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ノンシリーズものだが面白くて味わいがある。長編的素材を圧縮して中編にしたという印象。

麦屋町昼下がり 1989.jpg 単行本['89年] 麦屋町昼下がり 文庫.jpg麦屋町昼下がり (文春文庫)

 片桐敬助は、御蔵奉行で上司の草刈甚左衛門から呼ばれて帰りが遅くなった。呼ばれたのは縁談の話だったが、相手は片桐敬助より身分が上の家柄だった。帰り道、敬助は男に追われる女を救おうとしてその男を斬り殺してしまうが、斬った男は女の舅・弓削伝八郎で、女には不義密通を働いていたという噂があり、嫁の不義に怒った舅が女を追っていた可能性もある。舅の息子、即ち女の夫の弓削新次郎は藩内随一の剣の使い手で、近く江戸詰めから戻ってきたら父の仇を討つのではとの噂が広まる。敬助は家中の試合では弓削に勝ったことはない。敬助は、殺すべきでない男を殺してしまったのではないかと悩む一方、弓削との決闘を覚悟して、師匠が薦めた大塚七十郎について稽古を重ねていたが、ある時その弓削と出会って声掛けされるも、彼は意外にも敵意を見せない。何月か後、弓削が城下で刃傷沙汰に及んでいるとの知らせが入り、敬助に討手としての命が下りる―(「麦屋町昼下がり」)。

 「麦屋町昼下がり」「三ノ丸広場下城どき」「山姥橋夜五ツ」「榎屋敷宵の春月」の短編4編を収録し、何れも「オール讀物」の昭和62年6月号から昭和64年1月号にかけて掲載されたノンシリーズ物の読み切り作品です(作者・藤沢周平は平成元年10月に菊池寛賞受賞)。

 表題作の「麦屋町昼下がり」がやはり一番面白く、個人的には、弓削新次郎というのが、新次郎と敬助との間に一悶着あるだろうという噂が藩内に立つ中で、敬助に直接事情を訊いて、倒すべき相手は誰かを確認したうえで刃傷沙汰に及んでいるのが興味深いです(この弓削新次郎というのは、天才剣士であるものの翳のあり、物語の流れからしても"悲劇的人物"なのだが、ある面でちょっと爽やかな点もあったりして...)。

 「三ノ丸広場下城どき」も剣戟小説風で、藤沢作品では珍しいタイプのものが続きますが、主人公自身は現時点では剣豪というほどでもなく、しかし世間が言うほどにはナマっておらず、最後は―という、「たそがれ清兵衛」などの普段は地味だが実は凄腕だったというのとはまた少し違った趣があってこれもいいです(因みに山田洋次監督の映画「たそがれ清兵衛」('02年/松竹)の清兵衛の描き方は、「麦屋町昼下がり」の片桐敬助に近いか)。

 以下、「山姥橋夜五ツ」「榎屋敷宵の春月」と藩内の政略絡みのものが続き、企業小説の時代劇版みたいな感じですが、その分、身近な感じで読めてしまうのが妙。

 「三ノ丸広場下城どき」では出戻りで怪力の女中・茂登が活躍し、「榎屋敷宵の春月」は寺井織之助の妻・田鶴自身が主人公で、最初はサラリーマンの奥さん同士の世界を描いた風だけど、やがてそこにも政治が影を落とし、結局妻の方が日和見の亭主に見切りをつけて自ら重役の悪事を暴こうと小刀を振るうという、何だか昭和61年の男女雇用機会均等法制施行を背景にしたような感じも。

 人妻の田鶴に言い寄る小谷三樹之丞というのも、公私はきっちり分けていて、それをまた田鶴に問うたりするところが印象に残る人物でした。田鶴が公憤ではなく私情に駆られて三樹之丞のもとを訪れたのならば、自分も私情により...ということでしょうか。

花の誇り2.jpg花の誇り1.jpg この「榎屋敷宵の春月」は、2008年の暮にNHKが「花の誇り」というタイトルでTVドラマとして映像化していますが(脚本:宮村優子、出演:瀬戸朝香/酒井美紀)、個人的には未見です。

