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シュールで非現実的でありながらも引き込まれる旨さ。
押絵と旅する男 光文社文庫.jpg文豪が書いた怖い名作短編集.jpg  江戸川乱歩名作選 (新潮文庫).jpg 押繪と旅する男 vhs.jpg
文豪たちが書いた 怖い名作短編集』('13年)『江戸川乱歩名作選 (新潮文庫)』('16年) 「押繪と旅する男 [VHS]」('94年)浜村純/鷲尾いさ子
江戸川乱歩全集 第5巻 押絵と旅する男 (光文社文庫)』('05年)

 魚津へ蜃気楼を観に行った帰りの汽車の中、二等車内には「私」ともう一人、古臭い紳士の格好をした60歳とも40歳ともつかぬ男しかいなかった。「私」は男が、車窓に絵の額縁のようなものを立て掛けているのを奇異な目で見ていた。夕暮れが迫り、男はそれを風呂敷に包んで片付けた際に目が合った。すると男のほうから「私」に近付いてきて、風呂敷の中身を見せてくれる。それは洋装の老人と振袖を着た美少女の押絵細工だった。背景の絵に比べその押絵のふたりが生きているようなので驚く「私」に「あなたなら分かってもらえそうだ」と男はさらに双眼鏡でそれを覗かせる。いよいよ生きているみたいに思えた押絵細工の二人の「身の上話」を男は語り始める。それは35,6年も前、男の兄が25歳のとき、浅草に「浅草十二階」(凌雲閣)ができた頃の話で、ふさぎがちになった男の兄が毎日双眼鏡を持って押絵と旅する男 橘小夢画.jpg出掛けるのであとをつけると、男の兄は「浅草12階」に登って双眼鏡を覗いている。声を掛けると男の兄は片思いの女性を覗いていたことを白状するが、その女性のいる所へ二人で行ってみると、その女性は押絵だった。すると男の兄はその双眼鏡を逆さまに覗いて自分を見ろと言い、男がそうすると兄は双眼鏡の中で小さくなり消えてしまう。男の兄は小さくなってその女性の横で同じ押絵になっていたのだった。以来、男は、ずっと押絵の中も退屈だろうからと、「兄夫婦」をこうして旅に連れて行っているのだという。ただ押絵の女性は歳をとらないが、兄だけが押絵の中で歳をとっているのだという。男が兄たちもこんな話をして恥ずかしがっているのでもう休ませますと、風呂敷の中に包み込もうとしたとき、気のせいか押絵の二人が「私」に挨拶の笑みを送ったように見えた―。

「押絵と旅する男」画:橘小夢(中村圭子(著)『橘小夢』('15年/河出書房新社)より)

 江戸川乱歩が1929 (昭和4) 年、雑誌「新青年」6月号に発表した、文庫で30ページほどの短編です。江戸川乱歩の作品には結構シュールと言うか非現実的なものも多くて、作者自身そう感じたのかラストで"夢落ち"にしているものも幾つかあります(「人間椅子」のように実は空想譚だったというオチもある)。この作品もシュールで非現実的であり、兄が弟に双眼鏡を逆さまに覗いて自分を見させることで自分が小さくなって押絵の中に入り込むという発想などはむしろ子供じみているとも言えますが、それでいて何となく物語の中に引き込まれていく旨さがあるように思います。

押絵と旅する男 朗読.jpg 物語全体を「男の話」にしていることで、("夢落ち"にしなくとも)全てが男の作り話か男自身が嵌っている幻想ととれなくもなく、一方で、目の前にそうした押絵があれば、やはり「私」ならずとも、幻想的な気持ちにさせられるでしょう。また、こうしたストーリーを成立させるには、昭和から大正を通り越して明治まで遡ることは必然だったようにも思います。「浅草十二階」と呼ばれた凌雲閣は、1890(明治23)年に完成し、1923(大正12)年の関東大震災で崩壊していますが、こうしたモチーフを持ち出しているのも巧みです(浅草は乱歩が愛した街でもある)。

押絵と旅する男」 朗読
    
押繪と旅する男 映画 00.jpg この作品は、「竜二」('83年)、「チ・ン・ピ・ラ」('84年)の川島透監督によって、「押繪と旅する男」('94年/バンダイビジュアル)として映画化されています(「チ・ン・ピ・ラ」は金子正次の遺作脚本に川島透監督が手を加えて演出したもので、個人的にはイマイチだった)。映画「押繪と旅する男」は、「私」ではなく「弟」の"主観"で描かれていて、戦時中に特高警察として名を馳せながらも今はよぼよぼの老人となってしまった「弟」(浜村純)がいる「現代」の東京と、その回想としての「過去」―少押繪と旅する男 映画 12kai .jpg年時代の「弟」(藤田哲也)の兄(飴屋法水)が凌雲閣から押絵の美少女を眺め、遂には押絵の中に入ってしまうという出来事があった大正時代―が交錯する形で描かれています。「私」に該当する人物は出てこないで、代わりに、「弟」の兄に嫁(鷲尾いさ子)がいて、押絵の少女(八百屋お七になっている)に夫を奪われたかたちとなった兄嫁への少年の淡い慕情が大きなウェイトを占める作りになっています。大正ロマンの香りがして、映画としては悪くないです。"主観"を変えて更に脚色されているため、原作とは随分と印象が異なるものになっていますが、川島透監督が自分が撮りたいものを撮ったという感じで、同監督の商業映画とは比べると、いい意味でかなり異なった印象を受けました。

押繪と旅する男 映画 s.jpg押繪と旅する男 映画s.jpg 浜村純(1906-1995)演じる今は老人となった「弟」たる男の他に、特高だった男にかつて虐げられた恨みを持つ老人押繪と旅する男 映画 wasio.jpgに多々良純(1917-2006)、男の友人で今は老人病院のような所に入院して死にかけている男に天本英世(1926-2003)など、老優たちが更に老け役で出ていて、「現代」のパートは老人ばかりの世界と言ってよく(老いと死が映画のテーマであるとも言えるか)、その分「過去」のパートの若々しい鷲尾いさ子(1967年生まれ)などは魅力的です。おそらく、押絵の娘になまめかしさを求めるのは映像的に難しいので、その部分を代替させたのではないでしょうか。

鷲尾いさ子「鉄骨飲料」CM(1989-1990)  鷲尾いさ子主演「火曜サスペンス劇場 新・女検事 霞夕子」(1994-2003、日本テレビ)
鷲尾いさ子 鉄骨飲料.jpg火曜サスペンス劇場 新・女検事 霞夕子.jpg

i押繪と旅する男 4.jpg押繪と旅する男vhs.jpg「押繪と旅する男 (江戸川乱歩劇場 押繪と旅する男)」●制作年:1994年●監督:川島透●製作:並木幸/村上克司●脚本:薩川昭夫/川島透●撮影:町田博●音楽:上野耕路●原作:江戸川乱歩●時間:84分●出演:浜村純/押繪と旅する男 2.jpg尾いさ子/藤田哲也/天本英世/飴屋法水/多々良純/伊勢カイト/小川亜佐美/和崎俊哉/高杉哲平/原川幸和/山崎ハコ●公開:1994/03●配給:バンダイビジュアル(評価★★★☆)
 
チ・ン・ピ・ラ_1.jpgチ・ン・ピ・ラ 1984.jpg「チ・ン・ピ・ラ」●制作年:1984年●監チ・ン・ピ・ラド.jpg督:川島透●製作: 増田久雄/日枝久●脚本:金子正次●撮影:川越道彦●音楽:宮本光雄●時間:102分●出演:柴田恭兵/ジョニー大倉/石田えり/高樹沙耶/川地民夫/鹿内孝/我王銀次/小野武彦/久保田篤/利重剛/大出2新宿スカラ座22.jpg俊●公開:1984/11●配給:東宝●最初に観た場所:新宿・ビレッジ2 (84-11-25)(評価★★★)●併映:「海に降る雪」(中田新一)

江戸川乱歩全集〈第6巻〉押絵と旅する男 (1979年)_.jpg 【1960年文庫化[新潮文庫『江戸川乱歩傑作選』]/2008年再文庫化[岩波文庫『江戸川乱歩短篇集』]/2013再文庫化[彩図社『文豪たちが書いた 怖い名作短編集』]/2016年再文庫化[新潮文庫『江戸川乱歩名作選』]/2016年再文庫化[文春文庫『江戸川乱歩傑作選 蟲』]】
江戸川乱歩全集 第6巻 押絵と旅する男』 (1979年)

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少女の成長を描いて、「台風クラブ」と並ぶ佳作「お引越し」。「若手女優育成型」監督だった?

お引越し  01.jpgお引越し  p.jpg お引越し dvd.jpg  東京上空いらっしゃいませ dvd.jpg 相米慎二.jpg
お引越し デラックス版 [DVD]」(2002)/「お引越し(HDリマスター版) [DVD]」(2015)田畑智子/「東京上空いらっしゃいませ [DVD]」牧瀬里穂/相米慎二(1948‐2001)
お引越し  0s.jpg 漆場レンコ(田畑智子)は京都鴨川近くに住む小学6年生。両親が離婚を前提に別居することになり、父親のケンイチ(中井貴一)が家を出て行き、母・ナズナ(桜田淳子)との二人暮らしとなる。離婚というものが最初は実感としてピンとこなかったレンコだったが、新生活を始めようと契約書を作るナズナや、独り暮らしで寂しそうなケンイチを見て、その意味が少しずつ理解できてくるともに、そんな両親に挟まれ、彼女の心はざわついてくる。クラスの転校生"サリー"こと橘理佐(青木秋美〔現・遠野なぎこ〕)は関東から引っ越して来た少女で、レンコたち関西弁と言葉が異なり、級友たちはサリーを遠巻きにしていた。お引越し-1.JPGある日レンコは帰り道でサリーと一緒になり、サリーの両親が離婚していることを聞く。レンコとサリーが親しくなったことで、レンコは級友らから裏切り者扱いされ、級友と掴み合いの喧嘩になり、止めに入った木目米先生(笑福亭鶴瓶)の制止を振り切って、理科室の火のついたアルコールランプを倒しボヤを起こす。そんな彼女の唯一の理解者は、ボーイフレンドのミノル(茂山逸平)だった。レンコは夏休みに入って、父・ケンイチの部屋に籠城する計画お引越し1_1.jpgを立てるが、実行前にナズナに露見して失敗する。ケンイチとナズナを元通り仲直りさせたいレンコは、去年も行った琵琶湖畔への家族旅行を今年も実行しようと、クレジットカードを使って電車の切符とホテルの手配を自力でする。現地のホテルに現れたケンイチは、ナズナに復縁を求めるが、ナズナは拒否する。レンコはその場を逃げ出し、子どもを亡くした砂原という老夫婦(森秀人・千原しのぶ)に会う。それでも仲良くやっている夫婦に力を得たレンコは、祭りの中を彷徨する。琵琶湖畔に辿り着いたレンコは、祭りの山車とかつて仲良しだった自分たち家族の幻影を見る。やがて山車は燃え、家族は水に沈み、それを見たレンコは、「おめでとうございます!」と何度も叫ぶ―。

 1993年公開の相米慎二(1948‐2001/享年53)監督作で、相米慎二監督はこの作品で1993年度・第44回「芸術選奨」を受賞しています。原作は、1991年・第1回「椋鳩十児童文学賞」を受賞したひこ・田中の『お引越し』('90年/福武書店)ですが、映画はストーリーの進行とともに原作にはない映画オリジナルの話が多くなり、特に後半は相米慎二監督の独自の世界という印象を受けます。

お引越し 湖.jpg 終盤のレンコが見る湖での幻影シーン(原作には琵琶湖行きの話そのものが無い)での、彼女の「おめでとうございます」という連呼に、監督の思いが込められていたように思いました。レンコはもう自分たち家族は修復できないと悟り、過去と決別するために、また新たな自分を得た自分自身に対して「おめでとうございます!」と言ったのでしょう。エンドロールでは、小学生のレンコがいつの間にか中学生の制服姿に変わり、さっぱりとした表情で街中を人々や家族と接しながら跳ねるように歩いています。相米監督のもう1本の佳作「台風クラブ」('85年)と同じような印象のラストで、作品そのものが少女の成長物語であったことを裏付けるものとなっています。

お引越し 映画    .jpg 相米慎二監督は、当時17歳の薬師丸ひろ子主演の「セーラー服と機関銃」('81年)、当時19歳の斉藤由貴主演の「雪の断章‐情熱‐」('85年)、当時14歳の工藤夕貴主演の「台風クラブ」('85年)、当時18歳の牧瀬里穂主演の「東京上空いらっしゃいませ」('90年)などを撮っていますが、これらの主演女優の殆どが映画初出演かそれに近い新人でした。何だか新人専門みたいで、しかもとりわけ未成年(少女)を撮るのが上手だった(?)のかとも思ってしまいますが、この「お引越し」にレンコ役で主演した田畑智子は当時11歳で、それまで学芸会などでもたいした役をやったことがなかっとのことで、大抜擢と言えます。

お引越し s.jpg 田畑智子の演技は、相米監督の長回しによく耐えていて、良かったと思います。特に前半部分の自然な演技が良く、逆に後半部分は「女優」であることを意識した演技になってしまった印象も受けました。後半部分に相米監督のオリジナルな考えが込められていることを考えると、彼女の演技力が相米監督の演出に耐えられるのを見て、相米監督がそうした演出をしたようにも思いました。後半の演技の方を高く評価する人もいておかしくないかもしれませんが、個人的には前半部分の彼女の演技の方がやっぱり良かったという印象です。

 田畑智子はこの作品で、キネマ旬報新人女優賞、報知映画賞新お引越し  桜田.jpg人賞、毎日映画コンクール・スポニチグランプリ新人賞を受賞しましたが、母・ナズナ役の桜田淳子も、キネマ旬報助演女優賞、報知映画賞助演女優賞、毎日映画コンクール助演女優賞を受賞しています。桜田淳子の方は、歌手から女優に転向して、この時までに既に芸術選奨新人賞(大衆芸能部門)('86年)や菊田一夫演劇賞('87年)など数多くの賞を受賞しており、更なる飛躍をという矢先に統一教会の合同結婚式絡みの問題が報道され、この「お引越し」が最後の映画出演となり、芸能界からも身を引くことになりました。この作品での彼女の演技を見ると、惜しい気がします。

お引越し 映画  es.jpg その他、助演として、父・ケンイチ役の中井貴一や先生役の笑福亭鶴瓶が出演していますが、中井貴一は田畑智子と桜田淳子の好演に隠れてやや影が薄かったでしょうか。中井貴一と笑福亭鶴瓶は「東京上空いらっしゃいませ」にも出ていましたが、ストーリーがメルヘンチックで、相米慎二独特の粘り強いシーンの構成が見られない作品であった上に、当時の中井貴一は大根で、笑福亭鶴瓶も映画向きの配役とは思えませんでした。牧瀬里穂のみがやたら元気に演技していて、映画としては相米監督はこんな凡作も撮るのかと思わされましたが、映画初出演で主演の牧瀬里穂は、その後宮沢りえ・観月ありさと共に「3M」と呼ばれるまでに女優として開花しました(中井貴一は開花するのに時間がかかった?)。演出は厳しかったらしいけれど、「若手女優育成型」監督といった感じだったのでしょうか。

お引越し   sakurada .jpgお引越し  5.png「お引越し」●制作年:1993年●監督:相米慎二●脚本:奥寺佐渡子/小此木聡●撮影:栗田豊通●音楽:三枝成彰●原作:ひこ・田中「お引越し」●時間:124分●出演:中井貴一/田畑智子/桜田淳子/須藤真里子/田中太郎/茂山逸平/森秀人/千原しのぶ/笑福亭鶴瓶/青木秋美(現:遠野なぎこ)●公開:1993/03●配給:ヘラルド・エース=日本ヘラルド映画=アルゴプロジェクト●最初に観た場所(再見):北千住・シネマブルースタジオ(17-07-19)(評価:★★★★)

東京上空いらっしゃいませ 00.jpg東京上空いらっしゃいませ04.jpg「東京上空いらっしゃいませ」●制作年:1990年●監督:相米慎二●脚本:榎祐平●撮影:稲垣涌三●音楽:村田陽一/小笠原みゆき(主題歌:井上陽水「帰れない二人」)●時間:109分●出演:中井貴一/牧瀬里穂/笑福亭鶴瓶/毬谷友子/出門英/竹田高利/藤村俊二/工藤正貴/谷啓/三浦友和/河内桃子/木之元亮/遠藤美佐子/斉藤暁/岸野一彦/モロ師岡/佐山雅弘/上野哲郎/礒見博/楠本卓司●公開:1990/06●配給:松竹(評価:★★☆)

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"死者が顕われて生者に語りかける"という趣向において力を発揮する作家?

