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淡々と書き連ねられているだけに怖い「鬼畜」。個人的な拾い物は「怖妻の棺」。

鬼畜―松本清張短編全集〈7〉 (カッパ・ノベルス)2.jpg 鬼畜―松本清張短編全集〈7〉 (カッパ・ノベルス)1.jpg  鬼畜―松本清張短編全集〈7〉光文社文庫.jpg 鬼畜 16.jpg 映画「鬼畜
鬼畜―松本清張短編全集〈7〉 (カッパ・ノベルス)』(2003年第3版)/(没後10周年記念カバー)/『鬼畜―松本清張短編全集〈07〉 (光文社文庫)』/「鬼畜 [DVD]
松本清張短編全集〈第7〉鬼畜 (1964年) (カッパ・ノベルス)
鬼畜―松本清張短編全集7.jpg鬼畜―松本清張短編全集7.jpg 32歳の竹中宗吉は、とある地方で漸く印刷屋の主になるところまで漕ぎつけた。狐のような顔をした妻・お梅との間に子は無い。商売の順調な頃、宗吉は、料理屋の女中・菊代に惹かれる。何とか菊代を養えそうな気がした宗吉は、彼女と関係を持った。好きな女を囲う身分になれたという充足は出世感に近かった。菊代との間には3人の子供ができた。しかしその後、近代的な印刷会社の進出や火事により宗吉の商売は零落、宗吉から生活費の貰えなくなった菊代が、3人の子を連れて宗吉の家に乗り込んだため、お梅にも事態が露見する。お梅の仕打ちと女房の前に竦んだ宗吉の腑抜けぶりに、菊代は怒って出て行ってしまう。3人の子供が残され、女房の睨む中、子供は一人ずつ「処分」されていく―。(「鬼畜」)

 '57(昭和32)年発表の「鬼畜」をはじめ、松本清張(1909‐1992)が昭和31年から33年にかけて発表した全7編を収録。他6編は、「なぜ「星図」が開いていたか」「反射」「破談変異」「点」「甲府在番」「怖妻の棺」で、この内、「破談変異」「甲府在番」「怖妻の棺」が時代物で、他は現代物です。

 「なぜ「星図」が開いていたか」(昭和31年発表)は、自然死に隠されたトリックですが、このトリック、外形的には殺人に近い"未必の故意"と言えなくもないのではないでしょうか。「反射」(昭和31年発表)は、松本清張版「心理試験」とも言える作品ですが、江戸川乱歩の「心理試験」をもう一捻りした感じです。但し、両作品について、作者自身があとがきで「短編にこうしたものを収めるのは無理なような気がする」と述べているように、トリックだけ見せて終わってしまっている印象もしなくもなかったです。

 「破談変異」(昭和31年発表)は江戸時代の婚姻話を巡るトラブルを描いたもので、最後は遺恨絡みの殺傷沙汰になってしまうのですが、池田亀鑑の「大奥の女中」に材を得たとのこと。仲人って昔の方が大変だったかも。「点」(昭和33年発表)は、警察スパイのなれの果てを描いたもので、九州のある地方にいた警察側の対日共密偵に取材したものだそうですが、当人には会わずに書いたら、当人が発表後にクレームの手紙をよこし、面会を強要してきたとのこと(いかにもそういうことをしそうな感じだなあ)。

 「甲府在藩」(昭和31年発表)は、甲府城に流謫された旗本の話で、甲府流しにされるのはもともと江戸で遊蕩三昧に耽った不良旗本が多かったが、主人公は前任者で行方不明になった兄の消息を探るべく敢えて甲府に赴任、そしてそこには隠し金山の秘密が...。話がだんだんグロテスクになっていくところが何とも言えず、最後は儚さだけが残ったという感じでしょうか。「怖妻の棺」(昭和32年発表)は、家付き娘だった妻に対して頭が上がらない男が、密かに息抜きに通っていた妾宅で倒れ、死んだと思って男の親友である主人公が本妻に全てを打ち明け、跡目相続のために遺体だけ家に戻して普通に自宅で死んだようにみせかける算段をしたところ、件の男が実は医者の見立て違いで蘇生してしまい、もう全てを本妻は知ってしまったわけで、腹でも切るしかないかと追い詰められる話。親友である主人公も、いい策が思いつかなかったが...。

詐者の舟板 (1957年)_.jpg 表題作「鬼畜」は、'57(昭和32)年12月に短編集『詐者の舟板』収録の1作として、筑摩書房から刊行されていますが、'64年のカッパ・ノベルズ版で表題作に"格上げ"されています(因みに、「詐者の舟板」は「カルネアデスの舟板」の改題で、後に当初のタイトルに戻っているが、これも傑作)。「鬼畜」が野村芳太郎監督によって映画化されたのは'78(昭和53)年で、「鬼畜」という作品はこの映画化によってよりよく知られるようになったのではないでしょうか。

詐者の舟板 (1957年)

鬼畜3981.jpg鬼畜 緒形 .jpg「鬼畜」 (1978/06 松竹) ★★★★☆

 「鬼畜」は、"東京地検特捜部生みの親"と言われる河井信太郎(1913-1982)の無名時代に、作者が河井本人から聞いた話がベースになっており、モデルとなった男は骨董屋ですが、それを作者が若い頃に携わっていた印刷業界に置き換えているものの、妾に3人の子を産ませていたが商売不振で仕送りができず、妾が子を連れて男の家に来るところから始まり、本妻に子を片付けろと責められる中、殺害・殺害未遂を経て、西伊豆で逮捕されたというのは事実のようです(男は在獄中に発狂死したというから凄まじい)。この作品は、淡々と書き連ねられているだけに怖いです。最後に、石版印刷の石版の欠片から足が付くという推理小説的要素を持たせていますが、子殺しというモチーフと、親子の絆というテーマの方が圧倒的に重かったでしょうか。

 個人的な拾い物は「怖妻の棺」で、やや話が旨すぎるきらいもありますが、作者にしては珍しくほっとさせられる作品でした(「鬼畜」の前にあるから、より、そう感じるのかも)。

【1964年ノベルズ版・2003年第3版[カッパ・ノベルス]/2009年文庫化[光文社文庫]】

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「犯罪編」と「推理編」の2部構成から成る変則的倒叙法。文庫で約700ページあるが、一気に読める。

黒い福音 1961.jpg黒い福音 角川.jpg黒い福音 新潮文庫0.jpg黒い福音 新潮文庫.jpg 黒い福音 松本清張 Kindle版 .jpg
黒い福音 (新潮文庫)
黒い福音 (1961年)』/『黒い福音』角川文庫/『黒い福音』角川文庫

 終戦直後、カトリックの一派バジリオ会所属のグリエルモ教会のルネ・ビリエ神父は、聖書の翻訳作業を行う目的で、江原ヤス子のもとに通っていた。しかし深夜になると、彼女の寝室からすすり泣きや忍び笑いが洩れてくるのだった。ルノーで乗り付けるビリエ神父に加え、ヤス子の家では深夜にトラックが謎の荷物の積み下ろしを行っていて、ヤス子の生活は急速に派手になっていく。ある時、荷物の運搬に携わっていた日本人が警察に密告し、トラックから統制品の砂糖が押収された。刑事が教会を訪れたが、教会を統括するフェルディナン・マルタン管区長は、物資のヤミ商売は日本人が勝手にやったと言い、更に管区長は、ビリエ神父に日本政府の高官夫人を通じて"穏便に解決"するよう手配し、日本人の運搬責任者に"犠牲"になるよう指示する。その後7年が過ぎ、教会は以前にも増して発展、その間に、管区長のやり方に異議を唱えた神父は朝鮮半島の僻地に飛ばされ、代わりにシャルル・トルベックが神父となった。トルベックは純真な神学生であり女性を知らなかったが、日本人女性の信者の間で人気が出て、ビリエ神父と江原ヤス子が親しげに馴れ合う様子を目にしたことを契機に、彼もまた、信者の一人生田世津子と親密になっていく。そんなトルベックに、ビリエ神父から思わぬ指令が下る―。

 「週刊明星」昭和34(1959)年6月号.jpgBOACスチュワーデス殺人事件.jpg 1959(昭和34)年3月に起こったBOACスチュワーデス殺人事件をもとに、フィクションの形で推理を展開した長編小説で、中央公論社から刊行されていた「週刊コウロン」に1959(昭和34)年から翌年にかけて連載され(1959年11月3日号 - 1960年10月25日号)、1961年11月に同社から刊行されています。
「週刊明星」昭和34(1959)年6月14日号

 文庫で約700ページありますが、時間さえ許せば一気に読める面白さで、事件発生までの背景・過程を描いた第1部(犯罪編)と、刑事たちによる捜査を描く第2部(推理編)の2部構成になっていることも、飽きさせない理由の1つかもしれません。

 犯罪編の方は、トルベックが犯行に追い詰められていく背景と経緯が丁寧に描かれていて、こちらの方が全体の6割、推理編が残り4割という比率。従って、大きな括りでは「倒叙型」の推理小説と言えるものの"変則的"であり、例えば「刑事コロンボ」で言えば、ドラマの半ばを過ぎて殺人事件が起きる展開といったところでしょうか。

 事件が起きて間もなくして連載が始まったことから、当時の反響は大きかったと思われますが、今読んでも十分面白く、作者の推理とストーリーの構築力には脱帽させられます。

 個人的には犯罪編の方が面白かったですが、推理編に入っても飽きることはなく、但し、警察は事件の核心に迫りながらも、日本の国際的な立場がまだ弱かったために、キリスト教団の閉鎖的権威主義に屈せざるを得なかった―というほろ苦い結末でした(作者は事件に関する別の推理も展開しており、この作品は、作者が最有力と考える説の1つを小説化したものか)。

