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シリーズでも最も異色作。ゴジラを飛ばせたことで"飛ばされた"(?)監督。

「ゴジラ対ヘドラ」1971p.jpg「ゴジラ対ヘドラ」dvd.jpg 「ゴジラ対ヘドラ」t.jpg
ゴジラ対ヘドラ [60周年記念版] [DVD]

「ゴジラ対ヘドラ」1971f」.jpg 海洋汚染が進む駿河湾。海洋学者・矢野(山内明)の元へ持ち込まれたヘドロの海で採れたオタマジャクシ状の生物は、鉱物で出来ている脅威の生命体だった。その頃、海では船舶事故が相次ぎ、TVカメラには奇怪な海坊主のような怪物の姿が捉えられていたが、矢野の研究によって未知の生物は合体・増殖を繰り返す事が確認され、海の怪物も同種のものと断定された。ヘドラと名付けられた怪物は遂に港から上陸して、工場地帯でスモッグを吸収していった―。

「ゴジラ対ヘドラ」ヘドラ1.jpg 1971(昭和46)年公開の「ゴジラシリーズ」第11作で、企画・監督の坂野義光(1931-2017/86歳没)にとっては監督昇進後の第1回作品。美術は特技監督・円谷英二(1901-1970/68歳没)の黄金期時代の作品の全てのミニチュアセットに関わった井上泰幸(1922-2012/90歳没)で(この作品は今月['22年8月]神保町シアターの「生誕百年祭」で観直した。井上泰幸が生誕百年に該当)、だだし、円谷英二はこの作品の前年に亡くなっており、円谷の没後に初めて作られたゴジラ映画です。そのため、シリーズの新たなスタートとなった作品とされる一方、独特の作風によりシリーズでも最も異色の作品ともされています。

「ゴジラ対ヘドラ」飛ぶ.jpg ヘドラに立ち向かうのが我らがヒーロー・ゴジラですが(ただしゴジラ側から見れば人間も"害悪"の類か)、そのゴジラが空を飛行するシーンは賛否両論となりました。坂野義光監督が田中友幸プロデューサーに許可を得る段階で田中友幸は撮影途中に体調不良で入院しており、当時、東宝の専務・馬場和夫に全権委任され、馬場の判断によってアイデアの採用が決まったとのことです。しかし、完成作品を見た田中は「性格を変えてもらっちゃ困るんだよな」と難色を示し、次回作も板野が監督する予定だったのが、「もう彼には二度と特撮映画は撮らせない」と言って白紙となったそうです。

「ゴジラ対ヘドラ」へどら.jpg 個人的には、ヘドラが水棲期・上陸期・飛行期と3態ほど変態することから、「ゴジラシリーズ」第29作「シン・ゴジラ」('16年)におけるゴジラが1個体で同じく水棲期・上陸期...といったように4段階もの変態をするのを思い出しましたが、「シン・ゴジラ」の方はゴジラそのものを変態させてしまっているので、田中友幸は草葉の陰で「シン・ゴジラ」に対して「変えてもらっちゃ困るんだよな」とさらに強い口調で言っているのではないでしょうか。

「ゴジラ対ヘドラ」芝1.jpg「ゴジラ対ヘドラ」柴.jpg 主演の矢野博士役を務めた劇団民藝所属の山内明ら以外は出演料の少ない新人を中心に起用するなどし(柴本俊夫、後の柴俊夫などもその一人)、低予算ながらいろいろ工夫し頑張って作っているという感じがするこの作品ですが、公開当時は酷評されました。それが、時代経過と共に風刺アニメやマルチスクリーンを駆使した映像表現などが注目され、反公害映画の社会風刺映画として評価が高まってきたようです。また、美術面においても、本作品のファンである映画評論家・コラムニストの町山智浩氏も指摘するように、ルイス・ブニュエルやジャン=リュック・ゴダールなどヨーロッパの映画作家たちのアバンギャルド作品の影響がみられ、カルト的な人気のある作品となっています。

 坂野義光はこの作品を最後に劇映画監督から手を引き(ゴジラを飛ばせたことで"飛ばされた"?)、得意の水中撮影を生かし(スキューバダイビングの免許保有者で、この作品での海洋学者・矢野の海中シーンは坂野の吹き替えである)、「すばらしい世界旅行」などのテレビのドキュメンタリー映像に関わり、さらに、プロデューサー業に転身するなどします。一方で、'17(平成29)年、福島第一原子力発電所事故をテーマとした映画「新ヘドラ」(仮称)のシナリオをまとめており、映画化をめざしていることを東京新聞の取材で明らかにしていましたが、同年5月7日、クモ膜下出血で死去し(86歳没)、残念ながら構想は実現することはありませんでした。

「ゴジラ対ヘドラ」7.jpg「ゴジラ対ヘドラ」3.jpg 麻里圭子の歌うテーマ曲「かえせ! 太陽を」(作詞:坂野義光/作曲:眞鍋理一郎)の「水銀 コバルト カドミュウム」で始まる歌詞に象徴されるように、メッセージ性の強い作品ですが、同時に70年代を感じる作品です。また、ヘドラに襲われた人たちが続々と白骨化する場面があるなど、被害者の屍を映している点で特徴的であり、これにより暗いイメージが強い作品となっています。

 個人的には、ヘドラが煙突の煙を吸って恍惚としているシーンが何だか妙に迫力があり印象的でしたが、着ぐるみの内部にホースを入れて掃除機でスモークを吸わせたため、着ぐるみの中が黒煙だらけになり、スーツアクターが窒息しかけたとか、ウィキペディア「ヘドラ」の項を見ると、裏話に事欠かない作品のようです。

「ゴジラvsヘドラ」.jpg 公開50周年を記念した'21年11月3日開催の「ゴジラ・フェス 2021」にて新作特撮「ゴジラVSヘドラ」が公開され、YouTubeにおいても期間限定で公開されました(かつての"迷作"、今や"名作"扱い?)。

「ゴジラVSヘドラ」

「ゴジラ対ヘドラ」●制作年:1971年●監督:坂野義光●製作:田中友幸●脚本:馬淵薫/坂野義光●撮影:真野田陽一●音楽:眞鍋理一郎(主題歌:「かえせ! 太陽を」麻里圭子withハニー・ナイツ&ムーンドロップス)●特殊技術:中野昭慶●時間:85分●出演:山内明/柴本俊夫/川瀬裕之/麻里圭子/木村俊恵●公開:1971/07●配給:東宝●最初に観た場所(再見):神保町シアター(22-08-18)(評価:★★★☆)

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本書を読んで、映画の鑑賞法の原点に立ち返るのもいいのではないか。

『映画を見ると得をする』.jpg映画を見ると得をする b.jpg 映画を見ると得をする d.jpg
映画を見ると得をする (新潮文庫)』「映画を見ると得をする もっと映画が面白くなる」[Kindle版]

映画を見ると得をする (ゴマブックス)』['80年]

 著者は言います。なぜ映画を見るのかといえば、人間は誰しも一つの人生しか経験できない。だから様々な人生を知りたくなる。しかも映画は、わずか2時間で隣の人を見るように人生を見られる。それ故、映画を見るとその人の世界が広がり、人間に幅ができてくる―と。

 まさに至言ではないでしょうか。本書は、シネマディクト(映画狂)を自称する著者が、映画の選び方から楽しみ方、効用を縦横に語り尽くしたものです。個人的に印象に残ったポイントをいくつか拾っていくと―

「料理長殿、ご用心」0.jpg 原題をそのまま題名にするのが流行っている。何かイメージがわく題名なら、中身もいい。... 日本語でいい題がつくときは、映画としてもいいものであるとして、「料理長(シェフ)殿、ご用心」 ('78年/米)がその例で、原作の小説より映画の方がよくできていたとしている。

「ナイル殺人事件」0.jpg 外国映画の「大作」は絶対に観るに値する。失敗作でさえも見るべきところがいっぱい。... 映画自体は失敗作でも、大作はセットも素晴らしいし、ロケにも金をかけていて、「ナイル殺人事件」('78年/英)などは本当にエジプトに行って撮っている」わけでしょと。個人的は、観光映画としても楽しめる要素があったなあ。

「元禄忠臣蔵」0.jpg「残菊物語」0.jpg 戦前の日本映画には凄い大作があった。例えば「残菊物語」「元禄忠臣蔵」。... 溝口健二の「残菊物語」('39年/松竹)は個人的にも完璧な恋愛・人情ドラマだと思った。「元禄忠臣蔵」('41-'42年/松竹)で、松の廊下を原寸通りに作っちゃったというのも凄いと(確かに)。歴史の中にしか存在しなかったものを、ぼくらの眼前に再現してくれているのが大作の価値だと。

「カサノバ 」フェリーニ0.jpg 「難解きわまる映画」というものがある。ときにはそういう映画で自分を鍛える。...  アラン・レネはどれも難しいと。フェリーニは「81/2」('63年/伊・仏)から後はみなわからなくなっちゃって、「アマルコルド」('73年/伊・仏)で昔のフェリーニに戻って、これはだれが観ても素晴らしかったが、ところが今度「カサノバ」('76年/伊)を撮ったら、やっぱりわからないと。主演のドナルド・サザーランドが、終わってから、「自分は一体どういう役をやったのかさっぱりわからない...」と、いったそうで、ぼくもパリで観たが退屈したと。

「赫い髪の女」0.jpg ポルノをつくっている会社の映画にも、時には観るべきものがある。例えば「赫い髪の女」。... 「赫い髪の女」('79年/にっかつ)は、中上健次の原作がいいし、男と女の愛欲を探究しているものだから、凄いけれど、いやな感じはないと。

 「巨匠」の作品必ずしも秀作にあらず。ただし、美術的感覚に見るべきものあり。... 「」('54年/伊)を作ったころのフェリーニは、大道芸人の可哀そうな女とか哀れな男に本当に共感を持っていたと思うが、フェリーニ自身が大巨匠になっておかしくなってしまったと。

「影武者」1.jpg 黒澤明然り。ただし、筆を持たせたら素晴らしく、「影武者」('80年/東宝)のスケッチなどは大したものであると(著者自身が絵を描くからそう感じるのだろう)。個人的には、かつての黒澤作品のダイナミズムは影を潜め、映画は映像美・様式美に終始してしまった印象。カンヌ国際映画祭でパルムドールを撮ったのは、その様式美がジャポニズムとして受けたのでは。勝新太郎が黒澤監督と喧嘩して主役を降りたけれど、もともと勝新太郎向きではなかった? 映画の完成披露試写会を勝新太郎が観に来たていて、「面白くなかった...俺が出ていたらもっと面白くなってたよ」と言ったそうだ。

椿三十郎 三船 仲代.jpg 「役者を汚して、血を噴出させる」のがリアリズムという日本映画の馬鹿の一つ覚え。... 最初にやったのが黒澤明の「椿三十郎」('62年/東宝)で、黒澤さんが悪いんじゃなく、黒澤監督としてはちょっと珍しいことをやってみたに過ぎない、それを猫も杓子も真似しちゃったから困ったものだと。

淀川長治2.jpg 映画評論を読めば、自分自身の「好み」や「個性」がわかってくる。それが値打ち。... 推薦できる評論家として、飯島正、南部圭之助、双葉十三郎を挙げ、淀川長治さんなかの映画評論を一般のファンは当てにしたらいいんじゃないかと思うと(そう言えば、本書のカバー裏の著者紹介は淀川長治が書いている)。

荒野の用心棒 1964.jpg「荒野の用心棒」2.jpg ハリウッドの西部劇とマカロニ・ウエスタン。その大きな違いの一つは「女の描き方」。... マカロニ・ウエスタンには女の匂いがぷんぷんするような女が出てきて男とからみ合うが、アメリカの方は「女なんか全然数のうちじゃない...」といった男がいっぱい出てくると。また、マカロニ・ウエスタンの特徴はサディスティックであることで、拷問シーンなどでもユーモアがないとのこと。確かに「荒野の用心棒」('64年/伊)がそうだった。クリント・イーストウッドはボロボロにやられていた。ただし、著者は、黒澤明の「用心棒」を無断でかっぱらった「荒野の用心棒」が面白くないはずがないと。

イノセント.jpg 最近ではヴィスコンティの遺作「イノセント」。歴史に残るセックスシーンの1つだろう。... 「イノセント」('76年/伊・仏)のそれは素晴らしかったと。夫婦が別荘に行って、ちょうど春で、ぽかぽか温かくなり、庭に花が咲き乱れ、男がだんだん興奮してくる...。全身を写すところもあったが、たいていは胸から上しか写さず、それでいて本当にエロチックなシーンだったと。

「最後の晩餐」0.jpg 洒落たフランス映画を観た後で「フランス料理を食べたい」という女の子なら悪くない。... フランス映画を観た後では鮨屋よりフランス料理を食べに行きたくなるが、逆の場合もあり、それが「最後の晩餐」('73年/伊・仏)であると(確かに)。四人の主人公が死ぬまで食べ続ける映画だった。マルコ・フェレーリは巨匠ではないが相当の監督だと。

「旅芸人の記録パンフ2.jpg 例えば「忠臣蔵」を一本観ただけで、その人の世界がグーンと広くなっちゃう。... 「旅芸人の記録」('75年/ギリシャ)という映画を観れば、自然にギリシャという国に興味を持って、ギリシャに歴史を読んでみよう、ギリシャの生活について何か探して読んでみようということになり、それをやれば、ぼくの持っている世界が広がっていくわけだと。まさに、本書のエッセンスがここに述べられているように思いました。

 この本が出たころは、映画と言えば(テレビで観ることもあったとは思うが)基本的にみんな映画館で観たのだろうなあ。それが、レンタルビデオの時代を経て、今やAmazon PrimeやNetflixの時代へと移りつつあり、昨今は、映画を倍速で視聴するユーザーが急増しているようです。今一度、本書を読んで映画鑑賞の在り方の原点に立ち返るののいいのではないかと思いました。

影武者[東宝DVD名作セレクション]」 山﨑努(信玄の弟・武田信廉)/仲代達矢(武田信玄、影武者)
「影武者」dvd1980.jpg「影武者」0.jpg「影武者」●制作年:1980年●監督:黒澤明●製作:黒澤明/田中友幸●外国版プロデューサー:フランシス・コッポラ/ジョージ・ルーカス●脚本:黒澤明/井手雅人●撮影:斎藤孝雄/上田正治「影武者」志村僑.jpg「影武者」大滝秀治.jpg●音楽:池辺晋一郎●時間:180分●出演:仲代達矢/山﨑努/萩原健一/根津甚八/油井昌由樹/隆大介/大滝秀治/桃井かおり/倍賞美津子/室田日出男/阿藤海/矢吹二朗/志村喬/藤原釜足/清水綋治/清水のぼる/山本亘/音羽久米子/江幡高志/島香裕/井口成人/松井範雄/大村千吉●公開:1980/04●配給:東宝●最初に観た場所:飯田橋・佳作座(81-02-14)(評価:★★★)
志村喬(信玄の父・田口刑部、信玄に追放され、信長の手先として送り込まれる)/大滝秀治(信玄家臣・山縣昌景)
倍賞美津子(側室・於ゆうの方)/桃井かおり(側室・お津弥の方)  黒沢明監督「影武者」、カンヌ映画祭の最高賞に(1980年5月23日)[日本経済新聞]/日劇(1981年閉館)
「影武者」倍賞・桃井.jpg 黒澤 カンヌ.jpg 日劇文化.jpg

「荒野の用心棒」.jpg「荒野の用心棒」●原題:PER UN PUGNO DI DOLLARI●制作年:1964年●制作国:イタリア・西ドイツ・スペイン●監督:セルジオ・レオーネ●脚本:ヴィクトル・アンドレス・カテナ/ハイメ・コマス・ギル/セルジオ・レオーネ●製作:アリゴ・コロンボ/ジョルジオ・パピ●音楽:エンニオ・モリコーネ●時間:96分(完全版100分)●出演:クリント・イーストウッド/ジャン・マリア・ヴォロンテ/マリアンネ・コッホ/ホセ・カルヴォ/ヨゼフ・エッガー/アントニオ・プリエート●公開:1965/12●配給:東宝(評価:★★★★)

映画を見ると得をする.jpg【1987年文庫化[新潮文庫]】

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山本周五郎の"こっけいもの"が原作。TVドラマ「探偵物語」の演技の土台が窺える松田優作。

「ひとごろし」ポスター1.jpg「ひとごろし」ポスター2.jpg「ひとごろし」dvd.jpg
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ポスター 「ひとごろし [DVD]」『ひとごろし (新潮文庫) 』(「壺」「暴風雨の中」「雪と泥」「鵜」「女は同じ物語」「しゅるしゅる」「裏の木戸はあいている」「地蔵」「改訂御定法」「ひとごろし」)

 福井藩武芸指南役の仁藤昂軒(丹波哲郎)は、酒に酔った帰途、彼を嫌う若い藩士たちによる闇討ちに遭う。正々堂々を好む昂軒は怒り、真剣を抜いて一網打尽にするが、その現場に居合わせ、若い藩士たちを止めるために昂軒に立ち向かった藩士・加納(岸田森)も斬られて絶命してしまう。そのまま藩を去った昂軒に怒った藩主は、上意討ち(じょういうち=主君が部下に逃亡した罪人を処断させること)を命じたが、昂軒の腕前を知る藩士たちは誰も手を挙げない。そんな中、上意討ちを名乗り出たのは、藩きっての臆病者で知られた双子六兵衛(松田優作)だった。臆病な自身の悪評のために婚期を逃した妹・かね(五十嵐淳子)のため、また自身の汚名返上のため、六兵衛は蛮勇を振るって旅に出る。すぐに六兵衛は昂軒に追いつき、上意討ちと直感した昂軒は六兵衛に決闘を求めたが、六兵衛は怖気づいて「ひとごろし!!」と叫び、逃げ出す。逃げた先で彼は、農民たちが「逃げたお侍は偉い」と噂話をしているのを耳にする。「世間には俺のように臆病な人間のほうが多いのだ」と悟った六兵衛は一計を案じ、街に着くたび昂軒につきまとい、宿屋や飯屋で彼を指差して「ひとごろし!!」と叫んでは周りの人々の恐怖を煽り立て、昂軒がこちらに向かってくれば徹底的に逃げることで、武士道に凝り固まった昂軒の自尊心を傷つけ、精神的に追い詰めていく作戦を図る。執拗に作戦を展開する六兵衛は、昂軒との奇妙な距離感を保ったまま旅を続ける。ある日、富山の街中で叫んでいた六兵衛は町奉行所に捕らわれるが、取り調べた町方与力・宗方(桑山正一)は、六兵衛が持っていた上意書を見て早合点し、果たし合いの会場を提供したうえ、昂軒を連れてくる。窮地に陥った六兵衛はわざと頭を打ち、気が変になったふりをしてやり過ごす。真剣勝負にならないと判断した昂軒は刀を納めて立ち去る。ある街道沿いの草むらで、遂に六兵衛と昂軒は向き合うことに―。

「ひとごろし」原作単行本.jpg 大洲齊(おおず ひとし)監督の1976年公開作で、原作は山本周五郎が1964(昭和39)年10月、「別册文藝春秋」に掲した短編載時代小説で、本作を表題作として1967(昭和42)年3月文藝春秋刊。野村芳太郎監督により1972年1月に「初笑いびっくり武士道」というタイトルでコント55号主演で映画化・公開されていて、タイトルからしてもコント55号主演であることからしてもコメディなのですが、原作をコメディ化したと言うより、原作自体が「雨あがる」(昭和26年)、「日々平安」(昭和29年)系の"こっけいもの"であり、ユーモアを存分に散りばめながら、強さというものの限界を示している作品となっています。この映画化作品の場合、以前に萩本欽一(双子六兵衛)、坂上二郎(仁藤昂軒)で演じたれぞれの役を松田優作、丹波哲郎でやっているところがミソでしょうか。この二人の起用は成功していたように思えます。

『ひとごろし』['67年/文藝春秋](「ひとごろし」「へちまの木」「あとのない仮名」「枡落し」)

「ひとごろし」松田.jpg「ひとごろし」1.jpg 松田優作は「太陽にほえろ!」('73年~'74年)の"ジーパン"刑事の印象がありますが、この映画を観ると後のTVドラマ「探偵物語」('79年~'80年)での演技の土台がこの頃にはすでに出来上がってことが窺え、この人って重い役よりもこうしたコミカルな役の方が向いていたようにも思えます。その松田優作のコミカルな演技に対して丹波哲郎の方はいつも通りの重厚な演技で、その対比が効いています。

「ひとごろし」五十嵐.jpg 女優陣で、松田優作演じる六兵衛の妹かねを演じた五十嵐淳子(1952年生まれ)は、「五十嵐じゅん」の芸名時代にグラビアアイドルとして超人気でした。プライベートでは中村雅俊と1976年12月婚約発表、1977年2月に結婚することなりますが、その前に中村雅俊と松田優作との間で五十嵐淳子を巡って争奪戦があったとか。婚約発表から結婚まで比較的短いのは、五十嵐淳子が妊娠していたためで、この映画の公開された1976年10月にはすでに"三角関係"は決着していたのでしょうか(松田優作は「探偵物語」の第1話にゲスト出演した熊谷美由紀と1983年に結婚)。

「ひとごろし」高橋2.jpg「ひとごろし」高橋.jpg ただ、この映画の中の女優でもっと目立っているのは、北陸の宿場町にある旅籠の女将・およう(本名はとら)を演じた高橋洋子(1953年生まれ)で、おようは「ひとごろし」呼ばわりされ別の旅籠を追い出された昂軒を宿泊させる一方、六兵衛の事情を知って暴力を嫌う彼の姿勢に共鳴し、旅籠を番頭に任せて六兵衛の旅に随い、六兵衛と共に昂軒に向かって「ひとごろし!!」と叫び続ける作戦に参加するという役どころです。撮影時は、五十嵐淳子、高橋洋子とも23歳で、高橋洋子は「サンダカン八番娼館 望郷」(1974年)などにすでに出演していたとはいえ、こうして見ると若いな~という感じがします。

「ひとごろし」vhs.jpg 武士道に対する風刺ドラマで、コミカルな松田優作、重厚な丹波哲郎、若々しい女優陣、シンプルなストーリーと、タイトルから受ける印象と少し違って肩が凝らずに愉しめる作品でした(珍品的プレミア価値を加味して星4つの評価とした)。

 因みに、原作では、この話は「偏耳録」という古記録の欠本を出典としているとし、その「偏耳録」によれば、双子六兵衛は上意討ちを首尾よく果たし、おまけに嫁まで連れて来たし(高橋洋子が演じた「およう」のこと)、その高い評判によって(五十嵐淳子が演じた)妹・かねも中老に息子と婚姻のはこびとなったとされています(もちろん「偏耳録」も含め全部フィクションだと思うが、このあたりが何となく本当にあった話みたいで上手い)。

ひとごろし」 (大映).jpg「ひとごろし」 (1976).jpg「ひとごろし」●制作年:1976年●監督:大洲齊●製作:永田雅一●脚本:中村努●撮影:牧浦地志●音楽:渡辺宙明●時間:82分●出演:松田優作/高橋洋子/五十嵐淳子/桑山正一/岸田森/永野達雄/西山辰夫/丹波哲郎●公開:1976/10●配給:大映(評価:★★★★)

【1972年文庫化[新潮文庫]】

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女主人公をイノセントとして描いている。原作を改変して成功している稀有なドラマ化例。

松本清張の種族同盟0.jpg 松本清張の種族同盟1.jpg 火と汐  ポケット文春 1968.jpg 火と汐  文春文庫 旧.jpg
土曜ワイド劇場「松本清張の種族同盟・湖上の偽装殺人事件」['79年/テレビ朝日]小川真由美/高橋幸治『火と汐 (文春文庫)
種族同盟 松本清張3.jpg松本清張ほか著/日本推理作家協会編『種族同盟―現代ミステリー傑作選1〈策謀・黒いユーモア編〉』(カッパ・ノベルス 1969.01)
 千鶴子(小川真由美)は旅館から旅館、仕事から仕事へと流れ歩く"渡り中居"。そんな千鶴子に思わぬ災難がふりかかる。彼女の色気に目をつけた議員秘書に犯され、誤って崖から突き落としてしまったのだ。そして、千鶴子は逮捕されてしまうが、一人の高い野望を抱いた男(高橋幸治)が国選弁護士となり、無罪判決を勝ち取るが―。原作は松本清張の中編推理小説で、「オール讀物」1967(昭和42)年3月号に掲載され、1968年7月に中短編集『火と汐』収録作として、文藝春秋(ポケット文春)から刊行されています(その後、文春文庫で文庫化)。また黒の奔流 01 -  コピー.jpg、カッパ・ノベルス『現代ミステリー傑作選1〈策謀・黒いユーモア編〉』('69年)に表題作として収録されています。渡邊祐介監督、岡田茉莉子・山崎努主演で、「疑惑」('82年/松竹)の10年前に「黒の奔流」('72年/松竹)として映画化されているほか、これまで以下3度テレビドラマ化されています。
渡辺 祐介 「黒の奔流」 (1972/09 松竹) ★★★★

 •1979年「松本清張の種族同盟・湖上の偽装殺人事件」(テレビ朝日)小川眞由美・高橋幸治・金沢碧
 •2002年「松本清張没後10年記念企画・黒の奔流」(テレビ朝日)渡瀬恒彦・さとう珠緒・純名里沙
 •2009年「松本清張生誕100年特別企画・黒の奔流」(テレビ東京)船越英一郎・星野真里・黒谷友香・賀来千香子

「松本清張の種族同盟・湖上の偽装殺人事件」('79年/テレビ朝日)小川真由美/高橋幸治/金沢碧
松本清張の種族同盟3.jpg松本清張の種族同盟 6.jpg この1979年版の小川真由美演じる被告は、映画版と同じく旅館の女中(渡り仲居)で(千鶴子、つまり原作で殺害される女性と同じ名前になっている)、彼女の色香に目をつけた客の議員秘書に犯され、彼を崖から渓流に突き落として死なせてしまいます。警察に捕まって尋問されますが、本人に殺意がなかったこともあってか無実を訴え、資力がないので国選弁護人をつけることになりますが、その案件引き受けた弁護士が、高橋幸治演じる矢野弁護士で(原作は一人称で語られるため、弁護士の名は出てこず、この「矢野」という名は映画と同じ名前)、その助手の金沢碧が演じる由基子は(これは原作でもそのことが示唆されているが)彼の愛人ということになっています(男女の入れ替えをはじめ、全体の設定としては原作より映画「黒い奔流」にずっと近い)。

阿刀田高.jpg 小説家の阿刀田高はその著書『松本清張あらかると』(1997年/中央公論社)で「種族同盟」のドラマの脚色を賞賛していて、少し長くなりますが引用します。

松本清張の種族同盟ド.jpg 「〈種族同盟〉のテレビ化は、実にみごとなものであった。もちろん小説を映像化して絶讃を受けた映画やテレビ・ドラマは他にもたくさんあるだろう。どちらかと言えば、テレビより映画のほうによい作品が多いような気がするけれど、テレビ化だって捨てたものじゃない。名品を次々に思い出すことができる。だが、私がここでことさらに〈種族同盟〉を挙げるのは、作品の筋が原作から大きく変更されたにもかかわらず、見どころのある物語をあらたに創っていたからである。しかもその変更の理由が(これはあくまで私の推測ではあるけれど)―テレビ的だなあ―と思いたくなるような、けっして本質的ではないものなのに、ドラマ化された結果は本質的な条件をクリアーしていた。ありていに松本清張の種族同盟・湖上の偽装殺人事件454.jpg言えば「小説をテレビ化するとき、テレビ局の側にもいろいろ事情はあるでしょう。しかし変更するなら、このくらい、熟慮して変えてください」と、あらまほしき例として挙げたくなるのが、この〈種族同盟〉のテレビ・ドラマ化であった。(中略)〈種族同盟〉のドラマ化は、原作のエンドマークの先にたっぷりと新しいものをつけたして違和感のないものとした。付加するならば、このくらいうまく繋げてほしい。主人公を男から女へ変えるなら、ここまで工夫してほしい。小説〈種族同盟〉と、テレビ・ドラマ化された映像と、どちらがよいかは、むつかしい問題ではあるけれど、私としては、「小説のほうは凄味があるけれど、陰鬱だからなあ。テレビのほうがある種の女のあわれさがよく出ていて、ここちはいいね」と言いたくなってしまう。いずれにせよテレビドラマ〈種族同盟〉は、原作を大きく変えて、しかも充分に成功した珍しい例、と、私は特筆大書したいのである。」

 個人的にも阿刀田氏とほぼ同意見で、やはり脚本が優れているのでしょう。原作や映画化作品と大きく異なるのは、小川真由美演じる千鶴子が"イノセント"として描かれていることで、彼女が無罪を訴えるのも自分は何も悪いことはしていないという"イノセント(無実)の心情"によるものであり、彼女の高橋幸治演じる弁護士に対する想いも"イノセント(純粋)な愛"であって、これが最後まで貫かれていました。弁護士が婚約しても、「先生の結婚は邪魔しない」と言い、妊娠を口実に結婚を迫った映画版とは真逆と言えるかもしれません。

8話)/悪魔のような美女 o.jpg松本清張の種族同盟4.jpg ただ、この"イノセント"を実際に演じるのは相当に難しいはずであり、それをリアリティをもって演じ切った小川真由美ってすごいなあと思いました。同じ「土曜ワイド劇場」枠で同年4月放映の「江戸川乱歩 美女シリーズ(第8話)/悪魔のような美女」('79年/テレビ朝日)で『黒蜥蜴』の緑川夫人(魔性の女賊・黒蜥蜴)を演じたばかりだったはずですが、演技の幅を感じます(出演映画では、前年の6月に「鬼畜」('78年/松竹)、この年の4月「復讐するは我にあり」('79年/松竹)が公開されている。まさに絶頂期)。

松本清張の種族同盟図9.jpg松本清張の種族同盟 t.jpg 最初の方で小川真由美演じる千鶴子と議員秘書の絡みがあって、しかも千鶴子がたまたまゆっくり走っていたトラックに飛び乗るシーンがあるので(これが意図せず時間トリックとなって彼女の無罪につながるのだが)、原作と違って言わば倒叙ミステリーになっています。その分、ミステリとしての意外性は削がれていることになりますが、ドラマはあくまでも千鶴子が主人公である作りなので、あまり気になりませんでした。

松本清張の種族同盟5.jpg松本清張の種族同盟6.jpg 高橋幸治(1935年生まれ)も悪くなかったです(映画で弁護士を演じた山崎努(1936年生まれ)と似た感じか)。NHKの大河ドラマ「太閤記」('65年)で織田信長、連続テレビ小説「おはなはん」('66年)で速水中尉を演じて人気を博した俳優です。山崎努より1歳年上なだけですが、今世紀に入ってから引退状態にあり、知らない人も多くなっているか...。

高橋幸治(矢野弁護士)/小川真由美(千鶴子)
金沢碧(由基子)
松本清張の種族同盟0.png 金沢碧は、事務所の助手・岡橋由基子役でしたが、原作や映画において弁護士を追いつめる元被告に代わって、由基子が弁護士を恐喝する役回りでした。ダーティな部分を全部引き受けた感じで、最後にドジを踏ん7話)/宝石の美女 kanazawa2.jpgで哀れな末路を辿りますが、どこかユーモラスで憎めない感じであり、その前に、基本"美人"です。実際、「江戸川乱歩 美女シリーズ(第8話)/宝石の美女」('79年)に"美女"役で出ており、これは小川真由美が出た「悪魔のような美女」の1話前になります(同シリーズ第15話「鏡地獄の美女」('81年)にも再度"美女"役で出ている)。

 小川真由美版のドラマ「種族同盟」は、改変して成功している稀有な例ですが、一つケチをつけるとしたら、「湖上の偽装殺人事件」というサブタイトルでしょうか。これって、視聴者を怖がらせるための、ある種"叙述トリック"のつもりなのかなあ。でも"偽装"しようとした側からすれば未遂に終わったわけで、未遂行為をタイトルにするのは如何なものでしょうか。

松本清張の種族同盟k.jpg松本清張の種族同盟1-.jpg「松本清張の種族同盟・湖上の偽装殺人事件」(土曜ワイド劇場)●演出:井上昭●脚本:吉田剛●音楽:津島利章●原作:松本清張●出演:小川真由美/高橋幸治/金沢碧/下条アトム(下條アトム)/加藤嘉/朝加真由美/中村竹弥/川合伸旺/進藤準/小島三児●放映:1979/05/26(全1回)●放送局:テレビ朝日(評価:★★★★☆)

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「寒流」が原作。原作とも映画とも異なる結末はイマイチだったが、俳優を見ていて愉しめた。

「愛の断層」1975.jpg「松本清張シリーズ・事故」dvd2.jpg 「愛の断層」11.jpg
土曜ドラマ 松本清張シリーズ 上巻 DVD 全5枚」「愛の断層」平幹二朗/香山美子/中谷一郎

「愛の断層」12.jpg 東陽銀行の支店長・沖野一郎(「愛の断層」13.jpg平幹二朗)は融資先の料亭の女将・前川奈美(香山美子)と深い仲になっていた。だが学生時代からの友人で常務の桑山英己(中谷一郎)は、二人の関係を訝って探[愛の断層_s2.jpg偵の伊牟田(殿山泰司)を使って二人の仲を突き止める。そして、自分の権限を使って沖野から出されていた奈美の店の支店出店のための資金融資の稟議を却下してしまう。その上で、自分と沖野と奈美の三人での温泉旅行を設定し、途中で沖野に帰るよう命じて、自分は奈美を奪ってしまう。失意の沖野は銀行を辞めようとするが、そんなある日、探偵の伊牟田から桑山常務と奈美の密会写真を提供される―。

黒い画集 00_.jpg黒い画集2.png黒い画集3.png黒い画集 第二話 寒流.jpg『黒い画集』 .jpg '75(昭和50)年放送された、NHK「土曜ドラマ」松本清張シリーズ版('75年-'78年)の第3作で、原作は、'59(昭和34)年4月から翌年7月にかけて光文社から刊行された『黒い画集』第1巻から第3巻の中の1つであり、鈴木英夫監督の「黒い画集 第二話 寒流」('61年/東宝)として、池部良(沖野一郎)、新珠三千代(前川奈美)、平田昭彦(桑山常務)の出演で映画化されてます。

 一方、ドラマ化作品は以下の通り。
 •1960年「寒流 (日本テレビ)」山根寿子・細川俊夫・安部徹
 •1962年「寒流 (NHK)」原保美・春日俊二・環三千世
 •1975年「松本清張シリーズ・愛の断層 (NHK)」平幹二朗・香山美子・中谷一郎
 •1983年「松本清張の寒流 (テレビ朝日)」:露口茂・山口崇・近石真介
 •2013年「松本清張没後20年スペシャル・寒流 (TBS)」椎名桔平・芦名星・石黒賢
月曜ゴールデン「寒流~黒い画集より」.jpg
2013年・TBS月曜ゴールデン「松本清張没後20年スペシャル・寒流」椎名桔平・芦名星(1983-2020/36歳没)

 このNHK版だけ「愛の断層」というタイトルなので、原作が「寒流」であることを見過ごしている人もいるかもれないと思われます。原作は、銀行員である主人公が踏んだり蹴ったりの目に遭いますが、最後に策を凝らして逆転すると言うか常務を罠に嵌める復讐劇になっています。

「黒い画集 第二話 寒流(黒い画集 寒流)」(1961/11 東宝) ★★★☆ 出演:池部良/新珠三千代
黒い画集 寒流01.jpg黒い画集 寒流03.jpg 一方、鈴木英夫監督の映画の方は、原作同様、主人公(池部良)が仕事上のきっかけで美人女将(新珠三千代)と知り合い、いい関係になったまではともかく、そこに主人公の上司である好色の常務(平田昭彦)が割り込んできて、主人公の仕事人生をも狂わせてしまうというものですが、主人公は原作と異なり、踏んだり蹴ったりの散々な目に遭うだけ遭って、反撃策を講じても相手に裏をかかれ、ただ敗北者で終わってしまう結末になっています(鈴木英夫監督は、欲に駆られて自滅する人間や犯罪者を描いた和製フィルム・ノワール的作品を得意とした)。

「愛の断層」14.jpg そして、このNHKの中島丈博(「無宿 やどなし」('74年)、「祭りの準備」('75年)、「女教師」('77年))脚本版は、どちらでもない結末でした。殿山泰司演じる探偵の伊牟田が、平幹二朗演じる沖野の前に現れる以前に、中谷一郎演じる桑山常務の依頼を受けて、香山美子演じる奈美と沖野の関係を密偵したことがあったというのはドラマのオリジナルです。桑山常務と奈美の密会写真を沖野に渡すのは原作と同じですが(ただし、桑山常務の対抗勢力である"副頭取派"に渡すよりも、写真をどうするか沖野に判断して欲しかったとの注釈がつく)、沖野が奈美といる旅館へ桑山常務を呼び出したり、その際に奈美が問題の写真をこっそり奪ったりと、この辺りはドラマのオリジナルで、どんどん原作と違った方向に行くなあという感じがしました。

「愛の断層」18.jpg.png.jpg 沖野が銀行を辞めるというのもドラマのオリジナルですが、原作とも映画とも決定的に異なるのは、沖野が奈美のところへ出向いて写真もネガも燃やして欲しいと頼むところで、奈美はそれを拒絶し、副頭取に送ると言い放ったために二人は揉み合いに。最後は転落事故でしたが、「無理心中」にされているということは、事故&自殺というこ「愛の断層」16.jpgとなのでしょう。それはともかく、どうして最後に沖野が桑山を守るような行動をとったのが謎で、ラストシーンで、むっつり顔の沖野の遺影が桑山にニヤッと微笑みかけるといったシュールなオチから逆算すると、沖野と桑山は最後まで友情で結ばれていたことになります。

「愛の断層」19.jpg しかしながら、最初に三人で旅館に行った際に、桑山が沖野に自分の背中を流せと言ってマウントしたのに対し、後に沖野が桑山を旅館に呼び出したときは沖野が桑山に自分の肩を揉めと言って(どちらもドラマのオリジナル)、権力の見せつけ行為とその仕返しという関係になっていただけに、その底流に「友情」があったとはちょっと理解しがたい気もします(友情と言うよりホモセクシャルな関係ととる人もいるようだ)。

黒い画集 寒流 ド.jpg 一方、奈美の自殺は沖野が死んだショックからのものと考えられ、結局、奈美は沖野を好きだったのだろなあ。原作でも映画でも、奈美は最後は沖野に「はっきり言って、自分より惨めに見える人、好きになれないわ」と絶縁宣言し、そのファム・ファタールぶりを露わにするのですが(新珠三千代が役に嵌っていた)、ドラマの香山美子演じる奈美は、桑山に抱かれた時こそ騙し討ちに遭った気持ちだったけれども、ホントは最後まで沖野のことを好きだったのではないかと考えます。

「愛の断層」香山.jpg
 同じ「松本清張シリーズ」で、この作品の翌週に放送された「事故」もそうでしたが、この頃のこのシリーズ、脚本家の意図かどうかは分かりませんが、メロドラマ的改変が多いように思います。「愛の断層」の場合、原作「寒流」やその映画化作品と異なり、総会屋(映画では志村喬が演じた)ややくざ(映画では丹波哲郎が演じた)も出てこず、「愛の断層」17.jpg.pngタイトルからしてそうですが、主人公の男女の恋愛心理に重点を置いている印象。原作から改変された結末は個人的にはイマイチでしたが、平幹二朗、中谷一郎、殿山泰司といった俳優たちの手堅い演技と、奈美を演じた香山美子(当時31歳)の美貌が堪能で「愛の断層」清張.jpgきるドラマでした。香山美子はこの2年後に「江戸川乱歩の陰獣」('77年/松竹)で初ヌードを披露することになりますが(本作にでも情事の場面がある)、一方で、時代劇「銭形平次」('70年‐'84年/フジテレビ)で平次の妻・お静役を長く務めました。因みに、この「松本清張シリーズ」12作すべてに原作者・松本清張がカメオ出演しています。

松本清張(タクシー運転手)

松本清張シリーズ・愛の断層  20.jpg「愛の断層」t.jpg「松本清張シリーズ・愛の断層」●演出:岡田勝●脚本:中島丈博●音楽:眞鍋理一郎●原作:松本清張「寒流」●出演:平幹二朗/香山美子/中谷一郎/殿山泰司/高田敏江/森幹太/鈴木ヒロミツ/山崎亮一/松村彦次郎/鶴賀二郎/望月太郎/テレサ野田/桂木梨江/石黒正男/戸塚孝/小林テル/本田悠美子/風戸拳/西川洋子/松本清張(クレジット無し)●放送日:1975/11/01●放送局:NHK(評価:★★★)


●「土曜ドラマ(第1次・第2次)」松本清張シリーズ(全15話)放映ラインアップ
        放送日   脚本/演出       出 演 (《第1次》は松本清張本人がすべてに出演)
《第1次》
 1975年
  遠い接近  10月18日  大野靖子/和田勉   小林桂樹、笠智衆、吉行和子、荒井注
  中央流沙  10月25日  石松愛弘/和田勉   川崎敬三、佐藤慶、内藤武敏、中村玉緒
  愛の断層   11月1日    中島丈博/岡田勝   平幹二朗、香山美子、中谷一郎、殿山泰司
  事故    11月8日   田中陽造/松本美彦   田村高広、山本陽子、野際陽子、二瓶康一(火野正平)
 1977年
  棲息分布   10月15日  石堂淑朗/和田勉   滝沢修、佐藤慶、津島恵子、中山麻里
  最後の自画像  10月22日 向田邦子/和田勉   いしだあゆみ、加藤治子、内藤武敏、乙羽信子
  依頼人    10月29日  山内久/高野喜世志   太地喜和子、小澤栄太郎、二木てるみ、沖雅也
  たずね人   11月5日   早坂暁/重光亨彦   林隆三、鰐淵晴子、小山明子、戸浦六宏
 1978年 
  天城越え    10月7日   大野靖子/和田勉   大谷直子、佐藤慶、鶴見辰吾、中村翫右衛門
  虚飾の花園   10月14日  高橋玄洋/樋口昌弘    岡田嘉子、奈良岡朋子、内藤武敏、河原崎建三
   一年半待て   10月21日  杉山義法/高野喜世志   香山美子、早川保、南風洋子、藤岡弘
  火の記憶    10月28日  大野靖子/和田勉    高岡健二、秋吉久美子、村野武憲、山内明
《第2次》
  天才画の女   1980年4月5日・12日・17日  高橋康夫/高橋玄洋  竹下景子、佐藤慶、 鹿賀丈史、篠ひろ子
  けものみち   1982年1月9日・16日・23日  和田勉/ジェームス三木 名取裕子、山崎努、 西村晃、伊東四朗
  波の塔  1983年10月15日・22日・29日  和田勉/ジェームス三木 佐久間良子、山崎努、 鹿賀丈史、和由布子
土曜ドラマ 松本清張シリーズ3.jpg

「遠い接近」('75年)/「中央流沙」('75年)/「最後の自画像」('77年)/「天城越え」('78年)/「火の記憶」('78年)/「けものみち」('82年)

土曜ドラマ 松本清張シリーズ 上巻 DVD 全5枚
土曜ドラマ 松本清張シリーズ1.jpg「遠い接近」(1975/10/18放送)
 昭和23年(1948)、三重県・御在所山の崖から男が突き落とされて死亡。事件の裏には、戦争の傷跡が深く刻まれていた。昭和17年(1942)、自営の印刷色版画工・山尾に召集令状が届く。入隊後は古参兵にいじめられ、朝鮮の前線部隊へ配属、復員すると家族は広島の原爆で亡くなっていた。山尾はふとしたことから自分の召集のカラクリを知り、人生を奪った相手に復讐の炎を燃やす。

「愛の断層」(1975/11/1放送)(原作「寒流」)
 沖野一郎は銀行支店長に就任早々、前支店長から料亭の女将・前川奈美を紹介される。やがて二人は深い仲に。奈美から八千万円の融資を頼まれた沖野は、学生時代からの友人で上役の桑山常務に了解を求めるが、桑山は奈美の体と引き替えという条件を出す。沖野は理不尽な条件に内心憤りつつも逆らえない。若くして支店長になれたのも桑山あってこそ。ある日、沖野は見知らぬ男から桑山と奈美の密会写真を提供され...。

「事故」(1975/11/8放送)
 興信所の調査員・浜口久子は、会社重役夫人・山西三千代の浮気調査を担当する。三千代の情事の確証を得るため、知り合いのトラック運転手に頼んで、夫の留守に山西邸の玄関に突っ込むという事故を起こさせる。現場に待機していた久子は、慌てて2階から下りてきた三千代と愛人を見て衝撃を受ける。なんと三千代の密会相手は、久子が勤める興信所の所長だった...。

「棲息分布」(1977/10/15放送)
 井戸原俊敏は戦時中に軍の物資を横領し、敗戦のどさくさに闇屋から巨財を築いた男。あくどく冷徹に会社を乗っ取り、利権を求めて政界の有力代議士にも近づこうとする。井戸原の過去を握る根本常務は元憲兵で、それをネタに井戸原に一泡吹かせ、金を引き出そうとたくらむ。さらに井戸原の妻や愛人たち、井戸原夫婦の情事をかぎつけたゴシップ記者などもからんで...。

「最後の自画像」(1977/10/22放送)(原作「駅路」)
 定年を迎え、第二の人生を前に小旅行に出かけた小塚貞一。一か月たっても戻らないため、妻の百合子は安否を気遣い捜索願いを出す。二人の刑事が捜索に当たるが、誰に聞いても小塚は謹厳実直で、社内の信頼も厚く、浮いた噂ひとつない。趣味といえば写真と旅行だけ。ところが、その小塚が旅に出る前、銀行から500万円を引き出していたことが判明。さらに、一人の若い女性の存在が浮上して...。

土曜ドラマ 松本清張シリーズ 下巻 DVD 全5枚
土曜ドラマ 松本清張シリーズ2.jpg「依頼人」(1977/10/29放送)(原作は小説としては存在せず)
 美容院を営む佐伯伊佐子は、ある会社会長の愛人で、店も会長に買ってもらったものだ。その会長が息を引き取ると、顧問弁護士の沼田が伊佐子に接触してくる。遺族の意向で伊佐子の出方を探るのが目的だったが、沼田は土地問題で悩んでいた伊佐子の弱みにつけ込み、自分の愛人にしようと画策し始める。追い詰められた伊佐子を、若手弁護士・河村亮平が助けようとするが、法曹界の壁が立ちはだかる。

「たずね人」(1977/11/5放送)(原作は小説としては存在せず)
 3年ぶりに帰国したカメラマンの綾村省三は、オランダで出会ったルキアという女性を連れていた。彼女は日本軍人の父とインドネシア人の母との間に生まれた子どもで、終戦直後に別れた父親を捜しに来日しただった。綾村とルキアはテレビの人捜し番組に出演するが、手がかりは「サイトウ少尉」という名前と、父が母に教えた「砂山」という歌だけだった。

「虚飾の花園」(1978/10/14放送)(原作「獄衣のない女囚」)
 リバーウエストマンションの10階に住むのは、独身女性ばかり。住人の一人で社長秘書の服部和子は、屋上で女性の死体を発見する。死んだのはマンションの住人ではない山本菊江で、他殺と断定。担当刑事らは、動機や犯行時間から容疑者を3人に絞る。元外交官夫人の栗宮多加子、洋裁学校教師の村瀬妙子、そして、モデルの南恭子。捜査が進むにつれて、中年を過ぎた独身女性たちの隠された一面が浮上してきて...。

「一年半待て」(1978/10/21放送)
 郊外の交番に、「夫を殺しました」という子連れの女が自首してきた。女は保険外交員の須村さと子。二人目の子どもができたころに夫の会社が倒産。働きに出たさと子の稼ぎが増えるにつれて、無職の夫は酒と賭博と女に明け暮れるように...。ある日、さと子は、酒を飲んで子どもに乱暴する夫を殺してしまう。世間は彼女に同情して嘆願書も集まり、執行猶予つきで刑は軽くなりますが、再出発を前に新しい事実が浮かび上がる。

「火の記憶」(1978/10/28放送)
 高村泰雄は父の顔を知らず、母もすでにこの世にはいない。記憶を閉ざしていた泰雄は、母の十七回忌に見つけた一枚のはがきを手がかりに、恋人とともに過去を探す旅に出る。母と暮らした幼い日々を思い出すと、なぜか"火の記憶"がよみがえり、母のそばには父ではない一人の男が寄り添っていた。封印していた過去の扉を開き、事実が明らかになるにつれて、泰雄の心は次第に解き放たれていく。


池部良/新珠三千代/平田昭彦
黒い画集 寒流 title.jpg黒い画集 寒流00.jpg「黒い画集 第二話 寒流(黒い画集 寒流)」(映画)●制作年:1961年●監督:鈴木英夫●製作:三輪礼二●脚本:若尾徳平●撮影:逢沢譲●音楽:斎藤一郎●原作:松本清志「寒流」●時間:96分●出演:池部良(沖野一郎)/荒木道子(沖野淳子)/吉岡恵子(沖野美佐子)/多田道男(沖野明黒い画集 寒流_0.jpg)/新珠三千代(前川奈美)/平田昭彦(桑山英己常務)/小川虎之助(安井銀行頭取)/中村伸郎(小西副頭取)/小栗一也(田島宇都宮支店長)/松本染升(渡辺重役)/宮口精二(伊牟田博助・探偵)/志村喬(福光喜太郎・総会屋)/北川町子(喜太郎の情婦)/丹波哲黒い画集 第二話 寒流12.jpg郎(山本甚造)/田島義文(久保田謙治)/中山豊(榎本正吉)/広瀬正一(鍛冶久一)/梅野公子(女中頭・お時)/池田正二(宇都宮支店次長)/宇野晃司(山崎池袋支店長代理)/西条康彦(探偵社事務員)/堤康久(比良野の板前)/加代キミ子(桑山の情婦A)/飛鳥みさ子(桑山の情婦B)/上村幸之(本店行員A)/浜村純(医師)/西條竜介(組幹部A)/坂本晴哉(桜井忠助)/岡部正(パトカーの警官)/草川直也(本店行員B)/大前亘(宇都宮支店行員A)/由起卓也(比良野の従業員)/山田圭介(銀行重役A)/吉頂寺晃(銀行重役B)/伊藤実(比良野の得意先)/勝本圭一郎/松本光男/加藤茂雄(宇都宮支店行員B)/細川隆一/大川秀子/山本青位●公開:1961/11●配給:東宝(評価:★★★☆)

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ミステリ、サスペンスとして愉しめ、メロドラマ的だが情感があり、ラストの改変も悪くない。

「松本清張シリーズ・事故」dvd1.jpg「松本清張シリーズ・事故」dvd2.jpg 「事故」1975.jpg 「事故」m.png
土曜ドラマ 松本清張シリーズ 上巻 DVD 全5枚」佐野浅夫/山本陽子/野際陽子/田村高廣/二瓶康一(火野正平)/千昌夫/渡辺文雄 松本清張『事故』(文春文庫)
「松本清張シリーズ・事故」00.jpg「松本清張シリーズ・事故」01.jpg ある晩、民家の玄関先にトラックが突っ込む事故が起きる。事故を起こしたのは運送会社のトラック運転手の山宮健次(二瓶康一(火野正平))。突っ込んだ先は会社重役宅で、夫人の山西三千代(山本陽子)が寝間着姿で出てきた。後日、運送会社の事故担当の高田(佐野浅夫)は山西宅に謝罪に行くが、三千代夫人が出てきて、夫は「出社」していると言う。その頃、興信所の調査員・浜口久子(野際陽子)は、所長の加納(田村高廣)に辞職を申し出てい「松本清張シリーズ・事故」02.jpgた。有能な部下の突然の辞意を訝しがる加納。久子は、山西三千代の浮気調査を担当していた。実はトラック事故は、久子が三千代夫人の情事の確証を得るため、自分の年下の愛人である山宮に頼んで、夫の留守に山西邸の玄関に突っ込ませたという人為的なものだった。一方、それ以前に加納は、三千代夫人から夫の山西省三(渡辺文雄)の浮気調査の依頼を受けていた。そして、山西の浮気の確証がを得るも、三千代夫人は現場を押さえることなく加納の胸に飛び込んできたのだった。そして今度は、妻の浮気を「松本清張シリーズ・事故」03.png疑った山西が加納の興信所へ調査依頼にきて、それを担当していたのが調査員の浜口久子だった。山宮に事故を起こさせた際に現場に待機していた久「松本清張シリーズ・事故」04.png子は、慌てて二階から下りてきた三千代夫人とその愛人を見て、三千代夫人の密会相手が自分が勤める興信所の所長の高田だったとわかり衝撃を受けたのだった。彼女がそのことを吹き込んだテープを聴いた加納は、同じものを彼女が山西に送れば身の破滅であると悟り、久子と山宮の殺害を決心する―。山梨県「松本清張シリーズ・事故」05.jpg内で同じ日に久子と山宮の死体があがる。遺体安置所には山宮の遺体と久子の遺体が並べられ、運送会社の高田が山宮の遺体確認のためそこを訪れた際には、加納も久子の遺体確認に来ていた。高田にすれば、片や自分の会社の社員で、片やその社員がトラックで突っ込んだ家の夫人である。高田はふと山宮が起こした事故に不自然なものを感じ、山宮の死と久子の死は関連があるのではないかとの疑念を抱く。山宮の事故当時の相方の運転手だった佐々(千昌夫)に事情を訊くなどするうちにその疑念は確証に代わり、加納と久子が公園で逢っているところを直撃して牽制する。しかし、山宮の死体と久子の死体は同じ県内とは言え50キロ離れた場所で見つかっており、その謎が高田にはまだ解けなかった―。

「事故」ぽk.jpg '75(昭和50)年放送のNHK「土曜ドラマ」松本清張シリーズ版('75年-'78年)の第4作で、原作は松本清張が「週刊文春」1962(昭和37)年12月31日号・1963(昭和38)年1月7日号合併号から1963年4月15日号まで、「別冊黒い画集」第1話として連載した文庫で200ページほどの小説です。因みに、過去5回のドラマ化は、帯番組も含め以下の通りとなっています。
 ・1972年「真昼の月(CX)」[全50回]市川和子・土屋嘉男・下條正巳
 ・1975年「松本清張シリーズ・事故(NHK)」田村高廣・山本陽子・佐野浅夫 
 ・1982年「松本清張の事故 (ANB)」山口崇・松原智恵子・中尾彬
 ・2002年「松本清張スペシャル・事故 (NTV)」古谷一行 ・斉藤慶子 ・十朱幸代
 ・2012年「松本清張没後20年特別企画 事故〜黒い画集〜(TX)」高橋克実 ・京野ことみ

 新しいものになるほど原作からの改変の度合いが大きいようですが、この田中陽造(鈴木清順監督「恐怖劇場アンバランス(第1話)/木乃伊の恋」('70年)/「ツィゴイネルワイゼン」('80年)の脚本)による脚本のNHK版は、途中までは比較的原作に忠実ではなかったでしょうか。ただ、原作が事件がいったん迷宮入りした後、不審に思った刑事が再捜査するのに対し、このドラマ版では、佐野浅夫演じる運送会社の事故担当の高田が"探偵役"になっています(ただし、この"探偵"、犯人の確証が得られたら、犯人から息子の大学進学費用300万円をゆすりとろうとするのだが)。

 夫(渡辺文雄)の浮気調査の依頼主(山本陽子)と依頼された興信所の所長(田村高廣)とが矩を越えた禁断の関係に陥ってしまい、その秘密を知った女調査員(野際陽子)とその協力者である彼女の愛人(火野正平)を局長が自分の職業的地位を守るため殺害するのは原作と同じです(原作では女調査員は真面目にこつこつ調査することだけが取柄だが、ドラマでは野際陽子が演じることで"有能な"調査員になっている)。さらに、その夫が今度は妻の浮気を疑って調査を依頼してくるのも同様です(実はその依頼した相手こそが妻の浮気相手だったということなのだが)。

