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充実したホラー・サスペンス・ミステリー。第3部で評価は分かれるかも。

ガダラの豚.jpg ガダラの豚2.jpg ガダラの豚3.jpg  『ガダラの豚〈1〉 (集英社文庫)』『ガダラの豚〈2〉 (集英社文庫)』『ガダラの豚〈3〉 (集英社文庫)』(全3巻)〔'96年〕

 1994(平成6)年度・第47回「日本推理作家協会賞」受賞作。 

 全体3部構成の本書の第1部は、主人公の民俗学が専門の"タレント教授"(超能力番組のコメンテータをして何とか調査費稼ぎをしている)が、新興宗教にはまった妻を奪回すべく、マジシャンの助けを借りて教祖の超能力と呼ばれるもののトリック破りしていく話で、どこかで見たことあるような状況設定に引き込まれるとともに、読者を一定の「見解」へ導いているように思えました。
 アフリカ呪術の話など民族学とオカルトを組み合わせたような話も多く出てきますが、それが第2部では実際に舞台をアフリカに移し、思わぬ展開になっていく―。

 コメディタッチで随所笑えますが、全体として〈ホラー・サスペンス・ミステリー〉として充実しているのは、民族学やオカルト、超能力トリックについての蘊蓄(うんちく)や、実際に著者が現地に取材したアフリカ・ケニアの街や自然、習俗などの詳細な記述もさることながら、超能力青年、マジシャン、女性精神科医、TVマンなどの多彩な登場人物の描写や会話が生き生きとしていているためだと思います。

中島らも.jpg まったく先が読めないハラハラさせられるストーリー展開ですが、最終章の第3部に至ってスラップスティックの様相を呈しているような感じもして、オカルティックなものに対する好みよりも、この極端な「壊れ感」みたいな部分で評価は割れるかも知れないなあと(個人的にも、第3部は、読後感をやや軽くしてしまった感じがすると思う)。

 とは言え、この作家の"鬱(うつ)気質"から言えば、もっともっとカタストロフ的な結末もあったかも知れないと思ったりもし、また、2段組み600ページ近くを一気に読ませるエンターテインメントに仕上げたストーリーテラーとしての力量は、やはり並々ならぬものであると認めないわけにはいかないと思います。

 【1996年文庫化[集英社文庫(全3巻)]】

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モチーフ選択範囲を人体の部位に限定し、これだけのお話を作るのは大したもの。

中島 らも 『人体模型の夜』.jpg人体模型の夜.jpg 『人体模型の夜』 (1991/11 集英社)

 「邪眼」「セルフィネの血」「はなびえ」「耳飢え」など12篇を収めたアンソロジーで、著者最初の直木賞候補作(その後2度候補になるも受賞に至らず、'04年に転落事故死)。
 人体の構成要素がそれぞれの作品のモチーフになっていることがわかりますが、ラストの"戦慄"に至るストーリーテリングの巧みさはさすがです。

メクラウナギ.jpg 「セルフィネの血」は、「楽園」を求め南の島に夫婦で移り住んで間もない男の話で、その島はどういうわけか住民は男性より女性の方が圧倒的に多いのだけど、平和で暮らしやすく、島の人々も親切で何の憂いも無くのんびり生活しているようで、まさにこの島こそ「楽園」に思えると村の長老に話したところ、思わぬ返事が返ってくる―。エキゾチックな状況設定に作風の幅を感じました(この作品で問題になっている〈メクラウナギ〉って実際いるのですね)。

 「耳飢え」は盗聴魔の話で、新たな盗聴先を求め転居を繰り返す男がいて、ある日巡りあった盗聴相手の隣り部屋の女性が、毎晩夫婦の会話らしきをことしているが、女性の声しか聞こえず、夫がいるらしき気配は無い―。
 作者は、読者が考えそうな結末を先に挙げてしまうので、読者はそれ以外の結末を推察しなければならず、その分ワクワクさせられ、ラストは期待を裏切らない"戦慄"でした。

 「邪眼」は、地理的差異を背景に、日常から非日常へ横に広がっていく感じが個人的にはいいと思いました。
 それに比べると、連載の最初の方で発表された「膝」「ピラミッドのヘソ」なども悪くないけれど、SF的シュールというか縦に突き抜けた感じで、オチは落語の小話のような感じも。
 その辺りの不統一感がやや気になるものの、モチーフの選択範囲を限定したうえで、これだけのお話を作ってみせるのはやはり大したものです。

 【1995年文庫化[集英社文庫]】

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いい味出していて思わず笑わされ、人と組織を見通す理性も感じる。

1ビジネス・ナンセンス事典.jpgビジネス・ナンセンス事典.jpg  ビジネス・ナンセンス事典 (集英社文庫).jpg   中島 らも 2.jpg 中島らも(1952‐2004/享年52)
ビジネス・ナンセンス事典』('93年新装版)イラスト:ひさうちみちお 『ビジネス・ナンセンス事典 (集英社文庫)

 中島らも(1952‐2004)のエッセイ風作品で、最初リクルート版で、今回は講談社版で読みましたが、いい味出ているなあと思います。

 愛、阿諛追従、慰留、陰謀...というように五十音順で出てくる90語のテーマごとに書かれていますが、ある程度「お題」を決めて書いていると思われる点が、コピーライター出身の作者らしいと思いました。

啓蒙かまぼこ新聞.jpg 昔見た「啓蒙かまぼこ新聞」という、黒メガネかけてワルそうな〈てっちゃん〉が出てくる漫画シリーズは、これって企業に対する「悪意」? もしかして「広告」なの?とグッと引きつけるものでしたが(実は「かねてつ食品」の広告だった)、作者のクリエイターとしての非凡さが窺えるものでした(この時の作品群は、そのまま『啓蒙かまぼこ新聞』('87年/ビレッジプレス)という本になっている)。

 でもこの人、灘中→灘高→大阪芸大という学歴もさることながら、広告代理店で企画・制作業務につく前に、印刷会社で「営業」の仕事をしているのですね。本書は、その経験がかなり生かされているようで、特別に特殊な体験が語られているわけではないですが、その辺りが逆に読者に身近な共感を呼ぶのかも。

 1話3ページの話の中にはショートショート風仕立てのものも多く、ベースとしてはエッセイ集であるのに、それぞれの展開やオチを楽しみながら読めます(書く方は大変だろうけれど、そういう意味では大したサービス精神!)。
 僻地の事業所からの営業報告書の形態をとった「左遷」のような話には、今回も思わず笑わされました。

 ダメな会社、部下に好かれない上司というものがどういうものであるかが、会社人間になり切ることの哀しさのようなものとともに伝わってくる面もあり、作者の営業時代のルサンチマンをやや感じますが、今現在頑張っているビジネスパーソンへのやさしい応援歌ともとれます。
 営業経験とか独自の感性とか全部ひっくるめて、作者の人と組織を見通す理性的な力になっている気がしました(ビジネス書としても読めます)。

 【1993新装版[講談社]/1998年文庫化[集英社文庫]】

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