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「河内十人斬り」の惨劇に材を得た作品。終局の描写は素晴らしいが...。

告白.jpg  『告白』['05年/中央公論新社]河内音頭 河内十人斬.jpg「河内音頭 河内十人斬」CD

 2005(平成17)年度・第41回「谷崎潤一郎賞」受賞作。

 明治26年に河内水分で、農家の長男・城戸熊太郎が、妻を寝取られた恨み、金を騙し取られた恨みから、同じく村の者に恨みを抱くその舎弟・谷弥五郎と共謀し、村人10人を惨殺したという事件(「河内十人斬り」という任侠的な敵討ち物語として、河内音頭のスタンダードナンバーにもなっている)を題材にしたもの。

 単行本の帯には「人は人をなぜ殺すのか」とあり、かなり重苦しい雰囲気の物語かと思いきや、酒と博打の生活から抜け出せないダメ男・熊太郎を、河内弁と独特の"町田節"で落語みたいにユーモラスに描いていて、そのアカンタレぶりに対する作者の愛着のようなものが滲み出ています。

 熊太郎という男は言わばヤクザ者ですが、もともと進んで悪事を働くような人物ではなく、他人を思いやることもできる人間なのに、いつも他人に誤解され、割を食って損ばかりしている、それを自分では、自分が思弁的な人間であり、自分の心情をうまく言葉にできないためだ感じている人物です。

 小説の中では随所にその熊太郎のねちっこい"思弁"が内的独白として語られ、その彼が凶行に及んだ最後の最後で、思っていることを言葉にしようとする、そこにタイトルの『告白』の意味があるということでしょう。

 カタストロフィに向かう終局の描写は素晴らしく、そこに至るまでのユーモラスなプロセスは、対比的な効果を高めることに寄与しているとは思いますが、進展がないまま同じような出来事が続いているような印象もあり、やや冗長な感じがします。

 ただし、人物造型といい語り口といい"町田ワールド"ならではのユニークさで、読み終えてみれば力作には違いないとの感想は持ちましたが、テーマ的には、「人は人をなぜ殺すのか」と言うより、「熊太郎はなぜ人を殺したのか」という話であるように思えました。
 
 【2008文庫化[中公文庫]】

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男女の人生における縁と交わり、そこにある機微を描いた佳作。

センセイの鞄2.jpgセンセイの鞄.jpgセンセイの鞄』(2001/06 平凡社)  センセイの鞄 ドラマ.jpg
「センセイの鞄」(2003年2月/WOWOW)

 2001(平成13)年度・第37回「谷崎潤一郎賞」受賞作。 

 38歳のOLの私と70代の元高校教師の「センセイ」は、私の高校卒業後は久しく顔を合わせることも無かったが、数年前に駅前の一杯飲み屋で隣り合わせて以来、ちょくちょく往来するようになった。私にとって元教師は「センセイ」と仮名書きするがぴったりくる感じであり、一方、彼は私を「ツキコさん」と呼ぶが、やがて私はセンセイに惹かれるようになっていく―。

 30歳以上も年齢差のある男女の話で、物語そのものにも引き込まれますが、現実と非現実の際(きわ)を描くような文章そのものが上手だなあと思いました。
 (この作者の特徴ですが)食べたり飲んだりの場面はふんだんかつ丹念に描かれ、一方、OLの「わたし」の仕事のことなどはほとんど書かれていない。
 老人であるセンセイに対する観察眼に温かみがあり(本来はもっと老人としての醜い面が見えるはずだが)、彼の過去もことさら暗く描くことはぜず、ワライタケを食べた元妻の話など、むしろユーモラスに描かれていたりする。
 そのほか、会話などの随所にも仄かなユーモアがあり、時に幻想的な、また時にメルヘンチックな雰囲気も漂う。

 こうした生活実感を消し去ったような表現上の計算の上に、毅然とした面と飄々とした面を併せ持つようなセンセイの人物造形が成り立っている感じがし、例えばセンセイが内田百閒の話を引用する場面がありますが、百閒は作者の好みの作家でしょう。「ツキコさん」から見たセンセイという描かれ方の中でこうした場面に出会うと、作家は今老人の中に入り込んだのかなと思ったりし、その分だけ「ツキコさん」をバランスよく対象化している感じがしました。

 本書を読んで「感涙した」とか「胸が詰まった」というような感想を聞きましたが、個人的にはそこまでの思い入れには至らず、どちらかと言うとほのぼのとした感じで、かと言って「大人のメルヘン」と呼ぶほどにメルヘンチックに流れているようにも思えませんでした(勝手にメルヘンチックに読む中高年男性はいるかも知れないが)。

 むしろ、2人が恋愛していながら「恋愛」を演じようとし、その規範が自分たちに当てはまるかどうか確認しながら関係性を深めていくようなところが面白く、男女の人生における縁と交わり、そこにある機微を描いた佳作だと思いました。

センセイの鞄 ドラマ2.jpg「センセイの鞄」2003年2月単発ドラマ化(WOWOWW) 演出:久世光彦 主演:小泉今日子/柄本明


 【2004年文庫化[文春文庫]】

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予言的? 社会問題的モチーフを並べて、無理矢理くっつけた?

共生虫.jpg 『共生虫』 (2000/03 講談社) 共生虫2.jpg 『共生虫 (講談社文庫)』 ['03年]

 2000(平成12)年度・第36回「谷崎潤一郎賞」受賞作。 

 ある"長期ひきこもり"の青年が、インターネットにより偶然知った、女性ニュースキャスターのHPの裏サイト「インターバイオ」を通じて、絶滅をプログラミングされた「共生虫」というものを自らが宿しているという確信を持ち、凄惨な殺人へと駆り立てられていく―。

 '98年「群像」で連載開始、翌'99年10月に連載終了しましたが、その直後、"ひきこもり"的生活を送っていた青年による「京都"てるくはのる"児童殺害事件('99年12月)」や「新潟幼児長期監禁事件('00年1月)」が起き、精神科医・斎藤環氏の『社会的ひきこもり-終わらない思春期』('98年/PHP新書)とともに、"ひきこもり"事件やその社会問題化を予言したかのように注目を浴びました。

 本当にタイミング的には予言者みたいだと感心してしまいますが、「ひきこもり・インターネット・バイオレンス」の三題噺にテーマが後から付いて来る感じで、小説的には何が言いたいのか今ひとつ伝わってきませんでした(あとがきで、最終章を書いているときに「希望」について考えたとありますが、最初は何を考えていたのか?)。

 前半部分の第1の殺人は、神経症・統合失調的なシュールな描写が作者らしいのですが、マインド・コントロール的な組織「インターバイオ」とのやりとりは『電車男』('04年/新潮社)の裏バージョンみたいで(その点でも予言的?)、第2のリベンジ(?)的な殺人は、お話のために設定した殺人で、むしろこっちの方がリアリティが無いように思えました。

 社会問題的モチーフを並べて、無理矢理くっつけたという感じがする...。
 専門家である斎藤環氏は、「ひきこもり」と「インターネット」の結びつき相関が実は低いことを指摘していますが、これは作者にとって結構キツイ指摘ではないでしょうか。
 ただ、一般的なイメージは斎藤氏の言うのとは逆に、「ひきこもり」と「インターネット」を結びつける方向で形成されているように思われ、この小説もそのことに"貢献"したのかも。

 【2003年文庫化[講談社文庫]】

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