 原作は途中から興信所の局長の自身の犯行の回想が入る変則的な倒叙法と言えるものでしたが、ドラマの方はもっと早くから田村高廣演じる所長が登場して、野際陽子演じる女調査員が辞めるという話もほとんど冒頭に出てくるため、つまり原作の回想をリアルタイムにしていることになります。そして、犯人が追いつめられて犯行を決意するまでが描かれていて、実際の犯行はその後で行われるのですが、スタイルとしてはよりオーソドックスな倒叙法になっているとも言えます(ちょうどNHKで「刑事コロンボ」を放映していた頃だなあ)。

「事故」m3.png.jpg ただ、泥臭い犯行場面は割愛して佐野浅夫が演じる運送会社の高田の推理に任せることとし、田村高廣と山本陽子が不倫関係に陥ってしまった男女を情感豊かに演じることに注力した、メロドラマ的色合いが濃い作りになっていますが、これはこれでいいのでは。その流れで、ラストは"道行き"のような感じで、報道上はこれも「事故」の1つに過ぎないという、冒頭のトラックの「事故」が実は人為的なものだったということに絡めたオチでもありました。

「事故」hino.jpg「松本清張シリーズ・事故」06.jpg ミステリとしてもサスペンスとしても楽しめ、「寒流」が原作の前作「愛の断層」同様にメロドラマ色が強いけれど演技力のある俳優が演じているのでしっとりした情感が出ていてよく、ラストの改変も悪くなかったです。火野正平や渡辺文雄といった脇役陣の演技まで愉しめるし、なぜか「事故」清張 m.png.jpg千昌夫が火野正平の同僚のトラック運転手役で出ていた「事故」m4.png.jpgり、公園の遊具の整備係の役で原作の松本清張がカメオ出演していたりもします。ドラマ化作品の中ではよく出来ている方だと思います。

松本清張(公園の遊具の整備係)

「松本清張シリーズ・事故」●演出:松本美彦●脚本:田中陽造●音楽:眞鍋理一郎●原作:松本清張●出演:田村高廣/山本陽子/佐野浅夫/野際陽子/渡辺文雄/二瓶康一(火野正平)/千昌夫/松本清張(クレジット無し)●放送日:1975/11/08●放送局:NHK(評価:★★★★) 

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ドラマ「新宿警察」の原作。粒ぞろいだが、「新宿心中」が一番か。

I新宿警察I (双葉.jpg新宿警察 tv4.jpgseijyugakuen.jpg聖獣学園 [DVD]」(多岐川裕美)
新宿警察I (双葉文庫)』['09年] TVドラマ「新宿警察」北大路欣也/藤竜也/財津一郎/花沢徳衛/小池朝雄 
新宿警察1-4.jpg新宿警察 tv図2.jpg '75年9月から'76年2月にかけてCX系で放映された北大路欣也主演のドラマ「新宿警察」の原作です。既刊の『新宿警察』('75年/双葉社)を分冊したもので、本書に収められているのは「新宿警察」「復讐の論理」「若い刑事」「新宿心中」「ズベ公おかつ」の全5篇です(残りは『慈悲の報酬-新宿警察Ⅱ』に収められ、さらに『続新宿警察』('75年/双葉社)』も分冊化され、『所轄刑事-新宿警察Ⅲ』『新宿生餌-新宿警察Ⅳ』に収められている)。当初からの物語の主要メンバーは、主人公の新宿署の根来、課長の仙田(ドラマでは主任)、署の生き字引と言われる徳田、後に根来の妹・登志子(ドラマでは戸志子)の婚約者となる戸田などです。

新宿警察 仙田.jpg「新宿警察」... 新宿の街に若い女性に硫酸を浴びせる硫酸魔が出没。新宿署の仙田らは、地道な調査を続け、犯人の特定と犯人の次のターゲットの保護を目指す―。ちようど今年['21年]8月に、東京・港区の東京メトロ白金高輪駅で硫酸を使った傷害事件が起きたばかりで、怖いなあと思いながら読みました。新聞報道によれば、今回の事件は、警視庁が容疑者の男の逮捕までに駅や街中の防犯カメラ約250台を解析していたとのこと。時代は変わったのか変わっていないのか。初出は「推理ストーリー」1968年3月号ですが、Kindle版監修の杉江松恋氏によれば、タイトルは同年刊行の『新宿警察』('68年/報知新聞社)を意識したのではないかとのことです(ドラマ「新宿警察」で仙田を演じたのは小池朝雄)。

新宿警察 登志子.jpg新宿警察 根来.jpg「復讐の論理」... 静岡の刑務所を脱獄した犯人。かつて、船上での逮捕時に、情婦が彼を逃がすために時間を稼ごうと身投げして命を絶ったことから、彼を追い詰めた新宿署の刑事・根来を憎んでいた。脱獄犯は東京に潜入し、ついには根来の唯一の肉親である妹・登志子の住むアパートの屋上に現れる。手にライフルを携えて―。これもハラハラドキドキさせられます。昭和のマンションって屋上が住民たちの洗濯物干し場になっていたのだなあ。そう言えば学校や会社の建物にも屋上があり、バレーボールとかやっていた...(ドラマ「新宿警察」で根来を演じたのは北大路欣也、登志子を演じたのは多岐川裕美)。

「駈けだし刑事」.jpg「駆けだし刑事」1.jpg.png「若い刑事」... 今は亡き敏腕刑事を父に持つ正介は、大学を卒業して金融会社の社長秘書になるも、実はその会社はブラック企業だったために退職、警察学校を経て警官になって1年後、新宿署の刑事に抜擢される。その正介が担当した事件が、前の勤務先のブラック企業絡みのものだった―。若い刑事の成長物語。散々な目に遭って、自分には刑事は向かない、もう辞めてやると思った頃に、傍から見ると"デカ"らしくなっているというのが可笑しいです。1959(昭和34)年に雑誌に発表されたシリーズのパイロット版的作品(シリーズ第1作)です(短編集『若い刑事』('60年/彌生書房)として刊行されたが、 表題作「若い刑事」のみがシリーズ作品)。この「若い刑事」は、「駈けだし刑事」('64年/日活)として前田満洲夫監督、長門裕之主演(共演:長谷百合・伊藤雄之助・高品格)で映画化されていますが、個人的には未見です。

新宿警察 山辺.jpg「新宿心中」... 若い女性を香港や台湾に売り飛ばすことを業としている組織を挙げるために新宿署も協力することになる。仙田は、柔道五段剣道三段の猛者・山辺に担当させることにするが、彼の妻は、山辺と彼の仕事のことで喧嘩したはずみに事故に遭い、寝たきりで精神状態も不調で、山辺ともろくに話さない―。辛い話だなあと。事件の方は無理心中事件の謎解きを経て、組織のアジトへの警官隊の突入にへ。事件が解決したところで、山辺と妻との関係も希望が持てるものに改善。最初が辛かっただけに、カタルシス効果が大きかったです。5篇の中では個人的にはこれが一番良かったです(ドラマ「新宿警察」で山辺を演じたのは財津一郎)。

「ズベ公おかつ」...冒頭の「新宿警察」で危うく硫酸魔の餌食になりかけた"おかつ"。ホントは気のいい女なのだが、新宿西口の寿司屋で大乱闘事件を起こしたために、根来は、おそらく彼女が潜伏している故郷・尾道の島まで彼女を逮捕しにいく途上である。彼女が自分に淡い恋情を抱いだいていることは根来も感じており、どうもやりにくい―。刑事ものにしてはロマンスとユーモアが感じられる一篇でした。

 短篇集ながらその事件の多くが多重構造になっていて、なかなか一直線には解決できず、刑事たちの地道な捜査が続きます(ドラマにおいても「『太陽にほえろ!」と同じ新宿を舞台にしながら、刑事たちを決してヒロイックには描いていなかった)。その一方で、多重構造になっていている分、思わぬところから解決への糸口が見えたりもし、実際の捜査や事件解決ってこんな感じなのだろうなというシズル感がありました。また、全体に昭和の雰囲気も感じられました(監視カメラもなければスマホもない時代だったからなあ)。

 藤原審爾は『秋津温泉』を読み、岡田茉莉子主演の映画「秋津温泉」('62年/松竹)を最近観ましたが、それとはまったく異なる作風の作品で、所謂"警察小説"と言われるものです。この「新宿警察」シリーズは数十年にわたり100篇以上書かれたのではないとも言われていますが、確認されているのは58篇ぐらいで正確な全容は分からないそうです(この問題は、1994年刊行の『活字探偵団』(本の雑誌社)でも取り上げられている)。

『活字探偵団』(1994//10 本の雑誌社)
「新宿警察」書誌0.jpg
「新宿警察」書誌.jpg

藤原審爾
藤原審爾2.jpg 文芸評論家の細谷正充氏の文庫解説によれば、作者の自伝的随筆の中に、「今、当時の作品表をみてみると、(昭和)44年のその頃からは、
 新宿警察もの
 ユーモア昭悦
 動物小説、
その三種の作品が圧倒的に多い」とあるそうで、警察小説だけでないところがスゴイです(動物小説については、1972年発表の動物小説集『狼よ、はなやかに翔べ』などがある)。

 実際、先に挙げた映画「秋津温泉」ばかりでなく、自分が観たものに限っても、市川雷蔵主演の映画「ある殺し屋」('67年/大映)、「ある殺し屋の鍵」('67年/大映)の原作も藤原審爾(雰囲気は警察ものにやや近いか)、森繁久弥・倍賞美津子主演の「喜劇女は男のふるさとヨ」('71年/松竹)の原作も藤原審爾です。文芸的な雰囲気の恋愛もの、警察もの、時代劇、ハードボイルド、お色気ユーモア小説と、これだけ異なる得意ジャンルを持った作家も珍しいと思います。

聖獣学園 takigawa.jpg 因みに、ドラマでの根来(北大路欣也)の妹・登志子(ドラマでは戸志子)を演じた多岐川裕美は、ドラマ出演の前年に成人漫画を映画化した鈴木則文(1933- 2014/80歳没)監督の「聖獣学園」('74年/東映)でデビューしており、この映画は修道院を舞台にしたエロティック・バイオレンスで、多岐川裕美がヌードを披露する他、拷問シーンなど体当たりの演技を見せました。封切り当時は全くヒットせず、忘れ去られた映画になっていましたが、多岐川裕美が清純派イメージで人気を高めていた1980年頃、かつて映画でヌードになっているとメディアに取り上げられて再公開されています。個人的には'83年に新宿昭和館でo0聖獣学園.jpg観ましたが、多岐川裕美の学芸会的演技ぶりでその時の個人的評価は×(★★)、ただし、後に多岐川裕美が"嫌々脱がされた"と訴え、そのことで鈴木則文監督から逆提訴されそうになったとの話もあったりして、いろいろな意味でレアものであるとのことでオマケで△(★★☆)に。ウィキペディアに<よれば、日本におけるナンスプロイテーシ聖獣学園 1974すち.jpgョン映画(尼僧や女子修道院を主題とするエクスプロイテーション映画)の傑作とのことですが、ひとえに後に多岐川裕美が有名女優になったことによるのではないかという気がします。三原葉子(修道院の副院長)や渡辺文雄(司祭)、谷隼人やたこ八郎が出演していて、作家の田中小実昌なども出ています。
山内えみ子(絵美子)/多岐川裕美

「新宿警察」多岐川.jpg 多岐川裕美はこのドラマ出演中に人気が急上昇し、元の「新宿警察」の方の出演が多忙中の綱渡りになってしまったため、最初の内は事件に関与していたりしたものの(第2話「地下水道」)、後は第21話「新宿心中」、第22話「新宿・初恋」で事件に絡む程度でした。最終回の序盤で、ネグリジェ姿のままエプロンをつけ、朝ご飯の支度新宿警察 多岐川.jpgをしている場面があり、兄の根来に「いくら兄貴の前だって、服くらい着ろよ」とたしなめられますが、当時の一部の視聴者が多岐川裕美に求めていたイメージ的役割に応えたともとれます(ただし、これはドラマ用に作ったシーンではなく、本書所収の「復讐の論理」の冒頭に実際に同じようなシチュエーションで兄妹がこうしたやりとりをする場面がある)。'76年にNHKの大河ドラマ「風と雲と虹と」で主人公の平将門が求婚する性に奔放な女性・小督(こごう)を演じ、'78年にはテレビドラマ版「飢餓海峡」のヒロイン役でヌードを拒否し、浦山桐郎監督と揉めて降板しています(この頃から清純派志向になったか)。NHK大河ドラマの方は、その後も「草燃える」('79年・実朝の妻・音羽役)、「峠の群像」('82年・竹島素良役)、「山河燃ゆ」('84年・ 畑中(天羽)エミー役)に出多岐川 NHK.jpg演したほか、同じくNHKドラマの「風神の門」('80年・ 隠岐殿役)にも出演、さらに80年代後半ではフジテレビドラマ「鬼平犯科帳」シリーズで長谷川平蔵(二代目中村吉右衛門)の妻・久栄を長らく演じるなどし、すっかり貞淑妻路線を行っていたように思います。
多岐川裕美 in「風と雲と虹と」('76年)/「草燃える」('79年)/「風神の門」('80年)
「鬼平犯科帳」('89年 -'07年、スペシャル含む)
鬼平犯科帳 多岐川2.jpg

新宿警察 コレクターズDVD.jpg新宿警察 9.jpg「新宿警察」●監督:真船禎/原田雄一ほか●脚本:江里明(小川英)/尾中洋一/永原秀一/池田一朗ほか●音楽:クニ河内●原作:藤原審爾●出演:北大路欣也/藤竜也/財津一郎/三島史郎/司千四郎/花沢徳衛/小池朝雄/多岐川裕美●放映:1975/09~1976/02(全26回)●放送局:フジテレビ

新宿警察 コレクターズDVD <デジタルリマスター版>

0新宿警察 4.jpg   

聖獣学園 dvd.jpg「聖獣学園」p.jpg「聖獣学園」●制作年:1974年●監督:鈴木則文●脚本:掛札昌裕/鈴木則文●撮影:清水政夫●音楽:八木正生●原作:鈴木則文/(画)沢田竜治●時間:91分●出演:多岐川裕美/山内えみこ(恵美子→絵美子)/谷隼人/渡辺やよい/大谷アヤ/城恵美/田島晴美/石田なおみ/美和じゅん子/大堀早苗/村松美枝子/謝秀客/竹村清女/早乙女りえ/谷本小代子/森秋子/山本緑/衣麻遼子/マリー・アントワネット/木村弓美/木挽輝香/鈴木サチ/根岸京子/三原葉子/山田甲一/田中小実昌/小林[三原葉子.jpgwatanabehumio.jpg千枝/章文栄/太古八郎(たこ八郎)/渡辺文雄●公開:1974/02●配給:東映●最初に観た場所:新宿昭和館(83-05-05)(評価:★★☆)●併映:「純」(横山博人)

三原葉子(副院長・松村定子)/渡辺文雄(司祭・柿沼信之)
     
新宿昭和館2.jpg新宿昭和館3.jpg
新宿昭和館 1951(昭和26)年K's cinema.jpg7月13日新宿3丁目にオープン(前身は1932年開館の洋画上映館「新宿昭和館」)。1956年、昭和館地下劇場オープン。2002(平成14)年4月30日 建物老朽化により閉館。跡地にSHOWAKAN-BLD.(昭和館ビル)が新築され、同ビル3階にミニシアター「K's cinema」(ケイズシネマ)がオープン(2004(平成16)年3月6日)。

《読書MEMO》
●映画「駆けだし刑事」('64年/日活)
「駆けだし刑事」2.jpg

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小川眞由美版ドラマと比べると...。山崎努の演技は愉しめたが、岡田茉莉子の設定年齢がきつい。

『黒の奔流』.jpg
黒の奔流 01 - コピー.jpg 「黒の奔流」0001.jpg
<あの頃映画> 黒の奔流 [DVD]」岡田茉莉子/山崎努

「黒の奔流」0008.jpg黒の奔流 ポスター1.jpg ある殺人事件の裁判が始まった。事件とは多摩川渓谷の旅館の女中、貝塚藤江(岡田茉莉子)が馴染みの客(穂積隆信)を崖から突き落した、というのである。しかし藤江はあくまでも無罪を主張した、が、状況的には彼女の有罪を裏付けるものばかりだった。この弁護を担当したのが矢野武(山崎努)である。矢野はこの勝ち目の薄い事件を無罪に出来たら一躍有名になり、前から狙っている弁護士会々長・若宮正道(松村達雄)の娘・朋子(松坂慶子)をものにできるかもしれない、という目算があったのである。弁護は難行し「黒の奔流」 001.jpgたが、矢野は見事、無罪判決を勝ら取る。「黒の奔流」 01.jpgそして矢野の思惑通り、マスコミに騒がれるとともに、若宮と朋子の祝福を受け、若宮は朋子の結婚相手に矢野を選ぶ。一方、藤江を自分の事務所で勤めさせていた矢野は、ある晩、藤江を抱く。藤江は今「黒の奔流」松坂慶子1 (1).jpgでは矢野への感謝の気持ちが思慕へと変っていたのだ。やがて藤江は矢野が朋子と結婚するということを知る。藤江が朋子のことを失野に問いただすと、矢野は冷たく「僕が君と結婚する「黒の奔流」 1972  okada.jpgと思っていたわけではないだろうね」と言い放ち、去ろうとする。そこで藤江は、あの事件の真犯人は彼女であること、もし矢野が別れるなら裁判所へ行って全てを白状すると逆に矢野を脅迫する。矢野は、藤江はやりかねない、それは自分の滅亡を意味すると憔悴し、やがて藤江に対して殺意を抱く。翌日、矢野は藤江に詫びを入れて旅行に誘うと、藤江は涙ながらに喜び、数日後、富士の見える西湖畔に二人は投宿する。藤江は幸せだった。翌朝、矢野は藤江を釣に誘う。人気のない霧の湖上を二人を乗せたボートが沖へ向う―。

種族同盟 松本清張.jpg 1972(昭和47)年公開の渡辺祐介(1927- 1985/58歳没)監督作で、原作は松本清張が1967(昭和42)年に発表した中編小説「種族同盟」(中短編集『火と汐』('68年/ポケット文春)収録)。原作は、新宿のバーのホステス・杉山千鶴子(23歳)が東京の西の外れの渓谷で殺害され、被害者のペンダントを所持していたことが決め手となり、死体発見現場から2キロほど離れた旅館「春秋荘」の番頭・阿仁連平が逮捕されるというものであり、これを映画では男女を逆転させ、旅館の女中が馴染みの客を殺害したという設定になっています。

松本清張ほか著/日本推理作家協会編『種族同盟―現代ミステリー傑作選1〈策謀・黒いユーモア編〉』(カッパ・ノベルス 1969.01)

 また、原作は中編であり、弁護士(一人称で語られるため、弁護士の名は出てこない)が自分が裁判で救った元被告に恐喝され、殺意を抱くところで終わりますが、映画はそこから、新たな愛憎劇を展開させてみせます。

 この映画化作品のほか、これまで3回テレビドラマ化されています。
 ・1979年「松本清張の種族同盟・湖上の偽装殺人事件」(テレビ朝日)小川眞由美・高橋幸治・金沢碧
 ・2002年「松本清張没後10年記念企画・黒の奔流」(テレビ朝日)渡瀬恒彦・さとう珠緒・純名里沙
 ・2009年「松本清張生誕100年特別企画・黒の奔流」(テレビ東京)船越英一郎・星野真里・黒谷友香・賀来千香子
 これら何れもが、殺人被害者を男性とし、女性を被告にしている点や、裁判終了後に弁護士と女性との間で愛憎劇を繰り広げる点において、原作のドラマ化と言うより、映画のリメイクと言った方が相応しいものとなっており、この映画脚本は(タイトルもそうだが)それだけ後に影響を与えたと言えるかと思います。

 個人的には小川眞由美(千鶴子役、つまり原作で殺害される女性と同じ名前になっている)版と船越英一郎版を観ましたが、映画も含め共通して言えるのは、最後、女性の男性に対する無理心中的な終わり方になっている点です。

黒の奔流l2.jpg この岡田茉莉子版の映画では、矢野がボートを止めると矢野の殺意には既に気づいていたと藤江が呟き、矢野は舟底のコックを抜いて脱出しようとした瞬間、藤江の体が矢野の上にのしかかり、「先生を誰にも渡さない!」と言って、それまで果物の皮を剥いていたナイフで矢野を刺すというもの。これに近いのが小川眞由美版で、見た目はほぼ同じです(船越英一郎版にはボートシーンがなく、星野真里演じる女がいきなり公衆の面前で弁護士を刺す)。

松本清張の種族同盟図9.jpg ただし、岡田茉莉子版の映画と小川眞由美版のドラマでは、ラストに至るプロセスが若干異なっており、映画では藤江はこれから弁護士としての輝かしい道を歩もうとする矢野の前に再三現れ、「私、あなたの女でいいと言ったことを撤回します!」と言って妊娠したことを逆手にとり結婚を迫るのに対し、ドラマでは、小川眞由美演じる女は最後まで「先生とのことは誰にも喋らない」「二度と先生の前には現れない」と言い、ボート上で弁護士を刺すのも、裏切られた恨みからと言うより、「先生、人殺しなんかしないで」という思いによるものとなっています。

「松本清張の種族同盟・湖上の偽装殺人事件」 (1979/05 テレビ朝日) ★★★★☆(小川真由美/高橋幸治)

【黒の奔流】松坂慶子岡田茉莉子.jpg どちらも女性の方に覚悟は出来ている印象ですが、どちらが切ないかと言えば、小川眞由美版の方が上でしょう。最近、この小川眞由美版のドラマを観て、なかなかよく出来ているなあと思って、それで岡田茉莉子版の映画を観直してみたのですが。映画版は、岡田茉莉子、山崎努の演技は愉しめましたが(特に、普段は渋くてクールだったのが、事態が思わぬ方向に行って、何度も鳩が豆鉄砲を食ったような顔になる演技は可笑しかった)、トータルではやはりドラマの方が上でした(ただし、映画をベースにドラマ化していることを考えると映画もさるもの。渡辺祐介監督の演出も悪くない)。

 映画版は、当時39歳の岡田茉莉子が25歳の藤江を演じているというのも、ちょっと見た目きつかったように思います。後半はその演技力で盛り返してきますが、やはり、受け身的な演技にならざるを得ない序盤の裁判シーンなどで、はっきり25歳と言われてしまうと、抵抗感がありました。実年齢では山崎努が当時36歳で、岡田茉莉子より3歳下だからなあ。当時20歳の松坂慶子が、山崎努演じる弁護士の婚約者役で出ているだけに、薹(とう)が立っているのが対比的に目立ちました。25歳という設定で、原作の23歳より2歳足しただけなのですが、もっと年嵩のいった年齢設定にしてもよかったのでは(まあ、小川眞由美も同じく39歳でこの役を演じていたのだが)。

撮影合間写真(松坂慶子/岡田茉莉子)

の奔流」山崎努0.jpg 黒の奔流」山崎努0図1.jpg の奔流」山崎努1.jpg

山崎努(弁護士・矢野武)/谷口香(矢野の助手・岡橋由基子)/佐藤慶(検事・倉石)/松坂慶子(若宮朋子)
「黒の奔流」 yamazaki .jpg 谷口香(岡橋由基子).jpg 「黒の奔流」 検察官 佐藤慶.jpg 「黒の奔流」松坂.jpg

「黒の奔流」 1972 ps.jpg黒の奔流 9.jpg「黒の奔流」●制作年:1972年●監督・脚本:渡辺祐介●製作:猪股尭●脚本:国弘威雄/渡辺祐介●撮影:小杉正雄●音楽:渡辺宙明●時間:90分●出演:岡田茉莉子(貝塚藤江)/山崎努(矢野武)/谷口香(岡橋由基子)/松村達雄(若宮正道)/福田妙子(若宮早苗)/松坂慶子(若宮朋子)/中村伸郎(北川大造)/中村俊一(楠田誠次)/穂積隆信(阿部達彦)/玉川伊佐男(弁護士・三木)/佐藤慶(検事・倉石)/河村憲一郎(裁判長・松本)/加島潤(判事・細川)/小森英明(判事・竹内)/岡本茉利(太田美代子)/菅井きん(杉山とく)/金子亜子(とくの娘)/伊藤幸子(今村カツ子)/谷村昌彦(タクシー運転手)/生井健夫(弁護士)/石山雄大(弁護士)/久保晶(弁護士)/水木涼子(小坂清子)/光映子(森本澄子)/藤田純子(和江)/秩父晴子(管理人)/荒砂ユキ(アパートの隣人)/園田健二(記者)/岡本忠行(記者)/江藤孝(記者)/大船太郎(記者)/高畑喜三(廷吏)/松原直(廷吏)/土田桂司(刑事)/高杉和宏(刑事)/村上記代(仲居)●公開:1972/09●配給:松竹(評価:★★★☆)

「●森崎 東 監督作品」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒  【2985】 森崎 東 「時代屋の女房
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倍賞美津子を中心にシリーズを撮っていく選択肢もあったのでないか。

喜劇 女は男のふるさとヨ v.jpg喜劇 女は男のふるさとヨa1.jpg 喜劇 女は男のふるさとヨa21.jpg 喜劇 女は男のふるさとヨa22.jpg
喜劇 女は男のふるさとヨ」(VHS)倍賞美津子/河原崎長一郎/中村メイコ/森繁久弥/緑魔子
喜劇 女は男のふるさとヨ(1971).jpg喜劇 女は男のふるさとヨ07.jpg ストリッパー斡旋業「新宿芸能社」を営む金沢(森繁久弥)と竜子(中村メイ子)夫妻は、父さん母さんと呼ばれながら、踊り子たちと家族のように暮らしている。ある日、旅に出ていたマタタビ笠子(倍賞美津子)が、金も溜まり、そろそろ結婚したいと久し振りに帰って来る。が、金沢夫婦の留守中、昔のヒモに強引に連れ去られ、金沢が談判に行くがイタメつけられて戻る。腹にすえかねた竜子が人糞を流し込んで報復したが、笠子は再び旅に出る。笠子の紹介でやって来た、泣いているような顔の田舎臭い星子(緑魔子)は、踊りを教えているうちに、結構いい線いくようになる。とは言え、客の頼みを断れず、トイレで性行為したり、道端で自殺しそうな青年を救おうとしてアオカンしたと警察に捕まったりして、その都度竜子は一喜一憂する。一方、笠子は旅先で彼女に心酔する青年・照夫(河原崎長一郎)に出会い、彼が作ってくれたキャンピング・カーで一緒に旅回りを続ける。運転は勿論、三度の食事までひたすら尽くすだけで、絶対に手を出さない照夫。笠子は運転免許を取ったのを機会にいったんはクビにしたが、彼のこのうえない愛情と誠意に気づき、結婚しようと心に決める。しかし―。

女は度胸.jpg男は愛嬌.png森崎東監督.jpg 昨年['20年]7月に92歳で亡くなった森崎東監督の「女シリーズ」の第1作で、原作は、藤原審爾のお座敷ストリッパーを描いた連作短編集『わが国おんな三割安』の中の「またたび笠子」「あおかん星子」を中心としています(脚本は山田洋次)。笠子を演じる倍賞美津子は森崎東監督の「喜劇 女は度胸」('69年)、「喜劇 男は愛嬌」('70年)に続く出演で、星子を演じた緑魔子は山田洋次監督(森崎東脚本)の「吹けば飛ぶよな男だが」('68年)にも出ています。
喜劇・女は度胸 [DVD]」(倍賞美津子/渥美清)/「あの頃映画 「喜劇 男は愛嬌」 [DVD]」(渥美清/倍賞美津子)
喜劇・女生きてます [VHS]」(森繁久彌)/「喜劇・女売り出します [VHS]」(森繁久彌)
女生きています.png女売る出します.jpg この作品の後、この「女シリーズ」は第2作「喜劇 女生きてます」('71年)、第3作「喜劇 女売り出します」('72年)、第4作「女生きてます 盛り場渡り鳥」('72年)と続いていきますが、何れも森繁久弥演じる金沢を軸に話が展開し、その妻・竜子役は第2作で左幸子、第3作で市原悦子と代わって、第4作で中村メイ子に戻っています。ヒロインの方も毎回変わり、倍賞美津子と緑魔子が出ているのはこの第1作のみで、第2作は安田(大楠)道代、第3作は夏純子、第4作は川崎あかねです。

 山田洋次監督が「男はつらいよ」 シリーズの第1作を撮ったのが'69年で、シリーズ中、第2作「男はつらいよ フーテンの寅」('70年)のみ森崎東監督作となっていますが、あとは全部山田洋次の監督作です。ただし、この森崎東監督の「女シリーズ」を観ると、同じ下町人情を描いても山田洋次監督作とは随分雰囲気が違っている感じもします(「女シリーズ」でこの「喜劇 女は男のふるさとヨ」だけ脚本に山田洋次が噛んでいるのだが)。

山田洋次.jpg 1931年生まれの山田洋次監督は「男はつらいよ」「続・男はつらいよ」などで1969(昭和44)年度・第20回「芸術選奨」を、1927年生まれの森崎東監督は「男はつらいよ フーテンの寅」「喜劇・男は愛嬌」などで1970(昭和45)年度・第21回「芸術選奨新人賞」を受賞しています。因みに、山田洋次監督は東京大学法学部を卒業し、新聞社勤務を経て1954年に松竹に補欠入社、森崎東監督は京都大学法学部を卒業して1956年に松竹に入社しています(年齢は森崎東監督の方が上だが、松竹では山田洋次監督の方が先輩ということになる)。

倍賞千恵子 倍賞美津子.jpg 森崎東監督は森繁久弥を中心にシリーズを撮っていきましたが、倍賞美津子を中心にシリーズを撮っていくという選択肢もあったのでないかという気がします(山田洋次監督のヴィーナスが倍賞千恵子で、森崎東監督のヴィーナスが倍賞美津子であるというのも面白い)。そうしたならば、もしかしたら倍賞美津子が女性版寅さんみたいな存在になっていたかもしれません。ただし、この倍賞美津子のストリッパー「笠子」のキャラクターは、森崎東監督の後の作品「生きてるうちが花なのよ死んだらそれまでよ党宣言」('85年/ATG)における、倍賞美津子演じる主人公のヌードダンサー「バーバラ」などにも反映されていたように思います。

倍賞千恵子/倍賞美津子

喜劇 女は男のふるさとヨ vhs.jpg「喜劇 女は男のふるさとヨ」●制作年:1971年●監督:森崎東●製作:小角恒雄●脚本:山田洋次/森崎東●撮影:吉川憲一●音楽:山本直純●原作:藤原審爾●時間:91分●出演:森繁久弥/中村メイコ/倍賞美津子/緑魔子/河原崎長一郎/花沢徳衛/伴淳三郎/佐藤蛾次郎/園佳也子/山本紀彦/犬塚弘/名古屋章/左卜全●公開:1971/05●配給:松竹●最初に観た場所(再見):北千住・シネマブルースタジオ(19-12-06)(評価:★★★☆)

喜劇 女は男のふるさとヨ vhsa.jpg

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明智版「パイルD-3の壁」。リライト作品である原作を超えた面白さ。

魅せられた美女~江戸川乱歩の「十字路」dvd.jpg 岡田奈々の「魅せられた美女」2.jpg 十字路 (江戸川乱歩文庫).jpg 江戸川乱歩全集 第19巻 十字路 (光文社文庫).jpg
魅せられた美女~江戸川乱歩の「十字路」~ [DVD]」岡田奈々/『十字路 (江戸川乱歩文庫)』['18年]『江戸川乱歩全集 第19巻 十字路 (光文社文庫)』['04年]

13話)/魅せられた美女t.jpg 売り出し中のアイドル歌手・沖晴美(岡田奈々)は所属事務所の社長で不動産業も営む伊勢省吾13話)/魅せられた美女1.jpg(待田京介)に新しいマンションを購入して貰う。早くに両親を13話)/魅せられた美女2.jpg亡くした晴美は、将棋棋士の兄・沖良介(天知茂・二役)に育てられ、やっと掴んだ成功だった。晴美のマンションに伊勢が引っ越し祝いに訪れていたところへ、突然、夫の浮気を疑った伊勢の妻・友子(西尾三枝子)が現れ、ナイフを手に晴美に13話)/魅せられた美女3.jpg襲いかかる。揉み合ううち、知子はナイフを誤って友美に突き立ててしまい、彼女は斃れる。伊勢は、妻の死を自殺に見せかける工作を企て、晴美に友子の服を着させ、その日友子が自分が傾倒する新教宗教の用事で行く予定だった伊東へ行かせて13話)/魅せられた美女4.jpg、断崖で投身自殺したように見せかけるよう指示する。一方、自分はクルマのトランクに友子の死体を載せ、それを遺棄するため自分の会社の所有地がある多摩平へ向かうが、途中、調布市の交差点で接触事故を起こす。その交差点付近のバー「桃子」では、晴美のマネジャー・真下幸彦(中条きよし)と、晴美の兄・良介が飲んでいた。良介の婚約者でママの桃子(奈美悦子)の目の前で二人は口論にな13話)/魅せられた美女 .2.2.2.jpgり、揉み合いになる。突き飛ばされて頭を打った良介は、泥酔状態でふらふらと店を出て行き、ちょうど交番で調書を取られている最中でその場に不在だった伊勢のクルマの後部座席に乗り込んでぐったりしてしまう。クルマに戻った伊勢は、そうとは知らず多摩平の社有地にある「首なし沼」に到着、友子の死体を沼へ遺棄しようとしていると、目の前に良介が立っていたので、咄嗟に持っていたナイフで刺殺する。予期せぬことで、二人もの遺体を遺棄することになった伊勢だったが、それら始終を、自分が突き飛ばした良介のことが心配になって後をつけていた真下が見ていた―。

少年探偵江戸川乱歩全集〈39〉死の十字路』/映画「死の十字路」('56年/日活)
少年探偵江戸川乱歩全集〈39〉死の十字路.jpg映画 死の十字路ed.jpg 原作である江戸川乱歩作の「十字路」は1955(昭和30年)11月刊行の書下ろし小説で、文庫で240ページほどの長さ(2018年版「江戸川乱歩文庫」(春春堂))であり、本人名義で児童向けにリライトされた作品もあります(ポプラ社『少年探偵 江戸川乱歩全集』(全46巻)の中の第27巻「黄金仮面」以降は、実際は本人ではなく別の作家が書いたものだったため、今は絶版となっている)。渡辺剣次(1919-1976)による第一稿をリライトしたもので、トリック、プロットも渡辺剣次の案出です。従って、乱歩独特の怪奇風乃至エログロ風の雰囲気は全く無く、モダンで都会的な印象で、また、明智小五郎39死の十字路.jpgも出てこないため、これを松本清張とか笹沢佐保の作品だと言われて読んでも判らないかも。ただ、乱歩っぽくないことを気にしなければ、話そのものは一作品としてまあまあ面白かったように思います。井上梅次監督は、ドラマに先行して同じ原作で映画「死の十字路」('56年/日活)を撮っていて、この時は、晴美=新珠三千代、伊勢=三國連太郎、良介と探偵の二役で大坂志郎でした。ポプラ社の『少年探偵 江戸川乱歩全集』版のタイトルは映画と同じ「死の十字路」で、表紙('72年半)の探偵と思われる人物が大坂志郎に似ています(ゴーストライターの氷川瓏(ひかわ・ろう)(=渡辺祐一、渡辺剣次の実兄)によって内容は改変されていて、友子と晴美とはもともと仲のよい友だち同士だったが、晴美が友子に誘われて参加した「過激な思想を持つ研究会」に晴美は馴染めず脱会したため、友子は「裏切り者を制裁する」ということで晴美のアパートへ押しかけて襲いかかり、そこに居合わせた青年社長の伊勢省吾に殺害されてしまうという、昭和47年の年明けに起きた「あさま山荘事件」の影響がみられるものになっている)。

13話)/魅せられた美女422.40.2.2.2.jpg 原作では、商事会社の伊勢省吾と沖晴美は社長とその秘書兼愛人という関係で、一方、真下幸彦は商業美術家で、その恋人の相良芳江(ドラマには登場しない)の兄で画家の良介が事件に巻き込まれてしまうという設定になっています。ドラマでは、伊勢(待田京介)は不動産会社社長で芸能事務所も経営し、彼の事務所所属の売り出し中の歌手が沖晴美(岡田奈々)で、その兄が将棋棋士の良介(天知茂・二役)、晴美のマネージャーが真下幸彦(中条きよし)となっていて、原作の相良芳江のキャラクターを「沖晴美」に一本化した感じですが、これは結構大きな人物相関の改変かと思います。

13話)/魅せられた美女9.jpg 原作では、伊勢が妻・友子を揉み合いの末にほぼ事故的に刺殺するため、そもそもドラマのように秘蔵っ子アイドル歌手が人を刺してしまったのでそれを揉み消すという話ではないのですが、ドラマではさらに一捻り入れて、友子(西尾三枝子)が晴美と揉み合っているうちに肩にナイフが刺さるが、それは実は致命傷ではなかったということでした(事故的であるのは原作に通じる)。この点は、晴美が全てを打ち明けに明智の下へ来て、肩を抑えながら友子は「心臓にナイフが刺さって」死んでいたと言うのを聞いた明智がおかしいと思ったのが事実解明の糸口となりました。つまり、明美が気を失っている間に伊勢が改めて友子の心臓を刺したわけで、偶発事故に便乗したような形になっていて、その殺意は原作と異なり明確なものとなっています。

13mashiata.jpg 原作では、幸彦が前半部分の"素人探偵役"となり、後半部分では、良介の妹・芳江が相談した南探偵事務所の私立探偵・南重吉がより突っ込んだ調査をして(この南が良介と顔がそっくりであるという設定は、ドラマで明智が良介にそっくりであることに置き換えられて活かされている)、最後は警察の花田警部(ドラマの浪越警部より優秀?)が事件の全容を解明するようになっていますが、ドラマでは、幸彦が"探偵役"どころか、伊勢に13nami esuko.jpgよる友子および良介の死体遺棄現場を実際に目撃したのを機に、"恐喝者"になります(その結果、犯人に殺されてしまうという、よくある末路を辿る)。因みに、原作では、良介は伊勢のクルマの後部座席で、伊勢がその存在すら知らないうちに脳出血か何かで死亡しているため、伊勢が殺害したのは友子だけになっていますが、ドラマでは良介に加え、バー「桃子」(原作では「桃色」)のママ・桃子(奈美悦子)まで訳あって伊勢に殺されれています(今回の「浴室要員」は奈美悦子だった。岡田奈々は顔だけのシャワーシーンのみ)。

13話)/魅せられた美女8.jpg13話)/魅せられた美女10.jpg 遺体をトランクに載せた伊勢のクルマが、交差点で接触事故を起こすのは、原作では新宿のガード下ですが、ドラマでは、都心と多摩平の中間点の調布市のどこかになっています(因みにクルマは原作ではキャデラックルーチェ 1977-1978.jpgだが、ドラマではマツダ・ルーチェ)。ちょうど伊勢が足止めを食ったその交差点付近のバーで、そこで良介とその妹・晴美のマネージャーである幸彦が飲んでいるわけですが、伊勢と良介という「無関係な者同士」が出くわしたとする原作よりも、伊勢と良介が「共に晴美の関係者」であるドラマの方が、偶然度が高くなっていると言えます。

十字路 ロマン・ブックス.jpg 原作では、花田警部の追及に追い詰められた伊勢は、最後に晴美に電話して拳銃自殺し、晴美も飛び降り自殺するという"遠隔心中"のような形になっていて(伊勢と晴美は純愛関係にあったことになる)、ちょっと笹沢佐保の「六本木心中」(1962)みたいな感じでした。これでいくと、「美女シリーズ」における美女は、最後、飛び降り自殺ではなく、明智の腕の中で死ぬのかなと思いましたが、人物相関が原作と違っていたので、そうはなりませんでした。

十字路 (1959年) (ロマン・ブックス)

13話)/魅せられた美女5.jpg 原作では伊勢は遺体をダム建設の水没予定地の古井戸に遺棄しますが、ドラマでは沼に棄てます。原作との大きな違いは、伊勢が現場に再び行くのを文代らが尾行し、沼を突き止めますが、警察が沼を浚っても死体は見つからず、伊勢は勝ち誇って明智を痛罵するという展開。しかし、実は、尾行されているのを計算して、わざと遺留品を警察に見つけさせ、死体がこの沼にあると思わせる伊勢の作戦で、伊勢はその前に恐喝者である幸彦に手伝わせて遺体を沼から引き揚げ、警察の調べて何も無いという証左を得てから改めて死体をそこへ沈める作戦でした(そこが死体の隠し場所として最も安全な場所となる)。しかし、明BLUEPRINT FOR MURDER.bmpパイルD-3の壁.jpg智は、実はそこまで伊勢の作戦を読んでいました。ここまできて思い当たるのが「刑事コロンボ(第9話)/パイルD-3の壁」('72年)でした。そもそも倒叙的な展開からしてコロンボに似ていますが、プロット的には「パイルD-3の壁」からそのまま拝借したといってもいいかと思います。でも、ストーリーに上手く組み込まれていて、結果的にドラマは原作を超えた面白さだったと思います。
  
13話)/魅せられた美女 masuda.jpg ドラマでの天知茂演じる棋士・沖良介が挑んだ「王位戦」の対戦相手は升田幸三に似ていました。しかもその名が「大村誠」で、大山康晴、木村義雄、中原誠から一文字ずつとって13話)/魅せられた美女 masuda0.2.2.2.jpgいる(笑)。対局は伊東かどこかで行われたらしく、伊勢に言われた偽装工作を終えた晴美が兄の元へ立ち寄ります。一方、天知茂演じる明智の方は、文代、小林と伊東へ釣りに行って(事務所の社員旅行?)晴美が残した自殺の痕跡を見つけ、地元の警察へ。そこへ良介が現れ、良介はアマ三段の警察署長の将棋の先生で、一緒に呑む約束をしていたとのことで、都合よく(笑)天知茂同士のご対面となります。良介が、「僕のやり方はね、相手の出方を見てこっちのやり方を決める」と言い、明智が「探偵と同じですね。そして最後は...」と言うと、良介が「逆手で勝負」と言って意気投合しており、これが「パイルD-3の壁」的やり方の伏線になっているので、シナリオ的にはこの「有名人対談」はどうしても入れたかったのでしょう(折角の一人二役でもあるし)。

魅せられた美女 okada.jpg13魅せられて.jpg 岡田奈々演じる売り出し中の歌手・沖晴美のステージ衣装は、ジュディ・オング(シリーズ第5話「黒水仙の美女」の「美女」役だった)の日本レコード大賞受賞曲「魅せられて」(1979年2月25日リリース)の衣装によく似ています(本ドラマの放映日は1980年11月1日)。ドラマのタイトルもこれに便乗した? ただし、岡田奈々がドラマ内で歌っている岡田奈々/静舞/江戸川乱歩の「十字路」.jpg曲は「静舞(クワイエット・ダンス)」で、ドラマのこの回のオリジナルテーマ曲として1980年10月21日にリリースされたものです。因みに、マネジャーの幸彦役の中条きよし(第12話「エマニエルの美女」、第21話「白い素肌の美女」にも出演。'78年から「必殺シリーズ」に出ていて、深田祐介原作のドラマ「炎熱商人」('84年/NHK)などにも出ていた)もデビュー曲「うそ」で日本レコード大賞の大衆賞を受賞したこ第9話 死体置場(モルグ)の殺人者.jpgとがある元歌手であることはよく知られています。良介の婚約者・桃子役の奈美悦子(第7話「宝石の美女」にも「半裸の状態で遺体で発見される女医」役で登場)も、伊勢の妻・友子役の西尾三枝子(元「プレーガール」メンバー。「恐怖劇場アンバランス(第9話)/死体置場(モルグ)の殺人者」にこれも殺される役で出ていた)も、さらには伊勢役の待田京介(空手指導者でもあり、大山倍達の一番弟子だった)もそれぞれレコードを出したことがあるようです。天知茂もブルース曲集などのレコードを出していて、歌手や元歌手が集合したような回でもありました。
   
井上梅次監督映画「死の十字路」('56年/日活)三國連太郎  大坂志郎/新珠三千代
映画 死の十字路.jpg 死の十字路 s1.jpg

岡田奈々「警視庁南平班~七人の刑事8」(2015年・56歳)
警視庁南平班 岡田奈々.jpg岡田奈々魅せられた美女.jpg「江戸川乱歩 美女シリーズ(第13話)/悪魅せられた美女」●制作年:1980年●監督:井上梅次●プロデューサー:佐々木孟●脚本:成澤昌茂/井上梅次●音楽:鏑木創(オリジナルテーマ曲「静舞」(作詞:三浦徳子/作曲:佐藤健))●原作:江戸川乱歩「十13話)/魅せられた美女 amachi.jpg字路」●時間:90分●出演:天知茂(二役)/五十嵐めぐみ/柏原貴/荒井注/岡田奈々/奈美悦子/中条きよし/待田京介/北町嘉郎/西尾三枝子/吉田良全/喜田晋平/松井紀美江/横山繁/小田草之助/今井健太郎/岡本正幸/城戸卓/沖秀一/小森英明/篠原靖夫/羽生昭彦/田中哲也/上地雄大/工藤和彦/加藤真琴/鈴木謙一/永妻晃/楢岡泉/酒井栄子/松尾友子●放送局:テレビ朝日●放送日:1980/11/01(評価:★★★★)

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手抜きをしない映像化で活かされた原作の良さ。でもやはり、小川真由美が一番か。

江戸川乱歩「黒蜥蜴」より 悪魔のような美女 d.jpg 8悪魔のような美女 02.jpg 黒蜥蜴 (江戸川乱歩文庫).jpg 江戸川乱歩全集 第9巻 黒蜥蜴 (光文社文庫).jpg
江戸川乱歩「黒蜥蜴」より 悪魔のような美女 [DVD]」小川真由美/『黒蜥蜴 (江戸川乱歩文庫)』['15年]/『江戸川乱歩全集 第9巻 黒蜥蜴 (光文社文庫)』['03年]
8話)/悪魔のような美女 t.jpg 宝石王・岩瀬庄兵衛(柳生博)に黒蜥蜴から「あなたの一番大切なものを頂戴にあがる」という予告状が届く。相談を受けた明智(天知茂)と波越警部(荒井注)が岩瀬と娘の早苗(加山麗子)とホテルロビーで話していると、ドイツ帰りで岩瀬の顧客の緑川夫人(小川真由美)がやって来る。岩瀬は、明智たちが大切なものとは何か尋ねると、「エジプトの星」というダイヤを見せる。黒蜥蜴が指定した夜、明智は浪越警部と共に黒蜥蜴の出現を待ち受けるが、警部はシャワーを浴びると睡魔が襲ってきて岩瀬と共にベッドで寝てしまう。緑川夫人と早苗は隣の部屋に戻り、明智が独りトランプをしながら寝ずの番をすることに。8悪魔のような美女 01.jpgそこへ再び緑川夫人が現れ、明智に、明智と黒蜥蜴どちらが勝つかという賭けを持ち掛け、明智は探偵稼業を賭けることに。緑川夫人は自分の全財産、身も心も賭けると言う。緑川夫人が隣の部屋で物音がすると言い、明智と早苗の部屋を見に行くが、早苗はベッドに寝ているらしく、夫人の問いかけにも「眠い」と応える。安心した二人は、部屋に戻る。犯行予告の深夜12時までポーカーをする明智と緑川夫人。しかし、何事もなく12時を過ぎる。緑川夫人は、明智たちが黒蜥蜴の目的の品をとり間違えてはいないかと言い、岩瀬に宝石よりもっと大切なものはないかと尋ね、それが早苗であることがわかると一同は慌てて部屋を飛び出す。早苗の部屋に行くと、彼女は先ほど同じくベッドで寝ていたが、明智がその髪を掴むと、マネキンの頭部だった。波越警部はホテルをチェックアウトした不審者8悪魔のような美女_011.jpgを洗い、山川教授が量子力学の論文を書いていて大量の原稿を部屋に持ち込み、大きなトランクを下げてホテルを出たという情報を得る。部屋には大量の原稿が残されていて、山川教授に扮していた雨宮(清水章吾)という男が、トランクに早苗を詰めてホテルを出たのだ。宿泊者名簿を見た時から雨宮に目を付けていた明智は、助手の文代(五十嵐めぐみ)と小林(柏原貴)に雨宮の車をつけさせていることを話し、再び緑川夫人とポーカーをする。文代と小林は雨宮からトランクを奪い、中を開けると下着姿で猿轡で手足を縛られた早苗が出てくる。明智はこの報告を受け波越たちに伝えると、早苗が救出されたが雨宮が逃げたことで、緑川夫人は「どうやらこの勝負引き分けのようでしたね」と言うが、明智は「この勝負は僕が勝ちました」と言う―。
少年探偵江戸川乱歩全集〈33〉黒い魔女
少年探偵江戸川乱歩全集〈33〉黒い魔女 .jpg 原作である江戸川乱歩作の「黒蜥蜴」(くろとかげ)は1934(昭和9年)1月から12月まで月刊誌「日の出」に連載されたもので、本人名義で児童向けにリライトされた作品もあります(ポプラ社『少年探偵 江戸川乱歩全集』(全46巻)の中の第27巻「黄金仮面」以降は、実際は本人ではなく別の作家が書いたものだったため、今は絶版となっている)。文庫で240ページほどの長さ(2015年版「江戸川乱歩文庫」(春春堂))ですが、三島由紀夫が戯曲化するなど文学的評価も高く、また、数ある乱歩の作品でも映像化や舞台化などの原作とされた回数が最も多いものになります。ただし、執筆当時の乱歩は執筆活動に行き詰まって作品が思うように書けないでいた時期で、乱歩が目指す本格推理小説への大衆の反応はイマイチで、風変わりな怪奇小説、通俗的なスリラーに大衆の興味が集まってしまい、執筆の方向性に大きく悩んでいたとのこです。

8悪魔のような美女0.2.2.2.jpg 原作では、緑川夫人こそが「黒蜥蜴」であることを、最初の3分の1くらいのところで指摘してしまいますが、ドラマも(この回からシリーズがレギュラーで2時間枠となった)、正味90分くらいの内の最初の30分で、同じく明智が当人の目の前で指摘します。でも、その前に緑川夫人が明智をさんざん挑発しているので、明智もかなり何となく気がついていた印象がドラマではありました。前半部の明智と緑川夫人の心理合戦がなかなか面白く、ポーカー8悪魔のような美女a.40.2.2.2.jpgをやる明智と緑川夫人とで、最初のうちは緑川夫人が圧勝し、やがてそれに呼応するように早苗が誘拐されたことが明らかになりますが、その後、実は、山川教授に扮してホテルを抜け出た雨宮に、明智の助手・文代と小林の尾行がついていることを明智から知らされるや、今度は緑川夫人のツキが落ちたかのように明智に負け続けます。原作でも二人はトランプゲームをしますが、勝負の形勢推移はドラマのオリジナルであり、上手いと思いました。

8悪魔のような美女 kayama01.2.2.jpg8悪魔のような美女 05.jpg 因みに、黒蜥蜴による最初の誘拐の試みの際に、早苗が「眠い」と言ったのは実は緑川夫人の腹話術で、原作通り(原作の方がいっぱい喋っている)。二度目の誘拐の試みの際に、長椅子を用いるのも原作通りですが、緑川夫人が顔パックしたり風呂に入ったりして早苗になりすますのはドラマのオリジナルです(「浴室要員」が小川真由美とは!)。

8悪魔のような美女 06.jpg 小川真由美の演技も良かったかと思います(この人、岩下志麻と「鬼畜」('78年/松竹)、「食卓のない家」('85年/松竹)で競演しているが、共に岩下志麻の上を行っていた。当ドラマと同年の「復讐するは我にあり」('79年/松竹)での演技も印象的だった)。先行する映画化作品として、ドラマと同じ井上梅次が監督、京マチ子が主演のミュージカル映画「黒蜥蜴」('63年/大映)と、深作欣二監督、丸山明宏(美輪明宏)主演の「黒蜥蜴」('68年/松竹)がありますが、小川真由美は、京マチ子、美輪明宏に挑んだ形にもなり(しかも「特別出演」とクレジットされている)、相当気合が入ったのではないでしょうか。

8悪魔のような美女.2.2.jpg 映画化作品の前二作は何れも三島由紀夫の戯曲を原作とした「三島戯曲の映画化」であり(深作欣二版の方は三島由紀夫自身が特別出演していることでも知られる)、ドラマの方が原作に近いかと思います。ただし、三島は戯曲化するにあたり、「女賊黒蜥蜴と明智小五郎との恋愛を前景に押し出して、劇の主軸」にしたとのことですが、ドラマ版もその影響を受けている面があるように思いました。ただし、「美女」が明智の腕に抱かれて死ぬというのは、このシリーズの定石でもあります。

8悪魔のような美女 kayama01.jpg8悪魔のような美女 kayama02.jpg 早苗役の加山麗子の入浴シーンもありますが、躰だけの部分は吹き替えのように見えます。トランクから助け出される場面も、実は原作では全裸なのですが、ドラマでは下着姿です。でも、後半、黒蜥蜴に囚われてからは、吹き替え無しでほとんど全裸に近かったです(原作では完全に全裸なのだが、まあ、頑張っている方だろう)。

8話)/悪魔のような美女40.2.2.2.jpg 8悪魔のような美女 04.jpg
     
    
    
    
    
  
8話)/悪魔のような美女清水章吾.jpg8悪魔のような美女 ii.jpg 清水章吾が、山川教授に扮した黒蜥蜴の部下・雨宮(黒蜥蜴の指示で"獲物"を剥製にするために水槽に沈める係だが、逆に明智に早苗の替わりに水槽に沈められてしまう。この回の明智は結構シビア)を演じていますが、かつてチワワとともに出演した「アイフル」のCMで一躍ブレイクしましたが、昨年['19年]末、仕事も家族関係もうまくいかず自殺未遂したとの報道があり心配です。
  
8悪魔のような美女 takuma.jpeg8悪魔のような美女 takuma.jpg8宅麻伸.jpg 第6話、第7話で本名の「詫摩繁春」名義で出演していた宅麻伸が、ここでは黒蜥蜴に囚われ、水槽に沈められて、はく製にされてしまう役でした。当時、宅麻伸は、キャバレーのボーイをしながらデビューを目指して、キャバレーの店主が天知茂に紹介して天知の事務所に預かりとなっていたそうです(「明智事務所」ならぬ「天知事務所」か)。

Alfred Hitchcock 女主人01.jpg 英国の作家ロアルド・ダール(Roald Dahl、1916-1990/享年74)の1960年刊行の短編集『キス・キス』に、若い美男子の学生などを自分の宿に泊めて、その剥製を作る女主人が出てくる「女主人」という短篇があり、映像化作品として「ヒッチコック劇場(第184話)」で「ロンドンから来た男」('61年)、「ロアルド・ダール劇場 予期せぬ出来事(第5話)」で「女主人」('80年)がありますが、乱歩はロアルド・ダールの四半世紀前に、このモチーフを作品で用いていることになるなあと改めて思いました。
Alfred Hitchcock Presents - Season 6 Episode 19 #210."The Landlady"(1961)(「ロンドンから来た男」)

 原作の良さに支えられてはいると思いますが、その良さも映像化において手抜きをしないことで初めて活かされるかと思われ、その点、2時間枠となった初回としてのスタッフの意気込みが感じられるものでした。でも、やっぱり、小川真由美が一番だったではないでしょうか。

