュアのイメージが強すぎるのか。何せ、「サムソンとデリラ」のサムソンをやった役者だったからなあ)。

ワイアット・アープ-7.jpg 3時間11分の大作になっているのは、ワイアット・アープの生涯を通しで描いているためで、若い頃に身重の妻を病気で喪って酒浸りの日々を送り、馬泥棒で留置所に入れられたりもしたのだなあと(よくぞ立ち直った)。但し、決闘に至るまでがあまりに長く(これはある種「伝記映画」か?)、ケヴィン・コスナーの熱演(?)にもかかわらず(コスナーはこの作品で「ゴールデン・ラズベリー賞」の最低主演男優賞を受賞している)冗長な感は否めませんでした(この人が製作に関わった作品は、長尺になる傾向がある。カットするのが惜しい?)。

チャールトン・ヘストン(牧場主ヘンリー・フッカー)
チャールトン・ヘストン トゥームストーン.jpg「トゥームストーン」('93年/米).jpg「トゥームストーン」●原題:TOMBSTONE●制作年:1993年●制作国:アメリカ●監督:ジョージ・P・コスマトス●製作:ジェームズ・ジャックス/ショーン・ダニエル/ボブ・ミシオロウスキ●脚本:ケヴィン・ジャール●撮影:ウィリアム・A・フレイカー●音楽:ブルース・ブロートン●時間:130分●出演:カート・ラッセル/ヴァル・キルマー/サム・エリオット/ビル・パクストン/ダナ・デラニー/ジョアナ・パクラ/パワーズ・ブース/マイケル・ビーン/チャールトン・ヘストン/ジェイソン・プリーストリー/マイケル・ルーカー/ビリー・ゼーン/ロバート・ミッチャム●日本公開:1994/05●配給:東宝東和(評価:★★★★)

Wyatt Earp(1994)   ジーン・ハックマン(ニコラス・アープ)
Wyatt Earp(1994).jpgワイアット・アープ ジーン・ハックマン.jpg「ワイアット・アープ」●原題:WYATT EARP●制作年:1994年●制作国:アメリカ●監督:ローレンス・カスダン●製作:ケヴィン・コスナー/ ジム・ウィルソン/ローレンス・カスダン●脚本: ローレンス・カスダン/ダン・ゴードン●撮影:オーウェン・ロイズマン●音楽:楽:ジェームズ・ニュートン・ハワード●時間:191分●出演:ケヴィン・コスナー/デニス・クエイド/ジーン・ハックマン/イザベラ・ロッセリーニ/マイケル・マドセン/デヴィッド・アンドリュース/リンデン・アシュビー/トム・サイズモア/ビル・プルマン/マーク・ハーモン/ジェフ・フェイヒー/アダム・ボールドウィン/アナベス・ギッシュ/メア・ウィニンガム/ジョアンナ・ゴーイング/キャサリン・オハラ/ジョベス・ウィリアムズ/アリソン・エリオット/ベティ・バックリー/ジェームズ・カヴィーゼル/ランドル・メル/レックス・リン/ルイス・スミス/トッド・アレン●日本公開:1994/07●配給:ワーナー・ブラザース映画(評価:★★★)

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トム・クルーズとニコール・キッドマンが夫婦だった頃。「オクラホマ・ランドラッシュ」が印象深かった「遥かなる大地へ」。

遥かなる大地へ チラシ1.jpg遥かなる大地へ チラシ2.jpg遥かなる大地へ dvd.jpg トップガン dvd.jpg 刑事ジョン・ブック 目撃者 dvd.jpg
遥かなる大地へ [DVD]」「トップガン [DVD]」「刑事ジョン・ブック 目撃者 スペシャル・コレクターズ・エディ [DVD]

遥かなる大地へ 4.jpg 農民が地主の横暴に苦し遥かなる大地へ3.jpgめられた19世紀末のアイルランド、農夫ジョセフ(トム・クルーズ)の父も、厳しい地代の取立ての混乱で事故死する。更に地主の配下に家を焼かれ、怒ったジョセフは地主を射殺しようと地主邸に向かうが失敗、銃の暴発のため負傷し、復ロン・ハワード 「遥かなる大地へ」2.jpg讐相手の邸で介抱を受けるという間抜けな結果となる。そこには、放火の張本人で地主令嬢と結婚を図るスティーブン(トーマス・ギブソン)がいて、ジョセフは彼を襲うも再度失敗し、彼と決闘させられることに。そこへ、実はスティーブンのお高くとまった性格が嫌いで、堅苦しい生活を捨てアメリカ行きを望む地主令嬢のシャノン(ニコール・キッドマン)が現れ、ジョセフを攫うように連れ去り、二人のアメリカ行きの旅が始まる―。

1889年のランドラッシュ
オクラホマ・ランドラッシュ.jpg アイルランド系移民の苦労を描いたロン・ハワード監督の'92年作品で、トム・クルーズとニコール・キッドマンが仲良かった頃、と言うか、結婚したての頃の作品ですが、映画の中に出てくる「オクラホマ・ランドラッシュ」というのが印象深かったです。ロン・ハワード 「遥かなる大地へ」.jpg1889年4月22日の正午を境にオクラホマへの白人の入植が認められた。同年同月日には15ドルの入植手続き料を支払った人々がオクラホマとの境界に集まり、正午を告げる号砲が鳴ると一斉にオクラホマへと乗り込んでいった。彼らは一人当たり160エーカー(65ヘクタール)の土地を手に入れることができた――これは、新大陸のフロンティア時代の入植者に土地を無料で配るというもので、移民たちが白線に並んで「用意ドン!」で駆けっこして、ここからここまでは自分の土地だと主張した範囲の土地が与えられるというスゴイものなのですが(当然、そこで醜い争いも生じる)、お嬢さんだが気が強いシャノンと、自分の土地を得るにはこの方法しかないと考えるジョセフは、このレースに参加する―。

遥かなる大地へ 2.jpg ロン・ハワードにはアイルランド人の血が流れていて、祖先にはこのオクラホマのランド・ラッシュに実際に参加した人もいたとのことで、随分前からこの映画の構想は練っていたそうです。ニコール・キッドマンをヒロインに想定していたところに、トム・クルーズが出演の名乗りを上げたそうですが、ロン・ハワードは当時二人が交際していることを知らなかったそうです。因みに、トム・クルーズ自身にもアイルランド人の血が流れています。

ニコール・キッドマン.jpg 2人ともいい演技をしています。特に、上流意識を持ち、気位が高いながらも、ボディガード代わりに連れてきたトム・クルーズに内心では惹かれていくニコール・キッドマンの演技がいい(トム・クルーズはこの映画の随所で、状況の急な変化に振り回される、三枚目的な味を出している)。

 フランク・キャップラの「或る夜の出来事」の、寝室で男女がロープにシーツを吊るして「こちらへ先は入ってこないように」というルールを作る「ジェリコの壁」のエピソードなどがパロディ的に織り込まれているなど、細かいところでも楽しめました。

ニコール・キッドマン

ロン・ハワード.jpg 移民たちが駆けっこして奪い合っている土地は、元々は北米原住民のものであるはずという批判的な見方も出来ますが、この映画が日本でも本国でもあまりヒットしなかったことを思うと、もう少し注目されても良かったのでないかと。ロン・ハワードは両親とも俳優だったので、子役の頃から多くのテレビドラマや映画に出演していましたが(「アメリカン・グラフィティ」('73年)などに出ていた)、その後映画監督に転身し、この作品の後「アポロ13」('95年)から「ダ・ヴィンチ・コード」('06年)まで多くのヒット作を飛ばし、その間「ビューティフル・マインド」('01年)でアカデミー賞監督賞を受賞したりしもして、監督として成功したと言えます。アカデミー賞に関しては、ニコール・キッドマンも「めぐりあう時間たち」('02年)で主演女優賞を獲っています。
ロン・ハワード

トップガン チラシ.jpgトップガン クルーズ.jpgトップガンR.jpg 一方のトム・クルーズは、それ以前に「トップガン」('86年)で一躍世界的なスターになっていたわけで、日本でもこの映画は大ヒットしました。まあ、米海軍が協力を惜しまない "USネイビィのリクルート戦略"の一環のような映画でした。「ハンガー」(′83年/英)のトニー・スコット監督(「エイリアン」(′79年/米)のリドリー・スコット監督の弟)はハリウッドに渡って から「スパイ・ゲーム」('01年)、「アンストッパブル」('10年)など娯楽指向にがらっと作風が変わったみたいですが、この映画に関する個人的印象としては、パターン化されたストーリーで、F-14トムキャットのみが唯々美しかった...。

アンソニー・エドワーズ.jpg ヴァル・キルマー、メグ・ライアン、ティム・ロビンスら若手俳優の出世作としても知られ、「ER 緊急救命室」の"グリーン先生"ことアンソニー・エドワーズがトム・クルーズの同僚パイロット役で出てましたが、出ていた記憶が薄いのはまだ髪の毛が濃かったせいでしょうか。ともかく、トム・クルーズ人気を一気に高めた作品であって、その分だけ相対的に他の俳優の影が薄い? 後になって、あの人も出ていた、この人も出ていたと言われる映画です(当時まだ皆さほど名が知れてなかったということもあるが)。

 「トップガン」は日比谷スカラ座('98年に閉館)で観たのですが、この劇場は旧「東京宝塚劇場」内にあって、観に行った時はちょうど宝塚の公演がはねた後の「お見送り」で、女性ファンが劇場前に溢れていました。その合間をぬって映画館のフロアに行くと、今度はトム・クルーズのファンだと思われる女性達で一杯...。

ケリー・マクギリス7.jpg トム・クルーズの当時の人気はすさまじく、その勢いで「トップガン」と同年にマーティン・スコセッシ監督の「ハスラー2」('86年)に出演、翌々年にはロジャー・ドナルドソン監督の「カクテル」('88年)、バリー・レヴィンソン監督の「レインマン」('88年)に出演、「ハスラー2」はポール・ニカクテル01.jpgューマンに初のアカデミー主演男優賞をもたらし、ダスティン・ホフマンと共演した「レインマン」は第61回アカデミー賞と第46回ゴールデングローブ賞(ドラマ部門)、さらに第39回ベルリン国際映画祭においてそれぞれ作品賞を受賞しました。一方、トム・クルーズのスマイルと、フレアバーテンディングによるカクテル作りの派手なパフォーマンスでヒットを博した「カクテル」は、(一応"原作"はあるようだが)完全なトム・クルーズ・ファンのためのアイドル映画でした。これ、ビデオパーティで観た(90-04-01)のですが(自分で選んではいない)、当時の日本のバブリーな雰囲気にマッチしていた面もあったかも。
ケリー・マクギリス2.jpgケリー・マクギリス1.jpg  
 「トップガン」でトム・クルーズの相手役の女性教官を演じたのはケリー・マクギリスですが、トム・クルーズの身長は170cmであるのに対し、ケリー・マクギリスは身長178cmあります。このケリー・マクギリスには二度の離婚歴があり、二人の娘がいますが、2009年に自らがレズビアンであることをカミングアウトし、昨年(2010年)同性婚をしています。


刑事ジョン・ブック 目撃者  v.jpg刑事ジョン・ブック 目撃者 ケリー・マクギリス3.jpg ケリー・マクギリスは1982年に映画デビューしていますが、彼女を一躍有名にしたのは、ハリソン・フォードと共演し、アーミッシュの女性を演じた「刑事ジョン・ブック 目撃者」('85年)でしょう(これも知人宅でのビデオパーティで観た(89-05-03))。ハリソン・フォード演じる警察の不正を知ったために警察に追われること刑事ジョン・ブック 目撃者 1.jpgになった刑事が主人公で、警察を舞台にした犯罪サスペンスかと思ったら、そのジョン・ブック刑事が匿われたアーミッシュの村の暮らしぶり(と言うより、アーミッシュの人々の考え方)が描かれていて、ある種カルチャーショック映画のようになっていました。ハリソン・フォードはアカデミー主演男優賞にノミネートされましたが、来日した時に、今まで出演した中で一番印象に残っている作品として、この「刑事ジョン・ブック 目撃者」を挙げていました。この作品でのハリソン・フォードの演技の延長上に、後の「フランティック」('90年)や「推定無罪」('90年)、「逃亡者」('93年)などにおける彼の演技があるともとれます。

 主人公のジョン・ブック刑事は最後、ケリー・マクギリス演じるアーミッシュの子持ち未亡人女性と互いに想い合うようになりながらも、住む世界が違うため村を去っていきますが、女性の子ども(彼が事件の「目撃者」)もジョン・ブックに馴染んでいて、ラストはちょっと「シェーン」('53年)と似ているなあと思い刑事ジョン・ブック 目撃者 4.jpgました。女性がアレクサンドル・ゴドゥノフ演じる許嫁候補(?)と仮に結婚したとしても、ずっとジョン・ブックのことを思い続けるのでしょう(「シェーン」にも同じことが言えるが、旦那または許刑事ジョン・ブック 目撃者 ケリー・マクギリス.jpg嫁は"立場ない"なあ)。それにしてもケリー・マクギリス、最初の主演作がハリソン・フォードの相手役で、次がトム・クルーズの相手役であったわけで、当時の圧倒的な美貌のせいもあってか、キャリアの最初の方がとりわけ華々しかったです。

ケリー・マクギリス

「トップガン マーベリック」2022.jpg(●2022年にジョセフ・コジンスキー監督による「トップガン マーヴェリック」('22年/米)が公開され「トップガン マーベリック」2.jpgた。「トップガン」から36年ぶりの続編で、トム・クルーズが前回同様マーヴェリック役を演じ、米海軍パイロットのエリート養成学校、通称"トップガン"に教官として戻ってくることになるも、結局、自らチームを率いて敵地へウラン濃縮施設撃破のために飛ぶことになるというもの。トム・クルーズは60歳で頑張っているなあという感じで、映画もヒットしているようだ。日本でも世代を問わず絶賛する声が多い。ただ、前作と異なり、映画評論家までが褒めていたりするのには違和感を感じる。俳優のミッキー・ロークが、トム・クルーズが「トップガン マーヴェリック」で米国「トップガン マーヴェリック」コネリー.jpgで興行収入1位になったことについてどう思うかとの質問に、「あいつは35年間あんな同じ役を演じてるんだ。尊敬に値しないね」と言っており、そちらの方がまともなマトモな見方とも言える。ヒロイン役はジェニファー・コネリー(51歳)。ケリー・マクギリスは、自分のところには出演オファーが無かったと言っている(笑)。気になったのはストーリーで、教官が部下を救い、今度は部下が教官を救うという話は美しいが、敵地に不時着して、"たまたま近くあった"敵の戦闘機を強奪して帰還するというのはあまりに話が出来過ぎているように思った。かつて、クリント・イーストウッドが監督・主演した「ファイヤーフォックス」('82年)で、イーストウ「ファイヤーフォックス」1982.jpg「ファイヤーフォックス」2.jpg「ファイヤーフォックス」3.jpgッド演じる元米空軍パイロットがNATOの秘密ミッションでソ連に潜入し、最新鋭戦闘機「MiG-31 ファイヤーフォックス」を盗み出すという映画があったが、あれは最初から周到な計画のもとに敵地に潜入しているわけであって、しかも、「ファイヤ―フォックス」 イースト.jpg当時の〈東西冷戦〉状況を背景としているとはいえ戦闘機自体はパイロットの意志を感知してオートマチックに敵を攻撃する機能を搭載しているといった半ばSF仕立てでもあった(この機能は実際に研究されているが、まだ実現していない)。苦心惨憺の末に敵戦闘機に辿り着いたイーストウッドとの比較でみると、トム・クルーズの、不時着した付近にたまたま敵の戦闘機があったというのは、あまりにご都合主義的な話だったように思う。


ヴァル・キルマー (右写真は自身のインスタグラムに投稿したもの。映画より元気そう)
『トップガン マーヴェリック』ヴァル・キルマー.jpg 「トップガン マーヴェリック」には、トム・クルーズが前作と同じ"マーヴェリック"役で出ているほかに、ヴァル・キルマーが前作と同じ"アイスマン"役で出ていて、個人的には「トゥームストーン」('93年)でドク・ホリデイ役をやって、「ワイアット・アープ リベンジー荒野の追跡―」('12年)でワイアット・アープ役をやっていたのが印象にあるが、2015年からはずっと喉頭がんの闘病生活と俳優業を並行してやっていることになる。)


FAR AND AWAY 2.jpg「遥かなる大地へ」●原題:FAR AND AWAY●制作年:1992年●制作国:アメリカ●監督:ロン・ハワード●製作:ブライアン・グレイザー/ロン・ハワード●脚本:ボブ・ドルマン●撮影:ミカエル・サロモン●音楽:ジョン・ウィリアムズ●時間:140分●出演:トム・クルーズ/ニコール・キッドマン/トーマス・ギブソン/バーバラ・バブコック/シリル・キューザック/ロバート・プロスキー/コルム・ミーニー/アイリーン・ポロック/ミシェル・ジョンソン/ダグラス・ジリソン/ウェイン・グレイス/バリー・マクガヴァン●日本公開:1992/07●配給:ユニヴァーサル映画=UIP(評価:★★★☆)

トップガン3.jpg「トップガン」●原題:TOP GUN●制作年:1986年●制作国:アメリカ●監督:トニー・スコット●製作:ドン・シンプソン/ジェリー・ブラッカイマー●脚本:ジム・キャッシュ/ジャック・エップス・Jr●撮影:ジェフリー・キンボール●音楽:ハロルド・ファルターメイヤー/ジョルジオ・モロダー●時間:110分●出演:トム・クルーズ/ケリー・マクギリス/ヴァル・キルマー/アンソニー・エドワーズ/トム・スケリット/マイケル・ アイアンサイド/ジョン・ストックウェル/リック・ロソビ旧東京宝塚劇場.jpg旧日比谷スカラ座8.jpgッチ/メグ・ライアン/ティム・ロビンス●日本公開:1986/12●配給:UIP●最初に観た場所:日比谷スカラ座(86-12-14)(評価:★★)
旧・日比谷スカラ座 1940年4月東京宝塚劇場ビル4階にオープン(当初の呼称は「東宝四階劇場」)、1955年7月改装 (1,197席)。1998(平成10)年1月18日閉館。

カクテル 1988.jpgカクテル02.jpg「カクテル」●原題:COCKTALEN●制作年:1988年●制作国:アメリカ●監督:ロジャー・ドナルドソン●製作:テッド・フィールド/ロバート・W・コート●脚本:ヘイウッド・グールド●撮影:ディーン・セムラー●音楽:ピーター・ロビンソン(主題歌:ザ・ビーチ・ボーイズ「ココモ」)●原作:ヘイウッド・グールド●時間:104分●出演:トム・クルーズ/ブライアン・ブラウン/エリザベス・シュー/ケリー・リンチ●日本公開:1989/03●配給:ワーナー・ブラザース(評価:★★★)
カクテル [DVD]

刑事ジョン・ブック 目撃者 [DVD]
刑事ジョン・ブック 目撃者 poter.jpg刑事ジョン・ブック 目撃者 dvd2.jpg刑事ジョン・ブック 目撃者ード.jpg「刑事ジョン・ブック 目撃者」●原題:WITNESS●制作年:1985年●制作国:アメリカ●監督:ピーター・ウィアー●製作:エドワード・S・フェルドマン●脚本:ウィリアム・ケリー/アール・W・ウォレス●撮影:ジョン・シール●音楽:モーリス・ジャール●時間:113分●出演:ハリソン・フォード/ケリー・マクギリス/ルーカス・ハース/ジョセフ・ソマー/ダニー・グローヴァー/ヤン・ルーベス/アレクサンドル・ゴドゥノフ/パティ・ルポーン/ブレント・ジェニングス/アンガス・マッキネス/フレデリック・ロルフ/ヴィゴ・モーテンセン●日本公開:1985/06●配給:UIP(評価:★★★☆)


