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主人公を男性から女性に変えて成功したとも言えるし、原作と別物になったとも言える。

06『顔』.jpg 顔 映画 0.jpg 顔 (1956年) (ロマン・ブックス).jpg 『顔・白い闇』.JPG
<あの頃映画> 顔 [DVD]」岡田茉莉子/大木実『顔 (1956年) (ロマン・ブックス)』(顔/殺意/なぜ「製図」が開いていたか/反射/市長死す/張込み)『顔・白い闇 (角川文庫)』(顔/張込み/声/地方紙を買う女/白い闇)
顔 (1956年) (ロマン・ブックス)』『声―松本清張短編全集〈5〉 (カッパ・ノベルス)
『顔』ロマン・ブックス.jpg声―松本清張短編全集〈5〉 (カッパ・ノベルス).jpgchapter_l_0001.jpg 東海道線の夜行列車にある男が乗り込み、そこである女を見つける。その女・水原秋子(岡田茉莉子)は、元は安酒場で働いていたが、ふとしたことでファッションモデルの幸運を掴みこれを手放すまいと懸命になっていた。一方の男・飯島(山内明)は無免許の堕胎医だった。秋子はプロ野球二軍選手の江波(森美樹)と結婚しようとしていたが、飯島は酒場時代の秋子の古傷に触れ彼女を苦しめていたのだ。飯島は、秋子の大阪でのショーの帰りを追って夜行列車に乗り込んだのだが、洗面所で秋子と口論となり、揉み合いになって列車から落ち、付近の病院に搬送されるも間もなく死亡する。警察chapter_l_0002.jpgは事件を軽く見たが、長谷川刑事(笠智衆)は何かあると確信、病院の死体置場に贈主不明の花束が届いたことから疑念を深め、列車の乗客で事件の目撃者である石岡三郎(大木実)に辿り着く。石岡は洗面所で秋子の顔を見たという。その新聞記事を見て秋子はモデルをやめ、江波と田舎に帰る決心するが、秋子の最後のショーに、長谷川刑事が石岡を連れて首実検に来る。驚く秋子だったが、石岡は犯人はいないと刑事に告げる。chapter_l_0003.jpg止むなく警察は石岡を尾行したがマカれてしまう。その頃、秋子のアパートでは江波が田舎へ行くため荷造りをしていた。そこへ石岡が現れ、秋子はいなかったが、去り際に表で帰って来た秋子に会う。石岡は秋子を旅館に連込み脅迫したが、そこを出た途端トラックに轢かれ死ぬ。秋子がアパートに戻ると、江波は石岡との関係を難詰、別れると言い出す。秋子は、呆然として外に出た。長谷川刑事らは漸く飯島殺し犯人として秋子を突止める。夜の銀座を彷徨う秋子。それをパトロールカーのサイレン音がけたたましく追う―。 笠智衆(長谷川刑事)

 原作は、「小説新潮」1956(昭和31)年8月号に掲載され、同年10月、講談社ロマン・ブックスより刊行された松本清張による初の推理小説短編集の表題作となり(所収作品:顔、殺顔 1957年 okada31.jpg意、なぜ「星図」が開いていたか、反射、市長死す、張込み)、この短編集は1957(昭和32)年・第10回「日本探偵作家クラブ賞(第16回以降「日本推理作家協会賞」)」を受賞作しています。
岡田茉莉子(水原秋子)
右から岡田茉莉子(水原秋子)・笠智衆(長谷川刑事)・大木実(石岡)
顔  大木 岡田 笠智衆.jpg ただし、原作の「顔」の主人公はファッションモデル女性ではなく、井野良吉という劇団員で、最近味のある役者として人気が出てきて、映画出演も決まり始めた男性です(つまり映画は主人公の性別を改変している)。実は彼は過去に女性を旅行に誘って殺害しようとして目的を果たすも、その土地に向かう途中の列車内で女性が知り合いの男性と出会ったところから二人でいるのを目撃されたため、今度はその男を理由をつけて旅行に誘い出し、殺害しようとします。ところが、その誘いを訝った男性は警察に相談し、警察は井野が犯人と確信、その旅行についてきて、旅館が井野と同宿だったために鉢合わせに。そこで実質的に首実検の状況になったわけですが、ところが、男には井野が自分が列車内で見た人物と同一人物には見えない! 見えないから当然、コイツが犯人だととも言えない(この点が、石岡が秋子を同一人物と分かりながらも、後で脅迫するために、その場では「犯人はここ中にはいない」と刑事に言っている映画とは大きく異なる)。

 結局、最終的には偶然どこかで井野が犯人であることが男にはわかるわけで、どこで分かるかは読んでのお楽しみですが、人間の記憶の機微を扱った短編らしいモチーフの作品です。ただし、このままだと映画になりにくい短編でもあるので、主人公を男性から女性に変えて、サイドストーリーを幾つも付け足して映画として"見栄えある"ものにしたとも言えるし、原作のモチーフを映画では活かしていないので、原作と別物になったとも言えるかと思います。

松本清張2 .jpg 原作者の松本清張は、自分の短編が映像化する際に話を膨らますことについては鷹揚であったようで、むしろ、短編をどうやって1時間半なり2時間なりの物語に加工するかこそが映画監督らの力量とみていたようです。自身の短編の映画化作品で最も評価していたのは、野村芳太郎監督の「張込み」('58年/松竹)だったようで、「原作を超えている」と言っていたそうですが、この「顔」については、脚本で原作が「改悪」されたと見て、それ以来映画会社を信用しなくなり「物申す原作者」になったとのことです。個人的には、原作を超えたとまでは言い難いですが、まずまずだったように思います。ただし、原作のモチーフを活かしていないので、「別物」として"まずます"ということになります。

 映画の中で、石橋湛山が自民党総裁で岸信介と争って勝った出来事が銀座のビルのテロップニュースで流れる場面がありますが、これは1956年12月のことで、岸信介に7票差で競り勝って総裁に当選した石橋湛山は、12月23日に内閣総理大臣に指名されています。原作が「小説新潮」1956年8月号に掲載されたもので、この映画の公開が1957年1月22日なので、撮影時の時事ネタを織り込んだといったところでしょうか。それにしても、雑誌の8月号に発表された短編が翌年1月には映画になるなんて、当時の松本清張の人気を窺わせます。ただし、過去に10回以上ドラマ化されていますが、映画化作品はこの大曽根辰夫監督の作品のみです。

・1958年「顔」(日本テレビ)三橋達也(井野)・花柳喜章(石岡)
・1959年「顔」(KRテレビ(現TBS))天本英世(井野)・高野真二(石岡)
・1962年「松本清張シリーズ・顔」(NHK)南原宏治・松宮五郎
・1963年「顔」(NET(現テレビ朝日))大木実(井野)・大坂志郎(石岡)
・1966年「松本清張シリーズ・顔」(関西テレビ・フジテレビ)山崎努・内田稔
・1978年「松本清張おんなシリーズ・顔」(TBS)大空真弓(井野)・織本順吉(石岡)
・1978年「松本清張の「顔」・死の断崖」(テレビ朝日)倍賞千恵子(井野)・財津一郎(石岡)
・1982年「松本清張の「顔」」(TBS)烏丸せつこ・浅茅陽子
・1999年「「松本清張特別企画・顔」(TBS)戸田菜穂 (井野)・斉藤慶子(石岡)
・2009年「松本清張ドラマスペシャル 顔」(NHK)谷原章介(井野)・高橋和也(石岡)
・2013年「松本清張スペシャル 顔」(フジテレビ) 松雪泰子・田中麗奈・坂口憲二

・1978年「松本清張の「顔」・死の断崖」(テレビ朝日)倍賞千恵子・山口崇・財津一郎・今井健二
「松本清張の「顔」」t.jpg 「松本清張の「顔」」01.png 「松本清張の「顔」」03.png 「松本清張の「顔」」04.png
・2009年「松本清張ドラマスペシャル 顔」(NHK)谷原章介/2013年「松本清張スペシャル 顔」(CⅩ)松雪泰子
松本清張ドラマスペシャル 顔.jpg松本清張SP--松雪泰子の「顔」.jpg

  
   
顔 映画00.jpg「顔」okada.jpg「顔」●制作年:1957年●監督:大曽根辰夫●脚本:井手雅人/瀬川昌治●撮影:石本秀雄●音楽:黛敏郎●原作:松本清張「顔」●時間:104分●出演:岡田茉莉子/大木実/笠智衆/森美樹/宮城千賀子/佐竹明夫/松本克平/千石規子/小沢栄(小沢栄太郎)/山内明/細川俊夫/内田良平/永田靖/乃木年雄/草島競子/永井秀明/十朱久雄/笹川富士夫/高村俊郎●公開:1957/01●配給:松竹(評価:★★★☆)
顔 映画 dvd.jpg

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(『白夜行』+『火車』)÷2。構成自体がある種"叙述トリック"になっているのが"凄い"。

愚者の毒.jpg愚者の毒 2.jpg カバーイラスト:藤田新策 宇佐美まこと.jpg 宇佐美まこと 氏 [愛媛在住](from 南海放送.2016.12.5)
愚者の毒 (祥伝社文庫)

 2017(平成29)年・第70回「日本推理作家協会賞」(長編及び連作短編集部門)受賞作。

 香川葉子は、借金苦から自殺した妹夫婦の代わりに、言葉に障害を持つ甥の達也を養っていたが、激しい借金の取り立てから逃れるため、世間から身を隠して生きていた。1985年春、葉子は、上野の職業安定所で弁護士事務所に勤めているという美貌の女・希美と出会い、気軽にお喋りをする仲になる。葉子は彼女からの紹介で、調布市深大寺にある旧家の難波家で家政婦として働くことになる。武蔵野の屋敷には、当主である優しい「先生」と、亡くなった妻の子供である由紀夫という繊維会社の若社長が住んでいて、希美もたびたび訪ねて来てくれた。穏やかで安心できる日々であり、由紀夫が時々、夜中に一人でこっそりと外出することに葉子は気づいていたが、詮索はしなかった―(第1章)。

