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ちょっとしたことから始まる人と人との関係の齟齬。結局、"精霊"って"死神"?

「イニシェリン島の精霊」2022 .jpg「イニシェリン島の精霊」図1.jpg
イニシェリン島の精霊」コリン・ファレル/ブレンダン・グリーソン

「イニシェリン島の精霊」1.jpg 1923年、アイルランドの小さい平和な孤島・イニシェリン島に暮らすパードリック(コリン・ファレル)はある日、親友のコルム(ブレンダン・グリーソン)から突然絶縁を告げられる。「ただお前が嫌いになった」と言い放たれ、長年友情を育んできたはずだった彼が何故突然そんなことを言い出したのか理解出来ないパードリックは、賢明な妹シボーン(ケリー・コンドン)や風変わりな隣人ドミニク(バリー・コーガン)の力を借りて事態を好転させようとするが、コルムから「これ以上自分に関わると自分の指を切り落とす」と恐ろしい宣言をされてしまう―。

 マーティン・マクドナー監督による2022年のアイルランド・イギリス・アメリカ合作。第80回ゴールデングローブ賞で最多7部門8ノミネートされ、作品賞、主演男優賞、脚本賞の3部門を受賞し、米アカデミー賞でも主要部門9部門にノミネートされました(ただし、先月['23年3月]発表の授賞結果では無冠に終わった)。「イニシェリン島の精霊」2.jpg

「イニシェリン島の精霊」3.jpg ブラック・コメディ映画とされていますが、確かに二人のオジサンによる喧嘩はユーモラスでもあり、「陽気な悲劇」と言えるかも。ただし、個人的にはブラックの要素の方が強かった気がします。特に、コルムが実際に自分の指を切り落としてパードリックの家の扉に投げつけたりした辺りから、ホラー的にさえなってきました(指切ってしまったら、楽器の演奏ができなくなって、パードリックとの関係を断ってまでも自分の残りの人生を注ごうとしている音楽創作にも差し障るのでは? そう考えると、ある意味で狂気である)。

「イニシェリン島の精霊」4.jpg ちょっとしたことから始まる人と人との関係の齟齬を描いた作品ともとれます。舞台である架空の島イニシェリン島の対岸のアイルランド本土では内戦の戦火が絶えず、砲撃音が平和な孤島にも聞こえてきますが、評論家と思しき人たちによれば、まさに二人の諍いがその象徴であるとのことです。

 さらには、この物語の時代設定がちょうど今からほぼ100年ほど前であることから、2022年の、そして今も続いているロシアのウクライナ侵攻をも象徴しているとして、メタファー構造の多重性を指摘し、ゆえにこの作品を米アカデミー賞の作品賞授賞最有力候補として絶賛する 評論家がいたりしましたが、そこまで深読みして評価する必要があるのかは疑問です(先述の通り、米アカデミー賞は無冠に終わった)。

 ただし、イニシェリン島における寒空と海の美しさが親友に絶交されたパードリックの冷え切った心と対応しており、また、パードリック=コリン・ファレルの、パードリックが愛するジェニーという名のロバにも喩えられるような間が抜けた喜劇役者的演技と、コルム=ブレンダン・グリーソンのジョン・ウェインみたいな風貌と滅茶苦茶に重厚な演技の対比も良かったです。

「イニシェリン島の精霊」p.jpg 結局、"精霊"って"死神"のことだったのか。実際、その"悪魔"を体現したような老女が出てきて、二つの死を予言し、この辺りはミステリっぽい感じも。二つの死の内の一つはロバのジェニーだったけれど(この映画、ロバだけでなく、カラス、馬、乳牛、ボーダーコリー犬など様々な動物を象徴的に使っている)、もう一つの死は...。

 最後、パードリックがロバのジェニーの敵討ちみたいな感じでコルムの家に火を放ち、ロバと住まいでは経済価値的にバランスが取れないのではと常識では思ってしまいますが、コルムの飼っているボーダーコリー犬は救われたことでコルムはパードリックに礼を言う―という、かなり苦いながらもハッピーエンドみたいな感じになっていて、ロバの値段とか家の値段とかではなく、みんなメタファーなのだろうなあ。

「イニシェリン島の精霊」5.jpg 島の唯一の知性の象徴は、パードリックの妹のシボーン(ケリー・コンドン)なのでしょう(バリー・コーガン演じる風変わりな隣人ドミニクも意外と賢かったが)。パードリックとコルムが芸術の遺産について口論を繰り広げ、無学者のパードリックが口負かされた後、シボーンはコルムが言ったモーツァルトの話は17世紀ではなく18世紀の話だと彼の間違いを冷静に指摘して颯爽と島を去っていきました(コルムの芸術的素養もそれほどのものではないということだろう)。そして、残された男たちはいつまで争いを続けるのか。「戦争は女の顔をしていない」という言葉を思い出しました(やっぱり、この話は戦争のメタファー?)

 個人的には、コルムの人生の限りある残された時間を無駄に使いたくないという気持ちにもっとフォーカスして欲しかった気もしますが、途中からそのコルムが狂気染みてきて、彼に感情移入できなくなったというところでしょうか。

「ヴェネツィア国際映画祭」コリン・ファレル.jpg「イニシェリン島の精霊」ファレル.jpg「ヴェネツィア国際映画祭」コリン・ファレル2.jpg 2022年・第79回「ヴェネツィア国際映画祭」においてコリン・ファレルが「ボルピ杯(最優秀男優賞)」を受賞し(彼はアイルランド人である)、さらにコリン・ファレルは2023年・第80回「ゴールデングローブ賞」において「最優秀主演男優賞(ミュージカル/コメディ)」、2022年・第88回「ニューヨーク映画批評家協会賞」において「主演男優賞」、2022年・第57回「全米批評家協会賞」において「主演男優賞」を受賞(ケリー・コンドンも「助演女優賞」を受賞)しています(ケリー・コンドンもアイルランド人、共演のブレンダン・グリーソン、バリー・コーガンも皆アイルランド人である)。

第79回「ヴェネツィア国際映画祭」にて、左からマーティン・マクドナー監督、ケリー・コンドン、コリン・ファレル、ブレンダン・グリーソン。

「イニシェリン島の精霊」6.jpg「イニシェリン島の精霊」●原題:THE BANSHEES OF INISHERIN●制作年: 2022年●制作国:アイルランド・イギリス・アメリカ●監督・脚本:マーティン・マクドナー●製作:グレアム・ブロードベント/ピーター・チャーニン/マーティン・マクドナー●撮影:ベン・デイヴィス●音楽:カーター・バーウェル●時間:109分●出演:コリン・ファレル/ブレンダン・グリーソン/ ケリー・コンドン/ バリー・コーガン●日本公開:2023/01●配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン●最初に観た場所:日比谷・TOHOシネマズシャンテ(スクリーン1)(23-02-05)(評価:★★★☆)

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飯田橋のギンレイホールの最終上映作品は、今年['22年]公開された米・英の泣かせの2本。

「マリー・ミ―」.jpg
マリー・ミ―」ジェニファー・ロペス
「君を想いバスに乗る」222.jpg
君を想いバスに乗る」[Prime Video]ティモシー・スポール
「マリー・ミ―」01.jpg 世界的歌姫のカット・ヴァルデス(ジェニファー・ロペス)は、新曲「マリー・ミー」を携え、大観衆の前で音楽界の超新星バスティアン(マルーマ)と華々しく結婚式を挙げる予定だった。しかしショーの直前、婚約者バスティアンの浮気がスクープされる。失意のままステージに登壇した彼女は、観客の中から一人の男を指名、突然プロポーズするという驚きの行動に出る。新たなお相手は、平凡な数学教師とあって、前代未聞のギャップ婚に取り巻きのスタッフやマスコミ、ファンは大混乱となり、早くも離婚の噂が噴出する始末。お互いを知るところから始まった結婚生活は前途多難な道のりだった。そんな矢先、バスティアンとのデュエット曲だった「マリー・ミー」がグラミー賞にノミネートされたことで、カットとバスティアンの関係は、再び親密になっていくのだった―。

「マリー・ミ―」02.jpg 飯田橋の名画座ギンレイホールの閉館最終上映の1本目、カット・コイロ監督の「マリー・ミー」('22年/米)は、女優で歌手でもあるジェニファー・ロペスが製作・主演を務め、ポップスターと平凡な数学教師の恋の行方を描いたラブストーリーで、原作はボビー・クロスビーの同名グラフィックノベル。見方によっては、ご都合主義的な能天気映画ですが(ラブコメって大体がそうだが)、ハリウッド映画流に泣かせどころのツボは押さえていました。
 
Jennifer Lopez (age 52 years) and Maluma in Marry Me concert special.
Jennifer Lopez marry me.jpg ジェニファー・ロペス自身の恋愛遍歴と重なるような虚実皮膜を地で行く設定が面白く、しかも、この映画が日本公開された月[2022年4月]に、一度破局した俳優のベン・アフレックと20年の歳月を超えて再び婚約したことを発表しており、彼女の人生のプロモーション映画のような印象もあります。

 それにしても、この作品出演時で52歳だから凄いなあと。ワークアウトしているシーンなどはまさに実地でしょう。「アナコンダ」('97年)などに出ていた頃は単なるB級映画用のセクシー女優といった感じだったのが、1999年に歌の世界に進出、デビューアルバム「オン・ザ・シックス(On The 6)」からのシングル「If You Had My Love」がBillboard Hot 100で5週連続1位のヒットになり、以降、女優と歌手の両方を極めながら(オーディション番組「アメリカン・アイドル」の審査員をしていた時期もあった)、この作品がそうであるようにプロデューサーでもあります。


「君を想いバスに乗る」01.gif 妻を亡くしたばかりの90歳のトム・ハーパー(ティモシー・スポ―ル)は、50年暮らした家を離れ、ローカルバスのフリーパスを利用してイギリス縦断の壮大な旅に出ることを決意する。 目指すは愛する妻と出会い、二人の人生が始まった場所。 行く先々で様々な人と出会い、トラブルに巻き込まれながらも、妻と交わしたある"約束"を胸に時間・年齢・運命に抗い旅を続ける―。

「君を想いバスに乗る」02.jpg 飯田橋ギンレイホールの閉館最終上映の2本目、ギリーズ・マッキノン監督の「君を想い、バスに乗る」('21 年/ 英)は、これも「マリー・ミー」とはまた違った意味で泣ける作品でした。

「君を想いバスに乗る」221.jpg これって実話なのかなと思いましたが、脚本を手掛けたジョー・エインズワースが、彼の父と義父の「高齢者向けの無料バス乗車券を使ってどこに旅をするか」という会話から着想を得て作った物語だそうです。因みに、本作で主人公トムが目指すのはイギリス旅行者憧れの聖地"ランズエンド"です。

 ティモシー・スポールは、特殊メイクなしで実年齢より30歳近く年老いたトムを演じており、また、トムの最愛の妻メアリーを演じたのはTVシリーズ「ダウントン・アビー」でミセス・ヒューズ役を演じたフィリス・ローガンで、その他にもトムが道中で出会う人々の中にはイギリスを代表する実力派俳優が揃っているそうです(そう言えば、名前は分からないが、TVドラマで見たことのある人が何人かいた)。


0ギンレイ通信 .jpg 結局、ギンレイホールの最終上映作品は、今年['22年]公開された米・英の泣かせの2本だったということになります。この映画を観た先月[2022年11月]の27日(日)をもって同館は1974(昭和49)年の創業以来48年間の歴史に幕を閉じました。個人的には最後から3回目と2回目の上映を観たのですが、行った時は8割程度の入りだったのが、その次の回は立ち見が出ていて、最終回は、付近の地下鉄飯田橋駅の地下階段の一番下まで入場待ちの列でした(全員入れたのかなあ)。

「マリー・ミー」●原題:MARRY ME●制作年: 2022年●制作国:アメリカ●監督:カット・コイロ●製作:エレイン・ゴールドスミス=トーマス/ジェニファー・ロペス/ベニー・メディナ●脚本:ジョン・ロジャース/タミー・セイガー/ハーパー・ディル●撮影:フロリアン・バルハウス●音楽:ジョン・デブニー●原作:ボビー・クロスビー●時間:112分●出演:ジェニファー・ロペス/オーウェン・ウィルソン/マルーマ/ジョン・ブラッドリー/サラ・シルヴァーマン/クロエ・コールマン●日本公開:2022/04●配給:東宝東和●最初に観た場所:飯田橋・ギンレイホール(22-11-27)(評価:★★★☆)●併映:「君を想い、バスに乗る」(ギリーズ・マッキノン)
     
ギンレイホール最終日(2022年11月27日)/ギンレイホール名物の「手描き看板」
0IMG_ギンレイ.jpgギンレイホールの最終作品.jpg「君を想い、バスに乗る」●原題:THE LAST BUS●制作年: 2021年●制作国:イギリス●監督:ギリーズ・マッキノン●製作:ロイ・ボウルター/ソロン・パパドプーロス●脚本:ジョー・エインズワース●撮影:ジョージ・キャメロン・ゲッデス●音楽:アンディ・ハリス●時間:86分●出演:ティモシー・スポール/ィリス・ローガン●日本公開:2022/06●配給:HIGH BROW CINEMA●最初に観た場所:飯田橋・ギンレイホール(22-11-27)(評価:★★★☆)●併映:「マリー・ミー」(カット・コイロ)

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先進国の経済は発展途上国の犠牲の上に成り立っているのではないかと考えさせられる。

ナイロビの蜂 2005.jpg ナイロビの蜂01.jpg ナイロビの蜂02.jpg
ナイロビの蜂 [DVD]」レイチェル・ワイズ/レイフ・ファインズ
「ナイロビの蜂」pos.jpg ガーデニングが趣味の物静かな英国外務省一等書記官のジャスティン(レイフ・ファインズ)は、スラムの医療施設を改善する救援活動に励む妻テッサ(レイチェル・ワイズ)と、ナイロビで暮らしていた。しかし突然、テッサがトゥルカナ湖の南端で殺害されたという報せが届く。彼女と同行していた黒人医師アーノルド(ユベール・クンデ)は行方不明。警察はよくある殺人事件と断定して処理しようとするが、その動きや、テッサに密かに思いを寄せていた同僚サンディ(ダニー・ヒューストン)の不審な振る舞いから、疑念にかられたジャスティンは、妻の死の真相を独自に調べ始める。そして、アフリカで横行する薬物実験、大手製薬会社と外務省のアフリカ局長ペレグリン(ビル・ナイ)の癒着という、テッサが生前暴こうとしていた世界的陰謀を知る。命の危険にさらされながら、テッサの想いを引き継ぐジャスティンは、その過程で、改めてテッサへの愛を実感していく。しかし、やがてジャスティンもテッサと同じように―。

「ナイロビの蜂」l.jpg 2005年制作のブラジル人監督フェルナンド・最優秀助演女優賞 レイチェル・ワイズ.jpgメイレレスによる作品で、原作は、昨年結果的に['20年]12月に亡くなったジョン・ル・カレ(『寒い国から帰ってきたスパイ』『ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ』)が2001年に発表した同名小説『ナイロビの蜂』(原題:The Constant Gardener)です。この映画化作品で、ナイロビのスラム街で医療救援活動に励む女性テッサを演じたレイチェル・ワイズは、2005年のアカデミー助演女優賞を受賞しています(「ニューオーリンズ・トライアル」('03年)の時はあまり印象に残らない使い方をされていたので、この作品で受賞出来て良かった)。

 ストーリーは1980年前後に原作者が実際に取材した内容を下敷きにしたフィクションだそうですが、その時の取材対象は、新型コロナウイルスワクチンが目下['21年]世界中の争奪戦になっているあのファイザー製薬が、かつてナイジェリアで治験を行った細菌性髄膜炎治療だったとのことです(小説と類似した問題が存在したことを匂わせている)。

THE CONSTANT GARDENER1.jpg 原題の意味は「誠実な庭師」で、レイフ・ファインズが演じた外務省一等書記官であるジャスティンの趣味がガーデニングであることに重ねて、彼が外交官でありながらも元来は政治に関心の薄いノンポTHE CONSTANT GARDENER2.jpgリであることを示唆しているようです。そのジャスティンが、亡きテッサへの信愛から、その死の謎を探るうちに、大手製薬会社と政治家の癒着という闇の世界にどんどん喰い込んでいき、改めて彼女への愛を深めつつ、自らを犠牲にしてまでも、彼女から引き継いだ真相究明の責務を果たすまでに変貌する様が、テンポよく描けているように思いました。

「ナイロビの蜂」9.jpg ケニアの首都ナイロビのスラム街は、「シティ・オブ・ゴッド」('02年/ブラジル)で同じくリオのスラム街をで撮ったフェルナンド・メイレレス監督をして「見たことない劣悪さ」と言わしめたそうですが、現地での撮影交渉やエキストラ確保において困難を極める中で、現地の人々い映画の趣旨を丁寧に説明して賛同を得たり、交換条件として橋を建造したりして協力を得たとのことです。結果的には、ハンディカメラなどを使って現地の人々をドキュメンタリータッチで撮るというやり方は、貧困の中でも逞しく生きる現地の人々の息吹を伝え、成功しているように思いました。その上で、先進国の経済は発展途上国の犠牲の上に成り立っているのではないかということを改めて考えさせられる重い作品でした。

「ナイロビの蜂」7.jpg この映画におけるテッサとジャスティンの出会いについて、テッサがジャスティンに最初は突っかかるような感じの質問をしてそのあ「ナイロビの蜂」f.jpgと極めて能動的に接近したのは(すぐにベッドインしたね)、ジャスティンが外交官であり、彼と結婚すればアフリカに行けると考えたからではないかとの見方があるようですが、確かにテッサには目的のためには手段を選ばないという一面もありはするものの、ヒロインに関してそういう解釈のもとに映画を撮る監督が果たしているものでしょうか。個人的には、やや穿ち過ぎた見方のように思います。

「ナイロビの蜂」bk.jpg ラストで、テッサと不倫関係にあったのではと噂されたアーノルドが実はゲイだったというのは(この映画、ここだけ笑える)、テッサもきっちりジャスティンを愛していたということの証左とまでは言わないまでも、そうした疑念への反証を示唆しているように思えました(もしかしたら、監督はそんなことまで考えてなかったかもしれないが)。

「ナイロビの蜂」22.jpg「ナイロビの蜂」●原題:THE CONSTANT GARDENER●制作年:2005年●制作国:イギリス・ドイツ・アメリカ・中国●監督:フェルナンド・メイレレス●製作:サイモン・チャニング・ウィリアムス●脚本:ジェフリー・ケイン●撮影:セザール・シャローン●音楽:アルベナイロビの蜂  .jpgルト・イグレシアス●原作:ジョン・ル・カレ「ナイロビの蜂」●時間:128分●出演:レイフ・ファインズ/レイチェル・ワイズ/ダニー・ヒューストン/ビル・ナイ/ユベール・クンデ/ドナルド・サンプター/ジェラルド・マクソーリー/リチャード・マッケイブ/ピート・ポスルスウェイト/ジュリエット・オーブリー/アネク・キム・サルナウ●日本公開:2006/05●配給:ギャガ・コミュニケーションズ●最初に観た場所:北千住・シネマブルースタジオ(19-02-12)(評価:★★★★)

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再見で4人目の「マルクス兄弟」ゼッポ・マルクスを確認した「我輩はカモである」。

「我輩はカモである」d2.jpg 「我輩はカモである」d1.jpg 「オペラは踊る」2.jpg 「オペラは踊る」d1.jpg 地獄の観光船 (1981年).jpg
我輩はカモである [DVD]」「我輩はカモである [DVD]」「マルクス兄弟オペラは踊る 特別版 [DVD]」「マルクス兄弟 オペラは踊る [DVD]」小林 信彦 『『地獄の観光船 (1981年)

「我輩はカモである」gg.jpg フリードニア共和国は財政難に喘ぐ中、実力者のティーズデール夫人(マーガレット・デュモント)に援助を求めた。彼女はルーファス(グルーチョ・マルクス)を宰相にするという条件を出したうえで承諾し、かくしてルーファスは首相になる。一方、フリードニア共和国の乗っ取りを企てていた隣国シルヴェニアの大使トレンティーノ(ルイス・カルハーン)は、夫人に色仕掛けで接近する一方、スパイのチコリーニ(チコ・マルクス)とピンキー(ハーポ・マルクス)の二人組を送り込む。ところがルーファスは二人を側近にしたので、混乱に拍車がかかってしまい、ついにシルヴェニアと開戦、議会で首相と国民は「いざ開戦」と歌い狂う―。

 1933年のマルクス兄弟主演作で、監督は後に「聖メリーの鐘」('45年)や「めぐり逢い」('57年)を撮るレオ・マッケリー(全然、作風が違う)。末弟ゼッポ・マルクス最後の出演映画であるとのことですが、ゼッポ・マルクスって誰だっけ―と名前はすぐに浮かぶが顔は浮かばなかったのが、最近この作品を観直してみて、ルーファスの秘書官という地味な役で出ていたのが確認できました。

「我輩はカモである」th.jpg「我輩はカモである」b.jpg もう一度整理してみると、マルクス兄弟はチコ、ハーポ、グルーチョ、ガンモ、ゼッポの5人兄弟で、チコ・マルクス(1887-1961/74歳没)が「マルクス兄弟」における長男(実際には、1886年に誕生し同年に死去した長男マンフレッドがチコの上にいる)。古「我輩はカモである」hc.jpgぼけた服と、チロル帽で個性を出していて、この映画然り(マルクス兄弟はユダヤ系だが、彼は風貌もどこかイタリアンっぽい)。

ハーポ・マルクス.jpg 次男はハーポ・マルクス(1888-1964/75歳没)で、決して喋らないことで有名だったキャラクターで、大きなコートのポケットからハサミなど様々なアイテムを取り出すことで笑いを生むのが定番。得意のハープ演奏は映画でも定番で、殆どの作品でハーポの演奏シーンが用意されています。

「我輩はカモである」g1.jpg「我輩はカモである」g2.jpg 三男はグルーチョ・マルクス(1890-1977/86歳没)で、早口でまくしたてるのがトレードマークで、この作品でもそうですが、兄弟の中でも中心的な役回りを演じることが多かったです。喋りの才能が卓越していて、「マルクス兄弟」としての活動が終わった後も、ラジオ番組やテレビ番組のホストとしての活躍しました。

 四男はガンモ・マルクス(1893-1977/83歳没)で、第一次世界大戦の際に徴兵され役者としての活動を止め、退役後は実業家に転じているので、この人を映画では見かけないのも無理はないです。

「我輩はカモである」4.jpg そして、五男がゼッポ・マルクス(1901-1979/78歳没)。チコ、ハーポ、グルーチョ、ガンモの4人の兄が、音楽・喜劇グループとしてヴォードヴィルの舞台に立っていたところ、第一次世界大戦へとガンモが徴兵されたことで、それと入れ替わりで4人目の「マルクス兄弟」として参加。しかしながら、この映画でもそうですが、イケメンなのですが「フツーの人」っぽい役ばかりで、この作品が最後の映画出演作となりました。ミュージカル・シーンで群舞になると、大勢に中から3人ならぬ4人が前に出てきて、その内、端っこの方で一人まともな軍服を着て踊っているのがゼッポ・マルクス。グルーチョ演じる新宰相が、チコとハーポ演じるスパイを自ら側近してしまったのでこの3人が並ぶのは分かりますが、あと一人は誰だったけと思えばゼッポであり、宰相の秘書官役だから宰相や側近と並んで踊るのも、これはこれで整合性はとれているのかと。

 この作品は、グルーチョ演じるルーファスが独裁者に模されていて、ファシズムを痛烈に風刺した内容である一方、ひたすらナンセンスな笑いとアナーキーな風刺に徹したために(ギャクが当時としてしては先鋭的過ぎたのか)、後の高い評価とは裏腹に公開時には興行的に振るわず、そのため兄弟はパラマウントをクビになっています(グルーチョ・マルクス自身も、この作品は「狂気が過ぎている」と述べ、失敗作とみなしている)。

 その失業した4人を拾ったのが・スコット・フィッツジェラルドの遺作『ラスト・タイクーン』の主人公モンロー・スター(エリア・カザン監督による1976年の映画版では、ロバート・デ・ニーロがその役を演じた)のモデルとされる、メトロ・ゴールドウィン・メイヤー社(MGM)の映画プロデューサー、アーヴィング・タルバーグです。

「オペラは踊る」1.jpg 4人がMGMに移籍して最初に撮ったのがサム・ウッド監督の「オペラは踊る」('35年)でした(ゼッポはもう出ていないが)。そのあらすじは―

イタリアのミラノで大富豪の未亡人(マーガレット・デュモント)をたらしこんで、オペラのアメリカ巡業の資金を手に入れた詐欺師のドリフトウッド(グルーチョ・マルクス)は、一座を率いて意気揚々と米国行きの船に乗り込んだが、そこには無名歌手のひと癖ありそうなマネージャーと助手が入り込んでいて大騒動に。一座は、ようやっと米国に到着し、公演の初日を迎える―。

小林信彦.jpg マルクス兄弟のパラマウント時代の代表作が「我輩はカモである」であるとすれば、MGM時代の代表作はこの「オペラは踊る」であるのが一般的な評価かと思われますが、マルクス兄弟のファンとして知られる小林信彦氏などは、パラマウント時代の作品は高く評価していて「我輩はカモである」などは「名作」としているものの、MGM時代の作品は、「オペラは踊る」を含め、あまり評価していないようです(『地獄の観光船』('81年/集英社)など)。小林氏は、グルーチョ・マルクスは「オペラは踊る」を撮り終えたあたりでもう仕事を"投げた"としていました。

「オペラは踊る」3.jpg 個人的には、強い風刺と強烈なギャグで突っ走った「我輩はカモである」が興行的にコケたので、「オペラは踊る」でマイルドな作りに方向転換したのかなあと。船室に数えきれない人間が入り込むシーンは、バスター・キートンのアイデアによるものだそうですが、笑いの性質も少し違っているように思います。

淀川長治.jpg さらに、淀川長治はマルクス兄弟について「映画ではなく舞台である」と喝破しており、実際、彼らの初期の傑作は、舞台でのヴォードヴィル・コメディをほぼそのまま映画で再現したものであったとのこと(当時、スラップスティック・サイレント・コメディの有名なスターたちは、ヴォードヴィルやミュージック・ホールに出演したのちに映画産業に入った。チャップリン然り)。それが、MGMに移って、フツーの映画の撮り方になり、それまでより洗練されているものの個性は弱まって、ともすると他の多くの映画の中に埋没してしまうような作品が多くなっていったということではないでしょうか(「オペラは踊る」はまだいい方か)。

 バスター・キートンが辿った道と似ている印象を受けます。バスター・キートンも、自身の撮影所で撮るのを止め、MGMに移ってから完全にダメになりました。サイレントからトーキーに変わってダメになったのではなく、MGMに移って、パターナルな撮影方法になってしまいダメになったのです。

「我輩はカモである」p2.jpg「我輩はカモである」p.jpeg「我輩はカモである」●原題:DUCK SOUP●制作年:1933年●制作国:アメリカ●監督:レオ・マッケリー●製作:ハーマン・J・マンキーウィッツ(クレジット無し)●脚本:アーサー・シークマン/ナット・ペリン●撮影:ヘンリー・シャープ●音楽:ジョン・レイポルド●時間:68分●出演:グルーチョ・マルクス/チコ・マルクス/ハーポ・マルクス/ゼッポ・マルクス/マーガレット・デュモント/ルイス・カルハーン/ラクウェル・トレス/エドガー・ケネディ/エドモンド・ブリーズ/エドウィン・マクスウェル/ウィリアム・ウォーシントン/チャールズ・ミドルトン●日本公開:1934/01●配給:パラマウント映画●最初に観た場所:池袋文芸座ル・ピリエ(86-02-01)(評価:★★★★)●併映:「キートン 将軍」(バスター・キートン)

「オペラは踊る」4.jpg「オペラは踊る」p.jpg「オペラは踊る (マルクス兄弟 オペラは踊る)」●原題:A NIGHT AT THE OPERA●制作年:1935年●制作国:アメリカ●監督:サム・ウッド●製作:アーヴィング・タルバーグ(クレジット無し)●脚本:ジョージ・S・カウフマン/モリー・リスキンド●撮影:メリット・B・ガースタッド●音楽:ハーバート・ストサート●時間:96分●出演:グルーチョ・マルクス/チコ・マルクス/ハーポ・マルクス/キティ・カーライル/アラン・ジョーンズ/ウォルター・ウルフ・キング/シグ・ルーマン/マーガレット・デュモント●日本公開:1936/04●配給:メトロ・ゴールドウィン・メイヤー●最初に観た場所:ユーロスペース(84-01-29)(評価:★★★☆)●併映:「マルクスの二挺拳銃」(エドワード・バゼル)

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サウジ初の女性監督による、すべて国内で撮影し、すべてサウジ俳優が演じた初の映画。

少女は自転車に乗って.jpg 少女は自転車に乗って01.jpg ハイファ・アル=マンスール.jpg 
少女は自転車にのって [DVD]
少女は自転車に乗って02.jpg 10歳のおてんば少女ワジダ(ワアド・ムハンマド)は男友達のアブダラ(アブドゥルラフマン・アル=ゴハニ)と自転車競争をしたいのだが、厳格なイスラームの戒律と習慣を重んじる周囲の少女は自転車にのって1.jpg大人たちはワジダが自転車に乗ることにもアブダラと遊ぶことにも否定的だった。ある日、雑貨店できれいな自転車を見つ少女は自転車にのってes.jpgけたワジダは一目でその自転車を気に入ってしまう。なんとしてもその自転車を手に入れようとワジダはミサンガを売ったり秘密のアルバイトをしたりするが自転車代の800リヤルには届きそうもない。そんな時、学校でコーランの暗唱コンテストが行われることになり、優勝賞金が1000リヤルであることを知ったワジダはコンテストに参加することにする。外で遊ぶことが好きだったワジダはコーランが大の苦手だったが、優勝を目指して猛特訓する―。

Haifaa Al-Mansour
ハイファ・アル=マンスール2.jpg サウジアラビア出身の女性映画監督ハイファ・アル=マンスールの長編デビュー作で、2012年8月にヴェネツィア国際映画祭で初公開され、国際アートシアター連盟賞を受賞しました。サウジアラビア初の女性監督作品で、また、すべての撮影を国内で行い、すべての役柄をサウジの俳優が演じた初の長編映画と言われています。ハイファ・アル=マンスール監督自身は、夫のアメリカ人外交官と共にオーストラリアに移り、シドニー大学で映画学を学んだそうです。

少女は自転車にのってages.jpg 女性差別というものを描いている作品でありながら、その描き方は、主人公のおてんばの女の子ワジダと、彼女のことを想う(故にちょっかいを出したりする)年下の男の子アブダラとのやり取りを軸にした「幼い恋の物語」的に展開させているところが、規制をかいくぐる策ということもあるかと思いますが、上手いと思いました。ラストも良かったと思います(結局、この作品はサウジアラビアでは公開されなかった、と言うより、サウジではかつてはあった映画館そのものがその後禁止されてしまった)。

 ワジダが自転車購入費に充てるためにミサンガ作り以外に励んだ秘密のバイトに、FMアンテナで海外の音楽番組を録音してそれを売ったり、ラブレターの秘密の受け渡しを請け負ったりすることがありますが、こういうのも実際見つかるとサウジではまずいのでしょう。特に後者は、そもそも女性が男性に愛を告白するということがこの国では認められていません。自分の娘が結婚前によその男と話をしたことに怒ってその娘を殺害した父親が、"名誉殺人"として罪に問われなかったことがあったりした国ですからねえ。

WADJDA.jpg 別に彼女らは原始的な生活を送っているわけではなく、アパヤと呼ばれる黒衣の下にワジダが履いていたのはリーバイスのジーンズとコンバースのバスケットシューズだし、彼女はコーランを覚えるのに(自転車を買うためというのが皮肉が効いている)プレステのコーラン暗記アプリを使ったりしています。他の女の子も黒い服の下はファッショナブルであったりしますが、それを男に見られてはいけないということで(歌を歌っているのを聴かれてもいけない)、この男女間のことだけが不自然に厳しい国なのです。

 女性に選挙権は無く、女学校の教師や看護師以外の仕事は期待されておらず、結婚して花嫁となることが与えられた使命で、幼いうちに結婚相手を親などによって決められ、家庭の事情によっては生まれた子が女の子だったらすぐに他家に預けられてしまうといった、世界で最も女性が抑圧されている国の一つです。同じイスラム教国でも、マレーシアなどのように女性の社会進出率が40%と高い国もあり、こうした女性抑圧がイスラム教の教義は無関係なもので、為政者や男性社会が自らの優位性を保つためのものとしか考えられません。

サウジで女性がサッカー観戦.jpgサウジで約35年ぶりに映画館オープン.jpg こうした国の姿勢に対する国際的な女性人権団体からの批判などもあってか、2018年に入り、1月に、女性が男子プロサッカーの試合を観戦することが認められ、4月には、サウジで約35年ぶりに映画館オープンして男女が同席可能になり、6月には、これまで禁止してきた女性が自動車を運転することが認められるようになっています(この映画もこうした動きに寄与したらしい)。

ジャマル・カショギ殺害1.jpgジャマル・カショギ殺害2.jpg これで、サウジアラビアもどんどん変わっていくのかなと個人的には思った矢先、その年の10月にサウジアラビア人記者のジャマル・カショギ氏が在トルコ・サウジアラビア総領事館にて殺害される事件が起き(しかもかなり残忍な手口で)、この国の権力を握る者らの闇の部分を改めて見せつけられた思いがしました。結局、女性への抑圧を緩和したりするのも、さまざまな外からの批判をかわすためにやっているのではないかと思わざるをえません。皇太子が独裁を敷くというのも普通は考えにくいことですが、この映画でもそれを思わせる場面がいくつかあるように、男性主義でかつ長兄主義なのですね、この国は。

 女性が男性に何か命じることの出来ない国なので、この映画の撮影中もハイファ・アル=マンスール監督はクルマの中から指示を出し、かなりの部分は隠し撮りのような状況で撮影されたそうで、サウジの俳優が演じてはいるものの、資金もスタッフもドイツ、ドイツ人が主で、マンスール監督も海外に住み、本格的に映画を学んだのも海外の大学です(但し、映画館はないものの、家庭でのソフトの視聴は可能で、幼少期に子守り代わりとしてレンタル作品をたくさん見せられ、映画製作を志すようになったという)。

 中東アラブでは近年、女性の映画監督の進出が目立っているようですが、サウジアラビアはそもそも映画監督というものが国内にいません。この映画でずっと自転車に反対してたワジダの母親がラストで見せた"態度変容"のようにすっとはいかず、サウジアラビアが変わるにはまだまだ時間がかかるということでしょうか。

マンスール監督.jpg 因みに、アル=マンスールの「アル」はアラブ系やアラビア語に基づく名前につく冠詞で、「アル=マンスール」も「マンスール」もどちらも姓として正しいようです。これまで、例えば朝日新聞では表記上はアルを省くという取り決めをしていて、紙面でアルを省いている有名人としては、シリアのアサド大統領(外務省のサイトの表記では「バッシャール・アル・アサド」)、アルカイダの指導者ザワヒリ容疑者(ローマ字表記では「Ayman al-Zawahiri」)らがいます。また、下記のサイトのように、フルネームの際は「ハイファ・アル=マンスール」とし、姓だけの時は単に「マンスール」監督としている例もあり、ここではそれに倣って「ま行の監督」の範疇としました。

少女は自転車にのって:マンスール監督に聞く「サウジの女性が自分の人生を楽しめるような映画に」(MANTANWEB(まんたんウェブ)2013年12月21日)

少女は自転車にのって 8.jpg「少女は自転車にのって」●原題:WADJDA●制作年:2008年●制作国:サウジアラビア・ドイツ●監督・脚本:ハイファ・アル=マンスール●製作:ゲルハルト・マイクスナー/ローマン・ポールド●撮影:ルッツ・ライテマイヤー●音楽:マックス・リヒター●時間:98分●出演:ワアド・ムハンマド/リーム・アブドゥラ/スルタン・アル=アッサーフ/アブドゥルラフマン・アル=ゴハニ/アフド・カメル●日本公開:2009/09●配給:アルバトロス・フィルム●最初に観た場所:北千住・シネマブルースタジオ(18-08-07)(評価:★★★★)
アフド・カメル(女優・映画監督)/ワアド・ムハンマド

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「ベテラン社員は少し背中を押せばイキイキ動き出すようになる」。啓発的だった。

「ベテラン社員」がイキイキ動き出すマネジメント.jpg     マイ・インターン dcd.jpg マイ・インターン01.jpg
なんとかしたい! 「ベテラン社員」がイキイキ動き出すマネジメント』['16年]「マイ・インターン [DVD]」['15年]ロバート・デ・ニーロ/アン・ハサウェイ
「月刊 人事マネジメント」2018年6月号
「月刊 人事マネジメント」2018年6月号.JPG「ベテラン社員」がイキイキ動き出すマネジメント .jpg 人事マネジメント系の雑誌でも、「シニア社員 [戦力化] ノート」といった特集が組まれたりする昨今ですが、本書によれば、多くの企業で50歳代の非管理職層が年々増加していくなか、そうしたベテラン社員についての「モチベーションが低く職場の問題児になっている」「新たなスキル開発が進んでおらず、やれる仕事が限られている」「年下上司の言うことを聞かずに困っている」といった(これまでもあった)定番的な問題が、これまでは成果を出すのは難しいとして放置されてきてきたのが、もはや放置しておけない状況になってきているとのことです。本書はそうしたベテラン社員(40代後半から65歳で、部下と責任部署を持つ管理職でない人を想定)をどう活性化していくか、或いはまた、50歳目前から、60歳以降も働き続ける人が元気に職場で活躍する状態を、どうやって作りだしていくかをテーマとしたものです。

 まず序章において、そうした問題の背景や原因を分析し、ベテラン社員がイキイキと働くために必要なものとして以下の3つを挙げています。
  ①やりがいのある仕事
 ②信頼できる上司
 ③職場の人間関係

 そしてこれらを実現するための、ベテラン社を活性化させる5つのマネジメント・ステップとして次の5つのステップを掲げ、以 下第1章から第5章で、5つのステップのポイントを解説しています。
 [ステップ1]土台をつくる...向き合い、気づき、知り合う 
  [ステップ2]目標を設定する...「与える」から、「考えさせる」へ
 [ステップ3]心に火をつける...プライドをシフトする
 [ステップ4]達成に向け支援する...仲間として支援する
  [ステップ5]フィードバックする...感謝と期待を伝える

 第1章(ステップ1:土台をつくる)では、ベテラン社員一人ひとりが個性的な人生を歩んできたのであり、そうした相手を知るために「仕事年表」を作成してもらい、それを共有することで、相手の思いや真実を引き出すことを勧めています。

 第2章(ステップ2:目標を設定する)では、いきなり課題を与えるとベテラン社員は逃げていくとし、目標設定の前に会議を通して組織の未来を考えてもらい、その上で目標を個別に考えてもらうことを推奨しています。また、自身のマネジメントについてベテラン社員がどう思っているか、自身がフィードバックを受けることができれば、まさに本物であるとしています。

 第3章(ステップ3:心に火をつける)では、ベテラン社員の持つ自分へのプライドを、自分の仕事を守るためのネガティブなプライドから、志を達成するためのものへとシフトさせることが肝要であり、自問自答を通してそのための気づきを促す「自己探求シート」というものを用いた面談を提唱しています。

 第4章(ステップ4:達成に向け支援する)では、メンバーの能力を120%引き出すためには、メンバーに敬意を持ち、メンバーを「部下」という上下の関係ではなく、お互いの成長を支援できる「仲間」に進化させていくことで一体感をつくることが大切であるとしています。

 第5章(ステップ5:フィードバックする)では、ベテラン社員は褒められたいと思っているのではなく、期待されたりと感謝されたりすることがその行動を変えるとして、対象者への感謝や期待を本人にフィードバックするための「フィードバックシート」というものを例示しています。

 また、巻末には、ベテラン社員の活性化に取り組み、成果を出している企業例として、トヨタファイナンス、NTTコミュニケーションズ、テルモ、サトーホールディングスの4社について、その取り組みが紹介されています。

 マネジャーや人事担当者とベテラン社員との間に仕事や働き方に対する共通の理解を育むことで、ベテラン社員は少し背中を押すだけでイキイキ動き出すようになるというのは、たいへん啓発的であるように思いました。もやっとした話になりがちなところを、「仕事年表」「自己探求シート」などのツールが紹介されていて、やるべきことが「見える化」されているのは良かったように思います。ただし、あくまでもそれらはツールであって、マネジャーや人事担当者が本書に書かれていることを実践するに際しては、個々人に相応のヒューマンスキルが必要になってくるようにも思いました。「ベテラン社員」問題が先送りされているような企業の人事担当者は、読んでおくのもいいのではにでしょうか。
        
