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本書を読んで、映画の鑑賞法の原点に立ち返るのもいいのではないか。

『映画を見ると得をする』.jpg映画を見ると得をする b.jpg 映画を見ると得をする d.jpg
映画を見ると得をする (新潮文庫)』「映画を見ると得をする もっと映画が面白くなる」[Kindle版]

映画を見ると得をする (ゴマブックス)』['80年]

 著者は言います。なぜ映画を見るのかといえば、人間は誰しも一つの人生しか経験できない。だから様々な人生を知りたくなる。しかも映画は、わずか2時間で隣の人を見るように人生を見られる。それ故、映画を見るとその人の世界が広がり、人間に幅ができてくる―と。

 まさに至言ではないでしょうか。本書は、シネマディクト(映画狂)を自称する著者が、映画の選び方から楽しみ方、効用を縦横に語り尽くしたものです。個人的に印象に残ったポイントをいくつか拾っていくと―

「料理長殿、ご用心」0.jpg 原題をそのまま題名にするのが流行っている。何かイメージがわく題名なら、中身もいい。... 日本語でいい題がつくときは、映画としてもいいものであるとして、「料理長(シェフ)殿、ご用心」 ('78年/米)がその例で、原作の小説より映画の方がよくできていたとしている。

「ナイル殺人事件」0.jpg 外国映画の「大作」は絶対に観るに値する。失敗作でさえも見るべきところがいっぱい。... 映画自体は失敗作でも、大作はセットも素晴らしいし、ロケにも金をかけていて、「ナイル殺人事件」('78年/英)などは本当にエジプトに行って撮っている」わけでしょと。個人的は、観光映画としても楽しめる要素があったなあ。

「元禄忠臣蔵」0.jpg「残菊物語」0.jpg 戦前の日本映画には凄い大作があった。例えば「残菊物語」「元禄忠臣蔵」。... 溝口健二の「残菊物語」('39年/松竹)は個人的にも完璧な恋愛・人情ドラマだと思った。「元禄忠臣蔵」('41-'42年/松竹)で、松の廊下を原寸通りに作っちゃったというのも凄いと(確かに)。歴史の中にしか存在しなかったものを、ぼくらの眼前に再現してくれているのが大作の価値だと。

「カサノバ 」フェリーニ0.jpg 「難解きわまる映画」というものがある。ときにはそういう映画で自分を鍛える。...  アラン・レネはどれも難しいと。フェリーニは「81/2」('63年/伊・仏)から後はみなわからなくなっちゃって、「アマルコルド」('73年/伊・仏)で昔のフェリーニに戻って、これはだれが観ても素晴らしかったが、ところが今度「カサノバ」('76年/伊)を撮ったら、やっぱりわからないと。主演のドナルド・サザーランドが、終わってから、「自分は一体どういう役をやったのかさっぱりわからない...」と、いったそうで、ぼくもパリで観たが退屈したと。

「赫い髪の女」0.jpg ポルノをつくっている会社の映画にも、時には観るべきものがある。例えば「赫い髪の女」。... 「赫い髪の女」('79年/にっかつ)は、中上健次の原作がいいし、男と女の愛欲を探究しているものだから、凄いけれど、いやな感じはないと。

 「巨匠」の作品必ずしも秀作にあらず。ただし、美術的感覚に見るべきものあり。... 「」('54年/伊)を作ったころのフェリーニは、大道芸人の可哀そうな女とか哀れな男に本当に共感を持っていたと思うが、フェリーニ自身が大巨匠になっておかしくなってしまったと。

「影武者」1.jpg 黒澤明然り。ただし、筆を持たせたら素晴らしく、「影武者」('80年/東宝)のスケッチなどは大したものであると(著者自身が絵を描くからそう感じるのだろう)。個人的には、かつての黒澤作品のダイナミズムは影を潜め、映画は映像美・様式美に終始してしまった印象。カンヌ国際映画祭でパルムドールを撮ったのは、その様式美がジャポニズムとして受けたのでは。勝新太郎が黒澤監督と喧嘩して主役を降りたけれど、もともと勝新太郎向きではなかった? 映画の完成披露試写会を勝新太郎が観に来たていて、「面白くなかった...俺が出ていたらもっと面白くなってたよ」と言ったそうだ。

椿三十郎 三船 仲代.jpg 「役者を汚して、血を噴出させる」のがリアリズムという日本映画の馬鹿の一つ覚え。... 最初にやったのが黒澤明の「椿三十郎」('62年/東宝)で、黒澤さんが悪いんじゃなく、黒澤監督としてはちょっと珍しいことをやってみたに過ぎない、それを猫も杓子も真似しちゃったから困ったものだと。

淀川長治2.jpg 映画評論を読めば、自分自身の「好み」や「個性」がわかってくる。それが値打ち。... 推薦できる評論家として、飯島正、南部圭之助、双葉十三郎を挙げ、淀川長治さんなかの映画評論を一般のファンは当てにしたらいいんじゃないかと思うと(そう言えば、本書のカバー裏の著者紹介は淀川長治が書いている)。

荒野の用心棒 1964.jpg「荒野の用心棒」2.jpg ハリウッドの西部劇とマカロニ・ウエスタン。その大きな違いの一つは「女の描き方」。... マカロニ・ウエスタンには女の匂いがぷんぷんするような女が出てきて男とからみ合うが、アメリカの方は「女なんか全然数のうちじゃない...」といった男がいっぱい出てくると。また、マカロニ・ウエスタンの特徴はサディスティックであることで、拷問シーンなどでもユーモアがないとのこと。確かに「荒野の用心棒」('64年/伊)がそうだった。クリント・イーストウッドはボロボロにやられていた。ただし、著者は、黒澤明の「用心棒」を無断でかっぱらった「荒野の用心棒」が面白くないはずがないと。

