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ただただスッキリしないまま終わったという印象。

ソロモンの偽証3.JPG ソロモンの偽証 法廷.jpgソロモンの偽証 第III部 法廷』(2012/10 新潮社)

 8月15日。遂に開廷日となり、5日間にわたる裁判が始まった。柏木卓也の家族、警察、不明だった告発状の差出人をはじめとする様々な証人が登場し、事件の謎の解明は二転三転する。同時に、生前の柏木卓也像がどんどん浮き彫りになる。しかし、最後の、あまりにも意外すぎる証人の登場に、法廷は震撼した。この裁判は仕組まれていたのか―。証人の口から明かされる前年のクリスマスイブの知られざる状況とは―(新潮社サイトより)

 丁寧に書かれて分、第Ⅲ部もすらすらとは読めましたが、個人的には、ラストで"おーっ"と唸らされるか、意外とがっくりさせられるか、という期待と懸念の入り交じった気持ちで読み進む中、最後は少なからず後者の方が的中してしまったという印象でした。

 結局、この小説で一番"キャラ立ち"していたのは、本人自身は事件の真相を何も知らない三宅樹里だったかも。『名もなき毒』('06年/幻冬舎)に出てきた、他人を傷つけずにはおれない女性・原田いずみが、事件の本筋には関係ないのに一番目立っていたのを思い出しました。

 その三宅樹里の話を最後まで引っ張ったのは、彼女の偽証が、タイトルの「ソロモンの偽証」を指しているからなのでしょうか。それにしてはソロモンという賢者のイメージからは遠く、どうもスッキリしませんでした。そもそも、なぜ藤野涼子が、ウソだと分かっていて三宅樹里の話を正当化しようとしているのか、或いは、その証言に拠って立とうとしているのかが、自分にはよく分かりませんでした。

 タイトルに絡めたもう一つの読み方としては、大出俊次の弁護人となった他校生・神原和彦が証人の立場で語った話が(結局のところその内容がこの事件の謎解きとなっているわけだが)、それ自体 "偽証"である可能性も考えられるということでしょうか。それにしても、そもそも、最終的にその話をするならば、わざわざ大出俊次の「弁護人」を志願しなくとも、最初から「証人」になればいいのであって、それで大出俊次への容疑は晴れるわけだしなあ。

 深読みすれば、神原和彦が実は犯人で、「殺人」を「未必の故意」にすり替えるために、自らが最初から「証言」することを回避して、検察側に追及させることによって、作為的「真実」に辿り着かせる(ミスリードさせる)方法をとったのでしょうか。但し、必ずしもそうしたことを示唆するような作りにもなっていないし、やはりスッキリしません(むしろ、神原和彦の証言を皆が"素直に"「真実」と受け取った印象)。

 結局、芥川龍之介の「藪の中」(映画「羅生門」の原作)みたいな話だったということになるのかなあ。芥川の原作は、侍、妻、多襄丸の3人の内、誰が真実を語っているのかはまさに"藪の中"のまま終わるのに対し、黒澤明版は、侍(森雅之)、妻(京マチ子)、多襄丸(三船敏郎)の3人の証言の後、原作では冒頭で状況証拠しか語っていない杣売((そまふ)=木樵)(志村喬)を敢えてラストで再登場させて、真相はそうだったのかと思わせるようなことを喋らせているのだけれど(そのことにより古典を《現代的に翻案》し、且つ《原作より面白い作品》に仕上げているのが黒澤明のスゴイ点なのだが)、この『ソロモンの偽証』は、ただただスッキリしないまま終わったという印象でした。

【2014年文庫化[新潮文庫(上・下)]】

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これも比較的一気に読めたが、プロット展開が緩慢だった印象も(半分のボリュームで充分?)。

ソロモンの偽証2.JPGソロモンの偽証02.jpgソロモンの偽証 第II部 決意』(2012/09 新潮社)

 もう大人たちに任せておけない――。保身に身を窶す教師たちに見切りをつけ、一人の女子生徒が立ち上がった。校舎を覆う悪意の雲を拭い去り、隠された真実を暴くため、学校内裁判を開廷しよう! 教師による圧力に屈せず走り出す数名の有志たち。そして他校から名乗りを上げた弁護人の降臨。その手捌きに一同は戦慄した―。(新潮社サイトより)

 藤野涼子を中心に生徒達が企図した裁判―その開廷に至る準備が、この第Ⅱ部の中心と言えます。弁護人や検察側、陪審員団が形成されていく過程は「七人の侍」の人材集めみたいで面白いのですが、中には、こんな中学生、いるかなという感じの生徒もいました。

 そして何よりも、現実において大人たちの中で、こうした生徒たちの発想したものに寛大な姿勢を示したりバックアップしたりする人間がどれぐらいいるだろうかと、その実現可能性を考えた時、あっ、この話は半分はジュブナイルの要素が入ったファンタジー・ミステリなのだなあと気づきました。そう割切って読めば、後はそこそこに楽しめました。

 Amazon.comのレビューなどを見ると、読者によっては、最初、ジュブナイル系のライトノベル乃至ファンタジー・ミステリとして読み始めて、読み進むにつれ内容があまりに辛すぎて違和感を覚えた、といったような感想あり(作者のジュブナイル系の作品が"比較基準"になっている)、自分とは全く逆の読み方をした人も結構いたのだなあと。最初からジュブナイル小説として割り切って読んでいる読者は、知識や技能面でのプロ級の「スーパー中学生」が出てこようと、そこでは特に引っ掛かることなく、むしろ、思いの外の話の重さに戸惑うのかも。

 第1部に続いて、これも比較的一気に読めた方でしょうか(偶々個人的には、列車で遠距離2往復する用件があったことが大きいが)。但し、開廷へ向けた準備の間に次なる事件が起きたりはするものの、そのことを考慮しても、やや冗長な印象があったのは否めません。純粋にミステリとして見た場合、この分厚い1冊の間にどれぐらいプロット面での展開があったと言えるのか? 第Ⅲ部への"繋ぎ"の巻だった印象は拭えず、個人的評価は、第Ⅰ部の★★★★に対して星半分減の★★★☆としました。

 第Ⅰ部のレビューのところでも書きましたが、作者5年ぶりの現代ミステリ―と言っても10年間も続いた連載だったわけで、しかもその間に時代ミステリやジュブナイル・ミステリも数多く発表しているわけであって、近年のこの作者は、出版社の要請に応えて原稿を量産し、連載を長持ちさせることが目的化している兆候も見られるように思いました(内容的には半分のボリュームで充分収まったのでは)。

 この時点で、第Ⅲ部で果たしてがっくりさせられるか、それとも驚くべき結末に唸らされるのか、期待したいt楽しみな気持ちと、期待を裏切られるのではないかという不安な気持ちの入り交じった複雑な心境でした。

【2014年文庫化[新潮文庫(上・下)]】

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飽きることなく読めた背景には、偶然に合致してしまった"時事性"というのもあったように思う。

ソロモンの偽証 全3部.JPGソロモンの偽証1.JPGソロモンの偽証01.jpg 『ソロモンの偽証 第I部 事件』(2012/08 新潮社)

 2012 (平成24) 年度「週刊文春ミステリー ベスト10」(国内部門)第2位。2013 (平成25) 年「このミステリーがすごい」(国内編)第2位。2013年・第10回「本屋大賞」第7位。

 クリスマスの朝、雪の校庭に急降下した十四歳。その死は校舎に眠っていた悪意を揺り醒ました。目撃者を名乗る匿名の告発状が、やがて主役に躍り出る。新たな殺人計画、マスコミの過剰報道、そして犠牲者が一人、また一人。気づけば中学校は死を賭けたゲームの盤上にあった。死体は何を仕掛けたのか。真意を知っているのは誰!?(新潮社サイトより)

 月刊文芸誌「小説新潮」の'02年10月号から'11年11月号まで連載された長編小説で、単行本で全3巻。第1巻だけで741ページという大作であり、読む前に途中で飽きてしまうのではないかと危惧しましたが、「中学校でのいじめ」という今日的かつ重い題材であったこともあり、一気に読めました。

 刑事の娘で学級委員の藤野涼子を軸に、14歳の中学生・柏木卓也の死に動揺する同級生、それぞれが微妙に異なる反応を示すいじめグループのメンバー、告発状に翻弄される大人たちなどが丁寧に書き分けられています(推理小説の扉にある登場人物紹介が、テレビドラマの解説サイトによくあるような「相関図」になっているのが分かり易くて有難い)。