 犯罪編ではトルベックの視点から男女の情というものもしっかり描いていて、一方、推理編では、刑事と新聞記者が情報をバーターする場面や、容疑者の唾液から血液型を割り出すためにコーヒーを勧める場面などがあり、こちらも興味深いものでした。

黒い福音 TV宇津井.jpg この作品は1984年にTBSで宇津井健(1931-2014.3.14/享年82)主演でドラマ化されていますが、個人的には未見。先月(2013年1月)テレビ朝日で、ビートたけしの主演で再ドラマ化されたものを見ました。

黒い福音 ドラマ 1.jpg こちらは生田世津子が死体で見つかる場面、つまり、原作の推理編から始まり、推理を通して事件を遡っていくという展開となっており、ある意味、"正統派"の倒叙法と言えます。原作の通りにやろうとすると、半分以上が外国人であるトルベックが主人公になってしまうというのもあって、推理編からスタートして、警視庁捜査一課の刑事・藤沢六郎(ビートたけし)を主人公にもってきたといったところでしょう。
テレビ朝日「松本清張 黒い福音~国際線スチュワーデス殺人事件~」(ビートたけし/瑛太/竹内結子)2014/01/17

い福音~国際線スチュワーデス殺人事件d.jpg 藤沢刑事は小説の中にも出てきて捜査の要となりますが、ドラマのように若い刑事を同行させたり、捜査陣と対立したりすることはありません。ドラマの方は、「張込み」「点と線」などでビートたけしが演じた"ビートたけし流の刑事ドラマ"(乃至そうした刑事キャラ)になっているように感じました。役者としてのビートたけしの弱点は、何を演じてもビートたけし風になってしまうことでしょう(今回も、最初に出てきた時から"ビートたけし"で、最後まで"ビートたけし"だった)。

「松本清張 黒い福音~国際線スチュワーデス殺人事件~テレビ朝日開局55周年記念」●監黒い福音 ドラマ 0.jpg松本清張 黒い福音~国際線スチュワーデス殺人事件.jpg督:石橋冠●製作:(チーフプロデューサー)五十嵐文郎/(プロデューサー)藤本一彦/池田邦晃/里内英司/中山秀一●脚本:尾西兼一/吉本昌弘●原作:松本清張●出演:藤沢六郎:ビートたけし/瑛太/竹内結子/木村文乃/佐野史郎/池内博之/小池栄子/川原和久/阿南健治/スティーブ・ワイリー/ニコラス・ペタス(格闘家)/風吹ジュン/角野卓造/北大路欣也/國村隼●放映:2014/01/17(全1回)●放送局:テレビ朝日

【1964年文庫化[中央公論文庫]/1966年再文庫化[角川文庫]/1971年再文庫化[新潮文庫]/2013年再文庫化[角川文庫(Kindle版)]】

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「インテレクチュアルな好奇心」(五木寛之)を満たす傑作。

点と線―長編推理小説 (1958年).jpg点と線 カッパノベルズ2.JPG 点と線.png
カッパ・ノベルズ(1960/1973) 『点と線―長編推理小説 (カッパ・ノベルス)

点と線―長編推理小説 (1958年)

 汚職事件の摘発が進行中の某省の課長補佐・佐山憲一(31)と、料理屋女中・お時(本名:桑山秀子)の死体が九州の香椎海岸で発見される。2人の死は情死との見解が強まるが、佐山の遺留品の中から、東京から九州方面へ向かう特急「あさかぜ」号の中で発行された「御一人様」の列車食堂のレシートが残っていたことに、地元警察のベテラン刑事・鳥飼重太郎が疑問を抱く。警視庁捜査2課の警部補・三原紀一も現地を訪れ、捜査が進む。実務者の佐山は汚職事件の鍵を握る人物であり、検察は佐山に確認したいことが多くあり、また、佐山の死で"利益を得る"上役官僚が複数いた。その中に、汚職事件の中心にある某省の部長・石田芳男(50)がおり、捜査線上に、某省に出入りする機会工具商・安田辰郎が上がる。佐山とお時の間の繋がりが認められず、三原は2人が青酸カリを飲んだ前後の点と線 4.jpg安田の足取りを追う。すると、2人が青酸カリを飲んだ翌日の夜に、安田が仕事で北海道の小樽に行き、そこで取引先の業者と会っていた。東京から青森へ向かう特急列車や、北海道へ渡る青函連絡船でも、安田がいたことの証言や、乗車記録が残っている。2人が青酸カリを飲んだ夜に安田が九州にいることは物理的に不可能に思えたが、航空機を利用すれば、安田が業者に会う前に九州から北海道に着くことが可能なことに三原は気付く。しかし、安田は該当する便に乗っておらず、乗客全員を当たって偽名などがないか裏付けを取るが、全員がその便に乗っていたことが判明し、捜査は難航する―。

 松本清張(1909‐1992)のあまりにも有名な長編推理小説で、雑誌「旅」の1957(昭和32)年2月号から1958(昭和33)年1月号に連載され、加筆訂正の上、1958年2月に光文社から単行本刊行されていますが、連載当時は、同時期に「週刊読売」に連載されていた『眼の壁』に比べて反響は少なく、作者自身から「病気のため休載にしてほしい」との申し出が「旅」の編集者にあったのを、編集者が「休載するなら『眼の壁』など、他の全ての連載を休載にしてもらう」と迫ったため、結局休載することなく連載が続けられたとのことです。
東京駅の13番線ホームに立つ松本清張[朝日新聞デジタル]
松本清張00.jpg 東京から博多まで夜行列車で20時間ほどかかった時代の話であることを念頭に読む必要はありますが、安田が、自分が東京駅の13番線プラットフォームで料亭「小雪」の女中2人に見送られる際に、向かいの15番線プラットフォームにお時が男性と夜行特急列車「あさかぜ」に乗り込むところを見たという他の目撃者付き証言に対時間の習俗 カッパノベルス.jpgして、13番線から15番線に停まっている「あさかぜ」を見通せるのは17時57分から18時01分までの4分間しかないことが判り、三原は、逆にこの「空白の4分間の謎」から安田に対する嫌疑が確信に近いものとなり、安田が航空機を使ったのではないかというアリバイのトリックを思い立つ(この"移動"トリックは、'61年発表の『点と線』の姉妹編とも言える時間の習俗でも使われている)という展開は、すんなり腑に落ちるものでした(しかし、この後も多くの推理の壁が三原の前に立ちはだかる)。

 今手元にあるのはカッパ・ノベルズの昭和48年発行版で、「香椎海岸」や「青函連絡船」など10枚の写真が収められていてシズル感を高めているほか、冒頭には「東京駅構内で取材する松本清張氏」の写真もあります。

 また、巻末には、昭和44年に行われた、この作品を巡る荒正人・尾崎秀樹の2人の対談があり、その中で、作家の五木寛之氏が、「松本清張氏はプロレタリアート・インテリゲンチャとして成熟した稀有な例」だとし、「その文学はプロレタリアートの怨念とインテレクチュアルな好奇心をバネとしている」と言っていることを取り上げています。"プロレタリアート・インテリゲンチャ"という表現に対して荒正人・尾崎秀樹両氏の間で距離感の違いはあるものの(荒正人は、夏目漱石の本が明治・大正・昭和の時代をかけて1000万部読まれてきたのに対し、松本清張はこの数字に僅か10年で到達してしまったことを取り上げ、大衆社会の中で"米の飯"のような必需品のような読まれ方をしてきたと指摘している)、当時発行部数7000万部だったカッパ・ノベルズの内1000万部が清張作品だったというのはスゴイことだと思いました。

点と線 ラスト.jpg この作品は、『ゼロの焦点』や『砂の器』などの作者の他の代表作に比べると、「インテレクチュアルな好奇心」を満たすウェイトの方が高いように思われ、その点では無駄が少なく、一方、作者が昭和30年代に初めて「社会派推理というジャンルを築いた」という説明の流れの中で紹介される作品としては、"社会派"の部分はやや希薄な印象も受けます。但し、作中で殆ど姿を見せない安田の妻・亮子(最終的には自らの死も心中に見せかけたと推察され、自らも含む2度の"心中偽装"を行ったことになる)の造型は、抑圧された女性の怨念を描いて巧みな後の清張作品の、ある種「原点」的な位置づけにあると言えるかもしれません。
映画「点と線」(1958) 監督:小林恒夫

点と線 テレビ朝日 1シーン.jpg この作品は、「テレビ朝日」開局50周年記念ドラマスペシャルとして2007年11月24日と25日2夜連続で放送されていますが、ビートたけしが鳥飼重太郎を演じることで、三原より鳥飼の方が事件解明の中心になっていて(原作では三原は鳥飼から幾つかの示唆を得ながらも自分で事件を解明する)、かなり原作とは異なった印象を受けました。これまで何度も映像化されているのであればこうした改変もあっていいのかもしれませんが、テレビドラマとしては初の映像化だったので、ストレートに原作をなぞって欲しかった気もします。
テレビ朝日「点と線」(2007) 監督:石橋冠

点と線 チラシ.jpg点と線.jpg 小林恒夫監督による映画化作品('58年/東映)は、高峰三枝子、山形勲といったベテランはともかく、三原刑事役の南廣が映画初出演ということもあり(元々はジャズドラマーだった)、演技がややぎこちないことが、映画そのものがイマイチだった印象に繋がっています。映画の出来はともかく、原作が、これもまた『ゼロの焦点』同様「社会派推理」であると同時に、『ゼロの焦点』以上にトリックの占めるウェイトが高いものであったことを改めて認識させられるものでした。
映画「点と線」(1958) 監督:小林恒夫/主演:高峰三枝子、山形勲

