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面白かった。企業小説はこうでなくてはという感じ。でも、事実に基づいていると思うと...。

沈まぬ太陽(四) 会長室篇 上巻.gif 沈まぬ太陽(五) 会長室篇 下巻.jpg    沈まぬ太陽〈4〉会長室篇(上)文庫.jpg 沈まぬ太陽〈5〉会長室篇(下)文庫.jpg    山崎豊子.png 山崎 豊子 氏 
沈まぬ太陽〈4〉会長室篇(上)』『沈まぬ太陽〈5〉会長室篇(下)』 『沈まぬ太陽〈4〉会長室篇(上) (新潮文庫)』『沈まぬ太陽〈5〉会長室篇(下) (新潮文庫)
新潮文庫 映画タイアップ帯/映画 「沈まぬ太陽」('09年)
沈まぬ太陽 会長室篇.jpg沈まぬ太陽5.jpg '85年の御巣鷹山墜落事故の後、利根川総理は国民航空再建のため、関西の紡績会社会長の国見正之を国民航空会長に据える。新体制の下、遺族係として大阪に赴任していた恩地は国見により東京に呼び戻され、新設の「会長室」の部長に抜擢される。改革に奔走する国見と恩地、そして次期社長の座を狙う行天を中心に、彼らを取り巻く社内外の腐敗体質の元凶や黒幕が描かれる―。

 国見らが統合に腐心する5つに分断された組合、腐敗体質の温床となった生協購買部や関連会社のリベート構造、財務体質の悪化を招いた海外不動産の買収とそれに伴うサヤ抜き、更にドル先物予約による膨大な為替差損など、まあ、出てくる出てくる、しかも、それらが実際の取材に基づいて書かれた事実であるとのことで、これが一流企業と目される会社の実体なのかと唖然とさせられます。

 そして、自らの出世と保身に走る経営幹部と、その背後で蠢く政治家や政商たち―う〜ん、読んでいて先ず面白い! 企業小説はやはりこうでなければという感じで、総合商社の内幕を描いた『不毛地帯』以来の作者の筆の冴えを感じましたが、過程においてのエンタテインメイント性とは裏腹に、ラストは必ずしも読者のカタルシスを満たすものとはなっていません。
第2次中曽根内閣.bmp これは、実際に'86年に日本航空に招聘された伊藤淳二氏の改革が様々な圧力のため中断し、主人公の原型モデルである小倉寛太郎氏も再びアフリカに追いやられたという事実に即しているためでしょう。

 利根川総理(中曽根康弘)が国民航空の会長人事を託したのが、元大本営参謀の龍崎一清(瀬島龍三)で、どうしょうもない運輸大臣の道塚(三塚博)、警察官僚出身の官房長官・十時(後藤田正晴)、巨額の裏金作り工作をする副総理・竹丸(金丸信)、闇将軍・田沼(田中角栄)の"刎頚の友"である政商・小野寺(小佐野賢治、日航の社外取締役だった)...etc. 政治家などがモデル人物が特定し易い形で登場するため興味が尽きず、会社の経営陣はもとより、会社が組合分断工作のために起こした新生労働組合の関係者や、リベートを貪る関連会社の黒幕たちも、実際に特定できるモデルがいるようです(但し、映画で三浦友和が演じている行天四朗だけは架空の人物)。

瀬島龍三.jpg 『不毛地帯』での壱岐正のモデルとされる瀬島龍三ですが、この作品での龍崎一清は、国見の目から見て、当初は"国士"だと思われたが実際はそうではなかったというのが興味深く、一方の国見の方は、『不毛地帯』での壱岐正のように理想的人物像として描かれていて、これは誰かそうしたキャラクターを設けないと、もう魑魅魍魎を描いただけの小説になってしまうため致し方ないのか。

沈まぬ太陽51.JPG 結局、日本航空の労組は今でも、企業寄り組合1(最大組合)、反企業的組合7(職種別)の8労組に分かれており、従業員の所属組合の違いによる差別待遇は、日本航空キャビンクルーユニオンの訴えにより、'09年11月に東京都労働委員会が日航に昇級・賃金差額支払いなどの改善命令を出していることなどを見ても、いまだに続いていることが窺えます。
 更に、経営再建に向けた動きの中で、海外投資での新たな為替差損も明らかになっており、「変わらぬ企業体質」は、こうした点においても見られます。
 