 いじめに遭っていた生徒の遺体が早朝に見つかり、学校側が次の日の夕方にその学年の保護者だけを対象とした説明集会を実施するというのは、一昔前ならともかく、今だったら緩慢で手ぬるい対応と言われるのではないかなあ。事件発覚が朝ならば、「当日」の夕方、「全学年」の保護者を対象とした説明集会を開く―というのが、今日的"スタンダード"ではないでしょうか(まあ、今だったら保護者は皆、携帯乃至スマホを持っていて連絡はあっという間だけれど、当時はそんなものは一般家庭には無かったということもあるが)。

 "主役に躍り出た"告発状の話は、結局は根底が事件の本筋とは別の話だったという印象で、こうして読者をミスリードさせる手法はミステリでは珍しくはないですが、やや回り道にページを割き過ぎた感じでしょうか。この話は第Ⅱ部にも引き継がれていきますが...。

 『楽園』('07年/文藝春秋)以来5年ぶりの現代ミステリ―と言っても、月刊誌で10年間も連載されていたということで、そちらの方をコツコツ読んでいた人というのは、ホントに"宮部ワールド"に長く浸かっていたいファンなのかも。個人的には、一気に読んだ方が面白い話のように思えました。

大津中学生自殺事件.jpg 学校でのいじめは今も大きな社会問題であり、尚且つ、'12年7月になって、前年10月に滋賀県大津市で発生した中学生自殺事件が、突然マスメディアで連日のように取り上げられる事態となり、その翌月に本書が刊行されたわけです。但し、作者がこの物語を書き始めたのはその10年前―というのは、作者の社会に対する炯眼と言っていいのでしょうか。

「大津市中2いじめ自殺事件」報道

宮部みゆき「ソロモンの偽証」1-.jpg 少なくともこの第Ⅰ部は飽きることなく読めましたが、その背景には(10年後に不幸にして偶然に合致してしまった)"時事性"というのもあったように思います。

 作者へのインタビューによれば、'90年に神戸の高校で、遅刻しそうになり走って登校してきた女子生徒を、登校指導していた先生が門扉を閉めたことで挟んでしまい、その生徒が亡くなるという事件があり、その後、この事件をどう受け止めるかというテーマで、校内で模擬裁判をやった学校があったことに触発されたのがこの作品の執筆の契機であるとのことです。実際にあったのだなあ、学校裁判!(当然のことながら、実際にその事件があった学校で行われたわけではないし、誰かを裁くといった性質のものでもなかったとは思うが)。

【2014年文庫化[新潮文庫(上・下)]】

ソロモンの偽証 映画2.jpgソロモンの偽証 映画.jpg「ソロモンの偽証 前篇・事件」2015年映画化

監督:成島出
原作:宮部みゆき(ソロモンの偽証)

主演:藤野涼子
他キャスト:板垣瑞生、石井杏奈、黒木華

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平面的なRPGゲームの世界から抜け出ておらず、テンポもあまり良くない。

英雄の書 ノベルズ.jpg  英雄の書 文庫 上.jpg 英雄の書 文庫 下.jpg 英雄の書(上・下)1.jpg
英雄の書 (カッパ・ノベルス)』/『英雄の書(上) (新潮文庫)』『英雄の書(下) (新潮文庫)』/単行本(上・下)

英雄の書.JPG 小学五年生の森崎友理子は、中学二年生の兄・大樹が同級生を殺傷して失踪するという事件に遭い、兄の身を心配する中、彼の部屋で、大叔父の別荘から兄が持ち出した赤い本が「ヒロキは『エルムの書』に触れたため、"英雄"に憑かれてしまった」と囁くのを聞く。兄を救い出すべく、"英雄"が封印されていた"無名の地"に足を踏み入れた彼女は、そこで、兄が"英雄"の負の側面「黄衣の王」に魅入られていたことを知る。無名の地、そして別の「領域(リージョン)」である「ヘイトランド」を行き来する彼女は、「印を戴く者(オルキャスト)」となり「ユーリ」を名乗って、やがて「黄衣の王」と対決する―。

 '07年から'08年にかけて1年3ヵ月にわたり毎日新聞に連載されたファンタジー小説で、『ブレイブ・ストーリー(上・下)』('03年/角川書店)の続編とも言われていますが、ファンタジーの世界に入っていく際に"家族"が絡んでいるのは似ているけれども(『ブレイブ・ストーリー』の場合は両親)、基本的にはそれとは別の独立したストーリーです。

 アニメ映画('06年公開)や漫画、RPGゲームにもなった『ブレイブ・ストーリー』の"陽"をとすれば、こちらは"陰"の世界であるとのことで、その分、大人の感性にも充分耐えるものかとの期待もありましたが、読んでみて、個人的には平面的なRPGゲームの世界から抜け出ていないように思いました。

 前半を引っ張り過ぎているため、テンポがあまり良くない印象で、これは、作者の最近の、ファンタジーに限らないその他の"分厚い"小説にも見られる傾向ではないかと。

 前半を引っ張り過ぎた原因は、この作品を書くにあたって幾つかの"底本"があったようですが、その影響を受け過ぎていることにあるのではないかと思われ、ここがあまり面白くない(単行本を購入し、途中で読むのを中断していたら文庫化されてしまった...)。

 既に「サンデー毎日」で本書の続編「悲嘆の門」の連載が始まっていますが、今度は、自分の子供が無名僧にされてしまった母親がリージョンに子供を取り返しに行く話らしく、「親」「兄弟」の次は「子」ということか。

【2011年ノベルズ化[カッパ・ノベルズ]/2012年文庫化[新潮文庫(上・下)]】

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読ませる。読ませるけれども長い。長いけれども読ませる。読ませるけれども...

おまえさん 単行本 上.bmp おまえさん 単行本下.bmp    おまえさん 文庫 上.jpg おまえさん 文庫下.jpg
おまえさん(上)』『おまえさん(下)』『おまえさん(上) (講談社文庫)』『おまえさん(下) (講談社文庫)

IMG_3612.JPG 『ぼんくら』('00年)、『日暮らし』('04年)に続くシリーズ第3作ですが、7年間もお待たせして読者に申し訳なかったという作者の意向によるとかでの単行本と文庫の同時刊行だそうで、有難いと言えば有難いことであり、こうなると文庫の方を買ってしまいます。

 大きなハズレがなく、安心して読める作者の時代ものですが、最近、『おそろし』('08年)にしろ『あんじゅう』('10年)にしろ、岡っ引きが出てこないなあと思っていたら、しっかりこっちの方で活躍していました。

 人物関係を丁寧に描き込んでいるので、7年間の記憶のブランクがそれによって埋まり、政五郎が回向院の茂七の手下ということは『本所深川ふしぎ草紙』('91年)からの系譜なのだなあと改めて認識したりもしました。

 ただ、このシリーズの「名探偵役」は井筒平四郎ではなく弓之助と、これはもう決まっているみたいで、それはそれでいいとして、下手人の特定までが結構長かったなあという感じ。文庫換算の総ページ数で、『ぼんくら』が667ページ、『日暮らし』が888ページに対し、この作品は1130ページ。

 このシリーズはもともと推理の部分だけでなく、長屋を巡る市井の人々の生活の活気や人情が魅力なのですが、ただ、事件の解明の方が遅々として進まないと思ったら、弓之助が結局一人で論理的謎解きをやってしまうため、そこまで長々と描かれたプロセスは何だったのだろうかという気も。

 弓之助の謎解きの後も、下手人が逃亡しているため話は続くわけですが、また合間に事件に関係ないような話も入る―それでも、終盤の詰めの部分の展開は面白く、弓之助の兄で淳三郎という非常に面白いキャラの遊び人が活躍したり、片恋に苦悩する信之輔の葛藤があったりと、エンタメとしても人間ドラマとしても充実していたように思います。

 読ませます。読ませるけれども長い。弓之助の謎解きまでを3分の2ぐらいに減らしてもよかったのではないかなあ(そしたら、謎解きで上巻が終わって、下手人捜しが下巻となり、上下巻の区切りも良くなった?)。この長さでも読ませることには一応変わりなく、そこは手馴れの成せる技ではありますが。

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"手練れ"の域。多様性は拡がったが、1つの話がやや長いか。「逃げ水」が良かった。