マイ・インターン s.jpg ナンシー・マイヤーズが監督・脚本・製作を担当し、ロバート・デ・ニーロとアン・ハサウェイが主演を務めた「マイ・インターン」('15年/米)という映画がありました。ニューヨークでファッション通販サイトを運営している女社長のジュールズ(アン・ハサウェイ)が、短期間で会社を拡大させることに成功し、そんな彼女の会社に、社会貢献の一環としてのマイ・インターン2.jpgシニア・インターン制度で採用された70歳の老人ベン(ロバート・デ・ニーロ)がやってきて、ジュールズは最初から本気でベンに仕事を任せる気はなく、ベンも最初は若者ばかりの職場で浮いた存在だったが、いつしか彼はその誠実で穏やかな人柄によって社内の人気者になっていき、さらには公私にわたって困難の壁に直面したジュールを支える大きな柱になっていくという話でした。

マイ・インターン ド.jpg 何と言ってもコメディ映画であるし、ロバート・デ・ニーロ演じるベンは70歳ながら「背中を押す」どころか何も指示されなくても社内を変えていく"スーパー老人"的存在ですが、最初からシニアは使えないと思い込まないこと、また、当のシニア自身も人が与えてくれるのを待つのではなく自分から努力しなければならないということを示唆しているという意味では教訓的だったかもしれません(身だしなみに気を使っていたなあ)。

 基本的には予定調和のストーリーは予測の範囲内なので、ロバート・デ・ニーロとアン・ハサウェイという世代の異なる二人の演技派俳優の演技を楽しむ映画として観ましたが、ロバート・デ・ニーロは、同じコメディ映画であるデヴィッド・O・ラッセル監督の「世界にひとつのプレイブック」('12年/米)でジェニファー・ローレンスと共演し(ジェニファー・ローレンスはこの作品でアカデミー主演女優賞をジェニファー・ローレンス『世界にひとつのプレイブック』.jpg受賞、ロバート・デ・ニーロも助演男優賞にノミネートされた)、この「マイ・インターン」では、ジェニファー・ローレンスと同時に「レ・ミゼラブル」('12年/英)でアカデミー女演女優賞を受賞したアン・ハサウェイと共演と、積極的に演技派女優と共演しているのがスゴイなあと思います。相手もロバート・デ・ニーロとの共演を名誉なこととして望むのでしょう。アン・ハサウェイはロバート・デ・ニーロとの対談で「あなたは伝説です」と述べているし、また、撮影所でもロバート・デ・ニーロは謙虚で、全然偉ぶってなかったと言っています。ロバート・デ・ニーロ自身がまさに理想のシニアといったところでしょうか(レネ・ルッソが、個人的には「アウトブレイク」('95年)以来20年ぶりで懐かしかった)。

マイ・インターン(字幕版)
マイ・インターン 3.jpgマイ・インターン dcd.jpg「マイ・インターン」●原題:THE INTERN●制作年:2015年●制作国:アメリカ●監督・脚本:ナンシー・マイヤーズ●製作:ナンシー・ママイ・インターン  s.jpgイヤーズ/スザンヌ・ファーウェル●撮影:スティーヴン・ゴールドブラット●音楽:セオドア・シャピロ●時間:121分●出演:ロバート・デ・ニーロ/アン・ハマイ・インターン .jpgサウェイ/レネ・ルッソ/アンダーズ・ホーム/ジョジョ・クシュナー/アンドリュー・ラネルズ/アダム・ディヴァイン/ザック・パールマン/ジェイソン・オーリー/クリスティーナ・シェラー●日本公開:2015/10●配給:ワーナー・ブラザース(評価:★★★☆)

「アウトブレイク.jpgアウトブレイク」レネ・ルッソ.bmp会社専属マッサージ師フィオナ=レネ・ルッソ(「アウトブレイク」('95年))/ロバート・デ・ニーロ

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渋くてカッコいい、そしてどこか物悲しいアラン・ドロン像を確立した作品。

サムライ 00.jpgサムライ ドロン _.jpg サムライ ドロンdvd1.jpg サムライ ドロン dvd2_.jpg サムライ ドロン_.jpg
サムライ(字幕版)」「サムライ [DVD]」「サムライ [DVD]」「映画パンフレット 「サムライ」 監督/脚色 ジャン・ピエール・メルビル 出演 アラン・ドロン/ナタリー・ドロン/カティ・ロジエ/フランソワ・ペリエ/ジャック・ルロワ

サムライ1.jpg 殺し屋のジェフ・コステロ(アラン・ドロン)は、コールガールの恋人ジャーヌ(ナタリー・ドロン)にアリバイを頼むと、仕事場のクラブへ向った。ジェフの仕事はクラブの経営者を殺すことであり、仕事はいつものように寸分の狂いもなく完了するが、廊下で黒人歌手バレリー(カティ・ロジエ)に顔を見られてしまう。警察は動き出し、クラブの客や目撃者の証言で、ジェフも署に連行され、面通しが行なわれた。目撃者の大半は、ジェフが犯人だと断定するが、バレリーサムライ2.jpgだけはなぜかそれを否定し、アリバイのあるジェフは釈放される。だが、主任警部(フランソワ・ペリエ)は依然ジェフが怪しいと睨み、尾行を付ける。ジェフは巧みに尾行を巻くと、仕事の残金を受けとるために、殺しの依頼を取りついだ金髪のサムライ3.jpg男(ジャック・ルロワ)と会うが、男はいきなり巻銃を抜いて、ジェフは左手を傷つけられる。残金を貰えぬどころか殺されそうにさえなったジェフは、殺しの依頼主を突きとめるべく、偽証をして彼を庇ってくれたバレリーを訪れっサムライages.jpgるが、バレリーの口は堅かった。やむなく帰ったジェフの部屋に金髪の男がいて、男はうって変た態度で殺しの残金を渡すと、新しい仕事を依頼する。ジェフは、隙をみて男に飛びかかり、巻銃を突きつけ依頼主の名を聞き出す。大掛かりな尾行網をぬけジェフは、男から聞き出したオリエビ(ジャン=ピエール・ポジェ)なる依頼主を訪ね、射殺する。オリビエの部屋はバレリーのすぐ隣であり、オリビエはバレリーを通じて自分の正体がばれるのを恐れて、バレリー殺しをジェフに依頼したのだった。クラブでピアノを弾くバレリーの前にジェフが現われ、ジェフが拳銃を握った瞬間―。

サムライ4.jpg 1967年公開のジャン=ピエール・メルヴィル監督のフレンチ・フィルム・ノワールで、アラン・ドロンが侍を思わせる暗殺者を演じ、ウォルター・ヒル監督の「ザ・ドライバー」('78年/米)から北野武監督の「ソナチネ」('93年/松竹)まで後世の多くの作品に影響を与えたとされる作品であり、ナタリー・ドロンの映画デビュー作品でもあります。但し、何と言ってもアラン・ドロンの映画であり、ジャン=ピエール・メルヴィル監督はこの作品の後もアラン・ドロンと組んで、「仁義」('70年/仏)、「リスボン特急」('72年/仏・伊)を撮っていますが、この「サムライ」と「仁義」が佳作ではないかと思います。

サムライes.jpg 例えば、冒頭のアラン・ドロン演じるジェフが、車を盗む際に持ち合わせたキーの束にを選ぶシーンなどは、派手さは無いですが緊張感があり、ジェフがメトロを乗り継いで女性警察官の尾行を巻くシーンなどもそうです。そう言えば、1つ1つのシーンをじっくり撮っていて、ジェフが警察で容疑者として"面通し"を受けるシーンや、金髪サムライges.jpgの男に撃たれた左手の傷を自力で治療するシーン、或いは、刑事たちがジェフの部屋に盗聴器を仕掛けるシーンなども、"普通の映画"的に短縮したり割愛したりせず、リアルタイムで撮っています。それが"冗長感"とならず"緊張感"に繋がっているところに、この監督の持ち味があるように思いました。

サムライ ドロンs.jpg三島由紀夫.jpg ジェフの描き方もいいです。彼自身は無口ではあるが、飼っている小鳥を心の友としているようでもあり("侵入者センサー"としても飼っていた?)、三島由紀夫がこの作品を絶賛しつつ指摘したように、主人公はニヒリストではないということでしょう。むしろ、ナタリー・ドロン演じる恋人ジャーヌへの優しい想いを抱き、また、カティ・ロジ演じる自分を庇ってくれたバレリーにも恋愛感情に似た想いを抱いたのではないでしょうか。

Le Samouraï 1967 Alain Delon and Cathy Rosier.jpg 彼は、自分を裏切った雇い主に対してきっちり落とし前をつける一方で、バレリーに対しては、ラサムライ 1967mw7.jpgストで「借り」を帳消しにしたとも言えます。また、「武士道とは死ぬことと見つけたり」言いますが、ラストで、バレリーがいるクラブに入っていく際に、クロークの女性(カトリーヌ・ジュールダン)から預かり札を受け取っていないことから、死に場所を求めていた風にもとれます。
Samurai (1967)
サムライ@._V1_.jpgSamurai (1967).jpg 原題も"Le Samouraï"。映画の始めに「サムライの孤独ほど深いものはない。ジャングルに生きるトラ以上にはるかに孤独だ」という『武士道』からという文句が出てきますが、実はメルヴィルが創作した言葉のようです。アラン・ドロンは脚本が気に入ってすぐに出演のオファーを受諾したそうですが、このジェフ役を演じることで、渋くてカッコいい、そしてどこか物悲しいアラン・ドロン像を確立したように思います。アラン・ドロンが後に、自らが化粧品ブランドを立ち上げた際に、香水に「サムライ」の名前を付けていることから、アラン・ドロン自身この作品をかなり気に入っていたのではないかと思われます。

サムライs.jpg「サムライ」●原題:LE SAMOURAI●制作年:1967年●制作国:フランス●監督・脚本:ジャン=ピエール・メルヴィル●製作:ジョルジュ・カサティ●撮影:アンリ・ドカエ●音楽:サムライ カティ ・ロジェ.jpgフランソワ・ド・ルーベ●原作:アゴアン・マクレオ●時間:105分●出演:アラン・ドロン/フランソワ・ペリエ/ナタリー・ドロンカティ・ロジェ/ジャック・ルロワ/ミシェル・ボワロン/アンドレ・サルグ(ガレ)/ロベール・ファヴァール/ジャン=ピエール・ポジェ/カトリーヌ・ジュールダン/ロジェ・フラデ/カルロ・ネル/ロベール・ロンド/アンドレ・トラン /ジャック・デシャン/ピエール・ヴォディエ●日本公開:1968/03●配給:日本ヘラルド映画(評価:★★★★)
カティ・ロジェ in「サムライ」 
カティ・ロジェ.jpgナタリー・ドロン
ナタリー・ドロン.jpg

《読書MEMO》
●三島由紀夫の「サムライ」評
「『サムライ』は、沈黙と直感と行為とを扱った、非フランス的な作品で、言葉は何ら重要ではなく、情感は久々の濡れたようなパリの街の描写をアラン・ドロンの哀愁に充ちた目で尽くしている。この映画が殺し屋の沈黙の中に充填したエネルギーは、たしかに密度が高い。それは何らニヒリズムではない。情熱でもない。キリッとした、手ごたえのある、折目節目の正しい行動の充実感である」(三島由紀夫『映画論集成』より(原典「若きサムライのための精神講話」―「PoketパンチOh!」(昭和43年~昭和44年))

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エノケンと柳家金語楼の「江戸っ子だってねぇ」「神田の生まれよ」の掛け合いが見所か。

エノケンの森の石松 vhs1.jpg エノケンの森の石松 yanagiya .jpg
「エノケンの森の石松」VHS        柳家金語楼/榎本健一 リンク「石松三十石船道中

エノケンの森の石松 vhs2.jpg 清水次郎長(鳥羽陽之助)の子分・森の石松(榎本健一)は、次郎長親分に呼ばれ、親分の代参で讃岐の金比羅宮に刀と奉納金50両を納めに行くことを命じられる。小遣いに30両を別に持たせるというが、但し道中いっさい酒を飲んではならないと言われ、酒好きの石松は断りかける。しかし、誰も見ている者はいないという仲間の入れ知恵で、次郎長親分には言いつけを守ると言って引き受ける。恋人の茶店のお夢(宏川光子)にしばしの別れを告げ、お夢から貰った肌守りを懐に旅に出る石松。金比羅宮で無事に代参を済ませた帰路、草津の追分に身受山の謙太郎(北村武夫)を訪ねて一宿の仁義を切り、親分への百両の香典を親分へと託される。その翌日、幼い頃から兄貴分だった小松村の七五郎(柳田貞一)を訪ねる道すがら都鳥の吉兵衛(小杉嘉男)に偶然出逢い、吉兵衛の家に草履を脱ぐことに。しかし、吉兵衛の狙いは石松の持つ百両であり、石松は吉兵衛兄弟の騙し討ちに遭って重傷を負う。何とか危地を脱し、一旦は七五郎とその女お民(竹久千恵子)の住家に匿われた石松だったが―。

エノケンの森の石松zj.jpeg 「エノケンの森の石松」('39年/東宝東京)は中川信夫(1905-1984)監督による1939(昭和14)年5月公開作。原作は「エノケンの法界坊」('38年)の脚本も手掛けた和田五雄ですが、冒頭、2代目広沢虎造(1899-1964)の浪曲で始まり、途中でも何度か虎造の口演が入ることからも窺えるように、浪曲「清水次郎長伝」の中の「石松金比羅代参」などをオーソドックスになぞっています。

「エノケンの森の石松」公開時(1939.8.15)チラシより

 個人的には、吉兵衛兄弟との結構本格的な剣戟シーンがあるのが意外だったでしょうか。まあ、エノケンの運動神経ならば剣戟くらいは充分にこなしたのかもしれませんが、「石松金比羅代参」などを知って観ている人は、これが石松の最期に繋がるものであることを知っているため、エノケン喜劇には珍しくやや悲壮感も感じられるかもしれません。石松が都鳥の吉兵衛に殺害されたのは1860年7月と言われ、清水次郎長こと山本長五郎(1820-1893)は翌1861年1月に駿河国江尻追分で都鳥の吉兵衛こと都田吉兵衛を仇討ちにしています。

エノケンの森の石松  21.jpg 喜劇的要素の面での見所は、浪曲「清水次郎長伝」の中の「石松三十石船道中」から引いた例の「飲みねぇ、飲みねぇ、鮨を食いねぇ、江戸っ子だってねぇ」「神田の生まれよ」で知られる石松と江戸ッ子留吉(柳家金語楼)との掛け合いです。船客同士で街道一の親分は誰かと言う話題になって、「身受山の謙太郎」の名前が挙がったところへ留吉がケチをつけ、「清水の次郎長」と言おうとしますが思い出せず、「国定村の...」とか言ってしまいます(史実では国定忠治は1851年に刑死している)。やっと次石松三十石船道中」 広沢虎造ド.jpg郎長の名を思い出したところへ、今度は同じ船に乗っていた次郎長の子分の中で一番強いのは誰だか知ってっか」と問うて自分の名を導き出そうとするがなかなか石松の名が出てこない―。定番であるだけに喜劇俳優同士"両雄"競演の様相も呈していますが、金語楼って味があって上手いなあと思わせます。この場面などは、この作品で前振りの口上を述べている2代目広沢虎造の浪曲がネットで聴けたりするので、比較してみると面白いかもしれません。エノケンは遣り取りの最後に得意のアクションも加えています。

「清水港」1939.jpg 因みに、マキノ正博監督の「清水港代参夢道中(続清水港)」('40年/日活)は、現実の世界で「森の石松」の舞台の監続清水港 kataoka .jpg督をしている男・石田勝彦(片岡千恵蔵)が夢の世界でタイムスリップして自身が「石松」になってしまうというパロデイです。この映画での例の「三十石船」の場面では広沢虎造自身が浪花節語りの船客役(現実の世界では舞台の照明係役)で出演しており、片岡千恵蔵と掛け合いをしています。タイトルから"夢落ち話だと分かってしまい、タイムスリップした当事者が歴史の真実を知っているというのもタイムスリップものの定番ですが、それでも惹き込まれるのは「続清水港」daf.jpg続清水港 片岡.jpg、マキノ正博の演出の上手さのためか、小国英雄(1904-1196)の脚本の上手さのためか、或いは森の石松という素材の面白さのためでしょうか(小松村の七五郎を志村喬が演じていて、これも現実世界での劇場専務役との1人2役)。


「清水港代参夢道中(続清水港)」('40年/日活)
片岡千恵蔵・志村喬・轟夕起子・澤村アキヲ(子役・長門裕之)・広沢虎造

 この「エノケンの森の石松」では、浪曲の「石松と見受山鎌太郎」に該当するシーンがすっぽり抜けていて、これは当初あった巻が一部逸失したのでしょう。57分となっていますが、元は74分あったらしいです。石松が身受山の謙太郎を訪ねたのは「三十石船道中」でその名を知ったためで、鎌太郎が7年前に次郎長の妻・お蝶が亡くなった時の香典をまだやっていないとのことで百両の香典を石松に託すというもの。この金が石松の命取りになるわけですが、見受山の鎌太郎のシーンが抜けているため、50両を代参奉納した石松がなぜ100両持っているのかが分かりにくい気がしました。この辺りのエノケン作品は、年3本から5本くらいと量産している割には、スタイル的には出来上がっていて一定のレベル以上にあるものが多く、むしろフィルムがどれくらい完全な形で残っているかが評価の分かれ目になってしまう印象も受けます。そうした意味では、この作品などは逸失部分があるために繋がりがスムーズでないことが残念です。

「続次郎長富士」('60年/大映)勝新太郎
続次郎長富士(1960) suti-ru.jpg 但し、その後、森繁久彌、中村錦之助、勝新太郎など多くの役者が森の石松を演じるようになる中で(美空ひばりまで演じた)、喜劇俳優である榎本健一によって比較的早い時期に演じられたものであるということで、観る機会があれば観ておくのもいいのでは。ウィキペディアに拠れば、この「エノケンの森の石松」以降で森の石松が映画の中で題材となった作品は40作近くあるのに、「エノケンの森の石松」以前で森の石松が映画の題材となったのは前年の大河内傳次郎が石松をやった「清水次郎長」('38年/東宝)しかないことになっていますが、実際には無声映画時代から直前の羅門光三郎の「金毘羅代参 森の石松」('38年/新興キネマ)までエノケン以前にも石松を演じた役者はもっといます。
 
大村千吉(石松)・大河内傳次郎(次郎長)・横山運平・千葉早智子(お蝶)
清水次郎長1.jpg清水次郎長(1938年)oomura .jpg その萩原遼監督、大河内傳次郎主演の「清水次郎長」('38年/東宝)は、次郎長と森の石松の出会いの頃を描いたもので、大河内傳次郎が演じる次郎長はまだ駆け出し時代(というよりヤクザから足を洗って堅気暮らしをしている)、大村千吉が演じる石松に至ってはまだ全くの少年であり、子分にして欲しいとすがる石松少年に対し、次郎長の方は石松を清水次郎長vhsvhs_ura.jpg何とか堅気にしよう商家に丁稚奉公させたりするなど骨を折るというものです。身寄りのない石松を不憫に思い、次郎長とともに何かと面倒をみるのがお蝶(千葉早智子)で、彼女がやがて次郎長の妻になるわけですが、そこまでは描かれていません。だた、結局石松が堅気にならないのは観る側も分かっているだけに、この話ちょっと引っ張り過ぎた印象も。石松が使い込みをやってしまって、次郎長は自らを頼ってきた駆け落ち男女に逃亡資金を施したばかりで手元に金が無かったため、以前助太刀をしてやったやくざの保下田久六(鳥羽陽之助)の所へ、その時は受け取らなかった礼金を貸してはくれまいかと頼みに行くが拒否され、やがて久六によって自分が助けた者を殺害された次郎長は久六を仇討ちにする―という「桜堤の仇討ち」をモチーフとしてものとなっています。実際にはこの間にお蝶は病いを得て(次郎長が久六に金を借りに行ったのは家が貧しく金の無かったお蝶を医者にみせるため)亡くなっており(次郎長が森の石松を讃岐の金毘羅様へお礼参りの代参に出すのはその7年後)、金を貸すのを断った久六は、亡くなる前に次郎長の妻になっていたお蝶の葬式にも顔を見せなかったいう伏線があるのですが、映画では、久六討ちを果たした後、次郎長・石松・お蝶(生きている)で一緒に清水に帰るような終わり方になっています。半ば過ぎまではやや悠長な展開だったのが、終盤は若干ペースアップしたという感じでしょうか。最後は活劇調で、大河内傳次郎ならではの剣戟となりますが、大河内傳次郎が剣戟をやると、清水次郎長と言うより丹下左膳に見えてしまうのは先入観のためでしょうか。

続次郎長富士(1960) .jpg 最近観直してまあまあ楽しめたのが、森一生監督、八尋不二脚本の「続次郎長富士」('60年/東映)で、これは前年に公開された「次郎長富士」の続編です。本作では富士川の決戦の直後から石松の弔い合戦までが描かれていて、出演者には長谷川一夫、市川雷蔵、勝新太郎など前作と同じメンバーが顔を揃えていますが、役どころは一部変更されています。
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ZOKUJIROTYOFUJI1960.jpg 黒駒の勝蔵を倒して清水へ引上げてきた次郎長(長谷川一夫)に、新たな押しかけ子分の小松村の七五郎(本郷功次郎)が待っていた。石松(勝新太郎)と七五郎は、桝川の仙右衛門(中村豊)の仇討を買って出、八角一家を斬りまくり、次郎長の命で旅に出る。七五郎は旧友のお役者の政(月田昌也)に会い、政の女出入りの傍杖を喰った。反次郎長派の親分平続次郎長富士ド.jpg親王の勇蔵(石黒達也)は、政のまちがいを利用し、次郎長陣営の仲間割れを図る。勇蔵の背後には、黒駒の弟分黒竜屋の亀吉(香川良介)や坂東の新助(見明凡太朗)らが糸を引いていた。石松の報告で彼らの奸計を知った次郎長は、二十八人衆を連れて勇蔵の家へ乗り込む。大喧嘩が予想されたが、青年代官の山上藤一郎(市川雷蔵)の裁きで治まった。次郎長と別れた石松は、三河の為五郎(荒木忍)から次郎長へ二百両の金を預って帰途につく。が、その二百両を道で会った都鳥の吉兵衛(杉山昌三九)に貸してしまう。折から都鳥にワラジを脱いだ新助たちが、吉兵衛をそそのかし石松をだまし討ちにかけた。石松は手傷を負い、一度七五郎の家に逃げこんだが、また躍り出して殺される。勇蔵が都鳥兄弟を匿い、吉兵衛を追って来た小政(鶴見丈二)も生捕りにされるハメになる。勇蔵は小政を生きながら棺桶へ入れて清水へ送り、石松の死骸を引取りたいなら次郎長一人で来いと言う―。

「続次郎長富士」('60年/大映)中村玉緒・勝新太郎
続次郎長富士 勝新太郎.jpg 旅の途中の石松(勝新太郎)に絡んでくるのがお亀(中村玉緒)で、この2人はこの共演の2年後に結婚します。中村玉緒は当時20歳で、父は「」('59年/大映東京)、「小早川家の秋」('61年/東宝)の2代目中村鴈治郎。中村玉緒も10代半ばで映画界入りしており、この時点で8歳年上の勝新太郎よりも映画への出演本数は圧倒的に多かったようです(この「続次郎長富士」と同年の出演作「大菩薩峠」('60年/大映)でブルーリボン助演女優賞を受賞している)。勝新太郎の方はまだ売り出し途上で、この作品でも長谷川一夫はもとより、市川雷蔵よりもずっと格下で、本郷功次郎とどっこいどっこいの扱いであるのが分かって興味深いです。序盤はむしろ小松村の七五郎を演じた本郷功次郎の方が目立っていたでしょうか(小松村七五郎が石松の「弟分」として描かれている)。それを、石松の最期のところで勝新太郎が盛り返したといった感じでしょうか。でも、結局最後は、次郎長の1対何百人(?)かの大殺陣で長谷川一夫がおいしいところを全部持っていってしまうのですが。市川雷蔵と根上淳の青年代官vs.刺客対決なんていうのもあったりして、まあ飽きさせない展開ではありました。
 
エノケンの森の石松 vhs3.jpg「エノケンの森の石松」●制作年:1939年●監督:中川信夫●脚本:小林正●撮影:唐沢弘光●音楽:栗原重一●口演:広沢虎造●原作:和田五雄●時間:72分(現存57分)●出演:榎本健一/竹久千恵子1937sep.jpg竹久千惠子エノケンの森の石松1935aug.jpg鳥羽陽之助/浮田左武郎/松ノボル/木下国利/柳田貞一/北村武夫/小杉義男/斎藤勤/近藤登/梅村次郎/宏川光子/竹久千恵子/柳家金語楼●公開:1939/08●配給:東宝(評価:★★★)
竹久千恵子(1937年:雑誌「映画之友」九月號/1935年:雑誌「日の出八月號附録:映画レビュー夏姿寫眞帖」)
 
続清水港  .jpg「清水港代参夢道中(続清水港)」●制作年:1940年●監督:マキノ正博●脚本:小国英雄●撮影:石本秀雄●音楽:大久保徳二郎●原作:小国英雄●時間:96分(現存90分)●出演:片岡千恵蔵/広沢虎造/沢村国太郎/澤村アキヲ/瀬川路三郎/香川良介/清水港 代参夢道中17shimizu.jpg清水港代参夢道中(続清水港)e.jpg志村喬/上田吉二郎/団徳麿/小川隆/若松文男/前田静男/瀬戸一司/岬弦太/大角恵摩/石川秀道/常盤操子/轟夕起子/美ち奴●公開:1940/07●配給:日活(評価:★★★☆)

大河内傳次郎(清水次郎長)
清水次郎長vhs_vhs.jpg清水次郎長2.jpg「清水次郎長」●制作年:1938年●監清水次郎長3.jpg督:萩原遼●製作:青柳信雄●脚本:八住利雄●撮影:安本淳●音楽:太田忠●原作:小島政二郎●時間:87分●出演:大河内傳次郎/大村千吉/鳥羽陽之助/横山運平/清川荘司/小杉義男/鬼頭善一郎/山口佐喜雄/永井柳太郎/河村弘千葉早智子s4.jpg二/千葉早智子/一の宮敦子/音羽久米子/山岸美代子●公開:1938/09●配給:東宝映画(評価:★★★)

千葉早智子(お蝶)

根上淳(用心棒・無明の仙人)/市川雷蔵(代官・山上藤一郎)  
続次郎長富士 NL.jpg続次郎長富士6.gif「続次郎長富士」●制作年:1960年●監督:森一生●製作:三浦信夫●脚本:八尋不二●撮影:牧田行正●音楽:小川寛興●時間:108分●出演:長谷川一夫/市川雷蔵/勝新太郎/本郷功次郎/月田昌也/根上淳/北原義郎/鶴見続次郎長富士(1960)03.jpg丈二/林成年/舟木洋一/中村豊/小林勝彦/近藤美恵子/阿井美千子/中村玉緒/毛利郁子/浜田雄史/石黒達也/香川良介/見明凡太朗/伊達三郎/越川一/光岡龍三郎/志摩靖彦/原聖四郎/東良之助/寺島雄作/小町瑠美子/美川純子/杉山昌三九/千葉敏郎/水原浩一/清水元津/南部彰三/佐々十郎/楠トシエ/寺島貢/羅門光三郎/尾上栄五郎/荒木忍/浜世津子/伊沢一郎市川雷蔵(代官・山上藤一郎).png続次郎長富士s.jpg/南条新太郎●公開:1960/06●配給:大映(評価:★★★☆)                                   
    
市川雷蔵(代官・山上藤一郎)/勝新太郎(森の石松)

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'読むだけでも楽しめるが、(巧みな語り口に乗せられて)まだ観ていない映画を観たくなる本。

私の映画の部屋_.jpg 私の映画の部屋.jpg  めぐり逢い dvd.jpg 魚が出てきた日 dvd.jpg
私の映画の部屋 (文春文庫)』「めぐり逢い [DVD]」「魚が出てきた日 [DVD]」 
私の映画の部屋―淀川長治Radio名画劇場 (1976年)

 この「私の映画の部屋」シリーズは、70年代にTBSラジオで月曜夜8時から1時間放送されていた「淀川長冶・私の映画の部屋」を活字化したもので、1976(昭和51年)刊行の本書はその第1弾です。著者の場合、1966(昭和41)年から始まったテレビ朝日系「日曜洋画劇場」(当初は「土曜洋画劇場」)の解説者として番組開始から死の前日までの32年間出演し続けたことでよく知られていますが、先行した当ラジオの方は、番組時間枠の内CM等を除く40分が著者の喋りであり、それを活字化した本書では、「日曜洋画劇場」でお馴染みの淀川長治調が、より長く、また、より作品中身に踏み込んだものとして楽しめます。

 本書の後、シリーズ的に、続、続々、新、新々と続きますが、この第1弾の単行本化時点で既に140回分が放送されており、その中から13回分を集めて本にしたとのことで、「チャップリンの世界」から始まって、かなりの選りすぐりという印象を受けます(但し、どの回を活字化するかは版元のTBSブリタニカが決めたとのこと)。

「めぐり逢い」1957G.jpg 個人的には、昔は淀川長冶ってそれほどスゴイとは思っていなかったのですが、今になってやはりスゴイ人だったんだなあと思ったりもします。作品解説もさることながら、作品を要約し、その見所となるポイントを抽出する技は絶妙という感じです。本書で言えば、例えば、レオ・マッケリー監督、ケーリー・グラント、デボラ・カー主演の「めぐり逢い」('57年、原題:An Affair to Remember)のラストシーンのエンパイアステートビルで出会えなかった2人が最後の最後に出会うシーンの解説などは、何だか今目の前に映画のスクリーンがあるような錯覚に陥りました。この映画、最初観た時はハーレクイン・ロマンスみたいと思ったけれど、今思えばよく出来ていたと(著者に指摘されて)思い直したりして...。これ自体が同じレオ・マッケリー監督作でシャルル・ボワイエ、アイリーン・ダン主演の「邂逅(めぐりあい)」('39年、原題:Love Affair)のリメイクで(ラストを見比べてみるとその忠実なリメイクぶりが窺える)、その後も別監督により何度かリメイクされています。トム・ハンクス、メグ・ライアン主演の「めぐり逢えたら」('98年)では、邂逅の場所をエンパイアステートビルがら貿易センタービルに変えていましたが、何とオリジナルにある行き違いはなく2人は出会えてしまいます。これでは著者の名解説ぶりが発揮しようがないのではないかと思ってしまいますが、でも、あの淀川さんならば、いざとなったらそれはそれで淀川調の解説をやるんでしょう。

幸福 [DVD]
幸福 ps.jpg幸福 DVD_.jpg 章ごとに見ていくと、「女の映画」の章のアニエス・ヴァルダ監督の「幸福(しあわせ)」('65年)、フランソワ・トリュフォー監督の「黒衣の花嫁」('68年)とトニー・リチャードソン監督「マドモアゼル」('66年)が、著者の解説によって大いに興味を惹かれました。「幸福」は、夫の幸福のために自殺する妻という究極愛を描いた作品。「黒衣の花嫁」は、結婚式の場で新郎を殺害された新婦の復讐譚。「マドモアゼル」は周囲からはいい人に見られているが、実は欲求不満の捌け口をとんでもない事に見出している女教師の話。「ルイ・マル」の章の「死刑台のエレベーター」('57年)、「黒衣の花嫁 DVD.jpgマドモアゼル DVD.jpg恋人たち」('58年)もいいけれど、「黒衣の花嫁」「マドモアゼル」共々ジャンヌ・モロー主演作で、ジャンヌ・モローっていい作品、スゴイ映画に出ている女優だと改めて思いました。
黒衣の花嫁 [DVD]」「マドモアゼル [DVD]

昨日・今日・明日.jpg昨日・今日・明日P.jpgひまわり ポスター.bmp イタリア映画では、ビットリオ・デ・シーカの「昨日・今日・明日」('63年)、「ひまわり」('70年)に出ているソフィア・ローレンがやはり華のある女優であるように思います(どちらも相方はマルチェロ・マストロヤンニだが、片や喜劇で片や悲劇)。
「昨日・今日・明日」輸入版ポスター
 
魚が出てきた日7.jpg魚が出てきた日ps2.jpg あと個人的には、「ギリシア映画」の章のマイケル・カコヤニス製作・脚本・監督の「魚が出てきた日」('68年)が懐しいでしょうか。スペイン沖で核兵器を積載した米軍機が行方不明になったという実際に起きた事件を基にした、核兵器を巡ってのギリシアの平和な島で起きた放射能汚染騒動(但し、島の地元の人たちは何が起きているのか気魚が出てきた日3.jpgづいていない)を扱ったブラックコメディで、ちょっと世に出るのが早すぎたような作品でもあります。
1968年初版映画パンフレット 魚が出てきた日 ミカエル・カコヤニス監督 キャンディス・バーゲン トム・コートネー コリン・ブレークリー
THE DAY THE FISH COME OUT 1967  c.jpg トム・コートネイ、サム・ワナメイカー、キャンディス・バーゲンが出演。キャンディス・バーゲンって映画に出たての頃からインテリっぽい役を地でやっていて、しかも同時に、健康的なセクシーさがありました。

Candice Bergen in 'The Day The Fish Came Out', 1967.

 読むだけでも楽しめますが、(巧みな語り口に乗せられて)まだ観ていない映画を拾って観たくなる、そうした本でした。
     
「めぐり逢い」1957ps.jpg「めぐり逢い」1957EO.jpg「めぐり逢い」●原題:AN AFFAIR TO REMEMBER●制作年:1957年●制作国:アメリカ●監督:レオ・マッケリー●製作:ジェリー・ウォルド●脚本:レオ・マッケリー/デルマー・デイヴィス/ドナルド・オグデン・ステュワート●撮影:ミルトン・クラスナー●音楽:ヒューゴ・フリードホーファー●原案:レオ・マッケリー/ミルドレッド・クラム●時間:119分●出演:ケーリー・グラント/デボラ・カー/リチャード・デニング/ネヴァ・パターソン/キャスリーン・ネスビット/ロバート・Q・ルイス/チャールズ・ワッツ/フォーチュニオ・ボナノヴァ●日本公開:1957/10●配給:20世紀フォックス●最初に観た場所:高田馬場・ACTミニシアター(85-11-03)(評価:★★★☆)●併映:「ティファニーで朝食を」(ブレイク・エドワーズ)

SLEEPLESS IN SEATTLE.jpgめぐり逢えたら 映画 dvd.jpg「めぐり逢えたら」●原題:SLEEPLESS IN SEATTLE●制作年:1993年●制作国:アメリカ●監督:ノーラ・エフロン●製作:ゲイリー・フォスター●脚本:ノーラ・エフロン/デヴィッド・S・ウォード●撮影:スヴェン・ニクヴィスト●音楽:マーク・シャイマン●原案:ジェフ・アーチ●時間:105分●出演:トム・ハンクス/メグ・ライアン/ビル・プルマン/ロス・マリンジャー/ルクランシェ・デュラン/ルクランシェ・デュラン/ギャビー・ホフマン/ヴィクター・ガーバー/リタ・ウィルソン/ロブ・ライナー●日本公開:1993/12●配給:コロンビア映画(評価:★★☆)
めぐり逢えたら コレクターズ・エディション [DVD]

死刑台のエレベーター01.jpg死刑台のエレベーター.jpg「死刑台のエレベーター」●原題:ASCENSEUR POUR L'ECHAFAUD●制作年:1957年死刑台のエレベーター2.jpg●制作国:フランス●監督:ルイ・マル●製作:ジャン・スイリエール●脚本: ロジェ・ニミエ/ルイ・マル●撮影:アンリ・ドカエ●音楽:マイルス・デイヴィス●原作:ノエル・カレフ●時間:95分●出演:モーリス・ロネ/ジャンヌ・モロー/ジョルジュ・プージュリー/リノ・ヴァンチュラ/ヨリ・ヴェルタン/ジャン=クロード・ブリアリ/シャルル・デネ●日本公開:1958/09●配給:ユニオン●最初に観た場所:新宿アートビレッジ (79-02-10)●2回目:高田馬場・ACTミニシアター(82-10-03)●3回目:六本木・俳優座シネマテン(85-02-10)(評価:★★★★☆)●併映(1回目):「恐怖の報酬」(アンリ=ジョルジュ・クルーゾー)/(2回目):「大人は判ってくれない」(フランソワ・トリュフォー) 
死刑台のエレベーター [DVD]

LES AMANTS 1958 3.jpg恋人たち モロー dvd.jpg「恋人たち」●原題:LES AMANTSD●制作年:1958年●制作国:フランス●監督:ルイ・マル●製作:イレーネ・ルリッシュ●脚本:ルイ・マル/ルイ・ド・ヴィルモラン●撮影:アンリ・ドカエ●音楽:ヨハネス・ブラームス●原作:イヴァン・ドノン「明日はない」●時間:95分●出演:ジャンヌ・モロー/ジャン・マルク・ボリー/アラン・キュニー/ホセ・ルイ・ド・ビラロンガ/ジュディット・マーグル/ガストン・モド/ジュディット・マーレ●日本公開:1959/04●配給:映配●最初に観た場所:北千住・シネマブルースタジオ(14-07-08)(評価:★★★★)
恋人たち【HDマスター】《IVC 25th ベストバリューコレクション》 [Blu-ray]
Himawari(1970)
Himawari(1970).jpg
「ひまわり」.jpg「ひまわり」●原題:I GIRASOLI(SUNFLOWER)●制作年:1970年●制作国:イタリア・フランス・ソ連●監督:ヴィッひまわり01.jpgトリオ・デ・シーカ●製作:カルロ・ポンティ/アーサー・コーン●脚本:チェザーレ・ザsunflower 1970.jpgバッティーニ/アントニオ・グエラ/ゲオルギス・ムディバニ●撮影:ジュゼッペ・ロトゥンノ●音楽:ヘンリー・マンシーニ●時間:107分●出演:マルチェロ・マストロヤンニ/ソフィア・ローレン/リュドミラ・サベーリエワ/アンナ・カレーナ/ジェルマーノ・ロンゴ/グラウコ・オノラート/カルロ・ポンティ・ジュニア●日本公開:1970/09●配給:日本ヘラルド映画●最初に観た場所:目黒シネマ(83-05-01)(評価:★★★★)●併映:「ワン・フロム・ザ・ハート」(フランシス・フォード・コッポラ)  

魚が出てきた日ps3.jpgTHE DAY THE FISH COME OUT 1967 .jpg魚が出てきた日4.jpg「魚が出てきた日」●原題:THE DAY THE FISH COME OUT●制作年:1967年●制作国:アメリカ●監督・製作・脚本:マイケル・キャンディス・バーゲンM23.jpg魚が出て来た日lp.jpgカコヤニス●撮影:ウォルター・ラサリー●音楽:ミキス・テオドラキス●時間:110分●出演:コリン・ブレークリー/サム・ワナメーカー/トム・コートネイ/キャンディス・バーゲン中野武蔵野ホール.jpgディミトリス・ニコライデス/ニコラス・アレクション/マリーナ・ショウ/パリ・アレクサンダー/アーサー・ミッチェル/トム・クルニス/イヴァン・オグルヴィ/●日本公開:1968/06●配給:20世紀フォックス●最初に観た場所:中野武蔵野館(78-02-24)(評価:★★★☆)●併映:「地球に落ちてきた男」(ニコラス・ローグ) 中野武蔵野館 (後に中野武蔵野ホール) 2004(平成16)年5月7日閉館 
「魚が出てきた日」キャンディス・バーゲン.jpg

キャンディス・バーゲン ボストン・リーガル.jpgキャンディス・バーゲン in 「ボストン・リーガル」 with ウィリアム・シャトナー Boston Legal (ABC 2004~2008) ○日本での放映チャネル:FOX CRIME(2007~2011)

【1985年文庫化[文春文庫(『私の映画の部屋』)]】
 

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このシリーズ第1作が一番面白く、その後はどんどん大味になっていく。

ダイハード 1988 ちらし.jpg ダイハード 1988 02.jpg ダイハード 1988 05.jpg
「ダイ・ハード」チラシ
ダイハード 1988 01.pngダイハード dvd.jpgダイハード 1988 04.jpg 「ダイ・ハード シリーズ」の中で一番面白かったのはやはり第1作の「ダイ・ハード」('88年)であり、「テロ集団に襲われたロサンゼルスの高層ビル」という設定を生かして、縦のアクションに徹したのが成功した1つの要因だったと思います。
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ダイ・ハード-04.jpgダイハード 1988 03.jpg ブルース・ウィリス演じるニューヨーク市警マックレーン刑事は、これまでに無かった新たなヒーロー像を産み出した言えるし(その"嘆き節"も受けた)、マックレーンが高層ビル内で孤軍奮闘する状況の中、外部から無線の声だけでサポートする黒人刑官(レジナルド・ヴェルジョンソン)との男同士の見えない絆なども、観客を熱くさせるものがあったと思います。