 いきなり話が急展開して小説が完結し、「なに、コレ」みたいに思った読者もいるかも知れませんが、元々が、ハッピーエンドで終わらせようとするには無理がある"素材"なのでしょう。

 魑魅魍魎たちの暗躍は、フィクションであると断っているとは言え、容易にモデルが特定できる形で書かれていることを考えると、かなりの事実が含まれていると思われました。もしそれらが本当に事実であるとするならば、心底ぞっとします。
 
 【2001年文庫化[新潮文庫(上・下)]】

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小説全体の中では独立したドキュメント、或いは必要欠くべからざる"繋ぎ"。

沈まぬ太陽 御巣鷹山篇.jpg 『沈まぬ太陽 (3)』 ['99年] 沈まぬ太陽〈3〉御巣鷹山篇 文庫.jpg 『沈まぬ太陽〈3〉御巣鷹山篇 (新潮文庫)』 ['01年]
  映画 「沈まぬ太陽」('09年)
沈まぬ太陽3.jpg 10年の"懲罰人事"に耐えて日本に帰国した恩地元であったが、国民航空は恩地を排除しようとするその手を緩めず、更に10年の間、東京本社での閑職に追いやる。そんな中、御巣鷹山で「国航ジャンボ機墜落事故」が発生、救援隊・遺族係へ回される―。

 小説自体は、関係者への取材と実在の登場人物、各機関・組織などをベースに「小説的に再構築したもの」とされていますが、この「御巣鷹山篇」では、'85年8月に起きた日航ジャンボ機墜落事故の遺族・関係者へ取材内容を一部実名で取り上げるなどしていて、ドキュメント色の濃いものになっています。

 自分自身は事故当時、墜落現場と同じ群馬県の、県北西部のテレビも新聞も無いロッジに居て、そのような大事故が起きたと知ったのは、翌日東京に戻るクルマの中ででした。ロッジは墜落現場からは30〜40km離れていたのですが、静かな山間で、夜中に上空を飛ぶヘリコプターの音が随分と聞こえてくるのを訝しく思った前夜の記憶が甦ったのを憶えています。

 この「御巣鷹山篇」は、事故の記憶が無い人には勿論のこと、事故を知っている人にとっても新たに記憶を喚起し、小説全体の中でも大きな反響を呼んだパートですが、ドキュメント色が濃い分、作者の"作家性"は後退しているようにも思え、確かに、後世に伝えなければならない事故ではあったものの、小説全体の中では、単独のドキュメント作品(或いは、「アフリカ篇」と「会長室篇」の必要欠くべからざる"繋ぎ")としての位置づけになっているように思いました。

 恩地がさほど前面に出てこないのは、モデルの原型となった人物が実際には事故当時、現場に出向いていないということもあるかと思われますが、それを以って事実を歪曲しているという批判があるのは、小説自体がフィクションであることを予め作者が断っていることからすれば筋違いであり、その他にも、日航が「週刊新潮」のライバル誌を介して行ったこの作品に対する"世論誘導"的な批判には、理不尽なものが多い気がします(遺族の取材に偏向があるといった類の批判もそう。520人の遺族の声を"公平"に取材し、その全てを作品で取り上げるといったことは不可能)。

 悲しみに打ちひしがれる遺族の様は、事実またはほぼ事実として受け止めていいのではないかと。遺族の力になろうと奔走する社員も、実際にそうした社員が多くいたのでしょう。そうしたものを取材したドキュメントは既に何冊か本になっていますが、本書では、事故遺体の具体的な状況を詳説するとともに、現場にまだ多くの遺骨の断片が残っている可能性を示唆するなど、より突っ込んだ"新情報"(当時としては)も織り込まれているようです。

 本篇に関しては、読んでいて、当事者の心の奥に分け入って書かれていると感じ入る部分もある一方で、新聞の特集連載を読んでいるような印象を受けた部分も正直ありました(保身に走る会社上層部の様を描いた部分が、最も小説的なのだが)。

