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長かった割には物足りない結末。でも、過程において楽しめたからまあいいか。

有栖川 有栖 『女王国の城』.jpg女王国の城.jpg  太陽公園2.JPG 太陽公園(姫路)
女王国の城 (創元クライム・クラブ)』['07年]

 2007 (平成19) 年度「週刊文春ミステリー ベスト10」(国内部門)第1位。2008(平成20)年版「本格ミステリ・ベストテン」第1位。2008(平成20)年・第8回「本格ミステリ大賞」〈小説部門〉受賞作。

 推理小説研究会のメンバー・有栖川有栖(アリス)は、急成長した宗教団体「人類協会」の聖地・神倉へ行ったと思しき部長・江神二郎の様子を知るべく、同級生の有馬麻里亜(マリア)、就職活動中の先輩・望月、織田らと共に同地へ向かい、〈城〉と呼ばれる総本部で江神の安否を確認するものの、思いがけず殺人事件に遭遇、団体に外界との接触を阻まれ、囚われの身となってしまう―。

 『月光ゲーム』『孤島パズル』『双頭の悪魔』に続く15年ぶりの江神二郎シリーズですが、推理小説研究会のメンバーは皆1歳年齢を重ねただけで依然若々しく、単行本2段組500ページ超の大作でありながらも、メンバー達の会話のトーンも、時々挟まれる推理小説談義も変わってないなあと(今回はそれに加えてUFO談義があり、第1の殺人事件が起きるのは全体の3分の1を過ぎてからというのは、ちょっと道草のし過ぎ?)。

 宗教団体とは上手く考えたもので、かなり自由な発想で大掛かりな密室的空間を創り出していて、この宗教団体の幹部らが60年代のSF映画に出てくる異星人のようなパターン化された物言いや行動様式をとるのはご愛嬌として、本格推理としてはそれなりにワクワクさせてくれました。

 但し、立ちはだかる連続殺人事件の不可解な壁を江神二郎がどう崩すかという部分では、独創に満ちたトリックがあるわけでもなく、やや拍子抜けの感じもあり、ついでに過去の未解決の密室殺人事件の謎まで解いてみせるものの、こちらはあまりにも蓋然性を積み重ねた上での謎解きとなっていて、江上さん、あんたには透視能力があるの、と言いたくなってしまいます。

太陽公園.JPG 「本格ミステリ大賞」の受賞と併せて「週刊文春」の「2007ミステリーベスト10」の国内部門第1位にも輝いており、それにこの分厚さだから、それなりの結末を期待したんだけどなあ(後で考えれば御都合主義的なところも目立つ)。
 しかしながら、謎解きの前までは、アクションもあったりし、寄り道も含めて楽しめたし(ということは90%は楽しめたということ?)、個人的評価としては微妙なところですが、まあ、良しとしようか、といったところです。 

 (この小説の「城」に関しては、個人的には、兵庫県姫路市の山中にある「太陽公園」の城を連想した。ここは、社会福祉法人が運営する公園で、園内には、主に美術館的に使われている城のほか、兵馬俑やパリ凱旋門の実物大の模倣建築などがある。観光施設でありながらも、介護福祉施設なども園内にあったりして、ある種コミュニティ的な雰囲気を醸しており、詰まるところ全体の雰囲気は「宗教施設」に極めて近いように思えた。)

「太陽公園」の"城"(上写真下部は城に至るモノレールの軌道の一部)

 【2011年文庫化[創元推理文庫(上・下)]】

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作者からの"耳打ち"され度の開きが、名探偵と読者との間で大き過ぎると面白くなくなる。

有栖川 有栖 『乱鴉の島』.jpg乱鴉の島.jpg  『乱鴉の島』['06年/新潮社] 乱鴉の島 (ノベルズ).jpg 『乱鴉の島 (講談社ノベルス)

 2007(平成19)年版「本格ミステリ・ベスト10」第1位作品。

 推理作家・有栖川有栖と犯罪学者・火村英生が休養で訪れたある島は、手違いから目的地と異なる別の島だったことがわかるが、通称・烏島と呼ばれるその孤島には、隠遁している老詩人のもと彼をとりまく様々な人が集まっており、遂には謎のIT長者までヘリコプターで飛来する、そうした中、奇怪な殺人事件が起こり、さらには第2の殺人事件が―。

