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サンディエゴ版「ゴッドファーザー」。主人公の"老い"があまり描かれていないと思いきや...。

フランキー・マシーンの冬 上.jpg   フランキー・マシーンの冬 上・下.jpg
フランキー・マシーンの冬 上 (角川文庫)』『フランキー・マシーンの冬 下 (角川文庫)

『フランキー・マシーンの冬 (上・下)』 .JPGThe Winter of Frankie Machine.jpg サンディエゴで釣り餌店など複数のささやかなビジネスを営む傍ら、元妻と娘、恋人の間を立ち回り、余暇にはサーフィンを楽しむ62歳のフランク・マシアーノは、かつては"フランキー・マシーン"と呼ばれた凄腕の殺し屋だったが、今はマフィアの世界からすっかり足を洗ったつもりでいた―が、そうした冬のある日、フランクは、今になって彼の命を奪おうとする何者かに罠に嵌められ、それまでの平和な日々に別れを告げることに―。

 2006年に発表されたドン・ウィンズロウ(Don Winslow、1953-)の10作目の邦訳作品(原題:The Winter of Frankie Machine")であり、叙事詩的大作『犬の力』(2005年発表、'09年/角川文庫)の次の作品になりますが、その後も2011年までに4作書いているとのことで、未だ邦訳が出ていないそれらの作品との関連ではどうなのか知りませんが、過去のシリーズ作品ではなく単独作品です。

 50代に入った作者が62歳の"黄昏の殺し屋"をどう描くか、それまでタフガイながらも繊細さを持った比較的若い主人公が多かっただけに、その新境地に関心を持ちましたが、実際に読んでみると、フランクの人生の過去を追っている部分がかなり占めています。

 "見習いマフィア"のような時代から始まって、様々の抗争事件を振り返るのは、今自分を亡き者にしようとしているのが誰なのかをフランク自身が考えるためでもありますが、過去の出来事も"現在形"のように書かれているため、結局、今までのウィンズロウ作品とあまり変わらないような...(そのため、今までのウィンズロウ作品と同じように楽しめてしまったのだが)。

 「ストリップ戦争」凄いね。"ウィンズロウ節"炸裂という感じ。バイオレンスものが嫌いな人にはお薦め出来ませんが、サンディエゴ版「ゴッドファーザー」と言ってもいいかも(作中に映画「ゴッドファーザー」を意識した記述が縷々ある)。

 一方、現在の"老"フランクは、彼の命を狙う包囲網を次々と切りぬけていきますが、そこには年齢というものがあまり感じられず、やはり、ヒーローは老いても"老い"を見せてはならなのかと。
62歳の元殺し屋と65歳の旧友との再会は確かにキツイものだったけれど、老いているのは相方ばかりで、フランク自身からは(冒頭部分を除いては)年齢は伝わってこないなあと思いきや、"老い"はちゃんと最後に、巧みにプロットに組み込まれていました(『ボビーZの気怠く優雅な人生』(′99年/角川文庫)をちょっと思い出した)。

 ジョン・ハートの『ラスト・チャイルド』('10年/ハヤカワ・ミステリ)に続いて読みましたが、最近、ジョン・ハートや、『エアーズ家の没落』('10年/創元推理文庫)のサラ・ウォーターズなど文芸色の強いミステリがよく読まれている中、この独特の「エンタメ・トーン」は、"ゆるい系ハードボイルド"と呼ばれているそうで、一言でミステリと言っても幅があるなあと思いました。

 2010(平成22)年・第29回「日本冒険小説協会大賞」(海外部門)受賞作(『犬の力』に続いて2年連続の受賞)。2010 (平成22) 年度の「週刊文春ミステリー ベスト10」では、『ラスト・チャイルド』は1位、この作品は9位ですが、宝島社の「このミステリーがすごい!」では『フランキー・マシーンの冬』が4位で『ラスト・チャイルド』は5位。こうなると、どっちがいいかは好みの問題で、優劣の問題ではないような気がします。

robertdeniro.jpg どっちも好きだけど『ラスト・チャイルド』はじっくり読んで、『フランキー・マシーンの冬』は一気に読むのがいいかも。『犬の力』よりは軽めだし。

 因みに『犬の力』の後書きで、本作はロバート・デ・ニーロ主演で映画化が決定していると書いてありましたが、どうなっている?