「トップガン マーヴェリック」3.jpg「トップガン マーヴェリック」●原題:TOP GUN: MAVERICK●制作年:2022年●制作国:アメリカ●監督:ジョセフtoho上野 ウルトラマン・トップガン.jpg・コシンスキー●製作:ジェリー・ブラッカイマー/トム・クルーズ/クリストファー・マッカリ「トップガン マーヴェリック」2.jpgー/デヴィッド・エリソン●脚本:アーレン・クルーガー/エリック・ウォーレン・シンガー/クリストファー・マッカリー●撮影:クラウディオ・ミランダ●音楽:ハロルド・フォルターメイヤー/レディー・ガガ/ハンス・ジマー●時間:131分●出演:トム・クルーズ/マイルズ・テラー/ジェニファー・コネリー/ジョン・ハム/グレン・パウエル/ルイス・プルマン/エド・ハリス/ヴァル・キルマー●日本公開:2022/05●配給:東和ピクチャーズ●最初に観た場所:TOHOシネマズ上野(スクリーン2)(22-07-12)(評価:★★☆)

「トップガン マーヴェリック」プロモーション用オリジナルポスター 
    
ファイヤーフォックス 特別版 [DVD]
「ファイヤーフォックス」ち.jpg「ファイヤーフォックス 特別版.jpg「ファイヤーフォックス」●原題:FIREFOX●制作年:1982年●制作国:アメリカ●監督:クリント・イーストウッド●製作:クリント・イーストウッド/フレディ・ジョーンズ/ウォーレン・クラーク●脚本:アレックス・ラスカー/ウェンデル・ウェルマン●撮影:ブルース・サーティース●音楽:モーリス・ジャール●原作:クレイグ・トーマス●時間:136分●出演:クリント・イーストウッド/フレディ・ジョーンズ/デイヴィッド・ハフマン/ウォーレン・クラーク/ロナルド・レイシー/ケネス・コリー/クラウス・ロウシュ/ナイジェル・ホーソーン/ステファン・シュナーベル/ヴォルフ・二子東急 1990.jpgカーラー/トーマス・ヒル/クライヴ・メリソン/カイ・ウルフ/ディミトラ・アーリス/オースティン・ウィリス/マイケル・カリー/二子東急.gifジェームス・ステイリー/ウォード・コステロ/アラン・ティルヴァー●日本公開:1982/07●配給:ワーナー・ブラザース●最初に観た場所:二子東急(83-06-25)(評価:★★★)●併映:「ポルターガイスト」(トビー・フーパー)

二子東急のミニチラシ.bmp二子東急 場所.jpg二子東急 1957年9月30日 開館(「二子玉川園」(1985年3月閉園)そば) 1991(平成3)年1月15日閉館

 
   
 
1985年3月31日 二子玉川園最終営業日(写真:フォートラベル)
二子玉川園.jpg


《読書MEMO》
MSN産経ニュース
トニースコットor.jpg

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"禁じ手"にこだわるかどうかは別として、ポアロ推理の真骨頂を堪能できる作品。

アクロイド殺し ハヤカワミステリ.jpg「アクロイド殺し」雄鶏社 1950年刊.jpg 『アクロイド殺し』真鍋 博 表紙.jpg アクロイド殺し クリスティー文庫.jpg
ハヤカワミステリ(1955)/雄鶏社(1950)/ハヤカワミステリ文庫/クリスティー文庫

 村の名士ロジャー・アクロイドが短刀で刺殺されるという事件が起きるが、容疑者であるアクロイドの義子ラルフ・ペイトンは姿をくらまし、事件は迷宮入りの様相を呈す。アクロイドの主治医シェパードはこうした状況を手記にまとめ、事件の謎を解決しようとする一方、アクロイドの義妹セシルの娘で、ラルフの婚約者であるフローラは、村に越して来たばかりの変人がポアロであることを知って、犯人の捜査を依頼する―。

英国初版(1926)/Fontana版(1960)/(1963)/(1983)
The Murder of Roger Ackroyd.jpgアクロイド殺し 英国Fontana版 1960.jpgアクロイド殺し 1963.jpgアクロイド殺し1983.bmp 1926年に発表されたアガサ・クリスティの長編推理小説で(原題" The Murder of Roger Ackroyd")、クリスティの6作目の長編で、エルキュール・ポアロ・シリーズでは3作目ですが、シリーズの中でも傑作とされており、個人的にもそう思います。

 この作品の評価で最も議論になるのが、小説の形式そのものにトリックがあることで、これは読者に対しての所謂"禁じ手"ではないかということですが、確かに全く引っ掛かりを覚えないかと言うとそうではないものの、推理小説としての構成が素晴らしいので、やはり高評価に値するように思います。

 多くの主要登場人物のすべてを容疑者とし、実際にそれぞれに被害者殺害の機会があったことを読者にも示しながら、緻密且つ論理的に検証していくとただ1人の犯人に必然的に行きつくという、ポアロ推理の真骨頂を堪能できる作品ではないでしょうか。

 シリーズの前作同様に「一人称小説」でありながら、それが「手記」でもあったというところで、そう言えばそれまであまり追及を受けていない者が...とは思ってはしまうものの、自分のような推理音痴にはこれぐらいがちょうどいい?

 長編でありながらも無駄のない構成で、それでいて、"ミス・マープルの原型"とされるシェパード医師の妻キャロラインの事件への"首突っ込みたがり屋"ぶりが可笑しかったりもしました。この作品の最後の方のポワロはちょっと怖いかも。

アクロイド殺人事件.jpgアクロイド殺人事件02.jpg これ、映像化に際しては、原作がある種の叙述トリックであるため、工夫が必要にあります。デビッド・スーシェ版「名探偵ポワロ」の第46話(第6シーズン第5話)で2000年にテレビドラマ化されており(製作は1999年。99分の長尺版)、その時もやはり少しアレンジされていました、ただし、トリックそのものは概ね生かされており、まずまずの出来ではなかったかと思います。

アクロイド殺人事件01.jpg 因みに、ドラマでは、ポワロが廃業後、隠居したキングス・アボットの村で野菜園作りなどしていた折に遭遇する事件という設定になっており(ただし、ロンドンのホワイトヘヴン・マンションはまだキープし続けてアクロイド殺人事件48.jpgいる)、本ドラマシリーズ中期の後半といったことでそうした設定になっているのでしょう(原作は、ポワロの長編としては『ゴルフ場殺人事件』の次に書かれた3作目に当たるのだが)。したがって、ジャップ警部が引退したポワロと偶然にも再会を果たし、快哉を叫ぶというシーンもあったりします(因みに、ジャップ警部の本ドラマシリーズ登場回数は、全70話中40回と、ヘイスティングスの43回と僅か3回しか差がない。最初はポワロのことを煙たがっていたジャップ警部だが、これだけポワロに事件を解決してもらえれば、確かに再会を喜び合う関係になってもおかしくない)。

iアクロイド殺人事件03G.jpg「名探偵ポワロ(第46話)/アクロイド殺人事件」●原題:AGAHTA CHRISTIE'S POIROT SEASON6:THE MURDER OF ROGER ACKROYD●制作年:1999年●制作国:イギリス●本国放映:2000/01●監督:アンドリュー・グリーブ●脚本:クライブ・エクストン●時間:99分●出演:デビッド・スーシェ(ポワロ)/フィリップ・ジャクソン(ジャップ主任警部)/オリヴァー・フォード・デヴィース(シェパード医師)/マルコム・テリス(ロジャー・アクロイド)/セリーナ・キャデル(キャロライン・シェパード)/デイジー・ボウモント(アーシュラ・ボーン)/フローラ・モントゴメリー(フローラ・アクロイド)/ナイジェル・クック(ジェフリー・レイモンド)/ ジェイミー・バンバー(ラルフ・ペイトン)/ロジャー・フロスト(パーカー)/ヴィヴィアン・ハイルブロン(ヴェラ・アクロイド)/グレガー・トラター(デイビス警部)●日本放映:2000/12/30●放映局:NHK(評価:★★★☆)

アクロイド殺し クリスティー文庫2.jpg【1955年新書化[ハヤカワ・ポケットミステリ(松本恵子:訳『アクロイド殺し』)]/1957年文庫化[角川文庫(松本恵子:訳『アクロイド殺人事件』)/1958年再文庫化・1987年改版[新潮文庫(中村能三:訳『アクロイド殺人事件』)/1959年再文庫化・1975年・2004年改版[創元推理文庫(大久保康雄:訳『アクロイド殺害事件』)/1979年再文庫化[ハヤカワ・ミステリ文庫(田村隆一:訳『アクロイド殺し』)]/1998年再文庫化[偕成社文庫(茅野美ど里:訳『アクロイド殺人事件』)]/1998年再文庫化[集英社文庫(雨沢泰:訳『アクロイド殺人事件―乱歩が選ぶ黄金時代ミステリーBEST10(6)』)]/2003年再文庫化[ハヤカワ・クリスティー文庫(羽田詩津子:訳『アクロイド殺し』)]/2004年再文庫化[嶋中文庫(河野一郎:訳『アクロイド殺害事件』)]/2005年再文庫化[講談社青い鳥文庫(花上かつみ:訳『アクロイド氏殺害事件』)]】

クリスティー文庫

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ミス・マープルのシリーズの中でも傑作。ラストの哀しい余韻がいい。

鏡は横にひび割れて ハ―パーコリンズ版.jpg 鏡は横にひび割れて  ハヤカワ・ミステリ.jpg 鏡は横にひび割れて  ハヤカワ・ミステリ文庫.jpg 鏡は横にひび割れてクリスティー文庫.jpg クリスタル殺人事件 ポスター.jpg 鏡は横にひび割れてdvd.jpg
"The Mirror Crack'd from Side to Side" ハ―パーコリンズ版『鏡は横にひび割れて (1964年) 』『鏡は横にひび割れて (ハヤカワ・ミステリ文庫)』(カバーイラスト:真鍋博)『鏡は横にひび割れて (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)』/「クリスタル殺人事件」ポスター/「ミス・マープル 第11巻 鏡は横にひび割れて [DVD]

THE MIRROR CRACK'D .Pocket (US) 1964.jpg ミス・マープルの住むセント・メアリ・ミード村にある邸宅ゴシントン・ホールに、往年の大女優マリーナ・グレッグが夫ジェースン・ラッドと共に引っ越して来て、その邸宅で盛大なパーティが開かれるが、その最中に招待客の1人で地元の女性ヘザー・パドコックが変死し、死因はカクテルに入っていた薬物によるものだったことが判明する―。

THE MIRROR CRACK'D .Pocket (US) 1964

 アガサ・クリスティ(1890‐1976)が1962年、72歳で発表した作品で(原題"The Mirror Crack'd from Side to Side")、犯人の動機やラストの余韻が忘れ得ない作品、ミス・マープルのシリーズの中でも傑作中の傑作ではないかと思います。

 タイトルの「鏡は横にひび割れて」は、マリーナがパーティでミセス・パドコックと言葉を交わした直後に見せた、凍りついたような謎の表情が、ヴィクトリア朝の詩人テニスンの「シャロット姫」の中で、鏡が横にひび割れ、シャロット姫が、呪いが我が身にふりかかったことを知った時の表情にも思えたところからきています。

 この後にミセス・パドコックは、誰かにぶつかって飲み物をこぼし、代わりにマリーナから渡されたグラスを飲み干して死ぬ、ということで、犯人はもともとマリーナを狙っていたのか、それとも...。

鏡は横にひび割れて 1971.jpg やがて、何らかの秘密を握るジェースンの秘書エラ・ジーリンスキーが毒殺され、第3の殺人事件も起きますが、ストーリーそのものはシンプル(作品が永く印象に残る1つの要因だと思う)、但し、妊娠中の女性が水疱瘡に感染すると胎児に危険を及ぼすという知識はあった方がいいかも。

 最後に犯人は睡眠薬で自殺を遂げますが、本当に自殺だったのか、それとも、犯人のことを想う身内が裁いたのかという謎が残り、ミス・マープルの推論は後者のようですが、哀しいなあ、この結末。マープルもそれ以上のことは追及しないような終わり方です。
       
英国・Fontana版 (1971) (Cover Illustration By Tom Adams)
      
「クリスタル殺人事件」('80年/英)キム・ノヴァク/エリザベス・テーラー
クリスタル殺人事件1.jpgクリスタル殺人事件2.jpg ガイ・ハミルトン監督によって映画化された「クリスタル殺人事件」('80年/英)は、ミス・マープル役がアンジェラ・ランズベリー(これが契機となったのか、後にテレビドラマ「ジェシカおばさんの事件簿」('84年~'96年)で"ジェシカおばさん"ことミステリー作家ジェシカ・フレッチャーを演じることに)。マリーナがエリザベス・テーラー(1932年生まれ)、秘書のエラがジェラルディン・チャップリン、夫ジェースンがロック・ハドソンと豪華顔ぶれですが、やや原作とは違っているというクリスタル殺人事件3.jpg感じも。原作ではそれほど重きを置かれていない映画女優ローラ・ブルースターをキム・ノヴァク(1933年生まれ)が演じることで、マリーナとローラの確執を前面に出しています。ロンドン警視庁のクラドック警部役がエドワード・フォックスだったり、マリーナが出ている映画の中でちらっと出てくる相手役がピアース・ブロスナン(ノンクレジット)だったりと、役者を観る楽しみはありますが、出演料に費用がかかり過ぎたのか舞台はやや地味で(『白昼の悪魔』を原作とするガイクリスタル殺人事件es.jpg・ハミルトン監督の次回作「地中海殺人事件」('82年)の方がスペインで海外ロケをしている分、舞台に金をかけている)、しかも第三の殺人は省いてしまったりもしています。ラストでマリーナの最期に原作には無いオリジナルのひねり(空のベッド!)を加えていますが、これはまずまず。一方、BBCのテレビ版('92年)も見ましたが、むしろこちらの方が、役者の派手さは無いものの、3時間を超える長さで、且つかなり原作に忠実に作られていて"本格派"のように思いました。
 
TVドラマ「ミス・マープル(第12話)/鏡は横にひび割れて」 ('92年/英)
The Mirror Crack'd 1992 01.jpgThe Mirror Crack'd 1992 03.jpg 導入部では、例のミス・マープルと近所のおばさんや小間使いとの間の世間話なども織り込まれていて、最初はいつもフツーのおばあさんにしか見えないミス・マープルですが、事件が進展していくと一転して鋭い洞察をみせ、相当早くに犯人の目星をつけてしまったみたいで、後は、残った疑問点を整理していくという感じでしょうか(最大の疑問点は犯行動機、これが事件の謎を解くカギになる)。原作と同じようにエンディングで余韻を残していて、この点でも原作に忠実でした。

The Mirror Crack'd  07.jpgThe Mirror Crack'd 1992 02.jpg テレビ版でもこれまで何人かの女優がミス・マープルを演じていますが、BBCが最初にシリーズ化した際にマ―プルを演じたジョーン・ヒクソン(Joan Hickson、1906‐1998)は好きなタイプで、生前のクリスティ本人から「年を経た暁には、ミス・マープルを演じて欲しい」と言われたという逸話があるそうです(この「鏡は横にひび割れて」は、シリーズ全12話の最後の作品で、ジョーン・ヒクソンはこの時85歳くらいかと思われるが、非常にしっかりしている)。

The Mirror Crack'd 1992 Joan Hickson.jpgThe Mirror Crack'd 1992 スラック警部.jpg この「鏡は横にひび割れて」には、同じテレビシリーズの「第3話/予告殺人」で捜査に当たったクラドック警部(ジョン・キャッスルが、原作に沿って再び登場し(どうやらやり手であるがために逆に出世が遅れているらしい)、いつも登場するスラック警部(デヴィッド・ホロヴィッチ)は「警視」に昇進しています(スラック警視はクラドック警部の有能さを買っている)。

 シリーズを通してミス・マープルに対抗心を抱きながらいつも先を越され、苦虫を噛み潰してきたスラック警部が、「警視」に昇進して自らが直接捜査に当たる必要がなくなった余裕からか、これまでのミス・マープルを無視しようとする姿勢を全面的に改め、クラドック警部にミス・マープルに相談するようアドバイスする場面が個人的には愉快でした(実はクラドック警部はミス・マープルの甥で、彼女の卓抜した推理力については上司に言われるまでもなく知っている)。スラック警部は、ミス・マープルのおかげで昇進できたということでしょうか。そして、本人にもその自覚がある? シリーズ最終話らしいオチでした。

ミス・マープル 鏡は横にひび割れて BBC.jpg 本作はビデオ('98年)にもDVD('02年)にもなっているし、最近ではAXNで観ました(ジョーン・ヒクソンの吹き替えを担当している山岡久乃(1926‐1999)もいい)。ビデオ化される以前にテレビ東京「午後のロードショー」で放映されています('97年)。(いずれも短縮版) 

ミス・マープル 完全版 DVD-BOX.jpg '98年リリースのVHS版では第12話、DVD版は第11話になっていますが、本国での放映年からみると第12話(最終話)。最初に出されたDVDがシリーズ全12話中11話収録(「ポケットにライ麦を」が欠落)だった関係でしょうか?その後出された完全版DVD‐BOX1とBOX2で全12話がフォローされているが最終話ではなく第11話のまま。ビデオ・DVDの収録順は全体を通して本国でのドラマ版制作順と一致していないようです。 「ミス・マープル[完全版]VOL.11 [DVD]

ミス・マープル[完全版]DVD-BOX 2

Disc 7:「ポケットにライ麦を」(A Pocket Full of Rye)
Disc 8:「牧師館の殺人」(The Murder at the Vicarage)
Disc 9:「動く指」(The Moving Finger)
Disc 10:「魔術の殺人」(They Do It with Mirrors)
Disc 11:「鏡は横にひび割れて」(The Mirror Crack'd)
Disc 12:「予告殺人」(A Murder Is Announced)

クリスタル殺人事件 dvd.jpgクリスタル殺人事件4.jpg「クリスタル殺人事件」●原題:The Mirror Crack'd●制作年:1980年●制作国:イギリス●監督:ガイ・ハミルトン●製作:ジョン・ブラボーン/リチャード・グッドウィン●脚本:ジョナサン・ヘイルズ/バリー・サンドラー●撮影:クリストファー・チャリス●音楽:ジョン・キャメロン●原作:アガサ・クリスティ「鏡は横にひび割れて」●時間:105分●出演:アンジェラ・ランズベリー/エリザベス・テイラー/ロック・ハドソン/ジェラルディン・チャップリン/トニー・カーティス/エドワード・フォックス/キム・ノヴァク/チャールズ・グレイ/ピーター・ウッドソープ/ナイジェル・ストック/ピアース・ブロスナン(ノンクレジット)●日本公開:1981/07●配給:東宝東和●(評価★★★)
クリスタル殺人事件 [DVD]

The Mirror Crack'd from Side to Side 1992.jpg「ミス・マープル(第12話)/鏡は横にひび割れて」●原題:The Mirror Crac'd from Side to Side●制作年:1992年●制作国:イギリス●監督:ノーマン・ストーン●製作:ジョージ・ガラッシオ●脚本:T・R・ボーウェン●撮影:ジョン・ウォーカー●原作:アガサ・クリスティ●時間:日本放映版93分(完全版204分)●出演:ジョーン・ヒクソン(マープル)/クレア・ブルーム(マリーナ・グレッグ)/バリー・ニューマン(ジェイソン・ラッド)/グエン・ワトフォード(ドリー・バントリー)/ジョン・キャッスル(ダーモット・クラドック警部)/コンスタンチン・グレゴリー(アードウィック・フェン)/グリニス・バーバー(ローラ・ブルースター)/エリザベス・ガーヴィー(エラ・ザイリンスキー) /デヴィッド・ホロヴィッチ(スラック警視)/イアン・ブリンブル(レイク巡査部長) ●日本公開:1997/03/19 (テレビ東京)(評価:★★★★) 
ミス・マープルbbc.jpgミス・マープル jh.jpgミス・マープル bbc.jpg「ミス・マープル」Miss Murple (BBC 1984~1992) ○日本での放映チャネル:テレビ東京/NHK‐BS2/FOXチャンネル