鉄道員(ぽっぽや)単行本.jpg 鉄道員(ぽっぽや)文庫.jpg 鉄道員poster.jpg 鉄道員 dvd.jpg 駅station poster.jpg
鉄道員(ぽっぽや)』『鉄道員(ぽっぽや) (集英社文庫)』「鉄道員(ぽっぽや)」映画ポスター「鉄道員(ぽっぽや) [DVD]」「駅 STATION」チラシ

 1997(平成9)年上半期・第117回「直木賞」受賞作。

 道央の廃止寸前のローカル線「幌舞線」の終着駅「幌舞駅」の駅長・佐藤乙松(おとまつ)は。鉄道員一筋に生きてきたが近く定年を迎え、また同時に彼の勤める幌舞駅も路線と共に廃止の時を迎えようとしていた。彼は生まれたばかりの一人娘を病気で失い、妻にも先立たれ、孤独な生活を送っていた。ある雪の日、ホームの雪掻きをする彼のもとに、忘れ物をしたと一人の鉄道ファンの少女が現れる。乙松が近所にある寺の住職の孫だと思い込んだ彼女の来訪は、彼に訪れた優しい奇蹟の始まりだった―(「鉄道員」)。

 「鉄道員(ぽっぽや)」「ラブ・レター」「悪魔」「角筈にて」「伽羅」「うらぼんえ」「ろくでなしのサンタ」「オリヲン座からの招待状」の8編を収録し、何れも1995(平成7)年から1997(平成9)年にかけて発表された作品で、作者によれば「奇蹟」をモチーフにしたものを集めたとのことです。

井上ひさし2.jpg 直木賞の選評を見ると、8人の選考委員のうち田辺聖子、黒岩重吾、井上ひさし、五木寛之の各氏が◎で、他の委員も概ね推している印象ですが、故・井上ひさしが、「高い質を誇っていた」と評価しつつも、「8つの短編が収められているが、内4つは大傑作であり、残る4つは大愚作である」とし、「大傑作群に共通しているのは、"死者が顕われて生者に語りかける"という趣向」であると指摘しているのが興味深いです(「この趣向で書くときの作者の力量は空恐ろしいほどだ」とも述べている)。

 "死者が顕われて生者に語りかける"作品となると、冒頭の、鉄道員の男のもとへ亡き娘の甦りとも思える少女が現われる「鉄道員」と、ポルノショップの店長である主人公に、自分との偽装結婚の末に亡くなった戸籍上の妻で出稼ぎ外国人の白蘭という女性が、手紙を通してまだ見ぬ夫である自分への想いを語る「ラブ・レター」、海外配転が決まったサラリーマンの主人公が、40年前自分が幼い頃に自分を捨てた父親と歌舞伎町で再会する「角筈にて」、子どもの頃に肉親を亡くして身寄りが無くなり、薬剤師となって医師と結婚した主人公が、嫁いだ先で夫の親族に苛められているところへ亡くなった祖父が現われ、主人公の力になるという「うらぼんえ」の4つということになるのでしょうか。

 文庫解説の北上次郎氏が、この短編集を「すごくよかった」と言う人が「鉄道員」「ラブ・レター」「角筈にて」「うらぼんえ」の4派に分かれるとし、それを派ごとの主張争いに模して解説していますが、そもそもこの4作品が選ばれていることが、故・井上ひさしの"死者が顕われて生者に語りかける"作品という指摘と合致しているように思いました。

 それ以外の作品はどうかと言うと、ややベタが過ぎたり気味悪かったりして、やはり個人的もこの4つかなあと。更に自分の好みを言えば、「ラブ・レター」はやはりベタ過ぎる印象があるし(北上次郎氏は女性読者には好評な作品としている)、上手さから言えばやはり「鉄道員」になるのかなあ。これだって、斎藤美奈子氏に言わせれば、「怪談、死んだ娘だから父に優しい(生きていたらグレてる)」ということになるのであって、直木賞選考委員の中にも阿刀田高氏のように、「悪くはないけれど、あまりにも型通りで、涙腺をふくらませながらも、こんなことで泣けるかと、しらけるところなきにしもあらず」ということにもなるのかも(考えてみればすべて乙松の頭の中で起きたこととも取れるし)。

鉄道員  02.jpg 降旗康男監督、高倉健主演で映画化されましたが('99年/東映)、同じ降旗康男監督、高倉健主演の「駅 STATION」('81年/東映)が高倉健のプロモーション映画みたいでいいと思えなかったため(脚本は倉本聰が高倉健のために書き下ろしたものだが、日本映画ワースト・テンにいつも名を連ねる。自殺した円谷選手の遺書のナレーション自体は感動的だが、これを映画の中で使うことには抵抗を感じた)、そのイメージと何となく重なって、結局は劇場で観ることはなく、テレビがビデオで観たように思います。

鉄道員 志村けん.jpg 原作が短編なので、志村けんが酒癖の悪い炭坑夫として出て来きて炭鉱事故で亡くなる話や、その息子が成長してイタリアへ料理修業に行く話など、原作に無いエピソードで膨らませている部分はありますが、原作の持ち味(ひとことで言えば気持よく泣けるということか)はまずまず保たれていたのではないでしょうか(志村けんは自宅の留守番電話に主演の高倉健直々の出演依頼のメッセージが入っていて驚いたという。志村康徳名義で出演したドリフターズ映画2本('68年・'69年/東宝)以外で志村けんが俳優として映画出演したのはこの作品のみ)。

鉄道員 02.jpg これも一歩間違えばどうしようもない映画になりそうなところを、高倉健をはじめとする俳優陣の演技力で強引に持たせていたという感じがします。実際、日本アカデミー賞の主要7部門のうち、作品賞、監督賞、脚本賞、主演男優賞(高倉健)、主演女優賞(大竹しのぶ)、助演男優賞(小林稔侍)の6部門を受賞していて、高倉健主演映画で、主要7部門中"6冠"達成は山田洋次監督の「幸福鉄道員 大竹しのぶ.jpgの黄色いハンカチ」('77年/松竹)以来ですが、「幸福の黄色いハンカチ」の方は第1回日本アカデミー賞ということもあって、監督賞や脚本賞は「『男はつらいよ』シリーズ」との合わせ技でした(因みに、「駅 STATION」も作品賞、脚本賞、主演男優賞を獲っている)。「鉄道員」で獲らなかったのは助演女優賞だけで、これは広末涼子のパートになるかと思いますが、その広末涼鉄道員  s.jpg子さえもそう悪くなかったように思います(最優秀賞の候補にはなっている)。大竹しのぶは流石に上手ですが、やはりこの映画は高倉健なのでしょう。「駅STATION」の頃より年齢を重ねて良くなっていて、これなら泣ける? 泣けるかどうかと評価はまた別だとは思いますが。降旗康男監督、高倉健のコンビは2年後に再タッグを組み「ホタル」('01年/東映)を撮りますが、こちらも日本アカデミー賞で13部門ノミネートされ、高倉も主演男優賞にノミネートされましたが、後輩の俳優に道を譲りたい」として辞退しています。

鉄道員 s.jpg鉄道員  1s.jpg「鉄道員(ぽっぽや)」●制作年:1999年●監督:降旗康男●脚本:岩間芳樹/降旗康男●撮影:木村大作●音楽:国吉良一(主題歌:坂本美雨「鉄道員」)●原作:浅田次郎●時間:112分●出演:高倉健/大竹しのぶ/広末涼子/吉岡秀隆/安藤政信/志村けん/奈良岡朋子/田中好子/小林稔侍/大沢さやか/安藤政信/山田さくや/谷口紗耶香/松崎駿司/田井雅輝/平田満/中本賢/中原理恵/坂東英二/きたろう/木下ほうか/田中要次/石橋蓮司/江藤潤/大沢さやか●公開:1999/06●配給:東映(評価★★★☆)
高倉健、小林稔侍、田中好子(1956-2011)  大竹しのぶ、高倉健、奈良岡朋子
鉄道員 高倉健、小林稔侍、田中好子.jpg 鉄道員 大竹しのぶ、高倉健、奈良岡朋子.jpg

駅station dvd.jpg駅station 01.jpg「駅 STASION」●制作年:1981年●監督:降旗康男●製作:田中寿一●脚本:倉本聰●撮影:木村大作●音楽:宇崎竜童●時間:132分●出演:高倉健/いしだあゆみ/岩淵建/名古屋章/大滝秀治/八木昌子/池部良/潮哲也/寺田農/渡会洋幸/高橋雅男/榎本勝起/烏丸せつこ/根津甚八/宇崎竜童/北林谷栄/藤木悠/永島敏行/古手川祐子/今福将雄/名倉良●公開:1981/11●配給:東駅station 06.jpg駅Station 大滝秀治.jpg宝●最初に観た場所:テアトル池袋(82-07-24)(評価★★☆)●併映:「泥の河」(小栗康平) 駅 STATION [DVD]

【2000年文庫化[集英社文庫]/2004年再文庫化[講談社文庫(『鉄道員/ラブ・レター』)]/2013年文庫化[集英社みらい文庫]】

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カンヌ映画祭パルム・ドール受賞作。上手い作りだと思うが、後半がやや通俗に流れたか。

うなぎ dvd 完全版_.jpgうなぎ dvd.jpg   うなぎ 05.jpg
うなぎ 完全版 [DVD]」「うなぎ [DVD]」  役所広司/清水美砂
役所広司/常田富士男/佐藤允(1934-2012)
うなぎ 03.jpg 山下拓郎(役所広司)の元に拓郎が夜釣りに行っている間、妻恵美子(寺田千穂)が浮気しているという手紙が届く。ある夜釣りを早めに切り上げて家に帰って、妻の浮気現場を目撃する。拓郎は怒りを抑えきれず妻を刺殺し、そのまま自首、そして8年後に仮出所する、労役で外に出た時に捕まえたうなぎと共に外のうなぎ 04.jpg世界に出た拓郎は、服役中に資格をとった理髪店をひっそりと開き、身元引受人のである寺の住職(常田富士男)とその妻(倍賞美津子)に見守られ、隣家の船大工・高田重吉(佐藤允)をはじめ次第に町の人との交流も増えていく。ある日、うなぎの餌を探しに川へ行くと、川原の茂みで倒れている女を発見。女は殺した妻に瓜二つで、戸惑いながらも警察に通報し、女は睡眠薬を飲んでいたが、一命を取り留める。後日、その女・服部桂子(清水美砂)が礼に訪れ、拓郎の理髪店で働きたいと言い出す。拓郎は渋々女を受け入れ、町の住民はそれを歓迎する。しかし、桂子には何か秘密があるらしい―。
Unagi (1997)
Unagi (1997).jpg
うなぎ 第50回カンヌ映画祭 パルムドール賞.gif 1997年の今村昌平(1926-2006)監督作で、第50回カンヌ国際映画祭において作品賞(最高賞)に相当するパルム・ドールを受賞した作品であり、今村昌平監督にとっては「楢山節考」('83年/東映)に次いで2度目の受賞でした。「楢山節考」の受賞の時は、今村監督自身は、どうせ外国人には理解できないだろうと思ってカンヌへは行かず、この「うなぎ」の時は、カンヌに行ったけれども、受賞は無いと思って発表日の前に帰国しています。

第50回カンヌ映画祭「パルムドール賞」/役所広司とプロデューサの飯野久

 事前の日本での評価は、今村作品としては水準に達していないというもので、一般にも、カンヌでの受賞は意外であるという反応だったようです。個人的にも、そう悪い作品ではないけれど、吉村昭による原作短編「闇にひらめく」(『海馬(トド)』('89年/新潮社) 所収)と比べると、ちょっと違うなあという印象も受けました(オリジナルが短編の場合、映画化作品の方に色々な話が付け加わることはごく普通にありがちだが)。

うなぎ9.jpg 拓郎が出所する際に、身元引受人の寺の住職(常田富士夫)が「どうしてうなぎなんだ?」と訊く場面があり、「話を聞いてくれるんです」「それに余計なことをしゃべりませんから」と答え、その時の役所広司の演技が自然であり、また、主人公の外界との接触を避けようとする心理状況をよく表しているように思いました。但し、原作では、うなぎを飼う話などは無く、主人公(名前は原作では"昌平")の開業する店が床屋ではなくて鰻屋ということになっています(そのためにうなぎ採りの名手に師事するが、そのうなぎ採りの場面だけ、モチーフとして活かされている)。

うなぎ 清水.jpg 全体の構成としては、原作は、主人公が女(名前は原作でも"桂子")に自分の過去の前科を告白すると(原作では妻を刺したが、妻は死んではいない)、女が実は知っていたというところで終わりますが、映画では、そのあと、桂子を巡るいろいろなトラブル話があって、それに拓郎は巻き込まれ、最後は桂子のために積極的にトラブルに関与していきます。

うなぎ1.jpg 映画では、町の住民の中に、原作には無い、宇宙人との交流を夢見る"UFO青年"(小林健)がいて、その青年に対して拓郎が「ホントは、人と付き合うのが恐いんじゃないのか」と言っており、この時点で拓郎には、今のところうなぎを"話し相手"にしているという自分が抱えている問題が十分に把握できているように思われました。押しかけ気味に登場した桂子のお蔭で、いずれ拓郎はその問題を乗り越えることが出来るだろうということは観ていて想像に難くなく、ラストでうなぎを川に放すシーンに自然に繋がっていきます。

