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浅丘リリー、2度目の登場。「寅のアリア」「メロン騒動」などの名場面が。

男はつらいよ 寅次郎相合い傘_poster15.jpg男はつらいよ 寅次郎相合い傘dvd.jpg 男はつらいよ 寅次郎相合い傘 船越.jpg
男はつらいよ・寅次郎相合い傘 [DVD]」渥美清/浅丘ルリ子/船越英二

男はつらいよ 寅次郎相合い傘_0.jpg シリーズ第11作「男はつらいよ 寅次郎忘れな草」のマドンナ・リリー(浅丘ルリ子)が再登場。葛飾柴又の"とらや"で、寅次郎(渥美清)の帰省が遅いことを皆が心配しているところへリリーが訪れ、寿司屋の亭主と離婚した彼女は、再びドサ回りの歌手をしているという。寅次郎に会えなかったことを残念がるリリー。その寅次郎は青森で、通勤途中不意に蒸発したくなったというサラリーマン・兵頭謙次郎(船越英二)と出会う。自由な生き方に憧れるという兵頭に手を焼く寅次郎だった男はつらいよ 寅次郎相合い傘01.jpgが、そこで偶然にも、青森に来ていたリリーと再会、寅次郎とリリーは兵頭も巻き込んで北海道へと向男はつらいよ 寅次郎相合い傘03.jpgかう。ごろ寝や啖呵売もこなして楽しい道中となるが、小樽に着いた兵頭はどうしても彼の初恋の人に会いたいと言う。その女性・信子(岩崎加根子)は夫を亡くし女手一つで子供を育てており、懸命に生きる姿を見た兵頭はいたたまれなくなる。そんな彼の複雑な心中をめぐって寅次郎とリリーは対立し、ついには喧嘩別れしてしまう男はつらいよ 寅次郎相合い傘_4.jpg。やがて柴又に帰ってきた寅次郎だが、リリーとの一件を悔やんで表情は沈んだまま。そこへひょいとリリーが現れ、リリーもまたあの一件を悔やんでおり、二人はあっという間に寄りを戻す。リリーとすっかりいい仲になった寅次郎だが、その仲睦ましさが近所でも噂になり始めた時、さくらは寅次郎がこのままリリーと結ばれればいいと思うようになる―。

男はつらいよ 寅次郎相合い傘 Ls.jpg 1975(昭和50)年8月公開のシリーズ第15作で、第11作「男はつらいよ 寅次郎忘れな草」('73年)以来の再登場。以後、第25作「男はつらいよ 寅次郎ハイビスカスの花」('80年)、渥美清(1928-1996/享年68)の遺作となった第48作「男はつらいよ 寅次郎紅の花」('95年)と通算4回、松岡リリーという同一キャラクターでマドンナ役を務めたことになります。満男のマドンナとしてシリーズ終盤に出演した後藤久美子の5回を除いて、寅次郎のマドンナとしては、竹下景子の3回を超えて最多となっていますが、むしろ同じキャラクター(歌子)で2回登場した吉永小百合が比較の対象となるでしょうか。4回は傑出していると思います。

 やはり、役者というのは役者同士の相性もあるし、演技力があって相性が良ければそれだけいい作品が出来るということなのでしょう。この「寅次郎相合い傘」は、シリーズ作品の人気ランキングでも常に上位に来る作品です。また、「男はつらいよ」シリーズは、全48作中9作が「キネマ旬報ベストテン」に入選していますが、浅丘ルリ子をマドナに迎えたこの作品も'75年度の第5位にランクインしています(同ベストテンでは、「駅前」「社長」「若大将」シリーズなど、その他時代劇も含めシリーズ物映画は殆ど無視される傾向にあり、シリーズ作が何度かランクインした「仁義なき戦い」の場合はストーリーが進行・完結していく五部作であり、永劫回帰型シリーズとして何度も「キネ旬報ベストテン」にランクインしたのは「男はつらいよ」シリーズのみだと言う)。

男はつらいよ 寅次郎相合い傘27.jpg この「寅次郎相合い傘」は、男女の機微を浮き彫りにしつつ余韻を残して終わるラストもいいですが(寅次郎とリリーは恋人同士である以上に、むしろ友情で結ばれた"同志"に近かったのか)、この1本の作品の中に、シリーズを通しての名シーンと言われ、よく「名場面ベスト10」などで挙げられるシーンが2か所もあり、それぞれ「寅のアリア」「メロン騒動」と呼ばれています。

男はつらいよ 寅次郎相合い傘 寅のアリア.jpg 「寅のアリア」は、リリーをキャバレーまで送った寅次郎が、そのあまりの環境の劣悪さに驚き、「俺にふんだんに銭があったら」と大ステージで歌い上げるリリーの姿を、さくらたちに臨場感たっぷりに想像で語るもので、スタッフによれば、後日リリー役の浅丘ルリ子がこのシーンを見て涙したとのことです(倍賞千恵子著『お兄ちゃん』('97年/廣済堂出版)。渥美清の本領発揮というか、山田洋次監督は渥美清に初めて会った頃、彼が語る的屋の口上を聞いてこの人は天才だと思ったそうですが、こうしたところでその力を引き出しているのはスゴイと思いました。

男はつらいよ 寅次郎相合い傘lt.jpg 「メロン騒動」は、寅次郎に世話になったと兵頭から高級メロンを貰ったとらやの面々が切り分けて食べ始めたところへ寅次郎が外から戻って来て、寅次郎の分を勘定に入れ忘れていたことに気付いた一同が大慌てで場を男はつらいよ 寅次郎相合い傘 20.jpg取り繕う様に、とらやの連中は心が冷たいと激しくなじる寅次郎に対し、リリーが核心を突いた言葉で寅次郎を一喝してしまうという場面ですが、こちらは、浅丘ルリ子の演技が渥美清のそれに拮抗した場面であるとも言え、大袈裟に言えば、シリーズを通してそれまで憧れの対象でしかなかったマドンナの位置づけを、主体的な存在にパラダイム変革させた場面でもあったかと思います。

浅丘ルリ子 やすらぎの郷.jpg浅丘ルリ子 寿桂尼.jpg 浅丘ルリ子は最近またNHK大河ドラマ「おんな城主 直虎」の寿桂尼役やテレビ朝日系ドラマ「やすらぎの郷」への出演で注目されていますが、もともと演技も歌も上手い方だと思います。歌の方は20曲以上シングルを出した後に、「愛の化石」('69年)の大ヒットで逆に歌手を引退したような状況になる一方、「男はつらいよ」シリーズでは売れない歌手役で、この作品の中でもちらっと歌っているのは興味深いです(とらやの面々と歌っているうちにソロになる)。

「やすらぎの郷」加賀まり子・石坂浩二・浅丘ルリ子・野際陽子

男はつらいよ 寅次郎相合い傘  16.jpg リリーが仕事で歌う場末の酒場のうらぶれた様子は、寅次郎の口から語らせるものの映像化せず、一方で、リリーが別の女性と同居する狭いアパートに相手方の男が来て彼女がそこにおれなくなる場面は映像化しており、その辺りのリアリティの出し方の加減が上手いと思いました。あまり全部隠してしまうとリアリティが湧かないし、あまり見せ過ぎると暗くなり過ぎるし...(シリーズ全作を通して観ると、この加減に失敗しているものも幾つかある)。

男はつらいよ 寅次郎相合い傘 Eg.jpg サラリーマン・兵頭を演じた船越英二の演技も手堅く、兵頭に纏わるサイドストーリーもまずますでしょうか。ただ、失踪事件をモチーフにした野村芳太郎監督(松本清張原作)の「ゼロの焦点」('61年)や今村昌平監督の「人間蒸発」('67年)が60年代だったことを思うと、当時('75年頃)そのようなことがどれくらい時事性があったのか...。

 因みに、冒頭にある、映画館でうたた寝しながら寅次郎が見る夢は、前年['74年]12月日本公開の「シンドバッド 黄金の航海」('73年/米)のパロディだそうですが、個人的には、こちらもまた当時より一昔前の、小野田嘉幹監督の「女奴隷船」('60/新東宝)を想起させられました(山田洋次監督も観たのではないか)。

男はつらいよ 寅次郎相合い傘02.jpg「男はつらいよ 寅次郎相合い傘」●制作年:1975年●監督:山田洋次●脚本:山田洋次/朝間義隆●撮影:高羽哲夫●音楽:山本直純●時間:91分●出演:渥美清/浅丘ルリ子/船越英二/倍賞千恵子/下條正巳/三崎千恵子/太宰久雄/佐藤蛾次郎/吉田義夫/岩崎加根子/久里千春/早乙女愛/中村はやと/宇佐美ゆふ/村上記代/光映子/秩父晴子/米倉斉加年/上條恒彦/谷よしの/笠智衆●公開:1975/08●配給:松竹(評価:★★★★)

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事実をアムンゼン・スコット隊の物語のようにドラマチックに改変した原作と映画。

八甲田山  1.jpg八甲田山 1977.jpg八甲田山  2.jpg 八甲田山 dvd.jpg
Hakkodasan (1977)   「八甲田山 完全版 [DVD]

八甲田山 大滝秀治.jpg八甲田山1s.jpg 日露戦争開戦目前の1901(明治34)年10月、軍部はロシア軍と戦うためには雪と寒さに慣れておく必要があると判断、弘前の第4旅団司令部で行われた「日露戦争に備えての雪中行軍作戦会議」に、弘前第8師団より第4旅団長・友田少将(島田正吾)、参謀長・中林大佐(大滝秀治)、「弘前第31連隊」より連隊長・児島大佐(丹波哲郎)、第1大隊長・門間少佐(藤岡琢也)、徳島大尉(高倉健)、「青森第5連隊」よ八甲田山2a96e.jpg八甲田山 高倉2.jpgり津村中佐(小林桂樹)、木宮少佐(神山繁)、神田大尉(北大路欣也)、第2大隊長・山田少佐(三國連太郎)らがそれぞれ出席して、耐寒訓練として冬の八甲田山を軍行する計画を立て、神田大尉率いる「青森第5連隊」と徳島大尉率いる「弘前第31連隊」の参加が決まる。双方は青森と弘前から出発、八甲田山ですれ違うという進行が大筋だった。翌年1月20日、徳島率いる弘前八甲田山80.jpg第31連隊は、雪に馴れている27名の編成部隊で弘前を出発し、一方の神田大尉も小数精鋭部隊の編成を申し出たが、大隊長・山田少佐に拒否され210名という大部隊で青森を出発した。神田の青森第5連隊の実権は大隊長・山田少佐に移っており、神田の用意した案内人を山田が断ってしまう。神田の部隊は低気圧に襲われ、磁石が用をなさなくなり、ホワイトアウトの中に方向を失い、次第に隊列は乱れ、狂死する者八甲田山12.jpgさえ出始める。一方徳島の部隊は、案内人(秋吉久美子)を先頭に風のリズムに合わせ、八甲田山に向って快調に進む。出発してから1週間後、徳島隊は八甲田に入って神田大尉の従卒の遺体を発見、神田の青森第5連隊の遭難は疑う余地はなかった。そして徳島は、吹雪の中で永遠の眠りにつく神田と再会。青森第5連隊の生存者は山田少佐以下12名。徳島の弘前第31連隊は全員生還。山田少佐はその後に拳銃自殺する―。

八甲田山 高倉.jpg 1977年公開の森谷司郎監督、橋本忍脚本、高倉健・北大路欣也主演作品で、原作は新田次郎の小説『八甲田山死の彷徨』('71年/新潮社)。原作は、1902(明治35)年)1月、陸軍第8師団の「青森歩兵第5連隊」が青森市街から八甲田山の田代新湯に向かう雪中行軍訓練で参加者210名中199名が死亡した事件に材を得ていますが、「弘前歩兵第31連隊」の雪中行軍訓練と時期は重なるものの、お互いに相手の計画を知らなかったということで、これを徳島・神田両大尉が同時に行軍指揮の命令を受け、事前に両隊が八甲田山で出会うことを示し合わてスタートしたように描き、更に、強行スケジュールを立てて先を急いだ神田・青森隊と、自然の驚異への畏怖からそれに逆らわず慎重に行動した徳島・弘前隊を対比的に描くことで、ちょうど南極点一番乗りを目指して片や偉業達成、片や全滅したアムンゼン隊とスコット隊の物語のようにドラマチックにしたのは、新田次郎の作家としての力量の為せる技でしょう。

八甲田山 1977  三國s.jpg 従って、事実としては、映画のように高倉健が演じた徳島大尉(モデルは福島泰蔵大尉)と北大路欣也が演じた神田大尉(モデルは神成文吉大尉)が出発前に出会って語らったこともなく、また、映画では三國連太郎演じる山田少佐(モデルは山口鋠少佐)の我田引水の判断や行動が遭難事故の誘因となったように描かれていますが、実際には山口少佐の遭難事故に与えた影響は判明していないそうです(部下の犠牲で生き残ったことへの自責の念から病院で拳銃自殺するというのも新田次郎の創作)。

八甲田山es.jpg 一方の、徳島大尉は理想のリーダーのように描かれていますが、実際には福島隊も地元の案内人との関係は良くなかったらしく、高倉健の徳島大尉が秋吉久美子演じる(軽々と雪山を登って行く部分はスタント?)案内人に感謝の意を表して部下らに捧げ銃を命じるのは完全に映画のオリジナルで、新田次郎原作においてすら、小銭を渡して冷たくあしらったことになっています(映画では、三國連太郎演じる山田少佐が「金目当てか?」と案内人を追い返したのと対照的な行動として描かれている。感動的な場面ではある)。

八甲田山i.jpg しかしながら、事実がどうだったかはともかく、映画は映画としてみれば面白く、少なくとも長尺の割には、途中飽きることはありませんでした。原作の方は企業研修や大学において、リスクマネジメントやリーダー論などの経営学のケーススタディに用いられることがあるようですが、当然事前に読ませておくということでしょう。映画も(その後の討論を含め1日がかりの研修ならともかく)勤務時間中に見せるのは約2時間40分の長さはきついかもしれません。

八甲田山 北大路欣也.jpg そもそも、原作にしても映画にしても、明治陸軍という特殊な組織の中での話であって、これを現代のビジネス社会に当て嵌めて考えたり応用したりするには無理があるという見方もあるようですが、確かにそうした面もあるかもしれないし(「北大路欣也演じる神田大尉が上官の無茶な命令に逆らえないのはフォロワーシップの欠如だ」と言うのは簡単だが、当時の陸軍においては上官命令には絶対服従だっただろう)、一方、高倉健演じる徳島大尉はあまりに理想的に描かれ過ぎている感じもします。しかしながら、個々のリーダーシップと言うより組織論的な観点から見ると、命令系統の混乱が青森隊を混迷状況に陥れたわけで、マネジメントにおける「命令統一の原則」が守られなかった場合どうなるかということと呼応しており、参考になる部分はあるかもしれません。

八甲田山 1977   8.jpg 今日まで続く"山岳映画"の流れの嚆矢にもなったとされる作品ですが(一応これ以前にも「銀嶺の果て」('47年)や「黒い画集 ある遭難」('61年)といった作品はあるが)、この作品のロケは大変だったろうなあと思います。撮影隊が本当に遭難しそうになったという逸話があるというのは頷けますが、今だったらかなりの部分をCGでカバーしてしまうだろうから、そう考えると全てフィルムで撮っているというのは映像的に貴重かも。但し、カメラマンの木村大作は吹雪の中で照明が殆ど使えなかったことが不満だったとのことで、確かに白い雪の中で登場人物の顔が黒く潰れてしまっているというのは多く見られました。おそらくこれはデジタルリマスター版になってもそう改善されないものなのでしょう。

八甲田山_n.jpg八甲田山(映画) 加藤嘉 .jpg
徳島大尉(第一大隊第二中隊長):高倉健
神田大尉(第二大隊第五中隊長):北大路欣也
山田少佐(第二大隊長):三國連太郎
村山伍長(第五中隊第二小隊):緒形拳
田茂木野村の作右衛門:加藤嘉

八甲田山 特別愛蔵版.jpg八甲田山03.jpg「八甲田山」●制作年:1977年●監督:森谷司郎●製作:橋本忍/野村芳太郎/田中友幸●脚本:橋本忍●撮影:木村大作●音楽:芥川也寸志●時間:169分●出演:高倉健/北大路欣也/島田正吾/三國連太郎/丹波哲郎/藤岡琢也/加山雄三/小林桂樹/神山繁/森田健作/下絛アトム/大滝秀治/前田吟/東野英心/緒方拳/加賀まり子秋吉久美子八甲田山 加賀まりこ.jpg八甲田山 akiyosi.jpg山谷初男/丹古母鬼馬二/菅井きん/加藤嘉/田崎潤/栗原小巻/金尾哲夫/玉川伊佐男/江角英明/樋浦勉/浜田晃/加藤健一/江幡連/高山浩平/安永憲司/佐久間宏則/大竹まこと/新克利/山西道宏/船橋三郎●公開:1977/06●配給:東宝(評価:★★★☆)

八甲田山 特別愛蔵版 高倉健 主演 DVD2枚組」(2014年)

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片岡千恵蔵の真田昌幸、萬屋錦之介の徳川家康、高峰三枝子の淀君。超豪華「B級」時代劇。

真田幸村の謀略ps.jpg 真田幸村の謀略ns.jpg 真田幸村の謀略 1979.jpg 真田幸村の謀略 松方.jpg
「真田幸村の謀略」チラシ・ポスター・パンフレット/「真田幸村の謀略 [DVD]」松方弘樹(1942-2017/享年74

真田幸村の謀略O.jpg 慶長15年、天下統一を図る家康(萬屋錦之介)は、大坂城の豊臣秀頼(小倉一郎)一党を討つための準備を進めている。一方、真田昌幸(片岡千恵蔵)・幸村(松方弘樹)父子も九度山で戦いの決意を固めていたが、昌幸は家康の間者に殺害され、幸村の妻・綾(萩尾みどり)は自刃を遂げる。幸村は穴山小助(火野正平)のみ残して他の家臣を上田城へ帰し、家康側についた兄・信幸(梅宮辰夫)と決別、亡父の遺志を継ぎ、家康の首をとる決心をする。家康の送った服部半蔵(曽根晴美)に殺された戸沢白雲斎(浜村純)の残した人名帖から、猿飛佐助(あおい輝彦)、霧隠才蔵(寺田農)、海野真田幸村の謀略 00.jpg六郎(ガッツ石松)、望月六郎(野口貴史)、筧十蔵(森田健作)、由利鎌之助(岩尾正隆)、根津甚八(岡本富士太)、三好伊三入道(真田広之)、三好清海入道(秋野暢子)などの草の者を集める。フランキー砲試射を見に来る家康を暗殺するために幸村と十勇士は出発するが、計画を見抜いた家康配下の半蔵の忍者部隊に幸村は片目を射抜かれる。家康は幸村達を豊臣が雇っ真田幸村の謀略 02.jpgた牢人と決めつけ、豊臣氏に叛逆の意図ありと口実を作り、徳川連合軍40万を大坂へ向けて進撃、1614年10月大坂冬の陣が始まる。報償金目当ての者、ひと旗上げようとする者が大坂に集まり、幸村と十勇士も大坂へ向かう。大坂城では徳川を迎え打つ軍議が開かれ真田幸村の謀略 38.jpg、籠城を主張する豊臣譜代衆と、野戦を主張する幸村達牢人衆が対立するが、淀君(高峰三枝子)の一言で籠城と決定、幸村は鉄壁の出城「真田丸」を作る。幸村は、小助に天竺渡来の麻薬を持たせ遊女たちと共に前田軍に送り込んで前田軍を骨抜きにし、翌日の合戦で真田軍が圧勝する。家康は和議の交渉を進め、フランキー砲の偶発に驚愕した淀君も和議に応じてしまうが、和議が済むと家康は大坂城の堀を埋めつくし、裸同然の無防備な城に一変させてしまう。そして、1615年4月大坂夏の陣が始まる―。

真田幸村の謀略 01.jpg 1979(昭和54)年公開の中島貞夫監督による東映"何でもあり"時代劇。冒頭、いきなり夜空から巨大隕石が落下してくる場面があり(「妖星ゴラス」('62年/東宝)かと思った真田幸村の謀略71.jpgけれど、映画会社が違ったか)。この星に乗ってやってきたのがどうやら猿飛佐助だったらしく、最後は独りまた宇宙へ帰っていきます。超能力が使えるならばそれをもっと使えばいいのに、刀や徒手空拳で東映時代劇の殺陣の流儀に沿って闘っているというのもおかしいし、と思ったら、「臨・兵・闘・者・皆・陣・烈・在・前」と思い出したように九字を切る(とても宇宙から来たとは思えない)―という具合に、突っ込みどころは多く、穿った見方をすれば、そうした突っ込みどころを愉しむ映画なのかもしれません。

真田幸村の謀略 608.jpg真田幸村の謀略19.jpeg その外にも、真田昌幸(片岡千恵蔵)が、家康の間者が放った猫にひっかかれて死んでしまったり(猫の爪に毒が塗ってあった)、三好清海入道が朝鮮から連れてこられた姫君で切支丹のジュリアおたあ(秋野暢子)の変名だったり(しかも真田幸村の謀略 0259.jpg加藤清正(丹波哲郎nXnh.jpgテレパシスト能力を有し、人の心を読み取ることが出来るという設定)、幸村が敵に片目を射抜かれて途中から"独眼竜政宗"みたいに眼帯をしていたり、加藤真田幸村の謀略ド.jpg清正(丹波哲郎)が大阪城内の座敷牢みたいなところでトラを飼っていたり...。幸村が十勇士だけ引き連れて徳川の大軍と戦っているのも非現実的ですが、極めつけはラストで、幸村が家康との一騎打ちの末その首を刎ね、家康の首が空高くぶっ飛びます(公開当時は「家康の首が50メートル飛ぶ!」という宣伝がなされていた)。

真田幸村の謀略 pannhu.jpg こうした荒唐無稽な内容でありながらも、ベースはNHK大河ドラマ「真田丸」などでもお馴染みの展開であり(ある意味、ラストの家康の死を除いては、後の「将軍家光の乱心 激突」('89年/東映)などよりは"史実逸脱度"は低いかも)、その「真田丸」もしっかり作られ、合戦シーンはかなり大掛かりなものとなっています。そして何よりも、片岡千恵蔵の昌幸、萬屋錦之介の家康、高峰三枝子の淀君と、配役が超豪華です(思えば、片岡千恵蔵が「赤穂浪士」('61年/東映)で大石内蔵助を演じた時に松方弘樹はその息子の大石主悦役で出ており、当時18歳で映画デビュー2作目だった)。また、十勇士が初登場する際にストップ・モーションとなってイラスト化されますが、そのイラストを描いているのは横尾忠則です。

真田幸村の謀略   .jpg 難点の1つは、その十勇士達の個性がそれほど活かされておらず、真田の郷にいる時でも訓練行動の時から同じようなユニフォームで動き回っていて、何だかレインジャー部隊にしか見えない点でしょうか。正直、後でスチール写真で誰が誰だったか確認した次第(「将軍家光の乱心 激突」のように千葉真一こそ出ていないが、JACの面々は出ているみたい)。ただ動き回っているだけで、あまり演技させてもらっていない俳優達が可哀そうです。強いて言えば、三好清海入道を女性にしたことで、秋野暢子にドラマ部分を担わせた印象もありますが、これもちょっと弱かったか。別に難点は1つではなく、他に難点はと言われれば幾つでもありますが、むしろ突っ込みどころがあり過ぎてコメントし辛いという、超豪華「B級」時代劇、といった感じの作品でした。

 因みに、この作品で徳川家康を演じた萬屋錦之介は、13年前の1966(昭和41)年のTBS連続ドラマ「戦国太平記 真田幸村」(全52回)では真田幸村を演じており(当時、中村錦之助)、真田幸村を演じた松方弘樹(1942-2017)は、19年後の1998(平成10)年1月2日にテレビ東京で放送された12時間超ワイドドラマ「家康が最も恐れた男 真田幸村」でも真田幸村を演じています。

真田幸村の謀略 title.jpg「真田幸村の謀略」●制作年:1989年●監督:中島貞夫●特撮監督:矢島信男●脚本:笠原和夫/松本功/田中陽造/中島貞夫●撮影:赤塚滋●音楽:佐藤勝●時間:148分●出演:松方弘樹/寺田農/あおい輝彦/ガッツ石松/野口貴史/森田健作/火野正平/岩尾正隆/岡本富士太/真田広之/秋野暢子/片岡千恵蔵/梅宮辰夫/萩尾みどり/北村英三/村居京之輔/和田昌也/橘麻紀/谷川みゆき/浜村純/丹阿弥谷津子/小泉美由記/木村英/岡麻美/田中みき/市川好朗/志茂山高也/勝野賢三/タンクロウ/萬屋錦之介/小坂和之/進藤盛裕/茂山千五郎/金子信雄/香川良介/小林昭二/林彰太郎/江波杏子/川浪公次郎/壬生新太郎/曽根晴美/笹本清三/春田純一/福本清三/大矢敬典/木谷邦臣/平河正雄/奔田陵/志賀勝/丸平峰子/小峰隆司/池田謙治/司裕介/畑中伶一/山田良樹/藤沢徹夫/平沢彰/唐沢民賢/波多野博/阿波地大輔/宮城幸生/大城泰/秋山勝俊/高並功/泉好太郎/五十嵐義弘/小倉一郎/高峰三枝子/上月左知子/桜町弘子/松村康世/富永佳代子/星野美恵子/森愛/戸浦六加藤清正(丹波哲郎mN.jpg真田幸村の謀略 梅宮.jpg宏/梅津栄/野口元夫/白井滋郎/疋田泰盛/土橋勇/成田三樹夫/遠藤征慈/宮内洋/丘路千/中村錦司/丹波哲郎●公開:1979/09●配給:東映(評価:★★☆) 