鏡は横にひび割れて dvd.jpg鏡は横にひび割れて 01.jpg 「アガサ・クリスティー ミス・マープル(第20話)/鏡は横にひび割れて」 (10年/英・米) ★★★★

 【1964年新書化[ハヤカワ・ポケットミステリ(橋本福夫:訳)]/1977年文庫化[ハヤカワ・ミステリ文庫(橋本福夫:訳]/2004年再文庫化[早川書房・クリスティー文庫(橋本福夫:訳)]】

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"リンカーン・ライム"シリーズ第1作。長所においても欠点においても、原点的作品。

ボーン・コレクター 単行本.jpg   ボーン・コレクター 上.jpg ボーン・コレクター下.jpg  THE BONE COLLECTOR.jpg
 『ボーン・コレクター』['99年]『ボーン・コレクター〈上〉(文春文庫)』『ボーン・コレクター〈下〉(文春文庫)』「ボーン・コレクター [DVD]
ディーヴァー 『ボーン・コレクター』.jpgボーン・コレクター 洋書.jpg 1999(平成11)年度「週刊文春ミステリー ベスト10」(海外部門)第1位、(2000 (平成12) 年「このミステリーがすごい」(海外編)第2位)。

 "世界最高の犯罪学者"リンカーン・ライムは、ある事故によって四肢麻痺になり、安楽死を願っていたが、そんな彼に、不可解な誘拐殺人事件の知らせが届く。犯行現場に次の殺人の手がかりを残してゆくボーン・コレクターの挑戦に、ライムの犯罪捜査への情熱が再び目覚め、殺人現場の鑑識を嫌々引き受けていたアメリア・サックス巡査も、やがて事件解明に引き込まれてゆく―。

 1997年に発表されたジェフリー・ディーヴァーの"リンカーン・ライム"シリーズ第1作で、この人の小説は「ジェットコースター・サスペンス」と言われるだけに、長さを感じさせないスピード感がありますが、そもそも、全体で僅か3日の間の出来事なので(その間5人の犠牲者が"詰まって"いる)、出来るだけ一気に読んだ方がいいように思います。

 ジェフリー・ディーヴァーは1950年生まれ、弁護士資格を持ち(専門は会社法)、1990年までウォール街に勤務していたそうですが、科学的犯罪捜査に関するこの知識量は凄いなあ。
 但し、そうした蘊蓄だけでなく、女性巡査サックスが、突然上司となったライムに最初は反発しながらも、仕事を通して彼との距離を縮めていく(同時に、鑑識捜査官らしくなっていく)変化なども、丁寧に描かれています。

 犯人が意外と言うか、やや唐突であったりする欠点や、捜査陣の身内に犯人からの直接的な危害が及ぶという、やや無理がある、しかし、このシリーズでは定番化しているパターンなども含めて、シリーズの原点と言える作品。

ボーン・コレクター 映画.jpg '99年にフィリップ・ノイス監督により映画化されましたが、リンカーン・ライム役がデンゼル・ワシントンということで、白人から黒人になったということはともかく、原作のライムの苦悩や気難しさなどが、優等生的なデンゼル・ワシントンが演じることで薄まっている感じがし、アメリア・ドナヒュー(原作ではアメリア・サックス)役の アンジェリーナ・ジョリーも、この映画に関しては演技の評価は高かったようですが、個人的には、ちょっと原作のイメージと違うなあという感じ。

 原作はかなり内容が詰まっているだけに(とりわけ科学捜査の蘊蓄が)、これを2時間の映画にしてしまうことで抜け落ちる部分が多すぎて、役者陣のこともあり、映画は原作とは雰囲気的には別のものになってしまったというところでしょうか。そうした意味では、映画を既に観た人でも、原作は原作として充分楽しめると思います。

ジョリー  ヴォイドs.jpgトゥームレイダー ジョリー.jpg このアンジェリーナ・ジョリーという女優は、演技派と言うより肉体派では?と、実父ジョン・ヴォイトと共演し、役柄の上でも父と娘の関係の役だった「トゥームレイダー」('01年)などでも思ったのですが、「トゥームレイダー」は、世界中で大ヒットしたTVアクション・ゲームの映画版で、タフで女性トレジャー・ハンターが、惑星直列によって強大な力を発揮するという秘宝を巡って、その秘宝を狙う秘密結社と争奪戦を繰り広げるもの(インディ・ジョーンズの女性版?)。ストーリートゥームレイダー19.jpgも役者の演技もしょぼく、アンジェリーナ・ジョリーのアクロバティックなアクションだけが印象に残った作品(アンジェリーナ・ジョリー自身が、脚本を最初に読んだ時、主人公を「超ミニのホット・パンツをはいたバカ女」と評して脚本家と口論となった)。この作品で彼女は、ゴールデンラズベリー賞の「最低主演女優賞」にノミネートされたりもしていますが、最近では、クリント・イーストウッド監督の「チェンジリング」('08年)でアカデミー主演女優賞にノミネートされたりもしています。
 

ボーン・コレクターs.jpgボーン・コレクター dvd.jpg「ボーン・コレクター」●原題:THE BONE COLLECTOR●制作年:1999年●制作国:アメリカ●監督:フィリップ・ノイス●製作:マーティン・ブレグマン/マイケル・ブレグマン/ルイス・A・ストローラー●脚本:ジェレミー・アイアコーン/ジェフリー・ディーヴァー●音楽:クレイグ・アームストロング●原作:ジェフリー・ディーヴァー●時間:118分●出演:デンゼル・ワシントン/アンジェリーナ・ジョリー/クィーン・ラティファ/エド・オニール/マイク・マッグローン/リーランド・オーサー/ルイス・ガスマン●日本公開:2000/04●配給:ソニー・ピクチャーズ(評価:★★☆)
トゥームレイダー [DVD]

トゥームレイダー.jpgトゥームレイダー  .jpg「トゥームレイダー」●原題:TOMB RAIDER●制作年:2001年●制作国:アメリカ●監督:サイモン・ウェスト●製作:ローレンス・ゴードン/ロイド・レヴィン/コリン・ウィルソン●脚本:パトリック・マセット/ジョン・ジンマン●撮影:ピーター・メンジース・Jr●音楽:BT●時間:100fhd001TRO_Angelina_Jolie_050.jpgア分●出演:アンジェリーナ・ジョリー/ジョン・ヴォイト/イン・グレン/ダニエル・クレイグ/レスリー・フィリップス/ノア・テイラー/レイチェル・アップルトン/クリス・バリー/ジュリアン・リンド=タット/リチャード・ジョンソン●日本公開:2001/06●配給/東宝東和(評価★★)
Lara Croft Tomb Raider : Jon Voight and his daughter Angelina Jolie
TOMB RAIDER Jonathan  Voight.jpg TOMB RAIDER Jonathan  Voight2.jpg

モデル時代のアンジェリーナ・ジョリー(15歳)  Angelina Jolie
アンジェリーナ・ジョリー モデル.jpgアンジェリーナ・ジョリー.jpg アンジェリーナ・ジョリー.bmp

 【2003年文庫化[文春文庫(上・下)]】 

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限りある生を超え、"伝説"として人々の記憶に生き続ける―芸術家の究極の姿か。

猫を抱いて象と泳ぐ.jpg  『ブリキの太鼓』(1979)3.jpg ブリキの太鼓.jpg
猫を抱いて象と泳ぐ』(2009/01 文藝春秋) 映画「ブリキの太鼓 HDニューマスター版 [DVD]

 唇が閉じて生まれ、切開手術で口を開いたという出生の経緯を持つ寡黙な少年は、体が大きくなりすぎて屋上動物園で生涯を終えた象と、壁の隙間に挟まり出られなくなった女の子を架空の友とし、7歳で廃バスにポーンという名の猫と暮らす巨漢の男と遇って、彼を師匠にチェスを習い、その才能を開花させる。男が象と同様にその巨体のために亡くなると、彼は自らの意思で11歳のまま身体の成長を止め、名棋士アリョーヒンに因んでリトル・アリョーヒンと名づけられたチェスのカラクリ人形の中に入り、人知れず至高の対戦を繰り広げる―。

 2009(平成11)年度「『本の雑誌』編集部が選ぶノンジャンル・ベスト10」第2位。2010(平成22)年・第7回 「本屋大賞」第5位。同作者の『博士の愛した数式』('03年/新潮社)が"数式"をモチーフにしていたのに対して、今度は"チェス"がモチーフということで、そうした独自の素材が物語にうまく溶け込んでいるという点では、『博士の愛した数式』を凌いでいるかも。

『ブリキの太鼓』(1979).jpg飛ぶ教室 実業之日本社.gif 自らの意思で成長を止めた少年というのは、ギュンター・グラスの『ブリキの太鼓』(フォルカー・シュレンドルフ監督の映画「ブリキの太鼓」('79年/西独・仏))の"オスカル少年"のようでもあり、廃バスに住むマスターは、エーリッヒ・ケストナーの『飛ぶ教室』の学校近くの廃車となった禁煙車両に住む"禁煙先生"をも想起させます。

「ブリキの太鼓」('79年/西独・仏)

 個人的には『博士の愛した数式』のような母子モノの話には感動させられ易いのですが、現実を描いている風でありながら大人のメルヘン的要素を醸した『博士の...』に比べると、こちらは、最初から「物語」乃至「寓話」であることがフレームとして読者の前に提示されている感じで、いったん物語の中に入り込めてしまえば、よりすんなり感動できるかも知れません(実際、感動した。自分は「母子モノ」に弱いと言うより、このタイプの「小川作品」に弱いのかも)。

 主人公の師匠である巨漢男だけでなく、優しい祖母や老人ホームに住まう往年の名プレーヤーたちなど、印象に残る登場人物が多く、彼らはやがて死んでいきますが、それぞれに生きている者の中に記憶として生きていると言えます。
 そして、主人公の最期もまたあっけないものですが、彼は"伝説"として人々の記憶に生き続けることになる―、ある意味、人間の限りある生を超えられるものは何かを問いかけるような作品でもあります。

 主人公はチェスプレーヤーですが、「ビショップの奇跡」と呼ばれる1枚の棋譜と1葉のスナップ写真のみを残したその生き方は、芸術家の究極の姿でもあるように思えました。
 そのことは、「もし彼がどんな人物であったかお知りになりたければ、どうぞ棋譜を読んで下さい。そこにすべてのことが書かれています」という、この作品の最後のフレーズにも象徴されているかと思います。

Bobby Fischer.jpgBOBBY FISCHER 2.jpg 実際、チェスの世界は伝説的な話には事欠かないようで、'08年にアイスランドで亡くなったボビー・フィッシャー(米国)みたいに、何度も世界チャンピオンになりながら何度も消息不明になった人などもいて、ボビー・フィッシャーの再来といわれた天才少年ジョシュ・ウェイツキンを主人公にした「ボビー・フィッシャーを探して」('93年/米)という映画も作られるなどしました(Photo:Bobby Fischer: (1958)He wins US Chess Championship at age 14)。

羽生善治.jpg ボビー・フィッシャーは日本に潜伏していた時期もあったらしく、無効パスポート保持で成田で拘束されたこともあり、米国に強制送還される恐れがあったため、チェスが"趣味"の羽生善治氏が、彼に日本国籍を与えるよう当時の小泉首相に嘆願メールを出したということもありました。

チェス部が小川洋子氏の取材を受ける.jpg 作者が取材した麻布高校のチェスサークルは、在学中に全日本チャンピオンとなり、'08年度まで4年連続タイトルを保持した小島慎也氏('09年度は、アイルランドのIM(インターナショナル・マスター)サム・コリンズに敗れ準優勝だった)の出身サークルでもありますが、小島氏に言わせれば、日本チェス界で一番強いのは羽生善治であるとのこと、羽生は主に海外で対局していて、国際レイティングは今も('09年)日本人トップで、羽生を倒せるようになるのが"全日本チャンピオン"の座に4度輝いた小島氏の目標だそうです(羽生ってスゴイなあ。まるで、生ける"伝説"みたいな感じ...)。

 「ボビー・フィッシャーを探して」('93年/米)と同様、チェスの世界大会を舞台にした映画では、カール・シュンケル監督の「美しき獲物」('93年/米・独)があり、チェスの世界選手権に絡んで起きた猟奇殺人事件を描くサスペンス・サイコ・スリラーで、ストーリーそのものは悪くないのですが、主演のクリストファー・ランバートとダイアン・レイン(私生活で当時は恋人同士)の2人とも、それぞれに「チェスの天才」にも「女性心理学者」にも見えないのが難、「ボビー・フィッシャーを探して」に出演した子役は賢そうに見えたけれど...。

ブリキの太鼓2.jpgブリキの太鼓 ポスター.jpg「ブリキの太鼓」●原題:DIE BLECHTROMMEL●制作年:1979年●制作国:西ドイツ・フランス●監督:フォルカー・シュレンドルフ●製作:アナトール・ドーマン/フランツ・ザイツ●脚本:ジャン=クロード・カリエール/ギュンター・グラス/フォルカー・シュレンドルフ/フランツ・ザイツ●撮影:イゴール・ルター●音楽:モーリス・ジャール●原作:ギュンター・グラス●時間:142分●出演:ダーフィト・ベンネント/マリオ・アドルフ/アンゲラ・ヴィンクラー/カタリーナ・タールバッハ/ダニエル・オルブリフスキ/ティーナ・エンゲル/ローラント・トイプナー●日本公開:1981/04●配給:フランス映画社●最初に観た場所:有楽町スバル座(81-04-26)(評価:★★★★)

SEARCHING FOR BOBBY FISCHER (1993).jpgボビー・フィッシャーを探して.jpg「ボビー・フィッシャーを探して」●原題:SEARCHING FOR BOBBY FISCHER●制作年:1993年●制作国:アメリカ●監督・脚本:スティーヴン・ザイリアン●製作総指揮:シドニー・ポラック●撮影:コンラッド・ホール●音楽:ジェームズ・ホーナー●原作:フレッド・ウェイツキン●時間:110分●出演:マックス・ポメランツ/ジョー・マンティーニャ/ジョアン・アレン/ローレンス・フィッシュバーン/ベン・キングズレー/マイケル・ニーレンバーグ●日本公開:1994/02●配給:パラマウント映画=UIP (評価★★★☆)

美しき獲物.png美しき獲物 チラシ.jpgKnight Moves (1992).jpg「美しき獲物」●原題:KNIGHT MOVES●制作年:1992年●制作国:アメリカ/ドイツ●監督:カール・シェンケル●製作:クリストファー・ランバート/ジアド・エル・カウリー ●脚本:ブラッド・ミルマン●撮影:ディートリッヒ・ローマン●音楽:アン・ダッドリー●時間:116分●出演:クリストファー・ランバート/ダイアン・レイン/トム・スケリット/ダニエル・ボールドウィン/アレックス・ディアクン/フェルディ・メイン/キャスリーン・イソベル/アーサー・ブラウス●日本公開:1992/11●配給:アスキー(評価★★★)

【2011年文庫化[文春文庫]】

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自分が大人になる頃にはこうなっていると信じていた時期があった"懐かしい未来"。

昭和少年SF大図鑑 カバー.jpg 昭和少年SF大図鑑.jpg   「エア・カー時代」 小松崎 茂(雑誌「少年」昭和36年1月号.jpg
昭和少年SF大図鑑 (らんぷの本)』 ['09年] 「エア・カー時代」 小松崎 茂(雑誌「少年」昭和36年1月号口絵)
フィフス・エレメント [DVD] 2013.jpg フィフス・エレメント70f.jpg フィフス・エレメント mira.jpg ゲイリー・オールドマン.jpg
フィフス・エレメント [DVD] ミラ・ジョヴォヴィッチ/ゲイリー・オールドマン
 昭和20年代から40年代の少年向け雑誌やプラモデルの箱を飾った空想未来絵図を集めたもので、本郷の弥生美術館で展覧会も行われましたが、その弥生美術館で学芸員をしている女性による編集及び本文解説。

 この方面での画家と言えば、個人的には小松崎茂(1915-2001/享年86)の印象がかなり強いのですが、本書を見ると、小松崎茂が第一人者であったことは間違いないようですが、中島章作、伊藤展安、梶田達二、高荷義之、中西立太、南村喬之と、多彩な人たちがいたのだなあと。

 今見ると、これらの概ね楽天的な、時には物理の法則を逸脱したようなイラストには微笑ましい印象も受けますが、子供時代の一時期においては、自分たちが大人になる頃にはほぼ間違いなくこういう時代が来るのだと、「予測図」より「予定図」みたいな感じで半ば信じていて、素敵な夢を見させて貰いました。

 本書は、そうした夢を描いていた頃の自分を思い出させる、"懐かしい"未来図とでも言えるでしょうか。

「ブレードランナー」('82年/米)/「フィフス・エレメント」('97年/仏)
Blade Runner (1982) ages.jpgFifth Element Cars.jpg 自動車に代わってエアカーが飛び交う様などは、リドリー・スコット監督(「エイリアン」('79/米))の「ブレードランナー」('82年/米)やリュック・ベッソン監督(「グラン・ブルー」('88年/仏・伊))の「フィフス・エレメント」('97年/仏)などの映画の中ではお目にかかれていますが、実現するのはいつのことになるのでしょう。

ポリススピナー.jpg 「ブレードランナー」のハリソン・フォード演じるデッカートが操るポリススピナー(左)に比べて、15年後に作られた「フィフス・エレメント」のパトカーやブルース・ウィリス演じるコーベンが運転するタクシー(上)の方がややキッチュに描かれているのが興味深いです(映画自体も、変てこな悪役ジャン=バティスト・エマニュエル・ゾーグを演じゲイリー・オールドマン.jpgゲイリー・オールドマンやラジオDJ役のクリス・タッカーの怪演が楽しめた、肩の凝らない娯楽作品。この作品でも「ディーバ」(歌姫)がモチーフになっているなあ、リュック・ベンソンは)。

 ただ、この本にある、当時描かれた未来図の全てが荒唐無稽だったとは言えず、臨海副都心構想に近いアイデアやリニアモーターカーの原型など、かなり"いい線"いっているものあります。

 "明るい未来図"ばかりでなく、昭和40年代に入ると、公害問題などの世相を反映して"恐ろしい未来図"も結構出てきて、小松崎茂などは、地球温暖化で極地の氷が溶けて関東地方の大部分が水没する想像図なんてのも描いていて先見性を感じますが、だからと言って人間がエラ呼吸器を手術で植え付け、水中生活に適した身体に変えていくというのは、ちょっと行き過ぎ?