NHKドラマ「花の誇り」(原作:「榎屋敷宵の春月」)

 4編は何れも物語の背景の描き方などが丁寧で、短編集と言うより、長編にでも出来そうな素材を圧縮して中編にしたという印象があり、またそれぞれに味わいもあって、こうした密度の濃い作品(作風自体は重厚と言うより爽やかといった感じか)をコンスタントに発表していた作者の力量はやはり並のものではなかったなあと思わされました。

【1992年文庫化[文春文庫]】

《読書MEMO》
●三ノ丸広場下城どき
次席家老の臼井内蔵助は、守屋市之進から、江戸の側用人・三谷甚十郎が自分と新海屋との繋がりに気付き、三谷からの使者が中老の新宮小左衛門を訪ねに来るという話を聞き、その密書を奪うことを画策、三谷が使者に護衛を付けて欲しいと市之進に頼んできたのを幸いとし、昔は剣で鳴らしたが今はナマっていると思われる粒来重兵衛をわざと護衛に選ぶ。重兵衛は護衛を引き受けるが果たして失敗し、自分が罠にかけられたのを悟る。重兵衛は、一体誰が何のために自分を陥れたのかを探索する一方で、鈍った体を鍛え直し始める―。
●山姥橋夜五ツ
柘植孫四郎は息子の俊吾が道場で喧嘩をふっかけていると聞き驚き、原因は、自分が瑞江を離縁したことだろうと思った。離縁したのは、瑞江に不義の噂が立ったためだった。そうした中、塚本半之丞が腹を切り、孫四郎に宛てた遺書の内容は、先代の藩主は病死ではなく謀殺されたという驚くべきものであり、半之丞はそのことを口に出来ず、思い悩んでの憤死だったようだ。孫四郎は、自分の家禄が削られた事件を思い出し、それも先代の藩主の死と関係があるのかもしれないと思って、真相究明に動き始めた―。
●榎屋敷宵の春月
家老の宮坂縫之助の死去に伴い、後任の執政入りの人選が始まろうとしていたが、田鶴は夫・寺井織之助が執政になるための運動が捗々しくないのを知った。競争相手は露骨に金をばらまいているらしいが、寺井家には金銭の余裕はない。今回の競争には古い友達の三弥の夫も加わっており、田鶴は三弥にだけは負けられないと思っていた。三弥は、田鶴にとって特別な存在だった長兄・新十郎の気持ちを知っていたはずであり、だから、三弥が他家に嫁ぎ新十郎が自殺したときには衝撃を受けた。田鶴はお理江さまから呼ばれて小谷家に向かうが、門前でお理江さまの兄・小谷三樹之丞と出会った。帰り際にお理江さまから、三弥が早くに来て三樹之丞と会っていたことを聞く。小谷三樹之丞は藩政に影響力を持っている人物である。その帰り道、家の前で斬り合いが行われ、江戸屋敷からきた関根友三郎という者が襲われていた―。

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隠れた剣客というだけではなく、自分なりの価値観を持つ男たち。

たそがれ清兵衛 映画タイアップカバー.jpgたそがれ清兵衛2.jpg たそがれ清兵衛 dvd.jpg m020937a.jpg
たそがれ清兵衛』 単行本新装改訂版 ['02年] 「たそがれ清兵衛 [DVD]」 (松竹/監督:山田 洋次/出演:真田広之, 宮沢りえ)
たそがれ清兵衛 (新潮文庫)』(カバー:村上 豊) 

 表題作「たそがれ清兵衛」のほか、「うらなり与右衛門」「ごますり甚内」「ど忘れ万六」「だんまり弥助」「かが泣き半平」「日和見与次郎」「祝い人助八」の全8編を収録。

 一見すると情けないほど貧相だったり頼りなさげだったりするため普段は侮られているのだけれど、いざという時には毅然とした行動をとる男たちの話。彼らは何れも、しがない宮仕えの下級武士なのですが、実は知られざる(知る人ぞ知る)凄腕の剣客なのである―こうした「スーパーヒーロー」と言うよりむしろ「アンチヒーロー」達による剣豪小説は、サラリーマンの心をくすぐるものがあるのかも知れません。