「点と線」 ポスター.jpg「点と線」 ポスター2.jpg「点と線」●制作年:1958年●監督:小林恒夫●企画:根津昇 ●脚本:井手雅人●撮影:藤井静●音楽:木下忠司●原作:松本清張「点と線」●時間:85分●出演:南廣/高峰三枝子/山形勲/加藤嘉/志村喬/三島雅夫/堀雄二/河野秋武/奈良あけみ/点と線 志村喬.jpg映画 「点と線」(1958年/東映) .jpg点と線 DVD.jpg小宮光江/月丘千秋/楠トシエ/風見章子/織田政雄●劇場公開:1958/11●配給:東映●最初に観た場所:池袋文芸地下(88-01-23) (評価★★★)●併映:「黄色い風土」(石井輝男)/「黒い画集・あるサラリーマンの証言」(堀川弘通)
映画 「点と線 [DVD]」(1958年/東映) 
   
点と線 ビートたけし6.jpg点と線 ビートたけし.jpg「点と線」●監督:石橋冠●制作:五十嵐文郎●脚本:竹山洋●音楽:坂田晃一●原作:松本清張●出演:ビートたけし/高橋克典/内山理名/小林稔侍/樹木希林/原沙知絵/大浦龍宇点と線 テレビ朝日 2.jpg一/平泉成/本田博太郎/金児憲史/名高達男/大鶴義丹/竹中直人/橋爪功/かたせ梨乃/坂口良子/小野武彦/高橋由美子/宇津井健/池内淳子/江守 徹/市原悦子/ 夏川結衣/柳葉敏郎●放映:2007/11(全2回)●放送局:テレビ朝日
ビートたけし×松本清張 点と線 [DVD]

週刊 松本清張 【創刊号】 点と線.jpg点と線 文春文庫.jpg松本 清張 『点と線』 新潮文庫.jpg 【1958年単行本・1960年ノベルズ版・1968年カッパ・ノベルズ改版/1971年文庫化・1993年改版[新潮文庫]/2009年再文庫化[文春文庫]】

点と線 (新潮文庫)

   
点と線―長篇ミステリー傑作選 (文春文庫)
 


週刊『松本清張』 1号 点と線 (デアゴスティーニコレクション)」デアゴスティーニ・ジャパン (2009/10)

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昭和28年から昭和32年にかけての発表作品。「張込み」はやはり傑作。

張込み 松本清張 カッパノベルズ.jpg張込み (松本清張短編全集3).jpg   張込み dvd.jpg 張込み 映画1.gif
張込み―松本清張短編全集〈03〉 (光文社文庫)』/「張込み [DVD]
張込み―松本清張短編全集〈3〉 (カッパ・ノベルス)

 '55(昭和30)年発表の「張込み」をはじめ、昭和28年から32年にかけて発表された松本清張(1909-92)の短篇集。

 銀行員の夫との平凡な日常を脱し、かつての恋人(今は強盗殺人犯として逃亡中)との一瞬の情愛に全てを賭けようとする女性を、張込みをする刑事の視点から描いた「張込み」、台頭する後輩家臣・羽柴秀吉の前に、隠忍型の性格ゆえに苦渋の思いを強いられる丹羽長秀の晩節を描いた「腹中の敵」(昭和30年発表)、小倉に在住していた女流歌人・杉田久女(1890-1946)をモデルに、女流歌人・ぬいの愛が狂気に変貌していく様を描いた「菊枕」(昭和28年発表)、考古学に携わる者の間で"考古学の鬼"との異名とったアマチュア考古学者・森本六爾(1903-1936)をモデルに、34歳で亡くなった不遇の考古学者・木村卓治の葛藤と反抗の生涯を描いた「断碑」(昭和29年発表)、同じく考古学者である直良信夫をモデルに、"明石原人"の人骨発見し、旧石器文化説を唱えるも学界から嘲笑される考古学者の苦悩を一人称で描いた「石の骨」(昭和30年発表)、父親とその系譜に対する主人公の嫌悪と葛藤を同じく一人称で綴った「父系の指」(昭和30年発表)、加藤清正の子で、嫡男・光広の退屈凌ぎの悪戯が昂じて、家康に謀反を抱く者ととられ御家取り潰しの憂き目に遭った大名・加藤忠広を史実をもとに描いた「五十四万石の嘘」(昭和31年発表)、江戸時代の佐渡金山を舞台に、夫婦で佐渡に赴任した役人が、自分が島流しにした妻のかつての恋人の今の姿を見ようとして起こる出来事を描いた愛憎劇「佐渡流人行」(昭和32年発表)の8篇を所収。

 朝日新聞にいた松本清張が社を辞めたのが「五十四万石の嘘」を書いた頃と自分であとがきに書いていますから、ここに収められている作品の多くは在職中に書いたものということになりますが、推理小説と呼べるものがない点が興味深く、作者が当時、色々な小説のスタイルを模索していたことが窺えます。

 「腹中の敵」「五十四万石の嘘」「佐渡流人行」は時代もので、「石の骨」「断碑」は考古学もの、「父系の指」は自伝的小説の色合い濃いものですが、それぞれ、歴史ものでは「西郷札」(昭和25年発表)、学究者ものでは「或る『小倉日記』伝」(昭和25年発表)、自伝的なものでは「火の記憶」(昭和27年発表)といった先行作品があります。

 因みに、「五十四万石の嘘」のモデルの丹羽長秀は、秀吉の振舞いに憤って切腹したとの説もありますが、一般には胃癌で亡くなったというのが史実とされており、「菊枕」のモデルの杉田久女は、実際には夫に縛られるような生活を送ったわけでも精神を病んだわけでもないなど、この辺りは「或る『小倉日記』伝」にも見られたような巧みな"物語化"が見られます。

 何れも珠玉の名篇ですが、やはり一番の傑作は、一見平凡な主婦に宿る"女の情念"を描いた「張込み」でしょうか。「今からだとご主人の帰宅に間に合いますよ」と刑事が女主人公に言うくだりが印象に残ります。作者の推理小説への出発点とされている作品ですが、作者自身が、推理小説だとは考えずに書いたと言っているように、サスペンスではあるが、ミステリではありません(敢えて推理小説風に言えば、「倒叙法」がとられていることになるが)。

 橋本忍脚本、野村芳太郎監督で映画化され('58年/モノクロ)、映画では、逃亡中の犯人(田村高廣)の昔の恋人(高峰秀子)を見張る刑事が2人(大木実・宮口精二)になっており、やはり1対1にしてしまうと、見張る側に関してもセリフ無しで心理描写張込み 3.jpgせねばならず、それはきつかったのか...。それでもモノローグ過剰とならざるを得ず、しかも、原作には無い描写を多々盛り込んでおり、もともと短篇であるものを2時間にするとなると、こうならざるを得ないのでしょうか。ともかくも、野村芳太郎はこの作品で一気にメジャー監督への仲間入りを果たすことになります。「張込み」 (1958/01 松竹) ★★★☆
張込み 映画2.jpg「張込み」●制作年:1958年●製作:小倉武志(企画)●監督:野村芳太郎●脚本:橋本忍●撮影:井上晴二●音楽:黛敏郎●原作:松本清張「張込み」●時間:116分●出演:大木実/宮口精二/高峰秀子/田村高廣/高千穂ひづる/内田良平/菅井きん/藤原釜足/清水将夫/浦辺粂子/多々良純/芦田伸介●公開:1958/01●配給:松竹●最初に観た場所:池袋文芸地下(84-02-22)(評価★★★☆)

【1964年ノベルズ化・2002年第3版[カッパ・ノベルス]/2008年文庫化[光文社文庫]】

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清張作品は、少年期から壮年期までの彼自身が"社会"から受けたことへの"復讐"だった。

半生の記2.jpg半生の記 (1966年)半生の記.jpg半生の記 (新潮文庫)』(カバー絵:岸田劉生「道路と土手と塀」)

松本 清張 『半生の記』.jpg 今年('09年)は松本清張の生誕100周年で、1909年生まれということは太宰治と同じですが、41歳での作家デビューは、太宰の死の2年後のことだったのだなあと思うと、何となく感慨深いものがあります。

 本書は松本清張が50代半ば過ぎに書いた自伝で、以前に、著者の推理小説を立て続けに読んでいた頃、その狭間に本書を読み、特に面白いわけでもなく、何だか暗くてパッとしなかったなあという印象に終わりました。
 あとがきにも、自伝を書かないかと雑誌『文藝』から勧められて「つい、筆をとったが、連載の終わったところで読み返してみて、やはり気に入らなかった。書くのではなかったと後悔した。自分の半生がいかに面白くなかったが分った。変化がないのである」とあります。
 ところが、今回読み直してみて、確かに暗いことには暗いが、内容的には興味深く読めました。

 作家デビューするまでを書いてくれと編集者から言われたそうですが、『西郷札』でデビューして『或る「小倉日記」伝』で芥川賞を獲った話はあとがきで少し触れているだけで、本文中にも一応は、若い頃に芥川龍之介に傾倒して、志賀直哉などは面白いとは思わなかったなどという文学遍歴話も多少はあるものの、殆どは、家庭の極度の貧困による苦労や無学歴のために受けた差別、更に朝日新聞社勤務時代に入っても続いた正社員でないことで受ける差別や生活苦のことが主に綴られており(副業で箒の販売をやって凌いだ)、サクセスストーリーにならないまま終わっています。