 本篇は、毎日新聞社出身の著者(上司に井上靖がいた)が、その"チーム"取材力を見せたパートであるとも言え(資料集めは"秘書"が行っているということらしいが)、新聞記者っぽいトーンを感じる一方、小説として膨らますには、あまりに"素材"が重く、虚構を交えにくいパートだったのかなと(「アフリカ篇」「会長室篇」が2分冊であるのに対し、「御巣鷹山篇」だけ1冊で完結している)。

 とは言え、520名もの人名を奪った大事故が"人災"であったことを、改めて明確に指弾した意味は大きいと思います。
 
  【2001年文庫化[新潮文庫]】

《読書MEMO》
WOWOW開局25周年記念・連続ドラマW「沈まぬ太陽」第2部(全12話)2016.07-09

沈まぬ太陽 第2部.jpg沈まぬ太陽 第2部 00.jpg

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「不当労働行為」をリアルに描く。連載開始からベストセラーになるまでの間にもドラマが。

沈まぬ太陽 1.gif 沈まぬ太陽 2.gif   沈まぬ太陽〈1〉アフリカ篇(上)文庫.jpg 沈まぬ太陽〈2〉アフリカ篇(下).jpg
 『沈まぬ太陽〈1〉アフリカ篇(上)』『沈まぬ太陽〈2〉アフリカ篇(下)』  『沈まぬ太陽〈1〉アフリカ篇(上) (新潮文庫)』『沈まぬ太陽〈2〉アフリカ篇(下) (新潮文庫)

 国民航空の労働組合委員長だった恩地元は、従業員の処遇や労働環境の改善を求めて経営陣と対立した結果、カラチ、テヘランと海外支店へ廻されて、今は自社便の乗り入れすら無いナイロビに勤務しているが、「流刑」とも言える左遷人事の間に、母と死別し、家族とも別れて暮らすことになる。一方、大学の同輩で組合の副委員長だった行天四朗は、恩地と袂を別ち、出世街道を歩むこととなる―。

   映画 「沈まぬ太陽」('09年)
沈まぬ太陽1.jpg '95年から週刊新潮で連載が始まり'99年に完結、単行本化されるや200万部を超えるベストセラーになり、'09年に若松節朗監督、渡辺謙主演で映画化された作品ですが(渡辺謙は、恩地役をぜひ自分にやらせて欲しいと山崎豊子に直接懇願して主役の座を射止めたという。このパターンは田宮二郎や唐沢寿明と同じ)、連載当初の3部構成の第1部から第3部が、単行本化されるあたって、それぞれ「アフリカ篇」「御巣鷹山篇」「会長室篇」と名付けられています。

 この「アフリカ篇」は、'71年にナイロビで恩地が野生動物のハンティングしている場面から始まりますが、回想シーンとして、'61年に主人公の恩地元が労組委員長になり、従業員の待遇改善を求めて'62年に会社初のストライキを実施するに至るまでの緊迫した労使交渉の様や、その後の会社側の御用組合の設立による組合分断攻勢、特定組合員を差別待遇する「不当労働行為」の様がリアル描かれていて、作者の筆致にぐいぐい引き込まれました。

小倉寛太郎(1930‐2002/享年71)
小倉寛太郎氏.jpg 主人公がケニア勤務だからと言ってハンティングをしているというのはいかにも小説的だと思われるかも知れませんが、恩地の原型とされる小倉寛太郎(おぐらひろたろう、通称おぐらかんたろう)元日本航空労組委員長は、日航を定年退職後は、アフリカ研究家・自然写真家として活躍し、『フィールドガイド・アフリカ野生動物―サファリを楽しむために』('94年/講談社ブルーバックス)という著者もあり、「アフリカの地まで飛ばされた主人公が、なお屈しなかったのは、穢れなきサバンナ、壮大な太陽の輝きに、自身を律することが出来たからだった」(新潮文庫帯「原作者・山崎豊子・映画化の寄せて」より)という言葉も、説得力を帯びているように思えます。

 小倉氏の著書(講演録)『自然に生きて』('02年/新日本出版社)によると、作者の小倉氏への取材は、8年間に渡り千数百時間にも及んだとのこと、その小倉氏が、日航在職時に社内人事で小説と同じような目に遭ったことは、吉原公一郎『墜落』('82年/大和書房)などでも確認できますが、この小説では小倉氏個人の不当人事に限らず、従業員の所属組合の違いによる差別待遇の問題なども描かれています。