イノセント.jpg 最近ではヴィスコンティの遺作「イノセント」。歴史に残るセックスシーンの1つだろう。... 「イノセント」('76年/伊・仏)のそれは素晴らしかったと。夫婦が別荘に行って、ちょうど春で、ぽかぽか温かくなり、庭に花が咲き乱れ、男がだんだん興奮してくる...。全身を写すところもあったが、たいていは胸から上しか写さず、それでいて本当にエロチックなシーンだったと。

「最後の晩餐」0.jpg 洒落たフランス映画を観た後で「フランス料理を食べたい」という女の子なら悪くない。... フランス映画を観た後では鮨屋よりフランス料理を食べに行きたくなるが、逆の場合もあり、それが「最後の晩餐」('73年/伊・仏)であると(確かに)。四人の主人公が死ぬまで食べ続ける映画だった。マルコ・フェレーリは巨匠ではないが相当の監督だと。

「旅芸人の記録パンフ2.jpg 例えば「忠臣蔵」を一本観ただけで、その人の世界がグーンと広くなっちゃう。... 「旅芸人の記録」('75年/ギリシャ)という映画を観れば、自然にギリシャという国に興味を持って、ギリシャに歴史を読んでみよう、ギリシャの生活について何か探して読んでみようということになり、それをやれば、ぼくの持っている世界が広がっていくわけだと。まさに、本書のエッセンスがここに述べられているように思いました。

 この本が出たころは、映画と言えば(テレビで観ることもあったとは思うが)基本的にみんな映画館で観たのだろうなあ。それが、レンタルビデオの時代を経て、今やAmazon PrimeやNetflixの時代へと移りつつあり、昨今は、映画を倍速で視聴するユーザーが急増しているようです。今一度、本書を読んで映画鑑賞の在り方の原点に立ち返るののいいのではないかと思いました。

影武者[東宝DVD名作セレクション]」 山﨑努(信玄の弟・武田信廉)/仲代達矢(武田信玄、影武者)
「影武者」dvd1980.jpg「影武者」0.jpg「影武者」●制作年:1980年●監督:黒澤明●製作:黒澤明/田中友幸●外国版プロデューサー:フランシス・コッポラ/ジョージ・ルーカス●脚本:黒澤明/井手雅人●撮影:斎藤孝雄/上田正治「影武者」志村僑.jpg「影武者」大滝秀治.jpg●音楽:池辺晋一郎●時間:180分●出演:仲代達矢/山﨑努/萩原健一/根津甚八/油井昌由樹/隆大介/大滝秀治/桃井かおり/倍賞美津子/室田日出男/阿藤海/矢吹二朗/志村喬/藤原釜足/清水綋治/清水のぼる/山本亘/音羽久米子/江幡高志/島香裕/井口成人/松井範雄/大村千吉●公開:1980/04●配給:東宝●最初に観た場所:飯田橋・佳作座(81-02-14)(評価:★★★)
志村喬(信玄の父・田口刑部、信玄に追放され、信長の手先として送り込まれる)/大滝秀治(信玄家臣・山縣昌景)
倍賞美津子(側室・於ゆうの方)/桃井かおり(側室・お津弥の方)  黒沢明監督「影武者」、カンヌ映画祭の最高賞に(1980年5月23日)[日本経済新聞]/日劇(1981年閉館)
「影武者」倍賞・桃井.jpg 黒澤 カンヌ.jpg 日劇文化.jpg

「荒野の用心棒」.jpg「荒野の用心棒」●原題:PER UN PUGNO DI DOLLARI●制作年:1964年●制作国:イタリア・西ドイツ・スペイン●監督:セルジオ・レオーネ●脚本:ヴィクトル・アンドレス・カテナ/ハイメ・コマス・ギル/セルジオ・レオーネ●製作:アリゴ・コロンボ/ジョルジオ・パピ●音楽:エンニオ・モリコーネ●時間:96分(完全版100分)●出演:クリント・イーストウッド/ジャン・マリア・ヴォロンテ/マリアンネ・コッホ/ホセ・カルヴォ/ヨゼフ・エッガー/アントニオ・プリエート●公開:1965/12●配給:東宝(評価:★★★★)

映画を見ると得をする.jpg【1987年文庫化[新潮文庫]】

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急逝した天知茂の遺作(シリーズ最高視聴率)。美女役は新型コロナで亡くなった岡江久美子。

25話)/黒真珠の美女 dvd.jpg 25話)/黒真珠の美女 t1.jpg  25話)/黒真珠の美女 t2.png 25話)/黒真珠の美女 t3.jpg
黒真珠の美女~江戸川乱歩の「心理試験」~ [DVD]」天知茂/岡江久美子

25話)/黒真珠の美女 4シーン.png ある絵画の展示会で、明智探偵(天知茂)は黒真珠のイヤリングをしていた美女(岡江久美子)に出会う。その後、ゴッホの「星月夜」を画商の蕗屋裕子が手に入れたと発表され、西洋美術館が入手しようと名乗りを上げていると噂されていた。明智は展覧会場で、同級生で東京美術大学の教授・北原(久富惟晴)から蕗屋裕子を紹介してもらうが、彼女が例の黒真珠の美女だった。そこには蕗屋画廊の顧客で美術収集家の徳田礼二郎(高橋昌也)と、画商の宍戸(長塚京三)も来ていた。その後、明智の事務所に無記名の封筒が届き、文代(藤吉久美子)が開けると、中には百万円が入っていて、絵は偽物に違いないので入手経路を調べてほしいとあった。明智は、裕子を訪ねるが、彼女は絵の入手経路25話)/黒真珠の美女 4人.pngを明かさない。一方、この絵を前にして、徳田は「偽物だよ」と呟く。宍戸は、あの絵が本物なら時価十億は下らず、そんな大金を裕子がどうやって工面したか謎であり、偽者の可能性が高いことを明智に説明する。明智は宍戸を尾行し、ホテルで徳田の家のお手伝い・ユミエ(東千晃)と関係を持っていることを知る。彼女は聖ヨハネ病院の元看護婦で、同じ病院に勤める元恋人の小池(伊藤克信)から復縁を迫られていた。徳田邸ではカメラマン志望の恋人・富山(貞永敏)との交際を反対された徳田の一人娘・ユカ(代日芽子)が徳田と口論の末、家を飛び出し車で出かけていった。徳田と約束をしていた裕子から仕事が長引いてまだ京都駅にいるという電話が入り、それを受けたユミエが徳田に知らせに行くと徳田が血を流して倒れていた―。

