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未刊エッセイ2シリーズだが、期待したほどでもなかった。

会社の渡世.jpg 『会社の渡世』 (2005/07 河出書房新社)

山口瞳2.jpg 山口瞳(1926‐1995)の没後10周年企画として、単行本未収録エッセイを集めたもので、「山口瞳氏の生活と意見」と「山口瞳氏の一日社員」から成っています。

 「山口瞳氏の生活と意見」は'65(昭和40)年から翌年にかけて『漫画読本』に断続連載されたもので、'63(昭和38)年から連載がスタートした「男性自身」と雰囲気が似ていますが、漫画よりも野球に関するコメントが多いのが興味深かったです。著者はもともと野球少年でしたが、生涯スポーツマインドを持ち続けた人だったなあと。

 「山口瞳氏の一日社員」は、'64(昭和39)年に『オール讀物』に連載された氏の企業訪問記で、高度成長期の企業人や経営者のここまで来たことへの感慨と現在の自信、これからの夢と希望が感じられます。

 ただ、旅行記風に面白くしようとしていたりはしますが、本質部分ではPR記事のライターがよく書く文章に似ている感じがして(著者の出自のせいかも。「習い癖となる」...)、企業のことはよくわかっていいのだけれども、期待したほど面白いとは思いませんでした。

 村上春樹に『日出る国の工場』('87年/平凡社)という"工場"訪問記がありますが、この手のものはそういった"素"の人が書いたものの方が、雑誌のパブリシティなどを見慣れている読者には意外性があって面白いものになるのかも。
 
 全体として、単行本で購入するほどのものでもなかったかなと(文庫化されるかどうか知らないけれど)。

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「●「菊池寛賞」受賞者作」の インデックッスへ(山口 瞳)

作者の「母を恋うる記」であり、封印された一族の秘密を探る物語。

山口 瞳 『血族』.jpg血族.jpg  P+D BOOKS 血族.jpg 山口瞳.jpg 山口瞳 (1926‐1995/享年68)
血族』〔'79年〕『血族 (文春文庫 や 3-4)』〔'82年〕血族 (P+D BOOKS)』['16年]

山口 瞳 『血族』nhkおび.jpg 1979(昭和54)年・第27回「菊池寛賞」受賞作(「菊池寛賞」は作品ではなく個人や団体に対して授与されるものだが、この作品が受賞の契機となっており、実質的に本作が"受賞作"であると見ていいのではないか)

 山口瞳(1926‐1995)のこの小説は、野坂昭如が評したように作者の「母を恋うる記」であると言えます。その母は山口瞳に自らの出自を何ひとつ語らず、彼が33歳のときに亡くなってしまう...。母は一体どこで生まれ、どんな環境でどう育ったのか。

 自らの生年月日に対する疑念から始まるこの物語は、ミステリーのように読み手を惹きつけながら進行していきます。ただしその過程において、母親の気性や立ち振る舞いなどから多くのヒントを仄めかしています。これは、山口瞳自身がずっと感じていたある予感をも表していると言えるのではないでしょうか。
 
 前半部分で、複雑な血族関係にある様々な親類縁者が、母に関する思い出とともに重層的に描かれていて、こうしたクドイともとれる説明的な面が、家計図モノが苦手な自分にはちょうど読みやすいぐらいでしたです。

 それにしても、どうしても素性のよく分からない"縁者"たちがいる...、それらを含め、意図的に封印されたと思われる一族の秘密を解き明かす旅が、後半の主要な部分です。そして一族の深い哀しみの歴史と、「血縁以上に濃い血の塊」に行きつく...。

 山口瞳が『江分利満氏の優雅な生活』で直木賞を受賞したのは30代半ば。この『血族』を書いたのは53歳。それまでにも間接的に母親について触れたものはありましたが、やはり作家としてどうしても、56歳で亡くなった自分の母のことを書き記しておきたかったのでしょう。

 【1982年文庫化[文春文庫]/2016年[小学館・P+D BOOKS]】

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時代のギャップも感じる反面、賞与や福利厚生に関しては先進的な考えが見られる。

新入社員諸君8.jpg新入社員諸君 文春.jpg 新入社員諸君 角川.jpg 新入社員諸君.jpg
ポケット文春 ['66年]/角川文庫 ['73年]
(表紙イラスト:柳原良平)/ソフトカバー新装版

新入社員諸君 文春.jpg

 本書を久しぶりに再読してみると、冒頭の「新入社員に関する12章」には「社会を甘くみるな」「学者になるな」「無意味に見える仕事も厭がるな」「出入りの商人に威張るな」「タダ酒を飲むな」「仕事の手順は自分で考えろ」「重役は馬鹿ではない」...etc.結構いいことが書いてありました。でも今になって思うに、こうしたことは、実際にしばらく仕事をしてみないと、実感としてはなかなかわからないかもなあとも。

新入社員諸君N.jpg 今回読んだのは、角川文庫版('73年)の復刻新装版。実際に書かれたのは、昭和39('64)年の東京オリンピックの後ぐらいで、'66年に単行本(ポケット版)刊行されています。意外と古かった...。'73(昭和53) 年から'95(平成7) 年まで、毎年1月15日(成人の日)と4月1日に掲載されたサントリーの新聞広告に書いていた新成人・新入社員向けエッセイと、印象がダブっている部分もあったかも知れません。自分が在籍した広告代理店では、入社式の日にこの広告を読んだか新入社員に訊き、読んでいないと雷を落とす役員がいました(ある種、教育的効果を狙ったパフォーマンスなのだが)。山口瞳が亡くなったのは'95年8月で、今は同じく作家の伊集院静氏が書いています。

 まだ、終身雇用が当然の時代で、長期雇用を前提にしているから、人間関係の大事さを力説することになるのではとも感じました(今も大事ですが)。一方で、BG(今のOL)に対しては厳しくなるのです。これは、結婚退社するから長期戦力にならないという、著者の不信感の表れともとれます。

 社員が上司などに対する不平不満を言いながらも会社に守られていた時代のもので、今は会社が自分たちの雇用を守ってくれるのか、社員の方が会社そのものに対して不安を抱く時代なので、その辺りに多少(テーマによっては「かなり」)ギャップがあるのではと思います。それでも、不況という言葉が何度も出てきて、「会社は潰れぬと考えるな」とかあるのは、東京オリンピック後にあった短期間の不況と、執筆時期が重なるからではないかと思いますが、新卒入社した河出書房が倒産して寿屋(現・サントリー)へ転職したという、著者自身の経験からもくるものかも。

 忘年会・新年会、社員旅行、社員割引きを会社の三大愚挙としていたり、賞与が実質生活給になっているのはおかしいとするなど、福利厚生や賃金・賞与制度については、かなり先進的な考えが展開されていたのが新たな発見でした。

 【1966年単行本[文藝春秋新社]/1973年文庫化[角川文庫]/1996年ソフトカバー新装版[角川書店]】

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