 松本清張は小倉に生まれ(但し、本書では「私は広島で生まれたと聞かされた」とある)、高等小学校を出た後は川北電機に勤めるも会社が倒産し、その次に印刷屋で版下づくりに携わり、色々勤め先を変わって、最終的には朝日新聞社が西部本社を開設した際に、正社員ではなく雇員としてそこの広告部に入るのですが(結局、戦争を挟んで朝日新聞には20年勤務することになる)、広告デザイナー(と言っても派手なものでなく、地元広告主の新聞突出広告の版下を作る程度のものだが)としての仕事は性に合っていたみたいです。
 個人的には、自分自身も学生時代に本書を読み、後に広告会社に就職したこともあって、書いてあることが身近に感じられました。

 衛生兵として朝鮮で終戦を迎えた時、玉音放送が雑音で聞き取れず、「未曾有の戦局に一致して当たれということだ」と参謀長が訓示したという体験談なども単純に面白かったです。

 しかし今回読み直して興味深く読めた大きな理由は、松岡正剛氏が「おそらくは清張が決して言わなかったことがあったはずである。それは、清張の作品のすべてが、少年期から壮年期までの松本清張自身が"社会"からうけてきたあることに関する"復讐"だったということである」(『松岡正剛の千夜千冊』-松本清張『砂の器』)と書いていたことが念頭にあったためで、そのことに照らして本書を読むと、『砂の器』の和賀英良にしろ『黒革の手帳』の原口元子にしろ、どれも作者自身が投影されている面があることが本書を読んでよくわかる気がし、また、それは否定できないことであるように思えたからです(清張自身は、松岡氏が言うように、作品の登場人物と自身との関係に関するそうした捉え方を、最後まで否定し続けたが)。
 
 【1966年単行本・1992年新装版[河出書房新社]/1970年文庫化[新潮文庫]】

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犯人決めつけ的な導入を"お約束事"として諒解してしまえば、『点と線』同様に楽しめるかも。

時間の習俗 カッパノベルズ.jpg          時間の習俗 新潮文庫.jpg 時間の習俗2.jpg       点と線.png
時間の習俗 (1962年) (カッパ・ノベルス)』『時間の習俗 (新潮文庫)』 [旧版/新版])『点と線―長編推理小説 (カッパ・ノベルス (11-4))
関門海峡を望む和布刈神社/旧正月の和布刈神事 [共同通信社]
Mekari Shrine.jpg和布刈神事.jpg 神奈川県・相模湖畔で運送業の業界紙の社長が、女性とカップルで旅館を訪れた後に死体で発見されるが、同伴の女性の行方は杳として知れず、容疑者であるタクシー会社の専務には、丁度その時刻、北九州・門司の和布刈神社で毎年旧正月深夜に行われる「和布刈神事」を参観し、その様子をカメラに収めているという完璧なアリバイがあった―。

 『点と線』('57(昭和32)年発表)が掲載されたのと同じ「旅」誌の'61(昭和36)年5月号から翌年11号にかけて連載された作品で、『点と線』と同じように東京の三原警部補と博多の鳥飼刑事のコンビが、容疑者の完璧なアリバイに臨むもの。

 『点と線』は『ゼロの焦点』と並ぶ作者の代表作ですが、社会派的色彩の強い『ゼロの焦点』に比べ、『点と線』の方が謎解きのウェイトが高いように思え、それでも『点と線』もまた犯人の動機から「社会派推理小説」と呼ばれるわけですが、その続編とも言うべきこの作品は(事件自体は全く別物)、完全にアリバイ崩しに焦点を合わせた純粋ミステリになっています。

 三原警部補の頭の中が完全に「点と線」モードになっていて、一番完璧なアリバイを持っているように見える、考えられる容疑者の中で事件から最も遠そうな人物に最初からターゲットを絞り込んでおり(殆ど「刑事コロンボ」のような倒叙法に近いと言える)、この点が不自然と言えば不自然かも知れませんが、その分アリバイ崩しに"効率良く"没頭することが出来、結果として、"完璧過ぎる"アリバイや崩しても崩しても現れる新たなアリバイに、ここまで周到にやるからには犯人はこいつしかないと誰もが思うだろうと...途中から納得。

 終盤の畳み掛けるようなアリバイ崩しの展開がテンポ良く、作家の力量を窺わせますが、「犯人決めつけ」的な導入を"お約束事"として諒解してしまえば、トータルで見て『点と線』と同様に楽しめるのではないかとも思いました(写真トリック等には時代を感じるが、それも昭和ノスタルジーとして味わえばいいか)。

時間の習俗(TBS).jpg と言いつつ、何十年ぶりかの再読で相当に中身を忘れてしまっていて、幸か不幸か殆ど初読のような感じで読めましたが、こうした「推理」主体のものは、時々読み返したり映画化されたりしたものを観たりしないと、結構どんな話だったか忘れるなあと思った次第です(この作品は映画化はされていないが、下記の通り2度ばかりドラマ化はされている)。
 •1963年「時間の習俗(NHK)」大木実・冨田浩太郎・中村栄二
 •1982年「時間の習俗(TBS)」萩原健一・藤真利子・井川比佐志

「時間の習俗」(1982年、TBS)

 【1962年ノベルズ版[光文社]/1972年文庫化[新潮文庫]】

《読書MEMO》
●2014年再ドラマ化 【感想】 原作の精緻なトリックは端折って、サイドストーリーをBL小説風に拡大した感じか。

時間の習俗 フジテレビ0.jpg時間の習俗 フジテレビ2.jpg時間の習俗 フジテレビ3.jpg「松本清張スペシャル 時間の習俗~フジテレビ開局55周年特別番組」●演出:光野道夫●脚本:浅野妙子●原作:松本清張●出演:内野聖陽/津川雅彦/加藤雅也/木南晴夏/田村亮/片岡信和/橋本じゅん/酒井若菜/千葉雄大/梅沢昌代/小須田康人/伊藤正之/井上肇/やべけんじ/山地健仁●放映:2014/04/10(全1回)●放送局:フジテレビ

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平沢無罪説を先駆的に展開。GHQの関与については"隔靴掻痒の感"は否めないが。

小説帝銀事件.jpg小説帝銀事件 (1959年)松本 清張 『小説 帝銀事件』.jpg 小説 帝銀事件.jpg小説帝銀事件 (角川文庫)
昭和23年9月28日毎日新聞
帝銀事件02.jpg帝銀事件.jpg '59(昭和34)年に雑誌「文藝春秋」に発表された松本清張の「昭和史発掘シリーズ」に先立つ昭和の事件モノで、「昭和史発掘シリーズ」の中でも'48(昭和23)年という占領時代に起きたこの「帝銀事件」は取り上げられていますが、「小説」と頭に付くのは、捜査に疑念を抱いた新聞社の論説委員の視点からこれを描いているのと、事件の部分がセミドキュメンタリータッチで再現されているためでしょうか。

 12人が死亡した凶悪事件と平沢貞通画伯が犯人に祭り上げられていく過程もさることながら、個人的には本書によって初めて、関東軍細菌戦部隊(731部隊)の生き残り関係者の事件への関与が疑われること、彼らはGHQの保護下にあったことなどを知り、そっちの方の衝撃も大きかったです。

 731部隊がいかに残虐の限りを尽くしたか、また、その戦犯行為の当事者らが人体実験を含む研究データを渡す代わりに戦争犯罪に問われないと言う約束をGHQに取り付け免責されたという事実については、森村誠一氏の『悪魔の飽食―「関東軍細菌戦部隊」恐怖の全貌!長編ドキュメント』('81年/カッパノベルズ)があるし(この本は後に記述や写真の誤謬を多く指摘された)、太田昌克氏の『731 免責の系譜―細菌戦部隊と秘蔵のファイル』('99年/日本評論社)青木富貴子氏の『731-石井四郎と細菌戦部隊の闇を暴く』('05年/新潮社)では "免責問題"をより深く追及していますが、「小説帝銀事件」の発表は『悪魔の飽食』と比べても、それより20年以上早いことになります。

 いま読み直してみると、最初に挙がった何人かの容疑者の中に平沢の名前があり、一旦それが消えて軍関係者へ嫌疑が向けられるも、そちら方面の捜査が打ち切られて再び平沢の名が浮上したという経緯や、面通しの結果誰も平沢を犯人だとする人がいなかったこと、彼の病的な虚言癖などについては細かく書かれている一方で、GHQの関与については"隔靴掻痒の感"は否めず、このことは、平沢は無実の罪に問われたということが公然の事実のようになっている今と違い(歴代の法務大臣が誰も死刑執行のハンコを押さなかったわけだし)、「事件は解決済み」とする風潮がまだ根強かった当時としては、米軍から情報を得られない限りは、平沢を犯人とする根拠の脆弱さに的を絞って、そこから平沢無実説を導き出すことを主眼とするしかなかったためと思われます。

帝銀事件01.jpg平沢貞通.bmp 平沢が疑われることになった原因の1つに、所持金の出処の曖昧さの問題がありましたが、「春画を描いたと自分の口から白状すれば、彼の画家的な生命は消滅するのである」とし、「肉体的な死刑よりも、芸術的生命の処刑を重しとした」と、その精神的内面まで踏み込んで"推理"している点も作家らしく、またこれも、タイトルに「小説」と付くことの所以の1つであると思います。    
平沢貞通 (1892-1987/享年95)

犯人の行動を再現させられる平沢(Wikipediaより)

 因みに、横溝正史の『悪魔が来りて笛を吹く』(雑誌「宝石」1951年11月号 - 1953年11月号に発表)は、この帝銀事件をモチーフに書かれたと言われています(作中では「天銀堂事件」となっており、ストーリーは事件の後日譚となっている)。悪魔が来りて笛を吹く 1979.jpg原作は読んでいませんが、西田敏行が金田一耕助を演じた映画「悪魔が来りて笛を吹く」('79年/東映)を観ました(角川春樹製作、監督は「太陽にほえろ」「俺たちの旅」などのTVシリーズを手掛けた斎藤光正)。青酸カリも事件に絡んで出てきますが、メインのモチーフは近親相姦と言えるでしょうか。肝腎の謎解きの部分で複雑な家系図が出てきますが、映画ではそれが分かりにくいのが難でしょうか(「読んでから観る」タイプの映画だったかも)。歴代の横溝原作の映画化作品の中ではまあまあの評価のようですが、そのわりにはどうしたわけか西田敏行が金田一耕助を演じたのはこの1回きりでした。 