 希美の父は、1963年に三池炭鉱炭塵爆発事故に遭い、一酸化炭素中毒患者となった。そのため、一家は筑豊の山奥の廃鉱部落に移り住む。希美の父は、感情のコントロールができなくなり、次第に獣のようになる。1966年の秋のある日、希美の父が妻シヅ子と間違えて妹に襲いかかり、希美は父に殺意を覚える。そのことを男友達のユウに話すと、ユウはユウで恨んでいる男がいるという。そして、ある犯罪計画が実行に移される―(第2章)。

 書き下ろしでいきなり文庫になった作品で、作者のこれまでの作品ともやや毛色が異なり、刊行時はそれほど話題にならなかったけれども、次第に口コミで評判になり、日本推理作家協会賞を受賞するに至っています。選評であさのあつこ氏は、「瑕疵の多い作品だ。特に、車の細工とか、烏を使うとか殺害方法にリアリティがない。〝死んだのは誰だ〟という謎、人のすり替わりも意外に早く結果が見えてしまう」としつつ、「しかし、その瑕疵があってなお、この作品には鬼気迫る力があった」「殺人者の慟哭を自分のものとした作者に、協会賞はなにより相応しい」としていて、他の選者も、作品の一部に同様の瑕疵を見出しながらも、文章力や構成力、そして何よりも読み手に訴えかけてくるテーマの重さで、受賞作として推している印象でした。

 個人的にも完全一致とは言わないまでも、ほぼ同じような感想を抱きました。丁度、『白夜行』(東野圭吾)と『火車』(宮部みゆき)をたして2で割った感じでしょうか(これだと凄い褒め言葉になるが、それに×0.8といった感じか)。「父親殺し」というのもモチーフとして噛んでいるように思いました。

 3章構成で、2015年の高級老人ホームに入所中の語り手の現在と、それぞれの過去が交互に描かれますが、その構成自体がある種"叙述トリック"になっていて、第2章の終わりでそれに気づかされた時は、正直"凄い"と思いました。ただ、その"凄い"が、作者としては引っ張ったつもりでしょうが、それでも読者的には早く来すぎてしまって、以降、それを超えるものが無かったような気がしないでもないです。

 それでも、主人公以外にも、60年代の過去にいたある人物が80年代に意外な人物になり代わっていて、その表の顔と裏の顔の差が激しい分キャラ立ちしており、更にラスト近くでは、もう一人の人物の現在の姿が明かされるといった具合に、盛り沢山でした。確かに終盤は"プロット過剰"とでも言うか、いきなり"本格推理風"になったりして、ばたばたといろんなものを詰め込んで、伏線を一気に"回収"して帳尻を合わせた感じはしますが、ホラー作家の篠たまき‏氏の「犯罪を犯すしかなかった人々の生き様が切なすぎる」という評は的を射ているように思われ、◎評価としました(今年読んだ近刊小説の中ではベスト1ミステリになるかも)。

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部分々々の筆力は大いにあるが、全体の構成としてはどうなのか。

イノセント・デイズ 単行本.jpgイノセント・デイズ n.jpgイノセント・デイズ 単行本2.jpg  イノセント・デイズ 文庫.jpg
イノセント・デイズ』(2014/08 新潮社) 『イノセント・デイズ (新潮文庫)

早見 和真 『イノセント・デイズ』ド.jpg 2014(平成26)年下期・第2回「新井賞」、2015(平成27)年・第68回「日本推理作家協会賞」(長編及び連作短編集部門)受賞作。

 30歳の田中幸乃は、元恋人に対する執拗なストーカーの末にその家に放火して妻と1歳の双子を死なせた罪で死刑を宣言されていた。凶悪事件の背景には何があったのか。産科医、義姉、中学時代の親友、元恋人の友人、刑務官ら彼女の人生に関わった人々の追想から世論の虚妄と哀しい真実が浮かび上がる。そして、幼馴染みの弁護士たちが再審を求めて奔走するが彼女は―。

 「第一部・事件前夜」と「第二部・判決以後」の二部構成で、第一部で、田中幸乃の人生に関わったさまざまな人々の回想から、彼女の悲惨な人生の歩みが浮き彫りになっていきます。従って、彼女がいかにして死刑に値する罪を犯すような人間になってしまったのかを、ある種"環境論"的に解析していく小説だと思って読み進めていました。そして、そのプロセスは非常に重いものでした。

 ところが終盤になって、それまでミステリだとは思わずに読んでいたのに"どんでん返し"があって、事件の真犯人は別にいるらしいと...。しかしながら彼女は自ら弁明することなく刑に臨もうとしているため、それはどうしてなのかということがポイントになってきますが、強いて言えば、信じた人から裏切られ続けた人生の果てに、田中幸乃はいつしかもうすべてを終わらせてしまいたいと願うようになり、死刑になることが自動的に自分の命を終わらせることができるチャンスだったということなのでしょう。誰かの身代わりで死刑になるのかと思っていたらそうではなくて、自分のためだったのかあ。意外性はありましたが、それまで描かれていたことが必ずしも彼女のそうした心境を十分に裏付ける伏線になっておらず、結局(彼女の内面については)よく分からないまま読み終えたという感じです。

 死刑制度に対して問題提起しているともとれますが(主人公の仮のモデルは林真須美死刑囚であるそうだが)、そうなるとやや主題が分裂気味という気もするし、部分々々の筆力は大いにあると思いましたが、全体の構成としてはどうなのかという気がしました。

 「日本推理作家協会賞」の選考(選考委員は大沢在昌・北方謙三・真保裕一・田中芳樹・道尾秀介の各氏)でも、あまりにも暗く、救いがないということで選考委員が皆迷ったみたいで、無理に受賞者を出した印象が無きしも非ずという感じでした。

角田光代  .jpg それでも直木賞候補にもなっているのですが、直木賞選考では更に選評は厳しくなり、やはり直木賞は取れなかったようです。選考委員では角田光代氏が「序盤から読み手を小説世界に引きずり込む力を持っている。(中略)けれども読み進むにつれて現実味が薄れていくように感じた」「そうしてやっぱりラストに納得がいかないのである。いや、この小説はこの小説で完結しているので、ラストに異を唱えるのは間違っているとわかるのだが、死を望み、このようにすんなりと受け入れるほどの強いものが、幸乃にあるようには私には思えなかった」と述べていますが、自分の感想もそれに近いでしょうか。

 因みに、かつて「死刑大国」と言われたアメリカ(世界の死刑執行の8割を占めるという中国とは比較にならないが)でも死刑廃止の流れがあり、'07年から'14年の間だけでも新たに6州が死刑を廃止していますが、死刑廃止の理由として、十分に審議されないまま死刑が執行されたことがあったりして、その中には執行した後に真犯人が現われ、無実の人間を処刑してしまったと後で判ったケースもあるようです(1973年以降、無実の罪で死刑判決が出た人のうち、少なくとも142人は、死刑が執行される前に釈放になったという。一方で、誤って処刑され、死刑執行後に無罪判決が出された人も何人もいる)。

 アメリカではそうした誤審が死刑廃止の大きな契機になっているわけで、もし、この小説のようなことが実際に起きて、この小説の中に出て来る主人公の幼馴染みや弁護士のような人が頑張れば、死刑制度を見直す機運は高まるかもしれないと思います。そうした意味では、この小説の終わりからまた新たな物語が始まるような気もしました。

 筆力としては○ですが、構成としては残念ながら△でしょうか。言い方を変えれば、構成としては△だが、筆力としては注目すべきものがあって○であるとも言え、迷いながら「日本推理作家協会賞」に選んだ選考委員の気持ちが分からなくもないです(結局、自分も○にした)。

イノセント・デイズ ドラマ.jpgWOWOW連続ドラマW「イノセント・デイズ」(全6回・2018年3月18日~4月22日)
監督 - 石川慶
企画 - 妻夫木聡、井上衛、鈴木俊明
プロデューサー - 井上衛、橘佑香里、平部隆明
脚本 - 後藤法子
音楽 - 窪田ミナ
製作 - WOWOW、ホリプロ

【2017年文庫化[新潮文庫]】

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労働組合を背景とした「社会派」と「本格派」のミックス的作品。やや苦い後味。

人喰い 笹沢佐保.jpg 人喰い1960年 (カッパ・ノベルス).jpg 人喰い 講談社文庫1983.jpg 人喰い 日本推理作家協会賞受賞作全集 1995_.jpg 笹沢佐保.jpg
人喰い (P+D BOOKS)』『人喰い―長編推理小説 (1960年) (カッパ・ノベルス)』『人喰い (講談社文庫)』『人喰い 日本推理作家協会賞受賞作全集 (14)』 笹沢 左保(1930-2002)

 1961(昭和36)年・第14回「日本探偵作家クラブ賞(第16回以降「日本推理作家協会賞」)」受賞作。

 ワンマン社長の横暴に不満を募らせる社員らが、それに対抗しようと組合闘争に明け暮れる本多銃砲火薬店。銀行員・花城佐紀子の姉でその工場に勤める花城由記子が、労働争議で敵味方に分かれてしまった恋人で、社長の一人息子である本多昭一と心中するという遺書を残して失踪する。しかし、死体が発見されたのは昭一だけで、依然として姉は行方知れずのままで、遂には殺人犯人として指名手配を受けてしまう。姉・由記子にかけられた殺人容疑を晴らそうと、佐紀子は恋人で労働組合の執行委員長の豊島宗和と調査に乗り出す。一方、豊島のつい最近までの恋人だった浦上美土利は、佐紀子に豊島を奪われた恨みから、第二組合を作って豊島を窮地に陥れようとしていた。そんな中、本多銃砲銃砲火薬店社長・本多裕介が何者かによって殺害される―。

