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どんでん返し16連発。悪意の勝利で終わるものが多く、その終わり方で好き嫌いが分かれるかも。

クリスマス・プレゼント ディーヴァー.jpgクリスマス・プレゼント』 クリスマス・プレゼント4.JPG

 ジェフリー・ディーヴァーの短編集で、この作家はイギリスの作家ジェフリー・アーチャーなどと同じく長編も短編もこなす力があることを思い知らされます。J・アーチャーの短編集に比べると1編当たりがやや長いでしょうか。長編ではどんでん返し売り物にしているJ・ディーヴァーですが、この短編集はどんでん返しばかり16編集めたという印象で(原題も"Twisted"となっている)、と思ったら帯に「どんでん返し16連発」とありましたが、まさにその通り。短編が長編と異なるのは、究極の悪を究極の善として描くことが可能なことであると作者が述べている通り、悪意ある主人公が勝利を収める作品がその逆の正統派タイプの作品を数ではずっと上回っています。

 以下、ネタバレも一部含むため、読みたくない人は読み飛ばしてほしいのですが、最初の「ジョナサンがいない」でいきなりその"悪が勝つ"パターンが出てきて、"悲しみにくれる妻"にキレイに騙されました(半ば叙述トリックだね)。 ウィークエンダー」では強盗と被害者の関係がいつしか...。 「サービス料として」は、精神病を装って有閑マダムが夫を殺害するが、利用したつもりだった精神科医が実は自分より上手の曲者だった...。 「ビューティフル」はスーパーモデルが選んだ究極のストーカー撃退法でしたが、ここまでやるかなあ。

 「身代わり」は、またまた浮気夫の殺害を企てる妻の登場で、偶然知り合った殺し屋が...。 「見解」は、現金輸送車のピストル強盗事件に便乗して現金をかすめ取ろうとした二人の保安官助手が、高校時代にいじめたネクラな男の復讐に遭う話(作者の言を借りれば"ぱっとしない少年の逆襲")。 「三角関係」は、一見よくある三角関係での夫による妻の不倫相手への計画殺人にみえたのですが、この"夫"の正体は...。これは巧みな叙述トリックでした。 「この世はすべてひとつの舞台」はシェイクスピアが登場し、主人公の復讐劇に加担して見事に成功を収めるという異色作ですが、やっと出てきた明るい結末といったところでしょうか。

 「釣り日和」 は、休日に趣味である釣りに行った時は、一緒に遊んでやれなかった娘にお土産を持って帰る優しいパパが実は...。 「ノクターン」もこれまでの例にもれずどんでん返し劇ですが、これまで大方を占めたトーンと違って、警官と黒人少年の人情話にもなっていて後味が爽やかでした。 「被包含犯罪」も、法の網を巧みに逃れようとする悪漢を、主人公の検事が逆に法を使って搦め手で―という正義が勝つ話。 「宛名のないカード」は、妻の浮気の疑惑に苦しむ夫が精神的に追い詰められ妻を襲おうとして逮捕されるが実は―というこれまた悪意が勝つ話(大体勝つのは女性だなあ)。

 「クリスマス・プレゼント」は、この短編集の単行本化の際の書き下ろし作で(この短編集は2003年12月にSimon & Schuster社からリリースされている)、長編でお馴染みのリンカーン・ライム、アメリア・サックスらが登場しますが、パターンも長編でお馴染みのパターンであり、それをぐっと短編に縮めて短編に仕上げている点が興味深いです(どんどん肉付けしていけば長編になる? 長編の"卵"みたいなものだなと)。 「超越した愛」は、冒頭の会話が誰と誰がどのような状況で話しているのかがミソで、それが分かった時は思わずあっと言いたくなるような作品。 「パインクリークの未亡人」は、女社長と秘書、どんでん返しの二連荘でした。 「ひざまずく兵士」は愛する娘を狙う薄気味悪いストーカーを何とか撃退しようと躍起になる父親だったが...。

 「どんでん返し」で統一した分、リアリティの面で若干のでこぼこはあったかもしれませんが、むしろ読み手側としては、善意の勝利で終わるか悪意の勝利で終わるか、特に悪意の勝利で終わる場合は、その終わり方で好みが分かれるかも。個人的には、善意系では(そもそも善意系が殆ど無いのだが)「この世はすべてひとつの舞台」「ノクターン」が、悪意系では「ジョナサンがいない」「身代わり」「三角関係」が良かったように思います。

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作者の"最高傑作"とは言い難い気がするが、それなりに楽しめた。WMは電気にこだわり過ぎ?

バーニング・ワイヤー0.JPGバーニング・ワイヤー.jpgバーニング・ワイヤー』(2012/10 文藝春秋)