Minority Report.jpgTom Cruise  in Minority Report.jpg 同じくネガティブな未来図として描かれている類で、コンピュータに人間の生が支配されたり、コンピュータによって人間の思考や行動が監視される社会などというのは、ウォシャウスキー兄弟の映画「マトリックス」('99年/米)やスティーヴン・スピルバーグ監督の「マイノリティ・リポート」('02年/米)など、近年のSF映画にも類似したモチーフを看て取れます。
Minority Report (2002)

 但し、「マイノリティ・リポート」(原作は「ブレードランナー」と同じくフィリップ・K・ディック)は、プリコグと呼ばれるヒト個人に予知能力が備わっていることが前提となっていますが、この発想は昔からあったかもしれません。「マイノリティ・リポート」や、同じくフィリップ・K・ディック原作の「トータル・リコール」('90年)が「サターンSF映画賞」を獲って、「ブレードランナー」が賞を逃しているというのは、選考委員としては失策だったのではないでしょうか(因みに、フィリップ・K・ディック本人は、自作の初映画化である「ブレードランナー」」の公開直前で脳梗塞で53歳で急逝していて、完成版を観ることはなかった)。

田中 耕一 記者会見2.jpg 今、若者たちが映画で受身的に観ている様な仮想未来社会を、かつての子供たちは、少年雑誌のイラストで見て、自ら想像力を働かせイメージを膨らませていたのだろうなあ(彼らにとって、これらのイラストの乗り物などは、頭の中では映画のように動いていたに違いない)と思わされます。そして、その中には、今、科学技術の最前線で研究開発に勤しんでいる科学者や技術者もいるのだろうなあと思いました('02年にノーベル化学賞を受賞した田中耕一氏が小松左京原作の「空中都市008」の愛読者だったと自ら言っていた)。
    
ブレードランナー チラシ  22.jpg「ブレードランナー」1982 ンロード.jpg「ブレードランナー」1982 .jpg「ブレードランナー」●原題:BLADE RUNNER●制作年:1982年●制作国:アメリカ●監督:リドリー・スコット●製作:マイケル・ディーリー ●脚本:ハンプトン・フィンチャー/デイヴィッド・ピープルズ●撮影:ジョーダン・クローネンウェス●音楽:ヴァンゲリス●時間:117分●出演:ハリソン・フォード/ルトガー・ハウアー/ショーン・ヤング ●日本公開:1982/07●配給:ワーナー・ブラザース●最初に観た場所:二子東急(83-06-05)(評価:★★★★☆)

フィフス・エレメント.jpgクリス・タッカー.jpg「フィフス・エレメント」●原題:THE FIFTH ELEMENT(Le Cinquie`me e'le'ment)●制作年:1997年●制作国:フランス●監督・脚本:リュック・ベッソン●撮影:ティエリー・アルボガスト●音楽:エリック・セラ●時間:渋谷パンテオン.jpg126分●出演:渋谷パンテオン 2.jpgブルース・ウィリス/ミラ・ジョヴォヴィッチ/ゲイリー・オールドマン/イアン・ホルム/クリス・タッカー/ルーク・ペリー●日本公開:1997/09●配給:日本ヘラルド映画●最初に観た場所:渋谷パンテオン(97-10-24) (評価:★★★★)フィフス・エレメント [DVD]
渋谷パンテオン 東急文化会館1F、1956年オープン。2003(平成15)年6月30日閉館。
    

マイノリティ・リポート06.jpg「マイノリティ・リポート」●原題:MINORITY REPORT●制作年:2002年●制作国:アメリカ●監督:スティーヴン・スピルバーグ●製作:ボニー・カーティス/ジェラルド・R・モーレン/ヤン・デ・ボン/ウォルター・F・パークス●脚本:ジョン・コーエン/スコット・フランク ●撮影:ヤヌス・カミンスキマイノリティ・リポート シドー.jpgー●音楽:ジョン・ウィリアムズ●原作:フィリップ・K・ディック ●時間:145分●出演:トム・クルーズ/コリン・ファレル/ササマンサ・モートン マイノリティ・リポート.jpgマンサ・モートン/マックス・フォン・シドー/ロイス・スミス/スティーヴン・スピルバーグ●日本公開:2002/12●配給:20世紀フォックス (評価:★★★)

トム・クルーズ/サマンサ・モートン(「ミスター・ロンリー」('07年/英・仏・米))


【2014年・2019年新装版】

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とりあえず1回目の予測は外した感があるが、警戒は必要ということか。

パンデミック―2.JPG小林 照幸 パンデミック.jpg  apocalypse-outbreak-431.jpg OUTBREAK3.bmp
パンデミック―感染爆発から生き残るために (新潮新書)』 ['09年]/映画「アウトブレイク」ダスティン・ホフマン/レネ・ルッソ

インフルエンザ.jpg パンデミック(感染爆発)の脅威と、それに対し国や医療機関、個人はどう対応すべきかについて書かれた本で、「新型インフルエンザ」を主として扱ってはいますが、デング熱、マラリア、成人はしかなど、その他の感染症についても言及されています。但し、その分、「新型インフルエンザ」についての解説がやや浅くなった感じがします(帯には「『新型インフルエンザ』の恐怖」と書かれているのだが)。

 本書の刊行は'09年2月で、'03年12月に国内で発生したH5N1型の「鳥インフルエンザウイルス」をベースに、「新型インルエンザ」について、その恐ろしさ、社会に及ぼす影響が近未来小説風の描写を交えて書かれていて(著者はノンフィクションライター兼作家)、"新たな"「新型インフルエンザ」がいつ発生してもおかしくない、或いはパンデミックはすでに始まっているかも知れないとしています。

 そして、実際に本書刊行の2カ月後に「新型インフルエンザ」がメキシコに発生し、その後日本にも上陸、冬季に限らず夏場でも感染拡大する可能性があること、タミフルが一定の治療効果を持つであろうことなど、本書に書かれている幾つかの「予想」も外れていませんでしたが、そもそも、この2009年型の「新型インフルエンザ」はH1N1亜型に属するもので、感染力は強いが致死率はH5型のものよりずっと低いタイプのものでした。

 この点は、WHOも当初は読み違えていたし、また、国や厚労省もそうした弱毒性のインフルエンザを想定していなかったために、却って余計な混乱を招いたという面があり、本書も「新型インフルエンザがH5N1型で発生するかどうかはわからない」と一応は書かれているものの、新型インフルエンザが発生すると「日本で約64万人が死ぬ!」などと帯にも書かれていたりして、こうした混乱を結果として助長した側面も無きにしも非ずか。

 後半部の「対応」の部分は取材源が限定的で、役所やマスコミの発表文書を引き写したような記述も多いように思えましたが、前半部のインフルエンザの特性や、「アウトブレイク」と「パンデミック」の違いなどの解説は分かり易かったです。

OUTBREAK.jpg 映画「アウトブレイク」('95年/米)でモチーフとなった架空のウィルスは、「エイズ」をモデルにしたのかどうかは知りませんが、映画自体はスリリングな娯楽作品であると共に大変恐ろしかったし、結果として'02年にアフリカで発生した「エボラ出血熱」を予見するような内容になっていて、「予言的中度」はかなり高かったと言えるのでは。

 因みに、前世紀初頭(1918年)にアメリカ発で世界中に広まったスペイン風邪(H1N1型)で1年余りの間に4千万人が死亡し、これは中世(14世紀)ヨーロッパで大流行した黒死病(本書ではぺストとされているが腺ペストではなくエボラのような出血熱ウイルスだったという説もある)の死者3千5百万人をも上回るものだったとのことです。

 地球上の人口が増え、交通機関が発達し、日常的に人々が行き来する現代、人類にとってパンデミックが脅威であることは、著者の指摘の通りだと思います。

Rene Russo (レネ・ルッソ) in「アウトブレイク [DVD]
OUTBREAK.bmp「アウトブレイク.jpg 「アウトブレイク」●原題:OUTBREAK●制作年:1995年●制作国:アメリカ●監督:ウォルフガング・ペーターゼン●製作:ゲイル・カッツ/アーノルド・コペルソン●脚本:ローレンス・ドゥウォレットアウトブレイク01.jpg/ロバート・ロイ・プール●撮影:ミヒャエル・バルハウス●音楽:ジェームズ・ニュートン・ハワード●時間:127分●出演:ダスティン・ホフマン/レネ・ルッソモーガン・フリーマン/ケヴィン・スペイシー/キューバ・グッディング・ジュニア/ドナルド・サザーランド/パトリック・デンプシー●日本公開:1995/04●配給:ワーナー・ブラザース映画(評価:★★★★)

レネ・ルッソ in「メジャーリーグ」('89年)映画デビュー作
レネ・ルッソ メジャーリーグ2.jpgレネ・ルッソ メジャーリーグ.jpg

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イデオロギー至上主義が人間性を踏みにじる様が具体的に描かれている。

私の紅衛兵時代6.jpg私の紅衛兵時代―ある映画監督の青春.jpg    さらばわが愛~覇王別姫.jpg 写真集さらば、わが愛/覇王別姫.jpg
私の紅衛兵時代 ある映画監督の青春 (講談社現代新書)』['90年/'06年復刻]/「さらば、わが愛覇王別姫」中国版ポスター/写真集『さらば、わが愛覇王別姫』より

陳凱歌(チェン・カイコー).jpg 中国の著名な映画監督チェン・カイコー(陳凱歌、1952年生まれ)が、60年代半ばから70年代初頭の「文化大革命」の嵐の中で過ごした自らの少年時代から青年時代にかけてを記したもので、「文革」というイデオロギー至上主義、毛沢東崇拝が、人々の人間性をいかに踏みにじったか、その凄まじさが、少年だった著者の目を通して具体的に伝わってくる内容です。

紅衛兵.jpg 著者の父親も映画人でしたが、国民党入党歴があったために共産党に拘禁され、一方、当時の共産党員幹部、知識人の子弟の多くがそうしたように、著者自身も「紅衛兵」となり、「毛沢東の良い子」になろうとします(そうしないと身が危険だから)。

 無知な少年少女が続々加入して拡大を続けた紅衛兵は、毛沢東思想を権威として暴走し、かつて恩師や親友だった人達を糾弾する、一方、党は、反国家分子の粛清を続け、"危険思想"を持つ作家を謀殺し、中には自ら命を絶った「烈士」もいたとのことです。

 そしてある日、著者の父親が護送されて自宅に戻りますが、著者は自分の父親を公衆の面前で糾弾せざるを得ない場面を迎え、父を「裏切り」ます。

 共産党ですら統制不可能となった青少年たちは、農村から学ぶ必要があるとして「下放」政策がとられ、著者自身も'69年から雲南省の山間で2年間農作業に従事しますが、ここも発狂者が出るくらい思想統制は過酷で、但し、著者自身は、様々の経験や自然の中での肉体労働を通して逞しく生きることを学びます。

 語られる数多くのエピソードは、それらが抑制されたトーンであるだけに、却って1つ1つが物語性を帯びていて、「回想」ということで"物語化"されている面もあるのではないかとも思ったりしましたが、う~ん、実際あったのだろなあ、この本に書かれているようなことが。

紅いコーリャン [DVD]」張藝謀(チャン・イーモウ)監督
紅いコーリャン .jpgチャン・イーモウ(張藝謀).jpg 結果的には「農民から学んだ」とも言える著者ですが、17年後に映画撮影のため同地を再訪し、その時撮られたのが監督デビュー作である「黄色い大地」('84年)で、撮影はチャン・イーモウ(張藝謀、1950年生まれ)だったとのこと。

 個人的には、チャン・イーモウ監督の作品は「紅いコーリャン」('87年/中国)を初めて観て('89年)、これは凄い映画であり監督だなあと思いました(この作品でデビューしたコン・リー(鞏俐)も良かった。その次の作品「菊豆<チュイトウ>」('90年/日本・中国)では、不倫の愛に燃える若妻をエロチックに演じているが、この作品も佳作)。 
               
童年往事 時の流れOX.jpg童年往事 時の流れ.png童年往時5.jpg その前月にシネヴィヴァン六本木で観た台湾映画「童年往時 時の流れ」('85年/台湾)は、中国で生まれ、一家とともに台湾へ移住した"アハ"少年の青春を描いたホウ・シャオシェン(侯孝賢、1947年生まれ)監督の自伝的作品でしたが(この後の作品「恋恋風塵」('87年/台湾)で日本でも有名に)、中国本土への望郷の念を抱いたまま亡くなった祖母との最期の別れの場面など、切ないノスタルジーと独特の虚無感が漂う佳作でした(ベルリン国際映画祭「国際批評家連盟賞」受賞作)。
【映画チラシ】童年往時/「童年往事 時の流れ [DVD]」 (パンフレット)

坊やの人形.jpg ホウ監督の作品を観たのは、一般公開前にパルコスペースPART3で観た「坊やの人形」('83年/台湾)に続いて2本目で、「坊やの人形」は、サンドイッチマンという顔に化粧をする商売柄(チンドン屋に近い?)、家に帰ってくるや自分の赤ん坊を抱こうとするも、赤ん坊に父親だと認識されず、却って怖がられてしまう若い男の悲喜侯孝賢.jpg劇を描いたもので、台湾の3監督によるオムニバス映画の内の1小品。他の2本も台湾の庶民の日常を描いて、お金こそかかっていませんが、何れもハイレベルの出来でした。

坊やの人形 [DVD]」/侯孝賢(ホウ・シャオシェン)監督

 両監督作とも実力派ならではのものだと思いましたが、同じ中国(または台湾)系でもチャン・イーモウ(張藝謀)とホウ・シャオシェン(侯孝賢)では、「黒澤」と「小津」の違いと言うか(侯孝賢は小津安二郎を尊敬している)、随分違うなあと。

陳凱歌監督 in 第46回カンヌ映画祭 「さらば、わが愛~覇王別姫 [DVD]」 /レスリー・チャン(「欲望の翼」「ブエノスアイレス」)
覇王別姫第46回カンヌ映画祭パルムドール.jpgさらば、わが愛/覇王別姫.jpg覇王別姫.jpg「さrあばわが愛」チェン.jpg 一方、チェン・カイコー(陳凱歌)監督の名が日本でも広く知られるようになったのは、もっと後の、1993年・第46回カンヌ国際映画祭パルム・ドール並びに国際映画祭国際映画批評家連盟賞受賞作「さらば、わが愛/覇王別姫」('93年/香港)の公開('94年)以降でしょう。米国でも評価され、ゴールデングローブ賞外国語映画賞、ニューヨーク映画批評家協会賞外国語映画賞などをを受賞しています(これも良かった。妖しい魅力のレスリー・チャン、残念なことに自殺してしまったなあ)。
さらば、わが愛/覇王別姫 4K修復版Blu-ray [Blu-ray]」(2023)
「さらば、わが愛/覇王別姫」00.jpg(●2023年10月12日、シネマート新宿にて4K修復版を鑑賞(劇場で観るのは初)。張國榮(レスリー・チャン)と鞏俐(コン・リー)が一人の男を巡って恋敵となるという、ある意味"空前絶後"的映画だったと改めて思った。)

 本書も刊行されたのは'90年ですが、その頃はチェン・カイコー監督の名があまり知られていなかったせいか、一旦絶版になり、「復刊ドットコム」などで復刊要望が集まっていたのが'06年に実際に復刻し、自分自身も復刻版(著者による「復刊のためのあとがき」と訳者によるフィルモグラフィー付)で読んだのが初めてでした。

 「さらば、わが愛/覇王別姫」にも「紅いコーリャン」にも「文革」の影響は色濃く滲んでいますが、前者を監督したチェン・カイコー監督は早々と米国に移住し(本書はニューヨークで書かれた)、ハリウッドにも進出、後者を監督したチャン・イーモウ監督は、かつては中国本国ではその作品が度々上映禁止になっていたのが、'08年には北京五輪の開会式の演出を任されるなど、それぞれに華々しい活躍ぶりです(体制にとり込まれたとの見方もあるが...)。


「中国問題」の内幕.jpg中国、建国60周年記念式典.jpg 中国は今月('09年10月1日)建国60周年を迎え、しかし今も、共産党の内部では熾烈な権力抗争が続いて(このことは、清水美和氏の『「中国問題」の内幕』('08年/ちくま新書)に詳しい)、一方で、ここのところの世界的な経済危機にも関わらず、高い経済成長率を維持していますが(GDPは間もなく日本を抜いて世界第2位となる)、今や経済界のリーダーとなっている人達の中にも文革や下放を経験した人は多くいるでしょう。記念式典パレードで一際目立っていたのが毛沢東と鄧小平の肖像画で、「改革解放30年」というキャッチコピーは鄧小平への称賛ともとれます(因みに、このパレードの演出を担当したのもチャン・イーモウ)。

 中国人がイデオロギーやスローガンに殉じ易い気質であることを、著者が歴史的な宗教意識の希薄さの点から考察しているのが興味深かったです。
 
童年往来事ド.jpg「童年往時/時の流れ」●原題:童年往来事 THE TIME TO LIVE AND THE TIME TO DIE●制作年:1985年●制作国:台湾●監督:侯孝賢(ホウ・シャオシェン)●製作:徐国良(シュ・クオリヤン)●脚本:侯孝賢(ホウ・シャオシェンシネヴィヴァン六本木.jpg)/朱天文(ジュー・ティエンウェン)●撮影:李屏賓(リー・ピンビン)●音楽:呉楚楚(ウー・チュチュ)●時間:138分●出演:游安順(ユーアンシュ)/辛樹芬(シン・シューフェン)/田豊(ティェン・フォン)/梅芳(メイ・フアン)●日本公開:1988/12●配給:シネセゾン●最初に観た場所:シネヴィヴァン六本木(89-01-15)(評価:★★★★)
シネヴィヴァン六本木 1983(平成5)年11月19日オープン/1999(平成11)年12月25日閉館

坊やの人形 <HDデジタルリマスター版> [Blu-ray]
坊やの人形 00.jpg坊やの人形 00L.jpg「坊やの人形」(「シャオチの帽子」「りんごの味」)●原題:兒子的大玩具 THE SANDWICHMAN●制作年:1983年●制作国:台湾●監督:侯孝賢(ホウ・シャオシェン)/曹壮祥(ゾン・ジュアンシャン)/萬仁(ワン・レン)●製作:明驥(ミン・ジー)●脚本:呉念眞(ウー・ニェンジェン)●撮影:Chen Kun Hou●原作:ホワン・チュンミン●時間:138分●出演:陳博正(チェン・ボージョン)/楊麗音(ヤン・リーイン)/曽国峯(ゾン・グオフォン)/金鼎(ジン・ディン)/方定台(ファン・ディンタイ)/卓勝利(ジュオ・シャンリー)●日本公開:1984/10●配給:ぶな企画●最初に観た場所:渋パルコスペース Part3.jpg渋谷シネクイント劇場内.jpgCINE QUINTO tizu.jpg谷・PARCO SPACE PART3(84-06-16)(評価:★★★★)●併映:「少女・少女たち」(カレル・スミーチェク)
PARCO SPACE PART3 1981(昭和56)年9月22日、演劇、映画、ライヴパフォーマンスなどの多目的スペースとして、「パルコ・パート3」8階にオープン。1999年7月~映画館「CINE QUINTO(シネクイント)」。 2016(平成28)年8月7日閉館。

「さらば、わが愛/覇王別姫」(写真集より)/「さらば、わが愛/覇王別姫」中国版ビデオ
『さらば、わが愛/覇王別姫』(1993) 2.jpgさらばわが愛~覇王別姫.jpg「さらば、わが愛/覇王別姫」●原題:覇王別姫 FAREWELL TO MY シネマート新宿2 .jpgCONCUBI●制作年:1993年●制作国:香港●監督:陳凱歌(チェン・カイコー)●製作:徐淋/徐杰/陳凱歌/孫慧婢●脚本:李碧華/盧葦●撮影:顧長衛●音楽:趙季平(ヂャオ・ジーピン)●原作:李碧華(リー・ビーファー)●時間:172分●出演:張國榮(レスリー・チャン)/張豊毅(チャン・フォンイー)/鞏俐(コン・リー)/呂齊(リゥ・ツァイ)/葛優(グォ・ヨウ)/黄斐(ファン・フェイ)/童弟(トン・ディー)/英達(イン・ダー)●日本公開:1994/02●配給:ヘラルド・エース=日本ヘラルド映画(評価:★★★★☆)●最初に観た場所(再見)[4K版]:シネマート新宿(23-10-12)
「さらば、わが愛/覇王別姫」0.jpg

「さらば、わが愛/覇王別姫」図1.jpg

チャン・フォンイー、コン・リー、レスリー・チャン.jpgさらば、わが愛 覇王別姫 鞏俐 コン・リー.jpg鞏俐(コン・リー)in「さらば、わが愛 覇王別姫」(1993年・二ューヨーク映画批評家協会賞 助演女優賞受賞)
   
張豊毅(チャン・フォンイー)、鞏俐(コン・リー)、張國榮(レスリー・チャン)in 第46回カンヌ国際映画祭フォトセッション

レスリー・チャン in「欲望の翼('90年)」/「ブエノスアイレス」('97年)
欲望の翼01.jpg ブエノスアイレス 00.jpg

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『大図鑑』と言うより「蛇柄」観賞用イラスト集。図書館で借りて"観る"本。『写真図鑑』の方がお奨め。