うなぎ65.jpg そうした意味では上手い作りだと思うし、原作のテーマを発展的に活かしているとも言えます(モチーフは、「うなぎを採る」ことから「うなぎを飼う」ことに変わっているが)。役所広司も清水美砂も好演、脇を固める俳優陣もまずまずですが、前半はともかく、後半がやや通俗に流れたかなあという印象もありました。ラストシーンなどもいいシーンですが、パターンと言えばパターン。短編を膨らませるって、意外と難しいことなのかも。

うなぎ vhs.jpg 製作発表の直前まで「闇にひらめく」というタイトルでいく予定だったのが、発表の場で、今村監督の意向で「うなぎ」というタイトルになったとのこと。原作以外に、同じく吉村昭の作品である『仮釈放』などからも多くのモチーフを引いてきているため(妻の不倫が何者かの手紙で発覚することや、主人公が出所後に生き物(「仮釈放」ではメダカ)を飼うこと、同じ刑務所の受刑者仲間だった男(柄本明)が主人公に接触することなどは、『仮釈放』からとられている)、「闇にひらめく」のままでいくよりは「うなぎ」というタイトルにして"正解"だったように思います(映画における"うなぎ"のポジショニングが、「闇にひらめく」のうなぎよりも「仮釈放」におけるメダカに近い)。

田口トモロヲ うなぎ.jpg「うなぎ」●制作年:1997年●監督:今村昌平●製作総指揮:奥山和由●プロデューサ:飯野久●脚本:今村昌平/天願大介/冨川元文●撮影:小松原茂●音楽:池辺晋一郎●原作:吉村昭「闇にひらめく」「仮釈放」●時間:117分(劇場公開版)/134分(完全版)●出演:役所広司/清水美砂/常田富士男/倍賞美津子/佐藤允/哀川翔/小林健/寺田千穂/柄本明/平泉成/中丸新将/上田耕一/光石研/深水三章/小西博之/小沢昭一/田口トモロヲ/市原悦子●公開:1997/05●配給:松竹(評価:★★★☆)

田口トモロヲ in「うなぎ」堂島英次(服部桂子の愛人)役(「毎日映画コンクール」男優助演賞)

役所広司 in 周防正行監督「Shall We ダンス?」('96年)/今村昌平監督「うなぎ」('97年)
Shall We ダンスes.jpg うなぎ  .jpg

清水美砂 in 周防正行監督「シコふんじゃった。」('92年)/今村昌平監督「うなぎ」('97年)
シコふんじゃった9.jpg うなぎ ド.jpg

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'97年は「もののけ姫」ヒットの年。宮崎駿監督のお陰で映画産業界は底を脱した?
  
映画イヤーブック 1998.jpg もののけ姫 1997 dvd.jpg もののけ姫 0.jpg となりのトトロ dvdes.jpg
映画イヤーブック (1998) (現代教養文庫)』「もののけ姫 [DVD]」「となりのトトロ [DVD]」('88年/東宝)

映画イヤーブック.JPG 1997年の劇場公開作品、洋画344本、邦画191本の計535本の全作品データと解説を収録し、ビデオ・ムービー、未公開洋画、テレビ映画ビデオのデータなども網羅、このシリーズは8冊目となり、巻末に'91年版から'98年版までの全巻を通しての索引が付いていますが、結局このシリーズはその後刊行されることなく、2000年代に入って版元の社会思想社は倒産しています。

 本書での最高評価になる「四つ星」作品は、「シャイン」「イングリッシュ・ペイシェント」「浮き雲」「コンタクト」「世界中にアイ・ラブ・ユー」「タイタニック」の6作品、邦画は、「うなぎ」(今村昌平監督)「もののけ姫」(宮崎駿監督)「バウンズ ko GALS」(原田眞人監督)「ラヂオの時間」(三谷幸喜監督)などの4作品。

 トム・クルーズ主演の「ザ・エージェント」('96年)やブルース・ウィリス主演の「フィフス・エレメント」('97年)、ハリソン・フォード主演の「エアフォース・ワン」('97年)、トミー・リー・ジョーンズ主演の「メン・イン・ブラック」('97年)と、ハリウッド・スター映画もそれなりに頑張っていたけれど(本書評価は何れも「三つ星」)、この頃からビデオ化されるサイクルがどんどん早くなってきたので、個人的にもこうした作品はビデオで観てしまうことが多くなりました。

もののけ姫.jpg 世間一般でもこうした「ビデオで観る」派が増えて、'96年の映画館の入場者数が1億1,957万人と史上最低だったわけですが、翌年は、この年'97年7月公開の「もののけ姫」('97年/東宝)のヒットを受けて、邦画の映画館入場者数は前年比2千万人増、さらに12月公開のジェームズ・キャメロン監督の「タイタニック」('97年)のヒットが、翌年の洋画の映画館入場者数を前年比2千万人以上押し上げ、映画業界は何とか底を脱したかたちになりました。

 ちなみに、'90年から'98年までの年度別映画興行成績(配給収入)ベストワンは、  
  1990年 「バック・トゥ・ザ・フューチャー PART2」 (UIP) 55.3億円  
  1991年 「ターミネーター2」(東宝東和) 57.5億円   
  1992年 「紅の豚 」(東宝) 28億円   
  1993年 「ジュラシック・パーク」 (UIP) 83億円   
  1994年 「クリフハンガー」 (東宝東和) 40億円  
  1995年 「ダイ・ハード3」 (20世紀フォックス) 48億円   
  1996年 「ミッション:インポッシブル」 (UIP) 36億円  
  1997年 「もののけ姫」 (東宝) 113億円
  1998年 「タイタニック」 (20世紀フォックス) 160億円
となっています。
Sen to Chihiro no kamikakushi (2001)
Sen to Chihiro no kamikakushi (2001).jpg 2001年には宮崎駿監督の「千と千尋の神隠し」が304億円、2003年には「踊る大捜査線 THE MOVIE2 レインボーブリッジを封鎖せよ!」が173.5億円、2004年には宮崎駿監督の「ハウルの動く城」が196億円、2008年には同じく宮崎駿監督の「崖の上のポニョ」が155億円、2010年にはジェームズ・キャメロン監督の「アバター」が156億円と、それぞれ年間で150億円以上の興行成績を打ち立てていますが、この(社)日本映画製作者連盟による統計のとり方は、90年代までは「配給収入」をみていたのが、2000年以降は海外(米国)の基準に沿って「配給収入」ではなく「興行収入」でみています

 「興行収入」は映画館の入場料の総和そのもので、「配給収入」はそこから映画館(興行側)の取り分を差し引いた、配給会社の収益ですので、「興行収入」の方が「配給収入」よりも数字は大きくなり(配給収入=興行収入×50~60%、洋画メジャー大作の場合は×70%)、2000年代に入り、数字上は100億円超の"興行成績"を収める映画が出やすくなっているというのもあります。

 そうした観点からしても、90年代の"100億円"映画というのは大ヒット作ということになり(「もののけ姫」を「興業収入」でみると193億円になる)、90年代後半にそうした作品が出てきたところで、本書のような評論家による作品評価やマイナー作品の映画情報も入った「総合映画事典」的な文庫の刊行が途絶えたことはやや残念。

 確かに、一発「お化けヒット」した作品が出れば映画業界は活気づくけれども、皆が皆、宮崎駿やジェームズ・キャメロンの監督作品、或いは「ハリー・ポッター」シリーズ(このシリーズも殆どが興行収入100億円超)に靡いて劇場の前に列を作るというのもどうかと―(と言いつつ、自分もこの頃にはすでにあまり劇場に行かず、専らビデオで映画を観ることが多くなっていたのだが)。

もののけ姫2.jpg 「もののけ姫」は、それまでの宮崎駿監督の作品の集大成とも言える大作で、作画枚数は14万枚以上に及び、これは後の「千と千尋の神隠し」の11.2万枚をも上回る枚数です。時代の特定は難しいですが、室町後期あたりのようで、室町時代にしたのはこれ以上遡ると現実感が希薄になって自分自身もイメージが湧きにくくなるためだというようなことを、宮崎監督が養老孟司氏との対談で言っていました(『虫眼とアニ眼』 ('08年/新潮文庫))。自然と人間の対決というテーマは「風の谷のナウシカ」('84年)にも見られましたが、こちらはより深刻かつ現実的に描かれているような気もします。バックボーンになっているのは明らかに網野善彦(1928-2004)の展開する非農業民に注目した日本史観であり、映画全編を通して様々な要素が入っていて、その解釈となると結構難解もののけ姫 1.jpgな世界とも言え、歴史学の知識に疎もののけ姫e.jpgい身としては、その辺りが今一つ解らなかったもどかしさもありました(その網野善彦からは、当時の女性は皆ポニーテールだったとの指摘を受けている)。「となりのトトロ」('88年)みたいに、深く考えないで観た方が良かったのかも。

 因みに、スタジオジブリはこの作品からプロデューサーに鈴木敏夫氏を据え、企画、宣伝、興行全てを鈴木プロデューサーが取り仕切り、徹底的なメディア戦略を行ったそうです。そのことにより、先に述べたように作品はヒットし、初期作品「風の谷のナウシカ」「天空の城ラピュタ」「となりのトトロ」の15倍から18倍の観客を動員しています。「千と千尋の神隠し」となると、更にその1.5倍ほどの差になるわけですが、だからと言Kaze no tani no Naushika (1984).jpgって、「もののけ姫」や「千と千尋の神隠し」が「風の谷のナウシカ」や「天空の城ラピュタ」や「となりのトトロ」より優れているということには必ずしもならないでしょう。「風の谷のナウシカ」が出た頃、この作品にすごく注目していた友人がいて、薦められてその友人の家でレーザーディスクで観たことがありますが(その友人は当時パイオニアに勤務していた)、となりのトトロes.jpgその友人は先見の明があったのかも。「となりのトトロ」はこの作品が出た時期に限らず、幅広い世代の幼年期の記憶に残ったのではないでしょうか(個人的には「となりのトトロ」がスタジオジブリの最高傑作だと思っている)。こうした初期作品の方が好きな人も結構いるように思います。

「となりのトトロ」('88年/東宝)

Kaze no tani no Naushika (1984)

もののけ姫  .jpgもののけ姫11.jpg「もののけ姫」●制作年:1997年●監督・脚本:宮崎駿●製作:鈴木敏夫●撮影:奥井敦●音楽:久石譲(主題歌:米良美一「もののけ姫」)●時間:133分●声の出演:松田洋治/石田ゆり子/美輪明宏/渡辺哲/小林薫/森繁久彌/田中裕子/佐藤允/森光子/上條恒彦/島本須美/名古屋章/近藤芳正/飯沼慧●公開:1997/07●配給:東宝 (評価:★★★☆)

風の谷のナウシカ1.jpeg風の谷のナウシカ DVD.jpg「風の谷のナウシカ」●制作年:1984年●監督・脚本・原作:宮崎駿●製作:高畑勲●撮影:白神孝始●音楽:久石譲●時間:116分●声の出演:島本須美/松田洋治/榊原良子/家弓家正/永井一郎/富永み~な/京田尚子/納谷悟朗/辻村真人/宮内幸平/八奈見乗児/矢田稔●公開:1984/03●配給:東映 (評価:★★★☆)
風の谷のナウシカ [DVD]

となりのトトロ 1.jpgとなりのトトロ DVD.jpg「となりのトトロ」●制作年:1988年●監督・脚本・原作:宮崎駿●製作:原徹●撮影:白井久男●音楽:久石譲(主題歌:井上あずみ「となりのトトロ」)●時間:88分●声の出演:日高のり子/坂本千夏/糸井重里/島本須美/高木均/北林谷栄/丸山裕子/鷲尾真知子/鈴木れい子/広瀬正志/雨笠利幸/千葉繁●公開:1988/04●配給:東宝 (評価:★★★★☆)
となりのトトロ [DVD]


《読書MEMO》
●ジブリ作品の興行収入(1984-2011) 
作品 公開年度  興行収入   観客動員
「風の谷のナウシカ」  1984年 14.8億円 91万人
「天空の城ラピュタ」   1986年 11.6億円 77万人
「となりのトトロ」  1988年 11.7億円 80万人
「魔女の宅急便」  1989年 36.5億円 264万人
「おもひでぽろぽろ」   1991年 31.8億円 216万人
「紅の豚」  1992年 47.6億円 304万人
「平成狸合戦ぽんぽこ」 1994年 44.7億円 325万人
「耳をすませば」  1995年 31.5億円 208万人
「もののけ姫」  1997年 193億円 1,420万人
「千と千尋の神隠し」  2001年 304億円 2,350万人
「猫の恩返し」  2002年 64.6億円 550万人
「ハウルの動く城」 2004年 196億円 1,500万人《読書MEMO》
「ゲド戦記」  2006年 76.5億円 588万人
「崖の上のポニョ」  2008年 155億円 1,200万人
「借りぐらしのアリエッティ」2010年 92.5億円 750万人
「コクリコ坂から」  2011年 44.6億円 355万人

森卓也(映画評論家)の推すアニメーションベスト10『大アンケートによる日本映画ベスト150』('89年/文春文庫ビジュアル版)
○難破ス物語第一篇・猿ヶ島('30年、正岡憲三)
○くもとちゅうりっぷ('43年、正岡憲三)
○上の空博士('44年、原案・横山隆一、演出:前田一・浅野恵)
○ある街角の物語('62年、製作構成:手塚治虫、演出:山本暎一・坂本雄作)
○殺人(MURDER)('64年、和田誠)
○長靴をはいた猫('69年、矢吹公郎)
ルパン三世・カリオストロの城('79年、宮崎駿)
うる星やつら2/ビューティフル・ドリーマー('84年、押井守)
○天空の城ラピュタ('86年、宮崎駿)
となりのトトロ('88年、宮崎駿)

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作者のこのジャンル(宗教モノ)における集大成的な作品と言えるのではないか。

篠田 節子 『仮想儀礼』.jpg仮想儀礼1.jpg 仮想儀礼2.jpg   教祖誕生.jpg 「教祖誕生」2.jpg
仮想儀礼〈上〉』『仮想儀礼〈下〉』['08年]  「教祖誕生 [VHS]」('93年)萩原聖人

 2009(平成21)年度・第22回「柴田錬三郎賞」受賞作。

 38歳の作家志望の男・鈴木正彦は、ゲーム会社の矢口誠に誘われ、勤めていた都庁を辞めてファンタジーノベルを書くが、結局矢口の会社が倒産して仕事も家族も失い、不倫がもとで同じく職も家も失くしていた矢口との再会を機に、2人で正彦が書いた原稿をベースとした教義と手作りの仏像で宗教団体を設立、信者は徐々に増え、食品会社の社長がバックに付いてから飛躍的にその数は伸びて、5000人の信者を抱えるようになる―。