 2012 (平成24)年度「週刊文春ミステリー ベスト10」(海外部門)第4位、2013(平成25)年「このミステリーがすごい」(海外編)第8位作品。

 ニューヨークで、何者かが市内の4つの変電所の電力をバス停近くの変電所に集中させて放電、アークフラッシュ(電気による爆発)の市バス直撃は逸れたもののバス停のポールを直撃、溶けた鉄が高速シャワーとなってバスに乗ろうとしていた乗客に降り注ぎ、死者1名、ケガ人多数という事故となる。当該変電所The Burning Wire.jpgを所有する電力会社アルゴクイン・コンソリデーテッドは、大量の化石燃料を燃焼させて二酸化炭素を排出しており、現社長は再生可能エネルギーに前向きではない。折しも地球の日"アースデイ"が間近に迫っており、環境テロの可能性も考えられる。市警から事故捜査依頼を受けた四肢麻痺の科学捜査顧問リンカーン・ライムの元に、FBIや市警の面々が駆けつける。その頃ライムは、"ウォッチメイカー"がメキシコで新たな犯行を計画中との情報を掴んでおり、メキシコ連邦警察の協力を取り付け、ニューヨークからその動きを見張っていた。彼は市バスの事故現場にアメリア・サックスとルーキーのプラスキーを向かわせるが、収穫は得られない。やがて、アルゴクインの社長ジェッセンの自宅宛に犯人から脅迫状が届き、ニューヨーク市内全域の電気供給を半分に落とさなければ、また事故を起こすという。犯人はいわばニューヨークを人質にとったのだった。残された時間は3時間しかなく、犯人は単独犯か複数犯か、目的は何かなどが全く不明なまま、脅迫状の期限の時間が迫る―。
"The Burning Wire: A Lincoln Rhyme Novel"[ Audiobook](CD)

 2010年発表のジェフリー・ディーヴァーの"リンカーン・ライム"シリーズの第9作で(原題は"The Burning Wire")、ライムの"パートナー"アメリア・サックスをはじめ介護士のトム、ルーキーのプラスキー、FBIのデルレイなどオールキャストが集結したという感じ(別シリーズのキャサリン・ダンスや、『悪魔の涙』の筆跡鑑定士パーカー・キンケイドまで顔を出す)。加えて、宿敵" ウォッチメイカー"が三度目の登場ということで、しかも、電力問題という時事的なテーマを扱っており、書評などを見ると、作者のこれまでの邦訳作品の中で最高傑作に推す人も多いようです。

 個人的にも、2段組み470ページ超の大著ながらスンナリ引き込まれてグイグイ読み進むことができましたが、これで"ウォッチメイカー"が絡んでこなければ、何のための前振りか―と思いつつ読み進んでいた分、ラストのドンデン返しはさほどのこともなかったかなあ。むしろ、えーっ、こんなもんであの" ウォッチメイカー"との決着はついてしまったの、という感じでしょうか。

 その前に、ライムと"ウォッチメイカー"との間で、延々と事件の経緯及び謎解きを"読者向け解説"調で話しているのも、親切と言えば親切ですが、状況的に不自然と言えば不自然とも言えるのではないでしょうか。「2時間ドラマ」などによくある、犯人が自らの犯行を滔々と解説している内に捕まってしまうというパターンを踏襲してしまっている印象も受けました。

 とは言え、FBIニューヨーク支局補マクダニエルの科学的捜査の前に、自分の足で稼ぐ捜査方法は時代遅れになってしまったのかと思い悩むベテランFBIデルレイの話など、サイドストーリーの噛ませ方は上手く、また、ルーキーのプラスキーの成長ぶりや事件解決後にライムがとった行動なども、物語を単なるサスペンスに終わらせず、余韻を残すものにしています。

 個人的には、作者の"最高傑作"とは言い難い気がしますが、それなりに楽しめました。但し、作者が「電気」にこだわった分、"ウォッチメイカー"もあまりに「電気」にこだわり過ぎたという印象はあります。"ウォッチメイカー"は「電気」の"お勉強"に勤しみ過ぎて、実地で詰めを欠いたのかな。あの"ウォッチメイカー"にして不甲斐なさすぎる結末。むしろ、デルレイの物語の結末の方が、マクダニエルとの対比において読み手側としてはカタルシス効果があったように思います(これも"最新鋭"の捜査手法がベテランが足で稼ぐという泥臭い手法の前に敗れ去るというパターナルな組み合わせではあるが)。

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『ボーン・コレクター』に匹敵するか、心理描写の部分ではそれ以上。結局これが一番の傑作。

『静寂の叫び』.jpg       『静寂の叫び』上.jpg『静寂の叫び』下.jpg 『静寂の叫び』文庫.jpg
静寂の叫び (Hayakawa novels)』『静寂の叫び〈上〉 (ハヤカワ・ミステリ文庫)』『静寂の叫び〈下〉 (ハヤカワ・ミステリ文庫)』 
『静寂の叫び』新.jpg カンザス州で聾学校の生徒と教員を乗せたスクールバスを3人の脱獄囚が乗っ取り、閉鎖された食肉加工場に生徒たちを監禁して立て籠もるという事件が発生、FBI危機管理チームのアーサー・ポターは犯人側との人質解放交渉に臨むが、聡明な女生徒が凶弾に倒れ犠牲となる。一方、工場内では教育実習生のメラニーが生徒たちを救うために独力で反撃に出るが―。

 1995年にジェフリー・ディーヴァー(Jeffery Deaver)が発表した作品で(原題:A Maiden's Grave(乙女の墓))、『ボーン・コレクター』('97年)の一つ前の作品ということになりますが、この作品でコアなミステリ・ファンの間でディーヴァーの名が認知されるようになったとのことです(「このミステリーがすごい!」第5位、「週刊文春ミステリーベスト10」第8位)。そして『ボーン・コレクター』で一気に世界的メジャーのサスペンス作家になったわけですが、この作品も『ボーン・コレクター』に匹敵するぐらいの力作で、むしろある部分では超えているくらいの出来ではなかったかと思います。