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掛け値無しの面白さ。バイオレンスは厭という人にはお薦めできないが。

犬の力.jpg  犬の力 上.jpg 犬の力 下.jpg犬の力 上 (角川文庫)』『犬の力 下 (角川文庫)

犬の力 (上・下)』4.JPG 2009(平成21)年・第28回「日本冒険小説協会大賞」(海外部門)受賞作、2009年度・第1回「翻訳ミステリー大賞」受賞作、2010年・第28回「ファルコン賞」(マルタの鷹協会主催)受賞作(更に、宝島社「このミステリーがすごい!(2010年版・海外編)」1位、2009年度「週刊文春ミステリーベスト10」(海外部門)第2位、2009年「IN★POCKET」の「文庫翻訳ミステリー・ベスト10」でも第2位)。

 メキシコの麻薬撲滅に取り憑かれたDEAの捜査官アート・ケラー、叔父が築く麻薬カルテルの後継アダン&ラウル・バレーラ兄弟、高級娼婦への道を歩む美貌の女子学生ノーラ・ヘイデン、ヘルズ・キッチン育ちのアイルランド人の若者ショーン・カラン。彼らは、米国政府、麻薬カルテル、マフィアなどの様々な組織の思惑が交錯する壮絶な麻薬戦争に巻き込まれていく。血に塗られた30年間の抗争の末、最後に勝つのは誰か―。

犬の力 洋書.jpg 2005年に発表されたドン・ウィンズロウの長編で(原題: "The Power of the Dog" )、1999年以降筆が途絶えていたと思いきや6年ぶりのこの大作、まさに満を持してという感じの作品であり、また、あのジェイムズ・エルロイが「ここ30年で最高の犯罪小説だ」と評するだけのことはありました。

 それまでのウィンズロウ作品のような1人の主人公を中心に直線的に展開していく構成ではなく、アート・ケラー、バレーラ兄弟、カランの3極プラスノーラの4極構成で、それぞれの若い頃から語られるため、壮大な叙事詩的構図を呈しているとも言えます。

 若い頃にはバレーラ兄弟に友情の念を抱いたことさえあったのが、やがて彼らを激しく憎しむようになるアート・ケラー、マフィアの世界でふとした出来事から名を馳せ、無慈悲な殺し屋となっていくカラン、メキシコの麻薬市場を徐々に牛耳っていくバレーラ兄弟、その兄アダン・バレーラの愛人になるノーラの謎に満ちた振る舞い、大掛かりな国策的陰謀の中で彼らは踊らされているに過ぎないのか、最後までハラハラドキドキが続きます。

 もう、「ニール・ケアリー・シリーズ」のような"ソフト・ボイルド"ではなく、完全にバイオレンス小説と化していますが、重厚感とテンポの良さを併せ持ったような文体は、やはりこの作家ならではかも。
 「ボビーZ・シリーズ」で、エルモア・レナードっぽくなったなあと思いましたが、この作品を読むと、あれは通過点に過ぎなかったのかと思われ、エンタテインメントの新たな地平を求めて、また1つ進化した感じです。

 一歩間違えれば劇画調になってしまうのですが、と言って、この作品の場合、そう簡単には映画化できないのではないでしょうか。丁度、ダシール・ハメットの最もバイオレンス風味溢れる作品『赤い収穫(血の収穫)』が、かつて一度も映画化されていないように(1930年に映画化され「河宿の夜」として日本にも公開された作品の原作が『赤い収穫』であるという話もあるが)―。それでも、強引に映画化するかなあ。

 とにかく掛け値無しで面白いです。但し、たとえエンタテインメントであってもバイオレンスは厭という人にはお薦めできません(と言う自分も、上巻の終わりのところでは、結構うぇっときたが)。

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"ニール・ケアリー・シリーズ"と『犬の力』の中間にある作品。ストーリーが巧み。

ボビーZの気怠く優雅な人生.jpg 『ボビーZの気怠く優雅な人生 (角川文庫)』['99年] The Death and Life of Bobby Z.jpg "The Death and Life of Bobby Z"  輸入版DVD

The Death and Life of Bobby Z hardcover.jpg 元海兵隊員のティムの人生はトラブルだらけで、コソ泥で服役中に人を殺してしまって終身刑が確実となった上に、殺した男の仲間に命を狙われる―そんな彼に麻薬取締捜査官が差し伸べた救いの手は、ティムの容姿がカリフォルニアの麻薬組織の帝王ボビーZに瓜二つであることから、その替え玉になることだった。協力することで自由の身になった彼だったが、彼の前にメキシカンマフィアの顔役、メキシコの麻薬王ら悪党の面々、そして謎の美女とその連れている男の子が現れ、彼自身は、麻薬王や捜査官に追われる立場に―。

 ドン・ウィンズロウが1997年に発表した作品で(原題は"The Death and Life of Bobby Z")、『ストリート・キッズ』をはじめとする"探偵ニール・ケアリー・シリーズ5部作"に対して、これはシリーズ外の作品。

 他にも90年代に発表された"ニール・ケアリー・シリーズ"以外の作品では、『歓喜の島』('96年)、『カリフォルニアの炎』('99年)』がありますが、この『ボビーZの気怠く優雅な人生』は、小説の背景は"ニール・ケアリー・シリーズ"とは異なるものの、主人公のキャラクター的には、ニール・ケアリー的要素を引いているのではないでしょうか。
 一方で、後の『犬の力』('05年)を予感させるようなバイオレンス的要素もあり、"ニール・ケアリー・シリーズ"と『犬の力』の中間にある作品と言っていいかと思います。