 金儲けのために設立した極めていい加減な教義の教団に、こんなにホイホイ入信する人がいるのかなあもと思ったけれども、信者それぞれが抱えている事情が家族崩壊の様々なパターンを示していたりして("生きづらい"系の人にとっては「鰯の頭も信心から」なのか)、更に、色々な成り行きで教団が拡大していく様や、そうした教団に利害ベースで接近を図ったり出入りしたりする様々な人物がリアルに描かれているため、興味深く読めました。

 後半は、更に予期せぬ出来事が次々と起こり、教団はマスコミからの誹謗中傷に加え政治家筋からも圧力をかけられ、一方、一部の女性信者たちが信仰を先鋭化させて暴走し、教祖である正彦自身にもそれを止められなくなってしまう様が、畳み掛けるように描かれていて一層引き込まれました。

「教祖誕生」.jpg 本書を読んで高橋和巳の『邪宗門』を想起する人もいるかと思いますが、個人的には天間敏広監督の映画「教祖誕生」('93年/東宝)を思い出しました。

教祖誕生 [VHS]」 ('93年/東宝/監督:天間敏広/原作:ビートたけし)

 これ、意外と傑作でした(原作はビートたけし)。この映画にも、教団をビジネスと考える者(ビートたけし、岸部一徳)とそこに真実を求める者(玉置浩二)が出てきますが、映画ではむしろ後者に対する揶揄が込められています(オウム真理教による松本サリン事件の約半年前、地下鉄サリン事件の1年半前に作られたという点では予見的作品でもある)。

教祖誕生スチール.jpg「教祖誕生」●制作年:1993年●監督:天間敏広●製作:鍋島壽夫/田中迪●脚本:加藤祐司/中田秀子●撮影:川上皓●音楽:藤井尚之●原作:ビートたけし「教祖誕生」●時間:93分●出演:萩原聖人/玉置浩二/岸部一徳/ビートたけし/下絛正巳/国舞亜矢/山口美也子/もたいまさこ/南美江/津田寛治/寺島進●公開:1993/11●配給:東宝(評価:★★★★)

 「教祖誕生」の主人公の青年(萩原聖人)は、後継教祖に指名されて自分がホントに神になったような錯覚を起こしますが、『仮想儀礼』の主人公・正彦は自分が作り上げたものが虚構であることを忘れない常識人であり、生起する諸問題に仕事上の問題解決に対応するビジネスマンのように、或いは一般的水準以上に理性人として対応しているように思えます。
 しかし、重篤なトラウマを抱えた女性信者など、相手が相手だけに思うように彼らを御しきれず、やがて教団施設や財産の全てを失い、少数のファナティックな信者たちに拉致されるような形で逃避行へと追いやられていくことになり、あくまでもビジネスで「宗教」を始めた男が、そうした過程を辿るというのが、読んでいて強烈な皮肉に思われました。

 信者たちが自らの内面で教義を自己救済的な方向に血肉化させて、教団をカルト化していく様が見事に描かれており、深刻で暗くなりがちな話でありながらも、随所に事態の思わぬ展開に対する主人公の軽妙な嘆き節があり(それこそ、正彦が常識人であることの証しなのだが)、どことなくカラッとした感じになっているのは、この作家の特質でもあるかも知れません(桐野夏生なら、こうはならない)。

 だだ、全体にちょっと長いかなあ。取材したエピソードを出来るだけ漏らすまいという、作者のこのテーマに対する思い入れが感じられるのですが、全体構成的に見ると、前半はもう少し圧縮しても良かったかも。

 とは言え、最後は急速展開。家族による信者奪回などを巡って凄惨な事件も起き、全体にカタストロフィに向かう予感の中、正彦自身にどういった形でそれが訪れるのか、後になればなるほど気がかりになりましたが、エンタテインメントとしてのバランスを保った終わり方になっているように思えました。

【2011年文庫化[新潮文庫]】

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すっかりハマってしまった「シコふんじゃった。」。取材がしっかりしている。
シコふんじゃった。.jpg シコふんじゃった 6.jpg Shall We ダンス?.jpg Shall We ダンス22.jpg
シコふんじゃった。 [DVD]」                  「Shall We ダンス? [DVD]

シコふんじゃった2.jpgシコふんじゃった.jpg 就職先も決まっていた教立大学4年の秋平(本木雅弘)は、ある日、卒論指導教授の穴山(柄本明)に呼び出され、授業に一度も出席しなかったことを理由に、卒業と引き換えに穴山が顧問をする相撲部の試合に出るよう頼まれる―。

 「シコふんじゃった。」('91年/東宝)は、ひょんなことから相撲部に入ることになった大学生の奮闘を描いたもので、スポ根モノとして良くできている"佳作"―と言うより、観ていてすっかり嵌ってしまった自分を振り返れば、個人的には"大傑作"だったということになるでしょうか(第70回キネマ旬報ベスト・テン第1位作品)。

シコふんじゃった8.jpgシコふんじゃった2.jpg 何故そんなに面白かったのかを考えるに、劇画チックではあるけれど、スポ根モノとしては極めてオーソドックな展開で、観る側に充分なカタルシス効果を与えると共に、きっちりした取材の跡が随所に窺えること、何よりもそのことが大きな理由ではないかと思いました。

 大学相撲部(それも弱小の)という特殊な世界に関して、その背景が細部までしっかり描き込まれているから、"8年生"部員を演じる竹中直人のオーバーアクション気味の演技も、線画のしっかりしたマンガのようにすっと受け容れることが出来、楽しめたのかも知れません。

Shall We ダンス.jpg 同じく周防監督の「Shall We ダンス?」('96年/東宝)も、充分な取材の跡が感じられ、内容的にみても、多くの賞を受賞し(第70回キネマ旬報ベスト・テン第1位作品)、ハリウッド映画としてリメイクされるぐらいですからそう悪くはないのですが、この監督のカタルシス効果の編成方法が大体見えてきてしまったというのはある...。

 それと、「シコふんじゃった。」で竹中直人が演じていたコミカルな部分を、今度は竹中直人と渡辺えり子(最近、美輪明宏の助言で「渡辺えり」に改名した)の2人が演じていて、片や役所広司と草刈民世のストイックなメインストーリーがあるにしても、2人分に増えたオーバーアクション(加えて竹中直人分は「シコふんじゃった。」の時より増幅されている)にはやや辟易させられました。

Shall We ダンス.jpg 但し、草刈民世を(演技的には無理させないで)キレイに撮っているなあという感じはして、外国の映画監督でもそうですが、ヒロインの女優が監督の恋愛対象となっている時は、女優自身の魅力をよく引き出しているということが言えるのでは。

 キャリアの初期に、ユニークで面白い、或いは骨太でパワフルな作品を撮っていた監督が、メジャーになってから、大作ながらもその人らしさの見えない、誰が監督しても同じようなつまらない作品ばかり撮っているというケースは多いけれども、この監督は、綿密な取材を通しての自分なりの映画づくりの路線を堅持するタイプに思え、引き続き期待が持てました。(渡辺えり子/竹中直人

Shall We ダンス 01.jpg 因みに「Shall we ダンス?」は、第20回「日本アカデミー賞」において史上最多の13冠を獲得しています。主要7部門に限っても、最優秀作品賞、 最優秀監督賞、 最優秀脚本賞(周防正行)、 最優秀主演男優賞(役所広司)、 最優秀主演女優賞(草刈民代)、 最優秀助演男優賞(竹中直人)、 最優秀助演女優賞(渡辺えり子)と、7冠全て独占して他の作品の共同受賞さえ許さなかったのは('09年現在)この作品だけです(残り6冠は、音楽・撮影・証明・美術・録音・編集。残るは新人賞や外国作品賞だから、実質完全制覇と言っていい)。

シコふんじゃった9.jpg「シコふんじゃった。」●制作年:1991年●監督・脚本:周防正行●撮影:栢野直樹●音楽:周防義和/おおたか静流●時間:105分●出演:本木雅弘/清水美砂/柄本明/竹中直人/水島かおり/田口浩正/六平直政/宝井誠明/ロバート・ホフマン/梅本律子/松田勝/宮坂ひろし/村上冬樹/桜むつ子/片岡五郎/佐藤恒治/みのすけ●公開:1992/01●配給:東宝(評価:★★★★☆

Shall We ダンスes.jpg「Shall We ダンス?」●制作年:1996年●監督・脚本:周防正行●製作:徳間康快●撮影:栢野直樹●音楽:周防義和/おおたか静流●時間:136分●出演:役所広司/草刈民代/竹中直人/田口浩正/徳井優/宝井誠明/渡辺えり子/柄本明/原日出子/草村礼子/森山周一郎/本木雅弘/清水美砂/上田耕一/宮坂ひろし/井田州彦/田中英和/峰野勝成/片岡五郎/大杉漣/石山雄大/本田博太郎/香川京子/田中陽子/東城亜美枝/中村綾乃/石井トミコ/川村真樹/松阪隆子/馬渕英俚可●公開:1996/01●配給:大映(評価:★★★☆)

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荒削りだが骨太感がある崔洋一監督のデビュー作「十階のモスキート」。

十階のモスキート パンフ.jpg 十階のモスキート.jpg    月はどっちに出ているL.jpg 月はどっちに出ている.jpg
パンフレット/「十階のモスキート [DVD]」/「月はどっちに出ている [VHS]」「月はどっちに出ている [DVD]

十階のモスキートt.jpg十階のモスキート チラシ.jpg 出世の見込みも無く、妻にも離婚された警察官の男は、原宿のロックンロール族に狂って家を出た娘がたまに金をせびりに男の住まう団地の十階を訪ねた時だけは甘い父親になるが、それ以外では酒とギャンブルとセックスに浸る虚無的で堕落し切った暮らしぶりで、元妻への慰謝料や毎月の養育費、バーのツケやギャンブルの借金に追われ、ついには昇進試験の勉強のためにサラ金から借金して購入したパソコンを団地の窓から放り投げ、そのまま郵便局へ駆け込み強盗を図る―。

「十階のモスキート」チラシ(内田裕也/中村れい子)

十階のモスキート_0.jpg十階のモスキート2.jpg 「十階のモスキート」('83年/ATG)は崔洋一監督のデビュー作で、映画としての作りは粗く、主人公の警察官の短絡行動にはただ呆れるばかりであるはずであるのに、何か観ていて身につまされるようなリアルな痛々しさを感じるのはなぜでしょうか。

十階のモスキート 小泉今日子.jpg 若松孝二監督の「水のないプール」('82年/東映セントラル)などで既に俳優としても注目されていた内田裕也が、経済的に追い詰められることで徐々に精神的にも追い詰められていく主人公を好演していて、最後はちょっとシュールな感じですが、こうした現実感覚を喪失しているようなヤケクソ気味の犯罪は、最近はたまにあったりするのではないでしょうか。(内田裕也/小泉今日子(映画デビュー作))

十階のモスキート ビートたけし.jpg十階のモスキート 横山.jpg デビュー間もない小泉今日子が、内田裕也の娘の女子高校生役で登場するほか(この映画が上映される少し前に流行っていた"竹の子族"の少女役)、漫才師の横山やすし(1944-1996)が競艇場の観客役でカメオ出演し、更にはビートたけしがこれもチョイ役ながら競艇の予想屋の役で出てきますが、ビートたけしは存在感充分でした(この人、役者としては"脇"で出た方がいいような...)。
  
月はどっちに出ている (1993/日).jpg「月はどっちに出ている」.png 後に「月はどっちに出ている」('93年/シネカノン)で国内の映画賞を総なめにする月はどっちに出ている1.jpg崔監督ですが(「月はどっちに出ている」は第67回キネマ旬報ベスト・テンの第1位にもなった)、在日コリアンのタクシー運転手とフィリピーナの恋を軸に描いたこの作品は、在日外国人の日常をコミカルに描いていて細部の描写も冴えていたように思います(原作は梁月はどっちに出ている モレノ.jpg石日の自伝的小説『タクシー狂騒曲』)。また、岸谷五朗や絵沢萠子をはじめ役者陣も良く、有薗芳記の「ホソ」は特に秀逸、ルビー・モレノも多くの演技賞を受賞しましたが、これは監督の演出力のお陰だったのではないかと。(岸谷五朗/ルビー・モレノ

 「月はどっちに出ている」の方が完成度では勝るように思いますが、ただ、こういう映画を撮るのだという骨太感ではこのデビュー作も劣っていないように思います(メジャーになると、だんだんそうしたものが失われることが往々にしてあるが)。 

小泉今日子(1966- )
十階のモスキート0.jpg小泉今日子.jpg十階のモスキート1.jpg「十階のモスキート」●制作年:1983年●監督:崔洋一●製作:結城良煕●脚本:内田裕也/崔洋一●撮影:森勝●音楽:大野克夫●時間:108分●出演:内田裕也/アン・ルイス/吉行和子/中村れい子/小泉今日子/ビートたけし/宮下順子/小林稔侍/風祭ゆき/阿藤海/安岡力也/横山やすし/清水宏/下元史朗/ 鶴田忍/梅津栄/佐藤慶/仲野茂/高橋大井ロマン.jpg大井武蔵野館.jpg明/草薙良一/庄司三郎/浅見小四郎/飯田浩幾/伊藤公子●公開:1983/07●配給:ATG●最初に観た場所:大井ロマン(83-11-20)(評価:★★★☆)●併映:「シャッフル」(石井聰互)

大井ロマン(大井武蔵野館) 1999(平成11)年1月31日閉館
 

絵沢萠子
「月はどっちに出ている」2.png月はどっちに出ている 絵沢萌子.jpg「月はどっちに出ている」●制作年:1993年●監督:崔洋一●製作:李鳳宇/青木勝彦●脚本:内田裕也/崔洋一●撮影:藤澤順一●音楽:佐久間正英●原作/梁石日「タクシー狂操曲」●時間:108分●出演:岸谷五朗/ルビー・モレノ/絵沢萠子/小木茂光/遠藤憲一/有薗芳記/麿赤児/國村隼/芹沢正和/金田明夫/内藤陳/古尾谷雅人/萩原聖人●公開:1993/11●配給:シネカノン(評価:★★★☆)

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石橋蓮司主演2作。時代の空疎感伝える「あらかじめ...」と中上文学を再現した佳作「赫い髪の女」。

あらかじめ失われた恋人たちよ(ポスター).jpg あらかじめ失われた恋人たちよ プレス.jpg  「赫い髪の女」.jpg 赫い髪の女.jpg
あらかじめ失われた恋人たちよ」 DVD/チラシ 「赫い髪の女 [DVD]」(監督:神代辰巳)

arakajime.jpgあらかじめ失われた恋人たちよド.jpg 棒高跳びでのオリンピック出場の夢を断たれて自棄になり、強盗を働きながら日本中を放浪していたあらかじめ失われた恋人たちよ.jpg青年(石橋蓮司)はある日、日本海のある街のスーパーの開店イベントで、全身に金粉を塗ってパフォーマンスをする聾唖者の男女(加納典明・桃井かおり)の姿に目を奪われ、彼らにつきまとい始める―。(加納典明/桃井かおり/石橋蓮司