 『ボーン・コレクター』ほどの人気でないのは、主人公の交渉人ポターが妻を亡くした寡男で腹の出た中年で、しかも人質交渉において必ずしも完璧ではなく、一時は相手に完全に裏をかかれてしまうなど、ハリウッド映画的ヒーローの基準からやや外れているからでしょうか。ジェフリー・ディーヴァーの『ボーン・コレクター』以降の作品は、映画的ヒーロー及び犯人、映画的展開をかなり意識しているように思います。

 最初の方で聡明な女生徒が犠牲になってしまうというのも、ハッピーエンドを望む読者には沿わないものだったかもしれません。こうした人質交渉において人質の生命の安全を第一に考える日本の警察の絶対価値基準に対し、向こうは人質をテロリストであると見做し、彼らに絶対に屈服することなく、"最小限の犠牲のもと"事件を解決することが第一優先のようです。この違いを受け容れたうえで読めば、或いは受け容れられないまでも日米の考え方の違いを念頭に置いて読めば、この作品に対する興味は深まるのではないでしょうか。

 個人的には、交渉の詳細な過程や犯人・人質・交渉人の心理の描写、FBI・州警察の現場での主導権争い等々、十分に堪能できました。『ボーン・コレクター』のような"ジェット・コースター"的展開が好みの読者にはこのあたりが冗長感をもって受け止められるのかもしれませんが、こうした交渉人と犯人の心理戦を克明に描いた作品も悪くないと思いました。面白さや緊迫感という点では、この作者の作品の中で一番かも。

デッドサイレンス.jpg 但し、残酷な場面も多く、映画化はされにくい作品との印象を持っていましたが、ダニエル・ペトリー・ジュニア監督、ジェームズ・ガーナー、マーリー・マトリン(「愛は静けさの中に」('86年)でアカデミー主演女優賞受賞。彼女自身、難聴者)主演でテレビ映画「デッドサイレンス(Dead Silence)」('96年製作、1997年放映/米)として映像化されています(日本では劇場公開されたようだが、前半部分で少女が射殺される場面や、後半部分で中年の女教師がレイプされる場面などは改変されているのではないか)。

 因みに、原題の"A Maiden's Grave"(乙女の墓)は、メラニーが8歳の頃、コンサートで聴いた曲のタイトルを兄に訊ねたところ、兄が「アメイジング・グレイス」だと答えたのを「ア・メイデンズ・グレイヴ」と聞き間違えた―つまり、その頃から聴力が急激に落ち始めていた―エピソードに由来していますが、人質交渉の冒頭で殺害されてしまった少女に懸けているのではないでしょうか。
 
【2000年文庫化[ハヤカワ・ミステリ文庫(上・下)]】

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そこそこ楽しめたが、"ディーヴァーらしさ"と"007らしさ"が両立できているかというと微妙。

007白紙委任状.JPGジェフリー・ディーヴァー「007 白紙委任状」.jpg 007 スカイフォール dvd.jpg 007 スカイフォール 001.jpg
007 白紙委任状』(2011/10 文藝春秋) 「007/スカイフォール [DVD]

 2011(平成23)年・第30回「日本冒険小説協会大賞」(海外部門)受賞作。

 ODGの工作員ジェームズ・ボンドは、イギリス政府通信本部が傍受した「...20日金曜日夜の計画を確認。当日の死傷者は数千に上る見込み。イギリスの国益にも打撃が予想される...」との電子メールを発端に、計画の詳細を突き止めてテロを未然に防ぐ使命を帯びてセルビアに向かった。セルビアに現れた問題の男《アイリッシュマン》は用心深く冷静で、ボンドの出現という想定外の事態にも即座に対応し、ボンドの追跡をかわしてセルビアから脱出、イギリス国内に戻っていた。ODGはイギリス国内に管轄権を持たない。つまり、この地球上で唯一、ボンドがODGのエージェントとして活動する権限を持たない場所がイギリスであり、通常ならばミッションと同時に与えられる"白紙委任状"が無効になる地域だった。金曜の夜に、どこでどんなテロ行為が計画されているのか。白紙委任状がない状態で、ボンドは4日後に迫ったテロの危険から数千の命を救うことができるのか―。

 イアン・フレミングの版権を管理する《イアン・フレミング・エステート》からのオファーを受けて、2011年にジェフリー・ディーヴァーが発表した"007物"で(原題:Carte Blanche)、上下2段組みで456ページありますが、比較的テンポよく読めました。因みに、本書刊行時のインタビューによれば、ジェフリー・ディーヴァーはこの作品のラストを、2010年11月に来日した際にホテルニューオータニで書き上げ、書き終えた翌日から次作(キャサリン・ダンス・シリーズの第3作)にとりかかったというから、精力的に仕事してるなあ。

 一応お決まりではあるものの、次々と危機が迫り来る中、ボンドがそれをどう乗り越えるかという関心から、ジェットコースター感覚とまではいかないものの話の展開に自然に引き込まれ、話の舞台もセルビアからロンドン、ドバイ、南アフリカへとワールドワイドに広がっていくし、ボンドガールに関しても、候補が何人か現れてどれが本命かという点で楽しめました。ただ、読み進んでいくほどに話の本筋自体が深化していくという印象がやや薄く、何となく同じ次元で横滑りしているような感じもしました。

 プロットが何度も反転し、ドンデン返しが連続するような作者らしい小説―という点では、終盤は期待したほどでもなかったかな。財団からのオファーのもとに書いているという点では、007のファンも満足させなければならないというというが作者の"使命"でもあったと思うし、"ディーヴァーらしさ"と"007らしさ"が両立できているかというと、微妙なところかもしれません。