京マチ子主演ミュージカル映画「黒蜥蜴」('63年/大映) 深作欣二監督・丸山明宏主演「黒蜥蜴」('68年/松竹)
  黒蜥蜴 1968 4.jpg

8悪魔のような美女ogawa amachi.jpg8悪魔のような美女 03.jpg「江戸川乱歩 美女シリーズ(第8話)/悪魔のような美女」●制作年:1979年●監督:井上梅次●プロデューサー:佐々木孟●脚本:ジェームス三木●音楽:鏑木創●原作:江戸川乱歩「黒蜥蜴」●時間:90 分●出演:天知茂/五十嵐めぐみ/柏原貴/荒井注/小川真由美/加山麗子/清水正吾/大前均/北町嘉郎/託磨繁春(宅麻伸)/羽生昭彦/水木涼子/工藤和彦/加島潤/岡本忠幸/鈴木謙一/市東昭秀/篠原靖夫/沖秀一/加藤真琴/マリー・オーマレイ/ウィリー・ドーシイ●放送局:テレビ朝日●放送日:1979/04/14(評価:★★★★)

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非探偵ものの原作を大幅アレンジしているのに、原作のテイストはよく残している。

宝石の美女 dvd.jpg 7話)/宝石の美女 1979.jpg 白髪鬼 乱歩文庫.jpg 黄金仮面 (光文社文庫).jpg
江戸川乱歩「白髪鬼」より 宝石の美女 [DVD]」田村高廣/金沢碧 『白髪鬼 (江戸川乱歩文庫)』['18年]『江戸川乱歩全集 第7巻 黄金仮面 (光文社文庫)』['03年]
7話)/宝石の美女 ×8.jpg 宝石窃盗犯・西岡三郎(睦五郎)が脱獄し、逃走中に仲間(沖秀一)を射殺して行方をくらます。撃たれた男の最期の言葉から、西岡は白髪の鬘を被って変装しているらしい。明智も事務所で文代(五十嵐めぐみ)、小林(柏原貴)とこのニュースを見ていた。西岡は10年前に盗んだ宝石の隠し場所である、富豪・大牟田の別荘にある墓所に行くが、盗品は全て無くなっていた。西岡の行方を追う波越警部(荒井注)に、大牟田家に痴漢が入7話)/宝石の美女1.jpgったという通報が入る。痴漢は白髪にサングラスの男とのことで、一同は大牟田家へ向かう。大牟田邸では、未亡人のルリ子(金沢碧)が、妹の豊子(田島はるか)と画家の川村(小坂一也)と3人で住んでいた。ルリ子は夫の財産が思ったより少なかったため、近くの別荘を売却するという。別荘には7話)/宝石の美女2-2.jpg川村が住んでいたが、ルリ子と川村は結婚することとなり一緒に住み始めたのだった。ルリ子は前夜、入浴中に白髪とサングラスの男に覗かれたという。すると、別荘の買い手と7話)/宝石の美女2-1.jpgして現れた、顔にアザがある白髪にサングラスの里見(田村高廣)という人物が、それは自分だと告白する。別荘の持ち主7話)/宝石の美女図3.jpgの家を捜しているうちに近くまで来て、庭から浴室を覗いてしまったのだという。西岡に関する情報もなく一同は大牟田邸を去る。里見が夫に似ているのを気味悪がるルリ子たち。実は大牟田(田村高廣、二役)はルリ子に唆された川村が断崖から突き落として殺害し、妹の豊子もこのことを知っていて、さらに、主治医の住田洋子(奈美悦子)を使って他殺と判らないように死亡診断書を書かせていた。里見は近くのホテル7話)/宝石の美女3.jpg7話)/宝石の美女4.jpgに宿泊していた。明智が大牟田家の墓へ来ると、散歩中の里見と会い、彼はルリ子を気に入って、彼女にプロポーズをするという。里見から宝石をプレゼントされ、欲深いルリ子の心は動く。ただ、里見のタバコを取り出す際の仕草やペンダントを振り回す癖が大牟田に似ているのが、夫の殺害に関与していたルリ子は気味が悪い。それでも、金に余裕がある里見へと関心がいくのだった―。

 原作は、江戸川乱歩が1931(昭和6)年4月から翌1932(昭和7)年4月まで「講談倶楽部」に連鎖した、文庫で約240ページ(2018年版「江戸川乱歩文庫」(春陽堂))ほどの長編。英国の女流作家マリー・コレリ(1855-1924)の『ヴェンデッタ(復讐)』(1886)(『モンテ・クリスト伯』に大枠を依拠したストーリーとされる)を明治の作家・ジャーナリスト・翻訳家の黒岩涙香(1862-1920)が翻案した小説『白髪鬼』を更にリライトしたもので(それをドラマ化するということは、コレリ→涙香→乱歩→ドラマという三重の翻案ともいえる)、乱歩が海外の作家の作品を翻案、または翻案されたものをリライトした小説は6作品あり(その内、黒岩涙香の翻案小説のリライトは「白髪鬼」と「幽麗塔」)、その6つの中で「白髪鬼」は最初の翻案(リライト)小説になります。乱歩による原作は、殺害された後に埋葬された墓の中で蘇生し、恐怖のために白髪と化した一人の男の復讐譚で、怪奇譚と復讐譚を掛け合わせたようなものですが、主人公の「懺悔手記」というスタイルの非探偵小説であるため明智も登場せず、それをこのシーリーズの中に嵌め込むべきドラマとしてどうアレンジするかが、原作を読んだ人には見所になるかと思います。

7話)/宝石の美女 mutsu.png 改変のポイントは、窃盗犯・西岡(原作では「紅髑髏」ことシナ海の海賊王・朱凌谿)を里見こと大牟田が利用して、犯行時のアリバイ工作をすることで(最初は西岡の方が利用していたのだが、途中で立場が逆転する)、原作にはこうした話はありません(ドラマでは、犯人が誰か(WHO)ということより、犯人がどうやったか(HOW)がポイントになっている)。原作は、瑠璃子(ルリ子)、川村、里見の3人以外に主だった登場人物はいないシンプルな作りで、プロットよりも「怪奇・復讐譚」であることにウェイトが置かれていますが、ドラマでは、原作には無いルリ子の妹や主治医まで共謀者として登場させ、何れもが大牟田の復讐対象となっています。

7話)/宝石の美女 kanazawa.jpg 恒例の「浴室」要員は、風呂場で覗き被害に遭う「宝石の美女」ことルリ子を演じた金沢碧(1953年生まれ)で、本人と吹き替えを巧みに織り交ぜて(笑)、自然な感じで撮られていました。この「江戸川乱歩の美女シリーズ」は、1977年から1994年までテレビ朝日系「土曜ワイド劇場」で17年間放送されたテレビドラマシリーズですが、金沢碧はこの「土曜ワイド劇場」に1979年から2012年までの間、全部で27回出演していて、その中でこの「宝石の美女」が初登場でした。この「美女シリーズ」でも第15話「鏡地獄の美女」('81年)で再登場しますが、"天知茂版"の「美女シリーズ」で「美女」として2度出演したは叶和貴子(第17話「天国と地獄の美女」、第21話「白い素肌の美女」)と金沢碧だけで、この回が好評であったことを示すものかもしれません。

7話)/宝石の美女 tajima.jpg田島はるか.jpg ドラマで付け加えられたキャラクターのうち、田島はるか(1957年生まれ)演じる妹の豊子は、裸にされて逆さ吊りされた遺体で発見されますが、田島はるかはもともとロマンポルノの女優なので、これは吹き替え無しでしょうか(1976年の日活時代から1978年の「にっかつ」初年まで活動)。奈美悦子(1950年生まれ)が演じる死亡診断書において私利のために共謀する主治医の住田洋子も、半裸の状態で遺体で発見されますが、これは"全裸"ではなく"半裸"なので、岩場に逆さに奈美悦子.jpg7話)/宝石の美女 nami.jpg突っ立った脚はともかく、あとは奈美悦子本人でしょう(何だか、こんなことばかりにこだわっている(笑))。奈美悦子は第13話「魅せられた美女」でも、浴室で殺害される役で出ています。この人、最近は、通販番組に出ている人というイメージが強いですが、今年['20年]で満70歳、テレビに出続けているだけでもスゴイことなのかもしれません。

7話)/宝石の美女 amachi vs tamura.jpg 先にも述べた通り、原作が犯人の手記による叙述スタイルであるところに無理やり明智を絡ませているため、プロセスにおいて明智が事件に関与する部分は少な目で、文代や小林に至っては殆ど事務所内にいるだけという感じでした。そうした0田村高廣 宝石の美女.jpg物足りない面もありますが、探偵ものではない原作を大幅アレンジしているわりには、原作のテイストはよく残しているように思いました(田村高廣の演技が光り、天知茂と競演する形になっている)。

田村高廣/金沢碧/小坂一也

 例えば、ドラマでは犯人はルリ子を石棺に閉じ込めたものの、殺害する前に明智に正体を暴かれ、復讐が完遂できませんでしたが(ただし、ルリ子は助け出された時には発狂している)、原作では、犯人は瑠璃子を石棺に生き埋めにして洞窟を後にします。ところが、そこへすっ裸の瑠璃子がただれた赤ん坊を抱いて現れます。実は、瑠璃子と川村は大牟田の存命中も付き合っていて、二人の間に赤ん坊ができますが、不義を隠すために殺害、それ7話)/宝石の美女 ending.jpgを知った里見こと大牟田は、別の嬰児の屍体を入手し、川村や瑠璃子の恐怖を増すための演出に使ったのですが、この話はドラマでは割愛されています(気持ち悪すぎる?)。そして、語り手である人物は、今、十何年になる獄中生活にあるというオチです(終身刑に服していることを示唆)。原作で、閉じ込められたはずの瑠璃子が犯人の前に(おそらく幻影として)現れた時、彼女は、手に宝石をつかんで、それをサラサラと赤ん坊の上に砂遊びのようにこぼす仕草をし、この部分が原作の恐怖の最後のクライマックスになっていますが、ドラマでも、赤ん坊は出てこないものの、エンディングでその部分は活かしています。この辺りは、まずまず工夫されていたと思います。

7話)/宝石の美女 poe.jpg 江戸川乱歩には、アラン・ポーの「早すぎた埋葬」をモチーフにした作品が幾つかあり、この作品も、原作にも出てきたし、ドラマの方も明智がペーパーバック(英語版)を手にしています。しかし、この作品に関しては、埋葬された人物が墓所で甦るというのは、黒岩涙香版も、その元となったマリー・コレリの『ヴェンデッタ』も同じです。ウィキペディアによれば、江戸川乱歩版の原作・涙香版との主な相違点は、原作・涙香版ではあくまで妻と友人がしていたのは浮気のみで、主人公の死因は不測の事態であったのに対し、乱歩版は明らかの殺意が友人にある事。また、復讐方法も原作・涙香版では友人は衆人環視の拳銃による決闘で堂々と行っているのに対し、乱歩版は別荘におびき寄せてのからくり仕掛けによるじわじわした殺し方になっているなどより凄絶になっている点とのことです。また、法を無視しても復讐を肯定するか、それを犯罪者とするかは大きな違いで、乱歩版では終身刑になっている主人公が、原作・涙香版では復讐を果たした英雄のようになっているのは、マリー・コレリのオリジナルが、『モンテ・クリスト伯』や『巌窟王』など系譜の物語であることによるのでしょう。ドラマ版で明智などに出てこられると、復讐すら完遂できないというのは、まあ仕方がないのかもしれません。

「江戸川乱歩 美女シリーズ(第7話)/宝石の美女」●制作年:1978年●監督:井上梅次●プロデューサー:佐々木孟●脚本:宮川一郎●音楽:鏑木創●原作:江戸川乱歩「白髪鬼」●時間:70 分●出演:天知茂/五十嵐めぐみ/柏原貴/荒井注/金沢碧/田村高廣/小坂一也/奈美悦子/睦五郎/田島はるか/岡部正純/山本幸栄/羽生昭彦/山崎純資/沖秀一/託摩繁春(宅麻伸)/工藤和彦/加藤真琴/篠原靖夫●放送局:テレビ朝日●放送日:1979/01/06(評価:★★★☆)

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初めて2時間枠で放映されたものだが、結構突っ込みどころが多かった。
妖精の美女dvd.jpg 黄金仮面 妖精の美女 yumi k.jpg 黄金仮面 妖精の美女197812.jpg 黄金仮面 乱歩文庫.jpg 黄金仮面 (光文社文庫).jpg
江戸川乱歩の黄金仮面 妖精の美女 [DVD]」由美かおる 『黄金仮面 (江戸川乱歩文庫)』['15年]『江戸川乱歩全集 第7巻 黄金仮面 (光文社文庫)』['03年]
黄金仮面 10.jpg 冒頭「皆さんはもう、『黄金仮面』のことはよくご存じだと思いますが」と語る明智。都内で黄金の仮面を被った黄金仮面1.jpg怪人の姿が目撃され、国宝級の古美術品が盗まれる事件が頻発していた。古美術品の蒐集家である大島喜三郎(松下達夫)に黄金仮面から手紙が届き、彼の長女・絹枝(結城美栄子)の恋人で、フランス商社の東京支店長ロベール・サトー(伊吹吾郎)の訪問予定日に、大島所有の古美術品を奪うと予告してきた。フランス大使館の職員ジョルジュ・ポアン(ジェリー伊藤)がロベールの友人であり、大島のコレクションを見たいということから大島が二人を招いたところを狙われたのだ。不安を抱いた秘書の三好(藤村有弘)が、波越警部(荒井注)に相談、明智に捜査協力を依頼することに。明智黄金仮面2.jpgと波越警部は箱根・芦ノ湖畔の大島美術館に行き、黄金仮面との対決準備をする。美術館にやってきたロベールとジュルジュも美術品を見て回るが、ジョルジュは次女の不二子(由美かおる)に興味を抱く。もちろん美術品にも関心を示し、特にインド・ジャイナ女神像に関心を注ぐ。さらに自宅に置かれている大島家秘蔵の虚空蔵菩薩にも関心を抱いたため、自宅に招待することを大島が約束をする。芦ノ湖での美術品紹介は無事終ったが、後日、茶席を抜け出してきた大島家の三女・よし子(岡麻美)が入浴中に何者かに刺され、「黄金仮面」と言って息絶える。明智は今までの黄金仮面の犯行から、その犯行ではないと言う。事務員・小雪(野平ゆき)の通報で、秘書の三好と事務員の千秋が事務所でガスで眠らされているのが発見されるが、明智は犯人は小雪だと断言。千秋に言い寄るよし子への嫉妬心からの犯行だった。美術館の一室に追い詰められた小雪は自害しようとするが、突然、鎧が動き出しナイフを持つ手を止める―。
少年探偵江戸川乱歩全集〈27〉黄金仮面
黄金仮面 少年探偵.jpg 昭和5(1930)年9月から昭和6(1931)年10月にかけて雑誌「キング」に連載された原作は、文庫で約320ページ(2015年版「江戸川乱歩文庫」(春陽堂))ほどの長編で、本人名義で児童向けにリライトされた作品もあります(ポプラ社『少年探偵 江戸川乱歩全集』(全46巻)の中の第27巻「黄金仮面」以降は、実際は本人ではなく別の作家が書いたものだったため、今は絶版となっている)。

 乱歩の原作は、フランスの作家マルセル・シュウォッブの小説『黄金仮面の王』にヒントを得て書かれたもので、乱歩独自の猟奇的色彩は薄く、乱歩自身も、「この作は私の長編小説の中でも、最も不健全性の少ない、明るい作と言えるのではないかと思う」と述べています(桃源社『江戸川乱歩全集』第6巻あとがき、昭和37年)。その分、冒険活劇的要素が増して、よく言えば自由自在でで娯楽性の高い、悪く言えばかなり現実離れした作品となっています。因みに、明智小五郎と少年探偵団が一緒に活躍する少年物のシリーズが書かれるのは、この作品の約5年後の『怪人二十面相』が最初になりますが、この作品にそうしたシリーズの萌芽が見られると言えるかもしれません。

黄金仮面 boat -2.jpg 年末特別版としてこれまでの枠を30分延長して初めて2時間枠で放映されたこのドラマ化作品(小林君が初登場する)も、原作の傾向に即して、アクション映画風のシーンが多くなっていて、黄金仮面 妖精の美女 rope.jpgモーターボートが出てくるところなどもしっかり映像化していました(第1話「氷柱の美女」の原作『吸血鬼』にもモーターボートによる追走劇があるが、ドラマでは割愛されていた)。加えて、原作には無い、ロープウェイやヘリコプターによる犯人逃走シーンなどもあります。一方で、シリーズのお約束事である「浴室」シーンなどもしっかり織り込まれています。結果的に、登場人物の構成を変えたりしていますが、ラスト、犯人まで原作と変えてしまったような...。

黄金仮面 j.jpg 「浴室」要員は、三女・美子(岡麻美)で(浴室で刺殺されるのは原作通り)、かなり大胆に見せます。さらには、事務員・小雪(野平ゆ)もライフルで撃たれて明智がウェットスーツの胸をはだけ...(これは原作に無い。原作では刺殺)。ヒロインである次女の不二子(由美かおる)は「水戸黄門」ではないですが、背中だ黄金仮面 yumi.jpgけ見せるシャワーシーンがあるくらいなので、その代わりにみたいな感じで、それ以上の部分は他の女優が担うという、第4話「白い人魚の美女」くらいからこうしたパターンは定着したようです(最初の頃、井上梅次監督は、現場で女優と「脱ぐ・脱がない」を交渉してルパン三世峰不二子.jpgいたそうな)。因みに、由美かおるの役名の「不二子」ですが、原作でも「不二子」であり、「ルパン三世」の峰不二子はこれに由来するのかと思いましたが、モンキー・パンチ(1937-2019/81歳没)自身は、たまたまカレンダーの富士山を見て着想したとかで、「黄金仮面」との関係については否定しています。セシルとかいう役で出ている山本リンダは、どういう役回りなのかよく分かりませんでした(笑)。

ジェリー伊藤 in「妖精の美女」/in「モスラ」(1961)/「誰もいない海」(1967)
黄金仮面 jyeri- .jpgジェリー伊藤 モスラ.jpgジェリー伊藤 誰もいない海.jpg ジョルジュ役のジェリー伊藤(1927-2007/79歳没)は、映画「モスラ」('61年)などで俳優として活躍しただけでなく、歌手としても活躍した人で、後に数多くの歌手がカバーした「誰もいない海」('67年)は、元は彼のため黄金仮面 ibuki.jpg水戸黄門 伊吹吾郎 由美かおる.jpgに書かれた曲でした(トワ・エ・モワ、越路吹雪が'70年の同じ日にカバー曲のシングルを出した。個人的には、グラシェラ・スサーナ版が印象深い)。ロベール役の伊吹吾郎(由美かおるとは「水戸黄門」コンビ)は、第3話「死刑台の美女」にも出ていましたが、この後、第11話「桜の国の美女」では同じくロベール役で登場します。最初は日本語をぎこちなさげに喋っていましたが、途中からフツーの日本人になっていました。船に乗ると、何だか漁師が似合いそう(笑)。

 原作には、モーリス・ルブランの怪盗ルパン・シリーズへの乱歩のオマージュが込められているかと思いますが、モーリス・ルブラン自身もコナン・ドイルのシャーロック・ホームズ・シリーズを意識して『ルパン対ホームズ』をルパン・シリーズの初期に書いています。ドイルは、デビュー短編集『怪盗紳士ルパン』の最後にホームズをルパン対ホームズ 偕成社文庫.jpg実名で登場させてコナン・ドイル本人からの抗議を受け(この説には疑問の声もあるという)、原著ではシャーロック・ホームズ(Sherlock Holmes)がハーロック・ショルメ(Herlock Sholmès)と改名されていますが、日本の翻訳界ではホームズと訳すのがお約束のようです。『ルパン対ホームズ』における両者の対決は、ルパンが圧倒的に優勢で、ホームズがいいところ無し(笑)ですが、最後にホームズに花を持たせて、形だけ両者引き分けにしています(因みに、そのコナン・ドイル自身も、先輩名探偵であるエドガ=アラン=ポーのオーギュスト・デュパンを見下している。自分の創作したキャラが一番だと思うのは皆同じ?)。
ルパン対ホームズ(偕成社文庫-アルセーヌ・ルパン・シリーズ)』['87年]

黄金仮面 3.jpg 乱歩の原作『黄金仮面』も、結局、原作もこのドラマ版も明智がルパンに勝っているわけですが、ルパンは追い詰められながらも捕まることはなく、一応は両者イーブンの形にしているところが、『ルパン対ホームズ』とやや似ているように思います。原作では、ルパンは不二子さえも連れていくことが出来ず、何も持たずに日本を離れることになりますが、ドラマではそこまで露骨に差をつけてはいません(続編への伏線か)。

 ドラマでの「黄金仮面」の正体は、フランスで「ルパン二世」というあだ名で呼ばれている怪盗であってルパンその人ではないことにされていますが、サブタイトルに「怪盗ルパン」と明記され、明智が当人に向かって「ルパン」と呼びかける場面もあり、微妙に不徹底だったかも(原作はルパン本人を想定)。ストーリーはそこそこ原作に忠実で、死んだと思われた明智が変装して再登場するというこのドラマシリーズの"お約束"も原作通りです。

黄金仮面4.jpg ドラマにおけるルパンは殺人を犯さないという主義であるはずなのに、部下は小雪を殺害しているし(これは原作も同じだが)、また、部下たちは明智にもピストルをがんがん放っています。さらには自身も、自分が手先として使ったウルトラセブン、あっ、違った!森次晃嗣が演じる浦瀬を、盗品を横流ししたという理由のみで自分を裏切ったとして殺しています。

黄金仮面 rope.jpg ラストの犯人改変は、原作を読んだ視聴者の予想を裏切るどんでん返しなのでしょう。それはいいとして、トータルでみると、年末2時間枠で派手なアクションもあったものの、結構突っ込みどころが多い回だったように思います。
黄金仮面 yumi last.jpg
「江戸川乱歩 美女シリーズ(第6話)/妖精の美女」●制作年:1978年●監督:井上梅次●プロデューサー:佐々木孟●脚本:宮川一郎●音楽:鏑木創●原作:江戸川乱歩「黄金仮面」●時間:92 分●出演:天知茂/五十嵐めぐみ/荒井注/由美かおる/結城美栄子/野平ゆき/松下達夫//ジェリー伊藤/伊吹吾郎/森次晃嗣/藤村有弘/山本リンダ/北町嘉朗/柏原貴/託摩繁春(宅麻伸)●放送局:テレビ朝日●放送日:1978/12/30(評価:★★★)

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洋物の「本格」風のプロットと、乱歩が加味した乱歩らしい雰囲気を共に活かしていた。

04白い人魚の美女.jpg 白い人魚の美女 00.jpg 緑衣の鬼 江戸川乱歩文庫.jpg 緑衣の鬼 光文社文庫.jpg
江戸川乱歩「緑衣の鬼」より 白い人魚の美女 [DVD]」夏純子/『緑衣の鬼 (江戸川乱歩文庫)』['19年]/『緑衣の鬼~江戸川乱歩全集第11巻~ (光文社文庫)』['04年]
白い人魚の美女 10.jpg白い人魚の美女 01.jpg ある蒸し暑い夜、明智は仕事を終えた後、表のビルで奇妙な影が映し出されているのを目にして不審に思い、助手の文代(五十嵐めぐみ)を連れて調べに現場へ行く。明智と文代はそこで、怪しい影が通りかかった女性に対しナイフを突き立てる瞬間を目撃する。そこには影の恐怖に怯える笹本芳枝(夏純子)がいて、彼女は偶然にも、文代の女子大テニス部の先輩だった。明智が芳枝に話を聞きながら周辺の捜査を開始した時、また影の男が現れる。緑のマントを羽織り、けむくじゃらの髪をした影がそこにいた明智や芳枝に目撃され、芳枝の夫で詩人の笹本静雄はショックで寝込んでしまう。周辺を探していた文代は、庭先で芳枝の写真が入ったロケットを発見、芳枝のものではないというロケットの中の写真は10年近く前のもので、明智は、そのロケットを波越警部(荒井注)に渡して捜査の要請をする。一方、明智の言いつけで笹本家を白い人魚の美女02.jpg訪ねた文代は、芳枝が気を失っているのを見つける。そして、顔が潰された静雄の変わり果てた姿も。その時、文代は緑色の服を着た何者かに殴りつけられ、気を失う。文代からの連絡が途絶え、明智はヤキモキするが、波越警部からの連絡で、ロケットが芳江の伯父で夏目財閥の当主・夏目菊太郎(松村達雄)が10年前に作らせたものとわかり、また文代のことも気がかりで、明智は笹本邸に向かう。するとそこには、気を失って倒れている文代がいて、ただし、気がついた文代が言う笹本静雄の死体は無く、一方、浴室で全裸で殺されているお手伝い・たま子(日野繭子)が発見される―。

少年探偵江戸川乱歩全集〈34〉緑衣の鬼.jpg 原作は、江戸川乱歩が1936(昭和11)年1月から12月まで「講談倶楽部」に連載した、文庫で約370ページ(2019年版「江戸川乱歩文庫」(春陽堂))ほどの長編で、本人名義で児童向けにリライトされた作品もあります(ポプラ社『少年探偵 江戸川乱歩全集』(全46巻)の中の第27巻「黄金仮面」以降は、実際は本人ではなく別の作家が書いたものだったため、今は絶版となっている)。原作は、イーデン・フィルポッツが1922年に発表した『赤毛のレドメイン家』((乱歩が世界の探偵小説ベスト10で必ず1位に上げる作品)の翻案小説であり、乱歩が翻案した『緑衣の鬼』では、探偵作家・大江白虹が新聞記者の折口幸吉とともに事件に関与し、そこに探偵役として登場するのは明智小五郎ではなく乗杉龍平ですが、ドラマ版では当然のことながら明智こと天知茂が、原作における事件の「二つの不可解と五つの不可能」の真実を説き明かすことになります。
少年探偵江戸川乱歩全集〈34〉緑衣の鬼

白い人魚の美女03.jpg 原作は、読んでいて犯人の見当が途中でついてしまいましたが、この犯人、相当な「早変わり」をしていることになるなあと。でも、乱歩の小説だからそれはアリということで読むべきなのだなあと。ところが、そう思い込んでしまうと推理の方の詰めが甘くなってしまい、ラストで明かされる犯行の意外な全体像に自力では行きつけないということになってしまいます(自分がそうだった)。元々評価されている洋物を基にしていることもってプロットはしっかりしており、それに乱歩風の味付けがあって、トータルで見て、「本格」風のプロットでありながらも娯楽性の高い面白い作品になっています。

4白い人魚の美女.png あとは、この長編をどうやって約70分くらいに纏めるかだったと思いますが、原作の洋物の「本格」風のプロットと、乱歩が加味した乱歩らしい雰囲気をそれほど損なわずによく活かしていたと思います。ドラマを観て、ある人物が登場した時には、怪しい!コイツが犯人だ!と思い、終盤、やっぱりそうだったと思いながらも、犯行の全容は最後まで分からなかったという、自分が原作を読んだ時と同じような経験をする人が何割かいるのではないでしょうか。それでも犯人は相当な「早変わり」をしていることになりますが(走りながら着替えていた(笑))、むしろ、原作通りに解釈するならばですが、犯人が誰もいないところで視聴者に向けて演技している"映像のウソ"があるところが少し気になったでしょうか(そのあたりはドラマは原作とは別の解釈なのか)。

4話)/白い人魚の美女.jpg 原作で静雄の死体を見つけたかと思ったら後ろから緑衣の怪人に殴られ、気がついたら芳枝もいなくなっていたという目に遭うのは探偵作家の大江白虹であり、それがドラマでは明智の助手の文代に置き換わっています。また、原作では、笹本芳枝を巡って探偵作家・大江白虹とドラマで荻島真一が演じる笹本家のボディガード・山崎の恋のさや当てがあり、結局、山崎が夫・静雄を失った芳枝の新たな婚約者の地位を得ますが、ドラマでは、芳江の美しさに惹かれる明智に文代がやきもちを焼くような別の三角形の構図になっていて、ここでも文代に大江白虹の肩代わりをさせることで、原作のテイストを活かしています。原作の大江白虹は乗杉龍平との推理合戦に敗れ、プロとアマチュアの差を見せつけられますが、ドラマの文代は、ラストで緑衣の怪人に扮するなど大活躍でした。

白い人魚の美女 夏.png ヒロイン笹本芳枝役の夏純子(1949年生まれ)は、18歳の時に若松孝二監督の「犯された白衣」('67年/若松プロ)でデビューし、主演の唐十郎の相手役として熱演した「"日活"最後の主演女優」と言われる人で、犯人に襲われるシーンなどで肩まで脱いでいますが、水族館の水槽に全裸で生きながら閉じ込められ、「白い人魚」と化すシーンなどの全身が映る箇所は吹き替えのようです。そのためか、原作には白い人魚の美女 日野.jpg無い「浴室で全裸で殺されているお手伝い」役として、この年(1978年)"にっかつ"デビューの日野繭子(1959年生まれ)が起用されているのでしょう。彼女は現在はノイズ・ミュージシャンとして活動し、鍼灸師でもあるとのことです。

白い人魚の美女 朝加.jpg その他、朝加真由美(1955年生まれ)が演じた夏目太郎の妹・知子もドラマのオリジナルで、時間内に収めるために原作の人間関係を単純化して端折るというのはよくありますが(本作でも原作の夏目菊三郎は最初からいない)、特に「浴室要員」としてではなく、新たなキャラクターを付け加えるというのは、ストーリーをわかりやすくするためというより、この場合、サスペンス気分を盛り上げるためなのでしょう(知子も犯人に殺害される)。朝加真由美は1973年、「ウルトラマンタロウ」(TBS)のヒロイン・白鳥さおり役でドラマデビューしましたが第16話で降板し、その後舞台の方に行って、この年がドラマ復帰の1年目で(まだ、ギャラガや安かった?)、その2年後に横山博人監督の「純」('80年)で映画デビューしています(映画デビューは夏純子の方が13年も早いことになる)。

白い人魚の美女 熱川.jpg ロケ地で、晴海のホテル浦島や熱川のワニ園が出てくるのが、「昭和」って感じで懐かしかったです。原作における「廃墟となった水族館」での追跡劇は、ドラマでは実際に魚がいる夜の水族館でやっていて、それはそれで雰囲気が出ていたし、洞窟での追走劇もしっかり映像化されていました。「緑衣」の魔人がシルクハットを被ってなんだか手品師みたいなのと、ラストのシーンがシーリーズの定番とは言え、当人以外はぼーっと突っ立っていてややぎこちなさがあったのが難でしたが、やはりこの作品はプロットが良いです。プロットの良さは当然ながら原作の良さに負うところ大かと思いますが、乱歩作品の雰囲気と併せて、それらを上手く活かして映像化している点を評価したいと思います。

第4話)/白い人魚の美女 11.jpg「江戸川乱歩 美女シリーズ(第4話)/白い人魚の美女」●制作年:1978年●監督:井上梅次●プロデューサー:佐々木孟●脚本:宮川一郎●音楽:鏑木創●原作:江戸川乱歩「緑衣の鬼」●時間:72 分●出演:天知茂(明智小五郎)/五十嵐めぐみ(文代)/夏純子(笹本芳枝)/荒井注(浪越警部)/朝加真由美(夏目知子)/松村達雄(夏目菊太郎)/荻島真一(山崎)/日野繭子(家政婦)/北町嘉朗/羽生昭彦/池田駿介/加地健太郎/東村元行/小田草乃介/篠原靖夫/久木念/土屋靖雄/鈴木謙一/沖秀一/青沼三郎/山本幸栄/岡本忠幸/福谷光一●放送局:テレビ朝日●放送日:1978/07/08(評価:★★★★)

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「美女」は松原智恵子だったが、「死刑台の美女」の「美女」はかたせ梨乃だった。
死刑台の美女 dvd.jpg t13話)/死刑台の美女 .jpg 3話)/死刑台の美女 t2.png 悪魔の紋章 乱歩文庫.jpg 江戸川乱歩全集 第12巻 悪魔の紋章.jpg
江戸川乱歩「悪魔の紋章」より 死刑台の美女 [DVD]」『悪魔の紋章 (江戸川乱歩文庫)』['19年]『悪魔の紋章~江戸川乱歩全集第12巻~ (光文社文庫)』['03年]
83話)/死刑台の美女 .jpg 明智小五郎は、犯罪研究の権威・宗方隆一郎(伊吹吾郎)の妻・京子(松原智恵子)の依頼を受け、論文発表のため香港に飛ぶことに。車椅子の女性・京子の美貌に接したとき、この依頼は断れないと思ったのだ。その頃、実業家の川手庄太郎(増田順司)と3人の娘は何者かに脅迫を受けていたが、明智は不在になるため、宗方が代理で警護することになる。しかし三女・雪子(結城マミ)、次女・春子(三崎奈美)殺害された上に死体を辱められ、川手の腹違いの妹・北園竜子(稲垣美穂子)とその愛人・須藤が容疑者となる。現場には特殊な指紋・三重渦状紋が残されていた。宗方は川手と長女・民子(かたせ梨乃)を伊豆の山荘に匿うが、その夜、覆面の男女に襲われる。彼らは、強盗殺人犯だった川手の父に両親を殺された兄妹だった。川手の父は獄死したため、30年かけて息子と孫娘たちを根絶やしにするつもりなのだ。警察も犯人の意図を察知する。一方、竜子は疑われることを恐れ、三重渦状紋のある自分の指を切り落とすが、須藤に殺される。その須藤も罪を認める遺書を遺して自殺したことから、事件は終わったと思われた―。

少年探偵江戸川乱歩全集〈28〉呪いの指紋
少年探偵江戸川乱歩全集〈28〉呪いの指紋.jpg 原作は、江戸川乱歩が1937(昭和12)年9月から翌年10月まで「日の出」に掲載した、文庫で350ページ(2019年版「江戸川乱歩文庫」(春陽堂))ほどの長編で、本人名義で児童向けにリライトされた作品(タイトル「呪いの指紋」)もあります(ポプラ社『少年探偵 江戸川乱歩全集』(全46巻)の中の第27巻「黄金仮面」以降は、実際は本人ではなく別の作家が書いたものだったため、今は絶版となっている)。ドラマを最初観た時は、原作を随分改変したなあという印象でしたが、もう一度原作を読み返してみたら、プロットのエッセンスの部分はかなり生かされていたように思いました。ぱっと観て原作と随分違うという印象を受けるのは、以下のような理由があるように思います。
  
3話)/死刑台の美 12.jpg その1:ドラマでは、明智が宗方隆一郎と妻・京子の依頼で香港に行くことになりますが、原作では明智は政府から国事犯調査の依頼を受け朝鮮に出張しており、車椅子の京子が明智の前に現れるようなこともありません(京子が車椅子生活を送っているというのもドラマのオリジナル)。また、原作で明智は、ドラマのように警察の捜査途中から現場に入るのではなくもっと後の、一見事件が落着したかに見えた時点で帰国して、それから独自の推理を展開します(この部分はある種"安楽椅子探偵"と言える)。でも、原作通りドラマ化したら、明智が最後しか出てこないことになってしまうので、早めに帰国させたのでしょう。

3話)/死刑台の美女2-2.jpg その2:原作では川手庄太郎の娘は2人きりで、共に惨殺されますが、ドラマではその2人にさらにもう一人、長女の民子(かたせ梨乃)がいて、父と共に犯人に騙され誘拐されます。川手親子は救出されますが、2人組が病院に侵入し、川手氏を殺害、民子を連れ去ってしまい、民子と尾行してきた文代(五十嵐めぐみ)を処刑台にかけて殺害しようとするのですが、そもそも原作には民子は登場しないので、こうした「死刑台」シーンもドラマのオリジナルです。

3話)/死刑台の美女 engeki.jpg その3:原作では、川手の娘の誘拐事件を巡って、宗像と犯人と思しき人物の「見世物小屋」での追跡劇が延々あるのですが(これが実はプロット要素にもなっている)、「見世物小屋」というのが原作が書かれて40年後の70年代においては古めかしすぎたのか割愛されていて、次女・春子(三崎奈美)の死体はヌード劇場で見つかるようになっています(犯人が川手に見せた"再現"演劇も割愛されるかと思ったら映像化されていて、70年代はアングラ劇場ブームだったため、こちらはアリだったのか)。最初に三姉妹がいる部屋でラジカセから流れている曲がピンク・レディーが'77年12月にリリースした「UFO」であり、あれからまた40年以上経ったのかあ...。

3話)/死刑台の美女 matu.jpg その4:やはり、ラストの改変がかなり効いています。いつも〈美女〉はみんな明智に惚れて結局メロドラマ調になってしまうのだけれど、もうこれはこのドラマシリーズの路線なのだと割り切ってしまえばいいのでは。原作では、犯人が明智に向けたピストルの弾丸は明智が予め抜き取っていて、絶望した犯人は自害します。それがドラマでは、ピストルに弾丸は入っていたっぽく、そうすると明智は女性に命を救われたことになります。

3話)/死刑台の美女4.png 「美女シリーズ」としての〈美女〉は松原智恵子でしたが、「死刑台の美女」の〈美女〉はかたせ梨乃(1957年生まれ)ということになるのでは。贅沢なキャスティングでしたが、かたせ梨乃は前回の「浴室の美女」の夏樹陽子ほどには脱がず、これもまた3話)/死刑台の美女  ko.jpg顔が映らない部分は吹き替えでした。となると、ヌード劇場の三崎奈美が、今回無かった「入浴シーン」の代替だったということか。それでは弱いということで(エロスの総量が足りない?)、五十嵐めぐみ演じる、犯人に捕まってしまった文代まで、犯人からSMチックな責めを被ることになったのではないかと思ったりもします。五十嵐めぐみ(1954年生まれ)は後にインタビューで「まさか文代があんな目に遭うとは思っていませんでした(笑)。お芝居とはいえ、けっこう痛い思いをした記憶がありますね。井上監督からは現場で『もうちょっとよく見えるようにしてくれ』なんて言われたり(笑)」と語っています(「映画com.」2015)。

3話)/死刑台の美女 katase.jpg流れ星おりん:かたせ梨乃.jpg かたせ梨乃は1978年4月、テレビ東京の「大江戸捜査網」第3シリーズ(里見浩太朗主演)で〈はやぶさお銀〉役の安西マリアが降板したのと入れ替わりに〈流れ星おりん〉として参入したのが、ドラマの本格デビューですが、この「美女シリーズ」出演はそれと同じ頃になります。「大江戸捜査網」へのレギュラー出演は、三船プロダクションの鳴り物入りだったというのもあるかと思いますが、翌年にはNHK大河ドラマ「草燃える」に出演するなどしていて、背景にはCMモデル、カバーガールとしての高い人気と知名度もあったかと思います。人気モデルの地位に安住ぜす、若いうちに女優の世界に足を踏み入れたのが成功した1つの要因かと思います。

3話)/死刑台の美女伊吹.jpg「江戸川乱歩 美女シリーズ(第3話)/死刑台の美女」●制作年:1978年●監督:井上梅次●プロデューサー:佐々木孟●脚本:宮川一郎/井上梅次●音楽:鏑木創●原作:江戸川乱歩「悪魔の紋章」●時間:72 分●出演:天知茂/五十嵐めぐみ/荒井注/伊吹吾郎/松原智恵子/稲垣美穂子/増田順司/かたせ梨乃/三崎奈美/結城マミ/宮口二郎/加地健太郎/東村元行/小田草乃介/喜田晋平/村上記代/紺あき子/谷よしの/土屋靖雄/青沼三郎/山本幸栄/羽生昭彦/沖秀一/篠原靖夫/加藤真琴/中村正人/下坂泰男/小野塚千枝子/藤原美佐穂/新垣嘉啓●放送局:テレビ朝日●放送日:1978/04/08(評価:★★★☆)
松原智恵子 in 「芸能人格付けチェック BASIC~春の3時間スペシャル 特別編」(テレビ朝日 2020.3.19)
松原智恵子200319.jpg
かたせ梨乃 in 「チコちゃんに叱られる!」(NHK 2018.5.25)/伊吹吾郎 in「麒麟がくる」(NHK 2020.3.08)
かたせ180525 伊吹200308.jpg

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原作の面白さが活かされている。メロドラマ的には原作を超えたか。

江戸川乱歩「魔術師」より 浴室の美女 [DVD].jpg 2話)/浴室の美女1978t.jpg 2話)/浴室の美女8.jpg 魔術師 (江戸川乱歩文庫).jpg 江戸川乱歩全集 第6巻 魔術師.jpg
江戸川乱歩「魔術師」より 浴室の美女 [DVD]」夏樹陽子 『魔術師 (江戸川乱歩文庫)』['19年]『江戸川乱歩全集 第6巻 魔術師 (光文社文庫)』['04年]
2話)/浴室の美女 6.jpg2話)/浴室の美女1.jpg 榛名湖で静養中の明智小五郎(天地茂)は、玉村妙子(夏樹陽子)という女性に出会い、彼女の美しさに魅せられるが、彼女には起きる事を予感がする不思議な能力があるという。そんな折、資産家の伯父・福田徳二郎から、東京に戻ってきてほしいと電話がある。カウントダウンのような数字を示すものが順番の送られてくるようになって恐怖を覚え、妙子に助けを求めた2話)/浴室の美女2kubi.jpgのだ。東京に帰った妙子と福田は警察に相談するが、波越2話)/浴室の美女3kamen.png警部(荒井注)は、まだ何も起きていない事件なので、民間の探偵に頼むことを勧め、明智を紹介する。妙子の依頼と聞いて捜査に協力すると言った明智だが、帰京2話)/浴室の美女図5.jpgした上野駅で、福田の代理人という人物に騙され拉致される。やがて、福田が自室で首を落とされた姿で発見され、隠し金庫のダイアも盗まれていた。さらに翌日、"獄門舟"の札が掲げられて川を流れていた福田の首が発見される。一方で連れ去られた明智は船に監禁されていて、脱出しよ2話)/浴室の美女5sano.pngうとするも阻れる。玉村家に強い恨みをもった奥村源造(西村晃)が魔術師と称して明智に挑戦し、父親を殺された恨みを晴らすことに執念を燃やし、こ2話)/浴室の美女6nishi.jpgまの犯行を企てたのだった。明智は、犯罪への罪悪感を抱くその娘・綾子(高橋洋子)の助けで脱出するが、海中に落ちて水死体が発見されたとして、新聞に「明智小五郎氏 殺害さる」と報2話)/浴室の美女7.pngじられる。一方、福田の兄で宝石王の玉村(佐野周二)にも数字の通知が送られ始め、入浴中の妙子が何者かに襲われて傷を負う。さらに、長男・一郎(志垣太郎)は、危うく時計の針に首を落とされそうになる。最近雇われた庭師の音吉に犯人の疑いを抱いた玉村は、彼をクビにする。一方、明智の遺志を継いで、この事件の調査をしていた助手の文代(五十嵐めぐみ)は、玉村邸から怪しげな人物、"魔術師"その人が抜け出してきたのを発見、彼が《オクムラ魔術団》へ入っていくのを見届ける。彼女からの連絡で、《オクムラ魔術団》に踏み込んだ波越警部らは、間一髪で"魔術師"に逃げられてしまうが、その場には音吉もいた―。
少年探偵江戸川乱歩全集〈29〉魔術師
少年探偵江戸川乱歩全集 魔術師.jpg2話)/浴室の美女 endt.jpg 原作は、江戸川乱歩が1930(昭和5)年7月から翌年5月まで「講談倶楽部」に掲載した、文庫で300ページ(2018年版「江戸川乱歩文庫」(春陽堂))ほどの長編で、本人名義で児童向けにリライトされた作品もあります(ポプラ社『少年探偵 江戸川乱歩全集』(全46巻)の中の第27巻「黄金仮面」以降は、実際は本人ではなく別の作家が書いたものだったため、今は絶版となっている)。明智が死んだように見せかけるというのは、「007は二度死ぬ」('67年/英)みたいだなあ(ボンドガールみたいな敵中の味方がいるし)。作中の過去の犯罪について、「江戸川乱歩文庫」の解説によれば、「レ2話)/浴室の美女 kabe.jpgンガ壁に人間を塗り込める」というのは、ポーの「アモンティリャードの樽」の着想を得たとのことですが、ポーで「レンガ壁に人間を塗り込める」と言えば「黒猫」を思い浮かべる人も多いのでは。前半は犯人である"魔術師"が圧倒的に優勢なのが、終盤、明智が畳みかけるように逆転攻勢するする展開は原作もドラマと同じです(原作でTales of Terror 1962 2.jpgは「水責め」だったのがドラマでは「火責め」になっていたりしたが)。しかも、いったん"魔術師"が亡んで事件が解決したかにみえて、その後にもう一つ意外な展開があるのも原作通りです。

黒猫の怨霊」('62年/米)(原作:エドガー・アラン・ポー「黒猫」)
     
2話)/浴室の美女 furo.jpg シリーズ第1話の『吸血鬼』が原作の「氷柱の美女」は、原作を読むと途中で犯人が判ってしまうのが難で、そのままドラマでもそうなっていしまっていましたが、この『魔術師』が原作の第2話では、原作を読んでもラストの展開は全く予測できないのと同様、原作を知らずにドラマを観ると、原作と同じように最後に驚きが味わえるのではないでしょうか。その後このシリーズで"恒例"となる「浴室」シーンが、この作品に関しては、掟破りとも言える"映像のウソ"ぎりぎりの線にかかっているようにも思えますが、全体としては原作の面白さが活かされている回であり、パイロット版とも言える第1話から進化したように思います。

 ラストはメロドラマ的ですが、これはこれで良かったように思います。原作では犯人は自殺しないで刑務所行きとなる、あくまで"毒婦"として扱われていますが、ドラマでは明智の胸の中で死んでいく「呪われた宿命」を背負った哀しい女性、或いは「運命と闘っていた」女性ということになっています。原作では、明智の気持ちがこの女性から別の女性に移っていくというプロセスがあるのですが、ドラマではそこを描いていないので、この終わり方もありかなと思います。メロドラマ的には(江戸川乱歩はそれを指向していなかったかもしれないが)原作を超えているかもしれません。

2話)/浴室の美女4.png 原作を読んだ人にとって観ていて興味深いと思われるのは、五十嵐めぐみ(第1話の時から髪を切った)演じる明智の助手の文代が事件にどう絡むかではないでしょうか。原作には、明智の助手としての「文代」は登場せず、ただし、非常に重要なキャラクターとして「文代」が登2話)/浴室の美女 ayako.png場します。原作通りでいくと、ドラマでは、同一人物が時間を超えて同じ場所に二人いることになってしまうので、ドラマの方の「(原作における)文代」に別の名前を与え、明智の助手としての「文代」とは別人にしたということでしょう。それによって、ドラマにおける明智の助手としての「文代」は、有能で気丈ではあるけれど特別おどろおどろしい出自を有するのでもなく、また、原作のラストに示されているように将来「明智夫人」と呼ばれるようなことにもならないことが示唆されていることになるかと思います。

佐野周二(1912-1978)      
2話)/浴室の美女  tl.jpg2話)/浴室の美女 sano.png「江戸川乱歩 美女シリーズ(第2話)/浴室の美女」●制作年:1977年●監督:井上梅次●プロデューサー:佐々木孟●脚本:宮川一郎●音楽:鏑木創●原作:江戸川乱歩「魔術師」●時間:72 分●出演:天知茂/五十嵐めぐみ/荒井注/西村晃/夏樹陽子/高橋洋子/志垣太郎/佐野周二/宮口二郎/高桐真/白石奈緒美/北町嘉郎/池田駿介/水原ゆう紀●放送局:テレビ朝日●放送日:1978/01/07(評価:★★★★)

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最後、技術面で「荒唐無稽小説」の壁を乗り越えられなかったパイロット版。

『江戸川乱歩・氷柱の美女』dvd.jpg 『江戸川乱歩・氷柱の美女』01.jpg 江戸川乱歩文庫 吸血鬼.jpg 江戸川乱歩全集 第6巻 魔術師.jpg [Prime Video]氷柱の美女.jpg
江戸川乱歩「吸血鬼」より 氷柱の美女 [DVD]」天知茂/三ツ矢歌子『吸血鬼 (江戸川乱歩文庫)』['19年]『江戸川乱歩全集 第6巻 魔術師 (光文社文庫)』['04年]「江戸川乱歩シリーズ 氷柱の美女」[Prime Video]
/氷柱の美女 T.jpg『江戸川乱歩・氷柱の美女』t_1 1.jpg 明智が静養中の箱根湖畔で釣りをしていると、そこに美しい女性が現れる。さらに、帰り際にも彼女と出会い、霧で道に迷ったというが、そこへ青年が駆けつける。明智は事務所のメンバーと湖畔のホテルに滞在していて、その女性、資産家の未亡人・畑柳倭文子(はたやなぎ しずこ)(三ツ矢歌子)は、ホテルの近くの別荘に一人息子の茂といて、湖畔ホテルへもよく来ていたのだ。その日、明智が文代(五十嵐めぐみ)、小林(大和田獏)とホテルのバーにいると、二人の男を/氷柱の美女 4.jpg携えた倭文子がいた。一人は画家の岡田道彦(菅貫太郎)で、もう一人は、今日倭文子を探しにきたグラフィックデザイナーの青年・三谷房夫(松橋登)だった。やがて、宿の一室で、岡田と三谷の二人の男による、倭文子の愛を得るため命を賭けた決闘が始まる。テーブルにふたつのワイングラスがあり、岡田は、どちらかに毒が入っているので、三谷にひとつ選んで飲み干すように要求する。結果、三谷は賭けに勝利し、岡田はその決闘で死こそ免れたものの、劇薬を顔に浴びて醜い姿となり、倭文子の前で屈辱を味わって姿を消す。やがて、岡田と思しき顔が潰れた水死体が見つかるが、それ以降、唇のない怪人が倭文子の周囲に出没する。恒川警部(稲垣昭三)は明智に事件解決への協力を依頼をするが、唇のない怪人は今度は明智を挑発するかのような行動に出る―。

 シリーズの記念すべき第1作。原作は、江戸川乱歩が1930(昭和5)年9月から翌年3月まで「報知新聞」に連載した、文庫で440ページ(2019年版「江戸川乱歩文庫」(春陽堂))もの長編で、他の長編同様、どんでん返しの連続です。ただ、連載中に短いサイクルで読者の期待に応えようとしたのか、ややサービス過剰気味な分、リアリティは弱まっているように思います。それでも、ポーの「早すぎる埋葬」のプロットを織り込むなどしているし、後の推理作家にそうしたプロット面の多彩さで影響を与えた作品と言われています。

『江戸川乱歩・氷柱の美女』kobayasi humiyo.png ドラマでの文代役の五十嵐めぐみは、シリーズ全25作中19作まで文代役を務めることになりますが、この頃はまだ髪が長くて、後のボーイッシュな髪形ではありません。小林を演じた大和田獏は、「少年」と呼ぶには年齢がいきすぎていたせいか、大和田獏はこの第1作のみの登場で終わっています。稲垣昭三(1928-2016/享年88)が演じた恒川警部は、原作通り「恒川警部」なのですが、こちらも第2作から荒井注演じる「浪越警部」に代わります。また、第2話「浴室の美女」まで放映が5カ月も空くことから、ある意味この回はパイロット版的な位置づけだったようにも思われます(「刑事コロンボ」の第1話「殺人処方箋」などは完全にそうだが、パイロット版ってスタイルの初期の完成度を知るうえで興味深いが、観ていて何となく落ち着かない気がする)。

 原作は、塩原温泉の旅館での男二人の「毒ワイン決闘」から始まり、ドラマ冒頭で明智が箱根に来ているのも(塩原から箱根に改変されている)、1日に3度倭文子に出会うのもドラマのオリジナルです。一方で、大部な原作を90分番組のドラマにするとなると、どうしても原作を大幅に圧縮せざるを得なかったようで、特に原作に幾多ある大掛かりなアクションシーンが全部カットされたのは、時間的な問題以外に予算の関係もあったのかもしれません。それでも、初回にこの江戸川乱歩らしい"荒唐無稽"とも思える作品を選んだのは果敢と言えます(先行する映像化例に、久松静児監督、岡譲二主演の映画「氷柱の美女」('50年/大映)があることはあるが)。

2 氷柱の美女 仮面.jpg 原作は、明智の謎解きを待たなくとも何となく犯人が判ってしまうのですが、ドラマの方は、原作以上に早くから犯人がミエミエという印象も。明智も"判っている"風で、あとは、明智がどう犯人を追い詰めるかしか楽しみがないのですが、「氷柱の美女」の脚本におけるクライマックスで、明智が単に普通に犯人の前に現れて謎解きをすることになっていたのが、それでは面白くないと考えた井上梅次(1923-2010/享年86)監督が現場で思いついたのが、犯人が鏡に向って仮面を取ると、その鏡の中に脱いだはずの吸血鬼の仮面が映り、びっくりして振向くと、もう一人の吸血鬼がゆっくり仮面を取って明智の顔が現れるという演出だったそうです。以降、明智がラスㇳに変装して犯人の前に現れ、仮面をはがした上で謎解きをするというのがシリーズの定番になったとのことです。

『江戸川乱歩の吸血鬼・氷柱の美女』hatayamagi.jpg 一方で、後にお決まりとなる「入浴シーン」はまだなく、その代わり、三ツ矢歌子(1936-2004/享年67)演じる倭文子が前半と後半各一度犯人に襲われますが、顔や肩から上は本人であるものの、胸や躰全体が映るシーンは吹き替えになっています。「昼メロの女王」と呼ばれながらも上品な役が多かった三ツ矢歌子が、ここまでやっただけでも当時驚くべきことだったようで、それ以上は無理だったのでしょう(その昔は「海女の戦慄」('57年/新東宝)などで水着になったりはしていたが、すでにこの時には四十路だったこともあるか)。井上監督は毎回現場で女優と交渉していたようですが、それも大変で、結局、〈ヒロイン〉と〈脱ぐ役〉を分けるというのが定番になっていったようです。
   
『江戸川乱歩・氷柱の美女』hyoutyunobijyo.jpg ラストも原作から改変されていますが、「氷柱の美女」を実現したのはなかなかのものです(タイトルが「氷柱の美女」なら、やらない訳にはいかないが)。ただ、最初に氷ごと横向き現れた時、どう見ても明らかにマネキンなので、これはいくらなんでも製氷機から出てきた瞬間に犯人が気づくだろうと。でもアップになると三ツ矢歌子で、そこだけ映していればまだよかったのにと思ったりもしました。というのは、中途半端にカメラを引くとその姿はまたマネキンになり、さらに別の角度から背景としての映り込みになると、その顔が紙に書かれた下手な似顔絵みたいで(なぜか笑っている)げんなりさせられたからです。ラストには"異形の愛"的なドラマチックな要素もあるだけに、最後に技術面で「荒唐無稽小説」の壁を乗り越えられなかった気がして惜しいです。

「江戸川乱歩 美女シリーズ(第1話)/氷柱の美女」●制作年:1977年●監督:井上梅次●プロデューサー:佐々木孟●脚本:宮川一郎●音楽:鏑木創●原作:江戸川乱歩「吸血鬼」●時間:72 分●出演:天知茂/五十嵐めぐみ/大和田獏/稲垣昭三/三ツ矢歌子/松橋登/菅貫太郎/野口ふみえ/北町嘉朗 /稲川善一/神田時枝/荻野尋/村上記代●放送局:テレビ朝日●放送日:1977/08/20(評価:★★★)