「アートシアター 90 あらかじめ失われた恋人たちよ」より
あらかじめ失われた恋人たちよ0.JPG 「あらかじめ失われた恋人たちよ」('71年/ATG)は、劇作家の清水邦夫と当時「東京12チャンネル」のディレクターだった田原総一朗(この人、最初は岩波映画でカメラ助手をやっていた)の共同脚本・共同監督作品で、桃井かおりの実質的なデビュー作であり(桃井かおりは藤田敏八監督の「赤い鳥逃げた?」('73年/東宝)でも、シロクロ・ショーをしながら旅する女という役だった)、今は写真家になっている加納典明なども出ている映画ですが、今の田原総一郎、加納典明とこの映画とは、自分の中では長い間リンクしなかったような気がします。

 ストーリーはあるものの、多少前衛がかっていて(加納典明・桃井かおりが喋らないので石橋蓮司の独白で話は進む)、地下演劇的なムードもあるかも(田舎でやるシロクロ・ショーなどは何となく土俗的)。加えて、タイトルもしゃれているし何だか難しそうですが、少なくとも「あらかじめ失われた」ものが第一義的には「言葉」であることは、容易にわかるのではないでしょうか(だから、言葉を駆使している評論家・田原総一郎、カメラマン・加納典明とリンクしない?)。 

内灘夫人.jpg 後半の主要舞台は金沢郊外の内灘砂丘ですが、かつてここで米軍の試射場設置に対する反対闘争があったわけで、この作品にも試写場の廃墟が出てきます。五木寛之が60年安保の余韻を伝える作品『内灘夫人』を発表したのが'68年、しかしながらこの映画の公開は'71年で、もう既に70年安保という"政治の季節"が終わってしまったようなムードが、作品の中にもどことなくあります。

 というわけで、面白いと言うよりもどちらかと言えば一時代の記念碑的な作品ですが、石橋蓮司のパフォーマンス的な演技がその時代の空疎感、閉塞感をよく伝えていて、神代(くましろ)辰巳監督の「赫い髪の女」といいこの作品といい、70年代の石橋蓮司っていいなあと思います。

「赫い髪の女」英語版.jpg赫い髪の女 poster.jpg赫い髪の女2.jpg 「赫い髪の女」('79年/にっかつ)は中上健次の原作で、ダンプ運転手(石橋蓮司)といきずりの女(宮下順子)の愛欲の生活をリアルに描いた作品ですが、雨のジトジト降る日に狭いアパートの一室で、セックスの合間にインスタントラーメンを音をたてて啜る2人が、どういうわけか個人的にはすごく印象的でした。この作品も時代の閉塞を表していると言えるかも知れません赫い髪の女3.jpg(一体70年代のいつからいつまで"閉塞"状況だったのか、70年代がずーっと閉塞状況だったか、自分にはよくわからないが)。

(上)山口美也子 (下)石橋蓮司/宮下順子
 
 こちらはDVD化されているので、再見しようと思えばいつでも観ることができるのですが、出来れば劇場で観たい作品です(自分がこの作品を最初に観た「銀座並木座」は閉館してしまったが)。中上健次の原作のムードを損なわずに丁寧に撮られた佳作だったと思います。

映画・あらかじめ失われた恋人たちよ.jpgあらかじめ失われた恋人たちよ4.png「あらかじめ失われた恋人たちよ」●制作年:1971年●監督・脚本:清水邦夫/田原総一郎●企画:葛井欣士郎●撮影:奥村祐治●音楽:成毛滋●時間:123分●出演:石橋蓮司/桃井かおり/加納典明/岩淵達治/内田ゆき/正城睦子/緑魔子/カルメン・マキ/蟹江敬三/豊田紀雄/井上博一/吉田潔/竹之内文芸坐休館.jpg池袋文芸地下 地図.jpg文芸坐.jpg弾/秋浜悟史/井田邦明/キムカンザ/佐藤重臣/大森直人/蜷川幸雄/佐々倉英雄●公開:1971/11●配給:ATG●最初に観た場所:池袋文芸地下 (79-11-25)(評価:★★★★)●併映:「エロスは甘き香り」(藤田敏八)
池袋・文芸地下 1997(平成9)年3月6日閉館。
 
『赫い髪の女』.bmp「赫い髪の女」●制作年:1979年●監督:神代辰巳●製作:三浦朗●脚本:荒井晴彦●撮影:前田米造●音楽:憂歌団●原作/中上健次「赫髪」●時間:75分●出演:宮下順子/石橋蓮司/亜湖/阿藤海/三谷昇/山口美也子/絵沢萠子/山谷初男/石堂洋子/高橋明/庄司三郎/佐藤了一●公開:1979/02●配給並木座.jpg並木座閉館.jpg:にっかつ●最初に観た場所:銀座並木座 (79-06-03)(評価:★★★★)●併映:「女教師」(田中登)
銀座並木座  1953年オープン。1998(平成10)年9月22日閉館。

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「参審制」裁判員制度で大丈夫か。考えさせられる「12人の優しい日本人」。

「12人の優しい日本人」2.png 12人の優しい日本人.jpg 12人の優しい日本人 3.jpg  12人の浮かれる男 筒井康隆劇場.jpg
12人の優しい日本人 [DVD]」/「12人の優しい日本人」豊川悦司/『12人の浮かれる男―筒井康隆劇場(1979年)

 「12人の優しい日本人」は、筒井康隆の『12人の浮かれる男』を原作とする劇団東京サンシャインボーイズの舞台戯曲の映画化作品で、もしも日本に陪審員制が導入されたら...という前提でのコメディです。 ストーリーはちょうど、シドニー・ルメット監督の「十二人の怒れる男」('57年/米)を裏返しにしたようなもので、尚且つ一ひねり入れています。

12 ANGRY MEN.jpg 「十二人の怒れる男」は、ナイフで実父を殺害した容疑がかかる少年の裁判における12人の陪審員の討議において、唯一人、少年の犯行だという意見に疑問を感じた陪審員(ヘンリー・フォンダ)が、残り11人の有罪説の根拠の脆弱を順番に暴いていくものです。圧倒的に被告に不利だった数々の証拠が全て崩され、結局、全員一致で「無罪」の評決が下されるまでの展開は息をもつかせぬものですが、この作品のテーマは、「議論による民主主義の勝利」と言うよりも、その議論の中核を成す「事実に基づく強固な論理」そのものにあるとも言え、推理劇としての楽しさを満喫できるものでした(企業の社員研修などで使われることもあるようだ。ロジカル・シンキングの強化が狙い?)。

 原作者のレジナルド・ローズは、実際に殺人事件の陪審員を務めたことがこの話を書くきっかけになったとのことで、舞台劇の脚本のイメージがありますが、元々のオリジナルはテレビドラマ用に書かれたものでした(当時は生放送で連続ドラマをやっていた。演出はCBS社員だったフランクリン・J・シャフナー(後の「パピヨン」('73年/米)の監督))。

12人の優しい日本人(映画).jpg  「12人の優しい日本人」は、12人の陪審員のうち11人までが被告を無罪だと考えていたところ...という「十二人の怒れる男」とは逆の状況から始まり、その後の展開も含め明らかに「十二人の怒れる男」のパロディなのですが、一人の若い男の陪審(相島一之)が有罪を主張して周囲を一人ずつ論理的に説得し、ほぼ有罪で固まりかけたところへ、それまで黙っていた男の陪審員(豊川悦司)が口を開き始めて、但し、自分が主張するだけでなく、他の陪審員に自らの考三谷幸喜s.jpgえも言わせつつ、再び一人ずつ無罪支持に導いて最初の状況に戻してしまう、という―三谷幸喜の凝った脚本もいいし(東京サンシャインボーイズは'83年、三谷が大学3年の時に結成)、役者も全員が一定の水準以上にあって下手な人がおらず、自然に笑えると言うか、むしろテンポのいい緊張感を持って最後まで観続けることができます。

「12人の優しい日本人」3.jpg どちらかと言えば良識派だが、ちょっと偏屈なところもある歯科医(村松克己、当初「銀行員」と称していた)、うず潮1.jpg「難しいことは私には分かりません」と繰り返すばかりの主婦(林美智子、NHKの朝の連ドラ「うず潮」('64年度、原作は林芙美子)の主人公・林フミ子役だった。平均視聴率30.2%、最高視聴率47.8%。林美智子は'65年の「NHK紅白歌合戦」の紅組司会にも抜擢された)、論理的には有罪の証拠をも提示しながら、自らの心証としての無罪を主張し続ける初老の男性(二瓶鮫一、これこそ「優しい日本人」!)、徹底したメモ魔で、裁判でのやり取りの事実だけを並べているが、自分個人の意見は全くないというキャリアウーマン(中村まり子、中村伸郎の娘)、とにかく早く終わらせて帰ることしか考えていないセールスマン(大河内浩)、べらんめえ口調で気性が激しく途中でひねくれてしまう独身男(梶原善)..etc.多種多様な12人ですが、やはり豊川悦司の「実は○○○のふりをしていた△△」は良かったです。

リー・J・コッブ.jpg28歳の会社員の2号(相島一之).jpg ネタばれになりますが、ヘンリー・フォンダに相当する役は相島一之ではなく、実は豊川悦司の役であり、一見ヘンリー・フォンダに相当する役み見えた相島一之は実はリー・J・コッブに相当する役だったんだなあと。このあたりのネジレさせ方もパロディとして上手いと思いました。

「12人の優しい日本人」.jpg 豊川悦司はこの作品が本格的映画デビューでしたが(内容的には殆ど舞台劇だが)、元々はシェイクスピア劇で知られる演劇集団「円」出身で、演技の基礎はしっかりしているし、この作品の役はハマリ役12人の優しい日本人 江口洋介版_.jpgだったと思います(最近の舞台では、江口洋介がこの役をやっていて、江口洋介にとっての舞台デビュー作となっている)。

江口洋介版

 「陪審制」は市民だけで有罪・無罪を決める裁判方式で、それに対し裁判官と市民が合議して判決を導き出すのが「参審制」。この映画で描かれているのは市民のみの討議だから「陪審制」で(但し、米国等の陪審制は有罪・無罪を決めるもので、量刑判断はしない)、日本でも昭和3年から昭和18年まで「陪審制」がありました(因みに、司法制度改革で今回導入される裁判員制度は「参審制」である)。

「十二人の怒れる男」.jpg 「十二人の怒れる男」に対しては、日本に陪審制がないのは、体制側がこういう結果を恐れているからだ、という説もあるようです(ヘンリー・フォンダに対してではなく、残り11人の陪審員について言っているのだろうが、逆説的にはヘンリー・フォンダも含めた"場"または"座"として言えるかも)。日本人は会議などで権威者や専門家の意見に靡(なび)きやすいと言われますが、そうした専門家または専門家っぽい人に対して過剰な敬意を抱いてしまいやすい傾向にあるらしいです。

12人の優しい日本人5.jpg  「12人の優しい日本人」は「十二人の怒れる男」と同様「陪審制」における話ですが、専門家(裁判官)が討議に加わる「参審制」の裁判員制度であればなおのこと、この映画のままとは言わないまでも類似のことが(つまり裁判官の意見に市民がどんどん引っ張られるようなことが)ありうるのではと、この映画の豊川悦司の役にすっかりダマされた自分をふりかえって思うのです。

12人の優しい日本人5.jpg「12人の優しい日本人」●制作年:1991年●製作:ニュー・センチュリー・プロデューサーズ●監督:中原俊●脚本:三谷幸喜●原作:筒井康隆「12人の浮かれる男」●時間:116分●出演:塩見三省/相島一之/上田耕一/二瓶鮫一/中村まり子/大河内浩/梶原善/山下容莉枝/村松克己/林美智子/豊川悦司/加藤善博●劇場公開:1991/12●配給:アルゴプロジェクト (評価★★★★)

尾道みなと祭.jpgうず潮(1964).jpgうずしお タイトル.jpg「うず潮」●演出:関口象一郎●脚本:田中澄江●音楽:田中正史●原作:林芙美子●出演:林美智子/日高澄子/永野達雄/大塚国夫/雪代敬子/津川雅彦/桜田千枝子/池田和歌子/茅島うずしお 林・津川1.jpg成美/渡辺文雄/紅新子/永野達雄●放映:1964/04~1965/04(全310回)●放送局:NHK
「うずしお」 林美智子/津川雅彦

1969(昭和44)年・尾道みなと祭 /「うず潮」主演の林美智子(中央パレード・カー)[山陽日日新聞]

                                          
十二人の怒れる男3.jpg「十二人の怒れる男」●原題:12 ANGRE MEN●制作年:1957年●制作国:アメリカ●監督:シドニー・ルメット●製作:レジナルド・ローズ/ヘンリー・12 Angry Men(1957).jpgフォンダ●脚本:レジナルド・ローズ●撮影:ボリス・カウフマン●音楽:ケニヨン・ホプキンス●原作:レジナルド・ローズ(TVドラマ)●時間:96分●出演:ヘンリー・フォンダ/リー・J・コッブ/エド・ベグリー/ E・G・マーシャル/ジャック・ウォーデン/マーティン・バルサム/ジョン・フィードラー/ジャック・クラグマン/エドワード・ビンズ●日本公開:1959/08●配給:ユナイテッド・アーティスツ (評価★★★★)
12 Angry Men(1957)

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写真が豊富(数千点)かつ鮮明。生活費を切り詰め集めた"執念のコレクション"。

東宝特撮怪獣映画大鑑(増補版).jpg 東宝特撮怪獣映画大鑑 増補版.jpg ゴジラ.jpg モスラ対ゴジラ1964.jpg
東宝特撮怪獣映画大鑑』(1999/03 朝日ソノラマ) 「ゴジラ」(1954)/「モスラ対ゴジラ」(1964)

 朝日ソノラマの旧版('89年刊行)の「増補版」。553ページにも及ぶ大型本の中で、'54年の「ゴジラ」から'98年の「モスラ3」までのスチールや撮影風景の写真などを紹介していますが、とにかく写真が充実(数千点)しているのと、その状態が極めてクリアなのに驚かされます。

浅野ゆう子.jpg 怪獣映画ファンサークル代表竹内博氏が、仕事関係で怪獣映画の写真が手元に来る度に自費でデュープして保存しておいたもので(元の写真は出版社や配給会社に返却)、当時の出版・映画会社の資料保管体制はいい加減だから(そのことを氏はよく知っていた)、結局今や出版社にも東宝にもない貴重な写真を竹内氏だけが所持していて、こうした集大成が完成した、まさに生活費を切り詰め集めた"執念のコレクション"です(星半個マイナスは価格面だけ)。