 "007らしさ"という点では、ボンドが普段どのような職場で仕事をしているのかといった背景に関する記述も多くあって興味深かったし、IT時代に相応しい小道具もふんだんに登場、一方、ボンドのキャラクター造型は、少なくともショーン・コネリーやロジャー・ムーアなどよりは、ピアーズ・ブロズナンやダニエル・クレイグなどのボンド像に近いかも。まあ、ピアーズ・ブロズナンとダニエル・クレイグの二人だって随分違うし、映画におけるボンド像もかなり幅広くなってきていて、固定的には捉えられなくなってきていますが。

007 スカイフォール 01.jpg ダニエル・クレイグ(Daniel Craig)などは最初見た時は、ジェームズ・ボンドと言うよりもボンドの敵役のスナイパーかなにかのような印象で、最初の出演作「007 カジノ・ロワイヤル」('06年/英・米)がシリーズ第21作でありながら原作の第一作ということもあって(かつて'67年にパロディとして映画化された)、かなり今までのボンド像と違った印象を受けましたが(肉体派? 若気の至りからか結構窮地に陥る)、演じていくうちに独自のボンド像が出来上がっていき、彼自身にとっての第3作「007 スカイウォール」('12年/英・米)あたりになると、もうすっかりそれらしく見えます。

 skyfall.jpgサム・メンデス監督による「007 スカイウォール」はそこそこ楽しめました。特に前半部分は映像と音楽に凝っていたように思われ、それに比ミス・マネーペニー.jpgべると後半はドラマ重視性重視だったでしょうか。ジェフリー・ディーヴァーの本書『白紙委任状』におけるボンドの上司"M"は、映画と異なり男性ですが、ジュディ・デンチ(Judi Dench)演じる"M"が「スカイウォール」で殉職することは以前から決まっていたということなのでしょう(因みに秘密兵器開発担当の"Q"も配役が入れ替わった。そして、"ミス・マネーペニー"もナオミ・ハリス演じるイヴに入れ替わり)。「スカイフォール」の製作は、MGMの財政難のために2010年の間は中断されていたとのことです。結局、製作費は前作「慰めの報酬」の2億ドルから1億5千万ドルに抑えられ、それが前半と後半の手間のかけ方の違いに表れているような気がしないでもありませんが、興業的にはかなりの成功を収めたようです(チッケト代のインフレ調整をした上での比較で、シリーズ中、「サンダーボール作戦」「ゴールドフィンガー」に次ぐ興行収入だとか)。

「007 スカイフォール」1.jpg ベレニス・マーロウ(Bérénice Marlohe)演じるボンド・ガー「007 スカイフォール」2.jpgルが(ボンドが助け出すと約束していたにも関わらず)早々に犯人に殺害されてしまうとか、犯人の犯行目的が、"M"への復讐という個人的怨念に過ぎないものであるとか、冒頭の派手なアクションや前半の凝ったシークエンスに比べると、後半はボンドの実家に籠って「スカイフォール」廃墟の島1.jpg「ホーム・アローン」風の戦いになってしまい、前半ではディーヴァーの小説の犯人並みにサイバー攻撃をしていた敵役も、ここへきて火薬を使いまくるだけの芸の無い攻撃しかしなくなるとか、もの足りない面は少なからずありますが、ダニエル・クレイグのボンド像そのものは悪くなく、ディーヴァーもインタビューで、自身が映画のプロデューサーだったら、今回の作品のボンド役には誰をキャスティングするかと訊かれて「個人的にはダニエル・クレイグが気に入っている」と言ってます。
「スカイフォール」廃墟の島2.jpg
 マカオ沖に浮かぶ廃墟の島として敵役シルヴァのアジトとなった「デッドシティ」は、長崎港から約17km沖合にある「軍艦島」(正式名称は端島)がモデルですが、軍艦島は上陸に厳しい制約があって実際に軍艦島でロケは行うことはできず、スタッフが何度も訪れて細部まで酷似したセットをスタジオに作り上げたそうです。

「007 スカイフォール」●原題:SKYFALL●制作年:2012年●制作国:イギリス・アメリカ●監督:サム・メンデス●製作:マイケル・G・ウィルソン/「007 スカイフォール」.jpgバーバラ・ブロッコリ●脚本:ジョン・ローガン/ニール・パーヴィス/ロバート・ウェイド●撮影:ロバート・エルスウィット●音楽:トーマス・ニューマン[●原作:イアン・フレミング●時間:143分●出演:ダニエル・クレイグ/ハビエル・バルデム/レイフ・ファインズ/ナオミ・ハリス/ベレニス・マーロウ/アルバート・フィニー/ベン・ウィショー/ジュディ・デンチ/ロリー・キニア●日本公開:2012/12●配給:ソニー・ピクチャーズエンタテインメント(評価:★★★☆)

【2014年文庫化[文春文庫(上・下)]】

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同じ所をぐるぐる回っている感じで深化しない。スペシャリスト不在だと面白くない作家か。

追撃の森.jpg 『追撃の森 (文春文庫)』 『追撃の森』2.JPG

 断片的な通報を受けたウィスコンシン州ケネシャ郡の保安官は、女性保安官補ブリン・マッケンジーを、現場である周囲を深い森に囲まれた湖畔の別荘へ派遣、彼女はそこで別荘の所有者である夫婦が殺されているのを発見するとともに殺し屋の銃撃に遭い、現場で出会った銃撃を逃れた女性を連れて深夜の森を走る。無線も無く、援軍も望めない中、女2人vs.殺し屋2人の戦いが始まる―。