 この「美女シリーズ」で天知茂の遺作となった作品で、天知茂は1985年7月27日にクモ膜下出血により54歳で亡くなっており、この第25話は、8月3日に放映されています。したがって、この回は、結果的に初放映が"追悼放映"になったかたちで、視聴率はシリーズ最高の26.3%を記録しています(以降、北大路欣也主演で6話、西郷輝彦主演で2作作られたが、天知茂の明智探偵像が強烈だったせいか長続きしなかった)。

そして誰もいなくなった 渡瀬_.jpg 2017(平成29)年に、テレビ朝日で渡瀬恒彦主演の「アガサ・クリスティ そして誰もいなくなった」が放送された際、3月25日・26日の2夜連続ドラマの各冒頭で、3月14日に亡くなった渡瀬恒彦が出演した「最後の作品」であることを伝えるテロップが表示され、しかも、末期がんの役で出ているのがかなり衝撃的でしたが、当時の視聴者も似たような印象を持ったのではないでしょうか。この「黒真珠の美女」では、渡瀬恒彦の場合と異なり、天知茂本人も自分が死ぬと志村けん エール.jpg志村けん  .jpgは思っていないと思いますが、明智がその喫煙を制止する文代の目を盗んでタバコを美味そうに吸う場面があったりして、ひやっとします。もっと最近では、今年['20年]3月30日放送開始のNHKの朝ドラ「エール」でテレビドラマ初出演の志村けんが、3月29日に新型コロナウイルスによる肺炎で亡くなり、山田耕筰をモデルとする役で5月1日放映分から登場して、これも実質"追悼放映"になってしまったということがありました。
    
別冊スコラ 岡江久美子写真集「華やかな自転」.jpg岡江久美子 死去  NHK.jpg そして、同じく新型コロナウイルスによる肺炎のため4月23日に亡くなったのが、この「黒真珠の美女」の"美女"こと岡江久美子です。近年ではTBS「はなまるマーケット」の総合司会(1996年~2014年)のイメージが強く、また、かつてはNHKの「連想ゲーム」での名解答者(1978年~1983年)ぶりから「才女」のイメージがありますが、別冊スコラで『岡江久美子写真集 華やかな自転』を出したのが'82年で、フォトジェニックな女優でもありました(写真集は当時25歳。翌年、大和田獏と結婚)。

別冊スコラ 岡江久美子写真集「華やかな自転」』['82年]
岡江久美子
25話)/黒真珠の美女 岡江.jpg この「黒真珠の美女」の撮影時の岡江久美子は28歳で、若くして着物も似合うからなかな心理試験 春陽堂文庫.jpgかのもの。最後まで凛としていて、天知茂と拮抗しているか、むしろそれを凌いでいた印象です。内容的には、原作の「心理試験」はもうどっか飛んでしまっている感じですが(このシリーズ、後になればなるほど原作から離れていったようだ)、犯人捜しというより、絵の真贋の謎やその背後にある復讐劇、トラベルミステリー的なプロットなど、プロセスが愉しめ、ラストも明智探偵が最後に変装して登場し犯人を暴くというお決まりの型にもう一つ捻りが入っていて、いろいろと愉しめる佳作に仕上がっているように思います。

必殺仕掛人 春雪仕掛針ド.jpg 監督の貞永方久(さだなが まさひさ、1931-2011/79歳没)は九州大学法学部出身。卒業後、松竹京都撮影所演出部に入社して映画監督になっていますが、こうしたテレビ映画の演出も多数あり、特にABCテレビの「必殺シリーズ」では第2作(中村主水シリーズの第1作)である「必殺仕置人」('73年、全26話、山﨑努、藤田まこと主演)から参加し、劇場版「必殺仕掛人 春雪仕掛針」('74年/松竹)では監督も務めています。TVシリーズの「必殺仕掛人」('72~'73年、全33話、林与一、緒形拳主演)は「必殺シリーズ」の第1作で、「必殺仕置人」の前番組にあたり、第1作「必殺仕掛人」の原作は池波正太郎の「仕掛人・藤枝梅安」ですが、後番組の「必殺仕置人」の方は「必殺仕掛人」の枠組みだけ踏襲したTVオリジナルでした。「必殺仕掛人」は、当時のフジテレビの笹沢佐保原作の「木枯し紋次郎」(1972/01~05、1972/11~1973/03)の人気に押されていた朝日放送が対抗策として打ち出したもので、中村敦夫が撮影中の事故で一時離脱したタイミングを見計らい'72年9月に放送開始、放送時間も「紋次郎」の30分前の22時開始にするなどの策が練られました。因みに、緒形拳げ演じた藤枝梅安は、当初は天知茂が想定されていたとのことです。

『必殺仕掛人 春雪仕掛針』.jpg必殺仕掛人 春雪仕掛針ges.jpg 映画「必殺仕掛人 春雪仕掛針」は、「必殺仕掛人」('73年/松竹、田宮二郎主演)、「必殺仕掛人 梅安蟻地獄」('73年/松竹、緒形拳主演)に続く「必殺仕掛人」シリーズ第3作(最終作)で、第1作と第2作の監督は松本清張原作の「黒の奔流」('72年/松竹)の渡邊祐介監督でした。第2作「梅安蟻地獄に続き、梅安=緒形拳、十五郎=林与一、半右衛門=山村聰のキャスティングで、仇役の盗賊の女棟梁役に岩下志麻を迎えていますが、このキャラクター造形は同じ池波正太郎の小説「鬼平犯科帳」の登場人物の「猿塚の千代」(「女賊」)をそのまま引いており、原作が池波正太郎であるには違いないですが、ただし、それらを融合させて映画オリジナルのストーリー構成となっています。
<あの頃映画> 必殺仕掛人 春雪仕掛針 [DVD]
必殺仕掛人 春雪仕掛針ku.jpg必殺仕掛人 春雪仕掛針s.jpg