ダイハード 1988 アラン・リックマン.jpgダイハード 1988 リックマン.jpg また、英ロイヤル・シェイクスピア・カンパニー出身のアラン・リックマン(1946-2016/享年69)演じるテロリストも良かったです。アラン・リックマンは「ロビン・フッド」('91年)でもケビン・コスナー演じるロビンの敵役の悪役を演じましたが、半ばコメディ仕立てということもあってか、「ダイ・ハード」で見せたほどの凄味や演技のキレはありませんでした(但し「ロビン・フッド」の演技で英国アカデミー賞助演男優賞を受賞している)。「ダイ・ハード」での好演は、リックマンの落下シーンで事前に打ち合わせていたタイミングより早く彼を落下させ、"素"の驚きの表情を撮るなどした、ジョン・マクティアナン監督の演出の妙にあるのでしょうか(撮影は、後に「スピード」('94年)を監督することになるヤン・デ・ボン)。

 その後「ダイ・ハード2」、「ダイ・ハード3」、「ダイ・ハード4.0」と作られましたが、だんだん質が落ちていったような...。

エルム街の悪夢4.jpg 「ダイハード2」('90年)は、スイス出身で、「エルム街の悪夢4 ザ・ドリームマスター最後の反撃」('88年)を撮ったレニー・ハーリンの監督作です。「エルム街の悪夢」シリーズは'84年から'97年までの間に7作作られいて、ライバルシリーズであった「13日の金曜日」シリーズは'88年から'02年までの間に10作作られています('03年には「フレディ vs ジェイソン」が作られている)。「エルム街の悪夢4」は「フレディ対超能力少女」で、その前に観た「13日の金曜日 PART6/ジェイソンは生きていた!」('86年)が、"ジェイソン"はコメディアンだったのか?と思えるほど怖くなかったのですが、「エルム街の悪夢4」ダイ・ハード2 1990.jpgにおけダイハード2   .jpgる"フレディ"のコメディアン化は、ジェイソンのそれを上回っているように思えました。そんなこともあって、「ダイハード2」も劇場に行くのをためらわれたのですが、劇場で観たらまあまあの出来だったでしょうか。但し、雪のワシントン・ダレス空港を舞台に(原作はウォルター・ウェイジャー『ケネディ空港/着陸不能』)、旅客機ダイハード2 03.jpgの爆発、滑走路の大火災とスペクタル・シーンが大掛かりになった分だけ主人公のマックレーン刑事がスーパーマン化し、「1」と比べると大味な印象を受けました。レニー・ハーリンは、この後、シルヴェスター・スタローン主演の「クリフハンガー」('93年)を撮っています(「ダイハード2」の終盤のクライマックスシーンでのマックレーン刑事が懐からライターを取り出すところから、彼がまだ喫煙者であったころが窺える)。
ダイ・ハード2 [DVD]」('90年)

ダイ・ハード3.jpg 「ダイハード3」('95年)で監督をマクティアナン、舞台をニューヨークに戻して原点回帰? ニューヨーク市内で突如爆弾テロが発生し、「サイモン」と名乗る犯人は警察に電話し、ジョン・マクレーンを指名する。嫌がらせの様に、黒人達が多く住むハーレムのど真ん中で、「黒ん坊は嫌いだ(I hate Niggers)」というカードを下げさせられたマクレーンは、自身が白人である事も災いし、当然それを見た黒人ギャング達に半殺しにされかける。しかし、その近くで店を経営する黒人の男・ゼウス(サミュエル・L・ジャクソン)に助けられ、それを知り、面白くなかったサイモンの指示によって、2人は行動を共にする事になるというあらすじ。
ダイ・ハード3 [DVD]」('95年)

ダイハード3 ジェレミー・アイアンズ.jpg マクレーンに協力する黒人ゼウスを演じたサミュエル・L・ジャクソン(前年の「パルプ・フィクション」('94年/米)で一気に知名度をアップさせていた)、敵役サイモンを演じたジェレミー・アイアンズと(個人的には「運命の逆転」('90年/米)以来だったなあ)、共に演技達者で、途中まではそれなりに楽しませてくれましたが、途中から主人公のスーパーマン化は前作より更に進行し、最終的には一層大味な作品になってしまいました。

ダイ・ハード4.0 01.jpg その12年後に作られた「ダイハード4.0(フォー)」('07年)では(いきなりマクレーンの娘が出てきた)、不正にネットワークへアクセスするハッカーを利用して、政府機関・公益企業・金融機関への侵入コードを入手したテロリストがライフラインから防衛システムまでを掌握し、サイバーテロによって全米を揺るがすという設定で、それでもテロリストとまともに戦っていダイ・ハード4.0 3.jpgるのは(若いハッカーを従えた)マクレーンただ1人という不思議な設定で、彼の娘は例のごとくテロリストの人質に。一部にサイバー合戦も見られますが、遂には国防省から最新鋭戦闘機F-35まで出てきてしまって、これが結構間抜けな役回りで、通信システムを掌握するテロリストのミスリードでマクレーンを攻撃(いくら命令とは言え、街中のハイウェイで戦闘機が機銃を乱射するかなあ)、これはもう、カネをかければいいものが出来ると勘違いしているのではないかと思わざるを得ません。マクレーンはトラックから戦闘機に飛び乗り、戦闘機からハイウェイに舞い降りと、殆ど人間ではあり得ない超絶アクションで、これまた更に大味に。まあ、自分の中では既に「3」でこのシリーズは終わったという印象ではありましたが...。

ダイ・ハード/ラスト・デイdvd.jpgダイ・ハード/ラスト・デイ1.jpg 最近作のシーリズ第5作となる「ダイ・ハード/ラスト・デイ」('13年)は、舞台をシリーズ初の海外であるロシアに移しての展開でしたが(今度はいきなりマクレーンの息子が出てきた)、周囲の迷惑を顧みない滅茶苦茶なカーチェイスから始まって(巻き添えの死傷者が何十人と出てもおかしくない)、ラストでは女性敵役がマックレーンに対する怨みからヘリコプターで突っ込んでくるという、殆ど盲目的自爆の様相。彼女イリーナ(ユーリヤ・スニギル)はそれまで何のためにマックレーンを欺こうとしていたのか。もう完全にリアリティとはサヨナラした上に、ストーリーまでも破綻気味―「3」以降「5(ラスト・デイ)」まであまり評価する気にならないのですが、「5」はこれまでの中で最も劣るように思いました。 「ダイ・ハード/ラスト・デイ [DVD]」('13年)

 これでホントに終わりにするのかと思ったら「6」を作る予定があるらしく、ブルース・ウィリスの当シリーズへの思い入れは解らなくもないけれど、どうなんだろうか。

ダイハード 1988 00.jpg「ダイ・ハード」●原題:DIE HARD●制作年:1988年●制作国:アメリカ●監督:ジョン・マクティアナン●製作:ローレンス・ゴードン/ジョエル・シルバー●脚本:スティーヴン・E・デ・スーザ/ジェブ・スチュアート●撮影:ヤン・デ・ボン●音楽:マイケル・ケイメン●原作:ロデリック・ソープ「ダイ・ハード」●時間:131分●出演:ブルース・ウィリス/アラン・リックマン/アレクサンダー・ゴドノフ/ボニー・ベデリア/レジナルド・ヴェルジョンソン/アート・エヴァンス/ウィリアム・サドラー●日本公開:1989/02●配給:20世紀フォックス●最初に観た場所:渋谷東宝(89-02-12)●2回目:三軒茶屋映劇(89-07-01)(評価:★★★★)●併映(2回目):「レッド・スコルピオン」(ジョセフ・シドー)
渋谷 東横映画劇場(1936年).jpg渋谷東宝.jpg渋谷東宝 1936年「東横映画劇場」として開場(座席数1,401席)。1944年「渋谷東宝映画劇場」に改称、後に渋谷東宝(渋谷東宝会館1階)、渋谷スカラ座(同4階)、渋谷文化劇場(同地階)の3館体制に。1989(平成元)年2月26日閉館(閉館時座席数1,026席)。1991年7月6日、跡地に渋東シネタワーが開館。(右写真:「渋谷東宝会館」(渋谷東宝劇場・渋谷スカラ座/地階・渋谷文化劇場)
三軒茶屋映劇 2.jpg三軒茶屋シネマ/中央劇場.jpg三軒茶屋付近.png三軒茶屋映画劇場 1925年オープン(国道246号沿い現サンタワービル辺り)。1992(平成4)年3月13日閉館(左写真)。菅野 正 写真展 「平成ラストショー hp」より 同系列の三軒茶屋中央劇場(右写真中央)は1952年、世田谷通りの裏通り「なかみち街」にオープン。(「三軒茶屋中央劇場」も2013年2月14日閉館)  ①三軒茶屋東映(→三軒茶屋シネマ) ②三軒茶屋映劇(映画劇場)(現サンタワービル辺り) ③三軒茶屋中劇(中央劇場)

ダイ・ハード2-38.jpgダイ・ハード2.jpg「ダイ・ハード2」●原題:DIE HARD 2: DIE HARDER●制作年:1990年●制作国:アメリカ●監督:レニー・ハーリン●製作:ローレンス・ゴードン/ジョエル・シルバー/チャールズ・ゴードン●脚本:スティーヴン・E・デ・スーザ/ダグ・リチャードソン●撮影:オリヴァー・ウッド●音楽:マイケル・ケイメン●原作:ウォルター・ウェイジャー「ケネディ空港/着陸不能」●時間:124分●出演:ブルース・ウィリス/デニス・フランツ/ウィリアム・サドラー/フランコ・ネロ/ジョン・エイモス/ボニー・ベデリア/ウィリアム・アザートン/レジナルド・ヴェルジョンソン/フレッド・トンプソン●日本公開:1990/09●配給:20世紀フォックス(評価:★★★)
ダイ・ハード2 [DVD]

スマイルBEST エルム街の悪夢4 ザ・ドリームマスター 最後の反撃 [DVD]
エルム街の悪夢4 ザ・ドリームマスター.jpg「エルム街の悪夢4 ザ・ドリームマスター最後の反撃」●原題:A NIGHTMARE OF ELM STREET 4 THE DREAM MASTER●制作年:1988年●制作国:アメリカ●監督:レニー・ハーリン●製作:ロバート・シェイ/レイチェル・タラレイ●脚新宿オデヲン座0.jpg本:スコット・ピアース/ ブライアン・ヘルゲランド●撮影:スティーヴン・ファイアーバーグ●音楽:クレイグ・セイファン●時間:94分●出演:ロバート・イングランド/リサ・ウィルコックス/チューズデイ・ナイト/アンドラス・ジョーンズ/ダニー・ハッセル/ブルック・ゼイス/トイ・ニューカーク/ニコラス・メレ/ブルック・バンディ/ロドニー・イーストマン/ケン・サゴーズ●日本公開:1989/04●配給:20世紀フォックス●最初に観た場所:新宿オデヲン座(89-04-30)(評価:★★)
新宿オデヲン座 1951(昭和26)年11月、現在の歌舞伎町「第二東亜会館」の場所に開館。1959年4月「グランドビル」(後の「第一東亜会館」)地下1階に移転。2009(平成21)年11月30日閉館。(写真:歌舞伎町「第一東亜会館」(左から新宿オスカー・新宿オデヲン座・新宿アカデミー)

13日の金曜日 PART6 ジェイソンは生きていた! [DVD]」/チラシ
13日の金曜日 PART6ジェイソンは生きていた.jpg13日の金曜日 PART6/ジェイソンは生きていた! tirasi.jpg「13日の金曜日 PART6/ジェイソンは生きていた!」●原題:FRIDAY THE 13TH PART6:JASON LIVES●制作年:1986年●制作国:アメリカ●監督・脚本:トム・マクローリン●製作:ドン・ビーンズ●撮影:ジョン・R・クランハウス●音楽:ハリー・マンフレディーニ●時間:87分●出演:トム・マシューズ/ジェニファー・クック/デヴィッド・ケーガン/トム・フリドリー/レネー・ジョーンズ/ケリー・ヌーナン/トニー・ゴールドウィン/ナンシー・マクローリン/ヴィンセント・ガスタフェッロ/ロン・パリロ●日本公開:1986/10●配給:20世紀フォックス●最初に観た場所:東急レックス(89-04-30)(評価:★★)東急レックス.jpg東急レックス2.jpg
東急レックス(渋谷東急3) 東急文化会館の地下1階(地下東急ストア隣り)。1956年12月1日オープン。当初はニュース映画館「東急ジャーナル」。1969年7月5日~封切館「東急レックス」(466席)。1990(平成2年)10月、「渋谷東急3」に改称。2003(平成15)年6月30日閉館。
(モノクロ写真:東急レックス(1977(昭和52)年)/カラー写真:「東急文化会館」(左から渋谷東急2(旧東急名画座)・渋谷東急・渋谷パンテオン・東急レックス(後の渋谷東急3)

ダイ・ハード3-47.jpgダイ・ハード3 ps.jpg「ダイ・ハード3」●原題:DIE HARD: WITH A VENGEANCE●制作年:1995年●制作国:アメリカ●監督:ジョン・マクティアナン●製作:ジョン・マクティアナン/マイケル・タッドロス●脚本:ジョナサン・ヘンズリー●撮影:ピーター・メンジース・ジュニア●音楽:マイケル・ケイメン●時間:128分●出演:ブルース・ウィリス/サミュエル・L・ジャクソン/ジェレミー・アイアンズ/グラハム・グリーン/コリーン・キャンプ/ラリー・ブリッグマン/アンソニー・ペック/ニック・ワイマン/サム・フィリップス/ケヴィン・チェンバーリン/シャロン・ワシントン/スティーヴン・パールマン/マイケル・アレクサンダー・ジャクソン/アルディス・ホッジ●日本公開:1995/07●配給:20世紀フォックス(評価:★★☆)
ダイ・ハード3 [DVD]

ダイ・ハード4.0 02.jpgダイ・ハード4.0 [DVD].jpg「ダイハード4.0(フォー)」●原題:DIE HARD 4.0: LIVE FREE OR DIE HARD●制作年:2007年●制作国:アメリカ●監督:レン・ワイズマン●製作:マイケル・フォトレル●脚本:マーク・ボンバック●原案:マーク・ボンバック/デヴィッド・マルコーニ●撮影:サイモン・ダガン●音楽:マルコ・ベルトラミ●時間:129分●出演:ブルース・ウィリス/ジャスティン・ロング/メアリー・エリザベス・ウィンステッド/ティモシー・オリファント/マギー・Q/シリル・ラファエリ/エドアルド・コスタ/ジョナサン・サドウスキー/クリフ・カーティス/ケヴィン・スミス/ヤンシー・アリアス●日本公開:2007/07●配給:20世紀フォックス(評価:★★☆)
ダイ・ハード4.0 [DVD]

ダイ・ハード/ラスト・デイw.jpg「ダイ・ハード/ラスA GOOD DAY TO DIE HARD 01.jpgト・デイ」●原題:A GOOD DAY TO DIE HARD●制作A GOOD DAY TO DIE HARD 02.jpg年:2013年●制作国:アメリカ●監督:ジョン・ムーア●製作:アレックス・ヤング●脚本:スキップ・ウッズ●撮影:ジョナサン・セラ●音楽:マルコ・ベルトラミ●キャラクター創造:ロデリック・ソープ●時間:98分(劇場公開版)・102分(最強無敵ロング・バージョン)●出演:ブルース・ウィリス/ ジェイ・コートニー/セバスチャン・コッホ/メアリー・エリザベス・ウィンステッド/ユーリヤ・スニギル/ラシャ・ブコヴィッチ●日本公開:2013/02●配給:20世紀フォックス(評価:★★)
Yuliya Snigir

「●あ行外国映画の監督」の インデックッスへ Prev|NEXT⇒ 【2440】 ビレ・アウグスト 「レ・ミゼラブル
「●「ロサンゼルス映画批評家協会賞 作品賞」受賞作」の インデックッスへ(「ロッキー」)「●さ行の外国映画の監督②」の インデックッスへ 「●か行外国映画の監督」の インデックッスへ 「●ま行の外国映画の監督」の インデックッスへ 「○外国映画 【制作年順】」の インデックッスへ 「○都内の主な閉館映画館」の インデックッスへ(旧・丸の内松竹/京王地下(京王2)/新宿ローヤル劇場) 「○都内の主な閉館映画館」の インデックッスへ(三軒茶屋映画劇場)「○都内の主な閉館映画館」の インデックッスへ(新宿ジョイシネマ/新宿プラザ劇場)

やはり感動させられる「ロッキー」のシリーズ第1作。スタローンは自分で監督しない方がいい?

ロッキー 1976 dvd.jpg ロッキー2 dvd.jpg ロッキー3 dvd.jpg ロッキー4 dvd.jpg ステイン・アライブ dvd.jpg ランボー dvd.jpg
ロッキー(特別編) [DVD]」「ロッキー2 [DVD]」「ロッキー3 [DVD]」「ロッキー4 [DVD]」「ステイン・アライブ [DVD]」「ランボー/怒りの脱出 [DVD]

ロッキー 1976 02.jpg 「ロッキー」('76年)は、シルヴェスター・スタローン(1946年生まれ)が当時、映画オーディションに50回以上落選し、ポルノ映画への出演や用心棒などをして日々の生活費を稼ぐ暮らしの中で、プロボクシングのヘビー級タイトルマッチ「モハメド・アリ対チャック・ウェプナー戦」をテレビで観てウェプナーの善戦に感激し、それに触発されて3日間で脚本を書き上げプロダクションに売り込んだもので、プロダクション側はその脚本に7万5千ドルという、当時としては破格の値をつけたということですから、脚本自体が良かったのでしょう(アカデミー賞作品賞・監督賞、ゴールデングローブ賞作品賞、ロサンゼルス映画批評家協会賞作品賞などを受賞)。

ロッキー 1976 01.jpg プロダクション側は主演にポール・ニューマン、ロバート・レッドフォード、アル・パチーノなどの有名スターを想定していたのに対し(ジェームズ・カーンなども有力な主演候補だった)、スタローンはあくまで自分が主演することに固執したため、最終的に36万ドルまで高騰した脚本は、スタローンの主演と引き換え条件に2万ドルまで減額されたそうな。でも、結果的にスタローンは無名俳優から一躍スターダムに躍り出たわけで、主演に固執して良かった...(逆に言えば、窮乏生活に慣れていたので、カネには固執していなかった)。

ロッキー 03.jpg 日本でも公開当時、誰もがこの作品を観に映画館に押し掛ける状況で、アカデミー賞作品賞受賞、キネマ旬報でも年間1位と高評価。こうなると逆に事前に情報が入り過ぎてしまい、結局個人的にはロードでは観に行かなかったのですが、後で「ロッキー2」('78年)と併せて名画座に降りてきた頃になって遅ればせながら観て、筋書きは分かっていても、やはり感動させられました。

ロッキー4 01.jpg 但し、シルヴェスター・スタローン自身が監督した「ロッキー2」の方はイマイチ、更に、今度こそロードでと観に行った「ロッキー3」('82年)では、対戦相手クラバー(ミスター・T)が全然強そうに見えないのが難で、これもイマイチ。それに比べると、「ロッキー4 炎の友情」('85年)は、ドラゴ(ドルフ・ラングレン)の登場で、多少シリーズ最後を盛り上げたという印象で、個人的にはまあまあ許せるかなという感じでしたが、スタローン自身はこの「ロッキー4 炎の友情」で、ゴールデンラズベリー賞の最低主演男優賞を受賞しています。

レッド・スコルピオン 1.jpg 一方、ロッキーより強そうに見えたドラゴを演じたドルフ・ラングレンは、その後「レッド・スコルピオン」('88年/米)に主演。アフリカ南部の共産主義国家に潜入したソ連の特殊部隊兵士の活躍を描くアクション映画でしたが、何だか動きが鈍くなったような...。空手家としての実績もあり、6か国語を話すインテリでもあるそうですが、シルヴェスター・スタローン同様に監督業に進出する傍ら併せて俳優業を続けているものの、B級映画ばかり出ている印象でしょうか。因みに、「レッド・スコルピオンRed Scorpion -  Dolph Lundgren.jpgレッド・スコルピオン dvd.jpg」のプロデューサーのジャック・エイブラモフはその後共和党保守派のロビイストとなり、汚職事件でFBIに拘束されていますが、この映画自体にも当初から南アの極右派(アパルトヘイト推進派)が資金提供しているとの噂が囁かれていたとのこと、但し、映画の中にとりたてて人種差別的表現はありません。 
レッド・スコルピオン [DVD]

 ドルフ・ラングレンはローランド・エメリッヒ監督の「ユニバーサル・ソルジャー」('92年)で、べトナム戦争で戦死したものの25年後に軍の秘密兵器として甦る特殊部隊兵ユニバーサル・ソルジャー ps.jpgユニバーサル・ソルジャー 1992.jpg士を演じていますが、ジャン=クロード・ヴァン・ダム演じる同じく甦ったもう一人の兵士の方が善玉なのに対し、ドルフ・ラングレンの方はヒール役(悪玉)というのが相変わらずでした(まあ、ドルフ・ラングレンの方が見た目が強そうだというのもあるかもしれないが、妥当な配役か)。観た時は可もなく不可もない娯楽作品という印象でしたがそこそこ人気があったのか、その後「ユニバーサル・ソルジャー/ザ・リターン」('99年)、「ユニバーサル・ソルジャー:リジェネレーション」('09年)が作られ、ジャン=クロード・ヴァン・ダムは両方に主演、ドルフ・ラングレンは'09年の方に出ています(2人とも中年にして頑張っている?)。

 シルヴェスター・スタローンについても、シリーズ最後と謳った「ロッキー4」でロッキー・シリーズは実際には終わらず、「ロッキー5 最後のドラマ」(Rocky V、'90年)、そして更に16年後の「ロッキー・ザ・ファイナル」(Rocky Balboa、'06年)と続いたわけで(「ロッキー5」はスタローン自身が失敗作であったことを認め、だから"ザ・ファイナル"を作ったとのこと)、最後60歳でボクサー役でリングに上がったシルヴェスター・スタローンはすごいと言えばすごいけれど、やはり無理があったと言わざるを得ないのではないでしょうか(ボクシング関係者の一部には、ボクシングを冒涜しているとの声もあった)。

スタローン&シュワルツェネッガー.jpg 「ロッキー2」以降はシルヴェスター・スタローン自身が監督しているのですが、ボディビルダーから俳優に転じ、更には州知事も務めたアーノルド・シュワルツェネッガー(1947年生まれ)と比べると、シルヴェスター・スタローンという人は根っから映画が好きなんだなあという気がします。二人が今年['13年]になって初めて本格共演を果たした「大脱出」('13年)のプレミアで、シルヴェスター・スタローンは アーノルド・シュワルツェネッガーについて「20年間、本当に互いを激しく嫌い合っていたんだ」と告白していますが、とはいえ、「それはいいライバルはなかなか見つからないということの証。次第にその存在に感謝するようになる。そうやって競い合ってきたから、こうして二人ここにいるのかも」と今は互いの存在を 認め合っていることを明かしています。個人的には、そもそも映画への関わり方が二人は違うのではないかと。アーノルド・シュワルツェネッガーが「俳優」であるのに対し、シルヴェスター・スタローンは「映画人」という印象であり、脚本を書くか書かないかの違いは大きいように思います。

ステイン・アライブ01.jpg 但し、シルヴェスター・スタローンの映画監督としての力量はどうなのかはやや疑問符も...。作品への思い入れが先行しているような感じもあり、ついていけない人もいるのではないでしょうか。「ロッキー」に関しては、シリーズを通しての熱烈なファンが多くいるようですが、「ロッキー3」と「ロッキー4」の間の時期に、「サタデー・ナイト・フィーバー」('77年)の続編としてシルヴェスター・スタローンが監督した「ステイン・アライブ」('83年、脚本もシルヴェスター・スタローン)は特に見るべきものの無い作品で、この映画に主演したジョン・トラボルタの長期低迷のきっかけになった作品とも言えるのではないかと思います。

ランボー ちらし.jpgランボー 01.jpg 因みに「ランボー」('82年)のシリーズ作も、全4作全てシルヴェスター・スタローンの脚本または彼が脚本参加しているものでしたが、第1作(「ロッキー3」と同じ年に作られている)の「ランボー1人 vs. 警官千人」に始まり、「ランボー/怒りの脱出」('85年)では「ランボー1人vs.ベトナム軍」、ランボー3/怒りのアフガン dvd.jpg「ランボー3/怒りのアフガン」('88年)では「ランボー1人vs.ソ連軍10万人」とスケール・アップするにつれて、当初のランボーのアウトローの孤独と哀しみは消え、すっかり超人ヒーローになってしまい、「ランボー3/怒りのアフガン」などは、見ていてちっともハラハラしない...。しかも、今思えば皮肉なことに、この作品は、ランボーがアフガン・ゲリラと協力してソ連軍と戦う内容になっていて、当時のアフガン・ゲリラの一派が後のタリバン内の過激武装勢力になっていくわけです。

 「ランボー3/怒りのアフガン」ではシルヴェスター・スタローン自身も'88年ゴールデンラズベリー賞の最低主演男優賞に選ばれてしまったぐらいで(実は'85年にも「ランボー/怒りの脱出」と「ロッキー4 炎の友情」の"合わせ技"で同賞の最低主演男優賞を受賞している)、20年ぶりの続編「ランボー/最後の戦場」('08年)でその汚名返上を図ったのか、このシリーズで初めて自らメガホンをとりますが、こちらは個人的には未見。でも、この人、あんまり自分で監督しないほうが...。
   
  
タリア・シャイア in「ロッキー」第42回ニューヨーク映画批評家協会賞助演女優賞受賞
ロッキー パンフ.jpgタリア・シャイア ロッキー.jpgrocky 1976 poster.jpg「ロッキー」●原題:ROCKY●制作年:1976年●制作国:アメリカ●監督:ジョン・G・アヴィルドセン●製作:アーウィン・ウィンクラー/ロバート・チャートフ●脚本:シルヴェスター・スタローン●撮影:ジェームズ・グレイブ●音楽:ビル・コンティ●時間:119分●出演:シルヴェスター・スタローン/タリア・シャイア/バート・ヤング/バージェス・メレディス/カール・ウェザース●日本公開:1977/04●配給:ユナイテッド・アーティスツ●最初に観た場所:池袋・文芸坐(81-01-22)(評価:★★★★)●併映:「ロッキー2」(シルヴェスター・スタローン)
「ロッキー」パンフレット

ROCKY2 1979.jpg「ロッキー2」●原題:ROCKYⅡ●制作年:1979年●制作国:アメリカ●監督:シルヴェスター・スタローン●製作:アーウィン・ウィンクラー/ロバート・チャートフ●脚本:シルヴェスター・スタローン●撮影:ビル・バトラー●音楽:ビル・コンティ●時間:119分●出演:シルヴェスター・スタローン/タリア・シャイア/バート・ヤング/カール・ウェザース/バージェス・メレディス●日本公開:1979/09●配給:ユナイテッド・アーティスツ●最初に観た場所:池袋・文芸坐(81-01-22)(評価:★★)●併映:「ロッキー」(シルヴェスター・スタローン)

ロッキー3 02.jpg「ロッキー3」●原題:ROCKYⅢ●制作年:1982年●制作国:アメリカ●監督:シルヴェスター・スタローン●製作:アーウィン・ウィンクラー/ロバート・チャートフ●脚本:シルヴェスター・スタローン●撮影:ビル・バトラー●音楽:ビル・コンティ●時間:99分●出演:シルヴェスター・スタローン/タリア・シャイア/バート・ヤング/カール・ウェザース/ミスター・T/ハルク・ホーガン/バージェス・メレディス/トニー・バートン/イアン・フリード/ウォーリー・テイラー/ジム・ヒル/ドン・シャーマン●日本公開:1982/07●配給:ユナイテッド・アーティスツ●最初に観た場所:有楽町・丸の内松竹(82-10-22)(評価:★★)
marunouti syotiku.jpg旧丸の内松竹1.jpg旧丸の内松竹2.jpg丸の内松竹(初代).jpg1旧・丸の内松竹.jpg旧・丸の内松竹 前身は1925年オープンの「邦楽座」(後の「丸の内松竹」)。1957年7月、旧朝日新聞社裏手に「丸の内ピカデリー」オープン(地下に「丸の内松竹」再オープン)。1984年10月2日閉館。1987年10月3日 有楽町マリオン新館5階に後継館として新生「丸の内松竹」(現:丸の内ピカデリー3)がオープン。 2018(平成26)年12月2日「丸の内ピカデリー3」休館。


ロッキー4 炎の友情 .jpg「ロッキー4 炎の友情」●原題:ROCKYⅣ●制作年:1985年●制作国:アメリカ●監督:シルヴェスター・スタローン●製作:アーウィン・ウィンクラー/ロバート・チャートフ●脚本:シルヴェスター・スタローン●撮影:ビル・バトラー●音楽:ビル・コンティ●時間:91分●出演:シルヴェスター・スタローン/タリア・シャイア1977年8月6日 新宿京王 京王地下.jpg京王新宿ビル3.jpg京王三丁目ビル - 2.jpg/バート・ヤング/カール・ウェザース/ドルフ・ラングレン/ブリジット・ニールセン/ジェームス・ブラウン●日本公開:1986/06●配給:メトロ・ゴールドウィン・メイヤー/UA=UIP●最初に観た場所:新宿・京王2(86-06-07)(評価:★★★)
新宿京王・京王地下(京王2)新宿3丁目伊勢丹はす向い京王新宿ビル(現・京王三丁目ビルの場所)。1980年代後半に閉館。


レッド・スコルピオン bl.jpgレッド・スコルピオン  映画前売半券.jpg「レッド・スコルピオン」●原題:RED SCORPION●制作年:1989年●制作国:アメリカ●監督:ジョセフ・ジトー●製作:ジャック・エイブラモフ●脚本:アーン・オルセン●撮影:ホアオ・フェルナンデス●音楽:ジェイ・チャタウェイ●時間:106分●出演:ドルフ・ラングレン/M・エメット・ウォルシュ、アル・ホワイト/T・P・マッケンナ/カーメン・アルジェンツィアノ/ブライオン・ジェームズ/ジョセフ・ビッグウッド/ジェイ・チャタウエイ●日本公開:1989/01●配給:日本ヘラルド●最初に観た場所:三軒茶屋映劇(89-07-01)(評価:★★)●併映:「ダイ・ハード」(ジョン・マクティアナン)レッド・スコルピオン HDマスター版(Blu-ray Disc)
三軒茶屋映劇 2.jpg三軒茶屋シネマ/中央劇場.jpg三軒茶屋付近.png三軒茶屋映画劇場 1925年オープン(国道246号沿い現サンタワービル辺り)。1992(平成4)年3月13日閉館(左写真)。菅野 正 写真展 「平成ラストショー hp」より 同系列の三軒茶屋中央劇場(右写真中央)は1952年、世田谷通りの裏通り「なかみち街」にオープン。(「三軒茶屋中央劇場」も2013年2月14日閉館)  ①三軒茶屋東映(→三軒茶屋シネマ) ②三軒茶屋映劇(映画劇場)(現サンタワービル辺り) ③三軒茶屋中劇(中央劇場)

ユニバーサル・ソルジャー dvd 1992.jpgユニバーサル・ソルジャー1992 1.jpg「ユニバーサル・ソルジャー」●原題:UNIVERSAL SOLDIER●制作年:1992年●制作国:アメリカ●監督:ローランド・エメリッヒ●製作:アレン・シャピロ/クレイグ・ボームガーテン/ジョエル・B・マイケルズ●脚本:リチャード・ロススタイン/クリストファー・レイッチ/ディーン・デヴリン●撮影:カール・W・リンデンローブ●音楽:クリストファー・フランケ●時間:102分●出演:ジャン=クロード・ヴァン・ダム/ドルフ・ラングレン/アリー・ウォーカー/ジョセフ・マローン/エド・オロス/ジーン・デイヴィス/レオン・リッピー/ランス・ハワード/リリアン・ショウバン/チコ・ウェルズ/ジェリー・オーバック●日本公開:1992/11●配給:東宝東和(評価:★★★)
ユニバーサル・ソルジャー [DVD]

ステイン・アライブ dvd.jpgSTAYING ALIVE.jpg「ステイン・アライブ」●原題:STAYING ALIVE●制作年:1983年●制作国:アメリカ●監督:シルヴェスター・スタローン●製作:シルヴェスター・スタローン/ロバート・スティグウッド●脚本:シルヴェスター・スタローン/ノーマン・ウェクスラー●撮影:ニック・マクリーン●音楽:ビージーズ/フランク・スタローン●時間:96分●出演:ジョン・トラボルタ/シンシア・ローズ/フィノラ・ヒューズ/スティーヴ・新宿ジョイシネマ .jpgインウッド/ジュリー・ボヴァッソ/チャールズ・ウォード●日本公開:1983/12●配給:パラマウント映画=CIC●最初に観た場所:新宿ジョイシネマ(84-04-07)(評価:★★★)
新宿ジョイシネマ さよならフェスティバル.jpg新宿ジョイシネマ.jpg新宿ジョイシネマ 1947年12月「新宿地球座」としてオープン。1958(昭和33)年12月「地球会館」新築・落成、「新宿座」オープン。1984年1月「新宿ジョイシネマ」と改称。1995年7月~「新宿ジョイシネマ1」。(新宿ジョイシネマ2 1958年12月「新宿地球座」→1983年~「歌舞伎町松竹」→1995年7月~「新宿ジョイシネマ2」) 2009年5月31日(新宿ジョイシネマ1・2(地球会館)・3(中台ビル))閉館。[中写真:新宿劇場(1970年閉館)]

ランボー 82.jpgランボー1982.jpg「ランボー」●原題:FIRST BLOOD●制作年:1982年●制作国:アメリカ●監督:テッド・コッチェフ●製作:バズ・フェイシャンズ●脚本:マイケル・コゾル/ウィリアム・サックハイム/シルヴェスター・スタローン●撮影:アンドリュー・ラズロ●音楽:ジェリー・ゴールドスミス●原作:ディヴィッド・マレル「一人だけの軍隊」●時間:97分●出演:シルヴェスター・スタローン/リチャード・クレンナ/ブライアン・デネヒー/デビッド・カルーソ/ジャック・スターレット/マイケル・タルボット/デビッド・クロウレイ●日本公開:1982/10●配給:東宝東和●最初に観た場所:新宿ローヤル(84-09-24)(評価:★★★)一人だけの軍隊 ランボー (ハヤカワ文庫)
新宿ローヤル 地図.jpg新宿ローヤル.jpg新宿ローヤル劇場 88年11月閉館 .jpg
新宿ローヤル劇場(丸井新宿店裏手)1955年「サンニュース」オープン、1956年11月~ローヤル劇場、1988年11月28日閉館[カラー写真:「フォト蔵」より/モノクロ写真:高野進 『想い出の映画館』('04年/冬青社)より]

rambo 3 1988 movie.jpgランボー3/怒りのアフガン チラシ.jpg「ランボー3/怒りのアフガン」●原題:RAMBO 3●制作年:1988年●制作国:アメリカ●監督:ピーター・マクドナルド●製作:バズ・フェイシャンズ●脚本:シルヴェスター・スタローン/シェルドン・レティック●撮影:ジョン・スタニアー●音楽:ジェリー・ゴールドスミス●原作:ディヴィッド・マレル●時間:97分●出演:シルヴェスター・スタローン/リチャード・クレンナ/カートウッド・スミス●日本公開:1988/06●配給:東宝東和●最初に観た場所:歌舞伎町・新宿プラザ(88-07-10)(評価:★★)
新宿プラザ 閉館上映チラシ.jpg新宿プラザ劇場200611.jpg新宿プラザ劇場内.jpg 新宿プラザ劇場 1969年10月31日オープン、コマ劇場隣り (1,044席) 2008(平成20)年11月7日閉館

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冬の寒い日は、自宅でサーフィン映画を...か。意外と乙かも。

ビッグ・ウェンズデー dvd.jpg BIG WENSDAY 1978.jpg カリフォルニア・ドリーミング dvd.jpg 
ビッグ ウェンズデー [DVD]」/「Big Wednesday」(CD, Soundtrack, Import)/「魅惑の女優シリーズ カリフォルニア・ドリーミング [DVD]」/AMERICA - California Dreaming - Music From The Motion Picture Soundtrack

ビッグ・ウェンズデー 1.jpg 60年代初め、カリフォルニアの海辺の町で、マット(ジャン=マイケル・ヴィンセント)、ジャック(ウィリアム・カット)、リロイ(ゲイリー・ビジー)を中心とする若者たちで作るサーフィン・グループは、水曜日にやって来るという世界最大の波"ビッグ・ウェンズデー"に挑戦することを夢見ていた。そんな頃、彼らにもベトナム戦争の徴兵令状がきた。グループの大半が懲兵を免れようとしている中で、優等生だったジャックは懲兵検査を受けて、ベトナムへと出征していった―。

Big Wednesday (1978 Warner Bros).jpg サーファーの一部には、夏の天気がいい日は海辺でサーフィンに勤しみ、冬の寒い日や海が時化たりした日などには、自宅でサーフィン映画を観たりする習慣があるそうな(サーファーでなくとも、意外と乙かも)。「ビッグ・ウェンズデー」('78年/米)は、そうした際の定番映画らしく、ジョン・ミリアス監督が35歳の頃に「自分たちの青春時代を思い出して作った」そうですが、青春の悩み、暴走、反発、落胆、挫折、恋などを盛り込んだ青春映画であるとともに、ベトナム戦争への若者の複雑な思いも反映されています。

ビッグ・ウェンズデー 2.jpg ジョージ・ルーカス監督の「アメリカン・グラフィティ」('73年)では、ラストシーン(エピローグ)で、青春時代の仲間たちの一人がベトナムで戦死(行方不明)したことを伝えていましたが、この映画では、ベトナムへ行った仲間の戦死を悼む場面はあるものの、ジャックは生きて戻ってきます。そのジャックを2人が迎えるシーン、更に3人で颯爽と"ビッグ・ウェンズデー"へ向かうシーンがいいです。「生きていて良かった」という実感があり、アメリカ中心的と言えばそう言えなくもないですが、そうした見方に対しては、アメリカ側からすれば「戦争をやっていない国の人間が何を言うか」という感じになるのかも(因みに、ジョン・ミリアスはアーノルド・シュワルツェネッガー主演の「コナン・ザ・グレート」('82年)の監督でもあり、共和党支持者であると共に反共主義者としても知られている)。

ジャン=マイケル・ヴィンセント.jpgジャン=マイケル・ヴィンセント big wednesday.jpg この映画を観て、ジャン=ウィリアム・カット2.jpgマイケル・ヴィンセント(Jan-Michael Vincent)は、結構スター性があるように思ったけれど、意外と伸びなかったなあ(「アメリカン・グラフィティ」のポール・ル・マットなどもそうだったが)。ジャン=マイケル・ヴィンセントは菜食主義者だそうゲイリー・ビジー.jpgで、自分の私生活を大切にするタイプだったのかと思ったら、アルコール依存症とドラッグの問題で映画界から消えていきました(ゲイリー・ビジーの方がまだ、アクション映画に悪役としてよく出演している)。

ウイリアムカット.jpgウィリアム・カット ビッグ・ウェンズデイ4.jpg 徴兵に応じたジャックを演じたウィリアム・カット(William Katt)は、80年代に入って「新・弁護士ペリー・メイスン」で腕利き調査員ポール・ドレイク・ジュニア役でその姿を見られたのが嬉しかったです。この役どころは約30年前の旧シリーズ(日本ではフジテレビが1959年3月の開局時に放映)での調査員の息子役。当時の調査員ポール・ドレイク役のウィリアム・ホッパーが既に亡くなっていたためで、一方、レイモンド・バーと秘書デラ役のバーバラ・ヘイルは30年ぶりのシリーズ共演でした。


カリフォルニア・ドリーミング_2.jpgカリフォルニア・ドリーミング 映画パンフ.jpg ハイスクールを卒業し、大学入学までの夏期休暇を憧れのカリフォルニアで過ごすためシカゴからやってきたTT(デニス・クリストファー)は、初老のデューク(シーモア・カッセル)の家に泊まることになる。そこの娘コーキー(グリニス・オコナー)は最初はTTのことを田舎者として疎んじていたが―。
『カリフォルニア・ドリーミング』映画パンフレット
 「カリフォルニア・ドリーミング」('79年/米)は、サーフィン映画とまで言えるかどうか分かりませんが、「ビッグ・ウェンズデー」と同じ頃の青春映画で、シカゴから憧れの地カリフォルニアにやってきた少年が体験するビーチ・ライフを描いた作品でした。

カリフォルニア・ドリーミング 2_2.jpg 結局、"ひと夏の体験"物語という感じで、デュークが昔サーフィンの世界チャンピオンだったのは、実は法螺話では無かったというサイドストーリーがありますが、そもそも主人公は女の子をゲットしたくてカリフォルニアに来ただけだったのか、そこのところがよく分からない。様々な男女の恋愛模様を見せつつも、やや薄っぺらい印象も