丹波哲郎(トラに餌をやる加藤清正)/梅宮辰夫(徳川家康陣中の真田信幸)

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稀代の犯罪者の多面的キャラクターを描くとともに、崩壊する家族・親子関係を描いた作品。

復讐するは我にあり13.jpg
復讐するは我にあり dvd7.jpg
復讐するは我にあり dvd.jpg 復讐するは我にあり 文春文庫5.jpg 文春文庫
あの頃映画 the BEST 松竹ブルーレイ・コレクション 復讐するは我にあり [Blu-ray]」「あの頃映画 「復讐するは我にあり」 [DVD]」/『復讐するは我にあり (文春文庫)』['09年(改訂新版文庫化)]

復讐するは我にあり  04 .jpg 榎津巌(緒形拳)は、専売公社の集金係2名(殿山泰司ほか)を殺害し、詐欺を繰り返しながら逃走を続ける。実家は病身の母・かよ(ミヤコ蝶々)と敬虔なクリスチャンの父・鎮雄(三國連太郎)が経営する旅館で、榎津の妻・加津子(倍賞美津子)や子も一緒に暮らしているが、榎津は妻・加津子と父・鎮雄の関係を疑っている。警察が榎津を全国指名手配にする中、榎津は裁判復讐するは我にあり  C7.jpg所で被告人の母親(菅井きん)に近づき、弁護士を装って保釈金詐欺を働き、更に、仕事の依頼と称して老弁護士(加藤嘉)に近づいて殺害し、金品を奪って逃げ続ける。浜松の旅館「貸席あさの」に京都帝大教授を装っ復讐するは我にあり  05 小川.jpgて投宿し、宿の女将ハル(小川真由美)と懇ろになる。ある日、ハルは映画館のニュースで榎津の正体を知るが、榎津を匿い続ける。しかし、榎津はハルとハルの母親・ひさ乃(清川虹子)を殺害し、質屋(河原崎長一郎)を旅館に呼んで2人の所持品を売り払う。榎津を以前客に取ったことのあるステッキガール(根岸とし江)が、榎津が指名手配の犯人であることに気づき、警察に通報する。榎津は逮捕され、死刑を宣告される。面会に来た父親の鎮雄は、榎津が教会から破門されたこと、自らも責任を取って脱会したことを伝える。処刑後、榎津の遺骨を抱いた妻の加津子と鎮雄は、山頂から空に向かって散骨する―。

復讐するは我にありG.jpg 昨年['15年]10月に78歳で亡くなった佐木隆三(1937-2015)の直木賞受賞作を今村昌平(1926-2006)監督が映画化した1979年公開作で、復讐するは我にあり61.jpgその年のキネマ旬報ベスト・テン第1位作品。「第3回日本アカデミー賞」の最優秀作品賞を受賞し、演技面では、体当たり演技の小川真由美が日本アカデミー賞の最優秀助演女優賞を受賞。小川真由美は「第4回報知映画賞」やキネマ旬報の賞も受賞し、三國連太郎も報知映画賞や「第22回ブルーリボン賞」など3つの賞を受賞。同じく体当たり演技の倍賞美津子復讐するは我にありNU.jpgブルーリボン賞を受賞しているのに、主役の緒形拳(1937-2008)が何も受賞していないというのがやや不思議な気がします。主人公の多面的なキャラクターを巧みに演じ分けていたのは流石だと思ったのですが、緒形拳は前年の「鬼畜」('78年/松竹)で既に「第2回日本アカデミー賞」「第3回報知映画賞」「第21回ブルーリボン賞」の主演男優賞の"3冠"を達成していたというのも影響したのかもしれません。

 作品全体の印象としては、「神々の深き欲望」('68年/日活)以来約10年ぶりにメガホンを手にした今村昌平の「色」がかなり濃い感じでしょうか。原作者の佐木隆三は、モデルとなった「西口彰事件」について、「調べれば調べるほど内面が覗けなくなった」と秋山駿(1930-2013)との対談で述べていますが、この映復讐するは我にあり7K.jpg画では、敬虔なクリスチャンで通っている父親との確執を、榎津との幼少期のエピソードなども交えながら描き、更には、榎津の妻・加津子と父・鎮雄の関係を前面に押し出すことで、犯行の背後に父親との関係に起因する何かを示唆しているように思われました。それは、終盤の榎津と父親との拘置所復讐するは我にあり8 .jpgでの対面シーンにも表れており、ここでも両者は和解し切れず、結局、父親が息子と内面的に和解したのは、ラストの散骨のシーンであったように思います。榎津の父親への感情は、ファーザー・コンプレックスと言えなくもないですが、加津子の方がむしろ義父・鎮雄をファザコンに近い感情で崇めていて、一方の榎津の父親に対する反発は、父親のその偽善性に対するものではなかったかと思われます(幼児期のエピソードに父親に裏切られたと取れるものがある)。何れにせよ、父・鎮雄と妻・加津子の関係も含め、この辺りは全て"今村昌平オリジナル"です。

復讐するは我にあり_9.png 同じくこの作品で原作以上に大きなウェイトを占めるハルの家族の描き方も、ハルの情夫で旅館のオーナーでもある男(北村和夫)とのどろどろした関係が前面に出ていて、それを苦々しく思う母親と、そこに榎津も絡んできて、もうぐちゃぐちゃという感じ。この辺りも全て映画のオリジナルで、ハルの母親が殺人事件で15年服役し、出所してそう年月も経っておらず、今は競艇に明け暮れる日々を送っているという設定もオリジナルです。更に原作との大きな違いは、榎津とハル復讐するは我にあり  NB.jpgが映画を観に映画館へ入ったところ(映画は「ヨーロッパの解放」第三部「大包囲撃滅作戦」('71年/松竹配給)。その前に)映像ニュースで榎津の指名手配が流れてハルが榎津の正体を知ってしまうことで、榎津に惚れていたハルは榎津を匿い続けますが、原作では母娘は榎津の正体を知らないまま殺害されてしまい、従って、ハルの母親が榎津を競艇に誘って、当てた金を榎津に渡して自分たちの前から消えてくれるよう頼むといった場面も、榎津が畦道かどこかを歩きながらハルの背後からマフラーで絞殺しようして彼女に気づかれ、いったんは諌められてしまうのも映画のオリジナルです。

 原作も映画も稀代の犯罪者を描いたある種ピカレスク・ロマン的な作品ですが、今村昌平の手によって、映画の半分は、崩壊している2組の家族と親子関係を描いたものとなっているように思いました(ハルの家族の方がより悲惨か。パトロン男が母親の目の前で娘であるハルを凌辱するのを目の当たりにした榎津が包丁を取り出そうとするのを、ハルの母親が押しとどめるという場面さえある)。原作に付加されているものが多くて、こうした作品の作りは個人的にあまり好きになれないことが多いのですが、この映画については、付加された部分もドラマとしてよく出来ていて良かったように思います(今村昌平は、個人的には、原作を改変してそれでも作品の質を落とさない数少ない監督の一人)。

 実際の事件では浜松の旅館の小学校5年生(10歳)の女の子が弁護士を装った榎津が指名手配中の連続続殺人犯であることを見破りますが(原作もその通り)、映画では、榎津を以前客に取ったことのある〈ステッキガール〉(クレジットにそうある)が見破ります。因みに、ステッキガールとは大宅壮一による造語で、昭和初期の銀座で1時間2円の料金で食事などデートの相手をする"援助交際"の少女のことで、男の腕にぶらさがるステッキみたいだというのが言葉の由来です(龍田静枝、川崎弘子らが出演の「ステッキガール」('29年/松竹蒲田)という映画がある)。戦後そうした"流行"が復活した浜松では、当時70のステッキガール組織があり、それぞれ20人ほどの女性を置いていて、浜松は"ステッキガール発祥の地"と言われています(戦後のステッキガールは観光ガイドなどの看板で売春をしていた)。作品の舞台は昭和46年頃と、原作より8年ぐらい後ろ倒しにされていますが、そうした組織は、昭和60年代頃まではまだあったと言われています。

復讐するは我にあり_7.jpg 原作者の佐木隆三が、ハルの宿でクレームをつけて帰ってしまう泊り客としてカメオ出演しています。佐木隆三はこの映画公開の前年['78年]、銀座の路上で交差点に赤信号停止しているタクシーに乗ろうとしたところ、タクシー乗り場から乗るように言われたことに逆上し、タクシーのボンネットに乗り上げて暴れてフロントガラスを破壊して警察に逮捕されていますが、クレーマーっぽい役柄はその事件の自虐パロディだったのかも。

「貸席あさの」のセットでの撮影準備(左から、今村昌平監督、姫田真佐久カメラマン、小川真由美、佐木隆三)

Fukushû suru wa ware ni ari (1979)
Fukushû suru wa ware ni ari (1979) .jpg復讐するは我にありC.jpg「復讐するは我にあり」●制作年:1979年●監督:今村昌平●製作:井上和男●脚本:馬場当/池端俊策●撮影:姫田真佐久●音楽:池辺晋一郎●原作:佐木隆三●時間:140分●出演:緒形拳/三國連太郎/ミヤコ蝶々/倍賞美津子/小川真由美小川真由美 復讐するは我にあり2.jpg清川虹子/殿山泰司/垂水悟郎/絵沢萠子/白川和子/フランキー堺/北村和夫/火野正平/根岸とし江(根岸李江)/河原崎長一郎/菅井きん/石堂淑復讐するは我にあり 弁護士.jpg郎/加藤嘉/佐木隆三●公開:1979/04●配給:松竹●最初に観た場所(再見):新宿ピカデリー(緒形拳追悼特集)(08-11-23)●2回目:北千住・シネマブルースタジオ(10-01-17)(評価:★★★★☆)

緒形拳(榎津巌)/加藤嘉(河島弁護士)
 
小川真由美 in「鬼畜」('78年/松竹)/「復讐するは我にあり」('79年/松竹) 
小川真由美 鬼畜 - 2.jpg 小川真由美 復讐するは我にあり.jpg
   
《読書MEMO》
●ポン・ジュノ監督(韓国)の選んだオールタイムベスト10["Sight & Sound"誌・映画監督による選出トップ10 (Director's Top 10 Films)(2012年版)]
 ●悲情城市(ホウ・シャオシェン)
 ●CURE キュア(黒沢清)
 ●ファーゴ(ジョエル & イーサン・コーエン)
 ●下女(キム・ギヨン)
 ●サイコ(アルフレッド・ヒッチコック)
 ●レイジング・ブル(マーティン・スコセッシ)
 ●黒い罠(オーソン・ウェルズ)
 ●復讐するは我にあり(今村昌平)
 ●恐怖の報酬(アンリ=ジョルジュ・クルーゾー)
 ●ゾディアック(ディヴィッド・フィンチャー)

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概ね原作に忠実に作られているように思われた。ラストは「砂の器」より上か。原作も越えた?
鬼畜398.jpg
鬼畜dvd 2015.jpg鬼畜dvd.jpg Kichiku  (1978)  .jpg
鬼畜 [DVD]」/Kichiku (1978)
あの頃映画 the BEST 松竹ブルーレイ・コレクション 鬼畜 [Blu-ray]

鬼畜 岩下.jpg 川越市で印刷屋を営む竹下宗吉(緒形拳)は、妻・お梅(岩下志麻)に隠れ、鳥料理屋の女中・菊代(小川真由美)を妾として囲い、7年間に3人の隠し子を作鬼畜 小川.jpgった。やがて火事と大印刷店攻勢で宗吉の商売は凋落し、手当を貰えなくなった菊代が、利一(6歳)、良子(4歳)庄二(1歳半)を連れて宗吉の家に怒鳴り込む。菊代はお梅と口論した挙句、3人を宗吉に押しつけて蒸発し、お梅が子供達と宗吉に当り散らす地獄の日々が始まる。末の庄二が栄養失調で衰弱し、医者に行ったある日、寝鬼畜 緒形・岩下.jpgている庄二の顔の上にシートが故意か偶然か被さって庄二は死ぬ。宗吉はお梅の仕業と思いながらも口に出せず、逆に、「あんたも一つ気が楽になったね」と言われる。その夜、夫婦は久しぶりに燃え、共通の罪悪感に昂ぶる。お梅鬼畜k5.jpgは残りの子供も〈処分〉することを宗吉に迫り、宗吉は良子を東京タワーに連れて行って置き去り鬼畜k3 .jpgにし、一人エレベーターを降りる。更に長男・利一を毒殺しようとするものの果たせず、何日か後、新幹線こだま号に利一を乗せ、北陸海岸に連れて行く。能登半島に辿り着き、日本海を臨む岸壁で、宗吉は利一を海に落す。翌朝、沖の船が絶壁の途中に引掛っている利一を発見し、かすり傷程度で鬼畜 09.jpg助け出す。警察の調べに利一は父親と遊びに来て眠っているうちに落ちたと言い張り、名前、住所、親のことや身許の手掛かりになることは一切言わない。しかし警察は、事故ではなく利一は突き落とした誰かを庇っていると判断し、利一の持っていた石版印刷に使用する石材のかけら(利一はこれを石蹴り遊びに使っていた)から宗吉が殺人未遂容疑で警察に拘束される。そして、移送されてきた宗吉が警察で利一と対面する―。

鬼畜―松本清張短編全集〈7〉 (カッパ・ノベルス)1.jpg 松本清張の短編小説「鬼畜」を野村芳太郎(1919-2005)監督が映画化した1978年公開作で、脚本は「赤ひげ」('65年/東宝)の井出雅人、音楽は「砂の器」('74年/松竹)の芥川也寸志(他に「ゼロの焦点」「黒い十人の女」(共に'61年)など)。主な出演者は、緒形拳(1937-2008)、岩下志麻、小川真由美。野村芳太郎による松本清張原作の映画化作品では「砂の器」の評価が高いようですが、この「鬼畜」も非常に良く出来ていると思います。「砂の器」は原作を超えていませんが、「鬼畜」は一面において原作を超えているようにも思います。
鬼畜―松本清張短編全集〈7〉 (カッパ・ノベルス)

鬼畜01.jpg まず、前半部分しか出てきませんが、小川真由美の3人の子供を連れての鬼畜k2.jpg押しかけぶりが良く、岩下志麻との競演は見所であり、更に中盤の見せ場は、岩下志麻演じるお梅の児童虐待ぶりの凄まじさでしょうか(子役たちは撮影の休憩時間中も岩下志麻に寄りつかなかったという)。

鬼畜k6.jpg それらに比べると、2人の女の間でおろおろしている宗吉を演じた緒形拳はやや影が薄いようにも見えましたが、これはこれで、あまりやりすぎると喜鬼畜k3.jpg劇になってしまうし、あまり抑え過ぎると面白くないし、意外と加減の難しい役どころだったのではないでしょうか(緒形拳はこの演技で、「第2回日本アカデミー賞」「第3回報知映画賞」「第21回ブルーリボン賞」の主演男優賞を"3冠"受賞した)。

鬼畜 蟹江.jpg その他にも、印刷所の工員(原作でもいることになっているが人物造型は描かれていない)を蟹江敬三(1944-2014)が好演していたし、子役の演技も、賛否ありますが、個人的には悪くなかったと思います(子役の演技力というより監督の演出力の成果だろう)。

 原作が発表されたのは'57(昭和32)年ですが、それを映画が作られた'78(昭和53)年に置き換えていて(利一が歌う「科学忍者隊ガッチャマン」は、この映画が公開された'78年10月に続編のアニメ放送が始まっている)、宗吉の営む印刷所は、東京から急行列車で3時間を要する地方にあるS市から埼玉県の川越市に、宗吉が菊代を囲った家は、原作ではS市から1時間ばかり汽車で行く町ということで、埼玉県の男衾(おぶすま)駅付近となっています。

「鬼畜」 9s.jpg鬼畜 6.jpg 宗吉が良子を置き去りにするのは原作では東京タワーではなく銀座のデパートの屋上のミニ動物園、利一を毒殺しようとして上野動物園で食鬼畜 緒形 .pngべさせるのはアンパンではなく最中(もなか)、利一を旅に連れて行ったのは北陸ではなく原作では西伊豆です。映画では西伊豆を北陸に変え(米原まで新幹線で行く)、能登金剛までやって来て、そこで利一を崖から放ってしまう―。能登金剛は「ゼロの焦点」('61年/松竹)のラストシーンの舞台でもあります(こちらは原作通り)。これら細かい改変点はありますが、概ね原作に忠実に作られているように思われ、こうした作り方は個人的には割合と好きな方です。

「鬼畜」 s.jpg 原作と一番異なる点はラストで、原作が、利一が頑なに黙秘を続けるも、持っていた石材で宗吉の犯行の足が付くことを示唆して終わるのに対し、映画では、宗吉が殺人未遂容疑で逮捕され、利一と面会を果たす場面が加えられていることです。そこでも利一は、「坊やのお父さんだね?」 との警官の問いに、「知らないおじさんだよ!」と否定し、宗吉はそんな利一にすがりつき、後悔と罪悪感で号泣する―。利一は何故黙秘を続けたのかという疑問を更に発展させて、利一は宗吉を庇ったのか見捨てたのかという究極の問いを観る者に投げかけている訳で、この持って行き方は悪くないように思いました。答えはそう難しくないと思いますが、観る者にちょっとだけ考えさせるこの終わり方が余韻となっており、「砂の器」の加藤剛が延々とピアノ曲「宿命」を奏でる(やや大仰な)エンディングより上だったかもしれません。一面において原作を超えていると思うのも、この分かりやすい問題提起とでも言うか、まさにこの点にあります(因みに、原作にはモデルとなった実際の事件があって、犯人の男は在獄中に発狂死したという凄まじいエピソードがある)。

鬼畜  岩下志麻.jpg 鬼畜 小川真由美.jpg 岩下志麻/小川真由美
鬼畜 蟹江敬三.jpg 鬼畜 大滝秀治.jpg 蟹江敬三/大滝秀治
鬼畜 鈴木瑞穂、大竹しのぶ.jpg 鈴木瑞穂・大竹しのぶ

鬼畜 パンフ.jpg鬼畜 o.jpg「鬼畜」●制作年:1978年●監督:野村芳太郎●製作:野村芳太郎/ 野村芳樹●脚本:井手雅人●撮影:川又昂●音楽:芥川也寸志●時間:110分●出演:緒形拳/岩下志麻/小川真由美/加藤嘉/蟹江敬三/大滝秀治/大竹しのぶ/田中邦衛/浜村純/鈴木瑞穂/岩瀬浩規/吉沢美幸/穂積隆信/石井旬/山谷初男/三谷昇●公開:1978/10●配給:松竹●最初に観た場所(再見):新宿ピカデリー(緒形拳追悼特集)(08-11-16)●2回目:北千住・シネマブルースタジオ(10-01-31)(評価:★★★★☆)
映画パンフレット 「鬼畜」 監督 /野村芳太郎 出演 /岩下志麻、緒方拳

小川真由美 in「鬼畜」('78年)/「復讐するは我にあり」('79年) 
小川真由美 鬼畜 - 2.jpg 小川真由美 復讐するは我にあり.jpg


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群像活劇。配役の"混乱"が作品の"混沌(カオス)"的雰囲気と重なった。

仁義なき戦い dvd.jpg   女奴隷船 dvd.jpg
仁義なき戦い [DVD]」/「仁義なき戦い」テーマ(津島利章)/「女奴隷船 [DVD]

 広能昌三(菅原文太)は復員後、遊び人の群れに身を投じていたが、山守組々長・山守義雄(金子信雄)はその度胸と気風の良さに感心し、広能を身内にする。まだ小勢力だった山守組は、土居組との抗争に全力を注ぐ。その土居組を破門された若頭・若杉(梅宮辰夫)が山守組に加入し、若杉による土居(名和宏)殺害計画が進む―。 

 「仁義なき戦い」シリーズの作曲家の津島利章の訃報が入ってきました(1936-2013.11.25/享年77)。キネマ旬報が'09(平成21)年に実施した「オールタイム・ベスト映画遺産200(日本映画編)」で、歴代第5位という上位にランクされた作品ですが、個人的にはあの作品で最も印象に残ったのはテーマ曲だったかも。

 内容的には、任侠道を美化して描くそれまでの"時代劇風の舞台演劇"っぽいヤクザ映画から、ヤクザの行動原理も結局は金と権力に拠るという視点に立った、"リアルな群像活劇"へのターニングポイントとなった作品と言われていますが、裏切りに続く裏切りの一方で、主人公の広能だけは、従来の任侠道を貫く者として美化されているような感じで、やや矛盾を感じなくもありません。但し、そのことが作品としての救いにもなっています。「その他大勢」はストレートに「我欲に忠実」な人々とでも言うべきでしょうか。そうした点も含め、深作欣二の作品の中では、その演出力が最も発揮された作品だと思います。

梅宮辰夫の若杉.jpg仁義なき戦いAL_.jpg仁義なき戦い5_AL_.jpg 「仁義なき戦い 広島死闘篇「('73年)、「仁義なき戦い 代理戦争」('73年) 、「仁義なき戦い 頂上作戦('74年)、「仁義なき戦い 完結篇」('74年)も続けて観ましたが、広能の他にも、松方弘樹演じる板井や梅宮辰夫演じる若杉などサブヒーロー的な登場人物がいることはいるのですが、彼らは皆、第1話のこの作品の中で死んでしまいます。
獄中の広能(菅原文太)を訪ねる若杉(梅宮辰夫)

 シリーズの後の方になると、死んだ人物の役を演じた俳優がまた別の役で出てくるので、観ていて奇妙な感じがします。梅宮辰夫の若杉などは結構キーパーソンなのですが、第3話の「代理戦争」で早々に別の役で出てきます(渡瀬恒彦も然り)。しかも、ストーリー的には、この第3話が第1話の続編となっているのでややこしい。松方弘樹は第4話「頂上作作戦」で別の役で登場、第5話「完結篇」でさらに別の役で出てきます。

「仁義なき戦い」73.jpg 準主役級でさえそうですから、主に殺され役である川谷拓三などは第1話から第5話まで全部異なる役で登場、一方で、小林旭は第3話から第5話まで、山城新伍は第2話から第5話まで同じ役で出ていたりもします。流れとしては、誰か特定の個人の生き様を追うというよりは、次第に"群像活劇"の色合いを濃くしていくという感じでしょうか(広能が結構長く刑務所に入っている期間があって、必ずしも毎回は表舞台に出てはこないということもある)。
「仁義なき戦い」('73年)

 個人的には、配役から受ける"混乱"が、そのまま、作品の"混沌(カオス)"的雰囲気と重なりました。その他、千葉真一(第2話)、北大路 欣也(第2話・第5話)、丹波哲郎(第3話、写真のみ)、宍戸錠(第5話)といった面々も登場します。因みに第5話「完結篇」は、当初4話で終わる予定が、シリーズ続行でオマケ的に作られた作品です。

吉祥寺東映.jpg このシリーズを通しで観た「吉祥寺東映」は、当時は座席数の割には狭い映画館で、「仁義なき戦い」上映時は満席で立ち見も出る状態でした。但し、席にアルプス・スタンドのようなかなり急勾配の段差が設けられていたので、前の人が邪魔になるということはありませんでした。東宝配給の「もののけ姫」('97年)の吉祥寺地域での上映誘致を契機に、'96年7月に館名を「吉祥寺プラザ」に変えていますが、久しく行っていないけれど、今どんな感じなのか。
吉祥寺東映 1978(昭和53)年に吉祥寺駅北方面・五日市街道沿いにオープン、1996年7月~吉祥寺プラザ

「女奴隷船」(新東宝)1.jpg 菅原文太は、'60(昭和35)年の正月映画「女奴隷船」(新東宝)に26歳で主演しています。この作品は舟崎淳の「お唐さん」を基にした和風海洋アドベンチャー(?)で、これ、昭和20年初頭の時代設定なのですが(「仁義なき戦い」と大差ない)、日本女性を上海まで運んでセリにかけて売り飛ばす「お唐さん船」というものがストーリー背景となっています。

「女奴隷船」(新東宝)2.jpg菅原文太 「女奴隷船」.jpg 善玉主人公が菅原文太で(この頃は何となく的場浩司と似ている)、悪役は丹波哲郎(この人は昔からこんな感じだったんだなあと)、女優陣は新東宝のセクシー看板女優・三原葉子に、この映画を撮った小野田嘉幹監督と結婚することになる三ツ矢歌子など。

「女奴隷船」(新東宝)3.jpg 菅原文太は丹波哲郎とのアクション対決を演じたりしましたが、う~ん、スゴイ「B級」の冒険アクション&お色気映画。ダサいセットが微笑ましく、但し、東映風のミニチュア特撮を駆使したりしている努力は買えます。音楽は、東大文学部卒心理学科卒で作曲家になった渡辺宙明(1925年生まれ)です。
三原葉子/三ツ矢歌子

女奴隷船l2.jpg 丹波哲郎の海賊の統領役はあまりに漫画チックで笑女奴隷船 1シーン.jpgえますが(洋画の影響?)、これでも作品全体としては新東宝作品群の中では相対的にみてゴージャスな方女奴隷船il2.jpgと言ってよく(この作品は'60年の新東宝のお正月映画であり、新東宝は翌'61年に倒産する)、三原葉子三原葉子のベリーダンス.jpgベリーダンスもどきの踊り(これも洋画の影響?)が見ることができるなど、「珍品」的意味合いで星1個オマケという感じ大井武蔵野館 閉館日2.jpg大井武蔵野館 閉館日22.jpgでしょうか(大井武蔵野館って変わった作品を上映していた)。
大井武蔵野館 1999(平成11)年1月31日閉館