[下]林与一・緒形拳/山村聰
必殺仕掛人 春雪仕掛針 緒形・林.jpg必殺仕掛人 春雪仕掛針 山村.jpg 岩下志麻演じる千代を堕落させる悪役・勝四郎を夏八木勲が演じていたりして、今観るとなかなかのキャスティング、林与一ばかりか、TV版では直接手を下すことがほとんどない仕掛人の元締め・音羽屋半右衛門役の山村聰も立ち回りをやるし、岩下志麻は「きつい女」役がもうすでに板についている感じでした。ただ、哀しい話ではあるのですが、今一つ哀しみが伝わってきにくいのは、千代が必殺仕掛人 春雪仕掛針HL.jpg梅安に「あんたが私を捨てなければ私は今頃...」と恨み節ばかり言っているせいもあるでしょうか(千代にとって梅安は"最初の男"だった)。梅「必殺仕掛人 春雪仕掛針」 3.jpg安は第1作と違って原作通り、かつて自分が結果的に自分の妹を殺してしまったことを自覚している作りになっているので、自分には所帯を持つ資格はないと思ったのではないでしょうか(と思ったら、「あの頃映画 松竹DVDコレクション」のキャッチに「私は人殺しですからね、人並みの夢を持っちゃいけねえ...」とあった)。それくらい梅役の心の闇は深く、ここにきてまた悪の世界に堕ちてしまった千代を...。シリーズで一番暗い作品かもしれませんが、この陰の深さは映画的には悪くないように思います。

代日芽子(徳田の一人娘・ユカ)/東千晃(徳田の家のお手伝いのユミエ)
25話)/黒真珠の美女 貞永.png25話)/黒真珠の美女 入浴.png「江戸川乱歩 美女シリーズ(第25話)/黒真珠の美女」●制作年:1985年●監督:貞永方久●プロデューサー:川田方寿/佐々木孟●脚本:山下六合雄●音楽:鏑木創●原作:江戸川乱歩「心理試験」●時間:92分●出演:天知茂/藤吉久美子/小野田真之/荒井注/岡江久美子/高橋昌也/久富惟晴/長塚京三/東千晃/代日芽子/貞永敏/堀之紀/伊藤克信/北町嘉朗/秋山武史●放送局:テレビ朝日●放送日:1985/08/03(評価:★★★☆)
  
必殺仕掛人 春雪仕掛針 p.jpg必殺仕掛人 春雪仕掛針1.jpg「必殺仕掛人 春雪仕掛針」●制作年:1974年●監督:貞永方久●製作:織田明●脚本:安倍徹郎●音楽:鏑木創●撮影:丸山恵司●原作:池波正太郎●時間:89分●出演:緒形拳/林与一/山村聰/岩下志麻/夏八木勲/高橋長英/竜崎勝/地井武男/高畑喜三/花澤徳衛/佐々木孝丸/村井国夫/ひろみどり/荒砂ゆき/相川圭子●公開:1974/02●配給:松竹(評価:★★★☆)

必殺仕掛人 春雪仕掛針 vhs.jpg


必殺仕掛人 テレビ1.jpg「必殺仕掛人」●監督:深作欣二(1)(2)(24)/三隅研次(3)(4)(9)(12)(21)(33)/大熊邦也(5)(8)(14)(16)(27)(30)、松本明(6)(7)(15)(19)(23)(32)/松野宏軌(10)(11)(13)(17)(20)(25)(28)/長谷和夫(18)(22)(26)(29)(31)/ほか●プロデューサー:山内必殺仕掛人 テレビ2.jpg久司(朝日放送)/仲川利久(朝日放送)/櫻井洋三(松竹)●脚本:池上金男(池宮彰一郎)(1)(4)(5)(28)/国弘威雄(國弘威雄)(2)(10)(11)(18)(25)(31)(33)/安倍徹郎(安部徹郎)(3)(8)(12)(20)(21)(28)/山田隆之(6)(7)(9)(13)(15)(19)(23)(32)/石堂淑朗(14)(27)/ほか●音楽:(オープニング)作曲:平尾昌晃「仕掛けて仕損じなし」●原作:池波正太郎『仕掛人・藤枝梅安』より●出演:緒形拳/林与一/山村聡/津坂匡章/太田博之/中村玉緒/松本留美/岡本健/ 野川由美子/(ナレーション(オープニング、エンディング))睦五郎(作: 早坂暁)●放映:1972/09~1973/04(全33回)●放送局:朝日放送


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巨匠の作品でもダメなものはダメ、B級でも面白いも面白い、とする。「乱」はつまらなかった、で意見が一致した。
『最後の映画日記』.jpg最後の映画日記.jpg  乱 デジタル・リマスター版 [DVD].jpg
最後の映画日記』['04年/河出書房新社](表紙イラスト:池波正太郎) 乱 デジタル・リマスター版 [DVD]

  第1部は、'75年から'88年にかけて雑誌等に発表したもので、昔の映画の思い出や、自分の小説の劇化などについて書かれていますが、戦前の映画俳優や役者に対する思い入れが感じられ、また鬼平犯科帳をテレビでやるなら松本幸四郎(当時)でなければ許可しないと言ったなどの話が興味深い(萬屋錦之介ではダメだと)。

 第2部は、'74年から'85年にかけて連載した「映画日記」の単行本未収録分('81年から'82年分)で、60歳になっても芸術作品から娯楽作品まで、この時期公開された映画(リバイバル含む)の試写会を精力的にハシゴしている様子が窺えます。
 大家の作品でもダメなものはダメ、B級に近い作品でも面白いも面白いとし、映画や芝居を見た後でどこで何を食べたかまで全部書いてあるのも、お決まりとはいえ楽しめます。