人喰い - カッパ・ノベルス.jpg 笹沢左保(1930-2002/享年71)が1960(昭和35)年に発表した初期長編推理小説。作者・笹沢左保は1952年から郵政省東京地方簡易保険局に勤務し、交通事故で療養中に書いた『招かれざる客』が第5回江戸川乱歩賞候補次席となり、この1960年には『霧に溶ける』『結婚って何さ』『人喰い』の3長編を発表、『人喰い』は日本推理作家協会賞を受賞したほか直木賞候補にもなり、これを機に作者は郵政省を退職して専業作家になっています。

 作者は1972年よりCX系列で放送された「木枯らし紋次郎」シリーズの原作者として名を馳せたことから、時代小説作家として知られますが、時代小説に進出したのは70年代に入ってからで、元々は本格推理作家です。この作品も、当時の社会を色濃く繁栄した舞台を背景に、古典的な本格派推理のトリックを用いた「社会派」と「本格派」のミックス的作品です。労働組合がストーリーの背景にありますが(当時の労働組合組織率は今の倍くらいか)、作者は郵政省勤務時代に労働組合の執行委員なども務めています。

 「本格派」でありながら、ある種"人間関係トリック"とでも言うべき要素が入ったプロットであり、これはこれでクリスティの『ナイルに死す』などにも見られる古典的手法でもありますが、この作品については、肝腎の主人公の花城佐紀子が恋愛感情に流されてしまうところが"やや苦い後味"に繋がっているといったところでしょうか。「本格」の部分は良かったように思います。姉・由記子が妹・佐紀子に宛てた遺書の中で自らのことを「オールドミスの平社員」と卑下していましたが、28歳で「オールドミス」というところに時代を感じました。

 この作品の翌年1961年にも、同じく本格推理の『空白の起点』(旧題:『孤愁の起点』)で直木賞候補になっていますが、「新本格ミステリの旗手」と言われながら、1962年発表の短編「六本木心中」で推理小説的な趣向を廃した現代小説に挑戦し、これも直木賞候補になっています。更に、時代小説を書くようになってからも「雪に花散る奥州路」「中山峠に地獄をみた」(共に'71年)が直木賞候補になっていて、しかしこれも受賞に至らず、直木賞をとれなかった人気作家の代表格として今日まで語り継がれています(作者が直木賞をとれなかった経緯は、ウェブサイト「直木賞のすべて 余聞と余分―松本清張〔選考委員〕VS 笹沢左保〔候補者〕」に詳しい)。

 小学館よれば「P+D BOOKS(ピープラスディーブックス)」とは、「後世に受け継がれるべき、我が国が誇る名作でありながら、現在入手困難となっている昭和の名作の数々を、B6判のペーパーバック書籍と電子書籍を同時に、同価格で発売・発信する、まったく新しいスタイルのブックレーベル」だそうです。「第三の新人」など文芸作家がラインナップにある一方で、結城昌治やこの笹沢佐保といったかつての流行作家なども取り上げていて、偶々ですが読み返す機会を与えてくれたのは良かったように思います。

 P+D BOOKSでは、笹沢佐保作品はこの『人喰い』以外では、親友の殺人と自殺の真相を追う社会派ミステリ『天を突く石像』と、青年剣士・沖田総司の一生を描いた『剣士燃え尽きて死す』がラインナップされています。この作家について読んだことのある人ならば、『空白の起点』の方が好みという人もいれば、「六本木心中」を読み返してみたいという人もいるかもしれませんが、『空白の起点』は2016年に講談社文庫版のKindle版が出ており、「六本木心中」は角川文庫で90年代に復刊されています。

笹沢 左保 『人喰い』 .jpg 【1960年ノベルズ版[カッパ・ノベルズ]/1982年文庫化[中公文庫]/1983年再文庫化[講談社文庫]/1991年再文庫化[徳間文庫]/1995年再文庫化[双葉社(『人喰い 日本推理作家協会賞受賞作全集 (14)』]/2016年[小学館・P+D BOOKS]/2018年再文庫化[双葉文庫]】

人喰い (双葉文庫)[2018年5月再文庫化[双葉文庫]]

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「懐かしい未来図」。実際にはまだ未来図のままだが、少しずつ実現出来ている部分も。

空中都市008青い鳥文庫.jpg空中都市008 アオゾラ市のものがたり 1.jpg空中都市008 アオゾラ市のものがたり 2.jpg  『日本沈没 上下巻セット』.jpg
空中都市008―アオゾラ市のものがたり』(1969/02 講談社)[装丁・挿絵:和田 誠]『日本沈没 上下巻セット (カッパノベルス)
空中都市008 アオゾラ市のものがたり (講談社青い鳥文庫)
空中都市008―アオゾラ市のものがたり 和田誠.jpg 空中都市008に引っ越してきた、ホシオくんとツキコちゃん。ここはいままで住んでいた街とはいろんなことがちがうみたい。アンドロイドのメイドさんがいたり、ふしぎなものがいっぱい......じつはこのお話、1968年に作者が想像した未来社会、21世紀の物語なのです。さあ、今と同じようで少しちがう、もうひとつの21世紀へ出かけてみましょう!(「青い鳥文庫」より)。

 1968(昭和43)年に「月刊PTA」(産経新聞発行)に「あおぞら市のものがたり」というタイトルで連載され、1969年に単行本刊行された際に「空中都市008」がタイトルとなった小松左京(1931-2011)のSF児童文学で、2003年版「青い鳥文庫」の作者まえがきで、2002年にノーベル化学賞を受賞した田中耕一氏が小学田中 耕一 記者会見2.jpg空中都市008―アオゾラ市のものがたり.jpg生の頃この作品の愛読者だったことを知って感激したとあります(オリジナルは入手困難だが、「青い鳥文庫」版も和田誠氏の挿画を完全収録しているのがありがたい)。

 作品の中で主人公たちが月に行く場面がありますが、この作品が書かれた当時は米ソが宇宙進出競争をしていて、この作品の発表の翌年1969(昭和44)年にアメリカがアポロ11号で人類を月に送り込んでいます。この作品では月には既に都市があって、月で生まれ育った「月っ子」たちがいることになっています。

スケッチブック.jpg このように、この作品に出てくる様々な未来像は、21世紀になっている現在からみてもまだ先の「未来像」のままであるものが多くありますが、方向性として全然違っているというものは少ないように思われ、そこはさすが科学情報に精通していた作者ならではと思われます。子どもの頃に思い描いていたという意味で、「懐かしい未来図」という言葉を思い出してしまいますが、あの時の"未来図"が本当ならば今頃スゴイことになっている? (人々はエア・カーや動く歩道で移動しているとか...)。実際にはそれほど変っていないかなあ。但し、少しずつ実現出来ている部分も一部あるなあと思いました。

スケッチブック

「ぼくら」1969年7月号付録.jpg 例えば、ホシオたちの家族が移り住んだ空中都市は、「50かいだてアパートの36かい」ということになっていますが、今ならそういうところに住んでいる人はいるなあと(但し、ホシオたちの場合は「可動キャビン」方式で家ごと引っ越してきたのだが)。

 「ファクシミリ・ニュース」というのは今で言えばインターネットによるニュース配信であり、1000人乗れるという「ジャンボ・ジェット」もそれに近いところまでいっているし、「エアクッション・カー」という車輪を使わない鉄道は、今で言うリニアモーター・カーでしょうか。

「ぼくら」1969年7月号付録

 道路の「標識システム」は今で言うカーナビゲーションに近いかも。「電子脳」(今で言う「コンピュータ」)が故障して、都市の交通システムが麻痺してしまうという話は、例えばシステムの不具合で金融機関のATMが仕えなくなったといった近年の出来事を思い出させ、クルマが使えないので人々が皆、久しぶりに自転車に乗ってみたらこれが意外と良かったというのも、エコ・ブームや健康ブームを想起させます。

 この物語はNHKで連続人形劇としてテレビドラマ化され、月曜から金曜の18:05-18:20の放送時間帯で1年間にわたり空中都市008 グラフNHK.jpg放映されました(「空中都市008」1969年4月-1970年4月、全230回)。音楽は富田勲(1932-2016)が担当しています。ひ番組の絵葉書.jpgと続きの話は原則として1週間単位で終わったため、原作のエピソード以外に多数の書き下ろしがあります。「チロリン村とくるみの木」(1956年-1964年、全812回)「ひょっこりひょうたん島」(1964年-1969年、全1,224回)に続くNHKの平日夕方の人形劇シリーズ第3弾でしたが、技術的にはよく出来ていたように思います。ただ、人形やセットに費用がかかり過ぎたのと、指向としては「サンダーバード」(1965年-1966年)などを目指したため人形がリアルになり過ぎて「ひょっこりひょうたん島」のキャラのような可愛さが足りず、視聴率が伸び悩んだということもあって1年足らず(全230回)で放送終了となりました(次番組「ネコジャラ市の11人」(1970年-1973年、全668回)と比べても放送回数はかなり少なかったことになる)。
番組の絵葉書

地球になった男 (新潮文庫 こ 8-1)』『日本沈没(上・下)(カッパ・ノベルズ)
『地球になった男.jpg『日本沈没』.jpg 原作者の小松左京は「空中都市008」放送終了時の頃は、日本万国博覧会のサブ・テーマ委員、テーマ館サブ・プロデューサー(チーフ・プロデューサーは岡本太小松 左京(0.jpg郎)として1970年の日本万国博覧会開催の準備に追われており、放送終了を残念がる暇も無かったのではないでしょうか。『地球になった男』('71年/新潮文庫)などの短編集の刊行もあり、'73年には『日本沈没』(カッパ・ノベルズ)で日本推理作家協会賞を受賞するなどした一方で、テレビなどにもよく出ていましたが、この人、この頃が一番太っていて、すごくパワフルな印象がありました。