 菅原文太は、新東宝の経営が倒産して東映に移籍してからは10年間くらい「雌伏の時」がありましたが(というと聞こえはいいが、セリフさえない端役時代が長らくあった)、やがて徐々に頭角を現し、この「仁義なき戦い」シリーズでブレイク、この人、東北出身ですが(井上ひさしの「吉里吉里人」の映画化権を持っている)、どうしても「仁義なき戦い」のイメージがあって「じゃけんの~」という広島弁の方が似合ってしまう役者です。

Jingi naki tatakai (1973)
Jingi naki tatakai (1973) .jpg「仁義なき戦い」1973年.jpg仁義なき戦い 1973年1月13日公開.jpg「仁義なき戦い」●制作年:1973年●監督:深作欣二●脚本:笠原和夫●撮影:吉田貞次●音楽:津島利章●原作:飯干晃一●時間:99分●出演:菅原文太/松方弘樹/田中邦衛/金子信雄/梅宮辰夫/成田三樹夫/渡瀬恒彦/曽根晴美/川地民夫/田中邦衛/名和宏/内田朝雄/伊吹吾郎/川谷拓三/中村英子/木村俊恵/渚まゆみ/内田朝雄/三上真一郎/高野真二/高宮敬二/林彰太郎/中村錦司/野口貴史/大前均/志賀勝/岩尾正隆●公開:1973/01●配給:東映●最初に観た場所:吉祥寺東映(83-07-09)(評価:★★★☆)●併映:「仁義なき戦い 広島死闘篇」/「仁義なき戦い 代理戦争」/「仁義なき戦い 頂上作戦」/「仁義なき戦い 完結篇」(何れも深作欣二)  

「女奴隷船」ポスター/スチール写真
女奴隷船 ポスター.jpg女奴隷船 スチール.jpg女奴隷船ps.jpg「女奴隷船」●制作年:1960年●監督:小野田嘉幹●製作:大蔵貢●脚本:田辺虎男●撮影:山中晋●音楽:渡辺宙明●原作:舟崎淳「お唐さん」●時間:83分●出演:菅原文太/三原葉子/三ツ矢歌子/丹波女奴隷船 vhs.jpg映画「女奴隷船」【TBSオンデマンド】_.jpg哲郎/左京路子/沢井三郎/大友純/杉山弘太郎/川部修詩/中村虎彦●公開:1960/01●配給:新東宝●最初に観た場所:大井武蔵野館(86-10-04)(評価:★★☆)●併映:「女獣」(曲谷守平)主演:菅原文太
女奴隷船 [VHS]」「映画「女奴隷船」【TBSオンデマンド】」   
        

Hiroshima shitô hen (1973)  
Hiroshima shitô hen (1973) .jpg仁義なき戦い 広島死闘篇12.jpg仁義なき戦い 広島死闘篇.jpg「仁義なき戦い 広島死闘篇」●制作年:1973年●監督:深作欣二●脚本:笠原和夫●撮影:吉田貞次●音楽:津島利章●原作:飯干晃一●時間:100分●出演:菅原文太/前田吟/松本泰郎/司裕介/金子信雄/木村俊恵/名和宏/成田Hiroshima shitô hen _.jpg三樹夫/北大路欣也/山城新伍/宇崎尚韶/笹木俊志/木谷邦臣/小池朝雄/堀正夫/遠藤辰雄/国一太郎/川谷拓三/藤沢徹夫/白仁義なき戦い 広島死闘篇 1973年4月.jpg仁義なき戦い 広島死闘篇_梶.jpg川浩二郎/千葉真一/大木晤郎/室田日出男/八名信夫/志賀勝/広瀬義宣/北川俊夫/仁義なき戦い 広島死闘篇 加藤嘉.JPG藤嘉/中村錦司/梶芽衣子●公開:1973/04●配給:東映●最初に観た場所:吉祥寺東映(83-07-09)(評価:★★★☆)
加藤嘉(大友連合会々長・大友長次)

Jingi naki tatakai:Dairi sensô (1973)
Jingi naki tatakai:Dairi sensô (1973).jpg
仁義なき戦い 代理戦争3.jpg仁義なき戦い 代理戦争dvd.jpg「仁義なき戦い 代理戦争」●制作年:1973年●監督:深作UJingi naki tatakaiDairi sensô (1973)L_.jpg欣二●脚本:笠原和夫●撮影:吉田貞次●音楽:津島利章●原作:飯干晃一●時間:102分●出演:菅原文太/小林旭/渡瀬恒彦/山城新伍/池玲子/金子信雄/木村俊恵/仁義なき戦い 代理戦争 1973年9月.jpg成田三樹夫/加藤武/山本麟一/川谷拓三/北村英三/汐路章/内田朝雄/遠藤辰雄/室田日出男/大前均/野口貴史/曽根晴美/名和宏/田中邦衛仁義なき戦い 代理戦争 丹波.jpg丹波哲郎/梅宮辰夫●公開:1973/09●配給:東映●最初に観た場所:吉祥寺東映(83-07-09)(評価:★★★☆)


Jingi naki tatakai:Chôjô sakusen (1974)
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仁義なき戦い 頂上作戦.jpg仁義なき戦い 頂上作戦 1974年1月.jpg「仁義なき戦い 頂上作戦」●制作年:1974年●監督:深作欣二●脚本:笠原和夫●撮影:吉田貞次●音楽:津島利章●原作:飯干晃一●時間:101分●出演:菅原文太/梅宮辰夫/黒沢年男/田中邦衛/小林旭/松方弘樹/堀越光恵/木村俊恵/中原早苗/渚まゆみ/金子信雄/小池朝雄/山城新伍/加藤武/夏八木勲/遠藤太津朗/内仁義なき戦い 頂上作戦 小林旭.jpg田朝雄/長谷川明男/小倉一郎/葵三津子/城恵美/八名信夫/汐路章/室田日出男/鈴木瑞穂/野口貴仁義なき戦い 頂上作戦 小林稔侍.jpg頂上作戦 渚まゆみ.jpg史/小林稔侍/岡部正純/高月忠/白川浩二郎/有川正治/●公開:1974/01●配給:東映●最初に観た場所:吉祥寺東映(83-07-09)(評価:★★★☆)
小林稔侍・岡部正純・高月忠/渚まゆみ/小林旭(中央)

Jingi naki tatakai:Kanketsu-hen (1974)
Jingi naki tatakai:Kanketsu-hen (1974) .jpg
仁義なき戦い 完結篇.jpg仁義なき戦い 完結篇 1974.jpg「仁義なき戦い 完結篇」●制作年:1974年●監督:深作欣二●脚本:高田宏治●撮影:吉田貞次●音楽:津島利章●原作:飯干晃一●時間:98分●出演:菅原文太/伊吹吾郎/野口貴史/寺田誠/桜木健一/松方弘樹/唐沢民賢/白川浩三郎/小林旭/北大路欣也/西田良/曽根晴美/成瀬正孝/宍戸錠/山田吾一/誠直也/織本順吉/高並功/八名信夫/山城新伍/木谷邦臣/田中邦衛/国一太郎/川谷拓三/金子信雄/岩尾正隆/鈴木康弘/天津敏/内田朝雄/野川由美子/藤浩子/中原早苗/橘麻紀/賀川雪絵●公開:1974/06●配給:東映●最初に観た場所:吉祥寺東映(83-07-09)(評価:★★★☆)

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下された判決に過ちがあったのではないか。死刑事件の真相を元裁判官が追っているだけに重い。

司法殺人 元裁判官が問う歪んだ死刑判決.jpg司法殺人 元裁判官が問う歪んだ死刑判決青春の殺人者  dvd.jpg青春の殺人者 デラックス版 [DVD]

 元裁判官である弁護士によって書かれた本書によれば、わが国で冤罪事件が後を絶たないのは、所謂「自白の呪縛」のためばかりではなく、日本の司法の特徴的な面が関わっており、それは、「日本の裁判官は、冤罪危険覚悟で有罪判決を下している」ためであるとのことです。

 日本の職業裁判官は、冤罪の危険領域を知りつつ、それでもなお自分の判断能力を頼りに、薄皮一枚を剥ぐように、或いは薄氷を踏むような思いで有罪・無罪を見極めようとしている、つまり一種の賭けをしているわけであって、そうやって死刑判決さえ出していると―。蓋然性のレベルであっても敢えて「無理に無理を重ねて」死刑判決を下すことがあるから、その内の一部が冤罪になるのは当然と言えば当然と言えると(賭けに全部勝つことはできないのだから)。

 本書では、こうした問題意識を前提に、死刑判決が出されているが冤罪が疑われる案件、有罪らしいが冤罪の主張がなされたことが影響して死刑判決となったと思われる案件、無罪判決が下された後に被告人が同種の猟奇殺人を起こした案件の3つを取り上げて、それぞれの事件及び裁判を、担当した弁護士へのインタビューなども含め検証しています。

 第1章では、'88(昭和63年)に起きた「横浜・鶴見の夫婦強殺事件」が扱われていて、第一発見者に死刑判決が出されたこの事件は、既に最高裁で被告人の死刑が確定し、現在、再審請求中であるとのことです。
著者は、裁判で犯人と第一発見者を区別することがいかに難しいかを説明しつつ、この事件の記録を様々な角度から詳細に検証した結果、被告人を犯人であると断定する確定的な証拠はないのではないか、即ち、証拠上は有罪とすることができないのではないかとし、権力機構の一員としての職業裁判官の思考方法がそこに影を落としているとしています。

司法殺人 元裁判官が問う歪んだ死刑判決2.jpg 第2章では、'74(昭和49年)に起きた「千葉・市原の両親殺し事件」が扱われていて、当件は、中上健次の小説『蛇淫』や、長谷川和彦の第1回監督作「青春の殺人者」('76年/ATG)のモデルになった事件で、ある家の22歳の長男が、女性との付き合いを両親に反対され、両親を登山ナイフでめった突きにして殺害した(とみなされた)事件。被告人は公判で「父は母により殺され、母は第三者により殺された」と冤罪を主張をしましたが、捜査中の自白の中に「秘密の暴露」(被疑者が真犯人でしか知るはずのない事項を自白すること)があったことが重視され、最高裁で死刑が確定し、こちらも再審請求中。

「青春の殺人者」撮影の合間に談笑する水谷豊、原田美枝子、長谷川和彦、中上健次(本書より)

 著者はこの案件が冤罪である可能性は低いとしながらも、ほぼ同時期に起きた「金属バット両親殺害事件」で懲役13年の刑が宣告されていることと比較し、被告が冤罪を主張したことで、家庭内のいざこざに起因する同類の事件でありながら、量刑にこれだけの差が出たのではないか、このような量刑の決め方は、「被告人が無罪を主張したから(国家権力に反抗したから)、それで死刑にしてしまう」というのと同じではないかとし、判決に疑問を投げかけています。

 第3章では、'68(昭和43)年から'74(昭和49)年にかけて断続発生した、女性を暴行殺害し放火する手口の「首都圏連続女性殺人事件」が扱われていて、容疑者として逮捕された中年男性は、東京地裁で死刑の判決を受けたものの、東京高裁では、逮捕後の過酷な取調べが問題視され、自白の任意性が否定されて無罪とされ、検察も上告を断念し、逮捕から17年目にして無罪確定したという案件。被告人は冤罪犠牲者としてマスコミの注目を浴びますが、その5年後に女児殺人未遂で逮捕され、更に被告人の住む団地1階の庭から成人女性の頭部が見つかり、部屋の冷蔵庫から女性の身体の一部が出て、駐車場からは首なし焼死体が発見され、この猟奇事件の犯人として無期懲役が確定しています。
 一事不再理の原則により、「首都圏連続女性殺人事件」を無罪とした東京高裁判決が正しかったかどうかは永遠の闇へと追いやられてしまうのですが、17年間裁判で争ってきた被告人の弁護人自身が、著者のインタビューに答えて、無罪判決は客観的に見れば誤判であったと言わざるを得ないと述懐しています。

 下された判決に過ちがあったのではないか―死刑事件の真相を元裁判官が追っているだけに重く、実際いずれも考えさせられる判決ですが、個人的には、3番目の事件で著者が、「疑わしきは罰せず」は良くも悪しくも「灰色無罪」という考え方に通じるもので、必ずしも真っ白だから無罪というわけではなく、そのあたり「疑わしきは罰せず」と無実とは区別すべきであるとしているのが印象に残りました(この事件の高裁裁判官は、"消極無罪"で対応すべきところを、被告の17年間の拘留を労うなど"積極無罪"と取れる発言をしたとのこと。まあ、裁判官の心証としても"真っ白"だったんだろなあ)。

青春の殺人者 チラシ.jpg 論理の枠組みがしっかりしているだけでなく、文章も上手。2番目の「千葉・市原の両親殺し事件」については、事件の時代背景を描き出すのと併せて、長谷川和彦監督の「青春の殺人者」('76年)について思い入れを込めて描写していますが(著者は1959年生まれとのこと)、一方で、この映画により「青春の殺人者」のイメージの方が事件の裁判よりも先行して定着してしまったとするとともに、事件―原作―映画の3つの違いを整理しています。

 それによると、事件は市川市で起きたわけですが、この事件から着想を得た中上健次は舞台を自らの故郷に置き換え、リアリティとは無関係にひたすら感覚的に自身に引き寄せて、「路地」(被差別部落)の一面を切り取ったような情念の物語にしていると。実際の原の両親殺し事件の犯人は、千葉県屈指の進学校を卒業した若者で、大学受援に失敗して父親の出資でドライブインをやっていましたが、水準以上の知能の都会的青年だったとのことです。

青春の殺人者0.jpg 一方、実際に事件を取材した長谷川和彦監督は、事件と同じく舞台を都市近郊に戻し、その他の部分でも警察発表等に沿って事件の背景や経過をなぞるとともに、主役にTVドラマ「傷だらけの天使」で本格デビューして人気の出た水谷豊(当時22歳で事件の被告とほぼ同年齢)を起用することで、原作の土着的ムードを払拭するなど、より実際の事件に引き付けて映画を撮っているようです(タイトルバックでは「原作:中上健次『蛇淫』より」となっていたと思う)。

青春の殺人者03.jpg 著者によれば、映画と実際の事件で大きく違うところは、主人公が父親に交際を反対された相手女性(原田美枝子(当時17歳)が演じた)が主人公の幼馴染みになっている点と(実際は風俗嬢であり内縁の夫がいた)、事件では本人が裁判で冤罪を主張した点であるとのことで、映画は主人公が「殺人者」であることが前提となっているため、今の時代であれば人権侵害で問題になっているだろうと(一審死刑判決が出たのは事件の10年後で、裁判中は推定無罪の原則の適用となるため)。実際、裁判で被告は、この映画のイメージの世間への影響について言及し、自分は「青春の殺人者」ではないという訴え方をしたようです。

青春の殺人者2.jpg この「青春の殺人者」については、個人的にはやはりどろっとした感じで馴染みにくさがありましたが、今また観ると、長谷川和彦監の演出はいかにも70年代という感じで、むしろノスタルジー効果を醸し、主人公である息子が父親を殺したことを知って、どうやっ青春の殺人者 原田美枝子.jpgて死体を隠そうかオタオタするうちに、それを見かねた主人公に殺されてしまう母親役(映画では近親相姦的に描かれている)の市原悦子の演技が秀逸、そもそも出ている役者がそう多くはないけれど、主役の若い2人を除いて、脇は皆上手い人ばかりだったなあと。水谷豊には「バンパイヤ」など子役時代もあったはずだが、この作品での演技は今一つ(滑舌はいいが、良すぎて演劇っぽい)、撮影時17歳の原田美枝子は、この時点では演技力よりボディか(しかしながら、水谷豊、原田美枝子ともそれぞれキネマ旬報の主演男優賞・主演女優賞を受賞している)。

長谷川和彦.jpg 長谷川和彦監督(当時30歳)は、この監督デビュー作で'76年の「キネマ旬報ベスト・テン」日本映画ベスト・ワンに輝いていますが、そもそもピンク映画のようなものも含めたシナリオ書きだった彼のところへ、自身の監督作を撮らないかと持ちかけたのはATGの方で、最初はそんなお堅い映画は撮れませんと断ったところを、好きに撮っていいからとプロデューサーに口説かれて撮ったのがこの作品だったとか。

 この人も東大中退のインテリなんだけど(アメリカンフットボール部の主将だった)、この作品の後「太陽を盗んだ男」('79年/東宝)を撮っただけで、それから監督作が全く無いという―どうしたんだろなあ。「青春の殺人者」がキネマ旬報ベスト・テン第1位に選ばれた際に、長谷川和彦監督自身は「他にいい作品がなかったからでしょう。1位、2位、3位、4位なしの5番目の1位でしょう。そう思っています」と言っており、この謙虚さは、これからもっとすごい作品をばんばん撮るぞという意欲の裏返しだと思ったのだが...。

青春の殺人者(長谷川和彦).jpg「青春の殺人者」●制作年:1976年●監督:長谷川和彦●製作:今村昌平/大塚和●脚本:田村孟●撮影:鈴木達夫●音楽:ゴダイゴ●原作:中上健次●時間:132分●出演:水谷豊/内田良平/市原悦子/原田美枝子/白川和子/江藤潤/桃井かおり/地井武男/高山千草/三戸部スエ●公開:1976/10●配給:ATG(評価:★★★☆)

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藤田敏八監督の創作活動において、象徴的なポジショニングにある作品と言えるかも。

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八月の濡れた砂 [DVD]」「日活100周年邦画クラシック GREAT20 八月の濡れた砂 HDリマスター版 [DVD]  

八月の濡れた砂 タイトル.jpg 夏の朝の海岸で、西本八月の濡れた1.jpg清(広瀬昌助)は、大学生らに襲われ置き去りにされた少女・三原早苗(テレサ野田)を救い出すが、少女の姉の三原真紀(藤田みどり)に自分が妹を襲ったと疑われてカ「八月の濡れた砂」02.jpgッとなり、真紀を襲う。一方、西本の同級生の友人で、高校がいやで退学した野上健一郎(村野武範)は、秀才の川村修司(中沢治夫)がプラトニックな交際をしていた稲垣和子(隅田和世)に悪戯をしたことを言い、川村はその悔しさから和子を呼び出して襲い、それによって和子は自殺する―。
 西本、野上、早苗らはつるんで行動するようになり、身勝手な大人たちに反逆していきますが、それは苛立ちや焦燥感からくるものであって、何か自分たちに確たる目的があっての反抗ではありません。

八月4.bmp 藤田敏八(1932-1997)監督の'71年作品で、'71年と言えば大学紛争が後退を余儀なくされた直後であり、目標を失った当時の若者のシラけた雰囲気をよく伝えている作品とされています。但し、その時代にその世代に達していないと、観てもぴんとこない部分もあるかも。散文詩的な作り方を織り交ぜたりしているので、随所に見られる抒情的な映像イメージは印象に残りましたがストーリーが繋がりにくく、湘南を舞台にした青春映画なのに何だか暗いなあとか、ど「八月の濡れた砂」03.jpgうしてこの若者たちはこんなことばかりしているのかとか、初めて観たときはそんな感じで、後で観直してみて、あぁ、70年代の閉塞感ってこんな感じかという印象を改めて受けました。
hatigatu.jpg 今観るとレトロ感に溢れた作品であり、藤田みどり、テレサ野田、隅田和世といった女優陣そのものにノスタルジーを感じますが、広瀬昌助(この人、亡くなったなあ。沖雅也が当初の主演予定だったが、バイク事故のため急きょ広瀬昌助に代わった。予告スチールには沖雅也が映っている)はともかくとして、村野武範などはデビューしたてでこの時すでに26歳、高校生にも不良にも見えないのがやや難点で、翌年にはNTV系の青春ドラマ「飛び出せ!青春」の教師役におさまっています。

八月3.jpg 音楽にメイン・テーマと主題歌があって、BGMのようなムーディ・ポップス調のメイン・テーマに対して、当時19歳の「石川セリ」が歌う主題歌「八月の濡れた砂」(この映画主題歌がデビュー曲で、レコード・デビューは翌年)の方は演歌みたいだなあと思っていたら、後に「石川さゆり」がカバーしています(テーマと主題歌のどちらも映画に合っている。要するにポップス調も演歌調もフィットしてしまう、そういう映画なのかも)。

八月5.bmp 日活がロマンポルノに路線変更する前の青春映画路線の最後の作品ですが、石原慎太郎原作・石原裕次郎主演の往年の青春映画「狂った果実」('56年/日活)を意識してたようなカメラ撮りがあったりする一方で、内容的にはもうこの頃はヤクザが出てきたりレイプシーンがあったりして、かなりB級色が強くなっているように思います。
   
赤い鳥逃げた? 藤田 dvd.jpgエロスは甘き香り 藤田 dvd.jpg 藤田敏八監督はその後も、原田芳雄、桃井かおり主演の焦燥感に苛まれている28歳の青年・坂東宏(原田芳雄)を主人公とした「赤い鳥逃げた?」('73年)などを撮っていますが、これは東宝映画。同じ年に日活では、桃井かおり主演で「エロスは甘き香り」('73年)を撮っており、秋吉久美子主演の「赤ちょうちん」('74年)や「妹」('74年)も日活映画、更には江藤潤、永島敏行主演の「帰らざる日々」('78年)も日活です。「エロスは甘き香り」などは日活ロマンポルノ作品ということになっているみたいですが、これも確かに桃井かおりも伊佐山ひろ子も川村真樹も皆ヌードになっていますが、話の中身的には青春映画であり、オーソドックスにポルノ映画と言えるものは(オーソドックスにポルノって何?)藤田敏八監督は撮っていないのではないかという気がします。
           
「ツィゴイネルワイゼン」.jpgツィゴイネルワイゼン1.jpg この監督の映画人としてのデビューは、三島由紀夫原作・蔵原惟繕監督「愛の渇き」('67年)における脚本担当でしたが、この人は結局、70年安保の挫折感とその後の虚無感を描いた映画を10年近く撮り続けたという感じがします(鈴木清順監督藤田敏八  .jpgの「ツィゴイネルワイゼン」('80年)に出演してからは、役者として活躍していた記憶の方が個人的には強い)。

藤田敏八&大谷直子 in「ツィゴイネルワイゼン」 

「八月の濡れた砂」.bmp隅田和世.jpg 藤田敏八監督の創作活動において、また「70年代的雰囲気」の映画として、この「八月の濡れた砂」という作品は、象徴的かつ代表的なポジショニングにある作品と言えるかもしれません。 

隅田 和世

            

 「八月の濡れた砂」●制作年:1971年●監督:藤田敏八●脚本:藤田敏八/峰尾基三/大和屋竺●撮影:萩原憲治●音楽:むつひろし(主題歌:「八月の濡れた八月1.jpg砂」(作詞:吉岡治/作曲:むつひろし/歌:石川セリ))●時間:91分●出演:広瀬昌助/村野武範/剛たつひと/赤沢直人/隅田和世/藤田みどり/テレサ野田/三田村元/八木昌子/奈良あけみ/渡辺文雄/地井武男/新井麗子/牧まさみ/原田芳雄/山谷初石川セリ.jpg男/藤田みどり/中沢治夫/英原穣二/野村隆/赤塚直人/原田千枝子/新井麗子/重盛輝江/田畑善彦/溝口拳/中平哲仟/市村博/大浜詩郎/木村英幸/野村隆/長浜鉄平/小島克巳/衣あけみ/光でんすけ/ザ・ハーフ・ブリード●公開:1971/08●配給:ダイニチ映配●最初に観た場ギンレイホール.jpg飯田橋ギンレイホール内.jpg所:飯田橋ギンレイホール(79-05-23)(評価:★★★☆)●併映:「赤い鳥逃げた?」(藤田敏八)/「帰らざる日々」(藤田敏八) 飯田橋ギンレイホール 1974年1月3日オープン
 
「赤い鳥逃げた?」●制作年:1973年●監督:藤田敏八●製作:奥田喜久丸●脚本:藤田敏八/ジェームス三木●撮影:鈴木達夫●音楽:樋口康雄(主題歌:「赤い鳥逃げた?」(作詞:福田みずほ/作曲:樋口康雄/歌:安田南)●時間:98分●出演:原田芳雄/大門正明/桃井かおり/白川和子/内田朝雄/穂積隆赤い鳥逃げた? 1973 1.jpg赤い鳥逃げた? 1973 3.jpg信/殿山泰司/地井武男/佐原健二/江波多寛児/青木義朗/阿藤海/戸浦六宏/加村赳雄/山谷初男/広瀬正一/大出洋行/古山桂治●公開:1973/02●配給:東宝●最初に観た場所:飯田橋ギンレイホール(79-05-23)(評価:★★★)●併映:「八月の濡れた砂」(藤田敏八)/「帰らざる日々」(藤田敏八) 

エロスは甘き香り vhs.jpgエロスは甘き香り 1973   .jpeg「エロスは甘き香り」●制作年:1973年●監督:藤田敏八●脚本:大和屋竺●撮影:萩原憲治●音楽:樋口康雄●時間:98分●出演:桃井かおり/伊佐山ひろ子/川村真樹/高橋長英/山谷初男
年男/五条博/谷本一/橘田良江●公開:1973/03●配給:日活●最初に観た場所:池袋文芸地下(79-11-25)(評価:★★☆)●併映:「あらかじめ失われた恋人たちよ」(清水 邦夫/田原 総一朗)
 

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純粋トリックから心理トリックへ。意外と乾いた感じの初期作品。