宮部 みゆき 『あんじゅう―三島屋変調百物語事続』.jpg あんじゅう.jpg  『あんじゅう―三島屋変調百物語事続』(2010/07 中央公論新社)

 村の山の旱(ひでり)神に憑かれた少年が、自らの意に反して周囲の水を干上がらせていくため人々は困惑するが、少年はなぜか旱神と仲良くなる―(第1話「逃げ水」)。

 夭逝した双子の姉を模した人形を家族は大事にしたが、残された妹に慶事がある度に人形に無数の針が立ち、妹には針の跡のように発疹が出る―(第2話「藪から千本」)。

 幽霊屋敷と呼ばれるに空き家に住まうことになった夫婦と、屋敷の暗闇に潜む人ではない獣は、やがて互いに心を通わせ合うようになる―(第3話「暗獣」)。

 坊主のふりをして托鉢行脚をしていた破壊僧が訪れた村には閉鎖的な因習があり、ある村人を魔人に変えてしまう―(第4話「吼える仏」)。

 袋物屋の三島屋に事情があって身を寄せている娘おちかが、江戸中から集めた怖い話を百話になるまで聞いていくという『おそろし-島屋変調百物語事始』('08年)の続編で、前回同様に今回も4話ありますが、もう作者は、この形式においては"手練れ"の域にあると言っていいのでは。

 それぞれに趣向が異なり楽しませてくれますが、前作が単行本429ページだったのに対し、今回は563ページということで、1話当たり3割ぐらい長くなっている感じでしょうか。その分、話が本題に入る前に三島屋の周辺話もあったりして、客が話をしにやってくるまでの事情もよく書き込まれてはいますが、やや冗長感も...。

 幽霊や妖怪よりも怖いのは〈生身の人間>であるというのが1つのコンセプトだと思いますが、前作よりもバリエーションは拡がっている感じがしました。

 個人的には、第1話の「逃げ水」が、「水が次々消える」という突拍子もない出来事から始まるため引き込まれ、一番面白くもあったのですが、これなどは「日本むかし話」の世界に近いかも。

 第2話の「藪から千本」などは、むしろ基本コンセプトに近いものだと思いますが、こうなると『おそろし』の中にあった話にも近いかなあ(夭逝した子供の人形を作るという話は、ラテンアメリカの民話にもあったりはするが)。

 見開きごとにある南伸坊氏のイラストが、全体にほんわかした雰囲気を醸し、また状況説明の役割も担っていますが、第3話「暗獣」はそれが最も効いている感じで(結局これがタイトルと表紙イラストに)、作者的には新規性を感じましたが、一方で、やや<宮崎駿>的な感じもしました。
 それが、第4話「吼える仏」で、また人間の性とか業といったテーマに回帰しているといった感じでしょうか。

 自分としては「逃げ水」が一番好みで、「藪から千本」はドロっとした話ではあるものの、疱面の女性が淡々としているのが救い、あとの作品もまあまあで、星4つの評価は「逃げ水」に合わせたもの。

【2012年ノベルズ版[新人物ノベルス]/2013年文庫化[角川文庫]】

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作者初の時代ものにして、既に完成されていた。「片葉の芦」は傑作。

本所深川ふしぎ草紙 カバー.gif 本所深川ふしぎ草紙.jpg本所深川ふしぎ草紙本所深川ふしぎ草紙  文庫.jpg本所深川ふしぎ草紙 (新潮文庫)

 1992(平成4)年度・第13回「吉川英治文学新人賞」受賞作。

 近江屋藤兵衛が殺され、下手人は父の藤兵衛と折り合いの悪かった娘のお美津だという噂が流れたが、幼い頃お美津に恩義を受けたのが忘れられず、今も彼女への想いを抱き続ける職人の彦次には、どうしてもお美津が下手人であるとは思えず、独自に真相を探る―。(「片葉の芦」

 7篇から成る連作ですが、これ、作者の「初の時代ミステリ」だったのだなあ。30代そこそこの作品ですが、もうスタイルが完成されているように思えたため、"手練れの域"に達してからの作品だと思い込んでいました。

本所深川七不思議 かたはのあし.jpg JR錦糸町駅前にある人形焼きの「山田家」の包装紙にある「本所七不思議」に材を得たとのことで、タイトル的には「七不思議」をそのままなぞっていて、物語自体は当然のことながら作者の創作ですが、「七不思議」のロマンを壊さないように仕上げているのが巧み。備忘録的に他の6篇の内容を記すと―。

 「送り提灯」...大野屋のお嬢さんの恋愛成就のため願掛けを命じられた12歳の女中・おりんだったが、彼女が夜中に回向院に向かうと、提灯がつかず離れずついて来る。そしてある晩、願掛けの最中にその大野屋に押し込み強盗が―。

 「置いてけ堀」...24歳の子持ちの寡婦・おしずは、錦糸堀で"置いてけ堀"の噂が立っているのを聞き、何者かに殺された魚屋だった亭主が、成仏できずに浅ましい魔物の姿で現れたのではないかと思い、それを確かめようとする―。

 「落ち葉なしの椎」...今年18歳になる小原屋の奉公人・お袖は、回向院の茂七の言葉を契機に、周囲からそこまでしなくてもと言われても、自らに課した日課として、庭の落ち葉を掃く。そして、それを見つめる怪しい男が―。

 「馬鹿囃子」...おとしは、許婚の宗吉のことで話を聞いてもらいに伯父の茂七を訪れたが、若い娘ばかり狙って顔を切る"顔切り"が出没した折で、伯父は忙しい。その伯父の元には、お吉という娘が先客で来ていて、自分は誰と誰を殺したと茂七に話していた―。

 「足洗い屋敷」...7年前に母に死なれた大野屋の娘・おみよは、父・大野屋長兵衛の再婚相手である美しい義母・お静のことが好きだったが、ある晩おみよはお静の悲鳴で飛び起きる。お静には秘められた過去があり、そして今も―。

 「消えずの行灯」...二十歳になったばかりのおゆうは、小平次という男から変わった仕事の誘いを受けるが、それは、足袋屋・市毛屋に、永代橋が落ちた際に行方不明になったその家の娘・お鈴のふりをして奉公して欲しいというものだった―。

 1つ1つの作品の長さが、池波正太郎の「鬼平」シリーズや、平岩弓枝の「御宿かわせみ」シリーズと同じくらいでしょうか。
 それらと異なるのは、物語の"主体"が毎回変わることで、7篇を通して共通しているのは、主人公や話の中心となる人物が何れも10代から20代の少女乃至若い女性であることと、事件の真相を突き止め最後に解決するのが、回向院一帯を仕切っている古参の岡っ引・茂七であることでしょうか。

 実際この回向院の茂七、『初ものがたり』('95年/PHP研究所)では完全に主役になっていますが、作者はその間にも『震える岩』('93年/新人物往来社)で「霊験お初捕物控」と言うべき別の連作を書いています。

 茂七を主人公としたものは、NHKで'01年から'03年にかけて3回に分けてドラマ化されています(主演:高橋英樹)。
 「鬼平」や「かわせみ」みたいに1つのパターンで"恒久的"に続けることはしないのが「宮部流」と言えるのかも。
 茂七を主人公とした原作が足りなかったのか、NHKでは茂七が登場しない作品(『幻色江戸ごよみ』など)までも、脚色して茂七を主人公にしてドラマ化したりしています。

 最近の作者の作品は、岡っ引さえも滅多に登場していないのでは。
 この連作の頃は、近作よりも1話当たりの話が短く、その分密度の濃さを感じます(第1話の「片葉の芦」が特に素晴らしいと思った。テレビで放送したのは3年目(「茂七の事件簿(3)ふしぎ草紙」)の第1話において)。

茂七の事件簿.jpg茂七の事件簿 nhk.jpg「茂七の事件簿(1)ふしぎ草紙」●演出:石橋冠/加藤拓●制作:小林千洋/大山勝美●脚本:金子成人●音楽:坂田晃一●原作:宮部みゆき「本所深川ふしぎ草紙」「初ものがたり」「幻色江戸ごよみ」●出演:高橋英樹/原田芳雄/淡路恵子/仁科貴/河西健司/あめくみちこ/本田博太郎●放映:2001/06~09(全10回)●放送局:NHK ※「茂七の事件簿(2)新ふしぎ草紙」2002/06~09(全10回)/「茂七の事件簿(3)ふしぎ草紙」2003/07~09(全5回)