 第3部はヒチコック、黒澤映画についてのトークと、常盤新平氏との対談など。
 精神分析的要素が入ってたヒチコック分析はさすが。氏は、ヒッチ氏の"気張った巨匠ぶり"がないところが気に入っているようです。
 一方、"巨匠"黒澤明の「乱」を、観客を置き去りにした、ドラマツルギーの無い作品として痛烈に批判していますが、個人的には自分も同じ意見です。海外での評価は高かったようですが、個人的にはイマイチでした。
 

乱 nakadai.jpg「乱」●制作年:1985年●監督:黒澤明●製作:セルジュ・シンベルマン/原正人●脚本:黒澤明/小国英雄/井手雅人●撮影:斎藤孝雄●音楽:武満徹●衣装:ワダエミ●時間:162分●出演:仲代達矢/寺尾聡/根津甚八/隆大介/原田美枝子/宮崎美子/野村武司/井川比佐志/ピーター/油井昌由樹/加藤和夫/松井範雄/伊藤敏八/鈴木平八郎/児玉謙次/渡辺隆/東郷晴子/南條玲子/神田時枝/古知佐知子/音羽久米子/加藤武/田崎潤/植木等●公開:1985/06●配給:東宝=日本ヘラルド映画(評価:★★☆)


《読書MEMO》
●「映画日記」('81年10月から'82年9月)
嵐が丘(ウイリアム・ワイラー監督)、ジズ・イズ・エルビス、007/ユア・アイズ・オンリー、約束の土地(アンジェイ・ワイダ監督)、そして誰もいなくなった、タイム・アフター・タイム、ベリッシマ(ルキノ・ヴィスコンティ監督)、スター・クレージー(シドニー・ポワチエ監督)、秋のソナタ(イングマール・ベルイマン監督)、エクスカリバー、ラブレター(東陽一監督)、皆殺しの天使(ルイス・ブニュエル監督)、イレイザーヘッド(デヴィッド・リンチ監督)、針の眼(ケン・フォレット原作)、愛と哀しみのボレロ(クロード・ルルーシュ監督)、昔みたい(ニール・サイモン脚本・ゴールディ・ホーン主演)、アパッチ砦ブロンクス(ポール・ニューマン主演)、天国の門(マイケル・チミノ監督)、マノン(東陽一監督)、悪霊島(篠田正浩監督)、幸福(市川昆監督・水谷豊主演)、駅(倉本聡脚本・降旗康男監督・高倉健主演)、レイダース(S・スピルバーグ監督)、山猫(ヴィスコンティ監督)、エンドレス・ラブ(フランコ・ゼッフィレッリ監督)、泣かないで(N・サイモン脚本・マーシャ・メイスン主演)、勝利への脱出(S・スタローン主演)、四季(アラン・アルダ監督)、ミスター・アーサー、ジェラシー(ニコラス・ローグ監督)、女の都(フェデリコ・フェリーニ監督)、郵便配達は二度ベルを鳴らす(ジェシカ・ラング主演)、パラダイス・アーミー、告白(ロバート・デ・ニーロ、ロバート・デュバル主演)、マッドマックス2、Uボート、白いドレスの女、ミッドナイトクロス(ブライアン・デ・パルマ監督)、プリンス・オブ・シティ(シドニー・ルメット監督)、ベストフレンズ、アレキサンダー大王(テオ・アンゲロプロス監督)、フランス軍中尉の女、この生命誰のもの、タップス、スクープ(シドニー・ポラック監督・P・ニューマン主演)、終電車(フランソワ・トリュフォー監督)、黄昏(ヘンリー・フォンダ主演)、デュエリスト(リドリー・スコット監督)、鉄の男(A・ワイダ監督)、シャーキーズ・マシーン、フォー・フレンズ、ボーダー(ジャック・ニコルソン主演)、レッズ(ウォーレン・ビーティ主演・脚本・監督)、ザ・アマチュア、人類創世、チャタレイ夫人の恋人、未知への飛行、カリフォルニア・ドールズ、ザ・レイプ(東陽一監督)、さらば愛しき大地、コナン・ザ・グレート、ハンガリアン、キャット・ピープル(ナスターシャ・キンスキー主演)

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文章とのとり合わせで味わい深い、豊富な自筆挿画が楽しめる。

夜明けのブランデー tannkoubon.jpg夜明けの.jpg     夜明けのブランデー 文庫.jpg (表紙イラスト:池波正太郎)
夜明けのブランデー』['85年]        『夜明けのブランデー (文春文庫)』['89年]

 池波正太郎が亡くなったのは'90(平成2)年で67歳でしたが、本書は、'84(昭和59)年から翌年にかけて「週刊文春」に連載した40編のエッセイで、著者61歳から62歳にかけてのものです。

 映画や芝居のこと、食べ物のこと、昔の思い出などが淡々と書かれていて、自身の健康のことや「気学」に凝っている話などもあり、かなり"枯れてきた"感じがしないでもありません。

 この「時代小説」作家が、昔の銀座や下町を愛する一方で、フランスへの強い憧憬を抱いていたこともわかります。

真田太平記 風間完.jpg ショートエッセイ1編につき2点ずつ全部で80の自筆画があって、それらが文章とのとり合わせで、どれも味わい深いものでした。

 『真田太平記』の挿画は風間完画伯によるものでしたが、おせっかいながら、作家本人にこれだけ絵心があると、挿絵画家はやりにくいのではないかという気もしました。

 何れにせよ、一挙に大量の"池波画伯"の絵が楽しめるのが、本書の大きな魅力です。

『真田太平記』(挿画:風間完)

 【1989年文庫化[文春文庫]】

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作者の女性観・仕事観・人生観が滲み出た、最後の「鬼平物」。

乳房1.jpg乳房』('84年/文藝春秋) 乳房.jpg  『乳房 (文春文庫 (い4-86))』 ['08年新装版] (表紙イラスト:池波正太郎)