カリフォルニア・ドリーミング 1.jpg ママス&パパスのデビュー・シングルにして最大のヒット曲となった「夢のカリフォルニア」(映画内ではアメリカがカバー)が耳に心地よいですが、このオールディーズ・ナンバーだけが強く耳に残ったかな。あとはグリニス・オコナー(Glynnis O'Connor/右)の当時の豊胸か(最近では「LAW & ORDER ロー&オーダー」に出ている)。後に「チャーリーズ・エンジェル」のレギュラーメンバーとなり(シーズン5/'80年--'81年)、ボンド・ガールにもなるタニア・ロバーツ カリフォルニア・ドリーミング.jpgタニア・ロバーツ(Tanya Roberts/左)も出ていました(「007 美しき獲物たち」('85年/英)に出る前に、「ミラクルマスター 七つの大冒険」('82年/米)や「シーナ」('84年/米)にも出ていた)。この「カリフォルニア・ドリーミング」は、個人的評価は別にして、それなりに固定ファンがいるはずなのに、永らくDVD化されず今年['13年]になってやっとリリースされたのは、カバー曲の著作権関係が複雑なためなのでしょうか?(VHS及びこれまでのCS放映版では、「CALIFORNIA DREAMIN」の歌が無くて別のインストルメンタルの曲になっている)、それともB級青春映画として近年になって再評価されたためなのか?
グリニス・オコンナー/デニス・クリストファー
CALIFORNIA DREAMING2.jpgCALIFORNIA DREAMING1.jpg 「カリフォルニア・ドリーミング」の主人公の、見ている方が気恥ずかしくなるような青臭さと対比すると、「ビッグ・ウェンズデー」の男同士の強固な友情からは(精神的な)ホモセクシュアルの雰囲気すら感じられるというのは穿った見方でしょうか。


ビッグ・ウェンズデー  ps.jpgBig Wednesday (1978).jpgBIG WEDNESDAY .jpg「ビッグ・ウェンズデー」●原題:BIG WENSDAY●制作年:1978年●制作国:アメリカ●監督:ジョン・ミリアス●製作:バズ・フェイトシャンズ/アレクサンドラ・ローズ●脚本:ジョン・ミリアス/デニス・アーバーグ●撮影:ブルース・サーティース●音楽:ベイBIG WEDNESDAY.jpgジル・ポールドゥリス●時間:119分●出演:ジャン=マイケル・ヴィンセント/ウィリアム・カットBIG WEDNESDAY   .jpg/ゲイリー・ビジー/リー・パーセル/サム・メルヴィル/パティ・ダーバンヴィル/ダレル・フェティ/ジェフ・パークス/レブ・ブラウン/デニス・アーバーグ/リック・ダノ/バーバラ・ヘイル/ジョー・スピネル/ロバート・イングランド●日本公開:1979/04●配給:ワーナー・ブラザーズ●最初に観た場所:テアトル吉祥寺(82吉祥寺パーキングプラザ.jpg-03-13)(評価:★★★☆)●併映:「カッコーの巣の上で」(ミロシュ・フォアマン)           
吉祥寺ピカデリー.jpgテアトル吉祥寺.jpgテアトル吉祥寺 (1999年〜吉祥寺ピカデリー) 1979年、吉祥寺パーキングプラザ(右写真・現)地下1階にオープン。2000(平成12)年5月22日閉館
        

PERRY MASON katt.jpgペリー・メイスン ウィリアム・カット.jpg
ペリー・メイスン.jpg
「新・弁護士ペリー・メイスン」(原作:E・S・ガードナー)PERRY MASON (CBS 1985~1988) ○日本での放映チャネル:NHK‐BS2

出演:レイモンド・バー/バーバラ・ヘイル/ウィリアム・カット

         
        
      
CALIFORNIA  DREAMING 1979.jpg「カリフォルニア・ドリーミング」●原題:CALIFORNIA DREAMING●制作年:1979年●制作国:●アメリカ●監督:ジョン・ハンコック●製作:クリス・ウィテカリフォルニア・ドリーミング グリニス・オコナー.jpgィカー●脚本:ネッド・ウィン●撮影:ボビー・バーン●音楽:フレッド・カーリン(主題歌「カリフォルニア・ドリーミング」(アメリカ) )●時間:93分●出演:デニス・クリストファーグリニス・オコナー/シーモア・カッセル/ドロシー・トリスタンパール座2.jpgパール座1.jpgジョン・カルヴィン/トッド・サスマン/アリス・プレイトン/ネッド・ウィン/ジェームズ・ヴァン・パタン/ヴィヴィアン・ボネル/ジェームズ・ステイリー/ ボニー・バートレット●日本公開:1979/06●配給:松竹=富士映画●最初に観た場所:高田馬場カリフォルニア・ドリーミング タニア・ロバーツ.jpg/ネッド・ウィーン/ジョン・カルビン/タニア・ロバーツTanya Roberts.jpgパール座(83-02-27)(評価:★★☆)●併映:「さらば青春の光」(フランク・ロダム)カリフォルニア・ドリーミング タニア・ロバーツ1.jpg
      
          
 
 
      
 
             
      
タニア・ロバーツ2.jpgタニア・ロバーツ27.jpg
タニア・ロバーツ(「007 美しき獲物たち」('85年/英))
    
    
  
1976 年のチャーリーズエンジェル.jpgチャーリーズ・エンジェル シーズン5.jpg「地上最強の美女たち! チャーリーズ・エンジェル」 CHARLIE'S ANGELS (ABC 1976~1981) ○日本での放映チャネル:日本テレビ(1977~1982)
「チャーリーズ・エンジェル シーズン5(1980-81)」ジャクリーン・スミス/タニア・ロバーツ/シェリル・ラッド
「チャーリーズ・エンジェル シーズン1(1976-77)」ケイト・ジャクソン/ファラ・フォーセット・メジャーズ/ジャクリーン・スミス

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ミステリ風コメディ映画。ヴェネチア・カーニヴァルの幻想的雰囲気がストーリーによくマッチ。

ヌードの女.jpg NUDO DI DONNA 1981 011.jpg NUDO DI DONNA 1981lt.jpg
Nudo di donna [VHS] [Import]」 Eleonora Giorgi(エレオノーラ・ジョルジ)/Nino Manfredi(ニーノ・マンフレディ)
ヌードの女11.jpg 1971年・第24回カンヌ国際映画祭で新人監督賞を受賞したニーノ・マンフレディ(1921‐2004)が監督・主演した、ヴェネチアのカーニヴァルを背景としたミステリ風コメディ映画で、日本では'84年の「イタリア映画祭」で上映された作品であり、その後、一般ロードでも公開されました。ニーノ・マンフレディは元々俳優であり、この作品の当初の監督アルベルト・ラットゥアーダ(「スキャンドール」('80年/伊)の監督)と意見が合わず、とうとう主演男優である彼自身が自分で監督してしまったというものです。

ヌードの女2.bmpヌードの女1.bmp 老舗の古書店の娘と結婚して十数年経つ夫(マンフレディ)は、自らもローマからヴェネチアに移り住んで古書店を営もうとするがうまくいかず、芸術家の間で顔が広い妻(エレオノーラ・ジョルジ)に対するコンプレックもあって2人の関係はやや冷え切り気味だが、そんなある日、芸術家達の集いの場となっている知人の屋敷で、妻にそっくりの女の大判ヌード写真を見つける―。

 やがてカフェで、派手なカラフルな娼婦の衣装を身につけたその写真のモデル、妻そっくりの女リリー(エレオノーラ・ジョルジが二役を演じている)を見つけ、男は彼女のところへ通いつめるようになるが、彼女がケガをした日に家に帰ると妻も同じところをケガしたりしていて、更に、カーニヴァルの夜、自宅からリリーの家まで屋根伝いで行ける近道を偶然に発見する―。

ヌードの女4.bmpヌードの女3.bmp カーニヴァルの翌朝、男はリリーと並んで焼きカボチャか何かを食べていますが、もう男にとってリリーが妻と同一人物であろうとなかろうとどうでもよく、目の前に愛する人がいるだけで満ち足りた気分になっているという、ミステリ的要素がありながら謎は最後まで明かされないという終わり方ですが(その方が却って洒落ていていい)、ある意味、女性に妻と娼婦の2役を求める男の願望を表した作品であるともいえます。

 夫婦は互いの全てを知ろうとはしない方がいいという教訓譚と解すことも出来て、大らかな艶笑コメディの伝統を有するイタリア映画ならではの作品ですが、ヴェネチア・カーニヴァルの幻想的な雰囲気が映画のストーリーによくマッチしていたように思います。

IMG_0739.jpg

NUDO DI DONNA.jpg「ヌードの女」●原題:NUDO DI DONNA(NU DE FEMME [仏])●制作年:1981年●制作国:イタリア・フランス●監督:ニーノ・マンフレディエレオノラ・ジョルジ1.jpg●脚本:ニーノ・マンフレデ/アージェ・スカルペッリ/ルッジェロ・マッカリ●撮影:ダニロ・デシデリ●音楽:ロベルト・ガットー/マウリッツィオ・ジアマルコ●時間:103分●出演:ニーノ・マンフレディ/エレオノーラ・ジョルジ/ジョルジュ・ウィルソン/ジャン=ピエール・カッセル/カルロ・バーノ●日本公開:1984/10●配給:イタリア会館●最初に観た場所:銀座文化1(84-10-04)(評価★★★☆)Nudo di donna [VHS] [Import]」 
Eleonora Giorgi
Eleonora Giorgi 2.jpg
                              

「銀座文化1・銀座文化2」「銀座文化/シネスイッチ銀座」
銀座文化1・2.png銀座文化・シネスイッチ銀座.jpg シネスイッチ銀座.jpg銀座文化1 1955年11月21日オープン「銀座文化劇場(地階466席)・銀座ニュー文化(3階411席)」、1978年11月2日~「銀座文化1(地階353席)・銀座文化2(3階210席)」、1987年12月19日〜「シネスイッチ銀座(前・銀座文化1)・銀座文化劇場(前・銀座文化2)」、1997年2月12日〜休館してリニューアル「シネスイッチ銀座1(前・シネスイッチ銀座)・シネスイッチ銀座2(前・銀座文化劇場)」

《読書MEMO》
●ヴェニス(ヴェネツィア)を舞台にした映画
エヴァの匂い」('62年/仏)ジョゼフ・ロージー監督
ベニスに死す」('71年/伊・仏)ルキノ・ヴィスコンティ監督
「ヌードの女」('81年/伊・仏)ニーノ・マンフレディ監督
007 ロシアより愛をこめて」('63年/英)テレンス・ヤング監督
イタリア・ベネチア●エヴァの匂いes.jpgイタリア・ベネチア ●ベニスに死すges.jpgイタリア。ヴェネチア●ヌードの女.jpg 007 ロシアより愛をこめて  ヴェネチア (2).jpg

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そこそこ楽しめたが、"ディーヴァーらしさ"と"007らしさ"が両立できているかというと微妙。

007白紙委任状.JPGジェフリー・ディーヴァー「007 白紙委任状」.jpg 007 スカイフォール dvd.jpg 007 スカイフォール 001.jpg
007 白紙委任状』(2011/10 文藝春秋) 「007/スカイフォール [DVD]

 2011(平成23)年・第30回「日本冒険小説協会大賞」(海外部門)受賞作。

 ODGの工作員ジェームズ・ボンドは、イギリス政府通信本部が傍受した「...20日金曜日夜の計画を確認。当日の死傷者は数千に上る見込み。イギリスの国益にも打撃が予想される...」との電子メールを発端に、計画の詳細を突き止めてテロを未然に防ぐ使命を帯びてセルビアに向かった。セルビアに現れた問題の男《アイリッシュマン》は用心深く冷静で、ボンドの出現という想定外の事態にも即座に対応し、ボンドの追跡をかわしてセルビアから脱出、イギリス国内に戻っていた。ODGはイギリス国内に管轄権を持たない。つまり、この地球上で唯一、ボンドがODGのエージェントとして活動する権限を持たない場所がイギリスであり、通常ならばミッションと同時に与えられる"白紙委任状"が無効になる地域だった。金曜の夜に、どこでどんなテロ行為が計画されているのか。白紙委任状がない状態で、ボンドは4日後に迫ったテロの危険から数千の命を救うことができるのか―。

 イアン・フレミングの版権を管理する《イアン・フレミング・エステート》からのオファーを受けて、2011年にジェフリー・ディーヴァーが発表した"007物"で(原題:Carte Blanche)、上下2段組みで456ページありますが、比較的テンポよく読めました。因みに、本書刊行時のインタビューによれば、ジェフリー・ディーヴァーはこの作品のラストを、2010年11月に来日した際にホテルニューオータニで書き上げ、書き終えた翌日から次作(キャサリン・ダンス・シリーズの第3作)にとりかかったというから、精力的に仕事してるなあ。

 一応お決まりではあるものの、次々と危機が迫り来る中、ボンドがそれをどう乗り越えるかという関心から、ジェットコースター感覚とまではいかないものの話の展開に自然に引き込まれ、話の舞台もセルビアからロンドン、ドバイ、南アフリカへとワールドワイドに広がっていくし、ボンドガールに関しても、候補が何人か現れてどれが本命かという点で楽しめました。ただ、読み進んでいくほどに話の本筋自体が深化していくという印象がやや薄く、何となく同じ次元で横滑りしているような感じもしました。

 プロットが何度も反転し、ドンデン返しが連続するような作者らしい小説―という点では、終盤は期待したほどでもなかったかな。財団からのオファーのもとに書いているという点では、007のファンも満足させなければならないというというが作者の"使命"でもあったと思うし、"ディーヴァーらしさ"と"007らしさ"が両立できているかというと、微妙なところかもしれません。

 "007らしさ"という点では、ボンドが普段どのような職場で仕事をしているのかといった背景に関する記述も多くあって興味深かったし、IT時代に相応しい小道具もふんだんに登場、一方、ボンドのキャラクター造型は、少なくともショーン・コネリーやロジャー・ムーアなどよりは、ピアーズ・ブロズナンやダニエル・クレイグなどのボンド像に近いかも。まあ、ピアーズ・ブロズナンとダニエル・クレイグの二人だって随分違うし、映画におけるボンド像もかなり幅広くなってきていて、固定的には捉えられなくなってきていますが。

007 スカイフォール 01.jpg ダニエル・クレイグ(Daniel Craig)などは最初見た時は、ジェームズ・ボンドと言うよりもボンドの敵役のスナイパーかなにかのような印象で、最初の出演作「007 カジノ・ロワイヤル」('06年/英・米)がシリーズ第21作でありながら原作の第一作ということもあって(かつて'67年にパロディとして映画化された)、かなり今までのボンド像と違った印象を受けましたが(肉体派? 若気の至りからか結構窮地に陥る)、演じていくうちに独自のボンド像が出来上がっていき、彼自身にとっての第3作「007 スカイウォール」('12年/英・米)あたりになると、もうすっかりそれらしく見えます。

 skyfall.jpgサム・メンデス監督による「007 スカイウォール」はそこそこ楽しめました。特に前半部分は映像と音楽に凝っていたように思われ、それに比ミス・マネーペニー.jpgべると後半はドラマ重視性重視だったでしょうか。ジェフリー・ディーヴァーの本書『白紙委任状』におけるボンドの上司"M"は、映画と異なり男性ですが、ジュディ・デンチ(Judi Dench)演じる"M"が「スカイウォール」で殉職することは以前から決まっていたということなのでしょう(因みに秘密兵器開発担当の"Q"も配役が入れ替わった。そして、"ミス・マネーペニー"もナオミ・ハリス演じるイヴに入れ替わり)。「スカイフォール」の製作は、MGMの財政難のために2010年の間は中断されていたとのことです。結局、製作費は前作「慰めの報酬」の2億ドルから1億5千万ドルに抑えられ、それが前半と後半の手間のかけ方の違いに表れているような気がしないでもありませんが、興業的にはかなりの成功を収めたようです(チッケト代のインフレ調整をした上での比較で、シリーズ中、「サンダーボール作戦」「ゴールドフィンガー」に次ぐ興行収入だとか)。

「007 スカイフォール」1.jpg ベレニス・マーロウ(Bérénice Marlohe)演じるボンド・ガー「007 スカイフォール」2.jpgルが(ボンドが助け出すと約束していたにも関わらず)早々に犯人に殺害されてしまうとか、犯人の犯行目的が、"M"への復讐という個人的怨念に過ぎないものであるとか、冒頭の派手なアクションや前半の凝ったシークエンスに比べると、後半はボンドの実家に籠って「スカイフォール」廃墟の島1.jpg「ホーム・アローン」風の戦いになってしまい、前半ではディーヴァーの小説の犯人並みにサイバー攻撃をしていた敵役も、ここへきて火薬を使いまくるだけの芸の無い攻撃しかしなくなるとか、もの足りない面は少なからずありますが、ダニエル・クレイグのボンド像そのものは悪くなく、ディーヴァーもインタビューで、自身が映画のプロデューサーだったら、今回の作品のボンド役には誰をキャスティングするかと訊かれて「個人的にはダニエル・クレイグが気に入っている」と言ってます。
「スカイフォール」廃墟の島2.jpg
 マカオ沖に浮かぶ廃墟の島として敵役シルヴァのアジトとなった「デッドシティ」は、長崎港から約17km沖合にある「軍艦島」(正式名称は端島)がモデルですが、軍艦島は上陸に厳しい制約があって実際に軍艦島でロケは行うことはできず、スタッフが何度も訪れて細部まで酷似したセットをスタジオに作り上げたそうです。

「007 スカイフォール」●原題:SKYFALL●制作年:2012年●制作国:イギリス・アメリカ●監督:サム・メンデス●製作:マイケル・G・ウィルソン/「007 スカイフォール」.jpgバーバラ・ブロッコリ●脚本:ジョン・ローガン/ニール・パーヴィス/ロバート・ウェイド●撮影:ロバート・エルスウィット●音楽:トーマス・ニューマン[●原作:イアン・フレミング●時間:143分●出演:ダニエル・クレイグ/ハビエル・バルデム/レイフ・ファインズ/ナオミ・ハリス/ベレニス・マーロウ/アルバート・フィニー/ベン・ウィショー/ジュディ・デンチ/ロリー・キニア●日本公開:2012/12●配給:ソニー・ピクチャーズエンタテインメント(評価:★★★☆)

【2014年文庫化[文春文庫(上・下)]】

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'94年公開の個人的ラスト・アクション・ヒーロー・ムービー「トゥルーライズ」「スピード」。

『映画イヤーブック 1995』.JPGスピードdvd1.jpg トゥルーライズ dvd2.jpg TRUE LIES movie.jpg
映画イヤーブック〈1995〉 (現代教養文庫)』「スピード [DVD]」「トゥルーライズ [DVD]

 1994年劇場公開の全作品(洋画304本、邦画161本、計465本)にデータと解説を付して収録、ビデオ・ムービー、未公開ビデオのデータなども網羅しているほか、『映画イヤーブック』としては5冊目になるということで、全5冊の総索引も付きました。

 本書での最高評価になる「四つ星」作品は、「トゥルー・ロマンス」「シンドラーのリスト」「さらば、わが愛 覇王別姫」「ピアノ・レッスン」「青い凧」「ギルバート・グレイブ」「パルプ・フィクション」「ショート・カッツ」「スピード」の9作品、一方邦画は、「トカレフ」(阪本順治監督)、「全身小説家」(原一男監督)、「棒の哀しみ」(神代辰巳監督)、「忠臣蔵外伝・四谷怪談」(深作欣二監督)の4作品。

 '94年の映画館入場者数は1億2299万人で、それまでの史上最低だったそうで、前年の「ジュラシック・パーク」のような大ヒット作が無かったということもあるようですが、この頃には平成不況による停滞感が定着して、多くの人が、わざわざ映画館まで行かなくともビデオで観ればいいいという感覚になっていたのではないかなあ。

スピードdvd.jpg ハリウッド映画のアクション系で、「ダイ・ハード」('88年)、「氷の微笑」('92年)のカメラマンだったヤン・デ・ボン(「トータル・リコール」「氷の微笑」のポール・バーホーベン監督と同じくオランダ人)の初監督作品「スピード」('94年)が気を吐きました。

「スピード」('94年).jpg 時速を80キロ以下に落とすと爆発する爆弾を仕掛けたバスの疾走が迫力満点のノンストップアクションで、バスが街中を車をはじき飛ばしながら爆走したり、キアヌ・リーブスが爆弾を解除するために高速で走るバスの下にもぐりこむシーン、或いは、地下鉄の車両が工事現場を破壊しながら地上に突き抜けるシーンなどは実写中心であるため見応えはありました。

スピード01.jpg 脚本を書いたグレアム・ヨストは、 アンドレイ・コンチャロフスキー監督の「暴走機関車」('86年/米)の原「スピード」ホッパー2.jpg案である黒澤明のオリジナル脚本を読んで着想を得たと述懐していますが、その脚本もまずまずではないでしょうか。但し、脚本を含めてよく出来ていた「ダイ・ハード」と比べるのと、トータルではやや落ちるか。キアヌ・リーブス、サンドラ・ブロック共に頑張っているけれど、爆弾魔のデニス・ホッパー(1936-2010)は、クイズ好きのオタクみたいで、それほど凄味がないような....。デニス・ホッパーということで、期待し過ぎてしまったのかもしれませんが(結局、大掛かりなアクションで見せる映画だった。元々の狙いも概ねそうだとは思うが)。

speed 2s.jpgスピード2  05.jpg ということで、個人的にはヤン・デ・ボン監督には次に期待、というところだったのですが、その続編「スピード2」('97年/米)であっさりコケてしまった感じでした(既に同年の「ツイスター」('97年/米)を観れば、この監督の力量の限度は窺い知れたのだが。因みに、竜巻パニックスピード2 dvd.jpg映画「ツィスター」はアメリカではそこそこヒットしたらしく、アメリカ人にとって竜巻は身近な恐怖なのでしょう(日本にもこうした映画のファンは多いらしく、Amazon.comのレビュー評価などもそう悪くないようだが、個人的には、竜巻をあまりに擬人化し過ぎているように思えた)。「スピード2」は舞台を大型客船に移したことで、看板の〈スピード〉感は無くなり、サンドラ・ブロック演じるヒロインは残りましたがキアヌ・リーブスは出演しておらず、代わりにジェイソン・パトリックが出演していましたが地味で、敵役のウィレム・デフォーの方がむしろ頑張ってはいましたが、それでもデニス・ホッパーに比べるとやはり格下感は否めなかったでしょうか。話の展開にも〈スピード〉感は感じられなかった...(いずれにせよ、キアヌ・リーブスとデニス・ホッパーがいないというのはロスト感が大きい)。
スピード2 [DVD]

トゥルーライズ dvd.jpg 「スピード」の「四つ星」評価に対し、本書で星3つの評価となっている「ターミネーター」シリーズのジェームズ・キャメロンが監督した「トゥルーライズ」('94年)の方が、ユーモアの要素があって個人的な評価はやや上になります。

トゥルーライズ1.jpg アガサ・クリスティの「おしどり探偵」シリーズの現代アクション版みたいで、アーノルド・シュワルツェネッガーはコメディも充分にこなすし、スタント無しのジェイミー・リー・カーティスも良かったです(アクションでもそれ以外でも身体を張った演技をしていたなあ)。

トゥルーライズ jlカーチス.jpg カーチェイスの場面で実際に橋を爆破したというのもスゴいですが、一方で、シュワちゃんがゴールデン・ゲート・ブリッジにしがみつくシーンやハリヤー・ジェット機上でのテロリストとの"生身"のバトルシーンなど、デジタル合成のSFXをふんだんに使っています。

 アクション・シーンをCGで撮るというのは「バットマン リターンズ」('92年)あたりがハシリだそうですが、米国の俳優協会ではその頃から、役者自身がアクションを演じる場面が無くなってしまうということで問題視され始めていたようです。「バットマン リターンズ」の中には、一旦CGで撮ったものを、俳優協会からの要請で俳優やスタントマンを使ったものに撮り直した場面があります(高い所から飛び降りたバットマンが地面に着地するシーンなど)。

トゥルーライズ2.jpg 「トゥルーライズ」ではそのほかに、ハリヤー・ジェット機の熱で空気が揺らぐシーンなどにもデジタル・ドメイン社が開発したCGが初めて使われていて、この技術は「アポロ13」('95年)のロケット発射シーンなどにも使われました(ジェームズ・キャメロンはデジタル・ドメイン社の初代共同経営者)。

 シュワルツェネッガーは、この作品の前年にジョン・マクティアナン監督の「ラスト・アクション・ヒーロー」('93年)を製作総指揮しており(主演もシュワルツェネッガー)、もう生身の肉体を使ってのアクションは終わりだなという意識はこの頃からあったのではないでしょうか。その前の作品が、それこそCGで描かれる敵と戦う「ターミネーター2」('91年)だったし(これもジェームズ・キャメロン監督)。

 個人的には、'94年の「トゥルーライズ」が(すでにCGがいっぱい使われてはいるけれども)自分の中での"ラスト・アクション・ヒーロー"ムービーという印象ですが、同じく'94年の「スピード」も、キアヌ・リーブスの次のヒット作「マトリックス」('99年)がアクションシーンをCG主体で構成していたことを考えると、キアヌ・リーブス的に言えばこれもまた"ラスト・アクション・ヒーロー"ムービーだったと言えるように思います。
 
SPEED-1994 -On set / Keanu Reeves|Sandra Bullock
SPEED 1994.jpgスピード02.jpg「スピード」●原題:SPEED●制作年:1994年●制作国:アメリカ●監督:「スピード」ホッパー.jpgヤン・デ・ボン●製作:マーク・ゴードン●脚本:ランダル・マコーミック/ジェフ・ナサンソン●撮影:アンジェイ・バートコウィアク●音楽:マーク・マンシーナ/ビリー・アイドル●時間:115分●出演:キアヌ・リーブス/デニス・ホッパサンドラ・ブロック/ジョー・モートン/ジェフ・ダニエルズ/アラン・ラック●日本公開:1994/12●配給:20世紀フォックス映画●最初に観た場所:有楽町・日本劇場(94-12-17)(評価:★★★☆)

speed 2es.jpgスピード2 01.jpg「スピード2」●原題:SPEED:CRUISE CONTROL●制作年:1997年●制作国:アメリカ●監督:ヤン・デ・ボン●製作:マーク・ゴードン●脚本:グレアム・ヨスト●撮影:ジャック・N・グリーン●音楽:マーク・マンシーナ●時間:121分●出演:サンドラ・ブロック/ジェイソン・パトリック/ウィレム・デフォー/テムエラ・モリソン/ブライアン・マッカーディー/グレン・プラマー/コリーン・キャンプ/ロイス・チャイルズ/マイケル・G・ハガーティー/ボー・スヴェンソン/フランシス・ギナン/ジェレミー・ホッツ●日本公開:1997/08●配給:20世紀フォックス映画(評価:★★☆)

ツイスター.jpgツイスタード.jpg「ツイスター」●原題:TWISTER●制作年:1996年●制作国:アメリカ●監督:ヤン・デ・ボン●製作:キャスリーン・ケネディ/イアン・ブライス/マイケル・クライトン●脚本:マイケル・クライトン/アン・マリー・マーティン●撮影:ジャック・N・グリーン●音楽:マーク・マンシーナ●時間:113分●出演:ヘレン・ハント/ビル・パクストン/ケイリー・エルウィス/ジェイミー・ガーツ/ロイス・スミス/アラン・ラック/フィリップ・シーモア・ホフマン/トッド・フィールド/ジョーイ・スロトニック/ジェレミー・デイビス/スコット・トマソン/ウェンデル・ジョセファー/ショーン・ウォーレン/ザック・グルニエ/ラスティ・シュウィマー●日本公開:1996/07●配給:UIP(評価:★★)
ツイスター [DVD]

「トゥルーライズ」.jpgトゥルーライズ01.jpg「トゥルーライズ」●原題:TRUE LIES●制作年:1994年●制作国:アメリカ●監督・脚本:ジェームズ・キャメロン●製作:ジェームズ・キャメロン/ステファニー・オースティン●オリジナル脚本:クロード・ジディ/シモン・ミシェル/ディディエ・カミンカ●撮影:ラッセル・カーペンター●音楽:ブラッド・フィーデル●時間:144分●出演:アーノルド・シュワルツェネッガー/ジェイミー・リー・カーティス/トム・アーノルド/ビル・パクストン/ティア・カレル/アート・マリックトゥルーライズ  ティア・カレル.jpgトゥルーライズ チャールトン・ヘストン.jpg/エリザ・ドゥシュク/グラント・ヘスロヴ/チャールトン・ヘストン●日本公開:1994/09●配給:日本ヘラルド映画●最初に観た場所:有楽町・日本劇場(94-09-25)(評価:★★★★)
アーノルド・シュワルツェネッガー/ティア・カレル
チャールトン・ヘストン

ラスト・アクション・ヒーローs.jpgラスト・アクション・ヒーロー  vhs.jpg「ラスト・アクション・ヒーロー」●原題:LAST ACTION HERO●制作年:1993年●制作国:アメリカ●監督:ジョン・マクティアナン●製作:スティーヴ・ロス/ジョン・マクティアナン●脚本:デヴィッド・アーノット/シェーン・ブラック●撮影ディーン・セムラー●音楽:マイケル・ケイメン●時間:131分●出演:アーノルド・シュワルツェネッガー/オースティン・オブライエン/チャールズ・ダンス/ロバート・プロスキー/トム・ヌーナン/フランク・マクレー/アンソニー・クイン/ブリジット・ウィルソン/F・マーリー・エイブラハム/マーセデス・ルール/アート・カーニー/イアン・マッケラン/プロフェッサー・トオル・タナカ/ジョーン・プロウライト/ノア・エメリッヒ●日本公開:1993/08●配給:コロンビア映画(評価:★★★)

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'92年公開作品はバブル崩壊"効果"? ちょっと変わった感じの映画が目立った年。

『映画イヤーブック 1993』.JPGバートン・フィンク vhs1.jpg フライド・グリーン・トマト vhs.jpg
映画イヤーブック〈1993〉 (現代教養文庫)』/「バートン・フィンク」(VHS)/「フライド・グリーン・トマト」(VHS)  


プリティ・リーグ dvd.jpg 1992年に公開された洋画317本、邦画133本、計450本の全作品データと解説を収録していますが、この数字、本書の前年版によれば、前年の1991年に劇場公開された洋画は413本、邦画は151本、計564本となっていましたから、前年の2割減(洋画は2割5分減)ということになり、バブル崩壊の影響がこの辺りにも出たなあと。

 本書での最高評価になる「四つ星」作品は、「バートン・フィンク」「JFK」「美しき諍い女」「フライド・グリーン・トマト」「仕立て屋の恋」「プリティ・リーグ」など10作品、邦画は、「シコふんじゃった。」「いつかギラギラする日」「青春デンデケデケデケ」など4作品とやや寂しいか。
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バートン・フィンク0.jpg 結局、邦画界は1月に公開された周防正行監督の「シコふんじゃった。」がその年の映画賞を総ナメした形になりましたが、これ、意外と穴だったと言うか、実際に面白く(個人的にもこの年のナンバー1作品。但し、これだけ賞を獲ると、日本映画は他にいい作品がないのかという気も)、一方、洋画も例年の大作とは一味違ったものがじわじわ人気を呼んだりして、その典型が1991年・第44回カンヌ国際映画祭でパルムドールを受賞したジョエル・コーエン監督の「バートン・フィンク」('91年/米)ではなかったでしょうか。

Barton Fink -John Goodman & John Turturro

バートン・フィンク1.jpg 1941年、場末の安ホテルに籠って脚本を書いていた劇作家バートン・フィンク(ジョン・タトゥーロ)は、隣室のセールス男メドウズ(ジョン・グッドマン)と親しくなるが、フィンク自身は脚本が書けなくなるスランプに陥り、更には自分の部屋で殺人事件が起きて、メドウズが死体を片付けてくれたものの、彼は完全に神経症に陥る―。

 幾つもの解釈ができる面白い作品で、結局、フィンク自身が現実と空想の区別がつかなくなっているようです。ラストのホテルの部屋の壁に架かった絵画のアップが1つの謎解きと言えるかも(バートン・フィンクのモデルはフォークナーだそうだ)カンヌ映画祭で史上初の三冠(パルム・ドール(グランプリ)・監督賞・男優賞(ジョン・タトゥーロ))を成し遂げた作品とのことで、ストーリーの巧さもあるけれども、脚本執筆という創造の苦しみが描かれているのが、同業者の共感を呼んだ?

フライド・グリーン・トマト1.jpg もう一つ、同じく'92年公開のジョン・アヴネット監督の「フライド・グリーン・トマト」('91年/米)は、「ドライビング・ミス・デージー」のジェシカ・タンディが演じる元カフェ経営者の昔話を、「ミザリー」のキャシー・ベイツ演じる夫に愛想をつかされた女性が聴くという展開でしたが(アカデミー主演賞女優同士!)、ジェシカ婆さんが淡々と語る話の内容が、ある種、女性たちの人間として生きる権利を求めての闘いの軌跡というか、感動ストーリーでありながらも、合間に入るエピソードがグリム童話みたいに残酷(猟奇的)だったりして、この取り合わせの妙が何とも言えない作品でした。
    
プリティ・リーグ 2.png 女流監督ペニー・マーシャルが「レナードの朝」('90年)の次に撮った「プリティ・リーグ」('91年/米)のあらすじは―、1943年、男たちが戦争に駆り出され、プロ野球閉鎖の危機が訪れる中、全米女子プロ野球リーグが結成され、最強チーム"ピーチズ"のメンバーは、田舎の主婦からホール・ダンサーまで、野球を愛する男顔負けのスーパー・レディースで構成さMadonna A League of Their Own.jpgれていたが、汗と埃にまみれて白球を追う彼女たちの力強く美しい姿には全米が拍手を贈った―という感動もので、一見すると漫画的題材ですが、実話がベースになっているというのはやはり強いなあと。監督役のトム・ハンクスの演技が冴え、痛快スポーツ・ドラマとなっていますが、最後の同窓会的にかつてのメンバーが集う場面は、賛否があるものの個人的には良かったです。スーパースターのマドンナがナインの一員として(エース役のジーナ・デイビスの助演として)しっかり演技しているという点で興味深い作品でもあります。マドンナはハマリ役でした。 

Madonna in A League of Their Own

 好き嫌いが分かれそうな作品もありますが、バブル崩壊"効果"ではないでしょうが、がんがん力で押していくタイプの大作より、こうしたちょっと変わった感じの映画が目立った年でした。

バートン・フィンク dvd.jpgバートン・フィンク [DVD]」 ジュディ・デイヴィス in「バートン・フィンク」(1991年ニューヨーク映画批評家協会賞助演女優賞受賞) BARTON FINK, Michael Lerner, マイケル・ラーナー(1991年ロサンゼルス映画批評家協会賞助演男優賞受賞)
ジュディ・デイヴィス バートン・フィンク.jpgBARTON FINK, Michael Lerner, 1991l.jpg「バートン・フィンク」●原題:BARTON FINK●制作年:1991年●制作国:アメリカ●監督:ジョエル・コーエン●製作:イーサン・コーエン●脚本:ジョエル&イーサン・コーエン●撮影:ロジャー・ディーキンス●音楽:カーター・パウエル●時間:116分●出演:ジョン・タトゥーロ/ジョン・グッドマン/ジュディ・デイヴィス/マイケル・ラーナー/ジョン・マホーニー/トニー・シャルーブ●日本公開:1992/03●配給:KUZUIエンタープライズ(評価:★★★★)

「フライド・グリーン・トマト」 (91年/米).jpg「フライド・グリーン・トマト」●原題:FRIED GREEN TOMATO●制作年:1991年●制作国:アメリカ●監督:ジョン・アヴネット●製作:ジョン・アヴネット/ジョーダン・カーナー●脚本:キャロル・ソビエスフライド・グリーン・トマト dvd.jpgキー/ファニー・フラッグ●撮影:ジェフリー・シンプソン●音楽:トーマス・ニューマン●原作:ファニー・フラッグ「フライド・グリーン・トマト・アット・ザ・ホイッスル・ストップ・カフェ」●時間:130分●出演:キャシー・ベイツ/ジェシカ・タンディ/メアリー・スチュアート・マスターソン/メアリー=ルイーズ・パーカー/スタン・ショウ/シシリー・タイソン/クリス・オドネル/ゲイラード・サーテイン/ティム・スコット/ロイス・スミス/グレイソン・フリック/アフトン・スミス/ゲイリー・バサラバ/レイノール・シェイン●日本公開:199206●配給:アスキー映画(評価:★★★★)
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トム・ハンクス/ジーナ・デイヴィス/ マドンナ
プリティ・リーグ [DVD].jpgプリティ・リーグ 1.png「プリティ・リーグ」●原題:A LEAGUE OF THEIR OWN●制作年:1991年●制作国:アメリカ●監督:ペニー・マーシャル●製作:ロバート・グリーンハット/エリオット・アボット●脚本:ババルー・マンデル/ローウェル・ガンツ●撮影:ミロスラフ・オンドリチェク●音楽:ハンス・ジマー●時間:116分●出演:トム・ハンクス/ジーナ・デイヴィス/マドンナ/ロリー・ペティ/ロージー・オドネル/ジョン・ロビッツ/デヴィッド・ストラザーン/ゲイリー・マーシャル/ビル・プルマン/ティア・レオーニ/アン・キューザック/エディ・ジョーンズ/アン・ラムゼイ/ポーリン・ブレイスフォード/ミーガン・カヴァナグ/トレイシー・ライナー/ビッティ・シュラム/ドン・S・デイヴィス/グレゴリー・スポーレダー●日本公開:1992/10●配給:コロンビア・トライスター映画社(評価:★★★★)

Madonna - 1992 Steven Meisel   ジーナ・デイビス in「テルマ&ルイーズ」('91年/米)
Madonna - 1992 Steven Meisel.jpg テルマ&ルイーズ ジーナ・デイビス.jpg

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'90年公開作品で個人的◎は「ドゥ・ザ・ライト・シング」「ドライビング Miss デイジー」。

映画イヤーブック 1991 3298.JPG映画イヤーブック1991 教養文庫.jpg  ドゥ・ザ・ライト・シング0.bmp DRIVING MISS DASIY.bmp
映画イヤーブック〈1991〉 (現代教養文庫)』「ドゥ・ザ・ライト・シング [DVD]」「ドライビングMissデイジー [DVD]
 
 90年代に毎年刊行された現代教養文庫(版元の社会思想社は倒産)の『映画イヤーブック』の1991年版で、1990年に劇場公開された洋画406本、邦画146本、計552本のデータを収めています。ストーリー紹介だけでなく、主だった作品は、映画評論家が分担して執筆し、それぞれ批評を織り込んでいて、後でDVDなどで観賞する際の参考になりました(本書評価は★★★★→必見、★★★→ぜひ見る価値アリ、★★→見て損はしない、★→ヒマつぶしにはなるかも)。本書における四つ星評価(「必見」)作品から幾つか拾うと―。

ドゥ・ザ・ライト・シング1.bmp '90年公開の洋画で先ず個人的に良かったのは、スパイク・リー監督の「ドゥ・ザ・ライト・シング」('89年/米)で、ブルックリンの黒人街でピザ屋を営むイタリア系父子と店員のムーキーやその周辺の黒人たちの暑い夏の1日を、毒々しい色彩感覚とラップのリズムにのせて描いたものですが、まだメジャーになる前のスパイク・リー監督自身がピザ屋の店員のムーキー役で主演しており、作品の根柢には人種差別問題があるのですが、予定調和に終わらない結末にスパイク・リーの鋭さが窺えました。ダニー・アイエロは「ゴッドファーザーPart II」や「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ」にもちょこっと出ていた俳優ですが、この作品で1989年・ロサンゼルス映画批評家協会賞「助演男優賞」を受賞しています。(本書評価★★★★/個人的評価★★★★☆)。

ドライビング miss デイジー.bmp 続いて良かったのがブルース・ベレスフォード監督の「ドライビング Miss デイジー」('89年/米)で、90年度アカデミー賞優秀作品賞・主演女優賞などの最多4部ジェシカ・タンディ アカデミー賞.jpg門に輝いた秀作(ジェシカ・タンディは歴代最高齢(80歳)でのアカデミー主演女優賞受賞)。1948年のアトランタを舞台に70歳過ぎのユダヤ人の元教師(ジェシカ・タンディ)と黒人運転手(モーガン・フリーマン)の交流を描いたもので、ラストの老人ホームでの二人の再会シーンは感動的。こうした"感動ストーリー"仕立てを好まない人もいますが、個人的には入れ込んでしまいました。dジェシカ・タンディの名演もさることながら、この頃のモーガン・フリーマンもいいです(本書評価★★★★/個人的評価★★★★☆)。

