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鮎川版・英語版ともに、原著からのイラストが豊富(各約200点・365点)。2冊並べて読む?

ホームズ大全2.JPG ホームズ大全.JPG Original Illustrated Sherlock Holmes.jpg  鮎川信夫.jpg 鮎川信夫(詩人・翻訳家、1920 - 1986/享年66)『シャーロック・ホームズ大全』『Original Illustrated Sherlock Holmes

『シャーロック・ホームズ大全』.jpg かつて講談社文庫に収められていた鮎川信夫(1920 - 1986)訳のシャーロック・ホームズ・シリーズの復刻版で(ソフトカバー、1986年9月刊行)、「大全」とありますが、ホームズ・シリーズの短編集5冊、長編4冊、計60作品の内、第5短編集『シャーロック・ホームズの事件簿』12編と、最後の長編『恐怖の谷』の13作品は未収録です。

 「大全」と称しながら未収録作品があるのは、訳者の鮎川信夫氏がホームズ・シリーズの全作品の翻訳を目指しながらも途中で逝去したためであるとの話もありますが(実際に氏が亡くなったのは'86年10月17日、甥の家で甥の家族とスーパーマリオブラザーズに興じている最中に脳出血で倒れ、その日に亡くなった。本書刊行の翌月である)、シリーズ完訳でないとは言え、『シャーロック・ホームズの冒険』『シャーロック・ホームズの回想』『シャーロック・ホームズの帰還』『シャーロック・ホームズの最後の挨拶』の4短編集、『緋色の研究』『四つの署名』『バスカビル家の犬』の3長編を1冊で読めるのは有難いことです。

 イラスト(挿絵)が初出時の原著からふんだんにとりこまれているのも魅力で(2段組み約600ページの中に約200点のイラストがある)、難点は、活字が小さくなったことと、本が重くなってしまったことか。字を大きくすれば、ますますページ数が増えて本は重くなるし(まあ、最初から携帯用としては想定されていないわけだが)、これは仕方がないか。

Original Illustrated Sherlock Holmes .jpgOriginal Illustrated Sherlock Holmes2.jpg 同じようなタイプで、1991年に米国で刊行された英語版のハードカバー『Original Illustrated Sherlock Holmes』(Castle; Facsimile edition版)も手元にあり、こちらは、『シャーロック・ホームズの冒険』『シャーロック・ホームズの回想』『バスカビル家の犬』『シャーロック・ホームズの帰還』を所収し、イラストは同じく原著から365点も拾っています。

 英語版は日本の鮎川版に比べ、短編集の所収数は4分の3、長編の所収数は3分の1、ドイル 全作品でみれば、鮎川版は全体の9分の7を所数、英語版は全体の9分の4を所収していることになりますが、英語版の方はこれで636ページ超ですから、鮎川版がいかにコンパクトに、と言うか"ぎちぎちに"詰め込んだものであるかがわかります。

 英語版の方は、秋の夜長などに、英語の勉強のため読むにはいいかもしれません。英語版にある作品は、鮎川版でカバーされているため、不確かなところがあれば、鮎川版で確認できます。

 個人的には一番最初に読んだ『シャーロック・ホームズの冒険』が一番面白いと思いますが、永らく再読していない...ちょうど2010年に深町眞理子氏の新訳が創元推理文庫から出たので、そちらで読むかもしれません。こちらも、従来の他の文庫版のホームズ・シリーズに比べるとイラストは比較的豊富だし、別にでかい本を2冊机の上に並べなくとも、英語版と文庫の付き合わせで読んでも構わないわけか。

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『緋色の研究』同様にそこそこ面白かったが...。河出書房版「四つのサイン」の訳者あとがきは興味深い。