 2008年にジェフリー・ディーヴァー(Jeffery Deaver)が発表した作品で(原題:The Bodies Left Behind)、"リンカーン・ライム"シリーズのようなシリーズ作品ではなく、所謂スタンドアローン作品です。

 『ボーン・コレクター』('97年)以降、ハリウッド映画のヒーロー的な主人公が多かった彼の作品にしては新基軸と言うか、むしろ、心理描写、犯人との直接的駆け引き重視という点で、初期作品『静寂の叫び』('95年)に原点回帰した印象です。

 全体の8割が森の中での追走劇に割かれている点では、ほぼ同じ割合が食肉加工工場に立て籠もった犯人と交渉人の遣り取りに割かれている『静寂の叫び』と似ているし、その後のどんでん返しのパターンも良く似ています。

 但し、主人公のブリンは単なる女性保安官補に過ぎず、『静寂の叫び』のFBI危機管理チーム交渉人アーサー・ポターや、『ボーン・コレクター』('97年)の犯罪学者リンカーン・ライム、『悪魔の涙』('99年)の文書検査士パーカー・キンケイド、『スリーピング・ドール』('07年)の「キネシクス」分析の天才キャサリン・ダンスといったスペシャリストは出てきません。

 そうした意味ではディーヴァーの"新境地"なのかもしれないけれど、森の中での追走劇が同じ所をぐるぐる廻っている感じで、ストーリー的に深化していかず平板な印象を受け、結果的に、単刊の割には冗長に感じられました。

 『静寂の叫び』にも「冗長」との批評はありましたが、交渉人のテクニックなどが披瀝されていて、その分、心理描写も深いものになっていたように思われ、それに比べるとこちらは物足りない感じ。やはりこの人の作品は、スペシャリストが出てこないと面白くないのか。

 例の女性の正体が途中でバレないのも不自然。殺し屋の方は彼女の正体を知っているのに何故そのことを利用しなかったのか、やや不思議に思われました。

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主人公は変われどパターンは同じ? リアリティ面での疑問も残るが、そこそこ楽しめた。

悪魔の涙.jpg悪魔の涙 (文春文庫)』 悪魔の涙』1.JPG

 大晦日の午前9時、大勢の人々が行き交うワシントンの地下鉄の駅で乱射事件が発生し、多数の死傷者が出る。まもなく犯人から市長あてに脅迫状が届く。正午までに二千万ドル用意しなければ、午後4時から4時間おきに無差別殺人を繰り返すという内容だった。刻一刻と迫る期限。しかし思いもかけないアクシデントが。犯人を追うための唯一の手がかりは、手書きの脅迫状のみ。FBIは数年前に引退した筆跡鑑定の第一人者、パーカー・キンケイドの出動を要請する―。

 1999年にジェフリー・ディーヴァー(Jeffery Deaver)が発表した作品で(原題:The Devil's Teardrop)、『ボーン・コレクター』('97年)、『コフィン・ダンサー』('98年)とリンカーン・ライム・シリーズを発表した後、ちょっと目先を変えてと言うか、この作品の主人公は、文書検査士のパーカー・キンケイド。彼はリンカーン・ライムと知己ということで、リンカーン・ライムもちょこっと電話で登場します。

 パーカー・キンケイドは離婚した後に、2人の子どもと暮らしていますが、子供を危険に晒したくないという思いもあり、また、いいかげんな母親に子供の監護権を奪われたくないという気持ちもあって、最初はFBIの要請を拒みますが、結局、プロ魂の成せる業というか、捜査にずっぽりハマっていきます。

 お話は1日の出来事を追っていて、その1日で完結するものの、僅か1日の中に様々な展開があって、最後はこの作者お約束のドンデン返し。しかもそれが一度ならず二度、三度あって...。

 パーカー・キンケイドが定型的な筆跡鑑定というものを否定し独自の「文書鑑定」という手法を用いているのは、リンカーン・ライムが犯人捜査のための定型的なプロファイリングを否定し、独自の手法を採るのとパラレルになっている感じで、その他にも、実行犯にサイコパスのきらいがあったり、捜査陣の身内に犠牲者が出たり、キンケイドの家族に危険が及んだりと、リンカーン・ライム・シリーズとの相似形が多々見られましたが、結局この作者、このパターンで書くのが一番面白く、また、テンポ良く書けるのかな。

 キンケイドのキャラクターはリンカーン・ライムほど気難しくなく、私生活で子どもの養育権を守るための元妻との争いに苦労しているなど、何となく親しみを覚え、最後のFBI女性捜査官マーガレット・ルーカスとの事の成り行きも、良かったねと言うか、まあ、こうなるだろうなあと(この男女関係もリンカーン・ライム・シリーズとパラレル)。

 やはり予測がつかなかったのは、立て続けのドンデン返しで、特に犯人側に関わる大きなのが2つ。但し、プロットが凝り過ぎて(特に実行犯の方)、リアリティ面でどうかなあという印象も―。実行犯はある種"被催眠状態"のような感じで犯行を繰り返しているわけで、そんな実行犯にそこまでのことが出来るかなあという思いもありました。

 でも、まあ、そこそこ楽しめました。文庫本で1冊に収まっているのもいいです(と言っても570頁あるが)。

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"シリーズ第5作。犯行の目的と手段の乖離を「ミスディレクション」で説明するにはやや無理が...。