悪魔が来りて笛を吹く 1979 ポスター.jpg悪魔が来りて笛を吹く 1979 vhs.jpg悪魔が来りて笛を吹く 1979 ちらし.jpg悪魔が来りて笛を吹く【DVD】「悪魔が来りて笛を吹く」●制作年:1979年●監督:斎藤光正●製作:角川春樹●脚本:野上龍雄 ●撮影:伊佐山巌 音楽:山本邦山/今井裕●原作:横溝正史●時間:136分●出演:西田敏行/夏木勲(夏八木勲)/仲谷昇/鰐淵晴子/斎藤とも池袋東映.jpg子/石浜朗/村松英子/小沢栄太郎/池波志乃/原知佐子/山本麟一/宮内淳/二木てるみ/梅宮辰夫/浜木綿子/北林早苗/中村玉緒/加藤嘉/京唄子/村田知栄子/藤巻潤/三谷昇/熱田一久/住吉道博/村田知栄子/藤巻潤/三谷昇/金子信雄/中村雅俊/秋野太作/横溝正史/角川春樹●公開:1979/01●配給:東映●最初に観た場所:池袋東映 (79-01-13)(評価:★★☆)

池袋東映 池袋東口2分60階通り(地下に池袋日活名画座) 1985年頃閉館 

 【1961年文庫化・2009年新装版[角川文庫]/1980年再文庫化[講談社文庫]】

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宮部みゆきの読書ガイドが親切。拾いものがかなりあった。

宮部みゆき責任編集 松本清張傑作短篇コレクション (上).jpg松本清張傑作短篇コレクション 上.jpg 宮部みゆき責任編集 松本清張傑作短篇コレクション (中).jpg松本清張傑作短篇コレクション 中.jpg 宮部みゆき責任編集 松本清張傑作短篇コレクション (下).jpg松本清張傑作短篇コレクション 下.jpg  『松本清張傑作短篇コレクション〈上〉 (文春文庫)』 『松本清張傑作短篇コレクション〈中〉 (文春文庫)』 『松本清張傑作短篇コレクション〈下〉 (文春文庫)』 〔'04年〕

 「宮部みゆき責任編集」となっていますが、「責任編集」とはまさにこういうことを指すのだなあという感じ。
 8つのテーマというか視点別に数作ずつ、全部で26作品を選んでいますが、テーマごとの冒頭に宮部氏の口上があり、これが適切な読書ガイドになっています。 
 いろいろな年代の作品から万遍なく選ぶような配慮もされているようです。個人的には、拾い物が結構ありました。

【1.巨匠の出発点】
 ◆『或る「小倉日記」伝』...名作!
 ◆『恐喝者』...今で言えばストーカー
【2.マイ・フェイバリット】
 ◆『一年半待て』...夫殺しと「一事不再理」
 ◆『地方紙を買う女』...巻末に横山秀夫の翻案
 ◆『理外の理』...喰違門での首縊り
 ◆『削除の復元』...森鴎外の隠し子疑惑?
【3.歌が聴こえる、絵が見える】
 ◆『捜査圏外の条件』...上海帰りのリルが好きだった妹
 ◆『真贋の森』...贋作作戦?
【4.「日本の黒い霧」は晴れたか】                   
 ◆『昭和史発掘-二・二六事件』                    
 ◆『追放』
【5.淋しい女たちの肖像】
 ◆『遠くからの声』...姉婿から離れていく妹
 ◆『巻頭句の女』...死期が近い俳人を引き取って...
 ◆『書道教授』...(中篇)スケベ男の勘違いと顛末       
 ◆『式場の微笑』...ラブホテルでの着付けのアルバイト
カルネアデスの舟板 角川.jpg【6.不機嫌な男たちの肖像】                      
 ◆『共犯者』...自分を追ってくる共犯者と思いきや、共犯者の調査を依頼した男だった       
 ◆『カルネアデスの舟板』...大学教授間の覇権争い
 ◆『空白の意匠』...地方紙の広告部長の焦燥と憤り、奔走の末の安心と急転直下の悲哀。巧い。
【7.タイトルの妙】
 ◆『支払い過ぎた縁談』...結婚詐欺の話。ショートショートみたい!
 ◆『生けるパスカル』(中篇)...挿入話『死せるパスカル』(フロイト『ヒステリー研究』の引用の仕方が巧い)
 ◆『骨壺の風景』
【8.権力は敵か】
 ◆『帝銀事件の謎-「日本の黒い霧」より』...S.23年の帝銀事件の幕引きの黒幕は元731部隊員を使っていたGHQ?
 ◆『鴉(からす)』...組合の委員長を殺した男の話、鴉で...
【9.松本清張賞受賞作家に聞きました】


 調べてみたら、「一年半待て」や「地方紙を買う女」などは、テレビで何度もドラマ化されていました。

 「一年半待て」のテレビドラマ化
 •1960年「黒い断層~一年半待て(KR)」淡島千景・南原宏治・土屋嘉男
 •1961年「一年半待て(ABC)」斎藤美和、久松保夫・溝田繁
 •1962年「一年半待て(NHK)」斎藤美和・大滝秀治・南美江
 •1968年「一年半待て(CX)」森光子・根上淳・稲野和子
一年半待て BSTBS.jpg •1976年「一年半待て(NTV)」市原悦子・唐沢英二・緑魔子
 •1978年「一年半待て(NHK)」香山美子・早川保・南風洋子
 •1984年「一年半待て(NTV)」小柳ルミ子・勝野洋・樹木希林
 •1991年「一年半待て(ANB)」多岐川裕美・小川真由美・篠田三郎
 •2002年「一年半待て(NTV)」浅野ゆう子・布施博・丘みつ子
 •2010年「一年半待て(BS-TBS)」夏川結衣・清水美沙・市原悦子
BS-TBS 松本清張特別企画「一年半待て」2010年12月8日放映(夏川結衣・清水美沙 主演)

《読書MEMO》
●「地方紙を買う女」のテレビドラマ化
 •1957年「地方紙を買う女(NHK)」大森義夫・藤野節子・千秋みつる
 •1960年「黒い断層~一地方紙を買う女(KR)」堀雄二・池内淳子・杉裕之
地方紙を買う女.jpg •1966年「地方紙を買う女(KTV)」岡田茉莉子・高松英郎・戸浦六宏
 •1973年「地方紙を買う女(CX)」夏圭子・山本圭・井川比佐志
 •1981年「地方紙を買う女 昇仙峡囮心中(ANB)」安奈淳・田村高廣・室田日出男
 •1987年「地方紙を買う女(CX)」小柳ルミ子・篠田三郎・露口茂
 •2007年「地方紙を買う女(NTV)」内田有紀・高嶋政伸・秋野暢子
日本テレビ系「火曜ドラマゴールド〜地方紙を買う女」2007年1月30日放映(内田有紀主演)

●「書道教授」のテレビドラマ化
書道教授.jpg •1982年「書道教授(ANB)」近藤正臣・生田悦子
 •1995年「書道教授(ANB)」風間杜夫・多岐川裕美
 •2010年3月23日「書道教授(NTV)」船越英一郎、杉本彩
日本テレビ系「火曜サスペンス劇場〜書道教授」2010年3月23日放映(船越英一郎主演)

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映画を見てドラマを見て再読して、"本格派" 推理小説だったと...。

砂の器 カッパ.jpg 砂の器 (カッパ・ノベルス 11-9).jpg 砂の器.jpg 砂の器 下.jpg  砂の器 dvd.jpg 砂の器 unnmei.jpg
砂の器 (カッパ・ノベルス 11-9)』『砂の器〈上〉 (新潮文庫)』 『砂の器〈下〉 (新潮文庫)』〔'06年改版版〕「砂の器 デジタルリマスター版 [DVD]

sunanoutuwa12.jpg この作品は、'60(昭和35)年5月から翌年4月にかけて「読売新聞」夕刊に掲載され、カッパ・ノベルスで'61(昭和36)年7月刊行、'74年に映画化されたほか、'04年には中居正広主演でTVドラマ化されているので、ストーリーを知る人は多いと思います。

 映画館で映画を観て、「宿命」という言葉(または"曲の演奏")が頭にこびりついてしまい、パセティックな作品とのイメージを持っていましたが、もう一度原作にあたってみると、刑事たちに視点を置いて犯人を地道に追う"本格派" 推理小説の色合いが強いという印象を受けました(中居正広主演のテレビ版は最初から犯人を明かす倒叙型だったので、ミステリとしての面白さは半減。脇役陣は手堅いが、主演の中居正広の演技下手が目立つのも痛い)。

 好みは人それぞれだと思いますが、小説における、推理を通して徐々に、間接的に"犯人像"を浮き彫りにして行く描き方の方が、主人公の"業"のようなものがじわ〜っと感じられる気もします(元々テレビ版の配役で「人間の業」のようなものの描出を期待する方が無理がある?)。

映画「砂の器」.jpg 野村芳太郎(1919‐2005)監督、橋本忍・山田洋次脚本による映画化作品('74年/松竹)は、他の野村監督作品と比較しても、また同じ時期に映画化された他の松本清張原作のものと比べても比較的良い出来だったと思います(個人的には同監督の「鬼畜」('78年/松竹)の方が若干上かなという気がするが、松本清張自身はこの映画化作品を気に入っていたらしい。世間的な(?)評価も「砂の器」の方が上か)。