 表題作「たそがれ清兵衛」のように、意図せずに上意討ちの討ち手に選ばれてしまうといった話が多いのですが、命令には従い、そしてやり遂げる。しかし、そのことを足掛かりに出世しようなどという気は毛頭ない―。 "逆刺客"を倒した直後も番所へ届けず、とっとと家路を急ぐ主人公の姿に、夫婦愛というより、自分なりの価値観を持った人間が描かれていると思いました。

 「うらなり与右衛門」「日和見与次郎」などは義憤による敵討ちの話で、外見や日頃の立ち振る舞いでは窺えない主人公の心意気が伝わってきます。風呂敷包みに隠されていた"うらなり"与右衛門のしたたかさ、黒幕を絶対に許さない"日和見"与次郎の徹底ぶりが、"うらなり"や"日和見"といった外見とは対照的であり、強く印象に残りました。 

たそがれ清兵衛 0.jpg 「たそがれ清兵衛」は2002年に山田洋次監督によって映画化され、山田監督はこれが初の時代劇でしたが、第76回キネマ旬報ベスト・テンの第1位に選ばれました。元が短編であるだけに、他と短編と組み合わせて話を膨らませている部分があり、真田広之演じる清兵衛は、最近妻に死なれ、認知症の母と幼い娘2人を抱えており、残業しないのも無理はないという感じで(しようと思っても出来ない)、 宮沢りえ演じるヒロインの朋江は、夫の家庭内暴力で出戻りとなった親友の妹という設定になっています(何だか現代的)。

たそがれ清兵衛 殺陣.jpg 清兵衛と朋江の相互の切ない想いの描き方は感動的でしたが、原作はもっと軽い感じだったという印象。但し、意図せずに上意討ちの討ち手に選ばれてしまうというのは原作通りで、真田広之と田中泯の殺陣シーンはなかなかリアリティがありました。こうした、テレビ時代劇などにある従来のお決まりの殺陣シーンとは違った演出ばかりでなく、時代考証も細部に行き届いているようで、山田監督の初時代劇作品への意気込みが感じられ、真田広之、宮沢りえの演技も悪くなかったです(それぞれ日本アカデミー賞・最優秀主演男優賞・女優賞を受賞)。

 でも、恋愛を描いたことで、完全に原作とは別物の作品になった印象もありました。話の枠組みを岸恵子(成人となった清兵衛の娘)の語りにする必要もなかったし、その語りによるエピローグで清兵衛を戊辰戦争で死なせる必要も無かった―更に言えば、どうせここまで改変するならば、2人を結婚させず悲恋物語にしても良かったように思います。

たそがれ清兵衛 01.jpg「たそがれ清兵衛」●制作年:2002年●製作:大谷信義/萩原敏雄/岡素之/宮川たそがれ清兵衛 丹波哲郎.jpg智雄/菅徹夫/石川富康●監督:山田洋次●脚本:山田洋次/朝間義隆●撮影:長沼六男●音楽:冨田勲●原作:藤沢周平「たそがれ清兵衛」「竹光始末」「祝い人助八」●時間:129分●出演:真田広之/宮沢りえ/田中泯/小林稔侍/大杉漣/吹越満/深浦加奈子/神戸浩/伊藤未希/橋口恵莉奈/草村礼子/嵐圭史/岸惠子/中村梅雀/赤塚真人/佐藤正宏/桜井センリ/北山雅康/尾美としのり/中村信二郎/丹波哲郎●劇場公開:2002/11●配給:松竹 (評価★★★☆)

 【1988年単行本・2002年新装版[新潮社]/1991年文庫化・2006年改版[新潮文庫]】

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恋するキャリアウーマン。職探しの侘しさとユーモア。人物の描き方の幅。