「日本沈没」1973.jpg「日本沈没」101噴火.jpg 特に、'73年3月発売の『日本沈没』は驚くほどの売れ行きを示し、その年の年末までに上下巻累計で340万部が刊行され作者最大のベストセラーになり、社会現象化して映画にもなりました。映画「日本沈没」('73年/東宝)は、その年の12月に公開されており、黒澤明作品でチーフ助監督を務めた経験がある森谷司郎が監督、橋本忍が脚本「日本沈没」小林火.jpgで、製作費5億円と当時としては大作でありながら製作期間は僅か4か月と短かったですが、約880万人の観客を動員し、16億4,000万円という'74年邦画配給収入第1位となるヒットを記録しました。この映画、原作よ「日本沈没」1藤岡・いしだ.jpgりメロドラマっ「日本沈没」1973 小松.jpgぽいという評価と、スペクタクルに重点が置かれていて良いという評価に分かれるようですが、何と比べるかでしょう(映画では小野寺(藤岡弘)とヒロインの玲子(いしだあゆみ)がやけに簡単にくっ「日本沈没」1973竹内.jpgついてしまう印象を受けた)。小松左京自身も小野寺の海底開発興業の同僚役でカメオ出演していたほか、原作『日本沈没』執筆時のブレーンとなった地球物理学者の竹内均(1910-2004)が、プレートテクトニクスを説明する科学者・竹内教授というそのままの設定でゲスト出演していました(後に「ニュートン」の記事の中で「迫真の演技である、として皆にからかわれた」と書いている)。
「日本沈没」18.jpg

iPad 版「空中都市008」音楽(唄:初音ミクvs中山千夏)/中山千夏(1970)/初音ミク(2010)       
空中都市008 アプリ版 .jpg中山千夏(1970).jpg初音ミク.jpg 「空中都市008」は2010年にiPad専用のオーディオビジュアルノベルとしてApp Storeで配信され、作中の登場人物の台詞が声優によって読み上げられるほか、物語の進行に合わせたBGMが再生され、かつてのNHKの放送で番組主題歌を歌った中山千夏が初音ミクとコ1小松左京.jpgラボして誕生したテーマソングや、小松左京のボイスコメントなども収録されているそうですが、「まさか本がこんなことになっちまうとは、私自身がSF作家のくせに思いもよりませんでした」とのコメントを寄せた小松左京は、その翌年2011年の7月に肺炎の完全読本 さよなら小松左京.jpg小松左京マガジン 第46巻_.jpg小松左京マガジン47.pngため80歳で亡くなっています(健康時にはタバコを1日3箱吸うヘビースモーカーだった)。「小松左京マガジン」が没後もしばらく刊行され続けていたことなどからみても、その作品には今も根強いファンがいるものと思われます。
完全読本 さよなら小松左京』['11年/徳間書店]/「小松左京マガジン 第46巻」(2012.09)/「小松左京マガジン〈第47巻〉」(2012.12)

宇宙人ピピ.jpg宇宙人ピピ シングル .jpg 因みに、小松左京原作で「空中都市008」より以前にテレビ番組になったものには「宇宙人ピピ」(1965年4月-1966年3月、全52回)があります。宇宙人"ピピ"と彼を取り巻く地球人との騒動を描いたコメディドラマで、ピピはアニメーション、円盤は写真で描かれていて、日本で最初の実写とアニメの画面合成によるテレビドラマシリーズです(小松左京が大阪から原稿を送り週1回の放送を1人でこなすのは困難だったことから、脚本は平井和正との合作となっている)。"ピピ"の声は中村メイコでした。NHKのアーカイブで観たら、形式はコメディなのですが、中身は子どもの塾の問題とか扱っていて、結構シリアスだった?(因みに、現存するのは第37話(1965年12月23日放送)と第38話(1965年12月30日放送)の2本のみ)

銀河少年隊 title.jpg銀河少年隊01.jpg 「空中都市008」は人形美術及び操作を糸あやつり人形の竹田人形座が担当しましたが、同じ竹田人形座による人形美術及び操作の担当でこれに先行するものにとして、NHKの日曜の17:45-18:00の15分の時間帯(後に木曜の18:00-18:25の25分の時間帯に変更)で、「銀河少年隊」(1963年4月-1965年4月、全92回)がありました(さらにその前に「宇宙船シリカ」(1960年9月-1962年3月、全227回)というのもあった)。「銀河少年隊」は人形芝居と銀河少年隊 sono.jpg手塚治虫2.jpgアニメーションを合成したもので、原作は手塚治虫(因みに「宇宙船シリカ」の原作は星新一)。太陽のエネルギーが急速に衰え、地球を含めた太陽系の惑星は極寒に襲われ、数年後には太陽系の全生物が死滅してしまうという危機を救うために、花島六平少年率いる銀河少年隊が活躍するというもの。アニメ部分は虫プロの作品を多く手がけてきた若林一郎が脚色をして、スケールの大きい物語となって④冨田 勲.jpgおり、金星人の美少女アーリアも登場、宇宙服や宇宙船の操縦席など小道具もよくできていたように思いますが、竹田喜之助(1923-1979)って相当な"凝り性"だった? 音楽は「空中都市008」と同じく「宇宙人ピピ」「銀河少年隊」も富田勲(1932-2016)が担当しています(「宇宙船シリカ」も富田勲)。


空中都市008(中山千夏).jpg「空中都市008」●脚本:高垣葵●音楽:冨田勲(主題歌:中山千夏)●人形美術及び操作:竹田人形座●原作:小松左京●出演(声):里見京子/若空中都市008 [DVD].jpg山弦蔵/太田淑子/平井道子/山崎唯/藤村有弘/松島トモ子/熊倉一雄/古今亭志ん朝/松島みのり/大山のぶ代●放映:1969/04~1970/04(全230回)●放送局:NHK NHK人形劇クロニクルシリーズVol.3 竹田人形座の世界~空中都市008~ [DVD]

 空中都市0083.jpg


「日本沈没」19732.jpg「日本沈没」s48.jpg「日本沈没」●制作年:1973年●監督:森谷司郎●脚本:橋本忍●撮影:村井博/木村大作●音楽:佐藤勝●原作:小松左京●時間:140分●出演:「日本沈没」11.png小林桂樹/丹波哲郎/藤岡弘/いしだあゆみ/滝田裕介/中丸忠雄/加藤和夫/村井国夫/夏八木勲/高橋昌也/地井武男/鈴木瑞穂/神山繁/中条静夫/名古屋章/中村伸郎/二谷英明/島田正吾/(以下クレジットなし):小松左京/竹内均/田中友幸/中島春雄●公開:1973/12●配給:東宝(評価:★★★☆)

銀河少年隊 02.jpg「銀河少年隊」●脚本:若林一郎●音楽:冨田勲●人形製作:竹田喜之助(竹田人形座)●アニメーション:虫プロダクション●原作:手塚治虫●出演(声):安藤哲(ロップ[第1部])/白坂道子(ロップ[第2部以降])/若山弦蔵(花島博士[第1部])/天地総子(ポイポイ[第1部])/永井一郎(ダー[第1部]、テックス刑事[第2部])/安田まり子/相模武/太田淑子/高見理沙/木下喜久子/滝口順平/牟田悌三(語り[第1部])●放映:1963/04~1965/01(全92回)●放送局:NHK

宇宙人ピピ   .jpg宇宙人ピピ 00.jpg「宇宙人ピピ」●脚本:小松左京/平井和正●音楽:冨田勲(主題歌:中村メイコ)●人形製作:竹田人形座●原作:小松左京●出演:中村メイコ(声)/安中滋/北条文栄/福山きよ子/梶哲也/安田洋子/小林淳一/大山尚雄/黒木憲三/酒井久美子/峰恵研/蔭山昌夫/加藤順一/乾進/中島浩二/若柳東穂/大山のぶ代/小泉博●放映:1965/04~1966/03(全52回)●放送局:NHK
宇宙人ピピ38話

【1969年単行本[講談社]/1981年文庫化[角川文庫]/2003年再文庫化[講談社・青い鳥文庫]】
  

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細かいところでケチをつけたくなるが、基本的には"力作"エンタテインメント。

ジェノサイド 高野和明2.jpgジェノサイド 高野和明1.jpgジェノサイドb.jpg  
ジェノサイド』(2011/03 角川書店)

 2012(平成24)年・第65回「日本推理作家協会賞」(長編及び連作短編集部門)、第2回「山田風太郎」各受賞作。2011 (平成23)年度「週刊文春ミステリー ベスト10」(国内部門)、2012(平成24)年「このミステリーがすごい!」(国内編)共に第1位(2012年・第9回「本屋大賞」2位、2012年「ミステリが読みたい!」国内編・第4位)。

 急死したはずの父親から送られてきた一通のメール。それがすべての発端だった。創薬化学を専攻する大学院生・古賀研人は、その不可解な遺書を手掛かりに、隠されていた私設実験室に辿り着く。ウイルス学者だった父は、そこで何を研究しようとしていたのか。同じ頃、特殊部隊出身の傭兵、ジョナサン・イエーガーは、難病に冒された息子の治療費を稼ぐため、ある極秘の依頼を引き受けた。暗殺任務と思しき詳細不明の作戦。事前に明かされたのは、「人類全体に奉仕する仕事」ということだけだった。イエーガーは暗殺チームの一員となり、戦争状態にあるコンゴのジャングル地帯に潜入するが―。(Amazonより引用)