沈まぬ太陽52.JPG 作者はこの小説の構想を多くの出版社に持ち込みましたが、テーマがテーマだけに、日航の報復を恐れた出版社に相手にされずにいたところ、以前に作者の担当をしていた新潮社の山田彦彌(1932‐1999)週刊新潮・編集長が、その事を知ってすぐに原稿を依頼し、「週刊新潮」への連載が開始されたとのこと。
 これに対し、日航は新潮社の全出版物への広告出稿載を打ち切り、連載中は「週刊新潮」の機内への搭載もしないという対抗措置を取りましたが、連載の反響が大きく、「週刊新潮」の売上部数が増えたため、広告収入の欠損を埋め合わせることができたそうです。

 この作品が単行本となりベストセラーとなった頃に、山田氏は血を吐き入院しましたが、「150万部売れたら報告に来い。それまで来るな」と部下の見舞いを断っていて、部下が150万部売れた報告に行ったその数日後に亡くなっており、作者は告別式で弔辞で「私の戦友だった山田さん」と呼びかけたとのことです。

 【2001年文庫化[新潮文庫(上・下)]】

《読書MEMO》
WOWOW開局25周年記念・連続ドラマW「沈まぬ太陽」第1部(全8話)2016.05-06

沈まぬ太陽 第1部.jpg沈まぬ太陽 第1部 01.jpg

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読後の感動はあった。モデルはモデル、小説は小説として読むべきか。

不毛地帯 1.jpg 不毛地帯 2.jpg 不毛地帯 3.jpg 不毛地帯 4.jpg  不毛地帯ー.png
『不毛地帯』 新潮文庫[旧版](全4巻)        映画「不毛地帯」('76年/東宝)

不毛地帯 映画.jpg 『白い巨塔』('65年/新潮社)、『華麗なる一族』(73年/新潮社)が、それぞれ映画も含め力作だったのに対し、この『不毛地帯』の仲代達矢主演の"映画"の方は、配役は豪華だけれど個人的には今ひとつでした(テレビで観たため、平幹二朗主演のテレビ版と記憶がごっちゃになっている)。そもそも、181分という長尺でありながらも、原作の4分の1程度しか扱っておらず、原作が連載中であった事もありますが次期戦闘機決定をめぐる攻防部分だけを映像化したと言ってもよく、結果として壱岐正という主人公の生き方に深みが出てこない...。

 ただし"原作"だけでみると、自分が最初に読んだ当時の読後の感動はこれが一番で、もともと映画に納まり切らない部分が多すぎたか? それと、こうした複雑な話が映画化された時によくありがちな傾向で、愛憎劇中心になってしまった感じもしました。

 この原作の方は、以前は商社マンを目指す人はみなこぞって読んで、そして感動したという話も聞きます。しかし今改めて読むと、作品に描かれる総合商社の体質は今も変わらないのかもしれませんが、産業構造の変化などで商社の仕事自体はずいぶん変わっているのではないかという気がします(その点、一番変わっていないのは『白い巨塔』で描かれた大学附属病院かもしれない)。

 国の二次防主力戦闘機の受注をめぐって、交渉相手の防衛庁の部長に戦時中の命の恩人である元陸軍中佐・壱岐正をぶつけるという商社の戦略が凄いと思いましたが、戦後60年以上を経た今現在、こうした"命の恩人"みたいな関係がどれだけあるのか、またそれがビジネスで成り立つかと考えると、かなり特異な状況を描いているようにも思えました。

 そうしたこともあり、良くも悪くも、モデルとされている瀬島龍三氏のイメージとどうしても切り離せません。
 小説の主人公はラストの身の引き方は美しいが、瀬島氏は商社マンとして一線を退いた後も中曽根内閣の臨調委員として政治"参謀"ぶりを発揮し(結局こういう「ひとかどの人物」は在野にいても声がかかる?)、90歳を超えてなお中曽根氏の個人的ブレーンの1人となっている...。