四つの署名.jpg 四つのサイン 河出大.jpg 四つの署名 (ハヤカワ・ミステリ文庫 75-6.jpg  四つの署名 シャーロック・ホームズ [新潮CD].jpg 四つのサイン (河出文庫).jpg
四つの署名 新訳シャーロック・ホームズ全集 (光文社文庫)』『四つのサイン (シャーロック・ホームズ全集)』『四つの署名 (ハヤカワ・ミステリ文庫 75-6)』「四つの署名―シャーロック・ホームズ [新潮CD] (新潮CD 名作ミステリー)」['98年]四つのサイン (河出文庫)』['14年]
The Sign of Four 01.jpgThe Sign of Four 02.jpg ホームズの元にメアリー・モースタンという若い女性が相談に訪れ、彼女の父親はインド英国軍の大尉だったが、帰国した際に消息を絶ち、その数年後から謎の人物から彼女に贈り物が届くようになって、そして今度は、その相手から直接会いたいとの連絡があったという―。ホームズとワトスンは、メアリーに付添って、彼女の父親とインドで一緒だったショルトー少佐の息子、サディアスを訪れ、そこで父親の死と秘密の財宝についての話を聞かされ、更に財宝を見つけた兄バーソルミューを訪ねるが、彼は密室の中で死んでいた―。

A Study in Scarlet and the Sign of Four
Sir Arthur Conan Doyle (Wordsworth Editions(2003)/Grant Thiessen(2004))

 シャーロック・ホームズ・シリーズの『緋色の研究』(1987年発表)に続く長編第2作で、1890年に発表され、同年に単行本刊行されたものですが(原題:The Sign of Four)、ホームズとワトスンのタッグがしっかり確立された作品であると言えます。
 但し、このシリーズが世間に人気を博したのは、この後に続く短編シリーズからだそうで、この作品はシリーズ全体の人気ランキングでも、必ずしも上位には入ってこない作品であり、そうしたこともあってか、個人的には今回が初読(だと思うが)。

 『緋色の研究』同様にそこそこ面白かったですが、謎解きの要素は意外と希薄で、結末部分では "high speed" boat chase などがあってアクションっぽくなるのですね、この作品は。
 後半4分の1を占める最終章は犯人の独白になっており、事件にインド大乱の時の混乱が絡んでいて、そこから財宝話が出てくるわけですが、このインド大乱って、セポイの乱のことなのですね。光文社文庫の新訳版は読み易くてすらすら読めてしまうのですが、その辺の周辺事情の部分だけは、ややごちゃごちゃしていて、分かりづらかったです。

 物語の途中までの焦点は、メアリーの手に財宝が渡るかどうかですが、最後は彼女とワトスンの2人が逆説的にめでたしめでたしとなる―冒頭で、『緋色の研究』において事件の記録にロマンチックな要素を持ち込んだことをホームズに批判されるワトスンですが(ドイル自身の前作への自己批判が反映されているらしい)、今回の物語でも、ホームズの口を借りて「絶対におめでとうとは言えないね」と。う~ん、ドイルは二重人格か。

Sign of Four.jpg 河出書房版は『四つのサイン』としていますが、より正確に言えば「四人のしるし」でしょう。他の3人は字が(自分の名前すら)書けないのだから(左のオーディオ・ブックのジャケット参照)。

"The Sign of Four, Sir Arthur Conan Doyle, Audio book"

 シャーロッキアンでも知られる訳者らしく、注釈と解説、訳者あとがきで本全体の3分の1を占めていました(これだけで1つの読み物のよう)。

 しかも、その訳者あとがきで、この物語を精神分析的に解釈していて、この作品の様々な登場人物に、作者のドイル自身及びその家族が反映されていることを示すとともに(この物語はドイルの「告白小説」だそうだ)、この物語における財宝が、母親の愛情の象徴であることを示唆しており、なかなか穿った見方で面白かったです。

 訳者あとがき部分だけだと10ページほど。興味がある人には、一読されることをお勧めします

四人の署名0.jpg「シャーロック・ホームズの冒険(第25話)/四人の署名」 (87年/英) ★★★☆ ジェレミー・ブレット主演 
 【1953年文庫化[新潮文庫(延原謙:訳)]/1960年文庫化[創元推理文庫(阿部知二:訳『四人の署名』)]/1979年再文庫化[講談社文庫(鮎川信夫:訳)]/1983年再文庫化[ハヤカワ・ミステリ文庫(大久保康雄:訳)]/1997年再文庫化[ちくま文庫(小池滋:訳『四つの署名・バスカヴィル家の犬―詳注版シャーロック・ホームズ全集〈5〉』)]/2007年再文庫化[光文社文庫(日暮雅通:訳)]/2013年再文庫化[角川文庫(駒月雅子:訳)]/2014年再文庫化[河出文庫(小林 司/東山あかね:訳)『四つのサイン―シャーロック・ホームズ全集2』)]】 

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ミステリとしてはやや冗長だが、怪異的雰囲気は出ている。ストーリー提供者との共作だった?