「砂の器」3.jpg 加藤剛が演じた〈和賀英良〉は、「飢餓海峡」('64年/東映)で三國連太郎が演じた〈犬飼多吉(樽見京一郎)〉や「白い巨塔」('66年/大映)で田宮二郎が演じた〈財前五郎〉と並んで、恵まれない境遇から「成り上がる男」を体現していたと思われ、また、刑事役の丹波哲郎の演技も光るものがありました(その部下役を森田健作が演じている)。

『砂の器』(1974).jpg ただし、幼児期の暗い記憶や、自分をいじめた社会に対しての見返してやるという登場人物のリベンジ・ファクターが清張作品ならではのものだと思うのですが、どこまで映像で表現されていただろうかという気もします。テレビ版では「ハンセン病」というファクターを抜いてしまっているので、なおさらに原作とのギャップを感じざるを得ませんでした。

砂の器 チラシ.bmp『砂の器』(1974)21.jpg  個人的には、この小説が今まで読んだ清張作品の中で一番だとは思わないし、「ハンセン病」に対する偏見を助長したという批判までありますが、作者の代表的な傑作作品であることに異存はなく、結末を知ったうえでも原作を読む価値はあると思います。

映画「砂の器」チラシ
Suna no utsuwa (1974)         
Suna no utsuwa (1974).jpg砂の器  1.jpg「砂の器」●制作年:1974年●製作:橋本プロ・松竹●監督:野村芳太郎●脚本:橋本忍/山田洋次●音楽:芥川也寸志●原作:松本清張●時間:143分●出演:丹波哲郎/森田健作/加藤剛/加藤嘉/緒形拳/山口果林/島田陽子/佐分利信渥美清笠智衆/夏純子/松山省二/内藤武敏/春川ますみ/花沢徳衛/浜村純/穂積隆信/山谷初男/菅井砂の器sunanoutuwa 1.jpg砂の器 丹波哲郎s.jpgきん/加藤健一/春田和秀/稲葉義男/信欣三/松本克平/ふじたあさや/野村昭子/今井和子/猪俣光世/高瀬ゆり/後藤陽吉/森三平太/今橋恒/櫻片達雄/瀬良明/久保砂の器 丹波.jpg丹波哲郎 .jpg砂の器 74松竹/橋本プロ.jpg晶/中本維年/松田明/西島悌四郎/土田桂司/丹古母鬼馬二●劇場公開:1974/10●配給:松竹●最初に観た場所:池袋文芸地下(84-02-19) (評価★★★★)●併映:「球形の荒野」(貞永方久)
丹波哲郎 2006年9月24日没

 
緒方拳 砂の器.jpg佐分利信 砂の器.jpg緒形拳/佐分利信




渥美清 砂の器.jpg笠智衆 砂の器.jpg渥美清/笠智衆




池袋文芸地下 地図.jpg文芸坐.jpg



 
池袋・文芸地下 1997(平成9)年3月6日閉館。



「砂の器」 2004.jpeg砂の器 中居版.jpg「砂の器」(TVドラマ版)●演出:福澤克雄/金子文紀●脚本:龍居由佳里●音楽:千住明●出演:中居正広/松雪泰子/渡辺謙/武田真治/京野ことみ/永井大/夏八木勲/赤井英和/原田芳雄/市村正親/かとうかずこ/佐藤仁美/佐藤二朗/森口瑤子/松岡俊介●放映:2004/01~03(全11回)●放送局:TBS

 
  【1961年ノベルズ版[光文社]/1973年文庫化・2006年改版版[新潮文庫]】

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"映画化率""ドラマ化率"の高い短編集。映像と比べるのも面白い。

黒い画集 松本 清張.jpg  松本 清張 『黒い画集』.JPG 黒い画集 新潮文庫.jpg 黒い画集.jpg   黒い画集 あるサラリーマンの証言 dvd.jpg
黒い画集―全一冊決定版 (1960年) (カッパ・ノベルス)』 『黒い画集 (新潮文庫)』 「黒い画集 あるサラリーマンの証言 [DVD]
黒い画集 全三集』(2005年12月刊行(1959年刊行の復刻版))
黒い画集 00_.jpg黒い画集2.png黒い画集3.png カッパ・ノベルズの「全一冊決定版」は、'59(昭和34)年4月から翌年7月にかけて光文社から刊行された『黒い画集』第1巻〜第3巻の抜粋で、珠玉の名編集ですが(新潮文庫『黒い画集』に同じラインアップで移植されている)、知る限りでは「遭黒い画集 あるサラリーマンの証言.gif難」「証言」「天城越え」「寒流」「凶器」「紐」「坂道の家」の所収7作中、「証言」などの4作が映画化されており(「証言」の映画化タイトルは「黒い画集 あるサラリーマンの証言」('60年/東黒い画集 あるサラリーマンの証言.jpg宝)、「遭難」は「黒い画集 ある遭難」('61年/東宝)、「寒流」は「黒い画集 第二話 寒流」('61年/東宝))、"映画化率"の高い短編集ではないでしょうか。また、何度もテレビドラマ化されているものもあります。
[右]映画黒い画集 あるサラリーマンの証言('60年/東宝)主演:小林桂樹 /[下]映画黒い画集 ある遭難('60年/東宝)出演:伊藤久哉/児玉清/香川京子/土屋嘉男
黒い画集%20ある遭難3_033.jpg黒い画集%20ある遭難.jpg
黒い画集 ある遭難0_.jpg 「遭難」('61年映画化「黒い画集 ある遭難」)は児玉清が被害者役でした。「証言」('60年映画化「黒い画集 あるサラリーマンの証言」)は小林桂樹が好演、「寒流」('61年映画化「黒い画集 第二話 寒流」)は池部良と新珠三千代の共演、「天城越え」('83年)は田中裕子の演技が高く評価された作品です(「天城越え」は'78年にNHKで大谷直子主演で、'98年にTBSで田中美佐子主演でテレビドラマ化もされている)。

 「天城越え」は、川端康成の『伊豆の踊子』に対する清張流の挑戦だという説もありますが(「踊り子を自分より下の弱い存在と見る東大生」vs.「旅の女性を憧憬のまなざしで見上げる少年」という対照的構図)、個人的にはこの説がある程度の説得力を持って感じられました。

天城越え05.jpgamagigoe.jpg 映画化作品は、テレビで途中から観ることになってしまったため評価を避けますが、田中裕子演じる件(くだん)の酌婦・大塚ハナが派出所で少年の弁明をするという、小説には無い場面があったのではなかったかと(これが先駆けとなってか、以降の映像化作品ではこうしたハナが尋問を受ける場面が必ずあるように思う)。'78年のテレビ版(大谷直子主演)ともしかしたら記憶がごっちゃになっているかもしれませんが(映画をテレビで観て、しかも別にあるテレビ版作品も観てしまうとこういうことになりがち)、警官の尋問中にハナがこらえ切れず失禁するシーンを、田中裕子が自らの申し出により仕掛け無しの体当たり演技でやったという逸話が知られているから、やっぱり映画の方をテレビで観たのでしょう。田中裕子はこの作品でモントリオール世界映画祭主演女優賞を受賞しています。
天城越え [DVD]」 ('83年/松竹)

天城越え 田中美佐子版 01.jpg「天城越え」●.jpg  更に、'98 年の田中美佐子主演のテレビ版では、少年(二宮和也)が大人(長塚京三)になってから大塚ハナと再会天城越え 田中美佐子版 dvd.jpgするという、原作にも他の映像化作品にはない独自の創作部分がありましたが、全体の出来としては悪くなく、ギャラクシー賞優秀賞などを受賞していることから一般の評価も高かったようです。この作品の翌年に「嵐」としてデビューした二宮和也のドラマ初出演作であり(当時、作中の「少年」と同じ14歳だった)、その演技が後々も話題になりますが、個人的には、田島刑事役を演じた蟹江敬三が(彼だけが同一人物の過去と現在の両方を演じているわけだが)渋みがあって良かったと思いました。 「天城越え [DVD]」('98年/TBS)

黒い画集・紐1.jpg紐.jpg '05年にテレビ東京で「紐」を放映しました。絞殺死体を巡って保険金殺人の疑いがあるものの、容疑者には完璧なアリバイがあるという話で、「サスペンス劇場」とか「愛と女のミステリー」で今も清張作品をとりあげているというのは、「清張」というネームバリューだけでなく、面白さに普遍性があるということだと思います。

松本清張スペシャル「黒い画集・紐」 ('05年/BSジャパン・テレビ東京)

 「紐」の過去のテレビドラマ化
 •1960年「紐(KR)」芦田伸介・北村和夫・千石規子
 •1979年「紐(ANB)」酒井和歌子・宇津宮雅代(宇都宮雅代)・中山仁
 •1985年「松本清張の黒い画集 紐(CX)」浅丘ルリ子・近藤正臣・佐藤允
 •1996年「紐(TBS)」名取裕子・内藤剛志・風間杜夫
 •2005年「黒い画集~紐(BSジャパン)」余貴美子・大地康雄・内藤剛志

 原作が短編なので、それをどう脚色して映画や2時間ドラマにしているのか見比べるのも面白いです。

 映画化されていませんが、「凶器」という刑事が"餅をご馳走になる"話も味があって好きです。

 「遭難」の映画化タイトルは「黒い画集 ある遭難」、「証言」は先に述べたように「黒い画集 あるサラリーマンの証言」、「寒流」は「黒い画集 第二話 寒流」で、この中では、最初に映画化された堀川弘通監督の「黒い画集 あるサラリーマンの証言」が地味ながらも面白くて(脚本は橋本忍)印象に残っています。