心理試験 復刻版.gif心理試験 春陽堂文庫.jpg     屋根裏の散歩者 文庫.jpg  江戸川乱歩猟奇館/屋根裏の散歩者(1976).jpg VHSカバー
心理試験 (1952年) (春陽文庫)』『江戸川乱歩全集 第1巻 屋根裏の散歩者 (光文社文庫)』 映画「江戸川乱歩猟奇館 屋根裏の散歩者」(1976/06 日活) 石橋蓮司・宮下順子主演
心理試験 (創作探偵小説集)』 ['93年/復刻版]

 蕗屋清一郎は下宿屋を営む老婆の貯めた大金を狙って彼女を絞殺するが、犯人として挙げられたのは蕗屋の同級生・斎藤勇だった。しかし、事件に疑問を抱いた笠森判事は、蕗屋を召還て斉藤と共に「心理試験」を受けさせることにし、一方、蕗屋はその心理試験に備えて万全の応答を準備する―。

 江戸川乱歩(1895-1965)の「心理試験」(1925(大正14)年2月に雑誌「新青年」に発表)を最初に読んだのは、春陽文庫の「江戸川乱歩名作集7」('52年3月初版)で、他に「二銭銅貨」「二癈人」「一枚の切符」「百面相役者」「ざくろ」「芋虫」の6編を所収していますが('87年の改版版も同じラインアップ)、やはり「心理試験」のインパクトが一番で、「D坂の殺人事件」に続いての素人探偵・明智小五郎の"試験分析"が鮮やかです。

 『心理試験』の単行本は、1924(大正14)年7月の刊行で、「創作探偵小説集1」として'93年に春陽堂書店から復刻刊行されています(「二銭銅貨」「D坂殺人事件」「黒手組」「一枚の切符」「二廃人」「双生児」「日記帳」「算盤が恋を語る話」「恐ろしき錯誤」「赤い部屋」の10編を所収)。個人的には、高校生の時に読んだ春陽文庫に思い入れがありますが、今読むならば、光文社文庫の『屋根裏の散歩者―江戸川乱歩全集1』('04年7月刊)が読み易いかも。

 光文社文庫版は初期作品21編を収め、「二銭銅貨」「一枚の切符」「恐ろしき錯誤」「二癈人」「双生児」「D坂の殺人事件」「心理試験」...といった具合に発表順に並べられており、それぞれの作品に、作者自身が全集などに所収する際に書いた自作解説が添えられており(「心理試験」がドストエフスキーの「罪と罰」の中のラスコーリニコフの老婆殺しから示唆を得ていることを、この解説で始めて知った)、作者の自作に対する評価がなかなか興味深いです(「D坂」「心理試験」「屋根裏の散歩者」は、本人評価も良いみたい)。

 こうして見ると、初期作品(1923‐25年の間に発表されたもの)の中でも最初の数編は洋物推理的な純粋トリックが主体で、「D坂」あたりから、次第に人間心理的な要素が推理に織り込まれてくるようになったことが窺えますが、何れも乾いた感じのものが多いように思えます(春陽文庫版の「ざくろ」「芋虫」は、それぞれ'34年、'29年の発表作)。

屋根裏の散歩者 映画.jpg 光文社文庫版の表題作「屋根裏の散歩者」(1925(大正14)年8月に「新青年」に発表)は、'70年、'76年、'94年、'07年の4度映画化されており、田中登監督、石橋蓮司・宮下順子主演の映画化作品「江戸川乱歩猟奇館 屋根裏の散歩者」('76年/日活)を観ましたが、映画はエロチックな作りになっているように思いました。原作は、女の自慢話する男を嫌った主人公が、単に犯罪の愉しみのために、天井裏から毒薬を垂らして男の殺害を謀るもので、エロチックな要素はありません。この作品の事件も明智小五郎が解決しますが、その言動にもどこか剽軽で乾いたところがあります。因みに、この天井裏から毒薬を垂らす殺害方法は、映画「007は二度死ぬ」('67年/英)で採用されており、これによって若林映(あき)子が演じる公安エージェントのアキは殺害されてしまいます。
 
江戸川乱歩猟奇館/屋根裏の散歩者(1976).jpg屋根裏の散歩者 01.jpg 映画がどろっとした感じになっているのは、「人間椅子」(1925年発表)の要素を織り込んでいるためですが("人間椅子"になって喜ぶ下僕が出てくる)、「人間椅子」の原作には実は空想譚だったというオチがあり、乱歩の初期作品には、実現可能性を考慮して、結構こうした作りになっているものが多いのです。江戸川乱歩猟奇館 屋根裏の散歩者   .jpg映画には、「乱歩=猟奇的」といったイメージがアプリオリに介在しているように思えました。宮下順子演じる美那子と逢引するピエロの話も、関東大震災の話(まさに"驚天動地"の結末)も原作には無い話です。自分が最初に観た時も、宮下順子の「ピエロ~、ピエロ~」という喘ぎ声に館内から思わず笑いが起きたくらいで、今日においてはカルト的作品であると言えばそう言えるかもしれません。

江戸川乱歩猟奇館 屋根裏の散歩者 米.jpg「江戸川乱歩猟奇館 屋根裏の散歩者」●制作年:1976年●監督:江戸川乱歩猟奇館 屋根裏の散歩者 dvd .jpg田中登●製作:結城良煕/伊地智●脚本:いどあきお●撮影:森勝●音楽:蓼科二郎●原作:江戸川乱歩「屋根裏の散歩者」●時間:76分●●出演:石橋蓮司/宮下順子/長弘/織田俊彦/渡辺とく子/八代康二/田島はるか/中島葵/夢村四郎●公開:1976/06●配給:日活●最初に観た場所:池袋文芸地下(82-11-14)(評価:★★★)●併映:「犯された白衣」(若松孝二) 北米版DVD
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 「心理試験」...【1952年文庫化・1987年改版版[春陽文庫・江戸川乱歩文庫]/1960年再文庫化[新潮文庫(『江戸川乱歩傑作選』)]/1971年再文庫化[講談社文庫(『二銭銅貨・パノラマ島奇談』)]/1973年再文庫化[角川文庫(『黄金仮面』)]/1984年再文庫化[創元推理文庫(『日本探偵小説全集2』)]/1987年再文庫化[江戸川乱歩推理文庫(講談社)(『二銭銅貨』)]/2004年再文庫化[光文社文庫(『江戸川乱歩全集 第1巻 屋根裏の散歩者』)]/2008年再文庫化[岩波文庫(『江戸川乱歩短篇集』)]】

【読書MEMO】
二銭銅貨[『新青年』1923.04]/一枚の切符[『新青年』1923.07]/恐ろしき錯誤[『新青年』1923.11]/二癈人(二廃人)[『新青年』1924.06]/双生児[『新青年』1924.10]/D坂の殺人事件[『新青年』1925.01]/心理試験[『新青年』1925.02]/屋根裏の散歩者[『新青年』1925.08]/人間椅子[『苦楽』1925.10]
 

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「ブルジョア作家」志賀直哉にリアリズム表現を学んだ小林多喜二。

映画「小林多喜二」.png蟹工船 1929.jpg  蟹工船・党生活者 文庫旧版.jpg蟹工船、党生活者.jpg     
1929(昭和4)年9月戦旗社(ほるぷ出版・復刻版) 『蟹工船・党生活者 (新潮文庫)』 [旧版/'08年新装版]

映画「小林多喜二」 パンフレット (山本圭/中野良子)

 非正規雇用の増大とそれに伴うワーキングプア問題を背景に'08年は「『蟹工船』ブーム」の年となり、新潮文庫版だけで50万部以上のベストセラーになったとのことで、文庫出版の関係会社勤務の知人の話では、このブームのお陰で会社業績を持ち直したとか。自分も新潮文庫の新版を購入して久しぶりに読み直してみましたが、まず活字が大きくなっていることが目につき、かなり読み易くなったように思います。

 1929(昭和4)年発表の「蟹工船」は小林多喜二(1903‐1933/享年29)がプロレタリア文芸誌「戦旗」に発表したもので、カムチャッカ沖でのカニ操漁とその缶詰加工に携わる漁夫らの過酷な労働の実態および監督者に対する蜂起と挫折が描かれています。労働者のための啓蒙書、ストライキ活動(サボタージュ)のテキストのように読める面もある一方、蟹工船の航海や船内の模様が実に生き生きと描かれていてシズル感があり、その筆力は、画家を目指す漁師を描いた有島武郎の「生れ出づる悩み」('18年)や、船員経験のあった葉山嘉樹の「海に生くる人々」('26年)などのそれを凌駕しているように思いました。

志賀直哉 .jpg 小林多喜二はこの小説により発表の同年には勤務先の北海道拓殖銀行を辞め、翌'30年には不敬罪で逮捕・起訴され'31年には共産党に入党していますが、入党直後に志賀直哉(1883‐1971)の奈良の自邸を訪ね、創作の指導を仰いでいます。徳永直.png当時プロレタリア文学作家というのは結構な数がいて、「戦旗」で活躍した作家には徳永直(1899‐1958)などもいますが、今世紀になっても圧倒的に読まれ続けているのが、ブルジョア作家と言われた志賀直哉にリアリズム表現を学んだ小林多喜二であるというのが興味深いです(志賀直哉には労働者シンパだった時期があり、それが原因で資本家の父との間に確執が生じた)。

 小林多喜二は、「戦旗」の中心メンバーだった蔵原惟人(1902-1991)の「プロレタリア・レアリズム」の考えを最も忠実に具現化した作家であり、「真実」を愛する文学者は「前衛」(=共産党員)でなければならないという考え方を優等生的に実践したように思え、1932(昭和7)年発表の「党生活者」における党のための自らを犠牲にして生きる主人公は、その極致であるように思えます。

 エスピオナージ小説と似た感じでも読めるこの作品は、実際この小説の発表の翌年に小林多喜二が特高警察のスパイによって捕まり虐殺されているだけに緊迫感があり、一方で、仲間と連絡を取り合う際に"雑談"もせず事務的に事を済ますやり方に主人公が欲求不満になっているのは多喜二自身の心境だったのでしょう(もし多喜二が長生きすれば、当時の蔵原惟人の特異な思想から離れていったのではないか)。

「小林多喜二」.bmp「小林多喜二」映画1シーン.jpg  「党生活者」の内容は殆ど小林多喜二が自らが体験したことに基づくものと思われ(この小説は、小林多喜二が執筆過程において逮捕され虐殺死したため、前編で終わっている)、今井正(1912‐1991)監督の映画「小林多喜二」('74年/多喜二プロダクション)は、この「党生活者」をかなりの部分において下敷きにして作られていたように思います。

映画「小林多喜二」チラシ/スチール(山本圭/中野良子)


多喜二文学碑l.jpg 小説の中では特高警察の眼を逃れるため同志の女性の家に匿って貰っていたようになっていますが、映画では、通っていた廓の薄幸の酌婦・田口タキ(当時17歳)を足抜けさせて内縁の妻にした作りとなっていて、これは実際にあったことですが、但しその頃は多喜二はまだ拓銀に勤めていたわけであり、特高警察に本格マークされる前のことと思われます。映画は、室内シーンなどにおいて、周辺の照明を抑えスポットライトを当てたような映像で、時代のムードを旨く醸し出していた佳作でしたが、映画の最後に、小林多喜二の文学碑の建立に、思想的立場の全く異なる伊藤整が尽力したことが紹介されていました。伊藤整は小樽高商(現小樽商大)の1学年後輩でした。因みに、先に述べた志賀直哉も、多喜二の文学碑建立の発起人に名を連ねています。

「小林多喜二文学碑」(小樽市)

映画 蟹工船.jpg 尚、多喜二の生涯を描いた映像化作品では、池田博穂監督のドキュメンタリー映画「時代(とき)を撃て・多喜二」('08年)や、北海道放送のTVドキュメンタリー「いのちの記憶-小林多喜二・二十九年の人生」('08年)などがあり、また「蟹工船」そのものも、'53年に俳優の山村聡が監督している作品がある外、'09年に再度の映画化が予定されているようです。

映画「蟹工船」 ポスター(山村聡:監督)
 

小林 多喜二.jpg芥川龍之介.gif 小林多喜二は1930年に上京してからは、芥川龍之介(1892‐1927)を真似した髪形にしていたそうですが(前年に東大生だった宮本顕治が芥川龍之介を批判した「敗北の文学」を発表しているのだが)、女性にはかなりモテたようで、また、普段から冗談で周囲を笑わすことの多い人柄だったとのこと、この重い雰囲気の両作品にも、随所にユーモラスな表現が見受けられます。
小林多喜二(左)/芥川龍之介(右)

小林多喜二 映画.jpg「小林多喜二」●制作年:1974年●監督:今井正●製作:伊藤武郎/内山義今井正監督「小林多喜二」.jpg重●脚本:主題歌 屍をつみかさねなば  EP .jpg勝山俊介●撮影:中尾駿一郎●音楽:いずみたく●時間:119分●出演:山本圭/中野良子/森幹太/北林谷栄/南清貴/佐藤オリエ/森居利昭/富士真奈美/津田京子/杉山とく子/寺田誠/滝田裕介/長山藍子/下絛正巳/地井武男●公開:1974/02●配給:多喜二プロダクション(評価:★★★★)
映画チラシ「小林多喜二」監督 今井正 出演 山本圭、中野良子/映画 小林多喜二 主題歌 横内正 [屍をつみかさねなば]

【1953年文庫化・2003年改版・2008年新装版[新潮文庫]/1954年再文庫化・1968年改版・2008年新装版[角川文庫]/1967年再文庫化・2003年改版[岩波文庫(『蟹工船、一九二八・三・一五』)]/1973年再文庫[講談社文庫]】

《読書MEMO》
●「蟹工船」...1929(昭和4)年 ★★★★☆
●「党生活者」...1932(昭和7)年 ★★★★

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寺山色が薄まった「サード」、寺山と羽仁進とのコラボがうまくいっていない「初恋・地獄変」。

サード ちらし.jpgサード.jpg 帰らざる日々.jpg 桃尻娘 竹田かほり.jpg 初恋・地獄篇.jpg
サード [DVD]」/ 「帰らざる日々 [DVD]」/ 「ピンクヒップガール 桃尻娘 [DVD]」 /「初恋・地獄篇 [DVD]
「サード」チラシ

サード4.jpgサード 78.jpg 「サード」('78年3月/ATG)は、少年院にいる"サード"という少年の、大人達から浮ついた励ましの言葉をかけられたところで決して満たされることのない鬱々とした日々を描いた作品。彼は元々、「大きな町へ行く」ことを夢見る高校生男女の4人組の1人で、資金稼ぎに始めた売春がもとで事件を起こし少年院へ送られてきたのだった―。

サード3.jpgサード  .jpg 寺山修司(1935‐1983)の脚本で(原作は軒上泊の「九月の町」)ATG映画の中でも評価の高い作品ですが(第52回キネマ旬報ベスト・テン第1位)、その脚本をまた撮影段階で大幅に変更したとのことで、寺山修司自身が監督した作品と比べれば当然ですが、この作品単体で見ても寺山の色をあまり感じませんでした。

サード1.jpg ただ、"オシ"という無口な少年をはじめ、"トベチン"、"アキラ"、"漢字"、脱走を試みる"ⅡB"といった少年達は皆、自閉的ながらもユニークで、こういうキャラは寺山の半自伝的作品にもあったかも(そう言えば"短歌"と呼ばれている少年もいた)。

 野球少年だったサードはひたすらホームベースの見えないグランドをぐるぐる走り続ける―ちょっとアラン・シリトーの『長距離走者の孤独』を想い出しますが、少年院の大人達に対するサード達の抵抗は、教育会で講師が語っているときにオナラをしたり、褒め言葉に対して暴言で返したりする程度で、ボランティアで慰問に訪れた女の子を暴行するのは、彼らの夢想の世界でのことでしかなく、今観れば、ああ、ここにも70年代の"閉塞感"があるなあと...。

永島敏行ド.jpgサード2.jpg 永島敏行(1956年生まれ。現在、俳優兼「農業コンサルタント」?)は、この作品が映画初出演でしたが、演技はそれほど悪くないけれども良くもないと言うか、あまり陰が感じられず、同年に主演した藤田敏八(1932‐1997/享年65)監督の「帰らざる日々」('78年8月/日活)でのキャバレーのボーイをしながら作家を志している青年役の方が、まだ演技らしい演技だったかも。  

森下愛子.jpgサード1978年森下.jpg 「サード」は、主人公を演じた永島敏行よりも、主人公の女友達役の森下愛子(1958年生まれ、この作品が映画初出演)の陰のある演技が良く、「帰らざる日々」で主人公の青年が高校時代に思いを寄せた喫茶店のウェイトレス役の浅野真弓(1957年生まれ)や、中学時代の同級生役の竹田かほり(1958年生まれ、同年の「桃尻娘 ピンク・ヒップ・ガール」('78年4月/日活)が映画初主演)などの演技も良かったように思います(橋本治原作の「桃尻娘 ピンク・ヒップ・ガール」は思春期の女の子をヴィヴィッドに描いていて単純に面白かった)。
森下愛子(「サード」)            

森下愛子2.jpg サード 森下愛子.jpg   帰らざる日々2.jpg 浅野真弓.jpg
森下愛子(「サード」)                    浅野真弓(「帰らざる日々」)
帰らざる日々 竹田.jpg     竹田かほり.jpg 竹田かほり ピンク・ヒップ.jpg
竹田かほり(「帰らざる日々」)      竹田かほり(「桃尻娘 ピンク・ヒップ・ガール」)

「初恋・地獄篇」 ('68年/ATG)
初恋・地獄変2.png初恋・地獄変.gif 寺山修司は「サード」以前にも、羽仁進監督の「初恋・地獄変」('68年/ATG)の脚本を羽仁進と共同で書いていて、これは、救護院にいた少年が彫金師に引き取られて成長する様を、少年の過去と現在を交互に織り交ぜ、そこにインタビューや隠し撮りなどのドキュメンタリーの手法も入れて描いたものですが、こちらは「サード」と違って、寺山の色が薄いと言うより、どの部分が寺山修司でどの部分が(多分ゴダールの影響を受けたらしい)羽仁進の部分かということが、観ていて何となく分かってしまう―その点では、必ずしも成功したコラボだったようには思えませんでした。

 一方、「サード」の監督・東陽一の手掛けた初の劇映画は「やさしいにっぽん人」('71年/東プロ)でした(この作品は紀伊國屋ホールで観て、監督・出演者らの舞台挨拶があった)。沖縄で起きた集団自決から生き延びた赤ん坊が、そのことを何も覚えていないまま成長し、恋人や友人たちと一緒に真の「ことば」を求めて遍歴する姿を描く―という、今観るといかにも「70年代」といった感じの作品ですが、主人公・謝花(シャカ)の解放の道筋の合間に、育児ノイローゼの母親、ベトナム反戦デモなど当時の日本の世相が織り込まれ、出演陣も、河原崎長一郎、緑魔子、伊丹十三、伊藤惣一、石橋蓮司、蟹江敬三、渡辺美佐子と今観ると多彩で、「東京物語」('53年)のお婆さん・東山千栄子や、「ウルトラマン」('66-'67年)のフジ・アキコ隊員・桜井浩子も出演しています。
                
やさしいにっぽん人 dvd.jpg伊丹十三 .jpg 出演俳優の1人だった伊丹十三は、「このスタッフの無謀さに賭ける」という言葉を残していますが、当時の「時代の雰囲気」が出過ぎていて、遅れてきた世代には逆に中に入り込みにくいかも。そうしたの中で、別に説明的であるわけではなく、ただ存在として最も「時代の雰囲気」を分かり易く感じさせるのは、当時、石橋蓮司の内縁の妻だった緑魔子でしょうか(後に結婚)。東陽一監督は、「日本妖怪伝サトリ」('73年/青林舎)でも緑魔子を使っていました。 「やさしいにっぽん人 [DVD]」 2013年発売(販売元: 紀伊國屋書店)

やさしいにっぽん人7.jpgやさしいにっぽん人_o2.gif 日本妖怪伝 サトリ (1973).jpg日本妖怪伝サトリ [DVD]
「やさしいにっぽん人」映画チラシ/パンフレット表4


サード1978年.jpgサード atg.jpg「サード」●制作年:1978年●監督:東(ひがし)陽一●製作:前田勝弘●脚本:寺山修司●撮影:川上皓市●音楽:田中未知●原作:軒上泊「九月の町」●時間:103分●出演:永島敏行/吉田次昭/森下愛子/志方亜紀子/片桐夕子/峰岸徹/内藤武敏/島倉千代子/西塚肇/根飯田橋ギンレイホールes.jpgギンレイホール.jpg本豊/池田史比古/佐藤俊介●公開:1978/03●配給:ATG●最初に観た場所:飯田橋ギンレイホール(78-07-25)(評価:★★★)●併映:「祭りの準備」(黒木和雄) 飯田橋ギンレイホール 1974年1月3日オープン


「帰らざる日々」1978.jpg帰らざる日々00.jpg「帰らざる日々」●制作年:1978年●監督:藤田敏八●製作:岡田裕●脚本:藤田敏八/中岡京平●撮影:前田米造●音楽:アリス●原作:中岡京平●時間:99分●出演:江藤潤/永島敏行/朝丘雪路/根岸とし江(根岸季衣)/浅野真弓/竹田かほり/中村敦夫/中尾彬/吉行和子/小松方正/草薙幸二郎/丹波義隆/加山麗子/阿部敏郎/高品正広/深見博/日帰らざる日々takeda.jpg夏たより●公開:1978/08●配給:日活●最初に観た場所:飯田橋ギンレイホール(79-05-23)(評価:★★★☆)●併映:「八月の濡れた砂」/「赤い鳥逃げた?」(藤田敏八)

竹田かほり in「帰らざる日々」

桃尻娘 ピンク・ヒップ・ガールpf.jpg桃尻娘 ピンク・ヒップ・ガールvhs.jpg竹田かほり4.jpg「桃尻娘 ピンク・ヒップ・ガール」●制作年:1978年●監督:小原宏裕(おはらこうゆう)●製作:岡田裕●脚本:金子成人●撮影:森勝●音楽:長戸大幸●原作:橋本治「桃尻娘」●時間:87分●出演:竹田かほり/亜湖/高橋淳/野上祐二/桑崎晃男/森川麻美/清水国雄/佐々木梨里/片桐夕子/内田裕也/遠山牛/大竹智子/一谷伸江/関悦子/岸部シロー●公開:1978/04●配給:にっかつ●最初に観た場所:池袋文芸地下(79-06-03)(評価:★★★☆)●併映:「ふりむけば愛」(大林宣彦)

『初恋・地獄篇』(羽仁進監督)1.bmp『初恋・地獄篇』(羽仁進監督)2.bmp「初恋・地獄篇」●制作年:1968年●監督:羽仁進●脚本:寺山修司/羽仁進●撮影:奥村祐治●時間:107分●出演: 高橋章夫/石井くに子/満井幸治/ 福田知子/宮戸美佐子●公開:1968/05●配給:ATG●最初に観た場所:有楽町・日劇文化(80-07-17)(評価:★★☆)●併映:「書を捨てよ町へ出よう」(寺山修司)

やさしいにっぽん人.jpgやさしいにっぽん人 vhd.jpg「やさしいにっぽん人」●制作年:1971年●監督:東陽一●製作:高木隆太郎●脚本:東陽一/前田勝弘●撮影:池田伝一●音楽:東陽一/田山雅光●時間:112分●出演:河原崎長一郎/緑魔子/伊丹十三/伊藤惣一/石橋蓮司/蟹江敬三/渡辺美佐子/寺田柾/横山リエ/大辻伺郎/平田守/東山千栄子/桜井浩子/秋浜悟史/陶隆司●公開:1971/03●配給:東プロ●最初に観た場所:●最初に観た場所:●最初に観た場所:新宿・紀伊國屋ホール(82-03-27)(評価:★★★☆)●併映:「日本妖怪伝サトリ」(東陽一)

竹田かほり in 探偵物語.jpg盲獣 midori .jpg 緑魔子 in「盲獣」('69年/東映)
竹田かほり in「探偵物語(TVドラマ)」(1979/09~1980/04(全27回)/TBS)

紀伊國屋書店.jpg紀伊国屋ホール.jpg紀伊國屋ホール 1964年、紀伊國屋書店本店4階にオープン。2003年、第51回菊池寛賞受賞。


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振り切ってきた過去へのノスタルジーに満ちた「祭りの準備」。大谷直子が鮮烈な「肉弾」。

祭りの準備.jpg 祭りの準備  タイトル.jpg  肉弾.jpg 肉弾 大谷直子3.jpg
祭りの準備 [DVD]」(監督:黒木和雄)          「肉弾 [DVD]」 (監督:岡本喜八)

黒木和雄.jpg中島丈博.jpg 「祭りの準備」('75年/ATG)は、昭和30年代の高知を舞台に、1人の青年がしがらみの多い土地の人間関係に圧迫されながらも巣立っていく姿を描いた青春映画で、主人公(江藤潤)が信用金庫に勤めながらシナリオライターになることを夢見ていることからも窺えるように、原作は中島丈博の自伝的小説であり、監督は'06年に亡くなった黒木和雄です。
祭りの準備 DVDカバー.jpg
黒木和雄(1930‐2006/享年75)/中島丈博

映画チラシ 黒木和雄「祭りの準備」.jpg 「青春映画」とは言え青春の真只中でこの作品を観ると、あまりにどろどろしていて結構キツいのではないかという気もしましたが、このどろどろ感が中島丈博の脚本の特色とも言えます。

 父親(ハナ肇)は女狂い、祖父(浜村純)はボケ老人、母親(馬渕晴子)は主人公の青年を溺愛し、彼は二十歳にしてそこから逃れられないでいて、心の恋人(竹下景子)も片思いの対象でしかなく、結局、男達の性欲の捌け口となっている狂った女(桂木梨江)と寝てしてしまうが、その女が妊娠したらしいことがわかる―。 映画チラシ 黒木和雄「祭りの準備」

祭りの準備00.jpg祭りの準備2.jpg 青年がシナリオを書くとセックス描写が頻出し、左翼かぶれの"心の恋人"に「労働者階級をもっときちんと描くべきで、どうしてセックスのことばかり書くの」となじられる始末。そのくせ、彼女はオルグの男性にフラれると、宿直中の青年に夜這いして来て、そこで小火(ボヤ)事件が起きてしまうという、青年同様に彼女自身、青春の混沌の中でちょっと取りとめが無い状態になっています。

祭りの準備図0.jpg こんな状況から脱したいという青年の気持ちがよく分かり、その旅立ち駅のホームで万歳して見送る、泥棒一家の次男で殺人の容疑をかけられ逃亡の身の男を演じているのが原田芳雄(1940-2011)で、冬物語2.gifいい味を出しています(この俳優を渋いなあと最初に思ったのは映画ではなくテレビで観た「冬物語」('72年~'73年/日本テレビ)というメロドラマだった。恋人役は浅丘ルリ子、ふられ役は大原麗子)。

「冬物語」('72年~'73年)浅丘ルリ子・原田芳雄

 創作の要素はあるとは言え、この「祭りの準備」という映画には、原作者(中島丈博)が過去に振り切ってきた諸々に対するノスタルジーが詰まっている感じがします(東京への"脱出"行を果たした江藤潤と、それが出来ないでいる原田芳雄という対比構造になっている)。

祭りの準備3.jpg 祭りの準備 竹下景子.jpg 祭りの準備 図1.jpg
竹下景子 (たけしたけいこ) 1953年9月15日生まれ.jpg 竹下景子(1953年生まれ、当時22歳)の映画デビュー2作目(主演級は初)で、この作品はそのヌードシーンで話題になることがありますが、主人公の青年に夜這いした際の下着姿と引き続く火事の炎の向こうにチラッと見える全裸(半裸?)姿程度で(この頃の彼女は結構コロコロ体型、よく言えばグラマラスだった)、この後清純派で売り出し、"お嫁さんにしたい女性No.1"などと言われたために以降全くスクリーン上では脱がなくなり、このシーンの付加価値が出た?