1バスカヴィル家の犬.pngバスカヴィル家の犬 新潮文庫旧版.jpg バスカヴィル家の犬 新潮文庫.jpg バスカヴィル家の犬 (ハヤカワ・ミステリ文庫 (HM 75‐7).jpg バスカヴィル家の犬 光文社文庫.jpg
バスカヴィル家の犬 (新潮文庫)』['54年](旧・新)『バスカヴィル家の犬 (ハヤカワ・ミステリ文庫 (HM 75‐7))』『バスカヴィル家の犬―新訳シャーロック・ホームズ全集 (光文社文庫)』['07年]
『バスカヴィル家の犬』['60年](創元推理文庫旧装版)(カバー:松田正久)

バスカヴィル家の犬 S・バシェット画.jpg デヴォンシャーの名家バスカヴィル家の当主、チャールズ卿が怪死を遂げた。ベーカー街を訪れた医師モーティマーの依頼によって、チャールズ卿の死に関する調査とバスカヴィル家の新たな当主となったヘンリー卿護衛のため、多忙のホームズに代わりワトスンが、依頼人と共にデヴォンシャーへと向かう。彼を待ち受けていたのは独特の雰囲気に包まれた沼沢地帯と、そこに暮らすいずれも一癖ある隣人たち、そして今なおその地の人々の胸に現実の恐怖として生き続ける、バスカヴィルにまつわる魔犬伝説だった―。

 1901年にコナン・ドイルが発表した、ホームズ物語の4つの長編中最長の作品であり、また、1893年の「最後の事件」以降8年ぶりのホームズ復活、但し、時代背景は「最後の事件」以前のこととされています。

シドニー・パジェット画/ホームズとワトスン

ダートムア.jpg 『緋色の研究』、『四つの書名』、そして、本作の後に書かれた『恐怖の谷』の3つの長編は何れも2部構成になっていますが、この『バスカヴィル家の犬』は、前半ワトスンの手紙乃至報告文が中心で、後半がワトスンのリアルタイムでの語りのようになっているものの、明確に2部に分かれてはいません。

 ホームズが1本のステッキから持ち主のプロフィールを推察する導入部分は有名で、ストーリーもそう複雑ではなく、「魔犬」という特異なモチーフでもあるため、ホームズ物語の中でも印象に残るものでした。

 日本シャーロック・ホームズ・クラブという組織が1979年と1992年に実施した、シリーズ60作品を対象としたベストテン投票でも、共に1位になっている作品ですが、ただ、今回再読して、ストーリーがそう複雑でない割には少し長いかなあとも感じました。
 
 一部のミステリ通によれば、ヘンリー卿の靴が無くなった時点で事件の仕掛けが分ってしまい、ロジック上も幾つか穴がある("ご都合主義"が見受けられる)とのことですが、個人的にはそれほど気にならず、後半の早々に犯人が明かされてしまうのも、自分のような、いつも最後の最後まで誰が犯人かが読みとれない読者には、ある意味、丁度いいくらいの感じです。

 まあ、この「長さ」の部分は、この作品の舞台である西イングランド地方のダートムアの叙景に費やされていたりして(ダートムアはその名の通り草原湿地帯で、今は国立公園に指定されているが、夜歩きに適さない土地であることは確か)、それはそれで、作品全体を覆う怪異的雰囲気を醸すのに寄与していると言えるのではないでしょうか。

The hound of the Baskervilles.jpg 光文社文庫版は、初版時のシドニー・パジェットの挿画が30点掲載されていて(新潮文庫版は挿画無し)、当時の時代の雰囲気や登場人物の風貌が分かりやすいです。