「ショーシャンクの空に」03.jpg モーガン・フリーマンが映画俳優として知られるようになったのは50歳の時、ジェリー・シャッツバーグ監督の「NYストリート・スマート」('87年/米)でアカデミー助演男優賞にノミネートされてからで、この「ドライビング Miss デイジー」でアカデミー主演演男「ショーシャンクの空に」02.jpg優賞にノミネートされたのは52歳の時。さらにフランク・ダラボン監督の「ショーシャンクの空に」('94年/米)でティム・ロビンスと共に主役レッドを演じて最高の評価を得、前作に続いてアカデミー主演演男優賞にノミネートされますが受賞はならず、その10年後に、クリント・イーストウッドが監督した「ミリオンダラー・ベイビー」('04年/米)でアカ「ショーシャンクの空に」1994.jpg「ショーシャンクの空に」モーガン.jpgデミー助演男優賞受賞を受賞し、4回目のノミネートでアカデミー俳優となります。(●2023年10月9日、「ショーシャンクの空に」を「TOHOシネマズ錦糸町オリナス」にて「午前十時の映画祭13」で4K版にて再鑑賞(劇評で観るのは初)。モーガン・フリーマンの堂々たる演技が、レッドを単なる"観察者"ではなくより強い存在していることを再認識した。一方で、アカデミー賞を獲れなかった理由も、主人公と異なりレッドが"行動者"ではなく"観察者"に留まっているという役柄設定のせいもあったのではないかと思った。原作は スティーヴン・キングの『刑務所のリタ・ヘイワース』。壁に貼られた女優のポスターリタ・ヘイワース、マリリン・モンロー、ラクエル・ウェルチと変わっていくのが時の流れを表していた。2023年時点で、IMDb Top 250 Moviesの第1位[スコア9.3])
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 自分としては「ショーシャンクの空に」よりも「ドライビング Miss デイジー」に感動してしまったクチなのですが、アメリカの黒人コミュニティーの間では「ドライビング Miss デイジー」は白人にとって都合のいい黒人が描かれている映画として、評判は良くないようです。確かにハリウッド映画の伝統的な黒人の描かれ方の枠を出ていないかも(でも、個人的には名作だと思う)。その対極にあるのが、「ドゥ・ザ・ライト・シング」でもあると言え、アカデミー賞授賞式のプレゼンターとして舞台に立ったキム・ベイシンガーは、「今年のノミネート作品ほど素晴らしい作品が揃った年はない。しかし一つだけ最高の傑作をアカデミーは忘れている」と発言して、「ドゥアカデミー賞 キム・ベイシンガー1.jpgアカデミー賞 キム・ベイシンガー.jpg・ザ・ライト・シング」を取り上げ、「この映画には真実がある」と訴えています(キム・ベイシンガーも「ドライビング Miss デイジー」が良くないとは言っていない。しかしながら、この頃からアカデミーのある種"偏向"を見抜いていたとも言える)。

Guddoferozu(1990).jpgグッドフェロー1.bmp マーティン・スコセッシ監督の「グッドフェローズ」('90年/米)は、実在の人物をモデルにギャングたちの生き様を描いた作品で、ヴェネツィア国際映画祭「銀獅子賞」受賞作。ロバート・デ・ニーロが口封じのために仲間を次々と殺していく様子や、ジョー・ペシがギャングの幹部に呼ばれて昇格かと思い出向いたところ、逆に殺されてしまうところなどオソロシイ。「グッドフェローズ」って、反語的意味合いを含んでいるわけね(本書評価★★★★/個人的評価★★★★)。
Guddoferozu(1990)

トータル・リコール 12.jpg 「トータル・リコール」('90年/米)は、フィリップ・K・ディック(1928-1982/享年53)の短編SF小説「記憶倍シャロン・ストーン12.jpgります」をポール・バーホーベンが監督したもので、シュワルツェネッガー演じる主人公の偽(ニセ)の妻役に、後に同じくポール・バーホーベン監督の「氷の微笑」('92年/米)に主演するシャロン・ストーンが出ていました。優れたSF映画に贈られる「サターンSF映画賞」の第17回受賞作。この作品、最近リメイクされています(本書評価★★★★/個人的評価★★★☆)。

フィリップ・K・ディック原作映画 「ブレードランナー」 ('82年/米)/「マイノリティ・リポート」('02年/米)
ブレードランナー チラシ.jpg ブレードランナー.jpg    マイノリティ・リポート01.jpg マイノリティ・リポート 02.jpg 


ロボコップ 警官.jpg 因みに、ポール・バーホーベン監督は「ロボコップ」('87年/米)で米映画界に進出して成功を収めたオランダ人です。「ロボコップ」は、殉職した警官の遺体を利用したサイボーグ警官が活躍するバイオレンスSFアクション映画で低予算で作られながらもヒットし、「ロボコップ2」「ロボコップ3」やテレビドラマシリーズも作られました(2014年にリメイクされた)。サイボーグ警官を演じたのはピーター・ウェラーでしたが、アーノルド・シュワルツェネッガーも候補だったとロボコップ 1987 pw.jpgか。犯罪多発都市としてデトロイト市を舞台としていますが、デトロイトは当時から既に自動車産業の衰退で荒廃していたため、ロケのほとんどはダラスで行われたそうです。暴力シーンも多いですが、一方で、ピーター・ウェラーの演じる哀愁を帯びた主人公と、そのロボット歩き(ピーター・ウェラーしかできなかったので彼がスタントも演じた)はなかなかのものでした。ラストで、悪人がオム二社(ロボコップを造った会社)の会長を人質にして逃走を図りますが、悪人はオムニ社の役人で、ロボコップに内蔵されていた「オムニ社役員には危害を加えない」というプログラムがあって手を出せないでいたところ、会長が悪人に「お前はクビだ!」と叫んだことでプログラムの規定が消滅し、ロボコップは悪人を射殺するという、そうしたコミカルな面もありました(これも「サターンSF映画賞」の受賞作)。

  
バタアシ金魚ド.jpgバタアシ金魚 dvd2.bmp 洋画ばかり挙げましたが、邦画では「バタアシ金魚」('90年/シネセゾン)なんてあったなあ。個人的には自主制作時代の作品も何本か観たことのある松岡錠司監督の劇場用映画デビュー作、主演の筒井道隆(坊主「バタアシ金魚」.bmp頭で出演)・高岡早紀にとっても共にデビュー作ということで、新鮮味はありました。コミックが原作ながらも、インディペンデント系の雰囲気を残してしてまあまあ面白かったけれど、ストーリーとしては中途半端だった印象も。過食症でブタのように太った主人公も高岡早紀が演じたのだろうか。顔があまり映っていなかったが...(本書評価★★★★/個人的評価★★★☆)。 


ドゥ・ザ・ライト・シング 03.jpg

ドゥ・ザ・ライト・シング dvd.jpg「ドゥ・ザ・ライト・シング」●原題:DO THE RIGHT THING●制作年:1989年●制作国:アメリカ●監督・製作・脚本:スパイク・リー●撮影:アーネスト・ディッカーソン●音楽:ビル・リー●時間:120分●出演:スパイク・リー/ダニー・アイエロ/ルビー・ディー/サミュエル・L・ジャクソン/オジー・デイヴィス/リチャード・エドソン/ジョン・タトゥーロ/ビル・ナン/ロージー・ペレス/ ジョイ・リー/ジャンカルロ・エスポジート/ジョン・サベージ/ロビン・ハリス●日本公開:1990/04●配給:ユニヴァーサル=UIP(評価:★★★★☆)ドゥ・ザ・ライト・シング [DVD]
ドライビング miss デイジー dvd.bmp
ドライビング miss デイジー ちらし.jpg「ドライビング Miss デイジー」●原題:DRIVING MISS DASIY●制作年:1989年●制作国:アメリカ●監督:ブルース・ベレスフォード●製作:リチャード・D・ザナック/リリ・フィニー・ザナック●原作・脚本:アルフレッド・ウーリー●撮影:ピーター・ジェームズ●音楽:ハンス・ジマー●時間:99分●出演:ジェシカ・タンディ/モーガン・フリーマン/ダン・エイクロイド/パティ・ルポーン/エスター・ローレ/ジョアン・ハヴリラ/ウィリアム・ホール・Jr.●日本公開:1990/05●配給:東宝東和(評価:★★★★☆)ドライビングMissデイジー [DVD]

「ショーシャンクの空に」d.jpg「ショーシャンクの空に」01.jpg「ショーシャンクの空に」●原題:THE SHAWSHANK REDEMPTION●制作年:1994年●制作国:アメリカ●監督・脚本:フランク・ダラボン●製作:ニキ・マーヴィン●撮影:ロジャー・ディーキンス●音楽:トーマス・ニューマン●原作:スティーヴン・キング「刑務所のリタ・ヘイワース」●時間:142分●出演:ティム・ロビンス/モーガン・フリーマン/ボブ・ガントン/ウィリアム・サドラー/クランシー・ブラウン/ギル・ベローズ/ジェームズ・ホイットモア●日本公開:1995/06●配給:松竹富士(評価:★★★★)ショーシャンクの空に [DVD]

「グッドフェローズ」.jpg「グッドフェローズ」●原題:GOODFELLAS●制作年:1990年●制作国:アメリカ●監督:マーティン・スコセッシ●製作:アーウィン・ウィンクラー●脚本:ニコラス・ピレッジ/マーティン・スコセッシ●撮影:ミヒャエル・バルハウス●時間:145分●出演:レイ・リオッタ/ロバート・デ・ニーロ/ジョー・ペシ/ロレイン・ブラッコ/ポール・ソルヴィノフランク・シベロ/グッドフェローズ dvd.jpgマイク・スター/フランク・ヴィンセント/チャック・ロー/フランク・ディレオ/サミュエル・L・ジャクソン/クリストファー・セロ/スザンヌ・シェパード/キャサリン・スコセッシ/チャールズ・スコセッシ●日本公開:1990/10●配給:ワーナー・ブラザーズ(評価:★★★★)グッドフェローズ スペシャル・エディション 〈2枚組〉 [DVD]

トータル・リコール [DVD]
トータル・リコール003.jpgトータル・リコール dvd.jpg「トータル・リコール」●原題:TOTAL RECALL●制作年:1990年●制作国:アメリカ●監督:ポール・バーホーベン●製作:バズ・フェイシャンズ/ロナルド・シュゼット●脚本:ロナルド・シュゼット/ダン・オバノン/ゲイリー・ゴールドマン●撮影:ヨスト・ヴァカーノ●音楽:ジェリー・ゴールドスミス●原作:フィリップ・K・ディック「記憶売ります」●時間:113分●出演:アーノルド・シュワルツェネッガー/レイチェル・ティコトータル・リコール シャロン・ストーン.jpgティン/シャロン・ストーン/ロニー・コックス/マイケル・アイアンサイド/マーシャル・ベル/メル・ジョンソン・Jr/ ロイ・ブロックスミス/レイ・ベイカー/マイケル・チャンピオン/デビッド・ネル●日本公開:1990/06●配給:東宝東和(評価:★★★☆)

ロボコップ 1987.jpgロボコップ pw.jpg「ロボコップ」●原題:RoboCop●制作年:1987年●制作国:アメリカ●監督:ポール・バーホーベン●製作:アーン・L・シュミット●脚本:エドワード・ニューマイヤー/マイケル・マイナー●撮影:ヨスト・ヴァカーノ/ソル・ネグリン●音楽:ベイジル・ポールドゥリス●時間:103分●出演:ピーター・ウェラー/ナンシー・アレン/ロニー・コックス/カートウッド・スミス/ダン・オハーリー/ミゲル・フェラー/ロバート・ドクィ/フェルトン・ペリー/レイ・ワイズ/ポール・マクレーン●日本公開:1988/02●配給:ワーナー・ブラザース映画(評価:★★★★)
ロボコップ/ディレクターズ・カット [DVD]

高岡早紀(17歳)(テレフォンカード)/「バタアシ金魚 [DVD]
バタアシ金魚 1990.jpg「バタアシ金魚」2.bmpバタアシ金魚 dvd.jpg「バタアシ金魚」●制作年:1990年●監督・脚本:松岡錠司●製作:日本ビクター●撮影:笠松則通●音楽:茂野雅道●原作:望月峯太郎●時間:95分●出演:高岡早紀/筒井道隆/白川和子/伊武雅刀/東幹久/土屋久美子/浅野忠信/大寶智子/橋本真由子/いしかわじゅん/桜金造/山村美智子/佐藤オリエ/安原麗子●公開:1990/06●配給:シネセゾン●最初に観た場所:シネパトス新宿 (90-06-16)(評価:★★★☆)

筒井道隆(19歳)・浅野忠信(16歳)共に映画デビュー作
「バタアシ金魚」筒井・浅野.jpg「バタアシ金魚」浅野.jpg  
 「バタアシ金魚」で、浅野忠信は丸刈りで牛川工業高校水泳部の主将ウシを演じた。 
 浅野忠信は、自身のSNSのプロフィールとコメントが書かれたページで、「バタアシ金魚」について「撮影の時はあまり楽しくなかったです。撮影以外の時も楽しくなかったです」とコメント。他の部員役は床屋でカットしたが、「僕だけ八王子まで行って、そこから車でちょっと行ったふつうの家に連れてかれ、牛のフンくさい太陽がギラギラ照っている外で、とても暑い思いをしてバリカンの試し刈りとしか思えない断髪式をやった事がとてもムカムカ」したとし、さらに「人の頭を刈るだけ刈って長さメチャクチャ」「あとはメイクさん、向こうで切ってと言って、端の方で頭刈られて、極めつけは、さっきまで僕が頭を刈られてた所でロケをやっているんですから、もうバクハツ寸前でした」と。しかし最後は「でも泳ぎがうまくなったし、世の中の厳しさが分かったし電車にも詳しくなったし、友達ができたのでよかったです。スタッフの人はいい人ばかりでした」としている(引用:「浅野忠信」インスタグラム(@tadanobu_asano))

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カタルシスよりも余韻。アリが「走った」ことは、やがては妹にとって忘れられない思い出に。

『運動靴と赤い金魚』(1997).jpg     運動靴と赤い金魚 dvd2.jpg 運動靴と赤い金魚 dvd.jpg
「運動靴と赤い金魚」(1997)    「運動靴と赤い金魚 [DVD]」[' 00年]「運動靴と赤い金魚 [DVD]」['05年]

運動靴と赤い金魚0.jpg 小学3年生のアリ(ミル=ファロク・ハシェミアン)は、修理してもらったばかりの妹ザーラ(バハレ・セッデキ)の靴を失くしてしまうが、家が貧しいため新しい靴を買ってもらえそうになく、怒られるのが怖くて、親にもそのことを言えない。妹が学校に行く時に自分の運動靴を貸してやるという日々が続くが、そんなある日、学校の掲示板にマラソン大会の参加者が発表され、その大会は、学校代表として数名が参加出来るもので、既に予選会は終了していた。しかしアリは、大会の3等賞品が運動靴であることを知り、教師に参加を哀願して単独でランニング・テストを受け、大会参加の切符を得る―。

運動靴と赤い金魚2.jpg モントリオール世界映画祭でグランプリを含む4部門を受賞し、第71回アカデミー賞外国語映画賞にもノミネートされた作品。初めて観た時は、イラン映画のレベルの高さに驚いたものの、何だかハリウッド映画の泣かせのテクニックを踏襲しているようで、しかも、結構唐突な終わり方をするため、それほど感動しなかったのですが、最近観直していい映画に思えたのは、歳のせいかも。

 脚本がまず上手いというか、1等ではなく3等を獲らなければならないという設定もそうですが、ラストはある意味、アンチクライマックスになっているわけで、そのことによって、観る者を"お決まりの感動" ではなく、余韻のある世界に導いている感じがしました。

運動靴と赤い金魚1.jpg 子役が兄・妹とも素人だったということを後で知り、改めて演出の見事さに感服。映像も秀逸で、一場面一場面が印象に残っていましたが、音楽は殆ど使われていなかったのだなあ。それでいて、これだけ心に滲みる情感を醸すというのは、結構スゴイことかも。

 通学に際して同じ運動靴を兄と妹が共用することが出来るというのは、イランの学校には二部制があり、女子生徒の授業が朝ならば男子生徒の授業は昼といった分離教育になっているためだそうですが、そうしたことだけでなく、イランの庶民の家での暮らしぶりや、如実な経済格差などが、静かに流れる映像と、淡々としたエピソードの積み重ねからよく窺えます。

 そして、いよいよマラソン大会。途中まで、"感動作品"にありがちなパターンで"盛り上げ"ますが、これらはすべて計算されてのことだったわけか。最初観た時は、彼がヒーローになるのがちょっと「お話」っぽいという感じだったのですが、観直してみて、やはり、この方がアリの内面の苦々しさが浮き彫りにされるように思いました。

 妹の欲しかった「赤い運動靴」はどうなってしまったのかとも思ったけれども、これも"大丈夫"、ちゃんと、父親の自転車の荷台に...。この辺りは、父親の仕事探しに際して、アリがその賢明さを発揮して父を助けたエピソードとリンクしているわけで、上手く出来ているなあ。

運動靴と赤い金魚 ポスター.bmp運動靴と赤い金魚3.jpg モントリオール国際映画 グランプリ受賞など数々の映画祭で賞を受賞し、福岡国際映画祭など内外の映画祭で公開された時のタイトルは「天使のような子どもたち」(Children of the Heaven)でしたが、「運動靴と赤い金魚」の方がいいと思われ、その「赤い金魚」は最後に出てくるわけですが、う~ん、こういう映画の終わり方というのは、なかなか他の作品では無いでしょう。

 フンと鼻を鳴らすようにしてアリの前を去っていく妹。しかし、アリが妹のために「走った」ことは、やがては妹にとって忘れられない思い出になるのではないでしょうか。

Bacheha-Ye aseman(1997)
「運動靴と赤い金魚」.jpgBacheha-Ye aseman(1997).jpg「運動靴と赤い金魚」●原題:CHILDREN OF HEAVEN (Bacheha-Ye aseman)●制作年:1997年●制作国:イラン●監督・脚本:マジッド・マジディ●製作:アミール・エスファンディアリ/モハマド・エスファンディアリ●撮影:パービス・マレクサデー●音楽:ケイヴァン・ジャハーンシャヒー●時間:88分●出演:アミシネスイッチ銀座.jpgル・ナージ/ミル=ファロク・ハシェミアン/バハレ・セッデキ/フェレシュテ・サラバンディ/ハッサン・ハッサンドスト●日本公開:1999/07●配給:エースピクチャーズ●最初に観た場所:シネスイッチ銀座2 (99-07-31)(評価:★★★★☆)
シネスイッチ銀座2 1955年11月21日オープン「銀座文化劇場(地階466席)・銀座ニュー文化(3階411席)」、1978年11月2日~「銀座文化1(地階353席)・銀座文化2(3階210席)」、1987年12月19日〜「シネスイッチ銀座(前・銀座文化1)・銀座文化劇場(前・銀座文化2)」、1997年2月12日〜休館してリニューアル「シネスイッチ銀座1(前・シネスイッチ銀座)(地階273席)・シネスイッチ銀座2(前・銀座文化劇場)(3階182席)」

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非情さと人間臭さを併せ持ったスパイ像。ひと癖ありそうなドナルド・サザーランド向きだった?

針の眼.jpg 針の眼 創元推理文庫.jpg 針の眼 dvd.jpg 針の眼 映画チラシ.jpg  鷲は舞いおりた_.jpg
針の眼 (ハヤカワ・ノヴェルズ)』['80年]『針の眼 (創元推理文庫)』['09年]「針の眼 [DVD]」/映画チラシ 「鷲は舞いおりた [DVD]

針の眼 新潮文庫.jpg 第2次世界大戦の最中、英国内で活動していたドイツの情報将校ヘンリー・フェイバー(コードネーム"針")は、連合軍のヨーロッパ進攻に関する重大機密を入手、直接アドルフ・ヒトラーに報告するため、英国陸軍情報部の追跡を振り切り、Uボートの待つ嵐の海へ船を出したが、暴風雨の影響で離れ小島に漂着してしまう―。

針の眼 (新潮文庫)』['96年]

針の眼 .jpg 1978年にイギリスの作家ケン・フォレット(Ken Follett)が発表したスパイ小説で(原題:The Eye of the Needle)、1979年「アメリカ探偵作家クラブ賞(エドガー賞)」を受賞した作品。この人は『大聖堂』以来、歴史小説家の趣きがありますが、この作品でエドガー賞などを受賞し、『トリプル』(Triple)、『レベッカへの鍵』 (The Key to Rebecca)と相次いで発表していた頃は、米国のロバート・ラドラム(1927-2001)に続くエスピオナージュの旗手という印象でした。

 この作品には相変わらず根強いファンがいるようで、集英社文庫、新潮文庫にそれぞれ収められ、'09年には創元推理文庫からも新訳が出たり、 映画化作品がWOWOWでハイビジョン放送されるなどしていますが、もともと原文が読み易いのではないでしょうか。畳み掛けるようなテンポの良さがあります。

ジャッカルの日 73米.jpg スパイの行動を追っていくという点では、同じ英国の作家フレデリック・フォーサイスの『ジャッカルの日』と似て無くもないし、『ジャッカルの日』を読む前からドゴールが暗殺されなかったのを知っているのと同じく、連合軍の欧州侵攻の上陸地点がカレーであるかのように見せかけて実はノルマンディだという"針"ことヘンリーが掴んだ"機密情報"が、結局ヒトラーにもたらされることは無かったという既知の事実から、彼が目的を果たすことは無かったということは事前に察せられます。

針の眼 映画eye-of-the-needle.jpg 但し、そのプロセスがやや異なり、マシーンのように非情に行動する"ジャッカル"に対し、ヘンリーは、同じく非情な人物ではあるものの、流れついた島の灯台守の夫婦に世話になるうちに、その妻と"本気"の恋に落ちてしまうという人間臭い設定になっています(夫針の眼 洋モノチラシ.jpgが下半身不随で、妻は欲求不満気味だった?)。そして、そのことが結局は、彼が任務を遂行し得なかった原因に―。

ドナルド・サザーランド in「針の眼」(1981)

 '81年にリチャード・マーカンド監督によって映画化され、ヘンリー役がドナルド・サザーランド(Donald Sutherland、1935‐)というのには当初は違和感がありましたが、実際に映画を観てみたら、結局は向いていたかもしれないと思いました。

 このひと癖もふた癖もありそうな人物を演じるのが上手いカナダ出身の俳優は、ロバート・アルトマン監督の「M★A★S★H」('70/米)からフェデリコ・フェリーニ監督の「カサノバ」('76年/伊)まで幅広い役柄をこなし、英国のジャク・ヒギンズ(1929-2022/92歳没)が1975年に発表したベストセラー小説『鷲は舞い降りた』('81年/ハヤカワ文庫NV)の映画化作品でジョン・スタージェス監督の遺作となった「鷲は舞いおりた」('76年/英)にも戦争スパイ役で出ていました(同じ年に「カサノバ」と「鷲は舞いおりた」というこのまったく毛色の異なる2本の作品に出ているというのもスゴイが)。

『鷲は舞い降りた (Hayakawa Novels)』.jpg『鷲は舞い降りた 完全版 (Hayakawa Novels)』.jpg鷲は舞い降りた (ハヤカワ文庫NV)_.jpg鷲は舞い降りた (Hayakawa Novels)』 ('76年)
鷲は舞い降りた 完全版 (Hayakawa Novels)』 ('92年)
鷲は舞い降りた (ハヤカワ文庫NV)』('97年改版版)

 「鷲は舞いおりた」は、原作『鷲は舞い降りた』は、第二次世界大戦中の英国領内にある寒村を舞台に、保養地滞在中の英国首相相ウィンストン・チャーチルを拉致しようとするナチス親衛隊長ヒムラーによる「イーグル計画」(架空?)という特殊任務を受けたナチス・ドイツ落下傘部隊の冒険を描いたもので、英米において発売直後から約6か月もの間ベストセラーに留まり続け、当時の連続1位記録を塗り替えたという作品であり、発表の翌年に映画化されたことになります。鷲は舞いおりた 00.jpg鷲は舞いおりた_.jpg鷲は舞いおりた サザーランド.jpgドイツのパラシュート部隊の精鋭を率いるシュタイナーを演じたマイケル・ケインが主役で、ドナルド・サザーランドの役どころは、部隊に先んじて英国に潜入する元IRAのテロリストで現大学教授のリーアム・デヴリン。スパイである男性(デヴリン)が潜入先で地元の女性と恋に陥るところが「針の眼」と似ていますが、シュタイナーの部隊の人間がどんどん死んでいく(計画を指揮したラードル大佐(ロバート・デュヴァル)も失敗の責を取らされ銃殺される。但し、ヒトラーの命令によ鷲は舞いおりた 11.jpg鷲は舞いおりた .jpgる形をとっているが、元々からヒムラー(ドナルド・プレザンス、本物そっくり!)の独断的計画であったことが示唆されていて、ヒムラー自身は何ら責任を取らない)という状況の中で、愛に目覚めたデヴリンは最後に生き残ります(ドナルド・サザーランドについて言えば、「針の眼」とちょうど逆の結末と言えるかもしれない。ケン・フォレットとジャック・ヒギンズの作風の違いか?)。

「鷲は舞いおりた」(1976)出演:マイケル・ケイン/ドナルド・サザーランド/ロバート・デュヴァル

カサノバ 1シーン.jpgカサノバ サザーランドs.jpg 「カサノバ」は全編スタジオ撮影で、巨大なセットがカサノバの人生の虚しさとだぶっていると言われているそうです(フェリーニ監督は彼の人生を演技的と捉えたのか)。カサノバ(ドナルド・サザーランド)が自らの強壮ぶりを誇示する"連続腕立て伏せ"シーンなどは凄かったというか、むしろ悲壮感、悲哀感があった...(ある精神分析家によれば、好色家には、"女性なら誰とでも"という「カサノバ型」と"高貴な女性を落とす"ことに喜びを感じる「ドンファン型」があるそうだが、何れもマザー・コンプレックスに起因するそうな)。

「カサノバ」.jpgカサノバ フェリーニ.jpg この映画のカサノバ役は、ロバート・レッドフォードをはじめ多くの自薦他薦の俳優が候補にあがったようですが、「最もそれらしくない風貌」をフェリーニ監督に買われてドナルド・サザーランドに決定したそうです。ただ、当のドナルド・サザーランドは、なぜ自分が起用されたのか分からず、自分がどういう映画に出ているのかさえも最後まで掴めなかったそうです。
ドナルド・サザーランド in「カサノバ」(1976)

Donald Sutherland and Kate Nelligan.jpg 「針の眼」の映画の方は、「カサノバ」及び「鷲は舞いおりた」の5年後に撮られた作品ですが、ここでのサザーランドは、冷徹非情ながらもやや"もっそり"した感じもあって、それでいて目付きは鋭く(こういう病的に鋭い目線は、後のロン・ハワード監督の「バックドラフト」('91年/米)の放火魔役に通じるものがある)、半身不随の灯台守の夫を自身の正体を知られたために殺害する場面などは、(相手を殺らなければ自分が殺られるという状況ではあるが)"卑怯者ぶり"丸出しで、普通のスパイ映画にある"スマートさ"の微塵も無く、それが却ってリアリティありました。

針の眼 シーン2.jpg ケイト・ネリガン(この人もカナダ出身で演技を学ぶためにイギリスに渡った点でドナルド・サザーランドと重なる)が演じる灯台守の妻がヘンリーの正体を知り、突然愛国心に目覚めたため?と言うよりは、ヘンリーの行為を愛情に対する裏切りととったのでしょう、「何もかも戦争のせいだ。解ってくれ」と弁解する彼に銃を向けるという、直前まで愛し合っていた男女が殺し合いの争いをする展開は、映像としてはキツイものがありましたが、それだけに反戦映画としての色合いを強く感じました。

ケイト・ネリガン in「針の眼」
       
ダーティ・セクシー・マネー.jpg 因みに、ドナルド・サザーランドの息子のキーファー・サザーランド(英ロンドン出身)も俳優で、今は映画よりもTVドラ24 -TWENTY FOUR-ド.jpgマ「24-TWENTY FOUR-」のジャック・バウアー役で活躍していますが(どの場面を観ても、いつも銃と携帯電話を持って、無能な大統領補佐官らに代わって大統領から直接指令を受け、毎日"全米を救うべく"駆け回っていた)、父親ドナルド・サザーランドの方も、「ダーティ・セクシー・マネー」の大富豪役などTVドラマで最近のその姿(相変わらず、どことなく不気味さを漂わせる容貌だが)を観ることができるのが嬉しいです(でも本国では2シーズンで打ち切りになってしまったようだ)。キーファーが自身の演じるジャック・バウアーの父親役とドナルド・サザーランド バンクーバー五輪.jpgして「24」への出演を依頼した際、ドナルドは「インディ・ジョーンズ/最後の聖戦」('89年/米)におけるショーン・コネリーとハリソン・フォードのような親子関係ならOKだと答えましたが、息子を殺そうとする役だと聞いて断ったということです。

 因みに、ドナルド・サザーランドがカナダ人であることを思い出させるシーンとして、昨年['10年]のバンクーバーオリンピック(第21回オリンピック冬季競技大会)開会式で、オリンピック旗を運ぶ8人の旗手のひとりに彼がいました。

バンクーバーオリンピック開会式(2010年2月12日)五輪旗を掲揚台へと運ぶカナダ出身の著名人たち。右端がドナルド・サザーランド。
 
針の眼ード.jpg針の眼 ド.jpg「針の眼」●原題:EYE OF THE NEEDLE●制作年:1981年●制作国:イギリス●監督:リチャード・マーカンド●製作:スティーヴン・フリードマン●脚本:スタンリー・マン●撮影: アラン・ヒューム●音楽:ミクロス・ローザ●時間:154分●出演:ドナルド・サザーランド/ケイト・ネリガン/イアン・バネン/クリストファー・カザノフ/フィリップ・マーティン・ブラウン/ビル・ナイン●日本公開:1981/10●配給:ユナイテッド・アーティスツ(評価:★★★☆)

カサノバ <HDニューマスター版> [Blu-ray]
カサノバ HDニューマスター版.jpg「カサノバ」●原題:IL CASANOVA DI FEDERICO FELLINI●制作年:1976年●制作国:イタリア●監督:フェデリコ・フェリーニ●製作:アルベルト・グリマルディ●脚本:フェデリコ・フェリーニ/ベルナルディーノ・ザッポーニ●撮影:ジュゼッペ・ロトゥンノ●音楽:ニーノ・ロータ●時間:154分●出演:ドナルド・サザーランド/ティナ・オーモン/マルガレート・クレマンティ/サンドラ・エレーン・アレン/カルメン・スカルピッタ/シセリー・ブラウン/クラレッタ・アルグランティ/ハロルド・イノチェント/ダニエラ・ガッティ/クラリッサ・ロール●日本公開:1980/12●配給:フランス映画社●最初に観た場所:有楽町スバル座(81-02-09)(評価:★★★☆)

鷲は舞いおりた [Blu-ray]
「鷲は舞いおりた」09.jpg鷲は舞いおりた b.jpg鷲は舞い降りた9_2.jpg「鷲は舞いおりた」●原題:THE EAGLE HAS LANDED●制作年:1976年●制作国:イギリス●監督:ジョン・スタージェス●製作:ジャック・ウィナー/デイヴィッド・ニーヴン・ジュニア●脚本:トム・マンキーウィッツ●撮影:アンソニー・B・リッチモンド●音楽:ラロ・シフリン●原作:ジャック・ヒギンズ「鷲は舞いおりた」●時間:123分(劇場公開版)/135分(完全版)●出演:マイケル・ケイン/ドナルド・サザーランド/ロバート・デュヴァル/ジェニー・アガター/ドナルド・プレザンス/アンソニ鷲は舞いおりた ケイン サザーランド.jpg鷲は舞い降りた ロバート・デュヴァル.jpg鷲は舞い降りた D・プレザンス.jpgー・クエイル/ジーン・マーシュ/ジュディ・ギーソン/トリート・ウィリアムズ/ラリー・ハグマン/スヴェン=ベッティル・トーベ/ジョン・スタンディング●日本公開:1977/08●配給:東宝東和●最初に観た場所:池袋テアトルダイア (77-12-24)(評価:★★★☆)●併映:「ジャッカルの日」(フレッド・ジンネマン)/「ダラスの熱い日」(デビッド・ミラー)/「合衆国最後の日」(ロバート・アルドリッチ)(オールナイト)

ロバート・デュヴァル(ラードル大佐)/ドナルド・プレザンス(ナチス親衛隊長ヒムラー)

24 (2001)
24 (2001).jpg24 TWENTY FOUR.jpg「24」ホッパー.jpg「24-TWENTY FOUR-」24 (FOX 2001/11~2009) ○日本での放映チャネル:フジテレビ(2004~2010)/FOX
24 -TWENTY FOUR- ファイナル・シーズン DVDコレクターズBOX

デニス・ホッパー(シーズン1(2001-2002)ヴィクター・ドレーゼン役)


Dirty Sexy Money.jpg「ダーティ・セクシー・マネー」Dirty Sexy Money (ABC 2007/09~2009) ○日本での放映チャネル:スーパー!ドラマTV(2008~)
Dirty Sexy Money: Season One [DVD] [Import]

 

 【1983年文庫化[ハヤカワ文庫(鷺村達也:訳)]/1996年再文庫化[新潮文庫(戸田裕之:訳)]/2009年再文庫化[創元推理文庫(戸田裕之:訳)]】

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原作の絵解き? 27歳にして大女優の風格のジョーン・クロフォード。

雨 マイルストン.jpg雨 1932.jpg Lewis Milestone rain.jpg 雨.jpg
雨 [DVD]」『雨―他一篇 (1958年) (角川文庫)』ジョーン・クロフォード/ウォルター・ヒューストン

雨 マイルストンの1シーン.jpg 南洋・サモアの島を舞台に、魔窟を流れ歩く娼婦サディ・トンプソンと、彼女を宗教的救いの世界に導こうとする宣教師デヴィッドソンの確執を描いた英国の作家ウィリアム・サマセット・モーム(William Somerset Maugham 1874‐1965)の中篇を、米国のルイス・マイルストン(Lewis Milestone 1895‐1980)が監督した作品(原題:Rain)。

雨 1932   .jpg 原作は1921年刊行(モーム47歳)の短編集『木の葉の戦(そよ)ぎ』(The Trembling of a Leaf)に収められていた中篇小説ですが、『人間の絆』(41歳)、『月と六ペンス』(45歳)と、彼が最も脂が乗っていていた頃の作品で、しかも、短編小説では世界最高峰級と言われたモームの中短編小説の中でも代表作と言われているものです(個人的には、長編小説(『人間の絆』など)も"世界最高峰級"だと思うが)。

 娼婦の改心に成功したかに見えた宣教師は、最後は海辺で喉を掻き切られた遺体で(剃刀を握ったまま)発見され、娼婦は一夜にして元の淫蕩な生活に戻ってしまい、男は皆、薄汚い豚だ!と罵詈雑言を吐いているところで話は終わるのですが、この小説には作者が説明をしていない謎があるとされていて、1つは、宣教師は何故死んだのか(自殺か他殺か)ということであり、もう1つは、彼が自らの邪念に負けて娼婦に手を出したのか、娼婦が積極的に彼を誘ったのかという点のようです。しかし、小説の流れからすれば答えは明らかであるような気もし、映画は、その答えを更に判り易いかたちで見せているように思います(事件当夜の宣教師の演技シーンは、やや過剰演出?)。

Joan Crawford
ジョーン・クロフォード.jpg 宣教師役のウォルター・ヒューストンの常にチン・アップして喋る演技は、確かに原作テーマに沿ってアイロニーが効いているように思えましたが(宣教師と言うよりナチの将校にも見える)、 そのワンパターン的演技よりも、娼婦役のジョーン・クロフォードの、めまぐるしく変容する主人公の心理を表す多彩な演技が素晴しく(一度は心底改心したように見え、それだけにラストの衝撃が大きい)、27歳にして大女優の風格を漂わせています。

 人生に倦んだ娼婦役ということもあってか、この映画ではパッと見てそんな美人に見えないんですが(1938年の映画なりに昔風の美人?)、その演技を見ているうち、非常に魅力的で且つ現代的な女性の見えてくるというのが不思議で、最後の原作には無い"Let's Go!"という台詞も、その生きる逞しさの発露と看做せば、原作のテーマからも外れていないかも。

淀川長治究極の映画ベスト100_1.jpg 『淀川長治究極の映画ベスト100』('03年/河出文庫)によれば、ジョーン・クロフォードは「グランド・ホテル」('32年/米)で共演したグレタ・ガグランド・ホテル dvd ivc.jpgルボに馬鹿にされて怒ってしまい、ハリウッドの第一級プロデューサーのサミュエル・ゴールドウィンに泣きついて、生涯最高の作品に出演させて欲しいと頼み込み、そこでゴールドウィンはこの映画の娼婦の役を与えたとのこと。淀川氏もこの作品を彼女の代表作であるとともに名作であると太鼓判を押しています。

淀川長治 究極の映画ベスト100 (河出文庫)

 映画シーンの随所において鬱陶しく降り続ける雨や、娼婦の部屋から流れるジャズ音楽などが、南洋の島の特異な雰囲気を醸すうえで効果的に使われていて、"過剰演出"が無ければより良かったと思うのですが、ルイス・マイルストンはモームの原作の"絵解き"を目指したのかなあ。

「雨に濡れた欲情」21.jpg「雨に濡れた欲情」.jpg '53年に「雨に濡れた欲情」(原題:Miss Sadie Thompson)としてリタ・ヘイワース主演でリメイクされています(日本公開は'54年)。DVD版の「雨の欲情」というタイトルは、リバイバル上映された際に、リメイク版の邦題に影響を受けてつけたタイトルなのだろうか。因みに、この原作は、無声映画時港の女.jpg代に、グロリア・スワンソン主演で「港の女」(原題:Sadie Thompson)として最初に映画化されていますが、個人的には未見です。

雨に濡れた欲情 [DVD]

雨の欲情.jpg「雨」(「雨の欲情」)●原題:RAIN●制作年:1932年●制作国:アメリカ●監督・製作:ルイス・マイルストン●脚本:ウィリアム・サマセット・モーム/ジョン・コルトン/クレメンス・ランドルフ/マクスウェル・アンダーソン●撮影:オリヴァー・T・マーシュ●音楽:アルフレッド・ニューマン●原作:ウィリアム・サマセット・モーム「雨」●時間:94分●出演:ジョーン・クロフォード/ウォルター・ヒューストン/ウィリアム・ガーガン/ガイ・キビー/ウォルター・キャトレット/ボーラ・ボンディ●日本公開:1933/09●配給:ユナイテッド・アーティスツ(評価:★★★☆)

雨・赤毛 モーム短篇集(I) (新潮文庫).jpg【1940年文庫化[岩波文庫(中野好夫訳『雨: 他二篇』)]/1951年再文庫化[三笠文庫(中野好夫訳『雨』)]/1958年再文庫化[角川文庫(西村孝次訳『雨』)]/1959年再文庫化[新潮文庫(中野好夫:訳『雨・赤毛―モーム短篇集(I)』)]/1962年再文庫化[岩波文庫(朱牟田夏雄 訳『雨・赤毛 他一篇』)]/1978年再文庫化[講談社文庫(北川悌二訳『雨・赤毛』)])]】

雨・赤毛: モーム短篇集(I) (新潮文庫)

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高評価作品が多い30年~50年代。40年~50年代の12作品の著者の評価を自分のと比べると...。

ミュージカル洋画 ぼくの500本.jpg     巴里のアメリカ人08.jpg バンド・ワゴン 映画poster.jpg 南太平洋 チラシ.jpg
ミュージカル洋画ぼくの500本 (文春新書)』 「巴里のアメリカ人」1シーン/「バンド・ワゴン」ポスター/「南太平洋」チラシ

 著者の外国映画ぼくの500本('03年4月)、『日本映画 ぼくの300本』('04年6月)、『外国映画 ハラハラドキドキぼくの500本』('05年11月)、『愛をめぐる洋画ぼくの500本』('06年10月)に続くシリーズ第5弾で、著者は1910年10月生まれですから、刊行年(西暦)の下2桁に90を足せば、刊行時の年齢になるわけですが、凄いなあ。

 本書で取り上げた500本は、必ずしもブロードウェイなどの舞台ミュージカルを映画化したものに限らず、広く音楽映画の全般から集めたとのことですが、確かに「これ、音楽映画だったっけ」というのもあるにせよ、500本も集めてくるのはこの人ならでは。何せ、洋画だけで1万数千本観ている方ですから(「たとえ500本でも、多少ともビデオやDVDを買ったり借りたりするときのご参考になれば幸甚である」とありますが、「たとえ500本」というのが何だか謙虚(?))。

天井桟敷の人々 パンフ.JPG『天井桟敷の人々』(1945).jpg 著者独自の「星」による採点は上の方が厳しくて、100点満点換算すると100点に該当する作品は無く、最高は90点で「天井桟敷の人々」('45年)と「ザッツ・エンタテインメント」('74年)の2作か(但し、個人的には、「天井桟敷の人々」は、一般的な「ミュージカル映画」というイメージからはやや外れているようにも思う)。
 85点の作品も限られており、やはり旧い映画に高評価の作品が多い感じで、70年代から85点・80点の作品は減り、85点は「アマデウス」('84年)が最後、以降はありません。
 これは、巻末の「ミュージカル洋画小史」で著者も書いているように、70年代半ばからミュージカル映画の急激な凋落が始まったためでしょう。

 逆に30年代から50年代にかけては高い評価の作品が目白押しですが、個人的に観ているのは40年代半ば以降かなあという感じで自分で、自分の採点と比べると次の通りです。(著者の☆1つは20点、★1つは5点)