【1995年文庫化[新潮文庫]】

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色々な形でこれまでの「宮部流」がミックスされている感じ。その分、既知感も。

宮部 みゆき 『おそろし』.jpg おそろし.jpg  おそろし 文庫.bmp 
おそろし 三島屋変調百物語事始』『おそろし 三島屋変調百物語事始 (角川文庫)【2012年文庫化[角川文庫]】

 江戸・神田三島町に店を構える袋物屋の三島屋。17歳のおちかは、その店の主人である叔父夫婦に理由があって預けられ、店で働いていたが、ある日、叔父・伊兵衛から、店の「黒白の間」でそこを訪れる客から「変わり百物語」を聞くよう言いつけられ、人々の不思議で怪しい話を聞いてゆく―。

ぼんくら.jpg 『ぼんくら』('00年/講談社)以来、現代物より時代物の方が面白いような気がする宮部氏ですが、相変わらず読みやすいなあ、この人の時代物。
 それでいて、人間の持つ心の闇や悔いても悔い切れない想い、更にはそこからの解き放ちを、時代風俗や市井の人々の人情を絡めて情感たっぷりに描いていて、依然、魅せる作家、飽きさせない作家の1人であることには違いないと、今回また思いました。

あかんべえ.jpg 個人的には第1話の「曼珠沙華」から結構惹きつけられましたが(これが最も新味があっ天狗風.jpgて完成度も高い)、「凶宅」「邪恋」「魔鏡」と読み進めていくうちに、この作品は、系譜的には『あかんべえ』('02年/PHP研究所)に近いかもと思うようになりました。
 但し、おちかの年齢が17歳というのは、その前の『震える岩』('93年/新人物往来社)と同じだなあと思ったりして、そして、最後の「家鳴り」に至って、同じく「霊験お初シリーズ」の『天狗風』('97年/新人物往来社)を想わせる面がありました。

 この最後の「家鳴り」で、それまでの話をインテグレイトしていて、但し、その持って行き方には、「なるほど」とか「やや荒唐無稽ではないか」などの賛否両論あるかも知れませんが、個人的には、もう「宮部流」ということで納得してしまっている部分もあるせいか、すんなり受け容れられました。

 ただただ話を並べていくだけという方法もあったかと思われますが、それらを束ねることで、重層的効果と言うか、物語に立体感が出たように思います(結果的に5話で一旦完結したかのようになったが、続編はあるのかな。「事始」とあるから、あるのかも)。

 いくつかの物語を1つの大きなストーリーに組み込んでいくというのは、その点においては『ぼんくら』の系譜であり、この1冊に色々な形でこれまでの「宮部流」がミックスされている感じ。
 安定感がある一方で、強いて難を言えば、状況設定こそ風変わりであるものの、「凶宅」以下の話は、何となく既知感のある展開のようにも思えたことでしょうか。

 【2010年ノベルズ版[新人物ノベルズ]/2012年文庫化[角川文庫]】

おそろし~三島屋変調百物語png.jpgNHK BSプレミアム「おそろし〜三島屋変調百物語」(2014年8月30日から9月27日まで全5回放送)。出演:波瑠/佐野史郎/かとうかず子/宮崎美子/麿赤兒

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サイコメトラーという際どいモチーフを上手く作品に織り込んでいるが、冗長さは否めない。

楽園 上.jpg 楽園〈下〉.jpg 『楽園 上』 『楽園 下』 ['07年] 宮部 楽園 文春文庫 上.jpg 宮部 楽園 文春文庫下.jpg 『楽園 上 (文春文庫)』 『楽園 下 (文春文庫)』 ['10年]

 2008(平成20)年・第1回「ミステリが読みたい!」(早川書房主催)第1位作品。

「模倣犯」の事件から9年が経ったフリーライター・前畑滋子のもとに、一人息子を交通事故で失った荻谷敏子という中年女性が現れ、12歳で死んだその息子には特殊能力があったのかもしれない、少年は16年前に殺された少女の遺体が最近になって自宅の床下から発見されたという事件の前に、それを絵に描いていたという―。

 『模倣犯』('01年)の続編という形をとっていますが、『理由』('98年)など、現代社会における家族の在り方をテーマにした作品の流れに近いように思いました。

 仏教で、親が子より先に亡くなることを「順縁」と呼び、子が親に先立って亡くなることを「逆縁」と呼びますが、「逆縁」にめぐり逢った人は、何かしら宗教的なもの、超常的なものに惹かれ、時にそれが生きる支えになりことがあるといいます。

 本作では、「サイコメトラー」という、現代推理モノとしては少し"際どい"とも思えるモチーフを、こうした人間の心理・心情に自然に呼応する形で上手く作品の中に織り込んでいるように思います。

 但し、クライマックスに至るまでがあまりに冗長で、第4コーナーを回ったところぐらいからやっと"息もつかせぬ"展開になり、それまで焦らされた分だけカタルシス効果が大きいとも言えるのですが、そのクライマックス部分を手紙形式にしたことが、果たして効果的であったどうかも疑問が残りました。

 文章自体は相変わらず読み易く、「冗長さ」を「きめ細かさ」ととればそれ自体は決して苦になるものではないけれども、新聞連載小説という枠組みの中で作品の「長さ」が予め既定され、それに合わせてやや引き伸ばし気味に書いているような感じがしたなあ、比較的単純なプロットの割には。

 【2010年文庫化[文春文庫(上・下)]】

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「問題社員」がリアルに描かれていて、グッと引き込まれたが...。
 
名もなき毒.jpg 『名もなき毒』 (2006/08 幻冬舎) 名もなき毒 宮部みゆき.jpg 『名もなき毒 (カッパ・ノベルス)

 2006(平成18) 年度「週刊文春ミステリー ベスト10」(国内部門)第1位。2007(平成19)年・第41回「吉川英治文学賞」受賞作。

 私こと杉村三郎は、義父が総帥である今多コンツェルンの広報室で社内報づくりに携わる編集者だが、トラブルメーカーのアルバイト・原田(げんだ)いずみの身上調査のため私立探偵の北見一郎を訪ね、偶然そこにいた、連続無差別毒殺事件で祖父を殺された女子高生・古屋美知香、さらにその母親・暁子と関わりを持つことになる―。

 『誰か』('03年/ 実業之日本社)の続編で著者3年ぶりの現代ミステリ。社会派ミステリの傑作が多い著者にしては『誰か』というのはこじんまりしていて、2時間ドラマみたいだと感じたのですが、本書を読んで、シックハウス症候群や土壌汚染、毒物ネット販売といった社会問題は出てきますが、そうした「名前のつけられた毒」との対比において、人間の心の中に潜む「名もなき毒」を描こうとしていることがより浮き彫りになっていて、一般に言う「社会派」とはちょっと異なると思いました(むしろ、著者が時代物でよく描いていた女性の怨念のようなものを現代物に持ってきたという感じか)。

 前半、問題を起こすアルバイトの原田いずみと、それに振り回される社員たちの様子がリアルに描かれていて、身近に実際にあるような話であり、グッと引き込まれました(著者がそういうものを参照したかどうかは分からないが、労働裁判や個別労使紛争などでの類似した事例とその記録は山ほどあるはず)。

 個人的には、原田いずみは、他人を傷つけずにはおれない、ある種「人格障害」だという印象ですが、こうした、世の中に復讐することが生き甲斐みたいになっているタイプというのは、松本清張の作品などにもよく出てきたのではないかと思い、やはり、この人、清張作品の影響が強い?(但し、原田いずみは、精神面で最初から相当に壊れているが)

 現代物は、素材が身近であれば、かなりハマる確率は高いように思え、個人的には"まあまあ"程度にハマりました。但し、(489ページは、著者の作品にしては長くないのかも知れないが)自分としては中盤はもっと圧縮できるような気もしました。

 所謂"キャラが立っている"とでも言うか、最もよく描かれているキャラクターの(この描き方だけで、この作品は充分評価に値するし、テーマの一環を担っている)原田いずみが、ミステリとしてのメインプロットには乗っかってきておらず、騒ぎを起こしているだけの存在みたいで、それとは別に、"事件"を描き、更には家庭内の問題をも描き...といった感じで、これが冗長感に繋がっているのかも。

 【2009年ノベルズ版[カッパ・ノベルズ]/2011年文庫化[文春文庫]】

《読書MEMO》
名もなき毒 tv.jpg・TBS系列「月曜ミステリーシアター」
 2013年TVドラマ化「名もなき毒」
  小泉孝太郎主演
  第1話~第5話「誰か―」共演:深田恭子
  第6話~第11「『名もなき毒」共演:真矢みき