天知茂/荒井注(第2作-第25作)
江戸川乱歩 美女シリーズ3.jpg江戸川乱歩 美女シリーズ2.jpg「江戸川乱歩 美女シリーズ(天知茂版)」●監督:井上梅次(第1作-第19作)/村川透/長谷和夫/貞永方久/永野靖忠●プロデューサー:佐々木孟●脚本:宮川一郎/井上梅次/長谷川公之/ジェームス三木/櫻井康裕/成沢昌茂/吉田剛/篠崎好/江連卓/池田雄一/山下六合雄●撮影:平瀬静雄●音楽:鏑木創●原作:江戸川乱歩●出演:天知茂/五十嵐めぐみ(第1作-第19作)/高見知佳(第20作-第23作)/藤吉久美子(第24作・第25作)/大和田獏(第1作)/柏原貴(第6作-第19作)/小野田真之(第20作-第25作)/稲垣昭三(第1作)/北町嘉朗(第1作・第4作-第9作)/宮口二郎(第2作・第3作)/荒井注(第2作-第25作)●放映:1977/08~1985/08(天知茂版25回)【1986/07~1990/04(北大路欣也版6回)、1992/07~1994/01(西郷輝彦版2回)】●放送局:テレビ朝日
  

●「江戸川乱歩の美女シリーズ」(全33話)放映ラインアップ
(天知茂版)

話数 放送日 サブタイトル 原作 美女役 視聴率
江戸川乱歩シリーズ 浴室の美女.jpg1 1977年8月20日 氷柱の美女 『吸血鬼』 三ツ矢歌子 12.6%
2 1978年1月7日 浴室の美女 『魔術師』 夏樹陽子 20.7%
3 1978年4月8日 死刑台の美女 『悪魔の紋章』 松原智恵子 15.6%
4 1978年7月8日 白い人魚の美女 『緑衣の鬼』 夏純子 14.5%
5 1978年10月14日 黒水仙の美女 『暗黒星』 ジュディ・オング 15.3%
6 1978年12月30日 妖精の美女 『黄金仮面』 由美かおる 14.0%
7 1979年1月6日 宝石の美女 『白髪鬼』 金沢碧 13.0%
8 1979年4月14日 悪魔のような美女 『黒蜥蜴』 小川真由美 15.4%
9 1979年6月9日 赤いさそりの美女 『妖虫』 宇津宮雅代 16.9%
10 1979年11月3日 大時計の美女 『幽霊塔』 結城しのぶ 23.4%
岡田奈々の「魅せられた美女」.jpg11 1980年4月12日 桜の国の美女 『黄金仮面II』 古手川祐子 15.9%
12 1980年10月4日 エマニエルの美女 『化人幻戯』 夏樹陽子 19.5%
13 1980年11月1日 魅せられた美女 『十字路』 岡田奈々 20.0%
14 1981年1月10日 五重塔の美女 『幽鬼の塔』 片平なぎさ 21.6%
15 1981年4月4日 鏡地獄の美女 『影男』 金沢碧 19.7%
16 1981年10月3日 白い乳房の美女 『地獄の道化師』 片桐夕子 20.1%
17 1982年1月2日 天国と地獄の美女 『パノラマ島奇談』 叶和貴子 16.6%
18 1982年4月3日 化粧台の美女 『蜘蛛男』 萩尾みどり 17.6%
19 1982年10月23日 湖底の美女 『湖畔亭事件』 松原千明 16.0%
20 1983年1月1日 天使と悪魔の美女 『白昼夢』(『猟奇の果て』) 高田美和 12.6%
江戸川乱歩シリーズ 禁断の実の美女.jpg21 1983年4月16日 白い素肌の美女 『盲獣』(『一寸法師』) 叶和貴子 13.3%
22 1984年1月7日 禁断の実の美女 『人間椅子』 萬田久子 18.9%
23 1984年11月10日 炎の中の美女 『三角館の恐怖』 早乙女愛 22.4%
24 1985年3月9日 妖しい傷あとの美女 『陰獣』 佳那晃子 24.7%
25 1985年8月3日 黒真珠の美女 『心理試験』 岡江久美子 26.3%
(北大路欣也版)
1 (26) 1986年7月5日 妖しいメロディの美女 『仮面の恐怖王』 夏樹陽子 19.9%
2 (27) 1987年1月10日 黒い仮面の美女 『凶器』 白都真理 17.0%
3 (28) 1987年8月15日 赤い乗馬服の美女 『何者』 叶和貴子 17.9%
4 (29) 1988年5月14日 日時計館の美女 『屋根裏の散歩者』 真野響子 16.4%
5 (30) 1989年8月26日 神戸六甲まぼろしの美女 『押絵と旅する男』 南條玲子
6 (31) 1990年4月14日 妖しい稲妻の美女 『魔術師』 佳那晃子 15.8%
(西郷輝彦版)
1 (32) 1992年7月4日 からくり人形の美女 『吸血鬼』 美保純 15.5%
2 (33) 1994年1月8日 みだらな喪服の美女 『白髪鬼』 杉本彩 13.4%

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原作とかなり異なるが(犯人さえ違っている)、不思議と原作の雰囲気を伝えている。
江戸川乱歩 美女シリーズ(第5話)/黒水仙の美女 dvd.jpg 江戸川乱歩 美女シリーズ(第5話)/黒水仙の美女 t1.jpg 江戸川乱歩 美女シリーズ(第5話)/黒水仙の美女 t2.jpg 暗黒星 (江戸川乱歩文庫).jpg
江戸川乱歩「暗黒星」より 黒水仙の美女 [DVD]」『暗黒星 (江戸川乱歩文庫)』['19年]
ジュディ・オング
美女シリーズ(第5話)/オング1.jpg江戸川乱歩 美女シリーズ(第5話)/黒水仙の美女 1.png江戸川乱歩 美女シリーズ(第5話)/黒水仙の美女2.jpg 明智探偵(天知茂)は、彫刻家・伊志田鉄造(岡田英次)の「呪」と題された彫刻展の招待状を受け、文代(五十嵐めぐみ)と彫刻展に。そこで女性の悲鳴が上がる、展示してある彫刻が口から血を流していたのだ。いたずら好きの長男・太郎(北公次)の仕業かと思われたが、それは次女・悦子(泉じゅん)がやったことだった。展覧会を後にしようとする明智たちを一人の女性がずっと見ていた。伊志田の長女・待子(ジュディ・オング)で、彼女こそが明智に招待状を送った本人だっ江戸川乱歩 美女シリーズ(第5話)/黒水仙の美女 3.jpg5話)/黒水仙の美女図3.jpgた。待子は明智に伊志田邸に正体不明の黒い影が出現し、母の君代(空あけみ)はそれがもとで寝込んでいるという。明智に伊志田家に出没する黒い影についての捜査を依頼した。その夜、待子が独りでいると不気味な声が聞こえ、待子は明智に電話で助けを求める。5話)/黒水仙の美女 江波1.jpg耳を澄ませた明智にもその声は確かに聞こえた。黒い影は声だけでなく邸内を自由自在に跳び回って待子を恐怖に陥れる。そして、彫刻の一つに成りすました黒い影が待子の首を絞める。そこへチャイムが鳴り、待子の電話により伊志田家に到着した明智を、邸付きの看護婦・三重野早苗(江波杏子)が出迎える。邸内では待子が気絶していた。黒い影の主を見つけようと伊志田家の庭に出た明智は、例の不気味な声を聞き、その正体を暴こうとするも見失ってしまう。やがて三女の鞠子が殺害される事件が起き、続いて次女・悦子も浴室で―。

黒水仙の美女 原泉.jpg 登場人物の相関がやや分かりにくいですが、長女の待子は伊志田の亡くなった先妻・靜子の子であり、悦子と太郎、鞠子の三人が今の妻の子であって、待子が二歳の時、鉄造は絹代と関係を持ち、太郎と悦子が生まれ、伊志田家へ押し掛けてきたという過去があったと。離れの小屋で祈祷している精神を病んだ老女(原泉)は、靜子の母、つまり待子の祖母であると把握できれば、実は靜子には待子のほかにもう一人子がいたということが判った時点で、ああ、それが犯人だと思い当たるし、助けを求められて駆けつけた明智に「待子さんは夢遊病の気があるから」と言った時点でもう怪しいです。

少年探偵江戸川乱歩全集〈37〉暗黒星』['71年]
少年探偵江戸川乱歩全集〈37〉暗黒星.jpg江戸川 乱歩 「暗黒星」第20回.jpg 原作は、江戸川乱歩が1939年1月から12月に雑誌「講談倶楽部」に連載したもので、本人名義で児童向けにリライトされた作品もあります(ポプラ社『少年探偵 江戸川乱歩全集』(全46巻)の中の第27巻「黄金仮面」以降は、実際は本人ではなく別の作家が書いたものだったため、今は絶版となっている)。文庫で200ページほどの長さ(2015年版「江戸川乱歩文庫」(春陽堂))。原作で江戸川 乱歩 「暗黒星」第2回.jpgは、伊志田の子供は、長女・「綾子」、長男・一郎、次女・鞠子の3人で、何れも今の母・君代の子ではなく、伊志田の前妻の子であるということになっています。明智に相談を持ち掛けるのは長男の一郎で(「講談倶楽部」挿絵の右が一郎、左が明智)、電話で助けを呼ぶのも一◆暗黒星■江戸川乱歩◆文庫.jpg郎。そして、一郎、綾子、鞠子、さらには伊志田までが犯人に攫われ、ドラマに比べれば、最後まで犯人は分かりにくくなっています。
暗黒星 (角川ホラー文庫)』['94年]

5話)/黒水仙の美女 オング2.jpg.png5話)/黒水仙の美女 江波2.jpg ドラマはこのように、物語の設定の細部が原作とかなり異なりますが(いや、細部どころか犯人さえ違っている)、不思議と原作の雰囲気をよく伝えているように思います。何よりも、ジュディ・オング江波杏子(2018年没)という二大女優を配したことで、それぞれをそれに見合った役柄に改変したものと思われます(それが活かされている)。その他にも、父親岡田・北.jpg役が岡田英次で、長男役が北公次(2012年没)と、配役は全体的に豪華です(北公次にとっては、ジャニーズ事務所在籍最後の仕事となった)。原作で浴室で殺害されるのは義母の君代ですが、泉じゅん2.jpg泉じゅん.jpgドラマでの"浴室要員"は次女・悦子(原作には無い)役の泉じゅんで、彼女が日活ロマンポルノから離れていた時期です(この頃、山口百恵と三浦友和の主演コンビ5話)/黒水仙の美女 泉1.jpg5話)/黒水仙の美女 泉2.pngの「泥だらけの純情」('77年)、「古都」('80年)にヒロインの女友達の役で出たりしている)。このドラマでは、財産のために自分以外の家族を皆殺しにしたい、そのために力を貸して欲しいと明智探偵に囁き(なんと大胆!)、逆に明智から「金と女性の誘惑に乗らないのが探偵の第一条件」と言われてしまうという、ドラマオリジナルのキャラになっています(これもその演技力を買われてのことか)。

伊志田待子(ジュディ・オング).jpghannin.jpg それにしても、ドラマで見ると、犯人は服装面で相当な早替わり(現実には不可能?)をしていたということになるかと思います(その上、無駄にいっぱいバック転をしていた。ステージでバック転を披露した最初のアイドルが北公次であることを思い出した)。一方の明智は、わざわざ犯人に変装する必要があったのかなと疑問に思われますが、原作では変装する理由がちゃんと説明されています。原作と比べてみると、翻案の妙が愉しめるかと思います。
  
伊志田鉄造(岡田英次).jpg三重野早苗(江波杏子).jpg「江戸川乱歩 美女シリーズ(第5話)/黒水仙の美女」●制作年:1978年●監督:井上梅次●プロデューサー:佐々木孟●脚本:井上梅次●音楽:鏑木創●原作:江戸川乱歩「暗黒星」●時間:72 分●出演:天知茂/五十嵐めぐみ/荒井注/江波杏子/ジュディ・オング/岡田英次/泉じゅん/北公次/原泉/北町嘉郎●放送局:テレビ朝日●放送日:1978/10/14(評価:★★★☆)
江波杏子 「女は二度生まれる」('61年/大映)/「女の賭場」('66年/大映)
江波杏子 女は二度生まれる.jpg 女の賭場.jpg
江波杏子(1942-2018/76歳没)
江波杏子.jpg 江波杏子_5.jpg

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「荒唐無稽小説」をシリーズの基調に沿って上手く改変したアレンジ力は評価できる。

9話)/赤いさそりの美女d.jpg 9話)/赤いさそりの美女t.png 9話)/赤いさそりの美女t2.png 妖虫 (江戸川乱歩文庫).jpg 目羅博士の不思議な犯罪.jpg
赤いさそりの美女~江戸川乱歩の「妖虫」 [DVD]」『妖虫 (江戸川乱歩文庫)』['15年]『江戸川乱歩全集 第8巻 目羅博士の不思議な犯罪 (光文社文庫)』['04年]
9話)/赤いさそりの美女 2.jpg9話)赤いさそりの美女 宇都宮2.jpg 大宝映画夏の大作「燃える女」のヒロイン役を決めるためのコンテストの最終審査会にて、準女王に選ばれたのは相川珠子(野平ゆき)、そして女王として春川月子(三崎奈美)が選ばれた。このコンテストが出来レースだったことに不平を漏らす珠子と、その義理の姉となる桜井品子(永島瑛子)。そして、恋人役の男優・吉野圭一郎(永井秀和)が女王に王冠を戴冠させたその時、天井から照明器具が落ちてきた。間一髪、それを避けた二人だったが、これが、この後に起こる怪事件の前哨であることに気づいた者は誰もいなかった。やがて連続殺人が。街角にディスプレイされる春川月子と吉野圭一郎の死体。浴室で珠子に放たれる毒蠍。囚われの身となる品子。犯人は、明智探偵(天知茂)に変装して犯行を繰り返す―。

少年探偵江戸川乱歩全集〈31〉赤い妖虫
少年探偵江戸川乱歩全集〈31〉赤い妖虫.jpg 原作は、1933(昭和8)年12月から翌1934(昭和9)年10月まで雑誌「キング」に連載された長編「妖虫」で、本人名義で児童向けにリライトされた作品もあります(ポプラ社『少年探偵 江戸9話)/赤いさそりの美女 3.jpg川乱歩全集』(全46巻)の中の第27巻「黄金仮面」以降は、実際は本人ではなく別の作家が書いたものだったため、今は絶版となっている)。探偵役は三笠竜介という老人ですが(作者は当時、明智小五郎に替わる新キャラクターを模索していたらしい)、当然のことながらドラマでは天知茂演じる明智小五郎に置き換えられています。この作品について、乱歩本人は「自註自解」として、「相変わらずの荒唐無稽小説だが、真犯人とその動機はちょっと珍しい着想であった」と述べています。

赤いさそりの美女ド.jpg 作者本人が「荒唐無稽小説」と言うくらいなので、どこまで映像化できるのかなという思いはありましたが、思った以上に原作を反映していたように思います。バラバラ死体風のマネキン、銀座街頭ショーウインドウへの死体陳列、犯人と明智探偵の変装合戦、密室からの脱出など、このシリーズにおけるドラマとしてのリアリティを何とか維持しつつ頑張っていたように思います。

赤いさそりの美女 博士.jpg 原作と大きく違ったのは、蠍研究の世界的権威であったという匹田博士なる人物を登場させ、そこに犯人との愛憎劇を一枚咬ませていることで、原作は主犯格の者が手配の者を使っているのに対し、ドラマの方はこの二人の共犯になっていました。それと、原作では、珠子の家庭教師・殿村京子が次に教えることになった、珠子の学校の先輩の20歳になる美人ヴァイオリニスト・桜井品子が犯人の第三の標的になり、三笠竜介が何とか第三の殺人を起こさせまいとするものでしたが、ドラマでは、この桜井品子が珠子の義理の姉となっていて、彼女には犯人に狙われる理由があったことになっています。入浴中に狙われるのは野平ゆき(レイモン・ラディゲ原作「肉体の悪魔」('77年/日活))演じる珠子ですが、永島瑛子(清水一行原作「女教師」('77年/日活))演じる品子も危うい目に遭います(この部分は原作どおり)。

9話)/赤いさそりの美女 1.png 冒頭にミスコンの場面がありますが、原作では春川月子がミスジャパン、珠子がミストウキョウということで、同じミスコンで競ったわけではないようです。原作では、そうしたミスコンそのものは描かれていませんが、二人が競い合うミスコンをリアルタイムでやって、ドラマ映えするようにしたのでしょう。珠子が春川月子に代わって映画のヒロインに選ばれるのもドラマのオリジナル。また、珠子の家庭教師・殿村京子は原作では中年の醜女ということになっていて、ドラマではこれを美女である宇都宮雅代が演じており、ただし、原作とは異なるハンディを彼女に負わせています。

 ドラマのラストで、死亡したかと思われていた明智探偵が別人物に成りすまして登場するというこのシリーズのパターンをきっちり踏襲しているため、当然、老探偵・三笠竜介の原作とは異なっていますが、ドラマではさらに犯人同士の愛憎劇も織り込んでいるため、ラストも原作と違ったものになっています。この点は、単に追い詰められた犯人が自殺するという、パターナルな終わり方の原作を超えたかもしれません。

 原作に出てくる「蠍の着ぐるみ」と「一寸法師」はドラマでは出てきませんでしたが、まあ、出さなくて正解と言うか、出そうと思っても出せないだろなあと。永井秀和が映画スターの吉野圭一郎役で出ていますが、初夜で「蠍の呪いだ」なんて叫んだりして、殺されてやむなしといったキャラでした(この頃にはもうアイドル歌手ではなかったのか)。

 カップルが3組あったということでしょうか。登場人物が多く、また、犯人は変装でして犯行をするので、誰が誰だかという印象もありましたが、原作を読んでから観直してみると、「荒唐無稽小説」をシリーズの基調に沿って上手く改変していると言え、そのアレンジ力は大いに評価できるように思いました。

神山左門(天知茂.jpg大岡雪絵(宇津宮雅代.jpg 因みに、宇津宮雅代は、TBS・加藤剛主演のTVドラマ「大岡越前」の第1部('70年)で 初代「雪絵」(後の忠相の妻)役で第4話「慕情の人」から登場して、第6部('82年)まで雪絵役を演じ(敵によく捕まって人質になるが(笑)、小太刀の腕も確かで、悪人相手にひるむことはない)、その後を酒井和歌子に引き継いでいます(「雪絵」は、大岡越前.jpg加藤剛演じる「忠相」、高橋元太郎演じる「すっとびの辰三」、山口崇演じ大岡越前 天知茂.jpgる「徳川吉宗」らと並んで、全シリーズを通して登場した数少ないキャラクターであり、また、演者が交代しながら全シリーズ登場した唯一のキャラクターである)。また、天知茂も南町奉行与力「神山左門」(カミソリ左門)役で、このドラマシリーズの第1部から第3部('72-'73年)にレギュラー出演しています(祝言をあげたばかりの妻を盗賊に人質にとられ亡くしたため、悪に対する憎しみが人一倍強く、また、別人になりすまして敵方に潜入したり、常にニヒル感が漂う(笑)ところは「美女シリーズ」の明智小五郎と同じ)。

大岡越前t.jpg大岡越前1.jpg「大岡越前(1-15)」●監督:山内鉄也/内出好吉/佐々木康/工藤栄一ほか●製作総指揮:松下幸之助●製作:松下正治/丹羽正治/山下俊彦ほか●脚本:池上金男(池宮彰一郎)/稲垣俊/津田幸夫/加藤泰/宮川一郎/葉村彰子ほか●撮影:河原崎隆夫/平瀬静雄/萩屋信/平山善樹/脇治吉ほか●音楽:山下毅雄●出演:加藤剛/竹脇無我/片岡千惠藏/天知茂/山口崇/大坂志郎/土田早苗/高橋元太/大岡越前 忠相の父・大岡忠高 -2.jpg大岡越前 山口崇.jpg大岡越前 志村喬.jpg宇津宮雅代/夏八木勲/志村喬/北林早苗/松山英太郎/望月真理子/武原英子/酒井和歌子/平淑恵/森田健作/原田大二郎/西郷輝彦●放映:1970/03~1999/03(全402回)●放送局:TBS
天知茂(神山左門)・片岡千惠藏(忠相の父・大岡忠高)・高橋元太郎(すっとびの辰三) /山口崇(八代将軍・徳川吉宗)/志村喬(小石川養生所初代筆頭医師・海野呑舟)
 
山口崇 in「天下御免」(NHK・1971-72年)(主人公・平賀源内)/「クイズタイムショック」(テレビ朝日・2代目司会(1978-86年))/「御宿かわせみ」(NHK・シーズン1・2(1980-83年))(東吾の親友の定廻り同心・畝源三郎)/映画「記憶にございません!」(三谷幸喜監督・'19年/東宝)(啓介の恩師の元小学校教師・柳友一郎)
天下御免 山口崇.jpg クイズ タイムショック山口崇.jpg 御宿かわせみ 山口崇2.jpg 記憶にございません 山口崇4.jpg


9話)/赤いさそりの美女 野平.png9話)/赤いさそりの美女 永島.jpg9話)/赤いさそりの美女 宇都宮.jpg「江戸川乱歩 美女シリーズ(第9話)/赤いさそりの美女」●制作年:1979年●監督:井上梅次●プロデューサ:中井義/植野晃弘/佐々木孟●脚本:井上梅次●音楽:鏑木創●原作:江戸川乱歩「妖虫」●時間:95分●出演:天知茂/五十嵐めぐみ/柏原貴/荒井注/宇津宮雅代/永島瑛子/永井秀和/入川保則/野平ゆき/速水亮/本郷直樹/堀之紀/北町嘉郎/高木次郎/増田順司●放送局:テレビ朝日●放送日:1979/06/09(評価:★★★☆)
永島瑛子(桜井品子)          野平ゆき(相川珠子)
赤いさそりの美女1図2.jpg 9話)/赤いさそりの美女 野平2.png
宇津宮雅代(殿村京子)
赤いさそりの美女1.jpg 9話)/赤いさそりの美女 宇都宮1.jpg 9話)/赤いさそりの美女 宇都宮2.jpg

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浅丘リリー、2度目の登場。「寅のアリア」「メロン騒動」などの名場面が。

男はつらいよ 寅次郎相合い傘_poster15.jpg男はつらいよ 寅次郎相合い傘dvd.jpg 男はつらいよ 寅次郎相合い傘 船越.jpg
男はつらいよ・寅次郎相合い傘 [DVD]」渥美清/浅丘ルリ子/船越英二

男はつらいよ 寅次郎相合い傘_0.jpg シリーズ第11作「男はつらいよ 寅次郎忘れな草」のマドンナ・リリー(浅丘ルリ子)が再登場。葛飾柴又の"とらや"で、寅次郎(渥美清)の帰省が遅いことを皆が心配しているところへリリーが訪れ、寿司屋の亭主と離婚した彼女は、再びドサ回りの歌手をしているという。寅次郎に会えなかったことを残念がるリリー。その寅次郎は青森で、通勤途中不意に蒸発したくなったというサラリーマン・兵頭謙次郎(船越英二)と出会う。自由な生き方に憧れるという兵頭に手を焼く寅次郎だった男はつらいよ 寅次郎相合い傘01.jpgが、そこで偶然にも、青森に来ていたリリーと再会、寅次郎とリリーは兵頭も巻き込んで北海道へと向男はつらいよ 寅次郎相合い傘03.jpgかう。ごろ寝や啖呵売もこなして楽しい道中となるが、小樽に着いた兵頭はどうしても彼の初恋の人に会いたいと言う。その女性・信子(岩崎加根子)は夫を亡くし女手一つで子供を育てており、懸命に生きる姿を見た兵頭はいたたまれなくなる。そんな彼の複雑な心中をめぐって寅次郎とリリーは対立し、ついには喧嘩別れしてしまう男はつらいよ 寅次郎相合い傘_4.jpg。やがて柴又に帰ってきた寅次郎だが、リリーとの一件を悔やんで表情は沈んだまま。そこへひょいとリリーが現れ、リリーもまたあの一件を悔やんでおり、二人はあっという間に寄りを戻す。リリーとすっかりいい仲になった寅次郎だが、その仲睦ましさが近所でも噂になり始めた時、さくらは寅次郎がこのままリリーと結ばれればいいと思うようになる―。

男はつらいよ 寅次郎相合い傘 Ls.jpg 1975(昭和50)年8月公開のシリーズ第15作で、第11作「男はつらいよ 寅次郎忘れな草」('73年)以来の再登場。以後、第25作「男はつらいよ 寅次郎ハイビスカスの花」('80年)、渥美清(1928-1996/享年68)の遺作となった第48作「男はつらいよ 寅次郎紅の花」('95年)と通算4回、松岡リリーという同一キャラクターでマドンナ役を務めたことになります。満男のマドンナとしてシリーズ終盤に出演した後藤久美子の5回を除いて、寅次郎のマドンナとしては、竹下景子の3回を超えて最多となっていますが、むしろ同じキャラクター(歌子)で2回登場した吉永小百合が比較の対象となるでしょうか。4回は傑出していると思います。

 やはり、役者というのは役者同士の相性もあるし、演技力があって相性が良ければそれだけいい作品が出来るということなのでしょう。この「寅次郎相合い傘」は、シリーズ作品の人気ランキングでも常に上位に来る作品です。また、「男はつらいよ」シリーズは、全48作中9作が「キネマ旬報ベストテン」に入選していますが、浅丘ルリ子をマドナに迎えたこの作品も'75年度の第5位にランクインしています(同ベストテンでは、「駅前」「社長」「若大将」シリーズなど、その他時代劇も含めシリーズ物映画は殆ど無視される傾向にあり、シリーズ作が何度かランクインした「仁義なき戦い」の場合はストーリーが進行・完結していく五部作であり、永劫回帰型シリーズとして何度も「キネ旬報ベストテン」にランクインしたのは「男はつらいよ」シリーズのみだと言う)。

男はつらいよ 寅次郎相合い傘27.jpg この「寅次郎相合い傘」は、男女の機微を浮き彫りにしつつ余韻を残して終わるラストもいいですが(寅次郎とリリーは恋人同士である以上に、むしろ友情で結ばれた"同志"に近かったのか)、この1本の作品の中に、シリーズを通しての名シーンと言われ、よく「名場面ベスト10」などで挙げられるシーンが2か所もあり、それぞれ「寅のアリア」「メロン騒動」と呼ばれています。

男はつらいよ 寅次郎相合い傘 寅のアリア.jpg 「寅のアリア」は、リリーをキャバレーまで送った寅次郎が、そのあまりの環境の劣悪さに驚き、「俺にふんだんに銭があったら」と大ステージで歌い上げるリリーの姿を、さくらたちに臨場感たっぷりに想像で語るもので、スタッフによれば、後日リリー役の浅丘ルリ子がこのシーンを見て涙したとのことです(倍賞千恵子著『お兄ちゃん』('97年/廣済堂出版)。渥美清の本領発揮というか、山田洋次監督は渥美清に初めて会った頃、彼が語る的屋の口上を聞いてこの人は天才だと思ったそうですが、こうしたところでその力を引き出しているのはスゴイと思いました。

「メロン騒動」.jpg 「メロン騒動」は、寅次郎に世話になったと兵頭から高級メロンを貰ったとらやの面々が切り分けて食べ始めたところへ寅次郎が外から戻って来て、寅次郎の分を勘定に入れ忘れていたこ男はつらいよ 寅次郎相合い傘lt.jpgとに気付いた一同が大慌てで場を取り繕う様に、とらやの連中は心が冷たいと激しくなじる寅次郎に対し、リリーが核心を男はつらいよ 寅次郎相合い傘 20.jpg突いた言葉で寅次郎を一喝してしまうという場面ですが、こちらは、浅丘ルリ子の演技が渥美清のそれに拮抗した場面であるとも言え、大袈裟に言えば、シリーズを通してそれまで憧れの対象でしかなかったマドンナの位置づけを、主体的な存在にパラダイム変革させた場面でもあったかと思います。

浅丘ルリ子 やすらぎの郷.jpg浅丘ルリ子 寿桂尼.jpg 浅丘ルリ子は最近またNHK大河ドラマ「おんな城主 直虎」の寿桂尼役やテレビ朝日系ドラマ「やすらぎの郷」への出演で注目されていますが、もともと演技も歌も上手い方だと思います。歌の方は20曲以上シングルを出した後に、「愛の化石」('69年)の大ヒットで逆に歌手を引退したような状況になる一方、「男はつらいよ」シリーズでは売れない歌手役で、この作品の中でもちらっと歌っているのは興味深いです(とらやの面々と歌っているうちにソロになる)。

「やすらぎの郷」加賀まり子・石坂浩二・浅丘ルリ子・野際陽子

男はつらいよ 寅次郎相合い傘  16.jpg リリーが仕事で歌う場末の酒場のうらぶれた様子は、寅次郎の口から語らせるものの映像化せず、一方で、リリーが別の女性と同居する狭いアパートに相手方の男が来て彼女がそこにおれなくなる場面は映像化しており、その辺りのリアリティの出し方の加減が上手いと思いました。あまり全部隠してしまうとリアリティが湧かないし、あまり見せ過ぎると暗くなり過ぎるし...(シリーズ全作を通して観ると、この加減に失敗しているものも幾つかある)。

男はつらいよ 寅次郎相合い傘 Eg2.jpg サラリーマン・兵頭を演じた船越英二の演技も手堅く、兵頭に纏わるサイドストーリーもまずまずでしょうか。ただ、失踪事件をモチーフにした野村芳太郎監督(松本清張原作)の「ゼロの焦点」('61年)や今村昌平監督の「人間蒸発」('67年)が60年代だったことを思うと、当時('75年頃)そのようなことがどれくらい時事性があったのか...。

男はつらいよ 寅次郎相合い傘 シンドバッド 黄金の航海.jpg 因みに、冒頭にある、映画館でうたた寝しながら寅次郎が見る夢は、前年['74年]12月日本公開の「シンドバッド 黄金の航海」('73年/米)のパロディだそうですが、個人的には、こちらもまた当時より一昔前の、小野田嘉幹監督の「女奴隷船」('60/新東宝)を想起させられました(山田洋次監督も観たのではないか)。

男はつらいよ 寅次郎相合い傘02.jpg「男はつらいよ 寅次郎相合い傘」●制作年:1975年●監督:山田洋次●脚本:山田洋次/朝間義隆●撮影:高羽哲夫●音楽:山本直純●時間:91分●出演:渥美清/浅丘ルリ子/船越英二/倍賞千恵子/下條正巳/三崎千恵子/太宰久雄/佐藤蛾次郎/吉田義夫/岩崎加根子/久里千春/早乙女愛/中村はやと/宇佐美ゆふ/村上記代/光映子/秩父晴子/米倉斉加年/上條恒彦/谷よしの/笠智衆●公開:1975/08●配給:松竹(評価:★★★★)

●キネマ旬報 一般映画ファンによる男はつらいよランキング
2006年1月上旬号のキネマ旬報より、キネ旬の定期購読者が選んだ男はつらいよランキング。
順位  作数   作品名      マドンナ
1位   15   男はつらいよ 寅次郎相合い傘  浅丘ルリ子
2位   17   男はつらいよ 寅次郎夕焼け小焼け  太地喜和子
3位   38   男はつらいよ 知床慕情     竹下景子
4位   1   男はつらいよ          光本幸子
5位   2   続・男はつらいよ      佐藤オリエ
6位   5   男はつらいよ 望郷篇     長山藍子
7位   29  男はつらいよ 寅次郎あじさいの恋 いしだあゆみ
8位   9   男はつらいよ 柴又慕情     吉永小百合
9位   26   男はつらいよ 寅次郎かもめ歌  伊藤蘭
10位  10   男はつらいよ 寅次郎夢枕     八千草薫

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事実をアムンゼン・スコット隊の物語のようにドラマチックに改変した原作と映画。

八甲田山  1.jpg八甲田山 1977.jpg八甲田山  2.jpg 八甲田山 dvd.jpg
Hakkodasan (1977)   「八甲田山 完全版 [DVD]

八甲田山 大滝秀治.jpg八甲田山1s.jpg 日露戦争開戦目前の1901(明治34)年10月、軍部はロシア軍と戦うためには雪と寒さに慣れておく必要があると判断、弘前の第4旅団司令部で行われた「日露戦争に備えての雪中行軍作戦会議」に、弘前第8師団より第4旅団長・友田少将(島田正吾)、参謀長・中林大佐(大滝秀治)、「弘前第31連隊」より連隊長・児島大佐(丹波哲郎)、第1大隊長・門間少佐(藤岡琢也)、徳島大尉(高倉健)、「青森第5連隊」よ八甲田山2a96e.jpg八甲田山 高倉2.jpgり津村中佐(小林桂樹)、木宮少佐(神山繁)、神田大尉(北大路欣也)、第2大隊長・山田少佐(三國連太郎)らがそれぞれ出席して、耐寒訓練として冬の八甲田山を軍行する計画を立て、神田大尉率いる「青森第5連隊」と徳島大尉率いる「弘前第31連隊」の参加が決まる。双方は青森と弘前から出発、八甲田山ですれ違うという進行が大筋だった。翌年1月20日、徳島率いる弘前八甲田山80.jpg第31連隊は、雪に馴れている27名の編成部隊で弘前を出発し、一方の神田大尉も小数精鋭部隊の編成を申し出たが、大隊長・山田少佐に拒否され210名という大部隊で青森を出発した。神田の青森第5連隊の実権は大隊長・山田少佐に移っており、神田の用意した案内人を山田が断ってしまう。神田の部隊は低気圧に襲われ、磁石が用をなさなくなり、ホワイトアウトの中に方向を失い、次第に隊列は乱れ、狂死する者八甲田山12.jpgさえ出始める。一方徳島の部隊は、案内人(秋吉久美子)を先頭に風のリズムに合わせ、八甲田山に向って快調に進む。出発してから1週間後、徳島隊は八甲田に入って神田大尉の従卒の遺体を発見、神田の青森第5連隊の遭難は疑う余地はなかった。そして徳島は、吹雪の中で永遠の眠りにつく神田と再会。青森第5連隊の生存者は山田少佐以下12名。徳島の弘前第31連隊は全員生還。山田少佐はその後に拳銃自殺する―。

八甲田山 高倉.jpg 1977年公開の森谷司郎監督、橋本忍脚本、高倉健・北大路欣也主演作品で、原作は新田次郎の小説『八甲田山死の彷徨』('71年/新潮社)。原作は、1902(明治35)年)1月、陸軍第8師団の「青森歩兵第5連隊」が青森市街から八甲田山の田代新湯に向かう雪中行軍訓練で参加者210名中199名が死亡した事件に材を得ていますが、「弘前歩兵第31連隊」の雪中行軍訓練と時期は重なるものの、お互いに相手の計画を知らなかったということで、これを徳島・神田両大尉が同時に行軍指揮の命令を受け、事前に両隊が八甲田山で出会うことを示し合わてスタートしたように描き、更に、強行スケジュールを立てて先を急いだ神田・青森隊と、自然の驚異への畏怖からそれに逆らわず慎重に行動した徳島・弘前隊を対比的に描くことで、ちょうど南極点一番乗りを目指して片や偉業達成、片や全滅したアムンゼン隊とスコット隊の物語のようにドラマチックにしたのは、新田次郎の作家としての力量の為せる技でしょう。

八甲田山 1977  三國s.jpg 従って、事実としては、映画のように高倉健が演じた徳島大尉(モデルは福島泰蔵大尉)と北大路欣也が演じた神田大尉(モデルは神成文吉大尉)が出発前に出会って語らったこともなく、また、映画では三國連太郎演じる山田少佐(モデルは山口鋠少佐)の我田引水の判断や行動が遭難事故の誘因となったように描かれていますが、実際には山口少佐の遭難事故に与えた影響は判明していないそうです(部下の犠牲で生き残ったことへの自責の念から病院で拳銃自殺するというのも新田次郎の創作)。

八甲田山es.jpg 一方の、徳島大尉は理想のリーダーのように描かれていますが、実際には福島隊も地元の案内人との関係は良くなかったらしく、高倉健の徳島大尉が秋吉久美子演じる(軽々と雪山を登って行く部分はスタント?)案内人に感謝の意を表して部下らに捧げ銃を命じるのは完全に映画のオリジナルで、新田次郎原作においてすら、小銭を渡して冷たくあしらったことになっています(映画では、三國連太郎演じる山田少佐が「金目当てか?」と案内人を追い返したのと対照的な行動として描かれている。感動的な場面ではある)。

八甲田山i.jpg しかしながら、事実がどうだったかはともかく、映画は映画としてみれば面白く、少なくとも長尺の割には、途中飽きることはありませんでした。原作の方は企業研修や大学において、リスクマネジメントやリーダー論などの経営学のケーススタディに用いられることがあるようですが、当然事前に読ませておくということでしょう。映画も(その後の討論を含め1日がかりの研修ならともかく)勤務時間中に見せるのは約2時間40分の長さはきついかもしれません。

八甲田山 北大路欣也.jpg そもそも、原作にしても映画にしても、明治陸軍という特殊な組織の中での話であって、これを現代のビジネス社会に当て嵌めて考えたり応用したりするには無理があるという見方もあるようですが、確かにそうした面もあるかもしれないし(「北大路欣也演じる神田大尉が上官の無茶な命令に逆らえないのはフォロワーシップの欠如だ」と言うのは簡単だが、当時の陸軍においては上官命令には絶対服従だっただろう)、一方、高倉健演じる徳島大尉はあまりに理想的に描かれ過ぎている感じもします。しかしながら、個々のリーダーシップと言うより組織論的な観点から見ると、命令系統の混乱が青森隊を混迷状況に陥れたわけで、マネジメントにおける「命令統一の原則」が守られなかった場合どうなるかということと呼応しており、参考になる部分はあるかもしれません。

八甲田山 1977   8.jpg 今日まで続く"山岳映画"の流れの嚆矢にもなったとされる作品ですが(一応これ以前にも「銀嶺の果て」('47年)や「黒い画集 ある遭難」('61年)といった作品はあるが)、この作品のロケは大変だったろうなあと思います。撮影隊が本当に遭難しそうになったという逸話があるというのは頷けますが、今だったらかなりの部分をCGでカバーしてしまうだろうから、そう考えると全てフィルムで撮っているというのは映像的に貴重かも。但し、カメラマンの木村大作は吹雪の中で照明が殆ど使えなかったことが不満だったとのことで、確かに白い雪の中で登場人物の顔が黒く潰れてしまっているというのは多く見られました。おそらくこれはデジタルリマスター版になってもそう改善されないものなのでしょう。

八甲田山_n.jpg八甲田山(映画) 加藤嘉 .jpg
徳島大尉(第一大隊第二中隊長):高倉健
神田大尉(第二大隊第五中隊長):北大路欣也
山田少佐(第二大隊長):三國連太郎
村山伍長(第五中隊第二小隊):緒形拳
田茂木野村の作右衛門:加藤嘉

八甲田山 特別愛蔵版.jpg八甲田山03.jpg「八甲田山」●制作年:1977年●監督:森谷司郎●製作:橋本忍/野村芳太郎/田中友幸●脚本:橋本忍●撮影:木村大作●音楽:芥川也寸志●時間:169分●出演:高倉健/北大路欣也/島田正吾/三國連太郎/丹波哲郎/藤岡琢也/加山雄三/小林桂樹/神山繁/森田健作/下絛アトム/大滝秀治/前田吟/東野英心/緒方拳/加賀まり子秋吉久美子八甲田山 加賀まりこ.jpg八甲田山 akiyosi.jpg山谷初男/丹古母鬼馬二/菅井きん/加藤嘉/田崎潤/栗原小巻/金尾哲夫/玉川伊佐男/江角英明/樋浦勉/浜田晃/加藤健一/江幡連/高山浩平/安永憲司/佐久間宏則/大竹まこと/新克利/山西道宏/船橋三郎●公開:1977/06●配給:東宝(評価:★★★☆)

八甲田山 特別愛蔵版 高倉健 主演 DVD2枚組」(2014年)

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片岡千恵蔵の真田昌幸、萬屋錦之介の徳川家康、高峰三枝子の淀君。超豪華「B級」時代劇。

真田幸村の謀略ps.jpg 真田幸村の謀略ns.jpg 真田幸村の謀略 1979.jpg 真田幸村の謀略 松方.jpg
「真田幸村の謀略」チラシ・ポスター・パンフレット/「真田幸村の謀略 [DVD]」松方弘樹(1942-2017/享年74

真田幸村の謀略O.jpg 慶長15年、天下統一を図る家康(萬屋錦之介)は、大坂城の豊臣秀頼(小倉一郎)一党を討つための準備を進めている。一方、真田昌幸(片岡千恵蔵)・幸村(松方弘樹)父子も九度山で戦いの決意を固めていたが、昌幸は家康の間者に殺害され、幸村の妻・綾(萩尾みどり)は自刃を遂げる。幸村は穴山小助(火野正平)のみ残して他の家臣を上田城へ帰し、家康側についた兄・信幸(梅宮辰夫)と決別、亡父の遺志を継ぎ、家康の首をとる決心をする。家康の送った服部半蔵(曽根晴美)に殺された戸沢白雲斎(浜村純)の残した人名帖から、猿飛佐助(あおい輝彦)、霧隠才蔵(寺田農)、海野真田幸村の謀略 00.jpg六郎(ガッツ石松)、望月六郎(野口貴史)、筧十蔵(森田健作)、由利鎌之助(岩尾正隆)、根津甚八(岡本富士太)、三好伊三入道(真田広之)、三好清海入道(秋野暢子)などの草の者を集める。フランキー砲試射を見に来る家康を暗殺するために幸村と十勇士は出発するが、計画を見抜いた家康配下の半蔵の忍者部隊に幸村は片目を射抜かれる。家康は幸村達を豊臣が雇っ真田幸村の謀略 02.jpgた牢人と決めつけ、豊臣氏に叛逆の意図ありと口実を作り、徳川連合軍40万を大坂へ向けて進撃、1614年10月大坂冬の陣が始まる。報償金目当ての者、ひと旗上げようとする者が大坂に集まり、幸村と十勇士も大坂へ向かう。大坂城では徳川を迎え打つ軍議が開かれ真田幸村の謀略 38.jpg、籠城を主張する豊臣譜代衆と、野戦を主張する幸村達牢人衆が対立するが、淀君(高峰三枝子)の一言で籠城と決定、幸村は鉄壁の出城「真田丸」を作る。幸村は、小助に天竺渡来の麻薬を持たせ遊女たちと共に前田軍に送り込んで前田軍を骨抜きにし、翌日の合戦で真田軍が圧勝する。家康は和議の交渉を進め、フランキー砲の偶発に驚愕した淀君も和議に応じてしまうが、和議が済むと家康は大坂城の堀を埋めつくし、裸同然の無防備な城に一変させてしまう。そして、1615年4月大坂夏の陣が始まる―。

真田幸村の謀略 01.jpg 1979(昭和54)年公開の中島貞夫監督による東映"何でもあり"時代劇。冒頭、いきなり夜空から巨大隕石が落下してくる場面があり(「妖星ゴラス」('62年/東宝)かと思った真田幸村の謀略71.jpgけれど、映画会社が違ったか)。この星に乗ってやってきたのがどうやら猿飛佐助だったらしく、最後は独りまた宇宙へ帰っていきます。超能力が使えるならばそれをもっと使えばいいのに、刀や徒手空拳で東映時代劇の殺陣の流儀に沿って闘っているというのもおかしいし、と思ったら、「臨・兵・闘・者・皆・陣・烈・在・前」と思い出したように九字を切る(とても宇宙から来たとは思えない)―という具合に、突っ込みどころは多く、穿った見方をすれば、そうした突っ込みどころを愉しむ映画なのかもしれません。

真田幸村の謀略 608.jpg真田幸村の謀略19.jpeg その外にも、真田昌幸(片岡千恵蔵)が、家康の間者が放った猫にひっかかれて死んでしまったり(猫の爪に毒が塗ってあった)、三好清海入道が朝鮮から連れてこられた姫君で切支丹のジュリアおたあ(秋野暢子)の変名であって、しかも真田幸村の謀略 0259.jpg加藤清正(丹波哲郎nXnh.jpgテレパシスト能力を有し、人の心を読み取ることが出来るという設定になっいていたり(三好清海入道の弟・三好伊三入道役は真田広之)、幸村が敵に片目を射抜かれて途中から"独眼竜政宗"みたいに眼帯をしていたり、加藤三好伊三入道(真田広之).jpg真田幸村の謀略ド.jpg清正(丹波哲郎)が大阪城内の座敷牢みたいなところでトラを飼っていたり...。幸村が十勇士だけ引き連れて徳川の大軍と戦っているのも非現実的ですが、極めつけはラストで、幸村が家康との一騎打ちの末その首を刎ね、家康の首が空高くぶっ飛びます(公開当時は「家康の首が50メートル飛ぶ!」という宣伝がなされていた)。

片岡千恵蔵(真田昌幸)/秋野暢子(三好清海入道)/松方弘樹(真田幸村)/丹波哲郎(加藤清正)/真田広之(三好伊三入道)

真田幸村の謀略 pannhu.jpg こうした荒唐無稽な内容でありながらも、ベースはNHK大河ドラマ「真田丸」などでもお馴染みの展開であり(ある意味、ラストの家康の死を除いては、後の「将軍家光の乱心 激突」('89年/東映)などよりは"史実逸脱度"は低いかも)、その「真田丸」もしっかり作られ、合戦シーンはかなり大掛かりなものとなっています。そして何よりも、片岡千恵蔵「真田幸村の謀略」横尾1.jpgの昌幸、萬屋錦之介の家康、高峰三枝子の淀君と、配役が超豪華です(思えば、片岡千恵蔵が「赤穂浪士」('61年/東映)で大石内蔵助を演じた時に松方弘樹はその息子の大石主悦役で出ており、当時18歳で映画デビュー2作目だった)。また、十勇士が初登場する際にストップ・モーションとなってイラスト化されますが、そのイラストを描いているのは横尾忠則です。

真田幸村の謀略   .jpg 難点の1つは、その十勇士達の個性がそれほど活かされておらず、真田の郷にいる時でも訓練行動の時から同じようなユニフォームで動き回っていて、何だかレインジャー部隊にしか見えない点でしょうか。正直、後でスチール写真で誰が誰だったか確認した次第(「将軍家光の乱心 激突」のように千葉真一こそ出ていないが、JACの面々は出ているみたい)。ただ動き回っているだけで、あまり演技させてもらっていない俳優達が可哀そうです。強いて言えば、三好清海入道を女性にしたことで、秋野暢子にドラマ部分を担わせた印象もありますが、これもちょっと弱かったか。別に難点は1つではなく、他に難点はと言われれば幾つでもありますが、むしろ突っ込みどころがあり過ぎてコメントし辛いという、超豪華「B級」時代劇、といった感じの作品でした。

 因みに、この作品で徳川家康を演じた萬屋錦之介は、13年前の1966(昭和41)年のTBS連続ドラマ「戦国太平記 真田幸村」(全52回)では真田幸村を演じており(当時、中村錦之助)、真田幸村を演じた松方弘樹(1942-2017)は、19年後の1998(平成10)年1月2日にテレビ東京で放送された12時間超ワイドドラマ「家康が最も恐れた男 真田幸村」でも真田幸村を演じています。

真田幸村の謀略 title.jpg「真田幸村の謀略」●制作年:1989年●監督:中島貞夫●特撮監督:矢島信男●脚本:笠原和夫/松本功/田中陽造/中島貞夫●撮影:赤塚滋●音楽:佐藤勝●時間:148分●出演:松方弘樹/寺田農/あおい輝彦/ガッツ石松/野口貴史/森田健作/火野正平/岩尾正隆/岡本富士太/真田広之/秋野暢子/片岡千恵蔵梅宮辰夫/萩尾みどり/北村英三/村居京之輔/和田昌也/橘麻紀/谷川みゆき/浜村純/丹阿弥谷津子/小泉美由記/木村英/岡麻美/田中みき/市川好朗/志茂山高也/勝野賢三/タンクロウ/萬屋錦之介/小坂和之/進藤盛裕/茂山千五郎/金子信雄/香川良介/小林昭二/林彰太郎/江波杏子/川浪公次郎/壬生新太郎/曽根晴美/笹本清三/春田純一/福本清三/大矢敬典/木谷邦臣/平河正雄/奔田陵/志賀勝/丸平峰子/小峰隆司/池田謙治/司裕介/畑中伶一/山田良樹/藤沢徹夫/平沢彰/唐沢民賢/波多野博/阿波地大輔/宮城幸生/大城泰/秋山勝俊/高並功/泉好太郎/五十嵐義弘/小倉一郎/高峰三枝子/上月左知子/桜町弘子/松村康世/富永佳代子/星野美恵子/森愛/戸浦六加藤清正(丹波哲郎mN.jpg真田幸村の謀略 梅宮.jpg宏/梅津栄/野口元夫/白井滋郎/疋田泰盛/土橋勇/成田三樹夫/遠藤征慈/宮内洋/丘路千/中村錦司/丹波哲郎●公開:1979/09●配給:東映(評価:★★☆) 


丹波哲郎(トラに餌をやる加藤清正)/梅宮辰夫(徳川家康陣中の真田信幸)

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稀代の犯罪者の多面的キャラクターを描くとともに、崩壊する家族・親子関係を描いた作品。

復讐するは我にあり13.jpg
復讐するは我にあり dvd7.jpg
復讐するは我にあり dvd.jpg 復讐するは我にあり 文春文庫5.jpg 文春文庫
あの頃映画 the BEST 松竹ブルーレイ・コレクション 復讐するは我にあり [Blu-ray]」「あの頃映画 「復讐するは我にあり」 [DVD]」/『復讐するは我にあり (文春文庫)』['09年(改訂新版文庫化)]

復讐するは我にありダウンロード.jpg復讐するは我にあり  04 .jpg 榎津巌(緒形拳)は、専売公社の集金係2名(殿山泰司ほか)を殺害し、詐欺を繰り返しながら逃走を続ける。実家は病身の母・かよ(ミヤコ蝶々)と敬虔なクリスチャンの父・鎮雄(三國連太郎)が経営する旅館で、榎津の妻・加津子(倍賞美津子)や子も一緒に暮らしているが、榎津は妻・加津子と父・鎮雄の関係を疑っている。警察が榎津を全国指名手配にする中、榎津は裁判復讐するは我にあり  C7.jpg所で被告人の母親(菅井きん)に近づき、弁護士を装って保釈金詐欺を働き、更に、仕事の依頼と称して老弁護士(加藤嘉)に近づいて殺害し、金品を奪って逃げ続ける。浜松の旅館「貸席あさの」に京都帝大教授を装っ復讐するは我にあり  05 小川.jpgて投宿し、宿の女将ハル(小川真由美)と懇ろになる。ある日、ハルは映画館のニュースで榎津の正体を知るが、榎津を匿い続ける。しかし、榎津はハルとハルの母親・ひさ乃(清川虹子)を殺害し、質屋(河原崎長一郎)を旅館に呼んで2人の所持品を売り払う。榎津を以前客に取ったことのあるステッキガール(根岸とし江)が、榎津が指名手配の犯人であることに気づき、警察に通報する。榎津は逮捕され、死刑を宣告される。面会に来た父親の鎮雄は、榎津が教会から破門されたこと、自らも責任を取って脱会したことを伝える。処刑後、榎津の遺骨を抱いた妻の加津子と鎮雄は、山頂から空に向かって散骨する―。

復讐するは我にありG.jpg 昨年['15年]10月に78歳で亡くなった佐木隆三(1937-2015)の直木賞受賞作を今村昌平(1926-2006)監督が映画化した1979年公開作で、復讐するは我にあり61.jpgその年のキネマ旬報ベスト・テン第1位作品。「第22回ブルーリボン賞」の作品賞、「第3回日本アカデミー賞」の最優秀作品賞も受賞し、演技面では、体当たり演技の小川真由美が日本アカデミー賞の最優秀助演女優賞を受賞。小川真由美は「第4回報知映画賞」やキネマ旬報の賞も受賞し、三國連太郎も報知映画賞や「第22回ブルーリボン賞」など3つの賞を受賞。同じく体当たり演技の倍賞美津子復讐するは我にありNU.jpgブルーリボン賞を受賞しているのに、主役の緒形拳(1937-2008)が何も受賞していないというのがやや不思議な気がします。主人公の多面的なキャラクターを巧みに演じ分けていたのは流石だと思ったのですが、緒形拳は前年の「鬼畜」('78年/松竹)で既に「第2回日本アカデミー賞」「第3回報知映画賞」「第21回ブルーリボン賞」の主演男優賞の"3冠"を達成していたというのも影響したのかもしれません。

 作品全体の印象としては、「神々の深き欲望」('68年/日活)以来約10年ぶりにメガホンを手にした今村昌平の「色」がかなり濃い感じでしょうか。原作者の佐木隆三は、モデルとなった「西口彰事件」について、「調べれば調べるほど内面が覗けなくなった」と秋山駿(1930-2013)との対談で述べていますが、この映復讐するは我にあり7K.jpg画では、敬虔なクリスチャンで通っている父親との確執を、榎津との幼少期のエピソードなども交えながら描き、更には、榎津の妻・加津子と父・鎮雄の関係を前面に押し出すことで、犯行の背後に父親との関係に起因する何かを示唆しているように思われました。それは、終盤の榎津と父親との拘置所復讐するは我にあり8 .jpgでの対面シーンにも表れており、ここでも両者は和解し切れず、結局、父親が息子と内面的に和解したのは、ラストの散骨のシーンであったように思います。榎津の父親への感情は、ファーザー・コンプレックスと言えなくもないですが、加津子の方がむしろ義父・鎮雄をファザコンに近い感情で崇めていて、一方の榎津の父親に対する反発は、父親のその偽善性に対するものではなかったかと思われます(幼児期のエピソードに父親に裏切られたと取れるものがある)。何れにせよ、父・鎮雄と妻・加津子の関係も含め、この辺りは全て"今村昌平オリジナル"です。

復讐するは我にあり_9.png 同じくこの作品で原作以上に大きなウェイトを占めるハルの家族の描き方も、ハルの情夫で旅館のオーナーでもある男(北村和夫)とのどろどろした関係が前面に出ていて、それを苦々しく思う母親と、そこに榎津も絡んできて、もうぐちゃぐちゃという感じ。この辺りも全て映画のオリジナルで、ハルの母親が殺人事件で15年服役し、出所してそう年月も経っておらず、今は競艇に明け暮れる日々を送っているという設定もオリジナルです。更に原作との大きな違いは、榎津とハル復讐するは我にあり  NB.jpgが映画を観に映画館へ入ったところ(映画は「ヨーロッパの解放」第三部「大包囲撃滅作戦」('71年/松竹配給))、その前に映像ニュースで榎津の指名手配が流れてハルが榎津の正体を知ってしまうことで、榎津に惚れていたハルは榎津を匿い続けますが、原作では母娘は榎津の正体を知らないまま殺害されてしまい、従って、ハルの母親が榎津を競艇に誘って、当てた金を榎津に渡して自分たちの前から消えてくれるよう頼むといった場面も、榎津が人気の無い畦道かどこかを歩きながらハルの背後からマフラーで絞殺しようして彼女に気づかれ、いったんは諌められてしまうのも映画のオリジナルです。

 原作も映画も稀代の犯罪者を描いたある種ピカレスク・ロマン的な作品ですが、今村昌平の手によって、映画の半分は、崩壊している2組の家族と親子関係を描いたものとなっているように思いました(ハルの家族の方がより悲惨か。パトロン男が母親の目の前で娘であるハルを凌辱するのを目の当たりにした榎津が包丁を取り出そうとするのを、ハルの母親が押しとどめるという場面さえある)。原作に付加されているものが多くて、こうした作品の作りは個人的にあまり好きになれないことが多いのですが、この映画については、付加された部分もドラマとしてよく出来ていて良かったように思います(今村昌平は、個人的には、原作を改変してそれでも作品の質を落とさない数少ない監督の一人だと考える)。