水野久美2.jpg若林映子2.jpg やはり、冒頭に来るのは「ゴジラ」シリーズですが、スチールの点数も多く、ゴジラの変遷がわかるとともに、俳優陣の写真も豊富で、平田昭彦、小泉博、田崎潤、佐原健二、藤木悠、宝田明、高島忠夫、女優だと水野久美若林映子、根岸明美、さらに前田美波里や、ゴジラものではないですが浅野ゆう子('77年「惑星大戦争」)なども出ていたのだなあと。

モスラ対ゴジラ.jpgモスラ.jpgゴジラ ポスター.jpg 「ゴジラ」('54年)は、東宝の田中友幸プロデューサーによる映画「ゴジラ」の企画が先にあって、幻想小説家の香山滋が依頼を受けて書いた原作は原稿用紙40枚ほどのものであり、現在文庫で読める『小説ゴジラ』は、映画が公開された後のノヴェライゼーションです。

ゴジラ 1954.jpgゴジラs29.jpg  自分が生まれる前の作品であり(モノクロ)、かなり後になって劇場で観ましたが、バックに反核実験のメッセージが窺えたものの、怪獣映画ファンの多くが過去最高の怪獣映画と称賛するわりには、自分自身の中では"最高傑作"とするまでには、今ひとつノリ切れなかったような面もあります。やはりこういうのは、子供の時にリアルタイムで観ないとダメなのかなあ。昭和20年代終わり頃に初めて「怪獣映画」というものを観た人たちにとっては、強烈なインパクトはあったと思うけれど、自分がリアルタイムで観ていない作品は、ついつい現代の技術水準や演出などとの比較で観てしまう傾向があるかも。ゴジラ 1954.jpg但し、制作年('54年)の3月にビキニ環礁で米国による水爆実験があり、その年の9月に「第五福竜丸」の乗組員が亡くなったことを考えると、その年の12月に公開されたということは、やはり、すごく時代に敏感に呼応した作品ではあったかと思います。
Gojira (1954)
Gojira (1954) .jpg
「ゴジラ」●制作年:1954年●監督:本多猪四郎●製作:田中友幸●脚本:村田武雄/本多猪四郎●撮影:玉井正夫●音楽:伊福部昭●特殊技術:円谷英二ほか●原作:香山滋●時間:97分●出演:宝田明/河内桃子/平田昭彦/志村喬/堺左千夫/村上冬樹/山本廉/榊田敬二/鈴木豊明 /馬野都留子/菅井きん/笈川武夫/林幹/恩田清二郎/高堂国典/小川虎之助/手塚克巳/橘正晃/帯一郎/中島春雄●公開:1954/11●配給:東宝●最初に観た場所(再見):新宿名画座ミラノ (83-08-06)(評価:★★★☆)●併映:「怪獣大戦争」(本多猪四郎)

モスラ_0.jpg 作品区分としてはゴジラ・シリーズではないですが、中村真一郎、福永武彦、堀田善衛の3人の純文学者を原作者とする「モスラ」('61年)の方が、今観ると笑えるところも多いのですが、全体としてはむしろ大人の鑑賞にも堪えうるのではないかと...。まあ、「ゴジラ」と「モスラ」の間には7年もの間隔があるわけで、その間に進歩があって当然なわけだけれど(そう言えば、大映の「ガメラ」('60年)も第一作はモノクロで、かなり子供向けの内容だった)。
「モスラ」('61年)予告

「モスラ」(61年).jpg ザ・ピーナッツ(伊藤エミ(1941-2012)、伊藤ユミ(1941-2016))のインドネシア風の歌も悪くないし、東京タワー('58年完成、「ゴジラ」の時はまだこの世に無かった)に繭を作るなど絵的にもいいです。原作「発光妖精とモスラ」では繭を作るのは東京タワーではなく国会議事堂でしたが、60もののけ姫のオーム.jpg年安保の時節柄、政治性が強いという理由で変更されたとのこと、これにより、モスラは東京タワーを最初に破壊した怪獣となり、東京タワーは完成後僅か3年で破壊の憂き目(?)に。繭から出てきたのは例の幼虫で、これが意外と頑張った? 宮崎駿監督の「もののけ姫」('97年)の"オーム"を観た時、モスラの幼虫を想起した人も多いのではないでしょうか。
モスラ_1.jpg「モスラ」●制作年:1961年●監督:本多猪四郎●製作:田中友幸●脚色:関沢新一●撮影:小泉一●音楽:古関裕而●特殊技術:円谷英二●イメージボード:小松崎茂●原作:中村真一郎/福永武彦/堀田善衛「発光妖精とモスラ」●時間:101分●出演:フランキー堺/小泉博/香川京子/ジェリー伊藤 /ザ・ピーナッツ(伊藤エミ、伊藤ユミ)/上原謙/志村喬/平田昭彦/佐原健二/河津清三郎/小杉義男/高木弘/田島義文/山本廉/加藤春哉/三島耕/中村哲/広瀬正一/桜井巨郎/堤康久●公開:1961/07●配給:東宝●最初に観た場所(再見):新宿シアターアプル (83-09-04)(評価:★★★☆)●併映:「三大怪獣 地球最大の決戦」(本多猪四郎)


モスラ対ゴジラ ポスター2.jpgモスラ対ゴジラ ポスター.jpg この「ゴジラ」第1作を観ると、ゴジラが最初は純粋に"凶悪怪獣"であったというのがよくわかります。それが「ゴジラシリーズ」の第4作「モスラ対ゴジラ」('64年)(下写真)の時はまだモスラの敵役モスラ対ゴジラ 02.jpgだったものの(この作品はゴジラにとって怪獣同士の闘いにおける初黒星、昭和のシリーズでは唯一の敗戦を喫した作品でもある。因みに、「ゴジラシリーズ」の第3作「キングコング対ゴジラ」('62年)は両者引き分け(相撃ち)とされているようだ)、同じ年に公開された('64年12月公開予定だった黒澤明監督「赤ひげ」の撮影が長引いたため、正月興行用に急遽制作された)「ゴジラシリーズ」の第5作「三大怪獣 地球最大の決戦」('64年)(下写真)「三大怪獣 地球最大の決戦」('64年)3.jpgになると、宇宙怪獣キングギド三大怪獣 地球最大の決戦.jpgラを倒すべく力を合わせようというモスラ(幼虫)の"呼びかけ"にラドンと共に"説得"されてしまいます。この怪獣たちが極端に擬人化された場面のバカバカしさは見モノでもあり、ある意味、珍品映画として貴重かもしれません。ともかく、ゴジラはこの作品以降、昭和シリーズではすっかり"善玉怪獣"になっています(「三大怪獣 地球最大の決戦」には、後にボンドガールとなる若林映子が、キングギドラに滅若林映子 サルノ王女.jpgぼされた金星人の末裔であるサルノ王女(の意識が憑依した女性)役で出ていたが、王女の本名はマアス・ドオリナ・サルノ(まあ素通りなさるの!)だった)。この作品、「四大怪獣」ではないかとも言わましたが、モスラ、ゴジラ、ラドンの地球の3匹がを力を合わせて宇宙怪獣キングギドラ戦に挑むことから、「地球の三大怪獣」にとっての最大の決戦という意味らしいです。
若林映子(サルノ王女)in「三大怪獣 地球最大の決戦」

Mosura tai Gojira(1964).jpgモスラ対ゴジラ2.jpg「モスラ対ゴジラ」●制作年:1964年●監督:本多猪四郎●製作:田中友幸●脚色:関沢新一●撮影:小泉一●音楽:伊福部昭●特殊技術:円谷英二●時間:89分●出演:宝田明/星由里子/小泉博/ザ・ピーナッツ(伊藤エミ、伊藤ユミ)/藤木悠/田島義文/佐原健二/谷晃/木村千吉/中山豊/田武謙三/藤田進/八モスラ 小美人用に作られた巨大セット.jpgモスラ .jpg代美紀/小杉義男/田崎潤/沢村いき雄/佐田豊/山本廉/佐田豊●公開:1964/04●配給:東宝(評価:★★★☆)
小泉博・宝田明・星由里子・ザ・ピーナッツ/小美人用に作られた巨大セット(本多監督とザ・ピーナッツ)

Mosura tai Gojira(1964)
「モスラ対ゴジラ」('64年)予告

                  
三大怪獣・地球最大の決戦 パンフレット.jpgSan daikaijû Chikyû saidai no kessen(1964).jpg三大怪獣 地球最大の決戦2.jpg「三大怪獣 地球最大の決戦」.png「三大怪獣 地球最大の決戦」●制作年:1964年●監督:本多猪四郎●製作:田中友幸●脚本:関沢新一●撮影:小泉一●音楽:伊福部昭●特殊技術:円谷英二●時間:97分●出演:夏木陽介/小泉博/星由里子/若林映子/ザ・ピーナッツ/志村喬/伊藤久哉/平田昭彦/佐原健二/沢村いき雄/伊吹徹/野村浩三/田島義文/天本英世/小杉義男/高田稔/英百合子/加藤春哉●時間:93分●公開:1964/12●配給:東宝●最初に観た場所(再見):新宿シアターアプル (83-09-04)(評価:★★☆)●併映:「モスラ」(本多猪四郎)
San daikaijû Chikyû saidai no kessen(1964)

怪獣大戦争.jpg怪獣大戦争01.jpg 更に、ゴジラシリーズ第6作「怪獣大戦争」('65年)は、地球侵略をたくらむX星人がキングギ怪獣大戦争 土者.jpgドラ、ゴジラ、ラドンの3大怪獣を操り総攻撃をかけてくるというもので、X星人の統制官(土屋嘉男)がキングギドラを撃退するためゴジラとラドンを貸して欲しいと地球人に依頼してきて(土屋嘉男は「地球防衛軍」('57年)のミステリアン統領以来の宇宙人役か)、その礼としてガン特効薬を提供すると申し出るが実はそれは偽りで...という、まるで人間界のようなパターンの詐欺行為。「シェー」をするゴジラなど、怪獣のショーアップ化が目立ち、"破壊王"ゴジラはここに至って、遂に自らのイメージをも完全粉砕してしまった...。

怪獣大戦争011.jpg 本書にはない裏話になりますが、この作品に準主役で出演した米俳優のニック・アダムスは、ラス・タンブリンなど同列のSF映画で日本に招かれたハリウッド俳優達が日本人スタッフと交わろうとせずに反発を受けたのに対し、積極的に打ち解け馴染もうとし、共演者らにも人気があったそうで、土屋嘉男とは特に息が合い、土屋にからかわれて女性への挨拶に「もうかりまっか?」と言っていたそうで、仕舞には、自らが妻帯者であるのに、水野久美に映画の役柄そのままに「妻とは離婚するから結婚しよう」と迫っていたそうです(ニック・アダムスは当時、私生活では離婚協議中だったため、冗談ではなく本気だった可能性がある。但し、彼自身は、'68年に錠剤の過量摂取によって死亡している(36歳))。

怪獣大戦争ges.jpgニック・アダムス2.jpg「怪獣大戦争」●制作年:1965年●監督:本多猪四郎●製作:田中友幸●脚本: 関沢新一●撮影:小泉一●音楽:伊福部昭●特殊技術:円谷英二●時間:94分●出演:宝田明/ニック・アダムス/久保明/水野久美/沢井桂子/土屋嘉男/田崎潤/田島義文/田武謙三/、村上冬樹/清水元/千石規子/佐々怪獣大戦争 土屋嘉男.jpg怪獣大戦争2.jpg木孝丸●公開:1965/12●配給:東宝●最初に観た場所(再見):新宿名画座ミラノ (83-08-06)(評価:★★☆)●併映:「ゴジラ」(本多猪四郎)
中央:X星人統制官(土屋嘉男)

水野久美.jpg 怪獣の複数登場が常となったのか、「ゴジラ・エビラ・モスラ 南海の大決闘」('66年)などというのもあって、監督は本多猪四郎ではなく福田純ですが、これはなかなかの迫力だった印象があります(後に観直してみると、人間ドラマの方はかなりいい加減と言うか、ヒドいのだが)。

ゴジラ・エビラ・モスラ 南海の大決闘ps.jpg水野久美 in「ゴジラ・エビラ・モスラ 南海の大決闘」('66年)

ゴジラ・エビラ・モスラ 南海の大決闘2.jpg 水野久美が"原住民"の娘役で出ていて、キャスティングの変更による急遽の出演で、当時29歳にして19歳の役をやることになったのですが、今スチール等で見ても、妖艶過ぎる"19歳"、映画「南太平洋」('58年/米)みたいなエキゾチックな雰囲気もありましたが、何せ観たのは子供の時ですから、南の島の島民たちが大壷で練っている黄色いスープのような液体の印象がなぜか強く残っています(何のための液体だったのか思い出せなかったのだが、後に観直して"エビラ除け"のためのものだったと判り、スッキリした)。

「ゴジラ・エビラ・モスラ 南海の大決闘」.jpg「ゴジラ・エビラ・モスラ 南海の大決闘」●制作年:1966年●監督:福田純●製作:田中友幸●脚本:関沢新一●撮影:山田一夫●音楽:佐藤勝●特殊技術:円谷英二●出演:宝田明/渡辺徹/伊吹徹/当銀長太郎/砂塚秀夫/水野久美/田崎潤/平田昭彦/天本英世/佐田豊/沢村いき雄/伊藤久哉/石田茂樹/広瀬正一/鈴木和夫/本間文子/中北千枝子/池田生二/岡部正/大前亘/丸山謙一郎/緒方燐作/勝部義夫/渋谷英男●時間:87分●公開:1966/12●配給:東宝(評価:★★★☆)●併映:「これが青春だ!」(松森 健)

