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第5章「『悪』を描くとき」が裏話的で面白かったが、あとはそうでもなかった。
前半3章でそれぞれ、中山素平(「日本興業銀行」特別顧問)、森和夫(「東洋水産」創業者)、八谷泰造(「日本触媒」創業者)を扱っていますが、これは皆『小説 日本興業銀行』『燃ゆるとき』『炎の経営者』といった著者の小説のモデルになっている経営者たちです。
著者が彼らをモデルとした小説を書こうとした経緯などが分かって興味深いのですが、「リーダー論」と言うより著者自身の「思い出話」になってしまっている感じもしました。
第4章「さまざまな出会い」に出てくるその外の経営者たちも、『小説 会社再建』のモデルとなった「来島どっく」の坪内寿夫、『挑戦つきることなし』のモデルとなった「ヤマト運輸」の小倉昌男、『青年社長』のモデルとなった「ワタミ」グループの渡邉美樹と、何れも然りですが、故・小倉氏とは本人に直接一度も取材することがないままに小説を書いたという話や、渡邉氏の政界への関心を著者が危惧していることなどに若干興味を抱きました。
第5章「『悪』を描くとき」が一番面白かったです。『濁流』で、雑誌「経済界」の主幹・佐藤正忠を描いた時は、まさに「筆誅を加える」という気持ちだったそうで、それぐらいの心意気と言うか、"怒り"の原動力が無いと、あのような作品は書けないんだろうなあと思わされ、『労働貴族』で、日産労組のドンで今年('13年)2月に亡くなった塩路一郎をモデルに描いた際は、不審者に尾行されたとのこと、『金融腐蝕列島』第二作「呪縛」連載中も、匿名の脅迫状が送られてきたりして、警察の「マル対」(保護対象者)になったとのこと、そして、日経新聞の鶴田卓彦社長をモデルとした『乱気流』では、訴訟問題にまで発展、新聞各紙では「高杉氏敗訴」と報じられましたが、別に出版差止めになったわけでもなければ謝罪広告を命じられたわけでもなく、賠償請求額の20分の1の支払い命令が下されただけなので、「一部敗訴」が正しいとしています(毎日新聞のみが「一部敗訴」と報じた)。
最後の第6章で「リーダー論」の締め括りをしていますが、そうした本書全体の流れからやや外れた第5章が、裏話的関心からかもしれませんがやはり一番面白く、あとはそうでもなかったか。
同趣のものとしては、故・城山三郎の『打たれ強く生きる』や『聞き書き 静かなタフネス10の人生』の方が、若干、対象となる人物により深く入り込んでいた気がします。