 「証言」は'84年には柳生博主演でテレビ朝日の「土曜ワイド劇場」で、'94年には渡瀬恒彦主演でTBSでテレビドラマ化もされていますが、'94年版の方を観ました。渡瀬恒彦は刑事ドラマにおける犯人を追いつめる「刑事」役のイメージが強いですが、こうしたドラマの追いつめられる側の「犯人」役をやらせてもうまいと思いました。

 原作と、映画やテレビドラマなどで映像化されたものとを比べてみるのも面白いかと思います。

証言0.bmp証言1.bmp「黒い画集 あるサラリーマンの証言」 (1960/03 東宝) ★★★☆

 
 
 
  
黒い画集 ある遭難 title.jpg黒い画集 ある遭難40.jpg「黒い画集 ある遭難」 (1961/06 東宝) ★★★☆
       
 

証言2.jpg「黒い画集 あるサラリーマンの証言」●制作年:1960年●監督:堀川弘通●製作:大塚和/高島幸夫●脚黒い画集 あるサラリーマンの証言      .jpg本:橋本忍●撮影:中井朝一●原作:松本清張「証言」●時間:95分●出演:小林桂樹/中北千枝子/平山瑛子/依田宣/原佐和子/江原達治/中丸忠雄/西村晃/平田昭彦/小池朝雄/織田政雄/菅井きん/小西瑠美/児玉清/中村伸郎/小栗一也/佐田豊/三津田健/西村晃/、平田昭彦●公開:1960/03●配給:東宝●最初に観た場所:池袋文芸地下 (88-01-23)(評価★★★☆)
小林桂樹/原佐和子

黒い画集 ある遭難55.jpg黒い画集 ある遭難15.jpg「黒い画集 ある遭黒い画集 ある遭難m.jpg難」●制作年:1961年●監督:杉江敏男●製作:永島一朗●脚本:石井輝男●撮影:黒田徳三●音楽:神津善行●原作:松本清志「遭難」●時間:87分●出黒い画集 ある遭難43.jpg演:伊藤久哉/和田孝/児玉清/香川京子/土屋嘉男/松下砂稚子/天津敏/那智恵美子●公開:1961/06●配給:東宝(評価:★★★☆)
香川京子/伊藤久哉/土屋嘉男

   
松本清張サスペンス「黒い画集・証言」.jpg「黒い画集・証言」●演出:松原信吾●制作:斎藤守恒/浜井誠/林悦子●脚本:大藪郁子●音楽:茶畑三男●原作:松本清張「証言―黒い画集」●出演:渡瀬恒彦/岡江久美子/有森也実/佐藤B作/段田安則/高樹 澪/山口健次/高松いく/志水季里子/渡辺いっけい/須藤雅宏/高山千草/住若博之/宮崎達也/小林勝彦/布施木昌之/梶周平/太田敦之/中江沙樹/児玉頼信/森富士夫/三上剛仙/安威宗治/桝田徳寿/武田俊彦/岩永茂/小林賢二/下川真理子/黒田国彦●放映:1992/10(全1回)●放送局:TBS

008005001360.jpg天城越え03.png「天城越え」●演出:大岡進●脚本:金子成人●原作:松本清張「天城越え―黒い画集」●出演: 田中美佐子/蟹江敬三/二宮和也/風間杜夫/室天城越え ドラマ 田中美佐子5.jpg田日出男/柳沢慎吾/余貴美子/斉藤洋介/寺島しのぶ/長塚京三/松金よね子/六平直政/遠藤憲一/不破万作/松蔭晴香/中丸新将/佐戸井けん太/温水洋一/河原さぶ/佐久間哲/都家歌六●放映:1998/1(全1回)●放送局:TBS

黒い画集・紐2.png黒い画集 紐.jpg「黒い画集~紐」●演出:松原信吾●制作:小川治彦●脚本:田中晶子●音楽:川崎真弘●出演:余貴美子/大地康雄/内藤剛志/真野響子/石橋蓮司/萩原流行/山田純大/小沢真珠/田中隆三/根岸季衣●放映:2005/01(全1回)●放送局:BSジャパン/テレビ東京

 【1959年単行本・2005年新装版[光文社]/1960年ノベルズ版[光文社]/1971年文庫化・2003年改版[新潮文庫]】

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社会ドラマとしての人間がしっかり描かれている初期代表作。

松本清張「ゼロの焦点」.jpg ゼロの焦点.jpg ゼロの焦点2.jpg 『ゼロの焦点』(1961)3.jpg 『ゼロの焦点』(1961).jpg 「ゼロの焦点」真野あずさ・林隆三 vhs - コピー.jpg
ゼロの焦点―長編推理小説 (カッパ・ノベルス)』/『ゼロの焦点 (新潮文庫)』/野村芳太郎 監督「ゼロの焦点 [DVD]」(1961年)/新藤兼人脚本「ゼロの焦点 [VHS]」(1991年)

 板根禎子は、広告代理店に勤める鵜原憲一と見合い結婚、信州から木曾を巡る新婚旅行を終えた。その7日後、東京へ転勤になったばかりだった憲一は、仕事の引継ぎをしてくると言い前勤務地の金沢へ出張へ旅立つが、予定を過ぎても帰京しない―。やがて禎子のもとに、憲一が北陸で行方不明になったという勤務先からの知らせがある。
 禎子は単身捜査に乗り出すが、その過程で夫の知られざる過去が浮かび上がる―。

点と線.png 『ゼロの焦点』('58年発表)は、松本清張(1909‐1992)が点と線の翌年に発表したものですが、最初読んだ時は、時刻表トリックにハマって『点と線』の方が面白く感じたものの、時間が経つにつれ、『ゼロの焦点』も好きな作品になってきました(『点と線』のトリックは時代を経ても色褪せたという印象は無く、むしろ、見合いだけで相手のことをよく知らないで結婚する―という設定においては、『ゼロの焦点』の方がよりクラシカルな雰囲気の背景設定とも言えるかも)。

点と線―長編推理小説 (カッパ・ノベルス (11-4))』 

松本清張1.jpg この『ゼロの焦点』が書かれた時点で"社会派"推理小説というジャンル分けは確立していなかったと思いますが、この辺りがその始まりではないでしょうか。ミステリーとしては瑕疵が多いとの指摘もありますが、社会ドラマとしての人間がしっかり描かれて、これがこの作家の大きな魅力でしょう。また、清張の推理小説作品の中でも、風景の描写などに文学的な細やかさがあり、『点と線』と並んで"旅情ミステリー"のハシリとも言えるのではないでしょうか。冒頭部分だったかが国語の試験問題に出されたのを覚えています。

『ゼロの焦点』1.jpgzero1b.jpg 映画化された「点と線」('58年・カラー)「ゼロの焦点」('61年・モノクロ)をそれぞれ観ましたが、「ゼロの焦点」の方が、白黒の画面が"裏日本"北陸の寒々とした気候風土に合った感じがして良かったです(松本清張がヒッチコックばりにちらっと出演していますが、どこで出てくるかは見てのお楽しみ)。
映画「ゼロの焦点 [DVD]」(1961年/松竹)
      
「ゼロの焦点」●vhs.jpg野村 芳太郎『ゼロの焦点』(1961)2.jpg 多くのサスペンスドラマの典型モデルとなった、日本海の荒波を背に崖っぷちで犯人が告白するというラストシーンなど、橋本忍の脚本の運びを原作と比べてみるもの面白いかと思います(橋本忍脚本の犯人の長台詞は、込み入った原作の背景を1時ゼロの焦点9.jpg間半の映画に収めようとした結果の「苦肉の策」としてのものだったともとれるのだが)。

 この映画作品が発表された後、作品の舞台周辺への観光客が増加し、一方、能登金剛・ヤセの断崖(映画の舞台)での投身自殺が急増したとのことです。自分も行ったことがありますが、「早まるな」と書いた立て札があったように思います。

 因みに、「ゼロの焦点」は、調べた限りでは60年代から90年代にかけて6回テレビドラマ化されていますが、「点と線」は1回もドラマ化されていないようです。(「点と線」はその後、2007年にビートたけし主演でドラマ化)
ゼロの焦点 1991.jpg •1961年「ゼロの焦点(CX)」野沢雅子・河内桃子
 •1971年「ゼロの焦点(NHK)」十朱幸代・露口茂
 •1976年「ゼロの焦点(NTV)」土田早苗・北村総一朗
 •1983年「松本清張のゼロの焦点(TBS)」星野知子・竹下景子
 •1991年「ゼロの焦点(NTV)」真野あずさ・林隆
 •1994年「ゼロの焦点(NHK BS-2)」斉藤由貴・萩尾みどり

「ゼロの焦点」真野あずさ・林隆三.jpg この中で印象に残っているのは'91年の鷹森立一監督の日テレ版で、眞野あずさ (板根禎子)、林隆三(北村警部補)、芦川よしみ(田沼久子)、増田恵子(室田佐知子)といった布陣ですが、原作者・松本清張の指名を受けた新藤兼人(1912‐2012/享年100)が脚本を手掛けています。個人的には、主役の真野あずさ、林隆三(1943‐2014/享年70)とも良かったように思います。眞野あずさ 演じる板根禎子が、パンパン上が「ゼロの焦点」真野あずさ.jpgりのふりをして増田恵子(元ピンク・レディー!)演じる室田佐知子に探りを入れるというのが素人にそこまで演技が出来るかと思うとちょっとどうだったか。ラストの犯人が海上に小舟を漕ぎ出すシーンの撮影に関しては新藤兼人の発案ではなく、原作者である松本清張の希望により脚本に導入され、むしろ新藤は難色を示したものの、その方向で撮影が行われたとのこと(原作も一応そうなっているのだが)。おそらく松本清張は、このTV版のロケの時期が初夏になったことで、部分的に趣向を変えてみてもいいかなと考えたのではないでしょうか。すでに5回目のTVドラマ化であったというのもあるかと思います。