 著者は「これは架空の物語である。実在する人物、出来事と類似していても偶然に過ぎない」と言っています。
 『白い巨塔』と並ぶ著者の代表作であり傑作であることには違いなく、モデルはモデル、小説は小説として読むべきなのかも知れません(同一作者の後の作品『沈まぬ太陽』では、同一モデルであるはずのこの人物の描き方が、「国士」から単なる「策士」へと変化している)。

瀬島龍三(せじま・りゅうぞう)
瀬島龍三.jpg伊藤忠商事元会長。富山県松沢村(現小矢部市)出身。1938年12月陸軍大学校卒、大本営陸軍参謀として太平洋戦争を中枢部で指揮をとる。満州で終戦を迎えたが、旧ソ連軍の捕虜となり、11年間シベリアに抑留され、1956年に帰国。1958年、伊藤忠に入社し、主に航空機畑を歩いた。1968年専務に就き、いすゞ自動車と米ゼネラル・モーターズ(GM)との提携を仲介。戦前、戦中、戦後を通じて政、財界の参謀としての道を歩んだ。(2007年9月4日死去/享年95)

不毛地帯 映画.jpg不毛地帯 丹波哲郎.jpg「不毛地帯」●制作年:1976年●監督:山本薩夫●製作:佐藤一郎/市川喜一/宮古とく子●脚本:山田信夫●音楽:佐藤勝●原作:山崎豊子●時間:181分●出演:仲代達矢/丹波哲郎/山形勲/神山繁/滝田裕介/山口崇/日下武史/仲谷昇/山本圭/北大路欣也/小沢栄太郎/田宮二郎/久米明/大滝秀治不毛地帯 dvd.jpg不毛地帯相関図.jpg/高橋悦史/井川比佐志/中谷一郎/八千草薫/秋吉久美子/藤村志保/高城淳一/秋本羊介/岩崎信忠/石浜朗/内田朝雄/小松方正/加藤嘉/中津川衛/辻萬長/高杉哲平/杉田俊也/神田隆/永井智雄/嵯峨善兵/伊沢一郎/青木義朗/アンドリュー・ヒューズ/デヴィット・シャピロ/●劇場公開:1976/08●配給:東宝(評価★★★) 
不毛地帯 [DVD]

 【1983年文庫化[新潮文庫(全4巻)]・2009年改訂[新潮文庫(全5巻)]】

不毛地帯〔'76年/東宝〕監督:山本薩夫/製作:佐藤一郎/脚本:山田信夫/出演:仲代達矢/丹波哲郎/山形勲
不毛地帯 映画.jpg

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「華麗なる一族」1974年.jpg 古さを感じさせない。政財界にわたっての丹念な取材の跡が窺える。

山崎豊子 華麗なる一族.jpg  華麗なる一族 上巻.jpg 華麗なる一族 中巻.jpg 華麗なる一族 下巻.jpg 
華麗なる一族 (1980年) (新潮文庫)』 /新潮文庫(上・中・下)〔改訂版〕/映画「華麗なる一族」('74年/東宝)

華麗なる一族 dvd.jpg華麗なる一族.jpg 万俵財閥の当主で阪神銀行頭取の万俵大介の野望を軸に、それに翻弄される一族の姿を金融業界の内幕に絡めて描いた作品で、'73(昭和48)年の発表ですが、「金融再編」に伴う「銀行の合併問題」がモチーフになっているため、あまり古さを感じさせません。

 小説の冒頭は、志摩半島の英虞湾を望む一流ホテルでの主人公一族の豪奢な正月晩餐会から始まりますが、作者は舞台のモデルにした「志摩観光ホテル」のレストランから夕陽がどう見えるかまで取材しに行ったそうで、そうした丹念な取材は、銀行内部のみでなく、政治家や大蔵省など政財界に広く及んでいて、物語にリアルな厚みを増しています。 
華麗なる一族 [DVD]」/映画パンフレット                  

 大介の野望は、上位銀行の専務と結託してその銀行を併呑する、所謂「小が大を呑む」というもので(かつて神戸銀行が太陽銀行を吸収合併し、"名"前だけ「太陽神戸」として"実"の方をとった出来事がベースになっている)、大介の政財界への働きかけは、「政財癒着は良くない」という綺麗事のレベルを遥かに凌駕する凄まじさで、目的のためには親友も、長男さえも切り捨てる―。