 『マレー鉄道の謎』('02年/講談社ノベルズ)以来4年ぶりの"火村シリーズ"で、更にはハードカバー版ということで、内容に期待しましたが、所謂クローズド・サークルになっている「孤島ミステリー」で、『マレー鉄道の謎』と舞台背景は異なるものの、第1の殺人事件での疑わしき人物が第2の殺人事件の犠牲者として発見され、どちらの事件が先に起きたのかもよくわからないという進行が『マレー鉄道の謎』と同じではないかと...。同じでも落とし処の違いで大いに楽しめるはずですが、結構スケールダウンと言うか、こじんまりしてしまった感じでした。

 作中に何だか推理小説論みたいなやりとりが多くて(これが帯にあるペダンティックということの1つなのか)、その中で「名探偵は作者にちょっとだけ読者より多く耳打ちされているだけだ」といった内容のクダリがありますが、本作においては読者との"耳打ち"され度の開きが大き過ぎるのではないでしょうか。

 その名探偵こと火村助教授も、犯人の「動機」については作者から"耳打ち"されることなく、「状況証拠」のみで事件を解いていく...というのは、著者が「本格ミステリー」にこだわったためでしょうか。

 老詩人のもとに人々が集まる理由にリアリティが乏しい気がしましたが(アガサ・クリスティの「そして誰もいなくなった」を模しているということについて読者との間に了解が成り立っているという前提か)、一方で、ふてぶてしく登場するIT長者"ヤッシー"というのが、何だかやけに(モデルが特定されそうなぐらい)リアリティがあって、これはこれで却って安直な感じがしてしまいました。

 【2008年ノベルズ版[講談社]/2010年文庫化[新潮文庫]】

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海外取材して力(リキ)はいってるという感じだが、「密室」に疑問あり。

『マレー鉄道の謎』.JPG『マレー鉄道の謎』6.gifマレー鉄道の謎.jpg  マレー鉄道の謎2.jpg 
マレー鉄道の謎 (講談社ノベルス)』〔'02年〕/講談社文庫〔'05年〕

 2003(平成15)年度・第56回「日本推理作家協会賞」受賞作。

マレー鉄道.jpg マレー半島キャメロン・ハイランドを観光で訪れた推理作家・有栖川有栖と臨床犯罪学者・火村英生のコンビは、1ヶ月前に起きたマレー鉄道の追突事故でビジネスパートナーを失ったという百瀬夫妻と知り合うが、2人が百瀬邸に招かれたその日に、離れの密閉されたトレーラーハウスの中で自殺とも他殺とも区別のつかない死体が発見される―。

 それまでの著者の国名シリーズと違い、実際に現地取材して現地を舞台とした作品であり、力(リキ)はいってるという感じで、冒頭は異国情緒に満ちた観光旅行記風で、個人的にはマレーシアに何度か行ったことがあり、但し、国内の移動は白タクか航空機だったため、鉄道を利用する機会はありませんでしたが、それでも懐かしさもあり、読んでいて退屈しませんでした。

 物語の方は、内部から目張りされた密室状態のトレーラーハウスで殺人事件の後、さらに第2の殺人が起き―。

 著者は自他ともに認める「新本格派」と言われる系譜だそうで、この作品も謎解きに的を絞ってあり、気分転換などに丁度良い読み物という感じ。ただし、タイトルや表紙からして、鉄道ファン憧れの(自分は所謂"テッチャン"ではないが)マレー鉄道の中でメインの事件が起きるのかと思いきや、トレーラーハウス内ということでやや拍子抜けした感じも。

 それでも、犯人は誰か、どうやって「密室」を完成させたのか、という興味で、比較的長めの作品を一気に読ませるし、アリス・火村コンビの時に軽妙なやりとりも悪くないです。

 ただし読み終えて振り返ると、犯人の犯行の動機はともかく、犯人がわざわざ現場を「密室」にした動機というのが弱い気がし、トリックそのものについても物理的な疑問を感じました(コレって労力のワリには完遂出来るという確実性に乏しいのでは?)。一応、著者の代表作と言われている作品らしいけれども、正直かなり物足りなかったといったところでしょうか。

 【2005年文庫化[講談社文庫]】

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