 殆ど先入観無しで読み始めたため、最初はフレデリック・フォーサイスの『戦争の犬たち』のような傭兵モノかと思いましたが、新人類の出現がストーリーの核になっていて、SFだったのかと...。但し、「人類史における大量殺戮は人間そのものの性によるものなのか」というテーマに加え、薬学や生命学、或いは軍事や兵器、ピグミーの生活などについてマニアックなくらい色々調べ込んでいるみたいで、そうしたテーマ並びに豊富な情報の醸す重厚感はありました。

 現生人類を超える種の誕生ということについても、人類進化の大きな区切りが、2500万年前(類人猿の誕生)、150万年前(直立二足歩行の原人類ホモ・エレクトズの誕生)、20万年前(ネアンデルタール旧人類の誕生)、4万年前(言語の使用)、5千年前(文字の発明)というように一桁ごとに短くなる非連続で起きていて、類人猿→原人類間が2000万年以上もかかったのに、原人類→旧人類間が200万年程度、旧人類→新人類間が15万年とスパンが短くなっていて、新人類が誕生して現代までが5万年ということを考え合わせると、そろそろ「新・新人類」が出てきてもおかしくないという見方もできます。

 Amazonのレビューなどを見ると、すぐに銃で人を殺そうとする日本人が出てくるなど、日本人を悪く描いているようで気に入らないとか、作者の人種的偏見が作中人物に反映されているとかいたもののありましたが、個人的には、どちらかと言うと日本人だけをよく描こうとはしていないことの結果で、それほど偏っているようには思いませんでした。

 歴史観的にも、南京大虐殺の捉え方などに批判があるようですが、個人的にはむしろジンギスカンを殺戮者の代表格として扱っているのがやや疑問。モンゴル帝国は宗教的宥和策をとったからこそあれだけ版図拡大が可能だったわけで、これはオスマン帝国についても言えることであり、宗教戦争について言えば、ヨーロッパ人の方がよほど殺戮を繰り返してきたのではないかな。

 ストーリーの流れとしては、細部を諸々マニアックに語り過ぎて、前半は話の流れそのものが緩慢な感じがしましたが、中盤から後半にかけては、東京、アメリカ、コンゴで起きていることが連動して、畳み掛けるような感じでテンポは悪くなかったかなあと。

 ただ、プロット的にちょっと理由付けが弱いのではないかと思われる部分があり、例えば、核コントロールに用いている暗号を解読される恐れがあるという理由だけで新人類を駆逐しようとするかなあ。新人類が近親交配の劣勢遺伝を取り除くために創薬ソフトを開発するというのもあまりピンとこないし、そのソフトが、難病の子の命を救うことにもなるというのもご都合主義のように見えてしまいます。

 イエーガーの難病の息子に対する思い入れは分かるけれども、古賀研人のたまたま病院で見かけた難病の女の子に対する思い入れは、やや強引と言うか安易な印象も受けました。同じ病気の子どもは他にも大勢いるでしょう。この子だけ、たまたまタイムリミットがこのお話の展開に合致したということ?

 世間一般の評価が高いだけに、逆に見方が厳しくなってしまうというのはあり、細かいところでケチをつけましたが、基本的には、エンタテインメントの"力作"であると思います。

 この作品の新人類って、映画「E.T.」の宇宙人を彷彿させるね。あっちは植物学者で、こっちは単なる子どもだけど、その知能は確かに現生人類を遥かに凌駕している。一個体でこれだけスゴイ能力を有するとなると、新人類の99%が大量殺戮など決して思いつきもしない平和主義者であっても、1%でも破壊主義的な性質を持った'変種'がいれば、その1%によって簡単に種そのものを絶滅に追い込むことが出来てしまうのではないかな。以前、「理科室でも作れる原子爆弾」という話題がありましたが、進み過ぎた文明というのは、あまり長続きしない気がするなあ。

 【2013年文庫化[角川文庫(上・下)]】

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結末は凝り過ぎてリアリティが犠牲になったが、"コン・ゲーム"のプロセスは十分面白かった。

カラスの親指.jpg  カラスの親指(映画).jpg 2012年映画化(監督:伊藤匡史 出演:阿部寛/村上ショージ/石原さとみ)
カラスの親指 by rule of CROW's thumb』(2008/07 講談社)

 2009(平成21)年度・第62回「日本推理作家協会賞」受賞作。

 友人の借金を背負わされた挙句、闇金融の債権回収の手先となって債権者を自殺させてしまったという暗い過去を持つ武沢は、自分に対して詐欺を行おうとした男・テツさんと一緒に詐欺師の仕事をするようになる。ある日、人生の敗北者であるこの中年二人組のところへ1人の少女・まひろが舞い込み、さらにその姉と太った恋人の男もやってきて、5人での奇妙な共同生活が始まる―。

 武沢が知り合った男テツさんも暗い過去を持ち、最初は何だか重苦しい雰囲気がありましたが、まひろが2人のところに来てからややコミカルになり、更に5人での生活になってから、あたかも1つの家族が形成されたようになり、この辺りの描写がなかなか面白かったです。

 やがて彼らは債権回収を行っているチンピラどもに仕返しをすべく、ある計画を練り、いよいよそれを実行に移すのですが、ここまでプロセスは本当にテンポよく大いに楽しめました。そして、最後にドンデン返しが―。確かに読者の意表を突くものではありますが、これ、賛否が割れるだろうなあ。

 作者の最初の直木賞候補作ですが、選考委員の意見も割れたようで、渡辺淳一氏のように「ドラマチックにすればするほど、リアリティが薄れてつまらなくなる」として推さなかった委員もいましたが、宮城谷昌光氏などは、同じく「最終章でリアリティがすべて吹き飛んだ」としながらも、「こういう知的な作業がなされた小説は滅多に現れるものではない」として評価していました(一番推したのは、「出色の小説だった。評者もすっかり騙された口の一人である」としている故・井上ひさし氏か)。

 個人的には、やはりこの意外な結末はリアリティを大いに犠牲にしているとは思いますが、それでもこうしたプロットを考えるだけでも凄いと思われ(宮城谷昌光氏の感想に近いかなあ)、感心したのは、武沢とまひろの"偶然"の出会いに説明がついていること(「こうしてると、まるで家族みたいですよね」といった言葉も後で読み返すと効いている)、一方、もっともリアリティに欠けると思われたのは、「演技の持続性」の問題でしょうか(「動機」と「手段の煩雑さ」のバランスの問題など他にもあるが)。

 暗い過去を持った男女が集まり、自らが負った傷から恢復していく、その過程の描かれ方に何かほっとしたようなものを覚え、さらに彼らが共同して1つのプロジェクトを実行する―このままストレートに"コン・ゲーム"を完遂させてあげた方が、よりカタルシス効果の大きい話になったのではないかとも思われますが、この作者はそんな一筋縄の話は書きたくないのかな。

 プロット・アイデアは誰もが認めるものだと思いますが、犠牲になったものに対するマイナス評価の度合いが、作品全体の評価の分かれ目でしょうか。

【2011年文庫化[講談社文庫]】

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「風が吹けば桶屋が儲かる」式の話? 前半部分は冗長、後半部分はご都合主義。

乱反射.jpg 『乱反射』 ['09年]

 2010(平成22)年度・第63回「日本推理作家協会賞」受賞作。

 新聞記者・加山聡の2歳になる一人息子は、根腐れしていたため強風で倒れた街路樹の下敷きになって頭に重傷を負い、救急車で病院をたらい回しにされて亡くなってしまうが、この事故死の背景には、複雑に絡み合ったエゴイズムの積み重ねがあり、事故後、加山は、それらの「罪無き罪」の連鎖を辿る―。

 街路樹伐採の反対運動をする"良識派"の主婦、犬の散歩の際にフンの処理をしない尊大な定年退職者、職務への責任感が希薄なアルバイト医、病院の救急外来を空いているという理由だけで頻繁に利用する若者、事なかれ主義の市役所職員、車の運転が苦手な姉と大型車を親にねだる妹―と、事故の遠因となる人物達の日常が描かれますが、約500ページのうち、そうした事故までの経緯の描写だけで300ページあって、かなり冗長な感じがしました(「週刊朝日」に1年間連載されたものだが、連載では読む気にならないなあ)。

 フツーの人々の平凡な日常に潜むエゴイズムというものを描いているのでしょうが、最初から「エゴ」に焦点を当ててしまっているため、それぞれの人物造型が平板と言うか画一的で、文章もあまり上手くないような...。
 ミステリとしても、要するに「風が吹けば桶屋が儲かる」式の話であり、あまりに蓋然性に依拠し過ぎていて、それでいて、主人公が因果関係を探る際に、ちゃんとその手助けとなる証言者が次々と現れるのは、あまりに御都合主義めいています。

 帯には「全く新しい社会派エンターテインメント」とありますが、着想自体は悪くないと思うし、主人公の新聞記者自身が、自宅ゴミを高速道路のサービスエリアに持ち込むなど、登場人物の多くと同じようなモラル違反をしているという構図も分かりますが、結局、何が描きたかったのかも曖昧のまま終わっている感じがしました(要するに「道徳訓」だったの?)。

 そうした意味では、「社会派」と言われても、個人的はぴんと来ず、それと、やはり、「エンターテインメント」の部分が、「風が吹けば桶屋が儲かる」式の話に依っているわけで、しかも、冗長だったり、御都合主義だったりと。

 北村薫氏が「日本推理作家協会賞」の選考の際に強く推薦していますが、その前に自作の『鷺と雪』が直木賞選考でこの作品と競合して、『鷺と雪』の方が直木賞を獲っているんだよなあ(落選者へのエール?)。 

【2011年文庫化[朝日文庫]】

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1篇1篇は旨くまとめているなあという気がしたが...。「デッドゾーン」を思い出した。