 タイトルの「華麗なる一族」という言葉が、政界との癒着強化のための閨閥づくりを指すとともに、長男・鉄平の暗い過去の出生の秘密を表す反語にもなっています。

 同じ山崎豊子原作の映画化作品「白い巨塔」が大ヒットしたためか、この作品は豪華キャストで映画化されましたが('74年・山本薩夫((1910-1983))監華麗なる一族 仲代.jpg督)、オールキャストとは言え、その中で圧倒的に存在感を際立たせているのは佐分利信であり、その佐分利演じる万俵大介と鉄平(仲代達矢)の"暗い血"にまつわる確執に重きが華麗なる一族 田宮二郎.jpg置かれていたような感じもしました。また、鉄平の最期が、大介の女婿を演じた田宮二郎の実人生での自殺方法と同じだったことに思い当たりますが、鉄平役は実は田宮二郎がやりたかった役だったそうです。

華麗なる一族 目黒.jpg華麗なる一族 佐分利.jpg どうしても、こういう複雑なストーリーの話が映画化されると、情緒的な方向に重きがいってしまったりセンセーショナルな部分が強調されるのは仕方がありませんが(大介の「妻妾同衾」シーンなども当時話題になった)、それなりの力作でした。"いい人"がとにかく苛められる(相手方銀行の頭取の二谷英明とか)点で「白い巨塔」に共通するものを改めて感じたのと、農家の預金獲得のために、ワイシャツ姿で終日稲刈りまでする銀行員なども描いていて「銀行員って意外と泥臭いなあ」と思わされたりもしました。
                    映画「華麗なる一族 [VHS]」 ビデオ(上・下)
華麗なる一族2.gif華麗なる一族 ビデオ.jpg「華麗なる一族」●制作年:1974年●製作:芸苑社●監督:山本薩夫●製作:佐藤一郎/市川喜一/森岡道夫●脚本:山田信夫●音楽:佐藤勝●原作:山崎豊子●時間:210分●出演:佐分利信/仲代達矢/月丘夢路/京マチ子/酒井和歌子/目黒祐樹/田宮二郎/二谷英明/香川京子/山本陽子/中山麻里/小沢栄太郎/滝沢修/河津清三郎/大空真弓/志村喬/中村伸郎/加藤嘉/神山繁/平田昭彦/細川俊夫/大滝秀治/金田龍之介/小林昭二/花沢徳衛/鈴木華麗なる一族 京マチ子 .png瑞穂(ナレーションも担当)●劇場公開:1974/01●配華麗なる一族 京マチ子.jpg華麗なる一族 志村.jpg給:東宝●最初に観た場所:渋谷・東急名画座(山本薩夫監督追悼特集) (84-01-08) (評価★★★☆)
志村喬(大阪重工社長・安田太左衛門)

京マチ子(万俵大介の愛人・高須相子)

 【1973年単行本・1979年改訂[新潮社(上・中・下)]/1980年文庫化・2003年改訂[新潮文庫(上・中・下)]】

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医学界の権力構造の図式を鮮やかに浮かびあがらせた傑作。もとは財前の勝利で終わる話だった。
白い巨塔 1965.jpg 白い巨塔 1.jpg 白い巨塔 2.jpg 白い巨塔 3.jpg kyotou2.jpg 白い巨塔 1シーン.jpg
白い巨塔 (1965年)』 『新潮文庫「白い巨塔 全5巻セット」』  映画「白い巨塔 [DVD]」['66年]
映画「白い巨塔」('66年/大映) 田宮二郎・田村高廣
映画「白い巨塔」('66年/大映).jpg この作品は何度かテレビドラマ化ざれ、佐藤慶('67年/テレビ朝日系/全26回)、田宮二郎('78年/フジテレビ系/全31回)、村上弘明(90年/テレビ朝日系/全2回)などが主役の財前五郎を演じています。更に最近では、'03年にフジテレビ系で唐沢寿明主演のもの(全21回)がありましたが、断トツの視聴率だったのは記憶に新しいところ(唐沢寿明版の最終回の視聴率32.1%で、'78年の田宮二郎版の最終回31.4%を上回る数字だった)。
                   