Zero no shôten (1961)
Zero no shôten (1961) .jpg「ゼロの焦点」●制作年:1961年●監督:野村芳太郎●脚本:橋本忍/山田洋次●撮影:川又昂●音楽:芥川 也寸志●原作:松本清張●『ゼロの焦点』2.jpg時間:95分●出演:久我美子/高千穂ひづる/有馬稲子/南原宏治/西村晃/加藤嘉/穂積隆信/野々浩介/十朱久雄/高橋とよ/沢村貞子/磯野秋雄/織田政雄/永井達郎/桜むつ子/北龍二/稲川善一/山田修吾/山本幸栄/高木信夫/今井健太郎/遠山文雄●劇場公開:1961/03●配給:松竹●最初に観た場所(再見):北千住・シネマブルースタジオ(11-02-20)(評価★★★☆)

「ゼロの焦点」真野あずさ・林隆三 vhs.jpg「ゼロの焦点―松本清張作家活動40年記念スペシャル」●監督:鷹森立一● プロデュー増田恵子.jpgサー:嶋村正敏(日本テレビ)/赤司学文(近代映画協会)/坂梨港●脚本:新藤兼人●音楽:大谷和夫●原作:松本清張●出演:眞野あずさ/林隆三/増田恵子(元ピンク・レディー)/芦川よしみ/藤堂新二/並木史朗/岸部一徳/神山繁/音無真喜子/乙羽信子/平野稔/金田明夫●放映:1991/07/09(全1回)●放送局:日本テレビゼロの焦点 [VHS]」 

ゼロの焦点 ブルーレイ.jpg『あの頃映画 the BEST 松竹ブルーレイ・コレクション ゼロの焦点』 [Blu-ray]ゼロの焦点 [VHS]/(2009年再映画化)新潮文庫・映画タイアップカバー 
映画「ゼロの焦点」(1961) vhs.jpg ゼロの焦点 新潮文庫.jpg
   
ゼロの焦点0.jpgゼロの焦点 2009.jpgゼロの焦点 2009 03.jpg犬童 一心 「ゼロの焦点」 (2009/11 東宝) ★★★

【1959年ノベルズ版・2009年カッパ・ノベルス創刊50周年特別版[光文社]/1971年文庫改版[新潮文庫]】 

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芥川賞作家としての松本清張の作品。「火の記憶」もよかった。

或る「小倉日記」伝 65.jpg或る「小倉日記」伝.jpg  『或る「小倉日記」傳』.jpg    「或る『小倉日記』伝」.jpg
或る「小倉日記」伝』 新潮文庫['65年/旧版]['97年/改版]/『或る「小倉日記」伝―他五篇 (1958年) (角川文庫)』/松本清張一周忌特別企画「或る『小倉日記』伝」('93年TBS/出演:筒井道隆、国生さゆり)

 松本清張(1909‐1992)の初期12作を所収。表題作「或る『小倉日記』伝」は'52(昭和27)年下半期・第28回「芥川賞」受賞作で、同じ期の直木賞候補作品にもなっています(まず直木賞候補となり、その後直木賞選考委員会から芥川賞選考委員会へ廻された)。結果的に芥川賞の方を受賞しましたが、歴代の「芥川賞作家」で最も多くの読者を獲得したのは松本清張だと言われています(歴代の「直木賞作家」で最も多くの読者を獲得したのは司馬遼太郎だと言われている。「菊池寛賞」を、司馬遼太郎は『竜馬がゆく』『国盗り物語』などの功績により'66年に、松本清張は『昭和史発掘』などの功績により'70年にそれぞれ受賞している)。

 「或る『小倉日記』伝」の主人公である脳性麻痺の郷土史家・田上耕作は実在の人物ですが、作者は見事な創作に昇華しています。失われたとされる鷗外の「小倉日記」を再構築しようとする主人公の熱意。何が彼をそこまで駆きたて、また、その追跡努力に意義はあったのか?という大きな問いかけが主テーマだと思いますが、主人公に限らず、何らかの形で自らがこの世に存在したことの証を示したいという思いは誰にでも共通にあるものであり、それゆえに主人公のひたむきさが胸を打ちます。伝記的なスタイルをとりながらも、叙情溢れる表現が随所に見られ、また、主人公の母親の子に対する愛情の深さには胸が熱くなりました(確かに、「芥川賞」と「直木賞」の両方の要件を満たすものをこの作品は持っているかも)。

 '93(平成5)年に「松本清張一周忌特別企画」としてTBSでドラマ化されましたが、主演の筒井道隆は頑張っていたという感じ(この俳優は映画デビュー作の「バタアシ金魚」から観ている)。多くの賞を受賞しましたが、原作はミステリと言うより文芸作品に近いものだからなあ。原作の微妙な情感がどこまで表現されていたかと言うと微妙なところ。

 同録のものでは、同じく純文学的色彩の濃い「火の記憶」が好きです。この作品の"ボタ山の炎の記憶"と『或る「小倉日記」伝』の"鈴の音の記憶"は、ともに作品の重要なファクターとなっていますが、登場人物の幼い頃の記憶であるにも関わらず、読む側にも不思議な郷愁、幼児期の記憶を呼び起こさせるものがありました。

「或る「小倉日記」伝」●演出:堀川とんこう●制作:堀川とんこう●脚本:金子成人●原作:松本清張●出演:松坂慶子/筒井道隆/蟹江敬三/国生さゆり/大森嘉之/佐戸井けん太/今福将雄/松村達雄/西村淳二●放映:1993/08(全1回)●放送局:TBS

《読書MEMO》 
「新潮文庫」版 収録順
●或る「小倉日記」伝★★★★★.
●菊枕...狂った女流俳人ぬい(杉田久女がモデル、遺族の訴えで名誉毀損に)
●火の記憶★★★★★...ボタ山の炎の記憶、警官と母の不倫
●断牌...代用教員上がりの異端考古学者・木村卓司(森本六爾がモデル)
●壺笛...女で身を滅ぼした考古学者
●赤いくじ...朝鮮での軍医と参謀長の女性を巡る確執
●父系の指...自伝的要素の強い作品だが、清張は創作だと言っていた
●その他に「石の骨」「青のある断層」「喪失」「弱味」「箱根心中」を収録

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「●日本のTVドラマ (90年代~)」の インデックッスへ(「西郷札」)

松本清張の短編集に手をつけてみたい人には最もオススメできる1冊。

西郷札.jpg  松本 清張 『西郷札』.jpg  「西郷札」.jpg
西郷札-松本清張短編全集〈1〉 (カッパ・ノベルス)』〔'63年〕/『西郷札―松本清張短編全集〈01〉 (光文社文庫)』/「松本清張作家活動四十年記念ドラマスペシャル「西郷札」【TBSオンデマンド】」('91年TBS/出演:緒形直人、仙道敦子)

 表題作の「西郷札(さつ)」とは、西南戦争中に薩軍が発行した軍票(兌換紙幣)のこと。薩軍にいた主人公・樋村雄吾はその造幣に携わるが、敗戦後は人力車夫となる。そしてある日、かつて思いを寄せていた義妹と偶然に再会するが、彼女は政府要人・塚村圭太郎の妻になっていた。ふたりは逢引を重ねるが、雄吾はふとしたことから西郷札の政府買い上げ運動の協力をある人物から要請され、義妹を通して塚村に会う。塚村の「充分(政府が西郷札を買い上げる)見込みがある」という言葉に、雄吾は自分自身のために西郷札の買占めに奔走するが―。

 『週刊朝日』が'50(昭和25)年に募集した小説コンクールに松本清張(1909‐1992)が応募し、「3等」に入選したデビュー作ですが、ホントは実力的には「1等」の評価だったようです。しかしながら、作者が朝日新聞の校正部に勤めていることが判明し、慌てて「3等」にしたわけで、現にこの作品は直木賞候補になっています。

 それにしても歴史から題材を得るのがうまい(このうまさに三島由紀夫が嫉妬して、文学全集編纂のとき松本清張を外したという話もある)。多分、明治初期のキャリア官僚で、出世コースび乗りながら後世に名を残していない人物がいることから、こうした物語を構想したのではないかと言われています。

 '91(平成3)年に松本清張の作家活動40周年記念としてTBSでドラマ化され(NHKに次いで2回目)、緒形直人、仙道敦子が主演、この2人は共演の2年後に結婚しました。

西郷札―松本清張短編全集1.jpg カッパ・ノベルズの松本清張短編全集は'63(昭和38)年に刊行されましたが、'77年と'02年に改訂が行われていて、02年改訂は「没後10周年企画」として行われました。全11巻あり、この第1巻には初期の作品が8作収められて、「くるま宿」「或る『小倉日記』伝」「火の記憶」などの名作が並び、「啾々吟」「戦国権謀」「白梅の香」といった歴史小説もあります。個人的には最後の、阿蘇で自殺しそこなった人を助けるという変わったことをしている親父から聞いた話を裏返して書いた「情死傍観」が拾い物でした。清張の短編集に手をつけてみたい人には最もオススメできる1冊です。

「西郷札」●演出:大岡進●制作:堀川とんこう●脚本:金子成人●音楽:奥慶一●原作:松本清張「西郷札」●出演:緒形直人/仙道敦子/蟹江敬三/川谷拓三/中田喜子/柳沢慎吾/前田吟/大滝秀治/風間杜夫●放映:1991/04/08(全1回)●放送局:TBS

 【1963年ノベルズ版・2002年第3版[光文社]/1965年文庫化[新潮文庫]/2008年再文庫化[光文社文庫]】

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