 また、作家の島田荘司氏が解説を書いており、ドイルの旧知でありファンでもあったバートラム・ロビンソンの「ダートムア物語」というのが、この作品の背景及びモチーフに大きく寄与しているという話をたいへん興味深く読みました。

 島田氏は、『バスカヴィル家の犬』はコナン・ドイルとバートラム・ロビンソンとの共作のようなものであるとしているようですが、翻訳者の日暮雅通氏によれば、ロビンソンのこの作品への関与の度合いについては諸説あるようです。

シドニー・パジェット画

バスカヴィル家の獣犬01.jpgバスカヴィル家の獣犬 dvd.jpgThe Hound of the Baskervilles (2002).jpg 「シャーロック・ホームズ/バスカヴィル家の獣犬」 (02年/英) ★★★★
  
sherlock バスカヴィルの犬 07.jpgsherlock バスカヴィルの犬 01.jpg 「SHERLOCK(シャーロック)(第5話)/バスカヴィルの犬(ハウンド)」 (11年/英) ★★★

 【1954年文庫化[新潮文庫(延原 謙:訳)]/1960年文庫化[創元推理文庫(阿部知二:訳)]/1980年再文庫化[講談社文庫(鮎川信夫:訳『バスカビル家の犬』)]/1984年再文庫化[ハヤカワ・ミステリ文庫(大久保康雄:訳)]/1997年再文庫化[ちくま文庫(小池 滋:訳『四つの署名バスカヴィル家の犬 (河出文庫).jpg・バスカヴィル家の犬―詳注版シャーロック・ホームズ全集〈5〉』)]/2004年再文庫化[講談社文庫(大沢在昌:訳『バスカビル家の犬』)]/2007年再文庫化[光文社文庫(日暮雅通:訳)]/2014年再文庫化[河出文庫(小林 司/東山あかね:訳)『バスカヴィル家の犬―シャーロック・ホームズ全集5』]】 

バスカヴィル家の犬 (河出文庫)』['14年]

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シリーズの最後の短編集。衰えぬ冴えを見せる一方で、"変化球"的・"疑問符"的作品も。

Dust-jacket illustration of the first edition of The Case-Book of Sherlock Holmes.jpgシャーロック・ホームズの事件簿 (1953年).jpgシャーロック・ホームズの事件簿 (文庫 HM75-9.jpg シャーロック・ホームズの事件簿.jpg シャーロック・ホームズの事件簿 (河出文庫).jpg
Dust-jacket illustration of the first edition of The Case-Book of Sherlock Holmesシャーロック・ホームズの事件簿 (1953年) (新潮文庫)』『シャーロック・ホームズの事件簿 (ハヤカワ・ミステリ文庫 HM75-9)』『シャーロック・ホームズの事件簿 新訳シャーロック・ホームズ全集 (光文社文庫)シャーロック・ホームズの事件簿 (河出文庫)
 1927年、コナン・ドイルが亡くなる3年前に刊行されたシャーロック・ホームズ・シリーズの最後の短編集(第5短編集)で(原題:The Case-Book of Sherlock Holmes)、ドイルの没後60年に当たる1990年に著作権が切れるまでは、延原謙訳の新潮文庫版しかありませんでした(従って、創元推理文庫版の訳者は、阿部知二(1973年没)ではなく、最初から深町眞理子氏になっている)。

The Case-Book of Sherlock Holmes.jpg 1917年刊行の『シャーロック・ホームズ最後の挨拶』以降に発表された(これが"最後"じゃなかったわけだ)、「マザリンの宝石」(1921年)から「ショスコム邸」(1927年)までの12編を収めており、光文社文庫版(日暮雅通訳)は解説や漫画家・坂田靖子氏のエッセイなども含めて487ページ、この文庫はカバーの紙質がしっかりしているのがいいです(シドニー・パジットの挿画が多く掲載されている点もいい)。

 一方、新潮文庫版は、例によって「隠居した画材屋」(延原謙訳では「隠居絵具屋」)と「ショスコム荘」の2編が『シャーロック・ホームズの叡智』の方に組み入れられていますが、この仕分け基準が未だによく分らない...。しかも、新潮文庫版は光文社文庫版と異なり発表順には並んでおらず、では何順なのかというと、この辺もよく分らない...(でも、訳文そのものは格調高い)。
 とまれ、ドイルの晩年にして、なお衰えぬ見せぬホームズの冴えが認められる短編集であることは確かです。