白い巨塔 66.jpg銀座シネパトス.jpg しかしながら個人的には、やっぱりテレビ版よりは、原作を読む前に観た山本薩夫(1910-1983)監督による映画化作品(田宮二郎主演)が鮮烈な印象として残っており、また観たいと思っていたら、'04年にニュープリント版が銀座シネパトス(東銀座・三原橋の地下にあるこの映画館は、しばしば昔の貴重な作品を上映する。2013年3月31日閉館)で公開されたため、約20年ぶりに劇場で観ることができました。これも全て今回の唐沢寿明版のヒットのお蔭でしょうか。

映画 「白い巨塔」('66年/モノクロ)

田宮二郎自殺.jpg田宮二郎.jpg 田宮二郎(1935-1978/享年43)は、31歳の時にこの小説と巡り会って主人公・財前五郎に惚れ込み、作者の山崎豊子氏に懇願してその役を得たとのこと。その演技が原作者に認められ、それがテレビでも財前医師を演じることに繋がっていますが、テレビドラマの方も好評を博し、撮影終盤の頃、ドラマでの愛人役の太地喜和子(1943‐1992/享年48)との対談が週刊誌に掲載されていた記憶があります。それがまさか、ヘミングウェイと同じ方法でライフル自殺するとは思わなかった...。クイズ番組「タイム・ショック」の司会とかもやっていたのに(司会者は自殺しないなどという法則はないのだが)。

テレビドラマ版 「白い巨塔」('78~'79年/カラー)
 田宮二郎は30代前半の頃から躁うつ病を発症したらしく、テレビ版の撮影当初は躁状態で自らロケ地を探したりも田宮二郎 .jpgしていたそうです。それが終盤に入ってうつ状態になり、リハーサル中に泣き出すこともあったりしたのを、周囲が励ましながら撮影を進めたそうで、彼が自殺したのはテレビドラマの全収録が終わった日でした(実現が困難な事業に多額の投資をし、借金に追われて「俺はマフィアに命を狙われている」とか、あり得ない妄想を抱くようになっていた)。当時週刊誌で見た大地喜和子とのにこやかな対談は、実際に行われたものなのだろうか。

『続・白い巨塔』('69年/新潮社 )/『白い巨塔(全)』('94年/新潮社改版版)/映画「白い巨塔」('66年/大映)
白い巨塔 ラスト.jpg続白い巨塔.jpg白い巨塔1994.jpg
 もともとの『白い巨塔』('65年/新潮社)は、'63年から'65年にかけて「サンデー毎日」に連載されたもので、熾烈な教授選挙戦を征して教授になった財前五郎が、権力者の後ろ盾のもとに、彼の医療ミスを告発する里見医師らを駆逐するところで終わっています。映画('66年)も教授選をクライマックスに、主人公の財前が第一外科教授に昇進するまでを描いていて、原作・映画ともに、医学界の権威主義に対する強烈な風刺や批判となっていますが、権力志向の強い男のピカレスク・ロマンとしてもみることができます。しかしながら、こうした「悪が勝つ」終わり方に世間から批判があり、そのため『続・白い巨塔』('69年)が書かかれたということです('94年新装版では、正・続が2段組全1冊に収められている)。

白い巨塔 新潮文庫.jpg 文庫の方は、当初は正(上下2巻)・続に分かれていましたが、'93年の改定で「続」も含め『白い巨塔』として全3巻になり、更に'02年の改定で全5巻になっています(「続」という概念がある時期から消されているともとれる)。最近のテレビドラマもそれに準拠し、財前が亡くなるところまで撮り切っていますが、文庫で読むときは、もともとは今ある全5巻のうち、第3巻までで終わる話だったことを意識してみるのも良いのではないでしょうか。

 因みに、田宮二郎の主演のものも、テレビ版の方は唐沢寿明版と同じく、主人公が癌で亡くなるところまで撮っていますが、田宮二郎自身が台本に挿入させた遺書を自分で書き、末期がんのがん患者に成り切ったとのこと、ストレッチャーに乗る遺体役での演技に、本人は満足していたそうです(その場面が放送される前に自殺したわけだが)。