①「天井桟敷の人々」 ('45年/仏)著者 ☆☆☆☆★★(90点)/自分 ★★★★(80点)
天井桟敷の人々1.jpg天井桟敷.jpg天井桟敷の人々 ポスター.jpg 著者は、「規模の雄大さ、精神の雄渾において比肩すべき映画はない」としており、いい作品には違いないが、3時間超の内容は結構「大河メロドラマ」的な要素も。占領下で作られたなどの付帯要素が、戦争を経験した人の評価に入ってくるのでは? 著者は「子供の頃に見た見世物小屋を思い出す」とのこと。実際にそうした見世物小屋を見たことは無いが(花園神社を除いて。あれは、戦前というより、本来は地方のものではないか)、戦後の闇市のカオスに通じる雰囲気も持った作品だし、ヌード女優から伯爵の愛人に成り上がる女主人公にもそれが体現されているような。

「天井桟敷の人々」●原題:LES ENFANTS DU PARADIS●制作年:1945年●制作国:フランス●監督:マルセル・カルネ●製作:フレッド・オラン●脚本:ジャック・プレヴェール●撮影:ロジェ・ユベール/マルク・フォサール●音楽:モーリス・ティリエ/ジョセフ・コズマ●時間:190分●出演:アルレッティ/ジャン=ルイ・バロー/ピエール・ブラッスール/マルセル・エラン/ルイ・サルー/マリア・カザレス/ピエール・ルノワール●日本公開:1952/02●配給:東宝●最初に観た場所:池袋文芸坐(82-03-21)●併映:「ネオ・ファンタジア」(ブルーノ・ボセット)

②「アメリカ交響楽」 ('45年/米)著者 ☆☆☆★★(70点)自分 ★★★☆(70点)
アメリカ交響楽 RHAPSODY IN BLUE.jpgアメリカ交響楽.jpg この映画の原題でもある「ラプソディー・イン・ブルー」や、「スワニー」「巴里のアメリカ人」「ボギーとベス」などの名曲で知られるガーシュウィンの生涯を描いた作品で、モノクロ画面が音楽を引き立てていると思った(著者は、主役を演じたロバート・アルダより、オスカー・レヴァント(本人役で出演)に思い入れがある模様)。因みに、日本で「ロード・ショー」と銘打って封切られた映画の第1号。

「アメリカ交響楽」 ●原題:RHAPSODY IN BLUE●制作年:1945年●制作国:アメリカ●監督:アーヴィン・クーパー●製作:フレッド・オラン●脚本:ハワード・コッホ●撮影:ソル・ポリート●音楽ジョージ・ガーシュウィン●時間:130分●出演:ロバート・アルダ/ジョーン・レスリー/アレクシス・スミス/チャールズ・コバーン/アルバート・バッサーマン/オスカー・レヴァント/ポール・ホワイトマン/ジョージ・ホワイト/ヘイゼル・スコット/アン・ブラウン、アル・ジョルスン/ジュリー・ビショップ●日本公開:1947/03●配給:ワーナー・ブラザース映画●最初に観た場所:テアトル新宿(85-09-23)

③「錨を上げて」 ('45年/米)著者 ☆☆☆★(65点)自分 ★★★(60点)
錨を上げて08.jpg錨を上げて2.jpg錨を上げて.jpgAnchors Aweigh.jpg 4日間の休暇を得てハリウッドへ行った2人の水夫の物語。元気のいい映画だけど、2時間20分は長かった。ジーン・ケリーがアニメ合成でトム&ジェリーと踊るシーンは「ロジャー・ラビット」の先駆けか(著者も、その技術を評価。ジーン・ケリーが呼び物の映画だとも)。
錨を上げて アニメ.jpg
「錨を上げて」●原題:ANCHORS AWEIGH●制作年:1945年●制作国:アメリカ●監督:ジョージ・シドニー●製作:ジョー・パスターナク●脚本:イソベル・レナート●撮影:ロバート・プランク/チャールズ・P・ボイル●音楽監督:ジョージー・ストール●原作:ナタリー・マーシン●時間:140分●出演:フランク・シナトラ/キャスリン・グレイソン/ジーン・ケリー/ホセ・イタービ /ディーン・ストックウェル/パメラ・ブリットン/ジョージ・シドニー●日本公開:1953/07●配給:MGM日本支社●最初に観た場所:テアトル新宿(85-10-19)

④「夜も昼も」 ('46年/米)著者 ☆☆☆★(65点)自分 ★★★(60点)
NIGHT AND DAY 1946.jpg夜も昼も NIGHT AND DAY.jpgNight and Day Cary Grant.jpg アメリカの作曲家コール・ポーターの伝記作品。著者の言う通り、「ポーターの佳曲の数々を聴かせ唄と踊りの総天然色場面を楽しませる」のが目的みたいな作品(曰く「その限りにおいては楽しい」と)。

「夜も昼も」●原題:NIGHT AND DAY●制作年:1946年●制作国:アメリカ●監督:マイケル・カーティズ●製作:アーサー・シュワルツ●脚本:チャールズ・ホフマン/レオ・タウンゼンド/ウィリアム・バワーズ●撮影:ペヴァレル・マーレイ/ウィリアム・V・スコール●音楽監督:レオ・F・フォーブステイン●原作:ナタリー・マーシン●時間:116分●出演:ケーリー・グラント/アレクシス・スミス/モンティ・ウーリー/ジニー・シムズ/ジェーン・ワイマン/カルロス・ラミレス●日本公開:1951/01●配給:セントラル●最初に観た場所:テアトル新宿(85-10-19)

⑤「赤い靴」('48年/英)著者 ☆☆☆☆(80点)自分 ★★★(60点)
赤い靴 ポスター.jpg赤い靴.jpg赤い靴2.jpg ニジンスキーとロシア・バレエ団の主宰者ディアギレフとの関係がモデルといわれているバレエもの(ハーバート・ロス監督の「ニジンスキー」('79年/英)は両者の確執にフォーカスした映画だった)だが、主人公が女性になって、「仕事か恋か」という今も変わらぬ?テーマになっている感じ。著者はモイラ・シアラーの踊りを高く評価している。ヨーロッパには「名人の作った赤い靴をはいた者は踊りの名手になれるが、一生踊り続けなければモイラ・シアラー.jpgならない」という「赤い靴」の伝説があるそうだが、「赤い靴」と言えばアンデルセンが先に思い浮かぶ(一応、そこから材を得ているとのこと)。

「赤い靴」 ●原題:THE RED SHOES●制作年:1948年●制作国:イギリス●監督:エメリック・プレスバーガー●製作:マイケル・パウエル/エメリック・プレスバーガー●脚本:マイケル・パウエル/エメリック・プレスバーガー●撮影:ジャック・カーディフ●音楽演奏:ロイヤル・フィルハーモニック・オーケストラ●原作:ハンス・クリスチャン・アンデルセン●時間:136分●出演:アントン・ウォルブルック/マリウス・ゴーリング/モイラ・シアラー/ロバート・ヘルプマン/レオニード・マシーン●日本公開:1950/03●配給:BCFC=NCC●最初に観た場所:高田馬場パール座(77-11-10)●併映:「トリュフォーの思春期」(フランソワ・トリュフォー)
モイラ・シアラー

⑥「イースター・パレード」('48年/英)著者 ☆☆☆☆(80点)自分 ★★★☆(70点)
Easter Parade (1949).jpgイースター・パレード dvd.jpg ジュディ・ガーランドとフレッド・アステアのコンビで、ショー・ビズものとも言え、一旦引退したアステアが、骨折のジーン・ケリーのピンチヒッター出演で頑張っていて、著者の評価も高い(戦後、初めて輸入された総天然色ミュージカルであることも影響している?)。

「イースター・パレード」●原題:EASTER PARADE●制作年:1948年●制作国:アメリカ●監督:チャールズ・ウォルターズ●製作:アーサー・フリード●脚色:シドニー・シェルダン/フランセス・グッドリッチ/アルバート・ハケット●撮影:ハリー・ストラドリング●音楽演奏:ジョニー・グリーン/ロジャー・イーデンス●原作:フランセス・グッドリッチ/アルバート・ハケット●時間:136分●出演:ジュディ・ガーランド/フレッド・アステア/ピーター・ローフォード/アン・ミラー/ジュールス・マンシュイン●日本公開:1950/02●配給:セントラル●最初に観た場所:テアトル新宿(85-10-19)

⑦「踊る大紐育」('49年/米)著者 ☆☆☆☆★(85点)自分 ★★★☆(70点)
踊る大紐育.jpg 24時間の休暇をもらった3人の水兵がニューヨークを舞台に繰り広げるミュージカル。3人が埠頭に降り立って最初に歌うのは「ニューヨーク、ニューヨーク」。振付もジーン・ケリーが担当した。著者はヴェラ=エレンの踊りが良かったと。

踊る大紐育(ニューヨーク) dvd.jpg「踊る大紐育」●原題:ON THE TOWN●制作年:1949年●制作国:アメリカ●監督:スタンリー・ドーネン●製作:アーサー・フリード●脚本:ベティ・カムデン/アドルフ・グリーン●撮影:ハロルド・ロッソン●音楽:レナード・バーンスタイン●原作:ベティ・カムデン/アドルフ・グリーン●時間:98分●出演:ジーン・ケリー/フランク・シナトラ/ジュールス・マンシン/アン・ミラー/ジュールス・マンシュイン/ベティ・ギャレット/ヴェラ・エレン●日本公開:1951/08●配給:セントラル●最初に観た場所:テアトル新宿(85-09-23)

巴里のアメリカ人 ポスター.jpg⑧「巴里のアメリカ人」 ('51年/米)著者 ☆☆☆☆★(85点)自分 ★★★★(80点)
巴里のアメリカ人2.jpg巴里のアメリカ人 dvd.jpg 音楽はジョージ・ガーシュイン。踊りもいいし、ストーリーも良く出来ている。著者の言う様に、舞台装置をユトリロやゴッホ、ロートレックなど有名画家の絵に擬えたのも楽しい。著者は「一番感心すべきはジーン・ケリー」としているが、アクロバティックな彼の踊りについていくレスリー・キャロンも中国雑伎団みたいで凄い(1951年アカデミー賞作品)。

ジーンケリーとレスリーキャロン.jpg巴里のアメリカ人09.jpg「巴里のアメリカ人」●原題:AN AMERICAN IN PARIS●制作年:1951年●制作国:アメリカ●監督:ヴィンセント・ミネリ●製作:アーサー・フリード●脚本:アラン・ジェイ・ラー「巴里のアメリカ人」 .jpgナー●撮影:アルフレッド・ギルクス●音楽:ジョージ・ガーシュイン●時間:113分●出演:ジーン・ケリー/レスリー・キャロン/オスカー・レヴァント/ジョルジュ・ゲタリー/ユージン・ボーデン/ニナ・フォック●日本公開:1952/05●配給:MGM日本支社●最初に観た場所:高田馬場パール座(78-05-27)●併映:「シェルブールの雨傘」(ジャック・ドゥミ)

⑨「バンド・ワゴン」('53年/米)著者 ☆☆☆☆★(85点)自分 ★★★★(80点)
バンド・ワゴン08.jpgバンド・ワゴン2.jpgバンド・ワゴン.jpgバンド・ワゴン 特別版 [DVD].jpgシド・チャリシー.jpg 落ち目のスター、フレッド・アステアの再起物語で、「イースター・パレード」以上にショー・ビズもの色合いが強い作品だが、コメディタッチで明るい。ストーリーは予定調和だが、本書によれば、ミッキー・スピレーンの探偵小説のパロディが織り込まれているとのことで、そうしたことも含め、通好みの作品かも。但し、アステアとシド・チャリシーの踊りだけでも十分楽しめる。シド・チャリシーの踊りも、レスリー・キャロンと双璧と言っていぐらいスゴイ。

THE BANDO WAGON.jpg「バンド・ワゴン」●原題:THE BANDO WAGON●制作年:1953年●制作国:アメリカ●監督:ヴィンセント・ミネリ●製作:アーサー・フリード●脚本:ベティ・コムデン/アドルフ・グリーン●撮影:ハリー・ジャクソン●音楽:アドルフ・ドイッチ/コンラッド・サリンジャー●時間:112分●出演:フレッド・アステア/シド・チャリシー/オスカー・レヴァント/ナネット・ファブレー●日本公開:1953/12●配給:MGM●最初に観た場所:テアトル新宿(85-10-19)

⑩「パリの恋人」('53年/米)著者 ☆☆☆☆(80点)自分 ★★★☆(70点)
パリの恋人dvd.jpg『パリの恋人』(1957).jpgパリの恋人 映画ポスター.jpg 著者曰く「すばらしいファション・ミュージカル」であり、オードリー・ヘプバーンの魅力がたっぷり味わえると(原題の「ファニー・フェイス」はもちろんヘップバーンのことを指す)。Funny Face.jpg 衣装はジバンシー、音楽はガーシュウィンで、音楽と併せて、女性であればファッションも楽しめるのは確か。'S Wonderful.bmp ちょっと「マイ・フェア・レディ」に似た話で、「マイ・フェア・レディ」が吹替えなのに対し、こっちはオードリー・ヘプバーン本人の肉声の歌が聴ける。それにしても、一旦引退したこともあるはずのアステアが元気で、とても57才とは思えない。結局、更に20余年、「ザッツ・エンタテインメント」('74年)まで活躍したから、ある意味"超人"的。

『パリの恋人』(1957) 2.jpgパリの恋人 パンフ.jpg「パリの恋人」●原題:FUNNY FACE●制作年:1956年●制作国:アメリカ●監督:スパリの恋人 パンフ.jpgタンリー・ドーネン●製作:アーサー・フリード●脚本:レナード・ガーシェ●撮影:レイ・ジューン●音楽:ジョージ・ガーシュウィン/アドルフ・ドイッチ●時間:103分●出演:オードリー・ヘプバーン/フレッド・アステア/ケイ・トンプスン/ミシェル・オークレール●日本公開:1957/02●配給:パラマウント映画●最初に観た場所:高田馬場ACTミニシアター(85-11-03)●併映:「リリー・マルレーン」(ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー) 
  
南太平洋パンフレット.jpg⑪「南太平洋」('58年/米)著者 ☆☆☆★(65点)自分 ★★★☆(70点)
 1949年初演のブロードウェイミュージカルの監督であるジョシュア・ローガンが映画版でもそのまま監督したもので、ハワイのカウアイ島でロケが行われた(一度だけ行ったことがあるが、火山活動によって出来た島らしい、渓谷や湿地帯ジャングルなど、野趣溢「南太平洋」(自由が丘武蔵野館).jpgれる自然が満喫できる島だった)。著者は「戦時色濃厚な」作品であるため、あまり好きになれないようだが、それを言うなら、著者が高得点をつけている「シェルブールの雨傘」などは、フランス側の視点でしか描かれていないとも言えるのでは。超エスニック、大規模ロケ映画で、空も海も恐ろしいくらい青い(カラーフィルターのせいか? フィルターの色が濃すぎて技術的に失敗しているとみる人もいるようだ)。トロピカル・ナンバーの定番になった主題歌「バリ・ハイ」や「魅惑の宵」などの歌曲もいい。

「南太平洋」映画チラシ/期間限定再公開(自由が丘武蔵野館) 1987(昭和62)年7月4日~7月31日 
       
南太平洋(87R).jpg南太平洋.jpg「南太平洋」●原題:SOUTH PACIFIC●制作年:1958年●制作国:アメリカ●監督:ジョシュア・ローガン●製作:バディ・アドラー●脚本:ポール・オスボーン●撮影:レオン・シャムロイ●音楽:リチャード・ロジャース●原作:ジェームズ・A・ミッチェナー「南太平洋物語」●原作戯曲:オスカー・ハマースタイン2世/リチャード・ロジャース/ジョシュア・ローガン●時間:156分●出演:ロッサノ・ブラッツィ/ミッチ自由が丘武蔵野館.jpgー・ゲイナー/ジョン・カー/レイ・ウォルストン/フランス・ニューエン/ラス・モーガン●日本公開:1959/11●配給:20世紀フォックス●最初に観た場所:自由が丘武蔵野館(87-07-05)(リバイバル・ロードショー) 自由が丘武蔵野館 (旧・自由が丘武蔵野推理) 1951年「自由が丘武蔵野推理」オープン。1985(昭和60)年11月いったん閉館し改築、「自由が丘武蔵野館」と改称し再オープン。2004(平成16)年2月29日閉館。
   
⑫「黒いオルフェ」('59年/仏)著者 ☆☆☆☆(80点)自分 ★★★★(80点)
黒いオルフェ2.jpg黒いオルフェ (1959).jpg黒いオルフェ dvd.jpg 娯楽作品と言うより芸術作品。ジャン・コクトーの「オルフェ」('50年)と同じギリシア神話をベースにしているとのことだが、ちょっと難解な部分も。著者も言うように、リオのカーニヴァルの描写が素晴らしい。カンヌ国際映画祭パルム・ドール、アカデミー外国映画賞の受賞作。

「黒いオルフェ」●原題:ORFEO NEGRO●制作年:1959年●制作国:フランス●監督:マルセル・カミュ●製作:バディ・アドラー●脚本:マルセル・カミュ/ジャック・ヴィオ●撮影:ジャン・ブールゴワン●音楽:アントニオ・カルロス・ジョビン/ルイス・ボンファ●原作:ヴィニシウス・デ・モライス●時間:107分●出演:ブレノ・メロ/マルペッサ・ドーン/マルセル・カミュ/ファウスト・グエルゾーニ/ルルデス・デ・オリベイラ/レア・ガルシア/アデマール・ダ・シルバ●日本公開:1960/07●配給:東和●最初に観た場所:八重洲スター座(79-04-15)

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姉弟の近親相姦という特異なモチーフをとり上げて、なお透明感を保持している映像美。

山の焚火.jpg Alpine Fire ( Höhenfeuer ).jpg  Fredi M Muller.gif ÖHENFEUER 1985 山の焚火.jpg
山の焚火 [DVD]」/輸入版DVD/Fredi M Muller

hohenfeuer 02.jpg 人里離れた山中の農場で暮らす父、母、姉、そして聾唖の弟の4人家族の物語。家族は皆、弟のことを気遣いながら深い愛情で結ばれていて、その弟は、学校には通わず、山地で働く父の手助けをしながら姉から文字や算数を教わっている。弟には時々爆発的な衝動を抑制できなくなる性質(癲癇)があり、ある日、故障した芝刈り機に腹を立ててそれを壊してしまい、怒った父親から家を追い出されて山の一軒家に追いやられてしまうが、なかなか帰ってこない弟のことを心配した姉が迎えに行く―。

山の焚火2.jpg ロカルノ国際映画祭「金豹賞」(=グランプリ)受賞作。姉弟の近親相姦がモチーフとなって、しかも最後には、そのことを知って激昂し弟を殺そうとした父親と姉との間で不幸な事故が起き、両親とも亡くなってしまうという悲劇的な結末を迎えますが、不思議とドロドロした感じがなく、時代は現代ですが、孤立し閉塞した状況下でのこうした出来事が、美しい自然を背景に淡々と描かれていく様は、何か神話か寓話のようでもあります。

 個人的には、静謐な自然の中でそうした全ての出来事が「浄化」されていくような、そんな印象を抱いたわけですが、観る人によっては「神もそれを許しているような」という印象を受けるかも知れません。

山の焚火 パンフレット.png 一方、別の見方をすれば、これは姉にとってはカタストロフィ的結末ではなく、彼女自身が望んでいた理想のかたちになったともとれなくもないかも。両親の死体を雪の中へ埋葬する様には死者への畏怖と祈りが込められていますが、別峰に住む祖父母へその死を知らせるために黒く染めたシーツを雪原に拡げる姉の所為は実に淡々としており、過剰な感情の奔出は見られず、安寧の境地にあるようにも見えます。

山の焚火 チラシ.jpg スイスのフレディ・M・ムーラー監督の作品であり、ビデオが絶版となり、かなり経ってからDVDで復活するなどしているのは、同監督の「僕のピアノコンチェルト」('06年/スイス)が多くの国際的な映画賞を受賞して、この寡作の監督に久しぶりに注目が集まったこともありますが、姉弟の近親相姦というモチーフの特異性と、そうした特異なモチーフをとり上げてなお透明感を保持している映像美によるところが大きいのではないかと思います。

「山の焚火」チラシ

シネヴィヴァン六本木.jpgシネヴィヴァン六本木2.jpg「山の焚火」●原題:HOHENFEUER●制作年:1985年●制作国:スイス●監督・脚本:フレディ・M・ムーラー●製作:ベルナール・ラング●撮影:ピオ・コラーディ●音楽:マリオ・ベレッタ●時間:120分●出演:トーマス・ノック/ヨハンナ・リーア/ドロテア・モリッツ/ロルフ・イリッグ/ティック・ブライデンバッハ●日本公開:1986/08●配給:シネセゾン●最初に観た場所:シネヴィヴァン六本木(86-09-20)(評価:★★★★)
シネヴィヴァン六本木 1983(平成5)年11月19日オープン/1999(平成11)年12月25日閉館

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最後まで枯れることのなかったヴィスコンティ。L・アントネッリ、J・オニールを使いこなす。

イノセント ポスター.jpgイノセント.jpg Malizia1.jpg 思い出の夏summer42.JPG
イノセント 無修正版 デジタル・ニューマスター [DVD]」「青い体験〈無修正版〉 [DVD]」(Laura Antonelli) 「おもいでの夏」(Jennifer O'Neill)

ヴィスコンティ生誕百年祭特集.jpgイノセント パンフ.jpg 「イノセント」は1976年のイタリア・フランス合作映画で、ルキノ・ヴィスコンティ(1906‐1976)の最後の監督作品(公開されたのは没後)。

 2006年に新宿のテアトルタイムズスクエアで開催された「ヴィスコンティ生誕100年祭」で、「山猫」、「ルートヴィヒと共にその完全版が上映されましたが、「祭」と言いつつたった3作しか上映しないのか、以前は名画座などでもっと気軽に観られたのに―という思いもあるものの、3作に限るならばこのラインアップはかなりいい線いってるように思いました。

L'INNOCENTE 輸入盤dvd.jpgL'INNOCENTE 2.jpg 「イノセント」は、19世紀ローマの貴族男性(ジャンカルロ・ジャンニーニ)が主人公で、その彼が妻と愛人の間で揺れ動く様が描かれているのですが、〈妻〉が「青い体験」(Malizia、'73年/伊)、「続・青い体験」(Peccato veniale、'74年/伊)のラウラ・アントネッリで、〈愛おもい出の夏42.jpg「青い体験」00.jpg人〉が「おもいでの夏」(Summer of '42、'71年/米)のジェニファー・オニールなので、初めて見に行った時は、この2人を老ヴィスコンティがどう撮ったのかという興味もありました。貴族男性が愛人のもとへ行く際、妻に「君は昔から可愛い妹だった」などと言い訳して、それを妻ラウラ・アントネッリが許すというそれぞれのお気楽ぶりと従順ぶりにやや呆れるものの、最後になってみれば、実は女イノセントd.jpg性の心と肉体は男が思っているほど単純なものではなかったということか。

インノセント2.jpg  ラウラ・アントネッリ(あの「青い体験」の...)が妻でいながら、浮気などするなんて何というトンデモナイ奴かと思わせる部分も無きにしもあらずですが、浮気相手はジェニファー・オニール(あの「おもいでの夏」の...)だし...。

Laura Antonelli Giancarlo Giannini in L'Innocente

L'INNOCENTE5.jpg ジャンカルロ・ジャンニーニが演じる貴族は、自分の気持ちに純粋に従い過ぎるのかも。何となく憎めないキャラクターです(ジャンカルロ・ジャンニーニは、リナ・ウェルトミューラー監督の「流されて...」('75年/伊)の日本公開('78年)の時だったかに来日して舞台で挨拶していたが、意外と小柄だった印象がある)。結局、妻ラウラ・アントネッリの方も、義弟から紹介された作家に惚れられて自身も浮気に走り、そのことで夫は今さらのように自身の妻への愛着を再認識する―。

Jennifer O'Neill in L'Innocente          
ジェニファー・オニール2.jpg でもやはり気持ちはふらふらしていて、最後には作家の子を身籠った妻からの反撃を食い、愛人にも逃げられ、(自業自得とも言えるが)かなり惨めなことに...という、没落過程にある貴族層に個人のデカダン指向を重ね合わせたような、ヴィスコンティらしい結末へと繋がっていきます。

LINNOCENTE2.jpg 冒頭の「赤」を基調とした絢爛たる舞踏会シーンから映像美で魅せ、話の筋を追っていけば"貴族モノ"とは言え結構俗っぽい展開なのに、それでいて、ラウラ・アントネッリやジェニファー・オニールが、ヴィスコンティ映画の登場人物として"貴族然"として見えるのは、やはりヴィスコンティの演出のなせる業でしょうか(大河ドラマに出る女優が皆同じように見えるのとは似て非なるものか)。

イノセント1シーン.jpg 精神的かつ性的に抑圧されることで更にその魅力を強めていくラウラ・アントネヴィスコンティs.jpgッリが、(期待に反することなく?)充分エロチックに描かれていました(この〈妻〉の役は〈夫〉に勝るとも劣らず人物造形的にかなり複雑なキャラクターのように思える)。この映画の撮影の時ヴィスコンティは既に車椅子での演出でしたが、う〜ん、70歳、死期を悟りながらも、随分こってりした作品を作っていたんだなあと思わされます(そこがまたいい)。
Laura Antonelli  in L'Innocente  


              
悦楽の闇RE.jpg悦楽の闇4.jpg 因みに、ラウラ・アントネッリは貴族や上流階級の役での出演作がこの他にも幾つかあって、「イノセント」の一作前のジュゼッペ・パトローニ・グリッフィ監督の1920年代のローマの社交界を舞台にした「悦楽の闇」('75年/伊・仏)では、裕福な貴族バニャスコ(テレンス・スタンプ)の愛人マノエラ役で出ています。バニャスコには他にも愛悦楽の闇6.jpg人がいて、愛想をつかしたマノエラは彼の元を去りますが、バニャスコは、15歳の時にある男に処女を奪われて以来、男性不信になっていたというマノエラ悦楽の闇ード.jpgの話から、その男がいとこのミケーレ(マルチェロ・マストロヤンニ)であることを偶然り、ミケーレに嫉妬心を抱きます。彼は一計を案じ、ミケーレにマノエラを近づ悦楽の闇The Divine Nymph (1975)_.jpgけ苦しみを与えようとしたところ、ミケーレはいまだにマノエラを愛しており、マノエラの心も動いたため、バニャスコはますます苦しみ、最期は自殺に追い込まれるというもの。もとはと言えば男が悪いのですが、女はバニャスコ、ミケーレ以外にもミケーレ・プラチド(監督としても活躍)演じる男とも繋がりがあって、実悦楽の闇es.jpgは彼女のほうこそ男を滅ぼすファム・ファータルだったということになるかと悦楽の闇 スタンプ1.jpg思います。キャストは豪勢だし、ラウラ・アントネッリの衣裳も絢爛なのですが、ストーリーがごちゃごちゃしていて、単なる恋愛泥沼劇にになってる印象も受けました。ラウラ・アントネッリも頑張って演技してるし、テレンス・スタンプは意外と役が合っていましたが、やはり、役者を集めるだけではダメなのだろなあ。


Inosento(1976)
イノセント .jpgInosento(1976).jpgL'INNOCENTE.jpg「イノセント」●原題:L'INNOCENTE●制作年:1976年●制作国:イタリア・フランス●監督:ルキノ・ヴィスコンティ●製作:ジョヴァンニ・ベルトルッチ●脚本:スーゾ・チェッキ・ダミーコ/エンリコ・メディオーリ/ルキノ・ヴィスコンティ●撮影:パスクァリーノ・デ・サンティス●音楽:フランコ・マンニーノ●原作:ガブリエレ・ダヌンツィオ「罪なき者」●時間:129分●出演:ジャンカルロ・ジャンニーニ/ラウラ・アントネッリ/ジェニファー・オニール/マッシモ・ジロッティ/ディディエ・オードパン/マルク・ポレル/リーナ・モレッリ/マリー・デュボア/ディディエ・オードバン●日本公開:1979/03●最初に観た場所:池袋文テアトルタイムズスクエア閉館.jpgタカシマヤタイムズスクエア.jpg芸坐 (79-07-13)●2回目:新宿・テアトルタイムズスクエア (06-10-13) (評価★★★★☆)●併映(1回目):「仮面」(ジャック・ルーフィオ)
テアトルタイムズスクエア0.jpgテアトルタイムズスクエア内.jpgテアトルタイムズスクエア 新宿駅南口の新宿タカシマヤタイムズスクエア12Fに2002年4月27日オープン。2009年8月30日閉館。      
 

      
「青い体験」パンフレット/「青い体験〈無修正版〉 [DVD]
青い体験 パンフレット.jpg青い体験(無修正版).jpg「青い体験」●原題:MALIZIA●制作年:1973年●制作国:イタリア●監督:サルヴァトーレ・サンペリラウラ・アントネッリ.jpg●製作:シルヴィオ・クレメンテッリ●脚本:オッタヴィオ・ジェンマ/アレッサンドロ・パレンゾ/サルヴァトーレ・サンペリ●撮影:ヴィットリオ・ストラーロ●音楽:フレッド・ボンガスト●時間:Malizia2.jpg98分●出演:ラウラ・アントネッリ(Laura Antonelli)/アレッサンドロ・モモ/テューリ・フェッロ/アンジェラ・ルース/ピノ・カルーソ/ティナ・オーモン/ジャン・ルイギ・チリッジ●日本公開:1974/10●配給:ワーナー・ブラザース●最初に観た場所:三鷹オスカー(80-04-05) (評価★★★★)●併映:「続・青い体験」(サルヴァトーレ・サンペリ)/「新・青い体験」(ベドロ・マソ)
ラウラ・アントネッリ            アレッサンドロ・モモ/ティナ・オーモン     Tina Aumont
Tina Aumont .jpg青い体験(2).jpgアレッサンドロ・モモ/ティナ・オーモン.jpg

 


青い体験 新dvd.jpg青い体験/続・青い体験 Blu-ray セット<無修正版>
青い体験 新dvd2.jpg 
  
 
   
 

 
  
  
「続・青い体験」.jpg続・青い体験01.jpg「続・青い体験」●原題:PECCATO VENIALE●制作年:1974年●制作国:イタリア●監督:サルヴァトーレ・サンペリ●製作:シルヴィオ・クレメンテッリ●脚本:オッタヴィオ・ジェンマ/アレッサンドロ・パレンゾ●撮影:トニーノ・デリ・コリ●音楽:フレ「続・青い体験」_01.jpgッド・ボンガスト●時間:98分●出演:ラウラ・アントネッリ/アレッサンドロ・モモ/オラツィオ・オルランド/リッラ・ブリグノン/モニカ・ゲリトーレ/リノ・バンフィ●日本公開:1975/08●配給:ワーナー・ブラザース●最初に観た場所:三鷹オスカー(80-04-05) (評価★★★☆)●併映:「青い体験」(サルヴァトーレ・サンペリ)/「新・青い体験」(ベドロ・マソ)

悦楽の闇 [DVD]」 テレンス・スタンプ/ラウラ・アントネッリ/マルチェロ・マストロヤンニ
悦楽の闇 dvd 1975.jpg悦楽の闇s.jpg「悦楽の闇」●原題:THE DIVINE NYMPH●制作年:1975年●制作国:イタリア・フランス●監督:ジュゼッペ・パトローニ・グリッフィ●製作:ルイジ・スカチーニ/マリオ・フェッラーリ●脚本:ジュゼッペ・パトローニ・グリッフィ/アルフィオ・ヴァルダルニーニ●撮影:ジュゼッペ・ロトゥンノ●音楽:C・A・ビクシオ●原作:ルチアーノ・ズッコリ●時間:130分●出演:ラウラ・アントネッリ/テレンス・スタンプ/マルチェロ・マストロヤンニ/ミケーレ・プラチド/エットレ・マンニ/デュリオ・デル・プレート/マリナ・ベルティ/ドリス・デュランティ/カルロ・タンベルラーニ/ティナ・オーモン●日本公開:1987/06●配給:ケイブルホーグ=大映●最初に観た場所:渋谷・パルコスペース3(87-06-06)(評価★★★)

パルコスペース Part3.jpg渋谷シネクイント劇場内.jpgCINE QUINTO tizu.jpgPARCO SPACE PART3 1981(昭和56)年9月22日、演劇、映画、ライヴパフォーマンスなどの多目的スペースとして、「パルコ・パート3」8階にオープン。1999年7月~映画館「CINE QUINTO(シネクイント)」。 2016(平成28)年8月7日閉館。


「おもいでの夏」●原題:THE SUMMER OF '42●制作年:1971年●制作国:アメリカ●監督:ロバート・マリガン●製作:リチャード・ロス●脚本:ジェニファー・オニール1.jpgおもいでの夏 dvd.bmpハーマン・ローチャー●撮影:ロバート・サーティーおもいでの夏.pngス●音ジェニファー・オニール.bmp楽:ミシェル・ルグラン●原作:ハーマン・ローチャー●時間:105分●出演:ジェニファー・オニール/ゲイリー・グライムス/ジェリー・ハウザー/オリヴァー・コナント/キャサリン・アレンタック/クリストファー・ノリス/ルー・フリッゼル●日本公開:1971/08●配給:ワーナー・ブラザース●最初に観た場所:三鷹オスカー(80-11-03)(評価:★★★☆)●併映:「フォロー・ミー」(キャロル・リード)/「ある愛の詩」(アーサー・ヒラー) ジェニファー・オニール

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「●か行外国映画の監督」の インデックッスへ 「●ま行の外国映画の監督」の インデックッスへ「●エンニオ・モリコーネ音楽作品」の インデックッスへ(「ディスクロージャー」)「●武満 徹 音楽作品」の インデックッスへ(「ライジング・サン」) 「●ドナルド・サザーランド 出演作品」の インデックッスへ(「ディスクロージャー」「大列車強盗」) 「●ショーン・コネリー 出演作品」の インデックッスへ(「大列車強盗」「ライジング・サン」)「○外国映画 【制作年順】」の インデックッスへ 「●く マイケル・クライトン」の インデックッスへ 「○海外サスペンス・読み物 【発表・刊行順】」の インデックッスへ「●ハヤカワ・ノヴェルズ」の インデックッスへ(『ディスクロージャー』『大列車強盗』)

多才な人だったマイケル・クライトン。年下の女性上司からの強烈な「逆セクハラ」を描いた「ディスクロージャー」。
ディスクロージャー.jpg デミ・ムーア DISCLOSURE.bmp ディスクロージャー〈上〉 (ハヤカワ文庫NV).jpgディスクロージャー〈下〉 (ハヤカワ文庫NV).jpg  「大列車強盗」3.jpg
ディスクロージャー [DVD]」 マイケル・ダグラス、デミ・ムーア/マイケル・クライトン『ディスクロージャー〈上〉 (ハヤカワ文庫NV)』『ディスクロージャー〈下〉 (ハヤカワ文庫NV)』/マイケル・クライトン原作・脚本・監督「大列車強盗」('78年/米)ショーン・コネリー/レスリー=アン・ダウン
DISCLOSURE 2.jpg「ディスクロージャー」.jpg ハイテク企業に勤めるトム・サンダース(マイケル・ダグラス)は、自分に内定していた副社長ポストに、社の創設者ボブ・ガーヴィン(ドナルド・サザーランド)が目をかけてきた野心溢れる女性メレディス(デミ・ムーア)が就任したことを知らされ唖然とする。彼女はかつてのトムの恋人だったのだ。そしてトムは就任したばかりの彼女に部屋に呼び出されて誘惑され、その誘いに負けそうになるも、かろうじて踏み止まり部屋を出る。しかし今度は、彼女から部屋でレイプをされそうになったと訴えられる―。

DISCLOSURE 1994 1.jpgDisclosure 1994.bmp 「レインマン」('88年)のバリー・レヴィンソン監督作で、原作は今月('08年11月)亡くなったマイケル・クライトン.jpgイケル・クライトン(Michael Crichton、1942‐2008/享年66)です。この人の著作で最初に映画化され『ディスクロージャー』単行本.jpgたのが『アンドロメダ病原体』('69年)であり、『ジュラシック・パーク』('90年)などのバイオ・サスペンスや、ハーバード・メディカルスクールの出身でもあるだけに、TVドラマ「ER」のようなメディカル系に強かった印象があります(1994年にはテレビ(「ER」)、映画(「ジュラシック・パーク」)、書籍(『ディスクロージャー』)で同時に1位となる3冠を成し遂げた)。ただし、その著作には『大列車強盗』('75年)などのミステリもあれば、『ライジング・サン』('92年)のようなビジネスドラマ(ビジネス・サスペンス)もあり、何でもござれといった多才さというか、守備範囲の広さを感じさせ、まだバリバリの現役であっただけに、66歳でのガン死は、壮絶な戦死といった印象も受けます。

『ディスクロージャー』単行本
   
 この作品もビジネスドラマ(ビジネス・サスペンス)であり、年下の女性上司による「逆セクハラ」を扱っていますが、日本では「セクシャル・ハラスメント」が「新語・流行語大賞」の"新語"部門金賞に選ばれたのが'89年です(この段階ではまだ"新モノ"扱いか)。男女雇用機会均等法に「性的嫌がらせへの配慮」が盛り込まれたのが8年後の'97年改正に於いてであり、「男性への性的嫌がらせ」も配慮の対象となったのが更に10年後の'07年4月ですから、この作品の原作が1993年に発表され'94年に映画化されたことを思うと、向こうは随分と先を行っていたなあと。但し、米国では、原著発表時点で既に「テーマが古い」との批評もあったとのこと...。

音楽:エンニオ・モリコーネ

 セクハラ事件を契機に主人公は、野望渦巻く企業のパワーゲームに巻き込まれていきますが、映画におけるマイケル・ダグラスは、「ウォール街」('87年)で若僧チャ-リー・シーンを翻弄するやり手の投資銀行家ゲッコー氏のイメージよりも、「危険な情事」('87年)で不倫相手のグレン・クローズに翻弄される弁護士のイメージに近いかも。

ドナルド・サザーランド ディスクロージャー .jpg 映画としては凡作になってしまったと思いますが、マイケル・クライトンへの追悼と、「ライジング・サン」よりはまだ映画らしい映画になっているということで本作品を取り上げました。DISCLOSURE film.gif上司デミ・ムーアの誘いを断った主人公に対する上司の仕打ちの1つに、会社のサーバーへのアクセス権を奪ってしまうというのがあって、そのことで主人公は仕事が完全にストップしてしまいパニックに陥るというのが当時としてはすごく"現代風"の恐怖だなあと思われ、印象的に残りました。

大列車強盗 (1976年)1.jpg「大列車強盗」1.jpg「大列車強盗」図11.jpg マイケル・クライトン原作のその他の映画化作品では、マイケル・クライトン自身の脚本・監督で、ショーン・コネリーが主演した「大列車強盗」('78年/米).jpg「大列車強盗」('78年/米)が面白かったです。ヴィクトリア朝時代のイギリスで実際に起きた事件を基に、怪盗とその仲間たちが厳重管理で列車輸送している莫大な金塊の強奪に挑むさまを描いた犯罪サスペンスで、ストーリーはいいし(1975年に出版された原作『大列車強大列車強盗 (1976年).jpg大列車強盗 (ハヤカワ文庫.jpg盗』('76年/早川書房、'81年/早川書房)は、今回取り上げた『ディスクロージャー』よりはっきり言って面白い)、怪盗ピアースを演じるショーン・コネリーをはじめ役者もいいです。ショーン・コネリー(当時48歳)は、桁の低い陸橋が何本も接近してくる中、それをよけながら疾走する列車の屋根を這い進んで行くというアクションをスタントなしでこなしています。
大列車強盗 (ハヤカワ文庫 NV 256)
大列車強盗 (1976年) (Hayakawa novels)

「ライジング・サン1.jpg「ライジング・サン3.jpg 「大列車強盗」と同じショーン・コネリー主演でフィリップ・カウフマンが監督した「ライジング・サン」('93年/米)は、ロサンゼルスに進出した日本企業のビルで殺人事件が発生し、ショーン・コネリー演じる刑事ジョン・コナーが捜査を進めるうち、文化の違いという壁にぶち当たるという、コネリーが製作総指揮と主演を兼ねたサスペンス・アクション。ネタバレになりますが、偽造ディスクを解明した女性がコナー刑事の愛人だったというオチは、裏ストーリーを暗示させるものの、あまりに説明不足。日本人の社員が黒服にサングラスだったり、日本語の使い方がヘンテコリンで笑わせます(もっと以前よりは良くはなっているが、この時点でまだ日本文化の認識の違いが窺えるのは仕方のないことか)。因みに、武満徹が劇中音楽を担当し、そのキャリアの中で唯一の外国映画音楽作品となりました。

「コンゴ」1.jpg「コンゴ」3.jpg あともう1本、フランク・マーシャル監督の「コンゴ」('95年)というのもありました。映画的展開の狭い「ライジング・サン」や「ディスクロージャー」の失敗を反省材料にしたのか、今度は旧作('80年発表)ながら派手な見せ場のある『失われた黄金都市』を映画化したもので、アフリカ奥地で、レーザー通信の核となるダイヤモンドの鉱脈を調べていたトラヴィコム社の先発隊が全滅し、手掛かりは通信画面に映し出された"灰色の猿人"らしきものだけだった...というもの。この監督はあまり上手くない(本業は映画プロデューサー。妻のキャスリーン・ケネディと共に、多くのスピルバーグ作品を手がけている)。観終わって時間が無駄だったと思いましたが(一緒に観た人間と「もう今後(こんご)は観ない」と冗談を言い合った)、amazonのレビューでは高い評価を得ているみたいで、自分たちだけ違う映画を観たのかなあ(笑)。


ディスクロージャー マイケル・ダグラス.jpg「ディスクロージャー」●原題:DISCLOSURE●制作年:1994年●制作国:アメリカ●監督:バリー・レヴィンソン●製作:バリー・レヴィンソン/マイケル・クライトン●脚本:ポール・アタナシオ●音楽:エンニオ・モリコーネ●撮影:アンソニー・ピアース=ロバーツ●原作:マイケル・クライトン●時間:128分●出演:マイケル・ダグラス/デミ・ムードナルド・サザーランド/キャロライン・グッドオール/デニス・ミラー/ロマ・マフィア/ドナルド・サザーランド ディスクロージャー.jpgニコラス・サドラー/ローズマリー・フォーサイス/ディラン・ベイカー/ジャクリーン・キム/ドナル・ローグ/アラン・リッチ/ スージー・プラクソン●日本公開:1995/02●配給:ワーナー・ブラザース (評価★★★)

ドナルド・サザーランド
      
   
     
ドナルド・サザーランド/ショーン・コネリー
「大列車強盗」2.jpg「大列車強盗」4.jpg「大列車強盗」●原題:THE GREAT TRAIN ROBBERY/THE FIRST GREAT TRAIN ROBBER●制作年:1979年●制作国:アメリカ●監督・脚本:マイケル・クライトン●製作:ジョン・フォアマン●撮影:ジェフリー・アンスワース●音楽:ジェリー・ゴールドスミス●原作:マイケル・クライトン●時間:111分●出演:ショーン・コネリー/ドナルド・サザーランド/レスリー=アン・ダウン/アラン・ウェッブ/ロバート・ラング/マイケル・エルフィック/パメラ・セイラム/ガブリエル・ロイド/ジェームズ・コシンズ/ブライアン・グローヴァー/マルコム・テリス/ウェイン・スリープ●日本公開:1979/11●配給: ユナイト映画(評価★★★★)

「ライジング・サン」2.jpg「ライジング・サン」4.jpg「ライジング・サン」●原題:RISING SUN●制作年:1993年●制作国:アメリカ●監督:フィリップ・カウフマン●製作:ピーター・カウフマン●脚本:マイケル・クライトン/フィリップ・カウフマン/マイケル・バックス●撮影:マイケル・チャップマン●音楽:武満徹●原作:マイケル・クライトン●時間:125分●出演:ショーン・コネリー/ウェズリー・スナイプス/ハーヴェイ・カイテル/ケイリー=ヒロユキ・タガワ/ケヴィン・アンダーソン/マコ/レイ・ワイズ/スタン・イーギー/ティア・カレル/タジャナ・パティッツ/ヴィング・レイムス/スティーヴ・ブシェミ/サム・ロイド●日本公開:1993/11●配給:20世紀フォックス(評価★★★)

「コンゴ」2.jpg「コンゴ」●原題:CONGO●制作年:1995年●制作国:アメリカ●監督:フランク・マーシャル●製作:キャスリーン・ケネディ/サム・マーサー●脚本:ジョン・パト「コンゴ」4.jpgリック・シャンリー●撮影:アレン・ダヴィオー●音楽:ジェリー・ゴールドスミス●原作:マイケル・クライトン●時間:109分●出演:ショーン・コネリー/ウェズリー・スナイプス/ハーヴェイ・カイテル/ケイリー=ヒロユキ・タガワ/ケヴィン・アンダーソン/マコ/レイ・ワイズ/スタン・イーギー/ティア・カレル/タジャナ・パティッツ/ヴィング・レイムス/スティーヴ・ブシェミ/サム・ロイド●日本公開:1995/10●配給:UIP(評価★★)
  
 【1994年単行本〔早川書房〕/1995年文庫化[ハヤカワ文庫NV(上・下)]】

「●映画」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【1785】 文藝春秋 『ビデオが大好き!365夜
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シリーズ中、特に充実した内容。回答者のコメントを読むのが楽しい。

ミステリーサスペンス洋画ベスト150.jpg大アンケートによるミステリーサスペンス洋画ベスト15074.JPG  『現金(げんなま)に体を張れ』(1956).jpg
大アンケートによるミステリーサスペンス洋画ベスト150 (文春文庫―ビジュアル版)』['91年]表紙イラスト:安西水丸/「現金(げんなま)に体を張れ」(1956).

