「●な 中島 らも」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 「●な 夏目 漱石」 【471】 夏目 漱石 『坑夫』
「●「日本推理作家協会賞」受賞作」の インデックッスへ
充実したホラー・サスペンス・ミステリー。第3部で評価は分かれるかも。
『ガダラの豚〈1〉 (集英社文庫)』『ガダラの豚〈2〉 (集英社文庫)』『ガダラの豚〈3〉 (集英社文庫)』(全3巻)〔'96年〕
1994(平成6)年度・第47回「日本推理作家協会賞」受賞作。
全体3部構成の本書の第1部は、主人公の民俗学が専門の"タレント教授"(超能力番組のコメンテータをして何とか調査費稼ぎをしている)が、新興宗教にはまった妻を奪回すべく、マジシャンの助けを借りて教祖の超能力と呼ばれるもののトリック破りしていく話で、どこかで見たことあるような状況設定に引き込まれるとともに、読者を一定の「見解」へ導いているように思えました。
アフリカ呪術の話など民族学とオカルトを組み合わせたような話も多く出てきますが、それが第2部では実際に舞台をアフリカに移し、思わぬ展開になっていく―。
コメディタッチで随所笑えますが、全体として〈ホラー・サスペンス・ミステリー〉として充実しているのは、民族学やオカルト、超能力トリックについての蘊蓄(うんちく)や、実際に著者が現地に取材したアフリカ・ケニアの街や自然、習俗などの詳細な記述もさることながら、超能力青年、マジシャン、女性精神科医、TVマンなどの多彩な登場人物の描写や会話が生き生きとしていているためだと思います。
まったく先が読めないハラハラさせられるストーリー展開ですが、最終章の第3部に至ってスラップスティックの様相を呈しているような感じもして、オカルティックなものに対する好みよりも、この極端な「壊れ感」みたいな部分で評価は割れるかも知れないなあと(個人的にも、第3部は、読後感をやや軽くしてしまった感じがすると思う)。
とは言え、この作家の"鬱(うつ)気質"から言えば、もっともっとカタストロフ的な結末もあったかも知れないと思ったりもし、また、2段組み600ページ近くを一気に読ませるエンターテインメントに仕上げたストーリーテラーとしての力量は、やはり並々ならぬものであると認めないわけにはいかないと思います。
【1996年文庫化[集英社文庫(全3巻)]】