 問屋女中で19歳のお松は、自分を捨てた男・助蔵の、自分に対する「不作の生大根」という蔑み言葉がトラウマになっていますが、ある日偶然見かけた助蔵の後を追い、部屋に女の気配を見て思わず彼を殺してしまう―。

 本書は「鬼平犯科帳」シリーズ全19巻の「番外篇」としての長編で、作者最後の「鬼平物」ですが(単行本も文庫本も本人による装丁)、中身は逆に、まだ平蔵が盗賊改方になる6年前からの話で、本書前半では平蔵は30代半ばという設定、しかも本作の主人公は明らかに「お松」であると言えます。

 事件は平蔵が盗賊改方になった後に展開していきますが、平行してお松の行く末が気になります―罪の意識によって我欲を捨てることができた女とそうでなかった女、それぞれの結末は...。
 タイトルの「乳房」についての直接的な記述は終盤の1箇所、それとラストの平蔵の言動の内にしかありませんが、何の象徴であるかは、読者それぞれの判断に委ねてよいのではないでしょうか。

 お松が助けられた長次郎の「阿呆鴉」という女衒仕事が単なる女衒ではなく、女性を美人に仕上げる職人であるというのが面白かったですが、作者の願望を反映している気もしました。
 お松が長次郎と再会するところは新国劇みたいで、結果、長次郎の職業的美意識というか、育てた女とは会わないというスタイルの方は崩れるのですが...。

 お松が預けられた倉ヶ谷の旦那というのも粋人で、別の顔をも持ち後半の事件に関わりますが、生き方の美意識のようなものでは貫かれています。
 「狗」(密偵)として生きる岩五郎(おなじみ)も登場し、「いつまで、こうやって生きて行けばいいのだろう...」と呟きながら、後半の事件では肝をすえて危険な任務にあたります。

 長編なので全体にゆったりとした流れで書かれていて、その中に作者の女性観や仕事観、人生観のようなものが、かなり滲み出ている作品という気がしました。

 【1987年文庫化・2008年新装版[文春文庫]】

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さらっと読めてしかも役に立つが、真似だけしてもサマにならないものもある。

男の作法6_.jpg男の作法7_.jpg
男の作法.jpg
   男の作法 文庫.jpg 『男の作法』新潮文庫
男の作法』(1981/04 ゴマブックス)

 池波正太郎(1920‐1990)が「男を磨く」ということについて50代の終わりに語り下ろしたもので、ゴマブックスの初版は'81(昭和56)年と随分昔ですが、文庫化されロングセラーとなっています。

 書かれていることは、かつては「男の常識」であったことばかりだけれども、"現代"の男たちには実行不可能だろうと、既に新書本の前書きに書いていますが、今でも役立つ部分は多いと思います。ただし、池波正太郎クラスだからそうしたことが自然に出来るのであって、真似しようと思ってもできない、あるいは単に真似だけしても様にならない、というものも多いことは確かです。

soba.bmp 鮨やそばの食べ方、ビールの飲み方など食事のマナーについて書かれた部分が印象に残っていましたが、読み返してみて、スーツ、和服、帽子、時計などの身につけるものにもかなりこだわりがあったのだなあと思いました。どうしてそうすることが良いのかしっかりと理由が書かれていて、かつ全体に押しつけがましさがなく、さらっと読める点がいいです。

 更には、家庭生活や仕事の仕方、男女のことから生き方全般まで、幅広いテーマをとりあげていたことに、改めて気づきました。共通して理解できたことは、他人の気持ちを慮ることができなければダメだということで、マナーもその発露に過ぎないということでした。

 今の世にも、『おとなのOFF』のような中高年向け雑誌を含め、「男を演出する」ためのマニュアル」的雑誌などはありますが、どこまでこうした粋人の精神領域に至っているのか、かなり疑わしいと思われます(あまりその手の雑誌を読まないから分からないのですが)。

【1997年愛蔵版〔ごま書房〕/1984年文庫化[新潮文庫(『男の作法』)]】

《読書MEMO》
●ちゃんとした鮨屋は"通"ぶる客を軽蔑する
●そばは、二口、三口かんでからのどに入れるのが一番うまい
●唐辛子は、そばそのものの上に振っておく
●てんぷらは、親の敵にでも会ったように、揚げるそばからかぶりつく
●わさびは、醤油に溶かさずに、刺身の上に乗せる
●いい肉を使うか、安い肉を使うかで、すきやきの作り方は違ってくる
●肉を四、五枚食べるごとに、割下をかえるのが、ぜいたくなすきやきの食べ方
●おこうで酒を飲みながら、焼き上がりをゆっくり待つのがうなぎのうまい食べ方
●ビールを注ぎ足すのは、具の骨頂
●冷たいビールには、熱い唐揚げのじゃがいもがいい

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粋だけれども枯れてはいないスーパー老人・秋山小兵衛60歳。

辻斬り.jpg 剣客商売(1) 藤田まこと.jpg 池波正太郎.jpg
辻斬り―剣客商売』 新潮文庫〔旧版〕/ドラマ「剣客商売」/池波正太郎(1923‐1990/享年67)

剣客商売辻斬り』['73年]
『剣客商売 辻斬り.jpg 「鬼平犯科帳」や「仕掛人・藤枝梅安」と並ぶ池波正太郎(1920‐1990)の代表作『剣客商売』は、秋山小兵衛(こへい)、大治郎の剣客親子が中心のシリーズものですが、シリーズ全部で1800万部ぐらい売れているというからやはりスゴいことです。

 主人公の秋山小兵衛は60歳で、すでに息子の大治郎に跡を譲り、40歳も年下のおはるを後添えに悠々自適の隠居生活を送りながら、ほとんど暇つぶしと好奇心からいろいろな事件に首を突っ込んでいくというストーリー構成です。