刺客 単行本.jpg 『刺客―用心棒日月抄』(1983年) 刺客.jpg刺客 用心棒日月抄.jpg 『刺客―用心棒日月抄(じつげつしょう) (新潮文庫)』(カバー:村上 豊) 

 藤沢周平(1927‐1997)の時代小説シリーズ「用心棒日月抄」の第3弾で、「小説新潮」に'81年から'83年にかけて断続連載された作品。
 主人公の青江又八郎は、お家乗っ取りを画策する黒幕から、陰の組織「嗅足組」を壊滅するため江戸に放たれた5人の刺客を倒すべく、3度目の脱藩をし用心棒稼業をしながらその機を窺う―。

 藩士の非違を探る「嗅足組」の女首領・佐知は、本シリーズの第2の弾「孤剣」では又八郎と対決したこともありましたが、最後には又八郎の危機を救った女性。
 本作では、又八郎の陰となり活躍しつつ、又三郎に想いを寄せる姿が切ない。職場の男性に恋したキャリアウーマンといったところでしょうか。

 又八郎の用心棒暮らしの侘しさや、用心棒仲間の浪人・細谷とのユーモラスなやりとりが、親近感を抱かせます。
 2人は"口入れ屋"を通して用心棒の仕事を探しますが、今で言う人材派遣業者への登録か(ただし、又三郎も細谷も腕が立つので口入れ屋の二枚看板になっている)。

 又八郎は基本的にはストイックなのですが、妻子持ちでありながら佐知と交情するなど、決して聖人君主ではありません。この辺りに作者の人物の描き方の幅を感じました。

 「用心棒日月抄」「孤剣」「刺客」、そして少し後に書かれた「凶刀」と進むにつれて、一話完結スタイルから長編小説のような構成に推移していますが、この「刺客」あたりが、既に説明的な記述はあまり要しなくなっていて、又八郎のキャラクターも確立されていて、一番切れ味鋭いというか無駄がないように感じました。

 「用心棒日月抄」が「腕におぼえあり」(村上弘明・渡辺徹主演)としてNHKでドラマ化されて人気を博し、2003年にシリーズ4冊とも単行本が新装改訂されています。

腕におぼえあり DVD.jpg腕におぼえあり nhk.jpg「腕におぼえあり(1)~(3)」●演出:大原誠ほか●制作:一柳邦久●脚本:中島丈博/金子成人●音楽:近藤等則●原作:藤沢周平「用心棒日月抄」●出演:村上弘明/渡邊徹/清水美沙/坂上二郎/北林谷栄/香取慎吾/刺客―用心棒日月抄―.jpg小田茜●放映:1992/04~19993/03(全35回)[(1)1992/04~06(全12回)/(2)1992/09~11(全13回)/(3)1993/01~03(全10回)]●放送局:NHK        村上弘明/渡邊徹

刺客―用心棒日月抄』 単行本新装改訂版 ['03年] 

 【1983年単行本・2003年新装改訂〔新潮社〕/1987年文庫化[新潮文庫]】

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彫師伊之助のキャラクターを確立した快作時代推理(時代人情)物。

漆黒の霧の中で 単行本.jpg 『漆黒の霧の中で―彫師伊之助捕物覚え』 (1982年) 漆黒の霧の中でIMG.jpg 『漆黒の霧の中で―彫師伊之助捕物覚え (新潮文庫)』 (カバー:蓬田やすひろ)

 藤沢周平(1927‐1997)の時代小説のシリーズものでは、「用心棒日月抄」「獄医立花登手控え」「隠し剣」などと並ぶのがこの「彫師伊之助捕物覚え」です。
 主人公の伊之助は、元は凄腕の岡っ引でしたが、妻が他の男と無理心中したことから岡っ引を辞め、今は木彫り職人としてある意味むしろ気ままに働いています。
 しかしかつての彼の実力を知る同心からなんやかやで要請を受け、昔とった杵柄で難事件を解決する―。