 映画通と言われる約400人からとったミステリー・サスペンス洋画のアンケート集計で、『洋画ベスト150』('88年)の姉妹版とも、専門ジャンル版とも言えるもの('91年の刊行)。

 1つ1つの解説と、あと、スチール写真が凄く豊富で、一応、"ベスト150"と謳っていますが、ランキング200位まで紹介しているほか、監督篇ランキングもあり、個人的に偏愛するがミステリーと言えるかどうかというものまで、「私が密かに愛した映画」として別枠で紹介しています。また、エッセイ篇として巻末にある、20人以上の映画通の人たちによる、テーマ別のランキングも、内容・写真とも充実していて、このエッセイ篇だけで150ページあり、全体では600ページを超えるボリュームで、この文春文庫の「大アンケート」シリーズの中でもとりわけ充実しているように思えます。                                                         
第三の男.gif『恐怖の報酬』(1953) 2.jpg太陽がいっぱい.jpg 栄えある1位は「第三の男」、以下、2位に「恐怖の報酬」、3位に「太陽がいっぱい」、4位「裏窓」、5位「死刑台のエレベーター」、6位「サイコ」、7位「情婦」、8位「十二人の怒れる男」...と続き、この辺りのランキングは順当過ぎるぐらい順当ですが、どんな人が票を投じ、どんなコメントを寄せているのかを読むのもこのシリーズの楽しみで、時として新たな気づきもあります。因みに、ベスト150の内、ヒッチコック作品は17で2位のシドニー・ルメット、ビリー・ワイルダーの6を大きく引き離し、監督部門でもヒッチコックは1位です。
第三の男
第三の男2.jpg第三の男 観覧車.jpg 「第三の男」1949年・第3回カンヌ国際映画祭「パルム・ドール」受賞作)はグレアム・グリーン原作で、大観覧車、下水道、ラストの並木道シーン等々、映画史上の名場面として語り尽くされた映画ですが、個人的にも、1位であることにとりあえず異論を挟む余地はほとんどないといった感じ。この映画のラストシーンは、映画史上に残る名シーンとされていますが、男女の考え方の違いを浮き彫りにしていて、ロマンチックとかムーディとか言うよりも、ある意味で強烈なシーンかもしれません。オーソン・ウェルズが、短い登場の間に強烈な印象を残し(とりわけ最初の暗闇に光が差してハリー・ライムの顔が浮かび上がる場面は鮮烈)、「天は二物を与えず」とは言うものの、この人には役者と映画監督の両方が備わっていたなあと。この若くして過剰なまでの才能が、映画界の先達に脅威を与え、その結果彼はハリウッドから締め出されたとも言われているぐらいだから、相当なものです。
恐怖の報酬
恐怖の報酬3.jpg『恐怖の報酬』(1953).jpg恐怖の報酬1.bmp 「恐怖の報酬」1953年・第6回カンヌ国際映画祭「パルム・ドール」、1953年・第3回ベルリン国際映画祭「金熊賞」受賞作)は、油田火災を消火するためにニトログリセリンをトラックで運ぶ仕事を請け負った男たちの話ですが、男たちの目の前で石油会社の人間がそのニトロの1滴を岩の上に垂らしてみせると岩が粉微塵になってしまうという、導入部の演出が効果満点。イヴ・モンタンってディナー・ショーで歌っているイメージがあったのですが、この映画では汚れ役であり、粗野ではあるが渋い男臭さを滲ませていて、ストーリーもなかなか旨いなあと(徒然草の中にある「高名の木登り」の話を思い出させるものだった)。この作品は、'77年にロイ・シャイダー主演でアメリカ映画としてリメイクされています。
太陽がいっぱい」(音楽:ニーノ・ロータ
太陽がいっぱい PLEIN SOLEIL.jpg 「太陽がいっぱい」は、原作はパトリシア・ハイスミス(1921- 1995)の「才能あるリプレイ氏」(『リプリー』(角川文庫))で、'99年にマット・デイモン主演で再映画化されています(前作のリバイバルという位置づけではない)。『太陽がいっぱい』(1960).jpgこの淀川長治2.jpg映画の解釈では、淀川長治のホモ・セクシュアル映画説が有名です(因みに、原作者のパトリシア・ハイスミスはレズビアンだった)。あの吉行淳之介も、淀川長治のディテールを引いての実証に驚愕した(吉行淳之介『恐怖対談』)と本書にありますが、ルネ・クレマンが来日した際に淀川長治自身が彼に確認したところ、そのような意図は無いとの答えだったとのことです(ルネ・クレマン自身がアラン・ドロンに"惚れて"いたとの説もあり、そんな簡単に本音を漏らすわけないか)。(●2016年にシネマブルースタジオで再見。トムがフィリップの服を着て彼の真似をしながら鏡に映った自分にキスするシーンは、ゲイ表現なのかナルシズム表現なのか。マルジュがフィリップに「私だけじゃ退屈?そうなら船をおりるわ」とすねるのは、フィリップの恋人である彼女が、男性であるトムをライバル視してのことか。再見していろいろ"気づき"があった。) 
            
 個人的に、もっと上位に来てもいいかなと思ったのは(あまり、メジャーになり過ぎてもちょっと...という気持ちも一方であるが)、"Body Heat"という原題に相応しいシズル感のある「白いドレスの女」(27位)、コミカルなタッチで味のある「マダムと泥棒」(36位)、意外な場面から始まる「サンセット大通り」(46位)、カットバックを効果的に用いた強盗劇「現金(げんなま)に体を張れ」(51位)、「大脱走」を遥かに超えていると思われる「第十七捕虜収容所」(55位)、これぞデ・パルマと言える「殺しのドレス」(70位)(個人的には「ボディ・ダブル」がランクインしていないのが残念)、チャンドラーの原作をボギーが演じた「三つ数えろ」(92位)、脚本もクリストファー・リーブの演技も良かった「デス・トラップ/死の罠」(94位)、ミステリーが脇に押しやられてしまっているため順位としてはこんなものかも知れないけれど「ディーバ」(101位)、といった感じでしょうか、勝手な見解ですが。

kathleen-turner-body-heat.jpg白いドレスの女1.jpg白いドレスの女2.jpg白いドレスの女.jpg 「白いドレスの女」は、ビリー・ワイルダーの「深夜の告白」('48年)をベースにしたサスペンスですが、共にジェイムズ・M・ケインの『殺人保険』(新潮文庫)が原作です(ジェイムズ・ケインは名画座でこの作品と併映されていた「郵便配達は二度ベルを鳴らす」の原作者でもある)。この映画では暑さにむせぶフロリダが舞台で、主人公の弁護士の男がある熱帯夜の晩に白いドレスの妖艶な美女に出会い、彼女の虜になった彼は次第に理性を奪われ、彼女の夫を殺害計画に加担するまでになる―という話で、ストーリーもよく出来ているし、キャスリーン・ターナーが悪女役にぴったり嵌っていました。 kathleen-turner-body-heat(1981)

マダムと泥棒1.jpgマダムと泥棒.jpg 「マダムと泥棒」は、老婦人が営む下宿に5人の楽団員の男たちが練習部屋を借りるが、実は彼らは現金輸送車を狙う強盗団だった―という話で、これもトム・ハンクス主演で'04年に"The Ladykillers"(邦題「レディ・キラーズ」)というタイトルのまま再映画化されています。イギリス人の監督と役者でないと作り得ないと思われるブラック・ユーモア満載のサスペンス・コメディですが、この作品でマダムこと老婦人を演じて、アレック・ギネスやピーター・セラーズといった名優と渡り合ったケイティ・ジョンソンは、後にも先にもこの映画にしか出演していない全くの素人というから驚き。この作品は、本書の姉妹版の『洋・邦名画ベスト150 〈中・上級篇〉』('92年/文春文庫ビジュアル版)では、洋画部門の全ジャンルを通じての1位に選ばれています。

現金に体を張れ.jpg 「現金に体を張れ」(原題:THE KILLING)は、刑務所を出た男が仲間を集めて競馬場の賭け金を奪うという、これもまた強盗チームの話ですが、綿密なはずの計画がちょっとした偶然から崩れていくその様を、同時に起きている出来事を時間を繰り返カットバック方式でそれぞれの立場から描いていて、この方式のものとしては一級品に仕上がっており、また、人間の弱さ、夢の儚さのようなものもしかっり描けています。 スタンリー・キューブリック (原作:ライオネル・ホワイト) 「現金(ゲンナマ)に体を張れ」 (56年/米) ★★★★☆

『パルプ・フィクション』(1994) 2.jpgPulp Fiction(1994) .jpg 本書刊行後の作品ですが、同じくカットバックのテクニックを用いたものとして、ボスの若い妻(ユマ・サーマン)と一晩だけデートを命じられたギャング(ジョン・トラヴォルタ)の悲喜劇を描いたクエンティン・タランティーノ監督の1994年・第47回カンヌ国際映画祭「パルム・ドール」受賞作「パルプ・フィクション」があり(インディペンデント・スピリット賞作品賞も受賞)、テンポのいい作品でしたが(アカデミー脚本賞受賞)、カットバック方式に限って言えば、「現金に体を張れ」の方が上だと思いました(競馬場強盗とコーヒー・ショップ強盗というスケールの違いもあるが)。

Pulp Fiction(1994)

deathtrap movie.jpgdeathtrap movie2.jpg 「デス・トラップ 死の罠」の原作は「死の接吻」「ローズマリーの赤ちゃん」のアイラ・レビンが書いたブロードウェイの大ヒット舞台劇。落ち目の劇作家(マイケル・ケイン)の許に、かつてのシナリオライター講座の生徒クリフ(クリストファー・リーヴ)が書いた台本「デストラップ」が届けられ、作家は、金持ちの妻マイラ(ダイアン・キャノン)に「この劇はクリストファー・リーブ superman.jpg傑作だ」と話し、盗作のアイデアと青年の殺害を仄めかし、青年が郊外の自宅を訪れる際に殺害の機会を狙う―(要するに自分の作品にしてしまおうと考えた)。ドンデン返しの連続は最後まで飽きさせないもので、「スーパーマン」のクリストファー・リーブが演じる劇作家志望のホモ青年も良かったです(この人、意外と演技派俳優だった)。
「デス・トラップ 死の罠」00.jpg クリストファー・リーブ/マイケル・ケイン

映画「ディーバ].jpgディーバ.jpg 「ディーバ」は、オペラを愛する18歳の郵便配達夫が、レコードを出さないオペラ歌手のコンサートを密かに録音したことから殺人事件に巻き込まれるというもので、1981年12月にユニフランス・フィルム主催の映画祭「新しいフランス映画を見るフェスティバル」での上映5作品中の1本目として初日にThe Space (Hanae Mori ビル5F)で上映されるも、その時はすぐには日本配給には結びきませんでした。しかし、'81年シカゴ国際映画祭シルヴァー・ヒューゴー賞を受賞し、'82年セザール賞で最優秀新人監督作品賞(ジャン=ジャック・ベネックス)のほかに、撮影賞(フィリップ・ルースロ)、Jean-Jacques Beineix's Diva.jpgディーバ_5455.JPG音楽賞(ウラディミール・コスマ)など4部門で受賞したことなどもあり、日本でも遅ればせながらフランス映画社配給で'83年11月にロードショーの運びとなりました('82年4月にアメリカでも公開)。個人的には'84年に名画座(大井武蔵野館)で観て、'94年に俳優座シネマテンでのリバイバル上映を観ました。デラコルタ(スイス人作家ダニエル・オディエのペンネーム)の原作は、ジグゾーパズル好きで、波を止めようと考えているゴロディッシュという不思議な男と、彼にくっついて回るアルバ(原作では13歳のフレンチガール)という少女を主人公にしたセリノアール6部作になっているそうで、「ディーバ」はその中の一篇です(この作品のみが翻訳あり)。新潮文庫に翻訳のある原作と映画を比べてみるのも面白いかと思います。


POWER PLAY OPERATION OVERTHROW.jpgパワー・プレイ.jpgPower Play by Peter O'Toole.jpg「パワー・プレイ (1978).jpg 「私が密かに愛した映画」で「パワー・プレイ」を推した橋本治氏が、「すっごく面白いんだけど、これを見たっていう人間に会ったことがない」とコメントしてますが、見ましたよ。

Power Play (1978).jpg ヨーロッパのある国でテログループによる大臣の誘拐殺人事件が起き、大統領がテロの一掃するために秘密警察を使ってテロリスト殲滅を実行に移すもののそのやり方が過酷で(名脇役ドナルド・プレザンスが秘密警察の署長役で不気味な存在感を放っている)、反発した軍部の一部が戦車部隊の隊長ゼラー(ピーター・オトゥール)を引き入れクーデターを起こします。クーデターは成功しますが、宮殿の大統領室にいたのは...。「漁夫の利」っていうやつか。最後、ピーター・オトゥールがこちらに向かってにやりと笑うのが印象的でした。

「パワー・プレイ」輸入版ポスター(上)/輸入盤DVD(右)
                            

第三の男 ポスター.jpg「第三の男」●原題:THE THIRD MAN●制作年:194日比谷映画・みゆき座.jpg日比谷映画.jpg9年●制作国:イギリス●監督:キャロル・リード●製作:キャロル・リード/デヴィッド・O・セルズニック●脚本:グレアム・グリーン●撮影:ロバート・クラスカー●音楽:アントン・カラス●原作:グレアム・グリーン●時間:104分●出演:ジョセフ・コットン/オーソン・ウェルズ/トレヴァー・ハワード/アリダ・ヴァリ/バーナード・リー/ジェフリー・キーン/エルンスト・ドイッチュ●日本公開:1952/09●配給:東和●最初に観た場所:千代田映画劇場(→日比谷映画) (84-10-15) (評価:★★★★☆)
千代田映画劇場 東京オリンピック - コピー.jpg
日比谷映画内.jpg
千代田映画劇場(日比谷映画) 1957年4月東宝会館内に「千代田映画劇場」(「日比谷映画」の前身)オープン、1984年10月、「日比谷映画劇場」(1957年オープン(1,680席))閉館に伴い「日比谷映画」に改称。2005(平成17)年4月8日閉館。

千代田劇場 「東京オリンピック」('65年/東宝)封切時
                                                     
「恐怖の報酬」.bmp恐怖の報酬.jpg恐怖の報酬3.jpg「恐怖の報酬」●原題:LE SALAIRE DELA PEUR●制作年:1953年●制作国:フランス●監督・脚本:アンリ・ジョルジュ・クルーゾー●撮影:アルマン・ティラール●音楽:ジョルジュ・オーリック●原作:ジョルジュ・アルノー●時間:131分●出演:イヴ・モンタン/シャルル・ヴァネル/ヴェラ・クルーゾー/フォルコ・ルリ/ウィリアム・タッブス/ダリオ・モレノ/ジョー・デスト●日本公開:1954/07●配給:東和●最初に観た場所:新宿アートビレッジ (79-02-10) (評価:★★★★)●併映:「死刑台のエレベーター」(ルイ・マル)

太陽がいっぱい 和田誠.jpg「ポスター[左](和田 誠
太陽がいっぱい15.jpg太陽がいっぱい ポスター2.jpg太陽がいっぱい ポスター.jpg「太陽がいっぱい」●原題:PLEIN SOLEIL●制作年:1960年●制作国:フランス●監督:ルネ・クレマン●製作:ロベール・アキム/レイモン・アキム●脚本:ポール・ジェゴフ/ルネ・クレマン●撮影:アンリ・ドカエ●音楽:ニーノ・ロータ●原作:パトリシア・ハイスミス 「才能あ文芸坐.jpg文芸坐ル・ピリエ.jpgるリプレイ氏」●時間:131分●出演:アラン・ドロン/マリー・ラフォレ/モーリス・ロネ/ エルヴィール・ポペスコ/エルノ・クリサ/ビル・カーンズ/フランク・ラティモア/アヴェ・ニンチ●日本公開:1960/06●配給:新外映●最初に観た場所:文芸坐ル・ピリエ (83-02-21)●2回目:北千住シネマブルー・スタジオ(16-02-23) (評価:★★★★)
文芸坐ル・ピリエ (11979(昭和54)年7月20日、池袋文芸坐内に演劇主体の小劇場としてオープン)1997(平成9)年3月6日閉館

「白いドレスの女」.jpg「白いドレスの女」●原題:BODY HEAT●制白いドレスの女8.jpg作年:1981年●制作国:アメリカ●監督・脚本:ローレンス・カスダン●製作:フレッド・T・ガロ●撮影:リチャード・H・クライン●音楽:ジョン・バリー●原作:ジェイムズ・M・ケイン 「殺人保険」●時間:113分●出演:ウィリアム・ハート/BODY HEAT.bmpキャスリーン・ターナー/リチャード・クレンナ/テッド・ダンソン/ミッキー・ローク/J・A・プレストン/ラナ・サウンダース/キム・ジマー●日本公開:1982/02●配給:ワーナー・ブラザース●最初に観た場所:三鷹オスカー (82-08-07) ●2回目:飯田橋ギンレイホール(86-12-13)(評価:★★★★☆)●併映(1回目):「郵便配達は二度ベルを鳴らす」(ボブ・ラフェルソン)

THE LADYKILLERS 1955.jpgマダムと泥棒2.jpg「マダムと泥棒」●原題:THE LADYKILLERS●制作年:1955年●制作国:イギリス●監督:アレクサンダー・マッケンドリック●製作:セス・ホルト●脚本:ウィリアム・ローズ●撮影:オットー・ヘラー●時間:97分●出演:アレック・ギネス/ピーター・セラーズ/ハーバート・ロム/ケイティ・ジョンソン/シル・パーカー/ダニー・グリーン/ジャック・ワーナー/フィリップ・スタントン/フランキー・ハワード●日本公開:1957/12●配給:東和 (評価:★★★★)

現金に体を張れ01.jpgthe killing.jpg現金に体を張れ1.jpg「現金に体を張れ」●原題:THE KILLING●制作年:1956年●制作国:アメリカ●監督:スタンリー・キューブリック●製作:ジェームス・B・ハリス●脚本:スタンリー・キューブリック/ジム・トンプスン●撮影:ルシエン・バラード●音楽:ジェラルド・フリード●原作:ライオネル・ホワイト 「見事な結末」●時間:83分●出演:スターリング・ヘイドン/ジェイ・C・フリッペン/メアリ・ウィンザー/コリーン・グレイ/エライシャ・クック/マリー・ウィンザー/ヴィンス・エドワーズ●日本公開:1957/10●配給:ユニオン=映配●最初に観た場所:新宿シアターアプル (86-03-22) (評価:★★★★☆)

パルプフィクション5E.jpegパルプ・フィクション4.jpg「パルプ・フィクション」●原題:PULP FICTION●制作年:1994年●制作国:アメリカ●監督・脚本:クエンティン・タランティーノ●製作:ローレンス・ベンダーパルプフィクション スチール.jpg●原案:クエンティン・タランティーノ/ロジャー・エイヴァリー●撮影:アンジェイ・セクラ●音楽:カリン・ラットマン●時間:155分●出演:ジョン・トラヴォパルプ・フィクション ジョン トラボルタ.jpgルタ/サミュエル・L・ジャクソン/ユマ・サーマン/ハーヴェイ・カイテル/アマンダ・プラマー/ティム・ロス/クリストファー・ウォーケン/ビング・ライムス/ブルース・ウィリス/エリック・ストルツ/ロザンナ・アークエット/マリア・デ・メディロス/ビング・ライムス●日本公開:1994/09●配給:松竹富士 (評価:★★★★)
ジョン トラボルタ(1994年・第20回ロサンゼルス映画批評家協会賞「主演男優賞」
   
「デス・トラップ 死の罠」8.jpegDEATHTRAP 1982 2.jpg「デス・トラップ 死の罠」●原題:DEATHTRAP●制作年:1982年●制作国:アメリカ●監督:シドニー・ルメット●製作:バート・ハリス●脚本:ジェイ・プレッソン・アレン●撮影:アンジェイ・バートコウィアク●音楽:ジョニー・マンデル●原作:アイラ・レヴィン●時間:117分●出演デス・トラップ 死の罠.jpg「デストラップ」ケイン.jpg:マイケル・ケイン/クリストファー・リーヴ/ダイアン・キャノン/アイリーン・ワース/ヘンリー・ジョーンズ/ジョー・シルヴァー●日本公開:1983/09●配給:ワーナー・ブラザース●最初に観た場所:テアトル吉祥寺 (86-02-15) (評価:★★★☆)●併映「殺しのドレス」(ブライアン・デ・パルマ)


ディーバ  チラシ.jpgディーバ 1981.jpg「ディーバ」●原題:DIVA●制作年:1981年●制作国:フランス●監督:ジャン=ディーバ dvd.jpgジャック・ベネックス●製作:イレーヌ・シルベルマン●脚本:ジャン=ジャック・ベネックス/セルジュ・シルベルマン●撮影:フィリップ・ルースロ●音楽:ウラディミール・コスマ●原作:デラコルタ●時間:117分●出演:フレデリック・アンドレイ/ウィルヘルメニア=ウィンギンス・フェルナンデス/リシャール・ボーランジェ/シャンタル・デリュアズ/ジャック・ファブリ/チュイ=アン・リュー●日本公開:1981/12●配給:フランス映画社●最初に観た場所:大井武蔵野館 (84-06-16)●2回目:六本木・俳優座シネマテン(97-10-03) (評価:★★★★)●併映(1回目):「パッション」(ジャン=リュック・ゴダール)
 
「パワー・プレイ 参謀たちの夜」  .jpgPOWER PLAY OPERATION OVERTHROW 1978 .jpg「パワー・プレイ 参謀たちの夜」●原題:POWER PLAY OPERATION OVERTHROW●制作年:1978年●制作国:イギリス/カナダ●監督:マーティン・バーク●製作:クリストファー・ダルトン●撮影:オウサマ・ラーウィ●音楽:ケン・ソーン●時間:110分●出演:ピーター・オトゥール/デヴィッド・ヘミングス/バリー・モース/ドナルド・プレザンス/ジョン・グラニック/チャック・シャマタ/アルバータ・ワトソン、/マーセラ・セイント・アマント/オーガスト・シェレンバーグ●日本公開:1979/11●配給:ワールド映画●最初に観大塚駅付近.jpg大塚名画座 予定表.jpg大塚名画座4.jpg大塚名画座.jpgた場所:大塚名画座 (80-02-21) (評価:★★★☆)●併映:「Z」(コスタ・ガブラス)

大塚名画座(鈴本キネマ)(大塚名画座のあった上階は現在は居酒屋「さくら水産」) 1987(昭和62)年6月14日閉館

《読書MEMO》
- 構成 -
○座談会 それぞれのヒッチコック
○作品編 ここに史上最高最強の151の「面白い映画」がある
○監督編 人をハラハラさせた人たち
○エッセイ集-映画を見ることも、映画について読むことも楽しい(一部)
 ・原作と映画の間に (山口雅也)
 ・どんでん返しの愉楽 (筈見有弘)
 ・ぼくの採点表 (双葉十三郎)
 ・映画は見るもの、ビデオは読むもの (竹市好古)
 ・わたしの「推理映画史」 (加納一朗)
 ・法廷映画この15本- 13人目の陪審員 (南俊子)
 ・襲撃映画この15本-なにがなんでも盗み出す (小鷹信光)
 ・ユーモア・パロディ映画この20本-笑うサスペンス (結城信孝)
 ・10人のホームズ、10人のワトソン、10人のモリアティ、そして8人のハドソン夫人 (児玉数夫)
 ・世界の平和を守った10人の刑事 (浅利佳一郎)
 ・世界を震えあがらせた10人の悪党 (逢坂剛)
 ・サスペンス映画が似合う女優10人 (渡辺祥子)
 ・フランス人はなぜハドリー・チェイスが好きなのか (藤田宜永)
 ・主題曲は歌い、叫ぶ (岩波洋三)
 ・『薔薇の名前』と私を結んだ赤い糸 (北川れい子)
 ・マイケル・ケインはミステリー好き (松坂健)
 ・TV界のエラリー・クイーン (小山正)
 ・394のアンケートを読んで (赤瀬川準)

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スチールが豊富でレイアウトがダイナミック。

昭和外国映画史0.JPG昭和外国映画史.jpg 昭和外国映画史2.jpg
昭和外国映画史―「月世界探検」から「スター・ウォーズ」まで (1978年)

 「1億人の昭和史」という毎日新聞社の雑誌の別冊シリーズ(今で言う"ムック")として刊行されたものです。

「月世界探検」(1902)
月世界探検.jpg 一応「昭和」とタイトルにありますが、1908(明治41)年公開の「月世界探検(月世界旅行)」('02年/仏)から取り上げていて(これ、8mmフィルムで観たことがあるが、"大掛かりな学芸会"みたいな作品だった)、日本で公開された外国映画をスチールで紹介する「全史」となっています。10年単位で均等に作品を取り上げているため、20世紀初期の多くの無声映画が紹介されているなど、類書に比べ相対的に古典的作品が詳しく紹介されていることになっています。

IMG_2849.JPG 本書自体が'78(昭和53)年の刊行なので、昭和を10年残したところで終わっていますが、掲載されているスチールの総数は千枚近いのではないかと思われます。大胆でダイナミックなレイアウトにより、外国映画の持つスケールと迫力、豊かな情感が伝わってきて、まだ観ていない映画も見たくなってきます。

 1枚のスチール写真で1ページ、更には見開きページを使っている作品もあり、因みに見開き掲載となっているのは、「未完成交響曲」(昭和10年公開)、「駅馬車」(昭和15年公開)、「風とともに去りぬ」(昭和27年公開)、「スター誕生」、「旅情」(共に昭和30年公開)、「荒野の七人」(昭和36年公開)、「ゴッドファーザー」(昭和47年公開)等々。

IMG_2848.JPG あくまでも日本での公開順に昭和を10年単位で区切り(「戦艦ポチョムキン」('25年/ソ連)などは昭和40年代のグループにある)、併せて時代風潮と映画業界の動向を総括していますが、例えば、昭和30年代の冒頭には、日本初の"シネラマ劇場"「テアトル東京」の写真があり、当時1日1万人近い観客が押しかけたのこと(現在の京橋駅近くの「ル・テアトル銀座」の場所にあった)。

 自分も'81年の閉館直前の頃ですが、ここで「地獄の黙示録」「天国の門」などを観た思い出があり、その頃にはもうガラガラに空いていましたが(ロードの終わりの頃だったのかなあ)、初体験の2チャンネル・サウンドや湾曲したスクリーンの記憶は消えません。

「風と共に去りぬ」」パンフレット(1975年リバイバル公開版)
「風と共に去りぬ」」1」.jpg オールド・ムービーについて知る手引きとして楽しませてもらい、今も手元に置いていますが、「1枚のスチールは10の解説よりも雄弁」という思いを強く抱かされます。

 「風とともに去りぬ」('39年/米)が本書のちょうど真ん中にくるぐらいでしょうか(前の方には、自分の知らない古典的作品がいっぱいある)。1930年代に「風と共に去りぬ」のようなスケールの大きな映画がアメリカで作られ、それを日本人が1950年代になって初めて観て驚き、こんな映画を作った国と戦争しても勝てるはずがなかったのだと改めて思ったわけだなあ(小津安二郎や徳川夢声は戦時中に日本軍の被占領地(シンガポール)でこの映画を観ている)。

風と共に去りぬ パンフ01.JPG アカデミー賞の作品賞・監督賞・主演女優賞・助演女優賞・脚色賞・撮影賞・室内装置賞・編集賞・制作賞・特別賞受賞(主演女優賞のヴィヴィアン・リーは、1939年(第5回)ニューヨーク映画批評家協会賞の主演女優賞も受賞)。アメリカ国内での興行収入は、チケット価格のインフレ調整計算すると歴代1位になり、日本でも高度成長期を中心に10回以上リバイバル上映され、今日も世界中のどこかの映画館で必ず上映されていると言われるスゴイ映画です。因みに、世界で初めてテレビ放映されたのも日本においてです(1975年/日本テレビ系列)。

「風と共に去りぬ」」2.jpg「風と共に去りぬ」●原題:GONE WITH THE WIND●制作年:1939年●制作国:アメリカ●監督:ビクター・フレミング●製作:デヴィッド・O・セルズニック●脚本:シドニー・ハワード●撮影:アーネスト・ホーラー/レイ・レナハン●音楽:マックス・スタイナー●原作:マーガレット・ミッチェル●時間:231分●出演:ヴィヴィアン・リー/クラーク・ゲーブル/レスリー・ハワード/オリヴィア・デ・ハヴィランド/トーマス・ミッチェル/バーバラ・オニール/ハティ・マクダニエル/イヴリン・キース/アン・ラザフォード/ハリー・ダベンボート/ローラ・ホープ・クルーズ/キャロル・ナイ/オナ・マンスン/カミー・キング●日本公開:1952/09●配給:MGM日本支社●最初に観た場所:池袋文芸坐(78-06-03)(評価:★★★★)

月世界旅行 dvd.jpg月世界旅行1.jpg月世界旅行2.jpg 「月世界旅行」(げつせかいりょこう)●原題:THE TRIP TO THE MOON(Le Voyage dans la Lune)●制作年:1902年●制作国:フランス●監督・製作・脚本:ジョルジュ・メリエス●原作:ジュール・ヴェルヌ/H・G・ウェルズ●時間:14分●出演:ジョルジュ・メリエス/ブリュエット・ベルノン/ ジュアンヌ・ダルシー/ヴィクター・アンドレ/アンリ・デラヌー●日本公開:1905/08●配給:MGM日本支社●最初に観た場所:杉本保男氏邸(81-01-31)(評価:★★★?)
月世界旅行&メリエスの素晴らしき映画魔術 Blu-ray」['12年] 2010年彩色版

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映画では割愛されてしまった素晴らしい"潜水艦"トリック。

レッド・オクトーバーを追え 上.jpg レッド・オクトーバーを追え下.jpg レッド・オクトーバーを追え!2.jpg レッド・オクトーバーを追え!.jpg Tom Clancy.jpg Tom Clancy
レッド・オクトーバーを追え (上) (文春文庫)』『レッド・オクトーバーを追え (下) (文春文庫)』〔'85年〕映画「レッド・オクトーバーを追え!」

THE HUNT FOR RED OCTOBER0.jpgTHE HUNT FOR RED OCTOBER1.jpg 1984年に発表されたトム・クランシー(Tom Clancy)のデビュー作で、'90年の映画化作品でも御馴染みですが、スケールの大きい海洋軍事小説であり、また、米ソ冷戦の軍事的背景や、原潜レッド・オクトーバー号のラミウス艦長を初めとする人物の描写などがしっかりしているのではないかと思います。

 しかし何よりもリアリティに寄与しているのが、潜水艦を初めとする軍事兵器に関する詳細な専門的記述で、何だかメルヴィルの『白鯨』とちょっと似ているかもしれないという気になりました(『白鯨』も捕鯨に関する百科事典的ウンチクが矢鱈スゴく、「世界一退屈な小説」とも言われている)。             

 トム・クランシーは保険代理業をやっていた人で、何でそんな一介の保険セールスマンがここまで書けるのか、不思議な気もします(アメリカ海軍については、リクルーティング目的でかなりの情報をサイト等で公開しているし、一般にもマニアが多くいるようですが...)。仕事をしながらおおよそ9年の歳月をかけて書き上げたそうですが、単なるオタクの領域を超えています。正直、『白鯨』のときと同じく、いささか食傷しました。でも、それを"乗り越えて"至る結末は、満足のいくものでした。

 映画化作品(監督は「ダイ・ハード」('88年/米)のジョン・マクティアナン)の方は、原作と細部において異なり、軍事や兵器に詳しい人たちの間で326103.jpgは、どっちがいいとかどっちがおかしいとか議論があるみたいです。映画での海中シーンの殆どは、水中での撮影ではなく、スモークを焚いて撮ってるとのこと、海中をいく潜水艦の感じをうまく出していたし、音響にもシズル感がありました。ショーン・コネリーら役者陣の演技もいいと思いました。

Sean Connery as Captain Ramius inside the Red October

 ところが、原作で最も感心させられた、囮の潜水艦を使ってソ連側の乗組員を錯覚させるという巧妙かつ大掛かりなトリックが、映画ではスッポリ抜け落ちていて、最後にガックリきたというか、唖然としました。映画だけ観ればまあまあだったのかもしれませんが、原作を読んだ上でだと、原作の白眉とも言える一番のアイデアが生かされていないというのは、やはりいかがなものかと。THE HUNT FOR RED OCTOBER movie.jpg従って、この映画に対する個人的評価はあまり高くはないのですが、スモークで本当に海の中のように見せる技術的な工夫だけは評価できます。

「レッド・オクトーバーを追え!」●原題:THE HUNT FOR RED OCTOBER●制作年:1990年●制作国:アメリカ●監督:ジョン・マクティアナン●音楽:バジル・ポールドゥリス●原作:トム・クランシー 「レッド・オクトーバーを追え」●時間:135分●出演:ショーン・コネリー/アレック・ボールドウィン/スコット・グレン/ジェームズ・アール・ジョーンズ/ティム・カリー/コートニー・B・ヴァンス/ステラン・スカルスガルド/ジェフリー・ジョーンズ/リチャード・ジョーダン/ジョス・アックランド/ゲイツ・マクファーデン/トマス・アラナ/ティモシー・カーハート●日本公開:1990/07●配給:UIP (評価★★★)

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「スーパー歌舞伎」でお馴染みの原作のマンガ化。面白い。「古事記」が身近に。

ミラクルマスター7つの大冒険 パンフレット - コピー.jpg2コナン・ザ・グレート.jpgヤマトタケル1.jpgヤマトタケル2.jpg ヤマトタケル.jpg

ヤマトタケル』(1987/12 角川書店)/コミック版[あすかコミックス(上・下)]「コナン DVDスペシャルBOX」「映画パンフレット「ミラクルマスター-七つの大冒険-」

ス-パ-歌舞伎.jpg '86(昭和61)年12月号から翌年7月号にかけて雑誌「ASUKA」に連載された、ヤマトタケルを主人公とした作者の古代史モノ作品の1つで、原作は、梅原猛が三代目市川猿之助の「スーパー歌舞伎」のために書き下ろしたものです。

スーパー歌舞伎 ―ものづくりノート (集英社新書)

 兄の大碓命(おおうすのみこと)を偶然殺してしまった小碓命(おうすのみこと)は、父天皇に疎まれ、熊襲(くまそ)討伐を命じられる。叔母から貰った「草薙の剣」を携え、熊襲を征した彼は、ヤマトタケルと呼ばれるようになる。さらに今度は蝦夷(えみし)討伐を命じられ、弟橘(おとたちばな)を妻としたタケルは、「草薙の剣」をもって蝦夷を征するが、途中で弟橘を失い、伊吹山で天皇の配下に追い詰められる―。

梅原 猛.jpg これぞまさに日本最古の悲劇的英雄を描く壮大な叙事詩といったところ。こうして見ると、ヤマトタケルの辿った運命はちょっと源義経と似たところがあるあなとか思いつつ、一気に最後まで読みました。ハードカバーに相応しい内容。面白いし、日本神話の勉強にもなります(梅原猛氏の歴史解釈は多分に恣意的であると思われるが)。

梅原 猛(1925-2019

ヤマトタケル (山岸凉子スペシャルセレクション 10) _.jpg この作者にしては珍しく、主人公のタケルがマッチョに描かれてる点が目を引きますが、アーノルド・シュワルツェネッガーとかシルヴェスター・スタローンの写真やビデオを参考にしたとのことです。アーノルド・シュワルツェネッガーの「コナン・ザ・グレート」('82/米)は絶対に参照しているなあ。

 ストーリーの方は、一応は梅原猛の原作を踏襲しながらも、タケルが女装して熊襲の頭領を欺く場面では、タケルの代わりに従者のタケヒコに女装させたりして(タケルをマッチョにしてしまった関係もあるのだろうが)、かなり柔軟に翻案されています。

ヤマトタケル (山岸凉子スペシャルセレクション 10)

 ヤマトタケルには戦争における軍神としてのイメージがあるし、弟橘を初めこの物語における女性の描き方が、男社会における男にとって都合のいい女性像ではないかとの指摘もあります。 弟橘は共同体のために犠牲になる個人、つまり人柱(ひとばしら)の象徴ともとれます。

 いろいろな見方はでき、個人的には梅原猛氏の歴史観そのものにも多々疑念を持っていますが(歴史家ではなく作家と見るべき)、こうして「古事記」を身近に感じることができるメリットというのはそれなりあると思いました。