 実際の事件では浜松の旅館の小学校5年生(10歳)の女の子が弁護士を装った榎津が指名手配中の連続続殺人犯であることを見破りますが(原作もその通り)、映画では、榎津を以前客に取ったことのある〈ステッキガール〉(クレジットにそうある)が見破ります。因みに、ステッキガールとは大宅壮一による造語で、昭和初期の銀座で1時間2円の料金で食事などデートの相手をする"援助交際"の少女のことで、男の腕にぶらさがるステッキみたいだというのが言葉の由来です(龍田静枝、川崎弘子らが出演の「ステッキガール」('29年/松竹蒲田)という映画がある)。戦後そうした"流行"が復活した浜松では、当時70のステッキガール組織があり、それぞれ20人ほどの女性を置いていて、浜松は"ステッキガール発祥の地"と言われています(戦後のステッキガールは観光ガイドなどの看板で売春をしていた)。作品の舞台は昭和46年頃と、原作より8年ぐらい後ろ倒しにされていますが、そうした組織は、昭和60年代頃まではまだあったと言われています。

復讐するは我にあり_7.jpg 原作者の佐木隆三が、ハルの宿でクレームをつけて帰ってしまう泊り客としてカメオ出演しています。佐木隆三はこの映画公開の前年['78年]、銀座の路上で交差点に赤信号停止しているタクシーに乗ろうとしたところ、タクシー乗り場から乗るように言われたことに逆上し、タクシーのボンネットに乗り上げて暴れてフロントガラスを破壊して警察に逮捕されていますが、クレーマーっぽい役柄はその事件の自虐パロディだったのかも。

「貸席あさの」のセットでの撮影準備(左から、今村昌平監督、姫田真佐久カメラマン、小川真由美、佐木隆三)

Fukushû suru wa ware ni ari (1979)
Fukushû suru wa ware ni ari (1979) .jpg復讐するは我にありC2.jpg「復讐するは我にあり」●制作年:1979年●監督:今村昌平●製作:井上和男●脚本:馬場当/池端俊策●撮影:姫田真佐久●音楽:池辺晋一郎●原作:佐木隆三●時間:140分●出演:緒形拳/三國連太郎/ミヤコ蝶々/倍賞美津子/小川真由美小川真由美 復讐するは我にあり2.jpg清川虹子/殿山泰司/垂水悟郎/絵沢萠子/白川和子/フランキー堺/北村和夫/火野正平/根岸とし江(根岸李江)/河原崎長一郎/菅井きん/石堂淑復讐するは我にあり 弁護士.jpg郎/加藤嘉/佐木隆三●公開:1979/04●配給:松竹●最初に観た場所(再見):新宿ピカデリー(緒形拳追悼特集)(08-11-23)●2回目:北千住・シネマブルースタジオ(10-01-17)(評価:★★★★☆)

緒形拳(榎津巌)/加藤嘉(河島弁護士)
 
観ずに死ねるか!傑作絶望シネマ88
』 (2015/06 鉄人社)
復讐するは我にあり_7880.JPG 復讐するは我にあり_7889 (1).jpg

小川真由美 in 山本薩夫監督「白い巨塔」('66年/大映)/野村芳太郎監督「鬼畜」('78年/松竹)/今村昌平監督「復讐するは我にあり」('79年/松竹) 
白い巨塔 小川真由美 2.jpg 小川真由美 鬼畜 - 2.jpg 小川真由美 復讐するは我にあり.jpg
   
《読書MEMO》
●ポン・ジュノ監督(韓国)の選んだオールタイムベスト10["Sight & Sound"誌・映画監督による選出トップ10 (Director's Top 10 Films)(2012年版)]
 ●悲情城市(ホウ・シャオシェン)
 ●CURE キュア(黒沢清)
 ●ファーゴ(ジョエル & イーサン・コーエン)
 ●下女(キム・ギヨン)
 ●サイコ(アルフレッド・ヒッチコック)
 ●レイジング・ブル(マーティン・スコセッシ)
 ●黒い罠(オーソン・ウェルズ)
 ●復讐するは我にあり(今村昌平)
 ●恐怖の報酬(アンリ=ジョルジュ・クルーゾー)
 ●ゾディアック(ディヴィッド・フィンチャー)

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「●「芸術選奨(監督)」受賞作」の インデックッスへ(野村芳太郎)「●芥川 也寸志 音楽作品」の インデックッスへ「●緒形 拳 出演作品」の インデックッスへ「●岩下 志麻 出演作品」の インデックッスへ「●小川 眞由美 出演作品」の インデックッスへ「●大滝 秀治 出演作品」の インデックッスへ「●加藤 嘉 出演作品」の インデックッスへ「●蟹江敬三 出演作品」の インデックッスへ「●田中 邦衛 出演作品」の インデックッスへ「○日本映画 【制作年順】」の インデックッスへ「●日本のTVドラマ (90年代~)」の インデックッスへ(「松本清張スペシャル・鬼畜」「ドラマスペシャル 松本清張 鬼畜」「●ま 松本 清張」の インデックッスへ ○あの頃映画 松竹DVDコレクション

概ね原作に忠実に作られているように思われた。ラストは「砂の器」より上か。原作も越えた?
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鬼畜dvd 2015.jpg鬼畜dvd.jpg Kichiku  (1978)  .jpg
鬼畜 [DVD]」/Kichiku (1978)
あの頃映画 the BEST 松竹ブルーレイ・コレクション 鬼畜 [Blu-ray]
「松本清張スペシャル・鬼畜」('02年・日本テレビ)/「ドラマスペシャル 松本清張 鬼畜」('17年・テレビ朝日)
「鬼畜」ドラマ  2.jpg
岩下志麻
鬼畜 岩下.jpg 川越市で印刷屋を営む竹下宗吉(緒形拳)は、妻・お梅(岩下志麻)に隠れ、鳥料理屋の女中・菊代(小川真由美)を妾として囲い、7年間に3人の隠し子を作鬼畜 小川.jpgった。やがて火事と大印刷店攻勢で宗吉の商売は凋落し、手当を貰えなくなった菊代が、利一(6歳)、良子(4歳)庄二(1歳半)を連れて宗吉の家に怒鳴り込む。菊代はお梅と口論した挙句、3人を宗吉に押しつけて蒸発し、お梅が子供達と宗吉に当り散らす地獄の日々が始まる。末の庄二が栄養失調で衰弱し、医者に行ったある日、寝鬼畜 緒形・岩下.jpgている庄二の顔の上にシートが故意か偶然か被さって庄二は死ぬ。宗吉はお梅の仕業と思いながらも口に出せず、逆に、「あんたも一つ気が楽になったね」と言われる。その夜、夫婦は久しぶりに燃え、共通の罪悪感に昂ぶる。お梅鬼畜k5.jpgは残りの子供も〈処分〉することを宗吉に迫り、宗吉は良子を東京タワーに連れて行って置き去り鬼畜k3 .jpgにし、一人エレベーターを降りる。更に長男・利一を毒殺しようとするものの果たせず、何日か後、新幹線こだま号に利一を乗せ、北陸海岸に連れて行く。能登半島に辿り着き、日本海を臨む岸壁で、宗吉は利一を海に落す。翌朝、沖の船が絶壁の途中に引掛っている利一を発見し、かすり傷程度で鬼畜 09.jpg助け出す。警察の調べに利一は父親と遊びに来て眠っているうちに落ちたと言い張り、名前、住所、親のことや身許の手掛かりになることは一切言わない。しかし警察は、事故ではなく利一は突き落とした誰かを庇っていると判断し、利一の持っていた石版印刷に使用する石材のかけら(利一はこれを石蹴り遊びに使っていた)から宗吉が殺人未遂容疑で警察に拘束される。そして、移送されてきた宗吉が警察で利一と対面する―。

鬼畜―松本清張短編全集〈7〉 (カッパ・ノベルス)1.jpg 松本清張の短編小説「鬼畜」を野村芳太郎(1919-2005)監督が映画化した1978年公開作で、脚本は「赤ひげ」('65年/東宝)の井出雅人、音楽は「砂の器」('74年/松竹)の芥川也寸志(他に「ゼロの焦点」「黒い十人の女」(共に'61年)など)。主な出演者は、緒形拳(1937-2008)、岩下志麻、小川真由美。野村芳太郎による松本清張原作の映画化作品では「砂の器」の評価が高いようですが、この「鬼畜」も非常に良く出来ていると思います。「砂の器」は原作を超えていませんが、「鬼畜」は一面において原作を超えているようにも思います。
鬼畜―松本清張短編全集〈7〉 (カッパ・ノベルス)

鬼畜01.jpg まず、前半部分しか出てきませんが、小川真由美の3人の子供を連れての鬼畜k2.jpg押しかけぶりが良く、岩下志麻との競演は見所であり、更に中盤の見せ場は、岩下志麻演じるお梅の児童虐待ぶりの凄まじさでしょうか(子役たちは撮影の休憩時間中も岩下志麻に寄りつかなかったという)。

鬼畜k6.jpg それらに比べると、2人の女の間でおろおろしている宗吉を演じた緒形拳はやや影が薄いようにも見えましたが、これはこれで、あまりやりすぎると喜鬼畜k3.jpg劇になってしまうし、あまり抑え過ぎると面白くないし、意外と加減の難しい役どころだったのではないでしょうか(緒形拳はこの演技で、「第2回日本アカデミー賞」「第3回報知映画賞」「第21回ブルーリボン賞」の主演男優賞を"3冠"受賞した)。

鬼畜 蟹江.jpg その他にも、印刷所の工員(原作でもいることになっているが人物造型は描かれていない)を蟹江敬三(1944-2014)が好演していたし(お梅が赤ん坊の口に米を突っ込んで虐待するのを「よせよ」と遠巻きに言うだけで何もできない夫・宗吉に代わって毅然と赤ん坊を取り上げ、「しっかりしろよ!旦那の子だろ!」と言うという、いい人のキャラだった)、子役の演技も、賛否ありますが、個人的には悪くなかったと思います(子役の演技力というより監督の演出力の成果だろう)。

 原作が発表されたのは'57(昭和32)年ですが、それを映画が作られた'78(昭和53)年に置き換えていて(利一が歌う「科学忍者隊ガッチャマン」は、この映画が公開された'78年10月に続編のアニメ放送が始まっている)、宗吉の営む印刷所は、東京から急行列車で3時間を0鬼畜 男衾.jpg要する地方にあるS市という原作の設定から埼玉県の川越市に改変され、宗吉が菊代を囲った家は、原作ではS市から1時間ばかり汽車で行く町ということで、映画では同じ埼玉県の男衾(おぶすま)駅付近となっています。

「鬼畜」 9s.jpg鬼畜 6.jpg 宗吉が良子を置き去りにするのは原作では東京タワーではなく銀座のデパートの屋上のミニ動物園、利一を毒殺しようとして上野動物園で食鬼畜 緒形 .pngべさせるのはアンパンではなく最中(もなか)、利一を旅に連れて行ったのは北陸ではなく原作では西伊豆です。映画では西伊豆を北陸に変え(米原まで新幹線で行く)、能登金剛までやって来て、そこで利一を崖から放ってしまう―。能登金剛は「ゼロの焦点」('61年/松竹)のラストシーンの舞台でもあります(こちらは原作通り)。これら細かい改変点はありますが、概ね原作に忠実に作られているように思われ、こうした作り方は個人的には割合と好きな方です。

「鬼畜」 s2.jpg 原作と一番異なる点はラストで、原作が、利一が頑なに黙秘を続けるも、持っていた石材で宗吉の犯行の足が付くことを示唆して終わるのに対し、映画では、宗吉が殺人未遂容疑で逮捕され、利一と面会を果たす場面が加えられていることです。そこでも利一は、「坊やのお父さんだね?」 との警官の問いに、「知らないおじさんだよ!」と否定し、宗吉はそんな利一にすがりつき、後悔と罪悪感で号泣する―。利一は何故黙秘を続けたのかという疑問を更に発展させて、利一は宗吉を庇ったのか見捨てたのかという究極の問いを観る者に投げかけている訳で、この持って行き方は悪くないように思いました。答えはそう難しくないと思いますが(脚本の井手雅人は「父親を拒否した」を意図したが、野村芳太郎監督が「父親を庇った」ととれる演出に変えたと言われている)、観る者にちょっとだけ考えさせるこの終わり方が余韻となっており、「砂の器」の加藤剛が延々とピアノ曲「宿命」を奏でる(やや大仰な)エンディングより上だったかもしれません。一面において原作を超えていると思うのも、この分かりやすい問題提起とでも言うか、まさにこの点にあります(因みに、原作にはモデルとなった実際の事件があって、犯人の男は在獄中に発狂死したという凄まじいエピソードがある)。

松本清張スペシャル・鬼畜5.jpg松本清張スペシャル 鬼畜 dvd.jpg 過去に1度だけテレビドラマ化されていて、'02年10月15日に日本テレビ系列で「火曜サスペンス劇場('81年~'95年)1000回突破記念作品」として「松本清張スペシャル・鬼畜」のタイトルで放送されています(監督は「江戸川乱歩猟奇館 屋根裏の散歩者」('76年)「女教師」('77年)の田中登)。時代を「今」に移し、保夫(宗吉から改変)をビートたけし、妻・春江(お梅から改変)を黒木瞳、妾の昌代(菊代から改変)を室井滋が演じ、竹中印刷所の所在地を川越市から同じ埼玉県の川口市に移していますが、あとは概ね映画と同じような展開でした。ビートたけしは、映画でおろおろしてばかりいた緒形拳に比べると抑制した演技。一方、春江を演じた黒木瞳は頑張っていたとは思いますが美しす松本清張スペシャル・鬼畜 9.jpgぎて、映画の岩下志麻ほどの凄味もやつれ感も無かったように思います。映画では岩下志麻演じるお梅が赤ん坊の口に米を突っ込んで虐待するところが、ドラマでは食事が美味しくないと言う子どもに腹を立てた黒木瞳演じる春江が玉子焼きを取り上げて捨てるぐらいで、後の方で保夫が長男を連れて行った上野動物園そばの不忍池で、長男に妻が毒を入れたおにぎりを無理やり食べさせようとするシーンなどがあり(前述の通り原作は最中、映画はアンパン)、黒木瞳がやるはずの汚れ役の一部をビートたけしが肩代わりしている印象もありました。全体として、夫婦を突き放すのではなく、寄り添うような感じだったでしょうか。

松本清張スペシャル・鬼畜3面.jpg

 子どもを捨てようと思った保夫が長女を連れて行く場所は、映画の東京タワーからお台場に改変されていて、長男を最後に連れて行く場所は、映画の能登金剛から原作と同じ西伊豆に戻されています。ラストは、映画と同じように保夫が子どもと対面するシーンがあって(原作にはない)、映画と同じように父親のことを知らないと子どもは言い張ります。映画では、子どもが父親を拒否したとも庇ったともとれるつくりになっていますが、ドラマの方はビートたけしがおいおい泣くので、ああ「庇った」のだなあとすぐ判ります。でもここが、それまで抑えた演技をしてきたビートたけしの、ラストでの演技の見せ所であったと思います。「火曜サスペンス劇場」のいつもの2時間ドラマよりかなり重かったし、ビートたけしがこれまで出演している清張原作ドラマの中でも一番いいくらいの出来ではなかったでしょうか(賛否はあるかと思うが、他のがあまりにひどい改変のものが多いから)。

鬼畜  岩下志麻.jpg 鬼畜 小川真由美.jpg 岩下志麻/小川真由美
鬼畜 蟹江敬三.jpg 鬼畜 大滝秀治.jpg 蟹江敬三大滝秀治
鬼畜 田中.jpg 鬼畜 鈴木瑞穂、大竹しのぶ.jpg 田中邦衛/鈴木瑞穂・大竹しのぶ


鬼畜 パンフ.jpg鬼畜 o.jpg「鬼畜」●制作年:1978年●監督:野村芳太郎●製作:野村芳太郎/野村芳樹●脚本:井手雅人●撮影:川又昂●音楽:芥川也寸志●原作:松本清張●時間:110分●出演:緒形拳/岩下志麻/小川真由美/加藤嘉/蟹江敬三/大滝秀治/大竹しのぶ/田中邦衛/浜村純/鈴木瑞穂/岩瀬浩規/吉沢美幸/穂積隆信/石井旬/山谷初男/三谷昇●公開:1978/10●配給:松竹●最初に観た場所(再見):新宿ピカデリー(緒形拳追悼特集)(08-11-16)●2回目:北千住・シネマブルースタジオ(10-01-31)(評価:★★★★☆)
映画パンフレット 「鬼畜」 監督 /野村芳太郎 出演 /岩下志麻、緒方拳
小川真由美 in「鬼畜」('78年)/「復讐するは我にあり」('79年)/「江戸川乱歩 美女シリーズ/悪魔のような美女」('79年)
小川真由美 鬼畜 - 2.jpg 小川真由美 復讐するは我にあり.jpg 8悪魔のような美女 06.jpg
松本清張の種族同盟・湖上の偽装殺人事件」('79年)
松本清張の種族同盟図9.jpg


松本清張スペシャル 鬼畜 dvd.jpg松本清張スペシャル 「鬼畜」.jpg松本清張スペシャル・鬼畜4.jpg「松本清張スペシャル・鬼畜」●監督:田中登●企画:酒井浩至●脚本:佐伯俊道●音楽:大谷和夫(エンディング:安全地帯「出逢い」)●原作:松本清張●時間:141分(放送分)●出演:ビートたけし/黒木瞳/室井滋/片岡涼/佐藤愛美/諸岡真尋/小野武彦/奥村公延/石倉三郎/日野陽仁/渡辺哲/波乃久里子/斉藤暁/大林丈史/津田三七子/井田國彦/斎藤歩/酒井敏也/水田啓太郎/斉藤実紀●放映:2002/10/15(全1回)●放送局:日本テレビ
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《読書MEMO》
●2度目のテレビドラマ化「ドラマスペシャル 松本清張 鬼畜」(テレビ朝日・2017年12月24日放送)
監督:和泉聖治/出演:玉木宏(宗吉)・常盤貴子(梅子)・木村多江(菊代)
ドラマSP 松本清張「鬼畜].jpg 「ドラマスペシャル 松本清張 鬼畜」(テレビ朝日).jpg
ドラマ 鬼畜.jpg【感想】脚本・竹山洋(「松本清張 点と線」('07年))、監督・和泉聖治(「アガサ・クリスティ そして誰もいなくなった」('17年))(共に1946年生まれ)というベテランコンビでのドラマ化。ビートたけし主演のドラマ化の際は、妻役の黒木瞳がキレイ過ぎたが(男が黒木瞳を捨てて室井滋(愛人役)に奔るはずがないとの声もあったとかで、バランスも大事なのか)、今回はどちらもキレイで、共にやつれ感があまりない。まあ最初から、緒形拳・岩下志麻・小川真由美という強力布陣の映画版ドラマスペシャル 松本清張 鬼畜」3.jpgを超えるのは難しいと思って観ているが、演出はまずまず手堅かったように思う。映画では、終盤で子どもが父親を庇ったのか拒絶したのか解釈が分かれるような作りだが、このドラマでは婦警が「この子は親を庇っている」と言ってしまっている。ラストは原作と異なり、妻に贖罪させたような感じで、男の方は刑務所に入り、刑期を終えて出てきて墓参り。モデルとなった人物は獄中で狂死したことを思うと、やや甘い。妻に贖罪させたことも含め、テレビ的な改変であったように思う。しかし、ネットでいちばん話題になっていたのは、なぜこれをクリスマスイブに放映するのか謎であるということだった(笑)。


「鬼畜」ドラマ.jpg「ドラマスペシャル 松本清張 鬼畜」.jpg「ドラマスペシャル 松本清張 鬼畜」●監督:和泉聖治●プロデューサー:五十嵐文郎●脚本:竹山洋●音楽:吉川清之●原作:松本清張●時間:138分(放送分)●出演:玉木宏/常盤貴子/木村多江/余貴美子/南岐佐(菊代の長男で7歳)/稲谷実恩(菊代の長女で4歳)/今中陸人(菊代の次男で2歳)/前田亜季/近藤芳正/羽場裕一/片桐竜次/河西健司/萩原悠/嘉門洋子/平泉成/柳葉敏郎/橋爪功●放映:2017/12/24(全1回)●放送局:テレビ朝日

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群像活劇。配役の"混乱"が作品の"混沌(カオス)"的雰囲気と重なった。

仁義なき戦い dvd.jpg   女奴隷船 dvd.jpg
仁義なき戦い [DVD]」/「仁義なき戦い」テーマ(津島利章)/「女奴隷船 [DVD]

6 仁義なき戦い.jpg 広能昌三(菅原文太)は復員後、遊び人の群れに身を投じていたが、山守組々長・山守義雄(金子信雄)はその度胸と気風の良さに感心し、広能を身内にする。まだ小勢力だった山守組は、土居組との抗争に全力を注ぐ。その土居組を破門された若頭・若杉(梅宮辰夫)が山守組に加入し、若杉による土居(名和宏)殺害計画が進む―。 

 「仁義なき戦い」シリーズの作曲家の津島利章の訃報が入ってきました(1936-2013.11.25/享年77)。キネマ旬報が'09(平成21)年に実施した「オールタイム・ベスト映画遺産200(日本映画編)」で、歴代第5位という上位にランクされた作品ですが、個人的にはあの作品で最も印象に残ったのはテーマ曲だったかも。

 任侠道を美化して描くそれまでの"時代劇風の舞台演劇"っぽいヤクザ映画から、ヤクザの行動原理も結局は金と権力に拠るという視点に立った、"リアルな群像活劇"へのターニングポイントとなった作品と言われていますが、裏切りに続く裏切りの一方で、主人公の広能だけは、従来の任侠道を貫く者として美化されているような感じで、やや矛盾を感じなくもありません。但し、そのことが作品としての救いにもなっています。「その他大勢」はストレートに「我欲に忠実」な人々とでも言うべきでしょうか。そうした点も含め、深作欣二の作品の中では、その演出力が最も発揮された作品だと思います。

梅宮辰夫の若杉.jpg仁義なき戦いAL_.jpg仁義なき戦い5_AL_.jpg 「仁義なき戦い 広島死闘篇「('73年)、「仁義なき戦い 代理戦争」('73年) 、「仁義なき戦い 頂上作戦('74年)、「仁義なき戦い 完結篇」('74年)も続けて観ましたが、広能の他にも、松方弘樹演じる板井や梅宮辰夫演じる若杉などサブヒーロー的な登場人物がいることはいますが、彼らは皆、この第1作の中で死んでしまいます。
獄中の広能を訪ねる若杉(梅宮辰夫)
明石組幹部 岩井信一(梅宮辰夫)
梅宮辰夫 仁義なき戦い.jpg シリーズの後の方になると、死んだ人物の役を演じた俳優がまた別の役で出てくるので、観ていて妙な感じがします。第1作における梅宮辰夫の「若杉」などは結構キーパーソンだったのですが、第3作「仁義なき戦い 代理戦争」と第4作と「仁義なき戦い 頂上梅宮辰夫 アンナ2.jpg作戦」には「明石組幹部 岩井信一」の役で出演しています。この役を演じるのに際して眉毛を剃り落としましたが、これは、岩井のモデルで梅宮ア辰夫ンナ.jpgある三代目山口組若頭の山本健一に眉毛がなかったためで、眉のない父の顔を見た娘の梅宮アンナ(1972年生まれ)は、怖くて泣いたそうです。でも、このシリーズの演技で最も飛躍した俳優の一人が彼、梅宮辰夫であり、異なった役を演じ切ったこともその要因としてあったのでは。違った役と言えば、第3作に第1作と別の役で出てくるのは渡瀬恒彦も然り。しかも、ストーリー的には、この第3作が第1作の続編となっているのでややこしいです。松方弘樹は第4作「頂上作作戦」で別の役で登場、第5作「完結篇」でさらに別の役で出てきます。

「仁義なき戦い」シリーズ松方.jpg松方弘樹 in「仁義なき戦い」(坂井鉄也・射殺される)/「仁義なき戦い頂上作戦」(藤田正一(射殺される)/「仁義なき戦い完結編」(市岡輝吉・射殺される)

「仁義なき戦い」73.jpg 準主役級でさえそうですから、主に殺され役である川谷拓三などは第1作から第5作まで全部異なる役で登場しており、一方で、小林旭は第3作から第5作まで、山城新伍は第2作から第5作まで同じ役で出ていたりもします。流れとしては、誰か特定の個人の生き様を追うというよりは、次第に"群像活劇"の色合いを濃くしていくという感じでしょうか(広能が結構長く刑務所に入っている期間があって、必ずしも毎回は表舞台に出てはこないということもある)。
「仁義なき戦い」('73年)

 個人的には、配役から受ける"混乱"が、そのまま、作品の"混沌(カオス)"的雰囲気と重なりました(笑)。その他、千葉真一(第2作)、北大路欣也(第2作・第5作)、丹波哲郎(第3作、写真のみ)、宍戸錠(第5作)といった面々も登場します。因みに第5作「完結篇」は、当初4作で終わる予定が、シリーズ続行でオマケ的に作られた作品です。

吉祥寺東映.jpg このシリーズを通しで観た「吉祥寺東映」は、自分が30年前に通った当時は座席数の割には狭い映画館で、「仁義なき戦い」上映時は満席で立ち見も出る状態でした。但し、席にアルプス・スタンドのようなかなり急勾配の段差が設けられて(最前列には手すりがあった)、前の人が邪魔になるということはありませんでした。東宝配給の「もののけ姫」('97年)の吉祥寺地域での上映誘致を契機に、'96年7月に館名を「吉祥寺プラザ」に変えていますが、その前にいつの間にかロード館になっていて、あの座席はかなり早い時期に取り壊されたみたいです。
吉祥寺東映 1978(昭和53)年に吉祥寺駅北方面・五日市街道沿いにオープン、1996年7月~吉祥寺プラザ

「女奴隷船」(新東宝)1.jpg 菅原文太は、'60(昭和35)年の正月映画「女奴隷船」(新東宝)に26歳で主演しています。この作品は舟崎淳の「お唐さん」を基にした和風海洋アドベンチャー(?)で、これ、昭和20年初頭の時代設定なのですが(「仁義なき戦い」と大差ない)、日本女性を上海まで運んでセリにかけて売り飛ばす「お唐さん船」というものがストーリー背景となっています。

「女奴隷船」(新東宝)2.jpg菅原文太 「女奴隷船」.jpg 善玉主人公が菅原文太で(この頃は何となく的場浩司と似ている)、悪役は丹波哲郎(この人は昔からこんな感じだったんだなあと)、女優陣は新東宝のセクシー看板女優・三原葉子に、この映画を撮った小野田嘉幹監督と結婚することになる三ツ矢歌子など。

「女奴隷船」(新東宝)3.jpg 菅原文太は丹波哲郎とのアクション対決を演じたりしましたが、う~ん、スゴイ「B級」の冒険アクション&お色気映画。ダサいセットが微笑ましく、但し、東映風のミニチュア特撮を駆使したりしている努力は買えます。音楽は、東大文学部卒心理学科卒で作曲家になった渡辺宙明(1925-font color=red>2022/96歳没)です。
三原葉子/三ツ矢歌子

女奴隷船l2.jpg 丹波哲郎の海賊の統領役はあまりに漫画チックで笑女奴隷船 1シーン.jpgえますが(洋画の影響?)、これでも作品全体としては新東宝作品群の中では相対的にみてゴージャスな方女奴隷船il2.jpgと言ってよく(この作品は'60年の新東宝のお正月映画であり、新東宝は翌'61年に倒産する)、三原葉子三原葉子のベリーダンス.jpgベリーダンスもどきの踊り(これも洋画の影響?)が見ることができるなど、「珍品」的意味合いで星1個オマケという感じ大井武蔵野館 閉館日2.jpg大井武蔵野館 閉館日22.jpgでしょうか(大井武蔵野館って変わった作品を上映していた)。
大井武蔵野館 1999(平成11)年1月31日閉館

 菅原文太は、新東宝の経営が倒産して東映に移籍してからは10年間くらい「雌伏の時」がありましたが(というと聞こえはいいが、セリフさえない端役時代が長らくあった)、やがて徐々に頭角を現し、この「仁義なき戦い」シリーズでブレイク、この人、東北出身ですが(井上ひさしの「吉里吉里人」の映画化権を持っている)、どうしても「仁義なき戦い」のイメージがあって「じゃけんの~」という広島弁の方が似合ってしまう役者です。

Jingi naki tatakai (1973)
Jingi naki tatakai (1973) .jpg「仁義なき戦い」1973年.jpg仁義なき戦い 1973年1月13日公開.jpg「仁義なき戦い」●制作年:1973年●監督:深作欣二●脚本:笠原和夫●撮影:吉田貞次●音楽:津島利章●原作:飯干晃一●時間:99分●出演:菅原文太/松方弘樹/田中邦衛/金子信雄/梅宮辰夫/成田三樹夫/渡瀬恒彦/曽根晴美/川地民夫/田中邦衛/名和宏/内田朝雄/伊吹吾郎/川谷拓三/中村英子/木村俊恵/渚まゆみ/内田朝雄/三上真一郎/高野真二/高宮敬二/林彰太郎/中村錦司/野口貴史/大前均/志賀勝/岩尾正隆●公開:1973/01●配給:東映●最初に観た場所:吉祥寺東映(83-07-09)(評価:★★★☆)●併映:「仁義なき戦い 広島死闘篇」/「仁義なき戦い 代理戦争」/「仁義なき戦い 頂上作戦」/「仁義なき戦い 完結篇」(何れも深作欣二)  

「女奴隷船」ポスター/スチール写真
女奴隷船 ポスター.jpg女奴隷船 スチール.jpg女奴隷船ps.jpg「女奴隷船」●制作年:1960年●監督:小野田嘉幹●製作:大蔵貢●脚本:田辺虎男●撮影:山中晋●音楽:渡辺宙明●原作:舟崎淳「お唐さん」●時間:83分●出演:菅原文太/三原葉子/三ツ矢歌子/丹波女奴隷船 vhs.jpg映画「女奴隷船」【TBSオンデマンド】_.jpg哲郎/左京路子/沢井三郎/大友純/杉山弘太郎/川部修詩/中村虎彦●公開:1960/01●配給:新東宝●最初に観た場所:大井武蔵野館(86-10-04)(評価:★★☆)●併映:「女獣」(曲谷守平)主演:菅原文太
女奴隷船 [VHS]」「映画「女奴隷船」【TBSオンデマンド】」   
        

Hiroshima shitô hen (1973)  
Hiroshima shitô hen (1973) .jpg仁義なき戦い 広島死闘篇12.jpg仁義なき戦い 広島死闘篇.jpgHiroshima shitô hen _.jpg「仁義なき戦い 広島死闘篇」●制作年:1973年●監督:深作欣二●脚本:笠原和夫●撮影:吉田貞次●音楽:津島利章●原作:飯干晃一●時間:100分●出演:菅原文太/前田吟/松本泰郎/司裕介/金子信雄/木村俊恵/名和宏/成田三樹夫/北大路欣也/山城新伍/宇崎尚韶/笹木俊志/木谷仁義なき戦い 広島死闘篇   .jpg仁義なき戦い 広島死闘篇 1973年.jpg仁義なき戦い 広島死闘篇_梶.jpg邦臣/小池朝雄/堀正夫/遠藤辰雄/国一太郎/川谷拓三/藤沢徹夫/白仁義なき戦い 広島死闘篇 加藤嘉.JPG川浩二郎/千葉真一/大木晤郎/室田日出男/八名信夫/志賀勝/広瀬義宣/北川俊夫/加藤嘉/中村錦司/梶芽衣子●公開:1973/04●配給:東映●最初に観た場所:吉祥寺東映(83-07-09)(評価:★★★☆)

加藤嘉(大友連合会々長・大友長次)

Jingi naki tatakai:Dairi sensô (1973)
Jingi naki tatakai:Dairi sensô (1973).jpg
仁義なき戦い 代理戦争3.jpg仁義なき戦い 代理戦争dvd.jpg「仁義なき戦い 代理戦争」●制作年:1973年●監督:深作仁義なき戦い 代理戦争  .jpg欣二●脚本:笠原和夫●撮影:吉田貞次●音楽:津島利章●原作:飯干晃一●時間:102分●出演:菅原文太/小林旭/渡瀬恒彦/山城新伍/池玲子/金子信雄/木村俊恵/仁義なき戦い 代理戦争 田中邦衛.jpg0仁義なき戦い 代理戦争 1973年.png成田三樹夫/加藤武/山本麟一/川谷拓三/北村英三/汐路章/内田朝雄/遠藤辰仁義なき戦い 代理戦争 丹波.jpg雄/室田日出男/大前均/野口貴史/曽根晴美/名和宏/丹波哲郎梅宮辰夫田中邦衛●公開:1973/09●配給:東映●最初に観た場所:吉祥寺東映(83-07-09)(評価:★★★☆)

Jingi naki tatakai:Chôjô sakusen (1974)
Jingi naki tatakai:Chôjô sakusen (1974) .jpg
仁義なき戦い 頂上作戦.jpg仁義なき戦い 頂上作戦 1974年1月.jpg「仁義なき戦い 頂上作戦」●制作年:1974年●監督:深作欣二●脚本:笠原和夫●撮影:吉田貞次●音楽:津島利章●原作:飯干晃一●時間:101分●出演:菅原文太/梅宮辰夫/黒沢年男/田中邦仁義なき戦い 頂上作戦t.jpg衛/小林旭/松方弘樹/堀越光恵/木村俊恵/中原早苗/渚まゆみ/金子信雄/小池朝雄/山城新伍/加藤武/夏八木勲/遠藤太津朗/内仁義なき戦い 頂上作戦 小林旭2.jpg田朝雄/長谷川明男/小倉一郎/葵三津子/城恵美/八名信夫/汐路章/室田日出男/鈴木瑞穂/野口貴仁義なき戦い 頂上作戦 小林稔侍2.jpg頂上作戦 渚まゆみ2.jpg史/小林稔侍/岡部正純/高月忠/白川浩二郎/有川正治/●公開:1974/01●配給:東映●最初に観た場所:吉祥寺東映(83-07-09)(評価:★★★☆)
小林稔侍・岡部正純・高月忠/渚まゆみ/小林旭(中央)

Jingi naki tatakai:Kanketsu-hen (1974)
Jingi naki tatakai:Kanketsu-hen (1974) .jpg
仁義なき戦い 完結篇.jpg仁義なき戦い 完結篇 1974.jpg「仁義なき戦い 完結篇」●制作年:1974年●監督:深作欣二●脚本:高田宏治●撮影:吉田貞次●音楽:津島利章●原作:飯干晃一●時間:98分●出演:菅原文太/伊吹吾郎/野口貴史/寺田誠/桜木健一/松方弘樹/唐沢民賢/白川浩三郎/小林旭/北大路欣也/西田良/曽根晴美/成瀬正孝/宍戸錠/山田吾一/誠直也/織本順吉/高並功/八名信夫/山城新伍/木谷邦臣/田中邦衛/国一太郎/川谷拓三/金子<第五作  槇原政吉(田中邦衛).jpg仁義なき戦い 完結篇ド.jpg信雄/岩尾正隆/鈴木康弘/天津敏/内田朝雄/野川由美子/藤浩子/中原早苗/橘麻紀/賀川雪絵●公開:1974/06●配給:東映●最初に観た場所:吉祥寺東映(83-07-09)(評価:★★★☆)

田中邦衛(槇原組組長・槇原政吉)

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下された判決に過ちがあったのではないか。死刑事件の真相を元裁判官が追っているだけに重い。

司法殺人 元裁判官が問う歪んだ死刑判決.jpg司法殺人 元裁判官が問う歪んだ死刑判決青春の殺人者  dvd.jpg青春の殺人者 デラックス版 [DVD]

 元裁判官である弁護士によって書かれた本書によれば、わが国で冤罪事件が後を絶たないのは、所謂「自白の呪縛」のためばかりではなく、日本の司法の特徴的な面が関わっており、それは、「日本の裁判官は、冤罪危険覚悟で有罪判決を下している」ためであるとのことです。

 日本の職業裁判官は、冤罪の危険領域を知りつつ、それでもなお自分の判断能力を頼りに、薄皮一枚を剥ぐように、或いは薄氷を踏むような思いで有罪・無罪を見極めようとしている、つまり一種の賭けをしているわけであって、そうやって死刑判決さえ出していると―。蓋然性のレベルであっても敢えて「無理に無理を重ねて」死刑判決を下すことがあるから、その内の一部が冤罪になるのは当然と言えば当然と言えると(賭けに全部勝つことはできないのだから)。

 本書では、こうした問題意識を前提に、死刑判決が出されているが冤罪が疑われる案件、有罪らしいが冤罪の主張がなされたことが影響して死刑判決となったと思われる案件、無罪判決が下された後に被告人が同種の猟奇殺人を起こした案件の3つを取り上げて、それぞれの事件及び裁判を、担当した弁護士へのインタビューなども含め検証しています。

 第1章では、'88(昭和63年)に起きた「横浜・鶴見の夫婦強殺事件」が扱われていて、第一発見者に死刑判決が出されたこの事件は、既に最高裁で被告人の死刑が確定し、現在、再審請求中であるとのことです。
著者は、裁判で犯人と第一発見者を区別することがいかに難しいかを説明しつつ、この事件の記録を様々な角度から詳細に検証した結果、被告人を犯人であると断定する確定的な証拠はないのではないか、即ち、証拠上は有罪とすることができないのではないかとし、権力機構の一員としての職業裁判官の思考方法がそこに影を落としているとしています。

司法殺人 元裁判官が問う歪んだ死刑判決2.jpg 第2章では、'74(昭和49)年に起きた「千葉・市原の両親殺し事件」が扱われていて、当件は、中上健次の小説『蛇淫』や、長谷川和彦の第1回監督作の「青春の殺人者」('76年/ATG)のモデルになった事件であり、ある家の22歳の長男が、女性との付き合いを両親に反対され、両親を登山ナイフでめった突きにして殺害した(とみなされた)事件。被告人は公判で「父は母により殺され、母は第三者により殺された」と冤罪を主張をしましたが、捜査中の自白の中に「秘密の暴露」(被疑者が真犯人でしか知るはずのない事項を自白すること)があったことが重視され、最高裁で死刑が確定し、こちらも再審請求中です。

「青春の殺人者」撮影の合間に談笑する水谷豊、原田美枝子、長谷川和彦、中上健次(本書より)

 著者はこの案件が冤罪である可能性は低いとしながらも、ほぼ同時期に起きた「金属バット両親殺害事件」で懲役13年の刑が宣告されていることと比較し、被告が冤罪を主張したことで、家庭内のいざこざに起因する同類の事件でありながら、量刑にこれだけの差が出たのではないか、このような量刑の決め方は、「被告人が無罪を主張したから(国家権力に反抗したから)、それで死刑にしてしまう」というのと同じではないかとし、判決に疑問を投げかけています。

 第3章では、'68(昭和43)年から'74(昭和49)年にかけて断続発生した、女性を暴行殺害し放火する手口の「首都圏連続女性殺人事件」が扱われていて、容疑者として逮捕された中年男性は、東京地裁で死刑の判決を受けたものの、東京高裁では、逮捕後の過酷な取調べが問題視され、自白の任意性が否定されて無罪とされ、検察も上告を断念し、逮捕から17年目にして無罪確定したという案件。被告人は冤罪犠牲者としてマスコミの注目を浴びますが、その5年後に女児殺人未遂で逮捕され、更に被告人の住む団地1階の庭から成人女性の頭部が見つかり、部屋の冷蔵庫から女性の身体の一部が出て、駐車場からは首なし焼死体が発見され、この猟奇事件の犯人として無期懲役が確定しています。
 一事不再理の原則により、「首都圏連続女性殺人事件」を無罪とした東京高裁判決が正しかったかどうかは永遠の闇へと追いやられてしまうのですが、17年間裁判で争ってきた被告人の弁護人自身が、著者のインタビューに答えて、無罪判決は客観的に見れば誤判であったと言わざるを得ないと述懐しています。

 下された判決に過ちがあったのではないか―死刑事件の真相を元裁判官が追っているだけに重く、実際いずれも考えさせられる判決ですが、個人的には、3番目の事件で著者が、「疑わしきは罰せず」は良くも悪しくも「灰色無罪」という考え方に通じるもので、必ずしも真っ白だから無罪というわけではなく、そのあたり「疑わしきは罰せず」と無実とは区別すべきであるとしているのが印象に残りました(この事件の高裁裁判官は、"消極無罪"で対応すべきところを、被告の17年間の拘留を労うなど"積極無罪"と取れる発言をしたとのこと。まあ、裁判官の心証としても"真っ白"だったんだろなあ)。

青春の殺人者 チラシ.jpg 論理の枠組みがしっかりしているだけでなく、文章も上手。2番目の「千葉・市原の両親殺し事件」については、事件の時代背景を描き出すのと併せて、長谷川和彦監督の「青春の殺人者」('76年)について思い入れを込めて描写していますが(著者は1959年生まれとのこと)、一方で、この映画により「青春の殺人者」のイメージの方が事件の裁判よりも先行して定着してしまったとするとともに、事件―原作―映画の3つの違いを整理しています。

 それによると、事件は市川市で起きたわけですが、この事件から着想を得た中上健次は舞台を自らの故郷に置き換え、リアリティとは無関係にひたすら感覚的に自身に引き寄せて、「路地」(被差別部落)の一面を切り取ったような情念の物語にしていると。実際の原の両親殺し事件の犯人は、千葉県屈指の進学校を卒業した若者で、大学受援に失敗して父親の出資でドライブインをやっていましたが、水準以上の知能の都会的青年だったとのことです。

青春の殺人者0.jpg 一方、実際に事件を取材した長谷川和彦監督は、事件と同じく舞台を都市近郊に戻し、その他の部分でも警察発表等に沿って事件の背景や経過をなぞるとともに、主役にTVドラマ「傷だらけの天使」で本格デビューして人気の出た水谷豊(当時22歳で事件の被告とほぼ同年齢)を起用することで、原作の土着的ムードを払拭するなど、より実際の事件に引き付けて映画を撮っているようです(タイトルバックでは「原作:中上健次『蛇淫』より」となっていたと思う)。

青春の殺人者03.jpg 著者によれば、映画と実際の事件で大きく違うところは、主人公が父親に交際を反対された相手女性(原田美枝子(当時17歳)が演じた)が主人公の幼馴染みになっている点と(実際は風俗嬢であり内縁の夫がいた)、事件では本人が裁判で冤罪を主張した点であるとのことで、映画は主人公が「殺人者」であることが前提となっているため、今の時代であれば人権侵害で問題になっているだろうと(一審死刑判決が出たのは事件の10年後で、裁判中は推定無罪の原則の適用となるため)。実際、裁判で被告は、この映画のイメージの世間への影響について言及し、自分は「青春の殺人者」ではないという訴え方をしたようです。

青春の殺人者2.jpg この「青春の殺人者」については、個人的にはやはりどろっとした感じで馴染みにくさがありましたが、今また観ると、長谷川和彦監の演出はいかにも70年代という感じで、むしろノスタルジー効果を醸し、主人公である息子が父親を殺したことを知って、どうやっ青春の殺人者 原田美枝子.jpgて死体を隠そうかオタオタするうちに、それを見かねた主人公に殺されてしまう母親役(映画では近親相姦的に描かれている)の市原悦子(1936-2019/享年82)の演技が秀逸、そもそも出ている役者がそう多くはないけれど、主役の若い2人を除いて、脇は皆上手い人ばかりだったなあと。水谷豊には「バンパイヤ」('68-'69年)など子役時代もあったはずだが、この作品での演技は今一つ(滑舌はいいが、良すぎて演劇っぽい)、撮影時17歳の原田美枝子は、この時点では演技力よりボディか(しかしながら、水谷豊、原田美枝子ともそれぞれキネマ旬報の主演男優賞・主演女優賞を受賞している)。

長谷川和彦.jpg 長谷川和彦監督(当時30歳)は、この監督デビュー作で'76年の「キネマ旬報ベスト・テン」日本映画ベスト・ワンに輝いていますが、そもそもピンク映画のようなものも含めたシナリオ書きだった彼のところへ、自身の監督作を撮らないかと持ちかけたのはATGの方で、最初はそんなお堅い映画は撮れませんと断ったところを、好きに撮っていいからとプロデューサーに口説かれて撮ったのがこの作品だったとか。

 この人も東大中退のインテリなのですが(アメリカンフットボール部の主将だった)、この作品の後「太陽を盗んだ男」('79年/東宝)を撮っただけで、それから監督作が全く無いというのはどうしたんだろなあ。「青春の殺人者」がキネマ旬報ベスト・テン第1位に選ばれた際に、長谷川和彦監督自身は「他にいい作品がなかったからでしょう。1位、2位、3位、4位なしの5番目の1位でしょう。そう思っています」と言っており、この謙虚さは、これからもっとすごい作品をばんばん撮るぞという意欲の裏返しだと思ったのだが...。

青春の殺人者(長谷川和彦).jpg「青春の殺人者」●制作年:1976年●監督:長谷川和彦●製作:今村昌平/大塚和●脚本:田村孟●撮影:鈴木達夫●音楽:ゴダイゴ●原作:中上健次●時間:132分●出演:水谷豊/内田良平/市原悦子/原田美枝子/白川和子/江藤潤/桃井かおり/地井武男/高山千草/三戸部スエ●公開:1976/10●配給:ATG(評価:★★★☆)
「青春の殺人者 水谷原田桃井.webp.jpg(1936-2019)

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藤田敏八監督の創作活動において、象徴的なポジショニングにある作品と言えるかも。

八月の濡れた砂 dvd.jpg 八月の濡れた砂dvd.jpg  「八月の濡れた砂」01.jpg 
八月の濡れた砂 [DVD]」「日活100周年邦画クラシック GREAT20 八月の濡れた砂 HDリマスター版 [DVD]」テレサ・野田(テレサ野田)当時14歳
八月の濡れた砂 タイトル.jpg 夏の朝の海岸で、西本八月の濡れた1.jpg清(広瀬昌助)は、大学生らに襲われ置き去りにされた少女・三原早苗(テレサ・野田)を救い出すが、少女の姉の三原真紀(藤田みどり)に自分が妹を襲ったと疑われてカ「八月の濡れた砂」02.jpgッとなり、真紀を襲う。一方、西本の同級生の友人で、高校がいやで退学した野上健一郎(村野武範)は、秀才の川村修司(中沢治夫)がプラトニックな交際をしていた稲垣和子(隅田和世)に悪戯をしたことを言い、川村はその悔しさから和子を呼び出して襲い、それによって和子は自殺する―。
 西本、野上、早苗らはつるんで行動するようになり、身勝手な大人たちに反逆していきますが、それは苛立ちや焦燥感からくるものであって、何か自分たちに確たる目的があっての反抗ではありません。

八月4.bmp 藤田敏八(1932-1997)監督の'71年作品で、'71年と言えば大学紛争が後退を余儀なくされた直後であり、目標を失った当時の若者のシラけた雰囲気をよく伝えている作品とされ「八月の濡れた砂」03.jpgています。但し、その時代にその世代に達していないと、観てもぴんとこない部分もあるかも。散文詩的な作り方を織り交ぜたりしているので、随所に見られる抒情的な映像イメージは印象に残りましたがhatigatu.jpgストーリーが繋がりにくく、湘南を舞台にした青春映画なのに何だか暗いなあとか、どうしてこの若者たちはこんなことばかりしているのかとか、初めて観たときはそんな感じで、後で観直してみて、あぁ、70年代の閉塞感ってこんな感じかという印象を改めて受けました。

「八月の濡れた砂」ポスター/予告スチール2点(沖雅也の顔が隠れているものと見えているもの))
八月の濡れた砂 沖雅也9.jpg八月の濡れた砂.1.jpg八月の濡れた砂 沖雅也  .jpg 今観るとレトロ感に溢れた作品であり、藤田みどり、テレサ・野田、隅田和世といった女優陣そのものにノスタルジーを感じます。沖雅也沖雅也.jpg(1952-1983/享年31(自死))が当初の主演予定でしたが、バイク事故のため急きょ広瀬昌助(1946-1999/享年53)に主役が代わっており、ただし予告スチールには真ん中に沖雅也が写っています(ポスターには沖雅也の顔が正面からは写ってなく隠れているものの方を部分合成して使用村野武範ド.jpg八月3.jpgしている)。そのことはともかくとして、村野武範などはデビューしたてではありましたがこの時すでに26歳で、高校生にも不良にも見えないのがやや難点で、翌年にはNTV系の青春ドラマ「飛び出せ!青春」の教師役におさまっています。
  
「八月の濡れた砂」.jpg この作品の音楽にはメイン・テーマと主題歌があって、BGMのようなムーディ・ポップス調のメイン・テーマに対して、当時19歳の「石川セリ」が歌う主題歌「八月の濡れた砂」(この映画主題歌が石川セリのデビュー曲で、レコード・デビューは翌年)の方は演歌みたいだなあと思っていたら、後に「石川さゆり」がカバーしています(テーマと主題歌のどちらも映画に合っている。要するにポップス調も演歌調もフィットしてしまう、そういう映画なのかも)。

八月5.bmp 日活がロマンポルノに路線変更する前の青春映画路線の最後の作品ですが、石原慎太郎原作・石原裕次郎主演の往年の青春映画「狂った果実」('56年/日活)を意識してたようなカメラ撮りがあったりする一方で、内容的にはもうこの頃はヤクザが出てきたりレイプシーンがあったりして、かなりB級色が強くなっているように思います。公開時の併映は蔵原惟二監督の「不良少女魔子」('71年/ダイニチ映配)で、この2作を最後に日活は「にっかつロマンポルノ」路線へと製作方針を転換させます。

赤い鳥逃げた? 藤田 dvd.jpgエロスは甘き香り 藤田 dvd.jpg 藤田敏八監督はその後も、原田芳雄、桃井かおり主演の焦燥感に苛まれている28歳の青年・坂東宏(原田芳雄)を主人公とした「赤い鳥逃げた?」('73年)などを撮っていますが、これは東宝映画。同じ年に日活では、桃井かおり主演で「エロスは甘き香り」('73年)を撮っており、秋吉久美子主演の「赤ちょうちん」('74年)や「妹」('74年)も日活映画、更には江藤潤、永島敏行主演の「帰らざる日々」('78年)も日活です。「エロスは甘き香り」などは日活ロマンポルノ作品ということになっているみたいですが、これも確かに桃井かおりも伊佐山ひろ子も川村真樹も皆ヌードになっていますが、話の中身的には青春映画であり、オーソドックスにポルノ映画と言えるものは(オーソドックスにポルノって何?)藤田敏八監督は撮っていないのではないかという気がします。
           
「ツィゴイネルワイゼン」.jpgツィゴイネルワイゼン1.jpg 藤田敏八監督の映画人としてのデビューは、三島由紀夫原作・蔵原惟繕監督「愛の渇き」('67年/日活)における脚本担当でしたが、この人は結局、70年安保の挫折感とその後の虚無感を描いた映画を10年近く撮り続けたという感じがします(鈴木清順監督藤田敏八  .jpgの「ツィゴイネルワイゼン」('80年)に出演してからは、役者として活躍していた記憶の方が個人的には強い)。

藤田敏八&大谷直子 in「ツィゴイネルワイゼン」 

 藤田敏八監督の創作活動において、また「70年代的雰囲気」の映画として、この「八月の濡れた砂」という作品は、象徴的かつ代表的なポジショニングにある作品と言えるかもしれません。

石川セリ.jpg
「八月の濡れた砂」予告編     
隅田 和世/テレサ野田/藤田みどり
隅田和世.jpg八月の濡れた砂 テレサ野田.jpg八月の濡れた砂 藤田みどり.jpg

「八月の濡れた砂」●制作年:1971年●監督:藤田「八月の濡れた砂」.bmp敏八●脚本:藤田敏八/峰尾基三/大和屋竺●撮影:萩原憲治●音楽:むつひろし(主題歌:「八月の濡れた八月1.jpg砂」(作詞:吉岡治/作曲:むつひろし/歌:石川セリ))●時間:91分●出演:広瀬昌助/村野武範/剛たつひと/赤沢直人/隅田和世/藤田みどり/テレサ八月の濡れた砂 野田.jpg・野田(テレサ野田)/三田村元/八木昌子/奈良あけみ/渡辺文雄/地井武男/nuretasuna5.jpg原田芳雄/山谷初男/藤田みどり/中沢治夫/英原穣二/野村隆/赤塚直人/原田千枝子/新井麗子/重盛輝江/田畑善彦/溝口拳/中平哲仟/市村博/大浜詩郎/木村英幸/野村隆/長八月の濡れた砂 6.jpg浜鉄平/小島克巳/衣あけみ/光でんすけ/ザ・ハーフ・ブリード/●公ギギンレイホール.jpg飯田橋ギンレイホール内.jpg開:1971/08●配給:ダイニチ映配●最初に観た場所:飯田橋ンレイホール(79-05-23)(評価:★★★☆)●併映:「赤い鳥逃げた?」(藤田敏八)/「帰らざる日々」(藤田敏八)
飯田橋ギンレイホール 1974年1月3日オープン

 
渡辺文雄
八月の濡れた砂 22.jpg
 
「赤い鳥逃げた?」●制作年:1973年●監督:藤田敏八●製作:奥田喜久丸●脚本:藤田敏八/ジェームス三木●撮影:鈴木達夫●音楽:樋口康雄(主題歌:「赤い鳥逃げた?」(作詞:福田みずほ/作曲:樋口康雄/歌:安田南)●時間:98分●出演:原田芳雄/大門正明/桃井かおり/白川和子/内田朝雄/穂積隆赤い鳥逃げた? 1973 1.jpg赤い鳥逃げた? 1973 3.jpg信/殿山泰司/地井武男/佐原健二/江波多寛児/青木義朗/阿藤海/戸浦六宏/加村赳雄/山谷初男/広瀬正一/大出洋行/古山桂治●公開:1973/02●配給:東宝●最初に観た場所:飯田橋ギンレイホール(79-05-23)(評価:★★★)●併映:「八月の濡れた砂」(藤田敏八)/「帰らざる日々」(藤田敏八) 
「赤い鳥逃げた?」22.jpg

エロスは甘き香り vhs.jpgエロスは甘き香り 1973   .jpeg「エロスは甘き香り」●制作年:1973年●監督:藤田敏八●脚本:大和屋竺●撮影:萩原憲治●音楽:樋口康雄●時間:98分●出演:桃井かおり/伊佐山ひろ子/川村真樹/高橋長英/山谷初男/五条博/谷本一/橘田良江●公開:1973/03●配給:日活●最初に観た場所:池袋文芸地下(79-11-25)(評価:★★☆)●併映:「あらかじめ失われた恋人たちよ」(清水 邦夫/田原 総一朗) 

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日本的な風土を背景にギリシャ神話的な世界を再現? 5回の映画化。次は―。

潮騒 昭和29 新潮社.jpg潮騒 昭和29 新潮社2.jpg 潮騒 新潮文庫.jpg 潮騒 1964 dvd.jpg 潮騒 1964年 吉永.jpg
潮騒 (1954年)』『潮騒 (新潮文庫)』「潮騒(新潮文庫連動DVD)」「潮騒」1964年/日活(吉永小百合・浜田光夫)

新潮文庫 潮騒.jpg 三島由紀夫が1954(昭和29)年6月に発表した書き下ろし作品で、最初に読んだ時は、三島作品にありがちな翳のようなものが殆ど無い、あまりに純朴な漁師と海女の恋の物語にやや違和感を覚えましたが、後に、三島がこの作品の発表の数年前のヨーロッパ旅行の際にエーゲ海やアドリア海を旅していること、古代ギリシャの散文作品『ダフニスとクロエ』に着想を得ていることなどを知り、ナルホドという感じがしました。

新潮文庫[旧装幀/カバー版(絵:中島清之)]