 危機一髪が繰り返されるストーリーはとにかく面白い。ただ、こんな殺戮場面の連続に子どもを立ち会わせていいのかなあと気を揉んだりもしましたが、後になって思えば、「血の繋がらない家族」というのがテーマとしてあったわけかと(子どもを通して、ティムが真人間になっていく過程を描いたともとれる)。

 こんなに事が旨く運ぶのかなあとも思いましたが(ラストのサーフボード!)、ボビーZが語り部のワンウェイによって伝説として語られるように、ティム自身も、1個の伝説となる、その予兆として描かれていると見るべきでしょうか。

 但し、ティムは、最後には、ボビーZの伝説に終止符を打つとともに、自分自身をも消し去る―これは、ティムをボビーZに仕立てることで利するはずだった黒幕の陰謀を、そのまま裏返しにしてお返ししたような結末であるとも言え、そのストーリーテイリングの巧みさには舌を巻くばかりです。

ボビーZ.jpg 語り部のワンウェイの口から伝わるのかどうかは別として、やがて、どこかでティム(乃至ボビーZ)は生きているということで、また新たな伝説が広まるのではないでしょうか。
 どちらの名で伝わるにしろ、実質的にはティムがボビーZの伝説を引き継いだことになりますが、ワンウェイの口から伝わるのならば、"ボビーZ"の名で伝わるのだろうなあ。

 映画化され、ストーリーはほぼ原作に忠実なようですが、ポール・ウォーカーのティム役は、ちょっとイメージ違うような...。

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元ストリート・キッズの探偵の活躍が爽快。"ソフトボイルド"の傑作。

A Cool Breeze on the Underground.jpg ストリート・キッズ ドン・ウィンズロウ.jpgストリート・キッズ (創元推理文庫)』['93年] Don Winslow.jpg Don Winslow

A Cool Breeze on the Underground: A Neal Carey Mystery: Don Winslow

 1994(平成6)年・第12回「ファルコン賞」(マルタの鷹協会主催)受賞作。

 1976年5月、「朋友会」という組織に属する探偵ニール・ケアリーは、来る8月の民主党全国大会で副大統領候補に推されることになっている上院議員から、行方不明の17才の娘アーリー探しを依頼され、彼女の元同級生の目撃証言をもとにロンドンに向かうが、その地で何とか探しあてた娘を巡って、ワル達との間での駆け引きが始まる―。

 『犬の力』で2009年の「このミス」海外編で第1位になった、ニューヨーク出身の作家ドン・ウィンズロウ(Don Winslow,1953‐)が、1990年に発表したデビュー作で、"ニール・ケアリー"シリーズ(全5作)の第1作でもあります(原題は"A Cool Breeze on the Underground")。

 邦訳のタイトルは、主人公が、父親は行方知れず、母親は飲んだくれの娼婦という不幸な生い立ちの路上生活少年、所謂ストリート・キッズだったことに由来し、彼はひょんなことから父親代わりと言うべきグレアムと出合い、尾行術など探偵の基礎を教えられ、やがて組織の一員となり、大仕事をやってのけるという痛快な内容です。

 文庫で512ページの長編ですが、テンポ良く楽しめながら読める文体が良く、前半はあまり探偵小説っぽくなくて、「ニューヨーカー」誌(短編主体だが)の都会小説を読んでいるような感じもあります。

 ニールとグレアムの父子関係にも似た師弟関係が良く、実際2人は「父さん」「坊主」と呼び合っていますが、時にそれは強い信頼の絆の下にある友情関係のようでもあります。

 そして、ニールのキャラクターも最高。普段は減らず口ばかり叩いていますが、実は繊細ではにかみ屋。大学で文学を教えることを目指す知性派であり、体力よりも知力で勝負するタイプですが、いざという時は身体を張って、時には命がけで勝負しなければならない局面も。

 そんな時には、既存のハードボイルド小説のスーパーヒーローやタフガイと違って、"普通人"と同様に恐怖心を抱き、それを克服しようと懸命になっている様が健気で(それが時に、作者によって巧みにユーモラスな筆致で描かれている)、こんなキャラって、従来のハードボイルド小説ではいなかったなあと思われ、実に新鮮でした。

 ニールとアーリーに絡む様々な人物の描写も楽しめ、彼らが複雑に取引きし合って、そして、終盤のたたみかけるような展開。全体のプロットも秀逸で、まさに「ニール、してやったり」という感じ。

 近作『犬の力』(これ、傑作です)に比べ、より自分の経験に近いところで書かれている感じで(作者は俳優、教師、記者、研究員など様々な職業を経験していて、この作品を書いた時点でも、調査員兼サファリガイドだったとのこと)、基調にはユーモアが目一杯に鏤められています。

 こういうの、"ハードボイルド"でなく、"ソフトボイルド"と呼ぶそうです。ナルホドね。ソフトボイルドの傑作です。

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