竹下景子 [上写真(in 「祭りの準備」(1975))・左写真(グラビア)]

映画「純」 横山博人 江藤潤 ポスター.jpg純 江藤潤DVD.jpg 主演の江藤潤(1951年生まれ)も、映画初主演の割には良い演技をしていたように思います。その後も、「帰らざる日々」('78年/日活)、「純」('80年/東映セントラルフィルム)などの作品に出演していますが、主演の「純」は東映出身の横山博人監督の第一回作品で、'78年4月に完成したものの、国内公開の目途の立たぬまま、翌年度のカンヌ映画祭に出品され、新人監督の登竜門「批評家週間」オープニング上映作品に選出され、以後、ロンドン、ロスアンゼルス映画祭に招待されるなど、高い評価を得ため、'80年に一般公開となったという作品。

 長崎の軍艦島から漫画家を志望して上京し、遊園地の修理工場で働いている主人公の二十歳の松岡純(江藤潤)は、恋人がいながらその手さえ握らず、通勤電車の中で痴漢行為に耽ける―漫画家を志望で軍艦島から東京に出てきたというところが、脚本家志望で高知・四万十から都会へ行こうとする「祭りの準備」の主人公と似ていますが、ラストまでのプロセスが観ていて気が滅入るくらい暗くて(痴漢行為に耽っているわけだから明るいはずはないが)、脇を固めている俳優陣は非常にリアリティのある演技をしていたものの、イマイチ自分の肌には合わなかったなあ(リアリティがあり過ぎて?)。江藤潤はやはり「祭りの準備」の彼が良かったように思います(「純」はどうして海外でウケたのだろう。外国人には痴漢が珍しいのかなあ。そんなことはないと思うが、クロード・ガニオン監督の「Keiko」('79年/ATG)でも冒頭に痴漢シーンがあった)。

大谷直子 in 「肉弾」(1968)[下写真]
『肉弾』(監督 岡本喜八)2.bmp 女優のデビュー時乃至デビュー間もない頃のスクリーン・ヌードという点では、「高校生ブルース」('70年/大映)の関根(高橋)惠子(1955年生まれ、当時15歳)、「旅の重さ」('72年/松竹)の高橋洋子(1953年生まれ、当時19歳)、「十六歳の戦争」('73年制作/'76年公開)の秋吉久美子(1954年生まれ、当時19歳)、「恋は緑の風の中」('74年/東宝)の原田美枝子(1958年生まれ、当時15歳)、「青春の門(筑豊篇)」('74年/東宝)の大竹しのぶ(1957年生まれ、当時16歳)、「はつ恋」('75年/東宝)の仁科明子(亜季子)(1953年生まれ、当時22歳)などがありますが(これらの中では、関根惠子と原田美枝子の15歳が一番若くて、仁科明子の22歳が竹下景子と並んで一番遅いということになる)、個人的には、'05年に亡くなった岡本喜八監督の「肉弾」('68年/ATG)の大谷直子(1950年生まれ、当時17歳)が鮮烈でした。

nikudann vhs.jpg肉弾3.jpg肉弾 寺田農.jpg この「肉弾」という作品は、特攻隊員(寺田農)を主人公に据え(「肉弾」とは「肉体によって銃弾の様に敵陣に飛び込む攻撃」のこと)、戦争の悲劇というテーマを扱っていながら、コミカルで悲壮感を(一応は)表に出していないという変わった映画で、映画肉弾 大谷直子4.jpg自体は、太平洋に漂流するドラム岳の中で魚雷を抱えている(ある意味、既に死んでいる)主人公の回想という形で進行し、主人公が1日だけの外出許可日に古本屋に行くつもりが思わず女郎屋に駆け込んでしまい、そこにいたセーラー服姿の肥溜めに咲いた一輪の白百合のような少女と防空壕の中で結ばれるという、その少女の役が映画初出演の大谷直子でした(その後、NHKの朝の連ドラ「信子とおばちゃん」('69年)でTVデビュー)。

 彼女が全裸で土砂降りの雨の中を走るシーンは衝撃的で、モノクロ映画ゆえに却ってその美しさは印象に残りましたが、かの特攻隊員は、そこで初めて自らが守るべきものを見出し、空襲で彼女が犠牲になったことで復讐心から戦闘意欲に燃え、魚雷と共に太平洋岡本喜八.jpgに出るという―これ、岡本喜八ならではのアイロニーなのですが、笑えるようでやっぱり笑えないなあ。岡本監督はその後も自らと同年代の戦中派の心境を独特のシニカルな視点で描き続けますが、「独立愚連隊」('59年)とこの「肉弾」は、そのルーツ的な作品でしょう。「日本のいちばん長い日」('67年)のようなオールスター大作を撮った後に、私費を投じてこのような自主製作映画のような作品を撮っているというのも凄いことだと思います。 
岡本喜八(1924- 2005/享年81) 下:「肉弾」大谷直子  寺田農/笠智衆

肉弾 大谷直子1.jpg肉弾 大谷直子2.jpg肉弾 笠智衆5.jpg
 
  
 
 
 
 
 
 

祭りの準備 4.bmp「祭りの準備」●制作年:1975年●監督:黒木和雄●製作:大塚和/三浦波夫●脚本:中島丈博●撮影:鈴木達夫●音楽:松村禎三●原作:中島丈博●時間:117分●出演:江藤潤/馬渕晴子/ハナ肇/浜村純/竹下景子/原田芳雄/杉本美樹/桂木梨江/石山ギンレイホール.jpg飯田橋ギンレイホール内.jpg雄大/三戸部スエ/絵沢萠子/原知佐子/真山知子/阿藤海/森本レオ/斉藤真/芹明香/犬塚弘●公開:1975/11●配給:ATG●最初に観た場所:飯田橋ギンレイホール(78-07-25)(評価:★★★☆)●併映:「サード」(東陽一)
飯田橋ギンレイホール 1974年1月3日オープン

「純」●制作年:1978年●監督・脚本:横山博人●製作:横山博人プロダクション●撮影:高田昭●音楽:一柳慧●時間:88分●出演:江藤潤/朝加真由美/中島ゆたか/榎本ちえ子/赤座美代子/山内恵美子/田島令子/橘麻紀/花柳幻舟/原良子/江波杏子/小松方正/深江章喜/大滝秀治/安倍徹/小坂一也/小鹿番/今井健二/森あき子/田中小実昌●公開:1980/12●配新宿昭和館2.jpg新宿昭和館3.jpg給:東映セントラルフィルム●最初に観た場所:新宿昭和館(83-05-05)(評価:★★☆)●併映:「聖獣学園」(鈴木則文/主演:多岐川裕美)
新宿昭和館 1951(昭和26)年7月13日新宿3丁目にオープン(前身は1932年開館の洋画上映館「新宿昭和館」)。1956年、昭和館地下劇場オープン。2002(平成14)年4月30日 建物老朽化により閉館。


肉弾 アートシアター.jpg肉弾 vhs2.jpg『肉弾』(監督 岡本喜八)1.bmp「肉弾」●制作年:1968年●監督・脚本:岡本喜八●撮影:村井博●音楽:佐日劇文化.jpg藤勝●時間:116分●出演:寺田農/大谷直子/天本英世/笠智衆/北林谷栄/三橋規子/今福正雄/春川ますみ/園田裕久/小沢昭一/菅井きん/三戸部スエ/頭師佳孝/雷門ケン坊/田中邦衛/中谷一郎/高橋悦史/伊藤雄之助/(ナレーター)仲代達矢●公開:1968/10●配給:ATG●最初に観た場所:有楽町・日劇文化(80-07-05)(評価:★★★★)●併映:「人間蒸発」(今村昌平)


冬物語.gif「冬物語」.jpg「冬物語」2.bmp「冬物語」●演出:石橋冠●制作:銭谷功/早川恒夫●脚本:清水邦夫/林秀彦●音楽:坂田晃一(主題歌「冬物語」、作詞:阿久悠/作曲・編曲:坂田晃一/唄:フォー・クローバース)●出演:浅丘ルリ子/原田芳雄/津川雅彦/扇千景/大原麗子/高松英郎/原田大二郎/宝生あや子/南美江/荒谷公之/鳥居恵子/渡辺篤史/下元勉/潮万太郎/上野山功一/柿沼真二/下川清子/野々あさみ/渥美マリ●放映:1972/11~1973/04(全20回)●放送局:日本テレビ

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工藤夕貴の演技がいい「台風クラブ」。少女を撮るのが上手だった故・相米慎二監督。

Typhoon Club 1985.jpg 台風クラブ.jpg    逆噴射家族.jpg 逆噴射家族 1シーン.jpg 
「台風クラブ」ポスター「台風クラブ [DVD]」(相米慎二監督)「逆噴射家族 [DVD]」(石井聰互監督)ラストシーン

台風クラブ1.jpg 地方都市の女子中学生たちが、学校のプールに夜中に泳ぎにやってきて、先に来ていた男子生徒にイタズラをするが、度が過ぎて溺死寸前の状態に追い込んでしまう。翌朝、ニュースでは台風の接近を告げていた―。

台風クラブ2.bmp 「台風クラブ」('85年/東宝=ATG)は、'85(昭和60)年の第1回東京国際映画祭のグランプリ受賞作で、台風の接近に伴い、言いようのない感情の昂ぶりを見せ騒乱状態に陥る中学生たちを生々しく且つ瑞々しく描き出した作品。女子中学生役の工藤夕貴が、中学生の日常とそこに潜む思春期の生理的・精神的危うさを演じて台風クラブ22.jpg秀逸で、何か自分でそうしたものを観察でもしたかのような相米慎二監督の演出が際立っています。実際、女子中学生の私生活を「長回し」で写し撮っているような感じのシーンもあり、今ならば児童保護の名目で規制の対象になりそうな際どい場面もあって、更にストーリー的にも結構どろどろした出来事がありますが、そうしたことも含め、「観察対象」としての距離を置いて撮っているような感じもします。

 迫りくる台風に対する不安と非日常への漠たる期待、台風という非日常の中での狂騒、そして台風台風クラブ 図1.jpg一過、中学生たちは何事もなかったかのようにまた元気に学校に通い出す―でも実は、台風が来る前に比べぐっと大人に近づいているという、 "大人になるための出来事"を台風に絡めているところが旨く、また、女子中学生の方が男子よりも逞しく描かれているように思いました。人間の自律神経は気圧の変化には敏感で、酸素がたくさんある高気圧だと酸素ストレスで交感神経が緊張して体は興奮して元気になり、逆に雨や台風で低気圧が接近すると、副交感神経が優位に働いて、特に神経痛やリュウマチなどの持病がある人にとっては低気圧は不快感を増幅させるそうですが、思春期にある者の情緒不安定を引き起こすことについても何か科学的根拠があるんじゃないかなあ。

相米慎二.jpg 相米慎二(1948‐2001/享年53)監督は、薬師丸ひろ子(当時17歳)主演の「セーラー服と機関銃」('81年)の後に夏目雅子(当時25歳)主演の「魚影の群れ」('83年)や斉藤由貴(当時19歳)主演の「雪の断章‐情熱‐」('85年)などを撮り、そして工藤夕貴(当時14歳)主演のこの作品「台風クラブ」を撮っていますが、その内夏目雅子を除いて当時何れも二十歳未満で、斉藤由貴は映画初出演で主演、工藤夕貴もこの作品が初主演でした。何だか新人専門みたいですが、とりわけ未成年(少女)を撮るのが上手だった(?) 相米慎二監督はその後も、「東京上空いらっしゃいませ」('90年)で当時18歳の牧瀬里穂を、「お引越し」(93年)で当時11歳の新人・田畑智子を、それぞれ主役に据えた作品を撮っています。

台風クラブ 三浦友和 演.jpg 「台風クラブ」では三浦友和が不良っぽい教師役で出ていて、なかなか良かったです。三浦友和は、所謂「百恵・友和ゴールデンコンビ」と言われた作品群で1970年代に二枚目の俳優として10代に大変な人気がありましたが、その百恵・友和のゴールデン・コンビの第8作、大林宣彦監督、ジェームス三木脚本の「ふりむけば愛」('78年/東宝)を友達と観に行って、2人とも途中で眠くなりました。2本立てで小原宏裕監督の「桃尻娘 ピンク・ヒップ・ガール」('78年/日活)の後でしたが、大林宣彦監督はいい作品(尾道3部作など)も撮る一方で駄作も多い気がし、これもその1つ。百恵・友和コンビ作では、市川昆監督、川端康成原作の「古都」('80年)が山口百恵引退記念作品となり、三浦友和は村川透監督、勝目梓原作の「獣たちの熱い眠り」('81年/東映)でイメージチェンジを図りますが、風吹ジュンらとの激しいベッドシーンなどがあったものの、「三浦友和のイメチェン作」と言われている割にはイメチェンに成功しておらず、彼の後の演技の糧にはなったかもしれませんが、「友和クンにハードボイルドは似合わない」というのが当時の印象でした(この作品は過去にビデオあれておらず、'09年現在DVD化もされていない)。その三浦台風クラブ 三浦友和 演技.jpg友和が、この「台風クラブ」では、その無責任ゆえに生徒たちから反発を喰う教師役を演じていて、恋人(小林かおり)が台所で料理をしている隣りの部屋でだらしなく寝転がってる三浦友和が、近よってきた恋人に足を絡ませ倒して抱きつく長回しなど、ダメさ加減がよく出ていました(ハードボイルド風よりよりこっちの方がいい)。個人的には、この作品こそが彼のイメージチェンジ作ではないかなと思います(イメチェンって、ただこれまでと違う役をやればいいというものでもなく、新たなキャラを確立させなければならないだけに難しい)。三浦友和はこの作品で、第10回報知映画賞助演男優賞を受賞しています。
「NHKあさイチ~あさイチ・プレミアムトーク~」(2011.11.25)

「ふりむけば愛」('78年/東宝)、「獣たちの熱い眠り」('81年/東映)、「台風クラブ」('85年/東宝=ATG)
三浦友和1 ふりむけば愛.jpg 三浦友和2 獣たちの熱き眠り.jpg 三浦友和3 台風クラブ.jpg

逆噴射家族5.bmp 一方、工藤夕貴の映画初出演は、この作品の前年の石井聰互監督の「逆噴射家族」('84年/ATG)で(当時13歳)、真面目で小心者のサラリーマン(小林克也)が長期ローンでやっとマイホームを建て、家族4人でそれなりの幸せ気分でいたところに(この家族が変人揃いで皆それぞれ勝手気儘というかバラバラなのだが、その1人が工藤夕貴演じる娘)、郷里からまた変な祖父(植木等)が舞い込んで来て家の中がおかしくなりだし、更にある日、このサラリーマン氏が自宅でシロアリの群れを発見して、マイホームが朽ちるのではとの不安に駆られ、シロアリ駆除に向けて大暴走するというものです。

逆噴射家族6.bmp 小林よしのり氏(当時31歳)の原案だそうですが、映画としてはあくまでも石井聰互監督(当時27歳)の映画という感じで、DJ・小林克也の演技は役者並みだし、ちょっと狂い気味の妻役の倍賞美津子や、植木等の怪しい老人ぶりもいいです。

逆噴射家族7.bmp 更には工藤夕貴の兄を演じた有薗芳記の電脳オタクぶりも、映画初出演ながら凄かった―ということで、工藤夕貴のぶっ飛び感も、これらに比べるとちょっと弱かったかも知れません("緊縛シーン"(?)に象徴されるように、彼らの被害者的立場という色合いが強い役柄のせいもあったが)。
有薗芳記 in 「逆噴射家族」

逆噴射家族A.jpg 「逆噴射家族」は海外の映画祭でもグランプリなどを獲っている作品ですが、狂気を描くことが目的化してしまっている面も感じられ、むしろ異価値・異文化的な面で海外に受けたのではないかなあ。個人的には「台風台風クラブ07.jpgクラブ」の方がより好みでしょうか。

小林克也 in 「逆噴射家族」

工藤夕貴 in 「台風クラブ」

台風クラブes.jpg「台風クラブ」●制作年:1985年●監督:相米慎二●製作:宮坂進●脚本: 加藤裕司●撮影:伊藤昭裕●音楽:三枝成章●時間:85分●出演:工藤夕貴/三上祐一/大西結花/三浦友台風クラブ  13.jpg和/佐藤充/寺田農/尾美としのり/鶴見辰吾/紅林茂/松永敏行/会沢朋子/小林かおり/きたむらあきこ/石井富/佐藤浩市(友情出演)●公開:1985/08●配給:東宝=ATG●最初に観た場所:有楽町スバル座(1985/8/31)●2回目:大井武蔵野館(1986/9/20)(評価:★★★★)●併映(2回目):「時代屋の女房」(森崎東) 
    
ふりむけば愛〈別冊近代映画〉.jpgふりむけば愛9.jpg「ふりむけば愛」●制作年:1978年●監督:大林宣彦●製作:堀威夫/笹井英男●脚本:ジェームス三木●撮影:萩原憲治●音楽:宮崎尚志(主題歌:三浦友和「ふりむけば愛 dvd.jpgふりむけば愛」(作詞・作曲:小椋佳 編曲:松任谷正隆))●時間:92分●出演:山口百恵/三浦友和/森次晃嗣/玉川伊佐男/奈良岡朋子/黒部幸英/神谷政浩/名倉良/高橋昌也/南田洋子/大内勇/藤木啓士/安西卓人/星野晶子/岡田英次●公開:1978/07●配給:東宝●最初に観た場所:池袋文芸坐(79-06-03)(評価:★★)●併映:「桃尻娘 ピンク・ヒップ・ガール」(小原宏裕)
ふりむけば愛 [DVD]

獣たちの熱い眠り .jpg獣たちの熱き眠り 00.jpg獣たちの熱い眠り 3.jpg三浦友和風吹ジュン宇佐美恵子「獣たちの熱い眠り」広告.jpg「獣たちの熱い眠り」●制作年:1981年●監督:村川透●脚本:永原秀一●撮影:仙元誠三●音楽:速水清司●原作:勝目梓●時間:111分●出演:三浦友和/風吹ジュン/なつきれい/宇佐美恵子/石橋蓮司/鹿内孝/峰岸徹/宮内洋/佐藤蛾次郎/阿藤海/安岡力也/草薙幸二郎/中丸忠雄/中尾彬/成田三樹夫/伊吹吾郎/(以下、特別出演)吉行和子/池波志乃/来栖アンナ●公開:1981/09●配給:東映●最初に観た場所:池袋文芸坐(82-03-21)(評価:★★)●併映:「吼えろ鉄拳」(鈴木則文)
[上]「映画チラシ 「獣たちの熱い眠り」監督 村川透 出演 三浦友和、なつきれい、宇佐美恵子」/[右]広告切抜き


逆噴射家族1.jpg逆噴射家族 2.png逆噴射家族 1.png「逆噴射家族」●制作年:1984年●監督:石井聰互●製作:長谷川和彦/山根豊次/佐々木史郎●脚本:石井聰逆噴射家族E-.jpg亙/小林よしのり/神波史男●撮影:田村正毅●時間:106分●出演:小林克也/倍賞美津子/植木等/工藤夕貴/有薗芳記/岸野一彦/小海とよ子/緒方明/林崎巌/郷守信廣/井上欣逆噴射家族   .jpg則/高橋佑奈/井手国弘/アレックス・アブラモフ●公開:1984/06●配給:ATG●最初に観た場所:池袋日勝文化劇場(85-11-04)(評価:★★★☆)●併映:「お葬式」(伊丹十三)

「逆噴射家族」スチール写真(左から有薗芳記/植木等/小林克也/倍賞美津子/工藤夕貴)
   
      
日勝文化2.jpg池袋.jpgビックカメラ池袋.jpg池袋日勝映画劇場・池袋日勝文化劇場・池袋スカラ座・池袋日勝地下劇場 (現・池袋東口ビックカメラ池袋本店付近) 1995(平成7)年6月25日閉館
池袋日勝 日勝文化3.jpg
③池袋東急 ④池袋スカラ座 ⑮池袋日勝地下劇場 ⑬池袋日勝映画劇場 ⑭池袋日勝文化劇場日勝文化705.jpg

・1937年 池袋日勝映画館オープン
・1946年10月 - 池袋日勝映画劇場として再オープン
・1951年12月 - 池袋日勝地下劇場オープン
・1960年前後 - 池袋日勝文化劇場、池袋松竹劇場オープン
・1963年 - 池袋松竹劇場を池袋スカラ座と改称
・1995年 - 4館ともすべて閉館
池袋日勝 日勝文化 6月25日.jpg池袋日勝 日勝文化2.jpg池袋スカラ座 池袋日勝 日勝文化 日勝地下 - コピー.jpg
菅野 正 写真展 「平成ラストショー hp」より


  

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すっかりハマってしまった「シコふんじゃった。」。取材がしっかりしている。
シコふんじゃった。.jpg シコふんじゃった 6.jpg Shall We ダンス?.jpg Shall We ダンス22.jpg
シコふんじゃった。 [DVD]」                  「Shall We ダンス? [DVD]

シコふんじゃった2.jpgシコふんじゃった.jpg 就職先も決まっていた教立大学4年の秋平(本木雅弘)は、ある日、卒論指導教授の穴山(柄本明)に呼び出され、授業に一度も出席しなかったことを理由に、卒業と引き換えに穴山が顧問をする相撲部の試合に出るよう頼まれる―。

 「シコふんじゃった。」('91年/東宝)は、ひょんなことから相撲部に入ることになった大学生の奮闘を描いたもので、スポ根モノとして良くできている"佳作"―と言うより、観ていてすっかり嵌ってしまった自分を振り返れば、個人的には"大傑作"だったということになるでしょうか(第70回キネマ旬報ベスト・テン第1位作品)。

シコふんじゃった8.jpgシコふんじゃった2.jpg 何故そんなに面白かったのかを考えるに、劇画チックではあるけれど、スポ根モノとしては極めてオーソドックな展開で、観る側に充分なカタルシス効果を与えると共に、きっちりした取材の跡が随所に窺えること、何よりもそのことが大きな理由ではないかと思いました。

 大学相撲部(それも弱小の)という特殊な世界に関して、その背景が細部までしっかり描き込まれているから、"8年生"部員を演じる竹中直人のオーバーアクション気味の演技も、線画のしっかりしたマンガのようにすっと受け容れることが出来、楽しめたのかも知れません。

Shall We ダンス.jpg 同じく周防監督の「Shall We ダンス?」('96年/東宝)も、充分な取材の跡が感じられ、内容的にみても、多くの賞を受賞し(第70回キネマ旬報ベスト・テン第1位作品)、ハリウッド映画としてリメイクされるぐらいですからそう悪くはないのですが、この監督のカタルシス効果の編成方法が大体見えてきてしまったというのはある...。

 それと、「シコふんじゃった。」で竹中直人が演じていたコミカルな部分を、今度は竹中直人と渡辺えり子(最近、美輪明宏の助言で「渡辺えり」に改名した)の2人が演じていて、片や役所広司と草刈民世のストイックなメインストーリーがあるにしても、2人分に増えたオーバーアクション(加えて竹中直人分は「シコふんじゃった。」の時より増幅されている)にはやや辟易させられました。