ヘビ大図鑑.bmp   千石先生の動物ウォッチング.jpg                爬虫類と両生類の写真図鑑.jpg
(28.2 x 22.6 x 1.8 cm)『ヘビ大図鑑―驚くべきヘビの世界』['00年/ 緑書房] 『千石先生の動物ウォッチング―ガラパゴスとマダガスカル カラー版 (岩波ジュニア新書)』 『爬虫類と両生類の写真図鑑 (地球自然ハンドブック)』['01年/日本ヴォーグ社]

『ヘビ大図鑑―驚くべきヘビの世界』.jpg 本書『ヘビ大図鑑-驚くべきヘビの世界』に見開きで描かれている蛇のイラストはいずれも大変に美しいのですが、一部、生態も含めたイラストがあるものの、半分ぐらいはとぐろを巻いている同じような"ポース"ばかりのもので、せっかくあの「千石先生」が翻訳しているのに、これではそれぞれの蛇の生態がシズル感を以って伝わってはきません(ある意味、"蛇柄"のカタログ)。

 それと、191ページで7000円という価格は、いくら何でも高過ぎ。「3000種を超える世界のヘビを収録」とありますが、イラストで紹介されているのは100種類にも満たないのではないでしょうか(1種を見開きで使っていたら当然そういことになるが)。図鑑と言うより贅沢なイラスト集、それも純粋に"蛇柄"の違いのみを楽しむマニアックなものという印象を受けました。

 蛇マニア("蛇柄"フェチ?)には魅力的な本かもしれませんが、一般の人にとっては、買う本ではなく、図書館で借りる本でしょう(「日本図書館協会選定図書」とのことでもあるし)。

『爬虫類と両生類の写真図鑑 完璧版』.jpg 図鑑という観点から本書よりもお奨めなのが、『爬虫類と両生類の写真図鑑 完璧版』('01年/日本ヴォーグ社/定価2,500円)。

 版は小ぶりですが、オールカラーで、世界の爬虫類と両生類を400種類紹介していて(写真は600枚)、1つ1つの解説も丁寧。よくこれだけ、写真を集めたなあという感じで、1ページに2種から3種収められていてコンパクトですが、分布、繁殖や類似種から、全長、食性、活動期間帯まで一目でわかるようになっています。

 オリジナルの英国版は両生類4,550種、爬虫類が6,660種が掲載されているそうで(すごい数!)、本書はそのほんの一部の抜粋版であるため、「完璧版」はちょっと言い過ぎのようにも思われますが、それでも蛇だけで160種を超える掲載点数であり、やはりこっちを買うことにしました。


映画「アナコンダ」2.jpg映画「アナコンダ」1.jpg そう言えば、ジェニファー・ロペス、ジョン・ヴォイトが主演した「アナコンダ」('97年/米)という映画がありました。伝説のインディオを探して南米アマゾンに来た映画作家らの撮影隊(ジェニファー・ロペスら)が、遭難していた密猟者(ジョン・ヴォイト)を助けるが、最初は温厚な態度をとっていた彼が、巨大蛇アナコンダが現れるや否や本性を曝け出し、アナコンダを捕獲するという自らの目的遂行のために撮影隊のメンバーを支配してしまう―というもの。

映画「アナコンダ」3.jpg映画「アナコンダ」4.jpg 大蛇アナコンダが出てくる場面はCGとアニマトロニクスで合成していますが、CGのアナコンダはあまり怖くなく、作品としてはどちらかと言うとスペクタクルと言うより人間劇で、アナコンダよりもアクの強い演技がすっかり板についているジョン・ヴォイトの方が怖かった(蛇すら吐き出してしまうジョン・ヴォイド?)。

アナコンダ2.jpgラスト・アナコンダ.jpg 後に「アナコンダ2」('04年/米)という続編も作られ(それにしても、南米にしか生息しないアナコンダをボルネオに登場させるとは)、更には「アナコンダ3」('08年/米・ルーマニア)、「アナコンダ4」('09年/米・ルーマニア)までも。「ラスト・アナコンダ」('06年/タイ)というタイ映画や「「アナコンダ・アイランド」('08年/米)という、蛇の大きさより数で勝負している作品もあるようです。
アナコンダ 2 [DVD]」('04年/米)「ラスト・アナコンダ [DVD]」('06年/タイ)
  
ボア [DVD].jpgボア vs.パイソン.jpgパイソン  dvd.jpg "アナコンダもの"が多いようですが、このほかに、「パイソン」('00年/米)、「パイソン2」(02年/米)、「ボア vs.パイソン」('04年/米(TVM))、「ボア」('06年/タイ)、「ザ・スネーク」('08年/米(TVM))など、蛇を題材にした多くの生物パニック・ホラー映画が作られており、コアな「蛇ファン」がいるのか(CGにし易いというのもあるのかも)。 
パイソン [DVD]」('00年/米)「ボアvs.パイソン [DVD]」('04年/米(TVM))「ボア [DVD]」('06年/タイ)
Boas (left) and pythons (right)
boa_and_python.png "コブラもの"の映画もあるみたいですが(追っかけていくとどんどんマニアックになっていく)、"ニシキヘビもの"は無いのか? 実は「パイソン」はニシキヘビ類全般を指す場合に用いられる呼称であって、「パイソン」の中にアミメニシキヘビなども含まれているわけです。更に、「ボア」も、アメリカ大陸(中南米)に生息するニシキヘビの一種で、ボア・パイソンとも呼ばれます。但し、分類学上は、ボア科が本科であり、ニシキヘビ科をボア科の亜科とする学説が有力なようです。ボア科とニシキヘビ科の違いは胎生か卵生かであり、「ボア」は胎生(卵胎生)で、ボア科の「アナコンダ」も胎生、これに対してニシキヘビは卵生です(但し進化学的には、本科のボアの方が亜科ニシキヘビより原始的)。映画「ボア vs.パイソン」は、「本科 vs.亜科」といったところなのでしょうか。
  
「アナコンダ」●原題:ANACONDA●制作年:1997年●制作ANACONDA 1997.jpg国:アメリカ●監督:ルイス・ロッサ●製作:ヴァーナ・ハラー/レナード・ラビノウィッツ/キャロル・リトル●脚本:ハンス・バウアー/ジム・キャッシュ/ジャック・エップスJr.●撮影ビル・バトラー●音楽:ランディ・エデルマン●時間:89分●出演:ジェニファー・ロペス映画「アナコンダ」dvd.jpg/アイス・キューブ/ジョン・ヴォイト/エリックジェニファー・ロペス in 「アナコンダ」.jpg・ストルツ/ジョナサン・ハイド/オーウェン・ウィルソン/カリ・ウーラー/ヴィンセント・カステラノス/ダニー新宿東急 アナコンダ.jpg・トレホ●日本公開:1997/09●配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント (評価:★★)
アナコンダ [DVD]」/ジェニファー・ロペス in「アナコンダ」


 ガラガラ蛇の生命力の強さを物語る動画があったので、酔狂半分でアップ。"キモい"のが苦手の人は見ないで。

蛇は頭だけになっても襲いかかってくる

 
Python eats Alligator, Time Lapse Speed x6

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「ブルジョア作家」志賀直哉にリアリズム表現を学んだ小林多喜二。

映画「小林多喜二」.png蟹工船 1929.jpg蟹工船・党生活者 文庫旧版.jpg蟹工船、党生活者.jpg 小林多喜二 ≪HDニューマスター版≫.jpg
1929(昭和4)年9月戦旗社(ほるぷ出版・復刻版) 『蟹工船・党生活者 (新潮文庫)』 [旧版/'08年新装版]小林多喜二 ≪HDニューマスター版≫ [DVD]」['18年]
映画「小林多喜二」パンフレット(山本圭/中野良子)

『蟹工船・党生活者』.JPG 非正規雇用の増大とそれに伴うワーキングプア問題を背景に'08年は「『蟹工船』ブーム」の年となり、新潮文庫版だけで50万部以上のベストセラーになったとのことで、文庫出版の関係会社勤務の知人の話では、このブームのお陰で会社業績を持ち直したとか。自分も新潮文庫の新版を購入して久しぶりに読み直してみましたが、まず活字が大きくなっていることが目につき、かなり読み易くなったように思います。

 1929(昭和4)年発表の「蟹工船」は小林多喜二(1903‐1933/享年29)がプロレタリア文芸誌「戦旗」に発表したもので、カムチャッカ沖でのカニ操漁とその缶詰加工に携わる漁夫らの過酷な労働の実態および監督者に対する蜂起と挫折が描かれています。労働者のための啓蒙書、ストライキ活動(サボタージュ)のテキストのように読める面もある一方、蟹工船の航海や船内の模様が実に生き生きと描かれていてシズル感があり、その筆力は、画家を目指す漁師を描いた有島武郎の「生れ出づる悩み」('18年)や、船員経験のあった葉山嘉樹の「海に生くる人々」('26年)などのそれを凌駕しているように思いました。

志賀直哉 .jpg 小林多喜二はこの小説により発表の同年には勤務先の北海道拓殖銀行を辞め、翌'30年には不敬罪で逮捕・起訴され'31年には共産党に入党していますが、入党直後に志賀直哉(1883‐1971)の奈良の自邸を訪ね、創作の指導を仰いでいます。徳永直.png当時プロレタリア文学作家というのは結構な数がいて、「戦旗」で活躍した作家には徳永直(1899‐1958)などもいますが、今世紀になっても圧倒的に読まれ続けているのが、ブルジョア作家と言われた志賀直哉にリアリズム表現を学んだ小林多喜二であるというのが興味深いです(志賀直哉には労働者シンパだった時期があり、それが原因で資本家の父との間に確執が生じた)。

 小林多喜二は、「戦旗」の中心メンバーだった蔵原惟人(1902-1991)の「プロレタリア・レアリズム」の考えを最も忠実に具現化した作家であり、「真実」を愛する文学者は「前衛」(=共産党員)でなければならないという考え方を優等生的に実践したように思え、1932(昭和7)年発表の「党生活者」における党のための自らを犠牲にして生きる主人公は、その極致であるように思えます。

 エスピオナージ小説と似た感じでも読めるこの作品は、実際この小説の発表の翌年に小林多喜二が特高警察のスパイによって捕まり虐殺されているだけに緊迫感があり、一方で、仲間と連絡を取り合う際に"雑談"もせず事務的に事を済ますやり方に主人公が欲求不満になっているのは多喜二自身の心境だったのでしょう(もし多喜二が長生きすれば、当時の蔵原惟人の特異な思想から離れていったのではないか)。

「小林多喜二」.bmp「小林多喜二」映画1シーン.jpg  「党生活者」の内容は殆ど小林多喜二が自らが体験したことに基づくものと思われ(この小説は、小林多喜二が執筆過程において逮捕され虐殺死したため、前編で終わっている)、今井正(1912‐1991)監督の映画「小林多喜二」('74年/多喜二プロダクション)は、この「党生活者」をかなりの部分において下敷きにして作られていたように思います。

映画「小林多喜二」チラシ/スチール(山本圭/中野良子)


多喜二文学碑l.jpg 小説の中では特高警察の眼を逃れるため同志の女性の家に匿って貰っていたようになっていますが、映画では、通っていた廓の薄幸の酌婦・田口タキ(当時17歳)を足抜けさせて内縁の妻にした作りとなっていて、これは実際にあったことですが、但しその頃は多喜二はまだ拓銀に勤めていたわけであり、特高警察に本格マークされる前のことと思われます。映画は、室内シーンなどにおいて、周辺の照明を抑えスポットライトを当てたような映像で、時代のムードを旨く醸し出していた佳作でしたが、映画の最後に、小林多喜二の文学碑の建立に、思想的立場の全く異なる伊藤整が尽力したことが紹介されていました。伊藤整は小樽高商(現小樽商大)の1学年後輩でした。因みに、先に述べた志賀直哉も、多喜二の文学碑建立の発起人に名を連ねています。

「小林多喜二文学碑」(小樽市)

映画 蟹工船.jpg 尚、多喜二の生涯を描いた映像化作品では、池田博穂監督のドキュメンタリー映画「時代(とき)を撃て・多喜二」('08年)や、北海道放送のTVドキュメンタリー「いのちの記憶-小林多喜二・二十九年の人生」('08年)などがあり、また「蟹工船」そのものも、'53年に俳優の山村聡が監督している作品がある外、'09年に再度の映画化が予定されているようです。

映画「蟹工船」 ポスター(山村聡:監督)
 

小林 多喜二.jpg芥川龍之介.gif 小林多喜二は1930年に上京してからは、芥川龍之介(1892‐1927)を真似した髪形にしていたそうですが(前年に東大生だった宮本顕治が芥川龍之介を批判した「敗北の文学」を発表しているのだが)、女性にはかなりモテたようで、また、普段から冗談で周囲を笑わすことの多い人柄だったとのこと、この重い雰囲気の両作品にも、随所にユーモラスな表現が見受けられます。
小林多喜二(左)/芥川龍之介(右)

「小林多喜二」●制作年:1974年●監督:今井正●製作:伊藤武郎/内山義重●脚本:勝山俊介●撮影:中尾駿一郎●音楽:いずみたく●小林多喜二 映画.jpg今井正監督「小林多喜二」.jpg主題歌 屍をつみかさねなば  EP .jpg時間:119分●出演:山本圭/中野良子/森幹太/北林谷栄/南清貴/佐藤オリエ/森居利昭/富士真奈美/津田京子/杉山とく子/寺田誠/滝田裕介/長山藍子/下絛正巳/地井武男/鈴木瑞穂/悠木千帆(樹木希林)/横内正(ナレーター)●公開:1974/02●配給:多喜二プロダクション(評価:★★★★)
映画チラシ「小林多喜二」監督 今井正 出演 山本圭、中野良子/映画 小林多喜二 主題歌 横内正 [屍をつみかさねなば]
2018年DVD化
映画 小林多喜二.jpg

【1953年文庫化・2003年改版・2008年新装版[新潮文庫]/1954年再文庫化・1968年改版・2008年新装版[角川文庫]/1967年再文庫化・2003年改版[岩波文庫(『蟹工船、一九二八・三・一五』)]/1973年再文庫[講談社文庫]】

《読書MEMO》
●「蟹工船」...1929(昭和4)年 ★★★★☆
●「党生活者」...1932(昭和7)年 ★★★★

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イギリス映画らしい上品さを保ちつつ、階級間の価値観の対立を抉った「眺めのいい部屋」。

眺めのいい部屋 room_with_view.jpg眺めのいい部屋.jpg モーリス チラシ.jpg ジェームズ・アイヴォリー 「モーリス」.jpg  日の名残り.jpg
「眺めのいい部屋」('86年)チラシ/「眺めのいい部屋 完全版 [DVD]」/「モーリス」('87年)チラシ ヒュー・グラント/ジェームズ・ウィルビー/「日の名残り [DVD]

眺めのいい部屋 A Room with a View.jpg ヒロイン・ルーシー(ヘレナ・ボナム・カーター)は、年配の従姉(マギー・スミス)に付き添われイタリアを旅行する中、フィレンツェの宿で景色の良くない部屋に当たってしまうが、風変わりなエマソン父子と知り合い、眺めいい部屋と交換してもらうことになる。言葉数は少ないが自分の気持ちに正眺めのいい部屋2.jpg直な青年ジョージ・エマソン(ジュリアン・サンズ)はルーシーに恋をし、ピクニック先の草原でルーシーに情熱的なキスをする。従姉によって引き離されるように帰途についたルRoom with a View, A (1986).jpgーシーは、イギリスでの日常生活に戻ると上流階級のインテリのシシル(ダニエル・デイ・ルイス)と婚約をし、彼女にとってジョージとの出来事は旅の思い出に留まるはずだったのが、何とエマソン父子が近所に越してきてしまう―。

 「眺めのいい部屋」('86年/英)は、英国アカデミー賞で作品賞、主演女優(マギー・スミス)、助演女優(ジュディ・デンチ)、衣装デザイン賞、美術の5部門を獲得した作品(ロンドン映画批評家協会賞の作品賞も受賞)。イギリス映画らしい上品さに溢れた映画でありながら、中流に属する女性の恋と結婚を通して、階級間の価値観の対立という構図を抉ってみせています。主人公の婚約者が最上流ということになるのでしょうが、ダニエル・ディ・ルイスがそのスノッブぶりを好演していて、主人公の年配の従姉は上流を気取る中流といったところでしょうか。その年配の従姉を演じるマギー・スミスは、最近はハリー・ポッター・シリーズでお馴染みですが、この頃から今みたいな感じ。一方のヘレナ・ボナム・カーターは、こちらはハリー・ポッター・シリーズに出るようになって魔女づいてすっかりイメージ変わってしまいましたが、彼女の曾祖父は第一次世界大戦開戦時のイギリス首相というマギー・スミス 眺めのいい部屋.jpg「眺めのいい部屋」5.jpgヘレナ・ボナム=カーター ハリー・ポッター.jpg血筋あり、彼女自身ケンブリッジ大学に合格したインテリです。

マギー・スミス in 「眺めのいい部屋」/ヘレナ・ボナム・カーター in 「眺めのいい部屋」「ハリー・ポッターと死の秘宝」

 彼らの対極にいるのが、階級では彼らより下層の自由主義者のエマソン父子で、主人公が、父子の息子への恋を通して、自らを覆っていた欺瞞の皮を1枚ずつ剥いでいく様が、丹念に描かれているように思えました。そんなにストーリー的にインパクトがあるものではないのですが、格調高いセットや衣装と透明感あふれる映像はまさにイギリス映画を見たという感じ、但し、監督のジェームズ・アイヴォリーはアメリカ人、製作のイスマイール・マーチャントはインド人です(米アカデミー賞では脚色賞、衣装賞、美術賞の3部門を受賞)。 

「モーリス」('87年)
Film Stills from Maurice.bmp 原作はE・M・フォースター(1879-1970)の同名小説で、ジェームズ・アイヴォリー監督の作品では、「インドへの道」('84年)、「モーリス」('87年)、「ハワーズ・エンド」('92年)もフォースターの原作ですが、いかにもイギリス映画という感じでありながら、異文化要素が織り込まれており(「モーリス」は、地理的な異文化ではなく、ホモ・セクシュアルという異文化だが)、いずれの作品も複数の文化を相対化する視点のもと、貴族社会(即ち"世俗的なもの")に対する批判や皮肉が込められているように思います(因みに、E・M・フォースター自身ゲイだったそうで、「モーリス」を観ると彼自身がそのことで苦悩したことが窺える)。

 「モーリス」でヒュー・グラントが演じた、ジェームズ・ウィルビー演じる主人公とは対照的な生き方をする若者の演技は絶品でした。人を"その道"に引き摺り込んでおいて、自分は...(ヴェネツィア国際映画祭「銀獅子賞」受賞作。ヒュー・グラントはジェームズ・ウィルビーと共に同映画祭「男優賞」を受賞)。彼が演じた政治家が現実の誰かと重なったのかどうかは知りませんが、この作品は社会問題にもなったそうです。ヒュー・グラントが「フォー・ウェディング」('94年)のようなロマンティック・コメディに出ているのは、「モーリス」のイメージを払拭するためではないかと思ったぐらいです。 

「日の名残り」('93年)
村上春樹 09.jpgRemains of the Day.gif あの村上春樹も「カズオ・イシグロのような同時代作家を持つこと」を幸せだとインタビューで述べている、そのカズオ・イシグロが原作の「日の名残り」('93年)も含め、ジェームズ・アイヴォリー監督の撮る作品にあまりハズレがないように思われ、「眺めのいい部屋」でのダニエル・ディ・ルイスや「モーリス」でのヒュー・グラント、「日の名残り」でのアンソニー・ホプキンスなど、既に良く知られている役者の使い方も、この監督の手にかかるとまた別な味が出てくるという気がします。