大怪獣ガメラgamera_1.jpg この辺りまで怪獣映画は東映の独壇場ともいえる状況でしたが、'65年に大映が「大怪獣ガメラ」、'67年に日活が「大巨獣ガッパ」でこの市場に参入します(本書には出てこないが)。このうち、「大怪獣ガメラ」('65年/大映)は、社長の永田雅一の声がかりで製作されることとなり(永田雅一の「カメ」で行けという"鶴の一声"で決まったようで、湯浅憲明(1933-2004)監督はじめスタッフは苦労したのではないか)、これがヒットして、ガメラ・シリーズは'71年に大映が倒産するまでに7作撮影されましたが、本作はシリーズ唯一のモノクロ作品です(「ゴジラ」の第1作を意識したのかと思ったが、予算と技術面の都合だったらしい)。大怪獣ガメラ 船越英二.jpgあらすじは、砕氷調査船・ちどり丸で北極にやってきた日高教授(船越英二)らの研究チームが、、国籍不明機を目撃、その国籍不明機には核爆弾が搭載大解呪ガメラ 1965es.jpgされており、その機体爆発の影響で、アトランティスの伝説の怪獣ガメラが甦るというもの。「ガメラ」の命名者でもある永田雅一の「子供たちが観て『怪獣がかわいそうだ』とか哀愁を感じないといけない」という考えのもと、子供たちの共感を得ないとヒットしない」との考えの大怪獣ガメラ _.jpg大怪獣ガメラ 1965_.jpgもと、ガメラは子供には優しく、特にカメを大事に飼っている主人公の少年には優しいのですが、いくら何でも擬人化し過ぎたでしょうか(永田雅一は「ガメラを泣かせろ」と指示したそうな)。特撮自体は悪くなく、逃げ惑う人々のシーンの人海戦術も効いているだけに、お子様仕様になってしまったのが惜しまれます(出来上がった作品を観て永田雅一は「面白い」と言ったそうだが、映画はヒットしたわけだから、商売人としての感性はあった?)。
大怪獣ガメラ [Blu-ray]」「大怪獣ガメラ デジタル・リマスター版 [DVD]
「大怪獣ガメラ」●制作年:1965年●監督:湯浅憲明●製作:永田秀雅(製作総指揮:永田雅一)●脚本:高橋二三●撮影:宗川信夫●音楽:山内正●時間:78分●出演:船越英二/山下洵一郎/姿美千子/霧立はるみ/北原義郎/左卜全/浜村純/北城寿太郎/吉田義夫/大山健二/小山内淳/藤山浩二/大橋一元/高田宗大怪獣ガメラ 船越英二  2.jpg彦/谷謙一/中田勉/森矢雄二/丸山修/内田喜郎/槙俊夫/隅田一男/杉森麟/村田扶美子/竹内哲郎/志保京助/中原健/森一夫/佐山真次/喜多大八/大庭健二/荒木康夫/井上大吾/三夏伸/清水昭/松山新一/岡郁二/藤井竜史/山根圭一郎/村松若代/沖良子/加川東一郎/伊勢一郎/佐原新治/宗近一/青木英行/萩原茂雄/古谷徹/中条静夫(ナレーション)●時間:87分●公開:1965/11●配給:大映(評価:★★★)
船越英二・霧立はるみ

ゴジラvsキングギドラ.jpgゴジラvsビオランテ.gif 一方、'75年で一旦終了した「ゴジラ」シリーズは9年ぶりに再開し、久々に作られた第16作「ゴジラ」('84年)で、ゴジラを原点の"凶悪怪獣"に戻したようですが、第17作あたりから、また少しおかしくなってくる...。

「ゴジラ vs ビオランテ」vhs.jpg 第17作「ゴジラ vs ビオランテ」('89年)は、バイオテクノロジーによってゴジラとバラの細胞を掛け合わせて造られた超獣ビオランテが登場し、一般公募ストーリー5千本から選ばれたものだそうですが(選ばれたのは「帰ってきたウルトラマン」第34話「許されざるいのち」の原案者である小林晋一郎の作品。一般公募と言ってもプロではないか)、確かに植物組織を持った怪獣は、「遊星よりの物体x」('51年/米)(「遊星からの物体x」('82年/米)のオリジナル)の頃からあるとは言え、随分と荒唐無稽なストーリーを選んだものだと...。

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ゴジラ vs キングギドラ 1991.jpg 第18作「ゴジラ vs キングギドラ」('91年)は、南洋の孤島に生息していた恐竜が核実験でゴジラに変身したという新解釈まで採り入れており(ここに来てゴジラの出自を変えるなんて)、ゴジラが涙ぐんでいるような場面もあって、また同じ道を辿っているなあと(この映画、敵役の未来人のUFOが日本だけを攻撃対象とするのも腑に落ちないし、タイム・パラドックスも破綻気味)。

ゴジラvsキングギドラ tutiya2.jpg 第17、第18作は大森一樹監督で、いくらか期待したのですが、かなり脱力させられました(第18作「ゴジラ vs キングギドラ」で怪獣映画の中で土屋嘉男を見たのがちょっと懐かしかったくらいか)。この監督は商業映画色の強い作品を撮るようになって、はっきり言ってダメになった気がします。大森一樹監督の最高傑作は自主映画作品「暗くなるまで待てない!」('75年/大森プロ)ではないでしょうか。神戸を舞台に大学生の若者たちが「暗くなるのを待てないで昼間から出てくるドラキュラの話」の映画を撮る話で、モノクロで制作費の全くかかっていない作品ですが、むしろ新鮮味がありました(今年['08年]3月に、大森監督によってリメイクされた)。

 結局、ゴジラ・シリーズは'04年の第28作をもって終了しますが、「ゴジラ」シリーズ全体での観客動員数は9,925万人で、「男はつらいよ」シリーズ全48作の合計観客動員数7,957万人を上回り、歴代で最も観客動員数多い劇場映画シリーズとされています。

ゴジラ vs ビオランテ  .jpg「ゴジラ vs ビオランテ」●制作年:1989年●監督・脚本:大森一樹●製作:田中友幸●音楽:すぎやまこういち(ゴジラテーマ曲:伊福部昭)●時間:97分●出演:三田村邦彦/田中好子/小高恵美/峰岸徹/高嶋政伸/沢口靖子/高橋幸治●公開:1989/12●配給:東宝 (評価:★☆)

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「ゴジラ vs キングギドラ」●制作年:1991年●監督・脚本:大森一樹●製作:田中友幸●音楽:伊福部昭●特技監督:川北紘一●原作:香山滋●時間:103分●出演:中川安奈/豊原功補/小高恵美/西岡徳馬/土屋嘉男/原田貴和子/小林昭二/佐々木勝彦/チャック・ウィルソン/ロバート・スコットフィールド●公開:1991/12●配給:東宝 (評価:★☆)

暗くなるまで待てない!47.jpg「暗くなるまで待てない」のサウンドトラックm.jpg「暗くなるまで待てない!」●制作年:1975年●監督:大森一樹●脚本:大森一樹/村上知彦●音楽:吉田健志/岡田勉/吉田峰子●時間:30分●出演:稲田夏子/栃岡章/南浮泰造/村上知彦/森岡富子/磯本治昭/塚脇小由美/大森一樹/鈴木清順●公開:1975/04●配給:大森プロ●最初に観た場所:高田馬場パール座 (80-12-25) (評価:★★★★)●併映:「星空のマリオネット」(橋浦方人)/「青春散歌 置けない日々」(橋浦方人)
「暗くなるまで待てない」サウンドトラック(吉田健志)

日本誕生.jpg ゴジラ・シリーズ以外で、役者だけで見れば何と言っても凄いのが「日本誕生」('59年)で、ヤマタノオロチが出てくるため確かに"怪獣映画"でもあるのですが、三船敏郎、乙羽信子、司葉子、鶴田浩二、東野英治郎、杉村春子、田中絹代、原節子など錚々たる面々、果ては、柳家金語楼から朝汐太郎(当時の現役横綱)まで出てくるけれど、「大作」転じて「カルト・ムービー」となるといった感じでしょうか(観ていないけれど、間違いなくズッコケそうで観るのが怖いといった感じ)。 

「日本誕生」 アメノウズメノミコ (乙羽信子)

マタンゴ.jpg 初期の「透明人間」('54年)やガス人間第1号」('60年)など"○○人間"モノや天本英夫の「マタンゴ」('63年)といった怪奇モノ、地球防衛軍」('57年)宇宙大戦争」('59年)などの宇宙モノから中国妖怪モノ、"フランケンシュタイン"モノまで、シリーズごとのほぼ全作品を追っていて、作品当りのスチール数も豊富な上に、一部については、デザイン画や絵コンテなども収められています。

 この頃東宝はゴジラ映画だけを作っていたわけではなく、クラゲの化け物のような怪獣が登場する宇宙大怪獣ドゴラ」('66年)といった作品もありました。個人的には、"フランケンシュタイン"モノでは、フランケンシュタインの怪獣 サンダ対ガイラ」('66年)などが印象に残っています。
 
水野久美 in 「フランケンシュタイン対地底怪獣」('65年)/根岸明美 in「キングコング対ゴジラ」('62年)
東宝特撮怪獣映画大鑑1.jpg 東宝特撮怪獣映画大鑑2.jpg

根岸明美 アナタハン.jpg根岸明美 マタンゴ.jpg赤ひげ 根岸明美 .jpg
根岸明美(1934.3.26-2008.3.11/享年73) in 「アナタハン」('53年)、「キングコング対ゴジラ」('62年)、「赤ひげ」('65年)

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「雨あがる」の主人公と似ている「日日平安」(「椿三十郎」の原作)の主人公。

雨あがる 山本周五郎短篇傑作選.jpg 日日平安.jpg    椿三十.bmp 「椿三十郎」1962.jpg
雨あがる―山本周五郎短篇傑作選』 〔'99年〕/『日日平安』 新潮文庫/「椿三十郎 [DVD]

 『雨あがる―山本周五郎短篇傑作選』('99年/角川書店)は、山本周五郎(1903‐1967)の時代小説のうち、「日日平安」「つゆのひぬま」「なんの花か薫る」「雨あがる」の4編を所収し、これらは何れも黒澤明(1910-1998)監督が映画化した、或いは映画化しようとして脚本化していたものにあたります。

椿三十郎 三船 仲代.jpg椿三十郎パンフ.jpg 「日日平安」は、映画「椿三十郎」('62年/黒澤プロ=東宝)の原作で、城代家老を陥れようとする次席家老ら奸臣たちに対し、城代の危難を救うべく起ち上がった若い侍たちを素浪人が助太刀するというストーリーは映画と同じ。但し、原作の助太刀浪人・菅田平野は、映画の椿三十郎のような神がかり的剣豪ではなく(映画の中の三船敏郎と仲代達矢の"噴血"決闘シーンは有名だが、原作にこうした決闘場面は無い)、どちらかと言うと、切羽詰ると知恵を絞って苦境を乗り切るタイプで、未熟な若侍たちをリードしながらも、結構自分自身焦りまくっていたりします。

「椿三十郎」 (黒澤プロ=東宝)
「椿三十郎」.jpg『椿三十郎』(1962).jpg 城代のグループを手助けすることになったついでに、あわよくば仕官が叶えばと思っているくせに、城代の救出が成ると自ら姿を消すという美意識の持ち主で、それでも一方で、誰か追っかけて来て呼び止めてくれないかなあなんて考えている、こうした等身大の人物像がユーモラスに描かれていて、読後感もいいです。
Tsubaki Sanjûrô(1962)
椿三十郎ポスター.jpg 黒澤明は最初は原作に忠実に沿って、やや脆弱な人物像の主人公として脚本を書いたのですが、映画会社に採用されず、その後映画「用心棒」('61年)が大ヒットしたためその続編に近いものを要請されて、一度はオクラになっていた脚本を、「用心棒」で三船が演じた桑畑三十郎のイメージに合わせて「剣豪」時代劇風に脚色し直したそうで、ついでに主人公の名前まで菅田平野→椿三十郎と、前作に似せたものに変えたわけです(映画の中では、主人公が自分でテキトーに付けた呼び名とされている)。

 原作に大幅に手を加えて原作をダメにしてしまう監督や脚本家は多くいますが、黒澤明の場合は第一級のエンタテインメントに仕上げてみせるから立派としか言いようがなく(この作品は昭和47年のお正月映画だった)、「原作を捻じ曲げて云々...」といった類のケチをつける隙がありません。

三船敏郎、土屋嘉男、加山雄三、田中邦衛  
椿三十郎4b0.jpg「椿三十郎」●制作年:1962年●製作:東宝・黒澤プロダクション●監督:黒澤明●脚本:黒澤明/菊島隆三/小国英雄●撮影:小三船三十郎と仲代.jpg泉福造/斎藤孝雄●音楽:佐藤勝●原作:山本周五郎「日日平安」●時間:96分●出演:三船敏郎/仲代達矢/司葉子/加山雄三/小林桂樹/団令子/志村喬/藤原釜足/入江たか子/清水将夫/伊藤雄之助/久保明/太刀川寛/土屋嘉男/田中邦衛/江原達怡/平田昭彦/小川虎之助/堺左千夫/松井鍵三/樋口年子/波里達彦/佐田豊/清水元/大友伸/広瀬正一/大橋史典●劇場公開:1962/01●配給:東宝●最初に観た場所(再見):北千住・シネマブルースタジオ(11-01-10)(評価★★★★☆)

雨あがる.jpg 黒澤明の没後に小泉堯史監督により映画化された「雨あがる」('99年/東宝)の原作「雨あがる」の主人公・伊兵衛も浪人ですが、こちらは柔術などもこなす剣豪で、ただし、腕を生かして仕官したいのはやまやまだが、人を押しのけてまで仕官するぐらいなら妻と仲良く暮らせればそれでいいという人物。人助けの際に見せた自分の腕前が見込まれて士官が叶いそうになるが...。

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雨あがる 00.jpg 映画化作品の方は、28年間にわたって黒澤の助手を務めたという経歴を持つ小泉堯史監督の監督デビュー作で、スタッフ・キャストを含め「黒澤組」が結集して作った作品でもあり、冒頭に「この映画を黒澤明監督に捧げる」とあります。

雨あがる01.jpg 元が中編でそれを引き延ばしているだけに、良く言えばじっくり撮っていると言えますが、ややスローな印象も。伊兵衛を演じた寺尾聡は悪くなかったけれど、脇役陣(エキストラ級の端役陣)のセリフが「学芸会」調だったりして、黒澤明監督ならこんな演技にはOKを出さないだろうと思われる場面がいくつかありました。
  
 日本アカデミー賞において最優秀作品賞、最優秀脚本賞(故・黒澤明)、最優秀主演男優賞(寺尾聡)、最優秀助演女優賞(原田美枝子)、最優秀音楽賞(佐藤勝)、最優秀撮影賞(上田正治)、最優秀照明賞(佐野武治)、最優秀美術賞(村木与四郎)の8部門の最優秀賞を獲得。但し、個人的には、セリフの一部が現代語っぽくなっている部分もあり、それが少し気になりました。これは黒澤作品でもみられますが(そもそも、この作品の脚本は黒澤自身)、黒澤監督作品の場合、骨太の演出でカバーして不自然さを感じさせないところが、この映画では、先の「学芸会」調も含め、そうした勢いが感じられませんでした。そのため、そうした不自然さが目立った印象を受けたのかも。

雨あがるes.jpg雨あがる-Press01.JPG「雨あがる」●制作年:2000年●製作:黒澤久雄/原正人●監督:小泉堯史●脚本:黒澤明/菊島隆三/小国英雄●撮影:上田正治●音楽:佐藤勝●原作:山本周五郎「雨あがる」●時間:96分●出演:寺尾聰/宮崎美子/三船史郎/吉岡秀隆/仲代達矢/原田美枝子/井川比佐志/檀ふみ/大寶智子/松村達雄/奥村公延/頭師孝雄/山口馬木也/森塚敏/犬山半太夫/鈴木美恵/児玉謙次/加藤隆之/森山祐子/下川辰平●劇場公開:2000/01●配給:東宝 (評価★★★)

 映画の「椿三十郎」と「雨あがる」の主人公は、剣豪という意味では同じであるものの人物造型はかなり違っている感じがしましたが、それぞれの原作においては、片や脆弱、片や剣豪、ただし、ついつい人助けをする人の良さや、自分の腕前や手柄に自分自身何となく気恥ずかしさのようなものを持っている点で、かなり通じる部分があるキャラクターだと言えるのではないでしょうか。また、こうした人物像に対する愛着が、山本周五郎と黒澤明の共通項としてあるような気がします。