死神の精度.jpg  死神の精度 文庫.jpg     デッドゾーン dvd.jpg ビデオドローム.jpg ザ・フライ dvd.jpg
死神の精度』 ['05年] 『死神の精度 (文春文庫)』 ['08年]/デヴィッド・クローネンバーグ「デッドゾーン デラックス版 [DVD]」「ビデオ・ドローム [DVD]」「ザ・フライ (特別編) [DVD]

 2004(平成16)年・第57回 「日本推理作家協会賞」(短編部門)受賞作(連作の第1部「死神の精度」に対する授賞)。

 人の死の1週間前に派遣され、その死について「可」または「見送り」の判断をすることを仕事とする死神の千葉は、クールでちょっとズレている雨男だが、その彼が、大手電機メーカーの苦情係の女性、兄貴分を守ろうとするヤクザ、吹雪でホテルに雪隠詰めになった宿泊客たち、近隣女性に恋するブティックの男性店員、逃走中の殺人犯、美容院店主の老婆の前にそれぞれ現れる連作。

 死という重いテーマを敢えて軽いタッチで扱っていて、最初は星新一のショートショートでも読んでいるような感じでしたが、千葉の冷静さを鏡として登場人物の心の機微もそれなりに描かれていて、結構突飛な(?)状況設定の割には、1篇1篇は旨く纏めているなあという気がしました。ゴダールの影響は引用フレーズなどでの面でのことであり、モチーフとしては、握手した相手の未来が見えるというスティーブン・キング『デッド・ゾーン』('87年/新潮文庫(上・下))に近いのでは...。

 作者が直木賞候補になったのは'03年『重力ピエロ』、'04年の『チルドレン』『グラスホッパー』に続き本作が4回目で、この時は東野圭吾氏の『容疑者χの献身』が受賞していますが、個人的には『死神の精度』の方がやや面白いかなあと(『グラスホッパー』の対抗馬が角田光代氏の『対岸の彼女』だったのはいたしかたないが)。この後'06年に『砂漠』でも直木賞候補となっていますが、'08年に『ゴールデンスランバー』が候補になったとき、ノミネート辞退をしています。

 ただ、この作品に関しても、「吹雪に死神」がいきなり本格推理調だったり(パロディなのか?)、最後の「死神対老女」が必ずしもそれまでの5話を収斂し切れているように思えなかったりし、全体構成において少し不満も残りました。

 直木賞の選考委員の何人かが、時には死神の精度が狂って失敗するケースも加えた方が良かったのではないかと言っていましたが(渡辺淳一、井上ひさし両氏)、仮にそうするならばそれはモチーフ自体の改変であり、かなり違った展開になってしまうような...。但し、タイトルはそうしたこともあるのかなあと思わせるタイトルなので紛らわしい気もしました(読んでみれば"精度100%"で、あとは死神が「可」の判断をするかどうかということだけではないか)。その最終判断にも、もう少し「見送り」の作品があってもよかったのではとの意見もありましたが(平岩弓枝氏)、それは言えているような気がします。

 「恋愛で死神」なども読後感は悪くなかったですが、ややメルヘンっぽい。阿刀田高氏さえ、「もっと深い思案があってよかったのではないか」と言っているぐらいで、この人が「△」では、他の直木賞選考委員も引いてしまうのではないかと個人的にも思ったりして...。― 殆ど、「選評」評になってしまいましたが。

 因みに、スティーブン・キングの『デッド・ゾーン』は、当時無名のデヴィッド・クローネンバーグ監督が「デッドゾーン」('83年/米・カナダ)として映画化し、'84年のアボリアッツ・ファンタスティック映画祭で批評家賞受賞、'85年6月の東京国際映画祭の"ファンタスティック映画祭"で観ましたが、キング原作の映画化作品の中ではいい方だったのではないかと。

ヴィデオドローム パンフ.jpgVideodrome [1982].jpg 当時の評判も良かったみたいで、同月には渋谷ユーロスペースで同監督の前作「ヴィデオドローム」('82年/カナダ)が上映され、ジェームズ・ウッズ主演のこの作品は見た人の性格を変える暴力SMビデオによって起きる殺人を描いたもので(鈴木光司原作の日本映画「リング」はこれのマネか?)、この2作でクローネンバーグの名は日本でも広く知られるようになりました(「ヴィデオドローム」は、ちょっと気持ち悪いシーンがあり、イマイチ)。
Videodrome [1982] /パンフレット

ヴィデオドローム01.jpg ヴィデオドローム02.jpg Videodrome
 
蠅.jpgザ・フライ.jpg その後、クローネンバーグは、ジョルジュ・ランジュラン原作、カート・ニューマン監督の「ハエ男の恐怖(The Fly)」('58年/米)のリメイク作品「ザ・フライ」('86年/米)を撮り(ホント、"気色悪い"系が好きだなあ)、ジェフ・ゴ「蝿男の恐怖」(1958).jpgールドブラムが変身してしまった「ハエ男」が最後の方では「カニ男」に見えてしまうのが難でしたが(と言うより、何が何だかよくわからない怪物になっていて、オリジナルの「ハエ男の恐怖」の方がスチールを見る限りではよほどリアルに「蠅」っぽい)、ただしストーリーはなかなかの感動もので、ラストはちょっと泣けました。

「ハエ男の恐怖」(1958)                   

デッドゾーン パンフ.jpgデッドゾーン 映画.jpg 「デッドゾーン」ではクリストファー・ウォーケンが演じる何の前触れもなく突然に予知能力を身につけてしまった主人公の男(スティーヴン・キングらしい設定!)は、将来大統領になって核ミサイルの発射ボタンを押すことになる男(演じているのは、後にテレビドラマ「ザ・ホワイトハウス」で合衆国大統領役を演じることになるマーティン・シーン)に対して、彼の政治生命を絶つために犠牲を払って死んでしまうのですが(未来を変えたということか)、これならストーリー的にはいくらでも話が作れそうな気がして、これきりで終わらせてしまうのは勿体無いなあと思っていたら、約20年を経てTVドラマシリーズになりました(テレビドラマ版の邦題は「デッド・ゾーン」と中黒が入る)。
The Dead Zone [1983] /パンフレット

アンソニー・マイケル・ホール 「デッドゾーン」s.jpg「デッドゾーン」    ドラマ.jpg テレビドラマ版「デッド・ゾーン」で主役のアンソニー・マイケル・ホールを見て、雰囲気がクリストファー・ウォーケンに似ているなあと思ったのは自分だけでしょうか。意図的にクリストファー・ウォーケンと重なるイメージの俳優を主役に据えたようにも思えます。

                      
'85年東京国際映画祭"ファンタスティック映画祭"カタログより
コデッドゾーン20761.jpgデッドゾーン dvd.jpg「デッドゾーン」●原題:THE DEAD ZONE●制作年:1983年●制作国:アメリカ・カナダ●監督:デヴィッド・クローネンバーグ●製作:デブラ・ヒル●脚本:ジェフリー・ボーム●撮影:マーク・アーウィン●音楽:マイケル・ケイメン●原作:スティーヴン・キング●時間:103分●出演:クリストファー・ウォーケン/マーティン・シーン/ブルック・アダムス/トム・スケリット/ハーバート・ロム/アンソニー・ザーブ●日本公開:1985/06●配給:ユーロスペース●最初に観た場所:渋谷パンテオン (85-06-06)(評価★★★☆)

ビデオドローム.jpg「ヴィデオドローム」●原題:VIDEODROME●制作年:1982年●制作国:カナダ●監督・脚本:デヴィッド・クローネンバーグ●製作:クロード・エロー●撮影:マーク・アーウィン●音楽:ハワード・ショア ●時間:87分●出演:ジェームズ・ウッズ/デボラ・ハリー/ソーニャ・スミッツ/レイ・カールソン/ピーター・ドゥヴォルスキー●日本公開:1985/06●配給:欧日協会(ユーロスペース)●最初に観た場所:渋谷ユーロスペース (85-07-21)(評価★★★)
ヴィデオドローム5.jpgヴィデオドローム04.jpgヴィデオドローム03.jpg
David Cronenberg & James Woods

ザ・フライ dvd.jpgザ・フライges.jpg「ザ・フライ」●原題:THE FLY●制作年:1986年●制作国:アメリカ●監督・脚本:デヴィッド・クローネンバーグ●製作:スチュアート・コーンフェルド●撮影:マーク・アーウィン●音楽:ハワード・ショア ●原作:ジョルジュ・ランジュラン「蠅」●時間:87分●出演:ジェフ・ゴールドブラム/ジーナ・デイヴィス/ジョン・ゲッツ/ジョイ・ブーシェル/レス・カールソン/ジョージ・チュヴァロ/マイケル・コープマン●日本公開:1987/01●配給:20世紀フォックス●最初に観た場所:大井武蔵野舘 (87-07-19)(評価★★★★)●併映:「未来世紀ブラジル」(テリー・ギリアム)


デッド・ゾーン tv.jpgデッドゾーン」.jpg「デッド・ゾーン」The Dead Zone (USA 2002~2007) ○日本での放映チャネル:AXN(2005~2010)
デッド・ゾーン シーズン5 コンプリートBOX [DVD]


 【2008年文庫化[文春文庫]】

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海外取材して力(リキ)はいってるという感じだが、「密室」に疑問あり。

『マレー鉄道の謎』.JPG『マレー鉄道の謎』6.gifマレー鉄道の謎.jpg  マレー鉄道の謎2.jpg 
マレー鉄道の謎 (講談社ノベルス)』〔'02年〕/講談社文庫〔'05年〕