 本書『辻斬り』はシリーズ第2弾で、「鬼熊酒屋」「辻斬り」「老虎」「悪い虫」「三冬の乳房」「妖怪・小雨坊」「不二楼・蘭の間」の7篇を収めていますが、主要登場人物のお披露目も終わってすっかり安定した筆致で、剣豪小説でありながら、江戸下町の情緒(小兵衛は鐘ヶ淵に住み、大治郎は隅田川を挟んで真崎稲荷明神社近くに剣術道場を開いている)や食文化の蘊蓄(当初は肉体労働者しか口にしなかった鰻が、独特の調理法を得て「鰻料理」として流行り始めたのがこの頃だったとか)も楽しめます。

 ガンコ親父の人情を描いた「鬼熊酒屋」、10日で強くしてくれと言う男の話「悪い虫」など、派手な斬り合いの無い話にも味や深みがありますが、「辻斬り」などではしっかり立ち回りしていて、まさに「スーパー老人」ぶり。
 まあ今で言えば"60歳"はまだまだ壮年のうちだが、当江戸時代での60歳と言えばやはり"老人"ということになるでしょう。シリーズ執筆開始時50代前半だった作者の、ある種の理想像なのかも。

「剣客商売 誘拐」.jpg 秋山小兵衛は歌舞伎役者でテレビの「鬼平犯科帳」にも時々出ていた2代目中村又五郎(1914-2009/94歳没)をイメージしたらしいですが、昔のテレビ版の山形勲(1915-1996)の方が最近の藤田まこと(1933-2010/76歳没)よりイメージ的には「粋」の部分で近かったかも(CX系では、加藤剛(1938-2018/80歳没)、山形勲コンビの「剣客商売」(70年代)と藤田まことの「剣客商売」(90年代以降)の間に、加藤剛、中村又五郎コンビの「剣客商売」(80年代)も単発で2度作られており、1つがこの「辻斬り」で('82年12月放映)、もう1つが「誘拐(かどわかし)」('83年3月放映))。

「剣客商売 (かどわかし)」(1983)中村又五郎/加藤剛

剣客商売dvd.jpg ただ、やはり5シーズンに渡って秋山小兵衛を演じた藤田まことのイメージはかなり根強いし、昔のテレビ・シリーズは、加藤剛が演じた息子・大治郎の方が主役になってしまっていますが、原作を読む限り、それはないよ、という感じがします。

 作者はこの『剣客商売』で、「粋」だけれども「枯れ」てはいない老人パワーみたいなものを描きたかったのではないかと思われ、やはり秋山小兵衛をメインに据えるべきだろうと思います(その意味では、藤田まこと版は原作に沿った"正統派"とも言えるか)。
 

「剣客商売」藤田まこと/渡部篤郎
剣客商売第1シリーズ 藤田.jpg剣客商売藤田まこと/渡部篤郎.jpg「剣客商売(1)」●演出:富永卓二/蔵原惟繕/小野田喜幹/酒井信行●制作:河合徹/武田功/佐生哲雄●脚本:古田求/野上龍雄/井手雅人●音楽:篠原敬介●原作:池波正太郎「剣客商売」●出演:藤田まこと/渡部篤郎/大路恵美/三浦浩一/平幹二朗/小林綾子/梶芽衣子/竜雷太●放映:1998/10~12(全10回)●放送局:フジテレビ  ※「剣客商売(2)」1999/12~2003/03(全11回)/「剣客商売(3)」2001/06~07(全5回)/「剣客商売(4)」2003/01~05(全11回)/「剣客商売(5)」2004/02~03(全7回)《全44回》

剣客商売 第1シリーズ《第1・2話収録》 [DVD]

 【1985年文庫化・2002年新装版[新潮文庫]】

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「鬼平犯科張」の記念すべきスタートは平蔵の話よりはむしろ盗賊たちの物語だった。後から付いた「鬼平犯科帳」というタイトル。
池波 正太郎 『鬼平犯科帳』文庫旧.jpg 鬼平犯科帳.jpg 鬼平犯科帳 新装.jpg  「鬼平犯科帳」中村吉右衛門.jpg
『鬼平犯科帳』(文春文庫・旧版) 『鬼平犯科帳〈1〉 (文春文庫)』TVドラマ「鬼平犯科帳」中村吉右衛門
鬼平犯科帳』['68年]
鬼平犯科帳 単行本.jpg池波 正太郎 『鬼平犯科帳』新.jpg 実在した幕府の火付盗賊改方長官・長谷川平蔵(通称「鬼の平蔵」)をモデルにした、池波正太郎(1920‐1990)の代表作「鬼平犯科張」の記念すべき第1巻で、平蔵を始め、お馴染みの主要登場人物の何人かの出自がわかります。

犯科帳 .jpg 平蔵のキャラクターが既にくっきりと描かれてはいるものの、所収の「啞の十三」から「妖盗葵小僧」までの12編はむしろ「盗賊」たちの物語であり、著者自身のあとがきにもあるように、最初は物語の束ね役として平蔵を登場させていたのが、平蔵自身をもっと中心に据えて書こうと思い、単行本化に際して「鬼平犯科張」というタイトルにしたようで、これが長いシリーズの始まりとなったようです(「鬼平犯科帳」というタイトルは、編集者が、岩波新書の『犯科帳-長崎奉行の記録』('62年)から思いついたとのこと)。

 まさか全24巻、文庫本だけで2400万部も売り上げるシリーズ(1冊平均100万部!)になるとは、最初のうちは自分でも思ってなかったようです(ベストセラーと言うよりは、作者の死後もコンスタントに版を重ねているロングセラーですが)。

 盗賊を「盗まれて難儀するものには手を出さず、殺さず、犯さず」を金科玉条とする"盗賊の掟"に適った盗賊と、目的のためには一家皆殺しも厭わない「急ぎ盗(ばたらき)」をする憎むべき盗賊に分けているのが面白かったです。スリにしても、「金持ち以外の人からスリ盗ってはならぬ」などの掟があったとかいうのも何だかいい。