 この小説は、続編も含め、単純な勧善懲悪物語にしていないところがこの著者の凄いところです。

kyotou1.jpg 財前はむしろ、周囲に翻弄されるあやつり人形のような存在で(苦学生上がりで医師になったのに、才能を上司に認められないというのは辛いだろうなあ)、彼をとりまく人々の中に、医学界の権力構造の図式を鮮やかに浮かびあがらせている(読んでると、権力を持たなければ何も出来ないではないかという白い巨塔 .jpg気にさえさせられる)一方、個々には、権力に憧れる気持ちと真実を追究し正義を全うしようという気持ちが入り混じっているような"普通の人"も多く出てきて、この辺りがこの小説の充実したリアリティに繋がっていると思います。

山崎豊子.png 山崎豊子(1924-2013

白い巨塔 東野.jpg「白い巨塔」●制作年:1966年●製作:永田雅一(大映)●監督:山本薩夫●脚本:橋本忍●音楽:池野成●原作:山崎甦れ!東急名画座3.jpg甦れ!東急名画座1.jpg豊子●時間:150分●出演:田宮二郎/東野英治郎/小沢栄太郎/小川真由美/岸輝子/加藤嘉/田村高廣/船越英ニ/滝沢修/藤村志保/下条正巳/石山健二郎/加藤武/里見明凡太朗/鈴木瑞穂/清水将夫/下條正巳/須賀不二男/早川雄三/高原駿雄●劇場公開:1966/10●配給:大映●最初に観た場所:渋谷・東急名画座(山本薩夫監督追悼特集) (83-12-05)●2回目:銀座シネパトス (04-05-02) (評価★★★★) 東急名画座 (東急文化会館6F、1986年〜渋谷東急2) 2003(平成15)年6月30日閉館

銀座シネパトス.jpg銀座東映.jpg銀座シネパトス.jpg銀座シネパトス 1952(昭和27)年、ニュース映画の専門館「テアトルニュース」開館、1954(昭和29)年「銀座東映」開館、1967(昭和42)年10月3日「テアトルニュース」跡地に「銀座地球座」開館、1968(昭和43)年9銀座シネパトスs.jpg月1日「銀座東映」跡地に「銀座名画座」開館、1988(昭和63)年7月1日「銀座地球座」→「銀座シネパトス1」、「銀座名画座」→「銀座シネパトス2」「銀座シネパトス3」に改装。2013(平成25)年3月31日閉館
     
              

テレビドラマ 白い巨塔 田宮二郎  dvd.jpg白い巨塔 ドラマ 1.jpg「白い巨塔」(テレビ・田宮二郎版)●演出:小林俊一●制作:小林俊一●脚本: 鈴木尚之●音楽:渡辺岳夫●原作:山崎豊子「白い巨塔」「続・白い巨塔」●出演:田宮二郎/生田悦子/太地喜和子/TV版「白い巨塔」中村伸郎.jpg島田陽子/上村香子/高橋長英/中村伸郎/小沢栄太郎/河原崎長一郎/山本學/金子信雄/清水章吾/加藤嘉/渡辺文雄/戸浦六宏/大滝秀治/関川慎二/東恵美子/中村玉緒●放映:1978/06~1979/01(全31回)●放送局:フジテレビ
    
白い巨塔 ドラマ 2003.jpg「白い巨塔」ドラマ  .jpg「白い巨塔」(テレビ・唐沢寿明版)●演出:西谷弘/河野圭太/村上正典/岩田和行●制作:大多亮●脚本:井上由美子●音楽:加古隆●原作:山崎豊子「白い巨塔」「続・白い巨塔」●出演:唐沢寿明/江口洋介/西田敏行/佐々木蔵之介/上川隆也/伊藤英明/及川光博/石坂浩二/伊武雅刀/黒木瞳/矢田亜希子/水野真紀/高畑淳子/沢村一樹/片岡孝太郎/若村麻由美●放映:2003/10~2004/03(全21回)●放送局:フジテレビ


 【1965年単行本・1969年続編・1973年改訂・1994年新装版[新潮社]/1978年文庫化(上・下・続)・1993年改訂(全3巻)・2002年再改定(全5巻)[新潮文庫]】

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