 2003(平成15)年度・第56回「日本推理作家協会賞」受賞作。

マレー鉄道.jpg マレー半島キャメロン・ハイランドを観光で訪れた推理作家・有栖川有栖と臨床犯罪学者・火村英生のコンビは、1ヶ月前に起きたマレー鉄道の追突事故でビジネスパートナーを失ったという百瀬夫妻と知り合うが、2人が百瀬邸に招かれたその日に、離れの密閉されたトレーラーハウスの中で自殺とも他殺とも区別のつかない死体が発見される―。

 それまでの著者の国名シリーズと違い、実際に現地取材して現地を舞台とした作品であり、力(リキ)はいってるという感じで、冒頭は異国情緒に満ちた観光旅行記風で、個人的にはマレーシアに何度か行ったことがあり、但し、国内の移動は白タクか航空機だったため、鉄道を利用する機会はありませんでしたが、それでも懐かしさもあり、読んでいて退屈しませんでした。

 物語の方は、内部から目張りされた密室状態のトレーラーハウスで殺人事件の後、さらに第2の殺人が起き―。

 著者は自他ともに認める「新本格派」と言われる系譜だそうで、この作品も謎解きに的を絞ってあり、気分転換などに丁度良い読み物という感じ。ただし、タイトルや表紙からして、鉄道ファン憧れの(自分は所謂"テッチャン"ではないが)マレー鉄道の中でメインの事件が起きるのかと思いきや、トレーラーハウス内ということでやや拍子抜けした感じも。

 それでも、犯人は誰か、どうやって「密室」を完成させたのか、という興味で、比較的長めの作品を一気に読ませるし、アリス・火村コンビの時に軽妙なやりとりも悪くないです。

 ただし読み終えて振り返ると、犯人の犯行の動機はともかく、犯人がわざわざ現場を「密室」にした動機というのが弱い気がし、トリックそのものについても物理的な疑問を感じました(コレって労力のワリには完遂出来るという確実性に乏しいのでは?)。一応、著者の代表作と言われている作品らしいけれども、正直かなり物足りなかったといったところでしょうか。

 【2005年文庫化[講談社文庫]】

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"感動ストーリー"だが、色々考えさせられるという意味で面白かった。

秘密.jpg 映画 秘密.jpg 秘密DVD.jpg 天国から来たチャンピオンL.jpg
秘密』(1998/09 文藝春秋) 1999年映画化(監督:滝田洋二郎、主演:広末涼子/小林薫)「秘密 [DVD]」「天国から来たチャンピオン [DVD]

 1999(平成11)年度・第52回「日本推理作家協会賞」受賞作。 

 愛する妻と11歳の娘に囲まれ満ち足りた生活を送る杉田平介。だがある日、 妻・直子と娘・藻奈美が乗ったスキーバスが崖から転落する。妻は亡くなってしまうが、意識を取り戻した娘の方に妻の意識が宿ってしまい、残された平介は「娘の姿をした妻」と生活することになる―。

 某編集者の結婚披露宴の挨拶で、自らのことを「キャリアは20年だが、14年間売れなかった」と言ったという作者の、そうした状況を脱する契機となったとされる出世作。主人公は、世間に対しては「娘が実は妻であること」は伏せていて、そのことがまずこの物語の第一の「秘密」。そして、第二の「秘密」は―。

天国から来たチャンピオン.jpgゴースト ニューヨークの幻.jpg これ以上は何を書いてもネタバレになってしまいますが、アメリカ映画の「天国から来たチャンピオン」('79年)や「ゴースト/ニューヨークの幻」('90年)などのスピリチュアル・ファンタジーの系譜と同種のプロットかと思って読んでいました。
天国から来たチャンピオン [DVD]」/「ゴースト ニューヨークの幻 [DVD]

 そうしたら「憑依」という言葉が出てきて、この作品では心霊学的な「憑依」ではなく、超心理学的な「憑依現象」(心理学的には「多重人格」)としてのそれが扱われているので、「娘の姿をした妻」は実は「妻の意識を持った娘」であることがはっきりします。

 それでも読者を、「妻の人格」に感情移入させて読ませるところが、著者の力量でしょうか。夫の妻に対する想いを描き、「妻」の夫に対する想いを描きますが、後者は「娘の人格により投射された妻の像」であるはず。娘と妻の関係を直接的には描写せず、更に夫をセンチメンタリズムの中に埋没させ事実を直視させないことで、"科学的"ファンタージーとして成立しているように思えました。

 作者はそれでも不充分だと思ったのか、最後に"指輪"を巡る第二の「秘密」を用意していましたが、それさえも、「霊」を持ち出さなくとも超心理学的には説明できてしまうことだと思います(ただしこの辺りにくると、真実はもうどうでもよくなっているような感じ)。

 亡くなった人の自我や個性が別の人の脳にコピーされた場合、その「別の人」が「亡くなった人」になり、状況的には「亡くなった人」が生きているというのと同じことになるのでしょうか。妻が娘にかけた、自分が死んだときに自動起動する「後催眠暗示」というふうにとれなくもないし、娘がそれを逆手にとって、夫の心の中での妻の座を占めようとしているようにとれなくもないない場面もあるからややこしい。

映画「秘密」1.jpg者は当初、コメディ仕立てでいこうかと考えたとのこと、自分にとっては、色々な見方ができて考えさせられるという意味での"面白さ"がありました。

滝田洋二郎 秘密1.jpg 映画化もされましたが、話が途中から始まっているし、設定も細部において異なっているものの(娘の事故当時の年齢設定が11歳から17歳に引き上げられている)、物語の本筋の部分は生かされていたように思います。 映画「秘密」(1999年・東宝)

 ベテランの役者陣が周りをしっかり固めているということもありましたが、広末涼子の演技も悪くなかったです(う~ん、この演技力でワセダにAO入学したわけか。中退したけれど)。

幽霊紐育を歩く.jpg 因みに、先にあげた「天国か天国から来たチャンピオン23.jpgら来たチャンピオン(Heaven Can Wait)」は、「幽霊紐育を歩く(Here Comes Mr. Jordan)」('41年)のリメイク作品で、前途有望なプロ・フットボール選手(ウォーレン・ベイティ)が交通事故で即死するが、それは天使のミスによるものだったため、困った天界は彼の魂を殺されたばかりの若き実業家の中に送り込み、その結果全く新しい人物となった彼は、再びフットボールの世界に乗り出す―というもの。

天国から来たチャンピオン  ジェット機.jpg ボクシングのチャンピオンだった男を主人公としたオリジナルのリメイク作品だと分かるように、わざわざ邦題に"チャンピオン"と入れたのでしょうか(アメフトで個人を指してチャンピオンとはあまり言わないのでは)。今観ると、天国へ行く人々が乗るジェット機が〈コンコルド〉風だったりして時代を感じさせますが、「感動作」であることには違いなく、"自分とは何か"を考えさせられる部分もありました。

天国から来たチャンピオン2.jpg 一方で個人的に今ひとつノリ切れなかったのは、映像上のウソがあるためで、つまり、死んだウォーレン・ベイティの魂が身体を借りた実業家兼フットボール選手を、やはりウォーレン・ベイティが演じているという点。これは致し方ないことであり、あまりこだわる人もいないのかも知れませんが、このウソを克服しないと映画が楽しめないような気もしました(オリジナル作品では、ボクシング選手の魂が実業家にのり移るのだがそれなりに実業家に見える。その点、ウォーレン・ベイティはどこから見てもウォーレン・ベイティにしか見えない)。                                 

 これに比べると、映画「秘密」は、こうした「お約束」を観る者に強いるほどではない分、その点に関して言えば旨く出来ているようにも思いました(原作がいいということか)。 

秘密ド.jpg映画 秘密31.jpg「秘密」●制作年:1999年●監督:滝田洋二郎●製作:児玉守弘/田上節郎/進藤淳一●脚本:斉藤ひろし●撮影:栢野直樹●音楽:宇崎竜童●原作:東野圭吾●時間:119分●出演:広末涼子/小林薫/岸本加世子/金子賢/石田ゆり子/伊藤英明/大杉漣/山谷初男/篠原ともえ/柴田理恵/斉藤暁/螢雪次朗/國村隼/徳井優/並樹史朗/浅見れいな/柴田秀一●劇場公開:1999/09●配給:東宝 (評価★★★☆)
     
天国から来たチャンピオン チラシ.jpg天国から来たチャンピオン  .jpg「天国から来たチャンピオン」●原題:HEAVEN CAN WAIT●制作年:1978年●制作国:アメリカ●監督:ウォーレン・ベイティ/バック・ヘンリー●製作:ウォーレン・ベイティ●脚本:エレイン・メイ/ウォーレン・ベイティ●撮影:ウィリアム・A・フレイカー●音楽:デーヴ・グルーシン●原作:i-img600x446-1546386106i9p1zj197656.jpgハリー・シーガル●時間:101分●出演:ウォーレン・ベイティ/ジュリー・クリスティ/ジェームズ・メイソン/ジャック・ウォーデン/チャールズ・グローディン/ダイアン・キャノン/R・G・アームストロング/ヴィンセント・ジェームズ・メイソン 天国から来たチャンピオン1.jpgガーディニア●日本公開:1979/01●配給:パラマウント映画●最初に観た場所:新宿パレス(83-02-04)(評価:★★★☆)

ジェームズ・メイソン

ジュリー・クリスティ in「ドクトル・ジバゴ」(1965)/「天国から来たチャンピオン」(1978)
0ジュリー・クリスティ .jpg


東野 圭吾 『秘密』1.jpg東野 圭吾 『秘密』2.jpg 【2001年文庫化[文春文庫]】

文春文庫カバー(旧・新)

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充実したホラー・サスペンス・ミステリー。第3部で評価は分かれるかも。

ガダラの豚.jpg ガダラの豚2.jpg ガダラの豚3.jpg  『ガダラの豚〈1〉 (集英社文庫)』『ガダラの豚〈2〉 (集英社文庫)』『ガダラの豚〈3〉 (集英社文庫)』(全3巻)〔'96年〕