 「雨あがる」...【1956年単行本〔同光社〕/2008年文庫化[時代小説文庫]】 「日日平安」...【1958年単行本〔角川書店〕/1965年文庫化・1989年・2003年改版〔新潮文庫〕/2006年再文庫化[ハルキ文庫→時代小説文庫]】

《読書MEMO》
●「日日平安」...1954(昭和29)年発表 ★★★★
●「つゆのひぬま」「なんの花か薫る」...1956(昭和31)年発表 ★★★
●「雨あがる」...1951(昭和26)年発表 ★★★★

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ハリウッド映画を思わせるスケールの大きい状況設定。

ホワイトアウト.jpgホワイトアウト 1995.jpgホワイトアウト』['95年] ホワイトアウト文庫.jpg 新潮文庫〔'98年〕ホワイトアウト2.jpg DVD

 1996(平成8)年度・第17回「吉川英治文学新人賞」受賞作。1996 (平成8) 年「このミステリーがすごい」(国内編)第1位(1995(平成7) 年度「週刊文春ミステリー ベスト10」(国内部門)第2位)。

 日本最大の貯水量の「奥遠和ダム」を武装グループが占拠し、職員、麓住民を人質に50億円の身代金を要求するという、映画でも良く知られるところとなったストーリーです。

 スケールの大きい状況設定は、ハリウッド映画を思わせるものがあり、吹雪の様子などの描写が視覚的で、尚更そう感じます。作者は、アニメ制作会社でアニメの演出などをしていたそうですが、なるほどという感じもしました。ダムの構造の描写などにも作品のテンポを乱さない程度に凝っていて("理科系"というか"工業系"って感じが、この人はします)、臨場感を増す効果をあげています。アクション・サスペンスの新たな旗手の登場かと思われる作品ではありました(その後、純粋なアクション・サスペンスはあまり書いてないようですが...)。

oda.gif映画「WHITEOUT ホワイトアウト」0.JPG ただ、アクション・サスペンス的である分、人物描写や人間関係の描き方が浅かったり類型的だったりで、映画にするならば、役者は大根っぽい人の方がむしろ合っているかも、と思いながら読んでました。
 結局のところ映画は織田祐二主演で、体を張った(原作にマッチした)アクションでしたが、演技の随所に「ダイハード」のブルース・ウィリスの"嘆き節"を連想したのは自分だけでしょうか。
映画「WHITEOUT ホワイトアウト」 ('00年・東宝)

ホワイトアウト 映画 佐藤浩市.jpg映画「WHITEOUT ホワイトアウト」 松嶋.jpg 織田祐二はまあまあ頑張っているにしても、テロリスト役の佐藤浩市の演出が「ダイハード」のアラン・リックマンのコピーになってしまっていて、自分なりの役作りが出来ていないまま映画に出てしまった感じで存在感が薄く、人質にされた松嶋菜々子に至っては、別に松嶋菜々子を持ってくるほどの役どころでもなく、客寄せのためのキャスティングかと思いました。    

奥只見ダム.jpg 奥只見ダム(重力式ダム) 黒部ダム.jpg 黒部ダム(アーチ式ダム)

 細かいことですが、本作の舞台である日本最大の貯水量を誇る「奥遠和ダム」のモデルとなったのは奥只見ダムであると思われますが、映画では「奥遠和ダム」はアーチ式ダムという設定になっているため(奥只見ダムはアーチ式ではなく重力式ダム)、撮影の際にダムの外観のショットは、アーチ式の黒部ダムなどで撮っています(原作の中身は重力式ダムという設定、単行本の表紙写真は奥只見ダムのものと思われる)。
 映画化するならば、アーチ式ダムの方がビジュアル面で映える、という原作者の意向らしいですが、確かにそうかも。さすが、もとアニメ演出家。

「WHITEOUT ホワイトアウト」●制作年:2000年●製作:角川映画●監督・脚本:若松節朗●原作:真保裕一●時間:129分●出演:織田裕二/松嶋菜々子/佐藤浩市/石黒賢●劇場公開:2000/08●配給:東宝 (評価★★★)

 【1998年文庫化[新潮文庫]】

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"感動ストーリー"だが、色々考えさせられるという意味で面白かった。

秘密.jpg 映画 秘密.jpg 秘密DVD.jpg秘密 [DVD]
秘密』(1998/09 文藝春秋) 1999年映画化(監督:滝田洋二郎、主演:広末涼子/小林薫)

 1999(平成11)年度・第52回「日本推理作家協会賞」受賞作。 

 愛する妻と11歳の娘に囲まれ満ち足りた生活を送る杉田平介。だがある日、 妻・直子と娘・藻奈美が乗ったスキーバスが崖から転落する。妻は亡くなってしまうが、意識を取り戻した娘の方に妻の意識が宿ってしまい、残された平介は「娘の姿をした妻」と生活することになる―。

 某編集者の結婚披露宴の挨拶で、自らのことを「キャリアは20年だが、14年間売れなかった」と言ったという作者の、そうした状況を脱する契機となったとされる出世作。主人公は、世間に対しては「娘が実は妻であること」は伏せていて、そのことがまずこの物語の第一の「秘密」。そして、第二の「秘密」は―。

天国から来たチャンピオン.jpgゴースト ニューヨークの幻.jpg これ以上は何を書いてもネタバレになってしまいますが、アメリカ映画の「天国から来たチャンピオン」('79年)や「ゴースト/ニューヨークの幻」('90年)などのスピリチュアル・ファンタジーの系譜と同種のプロットかと思って読んでいました。
天国から来たチャンピオン [DVD]」/「ゴースト ニューヨークの幻 [DVD]

 そうしたら「憑依」という言葉が出てきて、この作品では心霊学的な「憑依」ではなく、超心理学的な「憑依現象」(心理学的には「多重人格」)としてのそれが扱われているので、「娘の姿をした妻」は実は「妻の意識を持った娘」であることがはっきりします。

 それでも読者を、「妻の人格」に感情移入させて読ませるところが、著者の力量でしょうか。夫の妻に対する想いを描き、「妻」の夫に対する想いを描きますが、後者は「娘の人格により投射された妻の像」であるはず。娘と妻の関係を直接的には描写せず、更に夫をセンチメンタリズムの中に埋没させ事実を直視させないことで、"科学的"ファンタージーとして成立しているように思えました。

 作者はそれでも不充分だと思ったのか、最後に"指輪"を巡る第二の「秘密」を用意していましたが、それさえも、「霊」を持ち出さなくとも超心理学的には説明できてしまうことだと思います(ただしこの辺りにくると、真実はもうどうでもよくなっているような感じ)。

 亡くなった人の自我や個性が別の人の脳にコピーされた場合、その「別の人」が「亡くなった人」になり、状況的には「亡くなった人」が生きているというのと同じことになるのでしょうか。妻が娘にかけた、自分が死んだときに自動起動する「後催眠暗示」というふうにとれなくもないし、娘がそれを逆手にとって、夫の心の中での妻の座を占めようとしているようにとれなくもないない場面もあるからややこしい。

 "感動ストーリー"仕立てですが、著映画「秘密」.jpg者は当初、コメディ仕立てでいこうかと考えたとのこと、自分にとっては、色々な見方ができて考えさせられるという意味での"面白さ"がありました。

滝田洋二郎 秘密.jpg 映画化もされましたが、話が途中から始まっているし、設定も細部において異なっているものの(娘の事故当時の年齢設定が11歳から17歳に引き上げられている)、物語の本筋の部分は生かされていたように思います。 映画「秘密」(1999年・東宝)

 ベテランの役者陣が周りをしっかり固めているということもありましたが、広末涼子の演技も悪くなかったです(う~ん、この演技力でワセダにAO入学したわけか。中退しちゃったけれど)。

幽霊紐育を歩く.jpg 因みに、先にあげた「天国か天国から来たチャンピオン23.jpgら来たチャンピオン(Heaven Can Wait)」は、「幽霊紐育を歩く(Here Comes Mr. Jordan)」('41年)のリメイク作品で、前途有望なプロ・フットボール選手(ウォーレン・ベイティ)が交通事故で即死するが、それは天使のミスによるものだったため、困った天界は彼の魂を殺されたばかりの若き実業家の中に送り込み、その結果全く新しい人物となった彼は、再びフットボールの世界に乗り出す―というもの。

 ボクシングのチャンピオンだった男を主人公としたオリジナルのリメイク作品だと分かるように、わざわざ邦題に"チャンピオン"と入れたのでしょうか(アメフトで個人を指してチャンピオンとはあまり言わないのでは)。今観ると、天国へ行く人々が乗るジェット機が〈コンコルド〉風だったりして時代を感じさせますが、「感動作」であることには違いなく、"自分とは何か"を考えさせら天国から来たチャンピオン  ジェット機.jpgれる部分もありました。一方で個人的に今ひとつノリ切れなかったのは、映像上のウソ天国から来たチャンピオン2.jpgがあるためで、つまり、死んだウォーレン・ベイティの魂が身体を借りた実業家兼フットボール選手を、やはりウォーレン・ベイティが演じているという点。これは致し方ないことであり、あまりこだわる人もいないのかも知れませんが、このウソを克服しないと映画が楽しめないような気もしました(オリジナル作品では、ボクシング選手の魂が実業家にのり移るのだがそれなりに実業家に見える。その点、ウォーレン・ベイティはどこから見てもウォーレン・ベイティ)。                                 

映画 秘密3.jpg これに比べると、映画「秘密」は、こうした「お約束」を観る者に強いるほどではない分、その点に関して言えば旨く出来ているようにも思いました(原作がいいということか)。 

「秘密」●制作年:1999年●監督:滝田洋二郎●製作:児玉守弘/田上節郎/進藤淳一●脚本:斉藤ひろし●撮影:栢野直樹●音楽:宇崎竜童●原作:東野圭吾●時間:119分●出演:広末涼子/小林薫/岸本加世子/金子賢/石田ゆり子/伊藤英明/大杉漣/山谷初男/篠原ともえ/柴田理恵/斉藤暁/螢雪次朗/國村隼/徳井優/並樹史朗/浅見れいな/柴田秀一●劇場公開:1999/09●配給:東宝 (評価★★★☆)

天国から来たチャンピオン チラシ.jpg「天国から来たチャンピオン」●原題:HEAVEN CAN WAIT●制作年:1978年●制作国:アメリカ●監督:ウォーレン・ベイティ/バック・ヘンリー●製作:ウォ天国から来たチャンピオン  .jpgーレン・ベイティ●脚本:エレイン・メイ/ウォーレン・ベイティ●撮影:ウィリアム・A・フレイカー●音楽:デーヴ・グルーシン●原作:ハリー・シーガル●時間:101分●出演:ウォーレン・ベイティ/ジュリー・クリスティ/ジェームズ・メイソン/ジャック・ウォーデン●日本公開:1979/01●配給:パラマウント映画●最初に観た場所:新宿パレス(83-02-04)(評価:★★★☆)

 【2001年文庫化[文春文庫]】

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電機メーカーの人事制度の取材はそれなりに深いが、提案面は肩透かし。

成果主義を超える.jpg    江波戸哲夫.gif  江波戸哲夫 氏 (作家) 集団左遷3.jpg 映画「集団左遷」
成果主義を超える』 文春新書 〔'02年〕

 『集団左遷』('93年/世界文化社)、『部長漂流』('02年/角川書店)などの企業小説や『会社葬送-山一証券最後の株主総会』('01年/新潮社)、『神様の墜落-"そごうと興銀"の失われた10年』('03年/新潮社)などの企業ドキュメントで知られる作家の江波戸哲夫氏が、企業を取材し、各社の成果主義人事制度の現状を分析、考察したものです。

 一般に人事制度の取材・とりまとめは専門のジャーナリストやライターが行うことが多いのですが、著者の取材はそれらに劣らない深さがあり、企業側だけでなく労働者や労働組合のコメントも取っているところにもバランスの良さを感じます。

 ただし、ある時期(2001年前後)のある業界の一定規模以上の企業のみを対象にした分析なので、確かに電機業界はいろいろな面で日本の産業のリーダー的役割を果たしてきた面はありますが(例えば週休2日制を最初に導入した大手企業は「松下」です)、これが日本企業全体の動向かと言われると若干の疑問もあります。

 鳴り物入りで導入された新人事制度の中には、一応機能しているものもあれば尻すぼみになっているものもあることがわかり、この辺りの取材はかなり緻密で、個人的には、大企業の人事部の中には、トレンドに合わせて何か新しい制度を入れて、自社適合性のチェックは後回しになっていると言うか、軽んじられている風潮があるのではないかと考えさせられる節もあります。
 いや、"自社適合"にばかり重きを置いていたら、何も出来ないまま同業他社から遅れていく、という焦りもあるかも。

 著者は、企業がリストラをしつつも根本的には雇用延長を図っていることに着眼し、企業への帰属意識(愛社精神)の効果は確かに見過ごせないとしています。
 しかしながら結論的には、企業は、年功序列・終身雇用制を弱めて従業員の帰属意識の減退を図りながらも、仕事へのエネルギーを引き出さなければならないという難しい課題を抱えていると...。

 確かにその通りですが、こうしたやや"感想"的結論で終わっているため、タイトルから具体的な"提案"を期待した向きには肩透かしの内容となっていることは否めないと思います。
 現実は、小説や映画のようなスッキリした締めくくり方にはならないということか...。

集団左遷」 ('94年/東映)
集団左遷1.bmp集団左遷2.jpg 因みに江波戸氏の小説『集団左遷』('93年/世界文化社)は映画化もされていて、バブル崩壊後に大量の余剰人員を抱えた不動産会社が、新規事業部に余剰人員50人を送り込み、達成不可能な販売目標を課して人員の削減を図るというリストラ計画を実行し、そうした中での50人のリストラ社員たちが逆境に立ち向かっていく姿を描いたものでした。

 梶間俊一監督はヤクザ映画系の出身の人で、テンポはいいし、"成果主義を超えた"かどうかはどもかく、一応"スッキリした締めくくり方"にはなっていますが、そこに至るつくりはやや粗いような気もしました(原作は未読。読めば結構面白いのかも)。
集団左遷2.bmp 柴田恭平がリストラされた社員のリーダーを熱演していて、この映画で「熱血ビジネスマン」のイメージが定着したとも言えるのではないでしょうか(脚本は'04年に自殺した野沢尚が書いている)。

「集団左遷」●制作年:1994年●製作:東映●監督:梶間俊一●脚本:野沢尚●撮影:鈴木達夫 ●音楽:小玉和之●原作:江波戸哲夫●時間:116分●出演:柴田恭平/中村敦夫/津川雅彦/高島礼子/小坂一也/河原崎建三/萬田久子/北村総一朗/江波杏子/伊東四朗●劇場公開:1994/12●配給:東映 (評価★★★)

「集団左遷」柴田強兵/高島礼子

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