三重県の神島.jpg 風光明媚な「歌島」の華麗な描写もさることながら(三重県の神島がモデル、三島は当作品発表の前年に2回―おそらく取材のため―旅している)、日本的な家族の繋がりや民俗的風習、青年団などの地域コミュニティのようなものも描かれていて、日潮騒 新潮文庫3.png潮騒 (1954年) 0_.jpg本的なものとギリシャ的なものの融合を目指したのか、或いは、日本的な風土を背景にしても、三島の力量をもってすれば、そこにギリシャ神話的な世界の再現は可能であることを示してみせたのか。

潮騒 (1954年)

Mishima_Yukio.JPG 「ギリシャ的」と言えば、"女性の健康美とエロス"、"男性の鍛えられた逞しい肉体"などといった付随するイメージがありますが、三島がボディビルを始めたのはこの作品発表の後ぐらいからで、当時はまだ三島自身は"文弱の徒"であり、この健康美礼讃ともとれる作品に評論家もやや戸惑ったのかすぐには反応しなかったものの(ぴんとこなかった?)、巷には好評でたちまちベストセラーとなり(結果的に第1回「新潮社文学賞」受賞作にもなった)、同年に映画化もされ10月に公開されました(素早い!)。

三島30歳(1955年秋、自宅の庭にて)

 それを含め、昭和の時代を通して映画化された回数が5回というのは、三島作品の中で最多であり、川端康成の『伊豆の踊子』の映画化回数6回に迫ります(戦後に限れば5回ずつで同回数)。
 
 因みに、映画された「伊豆の踊子」の制作年・制作会社と監督・主演は、
  1933(昭和8)年 松竹・五所平之助 監督/田中絹代・大日方伝
  1954(昭和29)年 松竹・野村芳太郎 監督/美空ひばり・石浜朗
  1960(昭和35)年 松竹・川頭義郎 監督/鰐淵晴子・津川雅彦
  1963(昭和38)年 日活・西河克己 監督/吉永小百合・高橋英樹
  1967(昭和42)年 東宝・恩地日出夫 監督/内藤洋子・黒沢年男
  1974(昭和49)年 東宝・西河克己 監督/山口百恵・三浦友和
 
潮騒 1964 日活.bmp 一方、映画された「潮騒」の制作年・制作会社と監督・主演は、
  1954(昭和29)年 東宝・谷口千吉 監督/青山京子・久保明
  1964(昭和39)年 日活・森永健次郎 監督/吉永小百合・浜田光夫
  1971(昭和46)年 東宝・森谷司郎 監督/小野里みどり・朝比奈逸人
  1975(昭和50)年 東宝・西河克己 監督/山口百恵・三浦友和
  1985(昭和60)年 東宝・小谷承靖 監督/堀ちえみ・鶴見辰吾 

となっており、戦後だけでみると同じ5回であり、女優では吉永小百合と山口百恵が両方に出ています(2人とも「伊豆の踊子」の翌年に「潮騒」に出ている)。また、「潮騒」は何れの作品も神島でロケが行われており、これは、三島のこの原作における島の描写が極めて精緻かつ正確であることも関係しているのではないかと思います。

「潮騒」.bmp 潮騒 1964 vhs.jpg

 映画化作品「潮騒」のうち、映画館できっちり観たのは'64年の吉永小百合版(森永健次郎監督)ですが、日活がアクション映画路線から青春映画路線に舵を切った初期の段階で作られた作品。当時19歳の吉永小百合は明るく娘々していて、三島は彼女に「生活のかがやきにみちた美しさ」を見たとか(個人的には、映画そのものが原作のイメージと随分雰囲気が異なる気がしたのだが、作品ではなく女優を褒めた三島の本心はどうだったのか)。

潮騒 1975年 山口 dvd.jpg 確かにこの作品の吉永小百合は、田舎娘らしい親近感はありますが、これは'75年の山口百恵(映画出演時は16歳)にも言えることですが、ちょっと「海女」には見えないのが難点です。

 原作では、主人公の若い2人が裸で炎を挟んで対峙するところの描写にたいへん力が込められているように思えましたが(かと言って、三島文学にありがちな修飾過剰には陥っていない)、映画でのこの場面では、当然のことながら国民的スター・吉永小百合は絶対脱がないし、その後の映画化作品では、アイドルを使ってそこをどう撮るかが監督の腕の見せどころになってしまっているような感じがしなくもありません。時代感覚の違いもあるのかもしれませんが、この'64年版森永監督作品(吉永小百合版)ではその部分は成功しているようには思えないし、'75年版西河克己作品(山口百恵版)になるともう、アイドル映画であるということが前提になっているという感じ。 

●森谷司郎監督 1971年日活版(小野里みどり・朝比奈逸人主演)
潮騒 小野里みどり・朝比奈逸人.jpg潮騒 1971.jpg 三島自決の翌年に主役2人を一般公募して作られた'71年版森谷司郎監督作品(小野里みどり・朝比奈逸人主演)がこの場面を割と大胆に撮っているようですが未見、'75年の山口百恵版は、あの程度の肌の露出で激怒したファンもいたとのことですから、何だかヌードを撮ってはいけない作品みたいになっているようです(アイドル路線の中でリメイクされるのが要因か)。堀ちえみ・鶴見辰吾版潮騒.jpg'85年の堀ちえみ・鶴見辰吾版以来、四半世紀以上再映画化されていませんが、仮に、今後また映画化されることがあったらどうなるのでしょう。

 
●小谷承靖監督 1985年東宝版 (堀ちえみ・鶴見辰吾主演)
 
●森永健次郎監督 1964年日活版 (吉永小百合・浜田光夫主演)
潮騒 吉永小百合.jpg「潮騒」●制作年:1964年●監督:森永健次郎●製作:日活●脚本:棚田吾郎/須藤勝人●撮影:松橋梅夫●音楽:中林淳誠●原作:三島由紀夫「潮騒」●時潮騒('64).jpg間:82分●出演:浜田光夫/吉永小百合/石山健二郎/清川虹子/清水将夫/原恵子/鴨田喜由/松尾嘉代/平田大三郎/菅井一郎/前野霜一郎/衣笠真寿男/榎木兵衛/高橋とよ/清水将夫●公開:1964/04●配給:日活●最初に観た場所:池袋・文芸地下(85-01-19)(評価:★★☆)●併映:「伊豆の踊子」(西河克己)

●西河克己監督 1975年東宝版 (山口百恵・三浦友和主演)
潮騒 山口百恵 VHS.jpg山口百恵  潮騒.jpg山口百恵 潮騒.jpg潮騒  山口百恵.jpg「潮騒」●制作年:1975年●監督:西河克己●製作:東宝●脚本:須崎勝弥●撮影:萩原憲治●音楽:穂口雄右●原作:三島由紀夫「潮騒」●時間:93分●出演:宮田初江:山口百恵/三浦友和/初井言栄/亀田秀紀/中村竹弥/有島一郎/津島恵子/中川三穂子/花沢徳衛/青木義朗/中島久之/川口厚/丹下キヨ子/高山千草/田中春男/森みどり/石坂浩二(ナレーター)●公開:1975/04●配給:東宝(評価:★★☆)
                                          
【1954年文庫化[新潮文庫]】

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純粋トリックから心理トリックへ。意外と乾いた感じの初期作品。

心理試験 春陽堂文庫.jpg心理試験 復刻版.gif屋根裏の散歩者 文庫.jpg 江戸川乱歩猟奇館/屋根裏の散歩者(1976).jpg VHS
心理試験 (創作探偵小説集)』['93年/復刻版]『江戸川乱歩全集 第1巻 屋根裏の散歩者 (光文社文庫)』 映画「江戸川乱歩猟奇館 屋根裏の散歩者」(1976/06 日活) 石橋蓮司・宮下順子主演
心理試験 (1952年) (春陽文庫)
心理試験 (江戸川乱歩文庫)』['15年]
心理試験 (江戸川乱歩文庫) 文庫.jpg 蕗屋清一郎は下宿屋を営む老婆の貯めた大金を狙って彼女を絞殺するが、犯人として挙げられたのは蕗屋の同級生・斎藤勇だった。しかし、事件に疑問を抱いた笠森判事は、蕗屋を召還て斉藤と共に「心理試験」を受けさせることにし、一方、蕗屋はその心理試験に備えて万全の応答を準備する―。

 江戸川乱歩(1895-1965)の「心理試験」(1925(大正14)年2月に雑誌「新青年」に発表)を最初に読んだのは、春陽文庫の「江戸川乱歩名作集7」('52年3月初版)で、他に「二銭銅貨」「二癈人」「一枚の切符」「百面相役者」「ざくろ」「芋虫」の6編を所収していますが('87年の改版版も同じラインアップ)、やはり「心理試験」のインパクトが一番で、「D坂の殺人事件」に続いての素人探偵・明智小五郎の"試験分析"が鮮やかです。

光文社文庫『江戸川乱歩全集』全30巻
江戸川乱歩全集 光文社文庫.jpg 『心理試験』の単行本は、1924(大正14)年7月の刊行で、「創作探偵小説集1」として'93年に春陽堂書店から復刻刊行されています(「二銭銅貨」「D坂殺人事件」「黒手組」「一枚の切符」「二廃人」「双生児」「日記帳」「算盤が恋を語る話」「恐ろしき錯誤」「赤い部屋」の10編を所収)。個人的には、高校生の時に読んだ春陽文庫に思い入れがありますが、今読むならば、光文社文庫の『屋根裏の散歩者―江戸川乱歩全集1』('04年7月刊)が読み易いかも。

 光文社文庫版は初期作品21編を収め、「二銭銅貨」「一枚の切符」「恐ろしき錯誤」「二癈人」「双生児」「D坂の殺人事件」「心理試験」...といった具合に発表順に並べられており、それぞれの作品に、作者自身が全集などに所収する際に書いた自作解説が添えられており(「心理試験」がドストエフスキーの「罪と罰」の中のラスコーリニコフの老婆殺しから示唆を得ていることを、この解説で始めて知った)、作者の自作に対する評価がなかなか興味深いです(「D坂」「心理試験」「屋根裏の散歩者」は、本人評価も良いみたい)。

 こうして見ると、初期作品(1923‐25年の間に発表されたもの)の中でも最初の数編は洋物推理的な純粋トリックが主体で、「D坂」あたりから、次第に人間心理的な要素が推理に織り込まれてくるようになったことが窺えますが、何れも乾いた感じのものが多いように思えます(春陽文庫版の「ざくろ」「芋虫」は、それぞれ'34年、'29年の発表作)。

屋根裏の散歩者 映画.jpg 光文社文庫版の表題作「屋根裏の散歩者」(1925(大正14)年8月に「新青年」に発表)は、'70年、'76年、'94年、'07年の4度映画化されており、田中登監督、石橋蓮司・宮下順子主演の映画化作品「江戸川乱歩猟奇館 屋根裏の散歩者」('76年/日活)を観ましたが、映画はエロチックな作りになっているように思いました。原作は、女の自慢話する男を嫌った主人公が、単に犯罪の愉しみのために、天井裏から毒薬を垂らして男の殺害を謀るもので、エロチックな要素はありません。この作品の事件も明智小五郎が解決しますが、その言動にもどこか剽軽で乾いたところがあります。因みに、この天井裏から毒薬を垂らす殺害方法は、映画「007は二度死ぬ」('67年/英)で採用されており、これによって若林映(あき)子が演じる公安エージェントのアキは殺害されてしまいます。
 
江戸川乱歩猟奇館/屋根裏の散歩者(1976).jpg屋根裏の散歩者 01.jpg 映画がどろっとした感じになっているのは、「人間椅子」(1925年発表)の要素を織り込んでいるためですが("人間椅子"になって喜ぶ下僕が出てくる)、「人間椅子」の原作には実は空想譚だったというオチがあり、乱歩の初期作品には、実現可能性を考慮して、結構こうした作りになっているものが多いのです。江戸川乱歩猟奇館 屋根裏の散歩者   .jpg映画には、「乱歩=猟奇的」といったイメージがアプリオリに介在しているように思えました。宮下順子演じる美那子と逢引するピエロの話も、関東大震災の話(まさに"驚天動地"の結末)も原作には無い話です。自分が最初に観た時も、宮下順子の「ピエロ~、ピエロ~」という喘ぎ声に館内から思わず笑いが起きたくらいで、今日においてはカルト的作品であると言えばそう言えるかもしれません。
江戸川乱歩猟奇館 屋根裏の散歩者1.jpg 江戸川乱歩猟奇館 屋根裏の散歩者2.jpg

江戸川乱歩猟奇館 屋根裏の散歩者 [DVD]」北米版DVD
江戸川乱歩猟奇館 屋根裏の散歩者 dvd .jpg江戸川乱歩猟奇館 屋根裏の散歩者 米.jpg屋根裏の散歩者図5.jpg「屋根裏の散歩者」宮下.jpg「江戸川乱歩猟奇館 屋根裏の散歩者」●制作年:1976年●監督:田中登●製作:結城良煕/伊地智●脚本:いどあきお●撮影:森勝●音楽:蓼科二郎●原作:江戸川乱歩「屋根裏の散歩者」●時間:76分●●出演:石橋蓮司/宮下順子/長弘/池袋文芸地下 地図.jpg織田俊彦/渡辺とく子/八代康二/田島はるか/中島葵/夢村四郎/秋津令子/水木京一●公開:1976/06●配給:日活●最初に観た場所:池袋文芸地下(82-11-14)(評価:★★★)●併映:「犯された白衣」(若松孝二) 
 
江戸川乱歩短篇集 (岩波文庫).jpg 「心理試験」...【1952年文庫化・1987年改版版[春陽文庫・江戸川乱歩文庫]/1960年再文庫化[新潮文庫(『江戸川乱歩傑作選』)]/1971年再文庫化[講談社文庫(『二銭銅貨・パノラマ島奇談』)]/1973年再文庫化[角川文庫(『黄金仮面』)]/1984年再文庫化[創元推理文庫(『日本探偵小説全集2』)]/1987年再文庫化[江戸川乱歩推理文庫(講談社)(『二銭銅貨』)]/2004年再文庫化[光文社文庫(『江戸川乱歩全集 第1巻 屋根裏の散歩者』)]/2008年再文庫化[岩波文庫(『江戸川乱歩短篇集』)]/2015年再文庫化[春陽堂・江戸川乱歩文庫]】

江戸川乱歩短篇集 (岩波文庫)』(収録作「D坂の殺人事件」「屋根裏の散歩者」「人間椅子」「鏡地獄」「二銭銅貨」「心理試験」「押絵と旅する男」「白昼夢」「火星の運河」「お勢登場」「木馬は廻る」「目羅博士の不思議な犯罪」の12編)

【読書MEMO】
二銭銅貨[『新青年』1923.04]/一枚の切符[『新青年』1923.07]/恐ろしき錯誤[『新青年』1923.11]/二癈人(二廃人)[『新青年』1924.06]/双生児[『新青年』1924.10]/D坂の殺人事件[『新青年』1925.01]/心理試験[『新青年』1925.02]/屋根裏の散歩者[『新青年』1925.08]/人間椅子[『苦楽』1925.10]
 

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「ブルジョア作家」志賀直哉にリアリズム表現を学んだ小林多喜二。

映画「小林多喜二」.png蟹工船 1929.jpg蟹工船・党生活者 文庫旧版.jpg蟹工船、党生活者.jpg 小林多喜二 ≪HDニューマスター版≫.jpg
1929(昭和4)年9月戦旗社(ほるぷ出版・復刻版) 『蟹工船・党生活者 (新潮文庫)』 [旧版/'08年新装版]小林多喜二 ≪HDニューマスター版≫ [DVD]」['18年]
映画「小林多喜二」パンフレット(山本圭/中野良子)

『蟹工船・党生活者』.JPG 非正規雇用の増大とそれに伴うワーキングプア問題を背景に'08年は「『蟹工船』ブーム」の年となり、新潮文庫版だけで50万部以上のベストセラーになったとのことで、文庫出版の関係会社勤務の知人の話では、このブームのお陰で会社業績を持ち直したとか。自分も新潮文庫の新版を購入して久しぶりに読み直してみましたが、まず活字が大きくなっていることが目につき、かなり読み易くなったように思います。

 1929(昭和4)年発表の「蟹工船」は小林多喜二(1903‐1933/享年29)がプロレタリア文芸誌「戦旗」に発表したもので、カムチャッカ沖でのカニ操漁とその缶詰加工に携わる漁夫らの過酷な労働の実態および監督者に対する蜂起と挫折が描かれています。労働者のための啓蒙書、ストライキ活動(サボタージュ)のテキストのように読める面もある一方、蟹工船の航海や船内の模様が実に生き生きと描かれていてシズル感があり、その筆力は、画家を目指す漁師を描いた有島武郎の「生れ出づる悩み」('18年)や、船員経験のあった葉山嘉樹の「海に生くる人々」('26年)などのそれを凌駕しているように思いました。

志賀直哉 .jpg 小林多喜二はこの小説により発表の同年には勤務先の北海道拓殖銀行を辞め、翌'30年には不敬罪で逮捕・起訴され'31年には共産党に入党していますが、入党直後に志賀直哉(1883‐1971)の奈良の自邸を訪ね、創作の指導を仰いでいます。徳永直.png当時プロレタリア文学作家というのは結構な数がいて、「戦旗」で活躍した作家には徳永直(1899‐1958)などもいますが、今世紀になっても圧倒的に読まれ続けているのが、ブルジョア作家と言われた志賀直哉にリアリズム表現を学んだ小林多喜二であるというのが興味深いです(志賀直哉には労働者シンパだった時期があり、それが原因で資本家の父との間に確執が生じた)。

 小林多喜二は、「戦旗」の中心メンバーだった蔵原惟人(1902-1991)の「プロレタリア・レアリズム」の考えを最も忠実に具現化した作家であり、「真実」を愛する文学者は「前衛」(=共産党員)でなければならないという考え方を優等生的に実践したように思え、1932(昭和7)年発表の「党生活者」における党のための自らを犠牲にして生きる主人公は、その極致であるように思えます。

 エスピオナージ小説と似た感じでも読めるこの作品は、実際この小説の発表の翌年に小林多喜二が特高警察のスパイによって捕まり虐殺されているだけに緊迫感があり、一方で、仲間と連絡を取り合う際に"雑談"もせず事務的に事を済ますやり方に主人公が欲求不満になっているのは多喜二自身の心境だったのでしょう(もし多喜二が長生きすれば、当時の蔵原惟人の特異な思想から離れていったのではないか)。

「小林多喜二」.bmp「小林多喜二」映画1シーン.jpg  「党生活者」の内容は殆ど小林多喜二が自らが体験したことに基づくものと思われ(この小説は、小林多喜二が執筆過程において逮捕され虐殺死したため、前編で終わっている)、今井正(1912‐1991)監督の映画「小林多喜二」('74年/多喜二プロダクション)は、この「党生活者」をかなりの部分において下敷きにして作られていたように思います。

映画「小林多喜二」チラシ/スチール(山本圭/中野良子)


多喜二文学碑l.jpg 小説の中では特高警察の眼を逃れるため同志の女性の家に匿って貰っていたようになっていますが、映画では、通っていた廓の薄幸の酌婦・田口タキ(当時17歳)を足抜けさせて内縁の妻にした作りとなっていて、これは実際にあったことですが、但しその頃は多喜二はまだ拓銀に勤めていたわけであり、特高警察に本格マークされる前のことと思われます。映画は、室内シーンなどにおいて、周辺の照明を抑えスポットライトを当てたような映像で、時代のムードを旨く醸し出していた佳作でしたが、映画の最後に、小林多喜二の文学碑の建立に、思想的立場の全く異なる伊藤整が尽力したことが紹介されていました。伊藤整は小樽高商(現小樽商大)の1学年後輩でした。因みに、先に述べた志賀直哉も、多喜二の文学碑建立の発起人に名を連ねています。

「小林多喜二文学碑」(小樽市)

映画 蟹工船.jpg 尚、多喜二の生涯を描いた映像化作品では、池田博穂監督のドキュメンタリー映画「時代(とき)を撃て・多喜二」('08年)や、北海道放送のTVドキュメンタリー「いのちの記憶-小林多喜二・二十九年の人生」('08年)などがあり、また「蟹工船」そのものも、'53年に俳優の山村聡が監督している作品がある外、'09年に再度の映画化が予定されているようです。

映画「蟹工船」 ポスター(山村聡:監督)
 

小林 多喜二.jpg芥川龍之介.gif 小林多喜二は1930年に上京してからは、芥川龍之介(1892‐1927)を真似した髪形にしていたそうですが(前年に東大生だった宮本顕治が芥川龍之介を批判した「敗北の文学」を発表しているのだが)、女性にはかなりモテたようで、また、普段から冗談で周囲を笑わすことの多い人柄だったとのこと、この重い雰囲気の両作品にも、随所にユーモラスな表現が見受けられます。
小林多喜二(左)/芥川龍之介(右)

「小林多喜二」●制作年:1974年●監督:今井正●製作:伊藤武郎/内山義重●脚本:勝山俊介●撮影:中尾駿一郎●音楽:いずみたく●小林多喜二 映画.jpg今井正監督「小林多喜二」.jpg主題歌 屍をつみかさねなば  EP .jpg時間:119分●出演:山本圭/中野良子/森幹太/北林谷栄/南清貴/佐藤オリエ/森居利昭/富士真奈美/津田京子/杉山とく子/寺田誠/滝田裕介/長山藍子/下絛正巳/地井武男/鈴木瑞穂/悠木千帆(樹木希林)/横内正(ナレーター)●公開:1974/02●配給:多喜二プロダクション(評価:★★★★)
映画チラシ「小林多喜二」監督 今井正 出演 山本圭、中野良子/映画 小林多喜二 主題歌 横内正 [屍をつみかさねなば]
2018年DVD化
映画 小林多喜二.jpg

【1953年文庫化・2003年改版・2008年新装版[新潮文庫]/1954年再文庫化・1968年改版・2008年新装版[角川文庫]/1967年再文庫化・2003年改版[岩波文庫(『蟹工船、一九二八・三・一五』)]/1973年再文庫[講談社文庫]】

《読書MEMO》
●「蟹工船」...1929(昭和4)年 ★★★★☆
●「党生活者」...1932(昭和7)年 ★★★★

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寺山色が薄まった「サード」、寺山と羽仁進とのコラボがうまくいっていない「初恋・地獄変」。

サード ちらし.jpgサード.jpg 帰らざる日々.jpg 桃尻娘 竹田かほり.jpg 初恋・地獄篇.jpg
サード [DVD]」/ 「帰らざる日々 [DVD]」/ 「ピンクヒップガール 桃尻娘 [DVD]」 /「初恋・地獄篇 [DVD]」ポスターデザイン:宇野亜喜良
「サード」チラシ

サード4.jpgサード 78.jpg 「サード」('78年3月/ATG)は、少年院にいる"サード"という少年の、大人達から浮ついた励ましの言葉をかけられたところで決して満たされることのない鬱々とした日々を描いた作品。彼は元々、「大きな町へ行く」ことを夢見る高校生男女の4人組の1人で、資金稼ぎに始めた売春がもとで事件を起こし少年院へ送られてきたのだった―。

サード3.jpgサード  .jpg 寺山修司(1935‐1983)の脚本で(原作は軒上泊の「九月の町」)ATG映画の中でも評価の高い作品ですが(第52回キネマ旬報ベスト・テン第1位)、その脚本をまた撮影段階で大幅に変更したとのことで、寺山修司自身が監督した作品と比べれば当然ですが、この作品単体で見ても寺山の色をあまり感じませんでした。

サード1.jpg ただ、"オシ"という無口な少年をはじめ、"トベチン"、"アキラ"、"漢字"、脱走を試みる"ⅡB"といった少年達は皆、自閉的ながらもユニークで、こういうキャラは寺山の半自伝的作品にもあったかも(そう言えば"短歌"と呼ばれている少年もいた)。

 野球少年だったサードはひたすらホームベースの見えないグランドをぐるぐる走り続ける―ちょっとアラン・シリトーの『長距離走者の孤独』を想い出しますが、少年院の大人達に対するサード達の抵抗は、教育会で講師が語っているときにオナラをしたり、褒め言葉に対して暴言で返したりする程度で、ボランティアで慰問に訪れた女の子を暴行するのは、彼らの夢想の世界でのことでしかなく、今観れば、ああ、ここにも70年代の"閉塞感"があるなあと...。

永島敏行ド.jpgサード2.jpg 永島敏行(1956年生まれ。現在、俳優兼「農業コンサルタント」?)は、この作品が映画初出演でしたが、演技はそれほど悪くないけれども良くもないと言うか、あまり陰が感じられず、同年に主演した藤田敏八(1932‐1997/享年65)監督の「帰らざる日々」('78年8月/日活)でのキャバレーのボーイをしながら作家を志している青年役の方が、まだ演技らしい演技だったかも。  

森下愛子.jpgサード1978年森下.jpg 「サード」は、主人公を演じた永島敏行よりも、主人公の女友達役の森下愛子(1958年生まれ、この作品が映画初出演。吉田拓郎と結婚し、いったん芸能活動を休止したが、その後また復帰し、宮藤官九郎脚本の作品の常連に)の陰のある演技が良く、「帰らざる日々」で主人公の青年が高校時代に思いを寄せた喫茶店のウェイトレス役の浅野真弓(1957年生まれ)や、中学時代の同級生役の竹田かほり(1958年生まれ、同年の「桃尻娘 ピンク・ヒップ・ガール」('78年4月/日活)が映画初主演)などの演技も良かったように思います(橋本治原作の「桃尻娘 ピンク・ヒップ・ガール」は思春期の女の子をヴィヴィッドに描いていて単純に面白かった)。
森下愛子(「サード」)            

森下愛子2.jpg サード 森下愛子.jpg   帰らざる日々2.jpg 浅野真弓.jpg
森下愛子(「サード」)                    浅野真弓(「帰らざる日々」)
帰らざる日々 竹田.jpg     竹田かほり.jpg 竹田かほり ピンク・ヒップ.jpg
竹田かほり(「帰らざる日々」)      竹田かほり(「桃尻娘 ピンク・ヒップ・ガール」)

「初恋・地獄篇」 ('68年/ATG)
初恋・地獄変2.png初恋・地獄変.gif 寺山修司は「サード」以前にも、羽仁進監督の「初恋・地獄変」('68年/ATG)の脚本を羽仁進と共同で書いていて、これは、救護院にいた少年が彫金師に引き取られて成長する様を、少年の過去と現在を交互に織り交ぜ、そこにインタビューや隠し撮りなどのドキュメンタリーの手法も入れて描いたものですが、こちらは「サード」と違って、寺山の色が薄いと言うより、どの部分が寺山修司でどの部分が(多分ゴダールの影響を受けたらしい)羽仁進の部分かということが、観ていて何となく分かってしまう―その点では、必ずしも成功したコラボだったようには思えませんでした。

 一方、「サード」の監督・東陽一の手掛けた初の劇映画は「やさしいにっぽん人」('71年/東プロ)でした(この作品は新宿紀伊國屋ホールで観て、監督・出演者らの舞台挨拶があった。紀伊國屋ホールは緑魔子が70年代にリサイタルをやった会場でもあった)。沖縄で起きた集団自決から生き延びた赤ん坊が、そのことを何も覚えていないまま成長し、恋人や友人たちと一緒に真の「ことば」を求めて遍歴する姿を描く―という、今観るといかにも「70年代」といった感じの作品ですが、主人公・謝花(シャカ)の解放の道筋の合間に、育児ノイローゼの母親、ベトナム反戦デモなど当時の日本の世相が織り込まれ、出演陣も、河原崎長一郎、緑魔子、伊丹十三、伊藤惣一、石橋蓮司、蟹江敬三、渡辺美佐子と今観ると多彩で、「東京物語」('53年)のお婆さん・東山千栄子や、「ウルトラマン」('66-'67年)のフジ・アキコ隊員・桜井浩子も出演しています。
                
「やさしいにっぽん人」主題歌(詞:東陽一/曲:海老沼裕・田山雅光)
やさしいにっぽん人 dvd.jpg伊丹十三 .jpg 出演俳優の1人だった伊丹十三は、「このスタッフの無謀さに賭ける」という言葉を残していますが、当時の「時代の雰囲気」が出過ぎていて、遅れてきた世代には逆に中に入り込みにくいかも。そうしたの中で、別に説明的であるわけではなく、ただ存在として最も「時代の雰囲気」を分かり易く感じさせるのは、当時、石橋蓮司の内縁の妻だった緑魔子でしょうか(後に結婚)。東陽一監督は、「日本妖怪伝サトリ」('73年/青林舎)でも緑魔子を使っていました。 「やさしいにっぽん人 [DVD]」 2013年発売(販売元: 紀伊國屋書店)

やさしいにっぽん人7.jpgやさしいにっぽん人_o2.gif 日本妖怪伝 サトリ (1973).jpg日本妖怪伝サトリ [DVD]
「やさしいにっぽん人」映画チラシ/パンフレット表4

サード atg.jpgサード ≪HDニューマスター版≫ [DVD]」['17年]
サード ≪HDニューマスター版≫ [DVD].jpg「サード」●制作年:1978年●監督:東(ひがし)陽一●製「サード」永島.jpg作:前田勝弘●脚本:寺山修司●撮影:川上皓市/小林達比古●音楽:田中未知●原作:軒上泊「九月の町」●時「サード」森下.jpg間:103分●出演:永島敏行/吉田次昭/森下愛子/志方亜紀子/片桐夕子/峰岸徹/内藤武敏/島倉千代子/西塚肇/根本豊/池田史比古/佐藤俊介/鋤柄泰樹/若松武 /飯塚真人/宇土幸一/渋谷茂/尾上一久/藤本新吾/岡本飯田橋ギンレイホールes.jpgギンレイホール.jpg弘樹/穂高稔/市原清彦/今村昭信/杉浦賢次/清川正廣/津川泉/小林悦子/大室温子/秋川ゆか/関口文子/角間進/北原美智子/品川博●公開:1978/03●配給:ATG●最初に観た場所:飯田橋ギンレイホール(78-07-25)(評価:★★★)●併映:「祭りの準備」(黒木和雄)
飯田橋ギンレイホール 1974年1月3日オープン

江藤潤・永島敏行
「帰らざる日々」1978.jpg帰らざる日々00.jpg「帰らざる日々」●制作年:1978年●監督:藤田敏八●製作:岡田裕●脚本:藤田敏八/中岡京平●撮影:前田米造●音楽:アリス●原作:中岡京平●時間:99分●出演:江藤潤/永島敏行/朝丘雪路/根岸とし江(根岸季衣)/浅野真弓/竹田かほり/中村敦夫/中尾彬/吉行和子/小松方正/草薙幸二郎/丹波義隆/加山麗子/阿部敏郎/高品正広/深見博/日帰らざる日々takeda.jpg夏たより●公開:1978/08●配給:日活●最初に観た場所:飯田橋ギンレイホール(79-05-23)(評価:★★★☆)●併映:「八月の濡れた砂」/「赤い鳥逃げた?」(藤田敏八)

竹田かほり in「帰らざる日々」


桃尻娘 ピンク・ヒップ・ガールpf.jpg桃尻娘 ピンク・ヒップ・ガールvhs.jpg竹田かほり4.jpg「桃尻娘 ピンク・ヒップ・ガール」●制作年:1978年●監督:小原宏裕(おはらこうゆう)●製作:岡田裕●脚本:金子成人●撮影:森勝●音楽:長戸大幸●原作:橋本治「桃尻娘」●時間:87分●出演:竹田かほり/亜湖/高橋淳/野上祐二/桑崎晃男/森川麻美/清水国雄/佐々木梨里/片桐夕子/内田裕也/遠山牛/大竹智子/一谷伸江/関悦子/岸部シロー●公開:1978/04●配給:にっかつ●最初に観た場所:池袋文芸地下(79-06-03)(評価:★★★☆)●併映:「ふりむけば愛」(大林宣彦)

初恋・地獄篇 ≪HDニューマスター版≫ [Blu-ray]」['17年]
初恋・地獄篇 ≪HDニューマスター版≫.jpg『初恋・地獄篇』(羽仁進監督)1.bmp『初恋・地獄篇』(羽仁進監督)2.bmp「初恋・地獄篇」●制作年:1968年●監督:羽仁進●脚本:脚本:寺山修司/羽仁進●撮影:奥村祐治●音楽:武満徹/矢代秋雄●時間:107分●出演:高橋章夫/石井くに子/満井幸治/福田知子/宮戸美佐子/湯浅実/額村喜美子/木村一郎/支那虎/湯浅春男●公開:1968/05●配給:ATG●最初に観た場所:有楽町・日劇文化(80-07-17)(評価:★★☆)●併映:「書を捨てよ町へ出よう」(寺山修司)

やさしいにっぽん人.jpgやさしいにっぽん人 vhd.jpg「やさしいにっぽん人」●制作年:1971年●監督:東陽一●製作:高木隆太郎●脚本:東陽一/前田勝弘●撮影:池田伝一●音楽:東陽一/田山雅光●時間:112分●出演:河原崎長一郎/緑魔子/伊丹十三/伊藤惣一/石橋蓮司/蟹江敬三/渡辺美佐子/寺田柾/横山リエ/大辻伺郎/平田守/東山千栄子/桜井浩子/秋浜悟史/陶隆司●公開:1971/03●配給:東プロ●最初に観た場所:●最初に観た場所:●最初に観た場所:新宿・紀伊國屋ホール(82-03-27)(評価:★★★☆)●併映:「日本妖怪伝サトリ」(東陽一)
東陽一監督「やさしいにっぽん人」('71年)/「日本妖怪伝サトリ」('73年)
「やさしいにっぽん人」「日本妖怪伝サトリ」.jpg
「やさしいにっぽん人」パンフレット
やさしいにっぽん人754.jpg
やさしいにっぽん人 813.jpg

竹田かほり in 探偵物語.jpg盲獣 midori .jpg 緑魔子 in「盲獣」('69年/東映)
竹田かほり in「探偵物語(TVドラマ)」(1979/09~1980/04(全27回)/TBS)

紀伊國屋書店.jpg紀伊国屋ホール.jpg紀伊國屋ホール 1964年、紀伊國屋書店本店4階にオープン。2003年、第51回菊池寛賞受賞。


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振り切ってきた過去へのノスタルジーに満ちた「祭りの準備」。大谷直子が鮮烈な「肉弾」。

祭りの準備.jpg 祭りの準備  タイトル.jpg  肉弾.jpg 肉弾 大谷直子3.jpg
祭りの準備 [DVD]」(監督:黒木和雄)          「肉弾 [DVD]」 (監督:岡本喜八)

黒木和雄.jpg中島丈博.jpg 「祭りの準備」('75年/ATG)は、昭和30年代の高知を舞台に、1人の青年がしがらみの多い土地の人間関係に圧迫されながらも巣立っていく姿を描いた青春映画で、主人公(江藤潤)が信用金庫に勤めながらシナリオライターになることを夢見ていることからも窺えるように、原作は中島丈博の自伝的小説であり、監督は'06年に亡くなった黒木和雄です。
祭りの準備 DVDカバー.jpg
黒木和雄(1930‐2006/享年75)/中島丈博

映画チラシ 黒木和雄「祭りの準備」.jpg 「青春映画」とは言え青春の真只中でこの作品を観ると、あまりにどろどろしていて結構キツいのではないかという気もしましたが、このどろどろ感が中島丈博の脚本の特色とも言えます。

 父親(ハナ肇)は女狂い、祖父(浜村純)はボケ老人、母親(馬渕晴子)は主人公の青年を溺愛し、彼は二十歳にしてそこから逃れられないでいて、心の恋人(竹下景子)も片思いの対象でしかなく、結局、男達の性欲の捌け口となっている狂った女(桂木梨江)と寝てしてしまうが、その女が妊娠したらしいことがわかる―。 映画チラシ 黒木和雄「祭りの準備」

祭りの準備00.jpg祭りの準備2.jpg 青年がシナリオを書くとセックス描写が頻出し、左翼かぶれの"心の恋人"に「労働者階級をもっときちんと描くべきで、どうしてセックスのことばかり書くの」となじられる始末。そのくせ、彼女はオルグの男性にフラれると、宿直中の青年に夜這いして来て、そこで小火(ボヤ)事件が起きてしまうという、青年同様に彼女自身、青春の混沌の中でちょっと取りとめが無い状態になっています。

祭りの準備図0.jpg こんな状況から脱したいという青年の気持ちがよく分かり、その旅立ちを駅のホームで列車に伴走しながら万歳して見送る、青年の隣家の泥棒一家「中島家」の次男で殺人の容疑をかけられ逃亡の身の男「中島利広」を演じているのが原田芳雄(1940-2011)で、冬物語2.gif役柄にしっくり嵌っていい味を出しています(この俳優を渋いなあと最初に思ったのは映画ではなくテレビで観た「冬物語」('72年~'73年/日本テレビ)というメロドラマだった。恋人役は浅丘ルリ子、ふられ役は大原麗子)。

「冬物語」('72年~'73年)浅丘ルリ子・原田芳雄

 創作の要素はあるとは言え、この「祭りの準備」という映画には、原作者(中島丈博)が過去に振り切ってきた諸々に対するノスタルジーが詰まっている感じがします(東京への"脱出"行を果たした江藤潤と、それが出来ないでいる原田芳雄という対比構造になっている)。
竹下景子 in 「祭りの準備」(1975)[下写真]
祭りの準備3.jpg 祭りの準備 竹下景子.jpg 祭りの準備 図1.jpg
竹下景子 (たけしたけいこ) 1953年9月15日生まれ.jpg 竹下景子(1953年生まれ、当時22歳)の映画デビュー2作目、主演級は初で、桂木梨江(1955年生まれ、当時20歳)も映画デビュー2作目。この作品は竹下景子のヌードシーンで話題になることがありますが、主人公の青年に夜這いした際の下着姿と引き続く火事の炎の向こうにチラッと見える全裸(半裸?)姿程度で(この頃の彼女は結構コロコロ体型、よく言えばグラマラスだった)、この後清純派で売り出し、"お嫁さんにしたい桂木梨江 祭りの準備.jpg女性No.1"などと言われたために以降全くスクリーン上では脱がなくなり(「天の花と実」('77年/テレビ朝日)ではヌードを拒否した)、そんな経緯もあって「祭りの準備」のこのシーンの付加価値が出たのかも? むしろ、この作品で大胆なヌードを見せたのは「中島家」の末娘で男達の性欲の捌け口となっている狂女を演じた桂木梨江の方で、彼女はこの演技で第18回ブルーリボン賞新人賞、第49回キネマ旬報ベスト・テン助演女優賞にノミネートされています。
桂木梨江/原田芳雄 in 「祭りの準備」(1975)
映画「純」 横山博人 江藤潤 ポスター.jpg純 江藤潤DVD.jpg 主演の江藤潤(1951年生まれ)も、映画初主演の割には良い演技をしていたように思います。その後も、「帰らざる日々」('78年/日活)、「純」('80年/東映セントラルフィルム)などの作品に出演していますが、主演の「純」は東映出身の横山博人監督の第一回作品で、'78年4月に完成したものの国内公開の目途の立たぬまま翌年度のカンヌ映画祭に出品され、新人監督の登竜門「批評家週間」オープニング上映作品に選出され、以後、ロンドン映画祭、ロサンゼルス映画祭に招待されるなど高い評価を得ため、'80年に一般公開となったという作品。

映画 「純」朝加真由美.jpg 長崎の軍艦島から漫画家を志望して上京し、遊園地の修理工場で働いている主人公の二十歳の松岡純(江藤潤)は、恋人がいながらその手さえ握らず、通勤電車の中で痴漢行為に耽ける―漫画家を志望で軍艦島から東京に出てきたというところが、脚本家志望で高知・四万十から都会へ行こうとする「祭りの準備」の主人公と似ていますが、ラストまでのプロセスが観ていて気が滅入るくらい暗くて(痴漢行為に耽っているわけだから明るいはずはないが)、脇を固めている俳優陣は非常にリアリティのある演技をしていたものの、イマイチ自分の肌には合わなかったなあ(リアリティがあり過ぎて?)。江藤潤はやはり「祭りの準備」の彼が良かったように思います(「純」はどうして海外でウケたのだろう。外国人には痴漢が珍しいのかなあ。そんなことはないと思うが、クロード・ガニオン監督の「Keiko」('79年/ATG)でも冒頭に痴漢シーンがあった)。

大谷直子 in 「肉弾」(1968)[下写真]
『肉弾』(監督 岡本喜八)2.bmp 女優のデビュー時乃至デビュー間もない頃のスクリーン・ヌードという点では、「高校生ブルース」('70年/大映)の関根(高橋)惠子(1955年生まれ、当時15歳)、「旅の重さ」('72年/松竹)の高橋洋子(1953年生まれ、当時19歳)、「十六歳の戦争」('73年制作/'76年公開)の秋吉久美子(1954年生まれ、当時19歳)、「恋は緑の風の中」('74年/東宝)の原田美枝子(1958年生まれ、当時15歳)、「青春の門(筑豊篇)」('74年/東宝)の大竹しのぶ(1957年生まれ、当時16歳)、「はつ恋」('75年/東宝)の仁科明子(亜季子)(1953年生まれ、当時22歳)などがありますが(これらの中では、関根惠子と原田美枝子の15歳が一番若くて、仁科明子の22歳が竹下景子と並んで一番遅いということになる)、個人的には、'05年に亡くなった岡本喜八監督の「肉弾」('68年/ATG)の大谷直子(1950年生まれ、当時17歳)が鮮烈でした。

nikudann vhs.jpg肉弾3.jpg肉弾 寺田農.jpg この「肉弾」という作品は、特攻隊員(寺田農)を主人公に据え(「肉弾」とは「肉体によって銃弾の様に敵陣に飛び込む攻撃」のこと)、戦争の悲劇というテーマを扱っていながら、コミカルで悲壮感を(一応は)表に出していないという変わった映画で、映画肉弾 大谷直子4.jpg自体は、太平洋に漂流するドラム岳の中で魚雷を抱えている(ある意味、既に死んでいる)主人公の回想という形で進行し、主人公が1日だけの外出許可日に古本屋に行くつもりが思わず女郎屋に駆け込んでしまい、そこにいたセーラー服姿の肥溜めに咲いた一輪の白百合のような少女と防空壕の中で結ばれるという、その少女の役が映画初出演の大谷直子でした(その後、NHKの朝の連ドラ「信子とおばちゃん」('69年)でTVデビュー)。

 彼女が全裸で土砂降りの雨の中を走るシーンは衝撃的で、モノクロ映画ゆえに却ってその美しさは印象に残りましたが、かの特攻隊員は、そこで初めて自らが守るべきものを見出し、空襲で彼女が犠牲になったことで復讐心から戦闘意欲に燃え、魚雷と共に太平洋に出るという―これ、岡本喜八ならではのアイロニーなのですが、笑えるようでやっぱり岡本喜八.jpg笑えないなあ。岡本監督はその後も自らと同年代の戦中派の心境を独特のシニカルな視点で描き続けますが、「独立愚連隊」('59年)とこの「肉弾」は、そのルーツ的な作品でしょう。「日本のいちばん長い日」('67年)のようなオールスター大作を撮った後に、私費を投じてこのような自主製作映画のような作品を撮っているというのも凄いことだと思います。

岡本喜八(1924- 2005/享年81) 下:「肉弾」大谷直子  寺田農/笠智衆
肉弾 大谷直子1.jpg 肉弾 大谷直子2.jpg 肉弾 笠智衆5.jpg 
 

祭りの準備es.jpg祭りの準備ド.jpg「祭りの準備」●制作年:1975年●監督:黒木和雄●製作:大塚和/三浦波夫●脚本:中島丈博●撮影:鈴木達夫●音楽:松村禎三●原作:中島丈博●時間:117分●出演:江藤潤/馬渕晴子/ハナ肇/浜村純/竹下景子/原田芳雄/杉本美樹/桂木梨江/石山雄大/三戸部スエ/絵沢萠子/原知佐子/真山知子/阿藤海/森本レオ/斉藤真/芹明香/犬塚弘/湯沢勉/瀬畑佳代子/夏海千佳子/石津康祭りの準備 桂木梨江.jpg祭りの準備 竹下景子.jpg彦/下馬二五七/福谷強/中原鐘子/柿谷吉美●公開:1975/11●配給:ATG●最初に観た場所:飯田橋ギンレイホール(78-07-25)(評価:★★★★☆)●併映:「サード」(東陽一)
飯田橋ギンレイホールド.jpgギンレイホール.jpg飯田橋ギンレイホール内.jpg飯田橋ギンレイホール 1974年1月3日オープン
  
      
 
  
映画 「純」チラシ.jpg「純」●制作年:1978年●監督・脚本:横山博人●製作:横山博人プロダクション●撮影:高田昭●音楽:一柳慧●時間:88分●出演:江藤潤/朝加真由美/中島ゆたか/榎本ちえ子/赤座美代子/山内恵美子/田島令子/橘麻紀/花柳幻舟/原良子/江波杏子/小松方正/深江章喜/大滝秀治/安倍徹/小坂一也/小鹿番/今井健二/森あき子/田中小実昌●公開:1980/12●配給:東映セントラルフィルム●最初に観た場所:新宿昭和館(83-05-05)(評価:★★☆)●併映:「聖獣学園」(鈴木則文新宿昭和館2.jpg新宿昭和館3.jpg/主演:多岐川裕美)
新宿昭和館 1951(昭和26)年K's cinema.jpg7月13日新宿3丁目にオープン(前身は1932年開館の洋画上映館「新宿昭和館」)。1956年、昭和館地下劇場オープン。2002(平成14)年4月30日 建物老朽化により閉館。跡地にSHOWAKAN-BLD.(昭和館ビル)が新築され、同ビル3階にミニシアター「K's cinema」(ケイズシネマ)がオープン(2004(平成16)年3月6日)。


肉弾 アートシアター.jpg肉弾 vhs2.jpg『肉弾』(監督 岡本喜八)1.bmp「肉弾」●制作年:1968年●監督・脚本:岡本喜八●撮影:村井博●音日劇文化.jpg楽:佐藤勝●時間:116分●出演:寺田農/大谷直子/天本英世/笠智衆/北林谷栄/三橋規子/今福正雄/春川ますみ/園田裕久/小沢昭一/菅井きん/三戸部スエ/頭師佳孝/雷門ケン坊/田中邦衛/中谷一郎/高橋悦史/伊藤雄之助/(ナレーター)仲代達矢●公開:1968/10●配給:ATG●最初に観た場所:有楽町・日劇文化(80-07-05)(評価:★★★★)●併映:「人間蒸発」(今村昌平)
田中邦衛(区隊長)/笠智衆(戦争で両腕が無い古本屋の老人)
映画 肉弾 tanaka.jpg 映画 肉弾 ryuu.jpg


冬物語.gif「冬物語」.jpg冬物語 ドラマタイトル.jpg「冬物語」●演出:石橋冠●制作:銭谷功/早川恒夫●脚本:清水邦夫/林秀彦●音楽:坂田「冬物語」2.bmp晃一(主題歌「冬物語」作詞:阿久悠/作曲・編曲:坂田晃一/唄:フォー・クローバース)●出演:浅丘ルリ子/原田芳雄/津川雅彦/扇千景/大原麗子/高松英郎/原田大二郎/宝生あや子/南美江/荒谷公之/鳥居恵子/渡辺篤史/下元勉/潮万太郎/上野山功一/柿沼真二/下川清子/野々あさみ/渥美マリ●放映:1972/11~1973/04(全20回)●放送局:日本テレビ

原田芳雄/浅丘ルリ子/原田大二郎/津川雅彦/大原麗子
冬物語0d87.jpg冬物語31645_21.jpg冬物語 大原.jpg

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工藤夕貴の演技がいい「台風クラブ」。少女を撮るのが上手だった故・相米慎二監督。

Typhoon Club 1985.jpg 台風クラブ.jpg    逆噴射家族.jpg 逆噴射家族 1シーン.jpg 
「台風クラブ」ポスター「台風クラブ [DVD]」(相米慎二監督)「逆噴射家族 [DVD]」(石井聰互監督)ラストシーン

台風クラブ1.jpg 地方都市の女子中学生たちが、学校のプールに夜中に泳ぎにやってきて、先に来ていた男子生徒にイタズラをするが、度が過ぎて溺死寸前の状態に追い込んでしまう。翌朝、ニュースでは台風の接近を告げていた―。

台風クラブ2.bmp 「台風クラブ」('85年/東宝=ATG)は、'85(昭和60)年の第1回東京国際映画祭のグランプリ受賞作で、台風の接近に伴い、言いようのない感情の昂ぶりを見せ騒乱状態に陥る中学生たちを生々しく且つ瑞々しく描き出した作品。女子中学生役の工藤夕貴が、中学生の日常とそこに潜む思春期の生理的・精神的危うさを演じて台風クラブ22.jpg秀逸で、何か自分でそうしたものを観察でもしたかのような相米慎二監督の演出が際立っています。実際、女子中学生の私生活を「長回し」で写し撮っているような感じのシーンもあり、今ならば児童保護の名目で規制の対象になりそうな際どい場面もあって、更にストーリー的にも結構どろどろした出来事がありますが、そうしたことも含め、「観察対象」としての距離を置いて撮っているような感じもします。

 迫りくる台風に対する不安と非日常への漠たる期待、台風という非日常の中での狂騒、そして台風台風クラブ 図1.jpg一過、中学生たちは何事もなかったかのようにまた元気に学校に通い出す―でも実は、台風が来る前に比べぐっと大人に近づいているという、 "大人になるための出来事"を台風に絡めているところが旨く、また、女子中学生の方が男子よりも逞しく描かれているように思いました。人間の自律神経は気圧の変化には敏感で、酸素がたくさんある高気圧だと酸素ストレスで交感神経が緊張して体は興奮して元気になり、逆に雨や台風で低気圧が接近すると、副交感神経が優位に働いて、特に神経痛やリュウマチなどの持病がある人にとっては低気圧は不快感を増幅させるそうですが、思春期にある者の情緒不安定を引き起こすことについても何か科学的根拠があるんじゃないかなあ。

相米慎二.jpg 相米慎二(1948‐2001/享年53)監督は、薬師丸ひろ子(当時17歳)主演の「セーラー服と機関銃」('81年)の後に夏目雅子(当時25歳)主演の「魚影の群れ」('83年)や斉藤由貴(当時19歳)主演の「雪の断章‐情熱‐」('85年)などを撮り、そして工藤夕貴(当時14歳)主演のこの作品「台風クラブ」を撮っていますが、その内夏目雅子を除いて当時何れも二十歳未満で、斉藤由貴は映画初出演で主演、工藤夕貴もこの作品が初主演でした。何だか新人専門みたいですが、とりわけ未成年(少女)を撮るのが上手だった(?) 相米慎二監督はその後も、「東京上空いらっしゃいませ」('90年)で当時18歳の牧瀬里穂を、「お引越し」(93年)で当時11歳の新人・田畑智子を、それぞれ主役に据えた作品を撮っています。

台風クラブ 三浦友和 演.jpg 「台風クラブ」では三浦友和が不良っぽい教師役で出ていて、なかなか良かったです。三浦友和は、所謂「百恵・友和ゴールデンコンビ」と言われた作品群で1970年代に二枚目の俳優として10代に大変な人気がありましたが、その百恵・友和のゴールデン・コンビの第8作、大林宣彦監督、ジェームス三木脚本の「ふりむけば愛」('78年/東宝)を友達と観に行って、2人とも途中で眠くなりました。ただ、本作を契機に山口百恵と三浦友和は結婚に踏み切ることを決意したと言われています。2本立てで小原宏裕監督の「桃尻娘 ピンク・ヒップ・ガール」('78年/日活)の後でしたが、大林宣彦監督はいい作品(尾道3部作など)も撮る一方で駄作も多い気がし、これもその1つ。百恵・友和コンビ作では、市川昆監督、川端康成原作の「古都」('80年)が山口百恵引退記念作品となり、三浦友和は村川透監督、勝目梓原作の「獣たちの熱い眠り」('81年/東映)でイメージチェンジを図りますが(三浦友和は萩原健一や松田優作のような反体制タイプの役者に憧れていたらしい)、映画内で風吹ジュンらとの激しいベッドシーンなどがあったものの、「三浦友和のイメチェン作」と言われている割にはイメチェンに成功しておらず、彼の後の演技の糧にはなったかもしれませんが、「友和クンにハードボイルドは似合わない」というのが当時の印象でした(この作品は過去にビデオあれておらず、'09年現在DVD化もされていない)。その三浦友和が、この「台風クラブ」では、その無責任ゆえに生徒たちから反発を喰う教師役を演じていて、恋人(小林かおり)が台台風クラブ 三浦友和 演技.jpg所で料理をしている隣りの部屋でだらしなく寝転がってる三浦友和が、近よってきた恋人に足を絡ませ倒して抱きつく長回しなど、ダメさ加減がよく出ていました(ハードボイルド風よりよりこっちの方がいい)。個人的には、この作品こそが彼のイメージチェンジ作ではないかなと思います(イメチェンって、ただこれまでと違う役をやればいいというものでもなく、新たなキャラを確立させなければならないだけに難しい)。三浦友和はこの作品で、第10回報知映画賞助演男優賞を受賞しています。
「NHKあさイチ~あさイチ・プレミアムトーク~」(2011.11.25)

「ふりむけば愛」('78年/東宝)、「獣たちの熱い眠り」('81年/東映)、「台風クラブ」('85年/東宝=ATG)
三浦友和1 ふりむけば愛.jpg 三浦友和2 獣たちの熱き眠り.jpg 三浦友和3 台風クラブ.jpg

逆噴射家族5.bmp 一方、工藤夕貴の映画初出演は、この作品の前年の石井聰互監督の「逆噴射家族」('84年/ATG)で(当時13歳)、真面目で小心者のサラリーマン(小林克也)が長期ローンでやっとマイホームを建て、家族4人でそれなりの幸せ気分でいたところに(この家族が変人揃いで皆それぞれ勝手気儘というかバラバラなのだが、その1人が工藤夕貴演じる娘)、郷里からまた変な祖父(植木等)が舞い込んで来て家の中がおかしくなりだし、更にある日、このサラリーマン氏が自宅でシロアリの群れを発見して、マイホームが朽ちるのではとの不安に駆られ、シロアリ駆除に向けて大暴走するというものです。

逆噴射家族6.bmp 小林よしのり氏(当時31歳)の原案だそうですが、映画としてはあくまでも石井聰互監督(当時27歳)の映画という感じで、DJ・小林克也の演技は役者並みだし、ちょっと狂い気味の妻役の倍賞美津子や、植木等の怪しい老人ぶりもいいです。

逆噴射家族7.bmp 更には工藤夕貴の兄を演じた有薗芳記の電脳オタクぶりも、映画初出演ながら凄かった―ということで、工藤夕貴のぶっ飛び感も、これらに比べるとちょっと弱かったかも知れません("緊縛シーン"(?)に象徴されるように、彼らの被害者的立場という色合いが強い役柄のせいもあったが)。
有薗芳記 in 「逆噴射家族」

逆噴射家族ンロード.jpg逆噴射家族A.jpg 「逆噴射家族」は海外の映画祭でもグランプリなどを獲っている作品ですが、狂気を描くことが目的化してしまっている面も感じられ、むしろ異価値・異文化的な面で海外に受台風クラブ07.jpgけたのではないかなあ。個人的には「台風工藤夕貴 in 「台風クラブ」.jpgクラブ」の方がより好みでしょうか。

[上]小林克也 in 「逆噴射家族」

[下]工藤夕貴 in 「台風クラブ」
        
  