 1994(平成6)年度・第47回「日本推理作家協会賞」受賞作。 

 全体3部構成の本書の第1部は、主人公の民俗学が専門の"タレント教授"(超能力番組のコメンテータをして何とか調査費稼ぎをしている)が、新興宗教にはまった妻を奪回すべく、マジシャンの助けを借りて教祖の超能力と呼ばれるもののトリック破りしていく話で、どこかで見たことあるような状況設定に引き込まれるとともに、読者を一定の「見解」へ導いているように思えました。
 アフリカ呪術の話など民族学とオカルトを組み合わせたような話も多く出てきますが、それが第2部では実際に舞台をアフリカに移し、思わぬ展開になっていく―。

 コメディタッチで随所笑えますが、全体として〈ホラー・サスペンス・ミステリー〉として充実しているのは、民族学やオカルト、超能力トリックについての蘊蓄(うんちく)や、実際に著者が現地に取材したアフリカ・ケニアの街や自然、習俗などの詳細な記述もさることながら、超能力青年、マジシャン、女性精神科医、TVマンなどの多彩な登場人物の描写や会話が生き生きとしていているためだと思います。

中島らも.jpg まったく先が読めないハラハラさせられるストーリー展開ですが、最終章の第3部に至ってスラップスティックの様相を呈しているような感じもして、オカルティックなものに対する好みよりも、この極端な「壊れ感」みたいな部分で評価は割れるかも知れないなあと(個人的にも、第3部は、読後感をやや軽くしてしまった感じがすると思う)。

 とは言え、この作家の"鬱(うつ)気質"から言えば、もっともっとカタストロフ的な結末もあったかも知れないと思ったりもし、また、2段組み600ページ近くを一気に読ませるエンターテインメントに仕上げたストーリーテラーとしての力量は、やはり並々ならぬものであると認めないわけにはいかないと思います。

 【1996年文庫化[集英社文庫(全3巻)]】

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圧倒的な重層構造で迫ってくるものの、結末には消化不良感が残る。

リヴィエラを撃て.jpg リヴィエラを撃て 上巻.jpg リヴィエラを撃て下巻.jpg  「クライング・ゲーム」.jpg
リヴィエラを撃て』(1992/10 新潮社)/新潮文庫(上・下)/「クライング・ゲーム」スティーヴン・レイ

 1993(平成5)年度・第46回「日本推理作家協会賞」受賞作で、「日本冒険小説協会大賞」も併せて受賞。

 首都高速トンネル内で1人の外国人男性の遺体が発見され、その男はジャック・モーガンという元IRAのテロリストだったとわかりますが、彼が〈リヴィエラ〉なる人物に殺されると予め警察通報してきた東洋人女性も、自宅アパートで射殺されており、そのアパートからは世界的ピアニストのノーマン・シンクレアのレコードが多数発見される―。

 警視庁外事1課の刑事・手島は、ジャックが〈リヴィエラ〉を追っていたと推察し(「公安部」の刑事が小説に登場するというのが自分にとっては新鮮だった)、やがて事件の背後にはCIA、MI5までが絡む国際機密問題があるらしいことがわかりますが、肝心の〈リヴィエラ〉とは一体何なのかが掴めないまま、真相は混迷の度を深めていきます。

 硬質の文体で語られるストーリーはかなり複雑で、日本を舞台にしたスパイ小説ということもありイメージが掴みにくい部分もありました(公安というのもデモ行進の際にデモ参加者をチェックしているところぐらいしか見たことないし...)。
 ただし舞台が14年前のアイルランドへと跳ぶと、何だかイメージしやすくなったのは、スパイ物語=洋モノというイメージが自分の中にあるためでしょうか(実は日本ほどスパイが自由に出入りしている"スパイ天国"の国はないと言われてるけど)。

『クライング・ゲーム』(1992)2.jpgTHE CRYING GAME.jpg ニール・ジョーダン監督の「クライング・ゲーム」('92年/英)という元IRA兵士の男を描いた映画を思い出し、スティーヴン・レイ(渋かった!)のイメージが作中の登場人物に重なりました。スティーヴン・レイ演じるIRAのテロリストが、人質のイギリス軍兵士の死に責任を感じながらも、彼の恋人に惹かれていくという話で、ニール・ジョーダンはこの作品でアカデミー賞オリジナル脚本賞を獲っています。
スティーヴン・レイ in「クライング・ゲーム」(1992年・全米映画批評家協会賞 主演男優賞受賞)

「クライング・ゲーム」●原題:THE CRYING GAME●制作年:1992年●制作国:イギリス●監督・脚本:ニール・ジョーダン●音楽:アン・ダッドリー●時間:112分●出演:スティーヴン・レイクライング・ゲーム.jpgミランダ・リチャードソン(ジュード).jpeg/ジェイ・デイヴィッドソン/ミランダ・リチャードソン/フォレスト・ウィテカー/エイドリアン・ダンバー/ジム・ブロードベント●日本公開:1993/06●配給:日本ヘラルド映画 (評価★★★★) 
ミランダ・リチャードソン in「クライング・ゲーム」(1992年・ニューヨーク映画批評家協会賞 助演女優賞受賞)

クライング・ゲーム DTSスペシャル・エディション [DVD]

 高村薫小説らしく、暗い情念を持った男たちが登場し、それでいて最後はヒューマンなドラマに仕上げていますが、ミステリという観点からは、圧倒的な重層構造で迫ってくるものの、結末がやや消化不良気味で欲求不満が残りました。

 【1997年文庫化[新潮文庫(上・下)]】

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裁判とは何かを問う。執筆中に、主人公と被害者の関係に加えられた「重大修正」。

大岡昇平 「事件」.jpg事件 大岡昇平.png  『事件』.JPG 事件.jpg
単行本〔新潮社/'77年版〕/単行本〔新潮社/'78年版〕/新潮文庫〔旧版〕/『事件』新潮文庫[新版]

 1978(昭和53)年度・第31回「日本推理作家協会賞」受賞作。

 神奈川県の相模川沿いの山林で、若い女性の刺殺死体が発見され、被害者はこの町出身で、厚木市でスナックを営む23歳の女性・坂井ハツ子。数日後警察は、事件の夕刻、現場付近の山道で地主に目撃されていた19歳の工員・上田宏を逮捕するが、彼はその後の調べで、ハツ子の妹・ヨシ子と同棲していたことがわかる―。

 事件発生から少年の殺意の有無をめぐる裁判とその判決に至るまでの過程を、フィクションとは思えないような抑制の効いた筆致と圧倒的なリアリズムで描いています。

 つまりは「殺人」か「傷害致死」かを争うだけの話なので、裁判小説と言ってもそのプロセスでの"意外性"は限定的で、E.S.ガードナーの「ペリー・メイスン」シリーズのようなミステリーとはまったく趣を異にします。

 しかし、一般にはあまり知られていない裁判の進行模様が、菊池弁護士をはじめ個性的な登場人物のおかげもあり面白く読めます。そして最終章でこれほど「う~ん」と唸らされる小説というのも少ないように思いました。その「う~ん」は、ミステリーとしての「う~ん」とはやや別物であり、「事件」とは何かを考えさせられるものです。

フィクションとしての裁判.jpg 一般に殺意を裏付けるものは"動機"と"状況"なのですが、大岡昇平(1909‐1988)とこの小説を執筆した際のアドバイザーの1人だった当事俊英の弁護士・大野正男氏(後に最高裁判事)との対談『フィクションとしての裁判』('79年/朝日出版社)を読み、大岡昇平が執筆の途中で主人公・宏と被害者・ハツ子の関係に「重大な修正」を加えたことを知り、それがラストのウ〜ンにも繋がるのかなと思いました。最初からミエミエなら、ここまで唸らされないかもしれません(それにしても結末を変えるとは...)。

大野正男・大岡昇平『フィクションとしての裁判―臨床法学講義 (1979年)

事件 映画 野村芳太郎.jpg事件(ポスター).jpg事件 映画 野村芳太郎v.jpg 「砂の器」などで知られる野村芳太郎監督により'78年に映画化されていて(菊池弁護士:丹波哲郎、ヨシ子:松坂慶子、ハツ子:大竹しのぶ)、同年にNHKでテレビドラマ化もされているように(菊池弁護士:若山富三郎、ヨシ子:いしだあゆみ、ハツ子:大竹しのぶ)、社会的反響の大きかったベストセラーでした。'93年には、テレビ朝日で再ドラマ化されています(菊池弁護士:北大路欣也、ヨシ子:渡辺梓、ハツ子:松田美由紀)。 

 事件 図1.jpg事件 図252.jpg事件 図3.jpg事件 図4.jpg テレビドラマはNHK版(脚本:中島丈博)を観ました。若山富三郎の演技もさることながら、野村芳太郎をして「天才」と言わしめた大竹しのぶの演技が良かったです、と言うか、うますぎでした。

「事件」●演出:深町幸男/高松良征●制作:小林猛●脚本:中島丈博●音楽:間宮「事件」宮口.jpg芳生●出演:若山富三郎/いしだあゆみ/大竹しのぶ/高沢順子/佐々木すみ江/草野大悟/鈴木光枝/丹波義隆/勝部演之/石橋蓮司/沼田曜一/垂水悟郎/北城真紀子/殿山泰司宮口精二/伊佐山ひろ子/中村玉緒●放映:1978/04(全4回)●放送局:NHK

「事件」キャスト.jpg事件 ドラマ 若山富三郎.jpg事件-全集- [DVD]
                     
 【1980年文庫化[新潮文庫]/1999年再文庫化[双葉文庫]/2017年再文庫化[創元推理文庫]】

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