魔術師 単行本.jpg魔術師 (イリュージョニスト)』['04年]魔術師 文庫下.jpg 魔術師 文庫 上.jpg 『魔術師(イリュージョニスト)〈上〉 (文春文庫)』『魔術師(イリュージョニスト)〈下〉 (文春文庫)

 2004(平成16)年度「週刊文春ミステリー ベスト10」(海外部門)第3位、2005 (平成17) 年「このミステリーがすごい」(海外編)第2位作品。

 ニューヨーク各所で数時間おきに舞台奇術さながらの連続見立て殺人事件が発生し、犯人はいつも衆人環視の中、鮮やかな脱出パフォーマンスを演じるが如く消え失せてしまう。四肢麻痺の"天才的犯罪学者"リンカーン・ライムは、奇術の才能を持った犯人が繰り出す"手持ち無沙汰の絞首刑執行人"、"美女の胴切り"、"中国の水牢"など、有名な奇術に準えた殺人を阻止するには、そのタネを見破らねばならないとし、イリュージョストを目指す女性カーラに協力を依頼する―。

 2003年発表のジェフリー・ディーヴァーの"リンカーン・ライム"シリーズの第5作で(原題は"The Vanished Man")、その前に第3作『エンプティー・チェア』で南部の田舎町に行ったり、第4作『石の猿』でプロットに中国思想を織り込んだりと変化球ぽかったのが、この作品で、"安楽椅子探偵"が猟奇殺人犯を追うという、このシリーズの原初スタイルに戻った感じ。但し、個人的には、文庫化されてから読んだこともあって、ややマンネリ感も。

 解説の法月輪太郎氏が、「よく言われることだが、ライム・シリーズは結末の意外性を重視するあまり、時としてストーリーが破綻してしまう傾向がある。犯人の最終目的と、そこに至るまでの込み入った手段が合理的なバランスを失って、本末転倒の印象を受けることも珍しくない」とし、「しかし、用意周到なイリュージョニストを犯人に据えた本書では、そうしたプロットの泣き所がうまい具合にクリアされている」としています。

 つまり、魔術師による魔術そのものが、観客の目を欺くための"ミスディレクション"をベースに成り立っており、犯人が魔術師である以上、どんなに"回り道"をしても、それは"ミスディレクション"の手法として合理化でき、"目的と手段の不均衡"は解消されるということのようですが、果たしてそうでしょうか。

 個人的には、理屈は理屈、実態は実態というか、今回も大いに楽しませてくれたには違いありませんが、ちょっとやり過ぎたような感じもし(サービス過剰?)、冷静に考えれば、犯人が自らの目的のために、検事補の殺害や極右組織の指導者の脱獄幇助をわざわざ装うというのは、あまりにも目的と手段が乖離しているように思えてなりませんでした。

 冒頭の連続殺人やそのスタイルも、作者の動機との関連が今一つ弱いように感じられ、そうすると、この犯人は、猟奇犯であったと同時に復讐犯であり、但し、犯行の手口は前者と後者でかなりの不統一を呈している―これではハナから、このシリーズお得意の独自プロファイリングが効かないということになってしまう―それでいて、土壇場で犯人を追い詰め、その正体まで暴いてみせるというのは、ライムがいくら天才でも、ややご都合主義的な気がしました。

 まあ、読者としては素直に騙されていればいいのであって、また、それが作品を楽しむ一番のコツなのかも知れませんが、そうした引っ掛かりもあって、読後にやはりスッキリしないものが残りました。

 【2008年文庫化[文春文庫(上・下)]】

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シリーズ第8作。情報社会の恐怖。ライムの正統派的なアプローチは堪能できた。

The Broken Window.jpg  ソウル・コレクター.jpg        Jeffery Deaver.jpg  Jeffery Deaver
ソウル・コレクター』['09年] 
The Broken Window (2008) (The eighth book in the Lincoln Rhyme series)

 四肢麻痺の"天才的犯罪学者"リンカーン・ライムの下に、従兄弟のアランが殺人事件の容疑者として逮捕されたという連絡が入るが、完璧過ぎる証拠や匿名の目撃通報に疑問を抱いたライムが、最近起きた類似事件を調べると、同様に完璧な状況証拠と匿名の通報により容疑者が捕まった事件が2件見つかり、どうやら何者かが個人の情報を調べ上げて、自分の身代わりに犯人に仕立て上げているらしいことがわかる―。

 2008年発表のジェフリー・ディーヴァーの"リンカーン・ライム"シリーズの第8作で(原題は"The Broken Window")、連続殺人事件の背景に、個人の情報を集め、管理し、それを顧客に販売する神のような個人情報企業(データマイニング会社)の存在が浮かんできます。

 こうした情報社会の恐怖を描くのが得意な作家として、「ミレニアム」シリーズのスティーグ・ラーソンなど専門職的な作家が何人かいますが、さすがジェフリー・ディーヴァー、初めて取り上げるテーマでありながら、かなり突っ込んで高度情報社会の裏側を描いているように思えました(IT企業なのに社員のログを残していないなど、疑問点もいくつかあるが)。

 日本でも、元SEの福田和代氏による『オーディンの鴉』('10年/朝日新聞出版)というのがあって、これはこれで面白かったのですが、『オーディン』では、全ての情報を操る「神のような存在」の組織の謎については明かさず「謎の組織」のまま話が終わっており、その点では、ジェフリー・ディーヴァーのこの作品の方が、「神」になり得る存在を具体的に描いています(「グーグル」なんか、大いにその可能性あるなあ)。