Shall We ダンス.jpg 但し、草刈民世を(演技的には無理させないで)キレイに撮っているなあという感じはして、外国の映画監督でもそうですが、ヒロインの女優が監督の恋愛対象となっている時は、女優自身の魅力をよく引き出しているということが言えるのでは。

 キャリアの初期に、ユニークで面白い、或いは骨太でパワフルな作品を撮っていた監督が、メジャーになってから、大作ながらもその人らしさの見えない、誰が監督しても同じようなつまらない作品ばかり撮っているというケースは多いけれども、この監督は、綿密な取材を通しての自分なりの映画づくりの路線を堅持するタイプに思え、引き続き期待が持てました。(渡辺えり子/竹中直人

Shall We ダンス 01.jpg 因みに「Shall we ダンス?」は、第20回「日本アカデミー賞」において史上最多の13冠を獲得しています。主要7部門に限っても、最優秀作品賞、 最優秀監督賞、 最優秀脚本賞(周防正行)、 最優秀主演男優賞(役所広司)、 最優秀主演女優賞(草刈民代)、 最優秀助演男優賞(竹中直人)、 最優秀助演女優賞(渡辺えり子)と、7冠全て独占して他の作品の共同受賞さえ許さなかったのは('09年現在)この作品だけです(残り6冠は、音楽・撮影・証明・美術・録音・編集。残るは新人賞や外国作品賞だから、実質完全制覇と言っていい)。

シコふんじゃった9.jpg「シコふんじゃった。」●制作年:1991年●監督・脚本:周防正行●撮影:栢野直樹●音楽:周防義和/おおたか静流●時間:105分●出演:本木雅弘/清水美砂/柄本明/竹中直人/水島かおり/田口浩正/六平直政/宝井誠明/ロバート・ホフマン/梅本律子/松田勝/宮坂ひろし/村上冬樹/桜むつ子/片岡五郎/佐藤恒治/みのすけ●公開:1992/01●配給:東宝(評価:★★★★☆

Shall We ダンスes.jpg「Shall We ダンス?」●制作年:1996年●監督・脚本:周防正行●製作:徳間康快●撮影:栢野直樹●音楽:周防義和/おおたか静流●時間:136分●出演:役所広司/草刈民代/竹中直人/田口浩正/徳井優/宝井誠明/渡辺えり子/柄本明/原日出子/草村礼子/森山周一郎/本木雅弘/清水美砂/上田耕一/宮坂ひろし/井田州彦/田中英和/峰野勝成/片岡五郎/大杉漣/石山雄大/本田博太郎/香川京子/田中陽子/東城亜美枝/中村綾乃/石井トミコ/川村真樹/松阪隆子/馬渕英俚可●公開:1996/01●配給:大映(評価:★★★☆)

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石橋蓮司主演2作。時代の空疎感伝える「あらかじめ...」と中上文学を再現した佳作「赫い髪の女」。

あらかじめ失われた恋人たちよ(ポスター).jpg あらかじめ失われた恋人たちよ プレス.jpg  「赫い髪の女」.jpg 赫い髪の女.jpg
あらかじめ失われた恋人たちよ」 DVD/チラシ 「赫い髪の女 [DVD]」(監督:神代辰巳)

arakajime.jpgあらかじめ失われた恋人たちよド.jpg 棒高跳びでのオリンピック出場の夢を断たれて自棄になり、強盗を働きながら日本中を放浪していたあらかじめ失われた恋人たちよ.jpg青年(石橋蓮司)はある日、日本海のある街のスーパーの開店イベントで、全身に金粉を塗ってパフォーマンスをする聾唖者の男女(加納典明・桃井かおり)の姿に目を奪われ、彼らにつきまとい始める―。(加納典明/桃井かおり/石橋蓮司

「アートシアター 90 あらかじめ失われた恋人たちよ」より
あらかじめ失われた恋人たちよ0.JPG 「あらかじめ失われた恋人たちよ」('71年/ATG)は、劇作家の清水邦夫と当時「東京12チャンネル」のディレクターだった田原総一朗(この人、最初は岩波映画でカメラ助手をやっていた)の共同脚本・共同監督作品で、桃井かおりの実質的なデビュー作であり(桃井かおりは藤田敏八監督の「赤い鳥逃げた?」('73年/東宝)でも、シロクロ・ショーをしながら旅する女という役だった)、今は写真家になっている加納典明なども出ている映画ですが、今の田原総一郎、加納典明とこの映画とは、自分の中では長い間リンクしなかったような気がします。

 ストーリーはあるものの、多少前衛がかっていて(加納典明・桃井かおりが喋らないので石橋蓮司の独白で話は進む)、地下演劇的なムードもあるかも(田舎でやるシロクロ・ショーなどは何となく土俗的)。加えて、タイトルもしゃれているし何だか難しそうですが、少なくとも「あらかじめ失われた」ものが第一義的には「言葉」であることは、容易にわかるのではないでしょうか(だから、言葉を駆使している評論家・田原総一郎、カメラマン・加納典明とリンクしない?)。 

内灘夫人.jpg 後半の主要舞台は金沢郊外の内灘砂丘ですが、かつてここで米軍の試射場設置に対する反対闘争があったわけで、この作品にも試写場の廃墟が出てきます。五木寛之が60年安保の余韻を伝える作品『内灘夫人』を発表したのが'68年、しかしながらこの映画の公開は'71年で、もう既に70年安保という"政治の季節"が終わってしまったようなムードが、作品の中にもどことなくあります。

 というわけで、面白いと言うよりもどちらかと言えば一時代の記念碑的な作品ですが、石橋蓮司のパフォーマンス的な演技がその時代の空疎感、閉塞感をよく伝えていて、神代(くましろ)辰巳監督の「赫い髪の女」といいこの作品といい、70年代の石橋蓮司っていいなあと思います。

「赫い髪の女」英語版.jpg赫い髪の女 poster.jpg赫い髪の女2.jpg 「赫い髪の女」('79年/にっかつ)は中上健次の原作で、ダンプ運転手(石橋蓮司)といきずりの女(宮下順子)の愛欲の生活をリアルに描いた作品ですが、雨のジトジト降る日に狭いアパートの一室で、セックスの合間にインスタントラーメンを音をたてて啜る2人が、どういうわけか個人的にはすごく印象的でした。この作品も時代の閉塞を表していると言えるかも知れません赫い髪の女3.jpg(一体70年代のいつからいつまで"閉塞"状況だったのか、70年代がずーっと閉塞状況だったか、自分にはよくわからないが)。

(上)山口美也子 (下)石橋蓮司/宮下順子
 
 こちらはDVD化されているので、再見しようと思えばいつでも観ることができるのですが、出来れば劇場で観たい作品です(自分がこの作品を最初に観た「銀座並木座」は閉館してしまったが)。中上健次の原作のムードを損なわずに丁寧に撮られた佳作だったと思います。

映画・あらかじめ失われた恋人たちよ.jpgあらかじめ失われた恋人たちよ4.png「あらかじめ失われた恋人たちよ」●制作年:1971年●監督・脚本:清水邦夫/田原総一郎●企画:葛井欣士郎●撮影:奥村祐治●音楽:成毛滋●時間:123分●出演:石橋蓮司/桃井かおり/加納典明/岩淵達治/内田ゆき/正城睦子/緑魔子/カルメン・マキ/蟹江敬三/豊田紀雄/井上博一/吉田潔/竹之内文芸坐休館.jpg池袋文芸地下 地図.jpg文芸坐.jpg弾/秋浜悟史/井田邦明/キムカンザ/佐藤重臣/大森直人/蜷川幸雄/佐々倉英雄●公開:1971/11●配給:ATG●最初に観た場所:池袋文芸地下 (79-11-25)(評価:★★★★)●併映:「エロスは甘き香り」(藤田敏八)
池袋・文芸地下 1997(平成9)年3月6日閉館。
 
『赫い髪の女』.bmp「赫い髪の女」●制作年:1979年●監督:神代辰巳●製作:三浦朗●脚本:荒井晴彦●撮影:前田米造●音楽:憂歌団●原作/中上健次「赫髪」●時間:75分●出演:宮下順子/石橋蓮司/亜湖/阿藤海/三谷昇/山口美也子/絵沢萠子/山谷初男/石堂洋子/高橋明/庄司三郎/佐藤了一●公開:1979/02●配給並木座.jpg並木座閉館.jpg:にっかつ●最初に観た場所:銀座並木座 (79-06-03)(評価:★★★★)●併映:「女教師」(田中登)
銀座並木座  1953年オープン。1998(平成10)年9月22日閉館。

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現代劇にもぴったりハマった市川雷蔵の「ある殺し屋」。カルト的珍品?「初春狸御殿」。

ある殺し屋 poster.jpgある殺し屋 dvd2.jpg ある殺し屋の鍵 dvd.jpg  初春狸御殿.jpg
ある殺し屋 [DVD]」「ある殺し屋の鍵 [DVD]」「初春狸御殿 [DVD]」(市川雷蔵/若尾文子/勝新太郎)

ある殺し屋2.jpg 「ある殺し屋」('67年/大映)は、普段は一杯飲屋の主人で刺身魚を自ら捌いたりしているというありきたりの市井の男だが、実はその裏の正体は、大物ヤクザの親分の暗殺なある殺し屋 title.jpgどの仕事を大金で請け負い、それがどんな困難なものであっても完遂するプロの殺し屋(武器としても用いるのは太い針)―という主人公「新田」の役どころを、市川雷蔵(1931-1969/享年37)がニヒルかつスマートに演じている作品で、続編が1作だけ作られています。
     
「ある殺し屋」1.jpg「ある殺し屋」2.bmp 助けてやった女(野川由美子)に付きまとわれてもそれを一向に相手にせず、仲間のフリをして寄ってくるヤクザ(成田三樹夫)に裏切られても、全て織り込みで既に手は打ってある―「ある殺し屋」.jpgあまりにストイックかつクールで、ストーリーだけで見ると非現実的なB級(C級とでも言うか)作品になりそうなものですが、市川ある殺し屋dvd.jpg雷蔵が演じると、殺し屋稼業をしている時でも何だかサラリーマン風にも見えたりして、そうしたステレオタイプのハードボイルド・ヒーローとのギャップ感がなかなかいいリアリティを醸していて、時にはそれが却って凄みになったりもしています。ある殺し屋.jpg 口数は少ないが男気も秘めており、結局、女よりもむしろ男が惚れる男というのはこういうものかと納得させられる(勿論、新田の場合は女性にもモテるのだが)、心地よいハードボイルド作品となっています。
ある殺し屋 [DVD]

「ある殺し屋の鍵」チラシ/「ある殺し屋の鍵 [DVD]
ある殺し屋の鍵 チラシ.jpgある殺し屋の鍵 dvd.jpg 因みに、同年12月に公開された同じく藤原審爾原作・森一生監督の「ある殺し屋の鍵」('67年/大映)では、市川雷蔵が演じる主人公の新田の表向きの職業は、一杯飲屋の主人から日本舞踊の師匠に替わっており(新田は、流れ包丁だったのか? それにしてもビックリの職替え)、脱税王(内田朝雄)とか建設会社の社長(西村晃)とか政財界の黒幕(山形勲)とか色々出できて話はスケールアップしていますが(3人とも新田に殺される役!)、新田のニヒルでスマートな様は変わっていません。原ある殺し屋の鍵 title.jpgある殺し屋の鍵 1シーン.jpg作ストーリーもしっかりしていますが、ストーリーもさることながら、演じている「市川雷蔵」そのものを楽しめる作品ではないかと思います (両作品とも撮影は宮川一夫)。
「ある殺し屋の鍵」市川雷蔵/佐藤友美

「ある殺し屋」1.bmp 市川雷蔵は映画史上最高の時代劇スターと謳われた名優で、映画も「眠狂四郎シリーズ」や「大菩薩峠シリーズ」など数的には時代劇の方の出演が主なのですが、現代劇でもこんなにしっくり来る歌舞伎界出身の俳優は少ないのではないかと思われ、37歳でガンのため夭折したことが惜しまれます(それでも160本近い映画に出演したのだが)。現代劇に出ている時は歌舞伎役者的なニオイがキレイさっぱり無くなるタイプで、そうした系統では、同じく眠狂四郎を演じた片岡孝男(現・片岡仁左衛門)などがいましたが(田村正和も演じていたなあ)、ちょっとそれらと比較にならないかも(早逝したことも、イメージが損なわれないという意味ではプラスに働いているが)。

木村 恵吾 「初春狸御殿」.jpg初春狸御殿 poster.jpg この人の時代劇の方は劇場ではあまり観ていないのですが、木村恵吾監督の「初春狸御殿」('59年/大映)というのは"珍品"。所謂"マゲものミュージカル"という類で、時代劇なのに若尾文子が演じるお姫様が着物にネックレスをしているというのが可笑しく、市川雷蔵と比較されることの多い、あの勝新太郎が、完璧な二枚目役者として出ています。木村恵吾監督はこれ以前にも「狸御殿」「歌う狸御殿」「春爛漫狸祭」「花くらべ狸御殿」を撮っていて(「初春狸御殿」はシリーズ最終作)、50年代にこうした陽気な大衆映画が受けた時期があったことを知っている人がどれぐらいいるか分かりませんが、今の若い人にとってはある種のカルトムービー的位置づけになるのかも。
勝新太郎 in「初春狸御殿」
初春狸御殿bb.jpg 初春狸御殿77.jpg
市川雷蔵 in「ある殺し屋」
「ある殺し屋」森一生 1967.jpgある殺し屋3.jpg「ある殺し屋」●制作年:1967年●監督:森一生●脚本:増村小林幸子 3.jpg保造/石松愛弘●撮影:宮川一夫●音楽:鏑木創●原作:藤原審爾「前夜」●時間:82分●出演:市川雷蔵/野川由美子/成田三樹夫/渚まゆみ/ある殺し屋小林幸子.jpg小林幸子(当時13歳)/小池朝雄/千波丈太郎/松下達夫/伊達三郎/「ある殺し屋」4.bmp「ある殺し屋」3.bmp浜田雄史●公開:1967/04●配給:大映●最初に観た場所:大井ロマン(87-10-31)(評価:★★★★)●併映:「ある殺し屋の鍵」(森一生)
市川雷蔵/佐藤友美 in「ある殺し屋の鍵」
「ある殺し屋の鍵」森一生 1967.jpg「ある殺し屋の鍵」●制作年:1967年●監督:森一生●構成:増村保造●脚本:小滝光郎●撮影:宮川一夫●音楽:鏑木創●原作:藤原審爾「消される男」●時間:82分●出演:市川雷蔵/西村晃/佐藤友美/山形勲/中谷一郎/金内吉男/ 伊達三郎/伊東光一/内田朝雄/玉置一恵/森内一夫/伊東義高/志賀明●公開:1967/12●配給:大映●最初に観た場所:大井ロマン(87-10-31)(評価:★★★★)●併映:「ある殺し屋」(森一生)
若尾文子/市川雷蔵 in「初春狸御殿」
初春狸御殿_3.jpg木村 恵吾 「初春狸御殿」2.jpg「初春狸御殿」●制作年:1959年●監督・脚本:木村恵吾●製作:三浦信夫●撮影:今井ひろし●音楽:吉田正●時間:95分●出演:市川雷蔵/若尾文子/若尾文子 市川雷蔵 初春狸御殿a.jpg大井武蔵野館 1989.jpg勝新太郎/中村玉緒/金田一敦子/仁木多鶴子/水谷良重/中村雁治郎/真城千都世/近藤美恵子/楠トシエ/トニー・谷/菅初春狸御殿20.jpg井一郎/江戸屋猫八/三遊亭小金馬/左卜全/藤本二三代/神楽坂浮子/松尾和子/小浜奈々子/岸正子/美川純子/大和七海路/小町瑠美子/毛利郁子/嵐三右衛門●公開:1959/12●配給:大映●最初に観た場所:大井武蔵野館 (86-11-15)(評価:★★★?)●併映:「真田風雲録」(加藤泰)

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平沢無罪説を先駆的に展開。GHQの関与については"隔靴掻痒の感"は否めないが。

小説帝銀事件.jpg小説帝銀事件 (1959年)松本 清張 『小説 帝銀事件』.jpg 小説 帝銀事件.jpg小説帝銀事件 (角川文庫)
昭和23年9月28日毎日新聞
帝銀事件02.jpg帝銀事件.jpg '59(昭和34)年に雑誌「文藝春秋」に発表された松本清張の「昭和史発掘シリーズ」に先立つ昭和の事件モノで、「昭和史発掘シリーズ」の中でも'48(昭和23)年という占領時代に起きたこの「帝銀事件」は取り上げられていますが、「小説」と頭に付くのは、捜査に疑念を抱いた新聞社の論説委員の視点からこれを描いているのと、事件の部分がセミドキュメンタリータッチで再現されているためでしょうか。

 12人が死亡した凶悪事件と平沢貞通画伯が犯人に祭り上げられていく過程もさることながら、個人的には本書によって初めて、関東軍細菌戦部隊(731部隊)の生き残り関係者の事件への関与が疑われること、彼らはGHQの保護下にあったことなどを知り、そっちの方の衝撃も大きかったです。

 731部隊がいかに残虐の限りを尽くしたか、また、その戦犯行為の当事者らが人体実験を含む研究データを渡す代わりに戦争犯罪に問われないと言う約束をGHQに取り付け免責されたという事実については、森村誠一氏の『悪魔の飽食―「関東軍細菌戦部隊」恐怖の全貌!長編ドキュメント』('81年/カッパノベルズ)があるし(この本は後に記述や写真の誤謬を多く指摘された)、太田昌克氏の『731 免責の系譜―細菌戦部隊と秘蔵のファイル』('99年/日本評論社)青木富貴子氏の『731-石井四郎と細菌戦部隊の闇を暴く』('05年/新潮社)では "免責問題"をより深く追及していますが、「小説帝銀事件」の発表は『悪魔の飽食』と比べても、それより20年以上早いことになります。

 いま読み直してみると、最初に挙がった何人かの容疑者の中に平沢の名前があり、一旦それが消えて軍関係者へ嫌疑が向けられるも、そちら方面の捜査が打ち切られて再び平沢の名が浮上したという経緯や、面通しの結果誰も平沢を犯人だとする人がいなかったこと、彼の病的な虚言癖などについては細かく書かれている一方で、GHQの関与については"隔靴掻痒の感"は否めず、このことは、平沢は無実の罪に問われたということが公然の事実のようになっている今と違い(歴代の法務大臣が誰も死刑執行のハンコを押さなかったわけだし)、「事件は解決済み」とする風潮がまだ根強かった当時としては、米軍から情報を得られない限りは、平沢を犯人とする根拠の脆弱さに的を絞って、そこから平沢無実説を導き出すことを主眼とするしかなかったためと思われます。

帝銀事件01.jpg平沢貞通.bmp 平沢が疑われることになった原因の1つに、所持金の出処の曖昧さの問題がありましたが、「春画を描いたと自分の口から白状すれば、彼の画家的な生命は消滅するのである」とし、「肉体的な死刑よりも、芸術的生命の処刑を重しとした」と、その精神的内面まで踏み込んで"推理"している点も作家らしく、またこれも、タイトルに「小説」と付くことの所以の1つであると思います。    
平沢貞通 (1892-1987/享年95)

犯人の行動を再現させられる平沢(Wikipediaより)

 因みに、横溝正史の『悪魔が来りて笛を吹く』(雑誌「宝石」1951年11月号 - 1953年11月号に発表)は、この帝銀事件をモチーフに書かれたと言われています(作中では「天銀堂事件」となっており、ストーリーは事件の後日譚となっている)。悪魔が来りて笛を吹く 1979.jpg原作は読んでいませんが、西田敏行が金田一耕助を演じた映画「悪魔が来りて笛を吹く」('79年/東映)を観ました(角川春樹製作、監督は「太陽にほえろ」「俺たちの旅」などのTVシリーズを手掛けた斎藤光正)。青酸カリも事件に絡んで出てきますが、メインのモチーフは近親相姦と言えるでしょうか。肝腎の謎解きの部分で複雑な家系図が出てきますが、映画ではそれが分かりにくいのが難でした(「読んでから観る」タイプの映画だったかも)。歴代の横溝原作の映画化作品の中ではまあまあの評価のようですが、そのわりにはどうしたわけか西田敏行が金田一耕助を演じたのはこの1回きりでした。 

悪魔が来りて笛を吹く 1979 ポスター.jpg悪魔が来りて笛を吹く 1979 vhs.jpg悪魔が来りて笛を吹く 1979 ちらし.jpg悪魔が来りて笛を吹く【DVD】「悪魔が来りて笛を吹く」●制作年:1979年●監督:斎藤光正●製作:角川春樹●脚本:野上龍雄 ●撮影:伊佐山巌 音楽:山本邦山/今井裕●原作:横溝正史●時間:136分●出演:西田敏行/夏木勲(夏八木勲)/仲谷昇/鰐淵晴子/斎藤とも悪魔が来りて笛を吹くs.jpg悪魔が来りて笛を吹く jidojpeg.jpeg子/村松英子/石浜朗/小沢栄太郎/池波志乃/原知佐子/山本麟一/宮内淳/二木てるみ/梅宮辰夫/浜木綿子/北林早苗/中村玉緒/加藤嘉/京唄子/村田知栄子/藤巻潤/三谷昇/熱田一久/住吉道博/村田知栄子/藤巻潤/三谷昇/金子信雄/中村雅俊/秋野太作/横溝正史/角川春樹●公開:1979/01●配給:東映●最初に池袋東映.jpg観た場所:池袋東映 (79-01-13)(評価:★★☆)

池袋東映 池袋東口2分60階通り(地下に池袋名画座) 1985年頃閉館 

 【1961年文庫化・2009年新装版[角川文庫]/1980年再文庫化[講談社文庫]】

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文化大革命以降、意外な日本映画が中国で大反響。その背景を分析。

中国10億人の日本映画熱愛史2.jpg君よ憤怒の河を渉れ 高倉・原田 2.jpg 君よ憤怒の河を渉れ (1976年3.jpg
君よ憤怒の河を渉れ [DVD]」('76年)高倉健・原田芳雄/中野良子・大滝秀治
中国10億人の日本映画熱愛史-高倉健、山口百恵からキムタク、アニメまで』['06年] 

追捕.jpg君よ憤怒の河を渉れ.jpg 文化大革命以降の中国国内における日本映画の歴史を解説したもので、何よりも、文革直後に中国で公開された数少ない映画が、中国の一般の人々や映画人に与えた影響が絶大なものであったことを本書で知りました。その代表というのが、今は日本では殆ど顧みられることのない作品「君よ憤怒の河を渉れ」('76年/製作:大映、配給:松竹)で、西村寿行の原作を佐藤純彌が監督したこの作品は、'78年に中国で「追捕」というタイトルで公開されるや大反響を呼び、中国人の約80%以上が観たということで(スゴイ!)、主演の高倉健、中野良子は今でも中国で人気があるそうです。

サンダカン八番娼館 望郷.jpg これに続いたのが、山崎朋子の原作を熊井啓が監督した「サンダカン八番娼館・望郷」('74年製作)で、主演の栗原小巻の中国での人気は今でも高いそうですが、その後も「愛と死」('71年/中村登監督)、「人間の証明」('77年/佐藤純彌監督)、「砂の器」('74年/野村芳太郎監督)などが中国に輸入され、高い人気を博したとのこと(「愛と死」を80年代に日本人が観れば、既にノスタルジーの対象であったものが、当時の中国人にはオシャレに見えた。この点が、今の日本の"韓流ブーム"とは異なるところ)。

 本書では、中国に輸入された日本映画とその影響を、「第5世代」と呼ばれる中国の新映画人の台頭など国産映画の動向と併せて解説し、何故それら日本映画が中国の人々に受け入れられたのかを分析していて、先に挙げたものは、中国に輸入された日本映画の初期のものに過ぎないのですが、とりわけ反響が絶大であっただけに、その「ウケた理由」には自ずと興味が持たれます(こうしてみると、芸術性はあまり関係ないなあ)。

山口百恵 赤い疑惑.jpg 中国における高倉健の人気は、ハリウッドスターを含めた海外映画俳優の中で今でもトップという圧倒的なものだそうですが、女優で最大人気は、'84年から中国で放映されたTVドラマ「赤い疑惑」シリーズの山口百恵だそうで、殆どカリスマのような存在。

コン・リー.jpg 大物女優の鞏俐(コン・リー)なども、中国が本当にオリジナルな芸術性を持った作品を作り始めた第五世代の代表的監督・張芸謀(チャン・イーモウ)の初期作品「紅いコーリャン」('87年)に出演した頃は、中国国内で「中国の山口百恵」と言われているという話を聞いた覚えがあります(本書によれば、その後すぐに彼女はそのイメージから脱却したそうだが、スピルバーグがプロデュースした「SAYURI」('05年)に、チャン・ツィイーと共に日本人女性役で出ているというのが興味深い。本来は日本人がやる役だけれど、ハリウッド進出は中国女優の方が既に先行している)。

 著者は映画芸術論を専門とする中国人の学者で('94年以降、日本在住)、本書は初めから日本語で書かれたもの。知らないことだらけで興味深く読めたけれど、1行当たりの"漢字含有率"がどうしても高くなってしまうのは、本の内容上、仕方がないことなのか。