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『ぼんくら2』。江戸市井の人情や風俗が楽しめるが、弓之助が少し活躍し過ぎでは。

日暮らし 上.jpg 日暮らし 下.jpg日暮らし 上』 ぼんくら.jpg『ぼんくら』('00年/講談社)(表紙絵:村上 豊)

『日暮らし (上・下)』0.JPG 同心・井筒平四郎が事件の解決にあたるぼんくら』('00年/講談社)の続編で、最初の方は前作同様、小事件を人情譚に絡めて描く連作短編のスタイルですが、それが途中から展開していくメインの事件の背景にもなっています。

 『ぼんくら』のストーリーをも受け継いでいるし、『ぼんくら』では長屋のシステムなどの説明もキッチリされていたので、やはり『ぼんくら』から読んだ方が楽しめるには違いないと思います。

 最初は、家庭内での夫婦の心の行き違いやストーカーを懲らしめる話など、事件としては小粒ながらもホロリとする話が続き、このまま人情譚でいくのかと思うと、メインとなる事件では犯人探しに焦点が集まるようになっていて、人の心に棲む鬼のような情念をしみじみと描くうまさは、やはり著者ならではのものです。

 おどろおどろしい事件ですが、その解決を通して人の心の温かさが伝わってくるのは『ぼんくら』や『あかんべえ』('02年/PHP研究所)と同様で、随所に描かれる江戸市井の人々の暮らしぶりや食べ物にまつわる話などの江戸風俗も楽しめました。

 楽しいし読みやすいけれども、どちらかと言えば上巻の方が面白い。本当は下巻にいくにつれて盛り上がるべきなのだろうけれど、オチもやや唐突な気がしましたし、天才美少年・弓之助少年が少し活躍し過ぎて、ここまでくるとジュブナイル小説のノリではないかと...。「名探偵コナン」とダブりました。前作と併せてラジオドラマ化もされましたが、弓之助の声は高山みなみさん(コナンの声優)が担当していたし...。

 【2008年文庫化[講談社文庫(上・中・下)]/2011年文庫新装版[講談社文庫(上・下)]】

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サクサク読めるが、登場人物、プロットとも、平凡な"2時間ドラマ"級という感じも。

誰か.jpg 『誰か ----Somebody』(2003/11 実業之日本社)誰か2.jpg カッパ・ノベルズ〔'05年〕

誰か 3.jpg ある企業の広報室に勤める私こと杉村三郎は、義父で自分が勤める企業グループの会長である今多から、自分の専属運転手だった梶田の2人の娘が、父親についての本を書きたいという話の相談にのってやってくれと頼まれる―。

 梶田はこの夏のある日、自宅から遠く離れた町のマンションの前で、何者かに自転車に跳ねられ亡くなったのだが、梶田の娘たちは、亡き父親についての本を書くことが、捕まらない轢き逃げ犯への呼びかけになると考えているようだった。しかし、父親の過去を探ることに対する2人の娘姉妹の考えにはギャップが―。

 ノベルズ版の帯に「宮部みゆきが丹念に描き上げた。現代ミステリーの佳作」とありますが、う〜ん、どうなんだろうか、サクサク読めてそれほど気にはならないけれど、やはり余分な描写が多すぎて、皮ばかり厚くて餡子の少ない饅頭みたいでした。

 何よりも、作者の現代ミステリーに特徴的な、現代社会の闇を抉るような社会性というものが希薄で、登場人物、プロットとも、平凡な"2時間ドラマ"級という感じ。

 一応、手馴れた筆の運びで、突っ掛かることなく最後まで読めてしまいますが、この作家は、同じ時期に書いている作品では、時代モノの方が面白くなってきているのではないかという気がしました。

 【2005年ノベルズ版[カッパ・ノベルズ]/2007年文庫化[文春文庫]】

《読書MEMO》
名もなき毒 tv.jpg・TBS系列「月曜ミステリーシアター」2013年TVドラマ化「名もなき毒」
 小泉孝太郎主演
 第1話~第5話「誰か―」共演:深田恭子
 第6話~第11「『名もなき毒」共演:真矢みき

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少女と幽霊たちの交流。「ファンタジー系」時代ミステリーの傑作。

宮部 みゆき 『あかんべえ』.jpg あかんべえ.jpg     あかんべえ 上.jpg あかんべえ下.jpg
あかんべえ』 単行本〔'02年〕(単行本カバー画:熊田正男)/『あかんべえ〈上〉 (新潮文庫)』『あかんべえ〈下〉 (新潮文庫)』〔'06年〕

 本所の賄い屋の庖丁人・太一郎と妻・多恵は、海辺大工町に料理屋を開くことになり、その準備に追われるある日、一人娘おりんが、高熱を出して生死の境を彷徨うことになった。おりんはなんとか三途の川から引き返してきたが、両親が開いた料理屋「ふね屋」のその宴席に、おどろ髪の幽霊が現れて刀を振り回す。しかしその姿はおりんにしか見えず、他の客には刀が宙を舞っていうようにしか見えない。おりんは、以後家の中で子どもや大人のお化けを目にし、彼らと話もできるようになる―。

 この作品は著者の「霊験お初シリーズ」から進化したものかなとも思いましたが、同じ超能力時代モノでも「お初シリーズ」が「ジュブナイル系」とすれば、主人公の年齢がお初17歳からおりん12歳に低年齢化したこちらは、言わば「ファンタジー系」でしょうか。

 ラストにミステリーとしての結末は用意されていますが、物語の白眉はおりんと5人の幽霊の秘密の交流です。子供と「異界」、子供と「秘密」といったテーマはファンタジーでよく扱われるテーマですが、この作品では子供の目から見た大人の世界というものが、"お化けさん"たちを通してよあかんべえ (PHP文芸文庫).jpgく描かれていて、大人が読んで深く味わえるものになっていると思います。

 ある意味、"やさしさ"や"思いやり"などといったテーマは、ファンタジーっぽい設定の方が描きやすい時代なのかも。時代ミステリーでそれをやってみせる作者の力量はすばらしいと思いました。

 また、賄い屋(弁当屋)の日常を通して、江戸の下町の情緒や料理の蘊蓄が楽しめるのも、大人の読者を満足させるポイント。海辺大工町は深川北部辺りで、江戸地誌に詳しい作者が最も得意とするテリトリーであるということもあります(この辺りは今でも昔風の割烹屋、仕出し屋が多い)。

あかんべえ (PHP文芸文庫)

 【2006年文庫化[新潮文庫(上・下)]/2014年再文庫化[PHP文芸文庫]】

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クライマックスがやや弱い、それと、少し長すぎる気もするが、それでもそこそこの力作。

模倣犯 上.jpg 模倣犯 The copy cat 下.jpg  模倣犯 上下.jpg   模倣犯.jpg
模倣犯〈上〉模倣犯〈下〉 style=』(単行本カバー画:大橋 歩)/新潮文庫(全5巻) 〔'05年〕

「模倣犯」.jpg 2001(平成13)年・第55回「毎日出版文化賞」(特別賞)並びに2002(平成14)年・第52回「芸術選奨」受賞作。2001 (平成13) 年度「週刊文春ミステリー ベスト10」(国内部門)第1位。2002 (平成14) 年「このミステリーがすごい」(国内編)第1位。併せて、2002(平成14)年・第5回「司馬遼太郎賞」も受賞。

 ある日、公園のゴミ箱から女性の右腕が発見されるが、それは猟奇的な残虐さと比類なき知能を併せ持つ犯人からの宣戦布告であり、連続女性殺人事件のプロローグだった―。

模倣犯 ラスト.jpg模倣犯 movie.jpg SMAPの中居正広が初主演した映画で荒筋を知る人は多いと思いますが、映画でのあの「自爆シーン」の結末は何だったのでしょうか? 映画を観て原作の方は未読であるという人に、"正しい理解"のために原作を読むことをお勧めしたいようにも思います。とにかく大長編作品であるためにやや読むのに躊躇しますが、でも、やっぱり原作を読んで正しく評価していただきたいと思うぐらいに、映画の方は勝手に原作を改変して、しかもダメにしてしまっているように思えます(原作者が試写会の途中で席を立ってしまったというのもわかる)。