 とりわけ、イギリスの名門家に仕えてきた老執事が自分の半生を回想し、仕事のために犠牲にしてしまった愛を確かめる様を描いた「日の名残り」においては、アンソニー・ホプキンスを老執事に配し、その演技の魅力を大いに引き出していたように思います(この執事を見ていると『葉隠』の"忍ぶ羊たちの沈黙 アンソニー・ホプキンスs.jpg恋"を想起させられる)。尤も、アンソニー・ホプキンス(「羊たちの沈黙」('91年/米)でハンニバル・レクターを演じアカデミー賞主演男優賞を受賞した)という俳優は、「台本至上主義」「台本絶対主義」で知られる役者で、撮影に入る前にはもう台本上の役の人物になり切っているそうですが。

アンソニー・ホプキンス in「羊たちの沈黙」('91年/米)

「眺めのいい部屋」.jpg「眺めのいい部屋」●原題:A ROOM WITH A VIEW●制作年:1986年●制作国:イギリス●監督: ジェームズ・アイヴォリー●製作:イスマイール・マーチャント●脚色:ルース・プラヴァー・ジャブヴァーラ●撮影:トニー・眺めのいい部屋 ダニエル・デイ=ルイス.jpgピアース・ロバーツ●音楽:リチャード・ロビンズ●原作:E・M・フォースター●時間:114分●出演:ヘレナ・ボナム・カーター/ジュリアン・サンズ/マギー・スミス/ダニエル・ディ・ルイス/デナム・エリオット●日本公開:1987/07●配給:シネマテン●最初に観た場所:池袋文芸坐2 (88-09-15)(評価:★★★★)●併映:「モーリス」(ジェームズ・アイヴォリー)
文芸坐2-1.jpg文芸坐2 (池袋文芸地下) 1988年に「文芸地下」を「文芸坐2」と名称変更。1997(平成9)年3月6日閉館

モーリス.jpg「モーリス」●原題:MAURICE●制作年:1987年●制作国:アメリカ●監督: ジェームズ・アイヴォリー●製作:イスマイール・マーチャント●脚本:キット・ヘスケス・ハーヴェイ/ジェームズ・アイヴォリー●撮影:ピエール・ロム●音楽:リチャード・ロビンズ●原作:E・M・フォースター●時間:140分●出演:ジェームズ・ウィルビー/ヒュー・グラント/ルパート・グレイヴス/デンホルム・エリオット/サイモン・カロウ●日本公開:1988/01●配給:日本ヘラルド映画●最初に観た場所:池袋文芸坐2 (88-09-15)(評価:★★★★)●併映:「眺めのいい部屋」(ジェームズ・アイヴォリー)

日の名残り07.jpg「日の名残り」●原題:REMAINS OF THE DAY●制作年:1993年●制作国:イギリス●監督: ジェームズ・アイヴォリー●製作:マイク・ニコルズ/ジョン・キャリー/イスマイール・マーチャント●脚色:ルース・プラヴァー・ジャブヴァーラ●撮影:トニー・ピアース・ロバーツ●音楽:リチャード・ロビンス●原作:カズオ・イシグロ 「日の名残り」●時間:134分●出演:アンソニー・ホプキンズ/エマ・トンプソン/ジェームズ・フォックス/クリストファー・リーヴ/ヒュー・グラント●日本公開:1994/03●配給:コロムビア映画(評価:★★★★)

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事件にも女性たちにも人生の虚無を感じさせられるが、それが"悪くない"。

カインの娘たち.jpg カインの娘たち 文庫.jpg カインの娘たち コリン・デクスタ-.jpg   The Daughters of Cains 3.bmp  The Daughters of Cains 1.jpg
カインの娘たち (ハヤカワ・ミステリ文庫)』['00年]/『カインの娘たち (ハヤカワ ポケット ミステリ)』['95年]/「Inspector Morse: Daughters of Cain [DVD] [Import]」(カインの娘たち)

The Daughters of Cain.jpg オクスフォード大学ウールジー・カレッジの元特別研究員が何者かに刺殺された事件の捜査をモース主任警部は同僚から引き継ぐが、行方不明になっていた最大の容疑者である博物館の係員が、同じく刺殺体となってテムズ河畔で発見され、この係員を殺す動機のあると思われる3人の女性には、堅牢なアリバイがあった―。

"The Daughters of Cain" (1994)

 1994年末に発表されたコリン・デクスターの「主任警部モース」シリーズ11作目で(原題は"The Daughters of Cains")、"犯人探し"より"アリバイ崩し"をメインにもってきたような展開が斬新と言えるかも知れません。
 13作シリーズの終わりから3作目で、アルコールとニコチンでモースの体調はますます良くないみたいですが、持ち前の頭脳と勘で、途中大きく方針転換することもなく、時間とともに事件の核心へ近づいていく感じ。

 謎解きが好きな人には物足りないかも知れませんが、むしろ波乱が少ない分、随所にある作者特有のペダンティックな味付けや、モースと魅惑的な女性とのやりとりが楽しめます。
 このシリーズ、後のものになればなるほど本格推理一本から人間(人情)ドラマ的な要素が加味されたのに推移していくため、本格推理ファンには初期作品の方が人気があるようですが、個人的には後期のものも好きです。                              

 女性に感情移入しやすいところは相変わらずですが、女性からもモテるなあ、このオジさんは。
 でも、結局最後は、事件に対しても女性たちに対しても、何か人生の虚しさのようなものを感じさせられる印象が残って、この虚無感みたいなものが、実は意外と"悪くない虚無感"というか、人生ってそうなんだよなあ、みたいにしみじみ共感してしまい、その点ではシリーズの後半の持ち味が出ている作品だと思いました。

モース警部シリーズ DVD-BOX.jpgThe Daughters of Cains 2.jpg  テレビシリーズ「主任警部モース」で映像化された作品も観ましたが(NHK-BS2でのテレビ放映の以前の1998年に、日本語字幕付きでVHS化されていた)、娼婦役の女性は自分が抱いていたイメージと違って、原作より知的で洗練されているような感じがし(モースの気持ちが傾くのがわかる気がした)、終わり方も、原作の趣意は変えないまでも、モースがわざと未解決事件にしてしまったみたいな感じでしたが、それはそれで必ずしも悪い後味ではなかったように思えます。

モース警部・シリーズ 1 DVD BOX」第26話から最終の第33話まで(「アヴリルの昏睡」「サタンの巣くう日」「神々の黄昏」「森を抜ける道」「カインの娘たち」「死はわが隣人」「オックスフォード運河の殺人」「悔恨の日」)

THE DAUGHTERS OF CAIN.jpg 大学内での麻薬使用がモチーフに使われていますが、オクスフォードを舞台に実在の建物や施設を作品に織り込みながらも、オクスフォード大学に「ウールジー・カレッジ」というのは実在しないそうです。やはり、「麻薬」事件の舞台にするのに実名ではマズイと思ったのでしょうか(因みにコリン・デクスターはケンブリッジ大卒)。イギリスでは、大学って昔から麻薬売買の場だったのでしょうか。

INSPECTOR MORSE:THE SINS OF THE FATHERS.jpg「主任警部モース/カインの娘たち」●原題:INSPECTOR MORSE:THE DAUGHTERS OF CAIN●制作年:1996年●制作国:イギリス●監督:ハーバート・ワイズ●脚本Phyllis Logan THE DAUGHTERS OF CAIN.jpg:ジュリアン・ミッチェル●原作:コリン・デクスター●時間:104分●出演:ジョン・ソウ/ケヴィン・ウェイトリー/ジェームズ・グラウト/クレア・ホルマン/ガブリエル・ロイド/フィリス・ローガン/アマンダ・ライアン●日本放映:2001/05 (NHK-BS2)(評価:★★★☆)
フィリス・ローガン(Phyllis Logan) in THE DAUGHTERS OF CAIN.
NSPECTOR MORSE: DAUGHTERS OF CAIN Double Audio Cassette (2003)

 【2000年文庫化[ハヤカワ・ミステリ文庫]】

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130年前の事件の謎解き。状況設定がシンプルな一方で、トリックは巧妙。本格推理として満足。

The Wench Is Dead (Inspector Morse Mysteries).jpg The Wench is Dead.jpg オックスフォード運河の殺 人.jpg オックスフォード運河の殺人.jpg THE WENCH IS DEAD dvd.jpg
"The Wench is Dead (Inspector Morse Mysteries)" (1991)" The Wench is Dead" (1989)『オックスフォード運河の殺人 (ハヤカワ ポケット ミステリ)』 ['91年] 『オックスフォード運河の殺人 (ハヤカワ・ミステリ文庫)』 ['96年] "Inspector Morse Set Eleven: The Wench Is Dead [DVD] [Import]"

 1991(平成3) 年度「週刊文春ミステリー ベスト10」(海外部門)第5位作品。

 モースは不摂生が祟り胃潰瘍にため入院生活を余儀なくされるが、たまたま病院で入手した『オックスフォード運河の殺人』という130年前のヴィクトリア朝時代に起きたある殺人事件と裁判に関する郷土史家の研究書を読むことになり、それは、夫に会いに行くためにオックスフォード運河を船旅中のある女性が荒くれ者の船員に殺され運河に投げ込まれたという事件で、裁判により船員2名が絞首刑になっているというものだったが、モースはその記録を読み進むうちに、彼らは無実の罪で処刑されたのではないかと考えるようになる―。

INSPECTOR MORSE:THE WENCH IS DEAD Double Audio Cassette.jpg 1989年発表のコリン・デクスター(Colin Dexter)による、オックスフォード、テムズ・バレイ警察の主任警部モースを主人公とした「主任警部モース」シリーズの第8作(原題:The Wench is Dead)で、2段組ながら200ページとコンパクトですが、一本筋の運河での事件という状況設定がシンプルな一方で、トリックは巧妙で、なかなか密度が濃く、本格推理として満足できる1冊でした。

INSPECTOR MORSE:THE WENCH IS DEAD Double Audio Cassette U.K.

 刑事や探偵がベッドや安楽椅子で文献のみを頼りに過去の事件を解くというパターンには、ジョセフィン・テイ女史の歴史ミステリの傑作『時の娘』('51年/早川書房)があり、一方こちらは史実を扱ったものではなく『オックスフォード運河の殺人』という研究書自体がコリン・デクスターの創作なのですが(原題"The Wench is Dead"はテイを意識したのかも知れないが、研究書のタイトルをストレートに持ってきた邦題の方がいいかも)、本書も傑作と言えるのでは(コリン・デクスターは本書により、英国推理作家協会(CWA)賞ゴールド・ダガー賞を初受賞)。

 『時の娘』の事件の舞台は15世紀で、それに比べると1859年の事件というのは比較的"最近"なのかも知れませんが、それにしても130年も遡って、当時の審判をひっくり返してしまうというのはなかなかのもの。
 同じ英国のアリソン・アトリー女史の『時の旅人』('81年/評論社)は16世紀にトリップするタイムトラベル・ファンタジーでしたが、本書での事件の検証場面にもあるように、英国の家って旧いものがよくもまあいろいろな痕跡を留めているなあと感心しました(130年前の事件の証拠物件を破棄せず、保管しているというのもたいしたもの)。

THE WENCH IS DEAD.bmp アイルランドまで墓を掘り返しに行くなど、やや酔狂が過ぎる気もしないでもないですが、これぞモースの探究心が本領発揮されたものとも言え、ラストのアナグラムは、いかにもクロスワードを得意とするモースらしい(デクスターらしい)ものでした。

 「オックスフォード運河の殺人」はテレビ版も観ましたが(かつてNHK-BS2で放送していたものをAXNで再々放送していた)、モースが過去の事件について推理を巡らせる部分が「時代モノ」のドラマとして再現されていて、その部分の占める比重が大きいため、通常の現代劇としてのミステリ・ドラマとは違った雰囲気に仕上がっており、一風変わった味わいがありました。


INSPECTOR MORSE/THE WENCH IS DEAD.jpg第32話)/オックスフォード運河の殺人.jpg「主任警部モース(第32話)/オックスフォード運河の殺人」●原題:INSPECTOR MORSE: THE WENCH IS DEAD●制作年:1998年●制作国:イギリス●監督:ロバート・ナイツ●脚本:マルコム・ブラッドベリ●原作:コリン・デクスター●時間:104分●出演:ジョン・ソウ/ジェームズ・グラウト/クレア・ホルマン/リサ・アイクホーン/ジュディ・ロー/マシュー・フィニー/ジュリエット・コーワン●日本放映:2001/06 (NHK-BS2)(評価:★★★☆)
Inspector Morse: Wench Is Dead [DVD] [Import]

モース 英ITV.jpg主任警部モース2.jpg「主任警部モース」Inspector Morth (英ITV 1987~2000)○日本での放映チャネル:NHK-BS2(2001)/ミステリチャンネル(2003~2004)
オックスフォード運河の殺人[ハヤカワ・ミステリ文庫].jpg
 【1996年文庫化[ハヤカワ・ミステリ文庫]】 
 
 
 

《読書MEMO》
●モース警部シリーズ(原作発表順)
 ・ウッドストック行最終バス Last Bus To Woodstock
 ・キドリントンから消えた娘 Last Seen Wearing
 ・ニコラス・クインの静かな世界 The Silent World of Nicholas Quinn
 ・死者たちの礼拝 Service of all the Dead (1979年CWA「シルバー・ダガー賞」受賞)
 ・ジェリコ街の女 The Dead of Jericho (1981年CWA「シルバー・ダガー賞」受賞)
 ・謎まで三マイル The Riddle of the Third Mile
 ・別館三号室の男 The Secret of Annexe 3
 ・オックスフォード運河の殺人 The Wench is Dead (1989年CWA「ゴールド・ダガー賞」受賞)
 ・消えた装身具 The Jewel That was Ours
 ・森を抜ける道 The Way Through the Woods(1992年CWA「ゴールド・ダガー賞」受賞)
 ・カインの娘たち The Daughters of Cain
 ・死はわが隣人 Death is Now My Neighbour
 ・悔恨の日 The Remorseful Day

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多才な人だったマイケル・クライトン。年下の女性上司からの強烈な「逆セクハラ」を描いた「ディスクロージャー」。
ディスクロージャー.jpg デミ・ムーア DISCLOSURE.bmp ディスクロージャー〈上〉 (ハヤカワ文庫NV).jpgディスクロージャー〈下〉 (ハヤカワ文庫NV).jpg  「大列車強盗」3.jpg
ディスクロージャー [DVD]」 マイケル・ダグラス、デミ・ムーア/マイケル・クライトン『ディスクロージャー〈上〉 (ハヤカワ文庫NV)』『ディスクロージャー〈下〉 (ハヤカワ文庫NV)』/マイケル・クライトン原作・脚本・監督「大列車強盗」('78年/米)ショーン・コネリー/レスリー=アン・ダウン
DISCLOSURE 2.jpg「ディスクロージャー」.jpg ハイテク企業に勤めるトム・サンダース(マイケル・ダグラス)は、自分に内定していた副社長ポストに、社の創設者ボブ・ガーヴィン(ドナルド・サザーランド)が目をかけてきた野心溢れる女性メレディス(デミ・ムーア)が就任したことを知らされ唖然とする。彼女はかつてのトムの恋人だったのだ。そしてトムは就任したばかりの彼女に部屋に呼び出されて誘惑され、その誘いに負けそうになるも、かろうじて踏み止まり部屋を出る。しかし今度は、彼女から部屋でレイプをされそうになったと訴えられる―。

DISCLOSURE 1994 1.jpgDisclosure 1994.bmp 「レインマン」('88年)のバリー・レヴィンソン監督作で、原作は今月('08年11月)亡くなったマイケル・クライトン.jpgイケル・クライトン(Michael Crichton、1942‐2008/享年66)です。この人の著作で最初に映画化され『ディスクロージャー』単行本.jpgたのが『アンドロメダ病原体』('69年)であり、『ジュラシック・パーク』('90年)などのバイオ・サスペンスや、ハーバード・メディカルスクールの出身でもあるだけに、TVドラマ「ER」のようなメディカル系に強かった印象があります(1994年にはテレビ(「ER」)、映画(「ジュラシック・パーク」)、書籍(『ディスクロージャー』)で同時に1位となる3冠を成し遂げた)。ただし、その著作には『大列車強盗』('75年)などのミステリもあれば、『ライジング・サン』('92年)のようなビジネスドラマ(ビジネス・サスペンス)もあり、何でもござれといった多才さというか、守備範囲の広さを感じさせ、まだバリバリの現役であっただけに、66歳でのガン死は、壮絶な戦死といった印象も受けます。

『ディスクロージャー』単行本
   
 この作品もビジネスドラマ(ビジネス・サスペンス)であり、年下の女性上司による「逆セクハラ」を扱っていますが、日本では「セクシャル・ハラスメント」が「新語・流行語大賞」の"新語"部門金賞に選ばれたのが'89年です(この段階ではまだ"新モノ"扱いか)。男女雇用機会均等法に「性的嫌がらせへの配慮」が盛り込まれたのが8年後の'97年改正に於いてであり、「男性への性的嫌がらせ」も配慮の対象となったのが更に10年後の'07年4月ですから、この作品の原作が1993年に発表され'94年に映画化されたことを思うと、向こうは随分と先を行っていたなあと。但し、米国では、原著発表時点で既に「テーマが古い」との批評もあったとのこと...。

音楽:エンニオ・モリコーネ

 セクハラ事件を契機に主人公は、野望渦巻く企業のパワーゲームに巻き込まれていきますが、映画におけるマイケル・ダグラスは、「ウォール街」('87年)で若僧チャ-リー・シーンを翻弄するやり手の投資銀行家ゲッコー氏のイメージよりも、「危険な情事」('87年)で不倫相手のグレン・クローズに翻弄される弁護士のイメージに近いかも。

ドナルド・サザーランド ディスクロージャー .jpg 映画としては凡作になってしまったと思いますが、マイケル・クライトンへの追悼と、「ライジング・サン」よりはまだ映画らしい映画になっているということで本作品を取り上げました。DISCLOSURE film.gif上司デミ・ムーアの誘いを断った主人公に対する上司の仕打ちの1つに、会社のサーバーへのアクセス権を奪ってしまうというのがあって、そのことで主人公は仕事が完全にストップしてしまいパニックに陥るというのが当時としてはすごく"現代風"の恐怖だなあと思われ、印象的に残りました。

大列車強盗 (1976年)1.jpg「大列車強盗」1.jpg「大列車強盗」図11.jpg マイケル・クライトン原作のその他の映画化作品では、マイケル・クライトン自身の脚本・監督で、ショーン・コネリーが主演した「大列車強盗」('78年/米).jpg「大列車強盗」('78年/米)が面白かったです。ヴィクトリア朝時代のイギリスで実際に起きた事件を基に、怪盗とその仲間たちが厳重管理で列車輸送している莫大な金塊の強奪に挑むさまを描いた犯罪サスペンスで、ストーリーはいいし(1975年に出版された原作『大列車強大列車強盗 (1976年).jpg大列車強盗 (ハヤカワ文庫.jpg盗』('76年/早川書房、'81年/早川書房)は、今回取り上げた『ディスクロージャー』よりはっきり言って面白い)、怪盗ピアースを演じるショーン・コネリーをはじめ役者もいいです。ショーン・コネリー(当時48歳)は、桁の低い陸橋が何本も接近してくる中、それをよけながら疾走する列車の屋根を這い進んで行くというアクションをスタントなしでこなしています。
大列車強盗 (ハヤカワ文庫 NV 256)
大列車強盗 (1976年) (Hayakawa novels)

「ライジング・サン1.jpg「ライジング・サン3.jpg 「大列車強盗」と同じショーン・コネリー主演でフィリップ・カウフマンが監督した「ライジング・サン」('93年/米)は、ロサンゼルスに進出した日本企業のビルで殺人事件が発生し、ショーン・コネリー演じる刑事ジョン・コナーが捜査を進めるうち、文化の違いという壁にぶち当たるという、コネリーが製作総指揮と主演を兼ねたサスペンス・アクション。ネタバレになりますが、偽造ディスクを解明した女性がコナー刑事の愛人だったというオチは、裏ストーリーを暗示させるものの、あまりに説明不足。日本人の社員が黒服にサングラスだったり、日本語の使い方がヘンテコリンで笑わせます(もっと以前よりは良くはなっているが、この時点でまだ日本文化の認識の違いが窺えるのは仕方のないことか)。因みに、武満徹が劇中音楽を担当し、そのキャリアの中で唯一の外国映画音楽作品となりました。