シドニー・パジェット画/ホームズとワトスン

 1927年と言えば、すでにアガサ・クリスティなどが登場していた頃ですが、起きている事件は1903年以前の設定となっていて、この辺りは、それまでリアルタイムで"現代モノ"を書いていたのが、晩年の作品において年月の流れを止めたクリスティと似ている気もします。

消えた蝋面.jpgThe Casebook of Sherlock Holmes, Volume 1.jpg 一方で、最後まで新たな境地を探ろうとしているのか、「白面の兵士」(この作品、ドイルは医師だったはずだが、ハンセン氏病に対する誤解がみられる)などのようにワトスンではなくホームズ自身が事件を語ったり、結構"変化球"が多いという感じでしょうか。 この"不統一性"は、1921年の書き始めの段階では、短編集として纏めるという意図が必ずしも無かったことからくるのかも。

「消えた蝋面」(「白面の兵士」)山中峯太郎 1956年ポプラ社(名探偵ホームズ全集19)

 晩年のドイルの超自然現象への関心や、博物学的知識が反映されている作品も見られ、動物モノに至っては犬やライオンが出てくるばかりでなく、「ライオンのたてがみ」では、サイアネア・カピラータという大○○○まで登場します。

 ホームズの"後出しジャンケン"的な謎解きも目立つ作品群で、全体としては玉石混交といった感じでしょうか。

 個人的には、「サセックスの吸血鬼」「高名な依頼人」が良かったかなあ。
 「ソア橋の難問」はトリックに(本格推理小説によくあるパターンだが)やや無理がある気もし、「三人のガリデブ」も着想はすごく面白いけれど、いくら犯人が金持ちだからといってここまでやるかなあという感じも。

メンタリスト.jpg 「三破風館」の金持ち夫人である犯人に対する事件の収め方は、探偵がこんな取引きしてもいいの?というのはありますが、つい最近観た海外ドラマ「メンタリスト」(第17話)でも、主人公の犯罪捜査アドバイザー(サイモン・ベイカー[写真右端])が犯人に死刑求刑しない代わりに、誤認逮捕の被害者のがん治療費として50万ドルの小切手を切らせるというのがあり、こうした決着方法も今に引き継がれていると見るべきでしょうか(この番組の宣伝文句の1つは「ポスト・シャーロック・ホームズ」。科学捜査全盛のクライム・ドラマの中では、確かに言い得ているかも)。

●『シャーロック・ホームズの事件簿』 The Case-Book of Sherlock Homes (1927)
translator:延原謙(Nobuhara Ken) Publisher:新潮文庫(Shincho bunko)574-134D
cover:久野純 commentary:延原謙(Nobuhara Ken) 1953/10
「高名な依頼人」 The Adventure of the Illustrious Client (Collier's Weekly 1924/11)
「白面の兵士」 The Adventure of the Blanched Soldier (Liberty 1926/10)
「マザリンの宝石」 The Adventure of the Mazarin Stone (The Strand Magazine 1921/10)
「三破風館」 The Adventure of the Three Gables (Liberty 1926/ 9)
「サセックスの吸血鬼」 The Adventure of the Sussex Vampire (The Strand Magazine 1924/ 1)
「三人ガリデブ」 The Adventure of the Three Garridebs (Collier's Weekly 1924/10)
「ソア橋」 The Problem of Thor Bridge (The Strand Magazine 1922/ 2-1922/ 3)
「這う男」 The Adventure of the Creeping Man (The Strand Magazine 1923/ 3)
「ライオンのたてがみ」 The Adventure of the Lion's Mane (Liberty 1926/10)
「覆面の下宿人」 The Adventure of the Veiled Lodger (Liberty 1927/ 1)