 "車椅子探偵"リンカーン・ライムが少しずつ犯人を追い詰めていく様は、今回は意外とストレートで、奇を衒ったどんでん返しも無く、但し、犯人そのものは意外と小粒だったというか、まあ最初から、データマイニング会社の関係者に制約されざるを得ないわけですが...(強いて言えば、最初のリストとは少し違っていたというのが意外性か)。

 ネットやクレジットで買い物をしたり、チップ埋め込みのポイントカードを使ったりすることで、自らの行動を企業に把握され、管理されてしまうというのは怖いけれど、結局、その便利さを捨てないのは、犯人のような悪意を実行に移せる立場の人が、極めて限定されているという了解下でのことなのだろうなあ(しかも、この犯人、相当ご苦労さんというか、泥臭いことをやっているともとれる)。

 今回は、プロセスにおいては、ライムの正統派的なアプローチを最後まで充分堪能でき、また解説において、作者自身が、ライムがやっているように部屋全面にホワイトボードを置いてストーリー構築しているということを知って、たいへん興味深く思いました。

 【2012年文庫化[文春文庫(上・下)]】

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シリーズ第7作。どんでん返しの連続は楽しめたが、やや無理がある展開か。でも、面白い。

ウォッチメイカー.jpg 『ウォッチメイカー』['07年]ウォッチメイカー 上.jpg ウォッチメイカー 下.jpg 『ウォッチメイカー〈上〉 (文春文庫)』『ウォッチメイカー〈下〉 (文春文庫)』['10年]

 2007 (平成19) 年度「週刊文春ミステリー ベスト10」(海外部門)第1位。2008 (平成20) 年「このミステリーがすごい」(海外編)第1位。「日本冒険小説協会大賞」も併せて受賞した作品。

cold moon.bmp クリスマス前のある日、ニューヨークで2件の殺人があり、犯行現場に時計を残し"ウォッチメイカー"と名乗る犯人を、四肢麻痺の犯罪学者リンカーン・ライムとアメリア・サックスが追うことになるが、サックスはもう一方で、自殺したと見られていたある公認会計士の死について調査していた―。

 2006年発表のジェフリー・ディーヴァーの"リンカーン・ライム"シリーズの第7作で(原題は"The Cold Moon")、2007(平成9)年・第26回「日本冒険小説協会大賞」(海外部門)受賞作です(2008(平成10)年「このミステリがーすごい!海外部門」でも1位)。
 上下2段組みで511ページという分厚さですが、殆ど3日間内の出来事なので、一気に読むことをお奨めします。

 シリーズ史上最強の敵(?)"ウォッチメイカー"とリンカーン・ライムの知恵比べは、後半のどんでん返しの連続が醍醐味であり、それはそれで大いに楽しめ、星5つを献上したいところですが、振り返ってみると、前半部分に後半に繋がる多くの伏線があったことが分かるにしても、やや無理がある展開かなあとも。

 いつも通り、途中まではずっと、事件の経過に合わせてライムの推理がリアルタイムで展開され、読者に開示されていたのが、今回は、最後の最後で、読者が置き去りになってしまったのもやや不満が残りました。
 どんでん返しの連続である終盤は、展開のスピーディさの方を優先したのでしょうが、いくらライムが"天才"でも、そんな短い時間ですべてが判明するかなあと。

 最初の猟奇的な事件とも随分と方向が違っていってしまったように思いますが(『ボーン・コレクター』で読者がこの作家の作風に抱いたイメージを逆用した?)、とは言え、"ウォッチメイカー"の時計仕掛けの如く緻密な犯罪計画には目を瞠るものがあり、何よりも、これだけの長編を面白く最後まで読ませる力量は半端なものではありません。
 
 相手の会話の状況や仕草から嘘を見抜くキネシクスという手法をこなす、尋問エキスパート(人間嘘発見器?)キャサリン・ダンスの登場など、シリーズ7作目にしても、新たな味付けはしっかりなされていて、ダンスとライムは方法論的に折が合わないのではないかと思いきや、ライムがダンスに頼るという意外な展開、ディーヴァーの次作『スリーピング・ドール』('07年発表)では、とうとうダンスが「主役」を張るようになり、これ所謂「スピンアウト」というものか。

 "ウォッチメイカー"がシリーズ最強の敵と言えるかどうかは別として(訳者の池田真紀子氏は「最強の敵の1人かもしれない」と書いているが)、ライムとの再戦は何れまたあるのでしょう。

 【2010年文庫化[文春文庫(上・下]】

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"リンカーン・ライム"シリーズ第1作。長所においても欠点においても、原点的作品。

ボーン・コレクター 単行本.jpg   ボーン・コレクター 上.jpg ボーン・コレクター下.jpg  THE BONE COLLECTOR.jpg
 『ボーン・コレクター』['99年]  『ボーン・コレクター〈上〉 (文春文庫)』『ボーン・コレクター〈下〉 (文春文庫)』 「ボーン・コレクター [DVD]

ボーン・コレクター 洋書.jpg 1999(平成11)年度「週刊文春ミステリー ベスト10」(海外部門)第1位、(2000 (平成12) 年「このミステリーがすごい」(海外編)第2位)。