君よ憤怒の河を渉れ poster.jpg君よ憤怒の河を渉れ 高倉・原田.jpg 冒頭で掲げた「君よ憤怒の河を渉れ」は(原作は「ふんぬ」だが映画タイトルには「ふんど」のルビがある。因みに監督の佐藤純彌は東大文学部卒)、高倉健の東映退社後の第一作目(当時45歳)で、高倉健が演じるのは、政界黒幕事件を追ううちに無実の罪を着せられ警察に追われる立場になる東京地検検事・杜丘冬人(上君よ憤怒の河を渉れ 池部s.jpg司の伊藤検事正を池部良が演じている)。原田芳雄が演じる彼を追う警視庁の矢村警部との間で、次第に友情のようなものが芽生えてくるのがポイントで、最後は2人で黒幕を追い詰め、銃弾を撃ち込むという任侠映画っぽい結末でした(検事と警官で悪を裁いてしまうという無茶苦茶ぶりだが、その分カタルシス効果はあったか)。健さんは逃亡過程においては、馬を駆ったりセスナ機を操縦したりと007並みの活躍で、その間、中野良子や倍賞美津子に助けられるという盛り沢山な内容です。

Kimi yo fundo no kawa wo watare (1976)
Kimi yo fundo no kawa wo watare (1976) .jpg君よ憤怒の河を渡れ  .jpg そこそこ面白いのですが、B級と言えばB級で、なぜこの映画が中国で受けたのか不思議というのはあります。中国人の約80%以上が観たというのが大袈裟だとして、たとえそれが30%であったとしても、最も多くの人が観た日本映画ということになるのではないでしょうか。張藝謀(チャン・イーモウ)監督のように、この映画を観て高倉健に恋い焦がれ、その想いがコラボ的に高倉健が主演することになった「単騎、千里を走る。」('05年)に結実したということもあります。やっぱり、中国で文革後に実質初めて公開された日本映画という、そのタイミングが大きかったのでしょう。今観ると、意外と2時間半の長尺を飽きさせずに見せ、また70年代テイスト満載の映画でもあり、その部分を加味して星半個オマケしておきます。
君よ憤怒の河を渉れ 大和田.jpg 君よ憤怒の河を渉れ nakano.jpg
大和田伸也/高倉健/原田芳雄                 高倉健/中野良子
君よ憤怒の河を渉れsp.jpg「君よ憤怒の河を渉れ」1.jpg「君よ憤怒の河を渉れ」●制作年:1976年●監督:佐藤純彌●製作:永田雅一●脚本:田坂啓/佐藤純彌●撮影:小林節雄●音楽:青山八郎●原作:西村寿行「君よ憤怒の河を渉れ」●時間:151分●出君よ憤怒の河を渉れ-s.jpg君よ憤怒の河を渉れ 倍賞.jpg演:高倉健/原田芳雄/池部良/大滝秀治/中野良子/倍賞美津子/岡田英次/西村晃/田中邦衛/伊佐山ひろ子/内藤武敏君よ憤怒の河を渉れ s.jpg君よ憤怒の河を渉れ 大滝秀治s.jpg君よ憤怒の河を渉れ サントラ.jpg/大和田伸也/下川辰平/夏木章/石山雄大/松山新一/木島進介/久富惟晴/神田隆/吉田義夫/木島一郎/浜田晃/岩崎信忠/姿鉄太郎/沢美鶴/田畑善彦/阿藤海(君よ憤怒の河を渉れ 池部3.jpg阿藤快)/松山新一●公開:1976/02●配給:松竹 (評価:★★★☆)


池部良/原田芳雄/高倉健

《読書MEMO》
君よ憤怒の河を渉れ415.jpg

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骨太の芥川賞作品。主人公は「血」に負けたのか? むしろ、裏返された成長物語のように読めた。
岬 中上健次.png 岬.jpg 十九歳の地図 dvd.jpg 十九歳の地図 映画.jpg  神々の深き欲望L.jpg
』['76年] 『』文春文庫 「十九歳の地図(廉価版) [DVD]」「NIKKATSU COLLECTION 神々の深き欲望 [DVD]

中上 健次.jpg 表題作である「岬」のほか、「黄金比の朝」「浄徳寺ツアー」など3篇を収めていますが、作者の小説は郷里の紀州を舞台にしたものが多い中、表題作はまさに出身都市である新宮市を舞台に、家族と共に土方仕事をしながら、逃れられない血のしがらみに喘ぐ青年を描いたものです。作者は本作により、戦後生まれとしては初めての芥川賞作家となりましたが、近年の芥川賞作品に比べると、ずっと「骨太」感があると思いました。

中上健次(1946‐1992/享年46)

 「十九歳の地図」で芥川賞候補になり、作品としての幅を拡げるために三人称にしたのか? それも一面の真実かも知れませんが、多分「彼」にしないと作者に書けない要素というのが、この「岬」という作品にはあったのではないかと考えます。

中上健次VS村上龍―俺達の舟は、動かぬ霧の中を、纜を解いて、ー。 対談+短篇小説+エッセイ.jpg中上 vs 村上.jpg 芥川賞の選考委員であり、中上健次との対談集もある村上龍氏は(『中上健次VS村上龍―俺達の舟は、動かぬ霧の中を、纜を解いて。』('77年/角川書店)―これも面白かった。村上氏が名が中上健次を前にしてやや背伸びしている感もあるが、2人の文学遍歴の共通点や相違点などがよくわかる)、後に、この『岬』という作品を受賞作の水準に定めていたことを、ある年の芥川賞の選評で述べていたように思います。
中上健次VS村上龍―俺達の舟は、動かぬ霧の中を、纜を解いて。 対談+短篇小説+エッセイ (1977年)

 登場人物はそれほど多くないのですが、主人公の「彼」(秋幸)を取り巻く人物の血縁関係が複雑で、読みながら家系図を作った方がいいかも知れません。父・母がそれぞれ異なる兄弟姉妹が入り乱れ、その家計図メモがだんだんぐちゃぐちゃになってきた頃に出来事は大きく進展し、義父が叔父を刺したり、異父姉の錯乱があったりしますが、姉を連れて家族で岬にピクニック?にいくところは、それまでの殺伐感とは違ったソフトフォーカスな感じがあり、印象的でした。

 書いてみた家計図を見て、こうして〈親族の基本構造〉を破壊している元凶は、3度の結婚をしている主人公の母親だと思ったのですが、主人公は、登場人物のすべてと距離を置いている中、この母親に対しては、愛憎入り混じっている感じで、姉に対する意識にも微妙なものがあり、こんなぐちゃぐちゃな血縁関係の中でも、自らを定位しつつ、どこか"家族"を求めているところがあるのかなあと。

 主人公は最後に異母妹と思われる女性を見つけて交合しますが、これは、それまで比較的おとなしかった彼が、父や義父と同じ獣性に目覚めた、つまり「血」に負けて同じように鬼畜の道に嵌まったということなのでしょうか。それとも、潜在的渇望としてあった兄妹愛に目覚めたということ?

 自分にはこの辺りはむしろ、今まで子どもだった主人公が、エディプス・コンプレックスを克服した話のように読めました。血縁関係のない義父と同じようになるということは、「血」に負けたという理屈は成立せず、むしろ、男になる、つまり妹と交わることで自らが父権そのものになる、という裏返された成長物語のように思えたのですが...。

十九歳の地図 文庫.jpg十九歳の地図.jpg なぜ「彼」という三人称が使われているのかもこの作品の"謎"で、「十九歳の地図」と同じような鬱屈した予備校生を主人公にした「黄金比の朝」では「ぼく」だったのが、「岬」や「浄徳寺ツアー」では「彼」になっている、しかし共に、「彼」を使うよりも「ぼく」でいった方がずっと自然に読める箇所がいくつかあります。

 『十九歳の地図 (河出文庫 102B)

「十九歳の地図」で芥川賞候補になり、作品としての幅を拡げるために三人称にしたのか? それも一面の真実かも知れませんが、多分「彼」にしないと作者に書けない要素というのが、この「岬」という作品にはあったのではないかと考えます。

 中編「十九歳の地図」(短編集『十九歳の地図』('74年/河出書房新社、'81年/河出文庫)所収)は、和歌山から東京に出てきて、新聞配達をしながら予備校に通っている浪人生の青年の鬱々とした青春を描いたもので、新聞を配達しても感謝されるわけでもなく、集金に行けば煙たがられ、仕舞には飼犬に吠えられるという、ストレスだらけの生活の中、青年は、新聞の配達先で自分の気に入らない家について、地図上で☓印をつけていくという―このメインストーリーだけでも暗い話ですが、併せて、主人公の周辺の社会の下層で生きる人々の生き様が描かれていて、中上健次らしい暗さだなあと。

十九歳の地図00.jpg十九歳の地図0.jpgさらば愛しき大地 poster.jpg この「十九歳の地図」は映画化され('79年/群狼プロ)、監督は暴走族を追ったドキュメンタリー映画「ゴッド・スピード・ユー! BLACK EMPEROR」('76年/群狼プロ)の柳町光男(後に、根津甚八、秋吉久美子主演での「さらば愛十九歳の地図b.jpgしき大地」('82年/群狼プロ)などの佳作を撮るが、中上健次は「さらば愛しき大地」の脚本にも参加している)、主人公の青年役は「ゴッド・スピード・ユー!」にも出ていた本間優二(映画出演を機に暴走族から役者に転じたが1989年に引退)、主人公の下宿の同居人で、偽の入れ墨で客を脅して集金している元釘師の新聞配達人に蟹江敬三(1944-2014)(いい演技をしていて「さらば「十九歳の地図」蟹江.jpg愛しき大地」にも出演している。そして、「さらば愛しき大地」でもいい演技をしている)が扮していて、この蟹江十九歳の地図 沖山秀子.jpg敬三と、自殺未遂で片脚が不自由になった娼婦を演じた沖山秀子(1945-2011)(ジャズ・ヴォーカリストでもあり、中上健次は彼女の大ファンだった)の濡れ場シーンの何と暗いこと! とにかく暗い暗い作品でしたが、その暗さを通して、青年の意志のようなものがじわーっと伝わってくる(ある意味「前向き」な)不思議な仕上がりになっていました。

神々の深き欲望_07.jpg神々の深き欲望 dvd.jpg 沖山秀子は、すでに今村昌平監督の「神々の深き欲望」(' 68年/日活)で存在感のある演技をみせており、汚れ役に迫力のある女優でした。この作品は、南国の孤島の村を舞台に、兄娘相姦や父娘相姦など村の禁制を破ったことで疎外され追放されていく太一族の太根吉(三國連太郎)と、島の産業開発や観光開発のためコミュニティとしての絆が崩壊していく村社会を描いたものでした。

 地元開発を機に村社会に亀裂が生じるというのはよくある設定ですが、主人公・根吉の娘(松井康子神々の深き欲望.jpg)を島の区長(加藤嘉)が引き取って愛人にし、区長が亡くなった後、兄は妹を取り戻して逃避行を図るものの、息子(河原崎長一郎)を含む村人達に殴殺されてしまうというストーリーにみられるように、また、語り部によって語られる説話的な構成という点からも、個と家族、共同体の関係性に重きを置いた作品という印象を受けました。神々の深き欲望 スチール.jpg沖山秀子の演じたのは、息子の妹で、開発業者の社員(北村和夫)に政略的に与えられる白痴の娘の役でした。

沖山秀子(太トリ子(太亀太郎の妹))/嵐寛寿郎(太山盛(太根吉の父で神に仕える太家の長。自分の娘と近親相姦をして根吉を産ませている))

 彼女が北村和夫演じる社員を好きになったことが悲恋の結末に繋がり、最後は「岩」になってしまったという、説話または神話と呼ぶにはあまりにドロドロした話で、キネマ旬報ベストテンの'68年の第1位作品ですが、観た当時はあまり好きになれなかった作品でした(沖山秀子は良かった。と言うより、スゴかったが)。しかしながら、後に観直すうちに、だんだん良く思えるようになってきた...(抵抗力がついた?)。

沖山秀子.jpg 因みに、沖山秀子は関西学院の女子大生時に今村昌平監督に見い出されてこの映画に出演し、これを機に今村昌平監督の愛人となり、その関係が破局した後は、カメラマン恐喝のかどで逮捕され(留置場では全裸になって男性受刑者を歓喜させ、「みんな何日も女の体を見てないからね。私はブタ箱をパラダイスにしてやったんだよ」と言ったという逸話がある)、出所後は精神病院に入院、退院後マンションの7階から投身自殺をするも未遂に終わり、「十九歳の地図」出演時の「自殺未遂で片脚が不自由になった娼婦」役の「自殺未遂で片脚が不自由になった」というのはそのまま地でいっているというスゴさ。(2011年3月21日死去)

十九歳の地図5.jpg「十九歳の地図」●制作年:1979年●監督・脚本:柳町光男●製作:柳町光男/中村賢一●撮影:榊原勝己●音楽:板橋文夫●原作:中上健次「十九歳の地図」●時蟹江敬三.jpg間:109分●出演:本間優二/蟹江敬三/沖山秀子/山谷初男/原知佐子/西塚肇/うすみ竜/鈴木弘一/白川和子/豊川潤/友部正人/津山登志子/中島葵/川島めぐ /竹田かほり/中丸忠雄/清川虹子/柳家小三治/楠侑子●公開:1979/12●配給:プロダクション群狼●最初に観た場所:文芸坐ル・ピリエ(81-1-31)(評価:★★★★)●併映:「ゴッド・スピード・ユー! BLACK EMPEROR」(柳町光男) 

ゴッド・スピード・ユー! BLACK EMPEROR(1976) dvd_.jpgゴッド・スピード・ユー! BLACK EMPEROR .jpg「ゴッド・スピード・ユー! BLACK EMPEROR」●制作年:1976年●製作・監督:柳町光男●撮影:岩永勝敏/横山吉文/塚本公雄/杉浦誠●時間:91分●出演:ブラックエンペラー新宿支部の少年たち/本間優二●公開:1976/07●配給:プロダクション群狼●最初に観た場所:文芸坐ル・ピリエ(81-1-31)●2回目:自由が丘・自由劇場(85-06-08)(評価:★★★)●併映(1回目):「十九歳の地図」(柳町光男)●併映(1回目):「さらば愛しき大地」(柳町光男)
ゴッド・スピード・ユー!BLACK EMPEROR [DVD]

加藤嘉(竜立元(クラゲ島の区長で製糖工場の工場長))
神々の深き欲望 竜立元 加藤嘉.jpg「神々の深き欲望」.jpg「神々の深き欲望」●制作年:1968年●監督:今村昌平●製作:山野井正則●脚本:今村昌平/長谷部慶司●撮影:栃沢正夫●音楽:黛敏郎●時間:175分●出演:三國連太郎/河原崎長一郎/沖山秀子/嵐寛寿郎/松井康子/原泉/浜村純/中村たつ/水島晋/北村和夫/小松方正/殿山泰司/徳川清/石津康彦/細川ちか子/扇千景/加藤嘉/長谷川和彦●公開:1968/11●配給:日活●最初に観た場所:池袋・文芸地下(83-07-30)(評価:★★★★)

中上 健次 ユリイカ.jpgユリイカ2008年10月号 特集=中上健次 21世紀の小説のために

 【1978年文庫化[文春文庫]/2000年再文庫化[小学館文庫(『岬・化粧 他』-中上健次選集12)]】

中上 健次.jpg  沖山秀子 2.jpg 沖山秀子 in「喜劇・女は度胸」('69年/松竹)with 渥美清

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ピカレスク・ロマン或いはサクセス・ストーリーとして楽しめる"小説"になっている『花の嵐』。

花の嵐―小説・小佐野賢治〈上〉.jpg花の嵐―小説・小佐野賢治〈下〉.jpg花の嵐 小説小佐野賢治 上.jpg 花の嵐 小説小佐野賢治下.jpg  女教師 清水一行 カッパ・ノベルズ.jpg
『花の嵐 小説・小佐野賢治 (上・下)』(朝日新聞社)/『花の嵐―小説小佐野賢治〈上〉』『花の嵐―小説・小佐野賢治〈下〉』光文社文庫/『女教師―長編推理小説 (カッパ・ノベルス)

清水一行.jpg小説兜町(しま).jpg 高杉良、城山三郎と並び、日本における経済小説の第一人者として知られる清水一行(1931-2010)ですが、'59年に『総会屋錦城』で直木賞を取った城山三郎、'75年に『虚構の城』でデビューした高杉良に対し、清水一行は'66年に『小説 兜町(しま)』で作家デビューしており、デビュー期で言えば、城山三郎と高杉良の間になります。
 また、評論家の佐高信は、高杉良、城山三郎を「向日派」とし、清水一行を「暗部派」としていますが、前向きで夢を感じさせる主人公が登場して読後感も爽やかなものが多い高杉作品などに比べると、確かに清水一行の作品はドロドロした経済や社会の暗部を抉ったものが多い。

花の嵐 (上) 小説 小佐野賢治.jpg 本書も政商・小佐野賢治(1917-1986)を扱ったものであるから、当然のことながらドロドロして暗いのかと思いきや、ピカレスク・ロマンとして、或いはサクセス・ストーリーとして楽しめる"小説"に仕上がっていました(ロッキード事件に連座する前で話は終わっている)。

 箱根・強羅ホテルの買い取り依頼に応じたことで東急の総帥・五島慶太から寵愛され、東急からバス事業を譲り受けたことが成功への足掛かりになっていますが、その後、弁護士・正木亮の紹介で田中角栄と知り合い、一方で児玉誉士夫らとも交わり、財界の裏道を歩んでいく―。
 もともと政治家には関心が無かったようですが、「農家出の無学歴」コンプレックスという点で田中角栄と合い通じ、"刎頚の交わり"となったようです。

花の嵐〈上〉 (角川文庫)

小佐野賢治.jpg ガソリン横流しでGHQに逮捕されたにもかかわらず、投獄期間中に看守を騙して外出し芸者遊びをした話など、ニヤリとさせられる"悪漢"ぶりで、作者の小佐野に対する愛着が感じられる一方、こんなに好人物に描いちゃっていいのかなあという気も。

 ただし、不良会社を社員のクビを切ることなく次々と再建したというのは、やはり並々ならぬ手腕だと思うし、コワモテのイメージがあり、面の皮も厚そうだけれども(ロッキード事件(1976年)の証人喚問で小佐野が何度も口にした「記憶にございません」はその年の流行語となった)、小佐野の近くで接した人によれば、あまり感情を表に表さない紳士然とした人物だったそうです。

モアナ・サーフライダー.jpgシェラトン・ワイキキ(左)とロイヤル・ハワイアン(右).jpg バス会社だった国際興業は、ハワイのロイヤル・ハワイアン、モアナ・サーフライダー、シェラトン・プリンセス・カイウラニ、シェラトン・ワイキキといった名門ホテルを買収し、小佐野はハワイの「ホテル王」と呼ばれるようになって、更に自身が夢見た帝国ホテルの買収も果たしましたが、その後バブルが崩壊し、彼が社主だった国際興業は外資の傘下に入っています(従って帝国ホテルも外資傘下となっている)。('06年時点) モアナ・サーフライダー(左)/シェラトン・ワイキキとロイヤル・ハワイアン(右) 

 因みに、清水一行の作品では、『女教師』('77年/カッパ・ブックス)という小説があり、ストーリーは、若い音楽教師が中学校内で暴行され、3年生の不良グループの生徒が犯人と思われたが、事を荒立てたくない校長はじめ学校側はもみ消しをはかり、女教師が生徒を誘惑したのだという流言飛語まで流されたため女教師は失踪、そんな中、主犯格と思われる生徒が誘拐され、更に教師が殺害される―というもの。

清水一行・『女教師』.jpg女教師 清水一行 tokuma.jpg この通り、推理サスペンスであるわけですが、校内暴力や教職員の不正と、それに対し何も手を打たない学校―といった教育現場の荒廃を鋭く抉っており、いつの時代にも通じる社会的テーマを背景としています。「いつの時代にも通じる」というのは残念なことでもありますが、この作品は佳作であると思います。
女教師 (徳間文庫)


女教師 (集英社文庫)
田中 登(1937-2006/享年69)
田中登.jpg女教師 ポスター.jpg この作品は映画化され、先月['06年10月]動脈瘤解離のため急逝した田中登が監督し、脚本は中島丈博、主演は永島暎子。日活ロマンポルノの一作品として作られたためか、一応テーマは原作に沿おうとしてはいるものの(基本的には学校や社会の体制を批判した真面目な作品だった)、登場人物などの改変が激しく、ロマンポルノの一環としてこの作品を撮るのはどうかという気もしました。名画座で併映の「赫い髪の女」は、愛欲がテーマだからロマンポルノでもいいのだけれど...(但し、映画はヒットし、第9作まで作られた。風営法の強化改正で、「女教師」という言葉がポルノ映画のタイトルに使えなくなったため、シリーズを終わらざるを得なかったらしい)。自殺した古尾谷雅人(1963‐2003/享年45)の映画デビュー作。泉谷しげるの「春夏秋冬」が劇中で使われています。

女教師 1977.jpg「女教師」.jpg「女教師」●制作年:1977年●監督:田中登●製作:岡田裕●脚本:中島丈博●撮影:前田米造●音楽:中村栄●原作:清水一行●時間:100分●出演:永島暎子/砂塚英夫/山田吾一/鶴岡修/宮井えりな/ 久米明/穂積隆信/蟹江敬三/樹木希林/古尾谷康雅 (古尾谷雅人)/絵沢萠子/福田勝洋●公開:1977/10●配給:日活●最初に観た場所:銀座並木座 (評価:★★★)●併映:「赫い髪の女」(神代辰巳)

『花の嵐』...【1993年文庫化[角川文庫(上・下)]/1994年再文庫化[朝日文庫(上・下)]/1999年再文庫化[光文社文庫(上・下)]】『女教師』...【1980年文庫化[角川文庫]/1984年再文庫化[集英社文庫]/2007年再文庫化[徳間文庫]】

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読後の感動はあった。モデルはモデル、小説は小説として読むべきか。

不毛地帯 1.jpg 不毛地帯 2.jpg 不毛地帯 3.jpg 不毛地帯 4.jpg  不毛地帯ー.png
『不毛地帯』 新潮文庫[旧版](全4巻)   映画「不毛地帯」('76年/東宝) 仲代達矢・丹波哲郎

不毛地帯 映画.jpg 『白い巨塔』('65年/新潮社)、『華麗なる一族』(73年/新潮社)が、それぞれ映画も含め力作だったのに対し、この『不毛地帯』の仲代達矢主演の"映画"の方は、配役は豪華だけれど個人的には今ひとつでした(テレビで観たため、平幹二朗主演のテレビ版と記憶がごっちゃになっている)。そもそも、181分という長尺でありながらも、原作の4分の1程度しか扱っておらず、原作が連載中であった事もありますが次期戦闘機決定をめぐる攻防部分だけを映像化したと言ってもよく、結果として壱岐正という主人公の生き方に深みが出てこない...。

 ただし"原作"だけでみると、自分が最初に読んだ当時の読後の感動はこれが一番で、もともと映画に納まり切らない部分が多すぎたか? それと、こうした複雑な話が映画化された時によくありがちな傾向で、愛憎劇中心になってしまった感じもしました。

 この原作の方は、以前は商社マンを目指す人はみなこぞって読んで、そして感動したという話も聞きます。しかし今改めて読むと、作品に描かれる総合商社の体質は今も変わらないのかもしれませんが、産業構造の変化などで商社の仕事自体はずいぶん変わっているのではないかという気がします(その点、一番変わっていないのは『白い巨塔』で描かれた大学附属病院かもしれない)。

 国の二次防主力戦闘機の受注をめぐって、交渉相手の防衛庁の部長に戦時中の命の恩人である元陸軍中佐・壱岐正をぶつけるという商社の戦略が凄いと思いましたが、戦後60年以上を経た今現在、こうした"命の恩人"みたいな関係がどれだけあるのか、またそれがビジネスで成り立つかと考えると、かなり特異な状況を描いているようにも思えました。

 そうしたこともあり、良くも悪くも、モデルとされている瀬島龍三氏のイメージとどうしても切り離せません。
 小説の主人公はラストの身の引き方は美しいが、瀬島氏は商社マンとして一線を退いた後も中曽根内閣の臨調委員として政治"参謀"ぶりを発揮し(結局こういう「ひとかどの人物」は在野にいても声がかかる?)、90歳を超えてなお中曽根氏の個人的ブレーンの1人となっている...。

 著者は「これは架空の物語である。実在する人物、出来事と類似していても偶然に過ぎない」と言っています。
 『白い巨塔』と並ぶ著者の代表作であり傑作であることには違いなく、モデルはモデル、小説は小説として読むべきなのかも知れません(同一作者の後の作品『沈まぬ太陽』では、同一モデルであるはずのこの人物の描き方が、「国士」から単なる「策士」へと変化している)。

瀬島龍三(せじま・りゅうぞう)
瀬島龍三.jpg伊藤忠商事元会長。富山県松沢村(現小矢部市)出身。1938年12月陸軍大学校卒、大本営陸軍参謀として太平洋戦争を中枢部で指揮をとる。満州で終戦を迎えたが、旧ソ連軍の捕虜となり、11年間シベリアに抑留され、1956年に帰国。1958年、伊藤忠に入社し、主に航空機畑を歩いた。1968年専務に就き、いすゞ自動車と米ゼネラル・モーターズ(GM)との提携を仲介。戦前、戦中、戦後を通じて政、財界の参謀としての道を歩んだ。(2007年9月4日死去/享年95)