「コンゴ」1.jpg「コンゴ」3.jpg あともう1本、フランク・マーシャル監督の「コンゴ」('95年)というのもありました。映画的展開の狭い「ライジング・サン」や「ディスクロージャー」の失敗を反省材料にしたのか、今度は旧作('80年発表)ながら派手な見せ場のある『失われた黄金都市』を映画化したもので、アフリカ奥地で、レーザー通信の核となるダイヤモンドの鉱脈を調べていたトラヴィコム社の先発隊が全滅し、手掛かりは通信画面に映し出された"灰色の猿人"らしきものだけだった...というもの。この監督はあまり上手くない(本業は映画プロデューサー。妻のキャスリーン・ケネディと共に、多くのスピルバーグ作品を手がけている)。観終わって時間が無駄だったと思いましたが(一緒に観た人間と「もう今後(こんご)は観ない」と冗談を言い合った)、amazonのレビューでは高い評価を得ているみたいで、自分たちだけ違う映画を観たのかなあ(笑)。


ディスクロージャー マイケル・ダグラス.jpg「ディスクロージャー」●原題:DISCLOSURE●制作年:1994年●制作国:アメリカ●監督:バリー・レヴィンソン●製作:バリー・レヴィンソン/マイケル・クライトン●脚本:ポール・アタナシオ●音楽:エンニオ・モリコーネ●撮影:アンソニー・ピアース=ロバーツ●原作:マイケル・クライトン●時間:128分●出演:マイケル・ダグラス/デミ・ムードナルド・サザーランド/キャロライン・グッドオール/デニス・ミラー/ロマ・マフィア/ドナルド・サザーランド ディスクロージャー.jpgニコラス・サドラー/ローズマリー・フォーサイス/ディラン・ベイカー/ジャクリーン・キム/ドナル・ローグ/アラン・リッチ/ スージー・プラクソン●日本公開:1995/02●配給:ワーナー・ブラザース (評価★★★)

ドナルド・サザーランド
      
   
     
ドナルド・サザーランド/ショーン・コネリー
「大列車強盗」2.jpg「大列車強盗」4.jpg「大列車強盗」●原題:THE GREAT TRAIN ROBBERY/THE FIRST GREAT TRAIN ROBBER●制作年:1979年●制作国:アメリカ●監督・脚本:マイケル・クライトン●製作:ジョン・フォアマン●撮影:ジェフリー・アンスワース●音楽:ジェリー・ゴールドスミス●原作:マイケル・クライトン●時間:111分●出演:ショーン・コネリー/ドナルド・サザーランド/レスリー=アン・ダウン/アラン・ウェッブ/ロバート・ラング/マイケル・エルフィック/パメラ・セイラム/ガブリエル・ロイド/ジェームズ・コシンズ/ブライアン・グローヴァー/マルコム・テリス/ウェイン・スリープ●日本公開:1979/11●配給: ユナイト映画(評価★★★★)

「ライジング・サン」2.jpg「ライジング・サン」4.jpg「ライジング・サン」●原題:RISING SUN●制作年:1993年●制作国:アメリカ●監督:フィリップ・カウフマン●製作:ピーター・カウフマン●脚本:マイケル・クライトン/フィリップ・カウフマン/マイケル・バックス●撮影:マイケル・チャップマン●音楽:武満徹●原作:マイケル・クライトン●時間:125分●出演:ショーン・コネリー/ウェズリー・スナイプス/ハーヴェイ・カイテル/ケイリー=ヒロユキ・タガワ/ケヴィン・アンダーソン/マコ/レイ・ワイズ/スタン・イーギー/ティア・カレル/タジャナ・パティッツ/ヴィング・レイムス/スティーヴ・ブシェミ/サム・ロイド●日本公開:1993/11●配給:20世紀フォックス(評価★★★)

「コンゴ」2.jpg「コンゴ」●原題:CONGO●制作年:1995年●制作国:アメリカ●監督:フランク・マーシャル●製作:キャスリーン・ケネディ/サム・マーサー●脚本:ジョン・パト「コンゴ」4.jpgリック・シャンリー●撮影:アレン・ダヴィオー●音楽:ジェリー・ゴールドスミス●原作:マイケル・クライトン●時間:109分●出演:ショーン・コネリー/ウェズリー・スナイプス/ハーヴェイ・カイテル/ケイリー=ヒロユキ・タガワ/ケヴィン・アンダーソン/マコ/レイ・ワイズ/スタン・イーギー/ティア・カレル/タジャナ・パティッツ/ヴィング・レイムス/スティーヴ・ブシェミ/サム・ロイド●日本公開:1995/10●配給:UIP(評価★★)
  
 【1994年単行本〔早川書房〕/1995年文庫化[ハヤカワ文庫NV(上・下)]】

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「シェーン」.jpg 「父親は強い男でなければならない」ということか。アラン・ラッドが降りて役を得たジェームズ・ディーン。
ジャイアンツ.jpg ジャイアンツ3.jpg エドナ・ファーバー「ジャイアンツ(上・下)」早川書房.jpg
ジャイアンツ [DVD]」/エドナ・ファーバー『ジャイアンツ(上・下)』 [56年/早川書房]/「シェーン [DVD]

ジャイアンツ パンフ.jpgジャイアンツ ポスター.jpg  「ジャイアンツ」('56年)はエドナ・ファーバー女史のベストセラー小説の映画化作品ですが、完成3日後にジェームズ・ディーンが事故死するという不幸もあって話題を呼び、当時アメリカでも日本でも大ヒットしたとのこと。
GIANT 1956.jpg ジェームズ・ディーンの老け役の演技には批評家の間で賛否があったものの、ディーンのスタニフラフスキー流演技が、ロック・ハドソンの古典派演技と好対照を成している点でも興味深い作品です。

 その他にも実に色々な見方ができる映画です。以前観た際には、アメリカン・ドリームの光と影を体現したジェームズ・ディーン演じるところのジェット・リンクにばかり目がいっていましたが、実はこの作品は、ロック・ハドソン、エリザベス・テーラーが夫婦役を演じる家族ドラマだったのだと思いました(当初は夫役をウイリアム・ホールディンがやる予定だったが、監督の気が変ってロック・ハドソンに。妻役も、グレース・ケリーに決めていたが、彼女がモナコ大公と結婚したために、オードリー・ヘップバーンなどが候補としてあがり、最終的にエリザベス・テーラーに決まった。一方、ジェームズ・ディーンは、ジョージ・スティーブンス監督にこのジェット・リンク役をやらせてほしいと直訴していた)。

シェーン.jpgSHANE.jpg ある家族の前に突然現れた流れ者という設定は、同じジョージ・スティーブンス監督の前作「シェーン」('53年)と似ていますが、流れ者の"シェーン"を演じたアラン・ラッドが、実は「ジャイアンツ」の同じく"流れ者"であるジェット・リンク役に予定されていたのが、アラン・ラッドが役を降りたために、監督に直訴していたジェームズ・ディーンの願いが叶い、ジェット・リンク役が彼に回ってきたという経緯があります。

Shane (1953).jpg 「シェーン」に出てくる家族の父親は、シェーンに一方的に助けられ何とか悪徳牧畜業者から家族を守りますが、これでは家長としての面目は丸つぶれではないでしょうか。奥さんはシェーンに惹かれ、シェーンも奥さんに惹かれている―その想いを断ち切るかのようにシェーンは去っていきますが、この後の夫婦の関係という観点から考えると、ハッピーエンドとは言い切れないモヤモヤしたものが残ります。

 但し、この映画、日本で西部劇の人気投票をすると必ず上位にくるだけでなく、しばしばトップに選ばれる作品で、映画評論家に言わせれば、日本の股旅物のストーリーと見事に重なるため、日本人の心情に合いやすい作品であるとのこと。

 一方、この「ジャイアンツ」の一家の父親(ロック・ハドソン)は、流れ者(ジェームズ・ディーン)に対し、家長としての威厳を賭して対抗し、ジェット・リンクに惹かれそうになる奥さん(エリザベス・テーラー)の気持ちを自らの元に繋ぎとめているように思えます。

 ジョージ・スティーブンス監督には幼い頃に母親喪失の不安感があったそうですが、自身の不安の克服が「父親は母親を守ることができる強い男でなければならない」というアメリカ的な信条に沿った内容に結実したということなのでしょうか。

Jaiantsu(1956).jpg 撮影中にジェームズ・ディーンは、自分の役の影が薄いことをジョージ・スティーブンス監督に何度も抗議したものの、監督にことごとく却下されたそうです。

 何よりも、タイトルに表される舞台スケールの大きさ(「ジャイアンツ」はテキサス州のことを表すと同時に、原題「ジャイアント」は巨大油田を表す)に惹かれます。ここが日本の家族ドラマと一番違うところであり、あの石油が噴き出すシーンなどはマネできない。なにせ、テキサス1州だけで日本の国土の総面積の1.8倍ぐらいの広さがありますから、まさに"ジャイアンツ"。

Jaiantsu(1956)

 ところで、「シェーン」で主役を演じたアラン・ラッド(1913-1964)は、それまでも二枚目俳優としてそこそこ人気はありましたが、ダシール・ハメット原作、スチュアート・ヘイスラー監督の「ガラスの鍵」('42年)などにアラン・ラッド.jpgシェーン002.jpgおいても、原作における主人公の役を演じているのに映画の中では準主役級にされてしまっていたように、大スターと言えるほどの俳優ではなかったのが、この「シェーン」1作で一気にハリウッドの大スターとなります。ところが、その後は大した作品に出ておらず、60年代を過ぎて人気にも陰りが出てからはノイローゼになり、最後は睡眠薬の多用が原因で亡くなっています(享年50)

Alan Ladd in SHANE(1953) 

Jack Palance  in SHANE(1953)/in Bagdad Cafe(1987)
ジャック・パランス1.jpgOUT OF ROSENHEIM.jpg 一方のシェーンの敵役の殺し屋のウィルソン(酒場でコーヒーしか飲まないところが却って凄味があった)を演じたジャック・パランス(1919-2006)は、その後も性格俳優として活躍し、どちらかと言うと相変わらず悪役が多かったですが、パーシー・アドロン監督のバグダッド・カフェ」('87年/西独)で"老い楽の恋"に静かな情念を燃やす老画家役を好演し、個人的には、あの映画では、ジェヴェッタ・スティールが歌うテーマ曲「コーリング・ユー」と並んで最も印象に残りました(「あのジャック・パランスが」という想いで観たということもあるが)。

 しかし、その後も娯楽映画で"しっかり"悪役を演じ続け(「デッドフォール」('89年)でシルヴェスター・スタローン、カート・ラッセルを相手に犯罪組織のボスを演じていた)、一方、モンスター・パニック映画「トレマーズ」('90年)のロン・アンダーウッド監督がその次に撮ったコメディ映画「シティ・スリッカーズ」('91年)では、アカデミー賞助演男優賞、ゴールデングローブ賞助演男優賞 をダブル受賞しています。「シティ・スシティ・スリッカーズ dvd.jpgリッカーズ」は、ビリー・クリスタルらが演じる3人の中年男シティ・スリッカーズ パランス.jpgが「カウボーイ体験ツアー」に軽い気持ちで参加し、予期せずにもそこで自らを見つめ直し、自己を取り戻していくという話で(当時のアメリカの不況を反映している面もあったのかも)、「カウボーイ体験ツアー」なるものがあるのを初めて知りましたが、ジャック・パランスはツアーの教官役の老齢のカウボーイを演じ、当時72歳でしたが、老境に達していい味を出していました。「シティ・スリッカーズ [DVD]」Jack Palance & Billy Crystal in City Slickers(1991)

ジャック・パランス.jpg 映画の中でジャック・パランス演じるベテラン・カウボーイは心臓病で急死し、残された3人は、素人のまま「牛追い」の旅をすることになるわけですが(ジョン・ウェインの「赤い河」を意識したかのような牛追いシーンがあった)、実際のジャック・パランス本人は'06年に87歳で老衰のため亡くなっています。

 「役者」としての足跡はアラン・ラッドの方が大きいのかもしれないけれど、「人生」としてはジャック・パランスの方が恵まれていたかも。

Elizabeth_Taylor_in_Giant.jpgRock_Hudson_in_Giant.jpgGiant is best known as Dean's last film.jpg「ジャイアンツ」●原題:GIANT●制作年:1956年●制作国:アメリカ●監督:ジョージ・スティーブンス●製作:ジョージ・スティーヴンス/ヘンリー・ジンスバーグ●脚本:フレッド・ジュイオル/アイヴァン・モファット●撮影:ウィリアム・C・メラー/エドウィン・デュパー●音楽:デミトリー・ティオムキン/レイ・ハインドーフ●原作:エドナ・ファーバー「ジャイアンツ」●時間:201分●出演:ジェームズ・ディーン/エリザベス・テーラー/ロック・ハドソン/ジェーDennis Hopper Giant (1956).jpgン・ウィザース/キャロル・ベイカー/チル・ウィリス/メーセデス・マッキャンブリッジ/サル・ミネオ/ロッド・テイラー/ナポレオン・ホワイ「ジャイアンツ」d.gifティング/ジュディス・エヴリン/ポール・フィックス/エルザ・カルデナス/フラン・ベネット/デニス・ホッパー/マーセデス・マッケンブリッジ●日本公開:1956/12●配給:ワーナー・ブラザーズ●最初に観た場所:早稲田松竹(77-12-21) (評価★★★★)●併映:「理由なき反抗」(ニコラス・レイ)

デニス・ホッパー(ジョーダン3世)[中央]

シェーン001.jpgシェーン jパランス.jpg「シェーン」●原題:SHANE●制作年:1953年●制作国:アメリカ●監督:ジョージ・スティーブンス●製作:ジョージ・スティーヴンス●脚本:A・B・ガスリー・Jr●撮影:ロイヤル・グリグス●音楽:ヴィクター・ヤング●原作:ジャック・シェーファー「シェーン」●時間:118分●出演:アラン・ラッド/ヴァン・ヘフリン/ジーン・アーサー/ブランドン・デ・ワイルド/ジャック・パランス/ペン・ジョンスン/エドガー・ブキャナン/エミール・メイヤー/エリシャ・クック・Jr./ダグラス・スペンサー/ジョン・ディエルケス●日本公開:1953/10●配給:パラマウント映画●最初に観た場所:高田馬場パール座(77-12-20) (評価★★★☆)●併映:「駅馬車」(ジョン・フォード)          
パール座入口(写真共有サイト「フォト蔵」)①②高田馬場東映/高田馬場東映パラス ③高田馬場パール座 ④早稲田松竹
高田馬場パール座2.jpg高田馬場パール座 地図.pngパール座.jpg高田馬場パール座4.JPGパール座1.jpg高田馬場パール座(高田馬場駅西口、早稲田通り・スーパー西友地下) 1951(昭和26) 年封切館としてオープン。1963(昭和38)年の西友ストアー開店後、同店の地下へ。1989(平成元)年6月30日閉館。

シティ・スリッカーズ  .jpg「シティ・スリッカーズ」●原題:CITY SLICKERS●制作年:1991年●制作国:アメリカ●監督:ロン・アンダーウッド●製作:アービー・スミス●脚本:ローウェル・ガンシティ・スリッカーズ 2.jpgツ/ババルー・マンデル●撮影:ディーン・セムラー●音楽:マーク・シェイマン●時間:112分●出演:ビリー・クリスタル/ダニエル・スターン/ブルーノ・カービー/ヘレン・スレイター/ジャック・パランス●日本公開:1992/03●配給:東宝東和 (評価★★★) 「シティ・スリッカーズ/オリジナル・サウンドトラック

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男性原理、或いは"ハリウッド映画"に受け継がれるようなヒロイズム。

世界の文学 44 ヘミングウェイ.jpg老人と海/ヘミングウェイ 福田恆存・訳 新潮文庫.jpg   老人と海.jpg
世界の文学〈第44〉ヘミングウェイ (1964年)武器よさらば・老人と海・その他六編』['64年]/『老人と海 (1966年) (新潮文庫)』旧版/『老人と海 (新潮文庫)』 改版版

The Old Man And the Sea.jpg ヘミングウェイの代表作、且つ、生前に発表された最後の作品。最初に読んだのは中学生の時で、多少気負って読み始めたら、最初の老人と少年との会話の部分でいきなり野球の話などが出てきて、文学全集に収まるような作品にプロ野球(正確にはメジャーリーグだが)の話があるのがちょっと意外な印象を受け、結局今でもそのことが一番印象に残っていたりもします(川上弘美氏だったかな?小学5年生の時に読んだという作家は)。

ヘミングウェイ .jpg ヘミングウェイは1952年にこの作品を書き上げ、1954年にノーベル文学賞を受賞しており、ノーベル文学賞は個別の作品ではなく作家の功績および作品全体に与えられるものですが、一方で、この「老人と海」が受賞に寄与したとされていて、これを"受賞対象作"とすれば、書かれてから受賞まで僅か2年しかないことになります(まあ、それまでの実績が評価されたのだろうけれど)。ヘミングウェイはこの作品でピュ-リッツア-賞(文学部門)も受賞しています。

 新潮文庫版は、シェイクスピア作品の翻訳で知られる福田恒存の訳で(福田恒存・野崎孝以外で誰が訳している?)、作中人物の個性にも歴史が反映される(空間が時間に支配されている)ヨーロッパ文学に比べ、ただそこに空間があるだけのアメリカ文学は「食い足りない」とする福田恒存にとって、大海原での老人と魚の格闘というシチュエーションに的を絞ったこの作品は、そうしたアメリカ文学の弱点を逆手にとることで成功しているということになるようです。

アーネスト・ヘミングウェイ (Ernest Miller Hemingway).jpgGrace Hall Hemingway dressed Ernest like a girl for the first two years of his life.bmp 「ハードボイルド・リアリズム」と呼ぶに相応しい福田訳(経年疲労しない名訳)から、センチメンタリズムを排した男性原理、ギリシャ悲劇的なヒロイズム(或いはハリウッド映画に受け継がれるようなヒロイズム)が浮き彫りにされているように思えます(実際、このサンチャゴ老人のストイシズムはカッコいい)。ヘミングウェイは母グレイスに女の子のように育てられたとのこと、幼少の頃の女装させられた写真は有名で(後のハンティングなどに興じる数ある"逞しい"写真と対比すると興味深い)、彼のマッチョ願望をそうした幼児体験の反動であると見る心理学者もいます。
Grace Hemingway dressed Ernest like a girl for the first two years of his life. 女の子姿のヘミングウェイ

老人と海 1958 チラシ.jpeg この作品については、ジョン・スタージェスが監督し(「OK牧場の決斗」('57年)と「荒野の七人」('60年)の間の作品になる)、スペンサー・トレーシーが主演した映画化作品「老人と海」('58年)が老人と海 1vhs.jpgあり、個人的にはビデオで観ました。2度アカデミー主演男優賞を受賞しているスペンサー・トレーシーは、「山」('56年)などを観ても名優だと思いますが、この映画でも十分名優ぶりを発揮していたと思います。ただ、独白とナレーション(本人)の組み合わせが多く続くため、さすがの彼も「山」よりは結構きつそうに演技している印象も受けました。この映画の当初製作費は200万ドルであったのが、「適THE OLD MAN AND THE SEA 1958 2.jpg切な魚の映像を探す」ために500万ドルにまで上昇したそうで、そのため水中でカジキをつつくサメたちのシーンなどもあったりして緊迫感は大いにありますが、その緊迫感は動物パニック映画風のものでした。そうした状況の中で、原作の文学性はスペンサー・トレーシー一人の演技にすべて負わせているという感じで、その辺が「結構きつそうに演技している印象」に繋がるのかもしれません。でも、スペンサー・トレーシーという人はものすごい自信家だったそうで、まさに自分の力の見せ所と思って演技していたとも考えられます。