アーノルド・シュワルツェネッガー コナン.jpgサンダール・バーグマン.png 「コナン・ザ・グレート」('82/米)は、アーノルド・シュワルツェネッガーの映画本格的デビュー作で(映画初出演作は「SF超人ヘラクレス」('69年)のヘラクレス役で、アーノルド・ストロングという名義でクレジットされている)、ジョン・ミリアスとオリバー・ストーンの共同脚本ですが、シュワちゃんは肉体は大いに披露するものの、まともなセリフは少ないです(似たような体格のスタントマンがいなかったため、スタントも自らこなすなどして頑張ったが、ラジー賞の"最低男優賞"になってしまった。一方、共演のサンダール・バーグマンは、ゴールデングローブ賞の年間最優秀新人賞に)。

アーノルド・シュワルツェネッガー(ジョン・ミリアス監督)「コナン・ザ・グレート」(1982)

 なぜ、あのアーノルド・シュワルツェネッガーの本格デビュー作がこのような作品になってしまったかというと、おそらく当時は演技力に関しては全く未知数であったということと(肉体美の方は確かだったが)、そもそも当時この手の古代冒険活劇譚とでも呼ぶべき映画が流行っていたということもあったのではないかと思われBeastmaster [Soundtrack].jpgBEASTMASTER.jpgます。「ジョーイ」('77年)のマーク・シンガー、「カリフォルニア・ドリーミング」('79年)のタニア・ロバーツ主演の「ミラクルマスター 七つの大冒険」('82年/米・伊)などもその類でした。コレ、「桃太郎の鬼退治」みたいな話だったなあ。最初のお供は雉ならぬ鷲と愛犬、途中からフェレットとか加わったりしたけれど。過去にビデオ化はされましたが、その後'06年現在DVD化されていないため、ある種カルト・ムービー化している作品かもしれません。

Beastmaster」[Soundtrack]

コナン DVDスペシャルBOX
コナン・ザ・グレート2.jpgコナン・ザ・グレート3.jpg「コナン・ザ・グレート」●原題:CONAN THE BARBARIAN●制作年:1982年●制作国:アメリカ●監督:ジョン・ミリアス●製作:バズ・フェイシャンズ/ラファエラ・デ・ラウレンティス●脚本:ジョン・ミリアス/オリバー・ストーン●撮影:キャロル・ティモシー・オミーラ●音楽:ベイジル・ポールドゥリス●原作:ロバート・E・ハワード「英雄コナン」●時間:128分●出CONAN THE BARBARIAN 1982.jpg演:アーノルド・シュワルツェネッガー/ジェームズ・アール・ジコナン・ザ・グレート マックス・フォン・シドー.jpgョーンズ/サンダール・バーグマン/マックス・フォン・シドー/ベン・デイヴィッドスン/カサンドラ・ギャヴァ/ジェリー・ロペス/マコ岩松●日本公開:1982/07●配給:20世紀フォックス●最初に観た場所:新宿ローヤル(83-04-30)(評価:★★☆)
マックス・フォン・シドー(オズリック王)

ミラクルマスター 七つの大冒険2.jpg「ミラクルマスター 七つの大冒険」●原題:BEASTMASTER●制作年:1982年●制作国:アメリカ・イタリア●監督・脚本:ドン・コスカレリ●製作:バズ・フェイミラクルマスター7つの大冒険 パンフレット.jpgシャンズ/ラファエラ・デ・ラウレンティス●脚本:ポール・ペパーマン/ シルヴィオ・タベット●撮影:ポール・ペパーマンTanya Roberts BEASTMASTER.jpg●音楽:リー・ホールドリッジ●原作:ロバート・E・ハワード「英雄コナン」●時間:118分●出演:マーク・シンガータニア・ロバーツ/リップ・トーン/ジョン・エイモス/ジョシュア・ミルラッド/ロッド・ルーミス/ベン・ハマー●日本公開:1983/10●配給:日本ヘラルド映画●最初に観た場所:新宿東急(83-10-16)(評価:★★☆)
映画パンフレット 「ミラクルマスター-七つの大冒険-」 出演 マーク・シンガー/タニア・ロバーツ

タニア・ロバーツ in「カリフォルニア・ドリーミング」('79年)「シーナ」('84年)「007 美しき獲物たち」('85年)
カリフォルニア・ドリーミング タニア・ロバーツ.jpg シーナ タニア・ロバーツ.jpg 007 タニア・ロバーツ.jpg 

昭和31年完成の東急文化会館.jpg新宿東急 ミラノビル -2.jpg新宿東急.jpg新宿東急 1956年(昭和31年)12月、歌舞伎町「東急文化会館」(現・東急ミラノビル)地階にオープン(右写真:1960年ミラノ座新館開業時)→「新宿ミラノ2」2014(平成26)年12月31日閉館。

新宿東急ミラノビル4館(シネマミラノ・ミラノ座・新宿東急・シネマスクエアとうきゅう)2005年8月
新宿ミラノ会館4館 20051.08.jpg

 【1991年コミック版[あすかコミックス(上・下)]/2011年潮出版社[山岸凉子スペシャルセレクション 10]】

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映画の分析などに、元アーティストとしての性が感じられる。
みんなの精神科.jpg みんなの精神科.JPG みんなの精神科2.jpg 危険な情事 (扶桑社ミステリー).jpg  レナードの朝 dvd.png
みんなの精神科-心とからだのカウンセリング38』 〔'97年〕『みんなの精神科―心とからだのカウンセリング38 (講談社プラスアルファ文庫)』〔'00年〕 H・B・ギルモア『危険な情事 (扶桑社ミステリー)』(ノベライゼーション) 「レナードの朝 [DVD]

 タイトルからも察せられる通り、趣旨としては、精神科医に対して抱く一般の心理的な垣根を低くし、〈橋渡し機能〉としてもっと活用してもらいたいというものです。

 "一億総精神科受診時代"が来ることで、むしろ自分は正常で他人のことをおかしいとする単純な〈排除〉の論理を排除できるのでは、という考えはわかりますが、全体のトーンとしては文化論、社会論を含むエッセイ風読み物で、本当に書きたかったことが何なのか、今ひとつ見えにくい部分もあります。

 一方、尾崎豊の破綻に至る心理分析や、映画「レインマン」('88年/米)の作り方に対する言及、「危険な情事」('87年/米)に見る隠されたメッセージの解釈には、精神科医としてだけでなく元アーティストとしての性も感じられ、すべてには賛同できないまでも、なかなか面白く読めました。

Fatal Attraction.bmp とりわけ個人的に興味深かったのは、映画「危険な情事」(Fatal Attraction)(邦題が凡庸ではないか? 原題は「死にいたる吸引力」)の主人公のマイケル・ダグラス演じる、軽い気持ちで一夜を共にした女性からのストーカー行為に苦しめられる男性を、彼自身がパラノイア、妄想性人格障害であると見ている点です(これ、知人宅でのビデオパーティで観た)。普通ならば、主人公を執拗にストーキングするグレン・クローズ演じる女性の方を、典型的な境界性人格障害であると見そうな気がしますけれども、精神科医だからこそ、ちょっと視点を変えた見方ができるのでしょうか。
     
危険な情事 dvd.jpgFATAL ATTRACTION.jpg 個人的には、グレン・クローズの鬼気迫る演技に感服!(彼女の演じたアレックスは2003年にAFIによって選ばれた「アメリカ映画100年のヒーローと悪役ベスト100」で悪役の第7位となっていて、「時計じかけのオレンジ」でマルコム・マクダウェルが演じた主人公アレックス(12位)などより上にきている)、ただし、ペットのウサギを鍋で煮たのは映画とは言え後味が悪く、最後の湯舟からガバッと起き上がるところでこれはあり得ないと思い、この映画に対する評価はあまり高くなかったのですが、そっか、主人公の被害妄想だったのか、ナルホド。
危険な情事 スペシャル・コレクターズ・エディション [DVD]
    
 穿った見方をすれば、こうした独特の作品分析などが、本当に書きたかったことではないかと...。 但し、「レナードの朝」(Awakenings、'90年/米)に関する記述などは、当時の精神医療の在り方がどのようなものであったかを、専門医の立場からきちんと解説しています。

レナードの朝 PPL-12460 [DVD]」 Oliver Sacks(1933-2015
レナードの朝 dvd.jpgオリバー・サックス.jpg この作品のベースになっているのは、英国の医師で神経学者のオリバー・サックス(ダスティン・ホフマンが「レインマン」('88年/米)で自閉症者を演じることになった際にこの人にアドバイスを求めている)の著作である医療ノンフィクションで、英国で昨年['05年]ノーベル文学賞を受賞したハロルド・ピンターが戯曲化していますが、今度は米国でペニー・マーシャル監督が内容を再構成したフィクションという形で映画化したものです。

 ブロンクスの慢性神経病患者専門の病院に赴任してきたマルコム・セイヤー医師(ロビン・ウィリアムズ)が、30年間眠り続けた患者レナード(ロバート・デ・ニーロ)に対し、未認可のパーキンソン病の新薬を使うことで彼の意識を呼び戻し、レナードが女性に恋をするまでに回復させるが、やがて...。

レナードの朝 0.jpg 著者はここで、精神病の症状の多様性と、多くの医師が異なった精神病観を持っていることを強調したうえで、セイヤー医師の処方を評価しています。一方、ここからまたやや映画ネタになりますが、この作品でアカデミー賞にノミネートされたのがロバート・デ・ニーロだけだったのに対し、ロビン・ウィリアムズの方が演技が上だったという意見が多くあったことを指摘し、実は2人の関係が作品の中で対になっているとしています。これは、医師中心に描いた「逃亡者」や患者中心に描いた「レインマン」など映画が医師・患者のどちらか一方の視点から描いているのが通常でレナードの朝02.jpgあるのに対して珍しく、更に、医師と患者が相互に補完し合って共に治療法を見つけていくという意味で、医師に患者性があること(セイヤー医師はネズミ相手の実験ばかりして他者とのコミュニケーションが苦手な独身男として描かれている)の重要性を説いています(スゴイ見方!)。

レナードの朝 2.jpg 個人的には、女流監督らしいヒューマンなテーマの中で、やはり、障害者を演じるロバート・デ・ニーロの演技のエキセントリックぶりが突出しているという印象を受けました。この作品で、ロバート・デ・ニーロがセイヤー医師の役のオファーがあったのにも関わらずレナードの役を強く希望し、ロビン・ウィリアムズと役を交換したというのは本書にある通りで、著者はそのことも含め「どちらが患者でどちらが医師であってもおかしくない作品」としているのが興味深いです。おそらく著者はセイヤー医師に十二分に肩入れしてこの作品を観たのではないでしょうか(同業者の役柄に感情移入するのはごく普通のことだろう)。その上で、ロビン・ウィリアムズの演技は著者の期待に沿ったものだったのかもしれません(デ・ニーロもさることながら、ロビン・ウィリアムズも名優である)。
   
危険な情事 9.jpg 「危険な情事」●原題:FATAL ATTRACTION●制作年:1987年●制作国:アメリカ●監督:エイドリアン・ライン●製作:スタンリー・R・ジャッフェ/シェリー・ランシング●脚本:ジェームズ・ディアデン ほか●撮影:ハワード・アザートン●音楽:モーリス・ジャール ●原作:●時間:119分●出演:マイケル・ダグラス/グレン・クローズ/アン・アーチャー/スチュアート・パンキン/エレン・ハミルトン・ラッツェン/エレン・フォーリイ/フレッド・グウィン/メグ・マンディ●日本公開:1988/02●配給:パラマウント映画 ●最初に観た場所:有楽町・日劇日劇プラザ・日劇東宝.jpg日劇プラザ   .jpg有楽町マリオン 阪急.jpgプラザ (88-04-10)(評価:★★★)
日劇プラザ 1984年10月6日「有楽町マリオン」有楽町阪急側9階にオープン、2002年~「日劇3」、2006年10月~「TOHOシネマズ日劇3」、2009年3月~「TOHOシネマズ日劇・スクリーン3」2018年2月4日閉館


レナードの朝03.jpg「レナードの朝」●原題:AWAKENINGS●制作年:1990年●制作国:アメリカ●監督:ペニー・マーシャル●製作:ウォルター・F・パークス/ローレンス・ロビン・ウィリアムズ  1.jpgラスカー●脚本:スティーヴン・ザイリアン●撮影:ミロスラフ・オンドリチェク●音楽:ランディ・ニューマン●原作:オリヴァー・サックス●時間:121分●出演:ロバート・デ・ニーロ/ロビン・ウィリアムズ/ジュリー・カブナー/ルー・ネルソン/ジョン・ハード/ペネロープ・アン・ミラー/マックス・フォン・シドー/アリス・ドラモンド/ジュディス・マリナ●日本公開:1991/04●配給:コロムビア・トライスター映画(評価:スレナードの朝 マックスフォンシドー .jpg★★★☆)

Robin Williams (1951-2014(63歳没「自殺」))as Dr. Malcolm Sayer/Max Von Sydow(1929-2020(90歳没))as Dr. Peter Ingham in Awakenings

ロビン・ウィリアムズ[上](マルコム・セイヤー医師...話すことも動くこともできない患者たちに反射神経が残っていることに気づき、訓練によって彼らの生気を取り戻すことに成功する(原作者オリバー・サックス自身がモデル)
マックス・フォン・シドー[右](ピーター・インガム医師...嗜眠性脳炎の患者は考える能力を失ったと考えている)

 【2000年文庫化[講談社+α文庫]】

《読書MEMO》
●『レインマン』に出てくる面白いエピソードは20人の自閉症患者と20年付き合ってやっと得られるもの
●『レナードの朝』で当初デ・ニーロがセイヤー博士をやる予定だったが、彼はレナード役(嗜眠性脳炎の患者)を欲し、ロビン・ウィリアムスが博士役になった
●『危険な情事』=道成寺と同じ、パラノイア・妄想(実は男の方が狂っている)だという解釈

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マフィアの示威行為が狙いともとれる本だが、生々しいだけに興味深く読めた。

アメリカを葬った男2.jpg アメリカ.jpg  『JFK』(1991).jpg 『ダラスの熱い日』(1973).jpg
アメリカを葬った男―マフィア激白!ケネディ兄弟、モンロー死の真相』〔'92年〕/『アメリカを葬った男』光文社文庫/オリバー・ストーン監督「JFK [DVD]」(1991)/デビッド・ミラー監督・ダルトン・トランボ脚色「ダラスの熱い日 [VHS]」(1973)

アメリカを葬った男 原著.jpgSam Giancana.jpg マフィアの大ボスだったサム・ジアンカーナが、自分はマリリン・モンローの死とケネディ兄弟の暗殺に深く関わったと語っていたのを、実の弟チャック・ジアンカーナが事件から30年近い時を経て本にしたもので、読んでビックリの内容で、本国でもかなり話題になりました。
Sam Giancana
"Double Cross: The Story of the Man Who Controlled America"

 「アメリアを葬った男」とは、訳者の落合信彦氏が考えたのかピッタリのタイトルだと思いますが、原題は"Double Cross(裏切り)"で、ケネディ兄弟の暗殺は、移民系の面倒を見てきたマフィアに対するケネディ家の仕打ちや、大統領選の裏工作でマフィアが協力したにも関わらずマフィア一掃作戦を政策展開したケネディ兄弟の "裏切り"行為、に対する報復だったということのようです。

 但し、その他にも、ジョンソンもニクソンも絡んでいたといった政治ネタや、CIAがケネディ排除への関与に際してマフィアと共同歩調をとったとかいう話など、驚かされる一方で、他のケネディ事件の関連書籍でも述べられているような事柄も多く、だからこそもっともらしく思えてしまうのかもしれないけれど、本書の記述の一部に対しては眉唾モノとの評価もあるようです(ただ一般には、「CIA、FBIとマフィアが手先となった政府内部の犯行説」というのは根強いが)。

 確かに「大ボス一代記」のようにもなっているところから、本自体マフィアの示威行為ともとれますが、「マフィアと政府はコインの表裏だと」いう著者の言葉にはやはり凄味があり、モンローを"殺害"した場面は、かなりのリアリティがありました。
 マフィアがジョンとロバートのケネディ兄弟に"女性"を仲介したことは事実らしいし(モンローもその1人と考えられ、さらにケネディ大統領とジアンカーナは同じ愛人を"共有"していたことも後に明らかになっている)、本書によれば、ジョンとロバートは同時期にモンローの部屋に出入りしていた...と。

JFK ポスター.jpgJFK.jpgJFK―ケネディ暗殺犯を追え (ハヤカワ文庫NF).jpg 生々しいけれども、それだけについつい引き込まれてしまい、本書とほぼ同時期に訳出された、オリバー・ストーン監督の映画「JFK」('91年/米)の原作ジム・ギャリソン『JFK-ケネディ暗殺犯を追え』('92年/ハヤカワ文庫)よりもかなり「面白く」読めました。
「JFK」ポスター /「JFK [DVD]」/ジム・ギャリソン『JFK―ケネディ暗殺犯を追え (ハヤカワ文庫NF)
 ジム・ギャリソンは、事件当時ルイジアナの地方検事だった人で、偶然ケネディ暗殺に関係しているらしい男を知り、調査を開始するも、その男が不審死を遂げ、そのため彼の仲間だったクレイ・ショウを裁判にかけるというもので(これが有名な「クレイ・ショウを裁判」)、結局彼はこの裁判に敗れるのですが、その後、彼の追及した方向は間違っていなかったことが明らかになっていて、彼は、ケネディ暗殺事件をCIAなどによるクーデター(ベトナム戦争継続派から見てケネディは邪魔だった)により殺されたのだと結論づけています。
 原作はドキュメントであり、結構地味な感じですが、ジム・ギャリソンを主人公に据えた映画の方は面白かった―。
 オリバー・ストーン監督ってその辺り上手いなあと思いますが、その作り方の上手さに虚構が入り込む余地が大いにあるのもこの人の特徴で、司法解剖の場面で検視医の白衣が血に染まっている...なんてことはなかったと後で医師が言ったりしてるそうな。                                    
Executive Action.jpg"EXECUTIVE ACTION"(「ダラスの熱い日」)/「ダラスの熱い日」予告

ダラスの熱い日 - Executive Action.jpg『ダラスの熱い日』(1973)2.jpgダラスの熱い日パンフレット.jpg むしろ、この映画を観て思ったのは、ずっと以前、ケネディ暗殺後10年足らずの後に作られたデビッド・ミラー監督、バート・ランカスター、ロバート・ライアン主演の「ダラスの熱い日(EXECUTIVE ACTION)」('73年/米)で(脚本は「ジョニーは戦場に行った」('71年/米)のダルトン・トランボが担当)、既にしっかり、CIA陰謀説を打ち出しています。CIAのスナイパー達が狙撃訓練をする場面から始まり、それを指揮している元CIA高官をバート・ランカスターが演じているほか、ロバート・ライアンが暗殺計画を中心になって進める軍人を演じており、それに右翼の退役将校やテキサスの石油王などが絡むという展開。因みに、私生活では、バート・ランカスターは反戦主義者として知られ、ロバート・ライアンもハト派のリベラリストでした(だから、こうした作品に出演しているわけだが)。

Men Who Killed Kennedy 1988.jpgThe Men Who Killed Kennedy.jpg 当時は1つのフィクションとして観ていましたが、その後に出てきた諸説に照らすと―例えばEngland's Central Independent Televisionが製作したTVドキュメンタリー「Men Who Killed Kennedy 」('88年/英)や、英国エクスボースト・フィルム製作、ゴドレイ&クレーム監督によるチャンネル4のTV番組作品JFK・暗殺の真相(The Day The DrThe-Day-The-Dream-Died-001.jpgeam Died、'88年/英)などを見ると―オズワルドを犯人に仕立て上げる過程なども含め、かなり真相(と言っても未だに解明されているわけではないのだが)に近いところをいっていたのではないかと思いました(映画「JFK」とも重なる部分も多い)。

 これらと比べると、本書『アメリカを葬った男』は、この事件にマフィアが及ぼした影響をアピールしている感じはやはりします(マフィアにとって何らかのメリットがなければ、こんなに身内のことをベラベラ語らないのでは)。でも、面白かった。 

JFK 1991.jpg「JFK」●原題:JFK●制作年:1991年●制作国:アメリカ●監督:オリバー・ストーン●製作:A・キットマン・ホー/オリバー・ストーン●脚本:オリバー・ストーン/ザカリー・スクラー●撮影:ロバート・リチャードソン●音楽:ジョンドナルド・サザーランド JFK.jpg・ウィリアムズ●原作:ジム・ギャリソンほか●時間:57分●出演:ケビン・コスナー/トミー・リー・ジョーンズ/ジョー・ペシ/ケヴィン・ベーコン/ローリー・メトカーフ/シシー・スペイセク/マイケル・ルーカー/ゲイリー・オールトコン/ドナルド・サザーランド/ジャック・レモン/ウォルター・マッソー/ジョン・キャンディ/ヴィンセント・ドノフリオ/デイル・ダイ/ジム・ギャリソン/(冒頭ナレーション)マーティン・シーン●日本公開:1992/03●配給:ワーナー・ブラザーズ(評価:★★★☆)

ケビン・コスナー(ジム・ギャリソン)/ドナルド・サザーランド(X大佐)

ダラスの熱い日1.jpgダラスの熱い日パンフレット2.jpg「ダラスの熱い日」●原題:EXECUTIVE ACTION●制作年:1973年●制作国:アメリカ●監督:デビッド・ミラー●製作:エドワード・ルイス●脚色:ダルトン・トランボ●撮影:ロバート・ステッドマン●音楽:ランディ・エデルマン ●原案:ドナルド・フリードほか●時間:91分●出演:バート・ランカスター/ロバート・ライアン/ウィル・ギア/ギルバート・グリーン/ジョン・アンダーソン●日本公開:1974/01●配給:ヘラルド映画配給●最初に観た場所:池袋テアトルダイヤ(77-12-24)(評価:★★★☆)●併映:「ジャッカルの日」(フレッド・ジンネマン)/「合衆国最後の日」(ロバート・アルドリッチ)/「鷲は舞いおりた」(ジョン・スタージェス) 「ダラスの熱い日」パンフレット(右)

 「JFK 暗殺の真相」.jpg「JFK 暗殺の真相」●原題:THE DAY THE DREAM DIED●制作年:1988年●制作国:イギリス●監督:ゴドレイ&クレーム●製作:エクスボースト・フィルム●音楽:バスター・フィールド/デビッド・ラザロ●時間:45分●日本公開(ビデオ発売):1992/07●配給(発売元):バップ(評価:★★★☆) 「JFK 暗殺の真相」(日本語吹替版ビデオ[絶版・DVD未発売])

 【1997年文庫化[光文社文庫]】

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「マイベスト10にはヨーロッパ映画が似合い、最初テレビで見たものは入れにくい」に納得。
大アンケートによる洋画ベスト150.jpg    『禁じられた遊び』(1952).jpg 大地のうた3部作.jpg
大アンケートによる洋画ベスト150』(表紙イラスト:安西水丸)「禁じられた遊び」「大地のうた3部作」

 1988年の出版で、映画通366人の選んだベスト10を集計しています。年齢の高い選者が多く(今や物故者となった人も多い)、個々の選択も結構まっとうという感じですが、映画産業に限らず様々な分野の人が「マイベスト10」を寄せているので、それはそれで面白いです。

天井桟敷の人々 パンフ.JPG天井桟敷の人々.jpg 総合ベスト10も、「天井桟敷の人々」「第三の男」「市民ケーン」「風と共に去りぬ」「大いなる幻影」「ウェストサイド物語」「2001年宇宙の旅」「カサブランカ」「駅馬車」「戦艦ポチョムキン」と"一昔前のオーソドックス"といった感じでしょうか(今でも名画であることには違いありませんが)。

風と共に去りぬ パンフ.JPG 間に挿入されている赤瀬川準、長部日出雄、中野翠の3氏の座談がいいです。

 自分のベスト10に赤瀬川氏、長部氏は「天井桟敷の人々」を入れていますが、戦後生まれの中野氏には入れていません。それを彼女は、「最初にテレビで見た負い目」と説明していますが、その気持ち何だかわかるな〜(「天井桟敷の人々」は自分は劇場で観たが、個人的なベスト10には入ってこない)。
 テレビで観たものがベスト10に入りにくいのは、観ている時は感動していても、その後すぐに日常生活に戻ってしまうからではないかなあ(映画館で観終わった後、余韻を胸に抱きながら帰路につく時間というのは結構大事なのかも)。中野氏が、好きなアメリカ映画がいっぱいあるのに、「ヨーロッパ映画がどうしてもベスト10に似合っちゃう」と言っているのも何となくわかります。

 映画と音楽(奏者と楽器)の不可分な、他に置き換えようがない繋がりというのも感じます。「第三の男」(2位)のアントン・カラスのチター、「禁じられた遊び」(11位)のナルシソ・イエペスのギター、「大地のうた」(39位)のラヴィ・シャンカールのシタール、「死刑台のエレベーター」(48位)のマイルス・デイヴィスのトランペット。
ナルシソ・イエペス/禁じられた遊び.jpg  禁じれた遊び パンフ.jpg 「禁じられた遊び」
禁じられた遊び2.jpg ルネ・クレマン監督の「禁じられた遊び」('52年/仏)は戦争孤児の物語ですが、テーマ曲の効果も相俟って本当にストレートに泣けました(原曲はスペイン民謡「愛のロマンス」)。ヴェネツィア国際映画祭の「金獅子賞」米国「アカデミー国際長編映画賞」などを受賞しています。
 「第三の男」の"ハリー・ライムのテーマ"を奏でたアントン・カラスは、ハンガリー系オーストリア人で、これは映画の舞台がウィーンであるということもあるかと思いますが、「禁じられた遊び」の舞台はフランス郊外なのに、(同じラテン系ではあるが)スペイン人のギター奏者ナルシソ・イエペス(ロドリーゴのアランフェス協奏曲の演奏でも知られる)を起用していて、撮影に金を使い過ぎてオーケストラ演奏する費用が無くなってしまったため、全編を通して彼のギターだけで通したということですが、逆にそれがいい結果となっているように思えます。

フランスの思い出.jpg「フランスの思い出」.jpg 本書刊行の頃の公開作品ですが、田舎での少年と少女の交流という点では、ジャン・ルー・ユベール監督の「フランスの思い出」('87年/仏)なども、パリ育ちの少年が夏休みに田舎で過ごした経験を描いたもので、ちょっとこの作品を意識したような雰囲気がありました。

「フランスの思い出」

 「フランスの思い出」は、主演のリシャール・ボーランジェととアネモーネが1988年(第13回)セザール賞(フランスにおける映画賞で、同国における米アカデミー賞にあたる)の最優秀男優賞と最優秀女優賞をそれぞれ受賞していますが、子役も良くて、とりわけ、田舎育ちの少女役のヴァネッサ・グジがいいです。そのお転婆ぶりは、「禁じられた遊び」でブリジッド・フォッセーが演じた都会の少女ポーレットとは対照的ですが、ポーレットも一面においては、動物のお墓作りをリードしている部分があったと言えるかも。

 小さな悪の華 チラシ.jpg「小さな悪の華」チラシ
Mais ne nous délivrez pas du mal (1971)
「小さな悪の華」 映画ード.jpgMais ne nous délivrez pas du mal (1971).jpg小さな悪の華 ポスター.jpg 一方、ジョエル・セリア監督の「小さな悪の華」('70年/仏)という作品は、早熟で魔性を持つ2人の15歳の少女が、ボードレールの「悪の華」を耽読し、農夫に裸を見せつけ、行きずりの男を誘拐して殺し、最後に焼身自殺するという衝撃的なものでしたが、祭壇作りにハマる少女たちには、「禁じられた遊び」の"十字架マニア"の少女ポーレットの"裏ヴァージョン"的なものを感じました。この作品は、"少女ポルノ"的描写であるともとれる場面があるため、製作当時、フランス本国では上映禁止となったとのことです。
                                    
「大地のうた」 (1955)
「大地のうた」 (1955).jpg大地のうた2.jpg『大地のうた』 (1955).jpg 「大地のうた」('55年/インド)はサタジット・レイ監督の「オプー3部作」の第1作で、ベンガル地方の貧しい家庭の少年オプーの幼少期が描かれ、何と言っても、貧困のため雨中に肺炎で斃れたオプーの姉の挿話が哀しかったです。

 第2作の「大河のうた」('56年)では、学業に優れたオプーが故郷を捨てカルカッタへ向かうところで終わりますが、これは家族(親族)離散の結末であり、インドの人はハッピーエンドでないと満足しない?ということでもないと思いますが、インド国内での興行成績は第1作ほど良くはなかったとのことです。
大地のうた 《IVC BEST SELECTION》 [DVD]

黒澤明 .jpg しかし、「大河のうた」は世界的には前作を上回る評価を得、1957年・第18回ヴェネツィア国際映画祭で金獅子賞を受賞、サタジット・レイは黒澤明を尊敬していましたが、同年にコンペティション部門に出品されていた黒澤明の「蜘蛛巣城」('57年/東宝)をコンペで破ったことになります。その黒澤明は、「サタジット・レイに会ったらあの人の作品が判ったね。眼光炯炯としていて、本当に立派な人なんだ。『蜘蛛巣城』がヴェネチア国際映画祭で『大河のうた』に負けた時、これはあたりまえだと思ったよ」と語っています。世界から喝采を浴びたサタジット・レイは、この作品を3部作とすることを決意、第3作「大樹のうた」('58年)は、青年となったオプーと、亡き妻の間に生まれ郷里に置いてきた息子との再会の物語になっています。

「大河のうた」(1956)/「大樹のうた」(1958)
『大河のうた』 (1956).jpg 『大樹のうた』 (1955).jpgアヌーシュカ・シャンカール.jpgノラ・ジョーンズ.jpg 3作を通じて音楽にラヴィ・シャンカールのシタールが使われていることが、3部作に統一性を持たせることに繋がっていてるように思います。因みに、ラヴィ・シャンカールの2人の娘は、姉がジャズ歌手のノラ・ジョーンズ、妹がシタール奏者のアヌーシュカ・シャンカールで、この2人は異母姉妹です。なお、ラヴィ・シャンカールの演奏は、ジョージ・ハリスンの呼びかけで行われた飢饉救済コンサートのドキュメンタリー映画「バングラデシュ・コンサート」 ('71年/米)のコンサートのオープニングで見ることができます(ラヴィ・シャンカールはジョージ・ハリスンのシタールの師匠だった)。

死刑台のエレベーター2.jpg 「死刑台のエレベーター」('57年/仏)は、ルイ・マル25歳の時の実質的な監督デビュー作で、主人公のモーリス・ロネとジャンヌ・モローが不倫関係の末、殺人を犯すというもので、サスペンス映画としても良く出来ていると思いますが、恋人モーリス・ロネからの連絡が無く、不安の裡にパリの街を彷徨うジャンヌ・モローの姿にマイルス・デイヴィスのトランペットが被り、何とも言えないムードを醸しています。同じルイ・マル監督の「鬼火」における、エリック・サティのピアノも良く(この作品はベスト150には入ってませんが)、映像と音楽を結びつける才能があった監督でした。


禁じられた遊び  .jpg禁じられた遊び3.jpg「禁じられた遊び」●原題:JEUX INTERDITS●制作年:1952年●制作国:フランス●監督:ルネ・クレマン●脚本:ジャン・オーランシュ/ピエール・ポスト●撮影:ロバート・ジュリアート●音楽:ナルシソ・イエペス●原作:フランソワ・ボワイエ●時間:86分●出演:ブリジッド・フォッセー/ジョルジュ・プージュリー/スザンヌ・クールタル/リュシアン・ユベール/ロランヌ・バディー/ジャック・マラン●日本公開:1953/09●配給:東和●最初に観た場所:早稲田松竹 (79-03-06)●2回目:高田馬場・ACTミニシアター (83-09-15)(評価:★★★★☆)●併映(1回目):「鉄道員」(ピエトロ・ジェルミ)●併映(2回目):「居酒屋」(ルネ・クレマン)

フランスの思い出  7.jpg「フランスの思い出」 00_.jpg「フランスの思い出」●原題:LE GRAND CHEMIN●制作年:1987年●制作国:フランス●監督・脚本:ジャン=ルー・ユベール●製作:パスカル・オメ/ジャン・フランソワ・ルプティ ●撮影:クロード・ルコント●音楽:ジョルジュ・グラニエ●時間:91分●出演:アネモーネ/リシャール・ボーランジェ/アントワーヌ・ユベール/ヴァネッサ・グジ/クリスチーヌ・パスカル/ラウール・ビイレー●日本公開:1988/08●配給:巴里映画●最初に観た場所:五反田TOEIシネマ (89-08-26)(評価:★★★★)●併映:「人生は長く静かな河」(エティエンヌ・シャティリエ)
五反田TOEIシネマ 2.jpg五反田TOEIシネマ79.jpg五反田TOEIシネマ.jpg五反田TOEIシネマ 3.jpg五反田TOEIシネマ/(跡地=右岸)「五反田東映」をを分割して1977(昭和52)年12月3日オープン、1990(平成2)年9月30日「五反田TOEIシネマ」閉館(1995年3月21日「五反田東映」閉館)

「小さな悪の華」 映画.jpg小さな悪の華.jpg小さな悪の華2.jpg「小さな悪の華」●原題:MAIS NE NOUS DELIVREZ PAS DU MAL●制作年:1970年●制作国:フランス●監督・脚本:ジョエル・セリア●撮影:マルセル・コンブ●音楽:ドミニク・ネイ●時間:103分●出演:ジャンヌ・グーピル/カトリーヌ・ワグナー/ベルナール・デラン/ミシェル・ロバン●日本公開:1972/03●配給:日本ヘラルド映画●最初に観た場所:中野武蔵野館 (77-12-12)(評価:★★★☆)●併映:「ザ・チャイルド」(ナルシソ・イバネ・セッラドール)
中野武蔵野ホール.jpg中野武蔵野ホール 地図.jpg中野武蔵野ホール内.jpg中野武蔵野館 (後に中野武蔵野ホール) 2004(平成16)年5月7日閉館
           
           
Pather Panchali(1955)
Pather Panchali(1955).jpg大地のうた3部作 dvd.jpg「大地のうた」●原題:PATHER PANCHALI●制大地のうた 1955.jpg作年:1955年●制作国:インド●監督・脚本:サタジット・レイ●撮影:スブラタ・ミットラ●音楽:ラヴィ・シャンカール●原作:ビブーティ・ブーション・バナージ●時間:125分●出演:カヌ・バナールジ/コルナ・バナールジ/スピール・バナールジ●日本公開:1966/10●配給ATG●最初に観た場フィルムセンター旧新 .jpg京橋フィルムセンター.jpg:所:京橋フィルムセンター (80-07-08)●2回目:池袋テアトルダイヤ (85-11-30)(評価:★★★★☆)●併映(2回目)「大河のうた」「大樹のうた」(サタジット・レイ)

旧・京橋フィルムセンター(東京国立近代美術館フィルムセンター) 1970年5月オープン、1984(昭和59)年9月3日火災により焼失、1995(平成7)年5月12日リニューアル・オープン。 
        
「大河のうた」.jpg大河のうた.jpg大河のうた   .jpg「大河のうた」●原題:APARAJITO●制作年:1956年●制作国:インド●監督・脚本:サタジット・レイ●撮影:スブラタ・ミットラ●音楽:ラヴィ・シャンカール●原作:ビブーティ・ブーション・バナージ●時間:110分●出演:ピナキ・セン・グプタ/スマラン・ゴシャール/カヌ・バナールジ/コルナ・バナールジ ●日本公開:1970/11●配給:ATG●最初に観た場所:池袋テア大樹のうた p.jpgトルダイヤ (85-11-30)(評価:★★★★☆)●併映「大地のうた」「大樹のうた」(サタジット・レイ)

大樹のうた.jpg大樹のうた        .jpg「大樹のうた」●原題:APUR SANSAR●制作年:1958年●制作国:インド●監督・脚本:サタジット・レイ●撮影:スブラタ・ミットラ●音楽:ラヴィ・シャンカール●原作:ビブーティ・ブーション・バナージ●時間:105分●出演::ショウミットロ・チャテルジー /シャルミラ・タゴール/スワパン・ムカージ/アロク・チャクラバルティ●日本公開:1974/02●配給:ATG●最初に観た場所:池袋テアトルダイヤ (85-11-30)(評価:★★★★☆)●併映「大地のうた」「大河のうた」(サタジット・レイ)

「死刑台のエレベーター」『死刑台のエレベーター』 CD
死刑台のエレベーター パンフ.jpg死刑台のエレベーター.jpg「死刑台のエレベーター」●原題:ASCENSEUR POUR L'ECHAFAUD●制作年:1957年●制作国:フランス●監督:ルイ・マル●製作:ジャン・スイリエール●脚本: ロジェ・ニミエ/ルイ・マル●撮影:アンリ・ドカエ●音楽:マイルス・デイヴィス●原作:ノエル・カレフ●時間:95分●出演:モーリス・ロネ/ジャンヌ・モロー/ジョルジュ・プージュリー/リノ・ヴァンチュラ/ヨリ・ヴェルタン/ジャン=クロード・ブリアリ/シャルル・デネ●日本公開:1958/09●配給:ユニオン●最初に観た場所:新宿アートビレッジ (79-02-10)●2回目:高田馬場・ACTミニシアター(82-10-03)(評価:★★★★☆)●併映(1回目):「大人は判ってくれない」(トリュフォー) 

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イスラームの社会・生活・文化をフィールドワーク的視点から紹介。

5イスラームを知ろう (岩波ジュニア新書.jpgイスラームを知ろう.jpg  『イスラームを知ろう』 岩波ジュニア新書

 イスラームという宗教そのものについても解説されていますが、著者が人類学者であるため、むしろイスラームの社会での結婚や生死に関する儀礼、日常生活の義務規定がよく紹介されています。

 イスラーム社会は世界の広い範囲に及ぶのですが、著者がフィールドワーク的に長期滞在したヨルダン、エジプト、ブルネイなどのことが中心に書かれていて(一応、中東、北アフリカ、南アジアという代表的イスラーム圏にそれぞれ該当しますが)、イスラーム世界のすべてを網羅して解説しているわけではありません。
 それでも、今まで知らなかったことが多く興味深く読めました。

 通過儀礼として有名な「割礼」についても詳しく書いてあります。
 またイスラームと言えば一夫多妻制が知られていますが、「第一夫人」「第二一夫人」...と言っているのは研究者で、平等を重んじるムスリムはそういう言い方はしないとか。
 「ラマダーン(断食)月」というと何か不活発なイメージがありますが、この時期に食料消費量が増え、逆に太ってしまう人が多いというのは何となく可笑しい話でした。

Gene.jpg 本書によれば、「アラジンと魔法のランプ」は、元々は中国の話だそうですが、語源である「ジン」(一種の妖怪)というのが、イスラームが宗教的版図を拡げていく過程で土着信仰を融合する際に生まれたものだというのは興味深いです。
 土着信仰のネガティブな部分を"怪物"的なものに封じ込めたという説は面白いと思いました(土着の悪神をリストラして「ジン」という概念に一本化したとも言える)。

 「善いジン」というのもいるらしいけれど、ディズニーアニメ「アラジン」('92年/米)のランプの精「ジーニー」は、キャラ的には明るいけれど(ジーニーの声はロビン・ウィリアムズが担当)、素質的にはやはり妖怪型かな。

アラジン dvd.jpg 因みに「アラジン」は、ディズニーの長編アニメで初めて非白人が主人公となった映画で(「白雪姫」('39年)から数えて何と65年後)、その後ネイティブ・アメリカンや中国人、ハワイ人という有色人種が主役の地位についていますが、最初がイスラームの話だったというのは興味深いです。

「アラジン」●原題:ALADDIN●制作年:1992年●制作国:アメリカ●監督・製作:ジョン・マスカー/ロン・クレメンツ●脚本:ジョン・マスカー/ロン・クレメンツ/テッド・エリオット/テリー・ロッシオ●オリジナル作曲:アラン・メンケン●時間:90分●声の出演:スコット・ウェインガー/リンダ・ラーキン/ロビン・ウィリアムズ/ジョナサン・フリーマン/ギルバート・ゴットフリード/ダグラス・シール●日本公開:1993/08●配給:ブエナビスタインターナショナルジャパン (評価:★★★★)

SHAZZAN.jpg ディズニーアニメの「アラジン」が登場した際に日本のアニメ「ハクション大魔王」(1969-1970)を想起した人も多かったようですが、個人的にはアメリカのアニメ「大魔王シャザーン」(CBS1967年、NET(現テレビ朝日)1968年)を思い出しました。このシャザーンは「大魔王」と称されていますが、これも本来は精霊とも悪霊とも扱われるジンであり、双子の主人公チャックとナンシーの庇護者として召使い的に活躍するものの、本当は双子よりも上の位にいて、ちょうどリモコンを持った者が善であろうと悪であろうとリモコンの指示通りに動く「鉄人28号」と同じように、魔法の指輪を行使する者に服従する「使い魔」であるとのこと、ただしアニメでは、作中で悪人に指輪が奪われた際も、命令に反し「本当はいけないんですが、まあいいでしょう」とあっさり二人を助けたりしていたようです。

「大魔王シャザーン」(Shazzan) (CBS 1967) ○日本での放映チャネル:NET(現テレビ朝日)(1968.1~1968.5)/東京12チャンネル

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