 本作はシリーズの第1弾「消えた女」に続く第2弾で、連続殺人事件を扱っているものの、ミステリーとしての色合いよりも江戸の市井の人々の人情話的要素がふんだんに盛り込またものとなっています。
 「彫師伊之助」は過去を引きずった翳のある人物ですが、職人としての一見平凡な日常、事故死に見せかけた殺人を見抜く鋭さ、女性に対するやさしい一面などを含め、そのハードボイルド風のキャラが本作において確立したとも言えます。
 
 職場では自分の過去や事件捜査をしていることを隠して"定時退社"しているところなど、サラリーマンの「俺には皆に言えない別の顔があるのだ」みたいな、何かそんなものが自分にもあればカッコいいかなというイマジネーションを刺激するのかも知れません。
 
 推理小説としてどうかという部分は多少ありますが(むしろ人情物?)、全編通して会話が多く、テンポよく読める快作です。

 【1986年文庫化[新潮文庫]】

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秀吉vs.家康、兼続vs.三成、忍者の世界の3階層にわたり楽しめる。

密謀 上巻 [単行本].jpg 密謀 上下.png  密謀 上.jpg  密謀下.jpg
密謀 上巻』『密謀 下巻』['82年/毎日新聞社]/『密謀 (上巻) (新潮文庫)』『密謀 (下) (新潮文庫 (ふ-11-13))

直江兼続.jpg 時代小説、時代推理作家というイメージが強い著者ですが、これは豊臣から徳川にかけての時代の転換期を描いた「歴史小説」です(と言っても時代小説と歴史小説を区別することに藤沢周平は疑念があったようですが)。
 主人公は、上杉景勝の若き参謀・直江兼続(かねつぐ)ですが、物語は兼続と豊臣方の石田三成との参謀同士の駆け引きを軸に、その「上部構造」として秀吉と家康の駆け引き、「下部構造」として兼続が擁する草(忍びの者)の活躍を描いています。
直江兼続 (なおえ かねつぐ)

 当然「上部構造」は史実に則りつつ、秀吉と家康のそれぞれの智略家ぶりを、司馬遼太郎などとはまた違ったタッチで描いていて、著者が歴史小説家としても充分な力量があったことを表しています。

 中核となる兼続と三成の関係においては、両者の間に果たされなかった〈密約〉があったのではないかという著者の考察を含め、互いを認め合った両者の友情にも似た感情と、上杉に仕える身である兼続の立場や心情がよく描けています。

密謀.jpg 「下部構造」の忍びの者の世界の話は創作的要素が大きいわけですが、静四郎という兼続に拾われた青年を軸に、"時代小説っぽく"描かれています。

 ある意味、3階層にわたり楽しめる長編作品。1982年の刊行ですが、1997年に単行本の新装版(全1巻)が出たことでもその人気が窺える作品です。

密謀』 '97年新装版[毎日新聞社(全1巻)]

  '09年に直江兼続を主人公としたNHK大河ドラマ「天地人」が放映されたけれども、妻夫木聡演じる直江兼続、ちょっと若すぎるのでは...。全然、貫禄ないなあ。

2009(平成21)年度・NHK大河ドラマ「天地人」(原作:火坂雅志)直江兼続役:妻夫木 聡
天地人1.jpg天地人2.jpg天地人3.jpg「天地人」●演出:片岡敬司/高橋陽一郎/一木正恵/野田雄介●制作:内藤愼介●脚本:小松江里●音楽:大島ミチル●原作:火坂雅志●出演:妻夫木聡/常盤貴子/北村一輝/阿部寛/松方弘樹/吉川晃司/小栗旬/高嶋政伸/相武紗季/玉山鉄二/長澤まさみ/宍戸錠/萬田久子/笹野高史/山本圭/加藤武/高島礼子/鶴見辰吾/深田恭子●放映:2009/01~12(全47回)●放送局:NHK