 小説そのものについては、『火車』('92年/双葉社)の素晴らしいラストや『理由』('98年/朝日新聞社)の冒頭の意外な展開に比べると、本書のクライマックスにおける犯人を激昂させるキー―この鍵で扉が簡単にバタンと開いてしまうところは、やはり今ひとつでしたが(今まで極めて冷静だった犯人が、あまりに脆く瓦解する)、でも読んでいる間はやはりハマりました。

 個人的には『火車』が星5つで、『理由』も星5つに近く、この作品もそれらに及ばずともそこそこの評価になってしまうのです。さすが宮部みゆき。それだけに、この作品ももっとまともに映像化されれば良かったのにと思ってしまいます(『火車』は'94年にテレビ朝日で"2時間ドラマ"化され、『理由』は'04年に大林宣彦監督により映画化されている)。

 全部読むのにかなり時間かかりました。それだけ長時間、宮部ワールドに浸れたということでもありますが、少し長すぎる気もします。けっこう残忍な場面とかがあったわりには、登場キャラの多いRPGゲームをやり終えたような読後感であるのは、この作家の作品の特徴と言うか、"作家体質"的なものではないかと思います(本人、RPGゲーム大好き人間らしいですが)。

模倣犯 2002.jpg「模倣犯」●制作年:2002年●製作:「模倣犯」製作委員会(東宝・小学館・博報堂DYメディアパートナーズ・毎日新聞社・日本テレビ放送網ほか)●監督:森田芳光●撮影:北信康●音楽:大島ミチル●原作:宮部 みゆき●時間:124分●出演:中居正広/山崎努/伊東美咲/木村佳乃/寺脇康文/藤井隆/津田寛治/田口淳之介/藤田陽子/小池栄子/平泉成/城戸真亜子/モロ模倣犯 文庫.jpg師岡/村井克行/角田ともみ/中村久美/小木茂光/由紀さおり/太田光/田中裕二/吉村由美/大貫亜美●劇場公開:2002/06●配給:東宝 (評価★☆)

 【2005年文庫化[新潮文庫(全5巻)]】

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「●日本のTVドラマ (90年代~)」の インデックッスへ(「ぼんくら」)

時代人情モノとして堪能できるミステリー。

宮部 みゆき 『ぼんくら』.jpg ぼんくら.jpg      ぼんくら〈上〉.jpg ぼんくら〈下〉.jpg 
ぼんくら』['00年/講談社](装画・題字:村上 豊)/講談社文庫 (上・下) ['04年] 

 江戸・深川の長屋を舞台に繰り広げられる時代ミステリーです。主人公の「ぼんくら」と綽名される同心・平四郎と甥の超美少年・弓之介が、長屋で起きた殺人事件を、岡引や市井の人の助けを借りて解いていく―。

 幾つかの短編を併せて長編ミステリーを構成しているのですが、その短編を個々に見ると、ミステリーの1章というより、独立した江戸人情噺としての色合いが強いものがいくつもあります。

 長屋のシステムやルールなどが「霊験お初シリーズ」などの同じ時代推理に比べ丁寧に書き込んであり、そこに住む人々の生活や交わりなどもよく描かれていると思います。こうした長屋モノを得意としたのは山本周五郎ですが、作者は「山本周五郎賞」の方は、現代のカードローン地獄を描いた火車』('92年/双葉社)で早々と取っています。山本周五郎に"恩返し"というわけでもないでしょうが、この『ぼんくら』という作品には、山本周五郎オへのマージュ的なものも個人的には感じました。

 テープレコーダー少年?"おでこ"などの個性的な人物も多く登場しますが、事件に全くと言っていいほど関与しない人物も多く、途中で事件を忘れてしまいそうになります。そのあたりがミステリーファンにとってどうなのだろう、と思いながらも、自分自身は"時代人情モノ"として充分堪能しました。

 作者自身、この構成をどう自己評価したのか、続編日暮らしで答えを探ることにしたいと思いました。

 【2004年文庫化[講談社文庫(上・下)]】

《読書MEMO》
●2014年ドラマ化 【感想】 岸谷五朗はまずまずだが、松坂慶子って昔より演技が下手になってしまったのではないかと思った。

NHK ぼんくら1.jpgNHK ぼんくら2.jpg NHK木曜時代劇「ぼんくら」(2014年10月~12月[全10回])
演出:吉川一義/酒井信行/真鍋斎 脚本:尾西兼一 ほか
出演:岸谷五朗/奥貫薫/風間俊介/六平直政/志賀廣太郎/鶴見辰吾/大杉漣/松坂慶子/勝野雅奈恵ほか


                  

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「●地誌・紀行」の インデックッスへ

ためになって、かつ明るく楽しい、時代物の背景となった土地巡り。

平成お徒歩日記.jpg平成お徒歩日記』 ['98年/新潮社] (表紙:松本 哉) 平成お徒歩日記2.jpg 『平成お徒歩日記 (新潮文庫)』 〔'01年〕 (カバー挿画:石丸千里)

 著者の初めてのエッセイで、時代小説の舞台となった地を歩いて巡るという雑誌の連載企画を本にまとめたもの([下右]2008年単行本新装版[新潮社])。

小塚原刑場跡.jpg平成お徒歩日記〈新装版〉.jpg 赤穂浪士が吉良邸(現在の両国・回向院付近)に討ち入りを果たした後、高輪・泉岳寺まで歩いた道のりを辿ったり(真夏に10キロ踏破!)、いわゆる江戸市中引き回しコースを、自らを"毒婦みゆき"と罪人になぞらえて巡り、鈴ヶ森(現在の南大井)・小塚原(現在の南千住)の各刑場跡を訪れたり、最後の方は「早駕籠」(=タクシー)を使ったりしていますが、歩く歩く...。 各章の冒頭に地図もあり、読むだけでも昔の人もそれだけ歩いたのだなあと実感できます。

小塚原刑場跡

 時代考証を交えながらも酔狂なノリで、あくまでも弾けるように明るく(同行のスタッフやカメラマンとのやりとりが滅茶苦茶コミカル)、「ためになる」というより「楽しい」という感じです(もちろん「ためにもなる」)。

 流人の足跡を辿って八丈島に行ったり、果てはお伊勢様参りまでしていますが、連載企画の前に池波正太郎の「剣客商売」の『浮沈』の舞台・深川を歩いていて、やはりこの辺りがこの人のルーツになるのだなあと思いました。

  【2001年文庫化[新潮文庫]/2008年単行本 新装版[新潮社]】

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多くの読者を得る"理由"の1つは、社会への問題提起にあるのでは。

理由 単行本.jpg理由』['98年]理由2.jpg理由 (朝日文庫)』〔'02年〕理由.jpg理由 (新潮文庫)

 1998(平成10)年下半期・第120回「直木賞」受賞作で、1998 (平成10) 年度「週刊文春ミステリー ベスト10」(国内部門)第1位。「日本冒険小説協会大賞」も併せて受賞。  

 東京・荒川区の超高層マンション「ヴァンダール千住北ニューシティー」で起きた殺人事件は、一家3人が殺され1人が飛び降り自殺するという奇怪なものだったが、被害者たちの身元を探っていくとそこには―。

 直木賞受賞作ですが、事件状況とその意外な展開という着想が素晴らしいと思いました。事件の解明を通して住宅ローン地獄や家族の崩壊という現代的テーマが浮き彫りになってきますが、そこにルポルタージュ的手法が効いています。

カバチタレ!3.jpg火車.jpg 『火車』('92年/双葉社)において、戸籍が本人であることを詐称することで簡単に書き換えられることをプロットに盛り込んだ著者は、この作品では「占有権」という一般の目には不可思議な面もある法的権利と、それを利用する「占有屋」という商売に注目していて、こうした着眼とその生かし方にも、著者の巧さを感じます。

 (「占有屋」は、後に『カバチタレ!』(青木雄二(監修)・田島隆(原作)・東風孝広(漫画))というコミックでもとりあげられ、テレビドラマ化された中でも紹介された、法の網目を潜った奇妙な商売。)

映画「理由」.jpg 作品の冒頭の特異な事件展開にはグンと引き込まれましたが、それに対し、事実がわかってしまえばそれほど驚くべき結末でもなかったのでは...みたいな感じもあります。

 しかし、ミステリーとしての面白さもさることながら、それ以上に、現代社会に対する鋭い問題提起が、この多才な作家の真骨頂の1つであり、幅広い世代にわたり多くの読者を獲得している"理由"は、そのあたりにあるのではないかと思いました(とりわけそれは、社会派推理の色合いが強い『火車』と『理由』の2作品に最も言えることではないか)。