 平蔵は、「小房の粂八」に代表されるように、生来の強盗ではない盗っ人を改心させ、密偵(イヌ)として使うのがうまいのです。この物語での"イヌ"は、裏切り者としての報復の危険に晒されながらも、平蔵に対しての義に奉じ、あるいは"盗賊の掟"を守らない賊に対する義憤にかられ積極的な働きをする、複雑ながらも魅力あるひとつの生き方像になっていると感じます。

松本白鸚 鬼平.jpg この「鬼平犯科帳」は、'69(昭和44)年にCX系列で、長谷川平蔵を八世松本幸四郎(初代松本白鸚)が演じるTVドラマシリーズとしてスタートして好評を博し、第1シーズンだけで64話放映され、'75(昭和50)年の第3シーズンまで120話近く放映されました。さらに、'80年からは、萬屋錦之介(中村錦之助(初代))が2クール(半年)ずつ3シーズンに渡って長谷川平蔵を演じていましたが、'89(平成元)年からは鬼平犯科帳2.jpg「鬼平犯科帳」吉右衛門s1.jpg、二代目中村吉右衛門を主役とするシリーズが始まり、'01(平成13)年まで9シーズンに渡って、レギュラー版だけで130話以上を演じています(実父・松本幸四郎(白鸚)よりも倍近く年数がかかっているが、回数的には父親を超えたことになる)。70年代、80年代、90年代と、それぞれに人気番組であり続けたというのは、やはり、原作の力が大きいとも言えるのではないでしょうか。
鬼平犯科帳 第1シリーズ《第1・2話》 [DVD]
鬼平犯科帳 第1シリーズ.jpg鬼平犯科帳 多岐川.jpg「鬼平犯科帳(1)」●演出鬼平犯科帳 多岐川3.jpg:小野田嘉幹/高瀬昌弘/田中徳三/富永卓二/原田雄一/吉田啓一郎/大洲齋/杉村六郎●制鬼平犯科帳 梶芽衣子.jpg作:能村庸一/桜林甫/佐生哲雄●脚本:小川英/井手雅人/田坂啓/野上龍雄/下飯坂菊馬/安藤日出男/星川清司/櫻井康裕/保利吉紀/安倍鬼平犯科帳 香川照之.jpg徹●音楽:篠原敬介●原作:池波正太郎「鬼平犯科帳」●出演:二代目中村吉右衛門/多岐川裕美/高橋悦史/篠田三郎/尾美としのり/三浦浩一/江戸家猫八/蟹江敬三梶芽衣子/藤巻潤/香川照之/真田健一郎/小野田真之/中村吉三郎/中村吉次/江守徹/沼田爆/長門裕之●放映:1989/07~1990/02(全26回)●放送局:フジテレビ

蟹江敬三(小房の粂八(こぶさのくめはち))/梶芽衣子・中村吉右衛門・多岐川裕美(1998年3月)[スポニチ]
鬼平犯科帳 蟹江敬三.jpg「鬼平犯科帳」3[.jpg「鬼平犯科帳(2)」1990/10~1991/03(全19回)/「鬼平犯科帳(3)」1991/11~1992/05(全19回)/「鬼平犯科帳(4)」1992/12~1993/05(全18回)/「鬼平犯科帳(5)」1994/03~07(全13回)/「鬼平犯科帳(6)」1995/07~11(全10回)/「鬼平犯科帳(7)」1997/04~07(全12回)/「鬼平犯科帳(8)」1998/04~06(全9回)/「鬼平犯科帳(9)」2001/04~05(全5回)(全137話)/「鬼平犯科帳スペシャル」2005~2016(全14回)(通算151話)

鬼平犯科帳スペシャル/山吹屋お勝.jpg鬼平犯科帳スペシャル/山吹屋お勝1.jpg「鬼平犯科帳スペシャル 山吹屋お勝」(2005年2月20日)監督:石原興/出演:(ゲスト俳優) 床嶋佳子/橋爪功/嶋田久作/金田明夫/田中要次/曽我廼家文童/平泉成/吉田栄作

鬼平犯科帳スペシャル/兇賊0.jpg『鬼平犯科帳スペシャル 兇賊』2.jpg「鬼平犯科帳スペシャル 兇賊」(2006年2月17日)監督:井上昭/出演:(ゲスト俳優)小林稔侍/大杉漣/本田博太郎/徳井優/中原果南/伊藤洋三郎/神山繁/若村麻由美 
    
鬼平犯科帳スペシャル/一本眉.jpg鬼平犯科帳スペシャル/一本眉1.jpg「鬼平犯科帳スペシャル 一本眉」(2007年4月6日)監督:小野田嘉幹/出演:蟹江敬三/藤巻潤/梶芽衣子(ゲスト俳優)宇津井健/山田純大/大路恵美/遠藤憲一/火野正平

鬼平犯科帳スペシャル/引き込み女 .jpg鬼平犯科帳スペシャル/引き込み女 2.jpg「鬼平犯科帳スペシャル 引き込み女」(2008年10月17日)監督:酒井信行/出演:(ゲスト俳優)余貴美子/羽場裕一/佐々木すみ江/松金よね子/石倉三郎/七代目市川染五郎
     
 
鬼平犯科帳スペシャル/雨引の文五郎.jpg鬼平犯科帳スペシャル/雨引の文五郎2.jpg「鬼平犯科帳スペシャル 雨引の文五郎」(2009年7月17日)監督:斎藤光正/出演:(ゲスト俳優) 國村隼/賀来千香子/菅田俊/長谷川真弓/上田耕一/田中健/伊東四朗

鬼平犯科帳スペシャル 高萩の捨五郎 .jpg鬼平犯科帳スペシャル 高萩の捨五郎 2.jpg「鬼平犯科帳スペシャル 高萩の捨五郎」(2010年6月18日)監督:斎藤光正/出演:(ゲスト俳優)塩見三省/遠野なぎこ/北原佐和子/若松武史/春田純一/火野正平/津川雅彦

 【1974年文庫化・2000年新装版[文春文庫]】
 

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