台風クラブes.jpg「台風クラブ」●制作年:1985年●監督:相米慎二●製作:宮坂進●脚本: 加藤裕司●撮影:伊藤昭裕●音楽:三枝成章●時間:85分●出演:工藤夕貴/三上祐一/大西結花台風クラブ  13.jpg三浦友和/佐藤充/寺田農/尾美としのり/鶴見辰吾/紅林茂/松永敏行/会沢朋子/小林かおり/きたむらあきこ/石井富/佐藤浩市(友情出演)●公開:1985/08●配給:東宝=ATG●最初に観た場所:有楽町スバル座(1985/8/31)●2回目:大井武蔵野館(1986/9/20)(評価:★★★★)●併映(2回目):「時代屋の女房」(森崎東) 
    
ふりむけば愛〈別冊近代映画〉.jpgふりむけば愛9.jpg「ふりむけば愛」●制作年:1978年●監督:大林宣彦●製作:堀威夫/笹井英男●脚本:ジェームス三木●撮影:萩原憲治●音楽:宮崎尚志(主題歌:三浦友和「ふりむけば愛 dvd.jpgふりむけば愛」(作詞・作曲:小椋佳 編曲:松任谷正隆))●時間:92分●出演:山口百恵/三浦友和/森次晃嗣/玉川伊佐男/奈良岡朋子/黒部幸英/神谷政浩/名倉良/高橋昌也/南田洋子/大内勇/藤木啓士/安西卓人/星野晶子/岡田英次●公開:1978/07●配給:東宝●最初に観た場所:池袋文芸坐(79-06-03)(評価:★★)●併映:「桃尻娘 ピンク・ヒップ・ガール」(小原宏裕)
ふりむけば愛 [DVD]

獣たちの熱い眠り .jpg獣たちの熱き眠り 00.jpg獣たちの熱い眠り 3.jpg「獣たちの熱い眠り」●制作年:1981年●監督:村川透●脚本:永原秀一●撮影:仙元誠三●三浦友和風吹ジュン宇佐美恵子「獣たちの熱い眠り」広告.jpg音楽:速水清司●原作:勝目梓●時間:111分●出演:三浦友和/風吹ジュン/なつきれい/宇佐美恵子/石橋蓮司/鹿内孝/峰岸徹/宮内洋/佐藤蛾次郎/阿藤海安岡力也/草薙幸二郎/中丸忠雄/中尾彬/成田三樹夫/伊吹宇佐美恵子1.jpg宇佐美恵子2.jpg吾郎/(以下、特別出演)吉行和子/池波志乃/来栖アンナ●公開:1981/09●配給:東映●最初に観た場所:池袋文芸坐(82-03-21)(評価:★★)●併映:「吼えろ鉄10文芸坐.jpg拳」(鈴木則文)
[上]「映画チラシ 「獣たちの熱い眠り」監督 村川透 出演 三浦友和、なつきれい、宇佐美恵子」/[右]広告切抜き
宇佐美恵子
     
逆噴射家族1.jpg逆噴射家族 2.png逆噴射家族 1.png「逆噴射家族」●制作年:1984年●監督:石井聰互●製作:長谷川和彦/山根豊次/佐々木史郎●脚本:石井聰逆噴射家族E-.jpg亙/小林よしのり/神波史男●撮影:田村正毅●時間:106分●出演:小林克也/倍賞美津子/植木等/工藤夕貴/有薗芳記/岸野一彦/小海とよ子/緒方明/林崎巌/郷守信廣/井上欣逆噴射家族   .jpg則/高橋佑奈/井手国弘/アレックス・アブラモフ●公開:1984/06●配給:ATG●最初に観た場所:池袋日勝文化劇場(85-11-04)(評価:★★★☆)●併映:「お葬式」(伊丹十三)

「逆噴射家族」スチール写真(左から有薗芳記/植木等/小林克也/倍賞美津子/工藤夕貴)
   
日勝文化2.jpg池袋.jpgビックカメラ池袋.jpg池袋日勝映画劇場・池袋日勝文化劇場・池袋スカラ座・池袋日勝地下劇場 (現・池袋東口ビックカメラ池袋本店付近) 1995(平成7)年6月25日閉館
池袋日勝 日勝文化3.jpg
日勝文化705.jpg③池袋東急 ④池袋スカラ座 ⑮池袋日勝地下劇場 ⑬池袋日勝映画劇場 ⑭池袋日勝文化劇場

・1937年 池袋日勝映画館オープン
・1946年10月 - 池袋日勝映画劇場として再オープン
・1951年12月 - 池袋日勝地下劇場オープン
・1960年前後 - 池袋日勝文化劇場、池袋松竹劇場オープン
・1963年 - 池袋松竹劇場を池袋スカラ座と改称
・1995年 - 4館ともすべて閉館
池袋スカラ座/池袋日勝文化 菅野 正 写真展 「平成ラストショー hp」より  
池袋日勝 日勝文化 6月25日.jpg 池袋日勝.jpg 
青木 圭一郎 『昭和の東京 映画は名画座』(2016/03 ワイズ出版)より
昭和の東京 映画は名画座  池袋.jpg

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「●「キネマ旬報ベスト・テン」(第1位)」の インデックッスへ(「シコふんじゃった。」「Shall We ダンス?」)「●「毎日映画コンクール 日本映画大賞」受賞作」の インデックッスへ(「シコふんじゃった。」「Shall We ダンス?」) 「●「ブルーリボン賞 作品賞」受賞作」の インデックッスへ(「シコふんじゃった。」)「●「報知映画賞 作品賞」受賞作」の インデックッスへ(「シコふんじゃった。」「Shall We ダンス?」)「●「芸術選奨新人賞(監督)」受賞作」の インデックッスへ(周防正行「Shall We ダンス?」) 「●「ヨコハマ映画祭 作品賞」受賞作」の インデックッスへ(「シコふんじゃった。」) 「●「日刊スポーツ映画大賞 作品賞」」受賞作」の インデックッスへ(「シコふんじゃった。」「Shall We ダンス?」)「●「ロンドン映画批評家協会賞 作品賞」受賞作」の インデックッスへ(「Shall We ダンス?」)「●「ナショナル・ボード・オブ・レビュー賞 外国語映画賞」受賞作」の インデックッスへ(「Shall We ダンス?」)「●本木 雅弘 出演作品」の インデックッスへ(「シコふんじゃった。」「Shall We ダンス?」)「●竹中 直人 出演作品」の インデックッスへ(「シコふんじゃった。」「Shall We ダンス?」)「●柄本 明 出演作品」の インデックッスへ(「シコふんじゃった。」「Shall We ダンス?」) 「●役所 広司 出演作品」の インデックッスへ(「Shall We ダンス?」) 「●香川 京子 出演作品」の インデックッスへ(「Shall We ダンス?」)「○日本映画 【制作年順】」の インデックッスへ

すっかりハマってしまった「シコふんじゃった。」。取材がしっかりしている。
シコふんじゃった。.jpg シコふんじゃった 6.jpg Shall We ダンス?.jpg Shall We ダンス22.jpg
シコふんじゃった。 [DVD]」本木雅弘 「Shall We ダンス? [DVD]」役所広司/草刈民代Shall we ダンス? [DVD]

シコふんじゃった2.jpgシコふんじゃった.jpg 就職先も決まっていた教立大学4年の秋平(本木雅弘)は、ある日、卒論指導教授の穴山(柄本明)に呼び出され、授業に一度も出席しなかったことを理由に、卒業と引き換えに穴山が顧問をする相撲部の試合に出るよう頼まれる―。

 「シコふんじゃった。」('91年/東宝)は、ひょんなことから相撲部に入ることになった大学生の奮闘を描いたもので、スポ根モノとして良くできている"佳作"―と言うより、観ていてすっかり嵌ってしまった自分を振り返れば、個人的には"大傑作"だったということになるでしょうか(第70回「キネマ旬報ベスト・テン」第1位、第47回「毎日映画コンクール 日本映画大賞」、第35回「ブルーリボン賞 作品賞」、第17回「報知映画賞 作品賞」、第5回「日刊スポーツ映画大賞 作品賞」受賞作品。第16回「日本アカデミー賞」で最優秀作品賞、最優秀監督賞、最優秀脚本賞(周防正行)、最優秀主演男優賞(本木雅弘)、最優秀助演男優賞(竹中直人)の5部門制覇)。

シコふんじゃった8.jpgシコふんじゃった2.jpg 何故そんなに面白かったのかを考えるに、劇画チックではあるけれど、スポ根モノとしては極めてオーソドックな展開で、観る側に充分なカタルシス効果を与えると共に、きっちりした取材の跡が随所に窺えること、何よりもそのことが大きな理由ではないかと思いました。

 大学相撲部(それも弱小の)という特殊な世界に関して、その背景が細部までしっかり描き込まれているから、"8年生"部員を演じる竹中直人のオーバーアクション気味の演技も、線画のしっかりしたマンガのようにすっと受け容れることが出来、楽しめたのかも知れません。

Shall We ダンス.jpg 同じく周防監督の「Shall We ダンス?」('96年/東宝)も、充分な取材の跡が感じられ、内容的にみても、多くの賞を受賞し(第70回「キネマ旬報ベスト・テン」第1位作品)、ハリウッド映画としてリメイクされるぐらいですからそう悪くはないのですが、この監督のカタルシス効果の編成方法が大体見えてきてしまったというのはある...。

 それと、「シコふんじゃった。」で竹中直人が演じていたコミカルな部分を、今度は竹中直人と渡辺えり子(最近、美輪明宏の助言で「渡辺えり」に改名した)の2人が演じていて、片や役所広司と草刈民世のストイックなメインストーリーがあるにしても、2人分に増えたオーバーアクション(加えて竹中直人分は「シコふんじゃった。」の時より増幅されている)にはやや辟易させられました。

Shall We ダンス.jpg 但し、草刈民世を(演技的には無理させないで)キレイに撮っているなあという感じはして、外国の映画監督でもそうですが、ヒロインの女優が監督の恋愛対象となっている時は、女優自身の魅力をよく引き出しているということが言えるのでは。

 キャリアの初期に、ユニークで面白い、或いは骨太でパワフルな作品を撮っていた監督が、メジャーになってから、大作ながらもその人らしさの見えない、誰が監督しても同じようなつまらない作品ばかり撮っているというケースは多いけれども、この監督は、綿密な取材を通しての自分なりの映画づくりの路線を堅持するタイプに思え、引き続き期待が持てました。(渡辺えり子/竹中直人

Shall We ダンス 01.jpg 因みに「Shall we ダンス?」は、第20回「日本アカデミー賞」において史上最多の13冠を獲得しています。主要7部門に限っても、最優秀作品賞、 最優秀監督賞、 最優秀脚本賞(周防正行)、最優秀主演男優賞(役所広司)、最優秀主演女優賞(草刈民代)、最優秀助演男優賞(竹中直人)、最優秀助演女優賞(渡辺えり子)と7冠全て制覇して他の作品の共同受賞さえ許さなかったのは('09年現在)この作品だけです(残り6冠は、音楽・撮影・証明・美術・録音・編集。残るは新人賞や外国作品賞だから、実質完全制覇と言っていい)。「キネマ旬報ベスト・テン」第1位のほか、「毎日映画コンクール 日本映画大賞」「報知映画賞 作品賞」「日刊スポーツ映画大賞 作品賞」も受賞しています。「シコふんじゃった。」がこれらに加えて受賞した「ブルーリボン賞 作品賞」は受賞していませんが、英「ロンドン映画批評家協会賞 作品賞」、米「ナショナル・ボード・オブ・レビュー賞 外国語映画賞」など、海外で賞を受賞しています(2004年にアメリカにて「Shall We Dance?」のタイトルで、リチャード・ギア、ジェニファー・ロペス、スーザン・サランドンらが出演するアメリカ版のリメイク作品が製作された)

「シコふんじゃった」0「.jpgシコふんじゃった9.jpg「シコふんじゃった。」●制作年:1991年●監督・脚本:周防正行●撮影:栢野直樹●音楽:周防義和/おおたか静流●時間:105分●出演:本木雅弘/清水美砂/柄本明竹中直人/水島かおり/田口浩正/六平直政/宝井誠明/ロバート・ホフマン/梅本律子/松田勝/宮坂ひろし/村上冬樹/桜むつ子/片岡五郎/佐藤恒治/みのすけ●公開:1992/01●配給:東宝(評価:★★★★☆
「シコふんじゃった」09.jpg 「シコふんじゃった」柄本2.jpg

Shall We ダンスes.jpg「Shall We ダンス?」●制作年:1996年●監督・脚本:周防正行●製作:徳間康快●撮影:栢野直樹●音楽:周防義和/おおたか静流●時間:136分●出演:役所広司/草刈民代/竹中直人/田口浩正/徳井優/宝井誠明/渡辺えり子/柄本明/原日出子/草村礼子/森山周一郎/本木雅弘/清水美砂/上田耕一/宮坂ひろし/井田州彦/田中英和/峰野勝成/片岡五郎/大杉漣/石山雄大/本田博太郎/香川京子/田中陽子/東城亜美枝/中村綾乃/石井トミコ/川村真樹/松阪隆子/馬渕英俚可●公開:1996/01●配給:大映(評価:★★★☆)
(上段)役所広司/草刈民代/竹中直人/渡辺えり子/柄本明
(下段)森山周一郎/上田耕一/大杉漣/本木雅弘/香川京子
「Shall We ダンス?」.jpg

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石橋蓮司主演2作。時代の空疎感伝える「あらかじめ...」と中上文学を再現した佳作「赫い髪の女」。
あらかじめ失われた恋人たちよ(ポスター).jpg あらかじめ失われた恋人たちよ プレス.jpg  「赫い髪の女」.jpg 赫い髪の女.jpg
あらかじめ失われた恋人たちよ」 DVD/チラシ 「赫い髪の女 [DVD]」(監督:神代辰巳)

arakajime.jpgあらかじめ失われた恋人たちよド.jpg 棒高跳びでのオリンピック出場の夢を断たれて自棄になり、強盗を働きながら日本中を放浪していたあらかじめ失われた恋人たちよ.jpg青年(石橋蓮司)はある日、日本海のある街のスーパーの開店イベントで、全身に金粉を塗ってパフォーマンスをする聾唖者の男女(加納典明・桃井かおり)の姿に目を奪われ、彼らにつきまとい始める―。(加納典明桃井かおり石橋蓮司

「アートシアター 90 あらかじめ失われた恋人たちよ」より
あらかじめ失われた恋人たちよ0.JPG 「あらかじめ失われた恋人たちよ」('71年/ATG)は、劇作家の清水邦夫と当時「東京12チャンネル」のディレクターだった田原総一朗(この人、最初は岩波映画でカメラ助手をやっていた)の共同脚本・共同監督作品で、桃井かおりの実質的なデビュー作であり(桃井かおりは藤田敏八監督の「赤い鳥逃げた?」('73年/東宝)でも、シロクロ・ショーをしながら旅する女という役だった)、今は写真家になっている加納典明なども出ている映画ですが、今の田原総一郎、加納典明とこの映画とは、自分の中では長い間リンクしなかったような気がします。

 ストーリーはあるものの、多少前衛がかっていて(加納典明・桃井かおりが喋らないので石橋蓮司の独白で話は進む)、地下演劇的なムードもあるかも(田舎でやるシロクロ・ショーなどは何となく土俗的)。加えて、タイトルもしゃれているし何だか難しそうですが、少なくとも「あらかじめ失われた」ものが第一義的には「言葉」であることは、容易にわかるのではないでしょうか(だから、言葉を駆使している評論家・田原総一郎、カメラマン・加納典明とリンクしない?)。 
石橋蓮司

内灘夫人.jpg 後半の主要舞台は金沢郊外の内灘砂丘ですが、かつてここで米軍の試射場設置に対する反対闘争があったわけで、この作品にも試写場の廃墟が出てきます。五木寛之が60年安保の余韻を伝える作品『内灘夫人』を発表したのが'68年、しかしながらこの映画の公開は'71年で、もう既に70年安保という"政治の季節"が終わってしまったようなムードが、作品の中にもどことなくあります。

 というわけで、面白いと言うよりもどちらかと言えば一時代の記念碑的な作品ですが、石橋蓮司のパフォーマンス的な演技がその時代の空疎感、閉塞感をよく伝えていて、神代(くましろ)辰巳監督の「赫い髪の女」といいこの作品といい、70年代の石橋蓮司っていいなあと思います。

「赫い髪の女」英語版.jpg赫い髪の女 poster.jpg 「赫い髪の女」('79年/にっかつ)は中上赫い髪の女35.jpg健次の原作で、ダンプ運転手(石橋蓮司)といきずりの女(宮下順子)の愛欲の生活をリアルに描いた作品ですが、雨のジトジト降る日に狭いアパートの一室で、セックスの合間にインスタントラーメンを音をたてて啜る2人が、どういうわけか個人的にはすごく印象的でした。この作品も時代の閉塞を表していると言えるかも知れません。DVD化されているので、再見しようと赫い髪の女3.jpg赫い髪の女2.jpg思えばいつでも観ることができるのですが、出来れば劇場で観たい作品です(自分がこの作品を最初に観た「銀座並木座」は閉館してしまったが)。中上健次の原作のムードを損なわずに丁寧に撮られた佳作だったと思います。
石橋蓮司宮下順子山口美也子 
 
 
あらかじめ失われた恋人たちよv.jpg映画・あらかじめ失われた恋人たちよ.jpgあらかじめ失われた恋人たちよ4.png「あらかじめ失われた恋人たちよ」●制作年:1971年●監督・脚本:清水邦夫/田原総一郎●企画:葛井欣士郎●撮影:奥村祐治●音楽:成毛滋●時間:123分●出演:石橋蓮司桃井かおり/加納典明/岩淵達治/内田ゆき/正城睦子/緑魔子/カルメン・マキ/蟹江敬三/豊田紀雄/井上博一/吉田潔/竹之内弾/秋浜悟史/井田邦明/キムカンザ/佐藤重臣/大文芸坐休館.jpg池袋文芸地下 地図.jpg文芸坐.jpg森直人/蜷川幸雄/佐々倉英雄●公開:1971/11●配給:ATG●最初に観た場所:池袋文芸地下 (79-11-25)(評価:★★★★)●併映:「エロスは甘き香り」(藤田敏八)
池袋・文芸地下 1955(昭和30)年12月27日オープン、1997(平成9)年3月6日閉館。
 
『赫い髪の女』.bmp「赫い髪の女」●制作年:1979年●監督:神代辰巳●製作:三浦朗●脚本:荒井晴彦●撮影:前田米造●音楽:憂歌団●原作/中上健次「赫髪」●時間:75分●出演:宮下順子石橋蓮司/亜湖/阿藤海/三谷昇/山口美也子/絵沢萠子/山谷初男/石堂洋子/高橋明/庄司三郎/佐藤了一●公開:1979/02●配給並木座.jpg並木座閉館.jpg:にっかつ●最初に観た場所:銀座並木座 (79-06-03)(評価:★★★★)●併映:「女教師」(田中登)
銀座並木座  1953年10月7日オープン。1998(平成10)年9月22日閉館。

「●森 一生 監督作品」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 「●本多 猪四郎 監督作品」【1544】 本多 猪四郎 「地球防衛軍
「●宮川 一夫 撮影作品」の インデックッスへ(「ある殺し屋」「ある殺し屋の鍵」)「●か行の日本映画の監督」の インデックッスへ 「●市川 雷蔵 出演作品」の インデックッスへ(「ある殺し屋」「ある殺し屋の鍵」「初春狸御殿」) 「●若尾 文子 出演作品」の インデックッスへ(「初春狸御殿」)「●山形 勲 出演作品」の インデックッスへ(「ある殺し屋の鍵」) 「○日本映画 【制作年順】」の インデックッスへ 「●ふ 藤原 審爾」の インデックッスへ

現代劇にもぴったりハマった市川雷蔵の「ある殺し屋」。カルト的珍品?「初春狸御殿」。

ある殺し屋 poster.jpgある殺し屋 dvd2.jpg ある殺し屋の鍵 dvd.jpg  初春狸御殿.jpg
ある殺し屋 [DVD]」「ある殺し屋の鍵 [DVD]」「初春狸御殿 [DVD]」(市川雷蔵/若尾文子/勝新太郎)

0ある殺し屋.jpg 「ある殺し屋」('67年/大映)は、普段は一杯飲屋の主人で刺身魚を自ら捌いたりしているというありきたりの市井の男だが、実はその裏の正体は、大物ヤクザの親分の暗殺などの仕事を大金で請け負い、それがどんな困難なものであっても完遂するプロの殺し屋(武器としても用いるのは太い針)―という主人公「新田」の役どころを、市川雷蔵(1931-1969/享年37)がニヒルかつスマートに演じている作品で、続編が1作だけ作られています。

「ある殺し屋」1.jpg「ある殺し屋」2.bmp 助けてやった女(野川由美子)に付きまとわれてもそれを一向に相手にせず、仲間のフリをして寄ってくるヤクザ(成田三樹夫)に裏切られても、全て織り込みで既に手は打ってある―「ある殺し屋」.jpgあまりにストイックかつクールで、ストーリーだけで見ると非現実的なB級(C級とでも言うか)作品になりそうなものですが、市川ある殺し屋dvd.jpg雷蔵が演じると、殺し屋稼業をしている時でも何だかサラリーマン風にも見えたりして、そうしたステレオタイプのハードボイルド・ヒーローとのギャップ感がなかなかいいリアリティを醸していて、時にはそれが却って凄みになったりもしています。ある殺し屋.jpg 口数は少ないが男気も秘めており、結局、女よりもむしろ男が惚れる男というのはこういうものかと納得させられる(勿論、新田の場合は女性にもモテるのだが)、心地よいハードボイルド作品となっています。
ある殺し屋 [DVD]

「ある殺し屋の鍵」チラシ/「ある殺し屋の鍵 [DVD]
ある殺し屋の鍵 チラシ.jpgある殺し屋の鍵 dvd.jpg 因みに、同年12月に公開された同じく藤原審爾原作・森一生監督の「ある殺し屋の鍵」('67年/大映)では、市川雷蔵が演じる主人公の新田の表向きの職業は、一杯飲屋の主人から日本舞踊の師匠に替わっており(新田は、流れ包丁だったのか? それにしてもビックリの職替え)、脱税王(内田朝雄)とか建設会社の社長(西村晃)とか政財界の黒幕(山形勲)とか色々出できて話はスケールアップしていますが(3人とも新田に殺される役!)、新田のニヒルでスマートな様は変わっていません。原ある殺し屋の鍵 title.jpgある殺し屋の鍵 1シーン.jpg作ストーリーもしっかりしていますが、ストーリーもさることながら、演じている「市川雷蔵」そのものを楽しめる作品ではないかと思います (両作品とも撮影は宮川一夫)。
「ある殺し屋の鍵」市川雷蔵/佐藤友美

「ある殺し屋」1.bmp 市川雷蔵は映画史上最高の時代劇スターと謳われた名優で、映画も「眠狂四郎シリーズ」や「大菩薩峠シリーズ」など数的には時代劇の方の出演が主なのですが、現代劇でもこんなにしっくり来る歌舞伎界出身の俳優は少ないのではないかと思われ、37歳でガンのため夭折したことが惜しまれます(それでも160本近い映画に出演したのだが)。現代劇に出ている時は歌舞伎役者的なニオイがキレイさっぱり無くなるタイプで、そうした系統では、同じく眠狂四郎を演じた片岡孝男(現・片岡仁左衛門)などがいましたが(田村正和も演じていたなあ)、ちょっとそれらと比較にならないかも(早逝したことも、イメージが損なわれないという意味ではプラスに働いているが)。

木村 恵吾 「初春狸御殿」.jpg初春狸御殿 poster.jpg この人の時代劇の方は劇場ではあまり観ていないのですが、木村恵吾監督の「初春狸御殿」('59年/大映)というのは"珍品"。所謂"マゲものミュージカル"という類で、時代劇なのに若尾文子が演じるお姫様が着物にネックレスをしているというのが可笑しく、市川雷蔵と比較されることの多い、あの勝新太郎が、完璧な二枚目役者として出ています。木村恵吾監督はこれ以前にも「狸御殿」「歌う狸御殿」「春爛漫狸祭」「花くらべ狸御殿」を撮っていて(「初春狸御殿」はシリーズ最終作)、50年代にこうした陽気な大衆映画が受けた時期があったことを知っている人がどれぐらいいるか分かりませんが、今の若い人にとってはある種のカルトムービー的位置づけになるのかも。
勝新太郎 in「初春狸御殿」
初春狸御殿bb.jpg 初春狸御殿77.jpg


市川雷蔵 in「ある殺し屋」
「ある殺し屋」森一生 1967.jpgある殺し屋3.jpg「ある殺し屋」●制作年:1967年●監督:森一生●脚本:増村小林幸子 3.jpg保造/石松愛弘●撮影:宮川一夫●音楽:鏑木創●原作:藤原審爾「前夜」●時間:82分●出演:市川雷蔵/野川由美子/成田三樹夫/渚まゆみ/ある殺し屋小林幸子.jpg小林幸子(当時13歳)/小池朝雄/千波丈太郎/松下達夫/伊達三郎/「ある殺し屋」4.bmp「ある殺し屋」3.bmp浜田雄史●公開:1967/04●配給:大映●最初に観た場所:大井ロマン(87-10-31)(評価:★★★★)●併映:「ある殺し屋の鍵」(森一生)
市川雷蔵/佐藤友美 in「ある殺し屋の鍵」
「ある殺し屋の鍵」森一生 1967.jpgある殺し屋の鍵 vhs.jpg「ある殺し屋の鍵」●制作年:1967年●監督:森一生●構成:増村保造●脚本:小滝光郎●撮影:宮川一夫●音楽:鏑木創●原作:藤1ある殺し屋の鍵 山形.jpgある殺し屋の鍵 山形ド.jpg原審爾「消される男」●時間:82分●出演:市川雷蔵/西村晃/佐藤友美/山形勲/中谷一郎/金内吉男/ 伊達三郎/伊東光一/内田朝雄/玉置一恵/森内一夫/伊東義高/志賀明●公開:1967/12●配給:大映●最初に観た場所:大井ロマン(87-10-31)(評価:★★★★)●併映:「ある殺し屋」(森一生)
山形勲


若尾文子/市川雷蔵 in「初春狸御殿」
初春狸御殿_3.jpg木村 恵吾 「初春狸御殿」2.jpg「初春狸御殿」●制作年:1959年●監督・脚本:木村恵吾●製作:三浦信夫●撮影:今井ひろし●音楽:吉田正●時間:95分●出演:市川雷蔵/若尾文子/若尾文子 市川雷蔵 初春狸御殿a.jpg大井武蔵野館 1989.jpg勝新太郎/中村玉緒/金田一敦子/仁木多鶴子/水谷良重/中村雁治郎/真城千都世/近藤美恵子/楠トシエ/トニー・谷/菅初春狸御殿20.jpg井一郎/江戸屋猫八/三遊亭小金馬/左卜全/藤本二三代/神楽坂浮子/松尾和子/小浜奈々子/岸正子/美川純子/大和七海路/小町瑠美子/毛利郁子/嵐三右衛門●公開:1959/12●配給:大映●最初に観た場所:大井武蔵野館 (86-11-15)(評価:★★★?)●併映:「真田風雲録」(加藤泰)

《読書MEMO》
● 桂 千穂 『カルトムービー本当に面白い日本映画 1945→1980』['13年/メディアックス]
IMG_7ある殺し屋.JPG

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平沢無罪説を先駆的に展開。GHQの関与については"隔靴掻痒の感"は否めないが。
小説帝銀事件.jpg 松本 清張 『小説 帝銀事件』.jpg 小説 帝銀事件.jpg  悪魔が来りて笛を吹く 1979 ちらし.jpg 犬神家の一族 角川映画 THE BEST [DVD].jpg
小説帝銀事件 (1959年)』/角川文庫/『小説帝銀事件 (角川文庫)』/「悪魔が来りて笛を吹く【DVD】」「犬神家の一族 角川映画 THE BEST [DVD]
昭和23年9月28日毎日新聞
帝銀事件02.jpg帝銀事件.jpg '59(昭和34)年に雑誌「文藝春秋」に発表された松本清張の「昭和史発掘シリーズ」に先立つ昭和の事件モノで、「昭和史発掘シリーズ」の中でも'48(昭和23)年という占領時代に起きたこの「帝銀事件」は取り上げられていますが、「小説」と頭に付くのは、捜査に疑念を抱いた新聞社の論説委員の視点からこれを描いているのと、事件の部分がセミドキュメンタリータッチで再現されているためでしょうか。

 12人が死亡した凶悪事件と平沢貞通画伯が犯人に祭り上げられていく過程もさることながら、個人的には本書によって初めて、関東軍細菌戦部隊(731部隊)の生き残り関係者の事件への関与が疑われること、彼らはGHQの保護下にあったことなどを知り、そっちの方の衝撃も大きかったです。

 731部隊がいかに残虐の限りを尽くしたか、また、その戦犯行為の当事者らが人体実験を含む研究データを渡す代わりに戦争犯罪に問われないと言う約束をGHQに取り付け免責されたという事実については、森村誠一氏の『悪魔の飽食―「関東軍細菌戦部隊」恐怖の全貌!長編ドキュメント』('81年/カッパノベルズ)があるし(この本は後に記述や写真の誤謬を多く指摘された)、太田昌克氏の『731 免責の系譜―細菌戦部隊と秘蔵のファイル』('99年/日本評論社)青木富貴子氏の『731-石井四郎と細菌戦部隊の闇を暴く』('05年/新潮社)では "免責問題"をより深く追及していますが、「小説帝銀事件」の発表は『悪魔の飽食』と比べても、それより20年以上早いことになります。

 いま読み直してみると、最初に挙がった何人かの容疑者の中に平沢の名前があり、一旦それが消えて軍関係者へ嫌疑が向けられるも、そちら方面の捜査が打ち切られて再び平沢の名が浮上したという経緯や、面通しの結果誰も平沢を犯人だとする人がいなかったこと、彼の病的な虚言癖などについては細かく書かれている一方で、GHQの関与については"隔靴掻痒の感"は否めず、このことは、平沢は無実の罪に問われたということが公然の事実のようになっている今と違い(歴代の法務大臣が誰も死刑執行のハンコを押さなかったわけだし)、「事件は解決済み」とする風潮がまだ根強かった当時としては、米軍から情報を得られない限りは、平沢を犯人とする根拠の脆弱さに的を絞って、そこから平沢無実説を導き出すことを主眼とするしかなかったためと思われます。

帝銀事件0.JPG帝銀事件01.jpg平沢貞通.bmp 平沢が疑われることになった原因の1つに、所持金の出処の曖昧さの問題がありましたが、「春画を描いたと自分の口から白状すれば、彼の画家的な生命は消滅するのである」とし、「肉体的な死刑よりも、芸術的生命の処刑を重しとした」と、その精神的内面まで踏み込んで"推理"している点も作家らしく、またこれも、タイトルに「小説」と付くことの所以の1つであると思います。    

事件発生直後の現場の様子/犯人の行動を再現させられる平沢(ともにWikipediaより) 平沢貞通 (1892-1987/享年95)

帝銀事件 ドラマ 1.jpg帝銀事件 ドラマ 3.jpg帝銀事件 ドラマ 2.jpg 松本清張のこの作品は1980(昭和55)年に1度だけドラマ化されていて、ドラママタイトルは「帝銀事件 大量殺人! 獄中32年の死刑囚」、脚本は新藤兼人、主演は仲谷昇(共演は田中邦衛、橋本功など)。テレビ朝日の「土曜ワイド劇場」枠で放映され、第17回ギャラクシー賞(月間賞)を受賞するなどしていますが、個人的には未見です。

 因みに、横溝正史の『悪魔が来りて笛を吹く』(雑誌「宝石」1951年11月号 - 1953年11月号に発表)は、この帝銀事件をモチーフに書かれたと言われています(作中では「天銀堂事件」となっており、ストーリーは事件の後日譚となっている)。悪魔が来りて笛を吹く 1979.jpg原作は読んでいませんが、西田敏行が金田一耕助を演じた映画「悪魔が来りて笛を吹く」('79年/東映)を観ました(角川春樹製作、監督は「太陽にほえろ」「俺たちの旅」などのTVシリーズを手掛けた斎藤光正)。青酸カリも事件に絡んで出てきますが、メインのモチーフは近親相姦と言えるでしょうか。謎解きの部分で複雑な家系図が出てきますが、映画ではそれが分かりにくいのが難でした(「読んでから観る」タイプの映画だったかも)。歴悪魔が来りて笛を吹く 1979.jpg代の横溝正史原作の映画化作品の中ではまあまあの評価のようですが、そのわりには西田敏行が金田一耕助を演じたのはこの1回きりでした。まあ、映画で金田一耕助を1度演じただけという俳優は、西田敏行以前には池部良、高倉健、中尾彬、渥美清などがいて、西田敏行以降も古谷一行、鹿賀丈史、豊川悦司などがいるわけですが...(石坂浩二と並んで金田一耕助役のイメージが強い古谷一行は映画では1度きりだが、MBSテレビの「横溝正史シリーズ」('77-'78年)、TBSの「名探偵・金田一耕助シリーズ」('83-'05年)でそれぞれ金田一耕助役を演じている)。

犬神家の一族 (1976年)1.jpg犬神家の一族 (1976年)2.jpg 金田一耕助ものの映画化作品でやはりまず最初に思い浮かぶのは、東宝の市川崑監督・石坂浩二主演の金田一耕助シリーズ(「犬神家の一族」('76年)、「悪魔の手毬唄」('77年)、「獄門島」('77年)、「女王蜂」('78年)、「病院坂の首縊りの家」('79年))ではないでしょうか。特に、角川映画第1作として作られた「犬神家の一族」('76年)(配給会社は東宝、共演は島田陽子坂口良子など)は、かつて片岡千恵蔵の金田一耕助シリーズ(「獄門島」('49年)など)で千恵蔵がスーツ姿だったりしたのが、金田一耕助を初めて原作通りの着物姿で登場させた映画であり(結局、西田敏行版「悪魔が来りて笛を吹く」などもその路線をなぞっていることになる)、原作の複雑な人物関係も分かりやすく表されていて、細部では原作と改変されている部分も少なからずあるものの、エンタテインメントとしてよく出来ていたように思います。30年後の2006年に同じ監督・主演コンビでリメイクされ(原作からの改変部分まで旧作を踏襲している)、石坂浩二(金田一)のほかに、大滝秀治(神官)、加藤武(署長)が旧作と同じ役で出演していますが、00年代としては犬神家の一族」(2006ード.jpg犬神家の一族 (2006年 松嶋.jpg犬神家の一族 (2006年 富司.jpg豪華キャストであるものの、それでも旧作と比べると役者の豪華さ・熟達度で及ばないように思いました。犬神家の三姉妹は旧作の高峰三枝子、三條美紀、草笛光子に対して、新作が富司純子、松坂慶子、 萬田久子でそれなりに錚々たるものでしたが、何となく違うなあと思いました。富司純子も大女優ですが、高峰三枝子が長年役柄を通して培ってきた"毒気"のようなものが無いように思われました。ヒロイン役の島田陽子と松嶋菜々子を比べても、松嶋菜々子って何か運命的なものを負っている将軍 SHŌGUN0.jpgという印象が島田陽子に比べ弱いなあと(ただ、島田陽子も米テレビドラマ「将軍 SHŌGUN」('80年)に出てダメになった。ジェームズ・クラベルのベストセラー小説を原作に、アメリカで12時間ドラマとしてTV放映したものを劇場用にまとめたものを観たが、日本人の描き方がかなりヘンだ。どうしてこんな作品に三船敏郎はじめ日本の俳優は臆面もなく出るのか。ただし、島田陽子はこの作品で日本人女性初のゴールデングローブ賞を受賞している)。
島田陽子 in「将軍 SHŌGUN」

 「小説 帝銀事件」から始まって映画「犬神家の一族」の新旧比較になってしまいました。

「犬神家の一族」(1976)
「犬神家の一族」1976.jpg
「犬神家の一族」(1999)
「犬神家の一族」1999.jpg
 


悪魔が来りて笛を吹く 1979 ポスター.jpg悪魔が来りて笛を吹く 1979 vhs.jpg「悪魔が来りて笛を吹く」●制作年:1979年●監督:斎藤光正●製作:角川春樹●脚本:野上龍雄 ●撮影:伊佐山巌●音楽:山本邦山/今井裕●原作:横溝正史●時間:136分●出演:西田敏行/夏木勲(夏八木勲)/仲谷昇/鰐淵晴子/斎藤とも子/村松英子/石浜朗/小沢栄太郎/池波志乃/原知佐子/山本麟一/宮内淳/二木てるみ0「悪魔が来りて笛を吹く」.jpg/梅宮辰夫/浜木綿子/北林早苗/中村玉緒/加藤嘉/京悪魔が来りて笛を吹く jidojpeg.jpeg慈道...加藤嘉.jpg唄子/村田知栄子/藤巻潤/三谷昇/熱田一久/住吉道博/村田知栄子/藤巻潤/三谷昇/金子信雄/中村雅俊/秋野太作/横溝正史/角川春樹●公開:1979/01●配給:東映(評価:★★☆)

西田敏行(32歳)/斉藤とも子(18歳)/鰐淵晴子(34歳)/原知佐子(43歳)/小沢栄太郎(70歳)
悪魔が来りて笛を吹く...西田敏行(32).jpg 悪魔が来りて笛を吹く...斉藤とも子(18).jpg 悪魔が来りて笛を吹く...鰐淵晴子(34).jpg 悪魔が来りて笛を吹く...原知佐子(43).jpg 悪魔が来りて笛を吹く...小沢栄太郎.jpg
梅宮辰夫(40歳)「俺はな、金田一耕助というのは明智小五郎より名探偵だと思ってるんだ」(風間俊六)
「悪魔が来りて笛を吹く」梅宮1.jpg

池袋東映-2.jpg●最初に観た場所:池袋東映 (79-01-13)


池袋東映 池袋東口2分60階通り(地下に池袋名画座) 1985年頃閉館 

0池袋東映.jpg 1982年8月 舛田利雄監督・丹波哲郎主演「大日本帝国」公開時
         
犬神家の一族 (1976年)0.jpg「犬神家の一族」●制作年:1976年●監督:市川崑●製作:市川犬神家の一族 poster.jpg坂浩犬神家の一族 女優.jpg喜一●脚本:市川崑/日高真也/長田紀生●撮影:長谷川清●音楽:大野雄二●原作:横溝正史●時間:146分●出演:石坂浩二/島田陽子/あおい輝彦/川口恒/川口晶/坂口良子/地井武男/三条美紀/原泉/草笛光犬神家の一族 (1976年)00.jpg子/大滝秀治/岸田今日子/加藤武/小林昭二/三谷昇/三木のり平/高峰三枝子/小沢栄太郎/三國連太郎●公開:1976/11●配給:東宝(評価:★★★☆)

犬神家の一族(2006) [DVD]」「犬神家の一族」(2006年)市川崑監督とキャストら(2006.10 東京国際映画祭)
犬神家の一族 (2006年 DVD.jpg犬神家の一族 2006.jpg「犬神家の一族」●制作年:2006年●監督:市川崑●製作:市川喜一●脚本:市川崑/日高真也/長田紀生●撮影:五十畑幸勇●音楽:谷川賢作/大野雄二(テーマ曲)●原作:横溝正史●時間:134分●出演:石坂浩二/松嶋菜々子/尾上菊之助/富司純子/松坂慶子/萬田久子/池内万作/奥菜恵/岸部一徳/深田恭子/三條美紀/草笛光子/大滝秀治/加藤武/中村敦夫/仲代達矢●公開:200「犬神家の一族」matuzaka.jpg犬神家の一族 (2006年  大滝秀治.jpg犬神家の一族 (2006年 仲代.jpg6/12●配給:東宝(評価:★★★)
松坂慶子(次女・犬神竹子)/大滝秀治(神官・大山泰輔)/仲代達矢(犬神佐兵衛)

 
 
 
 

将軍 SHŌGUN p.jpg将軍 SHŌGUN1.jpg将軍 SHŌGUN2.jpg「将軍 SHŌGUN」●原題:SHŌGUN●制作年:1980年●制作国:アメリカ●監督:ジェリー・ロンドン●製作プロデューサーベル/ケリー・フェルザーン●脚本:エリック・バーコビッチ●撮影:アンドリュー・ラズロ●音楽:モーリス・ジャール●原作:ジェームズ・クラベル●時間:121分(TV版全5話・547分)●出演:リチャード・チェンバレ将軍 shogun 島田.jpg:エリック・バーコビッチ/ベン・チャップマン/ジェームズ・クラ将軍 SHŌGUN3.jpgン/三船敏郎/島田陽子/フランキー堺/目黒祐樹/金子信雄/ダミアン・トーマス/ジョン・リス=デイビス/安部徹/高松英郎/宮口精二/夏木陽介/岡田真澄/宅麻伸/山本麟一/(ナレーション)オーソン・ウェルズ●日本公開:1980/11●配給:東宝●最初に観た場所:飯田橋・佳作座 (81-01-24)(評価:★☆)●併映:「二百三高地」(舛田利雄)
将軍 SHŌGUN vhs.jpg


【1961年文庫化・2009年新装版[角川文庫]/1980年再文庫化[講談社文庫]】

 
《読書MEMO》
神保町シアター「没後40年 横溝正史 銀幕の金田一耕助」特集(2021年6月5日~25日)ライアンアップ
銀幕の金田一耕助.jpg1.『三つ首塔』 昭和31年 白黒 監督:小林恒夫、小沢茂弘 出演:片岡千恵蔵、高千穂ひづる、三条雅也、中原ひとみ、南原伸二
2.『悪魔の手毬唄』 昭和36年 白黒 監督:渡辺邦男 出演:高倉健、北原しげみ、小野透、永田靖、大村文武
3.『本陣殺人事件』 昭和50年 カラー 監督:高林陽一 出演:中尾彬、田村高広、村松英子、東野孝彦、常田富士男
4.『犬神家の一族』 昭和51年 カラー 監督:市川崑 出演:石坂浩二、高峰三枝子、三条美紀、草笛光子、あおい輝彦
5.『悪魔の手毬唄』 昭和52年 カラー 監督:市川崑 出演:石坂浩二、岸恵子、若山富三郎、加藤武、草笛光子
6.『獄門島』 昭和52年 カラー 監督:市川崑 出演:石坂浩二、司葉子、大原麗子、草笛光子、太地喜和子
7.『八つ墓村』 昭和52年 カラー 監督:野村芳太郎 出演:渥美清、萩原健一、山崎努、小川真由美、山本陽子
8.『女王蜂』 昭和53年 カラー 監督:市川崑 出演:石坂浩二、岸恵子、司葉子、高峰三枝子、仲代達矢
9.『悪魔が来りて笛を吹く』 昭和54年 カラー 監督:斎藤光正 出演:西田敏行、夏八木勲、鰐淵晴子、斉藤とも子、仲谷昇

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大人の男女3人の宝探し。甘いけれど許せる甘さの"青春映画"。勝新・高倉健版はイマイチ。
冒険者たち.jpg 冒険者たち2.jpg 冒険者たち1.jpg Les aventuriers(1967).jpg
冒険者たち [DVD]」 Lino Ventura,Alain Delon,Joanna Shimkus in "LES AVENTURIERS" Les aventuriers(1967)
LES AVENTURIERS.jpg パリ郊外の飛行クラブでインストラクターをしているパイロットのマヌー(アラン・ドロン)と新型エンジンの開発に熱中する元エンジニアのローラン(リノ・ヴァンチュラ)のもとに、芸術家の卵である前衛彫刻家レティシア(ジョアンナ・シムカス)が現れ、2人とも彼女に恋心を抱くが、やがて3人はアフリカの海底に5億フランの財宝が眠っているとの話を聞き、共にコンゴの海に旅立つことに―。

 大の大人3人が宝探しをするという、何だか甘い青春ドラマみたいな設定なのですが、ジョゼ・ジョヴァンニの原作を大幅に脚色したロベール・アンリコ監督の演出が巧みで、話のテンポも良く、この中では一番おっさん臭いリノ・ヴァンチュラ(当時48歳)の演技も生きていました(この人、刑事役とかギャング役が十八番なのだが)。

Joanna Shimkus.jpg やはり、ちょっと胴長のジョアンナ・シムカス(当時24歳)の明るさが効いていて、周囲を巻き込んでしまう―それだけに、彼女が演じるレティシアが亡くなってしまうのが哀しく、そこから本来のリノ・ヴァンチュラとアラン・ドロン(当時32歳)の哀愁を帯びたギャング映画みたいなトーンになるといったところでしょうか。それでも、この映冒険者たち 戦場にながれる歌.jpg画は最後まで映像的には光に満ちているように思え、最後の方に出てくる銃撃戦の舞台となる要塞みたいな島も良かったです。

ジョアンナ・シムカス(背景のポスターは松山善三監督「戦場にながれる歌」('65年/東宝))

冒険者たち0.jpg アラン・ドロンを軸に見れば「太陽がいっぱい」系の雰囲気かとも思えますが、結末から逆算的に見るとリノ・ヴァンチュラの視点での物語ということになるのかもしれません(アラン・ドロンというのは常に「見られる側」の存在であって、「見「冒険者たち」doronn.jpgる側」にはならないような気がする)。因みに、生き残った者の掟.jpgジョゼ・ジョヴァンニ José Giovanni.JPGジョゼ・ジョヴァンニの原作のタイトルは「生き残った者の掟」で、ジョゼ・ジョヴァンニ自身も同時期に自らの監督作として「生き残った者の掟」('66年/仏))を撮っています(当然ながらジョゼ・ジョヴァンニ自身が監督したものの方が原作に忠実)。
生き残った者の掟 (河出文庫)

「冒険者たち」リノ」.jpg冒険者たち 1977年公開時チラシ.jpg リノ・ヴァンチュラ(1919-1987)は、俳優になる前はレスリングのヨーロッパ・チャンピオンだったそうですが、この映画での彼は、最近の俳優で言うと、ジャン・レノなどに通じるものがあるなあと勝手に思ったりしました。

冒険者たち6.jpg テーマ曲もいいですが、アラン・ドロンの歌うサブ・テーマ曲「愛しのレティシア」は、口笛の伴奏がホンダシビックのCFなどで使われましたが、サワリの部分を聞くだけで、レティシアを水葬に付す場面など、映画の様々なシーンが甦ってきます。甘いけれど、許せる甘さの"青春映画"であると思います。


無宿 .jpg無宿 ド.jpg 因みに、日本映画に「祭りの準備」('75年/ATG)の中島丈博脚本、斎藤耕一監督、勝新太郎・高倉健主演の「無宿(やどなし)」('74年/東宝)というのがあり、勝新太郎、高倉健の2人に梶芽衣子が絡む男2人と女1人のロードムービーであり、映画の後半は海で宝探しをするという展開でした。予備知無宿 やどなしロード.jpg識無しに観ましたが、「冒険者たち」の影響を受けていることがすぐに分かり、実際そうでした。但し、ジョゼ・ジョヴァンニ原作、ロベール・アンリコ監督の「冒険者たち」は、無宿 ages.jpg女性が途中で亡くなり、男性が生き残ります。それが「無宿」では、ラスト逆になっていて、しかもそこで話は終わってしまい、「生き残った無宿 やどなしes.jpg者」(この場合は梶芽衣子)がどうなったかという話ありませんでした。どちらかというとダークな背景が似合いそうな勝新太郎、高倉健、梶芽衣子の3人が、前半は任侠映画風ながらも、後半はずっと陽光燦々と輝く海で演技しているというちょっと毛色の変わった作品ですが、こうした終わり方から、日本版「冒険者たち」のつもりなのか(それにしては"生き残った者の掟"というテーマが見出せない)、宝探しは単に部分的にモチーフを借りただけなのか、個人的には釈然としませんでした(男たちがヤクザ=ギャングに追われるところなどは同じなので、日本版「冒険者たち」のつもりなのだろうが...)。

無宿 大滝秀治.jpg 因みに、この映画は高倉健(1931-2014)と勝新太郎(1931-1997)が共演した唯一の作品であるとともに、高倉健と大滝秀治(1925-2012)の初共演作であり、大滝秀治は前半部分で高倉健が演じる主人公に殺されるヤクザの親分役で出ています(ただし、直接的な絡みは無く、二人同時に画面に映らない演出がされている)。高倉健と大滝秀治はその後「君よ憤怒の河を渉れ」('76年/大映)、「八甲田山」('77年/東宝)、「居酒屋兆治」('83年/東宝)など多くの作品で共演を重ねることになります(降旗康男監督の「あなたへ」('12年/東宝)が大滝秀治の遺作になったとともに、高倉健にとっても最後の主演作品となった)

Les aventuriers (1967)
Les aventuriers (1967).jpgジョアンナ・シムカス.jpg「冒険者たち」●原題:LES AVENTURIERS●制作年:1967年●制作国:フランス●監督:ロベール・アンリコ●脚本:ロベール・アンリコほか●撮影:ジャン・ボフティ●音楽:フランソワ・ド・ルーベ●原作:ジョゼ・ジョヴァンニ「生き残った者の掟」●時間:112分●出演:アラン・ドロン/リノ・ヴァンチュラ/ジョアンナ・シムカス/セルジュ・レジニア●日本公開:1967/05●配給:大映●最初にロベール・アンリコ(Robert Enrico).jpg観た場所:有楽町・ニュー東宝シネマ1(77-11-24)●2回目:テアトル池袋(84-11-11) (評価:★★★★☆) ●併映(2回目):「カリブの熱い夜」(テイラー・ハックフォード)
ロベール・アンリコ(Robert Enrico)

「冒険者たち」 パンフレット 1977年/1989年
冒険者たち 1977.png  冒険者たち 1989.png

ニュー東宝シネマ1.jpgニュー東宝1.JPGニュー東宝シネマ1・2 チケット入れ.jpgニュー東宝シネマ1 1957年5月5日、有楽町ニュートーキョービル(有楽町マリオン向かいニユートーキヨー数寄屋橋本店ビル)3Fに「ニュー東宝シネマ」オープン(「ニュー東宝」「スキヤバシ映画」が「ニュー東宝シネマ1,2」に改称)。TOHOシネマズ 有楽座.jpg1972年5月~「ニュー東宝シネマ1」、1995年7月~「ニュー東宝シネマ」(「ニュー東宝シネマ2」閉館)、2005年4月~新生「有楽座」、2009年2月10日~「TOHOシネマズ有楽座」(右) 2015年2月27日閉館
「TOHOシネマズ 有楽座」閉館のお知らせ(TOHOシネマズHPより)
かつての「有楽座」は、1935年に演劇劇場(現 東宝日比谷ビル)として誕生し、1951年には映画専用劇場となり、1984年に一度閉館致しました。
その後、2005年に「ニュー東宝シネマ1」を「新・有楽座」として改装オープンし、2009年には「TOHOシネマズ有楽座」と館名を改め、今日まで多くの名作を上映して参りましたが、このたび、ニユートーキヨー本店ビルの閉鎖に伴い、TOHOシネマズ有楽座を閉館することとなりました。
これまでTOHOシネマズ有楽座にご支援、ご愛顧いただきました映画ファンの皆様、関係者の皆様に心より御礼申し上げます。
TOHOシネマズ日劇、スカラ座、みゆき座、シャンテにて、引き続きご来場をお待ちしております。
【TOHOシネマズ 有楽座(1スクリーン/397席)】
◆閉館日:2015年2月27日(金)
   
テアトル池袋2.JPG「テアトル池袋 LAST ALLNIGHT」チラシ-1.gif「テアトル池袋_1.jpgテアトル池袋
1956年12月26日に東池袋1丁目「(第一地所)池袋ビル」1階にオープン(当時地下1階はテアトルダイヤ)。1980年に「南池袋テアトルビル(南池袋共同ビル)」の8階に移転。2006(平成18)年8月31日閉館 IKEKYO.com
「テアトル池袋」閉館のお知らせ(東京テアトル株式会社HPより)
 テアトル池袋は、1980年に、名画座として開業以来「アニメ映画専門館」や「アジア映画専門館」をはじめ「新人作家発掘の専門館」や「拡大ロードショー館」など、様々な興行形態を展開してまいりました。
 しかしながら、ビルの8階での単独館であることや、映画館が立ち並ぶエリアから離れた立地なども影響して、業績が伸び悩み、今後の方向性につきまして検討を重ねてまいりましたが、収益性を飛躍的に向上させることは困難であるとの結論に達し、やむなく本年8月31日をもちまして閉館することといたしました。
 26年間に亘りご愛顧賜りましたことに心より御礼申し上げます。

無宿 やどなし  dvd.jpg無宿 やどなし01.jpg「無宿(やどなし)」●制作年:1974年●監督:斉藤耕一●製作:勝新太郎/西岡弘善/真田正典●脚本:中島丈博/蘇武道男●撮影:坂本典隆●音楽:青山八郎●時間:125分●出演:勝新太郎/高倉健/梶芽衣子/安藤昇/藤間紫/山城新伍/中谷一郎/三上真一郎/今井健二/大滝秀治/殿山泰司/神津善行「無宿(やどなし)」katu.jpg/荒木道子/石橋蓮司/栗崎昇/木下サヨ子/伊吹新吾●公開:1974/10●配給:東宝(評価:★★★)
無宿(やどなし) [東宝DVDシネマファンクラブ]
神津善行(ガセネタ売り)/大滝秀治(大場親分)/殿山泰司(元潜水夫・為造)
「無宿(やどなし)」神津.jpg 「無宿(やどなし)」大滝秀治2.gif 「無宿(やどなし)」殿山2.jpg

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文化大革命以降、意外な日本映画が中国で大反響。その背景を分析。

中国10億人の日本映画熱愛史2.jpg君よ憤怒の河を渉れ 高倉・原田 2.jpg 君よ憤怒の河を渉れ (1976年3.jpg
君よ憤怒の河を渉れ [DVD]」('76年)高倉健・原田芳雄/中野良子・大滝秀治
中国10億人の日本映画熱愛史-高倉健、山口百恵からキムタク、アニメまで』['06年] 

追捕.jpg君よ憤怒の河を渉れ.jpg 文化大革命以降の中国国内における日本映画の歴史を解説したもので、何よりも、文革直後に中国で公開された数少ない映画が、中国の一般の人々や映画人に与えた影響が絶大なものであったことを本書で知りました。その代表というのが、今は日本では殆ど顧みられることのない作品「君よ憤怒の河を渉れ」('76年/製作:大映、配給:松竹)で、西村寿行の原作を佐藤純彌が監督したこの作品は、'78年に中国で「追捕」というタイトルで公開されるや大反響を呼び、中国人の約80%以上が観たということで(スゴイ!)、主演の高倉健、中野良子は今でも中国で人気があるそうです。

サンダカン八番娼館 望郷.jpg これに続いたのが、山崎朋子の原作を熊井啓が監督した「サンダカン八番娼館・望郷」('74年製作)で、主演の栗原小巻の中国での人気は今でも高いそうですが、その後も「愛と死」('71年/中村登監督)、「人間の証明」('77年/佐藤純彌監督)、「砂の器」('74年/野村芳太郎監督)などが中国に輸入され、高い人気を博したとのこと(「愛と死」を80年代に日本人が観れば、既にノスタルジーの対象であったものが、当時の中国人にはオシャレに見えた。この点が、今の日本の"韓流ブーム"とは異なるところ)。

 本書では、中国に輸入された日本映画とその影響を、「第5世代」と呼ばれる中国の新映画人の台頭など国産映画の動向と併せて解説し、何故それら日本映画が中国の人々に受け入れられたのかを分析していて、先に挙げたものは、中国に輸入された日本映画の初期のものに過ぎないのですが、とりわけ反響が絶大であっただけに、その「ウケた理由」には自ずと興味が持たれます(こうしてみると、芸術性はあまり関係ないなあ)。

山口百恵 赤い疑惑.jpg 中国における高倉健の人気は、ハリウッドスターを含めた海外映画俳優の中で今でもトップという圧倒的なものだそうですが、女優で最大人気は、'84年から中国で放映されたTVドラマ「赤い疑惑」シリーズの山口百恵だそうで、殆どカリスマのような存在。