宮部みゆき『理由』新潮文庫.jpg '04年に大林宣彦監督が映画化していますが、元々はWOWOWのドラマとしてその年のゴールデンウィークに放映されたものであったとのこと。

 関係者の証言を積み重ねていくドキュメンタリー的なアプローチは原作と同じで、出演者107人全員を主役と見做し("主要"登場人物に絞っても約40名!)、全員ノーメークで出演と頑張っているのですが、「キネマ旬報」に載った大林宣彦監督のインタビュー記事で、こうした作り方の意図するところを知りました。

 個人的には、原作に忠実である言うより(登場人物のウェイトのかけ方は若干原作と異なる)、原作のスタイルを損なわずにそのまま映像化したら(つまり、この作品における膨大な関係者証言の部分を、一切削らずに、「証言」のままの形で映像化したら)どのようになるかとという推理小説の映像化に際しての1つの実験のようにも思えました。

新潮文庫 映画タイアップカバー版

アクロシティタワーズ.jpg 但し、実際映像化されてみるとやや散漫な印象も。森田芳光監督の「模倣犯」みたいな"原作ぶち壊し"までいかなくとも、もっと違ったアプローチもあってよかったのではないかとも思いました。因みに、この小説の舞台となった荒川区の超高層マンション「ヴァンダール千住北ニューシティー」のモデルは「シティヌーブ北千住30」(足立区)だと思っていたけれど、どうやら南千住の「アクロシティタワーズ」(荒川区)みたいです(「千住北」という地名は存在せず、北千住は足立区になる)。[参照:宮部みゆき『理由』の舞台を歩く]

理由 岸部.jpg理由3.jpg「理由」●制作年:2004年●製作:WOWOW●監督・脚本:大林宣彦●音楽:山下康介/學草太郎●原作:宮部 みゆき●時間:160分●出演:岸部一徳/柄本明/古手川祐子/風吹ジュン/久本雅美/立川談志/永六輔/片岡鶴太郎/小林稔侍/高橋かおり/小林聡美/渡辺えり子/菅井きん/石橋蓮司/南田洋子/赤座美代子/麿赤兒/峰岸徹/宝生舞/松田洋治/根岸季衣/伊藤歩/宮崎あおい/裕木奈江/村田雄浩/山田辰夫/大和田伸也/松田美由紀/ベンガル/左時枝/入江若葉/山本晋也/渡辺裕之/嶋田久作/柳沢慎吾/島崎和歌子/中江有里/加瀬亮/勝野洋●劇場公開:2004/10●配給:アスミック・エース (評価★★★☆)

 【2002年文庫化[朝日文庫]/2004年再文庫化[新潮文庫]】

●大林宣彦監督インタビュー(「キネマ旬報」(2004.1.下)
 「今回の『理由』は、WOWOWの企画で出発してるんですけど、実はその枠にははまらない。というのは、WOWOWの番組としての予算も枠も決まったシリーズの中の一本なんですけど、宮部みゆきさんの原作は、その枠に合わせて作るのが不可能な小説なんですよ。これまでも多くの人が映画化やテレビドラマ化を試みたんだけど、宮部さんは一度も首を縦に振らなかった。その理由は、ひとつの殺人事件にいかに多くの人が絡み合っているかという、ぼく流に言えば人間や家族の絆が失われた時代に、殺人事件がむしろ哀しき絆となったような人間群像の物語なので、ぼくのシナリオの中でも主要な人物だけで107人もいるんですよ。強引にまとめていけば、10人くらいの物語にはできる。普通の映画やテレビの場合では、そうやって作るんです。しかし、それでは宮部さんが試みた集団劇としての現代の人間の絆のありようが描ききれないんですね。つまりこれをやる以上は、107人総てを画面に出さなければいけない。
 宮部さんは、ぼくに監督をお願いしたとWOWOWから知らされた時点で、すべてぼくにお任せしますとおっしゃったんです。任された以上、ぼくは原作者が意図したものを映画にするのが礼節だと思います。ぼくはいつも原作ものを映画にするときは、作者がはじめからこの物語を映画に作ったら、どういうものになるだろうと考えるんですね。だから紙背にこめられた作者の願いを文学的にではなく映画的に表現したらこうなるよというものを作ろうという意味で、決して原作どおりではないんだけど、原作者の狙いや願いを映画にしようと」

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時代小説における新境地確立を思わせる一方、何かと既知感が...。

天狗風.jpg 『天狗風―霊験お初捕物控 2』 〔'97年〕(カバー画:熊田正男) 天狗風 霊験お初捕物控【二】[講談社文庫].png天狗風―霊験お初捕物控〈2〉 (講談社文庫)』 〔'01年〕

 『震える岩』('93年/新人物往来社)に続く「霊験お初捕物控」の第2弾で、今回は、嫁入り前の娘が次々と神隠しに遭ったかのように失踪する事件の謎を、前作同様、17歳のエスパー少女・お初が追うというもの。

 "死んでも消えない"女の怨念(この作家の典型的モチーフの1つ?)が描かれていますが、怖さよりも、「小袋」に妄念が宿ったという設定などに時代ものらしい風情を感じ、ミステリーとしてもそれなりに引き込まれました。

 同じ女の怨念を描いても、松本清張作品のようなリアルな湿り気のようなものがあまり感じられないのは、この作家の特質なのか、時代ものという枠組みのためか(『火車』などの現代ものの主人公には清張作品を想起させるものがありましたが)。

じゃりん子チエ 小鉄.jpg ジュブナイル系というか、ヤングアダルト系というか...、セリフを喋る猫の登場には(お初に猫とコミュニケートする能力があるということですが)、「じゃりん子チエ」という漫画の「小鉄」を思い出しました。

 作者の時代小説における新境地の確立を思わせる一方で、天狗との最終対決シーンなども含め、スティーブン・キングの小説やRPGゲームの時代ものへの翻案かなと思わせる感じもあり、小説が醸し出す雰囲気に何かと既知感がつきまとったというのが正直なところ。

 とは言え、テンポのいい快作であることには違いなく、江戸風情もよく描かれていて、読後感も心温まるものでした。

 【2001年文庫化[講談社文庫]】

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著者の現代推理小説の中では、「理由」「模倣犯」を凌ぐ傑作。

宮部 みゆき 『火車』.jpg火車.jpg      火車Jul.'92 双葉社.jpg       火車 All she was worth.jpg
火車 (新潮文庫)』 『火車』 ['92年/双葉社] ペーパーバック版 "火車―All she was worth"

 1992(平成4) 年度「週刊文春ミステリー ベスト10」(国内部門)第1位。1993(平成5)年度・第6回「山本周五郎賞」受賞作。(2008(平成20)年に、「このミステリーがすごい!」の賞創設から20年間の1位にも輝いた。因みに、発表当時の1993(平成5)年の「このミステリーがすごい!」では『砂のクロニクル』(船戸与一)に次いで2位だった。)

 休職中の刑事が遠縁の男に頼まれて、失踪した婚約者の女性を探すことになるが、彼女の過去は調べれば調べるほど闇に包まれている。なぜこの主人公の女性は「自分を消す」ということにこれだけ執着し、またそこにどんな落とし穴があったのか―。カード社会の犠牲ともいうべき自己破産者の凄惨な人生を描いた傑作です。

 宮部みゆき作品の中ではとりわけ社会派的色彩が濃いものですが、この作品で衝撃を受けたのは、主人公が最後の最後にしか現れず、セリフも一言もないという凝った造りであることです。それでいて、主人公の情念がじわ〜っと伝わってきます。著者の現代推理小説の中では『理由』('98年)、『模倣犯』('01年)と並ぶ傑作の部類で、むしろ『理由』も『模倣犯』もこの作品を超えていないかも知れないという気もします。

 ところがこの作品は直木賞をとっていないのです。『理由』で直木賞をとる前に、『龍は眠る』('91年)、『返事はいらない』('91年)、『火車』('92年)、『人質カノン』('96年)、『蒲生邸事件』('96年)と候補になりながら選にもれたものがありますが、個人的には、『火車』でとるべきだったと思います。『火車』の直木賞落選の「選評」で、「重要人物が描けていない」という批評にはガックリきたという感じ。明らかに主人公のことを指していますが、"自分を消した"女性が主人公なのだから...。