不毛地帯 映画.jpg不毛地帯 丹波哲郎.jpg「不毛地帯」●制作年:1976年●監督:山本薩夫●製作:佐藤一郎/市川喜一/宮古とく子●脚本:山田信夫●音楽:佐藤勝●原作:山崎豊子●時間:181分●出演:仲代達矢/丹波哲郎/山形勲/神山繁/滝田裕介/山口崇/日下武史/仲谷昇/山本圭/北大路欣也/小沢栄太郎/田宮二郎/久米明/大滝秀治/高橋悦史/井川比佐志/中谷一郎/八千草薫/秋吉久美子/藤村志保/志村喬/高城淳一/秋本羊介/岩崎信忠/石浜朗/内田朝雄/小松方正/加藤嘉/中津川衛/辻萬長/高杉哲平/杉田俊也/神田隆/永井智不毛地帯 dvd.jpg不毛地帯相関図.jpg不毛地帯久松経済企画庁長官  1.jpg雄/嵯峨善兵/伊沢一郎/青木義朗/アンドリュー・ヒューズ/デヴィット・シャピロ/●劇場公開:1976/08●配給:東宝(評価★★★) 
不毛地帯 [DVD]
丹波哲郎(防衛庁・川又空将補)/加藤嘉(防衛庁・原田空幕長)/大滝秀治(経済企画庁長官・久松清蔵)
川又空将補 - 丹波哲郎.jpg 原田空幕長 - 加藤嘉.jpg 久松経済企画庁長官 - 大滝秀治.jpg

 【1983年文庫化[新潮文庫(全4巻)]・2009年改訂[新潮文庫(全5巻)]】

不毛地帯〔'76年/東宝〕監督:山本薩夫/製作:佐藤一郎/脚本:山田信夫/出演:仲代達矢/丹波哲郎/山形勲
不毛地帯 映画.jpg

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「華麗なる一族」1974年.jpg 古さを感じさせない。政財界にわたっての丹念な取材の跡が窺える。

山崎豊子 華麗なる一族.jpg  華麗なる一族 上巻.jpg 華麗なる一族 中巻.jpg 華麗なる一族 下巻.jpg 
華麗なる一族 (1980年) (新潮文庫)』 /新潮文庫(上・中・下)〔改訂版〕/映画「華麗なる一族」('74年/東宝)

華麗なる一族 dvd.jpg華麗なる一族.jpg 万俵財閥の当主で阪神銀行頭取の万俵大介の野望を軸に、それに翻弄される一族の姿を金融業界の内幕に絡めて描いた作品で、'73(昭和48)年の発表ですが、「金融再編」に伴う「銀行の合併問題」がモチーフになっているため、あまり古さを感じさせません。

 小説の冒頭は、志摩半島の英虞湾を望む一流ホテルでの主人公一族の豪奢な正月晩餐会から始まりますが、作者は舞台のモデルにした「志摩観光ホテル」のレストランから夕陽がどう見えるかまで取材しに行ったそうで、そうした丹念な取材は、銀行内部のみでなく、政治家や大蔵省など政財界に広く及んでいて、物語にリアルな厚みを増しています。 
華麗なる一族 [DVD]」/映画パンフレット                  

 大介の野望は、上位銀行の専務と結託してその銀行を併呑する、所謂「小が大を呑む」というもので(かつて神戸銀行が太陽銀行を吸収合併し、"名"前だけ「太陽神戸」として"実"の方をとった出来事がベースになっている)、大介の政財界への働きかけは、「政財癒着は良くない」という綺麗事のレベルを遥かに凌駕する凄まじさで、目的のためには親友も、長男さえも切り捨てる―。

 タイトルの「華麗なる一族」という言葉が、政界との癒着強化のための閨閥づくりを指すとともに、長男・鉄平の暗い過去の出生の秘密を表す反語にもなっています。

 同じ山崎豊子原作の映画化作品「白い巨塔」が大ヒットしたためか、この作品は豪華キャストで映画化されましたが('74年・山本薩夫((1910-1983))監華麗なる一族 仲代.jpg督)、オールキャストとは言え、その中で圧倒的に存在感を際立たせているのは佐分利信であり、その佐分利演じる万俵大介と鉄平(仲代達矢)の"暗い血"にまつわる確執に重きが華麗なる一族 田宮二郎.jpg置かれていたような感じもしました。また、鉄平の最期が、大介の女婿を演じた田宮二郎の実人生での自殺方法と同じだったことに思い当たりますが、鉄平役は実は田宮二郎がやりたかった役だったそうです。

華麗なる一族 目黒.jpg華麗なる一族 佐分利.jpg どうしても、こういう複雑なストーリーの話が映画化されると、情緒的な方向に重きがいってしまったりセンセーショナルな部分が強調されるのは仕方がありませんが(大介の「妻妾同衾」シーンなども当時話題になった)、それなりの力作でした。"いい人"がとにかく苛められる(相手方銀行の頭取の二谷英明とか)点で「白い巨塔」に共通するものを改めて感じたのと、農家の預金獲得のために、ワイシャツ姿で終日稲刈りまでする銀行員なども描いていて「銀行員って意外と泥臭いなあ」と思わされたりもしました。
                    映画「華麗なる一族 [VHS]」 ビデオ(上・下)
華麗なる一族2.gif華麗なる一族 ビデオ.jpg「華麗なる一族」●制作年:1974年●製作:芸苑社●監督:山本薩夫●製作:佐藤一郎/市川喜一/森岡道夫●脚本:山田信夫●音楽:佐藤勝●原作:山崎豊子●時間:210分●出演:佐分利信仲代達矢/月丘夢路/京マチ子/酒井和歌子/目黒祐樹/田宮二郎/二谷英明/香川京子/山本陽子/中山麻里/小沢栄太郎/滝沢修/河津清三郎/大空真弓/北大路欣也/志村喬/中村伸郎/加藤嘉/神華麗なる一族 京マチ子 .png山繁/平田昭彦/細川俊夫/大滝秀治/北林谷栄/西村晃/金田龍之介/小林昭二/花沢徳衛/鈴木瑞穂(ナレーションも担当)/嵯峨善兵/荒木道子/小夜福子/中村哲/武内亨/梅野泰靖/浜田寅彦/花布辰男/下川辰平/伊東光一/田武謙三/若宮華麗なる一族 京マチ子.jpg大祐/青木富夫/五藤雅博/生井健夫/白井鋭/夏木章/笠井一彦/守田比呂也/鳥居功靖/堺美紀子/横田楊子/川口節子/森三平太/千田隼生/金親保雄/南治/麻里とも恵/木島一郎/坂巻祥子/隅田一男/久遠利三/鈴木昭生/記平佳枝/東静子/加納桂●劇場公開:1974/01●配給:東宝●最初に観た場所:渋谷・東急名画座(山本薩夫監督追悼特集) (84-01-08) (評価★★★☆) 京マチ子(万俵大介の愛人・高須相子)
華麗なる一族 saburi.jpg滝沢修 華麗なる一族.jpg 大滝秀治 華麗なる一族.jpg 華麗なる一族 志村.jpg
華麗なる一族 (1974東宝)katou .jpg佐分利信(阪神銀行頭取・万俵大介)/滝沢修(長期開発銀行頭取・宮本)/大滝秀治(社民党代議士・荒尾留七)/志村喬(大阪重工社長・安田太左衛門)/仲代達矢(阪神特殊鋼専務・万俵鉄平)/加藤嘉(阪神特殊鋼常務・銭高)

                                                                                                                                                                                                                                                                                                             
華麗なる一族3.jpg月丘夢路(妻・万俵寧子)/香川京子(長女・美馬一子)/京マチ子(家庭教師・高須相子)/山本陽子(長男鉄平の妻・万俵早苗)/中山麻理(次男銀平の妻)/酒井和歌子(次女・万俵二子)


 【1973年単行本・1979年改訂[新潮社(上・中・下)]/1980年文庫化・2003年改訂[新潮文庫(上・中・下)]】

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映画を見てドラマを見て再読して、"本格派" 推理小説だったと...。

砂の器 カッパ.jpg 砂の器 (カッパ・ノベルス 11-9).jpg 砂の器.jpg 砂の器 下.jpg  砂の器 dvd.jpg 砂の器 unnmei.jpg
砂の器 (カッパ・ノベルス 11-9)』『砂の器〈上〉 (新潮文庫)』 『砂の器〈下〉 (新潮文庫)』〔'06年改版版〕「砂の器 デジタルリマスター版 [DVD]

sunanoutuwa12.jpg この作品は、'60(昭和35)年5月から翌年4月にかけて「読売新聞」夕刊に掲載され、カッパ・ノベルスで'61(昭和36)年7月刊行、'74年に映画化されたほか、'04年には中居正広主演でTVドラマ化されているので、ストーリーを知る人は多いと思います。

 映画館で映画を観て、「宿命」という言葉(または"曲の演奏")が頭にこびりついてしまい、パセティックな作品とのイメージを持っていましたが、もう一度原作にあたってみると、刑事たちに視点を置いて犯人を地道に追う"本格派" 推理小説の色合いが強いという印象を受けました(中居正広主演のテレビ版は最初から犯人を明かす倒叙型だったので、ミステリとしての面白さは半減。脇役陣は手堅いが、主演の中居正広の演技下手が目立つのも痛い)。

 好みは人それぞれだと思いますが、小説における、推理を通して徐々に、間接的に"犯人像"を浮き彫りにして行く描き方の方が、主人公の"業"のようなものがじわ〜っと感じられる気もします(元々テレビ版の配役で「人間の業」のようなものの描出を期待する方が無理がある?)。

映画「砂の器」.jpg 野村芳太郎(1919‐2005)監督、橋本忍・山田洋次脚本による映画化作品('74年/松竹)は、他の野村監督作品と比較しても、また同じ時期に映画化された他の松本清張原作のものと比べても比較的良い出来だったと思います(個人的には同監督の「鬼畜」('78年/松竹)の方が若干上かなという気がするが、松本清張自身はこの映画化作品を気に入っていたらしい。世間的な評価も「砂の器」の方が上か)。

「砂の器」3.jpg 加藤剛が演じた〈和賀英良〉は、「飢餓海峡」('64年/東映)で三國連太郎が演じた〈犬飼多吉(樽見京一郎)〉や「白い巨塔」('66年/大映)で田宮二郎が演じた〈財前五郎〉と並んで、恵まれない境遇から「成り上がる男」を体現していたと思われ、また、刑事役の丹波哲郎の演技も光るものがありました(その部下役を森田健作が演じている)。

『砂の器』(1974).jpg ただし、幼児期の暗い記憶や、自分をいじめた社会に対しての見返してやるという登場人物のリベンジ・ファクターが清張作品ならではのものだと思うのですが、どこまで映像で表現されていただろうかという気もします。テレビ版では「ハンセン病」というファクターを抜いてしまっているので、なおさらに原作とのギャップを感じざるを得ませんでした。

砂の器 チラシ.bmp『砂の器』(1974)21.jpg  個人的には、この小説が今まで読んだ清張作品の中で一番だとは思わないし、「ハンセン病」に対する偏見を助長したという批判までありますが、作者の代表的な傑作作品であることに異存はなく、結末を知ったうえでも原作を読む価値はあると思います。

映画「砂の器」チラシ
Suna no utsuwa (1974)         
Suna no utsuwa (1974).jpg砂の器  1.jpg「砂の器」●制作年:1974年●製作:橋本プロ・松竹●監督:野村芳太郎●脚本:橋本忍/山田洋次●音楽:芥川也寸志●原作:松本清張●時間:143分●出演:丹波哲郎/森田健作/加藤剛/加藤嘉/緒形拳/山口果林/島田陽子/佐分利信渥美清笠智衆/夏純子/松山省二/内藤武敏/春川ますみ/花沢徳衛/浜村純/穂積隆信/山谷初男/菅井砂の器sunanoutuwa 1.jpg砂の器 丹波哲郎s.jpgきん/殿山泰司/加藤健一/春田和秀/稲葉義男/信欣三/松本克平/ふじたあさや/野村昭子/今井和子/猪俣光世/高瀬ゆり/後藤陽吉/森三平太/今橋恒/櫻片達雄/瀬良明/久保砂の器 (映画) 丹波 .jpg砂の器 丹波.jpg晶/中本維年/松田明/西島悌四郎/土田桂司/丹古母鬼馬二●劇場公開:1974/10●配給:松竹●最丹波哲郎 .jpg初に観た場所:池袋文芸地下(84-02-19) (評価★★★★)●併映:「球形の荒野」(貞永方久)
丹波哲郎 2006年9月24日没

加藤嘉(本浦千代吉(和賀英良(本名・本浦秀夫)の父))
砂の器 (映画) 加藤嘉 .jpg 砂の器 加藤嘉.jpg
緒形拳(亀嵩駐在所巡査・三木謙一)/佐分利信(前大蔵大臣・田所重喜)
緒方拳 砂の器.jpg 佐分利信 砂の器.jpg

渥美清(伊勢の映画館「ひかり座」支配人)/笠智衆(亀嵩算盤・桐原小十郎)
渥美清 砂の器.jpg 笠智衆 砂の器.jpg

殿山泰司(通天閣前の商店街の飲食店組合長)/丹波哲郎(警視庁捜査一課警部補・今西栄太郎)
砂の器 殿山泰司.jpg

池袋文芸地下 地図.jpg文芸坐.jpg

 
池袋・文芸地下 1997(平成9)年3月6日閉館。



「砂の器」 2004.jpeg砂の器 中居版.jpg「砂の器」(TVドラマ版)●演出:福澤克雄/金子文紀●脚本:龍居由佳里●音楽:千住明●出演:中居正広/松雪泰子/渡辺謙/武田真治/京野ことみ/永井大/夏八木勲/赤井英和/原田芳雄/市村正親/かとうかずこ/佐藤仁美/佐藤二朗/森口瑤子/松岡俊介●放映:2004/01~03(全11回)●放送局:TBS

 
  【1961年ノベルズ版[光文社]/1973年文庫化・2006年改版版[新潮文庫]】

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大人でも解けない問題を子どもの前にシンプルな形で提示している。

ブラックジャック.JPGブラック・ジャック (1) (少年チャンピオン・コミックス) .jpg          ブラック・ジャック.jpg
ブラック・ジャック (1) (少年チャンピオン・コミックス)』['74年] 『ブラック・ジャック 1 [新装版] (1)』秋田書店 〔'04年〕
『ブラック・ジャック (全25巻)』(1974 /秋田書店・少年チャンピオン・コミックス)

 '73(昭和48)年11月から'83(昭和58)年10月まで約10年にわたり「週刊少年チャンピオン」(秋田書店)に連載された医療漫画の元祖で、今だこれを超える医療漫画はないとされている手塚治虫の代表作。'77(昭和52年)度・第1回「講談社漫画賞」を受賞しています。

 この作品を発表する前頃の作者は、少年誌の世界では既に古いタイプの漫画家とされ、'73年に自らが経営していた虫プロ商事が倒産、それに続いて虫プロダクション(既に経営者を退いていた)も倒産し、個人的にも巨額の借金を背負うことになったこともあって、「週刊少年チャンピオン」(秋田書店)の壁村耐三編集長の「手塚の最期を看取ってやろう」という厚意で始まった連載だったそうですが、この作品で作者は起死回生の大復活を果たすことになります。

ブラック・ジャック2.jpg このマンガがスゴイなあと思うのは、大人でも解けないような問題を、子どもでも読めるシンプルな形で提示しているところで、例えば、第17話の「二度死んだ少年」で、ブラック・ジャックが命を救った少年が結局は死刑になるという話。これを読んだ子どもはどう考えるのでしょうか。「子どもの死刑」など、小説では成り立ちにくい設定かもしれませんが、その点はマンガの利点を活かしていると思います。でも、こうしたテーマに対する答えを出すのは大人にも難しいでしょう。

 テレビアニメ化されましたが、1話当たりが長くなっているため、原作の本筋は変えないものの、"装飾品"が多くなってしまっている感じがします。それと、何だかやたら明るいのです。原作のタッチはもっと暗いし、ストーリーもゲッというようなものもあります(少年チャンピオン・コミックスでも最初のうちは「恐怖コミックス」と銘打っていた)。

瞳の中の訪問者 映画チラシ.jpg瞳の中の訪問者.jpg瞳の中の訪問者 宍戸錠.jpg 後半にいくにつれヒューマンな色合いが強くなりますが、カルト的な楽しみも見出すことも出来ます。例えば第167話の「春一番」は、'77年に脚本・ジェームス三木、監督・大林宣彦で「瞳の中の訪問者」というタイトルで実写版映画化されていて片平なぎさ 新人_.jpg 、'77年に歌手デビューしたばかりのホリプロの"新人"片平なぎさを売り出すためのプロモーション映画ともとれるものでした(「ブラック・ジャック」の実写版は加山雄三と本木雅弘がそれぞれブラック・ジャックを演じたものが知られているが、この作品でブラック・ジャックを演じたのは宍戸錠)。
    
瞳の中の訪問者zj.jpg映画チラシ/DVD「瞳の中の訪問者」/サントラLP(廃盤)

 珍品というか、今では一種のカルトムービーのような評価になっているようです。原作との対比で見ると面白く、結構笑えます(原作の方がずっとマトモ)。

瞳の中の訪問者8.gif「瞳の中の訪問者」●制作年:1977年●監督:大林宣彦●製作:堀威夫/笹井英男●脚本:ジェームス三木●撮影:阪本善尚●音楽:宮崎尚志●原作:手塚治虫 「春一番(「ブラック・ジャック」)」●時間:100分●出演:片平なぎさ/宍戸錠/山本伸吾/志穂美悦子/峰岸徹/和田浩治●公開:1977/11●配給:ホリプロ=東宝(評価:★★★?)

ピノコ誕生.jpg この新書版(コミックス版全25巻)のほかに、講談社の全集 (全22巻)や秋田文庫(全17巻)などにもありますが、読者クレームなどのため途中で抜いた話もあるようです。ただ、第2巻から登場のピノコも、双子の片割れの「畸形膿腫(きけいのうしゅ)」だったわけで、この話はテレビアニメでも放送開始後1年経ってようやく「ピノコ誕生」というタイトルで放映されましたが...(BJによる"回想"というかたちで)。 

ブラック・ジャックdx.jpg 新書の新装版も刊行中ですが、さらに収録されない作品が出てくるかも。   
講談社 DX版 〔'04年〕

 ピノコについては、この物語を、BJとピノコの恋愛物語(ロリータ愛ということになる)と見る見方もあるようで、ナルホド、ピノコは本当は18歳(18年間、母体内にいた)、だけれども女性というよりは少女、むしろ幼児近い(「人工」の身体という意味では人形にも近い)、こうした女性に成りきらない「女の子」というのは、他の手塚作品でも結構いたことに思い当たります。

ブラック・ジャック 2004 2.jpgブラック・ジャック 2004_.jpg「ブラック・ジャック」●演出:手塚眞●制作:諏訪道彦●音楽:松本晃彦●原作:手塚治虫●出演(声):大塚明夫/水谷優子/富田耕生/川瀬晶子/阪口大助/江川央生/渋谷茂/山田義晴/滝沢ロコ/渡辺美佐/小形満/後藤史彦/佐藤ゆうこ●放映:2004/10~2006/03(全63回)●放送局:読売テレビ

 【1974年コミックス版(全24巻+1巻)・1987年四六判(全17巻)・2001年B6判(全24巻)・2004年新装コミックス版判(全17巻)[秋田書店]/1977年全集・2004年B6判(DX版)[講談社(全22巻)]/1993年文庫化[秋田文庫(全17巻)]/2010年再文庫化[講談社(手塚治虫文庫全集BT)]】

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"無能"将軍・乃木希典をなかなか解任できない軍部に見る官僚主義。

坂の上の雲1.jpg 坂の上の雲2.jpg 坂の上の雲3.jpg 坂の上の雲4.jpg 坂の上の雲5.jpg 坂の上の雲6.jpg 二百三高地 dvd.jpg
新装改訂版(全6巻)['04年](カバー画:風間 完) 『坂の上の雲 <新装版> 1』『坂の上の雲 <新装版> 2』『坂の上の雲〈3〉』『坂の上の雲〈4〉』『坂の上の雲 <新装版> 五』『坂の上の雲 <新装版> 六』「二百三高地 [DVD]

 1968(昭和43)年から1972(昭和47)年にかけて「産経新聞」に連された長編大河小説で、経営者に最も読まれている小説といえば、かつては『徳川家康』(山岡荘八)、今はこの『坂の上の雲』ということですが、この『坂の上の雲』は、'69年の単行本刊行以来、文庫も含め1400万部ぐらい売れているとのこと、'04年には単行本の新装版が出ました(読みやすいが、6巻とも文庫本新版の第1巻の表紙絵を流用しているのはなぜ?)。 
 
 松山出身の歌人正岡子規と軍人の秋山好古・真之兄弟の三人を軸に描いた作品というよりも、正岡子規が病死して早いうちに小 説の舞台から去ってしまうことでもわかるように、維新から日露戦争に至るまでの明治日本の人物群像を描いたものと見るべきで、登場人物は1000人を超えるそうで、"情報将校"明石元二郎などはかなり詳しく取り上げられていて、関係する本を読んでみたくなりました。

「二百三高地」1.jpg 物語のクライマックスは、二〇三高地で有名な旅順大戦と、ロシアのバルチック艦隊に勝利した日本海海戦ですが、間に様々な人物挿話が入り(ロシア側の人物もよく描けている)、バルチック艦隊がアフリカ東岸マダガスカルあたりでいつまでもグダグダしている(スエズ運河を支配していた大英帝国が日英同盟の名の下にロシアにスエズ運河の通過許可を出さなかったためにアフリカ大陸を迂回するハメになった)、その間にも、著者のウンチクは繰り広げられます。
映画「二百三高地」(1980/東映)より 
「二百三高地」2.jpg これを面白いと見るか、冗長と見るか。著者の初期作品のような快活なテンポはないけれど、先述のスパイ活動をやった明石元二郎の秘話など随所に面白い話がありました。

 全体を振り返ると、やはり旅順攻防の凄惨さが印象的で、旅順陥落での開城の際に、日露の兵が抱き合い、共に酒場に繰り出した兵士もいたというのが、それを物語っています。 
 陥落直前にはすでに両軍の兵に士気は無く、皆自分が生き残れるかを考えるようになっていたわけです。 
 
203.jpg この作品での乃木希典将軍の無能ぶりの描き方は徹底していて、乃木は、日本戦史上、最も多くの部下をむざむざと死地へ追いやった大将ということになるのではないでしょうか。 
 その描き方の賛否はともかく、彼をなかなか解任できないでいる軍中枢部(その間にも多くの将兵がどんどん犬死していく)に、いったんエリートとして位置づけた人物に対し、他の者を犠牲にしてもその人物のキャリアを守ろうとする官僚主義の非合理を見た思いがします。

「二百三高地」3.jpg それにしても、バルチック艦隊の大航海とその疲弊による敗北は、近代戦において最も時間と費用を要するのがロジスティックであることを端的に象徴していると思いました(湾岸戦争もイラク戦争も「輸送」に一番カネがかかっている)。
 
 兵器の能力などを戦争における"戦術"部分だとすれば、ロジスティックは"戦略"部分に当たり、"ランチェスターの2次法則"ではないが、近代戦において強国は"戦略"にふんだんにカネを注ぐ―ただし、その"戦略"そのものが戦局の読み違いのうえに立脚していたのでは相手に勝てないということを、この小説は教えてくれます。

「二百三高地」5.jpg 二〇三高地の攻防戦をメインに描いた舛田利雄監督の映画「二百三高地」('80年/東映)は3時間の大作、時折旅順大戦の戦況図なども画面に出てきて、大戦の模様を正確に描こうとしている姿勢は買えますが、これだけ乃木希典(仲代達矢)が自軍の兵士たちに強いた犠牲の大きさを描きながらも、彼を悲劇の英雄視するような姿勢が窺えて解せませんでした。さだまさしの音楽もとってつけたような感じで、(自分が司馬遼太郎のこの小説に感化された部分もあるかも知れないが)乃木希典の戦術的無能を情緒的な問題にすりかえてしまっている印象を受けました。

7二百三高地 丹波哲郎 dvdジャケット1.jpg「二百三高地」●制作年:1980年●監督:舛田利雄●脚本:笠原和夫●撮影:飯村雅彦●音楽:山本直純●主題曲:さだまさし●時間:181分●出演:仲代達矢/あおい輝彦/新沼謙治/湯原昌幸/佐藤允/永島敏行/長谷川明男/稲葉義男/新克利/矢吹二朗/船戸順/浜田寅彦/近藤宏/伊沢一郎/玉川伊佐男/名和宏/横森久/武藤章生/浜田晃/三南道郎/二百三高地 丹波哲郎.jpg北村晃一/木村四郎/中田博久/南廣/河原崎次郎/市川好朗/山田光一/磯村健治/相馬剛三/高月忠/亀山達也/清水照夫/桐原信介/原田力/久地明/秋山敏/金子吉延/森繁久彌/天知茂/神山繁/平田昭彦/若林豪/野口元夫/土山登士幸/川合伸旺/久遠利三/須藤健/吉原正皓/愛川欽也/夏目雅子/野際陽子/桑山正一/赤木春恵/原田清人/北林早苗/土方弘/小畠絹子/河合絃司/須賀良/石橋雅史/村井国夫/早川純一/尾形伸之介/青木義朗/三船敏郎/松尾嘉代/内藤武敏/丹波哲郎●公開:1980/08●配給:東二百三高地 三船敏郎.jpg二百三高地 丹波哲郎.jpg映●最初に観た場所:飯田橋・佳作座 (81-01-24)(評価:★★)●併映:「将軍 SHOGUN」(ジェリー・ロンドン)
三船敏郎(明治天皇)/丹波哲郎(児玉源太郎)

 【1969年単行本・1972年改訂・2004年再改訂[文芸春秋(全6巻)]/1978年文庫化・1999年改訂[文春文庫(全8巻)]】

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