コン・リー.jpg 大物女優の鞏俐(コン・リー)なども、中国が本当にオリジナルな芸術性を持った作品を作り始めた第五世代の代表的監督・張芸謀(チャン・イーモウ)の初期作品「紅いコーリャン」('87年)に出演した頃は、中国国内で「中国の山口百恵」と言われているという話を聞いた覚えがあります(本書によれば、その後すぐに彼女はそのイメージから脱却したそうだが、スピルバーグがプロデュースした「SAYURI」('05年)に、チャン・ツィイーと共に日本人女性役で出ているというのが興味深い。本来は日本人がやる役だけれど、ハリウッド進出は中国女優の方が既に先行している)。

 著者は映画芸術論を専門とする中国人の学者で('94年以降、日本在住)、本書は初めから日本語で書かれたもの。知らないことだらけで興味深く読めたけれど、1行当たりの"漢字含有率"がどうしても高くなってしまうのは、本の内容上、仕方がないことなのか。

君よ憤怒の河を渉れ poster.jpg君よ憤怒の河を渉れ 高倉・原田.jpg 冒頭で掲げた「君よ憤怒の河を渉れ」は(原作は「ふんぬ」だが映画タイトルには「ふんど」のルビがある。因みに監督の佐藤純彌は東大文学部卒)、高倉健の東映退社後の第一作目(当時45歳)で、高倉健が演じるのは、政界黒幕事件を追ううちに無実の罪を着せられ警察に追われる立場になる東京地検検事・杜丘冬人(上君よ憤怒の河を渉れ 池部s.jpg司の伊藤検事正を池部良が演じている)。原田芳雄が演じる彼を追う警視庁の矢村警部との間で、次第に友情のようなものが芽生えてくるのがポイントで、最後は2人で黒幕を追い詰め、銃弾を撃ち込むという任侠映画っぽい結末でした(検事と警官で悪を裁いてしまうという無茶苦茶ぶりだが、その分カタルシス効果はあったか)。健さんは逃亡過程においては、馬を駆ったりセスナ機を操縦したりと007並みの活躍で、その間、中野良子や倍賞美津子に助けられるという盛り沢山な内容です。

Kimi yo fundo no kawa wo watare (1976)
Kimi yo fundo no kawa wo watare (1976) .jpg君よ憤怒の河を渡れ  .jpg そこそこ面白いのですが、B級と言えばB級で、なぜこの映画が中国で受けたのか不思議というのはあります。中国人の約80%以上が観たというのが大袈裟だとして、たとえそれが30%であったとしても、最も多くの人が観た日本映画ということになるのではないでしょうか。張藝謀(チャン・イーモウ)監督のように、この映画を観て高倉健に恋い焦がれ、その想いがコラボ的に高倉健が主演することになった「単騎、千里を走る。」('05年)に結実したということもあります。やっぱり、中国で文革後に実質初めて公開された日本映画という、そのタイミングが大きかったのでしょう。今観ると、意外と2時間半の長尺を飽きさせずに見せ、また70年代テイスト満載の映画でもあり、その部分を加味して星半個オマケしておきます。
君よ憤怒の河を渉れ 大和田.jpg 君よ憤怒の河を渉れ nakano.jpg
大和田伸也/高倉健/原田芳雄                 高倉健/中野良子
君よ憤怒の河を渉れsp.jpg「君よ憤怒の河を渉れ」1.jpg「君よ憤怒の河を渉れ」●制作年:1976年●監督:佐藤純彌●製作:永田雅一●脚本:田坂啓/佐藤純彌●撮影:小林節雄●音楽:青山八郎●原作:西村寿行「君よ憤怒の河を渉れ」●時間:151分●出君よ憤怒の河を渉れ-s.jpg君よ憤怒の河を渉れ 倍賞.jpg演:高倉健/原田芳雄/池部良/大滝秀治/中野良子/倍賞美津子/岡田英次/西村晃/田中邦衛/伊佐山ひ君よ憤怒の河を渉れ サントラ.jpgろ子/内藤武敏君よ憤怒の河を渉れ s.jpg君よ憤怒の河を渉れ 大滝秀治s.jpg/大和田伸也/下川辰平/夏木章/石山雄大/松山新一/木島進介/久富惟晴/神田隆/吉田義夫/木島一郎/浜田晃/岩崎信忠/姿鉄太郎/沢美鶴/田畑善彦/青木卓司/田村貫/里木佐甫良/阿藤岡田英次 君よ憤怒の河を渉れ.jpg海(阿藤快)/松山新一/小島ナナ/中田勉、/飛田喜佐夫/細井雅夫/千田隼生/宮本高志/本田悠美子●公開:1976/02●配給:松竹 (評価:★★★☆)      
岡田英次(主人公・杜丘を自殺させようとする医師・堂塔)/西村晃(政界の黒幕・長岡了介)
君よ憤怒の河を渉れ 西村晃.jpeg

君よ憤怒の河を渉れ 池部3.jpg池部良(杜丘の上司・伊藤検事正)/原田芳雄/高倉健

田中邦衛 君よ憤怒の河を渉れ.jpg

田中邦衛(横路敬二・杜丘を窃盗犯と名指した寺田俊明と名乗る男。最後は精神病院での人体実験的投薬により廃人となる)


《読書MEMO》
2014年11月の高倉健逝去を悼み、中国各所でこの作品の上映会が催された。
君よ憤怒の河を渉れ415.jpg

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「小さき者へ」がいい。作家自身よりも残された者の方が逞しかった気もする。

小さき者へ・生まれいずる悩み.jpg小さき者へ・生れ出ずる悩み2.jpg 小さき者へ・生れ出づる悩み.jpg 小さき者へ.jpg 有島 武郎.jpg 有島武郎(1878‐1923)
小さき者へ・生れ出ずる悩み (岩波文庫)』(旧版・新版)/『小さき者へ・生れ出づる悩み』新潮文庫/アイ文庫オーディオブック「小さき者へ」

『小さき者へ・生れ出ずる悩み』.JPG 1918(大正7)年に発表された有島武郎(1878‐1923)の「小さき者へ」は、母親(つまり有島の妻)を結核により失った幼い3人のわが子らへの作者の手紙の形式をとっていて、「お前たちは見るに痛ましい人生の芽生えだ」としながらも、「前途は遠い。そして暗い。然し恐れてはならぬ、恐れない者の前に道は開ける。行け。勇んで。小さきものよ」という結語は力強いものです。亡くなった母親の子どもたちへの愛情が、作家の抑制の効いた(よく読むとセンチメンタリズムとリアリズムが混ざっている)文章を通してひしひしと伝わってくる一方で、より不幸な死に方をした知人の死をも想えとするところに、作者らしさを感じます。

中等新国語3.jpg 同年発表の「生れ出ずる悩み」は、画家を志す青年が「私」を訪ねてくる冒頭の部分が国語教科書などでよくとりあげられているほど、吟味された美しい文章です(昭和40年代から50年代にかけて、光村図書出版の『中等新国語』、つまり中学の「国語」の教科書(中学3年生用)に使用されていた)。

 高級官僚の子に生まれながら小説家を志した自身を、労働と芸術の狭間で苦悶する青年に投影しているのが感じられる一方で、個人的には、漁師である青年のような生粋の労働者になりえない自分と対比するあまり、青年を物語の中で美化しすぎている気もし、危うささえ感じます。

 文学的には「生れ出ずる悩み」の方が評価は高い? 対し「小さき者へ」は、文庫本で15ページ程の掌編で、かつ「これって文学なの」みたいな感想もあるかと思いますが、個人的には、センチメンタリズムの中にも、わが子を一人前の人格として見る凛とした個人主義の精神が窺えて好きな作品です(なかなか、こんな親にはなれないが)。
 
 有島は、志賀直哉や武者小路実篤らとともに同人「白樺」に参加し、また自らの農場を開放するなどの活動もしますが、後にそうした活動にも創作にも行き詰まり感を見せ、45歳で中央公論社の記者(当時は編集者をこういった)だった波多野秋子と軽井沢で心中自殺します。
                                                
木田金次郎2.jpg木田金次郎.jpg 一方、「生れ出ずる悩み」のモデルとなった木田金次郎(1893‐1962)は、この事件を契機に漁師をやめ画家として生きる決意をします。描き溜めた作品1,500点が、洞爺丸台風襲来時の出火による「岩内大火」(1954年)で焼失したというのは残念ですが(この大火は水上勉の『飢餓海峡』のモチーフとなった)、それにもめげず創作活動を続けています(美術館の木田金次郎の作品を見ると、力強く少しゴッホっぽい)。

木田金次郎(1893‐1962/享年69)とその作品(岩内マリンパーク・木田金次郎美術館)
  
森雅之.gif さらに、「小さき者へ」で語られる側となった子のうち、長男は映画俳優の森雅森雅之 雨月物語.bmp羅生門 森雅之.jpg(1911-1973)で、黒澤明監督の「羅生門」('50年/大映)や溝口健二監督の「雨月物語」('53年/大映)、成瀬巳喜男監督の「浮雲」('55年/東宝)などの名作に主演しています。また、その森雅之の娘・中島葵(1945-1991/子宮頸癌のため死去、享年45)も女優 中島葵.jpg女優 中島葵ド.jpgテレビドラマや映画で活躍した女優でした。不倫相手との間の子であったという事情ため、16歳の時まで父親=森雅之から認知されませんでした。生涯独身でしたが、演出家で元東大全共闘のオーガナイザー芥正彦(1969年に東大で三島由紀夫との公開討論会を実施したメンバーの一人)とパートーナー関係にありました。何だか、残された者の方が逞しかったような気もする...。

『女優 中島葵』1992年刊

中島葵 愛のコリーダ.jpg中島葵.jpg 因みに、中島葵は大島渚監督の「愛のコリーダ」('76年/日・仏)にも、藤竜也が演じた吉蔵の妻役で出ていますが、当然のことながら、吉蔵の情婦・阿部定を演じた松田暎子の方が目立っていました。「愛のコリーダ」は公開の翌年に高田馬場のパール座で観ましたが、日本語の映画にフランス語だったか英語だったかの字幕がつくので変な感じがしました。日本国内での上映は大幅な修正が施されたため(冬の日の外で眠っていて子供たちに雪玉を投げつけられる老乞食を演じた殿山泰司の露出された陰部も含め)、ぼかしの上に外国語の字幕が乗っかっていたような印象があります(2000年に「完全ノーカット版」としてリバイバル上映された)。海外ではベルナルド・ベルトリッチの「ラストタンゴ・イン・パリ」('72年/伊)と比肩し得ると高く評価され、"オーシマ"の名を世界的なものにした作品ですが、国内では田中登監督、宮下順子主演の「実録阿部定」('75年/日活)の方が上との声もありました(阿部定に注目したことは面白いと思ったが、映画の出来としては個人的にはどちらもイマイチか)。

愛のコリーダ dvd.jpg愛のコリーダード.jpg「愛のコリーダ」●制作年:1965年●制作国:日本・フランス●監督・脚本:大島渚●製作:アナトール・ドーマン/若松孝二●撮影:伊東英男●音楽:三木稔●原作:山田風太郎「棺の中の悦楽」●時間:96分●出演:藤竜也/松田暎子/中島葵/芹明香/阿部マリ子/三星東美/藤ひろ子/殿山泰司/白石奈緒美/青木真愛のコリーダ 殿山.png知子/東祐里子/安田清美/南黎/堀小美吉/岡田京子/松廼家喜久平/松井康子/九重京司/富山加津江/福原ひとみ/野田真吉/小林加奈枝/小山明子●公開:1976/10●配給:東宝東和●最初に観た場所:高田馬場パール座(77-12-03)(評価:★★★)●併映:「ソドムの市」(ピエル・パオロ・パゾリーニ)

殿山泰司(子供に雪玉を投げつけられる老乞食)

「愛のコリーダ 修復版」 2021年4月30日公開

 【1940年文庫化・1962年・2004年改版[岩波文庫]/1955年再文庫化・1980年・2003年改版[新潮文庫(『小さき者へ・生れ出づる悩み』)]/1966年再文庫化[旺文社文庫(『生れ出づる悩み』)]】

《読書MEMO》
●「小さき者へ」...1918(大正7)年発表 ★★★★
●「生れ出ずる悩み」...1918(大正7)年発表 ★★★

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骨太の芥川賞作品。主人公は「血」に負けたのか? むしろ、裏返された成長物語のように読めた。
岬 中上健次.png 岬.jpg 十九歳の地図 dvd.jpg 十九歳の地図 映画.jpg  神々の深き欲望L.jpg
』['76年] 『』文春文庫 「十九歳の地図(廉価版) [DVD]」「NIKKATSU COLLECTION 神々の深き欲望 [DVD]

中上 健次.jpg 表題作である「岬」のほか、「黄金比の朝」「浄徳寺ツアー」など3篇を収めていますが、作者の小説は郷里の紀州を舞台にしたものが多い中、表題作はまさに出身都市である新宮市を舞台に、家族と共に土方仕事をしながら、逃れられない血のしがらみに喘ぐ青年を描いたものです。作者は本作により、戦後生まれとしては初めての芥川賞作家となりましたが、近年の芥川賞作品に比べると、ずっと「骨太」感があると思いました。

中上健次(1946‐1992/享年46)

 「十九歳の地図」で芥川賞候補になり、作品としての幅を拡げるために三人称にしたのか? それも一面の真実かも知れませんが、多分「彼」にしないと作者に書けない要素というのが、この「岬」という作品にはあったのではないかと考えます。

中上健次VS村上龍―俺達の舟は、動かぬ霧の中を、纜を解いて、ー。 対談+短篇小説+エッセイ.jpg中上 vs 村上.jpg 芥川賞の選考委員であり、中上健次との対談集もある村上龍氏は(『中上健次VS村上龍―俺達の舟は、動かぬ霧の中を、纜を解いて。』('77年/角川書店)―これも面白かった。村上氏が名が中上健次を前にしてやや背伸びしている感もあるが、2人の文学遍歴の共通点や相違点などがよくわかる)、後に、この『岬』という作品を受賞作の水準に定めていたことを、ある年の芥川賞の選評で述べていたように思います。
中上健次VS村上龍―俺達の舟は、動かぬ霧の中を、纜を解いて。 対談+短篇小説+エッセイ (1977年)

 登場人物はそれほど多くないのですが、主人公の「彼」(秋幸)を取り巻く人物の血縁関係が複雑で、読みながら家系図を作った方がいいかも知れません。父・母がそれぞれ異なる兄弟姉妹が入り乱れ、その家計図メモがだんだんぐちゃぐちゃになってきた頃に出来事は大きく進展し、義父が叔父を刺したり、異父姉の錯乱があったりしますが、姉を連れて家族で岬にピクニック?にいくところは、それまでの殺伐感とは違ったソフトフォーカスな感じがあり、印象的でした。

 書いてみた家計図を見て、こうして〈親族の基本構造〉を破壊している元凶は、3度の結婚をしている主人公の母親だと思ったのですが、主人公は、登場人物のすべてと距離を置いている中、この母親に対しては、愛憎入り混じっている感じで、姉に対する意識にも微妙なものがあり、こんなぐちゃぐちゃな血縁関係の中でも、自らを定位しつつ、どこか"家族"を求めているところがあるのかなあと。

 主人公は最後に異母妹と思われる女性を見つけて交合しますが、これは、それまで比較的おとなしかった彼が、父や義父と同じ獣性に目覚めた、つまり「血」に負けて同じように鬼畜の道に嵌まったということなのでしょうか。それとも、潜在的渇望としてあった兄妹愛に目覚めたということ?

 自分にはこの辺りはむしろ、今まで子どもだった主人公が、エディプス・コンプレックスを克服した話のように読めました。血縁関係のない義父と同じようになるということは、「血」に負けたという理屈は成立せず、むしろ、男になる、つまり妹と交わることで自らが父権そのものになる、という裏返された成長物語のように思えたのですが...。

十九歳の地図 文庫.jpg十九歳の地図.jpg なぜ「彼」という三人称が使われているのかもこの作品の"謎"で、「十九歳の地図」と同じような鬱屈した予備校生を主人公にした「黄金比の朝」では「ぼく」だったのが、「岬」や「浄徳寺ツアー」では「彼」になっている、しかし共に、「彼」を使うよりも「ぼく」でいった方がずっと自然に読める箇所がいくつかあります。

 『十九歳の地図 (河出文庫 102B)

「十九歳の地図」で芥川賞候補になり、作品としての幅を拡げるために三人称にしたのか? それも一面の真実かも知れませんが、多分「彼」にしないと作者に書けない要素というのが、この「岬」という作品にはあったのではないかと考えます。

 中編「十九歳の地図」(短編集『十九歳の地図』('74年/河出書房新社、'81年/河出文庫)所収)は、和歌山から東京に出てきて、新聞配達をしながら予備校に通っている浪人生の青年の鬱々とした青春を描いたもので、新聞を配達しても感謝されるわけでもなく、集金に行けば煙たがられ、仕舞には飼犬に吠えられるという、ストレスだらけの生活の中、青年は、新聞の配達先で自分の気に入らない家について、地図上で☓印をつけていくという―このメインストーリーだけでも暗い話ですが、併せて、主人公の周辺の社会の下層で生きる人々の生き様が描かれていて、中上健次らしい暗さだなあと。

十九歳の地図00.jpg十九歳の地図0.jpgさらば愛しき大地 poster.jpg この「十九歳の地図」は映画化され('79年/群狼プロ)、監督は暴走族を追ったドキュメンタリー映画「ゴッド・スピード・ユー! BLACK EMPEROR」('76年/群狼プロ)の柳町光男(後に、根津甚八、秋吉久美子主演での「さらば愛十九歳の地図b.jpgしき大地」('82年/群狼プロ)などの佳作を撮るが、中上健次は「さらば愛しき大地」の脚本にも参加している)、主人公の青年役は「ゴッド・スピード・ユー!」にも出ていた本間優二(映画出演を機に暴走族から役者に転じたが1989年に引退)、主人公の下宿の同居人で、偽の入れ墨で客を脅して集金している元釘師の新聞配達人に蟹江敬三(1944-2014)(いい演技をしていて「さらば「十九歳の地図」蟹江.jpg愛しき大地」にも出演している。そして、「さらば愛しき大地」でもいい演技をしている)が扮していて、この蟹江十九歳の地図 沖山秀子.jpg敬三と、自殺未遂で片脚が不自由になった娼婦を演じた沖山秀子(1945-2011)(ジャズ・ヴォーカリストでもあり、中上健次は彼女の大ファンだった)の濡れ場シーンの何と暗いこと! とにかく暗い暗い作品でしたが、その暗さを通して、青年の意志のようなものがじわーっと伝わってくる(ある意味「前向き」な)不思議な仕上がりになっていました。

神々の深き欲望_07.jpg神々の深き欲望 dvd.jpg 沖山秀子は、すでに今村昌平監督の「神々の深き欲望」(' 68年/日活)で存在感のある演技をみせており、汚れ役に迫力のある女優でした。この作品は、南国の孤島の村を舞台に、兄娘相姦や父娘相姦など村の禁制を破ったことで疎外され追放されていく太一族の太根吉(三國連太郎)と、島の産業開発や観光開発のためコミュニティとしての絆が崩壊していく村社会を描いたものでした。

 地元開発を機に村社会に亀裂が生じるというのはよくある設定ですが、主人公・根吉の娘(松井康子神々の深き欲望.jpg)を島の区長(加藤嘉)が引き取って愛人にし、区長が亡くなった後、兄は妹を取り戻して逃避行を図るものの、息子(河原崎長一郎)を含む村人達に殴殺されてしまうというストーリーにみられるように、また、語り部によって語られる説話的な構成という点から神々の深き欲望 スチール.jpgも、個と家族、共同体の関係性に重きを置いた作品という印象を受けました。沖山秀子の演じたのは、息子の妹で、開発業者の社員(北村和夫)に政略的に与えられる白痴の娘の役でした。

沖山秀子(太トリ子(太亀太郎の妹))/嵐寛寿郎(太山盛(太根吉の父で神に仕える太家の長。自分の娘と近親相姦をして根吉を産ませている))

 彼女が北村和夫演じる開発会社の社員を好きになったことが悲恋の結末に繋がり、最後は「岩」になってしまったという、説話または神話と呼ぶにはあまりにドロドロした話で、キネマ旬報ベストテンの'68年の第1位作品ですが、観た当時はあまり好きになれなかった作品でした(沖山秀子は良かった。と言うより、スゴかったが)。しかしながら、後に観直すうちに、だんだん良く思えるようになってきた...(抵抗力がついた?)。

沖山秀子.jpg 因みに、沖山秀子は関西学院の女子大生時に今村昌平監督に見い出されてこの映画に出演し、これを機に今村昌平監督の愛人となり、その関係が破局した後は、カメラマン恐喝のかどで逮捕され(留置場では全裸になって男性受刑者を歓喜させ、「みんな何日も女の体を見てないからね。私はブタ箱をパラダイスにしてやったんだよ」と言ったという逸話がある)、出所後は精神病院に入院、退院後マンションの7階から投身自殺をするも未遂に終わり、「十九歳の地図」出演時の「自殺未遂で片脚が不自由になった娼婦」役をほぼそのまま地で演っているというスゴさでした。(2011年3月21日死去)

「十九歳の地図」●.jpg「十九歳の地図」●制作年:1979年●監督・脚本:柳町光十九歳の地図5.jpg男●製作:柳町光男/中村賢一●撮影:榊原勝己●音楽:板橋文夫●原作:中上健次「十九歳の地図」●時蟹江敬三.jpg間:109分●出演:本間優二/蟹江敬三/沖山秀子/山谷初男/原知佐子/西塚肇/うすみ竜/鈴木弘一/白川和子/豊川潤/友部正人/津山登志子/中島葵/川島めぐ /竹田かほり/中丸忠雄/清川虹子/柳家小三治/楠侑子●公開:1979/12●配給:プロダクション群狼●最初に観た場所:文芸坐ル・ピリエ(81-1-31)(評価:★★★★)●併映:「ゴッド・スピード・ユー! BLACK EMPEROR」(柳町光男) 

ゴッド・スピード・ユー! BLACK EMPEROR(1976) dvd_.jpgゴッド・スピード・ユー! BLACK EMPEROR .jpg「ゴッド・スピード・ユー! BLACK EMPEROR」●制作年:1976年●製作・監督:柳町光男●撮影:岩永勝敏/横山吉文/塚本公雄/杉浦誠●時間:91分●出演:ブラックエンペラー新宿支部の少年たち/本間優二●公開:1976/07●配給:プロダクション群狼●最初に観た場所:文芸坐ル・ピリエ(81-1-31)●2回目:自由が丘・自由劇場(85-06-08)(評価:★★★)●併映(1回目):「十九歳の地図」(柳町光男)●併映(1回目):「さらば愛しき大地」(柳町光男)
ゴッド・スピード・ユー!BLACK EMPEROR [DVD]

神々の深き欲望 .jpg「神々の深き欲望」.jpg「神々の深き欲望」●制作年:1968年●監督:今村昌平●製作:山野井正則●脚本:今村昌平/長谷部慶司●撮影:栃沢正夫●音楽:黛敏郎●時間:175分●出演:三國連太郎/河原崎長一郎/沖山秀子/嵐寛寿郎/松井康子/原泉/浜村純/中村たつ/水島晋/北村和夫/小松方正神々の深き欲望 竜立元 加藤嘉.jpg/殿山泰司/徳川清/石津康彦/細川ちか子/扇千景/加藤嘉/長谷川和彦●公開:1968/11●配給:日活●最初に観た場所:池袋・文芸地下(83-07-30)(評価:★★★★)
加藤嘉(竜立元(クラゲ島の区長で製糖工場の工場長))

中上 健次 ユリイカ.jpgユリイカ2008年10月号 特集=中上健次 21世紀の小説のために

 【1978年文庫化[文春文庫]/2000年再文庫化[小学館文庫(『岬・化粧 他』-中上健次選集12)]】

中上 健次.jpg  沖山秀子 2.jpg 沖山秀子 in「喜劇・女は度胸」('69年/松竹)with 渥美清

「●し 清水 一行」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 「●し 城山 三郎」【587】 城山 三郎 『打たれ強く生きる
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ピカレスク・ロマン或いはサクセス・ストーリーとして楽しめる"小説"になっている『花の嵐』。

花の嵐―小説・小佐野賢治〈上〉.jpg花の嵐―小説・小佐野賢治〈下〉.jpg花の嵐 小説小佐野賢治 上.jpg 花の嵐 小説小佐野賢治下.jpg  女教師 清水一行 カッパ・ノベルズ.jpg
『花の嵐 小説・小佐野賢治 (上・下)』(朝日新聞社)/『花の嵐―小説小佐野賢治〈上〉』『花の嵐―小説・小佐野賢治〈下〉』光文社文庫/『女教師―長編推理小説 (カッパ・ノベルス)

清水一行.jpg小説兜町(しま).jpg 高杉良、城山三郎と並び、日本における経済小説の第一人者として知られる清水一行(1931-2010)ですが、'59年に『総会屋錦城』で直木賞を取った城山三郎、'75年に『虚構の城』でデビューした高杉良に対し、清水一行は'66年に『小説 兜町(しま)』で作家デビューしており、デビュー期で言えば、城山三郎と高杉良の間になります。
 また、評論家の佐高信は、高杉良、城山三郎を「向日派」とし、清水一行を「暗部派」としていますが、前向きで夢を感じさせる主人公が登場して読後感も爽やかなものが多い高杉作品などに比べると、確かに清水一行の作品はドロドロした経済や社会の暗部を抉ったものが多い。

花の嵐 (上) 小説 小佐野賢治.jpg 本書も政商・小佐野賢治(1917-1986)を扱ったものであるから、当然のことながらドロドロして暗いのかと思いきや、ピカレスク・ロマンとして、或いはサクセス・ストーリーとして楽しめる"小説"に仕上がっていました(ロッキード事件に連座する前で話は終わっている)。

 箱根・強羅ホテルの買い取り依頼に応じたことで東急の総帥・五島慶太から寵愛され、東急からバス事業を譲り受けたことが成功への足掛かりになっていますが、その後、弁護士・正木亮の紹介で田中角栄と知り合い、一方で児玉誉士夫らとも交わり、財界の裏道を歩んでいく―。もともと政治家には関心が無かったようですが、「農家出の無学歴」コンプレックスという点で田中角栄と合い通じ、"刎頚の交わり"となったようです。

花の嵐〈上〉 (角川文庫)

小佐野賢治.jpg ガソリン横流しでGHQに逮捕されたにもかかわらず、投獄期間中に看守を騙して外出し芸者遊びをした話など、ニヤリとさせられる"悪漢"ぶりで、作者の小佐野に対する愛着が感じられる一方、こんなに好人物に描いちゃっていいのかなあという気も。

 ただし、経営不振の会社を社員のクビを切ることなく次々と再建したというのは、やはり並々ならぬ手腕だと思うし、コワモテのイメージがあり、面の皮も厚そうだけれども(ロッキード事件(1976年)の証人喚問で小佐野が何度も口にした「記憶にございません」はその年の流行語となった)、小佐野の近くで接した人によれば、あまり感情を表に表さない紳士然とした人物だったそうです。
   
モアナ・サーフライダー/シェラトン・ワイキキとロイヤル・ハワイアン
モアナ・サーフライダー.jpgシェラトン・ワイキキ(左)とロイヤル・ハワイアン(右).jpg バス会社だった国際興業は、ハワイのロイヤル・ハワイアン、モアナ・サーフライダー、シェラトン・プリンセス・カイウラニ、シェラトン・ワイキキといった名門ホテルを買収し、小佐野はハワイの「ホテル王」と呼ばれるようになって、更に自身が夢見た帝国ホテルの買収も果たしましたが、その後バブルが崩壊し、彼が社主だった国際興業は外資の傘下に入っています(従って帝国ホテルも現時点['06年時点]では外資の傘下となっている)。

『女教師』(カッパ・ノベルス).jpg 因みに、清水一行の作品では、『女教師』('77年/カッパ・ノベルス)という小説があり、ストーリーは、若い音楽教師が中学校内で暴行され、3年生の不良グループの生徒が犯人と思われたが、事を荒立てたくない校長はじめ学校側はもみ消しをはかり、女教師が生徒を誘惑したのだという流言飛語まで流されたため女教師は失踪、そんな中、主犯格と思われる生徒が誘拐され、更に教師が殺害される―というもの。

女教師 (角川文庫,200_.jpg清水一行・『女教師』.jpg女教師 清水一行 tokuma.jpg この通り、推理サスペンスであるわけですが、校内暴力や教職員の不正と、それに対し何も手を打たない学校―といった教育現場の荒廃を鋭く抉っており、いつの時代にも通じる社会的テーマを背景としています。「いつの時代にも通じる」というのは残念な事実でもありますが、この作品はそうした意味も含め、佳作であると思います。
女教師 (集英社文庫)』(1984)/『女教師 (徳間文庫)(2007)
女教師 (角川文庫 緑 463-7)』(1980)

田中 登(1937-2006/享年69)
田中登.jpg女教師 ポスター.jpg この作品は映画化され、先月['06年10月]動脈瘤解離のため急逝した田中登が監督し、脚本は中島丈博、主演は永島暎子(1978年のエランドール賞新人賞を受賞)。日活ロマンポルノの一作品として作られたためか、一応テーマは原作に沿おうとしてはいるものの(基本的には学校や社会の体制を批判した真面目な作品だった)、登場人物などの改変が激しく、ロマンポルノの一環としてこの作品を撮るのはどうかという気もしました。名画座で併映の「赫い髪の女」は、中上健次の原作ながら愛欲がテーマ古尾谷雅人 .jpgだからロマンポルノでもいいのだけれど...。但し、映画はヒットし、第9作まで作られました(風営法の強化改正で、「女教師」という言葉がポルノ映画のタイトルに使えなくなったため、シリーズを終わらざるを得なかったらしい)。自殺した古尾谷雅人の映画デビュー作であり、泉谷しげる作詞・作曲の「春夏秋冬」が劇中で使われています。

古尾谷康雅(雅人)(1963‐2003/享年45)(江川秀雄(中学三年生))/永島暎子(田路節子(音楽教師))/砂塚英夫(瀬戸山貢(国語・社会科教師))/[下]久米明(校長・神野謙三)
女教師 1977.jpg田中登「女教師」_4.jpg「女教師」.jpg「女教師」●制作年:1977年●監督:田中登●製作:岡田裕●脚本:中島丈博●撮影:前田米造●音楽:中村栄●原作:清水一行●時間:100分●出演:永島暎子/砂塚久米明 女教師.jpg英夫/山田吾一/鶴岡修/宮井えりな/久米明/穂積隆信/蟹江敬三/樹木希林/古尾谷康雅 (古尾谷雅人)/絵沢萠子/福田勝洋●公開:1977/10●配給:日活●最初に観た場所:銀座並木座 (評価:★★★)●併映:「赫い髪の女」(神代辰巳)

蟹江敬三(教職員組合分会長・小林悟)/永島暎子/樹木希林(教職員組合役員・横山百合子)
42女教師.png

『花の嵐』...【1993年文庫化[角川文庫(上・下)]/1994年再文庫化[朝日文庫(上・下)]/1999年再文庫化[光文社文庫(上・下)]】『女教師』...【1980年文庫化[角川文庫]/1984年再文庫化[集英社文庫]/2007年再文庫化[徳間文庫]】

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読後の感動はあった。モデルはモデル、小説は小説として読むべきか。

不毛地帯 1.jpg 不毛地帯 2.jpg 不毛地帯 3.jpg 不毛地帯 4.jpg 不毛地帯12f9.jpg
『不毛地帯』 新潮文庫[旧版](全4巻)   映画「不毛地帯」('76年/東宝) 仲代達矢・丹波哲郎

不毛地帯 映画.jpg 『白い巨塔』('65年/新潮社)、『華麗なる一族』(73年/新潮社)が、それぞれ映画も含め力作だったのに対し、この『不毛地帯』の仲代達矢主演の"映画"の方は、配役は豪華だけれど個人的には今ひとつでした(テレビで観たため、平幹二朗主演のテレビ版と記憶がごっちゃになっている)。そもそも、181分という長尺でありながらも、原作の4分の1程度しか扱っておらず、原作が連載中であった事もありますが次期戦闘機決定をめぐる攻防部分だけを映像化したと言ってもよく、結果として壱岐正という主人公の生き方に深みが出てこない...。

不毛地帯ー.png「仲代達矢 不毛地帯.jpg ただし"原作"だけでみると、自分が最初に読んだ当時の読後の感動はこれが一番で、もともと映画に納まり切らない部分が多すぎたか? それと、こうした複雑な話が映画化された時によくありがちな傾向で、愛憎劇中心になってしまった感じもしました。

 この原作の方は、以前は商社マンを目指す人はみなこぞって読んで、そして感動したという話も聞きます。しかし今改めて読むと、作品に描かれる総合商社の体質は今も変わらないのかもしれませんが、産業構造の変化などで商社の仕事自体はずいぶん変わっているのではないかという気がします(その点、一番変わっていないのは『白い巨塔』で描かれた大学附属病院かもしれない)。

 国の二次防主力戦闘機の受注をめぐって、交渉相手の防衛庁の部長に戦時中の命の恩人である元陸軍中佐・壱岐正をぶつけるという商社の戦略が凄いと思いましたが、戦後60年以上を経た今現在、こうした"命の恩人"みたいな関係がどれだけあるのか、またそれがビジネスで成り立つかと考えると、かなり特異な状況を描いているようにも思えました。

 そうしたこともあり、良くも悪くも、モデルとされている瀬島龍三氏のイメージとどうしても切り離せません。
 小説の主人公はラストの身の引き方は美しいが、瀬島氏は商社マンとして一線を退いた後も中曽根内閣の臨調委員として政治"参謀"ぶりを発揮し(結局こういう「ひとかどの人物」は在野にいても声がかかる?)、90歳を超えてなお中曽根氏の個人的ブレーンの1人となっている...。

 著者は「これは架空の物語である。実在する人物、出来事と類似していても偶然に過ぎない」と言っています。
 『白い巨塔』と並ぶ著者の代表作であり傑作であることには違いなく、モデルはモデル、小説は小説として読むべきなのかも知れません(同一作者の後の作品『沈まぬ太陽』では、同一モデルであるはずのこの人物の描き方が、「国士」から単なる「策士」へと変化している)。

瀬島龍三(せじま・りゅうぞう)
瀬島龍三.jpg伊藤忠商事元会長。富山県松沢村(現小矢部市)出身。1938年12月陸軍大学校卒、大本営陸軍参謀として太平洋戦争を中枢部で指揮をとる。満州で終戦を迎えたが、旧ソ連軍の捕虜となり、11年間シベリアに抑留され、1956年に帰国。1958年、伊藤忠に入社し、主に航空機畑を歩いた。1968年専務に就き、いすゞ自動車と米ゼネラル・モーターズ(GM)との提携を仲介。戦前、戦中、戦後を通じて政、財界の参謀としての道を歩んだ。(2007年9月4日死去/享年95)

不毛地帯 映画.jpg不毛地帯 丹波哲郎2.jpg「不毛地帯」●制作年:1976年●監督:山本薩夫●製作:佐藤一郎/市川喜一/宮古とく子●脚本:山田信夫●音楽:佐藤勝●原作:山崎豊子●時間:181分●出演:仲代達矢/丹波哲郎/山形勲/神山繁/滝田裕介/山口崇/日下武史/仲谷昇/山本圭/北大路欣也/小沢栄太郎/田宮二郎/久米明/大滝秀治/高橋悦史/井川比佐志/中谷一郎/八千草薫/秋吉久美子/藤村志保/志村喬/高城淳一/秋本羊介/岩崎信忠/石浜朗/内田朝雄/小松方正/加藤嘉/中津川衛/辻萬長/高杉哲平/杉田俊也/神田隆/永井智不毛地帯 dvd.jpg不毛地帯相関図.jpg不毛地帯久松経済企画庁長官  1.jpg雄/嵯峨善兵/伊沢一郎/青木義朗/アンドリュー・ヒューズ/デヴィット・シャピロ/●劇場公開:1976/08●配給:東宝(評価★★★) 
不毛地帯 [DVD]
不毛地帯 金脈図.jpg丹波哲郎(防衛庁・川又空将補)/加藤嘉(防衛庁・原田空幕長)/大滝秀治(経済企画庁長官・久松清蔵)
川又空将補 - 丹波哲郎.jpg 原田空幕長 - 加藤嘉.jpg 久松経済企画庁長官 - 大滝秀治.jpg
小沢栄太郎(貝塚官房長)
不毛地帯b-b014d3c5e38d.jpg「不毛地帯」 小沢栄太郎.jpg 
    
山形勲(近鉄商事社長・大門一三――壱岐をスカウトする)
山形勲 不毛地帯.jpg不毛地帯 山形.jpg


 【1983年文庫化[新潮文庫(全4巻)]・2009年改訂[新潮文庫(全5巻)]】

不毛地帯〔'76年/東宝〕監督:山本薩夫/製作:佐藤一郎/脚本:山田信夫/出演:仲代達矢/丹波哲郎/山形勲
不毛地帯 映画.jpg

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「華麗なる一族」1974年.jpg 古さを感じさせない。政財界にわたっての丹念な取材の跡が窺える。

山崎豊子 華麗なる一族.jpg  華麗なる一族 上巻.jpg 華麗なる一族 中巻.jpg 華麗なる一族 下巻.jpg 
華麗なる一族 (1980年) (新潮文庫)』 /新潮文庫(上・中・下)〔改訂版〕/映画「華麗なる一族」('74年/東宝)

華麗なる一族 dvd.jpg華麗なる一族.jpg 万俵財閥の当主で阪神銀行頭取の万俵大介の野望を軸に、それに翻弄される一族の姿を金融業界の内幕に絡めて描いた作品で、'73(昭和48)年の発表ですが、「金融再編」に伴う「銀行の合併問題」がモチーフになっているため、あまり古さを感じさせません。

 小説の冒頭は、志摩半島の英虞湾を望む一流ホテルでの主人公一族の豪奢な正月晩餐会から始まりますが、作者は舞台のモデルにした「志摩観光ホテル」のレストランから夕陽がどう見えるかまで取材しに行ったそうで、そうした丹念な取材は、銀行内部のみでなく、政治家や大蔵省など政財界に広く及んでいて、物語にリアルな厚みを増しています。 
華麗なる一族 [DVD]」/映画パンフレット                  

 大介の野望は、上位銀行の専務と結託してその銀行を併呑する、所謂「小が大を呑む」というもので(かつて神戸銀行が太陽銀行を吸収合併し、"名"前だけ「太陽神戸」として"実"の方をとった出来事がベースになっている)、大介の政財界への働きかけは、「政財癒着は良くない」という綺麗事のレベルを遥かに凌駕する凄まじさで、目的のためには親友も、長男さえも切り捨てる―。

 タイトルの「華麗なる一族」という言葉が、政界との癒着強化のための閨閥づくりを指すとともに、長男・鉄平の暗い過去の出生の秘密を表す反語にもなっています。

華麗なる一族 佐分利信.jpg華麗なる一族 仲代.png 同じ山崎豊子原作の映画化作品「白い巨塔」が大ヒットした華麗なる一族 仲代.jpgためか、この作品は豪華キャストで映画化されましたが('74年・山本薩夫((1910-1983))監督)、オールキャストとは言え、その中で圧倒的に存在感を際立たせているのは華麗なる一族 田宮二郎.jpg佐分利信であり、その佐分利信が演じる万俵大介と仲代達矢が演じる鉄平の"暗い血"にまつわる確執に重きが置かれていたような感じもしました。また、鉄平の最期が、大介の女婿を演じた田宮二郎の実人生での自殺方法と同じだったことに思い当たりますが、鉄平役は実は田宮二郎がやりたかった役だったそうです。

華麗なる一族 目黒.jpg華麗なる一族 佐分利.jpg どうしても、こういう複雑なストーリーの話が映画化されると、情緒的な方向に重きがいってしまったりセンセーショナルな部分が強調されるのは仕方がありませんが(大介の「妻妾同衾」シーンなども当時話題になった)、それなりの力作でした。"いい人"がとにかく苛められる(相手方銀行の頭取の二谷英明とか)点で「白い巨塔」に共通するものを改めて感じたのと、農家の預金獲得のために、ワイシャツ姿で終日稲刈りまでする銀行員なども描いていて「銀行員って意外と泥臭いなあ」と思わされたりもしました。
                    映画「華麗なる一族 [VHS]」 ビデオ(上・下)
華麗なる一族2.gif華麗なる一族 ビデオ.jpg「華麗なる一族」●制作年:1974年●製作:芸苑社●監督:山本薩夫●製作:佐藤一郎/市川喜一/森岡道夫●脚本:山田信夫●音楽:佐藤勝●原作:山崎豊子●時間:210分●出演:佐分利信仲代達矢/月丘夢路/京マチ子/酒井和歌子/目黒祐樹/田宮二郎/二谷英明/香川京子/山本陽子/中山麻里/小沢栄太郎/滝沢修/河津清三郎/大空真弓/北大路欣也/志村喬中村伸郎加藤嘉/神山繁/平田昭彦/細川俊夫/大滝秀治/北林谷栄/西村晃/金田龍之介/小林昭二/花沢徳衛/鈴木瑞穂(ナレーション華麗なる一族 京マチ子 .pngも担当)/嵯峨善兵/荒木道子/小夜福子/中村哲/武内亨/梅野泰靖/浜田寅彦/花布辰男/下川辰平/伊東光一/田武謙三/若宮大祐/青木富夫/五藤雅博/生井健夫/白井鋭/夏木章/笠井一彦/守田比呂也/華麗なる一族 京マチ子.jpg鳥居功靖/堺美紀子/横田楊子/川口節子/森三平太/千田隼生/金親保雄/南治/麻里とも恵/木島一郎/坂巻祥子/隅田一男/久遠利三/鈴木昭生/記平佳枝/東静子/加納桂●劇場公開:1974/01●配給:東宝●最初に観た場所:渋谷・東急名画座(山本薩夫監督追悼特集) (84-01-08) (評価★★★☆) 京マチ子(万俵大介の愛人・高須相子)
華麗なる一族 saburi.jpg滝沢修 華麗なる一族.jpg 大滝秀治 華麗なる一族.jpg 中村 伸郎 華麗なる一族.jpg 華麗なる一族 志村.jpg
佐分利信(阪神銀行頭取・万俵大介)/滝沢修(長期開発銀行頭取・宮本之三)/大滝秀治(社民党代議士・荒尾留七)/中村伸郎(日銀総裁・松平公之)/志村喬(大華麗なる一族 小沢栄太郎.jpg華麗なる一族 (1974東宝)katou .jpg阪重工社長・安田太左衛門)/小沢栄太郎(永田大蔵大臣)/仲代達矢(阪神特殊鋼専務・万俵鉄平)/加藤嘉(阪神特殊鋼常務・銭高)
西村晃(大同銀行専務・綿貫千太郎)/二谷英明(大同銀行頭取・三雲祥一)
華麗なる一族 西村・二谷.jpg 華麗なる一族 西村.jpg

華麗なる一族3.jpg月丘夢路(万俵大介の妻・万俵寧子)/香川京子(長女・美馬一子)/京マチ子(家庭教師・高須相子)/山本陽子(長男鉄平の妻・万俵早苗)/中山麻理(次男銀平の妻)/酒井和歌子(次女・万俵二子)


 【1973年単行本・1979年改訂[新潮社(上・中・下)]/1980年文庫化・2003年改訂[新潮文庫(上・中・下)]】

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映画を見てドラマを見て再読して、"本格派" 推理小説だったと...。

砂の器 カッパ.jpg 砂の器 (カッパ・ノベルス 11-9).jpg 砂の器.jpg 砂の器 下.jpg  砂の器 dvd.jpg 砂の器 unnmei.jpg
砂の器 (カッパ・ノベルス 11-9)』『砂の器〈上〉 (新潮文庫)』 『砂の器〈下〉 (新潮文庫)』〔'06年改版版〕「砂の器 デジタルリマスター版 [DVD]

sunanoutuwa12.jpg この作品は、'60(昭和35)年5月から翌年4月にかけて「読売新聞」夕刊に掲載され、カッパ・ノベルスで'61(昭和36)年7月刊行、'74年に映画化されたほか、'04年には中居正広主演でTVドラマ化されているので、ストーリーを知る人は多いと思います。

 映画館で映画を観て、「宿命」という言葉(または"曲の演奏")が頭にこびりついてしまい、パセティックな作品とのイメージを持っていましたが、もう一度原作にあたってみると、刑事たちに視点を置いて犯人を地道に追う"本格派" 推理小説の色合いが強いという印象を受けました(中居正広主演のテレビ版は最初から犯人を明かす倒叙型だったので、ミステリとしての面白さは半減。脇役陣は手堅いが、主演の中居正広の演技下手が目立つのも痛い)。

 好みは人それぞれだと思いますが、小説における、推理を通して徐々に、間接的に"犯人像"を浮き彫りにして行く描き方の方が、主人公の"業"のようなものがじわ〜っと感じられる気もします(元々テレビ版の配役で「人間の業」のようなものの描出を期待する方が無理がある?)。

映画「砂の器」.jpg 野村芳太郎(1919‐2005)監督、橋本忍・山田洋次脚本による映画化作品('74年/松竹)は、他の野村監督作品と比較しても、また同じ時期に映画化された他の松本清張原作のものと比べても比較的良い出来だったと思います(個人的には同監督の「鬼畜」('78年/松竹)の方が若干上かなという気がするが、松本清張自身はこの映画化作品を気に入っていたらしい。世間的な評価も「砂の器」の方が上か)。

「砂の器」3.jpg 加藤剛が演じた〈和賀英良〉は、「飢餓海峡」('64年/東映)で三國連太郎が演じた〈犬飼多吉(樽見京一郎)〉や「白い巨塔」('66年/大映)で田宮二郎が演じた〈財前五郎〉と並んで、恵まれない境遇から「成り上がる男」を体現していたと思われ、また、刑事役の丹波哲郎の演技も光るものがありました(その部下役を森田健作が演じている)。

『砂の器』(1974).jpg ただし、幼児期の暗い記憶や、自分をいじめた社会に対しての見返してやるという登場人物のリベンジ・ファクターが清張作品ならではのものだと思うのですが、どこまで映像で表現されていただろうかという気もします。テレビ版では「ハンセン病」というファクターを抜いてしまっているので、なおさらに原作とのギャップを感じざるを得ませんでした。

砂の器 チラシ.bmp『砂の器』(1974)21.jpg  個人的には、この小説が今まで読んだ清張作品の中で一番だとは思わないし、「ハンセン病」に対する偏見を助長したという批判までありますが、作者の代表的な傑作作品であることに異存はなく、結末を知ったうえでも原作を読む価値はあると思います。

映画「砂の器」チラシ
Suna no utsuwa (1974)         
Suna no utsuwa (1974).jpg砂の器  1.jpg「砂の器」●制作年:1974年●製作:橋本プロ・松竹●監督:野村芳太郎●脚本:橋本忍/山田洋次●音楽:芥川也寸志●原作:松本清張●時間:143分●出演:丹波哲郎/森田健作/加藤剛/加藤嘉/緒形拳/山口果林/島田陽子/佐分利信渥美清笠智衆/夏純子/松山省二/内藤武敏/春川ますみ/花沢徳衛/浜村純/穂積隆信/山谷初男/菅井砂の器sunanoutuwa 1.jpg砂の器 丹波哲郎s.jpgきん/殿山泰司/加藤健一/春田和秀/稲葉義男/信欣三/松本克平/ふじたあさや/野村昭子/今井和子/猪俣光世/高瀬ゆり/後藤陽吉/森三平太/今橋恒/櫻片達雄/瀬良明/久保砂の器 (映画) 丹波 .jpg砂の器 丹波.jpg晶/中本維年/松田明/西島悌四郎/土田桂司/丹古母鬼馬二●劇場公開:1974/10●配給:松竹●最丹波哲郎 .jpg初に観た場所:池袋文芸地下(84-02-19) (評価★★★★)●併映:「球形の荒野」(貞永方久)
丹波哲郎 2006年9月24日没

加藤嘉(本浦千代吉(和賀英良(本名・本浦秀夫)の父))
砂の器 (映画) 加藤嘉 .jpg 砂の器 加藤嘉.jpg
緒形拳(亀嵩駐在所巡査・三木謙一)/佐分利信(前大蔵大臣・田所重喜)
緒方拳 砂の器.jpg 佐分利信 砂の器.jpg

渥美清(伊勢の映画館「ひかり座」支配人)/笠智衆(亀嵩算盤・桐原小十郎)
渥美清 砂の器.jpg 笠智衆 砂の器.jpg

殿山泰司(通天閣前の商店街の飲食店組合長)/丹波哲郎(警視庁捜査一課警部補・今西栄太郎)
砂の器 殿山泰司.jpg

池袋文芸地下 地図.jpg文芸坐.jpg


 
 
 
池袋・文芸地下 1955(昭和30)年12月27日オープン、1997(平成9)年3月6日閉館。


「砂の器」 2004 2.jpeg砂の器 中居版.jpg「砂の器」(TVドラマ版)●演出:福澤克雄/金子文紀●脚本:龍居由佳里●音楽:千住明●出演:中居正広/松雪泰子/渡辺謙/武田真治/京野ことみ/永井大/夏八木勲/赤井英和/原田芳雄/市村正親/かとうかずこ/佐藤仁美/佐藤二朗/森口瑤子/松岡俊介●放映:2004/01~03(全11回)●放送局:TBS

 
  【1961年ノベルズ版[光文社]/1973年文庫化・2006年改版版[新潮文庫]】

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大人でも解けない問題を子どもの前にシンプルな形で提示している。

2ブラック・ジャック.jpgブラック・ジャック (1) (少年チャンピオン・コミックス) .jpg          ブラック・ジャック.jpg
ブラック・ジャック (1) (少年チャンピオン・コミックス)』['74年] 『ブラック・ジャック 1 [新装版] (1)』秋田書店 〔'04年〕
『ブラック・ジャック (全25巻)』(1974 /秋田書店・少年チャンピオン・コミックス)

 '73(昭和48)年11月から'83(昭和58)年10月まで約10年にわたり「週刊少年チャンピオン」(秋田書店)に連載された医療漫画の元祖で、今だこれを超える医療漫画はないとされている手塚治虫の代表作。'75(昭和50)年度・第4回「日本漫画家協会賞」の特別優秀賞、'77(昭和52)年度・第1回「講談社漫画賞(少年部門)」を受賞しています。

 この作品を発表する前頃の作者は、少年誌の世界では既に古いタイプの漫画家とされ、'73年に自らが経営していた虫プロ商事が倒産、それに続いて虫プロダクション(既に経営者を退いていた)も倒産し、個人的にも巨額の借金を背負うことになったこともあって、「週刊少年チャンピオン」(秋田書店)の壁村耐三編集長の「手塚の最期を看取ってやろう」という厚意で始まった連載だったそうですが、この作品で作者は起死回生の大復活を果たすことになります。

ブラック・ジャック2.jpg このマンガがスゴイなあと思うのは、大人でも解けないような問題を、子どもでも読めるシンプルな形で提示しているところで、例えば、第17話の「二度死んだ少年」で、ブラック・ジャックが命を救った少年が結局は死刑になるという話。これを読んだ子どもはどう考えるのでしょうか。「子どもの死刑」など、小説では成り立ちにくい設定かもしれませんが、その点はマンガの利点を活かしていると思います。でも、こうしたテーマに対する答えを出すのは大人にも難しいでしょう。

 テレビアニメ化されましたが、1話当たりが長くなっているため、原作の本筋は変えないものの、"装飾品"が多くなってしまっている感じがします。それと、何だかやたら明るいのです。原作のタッチはもっと暗いし、ストーリーもゲッというようなものもあります(少年チャンピオン・コミックスでも最初のうちは「恐怖コミックス」と銘打っていた)。

瞳の中の訪問者 映画チラシ.jpg瞳の中の訪問者.jpg瞳の中の訪問者 宍戸錠.jpg 後半にいくにつれヒューマンな色合いが強くなりますが、カルト的な楽しみも見出すことも出来ます。例えば第167話の「春一番」は、'77年に脚本・ジェームス三木、監督・大林宣彦で「瞳の中の訪問者」というタイトルで実写版映画化されていて片平なぎさ 新人_.jpg 、'77年に歌手デビューしたばかりのホリプロの"新人"片平なぎさを売り出すためのプロモーション映画ともとれるものでした(「ブラック・ジャック」の実写版は加山雄三と本木雅弘がそれぞれブラック・ジャックを演じたものが知られているが、この作品でブラック・ジャックを演じたのは宍戸錠)。     
瞳の中の訪問者zj.jpg映画チラシ/DVD「瞳の中の訪問者」/サントラLP(廃盤)

瞳の中の訪問者8.gif 珍品というか、今では一種のカルトムービーのような評価になっているようです。原作との対比で見ると面白く、結構笑えます(原作の方がずっとマトモ)。カルト的価値を加味すべきか否か、結局自分でも判断がつかず評価不能ということに(志穂美悦子が意外と可愛い)。

[瞳の中の訪問者.jpg「瞳の中の訪問者」●制作年:1977年●監督:大林宣彦●製作:堀威夫/笹井英男●脚本:ジェームス三木●撮影:阪本善尚●音楽:宮崎尚志●原作:手塚治虫 「春一番(「ブラック・ジャック」)」●時間:100分●出演:片平なぎさ/宍戸錠/山本伸吾/>志穂美悦子/峰岸徹/和田浩治/月丘夢路(特別出演)/長門裕之(特別出演)/(以下、友情出演)千葉真一/壇ふみ/藤田敏八●公開:1977/11●配給:ホリプロ=東宝(評価:★★★?)
瞳の中の訪問者8.png

0「瞳の中の訪問者」.jpg

ピノコ誕生.jpg この新書版(コミックス版全25巻)のほかに、講談社の全集 (全22巻)や秋田文庫(全17巻)などにもありますが、読者クレームなどのため途中で抜いた話もあるようです。ただ、第2巻から登場のピノコも、双子の片割れの「畸形膿腫(きけいのうしゅ)」だったわけで、この話はテレビアニメでも放送開始後1年経ってようやく「ピノコ誕生」というタイトルで放映されましたが...(BJによる"回想"というかたちで)。 

ブラック・ジャックdx.jpg 新書の新装版も刊行中ですが、さらに収録されない作品が出てくるかも。   
講談社 DX版 〔'04年〕

 ピノコについては、この物語を、BJとピノコの恋愛物語(ロリータ愛ということになる)と見る見方もあるようで、ナルホド、ピノコは本当は18歳(18年間、母体内にいた)、だけれども女性というよりは少女、むしろ幼児近い(「人工」の身体という意味では人形にも近い)、こうした女性に成りきらない「女の子」というのは、他の手塚作品でも結構いたことに思い当たります。

ブラック・ジャック 2004 2.jpgブラック・ジャック 2004_.jpg「ブラック・ジャック」●演出:手塚眞●制作:諏訪道彦●音楽:松本晃彦●原作:手塚治虫●出演(声):大塚明夫/水谷優子/富田耕生/川瀬晶子/阪口大助/江川央生/渋谷茂/山田義晴/滝沢ロコ/渡辺美佐/小形満/後藤史彦/佐藤ゆうこ●放映:2004/10~2006/03(全63回)●放送局:読売テレビ

 【1974年コミックス版(全24巻+1巻)・1987年四六判(全17巻)・2001年B6判(全24巻)・2004年新装コミックス版判(全17巻)[秋田書店]/1977年全集・2004年B6判(DX版)[講談社(全22巻)]/1993年文庫化[秋田文庫(全17巻)]/2010年再文庫化[講談社(手塚治虫文庫全集BT)]】

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