●『シャーロック・ホームズの事件簿』 The Case-Book of Sherlock Holmes (1927)
translator:日暮雅通(Higurashi Masamichi) Publisher:光文社文庫(KobunSha bunko)/新訳シャーロック・ホームズ全集
cover:ささめやゆき design:間村俊一 commentary:日暮雅通(Higurashi Masamichi)/注釈/坂田靖子(Sakata Yasuko) 2007/10/20
「まえがき」 Perface (The Strand Magazine 1927/ 3)
「マザリンの宝石」 The Adventure of the Mazarin Stone (The Strand Magazine 1921/10)
「ソア橋の難問」 The Problem of Thor Bridge (The Strand Magazine 1922/ 2-1922/ 3)
「這う男」 The Adventure of the Creeping Man (The Strand Magazine 1923/ 3)
「サセックスの吸血鬼」 The Adventure of the Sussex Vampire (The Strand Magazine 1924/ 1)
「三人のガリデブ」 The Adventure of the Three Garridebs (Collier's Weekly 1924/10)
「高名な依頼人」 The Adventure of the Illustrious Client (Collier's Weekly 1924/11)
「三破風(はふ)館」 The Adventure of the Three Gables (Liberty 1926/ 9)
「白面の兵士」 The Adventure of the Blanched Soldier (Liberty 1926/10)
「ライオンのたてがみ」 The Adventure of the Lion's Mane (Liberty 1926/12)
「隠居した画材屋」 The Adventure of the Retired Colourman (Liberty 1926/12)
「ヴェールの下宿人」 The Adventure of the Veiled Lodger (Liberty 1927/ 1)
「ショスコム荘」 The Adventure of Shoscombe Old Place (Liberty 1927/ 3)


the mentalist.jpgthe mentalist1.bmp「THE MENTALIST メンタリストの捜査ファイル」The Mentalist (CBS 2008/09~ ) ○日本での放映チャネル:スーパー!ドラマTV(2010~)

THE MENTALIST / メンタリスト 〈ファースト・シーズン〉コレクターズ・ボックス1 [DVD]


 

 【1953年文庫化[新潮文庫(延原謙:訳)]/1991年再文庫化[ハヤカワ・ミステリ文庫(大久保康男:訳)]/1991年再文庫化[創元推理文庫(深町真理子:訳)]/2007年再文庫化[光文社文庫(日暮雅通:訳)]/2014年再文庫化[河出文庫(小林 司/東山あかね:訳)『シャーロック・ホームズの事件簿―シャーロック・ホームズ全集9』/2021年再文庫化[角川文庫(駒月雅子:訳)]】

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シリーズの最初の作品。格調高い新潮文庫版に対し、読みやすい光文社文庫の新訳版。

緋色の研究 新潮文庫.jpg 緋色の研究 創元推理文庫.jpg 緋色の研究 (ハヤカワ・ミステリ文庫 75-5.jpg 緋色の研究 光文社文庫.jpg 緋色の習作 (河出文庫―シャーロック・ホームズ全集).jpg
緋色の研究 (新潮文庫)』『緋色の研究 (創元推理文庫)』『緋色の研究 (ハヤカワ・ミステリ文庫 75-5)』(カバー:真鍋博)『緋色の研究 新訳シャーロック・ホームズ全集 (光文社文庫)』 『緋色の習作 (河出文庫―シャーロック・ホームズ全集)
緋色の研究 1887年初版.jpgArthur Conan Doyle.jpg アーサー・コナン・ドイル(Arthur Conan Doyle、1859-1930)によるシャーロック・ホームズ・シリーズの最初の作品で、1886年に執筆され、翌1887年に発表されたもの(原題:A Study in Scarlet)。

『緋色の研究』1887年初版 Arthur Conan Doyle

 2部構成で、第1部は、ワトスンがホームズと出会って共同生活を始めるまでの経緯と、そこへ「血痕の飛び散った空き家の一室で死体が発見されたが、外傷が全く見られない」という奇怪な殺人事件が持ち込まれ、ホームズがその事件の犯人をつきとめるまでを、第2部では、事件の背景となった宗教と恋愛が絡んだ過去の出来事の経緯を、犯人自身が告白するという形式です。