 【1982年単行本[毎日新聞社(上・下)]/1985年文庫化[新潮文庫(上・下)]/1997年新装版[毎日新聞社(全1巻)]】 

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青春・恋愛小説的要素もあり、犯罪が生活と隣合わせの暗部も描く。

風雪の檻.jpg 風雪の檻2.jpg     獄医立花登手控え1.jpg 獄医立花登手控え3.jpg 獄医立花登手控え4.jpg
新装版 風雪の檻―獄医立花登手控え〈2〉 (講談社文庫)』 〔文庫新版/旧版〕 『新装版 春秋の檻 獄医立花登手控え(一) (講談社文庫)』『新装版 愛憎の檻 獄医立花登手控え(三) (講談社文庫)』『新装版 人間の檻 獄医立花登手控え(四) (講談社文庫)

 藤沢周平(1927‐1997)の時代小説シリーズ「獄医立花登手控え」の第2弾。このシリーズは若き医師・立花登が主人公ですが、この主人公は希望に燃えて上京したもの居候先の叔父の家で叔母と娘にアゴで使われて、少し可哀想な感じ。医師である叔父に手伝わされて牢医者もやることになるが、それをきっかけに色々な事件に巻き込まれる―。

 本シリーズは「春秋の檻」「風雪の檻」「愛憎の檻」「人間の檻」の4作で完結していて、それぞれが著者得意の捕り物短編集になっています(昭和54年から昭和58年まで「小説現代」に断続的に連載。最初は「青年医立花登」というシリーズ名だった)。

風雪の檻―獄医立花登手控え.jpg 主人公が若いせいか、青春小説、恋愛小説的要素もありますが、ストレートなそれではなく、翳があるというわけではないけれど立場上少し屈折している主人公の心理描写に、著者らしさを感じます。

 このシリーズ作品で描かれている江戸時代の刑罰の制度なども興味深いものです。そうしたことも含め、市井の生活の情緒的な部分だけでなく、犯罪が生活と隣合わせにある暗部も描いています。

 主人公が柔術を得意とするところは、「彫師伊之助捕物覚え」の主人公と同じ。市井の職人であるために剣を使わない伊之助と異なり、この主人公は下級藩士の息子だけれども、剣術の方は苦手だったというのが何となく面白く、親近感を覚えます。

(1981年 単行本)

立花登・青春手控え.jpg この「獄医立花登手控え」シリーズは'82(昭和57)年にNHKで「立花登・青春手控え」としてTVドラマ化され、4月から9月まで23話が放送されています。立花登を演じた中井貴一(1961年生まれ)は初の時代劇でしかも主演、しかし、佐田啓二の息子であるわりには評判になった記憶は個人的には薄く、その名が広く知られるようになったのは翌'83年にTBS系列で放送された山田太一脚本の「ふぞろいの林檎たち」以降ではないかと思われます。 

立花登・青春手控え dvd.jpg「立花登・青春手控え」●演出:宮沢俊樹/加藤郁雄/佐藤幹夫/松橋隆/吉村文孝/若園昌己/竹内豊/田島照●脚本:福田善之/石松愛弘/神波史男/武末勝/大久保昌一良/丸山昇一/富田康明/奥田成二/市川靖/松島利昭/長田紀生/金子成人●音楽:坂田晃一●原作:藤沢周平●出演:中井貴一/宮崎美子/中原ひとみ/高松英郎/篠田三郎/地井武男/ケーシー高峰/山咲千里/宮下順子●放映:1982/04~09(全23回)●放送局:NHK
立花登 青春手控え 選集 BOX [DVD]

 【1983年文庫化・2002年改訂[講談社文庫]】

 

《読書MEMO》
立花登青春手控えド.jpgNHK BSプレミアム「BS時代劇」(2016年5月13日から7月1日)出演:溝端淳平/平祐奈/宮崎美子/マキタスポーツ/正名僕蔵/高畑裕太/波岡一喜/鷲尾真知子/石黒賢/古谷一行

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