老人と海(99年公開).jpgアニメーション「The Old Man and the Sea(老人と海)」 by Alexandre Petrov(アレクサンドル・ペトロフ) 1999.jpg 変わったところでは、ロシアのアレクサンドル・ペドロフ監督が約2万9千枚ものガラスの板に油絵具を使って指で描いて制作しアカデミー賞に輝いたアニメーション作品('99年)があります。日本では東京アイマックスシアターなどで上映されましたが、この手法(「手作り」で完結しているのではなく、最終的には膨大なTHE OLD MAN AND THE SEA 02.jpgコンピュータ制御により動画構成されている。これは最近のアニメ芸術に共通して見られる傾向)だと、海が本当に綺麗に描かれて、実際、この人の作品は水をモチーフにしたものが多いようですが、これはまさに「動く巨大絵本」だなあと感心させられました。ただ、時間が23分と短いため(この23分に4年もかけたそうだが)、アイマックスで観た時はスゴイと思ったけれど、後で振り返ると文学的なエッセンスはかなり抜け落ちた感じも拭えませんでした(星3つ半はやや辛目の評価か)。

Oceanic White‐tip Shark.jpg 余談ですが、サンチャゴ老人はまず、獲物であるカジキマグロと闘い、次にその獲物を狙う鮫たちと戦うわけで、最初に襲って来るのが「アオザメ」で、その次に、サンチャゴが「ガラノー」と呼ぶところの"シャベル鼻の鮫"が襲って来ます。そして、結局この鮫が獲物のカジキマグロを食い尽くしてしまうのですが、この「ガラノー」というのは中学生の時に読んで以来ずっと「シュモクザメ」(Hammerhead)のことだと思っていましたが、メジロザメ科の「ヨゴレ」(Oceanic White‐tip Shark)とのことでした(シャベルの"柄"と"先"を取り違えていたかも)。魚の映像(水中撮影等)に費用をかけたスペンサー・トレーシー版「老人の海」を観るとどんなサメかがよく分かります。

老人と海 [DVD]
老人と海 1958.jpg老人と海 1958 syounen.jpg「老人と海」●原題:THE OLD MAN AND THE SEA●制作年:1958年●制作国:アメリカ●監督:ジョン・スタージェス●製作:リーランド・ヘイワード●脚本:ピーター・ヴィアテル●撮影::ジェームズ・ウォン・ハウ/フロイド・クロスビー/トム・タットウィラー/ラマー・ボーレン(水中撮影)●音楽:ディミトリ・ティオムキン●原作:アーネスト・ヘミングウェイ●時間:86分●出演:スペンサー・トレイシー(老人&ナレーション)/フェリッペ・パゾス(少年)/ハリー・ビレーヴァー/ドン・ダイアモンド●日本公開:1958/10●配給:ワーナー・ブラザース(評価:★★★☆)

THE OLD MAN AND THE SEA 01.jpg 「老人と海」●原題:THE OLD MAN AND THE SEA●制作年:1999年●制作国:ロシア/カナダ/日本●監督・脚本:アレクサンドル・ペドロフ/和田敏克●製作:ベルナード・ラジョア/島村達夫●撮影:セルゲイ・レシェトニコフ●音楽:ノーマンド・ロジャー●原作:アーネスト・ヘミングウェイ●時間:23分●日本公開:1999/06●配給:IMAGICA●最初に観た場所:東京アイマックス・シアター 東京アイマックスシアター2.jpgタイムズスクエア 東京アイマックスシアター.gif(99‐06‐16) (評価★★★☆)●併映:「ヘミングウェイ・ポートレイト」(アレクサンドル・ペトロフ)●アニメーション
東京アイマックスシアター (タカシマヤタイムズスクエア) 2002(平成14)年2月1日閉館
      
1955年単行本[チャールズ・E・タトル商会(福田恒存:訳)]/1956年全集[三笠書房(福田恒存:訳)]/1964年「世界の文学44」[中央公論社(福田恒存:訳)]【1953年老人と海、チャールズ・イー・タトル商会版.jpg文庫化・1980年改版[新潮文庫(福田恒存:訳)]/2014年再文庫化[光文社古典新訳文庫(小川高義:訳)]】
老人と海 (1955年)』チャールズ・E・タトル商会

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オリジナルな着想は素晴らしいが、ミステリとしての「掟破り」が瑕疵となり、映画に劣る。

気ちがい〔サイコ〕.png  サイコ  ロバート・ブロック.jpg サイコ ハヤカワ文庫.jpg     PSYCHO2.jpg
気ちがい (1960年) (世界ミステリシリーズ)』『サイコ (ハヤカワ文庫)』 ['82年旧版/新装版] 映画「サイコ」

Psycho.jpgPSYCHO 3.jpg 1959年発表のアメリカ人作家ロバート・ブロック Robert Bloch(1917‐1994/享年77)の『気ちがい(Psycho)』('60年4月/ハヤカワ・ミステリ)は、アルフレッド・ヒッチコック監督(1899‐1980/享年80)の映画「サイコ」('62年)の原作として有名になり、同じ福島正実訳のものがハヤカワ文庫に納められたとき('82年5月)に、『サイコ』という表題に改変されています(この小説や映画のお陰で、他の映画の字幕などでも「この"サイコ野郎"め」といった翻訳表現が使われるようになった)。
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 ロバート・ブロックは、エド・ケインという男が起こした実際の犯罪事件をヒントにこの作品を書いており、父と兄に続いて母親を亡くしたエドは、とりわけ絶対的な影響力を占めていた母親が死んでから、オカルトや解剖、屍体への性的執着、カニバリズムに耽溺、1957年に女性殺害容疑で逮捕されて家宅捜索を受けた際に、自宅から全部で15人の女性の死体が見つかりましたが、死体はどれも細かく解体されており、その一部は上着や食器・家具に加工され、また一部は食用として保存されていたといいます(裁判では精神障害(性的サイコパス)として無罪に)。

 小説の主人公ノーマンの人格造型に、今で言う"解離性障害"のようなものを持ち込んだのは作者のオリジナルだと思われ、その着想は素晴らしいものの、「ノーマンは母さんを面と向かって見られなかった」とか「彼は母さんのスカートに頭をうずめ、しゃくりあげながら、話しはじめた」、「母さんは窓のほうに行くと、降りしきる雨足をじっと眺めた」などといった表現は、ミステリとしては所謂「掟破り」になるかと思われます(以下、カッコ内青字部分は、再見して加筆したコメント)

映画術 フランソワ トリュフォー.jpg 映画監督のフランソワ・トリュフォーもこの点を批判していて、『映画術―ヒッチコック・トリュフォー』('81年/晶文社)でのヒッチコックへのインタビューにおいて、こうした"禁じ手"を使わずに原作を映像化したヒッチコックの技法を讃えています(映画でもノーマンと"母親"がジャネット・リー演じる女性をモーテルに泊めたことで言い争う場面があるが、それはジャネット・リーには遠くから二人の声だけが聞こえてくるものとなっていて、視覚化されていない。実は、ノーマン自身が話しているにも関わらず、声色を変える事によって彼自身が、他人 (この場合は母親) が話しているかのように錯覚して聞いていることになる)

ユージュアル・サスペクツ.jpg 例えば、アカデミー賞脚本賞受賞映画の「ユージュアル・サスペクツ」('95年/米)なども、傑作ミステリ映画と言われながらも、途中で実在しない人物を映像化するという"禁じ手"を用いて自ら瑕疵を生じせしめているように思います。コカインの密輸船が爆破され大量のコカインと金が消えた事件の黒幕と目される大物ギャング、カイザー・ソゼとは何者なのかを巡る心理サスペンスで、ラストもさることながら、その少し前の尋問場面で、観ていてアッと言わせる、確かに傑作でした。本来なら星5つ乃至4つ半ぐらい献上したい、にもかかわらず、この"禁じ手"を用いていることで、個人的には星1つ分は減らさざるを得ない...まさに「残念な映画」と言えます(そこにこだわるどうかは個人の勝手だが、自分はこだわってしまった)。 「ユージュアル・サスペクツ [DVD]

Psycho (1960).jpg 『映画術』ではこの外に、「サイコ」においてヒッチコックがいかに緻密な計算の上に、セオリー通りの手法やセオリーを外れた実験的手法を用いサイコ7.jpgて効果を上げているかを、トリュフォーが本人から巧みに聞き出していて、例えば後者(セオリー外)で言えば、最初の被害者にジャネット・リーを起用した点などもそうです。ヒッチコック映画で女優がブラジャー姿で出てくるのはこの作品だけです(しかも3度も。白い下着姿で1度、黒い下着姿で2度出てくる。他のヒッチコック映画のヒロインでは考えられない)。因みにジャネット・リーは、ポスターでは中ほどより下にその名があり、特別出演のような扱いになっています。
Psycho(1960)

ヒッチコック 「サイコ」ノーマン.jpg 自らがこの作品の監督だとして、普通は映画の半ばで殺される女性に有名女優を用いようとは思わないでしょう。物語の最後まで観客の興味を牽引していくと思われた主演クラスの女優が演じる役を途中で被害者にしてしまい、観客の感情移入に見事に肩透かしを食わせ、アンソニー・パーキンスが演じる孤独な青年に一気に感情移入の対象を移行させる―やはり、こうした計算され尽くした「映画術」から見ても、ヒッチコックの映画監督としての才能が原作の名を高めたというべきでしょう(最初の30分はジャネット・リーの独壇場で、30分してからアンソニー・パーキンスが登場し、48分頃に例のシャワーシーンがある。ジャネット・リーはすぐ殺害されてしまうイメージがあるが、108分の映画の内、前半約50分までは出ていたことになる)

『サイコ』(1960) 0.jpg『サイコ』(1960).jpg ヒッチコックがこの小説の映画化に踏み切った理由は、ただ1つ、「シャワーを浴びていた女性が突然に殺されるという悲惨さ」にショックを受けたからとのことで(匿名で、極めて安値で原作の映画化権を買い取っている)、45秒のシャワーシーンに200カット詰めみ7日間もかけて撮ったという話は有名。但し、このシーンの撮影の際にアンソニー・パーキンスは舞台出演中で撮影現場にはいなかったことを、映画公開の20年後にアンソニー・パーキンス自身が告白しています(解離性人格である殺人者は犯行時には服装も髪型も母親の姿になるという設定であり、アンソニー・パーキンスがいなくても撮影可能だったということになる。犯人の影姿から鬘を被っていることが窺える)

サイコ1.jpg その外にも、ジャネット・リーの手と肩と顔だけが本物で、あとは全てスタンドインのモデルを使っているとか、エロティックかつ残酷な場面という印象があるにも関わらず、女性の乳房さえ映っておらず、ナイフが肉に刺さるショットも無い(そうした印象は全てモンタージュ効果によるものである)とか、このシーンだけでもネタは尽きません。

Janet Leigh2.jpgジャネット・リー(Janet Leigh、本名:Jeanette Helen Morrison、1927年7月6日 - 2004年10月3日)は、カリフォルニア州マーセド出身。アメリカの女優。15歳で駆け落ちしたが4ヶ月で破局、19歳で大学の同級生と再婚した。休暇中、写真のモデルとして写った写真を、女優ノーマ・シアラーが偶然見て、「この顔は絶対映画に出るべきよ」と映画関係者にスカウトを勧めたという。20歳で当時若く素朴な田舎の少女を捜していたメトロ・ゴールドウィン・メイヤーと契約する。彼女の最も有名な出演作は、アルフレッド・ヒッチコックの『サイコ』(1960年)である。同作での演技でアカデミー主演女優賞にノミネートされ、ゴールデングローブ賞を受賞した。また、有名なシャワーシーンの演技から、今日では「絶叫クイーン」の1人として挙げられることがある。娘のジェイミー・リー・カーティスもまた、『ハロウィン』(1978年)での演技が評価され、同様に称される。(「音楽映画関連没年データベース」より)

Psycho (1960) Theatrical Trailer - Alfred Hitchcock Movie
サイコ dvd.jpg「サイコ」●原題:PSYCHO●制作年:1960年●制作国:アメリカ●監督・製作:アルフレッド・ヒッチコック●音楽:バーナード・ハーマン●原作:ロバート・ブロック「気ちがい(サイコ)」●時間:108分●出演:アンソニー・パーキンス/ジャネット・リー/ベラ・マイルズ/マーチン・バルサン/ジャン・ギャヴィン●日本公開:1960/09●配給:パラマウント●最初に観た場所:六本木・俳優座シネマテン(97-09-19) (評価★★★★☆)
サイコ hiiti.jpg

ユージュアル・サスペクツ2.jpg「ユージュアル・サスペクツ」●原題:THE USUAL SUSPECTS●制作年:1995年●制作国:アメリカ●監督:ブライアン・シンガー●製作:ハンス・ブロックマン他●脚本:クリストファー・マッカリー●撮影:ニュートン・トーマス・サイジェル●音楽:ジョン・オットマン●時間:106分●出演:ケヴィン・スペイシー/ガブリエル・バーン/スティーヴン・ボールドウィン/ベニチオ・デル・トロ/ケヴィン・ポラック/チャズ・パルミンテリ/ピート・ポスルスウェイト●日本公開:1996/04●配給:アスミック●最初に観た場所:銀座テアトル西友(96-04-29) (評価★★★☆)
ル テアトル銀座1.jpgル テアトル銀座2.jpg銀座セゾン劇場・銀座テアトル西友/ル テアトル銀座・銀座テアトルシネマ
1987年7月「銀座テアトルビル」3階に「銀座セゾン劇場」、5階に「銀座テアトル西友」オープン。1999年一時閉館。2000年4月~「ル テアトル銀座」(座席数770席)(2007年3月~「ル テアトル銀座 by PARCO」)、「銀座テアトルシネマ」(座席数150席) 。2013年5月31日共に閉館。

 【1982年文庫化[ハヤカワ文庫 NV (『サイコ』(福島正実訳))]/1999年再文庫化[創元推理文庫(『サイコ』(夏来健次訳))]】
  

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ナイーブな感性から男性原理へ。ハードボイルドのルーツは新聞記者の文章?

『われらの時代・男だけの世界―ヘミングウェイ全短編1』.JPGわれらの時代・男だけの世界.bmp われらの時代に hukutake.jpg われらの時代に/ヘミングウェー短編集1.jpg 女のいない男たち.jpg 
われらの時代・男だけの世界 (新潮文庫―ヘミングウェイ全短編)』['95年]/『われらの時代に (福武文庫―海外文学シリーズ)』['88年]『われらの時代に ヘミングウェー短編集1』『女のいない男たち ヘミングウェー短編集2』['13年/グーテンベルク21]Kindle版
in our time.jpgMen Without Women.jpg ヘミングウェイ Ernest Hemingway (1899-1961)の短編のうち、文豪誕生の黎明期とも言える初期のパリ在住時代のものが収められています。1924年刊行の『われらの時代』"In Our Time"と、1927年刊行の『男だけの世界』"Men Without Women"の2つの短編集の「合本」であるとも言えるものですが、高見浩氏による翻訳は新潮文庫のための訳し下ろしであり、現代の感覚から見ても簡潔・自然な訳調は、「新訳」と言っていいと思います。

"In Our Time"(1924)/"Men Without Women"(1927)

 『われらの時代』も『男だけの世界』も、含まれる短編の多くにニック・アダムスという少年期から青年期のヘミングウェイを思Men Without Women .jpgわせる若者が登場しますが、『われらの時代』にはどちらかと言うと、若者のナイーブな感性がとらえた世間というものが反映されているのに対し、『男だけの世界』の方は、男性原理が前面に出た(短編集の表題通り女性が殆ど登場しない)、男臭いというかハードボイルド風のものが殆どとなっています。
 時間的には、この両短編集の間に、当初は短編として構想され、書き進むうちに長編になった『日はまた昇る』"The Sun Also Rises"(1926年)が書かれているわけですが、その時期は、ヘミングウェイが妻と愛人の間で板ばさみになり、心理的に袋小路に追い詰められていた時期でもあり、その両方を失って彼は女嫌いとなったのか、女性的なものを作品に持ち込むことを意図的に避けるようになったようです。
"Men Without Women" Scribner(1997)

A river runs through it.jpg 『われらの時代』は、青春時代が第一次世界大戦後の虚脱状態の世相に重なった"ロスト・ジェネレーション"に意味的に重なるものであり、この中では「二つの心臓の大きな川」という作品が秀逸。心に傷を負った主人公のニックがミシガン湖で友人と釣りをするだけの話ですが、フライフィッシングの描写が素晴らしく(ロバート・レッドフォード監督の「リバー・ランズ・スルー・イット」を思い出した)、また、釣れた鱒を捌く描写の簡潔で的確な筆致は(『老人と海』(1952年)にも魚を捌く場面があるが、それに近い)、同時に主人公の生への意欲の回復を表している感じがしました。
"A river runs through it" (1992) DVD
マクリーンの川 (集英社文庫)
マクリーンの川 (集英社文庫).jpgA river runs through it 2.jpg 「リバー・ランズ・スルー・イット」(原作はノーマン・マクリーンの「マクリーンの川」)では、主人公(クレイグ・シェイファー)が、牧師だった父(トム・スケリット)と才能がありながらも破天荒な生き方の末に亡くなった弟(ブラッド・ピット)を偲んで、故郷の地で、かつて父から教わり、父や弟と親しんだフライフィッシングをする場面が美しく、また、こうした「供養」と言える行動を通して主人公が癒されていくスタイルが独特だなあと思ったのですが、ヘミングウェイの「二つの心臓の大きな川」においても、フライフィッシングが主人公の戦争体験のトラウマを癒す役割を果たしているように思えます。
 そう言えば、'60年代のビート・ジェネレーションの作家リチャード・ブローティガンにも『アメリカの鱒釣り』('75年/晶文社、'05年/新潮文庫)という作者にとっての処女小説(短編集)があり、釣りとアメリカ人の精神性はどこかで繋がるところがあるのかなと思ったりしました。

 『男だけの世界』にも、老闘牛士をモチーフにした「敗れざる者」などの秀作もありますが、やはり、感情表現を排した簡潔な筆致で、ハードボイルドの1つの原型であるともされる「殺し屋」が印象に残ります。思えばヘミングウェイは、パリには新聞社の特派員として滞在していたわけで(第一次大戦中は通信兵として電文を打っていたこともあった)、そうすると、ハードボイルドのルーツは新聞記者の文章ということでしょうか(少し後に『大いなる眠り』(1939年)で長編デビューするレイモンド・チャンドラーも、新聞記者をしていた時期がある)。

「リバー・ランズ・スルー・イット」パンフレット裏.jpg「リバー・ランズ・スルー・イット」.jpg「リバー・ランズ・スルー・イット」●原題:A RIVER RUNS THROUGH IT●制作年:1992年●制作国:アメリカ●監督・製作総指揮:ロバート・レッドフォード●脚本:リチャード・フリーデンバーグ●撮影:フィリップ・ルースロ ト●音楽:マーク・アイシャム●原作:ノーマン・マクリーン 「マクリーンの川」●時間:124分●出演:ブラッド・ピット/クレイグ・シェイファー/トム・スケリット/ブレンダ・ブレシン/エミリー・ロイド/スティーヴン・シェレン/ニコール・バーデット/ジョセフ・ゴードン=レヴィット/ロバート・レッドフォード(ナレーション)●日本公開:1993/09●配給:東宝東和 (評価:★★★★)

「リバー・ランズ・スルー・イット」映画パンフ裏面予告

われらの時代・男だけの世界7.JPG【1988年文庫化[福武文庫(『われらの時代に』)]/1995年文庫化[新潮文庫]】

われらの時代・男だけの世界 (新潮文庫―ヘミングウェイ全短編)』['95年]

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