火車 last 1994.jpg '94年に"2時間ドラマ"化されていて、「火車 カード破産の女!」というタイトルで『土曜ワイド劇場』のテレビ朝日開局35周年特別企画として放映されていますが、主人公の新城喬子(関根彰子)役の財前直見は原作同様、ラストシーンを除いてほとんど出て来ず、それでいてドラマ全体を支配していました。原作の優れた点をよく生かしたドラマ化だったと思います。

 作家の倉橋由美子は、この小説を絶賛したうえで、ラストは「太陽がいっぱい」(パトリシア・ハイスミスの原作でなく、映画の方)に似ていると書いていますが(『偏愛文学館』('05年/講談社))、確かに。

「火車-カード破産の女!」 ラストシーン

財前直見  .jpg火車 1994.png「火車 カード破産の女!」●演出:池広一夫●制作:塙淳一●脚本:吉田剛●出演:三田村邦彦/財前直見/沢向要士/船越栄一郎(船越英一郎)/山口果林/角野卓造/森口瑤子/山下規介/大畑俊/吉野真弓/菅原あき/畠山久/奥野匡/小沢 象/たうみあきこ/加地健太郎/飯島洋美/舟戸敦子/沢向要士/角野卓造●放映:1994/02(全1回)●放送局:テレビ朝日   

「火車-カード破産の女!」 新城喬子(財前直見)
 
 【1998年文庫化[新潮文庫]】

火車 ドラマ   ド.jpg《読書MEMO》
●2011年再ドラマ化 【感想】 本間(上川達也)は新城喬子(佐々木希)より田畑智子(田畑智子)を追っているような印象にもなってしまったが、佐々木希のセリフが最後まで一言も無かったのは正攻法と言える。原作の良さにも助けられているものの、やはり'94年の財前直美版には及ばない(特にラストシーンは'94年版のラストシーンの素晴らしさには遠く及ばない)。

   

火車 ドラマ00.jpg火車 ドラマ03.jpg「宮部みゆき原作 ドラマスペシャル 火車」●演出:橋本一●脚本:森下直●原作:宮部みゆき●出演:上川隆也/佐々木希/寺脇康文/田畑火車 ドラマ5b.jpg火車 ドラマ5e.jpg火車 ドラマc03.jpg火車 ドラマs.jpg智子/ゴリ(ガレッジセール)/渡辺大/鈴木浩介/高橋一生/井上和香/前田亜季/藤真利子/美保純/金田明夫/笹野高史/茅島成美/山崎竜太郎/ちすん/上間美緒/長谷川朝晴/谷口高史●放映:2011/11/05(全1回)●放送局:テレビ朝日

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宮部みゆきの読書ガイドが親切。拾いものがかなりあった。

宮部みゆき責任編集 松本清張傑作短篇コレクション (上).jpg松本清張傑作短篇コレクション 上.jpg 宮部みゆき責任編集 松本清張傑作短篇コレクション (中).jpg松本清張傑作短篇コレクション 中.jpg 宮部みゆき責任編集 松本清張傑作短篇コレクション (下).jpg松本清張傑作短篇コレクション 下.jpg  『松本清張傑作短篇コレクション〈上〉 (文春文庫)』 『松本清張傑作短篇コレクション〈中〉 (文春文庫)』 『松本清張傑作短篇コレクション〈下〉 (文春文庫)』 〔'04年〕

 「宮部みゆき責任編集」となっていますが、「責任編集」とはまさにこういうことを指すのだなあという感じ。
 8つのテーマというか視点別に数作ずつ、全部で26作品を選んでいますが、テーマごとの冒頭に宮部氏の口上があり、これが適切な読書ガイドになっています。 
 いろいろな年代の作品から万遍なく選ぶような配慮もされているようです。個人的には、拾い物が結構ありました。

【1.巨匠の出発点】
 ◆『或る「小倉日記」伝』...名作!
 ◆『恐喝者』...今で言えばストーカー
【2.マイ・フェイバリット】
 ◆『一年半待て』...夫殺しと「一事不再理」
 ◆『地方紙を買う女』...巻末に横山秀夫の翻案
 ◆『理外の理』...喰違門での首縊り
 ◆『削除の復元』...森鴎外の隠し子疑惑?
【3.歌が聴こえる、絵が見える】
 ◆『捜査圏外の条件』...上海帰りのリルが好きだった妹
 ◆『真贋の森』...贋作作戦?
【4.「日本の黒い霧」は晴れたか】                   
 ◆『昭和史発掘-二・二六事件』                    
 ◆『追放』
【5.淋しい女たちの肖像】
 ◆『遠くからの声』...姉婿から離れていく妹
 ◆『巻頭句の女』...死期が近い俳人を引き取って...
 ◆『書道教授』...(中篇)スケベ男の勘違いと顛末       
 ◆『式場の微笑』...ラブホテルでの着付けのアルバイト
カルネアデスの舟板 角川.jpg【6.不機嫌な男たちの肖像】                      
 ◆『共犯者』...自分を追ってくる共犯者と思いきや、共犯者の調査を依頼した男だった       
 ◆『カルネアデスの舟板』...大学教授間の覇権争い
 ◆『空白の意匠』...地方紙の広告部長の焦燥と憤り、奔走の末の安心と急転直下の悲哀。巧い。
【7.タイトルの妙】
 ◆『支払い過ぎた縁談』...結婚詐欺の話。ショートショートみたい!
 ◆『生けるパスカル』(中篇)...挿入話『死せるパスカル』(フロイト『ヒステリー研究』の引用の仕方が巧い)
 ◆『骨壺の風景』
【8.権力は敵か】
 ◆『帝銀事件の謎-「日本の黒い霧」より』...S.23年の帝銀事件の幕引きの黒幕は元731部隊員を使っていたGHQ?
 ◆『鴉(からす)』...組合の委員長を殺した男の話、鴉で...
【9.松本清張賞受賞作家に聞きました】


 調べてみたら、「一年半待て」や「地方紙を買う女」などは、テレビで何度もドラマ化されていました。

 「一年半待て」のテレビドラマ化
 •1960年「黒い断層~一年半待て(KR)」淡島千景・南原宏治・土屋嘉男
 •1961年「一年半待て(ABC)」斎藤美和、久松保夫・溝田繁
 •1962年「一年半待て(NHK)」斎藤美和・大滝秀治・南美江
 •1968年「一年半待て(CX)」森光子・根上淳・稲野和子
一年半待て BSTBS.jpg •1976年「一年半待て(NTV)」市原悦子・唐沢英二・緑魔子
 •1978年「一年半待て(NHK)」香山美子・早川保・南風洋子
 •1984年「一年半待て(NTV)」小柳ルミ子・勝野洋・樹木希林
 •1991年「一年半待て(ANB)」多岐川裕美・小川真由美・篠田三郎
 •2002年「一年半待て(NTV)」浅野ゆう子・布施博・丘みつ子
 •2010年「一年半待て(BS-TBS)」夏川結衣・清水美沙・市原悦子
BS-TBS 松本清張特別企画「一年半待て」2010年12月8日放映(夏川結衣・清水美沙 主演)

《読書MEMO》
●「地方紙を買う女」のテレビドラマ化
 •1957年「地方紙を買う女(NHK)」大森義夫・藤野節子・千秋みつる
 •1960年「黒い断層~一地方紙を買う女(KR)」堀雄二・池内淳子・杉裕之
地方紙を買う女.jpg •1966年「地方紙を買う女(KTV)」岡田茉莉子・高松英郎・戸浦六宏
 •1973年「地方紙を買う女(CX)」夏圭子・山本圭・井川比佐志
 •1981年「地方紙を買う女 昇仙峡囮心中(ANB)」安奈淳・田村高廣・室田日出男
 •1987年「地方紙を買う女(CX)」小柳ルミ子・篠田三郎・露口茂
 •2007年「地方紙を買う女(NTV)」内田有紀・高嶋政伸・秋野暢子
日本テレビ系「火曜ドラマゴールド〜地方紙を買う女」2007年1月30日放映(内田有紀主演)

●「書道教授」のテレビドラマ化
書道教授.jpg •1982年「書道教授(ANB)」近藤正臣・生田悦子
 •1995年「書道教授(ANB)」風間杜夫・多岐川裕美
 •2010年3月23日「書道教授(NTV)」船越英一郎、杉本彩
日本テレビ系「火曜サスペンス劇場〜書道教授」2010年3月23日放映(船越英一郎主演)

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