 ワトスンがホームズと初めて会って、最初は奇妙な奴だなあと思っていたのが、次第に彼に興味を覚え(握手しただけでワトスンがアフガン帰りだと言い当てた)、その卓越した推理能力に圧倒されるようになるまでがコンパクトに描かれています。

The Mormon trek, recreated on Southport sands.jpg 19世紀のアメリカでのモルモン教の歴史が絡んだ、第2部の犯人の告白は結構「重たい」話であり、彼がどう裁かれるのかと思ったら実は重大な病気を抱えていて―というのは、その後のミステリでもよくあるパターンで、でも、これがホームズ・シリーズの後期に書かれたものだったら、ホームズの対処の仕方も少し違ったものになったかも知れないなあと。

The Mormon trek, recreated on Southport sands

 一方で、事件の背後関係を実はホームズは独自に調査して知っていたとか、"後出しジャンケン"みたいなのはこの頃からあって、光文社文庫の巻末にエッセイを寄せている赤川次郎氏も、「もしコナン・ドイルが現代のミステリの新人賞にでも応募していたら、とても入選できなかっただろう」と書いています。

 シャーロック・ホームズ・シリーズ(全集)は、文庫では、新潮文庫版(延原謙訳)、ハヤカワ文庫版(大久保康雄訳)、創元推理文庫版(阿部知二訳)、ちくま文庫版(訳者多数)があり、今世紀に入ってちくま文庫版が絶版になった代わりに光文社文庫版(日暮雅通訳)が刊行されていて、また文庫以外では、河出書房版(小林司・東山あかね訳)のハードカバー全集があります(『緋色の研究』の創元推理文庫版については、来月(2010年11月)深町眞理子氏の新訳版が刊行予定)。

 シャーロッキアンと呼ばれる人々の間では、典雅な訳調の新潮文庫版が"正典"とされているようですが、短編集の一部が本来とは別編集になっていたり、挿絵が無かったりと、一般読者からすれば不満要素もあります。

緋色の習作.jpg シャーロッキアン2人が訳した河出書房のハードカバー版(小林司氏は日本シャーロック・ホームズ・クラブ主宰。先月(2010年9月27日)81歳にて逝去された)が、最も詳細(マニアック?)に解説されていて(本作のタイトルを『緋色の習作』としているのも"こだわり"の1つか)、挿画も発表当初のものを多く載せていますが、「入手しにくい・高い・重い」といった難点があります。

 こうして見ると、光文社文庫版は、「注釈」が河出書房版ほどではないにしても充実していて、挿画もかなり多く収められています。
 個人訳でもあるし、訳文がこなれていて読み易いという点でもいいのではないかと(ホームズ・シリーズって、こんなにすらすら読めたっけ、という感じ)。

 因みに、『緋色の研究』の挿画は、よく知られているシドニー・パジェットのものではなく、この頃はジョージ・ハッチンスンのものです(ホームズのイメージ、微妙に違うなあ)。

 自分がかつて読んだのは新潮文庫版でしたが、これを機に光文社文庫版で他の作品も読んでみようかという気になりました。

ピンク色の研究 dvd.jpgピンク色の研究 04.jpg「SHERLOCK(シャーロック)(第1話)/ピンク色の研究」 (10年/英) ★★★★ ベネディクト・カンバーバッチ主演

 【1953年文庫化[新潮文庫(延原謙:訳)]/1959年文庫化[角川文庫(阿部知二:訳)]/1960年文庫化・2006年改版版[創元推理文庫(阿部知二:訳)]/1977年再文庫化[講談社文庫(鮎川信夫:訳)]/1983年再文庫化[ハヤカワ・ミステリ文庫(大久保康雄:訳)]/1997年再文庫化[ちくま文庫(小池滋:訳『緋色の研究・まだらの紐―詳注版シャーロック・ホームズ全集〈2〉』)]/2006年再文庫化[光文社文庫(日暮雅通:訳)]/2010年再文庫化[創元推理文庫(深町眞理子:訳)]/2012年再文庫化[角川文庫(駒月雅子:訳)]/2014年再文庫化[河出文庫(小林 司/東山あかね:訳)『緋色の習作―シャーロック・ホームズ全集1』)]】 

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