 "世界最高の犯罪学者"リンカーン・ライムは、ある事故によって四肢麻痺になり、安楽死を願っていたが、そんな彼に、不可解な誘拐殺人事件の知らせが届く。犯行現場に次の殺人の手がかりを残してゆくボーン・コレクターの挑戦に、ライムの犯罪捜査への情熱が再び目覚め、殺人現場の鑑識を嫌々引き受けていたアメリア・サックス巡査も、やがて事件解明に引き込まれてゆく―。

 1997年に発表されたジェフリー・ディーヴァーの"リンカーン・ライム"シリーズ第1作で、この人の小説は「ジェットコースター・サスペンス」と言われるだけに、長さを感じさせないスピード感がありますが、そもそも、全体で僅か3日の間の出来事なので(その間5人の犠牲者が"詰まって"いる)、出来るだけ一気に読んだ方がいいように思います。

 ジェフリー・ディーヴァーは1950年生まれ、弁護士資格を持ち(専門は会社法)、1990年までウォール街に勤務していたそうですが、科学的犯罪捜査に関するこの知識量は凄いなあ。
 但し、そうした蘊蓄だけでなく、女性巡査サックスが、突然上司となったライムに最初は反発しながらも、仕事を通して彼との距離を縮めていく(同時に、鑑識捜査官らしくなっていく)変化なども、丁寧に描かれています。

 犯人が意外と言うか、やや唐突であったりする欠点や、捜査陣の身内に犯人からの直接的な危害が及ぶという、やや無理がある、しかし、このシリーズでは定番化しているパターンなども含めて、シリーズの原点と言える作品。

ボーン・コレクター 映画.jpg '99年にフィリップ・ノイス監督により映画化されましたが、リンカーン・ライム役がデンゼル・ワシントンということで、白人から黒人になったということはともかく、原作のライムの苦悩や気難しさなどが、優等生的なデンゼル・ワシントンが演じることで薄まっている感じがし、アメリア・ドナヒュー(原作ではアメリア・サックス)役の アンジェリーナ・ジョリーも、この映画に関しては演技の評価は高かったようですが、個人的には、ちょっと原作のイメージと違うなあという感じ。

 原作はかなり内容が詰まっているだけに(とりわけ科学捜査の蘊蓄が)、これを2時間の映画にしてしまうことで抜け落ちる部分が多すぎて、役者陣のこともあり、映画は原作とは雰囲気的には別のものになってしまったというところでしょうか。そうした意味では、映画を既に観た人でも、原作は原作として充分楽しめると思います。

ジョリー  ヴォイドs.jpgトゥームレイダー ジョリー.jpg このアンジェリーナ・ジョリーという女優は、演技派と言うより肉体派では?と、実父ジョン・ヴォイトと共演し、役柄の上でも父と娘の関係の役だった「トゥームレイダー」('01年)などでも思ったのですが、「トゥームレイダー」は、世界中で大ヒットしたTVアクション・ゲームの映画版で、タフで女性トレジャー・ハンターが、惑星直列によって強大な力を発揮するという秘宝を巡って、その秘宝を狙う秘密結社と争奪戦を繰り広げるもの(インディ・ジョーンズの女性版?)。ストーリートゥームレイダー19.jpgも役者の演技もしょぼく、アンジェリーナ・ジョリーのアクロバティックなアクションだけが印象に残った作品(アンジェリーナ・ジョリー自身が、脚本を最初に読んだ時、主人公を「超ミニのホット・パンツをはいたバカ女」と評して脚本家と口論となった)。この作品で彼女は、ゴールデンラズベリー賞の「最低主演女優賞」にノミネートされたりもしていますが、最近では、アカデミー主演女優賞にノミネートされたりもしています。
 

ボーン・コレクターs.jpgボーン・コレクター dvd.jpg「ボーン・コレクター」●原題:THE BONE COLLECTOR●制作年:1999年●制作国:アメリカ●監督:フィリップ・ノイス●製作:マーティン・ブレグマン/マイケル・ブレグマン/ルイス・A・ストローラー●脚本:ジェレミー・アイアコーン/ジェフリー・ディーヴァー●音楽:クレイグ・アームストロング●原作:ジェフリー・ディーヴァー●時間:118分●出演:デンゼル・ワシントン/アンジェリーナ・ジョリー/クィーン・ラティファ/エド・オニール/マイク・マッグローン/リーランド・オーサー/ルイス・ガスマン●日本公開:2000/04●配給:ソニー・ピクチャーズ(評価:★★☆)

トゥームレイダー  .jpg「トゥームレイダー」●原題:TOMB RAIDER●制作年:2001年●制作国:アメリカ●監督:サイモン・ウェスト●製作:ローレンス・ゴードン/ロイド・レヴィン/コリン・ウィfhd001TRO_Angelina_Jolie_050.jpgルソン●脚本:パトリック・マセット/ジョン・ジンマン●撮影:ピーター・メンジース・Jr●音楽:BT●時間:100分●出演:アンジェリーナ・ジョリー/ジョン・ヴォイト/イアン・グレン/ダニエル・クレイグ/レスリー・フィリップス/ノア・テイラー/レイチェル・アップルトン/クリス・バリー/ジュリアン・リンド=タット/リチャード・ジョンソン●日本公開:2001/06●配給/東宝東和(評価★★)

トゥームレイダー.jpg  アンジェリーナ・ジョリー.jpg アンジェリーナ・ジョリー.bmp angelina-jolie「トゥームレイダー [DVD]

 【2003年文庫化[文春文庫(上・下)]】 

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